モバP「アイドルの、水木聖來」 (21)

某日 17:00
都内 モバプロ レッスンルーム前


モバP(以下P)「ちひろさん、お疲れ様です」

千川ちひろ「お疲れ様です。……ってあれ? Pさん、いつお戻りになられたんですか? 今日は確か今度の聖來ちゃんのステージの件で会場の方と打ち合わせで、帰りが遅くなるって言ってませんでした?」

P「ええ、その予定だったんですが、思ったより早く終わりまして。ここのところみんなのレッスン見てあげられてなかったので、ちょっと顔を出しておこうかなと」

ちひろ「そうでしたか! みんな喜びますよ!」

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レッスンルーム



水木聖來「もう一回、お願いします!」

ちひろ(……すごい気迫ですね)

P(ええ。聖來さん、今度のライブはアイドル生活の一つの到達点として考えてるみたいで。絶対に成功させてやるって、意気込んでましたから)

ちひろ(アメリカでのステージもブロードウェイも経験した、現アイドル界屈指のダンスアイドルの到達点、ですか)

P(はい。グループ名義じゃない「水木聖來」としての、初めての大舞台ですから、気合いは十分……っと)

聖來「っ……もう一回!」

P「はい、いったんストップ」

聖來「あ……Pさん、お帰りなさい! いつ帰ってきてたの?」

P「今さっきです。それより聖來さん、周りを見てください」

聖來「周り?……あ」


ハァ……ハァ……

ア、アシガ……

モウムリ……


P「気持ちが滾ってるのは分かりますけど、もう少しみんなに気を配ってあげてください」

聖來「あ、あはは……ちょっと、張り切りすぎちゃったかな」

ちひろ「それにしても、すごいですね。ただの練習なのに、見ていて圧倒されちゃいました。明日本番でも大丈夫なんじゃないですか?」

聖來「いやぁ、そんなこ」


「やめてくださいしんでしまいます」

「……だ、大丈夫ですか?」

「」チーン

「し、死んでる……?」

「」チーン


モバP「……返事をする余裕すらないみたいですね……」

ちひろ「……聖來さんはよくても、周りがまだついていけてないんですね」

聖來「ご、ごめんね、つい熱くなりすぎちゃって」

「ほ、本番までに踊れるようになる気がしないんスけど」


キアイッスヨー

ガンバリマショウ

ガ、ガンバルシカナインスネ


聖來「……ふふっ」

P「……?」

同日 19:00
モバプロ内モバPマイルーム


P「休み……ですか?」

聖來「うん、1日だけで良いんだけど、ダメかな?」

P「いえ、それは問題ありませんよ。練習はスケジュール通り順調に進んでますし、1日と言わずしっかり休んでもらっても良いぐらいなんですけど……」

聖來「けど?」

P「珍しいですね。いつもの聖來さんなら、『もっとクオリティ上げるんだ!』って言ってスケジュール詰めて、僕が止める側に回るのに」

聖來「あはは、流石に今日はやりすぎちゃったからね。ちょっと頭を冷やす日が必要かなって」

P「そういうことでしたら、喜んで。日程はいつにしますか?」

聖來「ホント? じゃあ」



聖來「Pさんの、次の休みの日!」

数日後 13:00
都内某所 ドッグラン


P「つ、疲れた……」バタンキュー

わんこ「」ワフッ

聖來「もう、この程度でバテるなんて、Pさん運動不足なんじゃないの?」クスクス

P「……って言っても僕今日朝から走りっぱなしなんですけど!? フリスビーしてたはずなのに気付いたらわんこに追いかけ回されてたんですけど!?」

聖來「それはPさんがフリスビー持って走り回るからじゃない。そんなことしたら、わんこも遊んでもらえると思って大はしゃぎで追いかけるよ」

P「……そうでした」

聖來「そうだよ、もう」クスクス

P「それで?」

聖來「うん?」

P「何か話しておきたいことがあって、僕を連れ出したんじゃないんですか?」

聖來「え? 違うよ! 単純に、わんこと、Pさんと、3人で過ごす時間が欲しいなって思ったの!」

P「そうなんですか?」

聖來「そうだよ」

P「……じゃ、そういうことにしておきましょう」

聖來「しておくも何も、それだけなのになぁ」ムー

P「最近、調子良いみたいですね。トレーナーさんも褒めてましたよ」

聖來「うん、絶好調! なんだか怖くなっちゃうぐらい調子良いよ! なんでだろうね」

P「それはもちろん、これまで頑張ってきたからですよ。うちのユニットのリーダーもそうですし、モバプロ初の海外ツアーでの大役に、ブロードウェイでのショーも成功させた。傍目に見ても高いハードルをクリアしてきたからこそ、今の実力があるわけです」

聖來「ふふっ、ありがとPさん!」

P「事実ですから」

聖來「けど、なんだかそれだけじゃない気がするんだ」

P「と、言いますと?」

聖來「これまではね、ステージが決まってから本番まで、絶対に成功させてやろうって考えてたの。思いっきり踊って、思いっきり楽しんで、皆を思いっきり盛り上げようって。もちろん、それは今でも思ってるよ。最高のステージにしようって」

P「……」

聖來「最近、それだけじゃない自分を感じるんだ。観客を盛り上げようとか、楽しませようとか、そういうだけじゃなくて……なんて言えば良いんだろう。あはは、ちょっとうまく言葉にできないや。Pさん、分かる?」

P「…………」

聖來「って、アタシに分からないのに、Pさんに分かるわけないよね。変なこと聞いてごめんね」

P「……はぁ。そんなの、わかりきってることじゃないですか」

聖來「え?」



P「貴女はーー水木聖來は、"期待に応える"アイドルだからですよ」

 水木聖來という女性を、誰よりも近くで見てきた。

 水木聖來というアイドルを、彼女自身と一緒に育ててきた。

 だからこそ、分かるのだ。

 水木聖來というアイドルの武器は、派手なダンスだけでも、弛まぬ向上心だけでもない。

 水木聖來は--信じたら信じた分だけ、あるいはそれ以上のものを返してくれるアイドルなのだ。



P「だから、ただダンスが好きだとか盛り上げたいとかだけじゃなくて、観客みんなの期待に応えたいっていう聖來さんの想いが強くなったんだと、そう思いますよ」

聖來「……うーん、なんかちょっと違う気がするなー」

P「あれー!? せっかくドヤ顔で良い感じのこと言ったのに! 超恥ずかしかったのに!」

聖來「あはは、ごめんごめん。けど今の解釈ちょっとかっこ良かったかも! モヤモヤの正体は分かんないけど、とりあえずそう思っておくことにするよ!」

P「はいはい、まあ心の片隅にでも置いておいてくださいな」

聖來「もうっ、拗ねないでよPさん! ほら、わんこ洗って、一緒にご飯食べよ! 奢るからさ!」

P「いや別に拗ねてないですけど、奢って貰えるなら奢ってもらいます。いや、別に拗ねてはいないんですけどね!」

聖來「わんこー、行くよー」

わんこ「」ワフッ


………………

後日 18:30
都内 水木聖來単独ライブ会場 舞台裏


P「聖來さん、そろそろですけど、準備できてますか?」

聖來「…………」

P「……聖來さん? 客席に何かありました? 知り合いでも?」

聖來「……凄い人数だね」

P「……ええ、満席ですから」

聖來「……この人たち皆、アタシの舞台を見に来たんだよね」

P「……はい。今日は合同ライブでも、グループ名義でもありません。客席にいる人は皆、聖來さんを見に来たんです」

聖來「――――ッ!」

P「皆、聖來さんに会いに来たんですよ」

聖來「……そうだよね。なら――」

P「なら? アイドルの水木聖來は、どうするんですか?」

聖來「当然--」



聖來「アイドルの水木聖來は、最高のダンスで、皆の期待に応えなくっちゃね!」

 ブルリと武者震いをして瞳に強い火を灯した聖來さんを見て、内心で苦笑する。

 ーーほら、やっぱり言った通りだ。

 けど貴女は、そうでなくっちゃ。



聖來「Pさん、行ってくるね!」



 彼女の背中から十分なやる気が伝わってくる。

 その姿はさながら引き絞られた弓に番えられた矢のよう。

 今か今かと、飛び出す時を待っている。

 ならば、アイドル・水木聖來のプロデューサーとして、やることは1つだ。



P「ーー行ってこい、聖來! 最高のステージを魅せてくれ!」



 万感の想いと、自身の期待を込めて、その細い肩を叩いた。



   ※

 パートナーに送り出され、舞台の上へと駆け上がる。数千、数万の瞳が一斉にアタシに、アタシだけに向けられる。

 想像していたよりもずっと強い圧を感じた。

 けど――不思議と震えはなかった。

 いや、不思議でもなんでもない、のか。

 だってアタシは水木聖來――"期待に応える"アイドルなんだから。



「みんなー!今日は来てくれてありがとー!」



 割れんばかりの声援が上がる。

 ステージが揺らぎ、鼓膜が破けんばかりの声を聞いていると、絶対にこの人たちに最高のセイラを見せてやろうって気持ちが強く湧いてきて――Pさんの言っていた、"期待に応えるアイドル"という言葉の意味を、ようやく実感できた。

 笑っちゃう。結局アタシ自身よりPさんの方が、アタシのことを何倍も理解しているんだ。

 ――ねぇPさん。

 アナタはアタシに、いつも期待してくれた。

 日の沈んだ街路で細々と踊っていたアタシに。

 最初のステージで緊張して、動けなくなってたアタシに。

 大事な場面で、最初の一歩を踏み出せない臆病なアタシのことを、いつも信じて、期待して、行ってこいって肩を叩いてくれた。

 そんなアナタだから、アタシは期待に応えたいと思った。

 アナタに会えなかったらきっと、今でも一歩を踏み出せないままだった。

 ここまでこれたのは全部、アナタがアタシに力をくれたからなんだよ。

 だから見せたいんだ。

 アタシに期待して観にきてくれた観客のみんなに。

 アタシに付き合って手をかけて育ててくれたPさんに。

 アタシが思い描いていた大きすぎる夢を。その形を!








「今日は最高のショーでみんなを盛り上げちゃうからね! セイラから一瞬だって目を離しちゃダメだよ!」






 そしてアタシは――"アイドル"水木聖來のダンスの、最初のステップを踏み出した。




                                    糸冬
                                ---------------





Q:急に
S:聖來が
K:来たので

乱筆乱文失礼致しました。

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