長富蓮実「ザ・ラストガール」 (7)

  「うーん……歌は上手いんだけどね」


「だ、ダメでしょうか……?」


  「なんというか……その……」


「……」


  「現代っぽくないんだよね」


「現代っぽくない……」


  「あのね、はっきり言うわ。センスが古い」


「……古い……」


  「ええ。のど自慢やってるんじゃないのよ。オーディションなのよこれ」


「そんな、私はこの歌が本気で……」


  「いや、僕は悪くないと思うよ? ただやっぱり……」

  「その路線で今時やっていけるかというと……どうかな?って感じ。悪く思わないで!ねっ」


「……そうですか……」


  「とにかく、結果は後日お知らせします。お疲れ様でした」




「はい。 ……ありがとうございました」


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   憧れの季節は、もう終わり


     吐息のネットも、悲しみ色




       ううん、平気


    この涙が乾いた跡には


           夢への扉が




    あるのかしら───

 
外に吹く風の音は、先ほど、部屋へ入った頃よりは弱まったような気がします。

日は少し傾き、窓に差し込む柔らかな橙が長い廊下に映りこみ、足元を照らしてくれます。
私の心もまるで夕暮れ気分……

あのように否定されるのは、慣れっことはいえやはり寂しくなります。
どこにオーディションを受けに行っても、私の評価はいつも似たようなもの。

「古い」「今どきウケない」「センスが80年代」

言われなくてもわかっているのです。
自分の趣味も、それを模倣してみることも、それを自分の売りにできまいかと考えることも、

私の理想が、いかに浅はかな憧れかということは、自分が一番よくわかっているのです。


地元の島根から一人、東京に出てきて今日でちょうど半年という日でした。

──────

私の母は、若いころからアイドルが大好きでした。
当時一世を風靡し伝説とまで言われた彼女たちのことを母は心から尊敬し、
彼女たちの歌は今でも全て歌えると自慢げに語っていました。
そんな母の影響で、物心ついたころから私のまわりは懐かしの歌で溢れていました。
その歌たちを心底嬉しそうに、身をゆだねるように聴き入る母の姿をずっと見てきました。
私は隣にチョコンと座って、詞の意味もよく分からないままに一緒になって聴いていただけ。

けれども、そのメロディーはいつまでも色あせないやさしさに包まれていて、
楽しく、悲しく、そして熱く、
まるで耳に口付けをされたときのような、ドキドキとちょっぴりの恥ずかしさを織り混ぜた不思議な気持ちにさせてくれます。
聴くたびにあらゆる感情を引き起こしてくれる歌たちに、
幼い私はあっけなく、その魅力に取り付かれていきました。


母と共に、

いつしか一人で、

そして最後には自ら母に聞かせるまでに、

ずっと歌たちと共に過ごしてきたものです。


そんな思い出が、アイドルを志すようになったきっかけかと聞かれれば、本当のところはよく分からないのです。

でも、かつてTVを華やかに彩っていた名だたるアイドルたち…
舞台の中央に一人佇み、一筋のスポットライトに眩しく照らされ、
他の誰にも出しえないオーラを放つ特別な存在に、近づいてみたいと思ったのです。
伝説とまで言われた彼女たちが、侵しえないたった一つの場所から、どんな風に世界を見ているのか……
その1%でも共感してみたかったのです。

ただ、その思いは幼いころの、ただの漠然とした憧れに過ぎません。

一方で、私の趣味が「古臭い」の一言で片付けられてしまうのは、今に始まったことではありませんでした。
小学校、中学校と進むにつれて、クラスメイトたちが少しずつ流行の音楽を追いかけ始めると、私はちょっぴり奇妙な目で見られるようになりました。
私自身も、母が聞いていた歌たち以外の音楽に詳しいわけではありませんでしたし、
周りが音楽の話題を始めるようになるまで、特に自分からアイドルソングの趣味について語ったこともありませんでしたが、
それでも常に新しい流行を捜し求め、この間まで大好きだと話していたもののことをしばらくすればすっかり話題にしなくなっていく友達の前では、
昔の曲ばかりが好きで子供のころからずっと聴き続けている、とはなかなか言い出せません。
何だか自分だけが置いていかれているような気分でした。

もちろん、友達とは仲良く過ごせましたし、そのころの生活が楽しくなかったわけでは断じてないのです。
ただ、学校との友達のやり取りは、なんだか私の好きな歌たちさえも「イケてない」(今風の言い方ではないかもしれませんが)と思われるようで、寂しさだけが残りました。

今時の音楽に全く興味がなかったわけではなかったので、私も友達に薦められた、人気のロックバンドやポップス歌手のアルバムを聴いてみたりしたこともあります。
その当時は、友達と話を合わせるために半ば仕方なく始めたことではあったものの、なるほど流行の曲にもそれぞれの良さがあることに気づかされました。いい曲はたくさんありましたし、新しいお気に入りの曲もいくつかは見つかりました。


だけれど、やっぱりいつでも私の心にあるのは……アイドルソングなんです。

短いけど切ります

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