塩見周子「お狐さんって怖いものとかあんの?」 (29)

 モバマスより塩見周子と小早川紗枝(きつね)のSSです。
 独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。


 前作です↓
小日向美穂「新狸島」
小日向美穂「新狸島」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524160333/)

 最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
小日向美穂「こひなたぬき」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1524576677


紗枝「なんですのん、藪から棒に」

周子「なんか気になって。紗枝ちゃんっていつも飄々としてるし、怖いものなんてありませーんて感じやん」

紗枝「当たり前どす。いかなる時も自若たるべし、とお父はんは言うたはりました」

周子「そうは言ってもさー、お年頃の女の子なわけじゃん。なんか無いの? 幽霊とか妖怪とか」

紗枝「今更そないなもんに怯えとってどないしますの。そこいらの草や石を恐れる道理はあらしまへん」

紗枝「せや、かくいう周子はんは? あんたはんもお年頃のおなごやない」

周子「あたし? あたしはねー、えっとまんじゅ」

紗枝「『まんじゅう怖い』は通用しまへんえ?」

周子「うっ先手を打たれた……」

周子「……う~ん? そうだなぁ、強いて言うならまあ、襲ってくるようなんは大体怖いけども」


紗枝「妖し、幽(かそ)けしものは東京(ここ)にもまだまだありますえ。本所には七不思議いうもんもありますさいなぁ」

周子「それこそ。あたし慣れてるし、今更びびってらんないでしょ」

紗枝「ほぉ~。慣れたいうんは……」

周子「? なんでそっぽ向いて――」

紗枝「こぉんな顔のことどすかぁ?」ノッペラボウ

周子「のわぁっ!?」ビクーン

  ポンッ!

紗枝「うふふっ、引っかかった引っかかった~♪」コンコン

周子「ぐぬぬ……このあたしがしてやられるとは……!」


  ―― 女子寮


周子「ということで」

周子「これより『紗枝ちゃんは何が怖いか会議』を開きたいと思います」

小梅「急……だね……」

輝子「け、ケンカでも、したのか……?」

周子「まあそういうわけでもないんだけど」

智絵里「紗枝ちゃんを、怖がらせたいんですか?」

由愛「でも……どうして、そんなこと……?」

周子「ふふふ……ちょっと仕返しがしたくてね」

周子「やられっぱなしのシューコちゃんじゃないってのふふふふ……」

輝子「な、何かのスイッチが入ってる……な」

小梅「でも、面白そう……♪」



   アアデモナイ


  ~会議中~


   コウデモナイ


周子(かくして、いくつかのそれっぽい案が出た)

周子(あたしらはその全てを実際に試してみることにした)

周子(そう……全ては)


周子(紗枝ちゃんを怖がらせるために……!!)


【案1:ゾンビ映画】

 ヴァー

 キャー!

小梅「こ、これ、ここから先が面白いの……♪」

紗枝「はぁ~、海の向こうにはこないなこともあるんどすなぁ~」

輝子「きょ、興味津々……だな……紗枝ちゃん」

紗枝「骸が動きはるいうんは、あちこちでよう聞く怪異やさかいなぁ」

小梅「ほらっ、ここのゴアシーン……っ♡」ゾクゾクゾクッ

紗枝「ほあぁ~、真っ赤っかどすなぁ~」


周子「普通に楽しんどる……」

智絵里「」ガタガタガタガタガタ

由愛「」ブルブルブルブルブル


【案2:怖い話】


智絵里「……お爺さんは、その汁物を全部食べました……」

智絵里「そして言ったんです。おいしかった、これは何のお肉なんだい? って……」


智絵里「…………すると狸は言いました…………」


智絵里「お前が食べたのは、お婆さんの肉だって……!!」キャアアーッ!!


周子「……カチカチ山って冷静に考えたら結構ひどい話だよね」

紗枝「昔の狸は加減を知らへんのもおったて言いますからな~」

由愛「お婆さん、かわいそう……」グスッ

輝子「リーベンジ! リーベンジ!」ワイワイ

小梅「ぺいばっくたいむだ~……」ウキウキ

智絵里「あ、あれ? 怖い話になってない……」



周子「ちなみに智絵里ちゃん的には美穂ちゃんってどうなん?」

智絵里「えっ? 大切なお友達だけど……美穂ちゃんはそんなに酷いことしないし」

智絵里「あ、でも、兎仲間に会わせるのはちょっと危ないかも。……まだ恨みを持ってる子もいるんだ」

周子(一番怖いのは兎ってオチやないのこれ)


【案3:絶叫マシン】


  ゴオオオオオオオオオオオオオ!!


輝子「ヒーーーハーーーーーーッ!!! 冥王星までブッ飛ばせェェェエエエエエエエッ!!!」

小梅「わ~~~~……♪」

周子「いえーい!! いけいけーーーっ!!」

紗枝「あ~~~~~れ~~~~~~~♪」

智絵里「あっあっあっ、あ…………おはなばたけ…………」チーン



由愛「み、みんな、大丈夫かな……」

由愛「私が乗ったら、泣いちゃいそうだから……あ、ソフトクリームおいしい……♪」


    ゴオオー

    ヒャッハー!!


輝子「フゥ……フゥ……限界の先が見えたぜ……!」フルフル

小梅「た、楽しかったぁ……♪」

紗枝「たまにはこういうのもええもんどすなぁ♪」

周子「むぅ、普通に楽しんでもうた」

智絵里「」

周子「……てか智絵里ちゃん大丈夫?」

智絵里『うん、ぜんぜん大丈夫ウサ! 私ならばっちり平気ウサ!』

小梅「あ……魂抜けてる……」

由愛「えぇ……!? も、戻さなきゃ……!」

小梅「えいっ」ズボー

智絵里「ふんむぎゅ!」


【案4:怖い絵】


由愛「それで、これはベクシンスキーの絵で……」

紗枝「ほうほう~」

由愛「こっちは有名な、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』……」

紗枝「あらぁ……」

由愛「これはシッカートっていう画家の、『切り裂きジャックの寝室』っていうんだけど……」

紗枝「ほほぉ~……」

由愛「こっちはマグリットの『恋人たち』って絵で、作者の背景を考えると……」

紗枝「ふむふむ~……」


由愛「紗枝ちゃん、平気なんですね。私、見るだけで泣いちゃいそうになっちゃって……」

紗枝「ん~、おっとろしいんはそうなんやけど……」

紗枝「人の絵いうんは、筆を取りはった人間はんが何を思うてはったかとか……」

紗枝「その時の思想やら時世やらが、うーっすら見えてくるもんやないかなぁと思てましてなぁ」

紗枝「せやから、あんまし偏見は持たへんように気ぃ付けとるだけどす~」

紗枝「日本の地獄絵かて、その頃の人らがどないなあの世を信じてはったか、ようわかるもんやしなぁ」

智絵里(地獄絵図は怖いよぅ……)ブルブル

輝子(フヒ……少しならわかるぞ……カーカスのジャケットみたいなのだろ……)

小梅(あ、それギーガーがデザインしたやつ……私も好き……♪)


周子「なんか、思いのほかアカデミックな時間になっちゃったわ……」


  ―― 後日 事務所


周子「う~~~~~~ん全部ハズレ。どうしたもんかなぁー」

紗枝「まだ気張ってはりますの? 人間、諦めが肝心どすえ~?」

周子「くっ、人間じゃない子に言われると悔しい」


  ガチャ


芳乃「ただいま戻りましてー」

蘭子「魔王の帰還よ!」バァーン

美穂「ただいまー。これお土産、みんなで食べよっ!」


周子「おー三人とも、泊まりのロケお疲れさーん。箱根だったっけ?」

芳乃「いかにもー。とても趣のある道行きだったのでしてー」

美穂「でも大変だったよぉ。楓さんと茄子さんが『我々は日本酒を要求するー』って」

美穂「お酒が来るまでお風呂を出ないって、裸の籠城作戦を始めて……」

周子「相変わらず自由が過ぎるわ年長組……」

蘭子「ふっふっふ……そしてこれは、我が同胞への冥府よりの贈り物よ!」


 【剣に絡みついたドラゴンのキーホルダー】ジャジャーン


周子「お、おぉ……修学旅行で誰か一人は買ってるやつ……」

蘭子「そなたらに闇の龍神の加護を与えん!」フンフン

周子「まあ一周回ってお洒落かもしんないね。スマホにでもつけとくわー」


周子「あ、こっち紗枝ちゃんのぶ……」

                         紗枝「こん」

周子「遠ッ! 遠いななんか! いつの間にそこまで行ったん!?」

                         紗枝「なんでもあらしまへん」

周子「いやなんでもないってことないでしょ。こっち来なよ」

                         紗枝「せやったらな」

                         紗枝「その、それをな」

                         紗枝「むこうへやっておくれやす」

周子「それ、って……」


 【剣に絡みついたドラゴンのキーホルダー】ジャジャーン


周子「紗枝ちゃん」

紗枝「……」

周子「ひょっとしてこれ? これが怖いの?」

紗枝「…………」

周子「どっち? 剣? 龍? 剣じゃないよねー多分」ズイ

紗枝「………………」

周子「そういえば蘭子ちゃんのノート、一部分だけ見ようとしないことが結構あったけどー……」ズズイ

紗枝「……………………」

周子「それはひょっとして、そこに怖いものがあったからとか?」ズズズイ

周子「ひょっとしてひょっとすると、それってこの超かっちょよくて細長い伝説上の生き物の~……?」ズズズズイ


紗枝「こ」

周子「こ?」

紗枝「こーーーーーーーーんっ!!!」バシィーッ

周子「あいたーっ尻尾ビンタ!!」


紗枝「あ、あ、あかん~……っ! 遭うてしもうたらうち、百年目やぁ~~~っ!!」ダダッ

美穂「ええ!? さ、紗枝ちゃんどこ行くのー!?」

蘭子「迅速(はや)いっ!?」

芳乃「紗枝さーん、お待ちになってくだされませー。まってーーーーー」


  ―― しばらくして


周子「まさか龍が怖かったなんてねー」

紗枝「うぅ……」

紗枝「なんやご先祖様がえらいおっとろしい目に遭わされたいうて、御家で語り伝えられとるんどす」

紗枝「うちもよう寝物語に聞かされました。龍はんはほんまにおっかないもんや、出くわしてもうたら百年目や……」

紗枝「見つかったら最後、頭からばりぼり喰われてしもうておしまいやて……はうぅ」プルプル

周子「……って言ってもなぁ、いるのかねそんなん。あたし見たことも聞いたこともないわ」

周子「あ、そだ。聞いてみよ」




茄子「流石にいませんよ~」


周子「ほらやっぱり。メルヘンやファンタジーじゃないんだから」

紗枝「せやったらええんやけど……」

茄子「間違いありませんよ。マンモスさんやサーベルタイガーちゃんだってもういないんですから、ね?」

周子「えっ何そのカテゴリーなん? 昔はいたってこと?」

茄子「ちょっと前はニホンオオカミ君だったし、そろそろウナギちゃんも危ないかもですね~」

紗枝「うち、ウナギもヘビも嫌やわぁ……似てはるし……」

周子「まあまあいいじゃん、実物はいないってことなんだしさ」

周子「ところで寮帰ったら一緒にド〇ゴン〇ール見ない?」

紗枝「こん!」バシィーッ

周子「あいたーっ!」


  ―― 後日 事務所


P「ふーん、そんなことがなぁ」

周子「そうそう。以降気を付けてちょうだいねー」

紗枝「こん……」

周子「そいえばプロデューサーさんは何か怖いものある?」

P「そうだなぁ……まん」

周子「『まんじゅう怖い』はナシね、被ってるし」

P「ぐぬぬ」

P「………………じゃ白封筒かなぁ」

周子「ガチな奴やん……」


P「まあ深くは考えないようにしよう……。あ、昼飯食うか? 奢るけど」

周子「おっマジ? 行く行くー、どっかおいしいとこあんの?」

P「ちょっと歩いたとこに美味いラーメン屋を見つけてな。紗枝も行くか?」

紗枝「らあめん、どすか? いつもはよう食わへんけど、たまには乙なもんかもしれまへんな~」


P「おし、決まりだ。駅の向こう側にある『ラーメンDRAGON』って店でな――」

                         紗枝「こん」

P「遠ッ! どうした!?」

                         紗枝「うちな」

                         紗枝「やっぱりおそばがええ」

                         紗枝「らあめん、あかん」

P「なんでいきなり語彙力壊滅してんのこの子」

周子「ああお店の名前ね……」

P「それも地雷なのか……じゃあそば屋にするか。関西風のとこでいいな?」

周子「紗枝ちゃーん帰っといでー。一緒にきつねそば食べようやー」

紗枝「……♪」ススッ

P(寄ってきた)

周子(かわいい)

P「えっと最寄りのそば屋は、っと」


  ―― 街中


 【生蕎麦 辰屋】デデーン


P「……辰」

周子「イコール龍……」



                            紗枝「こん」



P「ああっ! 紗枝!?」

周子「ちょ、どこ行くん! 待ちなってば~!」


 コンッコンッコーンッ


 ~オワリ~

 以上となります。お付き合いありがとうございました。
 依頼出しておきます。

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