「それでは、勇者の面接を始めます」 (84)

行政官「それでは、面接を始めたいと思います。えーっと、その前に一点だけ」

行政官「どうして3人でいらっしゃったんですか?」

若い男「ほら言われた」

戦士「いや、しかしだなあ」

魔法使い「心配だし・・・」

行政官「お答えいただけますか?」

若い男「すみません。彼らは、志同じく共に魔王を打倒すと約束した俺の仲間達です」

大司教「仲間たち?」

若い男「ええ。体の大きい男が戦士。ちっこいのが魔法使いです」

剣聖「この面接を受けるのは、貴様で間違いないのだな?」

若い男「はい」

剣聖「・・・何故、一人で来なかった」

若い男「すみません。俺のことが心配だって言って付いてきちゃったんです」

行政官「ついてきちゃったって」

戦士「こいつが勇者に選ばれるかどうか、この目で結末を確かめにきた」

魔法使い「ごめんなさい、彼は、その・・・なんというか、ちょっと頼りないので・・・心配で」

行政官「ま、まあ、いいでしょう」

行政官「それでは、始めましょうか」


行政官「貴方が新たな勇者たるかどうかを見極める面接を」

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――――――

一組目 若い男と仲間たち

――――――

大司教「あれは、ダメだな。勇者には不適格だ」

行政官「いきなりですね」

大司教「先代勇者はたった一人で、魔王と戦い打倒したのだぞ」

大司教「先ほどの若い男は何だ、仲間だなどと甘っちょろいことを言いおって」

大司教「ピクニック気分で、魔王を討伐できると思っているのではないのか」

行政官「それは、女神正教の大司教としての意見ですか?」

大司教「馬鹿なことを言うな!これは、単なる個人的な意見じゃ」

行政官「なるほど、では記録には残しませんので」

大司教「そうしてくれ。・・・まったく近頃の若い者たちは。勇者を舐めているのか」

剣聖「・・・」

剣聖「・・・いや、大司教。アンタこそ魔王を舐めているんじゃないのか」

大司教「なんだと!?」

行政官「どうどう」

剣聖「・・・アンタも知っているだろう」

剣聖「魔王は復活した」

剣聖「あの勇者との戦いで、確実に致命傷を浴びたはずの男がだ」

大司教「もちろん、知っておるわ。それがどうした」

剣聖「人は失敗を糧に成長する、ならば魔物はどうだ?」

大司教「魔物など・・・人と獣とを同等に比較してどうなるというのだ」

剣聖「獣とて学ぶ、昨日罠にかかった鹿は明日罠を避ける」

剣聖「高位の魔物は、人より優れた知能をもつ。現に魔王はそうであった」

大司教「・・・」

剣聖「死を経験した魔王。ただでさえ厄介な男が、さらに経験を積んだとしたら?」

行政官「魔王は、前回より強くなっていると?」

大司教「なんの根拠もない。ただの推論ではないか」

剣聖「冒険者は常に最悪を想定する。そうしなければ生き残れないからだ」

剣聖「・・・魔王も強くなっている。そう考えて、我々は事に当たるべきだ」

剣聖「なれば、新たな勇者にも更なる力が必要だ」

剣聖「そうだな・・・例えば、常に背中を任せられる仲間とかな」

行政官「一理ありますね」

大司教「・・・ふむ、確かに軽率な発言であったかもしれぬ。すまぬ」

大司教「先代勇者の用いた手段に、新たな勇者が準じる必要はない・・・儂は、先代勇者の成し得た奇跡に目がくらんでいたようじゃな」

剣聖「伝統や慣例に縛られるのは、教会の悪いところだ」

大司教「先ほどのは、儂個人の意見じゃ。教会は関係ないわい・・・」

行政官「剣聖殿は、あの若者を見てどう感じられました?」

行政官「私や大司教様は、戦いに関しては素人ですからね。是非、プロの御意見を承りたいのですが」

剣聖「・・・剣の冴えはなかなかのものだったな」

行政官「ほお」

剣聖「ただし、絶対的な強さを持っているわけではない・・・若いから今後の成長に期待は持てるのだが」

行政官「現時点で言えばどうです?先代勇者と比べて」

剣聖「遥かに劣るな」

行政官「なるほど」

剣聖「一つ二つ死地を繰りぬけることができたなら、あるいは・・・」

剣聖「まあ、勇者として認めて差支えは無いほどの腕前ではあった」

大司教「それって、どれくらいの強さなんじゃ?」

剣聖「・・・やり方次第では前回の魔王から逃げおおせるぐらいはできるやもな」

大司教「・・・それって、すごいのか?」

行政官「さあ?」

剣聖「強さなんて、そう簡単に測れるものではないということだ」

行政官「じゃあまとめると、剣聖殿は勇者として認めて差し支えない。ということでよろしいですか?」

剣聖「そのとおりだ」

大司教「行政官、お主の意見はどうなのだ?」

行政官「私ですか・・・うーん・・・」

行政官「あの若い男には、勇者の印が見当たりませんでしたよね?それが気がかりですね」

剣聖「確かに、あの若者には勇者が持つという鳥型の印はなかったな」

大司教「神託で言われている『勇者の印』か?神託は正直、当てにしてはあかんぞ」

剣聖「・・・大司教のアンタが、それを言うのか」

行政官「神託は私たちが唯一持つ、勇者の身体的特徴を記したものですよ?だいたい、神託を役所に持ち込んだのは教会じゃありませんか」

大司教「神託と言っても、そんな便利なものでは無いからのう」

大司教「神託というものは大抵、いくつかの単語やイメージが降りてくるだけのものじゃ」

大司教「それを、教会の神官共が云々かんぬん言いながら尤もらしい文章に書き起こすからな。誤訳、意訳はあたりまえの世界じゃ」

行政官「えぇ・・・」

大司教「それに、ほら先ほどの若い男じゃが。頬に黒子が三つほど並んでおったろ?」

行政官「確かに、ありましたね」

剣聖「あれを、勇者の印言い張るつもりか・・・」

行政官「ちょっと、無理がありませんか」

大司教「お主らは、夜に空を見上げたことがあるか?」

行政官「そりゃあ、まあ」

大司教「想像してみるがいい、お主らの目には何が映る?」

剣聖「・・・月か」

大司教「残念!」

剣聖「む」

行政官「星?」

大司教「お、惜しいぞ」

剣聖「彗星だ」

大司教「大外れじゃ」

剣聖「むぅ」

大司教「よく思い起こしてみよ、夜空にひしめき合ってる者どもが居ろう」

行政官「星ではなく・・・ひしめき合っている『者』どもですか」

剣聖「宇宙人だな」

行政官「―――星座・・・ですか」

大司教「大正解!」

剣聖「む・・・」

大司教「我らが夜には、数多の神々が。女神正教36柱がおる」

剣聖「・・・?」

大司教「鈍いやつじゃのう、ただの星の羅列ですら神の姿になぞらえられ崇められるほどなのじゃ」

大司教「黒子の並びを、勇者の印に見立てても罰はあたるまいて」

剣聖「お、横暴な・・・」

大司教「ははは、伝統と慣例に習うのが教会じゃ。星座を考え出した、古代の人々に習って何が悪い」

剣聖「・・・ぐぬぬ」

行政官「うーん、まあ言いたいことはわかりました。教会の方から、そのような意見がでるなら是非もないです」

剣聖「では、大司教は彼の者を勇者と認めるということでいいのか?」

大司教「早まるでない」

大司教「儂は反対じゃ」

剣聖「・・・さっきまでの話はなんだったんだ」

大司教「勇者の印など、どうでもいいという話じゃ」

行政官「反対の理由をお聞かせ願えますか?」

大司教「彼らは、決して勇者足り得ぬ」

大司教「なぜならば、彼らは普通過ぎるからじゃ」

行政官「普通じゃ駄目だと?」

大司教「まあ、納得いかんじゃろうな」


大司教「そうじゃのう、儂が勇者に初めて会った時のことを話してやろうか」

――――――

先代勇者が、魔王を討伐し世界を救った褒美として
その功績を国からたたえられ、自治領土と爵位を与えられたのは知っておろう?

しかし、勇者が得たものはそれだけに留まらなかった

それは勇者に取り入ることで、勇者の名誉にあやかろうとする
数多の組織や商会が、こぞって資金援助を申し出た結果
勇者には、小国の国家予算に匹敵するほどの資金が流れ込んだ

そして、勇者に取り入ろうとした有象無象の中には
我が女神正教会も含まれていた

当時、教会は一つの問題を抱えていた
この国の国教である女神正教会は、その根幹を揺るがしかねない事態に陥っていた

それは、勇者の神格化にあった

勇者は、魔王討伐において一つの奇跡を成し得ていた
それは決して魔王を倒したという偉業そのものではない
魔王を倒すことは、いかに難しかろうと、圧倒的な力さえあれば誰もが成し得たことであろうからな
教会が問題視した奇跡とは、魔王を倒すための一つの手段として
彼が、女神からの恩恵の授かっていたことだった

誰もが欲してやまないが、女神正教会の歴史上誰一人として手に入れることができなかったものを
彼は手にしていたのじゃ

勇者の神格化は、魔王討伐後に飛躍的に民衆の間に広まっていった
人々は、女神に祈る時間を削り
勇者を崇め奉るようになっていった

我々は、民衆の教会への信仰心が失われていくことに焦り
一つの判断を誤ってしまった

勇者を教会に取り込むべく
彼を『聖人』に認定し、多額の援助を申し出たのじゃ

教会が、勇者の後ろ盾としての立ち位置をはっきりさせることで
彼の奇跡が、彼自身に拠るものでは無く
女神に、ひいては教会によってなされたと民に再認識させることができると目論んだ


いまとなっては、はっきりと言える
それは、誤りであったと

教会からの強大な支援も加わり、7代遊んで暮らせるほどの資産を得た勇者は、遊蕩に贅を尽くすようになった
王国から得た領地を、雇った執事どもに託してしまい
自身は、明るいうちから酒を飲み
日が落ちれば、日ごと違う女を抱いた

まあ、執事が優秀だったのか領地はうまく収まっていたのだが
そんな自堕落な生活を送る『聖人』を教会は見過ごしておくわけには行かなかった

そういうわけで。当時、異端審問官であった儂は勇者の下に派遣されたというわけじゃ
勘違いするでないぞ、勇者を『異端者』扱いにするために送られたわけではない
『聖人』に認定した勇者を、『異端者』と認めてしまえば
それ自体が、教会の正当性を失いかねないからな

要は、私は勇者に灸を据えにいったのじゃ
異端審問官である私を送ることで、教会の援助を打ち切るばかりか
最悪『異端者』として処断してしまうぞと脅しじゃな

――――――

――――――

「勇者殿、いったい何を考えられているのですか!?教会は、貴方に堕落の味を覚えさせるために援助を申し出たのではありませんぞ!」

勇者「そう、ぎゃあぎゃあわめかないでくださいよ」

勇者「昨晩ちょっと張り切りすぎちゃって、貴方の声は頭にぐわんぐわん響くんだ」

勇者「にしても、一晩に5人はちょっとやりすぎたなあ・・・」

「もう少し、立場を考えていただきたい!いくら子を為すためとはいえ節度というものがあるでしょう」

「貴方は仮にも聖人と認められているのですよ」

勇者「ああ、別にそういうつもりじゃないですよ。子供を作る気は俺にはありません」

「なあ!?」

勇者「単に、気持ちいいからやってるだけです」

「そ、それでは生まれてくる子があまりにも・・・」

勇者「安心してください。生まれてきませんよ」

「堕胎は、最も許されざる行いの一つですよ!」

勇者「ああ、もっと前段階の。まあ、えっと何といえばいいかな。やり方次第で、意図的に子を為さないこともできるということです」

「薬品・・・それとも、怪しげな魔法かなにか・・・」

勇者「いえいえ、滅相もない。そのような背徳の術を、教会が許すはずがないでしょう」

勇者「えーっと、そうですね。何と言ったらいいのか。そうそう体位です。体位」

勇者「うん、そうそう。子ができない体位ってもんを俺は開発したんだった」

「そのような自堕落な生活を、民に見られでもしたらどうするのですか・・・?

「もしや勇者殿は、人々を堕落せしめようという魂胆なのですか?」


勇者「人々を堕落ねえ。まさに悪魔の所業というわけですか」

「・・・っ。貴方は聖人ですよ」

勇者「わかっているじゃあないですか、そう。俺は聖人なんですよ」

勇者「教会が認めた、聖人」

勇者「ただそれだけじゃあない。俺はただの聖人なんかじゃあないさ」

「なにを・・・?」

勇者「俺は、女神から唯一力を託された男。つまり、俺は女神に認められたということです」

勇者「教会に認めてもらうまでもないということだ」

「そ、それはあまりにも傲慢な物言いではありませんか!」

「貴方は、教会がこの国のために如何に尽くしてきたかご存じないのですか!?」

勇者「別に。教会を貶めているわけじゃあないですよ」

勇者「俺だって、女神正教徒であることには違いない」

勇者「まあ、敬虔な信者と呼べるほどじゃあないが」

「なれば、女神正教徒らしく振舞おうとは思わないのですか」

「女神正教徒は、第一に勤勉であることを求められている。堕落した生活から立ち直るのです勇者様!」

勇者「それはおかしい話だ。俺は勤勉に働いた。そして魔王を倒した」

勇者「今の生活は、その報酬。俺は俺が正当に得た報酬を、使っているだけだ」

勇者「それに、教会の訓戒は教会が作ったまやかしだ」

「!?」

勇者「現に、俺は俺の価値観、倫理観、考え方のまま生きてきて、それを女神に認められた」

勇者「なれば、女神の考える人の在り方は教会のそれとは違っているということだ」

「・・・」

勇者「沈黙は、肯定ととりますよ」

「教会の在り方に疑問を感じるということであれば、これ以上の資金援助は難しいと考えざるを得ませんが・・・」

勇者「構いません。教会からの援助が無くとも、俺はやっていけるだけの資産を得ている」

勇者「それに、貰えるもんは貰う主義ではありますが、どうも教会のそれは施しのように思えて。あまり好きではなかったんです」

勇者「施しをするならともかく、されるっていうのはどうもむずがゆい」

「教会と対立することになりますよ・・・」

勇者「俺は、簒奪者には容赦はしない。魔王がそうであったように、俺から何かを奪うというなら覚悟をするべきですね」

勇者「教会に、その覚悟はありますか?」

「暴力による、ということですか?」

勇者「時と場合によっては」


勇者は、全く話の通じない男ではなかったが
その考え方は、当時の儂からしたら自己中心的で傲慢であるように思えた

勇者の考えは、社会への奉仕の心が欠けていた
この危険極まりない世界において、相互補助は自らが生き抜くために絶対必要な生存戦略
得た報酬を、全て自らのために使うという自己完結的な思想は
絶対強者であるが故の、いわば贅沢ではなかったのであろうか

平和が確立された、今の世でこそ勇者の考え方は指示され得るだろう
だが当時の状況からすれば、勇者の考え方は革新的ともいえた
私が教会側の立場にありながら、勇者の生きざまにある種の尊敬の念を抱いてしまったことを誰が非難できようか
私もまた、若く新しいものに目移りしてしまったのだ

最終的に、教会には勇者と対立するほどの度胸は無かった
何より、自らが認めた聖人を貶めることなどできるはずもない
当然の成り行きであった。

出来たことと言えば、勇者への資金援助を打ち切る程度
それが教会が行える、勇者への精いっぱいで唯一の反抗だったのじゃ

――――――

大司教「私は、勇者とはある種の化け物出なくてはならないと考えている」

大司教「世間一般とはかけ離れた思想、振舞、そういったものが世界をかき回していくのだ」

大司教「普通でないから、やれることがある。異常でなければ成し得られぬこともある」

大司教「魔王を倒すなんてのは、その最たるものではなかろうか」

剣聖「・・・」

行政官「・・・」

大司教「だが、先ほどの若者たちは敬虔すぎる。素直すぎる。いい子過ぎる」

行政官「・・・いいことではないですか」

大司教「ありふれた市民の一人としてはな。だが勇者に課せられた使命は、魔王を倒すことだ」

大司教「戦闘について儂は素人であるが、例え剣の腕に優れようと世界の命運を凡百に頼るのは心もとないのじゃ」

剣聖「・・・」

行政官「うーん、真面目で勤勉なほうが安定的に成果をあげられると思うんですが」

行政官「私個人の意見としても、勇者には真面目で勤勉であってほしいですし」

大司教「勇者に破戒僧であれとは儂も言わんがな、しかし先の若者に勇者と同じことができるとは儂には思えない」

行政官「まあ、言いたいことはわかりました」

行政官「それでは議論は尽くされた。とは到底言えませんが、我々には何にしても時間がない」

行政官「拙速ではありますが、採決にうつりましょうか」

大司教「そうだな、構わないよ」

行政官「既にご存知かと思いますが、この決議は我々3人が全会一致でのみ成立します。よろしいですね」

剣聖「・・・うむ」

行政官「それでは、よろしくお願いします」

行政官「若い男と仲間たち、彼らは勇者足り得るか?」



行政官「可」


剣聖「・・・可」


大司教「不可」


行政官「反対1で勇者認定ならず。それでは、また次回お会いしましょう」


――――――

一組目 若い男と仲間たち 勇者認定ならず

――――――


行政官「それでは採決をとりましょうか」

行政官「不可」

大司教「不可」

剣聖「不可」

行政官「では、満場一致で不可ということで」

大司教「皆、なかなかの逸材ではあるのだが、伝説を継ぐ男を選ぶとなるとどうも選好みしてしまうわい」

剣聖「・・・勇者選考が困難であるのは仕方あるまい。本来、国が勇者を決めるという事態が異常なのだ」

行政官「仰りたいことはわかりますが、この差し迫った状況下で国民に安心を与えるには『勇者』の存在が必須なのです」

行政官「お二人も、それを承知の上でこの仕事を請け負ったのでは?」

大司教「だからこそ、慎重にならざるを得ないのじゃ」

剣聖「・・・」

行政官「まあ、そこは同意します。勇者に倒られでもしたら元も子もありませんから」

行政官「えっと、今日はあと一人。勇者候補がいらっしゃってるようですね」

大司教「はあ、儂らの仕事は終わりが見えないのう」

行政官「勇者候補の選定は、情報部が全力で継続中ですからね。嬉しいことに勇者候補には事欠きませんよ」

大司教「あな素晴らしや」

剣聖「憎々しい情報部のやつらめ」

行政官「では、お待たせするのも悪いので。早速、入っていただきましょうか」

行政官「次の方、どうぞー」

???「失礼する」

剣聖「・・・」


???「久しぶりだな!剣士!」

剣聖「魔王軍大幹部 炎魔将軍・・・」

行政官「!?」

大司教「なぜ、魔王軍幹部がここに!?」

剣聖「あの時、確かにトドメを刺したはず・・・」



炎魔将軍「蘇ったのよ!剣士、貴様を殺す為になああああああああ!!!」



剣聖「ちっ・・・地獄に送り返してやる。さっさっとかかってこい」




優男「おや、お取込み中のようですね」

剣聖「!?」

炎魔将軍「なんだ、若造。いつの間に、入ってきた!?」

行政官「つ、次から次へと何なんですか・・・」

優男「スキャン完了っと、へえ貴方は魔王軍の幹部なんですか」

炎魔将軍「ほう、この時代に俺の事を知っている奴が居るとはな。どれ、褒美に燃やし尽くしてやろう」

優男「それはご免ですよっと、さて折角の縁ですが。これでさよならです」


優男「炎魔将軍 デリート!」


炎魔将軍「ん?・・・あ、なんだこれは!体が、俺の体が消えていく・・・!!!」

炎魔将軍「何だ貴様は!?いったい、俺に何をしたあああああああああ!!」

炎魔将軍「ぐああああああああああああ・・・・・」

大司教「き、消えてしまった・・・倒したのか?」

剣聖「・・・」

優男「あ、なんかまずかったですか?」

行政官「あ、貴方は一体・・・?」

優男「俺?ああ、俺は勇者の面接を受けに来たタダの男ですよ」

優男「そういうことですし、さっさと面接はじめましょ?」


――――――

二人目 異世界転移最強の男

――――――


行政官「それでは、面接を始めましょうか」

優男「どうぞ、よろしく」

行政官「まず、一つ確認です。貴方は一体、何者ですか?」

行政官「いま、私たちの手にある羊皮紙には貴方の情報が書かれています」

剣聖「・・・ほとんど空白ではないか」

行政官「そう、我が国の情報部の力をもってしても、貴方の経歴や出自はほとんど不明」

行政官「わかっていることは、約1か月前から王都に滞在しているという一点のみ」

行政官「だというのに、この推薦状の数。王弟殿下、聖騎士団長、果ては猊下のものまで」

大司教「何をどうすれば、そうなるのだ・・・?」

行政官「ですから伺いたいのです。貴方は一体何者ですか?」

優男「ええっとですね。信じてもらえるかはわかりませんけど、俺はこの世界の住人じゃありません」

大司教「ほう、異世界人というわけか」

剣聖「盲点であった。それならば情報が少ないのも頷ける・・・」

行政官「出自については理解しました。ではもう一点、あの名だたる方々からの推薦状」

行政官「この短期間で、貴方は一体何をされたのですか?」

優男「実は、別に、勇者になりたいってわけじゃないんすよね。なのに、おっちゃんたちがやたら勧めてくるから」

大司教「お、おっちゃんたち・・・」

優男「まあ、ちょっとだけ『勇者』っていうステータスには憧れなくもないけど」

優男「まあ、おっちゃんたちの顔潰すのも悪いし」

剣聖「・・・質問に答えろ、小僧」


優男「ああ、ごめんごめん。えっと、質問でしたね・・・なんだったっけ?」

剣聖「・・・」スッ

行政官「ち、ちょっと剣聖殿!落ち着いて下さい!剣から手を放してください!」

剣聖「これも面接のうちだ、奴の実力を少し確かめたい」

優男「魔王軍の幹部を瞬殺したのをご覧になったでしょう?」

剣聖「・・・」

優男「歴戦の戦士なら、力量の差ぐらい察せるもんだと思ってたんだけどなあ・・・まあ漫画とは違うか」

剣聖「・・・ぬんっ!」スパン

優男「ほいっと!」パシ

剣聖「!?」

大司教「これは驚いた・・・剣聖殿の剣を、片手で止めるとは」

行政官「剣聖殿、もうよろしいですか。剣を収めてください」

剣聖「・・・うむ」

優男「えっと、なんの話でしたっけ?」

大司教「緊張感のない男じゃ、いやそれだけ余裕があるということか」

行政官「―――この短期間に、貴方が何をされたのかという質問です」

優男「ああ、そうでしたそうでした。えっと、まず酒場で飲んでたおっちゃんと政治談議をしたのかな?」

優男「そうしたら、おっちゃん感動して泣きだしちゃって。それで王宮に招待されて」

優男「聞いたら王様の弟だっていうし、もっと俺の故郷の政治体制について教えろって言われたから」

優男「教えたんすよ」


大司教「王弟殿下が、市井の酒場にだと?そんな馬鹿な」

行政官「殿下は、そういう方なんですよ。続けてください」

優男「んで、王宮にしばらく泊ってたんですけど。廊下歩いてる時に、騎士のおっちゃんの剣に俺の剣が当たっちゃって」

剣聖「・・・鞘当てか」

優男「で、いろいろあって立ち会うことになって。まあ勝ったんですよ」

剣聖「俺の剣を片手で止めるのだ、さもありなん・・・」

優男「んで、飲み屋のおっちゃんから禿のおっちゃんを紹介されて」

大司教「・・・げげげげ猊下のことか!?」

行政官「大司教様、とりあえず落ち着いてください」

優男「んで、宗教についても講釈垂れたら。禿のおっちゃんも感動しちゃって」

優男「で、いまに至るってわけかな」

行政官「なるほど。貴方は、異世界では学者だったのですか?剣も扱えるということは、騎士か何かで?」

優男「俺は、ただの一般ピーポーでしたよ?」

行政官「で、では、異世界では皆が貴方に比肩する知識と剣技を持ち合わせているということですか?」

優男「いやあ、そうですと言いたいところだけど。実は、これのおかげなんですよね」

大司教「それは?」

優男「ノートパソコンです。異世界のネットにも繋がってます」

優男「まあ、要は、異世界の知識の全てがこれに詰まっているわけです」

行政官「魔道具というわけですか」

優男「厳密に言えば、違いますけど。まあ、俺の魔法と組み合わせてるから。ある意味、魔道具とも言えるかな」

剣聖「・・・剣技についてはどうなのだ」

優男「それも、このパソコンで。この世界の魔法と組み合わせて、自身や他人のステータスをこのPCでいじれるようにプログラミングしてあるんすよ」

優男「今の俺には、異世界中の剣の流派のデータがアップデートされてるってわけです」

優男「ちなみに、さっきの魔王軍幹部もこの力で。まあ、デリートしちゃったってわけです」

行政官「と、言うことは魔王も・・・」

優男「会って、スキャンさえ出来れば一瞬で」

大司教「それほどの力を持つとは・・・」

優男「まあ、この力は俺をこの世界に召喚した人からの貰いものなんですけどね」

剣聖「・・・貴様、いったい誰に召喚された」



優男「神に」

大司教「」

行政官「だ、大司教様!気を確かに!」

――――――

行政官「そ、それでは審議を始めましょうか」

大司教「・・・正直、評価が難しい男であった」

行政官「おや、意外ですね。大司教様なら、この世界とは違った価値観を持つ彼を高く評価すると思ったのですが」

大司教「まあ、革新的な考えを持ってはいるようだが。彼の場合は、ちょっと違うな」

行政官「と言いますと」

大司教「確かに、彼の持っている知識や価値観はこの世界をかき回してくれるだろう」

大司教「しかし、それは彼自身の力によるものでは無いというのがな」

剣聖「・・・同意する」

行政官「続けてください」

大司教「勇者には、どこか普通でない部分が必要というのは儂の持論だが。今日の彼、おそらく普通なのだ」

行政官「なんだかはっきりしませんね。彼が普通でないことは、明らかだと思いますが」

大司教「この世界ではな。だが、異世界ではどうだったのだろうか」

大司教「彼が、彼の育った故郷でどれほどの男であったと思う?儂は、凡百に埋もれる一人の普通であったと思うよ」

行政官「ちなみにどういった点から、そのように思われるのですか?」

剣聖「・・・奴の顔は、幼すぎる」

大司教「うむ、社会は異常者に厳しい。異物の排除が安定を生むことを知っているからな」

大司教「世の異常者達は必然的に、多くの困難に立ち向かうことになるであろう。しかし彼は、困難を超えてきた人間とは到底思えぬ人相であった」

大司教「それに加えて、あの貧相な体つき。力に驕った態度。神に授けられた、あの力が無ければ道端の石ころよ」

行政官「なるほど。しかし、あれほどの力があれば魔王討伐も容易いのでは」

大司教「確かに。あの力ならば復活した魔王と言えど対抗できはすまい」


剣聖「買いかぶりすぎだな」

剣聖「・・・それほど、あの優男は強くはないぞ」

行政官「剣聖殿の剣を片手で止めるほどの男ですよ?」

剣聖「力はな。だが魔王は力だけで戦える相手ではない」

剣聖「魔王は、力で及ばないとわかれば躊躇なくからめ手を使ってくるだろう」

行政官「搦め手」

剣聖「脅し、賺し・・・そうだな、例えば若い女を人質にとるとか」

大司教「あれだけ強ければ、対処できそうではあるが」

剣聖「できんな。あの男には歴戦の戦士が放つ強者の貫録がなかった。行く手を阻む大壁に立ち向かう経験を、ろくにしていないのだろう」

剣聖「童貞は、初夜に想定外のことが起きればパニックを起こす。折れてしまう」

剣聖「強き心があれば、立ち直ることもできよう。しかし、あの男にはそれができるだろうか」

行政官「これから経験していけばいいのでは?」

剣聖「あの妙な力が、それを許すまい。あの男が、初めて出会うであろう困難は、それはそれは強大なものだろう」

剣聖「なにせ、神から与えられた力ですら簡単には超えられない壁なのだから」

行政官「・・・神から与えられた力。そう、そこも問題なんですよね。まさか異教の神の力を授かるとは」

大司教「なに構わんさ、儂を含め女神正教は女神様を唯一神としているわけではない」

行政官「しかし、神託は女神正教から・・・」

大司教「女神様だって、他の神の肝入りに乗っかることもあろうさ」

行政官「大司教様、意外に融通が利きますよね」

大司教「意外には、余計じゃな」


行政官「そういえば勇者の印は、確認していませんでしたね」

剣聖「あの大騒ぎの後だ、忘れても致し方あるまい」

大司教「まあ、そこはどうとでもなるし」

行政官「それもそうですね・・・正直に申し上げると、私は彼を勇者に認定するべきだと考えているのですが」

大司教「力量は申し分ないのではないか。何より彼は、神から力を授かっている」

行政官「そう、先代勇者と同じ。神に与えられた力を彼は持っている」

行政官「神の助けがなくては、魔王には勝てないのでは?そうだとすれば、彼は最も勇者に近い男です」

大司教「剣聖殿の言いようも最もではあるがのう。しかし、その心配も杞憂に終わるやもしれんぞ」

剣聖「・・・俺の意見は変わらん。奴に、勇者は勤まらん」

剣聖「それに、アンタらは一つ間違えている」

行政官「?」

剣聖「先代勇者は、神の助けなど得ていない」


――――――

俺が勇者と出会ったのは、東の大都市に隣接するスラム街だった
経緯は省くが、そこで俺は勇者に雇われた

「魔王を滅ぼす旅に同行して欲しい。報酬ははずむ」

提示された金額は、命をかけるに十分なものだった
それに加え、魔王討伐後に得られるであろう名声や国からの褒賞を考えれば断る理由などなかった

――――――

大司教「一人旅ではなかったのか!?」

剣聖「・・・そうだ、奴の背中は俺が守った」

行政官「ではなぜ、そのような重大な事実が伏せられているのですか?」

剣聖「俺は下賤な傭兵だ。手を出した悪事も数知れぬ。そんな俺の存在を、国が認めなかったのさ」

剣聖「まあ、俺としても勇者の仲間として諸手を振って表参道を歩くつもりはなかったがな」

剣聖「それでも剣聖として崇められる程度の地位と名声は頂いたから不満はない」

大司教「ふうむ、剣聖殿がこの勇者選定に面接官として参加している理由にはそれもあったのか」


――――――

勇者は、後の世に知られている女神の加護などは受けてはいなかった
確かに剣と魔法の腕は、尋常ならざるものであったが
全て人間の範疇に収まるものだ
そうでなくては、この俺を雇ったりはしなかっただろう

そんな勇者が魔王を倒し得たのは、その覚悟にあった


魔王「ふふふ、たった二人で我の下までたどり着くとは驚嘆に値するぞ」

勇者「それは違う、俺たちは二人だったからこそここまでたどり着いたんだ」

剣士「大人数であれば、魔王城に入る前に捕捉されて数ですりつぶされていただろうよ・・・」

魔王「それでもさ」

魔王「我は慎重な男だ、実のところお前たち二人の情報は得ていた」

剣士「・・・」

魔王「我が魔王軍幹部を悉く暗殺していったお前たちのことを、我が知らないはずがないであろう」

勇者「ならば何故、魔王城の警備を俺たちは抜けられた?お前が慎重な男だというなら、万全な警備体制を引くこともできたはずだ」

魔王「それだけ、お前たちの行動が迅速だったのだ。幹部を殺され、組織の命令系統が混乱していたこともある」

魔王「だが、それ以上に。我は、お前たちに会いたかったのだ」

勇者「戦闘狂め・・・」

魔王「勘違いするな。戦うためではない」

勇者「では、どういうつもりだ」

剣士「勇者、奴は俺たちを取り込むつもりだ」

魔王「察しが良くて助かる。まあ、その通りなのだ」


魔王「そうだな。魔王軍幹部の席はもちろん、人間たちを支配するうえでの助言役」

魔王「お主たちが望むのであれば、人間達への幾何かの温情も与えようではないか。勇者よどうだ?」

勇者「・・・ないな。俺は簒奪者には容赦しない」

魔王「即答か。では、やり方を変えてみよう」

魔王「これを見ろ」

肉塊「・・・」モゾ

剣士「新手の魔物か?」

勇者「なんだこれは」

肉塊「・・・ユ・・・ウシャ」

勇者「!?」

勇者「・・・その声は!?魔王!彼女に何をした!」

魔王「ふふふ、声だけでわかるか。素晴らしい洞察力だ」

魔王「そう、お前が故郷に置いてきた恋人だよ」

勇者「きさまああああああああああ!」

肉塊「ユウ・・・シャユ・・・ウシャユ・・・ウシャ」

剣士「・・・落ち着け勇者。魔王、その女?その肉塊はまだ生きているのだな」

魔王「もちろんさ。もし、お前らが我が陣営に加わるというなら元に戻してやる」

勇者「・・・ぐ」

剣士「勇者、判断はお前に任せる。所詮、俺は雇われだからな」

魔王「考える時間をやろう、そうだな一晩で答えを聞かせてもらおうか」


温情とも思える魔王の振舞に、俺は危惧を感じた
一晩あれば、大陸中に散っている魔物どもを呼び戻すこともできるであろうからだ
魔王を打倒す唯一無二のチャンスが今、その時にあることを勇者に伝えることもできた


しかし、勇者の苦悶の表情に
愛する女の命を握られた男に、いったい誰が物申せると言うのだ
俺は傭兵だ
そして勇者は雇い主
勇者と共に命を散らす覚悟、職業傭兵としての矜持は俺にもあった


勇者「か、彼女は・・・魔物に両親を殺された」

勇者「俺は簒奪者には容赦しない・・・そして彼女は、俺とともに心を同じくしている」

勇者「なれば、俺がやることは一つ・・・魔王、お前を殺す!」

魔王「平和のために自分の女を捨てるか!」

魔王「愚か者め!ならばかかってくるがよい!」


――――――

魔王との死闘は半日も続いた
肉塊は魔王の死と同時に動かなくなった
おそらく魔王からの魔力の供給で生きながらえていたのであろう

勇者は涙を流さなかった
ただ肉塊を優しく抱きかかえ
「王都に帰ろう」
一言だけ声を漏らした

それが俺に向けられた言葉だったのか
彼女に向けられたものだったのか、俺にはわからなかった

――――――

剣聖「いま思えば、勇者が子を為そうとしなかったのは。彼女に操を立てていたのかもしれんな・・・」

大司教「それはちょっと疑問じゃが・・・」

剣聖「とにかく」

剣聖「勇者に必要なものは、神の加護なんかではない。決して折れぬ意思、心。それこそが必要なのだ」

剣聖「俺には、あの優男に、勇者と同じことができるとは到底思えない」

行政官「女神の加護は教会の偽りであったのですか・・・?」

大司教「儂も知らん。だが、民の求心力を求めていた当時の教会なら、それぐらいやるかもしれん」

剣聖「勇者は貰えるものは貰う主義だったからな。教会の嘘に乗っかるのが自分の利益になると踏んだのだろう」

行政官「では、勇者様は純粋に自身の」

行政官「人間としての力だけで戦ったというわけですね・・・?」

剣聖「・・・忘れているぞ」

大司教「?」

剣聖「勇者自身の力。それと、俺の力だ・・・」

行政官「ふふふ、失礼。そうでした」

行政官「しかしそれでも尚、私は彼の力は余りあると思いますが」

剣聖「・・・これは俺の考えだ。同意を求めているわけではない」

大司教「まあ、そうであろうな。しかし、異教徒とは言え神から力を授かっている男だ」

大司教「先代勇者すら得ていない力を、あの優男は持っている」

大司教「その事実からは目を背けられぬ。儂も、一宗教家として彼を支持する以外に道はない」

剣聖「ふむ」


行政官「それにやはりですね。同じ状況にあっても、彼なら神の力で人質を元に戻すこともできると思うのですよ」

剣聖「魔王は、自身を慎重な男だと言っていた。奴の情報を集め、対策ぐらいはうつだろう」

大司教「しかし、剣聖殿がそうであったように彼は単独かつ迅速に動くことができよう」

大司教「対策を打たれる前に、倒してしまえばよいのだ」

剣聖「二度、同じ手が通じるとは思えんが」

行政官「堂々巡りですね」

行政官「そうですね・・・ほら、もう外は真っ暗ですよ

行政官「そろそろ採決に入りましょうか」

剣聖「・・・む」

大司教「拙速ではないか?」

行政官「時間は有限です」

大司教「・・・」



行政官「・・・それでは、採決に入ります」

行政官「神から力を授かった優男、彼は勇者足り得るか?」



行政官「可」


大司教「可」


剣聖「・・・不可」


行政官「反対1で勇者認定ならず。それでは、皆さん次回またお会いしましょう」


――――――

二人目 異世界転移最強の男 勇者認定ならず

――――――


大司教「なあ、剣聖よ。儂は思うのじゃ」

剣聖「突然どうした」

大司教「行政官、あやつには勇者を選ぶ気が無いのではないかと」

剣聖「・・・どういうことだ」

大司教「この面接が始まって幾日が経った?勇者足る力量の男は山の数ほどいたぞ」

大司教「だが、儂らはただ一人の勇者も選ぶことができていない。これはどういうことじゃ」

剣聖「行政官のせいだと?」

剣聖「だが、奴が『可』を出したこともあったではないか」

大司教「最初の若者と、異世界から来た優男か」

剣聖「そう。だが、あの時『不可』を出したのは俺とお前ではなかったか?」

剣聖「勇者の選定には、三人の『可』が必要だ。ならば、俺たちにも原因があると言えるのではないか」

大司教「そこじゃよ」

大司教「行政官が『可』を出したのは、儂らが頑なに『不可』を主張をしたあの時だけじゃ」

剣聖「・・・」

大司教「特に優男の時じゃ、行政官の行動は少し変であった」

剣聖「あの時は・・・俺が反対したんだったな」

大司教「ああ、だが優男の実力が他の候補者より郡を抜いていたことは事実じゃった」

大司教「あやつの立場からするならば、二人でお主を説得するのが普通じゃろう」

剣聖「確かに、国からは勇者の選定を急かされているしな・・・」

大司教「だが、あやつはそうはしなかった。むしろ、採決を急いでいるように儂には見えた」

剣聖「・・・思い返せば、そうだったかもしれん」

大司教「核心はもてん、だが復活した魔王が大陸を蹂躙しているこの危機の中。意図的に勇者の選定を遅らせているとしたら」

剣聖「・・・国への背信行為とも受け取られかねんな。理由は想像もつかんが」

剣聖「魔王軍、もしくは他国の息がかかっている・・・といった所か?」

大司教「最悪の状況を想定するのが、お主の生存戦略なのはわかるが。そこまではいかんじゃろう」

大司教「だが、行政官は信用ならん男かもしれん」

大司教「・・・少なくとも、この儂らの仕事においては」

――――――

3人目 国に抗う男

――――――


陽気な男「んじゃ、よろしく頼むぜ」

陽気な男「面接だからな、俺ちゃん何にだって答えちゃうよ。おっと、残念ながらスリーサイズは聞かないでくれよ、俺だって知らねえんだからな」

剣聖「情報部の連中め、またとんでもない奴を勇者候補にあげてきたものだ」

大司教「確かに、ふざけた男じゃのう。ちと軽薄すぎやせんか」

剣聖「いや、そういう意味ではない」

大司教「では、どういう意味じゃ?」

行政官「彼は、元大盗賊です。王国各地で、領主の館に押し入り財を根こそぎもっていく。そんなことを何十回と繰り返していました」

陽気な男「おおっと行政官さん!奪った金銀財宝を、貧しい人々に配ってたってところが抜けてるよ!一番重要なところだから!」

大司教「自分で行ってしまうと台無しじゃのう」

陽気な男「え、まじ?じゃ、いまの無しで!」

陽気な男「盗んだ金は、贅沢に使わせていただきました!うまい酒とうまい女をとっかえひっかえで、すっからかんです!」

大司教「残念な男じゃ・・・」

陽気な男「!?」

行政官「情状酌量の余地はありますが、やってることは許されませんので。近年、逮捕され収監されたと聞いていましたが・・・」

陽気な男「まあ、世界がこんな状況ですしね。俺も、みんなのために何かできないかと思って」

陽気な男「盗んだ財宝に紛れてた怪しい情報をチラつかせて、俺にも戦わせろって頼み込んだんすよ」

行政官「志は高いようですね。ということは、釈放の条件は勇者に選ばれることといったところですか?」

陽気な男「まあ、そういうことになってます。だけど、こう言っちゃなんだけど」

陽気な男「例え勇者に選ばれなくても俺は脱走して、魔王をぶっ殺しに行きますよ」

大司教「やる気満々じゃのう。剣聖は、この男を知っておったのか?」


剣聖「同郷だ。ガキの頃から、スリの腕は一目置いていたが盗賊になっていたとはな」

陽気な男「おやおや?おやおやおや?スラム街の英雄・剣聖先輩じゃないっすか!憧れてたんだ、サインもらえます?」

陽気な男「えっと紙が無いから背中に書いてもらって・・・」ヌギヌギ

行政官「背中に、鷹の紋章・・・いえ、タトゥーですか」

陽気な男「あ、そうそう。剣聖さん、サインを被せないでくださいね、この墨、結構気に入ってるんすから」

行政官「タトゥーって、神託的にはどうなんでしょうか?」

大司教「別に、勇者の印は生来のものという条件はないぞ」

行政官「そ、そうですか」

大司教「まあ、神託の勇者の印については秘匿されておるからな。後付けでタトゥーを入れる輩はおるまい」

行政官「なるほど」

陽気な男「えっと、ちょっと寒いので早くサインを頂けると嬉しいんすけど?」

剣聖「サインなど書かん・・・」

陽気な男「えぇー・・・」

行政官「なぜ勇者を志すほどの正義感を持っていながら、盗賊なんかに身をやつしていたんですか?」

陽気な男「別に、勇者は子供の頃からの夢ってわけじゃないですよ」

陽気な男「大体、俺が子供の頃は平和そのもの。勇者に憧れたって、あげる戦果がなかったじゃないすか」

大司教「まあ、それもそうじゃのう」

陽気な男「俺が盗みを始めたのは、純粋に生きるためですよ」

陽気な男「まあ、最近は世のため人のためを標榜に盗みを働いていましたけど」


剣聖「勇者となり、魔王を打倒した後はどうするのだ?また自称義賊に戻るつもりか?」

陽気な男「そうですねえ、勇者になった後ですか・・・そこまでは考えて無かったなあ」

大司教「重要なところじゃ」

陽気な男「まあ、一度捕まった身ですし盗みは辞めますよ」

行政官「その言葉に嘘偽りはありませんか?」

陽気な男「ないね。こう見えて約束を違える男じゃないっすよ」

陽気な男「まあ、将来のことは置いといて。俺はとにかく、魔王の糞野郎をぶっ殺してやりたいんす」

剣聖「なぜ、そこまで魔王を憎む」

陽気な男「魔王は絶対悪だからですよ」

大司教「お主も悪党だったろうに」

陽気な男「そうなんですけど」

陽気な男「俺も盗賊ですから、いろんな悪党を見てきましたよ。でもね、どんな悪党でも少しは優しさをもってるんすよ」

行政官「・・・」

陽気な男「民から重税を巻き上げてる貴族も、自分の孫には人々に優しく振舞うよう教えたり」

陽気な男「残虐な暗殺者が、元締めを父のように慕ったり」

陽気な男「通った後は草すら生えない盗賊が、盗んだ財を貧しい人々に配ったりね!」

大司教「もう、残念を通り越して哀れに思えてきたわ」

陽気な男「!?」

陽気な男「まあ、冗談はさておき。魔王には、そのちょっとした慈悲もない」

陽気な男「盗賊だからこそ、俺は自分の目には自信がある。あいつはやばい。生かしては置けない」


剣聖「・・・まるで魔王を見たかのような言いぶりだな」

陽気な男「・・・俺は見たんですよ魔王城で、魔王その人を」

行政官「魔王城に忍び込んだのですか!?」

陽気な男「当時は、まだ魔王が復活したなんて知られてなかったしな。ちょっとしたトレジャーハントのつもりで潜り込んだんすよ」

剣聖「・・・良く生きて戻れたな」

陽気な男「まあ腕には自信があるので・・・魔王城で見た男には心がなかった。ありゃあ無機物。彫像なんかと同じだ」

陽気な男「他人を慮る心なんてない、なにせそもそも自身も心を持っていないんだから」

陽気な男「そんな男が世界の破滅を標榜しているんだ、慈悲なく折れることなくそれは完遂されるだろうよ」

陽気な男「だから、俺は王都に行き。王に直接、魔王復活を知らせたんだ」

行政官「王に直接ですって?どうやって・・・いや聞くまでも無いですね」

陽気な男「まあ、俺はこう見えて盗賊なもんですから。王城にこっそり忍び込み目的こそ達成したが、あっさり捕まっちまったと言うわけでさあ」

大司教「大胆なことをしたものじゃ」

陽気な男「王様には魔王の復活を伝えたし、これで安心と牢屋の中でスローライフを送っていたんですけど」

陽気な男「牢屋の中にも、世間の様子は流れてきましてね」

陽気な男「だいぶ魔王軍にやられてるようじゃないですか」

大司教「・・・そうじゃな。既にいくつもの村や街が地図から消えておる」

行政官「多くの冒険者が魔王討伐に向かっていますが、残念なことに未だ魔王の首と胴はつながったままです」

陽気な男「知ってます。だから、俺がやらなきゃって思ったんすよ」

陽気な男「どうです?俺に任せてもらえやしやせんか?一度は忍び込んだ魔王城だ、二度目はもっと楽勝ですよ」

行政官「・・・貴方は犯罪者です。それもまだ服役中の。どうやって信じろと言うのですか?」


陽気な男「信じてもらわなくていいですよ、できるなら正当に出所する方がいいってだけで」

陽気な男「さっきも言いましたが、俺を勇者と認めずに再び牢にぶち込むというならそれで構わない」

陽気な男「俺は自力で脱走して、魔王をぶち殺しに行く」

陽気な男「そんでもって、恩赦で綺麗な体になって!魔王討伐の褒賞で楽しく暮らすんす!」

剣聖「・・・官憲に追われながら、魔王城へ向かう気か?」

陽気な男「俺の楽しい楽しい第二の人生構築計画を邪魔をするって言うなら、激しく抗ってやりますよ。例え相手が国だろうともね」

大司教「・・・ふむ」

剣聖「良い覚悟だ」

陽気な男「ま、格好つけはしたけど。いまの状況じゃ俺なんかに官憲を裂く余裕も国にはないでしょうしね!」

行政官「それを自分で言ってしまうとは」

剣聖「ああ・・・折角の覚悟が台無しだな」

陽気な男「え!?えっ!?」

大司教「本当に残念な男じゃな・・・」

陽気な男「!?」


――――――

行政官「さて、それでは審議を始めましょうか」

剣聖「行政官、俺からで良いか?」

行政官「もちろん」

剣聖「俺は、奴の勇者認定に賛成だ。・・・いや、もっとはっきり言えば俺はあの男を勇者にしたい」

大司教「珍しく積極的な意見じゃのう」

剣聖「経歴を鑑みても実戦経験は豊富だろう、なにより魔王城に単独で侵入し無事帰って来れている。腕に関しては申し分ないと言える」

剣聖「・・・だが、それだけが理由ではない」

行政官「と、仰ると」

剣聖「奴の境遇は俺に似ている」

大司教「同情でもしたか?」

剣聖「・・・あの男は、スラム街で育ち悪事に手を染め生きてきた。その点、俺と全く同じだ」

剣聖「だが、勇者に雇われた俺と違い。奴は自分自身の意志で、魔王を倒すと言った・・・」

剣聖「同じ境遇だが、奴は俺と同じではない。ある意味、同情かもしれんが俺は奴を勇者にしてやりたい」

大司教「本当に同情じゃったわ」

行政官「彼の動機付けはどうですか?自身の利益のためと明言していましたが」

大司教「まさか、本気であの発言を信じているわけではあるまい」

行政官「それは、まあ」

剣聖「俺も旅の初めは金銭目的だったさ、だが滅ぼされた村や国を見ていく中で」

剣聖「俺にも、世界を救いたいという確かな志が芽生えた・・・」


剣聖「だが、あの男は既にそれを持っているように見受けられた。なれば、奴には勇者となる資格はあるはずだ」

剣聖「俺がなれなかった勇者に」

行政官「もしかして、剣聖殿は勇者になりたかったのですか・・・?」

剣聖「・・・」

剣聖「・・・その通りだ。俺は以前、勇者の仲間として諸手を振って大通りを歩くつもりはないと言ったな」

剣聖「あれは嘘だ。見栄を張ったのだ・・・俺は、勇者に羨望の念を抱いていた」

剣聖「俺も、できるならば魔王を倒した一人として皆の喝さいを浴びたかった。それだけ困難な旅だったのだ、褒賞以上の物を求めても罰は当たるまい」

剣聖「だがそれ以上に、俺の後ろ暗い過去がそれを許さなかった・・・」

剣聖「だからこそ、魔王討伐後に俺は苦楽を共にした勇者の下を去ったのだ」

大司教「そうであったのか」

行政官「剣聖殿」

行政官「誰が何と言おうと、貴方は勇者の仲間、いや貴方自身も立派な勇者ですよ」

剣聖「・・・」

行政官「確かに、貴方の経歴は表沙汰にできないでしょう。しかし、貴方は魔王を打倒すという奇跡を為した」

行政官「私は、事を為したものこそが勇者と称賛されるべきだと考えています」

行政官「ですので、私の中では貴方は既に勇者です。少なくとも、この密室の中でならいくらでも誇っていただいて結構です」

行政官「私は、貴方の偉業に惜しみなく称賛を与えます」

剣聖「・・・ありがとう」

大司教「そうじゃのう、お主も裏稼業から足を洗った久しいのじゃ。時機を見て、人々に真実を伝えることも可能じゃろう」

大司教「教会は悔い改めたものには寛大じゃ。惜しみなく力を貸すぞ」


剣聖「そこまではしなくていい・・・だが気持ちだけ頂いておく」

行政官「さて、剣聖殿の意見は至極わかりました」

行政官「次は、私に意見を述べさせてください」

剣聖「・・・うむ」

大司教「ふむ、聞かせてくれ」

行政官「行政官という立場からはっきり申し上げれば、言語道断」

行政官「彼を、勇者と認めることは断じてできません」

大司教「うわぁお、流れをぶった切ったのう」

剣聖「・・・まあ、お主ならそう言うだろうな」

大司教「一応、理由を聞かせてもらえるか?」

行政官「当然です。彼は服役中の罪人だ」

行政官「魔王討伐は、彼が刑期を終えてからやればいい話です。私たちが、制度を捻じ曲げてまで手助けをする謂れはない」

剣聖「・・・道理ではある」

行政官「それに彼が面接を受けることができた理由も気に食わないですね」

行政官「勇者を決める面接が政局に巻き込まれていては、世界平和なんて成し得ることはできない・・・」

行政官「失礼、最後のは余計でしたね。要するに、犯罪者を勇者にするわけにはいかないというのが私の意見です」

大司教「なるほどのう。それじゃあ、儂の見解を一言で述べようか」

行政官「お願いします」

大司教「先ほども言ったが―――教会は、例え服役中だったとしても罪を悔い改めたものを許す」

行政官「私の意見と真っ向から対立するということですね」


大司教「言ったじゃろ?教会は寛大なんじゃよ」

行政官「しかし、彼は悔い改めているようには見えませんでしたが?」

大司教「そう見えたか」

行政官「ええ」

大司教「あの男は、人を見る目には自信があるといっておったが。悪党や善良な市民の懺悔を、日々分け隔てなく聞いている儂の鑑識眼には適うまい」

大司教「魔王退治は自分のためだと言っておったが、あれは照れ隠しじゃな」

大司教「悪事を積み重ねてきた自分が、世界平和を為そうとすること恥じている。恥じながらも尚、それを為そうとせざるを得ない。含羞の男というわけじゃ」

行政官「ちょっと、深読みしすぎでは・・・?」

大司教「おや、儂の目を疑うのか?ならば、これまで儂らがしてきた審議の正当性に疑いが深まるのう」

剣聖「・・・ずるい言い方だ」

行政官「まったくもって」

行政官「しかし、たとえ教会が許したとしても彼に特赦を与えるなど・・・」

大司教「制度上それができるから、奴はこの面接を受けに来たのであろう?それに気づかぬお主でもあるまい」

行政官「・・・」

行政官「・・・そうですね。彼の推薦人は司法長官の遠縁にあたる貴族です」

剣聖「ならば、奴の握っていた情報というのは司法長官の・・・」

行政官「あくまで推論ですが。まあ、そういうことなら制度上は可能になるでしょう・・・法的にも問題ありません」

大司教「じゃろう?なれば、お主の行政官としての立場からの意見にはその根拠が無いというわけじゃ」

行政官「では、私の意見は倫理的な意見としてお受け止め下さい」

大司教「倫理か、倫理ならばこそ儂の領分じゃ。教会が許すと言っておるのじゃぞ?これ以上のお墨付きはあるまい?」


行政官「うーん、納得は出来ませんが大司教の意見はわかりました」

行政官「さて、話は尽きませんが、そろそろ採決に移りましょうか」

剣聖「・・・!?」

大司教「・・・まてまて、早すぎるぞ行政官」

剣聖「事をせいては仕損じるぞ」

行政官「しかし、そうは言っても時間は有限ですので」

剣聖「勇者候補の数もな」

大司教「剣聖の申す通りじゃ。こう易々と勇者候補を切り捨てていれば、いつか候補者がいなくなってしまうぞい」

行政官「そうなったら、情報部に新たに選考をさせるだけです」

行政官「現に、前衛の戦闘職に限らない第二次選考を情報部は開始しています」

大司教「じゃからと言って、審議をおざなりやってよい理由にはなるまい」

剣聖「俺はもう少しの間、あの男について審議を続けたい。時間を割くだけの価値はある男だ」

大司教「ほら、剣聖もこう申しておるのじゃし・・・」

行政官「・・・」

行政官「・・・大司教様、持論はご自宅に忘れてこられたのですか?」

大司教「うむ突然どうした?」

行政官「あの男は、貴方の持論に当てはまっているのですかと聞いているのです」

大司教「やけにとげのある言い方じゃのう」

行政官「以前の貴方ならば、貴方の鑑識眼に収まる程度の男を勇者と認めたりしなかったはずです」

大司教「ははぁ、そう来たか」


大司教「しかしな行政官よ、儂の鑑識眼なんぞ当てにならんかもしれんぞ?」

大司教「あの陽気な男は、儂の想像以上のことやってのけるやもしれぬ」

行政官「またそんな無責任な」

大司教「ははは、正直なところ誰が事を為すかなんぞ儂には見当もつかんわ」

剣聖「それには、全面的に同意する。如何にここで審議を尽くそうと、国の定めた勇者が事を成し得るとは限らん」

行政官「・・・」

行政官「お二人とも、本当に・・・そう思いますか?」

大司教「もちろんじゃ」

剣聖「俺は、最初からそう言っているが」

行政官「・・・そうですか」

行政官「さて、そろそろお腹もすいてきましたね。どうです今晩、一杯飲みにでも行きませんか?」

大司教「お、良いのう。儂は大丈夫じゃよ」

剣聖「俺も問題ない」

行政官「それは良かった!」

行政官「それじゃあ、さっさと採決をとって飲みに行きましょうか!」

大司教「まてまてまて!なぜ、そうなるのじゃ!」

行政官「しかし、早く出ないと店が混みますよ・・・?」

剣聖「そんな茶番で、よく俺たちを誤魔化せると思ったな」

行政官「しかし時間が―――」

大司教「まあ待て行政官」


大司教「さて剣聖よ、儂らの疑惑は深まりつつあると思うがどうじゃ?」

剣聖「・・・うむ」

行政官「なんのことです?」

大司教「お主のことじゃ行政官。お主は意図的に勇者を認めまいとしているであろう」

行政官「・・・そんな馬鹿な」

剣聖「いや、そうとしか思えん。疑うのは辛いが正直に答えてくれ」

行政官「・・・」

大司教「なあ行政官よ、剣聖を見てみよ。あの強面を」

剣聖「・・・?」

大司教「あんな凶悪な顔をしながら、在奴は己が勇者に憧れていたという本心を儂らに語ってくれた」

大司教「それだけ儂らを信用してくれているということじゃ」

剣聖「顔のくだりは必要だったか・・・?」

大司教「儂だってそうじゃ。お主らを信頼しているからこそ、教会の建前を捨てて、この仕事に積極的に協力しておる」

大司教「ここでの儂の発言を外で漏らされたら、大ごとじゃぞ。絶対に漏らすでないぞ」

剣聖「なあ、聞いているのか?」

大司教「行政官よ、お主が何らかの悪意をもっているとは儂には思えん」

大司教「お主もまた確固たる意思をもっているが故に、そうせざるを得ないのじゃろう?」

行政官「・・・」

大司教「儂らは仲間じゃ、話してくれはせんか?」

剣聖「・・・」

行政官「―――わかりました」

行政官「あなた方は同志だ。全てお話ししましょう」


――――――

勇者は、魔王討伐の旅に出る前は王都より遠く離れた南西の小さな町で衛兵を務めていました。
当時、町役場に勤めていた私とは年も近かったこともあり。よく二人で、町の酒場に繰り出したものです。
彼の印象は、気弱で虚弱、本当に衛兵として仕事が勤まっているのか疑問をもたざるを得ないほどでした。
また、人一倍強い正義感を持ち合わせているわけでもなく、あくまで食い扶持として衛兵という仕事をこなしているように見えたのです。
そんな彼が、職を辞して魔王を倒しに行くと言い出した時は正直驚きました。

勇者「俺は衛兵を辞めて魔王を倒しに行くことにしたよ」

役人「ば、馬鹿言うなよ。お前に、そんな大それたことできるわけないじゃないか」

勇者「まあ、俺も正直そう思ってるよ」

役人「突然何を言い出すんだよ。あれか、東の村が魔王軍に焼かれたからか?」

勇者「それもあるかな・・・仮にもあそこは、俺の故郷だったし」

役人「・・・ずっと帰ってなかったんだろう?親族でも殺されたのか?」

勇者「俺の家族はとっくに死んでるよ。強いて言うなら、恋人の家族が殺された」

役人「ああ、あの雑貨屋の娘か。かたき討ちというわけか?」

勇者「そんなところかな。彼女はすごい悲しんでるし、できるなら恨みをはらしてやりたい」

役人「・・・はっきりしない奴だな。それに、恋人とは言え他人の敵討ちに命をかけるつもりなのか」

勇者「まあ、理由の一つではあるよ」

役人「俺が聞いてるのは、お前の本心だよ」

役人「飯を食うために衛兵やってるような奴が、どうして今になって魔王退治なんて言い出すんだ」

勇者「うーん、正直、自分でもよくわからないよ」

役人「あのなあ、真面目に聞いているんだぞ」

勇者「真面目に答えているよ。でも明確なものは、特には無いんだ」


勇者「恋人の家族の敵討ちってのもあるけど、何か大それたことをやってみたいって気持ちもある」

勇者「世界を見て回りたいという好奇心もあるし、この町に飽きたってのもある」

勇者「悲しんでる恋人の姿を、見てられないってのもあるかな」

役人「・・・お前、本気で言ってるのか?その程度の覚悟で、魔王を倒すなんて」

役人「大体、悲嘆に暮れている恋人をこの小さな町に置いていく気か」

勇者「うーん、そこはちょっと考えてるんだけど」

役人「ああ、そうかい。だったら置いてけ、お前の御手付きだが俺が貰ったやらんこともないさ」

勇者「拗ねるなよ。まあ、それはそれで困るし連れて行こうかな」

役人「余計に意味が分からんぞ」

勇者「気分転換させてあげられないかな?」

役人「お前、魔王を討伐しに行くんだよな?新婚旅行に行くわけじゃないんだぞ」

勇者「まあ、無理そうなら何処か安全な場所に置いていくよ」

役人「だめだ、全く理解できん。話にならん」

勇者「そう言うなよ、明後日には立つつもりなんだ。今日は、楽しく飲もうぜ」

役人「いや、本当に意味が分からん。呆れてものも言えん」

役人「大体、お前たいして強くもないくせに」

勇者「それは衛兵として聞き捨てならないなあ。衛兵侮辱罪でしょっぴくよ」

役人「はっ!笑わせる、お前如き貧弱、俺でも吹っ飛ばせるぞ!」

勇者「まあまあ、落ち着いてよ。とにかく今日は楽しくさ」

役人「―――っ!」

勇者「ぐぁっ!」

勇者「・・・ひ、酷いじゃないか、いきなり殴るなんて」

役人「知るか!魔王に殺される前に、俺がぶっとばしてやる!おらかかってこい!」

勇者「ったく、しかたないなあ!」


その日、私と勇者は初めて殴り合いの喧嘩をした
散らばるグラスと、砕けた木皿、けしかける酒場の荒くれ達の声の中
最後に勝鬨をあげたのは、私のほうだった


――――――

剣聖「・・・俄かには信じられんな。手を抜いたのではないか?」

行政官「当時の彼は、本当に華奢だったのですよ」

大司教「あの勇者が、木っ端役人に喧嘩で負けるとは・・・意外じゃ」

行政官「次に彼に会えたのは、彼が魔王を打倒し。『勇者』の称号を得る記念式典でのことでした」

行政官「私は、自分の目を疑いましたよ。そこに立っていた勇者は、間違いなくあの虚弱な元衛兵だったのですから」

行政官「まさか、喧嘩で私に負けるような男が魔王を打倒すだなんてね。こんなことなら、私も魔王に挑戦しておけばよかったと後悔すらしましたよ」

剣聖「勇者は―――旅の中で、成長したということか」

大司教「まったく人の可能性というものは無限大じゃのお」

行政官「そう、まさにそれですよ大司教様」

行政官「人には無限の可能性がある。誰しもが魔王を倒しうる可能性があるんです」

行政官「そして、その奇跡をなしたものこそが勇者と称されるべきなのです。決して、私たちだけで決めていいものではないはずです」

大司教「なるほどのう。お主も、お主なりの勇者観に基づいて仕事をしていたというわけか」

剣聖「だが、そうは言ってもだ。その勇者を決めるのが俺達の仕事だ」

大司教「その通り。そして付き合いの浅い儂らでさえ、お主の意図に気づいたのじゃ」

大司教「このままじゃお主、罷免されかねんぞ」

行政官「既に・・・情報部は感づいているようです。なんとか、抵抗を試みていますが時間稼ぎ程度しかできていません」

大司教「意地を張って、せっかくの出世コースを台無しにする気か?」

行政官「・・・出世に興味はありませんよ」

剣聖「ここに来る候補者たちはみな優秀だ。魔王を倒す可能性も非常に高いだろう」


剣聖「何も有象無象の中から選ぶわけではない。少しは妥協してもいいんじゃないか?」

行政官「あなた方がそれを言うのですか?」

剣聖「俺たちは、例えこの仕事に失敗しても職を失うわけではないからな。だがお前はどうだ?」

剣聖「最悪、国家反逆罪なんてのもあり得るんじゃないのか?」

大司教「反逆罪はなくとも、背任罪は免れぬのではないか?儂らは、お主の身を案じているのじゃよ」

行政官「だめです。私たちが勇者を作り出すわけには行かない」

大司教「意地・・・だけではないな。何につけ論理的なお主じゃ。他にも理由があるのではないか?」

剣聖「話せ」

行政官「・・・魔王軍が大陸で猛威を振るう中、各地でそれに抗い続けている者たちがいます」

剣聖「王国騎士団だな」

行政官「いえ」

剣聖「・・・む」

大司教「騎士団は都市部の防衛で手一杯じゃ。冒険者達のことじゃろう」

行政官「そうです。正規の訓練を受けず、自前の装備で戦っている冒険者達です」

行政官「そんな彼らが数でも質でも勝る魔王軍に立ち向かえるのは、彼らの志にあるのです」

大司教「確かに、モチベーションは大事じゃの」

剣聖「精神一到何事か成らざらん」

行政官「それは敵討ちであったり、強い正義感であったり、恋人の為であったり、名声のためであったり」

行政官「魔王を首を挙げ『勇者』に成るというのも、その最たる一つだと私は思うのです」

剣聖「『勇者』への憧れが、彼らの力の源になっているということか」


行政官「そうです。だが、私たちの仕事は、彼らからそれを奪うものだ」

行政官「魔王が健在な今、私たちが誰かを『勇者』であると認めてしまえば冒険者達はどう思うでしょうか」

剣聖「・・・」

行政官「『魔王討伐は勇者に任せよう』『勇者なら、きっとやり遂げてくれる』『勇者なら』」

行政官「その瞬間、彼らは魔王を打倒すという目的を勇者に託しかねない」

行政官「私たちが仕事が、魔王軍に立ち向かう者たちの心をくじいてしまうのです」

行政官「だから、私は例え国中から後ろ指をさされようとも『勇者』を認定するわけにはいかない」

行政官「冒険者たちが戦い続けるには、勇者がいないことが重要なのです」

大司教「お主はお主なりに戦っておったのだな」

剣聖「俺は自分が恥ずかしい・・・お前が、そこまで深慮していたとは」

行政官「お二人は、誰が魔王を倒すか見当もつかないと仰いました。ならば、どうか私のサボタージュに協力してもらえないでしょうか」

行政官「どうか、どうか!お願いします!」

剣聖「頭をあげろ行政官、俺たちは仲間だ。どうして、仲間に頭を下げてまで乞う必要があろうか」

大司教「まあ、あくまでも儂は儂の目に従って仕事をするまでじゃ。しかし、結果として儂らが勇者を選び出すことができなかったとしても」

大司教「それはサボタージュとは言えまい?ちなみに、今この時をもって儂の目はより一層厳しいものとなったぞ」

行政官「・・・ありがとうございます!」

剣聖「だから、頭を下げるなと言っているだろうに」

剣聖「・・・お前は、俺の事を勇者と呼んでくれた。だが人知れず国に抗い続けていたお前こそ」

剣聖「勇者であると、俺は思う」

大司教「お、それはええのう」

大司教「どうじゃ行政官、お主も勇者候補生として儂らの面接を受けてみないか?」

行政官「まっさきに不可ですよ。私は、まだ何も成し得ていない」

剣聖「そうだったな・・・『成し得たものこそが勇者』。それがお前の勇者観だった」

大司教「さてお二人さん、儂はもう喉が渇いて仕方ないぞ。すぐに潤さねば、皺くちゃに枯れてしまいそうじゃ」

大司教「そろそろ審議を終えてもいいんじゃないか?」

剣聖「お前は、最初から皺くちゃだろうに」

大司教「なんじゃと!?」

剣聖「だが、喉を潤したいというのには賛成だ、行政官、そろそろ採決に移ろうではないか」

行政官「はい!それでは、みなさん採決に移りましょう」



行政官「それでは、採決に入ります」

行政官「国中で悪事を働いた元義賊、彼は勇者足り得るか?」



剣聖「不可」


大司教「不可」


行政官「不可」


行政官「反対3で勇者認定ならず。それでは、皆さんを王都一の酒場にご招待しましょう」


――――――

3人目 国に抗う男 勇者認定ならず

――――――

剣聖「だから、頭を下げるなと言っているだろうに」

剣聖「・・・お前は、俺の事を勇者と呼んでくれた。だが人知れず国に抗い続けていたお前こそ」

剣聖「勇者であると、俺は思う」

勇者「やかましいよ、なに馴れ合ってんだ気持ち悪い」

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