【SW】シス「わらわの弟子にならんか?」ジェダイ「断る!」【オリキャラ】 (174)


 寒風吹きすさぶ夜の荒野の只中、キャンピング・トレーラー付きのスピーダーが一台。
今、そのトレーラーから一人の青年が姿を現す。

シンノ「うう、寒っ……」

 青年――シンノ・カノスは、ぶるりと震えてケープをかき合わせる。
その裏に隠したライトセーバーが、腰のブラスターとぶつかって音を立てた。

R3C3『ピポポ』

 シンノに続いて、赤いアストロメク・ドロイド――R3C3が姿を現した。

シンノ「おお、R3」

R3C3『ポポピーポ』

シンノ「ハハハ、何だ?寝ぼけてるのか?ドロイドのくせに……おっ、見ろ」

 シンノは地平線を指し示す。

シンノ「……夜明けだ……」

 ――その指先では紺碧の空が白み、眩い光がちらりと顔を出していた。
やがて姿を現す太陽が、荒野に暖かな光を投げかける……


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 遠い昔、遥か彼方の銀河系で……



   エピソード3.4 蘇る希望


 ダークサイドの勝利!シスの暗黒卿のもと
万雷の拍手の中で誕生した銀河帝国は、恐怖
政治によってその威信を全宇宙へ轟かせつつ
あった。未だクローン戦争の残火燻る辺境の
QC星系も、古代文明ヤマタイトの末裔ミコ
ア姫を大執政官に奉じた帝国軍によって一応
の安定をみたのである。


 一方ジェダイ・ナイトの生き残りシンノ・
カノスは、帝国軍の追手から逃れQC星系に
辿り着いていた。彼は惑星キイに古代ジェダ
イ・テンプルの遺跡が存在すると知り、付近
の地理に詳しい探検家たちを雇ってそこを訪
れたのだが……


シンノ「……こいつはひどい」

 シンノは遺跡の一室を見渡した。
引き出しという引き出しは乱雑に開け放たれ、ドアはことごとく力尽くでこじ開けられている。
爆破や焚火の跡まで残されており、経年劣化を差し引いてもひどい有様であった。

シンノ「ここはお前らしか知らないんじゃなかったのか?だから300払ったんだぞ」

探検家1「グルルルル……どうやら俺たちの他にも墓荒らしがいたらしいな」

探検家2『じぇだいドモハ禁欲的ダカラナ。ソノ遺跡ニモ金目ノ物ガ無インデ、人気ハ無イハズナンダガ』

探検家3「……」

 探検家はリーダー格のトランドーシャン、背の高いドロイド、下働きらしい物静かな少女の三人だった。

シンノ「このぶんではジェダイの資料も、遺産も、ろくに残ってはいまい……とんだ無駄足だ、これでもフルプライスか?」

探検家1「まあ待ちな、兄ちゃん。この前来た時に面白そうな場所を見つけたんだ。あそこは手つかずのはずよ」

シンノ「面白そうな場所だと?」

探検家1「案内してやる、ついてきな」


 辿り着いた部屋は円卓と、それを囲む形で椅子が並ぶ広間である。
古びた天窓から僅かに日の光が差し込み、損壊も他の部屋より少なく、厳かな雰囲気がそのままに残されている。
 
シンノ(古代のジェダイ・マスターたちがシスと戦うための作戦会議をした部屋だろうか……)

探検家1「グルルルル……この椅子だったか?いや、こっちか……」

探検家2『コノ椅子ダ』

 ドロイドが椅子の一つをぐいと押すと、据え置きかと思われた椅子はその力のままにずず、と滑る。
やがて四人の探検者の前に、地下へ通じる階段の入口が姿を現したのである。

シンノ「これは……!?」

探検家1「おっと、そこだったか……さあいくぜ」

探検家2『コノ下ダ』

探検家3「……」

シンノ(古のジェダイたちが遺した隠し通路……!)

 ずかずかと階段を下りる探検家たちに続いて、シンノは壁に手を触れながら、一歩ずつ暗闇の中に足を踏み出していった。


「グルル、到着だ」

「ここがそうなのか?暗くて何も……いてっ!」

『オイ、気ヲツケロ!』

「マオ!明かりを出せ!」

 丸っきり暗闇だった地下室がやにわ明るくなり、シンノは思わず目を覆った。
マオと呼ばれた少女がライトを灯したのだ。

シンノ「それで……面白そうな場所というのは、ここか?」

 慣れない目であたりを見回すと、そこは先ほどの広間よりずっと狭い空間である。
ランプの載った簡素な机が一つ置いてあるだけの、閑散とした部屋。
しかし異質なのは、その壁や床、天井までもが、滑らかな黒い石のような素材で出来ていることだった。

シンノ「変な場所だな……しかし、何かあるようには見えないが。ちょっとした隠し部屋ってだけじゃないのか」

シンノ(……しかし、ここはどうも居心地が悪いな……寒気もするような)

探検家1「まあ待て……この壁を見てみろ」

 探検家が指し示す壁には、胸くらいの高さに何かしらの文章が白く刻まれていた。
その文字はシンノにとっては始めて見るものであった。古代文字だろうか?

探検家1「グルル……この前、この文章を解読したんだが……どうやらこの向こうに、ジェダイの書庫があるらしい……」

探検家2『音響探索装置モ、コノ向コウニ広イ空間ガアルト示シテイル。じぇだいノ遺産ガ山ホドアルコトダロウヨ』

探検家1「だがこの壁は押しても引いても開かなくてな……どうだ?何か開ける方法に心当たりはないか?」


シンノ「この奥に……?」

 シンノが文字の刻まれた壁に近寄り、そっと手を触れる。
――指が壁をすり抜けた。

シンノ「うっ!?」

探検家1「これは!?」

 次の瞬間壁は消え、代わりに広大な暗闇の空間が口を開けている。
その奥からすえた匂いのする空気が流れ込んだとき、シンノの体を凄まじい悪寒が駆け抜けた。

シンノ(……な、何だ、この嫌な気配は……)

シンノ(これは……ダークサイドのフォース……!?)


探検家1「――おっと。もう十分だぜ。そこで止まれ、ジェダイの兄ちゃん」ジャキッ

探検家2『ゴ苦労様ダゼ』ジャキッ

探検家3「……」ジャキッ


 シンノはぴたりと動きを止めた。
探検家の言葉とともに、フォースを介して殺気を感じたのだ。
そして実際、三人の探検家のブラスター・ピストルの銃口が背後から彼を狙っていた。

シンノ「……どうして俺がジェダイだと?」

探検家1「グルル、前にも言っただろう。ジェダイの遺跡は『しけてる』」

探検家2『全クソノ通リデナ、ココデ見ツケタモンヲ全部売リサバイテモ雀ノ涙ダッタヨ」

探検家1「ああ。だからわざわざ探すような奴なんて限られる。俺たちのようなもの好きか、あるいは……ジェダイ」

シンノ「……上を荒らしたのは、お前らか」

 シンノの拳が固く握りしめられる。

探検家1「おっと、言っておくが……俺たちに何かあれば、町にいる仲間がお前のことを帝国軍に通報する手はずになっている。おかしなことを考えるなよ」


探検家2『サア、壁ニ手ヲツケ』

 シンノが指示に従うと、ドロイドの探検家はすかさずブラスターとライトセーバーを奪って机の上に放った。

シンノ「俺を誘い込んだのは、この壁を開けさせるためだな……ジェダイならここを開けられると知っていて……」

探検家1「あの壁の文字が教えてくれた……さて、お前はここでおとなしくしていな」

 トランドーシャンの探検家は少女を連れて暗闇の中に姿を消す。
しかしドロイドは机の上のランプに火を入れ、ブラスターでシンノを牽制し続ける。

探検家2『サテ、二人キリダナ。言ウマデモナイダロウガ、じぇだいノ催眠術ハ俺ニハ通用センゾ」

シンノ「……そのようだな」

探検家2『ソレト、すぴーだーノトコロニ待タセテアルオ前ノどろいど、俺ガモラウゼ。イイダロ?』

シンノ「……それより、この奥はシスの遺跡じゃないのか」

 シンノは喋りながらフォースに働きかける。
机の上のブラスターが僅かに震えた。

探検家2『壁ノ文章ニヨルト、ソウラシイナ。ヨクワカッタジャナイカ』

シンノ「とすると……貴様らの本命は、シスの財宝か」

 ブラスターがゆっくりと、ごくゆっくりと回転する。
やがてその銃口はドロイドの探検家のほうを指向していく。

探検家2『ソウサ。〈しす〉ハオ前ラト違ッテ太ッ腹ナンデナ』


 そのとき、暗闇の方からトランドーシャンの叫び声が響いた。
続けてブラスターの発砲音、何かが激突するような音。

探検家2『何ダ!?』

シンノ「……」クンッ

 仰天したドロイドが僅かに銃の照準を逸らした瞬間、シンノはフォースで机の上のブラスターの引き金を引いた。

探検家2『グアッ!』

 光弾は過たずドロイドの脇腹を貫き、床に突き倒す。
その手からブラスターが零れ落ちて床に転がる。

探検家2『ウアッ、アッ』

 ドロイドはそれに手を伸ばすが、ブラスターはひとりでに動いてその手をすり抜けた。
やがて空中へ浮き上がると、振り返ったシンノの手に収まる。

シンノ「……さて、言うまでもないだろうが」ジャキッ

探検家2『待テ!じぇだいガ丸腰ノ相手ヲ殺スノカ!?』

シンノ「ジェダイのルールはドロイドには適用されない」バシュッ


 武器を取り戻したシンノは壁の向こう、暗闇の中へ飛び込んだ。
むせかえるようなダークサイドのフォースの流れが彼を導いた。
やがて彼は灯り――少女の持っていたライトが地面に転がっているのを見つけ、そこへ駆け寄る。
すると近くの床に真新しい死体が二つ転がっているのが目に入った。

シンノ「これは……いったい誰が?」

 ブラスターを握ったトランドーシャンの死体と、少女の死体。
シンノはおびただしい血の臭いに思わず顔をしかめつつ、ライトを拾ってあたりを見回した。
先ほどの会議室と同じくらいの広さの、石造りの部屋である。
部屋の奥に簡素な祭壇があり、その上には何か箱状のものが置かれている。

シンノ(あれは……棺、か?)

 シンノは慎重に周囲の様子を伺いながら前進する。
……進路の左右に石像が建てられている。
人の背丈の三倍ほどの、槍状の武器を構えた半裸の男の像。
それが棺を守るかのように二体並んでいるのだ。

シンノ(……!)

 その武器の先端から血が滴っていることに気づいた瞬間、石像が鈍い軋みを上げながら動き出した!

シンノ「こいつらがッ!?」

石像1「グゴゴゴゴ」

石像2「グギギギギ」

 シンノは石像がX字に振り下ろした武器をバク転で回避し、ライトセーバーを抜いた。
青色の光刃が闇の中に煌めく。


石像1「グゴゴッ」

シンノ「フンッ!ハアッ!」

 襲い来る石像に飛びかかりざま二太刀を浴びせ、両腕を切断。
床に落ちた腕と武器が振動と粉塵を巻き起こし、無力化された石像がその中に膝をつく。

石像2「グギギギギ」

シンノ「はああ……!ぜあっ!」

石像1「グゴッ」フワッ ビュンッ

 シンノの気合とともに一体目の石像が浮き上がり、迫る二体目に直撃。
巻き起こった更なる粉塵の中にシンノは飛び込んでいく。

 数秒後、石像の戦士たちはばらばらに解体されて沈黙していた。


シンノ「古代のシスの……防衛装置か」

 ――シンノがそう呟いて残身を解いたとき。

?『ふああ……なかなかいい素質を持っているようじゃな、若きジェダイよ』

シンノ「!?」

 広間に響く誰の物とも知れぬ声を耳にして、シンノは油断なくライトセーバーを構えた。

シンノ(ダークサイドの力を……おそろしく近くに感じる……!)

?『そなたが妾の復活に立ち会ったのも、フォースの意志……そなたは妾の〈器〉となるためここに導かれたのじゃ……』

シンノ「器だと……何を言っている。喋ってばかりいないで、姿を見せたらどうだ……!」

?『カカカカカ!そう焦るでない、言われずとも見せてやろうぞ!』

 その言葉とともに、祭壇の上の棺の蓋が恐ろしい勢いで吹き飛んだ。
その中から煙のような暗黒のオーラが噴出し巨大な女性の輪郭を形作るのを、シンノは呆然と眺めた。

シンノ「な……お、お前は……」

 オーラの塊がシンノにぐいと顔を近づけ、言葉を発する。

?『妾は〈ダース・ネーア〉――正統の、シスの暗黒卿じゃ!』


シンノ「――そ、そんなはずはない。シスはこの世に二人のはず……皇帝と、ダース・ヴェイダー……」

 ネーアはシンノを無視して、横の壁に目をやる。
そこにはシリンダーを組み合わせたような装置――液体金属の滴下を利用した、半永久的に動く時計が埋め込まれていた。

ネーア『むう、500年も寝ていたようじゃの……何?ダース・ヴェイダー?そなたの言っておるのは、妾の弟子のその弟子の、ずーっと先の弟子じゃろうて』

シンノ「ごひゃ……じゃあお前は、過去のシスの……幻影?」

ネーア『チッチッチ……違うんじゃな、これが』

 オーラの塊は挑発的に人差し指を振った。

ネーア『妾はたしかに弟子にすべてを譲り、眠いに就いた。そのとき肉体は滅びた……じゃがそれは一時的なものに過ぎん』

ネーア『シスの教えが断絶したとき、妾はフォースの導きによって蘇ることになっておるのじゃ。いわば妾はシスの断絶を防ぐ安全装置、生きた〈シスの種子〉よ!』

シンノ「……今はシスの教えは途切れていないはずだが?」

ネーア『うむ、そうらしいのう。……あれ?』

シンノ「……」

ネーア『……えーと』


シンノ「とりあえず、シスは滅ぼす。その棺を壊せばいいのか?」

ネーア『わーっ!待て!待つのじゃ!』

 ネーアは泡を食ったように手をぶんぶん動かした。

ネーア『シ、シスが健在にも関わらず妾が目覚めるということは、フォースに相当の乱れが生じているはず……』

ネーア『そうじゃ!いかに強力と言えどシスはたった二人……皇帝とダース・ヴェイダー、じゃったか?正体まで判っておるのに、ジェダイはなぜ放っておく!?』

シンノ「……!」

 シンノが言葉に詰まると、オーラの塊はそれを見透かすように顔を近づけた。

ネーア『……なるほどな』

シンノ「――!何を!」

 シンノはそちらへライトセーバーを振りぬくが、ネーアはそれをふわりとかわした。

シンノ(今、頭の中を覗かれた……!)

ネーア『クローン戦争……クローン・トルーパー……オーダー66……銀河帝国。ジェダイが滅びるとはのう』

 5世紀前のシスは狂喜乱舞するかと思いきや、顎に手を当てて考え込んでいるようだった。


ネーア『……マスター・ヨーダも死んだのか?』

シンノ「……ああ、多分……笑わないのか?シスにとっては、この上なく嬉しいニュースだろう」

ネーア『まあ、そうじゃな。しかし妾以外のシスが大きな顔をしているのも気に入らん……』

シンノ「仲間割れでもするつもりか」

ネーア『弟子が師匠を殺し、師匠が弟子を殺す……それがシスじゃ』

ネーア『妾が現役のシスに成り代わっても、最終的に二人になればそれでよい――さて、お喋りはもう十分ぞよ』

シンノ「……なんだと。何をしようって言うんだ」

 ネーアはふわりと空中へ浮かび上がった。
その目があるべきところがきらりと輝く。

ネーア『なに、そなたには予定通り、妾の器となってもらうだけ……さあ、妾を受け入れよ!カーッ!』

 ネーアの体が渦を巻き、圧縮し――電撃のごとくシンノを襲う。

シンノ「な――お、お断りだ!」

 シンノは咄嗟に横へ飛び退いた。
暗黒のオーラがシンノの横を通り過ぎ――どん、という音が響いた。


 シンノはぱっと背後を振り返り、その行方を捜す。
……「それらしきもの」が、むくりと起き上がった。

少女「……カカ、カカカカカ!さあ、これで妾は完全復活――」

 先ほど石像に殺された少女の体が。

少女「って、なんじゃこりゃあ!?」

シンノ「……お前……ダース・ネーアか!?」

 信じがたいことに、このシスの暗黒卿の魂は死体に新たな命として宿ったようだった。
立ち上がってシンノに近づく仕草は生き生きとして、血に濡れた服の切れ目から覗くはずの傷は綺麗にふさがっていた。

ネーア「避けちゃダメじゃろ!?」

シンノ「避けるに決まってるだろう!」

ネーア「な、何てことじゃ、そうそう乗り移れるものではないというに……うわっ、しかもこの体フォースの加護カッスカッスぞよ……」

 ネーアはしばらく深刻な顔で黙りこんだ。
そしてシンノの表情が困惑から呆れに変わり始めたころ、意を決したように口を開く。

ネーア「……で、ではこの際……そなた!名はなんという?」

シンノ「え?……シンノ・カノスだが……」

ネーア「よし、シンノ・カノス――」


ネーア「そなた、妾の弟子にならんか?」


シンノ「……は?こ、断る!」



R3C3『ピポポ』

シンノ「ああ、R3……」

 遺跡の外、スピーダーとともに待機していたR3C3は、入口から姿を現した主人に近寄った。

ネーア「ほう、これはお前のドロイドか?」

R3C3『プウー……』

 しかしそれに続いて出てきた探検家の少女を見るやいなや後ずさった。
ドロイドなりに何かよからぬ気配を感じたのかもしれない。

シンノ「……そうだ」

ネーア「500年でドロイドの見た目も変わったものぞよ。眠りに就く前は蜘蛛の化け物みたいな奴ばかりじゃったが……」


R3C3『ピポポ ポポピーポ』

シンノ「……そうだR3。そいつは別人だ……シスの暗黒卿ダース・ネーアだ」

R3C3『ピアアアアア!プウウー』

シンノ「俺だってそう思った!ここに置いていけば探検家の通報で駆け付けた帝国軍に捕まって、皇帝に処刑されるだろうが……」

シンノ「そうなったら俺の居場所を通報してやるって言うんだ、こいつは……憎たらしいちんちくりんが!」

ネーア「妾くらいになれば、そなたのような未熟者のフォースを追跡するくらいわけはないぞよ。こんなちんちくりんの器でもな」

ネーア「ところでそなたはどうじゃ?星系越しでフォースを探れるか?ダース・シンノよ」

シンノ「ダースを付けるな、弟子にはならん」

ネーア「妾を殺すという手もあるな。妾は丸腰じゃが」

シンノ「もうわかった!早くスピーダーに乗れ、くそ!」


 スピーダーはキャンピングトレーラーを切り離し、ジェダイとシスとドロイドを乗せて走り出す。
東の地平線では真っ赤な太陽が――惑星キイは西向きに自転する――沈みつつあり、荒野は夕闇に包まれようとしている。
惑星唯一の宇宙港都市キイポートまでの道すがら、シンノはR3C3に遺跡での顛末を語った。

R3C3『ピポポ ポポピーポ』

シンノ「いや、あの手の連中がよく使うサバイバルガジェットにはバイタルサインを監視する機能もあるはずだ……探検家の仲間はあいつらが死んだことにすぐ気付く」

シンノ「通報を受けた帝国軍が到着するまで丸一日ってとこだろう、それまでにこの星から出なきゃあ」

ネーア「モグモグ、船の当てはあるのか?」

 ネーアはトレーラーから分捕ってきたチョコレート・バーを齧りながら尋ねた。

シンノ「俺の船がある。黙って乗ってろシスめ」

ネーア「そう邪険にするでない……モグモグ、それにしてもこれ、美味いのう」


 ――QC星系における帝国軍の本拠地「ダン・ザ・フロー」は惑星ヤマタイティアの衛星軌道上に存在した。
無軌道に拡張を繰り返した結果、鉄条網の塊のような醜い姿に成り果てた巨大宇宙ステーションである。

 その奥深くの中央司令室で、一人の男がビューポートに向かって立っていた。
銀河帝国QC星系総督にして駐屯艦隊の司令官、セード・ワイマッグである。
顔立ちには未だ若さが残っていたが、そのたたずまいには高級将校らしい貫禄を感じさせた。

?『シュコーッ、シュコーッ……ワイマッグ提督。興味深いお知らせが』

ワイマッグ「……コマンダー・コーチ。この時間はお休みになっているはずでは」

 ワイマッグは呼びかけられたほうへ振り返る。
背後に居たのは、T字スリットのヘルメットが印象的な装甲服に身を包んだ男。
ヘルメットにはいくつも撃墜マークが書き込まれていたが、その腰はひどく曲がり、杖を勧めたくなる危うげな足取りだ。
周期的に鳴るガスが漏れるような音は、装甲服に組み込まれた生命維持装置の呼吸音だった。

コーチ『休んでなどいられませぬ、この星系に潜んでいる分離主義者の残党を滅ぼすまでは……ゲホゲホ!』

ワイマッグ「もっとお体を労わってください、またバクタ・タンクに入ることになりますよ……天国の父も悲しみます」

コーチ『あなたの御父上のためにもです。あなたの御父上は分離主義者のドロイドに殺されたのですぞ!……私はその場に居ながら……お助けできませんでしたが』

ワイマッグ「そのことはもう気にしていないと申し上げたはずです、コマンダー」

 ワイマッグは労わりと苛立ちがないまぜになった表情であった。

ワイマッグ「それで、『興味深いお知らせ』というのは何です?」

コーチ『シュコーッ、シュコーッ……惑星キイに、ジェダイがいるという通報がございまして……』

ワイマッグ「……コマンダー、今までもその類の誤報はいくらでもあったでしょう。また棒ライトを振り回す酔っ払いの見間違いでは」

コーチ『しかしもし本当だったら?ジェダイは排除しなければなりませぬ、確実に。よい兵士は命令に従うものです』

ワイマッグ「まあ……たしかに、皇帝陛下からも最重要任務の一つとは言われておりますが……」


コーチ『シュコーッ、シュコーッ……今回は画像もあるのです。盗撮のようですが』

 コーチがデスクに置いた3Dプロジェクターから、椅子に腰かけた若い男の映像が投射される。

ワイマッグ「……これがジェダイ?私より若いようですが……」

コーチ『ジェダイを見た目で判断してはなりませんぞ』

 そのとき司令室のドアが開いて、黒装束の若い女性が姿を現す。

ワイマッグ「……マーズ管理官」

 ジヒス・マーズ管理官は整った容姿にも関わらず、どこからともなくおそろしい威圧感を発する女性だった。
マーズは相変わらず鉄面皮のまま二人に近づく。
ワイマッグの表情は明らかに警戒を孕んだもので、コーチは威嚇する動物のごとく背筋を伸ばしさえした。

マーズ「――提督。『ラグナロク』が最終チェックを終えたのはお聞きになりましたか」

ワイマッグ「わかっている。それだけ言いに来たのか」

マーズ「いえ、皇帝陛下からの下賜品を組み込んでおりますから、死蔵せず近々お使いになるよう進言に伺ったのです」

ワイマッグ「下賜?……下賜、ね」

 ワイマッグはマーズの言葉を鼻で笑った。

ワイマッグ「ゴミ捨て場に出せない厄介なゴミを目につかないところに捨てただけに思えるがね。なんだあのバカでかいレーザー砲は?何かの試作ひ――ぐっ、ぐぐぐ」

 そこでワイマッグは突然喋るのをやめ、不自然に呻いた。
首をかきむしる。顔が青くなる。


コーチ『!何をしている!』

 コーチが銃を抜くに及んで、マーズはようやくフォースで首を絞めるのをやめた。

ワイマッグ「――ゲホッ!ゲホッ!貴様……!」

マーズ「皇帝陛下のなさることを貶めるとは……それに、下賜品のことは機密扱いのはず。無遠慮にべらべら喋るのはやめていただきたい――むっ?」

 マーズはデスクの3D映像に目をつけた。
何らかの感情のもと、その目が細められる。

マーズ「……これは何です」

ワイマッグ「……惑星キイに、ジェダイがいると通報があった。そいつがジェダイだというんだ。また誤報だろうと思うがね」

マーズ「誤報ではありません。こいつは本物のジェダイです」

 マーズは断言した。

ワイマッグ「何故わかる?」

マーズ「フォースです」

ワイマッグ「フォース?またわけのわからん魔法――ぐっ、ぐぐぐ」

マーズ「信念への侮辱は不愉快です」

コーチ『貴様!いい加減にせんと本当に撃つぞ!』ジャキッ

マーズ「……とにかく、今すぐ艦隊を惑星キイに送っていただこう。私も同行します」

ワイマッグ「――ぷはあっ!ゲホッ、ゲホッ……わ、わかった……」

 マーズはそれっきり一言も口を利かず、コーチの突き刺すような視線も感じないかのように部屋を後にした。



コーチ『シュコーッ、シュコーッ……皇帝の犬、ダース・ヴェイダーの腰巾着めが……我々はあんな奴らのために戦ったのではない……!』

ワイマッグ「……よせコマンダー。不敬罪になりかねんぞ」


 ――いくらかの時間の経過の後、物語は惑星キイに戻る。
夜通しスピーダーを走らせたシンノたちは朝方、都市キイポートに到着していた。
シンノは船を停めてある着陸パッドでR3を下ろし整備を命じておいて、シス卿を連れて金策と買い出しに向かった。
時間は惜しいが、帝国軍との逃避行は準備無しでできるものではない。
帝国軍の到着は夕方頃になるだろうという推測もあってのことだ。


シンノ「150だと!?バッチリ動く4WDスピーダーだぞ!桁を間違ってるんじゃないのか!?」

車屋「きゃんきゃん騒ぐんじゃねえ、寝起きの頭に響く……それにどうせ盗品だろうが、そうそう高値を出せるかよ」

ネーア「なあシンノ、まだ終わらんか?妾は退屈じゃあ」

シンノ「お前は黙ってろっ!」


 キイポートは多くの辺境の町の例に漏れず、夜はやたら騒がしいのに、朝は誰も彼も二日酔いで動きが鈍い。
シャッターをガンガン叩いて車屋を引きずり出したはいいが、値段交渉ではシンノが折れて安値でスピーダーを売り払うこととなった。
車屋と同じやり方でジャンク屋から宇宙船のスペアパーツを買い、いくらか早起きな雑貨屋で食料と日用品を調達し……もう一つ。


ネーア「おおっ!これはまさしく黒色のローブ……シス卿の正装!シンノ!これがよい!これを買え!」

シンノ「シス卿の!?……くそっ、わかったわかった……」

服屋「……妹さんですか?」

シンノ「いや……まあ、はい、そんなところで……」

服屋「元気で可愛いじゃありませんか。裾と袖を詰める代金は結構ですよ」

シンノ「えっ……ああ、はい、どうも……」


 買い物が済むと、二人は服屋を後にした。
シンノは苦虫を噛み潰したような顔だったが、黒のローブに着替えたネーアは踊り出さんばかりに上機嫌だ。


ネーア「やっぱりこれじゃのう~!これが一番落ち着く、しっくりくるわ!」

シンノ(ええい、俺はどこまでこいつの言いなりになれば……ん?)

ネーア「む?」


 二人は同時に上を見上げる。
シンノは後になってから、それが何らかのフォースを感じてのものだったと気づいた。

 ひたすらに広がる、青く晴れ渡る朝方の空――
その彼方、遥かな高空に、楔型の何かが唐突に四つ出現した。


ネーア「……なんじゃあれは」

シンノ「……ま、まずい。早い!早すぎる……!」

ネーア「な、何だって言うんじゃ!?」

シンノ「帝国軍のスター・デストロイヤーだよ!買い物はもう終わりだ、船のところへ行くぞ!」


 顔を真っ青にしたジェダイとシスは転がるようにして着陸パッドへ駆けだした。
ぶら下げた買い物袋からバンサ・ミルクの瓶が零れ落ちて地面に転がる。

 五分としないうちに、白い装甲服のストーム・トルーパーの集団がその瓶を蹴とばし、踏み割って、ミルク溜まりを踏みつけて走り抜けた。
彼らは少し後ろからついてくる黒装束の人物の誘導によって正確にジェダイたちを追跡し、距離を詰めていくのだった……。


シンノ「R3!準備はできてるか!?」

ネーア「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ、こ、この体、ひ弱すぎるぞよ……」


 ドーナツ型の建物の中央に位置する着陸パッドに、ジェダイとシスが息を切らして駆け込む。
そこにはちょっとしたスピーダー・バスほどの大きさの小型宇宙船が駐機されていた。
逆ガル翼が印象的な重戦闘機「Wウィング」である。


R3C3『ピポポ』

シンノ「よし、じゃあすぐに出発だ。帝国軍の追手がすぐそこまで来てる!」

R3C3『ポポピーポ』


 忠実なR3C3はランプ扉から機内に滑り込み、専用リフトで天井のドロイド用ソケットに着席した。
機体外部、翼の付け根あたりからR3C3のドーム型の頭が顔を出す形である。

 シンノは息も絶え絶えのシス卿と荷物をまとめて機内に押し込むと、自分もその後に続こうとした。
しかしそのとき、ロックしておいたドアが爆破され、煙の中から白い装甲服の集団が姿を現したのである!


肩当トルーパー「あいつだ!撃て!」バシュッバシュッバシュッ

トルーパー1「ジェダイ野郎めが!」バシュッバシュッバシュッ

トルーパー2「銀河帝国万歳!」バシュッバシュッバシュッ


シンノ「くそっ、間に合わないか……!」ビシューンッ


 シンノはライトセーバーを抜き、「第三の構え」をとった。
ブラスターの防御に優れる剣さばきが、飛来する光弾を次々にはじき返していく。


トルーパー1「ぐわあっ!」バスッ

トルーパー2「ぎゃあっ!」バスッ

肩当トルーパー「しゃ、射撃中止!ロケットランチャーはまだか!?」

トルーパー3「持ってきました!」ガチャッ

肩当トルーパー「よし、船を狙え!」

シンノ「させん!」ジャキッ バシュッ


 トルーパーがランチャーを構えるのを見ると、シンノは左手でブラスターを抜いた。
そしておそるべき射撃精度でランチャーの弾頭を撃ち抜き、爆発させた!


トルーパー3「うわあーっ!」ボカーンッ

肩当トルーパー「お、おわあーっ!?」ボカーンッ


シンノ「……よし、R3!」

ネーア「まだじゃ、シンノ!」

シンノ「何?」


 ブラスターをしまって機内に向かいかけたシンノは、ネーアの警告によって踏みとどまりドアのほうに向き直った。
――爆炎の中に、黒い影が浮かび上がる。
熱を感じないかのように悠然と、その女は死神のごとく姿を現した。


マーズ「……」ザッ


 息を呑むシンノを見据えつつ、懐からライトセーバーを取り出す。


マーズ「……ジェダイ」ビシューンッ ビシュッ


 通常の長い刃と、鍔の前端から伸びる短い刃――二つの赤い光刃が、シンノに殺意を剥き出しにした。


マーズ「――死ね!」シュザッ ブウンッ!


 フォースで倍化されたジャンプで一気に距離を詰めての横一閃。


シンノ「うおおっ!?」シュザッ


 シンノはとっさに横へ転がって難を逃れる。


マーズ「フンッ!」ブウンッ

シンノ「くうっ!」ビシュンッ


 起き上がるところへ打ち込まれる一撃をセーバーで防ぐ。
鍔迫り合いの形――赤と青の光の刃がスパークして火花を散らす。


シンノ「お、お前は……何者だ?なぜ帝国に……」バチバチ

マーズ「……私はヴェイダー卿の影――」バチバチ

ネーア「シンノ、そやつの得物は『ジット・セーバー』――武器を奪われぬよう気をつけい!」

シンノ「何っ?」

マーズ「――いずれ成り代わる弟子でなく、永遠の忠臣よ!」クンッ


 マーズが自分のセーバーをひねると、二本の刃とそれに伴うフォースの力場がシンノのセーバーを「挟み取る」。


シンノ「うっ、これは!?」

マーズ「はあっ!」ブンッ


 すかさずマーズがセーバーを思い切り振り抜く。
シンノのライトセーバーはその手を逃れ、あらぬ方向へ吹き飛ばされてしまった。


ネーア「ああっ、だから言ったろうに……!」

マーズ「セイッ!」ブウンッ

シンノ「くそっ……!」サッ


 この高速戦闘の中ブラスターを抜けるわけもなく、丸腰となったシンノは回避に徹するしかない。
フォースでセーバーを引き寄せたいが、マーズはそれを遮るように立ち回り、更なる一撃を繰り出す。


マーズ「フンッ!」ブウンッ

シンノ「くっ――うっ!?」サッ ドンッ


 それもなんとか回避するシンノだったが、背後はWウィングの主翼でありもはや逃げ場はない。
マーズは勝ち誇ってジット・セーバーを振りかざした。


マーズ「これまでだな、ジェダイ……喰らえ!」ブウンッ

ネーア「――シンノ!これを使うのじゃ!」ポイッ


 そのとき、機内から躍り出たネーアが何か筒状のものをシンノに投げて寄越した。


シンノ「!これはっ!」パシッ ビシューンッ

マーズ「!」ビシュンッ


 ――赤い刃のライトセーバーがジット・セーバーを受け止めた。


マーズ「バカな、その色……そのセーバーはシスの……」バチバチ

シンノ「はあっ!」ブウンッ


 シンノは混乱するマーズを力任せに押しのける。


マーズ「くっ……」ヨロッ

シンノ「だあーっ!」ドウンッ

マーズ「うおおっ!?」ブワッ


 そして立て続けにフォース攻撃を放ち、マーズを大きく吹き飛ばした。


マーズ「貴様……!」ズザザッ

R3C3『ピポポ』

マーズ「!」


 マーズはドアの外側でようやく踏みとどまったが、そこをめがけてWウィングの後部レーザー砲が火を噴いた。
彼女はこれをかわしたようだったが、今度はドア上部に砲撃が加えられ壁が崩壊。
落下した瓦礫によって道は完全に塞がれてしまった。


シンノ「いいぞR3!すぐに出発だ!」


 シンノは自分のセーバーを拾って機内に飛び込む。
マーズがフォースで瓦礫を退けて着陸パッドに再突入する頃には、Wウィングは飛び立ち、雲の向こうへ姿を隠そうとしていた。
マーズは珍しく不快そうな表情を表しながら、コムリンクでワイマッグ提督の艦隊に連絡を取った。


マーズ「……取り逃がしました。敵はWウィングで逃走……撃墜してください、ハイパースペースに逃げられる前に」


シンノ「R3、惑星ハクカまでのハイパースペース・ジャンプの計算を」

R3C3『ポポピーポ』

ネーア「やれやれ、危ないところじゃったの……」


 Wウィングは惑星キイの大気圏を離脱しつつあった。
遠ざかっていく黄土色の荒野の星と対照的に、頭上の宇宙は黒く、星々が宝石を散らしたように瞬いている。
Wウィングの機首先端は透明金属張りのドームであり、そこに面した操縦席にシンノが座る。
ネーアはその後ろ、乗客用座席の一つに腰かけていた。


ネーア「それにしても、一つ貸しじゃのう、ええ?」

シンノ「……これのことか」


 シンノはうんざりした顔で、さっき投げ渡されたライトセーバーを取り出した。


ネーア「そうじゃ。妾がそれを貸してやらねば死んでいたであろう?……あんなジェダイ崩れ相手にのう、情けない」

シンノ「お前、この前自分のことを丸腰だって言っていなかったか。嘘じゃないか」

ネーア「えっ!……いやー、それは……」

シンノ「貸し借りは無しだ。それと、これは俺が預かっておく」

ネーア「ぐぐぐ……」ギギギ

シンノ「……あいつ、ジェダイ崩れなのか?」

ネーア「へ?どう見てもそうじゃろ。足さばきなんか明らかにジェダイじゃったぞ」

シンノ「そうか……ジェダイの生き残りが、ジェダイを……」

ネーア「……なに、ジェダイがダークサイドに転向するというのはとてもよくある話ぞよ。とてもな」


 その言葉には何か含みがあるような気がして、シンノはネーアの方をちらりと振り返った。
しかし二人のフォースの隔絶のごとく、星灯りに照らされた操縦席に比べ乗客用座席は薄暗い。
シスの暗黒卿の表情は少しも伺えなかった。


ネーア「……まあ、シス流の訓練も少しは積んでいるようじゃったがな。ジット・セーバーもシスの武器ぞよ」

ネーア「かといってあの口ぶりだと正統のシスでもないようじゃし……ダーク・ジェダイといったところかのう」

シンノ「ダーク……ジェダイ……」

ネーア「あーあ、全盛期の妾ならばあんな半端者、指一本で倒せたんじゃがなあ。この器では……ぬう!ふんっ!」


 ネーアが買い物袋に向かって手を伸ばすと、その袋がぶるぶる震え出し――その中からチョコレート・バーが一本飛び出した。


ネーア「やれやれ、今はこのくらいが限界じゃのう。気長に鍛えなおすとするか……モグモグ」

シンノ「鍛えなおすんじゃない、シスめ……む!」


 そのときやにわ警報音が鳴り響いた。
操縦席のコンソールでランプがしきりに点滅し、天井のR3まで騒ぎ始める。


R3C3『ピポポ ポポピーポ プウウー』

シンノ「ああわかってるよR3。計算はまだか?」

R3C3『ポポピーポ』

シンノ「チッ、参ったな。ドンパチは避けられそうにないか」

ネーア「モグモグ、何じゃ?何事じゃ?」

シンノ「舌噛みたくなきゃ食べるのやめたほうがいいぞ。さっきのヴェネター級がTIEファイターを差し向けてきた」


 シンノは偏向シールドをスタンバイしつつ、スコープで敵影を確認する。
垂直の主翼で球形の機体を挟み込んだ特徴的なシルエットがいくつもモニターに映し出された。


シンノ「9機、いや少し遅れてもう3機……12機か!熱烈な出迎えだな」

ネーア「そんなに!?……だ、大丈夫なんじゃろうな、この船?」

シンノ「任せろ。こいつは少しばかり図体はでかいが、れっきとした『戦闘機』だ……」

シンノ「それもクローン戦争を戦い抜いた、な。R3、後部レーザー砲は頼んだぞ」

R3C3『プウウー』

シンノ「なんだ、お前まで。今更弱音を吐くな!……そら、おいでなすった!4時30分!」


 戦いの口火を切ったのは敵機のレーザー砲だった。
しかし緑色の光線はひどく逸れたうえに長い距離を飛ぶうち減衰し、弱弱しい光となって惑星キイの景色の中に消えていく。


シンノ「焦ったな、バカめ」グンッ

ネーア「おわっ、たっ、たっ、た」フラフラッ

シンノ「シートベルト締めてろ!……おらっ!」バシュシュシュシュ


 シンノは機体を急旋回させて続く射撃を回避し、敵編隊の斜め上方に位置取った。
そこから一気に急加速し、大胆にもレーザー砲を連射しながら敵編隊を突き抜ける。


TIEパイロット1『な、なんだこいつ――ウワーッ!』ボカーンッ

TIEパイロット2『ぎゃあっ!』ボカーンッ

TIEパイロット3『ハッ、ハッ、ア』ボカーンッ


 2機のTIEファイターが木っ端みじんに吹き飛び、逃げながらの後部レーザー砲攻撃によってさらに1機が爆散した。


TIEパイロット4『ぶ、分隊長!分隊長がやられた!』オロオロ

TIEパイロット5『敵はどこに行った!?』ワタワタ

TIEパイロット6『お、落ちつけ!たしか教本では……!』アワアワ


 途端に、編隊は糸を抜かれた縫物のように混乱状態に陥った。
敵を探してうろうろするもの、まったく見当違いな方向に飛ぶもの、母艦に戻ろうとするものまで出る有様であった。


ネーア「……あれ?なんか敵さん、一回攻撃しただけで滅茶苦茶になっとらんか?」

シンノ「こんな辺境に派遣されるようなパイロットなんてたかが知れてる。TIEファイター自体も安物だしな……そらっ!」バシュシュシュ


TIEパイロット7『うわあ、火が!母さーん!』ボカーンッ


シンノ「よし、あと『たった』5機だ」

ネーア「……肩透かしくらった気分ぞよ」


 襲う側と襲われる側が逆転し、容赦なく繰り返された攻撃によって9機の編隊は壊滅した。
7機が撃墜され、残りの2機も傷ついてほうほうの体で逃げ去る――それとすれ違うようにして、無傷の2機が近づいてきた。


シンノ「あと2機……ん?」


 シンノはその景色に違和感を感じた。
先ほど見たスコープでは、確か……
――フォースを通じて彼の精神におそろしく嫌な予感がよぎった。


シンノ「ふんっ!」グンッ


 シンノはそれに従い、とっさに機体を急旋回させた。
それが彼の命を救うこととなった。
数秒後、今までとっていた進路上にレーザーが降り注いだのである。


シンノ「3機目か!」


 そして彼はあたりを見回し、頭上に3機目のTIEファイターを見つけた。
3機目は機体を捻り、太陽を背にして突っ込んでくる。目が眩む!


シンノ「うっ……!」ガッ


 シンノは逆噴射ペダルを蹴っ飛ばすようにして踏んだ。
主翼前面のスラスターによって急制動をかけて銃撃を回避する――二度通用する手ではない。
シンノは下方へ走り抜けていく3機目を目で追いつつ、その偏差射撃の正確さに舌を巻いた。


ネーア「な、何じゃ今のは!?おそろしく動きが良いぞ!?」

シンノ「こいつ、手練れだ……まんざら、肩透かしでもなくなったかもしれん」


 ――彼はクローン・トルーパーを思い出していた。
クローン戦争を共に戦い、最後には裏切ってジェダイのほとんどを屠った優秀な兵士のことを……


コーチ『シュコーッ、シュコーッ……ぬっふっふっふっふ、かわしたか……それでこそジェダイよ』


 コマンダー・コーチは装甲服の裏で満足げに笑みを浮かべながらTIEファイターの機首を引き上げた。
Wウィングの動きに注視しつつ、残る2機の僚機に通信で指示する。


コーチ『よいか、ドッグファイト中はお前らは手を出すな。Wウィングが逃げにかかったら背中から撃てばよい』

TIEパイロット10『しょ、承知しました』

TIEパイロット11『しかしコマンダー、くれぐれもご無理は……』

コーチ『ここは戦場だぞ、無粋なことを言うな!……さあジェダイ、逃げ場はないぞ!』


 コーチは斜め下から突き上げるようにWウィングに襲いかかった。


シンノ「くっ!」グンッ


 シンノは再度機体を旋回させ、紙一重で銃撃を回避する。
同時に後部レーザー砲がぐりぐり動き、上方へ駆け抜けたTIEファイターにレーザーを浴びせかける。


コーチ『ぬうん!』グインッ


 コーチのTIEファイターは鮮やかに身を翻し、レーザーをすり抜けてWウィングの後方に向かう。


シンノ「ケツにはつかせん……!」ガッ


 シンノはペダルを思い切り踏みこんで急加速した。
後方の三機目を振り切り、あわよくばそのまま戦場から離脱しようと――


TIEパイロット10『そこだ!』バシュシュシュ

シンノ「うおっ!くそ!」グインッ


 しかし側面から狙いすました援護射撃が飛んできてそれを阻止した。
なんとか回避するが速度は落ち、後方、コーチ機に接近を許してしまう。


コーチ『喰らえい!』バシュシュシュ

シンノ「うおおっ……!」ガガンッ


 シンノは激しく揺すぶられながらもコンソールを確認する。


ネーア「シ、シンノぉ!」

シンノ「大丈夫だ、全箇所異常無し。偏向シールドがなんとか防ぎ切った」

シンノ(とはいえこのままじゃジリ貧だ……何もかも削ぎ落とされて手詰まりになる前に、勝負に出るしかない!)


 Wウィングは急旋回し、2機のTIEファイターに背を向けて全速力を発揮した。


コーチ『シュコーッ、シュコーッ!逃がさん!』


 コーチ機がすかさず追尾する。
自分の機体で僚機の射線を遮るのが敵の狙いであることはすぐに察しがついた。
射角を変えようにも戦場の外側で待機していた僚機は追いつくことさえ難しく、2機の姿はあっという間に見えなくなった。


コーチ(なかなか賢明だ……だが味方などハナからそれほどあてにしてはおらん。私の手で直接葬るまで……!)

シンノ「R3、偏向シールドを全部後方に割り振れ。後部レーザー砲も派手にぶっ放して弾幕を張るんだ……!」


 シンノは機体を左右に揺らし、猛然と迫る敵機の照準を逸らそうと試みる。
しかし敵の狙いはおそろしく正確で、弾着の衝撃は繰り返され、偏向シールドの耐久力はあっという間に削り取られつつあった。


シンノ(くそっ、もう少し……もう少しだけもってくれ……!)


 その祈りとは裏腹に、一弾が光の防御壁を突き抜けてWウィングの機体に直撃した。
機体に振動が走り、構造材がギシギシと軋む。


 さらに立て続けに二発、三発――機内に風のような音と、気圧低下を知らせるアラート音が鳴り響き始めた。


シンノ「――まずい!空気が漏れている!」

ネーア「なんじゃと!?」


 不幸にも次の瞬間、次弾が破孔を直撃しぐいと押し広げた。
機体後部の天井に穴が空き、機内の空気がおそろしい勢いで流れ出る。


ネーア「うあっ、あ」フワッ


 着弾の衝撃でシートから僅かに浮き上がったネーアは、その空気の流れに捕まった。
体格に合わないシートベルトは何の役にも立たず、大きな手に引きずり出されるがごとく天井の破孔へと――


シンノ「!ネーアっ!」サッ


 シンノが素早く操縦席を離れ、右手でネーアの手を掴んだ。
左手で操縦席のシートを掴み、機外に吸い出されるのをこらえる。


ネーア「!?シ、シンノ!何を……しておる!」


 シンノが操縦桿を離したためにWウィングは回避機動を止め、着弾の衝撃は二倍に増えた。
どういうわけか後部レーザー砲の弾幕も止まっており、背後からTIEファイターがぐんぐん距離を詰めてくる。


ネーア「離せ、操縦席に戻れ……!お前まで死ぬぞ!」

シンノ「離すかよっ……」

ネーア「妾はシス、そなたはジェダイ!仇敵ぞよ!それなのになぜ……なぜ助ける!?」


コーチ『とどめだ、ジェダイ……!』


 コーチは満身創痍の敵機めがけ、無慈悲にプロトン魚雷を発射する。
Wウィングのレーダーはこれを感知し、操縦席ではけたたましくアラートが鳴った。
シンノはネーアの手を掴んだまま、力を振り絞って操縦席にしがみつき、コンソールに手を伸ばす。


シンノ「そうだ、俺はジェダイだ……だからこそ、もう二度と目の前で誰も死なせやしない!」


 彼の脳内ではオーダー66に始まる悲劇がフラッシュバックしていた。
渾身の力で点滅するスイッチを押す――いつのまにか計算が終了した、ハイパースペース・ジャンプ。
窓に覗く星々がスター・ボウに変わる。
Wウィングはハイパースペースに突入し、魚雷とコーチのTIEファイターを振り切って姿を消した。


コーチ『!……ば、ばかな……』


 コマンダー・コーチはさっきまでWウィングがいたところを呆然と眺めた。
プロトン魚雷は虚空を飛び、やがて時限装置によって虚しく爆発した。


コーチ『……シュコーッ、シュコーッ……』


シンノ「うわっ!?」ドタッ

ネーア「あうっ!?」ドタッ


 機内の空気の流出はハイパースペースに突入すると同時に止み、二人は床に放り出された。


R3C3『ポポピーポ プウウー』


 心配げな電子音を鳴らしながら、天井からR3C3が降りてきた。
そのボディからは、超速乾性の修復剤を噴射するノズルが突き出している。
彼が機外から修復剤を噴射して破孔を塞いだのだ――二人はそんなことを考えているヒマはなかった。


シンノ「ハアーッ、ハアーッ……息……息ッ!」

ネーア「――」パクパク


 機内の気圧は著しく低下していた。
シンノは壁に据え付けられたケースからやっとのことで非常用酸素マスクを取り出す。
そして一つを自分の顔にはめ、もう一つをネーアのほうへ放った。


シンノ「はあーっ、はあーっ、ふうー……」

ネーア「はあ、はあ、はあ……」


 二人はようやく人心地つき、顔を見合わせた。


シンノ「……ふっ」
ネーア「……カ」


シンノ「ははははは!生きてる!生きてるぞォ!」

ネーア「カカカカカ!助かったー!カカカカカ!」
 

 緊張から解放された反動。
R3C3はてっきり主人の頭がおかしくなってしまったのではないかと思った。
直後、慌てて酸素マスクに顔を戻すことになったが。


シンノ「R3、機内の気圧を調整してくれ……」

R3C3『ポポピーポ』


 アストロメク・ドロイドは天井のソケットに戻り、生きている回路を組み合わせてなんとか空調を復旧した。
合成空気を放出するシューという音が数分続いた後、機内は酸素マスク無しで動き回れる快適さを取り戻す。


ネーア「ああ、生き返ったわ……我が弟子よ、さっきは助かったぞよ。貸し借りはチャラじゃな」

シンノ「バカいえ、貸し一つだよ。あと弟子にはならねえ」

ネーア「いけずじゃのう。それで、これからどうするんじゃ」

シンノ「惑星ハクカまでは自動航行だ……ちょっと待て」


  シンノは操縦席の下から紙製のアナログ地図を引っ張り出し、床に大きく広げた。
あぐらをかいてそれに向かうシンノの肩の上からネーアが覗き込む。


シンノ「今ハイパースペースだが、リアルスペースに換算すると……だいたいこのあたり。で、ハクカというのはこっちだ」

ネーア「うむ、星の軌道は五百年経っても変わっとらん……その一つ内側を回っとるのが惑星ヤマタイティアじゃろう?」

シンノ「そうだが?」

ネーア「なに、妾が眠りにつく前はヤマタイト共が星系を股にかけて大暴れしとったんじゃ……まだ元気か?」

シンノ「いや、とっくに衰退した」

ネーア「諸行無常じゃのう」

シンノ「最近帝国軍が王族の末裔を大執政官に祭り上げたというのは聞いたがな……で、ここの衛星軌道上に『ダン・ザ・フロー』……帝国軍QC星系方面軍の本拠地がある」

ネーア「む、ハクカに近いな……よもや、ハクカに帝国軍が待ち構えているようなことはあるまいな?」

シンノ「惑星ハクカは星系一賑やかだが、同時に星系一いかがわしい星だ。帝国軍はいないことはないが、隠れ場所には困らない……反乱軍の秘密基地があるという噂まである」

ネーア「いつの時代もそういう場所はあるものじゃのう。それで、その後は?」

シンノ「その後?顔隠して運び屋の仕事でも探すさ。働かなきゃ食っていけん……少しばかりあった蓄えも、今回の旅行に全部つぎ込んじまったんでね」

シンノ「いやそれどころじゃない、帝国軍に顔が割れたし、船もボロボロ。大損だ。手に入ったのはこのちんちくりん一人ときてる」

ネーア「カカカ、いい買い物をしたのう」

シンノ「……言っておくが、お前にも働いてもらうぞ。奴隷商人に売り飛ばされたくなけりゃあな」

ネーア「ええー……」


 同時刻、惑星ハクカの某所。
夜の闇に沈む工場の上空に、一隻の宇宙船がホバリングしていた。
そして地上にチカチカと控えめな発光信号を送る。

 すると工場の天井が音もなく左右に開き、秘密の発着場が姿を現した。
宇宙船――オルデランの外航船タンティヴィ4は、しずしずとその中に降下し、姿を消す。
天井が閉じると、反乱軍の秘密基地は再び秘匿性を取り戻した。

 上空からは見えなかったが、工場の内側ではXウィングやYウィングが羽根を休めていた。
しかしその数は反乱軍の本拠地ヤヴィン4に比べればずっと少なく、帝国軍に戦いを挑むにはあまりにも心もとない。
着陸したタンティヴィ4から降り立ったオルデランの王女――レイア・オーガナは、それをあらためて見てとった。


シカーグ「レイア姫。お越しいただいて光栄です」

レイア「……シカーグ将軍。お出迎え感謝します」


 歴戦の貫禄を感じさせる中年男性――テダッフ・シカーグが、奥から姿を現した。
彼はQC星系の反乱同盟軍のリーダーで、この秘密基地の責任者だった。


ユスカ「あっちに……あー、あちらに、部屋を……お部屋を、ご用意しております」

C7-BDB『アッチャー、見テイラレネエ。ゆすか、姫ハ俺ガゴ案内スルゼ』

ユスカ「あんたは引っ込んでなさいよっ!」


 それに続いて出てきたのは活発そうな若い女性と、銀色の料理人ドロイド。


レイア「……ユスカ・ショーニンと、C7-BDB、でしたか」

ユスカ「覚えてるの!?……じゃなかった、覚えていただけてたんですか?」

レイア「ええ、前会ったときもあなたたち、ずっと大きな声で喧嘩していたから。フフ」

ユスカ「ああ……それは、どうも……」

C7-BDB『ヘヘヘ、コリャ参ッタナ』

ユスカ「全部あんたのせいよっ!」


 シカーグは言い争う二人に悩まし気な視線を向けたあと、苦笑しながらレイア姫に話しかける。


シカーグ「レイア姫、部下がみっともないところを……とりあえず今夜は長旅の疲れを癒していただいて、話は明日にでも」

レイア「いいえ、残念ながらそれは出来ないのです、シカーグ将軍。我々はこのあとすぐ出発しなければなりません」

レイア「この秘密基地の位置がすでに帝国軍に露見しているという情報があるのです。長居することはできないし……援軍の話も……」

シカーグ「援軍は……来ないのですか?」

レイア「……申し訳ありません。この秘密基地はいずれ放棄してもらうことに」

ユスカ「嘘でしょ……」

C7-BDB『見捨テラレタッテコトカァ?』

レイア「いえ、決してそういうわけではありません。私が来たのは直接謝るためと、もう一つ……新しい秘密基地の候補地を紹介しに伺ったのです」


 レイア姫は懐からメモリーディスクを取り出してシカーグに手渡した。


シカーグ「……活用致します」

レイア「決して帝国軍に漏れないよう取り計らってください。QC星系での反帝国運動はあなたの肩にかかっています」

シカーグ「しかしレイア姫、リズマ・ショーニンのことは?彼女がこの星の帝国軍基地に捕まったままです」

ユスカ「……」


 その名前に触れたとたん、背後のユスカの表情が曇った。
周囲の戦闘機に向かって整備作業にいそしんでいた兵士の中にも、何名か顔を上げるものがいた。


シカーグ「彼女はジェダイです、必ず今後の運動に役に立つ……そして、ここにいるユスカの妹でもあります」


レイア「私もお力添えしたいと思っておりますが……率直に申し上げれば、反乱同盟軍からの援助は難しいと思います」

シカーグ「そうですか……いえ、我々とて組織です。仕方ない……」

レイア「――ですが、ここに来る途中、興味深い帝国軍の通信を傍受したのです。ジェダイが惑星キイに居ると」

シカーグ「ジェダイが?惑星キイに?」


 シカーグは顎に手を当ててしばらく考え込んだ。


シカーグ「あまり知られていませんが、たしかあそこにはジェダイ・テンプルの遺跡があります。そこを訪れたというのは十分ありうる話だ……」

レイア「もちろん罠という可能性もありますが、ジェダイというのは餌にしてはあまりにも陳腐です。信じる価値はあると思います」

レイア「……もう殺されているという可能性もありますが……もしも彼、あるいは彼女を味方に付けられれば、救出作戦も現実的に……」


 レイア姫は手首のガジェットで時間を確認して、ばつが悪そうに切り出す。


レイア「……申し訳ありませんが、もう行かなければ。帝国に監視されているかもしれない」

シカーグ「いえ、お越しいただいてありがとうございました……我々はきっと『全員』で、ここに逃れてみせます」


 シカーグは微笑とともにメモリーディスクを示す。
レイア姫もにこりと笑って応じると、すぐにタンティヴィ4に乗り込んで秘密基地を去った。


ユスカ「……将軍、本気なの?」

シカーグ「何のことだ?」

ユスカ「全員でここから逃げるって……リズマを、助けに行くって」

シカーグ「本気だ。むろん、撤退は同時並行で行うが」

C7-BDB『正気ノ沙汰トハ思エネエ……一刻モ早ク逃ゲナキャナラネエノニ』

C7-BDB『ナニ?じぇだいダ?生キテルカドウカモワカラナイシ、手ヲ貸スカドウカモワカラネエジャネエカ』

シカーグ「仲間を見捨てれば我々の中から正義感が失われる。そうなれば我々はなんのために立ち上がったのかわからん」

シカーグ「ジェダイのことも、クローン・トルーパーの攻撃以来ずっと逃げ延びてきたんだ。簡単にくたばるとは思えん」

シカーグ「反乱軍の一兵士ならともかく、同胞ジェダイの救出なら……そして仮にもリーダーである俺が直接頭を下げて頼めば、きっと手を貸してくれるさ」

ユスカ「直接?……将軍!惑星キイに行くつもりなの!?危ないって、きっとまだ帝国軍がうろうろしてる……!」

シカーグ「そんなことはこの運動に関わった時から覚悟している。もし俺に何かあっても、この撤退のタイミングだ。指揮権限移譲もスムーズだ」

ユスカ「……じゃ、じゃあ、私も行く!」

シカーグ「お前も?……よせ、危険だ」

ユスカ「リズを助けに行くためなんでしょ?だったらその姉の私が引っ込んでちゃ、カッコがつかないじゃない……!」

C7-BDB『ヘヘヘ、呆レタ奴ラダゼ……放ッテオケネエ、俺モツイテイクゼ』

シカーグ「お前たち……はあ、わかった。流石に護衛の一人二人は欲しかったところだしな」


 シカーグは自分のガジェットにメモリーディスクを差し込んで一通り中身を確認すると、副官を呼んでそれを手渡す。
そして撤退準備についてテキパキと指示を出したあと、ユスカのほうへ戻ってきた。


シカーグ「さて、ここの船は撤退に必要だ。俺たちは自分で惑星キイ行きの船を探さなくちゃあ」

C7-BDB『ソレモ帝国軍ニ見ツカラズニ惑星きいヘ侵入デキル、ナ』

シカーグ「よくわかってるじゃないか」

ユスカ「そんな船……あてはあるの?」

シカーグ「こういうことを頼むには密輸業者がうってつけだ。そういう奴らに会うのは簡単だ、いかがわしい酒場にいけばいい」


 その頃、ヴェネター級スター・デストロイヤー四隻からなる帝国軍QC星系駐屯艦隊は、いくらかの地上部隊を残して惑星キイを離れていた。
旗艦「ヘファイストス」艦橋で、ワイマッグ提督は相変わらず仏頂面でビューポートを睨みつけている。


コーチ『シュコーッ、シュコーッ……失礼します。提督、先ほどはむざむざと敵を取り逃がしてしまい……』

ワイマッグ「……敵は相当『やる』ようでした。逃げられたのはあなた以外の部下の練度不足が主な原因でしょう」

ワイマッグ「無事に帰ってきてくれただけで十分です、コマンダー・コーチ」

コーチ『……も、もったいないお言葉……』

ワイマッグ「航路監視システムにハイパースペースを抜けたWウィングが映りこみました。どうやら敵は惑星ハクカに向かっているようです」

コーチ『あそこは星系一の暗黒街。逃げ込まれたら厄介ですな……』

ワイマッグ「反乱軍の基地もあります。奴との間に繋がりがあるかどうかはわかりませんが、合流されたら面倒なことになります」

ワイマッグ「これから我々はダン・ザ・フローで補給を済ませたらすぐに惑星ハクカに向かい、反乱軍の基地を攻撃します」

ワイマッグ「これまではリスク管理のために監視をつけるに留めておきましたが、先ほども国籍不明の宇宙船が出入りしていたようです。あまりにも不穏……ジェダイの一件抜きでも放置するのは限界です」

コーチ『シュコーッ、シュコーッ、なるほど……ではこの際、〈ラグナロク〉を使われては?』

ワイマッグ「『ラグナロク』?それは名案ですな!一応マーズ管理官に了承を取ってきましょう」

コーチ『では私もお供しますぞ……』


 二人はエレベーターで艦橋から下り、マーズ管理官の執務室に向かった。


ワイマッグ「管理官!……マーズ管理官!」トントン

コーチ『……お留守ですかな?』

ワイマッグ「……いや、中から何か聞こえるような……?」


<……ッ、グ……ガッ……


ワイマッグ「……あえぎ、いや、呻き……?」

コーチ『あっ……ま、また今度に致しましょう、提督』


 そのときドアがひとりでに開いたので、二人は仰天した。


ワイマッグ「うおっ!」

コーチ『ぬおっ!?ゲホッゲホ!』


『――盗み聞きとは感心しませんな、ワイマッグ提督』


 薄暗い卓上の通信機から青白いホログラムが映し出されている。
その甲冑じみた異様な装甲服と黒いケープは見間違えようがない――ダース・ヴェイダー。


ワイマッグ「ヴェイダー卿……マーズ管理官!?」


 そして足元に、ジヒス・マーズが転がっていた。


マーズ「グ……グググ……」


 顔を真っ青にして呻き、しきりに首をかきむしっている。


ヴェイダー『今、出来の悪いしもべに罰を与えているところです』

ワイマッグ(この前私がやられたのと同じフォース・チョークか?さっきドアを開けたのもフォース?ヴェイダー卿はホロネット越しでもフォースが使えるのか!)

ヴェイダー『……それで、何か用ですかな?』

ワイマッグ「い、いえ、『ラグナロク』の――この前下賜していただいたスーパーレーザー砲を組み込んだ兵器を、惑星ハクカの反乱軍基地に対して使用する許可を頂きに参ったのです」

ヴェイダー『なるほど、では私が許可します……他に何か無ければご退室願いましょう、それから盗み聞きのような真似は二度となさらぬよう』

ワイマッグ「はっ、失礼します……」


 ワイマッグとコーチがいそいそと退室するのを見送り、ホログラムのヴェイダー卿はマーズに向き直る。


ヴェイダー『この愚か者めが。何のために貴様を生かしておいたと思うのだ』グググ…

マーズ「ググ……も、申し訳、ございま……グウ……」

ヴェイダー『ジェダイを狩らせるためだ。それをむざむざと取り逃がしおって……』グググ…

マーズ「お、お許し、ください……私は、あなたの、忠臣として……」

ヴェイダー『忠臣?思い上がるな。貴様はただの奴隷、下僕にすぎん――よく頭に刻んでおけ』パッ

マーズ「ぷはっ!ゲホッ、ゲホッ!」

ヴェイダー『では次の指示を下す。お前はダン・ザ・フローで艦隊と分かれ、一足先に惑星ハクカの帝国軍基地へ向かえ。以前お前が捕らえた反乱軍のジェダイがそこに収監されている』

ヴェイダー『ハクカの反乱軍基地がスーパーレーザーで消滅するならば、奴が反乱軍本拠地への唯一の手掛かりだ。どうにかして本拠地の在処を吐かせるのだ』

マーズ「はっ……了解、致しました」

ヴェイダー『二度と私を失望させるなよ。次はない』


 重い言葉を残してホログラムは消滅した。
マーズは首をさすりながら、自分の中のヴェイダーへの忠誠心が薄れていくのを感じていた。
そして惑星キイで見た、シスの武器を知り、シスの武器を持つ謎の少女を思い出す……


シンノ「帰ったぞ……おおい、ネーア?どこだ?」

ネーア「グウー……スウー……ムニャムニャ」ボリボリ

シンノ「……呆れたな。まだ寝てるのか」


 シンノの隠れ家は惑星ハクカ郊外の廃工場にあった。
太陽は既に高く、ちょっとした体育館ほどの空間を高窓から差し込んだ陽射しが照らしている。
その中にあちこち穴が空いたり焼け焦げたりした満身創痍のWウィングも駐機されている。
すぐ横の折り畳みベッドにいるシスの暗黒卿と同様、戦いに疲れ果てて眠っているかのようなくたびれた姿であった。


R3C3『ピポポ』ウィーン

シンノ「おおR3、頼まれた部品は買ってきたぞ。なんとかなりそうか?」ポイッ
 
R3C3『ポポピーポ プウウー』パシッ


 機体の陰から姿を現したR3C3はシンノが投げ渡したパワーセルをアームで器用にキャッチし、電子言語で弱音と不平を並べ立てた。
この赤いアストロメク・ドロイドはクローン戦争以来シンノの相棒だが、少々ネガティブなきらいがある。
彼はハクカに到着した直後からWウィングの修理に励んでいたが、惑星キイで買ったスペアパーツを全部使ってもなお機体の修理は終わらないようだ。


シンノ「はは、そりゃあハードみたいだな。ちょっと待ってくれ、武器の手入れと……飯だけ食ったら手伝う」

シンノ「修理が終わったらリペイントと、識別装置の調整もしなきゃな。帝国の奴らに身元がばれないように」


 シンノはあっけらかんと答え、渋々作業に戻るR3C3を見送って近くの折りたたみ椅子に腰かけた。
デスクにブラスターとライトセーバーを二本取り出す……


シンノ(二本?)

ネーア「グウー……グゴゴゴゴ……」

シンノ(そうか、ネーアのライトセーバーを預かってるんだった)


 シンノはネーアのライトセーバーを取り上げ、何気なくスイッチを入れた。
光の刃が伸び、隠れ家の中を赤く照らす。


シンノ(シスのライトセーバーも、刃の色以外にはジェダイのものとさほど違いはないのか……ん?)


 スイッチを切って手放しかけたとき、柄の先端が少し動いたような気がした。
気になっていじくりまわしていると、そこに仕込まれていた蓋が開く。
その断面に隠されていたのは、用途不明のサムターンだった。


 シンノは少し躊躇したが、やがて好奇心にかられてサムターンを回す。
……かちりという音がライトセーバーの中から聞こえた気がした。


シンノ(爆発しやしないだろうな……何が変わった?)


 その答えはすぐにわかった。
もう一度スイッチを押したところ、今度は「緑色」の刃が出現したのだ。


シンノ(これは……?)

ネーア「……ううーん、ああ、よく寝たわい……!」ノビー

シンノ「!」カチッ


 シンノはとっさにライトセーバーのスイッチを切ってデスクに放った。


ネーア「おお、シンノ。いい朝じゃな」

シンノ「……もう昼だぞ」

ネーア「こ、これはしたり。五百年も寝ていたからか、生活リズムガタガタぞよ……ふああ」

シンノ「まあ昨日はいろいろあったから、仕方ないといえば仕方ないさ」

シンノ「これが終わったら飯にするから、顔でも洗ってきたらどうだ。洗面所はそこの奥、突き当りを右だ」

ネーア「うむむ、了解ぞよ……」フラフラ


 シンノは武器の点検をおざなりに済ませてキッチンに向かった。
キャッシーク芋を蒸し器へ入れ、温めて油を敷いたフライパンに缶詰のバンサ肉を放り込む。


シンノ(緑色のセーバーはジェダイの持ち物のはず……なぜシスのセーバーにあんな機能が……?)ジュージュー

ネーア「ふう、さっぱりしたぞよ……おお、いい匂いがするのう~」クンクン

シンノ「雑だが勘弁してくれ……そういえばお前、料理とかできないのか?」ジュージュー

ネーア「シス卿は家事なんてしないぞよ☆」キャピッ

シンノ(この野郎、意地でも働かせてやる……)ジュージュー


 やがて二人はいくつか皿の並んだ食卓を囲むことになった。
ジェダイとシスが一緒に食事をとるというなんとも奇妙な状況だったが、傍から見れば兄妹にしか見えないだろう。


ネーア「モグモグ、ガツガツ、ゴクゴク!」ガチャガチャ

シンノ「……ちょっと早食いしすぎじゃないのか……?」

ネーア「ぷはあ、まともな食事は五百年ぶりじゃ!もう何でも死ぬほど美味いわい――モグモグガツガツ」ガチャガチャ

シンノ「そ、そりゃあよかった……なあ、あのライトセーバー、いつから使ってるんだ?」

ネーア「モグモグ、ゴクン!あれか?妾がシスになったときからぞよ」

シンノ「シスになったっていうのは……」

ネーア「ダース・メドーに弟子入りしたんじゃ。いけすかないパウアンの親父ぞよ。モグモグ」ガチャガチャ

ネーア「ちなみにダース・メドーの師匠はダース・グレイヴス。妾はその孫弟子にあたるかの……ゴクゴク」

シンノ(ああ、ジェダイ・マスターたちよ、シスは滅んでなんていませんでした……俺の知らない名前がどんどん……)


ネーア「プハア、メドーが言うには、ダース・グレイヴスは妾と同じように眠りについたらしいんじゃが……これはたぶん嘘じゃろう。メドーが殺したに違いないぞよ」

シンノ「それがシスの代替わりなんだもんな?」

ネーア「そうじゃ。妾のように平和的に一線を退くのはごくごく少数の例外。シスの暗黒卿は弟子に殺されて生涯を閉じるものじゃ……モグモグ」

ネーア「ゴクン、とはいっても、これは妾が自分でシスの古文書を調べて知ったことぞよ。メドーは教えてはくれなんだ」

シンノ「そりゃあそうだろうな。自分が殺されちゃかなわない」

ネーア「一般的な感覚で言えばそうじゃろう……だがシス卿としては情けないなんてもんじゃないぞよ、それこそ除名ものの腰抜けじゃ」

ネーア「しかし代替わりについて嘘を吹き込んでもなお、ダース・メドーは妾が力をつけていくのを見て、いずれ殺されるんじゃないかと怖くなったようじゃな……ゴクゴク」

シンノ「……それで、メドーはどうしたんだ?お前を破門したのか?」

ネーア「プハア。妾を殺そうとしたのじゃ」

シンノ「殺そうと!?……それで、お前は?」

ネーア「返り討ちにしたぞよ」


 ネーアはこともなげに言い放ち、デスクの上の自分のライトセーバーを指差した。


ネーア「ちょうどそのライトセーバーで、首を……おっと、食事中じゃったな。すまん」

シンノ「……いや……いいんだ」ゴクリ


 シンノは目の前でサンドイッチにぱくついている相手がシスの暗黒卿であることをあらためて思い知らされた。
しかしこれまでまったく未知だった敵が内情をあけすけに語ってくれる状況に好奇心をくすぐられ、インタビューを続行する。


シンノ「それで、今度はお前がマスターになった……と」

ネーア「そうじゃ。ダース・ベインから数えて……えーと……何代目かは忘れたが。モグモグ」

ネーア「ゴクン、それで、ひとしきり古文書を漁った後、何とかっていうエイリアンを弟子にしたんじゃ。ダース・ノートと名付けた……いいネーミングじゃろ?」

シンノ「ああ、悪くないね。どんなやつだったんだ?」

ネーア「最初は素直じゃったが、鍛えるにつれておそろしく乱暴になっていったぞよ。いやむしろ、あれが本性なのかも知れんが」

ネーア「妾も殺されるにしても相手を選びたいからのう。教えるだけ教えた後、惑星キイの別荘に逃げてふて寝したんじゃ」

シンノ「その別荘があの遺跡か?上にジェダイ・テンプルが建ってたじゃないか」

ネーア「あれには妾も驚いたぞよ。なんであんなことになってるんじゃ?そなたジェダイじゃろ、知らんのか?」

シンノ「そんなこと言われてもな……うーん。遺跡の上にテンプルが……」


 シンノは首をひねり、サンドイッチを一口齧った後、なんとか推測をひねり出した。


シンノ「……たしか惑星コンサルトのジェダイ・テンプルも、シスの遺跡の上に建てられていた。そこから湧き出るダークサイドのフォースを封じ込め、浄化するために」

ネーア「シスとしてはなんだか気に入らん話ぞよ」

シンノ「やかましい。……つまり、それと同じなんじゃないか?お前の別荘を見つけたジェダイが古代シスの遺跡と勘違いして、それを封じるためにあのテンプルを建てたんだ」

ネーア「むっ……あの別荘新築だったんじゃが。失礼な話ぞよ」

シンノ「たぶんお前が眠りについてから二、三百年経ってから見つかったんじゃないか。惑星キイは気候が厳しくて風化も早い、年代を読み違えても不思議じゃない」

ネーア「なるほど!そなた、頭いいのう!」


 ネーアははしゃいで膝をぱんと叩く。
その仕草はシンノの中の「シスの暗黒卿」のイメージから余りにもかけ離れたものだ。


シンノ「……なあ。お前、本当にシスなのか?」

ネーア「は?なんじゃ今更……力は失っておるが、妾はれっきとしたシスの暗黒卿ぞよ!……ちょっと見ておれ」


 ネーアは憤慨した様子で立ち上がり、バンサ・ミルクの空き瓶を取り上げてテーブルの隅に置いた。
席に戻り、その瓶のほうへ手を差し伸べる。


ネーア「ふうんっ……ふううううんっ!出ろ~……出ろ~……はあっ!」


 顔を真っ赤にして手を震わせて散々力んだ末、彼女の指先からパチッと小さな雷のようなものが走った。
雷は空き瓶を突き倒し、空き瓶は床に落ちて割れた。


ネーア「やった!やった!出たぞよ!シンノ、見たか今の!?今のが『フォース・ライトニング』じゃ!シス卿の必殺技ぞよ!」


 ネーアはよほど嬉しかったのか、シンノの肩を叩きながらぴょんぴょん跳ね回った。
その様子はますますシスらしくなく、シンノの心中は複雑だ。


シンノ「空き瓶倒すだけの必殺技かよ……どうも調子狂うんだよなあ。お前、ジェダイのほうが向いてるんじゃないか」

ネーア「……え?妾が?」


 ネーアはそれを聞くとぴたりと跳ねるのをやめた。
シンノが怪訝な顔をすると、彼女は少し寂しげに笑って答えた。


ネーア「……それは違うぞよ。妾はジェダイにはなれん」

シンノ「なれない?……どうして言い切れる?」

ネーア「――弟子になったら教えてやるぞよ、カカカカカ!」

シンノ「な……じゃ、じゃあいい!」


 ネーアはにやにやしながら食事に戻った。
シンノは勧誘に辟易して口を利かなかったが、内心ではネーアとそのライトセーバーの謎について考えていた。


 銀河標準時の時計の短針が半回転した頃、惑星ハクカの首都キタクシーに夜がやってくる。
反乱同盟軍の将軍と女兵士、料理人ドロイドはその繁華街を訪れていた。
けばけばしいネオンサインとごちゃ混ぜの音楽の中を、雑多な人混みが血液のごとく流れていく。
巡回警備中のストームトルーパーもいくらか混じっていたが、その数は人間とエイリアンとドロイドが入り混じった群衆に対してあまりにも少なかった。


シカーグ「はぐれるなよユスカ……うわっと!」ドンッ

<オイキヲツケロ!

シカーグ「ああ、すまんすまん……」

ユスカ「ここは相変わらずゴチャゴチャしてて……私、キライだな」

<ヨーソコノネーチャン、オレトノマネーカ?

C7-BDB『オイオッサン、ヤメトイタホウガイイゼ。ソイツ、トンダジャジャ馬ダカラヨ!』

ユスカ「あんたはいちいち私をバカにしないと喋れないわけ!?」

シカーグ「おいおい、そのへんにしておけ。例の酒場に着いたぞ」


 シカーグは睨み合う一人と一体を引き連れて「いかがわしい酒場」に入る。
真っ先に耳に飛び込んできたのは、真っ黒な目をしたエイリアンが奏でる陽気なメロディ。
薄暗い店内の客席では、様々な姿の客たちが様々な言語で言葉を交わしている。
ここにもいくらかストームトルーパーが混じっていたが、ヘルメットを脱いで酒をあおっているところを見ると警戒する必要はないか。


ユスカ「……やれやれ、ここも外とあまり変わらないみたい」

店主「おいあんたら!ドロイドはお断りだ、外で待たせてくれ!」

シカーグ「……だそうだ。C7、悪いが……」

C7-BDB『ハイハイ。どろいどハ損ダゼ』スタスタ

ユスカ「……あー、しょうぐ……シカーグさん。私も外で待ってていい?」

シカーグ「この類の店にはこれからも来ることがあるだろう、この機会になれるんだな……このあたりに居ろ、俺は運び屋を探してくる」

ユスカ「はいはい……」


 ユスカは店の奥に向かうシカーグと反対に出ていくC7-BDBを見送ると、カウンターに腰掛けた。
隣の客の飲み物を指差して、これと同じもの、と店主に声をかける。
やがて店主が不愛想な顔で差し出したジャワ・ジュースを一口飲むが、思わず顔をしかめて呟いた。


ユスカ「うええ、まっず……」

隣の客「ん?おう、なんだ姉ちゃん、喧嘩売ってるのか?」

ユスカ「あっ、ごめん。あんたの味覚にケチつけてるわけじゃないの、決して……」

隣の客「お前、俺のことをバカにしてるだろ?」

ユスカ「してないって。謝ったでしょ、絡まないでよ」

隣の客「なんだと!?」ガタッ

ユスカ「何よ!?」ガタッ



ジャワ「……!……?」

C7-BDB『オイコラ!売リ物ジャネエゾ!?』ガー

ジャワ「!」タタタ…


 その頃店外の軒下では、C7-BDBが物欲しげに近寄ってきたジャワを追い払ったところだった。


C7-BDB『フン!ドコノ田舎者ダカ知ラネエガ、どろいどダカラッテナメルヤツハタダジャオカネエ……』

R3C3『ポポピーポ』

C7-BDB『ン?何ダあすとろめく。オ前モ待タサレテルクチカ?』

R3C3『ピポポ プウウー』

C7-BDB『アア、マッタクダゼ。充電ト少シノおいるダケデ動ケル俺タチガ、アンナ面倒臭イえねるぎー補給ノタメニ待タサレルナンテヨ』

R3C3『ポポピーポ ピポポ』

C7-BDB『オ前ハ料理人ドロイドダロッテ?イヤ、ソレハ外側ダケダ。俺ノ電子頭脳ハレッキトシタばとる・どろいど。生マレナガラノ兵士サ』

C7-BDB『ソレヲゆすかノ奴……トイウノハ俺ノ手下ノ人間ダガ、俺ヲマルッキリ馬鹿ニシテイヤガルンダ。失礼ナハナシダ』

R3C3『プウウー ポポピーポ』

C7-BDB『エ?ツイサッキボロボロノ宇宙船ヲ修理サセラレタッテ?オ前モ苦労人ダナ、主人ハドンナヤツダ?』


 ――物語は店内、カウンター席に戻る。
些細なことから始まった喧嘩は今、最高潮に達しつつあった。


隣の客「このメスガキが!俺は十二の星系で死刑を宣告されてる札付きだぞォ!?」

ユスカ「ハッ、その歳でそれしか自慢することないわけ?」

隣の客「こんの……!もうガマンならねえ!」ジャキッ


 怒り心頭の悪人はついにブラスターを抜く。


ユスカ「じゃあどうするっていうのよッ!」ジャキッ バシュッ


 しかし相対するユスカはそれを上回る速さで発砲した!


隣の客「うぎゃあっ!?――あああ!俺の腕がぁ!」

ユスカ「……あっやば……」チラッ


 吹き飛んだ右手首を押さえてのたうち回る相手を見て正気に戻ったユスカは、顔を青くして店内を見回した。
談笑と音楽が止まり、客と音楽家の視線がユスカに集まる。

 ――しかし三秒もしないうち、何事もなかったかのように音楽が再開。
それに続いて喧噪も戻る。
ストームトルーパーさえも面倒くさそうに目をそらし、見て見ぬふりを決め込んだようだった。
ユスカはこの酒場において発砲が日常茶飯事であることを理解する。


ユスカ(やることやっといてなんだけど……私、やっぱりここキライ……)


 隣の客はちぎれた手首を拾ってすごすごと店を後にした。
運が良ければ縫合できるだろう。
それと入れ替わりに、店の奥からシカーグが姿を現す。
どういうわけか、その後ろから毛むくじゃらのエイリアン――ウーキーがついてきた。


シカーグ「ん?何かあったのか?」

ユスカ「え、ええまあ、ちょっとしたトラブルが……それより、そのウーキーは?」

シカーグ「彼はチューバッカ、ちょうどよさそうな船の副操縦士だ」

チューバッカ「ムオオーン……」

シカーグ「向こうに正操縦士もいるらしい、一緒に行くぞ」


 シカーグとユスカとチューバッカは店の奥に向かった。
他の席から区切られたブース席で、それらしきコレリア人の男がショッチ酒をちびちび飲んでいる。


チューバッカ「ムオオーン」

ハン「おっ、チューイー。今度はマシな商売相手を見つけてきたか?……お初にお目にかかるな、俺はハン・ソロ。『ミレニアム・ファルコン』号の船長だ」

シカーグ「よろしくミスター・ソロ。私は……そうだな、ギメールとでも呼んでくれ」

ハン「ギメール?ハッ、人妻とホテルにしけこむとき台帳に書くような名前だな。まあいい、座れよ。そっちの嬢ちゃんも」


 シカーグとユスカはハンの向かいの席に座った。
チューバッカが隣に座るのを一瞥してから、ハンは話を切り出した。


ハン「で、荷物は何だ?」

シカーグ「私と彼女、あとドロイドが一体」

ハン「それだけか。行先は?」

シカーグ「惑星キイだ。往復でな……そうそう、向こうで一人増えるかもしれない。そいつも運んでもらおう」

ハン「惑星キイか……あのあたり、昨日から帝国軍の検問が厳しくなってるんだよな。俺たちは平気だが、あんたたちは?」

シカーグ「行きは大丈夫だが、帰りは状況による」

ハン「フン、その『向こうで増える奴』が厄介者らしいな……前金で3000、帰ってきたら4000頂こう」

ユスカ「7000!?星系内なのに!?」

ハン「俺は帝国軍相手のリスクは嫌いでね。そのくらい貰わないとやる気が出ない」

ユスカ「しょうぐ……シカーグさん。こいつ吹っ掛ける気だよ、他の奴を探そう」

ハン「最近QC星系は物騒だからそうそう居ないと思うがね」

シカーグ「……4000にならないか?」

ハン「……6500」

シカーグ「どう頑張っても4500しか払えん」


ハン「……駄目だね。そこまであんたを信用できない」

シカーグ「偽名だからか?」

ハン「そうじゃない。あんたのその目だ」

シカーグ「嘘つきの目か」

ハン「逆だ。バカがつく正直者の目だ。いつも貧乏くじを引く厄介のタネだ」

シカーグ「……当たってる。他を探すよ」ガタッ

ユスカ「……」ガタッ

ハン「幸運を祈るぜ、ミスター・ギメール、お嬢さん」


 ハンは席を立つ二人をキザな仕草で送り出した。


チューバッカ「ムオオーン……」

ハン「ああ、そうだなチューイー。届け物のついでに小銭でも稼ごうかと思ったが……QC星系はどいつもこいつもしけてる」

ハン「おとなしくジャバの使い走りをやってる方が儲かりそうだ。船に戻ろうぜ」


ユスカ「いけすかないヤツ!」

シカーグ「まあ人を見る目はあるみたいだったがな。さて、どうしたものか」

「おい、お二人さん」


 ブースを出た二人に、背後から声をかける人影がある。
振り返った二人はぎょっとした――そこにいた男が、祭で売っているようなお面を被っていたからだ。


ユスカ「……何よそれ、変装?」

お面の男「船を探してるんだろ。俺の船なら4500で請け負うぜ」

シカーグ「……盗み聞きしていたな。4000にしろ」

お面の男「びた一文まからないね」

ユスカ「何よコイツ、話にならない。しょうぐ……シカーグさん、もう行こうよ」

店主「おい、ドロイド野郎!勝手に入ってくるんじゃあねえ!」


 そのとき、入口の方から店主の罵声が聞こえてきた。


C7-BDB『ウルセエ、緊急ダヨ!黙ッテロ!』ノシノシ


 銀色の料理人ドロイドがその制止を振り切って店内に踏み込んでくる。


C7-BDB『オウ、オ二人サン!』

ユスカ「C7!何勝手に入ってきてるの!?」

シカーグ「はあ、お前ってやつは……」

C7-BDB『何ダヨソノ態度ハ?トビキリ良イにゅーすヲ持ッテキテヤッタッテイウノニ……』

ユスカ「とびきりいいニュース?」

C7-BDB『アア、ッテイウノモ――アレ?何ダ、モウ知リ合イニナッテタノカ?』

お面の男「……?」


 独り合点するC7にユスカは苛立った。


ユスカ「何の話?もったいぶってないでさっさと言いなさいよ」

C7-BDB『ナンダト!?』

シカーグ「C7、教えてくれないか?」

C7-BDB『……ソノオ面ノヤツガ〈尋ネ人〉ナンダヨ』

ユスカ「こいつの船に乗るってこと?冗談じゃない、こんな得体の知れない奴!」

C7-BDB『違ェヨバカ!イイカ、ヨク聞ケ』

シカーグ「お、おい、声が大き――」


C7-BDB『コイツガ〈じぇだい〉ナンダッツッテンダ!』

お面の男「!?」

「「「!」」」


 その言葉には店内のストームトルーパーたちが反応した。
ヘルメットを被り、ブラスターを携えて近づいてくる。


ユスカ「うわっ、マズイ……!」

トルーパー1「……今、ジェダイと聞こえたが」

お面の男「い、いえ違います、ほんの冗談で……な!兄弟!」

シカーグ「そうです!ちょっと洒落を言っただけで……!」

C7-BDB『洒落ナンカジャネエヨッ!』

ユスカ「あっ、このバカ!黙ってなさいよ!」

トルーパー2「……とにかく、そのふざけたマスクを取れ」

トルーパー3「惑星キイから逃げたジェダイの写真と照合しましょう、分隊長」

トルーパー1「ああ。俺たちも酒盛りの途中だ、違ったらすぐに解放してやる。さあ早くお面を――」


 そのとき、お面の男が意を決したように進み出た。
トルーパーたちの目の前でひらり、と手を動かす。


お面の男「――お面を取る必要はない」

トルーパー「「「……お面を取る必要はない」」」

お面の男「俺はお前たちの探しているジェダイではない」

トルーパー「「「お前は俺たちの探しているジェダイではない」」」

お面の男「俺たちと話したことを忘れて、酒盛りを続ける」

トルーパー「「「お前たちと話したことを忘れて、酒盛りを続ける」」」


 トルーパーたちはふらふらと自分の席に戻る。
そしてヘルメットとブラスターを置き、何事もなかったかのように宴会を再開した。


ユスカ「……あ、あいつら……?」

C7-BDB『一体何ガアッタンダ?』

シカーグ「ジェダイの技だ……リズマは未熟で使えないようだったが。――あんた、本当に……」


お面の男「……」スッ


 男は半分だけお面をずらし、ごく小さな声で名乗った。


シンノ「俺はジェダイ・ナイトのシンノ・カノス。尋ね人、というと……さては、惑星キイに行こうとしていたのも俺に会うためか?」ヒソヒソ

シカーグ「……そうだ。まさかここにいたとは……私はテダッフ・シカーグ。反乱同盟軍の幹部だ」ヒソヒソ

シンノ「シカーグ?シカーグ家といえばマンダロリアンの……帝国陸軍の名家じゃないか。反乱軍だって?」ヒソヒソ

シカーグ「マンダロリアンも全員が全員帝国の手下ではないということだ……我々の仲間にはジェダイもいる」ヒソヒソ

シンノ「ジェダイ?俺の他にも生き残りが?」ヒソヒソ

シカーグ「だが囚われているんだ。ここ、惑星ハクカの帝国軍基地に……」ヒソヒソ

シカーグ「我々は間もなくこの星を去る。だからできるだけ早く彼女を救い出さなければならない……力を貸してほしい」ヒソヒソ

シンノ「……わかった。とりあえず場所を移して、詳しく話を聞こう」ヒソヒソ


ユスカ「……なんだか、ことは良い方向に転がったみたいね」

C7-BDB『俺ノオカゲダナ。俺ガアイツノどろいどカラ正体ヲ聞キ出シタカラコソ……』

ユスカ「むっ……何言ってんのよ。さっき、あんたのせいでトルーパーにバレそうだったじゃない」

C7-BDB『アリャオ前ガ変ナコト言ウカラダロ!?』

ユスカ「あんたの不注意でしょ!?」


シカーグ「あー、彼らはユスカ・ショーニンとC7-BDB……見ての通り、仲が悪くてな……」

シンノ「……あれは仲が良いんじゃないのか?」


 一方、話題に上った当の帝国軍ハクカ基地の捕虜収容区画。
監房の一室で、まだ少女の面影が残る若い女性が冷たい床に座って瞑想にふけっていた。
反乱軍のジェダイ――リズマ・ショーニン。
その手首と足首には頑丈な拘束がはめられていた。


リズマ「……」

リズマ(……フォースに、今までにないざわめきがある気がする……何かの、兆候?)

リズマ(……わからない……ああ、きっとマスター・ドットや一人前のジェダイ・ナイトなら理解できたんだろうな)

リズマ(でも私は……姉さんにもやっと会えたのに、こんな……ああ、いけない、集中しなきゃ……)


 そのとき分厚い扉が唐突に開いた。
リズマは目を開けて――すぐに眉を潜めた。


マーズ「リズマ・ショーニン……瞑想の邪魔をしたかな?」


 現れたのは黒装束のジヒス・マーズ。


リズマ「……」

マーズ「会うのはミャーズク以来か。貴様を打ち負かし、捕らえ……このライトセーバーも、いただいた」


 マーズは懐から銀色のライトセーバーを取り出してみせた。
スイッチを入れると、緑色の刃が伸びる。
ジェダイの象徴であるライトセーバーを奪われる屈辱――
リズマの心中に捨て去ったはずの燃えるような感情がふつふつと湧き上がる。


リズマ(……フォースのざわめきは、こいつがやってくる前兆だったの?)


 マーズは相手の様子を伺いながらライトセーバーをしまった。


マーズ「ここの尋問官を困らせているようだが、今日こそは反乱軍の本拠地の在処を喋ってもらうぞ」

リズマ「……誰があんたなんかに。ヴェイダーの使い走りの……」

マーズ「黙れ!」


 揺れる忠誠心を刺激されたマーズは憤然として、リズマにダークサイドのフォースを叩きつけた。
若き女ジェダイの体はなすすべなく吹き飛ばされ、壁に釘付けにされる。
長い監禁でリズマの体力が下がっていることもあるが、何より両者には確実に力量差があった。


リズマ「ぐうっ……」ミシミシ

マーズ「……なに、ただで喋れとは言わない。取引といこうじゃないか――たしか貴様には双子の姉がいたはずだな?それも同じ反乱軍の」

リズマ「!?ど、どうしてそれを……!」グググ

マーズ「帝国の情報網を舐めるなよ。――その姉はこの星の、反乱軍基地にいる。そうじゃないかね?」

リズマ「!……まるっきり、デタラメね……帝国の情報網も、あてにならないみたい……」グググ

マーズ「嘘だな。涙ぐましいことだ」


 リズマはひそかに歯噛みした。
実際、マーズの言うことはすべて真実。
ユスカは惑星ハクカの秘密基地を拠点にしているはずだった。


マーズ「――明日、我々のスーパーレーザー砲台『ラグナロク』がその基地を跡形も無く吹き飛ばす」

リズマ「……な、なんですって……!」グググ


 マーズは惑星ハクカのとある座標を口にしてみせた。
それは反乱軍秘密基地の所在に他ならず、リズマの焦燥は募る。


マーズ「というわけでハッタリではないが……私が中止命令を出してやってもいい。そして慈悲深い降伏勧告を出す。お前の姉の命は助かるだろう」

リズマ「……だから……本拠地の場所を……言えって?」グググ

マーズ「話が早いな。悪い取引ではあるまい?」


 マーズはリズマを壁から離した。
リズマは床に座り込みながらも、ダーク・ジェダイをきっと睨みつける。


リズマ「……冗談じゃない。私が喋れば、両方纏めて吹き飛ばすつもりでしょ……その、『ラグナロク』とやらで」

マーズ「そう思い込むのは勝手だ。だがそのために貴様は家族と仲間を救うチャンスをむざむざ、逃すことになる」

リズマ「……そんなもの……初めからない」

マーズ「本拠地を守り抜いたところで、反乱軍が帝国を倒すことなど不可能だぞ。姉を生かすか、殺すか、それだけの話だ」

リズマ「……不可能。本当に?少なくともあなたは今、私に頼らなければ本拠地の場所が分からない」

マーズ「チッ……!」


 マーズは舌打ちして再びフォースの力を行使した。
リズマに向かって手を伸ばすと、彼女はやにわ首を抑えてもがき始めた。


リズマ「ぐうっ……!」ミシミシ

マーズ「些細なことだ……どうせパダワンどまりだろうに、生意気な口を……!」

リズマ「……ダーク……サイドに、屈した貴方に……言われ、たく……」ミシミシ

マーズ「何だと――くっ!」パッ

リズマ「かはっ、ゲホッ、ゲホ……!」ガクッ


 マーズはそのままリズマの首をへし折りそうになって、慌てて放した。
ドア開閉コンソールの呼び出しボタンを押し、応答した看守に話しかける。


マーズ「マーズ管理官だ。リズマ・ショーニンの監房に尋問ドロイドを持ってこい」


 看守はすぐに浮遊する球形のドロイドを連れてきた。
その表面からは棒状のスタンガンが突き出し、僅かにスパークしている。


リズマ「……!」

マーズ「……なに、話す気がないなら、話す気になるまでゆっくり可愛がってやるまでだ」

マーズ「いくら生意気な口を利こうと、ここから出ることはできないんだからな……!」


 ――扉が閉まった。



 物語は一旦ズームアウトし、ハクカ基地のゲートにズームインした。
オレンジ色のゴミ収集用スピーダーが一台、ストームトルーパーの手振りに従って停車する。


業者1「へへ、毎度どうも」


 その運転席からオレンジ色の制服を着た中年男性が顔を出す。
横には同じ格好の若い男女と、子どものように小柄なエイリアンも乗っていた。


検問トルーパー「いつもの業者と違うようだが?」

業者1「いつもの業者がちょっと来られなくて……下請けの私たちが派遣されたんです」

検問トルーパー「ふん……許可証を出せ」

業者1「……」スッ

検問トルーパー「……」パシッ


 業者らしき男は、ストームトルーパーが自分のガジェットで許可証をスキャンするのを横目にちらちらと見た。
――ガジェットが警告音を鳴らす。


検問トルーパー「ん?おい、この許可証は何だ?」

業者1「げっ!」


業者2「ああもう……どいてくれ」


 若い男の業者が身を乗り出して、ストームトルーパーの眼前で手をひらりと動かした。


業者2「その許可証は偽造ではない」

検問トルーパー「……この許可証は偽造ではない」

業者2「俺たちは正式に登録されたゴミ処理業者だ」

検問トルーパー「お前たちは正式に登録されたゴミ処理業者だ」

業者2「もう通っていいな」

検問トルーパー「もう通っていい」


 トルーパーはふらふらと詰所に戻りゲートを開ける。
何事もなかったかのように基地内に進むスピーダーの中で、偽の業者たちは演技をやめて話し始めた。


シンノ「なんて杜撰な……俺がいなかったらジェダイを助けるどころか、基地に入る前に破綻していたぞ」

シカーグ「だからあんたを呼んだんだ」

ユスカ「何度見てもすごいなあ……ちょっと不気味だけど」


 エイリアンのマスクを被っていた少女も変装を解く。


ネーア「ぷはあ!このマスクきついぞよ!帰りもこれを被らないといかんのか!?」

シカーグ「安心してくれ妹さん、帰りは別の手を考えてる」


 シカーグはTIEファイターやシャトルが駐機された発着場を横目に見ながらやや投げ槍に答える。
シンノはネーアを自分の妹と紹介していたが、それが不満らしい彼女はシンノに顔を寄せて小声でぼやいた。


ネーア「フン、妹さん、じゃと。言っておくが妾はそなたよりずっと年上ぞよ。わかっとるのか?」ヒソヒソ

シンノ「わかってるよ」ヒソヒソ

ネーア「フォース・レーダー役をしてやるのも、かわいい弟子の頼みだからじゃ。そなたでは手掛かりになるような因縁の品があってもできまい?」ヒソヒソ

シンノ「ああわかってる、感謝してるよ……あと弟子になった覚えはない」ヒソヒソ


C7-BDB『ナア、ココカラ全部アレデドウニカナラナイノカ?サッキノ催眠術デヨ』


 後部座席から料理人ドロイドも口を挟む。
隣には赤いアストロメク・ドロイドの姿もあった。


シンノ「そんな便利なものじゃない、あまりあてにしないでくれ」

R3C3『プアアアー! ポポピーポ プウウー』

シンノ「R3、今更弱音を吐くな。同じジェダイを助けるためだ」

C7-BDB『オ前ノ相棒ハ少シハアテニスルベキダナ。臆病スギラァ』

R3C3『ピポポ ポポピーポ』

C7-BDB『何、コレデモくろーん戦争ノ生キ残リダッテ?奇遇ダナ、俺モダヨ。アノトキ俺ハ分離主義ノ精鋭どろいど・こまんどーデナ……』

シンノ「何だと!?」

シカーグ「C7。その話、二十回は聞いたぞ」

シンノ「おい今こいつ何て言った!?分離主義だと!?」

C7-BDB『オット、アンタじぇだいダッタナ……マア昔ノコトハ水ニ流シテ……』

ネーア「ほう。ジェダイにシスに分離主義者にマンダロリアン、旗はナントカ同盟軍……すごいチームじゃな」

C7-BDB『〈しす〉?……タシカ俺ガどぅーくー伯爵ノ身辺護衛ヲ務メテイタトキ……彼ガガソウ名乗ルノヲ聞イタコトガアル』

ネーア「ドゥークー伯爵?たしかクローン戦争中のシス卿じゃったか。妾はそんな奴比べ物にならぬほどの――モゴモゴ」

シンノ「このバカ……!」グイッ

ユスカ「シスって?」

シンノ「いっいや何でもないよ!なっ!」グイグイ

ネーア「モゴモゴ」バタバタ

ユスカ「?……それよりシカーグ将軍、この服じゃ監獄には入れないでしょ?次の作戦に移らなきゃ」

シカーグ「そうだな、交渉のしどころだ。どぎつい交渉のな」


巡回トルーパー1「『タトゥイーン・ララバイ』を聞いたか?」スタスタ

巡回トルーパー2「あの何とかっていうトワイレックの歌手の新曲か。まだだが」スタスタ

巡回トルーパー3「俺は聞いたが、ありゃちょっと湿っぽすぎるぜ」スタスタ

シカーグ「おおい!兵隊さん!」


 巡回警備のトルーパーたちに、ゴミ集積施設の陰からゴミ処理業者が手招きする。


シカーグ「でかいゴミがあるんだ、スピーダーに積むのを手伝ってくれないか?」

巡回トルーパー1「お前らなあ、それで給料もらってるんだろう?」

シカーグ「元はと言えばあんたらが出したゴミじゃないか」

巡回トルーパー1「むっ、生意気なやつだな」

巡回トルーパー3「なあ、この間壊しちゃってこっそり捨てた軍用バッテリーじゃないか……」ヒソヒソ

巡回トルーパー2「シッ!」

巡回トルーパー1「何か言ったか?」

巡回トルーパー2「い、いやなんでもない!」

巡回トルーパー3「そ、そうだな!さあ手伝ってやろうぜ、クソパトロールにうんざりしてたとこだ」


 三人のトルーパーが駄弁りながら建物の陰に消える。
――何かがぶつかるような音が三回響いて、その話し声が止んだ。
やがてその装甲服を奪ったシカーグたちが姿を現す。


ユスカ「相変わらずこのヘルメット、前が見にくいなあ」

シカーグ「耐久力もとてもあてにならん、くれぐれも注意しろ……シンノ、あんたもな」

シンノ「よくわかってるよ、今まで散々撃ったからな。耐久力はマンダロリアン・アーマーの何分の一くらいだね?」

シカーグ「比べるのもはばかられるね」

C7-BDB『ナア、俺タチハドウスルンダ?』

R3C3『ポポピーポ』

シカーグ「ドロイドのことだ、俺たちと一緒に居れば疑われまい」

ネーア「妾は?」

シカーグ「ちゃんと考えてある。またあのマスクを被ってもらうことになるが……」

ネーア「ええー……あれすごく息苦しいんじゃよ」

シンノ「子どもじゃないなら駄々こねずに従ってくれよな」ガポッ

ネーア「うあっ」モゴモゴ

シカーグ「そしてこの手錠をかけて……」ガチャッ

ネーア「散々じゃあ……もうどうにでもしてくれい」モゴモゴ

シンノ「いつもそのくらい素直だといいんだがな」

ユスカ「手錠……ははあ!将軍、あんたの作戦が読めたよ」

C7-BDB『俺モダ。監獄ニ忍ビ込ムニハウッテツケダナ』

R3C3『ポポピーポ』


 四人と二体は何食わぬ顔で監獄のある施設に足を踏み入れた。
その姿は捕虜を移送中の兵士たちにしか見えず、周囲の帝国兵は疑いもしない。
彼らはエレベーターを待ちながら小声で話し始める。


ユスカ「本当にだれも気付いてない。四六時中バケツ被ってる弊害ね」ヒソヒソ

シカーグ「だがこの装甲服の持ち主の個人認識番号までは知らない……それを訊かれるとちとまずい」ヒソヒソ

シンノ「監視カメラやマイクもある、さっきのマインド・トリックも使えないぞ」ヒソヒソ

C7-BDB『残念ダナァ』

R3C3『ポポピーポ』

シカーグ「監房区画は13階だ……だがどの監房かはわかってない。そこからはネーアちゃんの出番だ」ヒソヒソ

ネーア「待遇は大いに不満じゃが、まあやってやるぞよ」モゴモゴ

ユスカ「本当に彼女、ジェダイじゃないの?そんなことができるのに」ヒソヒソ

シンノ「ああ。フォースを感じる力が強いだけで、フォースは使えない……」ヒソヒソ

ネーア「……シンノ。チョコレート・バー1ダースじゃぞ」モゴモゴ

シンノ「わかったよ、クソ!」ヒソヒソ

ネーア「……ああ、それと」モゴモゴ

シンノ「何だ?」ヒソヒソ


 そのとき、背後から黒い装甲服のデス・トルーパーと士官が一人、何やら話しながら近づいてきた。
ネーアは慌てて口をつぐむ。


デス・トルーパー「艦隊は今どのあたりです?」

士官「まだダン・ザ・フローで補給中だろう。燃料に加えて、TIEファイターの補充もあるからな」

デス・トルーパー「手ひどくやられたようですな、では到着は明日になりますか……おい。このエレベーター、上行きか?」

シンノ「えっ!ああ、そうです、はい」


 デス・トルーパーと士官は彼らの後ろに並んだ。
一同は口をつぐんだまま、到着したエレベーターに乗り込む。
デス・トルーパーたちもそれに続き、一同は内心で舌打ちした。


デス・トルーパー「……」

士官「……」

シカーグ「……」

ユスカ「……」

シンノ「……」

ネーア「……」

C7-BDB『……』

R3C3『……』

デス・トルーパー「……新しい捕虜か?私は聞いていないが」

シカーグ「はい、急な話でして」


 デス・トルーパーはエレベーターのボタンをちらりと見た。


デス・トルーパー「13階に行くのか。あそこは監房だろう、よほど重要な捕虜なんだろうな」

シカーグ「そうです……惑星キイのジェダイ関係で」

デス・トルーパー「そうか。マーズ管理官のシャトルで来たのか?」

シカーグ「……はい、そうです」

士官「ん?私はそのシャトルに乗っていたが、そんな奴はいなかったぞ?」

シカーグ(げっ!)

デス・トルーパー「?……おい貴様、個人認識番号を言え」

シカーグ「はい、ええと、認識番号は――」



 13階はエレベーターのすぐ前が、看守の詰める監視所となっている。


看守トルーパー1「……なあ」

看守トルーパー2「なんだ」

看守トルーパー1「今頃マーズ管理官、どんな拷問をしてるのかな」

看守トルーパー2「尋問ドロイドを持って行ったのはお前だろう」

看守トルーパー1「あのドロイドにだって何種類も拷問装置が搭載されてる……あの可愛い女ジェダイに、どんな責め苦を課してるのか気になるじゃないか」

看守トルーパー2「……た、たしかに気になるな」ゴクリ

看守トルーパー1「よし、あそこの監視カメラを……」


 看守たちの下卑た会話を遮って警報が鳴り響いた。


放送『警報!警報!二番エレベーター内で異常事態発生!繰り返す!二番エレベーター内で異常事態発生!』

看守トルーパー1「な、何事だ!?」

看守トルーパー2「俺たち何もやましいことは――って、二番エレベーターだと?」


 二人の視線が二番エレベーターに集まったとき、まさにその扉が開いた。
そしてその中からストームトルーパーが三人走り出る。


看守トルーパー1「おい、一体何事だ!?」

看守トルーパー2「異常事態って!?」

シカーグ「俺たちが異常事態だ!」バシュバシュバシュ

看守トルーパー1「ぐわっ!」バスッ

看守トルーパー2「ぎゃあっ!」バスッ


 シカーグの発砲で看守二人と監視カメラが破壊される。


放送『二番エレベーターは13階!繰り返す――うおっ!13階のカメラが!警備班、13階へ急行せよ!繰り返す――』

ユスカ「うるさい!」バシュッ


 そしてユスカの発砲でスピーカーが破壊された。
シンノは看守の死体からカードキーを奪いつつ苦笑する。


シンノ「やれやれ、ずいぶん短い潜入だったな」

ネーア「カカカ、これでクソ息苦しいマスクともおさらばぞよ!」


 ネーアはエイリアンのマスクを脱ぎ捨て、代わりにデス・トルーパーのヘルメットを被っていた。
本来の持ち主は士官とともにエレベーターの中で物言わぬ死体となって転がっている。


シカーグ「C7、R3、お前たちはここにいろ。話術なり実力行使なりで敵を食い止めてくれ……そら、コムリンクとブラスターだ」ポイッ

C7-BDB『らじゃらじゃ!』パシッ

R3C3『ポポピーポ』

シカーグ「ユスカ、シンノ、ネーア!行くぞ!」


 上機嫌でブラスターを構えるC7と明らかにびくついているR3を残して、四人は監房区画へと駆け込む。


ユスカ「ネーアちゃん、リズマの居場所を探して!」タタタ

ネーア「あー、その前に一つご報告があるんじゃが」タタタ

シンノ「さっき言いかけていたことか?」タタタ

ネーア「そうじゃ。惑星キイで会ったジェダイ崩れなんじゃが、ここにいるみたいぞよ」タタタ

シンノ「なんだと!?」タタタ


 そのとき監房の一つの扉が開いた。
中から姿を現したのはまさにそのダークジェダイ!


マーズ「看守、今の警報は――何だ貴様ら!?」

シンノ「どけっ!」ドウンッ

マーズ「うおおっ!?――ぐふっ」フワッ ドタッ


 マーズは完全に不意打ちを受け、シンノのフォース攻撃で吹き飛ばされて壁に激突。
そのまま床に落下し、ぐったりと動かなくなった。
彼女に伴って監房から出てきた尋問ドロイドも巻き込まれ、同様の末路を辿った。


ユスカ「……何今の?誰?」

リズマ「その声――姉さん!?」


 マーズが出てきた監房から声がかかる。
中でふらふらと立ち上がったのはまさしくリズマ・ショーニン。
囚人服はボロボロで、あちこちに火傷やあざを負った痛々しい姿であった。


ユスカ「リズマ!」

シカーグ「リズマ!助けに来たぞ、もう安心だ……!」


 二人が駆け寄って彼女を支える。
リズマは泣きださんばかりに感激していた。


リズマ「シカーグ将軍まで……ありがとうございます、ああ、本当に夢みたい……!」

シンノ「あー、感動の再会のところ悪いが……もうお客さんが来たみたいだ」


 二人の背後でシンノが申し訳なさそうに口を開いた。
彼が指で示す先には、通路を進んでくるストームトルーパーの集団の姿があった。
先ほどとは別の場所のエレベーターか階段から侵入したのだろう。


リズマ「あなたは……?」

シンノ「俺か?俺は……二人の助っ人ってところ」


 シンノは懐からライトセーバーを抜いた。
青い光の刃が狭い通路を照らす。


シンノ「ジェダイ・ナイトの――」

ネーア「なあシンノ、これ、妾いらなかったと思うんじゃが」

シンノ「名乗りくらいかっこよくさせろよ!」



 一方、シンノたちが使ったエレベーターからもストームトルーパーたちが侵入していた。
監視所に入るとすぐに、コントロール・パネルの奥に陣取った二体のドロイドが目に入る。


トルーパー1「あーあー、こちら三班。第一監視所には敵の姿はありません。ドロイドが二体いるだけです」

トルーパー2「なんでこんなところに料理人ドロイドとアストロメクが……」

トルーパー3「おいドロイド、敵がどっちへ行ったか知ってるか?」

C7-BDB『アア、知ッテルゼ。向コウダ』

R3C3『ピポポ ピポポ』

トルーパー1「聞いたな。よし、行くぞ」


 トルーパーたちはぞろぞろと監視所を横切って監房区画へ向かおうとする。


C7-BDB『――ダガ、向コウニハ行カセネエ!』シャキーンッ バシュッ


 しかしその背後でC7がフォークとナイフを取り出し、手裏剣のように投げつけた!


トルーパー4「ぐわっ!」ブスッ

トルーパー5「ぎゃあっ!」ドスッ

トルーパー1「き、貴様ら……敵のドロイドだな!」ジャキッ

C7-BDB『気ヅクノガ遅ェンダヨ!』ジャキッ


ネーア「――なんてザマじゃ、かっこつけなくて正解じゃったのう!」


 ネーアはほうほうのていで壁の陰に逃げ込んできたシンノを嘲笑った。


シンノ「うるせえ!敵の数が多すぎるんだよ!」

リズマ「うう、私にもライトセーバーがあれば……」

ユスカ「ジェダイに無理なら私たちにも無理じゃん、どうやってここから――うわっ!」


 シンノを追った敵のブラスター光弾がいくつも壁に当たり、派手に火花を散らした。
激しい敵の攻撃によって五人は監視所と分断され、追い込まれつつあった。


シカーグ「この!」ブンッ


 シカーグは爆弾を投擲する。
爆破と共に銃撃は一瞬止むが、すぐに再び光弾が飛来し始めた。


シカーグ「くっ……この調子じゃエレベーターからの脱出は無理か」

シンノ「とはいっても他にどこから――そうだ!」


 シンノは壁際に走り、ダストシュートの蓋をライトセーバーで破壊した。


ユスカ「うそ、ダストシュートから!?正気!?」

シンノ「ここで撃ち殺されるよりはマシだろう!」

シカーグ「ああ名案だ、敵は私たちが食い止める!早くいけ!」バシュッバシュッ


 シンノとシカーグは時間を稼ぐべく、敵のいるほうめがけめちゃくちゃにブラスターを連射した。


ユスカ「うう、手段は選んでいられないか……!」ピョンッ

リズマ「お二人も早く!」ピョンッ

ネーア「うわっひどい臭いぞよ!」

シンノ「やかましい!早く行け!」バシュッバシュッ

ネーア「ううう、今日は厄日じゃあ!」ピョンッ

シカーグ「シンノ、私たちも行くぞ!」ブンッ


 最後に手榴弾を投げつけ、シンノとシカーグもダストシュートに飛び込んだ。
体のあちこちを狭い通路の壁にこすりながら、五人は暗闇の中へ落ちていく。


ユスカ「うあっ!」ドボンッ

リズマ「きゃあっ!」ドボンッ

ネーア「おわっ!」ドボンッ

シカーグ「ぬおっ!」ドボンッ

シンノ「ぐあっ!――あっ!?」ドボンッ


 五人は狭いゴミ集積層まで落下した。
非常灯が灯るだけの薄暗い空間はうずたかく積み上がったゴミの山と鼻の曲がるような悪臭に満ち、膝の高さまで得体の知れない臭い液体が溜まっている。


シンノ「ライトセーバーが!ライトセーバーを落とした!」バシャバシャ

ユスカ「何よここ、最悪……!出口は?」

リズマ「ここにドアが……開かない!?」ガチャガチャ

ユスカ「ちょっと開かないってどういうこと!?」


 そのとき立て続けに鈍い機械音が響き、左右の壁ががたりと揺れた。


ユスカ「……私、嫌な予感がしてきた。フォース使えるようになったのかな」

シカーグ「奇遇だな、私もだ」


 狙いすましたようなタイミングでゴミ圧縮装置が作動したのだった。
ゴミもろとも五人を圧縮すべく、左右の壁が動き始める!


ユスカ「あああ!もう二度と潜入なんてしないんだからあ!」ガチャガチャ

シカーグ「緊急停止スイッチは無いのか!?」

リズマ「シンノさん、ドアをライトセーバーで――」

シンノ「だから落としたって言ってるだろう!」バシャバシャ

ユスカ「はあ!?信じられない!この無能!」

シンノ「なんだと!?」カチンッ

ネーア「け、喧嘩なんてしてる場合じゃないぞよ!何かつっかえ棒になるものを探すのじゃ!」

シカーグ「――そうだ、C7!応答しろC7!」


 シカーグはコムリンク通信機で助けを呼んだが、応答はない。
スピーカーからは銃声と料理人ドロイドの叫び――歓喜の雄たけびが聞こえるだけだ。


シカーグ「……あいつ何やってるんだ!?」


C7-BDB『ヤッパリドンパチハイイゼ、ばとるどろいどノ血ガ騒グゼ!フー!』バシュバシュバシュ


 監視所のC7は、コムリンク通信機をコントロールパネルの上にほったらかしにして銃撃戦に夢中になっていた。
シカーグの必死の呼びかけは虚しく銃声にかき消される。


トルーパー3「ぐわっ!」バスッ

トルーパー1「こ、こちら3班!第一監視所で敵のドロイドと戦闘中、至急増援を!」

トルーパー2「このキチガイドロイドめが!」バシュッバシュッ

C7-BDB『ヒャッハア!料理人ラシク料理シテヤルゼ、オ前ラヲナァ!――R3!増援ガ来タラ面倒ダ、えれべーたーヲ溶接シテコイ!』バシュバシュバシュ

R3-C3『ポポピーポ ピポポ ピポポ』

C7-BDB『逃ゲ道ハ別ノヲ考エル!トットト行ケ!』バシュバシュバシュ


 R3-C3は料理人ドロイドに追い立てられるようにしてエレベーターのほうへ向かい、ドアを溶接し始めた。
トルーパーの射線がそちらを狙いそうになると、すぐさまC7が猛射を加えて妨害する。
しかし相変わらず誰も通信機には気づかなかった。



 ゴミ集積層では迫り来る壁を前に五人が必死の努力を続けていた。


シンノ「ライトセーバーはどこだ!そんなに遠くに行くはずがないのに!」バシャバシャ

ユスカ「ああ、こんなごみ溜めでぺしゃんこになって死ぬのだけは絶対にイヤなんだからあ!」バシャバシャ

ネーア「リズマ!リズマとやら!そこの鉄棒を壁に挟むんじゃ!」

リズマ「こうですか!?」グイグイ

シカーグ「C7!応答しろC7!――ああもう、なんのために通信機を預けたんだかわからん!――C7!応答しろ!」


C7-BDB『オラオラ増援ハ来ネエゾ!クタバレエ!』バシュバシュバシュ

R3-C3『ピポポ?』


 C7のところに戻ってきたR3は、コントロールパネル上の通信機が音声を発しているのに気付いた。
ボディ側面からアームを伸ばして掴み取る。


R3-C3『ピポポ ポポピーポ』

シカーグ『R3か!?助かった!今すぐコネクターに接続して、ゴミ圧縮装置のスイッチを切れ!』

R3-C3『ポポピーポ ピポポ?』

シカーグ『私たちはその中で潰されかけてるんだっ!早くしてくれ!』

R3-C3『プアアア!』

C7-BDB『ン!?オイR3、ドコヘ行ク!?』


 R3-C3はコネクターのところへ急行し、ハクカ基地のネットワークに接続。
ゴミ圧縮装置のコントロール・システムを見つけ出し、すぐさまスイッチを切った。


 ――がこん、という音とともに壁が揺れた。
五人は様子を伺ったが、壁はそれっきりぴくりとも動かないようだった。


ユスカ「……と、止まった?」

シカーグ「……どうやら……そのようだな」ハア

ユスカ「――や、やったあああ!」
リズマ「助かったあ!」
シンノ「よおし!よおおしっ!」

ネーア「もーうコリゴリ、もうこんな目はコリゴリじゃあ……せっかく復活したのに死にかけてばっかりじゃあ……」ゲッソリ

リズマ「復活?」

シカーグ「R3、ゴミ集積層のドアを開けてくれ。終わったらお前たちもダストシュートで脱出するんだ、急げ!」


 間もなくドアが開き、五人はひとまずごみ溜めから這い出して新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んだ。
そこはハクカ基地敷地内のゴミ集積施設で、半開きのシャッターの下から潜入に使ったスピーダーが覗いている。


C7-BDB『ウワッ、ウワアーッ!』ドボーンッ

R3-C3『プアアアン!』ドボーンッ

ユスカ「C7!R3!」

シンノ「待ってろ!今引き上げる」


 シンノはフォースでC7とR3をサルページする。
二体のドロイドは汚濁液まみれになりながらもなんとか集積施設の床に降り立った。


C7-BDB『ウエエ、ぼでぃガ汚レチマッタ……』

R3-C3『ポポピーポ』ガチャ

シンノ「ん?R3!その足に引っかかってるの、俺のライトセーバーじゃないか!……よかった、またごみ溜めに戻るところだった!」パシッ

ユスカ「あれだけ探し回ったのに……見つかるときはあっけないものね」

シンノ「まったく――あっ」

ネーア「うう、ローブがドロドロじゃあ……あっ、ここゴミで裂いちゃってるぞよ……」

シンノ(……よく考えたらこいつのライトセーバー使えばよかったな)

リズマ「でもシカーグ将軍、どうやってここから逃げましょう?きっと出口は封鎖されています」

シカーグ「私に任せておけ。とりあえず皆、スピーダーに乗るんだ」


 その後、施設13階の監獄区画はストームトルーパーたちによって制圧される。
トルーパーたちはいまだブラスター・ガスが立ち込めるフロアを注意深く歩き回り、やがてダストシュートに逃走者の痕跡を見つけ出した。
肩当を付けた隊長格のトルーパーは先回りを命じるいっぽう、昏倒したマーズ管理官を発見した。


肩当トルーパー「管理官。マーズ管理官」

マーズ「うっ……む……ハッ!奴らはどこだ!?」ガバッ

肩当トルーパー「ご無事でしたか。奴らはダストシュートから逃走したようです……すでにゴミ集積施設に別動隊を派遣しました」


 マーズはトルーパーからゴミ集積施設の場所を聞くと、鉄格子のはまった小さな窓越しにそれを睨みつけた。


マーズ「……あのあたりに敵は居ない。すでに移動した後だ」

肩当トルーパー「何ですって!?ではどこに!?」

マーズ「……敵は……飛行場だ!」ダッ

肩当トルーパー「飛行場――敵は脱出するつもりだ!第一分隊、続け!」ダッ


TIEパイロット「ファイターの準備は出来てるか!」タタタ

整備員「あと1分ください!」ガチャガチャ


 数分後、ハクカ基地飛行場の格納庫内ではTIEファイター部隊の発進準備が進んでいた。
基地内での暴動と連携しての攻撃を想定し、上空警戒の任に就くためである。


TIEパイロット「スクランブルだぞ、急げよ……!」イライラ


 パイロットはマーズ管理官が乗ってきたシャトルの傍でそれを待つ。
そのとき四人のストームトルーパーが格納庫に姿を現した。


TIEパイロット「ん?何だお前ら――うわっ、ひどい臭いだぞ!」

トルーパー1「すまない、ごみ溜めを捜索させられた後なんだ。ところでこのシャトルは整備は終わっているのか?」

TIEパイロット「ああ、そうらしいが……それよりこんなところで遊んでいるヒマがあったら、ゲートの封鎖を――」

トルーパー1「ならいいんだ!」バシュバシュバシュ


 格納庫を制圧すると、トルーパーたちはヘルメットを脱ぎ捨てた。
言わずもがなその正体はジェダイと反乱軍兵士たちであり、後からネーアと二体のドロイドも加わる。


シカーグ「よし、早いところシャトルに乗り込んでくれ。ユスカ、操縦は任せた」

ユスカ「シカーグ将軍は?」

シカーグ「私は置き土産を残していく。TIEファイターにな」ガチャ

シンノ「よし、俺も手伝おう」

ユスカ「わかった!」ダッ

リズマ「お二人もお早く!」ダッ

ネーア「ああ、すぐ風呂に入りたいぞよ……!」ダッ

C7-BDB『ヨウヤクコノクソッタレ基地カラオサラバデキルゼ!』ガチャガチャ

R3-C3『ピポポ ピポポ』ウィーン


 シカーグとシンノは追撃を封殺するため、TIEファイターに時限爆弾を手際よく仕掛ける。
――しかしその間に、追手は飛行場に迫った。


シカーグ「よし、これで最後だ」カチャッ

シンノ「じゃあ早いところ――」

マーズ「そこまでだ、反乱軍ども……!」ザッ


 反乱者たちは一斉に顔を青くして、格納庫の入口を振り返った。
ダークジェダイがジット・セーバーを振りかざし、十数人のストームトルーパーが一斉にブラスターライフルを構える。


肩当トルーパー「シャトルを撃て!」ジャキッ

シンノ「――早く乗れ、シカーグ将軍!」ビシューンッ


 シンノはライトセーバーでシャトルの護衛を試みるが、そこへマーズが襲いかかった。


マーズ「やはり貴様、惑星キイのジェダイか……!」ブウンッ

シンノ「だったらどうする?あのときの小手先の技はもう通じないぞ!」ビシューンッ

マーズ「そんなものなくとも――むっ!」バシューンッ

ネーア「シンノ!何をしている、早く乗るのじゃ!」

マーズ「……」ニヤリ

シンノ「?貴様――」

マーズ「はあっ!」ドウンッ

シンノ「ぐはあっ!」フワッ ガシャーンッ!

マーズ「……!」スッ


 マーズはフォースでシンノを吹き飛ばし、シャトルから顔を出したネーアのほうへ手を伸ばす。


ネーア「うあっ、しまった!」フワッ グググッ

マーズ「ハハハ……捕まえたぞ!」ガシッ


 抵抗も虚しく、ネーアはマーズにがっちりと拘束されてしまった。


ネーア「ええい放せ、放さんか!」バタバタ

シンノ「ネーア!――うわっ!」


 ようやく起き上がったシンノはマーズに飛びかかろうとしたが、トルーパーの猛射に妨害される。
銃撃はいよいよ激しく、シャトルの外装があちこち弾けて飛んでいく。


シカーグ「シンノ!もう駄目だ、一旦引き上げるしかない!」バシュッバシュッ

シンノ「しかし……!」

ネーア「シンノ!妾なら大丈夫じゃ、構わず行け!」バタバタ

シンノ「お前を置いてはいけない!」

ネーア「妾を侮るな、この程度自力で何とかするぞよ……また会うまで、ライトセーバーは預けておくのじゃ!」バタバタ


シンノ「……くそっ!きっと助けに行く!」ダッ


 シンノは銃撃を潜り抜けてシャトルに飛び込んだ。
ユスカの必死の操縦で、傷ついたシャトルは辛うじて離陸する。


肩当トルーパー「逃がすな!TIEファイターで追撃――」


 立て続けに時限爆弾が爆発し、多くのトルーパーがTIEファイターもろとも吹き飛んだ。
巻き起こった爆炎が煙を残して晴れる頃には、シャトルの姿は夜空の中ですっかり小さくなっており、やがて消えた。


マーズ「……逃げられた、か」

肩当トルーパー「……マーズ管理官、その……ヴェイダー卿にはなんと……」

マーズ「ヴェイダー?……フン、構うものか」


 マーズは小脇に抱えたネーアに目をやった。


マーズ「――それよりずっと価値のあるものを手に入れたからな」

ネーア「……」ジロッ


 数時間後、惑星ハクカの反乱軍秘密基地では、引き揚げ準備と並行して戦闘機隊の出撃準備が始まっていた。
その隅にはWウィングとそれに魚雷を積み込むR3-C3、エンジンを調整するシンノの姿もある。


シカーグ「皆!時間がない、ここで作戦の説明をする。集まってくれ!」


 マンダロリアン・アーマーを着込んだシカーグがパイロットたちを呼び集める。
シンノに続いてリズマもそこに加わると、シカーグは卓上の3Dプロジェクターに惑星ハクカとその衛星軌道を表示した。


シカーグ「リズマがもたらした知らせをもとに情報収集を行ったところ、帝国軍の攻撃ステーション『ラグナロク』がハクカ上空に到着したことが判明した」


 衛星軌道上の光点が拡大され、ドーナツ型の宇宙ステーションを映し出す。
中空を貫く形で長大な砲身が伸びていて、凶悪な攻撃手段の存在をほのめかしている。


シカーグ「ラグナロクは軌道上から地上を砲撃できるスーパーレーザー砲なる兵器を装備している。我が軍の技術者に問い合わせたところ、この基地を周囲の市街地ごと消滅させる威力を持つそうだ」

シカーグ「我々は引き揚げまでの時間を稼ぐため、そして一般市民の命を守るため、なんとしてもこの攻撃ステーションを破壊しなければならない」


 パイロットたちはざわめき、顔を見合わせた。
やがて一人の隊長格のパイロットが挙手する。


パイロット「はい将軍、攻撃ステーションの防衛体制はどうなっているのでしょうか?」

シカーグ「うん、それが皆一番気になっていることだと思う……護衛の艦隊から説明する。まず旗艦ヘファイストスを筆頭にスター・デストロイヤーが四隻……」


 ラグナロク周辺に展開する帝国軍艦隊が3Dプロジェクターに表示され、シカーグがそれらを一つ一つ説明していく。
コア・ワールドの戦略観からいくらかスケールは落ちるものの、ごく寡兵のハクカ反乱軍に比べれば圧倒的な勢力であった。


シカーグ「次にラグナロク本体の防衛機構だ。発射口の対極にシールド発生器が設置されており、通常の手段での侵入は不可能だ」

シカーグ「それを潜り抜けても、このリング状の構造の上面と側面に設置されたターボレーザー砲が迎え撃つ構造になっている」

シカーグ「ただしこの構造の下面には砲身を支える骨格があり、砲台はごく少ない。骨格の中に潜り込めれば敵ファイターの攻撃もかわせる。ここがアキレス腱だ」

シカーグ「先んじて潜入班がここにからラグナロク内部に侵入し、シールド発生器のスイッチを切る」

シカーグ「ついで攻撃班もここからリング状構造の内部に侵入し、中心に設置されたリアクターに直接プロトン魚雷を撃ち込むのだ」


ユスカ「は、はい将軍!質問!」


 次に挙手したのは飛行服に着替えたユスカ・ショーニンだった。


シカーグ「何だ、ショーニン中尉?」

ユスカ「潜入班はどうやってラグナロクに接近するの?シールドがあって入れないって……」

シカーグ「たしかに侵入は不可能だ。通常の手段ではな……ハイパースペース・ジャンプなら可能だ」

ユスカ「ハイパースペース・ジャンプ!?衛星軌道で!?」

パイロット「そんな無茶な……ステーションにぶつかるのがオチだ!」

シカーグ「まさしく、かなり困難なことだ。しかし今回、我々は優秀なジェダイのパイロットに協力を仰ぐことができた」


 シカーグ、ついでパイロットたちの視線がシンノに集まる。


シカーグ「彼はジェダイ・ナイトのシンノ・カノス。つい先日、惑星キイでTIEファイターを7機仕留めたという……」

シカーグ「潜入班は彼とリズマのジェダイコンビだ。必ずやシールドを解除してくれるだろう」


 シンノは様々な感情のもと視線を向けるパイロットたちに軽く一礼した。


シカーグ「我々が数の不利を逆転するには潜入班と攻撃班が互いに信頼し、全員が集中して作戦に取り組むことが不可欠だ」

シカーグ「この戦いに勝利できれば反乱同盟軍の士気は大いに――否、銀河全体で解放の機運が高まるだろう。では解散だ、フォースとともにあらんことを!」


 決意の表情で各々の戦闘機に戻るパイロットとともに、シンノはWウィングのところへ戻った。
ふとネーアのライトセーバーを取り出し眺める彼に、身支度を整えたリズマが近づく。


リズマ「シンノさん、操縦よろしくお願いします――あれ?そのライトセーバーは?」

シンノ「……以前、戦友から預かったものだ。俺はこれを使おう……リズマ、お前には俺のセーバーを貸してやる」ポイッ

リズマ「あっ……ありがとうございます」パシッ


 シンノは自分のライトセーバーをリズマに投げ渡し、ネーアのものを自分のベルトにぶら下げた。


リズマ「その……ユスカから聞きました、ネーアちゃんのこと……私を助けるために、来てくれてたって」

シンノ「気にするな。危険は本人も承知だったろう」


 やがて天井が開いて発進口が口を開け、星の瞬く夜空が姿を現した。
シンノはその彼方を見上げる。


シンノ「――それに不思議と、すぐにまた会えそうな気がするんだ」


 その頃惑星ハクカ上空では、ワイマッグ提督が砲撃準備中のラグナロクを視察に訪れていた。


係官「提督、ここがシールド管制室です。とはいっても全自動なので無人……おや?」

ワイマッグ「マーズ管理官!」

コーチ『シュコーッ、シュコーッ……もうお戻りになっていたのですか』

マーズ「……ワイマッグ提督……それにコマンダー・コーチ」


 無人のはずの管制室には、相変わらず仏頂面のマーズ管理官が居た。
彼女の背後の大きな展望窓からは、護衛艦隊の影が浮かぶ惑星ハクカの夜景が見える。
その近くには、どういうわけか大きな椅子が一同に背を向ける形で置かれていた。


マーズ「申し訳ありませんが、攻撃が終わるまでこの部屋は使わせていただきます。ヴェイダー卿のご命令でして」

ワイマッグ「ヴェイダー卿の?連絡を取られたのですか。惑星ハクカでのジェダイ脱走事件はなんと説明なさったんです?」

マーズ「あなたには私に命令する権限はないでしょう。とにかくお引き取り頂こう」

コーチ『貴様、つけあがるのもいい加減に……!』

ワイマッグ「やめろコマンダー……わかりました管理官、我々はもう行くとしましょう」


 ワイマッグは憤然とするコーチを制したが、マーズに向ける視線は冷たい。


ワイマッグ「あなたは近々ヴェイダー卿に除かれるでしょうからな。冥途の土産にここからの景色を楽しむことです」


 そして三人は立ち去った。
最後の一言は鉛のように重いはずだったが、マーズには少しも動じた様子がない。


マーズ「……ヴェイダーになど構いはしません」


 彼女は窓の近くの椅子に手を触れ、ゆっくりと回転させた。


ネーア「……よいのか?あやつの口ぶりだと、そなたを殺す程度の技量はあるようじゃが」フンッ


 そこに座っていたのはダース・ネーアだ。
拘束具によって手首が肘置きに固定されている。


マーズ「今はそうです。しかし私はいずれ奴よりも強くなる。そのために――」


 そこまで言って、マーズはおもむろに土下座した。


マーズ「私を弟子にしてください、ダークロード・オブ・シス!」

ネーア「!?……!?……そなた、正気か!?」


 その頃Wウィングはすでに離陸し、惑星ハクカの夜空を一直線に駆け上りつつあった。
シンノはラグナロクへのハイパースペース・ジャンプの計算を途中で切り上げる。


シンノ「バリアーの放射周期もわかっていない以上、細かい調整はナンセンス……あとはフォースに従うさ」

リズマ「……そうですね、きっとフォースが導いてくれます。私たちはジェダイですから」


 シンノは頷いてジャンプのスイッチを入れた。
視界いっぱいにスター・ボウが広がる。


シンノ(ジェダイだから、か……シスを助けようとすることは、ジェダイの道に背くんだろうか)

シンノ(……でもあいつには貸しがあるし、聞きたい事も沢山ある……第一、人の命を救おうとすることが悪いはずはない)


 シンノは自らの直感に従ってジャンプを中断した。
その瞬間巨大宇宙ステーションが間近に出現した。


シンノ(シールドを抜けた……!)ガッ


 しかし今度は激突の危険が間近に迫り、シンノは慌てて逆噴射をかける。


リズマ「きゃあ……!」ガタガタ

シンノ(リング状構造の下……砲身支持骨格の隙間に、飛び込む……!)グイッ


 やがてWウィングはやや速度を緩めながらもラグナロクの「アキレス腱」に飛び込み、姿を消した。



監視兵1「……ん?」

管制官「何だ?」

監視兵1「少佐、このスキャナーに反応が……」

管制官「そんな馬鹿な、シールドがあるんだぞ。誤作動だろう」

ワイマッグ「どうした?」


 ラグナロクのメインコントロール・ルームは広く、何人もの兵や士官がモニターに向かっていた。
そのうちの一人、異常を見とめた監視兵のところにワイマッグ提督とコマンダー・コーチが近づく。


監視兵1「今、一瞬だけスキャナーに反応がありまして……ごく微弱ですが」

監視兵2「あっ、こちらは噴射光を確認しました」

ワイマッグ「……まさかとは思うが、敵船がシールドを突破してきたのでは」

管制官「そんな馬鹿な、ありえません」

コーチ『ハイパースペース・ジャンプなら可能です。かなり困難ですが』

ワイマッグ「よし、とりあえず第一種ブラスト・ドアを閉鎖、警備システムをアクティブに――」

マーズ『なりません、提督』


 そのとき3Dプロジェクターのスイッチがひとりでに入り、マーズ管理官の姿が映し出された。


マーズ『敵の狙いはシールド……気づいていないふりをして、制御室まで誘い込むのです』


 ラグナロクの懐、骨格の隙間で機体を停止させたシンノとリズマは、タイトな宇宙服を着込んで機外に出た。
機密扉を探し当て、その脇のコネクターにR3-C3が接続。
ラグナロクのネットワークに侵入し扉を解錠するが、同時に何かを発見したようである。


R3-C3『ポポピーポ ピポポ ピポポ』

シンノ『何?シールド制御室にネーアが!?』

リズマ『なぜネーアちゃんがそんなところに……?』

シンノ『……罠臭いな』

リズマ『じゃ、じゃあどうすれば……』

シンノ(どうにかして奴らの裏を……いや、どちらにしろ制御室にはいかなければならない)

シンノ『……罠に飛び込んでみるか』


 その頃惑星ハクカの反乱軍基地では攻撃班――Xウィング隊とYウィング隊が出撃しつつあった。
ユスカもそのうちの一人としてXウィングに乗り、離陸信号を送る地上要員に別れを告げて空中へと舞い上がる。


ユスカ(いよいよね……)ドキドキ

シカーグ『ユスカ、あまり気負うな。リズマは自分の仕事をする、お前も自分の仕事をすればいい』

ユスカ「……将軍」


 ユスカは隣を飛ぶシカーグ機に目をやる。
夜闇の中に微かに浮かぶパイロットの影が、気さくなハンドサインを寄越した。


シンノ「ここが制御室……む!」

リズマ「ネーアちゃん!」

ネーア「シンノ……リズマも」


 二人は隔壁や敵兵に遮られることもなくシールド制御室に到着した。
巨大な窓の近くで椅子に拘束されたネーアを除けば部屋は無人――何もかも好都合に思えたが、ネーアは何か言いたげな表情だ。


ネーア「来てしまったか……」

シンノ「来てしまったってなんだよ、心配したんだぞ?」

リズマ「すぐに拘束を――!」

シンノ「!」


 二人はネーアに駆け寄ろうとしたが、人の気配を覚えて振り返った。


マーズ「……シンノ・カノス。そしてリズマ・ショーニン……」


 背後から現れたのは黒装束のダークジェダイ――ジヒス・マーズ。


ネーア「……そやつ、妾の弟子になりたいと言うんじゃ。そなたには向いていないと言ったんじゃが……」ヤレヤレ

マーズ「――貴様ら反乱軍には、私の価値をネーア卿に証明する生贄となってもらう」ビシューン ビシュッ

シンノ「どこまでも堕ちたようだな……!」ビシューンッ

リズマ(ネーア卿……?)

シンノ「リズマ!」

リズマ「は、はいっ!」ビシューンッ


マーズ「行くぞ……!」シュザッ ブウンッ!


 マーズがジット・セーバーを振りかぶって突進。
リズマめがけて横殴りの一撃を繰り出した。


リズマ「くっ!」ビシュンッ

マーズ「フンッ!」ブウンッ

リズマ「ふっ……!」バチッ!


 二人の力量差は数合打ち合っただけでも明らかだ。
しかしそのとき側面からシンノが割り込む。


シンノ「そこまでだ!」ブウンッ!

マーズ「チッ……!」バチッ!

シンノ「セイッ!」ブウンッ

マーズ「小癪な!」バチッ ドウンッ

シンノ「はあっ!」ドウンッ


 双方のフォース・プッシュが激突し距離が開くと、すかさずリズマが飛び込む。
シンノが呼吸を整える一方で、マーズは連続での戦闘を強いられる。


リズマ「ミャーズクの借りを、返す!」ブウンッ

マーズ「ぬうっ!」バチッ

シンノ「まだまだあ!」シュザッ ブウンッ

マーズ「くっ……!」バチバチ


 マーズはリズマとシンノのライトセーバーをなんとか受け止める。
数の不利は明らかだが、彼女の心中で燃え盛る感情がダークサイドの力を増幅している。


マーズ「なめるなあ!」ドウンッ

シンノ「ぐおおっ!」ブワッ

リズマ「うあっ……!」ブワッ


 一気に解放されたフォースの力が二人を吹き飛ばした。
マーズは目をぎらつかせつつ、立て続けにリズマに襲いかかる。


マーズ「はあっ!」ブウンッ

リズマ「ううっ……!」バチッ

マーズ「フッ」ニヤリ


 リズマは追撃を間一髪防いだが、マーズは更なる攻撃を隠し持っていた。


マーズ「フンッ!」クルッ ドスッ

リズマ「ッ……!」


 鍔迫り合いの形からセーバーをひねり、短い刃でリズマの腹部を突き刺した。


シンノ「!?リ、リズマ!」

リズマ「……」ガクッ ドサッ

マーズ「……次は貴様だ」クルッ

シンノ「……!」


 ――シンノの精神にジェダイ全滅の悲劇がフラッシュバックした。
ジェダイにあるまじき感情を燃料にして、マーズめがけ突進する。


シンノ「うおおああッ!」ブウンッ

マーズ「うっ!?」バチッ

シンノ「この外道がッ!」ブウンッ

マーズ「こ、この力……だが!」バチッ クルッ


 マーズはその力に押されながらも再びジット・セーバーを回転させた。
惑星キイでの戦いのリフレインの如く、彼女のセーバーがシンノのセーバーを挟み取る。


マーズ「捕らえた――」

シンノ「ふんっ!」ジャキッ バシュバシュバシュ!


 しかしそれを吹き飛ばすよりも早く、シンノがブラスターを抜いた。
腰だめで放った連射がリズマの傷の意趣返しの如く、マーズの腹にいくつも穴を空けた。


マーズ「――き、貴様……ジェダイが、ブラスターを……」ヨロッ

シンノ「はあっ!」ブウンッ

マーズ「ぐあっ……」ガクッ


 シンノは乱暴にライトセーバーを引き離し、時計の針のように払った。
マーズの両手首が切り落とされて床にぼとりぼとりと落ち、ジット・セーバーが転がり出る。


シンノ「……」パシッ バチチ…

マーズ「……!」

 シンノはそれをフォースで引き寄せ、左手に握る。
二本のセーバーと交差させ、跪いたマーズの首に狙いを付ける。


ネーア「よし、それでこそ我が弟子じゃシンノ……」


 ネーアは満足げに頷いた後、無感動に宣告した。


ネーア「さあ、殺せ」

マーズ「な……マ、マスター……」

ネーア「そなたのマスターになった覚えなど無いぞよ」

シンノ「……丸腰の相手は殺せない」

ネーア「カカカ、まだ言うか」


 ネーアは哀れむように、あるいは愛おしむように笑いかける。


ネーア「そなたが仲間を何より大切にしておるのはわかった。これはもっともな感情、実に道徳的な感覚じゃ」

ネーア「しかしライトサイドの力では、それを完全に守るには不足ぞよ」

シンノ「……不足……不足、では……」

ネーア「だからジェダイは滅びた」

シンノ「……」

ネーア「そなたはついさっき『怒り』の力を無意識に使い、このジェダイ崩れを破った。じゃがその不完全な力では、ダース・ヴェイダーや皇帝にはおそらく太刀打ちできん」

ネーア「彼らをも滅ぼせる本当のダークサイドの力……それを、妾が教えてやろうぞ。さすれば、いずれはジェダイ・オーダーの復讐も果たせよう」

ネーア「その最初の一歩として、そやつを殺すのじゃ。さあ早くやれ、シンノ」

シンノ「……」


 シンノはなおも逡巡したが、マーズの振る舞いを思い出すたび手に力が込もっていく。
だがそのとき、背後でリズマが意識を取り戻した。


リズマ「う……シ、シンノ、さん……?」

シンノ「!……俺は……」


 シンノは何度かかぶりを振った後、ジット・セーバーを投げ捨て、自分のセーバーも収めた。


シンノ「……俺は……ジェダイだ。仲間たちが、そうだったから」


 シンノがコンソールのほうに手を伸ばすと、モニターが何度か切り替わり、微かに響いていた低い音が途切れる。
バリアー発生器のスイッチが切られたのだ。
脱力して倒れ込むマーズを無視し、シンノはリズマに駆け寄る。

シンノ「リズマ、大丈夫か?」

リズマ「……たぶん……ちょっと、歩けそうには、ありませんが……ゲホッゲホッ」


 ネーアは不服そうに鼻を鳴らした。


ネーア「やれやれ、強情な奴じゃ……ふうんっ!」


 彼女がフォースでどうにか拘束を外して二人の下へ戻ったとき、背後の扉が開いた。


ワイマッグ「――そこまでだ、ジェダイ」


 ワイマッグ提督と、十数人のストームトルーパーが姿を現す。
トルーパーたちは入口の周囲を固めるように展開し、ブラスターライフルやエレクトロスタッフを油断なく構える。
シンノがリズマをかばいつつ警戒する一方、ネーアは能天気に話しかける。


ネーア「ふむ、そなたが大ボスのようじゃな?」

ワイマッグ「そんなところだ。私は帝国軍QC方面軍司令官、セード・ワイマッグ……」


 ワイマッグは床に倒れ込んでぴくりとも動かないマーズに目をやった。


ワイマッグ「……貴様らのことは彼女から聞いている。シンノ・カノス、リズマ・ショーニン、そして……ええと、何某ネーア」

ネーア「な、何某とは何事じゃ!妾は――」


 シンノがやや無気力に目配せし、ネーアは押し黙った。
ワイマッグはその仕草が気に入らなかったように少し目をひそめる。


ワイマッグ「……とにかく、貴様らが反乱軍と繫がっていることはわかっている。とりあえずヘファイストスの尋問室まで来てもらおう。俺はそこのバカのように決闘を申し込んだりはしな――」


 そのとき突如激震が走り、制御室の面々は大きく揺すぶられた。
照明がめちゃくちゃに点滅したあと、緑色の光が閃いた。
シンノが抜き放ったライトセーバーの光だ。


ワイマッグ「何だ――いかん!奴らを射殺しろ!」
シンノ「突っ切るぞ!」


 シンノは好機を逃さず、リズマを左肩に担いで入口に突進した。
ネーアもありったけのフォースを脚に注ぎ込みこれに続く。
ストームトルーパーたちがめちゃくちゃに発砲する中をすり抜ける。
かろうじて組み付いてきたトルーパーを斬り捨て、押しのけ、出口へ。


ワイマッグ「貴様らは全員、クローン戦争で死ぬべきだったのに!」ガシャッ バチバチバチ


 トルーパーが取り落としたエレクトロ・スタッフを拾い、ワイマッグが立ちはだかる。
走り抜けようとするシンノめがけ、帯電した棍棒で水平に薙ぎ払う。
シンノはとっさにネーアの手を掴み、跳躍した。


ワイマッグ「なんのォ!」ビュンッ ビュウンッ!

シンノ「ハアッ!」ブウンッ!


 ワイマッグはおそるべき速さで背後にスタッフを繰り出したが、着地したシンノの振り向きざまの斬りつけが一歩早い。


ワイマッグ「ぐうっ!?」バチュンッ


 スタッフは柄を切断され、刃はワイマッグの右頬をかすめる。
彼が怯んだ隙に、シンノはドアを潜り抜けた。


ワイマッグ「くっ……追え!隔壁を封鎖しろ、絶対に逃がすな!」


 ワイマッグの号令の下、何拍か遅れてトルーパーたちがそれを追う。
ワイマッグ自身は右頬から白煙を上げながらもコンソールに駆け寄る。


ワイマッグ(バリアーのスイッチが切れている。やはり奴らの主目的はバリアーの排除……だとすればさっきの振動は!)カチカチ


 すばやくコマンドを入力し、バリアーの再起動を試みる。
しかし駆動音が聞こえてくることはなく、かわりに返ってくるのはバリアー放射器損傷を示すエラー。


ワイマッグ(バリアー放射器が破壊されている……やはり反乱軍の!)


 ワイマッグが顔を上げると、その推測の答え合わせのごとくXウィングの三機編隊が展望窓の前を通り過ぎていく。
その先頭をいく機体のキャノピーに、コマンダー・コーチのものによく似た装甲服……マンダロリアン・アーマーが見えた気がした。
彼らはバリアーが切れる瞬間を待ち受け、放射器にプロトン魚雷を打ち込んだに違いない。
ワイマッグは焦燥に駆られながらコンソールを操作し、ジェダイ侵入をうけて旗艦に応援を呼びに行ったコーチに連絡を取った。


コーチ『提督、敵の奇襲です!今すぐシャトルでそちらに戻ります、シュコー、シュコー』

ワイマッグ「こっちは私がなんとかします、コマンダーはTIEファイターでラグナロクを守ってください!いかにバリアーを剥がされようと、ラグナロクだけは守らなければ……!」

コーチ『承知しました……!』


 ワイマッグはすぐに通信を切り、メインコントロール・ルームへ戻ろうと踵を返す。
そのとき、床に横たわるマーズの体が微かに震えている気がして足を止めた。


マーズ「……ヒッグ……グスッ……」


 腹と腕にひどい傷を負っているが、たしかに息がある。
ワイマッグはすっ飛んでいって彼女を抱え起こす。


ワイマッグ「マーズ管理官!?お怪我は――」

マーズ「……じゃあ、私はぁ……私は、どうすればよかったのよぉ……グスッ」


 彼女は泣いていた。
傍若無人なダークジェダイであるはずのジヒス・マーズが、少女のように弱弱しく泣きじゃくっていた。


マーズ「父さんも……マスターも……ヴェイダー卿もっ……ヒッグ……みんな、私を見てくれないっ……」

マーズ「私がどんな気持ちでいるか知らないでっ……ズズッ、置いて、いく……見捨てていく……ねえ、教えてよっ」


 マーズはワイマッグの襟元を掴む――
否、手首が切り落とされているので、虚しくもがいただけだ。


マーズ「私はどうすればよかったのっ……何を信じればよかったのよっ……」

マーズ「なんで……なんでこんなことになっちゃったのよぉ……」


 マーズは泣きはらしたまま意識を失った。
ワイマッグは眉間にひどく皺を寄せた。
しかしすぐにコムリンクを取り出して、医務室の番号をプッシュした。


 三人はラグナロクの無機質な廊下を駆け抜ける。
時折目の前を遮るトルーパーや隔壁が現れればそのたび迂回、あるいはシンノがライトセーバーで排除した。
ジェダイの身体能力にも限界はあり、やがてその歩みは遅くなる。
しかし決定的な阻止に遭うこともなく、ジェダイたちの脱出の試みは続いていた。


シンノ「急げ、ドッキング・ベイまでもう少しだ」

ネーア「ドッキング・ベイたって、船はどうするんじゃ?ここただの砲台じゃろ、ろくな船なかろう」

シンノ「R3にコールして、近くまで呼び寄せておく。ベイを占領したらそのまま乗り込んでおさらばだ」

ネーア「なるほどのう!」

シンノ「……なあ、ダース・ネーア」


 再び意識を失ったリズマを担いだまま、シンノは後ろからついてくるシス卿に話しかけた。


ネーア「何じゃ?」

シンノ「……俺は、たしかにあまりジェダイに向いていないのかもしれない。あまりにも、執着が強すぎる」

ネーア「ふむ」


 シンノは担いでいるリズマの右手を見た。
彼女は腹に穴を空けられてもなお、貸してやったライトセーバーをしっかりと握っていた。


シンノ「でも、だからこそ……だからこそ、俺は、ジェダイであることを諦めたくない」

シンノ「仲間たちが殉じたものを、貶めるようなことだけは……したくは、ないんだ」


 シンノは悩まし気に俯いた。
自分の手の中の、ジェダイとシスとどっちつかずのセーバーが目に入った。


ネーア「うんうん……」コクコク

シンノ「……何か、ないのか?」

ネーア「何かって?」

シンノ「『そんな考えは甘い!』とか……」

ネーア「甘いのか?」

シンノ「いや、そういうわけじゃないが……」

ネーア「カカカカカ!」


 ネーアはシンノの悩みを笑い飛ばす。
なんでもないような口調で、若きジェダイの背中に言葉を投げかける。


ネーア「そなたがそうしたいならそうせい。ジェダイ・オーダーは滅びたのじゃ、そなたが何かに執着していようと誰も気にはせん」

ネーア「執着の果てに善行があるのなら、人々はそなたに憎んだり恨んだりはせん。感謝こそすれ……」

ネーア「満足がいくまでジェダイを名乗るがよい、シンノ。それができるのがこの時代に生まれた特権ぞよ」


 彼自身、ネーアの言葉はあまりにも都合がいいと思った。
しかしたとえば――たとえば今後も反乱同盟軍の一員として戦うならば、その生き方が障害になるようなことはないのでは――。


ネーア「もっと気楽になれ、シンノ」


シンノ「……」

シンノ「……ああ、そうしてみるかな……しばらくは」

ネーア「うむ。それでジェダイに飽きたら妾の弟子になることじゃ。カカカカカ!」


 そして、笑ってごまかしてはいるが、彼女の言葉には何か底知れぬ感慨が含まれているような気がして。


シンノ「……なあ、ネーア。このライトセーバーの刃、緑色にもなるんだな」

ネーア「ん?ああ……それ、妾のセーバーか……うむ……よく見つけたのう」

シンノ「……『この時代に生まれた特権』と言ったが……お前はそれが、得られなかったんじゃないのか」

ネーア「……どういう意味じゃ?」

シンノ「……お前も、『ジェダイ崩れ』なんじゃないのか」


 シンノは足を止め、振り返った。
ネーアは依然笑顔だった。
しかしいつものからから笑いとは違う、どこか寂し気な、失った何かを懐かしむような笑顔だった。


ネーア「……やれやれ。半端者同士、隠し事はできんようじゃな。弟子は師匠に似るものか」

ネーア「ならば妾もマスター・ヨーダのように、迷いなくいられるはずだったんじゃがな」


ユスカ「なろぉっ!」グインッ カチッ


 Xウィングは捻り込むような機動でTIEファイターに襲いかかり、レーザー砲の四連射を浴びせた。
偏向シールドも持たないTIEファイターはあっという間に火だるまになって爆発四散する。


ユスカ「これで4機目……!」


 ユスカは照準スコープをどかし、斜め後方から接近する新たな敵機をローリングで振り払いつつ周囲を見回す――あたり一面敵、敵、敵。
すでに何度か僚機によってラグナロクへの突入が図られているが、ラグナロクや護衛艦隊の対空砲火、あるいはTIEファイターの妨害によっていずれも失敗に終わっている。
果敢に攻撃を続けてはいるが、反乱軍戦闘機部隊の消耗は激しい。
しかしシカーグやユスカはバリアー放射器への攻撃で魚雷を使い果たしており、援護に徹するしかなかった。


ユスカ「あっ、バカ!」


 焦りからかYウィングが一機、単独で突入を図り、直上から襲いかかったTIEファイターに滅多打ちにされて炎上した。
ユスカはその機体のペイントに見覚えがあった。
パイロットの顔も知っていた。
その両方が、次の瞬間纏めて巨大衛星砲台に激突して粉々になった。

 ユスカは下手人の敵機――やけに動きのいいTIEファイターを目で追った。
僚機が仇討ちとばかりに襲いかかったが、キリモミ回転しながらの巧みな方向転換で振り切られてしまう。
ずっと視界の隅で見えていた気がする――突入経路を見抜き、ずっとその周辺に陣取る姿。


ユスカ「あのTIEファイターは……?」

?『集中しろユスカ!』

ユスカ「えっ!?うわっ!」グインッ


 ユスカは無線の警告で背後の敵機に気づき、慌てて急旋回した。
間一髪、レーザー光弾が横をすり抜けていく。


ユスカ「ありがとう……誰?将軍?」

シンノ『俺だ。シンノ・カノスだ』

ユスカ「シンノ!?脱出できたんだ!」


 ユスカは喜色満面でビーコン反応を追い、ラグナロクの対空砲火から退避してきたWウィングを見つけた。


シンノ『苦戦しているようだな……今度は俺が突入する、援護してくれ』

ユスカ「でも、突入経路には妙に強いのが居座ってて……!」

シンノ『ああ、あの動き……奴はたしかに手練れだ』


 シンノはそのコックピットから、かのTIEファイターを睨みつけた。
その機動とフォースの感覚が、彼に惑星キイ上空での戦闘を思い出させた。


シンノ『……だが、相手をするのは初めてじゃない』


管制官「ワイマッグ提督!」


 ラグナロクのメインコントトール・ルームは反乱軍の迎撃に忙しい。
右頬に絆創膏を貼ったワイマッグはその中央で指揮を執っていたが、そこへ管制官が声をかける。


ワイマッグ「何だ?」

管制官「ただいま、反乱軍の攻撃を分析したのですが……どうやら、ラグナロクのバイタルパートへの直接攻撃を狙っているもようです」

ワイマッグ「バイタルパート……リアクターか?」

管制官「はい、少々危険かと……」

ワイマッグ「……コマンダ・コーチもいる、そうそう防御が破られるとは思えんが……よし、とりあえず私はマーズ管理官を移送するシャトルに便乗してヘファイストスに戻る」

ワイマッグ「だが決して貴様らを見捨てるわけではないぞ。的確な敵の攻撃を防ぐには、旗艦からの指揮で護衛艦隊を連携せしめることが必要だ。ところで砲撃準備は?」

管制官「エネルギー充填、現在90%まで完了しております」

ワイマッグ「よろしい、完了し次第砲撃せよ。反乱軍基地を蒸発させてやれ」


 そう言い残し、提督はコントロール・ルームを去った。
責任者となった管制官は額に滲んだ汗を拭いつつ、手元のコンソールに目をやった。
90%の表示が91%に変わる。
それはそのまま、ハクカの反乱軍が絶滅するまでのカウントダウンだ。


コーチ『シュコーッ、シュコーッ、何人来ても同じこと――ぬう!?』


 コマンダー・コーチはTIEファイターのキャノピー越しに見覚えのある機影を見とめた。


コーチ(Wウィング……あのジェダイか!ラグナロクから脱出したというのか!?)


 Wウィングは反乱軍機を何機か引き連れ、一本の矢のごとくラグナロクに突進してくる。
頭上のヴェネター級艦から熾烈な砲撃が降り注ぎ、護衛を何機か撃墜、あるいは離脱せしめる。
しかしWウィングとXウィングが一機、蛇行で砲撃を潜り抜け、依然として接近しつつあった。


コーチ『〈アルテミス〉!こちら〈ヘファイストス〉ファイター部隊!直下の敵機への砲撃を止めろ、我々が仕留める!――マシャス!ヴァン・リー!行くぞ!』

TIEパイロット1『はっ!』

TIEパイロット2『はっ!』


 コーチは砲撃を止めさせ、二機の僚機を引き連れてWウィングに襲いかかった。
上方から急接近しすかさずレーザー砲を撃ち込むが、敵機は二手に分かれてこれを回避した。


コーチ『貴様らはXウィングをやれ……ジェダイは私が相手をする!』


シンノ「来たか……!」

ネーア「例の奴じゃな。集中しろ、シンノ!」

R3-C3『ピポポ ピポポ プウウー』


 シンノは自分の背後に回りつつある例のTIEファイターに全神経を集中した。
二機に追われるユスカ機、背後のシートでぐったりしているリズマも気になるが、片手間に勝てる相手ではない。


コーチ『シュコーッ、シュコーッ……さっきのはほんの挨拶代わりよ!』


 一旦突入ルートから逸れて様子を見るシンノ機の斜め下方から、コーチのTIEファイターが再度襲撃する。


シンノ「R3ッ!」グインッ

R3-C3『ポポピーポ』


 Wウィングは捻りこむようにしてレーザーをかわし、再度ラグナロクへの接近を図る。


コーチ『逃がさん!』グインッ


 しかしコーチはひらりと回転して上向きの慣性を殺し、ほとんど距離をおかずに追従してくる。


シンノ「やはりついてくる……だが今回は、それが命取りだ……!」


 シンノは減速覚悟で機体を急旋回させ、コーチ機の視界から消えた。


コーチ『焦りおって……ぬうっ!?』


 コーチは目を見開いた。
シンノ機を狙ったラグナロクからの対空砲火が猛然と襲いかかったのだ。
機体をロールさせてこれを回避するコーチだったが、その一瞬は致命的な隙となった。

 コーチ機の上に影が差す。
ヤマタイティア星系の太陽を背に、Wウィングが突っ込んでくる。


シンノ「喰らえ!」


 Wウィングのレーザー砲の連射がコーチのTIEファイターをハチの巣にした。
吹き飛んだ破片がコーチの装甲服を貫き、全身のあちこちに食い込む。


コーチ『――ぬ、ぬかった……ゴボッ』


 コマンダ・コーチはみるみる赤く染まる視界の中に、ラグナロクのほうへ駆け抜けていくWウィング――ジェダイの背中を見た。


コーチ(――これで、私のクローン戦争も終わりか)


 直後、彼のTIEファイターは爆散した。


 Wウィングは四散したコーチ機の破片を撥ね飛ばしながら、三度ラグナロクへ接近を図った。
ラグナロクの表面に棘のように立ち並ぶターボレーザー砲群がそれを狙い、頭上のスター・デストロイヤーからの砲撃も再開される。
緑色の光弾が猛烈な吹雪のように飛び交う中をどうにか潜り抜けるようにしてジェダイは進む。


シンノ「くっ……このっ……!」グイン グインッ


 しかし一発が偏向シールドの右側を掠めた。
機体がガタガタと揺すぶられ、乗客席のシス卿が騒ぎ始める。


ネーア「や、や、や、ヤバいぞよ!ヤバいぞよシンノ!と、と、と、とりあえずさっきのは片付けたんじゃし、一旦出直すのは――」

シンノ「駄目だ!長引けば長引くほど、反乱軍の犠牲は増える……!」


 シンノは魚雷の照準画面に目をやった。
ラグナロクのリアクターへのロックオンは完了しているが、対空砲火に追い立てられているせいで速度が出すぎている。
このまま突っ込んでしまえば攻撃ステーション激突は必至。
かといって軌道をずらせば魚雷まで外れかねない。

 さらにスコープが、背後に三機のTIEファイターが出現したことを報せる――さっきの手練れの仇討ちか。
ラグナロクの対空砲に加えて背後の敵機までもがなりふり構わず集中砲火を浴びせてくる。
立て続けの被弾で偏向シールドが悲鳴――強度低下のアラートを上げる。


シンノ「フウウーッ、大丈夫だ、大丈夫。キイのときと同じだ……」

ネーア「そ、そなた……怖くないのか!?」

シンノ「怖ぇよっ!怖ぇけど……ジェダイだから……ジェダイでいるって決めたから、カッコつけなきゃな……!」


 並みのパイロットならば緊急退避を優先するところを、シンノは逆にさらに加速した。
そしてラグナロクのリング状構造の下部、骨格の隙間に飛び込む。
追跡中だったTIEファイターもこれにはついていきかね、急旋回して激突を回避するが、対空砲火の誤射で一機が爆発した。
いっぽうWウィングは粒子加速器の内側のようなごくごく狭いカーブした空間を、おそろしい速さで潜り抜ける。


ネーア「うああああ!シンノそなた正気かああー!?」

シンノ「ハア……ハア……!」


 しかし機体は徐々に減速しつつあった。
去り際、大きく曲がる軌道でラグナロクのリアクターに魚雷を撃ち込める速度まで――


シンノ「ここだっ……!」


 シンノは発射ボタンに置いた親指を押し下げた。
緊張のあまり感触は覚束なかったが、青白い噴射炎を引いて飛んでいく二発の魚雷が見えて、慌てて骨格の隙間から宇宙へ飛び出す。
思わぬ敵機出現に驚いた散発的な対空砲火を振り切り、ラグナロクを離れる。


 やがて対空砲の射程外に逃れると、シンノはキャノピーに背後の映像――ラグナロクの様子を投射し、ネーアとともにそれを見守った。
攻撃ステーションはすでに遠く、魚雷の行方は定かでない。


ネーア「……」ゴクリ

シンノ「……」ゴクリ

ネーア「……あ、当たったのか?」

シンノ「その、はず……」

 
 二人が少し不安になり始めたころ、ラグナロクの頂点部分から火花が走った。


シンノ「ん!?」

ネーア「シンノ、今のは――」


 立て続けに同じところからプロミネンスのごとき炎が高く、高く立ち昇った。
炎が直上のスター・デストロイヤーの船底をあぶるとともに、誘爆はリング状構造、そして砲身へと広がった。
ついにメイン・リアクターにも火が入る――光が迸る。

 次の瞬間、ラグナロクは木っ端みじんに吹き飛んだ。
無数の破片が周囲に飛散し、そのうちのいくつかがWウィングの偏向シールドを掠める。
その振動が、脅威の消滅を二人に現実味を持って伝えた。


シンノ「……」

ネーア「……」

シンノ「……や」

ネーア「や、やっ――」


ユスカ『やったああああああ――っ!』


 横合いからXウィングが踊るようにローリングしながら接近してきた。
それを追う敵の姿はなく、ユスカの撃墜スコアは二つ増えたとみえる。


シンノ「ちょ……」

ユスカ『ヒャッホー!シンノ、やったね!キスしてあげたい気分!帝国のクソキャノンが……お見事!ボカーン!たーまやー!』


 Xウィングはパイロットの狂喜乱舞そのままにクルクルとアクロバットを披露した。
喜ぶタイミングを逸したシンノとネーアは顔を見合わせ、苦笑いする。


リズマ「うう……姉さんの、声……?」

シンノ「リズマ!?」


 その声を聴きつけ、後方のシートでリズマが意識を取り戻した。
なんとか起き上がろうとするのをシンノが止める。


シンノ「リズマ、大丈夫か!?」

ネーア「無理に動くでない!」
 
リズマ「シンノさん……大丈夫、です……たぶん」

ユスカ『リズマ?リズマに何かあったの!?』

リズマ「……大丈夫、姉さん、私たちは、勝ったから……みんなで、帰る……」ガクッ

ユスカ『リズマ?リズマっ!?』

シンノ「脈は安定している」

ユスカ『……あ、あらそう……』

ネーア「あんな雑な応急処置もやらないよりはマシらしいのう」

シンノ「じゃあお前がやればよかっただろ」

シカーグ『細かい話はあとだ、諸君』

シンノ「シカーグ将軍?」


 二機目のXウィングがWウィングの右側に現れる。


シカーグ『だがシンノ、私からも一言だけ祝わせてくれ。本当に、よくやってくれた』


 その風防越しに、マンダロリアン・アーマーの男がサムズアップを寄越した。


シンノ(……ユスカはあんたに似たらしいな)


 シンノは黙って同じ仕草でそれに答える。


シカーグ『とにかく、帝国軍が混乱してるうちに脱出しなければならん』


 シンノは再度後方の映像に目を向ける。
将軍の言う通り、帝国軍の艦船や航空機は煙を吹くものやらめちゃくちゃに飛び回るものやら、あからさまに混乱しているものばかりだ。


シカーグ『我々はこれからハイパースペースを通り、基地を脱出した艦隊との合流地点に向かう。君も一旦そうするのがよかろう、座標を送信する』

シンノ「……よし、受信した。R3、計算を頼む」

R3-C3『ピポポ ピポポ』

シンノ「それで、新居のあてはあるのか?」

シカーグ『ある。ただ、家探しのあいだは船で暮らすことになる……もしよければ、君もどうだね?』

シンノ「……」


 シンノはほんの少しだけ不安げな表情をして、隣のネーアを見た。
ネーアはニカッと笑って、彼の肩をぶっきらぼうに叩く。
シンノは同じように笑ったあと、無線に応答した。


シンノ「喜んで!」


ターキン『衛星砲台を破壊され、一度は居場所を特定した反乱軍を取り逃がした……か』

ターキン『ごく辺境のこと、スケールは小さい。主力艦にも沈んだものはいない。戦略的には無視しうるインシデントだ』

ターキン『――とはいえ敗北は敗北。このことが知れ渡れば帝国軍の不敗伝説を台無しにしかねないぞ、提督』

ワイマッグ「……承知しております。まことに申し訳ない、大失態でございます」


 翌日、ダン・ザ・フローの秘密通信室にて、ワイマッグ提督は3D映像に向かって頭を下げた。
映し出されているのはグランドモフ・ターキン――その影響力はヴェイダー卿をも超える、皇帝に次ぐ銀河帝国ナンバー2の人物だ。


ターキン『――お前をQC宙域提督から解任する。QC方面艦隊司令官からも解任』


 ワイマッグはヴェイダー卿との対面とは違う意味で息が詰まるような思いだった。
生々しい右頬の傷の上を汗が一粒伝っていく。


ターキン『オルトロ宙域の第二艦隊……インペリアル級スター・デスロイヤー四隻をQC宙域に移動する』

ターキン『その司令官、タクージン・シカーグをQC宙域提督および艦隊総司令官に任命』


 ワイマッグは滝のような汗をかきながら「お前は処刑だ」の一言を待っていたが、ふと彼の頭に疑問が浮かんだ。
自分が処刑やそれに等しい左遷の処分を受けるなら、なぜ後事のことを話してくれるのだ?


ターキン『この艦隊をQC宙域第一艦隊とし、これまで第一艦隊だったヴェネター級四隻は第二艦隊と改称』

ターキン『その司令官にセード・ワイマッグ、お前を任命する』


ワイマッグ「……!総督、私は……私は処刑されないのですか!?」

ターキン『通常の軍規に従えば、間違いなく処刑だ。しかし今回は三つの要因により、お前にもう一度チャンスを与えることにした』

ターキン『一つは防諜。辺境とはいえ提督……宙域のトップに君臨する者を処刑するのは、今回の敗北を察知される原因になりかねない』

ターキン『二つ目は人材不足。知っての通り、大戦中QC星系は分離主義勢力のホームグラウンドだった。ゆえに共和国軍、そしてその後継である帝国軍には、ここの地理や事情に精通している者はほとんどいないのだ――戦後、現場で経験を積んだお前を除けばな』

ターキン『その知識を処刑場の露にするには惜しいと判断した。シカーグ新提督も、QC宙域は足を踏み入れることさえ初めてだろう……よろしくサポートしろ、第二艦隊司令官』

ワイマッグ「……は、はっ!お任せください!」

ターキン『……そして、お前のその傷』

ワイマッグ「……?この頬の傷、でしょうか」

ターキン『反乱軍にジェダイがいるという報告は受けた。その傷は彼にライトセーバーで斬りつけられたんじゃないかね』

ワイマッグ「はっ、まったくもってその通りです……ご慧眼……」

ターキン『何年もジェダイと一緒に戦っていれば、その切り口くらい嫌でも覚える。お前の父も覚えていたはずだ』

ワイマッグ「……父をご存じなのですか」

ターキン『……その思い出と、ジェダイに立ち向かった胆力に免じて。これが三つ目の要因だ』


 ワイマッグは父の話を持ち出されたことに不満を表すでもなく、ただ、感慨深そうに黙り込んだ。
父の思い出、そしてその戦友であるコマンダー・コーチ……今はもう帰らぬ先達の思い出が、彼の頭の中を駆け巡る。


ワイマッグ「――はは、今日ほど親の七光りを有難く思ったことはありません」


 再び口を開いた時、彼の表情から緊張は消え、人間らしい感情と、若き将校らしい不敵な自信が戻っていた。


ターキン『だが気をつけることだ。その七光りも二度は通じん』

ワイマッグ「承知しました。シカーグ新提督のもと、必ずや反乱軍を殲滅してご覧に入れます……ところで」

ターキン『何だ?』

ワイマッグ「ヴェイダー卿の指揮下にある、ジヒス・マーズ管理官のことですが」

ターキン『ああ、彼女のことなら、ヴェイダーが今度……手を下す、と言っていたが』


 ワイマッグの背中に冷たいものが走る。
しかし彼は怖気づくことなく、強気に申し出た。


ワイマッグ「……では総督、もしよろしければ、彼女を私に引き渡すようヴェイダー卿に口を利いていただくことはできませんか?」

ターキン『……出来ないことはないが、お前は今の自分の立場をわかっているのか』

ワイマッグ「もちろんタダでとは申しません。『ラグナロク』は、完成以前に一度小惑星に向かって砲撃試験を行いました。私はそのときのデータを保管しております」

ターキン『それは私や関連部署に提出して当然のものではないかね。取引材料として成立していない』

ワイマッグ「いえ、データはもとより差し上げるつもりです。私が申し上げているのは……そうですね、言葉は悪いですが、口止め料とでも申しましょうか」

ターキン『誰に対してだ?』

ワイマッグ「クレニック長官へです」


 ターキンは口ごもった。
現在秘密裡に進められている超兵器計画のイニシアチブをターキンと争っている人物だ。


ターキン『……』

ワイマッグ「……」

ターキン『……フン。どこから聞きつけたんだか……政治が上手いな。実に小賢しい』

ワイマッグ「父よりも上手いでしょうか?」

ターキン『どうかな……マーズ管理官の件、ヴェイダーに言っておこう。データはひとまず私の執務室に送れ』

ワイマッグ「承知しました。整理して今日中にアップロード致します」

ターキン『……私でなければ気分を損ねてお前を処刑していたかもしれんぞ。どうしてこんな危ない橋を渡る?あのジェダイ崩れに惚れでもしたか』

ワイマッグ「……父上のことを思い出して、センチメンタルになりました」

ターキン『よく言う。ダークジェダイの手駒をどうする気か……とにかくデータは間違いのないよう取り扱えよ、口止め料まで取ったのだからな』


 ターキンは最後に釘を刺し、通信を切断した。
映像が消えると、ワイマッグはがくりと姿勢を崩した。
膝が笑って歩くことさえままならない。
汗がいよいよ激しく噴き出し、ワイマッグは何度も汗を拭う。
どうにか緊張の反動が消えると、彼は一度深呼吸をしてから通信室を出た。


マーズ「提督……」

ワイマッグ「うおっ!?」ビクッ


 部屋を出た途端、ワイマッグは飛び上がらんばかりに驚いた。
ドアの横に当のマーズが俯き加減で立っていた。


ワイマッグ「な、何をしている、こんなところで……」ドギマギ

マーズ「……その、お話が……たまたま、耳に入ったと申しますか……」ボソボソ

ワイマッグ(秘密通信室の壁が音を漏らすはずはない……こいつ、フォースか何かで盗み聞きしていたな)


 ワイマッグはヴェイダーに脅されたときのことを思い出しつつ、あらためてマーズを見やった。
いつもの黒装束は駄目になったと見えて、一般士官用の軍服を着ている。
両手には黒い手袋をはめているが、おそらくその下は機械義手だ。


マーズ「……なぜ、あのような……」ボソボソ

ワイマッグ「……なんだって?」


 ワイマッグが聞き返す羽目になったのは、マーズの声はひどく小さかったからだ。
表情に乏しくわかりにくいが、顔にも憔悴の色が見える気がした。
そして何より、いつも無差別に放射していた威圧感が嘘のように消えている。
今はむしろ、いかめしい装甲服のトルーパーたちの行き交う帝国軍基地の中で、彼女の体はひどく小さく見えた。


マーズ「……なぜ、あのような危ない取引までして、私を……?」

ワイマッグ「……」

マーズ「私は提督に何度も手を上げました、それなのに……それなのに、どうして――」

ワイマッグ「……たしかにお前は乱暴で、鉄面皮で、フォースを鼻にかけたいけすかない奴だ」

ワイマッグ「だけどどうしようもなく寂しがりやで、弱虫でもある……だったら、一人くらい」


 ワイマッグはマーズの頭を撫でた。


ワイマッグ「一人くらい、お前のことを見てやる奴がいてもいいだろう」

マーズ「……私、を……」


 マーズが噛みしめるように呟くと、あっという間にその目に涙が溜まる。
そしてすがるように手を伸ばすのを、ワイマッグは思わず抱きとめる。


ワイマッグ「お、おい……?」

マーズ「……うぅ……うぐぅ……」ボロボロ


 マーズはワイマッグに抱き着いて恥も臆面もなく泣きじゃくり始めた。


マーズ「てぇとくぅ……」ボロボロ

ワイマッグ「お、おい……!だいたい俺はもう提督じゃ……」オロオロ


 廊下を行き交うストームトルーパーたちが歩く速さを緩め、二人を怪訝な目で見やる。
ワイマッグの地獄耳は曲がり角の向こうの話し声を聞きつけた。


トルーパー1「……あの管理官が……提督ってすげえ人たらしだなあ」ヒソヒソ

トルーパー2「ていうかあれはもうデキてるだろ……」ヒソヒソ

トルーパー3「元ジェダイっていうからには純潔……」ヒソヒソ

ワイマッグ「そ、そんなんじゃないっ!そんなんじゃあっ!貴様ら全員営倉送りになりたいかあああ!?」

マーズ「うぐ……えっぐ……」ボロボロ


 数日後、惑星ハクカを逃れたQC宙域の反乱軍はヤヴィン4の反乱同盟軍本拠地に身を寄せていた。
秘密基地に改造された古代遺跡のバルコニーから西の空、ジャングルに沈む夕焼けを眺める。
眼下の発着場に視線を下ろせば、QC反乱軍の艦船と戦闘機が新天地探求の旅に備えて給油と整備を受けている。


シンノ「ネーア、こんなところにいたのか」

R3-C3『ピポポ ポポピーポ』

ネーア「……シンノ」


 シンノは西日に目を細めつつ、R3-C3とともにバルコニーに姿を現した。
ネーアが胸壁めいた石造りの手すり越しに景色を眺めていたのを見て取ると、少し眉を上げてから彼女を抱え上げ、手すりの上に座らせてやる。


シンノ「こっちのほうがよく見えるだろ」

ネーア「ほほう……」


 ネーアは日陰から日向へ移り、一気に視界が広がり少し上機嫌になった。
しかしシンノがさりげなくローブの裾を掴んでいるのに気付いて眉を潜める。


ネーア「……その手を離せ。落ちやせんわ、子供じゃあるまいし」

シンノ「……しかし、せっかく反乱軍の皆が俺の歓迎会を開いてくれたってのに、お前だけ抜け出してこんなところでずっと黄昏て。年寄臭いぞ」

ネーア「元から年寄ぞよ」ツーン

シンノ「おいおい……ちょっと薄情なんじゃないか?」

ネーア「苛立つか?」

シンノ「寂しいね」

ネーア「カカカ、よく言うわい」

R3-C3『ポポピーポ プウウー』

シンノ「お、おいおい……R3のやつ、『むしろせいせいしてた』とかなんとか……」

ネーア「こいつが一番薄情ぞよ」

シンノ「……まあ、臆病者のくせにこんなこと言えるくらいには、R3もお前のことは信頼してるってことさ」

ネーア「どうじゃろうな。いつか叩き壊してしまうかもしれんぞ」フン

R3-C3『プアアアー!』ガタガタ


 シンノは戦慄するR3-C3を見てにやにやしたあと、手すりに肘をついて、発着場の整備作業を見物し始めた。
ネーアはそっぽを向いたまま話しかける。


ネーア「……歓迎会に戻ったらどうじゃ。そなたにとっては復権の場じゃろう」

シンノ「復権?」

ネーア「そうじゃ。ジェダイとしての復活と言い換えてもいい。再び正義、希望の看板を背負って、ライトセーバーを振り回すための……」

シンノ「……まさか、自分がシスだからそういう場に顔を出すのはよくないとか思ってるんじゃないだろうな?」

ネーア「……あのなあシンノ。妾は『執着』の感情からダークサイドに足を踏み入れたゆえ、あれが欲しいとかこれが欲しいとかその程度で、比較的温厚なのは間違いない。だが勘違いしてはいかん」

ネーア「妾の師匠のメドーは『殺意』、弟子のノートは『破壊』、グレイヴスはたしか『支配』……カッコよく脚色されて語られがちじゃが、シスは基本的にそういうろくでもないクズの掃きだめぞよ。忌避して当然じゃぞ」

シンノ「……でも、お前はお前だろ」

ネーア「は?」

シンノ「何だ、腹立つな……いいこと言っただろ」ムッ

R3-C3『ポポピーポ プププ』ガタガタ

シンノ「R3、黙らないと電源落とすぞ」

R3-C3『……』


シンノ「ネーア……お前が言うのはたしかに一つの真実なのかもしれない。出会ってすぐの俺もそう思ってた。でも気づいたんだ」

シンノ「キイで、ハクカで、ラグナロクで……意識したにしろ、してなかったにしろ、お前は俺の原動力になってくれてた」

シンノ「ありのままの俺を受け入れて、励ましてくれさえした。俺にとってはお前が希望って言ってもいいくらいだ……そんなやつと仲良くなることが、悪いことのはずはないさ」


 シンノは空を見上げた――夕焼けはこんなにも美しい。
たとえ温かく明るい昼が終わり、冷たく暗い夜が訪れようとしているとしても。
三人で見ているから、いつか惑星キイで見た朝日よりももっと。


ネーア「……」

ネーア「なあ、シンノ」

シンノ「何だ?」

ネーア「そなた、自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

シンノ「てめえ突き落としてやろうか!?」

ネーア「カカカ、冗談ぞよ、冗談!……冗談ぞよ!?ど、どうしてそんな……怖い顔……」

R3-C3『……』ガタガタ


 そのとき階下からシンノを呼ぶ声が響く。


ユスカ「ちょっとシンノ、どこー!?主役いないんじゃパーティになんないじゃん!」

シカーグ「オーガナ議員が話を聞きたいと仰ってるぞ!」

C7-BDB『娘ダケジャネエ、ぱぱノホウモダゼー!』

リズマ「シンノさあ~ん!?私の話も聞いてくださいよぉ~!?」

ユスカ「ちょ、ちょっとリズマ飲みすぎじゃ……」


シンノ「……」

ネーア「……やれやれ、じゃな。仕方ないから、妾も付き合うぞよ」

シンノ「……そうか……じゃあ、戻るか!」

R3-C3『ポポピーポ』


 二人は黄昏のバルコニーを後にして、明るく照らされた、賑やかなパーティ会場に戻った。
パーティにも終わりは来るが、少なくとも今の彼らにとっては、それはずっとずっと遠い先……


ネーア「久々に飲むぞよ!」

シンノ「その体で飲んで大丈夫なのかよ……?」



ED(スターウォーズメインテーマ)

スタッフロール略


「マスター。ご所望の、ハクカ会戦の資料をお持ちしました」スッ

『思ったより早かったな。ご苦労』パシッ

「帝国軍では機密扱いになっておりました」

『そうだろうな……うん、例のジェダイのことも載っているな』ペラペラ

「例のジェダイとは……?」

『この戦闘があったとき、ハクカ上空に強いダークサイドの力を感じたのだ。強力な素質の持ち主の出現だ……それがおそらく、彼』スッ

「……『シンノ・カノス』……」

『彼を味方につければ帝国転覆の大きな助けとなろう……とはいえ、下手に接触すればいたずらに危険を招くばかり』

「では……どうなさいますか」

『……ふむ……〈あいつら〉を利用するときが来たか』


「またライトセーバーのコレクションが増えたわ!」


「ザイン・ザ・ハット様は『処刑を執行しろ』と仰っています」


「……私はダース・テイティス……シスの暗黒卿が一人」


「ぶ、無礼者ですわっ!いやしくもヤマタイトの末裔である私に、なんという……」


「俺は第九の尋問官、ナインス・ブラザー」


「マンダロリアンらしく、一対一で決着をつけようじゃないか!」


「ジェットパックが!?」


「お前のせいで……!」


「ようこそ、独立星系連合へ」



 STARWARS エピソード3.5

   公開日未定

以上となります
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました
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