僧侶「勇者様は勇者様です」 (301) 【現行スレ】

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の続きとなっています。
全て書き終わってから立てるつもりでしたが、モチベーション維持のために始めることとしました。
そのため例によって不定期にゆっくりと更新されていきます。
前回は一年間かかってしまいましたが、今回はなるべく早く終われるようにはしたいです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1523190998

《はじまり》


──遥か昔、まだ世界が混沌としていた頃の話……

──死を振りまく厄災、魔王の恐怖に怯える日々が続いていた……

──しかしその暗黒の日々に終止符を打つ者たちが現れた……

──絶対神様のご加護によって聖なる力を手にした一行……

──勇者とその仲間達、彼ら八人によって邪悪は打倒され、永劫の平和が訪れたのであった……






勇者「……だそうだけど」

僧侶「初代勇者の英雄譚の一節ですよね。それがどうかしましたか?」

勇者「永劫に平和なら、何でこんな事をしているんだろうなって」

僧侶「仕方がないですよ。勇者一族の大事な勤めの一つなんですから」

僧侶「根も葉もない噂だったとしても、魔王の名がそこにあるなならば貴方が行かなくてはならないのです」

僧侶「そうすることで人々は安心することが出来ますから」

勇者「それにしたって最近多くないかな。“魔王軍の残党が現れた”って噂」

僧侶「確かに頻繁に有りすぎる気がしますね……」

勇者「騒ぎになるのを見て面白がっている愉快犯がいるかもしれないね」

僧侶「そうだとしたら許せませんね」

勇者「僕も面倒だしね」

勇者「さて、ここが目的地か」

僧侶「私は教会に挨拶に行って来ますね」

勇者「僕はその辺うろついているかな」

僧侶「あまりに遠くには行かないでくださいよ」

勇者「もう僕が教会に行かないことに対しては怒らないんだね」

僧侶「その事は半ば諦めています……ですが、貴方にもいずれ正しい信仰の心が芽生えると信じています」

僧侶「何故ならば貴方は絶対神様に選ばれし勇者の血統なのですから」

勇者「はいはい」

僧侶「はあ……貴方はもう少し大人になるべきですね」

勇者「善処はしているよ」

僧侶「……まあいいです。さっきも言いましたが遠くには行かないでくださいね」

勇者「そこまで子供扱いしなくても良いじゃん……」

勇者「じゃあ後でね」

僧侶「はい、それでは」

勇者「…………」

勇者(特に理由はないのだけれども、昔から教会で祈る気分にはなれない)

勇者(得体の知れない胡散臭さを感じてしまうのだ)

勇者(こんな気持ちで形式だけの祈りをしても逆に失礼な気がして最近は教会に入ることも少なくなった)

王都郊外の町の子供「あ、勇者様だ!」

勇者「こんにちは」

王都郊外の町の子供「こんにちは!」

王都郊外の町の子供「ねえ、腰にあるのがあの勇者の剣?」

勇者「そうだよ。お仕事で来ているから一応持ってきたんだ」

王都郊外の町の子供「えっ、悪い怪物がこの辺にいるってこと!?」

勇者「うーん、どうだろう。いないと思うんだけど、本当に現れたとしても僕達がいるから大丈夫だよ」

王都郊外の町の子供「だよね! 勇者様がいれば安心だもんね!」

勇者「うん、そうだね」

勇者(実際は父さん達抜きでの実戦経験はあまり無いから、僕らだけで対処できるかわからないけど……)

勇者(まあ今回もただの噂だと思うけどね)


その時、何かが崩れる音とと悲鳴が勇者の耳に届いた。


王都郊外の町の子供「な、何の音……!?」

勇者(……噂だと良かったんだけど……)

勇者「君は直ぐにお家へ帰りなさい。危ないから今の音がした方に行ったら駄目だよ」

王都郊外の町の子供「う、うん……!」

勇者(音がした方角はあっちだ)

勇者(急がないと……!)






勇者は町外れの墓地に着いた。


勇者(これは……ゾンビ……!?)

勇者(墓地の遺体がゾンビになっている……!)

ゾンビA「ウウウ……」

勇者(どうしよう……ゾンビとは言ってもついさっきまで安らかに眠る遺体だったんだよね……)

勇者(剣で斬ってしまっても良いんだろうか……)

ゾンビB「グウウウウ……」

ゾンビC「ガアアアッ!」

勇者「うわっ!」

勇者(そんな事言ってられないか……!)

勇者「後でちゃんと埋葬し直しますので!」


勇者が剣を一閃するだけでゾンビ達はまとめて真っ二つになった。


勇者(相変わらず、流石は伝説の剣って感じだな……)

勇者(持っているだけで安心できる)

ゾンビD「オオオッ!」

ゾンビE「ガウッ!」

勇者(って、キリがないな! 結構広い墓地だからどんどんゾンビが湧いて出てきちゃうのか!)

僧侶「勇者様、退いてください!」

勇者「僧侶!」



僧侶が呪文を唱えると、たちまちゾンビたちが動きを止めて倒れ出した。


勇者「僧侶って回復以外も出来たんだね」

僧侶「こういう相手の場合限定ですけれどもね」

ゾンビF「ウウウウ……」

僧侶「……!」

僧侶(大丈夫……平気よ……平気……)

僧侶(落ち着いて私……)

僧侶「……ふう……」

勇者「それよりも僧侶、どんどんゾンビが湧いて出てきちゃうんだけど……」

僧侶「……これはどこかにゾンビを生成する魔法陣がありますね。それを探し出して破壊しないと駄目です」

勇者「魔法陣か……」

勇者「あの下が怪しいかもしれない」

僧侶「墓地のシンボルの石像が崩されていますね……。酷いことを……」

勇者「瓦礫を退かさないと……」

僧侶「勇者様!? 勇者の剣で瓦礫を叩かないで下さい!」

勇者「いやでも、この剣を持っていないとただの非力な人になっちゃうから……」

僧侶「身に着けるだけで効力があるのをお忘れになったのですか!? 手で瓦礫を退かせるとか、他にもやりようがあるでしょう!」

勇者「そ、そうだね……」

僧侶「ゾンビの方は私が引き受けますので、なるべく早くお願いします……! その、あまり対峙していたくないので……」

勇者「わかった、任せて……!」

勇者「よっと……!」

勇者(やっぱりこの剣は凄いなあ……僕でもこんな大きな瓦礫を持ち上げられるなんて)

勇者(でもこの剣無しでは僕は本当に無能だから、絶対に失くさないようにしないと……)

勇者(さて、これが魔法陣か……)


勇者は魔法陣の描かれた石畳を踏みつけて壊した。


勇者「魔法陣は壊したよ!」

僧侶「まだ他にもあるはずです! 探し出して同じように破壊してください!」

勇者「わかった!」


それから勇者は六つの魔法陣を発見し、その都度破壊した。

勇者「ゾンビの数が増えなくなった……今ので最後だったみたいだ!」

僧侶「わかりました。残りを一掃します……!」


僧侶の術で残ったゾンビが全て動かなくなった。


僧侶「……この後埋葬し直さなくてはなりませんね」

勇者「そうだね」

勇者「うーん……」

僧侶「どうかしましたか?」

勇者「いや、少し変だなあって」

僧侶「変、とは」

勇者「いや、この魔方陣なんだけどね。見つけられたくなかったもっと上手く隠す方法がなかったのかな」

僧侶「確かにそれはそうですね」

勇者「まるでここは本命じゃないみたいな、そんな感じがする」

僧侶「本命とは?」

勇者「わからないよ。そんな気がするってだけ」

勇者「さて、教会に報告しに行こうよ」

僧侶「そうですね」

王都郊外の町の神官「ゆ、勇者様! ここにおられましたか!」

勇者「どうしたんですか、そんなに慌てて……」

王都郊外の町の神官「一大事です……! 早く王都へお戻りになってください……!」

勇者「……王都で何が……?」






──王都中心部


勇者「こ、これは……」

僧侶「私達の街が……!」

王都の聖騎士A「きょ、強力な人外が突然大量に現れて……我々では手も足も出ず……」

王都の聖騎士A「あの方々も応戦されていましたが……」

勇者「……! 家を見てくる……!」

僧侶「私も……!」

勇者「…………」

勇者(一体何が……)

勇者(父さん……! 母さん……!)


勇者は両親が住む実家へと駆け出した。


勇者「はあ……はあ……家はもうすぐだ……」

勇者(……着いた……!)

勇者「二人共無事!?」

勇者「…………母さん…………?」

勇者「そんな……母さん……」

勇者「返事をして、母さん……!」

勇者の父「……お、お前か……」

勇者「父さん!!」

勇者「すぐに術師を呼んで来る!」

勇者の父「いや……無駄だ……」

勇者(……! 内臓が……!)

勇者の父「よく……聞け息子よ……」

勇者「…………」

勇者の父「敵を……見誤るな……」

勇者の父「自分で考えて……信じた道を……」

勇者の父「…………」

勇者「父さん……!」

勇者「くっ……」

勇者「…………」

勇者「僕の……せいだ……」

勇者「さっきの町での事は囮だったんだ……」

勇者「僕が勇者の剣を持って行ってしまっていたから父さんは……」

勇者「うううっ……」






白髪の国王「……そなたらの家族の事は、誠に残念であった」

勇者「…………」

僧侶「…………」

白髪の国王「勇者の血筋がいる区画であるからと安心していたが、それは大きな間違いであった」

白髪の国王「そなたらがいるからこそ、厳重な警戒態勢をしくべきであったのだ……」

勇者「……いえ、国王様がお気に病むことではございません」

白髪の国王「……そなたの父、そして僧侶の父は共に稀代の強力な力の持ち主であった」

白髪の国王「“奴ら”はそなたらの父の事を恐れて、今回の様な強襲に出たのであろう」

勇者「奴ら……ですか?」

白髪の国王「うむ……信じたくはないが、信憑性の高い情報が入った」

白髪の国王「そなたらの家族を殺めた者達は魔王軍の残党……新生魔王軍を名乗る集団であるということがわかった」

勇者「魔王……軍……」

白髪の国王「うむ……」

白髪の国王「もしかすると、これは大いなる厄災の始まりなのかもしれない……」

勇者「…………」

白髪の国王「……今のそなたにこのような事を言うのは心苦しいのだが、聞いてくれ」

勇者「……はい」

白髪の国王「そなたには勇者一族の当主として、共に戦う仲間を探す旅に出て欲しいのだ」

勇者「仲間……」

白髪の国王「そうだ。初代勇者が七人の仲間と共に千年前の大戦を戦ったという話は知っているな」

勇者「はい。魔法使い、剣士、僧侶、弓使い、格闘家、戦士、アサシンの七人と様々な困難に立ち向かったと聞いています」

白髪の国王「その通りだ」

白髪の国王「勇者の剣を持つことが可能な直系の者の元には、七人の選ばれし仲間が集うという……」

白髪の国王「そしてその仲間達には、伝承の通り強力な力が宿るとされている」

勇者「初めて耳にしました」

白髪の国王「次期当主が二十の歳を迎える時に口伝される事になっている……」

白髪の国王「本来ならばもう直ぐそなたの父から語られるはずの事だった」

勇者「そうでしたか……」

白髪の国王「僧侶の父は、勇者の父の“仲間”として選ばれていた」

白髪の国王「仲間として選ばれた者の身体にはその証が刻まれる……」

白髪の国王「そなたにはその証が現れる者を大陸中を旅して探し出して欲しいのだ」

白髪の国王「そなたの父が倒れた事によって国民は不安にかられている……」

白髪の国王「そなたには現当主として彼らを照らす次の灯火になって欲しい」

勇者「……しかし、仲間を探すとは言ってもこの広い大陸でどうやって……」

白髪の国王「初代勇者の仲間達の子孫に証が刻まれることが多いらしいのだが、例外もあるようでな……」

白髪の国王「しかし安心せよ。どういう理屈かは私にはわからないが、必ず彼らとは出会うようになっているらしい」

白髪の国王「何万里離れていようとも、勇者が仲間を求め続ければ必ずその者と出会うと私は聞いた」

勇者「なるほど……」

勇者「この話、承りました」

勇者「勇者一族の当主として、必ず仲間を引き連れて戻って参ります」

白髪の国王「おお勇者よ。頼もしい言葉だ」

白髪の国王「万全の準備で旅に出られるように計らおう」

勇者「ありがとうございます」

僧侶「……一つ、よろしいでしょうか」

勇者「僧侶……?」

僧侶「その旅、私も同行させて頂きたいのです」

勇者「なっ……」

白髪の国王「……僧侶よ。この旅は勇者の仲間を探すための旅なのだ」

白髪の国王「残念ながら関係のない者があまり多く同行すると、その道を困難にすると伝えられている」

僧侶「国王様、私の手の甲をご覧下さい」

白髪の国王「む……その紋章は……!」

僧侶「はい。昨晩、突然現れました」

勇者「まさか……つまり……」

白髪の国王「そなたが勇者の一人目の仲間であるという事か……」

僧侶「はい」

白髪の国王「ならば同行を断る理由はない。そなたの分も準備を進めよう」

僧侶「ありがとうございます」

勇者「…………」






勇者「まさか僧侶が仲間として選ばれるなんてね」

勇者「でもお互い初代勇者パーティーの末裔なわけだし、不思議な事でも無いのかな」

僧侶「…………」

僧侶「勇者様は、普段と変わりないんですね」

勇者「……別にそういう訳じゃないよ……」

勇者「まだロクに親孝行出来ていないのになって、後悔と悲しさで一杯だけど……」

勇者「もう起きてしまったって事は事実なんだ。起きてしまったことは何をしたって変わらない」

勇者「今から変えられるのは未来だけだと思うんだ」

僧侶「こんなに取り乱している私が異常なんでしょうか」

勇者「……いや、きっと変なのは僕の方だと思う」

勇者「昔から良くあるんだ……心が煮えたぎるはずの場面で妙に落ち着いてしまう事が」

勇者「まるで同じような場面に幾千と立ち会って来たみたいな、そんな気分になることがね」

僧侶「…………」

僧侶「……ちなみに勇者様が今回の旅に出ようと決意したのは何故ですか?」

僧侶「王の御前だったからですか? 勇者の末裔であるという事から湧く義務感からでしょうか?」

勇者「その二つは当然あるとして……」

勇者「その理由もよくわからないんだよね」

勇者「ただ、僕の中の何かがそう促したんだ」

僧侶「……自分の事なのに何もわからないんですね」

勇者「まだまだ子供だからね」

僧侶「……私は勇者様よりもずっと子供かもしれません」

僧侶「今の私の原動力はただ一つ、復讐心だけです」

僧侶「お父さんとお母さんを殺した奴を探し出して殺してやりたい。それだけなんです」

勇者「それは当然の感情だと思うけどな」

勇者「僧侶が言うには少し物騒な台詞だけど」

勇者「復讐が良いことなのか悪いことなのかは語れないけど、そう思う事自体は咎められる事では無いと思うよ」

勇者「ただし、ちょっと気になることがあるから、僧侶もこの言葉を覚えておいて欲しい」

僧侶「気になること……?」

勇者「うん。父さんが息絶える間際に僕に言った言葉なんだけど、きっと僕だけに向けられた言葉ではないと思うんだ」

勇者「『敵を見誤るな』って」

勇者「この言葉の意味は今はわからないけれど、最期に力を振り絞って言う程のことだから……」

僧侶「……わかりました、覚えておきます」

僧侶「でも、今の私にとっての敵は明確です」

僧侶「憎き人外達……奴らが私達の家族を殺めたという事実は変わらないです」

勇者「…………」

勇者「まだ少し早いけど今日はもう休もう」

僧侶「そうですね……まだ色々と疲れているみたいですし」

僧侶「それではまた明日」

勇者「うん……」





???「こんばんは」

勇者「こんばんは。貴方は?」

???「僕かい? 僕は■■だよ」

勇者「■■……? 一体誰だろう……」

???「今は分からないかもね。でもいずれ分かってくるかもしれない」

勇者「いずれ?」

???「うん。これは僕の失敗のせいでね。ごめんね」

勇者「失敗? 何が何やら……」

???「それもいずれ分かるようになると思う」

勇者「そっか。それじゃあその時まで待つかな」

???「本当はそうならない方が良いんだけど」

???「こんなつもりだったんだ……慣れないことをしたばっかりに……」

勇者「うーん、やっぱりよく分からないな」

???「ごめんね。まだ君が理解するには早すぎるみたいだ」

勇者「という事は、いずれは何か分かるってこと?」

???「うん。その時は遠くない未来にきっと」

???「……そろそろ時間だね」

???「またね……という言葉が適切かは分からないけれども、とりあえず言っておくね」

勇者「うん、それじゃあまた」





勇者「……変な夢……」

勇者「そうだ、僧侶の所に行かないと」

僧侶「──勇者様、入っても良いですか」

勇者「あ、ちょうどいい所に。大丈夫だよ」

僧侶「失礼します」

勇者「うん。何か用事かな」

僧侶「はい。これから始まる旅について少し見通しを持ったほうが良いと思いまして」

勇者「僕も丁度そう思っていた所」

僧侶「その……国王様が仰っていた話では紋様が現れる素質のある者とは自然に出会えるという事でしたが……」

僧侶「闇雲に探すよりはある程度当たりをつけた方が良いと思うのですが」

勇者「そうだね」

勇者「そうなると、まずは自分達みたいな初代の勇者パーティーの末裔を尋ねるのが得策かもしれない」

僧侶「王国内ですと初代魔法使い様の末裔が居ますが……」

僧侶「現当主及び次期当主が不在だと聞いています」

勇者「ええ、そうなの?」

僧侶「詳しいことは不明らしいのですが皇国の方に赴いているとの事です」

勇者「皇国に……」

僧侶「ですので皇国には行く必要があるでしょうね」

僧侶「勿論少し後回しにはなりますが」

勇者「うーん、それじゃあ仕方がないから北側から行くかな」

僧侶「北側……北方連邦国と自治区ですか……!?」

勇者「だ、駄目かな?」

僧侶「……いずれは行かねばならない事は分かっていますが……しかしよりによってその二国からとは」

勇者「反教会勢力が幅を利かせている国だもんね」

僧侶「はい……」

勇者「でもそれなら尚更早く行ったほうが良いんじゃないかな」

勇者「もし仮に僕達のパーティーが聖職者でいっぱいになったとしたら、それこそ行きにくいよ」

僧侶「た、確かにそうですが……」

勇者「それに北側は寒さが厳しくなるからね。冬になる前には周っておきたいかな」

僧侶「……その通りですね。勇者様の案でいきましょう」

勇者「よし、そうと決まれば早速出発しよう」

僧侶「も、もうですか?」

勇者「装備も用意していただいたし、留まっている理由もないしね」

僧侶「……わかりました。国王様にご挨拶をしてから出発しましょう」

勇者「そうだね」

勇者「不謹慎かもしれないけれど、少し楽しみだな。色々な国を巡る旅っていうのは」

僧侶「不謹慎と言うよりも呑気過ぎるのでは……」

僧侶「これも天からの試練だと考え、真剣に取り組むべきだと思います」

勇者「勿論、ふざけている訳じゃないよ」

僧侶「それなら良いのですが……お互い気をつけていきましょうね」

勇者「うん、改めてよろしくね」


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師

B1 狼男 赤鬼青鬼 
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 トロール
C3 河童 商人風の盗賊 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※前作からランクの細かい修正があります。特に赤鬼青鬼などは“ダンジョンの力をプラスしてAランクだった”ので、素の力のBランクに落としました。

以上が序章です。
前回は地の文なしに挑戦しましたが状況が伝わりにくい気がしたので今回は簡単に挟んでいきます。
週イチでは更新したいです。前回もそう言っていた気がします。

おお!
ずっと待ってた
毎週楽しみにしとく


これは過去作とつながってるの?

>>40
繋がっています。
開始時は《青女房》編と大体同じ頃です。

《極寒の地》


──王国と北方連邦国の国境付近


僧侶「そろそろ国境の関所のようですよ」

勇者「案外早かったね。勇者の冒険譚ではこの辺まで来るのにも一苦労二苦労した描写があったけど」

僧侶「今はこのように鉄道が大陸中に張り巡らされていますからね」

僧侶「よほどの辺境に行かないのであれば数日、長くても数週間で大抵の場所へ行けるのでは無いのでしょうか」

勇者「転移魔法でも使えればもっと早いんだろうけど」

僧侶「そんな超上級魔法がポンポンと使われるような世の中は、それはそれで困りますよ」

勇者「さて、ちゃんと入国できるかな」

僧侶「大丈夫……なはずです」

僧侶「別に敵対国だというわけでは無いので……」

勇者「良好な関係でもないけどね」

僧侶「そうですけれども……」


北方連邦国は大陸北西に位置する連邦国家で教会を持たない国の一つ。

寒さが厳しく土地も肥沃とは言え無いが、そこに住む人々は屈強な肉体と精神を持っていることで知られている。

実際、長い歴史の中で北の大地の民が他国の侵略を許したという記録は殆ど存在しない。

そのお国柄のせいもあってか、彼らは教会権力からの干渉を一切受け付けていない。


勇者「そういえば修道服じゃない僧侶は久々に見たかも」

僧侶「北方連邦国に修道服で行くわけにはいきませんからね。しばらくは仕方がないです」

僧侶「さて、駅についたら荷物をまとめて関所に向かいましょう」

勇者「入国審査が終わったら食事にしようよ。少しお腹が空いちゃったから」

僧侶「そうですね。私も何か食べておきたいです」

勇者「よーし何にするかなあ」

僧侶「あまり贅沢はいけませんよ。これも修行の一環なのですから」

勇者「はいはい分かっているってば」

僧侶「はあ、まったく……」






連邦国関所の衛兵A「身分証を提示しろ」

勇者「はい、これです」

連邦国関所の衛兵A「……王国騎士団からの使者か」

勇者(本来は騎士団には属していないんだけど、北方連邦国には教会がないからそういう事にしてあるんだよね……)

勇者(しかし流石は北方の民……筋骨隆々、腕が丸太のようだ……)

連邦国関所の衛兵A「となると、貴様らが初代勇者と僧侶の末裔か」

連邦国関所の衛兵A「話は聞いている」

勇者「そうでしたか……!」

連邦国関所の衛兵A「残念だがここを通すわけにはいかない」

勇者「って、え……!?」

僧侶「……どういうことですか」

連邦国関所の衛兵A「王国から勇者の末裔らが来た場合、現在は国内に入れてはならないという命令が下ってる」

僧侶「何故ですか!? 私達が貴方がたの国に不利益になる事をするとでも思っているのですか?」

連邦国関所の衛兵A「理由は私が知るはずなど無いだろう。ただ命令に従っているに過ぎない」

僧侶「今がどういう状況なのかわかっているのですか!」

連邦国関所の衛兵A「私の知った話では無いと言っているだろう」

連邦国関所の衛兵A「これ以上ここで騒ぐのならば、正当な理由を以て貴様らを処罰する」

僧侶「な……!」

勇者「僧侶、やめよう」

僧侶「ですが……!」

勇者「もしここが駄目だったら別の場所を巡ってからでも良いんだから」

僧侶「それは……」

勇者「お騒がせしました。失礼します」

僧侶「…………」

連邦国関所の衛兵A「…………」

連邦国関所の衛兵A「貴様ら、宿は取っているのか」

勇者「関所の向こうで取るつもりだったのですが」

連邦国関所の衛兵A「そうか……」

連邦国関所の衛兵A「この地は王都住まいのエリートには少し寒いだろう」

連邦国関所の衛兵A「ここを通す事は出来ないが、関所の外の宿ぐらいは紹介してやろう」

僧侶「え……」

勇者「そうですか! ありがとうございます」

勇者「ちょうど宿をどうするか思案していた所だから助かったね、僧侶」

僧侶「そ、そうですね……」

僧侶「ありがとうございます」

連邦国関所の衛兵A「……仕事の一環だ」

連邦国関所の衛兵A「変に目をつけられる前に立ち去ったほうが良いだろう」

勇者「うん、そうさせてもらうね」

連邦国関所の衛兵A「フン……」






──関所近くの宿屋


勇者「さて、初手から結構な難易度になりそうだね」

僧侶「先ほど勇者様が仰っていた通り、ここは一旦諦めて帝国などから探し始めるのも有りだとは思いますが」

勇者「最悪はそうするつもりだけど……」

僧侶「どうかしたのですか?」

勇者「うん。結局あの関所は越えなくちゃならないかもしれない」

勇者「連邦国に居るような気がするんだ、僕達の仲間が」

僧侶「なんとなく、ですか?」

勇者「なんとなくだね。国王陛下は自然に出会えると仰っていたけど、こういう事なのかもしれない」

勇者「距離とか場所とかは分からないけど、その仲間に出会うには先へ進まなくちゃいけないって気がするんだ」

僧侶「しかしそうは言いましても……」

勇者「まあ正攻法では行け無さそうだよね」

僧侶「北方連邦国はなぜ私達を国へ招き入れたく無いのでしょうか」

勇者「さっきこの宿の主人と話していた時に小耳に挟んだんだけど……」

勇者「どうやら最近の魔王軍出没騒動は王国の自作自演なんじゃないか、という噂が流れているみたいなんだ」

僧侶「なっ、そんなことは……!」

勇者「勿論僕だってありえないと思うよ」

勇者「しかし魔王は千年前に打倒され、ここ百年は彼らの目立った動きも見られない」

勇者「そんな状態だから、最悪の可能性の方を考える方が難しいと思うんだ」

僧侶「……と言うよりはむしろ、その可能性を考えたくないんじゃないかと思います」

勇者「そうかもしれないね」

勇者「しばらくはずっと人間同士の小競り合いばかりだったんだから、今回のも何らかの策略だと疑ってしまうよね」

勇者「実際に最近共和国が皇国にちょっかいを掛けていて、周辺では緊張状態が続いているみたいだし」

僧侶「我々はただ絶対神様の名の元に集っているだけだと言うのに……」

勇者「その代表者が王国民である時点で、彼らにとっては王国の兵力としてカウントされるんじゃないかな」

勇者「国と国の垣根を越えて協力し合うには、もっと危機的状況になってからじゃないと無理かもしれないね」

僧侶「そうなる前に解決しなければならないというのに……」

勇者「真偽が定かでは無いとしても各国は対策を始めているはず」

勇者「千年前と違って人間も扱える力や技術が大きく進歩したから、僕達が必ずしも必要な存在であるというわけでは無いんだ」

勇者「だから今後の事も視野に入れてあまり波風は立てないほうがいいかもね」

僧侶「そう……ですね……」

勇者「さっき言った予感のこともあるし、せっかく来たのだからしばらくは粘ってみるけど」

勇者「どちらにしても今日はもうどうしようも無いし、食事を取って寝ようか」

僧侶「あ、私が下から貰ってきますよ」

勇者「いや僕も手伝うよ」

僧侶「いえ大丈夫です。勇者様はここで待っていてください」

勇者「そう? じゃあお願いするかな」

僧侶「はい。それでは行って来ますね」






勇者「……結局三日粘ってみたけど」

僧侶「入国できませんね」

勇者「仮に何か起こっても自分達だけで解決する自信があるのかもしれない」

勇者「明日も行って駄目だったら別の場所に行くことも検討しようかな」

勇者「自治区の方とか」

僧侶「あちらの方が更に入国しにくそうですけれどもね……」

勇者「まあ、確かに」

僧侶「それでも私達は行かないとならないのですけれどもね」

僧侶「さて、そろそろ食事を頂いて来ますね」

勇者「うん、お願い。一応僕は自治区に行くことになった時用のルートを考えておくよ」

僧侶「お願いします」

勇者(……密入国という手もあるけれども、やっぱり今は王国が不利になるような行動は控えるべきかな……)

勇者(さて、ここから自治区の方に向かうとすると少し戻ってから乗り継いで……)

勇者(自治区までは鉄道は伸びていないから途中で馬を買う必要があるかも……)

勇者(お金は十分に持っているから問題ないけど、僧侶は乗馬出来たっけな)

勇者(出来ないなら僕の馬に乗せる事にになるかな)

勇者「あとそれと……」

僧侶「勇者様、お待たせしました」

僧侶「はい、こちらが勇者様の分です」

勇者「ありがとう」

勇者「ちょっと聞いておきたいんだけど、僧侶は馬に乗れる?」

僧侶「馬ですか? 得意とは言えませんね……」

勇者「自治区に行くとなるとそれなりの距離を馬で移動することになると思うから、厳しそうなら言ってね」

僧侶「なるほど、わかりました」

僧侶「折角のスープが冷めてしまっては勿体無いのでひとまず食べましょうか」

勇者「そうだね、それじゃあ……」

僧侶「……神よ、今日も無事過ごせた事に感謝いたします」

勇者「ん」

僧侶「ちゃんとお祈りしましょう」

勇者「……ほら冷めると勿体無いでしょう」

僧侶「はあ……勇者様は相変わらず……」

勇者(ん……? このスープ……)

僧侶「美味しそうな香り……」

勇者(まさか……!)

勇者「僧侶! 飲んじゃ駄目だ!」

僧侶「えっ……?」

勇者「中に何か薬が混ぜられている!」

僧侶「それって……!?」

勇者「うん、僕も少し飲んでしまった……」

勇者「症状が出る前にここを離れたほうが良さそうだ」

僧侶「は、はい……!」

勇者「食事に薬が混ぜられていたということは宿の主人は信用できない……」

勇者「窓から飛び降りるしか無いか……」

勇者(しかし僧侶にはこの高さは厳しいかもしれない……)

勇者(勇者の剣の力を使って僧侶を抱えて降りるのが一番良い方法かな)

勇者「よし、僧侶……」


覆面の男「動くな」


勇者「なっ……!?」


覆面の男が今にも意識を失いそうな僧侶を抱えて、その首筋に刃物を押し付けている。


僧侶「うう……」

勇者「僧侶に何をした!!」

覆面の男「安心しろ。さっきのスープに入っていたのは睡眠薬だ」

覆面の男「命に関わるような事はない」

勇者「僧侶を離せ……!」

覆面の男「言う通りにすれば危害は加えない」

勇者(少しだけだけどスープを飲んでしまったせいか、体がだるい……)

勇者(このままだと……)

覆面の男「大人しくしていろ。その剣に手をかけた瞬間、このナイフが女の首を貫くぞ」

勇者「くっ……!」

覆面の男「よし、素直なのは良いことだ」

勇者「…………!?」

勇者(消え……!?)

勇者「ぐえっ…………!?」


覆面の男の拳が勇者の鳩尾にめり込んだ。


勇者「ごはっ……!」

覆面の男「安心しろ、殺しはしないと言っただろう」

覆面の男「……場合によっては、だがな……」


覆面の男に薬を飲まされた勇者の意識は徐々に遠のいていった。






???「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」

勇者「あれ、君はこの間の夢の■■……」

勇者「……って、僕死んじゃったんですか!?」

???「いや冗談だよ。死んじゃったら僕とは会えないからね」

勇者「なんだ驚かせないでよ」

勇者「そういえば僧侶は……!?」

???「命は取らないって言っていたから大丈夫だとは思うよ」

勇者「それはそうだけど……」

???「さっき僧侶を助けたいって思ったよね」

勇者「当たり前じゃないか。僧侶は大切な仲間だ」

???「そして君はその剣の力を使おうとした」

???「そうすると、こうやって僕と会える事も増えてくるだろうね」

勇者「剣を使うと君と……?」

???「うん。それは君にとってはあまり良い事では無いかもしれない……」

???「今の君にとってはね……」

勇者「それって一体……」

また来週。

新しいのが始まってたのか、乙ー






勇者「…………」

勇者(またこの夢か……)

勇者(ここは……狭いけど寝室かな……)

勇者「あっ……! 僧侶は……!?」

勇者(僧侶はこの部屋には居ない……)

勇者(手には枷がされている……扉には外から鍵がかかっているな……)

勇者(独房と言うには随分綺麗だけど、似たようなものか)

勇者(この感じは一応配慮したって事なのかな。命は取らないっていうのも案外本当かもしれない)

勇者(剣は流石に取り上げられているよね……こうなったら僕はもうお手上げだ)

勇者(剣術は勿論修めているけれど、基本的には非力だからなあ)

覆面の男「……起きたか」


ドアに取り付けられた鉄格子の窓から、勇者たちを襲撃した覆面の男が顔を覗かせた。


勇者「僧侶は……一緒に居た女の子はどうした」

覆面の男「心配せずとも無事だ。貴様より早く目覚めている」

勇者「僕達を攫って何が目的なんだ」

覆面の男「……果たして惚けているのか、どうか……」

勇者「…………」

覆面の男「まあ良い。今から貴様らは査問会で取り調べを受けてもらう」

覆面の男「嘘は付かず、正直に全てを話す事だな」

覆面の男「出ろ」

勇者「…………」

勇者(査問会……僕達に何らかの疑いがかけられているという事か……)

勇者(一体何が……)

勇者(もしくは僕達を陥れるための言い掛かりという可能性もあるけれども)

勇者(そんな事をすれば王国との戦争は免れなれない)

勇者(侵略をせず、させず……護りに徹してきたこの国に限ってそんな挑発的な事をするだろうか……)

覆面の男「ここだ」

覆面の男「もう一度忠告するが、変な気は起こさず正直に聞かれたことに答えろ」



覆面の男が扉を開けるとそこは大きな円形のホールになっており、周りには国の重鎮と思われる人達が座っている。

その中央には同じように手枷をはめられた僧侶が立っていた。


勇者「僧侶……!」

僧侶「勇者様、ご無事でしたか……」

勇者「うん。怪我も大した事は無いよ」

大柄な熊髭の老人「私語は慎み給え」

大柄な熊髭の老人「君達二人には北方連邦国領内で人外を扇動し、政界の重鎮を暗殺させた首謀者の嫌疑がかけられている」

勇者「あ、暗殺……!?」

大柄な熊髭の老人「実行犯は既に捕らえられり、その口から王国軍の名前が出ているのだ」

大柄な熊髭の老人「その事件が起きる二日前から国境付近に滞在する、勇者を名乗る王国軍人がいる……」

大柄な熊髭の老人「それを疑わずに誰を疑うというのか」

僧侶「勇者を名乗るって……この人は本物の勇者の末裔です……!」

大柄な熊髭の老人「君達が本物かどうかはここでは重要ではない」

大柄な熊髭の老人「君達がこのタイミングで王国軍の差し金でここへやって来たという事実が問題なのだ」

大柄な熊髭の老人「君達はどのような命令を受けてここに来たのだね?」

勇者「……命令ではありません」

勇者「命令ではなく自分たちの意志でこの場所を選んでやって来ました」

大柄な熊髭の老人「何が目的で?」

僧侶「仲間を探すためです」

大柄な熊髭の老人「仲間とは?」

僧侶「近年行動が活発になってきた魔王軍の残党を打ち倒すための仲間です」

覆面の男「…………」

大柄な熊髭の老人「……魔王軍、か」

大柄な熊髭の老人「それは真面目に言っているのかね? 我が国の重鎮を暗殺したのもその魔王軍の残党とやらだとでも言うのかね?」

僧侶「それは私達には分かりませんが、その可能性もあるとは思います」

大柄な熊髭の老人「……話にならないな」

大柄な熊髭の老人「今回の件、知っている情報を洗いざらい吐けばお前達だけは不問にしてやっても良い」

大柄な熊髭の老人「勿論、事が全て片付くまではこちらで拘束させてもらうが……」

大柄な熊髭の老人「どうかね? 何か話す気になったかね?」

勇者「…………」

勇者「話すも何も、今僧侶が言った事が事実です」

大柄な熊髭の老人「……そうか」

大柄な熊髭の老人「ここで話さないというのであれば、別室で少々手荒な方法で聞くという事も考えているが……」

僧侶「……!」

勇者「待ってください」

勇者「我々の言うことが信用出来ないというのであれば仕方がありません。しかし手荒な手段に出るというのであれば……」

勇者「僧侶には手を出さないで下さい。僕が一人で引き受けます」

僧侶「ゆ、勇者様……!?」

大柄な熊髭の老人「…………」

勇者「僧侶の強みは強力な回復の術が扱える事だけど、当然向こうはこっちに術を使わせない対策を取っているはず」

勇者「体力は僕の方があるから……耐え忍んだりするのは得意な方だし」

僧侶「しかし……!」

大柄な熊髭の老人「私語はやめよ!」

大柄な熊髭の老人「……どうしても話さないというのか」

勇者「これ以上お話しする事が無いだけです」

大柄な熊髭の老人「…………」

大柄な熊髭の老人「お前はどう思う?」


会を取り仕切っていた老人が後ろに控えていた男に声をかけた。

その男は連邦国人らしく屈強な体つきをしており、その右目には大きな傷跡が刻まれている。


隻眼の斧使い「……この者らの言っている事に嘘は無いだろう」



隻眼の斧使い「あの男の息子だ。信用できる」

勇者「ち、父をご存知なのですか……!?」

隻眼の斧使い「ああ」

隻眼の斧使い「このまま話すのもなんだ、手枷を外してやってくれないか」


大男がそう言うと勇者達の手枷が外された。


隻眼の斧使い「では改めて挨拶しよう」

隻眼の斧使い「俺は隻眼の斧使いと言う。お前の父とは仲間だった」

勇者「仲間……つまり……」

隻眼の斧使い「ああ。俺はお前の父のパーティーメンバーとして選ばれた戦士の紋章持ちだ」

隻眼の斧使い「いや、正確には“だった”か……」

隻眼の斧使い「報せは聞いている。残念だ」

勇者「…………」

僧侶「…………」

隻眼の斧使い「二人の父は強く、優しい男だった」

隻眼の斧使い「あの二人がやられたとなると、魔王軍の残党の件も信憑性が増す」

大柄な熊髭の老人「ふむ……」

勇者「あの……」

隻眼の斧使い「何だ」

勇者「訃報も聞いており、状況の予想も立っている中でこのような手段に出た理由は何なのでしょうか」

隻眼の斧使い「手荒な真似をしたことは詫びよう。望むのであればこの後具体的な何かで償わせてもらう」

隻眼の斧使い「望むなら命で……」

勇者「い、いや、そこまでは……」

隻眼の斧使い「本当に済まなかった」

隻眼の斧使い「しかし、そうせざるを得なかった状況であったのだ」

僧侶「一体何が……」

隻眼の斧使い「一連の事は貴族院の厳重な命令に従ったものだったのだ」

勇者「貴族院……」

隻眼の斧使い「ここも議会だが、軍事や外交についての発言権は低い」

隻眼の斧使い「この国は外観は共和制を取っているように見えるが、実際には貴族階級だった連中が未だに中枢に居座っている」

隻眼の斧使い「封建制度が時代遅れとは言うまい。昔から変わらず上手く機能している王国や帝国はそれでいいだろう……」

隻眼の斧使い「だが我々は捨てたはずだ。捨てたはずの体制が私利私欲のために居座り蝕んでいるのだ」

勇者「そんな事情が……」

勇者「しかし貴族院は一体何故今回の様な事を……」

隻眼の斧使い「……今の貴族院は何者かの傀儡となっている」

隻眼の斧使い「先日仲間が暗殺されたのも貴族院の手引だと考えられる。奴らは君達に罪をなすりつけるつもりで我々に命を下したようだが」

隻眼の斧使い「目的は恐らく、北方連邦国と王国との対立を煽るためだろう」

僧侶「連邦国と王国を戦わせて一体何を……」

僧侶「……まさか……」

隻眼の斧使い「ああ。我々が潰し合って疲弊することで得をする者が今の話の中に登場している」

隻眼の斧使い「新生魔王軍とやらは、小さな小競り合いをするつもりなんかじゃない」

隻眼の斧使い「国家単位で潰していく準備をしているんだろう」

隻眼の斧使い「貴族院を操っている誰かとはまさに……」


その時ホールに爆発音が響いた。


大柄な熊髭の老人「な、何だ……!?」

隻眼の斧使い「思い通りに事が運びそうに無いから、ここに居る奴をまとめて処分するつもりか……!」

隻眼の斧使い「気をつけろ! 崩れてくるぞ!」

僧侶「きゃっ……!」

勇者「僧侶! こっちだ!」

勇者(外に逃げた所で敵が待ち構えている可能性もある)

勇者(まずは勇者の剣を取り戻さないと……!)

覆面の男「探しものはこれか?」


覆面の男は鞘に収まった剣を勇者に手渡した。


勇者「あ、ありがとう……!」

覆面の男「別に礼を言われる立場ではない」

覆面の男「それよりもここの爺さん達を避難させるのを手伝ってくれ」

勇者「うん、わかった」

勇者「僧侶は先にここを出て、怪我人の手当にをしてくれるかな」

僧侶「わかりました」

覆面の男→暗器使い「俺は暗器使いだ。あの時は殴って悪かったな」

勇者「よろしく暗器使い。お互い仕事だし気にしなくていいよ。死んだわけじゃないしね」

暗器使い「死んだわけじゃないし……って、変わっているなお前」

勇者「よく言われる。さてと、避難の手助けに行かなくちゃ」


勇者と暗器使いは隻眼の斧使いと協力してホールの中の人達を安全な場所へ避難させた。

勇者達が建物の外を確認すると、蝙蝠のような羽が生えた小さな悪魔が大量に飛んで周りを囲んでいた。


隻眼の斧使い「インプか……一体一体は雑魚だがこれだけ数がいると厄介だ」

隻眼の斧使い「こっちには非戦闘員も多い。今建物から出るのは得策ではないな」

暗器使い「如何致しましょうか」

隻眼の斧使い「そうだな……」

隻眼の斧使い「ここの護りは俺や他の奴らに任せろ」

隻眼の斧使い「お前は貴族院に忍び込め。あそこに黒幕が居るかもしれない」

暗器使い「分かりました」

勇者「あの……」

隻眼の斧使い「どうかしたのか?」

勇者「僕達も付いて行って良いでしょうか」

隻眼の斧使い「ふむ……」

隻眼の斧使い「そうだな。付いて行ってやってくれ」

暗器使い「しかし……」

勇者「向こうには強力な力の持ち主が居るかもしれない」

勇者「もしもの時の保険程度に考えてもらって構わないですよ」

勇者「死なない限り僧侶が治してくれるし」

僧侶「そこまで過信されても困ります」

暗器使い「……分かった」

暗器使い「だが目的地までは敵の目を忍んで行動するから、進行ルートはかなり厳しいぞ」

暗器使い「勇者はともかく僧侶は大丈夫なのか?」

勇者「厳しそうな所は僕が背負って行くよ」

僧侶「申し訳ないです……」

勇者「謝らなくていいよ。僧侶は仲間なんだから、お互いに助け合うのが当然でしょ」

僧侶「は、はい……!」

暗器使い「よし、それじゃあ行くぞ」

勇者「うん……!」



勇者達は抜け道から建物を脱出して貴族院を目指した。


隻眼の斧使い「さて……」

隻眼の斧使い「インプのような雑魚を相手に出来る者はそっちを頼む」

隻眼の斧使い「何体か紛れ込んでいる面倒そうな奴らは俺が相手する」

隻眼の斧使い(当然向こうにもかなりの敵が居るはずだ)

隻眼の斧使い(若者三人……油断をすれば死ぬぞ)

隻眼の斧使い(果たしてどうなるかな)

また来週。

乙ー

>>39 >>64 >>84-85
ありがとうございます。相変わらずの遅筆ですがお付き合いください。






暗器使い「次は向こうだ。この水路を飛び越えるぞ」

勇者「分かった。僧侶はしっかり捕まって」

僧侶「はい……!」


勇者は僧侶を抱えたまま三メートル程幅がある水路を飛び越えた。


勇者「よくこんな複雑な道を覚えているね」

暗器使い「覚えないとやっていけない仕事に就いているからな」

暗器使い「さて、貴族院はすぐそこだが……」

暗器使い「地下から侵入するという方法もあるが、ちょうど日が落ちてきたから外壁を登って行くほうが良さそうだ」

勇者「よし。僧侶は僕が背負って行くね」

僧侶「今日はまさにおんぶ抱っこで何も役立てていないです……」

勇者「まあ僧侶に関しては“役に立たない方が良い”んだけどね」

僧侶「まあ、そうですけれども……」

暗器使い「よし、ここを登るぞ」

勇者「うわあ、高いなあ」

勇者「よし、行くよ僧侶」

僧侶「た、高い所は苦手ですので慎重にお願いします……」

勇者「大丈夫。落ちても僧侶に治してもらえば良いから」

僧侶「私が落ちたら元も子もないでしょう……!」


勇者達は外壁を登り、建物上部のテラスに辿り着いた。


暗器使いが周囲の安全を確かめ、いよいよ貴族院の建物内部へ侵入した。


暗器使い「(侵入には成功したが、敵の親玉が何処に居るのか……)」

暗器使い「(貴族院のメンバーが居る最深部の会議室ならば向こうだが)」

僧侶「(随分と薄暗いですね……)」

勇者「(おそらくあっちで合っていると思うよ)」

勇者「(何となく分かるんだ)」

暗器使い「(勇者の末裔が言うならば信憑性は高いな。会議室へ行くとしよう)」


三人は物陰に隠れながら廊下を進んで行く。


暗器使い「(……! 隠れろ……!)」

勇者「(どうしたの?)」

暗器使い「(見張りがいる)」

僧侶「(あれはコボルトですね……やはり新生魔王軍の手のものでしょうか)」

勇者「(連邦国では公職についている人外も多いって聞くけど)」

暗器使い「(それはそうだが、奴らは初めて見る……)」

暗器使い「(貴族院が新生魔王軍の影響下にあるというのは真実のようだな)」

僧侶「(どうします?)」

暗器使い「(二人はここで待っていろ)」


暗器使いはそう言うとコボルトの死角から近づいていき、ナイフで二体の見張りを仕留めた。


勇者「(流石、鮮やかなお手並みだね)」

勇者「(剣を振り回すことしか出来ない僕とは違うや)」

暗器使い「(適材適所と言う奴だ。得意とする事でお互いに補い合えば良い)」

勇者「(それもそうだね)」


勇者と暗器使いの二人でコボルトの死体を物陰に隠した。


勇者「(この扉の向こうに貴族院の長達が居るんだね)」

暗器使い「(なるべく生かして捕らえろと命令されている)」

暗器使い「(一応はそのつもりでいろ)」

勇者「(うん、分かっているよ)」

暗器使い「(……よし……)」


暗器使いが扉を開けて会議室へ飛び込んだ。


暗器使い「全員動くな!」

連邦国の貴族院議員A「な、何だ……!?」

連邦国の貴族院議員B「貴様は民選議会お抱えの暗器使い……! 何のつもりだ……!」

暗器使い「あんたらには新生魔王軍と結託して国家転覆を目論んだ疑いが掛けられている」

暗器使い「ここから先は大人しく俺の言うことに従った方が怪我をせずに済むぞ」

連邦国の貴族院議員B「フン……貧民街出自の卑しい身でよくもそんな偉そうな口がきけるな小僧……」

連邦国の貴族院議員B「国家転覆を目論んで居るのは貴様らの方だろう……!」

暗器使い「……あんたらに主導権が無いっていうのが分からないのか?」

連邦国の貴族院議員A「くっ……!」

暗器使い「抵抗する素振りを見せてみろ、首を飛ばすぞ」

連邦国の貴族院議員A「ひぃっ……!」

勇者「……何だか僕達はいらなかったみたいだね」

僧侶「油断してはいけませんよ勇者様。あまりにも簡単に事が運びすぎている気がします」

勇者「うーん、確かに僕もそう思うけど……さ……」


そう言いかけた勇者の胸を黒い刃物のようなものが貫いていた。

その黒い刃物は勇者の影から一直線に伸びていた。


勇者「うっ……ぷ……確かに……」

僧侶「ゆ、勇者様!?」

暗器使い「何だ……!?」

連邦国の貴族院議員B「く、くくく……! まだ我々は手詰まりではない……!」

連邦国の貴族院議員B「貴様ら邪魔な連中を葬り、共和制など捨てて、再び貴族が堂々と表舞台で活躍する時代を取り戻すのだ……!」

暗器使い「新生魔王軍の奴らにはそんな言葉でそそのかされたのか……!」


暗器使いが議員体に詰め寄ろうとするが、影の中から勇者を貫いたものと同じ刃物が飛び出して来たために阻害さてしまった。


暗器使い「影の中から攻撃してくる敵だと……!? 厄介な……!」


暗器使いは自分の影が見やすい位置に移動し、影の中からの攻撃に対処した。


暗器使い(影があるところならどこからでも攻撃できるのか? 影に攻撃すれば本体にダメージが行くのか?)

暗器使い(本体は何処なのか? 影が本体ではないのか?)

暗器使い(クソッ……! 何もわからない……!)

暗器使い(僧侶はどうなった……? おそらくあの子は攻撃手段はほとんど持っていないと思われるが……)


勇者「僧侶! 閃光だ!」

勇者「閃光の術を暗器使いの周りの至る所で発動させるんだ!」


僧侶「は、はい……!」

暗器使い「ゆ、勇者……!?」

暗器使い(馬鹿な……! 確かにさっき心臓を貫かれて……!)

勇者「今だ暗器使い! 目を閉じて!」

暗器使い「くっ……!」


次の瞬間、暗器使いの周りをまばゆい光が包み込んだ。


勇者「……よし、成功だね」

暗器使い「勇者……これは一体……」


暗器使いが目を開けると、閃光を直視してしまったためのたうち回っている議員達と、胸の傷がすっかり塞がった勇者と僧侶がそこにいた。


勇者「影の中に居た敵は、影のある所なら何処からでも攻撃出来るわけでは無いみたいなんだ」

勇者「あの敵はおそらく影の中を移動していた……いや、影の中でしか移動ができないんだ」

勇者「つまり違う影に移るには影同士が接していないといけないんだ」

勇者「僕の影に移ってきたのは、この建物に入った時のいずれかのタイミングだと思うんだけど……」

勇者「君の影に移ったのは僕を刺した後に、僕と君の影が交わった時だと思うんだ」

勇者「何処の影からでも攻撃ができるなら無防備な僧侶を狙うタイミングはいつでもあったはず」

勇者「そうしなかったのは議員を捕縛しようとしていた君を優先的に倒すために、僕の次に君の影に乗り移っていたからだと思うんだ」

勇者「影の中にしか居られないなら、その影を一時的にでも無くしてしまえば敵も消滅するんじゃないかと思ったけど、どうやら成功したみたいだね」

勇者「厳密には完全に影を無くせるわけではないんだけど、一定以上濃い影にしかいられないみたいだね」

暗器使い「なるほど……」

暗器使い「……じゃない! 一体どうなっている!」

勇者「ど、どうなっているって?」

暗器使い「胸の怪我の事だ! すぐに立ち上がれるようなものでは無かったし、なんなら既に死んでいるはずだ……!」

勇者「ああ、さっきの怪我の事」

勇者「あれは僧侶にすぐに治してもらったよ」

暗器使い「あれ程の怪我を一瞬で……!?」

勇者「ね、言ったでしょ。死なない限り治してくれるって」

僧侶「驚きすぎて私の心臓が止まるかと思いましたけど……」

僧侶「以前はここまでの治癒力はありませんでした。おそらく僧侶の紋章持ちになった影響だと思います」

勇者「そういえば紋章によって力が強化されるんだっけ」

僧侶「そのようですね、完治出来て良かったです」

勇者「ほんとに助かったよ」

勇者「……そうして僧侶が治してくれたのに僕には攻撃が来なかったから、敵が影の中を移動している事ついて確信したんだ」

暗器使い「なるほど……」

暗器使い(それにしても凄まじ良い治癒力だ……流石は勇者の仲間か……)

僧侶「ど、どうかいたしましたか……?」

暗器使い「……いや、何でもない」

暗器使い「それよりも早く影使いもどうにかしないといけないな」

僧侶「ですが、何処の影に敵が潜んでいるのか分からない中を進むのは危険すぎます」

勇者「ああ、その事なら大丈夫」

僧侶「大丈夫とは……何故ですか?」

勇者「ええっとね、さっきの考察の続きなんだけど」

勇者「敵が影へ移動できるとして、何で僕達がこの部屋にたどり着くまで攻撃して来なかったか疑問に思わない?」

僧侶「確かに外は夜で真っ暗だし、廊下もあんなに薄暗かったのだから全員を仕留めるタイミングは幾らでもあったはず……」

暗器使い「……まさか、人の影か……!」

勇者「うん、僕もそう思う」

勇者「影から影に移れるとは言ったけど、更に正確に言うなら人の影から人の影へっていう制約付きなんだと思うんだ」

勇者「人の影をそれと認識できない暗闇では効果がないってことだね」

暗器使い「だがそうだとすると……」

勇者「うん、分かってる」


そう言って勇者は扉の方に駆け出し、鞘から抜いた勇者の剣で扉を貫いた。

すると扉の向こうから男のうめき声と、何かが床に倒れる音が聞こえた。


勇者「僕に影の術を移した術者本人も近くにいるはず、って事だよね」

勇者「術を移したタイミングはおそらく、僕達がこの部屋に入った後に後ろからこっそりとって感じだろうね」

暗器使い「あ、ああ……」

暗器使い(一々腰が低くて弱々しい奴だと思っていたが、躊躇なく殺しに行ったな……)

僧侶「…………」

勇者「これで当初の目的は果たせそうだけど……どうしようかな」

勇者「この建物には他にも敵が残っていそう」

暗器使い「議員達を抱えてもう一度あの外壁を降りるのは……無理か」

勇者「ちょっと厳しいかな……腕がもう一本あれば出来そうだけど」

暗器使い「そうなると階段で下まで降りるしか無いな」

勇者「僕がこの人達を運ぶから暗器使いには敵の対処をお願いしても良いかな」

暗器使い「ああ、任せろ」

板の表示が変なのですが何か不具合でしょうか。
GW中にもうひと更新したいです。

乙ー

>>103-104
ありがとうございます。表示が変なのはChromeを使用しているからのようです。
再開します。



暗器使いが先導し、勇者が議員らを抱え、僧侶が後方警戒をしながら建物を進んで行った。

階段を下り、一階の大ホールに辿り着いた時、待ち構えていた数十の敵達に囲まれた。


コボルトの兵A「そいつらを連れて行かれちゃ困るんでな。置いて行ってもらおうか」

暗器使い「それは無理だ」

コボルトの兵B「状況分かってんのか? 影使いを殺ったみたいだが、お互いに奇襲無しのこの状況で人数差をひっくり返せるとでも?」

暗器使い「……勇者、やれるか?」

勇者「うん。僧侶はこの人達が余計なことをしないように見張っていてね」

僧侶「分かりました」

コボルトの兵A「コソコソと話してんじゃねえ!」

勇者「……!」



飛び掛かってきたコボルトに勇者は剣を突き立てた。


コボルトの兵A「ごばっ……!」

コボルトの兵B「やりやがったな……!」

コボルトの兵B「まずは丸腰のお前を片付ける!」


次に前に飛び出したコボルトも、いつの間にか暗器使いが握っていたナイフによって喉を切り裂かれてしまった。


コボルトの兵B「がふっ……」

コボルトの兵C「こ、こいつら……」

コボルトの兵D「油断してんじゃねえよ……! 人数差を活かせ馬鹿が……!」


一斉に飛び掛かってきたコボルト達を、勇者は剣で薙ぎ払って倒した。

そして暗器使いは、これもまたいつの間にか取り出した擲弾を投げつけて目の前を一掃した。

勇者は縦に横に敵を両断していき、暗器使いは様々な武器で敵を翻弄していった。

僧侶は無理な体勢で敵に突っ込んでいく勇者を後方からフォローした。。


コボルトの兵E「つ、強い……」

コボルトの兵F「このままじゃ全員やられるぞ……」

勇者「これだけ騒いでも人間の衛兵が一人も出てこない」

僧侶「完全に新生魔王軍の手中だったということですね」

暗器使い「……奥からまだ来るぞ……!」

オーガA「何苦戦してんだお前ら」

オーガB「たかが人間三人だろう」

コボルトの兵E「オ、オーガの兄貴達……」

コボルトの兵F「気を付けてください! こいつら無茶苦茶だ……!」

オーガA「こいつらが……?」


身の丈が三メートル程のオーガが一体ずつ、勇者と暗器使いの前に立ちはだかった。


オーガB「こんなチビに一方的にやられて恥ずかしくないのかよ」

勇者「チ、チビ……? 確かに君達オーガに比べたら小さいかもしれないけど人間としては普通だからね……!」

僧侶(私と大して身長変わらないんですよね、勇者様……)

勇者「別に僕はチビではないけど……ちょっと気に障ったから倒す……!」

暗器使い(滅茶苦茶気にしているな……)

僧侶「って、勇者様! そんな闇雲に突っ込んでは……!」

オーガB「ははっ! 隙だらけだぞチビ!」

勇者「あっ……!」


オーガの強靭な拳が勇者に襲いかかる。

ギリギリの所で勇者は避けようとするが、右肩とオーガの拳が接触した。

勇者の剣の加護を受けているが、肉体が無敵という訳ではない。

骨が折れ、肉が裂ける嫌な音がホールに響いた。

勇者の右肩から先は滅茶苦茶になっており、皮一枚でかろうじて繋がっているようにも見える。



勇者「ぐっ……うううううっ!」


勇者は大きく後ろに跳んで距離をとった。


オーガB「その腕では剣は握れまい。女共々死ね……!」


オーガはもう一度その拳を振りかざして勇者にと止めを刺そうと踏み込んだ。

拳の先にいる勇者は次は全身をミンチにされ、ひしゃげた肉塊が出来上がるはずだ。


オーガB「……な、何だ……?」


しかしその拳には剣が突き立てられていた。

“しっかりと両腕で握られた”勇者の剣が、オーガの拳から腕にかけて突き刺さっている。


オーガB「な、何故だあああああああああああっ!」


勇者は絶叫するオーガから剣を引き抜き、腰の位置にしっかりと構えた。


暗器使い(死なない限り……か……)

暗器使い(僧侶の回復の術の威力もそうだが、あの勇者の精神も大分イカレているな……)

暗器使い(汚い仕事ばかりしてきた自分が言える台詞でもないが……)


勇者が振り切った剣は、オーガの体すらも容易く両断した。

それを見たもう一体のオーガは瞬時に「ヤバイ」と判断し、腰の二メートルはある大剣に手をかけた。

しかしその時には既に喉に槍が突き立てられていた。

槍を握っているのは暗器使いだ。


オーガA「ごぽ………や、槍など一体どこに……………」

暗器使い「……それが武器であるならばどんな武器でも隠し、持ち運ぶことが出来る」

暗器使い「それが俺の力だ」

オーガA「馬鹿……な……」

コボルトの兵E「オーガの兄貴達が……」

コボルトの兵F「やられちまった……!」

勇者「さて、そろそろ投降してください」

勇者「これ以上は無駄な血が流れますよ」

コボルトの兵E「ぐ……」

コボルトの兵F「わ、分かった……だから殺さないでくれ……」


残ったコボルト達は次々に獲物を捨てて投降の姿勢を取った。


勇者「こっちはこれで終わりかな。あとは民選議会の方がどうなっているかだけど……」

僧侶「……まだです……」

僧侶「まだ終わっていません……」

勇者「ど、どうしたの僧侶?」

僧侶「まだ何も終わっていませんよ勇者様!」

僧侶「この人外達を全て殺さないと終わりません!」

勇者「でももうみんな降参しているよ。無抵抗の敵は殺しちゃ駄目だと思う」

勇者「それは虐殺って呼ばれるものだ」

僧侶「意味のある殺しというのを考えた事は無いのですか?」

僧侶「家畜を殺すのは衣食のため、戦争で敵を殺すのは自国のため……」

僧侶「人外を殺すのは世界の平和のためです」

勇者「僧侶……」

暗器使い「…………」

僧侶「お父さん達が死んだのは人外がいたからです。千年前の厄災の時点で全ての人外を根絶させれば、きっとお父さんもお母さんも死ななかった」

僧侶「悪いのは人外なんです」

僧侶「ましてや、お父さん達を殺した奴らと同じ新生魔王軍の人外など絶対に生かしておけません……!」

僧侶「殺しましょう……! 勇者様、こいつらを殺しましょう!」

コボルトの兵E「ヒイイッ……!」

勇者「…………」

勇者「駄目だよ僧侶」

勇者「敵の捕虜は重要な情報源とかになったりもするんだから、ちゃんと連れて帰らないと」

僧侶「…………」

僧侶「ああ、そういう事でしたら従います」

僧侶「人外撲滅の礎になるって事ですよね……!」

勇者「……うん、そうかもしれないね」

勇者「それよりもちょっと確認しておきたい事があるんだけど」

暗器使い「民選議会に戻ってからでは駄目か? 大丈夫だとは思うがまだ向こうの安否は不明だ」

勇者「こっちで話しておきたい事なんだ」

暗器使い「……何だ」


勇者「今回の件って恐らく、僕達は上手く利用されたって事で良いんだよね」


暗器使い「…………」

僧侶「ゆ、勇者様……?」

勇者「あの大斧を持ったおじさん……僕のお父さんのパーティーの戦士職だったって言っていたけれど」

勇者「そんな人が政治機関にいるのに、国の中枢に新生魔王軍の工作員が入り込んでくるなんてそんなに簡単に出来る事なのかな」

勇者「勿論、その工作員が相当のやり手だって可能性もあるけど、今のところそんな気配はないし」

勇者「何より、仮に議会が乗っ取られたとしても気が付くのは時間の問題でしょ。ずっと前から民選議会でもこの事は認知されていたはずなんだ」

勇者「それなのに今まで放置されてきた……これはちょっと変だよね」

僧侶「それは……」

暗器使い「…………」

勇者「おそらく民選議会は新生魔王軍の工作員を上手く誘導し、見逃して貴族院に送り込んだ張本人」

勇者「そしていずれ訪れるであろう僕達にクーデターの代行をさせたんだ」

勇者「民選議会が貴族院を崩壊させるのと、勇者一行が新生魔王軍の工作員を倒すのとでは意味合いが異なってくる」

勇者「民選議会は一切社会的に汚れずにクーデターを完了させたって事なんじゃないかな」

勇者「貴族院の言いなりになった振りをして僕達を強引な手段で連れてきたのは、貴族院がまともな状況ではないという印象を植え付けるため……」

勇者「これが僕の予想なんだけどどうかな」

暗器使い「…………」

僧侶「勇者様、何も今ここで言う事では……」

僧侶(民選議会お抱えの暗器使いだってさっき貴族院の人達が言っていたじゃないですか……)

僧侶(雇い主を悪者に仕立て上げられたら怒っちゃうとか思わないんですか……!)

暗器使い「そうだとしたどうする……」

勇者「…………」

勇者「……別に、どうもしないよ」

暗器使い「何……?」

勇者「僕も薄々気が付きながら利用されていたからね」

勇者「今回は双方に利があるから特に言う事はないかな」

勇者「そっちはクーデターが成功したし、僕達は旅の目的に即した行動が取れた」

勇者「僕達の旅の具体的な目標はパーティーメンバーを探し出す事だけど……」

勇者「その目的は最近不穏な空気が漂う王国……広く言うなら大陸全体を安心させる事なんだ」

勇者「“国の中枢で悪事を働いていた新生魔王軍の工作員を勇者一行が捕縛”なんて見出しは、その目的を果たすための良い材料になる」

勇者「……かなあ、なんて」

暗器使い「…………」

暗器使い「……ふん、顔の割には中々鋭いな」

勇者「顔の割にはって失礼じゃない……!?」

僧侶(あれ……? 怒ってない……?)

暗器使い「俺はそういう事は詳しく聞かされないが、おそらくお前の想像通りなんだろう」

暗器使い「しかし予想外の反応だったな。ここでもう一戦あるかと思ったんだがな」

僧侶「勇者様は少し変わり者ですので……」

勇者「何でもかんでも事を大きくしていたら身がもたないよ」

勇者「さて、話も済んだし戻らないとね」

暗器使い「ああ、そうしよう」


勇者達は議員らを抱え直すと民選議会へ向けて戻って行った。


勇者「暗器使いは何で今の仕事をやっているの?」

僧侶「貴族院での会話からすると貧民街にいらっしゃったそうですが……」

暗器使い「……どこの国もそうだとは思うが、貧民街なんていうのは子供だけで暮らすには厳しすぎる場所だ」

暗器使い「連邦国は他の国に比べて一段と冷えるらしいが……冬の寒さにやられて大人だって次々と命を落としていくような場所だ」

暗器使い「そんな場所だから生き残るために手段を選ばない奴も多い」

暗器使い「ガキだった俺は腕力では大人には敵わないから、仕込んだ武器を使って相手の不意を突くようなことをよくしていた」

暗器使い「今のこの力は生まれ持ったものなのか、それともスラムの生活の中で手に入れたものなのかは分からない……」

暗器使い「そんなある日、スラムの問題を解決しようって計画の視察に来ていた熊髭の議員と出会った」

暗器使い「俺の能力を見て雇おうって話になったらしい」

勇者「なるほど……」

暗器使い「ちゃんとした職とは言い難いかもしれないが、俺に自分の衣食住を確保できる手段をくれた人達だ……」

暗器使い「少なくとも俺にとっては恩人だ」

勇者「……そっか。何か悪い言い方しちゃってごめんね」

暗器使い「いや、民選議会が勇者達を利用したのは事実だ」

暗器使い「ただしこれだけは知っておいて欲しい」

暗器使い「近年の貴族院は汚職が絶えなかった。国内での貧富の差が広がってしまったのも奴らのせいだ」

暗器使い「民選議会は様々な政策を打ち出して事態の解決を図ったが、失業者は増え続けるばかりだった」

暗器使い「もう国として限界だった。根本の仕組みから作り直すしか俺達に残された道は無かったんだ」

僧侶「……先程勇者様が仰った通り、今回の件は私達にとっても得るものが有りました」

僧侶「この後議会に戻ったらお互いの落とし所を話し合って、それ以上は不問とするのが良いでしょうね」

勇者「えっ、何か要求するつもりなの!?」

僧侶「当然です。私は薬を盛られて、勇者様は殴られているんですよ」

僧侶「これを不問にして良いものではありません」

暗器使い「その件は本当に済まなかった……」

僧侶「怒っているという訳では無いのですが、落とし前というものはやはり必要です」

勇者「僧侶っていうより裏路地の怖いおじさんみたいだね……」

僧侶「なっ……!」

勇者「まあでも、僧侶の言う事も一理あるかな……」

勇者「……そういえば、さっきの話の感じだとさ……」

暗器使い「ん、なんだ?」






大柄な熊髭の老人「おお、三人とも無事であったか」

勇者「はい。議員達も拘束してきました」

大柄な熊髭の老人「ご苦労であった。おい、議員達を連れて行け」


熊髭の議員が指示を出すと、部下と思われる数人の男たちが貴族院の議員達を何処かへと連れて行った。

この後彼らがどうなるのかは勇者達には分からない。


隻眼の斧使い「無事に達成するとは、流石は現役の勇者だ」

勇者「いえいえ。斧使いさんもあの数を相手にして皆さんを守りきるなんて流石ですね」

隻眼の斧使い「こっちには戦える奴が他にも沢山いたのでな」

隻眼の斧使い「多少面倒な相手もいたが……」

勇者「それでもほとんど怪我をしていないなんて……」

勇者「僕なんて心臓に穴を開けられましたから……」

隻眼の斧使い「し、心臓に……?」

僧侶(あれは怪我とは言いませんよ……)

暗器使い(あれは怪我とは言わないな……)

勇者「僧侶がいなかったら今頃何回死んでいることか……」

隻眼の斧使い「た、頼れる仲間が居るようで何よりだ」

勇者「僕も本当にそう思います」

勇者「……ところで、少し話があるのですが良いでしょうか?」

隻眼の斧使い「聞こう」

勇者「僕達は“そちらの思惑通りにきちんと働きました”。ですので先程仰っていた通り、僕達のお願いを一つ聞いてもらってもいいですか?」

隻眼の斧使い「……ふ、良いだろう。言ってみろ」

勇者「暗器使いを僕の旅の仲間に加えたいのですが、許可をもらえますか?」

暗器使い「な……!?」

隻眼の斧使い「ほう……?」

僧侶「ゆ、勇者様……!? 一体何を……!?」

勇者「いやあ、さっきの戦いを通じて思ったんだけど……今の僕達には冷静に状況を見極められるような仲間が必要だと思うんだ」

僧侶「しかし暗器使いさんには紋章は出ていません。紋章持ちではない人があまり沢山仲間に加わるのは良くない、というお話をお忘れですか?」

勇者「あまり沢山が駄目って事は、多少なら良いってことだよね」

僧侶「そ、それは……」

暗器使い「……一つ良いか?」

暗器使い「何故俺なんだ? 頼れる大人なら他にも沢山いるだろう」

勇者「その事については、ちょっと余計なお世話かもしれないんだけど……」

勇者「さっき暗器使いは、この国から出たことが無いって言っていたよね」

勇者「仕事柄、仕方が無いんだろうけど……」

勇者「勿体無いって思っちゃったんだ。こんなに凄い人が一つの国に篭りっきりなんて」

暗器使い「凄い……? 俺がか……?」

勇者「そうだよ、暗器使いは凄いよ! あんな力今まで見たことも聞いたことも無い!」

僧侶「たしかに私も初めて耳にする力でした。どんな武器でも隠し持てる……とはどこまで可能なのかも気になりますね」

勇者「それは僕も気になるな……! 大きな斧とかも隠し持ってるの?」

暗器使い「仮にも暗器使いが手の内を全て明かす訳がないだろう……!」

勇者「ええ、ケチだなあ……」

勇者「でもその口ぶり、鉄砲ぐらいは持っていそうだね」

暗器使い「どうだろうな」

勇者「うーん、教えて欲しいなあ」

暗器使い「俺に本気で襲い掛かってくれば、もしかしたら使うかもしれんな」

勇者「それは僕が殺されるやつ」

暗器使い「せめて相打ちする自信はないのか……」

大柄な熊髭の老人「……ふ……」

暗器使い「……! 失礼しました、騒ぎ過ぎました……」

大柄な熊髭の老人「いや、構わない」

大柄な熊髭の老人「お前が友人……と言うには少し歳が離れているが、そのように人と楽しそうに話しているのは初めて見る」

暗器使い「……そうでしょうか」

大柄な熊髭の老人「お前は良くも悪くも真面目な男に育った。ここら辺で外の世界を見に行くのも悪くないだろう」

大柄な熊髭の老人「こういう話はもっと早いほうが良かったかもしれないが……」

大柄な熊髭の老人「少々お前の事をここに縛り付けすぎたかもしれん」

暗器使い「いえ、そんな事は……」

隻眼の斧使い「折角の機会だ、この子らと一緒に旅に出てみたらどうだ?」

暗器使い「し、しかし……」

勇者「無理にとは言わないけど、僕としては一緒に旅に行けると嬉しいかな」

勇者「さっきの戦いでの相性は悪くなかったし……」

勇者「それに二人より三人のほうがきっと楽しいだろうしね」

僧侶「何度も言いますがこの旅は娯楽では無いということはお忘れなく……」

僧侶「ですが、私も暗器使いさんのような方が一緒だと心強いです」

暗器使い「…………」

暗器使い(出会ったばかりの俺の事をこんなに必要としてくれる……)

暗器使い(こんなにありがたい事があるだろうか)

暗器使い(それに、外の世界か……)

暗器使い「……悪くない話かもしれない」

勇者「だよね!? 一緒に行こうよ!」

暗器使い「ああ、許可がもらえるならば是非一緒に行きたい」

勇者「やった!」

勇者「良い……ですよね?」

大柄な熊髭の老人「もう大人に管理される歳でもあるまい」

大柄な熊髭の老人「今までの仕事のことなどについて少し手続きを踏まないといけないが、一週間以内には出立の許可を出そう」

暗器使い「……ありがとうございます」


暗器使いが深くお辞儀をしてから顔を上げた時、その肩が突然熱くなり始めた。


暗器使い「肩が……何だ……?」

勇者「これは……」

隻眼の斧使い「アサシンの紋章……」

隻眼の斧使い「そうか、お前が選ばれたか……」

勇者「初代の格闘家が北方連邦国の出身だから、格闘家の紋章持ちと出会うかと思っていたんだけど……」

僧侶「目の前の先代様が戦士の紋章持ちですし、血統や土地柄に縛られないケースも多いようですね」

僧侶「しかしこのタイミングで紋章が出るとは……」

僧侶「勇者様が仲間と認めることで現れるのでしょうか?」

勇者「うーん、過去には出会う前から既に紋章が出ている人もいるみたいだから一概には言えないんじゃないかな」

勇者「何にしても、暗器使いは僕達の仲間って事だね。これからよろしくね」

僧侶「そうですね。よろしくお願い致します」


勇者が差し出したてを暗器使いは握り返した。


暗器使い「……ああ、よろしく頼む」


こうして勇者は新たに暗器使いを仲間として迎え入れ、三人での旅をスタートした。

次に目指す場所は自治区としている。

自治区は森の民エルフが治める土地なのだが……。

《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ 
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い


B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ
C2 トロール
C3 河童 商人風の盗賊 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。

みるみる内にストックが尽きていきます。
それでは。

《森の民》


──北方連邦国領内から自治区方面行きの蒸気機関車


勇者「想像以上に時間がかかっているね」


勇者は硬いライ麦パンを一口かじって、窓の外の代わり映えしない景色を見た。

勇者達の乗車した機関車は、途中での荷物車の切り離しや連結が多く、何度も途中の駅で長い時間足止めをくらっていた。

王国との国境付近から“いつの間にか”連邦国首都まで移動していた勇者達は、首都発の機関車にかれこれ二日間は乗車している。

これまた“何故か”連邦国議会からの計らいがあり、一等寝台車両を充てがわれているため特に不便などは無いのだが。


暗器使い「丁度、帝国方面への大掛かりな出荷と被ってしまったようだ」

暗器使い「下調べが足りなくて済まないな」

勇者「まあ、たまにはゆっくりなのも良いんじゃない」

勇者「帝国への荷は石炭とかかな? 北方連邦国は鉱山が有名だから」

暗器使い「おそらくそうだろう。この国は土地が痩せていて農業には向かない」

暗器使い「漁業はそれなりに盛んだが、地下資源に恵まれていなければこの時代ではやっていけなかっただろう」

暗器使い「今は工業がこの国を支えている」

僧侶「石炭と言えば、最近皇国でも大きな炭鉱が見つかったらしいですよ」

僧侶「そのせいか、近隣国との情勢が不安定になっているらしいです」

勇者「共和国なんかは地下資源は輸入に頼り切りって話だからね」

僧侶「人間同士で争っている場合ではないというのに……」

勇者「国同士の衝突が始まってしまったら、僕達の旅も難航するだろうね」

暗器使い「現在進行系の衝突という訳ではないが、次に向かう自治区も中々入国しづらいのではないか?」

暗器使い「勇者達の入国を足止めした我々が言うのも何だが」

僧侶「そうですね。よりにもよって入国しにくい二国を最初に巡るとは」

僧侶「私も納得しての出発ではありましたが……」

勇者「あはは……自治区の方も入国が難しそうだったら後回しにするよ」

勇者「また拉致されたら困るしね」

暗器使い「ふっ……タダで首都まで運んでもらえるかもしれんぞ」

勇者「あはは! それも良さそう!」

僧侶「当事者同士でよく笑えますね……」

勇者「過ぎ去った事は大抵笑い話にできるよ」

僧侶「……でも、笑えない事もあります」

僧侶「自治区、ですか。亜人……いえ、人外が治める土地……」

僧侶「人外が……」

僧侶「…………」

勇者「僧侶……」

僧侶「大丈夫です、ただ……」

僧侶「……すいません、少しだけ風にあたって来ます」

勇者「うん。目的地はまだまだだしゆっくりして来なよ」

僧侶「はい……」


僧侶は寝台車両を出て食堂車の方へと移って行った。


暗器使い「僧侶は人外に対してかなりの憎しみを抱いているようだが、一体何があったんだ?」

勇者「うーん……」

勇者「絶対神の啓蒙な信者だから……というのは建前のようなものだろうね」

勇者「勿論理由の一つではあるんだろうけど、それ以上に人外を憎むようになったきっかけがあるんだ」

勇者「一つは昔……四年前だったかな」

勇者「僧侶が人外の集団に乱暴されちゃった事があってね」

暗器使い「乱暴、か……」

勇者「うん。大きな怪我とかは無かったけど、精神的には深い傷を負ってしまったみたいなんだ」

勇者「他に仕事があったとは言え、僧侶から目を離してしまった僕や父さんにも問題があった」

勇者「それからしばらく塞ぎ込んでしまった時期があってね」

勇者「ようやく体調も良くなってきて、僧侶としての仕事に復帰し始めた矢先にこの間の事件……」

暗器使い「新生魔王軍による先代勇者と先代僧侶の襲撃事件か」

勇者「うん……」

勇者「特に母親の遺体の状態は酷かったみたいで、四年前のトラウマが掘り返されたのかもしれない」

勇者「あの日の僧侶の目には怒りと同じぐらい恐怖が見えた」

暗器使い「そうか……」

暗器使い「しかしお前は僧侶と似たような境遇に居るはずなのに、あの子とは何か違うな」

暗器使い「憎くないのか?」

勇者「勿論、僕や僧侶の両親を殺めた奴は許さない。憎んでいるよ」

勇者「でもそれは人外全体を憎む理由にはならないと思うんだ」

勇者「少しずつでいいから僧侶にも理解してもらいたいと思っている」

勇者「考え方を押し付けるつもりはないけど……憎むだけなんて悲しい事だと思うんだ」

暗器使い「……そうだな」

暗器使い「俺も人外全てが悪いとは思わん」

勇者「北方連邦国では人外とはどういう向き合い方をしているの?」

暗器使い「北方連邦国は元々小国同士がぶつかり、侵略や和解を繰り返して出来た国だ」

暗器使い「その小さな国の中には人外の部族が治める国もあった」

暗器使い「国の一員になった者達もいれば、どこかへ亡命していった者達もいる」

暗器使い「後者の多くは千年前の魔王軍に合流していったと言われているが」

暗器使い「そういう成り立ちの国だから、人外であっても国の一員であれば区別はしない」

暗器使い「ただし、エルフ程ではないが外の者を嫌う国柄なのでな。外から受け入れるような事はあまり無いだろう」

暗器使い「人外だと元からいた者とそれ以外の者の区別がつきやすいから、彼らは尚更この国には入りにくいな」

暗器使い「何もかも構わず受け入れるという皇国とうちの国とはまた別だ」

勇者「元からいた部族の人外であれば、公職に就くこともあるって事?」

暗器使い「そうだな。議会にも人外の議員はいる」

勇者「あのコボルト達が正規の職員だった可能性は……」

暗器使い「職員の顔ぐらい全て覚えているからそれは無いだろう」

暗器使い「仮にうちの国民だとしても、あの時は関係なかっただろうがな」

勇者「うーん、そうかもね」


それからしばらくして、僧侶が客室の扉を開けて戻ってきた。


勇者「おかえり僧侶。その手に持っている紙袋は?」

僧侶「向こうの車両で知り合った老夫婦に頂いたんです。見てください、真っ赤な林檎ですよ」

勇者「この時期には珍しいね」

僧侶「この辺りでは丁度この時期が旬らしいですよ」

僧侶「折角なので頂きましょう。私は一個は食べ切れないと思うのですが……」

勇者「僕は一個貰うよ」

暗器使い「じゃあ僧侶は俺と分けるか。切るから貸してくれ」


暗器使いは僧侶から林檎を一つ受け取ると、ナイフを取り出して半分に切り分けた。


勇者「蜜がたっぷりで美味しいね」

暗器使い「連邦国首都ぐらい北に行くと新鮮な果物は高級品でな。久々に食べたが良いものだな」

僧侶「後でもう一度あの老夫婦にお礼をして来ないと駄目ですね」

勇者「そうだね。僕達も直接お礼を言いたいな」

暗器使い「ああ、そうだな」





──翌日、終着駅


勇者「さて、ここから先は馬に乗り換えないとね」

暗器使い「馬の手配のために紹介状を書いてもらってきている」

勇者「それは助かるね。馬車の有無と頭数はどうしようかな」

暗器使い「馬車は使わないほうが良いだろう」

暗器使い「荷のない馬車はエルフ狩りと疑われてもおかしくない」

暗器使い「馬車を使えばチェックが厳しくなり、関所を越えるのに時間が掛かる可能性がある」

勇者「荷があったらあったで密輸とかを警戒されちゃうしね」

暗器使い「ああ、あそこは閉鎖的な土地だから尚更な」

暗器使い「正規の商人も契約した一部の者しか行き来が許されていないらしい」

僧侶「何度も思うのですが、関所を通れるのか不安が募るばかりですね……」

勇者「うーん、自信なくなってきたかも」

暗器使い「初代のパーティーメンバーにはエルフの弓使いがいたんだろう? 今回も仲間を探しに来たって言えば何とか……」

暗器使い「ならないか……」

勇者「当時は人間とエルフとの仲がここまで険悪では無かったって聞くからね」

暗器使い「しかし不思議だな。教会によれば、勇者一行は絶対神に選ばれて加護を受けた者達らしいが」

暗器使い「初代のパーティーメンバーにはエルフやドワーフがいる。教会の人外嫌いと矛盾しているようだが……?」


暗器使いが僧侶の方を見ると、彼女は気まずそうに目をそらした。


僧侶「さ……最近は教会もその点について見直しています……」

暗器使い「つまり、僧侶の人外嫌いは教義に則ったものではなく、個人的な感情に寄るものだという訳だな」

僧侶「そ、それは……」

暗器使い「……色々とあったようだが、そのままという訳にもいかないだろう。これから増える仲間に人外がいないとは限らない」

僧侶「それは、わかっているんです……」

僧侶(でも……)

勇者「ま、まあまあ。その時はその時で……」

勇者「あ、ここで馬を借りるんじゃないのかな。声をかけてみるね」

勇者「あのー、すいません」

ドワーフの馬貸し「おう、お客さんかい」

僧侶「ひっ……!?」


店内から出てきたドワーフを見て僧侶はとっさに暗器使いの後ろに隠れてしまった。


僧侶(無理なんです……どうしても心の底から……)

暗器使い「…………」

暗器使い(思ったより重症か……。しかしこんな調子で自治区に行けるのか……?)

暗器使い(あそこにはほとんどエルフしかいないのだが……)

勇者「ねえ暗器使い、さっきのお願いしていい?」

暗器使い「ん? ああ……」

暗器使い「自分達はこういう紹介で来たのだが」

ドワーフの馬貸し「……おお、これはこれは首都からわざわざご苦労様です」

ドワーフの馬貸し「我々が保有する中でも上等な馬をお貸し致しましょう」

ドワーフの馬貸し「頭数の方はどうなさいますか?」

勇者「えっと、ここから自治区の関所まではどれ位かかりますか?」

ドワーフの馬貸し「東の関所ですか……。そうですね、馬を歩かせて五日程でしょうか」

勇者(四日か……。僧侶は一応馬には乗れるみたいだけど、長時間は不安かも……)

勇者「二頭借りて、一頭に僕と僧侶で乗ろうかな」

勇者「一部の荷物を暗器使いの方の馬に持ってもらう様にしよう」

暗器使い「それが良さそうだな」

暗器使い「そういう訳で二頭で頼む」

ドワーフの馬貸し「かしこまりました。折り返しのために一人同行させますのでそちらにも荷物を分けると良いでしょう」

ドワーフの馬貸し「今ご用意いたしますので裏の馬屋の方へどうぞ」


馬貸しに連れられて馬屋へ行くと凛々しい馬たちが干し草を食んでいた。


勇者「これは……大事に育てられているんですね」

ドワーフの馬貸し「ええ。もちろん商売ですから」

ドワーフの馬貸し「しかしそれ以上に、馬は我々亜人種や人間と切っても切り離せないパートナー……いわば家族と同然の存在です」

ドワーフの馬貸し「工業化が進んだ近年でもまだまだ活躍の場はありますから、これからもこの子達と共に歩んで行くつもりですよ」

暗器使い「なるほど……我々も道中では大事に乗らせて頂きます」

ドワーフの馬貸し「そうして頂けると」

勇者「よし、それじゃあ僕はこの馬にするかな」

暗器使い「それでは自分はこちらで」

ドワーフの馬貸し「さすが、お二人ともお目が高い。馬具一式を持って参りますので少々お待ちを」


その後馬貸しが持ってきた馬具を馬に着せ、暗器使いの乗る馬に荷物などを乗せると、早速三人は関所を目指し始めた。

そして途中の集落で宿を借りたり野営をしたりと六日程道を進んでいると、遠方に鬱蒼と茂る木々たちが見えてきた。





僧侶「あれが……」

ドワーフの従者「ええ。あれが自治区……森の民エルフ達が暮らす場所です」

勇者「連邦国と隣接しているのに急に自然が豊かになるんだね」

暗器使い「彼らは自然との調和を大事にする種族だと聞いている。その方面の術に強い者も多いらしいから、その辺りが関係しているんだろう」

勇者「はるか昔は大陸中にエルフの森があったみたいだけれども、今はあそこ以外はほとんど残っていないんだよね」

僧侶「千年前の大戦後、中立の立場であったにも関わらず各国で迫害を受けたエルフが集結し王国の辺境地を占拠したのが七百年ほど前だとか」

僧侶「実際には王国が率先してエルフの逃亡先として土地を提供したとも聞きますがね」

勇者「僧侶がそんな俗説についても調べているなんて意外だな」

僧侶「べ、別に知識は得られるだけ得たほうが良いと言うだけです」

僧侶「それから事の真偽を自分で判断すれば良いのです」

勇者「確かに、その通りかもね」

ドワーフの従者「そろそろ関所が目の前ですよ。準備をなさった方が良いかと」

勇者「そうだね。無事通れると良いんだけど……」

というわけで自治区が舞台の《森の民》編です。
よろしくお願いします。


荷物車→貨物車
啓蒙な→敬虔な
かな?

>>156
おっしゃる通りです
敬虔に関しては全くの勘違いでした

乙ー

関所までドワーフ5日→勇者4日→結果6日
勇者の予想ガバカバやんけ

>>156 >>158 ありがとうございます。
>>159 勇者の台詞が5日の間違いです。すいません……。






エルフの衛兵A「……よし、通っていいぞ」

勇者「えっ」

エルフの衛兵A「何を驚いている」

勇者「いや、こんな簡単に通れるとは思っていなかったので」

暗器使い「門前払い覚悟で来ていたのですがね」

エルフの衛兵A「さる方から連絡が来ていてな。勇者とその一行が来た場合通すにように言われている」

エルフの衛兵A「さっき術師に貴様らの紋章が本物かどうかも確かめさせたから問題はないだろう」

勇者「連邦国の時とは対応がえらく違うね」

暗器使い「……あの時数日時間がかかったのは貴族院の方でも対応に関して協議がなされていたためだろう」

暗器使い「その結果があれとは浅はかな連中だとは今更ながら思うがな」

エルフの衛兵A「関所を通ることは許可するが行動範囲は制限させてもらう」

エルフの衛兵A「第一に謁見してもらわねばならない方がいる。そこまでは他の衛兵を案内に付けるから従ってもらう」

勇者「わかりました。ありがとうございます」

エルフの衛兵A「……くれぐれも問題は起こしてくれるなよ。分かっていると思うが我々と貴様ら人間の関係は良好なものではない」

エルフの衛兵A「如何に勇者の末裔とて、事の次第によっては許されない場合もあるということを肝に銘じておけ」

勇者「ご忠告ありがとうございます」

エルフの衛兵A「フン……それではこの先は任せるぞ」

エルフの衛兵B「は、はい……! 了解いたしました!」


いかにも新人らしい青年のエルフがその先を案内することになった。

この見た目でも勇者達よりも遥かに歳上である可能性もあるのだが、どうしてもそのようには見えない。


エルフの衛兵B「み、皆さんこちらです。着いて来てください……!」





関所を越えた先では再び馬での移動となり、珍しい光景に目を奪われては衛兵に物を尋ねるなどしながら目的地を目指した。

そうして慣れない複雑な地形を数日進み続け、少し体に疲れが見え始めた頃。


エルフの衛兵B「皆さんは自治区は初めてですか?」

勇者「商人や一部の特殊な人達以外は殆どの人が来たことがないんじゃ無いかな」

エルフの衛兵B「そ、それもそうですね」

勇者「それにしても意外だったのが……」

勇者「思った程エルフの皆からの視線が悪いものでは無いんだね」

エルフの衛兵B「……勇者様達ならご存知だとは思いますが、今のこの土地を僕達エルフに与えて下さったのは隣の大国です」

エルフの衛兵B「エルフを辺境に追いやったのは人間ですが、また助けてくれたのも人間なんです」

エルフの衛兵B「恨みや傷は消えませんが、また誇りにかけて恩を忘れる事もありません」

僧侶「…………」

勇者「隣の大国……当時の国王様はどういう思いで行動に移ったんだろうね」

エルフの衛兵B「あまり大きな声では言えない事ですが、千年経った今も友好にしていただいていると聞いています」

エルフの衛兵B「で、出過ぎた言い方にはなりますが何らかの意思は感じます……」

エルフの衛兵B「しかしやはり僕達が救われている事には変わりありません」

エルフの衛兵B「恨みに関してももう千年も前……祖父母よりも上の代の話ですから、僕らが感情的になるのは難しいです」

暗器使い「そうか、亜人の寿命は数百年程度……我々人間よりは遥かに長いとは言え、当事者が生き残っているような事は無いのか」

エルフの衛兵B「そうですね」

エルフの衛兵B「信仰の長く続いた土着神の類や、より概念に近づいた存在……強力な力の持ち主なら千年単位でも生きるらしいですけれども」

勇者「それこそ当時の魔王軍幹部が生き残っていたとしたら、今でも存命している可能性は十分あるって事だよね」

エルフの衛兵B「ええっ……!? い、一応記録では魔王軍幹部は魔王自身を含めた全員が初代勇者一行に滅ぼされたと有りましたけれども……」

勇者「流石に僕もありえないと思うけどね。もしもの話ってだけ」

エルフの衛兵B「で、ですよね……」

勇者(しかし国王様は“魔王軍の残党”という言い方をされていた……)

勇者(その可能性も捨てきれないってことかな……)


勇者が考え事を始めてすぐ、前方から子供達が飛び出してきた。


エルフの子供A「あっ、お兄ちゃんだ!」

エルフの子供B「お仕事なの?」

エルフの子供C「後ろの人達ってもしかして人間!?」


衛兵と顔見知りらしい子供達は四人を取り囲んでワイワイと騒ぎ始めた。

特に子供達は人間を見る機会があまり無いのか、勇者達三人を物珍しそうな目で見ている。


エルフの衛兵B「こらこら! この方々は大切なお客様なんだから粗相のないように!」

エルフの衛兵B「仕事が終わったら遊んであげるから少し待っていて」

エルフの子供A「えーでも僕達も人間のお兄ちゃんたちとも遊びたいよ」

エルフの子供B「そうだよずるいよ!」

エルフの子供C「ずるいぞ!」

エルフの衛兵B「あのねえ、僕は遊びに行くわけじゃないの! あんまり聞き分けがないとおばさま達に言いつけるよ」

エルフの子供A「それは駄目!」

エルフの子供B「ひきょう者!」

エルフの子供C「あはは! 逃げるぞー!」


子供達が走り去っていくのを確認すると、衛兵はどっと疲れたようにため息をついた。


エルフの衛兵B「……お恥ずかしいところをお見せしていしまいました」

勇者「仲が良いんですね」

エルフの衛兵B「両親の知り合いの子供なんです。この仕事に就く前はよく面倒を見ていましたから」

暗器使い「ここはもう中心部……首都に近いようだが、随分と子供の姿を見るようになったのはその為か?」

エルフの衛兵B「ええ。僕達亜人種は人間に比べて寿命が長い代わりに子を成しにくいみたいで、小さな子供がいる事自体が珍しいんです」

エルフの衛兵B「彼らの成長への影響も考えて、子供が生まれるとこうして首都へ引っ越して子供達同士で触れ合う機会を設けられるようにしているんですよ」

エルフの衛兵B「大きな教育機関もこの辺りに集中していますし」

勇者「なるほど……」

勇者「子供達の相手なら僧侶も得意だよね」

僧侶「……えっ、私ですか!?」

勇者「僧侶は教会の孤児院で子供達に人気なんだ」

エルフの衛兵B「ああ教会の……」

エルフの衛兵B「確かに子供達には人気がありそうですね」

僧侶「べっ……別に私は……」

暗器使い「……やれやれ、恐らくはそろそろ高貴な方との謁見になるんだから気を落ち着かせておけ」

僧侶「わ、分かっています……!」

勇者「それで、これから自分達が謁見する相手というのは?」

エルフの衛兵B「えっと、この先の館にいらっしゃるのですが」

エルフの衛兵B「初代勇者の仲間のお一人の、初代弓使い様の直系の子孫に当たる方です」





勇者達が案内された館の応接間には小柄なエルフの老婆が待っていた。


自治区五代目区長「お待ちしておりました現勇者様とそのお仲間のお二方……」

自治区五代目区長「私はこの自治区の区長を五代目に務めさせていただいているものです」

自治区五代目区長「もう説明は受けているかもしれませんが、初代弓使い様の直系家系の生まれです。どうぞおかけになってください」

勇者「失礼します」

勇者「……お初お目にかかります。先月から正式に勇者を襲名させて頂いた者です」

僧侶「お、同じく現僧侶の紋章持ちで初代僧侶様の直系家系の者です」

暗器使い「北方連邦国出身の暗器使いです。先日暗殺者の紋章が現れたばかりです」

自治区五代目区長「なるほど今回の暗殺者の紋章持ちは北方連邦国からですか……」

自治区五代目区長「北方連邦国には先代の戦士の紋章持ちがいたはずですが彼は健在でしょうか?」

暗器使い「ええ、こちらへ伺う前までお世話になっていました。あの方とお知り合いで?」

自治区五代目区長「いえ、直接お会いしたことは有りませんが人づてで話は聞いていました」

自治区五代目区長「それから貴方がたのお父上……先代勇者様と僧侶様の事は残念です」

自治区五代目区長「彼らはこの自治区を訪れた事が有りましてね」

勇者「そうでしたか……それは自分達と同じ目的でなのでしょうか」

自治区五代目区長「ええ、しかし先代は自治区から紋章持ちは現れ無かったのですけれどもね」

自治区五代目区長「弓使いの紋章は帝国の方に現れたと聞いています」

勇者「しかし今回は関所から今に至るまで我々が来ることを分かっていらっしゃったような対応でした」

勇者「やはり紋章持ちが自治区から出たのでしょうか?」

自治区五代目区長「良い推測です。ええ、その通りです」

自治区五代目区長「私の家系の者では有りませんが、選ばれて納得の実力を持った子です」

自治区五代目区長「ほら、入ってきなさい」


区長に促されて応接間に入って来たのは、長い小麦色の髪と紅色の瞳が美しいエルフの女性だった。


紅眼のエルフ「初めましてになるわね、勇者。今回の弓使いの紋章持ちとして選ばれた者よ」

勇者「よろしく。エルフで紅い瞳なのは珍しいね」

紅眼のエルフ「遠い先祖でダークエルフの血が混じっているらしく、その名残りみたいで」

紅眼のエルフ「私の一家はほとんどが紅い瞳を持っているわ」

僧侶「ダークエルフ……砂漠の民ですか」

僧侶「森の民とはあまり交流がなかったと聞いていますが貴女のような存在は珍しいのでは」

紅眼のエルフ「その通りであまり一般的なケースでは無いとは思うわ」

紅眼のエルフ「ダークエルフのほとんどは魔王軍の軍門に下ったという話だから、貴女がそういう顔をしたくなるもの分かるわ」

僧侶「……!」

紅眼のエルフ「でも随分と遠い先祖の話だもの。詳しくは知らないし私には関係がない話だから」

勇者「僧侶、これから一緒に旅に出る仲間なんだから仲良くしてね」

僧侶「別に私は……」

紅眼のエルフ「あら、私は仲間になるとは一言とも言っていないけれども」

勇者「えっ」

僧侶「なっ」

暗器使い「…………」

自治区五代目区長「こら、あまり困らせるような言い方をするんじゃありません」

紅眼のエルフ「……はあい婆様」

自治区五代目区長「この子が誤解させるようような事を言ってしまってごめんなさいね」

自治区五代目区長「勇者の仲間として旅に出ることに関してはこの子自身も既に了承しています」

自治区五代目区長「しかしその前に片付けて置かなければならない問題があるのです」

自治区五代目区長「解決前に彼女程の使い手にここを発たれてしまうのは困りますので……」

紅眼のエルフ「事が片付くまで待ってもらいたい。もしくは……」

勇者「僕達がその問題解決のための手助けをすれば良いって事だね」

紅眼のエルフ「ええ、話が早くて助かるわ」

暗器使い「その問題というのは……」

紅眼のエルフ「婆様……」

自治区五代目区長「ええ、話して差し上げなさい」

紅眼のエルフ「分かりました」

紅眼のエルフ「……最近多発しているのよ。人攫いが」

勇者「な……!」

僧侶「それは……」

暗器使い「エルフは人間から見ても見目麗しい者が多い。裏の市場では違法で人身売買がなされていると聞くが……」

紅眼のエルフ「昔からエルフはそういった連中の標的にされやすかったわ」

紅眼のエルフ「でもここ一年間は比較にならないほど多発しているの」

紅眼のエルフ「かなりの手練が集中的に自治区で活動していると見て間違いないわ」

勇者「その人攫い達を捕まえて、攫われてしまった子達の保護をこれからやる必要があるって事だね」

紅眼のエルフ「外国まで売り飛ばされてしまった者の奪還はそう簡単なことではないでしょうね」

紅眼のエルフ「でも犯人達を捕まえて売買ルートを聞き出せれば、いずれ買い戻しをする事も出来るかもしれないわ」

紅眼のエルフ「私がいま率先してやるべきなのは実行犯の確保。その後の事は他の人に任せるつもりよ」

紅眼のエルフ「実行犯さえ確保できれば直ぐに貴方達の旅に同行するから安心してちょうだい」

暗器使い「そういう事ならば……いやそうで無くとも早く解決するに越したことは無い。詳しく話を聞かせてもらおうか」


その後、区長と紅眼のエルフから現場の状況や実行犯の目撃情報などについて詳しい話を聞く事になった。

現場は東側の国境付近であるため明日また改めて出発する事となった。

今晩は区長の館の部屋を使わせてもらう事になったが、まだ寝るには早い時間であるため勇者と僧侶は館の外へ散歩に出かけることにした。


僧侶「ふう……」

勇者「東の国境までは二日は掛からないみたいだね」

僧侶「ええ、ですが国境とは言ってもその範囲は広いです」

僧侶「この森を知り尽くしているであろうエルフを相手にしながら一年間も行動するような手練が相手ですから、そう簡単にはいきそうにありませんね」

勇者「そうだね。こっちも頭を使う必要がありそうだ」

僧侶「…………」

勇者「僧侶?」

僧侶「……いえ、なんでもありません」

エルフの子供A「あー! 昼間の人間のお兄ちゃんとお姉ちゃんだ!」

エルフの子供B「本当だ!」

エルフの子供A「ねーねー! これから遊ぶ約束をしていたえーへーのお兄ちゃんが仕事でいそがしいって言うから、代わりに僕達と遊んでよ!」

僧侶「えっ……!? いや私は……」

勇者「いいじゃん遊んであげなよ」

僧侶「勇者様……しかし……」

勇者「えー、子供の相手も出来ないの?」

僧侶「そういう事ではなく……!」

エルフの子供A「それじゃあかくれんぼね! お姉ちゃんが鬼で!」

エルフの子供B「きゃはは! 隠れぞるぞー!」

エルフの子供C「ちゃんと三十数えてよな!」

僧侶「えっ、いや待ってくださ……」

勇者「これはやるしか無いんじゃない?」

僧侶「……そうみたいですね……」





僧侶「……はい捕まえました!」

エルフの子供A「うわー、お姉ちゃん足速いよー」

エルフの子供B「かくれんぼも鬼ごっこもお姉ちゃん勝ちだね!」

僧侶「毎日のように孤児院の子達の相手をしていましたからね。この程度では負けませんよ」

エルフの子供C「こういうのは大人げないっていうんだぞ」

僧侶「男の子なのに女の人に負けて言い訳なんてかっこ悪いですよ」

エルフの子供C「ぐっ……!」

エルフの子供C「つ、次は負けないんだからな!」

僧侶「ふふ、その意気でかかってきなさい」

僧侶「……って、もうだいぶ暗いですね」

僧侶「そろそろお家に帰る時間ですよね」

エルフの子供A「あっ、もうこんな時間」

エルフの子供B「うふふ、勝負はおあずけだね」

エルフの子供C「くっそー!」

エルフの子供A「またお姉ちゃんと遊べる?」

僧侶「そうですねえ……明日からしばらくはお仕事でいないのですけれども、それが終わってこちらに帰ってきた時にまた遊べるかもしれません」

エルフの子供B「本当!? まってるね!」

僧侶「まだ確定ではないのであまり期待はしないでくださいね」

エルフの子供A「待ってるからぜったい来てね!」

僧侶「そうですね、なるべくここに戻ってくるように頑張りますね」

エルフの子供A「やったあ!」

エルフの子供C「またな人間の姉ちゃん!」

僧侶「はーい、気を付けてくださいね」

エルフの子供B「ばいばーい!」


エルフの子供達は大きく手を振って各々の家へと帰っていった。

残された僧侶は子供達の相手のためか少し疲れた顔をしていた。


勇者「お疲れ様」

僧侶「……勇者様、途中からサボっていましたよね?」

勇者「どうやら僕よりも僧侶の方が人気があるみたいだからね」

勇者「それで、どうだった?」

僧侶「どうだったって……」

僧侶「……子供は無垢です。人間も動物も、人外だって変わらないとは思います」

勇者「そうだね」

勇者「でも子供だけじゃなくて大人だって同じだと思うよ」

勇者「あの子たちを育てているのは、他でもないエルフの大人たちなんだから」

僧侶「それは……」

僧侶「……勇者様のおっしゃる通りかもしれません」

僧侶「今日は少々疲れました。早めに寝るとしましょう」

勇者「そうだね。その前に歓迎の席を用意してくれているって話だったから行かなくちゃ」

僧侶「そういえばそうでしたね。そろそろ時間ですし行くとしましょう」

最近暑いですね。
また来週か再来週。






勇者一行を歓迎する宴が終わった後、勇者達は各々に与えられた客室へと戻って就寝した。

しかし……。


僧侶「…………」

僧侶(眠れない……)

僧侶(……何だか頭も痛いしちょっと風に当たってきましょう)

僧侶「…………」

僧侶(綺麗な町並み……)

僧侶(これがエルフの人達の文化……)

僧侶(自然と調和していて、優しくてあたたかい……)

僧侶(人外だからって差別的に嫌ってきた私は一体……)

僧侶(そもそも何で私はこれ程に人外を……?)

僧侶(もちろん許せない出来事は何度もあったけれど)

僧侶(何かおかしいような……)


???「────憎め……」


僧侶「なっ……!?」

僧侶「だ、誰……!?」

???「──憎め……」

???「──もっと憎め……!」

僧侶「何者ですか……! 出てきなさい……!」

僧侶(……っ! 頭が……痛い……!)

???「──貴様の純血を奪った人外を……」

???「──両親の敵である人外を憎め……」

僧侶「ぐ……頭が……」

???「──奴らの芽を……」

僧侶「ぐう……芽を……!」

???「──そうだ……」

僧侶「芽を……摘まないと……!」






エルフの子供C「へへっ、かーさんにばれずに脱出成功……!」

エルフの子供C「今日こそ伝説の光る獣をこの目で見てやるんだ……!」

エルフの子供C「あしたあいつらに自慢してやるぞ」

僧侶「あら……?」

エルフの子供C「ギクッ……!」

僧侶「こんな時間に何をしているんですか?」

エルフの子供C「こ、これはその……」

エルフの子供C「実は……」


…………

僧侶「なるほど、夜にしか現れないというその伝説の獣を見つけて皆に自慢したかったと……」

エルフの子供C「お願い、母さんには言わないで……!」

僧侶「……こんな時間に子供一人で出歩いたら危険だって事は分かりますよね?」

エルフの子供C「……うん……」

僧侶「その獣が凶暴だったらどうするつもりなんですか」

僧侶「何よりも最近は人攫いが出ていると聞いています」

僧侶「残念ですが君一人を森に行かせるわけにいきません」

エルフの子供C「そ、そんなあ……」

僧侶「当然の事です」

エルフの子供C「けちー」

僧侶「ケチじゃありません」

僧侶「……その代わり、特別に私がついて行ってあげます」

エルフの子供C「えっ、本当!?」

僧侶「ええ。ですから今後は一人で無茶なことはしないように」

エルフの子供C「うんわかった! 早速行こう!」

僧侶「ほらほら走らないの」

エルフの子供C「へへっ、こっちの方だよ」

僧侶「はーい、今行きますよ」

僧侶「…………」






僧侶「随分と森の深い所まで来てしまいましたね」

エルフの子供C「そりゃあ伝説の獣なんだから、街の近くにいるわけないじゃん」

僧侶「それもそうですね」

エルフの子供C「この辺は大人が狩りをする時でも中々来ない場所なんだ」

エルフの子供C「きっとこの辺なら出ると思うんだよなー」

僧侶「大人でも中々来ない、ですか……」

僧侶「……それは助かりますね」

エルフの子供C「人間の姉ちゃん……どうかしたのか? 何だか目が……」

僧侶「大丈夫です……怖がらないで……」

エルフの子供C「え…………」


僧侶の手がエルフの子供の額に触れようとしたその時だった。


勇者「──僧侶、そこまでだよ」

僧侶「なっ……!? 勇者様!?」

僧侶「何でこんな所に……!?」

勇者「僧侶が部屋を出て行く気配がしたからね。後をつけさせてもらったよ」

勇者「同じ質問を返すけど僧侶は何でこんな所に? しかもエルフの子供まで連れて」

僧侶「そ、それは……」

僧侶「そういえば何で私はこんな事を……? 一体……」

勇者「僧侶……?」

僧侶「…………っ! 私はっ……“今何をしようとしていた”……!?」

僧侶「何をっ……!」

僧侶「うっあああああああああっ!!」

勇者「僧侶!?」

勇者(明らかに僧侶の様子がおかしい……! これは一体……!?)

暗器使い「……あれは何らかの術的攻撃を受けている可能性もあるな」

勇者「あ、暗器使いも来ていたのんだ……! とにかく僧侶を……!」

暗器使い「ああ、区長の所に連れて行くぞ。子供の方は俺に任せろ」

勇者「了解……!」

暗器使い「よし、お前も行くぞ」

エルフの子供C「う、うん……」

エルフの子供C「姉ちゃん、大丈夫なのか……?」

暗器使い「……ああ、今から区長様に診てもらうからな」

エルフの子供C「そ、それなら……区長さまならきっと……」

暗器使い「…………」

暗器使い(過去のことがあるとはいえ少し過敏すぎると思っていたが、やはりあれは……)






僧侶「すう……すう……」

自治区五代目区長「……取り敢えず今は睡眠の香で眠っているだけです」

自治区五代目区長「それで僧侶様が突然信じられない行動に出た原因ですが」

自治区五代目区長「これは呪術によるものです。しかも極めて高度な……」

勇者「呪術、ですか……」

暗器使い「やはりか……」

自治区五代目区長「非常に高度であるが故、その効果を正しく解析することは叶いませんでした」

自治区五代目区長「聞くところによると僧侶様は時折人外に対して並々ならぬ憎悪や嫌悪を示すようですね」

勇者「ええ、その通りです」

勇者「しかしこの街の子供達と触れ合っている時はそのような事はなかったのですが……」

自治区五代目区長「これは解析結果と私の想像を合わせての事ですので参考にとどめて頂きたいのですが」

自治区五代目区長「僧侶様に掛けられた呪いは“人外を激しく憎むように働きかけるもの”ではないでしょうか」

自治区五代目区長「最終的には先程のように本人の意志を越えた行動に出てしまうような、そんな類のものだと私は思うのです」

暗器使い「なるほど……」

自治区五代目区長「……呪術の影響下とはいえ、僧侶様は我が区の子供を傷つけようとしました」

自治区五代目区長「この事は事実ですね」

勇者「そ、それは……」

勇者(その通りだ……呪術のせいだとしても一歩間違えれば子供が犠牲になっていたんだ……)

勇者(それをお咎め無しで済ますなんてことは……)

自治区五代目区長「……よく聞いてください、勇者様」

勇者「はい……」


区長は眠っている僧侶の頭を軽く撫で、それから勇者達の目を見てこう告げた。


自治区五代目区長「お二人はこの後、きちんと僧侶様を労るのですよ」

勇者「え……」

自治区五代目区長「僧侶様の心は大変優しく慈愛に満ちています」

自治区五代目区長「そんな彼女が目を覚まして、自分がなそうとしてしまったことを思い出したらどれ程傷つくか」

勇者「…………」

暗器使い「区長様は僧侶をお咎めにならないと仰るのですか?」

自治区五代目区長「もし事が起こっていたのであれば、私も区の長として心を鬼にしたでしょう」

自治区五代目区長「しかしそれはお二人によって防がれました」

自治区五代目区長「先程も言ったように僧侶様に掛けられている呪いは非常に高度なものです」

自治区五代目区長「殆どの人間はそれに抗うことは出来ないでしょう。そんな彼女をどうして責めましょうか」

勇者「区長様……」

自治区五代目区長「……私の力では呪術そのものを解除することは出来ません」

自治区五代目区長「しかしこのような事が再び起こらないように多少の対策はさせていただきました」

勇者「対策、ですか?」

自治区五代目区長「呪術の発動を抑えるペンダントを僧侶様に着けておきました」

自治区五代目区長「これで並のことでは僧侶様が人外に対して殺意などを爆発させることは無いでしょう」

暗器使い「そんなわざわざ……本当に感謝いたします」

自治区五代目区長「いえ、私にできることをしたまでです」

自治区五代目区長「しかしこのペンダントも完璧なものではありません。くれぐれも気を付けてくださいね」

勇者「ええ、本当にありがとうございました」

自治区五代目区長「いえいえ。僧侶様の体調次第だとは思いますが、明日には出発をするはずですので早めにお休みになってくださいね」






奴隷商A「ここ数ヶ月商品の入りが悪いせいで少し厳しい状況になって来たぞ」

奴隷商B「耳長どももかなり警戒を強めているみたいだからな……」

奴隷商B「だが焦りは禁物だ。ルートがバレたら俺達はお終いだ」

奴隷商A「それはそうだけどよ……」

奴隷商B「大丈夫だ。耳長に手を出す命知らずなんてもう最近ではあまりいない」

奴隷商B「供給が減っていけばゆるりと値段も上がっていくはずだ」

奴隷商A「そういうもんかね」

奴隷商B「そういうもんだっての」

奴隷商A「よくわかんねえけど、お前が大丈夫だっていうなら大丈夫か」

奴隷商A「まあ俺達には絶対失敗なんて無いからな」

奴隷商B「ああ、このローブ……人や動物から気配を隠してくれるだけではなく、森の精霊とやらの探知も掻い潜れるとはな」

奴隷商B「耳長お得意の森との対話ってやつも恐れることはねえ」

奴隷商A「……! おい二時の方向を見ろ……!」

奴隷商B「ほう……」

奴隷商B「周囲を警戒しろ」

奴隷商A「大丈夫だ……探知針の反応はないぜ」

奴隷商B「よし、行くぞ……」

奴隷商A「くくっ、任せろ」

奴隷商A「やあお嬢さん、こんな所を一人で出歩いたら危ないぞ」

エルフの女性「…………!」

奴隷商B「馬鹿、早く捕まえろ!」

奴隷商A「ちょっと遊んだって平気だっての。こいつビビって声も出ていな……」


奴隷商Aがへらへらと笑っている隙にエルフの女性は森の深い方へと駆け出した。


奴隷商A「って、速っ!?」

奴隷商B「当たり前だ馬鹿! 耳長どもの森の中での身体能力をなめるな!」

奴隷商B「いい加減学習しろ!」

奴隷商A「わ、悪い……」

奴隷商B「いいから追うぞ!」

奴隷商A「おう……!」

奴隷商B「まあ所詮女だ。追いつけないことはない」

奴隷商A「足撃って止めちまってもいいかな……」

奴隷商B「商品価値が下がる。却下だ」

奴隷商A「ちぇっ」

奴隷商B「まあそんな事をしなくても、ほらよ」

奴隷商A「女の走る速度が落ちてきたな。このまま追い詰めるか」

奴隷商B「ああ、それに……」

エルフの女性「…………!」

奴隷商B「どうやら行き止まりのようだな。観念しな」

奴隷商B「俺が手に持っているもの、見えるか? これは最近出始めた小型の銃なんだ」

奴隷商B「お前が大人しくしてくれればこれは撃たない。言いたいことは分かるな?」

奴隷商A「へへっ……中々の上玉じゃねえか。これは高く売れるぜ」

奴隷商A「何なら少々味見でも……って……」

奴隷商B「……どうした?」

奴隷商A「いや……こいつの瞳の色が珍しいなって……」

奴隷商A「紅い…………ごぱっ……!?」


突然地面から生え出た太いツタが奴隷商Aの腹を貫いた。


奴隷商B「て、てめえ……何者だ……!」

エルフの女性「…………」

次回で《森の民》編は終わりです。






──二日前

──自治区と王国の東の国境付近


紅眼のエルフ「この間は随分と大変だったようね」

僧侶「……申し訳ございません……私の精神が弱いばかりにあのような……」

勇者「エルフさん……」

紅眼のエルフ「分かっているわ、責めているわけじゃないの。事情は婆様から聞いている」

紅眼のエルフ「婆様が術を施してくれたならそれほど心配をする必要もないでしょう」

紅眼のエルフ「当事者としてはまあ不安は残っているでしょうけれども、今はやるべきことに集中しましょう」

僧侶「はい……」

暗器使い「それでは本題に移るとするか」

暗器使い「聞く話によると人攫いの一団は随分と手練のようだな。奴らを補足する手立てはあるのか?」

勇者「エルフの一族は森の動植物と会話を出来ると聞いているけれど、その力を使って探し出すことは出来ないの?」

紅眼のエルフ「当然それは何度も試しているけれども、向こうはそれに対して何らかの対策をしているらしいわ」

紅眼のエルフ「おおよその場所なら分かるのだけれども、詳しく捉えるのは難しいのが現状ね」

僧侶「そのおおよその場所というのがこの付近というわけなんですね」

紅眼のエルフ「そうね。奴らは東の国境を越えたり北東の海岸からの出入りをしたりしているみたいね」

紅眼のエルフ「敵は狡猾で用心深いわ」

紅眼のエルフ「行動に出る時は絶対に攫う対象が一人の時だけ。それがどんなにか弱い子供であってもね」

紅眼のエルフ「だから最近は特に女子供は一人では出歩かないようにしてはいるいるのだけれど……」

紅眼のエルフ「どうしても一人になってしまう瞬間というのはあるわ」

紅眼のエルフ「その瞬間を奴らは決して見逃さない。気がついた時には攫われてしまっているらしいわ」

勇者「聞いてはいたけれど本当にやり手みたいだね」

僧侶「そんな相手をどうやって……」

紅眼のエルフ「策はあるのだけどリスクが高いから里の皆にはやらせたくなかったの」

暗器使い「そこに都合よく外国から人間がやって来たと」

紅眼のエルフ「勿論貴方たちの実力を買ってのことよ」

紅眼のエルフ「それに直接危険な目にあうのは私だけだから安心して」

暗器使い「それはどういう……」

紅眼のエルフ「簡単なことよ。私が囮になるわ」

紅眼のエルフ「囮を使う場合は囮自身は勿論、周りの人間の能力が重要になるわ」

紅眼のエルフ「だからこそ貴方たちなの」

勇者「なるほど……」

紅眼のエルフ「以前別の子が敵を追い詰めたのにも関わらず上手く逃げられてしまったことがあったらしくね」

紅眼のエルフ「今回は確実に逃げられないようにしたいわ」

紅眼のエルフ「そこで鍵になるのが……貴女よ」

勇者「え……」

暗器使い「ふむ……」

僧侶「わ……私ですか……?」






エルフの女性→紅眼のエルフ「ようやく会えたわねクズども……」

奴隷商B「その瞳知ってるぜ……当代の守護憲兵で一番の実力の持ち主だ……」

紅眼のエルフ「私を知っているなら話は早いわ。大人しく投降してくれないかしら」

紅眼のエルフ「さもなくば、この人間のようになるわよ」

奴隷商A「ご……ごぼぼ……たす……けて……」

奴隷商B「そんな奴はいくらでも替えが効く」

奴隷商B「それよりも俺をすぐに殺せない理由はこうだろう……? 俺たちの売買ルートを聞き出せなくなるから、な?」

奴隷商B「長い時間かけてようやく捕らえられたんだ。そう簡単に殺せるはずが無いよなあ……」

紅眼のエルフ「…………」

奴隷商B「まあでもその心配はいらないぜ」

紅眼のエルフ「……どういうことかしら?」

奴隷商B「──俺たちが二人組だなんていつ言った?」

紅眼のエルフ「…………!」

奴隷商B「野郎ども出てきな!」

紅眼のエルフ「…………」

奴隷商B「…………あ?」

紅眼のエルフ「出てこないわね」

奴隷商B「なっ……どうなってやがる……!?」

勇者「ふう……」

暗器使い「周りの連中は全て片付けたぞ」

紅眼のエルフ「はーい、ご苦労様」

奴隷商B「まさかお前は逃げていたんじゃなくて俺たちを誘い込んでいた……!?」

紅眼のエルフ「そういうことよ。ご愁傷様」

奴隷商B「クソッ……!」

奴隷商B「……ま、まあいい……」

奴隷商B「さっき言った通りお前達は俺を殺せはしない……正真正銘最後の一人だからな」

奴隷商B「さあどこへでも連れていくが良いさ。ああ待遇は良くしてくれよ。話す気が失せちまうかもしれないからな……ガフッ……!?」

奴隷商B「な……何をしている……!?」

暗器使い「見てわからんのか。首筋を斬った」

奴隷商B「こ……こんな事をしたら……俺が死んだら売買ルートは永遠にわからなくなるぞ……!」

紅眼のエルフ「貴方が売買ルートの事を話してくれればその傷を治してあげるわ」

奴隷商B「へっ……治す気もないくせによくもそんなことを言えるな……」

奴隷商B「だいたいこの傷を治せそうな奴なんて……」

勇者「僧侶、治してあげて」

僧侶「は、はい……!」


僧侶は奴隷商Aに回復の術を使った。


奴隷商A「えっ、俺は……?」

奴隷商B「なっ……馬鹿な……!」

紅眼のエルフ「この子は強力な回復呪文の使い手みたいだから、その程度の傷ならすぐに治してくれるわよ」

紅眼のエルフ「早く全てを私たちに話すことね」

紅眼のエルフ「私には嘘偽りは通じないわ……一言でも虚偽があれば貴方の傷は塞がらないと思いなさい」

紅眼のエルフ「さあこのままだと血を流しすぎて貴方は死ぬわよ……」

奴隷商B「ぐっ…………!」

奴隷商B 「なっ……」

紅目のエルフ「ん……?」

奴隷商B「なめんじゃねえぞ耳長のメス風情が!!」


奴隷商Bが隠し持っていた短刀が紅目のエルフの頬をかすめた。


紅目のエルフ「悪あがきを…………って!? 」

紅目のエルフ(足が動かない…………!?)

紅目のエルフ(刃に毒でも仕込んであったのかしら………!? いや、この感じは術仕込みの短刀…………!)

奴隷商B「ひひっ…………お前は道連れだ…………!」


奴隷商Bが紅目のエルフにナイフを突き立てようとした。

しかしそれは間に割って入った勇者に阻まれた!


奴隷商B「なっ…………!」

勇者「大丈夫!?」

紅目のエルフ「えっ……? え、ええ……大したことは……」

暗記使い「大人しくしろ」

奴隷商B「ぐえっ……!」

暗記使い「僧侶、彼女の傷を治しておいてやれ」

僧侶「はい、動かないでくださいね」


僧侶は紅目のエルフの頬の傷を癒やした。


紅目のエルフ「えっ、いや、別に大した傷じゃないわ……」

僧侶「駄目ですよ。綺麗なお顔なんですから」

紅目のエルフ「いや、でも…………」

僧侶「どうかしたのですか……?」

紅目のエルフ「いや……人間に庇われたり、癒やしてもらうなんて初めての経験で……」

勇者「人間もエルフも関係ないよ。僕たちは仲間なんだから」

紅目のエルフ「へ…………」

紅目のエルフ「私が、仲間……ね……」

暗記使い「…………」

暗記使い「──さて、」

暗記使い「僧侶はここから先こっちを見ず、耳も塞いでいろ」

暗記使い「指示した時に治癒の力を使ってくれれば良い」

僧侶「えっ……は、はい……」

勇者「はい目隠し用の布」

僧侶「あ、ありがとうございます」

暗記使い「……よし、よく聞けよ?」

奴隷商B「ひいっ……!」

暗記使い「十秒黙るごとに指一本だ」

暗記使い「喋れば傷は塞いでやるし、その後も命の保証はしてやろう」

暗記使い「黙っていても傷は塞いでやるが…………全てを話さない限り何度もやり直しだ。意味は分かるな?」

奴隷商B「や……やめ……!」

暗記使い「さあ開始だ」






奴隷商が吐いた情報によってここ数年で攫われたエルフの民が多く自治区へと戻ってくることが出来た。

しかし一部の奴隷市場などは既に何者によって襲撃されており、エルフの奴隷の姿はそこには無かった。


勇者「うーん、何かスッキリしないね」

暗器使い「何者が奴隷市場を襲撃したのか。消えた奴隷はどこへ行ったのか……不明瞭なことが多いな」

僧侶「もうその辺りはエルフの皆さんに任せるしかありませんが……」

勇者「まあスッキリはしないけど、得るものは多かったね」

勇者「僧侶に掛けられた呪いを抑制するペンダントもそうだし……」

紅眼のエルフ「よし、もうすぐ王国領ね」

勇者「新しい仲間も加わったしね」

紅眼のエルフ「まあそれは約束だったもの」

紅眼のエルフ「王国領に入ったらすぐ北の港町に行ってそこから法国に向かうってことで良いのかしら」

勇者「そうだね。自治区からは直接船で行けないのからねえ」

暗器使い「それは仕方が無いだろう。うちの国からも法国には決められた商船以外行けない事になっている」

紅眼のエルフ「王国の領土が北の海岸に不自然に伸びているのは、その昔法国への玄関口欲しさに自治区から奪った土地のお陰であると聞いているわね」

勇者「あはは……らしいね……」

僧侶「信仰のためとはいえ間違った歴史であるとは私も思います……」

紅眼のエルフ「ま、私が生まれるよりもずっと前の話だし、実際にどういう事情があったかなんて分からないものだけれど」

紅目のエルフ「そもそも元を辿れば自治区は王国領だったわけだしね」

勇者「そういえばエルフさんって歳はいくつ……」

僧侶「ゆ、う、しゃ、さ、ま?」

暗器使い「女性に歳を聞くとはこれは如何に」

勇者「あっ、いや、そういうつもりでは……あはは……」

紅眼のエルフ「ふふっ……まあ一応答えてあげるわ」

紅眼のエルフ「そうねえ……貴方の十倍近くは生きているんじゃないかしらね」

勇者「じゅっ……十倍……!?」

紅眼のエルフ「あら、そんなに驚かれるなんて傷つくわね」

僧侶「もう勇者様!」

勇者「あっ、だからそういうつもりでは……!」

暗器使い「天然失礼とは……一番最悪なのでは?」

紅眼のエルフ「くくっ……あははっ……! 気にしなくていいわよ本当に……笑わせてもらったから……ふふっ」

紅目のエルフ「最初は人間と行動を共にするなんてどうかと思っていたけれど」

紅眼のエルフ「ふふっ……これは退屈し無さそうね」


四人目の仲間、弓使いの紋章持ちの紅眼のエルフを仲間に加えた勇者一行。

次に目指すのは勇者の直感によって、教会総本山のある法国となったのだが……。



《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長  
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ

C2 トロール 
C3 河童 商人風の盗賊 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。

次回は法国が舞台の《始動》編です。



《始動》


──王国の領北端の港町から洋上へ遥かに進んだ地点


勇者「うっぷ……」

僧侶「勇者様大丈夫ですか?」

紅眼のエルフ「まさか勇者が船酔いに弱いとはね」

暗器使い「何度も言っているが具合が悪いからと下を見ては更に悪化するだけだぞ。デッキに出てなるべく外を見ろ」

勇者「りょ、了解……うっぷ……」

僧侶「ゆ、勇者様……」

僧侶「私は勇者様をデッキに連れていきますね」

紅眼のエルフ「お任せするわね」

紅眼のエルフ「当代の勇者様とはどんな屈強な男かと思っていたのだけれど……想像とは大分違っていたわね」

暗器使い「あんなのでも戦闘の時は凄いんだがな」

暗器使い「それよりも本当に良かったのか? 故郷の方は今が一番忙しくなっているんだろう?」

紅眼のエルフ「約束は約束だしね」

紅眼のエルフ「それに私の故郷の皆は私一人が居なくなっただけで駄目になるようなヤワな連中じゃないわ」

紅目のエルフ「次期区長……婆様の娘さんもいるしね」

暗器使い「そうか、要らないことを聞いたな」

紅眼のエルフ「いいのよ」

紅眼のエルフ「しかし法国……教会の総本山ね……」

紅眼のエルフ「貴方はともかく私なんかは門前払いを受けないかしら」

暗器使い「最近は教会でも色々動きがあるらしい。その点は心配はいらないだろう」

暗器使い「魔王軍の者でもなければ立ち入れないという事は無さそうだ。もちろん関所での検査は厳しいものだと思うが」

紅眼のエルフ「武器とか取り上げられちゃうのかしら」

暗器使い「それはあり得るな」

紅眼のエルフ「まあ私は植物が育つ環境であればいくらでも供給できるんだけどね」

暗器使い「俺もまあ……武器は持っていて、それでいて持っていないようなものだからな……」

紅眼のエルフ「ふうん、どういう事なのかしら」

暗器使い「……まあ、今度見せる機会があったら説明する」

紅眼のエルフ「楽しみにしておくわね」

紅眼のエルフ「あら……あれは……」

暗器使い「……どうやら今日か明日中には到着しそうだな」






勇者「や、やっと着いた……」

紅眼のエルフ「へえ、綺麗なところじゃない」

暗器使い「俺も初めて訪れるが……なるほど……」


勇者達が船を降りた先に待っていたのは白を基調とした建物が多く立ち並ぶ港湾都市だった。


僧侶「玄関口でもこの美しさですからね。法都に着いたらもっと驚くと思いますよ」

勇者「そっか、僧侶は法国に来たことがあるんだったね」

僧侶「ええ。聖職者として訪れないわけにはいかないと思いまして」

僧侶「あの時は恐れ多くも法王猊下と謁見する機会も設けていただいて……」

勇者「へえ、法王様と……」



船から荷を下ろし終わった勇者達の前に一人の青年が現れた。


本教会の案内人「勇者様とそのお仲間の皆さんですね」

本教会の案内人「わたくしは法都の本教会から案内役として遣わされた者です」

紅眼のエルフ「あら、随分と用意が良いのね。私達の時みたいに国の中で何らかの兆候があったのかしら」

本教会の案内人「わたくしは末端の人間ですから知る限りですが、貴方がたのような“選ばれし者”が法国に現れたという話は聞いておりません」

本教会の案内人「歓迎の準備は勇者様から書簡が到着してから始めさせて頂きました」

暗器使い「手紙? いつの間に出していたんだ?」

勇者「いやあ、自治区での一件が済んだ後すぐにね……僧侶に言われて」

僧侶「今まで行き当たりばったり事前連絡無しに他国に向かっていたのがおかしいのです」

僧侶「ただの旅人とは訳が違うんですからね」

暗器使い「そりゃそうだ」

勇者「あはは……申し訳ない」

本教会の案内人「さて、本来なら法都へ向けて早速出発としたいところですが」

本教会の案内人「皆さん長い船旅でお疲れのはずです。今日はこちらで用意いたしました宿場でゆっくりと身を休めてください」

勇者「た、助かった……」

紅眼のエルフ「ふう、本当に我らが勇者様は……」

暗器使い「まあ言ってやるな」

僧侶「今回ばかりはフォローできませんね……」

勇者「みんな酷いなあ」

本教会の案内人「ふふっ、それでこちらです」






勇者「あー美味しかった!」

僧侶「もう大分体調は良いみたいですね」

勇者「そうだね。地面って素晴らしい……!」

暗器使い「まあ帰りはもう一度船に乗ることになるんだがなな」

勇者「…………転移魔法陣とか使わせてもらえないかな…………」

僧侶「いくら勇者様でも無理です」

紅眼のエルフ「次は酔い止めの薬草をあらかじめ渡しておくわね」

紅眼のエルフ「ああいうのは酔ってから使っても効果は薄いから」

勇者「お願いします……」

紅眼のエルフ「さてそろそろ夜も更けてきたしこれを頂こうかしらね。さっき露天で買ってきたのよ」

暗器使い「おお、上等な葡萄酒のようだな」

勇者「あ、僕も欲しい」

僧侶「勇者様は駄目ですよ」

勇者「何で!? 先月でもう二十歳だよ!? とうの昔に飲んでいい年齢を超えているんだけど!」

勇者「僧侶がたまに僕に隠れて飲んでいるのは知っているよ!」

僧侶「そ、それは人付き合い上仕方がなく……」

紅眼のエルフ「まあ良いじゃないの。勇者もこれからその人付き合いってものが増えてくるんでしょうから」

僧侶「ぐ……それは、そうですが……」

暗器使い「流石に酒場で持ち込みの酒は開けにくい。部屋に戻って二次会といこうか」

紅眼のエルフ「男性陣の部屋でいいかしら」

勇者「どうぞどうぞ」

暗器使い「つまみに干し肉と豆でも買ってくる」

紅眼のエルフ「良いわね、お願いするわ」

僧侶「あーもう! 明日から法都へ向かうんですよ!」

紅眼のエルフ「だからこそじゃない」

紅眼のエルフ「貴女もさっき酒瓶を見た時に喉を鳴らしていたじゃない」

僧侶「えっ、見られて……!?」

紅眼のエルフ「あら、嘘だったのだけれど……」

僧侶「なっ……!」

勇者「僧侶、諦めよう」

僧侶「うるさいです!」






僧侶「ふう~……美味しい~……」

僧侶「おかわり~」

勇者「そろそろ止めにしたら?」

僧侶「えーまだ飲みますう」

勇者「はいはいまずは水飲んで」

僧侶「えー」

暗器使い「真っ先に駄目になったな」

紅眼のエルフ「可愛らしくていいじゃない」

勇者「ほら風邪ひくからこれ羽織って」

僧侶「ありがとー」

紅眼のエルフ「本当に仲がいいのね」

勇者「小さい頃からの付き合いだからね」

勇者「それぞれの修行のために離れていた時期もあったけれど、基本的にはずっと一緒だったかな」

紅眼のエルフ「なるほど……」

紅眼のエルフ「ちなみに僧侶と勇者はお互いのことをどう思っているのかしら?」

暗器使い(グイグイと突っ込むなこの女……)


僧侶「生意気な弟です」

勇者「手のかかる妹、かな」


僧侶「ん?」

勇者「えっ?」

僧侶「いやいや、勇者様より私のほうが歳上ですよね!?」

勇者「歳は関係ないよ。実際こうやって介抱されているのは僧侶でしょ?」

僧侶「ふ、普段どれだけ私が勇者様の尻ぬぐいをしているか分かっているんですか……!?」

僧侶「書類まとめや報告に関することは最たるものです……! 最近では書簡のこともそうですよね!?」

勇者「そ、それは確かにそうだけど……僧侶は仕事以外ではだらだらしちゃって家事なんかも疎かだから、僕が何度家政夫をしに行ったか……!」

僧侶「そんな昔のことを……!」

勇者「いやいや、勝手に昔話にしないでよ!」


勇者と僧侶の実のない話は結局僧侶が眠りに落ちるまで続いた。

勇者は僧侶を寝かしつけにもう一室へと彼女を担いで行った。



暗器使い「何と言うか……」

紅眼のエルフ「ふふっ、どちらも子供ね」

紅眼のエルフ「期待していたような間柄では無いようだけど」

暗器使い「おいおい楽しむなよ」

紅眼のエルフ「そんなつもりではないわ」

暗器使い「思いっきり『期待していた』って言っただろう……」

暗器使い(こいつも中々の奴だなまったく……)

紅眼のエルフ「本当に姉弟……家族のようなものなんでしょうね、あの二人は」

暗器使い「家族か……まあそうなんだろうな」

紅眼のエルフ「…………?」

暗器使い「俺たちもそろそろ寝よう。明日は早いらしいからな」

紅眼のエルフ「一緒に寝る?」

暗器使い「……馬鹿を言うな。向こうに帰れ」

紅眼のエルフ「あらら、連れないわね」

紅眼のエルフ「それじゃまた明日」

暗器使い「ああ」

暗器使い(はあ……本当に苦手なタイプだ……)






僧侶「……おはようございます……」

紅眼のエルフ「おはよう。よく寝られたかしら?」

僧侶「お陰様で……」

僧侶「あの、時間は今どれ位でしょうか?」

紅眼のエルフ「まだ八時にはなっていないぐらいだったわ。丁度良い時間に起きたわね」

僧侶「寝坊しなくて良かったです。朝食の前に荷物を纏めておきましょうか」

紅眼のエルフ「うん、そうしましょうか」


二人が自分の荷に手を掛けた所でドアを勢い良く叩く音がした。


勇者「二人共起きてる!?」

僧侶「勇者様? どうかしたのですか?」

勇者「いま教会からの使者を通じて緊急の連絡が!」

紅眼のエルフ「……一体何が?」

勇者「魔王軍だ……!」

僧侶「えっ……」

勇者「昨晩魔王軍が各地で一斉に蜂起したって……!」






暗器使い「……つまり新生魔王軍が大陸各地でダンジョンを出現させ、宣戦布告をしたと」

勇者「うん、ただ変だなって思うことがあって」

勇者「ダンジョンってのは自然発生と人口生成のどちらでも関係なく、非常に長い時間を要するもののはずなんだ」

勇者「それなのに今回は大都市の中央に発生したダンジョンもあるみたいなんだ」

僧侶「何十年も誰にも気が付かれずにそんな準備が出来るなんてちょっと信じられませんね」

紅眼のエルフ「存外に彼らへの協力者が多くいるって事じゃ無いかしらね」

僧侶「考えたくはありませんが……そうなのかもしれません……」

暗器使い「一つ一つの種族で見れば人間が一番多いが、人外全体を一つと見ればその数は人間の人口に匹敵するとも言われているからな」

紅眼のエルフ「それで、私たちはどう動けば良いのかしら」

暗器使い「法国でも数カ所の離島にダンジョンが出現したらしいが、そこに向かえば良いんじゃないか?」


本教会の案内人「いえ、その事なのですが……」


勇者「何か問題が?」

本教会の案内人「本教会からの指示で皆さんには予定通り法都に向かって頂くことになりました」

僧侶「なっ……」

本教会の案内人「皆さんは今の不安定な世のための光なんです」

本教会の案内人「まだ詳細の分かっていない敵陣へと赴いて万が一の事があっては困る……というのが本教会の意向だと思われます」

勇者「脅威に立ち向かう事が勇者の義務だと僕は思う」

勇者「それじゃあ僕達はただのハリボテじゃないか……」

本教会の案内人「……申し訳ございません。法国では本教会の指示に従って頂けると」

本教会の案内人「本教会は各国教会の総本山であり、聖騎士団の本拠地でもあります」

本教会の案内人「法国は軍隊を持たない代わりにそれに劣らない聖騎士団が駐留しています」

本教会の案内人「早速その一隊がダンジョンへと出発したとの報告が有りました。今はそちらに任せて頂けると」

暗器使い「それで大方制圧が終わったら俺達が敵の大将首を持ち帰って晒してやればいいと」

暗器使い「ハリボテとはよく言ったものだな」

本教会の案内人「…………」

紅眼のエルフ「まあここで何を言っても変わらないわ」

紅眼のエルフ「大人しく法都へと向かうとしましょう」

勇者「……うーん、なんかなあ……」

僧侶「勇者様……」

本教会の案内人「……こんな状況ですから当然普通の船は海へは出られません」

勇者「へ?」

本教会の案内人「私の知り合いの船も港に留まっているようです」

本教会の案内人「しかし彼も熱い男ですからね……“私がふと目を話した隙に港へ向かった勇者様一行の事情を知れば”帆を張って海へと繰り出すでしょうね」

僧侶「それって……」

本教会の案内人「行くなら急いで下さい。直に他の者も来てしまいます」

勇者「ありがとう……!」

本教会の案内人「ふう……始末書で済めば良いのですが」

暗器使い「済まない。戻ってきたら勇者に全力で口添えさせる」

本教会の案内人「そうして頂けると……」

本教会の案内人「さあ行くならば今の内です」

予定通り法国編です。
更新間隔が空いてきましたが、前の通り絶対に投げ出しはしないのでどうかお待ち下さい。






法国の熱い船乗り「ああ? お前らあのヤローの知り合いか?」

勇者「そうなんだ、実はこういった事情で……」


勇者は事情を説明した。


法国の熱い船乗り「……なるほど分かった」

法国の熱い船乗り「こんな状況で海に出るなんざ正気じゃねえが、そういう事なら地獄の果まで付き合ってやるぜ!」

僧侶「ほ、本当ですか……!?」

法国の熱い船乗り「おうよ! 今から準備を始めるからちょっと待ってな」

法国の熱い船乗り「誰かに姿を見られたくないってんなら先に船の中で待っていて構わねえぜ」

紅眼のエルフ「結局普通にはいかないのがこの子達なのね」

暗器使い「普通ではないが、上手く行かない訳では無いのがこいつらの面白い所だ」

紅眼のエルフ「なるほどねえ……」





──法国本島から東の洋上


勇者「…………」

僧侶「……大丈夫ですか?」

勇者「今回はあらかじめ酔い止めを飲んだから多少は……」

法国の熱い船乗り「何だボウズ、酔いやすいのか?」

勇者「恥ずかしながら……」

法国の熱い船乗り「ったく根性がねえな。そんなんじゃ一人前の船乗りにはなれねえぞ」

勇者「ええ……僕っていつの間に船乗り志望になったの……?」

法国の熱い船乗り「しっかし先発のヤローどもに見つからないようにコソコソと進んでいたら思ったより日数がかかっちまったな」

法国の熱い船乗り「前が詰まってちゃ小型船ならではの機動性が活かせねえや」

紅眼のエルフ「上陸地点もずらした方が良いでしょうしね」

暗器使い「まあ俺達が向かうべき状況なのかも分かっていないんだ。今は焦る必要も無いだろう」

暗器使い「それにしてもダンジョンか……久しいな」

勇者「暗器使いもダンジョンに行った事が?」

暗器使い「その言い方だと勇者もあるみたいだな」

勇者「僕は修行の一環で父さん達と昔ね」

暗器使い「なるほどな……俺は領内のダンジョンの調査に携わったことあってな」

勇者「暗器使いの本職とはかけ離れた仕事みたいだけど?」

暗器使い「それは今もそうだろう」

勇者「まあね」

僧侶「恥ずかしながら私は一度も……」

紅眼のエルフ「それこそ本職とはかけ離れているじゃない。気にしなくていいのよ」

僧侶「そう言って頂けると……」

僧侶「ですが今からダンジョンへ向かうわけですからある程度の知識は備えておきたくて……何か注意するべきことなどは有りますか?」

勇者「じゃあダンジョンに関しての簡単な説明をするね」

勇者「ダンジョンまたは迷宮っていうのは強力な力の持ち主や自然的な力の吹き溜まりによって生成される結界の一種なんだ」

勇者「ダンジョンが生成されるとその内部では生成者……つまりダンジョンの主とその配下の力が底上げされるんだ」

勇者「内部に居ても主の配下ではない者……つまり僕達攻略者はその恩恵を受けられないから非常に不利なんだよね」

勇者「ダンジョンを消滅させるには主が術を解除するか、主が死ぬしかない」

僧侶「つまり今回のような状況では恐らく……」

暗器使い「向こうが術を解いてくれるなんてことは無いだろうから、主を倒すしか方法はないだろうな」

紅眼のエルフ「それは随分と骨が折れそうね」

紅眼のエルフ「ダンジョンを出現させるだけの力の持ち主の中でも、彼らにとっての敵の本陣目の前を任された奴が主ってことでしょう?」

暗器使い「ああ、並大抵の相手ではないはずだ」

勇者「聖騎士団も当然その事は分かっての人選のはずだから大丈夫だとは思うけど……」

勇者「それでもかなりの激戦になるだろうね」

僧侶「そんな中で私達は一体何をすれば……」

勇者「少人数の機動性を活かして索敵や情報収集をしようと思うんだ」

僧侶「しかし情報を集めた所でそれをどうやって騎士団に伝えれば? 私達は法国本島に居ることになっているんですよ?」

勇者「いやあ、それはもう普通に伝えに行けば良いんじゃないかな」

僧侶「えっ」

勇者「着いちゃったものは仕方が無いという事で」

僧侶「はあ……要するに無策という事ですね……」

紅眼のエルフ「まあ勇者の言う通り来てしまったものは仕方が無いでしょう」

紅眼のエルフ「割り切ってもらうとしましょう」

暗器使い「僧侶、諦めろ。俺よりも付き合いの長いお前なら勇者の事もよく分かっているだろう?」

僧侶「ええそれは勿論……」



その時、船乗りが遠方を睨んで銛を構えた。


法国の熱い船乗り「おう! 話している所悪いんだが揺れに備えてくれ!」

勇者「どうしたの?」

法国の熱い船乗り「ダンジョンとやらに行く前にウォーミングアップができそうだぞ」

法国の熱い船乗り「あの魚影は恐らく……ウロコザメだ!」


船乗りの目線の先に鮫というにはあまりに大きな魚影が近づいて来るのが見えた。


暗器使い「俺に任せろ」


暗器使いはそう言うとどこからともなくライフル銃を取り出した。


法国の熱い船乗り「お前一体どこからそれを……?」

紅眼のエルフ「ふうん……そういう力なのね」

法国の熱い船乗り「力……? そうやってどこからか武器を取り出すのが兄ちゃんの能力だっていうのか?」

法国の熱い船乗り「そいつはすげえがしかし……」

暗器使い(この距離なら当たる……)


暗器使いが引き金を引き、弾がウロコザメに向けて撃ち出された。

しかし銃弾はウロコザメの体を貫くことはなく甲高い金属音とともに弾かれてしまった。


暗器使い「硬い……!」

法国の熱い船乗り「ウロコザメは全身が金属みたいな鱗で覆われている」

法国の熱い船乗り「少なくとも頭側から攻撃しても弾かれるだけだぜ」

勇者「で、でも鮫はこっちに向かってくるわけだから……」

法国の熱い船乗り「おうよ。だからこうするんだ」

法国の熱い船乗り「まず一発目を避けるぞ!どこでもいいから捕まっておけ!」


船乗りはそう叫ぶと向かってくるウロコザメを避けるように思い切り舵を切った。


僧侶「きゃっ!」

勇者「うわわっ!」

法国の熱い船乗り「へっ! 落ちんなよ!」

法国の熱い船乗り「そんで……こうすんだよ!」


船乗りの手にしていいた銛が突如青白い稲妻を纏い出し、それが船を飛び越えて着水したウロコザメへ向かって投擲された。


勇者「す、凄い……!」

法国の熱い船乗り「護衛もなしにこの辺りで船乗りやるにはこれぐらい出来なくちゃなあ!」

法国の熱い船乗り「だが……ちっ、浅かったな……!」

暗器使い「もう一度来るぞ……!」

法国の熱い船乗り「しょうがねえ、もう一回やるか……」

紅眼のエルフ「いえ、その必要はないわ」

紅眼のエルフ「念の為と思ってこれを持ち込んでおいて良かったわ」

法国の熱い船乗り「それは船に積み込んだ苗木の枝で作った矢か……?」

法国の熱い船乗り「そんなもんで何をしようって……」

紅眼のエルフ「まあ見ていてちょうだい」

法国の熱い船乗り「何をするつもりかしらねえが任せていいんだな? 来るぞ……!」

紅眼のエルフ「……!」


紅眼のエルフが放った矢は生木特有のしなりのせいか、安定感のない軌道で飛んでいった。

しかし彼女が二、三言何かを唱えるとウロコザメの目の方向へと鏃が行き先を変えた。


勇者「あ、当たった……!」

法国の熱い船乗り「な、なんちゅう矢の軌道だ……!」

暗器使い「これが噂に聞く森の民の風を操る力か……」

僧侶「で、でも片目を潰されてもまだ鮫は怯んでいませんよ……! こちらへ向かってきます!」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私達が使役しているのは風だけじゃないわ」


再び彼女が何かを唱えると、ウロコザメの頭部から無数の枝が飛び出し爆ぜた。


紅眼のエルフ「生木の矢を使えばこんな芸当も出来るのよ」

暗記使い「ほう……」

勇者「え、えげつない……」

法国の熱い船乗り「ほーう、この状況下であの島に向かうって言うだけはあるな」

僧侶「元から戦闘要員ではない私は勿論ですが、こういう場所だと勇者様も見ているだけしか出来ませんね……」

勇者「そうだね……エルフさんが仲間になっていてよかった」

法国の熱い船乗り「さあて気を取り直して再出発としようか」






法国の熱い船乗り「よし、この辺なら騎士団の船にも見つからないだろう」

法国の熱い船乗り「しかし本当にいいんだな……?」

勇者「うん。どうせダンジョンの中では会わなくちゃいけないんだから、帰りは騎士団のお世話になるよ」

法国の熱い船乗り「お前さんがそう言うなら良いんだろうけどな……」

法国の熱い船乗り「まあ頑張れや。俺はこの辺で退散させてもらうぜ」

僧侶「本当にお世話になりました」

暗器使い「帰りも気をつけてくれ」

法国の熱い船乗り「おうよ。じゃあな」


船が無事に沖へ進んでいくのを見送った一行は、装備を再確認して島の奥地へと探索を開始した。

勇者「そういえばこの島には元々何かあるのかな?」

僧侶「伝統のある寺院があると聞いています。かつては神官らの修業の場としても使われていたとか」

僧侶「近年は老朽化かが進んでいるので保護のために実用は控えられていたようですが」

勇者「じゃあダンジョンの中心はその寺院の可能性が高いね」

暗器使い「教会の伝統的な施設にダンジョンが現れた、か……」

勇者「どうしたの?」

暗器使い「いや、先日の報告を詳しく聞いた所だと、他国では大きな教会自体がダンジョン化に巻き込まれた所もあるらしいな?」

紅眼のエルフ「ええ、そうみたいね」

暗器使い「これは力の誇示……教会勢力への強い敵対意思を示すためのものであることは間違いないだろう」

暗器使い「だがそれだけではない筈だ」

暗器使い「アピールにしたって目立ちすぎだ。何も各地でこれ程大規模にやる必要があるだろうか」

僧侶「何か別の狙いがあると?」

暗器使い「ああ、これはもしかすると陽動なのかもしれない」

暗器使い「新生魔王軍はこの後に別の……つまりは本命を成すつもりなのではと俺は思っている」

暗器使い「あくまで推測だがな……」

紅眼のエルフ「…………」

僧侶「で、でしたら……」

暗器使い「だが俺たちのやることは変わらない」

暗器使い「これ程の規模の事を陽動に使えるような敵だとすれば、俺たち四人にできることなんざ知れている」

勇者「確かに……」

暗器使い「教会も馬鹿ではない。気付いてはいるはずだ……」

紅眼のエルフ「そういう事なら早速奥へと行きましょうか」

紅眼のエルフ「身軽なのが今の私達の取り柄なんでしょう?」

勇者「そうだね、行こうか」

お気づきだとは思いますが、ちょうど前作の《ダンジョン》編と同じ時間の話となっています。






僧侶「だいぶ奥地まで来ましたが……もしかしてあれが」

勇者「うん、ダンジョンの始まりだね。あそこを通過したら制圧するまで戻ってこれないよ」

暗器使い「最低限のものは持ってきているが、長期化しそうならば先発の騎士団の世話になることも視野に入れておいたほうが良いだろう」

勇者「よーし、気をつけて進もうね」


一行は周囲に警戒しながらダンジョンへ踏み込んだ。


僧侶「あ、あれ……? さっきまでこんなに建物や洞窟が有りましったけ?」

紅眼のエルフ「ダンジョン結界内は地形や構造物すらも複雑に変化して文字通り迷宮と化すのよね」

暗器使い「ああ、元の地理の知識は何の役にも立たない。精々中心部がどの方角かが分かる程度だ」

暗器使い「先頭は俺に任せろ。エルフは後方の警戒、勇者は僧侶の護衛を頼む」

紅眼のエルフ「わかったわ」

勇者「了解」


暗器使いを先頭にしばらく進んでいくと前方から飛び出してくる影あった。


暗器使い「早速お出ましか……」

勇者「デカい方は任せて! 暗器使いはゴブリンの群れをお願い!」

暗器使い「ああ」

サイクロプスA「オオオオオオッ……!」

勇者(要領はオーガを相手にした時と同じでいいはず……!)


勇者は振り下ろされた棍棒を身を翻して避けると、サイクロプスの懐に飛び込んで剣を突き立てた。


勇者「次っ……!」

暗器使い(相変わらず危うい闘い方だ……だが……)

暗器使い(まあいい。俺は俺の相手に集中をせねば)

暗器使い(武装したゴブリンが六体……取るに足らない相手ではあるが手は抜かない)

暗器使い(失敗とはすなわち死だと教えられて来たからな)

暗器使い(銃……は流れ弾が勇者に当たる可能性がある)

暗器使い(ならば……)

ゴブリンA「キキッ、突っ立ってんじゃねえぞ人間! ……あばっ!?」

ゴブリンB「な……んだ……これは」

暗器使い「鋼の糸だ。連邦国の技術力を以ってすればこれ程の強度の物も作れる」

ゴブリンC「や……め……」

暗器使い「…………」


暗器使いが手を引くとゴブリン達は賽の目状に崩れ落ちた。

ふと勇者の方に目をやると彼はサイクロプスらに囲まれていた。


暗器使い(あの馬鹿……突っ込み過ぎだと何度言えば……!)

暗器使い「この一体は俺に任せろ! お前は自分の前の二体をどうにかしろ!」

勇者「う、うん……!」

サイクロプスB「ゲヘヘ……その細腕で俺を相手しようってか?」

暗器使い「……こうすれば筋肉は関係ない」


そう言った暗器使いの手の中にどこからか巨大なハルバードが現れた。


サイクロプスB「なっ……! 一体どこから……!?」

暗器使い「さあな。とにかく俺は重力に従って振り下ろすだけだ」

サイクロプスB「がっ……!?」


サイクロプスはハルバードで頭から両断されてしまった。

その光景に怯んだ隙に勇者も他の二体を斬り伏せた。


紅眼のエルフ「……ふうん……」

僧侶「軽いけがのようですが直ぐに治しますね」

勇者「うんお願い」

勇者「いやあ助太刀ありがとう」

暗器使い「お前はいい加減その後先を考えない闘い方を止めろ」

暗器使い「少しは恐怖心というものがないのか」

勇者「恐怖心かあ……うーん、どうだろう」

勇者「そういえば最近特に感じなくなってきたような……」

暗器使い「戦いに慣れてきたということか? いずれにしても良いことではない」

勇者「わかった気をつけるよ」

暗器使い(もしくはあの剣の作用なのか……? いや、あまり憶測で物を言うのは良くないか……)

暗器使い「まあ良い……この先も多くの戦いが予想されるから体力の配分は気をつけていくぞ」

勇者「……待って、これは……」

暗記使い「何だ……? 封印か何かか……?」

僧侶「専門ではないので確実なことは言えませんが、おそらくこれだけでは完全なものではないです」

僧侶「このダンジョンの各地に外の封印の陣があるかもしれません」

勇者「その全部を何とかすれば良いってことか」

僧侶「そうですね。それらの位置を把握して騎士団に伝えるのが良いと思います」




それからしばらく、勇者達が二つ目の封印の陣を発見し、その後現れたゴブリンらを制圧した時だった。


勇者「……! まだ何か来るよ……!」

暗器使い「何……?」


勇者達の目の前には先程と同じようにゴブリンなどの群れが姿を表した訳ではなかった。

そこには異様な気配を放つ謎の黒い甲冑の騎士が立っていた。


僧侶「黒い……騎士……?」

紅眼のエルフ「…………」

暗器使い「勇者……」

勇者「うん、わかってる」

勇者「“あいつはヤバすぎる”……!」

暗器使い「ああ……素での実力は分からないがこのダンジョンにおいては恐らく……」

勇者「間違いなくSランクだね……」

僧侶「そんなっ……!」

勇者(恐らくこの騎士がこのダンジョンの主だ……こんな所に出てくるなんて想定外すぎるよ……!)

勇者(もう少し僕たちだけで偵察する予定だったけど、これじゃそうも行かないね……)

黒い騎士「……勇者とその仲間だな?」


騎士は甲冑のせいか若干くぐもった声でそう問いかけてきた。


勇者「……そうだよ。僕が勇者だ」

黒い騎士「自分は新生魔王軍の四天王が一人である」

暗器使い「四天王……!」

黒い騎士「我らが覇道の妨げとなる貴様らにはここで消えてもらう」

黒い騎士「いざ参る……!」

勇者「来るっ……!」

暗器使い「馬鹿野郎! 正面からやり合おうとするな!!」

勇者「ぐっ…………あっ…………!?」


黒い騎士の剣を自身の剣で受けた勇者はそのまま後ろへと吹き飛ばされてしまった。


勇者「がはっ……!」

僧侶「なっ……!」

勇者(なんて……力だ……)

黒い騎士「こんなものか、勇者よ……」

勇者「ま、まだだ……!」

黒い騎士「甘い……!」


勇者の刺突を躱した騎士はその突き出された腕に剣を突き立てた。


勇者「っ……! ぐああああああああっ!!」

暗器使い「ちっ……! 俺が時間を稼ぐ!」

黒い騎士「貴様もつまらないな。正当な剣の道を修めていないのが分かる」

暗器使い「正面からの立ち合いでは大した事がないのは自覚している……!」

黒い騎士(逆手にナイフ……いつの間に……)

黒い騎士「ほう……だがそれも通用はしない」

暗器使いの投げたナイフは全て叩き落されてしまった。


黒い騎士「なるほど邪道の武というのも中々面白いが、まだまだ未熟なようだな」

暗器使い(まずいな……俺では相手になっていない)

勇者「一人一人じゃ駄目だ。連携していこう……」

黒い騎士「何……? 貴様もう傷が……」

黒い騎士「……なるほど、後ろの女の術か。貴様がかの僧侶の末裔だな」

僧侶「私が居る限り誰一人死なせはしません……!」

黒い騎士「……ふん……」

黒い騎士「如何に優れた白魔法使いでも死者を蘇らせることは出来ない。それは貴様らの領域では無い」

黒い騎士「ならば治す前にその生命を奪えば良い」

勇者「……!」

暗器使い(ヤバイな……どうにか逃げる手立てを考えなければ……)

暗器使い(自分一人で逃げるならば容易いだろう。以前ならばそれでも良かった。だが……)


勇者『──勿体無いって思っちゃったんだ。こんなに凄い人が一つの国に篭りっきりなんて』


暗器使い(こいつらを見捨てて逃げることは、出来ない……!)

紅眼のエルフ「……ふう、仕方がないわね」


紅眼のエルフが少し面倒くさそうに呪文を唱えると、勇者、僧侶、暗器使いの三人との間に太いツタが絡み合った巨大な壁が現れた。


黒い騎士「ほう、これが森の民の力か……」

紅眼のエルフ「ま、勇者のパーティーに選ばれるんだからこれぐらいは出来るわ」

勇者「エルフさん!? これは一体……!」

紅眼のエルフ「こういう鬱蒼とした場所を逃げ回るのは得意なのよ」

暗器使い「駄目だ危険すぎる」

紅眼のエルフ「あら心配してくれるの? ちょっと意外ね」

紅眼のエルフ「でも今は他に方法がないわ。精々私のために騎士団の本隊でも探して来てちょうだい」

僧侶「で、でも……!」

暗器使い「……分かった。すぐ戻る」

僧侶「暗器使いさん!?」

暗器使い「他に手立ては無い。今は彼女を信じよう」

勇者「……エルフさん! 絶対無理だけはしないでね!」

紅眼のエルフ「分かったから早く行きなさい」

黒い騎士「みすみす見逃すとでも?」

紅眼のエルフ「あら。これは正面からの闘いとは違うのよ」

紅眼のエルフ「そういうの、貴方は得意なのかしら?」

黒い騎士「…………」






勇者「ふう……ふう……」

勇者「何とか……逃げ切れたかな……」

僧侶「でも……エルフさんが……」

勇者「わかってる……だから早く聖騎士団の本隊を探さなくちゃ」

暗器使い「……案外それは早く見つかるかもしれないな」

僧侶「え?」

暗器使い「見ろ、靴の跡だ。大きさや歩幅も人間のものと見て間違いないだろう」

暗器使い「比較的新しい物だから今さっき近くを通過したのかもしれない」

僧侶「本当ですか……!」

暗器使い「ああ、急ぐとしよう」

勇者「…………」

暗器使い「どうした?」

勇者「いや、やっぱり良くなかったかなって」

暗器使い「独断でこの島に来たことか?」

勇者「うん……」

暗器使い「最終的に全員自分の意志でここに来ている。良いか悪いかは別として、お前一人の責任というわけではないだろう」

僧侶「暗器使いさん……」

勇者「……ありがとう」


それからしばらく探索を続けている内に勇者達は聖騎士団の野営地にたどり着いた。



第五団聖騎士A「止まれ! 何者だ!」

勇者「僕は勇者。後ろの二人は紋章に選ばれた僕の仲間達だ!」

第五団聖騎士A「勇者だと? 勇者は法都の法王猊下に謁見をしているはずだ」

暗器使い「この島のダンジョンのことを聞きつけて居ても立ってもいられ無くなったみたいでな」

暗器使い「まあ勇者の性というものだろう」

第五団聖騎士A「貴様らが本物の勇者一行であるという証拠はない。ここを通すわけにはいかない」

暗器使い(まあ当然の反応か)

僧侶(ど、どうしたら信じて貰えるんでしょうか……)

???「大丈夫だ。彼らを通したまえ」


勇者達の行く手を塞いでいた聖騎士達の後ろから大柄な中年の男が現れた。



第五団聖騎士A「し、しかし団長……」

???→第五聖騎士団長「大丈夫だと言っている。彼らは本物だ」

第五団聖騎士A「は、はっ……!」

第五聖騎士団長「失礼。お初お目にかかるな勇者殿」

第五聖騎士団長「私は第五聖騎士団の団長を務めさせてもらっている者だ」

勇者「初めまして。勇者一族の当代当主を務めさせて頂いています」

暗器使い「北方連邦国の民選議会から来ました。当パーティーのアサシンの紋章持ちとして選ばれました」

僧侶「お、お久しぶりです叔父様……」

勇者「えっ」

勇者(僧侶の叔父さん……!?)

第五聖騎士団長「ああ。大きくなったな」

第五聖騎士団長「実の弟の葬儀にも顔を出せない不甲斐ない男ですまない……」

僧侶「そんな事は……! この情勢では多忙を極めておられる筈です……わざわざ王国まで出向いて頂くわけにはいきませんでした」

第五聖騎士団長「あいつに家のことを任せて数十年……ついに兄らしいことは一度もしてやれなかった」

僧侶「……そのように深く想っていただくだけでも天の父上は喜んでいると思います」

第五聖騎士団長「……そうか」

勇者「僧侶のお父さんにご兄弟がいらしたなんて話、初めて聞いた……」

僧侶「叔父様は若い頃に出家をなさっていたので、私も修行の一環で法国に訪れた際に初めてお会いしましたから」

第五聖騎士団長「家を継ぐには私の癒やしの力はあまりに微弱であったのでな。才に恵まれた弟に家督は譲ったのだ」

勇者「そうだったのですか……お会いしたことが無いはずです」

暗器使い「第五聖騎士団長……噂に聞く剣豪か」

暗器使い「純粋な剣の腕のみを頼りにたゆまぬ努力で団長の座まで上り詰めたという」

第五聖騎士団長「弟に比べて体だけは丈夫だったからな」

第五聖騎士団長「自分にはこれ以外無いという心構えで研鑽してきた」

勇者(剣の腕……僕もこの剣を受け継ぐ前から鍛錬はしてきたけど、それでもまだまだ足りていない事は分かっているんだ)

勇者(僕は恵まれた体格じゃない。より一層の努力をしないと強大な敵には歯が立たなくなってしまう……)

第五聖騎士団長「…………」

第五聖騎士団長「焦りは禁物。着実に丁寧に進んでいくことが大切だ」

勇者「えっ……は、はいっ……!」

第五聖騎士団長「さて、弓使いの紋章持ちが新たに仲間に加わったと聞いていたが……」

勇者「はい、その件でこの野営地に来ました」


勇者は先ほどの出来事を説明した。


第五聖騎士団長「謎の黒い騎士か……」

第五聖騎士団長「それがこのダンジョンの主である可能性が高いと」

暗器使い「感じる力は凄まじいものでした。自分はそうだと見ています」

第五聖騎士団長「なるほど……黒い騎士の件は了解した」

第五聖騎士団長「だがエルフの弓使い事は我々は関与しない。それはお前達の独断が招いた結果だ」

僧侶「そ、それは……」

勇者「たしかに命令に従わずにここへ来た僕達の落ち度です」

勇者「でもエルフさんは僕達の大切な仲間なんです。捜索のための人員を割いてくれとはいいません」

勇者「でも何か痕跡が見つかったりした場合は僕達に報告をしてはいただけないでしょうか」

第五聖騎士団長「厳しい言い方をさせてもらうが、お前達は一体この島に何をしに来たのか」

第五聖騎士団長「大切な仲間が一人行方不明になっただけでそれ以外は何もしていない。遊び半分で来ているならば解決までこの野営地にいてもらおうか」

僧侶「叔父様……」

第五聖騎士団長「大切な姪だとは言えここは譲れない。我々の歩む道には沢山の命がかかっているのだから」

勇者「……遊び半分ではありません」

勇者「確かにろくな計画もなしに来て、結果はこの様ですが……」

勇者「僕達も見据えている方向は同じなんです。役に立ちたいんです」

第五聖騎士団長「……その言葉は嘘ではないのだろう」

第五聖騎士団長「だが、結果が伴わなければそれは口先だけのものと変わらない。そうは思わないか」


勇者「しかし……」

第五聖騎士団長「エルフの娘の捜索よりも今我々が優先してしべきことがあるのだ」

僧侶「それは一体……」

第五聖騎士団長「ダンジョンの最深への道を発見することだ」

第五聖騎士団長「どうやらこのダンジョンは見かけ以上に複雑な作りをしているらしい」

第五聖騎士団長「進めども同じ場所へ戻されることも多い」

暗器使い「……先程から口を挟むような間を逃しておりましたのですが、ここで良いでしょうか」

第五聖騎士団長「何かあるのか」

暗器使い「我々はこの島に来て何もしていなかったわけではありません」

暗記使い「まずは先へ進む道を封じているであろう魔法陣を二つほど発見いたしました」

暗記使い「他のものと合わせて解除すれば更に奥へと進めるはずです」

第五聖騎士団長「ほう……」

暗記使い「それと、こちらを御覧ください」

第五聖騎士団長「これは……方位磁針か?」

暗器使い「形は方位磁針ですがれっきとした魔法道具です」

暗器使い「この道具は一度接触した対象の方向を指し示すことが出来るものです」

暗器使い「先程の黒い騎士との戦闘で細工をしておきました。奴がダンジョンの主だとすればその行き先を把握できるということは非常に大きな成果では」

第五聖騎士団長「…………ふむ」

第五聖騎士団長「ならば良い!」

第五聖騎士団長「成果があるならば宜しい! 征くぞ、全隊準備に取り掛かれ!!」

第五団聖騎士A「はっ……!!」

勇者「いつの間に……」

暗器使い「何の考えもなしに着いてきたわけじゃない」

勇者「暗に僕が考えなしって言ってるよね」

暗器使い「事実だろう」

勇者「事実です……」

暗器使い「しかし俺達がついて行って何か役に立つのか」

暗器使い「正面切っての立ち合いはお前の方が俺よりも上手のはずだが……手も足も出ていなかったしな」

勇者「うん……この状態の僕ではとても敵わない相手だった」

暗器使い「お前も何か隠しダネがあるのか?」

勇者「確証はないけどね」

勇者「ただ少し怖いんだ」

暗器使い「……?」

勇者「これ以上進んだらもう戻れないような、そんな気がするんだ」

次で《始動》編は終わると思います。

復旧していたんですね……!
週末辺りからぼちぼち再開します。

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