「おねーちゃんは、死んじゃった」【バンドリ・ガルパ】 (61)

さよひな誕生日おめでとう。そしてたくさんの公式爆弾&二次創作ありがとう。
お祝いの気持ちを込めて最後まで書きます。


・ガルパことバンドリ!ガールズバンドパーティの氷川姉妹の二次創作SSです。

・「秋時雨に傘を」のイベントが起こらないまま進んでしまった次元です。

・人死に、鬱表現があるかもしれません。注意。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521566856

友希那「じゃあ今日の練習はここまで」

あこ「はぁ~、つかれた~」

燐子「あこちゃん、頑張ってたもんね……。お疲れ様」

紗夜「ごめんなさい、私がもう少しあのパートを上手く弾けていれば……」

友希那「そうね。正直に言って、あの部分の完成度は高いとは言えないわ」

リサ「ちょっと友希那、そんな言い方……」

友希那「リサ。何度も言うけれど、私たちは頂点を目指しているの。妥協なんて許さない」

友希那「それに私は紗夜なら確実に、もっと高いレベルの演奏が出来ると思ってる。だからこそ言っているのよ」

紗夜「ええ、湊さんの言う通り、こんなところで妥協をするわけにはいかないわ。次までにはもっと仕上げてきます」

友希那「それとリサだって、いえ、むしろリサの方がミスは多かったわ。特にサビに入るときの……」

リサ「やば、スイッチ入った! 逃げるよあこ、燐子!」

友希那「ちょっとあなた達! もう……」

友希那「それじゃ紗夜、また今度ね」

紗夜「ええ。さようなら湊さん」

氷川家


紗夜「ただいま」

日菜「おかえりおねーちゃん! 最近帰ってくるの遅いね。お母さん達も心配してたよ?」

紗夜「近々Roseliaのライブがあって忙しいのよ。日菜こそ、Pastel*Palettesの方は大丈夫なわけ?」

日菜「うん、全然!」

紗夜「全然って……。確か明日はライブがあったはずでしょう?」

日菜「あはは。あれくらいちょっと譜面見て本番前にぎゅいーんって合わせとけば全然へーきだって」

紗夜「……そう。そう、だったわね。貴女は、昔から」

日菜「おねーちゃん?」

紗夜「なんでもないわ。部屋に戻るから、勝手に入らないように」

紗夜(あんなこと、聞いた私が馬鹿だった)

紗夜(どうせいつも通り、嫌な思いをするだけだって言うのに)

紗夜「……さて。こんな時間じゃロクに練習もできないし、スコアの見直しでもしようかしら」

紗夜「ここは特にコードに注意、ここに緩急をつけて、ここで指の動きを早く……」

『あはは。あれくらいだったらちょっと譜面見て本番前にぎゅいーんって合わせとけば全然へーきだって』

紗夜「――!!」バンッ

ガチャッ

日菜「おねーちゃん……? なんか凄い音したけど大丈夫……?」

紗夜「ええ、ごめんなさい、ちょっと物を落としただけだから……。それはそうと、勝手に入ってこないでって言ったでしょう?」

日菜「あ、うん、ごめんなさい……。それじゃあおやすみ、おねーちゃん」

紗夜「ええ、おやすみなさい」

バタン

紗夜「――はぁ、はぁ……。大丈夫。私は私。日菜は日菜なんだから……」

紗夜「――ッ!」ギュイイィィィン

友希那「ストップ。どうしてもここが上手く揃わないわね」

紗夜「申し訳ありません……。何度やっても納得いく形にいかなくて」

リサ「確かにここは相当難しそうだもんねー。紗夜が苦戦するなんてよっぽどだよ」

あこ「紗夜さん疲れてるんじゃないですか? 休憩の時間もほとんどとってなかったし」

燐子「休むのも……大事な事だと思います……」

リサ「なんにしてもそろそろ時間だしさ、今日はこの辺にしとこうよ」

紗夜「……いえ。私はもう少し練習していきます」

友希那「紗夜。燐子の言う通り、休むのも練習のうちよ。体を壊してしまっては元も子もないわ」

紗夜「わかっています。だけどもう少し……もう少しで掴めそうなの。今日だけはやらせて頂戴」

友希那「……わかったわ。でも根を詰めすぎないように。いいわね?」

紗夜「ええ。……ありがとう」

紗夜「――結局、こんな時間まで練習しても納得のいく出来にはならなかったわ……」

紗夜(格段に良くはなっている。でもこのレベルでは足りない。私は、Roseliaは頂点を目指してるのだから)

紗夜(どうしても壁のような物を乗り越えられない。そのための方法も、ただ練習を重ねることしか思い浮かばない)

紗夜(でも私には、これしか……)

紗夜「はあ……。何が駄目なのかしら……」

ガチャ

紗夜「ただいま」

日菜「あ、おかえりおねーちゃん! こんなに遅くなるなんて心配しちゃったよー」

紗夜「日菜……遅くなるとは連絡したでしょう。貴女こそ、こんな時間まで部屋にも戻らずに。そろそろ12時よ?」

日菜「えへへ、うん、まあちょっと忙しくって。おねーちゃんはこんな時間まで練習?」

紗夜「……ええ」

日菜「ふーん。そっか。大変だね」

『そこまで練習してもできないんだ』

紗夜「――いえ、別に、どうということはないわ」

日菜「ほんとに? 私だったら絶対無理だよー」

『そんなになるまで努力とかしたことないし、する必要もないし』

紗夜「――――そう。じゃあ、私、部屋に戻るから」


紗夜(わかってる。あれは私の勝手な思い込み。日菜にそんなつもりはないってことくらい)

紗夜(わかってる。わかってる、けど……)

紗夜「落ち着かなきゃ……」

紗夜「…………」

紗夜(静かになると、またあの幻聴が聞こえてくる気がする……)

紗夜「……少し、ラジオでも聴こうかしら」

「さあー、今日も始まりました。今話題のアーティストをお呼びしてお話を伺う人気コーナー、音楽道」

「今日のゲストは話題沸騰中! アイドルバンドPastel*Palettesから、ギター担当の氷川日菜ちゃんです!」

「こんにちはー! あ、これって夜だっけ? こんばんはー! 日菜ちゃんでーす!」

紗夜「ッ!」

あ!復活したのか!期待です!

>>8
覚えててくれた方がいるとはっ その節はご迷惑を…
書き溜めてたのですが投稿途中でPCが死んでどうにもならなくなっていました。申し訳ない…



「――さて、日菜ちゃんといえば個性的でハイレベルなギターのパフォーマンスも人気の理由ですが、普段はどれくらい練習してるんでしょうか?」

「えー、全然ですよー? あれくらいだったらガガっとやってぎゅいーんってしてから、るるるんってくる感じにやってれば、ぱーって簡単に出来ちゃいますよー!」

「えーと……つまりはそんなに練習はしていない、と。いやーまさに才能ですね! 聞くところによると、楽譜なんかもあっという間に覚えてしまうとか」

「そうですねー。大体1回見たら覚えちゃうかなぁ。まあ興味ないものとかは全然覚えらんないんですけどー。あ、でも」プツッ

紗夜「あぁぁもうなんなのよ……!」

紗夜「簡単に出来る、なんて当たり前みたいに言って……! 私が、どれだけ……ッ!」

ガチャッ

日菜「おねーちゃーん!! は」

紗夜「――もういい加減にしてッ!!」

日菜「!」ビクッ

紗夜「いきなり人の部屋に入ってきて煩くして、今何時だと思ってるの?!」

日菜「ご、ごめんなさい……、あの、でもね」

紗夜「大体何度言ったら勝手に入ってこないでっていうのが分かるの?! なんでも覚えられるんじゃなかったの?!」

日菜「えっと、それは、その……ごめんなさい……」

紗夜「……ああ、そういうこと。『興味がないことは覚えられない』んだったわね。つまり私の言うことになんか興味ないってわけ」

日菜「違っ」

紗夜「ええ良いわよ。私も貴女になんか興味ないから。用がないならさっさと出て行って」

日菜「あ、うぅ……でも……」

紗夜「出て行って」

日菜「はい……」

日菜「あの、おねーちゃん……?」

紗夜「……何?」

日菜「ごめんなさい……。その、次から絶対、ちゃんとノックするね……。おやすみなさい」

バタン

紗夜「……」


通学路

紗夜「はぁ……」

紗夜(流石に昨日は言いすぎたわ……)

紗夜(せめて話くらい聞いてあげるべきだったわね……)

紗夜「なんで私はこうなのかしら……」

紗夜「顔を合わせにくいわね……」

紗夜「……帰ったらちゃんと謝りましょう……」

燐子「氷川さん。おはようございます」

紗夜「あら、白金さん。おはよう」

燐子「朝から大分疲れた顔してますけど……昨日、よっぽど遅くまで練習してたんですか?」

紗夜「そういうわけじゃ……いえ、それもあるのだけど、まあ色々と」

燐子「色々、ですか……?」

紗夜「ええ。心配しないで。学業には支障はきたしませんから」

燐子「そう、ですか……。あ、そうだ。これ……どうぞ。おめでとうございます」

紗夜「? 何かしら、これは」

燐子「クッキー、焼いてみたんです。今日……お誕生日だって聞いたから……」

紗夜「誕生日……?」

紗夜(そういえば今日は3月20日だったわね……)

紗夜(日菜へのプレゼント……昨日のお詫びじゃないけど、今日はいつもより良い物を買っていってあげないとね)

紗夜(それともどこか外食にでも連れてってあげるのもいいかしら?)

燐子「氷川さん……? もしかして……私、間違ってました……?」

紗夜「ああ、いえ、すみません。今日が誕生日だとすっかり忘れていて。ありがとう、白金さん」



燐子「ふふっ……自分の誕生日を忘れる、って、なんか氷川さんらしいですね」

紗夜「そう、でしょうか? というか、それは褒められているのかしら……?」

燐子「どっちでしょう?」

紗夜「白金さん……?」

燐子「あぁっ、す、すいません……」

紗夜「……ふふ。ありがとう、白金さん。おかげで少し気が楽になったわ」

燐子「いえ、そんな……。実は、今日は今井さんがバイトで集まれないから、明日Roseliaの皆でお祝いしようね、って話してたんです」

紗夜「そんな。別に気を使ってくれなくても……」

燐子「皆……氷川さんを、お祝いしたいだけです。私も、そうですから……」

紗夜「白金さん……」

燐子「だから、その……明日の練習、絶対来てくださいね」

紗夜「ええ、もちろんよ。本当にありがとう。クッキー、あとで頂くわね」

燐子「は、はい! お口にあえば……嬉しいです……」

氷川家前


紗夜(プレゼントを選んでいたら結構遅くなってしまったわ……)

紗夜(まあその分良い物が見つかってよかったわ。あの子が喜んでくれると良いのだけど)

紗夜「……いえ、その前に、まず謝らないと……」

紗夜「昨日は酷いことを言ってしまったし……許してもらえるかしら」

ガチャ

紗夜「ただいま」

紗夜(……返事がないわね)

紗夜(靴もないし、まだ誰も帰っていないみたい)

紗夜(日菜は今頃Pastel*Palettesのメンバーの子達にお祝いでもしてもらってるのかしらね)

紗夜「……静かね」

紗夜「…………」

紗夜「……ここで立っていても仕方ないわね。部屋に戻りましょう」

プルルルルルルル

紗夜「電話?」

プルルルル ガチャ

紗夜「はい、氷川ですが」

紗夜「――――え?」

CIRCLE スタジオ


リサ「お、遅れてゴメン、友希那っ!」

友希那「来たわねリサ。これで紗夜以外は全員揃ったわね」

あこ「もー紗夜さんは今日の主役なのに。りんりんからも言ったんでしょ?」

燐子「うん……昨日、学校で……。氷川さんも、絶対行く、って言ってたんだけど……」

リサ「そっか……やっぱり、皆知らないよね……」

燐子「今井さん……?」

リサ「……あのさ、皆は、ヒナのことは知ってるよね?」

燐子「氷川さんの、妹さんですよね……」

あこ「もちろん! ひなちんとはこないだ一緒に遊びにいったよ!」

友希那「彼女がどうかしたの?」

リサ「…………昨日、事故で、亡くなったって……」

全員「!!」

リサ「車に、轢かれて……。即死だったみたい……」

あこ「……う、そ……」

リサ「同じクラスの子からメールで回ってきて……正直、アタシも全然信じらんないんだよね……」

リサ「でも紗夜が連絡もつかないってことは……ホント、なんだろうね……」

友希那「そんな……」

あこ「うそ。うそだよそんなの! リサ姉は騙されてるんだ!」

燐子「あこちゃん……」

あこ「紗夜さんだって今日はたまたま遅いだけだもん……! そんなの無関係だよ!」

リサ「……アタシだって、そう思いたいよ。でも……」

あこ「そんなの信じない! ひなちんが死ぬわけないもん!」

友希那「あこ! 少し落ち着きなさい」

あこ「あ、ゆ、友希那さん……ごめんなさい」

友希那「……紗夜はしばらく来られない、ということね。なら、今度のライブは代役を立てるしかないわね」

あこ「友希那さん……?」

友希那「紗夜の穴を埋めるには、今まで以上に練習を重ねないといけないわね。今日のメニューだけど……」

リサ「友希那!! アンタ、こんな時に……ッ!」

友希那「リサ……違うわ。こんな時だからこそ、よ」

友希那「身近な人、ましてや肉親を喪う悲しみは、私にはわからない。とてもじゃないけれど、想像できるものでさえないわ」

リサ「なら!」

友希那「でも、いつかはやってくる。そして乗り越えなくてはいけない」

友希那「紗夜にどれほどのダメージがあったのかは、私では計り知れない。けど、紗夜は生きている」

友希那「なら今私たちに出来ることは、紗夜を信じること。信じて待つことじゃないかしら」

友希那「そのためには私たちが、ここで練習を欠かすわけにはいかないわ。紗夜が安心して戻ってこれる場所を守るためにも」

友希那「Roseliaは紗夜の……私たち5人の、居場所なのだから」

リサ・あこ・燐子「友希那(さん)……」

友希那「……ああ、でも。リサ。あこ。貴女達にとっても、日菜は大きな存在だったのよね……」

友希那「二人にもショックは大きかったでしょうに、確かに、無神経だったわね……。ごめんなさい」

あこ「そんな、友希那さんは悪くないです!」

リサ「……アタシこそ、怒鳴ってゴメン。友希那の言うことも、もっともだね……」

友希那「いいえ……私も少し気が動転しているみたいね……。今日だけは、練習は中止にしましょう」

友希那「けど明日はきちんとやるから、そのつもりで。あまりサボっていては、それこそ紗夜に笑われてしまうわ」

あこ・燐子「はい!」
リサ「うん……!」

日曜ライブ行くのでちょっと更新空きます

紗夜「…………」

紗夜「…………」

紗夜(昨日電話を受けて病院に行って、報せを聞いて……)

紗夜(それから……何をしていたんだったっけ……)

紗夜(そもそもどうやって帰ってきたのかも覚えてないわ……)

紗夜「あれから、どのくらい経ったのかしら……」

紗夜(何もする気が起きない……)

紗夜「……どうしたのかしら、私」

紗夜「私のやること為すこと真似をする子も、そのままあっという間に私を超えていく子も、もう、いないっていうのに」

紗夜「……いない、って、いう、のに」

紗夜「……日菜が、いない……?」

紗夜「…………」ガサッ

紗夜(あの子に贈るはずだったプレゼント)

紗夜(最近やっと少しずつわかってきた日菜の感覚の表現)

紗夜(きっと「るん」ってくるはずだった)

紗夜(でも、あの子の笑う顔はもう、見れない)

紗夜(あの子の喜ぶ声は、もう、聞けない)

紗夜(私が思い出せる日菜の顔は、部屋に入るなり怒鳴りつけられて、悲しげに目を伏せた顔)

紗夜(申し訳なさそうにドアの向こうに消えていく顔と声だけが、ずっと脳裏に絡み付いて離れない……)

紗夜「私は……なんで……」

紗夜「…………」

紗夜(これから私は、何を目指していけばいいの?)

紗夜(日が昇るから、夜がある)

紗夜(明けない夜なんて、それはただの暗闇でしかない)

紗夜(永遠に日の光に照らされることのない夜は、どこに向かえばいいの……?)

紗夜「……日菜……」

紗夜「…………」

グゥゥ

紗夜「今の音……私……?」

紗夜「こんな時でもお腹は空くのね……」

紗夜(でも何か食べる気力さえ……)

紗夜(…………)

日菜「ただいまー」

紗夜「――日菜。おかえりなさい」

日菜「あれー、お姉ちゃん。今日は早いんだね」

紗夜「え、ええ。それより、その」

日菜「? どーしたの?」

紗夜「その、昨日は、言いすぎたわ。色々行き詰まっていて、八つ当たりみたいになってしまって……」

紗夜「……酷いことを言って悪かったわ。ごめんなさい」

日菜「ああ、なーんだ。そんなことかー。ぜーんぜん気にしてないから大丈夫だよー」

紗夜「ほ、本当……?」

日菜「うん、もちろん! だって」

日菜「――あたし、お姉ちゃんのこと、興味ないから」

紗夜「…………え?」

日菜「お姉ちゃんって何やってもあたしより出来なくって、なんでそんなに特別何もできないんだろーって興味はあったんだけど」

日菜「なんかね、それって割と普通のことみたいなんだ」

日菜「そんなどこにでもいる普通の人だってわかったら、どんどん興味が湧かなくなってきちゃって」

紗夜「――日、菜?」

日菜「でもたった一人のお姉ちゃんだから、お姉ちゃんのことは好きなつもりでいたんだけど」

日菜「昨日怒られた時にね、なーんにも感じなかったんだー。自分でもびっくりしちゃうくらい!」

日菜「それでね、気づいたの。お姉ちゃんって、あたしの中で、全く、まるでどうでもいい存在だったんだーって」

紗夜「――ちょ、ちょっと、待って、日菜」

日菜「だからね、全然気にしてないっていうのはホントだよ。どーでもいい人に少し怒られちゃっただけだもん」

紗夜「――私が、私が悪かったから。本当にごめんなさい。だから――」

日菜「だーから別に気にしてないってばー。あ、でも」

日菜「今後はなるべくあたしに話しかけないでほしいかなー。もちろん、あたしもそうするからさ」

日菜「じゃ、部屋戻るから。じゃあね、『紗夜さん』」

紗夜「――――嫌。待って。いかないで。ねえ――」

紗夜「日菜っ!!!!」

紗夜「はぁっ……、はぁっ……」

紗夜「夢…………?」

紗夜「…………」

紗夜「……良かった……」

紗夜(良かった――? 今のが、夢で――?)

紗夜(いえ、そうじゃない)

紗夜(むしろ今のが現実ならどんなに良かったことか)

紗夜(……あの子が生きてさえいてくれたら、それで……)

紗夜(思えば、私があの子にしてあげられたことなんて何もなかった)

紗夜(私はただ、日菜に甘えていたんだわ……)

紗夜(私が何をしても私に好意を向けていてくれる、あの子に……)

紗夜(いえ、もしかしたら、とっくに)

紗夜(本当にもう愛想を尽かされていたのかも――)

紗夜(私が日菜に好かれる理由なんて、ひとつもないのだから)

紗夜「むしろ……嫌っていてくれたほうが良いのかもね……」

紗夜(そうよ。そうに違いない)

紗夜(……それなら、私なんかが日菜のことを傷つけずに済んだ、ということなのだから)

紗夜(まあ……それも今となっては、確かめようもないのだけど……)

紗夜「……そうだ」

日菜の部屋


コンコン

紗夜「……入るわよ」ガチャ

紗夜(日菜の部屋に入るのなんて久しぶりね)

紗夜(……床には本や小物が散らかり放題、ベッドには服が脱ぎっぱなし)

紗夜(机の上も物が散乱、ペンスタンドには体温計やはさみ、爪切りや、カッターまで、乱雑に物が溢れている)

紗夜(相変わらずね……)

紗夜(……よく見たらこのペンスタンド)

紗夜(小学生の頃日菜と一緒に作った物じゃない)

紗夜「…………物持ちがいいのね」

紗夜(……? なにかしら)

紗夜(部屋の隅の一角。中身の入った沢山の紙袋達が、気持ち丁寧に並べられている)

紗夜(あの子にしては珍しいけど……)

紗夜(それとここに積まれているのは……全部手紙?)

紗夜(氷川日菜様へ。氷川日菜さんへ。日菜ちゃんへ。氷川日菜さんへ。Dearヒナちゃん……)

紗夜「なるほど。これはいわゆる、ファンレターってやつね」

紗夜(ということはこっちの紙袋はファンからのプレゼント……)

紗夜(子供の頃はあんな性格だからなかなか友達もできなくって、いつも私とばかり遊んでいて)

紗夜(きっと私だけが、心の拠り所だった)

紗夜(そんな日菜が、今は共に並んで走ってくれる仲間がいて)

紗夜(こんなにも多くの人に愛されて)

紗夜(…………)

紗夜(やっぱり私は、もう……)

紗夜(……そろそろ出ましょう)

紗夜「勝手に入ってごめんなさい、日菜」

紗夜(……あら?)

紗夜(手紙が一枚だけ枕元に……)

紗夜(読み途中、かしら……?)

紗夜(何故かしら……無性に気になる)

紗夜(……少しだけ……)

『おねーちゃんへ』

紗夜「!!」

紗夜「わた……し……?」


『やっぱりおねーちゃんが苦しいのって、あたしのせいなのかな?

あたしがいないほうが、おねーちゃんは楽なのかな?

あたしがおねーちゃんを好きなせいで辛い思いをさせちゃうなら、

あたしはどうしたらいいのかな……? って、たまーにだけど、考えちゃう。』


紗夜「日菜……違う、違うの……そんなこと……」

『でもでも! やっぱりあたしはおねーちゃんが大好き!

だからおねーちゃんが落ち着くまではそっとしときたかったんだけど、

直接言いそびれちゃったし、どーしてもこれだけは今日言いたかったから、

伝えたくって手紙を書いたんだ。』


――――

ガチャッ

日菜「おねーちゃーん!! は」

紗夜「――もういい加減にしてッ!!」

――――


紗夜「…………あ」


『おねーちゃん!』

『はっぴーばーすでー!!』

紗夜「あ」

紗夜「ああああああああぁあああぁぁぁああぁぁあ!!!!!!」

紗夜(私は最低だ)

紗夜(あの子はずっとずっと、ただ私のことを想ってくれていたのに)

紗夜(ただ自分のことだけ考えて、自分の都合だけで、あの子の心を踏みにじって)

紗夜(嫌われていたほうが良かっただなんてどの口が言えたのだろう)

紗夜(結局私は日菜を傷つけたくなかったんじゃない)

紗夜(こんなにも日菜を傷つけていたという事実から、目を背けたかっただけ)

紗夜「日菜……日菜……! ごめんなさい……! ごめんなさい……!!」

紗夜(この言葉は誰にも届かない)

紗夜(もう一度。一度きりでいい)

紗夜(日菜に会いたい)

紗夜(日菜と話したい)

紗夜(許されなくてもいい。日菜に謝りたい)

紗夜(でもそれは叶わない)

紗夜(だって日菜は、もう――)

紗夜「……なんで……」

紗夜(なんで私が生きていて、あの子が)

紗夜(たった一人の妹を不幸にしかできない私なんかが生きていて、皆に愛されていたあの子が)

紗夜「……氷川……紗夜……」

紗夜(口から零れたのは、誰かの名前だった)

紗夜(殺してしまいたいほど嫌悪する、誰かの名前)

紗夜(私の手は無意識に、近くのペンスタンドに伸びていって)

紗夜(そして――)

氷川家前


リサ(昨日、友希那はああ言ってたけど、やっぱり心配だよね……)

リサ(練習までまだ時間あるし、様子だけでも見てきたくて来ちゃったけど……)

リサ「んー……やっぱりそっとしといたほうが良かったりするのかなあ」

リサ「いや、でもせっかく来たんだし……ここは覚悟を決めて……!」

友希那「あら? リサじゃない」

リサ「友希那! なんでここに?!」

友希那「私は……たまたまよ」

リサ「たまたまって……家もライブハウスも全然別方向じゃん」

リサ「……ははーん、なーるほどー」

友希那「……何よ。急にニヤニヤして」

リサ「いやー、やっぱり友希那も心配だったんだなーって思ったらねー」

友希那「……なんのことかしら。私にはわからないわ」

リサ「はいはい☆ 友希那は素直じゃないなー」

友希那「もう、リサ……!」

リサ「ゴメンゴメン! ……でも、よかったよ。友希那もおんなじ気持ちでさ」

友希那「……紗夜は、大事なRoseliaのメンバーよ。心配にならないわけ、ないじゃない」

リサ「友希那……。うん、そうだよね」

リサ「じゃ、心強い味方も来たってことで改めて……」

ピンポーン

友希那「……誰も出ないわね。留守かしら?」

リサ「どうだろ……紗夜が誰とも会いたくないってだけかも」

友希那「……」

リサ「……もう一回だけ鳴らしてみよっか」

ピンポーン

「はーい。今出まーす」

リサ「! 友希那!」

友希那「ええ」

ガチャッ

日菜「はーい。どちら様ー?」

友希那・リサ「!!」

日菜「あれ? 友希那ちゃんにリサちー! どうしたのー?」

リサ「ひ、ヒナ……?」

日菜「あ、もしかしてあたしのお見舞いに来てくれたの? 大げさだなー」

友希那「貴女、生きて……?」

日菜「へ? まあいーや、とりあえず上がってってよ! 中ではなそ!」

リサ「う、うん……お邪魔します」

日菜「ちょーど暇だったんだー。あ、あたしの部屋こっちだよ」

友希那「……リサ。これはどういうことかしら……?」ヒソヒソ

リサ「アタシだってさっぱり……! あこの言う通り、アタシが聞いたのが間違ってたってことかなぁ……?」ヒソヒソ

友希那「……とにかく、きちんと話を聞いてみましょう」ヒソヒソ

日菜「なになに? なんの話?」

友希那「い、いえ。なんでもないわ」

日菜「むー。気になるなー。あ、ここがあたしの部屋だよ! 入って入って」

ガチャッ

リサ「へー、意外に片付いてるんだねー」

日菜「ふふーん。なんせ今日片付けたからね!」

リサ「うわ、すごいタイミング」

日菜「まあねー。2人とも何か飲む?」

友希那「いえ、お構いなく。というか貴女、お見舞いにこられている自覚はあるの?」

日菜「あーそれもそっか。あはは」

友希那「……ところで、日菜」

日菜「ん? まじめな顔しちゃってー。どしたの友希那ちゃん」

友希那「その……私達は、貴女が事故にあった、と聞いてきたのだけれど……」

日菜「うん、そうだけど……。どういう風に伝わってるの?」

友希那「ええと……とても、大きな怪我をして、その、動けなくなっている、と」

日菜「えええ?! そんな話になってたのー?!」

リサ「う、うん……だから大丈夫なのかなー、って見に来たんだけど……」

日菜「全然! ちょっと頭ぶつけたのとすりむいたくらいだよー! うわー、そんな話になってたんだ……」

リサ「そ、そっか……! ならよかった……! よかったよヒナー!」ギュッ

日菜「わっ! もーどうしたのリサちー? 大げさだなー」

リサ「あはは、ヒナがいてくれてよかった、ってだけだよ☆」

友希那「ええ。本当に。無事みたいでほっとしたわ」

友希那「それともうひとつ、聞きたいことがあるんだけれど、いいかしら?」

日菜「うん? なになに?」

友希那「……昨日、彼女は結局、連絡もないまま練習には顔を出さなかった」

リサ「友希那……?」

友希那「そして今日も。燐子の話では学校にも来なかったそうよ」

友希那「きっと日菜のことがあるからだと思って、誰も疑問に思わなかった」

友希那「でも。貴女がそこまで元気なら、それはおかしいのよ」

日菜「??? なんの話ー?」

友希那「単刀直入に言うわ」

友希那「紗夜は――どうしたの?」

日菜「…………」

リサ「ちょ、ちょっと友希那。どーしたのさ、雰囲気怖いよ? 紗夜はほら、ヒナの事が心配で――」

友希那「紗夜の性格から言って、それでも何の連絡もなく学校や練習を欠席するとは思えないわ」

友希那「答えて、日菜。貴女の姉は、氷川紗夜はどこ?」

日菜「……おねーちゃん……?」

日菜「……あはは。そっか。それも知らないんだね」

リサ「ヒナ……?」

日菜「あのね。あたしが車にひかれそうになったとき、たまたま近くにおねーちゃんもいたんだ」

日菜「おねーちゃんはね、あたしをかばってくれたの」

日菜「それでおねーちゃんは、あたしの代わりに、ひかれちゃった」

日菜「だからあたしはかすり傷ですんだんだ」

日菜「あたしは泣いたなあ。たぶんすっごく泣いた」

リサ「え、っと、ヒナ……? それ、ホント……? てか、様子がおかしいっていうか……痛っ」ガシャンッ

リサ「ったた……ゴミ箱倒しちゃっ……ひっ」

日菜「おねーちゃんはまだ息があったんだけどね。でももうダメだ、って。一目でわかる状態だった」

日菜「あたしは少しでもお話ししたくって。おねーちゃんの傍に行ったの」

リサ「ゆ、友希那……! これ……!」

友希那「リサ……! 少し静かに……!」

リサ「で、でも……! これ、絶対、ヤバいって……! ご、ゴミ箱の中……!」

日菜「そしたらね。おねーちゃん、『ごめんなさい』って」

日菜「壊れたラジオみたいにずーっとずーっと。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……って」

友希那「これ……髪の毛……?! それも大量の……」

日菜「それでね。あたしは許してあげることにしたの」

日菜「おねーちゃんがあたしの、身代わりになってくれたお返しに」

友希那「日菜……。いえ、貴女、まさ、か――」

日菜?「これであたしとおねーちゃんのお話はおしまい」

日菜?「おねーちゃんは、本当の本当は、日菜ちゃんのことが、大大だーい好きだったの」

日菜?「でもあたしがいなくなるまで、そんなことにも気づけなかった」

日菜?「だからね」


「おねーちゃんは、死んじゃった」



以上で完結となります。
想像以上に長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださった方はありがとうございました。
もう10日も経ってしまったけど紗夜さん日菜ちゃん誕生日おめでとう。仲良く過ごしてね。

【訂正】
>>6
の日菜の「私だったら~」は「あたしだったら~」の間違いです。申し訳ありません。

【補足】
氷川姉妹の誕生日の翌日は春分の日のため必ず学校は休みになります。

乙です…
余韻がすごい作品でした。(小並感)
素敵な(少し不謹慎かも知れませんが)作品をありがとうございます!

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