男「地元でこのモーター音を聴けるのももう最後なんだな...」(8)

突然だが、俺は鉄オタだ。いつも学校の行き帰りに近所の踏切に立ち寄って1時間くらい撮影を楽しむような奴だ。
俺はある車両に特別な愛着を持っている。俺がこの地に生まれてからかれこれ17年間生活を共にしてきた車両だ。その車両が来るとどんな時でも安心する事ができた。
だがその車両は明日を以て俺の地元路線から引退するという話だった。
最後にもう一度乗っておかねばなるまい。
アニメイトからの帰りではあったが、俺はお別れ乗車を敢行した。

ここは始発駅であり、発車までかなりの時間があったので、俺は労せず着席する事ができた。
発車まで時刻表でも読んで待つとしよう...

男「33分の乗車か、それなりに乗っていられるし悪くはないね、うん」

俺はロングシートに身を委ねた。

車掌が発車の笛を鳴らし、再び背筋を伸ばす。
ようやく発車した。
幼い頃から親しんできた聴き慣れたモーター音と若干割れている車内放送に耳を傾ける。一般人にとっては悩ましい騒音(ことにモーター車ともなれば)だろうが、我々鉄オタにとっては最も安心できる音楽なのだ。
俺が乗り込んだのは普通列車だったが、駅が進むにつれてだんだん切なくなる。少しでも長く乗っていたい。そんな感情が俺の心の中に沸き上がってくるばかりである。

サラリーマン1「山手線が懐かしいな。ちょうどこんな感じだった。」

男 (このおっさんは首都圏で103系に乗った事があるのか、やりますねぇ!)

サラリーマン2「ああ、103系とかいうやつですね。まあ山手線ならこんなには寂れてませんけどねw」

男 (んだとゴルァ、大和路線が寂れてるとか大概にしとけよ)

そうこうしていると列車は目的地に着いた。俺のお別れ乗車も呆気なく終わってしまった。
この列車が通過列車を待避して停車しているうちに、俺は対向ホームに渡って心ゆくまで撮影を楽しんだ。

~帰宅~

男「おっ、LINE来てるじゃん」

先輩鉄『明日のラストランは乗る?撮る?』

男『撮ります』

先輩鉄『いつもの踏切?』

男『あー...一応そのつもりです』

男 (あの踏切絶対混雑するだろうけどな)

男「まあ最後だしな、早朝から張り込んでみるか」

ピロンッ

友1『良い物が手に入った。詳しくは明日説明する』

男 (なんだこいつ)

男『何だ?エロ本か?』

友1『違えよ、まあ楽しみにしとけ』

男『分かった』

~早朝、踏切にて~

男「あと1時間か、クッソ寒いな」

?「どうも」

男「お、シャロシコ鉄氏じゃないですか」

シャロシコ鉄「いや、その名を大声で呼ばんで下さいwww」

男「今朝は?シャロで抜いてきました?」

シャロシコ鉄「当たり前だよなぁ?」

男「どんなシャロが一番そそります?」

シャロシコ鉄「やっぱりリゼちゃんを一途に想って恋する乙女(但し百合)な表情を見せてる時ですかなぁ...って朝っぱらから何言わせてるんですかwww」

男「朝っぱらからシャロシコしてる人に言われたくないですよ!」

シャロシコ鉄「ちょwwwおまwww声でかいっててwwwww」

先輩鉄「どうも~」

男、シャロシコ鉄「おはようございます」

先輩鉄「あんた、また朝っぱらからシコってきたんだって?」

男「らしいっすよwww」

シャロシコ鉄「...」

男「そういや人増えてきましたね」

先輩鉄「おっ、そうだな」

シャロシコ鉄「早めに来といて良かったですね」

男「シコって眠気覚ましですかwww」

シャロシコ鉄「おい」

先輩鉄「そろそろ来るぞ」

踏切に着いてから何十回目かの遮断機が閉まり、辺りに緊張が走る。やがて見慣れた、しかし今後もう見ることは出来ない車両が姿を現し、轟音と共にこちらへ向かってくる。

パシャッ...パシャパシャッ...カチャカチャカチャ

俺も含めて一斉にシャッターを切る音が辺りに響く。我々の思い出深い車両...103系の最後の勇姿を収めるべく全ての意識をカメラに集中させる。
列車は踏切を通り過ぎ、次第に遠ざかっていく。
去りゆく車両に必死でカメラを向ける我々。テールランプの余韻が心なしか物寂しい。

男 (ありがとう、103系...)

車両が完全に見えなくなっても我々はしばらく立ち尽くしたまま動くことができなかった。

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