善子「貴女が喜ぶプレゼントは」 (31)

曜ちゃん誕生日記念

短めに

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善子(誕生日プレゼントを選ぶのは難しい)

善子(一年に一度だけの、大切な人への贈り物)

善子(相手が欲している物をあげないとありがた迷惑になりかねない)

善子(だけど相手から直接欲しい物を聞くわけにもいかない)

善子(それじゃあプレゼントの意味がなくなるから)

善子(でも大切な人には、素敵な物をプレゼントしたい)

善子(心から喜んで、満面の笑みを見せてほしい)

善子(その為には、やっぱり情報を集める必要がある)

善子(というわけで――)

―――――




善子「千歌さん、曜さんの好きな物はなにかしら?」

千歌「曜ちゃんの好きな物?」

善子「ほら、もうすぐ曜さんの誕生日でしょ」

千歌「あぁ」

善子「それで、曜さんにプレゼントしたら喜びそうな物とか知らない?」

千歌「うーん、分かんない」

善子「えっ、いつもプレゼントぐらいあげてるでしょ」

千歌「まあ、そうなんだけどさ」

千歌「何をあげても、『千歌ちゃんからもらえるなら何でも嬉しいよ』って喜んでくれるから」

善子「何よそれ、惚気?」

千歌「違うよ。一回試しにその辺に生えてた花をプレゼントしても、そう言ったんだもん」

善子「えぇ……」

千歌「怒られるかと思ったらいつもと同じ笑顔でさ、正直びっくりしたよ」

善子「それは確かにビックリね……」

善子「でもそれがプレゼントっていうのは酷くない?」

千歌「いや、もちろんその後にちゃんとしたプレゼントもあげたよ」

善子「何をあげたの?」


千歌「みかん」

善子「えっと、箱とかで?」

千歌「ううん、一個だけ」

善子「大概でしょ、それ……」

千歌「曜ちゃんが好きな食べ物だよ」

善子「そうかもしれないけど」

千歌「どんな物なら本当に喜んでくれるのか本当に分かんないんだもん、仕方ないじゃん」

善子「でも聞いたことないわよ、仲の良い相手にみかんをあげる人なんて」

千歌「そこまで言うなら、善子ちゃんはもっといいの思いつくの?」

善子「えっ」

千歌「みかんにケチを付けるんだから、それ以上の代案ぐらいはあるんだよね」

善子「そ、それは」

千歌「別に無茶ぶりしてるわけじゃないよね」

千歌「だってそこら辺に生えてる花と同レベルの物を超える案を出すだけなんだから」

善子(みかん、みかんよりマシなプレゼント――)


善子「……コスプレの衣装とか。曜さん好きそうだし」

千歌「おっ、それいいね」

善子「そ、そうかしら」


千歌「じゃあ今年の千歌のプレゼントはそれで決まり~」


善子「はい?」


千歌「ありがとう、考えてくれて」

千歌「正直困ってたんだよね~」

善子「いやいや、それじゃあ私は」

千歌「大丈夫だよ、何をあげても曜ちゃんは喜ぶから」

善子「そういう問題じゃなくて――」

千歌「あ、でもプレゼントは被らないように気をつけてね」

千歌「これは先輩命令だから、逆らっちゃ駄目だよ~」

――桜内家



善子「というわけで千歌さんが役立たずだったんで、助けて」

梨子「あはは……」

善子「これだったら、最初から相談せずに自分で衣装をあげればよかったわ」

梨子「まあ千歌ちゃんだから、許してあげてね」

善子「リリーがそう言うなら……」

善子「一応、情報も手に入れたしね」

梨子「情報?」

善子「曜さんの反応じゃ喜んでいるかは分からない」

梨子「確かに。知らない方が幸せな情報だったかもだけど」

善子「そう言われたら、それまでだけど」

梨子「私は不安よ、笑顔でお礼を言われても、心の中では舌打ちされたりしてたら……」

善子「いやいや、それは流石にネガティブになり過ぎでしょ」

梨子「私だって曜ちゃんに誕生日プレゼントをあげるのは初めてなのに」

善子「えっ、去年あげてないの?」

梨子「私、転校生だったし、去年のこの時期は誕生日すら知らなかったから」

善子「もしかして、Aqoursのほとんど、曜さんの誕生日は初体験?」

梨子「千歌ちゃんと果南さん以外は、そうなるわね」

善子「よりによって、頼りにならない人といない人……」

梨子「どうしよう、実は私もまだあげる物を考えてなくて……」

善子「と、とりあえず、曜さんの好きなことを整理してみましょう」

善子「そうすれば何か浮かんでくるかも」

梨子「そ、そうね、そのとおりだわ」

善子「えっと、曜さんのプロフィールは……」



『好きな食べ物:ハンバーグ、みかん』

『趣味:筋トレ』

『特技:高飛び込み、体感天気予報』



善子「あれ?」

梨子「役に立ちそうな情報が、あんまりなさそうね……」

善子「そ、そんなことないわよ」

善子「例えば好きな食べ物、手作りのハンバーグを作ってあげるとか」

善子「私は向いてないかもだけど、リリーが作ってあげればきっと喜ぶわよ」

梨子「いや、駄目よ」

善子「な、なんで」


梨子「私の本能が囁くの」

梨子「手作りハンバーグだけは止めろと」


善子「は、はぁ」

善子(リリーも時々変なことを言い出すようになったわね。リトルデーモンとしての自覚が出てきたのかしら)

善子「じゃあ筋トレの方から、トレーニング機器とか」

梨子「それ、プレゼントされて喜ぶ女の子はほとんどいないと思うけど」

善子「曜さんなら喜ぶ可能性はありそうじゃない?」

梨子「まあ、否定はできないかも」

善子「じゃあこれは候補かしら」

梨子「でも素人が買えそうなグッズは持ってそうよね、曜ちゃん」

善子「確かに、被っちゃうのが最悪だわ」


梨子「あと残っているのは、高飛び込みと体感天気予報……」

善子「天気予報はないわね」

梨子「でも高飛び込みも、専門的なことはよく分からないわよ」

善子「何だろう、飛び込む前にリラックスできる物とか?」


梨子「リラックスできる物――それいいわね!」


善子「えっ、何か思いついたの」

梨子「もちろん!」

善子(私は適当に言っただけだから全然なんだけど)


梨子「人をリラックスさせるもの、それは壁ドン!」


善子「はっ?」

梨子「分かるでしょ、壁ドン本を読むだけで、心が落ち着く心理」

善子「いやいや、全然分からないわよ」

梨子「あら、善子ちゃんは変わってるわね」

善子「変なのはリリーの方でしょ」

善子「そもそも競技場に同人誌なんて持ち込めないじゃない」

梨子「へっ、私はいつも演奏前に持ち込んで読んでるけど」

善子「え、冗談でしょ」

梨子「冗談じゃないわよ」

梨子「昔からずっと、壁ドン本でハアハア言ってリラックスしてるもの」

善子「え、えっと、トイレとかで?」

梨子「ううん、控室で」

善子「」

梨子「ありがとう、善子ちゃん。おかげで私のプレゼントは決まったわ!」

善子「そ、そう」

梨子「あとは善子ちゃんがあげるプレゼントだけど――」

善子「へ、平気よ。あとは自分で考えるから」

梨子「そう?」

善子「梨子さんは自分のプレゼントに集中して」

梨子「分かった――早速曜ちゃんにピッタリの本を見繕うわないと!」

善子「……頑張ってね」

梨子「ええ!」



善子(曜さんごめん、私の所為で変なプレゼントを贈られることになりそう……)

善子(でも知りたくない一面を知ってしまったわ……)

善子(壁ドン好きは前からヤバいとは思っていたけど、そこまで重傷だったなんて)

善子(それに結局、私が贈るプレゼントについては何の進展もないし)

善子(梨子さんも駄目となると、残る相談できそうなのはルビィと花丸)

善子(でもこの2人はさっきまでの2人に比べると曜さんとの関係も深くない)

善子(それに私も含めて、全員人見知り)


善子(……)


善子(まあ、三人寄れば文殊の知恵ともいうし、話をしないよりはマシかしら)

善子(早速招集をかけてみましょう)

―――――



ルビィ「曜ちゃんの」

花丸「誕生日プレゼント?」


善子「ええ、そうよ」

善子「2人は何をあげるか、もう決めてるの?」

ルビィ「流石にもう決まってるよ~」

花丸「マルも」

善子「そ、そう」

花丸「もうすぐ曜ちゃんの誕生日だもん、決まってないなんてあり得ないずら」

ルビィ「うゅ」

善子(千歌さんも梨子さんも、私と話すまで決めてなかったみたいなんだけど……)

花丸「善子ちゃんはどんな物にしたの?」

善子「え、えっと」

ルビィ「曜ちゃんと善子ちゃん、仲良しさんだもんね」

花丸「きっと凄い物に違いないずら」

善子「い、いや、あのね」

ルビィ「例えば漫画とかである、『プレゼントはわ・た・し・』みたいな感じとか?」

花丸「もちろん、服の代わりにリボンを巻いて」

ルビィ「キャー、何かえっちだよぉ」

善子「いや、ちょっと人の話を聴いて……」



―――

――




ルビィ「えっ」

花丸「まだ決められてないの?」


善子「そうなのよ……」

ルビィ「でも、もうほとんど時間ないよ」

善子「分かってるんだけど、いい案が思いつかなくて……」

ルビィ「曜ちゃんが好きな物をプレゼントすればいいんじゃないの」

善子「それも考えたんだけど、諸事情で駄目になったの」

ルビィ「じゃあ無難な物とか……」

善子「その無難な物が分からないし、私は本当に喜んでくれるプレゼントをあげたいの」

ルビィ「えっと、それじゃあ――どうしよう」

ルビィ「ま、マルちゃん、助けて……」

善子「花丸、なにかないかしら?」


花丸「うーん、難しいね」

花丸「でも大切な人に贈るプレゼントは、自分があげたいと感じる物が一番だと思うよ」

善子「自分があげたいと感じる物……」

花丸「例えばマルはね、ルビィちゃんにプレゼントあげるとき、いつも考えるよ」

花丸「これならルビィちゃんに似合うかなとか、こんなものを着てほしいなとか」

花丸「相手が欲しい物を考えるのも大事だけど、自分がいいと思えないと意味がないと思うんだ」

花丸「相手は色々な人からプレゼントを貰うかもしれないけど、自分から贈るのは他にない唯一の物なんだから」

善子「唯一の……」

ルビィ「う、うゅ」

花丸「ルビィちゃん、何かあったの?」


ルビィ「嬉しくて」

ルビィ「マルちゃんがルビィにプレゼントをくれる時、そんなことを考えてくれていたなんて」

花丸「当たり前だよ。マルにとってルビィちゃんは、大切な人だから」

ルビィ「マルちゃん……」



善子(何か百合の迷路に迷い込みそうな雰囲気ね、退散した方がいいかしら)

善子(でも花丸のおかげで、何とかなりそう)

善子(早速、プレゼントを探しに行こう)

善子(特別な、私からのプレゼントを)

――4月17日、誕生日当日




曜「いやー、今日は幸せだなぁ」

善子「嬉しそうね、曜さん」

曜「えへへ、みんなからお祝いしてもらったからね」

曜「プレゼントもたくさん貰っちゃったし」

善子「相変わらず、人望あるわねぇ」


善子(放課後、2人きりの帰り道)

善子(曜さんが抱える、膨らんでパンパンになっているカバン)

善子(学校が変わっても、人気者なのは変わってない)

曜「実はね、あと一人で、お祝いをしてくれる人、100人目なんだよね~」

善子「凄いわね、それは」

曜「それでね、まだお祝いしてくれてない人が近くにいるんだけどなぁ」

善子「あら、誰のことかしら」

曜「えへへ、分かってるでしょ~」


善子「誕生日おめでとう、曜さん」

曜「ありがとう、善子ちゃん!」

善子「わっ、抱きつかないでよ」

曜「それだけ嬉しかったんだよ~」

善子「もう、この状態だとプレゼントが渡せないじゃない」

曜「えっ、プレゼントもあるの!?」

善子「そりゃそうでしょ」

善子(恥ずかしかったのと、人の波が途切れなかったせいで渡せてなかっただけだもの)


曜「なになに、どんなの?」

善子「はい、これ」


曜「これは……イルカのイヤリング?」


善子「そ、そうよ。曜さんらしくて、いいかと思って」

善子「曜さん、せっかく素材はいいのに、あんまりアクセサリーとか付けないでしょ」

善子「勿体ないなって思ってたの。だから……」


曜「そっか――ありがとう善子ちゃん、嬉しいよ!」

善子「本当に?」

曜「うん、今年貰った中で、一番うれしいかも」

善子「う、嘘じゃないわよね」

曜「なんでそんなに疑うの?」

善子「その、曜さんはどんなプレゼントでも笑顔で受け取るって聞いたから、心配で」


曜「えっ、それって変かな」

善子「自分の欲しくない物とかもあるでしょ」

曜「人からプレゼントを貰って、嬉しくないわけないじゃん」

曜「それが例えどんな物でも、私にとっては特別だよ」

善子「曜さん……」


善子(この人は、本当に)

曜「まあ、正直使い道に困ることもあるけどね」

善子「そうなの?」

曜「うん、今年はAqoursのみんな、個性的なプレゼントをくれてね」

善子「個性的なプレゼント?」

善子(何か嫌な予感が……)


曜「千歌ちゃんは猫耳をくれて」

曜「梨子ちゃんは薄くて変わった内容の漫画本」

曜「花丸ちゃんはよく分からないお経が書かれた本」

曜「ルビィちゃんはアイドルのライブチケット」

曜「三年生も郵送でね」

曜「鞠莉ちゃんは私を象った銅像、果南ちゃんは毒々しい魚の標本、ダイヤさんは大量の参考書をくれたんだ~」

善子「そ、それはまた」


善子(どこからツッコめばいいんだろう……)

善子(千歌さんは何故猫耳だけに?)

善子(同人誌と経本とか、リリーと花丸は馬鹿なのかしら)

善子(ルビィは布教活動、3年生は個性的すぎてもう……)


善子「その内容だと、私が負けている気はしないわね」

曜「うん――というわけで、善子ちゃんの優勝~」

善子「何か相対的に勝っただけみたいで、あんまり喜べない優勝ね」

曜「そう?」

善子「渡した後だから聞くけど、結局曜さんが一番欲しかったプレゼントは何だったのよ」

曜「欲しかったプレゼント?」

善子「気になるじゃない、来年以降の参考にしたいし」

曜「えー、それを言うのはちょっと恥ずかしいかも」

善子「なんで?」


曜「だって私が一番欲しかったプレゼントは――善子ちゃんだもん」


善子「えっ、私!?」

曜「うん! だからこうぎゅーっと」

善子「だ、だから抱きつかないで」

曜「あー、可愛いよ善子ちゃん」

善子「ちょっと――」

曜「このまま持ち帰っちゃおうかな~」

善子「さ、流石にそれは」

曜「駄目?」

善子「え、えっと」

曜「OKみたいだね!」

善子「いや、そんなことは一言も――」


曜「よーし、善子ちゃんと一緒に、家に向かって全速前進だ~!」

善子「よ、曜さん~」







 おしまい

お付き合いいただきありがとうございました

曜ちゃん、誕生日おめでとう!

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