【艦これ】 続 外地鎮守府管理番号88 (947)

萌え、ではなく、燃え、なSSを目指したい
更新頻度はゆっくり目になりますごめんなさい

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第一話 海賊と賞金首 前篇



ゴウゥンゴウゥン


「コースこのまま!」


視界を共有する大艇の妖精からの情報を処理し指示を飛ばす。


「爆撃コースに乗ったかも!」


コースに乗ればやり直しは出来ない。


「RAISE!」


二式大艇の翼のエンジンの間に吊るされた800kg爆弾が切り離される。

ザバン ザバッ ザバン!

水切りの要領で反跳爆撃。

ズン!


「目標に命中確認!」

「やったかも!」


これは明石達が88鎮守府に加入する前の話である。


提督「お疲れぇい。敵潜水艦拠点に配達は終わったか?」

秋津洲「うん!終わったよ!」

提督「二式大艇で敵拠点をぶっ潰すのはどうだ?」

秋津洲「最高かも!」

秋津洲「もうすぐしたら大艇ちゃんも帰ってくるかも!!」

提督「適材適所って言葉はな、人の能力、特性を正しく判断して

   ふさわしい地位、仕事に就ける事ってよく言うが……。」

提督「見極める側の目が曇っていちゃぁどうしようもねぇんだ。」

提督「お前さんを無能とか言って厄介払いした前の鎮守府はとんだ節穴揃いだな。」

秋津洲「でも、秋津洲は戦闘はあんまり得意じゃないかも……。」

提督「どんなに艦載機が強くてもそれに指示を出す艦娘が優れてないと意味が無えんだ。」

提督「優秀なネームドであってもその召還には使用者への負担がでかい。」

提督「この辺りは巫女的な扱いで英霊を降ろす代償なんだろうな。」

秋津洲「だから江草隊とか友永隊は改二レベルの二航戦さん達でないと無理なんだね!」

提督「そうだ。扱える艦載機の多さは本人の精神力の大きさとも言える。」

提督「積み替えて使っても他の奴らが使うとキレが鈍いんだよなぁ。」


秋津洲「秋津洲は合計3機かも……。」

提督「考え方の問題だよ。いいか?3機しか使わなくていいんだ。」

提督「多くの艦載機を扱うのに神経すり減らさず3機に全振り出来るんだ。」

提督「考える事が少なくていいってのは

   一度に処理しないといけない事が多い戦場では有利だぞ?」

秋津洲「提督さんは秋津洲の事をきちんと評価してくれるから大好きかも!」

提督「お前さんみたいな若くて可愛い嬢ちゃんに好かれるとは嬉しいねぇ。

   どうだ、今夜ベッドの中で愛を語らねぇか?」

明石「なに妻の前でどうどうと浮気宣言してるんですか。」

秋津洲「あっ!明石さん!改造して貰った大艇ちゃん最高かも!」

提督「あぁ、鬼嫁かあちゃんが来た……。」


明石は88鎮守府に来る前、一人の提督と結婚していた。

それは艦娘としてではなく一人の女性として。


明石「はい。預かっていた日本刀の手入れ終わりましたよ。」

提督「おっ。ありがとう。」

明石「にしても長船なんて初めて拝みましたよ。」

提督「幼馴染で旧家の親友がな、俺をここに送り出すのにくれたんだよ。」

提督「俺をここに送らざるを得ない、すまないって言葉と共にな……。」

明石「人材不足も極まりですね。」

提督「当たり前だ。教壇に立つ教育者を戦場に送り出すなんざしてたら国が育たねぇ。」

提督「と、まぁ。それはさて置くとして、拠点を移動しますかね。」

明石「準備は終わってます。」

提督「移動を終えたらこないだの不審船から奪った金塊でいつも通り資材の手配を頼む。」

明石「でもいいんですかね?」

提督「いいんだよ。戦域設定してある海域を改造した高速艇でうろついている時点で怪しいってのに。」

提督「国際救難信号と同じ周波数帯で誰何して返事無し、同じ改造船が2隻とくりゃ。」

秋津洲「そういうお取引の船かも!」

提督「阿賀野に臨検させりゃ案の定だ。」

提督「スィートでハッピーな粉末に大量のドル札、さらに金塊だ。」

提督「ありがたく貰ったところで罰はあたるめぇ。」


明石「抗議とか来ないですかね?」

提督「………、非合法組織が強盗にあったからって警察に駆け込むか?」

提督「何の悪い冗談だよ。」

明石「それもそうですね。」

阿賀野「提督さん!後は提督さん達だけだよ!」

提督「おぅ。了解した!今日は第三拠点で過ごすぞ!」


この提督の鎮守府運営はかなり特殊だった。

というのも鎮守府という形での施設を建てず、

防衛を受け持つ海域内の複数の島に修理用の簡易入渠ドックのみを持つというやり方だった。

つまりは移動式司令部という形で敵に拠点を把握させないという神出鬼没の通商破壊を行っていた。

通商破壊に限定した作戦展開を行っているのは司令部の移動を簡単にする為、

軽巡、駆逐、軽空母という即応機動性重視の中、小型艦の所属に限定していた為である。


提督「後は修理時間が短くて済むって所だな。」

提督「ところで阿賀野、お前、飯ちゃんと食ってるか?」

阿賀野「うん!食べてるよ!」メソラシ


ムニムニ


提督「摘めない…。お前な、嘘はいかんぞ。」

提督「うちの取得はとにかく食料は豊富な事なんだから。」

阿賀野「でも他の鎮守府の娘達はあんまり食料事情が良くないみたいだけど…。」

提督「気にすんな。他所は他所。うちはうちだ。」

提督「軍令の連中がまともに物資を送ってくれないなら

   いかに現地調達するかは管理職の腕次第だろが。」

阿賀野「じゃぁ、今日の夕飯いっぱい食べてきます!」

提督「おう。腹いっぱい食ってこい。」

明石「実際うちは食料が豊富ですよね。」

提督「地域住民の皆様と仲良くしているお陰だな。」

提督「海にいる怪しい奴らをぶっ潰して、潰した相手から金品を頂く。」

秋津洲「やってること海賊行為かも!」

提督「悪い奴らから奪って何が悪い。

   俺達正義が有効活用してやるってんだ。涙流して喜べって話だろ。」


明石達の提督は豪放磊落を絵に描いたような人物だった。

受け持ちの戦域内は多島海海域でそれなりの大きさの島には住民も居る。

そういった住民の航海の安全を保障する代わりに食料を分けてもらったり、

民間船舶の警護を上に無断で受け持つ事で艦隊司令部に報告しない報酬を受けていたりした。

そうやって得たお金は全て艦隊の維持費へと当てられていた。

そして、上からの苦情等は鼻をかんで捨てていた。



提督「つっても紙が固いと鼻が切れるからよく揉まないとまずいな。」

明石「なに独り言を言ってるんですか。」

提督「あぁ、まぁ、いいだろ。

   それより敵の潰した補給艦から物資って拾えないものなのかねぇ。」

明石「あれを解体しますか……。」

提督「いまいち生態が分からんのよな。未だに謎が多い。」

明石「技研の方でも色々やってはいるんですけどね……。」

提督「あぁ、そういえば主席研究員だったよな。」

明石「えぇ……。」

提督「あぁ、すまん。お前さんの過去を聞くつもりじゃなかったんだ。」

提督「聞いた俺が悪かった。」



明石が艦娘として自分の所に着任したときに見た経歴に関する書類の内容を思い出す。

その経歴はあまりにも立派過ぎたため何かあったんだなと提督をして察する程の物だった。

有体にいえば『 過去の経歴を洗い流す目的 』という奴である。


明石「提督は過去をあまり気にしないんですね。」

提督「女は秘密が多いほど魅力が上がるっていったのは誰だったか忘れたが…、

   夫婦であっても旦那にゃ内緒の秘密があったっておかしくねぇ。」

提督「大事なのは相手が話してくれるその時まで気づいていても目をつぶっておくことだ。」

秋津洲「大人かも!」

明石「それじゃぁ、私は行きますね!」

提督「あぁ、俺は秋津洲とゆっくりいくよ。」

明石「浮気は駄目ですからね?」

提督「分かってる。」



去り行く明石にひらひらと手を振る提督。



秋津洲「良かったの?」

提督「なぁ秋津洲、夫婦ってのはな長い付き合いになるとお互いに嫌な所も目に付くようになる。」

提督「そんな時はな片方の目を瞑るんだ。そしたら見えにくくなるだろ?」

秋津洲「かも。」

提督「そんでな。お互いに見えないのをカバーしてやれば、まぁるく納まるのさ……。」

提督「見なくていい汚ねぇもんは自分からゴミ箱に手を突っ込んで見るもんじゃねぇって事さ。」

秋津洲「分かったような分からないような?」

提督「その内お前さんにいい相手が出来れば分かるさ。」

提督「さっ、移動するぞ。」

提督(もっとも俺がその秘密の重さに耐え切れるかどうかの自信がないんだがな…。)

提督(生物工学、それも遺伝子工学の専門家ばっかり集めていた研究チームとくりゃなぁ。)

提督(何をしていたか大方の予想はつくが……。)

提督(やばいの一言で片付けられるようなもんじゃ無えだろうな。)


深海棲艦 南方棲姫拠点泊地(深海棲艦 補給物資後方集積所)


南方棲戦姫「忌々しい海賊共め!」

空母棲姫「どうしたの?そんなに声を荒げて?」

南方「あぁ、空母か。どうした?」

空母「どうしたって御挨拶ねぇ。」

空母「規定の物資の補給が遅れているからわざわざ出向いて取りに来てあげたって言うのに。」

南方「あぁ、ごめんなさい。少しイラついていたわ。許してちょうだい。」

空母「いいわ。私と貴方の仲じゃない。」

空母「それより貴方をそこまで怒らせている原因を知りたいわ?」

南方「敵にハラスメントをよく理解している糞野郎が指揮官についたみたい。」

南方「今までの鎮守府建屋を設置して拠点を構えるやり方ではなく

   ゲリラ的に出現してはこっちの補給艦部隊を潰していく。」

南方「その所為で拠点の把握がしにくい上に茂みの中に入渠用施設とかも巧妙に隠してるみたいでね。

   どこに潜んでいるのかさっぱりなの。」

南方「腹立つ事に補給艦を潰すことを最優先目標にして

   高速艦で構成されてるから戦艦なんかでは逃げる敵に追いかけることが容易じゃない。」

南方「何より敵の魚雷は射程が長い。それを良く理解して嫌がらせしてきやがる。」

南方「こっちからしてみれば戦艦、空母を混ぜて補給艦1、2隻の部隊を守るには効率が悪い。」

空母「確かに数隻の補給部隊構成だと歩が悪そうね。」

空母「では、大艦隊で補給艦を移動させてみたらどうなのかしら?」

南方「やってみたわよ……。目標が大きすぎて連中とは別の艦隊を呼び寄せる羽目になったわ。」

南方「大艦隊になればそれだけ目的とする敵以外の艦隊の目につきやすくなるの。」

南方「更に腹が立つのはこの海賊どもは足の長い水上艇で偵察をこなし、

   こっちのデポ、こちらの通商破壊作戦に従事する潜水艦の泊地を効果的に狙ってる所よ。」


空母「人の嫌がることは進んでやりましょうを徹底してるのね。」

南方「今いる手持ちの部隊じゃ敵を効果的にやれやしない。」

南方「そして忌々しい事に敵には腕っこきの工作艦が居るみたいなの。」

南方「小破程度のダメージを朝に与えても昼には元気に攻撃しかけてくる始末。」

南方「正直敵の指揮官よりそっちの方が厄介だわ。」

空母「そうね、経験を積んだ兵を減らせないどころかゾンビの如く復活されたら困るわね。」

空母「私達の補給でボーキが滞っているのが困っているから来たんだけど。」

南方「ごめんなさいね。」

空母「面白そうな事になってるわね。」


南方「こっちは面白いじゃすまないわ?」

空母「あら、気を悪くしたならごめんなさい?

   最近、私が受け持っている海域には骨のある相手が居なくて。」

空母「飛行場姫と遊び相手が欲しいわねって話をしていたところなの。」

空母「ボーキを大量に用意してもらえるかしら?」

空母「私が出るわ。」

空母「楽しそうだから航空兵力を持った娘達に声をかけて回ってあげるわ?」

南方「あら、それは凄く助かる。」

空母「実に楽しいバーベキュー大会が出来るわよぉ~?」

空母「私ね、艦娘が焼け焦げる匂いが大好きなのよ。」

空母「あの、人特有のタンパク質に油と硝煙の入り混じった独特の香り。」

空母「ンフ。んふふんふ。ンフフフ。」

空母「楽しみだわぁ~。」


恍惚とした表情を浮かべる空母棲姫。

南方棲姫が背筋に寒気を感じたのだとしたらそれは彼女が薄着だからという訳ではないだろう。


明石達拠点



提督「明石!ここの戦域は放棄して逃げるぞ!」

提督が声を荒げ所属艦娘全員へ撤収撤退命令下す。

明石「どうしたっていうんですか?」

提督「懇意にしてる米、英両大使館から情報を貰った。」


見てくれと差し出される一枚の書類。

提督は艦隊司令部、軍令部双方を通さずに同盟諸国の艦艇警備や

海賊からの人質奪還等も請け負っていた為大本営が掴んでいない、

掴んでいても流さない情報も時として得ることがあった。

提督が差し出した書類には提督が受け持つ海域の近隣海域を受け持った鎮守府が圧倒的。

それは言葉通りの圧倒的戦力で。

抵抗する暇も与えられずに赤子の手を捻られるかのごとく壊滅させられたと書いてあった。

よくある気付いたら全てが終わっていたという奴である。


提督「上は情報を回さず周囲の鎮守府を捨て駒にして防衛の為の時間稼ぎをするつもりなんだろな。」

提督「んなもんに付き合わされてたまるか。」

明石「でも、それならなんで他の国の大使館の方が情報を持ってるんですか?」

提督「うちの国の情報管理の甘さをいまさら知らない訳じゃないだろ?」


金、酒、女、古来よりの誘惑に弱いのが官僚機構に居る者達の伝統。

危機管理という事であれば諸外国のほうが情報収集力に強いのは言うまでも無く。

防衛企業に身元確かではない怪しい者を入社させ

国防に関する情報が抜かれるなんていうのも悲しいかなお家芸だったりもしている。

諸外国からしてみれば日本を矢面に立たせ壁になってもらい自分達は後ろから応援する。

日本に火中の栗を拾わせて危なくない所から文句を言って取り上げる。

それが一番現実的かつ金が掛からないやり方なのだ、だから情報収集には余念が無い。


明石「それで情報を得たと。」

提督「あぁ。海図を見る限り徐々に『 焼き払い 』ながら北上してきているようだ。」

提督「早晩ここに現れるのは間違いねぇ。」

提督「あれだ、敵と借金取りは来ねえ方がいいって奴だ。」

明石「それならいいもの手にいれてますよ。」

提督「ん?」


物資に掛けてあった布をまくる明石。


明石「んふふふ。」

提督「お前ねぇ…。こいつぁ……。」

明石「逃げる前に細工をして逃げましょうや。」

提督「明石。」

明石「何ですか提督?」

提督「やっぱりお前は最高の女だわ。」

明石「なに当たり前の事言ってるんですか。この世に私以上の女なんて居ませんよ。」

明石「結婚出来た事に感謝してくださいよ?」

提督「こきやがれ。」


提督達が拠点を引き払って2日後。

敵の大艦隊は、いやそれを艦隊という単位で括るには

多すぎる深海棲艦の群れが提督達の居た島を強襲した。



空母「敵からの反撃はなしかぁ。」

南方「この島もハズレみたいね。」

ネ級「島内に敵の拠点跡があったそうです。」

南方「へぇ。」

ネ級「慌てて逃げたらしく機密書類や使用していた施設の破壊はされていません。」

南方「引き続き敵の施設捜査を行って頂戴。」

南方「敵の指揮官と工作艦の情報は特に重要……。」



そう命令を下そうとした時だった。

轟音が響いた後、天高く黒煙が伸びる。


提督達が撤退する時に仕掛けていたのは、非人道的兵器として名高い兵器の一つ。

ナパーム弾こと油脂焼夷弾だった。

その燃焼温度は1000度を超え広範囲を焼尽、破壊する兵器である。

爆発するときには大量の酸素を消費し一酸化炭素を撒き散らし敵を酸欠により殺す。



南方「なっ。」



島に上陸し施設の捜索を行っていた者達で生き残る者はいないだろう。

だが、この兵器の恐ろしい点は別にある。

ビチャビチャ。



リ級「熱い!熱い!熱い!」ギャァァ!



爆発するときに大量の火がついた燃焼剤を広範囲に撒き散らす点である。

そして、その親油性ゆえに人体に付着した場合、洗い流す事は出来ず燃え続ける。

海中に逃れ火を消そうと試みるものが居るが消すまでの間に

体に付着した燃焼剤は広がり体表を焼け爛らせる。

元より燃焼剤には金属のアルミニウム粉が混ぜられている為、

水に触れると金属反応により爆発的燃焼が起こる為、簡単に消せるものではない。

そこには地獄絵図が広がっていた。


空母「あは♪」

空母「あははははははは!!!!」

空母「あぁぁあああああははっはっはっは!!!!」

空母「やってくれやがったわねぇ!」

空母「いや、こっちが迂闊だったというべきよねぇ!!あはははははは!!」

南方「おっ、おい?」



自分の手勢が多数やられたにも関わらず激昂する訳でなく大笑する空母棲姫。



空母「実に最高な敵ねぇ。

   施設の破壊をせずにそれを囮にしてこっちが周辺を捜索しようもんなら

   トラップが発動するようにするなんて。」

空母「持っていけずに残した物もこっちの手勢含めて丸ごと『 焼却 』していくなんてね。」

空母「最高に頭がぶっとんだ敵じゃない。」

空母「敵の指揮官は私がじきじきに首を捥いでやるわ。」

空母「そして首を剥製にしていつまでも眺めてあげる。」

空母「どんな醜男でも私が最後まで愛してあげる。」

空母「うふ。」

空母「うふふふふふ。」

空母「きっとすごく、凄く、素敵よねぇ。」

空母「それを考えると今から夜が眠れないわ。」

南方(くっ、狂ってやがる!)


空母「花婿を迎えに行くのにこの程度の軍勢じゃ失礼よねぇ。」ンフ

空母「もっと、もっと集めなきゃ。」



南方棲姫は要求される物資の量とこれから起こるであろう敵への虐殺を考えると頭を抱えずにはいられない。

その為、制止の言葉を掛けようとするが。



南方「これ以上の軍勢を集めるなんて。」

空母「な に か し ら ?」



兵站の維持ができないと言い掛けるが。

空母棲姫の狂気と狂喜を前に言い出せる訳も無く。

そして、以前に感じた寒気の正体をしっかりと把握し、

それが制止をしようとした自分へ向けられかけ

今後、自分にそれが向けられない事に保障が無いことに薄ら寒いものを感じずには居られなかった。


友軍の到着と護衛退避の裏側(?)

番外編 家に帰ろう。



大規模作戦が行われているとある作戦海域



磯風「一緒に、家へ。鎮守府へ帰るぞ!」

大和「……。無理ですよ…。」

大和「私は大破していますし。」

浜風「曳航索が切れてしまいました……。」

大和「敵の追手も迫ってきています。皆さんが帰りきる為に私が殿を勤めますので。」

大和「私はここまでです。」

大和「さっ。行ってください。」

浜風「そんなぁ……。」

磯風「誰か!?付近に友軍は居ないのか!?」

川内「居るよ。」(無線)

川内「平文でがなりたてなさんな。耳に障る。」(無線)

浜風「友軍ですか!?あの!?助けてはいただけませんか!?」



無線から聞こえてきたのは希望の声。



長門「お前達の中で料理の上手い者は居るか?」



なにやら間の抜けた質問。



大和「それでしたら私が。」

雪風「大和さんですか?」



無線の向こうから聞こえる声は時として敵にとって最凶とされる駆逐艦の頼もしい声。



大和「えぇ、大和です。」

雪風「5分です。待っていてください。必ず行きます。」


彼女達は宣言通りにやってきた。

全力で駆けつけた、そう言うようにやって来た友軍艦隊達の艤装は敵の返り血であろうか。

赤く、黒く、汚れが付いていた。

艤装に書かれる所属の管理番号は88。

深海棲艦出現後に新たに割り振られた各海軍区の番号の中でも

存在しないはずの8始まりの軍区管理番号である。



大和(彼女達の所属はいったい?)

時雨「3分31秒。」

摩耶「雪風が急かすから全力で来たぜ。」

川内「まったく道中の敵もなかなか面倒だったよ。」

グラ「雪風がいつに無く本気だったからな。我々もそれに倣らわねば女がすたるという奴であろうよ。」

大和とその護衛に付き退避していた浜風、磯風を見つめる雪風。

雪風「無事……ですね。」

大和「はい。」



雪風には思う所があるのだろうか大和をじっと見つめる。



川内「あのさ、感動のシーンで悪いんだけど。」

川内「これ、捌ける娘居る?」



川内、長門が肩に担ぐは巨大な鮪達。



時雨「川内が鮪が食べたいって言うから釣りに出てたんだ。」

長門「その所為で弾薬を少ししか持ってない事もあり節約しながらの道中だったんで少し遅くなった。」



そう言う長門の左手には歪に曲がったト級らしき物の砲塔。


雪風「皆さん、無事ですね。」



ぎゅっと大和に抱きついた状態の雪風が妹、といってもあくまで形番上の上での物だが。

その妹達、浜風、磯風を見回す。

二人は損傷こそ少ないものの大和を庇いながらの退避であった為だろう。

それなりに怪我を負っていた。



時雨「雪風、大和達を追撃してきた追っ手が迫ってきてるよ。」


ブチッ。



                      雪風「許さん。」



怒気のこもった一言。



雪風「七代先まで髄に染みる恐怖。地獄へ堕ちる事を懇願する恐怖を味合わせてやる。」

川内「あらら、敵が哀れだねぇ。」

摩耶「雪風が本気かぁ。」

長門「まぁ、縁深い者達がやられていては仕方あるまいよ。」

グラ「なれば露払い位は頼まれようか。」

時雨「払う露が残ればいいんだけど。」



共にいくつもの修羅場を潜り抜けて来たからこそ知る仲間の力量。

だからこそ皆、怒りが臨界を越えた雪風の恐怖は知っている。

仲間達が知る雪風の怒りが頂点の時の強さは災禍。

仲間達をして対峙した敵が哀れになる。

それ程の修羅だった。

そして、周囲にいる僚艦の実力も勝手知ったるなんとやら。

相手が指揮官クラスの姫や鬼でも無いのであれば。

敵に遅れを取るわけが無く。

万夫不当の連中なのである。


雪風「ちっ。たいした運動になりやしない。」



雪風達の全力の戦闘の後、追ってきた敵は形を残していなかった。



雪風「皆さん。もう、大丈夫ですよ。」

浜風「ひっ。」



笑顔で近づく雪風に顔を引き攣らせ後ずさる浜風。



雪風「………。」



近づきかけ止る雪風。



時雨「随分勝手だね。」

時雨「自分達が助けを求めて来たんじゃないか。」

時雨「それを。」

雪風「時雨さん、いいんです、いいんです…。」

雪風「慣れてますから。」



力なく言う雪風の顔はどこか寂しげ。


長門「家に帰るか。」フン

長門「ここから1海里も行かない所に我々以外の友軍が居るようだ。」

長門「連絡を取っておいたから向こうもこっちに向かってきている。」

長門「合流して帰るがいいだろう。」

長門「我らがそこまで付き合う義理は無い。」

川内「さぁて、帰りますか、鮪は鮮度が命だからねぇ。」

摩耶「礼を言う事すらしないなんてなぁ。」

摩耶「正規様は随分と驕ったもんだねぇ。」

グラ「衣食足りて礼節を知るという言葉がある。」

グラ「存外その辺りが足りて無い鎮守府所属なのであろうさ。」



雪風への態度に嫌味を言う各面子。



川内「まぁ、いいさ。」

川内「私らは存在していない存在だからね。」

川内「あんたらは今日、私らにあった事は忘れるんだね。」



少し苛立ちながら言い先に離れた長門達の後を追う川内。


鎮守府へと帰る帰路。



時雨「雪風、泣きたかったら泣いてもいいんだよ。」



先頭を行く雪風に近づき声をかける時雨。



雪風「雪風は何か間違っていたでしょうか。」ズビッ



目の端に涙を溜め時雨の顔を見上げる雪風。

妹達に大和。

駆逐艦雪風の魂を受け継ぐ艦娘にとって他の何にも代え難い絆。

それを護る為に全力で当たったのだ。



時雨「間違いなんてないさ。」

時雨「間違ってなんかいるもんか。」

長門「あぁ、連中はぬるま湯に漬かっていた所為で頭がおかしくなってんだろ。」

長門「我々がやっているのは戦争だ。」

長門「命の遣り取りだ。」

摩耶「味方と敵が分からないような奴は今を生きたって後がないさ。」

摩耶「雪風が気にやむ事なんてなにもないよ。」


川内「さっ、早く帰って鮪パーティだ!」

川内「ところで伯爵、鮪に合うワインって何?」

グラ「日本酒以外ないだろうな。」ンフー

摩耶「えっ、シュタインベルガーじゃないのか?!」

グラ「サッシーミーに激甘ワインはどうかと思うが?」

雪風「はい、雪風も日本酒を押します!」ズビッ



川内の露骨な話題変えに食い気が勝ったか雪風が乗る。



時雨「そっか。じゃ、早く帰らないとね。」

長門「あぁ!帰るぞ!」

摩耶「今日の飯は寿司だな!なっ!」



一同はこの後、鮪を捌きその味に舌鼓を打つのだが量が多すぎたか暫くは鮪尽くしだったそうである。


川内「鮪料理のバリエーションが尽きた…。」ウプゥ

明石「いやぁ、売れ残ってた醤油に味噌が樽で売れて良かったですよ。」

明石「更には間違えて仕入れてしまった寿司桶まで売れたですし。いやぁ。儲かりました。」ホクホク

不知火「そんな物まで取り扱っていたんですか。」

明石「胡椒瓶から砲弾まで。お金さえ頂ければクレムリンだろうがホワイトハウスだろうが。」

明石「引っ張ってきてみせますよ。」ニヤリ



戦士達が魂と体を休める場所。

それに名前を付けるとしたら『 家 』と呼ぶのが妥当だろう。

家が有れば出撃しても戻ることを、家へ帰る事を。

強く願うだろう。

命知らずの荒くれ者達が家と慕う場所。

ここは日本番外地、外地鎮守府管理番号88。

天気が良ければ釣りも出来ます。

皆様お久しぶりです
16春を完走出来ずナイオワだったのを何とかリベンジ果たすべく
甲甲甲乙甲丙丁で駆け抜け、クリアから1週間程暇見ては堀つづけカンスト燃料が6万切ってようやく来ました
資材がグロい事になってますがアイオワとれたので良しです
新艦タシュケントは堀考えて丙で割ったらゲージ割と同時に着任、空気を読める(?)出来る娘です
堀は後、海防の娘と浜波残ってますがやる気なし、次回以降でもいいです、今回はアイオワが全てでした
ジャービスはミニ金剛です、声がほっこりします
アイオワ堀の副産物でリシュリューが2人、アークロイヤル、グラーフ、ビスマルクが増えました
ありがたいですね、最終海域の報酬艦についてはしずま艦だと思っていたので1の心情については察して下さい
ガンビアベイはサラトガに似せた発艦方式で親和性が有りますね
ポンコツ性能ですが性能より可愛さで使う方なので問題なしです、報酬のカタパルトできっと化ける改二が来ると思います
では、次回更新もお時間よろしければお読みいただけると幸いです

お世話になります
ミリ要素を入れた艦これSSもっと増えろと思いながら書いています
燃えなSSふえろ、ふえろ……

本日分の更新させていただきます


第二話 海賊と賞金首  中編


提督「ガボガボガボ!(海坊主だぞぉ!)」

明石「何か捕れました?」

提督「いや、なんか反応してよ。こう、女の子らしくキャーとかさぁ。」

明石「いや、実際禿げですから坊主なのは変わらないでしょ?」

提督「母ちゃんは手厳しいな。まったく。」

明石「で、収穫は?」

提督「えーっと魚と貝類、伊勢エビ?が捕れまして多分食べられる?」

阿賀野「わー、提督さん!いっぱい捕れたね!」

提督「おう。こないだの密輸組織の連中の船に色々ダイビング用品があったからな!」

明石「実際便利ですよね。」

提督「全員分手配可能ならしておいてくれ。」

提督「何が起きるか分からんからな。」

提督「食料の確保に海女の真似事するにしても装備がきちんとしていた方がいいだろ。」

明石「ですね。数、揃えておきますね。」

提督「頼む。」

提督達が食糧確保の為にダイビングにいそしんでいる所に秋津洲が向かってくる。

秋津洲「提督!大艇ちゃんが長距離偵察から戻ってきたよ!」

提督「おっ!分かった。カメラの写真は現像に回してくれ!」

秋津洲「分かったかも!妖精さんに現像お願いしてくるかも!」


移動式鎮守府施設 テント内



提督「んー、もうちょっと鮮明な写真が欲しい。」

提督「後、拡大出来ないかな。」



現像された写真を見ながら提督が感想を漏らす。



明石「拡大ならなんとかなりますけどどうされました?」

提督「秋津洲が大艇の長距離偵察で空撮してきた写真なんだがな。」

明石「うーん。これは敵の補給基地らしき施設ですか?」

提督「うん。」

提督「出入りしている連中の喫水状態が分かればありがたいんだけどな。」

秋津洲「喫水状態かも?」

提督「うん。写真を撮ってきてもらったのは敵の勢力圏下の最前線。」

提督「海軍と敵さんでオセロゲームやっている所だ。」

提督「だから喫水状態で神様に祈る状況になってなければいいなぁと思ったのさ。」

秋津洲「かも?」

提督「とりあえず、喫水についてだが入港する補給艦が沈んでいれば物資を運んできている。」

提督「つまりは基地なり泊地なりを建設中と判断できる。」

秋津洲「かも。」

提督「んでだ、逆ならこちらが把握していなかった集積地があって撤退しているって事だが。」

明石「どうします?」

提督「管轄区域が違うからどうしようも無いな。」

提督「それに自分で言っておいてなんだが敵との陣取りゲームやってる最前線に補給所を作るというのはよっぽどだ。」

提督「兵站を危険に晒す事は馬鹿がやる事ってのは新米提督でも理解できる事だからな。」

提督「罠と思いたい。罠の為の見せ掛けではないとすると恐ろしく痛い。」

秋津洲「痛い?」


提督「あぁ、最前線っていっただろ?」

提督「それこそこんな所に集積所を作られたら

   コンビニへ買い物に行く気楽さで周辺海域に戦争しに行けるって事だよ。」

提督「トヨタが世界的に有名にしたジャストインタイムをやられると

   補給が細いこっちじゃ山火事にお猪口で火消しやるようなものになってしまう。」

明石「そこまで差が出ますか…。」

提督「あたぼうよ。弾もってこいアパーム!で持ってこないアパムと違って

  『持って…』まで口に出したときには富士山の如き量があったりする感じになるな。」

提督「兵站が潤沢な敵を相手どるのは戦争の負けを覚悟した方がいいもんだ。」

提督「どんなに兵士が優秀で銃が精巧であろうと撃つ弾がなければ機能しないし飯が無ければ餓死する。」

提督「小学生でも判る話だ。

   だけにこの最前線にコンビニを開店するってことは

   24時間営業のサプライチェーンまで確立出来てるって事の証明でもある。」

明石「……。」

提督「薄ら寒い話だろ。ノンストップで大量に資材を敵は運び込んで来るってのはある種の悪夢だ。」

提督「だけにそれが維持できなくて撤退してくれている話だと神に感謝するんだけどな。」

提督「うちが潰している補給艦の量を見るとパンドラの箱底って奴な気もする。」

提督(というか最悪の事態が濃厚なんだよなぁ…。)


明石「うちで強行偵察やります?」

提督「ん。あぁ、そうだなぁ。出すだけ被害が出るだろうが、その価値はある。

   だが、さっきも言ったようにそこはうちの管轄じゃないんだよ…。」

提督「よその管轄に嘴をいれる真似をするとどうなるかは明石も知らないわけじゃないだろ?」



やれやれと肩をすぼめながら零す提督。



提督「こっちからはその辺りの受け持ち鎮守府に早めに逃げるか

   分散している兵力を一纏めにして危機に備えろとしか連絡出来ん。」

明石「海軍組織って凄く無駄が多いですね。」

提督「高度に専門化された組織なんてもんはだいたいそんなもんだ。」

提督「横紙破りを極端に嫌う。組織を保つ上で悪くは無いが危機に対する即応性は悪くなるな。」



渋い顔をする二人。


阿賀野「提督さん!ご飯の用意できたよ!」



そんな会話をする二人の所に阿賀野がやってくる。



提督「おっ、分かった。」



つ ムニムニ



提督「うん。阿賀野の腹が摘める。食料は十分に行き渡っているようだな。」



提督が掴むは脇腹…、ではなく胸。



阿賀野「ちょっ、提督さん!セクハラぁ!」キャッ



ゴゲシ。



明石「不燃ゴミは処分しておきますねー。」



ズルズル。



提督「明石は最高ぅ~。」b 


秋津洲「提督は懲りない人かも。」


敵 前線基地(南方棲姫 臨時泊地)



南方「こんな所に新しく補給集積地を作る意味はあるのか?」

空母「最前線だからこそよ。」

南方「物資の集積地を作ると敵に攻撃目標を与えるような物じゃないか?」

南方「それともこの間の指揮官を捕まえる為の罠にでもする気?」

空母「えぇ。罠といえばそういえなくもないわね。」

空母「でも、そうね、例の指揮官はこの罠には掛からないわよ?」



じゃぁ何の為に?

そんな疑問の顔を空母棲姫に向ける南方。



空母「そんな顔しなくても大丈夫よ。」

空母「目的は別にあるんだから。」

空母「敵が優秀なのはあくまで現場指揮官としてよ?」

空母「将の将ではなく兵の将。人間社会って物をあなたも勉強した方がいいわよ?」

南方「人間達の協力者を使って情報を集めているのもその為か?」

空母「人間達の船を沈めた際に得た貨幣や貴金属類は私達には無用の長物でしょ?」

空母「連中の情報に賞金を掛ければ色々と情報が集まってくるでしょう。」

空母「人間程己の欲望に忠実な連中は居ないわ?私達はその隙をつくのよ。」


ネ級「空母棲姫様。磁気感応機雷の準備が出来ました。」

南方「あれを使うのか?」

空母「えぇ。あれを使うわ。」

空母「数がそんなに用意できないのが難点よね。」

空母「これも人間を利用しているからこそ用意出来た物よね。」



磁気感応機雷。

本来の兵器としてのそれは蝕接、

あるいは付近の艦艇により乱れた地磁気を感知して爆発するといったものなのだが……。

深海棲艦の使うそれは違った。

海上を漂い艦娘に寄生。

そして、脳を支配するのだ。

トキソプラズマに寄生された鼠が猫に食べられる為に鼠の恐怖心を無くし脳を支配するように。

この兵器は敵の感情を支配、コントロールする。

脳を支配された艦娘は恐怖と痛みを感じなくなる。そして、死ぬまで戦い続ける。

戦う相手は味方である艦娘。

そして宿主が絶命するときに周囲を巻き込む爆発を起こすという最低最悪の兵器。


空母「私達がその排除を目的としている鎮守府は倒せないでしょうけど。」



空母の台詞に疑問符を頭に浮かべた顔をして見つめる南方。

おびき寄せる為の罠ではないと始めに言っていたものの敵を倒せないでは困るのだ。



空母「いいのよ別に。機雷で艦娘を敵の後方拠点へ送り込むことが出来れば私達の勝ちよ?」

空母「今まで潰されてきた補給艦達の位置、私達が虱潰しに捜索してきた海域からここは離れているでしょ?」

南方「確かに。」

南方(と、なるとここに補給基地を作って攻撃を容易にすべき理由があるという事か。)

南方「成る程、目的とする敵の補給線を完全に絶つのが目的か。」

空母「そう、ここを拠点に敵の補給線を絶つわ。」

空母「敵が何処にいるか分からない上に強敵だとしても補給無しに動ける軍隊なんていないでしょ?」

南方「だが、敵の補給線を絶つには相当に後方へ侵攻する必要性があるぞ?」



そう、言うのとやるのとでは大きく違う。

実際、目的とする敵の、海軍の物資集積地はかなり後方に設置されていた。

その為、深海棲艦に攻撃される事は無かったのだがこれが原因で物資の輸送が遅くなっていたのも事実ではあった。


空母「敵の後方集積地拠点へ浸透破壊作戦を実施する。」

空母「機雷はその製造に艦娘を苗床にする所為で

   量産性に乏しいけど今回持ってきた数があれば十分。」

空母「その為の陽動だけに鹵獲艦娘を使うつもりよ。」

南方「あれを製造したのは人間だったはずだよな?信用できるのか?」

空母「信用も信頼もどっちも不要よ。」

空母「あれが機能するかどうかは既にテスト済みで満足のいく結果だったわ。」

空母「戦争に私達が勝てばいいの。勝った方が後は好きに出来るんだから。」

空母「私達にあれを持ってきた人間も勝ち馬に乗りたいのでしょう?」

空母「歴史を作る事が出来るのは勝った者だけよ。」

空母「そして、勝った方が有利に歴史を作るのは今までもこれからも変わらない事実。」

空母「勝てばいいのよ勝てば。」


南方棲姫が敵である人間が作り出した磁気感応機雷の使用を躊躇うことを嗜める空母棲姫。

なにしろ南方棲姫は今の所、敵にいい様にやられているのだ。

敵が小賢しく色々な小手先の罠を仕掛け狡賢く動いているのが原因ではある。

なので負けが続いている状態で勝つために手段を選ぶべきではないのだ。

深海棲艦達に人が作った常識や法が通用するわけがないのだから。

それが例え非道なやり方での勝利の方法であったとしてもである。


空母「助攻から主攻まで。一気に片を付けてあげる。」

空母「圧倒的物量による暴力が何かというのをしっかりと味あわせてやるわ。」

空母「それと……。」

ネ級「空母棲姫様。滑走路の作成も順調に進んでいます。」

ネ級「今夕には全て使用が可能になります。」

南方「航空基地まで作っているのか。」

空母「えぇ、飛行場ちゃんに重爆も借りてきたの。」


島には4本の滑走路が整備され既に完成している3本にエイの様な形をした飛行機がずらりと並んでいる。


空母「敵の前線基地を短時間で焦土に変えるに手段は選ばないわ。」



その新型爆撃機は所謂重爆撃機と呼ばれる戦略爆撃機。

帝国海軍が主として使用した一式陸攻等の戦術爆撃機と違い腹に大量の破壊兵器を積める戦略爆撃機。

それがズラリと並ぶ姿は圧巻かつ壮観。



空母「大陸の欧州と違ってこっちは島ばかりだから

   夜間爆撃がやり難いのが難点だけど昼に限っての限定使用なら最高に効力を発揮するはず。」

空母「欧州戦線が落ち着けばこちらの太平洋戦線にも順次投入されていく機体よ。」

空母「太平洋戦線に投入した際の評価テストも兼ねているから損耗については一切を考慮しなくていいと話はついてるの。」



敵である艦娘達の海軍組織は硬直化著しい事は散発的に起こした戦闘で明らか。

幾つかの鎮守府へ同時に攻撃を仕掛けてみたものの連携した行動をとることはおろか

中には協力を拒んでいるような動きをする者達もちらほら。



空母「機動性と一体性の無い軍隊は殺されることを待つ家畜の様なものよね。」



ぽつりと一言。

阿鼻叫喚の地獄絵図を齎す為には願ってもない条件とも言える。


空母「真に恐ろしい敵は優秀な敵より無能な味方とは良く言ったものね。」



作戦展開予定海域の海図を見ながら更に感想を漏らす。

敵の現場指揮官が優秀ではあったのだろうけど結局は現場指揮官なのだ。

戦術レベルでの作戦の対応は出来るのだろうが戦略単位では凡そ無理なのだろう。

権限というものに縛られる人間社会のなんと哀れな事か。



空母「試合に勝って勝負に負けるという奴かしら?」

南方「?」

空母「気にしないで頂戴。南太平洋から艦娘共を追い落すわよ。」

南方「あぁ。勿論だ。」

南方(実に冷静かつ的確な判断。先日の狂気は一時の気の迷いだったんだろう。)



元々空母等の航空機を一度に大量に扱う艦種は一度に処理する情報量の多さから

姫、鬼といった指揮官クラスの中でも特に頭の回転が速い。

なればこそ横断的に軍の指揮権を委譲しやすい深海棲艦では

南方棲姫としては優秀な者に総指揮を任せるのが自然。


南方(冷静な時の空母は味方をして敵に回したくないと思わせる大胆不敵な作戦を思いつくものよな。)

南方「ところでこの作戦につける名前は何にする?」

空母「そうね……。」

空母「 『 断頭台(ギロチン) 』なんてどうかしら?」

南方(敵指揮官の首を取る事に執着していたからだろうか…。)

空母「この作戦が成功すればこの周辺海域に展開する敵は全て死刑台の上の囚人みたいなものよ?」

空母「敵の指揮官の首を取る事に執着しての作戦名じゃないわよ。」ニコリ



心の奥底を見透かされたような一言。



空母「この辺りにある敵の鎮守府とやらは20?30?もっとあったかしら?」

空母「でも、目的とする指揮官からすればゴミよね。」

空母「敵はいずれ理解するでしょうね、自分達が如何に怠惰であったか。」

空母「私達は凡百木っ端の愚将なんて束になった所で恐れはしない。たった一人。」

空母「そう、目的とするは彼だけよ。彼が全軍の指揮を執ることは絶対に阻止しないと。」

空母「その為に今ここで確実に息の根を止めるわよ。」ニコォ


将の価値を正当に評価するのは時としてその将に対峙した敵である事は多い。

空母棲姫は自身の部隊を文字通り吹き飛ばしてくれた提督を高く評価している。

そして、生かしておく事は自陣営にとって後に大きな禍根となることを理解していた。



空母「この作戦が成功すればこの辺りの勢力図を書き換える事になるでしょうね。」



その微笑みは氷の様。



空母「さぁ、行くわよ!」


一声勧奨。

空母棲姫の一声に居並ぶ者達は気を引き締める。

そして、空母棲姫自身から漂う気配は戦場へ向かう重々しく禍々しい。

しかしその足取りは逢引へ向かう淑女の如く軽やか。

空が黒く、海が赤く染まるのはもうまもなくである。

次回更新で明石編は終われるかと思っています

明石編以降の話としては1話、女性達による民間軍事会社を題材にしたあれのオマージュ的な話をやりたいなぁと

現在下調べとかをやっています、外国の地名を出す関係でグーグルマップ見ながらあーでもないこーでもないをやっています

資源がそれなりに回復してくると2人目のアイオワを狙うか等と色々考えてしまうのは博打みたいで危険ですね

現在掘りをされている皆様が上手くいくことを祈りつつ今日の更新はこれにて終了です

応援、感想レスいつもありがとうございます、いただける事に感謝しています

次回もお時間よろしければお読みいただけるとありがたく思います

深夜のラーメンはメタボへのパスポート
皆様お久しぶりです、今後の展開に関わる部分なので色々丁寧にやってたら更新に間の空く結果となりました
お待ちしていた方へは深くお詫びいたします
本日の更新は空いてた期間分だけ長い?かと思いますので、お時間よろしければお付き合いください


第三話 海賊と賞金首 後編


※今更ですが前スレ、グラーフ編にてFw190とすべき所が多くの箇所にてFw109と機種名を間違えていました
 ここに深くお詫びいたします、誤字に気付かず申し訳ありません


空母棲姫達深海棲艦拠点



全ての物資が揃い、招集をかけていた深海棲艦全てが揃う。

机上の海図と各戦力を示す駒を睨みながら空母棲姫がゆっくりと口を開く。



空母「機は熟したわ。」

空母「まずは助攻になる部隊Aから動いてもらおうかしら?」

南方「では、同時に部隊Bもだな。」

空母「えぇ、そうね。主力になる本隊Cは時間差で最後に動いて貰う事になるわね。」

空母「数日程AとBで暴れてもらって本隊への欺瞞工作とする形になるわね。」

南方「主力のCが侵攻を開始した場合は正しく破竹の勢いとなるだろうな。」

空母「そうね。Cが侵攻を始めたらBは方向転換して主攻撃目標へ進攻。」

南方「各部隊の旗艦と司令部施設のある本隊Cとは連絡を密にしないとな。」

空母「えぇ。後は進軍速度が全てになるわ。」

南方「部隊Aは捨て駒になるから敵鹵獲艦娘部隊で指揮系統は不要?」

空母「もちろん不要よ。使い捨ての駒を統率する必要はないわ。」

空母「攻撃する方向は見せかけもいい所だし。時間稼ぎと攪乱目的だから要らないわ。」

南方「では部隊Bの指揮に私が入ろう。」

空母「私が本隊の指揮でいいの?」

南方「 ? 空母が立案したんだろ?ならば戦功はそっちがあげるといい。」

空母「あら。悪いわね。」

南方「戦略爆撃機まで組み込んだ作戦の指揮は私には無理というだけの話さ。」

南方「流石に副官を複数抱えないと処理しないといけない情報が多くなるから私に総指揮は無理だ。」

南方「私が自分自身のいい所と思っているのは身の程を弁えているということだよ。」

空母「将として重要な資質と思うわよ?」

南方「褒め言葉として受けとろう。」

南方「それに敵が認識しているこの辺りの指揮官は私だ。」

南方「囮に立つなら有名人の方が向いてるだろう。」

空母「あら、アイドルでも目指すつもりかしら?」

南方「はは。私の歌声は酷いから無理だろうな。」


空母棲姫と南方棲姫が拠点に居並ぶ深海棲艦達の前に立つ。

その様は閲兵式と呼ぶに相応しく実に多くの艦種、階級の深海棲艦達が居た。

空母棲姫と南方棲姫が一同の前に立つとその視線が一斉に集まる。

右手をさっと上げ自分へ視線を集中させる空母棲姫。

そして全員へ向け出撃前の演説を始める。



空母「屑鉄諸君!今日は我々の歴史に新たな1ページが刻まれる事になる!」

空母「その日を諸君らと迎えることが出来ることを実に喜ばしく思う。」

空母「我々がこれより行う作戦は敵を完全にこの南太平洋海域から消滅させるだろう。」

空母「敵は全て殺せ!通り道に有るものは全て瓦礫へと変えるのだ!」



空母棲姫の宣言へ同意の声が方々から上がる。



空母「屑鉄諸君!諸君らの敵は!」

一同「殺せ!殺せ!ぶっ殺せ!」

空母「我ら深海棲艦の目的は!」

一同「殺せ!殺せ!ぶっ殺せ!」

空母「深海棲艦として諸君らは敵を愛しているか!?」

空母「敵を屑鉄に変える準備は出来ているか!?」

一同「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」

空母「よろしい。総員、抜錨!」



人型の深海棲艦達が鬨の声をあげ異形の者達もそれに続く。

後に『 南太平洋の悲劇 』とも『 南太平洋の悪夢 』とも言われる戦いの幕が開ける。

南方棲姫達が助功として敵防御線右翼を攻撃開始。

時を同じくその最右翼を深海機雷に寄生された艦娘達が攻撃を開始する。



南方「逃げるものは追うな!進軍速度を重視だ!」

南方「進路上にある物は全て破壊せよ!」



怒涛の進軍速度に合わせ司令部機能を移動させながら南方棲姫が指示をだす。

進軍速度重視で損害は度外視。

まさしく物量で攻める事の出来る深海側だからこそ出来る攻勢である。

そして、敵からの攻勢に対し防御線の維持の為、

南太平洋に置かれた海軍南方方面軍司令部が下した決断は

各鎮守府より予備戦力を抽出しそれを持って防御に当たるといういかにもな作戦だった。

姫級ですら囮として使う絢爛豪華な作戦。

まして、その囮の姫級は以前より既知の指揮官として知られる南方棲姫である。

この時の海軍司令部の判断を誤りと言う者がいるとしたら

正解を神の視点で論ずることが出来る後の世の歴史家くらいであろう。


南方棲姫達が進撃を始めた頃の明石達拠点



愛用のキャラバッシュに刻み煙草を詰め、火をつけて一服した後に黙考。

提督は敵の意図を探るべく静かに考えを巡らせていた。

敵がここ2、3日妙な動きをしている事を察知。

秋津洲の大艇や軽空母の艦娘達に偵察機を出させ集められる限りの情報を得た中で気になるものがいくつか。

友軍の拠点に味方であるはずの艦娘が攻撃を仕掛けていること。

損害を無視して全力で進む部隊がある事。その進撃方向での海軍重要拠点は遠い。

しかも驚いた事にそれを率いているのは南方棲姫では無いかという事。



提督「新人兵が戦場の空気にやられて錯乱して味方を殺すってのはままあるが。」



敵として向かってきた艦娘に遭遇し撤退してきた阿賀野の話を聞く限り。



提督「薬物等の新兵器で精神汚染にでもあったのか?」



と判断するしかないのだった。

そしてその仔細を話し意見を求めた明石は「あっ…。」と一言を発した後、

自分用に割り当てられたテントから出てくる気配がない。



提督「自分の位置が漏れるのを警戒して司令部との連絡を最低限にしていたのが裏目に出たな。」



海図を広げ敵の進行方向と先日情報を得た新設されたと思しき補給拠点の位置を改めて見直す。



提督「あっ。」



手に持っていたパイプを地面に落す。

提督は気付いたのだ、いや、気付いてしまった。



提督「俺達は檻の中じゃねぇか。」

提督「この南太平洋にたいした策士が居たもんだ。」クックック

提督「実に清々しいまでの負けっぷりだ。いっそ弟子入りしたいくらいだな。」ハハハ

秋津洲「提督、どうしたかも?外まで笑い声が聞こえてきたかも。」

提督「あぁ、秋津洲か。悪いが全員に集合を掛けてくれ。」

提督「拠点8へ移動だ。」

秋津洲「8番かも!?」

提督「あぁ、8番だ。」



拠点8番は万一補給が受けられなかった時用に燃料、弾薬、保存食等を備蓄してある拠点。

そこへ向かうという事は自分達が緊急事態に陥ったと全員に暗に知らせる事になる。

提督は敵の助攻が陽動ということを見抜いていた、更に今の状態が嵐の前の静けさという事も。


補給所 拠点8番


提督「全員聞いてくれ。南太平洋の海軍はまもなく壊滅する事になる。」

提督「完全に敵にしてやれた。」

阿賀野「提督さん、どうしたの?」

提督「俺の読みが正しければ間違いなく敵は海軍の後方集積地点を落す。」

提督「それも今まで見たこと無い圧倒的物量を持ってだ。」

秋津洲「かも!?」

提督「持てるだけの燃料、弾薬、食料を持ったら今夜にでも撤収作戦を実行してくれ。」

提督「敵にたいした策士が居たもんでな。ブリッツをやられた。」

阿賀野「ブリッツ?」

提督「ん?何だ?知らないのか?」

阿賀野「提督さん程阿賀野達は戦史の事は詳しくないもん。」

提督(現状認識は最悪の事態でも共有しておいた方がいいとは士官教練の基本だな。)

提督(この辺りの教育を怠っていたのは己の不始末だな。)ハハ

提督「昔取った何とやらだな。よし、夜まで時間はある。講義と行こうじゃないか。」



周辺海域の海図にざらりと広げるのはどこに持っていたのか大量の将棋の駒。


提督「まずは俺達海軍の防衛ラインがここで……。」キュキュキュ

提督「俺が海軍大学校で教鞭をとっていたのは皆知っての通りだと思うが、

   さてと、敵の防衛線がここに設定されている場合どう攻める?」

阿賀野「えーっとこれは阿賀野達が深海側として海軍の防衛線をどう突破するかって事?」

提督「そうだ。補給については考えない物とする。」

秋津洲「えーっと、右側の防御が薄いから右側から防御線をずーっと迂回するかも!」

提督「うん。だいたい普通の解答だな。」

提督「左側は抜かれたらアメリカ大陸に一気呵成に攻める事が出来るから基本厚めの防御陣が敷かれてる。」

提督「じゃ、次にだ。局地戦闘においての戦闘の勝利条件は何だと思う?」

阿賀野「えっと…、継戦能力の破壊?」

提督「正解、通商破壊で敵補給艦の掃討をさせていた甲斐があったようだな。」

阿賀野「提督さんにいつも作戦の目的は口をすっぱくして言われていたもん。」ドヤッ

提督「以上を踏まえるとだ。敵が俺達南方方面軍を完全に潰そうと思った時に重要拠点となるのがここだ。」

秋津洲「後方の巨大集積地かも?」

提督「あぁ、集積地はもとより南方方面軍の艦隊司令部がある所だ。さらに石油精製所やらの生産拠点でもある。」

阿賀野「でも、前線からかなり後方だよ?」

提督「そうだ。だから、始めに言った『 ブリッツ 』が生きてくるんだ。」

提督「元々は陸軍の戦術の一つで俺自身海軍に応用してくるとは思って無かったのが迂闊だったと言えるな。」

提督「まぁ、みんな見てくれ。」



提督が先ほどの海図に置かれた駒を動かしながら行う説明を聞き入る一同。



提督「先ほどの後方拠点は左翼から侵攻した方が近いが説明したようにまず無理だ。」

阿賀野「だね。」

提督「その為、今まで前線で小規模戦闘を繰り返しお互いの陣取り合戦を敵、南方棲姫とやって来た。」

秋津洲「かも。」

提督「そして、ここ2、3日の敵の動きだ。」

阿賀野「右翼の防御が薄い所をついて後方へ侵攻しようとしている?」

秋津洲「南方棲姫が一大攻勢をかけてきたかも!」

提督「と、思うよな。」

秋津洲「かも?」

提督「ここで思い出してくれ。俺達が設営を察知した敵の補給基地の位置だ。」



提督が海図にある敵側領域の島に飛車を一枚置く。



阿賀野「どちらかというと左翼よりの位置?」

提督「そうだ。更に敵の手に落ちて何がしかの細工をされた?と思しき艦娘達が攻めてきているのがこの辺り。」



歩の駒を右翼側にぱちぱちと置き並べていく。



提督「だんだん分かってきただろ?」

阿賀野「提督さん、深海側だけ王将が2枚有るのはどうしてかしら?」

提督「つまりはそういう事だ。」

提督「敵に指揮官、つまり姫級が二人いるって事だ。」

提督「前線補給基地を新設した所で気付くべきだったんだよ。」

提督「南方棲姫と比べてやり方が大胆になった違和感にな。」

提督「今回の敵は作戦参謀が今までと別の奴が絵図を書いているのは間違いない。」

提督「それで右翼に南方を使って総攻撃をかけると?」

秋津洲「各鎮守府で出せる戦力を持って防衛に当たるかも。」

提督「そうだ。」

提督が戦力に見立てた歩を南方棲姫を表す王将に向けて動かす。

阿賀野「左翼の守りが薄くなっちゃった……。」

提督「そして、将棋の駒で飛車といえば?」

秋津洲「縦横の直線移動かも。」

提督「そうだ。ここの新設基地に基地航空隊を配備するとどうなる?」


阿賀野「敵に基地航空隊があるの?」

提督「俺達にあるんだ。敵に無いと考える方が不自然だろ。」

秋津洲「陸攻?」

提督「ならまだ救いがあるが戦略爆撃機なんか持って来られたらお手上げだ。」

阿賀野「戦略爆撃機かも?」

提督「あぁ、陸攻なんか目じゃねぇ搭載量の爆弾を運んでくるぞ。」

提督「第二次世界大戦で代表的な所でB-17だな。

   日本が零戦の開発で四苦八苦してる頃には既に実戦配備されてた化け物だからな。

   後はB-24、29と続いていくシリーズだ。」

提督「B-17は頑丈で機銃で撃ったくらいじゃなかなか落ちてくれねぇんだよ。」

秋津洲「大艇ちゃんみたいな感じ?」

提督「そうだな。日本が頑張って作った四発機で実戦に投入出来たのは大艇くらいだもんな。」

提督「まぁ、そんな感じで陸攻がワンショットライター等と不名誉な渾名を付けられるのに対して

   B-17はフライングフォートレスと来たもんだ。」

提督「搭載爆弾は単純比較で陸攻の4倍。赤い人もびっくりだ。」

阿賀野「赤い人?」

提督「知らないか…。ジェネレーションギャップだなぁ。」

提督「4倍の爆弾をその護衛機を必要としない防弾性能と対空性能を持った爆撃機が後方へ浸透してきてみろ。」



つついと飛車の駒を動かす提督。



秋津洲「おおぅ。」

阿賀野「うわぁー。」

提督「間の駒を全て無視のとんでも王手。」

秋津洲「将棋でやったら怒られるかも。」

提督「実際の将棋で言えば初手で相手の王将を盤面から叩き出す行為だからな。」

提督「ブリッツって言葉はドイツ語で稲光を意味する。」

提督「最近ではイラク戦争で米英軍がやってのけていたな。」

提督「まずは爆撃機で敵の拠点を破壊、

   その後高速機動機械化部隊が敵の脆弱な部分へ突撃そして文字通り稲光の如き速さで敵最重要拠点を破壊だ。」

提督「そして、通過時に空いた穴から雪崩の如く怒涛の勢いで敵が侵入してくる。」

阿賀野「はい!提督さん。つまり阿賀野達の司令部が落ちるって認識でいいの?」



少し青ざめた顔で理解した事への確認を行う阿賀野。



提督「その通りだ。始めの南方棲姫の部隊は陽動だな。」

提督「陽動に姫級を使うとは予想もしてないだろうし

   更に言えばこの辺りの指揮官として既知の相手だから突出して出てくれば司令部は全力で排除を命じるだろう。」

提督「で、陽動に引っかかって左側が通常より手薄になる。」

提督「その手薄になったところに戦略爆撃機で防衛線上の拠点を吹き飛ばす。」

提督「戦略爆撃機は艦艇とかの移動目標には使えんが建物とかの固定目標には

   さっきも言った爆弾の搭載量のお陰で甚大な被害を齎すことが可能だ。」


秋津洲「防御線に穴をあけるだけなの?」

提督「穴を空けたら今度は同じ航空戦力の空母連中の仕事だ。」

提督「大まかな仕事と細かな仕事の作業分担、ちょいと意味は違うがワークシェアって奴だな。」

秋津洲「でもこの仕事の分かち合いはよくない分かち合いかも。」

提督「だな、戦略爆撃機隊は雑事に捕らわれなくていいからどんどん先に進めるからな。」

提督「後、間違いなく護衛もついてるだろうから完全に爆弾を落すのみに集中できる。」

阿賀野「敵がずるい。」

提督「そう言ってもなぁ。戦争だからなぁ…。さてと、説明を続けるぞ。」

提督「穴が開いた後は高速機動部隊で一気に進軍。

   そして無線などの連絡手段で連携を密にしているだろう南方棲姫が同時に進路変更。」

阿賀野「二方向からの進軍には急に対処出来ない?」

提督「予測出来てないと無理だろうな。」

提督「姫級指揮官が1人と思い込んでいた上に

   敵の基地戦力は飛行場棲姫だけだと思い込んでいた所に付け込まれた。」

提督「更に味方を攻撃する事への躊躇い、

   鹵獲艦娘の攻撃へ躊躇わない奴は居ないだろうから迎撃の手は正直鈍くなるだろう。」

提督「大陸における都市爆撃と違って島にある拠点を狙うやりかたは

   的が小さいから狙いにだろうがそこは落す爆弾の量を増やせば問題ない。」

提督「なんせ挟撃の形になるから前線から戦力を引き抜く暇はないだろう。」

提督「南方棲姫の陽動が始まってここ数日。

   それから考えれば早くて明日、遅くても明後日には俺達の後方司令部は更地にされるだろうな。」

阿賀野「そんなに早く?」

提督「あぁ、このブリッツって戦術は敵深海棲艦の性能の良い電探、無線設備、航空機材、

   全てにおいて向こう側に有利な条件が整ってる。」

提督「さらに言えば兵力を旧ソ連の如く無駄遣い出来る深海連中なら

   猛進する際の損害も一切考えなくていいから負傷した連中も俺達と違って捨てていける分、

   進軍速度が落ちることがない。」

提督「だから進軍速度はこちらの予想する以上の早さだろう。

   さらに兵站についても補給艦を大量に向こうは用意できるし

   それでも足りなければ爆撃機に積んで航空輸送してもいいしな。」

提督「まさしく物量で殴る。だ。」


提督「だから補給基地が作られた時点で詰みだったと言うわけだ。」

提督「まっ、そういう訳だから撤収だ。」

阿賀野「じゃ、提督さんの船も燃料入れておくね!」

提督「いや不要だ、俺はここに残る。」

阿賀野「えっ!?」

提督「本来は指揮官が死ぬのは避けるべきだが退き陣も速度が全てだ。」

提督「俺が乗る船を守りながら逃げてみろ?

   スピードが遅いのと標的がここに居ます!って言っているようなものだ。」

提督「敵の指揮官っていうのは須らく最優先排除目標だからな。」

提督「それに生き残っても俺の階級だと地獄しか待ってない。」

秋津洲「階級かも?」クビカシゲ

提督「俺の階級は将官位だ、南太平洋で大きく負けたとしても人類が消滅するわけじゃない。」

提督「責任をとらせる生贄が要るわけだよ。

   どんなに才能があっても一度の失敗で全てを失うのがすばらしきかな日本型社会って奴だ。」

提督「逆に死んだ奴はいい奴だ、となるのも日本型社会でな。」

提督「俺がここで死んでお前達が逃げる為の時間を稼げば

   不惜身命の精神すばらしいで美談に仕立ててくれる。」

提督「お前達が本土に逃げ帰った後の事まで考えれば俺はここで死んだ方がいいのさ。」

提督「生きて帰って、生き地獄を味わうくらいなら英雄として死なせてくれ。」

提督「俺は疲れたよ。」

阿賀野「提督さん。」


提督「ま、そういう訳でこいつは俺からの最後の指令書だ。

   俺が撤退命令を出したことを証明するものだから絶対に無くすなよ?」

阿賀野「分かったわ!」

提督「それから阿賀野、これは白紙の指令書だ。

   撤退中に本土へ逃げるまでに必要あれば現地徴発でもして物資は手に入れろ。」

提督「判子と俺の署名は入れてある。文面は良く考えて書け。」

阿賀野「白紙委任状みたいなものかしら?」

提督「当たりだ。こいつは海軍の人事システムの穴を突いた物だからな。

   悪用は今回限りにしとけよ。」ニヤリ

阿賀野「うん!分かったわ!」ウフフ



これは、海軍の司令部に戦死が報告され確定するまでは提督が生きている扱いになる為、

提督の地位をぎりぎりまで使い倒すというある種の詐欺である。


提督「負傷者は出来る限り収容しながら撤収してくれ。

   この海域で何があったのかの情報は値千金の価値がある。」

阿賀野「分かったわ!」

提督「最後にこの手紙だ。艦隊司令部の戦略参謀におれの昔馴染みがいる。

   そいつを頼れ。悪いことにはならんはずだ。」



こうして撤退の指示を出し、拠点を離れる阿賀野達を見送ると提督は一人、拠点にある建屋へ入っていった。



提督「元々はここが鎮守府としての拠点になるはずだったんだがな…。」

提督「まぁ、無駄に拠点を構えると枷になっちまうわなぁ。」



食堂になるはずだった部屋に椅子を置き床下収納からナポレオンを取り出す。



提督「お前達はどうして逃げなかった?」



発電機を動かしている為に使える水道から出る水で

埃を被ったグラスを洗いながら部屋の入り口に向かって問いかける提督。


明石「結婚した時の誓いの言葉忘れたんですか?健やかなる時も病める時も。」

提督「夫婦寄り添いだったか?」

明石「それに、提督にはちゃんと話しておかなきゃと思って…。」

秋津洲「秋津洲は大艇ちゃんがあるからギリギリまで逃げなくても大丈夫かも。」

秋津洲「それに必要だと言ってくれた提督さんの最後を見届けたかったから…。」

提督「俺は妻と部下に恵まれたな。」

提督「阿賀野もこの撤退戦の修羅場を抜けきれば一端の旗艦としていい面構えになるだろうが。」

提督「それを見届けられないのは心残りだな。」

提督「お前達も飲むか?」



グラスを二人に差し出す提督。



提督「ちょいとつまみをとってくる。保存食になにかあっただろ。」



そして、ブランデーのつまみとしてはちょっとおかしなサラミ。



秋津洲「塩たっぷりの保存食かも!健康の為に遠慮しておくかも!」

提督「だなー。高血圧まっしぐらだ。」

明石「結構いいお肉を使っていますね。」



箸を伸ばそうとしない秋津洲と対象的にぱくつく明石。



提督「でだ、明石。話してくれるんだな?」

明石「はい。」



明石が話し始めるのは前職での仕事内容。それは驚愕の内容だった。


提督「するとその○四計画ってのは深海の姫、鬼級を人工的に作り出す研究だったのか。」

明石「はい。分野を超えて研究していた中で深海棲艦の姫級が群の統率を蜜蜂や蟻の様に行うなら

   その頭を此方で作って挿げ替えてしまえばいいという結論になったんです。」

提督「だが、それはお前、制御できないだろ。」



提督の意見は最も。



明石「その為の制御装置があったんです。」



提督の脳裏に浮かぶのは阿賀野からあった報告。



提督「例の友軍に攻撃してきた艦娘に使用されたという敵の新兵器の事か。」

明石「はい。何処から漏れたのか…。」

明石「私もその研究所で主席として研究していたのですがある日にふと目が醒めたんです。」

明石「艦娘を深海棲艦の姫級へ艦娘の意識を残したまま改造して頭には制御装置兼万一の自爆装置。」

明石「とても許されるものじゃないと。

   戦争を終わらせる為だとしてもこんな人の道を外れたものが許される筈がないって。」

明石「それで、全てを破壊して逃げたんです。」

提督「そうか。」

明石「それが、どうしてこんな事に……。」

提督「一緒に研究していた連中が居たんだろ?そいつらから漏れたんだろうさ。」

提督「戦争っての始まりから終わりまで全部を通して金になる。」


提督「大方、欲に目のくらんだ海軍の誰かの仕業だろ。」

秋津洲「武器業者さんかも?」

提督「武器業者の実際はイメージ程儲からないのが実情だなぁ。」

提督「武器だけ作る重工業より化学や総合商社、

   戦費調達に関連する銀行、証券とかの金融屋だろうな。」

提督「武器開発に関連しての技術の方が民生転用して大きく儲けれるのよ。」

提督「枯葉剤なんかの土壌汚染は食料問題に直結するから

   化学兵器を使用された国は土壌汚染を無視して作物を作るとかで無い限り食料輸入国になっちまう。」

提督「コングロマリットなんかだと武器製造の重工業、食料調達の総合商社、あるいは穀物商社、

   戦費調達に関わる国債の販売引き受けで銀行、証券会社。全てにおいて金を稼げる。」

提督「戦争ってのは物と金を大量に消費してまったく生産性がない。」

提督「門外漢だからあまり詳しくないが軍事ケインズ主義っていう、

   まぁ、経済の調整目的で戦争をやる、あるいは強力な軍隊を持ち大量の軍事費を投入すべき、

   なんていう学説もあったりする。」

秋津洲「めちゃくちゃかも…。」

提督「学説が出る前だが成功例としてナチスドイツやら同時期のルーズベルトが有名かな。」

提督「ただ、こいつらはちょっと頭の螺子がなぁ。」

提督「とりあえず、ざっくり言うと巨額の軍事費が経済を好転させると考える経済学だ。」

提督「第二次世界大戦の例で言うなら週間護衛空母なんてやれたのは

   当時の不況により余っていた労働力の解消と

   金をばら撒く公共事業への大義名分を手に入れる為だったという見方も出来る。」

秋津洲「工業力があればこそのような気がするかも。」

提督「まぁな。んでだ、折角、戦争が起こってくれているなら

   なるべく長引かせて金を儲け様と考える輩が出てきてもおかしくはないさ。」

提督「長引く程にばら撒かれる金は多くなるからな。」

秋津洲「救いようの無い馬鹿かも…。」

提督「確かにな。」


明石 グゥ

提督「と、薬が効いたな。」

秋津洲「やっぱり睡眠薬いれていたかも。」

提督「サラミは香辛料やら塩を多く使う分、味覚を鈍くしてくれる。」

提督「継ぎ足した酒に入れた薬の味を悟られずに済むって寸法さ。」

提督「惚れた女が一緒に死のうと言ってくれたとしても男は黙って拒否しねえとな。」

提督「死ぬのは一人でいい。」

提督「それと、誓いの言葉だが。死が二人を別つまで。って続くのを忘れてやがる。」

提督「まったく忘れっぽい奴だよ。」

秋津洲「提督。」

提督「秋津洲。すまねぇがお前の気持ちに応えてやることは出来ない。そして、明石の事、頼まれてくれないか。」

秋津洲「提督。」グシッ

提督「泣くな。化粧が崩れるぞ?」

秋津洲「ていとく~。」ブワッ

提督「苦手なんだよ。女の涙ってのは。」

提督「まったく……。」

秋津洲 ウワァ―――――ン



抱きつく秋津洲の頭を撫でながら提督は一つ、深く溜息をついた。

一頻り泣いた秋津洲が良く眠る明石を抱え拠点から離れたのはその日の深夜。

不肖にして優秀と相反する評価が付けられた弟子への手紙とともに。

これはタイミングとしてギリギリだった。

なぜなら、空母棲姫達主力部隊侵攻の開始は払暁と同時だったから。


夜明けの時間にも関わらず空がいつまでも暗いままだった。

敵が多すぎて空の色、海の色が見えなかった。

辛うじて命を拾った艦娘の証言である。

飛行機が八分に空が二分。

船が八分に海が二分。

いかに敵の航空兵力と艦艇が多かったかが分かるだろう。

払暁と共に始まった深海の一大攻勢作戦は翌日の黄昏時には終わり

黄昏と類義語である落日を南太平洋に展開する海軍に齎す事となった。



日本海軍南太平洋重要拠点



南方「この敵後方拠点をこうもあっさりと落すことが出来るだなんて思いもよらなかった。」

南方「人間達にとって要衝のはずなんだけどな。」



空母棲姫率いる主力C部隊が陥落させた敵拠点で合流した南方棲姫が最初に交わした言葉。



空母「そうそう、ここの指揮官達の首は浜辺に並べて置いたので一応見ておいて?」

空母「皺だらけの爺だの脂で弛みきったデブの首ばかりで華がないけれど。」



苦笑しながらその要請に了解したと返す南方棲姫。



空母「まぁ、攻められるはずが無いとの思い込みが防衛に割く人員を少なくしていたのでしょう。」

空母「実際あっさりとしたものだったわよ?」

南方「我々の拠点からここまでの距離を考えればそう思うのも無理は無い。」

空母「もっとも割いていた所で応戦出来ていたかどうかは分からないけれどね。」

南方「そうね。これだけの数を動かす作戦はそうそう実行できないものね。」



圧倒的物量で押す作戦というのは立案出来てもなかなか実行出来る物ではない。

RTS等のゲームをプレイした事がある方は分かると思うが大量の軍勢を一度に整えるのは

それだけで資源が底をつきかねない行為である。

だけに数を頼みとする深海勢力でも今回の作戦に用意した軍勢は前例の無い規模だった。

この時の作戦に使用された深海の主攻部隊C郡参加戦力は以下の数である。


戦略爆撃機1500機

護衛参加戦闘機800機

参加した艦艇

駆逐艦(級種階級別省略) 423

軽巡洋艦(同省略) 45

重巡洋艦(同省略) 33

戦艦(同省略) 36

空母(同省略) 51

軽母(同省略) 54

補助艦艇(兵站等輸送用補給艦) 1500

これだけの艦艇数が一度に作戦参加して正しく蹂躪をしたのである。



南方「ここを落したことで兵站輸送関連の情報を精査すれば

   敵の拠点も全て所在が明らかになるだろうな。」

空母「ここの要衝を私達の拠点化に成功すれば敵の本土侵攻への拠点としても使用可能ね。」

空母「さてと、後の事は任せてもいいかしら?」

南方「?」

空母「私がこれだけの作戦指揮をとった理由ぐらい察しなさいよ。」

南方(まだ諦めてなかったのか。)

南方「……、爆撃機に私の部下も出そうか?」

空母「いらないわ。黒こげの剥製なんて面白くないでしょ?」

空母「剥製にするなら生身のままでないと。少数の手勢で充分よ。」

空母「あなたには此処の足場固めと残敵掃討の残業をお願いしてもいいかしら?」



笑顔で要求してくる空母棲姫。

勝利した後の個人的な楽しみ。

いや、寧ろ其方が主目的で敵の後方重要拠点を落すことは前座。

彼女は自分を虚仮にしてくれた提督を確実に殺す為、動き始めた。


補給所8番近海



空母「日も暮れて来たわね。」

ヲ級「空母棲姫様、近くにどんちゃん騒ぎというか賑やかというか。」

空母「?」

ヲ級「尋常ならざるおかしな状況の鎮守府があります。」

ヲ級が言いにくそうに伝える変な様子の鎮守府の状況。

空母「なにそれ、あからさまに罠じゃない。」



どうしましょうという顔で空母棲姫を見るヲ級。



空母「実に面白いわね。本当、敵の指揮官の中で狂おしい程に会いたいと思った相手は初めてよ?」

空母「出来れば生きたまま味方に引き込みたいわね。」アハハハハ

ヲ級「敵の指揮官をですか?」

空母「私達に足りないものは何だと思う?」

ヲ級「?」

空母「全体を見通して総合的に戦略を立てる戦略参謀よ。」

空母「一部にそれをやれる姫、鬼の娘達も出てきているけど圧倒的に足りないわ。」

空母「さらに南方棲姫の様に兵站管理の出来る戦務参謀なんてもっと足りない。」

空母「私達が現状勝っているのは量だけよ。質を上げなければ勝利は無いわ?」

空母「さて、どうしようかしら?」



一般的な話をすればあからさまな罠にのる相手は居ない。

だが、現状、この戦闘域でまともな戦力を残している相手は居ない。

そして、自分が連れている部下達は選りすぐりの精鋭。



空母「ちょっと挨拶くらいしてみるべきかしら?」

空母「あなた達は万一に備えて戦闘体勢のまま待機しておいて。ちょっと顔を見てくるわ。」



空母棲姫はまんまと敵の思惑に乗った、好奇心が勝ってしまったのだ。



その鎮守府は煌々と灯りに照らされ、腰に太刀を佩き正装をした人間が一人酒盛りをしていた。


提督「ようこそお嬢さん、我が鎮守府へ。」ニヤリ

空母「随分と面白い事を言うわね。」

提督「あんたは空母棲姫か?深海棲艦の図録で確認した事があるだけだが。」

提督「へぇ、写真よりずっとハクイ女じゃねぇか。」

空母「世辞の言葉として受け取っておくわ。」

空母「あなたが?」



尋ねる言葉はこれで充分。



提督「あぁ。」

空母「答えは分かっているけど一応聞くわ。あなた、私達の所に来る気はないかしら?」

提督「分かっているなら聞くだけ無駄だろ?」

提督「俺からもいいか?」

空母「どうぞ。」

提督「お前か?」

空母「分かっているんでしょ?無駄な質問よ。」

お互いの力量を知っている敵同士が出会えば。

提督「俺の首を獲るかい。」

空母「厄介な指揮官は生きていて貰うと困るのよ。」

空母「死んで貰えるかしら?」

提督「まぁ待て。最近の若い奴はせっかちでいけねぇや。酒でも飲もうじゃないか。」

提督「月が綺麗だぜ?」

空母「文学的なお誘いという訳ではなさそうね。」

提督「妻帯者なんでな。悪いが深い意味は無い。

   敵の優秀な指揮官という事なら話の一つくらいしてみたいとも思うものだろ?」

提督「それとも、その程度の心の余裕すらないのかい?」



ふんと鼻を鳴らし。



空母「いいわ、その酒瓶が空くまでは付き合ってあげる。」

提督「高級酒なんでな、時間を掛けてゆっくりと味わってくれ。」ニヤリ



それからゆっくりと2時間程、敵同士という形でありながら不思議な酒盛りは続いた。

そして、最後は訪れる。


提督「……、これで最後か。」

空母「そのようね。この酒盛りは貴方にとって何か意味はあったのかしら?」

提督「あぁ、大有りだ。俺の部下達を逃がす時間稼ぎに必要だったのさ。」



やられたという顔をする空母棲姫。



空母「何かの罠を仕掛けてくるのかと思っていたけど

   何も仕掛けてこない事が罠だったなんて。呆れたわ。」クスクス

空母「貴方みたいな指揮官は本当に厄介ね。心の底からここで殺せて良かったと思うわ。」

空母「さぁ、死になさい。」

提督「待て待てどうせ死ぬならそのでっけえ胸に挟まれて死にたい。」

空母「随分と肝の据わった願いね。いいわよ、いらっしゃい。」フフフ



ぎゅっ。



提督「ほほう。なかなかこれはボリュームあるじゃねぇか……。」ポムンポムン



スラッ。


ズンッ。



空母「!?」

提督「悪いな、俺も敵の優秀な指揮官を生かしとくわけにはいかねぇんだ。」



空母棲姫に抱きつきその背中から自分を貫くような形で刀を串刺しにて逃げられないように固定。



提督「一緒にあの世に逝ってくれや。」ニヤリ



カチリ。



提督が隠し持っていたスイッチを入れると大爆発が起き全てがその炎の中に飲み込まれる。

その爆発の炎は遠く離れた場所でも観測出来たそうである。

旧海軍後方集積地(現深海棲艦新拠点)



南方「空母棲姫が殺られた!?」

南方「……、了解した。一旦拠点に戻ってくれ。」



空母棲姫が死んだことを連絡する無線を受け空母棲姫に付き従っていた部下に撤収の指示を出す。



南方「くそっ!これからの深海棲艦を支える貴重な人材が!」

南方「ここの拠点化と平行しての残敵狩りは私だけでは厳しいというのに!」

南方「実におしい人材を失くした。」クソッ



空母棲姫が提督の自爆による相打ちにより南方棲姫の残敵狩り包囲網構築は遅れ、

結果として多くの艦娘がその包囲網から逃げ延びたのである。

これが、後に海軍最大の汚点とも言われる『 南太平洋の悲劇 』の全貌である。


現在

提督「明石。探したぞ。」

明石「提督ですか。私に何か用ですか?」

提督「こいつもお前に渡しておこうと思って探していた。」

明石「バスクリンの缶ですか。」

提督「中身が強烈でな。疲れも吹き飛ぶ。」

提督「くれぐれも取り扱いには気をつけてくれ。」



カロカロコロ



明石「中身はなんですか……?」

提督「献金絡みの金の流れと積荷証券関連の金の流れ等色々だ。」

提督「俺の同期が時雨のやらかした事の裏取りしていて

   手に余るって事で俺に保険を掛けて来たんだ。」

提督「なんせ本土は魑魅魍魎の類が多いんでな。」

提督「表向きには時雨が主導してやった事になってそれ以外の関与を示す証拠が一切ない。」

明石「怪しいこと限りないですね。」

提督「あぁ、言葉は悪いが一介の艦娘風情に出来る山じゃねぇ。」

提督「中身を見ていたら明石が昔に勤めていた研究所の名前も出てきた。」

提督「それで、俺も再保険を掛けておこうと思っただけだ。」

明石「ありがとうございます。」

提督「礼には及ばん。世話になった師匠への手向けだ。

   お前ならこの情報の生かし方が分かるだろ。存分に役立ててくれ。」



提督はそう言い、同期から託されたUSBメモリのコピーを明石に渡したのだった。


おまけ短編ギャグ 傭兵って個人事業主?


不知火「川内さんから確定申告の書類が提出されました。」

提督「もうそんな時期か。」

不知火「川内さんの場合は契約上個人事業主になりますから。」

提督「そうだな。」

不知火「他の個人事業主。傭兵扱いの方の提出書類の確認もお願いします。」

提督「懲役のある連中は海軍の方で面倒見てくれるが自由契約だと確認が入るのが面倒だな。」

不知火「国税局が査察に来ることがあるのでしょうか?」

提督「………、不知火。あいつらを舐めない方がいいぞ。」

不知火 ぬい!?

提督「居酒屋の所得隠しを見つける為にゴミを漁って

   使用された割り箸の本数や納品されたおしぼりの数を確認したり。」

提督「一ヶ月以上張込みをして店舗の来店客数を調べたり。」

提督「コミケの壁サークルに貼り付いて来訪者はもちろん売り上げた冊数のカウント。」

提督「印刷所での発行部数、書店委託同人誌の売り上げからのサークル売り上げ予測。」

提督「そして自宅やレンタル倉庫等へ捜査に入り在庫の誤魔化しを見破る。」

提督「あの手、この手で税金を取ろうと脱税を見逃さない。」

不知火「恐ろしい人達なんですね。」


提督「まぁ、ここの場合、ほとんどが経費で落せるから川内には俺が色々指南しているがな。」

提督「後、調査に来ようとする連中の乗る船には

   護衛が出せませんと丁重にお伝えしているから、来る間に殉職する嵌めになる。」

提督「軍事施設に税金取立てというのが平和ボケした日本らしくもあるがね。」

提督「戦闘を艦娘に押し付けて自分らは平和を謳歌するというのは馬鹿げているとは思わないか?」

不知火「……。不知火の立場では返答致しかねます。」

提督「ん。にしてもあいつはもう少し上手くやれといわないとだな。」

不知火「おかしな点が?」

提督「これだよ。」



提督が指差す項目を見つめる不知火。



不知火「成る程。」

提督「これは艤装の一部になるから減価償却の方に廻せる。」

不知火「こちらは使い切り扱い出来ますので消耗品で経費に廻せますね。」

提督「あいつ向けに簿記の本でも買ってやるか…。」

不知火「経費で落しておきましょうか?鎮守府内図書館の貸し出し用とすれば可能かと。」

提督「頼む。」



外地鎮守府管理番号88。

傭兵だって個人事業主。

魚雷の一発、砲弾の一発で失う安い命。

地獄の沙汰もなんとやら、明日の命の遣り取りに、使うお金はTax Free


第四話 We Will Lock you 前編

※タイトルのLockがRockでは無いのは意図的にしています。御了承下さい。


時雨「あっ、雪風。今日は休みかい?」

雪風「えぇ。今日はお休みです。」

雪風「時雨さんは?」

時雨「僕もだよ。これから明石さんの所へ注文していた商品を取りに行く所だよ。」

雪風「ご一緒してもいいですか?雪風も注文していた商品があったのを思い出しました。」



そして、明石の工廠兼酒保に着いた時そこには先客が居た。



スパ「だから高いですってぇ。」

明石「そう言われましてもねぇ。あなたの艤装特殊なんですよ。」

スパ「戦艦の艤装として普通でしょ!?」

明石「インチ。」

スパ「うっ。」

明石「だいたい艤装に使う部品くらいメートル法で作ってから文句たれろや。」アァン?

明石「整備に使う工具を揃える手間賃も入ってんだ。大まけにまけてその値段なんだよ。」

雪風「お取り込み中でしたか?」

明石「いえいえお客様。大丈夫ですよ。」



その光景はいつかみた光景。


時雨「艤装の清掃用特殊洗剤が届いているって秋津洲から連絡を貰ったから取りに来たよ。」

明石「あっ、あれですか。タンパク質が綺麗に落ちる魔法の洗剤。」

時雨「うん。艤装の熱でこびり付いたのもあっという間に落ちるから重宝してるよ。」

雪風「雪風はTONEのレンチセットです。」

明石「そういえば時雨さんはエビのセットを先日購入いただきましたけど?」

時雨「使い勝手はいいよ。流石ロブスター製品だ。」



ウォースパイトが居ないかのように接客を続ける明石。



雪風「ウォースパイトさんはどうしたんですか?」

スパ「!」

スパ「聞いてくださいよぉ~。」



半泣きのウォースパイトが語りだす。

曰く修理を頼んだらぼったくりにあったと。



雪風「ぼったくり。」

スパ「見てくださいよこれ!」



明石からの見積書を見せられる二人。


時雨「うーん、これは仕方ない気がするかなぁ。」

雪風「そうですね。これは少し壊しすぎですね。」

スパ「え。」

時雨「戦艦は装甲が厚いから敵からの攻撃をかわすより

   装甲で受け止めるって考えになってしまうのが悪いね。」

雪風「長門さんも同じ戦艦ですが避け切れず被弾する時は壊すところを考えていますよ?」

時雨「だね、壊すにしても修理が安くなるところを考えている。」

雪風「見たところ修理箇所は重要機関に近いところばかりですし…、

   回避行動の基礎が疎かの様ですね。」

時雨「被弾原因は魚雷が多いみたいだ。」

雪風「それもよくないですね。」

スパ「えっ。」

時雨「戦艦を沈める威力が出せる砲撃は同じ戦艦くらいだけだものね。」

雪風「その通りです。重巡でもラッキーパンチが出ればそれなりにダメージを与えられますが

   戦艦を沈めようと思ったら普通は魚雷です。」

雪風「大本営が格好良い艦娘の広報映画を作って

   駆逐艦が戦艦を砲撃で沈めたりなんかしているシーンがあったりしますけど馬鹿の極みですよ。」

雪風「現場を知らない。」

時雨「深海棲艦も人型だから人間と同じ弱点をピンポイントで狙えば可能かな?」

時雨「それが出来るとしても最新の兵装を使えるここの娘達くらいだけだろうけど……。」

雪風「戦艦という艦種を沈めようと思うなら空母艦載機による飽和攻撃が一番効果的です。」

雪風「しかるに魚雷を避けきれずに当たっているこの被弾の仕方は地獄の鍋底を覗いているようなもの。」

雪風「あなたは明日にでも死ぬおつもりですか?」



雪風の質問に首をぶんぶんと振り否定するウォースパイト。


雪風「であればやるべき事は一つです!」ニタァ

時雨「演習あるのみだね。」ニコニコ

雪風「最近はこの辺りの敵も落ち着いてきているので

   1週間程は仕事をしなくても大丈夫だと思います。」ウキウキ

時雨「そうだね。暫くはいい訓練日和だね。」ニコニコ

スパ「えぇっ。」



うきうきした気持ちを隠しきれない様子の二人。



雪風「明石さん!」

明石「なんざんしょ?」

雪風「すみませんがウォースパイトさんの修理代金、貸しにしていただけませんか?」

明石「……、めったに無理を言わない雪風さんの頼みとあっちゃ応じない訳にはいきませんね。

   よござんす、貸しにしときましょう。」

雪風「すみません。」

明石「いいぇ、これは損して得取れって奴ですよ。

   ウォースパイトさんが長生きしていっぱい稼いでくれればうちも将来的に上客が増えるってもんです。」



雪風の要請に快く応える明石。そしてウォースパイトの肩に手を回し耳元で囁く。



明石「ビッグになってくださいよ?」ニタァ

スパ「はぃぃい!」ビシッ



その様子に笑いを堪える時雨に雪風。

この日から雪風と時雨によるウォースパイトへのしご……、もとい訓練が始ったのだった。

以上で本日分の更新終了です
深海棲艦の採ったブリッツはドイツのパリ侵攻作戦とイラク戦争時の砂漠の嵐作戦を参考にしています
現代においては武器の高価格化が進んでいるため開発費も高騰し武器業者は儲からないようですね
銃器メーカーで有名なレミントンが会社更正法を申請していたのは記憶に新しいかと思います
航空機メーカーではミグとスホーイが合併しますし業界の再編はかなり進んでいっています
船舶関連は米国内はかなり再編が進んでおり空母、潜水艦なんかはそれぞれ実質1社しか製造ノウハウを持ってないです
ダイオキシン公害で有名になった枯葉剤を作っていたダウケミカルはフロンガスやテフロンで有名なデュポンとくっ付きましたし
かつて戦争で儲かっていた企業も平和だと……、これ以上はいけないですね

ノリノリ不知火からウォースパイトは逃げられるのか!?
そんなお話、更新させていただきます
お時間宜しければお付き合い下さい


第五話 We Will Lock you 中編


執務室

不知火「司令、こちらの申請書ですが。」

提督「あぁ、それか。雪風に頼まれた奴だ。

   1週間ほど鎮守府近海に訓練海域を設定したいんだそうだ。」

不知火「そうですか……。」

提督「ウォースパイトに回避行動等の基礎訓練を叩き込むそうだ。」

提督「お前も手伝ってやってくれ。」

不知火 ぬい!?

不知火「ですが。」

提督「しばらく敵に動きがない。

   何か企んでいるのだろうが、いざ動く時は手駒が多いほうがいい。」

提督「ウォースパイトはまぁまぁだがうちの1軍連中にはかなり劣る。」

提督「うちの看板背負わせるにはまだまだ未熟だな。」フフン

提督「横須賀で海の銀狐の異名で呼ばれ教導隊の教官をやっていた頃の腕を見せてもらおうか。」

不知火「ですが、司令の秘書をする者が……。」

提督「ここ最近の仕事量だと秘書は無くてもなんとかなるさ。」

提督「寧ろ、今後に備え秘書業務で錆び付いた感を取り戻してきてくれ。」

ガチャ。

明石「提督、頼まれていた不知火さんの艤装の整備と動作チェック、

   後、燃料と弾薬。補給終わりましたよー。」

明石「それとファンネルマークの銀狐もペイントし直しておきました。」

提督「あぁ、ありがとう。」

提督「不知火、そういう事だ。行って来い。」ニヤリ

不知火「でっ、では。早速。」ウキウキ



こうして不知火も訓練に教官として参加する事となった。


明石「不知火さんも訓練教官として参加するんですか?」

明石「豪華ですねぇ。」

提督「うちの駆逐艦で稼ぎ頭の2人と

   切れた雪風に命令を実力で聞かせられる不知火の参加だからな。」

提督「ある種の悪夢だ。」

明石「Walking Nightmareでしたっけ?

   長門さん並に複数の異名持ちだったと思いますけど。」

明石「Invisible Destroyer だの Imperial Ghost だの言われていませんでしたっけ?」

提督「あぁ、それは米軍連中がつけた渾名だな。」

提督「演習時に適当に揉んでやれと指示をだしたのが悪かった。」

提督「その時はお陰で始末書を書く嵌めになったな。」

明石「滅私奉公がそのまま生きているような娘ですからね。提督が悪い。」

提督「俺としては戦略参謀の経験を積ませるつもりだったんだがなぁ。」

提督「演習相手の駆逐艦を防御盾として手に持ちアイオワへ接近、格闘戦を挑み関節等に砲撃。」

提督「艤装のシステムダウンではなく使用者の戦闘不能を狙うからな。笑ったよ。」

提督「相手の戦闘意欲をポッキリ折りに行っているからな。性質が悪い。」ハハハ

提督「そして止めが米軍側の指揮官へ砲撃の諸元データー入力完了の勧告だからな。」

明石「演習の指示を出している頭を刈ろうとしたんですか……。」

提督「実戦なら正しいのだが、演習だとやり過ぎだ。」ハハハ

提督「米軍関係者はまさしく悪夢を見るような顔をしていたがな。」クックック

明石「ままなりませんねぇ。」

提督「あぁ、そうだな。あいつのそういう所は褒めるべきところだから始末書も喜んで書いたぞ?」

明石「演習相手の弱点や指揮管制の問題点等の意見書を30cmの厚みで合わせて提出されたんでしたっけ?」

提督「よく知ってるな。」

明石「そんな事やっているから上から煙たがられるんですよ。」

明石「とりあえず、ウォースパイトさん訓練で死ななきゃいいですけど。」

提督「大丈夫だろ。」

提督「……、たぶん。」


鎮守府近海 臨時設定訓練海域

訓練1日目

雪風「この隠そうとしない殺気は!」ゾワッ

時雨「機関始動!全力回避!」ゾゾゾ

スパ「えっえっえっ!?」



これから訓練を始めようかといった話をしていた所にいきなり緊急事態宣言。

ドン!

雪風が今まで立っていた位置に着弾。



不知火「見事な回避です。」(無線)

不知火「司令から遊んでやれと命令を頂きましたので、一緒に遊びませんか?」(無線)

雪風「やはり不知火さんでしたか……。」

時雨「わざとに殺気を漏らしっぱなしって事は。」

雪風「本気ではないようです。」

スパ「あの、何が起きているのですか?」オズオズ



二人に対して敬語で質問するウォースパイト。


雪風「しれぇの横で殺し屋みたいな鋭い目付きをした駆逐艦の方を御存知ですよね。」



脳裏に浮かぶは着任時のトラウマと警告。



スパ ガクガクガク

雪風「カタログスペックという常識の外に存在する方です。」

雪風「演習と気を抜いて掛かっていると死にますよ。」

言うが早いか上半身を後ろに捻る雪風。

そしてその鼻先を不知火が放った砲撃の弾が掠めて行きウォースパイトの真横に着弾した。

雪風「機関をガスタービンに変えていたお蔭ですね。危ない所でした。」

時雨「でも、本命はこっちの魚雷!」



シャ――――――

遠距離すぎる為、普通は当てることが望めない魚雷だが

その魚雷は回避した位置を先読みしたかの様に走ってきた。



不知火「実に素晴らしい。」(無線)



無線を使わずハンドサインで時雨と打ち合わせを始める雪風



雪風 私達を教導隊の新人か何かと勘違いしているようです

時雨 裏をかいて襲撃することは出来るかな?

雪風 ウォースパイトさんが厳しいかも、後、出来ても返り討ちにあう危険性が……

スパ「レーダーの範囲外からなんでこんなに精密射撃できるんですか!?」ウワーン



その砲撃は某殺し屋を彷彿とさせる精密射撃という名の狙撃。


不知火「そこに存在するという気配ですね。言っても分からないと思いますが。」(無線)

雪風「無線で泣き言を言っていると全て向こうへ筒抜けですよ。」

時雨「戦艦の装甲だと当たっても痛くはないと思うけどさっきも言った様にこれは牽制だからね。」

時雨「動きを誘導させられている形になるから気をつけて動きなよ。」



シャ―――――

ドン。



雪風「あらら……。」

時雨「言った傍から……。」

時雨が注意をしたと同時に魚雷を避けそこない被弾した。

不知火「手応え有り。」(無線)

雪風「なんで見えてないのに命中が分かるのでしょうか。」

時雨「化け物だ。」



その日の訓練はウォースパイトが撃沈判定103回という前代未聞の記録を打ち立てた。


時雨「酷い記録だよ。」

雪風「下手したら1ヶ月程訓練しないといけませんね。」

不知火 ♪~

スパ「死、死んだ方がましかも……。」


2日目


長門「不知火に頼まれて来たが教導は久しぶりだな。」ウキウキ

不知火「やはり戦艦の動きは同じ戦艦の方に指導いただくのが良いと思いましたので。」

長門「遠慮なくやっていいんだな?」ウキウキ

不知火「はい。司令からもその様に。」

長門「楽しめそうだなぁ。」ニタァ

不知火「えぇ、勿論です。」ニタァ

スパ「悪魔達の食事会会場はこちらでしょうか……。」バタン

雪風「気絶している暇なんてありませんよ?」

時雨「おーい、戻ってきなよ。」ペチペチ



この日、ウォースパイトの撃沈判定は87回に少し減った。



雪風「日々訓練あるのみです!」

不知火「2日目にして減らすことが出来るとは見込みがありますね。」フンス

長門「明日からは本気で行こうか。」ウキウキ

スパ「誰か殺して……。」


3日目

不知火「海の遊撃手と異名をとった秋津洲先生にお越しいただきました。」

秋津洲「かも!水母、秋津洲、ここに推参かも!」

雪風「ドリフトターンや波を利用してのバレルロール。」

時雨「艤装をまるでジェットスキーをするかの様に扱うトリックスター。」

不知火「人呼んで『 海の遊撃手 』」

秋津洲「秋津洲流航海術の開祖とは私の事かも!」

スパ「かも?ええっと、開祖?」

秋津洲「うん!」

秋津洲「ただの水母と甘くみないことかも!!」ニカッ

不知火「秋津洲さんは本日ハンデとして大艇を置いて来てくださっています。」

不知火「良かったですね。」ニコニコ

雪風「大艇つきですと雪風もてこずりますから良かったですね。」ニコニコ

時雨「本当だよ。」マッタク

スパ「えっ。」

不知火「見た目の可愛さに騙されると地獄の最下層を覗く事になりますので御注意ください。」ヌイ!

不知火「だてに明石商会の運び屋をされている訳ではありませんので。」

秋津洲「いっくよー!」

スパ(といっても水母だし……。)


ヒュッ

秋津洲「はい!死んだかも!」

スパ「えっ、いつの間に背後に!?」

不知火「ウォースパイトさん撃沈ですね。」ヤレヤレ

雪風「艤装のパワーコントロールが苦手みたいですね。」



この日、ウォースパイトの撃沈判定は85回だった。



不知火「秋津洲さん、手を抜きましたね。」ヌイ!

秋津洲「ばれたかも!!」ニゲロー

スパ「死んだ……。」バタッ



4日目


グラ「ふっふっふ。実に面白そうな事をやっていると聞いたぞ。」ンフー

スパ「」(卒倒)

不知火「対空戦闘も重要です。」



4日目、ウォースパイトの撃沈判定は101回に増えた……。



時雨「おぉ。ウォースパイトよ、撃沈判定が増えるとは情けない。」

時雨「空母艦載機からの攻撃が一番危険なんだから回避が疎かになると危険だよ?」

雪風「ですが、少しずつ洗練されてきつつあるとは思います!」

スパ「復活の呪文は不要です…。このまま眠らせて……。」


5日目

川内「今日は不知火が参加できないから私が来たよー。」ウシシシ

雪風「出ましたね。」

時雨「来ましたね。」

長門「ほほう。」

グラ「サイレントマスター。」

川内「私の訓練は夜中まで続くよー。休憩入れながら今日は完徹だよ!」

スパ「」

川内「やっ、せっ、んー!すっすめー!やっ、せっ、んー!いってみましょー!」

時雨「それ、別の娘の台詞だよ。」



5日目、ウォースパイトの撃沈判定は前日とほぼかわらず100回を記録した。



スパ「空が白い……。」ウヘヘヘ

時雨「徹夜の作戦もあるから一日二日寝ないなんて普通だよ?」

雪風「慣れれば航行しながら眠るなんても高等技術も身につけられます。」

スパ「地獄はここにあった……。」

川内「動きはまぁまぁましになってきたんじゃない?」

雪風「そうですね。」

スパ「もうやだ!なんで私ばっかりこんなしごきにあうんですか!?」

スパ「死んだほうがましだわ!」

時雨「何でか分からないのかい?」

雪風「……、じっくり考えて下さい。結論が出るまではずっと訓練です。」

不知火「今日の訓練はここまでとします。」


執務室


コンコン

提督「開いてるぞ。入ってくれてかまわん。」

雪風「しれぇ、まだ、お仕事中でしたか。」

提督「まぁな。どうした?」
雪風「訓練海域の設定延長をお願いします。」

提督「あぁ、分かった。どのくらい……。」

雪風 スースー

提督「毛布を掛けてやるか……。」


6日目

スパ「死にそう……。」

7日目

スパ「死んだ方がまし……。」

8日目

スパ「死ねばいい……。」

9日目

スパ「死んだ……。」



10日目


摩耶「よっ、だいぶ揉まれてるみたいだね。」

摩耶「今日は何回死ぬ予定だい?」

スパ「今日は、えーっと50回は切りたいです。」

雪風「大きく出ましたね。」クスッ

不知火「では、今日も始めましょう。」



夕方



雪風「今日の訓練終了です。」

スパ「ちかれた……。」

時雨「ウォースパイト。」

スパ「はい。」

時雨「まだ、死んだ方がましかい?」

スパ「いいえ、苦しいですけど生きていた方がずっと楽しいですね。」ゼハー

雪風「これで全ての訓練終了です!」ニコ

雪風「良く覚えておいてください。

   艤装の性能や、本人の資質なんて生き残る上での要素として重要ではありますがほんの小さなものです。」

雪風「訓練の教官を一緒に務めたみなさんが今日まで生き残ってきたのは生きて明日を迎える。」

雪風「絶対に生き残るという強い意思がその全てを引き寄せているんです。」

雪風「これから先、修羅場なんて掃いて捨てるほど経験する事になるでしょう。」

雪風「死なずに生き残ってくださいね!」

スパ「雪姉さん。」ウルウル

時雨「姉さん。」クスクス

長門「姉さん。」フフッ

不知火「大きな妹が出来たようですね。」ニコニコ

スパ「一生ついてきます!」ウワーン



雪風の小さな体に感極まったかウォースパイトが抱きつく。



雪風「あぅ。」

スパ うぇぇぇーーー

時雨「さっ、今日も終わりだね。」フフフ

摩耶「長門の姐さん達誘って飲み会でもしますかねぇ。」

不知火「不知火も参加します。」

雪風「助けてください!」


その日の夜

執務室

ガチャリ。

不知火「司令、お疲れ様です。」

提督「おぉ、お疲れ。長門達との宴会は終わったのか?」

不知火「抜けてきました。仕事がそろそろ溜まっているかと思いましたので。」

提督「たまには羽目を外していいんだぞ?」



ジリリリリンジリリリリン



提督 ……。



シリリリリンジリリリリン



提督「まったく、あれが鳴る時はだいたいが良くない連絡だ。」

不知火「出ましょうか?」

提督「いや、俺が出よう。明石に不幸の電話と書いた札でも付けさせようか。」



愚痴を言いながら電話に出る提督。


提督「製油所が敵の襲撃に遭い壊滅?ならびに備蓄基地も壊滅。」

提督「警備に当たっていた連中は寝ていたんですかね?」

提督「機能回復までに2ヶ月。はははっ。実に悠長な話で。」

提督「話しになりませんな。えぇ、責任はしっかりと取らせてください。」

提督「連絡だけいただけたのは感謝します。」



チン。



提督「不知火。ブルネイの石油施設が敵後方浸透作戦で壊滅した。」

不知火「間抜けばかりですね。」

提督「海軍全体の質が落ちているのは否めんが愚痴を言っても仕方ない。」

提督「うちの備蓄だと全員で全力出撃した場合1ヶ月持つかどうかだ。

   節約しても2ヶ月は持たん。」

不知火「明石さんのルートを使っても厳しいですね。」

提督「あぁ、どうしたもんかなぁ……。」

不知火「意見具申宜しいですか?」

提督「ほう。珍しいな。」

提督「聞こうか。」

不知火「敵の物資をかっぱらうというの如何でしょう?」

提督「海の銀狐と渾名をとったお前だ、何か面白い策があるんだろうな?」ニヤリ

不知火「えぇ、とっておきで、至極痛快なのが。」ニヤリ



この後、執務室での作戦の打ち合わせは翌朝まで続いたのだった。


おまけ 提督と長10cm砲



鎮守府 荷揚げ用埠頭



チョコン



提督「ん…?」

提督「お前は初月のか。」

長10cm砲 ……



ヒョィ。



提督「右側のか?」シゲシゲ

長10cm砲 !

提督「初月の傍を離れちゃ駄目だろ。」ナデナデ

提督「あいつは誰かがこっちに繋ぎとめておいてやらないと。」オナカコショコショ

提督「すてがまりやらかす様な奴なんだから。」アゴシタコショコショ


長10cm砲 シュン

提督「ん?」

提督「なんだ、新しい防錆塗装が嫌だったのか?」

提督「それで逃げてきたと。」

長10cm砲 キュコキュコ

提督「前の塗料と比べて匂いがきつい?」

長10cm砲 キュコキュコ

提督「明石に前の塗料と同じのを使うように伝えておこう。」

長10cm砲 !

提督「あぁ、俺が保障する。」

提督「だから頼むぞ。初月をしっかり守ってやってくれ。」

提督「約束だ。」

長10cm砲 !

提督「短い手足で何処が肩か分からんが

   その双肩に俺は色々役割を乗っけてしまっている。」

提督「色々すまんな。」

長10cm砲 !

提督「そうか。そうだな。」

長10cm砲 !

提督「俺も一緒に謝ってやるから心配するな。」

長10cm砲 !

提督「そうか、大変だな。」



この後、提督は初月に長10cm砲を勝手に持ち出したと怒られたそうだが

牛缶3個で許して貰ったそうである。

本日の更新終了です
海の遊撃手でいすゞのジェミニを思い出された方はいらっしゃいますでしょうか?
CGを使わずカースタントのみであれだけの撮影は今じゃ無理でしょうね、いいCMでした
カースタントは007シリーズのカースタントを担当されていた所が請け負っていたそうです
ウォースパイトの立ち位置(?)が明確になったところで次回でウォースパイトのお話は終了です
乙レス、コメントレスはやる気に繋がりますのでいつも感謝しています
宜しければ次回もお読みいただけると幸いです
最後にですが姉妹艦の呼び方ですがここではあくまで書類形式上という物に過ぎない為
それぞれの呼び方が艦娘名になっていると解釈いただけると幸いです

色々説明をはしょってしまった所為もあり誤解を招くような事態となっており御迷惑をお掛けしております

88提督と明石編で出てきた提督は別人物です、133様が言われるように88提督の師匠、大学での恩師に当たる方という設定です

グラーフ編でも少し触れましたが故人ですので死亡しております、階級で表記していれば良かったと今更ながらに後悔

御迷惑をお掛けしました

色々ぐだぐだな所もあり申訳ありません、そんな1ではございますがお時間宜しければ本日もお付き合いいただけると幸いです


第五話 We Will Lock you 後編


提督が電話を貰った翌日夜。



大会議室前 廊下



時雨「あっ初月、君もかい?」

初月「あぁ、僕も呼ばれたんだ。」コンバンハ

時雨「つなぎを着ているけど艤装の整備をしていたの?」

初月「うん。明石に全てをお願いすると結構な金額になるからね。」

初月「ただ、防錆塗装だけは取り寄せていた奴の塗布を明石に頼んできた。」

初月「それに自分の命を預けるんだ。やはり細部まで見ておきたいものさ。」

時雨「あぁ、分かるよ。その気持ち。」

初月「雪風は?」

時雨「今朝から艤装の完全分解整備に入っていたと思うけど。工廠で合わなかった?」

初月「あぁ、そういえば秋津洲と何か打ち合わせをやっていたな。」

雪風「こんばんは。」フキフキ

時雨「あぁ、雪風。丁度雪風の話をしていた所だよ。」

雪風「GEの新型ガスタービンに積み替えしていた所なんです。」

雪風「積み替えた奴は慣らし済み扱いで横須賀の試験用艦隊に売り払うとかで。」

雪風「明石さんもちゃっかりしてますよ。まぁ、その分だけ代金から割り引いて貰いましたけど。」

時雨「明石さんらしいね。」フフフ

雪風「今頃、秋津洲さんが再整備と梱包しているんじゃないですかね?」

雪風「それにしてもいったい何の用でしょう?」



大会議室



時雨「あっ、北上も来てたの?」

北上「ポーちゃんと一杯やってたんだけど呼びだしとあっちゃねー。」

ポーラ「酒の追加を要求します~。」エヘエヘ

ポンと注目を集める為の手拍子一つ。

提督「みんな集まったな。最初に言うと緊急事態だ。」

提督「緊急事態宣言時は特約に従い抗命権は一時的に停止される。命令拒否は無しだ。」

摩耶「そういえばそんな規約あったねぇ。……、ここが緊急事態になるって何が起きたっていうんだい?」

提督「ブルネイの石油関連施設が全てやられた。うちの燃料等が1ヶ月もすれば干上がる。」

雪風「あらら…。」

提督「そんな訳でな、うちも飯を食わにゃならん。敵の物資をかっぱらう。」

提督「詳しくは不知火が説明する。不知火。」


不知火「ここからは不知火が説明させていただきます。」

不知火「まずはこちらの海図をご覧下さい。」



正面の壁にプロジェクターで周辺海図が映し出される。



不知火「私達の88鎮守府からこちらの方向へ60海里。敵の大規模集積地があります。」

摩耶「あぁ、知ってるよ。あそこは警備が無茶苦茶きっちいんだよぉ。」

瑞鶴「そうね。まぁ、あっちはわざわざちょっかいかけに行くような所じゃないわね。」

川内「そうそう。美味しくない。」

不知火「えぇ、そうです。皆さんが認識されている通りここの集積所は難攻不落です。」

不知火「今まで正規軍、表の連中や米軍と合同で攻略を目指して襲撃をかけた事もあるようですが

    そのこと如くが失敗しています。」

不知火「作戦の説明の前にここを落すことのメリット、デメリットを改めてお話させていただきます。」

不知火「ここを落せば私達は燃料他、十分な物資を得る事が出来ます。」

不知火「また、敵の補給線を絶つ事になる為おおよそ3ヶ月程は敵を黙らせる事が出来ます。」

不知火「アメリカからの協力金、早い話、代わりに攻略してやるから金をよこせで

    取り付けた報酬金が500万ドルです。」

一同「おぉぉぉ――――。」ドヨ


不知火「ですが、金額に見合っただけのリスク、

    つまりデメリットがある事を理解してください。」

不知火「作戦の説明に移りますが守将が2姫、防空埋護姫と集積地棲姫がここの指揮官です。」

長門「艦種詐欺と陸上タイプか……。」

不知火「そうです。どちらにも対応出来る様な装備を選ばなくてはなりません。」

不知火「続いてここが難攻不落となっている理由を説明します。」

不知火「敵の拠点はこちらの島にありますがその左右を山のある島に挟まれています。」

不知火「この為、山を越えないと空爆が出来ずこの山には砲台子鬼が多数配置されています。」

不知火「更に後方は開けた状態の為、機雷の設置、潜水艦による哨戒等でごり押しでの攻略も難しくなっている状況です。」

不知火「加えてこの辺り一帯の海域は深度が浅いこと、岩礁などが多いこと、

    そして、海流の流れが速いという事でまさに天然の要塞。」

川内「そんな所をどうやって落すってのさ―――。」

不知火「それをこれから説明します。」ヌイ!


不知火「まず、こちらの基地の正面ですが大小様々な島があります。」

雪風「島が多すぎて艦隊で行動するには向いてないようですが。」

長門「海路としてみても曲がりくねっていて速度が出せないな……。」

不知火「その通りです。

    正規軍の連中がこちら正面から攻めようと作戦を立てた事はあるようですが

    シミュレートするまでも無く全滅と判断しました。」

雪風「でしょうねぇ。」

提督「だが、島が多い所為で電探を置いても島同士が干渉してまともに機能しないんだ。」

提督「そして、島と島の間が狭い所為で潮の流れが速い所為で機雷もまともに設置出来ない。」

不知火「この島と島の間の間隔は航行可能な水深部分だけを考えて最大でおおよそ10m。」

グラ「実に無茶だな。」

不知火「難所は全部で5箇所。更に途中で浅瀬になっている所もあります。」



不知火が5箇所の難所のスライドを一枚ずつ見せていく。



瑞鶴「これ、航行なんて出来るの?」

初月「幾らなんでも死にに行っているような気しかしないな。」

不知火「まぁこれを見て下さい。」



不知火がプロジェクターを操作すると先程説明の難所のスライドが全て重なり合わされて映し出される。


時雨「へぇ。」

グラ「ほう。」

瑞鶴「へへぇ。」

北上「随分と狭い範囲だけど入り口から一直線に抜けられる箇所があるじゃない。」

ポーラ「一歩間違えれば浅瀬に乗り上げ島に激突ですね。」

不知火「これは綱渡りです。Operation Tightrope 実行していただきます。」

不知火「敵電探に引っかからないと言っても昼間は敵の警戒機、哨戒艦に見つかる恐れがあります。」

不知火「なので、実行時間は明後日深夜。新月の夜に実行します。」

雪風「正気ですか!?」

ポーラ「流石に昼でもいけるかどうか分かりませんよぉ?!」

川内「無茶振りが過ぎない!?」

時雨「流石に無茶だ!」



ガン。

不知火の拳が机を叩き一喝。


不知火「何もせずにいれば黙って敵にここいら一帯をくれてやる事になる。」

不知火「ここら一帯の戦線を押し上げるのに数年がかりなんですよ。」

不知火「この程度の作戦難易度でぎゃあぎゃあ騒いで貰っちゃ困りますね。」フフン

不知火「作戦は明後日夜決行します。それまではしっかりと英気を養っていてください。」



こうして高難易度作戦は実行される運びとなった。



雪風「とまれ明後日でよかったです。」

時雨「そうだね。雪風は機関の入れ替えしていたんでしょ?

   慣らし、付き合うよ。」

雪風「御迷惑をお掛けします。」

初月「僕も付き合ってもらっていいかな?」

初月「射撃管制システムを新規に入れ替えたんだけど

   艤装の再塗装もしていたからまだ試せていないんだ。」

時雨「いいよ。じゃ、明日、また改めて。」

雪風 初月「「また明日。」」

時雨「うん。また、明日。」


翌日


提督「艤装をメンテに出していた連中は動作チェックに余念無しか。」

明石「えぇ、最近の機関の流行はやはりガスタービンですね。」

提督「不知火のも換装していたよな。」

明石「えぇ、不知火さんのはRRのですね。」

提督「国内メーカーじゃないのか。」

明石「航空機エンジンと同じで海外メーカーの方が軍用品については一日の長がありますから。」

提督「P&Wとかも作っているのか?」

明石「F-14なんかのエンジン作っていましたねぇ。ですが、P&Wは航空機用だけですね。」

提督「軍事関連技術は海外の方が優れているのは今も昔も変わらずか。」

明石「艦娘に使用する兵装開発も海外の方が盛んではありますね。」

提督「初月の右の長10cm砲、右手が赤色だが、何かあったのか?」

明石「塗料が微妙に足りなかったのでとりあえず。」

提督「そうか。初月の機銃はBoforsの6連装?」

明石「えぇ、イギリス最後の戦艦ヴァンガードの兵装をですね。」

明石「機銃以外は不要といわれてしまいましたが、いい取引にはなりました。」ホクホク

提督「射撃管制のOSはどうした?」

明石「さて?」スットボケ

提督「……、ライセンス料くらいは払ってやれよ?」

明石「うっ。」



そういい残し提督は執務室へと去っていった。


スパ「明石さん、雪姉さん達は演習ですか?」

明石「あぁ、ウォースパイトさん。今の話、聞こえていました?」

スパ「いいえ?」

明石「それは良かった。時雨さん達は明日の高難度作戦に向けての演習ですね。」

スパ「えっ、私、そんな作戦聞いてない。」

明石「そりゃそうでしょ。うちのトップエースの連中しか知らされていない作戦ですもん。」

スパ「トップエース。」

明石「おっ、興味持ちましたね。普段はお教えしないんですけどね?」

明石「ちょっと此方の出す条件を飲んでいただければお教えしようじゃないですか。」ウエッヘッヘ

スパ「あら、条件って何かしら?」

明石「まぁまぁ、ちょちょいとサイン頂ければ後はこちらで……。」ヘッヘッヘ



作戦決行日

提督「それじゃ改めて説明するぞ。」

提督「今から3時間後、深夜12時丁度に攻撃を開始。

   その後、5時間後、払暁と共に米軍の制圧部隊がやってくる。

   物資は米軍が熨斗つけてここへ宅配してくれる手筈だ。」

雪風「米軍が来るんですか?」

提督「戦争に弱腰の大統領は嫌われる。あの国は中間選挙が間近に迫っている。」

提督「深海棲艦の大規模集積地を落したと喧伝出来れば次の選挙での支持率もうなぎ登りって寸法だ。」

提督「500万にしても自分の所で攻め落とすよりかなり安くあがるから出すって話だ。」

提督「向こうに華を持たせて俺達は実を貰う、いい役割分担だろ。」

川内「流石だ。」ウンウン

提督「そういう訳だから敵の2姫を排除し、

   尚且つ米軍の歓迎パーティを開かないといけないから

   此処を出発して合計8時間以内に全てを済ませないといけない。」

長門「とんだハイキングだな。」

ポーラ「米軍のお出迎え~なら~、ピザでも焼きますかぁ~?」ピッツァ!

摩耶「有名なフレディさん家から出前を頼むか。なぁ!」ハハハ

不知火「お喋りはその辺にしていただいていいですか?」

提督「こちらから呼び出す事は無いと思うがコールサインはどうする?」

不知火「Foxyでお願いします。」

提督「分かった。吉報を待ってるぞ。」

不知火「旗艦はこの私不知火が努めます。それでは行きましょうか……。」



ザァッ。



敵集積地近く



不知火「先頭、旗艦フォクシーから全艦へ!そろそろ入り口に入ります。」

不知火「綱渡りを開始します。続いて下さい!」

雪風「相当に狭いですねぇ。」

時雨「まったくこんなスピードで航行するなんて。」

初月「月が無いな。」

北上「右に左にとまるでフラメンコだねぇ。」

ポーラ「踊りそこなうと死にますよぉ~♪」エヘエヘ



左右の間隔がほぼ無い中を両舷全速、最大船速ですり抜けていく不知火一行。



長門(流石に戦艦である私と駆逐艦の不知火では運動性能が違いすぎるな。)

長門(ついて行くので精一杯か、なかなかきついな。)

不知火「なかなか皆さん上手ですね。ポイントCを抜けた時点で脱落者がいないのは何よりです。」ヌイ!



鎮守府埠頭 不知火達出発から30分後



スパ「雪姉さん達は大丈夫かなぁ……。」

スパ「訓練の成果を見せる為に行っても大丈夫よね。」ウン!

明石「無断出撃ですかぁ?」ニタァ

スパ「あー、えーっと、そう!散歩です!散歩ですよ!」

明石「散歩ですか……。散歩に行くなら燃料、弾薬を忘れちゃだめですよ。」ニヤニヤ

明石「後、これをサービスしときましょう。」ニヤニヤ

スパ「なんですか?これ?」

明石「三式弾っていう、ちょいと楽しいクラッカーですよ。」

明石「陸上型とのパーティには欠かせない。」ヒヒヒヒ

スパ「へぇ、これはいい兵装ね。Thank you very much indeed.」



そして、ウォースパイトもこっそりと出撃していた。



敵大規模集積地



集積地「10海里地点に敵の反応ありだと!?」

集積地「なんでそんなに近くに来るまで放っておいた!!」

ヌ級「もっ、申訳ありません!単艦でうろついていたのでてっきり敵の落伍者かと……。」

埋護「単艦でここに殴り込み。随分と舐めたものですね。」

埋護「集積地さん、私が出て片付けて来ましょう。

   ここへは誰も近づけるなとの中枢様からの指示が出ています。」

集積地「いや、お前が出る程ではないだろ。部下に向かわせるさ。」

埋護「ここが落されると私達の活動に支障が出ます。」

埋護「万全を期す為ですよ。」

集積地(慎重な性格だな。……、頼もしい相棒だ。)

集積地「すまない、頼む。」

埋護「えぇ、行って来ます。」



難所ポイントE



不知火「ここを抜ければ敵の集積地は目の前です!

    最後のポイントEは最も狭く、浅いです!気を付けて下さい!」

不知火「鎮守府を出てから補足されるのを避けるために

    進路の欺瞞行動しながら来た所為で時間が押してます。急いでください!」

北上「あー、しんどーい。ヤニ吸いたい。」ゴソゴソ

瑞鶴「北上、一本貰える?」

北上「んー?あれ、瑞鶴、習慣あったっけ?」

瑞鶴「違うわよ。風を…、風を迎えに行きたいのよ。」

北上「あぁ、強引に捕まえる気ね。」シパー

瑞鶴「島と島の間を抜ける所為で風目がめまぐるしく変化していてね。」

瑞鶴「流石の私でも風の目を読むのが難しいわ。」

瑞鶴「加賀さんなら……、と、関係なかったわね。」

北上「……、私は何も聞いてないよ。後は自分でやんな。」ポイッ

瑞鶴 シュボッ

瑞鶴「ありがとう。」ポイッ

北上「あいよー。」フカー

不知火「Eポイント通過です!空母の方々は発艦をお願いします!」



一方、ウォースパイトは敵拠点左の島付近に接近していた。


スパ「と、そろそろ追いつく頃かしら?」ウキウキ


ドンドン! ダン!


スパ「あら、砲台子鬼達からの歓迎の祝砲ね。」


ヒョイヒョイ


スパ「時雨さんの魚雷ノック100連発から比べればこの程度の砲撃。」フン


ドン!ドン! ダン!


スパ「当たる方が難しいかしら?」

スパ「ENGAGE!(接敵!)」



時雨、雪風に鍛えられた回避行動により敵の砲撃を回避していくウォースパイト。



スパ「砲撃音を奏でて我が物顔している深海棲艦達。」Fuck!


ガガココン


スパ「自分達が強者と信じて疑わない自己満足。決して勝者になんてなれはしない。」


ガガコン


ウォースパイトの艤装に付いた3本の砲塔が獲物を捕らえたのか動き始める。



スパ「泥の中に沈みなさい。」Go Hell!


ドン


砲台子鬼 シャー! ×10


スパ「情けないわね。まったく持って歯応えが無い。」

スパ「いいわ、やりたい放題にやらせて貰うわ。さぁ、行くわよ……。」

ウォースパイトの砲塔が敵を捉え確実に屠っていく。

スパ「砲塔よ!葬送曲を奏でなさい!」

スパ「あっと驚かせてやるわ!」

スパ「Fire! Fire! Fire! 」

スパ「どんどん行くわよ!かかってらっしゃい!」



不知火達本隊



不知火「 ! 」

時雨「あれ?誰か僕ら以外の誰かが攻撃を始めてる?」

川内「花火が左の島から上がってるねぇ。」



そして埋護姫には運悪く、不知火達にとっては運良く不期遭遇戦の火蓋が切って落される。



埋護「艦娘!?」

埋護「こんな所に!?どうやって!?」



それはウォースパイトを倒す為に出撃してきていた埋護姫だった。



不知火「Contact!(接触!)」

時雨「 ! 」

雪風「 ! 」

長門「ENGAGE! 諸元入力完了! 全砲門、正面敵防空埋護姫へ集中!」

長門「撃てぇ―――――――――!」



本来であればその装甲は強固で定評がある防空埋護姫だが目視、

いや、相手の息遣いが聞こえるほどの距離から防御体勢も取れない状況。

そう、本当にうっかりと遭遇してしまった状況から防御体勢も取れるわけも無く、実にあっけなく撃沈した。


埋護「嘘……、私が戻れないなんて……。」ズブズブズブ

北上「すごい出オチだねぇ。」ゲラゲラ

ポーラ「かなりの強ボスキャラの筈が、これは酷いです~。」ゲラゲラ

不知火「残すは後、一姫!皆さん、全力で行きますよ!」

雪風「勿論です!」

グラ「全機発艦済みだ!いけ!」ハッハッ

ポーラ「手当たり次第、動くものは撃っていきますよぉ~。」



ボーン!



左側面からの山超えで砲撃が周囲で迎撃体勢を取りつつあった敵集団へ着弾。




長門「はっはっは!誰だか知らんが愉快な真似をしてくれる!」

初月「後は集積地棲姫だけだね。」

瑞鶴「さぁて、燻りだしてあげようじゃないの。」



スパ「Tally Ho ―――――!」

スパ「と言っても単艦だけど。」フフッ



ズガン!


ウォースパイトの砲撃が深海棲艦の陸上陣地を次々と吹き飛ばす。


スパ「神経を研ぎ澄まし……。」

スパ「狙うは大物……。」




集積「敵の襲撃がなんだ!さっさと迎撃機を上げろ!」

ヲ級「埋護姫様と連絡が途絶しています!」

集積「やられたのか!?」

ヲ級「不明です!」



情報は錯綜し混迷を極めていく。



不知火「今宵の不知火は一味違います。久しぶりの実戦です。」

不知火「血に酔わせていただきます。」ニコォ

雪風「あらら……。」

雪風「時雨さん、戸締りはしてきましたか?危険ですよー、あれは。」

時雨「やっぱりそうなの?」

雪風「型番の上で雪風の姉ですよ?並である訳がないじゃないですか。」

時雨「それもそっか。」



通称ロケランを集められた物資を避けながら打ち込んでいく時雨に雪風。

迎撃の為に出て来た雑魚、三一連中は吹き荒れる暴風に勝てる訳も無くやられて行く。



摩耶「雑魚ばっかりだねぇ。歯ごたえないや。」

集積地「畜生!何してくれやがる!」



怒りに狂った集積地棲姫が迎撃の為に前線に出てくるが

この後、それは悲しいかな無意味な結果となってしまう。





                  『 23,400m 』



キロに直して約23km

この数字が何かというと戦艦ウォースパイトがカラブリア沖海戦にて

移動中のイタリア戦艦に砲撃を命中させた記録である。

砲撃に関して少しでも知識のある方ならお分かりいただけると思うが

砲弾が仮に音速で飛んだとしても20km先に到達するには1分以上の時間がかかる。

ましてや敵は軍艦、移動目標なのだ、今、見えている位置ではなく

1分後の位置を予測して撃ち込まなければならないのである。

戦艦の主砲でいかに20kmも先の相手に当てる事が難しいかという事である。



スパ「私は戦艦ウォースパイト。その魂をこの身に受け艦娘になりし者。」

スパ「雪姉さんや時雨さん、不知火教官にグラーフさん、そして同じ戦艦の長門さん。」

スパ「皆さんが私に艦娘としての基礎を改めて教えてくれた。」

スパ「皆さんのおかげで今ならやれる。」

スパ「今の私なら視える!」

スパ「We will (私達はやれる)」



ガコガコガコン

可視範囲外の位置にいる集積地棲姫を討つべく仰角を修正し始める各砲塔。

ガッコン

そして、その動きを止めた。





                「LOCK YOU !(捉えた!)」




ガオン!

その砲声は一際大きい獅子の咆哮。



集積「えぇぇっ!?」ドン!

スパ「手応えあり!」

不知火「敵、指揮官発見!総員、敵指揮官から周辺から退避!」



本来なら排除が命令されるはずなのだが。

ドン!ドン!ドン!



集積地「ぐわぁぁ―――――!」



何処からかの砲撃が集積地に全弾命中。

この攻撃により集積地棲姫を失い深海棲艦陣営の敗北が決定づけられた。



一夜明けて



不知火「ぬい―――……。」

提督 クックック

提督「褒めるか怒るかで悩んでいるんだろ?」

提督「怒るのは最高責任者の俺の仕事だ。お前は素直に褒めてやっておけ。」クックック

雪風「大戦果です!」

時雨「左の島の護衛を黙らせたばかりか集積地棲姫をスナイプだなんて、びっくりだよ。」

提督「とはいえ作戦内容を聞かずに無断出撃。脱走行為と言われても仕方ないからな。」

不知火「ぬ―――――い……。」

提督「流石にいつぞやみたいに散歩に出て海上で

   『 たまたま 』敵に出会ったなんて言い訳がたたない。」

提督「武装を担いで明確に敵の施設へ襲撃をかけているからな。」

長門「だが、敵に動揺を与え此方への対応を間違えさせたのも事実だ。」

提督「その通り。」

提督「ここは懲罰部隊的な意味合いもあるから軍規を疎かにするわけにはいかんしな。」クックック

提督「ウォースパイトには謹慎1週間でいいだろ。」

提督「不知火、それでいいか?」

不知火「私に異論は無いです。」

提督「腕が立つやつらを正規軍と同じ型に嵌めるのが無理というもんさ。

   これがうちの特質だ。」フフフ


謹慎の為、普段使用している自室から提督の先導により別室へ向かうウォースパイト。

ガチャガチャ。



提督「謹慎中はこの部屋に居てくれ、ここが作られてから使われたことの無い貴賓室でな。」

提督「早い話、偉い人の接待というか宿泊用の部屋だ。

   調度品とかは良い物を使用しているから好きに使ってくれ。」

提督「後、謹慎とは言うが部屋の鍵は掛けないから勝手に出入りしていいぞ。」



バタバタ。ガシャガシャ。



川内「あっ、提督。長机持って来たよ!後、鉄板にガスコンロも!」

摩耶「明石さんの所に食材が米軍から色々来てたから貰ってきたぜ!」

スパ「あの、何を?」

提督「ん?」

提督「お前、あれだよ。勝っただろ?」

スパ「はい。」

提督「んで、お前がMVPだろ?ならするこたぁ一つだろ。」

グラ「Admiral、ビールサーバーを持ってきたぞ。」

長門「提督よ、宴会会場はここか?」

初月「提督、ただ飯が食えると聞いたから来たよ。」

雪風「色々食材を持ってきました。」

提督「食べられるもんなんだろうな。」

時雨「それは大丈夫だよ。」



作戦に参加していた艦娘達が集まってくる。


雪風「先日は素晴らしい狙撃でした。謹慎中のティータイムにどうぞ。」



つH.Rヒギンス 紅茶セット詰め合わせ ウエッジウッド製テイーセット



時雨「僕からは紅茶のお供に欠かせないこれと、お湯を沸かすのに便利な道具の差し入れだ。」



つ 像印 瞬間湯沸かし器 F&Mジンジャークッキー



スパ「あっ、ありがとうございます!」グス

瑞鶴「一週間謹慎だって~?」

瑞鶴「暇を潰す為にこれ、あんたにあげるわ。」



つ PS4本体 ソフト MHW 



初月「僕はこれをあげよう。」



つ Game of Thrones第1~6シーズン全DVDBox



スパ「ありがとうございます!」



長門「一週間の間は暇だろう。これは私からの差し入れだ。」



つ ノートPC(ゲーマー仕様)



長門「色々有名所はインストールしておいた。一週間はあっという間だ。」

長門「お勧めのゲームはCivilazationだ。ほどほどにな。」

グラ「あぁ、今回の活躍。実に素晴らしかった。」

グラ「謹慎期間中は何かと暇だろう。私からこれを差し入れしよう。」

グラ「いい暇潰しになると思う。」



つ 青島文化教材社 1/700 雪風



グラ「こちらに塗装、工作に一通り使うものを入れておいた。役立てくれ。」

グラ「それが組みあがったら少し難易度が上がったものを差し入れに持って来よう。」

スパ「ありがとうございます!」



北上「おー、なんか店開けそうなくらいにいっぱい貰ってんねー。」

北上「あたしからはこれね。」



つ 新谷かおる著 エリア88全巻



北上「面白いから全部読んでね~。」

ポーラ「うぇへへへ~。ポーラからはこれで~ス。」ダン



つ スコッチウィスキー 1ケース



ポーラ「全部飲んで、肝臓壊しやがれ~でース~。」エヘエヘエヘ

川内「私からはこれ!室内トレーニングマシーン!」

川内「出撃できないと色々体がなまるからね!」

摩耶「あたしからはこれだ。」



つ 人を駄目にするクッション



摩耶「やっぱりリラックスタイムってのは重要だと思うんだよ。」ウンウン

不知火「不知火からはこれです。同じくリラックスタイムに使用してください。」



つ バスクリン1ケース



提督「色々多いな。」フフフ

提督「後、これは俺からだ。紅茶を飲む時に食べるといい。」



つ ハーシーズチョコ 330個入り 5袋


提督「さてと、それじゃぁ、宴会を始めるとするか。」

提督「と、お前。何、泣いてるんだ?」

スパ「こんなに優しくされたの初めてで……。」ウェッウエーン

提督「うちの連中はこんな感じだ。常に生きるか死ぬかで綱渡りやっている様な連中だ。」

提督「正規軍より仲間意識が強い、後、楽しめる時は楽しむのが長生きのこつだ。」

提督「お前も楽しんどけ。」

スパ「はい!」ズビー



宴会は翌日朝近くまで行われたそうである。


おまけ的番外編のような話  世界は革命を待っている!

♪ Совет марш

ドンダンパンパカパン

力強い太鼓とラッパの軽快な音が響き、居並ぶ軍服姿の男達が口々に謳い始める。


Наш Советский Союз покарает

カツンカツン

Весь мир от Европы к Неве на восток


一人の女性がトレンチコートを肩に掛けたまま港をゆっくりと進む。


Над землёй везде будут петь

カツンーカツーン

Столица, водка, Советский медведь наш!


口に咥えたパイプからは煙がたなびく。


Все народы здесь стоят того,


女性は前のみを見てただまっすぐと進む。その左目の下には抉られた様な戦傷。


Что мы все воплотили на свет,


その周囲を多くの軍人達がデモンストレーションをするように駆け足で走る。


Благодарный низкий поклон


いくつもの陣形を見せそれは女性の進路左右に通路を作るように整列。


От самой могущественной в мире!

ガツーンカツーン

Наш Coветский Союз покоряет весь мир


軍人達が左右に居並ぶ通路の真ん中をなおも女性は進んでいく。


Как огромный медведь на Востоке.

ジャコン!ジャキッ シャキキン!

Овцы бродят бесцельно, без всяких забот


軍人達が肩に下げたAKMのコッキングを引き弾丸を薬室へ送り込む。


Наш советский медведь на охоте.


歩いていた女性が列の出口に立ち男達の方へ振り返った。


「諸君!世界革命が達成される時は近い!」

「我らソヴィエトの威光はこの世界を余す事無く照らすだろう!」


Ураaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


スパ「おぅ。とっとと起きろや。」ペチペチ

ガン「あっ、あれ……。」ショボン

雪風「そこの露助。寝ぼけてないで起きて下さい。」イライラ

時雨「ガングート、仕事だよ。」ユサユサ

スパ「おぅ、熊公。動けや。」イライラ

スパ「まったく新入りがたるんでやがる。雪姉さん〆ときますか?」

明石(自分の過去を棚にあげちゃってまぁ。)フホッ

ガン「あっ、夢かぁ……。」ホロリ

ガン「いい夢だったなぁ。」ベソベソ



ガングートが食堂での転寝から目覚めればそこは栄光ある祖国ではなく地獄の如き現実。

ちょいと気を抜けば前からだけでなく後ろからも『 うっかり 』『 流れ弾 』が飛んでくる楽しい職場。



秋津洲「カッカッカ!残念だったかも!これが現実かも!」

長門「スパイ行為がばれて解体(銃殺)されなかっただけでも良しとすべきだろ。」

長門「まっ、仕事を頑張るといい。ここは初めての人にも優しいアットホームな職場だからな。」ポン

ガン「うわーん。」(泣)

不知火「司令、彼女は何を?」

提督「あぁ、内通者を炙り出す為に仕掛けてた

   どうでもいいネタに食いついたアホというか残念さんだ……。」

不知火「どうでもいいネタ。」

提督「あぁ、元帥がかつらというジョークネタだ。」

不知火「かつら……。」

提督「仕掛ける方も仕掛ける方だが掛かる方も掛かる方だよ。まったく。」

提督「スパイを地位ある人間と入れ替えるのに身体的特徴は重要だと言ってもな。」

不知火「間抜けですね。」

提督「まったくだ。」

以上で本日分の更新終了です
時代劇ネタなんてやってるから更新が遅くなるんだよ!と怒られそうですが
遅くなりお待ちいただいていた読者の方へはお待たせして申訳ありませんでした
オリジナルエピソードが多かったので今回のウォースパイトの話は元ネタに即した感じで作成しました
OVAにもなっていたと思います
そういえば、エリア88みたいにキャラがポンポン死ぬ漫画は最近少なめですね
1自身は艦これ2次で色々書いてますがキャラクターの死については
きちんと意味有る死なせ方をするのであればオッケーとする感じです、死なせるなら格好よく役割を持って死なせたいですね
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました
また、前回の更新以降レスをたくさんいただき本当にありがとうございました

>135 第五話×→第六話○ の間違えです
誤字が誤変換が無くならない相変わらずの残念クオリティ……
今回のエピソードは時代劇の短編でボツネタを追加した際に告知しておりました
鎮守府創設初期のお話です、ボツネタって何?という方は 必殺! 仕事人! の艦これSSをお読みいただけると幸いです
では、本日の更新をさせていただきます


第七話 嘘つき兎と泣き虫駆逐艦 前編


それは88鎮守府が出来てすぐのお話し。

鎮守府に所属している人数がまだ少なかった頃の話。



雪風「しれぇ!雪風、帰って来ました!」

提督「お疲れ。戦果報告は不要だ。

   お前はいつも最善手で最高の結果を出してくれる。」

雪風「信頼してくださりありがとうございます!」

提督「お前になにかある様じゃここも終わりだ。尻に帆をかけて逃げるさ。」ナデナデ

雪風 エヘヘ

提督「にしても、お前も俺について来なくても良かったんだぞ?」

雪風「しれぇは雪風を幸運艦雪風ではなく駆逐艦雪風として見てくれました。」

雪風「雪風を雪風の能力のみで評価してくれたしれぇはしれぇが初めてです。」

雪風「実力で公平に評価してくれる限り雪風はしれぇに付いていきます!」

提督「面と向かって言われるとなかなかおもはゆいな。」フフフ

提督「食事にするか……。」

雪風「はい!」



食堂



不知火「司令、お疲れ様です。リストが届きました。」

提督「ありがとう。不知火も食事にするか?長門は一緒か?」

長門「あぁ、提督。ここに居たか今度の補充兵なんだが。」

提督「まぁ、食事を先にしようや。飯だけはいいぞ。」

不知火「司令、次回の補給と共にくる補充兵ですが志願兵も幾人かいます。」

長門「後は死刑、服役免れの懲役兵だな。いずれにしろはみ出し者だ。」

提督「解体で死ぬより此処に来て少しでも長生きする事を選ぶ連中だ。」

提督「多少なりとも灰汁が強くないと面白くないだろ。」

雪風 モグモグモグ

提督「にしても雪風はよく食うな。これも食べるといい。」

不知火「司令、食事はしっかりと食べないといけませんよ。」

提督「俺は食が細いんだよ。勘弁してくれ。」



不知火から受け取った書類をペラペラとめくりながら

88鎮守府へ送られてくる囚人達を確認する提督。


提督「ほとんどがワンウィークだろうな。」

不知火「不知火もそう思います。」

雪風「ワンウィークですか……。」ショボン

提督「あぁ、すまない。話題が悪かったな。」

提督「長門、不知火。すまないが続きは後程執務室で頼む。」


執務室



提督「さてと、話の前に一服いいか?」

長門「駄目と言ったら?」

提督「遠慮するさ。俺はコブラが好きだからな。」

長門「宇宙海賊か。」フフ

提督「あぁ、スターバックスでは流石に遠慮するそうだ。」フフ

長門「成程。禁煙の場所では奴も葉巻は控えるからな。」

提督「あぁそうだ。」

長門「ならば遠慮してくれ。」

提督「そうか。」ヤレヤレ

不知火「そうです。健康は大事です。」

提督「そうか。」ショボン

不知火「はい。」


提督「本題に入ろうか。何人使えそうだ?」

長門「教導をやっていた不知火との意見交換での結論だが来た内の1割残ればいい方だな。」

長門「他は葬儀屋を手配する方が早い。」

提督「………。ここの危険度を考えればもう少し少ないと思っていたが意外と多いな。」

長門「大甘採点の私と辛口採点の不知火とでの中間だから問題ないと思う。」

提督「そうか。足して割っていい塩梅か。」

提督「雪風がまた悲しむなぁ……。」

長門「提督よ、あの雪風は『 死なず 』の雪風なのか?」

提督「やっぱり気付いていたか。

   雪風はその渾名で呼ばれるのは好きじゃないから止めておいてくれ。」

不知火「私からもお願いします。」

長門「言われずとも。纏う雰囲気が駆逐艦のそれじゃなかったからな。」

長門「ただ、あの雪風を使いこなすとは。提督よ。お前の過去もその内聞かせてくれ。」

提督「そのうちにな。」

提督「まぁ、渾名の由来となっているが雪風は色々移動が多くてね。」

提督「俺が丁度10人目の提督だそうだ。だけに、仲間を大切にしたがるんだ。」

長門「10人目。」

提督「あぁ、鎮守府機能を失うような敵の攻勢にあった激戦区ばかりを経験している。」

長門「問題があるのか?」

提督「誰か死ぬ度に人知れず物陰で泣くような繊細な奴なんだよ……。」

提督「そして、仲間を大事にするくせに仲良くなりたがらない。」

提督「腹の底を見せ合える相手になるのは大変だぞ?」

長門「私は仲良く出来ているが。」

提督「あいつがお前を認めているからだよ。良かったな。」

長門「そうか、誇らしいな。」

不知火「話題を戻しますが懲役組みで見所がありそうなのはこの数人だけです。」



ペラペラと艦種、艦名、略歴を確認する提督。

そして、ある駆逐艦の所でその手が止まった。



提督「駆逐艦卯月か。ほう。睦月型のカタログスペックをハンデにせず戦うか。」

提督「面白そうな奴じゃないか。」

不知火「雪風とペアを組ませてみようかと思っています。」

提督「いいぞ。それで進めてくれ。」


数日後 大会議室



室内には志願組みと懲役組み双方が集められ鎮守府での特殊システム。

懲役の軽減や脱走時の取り扱いについて、武器、弾薬の供給について説明がされていく。



提督「事前の契約状況を確認すると全員傭兵契約を結んだようなので

   それを前提として話を進めるぞ。」

提督「燃料や弾薬はお前達に支払われる給料からそこに居る明石を通して購入してくれ。」

明石「どうぞ宜しく。」

提督「この明石はお前らがいた鎮守府のアイテム屋と熟練度が違う事を先に言っておく。」

提督「何かして返り討ちにあいミンチになっても俺は関知しない。面倒は嫌いなんでな。」



そして、鎮守府での細かなルールや契約についての説明が終わった後、質疑応答の時間。



卯月「質問。懲役組みが武装蜂起して鎮守府を乗っ取ったらどうなるぴょん?」

提督「やってくれてかまわんぞ。出来るならな。」



提督があっさりとした口調で言い終わるより前に

質問した卯月の頭には既に数名の砲口が突きつけられていた。



提督「定時連絡が無くなると指揮官死亡でここを丸ごと、

   地図から消す勢いで空爆、砲撃する事が事前の取り決めで決まっている。」

提督「俺を人質に立て篭もるつもりの奴に先に言っておくが

   俺の首は南瓜祭りのランタン程度の価値もないからな。」

提督「それに脱走も含めて反乱分子には自動的に多額の賞金

   もしくは刑期軽減報酬の報酬がつけられる。」

提督「金か懲役年数の軽減目的の奴には寧ろ出てくれた方がありがたいんじゃないのか?」

提督の言葉に色めき立つ志願組みと不敵に笑う一部の懲役組み。

提督「そういう事だ。余計な事は考えずに仕事に当たってくれ。」



そういい残し提督は部屋を出て行ったのだった。



卯月「碌でも無いぴょん……。」



数ヶ月後 鎮守府埠頭



鎮守府の面子は殆どが入れ替わり最初から残っていた者も極わずか。

任務を終えた卯月は埠頭の係留杭に腰かけ水平線に沈む夕日を見ながら黄昏ていた。



卯月「命が紙切れ一枚より軽い所だぴょん……。」

長門「なればこそ生きている事を楽しめよ。」



卯月が声に気付いて顔を上げれば生ける伝説、

但しここに来るまでは死んだと思っていた戦艦長門のネームド。



卯月「長門かぴょん。今日の戦闘でも死ななかったぴょん。」

長門「仏との縁より閻魔との縁が強かったらしくてな。」

長門「八大に就職する前に現場経験を積んで来いというありがたい天の采配だ。」

卯月「へらず口ぴょん。」

雪風「卯月さんは演技していますよね。」オツカレサマデス



長門との会話に続くは一緒に出撃をしていた雪風の言葉。


卯月「 ! 」

卯月「いつから気付いていたぴょん?」

雪風「最初の顔合わせで雪風のファンネルマークに一瞬驚きの表情を見せた時からです。」

雪風「雪の一文字だけをファンネルマークに登録している雪風は私だけです。」

雪風「そして、そのマークを知っているのは雪風と何処かで接点のあった艦娘。」

雪風「雪風は自慢ではありませんが激戦区ばかりを渡り歩いています。」

雪風「どの激戦区も一瞬の油断で閻魔が拝める場所でした。」

雪風「それらの場所を生き抜いた艦娘が並みの筈がありません。」

卯月「降参。『 死なず 』と言われた貴方には敵わないよ。」



白旗をあげましたといった表情の卯月の口調はいつものそれではなくなる。


卯月「ラバウルで隣の戦区で戦って偶然命を拾ったの。」

卯月「ラバウルも酷かったさね。私が居た鎮守府も塵になったし。」

卯月「命をどうにか拾った時に思った。」

卯月「卯月って艦娘は『 頭うーちゃん 』なんて馬鹿にされるくらい

   アホキャラ扱いされているのならそれを演じ、

   味方に戦闘に使えないと思って貰った方が

   後方任務ばかりで楽なんじゃないかって。」

卯月「艦娘それぞれに若干の個体差があるように私の語尾も後付のキャラ付けよ。」

卯月「演じるうちに地になりそうで嫌気もさしていたけどね。」

雪風「随分と苦労されたんですね。」



雪風の言葉に手をひらひらと振り否定する卯月。



卯月「他の艦娘卯月に倣い嘘をついて後方任務に回っていたから雪風程は苦労してないよ。」

卯月「最もその嘘がばれて敢闘精神無しの烙印を押され、

   挙句に見に覚えのない失敗諸々込みの軍法会議で懲役50年。」

卯月「収容先は、お偉いさんが艦娘を食い散らかす為にある様な所でね。

   どんな変態プレイでも修復材ざばぁーで元通り。」

卯月「異物挿入、四肢切断なんて序の口と聞いて頭がいかれてると思った。」

卯月「それなら死に場所が選べるこっちの方がいいかと思ってこっちを選んだだけ。」

雪風「そうですか。」



さしだされる雪風の手。



卯月「握手?」

雪風「改めてです。

   お互いに命を預ける相手であれば隠し事無くいける事が重要と雪風は考えています。」

卯月「あぁ、成程。それじゃぁよろしくお願いするぴょん。」

雪風「……、口癖が地になるって怖いですね。

   後、雪風は死なずの渾名は好きじゃないです。」ニギニギ

卯月「……、うっかりするとどうしようもない。渾名については了解。」ニギニギ

卯月「これから改めて宜しく。」ニコニコ

雪風「こちらこそです。」ニコニコ


それからの雪風と卯月のコンビは報酬金ランキングの駆逐艦部門で常に上位に有る様になった。

鎮守府が開設して半年を過ぎる頃には面子の入れ替えは相変わらず激しいものの空母や戦艦。

軽巡、重巡、軽空母、潜水艦、志願、懲罰といった種別に関係なく戦力は充実していった。

そしてそれに合わせて鎮守府に寄せられる任務という名の無茶難題、

依頼という名の民間協力要請も右肩上がりに増加していた。


ある日の埠頭



提督「先客か。」



提督が一服の為に埠頭までやって来ればそこには咥え煙草で水平線を見つめる卯月が居た。



卯月「なんだ司令官か……ぴょん。」フィー

提督「実にわざとらしい語尾だな。」

卯月「面倒だから素でいい?」

提督「かまわんよ。お前も喫煙習慣が?」



胸元から煙草を取り出した提督の紙巻に慣れた手つきで火をつける卯月。



卯月「見た目に精神年齢が引き摺られる事がないからね。」

提督「今日び喫煙者は肩身が狭くていけない。

   ついには執務室ですら禁煙になってしまった。」ヤレヤレ

提督「それはそうと雪風と上手くやってくれている様で感謝する。」

卯月「………。」

提督「生き残ればそれだけ他人の死に際に立ち会う事が多くなるからな。」

卯月「死神だの三途守だの言われているのは知っている。

   でも、あの娘。見た目に精神年齢が引っ張れているようには見えないけど?」

提督「強くあらんとしているからだろうな。」

提督「それでお前はどうするんだ?」

卯月「どうとは?」

提督「任務に仕事で稼いだ金は結構な金額になっている。」

提督「今のペースで行けば来年の今頃には懲役分の金は払えるぞ?」

提督「払った後を如何するかはお前さんの勝手だがな。」

卯月「そうだねぇ。

   まぁ、無一文で此処を出て行くのもあれだから終わっても暫くは働くと思うよ。」

提督「その時は一声掛けてくれ。契約の切り替えが有るからな。」

卯月「分かったぴょん。」

提督「お前、どっちが素なんだよ。」フフ


卯月「長い間キャラを演じているとどっちか分からなくなるのよ。」

卯月「それより司令官。新しく空母が来るって聞いたけど?」

提督「志願組みだがな……。」

卯月「ワンウィークかぁ……。」



適合者が艤装との適正試験を経て艦娘として海軍に入る。

しかし、よく言えば公務員。

賃金、身分の保証、福利厚生はしっかり出来ているし世間での最低水準よりはずっといい。

だが、あくまで最低よりなのだ。

稼ぐ理由があるから海軍を志願した者には圧倒的に足りないのだ。



卯月「雪風と潜水艦狩や輸送船団護衛にも飽きてきたと話をしていた所。」

提督「ん?長門やそれ以外にも空母連中とかと

   合同で敵泊地強襲とかもよくやってなかったか?」

卯月「司令官、察してよ。」

卯月「女心の分からない朴念仁って言われない?」

卯月「大きな仕事を請けて儲けるには面子の入れ替わりの無いチームを作らないと。」

提督「今度来る空母をチームに入れて飛躍を狙うつもりか。」

卯月「Exactly」

提督「随分と丁寧だな。」フフン

提督「まぁ、お前が面倒みてくれるなら俺も頭を悩まさずに済む。」

提督「宜しく頼むよ。」



そう言いフィルター部分まで燃え尽きた煙草を消すべく携帯灰皿を探す提督。


提督「ん……?」ペタペタ

卯月「どうした?」

提督「何処かに落してしまったらしい。」

卯月「それならこれを使うといいぴょん。」



自分が咥えていた煙草を消し提督に使えと自らの携帯灰皿を差し出す卯月。



提督「兎型のか。随分ファンシーな小物だな。」

卯月「うーちゃんも女の子ぴょん。」

提督「こきやがれ。女の子は煙草なんて吸わねぇよ。」



受け取りながら卯月の女の子発言を否定する提督。



卯月「ぷっぷくぷーだ。」ベー



そう言い残し去っていく卯月の背中を見送り携帯灰皿を返し忘れた事に気付く提督。



提督「……、まぁ、そのうちでいいか。」



そう考え提督は卯月から借りた携帯灰皿をズボンのポケットに仕舞った。

以上で本日分更新終了です
設定をお借りしているエリア88っぽい雰囲気を維持出来ているのかなぁと考えながら書いています
オリジナルエピソードの方が多いので何ともなのですが……
かと言ってまるっとそのままでも海と空の違いがあるしなぁと思考の袋小路へ
更新が最近は今までより遅れがちでお待ちいただいている方へは申訳ありません
次回更新はなるべく早くとは思っています、本日もお読みいただきありがとうございました
乙レス、感想レス、励みになっています、レス書き込みありがとうございます
では、また次回もお読みいただけると幸いです

一週間に一度くらいの頻度で更新できたらなぁと考えつつ
本日の更新に参りました、お時間宜しければお付き合いいただけると幸いです
卯月編は次回で最後でございます、ほっこりとした感じでの進行、たまにはいいかなぁと


第八話 嘘つき兎と泣き虫駆逐艦 中編



ブ ――――――――――― ン  ブロロロロ


提督「秋津洲、港から倉庫に行くところか?」フカー



キッ!



秋津洲「そうだよ!倉庫に行ったらそのまま納品書を執務室の不知火に届けに行くかも。」

提督「そうか。ついでに俺も執務室に納品してくれ。」ヨッコイショ



秋津洲が運転するターレットに繋がれた荷車の上に腰掛ける提督。



提督「一服しに港まで歩いてきたが本館建屋に歩いて帰るのがめんどうくさくなてなぁ。」

秋津洲「煙草は駄目だよ!」



胸元をごそごそとしていた提督を一瞥し先手を打つ秋津洲。



提督「今日入った荷物か。」ヤレヤレ、キンエンカ

秋津洲「うん!明石さんがゴニョゴニョした艤装かも。」



ゴニョゴニョとは出所不明の試験艤装のちょろまかし。

日本から技術供与を受けた国も最近、艤装の開発に成功し実戦配備が進んでいる。

そんな中、実戦配備前の試験用である為に量産性を無視し、

スペックを追い求めた艤装なんかも当然存在する。

所謂、Xナンバーが割り振られる艤装である。

そして試験、実験用艤装は役目を終えれば機密保持の為に厳重な管理の下処分される。

話は変わるが、提督の鎮守府は稼動を始めて今の所、葬式が出ない日は無い状態である。

提督曰く後1年もすれば実力の有る奴、無い奴が篩い分けられるだろうとの事だが。

そして、死んでしまった娘の艤装は可能な限り回収される事となっている。

なにせ五星紅旗を掲げた船が海上警備といいつつ大破艦娘の強奪や

深海棲艦の死体漁りを行っていたりする現状が有る以上

戦後を考えれば機密情報が漏れるのは少ない方がいいのだ。

そして資源が少ない我が国では素晴らしき、

もったいないの精神もあり再使用可能な艤装は整備、修理の上で次の艦娘へ提供されるのである。

後はお分かりだろう、この回収した艤装の登録番号と試験艤装の番号を

チョイチョイと入れ替えてあら不思議、艦名と、がわは同じだけれど

スペックがおかしな日本艦娘艤装が一丁あがりという訳なのだ。

もっとも最近は艤装の提供元も心得たもので

一般的な鎮守府の稼働率ではないここの稼働率に目をつけ

耐久試験代わりに明石に『 スクラップ 』で処理したとして艤装を提供していたりもする。

見返りは深海棲艦へ使った実戦データーである。

非合法取引なのに信用第一というおかしな信頼関係もあったりするのでお笑いだ。


提督「まぁ、あんまりおかしな物にしなけりゃ何も言わんがね。」

秋津洲「三個一、四個一が珍しくないから今更かも?」

提督「だな。まぁ、リサイクルは大事って事だな。」



艤装のリサイクルは時として部品取りなどして

幾つかを一つにした物を新造艤装として申請する事もあった。

その時は基となった艤装以外の登録番号を抹消する事になる。

だから、がわの再利用などで新造番号の登録を行う提督は明石達のやっている事を知っているのである。

明石商会用に割り当てられた倉庫の一棟の中までターレットを運転し

棚前で荷車から荷物を降ろし納める秋津洲。



秋津洲「提督。それとってかも!」

提督「ん。これか?」



荷車に腰掛けたままの提督をまるで自分の小間使いの如く使う秋津洲。

暫くの間手伝い「んあぁー」と倉庫外で親爺臭く腰を伸ばす提督は気付いた。



提督「雪風。お前、また泣いてるのか?」



倉庫と倉庫の間の隙間で身を縮めて声を押し殺して泣いている雪風に。



提督「雪風。」

雪風「あっ……。」グス

提督「また一緒に出撃した娘が沈んでしまったか?」



哨戒だけさせていた本当に初期の頃と違い今は艦隊を組んで出撃している雪風。

荒くれ、逸れ者ばかりで挑めば当然の如く沈む者も多く

提督は把握しているものの今まで雪風に直接尋ねる事はなかった。

雪風がどんな反応をするかを知っていたから。

提督として職務を続けていれば艦娘として志願した者の遺族へ会う事も有る。

そういう場面で述べる言葉というのは当然、士官として知っている。

だが、仲間が死んだと肩を震わせて声を押し殺して無く幼子にかける言葉は何であるべきか。



提督(数をこなしていても慣れるものではないな。)フゥ

卯月「あっ!雪風こんな所にいた!ご飯食べるよ!」

提督「おう。」



提督がなんと言葉をかけたものかと考えていたら卯月がやってきてそのまま引き摺っていった。


卯月「艦娘も生まれてくればいつかは死ぬ、

   それが早いか遅いかだけぴょん。」

卯月「どうすれば仲間が死なないかなんて馬鹿の考え休むになんとかぴょん!」

卯月「ほら!今日は新メンバーが来る日ぴょん!」



ずるずるという擬音がぴったりな状況で雪風は連れ去られていった。



提督「ああいった強引な奴がいれば雪風も笑っていけるのかもなぁ。」



そんな益体のない事を見送りながらぼんやりと提督は考えていた。



秋津洲「提督、もう少し手伝って欲しいかも!」

提督「お前なぁ……。まぁ、いいか。」

秋津洲「手伝ってくれたら御礼に後ですっごい物あげるかも?」

提督「ほう。まぁ、期待しないが頑張ろうか。」


執務室



卯月「司令官。おつかれぇぃ↑」



ハイテンションな卯月がドアを蹴破る勢いで入ってくる。



提督「………。」

卯月「カップ麺?」

提督「おう。秋津洲の手伝いをしたら1箱くれてな。珍しいだろ?」

提督「10分うどんとやらが美味いらしい。」

卯月「食堂で食べないの?」

提督「募集をかけちゃいるんだがなぁ、

   今の時間を受け持ってくれる調理士が来ないんだ。」

卯月「ふぅん。じゃぁ私が簡単なのつくってあげるよ。」

提督「料理できんのか?」

卯月「基本艦娘は出来て当たり前よ?まぁ、中にはあれなのもいるけどね。」



話をしながら執務室横の給湯室扉を開けたまま、室内にある台所で冷蔵庫内のあり物で料理を始める卯月。



卯月「料理がプロ級の比叡も居れば磯風だって居るし。

   うーちゃんが前いた所の比叡はお金取れるレベルだった。」

提督「ほう。」

卯月「ジョエル・ロブションの店で働いていたとか嘯いてたけど。まぁ、料理は美味かったよ。」

卯月「私も戦後を考えて料理を基礎から教わったから

   戦後は稼いだ金で店でもやりたいねって思ってる。」

提督「やめとけやめとけ、食い物屋の8割は1年持たずに潰れるのが関の山だ。」

卯月「じゃぁ、適当な男でも捕まえて永久就職するかぁ。」

提督「捕まるといいな。」

不知火「はい、不知火もそう思います。」ズズー

不知火「このうどんは少々伸びてしまっている気もしますが。」ジロリ



この獲物は私のだと卯月を睨む鋭い眼光に提督は気付いていない。



卯月「……、でっできました。」



その殺気籠もった視線に震えつつ軽食を差し出す卯月。



不知火 ぐぬぬ! モグモグ

提督「うん、美味いな。卯月はいい嫁になれるぞ。……、と忘れていたな。」モグモグ

提督「何用があって来たんだ?」



提督の言葉に目的を思い出した顔をする卯月。


卯月「そうだった、この空母をメンバーに入れたいの!」

提督「雲龍。」



だんと執務机の上に叩きつけられたのはドラフト指名用紙。



不知火「先日相談いただいた際にお見せした資料ですね。」

提督「……、雲龍か。」



現在の卯月のチームメイトのバランスで言えば間違いなく必須の空母勢。



提督「卯月。」

卯月「ぴょん。」キラリーン☆

提督(可愛く取り繕う必要はないんだがな。)

提督「面倒みてやってくれ。」

提督(にしても、実に濃い面子があつまったチームになったな。)

提督(うちに集まってきた連中の生き残りで癖のある奴らばかりを集めてやがる。)

提督「面白い。新旧ごちゃ混ぜ。そこに最新鋭空母か。なぁ、不知火。面白そうだな。」

不知火「雪風が泣く事が減るなら不知火は何でもいいです。」

提督「お姉ちゃんしているんだな。」

不知火 ぬい! フンス


その後、チームが結成してから暫く。

彼女達は民間からの仕事を請け多額の報酬を得ていた。



卯月「金剛ネキは砲撃準備!」

卯月「雲龍はタンカーの艦橋を攻撃準備!停船しなかったら爆撃!」

卯月「天さんは護衛艦娘に停船勧告及び退避勧告を複数チャンネルかつ平文で!」

卯月「後で聞いていないなんていわれないようにね!」

卯月「加古ちゃん!」(無線)

加古「あいあいよー、雪風とお客様をエスコートしてるよー。」(無線)

卯月「やるぴょん!」



ザッザリザリザリ

卯月が拡声器をもってタンカーへ向けて停船勧告を行う。



「あっ、あぁー……。こちら○×カンパニーの債務取立てを頼まれた

 88鎮守府所属卯月ぴょーん。」

「○○国保有××資源公社への○×カンパニーの投資資産を

 ○○国政府が行った強権的国有化に対し国際刑事裁判所が

 ○×カンパニーへ対抗措置を認めた為、貴船を差し押さえするぴょん。」

「停船しない場合は軍事行動が認められているぴょん!

 なお!捕虜の取り扱いについては投降した場合において

 ジュネーブ条約における捕虜、民間人の取り扱いに基づき丁重に取り扱うぴょん!」

天龍「卯月、ありゃ停まるかね?」



タンカーは停まる素振りを見せず寧ろ海賊と判断したか増速する選択をしたのか煙突からは黒煙が上がり出す。



卯月「ネキ!ブリッジの端をやっちゃって!」

金剛「Yes!死ねやぁ!」



戦艦の砲撃が見事に決まり轟音と共に艦橋の端が吹き飛び脅しではないと判断したタンカーは停船した。



卯月「まぁ、航行に支障はないでしょ。」



そして、数十分の後、プレジャーボートより少し大きめのボートが雪風と加古の護衛つきで近づいてくる。



「いやぁ、お嬢さん達すごいねぇ。おじさん感心しちゃったよ。」

卯月「あんたが○×カンパニーの代理人?」

「と、これは失礼。私、蔵王の柳と申します。」コレメイシ



眼鏡をかけたいかにもジャパニーズビジネスマンと言った風体の男が畏まった様子で名刺を指しだす。



卯月「へぇ、超大手の総合商社じゃん。いつから町金の真似事を?」

柳「いやね。差し押さえた石油製品。まぁ、ナフサなんだけどね。」

柳「差し押さえの実行部隊に後の護衛も

  うちが手配するから割引価格で一部債務譲渡して貰ったんだよ。」

卯月「日本の総合商社は利益が出るなら悪魔とでも商売しそうだね。」

柳「おたくの明石さんと私が個人的に知り合いじゃなかったらうちも買わないよ。」

柳「もう少ししたらうちが手配したボースン達が来るからもう少し待って貰える?」

柳「後、出来れば次の目的地まで護衛をお願いしたいかなぁと。」ニコニコ

卯月「うーちゃん達の仕事はここまで。後は追加料金。」

柳「5000ドル。」

卯月「一人に付き2万。」



その後、暫しの間、価格交渉が熱く行われ。



卯月「12500。これ以上はビタ一文もまけないぴょん。」



降参と相手が両手を挙げて見せた事で交渉終了。



卯月「お宅はいい取引をしたぴょんよ?」

柳「そうありたいね。」


鎮守府埠頭



卯月「今日も儲けた!」

金剛「卯月が商売上手なおかげで儲かるネー。」

天龍「このまま行けば来月には俺はここを卒業出来るぜ。」

卯月「またチームメイト集めはだるいから天さん契約延長してよぉ。」

天龍「金は十分稼いだからな。お断りするぜ。」

卯月「また軽巡探しかぁ。」

金剛「私も順調に稼げてるネー。でも、もう暫くは世話になるヨー!」

卯月「ネキ。愛してる。」



護衛を終えた一同は夜も遅くに帰ってくる。

そして、そんな一同を待ちわびたかのように提督は港で待っていた。



提督「全員お疲れ。

   お前さん達が現地で請け負った護衛の報酬払い込み確認の紙を持って待っていたぞ。」

雲龍「ありがとうございます。」

雪風「しれぇ!ありがとうございます!」

提督「礼にはおよばんよ。出番が欲しいだけさ。」ユキカゼノアタマナデナデ

提督「後な、今月のチーム別戦果ランキング1位の報酬だ。

   休暇3日もしくは1000。好きなのを選べ。」



そう言い残し提督は各書類を卯月に渡し去っていった。


卯月「ここはなんだかんだで艦娘が優遇されているよね。」



去り往く提督の後姿を見送りなんとなく出た感想。



雪風「しれぇは艦娘をぞんざいに扱って後ろ弾くらう愚を冒すより

   気持ちよく働いてもらって戦果をあげた方が賢いって

   以前お話をした際に雪風に語ってくれました!」

金剛「確かにその方が賢いネー。ここの提督は信賞必罰がしっかりしてるヨ。」

加古「あぁ、賢い。あたしが前に居たところなんか働いても働かなくても最低保障があったもん。

   それならだらだらしていた方がずっといいってなる。」

加古「でもここは戦果稼がないと即あの世だからね。

   まぁ、あたしは志願で好んで来た口だから稼げるここの仕組みは大好きだね。」

天龍「俺なんかやる気はあっても旧型で非力だからってことで前線に出してもらえなかったからな。」

天龍「自分で戦場を選べて尚且つがっつり稼げる。前の糞鎮守府から比べれば天国だ。」

天龍「んでもって現場での裁量がでかいから

   今日みたいに追加の仕事もその場の自己判断でいけるからありがてぇ。」

加古「確かにねー。普通だったら鎮守府に連絡して許可貰ってーって感じで時間掛かるよねー。」

加古「ただ、本当に実力がないと生き残れないけどね。」

金剛「確かにその通りデース。指示を貰う事に慣れているとここでは生き残れないネ。」

金剛「雪風は提督との付き合いがここに来る前からあったと聞きましたが

   此処に来る前はどんな提督だったデス?」


雪風「負けもありましたが大きな負けはなかったです!」

卯月「………。」

金剛「………。」

天龍「まぁ、常に勝ち続ける提督なんていねぇわな。」

加古「どうせ、なんかやらかして左遷くらったんだろうと思っていたけど

   負けがあるんなら意外と並の提督なのかもね。」



雪風の言った言葉の意味を金剛と卯月は正しく理解。



金剛(被害を最小限に抑える、被害を数字で考えられる提督デスか。)

金剛(優秀ゆえに上に煙たがられたタイプですネー。)

金剛(更にいえば、ここに左遷される原因となったのも

   大きな負けをした訳では無いというのが別の原因がある事を物語ってるデース。)

卯月(数字の先にある命を敢えて無視出来るタイプかぁ。怖いタイプだね。)

卯月(戦略参謀でもやっていたのかな。触らぬ神になんとやらだねぇ。)

卯月「それじゃぁ今日は解散で!明日もよろしくぴょーん。」

雲龍「あの、こんなにお金いただいてもいいのでしょうか?」


ようやっと声を上げたのは先程まで提督から渡された振込み通知書に書いてある金額に目を回していた雲龍。



卯月「おぅ。何事かと思ったぴょんよ?」

金剛「雲龍は志願だったネー。」

雲龍「あっ、はい。弟妹達を食べさせるために志願したのですが

   お金がとても足りなかったのでより稼げると聞いてこちらへ来ました。」



ずびしっとでも音が聞こえてきそうな勢いで手をあげ此処へきた理由を述べる雲龍。



金剛「弟妹達の生活費稼ぎ。大変ネー。」オウ

雲龍「はい、ですが稼ぎ頭のチームにお誘いいただきありがとうございます、です!」



ぐぅ~。



卯月 ブホッ

加古 ブハハ

雪風 クスクス

雲龍「あっ。」



照れて赤面する雲龍。



卯月「あっ、あぁー、うん。ごめん、なんか意味不明の笑いが。」フフフッ

天龍「酷い。」フフフフ

卯月「食堂は只なんだからしっかり食べないと。」

加古「でも時間が夜8時までなんだよね。

   夜間作戦の時が閉まってて自販機しか使えないのが辛い。」

天龍「あー、それな。しかも週に1回全休の日があるのがなぁ。味はいいのに。」

金剛「Oh、今日は全休だったネー。調理士増やして欲しいデース。」

雪風「お腹が空いたです……。」



そして、全員の視線が卯月に注がれる。


卯月「仕方ない。うーちゃんが飯を作ってあげるぴょんよ?」

卯月「ヌーベルキュイジーヌ、特と味わえぴょい。」

金剛「卯月はキャラがぶれぶれネー。」

加古「まっ、余所の卯月と根本から違うよね。」

卯月「ここは演技しなくて素でいれるいい所だと思うよ。

   後、料理はフレンチ以外もいけるから好きなの注文してね。」

卯月「無理なのは作らないだけだから。」

金剛「oh、せめて無理の一言は欲しいデース……。」

天龍「あー、これは作れない料理とか頼むと

   最後まで出てこなくて空きっ腹抱えないといけなくなる奴だ。」

雪風「そういえば卯月さんは煙草辞められたのですか?」

卯月「もともと極々たまーになんとなく吸ってただけだしね。」

卯月「それにいつまでたっても美味しく感じられないし。」

卯月「司令官はあんな糞まずい草の塊を好んで吸ってるけどね。」



そこで何か思い出したように言葉を切る。



卯月「いつぞや貸した携帯灰皿はあげるって司令官に伝えておいてよ。」

雪風「はい!雪風了解しました!」

雲龍「お料理、楽しみです。」



こうして料理上手のリーダーがいる『 チーム兎さん 』はより結束を強めるべく食堂へ向け抜錨したのだった。


執務室

提督「………そろそろか?」

不知火「申訳ありません。」

コトッ

提督「カップ麺。」

不知火「申し訳ありません。」



席を立ち給湯室の台所を覗こうとすると全力で阻止されそうになるが。



提督「んっ………。」



フライパンの上には卵焼きを作ろうとしたのか失敗したなにか。



提督「そぼろにして刻み海苔を作って、そうだな。挽肉があっただろ。」

提督「三色丼でも作るか。」

不知火「!」

提督「不知火が手伝ってくれたからな。きっと美味いだろうさ。」

不知火 ぬい!

提督(部下の笑顔はPriceless か……、買えるものなら千金積んでも惜しくはないな。)



うきうきと提督の手料理を、箸を握りながら待つ不知火の姿をみてそんな益体のない事を提督は考える。

明日をも知れぬ命なら今を楽しむ事が大事だとある古参の艦娘は言った。

それぞれが食事への思いを馳せながら激戦区の夜は更けてゆく。

以上で本日の更新終了でございます
蔵王の柳に気付かれるとは恐るべし、割とマイナー作だと思ってたのですが
関係ないですが応援させていただいていた方の艦これ2次が無事に新スレたってて一安心の今日この頃です
更新の間がかなり空くかただったので立ってくれぇと念じていたのは内緒
イチャコラ成分の少ない物は書き手が少ないと思うのですが皆様はどう思われますでしょうか
ビバップとかブラックラグーンみたいなのを書く、書こうとしてエタるのはたまに見るのですが
需要はあれど供給が少ないのがなぁ……と思ってしまいます(自分でやれと言われそうなのがまたなんとも)
いつも感想、乙のレスいただきありがとうございます
SS速報自体が過疎なんて事もたまに聞きますがこれからも可能な限りは更新を続けてまいりますので
今後とも宜しくお願いいたします

ナチュラルに座王を蔵王と勘違いしておりました、読者の皆様申訳ありません…
書く前に読み直しておけという話ですね……
相変わらずのぐだぐだですが、今日の更新もお時間宜しければお付き合い下さいますと幸いです


第九話 嘘つき兎と泣き虫駆逐艦 後編




以下の者 ポイントD-97にて撃沈の為除籍手続きを行うもの也。

艦娘名 卯月 

2×××年○月×日 外地鎮守府管理番号88より除籍

敵魚雷4本を被雷し航行不能となった所を敵集中砲撃にあい撃沈

艤装登録番号 8-8-U-so800 製造番号 a-L-I4ve5963 両番号を同日付で抹消






提督「と、終わりかな。」

不知火「艦隊司令部へ送る今月の戦死報告書を受け取りに来ました。」

提督「あぁ、丁度まとめ終わった所だ。これも頼む。」

不知火「今月も多いですね。」

提督「金持ちだろうと貧乏人だろうと教皇だろうと麻薬の売人だろうと。」

提督「死だけは平等に訪れる。」

提督「仕方の無いことだ。」

不知火「その……。」

提督「あぁ、まぁ、その何だ。淡泊と言いたいんだろ?」

提督「感覚が麻痺してくるというより淡々と処理した方が哀しみというのは少ないものだ。」

提督「嘆いても死者は帰らない。俺に出来るのは忘れない事だけだ。」

不知火「不知火も忘れない、いえ、忘れません。」



鎮守府埠頭


提督「チームに居た者は雪風以外みな本土へ帰還か。」

提督「五体満足でここを出られるのは喜ばしい事だ。

   生きている喜びを噛締めてくれ。」

金剛「提督の呼びかけならいつでも応じるネ。」

提督「そういって貰えると嬉しいが此処には二度と来るな。俺が言えるのはそれだけだ。」

提督「志願にしても金を必要分稼いだら自分から地獄を覗くような真似はするな。」

天龍「なんつーか面白い提督だよな。」

加古「提督に最初に会えていたらと思うよ。」

天龍「それな。」

提督「ここでの事は忘れろ。全ては邯鄲の夢だ。良いも悪いも夢だ……。」

雲龍「提督。」

提督「卯月からの頼まれだ。あいつの残した金は全て雲龍に渡してくれと言われている。」

提督「あいつは身寄りが無くてな。雲龍の弟妹への生活費に当ててくれだそうだ。」

提督「それなりの額がある。受け取ってやってくれ、それがあいつへの手向けになる。」

提督「死者に囚われるな。……、俺が言えた台詞じゃないがな。」



そういい提督は鎮守府から日本本土への定期船便が来るのを待ち、

それへ乗り込む一同を見送り執務室へと踵を返したのだった。




執務室

雪風「しれぇ。」

提督「雪風。辛いと思うが卯月がどうしてああなったのか聞かせてもらえるか?」

提督「知っておきたいんだ。」

雪風「はい。」



そして、雪風は語り始める。卯月がなぜ撃沈したのか。

それは卯月がチームリーダー、艦隊旗艦として作戦を受けた最後の出撃。

その日の波は穏やかだった。



卯月「おおまかに掃討終ったかな。」

卯月「皆!ごはんにするよ!」



そう一声かけて取り出すはカツサンド。



雪風「ちょっと温かいです。」

卯月「艤装の排気煙突付近で食べる前に暖めるのが秘訣なのじゃよ。」フォッフォッフォ

金剛「どこの怪しい仙人デス。」



卯月が取り出したカツサンドを頬張りつつ帰投後どうすると楽しげに会話をする一同。



天龍「にしても本営から仕事を受け持った正規の連中はなんつーかなぁ。」モグモグ

加古「言われた通りにこなすだけだから他に気が回んないのよねー。」モチモチ

金剛「自分の出来る範囲内で好きにやれるのは楽しいですネー。」モグモグ

金剛「けれど敵を潰すほどに金になるのは欲張りすぎるからいけないデース。」コウチャホシイネー



大規模作戦に出た正規軍の露払いを終え先へ進む正規軍の艦隊を見送っての帰路。

その雰囲気は一仕事終えた高揚感もあり和気藹々としたものだった。





ぞわり

ぬるぬるとした足元からまとわり付く、滑りのある、あの世からの湿った空気。

足を絡め取る手。無数の亡者の手。

水底へ引き摺りこもうとする……。

その、黄泉の入り口から流れてくる瘴気に真っ先に気付いたのは雪風、そして卯月だった。



雪風「黄泉路が開いたようです。」

卯月「血と脂の匂いがする。」



そして、続いて気付いたのは金剛。



金剛「……、Hey! 地獄の釜蓋が開いたネー。死にたくなければ褌締めやがれネ。」

卯月「雲龍。周辺の索敵状況を教えて!」



促され慌てて四方へ索敵機を飛ばす雲龍。



雲龍「向うに死体が沢山。食人鬼がたくさん。」

雲龍「たくさん……。」



青褪めた顔をして索敵機からの状況を伝える雲龍。

艦娘の死体を漁る深海棲艦が食人鬼に見えるのは仕方無い事か。



卯月「チッ。」



盛大に舌打ちを一つ。



卯月「馬鹿が……。」

天龍「卯月。どうする?」

卯月「雪風。」

雪風「はい。」

卯月「どうみる?」



天龍への答えは当然撤収、ただ、艦隊を預かる卯月が考えるのは

自艦隊が被害無く撤収出来るかという事。

自分だけの考えではなく同じ、いや、それ以上の技量にある者に意見を求めるのは当然であり。

雪風の返答は。



雪風「雪風達だけなら帰りつけると判断します。」



自分達だけなら可能、それが意味する所は。



加古「友軍の生存は無いものと考えますかねぇ。」ヤレヤレ



居たとしても連れ帰るは困難。

金で命を売り買いする一同なれば天秤の針の位置は自ずと決まる。



卯月「全力で海域離脱。敵からの追撃に注意。」



ほんの数十秒で素早く判断を下すが雲龍の動きが鈍かった、

いや、離れたくないようだった。

そして、泣き始めた。



卯月(ちぃ。断末魔を拾ったか。)

雪風(生存者に偵察機を見つかりましたか。)

雲龍「あの、前に所属していた鎮守府の娘が……。」

卯月「同名艦娘の間違いじゃないのと言いたいけど。」

卯月「雪風、私に万一の事があれば旗艦宜しく。雲龍何人残ってる!?」



卯月の発言に誰も異を唱える事無く新たに陣形を組みなおす一同。

軍隊である以上の最低限のルール。

負傷者は可能である限り収容し連れ帰ること。

つまり、気付かなければ負傷者は存在し得ない、しかし、雲龍が気付いた。

そして、何がしかの交信をしている、

故にここで見捨てて行ってしまうと友軍を見捨てたとの『 けち 』が付くのだ。

その『 けち 』は時として軍法会議という結論ありきの軍事法廷への招待状となるから厄介なのだ。




卯月「生存者はいる!?」



現場へ向かい、いくつかの無線周波数帯で呼びかける。

うっうぅ……。

イ級に食い散らかされたか所々パーツがない艦娘を見つける。



卯月「楽になるための鉛弾なら只だけど?」



相手の目が頷くように閉じたのを確認して卯月は主砲を向け撃つ。



卯月「お疲れ。」



ドン



卯月「救いようの無い馬鹿な作戦をさせられているもんだ……。」

卯月が楽にした相手の装備は何にでも対応できるようごちゃ混ぜに持たされていた。



敵姫級達への情報が不足していたのであろう。

その所為で道中の敵に対応が出来ず無駄死にとなってしまっている。



金剛「大方こうなる事も踏まえての編成ですネー。」

金剛「死んで情報とって来いのやり方ネ。気に入らないヨ。」

金剛「雲龍、前の鎮守府の提督はどんな奴だったデス?」

卯月「ネキ。提督が代わっているかもしれないし聞くだけ詮無いことだよ。」

天龍「さてと皆さんおまた~?」

天龍「一応周囲捜索で五体満足で生きてたのはこの娘だけ。」



ぺいと天龍が肩から下ろしたのは睦月。



卯月「あー、輸送任務で連れて来られていたぴょん?

   今の状況分かるぴょん?」



卯月の口調で形式上の姉に語りかける卯月。



卯月「体が小さくてよかったぴょん。

   被弾面積が小さくて済む。生き残りやすいぴょん。」



この一言が余計だった。



睦月「あああぁあぁぁぁあああ!!!!」

加古「あらら。精神的にきちゃってたか。」

加古「軽口に反応できないんじゃ寝てもらってた方がいいか。」



笑顔で腹に拳を決める加古。



加古「で、どうする?救援依頼だしても仲間が来るには少し時間かかるよ?」

卯月「どうもこうも、帰るしか無い訳ですから。」

金剛「とんだ残業ですネー。」

卯月「サビ残で残業代が出ないのはどうしたものか…。」



軽口が叩けるうちはまだまだ余裕がある証拠。



金剛「といっても。周囲にだいぶ敵が集まってきてるヨ。」

金剛「禿鷲どもが死肉を漁りに来てるネー。」

卯月「全力で撤退!加古ちゃんは睦月を担いで!」

加古「あいよ。」

卯月「雪風、天さん!露払いは宜しく!うーちゃんは殿をやる!」

卯月「残業代の払いは敵の命!

   うちらの残業代は高くつくと身を持って知ってもらおうじゃないの!」



しかし、敵の追撃は凄まじく帰路であった事もあり、弾薬の残りも少なく

時間経過と共にだんだんと追撃を裁ききれなくなっていっていた。



卯月「あっちにスコールの雨雲が溜まっている。」

卯月「このまま直進すれば最短距離。さてどうする?」

雪風「スコールに紛れて敵をやり過ごし救援を待つのが最適です。

   救援に向かってきている方々に不知火さんが居ますので心丈夫です。」

天龍「だが、敵さんも楽に逃がしてはくれないみたいだぜ。」



ふーっと大きく一つ息を吐く卯月。



卯月「ネキは傷病兵として足を飛ばした元提督と添い遂げる為の資金稼ぎ。」

卯月「天さんは出身の児童福祉施設の経営建て直しの資金稼ぎ。」

卯月「加古ちゃんは相棒の古鷹だった娘の目の手術代稼ぎ。雲龍は弟妹の生活費。」

卯月「雪風は司令官との腐れ縁。」

金剛「卯月、急にどうしたネ?」

卯月「んー、みんなが生き残らないといけない理由。」

天龍「この状況での生き残らないといけない理由って俗に言う死亡フラグって奴じゃね?」

卯月「違う違う、あれよ、立てすぎた死亡フラグは生存フラグって奴よ。」

卯月「こんだけ建てておけば大丈夫でしょ?」

加古「よっ、一級フラグ建築士!」


そして、スコールの中へ転進し敵をやり過ごし、88鎮守府からの救援との合流まで後僅かとなったとき。




卯月「なんとか帰ってこれたぁ。」フゥ



この一瞬の気の緩みが首に死神の大鎌を当てさせる事となる。

シューッ

ドン!

それはスコールにより荒れた海面を走ってきた為に発見が遅れた。

そして殿を務めていた卯月に命中。



卯月「あっ、これ駄目なやつだわ。」



被雷とともに停止した主機にさっさと見切りをつける卯月。



卯月「まいったねぇ。生存フラグは他人からの借り物で建てるのは効果が無いらしいや。」



ボフボフボフ モスン



卯月「まっ、標的艦程度にはなるでしょ。」ウシッ

卯月「それじゃ皆、私はここまでだから!雪風、荷物は佐世保に宜しく!」



そう言い卯月は全員へ自分を残し撤収するようへ指示を出した。



提督「後は皆が指示にしたがい救援部隊との合流を急いだ訳だな。」

雪風「はい。」

提督「救援部隊と合流後に卯月を救援へと向かったが時既に遅しだったという事か。」

雪風「はい。」

提督「雪風、卯月は最後まで闘ったか?」

雪風「はい。」

提督「そうか。」

雪風「しれぇ。」

提督「ん?」

雪風「雪風は最後まで沈みませんから!」

雪風「沈みません!」

提督「ん。」ナデナデ



時は過ぎ、現在。

時雨「夜間出撃前に食事を採る事が出来る様に

   食堂が24時間営業ってのは改めて凄いと思う。」

雪風「ここが出来た当初は営業時間が限られていたのですが

   優秀な調理士さんをお迎えできたので24時間営業が可能になったんです!」

スパ「実際かなりの腕前ですよね。」

「おまちどおさまー。ゆっくりしていってね!」



ウォースパイトが注文していたのはカツ丼である。



スパ「いただきます。」



器用に箸をとりどんぶりの蓋を開け、

上がる蒸気のふわりとした鼻腔をくすぐる甘い香りを楽しみ、ウォースパイトはカツを一切れ。

そう、ふわりととじられた卵からカツを取りだし、ゆっくりと。

口へ、運んだ。



ザクリ。 ジュワァッ。



下ごしらえがしっかりとされた豚肉のロースにはあえて脂身が多く残されている。

そして、サックリとした食感を残す為に衣は厚めで煮込む時間は短め。

カツ丼のメイン食材のカツはフランス料理のコートレットが起源と言われている。

そのカツは脂身の脂が溶け出すギリギリのタイミングで油からあげるのが肝なのだ。

その揚げられた豚肉に付いた脂身からは

甘みが溶け出し衣に少しだけ湿り気を与え、その味の良さと来たら……。



スパ「絶妙。」



新玉葱をざっくりと切りこちらは適量を丼つゆに入れカツをその玉葱の上に載せる。

そして贅沢に卵を大量にときその上からかけ鍋の蓋を閉じる。

そのふんわりとした食感はオムレツをほうふつとさせ、食道をつるんと通過してゆく。



スパ「あぁ……。」



すでに言葉にならない程の味に震える状態だがカツ丼の良さはこれで終わりではない。

否、カツ丼の味を語るのであればその味の良さは寧ろこれからが本番なのだ。

カツを卵でとじ少しの間、煮てカツへ味をつける、その丼つゆこそが隠れた主役。

丼つゆはこの食堂では鰹節、昆布をベースとしたものを使い、醤油は九州産の甘口。

これらがおりなす絶妙な味のハーモニーは想像に難くないだろう。

その丼つゆが米へと染み、カツから染み出た脂が飯に染み、

丼つゆの効いた卵とカツとあつあつの飯を同時に口へ運べば……。



スパ「うっまぁぁああああ―――――い!」



高貴な出自?やんごとない身分?

そんなものなど糞食らえとばかりに品なくガツガツと音をたて食べるウォースパイト。

胃袋へそれらが落ちしっかりと満たされていく感覚に幸せを覚えつつ。



スパ「お代わり!」



ウォースパイトはお代わりを頼んだ。



提督「実にいい食いっぷりだな。」

提督「料理人も料理人冥利に尽きるだろう。」

スパ「そほふへつへへかへひたひでふ。」モグモグ

提督「この時間帯の料理人はフランス料理が得意でな。

   歴史的にイギリスの貴族はフランス料理人を雇っていたとは聞くから

   舌に馴染みのある味なのかもな。」

スパ「この味はフランス料理がルーツ……。

   成程、懐かしい感じがしたのはその所為ですね。」モグモグ

時雨「本当にお貴族様なんだね。」アキレ

雪風「何でこんな所でカツ丼食べて感動してるんですか。」マッタク





「お代わり持ってきたよー。」

「あれ~?司令官この時間は珍しいね。って、相変わらず食が細いね。」

提督「あぁ、まぁな。」

「不知火からもしっかり食べろって言われてない?」

提督「あー、あいつには黙っててくれ。」

「分かった。この寸胴の決裁通してくれたらね。」

提督「まったく、お前は調理器具コレクターだな。」

「料理が私に残された最後の戦場だからね。」

「ここから皆を支えるのさね。」

提督「確かに食は重要だな。」

提督「これからも頼む。」

「提督もさ、たまにはフランス料理のコース食べに来てよ。」

「ジョエル・ロブションの弟子の弟子、つまり孫弟子が美味しい料理つくるからさ。」

提督「そのうちな。」



提督は料理人の熱いお誘いをにこやかにかわし食堂を去っていった。



「雪風、司令官は相変わらず?」

雪風「いいえ、最近は以前より少しだけ楽しそうです。」

「ふーん、そっか、それならいい感じなのかな。」

雪風「はい!」

雪風「では、雪風はそろそろ失礼しますね。」

「そう?じゃ、これ注文の二人分のカツサンド。」

「食べる前に艤装の排気煙突から少し離れた所において置くといい感じに暖められるよ。」

雪風「懐かしいですね。」

雪風「では!」



雪風はそう挨拶し時雨と二人夜の海へと出撃していった。



時雨「雪風はあの料理人と知り合いなの?」

雪風「はい。あの方とは古い知り合いであり戦友だった方ですよ。」

雪風「昔の話ですが。」

時雨「そう…。そっか。」





おまけ超短編!  不知火の改二!



不知火 ぬい!

提督「ん。」

不知火 ドヤァ

提督「ん。」

明石「いや、提督。そこは何か言ってあげましょうよ。」

提督「ん?今までもこれからも俺が頼りにするのには変わらんだろ?」

提督「確かに戦力として改二が実装されたのは喜ばしいが……。」

提督「公試のデーター見る限りうちでの改造艤装以下のスペじゃねぇか。」

明石「いや、まぁそうなんですけどね。」

提督「量産機が試作機に及ばないのは良くあることだ。気にするな。」

不知火 ぬい~ん

提督「結局の所はがわの流用だな。」

明石「まぁ、中身は以前以上に弄ってますけどね。」

提督「ベースが底上げされた分だけ全体的にスペがあがったという事か。」

明石「そうですね。例えていうなら今まで軽自動車にフェラーリのエンジン積んでたのを

   今度はフェラーリの車体にフェラーリのエンジンを積んだ感じです!」

提督「成程な、スペックを無理なく引き出せるようになったという事か。」

明石「マージンが、がっつり増えたんで色々改造余地もありますよ!」

提督「そうか、逞しく、頼もしくなった訳だな。」

提督「これからも宜しくな。」

不知火 ぬい!

明石「何格好良く話をまとめてるんですか。」

提督「たまには格好つけても良いだろう?」

提督「薄毛のおっさんが格好良くあらんとするなら

   気取った言葉の一つくらいは言えんといかんもんさ。」

明石「難儀ですねぇ。」

提督「そういうものさ。」

提督「不知火。」

不知火「はい!」

提督「改めてだが、これからはよりいっそう頼りにするぞ。頼んだぞ。」

不知火「お任せ下さい。」ヌイ!

明石「よっ!禿げてても男前!」

不知火 ぬい? ギロリ



この後、不知火の新型魚雷発射装置、火器管制、

アサルトライフル式主砲のテストに明石が喜んで付き合わされたのは言うまでも無い事である。



時雨「明石さんが標的艦役やるって珍しいね。」

スパ「アルゼンチンタンゴ踊ってますね。」

雪風「ひぇ……。あの状態の不知火さんに近づいたらいけませんよ。」

以上で本日分の更新終了です
皆様、春のミニイベされていますでしょうか?
1は現在偏りという悪魔に魅入られており 米36 梅干3 海苔2 お茶2 という有様です
S勝利とってこんなに偏るなんて……、米どんだけ出やすく設定してるんだというお話
しかもこれ 米 と他の食材が出るところが被ってしまっている所為で余計に他のが出にくくなっているので辛い
今後の予定ですが後、1つか2つ程やってこのスレを落すような形になるかと思います
こちらで活動を始める前に活動していたSS投稿サイトで更新が止まっているのに
未だにしおりをつけたくださったり、お気に入りに登録してくださっている方がいるので
そっちの方の更新もしなくちゃという感じです、はい、エターナルはやっちゃいけませんです、はい……
ではでは、次回もお付き合いいただけると幸いです

皆様、こんばんは、更新に参りました
春イベの進捗状況は如何でしょうか?
2-4で福江を掘り当てバケツと資源で殴るハイペースで任務を片付けたので
後はカタパルト1枚分確保すれば1は終了です、現在のんびりモード中
変態仮面のSSで次回のおぱんつ様の安価?を頂いておりましたので
雪風、川内、くまのん、陸奥の順番でやっていけたらなぁと思っています(利根は履いていないから無理なのだ!)
ただ、筆が遅いのでそっちはこちらの気分転換で書く様になるので多分、間が空くかなぁと……
では、前書きが長くなりましたが本日もお時間宜しければお付き合いの程宜しくお願いいたします



第十話 天国への扉 前編




彼女は誰にも理解をして貰えず。

彼女は誰にも助けて貰えなかった。

それでも彼女は戦い続けた。

傷つき。

油も、弾もつき、その最期の時が来るまで。

いつか自分を理解してくれる。

仲間が現れるその時を夢見て。




88鎮守府 食堂



雪風「しれぇ、胡椒をとっていただいていいですか?」

提督「ん。これか?」

雪風「ありがとうございます!」

提督「雪風はよく食べるな。」

雪風「体が資本ですから!」

提督「そうか。すまんがこれも食べて貰えるか。俺には量が多くてな。」

雪風「餃子が10個。まったく箸をつけられていないようですが。」

提督「流石に食べさしを食ってくれと言って差し出すほどあれじゃない。」

雪風「雪風は食べさしでもかまいませんが。しれぇは食が細くないですか?」

提督「俺は事務屋だからな、それほど腹がへらないのさ。」

雪風「ではいただきます。」



提督が雪風と一緒のテーブルを離れた所にウォースパイトが食事を載せたトレー片手に現れる。




スパ「雪姉さん、一緒いいですか?」

雪風「どうぞどうぞ。」

スパ「今いたのはAdmiral?」

雪風「しれぇですね。」

スパ「先日もでしたけど士官も私達と一緒の食堂で食べるんですね。」

雪風「しれぇは一人で食事をするのは好きじゃないという事でここを利用されています。」

雪風「それに一人だけ特別メニュー等を食べるのも嫌われる方ですから。」

スパ「軍隊で士官が兵卒と同じ所で同じ食事を取るって珍しい。」

雪風「それも含めてここですよ。」

雪風「個性的な食事を食べたいのでしたら明石さんの所に行くといいですよ。」




明石の工廠

秋津洲「明石さん、最近お肉ばっかりでバランス悪いかも。」

明石「お肉は大事ですよ!?いいですか?

   お肉はタンパク質です。体を作るのに欠かせない栄養源ですよ?」

明石「米軍の特売を買ったら肉しか入ってなかったんですよ。我慢してください。」

秋津洲「提督にお願いして果物貰ってこようかなぁ……。毎食ステーキは辛いなぁ。」ベソベソ

明石「あんまり提督に迷惑かけちゃだめですよ。

   私達の経歴を誤魔化すのにも色々骨折って貰ったんですから。」

明石「私の元旦那が提督の恩師だった縁もあってここにおいて貰っているのですから。」

秋津洲「そうだったかも。でも、果物は欲しいかも。」

提督「だろうと思って持ってきたぞ。野菜と果物だ。」

明石「あっ、提督。」

提督「すまんな。南太平洋の悲劇の生き証人は

   全員最前線の弾除けに配置換えされていたからな。」

提督「海軍の大失態で証人が生きていちゃまずい訳だ。死んだ奴だけがいい奴だってな。」

提督「可能な限り師匠の部下だった連中は退役させて伝手を頼って逃げさせたが…。」

秋津洲「他の鎮守府の娘達は水底に還っていったかも。」



明石「私らは一番の危険人物ですからね。」

明石「何が起きて何が原因で負けたか。

   うちの旦那が懇切丁寧に私達に解説して逝きましたからね。」

提督「師匠の手紙を持って来た時に何が起きたかは悟ったがな。」

提督「流石の師匠だよ。

   死んだ後の事まで見越して大まかな敵の動きを予測して対処のやり方を細かく指示。」

提督「手紙の末尾にお前なら適当にやっても勝てるだろ、だからな。」

明石「あの人らしい。」

提督「あげくに艤装管理の穴をついて死者を生者に生者を死者にする手品を教えたりと。」

明石「昔から壁の上を歩いて落ちなければセーフと言っていましたから。」

提督「道徳、倫理観は横においておくとして、

   取り締まる法律が無ければ法律違反ではないという奴だな。」

明石「ここに送られてきた中で何人かそれで外に出していますよね。」

提督 ………。

提督「なぁ、明石。お前は最近の敵の動きどうみる?」

明石「どう、ですか……。」

明石「海軍の上の方に敵に通じている奴が居ませんか?」

提督「やはりそういう感想になるか。」

明石「それか、敵に知恵の回る参謀職の個体が複数生まれたか。」

明石「敵の作戦行動の質が上がってきている雰囲気はありますね。」

明石「よく言う『 他人の嫌がる事は率先してやりましょう 』を理解して動いています。」

提督「こっちは提督になる連中の質の低下は激しいってのに……。」ヤレヤレ

明石「珍しいですね提督がぼやきをいれるなんて。」

提督「いれたくもなるさ。海軍参謀……、

   軍令部の不始末を現場が必死こいて尻拭いしてるんだからな。」


提督「艦娘にしても初期から居る

  『 二つ名持ち(ネームド) 』の殆どが水底だからな。」

提督「精鋭が簡単に死んでいく戦場なんざ悪夢以外の何物でもない。」

秋津洲「そもそもネームド制度が時代の徒花かも。」

提督「まぁな。今は無くなってしまったが

   ネームドとして二つ名を登録する事が

   艦娘の目標みたいな時期はあったくらいだがな。」

提督「大量の個人戦果と幾つかの叙勲、

   そして所属鎮守府の提督からの推薦で登録なんていう

   華々しい経歴持ちでもないと申請が出来なかった制度だ。」

提督「その実、ネームドなんて危険な前線に回されて使い潰されるのが関の山で

   給料が増える訳でもなければおまけとして個別認識マークが許されたくらい。」

提督「艦娘側にまったくメリットのない制度だったな。」

提督「更に言えば一緒に出撃した他の娘から戦果を期待され無駄なプレッシャーに押し潰される者もいたらしい。」

明石「まぁ、国威発揚目的で導入した制度ですからね。

   聞こえは良いけどその実は地獄行き特急のグリーン席に座れます程度の実しかなかった糞制度。」

明石「秋津洲さんが登録した年が最後でしたっけ?」

秋津洲「かも!前の提督さんが付けてくれたかも!」



提督「師匠はそういうの好きだったからなぁ。

   部下の功績をきちんと評価してどうおだててれば

   気持ちよく働いてくれるかを知っている方だったよ。」

提督「時代が英雄とか英傑ってもんを必要としていたのさ……。」

明石「時代ですかね。」

秋津洲「ネームド制度が終了した事を差し引いてもここは結構異常かも。」

提督「まぁな。ネームドとして登録しているのが秋津洲いれて4人。」

提督「更に言えば4名全員公式での複数名持ちだからな、

   頭の螺子が捻じ切れているとかでもない限り

   複数名が付けられるなんて事はめったにない。」

提督「艦娘同士の渾名での二つ名ではなく公式での二つ名持ちは今や絶滅危惧種だ。」

秋津洲「もっと褒めていいかもよ!?」ドヤァ

提督「たればこそ、上の胡乱げな動きへの備えになるのさ。」

提督「ある訳が無いという事が無い訳が無いという事だ。」

秋津洲「禅問答かも?」

提督「全ての可能性を捨てるなという事だ。」

提督「いつだって最悪の結果というのはそこにある。

   俺がその結果を踏まないのは運がいいだけさ。」



明石「それはそうと頼まれていたのを提督が来てくれたのでついでで渡しておきますね。」

明石「知り合いから引っ張ってきたロイズの戦争保険のアンダーライターの名簿です。」

バサリ

明石「きな臭い匂いだらけですよ。でも、どうしてこれが必要に?」

提督「今更だがウォースパイトがここに来た話がちょいと引っかかったんでな。」

提督「吹き飛ばした島がな。」

明石「金融のエアポケット。租税回避地で名高いバージン諸島の島でしたっけ?」

提督「後、付け足すならマネーロンダリングに会社の登記誤魔化しの温床でもある。」

提督「そんでイギリス領でありながらドルが公的通貨として採用されている。」

提督「なんでな、ユダ公に恨みでもあったかと思ったんだがな。」

提督「金融関係者かと思ってウォースパイトの出自を調べたんだが。」

提督「どうにも出自が上位過ぎるんだ。それも、アホみたいにな。」



明石「どの位上の方だったんですか?」

提督「スチュアート家の血を引いた嫡出子、更に言えば直系だ。」

明石「まじもんのやべぇ奴じゃないですか………。」

提督「案外国内で命を狙われていて亡命目的のカモフラージュかもしれんぞ。」

明石「そんなので地獄の一丁目に送り込みますかね?」

提督「憶測だ。冗談とでも思ってくれ。」

提督「でだ、まぁ、本題なんだが。取り寄せた理由についてだが。」

明石「はい。」

提督「深海棲艦が出てから船舶、海上保険なんてもんは機能しなくなっただろ?」

明石「ですね。船を出した端から撃沈じゃぁ、保険そのものが引き受けできませんからね。」

提督「だが、物流において船程一度に大量に運べるものはないから

   艦娘システムが出来てからこの方、色々な国、

   企業といった団体が艦娘による船の護衛に飛びついた。」

提督「日本政府にしても艦娘制度の維持には莫大な金が掛かるからな。」

明石「日本単独ですと国家予算における割合が半端ないですからね。」

提督「そうだ、金融屋ってのはどんな物でも金に出来る頭があるから金融屋なんだ。」

提督「昔のサブプライムローン問題も本来は借金出来ない連中がした借金を

   優良顧客の借金と合わせて証券化して一見まともな債権金融商品に見せかけた。」

提督「優良顧客の債権はだいたいが格付けとして上位だったから

   抱き合わせの債権も当然のように格付けが良かった。」

明石「で、みんな買っていざ借金が返せない人達が続発してくると

   債権の価値は一気に下がって紙くずへ、でしたっけ。」

秋津洲「始めに売り逃げた人だけが得したかも。」

提督「そういう事。話を戻すと保険も金融債権の一種な訳でな。」



明石「話が見えてきましたよ。

   艦娘が護衛する航路を決める権限のある連中が

   保険証券で金儲けをしているという事ですか。」

提督「どこを受け持つか、そして、どの艦種の艦娘が護衛に付くかで保険料率は大きく変わる。

   保険を受ける時の掛け金が大幅にだ。」

提督「ロイズのアンダーライターにそれを決める位置に居る奴がいたりすると……。」

明石「勝ち馬が分かった競馬ですね。

   しかも気に入らない相手には駄馬に糞騎手をあてがう事が出来る。」

提督「その通りだ。ロイズはあくまで保険の取引の場を提供しているだけに過ぎないから

   そこを通過する保険の内容については引受人であるアンダーライターと

   保険の加入者の問題でしかないからな。」

提督「だからウォースパイトを利用してその辺りを強化しようとしたらそのあてが外れ、

   儲けの仕組みを知ったウーォスパイトがここに逃げて来たのかなと思ったんだよ。」

明石「もしくは護衛を自由に引き受けるここを利用している同業への探り目的のスパイですか?」

提督「何が信用できて何が信用できないかなんてのは分からんからな。」

提督「探照灯が明るかろうが人生の先の闇は見通せんからな。」

明石「分かる頃には死人がどれだけ出る事やら。」

秋津洲「命のバーゲンセールかも……。」

明石「にしてもユダ公って。昔からシティもウォールも雲の上はそうですけど。」フフ

提督「皮肉が効いてんだろ。裏切り者だけにな。まぁ、気にするな。」



秋津洲「これも万が一の備えかも?」

提督「外れていてくれるとありがたいんだがなぁ。」

提督「それにぱっと見ただけで分かるような事するほど敵さんも馬鹿じゃないとは思うがね。」

提督「保険だよ。」

明石「保険屋相手に保険ですか。気の利いた冗談ですね。」

提督「見えてるだけじゃないからな。

   金融屋ってのは戦争を飯の種にする連中の中で一番性質が悪い。」

明石「お金の出し手は一番強いですからね。」

提督「実弾の前に跪かない人間は珍しいからな。」

秋津洲「時雨ちゃんの件に繋がっているかも?」

提督「お前は時にするどいな。」

提督「だが、分からんとしか言いようが無い。

   実際、上の連中はどっかで繋がりはあるだろうし、

   繋がりの無い奴を探す方が難しいだろうよ。」

提督「用心に越した事は無いがな。

   連中の手は長い、絡め手は意外とそこら辺りにまで伸びてるかもしれんぞ?」ニヤリ

明石「実際分からないってのは薄ら寒いものがありますね。」

提督「見えているものにしか対処出来ないからな。」

提督「やらざるを得ない状態にされるってのは好きじゃない。」

提督「だが、そうせざるを得ないのが今の状況だ。」

提督「実際、この戦争の落し所を探る動きが上層部にある感じがする。」

提督「ただ、平和にしても勝ち取って得た平和と与えられた平和の2種類があるからな。」

提督「どっちを望んでいるのかが分からん。」



秋津洲「2種類の平和?」

提督「難しかったな。忘れてくれ。俺の立場で口にしていいものじゃない。」

明石「国の先行きを考えるとどちらが正解かって所ですね。」

提督「誇りで飯は食えんが誇りがないと国は保てん。」

提督「……と、飯時の茶のみ話にしちゃぁ、ちょいと内容が重かったな。」

明石「いいですよ。不知火さん相手じゃ出来ない話もあるでしょ。」

明石「私も心得ていますよ。」

提督「すまんな。また何かあったら頼む。」

明石「お話1時間1万円なら。」

提督「キャバクラ並だなとも思ったが……、器量じゃキャバクラが負けるか。」

秋津洲 エヘヘ

提督「じゃぁ、まぁ、その時は頼むよ。」

秋津洲「お待ちしているかも!」



提督を見送る二人。



明石「本当に支払う気ですかね?」

秋津洲「お金とるようだと私、明石さんの事を本当に見下げ果てた奴だと思うかも。」

明石「挨拶みたいなもんですよ。」

明石「もうかりまっか?ぼちぼちでんな。みたいなね。」

秋津洲「かも。」

明石「元旦那より先に提督に会ってたらと思うときはありますけどねー。」

秋津洲「提督の想い人には勝てないかも。」

明石「流石に相手がこの世にいないんじゃ勝負が成り立たないですからね…。」



執務室

不知火「司令。艦隊司令部より辞令が届いています。」

提督「ん?辞令?」



厳封され封筒の口には古式ゆかしい封蝋。



提督「めんどくさそうな予感しかないなぁ。」



ペーパーナイフを隙間にあて封を開ける。



不知火「中身はなんでしょうか?」

提督「俺を少将に格上げだとさ。」

不知火「おめでとうございます。」

提督「そんなにめでたいもんでもないさ。」

不知火「ぬい?」

提督「階級があがればそれだけ面倒が増えるって事だ。」



提督「しかも、俺を上に上げた推薦人。まぁ、これを見てくれ。」

不知火「三元帥のうちの深海融和派と中立派のお二人ですね。」

提督「元帥方が三人でそれぞれ意見対立をして一方に傾かないようにして均衡を保ってる。」

提督「そんななかで荒くればっかり集めた一見、強固派に見えるここの指揮官をだ。」

不知火「まったく別の派閥の長が推薦して昇格人事ですか。」

提督「何を企んでいるのか不気味だ。」

提督「流石に辞退はできんよなぁ。将官も大分減ってきているとも聞くし。」

不知火「人材の枯渇ですか。」

提督「そんな所だ。」

不知火「人は育てるのに時間が掛かりますから。」

提督「育つ前に使い潰しているのが今の状況だからな。」

提督「艦娘を提督にするって話も進んでいるらしいし先が見えないのは良くないな。」

不知火「………。」

提督「なんとか俺達の代で終らせたいもんだ。」

不知火「はい。」

提督「年をとると面倒臭がりが増すのと、なにかと涙もろくなるから良くない。」

提督「年はとりたくないなぁ。」

不知火「不知火は今の司令が好きです。」

提督「ありがとうな。」




88鎮守府近海

一人の艦娘が単艦で海上を駆け抜けていた。

彼女が身につける制服はボロボロ。

そして、彼女が彼女足りうる理由の連装砲も1体は小脇に抱えられ。

他の2体も彼女の後ろを付いていくのがやっとの状態。

しかし、彼女は足を止める事無く、何かに取り付かれたように航行を続けていた。




「うちからの救援は出せない。」

「そんな!一番近いのがここなのに!」

「みんなが死んじゃう!」

「うちも助けを出せる程余裕がなくてね。」

「余所をあたってくれ。」




「うちからは助けにいけないなぁ。」

「なにぶんここは要衝なのでね。」

「敵からの攻勢が激しいから救援を出すほどの余裕がないんだよ。」

「本土まで行けば救援を出して貰えるかも知れない。」

「そんな!ここから本土までなんて!」

「燃料と弾薬くらいの補給は分けてあげよう。」

「私のところもなにぶん資材の余裕は少なくてね。」



「本土まで後、どれくらいかなぁ。」

「周りの鎮守府全てに救援を断られるだなんて……。」

「後、何日かかるかなぁ………。」

「でも、急がないと皆が待ってるし。」

ボン!

「あっ。」

「もう、駄目なのかな。」

「ここまで来たのに……。皆、ごめんなさい。」グス

川内「諦めるのはまだ早いよ。」

川内「と言うかどうしたのよ。」



機関が火を噴きついに力尽き前のめりに

沈んでいこうとしていた少女を抱き起こしたのは川内だった。



雪風「随分とボロボロですが何があったのですか?」

時雨「単艦でここら辺を航行している事から

   何かあったんだろうとは思うのだけど。」

長門「グラーフが島風を偵察機で発見したと連絡して来たから急行したが。」

長門「随分と酷い有様だ。」

島風「あっ。」



ぐるりと周囲を見渡せば同じ艦娘仲間達の顔。



島風「お願い!皆を助けて!」

川内「ん?」



そう一言、言うと島風は力尽き気絶した。



88鎮守府埠頭



提督「何拾ってきた。」

雪風「付近を単艦で航行中でギリ中破でした。」



島風の状況を一瞥。

そして、付いてきていた不知火に、物珍しがって見に来た明石の二人に指示。



提督「不知火、所属全艦娘に出撃状態で待機命令を出してくれ。」

提督「その後、横須賀に問い合わせてくれ。」

不知火「何をですか?」

提督「救援依頼を出している鎮守府があるかどうか。」

提督「それと、俺の少将権限の再確認だ。」

提督「本来の意味での提督、1個戦闘団の指揮官としての提督なのかだ。」

提督「明石、所属を洗ってくれ。」

提督「それから治すのに時間はどれくらいかかる?」

明石「治せるかじゃなくて治すのに掛かる時間を聞いてきますか。」

提督「当たり前だろ。」

明石「なるだけ早くやりましょう。所属は直ぐに分かると思います。」ニカ

提督「頼む。」

時雨「提督、何か大事なのかな?」

提督「単艦でそれも、速さといえば艦娘で右に出る者のいない島風が

   こんな状態で彷徨ってるとくれば相場は決まってる。」

提督「所属鎮守府が襲撃にあい包囲網を強行突破。

   更に周辺鎮守府からの応援を望めなかったから本土へ向けて全力航行。」

提督「ここまでは頭がめでたい奴でも想像はつく。」




長門「で、不知火に自身の権限の確認をさせた理由は?」

提督「俺が最近昇進したんでな。将官といえば本来の意味での提督だ。」

提督「司令長官とか呼ばれて、そうだな旧海軍でいえば艦隊指揮を執る立場だ。」

提督「米軍とからな第○艦隊司令官とかの立場だな。」

提督「なんでな、場合によっちゃ現地の部隊再編も可能。後は分かるな?」

長門「成程な。与えられた権限は良く考えて有効に。

   そして上の言質をとった上でか。」

長門「悪党だな。」

提督「前にも言った事があると思うが俺ほど善人はいやしないさ。」

グラ「どうだろうか?」

摩耶「詐欺師は自分の事を詐欺師とは自己紹介しないもんな。」

川内「提督は詐欺師というより博打打ちの方が近いかな。」

川内「ポーカーとかで負け札でも平気でレイズして相手に心理的揺さぶり掛けた挙句。」

時雨「口八丁で相手を騙すのは得意そうだよね。」

雪風「相手にドロップさせる最低の博打打ちです。」

提督「やれやれ、散々な評価だな。」

長門「なに、それだけ皆提督が凄いと褒めているのさ。」

提督「博打ってのは運じゃねぇ。

   モナコのカジノに入店禁止になった、かの名将も言っている。」

提督「高等数学の確立から言って必ず勝てる時が来るから

   それまでひたすら待ち続ける事がカジノで勝つには重要ってな。」

提督「俺が運に頼るのは最後の最後さ。最悪の結果を踏まないように祈る時だけだ。」

長門「そうか。」

提督「そうだ。」

本日の更新はここまでです
今回のお話は今までの話と比べて一番重たくなる感じです(1基準で)
なので明るいSSを書いて気分転換を図りたくもなる訳です、はい
提督の呼称ですがゲーム内の提督は鎮守府責任者の扱いですが本来の意味で行くと将官以上(少将以上)
米軍基準でいくと准将、代将も含める形で艦隊指揮官、第七艦隊とかのあれを指揮する指揮官の事みたいですね
本来の鎮守府であれば提督でも間違いないのですが階級が少佐とか佐官がいるからあれれ?という状況
○○水雷戦隊とかの指揮官は司令官とか司令長官という呼称が正しいようです、ややこしいですね
その辺りは不備が有るかもしれない為詳しい方がいらっしゃいましたら指摘頂けると感謝です
ではでは、次回もお付き合い頂けると大変ありがたく思います
乙レス、感想レス、励みになっております、本当にありがとうございます

1です、1週間に1回の更新を目指すもあえなく失敗
また、中編を1度の更新で終わらせようと企むも2回に分けるような形に…
計画性ない作者だなという謗りが聞こえてきそう
感想レス、いつもありがとうございます、読み応えがあるとのありがたいお言葉
今後も精進してまいりますので引き続きお読みいただけると感謝
では、本日分の更新をさせていただきます、お時間宜しければお付き合い宜しくお願いいたします



第十一話 天国への扉 中編


明石の工廠内

提督は簡素な椅子に座り紙巻に火を付けずに咥えていた。



秋津洲「吸わないの?」

提督「ん、なんとなくな。」

提督「火気厳禁じゃなかったか?」

秋津洲「アークにアセチレンやるから今更かも?」

提督「まぁ、屋内の灰皿が無いところでは吸うべきではないだろ。大人のマナーだ。」

提督「連装砲は直ったか?」

秋津洲「うん!直ったよ!」



工作艦としての経験もある秋津洲は手先が器用な為、

明石の艤装修理を手伝う事も多く、明石が島風の様態を見ている間に連装砲の修理を行っていた。



秋津洲「長10cm砲ちゃんの部品と共通が多いから割と助かったかも。」

提督「首から下は部品を共有できる所は共有しないと製造コストが跳ね上がるからな。」

提督「島風型はただでさえ姉妹艦がいない分、部品供給がきつい艦娘だからな。」

秋津洲「そうだね。生産数は確かに少ないかも。」

秋津洲「ほとんどワンオフに近い高価な艤装かも。」

秋津洲「テストベッドの天津風ちゃんとも違う部品が多いし。」

秋津洲「天津風ちゃんは陽炎型だから意外と使いまわせる部品が多いんだよ!」

提督「ほう、結構奇抜な艤装と思っていたがそうでもないんだな。」

秋津洲「実は雪風ちゃんや時津風ちゃんと部品の交換が可能かも。」

提督「艤装は色々知らない事が多いから勉強になるな。」



秋津洲「連装砲ちゃんが自立型艤装の走りなのは提督も知っていると思うけど

    自立型は使用者負担が重いから適正のある子は意外と少ないかも。」

提督「? 自立型なら使用者が操作しなくていいから負担は少ないんじゃないのか?」

秋津洲「AI自体が処理してくれるから索敵とか迎撃とかは使用者が指示すれば良い訳なんだけど。」

秋津洲「連装砲ちゃんへの命令を出すのは使用者だから

    常にデーターのやり取りを使用者とする事になるのね。」

提督「あー……、つまり、つねに3人から、

   ねぇねぇ、どうする、どうする?って話しかけられるみたいな物か。」

提督「恐ろしくうざいな。」

秋津洲「長10cm砲はその辺を押さえたんだけど……。」

提督「成程、長10cm砲が単独で水上航行出来ないのは使用者負担軽減の為に機能をオミットしたからか。」

明石「ですね。機能削除しただけで使用者への負担が60%減ですからね。」

提督「おっ、明石、治療は終ったのか。」

明石「えぇ、後は王子のキスを待つだけです。」

提督「洒落た事を。」

明石「島風型の量産性が無いのは艤装の軽量化の為に演算処理を使用者の脳負担に任せている所為ですよ。

   内緒のお話ですけどね。」

明石「連装砲の一番大きいサイズを3つ運用させたら脳負担が大きすぎて被験者が廃人に。」

提督「そんなやばい代物だったのか。」ウヘァ

明石「そんなギリギリのやばい代物だから島風型以外の自立型航行機能付きの艤装は出て無いんですよ。」

明石「負担が増すと脳が沸騰しますからね。」

提督「なかなか酷ぇ代物なんだな。」

明石「艦娘運用初期に出てきて色々模索されていた時期だからこそ黙認された倫理観の欠如って奴です。」

明石「秋月型なんかは自立型ではありますが自力航行はしませんし

   普段使用は腰の艤装と接続して使用者負担の処理をかなり減らしていますから。」

提督「島風の適正持ちが個体能力値が高いのはそういった理由があったからなんだな。」

明石「艤装も今は大分見直しが入っていますし初期の娘達の艤装も

   改二や丁改、乙改等で見直し、機能、性能の向上は進んでいますしね。」

明石「今の技術ならもう少し負担を減らして性能向上はやれますよ。」

提督「時間が経てば積み上げた屍から経験値を重ねられるという事か。」

明石「そうなりますかね。」



提督の言葉にどちらの屍かという事を問わず。

しらけたとも、やるせないともとれる表情で言葉を返す明石。




提督「島風の所属は分かったか?」

明石「修理に合わせて色々機関の入れ替えもやりましたからね。」

明石「通常整備ではやらない、

   封印入っている箇所も分解してやりましたので艤装の製造番号から辿れましたよ。」

明石「そしてですね、提督。驚く事無かれ、

   彼女、あのネームドの『 最速 』の島風です。」

提督「あの…、あの、ブルーリボンのか……。」



まさしく絶句。



提督「俺が提督候補生として海軍大学に通っていた頃の憧れみたいな艦娘がねぇ。」

明石「あら、珍しい話ですね。」

提督「大学生の皆で観覧した観艦式の余興でな、ネームド達による模擬戦で一際目を引く強さと速さだった。」

提督「敵の魚雷をその速度で交し、艦載機による急降下爆撃をその身のこなしの軽さで交し。」

提督「俺達提督候補生は皆、一様に駆逐艦島風すげぇって、それこそ少年の様に目をキラキラさせていたもんだ。」

明石「どこの小学生ですか。」

提督「航空主兵論ばっかりの提督の卵には劣勢の中、

   敵の攻撃をものともせずに一矢報いようとする島風が御伽噺の主人公の用に見えただけさ。」

明石「大艦巨砲主義とかいなかったんですか?」

提督「そんな頭のめでたい奴はそもそも入学できねぇよ。」

提督「だいたいそれが前大戦の敗因の一因でもあるだろうが。」

明石「ですよねー。」

提督「日本人は判官贔屓、勧善懲悪。とにかく弱い奴が強い敵を倒すって言うのは大好物だろ。」

提督「提督候補生皆がいつかは自分達もあんな凄い部下を持ちたいものだって夢を語ったものさ。」ホウ



提督の昔話、それも提督になる前の、いや、提督になる志を抱いた者達を虜にした憧れ。

そんな懐かしみを、遠くを見る目で提督はしみじみと語った。




時雨「ブルーリボンって何だい?」

提督「何だ、いたのか。」



時雨がいた事に少し照れを感じたのかぶっきらぼうに返す。



時雨「島風の様子を見にね。それで、ブルーリボンって何だい?」

提督「昔の話だ。20世紀初頭にな大西洋航路最速の客船に贈られたブルーリボン賞ってのになぞらえてな。

   海軍の中で速さの記録持ちをそう呼んでいた時期があったのさ。」

提督「トラックやパラオといった南方と本土を物資を積んで行き来する。

   その掛かった日数の少ない艦娘を毎年選んで表彰していたんだ。」

提督「その速さ類まれなる優秀艦、体のいい飛脚便みたいな扱いだったがな。」

提督「艦娘が積める物資なんざ、たかがしれているしな。」

時雨「それは、その…。」

提督「察しの通りだ。激戦地で独楽鼠の様に休み無く働かせたんだよ。」

提督「島風って艦娘になる奴はどいつもこいつも気のいい奴らでなぁ。」

提督「自分が利用されているってのが分かっていても動くけなげな奴よ。」

提督「俺が提督になって直ぐに持った鎮守府でパシリ扱いしていた戦艦連中をどつきまわした事もあったなぁ。」

時雨「提督、意外と苛烈な一面もあったんだね。」

提督「最初に持った鎮守府は他人の異動により空いた所に就いた形だったからな。」

提督「戦力は整っていたが艦種によるヒエラルキーがあったんだ。」

提督「ついたその日に目の前で駆逐艦に銀蝿を強用する連中をみたりと最悪だったな。」

提督「んで、意識改革して艦娘の戦艦と空母連中を半分くらい他所と入れ替えたりとかな。」

提督「とにかく派閥解体工作よ。そして、駆逐艦の地位向上の為にまぁ、色々だ。」ニヤリ

時雨「あっ、悪党の顔だ。」

提督「初期艦にして秘書艦の叢雲が新任新米の俺には過ぎた出来た奴でな。」

提督「その後も幾つか鎮守府を渡り歩く事になるんだが随分助けてもらったもんさ。」



昔を懐かしむ滅多に見せない提督の顔に意外と人らしい所もあったんだなと思う時雨。

はたと気付く事もあったがそれは今、聞くべき事ではないのだろう。

そして、タイミングよく不知火が提督の下へやって来る。




時雨「ブルーリボンって何だい?」

提督「何だ、いたのか。」



時雨がいた事に少し照れを感じたのかぶっきらぼうに返す。



時雨「島風の様子を見にね。それで、ブルーリボンって何だい?」

提督「昔の話だ。20世紀初頭にな大西洋航路最速の客船に贈られたブルーリボン賞ってのになぞらえてな。

   海軍の中で速さの記録持ちをそう呼んでいた時期があったのさ。」

提督「トラックやパラオといった南方と本土を物資を積んで行き来する。

   その掛かった日数の少ない艦娘を毎年選んで表彰していたんだ。」

提督「その速さ類まれなる優秀艦、体のいい飛脚便みたいな扱いだったがな。」

提督「艦娘が積める物資なんざ、たかがしれているしな。」

時雨「それは、その…。」

提督「察しの通りだ。激戦地で独楽鼠の様に休み無く働かせたんだよ。」

提督「島風って艦娘になる奴はどいつもこいつも気のいい奴らでなぁ。」

提督「自分が利用されているってのが分かっていても動くけなげな奴よ。」

提督「俺が提督になって直ぐに持った鎮守府でパシリ扱いしていた戦艦連中をどつきまわした事もあったなぁ。」

時雨「提督、意外と苛烈な一面もあったんだね。」

提督「最初に持った鎮守府は他人の異動により空いた所に就いた形だったからな。」

提督「戦力は整っていたが艦種によるヒエラルキーがあったんだ。」

提督「ついたその日に目の前で駆逐艦に銀蝿を強用する連中をみたりと最悪だったな。」

提督「んで、意識改革して艦娘の戦艦と空母連中を半分くらい他所と入れ替えたりとかな。」

提督「とにかく派閥解体工作よ。そして、駆逐艦の地位向上の為にまぁ、色々だ。」ニヤリ

時雨「あっ、悪党の顔だ。」

提督「初期艦にして秘書艦の叢雲が新任新米の俺には過ぎた出来た奴でな。」

提督「その後も幾つか鎮守府を渡り歩く事になるんだが随分助けてもらったもんさ。」



昔を懐かしむ滅多に見せない提督の顔に意外と人らしい所もあったんだなと思う時雨。

はたと気付く事もあったがそれは今、聞くべき事ではないのだろう。

そして、タイミングよく不知火が提督の下へやって来る。


あっ、ダッブってしまった……
>>278は無しでお願いいたします、申訳けありません



不知火「司令。仰せつかった件。調べて参りました。」



不知火は一気呵成に報告を始める。

それは、先程までの会話を聞いていてその先に続いたかもしれない言葉を遮るためかのように。



不知火「艦隊司令部では意味がないと思い軍令部へ直接連絡を取りました。」

不知火「権限の確認の為、人事局責任者へ話を通し人事参謀長へ確認。」

不知火「人事における将官の権限ですが現地部隊の再編の人事権も

    緊急時に於いて認めると言質を引き出しました。」

提督「ほう。あまり時間が経っていない割りによくそこまで連絡を取れたな。」

提督「人事参謀長の言質について録音は?」

不知火「抜かりなく。」

提督「救援依頼を出している鎮守府については?」

不知火「現状としては無い事を確認しています。」

提督「もし、それを受けていながら報告をせずに握りつぶしている鎮守府があったとしたら?」

不知火「海軍省法務局に問い合わせ、万一その様な事態があったと証明されるのであれば

    利敵行為として軍法会議への出頭を命じる可能性も有り得ると確認済みです。」

不知火「当然ですがこれも担当者とのやり取りは録音済みです。」

提督「俺が次に何を考えているか分かるな?」

不知火「先日、陥落させ現在米軍が管理している基地に連絡をとり

    観戦武官の参加と引き換えに揚陸指揮艦のレンタル交渉を行っています。」

不知火「あちらからは二つ返事で了承を頂いています。補給艦も手配済みです。」

不知火「また潜水艦の娘達にも作戦の発令に向け待機させています。」

提督「パーフェクトだ、不知火。」ニチャァ

不知火「感謝の極み。」



正しく不敵。

そう表現するのがぴったりな笑顔を見せ提督は明石の方へ向き直る。




提督「明石、何機用意出来る?」

明石「何機御所望で?」

提督「予算の範囲内でだ。」ニタリ

明石「標準でいいですか?」

提督「あぁ、今回は数重視だ。」

提督「不知火。今年の予算割り当ての残額だが。」

不知火「こちらに。」



ここに回される任務だけでは緊急時、それこそ突発的な事態に対応出来ない事もある。

そんな時の為に毎年幾らかの予算が組まれていて提督が不知火に訊ねたのはその残り。

言うまでも無いが明石の協力の下、毎年の予算の残りは形を変えプールされていたりする。

戦争とはとかく金が掛かるものなのだ。



提督「全員に払う金はあるか。」フン



不知火の提示した書類に記載された金額を確認。



提督「でだ、明石、島風の所属はどこだ?」

明石「こちらですね。」



明石が女袴の笹ひだ部につけたポケットから海図を取り出し位置を示す。

ふーっと提督が大きな溜息を一つ。




提督「明石、お前の事だからここの提督の素性も調べていると思うんだが。」

提督「優秀か?」

明石「並ですかね。」

明石「ただ、周辺から比べれば階級こそ低いものの良。ですね。」



頭に手を当てやれやれと言いたげな提督。



提督「凸部じゃねぇか。まったく。せめてそこそこの階級の奴をあてがえよ上も。」

時雨「凸部?」

提督「あぁ、敵さんへ食い込む形での凸部だ。救援に行くにも相当面倒な事になる。」

提督「敵もそりゃ本腰いれて落としに来る訳だ。」

提督「明石。すまないが島風が目を覚ましたら執務室によこしてくれ。」

提督「ちょいと気軽に助けに行ける場所じゃない。」

提督「きっちり作戦を練らないとこっちがやられちまう。」

不知火「執務室へ戻り必要な物を用意しておきます。」

提督「頼む。」



そして、提督は足早に執務室へ戻ろうとして振り向く。



提督「秋津洲。お前が重要になる。島風が目を覚ましたら来てくれ。」

秋津洲「かも!?」




執務室



提督「さぁてと、上の盆暗ぶりに嫌気が差してきたな。」

提督「さらに言えば周辺鎮守府の提督どもを皆、物理的に首を挿げ替えたいくらいだ。」



不知火が用意した海図にマジックで色々と書き込み現状確認を進めていく提督。



提督「ここの重要性を軍令部で理解出来る奴がいないってのは質の低下が激しいのか。」

提督「はたまた襲撃されている事を知らないから暢気に構えているのか。」

提督「どちらなのかねぇ。」

グラ「Admiral、入るぞ。」

提督「ん?どうした?」

グラ「あぁ、明石から頼まれたので島風を連れてきた。」



目を覚ました島風を連れて執務室に来たのはグラーフ。



提督「明石は?」

グラ「予想される物資の用意に忙しいんだそうだ。

   だから私が島風の付き添いで来たんだ。」

グラ「各所に追加注文をしなきゃと慌しく動いていたぞ。」

提督「商売人だな。」

グラ「それと秋津洲も一緒だ。」

秋津洲「提督、来たかも!」




島風「あの!助けていただきありがとうございました!」

提督「礼にはおよばんよ。」



島風の謝辞に返事を返し、海図を再度見直しフムと考え、一同に向き直る。



提督「グラーフも居てくれた方がいいか。守りの要はグラーフになるだろうしな。」

提督「と、私がこの鎮守府の指揮官である提督だ。」

提督「普通の鎮守府には場所が知らされていない中、

   ここの近くを航行していたのは運が良かったと言える。」

提督「おおよその状況は理解している。詳細を島風の口から話してもらってもいいかな?」

提督「あぁ、そうだ。島風が自分の所の提督に義理立て等があるなら

   俺の呼称は適当に呼んでくれてかまわんよ。」

島風「あの、おじさんがここの提督さんなの?」



妥協の上での提督『 さん 』呼び。

おじさんかと苦笑しつつそうだと答える提督。




島風「提督さん、あのね、私の居た所がね。」



そして、島風から、島風が包囲網を抜け出てきた段階での敵勢の確認。



提督「日数的に陥落していてもおかしくないな。」



情報を改めて整理して感想を一言。



島風「そんなぁ……。」

提督「おいおい。俺は救援に向わないとは一言も言ってないぞ?」

提督「最悪敵の手に渡っているかもしれないが落されてすぐなら奪還する。」

グラ「それ程の要衝なのか?」

提督「まぁ、見てくれ。」

グラ「………。」

グラ「これは、攻守の違いがあれど、バルジの戦いみたいな状態だな。」

提督「日本でなら有名所で長篠の戦だな。」

提督「面で構成される敵との防御線にこちら側が敵側に凸る形で食い込んでいる。」

提督「陸の場合でもそう変わりはないんだがこういう風に

   飛び出た部分は敵地へと侵攻していくのに重要な火点に成る場所だ。」

提督「逆に敵からしてみればわざわざ飛び出てくれているから叩きつぶしやすいという一面もある。」

提督「そして、敵にしてみれば放っておくと蟻の一穴になりかねない。」

提督「攻める側にしても守る側にしても確保しておきたい場所だな。」

秋津洲「それで私が呼ばれた理由はなにかも?」

提督「先日の瑞鶴とグラーフの模擬戦覚えているだろ?」

秋津洲「あぁ、明石さんが試していた新システムの奴かも?」

提督「あれの幾つかの問題点を考えられる範囲内での改善をして実戦に投入してみようと思ってな。」




提督「それでいくと航空管制でバトルオブブリテンを経験している

   ドイツ娘のグラーフに守りを任せるのが適任だろ?」

グラ「負けた側だがいいのかな?」クックック

提督「なぁに、問題ないさ。紅茶ジャンキーどもが構築したシステムだ。」

提督「科学技術だけなら何処にも負けないドイツ様のお前がやるんだ。」

提督「他の誰よりもあてにしているさ。」

グラ「嬉しい事を言ってくれるなぁAdmiralよ。

   だが、電探等の性能は英国の方が上だ。」

提督「今回の戦争は前の戦争の勝ち組、負け組み皆仲間だ。負けようがない。」

グラ「イタリアも一緒だが?」クックック

提督「………、ポーランドボールネタはやめてくれ。」クックック

グラ「だが、かなりの距離の移動に拠点確保も難しいようだが

   艦載機の補充が追いつくだろうか。」

提督「それは心配しないでくれ。我に秘策有りだ。」



提督「不知火。留守番組の選定は任せる。」

提督「これより3時間後にブリーフィングを行う。

   その後、米軍に挨拶して救援へ向うぞ。」

島風「あの!提督さん!救援を待っているみんなの所に知らせに行ってもいい!?」

提督「それは許可出来ない。」



島風からの問いに即答。



島風「どうしてぇ!?」

提督「お前さんが単独で航行していたことから鎮守府通信設備が

   破壊されている等で艦娘が直接乗り込んで知らせるしかないというのは分かっている。」

島風「だから私が!」



島風の必死の訴えを手で制し言葉を続ける提督。



提督「更に敵からしてみれば島風が包囲網から抜けた事で

   何がしかの救援が来る事は予想している筈だ。」

提督「つまり、島風が今から救援が来るよと知らせに帰るのは

   敵が手ぐすね引いて待っている所に自分から突っ込んでいく愚行だ。」

提督「俺たちは戦争をしている。だから犠牲を出さずに勝てるなんて甘っちょろい青二才な考えは持っていない。」

提督「だがな、出す必要性のない犠牲を出す気は毛頭無い。」

提督「救援が出ている事を知らせる為だけの犠牲を出すような真似をするのは無駄の極みだ。」

島風「………。」



切り捨てるような言い方だが提督のいう事は最も。

しかし、理屈では分かっても感情では理解できない事も時としてあるのだ。

今しばらく食い下がるかと思ったがあっさりと引いたのを見てとる提督。




提督「不知火。暫く島風を監視しておいてくれ。」

提督「単独で抜け出して救援先に行くような素振りを見せたら力尽くでとめろ。」

不知火「了解しました。」



とぼとぼと執務室を出て行く島風の後姿を見送り不知火に指示。



提督(止められるだろうか…。)



艦娘としての最古参、そして最速の名を頂く駆逐艦。

手負いなれば止められるかもだが明石が修理して万全の状態ともなれば。



提督(止めようとしたという口実作りでもあるが…。)

提督(不知火には損な役回りをさせる。)



そして、提督が執務室にて秋津洲とグラーフとで綿密な打ち合わせを行って丁度3時間後。

いつぞやの敵北海道侵攻作戦を挫いた時の再現のように大会議室には艦娘達が勢ぞろいしていた。




提督「今回の救援については敵を徹底的に叩く事が主目的だ。

   そこはいつもと変わりがない。」

提督「ただ、敵の指揮官については今までと毛色が違う事が予想される。」

川内「どーしてー?」

提督「今までどおりにお馬鹿さんな相手なら

   自陣地に凸った地点なんか放置していただろうからさ。」

提督「現に今回の救援対象の鎮守府は設立されて結構な年数経っている。」

提督「俺が敵の指揮官なら鎮守府施設なんか作られる前に潰しているよ。」

長門「今回の作戦にはゴーヤ達も参加するのか?」

提督「俺の学生時代に潜水艦娘を上手く指揮して演習で痛い目合わせてくれた同期が居てな。」

提督「そいつから面白い手品の種を聞いているんだ。」

提督「敵のほうが数は多い。当然ながら潜水艦連中もいるだろうよ。」

提督「ならこっちも使って遊んだところでばちは当たらんだろ?」

長門「米軍から海底データを貰うつもりか。」

提督「あぁ、目的地周辺はあちらの方が詳しいだろうからな。」



提督と部下達の軽い冗談のようでお互い手の内を知っている者同士の応酬。

それが終われば留守番の者達も含めて全員に作戦内容の連絡。



時雨「それで、提督。勝てるのかな?」

提督「勝てるのかな?じゃない。勝つだ。」

提督「勝算の無い作戦など立てんよ。」

摩耶「提督ぅ~、えらい自信が有るみたいだけど大丈夫かよ~。」

提督「当たり前だ。いいか?物語ってのは主人公が勝つように出来てんだよ。」

提督「人外の良く分からん生物対人間とくれば

   古今東西、人間様の勝ちって相場が決まってんだ。」

提督「それなら人間側の俺達の勝ちだろが。」

摩耶「ひでぇ根拠だな。」

雪風「ですが、何故か説得力があります。」

グラ「まぁ、我々はやるべき事をやる。それは今までとなんら変わらんさ。」



こうしてブリーフィグを済ませた一同は米軍基地へと移動を始めたのである。



本日の更新は此処までです
残りは近日中に更新を予定しております、お待ちいただけると幸いです
そして中編の山場は後半、次回更新の方……、計画性無くてすみません
連投が途中あり御迷惑をお掛けしました、今後の予定としてはこの島風の話が終われば
スレを落そうかどうか思案している所です、燃え系のSSって増えないですね……、なんでだろう……
スレの始めの方で触れましたが砂の薔薇的な番外のような本編の様なのもプロット書きが終了して
少しずつ書き溜めをしている所なのでどこかのタイミングで上げれればなぁとは思っています
最近SSまとめ速報なる存在を知り、このSSも纏められコメントがついて居る事に驚きました
SSまとめ速報でコメントを下さっている読者の皆様、コメントありがとうございます
後、もし宜しければ本スレの此方も覗いてこちらにレスいただけるとありがたいです(←レス乞食)
長々と長文での挨拶失礼いたしました、感想レス、応援レス、いつもありがたく拝読しています
次回以降の更新も宜しければお付き合いいただけると感謝です

黒潮改二!先日の春のミニイベでカタパルト3枚とったから設計図使って
五航戦二番艦を一気に改二にしたり軽空鈴熊を増やしたから設計図は1枚しかなかったんだ!
伊勢の改造はその内、便利なんだろうけどまぁ、急ぐものでもないかなぁと思っています
陽炎、不知火を先に改二にしてたのでハブる訳にもいきませんしね、可愛い、黒潮病、1は致命傷で済みました

本日の更新をさせていただきます、また、本日の分の更新で中編は終了です
お時間宜しければお付き合いいただけると幸いです



提督達の一行が米軍基地へ向けての行軍を行う中、

1人の艦娘がこっそりとその列を離れようとしていた。

隊列から少しずつ少しずつ距離を離し、違和感無く外れていった。

そして、行軍の列から外れると彼女は海上を別方向へと航行していく。



島風「もうそろそろ全力航行に移ってもばれないよね。」

島風「えへへ。あれだけ沢山の人達が救援に来てくれるんだから。」

島風「皆、絶対助かるよね。」

島風「皆に知らせてあげないと。」ウキウキ



連装砲達もそれに同意するように頷く。



不知火「お気持ちは分かりますがそれは阻止させていただきます。」

島風「オゥッ!?」



島風の後ろから声を掛けるのは不知火。



不知火「死なない程度に壊すことは司令より許可をいただいています。」

不知火「貴方が救援に向かっている事を知らせる事により

こちらの打つ手が幾つか潰されるのは困ります。」

不知火「また、何より許すまじは司令が貴方の身を案じ知らせる事を許可しなかった

その心を貴方が理解していない事です。」



淡々と、しかしその怒りはまさしく怒髪天を衝く。



不知火「故に、多少の痛みは覚悟していただきます。」



言い終わると同時に動き始める。

艤装のパワーを全力で乗せた手刀による突き。

ひゅうと風を斬る音が手が突き出てきた後に聞こえたのは気のせいか。



島風「執務室で観察していて猛者揃いの鎮守府だとは感じていたけど。」

島風「避けなかったら確実に殺られていたかも。」タラリ



背筋に冷たいものが流れる。



不知火「挨拶代わりです。司令に憧れを抱かせた艦娘だけありますね。」ギリッ



周囲の空気が震える。

艦娘達の中でも一際頭の螺子が外れた連中が集まるのが陽炎型。

その一人一人が何がしかのエピソードを持ち、

雪風の様に幾つもの大きな海戦を駆け抜け終戦まで生き抜いたような猛者も居る。

その他の姉妹は華々しく、戦場の華として散っていった。

その2番艦不知火。艦名の由来は九州八代海の夜に現れるという蜃気楼。

科学が発達していなかった昔は妖怪の仕業とされていたとか。

その名の由来の如く、不知火は海上の波の上下動を利用し島風の空間認識をずらし始めた。



島風「あれ!?」



連装砲に不知火を撃たせ討ち取ったと思うが、その砲撃は逸れてしまう。



不知火「その様な砲撃は当たりませんよ。」



ぐいと島風の眼前に迫りその顔に拳をみまう不知火。




島風「へぶぅ!?」



まるで漫画表現の様に宙を舞う島風。

しかし、華麗に着水。



不知火「さぁ、駄々をこねていないで帰りますよ。」



ぐしと唇を切ったらしく垂れる血をふき取る島風。



島風「強いね。」



そして島風もまた纏う雰囲気が変わった。

ここからは、さながら頂上決戦の様相を呈した戦闘が行われていく。

蹴りを繰り出す不知火をいなしその懐に潜り込み拳を繰り出す島風。

更にそれを交し先に繰り出した蹴りの勢いを生かして回し蹴りを繰り出す。



島風「体裁きのレベルが高い。」



感心するように不知火に声を掛ける。



不知火「最古参の艦娘である貴方に褒めて頂けるとは恐悦至極。」



島風が回し蹴りも交し距離をとったのを見て取りインファイトスタイルで構えなおす不知火。



島風「ごめんなさい。私はここで時間をとられる訳には行かないの。」

島風「どうして主砲と魚雷を使わないのか理由は知らないけど。」

島風「武器を使わないで私を止める事なんて出来ないんだから!」

不知火(来る!)



最速の名に恥じない全力の突撃。

その動きを予測し体を逸らし島風の突撃をかわす!

だが…………



不知火「おうふぅ。」



島風の突撃をかわしたと思ったら足に感じる激痛とわき腹に感じる痛み。

島風の陰に隠れての連装砲からの砲撃。

一瞬ふら付いた不知火の体勢を見逃さずに不知火の背中の艤装に手を掛け一気に後ろへ引っ張る。




島風「えへへ。速き事。島風の如し!だよ!」

不知火「くっ。」



体勢の崩れたところに島風が足をかけ転倒させ排気煙突を海面に水没させる。

ボスボスボス



不知火「機関に海水が入りましたか…。」



機関の燃焼に違和感を感じ若干の出力低下を確認。



不知火「逃げられてしまいましたか。」ハァー…



不知火を始めとする背負い式の艤装は後ろ側に重心がよりやすい為、引っ張られると転倒しやすい。



不知火「背負い式の弱点を突かれましたね…。」



最速の二つ名は伊達ではなく、そして『 島風 』の名を頂く艦娘の系譜。

初代の駆逐艦島風が沈んだ後に2代目駆逐艦島風が島風の名前を付けられた過去の経緯を思い出し。

『 その速き事、島風の如し 』

この言葉がその魂を引き継いだ事を意味していた事を思い出す。



不知火「負けたとは思いませんが、司令にご迷惑をお掛けする事になりそうです。」ゲホッ



痛む脇腹を押さえ足を引き摺りながら島風を行かせてしまった事を報告すべく

不知火は提督達の居る方向へ移動を始めた。


米軍基地内

(会話は英語で行っていると脳内補完いただけると幸いです。)



提督「アメリカ級揚陸艦なんて豪華な物は出していただかなくて大丈夫ですよ。」

米海軍中将(以下中将)

「いや、是非使ってくれ。

というよりもだ。我が国の実験的部分でのデーターも取りたいのでね。」

提督「国力に余裕のある国は考える事のスケールが大きいですね。」

中将「景気対策は元より軍艦製造の技術継承を考えると

年で1隻は何がしか作らないといけないという呪いだ。」

中将「1隻受注させれば起工から就役まで数年分の仕事が出来る。」

提督「議会が煩くはないのですか?」

中将「議員へ積極的にロビー活動している投資家連中の耳元に、船が沈むぞと耳打ちすれば議会は黙る。」

提督「ははは。」



アメリカという国が本当に恐ろしい理由は食料から石油まで、川上から川下まで。

その気になれば全てを自国内だけで賄う事が可能という点にある。

何せ第二次世界大戦中、多くの国が食料困窮で配給制度などを用いて糊口を凌いでいたのに対し。

アメリカは嗜好品への切符制配給はあったものの他の国と比べれば不足と言うには些少な物。

タイムライフ社の「パールハーバーの衝撃」という写真集には

ガダルカナルでビール片手にステーキを焼く小隊の写真が掲載されていたり

食事にステーキが出なかった事に抗議行動を行う米兵の写真があったりと

記録宣伝用写真というのを割り引いてみても前線へ食料を過不足無く送ることが出来た能力は

同じガダルカナルで戦っていた日本側が飢えに苦しんでいたのを考えると

圧倒的であると言えるだろう。

また、コーヒーや砂糖といった嗜好品が軍用携行食糧に必ず付いていた事も

その国力の豊かさを象徴すると言える。

そして、陸続きでもある南北アメリカ大陸の上へ下へと手を伸ばせば

不足する資源も揃えられると正に無敵。

その有り余る生産力は他国へ輸出する形で余剰分を解消している為、

中将の船が沈むぞという脅しは各種価格を一気に乱高下させる可能性のある脅しなのだ。

提督が乾いた笑いで返すのも無理からぬ事である。



提督「富める国は更に富み、貧しきはより貧しく、ですかな。」

中将「あぁ、同盟国である日本が艦娘というのを発明してくれて実に助かっているよ。」

中将「艦娘を大量に用意して我が海軍が世界の海に平和を取り戻す。」

提督(典型的なパクスアメリカーナの軍人か。やれやれ。)

中将「君の救援策に同行する観戦武官だが、私の部下の大佐をつかせよう。」

中将「それから我が軍からサラトガとアイオワも出すから好きに使ってくれ。」

提督「宜しいのですか?」

中将「あぁ。私の予感が正しければ我が国が今後考えている艦娘運用を君が行うだろうという気がしてね。」

中将「君がそれに彼女達を組み込んでくれれば今後の運用が楽になるという事だよ。」

中将「まさか拒否はしないよな?」



にこりと笑う笑顔は否やを言わせぬ脅し。



提督「えぇ、喜んで。」




米軍基地埠頭

明石「こりゃぁまたどえらいの貸してくれましたね。」

貸してくれたアメリカ級揚陸艦に持ってきた色々を積み込み据付、

さらにゴニョゴニョしながら明石が感心する。



提督「さらに艦娘を2名も貸してくれる気前の良さだ。」

明石「ひゃぁー。ありがた過ぎて涙がちょちょぎれますねぇ。」

提督「皮肉が過ぎるなぁ。」マッタク

明石「あからさま過ぎて。」シレッ

提督「まぁな。だが、同盟相手が強くなってくれるなら俺達の負担も減るだろ。」

明石「ですかね。」

秋津洲「提督~!この船、凄いかも!まるで移動式鎮守府かも!」

提督「なんというかまぁ、凄いよなアメリカさんは。」

もともと12番艦まで建造が決まっていた強襲揚陸艦が深海棲艦の出現により建造が停止されていたのだが、

艦娘の出現により深海棲艦を駆逐していく事に成功。

これに自信をつけたアメリカ海軍は揚陸指揮艦としての機能も持たせた

ワスプ級の次級として建造予定があったアメリカ級の設計を見直し揚陸艦としての広大な格納スペース。

指揮艦としての通信、電探設備、3番艦以降に復活したウェルドック。

これらをそれぞれ入渠ドック、出撃ドックと改造改装し、

開発、建造、解体といった機能を削除、

空いたスペースに艦娘用の資材に燃料、弾薬、食料を積み。

更に居住スペースを追加して簡易式移動海上鎮守府を作ったのだ。



提督「国力がアホほどないと構想は出来ても実現は出来んなこれは。」



ましてや気前良く貸し出すなどという真似は出来る訳が無い。





秋津洲「つくづくおかしな国と思うかも。」

提督「なー。」アキレ

長門「ましてや動かす人間まで貸してくれるのだからな。」

長門「太っ腹以外のなにものでもないだろ。」

提督「俺としてはブルーリッジ級くらいかと思っていたんだがな。」

長門「運用実績とデーターとりだろ。お互いにWinWinという奴だ。」

提督「ここの総司令中将殿の掌の上感が半端ないな。」

長門「踊るのは得意だろ?」

提督「俺が踊ると腹踊りになっちまわなぁ。」

明石「実際これだけのサイズの艦を動かそうとすると

護衛の艦娘がかなり必要になりますからね。」

秋津洲「大きさが大きさだけに的になりやすいかも!」

提督「最近就役したジョン・C・バトラーの船が居ただろ。」

明石「あぁ、対潜の尖った性能持ちのサムちゃん。」

提督「安価で大量供給可能な目処がたって護衛用駆逐艦娘の当がついたからって事なんだろうさ。」

明石「大量生産大量消費がこの御時勢に可能ってのは流石アメリカですねぇ。」

提督「なー。」



敵じゃなくて味方で良かったそんな感想を抱きつつ明石と艦を見上げていたところに不知火が帰ってきた。




不知火「司令、申訳ありません。」ケホッ

提督「力尽くで止めろとは言ったが沈めろとは言わなかったからな。」

提督「おおかた兵装の使用をせずに止めようとして返り討ちにあったんだろ?」

提督「明石。手当てをしてやってくれ。秋津洲。瑞鶴、川内、雪風、時雨を呼んできてくれ。」

不知火「司令。」



不知火の頭に手を当て言葉を続ける。



提督「島風の力量を見誤っていた俺の落ち度だ。不知火。良く帰ってきてくれた。」

提督「生きていてくれて良かった。命があれば次に生かせる。次の作戦に備えゆっくり治せ。」



そう優しく声を掛け。提督は強襲揚陸艦へと繋がるタラップを艦内へ向け歩みを進めていった。

ザザァ。

提督達の乗った船より先行して移動している瑞鶴一向。



川内「提督とゆく楽しい遊覧観光の旅が―――……。」

瑞鶴「強行偵察ね……。」



瑞鶴に伝えられた指示は強行偵察。

つまりは島風の救出は無理と提督が判断したという事。



時雨「実際島風が本気で航行した場合は僕らじゃ追いつけないよね。」

雪風「救出は無理なのでしょうか……。」

瑞鶴「島風も分かっていて向っているんだろうから覚悟の上だと思うわ。」

瑞鶴「提督が強行偵察をわざわざ出したのは最期を看取らせる為なんじゃないかな。」

瑞鶴「それとプレゼントも渡して来いって言われているし。」

川内「提督も私達に指示を出す時、相当に渋い顔していたからね。」

川内「本当は死なせたくはないんだと思うよ。」

瑞鶴「さてと、そろそろ偵察機を出す頃合かしら。」



背中の矢筒から彩雲の矢を取り出し提督に渡されたプレゼントを括り付け弓に番え放つ。

ぶんと一際強いエンジン音を轟かせ彩雲は消えていく。



瑞鶴「拡張スロにケーブル挿して。視界の共有してあげるから。」



彩雲の搭乗員妖精の視界を時雨達も見られるようにケーブルで瑞鶴の艤装と接続。



瑞鶴「島風の勇姿。きっちりと見届けてあげようじゃないの。」

雪風「………。」




救援予定鎮守府近海



提督や瑞鶴の予想通りに島風は捕まっていた。

艦娘同士が使う短距離用無線の通信範囲内に入る前の事である。

捕らえられた後、連装砲達は全て破壊、艤装の通信機能も壊されていた。

島風が突破した事を知っていた深海側は周囲に近づく者達へ厳重な警戒網を敷く。

そこに救援の知らせを持った島風が帰ってきたのだ。

敵が手ぐすね引いて待っている所に帰ってきてしまったのだ。

そして、今、その島風の周囲には姫、鬼級。深海棲艦の指揮官達がずらりと集まる。

戦艦水鬼、戦艦棲姫、重巡棲姫、空母水鬼、空母棲姫。

駆逐棲姫に駆逐古姫。

例えるならG7首脳会談といった様相。




戦艦水鬼(以下戦鬼)「あなた、最速の島風よねぇ?」



妖艶な雰囲気を漂わせ艦娘の血で紅を引いていると噂されるその唇から底冷えのする声が漏れる。



戦鬼「あなたの事は知っているわぁ…。敵でありながら目を引く強さだったもの。」

戦鬼「それが、使いぱっしりなんてねぇ。」

戦艦棲姫(以下戦姫)「水鬼ともなると何度か拳を交えた事があるのね。」

戦鬼「えぇ。ただ、多くの場合が戦闘能力の高いこの娘を単騎突撃させて攪乱させる。」

戦鬼「なーんて、策も何もあったもんじゃない命を捨てて来いって形が多かったわ。」

駆逐古姫(以下古姫)

  「島風自体は強いのだけどそれを妬ましく思う他の娘達が連携を嫌っていた事が多かったな。」

空母水鬼(以下空鬼)「俊敏な動きで艦載機の爆撃をよく避けられたものよ。」ニッコリ

戦鬼「島風頼みの一点突破型の強攻策を何処の戦場でも採っていたわね。」

戦鬼「それが正解になってしまうほどにあなたは本当に強かった。」



捕らえられ口に猿轡を噛ませられている島風の頬をついと撫でる水鬼。



戦姫「となればそうそうに始末するのかしら?」

重巡「そうだな。見せしめに惨たらしく殺すのがいいんじゃないのか?」

戦水「まぁ、待って頂戴。私は思うのよ。」

空母棲姫(以下空姫)「何をかしら?」

戦鬼「この島風は私達に近いんじゃないかって。」

一同「?」

戦鬼「ねぇ、島風。私は見たことがあるわ。

    貴方が庇って被弾したにも関わらず庇われた相手が

    礼を言うどころか差し出したその手を跳ね除けるのを。」

戦鬼「そんな仲間以下の相手を助ける意味なんてあるのかしら?」

戦鬼「島風が良ければ私達、深海陣営に来ない?歓迎するわよ?」

戦鬼「あなたの強さがあれば姫、ううん。水鬼級の強さを発揮できるわ。」



そして、耳元で囁く。




戦鬼「あなたの魂は私達深海に近しいと思うの。」

島風「………。」

戦姫「確かに魂の有り様で新たな姫級の誕生を見るのも面白いわね。」

重巡「艦娘のまま我々の姫級として指揮官にか。」

古姫「まぁ、いいんじゃない?実力主義が私達の基本なんだし。」

駆逐棲姫(以下駆逐)「……、それより猿轡外さないと何も喋れないんじゃないかな。」

古姫「あぁ、忘れていたわ。」ゴソゴソ

古姫「これで話せるでしょ?」

戦鬼「ねぇ、島風?どうかしら?私達の仲間にならない?」

戦鬼「一緒にあなたを苦しめてきた連中を沈めていきましょう?」

島風「……、それってそんなに気持ちがいいの?」

重巡(しめた。乗ってきた。)

島風「確かに私は今まで酷い扱いを受けてきた。」



島風の目から光が消え、纏う雰囲気が影を背負う。




島風「もう、人間を守る為に戦うなんてうんざり。」

戦鬼「いいわ。実にいいわ!そう、強き者はそうあるべきよ?」

島風「手始めに目の前の鎮守府の残党を血祭りにあげたい。」

重巡(こちらに傾いてきているか…。新たな姫の誕生も間近かな?)

重巡(そういえば、地中海での戦いで生まれた同級の重巡棲姫も艦娘由来だったな。)フフン

古姫(強者の艦娘が元の姫。どんな強者に生まれ変わるか。見物ね。)クスクス

戦鬼「それじゃぁ、目の前の連中に絶望を味合わせてあげるなんてどうかしら?」

島風「絶望?」

戦鬼「えぇ、あなたは確か救援を呼びに包囲網を突破して出て行ったのよね?」

戦鬼「今も目の前の拠点に、鎮守府施設が破壊されているにも関わらず

   周辺の森や茂みに隠れて貴方の元仲間は殊勝にも抵抗を続けているの。」

戦鬼「その連中の心を、そう、抵抗を続けている連中の心を折ってしまいましょう。」ンフフ

戦鬼「拘束を解いてあげるから抵抗を続けている連中に貴方が私達の無線で語り掛けるのよ。」

戦鬼「自分は援軍を、救援を呼びに行ったけどどこも応じてくれなかった。援軍は来ないって。」

戦鬼「援軍が来ると、貴方に全てを押し付けてしまっている糞みたいな連中の絶望に沈む顔が見えて来ない?」

駆逐(サディストねぇ。)

島風「その提案、いいね。」

島風「援軍が来ない。皆は死ぬしかないって言えばいい?」

戦鬼「えぇ、それでいいわ。」ンフフ



そして、島風は立つ。

嘗て、味方だった艦娘達へ援軍は来ないと伝える為。



戦鬼「周波数は何かしら?」

島風「自分でやる。無線機ごと貸して。」



周波数を聞いてくる戦艦水鬼へ無線機を渡してくれと言う島風。



島風「絶望を叫ぶ連中の声を聞きたいの。」



その返事に満足し無線機を渡す戦艦水鬼。

ブロロロロロ



戦姫「あら?あれは敵の偵察機かしら?」

重巡「ほう。島風が此方側に寝返ったのを敵へ視覚的に見せるのに丁度いいじゃない。」

古姫「撃ち落すのは止めておいた方がよさそうね。」

戦鬼「操作は分かるかしら?」

島風「何となく。」



機械操作に長けた人が良くやる何となく操作。

説明書は困った時に読めばいいのあれで島風は無線機を操作。

そして、嘗ての仲間達の艤装に積まれている短距離用無線を呼び出すことに成功した。



ブゥン ――――――

ザリッザリッ




「○×鎮守府の皆!」



島風は呼びかける。



「この声は島風?」

「島風の声だ!」



目の前に広がる森林から歓声こそ上がらないものの

島風が帰ってきたことに沸き立つ雰囲気は伝わってくる。

そして、身を隠しながら沖合いを見やれば敵に囲まれた状態で海上に立つ島風が見えた。



「嘘。」

「島風が捕まってる………。」

「えっ…、じゃぁ、救援は来ないって事?」



広がり始める動揺。



「そんなぁ……。」



救援が来るかもしれないという一筋の希望が見えてからの絶望。



「皆!近隣の××鎮守府からの救援は来ない!」

「△×、□○鎮守府も皆、皆、救援を断ったの。だから近隣からの救援は来ない!」



正に奈落の底へ、絶望に底と言う物があるならその底へ叩き込む。

助かるかもしれないと言う蜘蛛の糸を見せ上り始めた所を鋏でぶった切るかの如き言葉。



戦鬼(あぁ、実に素晴らしいわぁ。)

戦鬼(敵の顔が絶望に歪むのが見えて来そうよ……。)



島風の呼び掛けに恍惚の表情を浮かべ満足そうに笑う戦艦水鬼。



「もう、助けは来ないのか……。」



ぽつりと漏れる悲痛な叫び。



島風「皆、後、もう少し頑張れば楽になるから!」

古姫(死を楽になると言うのであればなんという鬼畜)クスクス

駆逐(その変わり身の素早さは驚嘆に値します。)







                     「だって………。」










          「もっと、もぉ――――――っと強い鎮守府の人達が助けに来てくれるもん!」







ざわりと騒ぎ出したのは深海棲艦達かはたまた立て篭もる艦娘達か。



島風「私達の使っている装備よりずっと洗練された装備を持っている娘達。」

島風「その鎮守府に居た人達は皆、皆、一目見れば強いって確信できる人達だったもん!」

島風「すごいんだよ!全力で避けようとした私の顔に拳を入れる娘が居たんだよ!」

島風「こんな、へなちょこ深海棲艦なんか簡単にやっつけちゃうんだから!」

島風「だから!」

島風「だから皆!希望を捨てないで待っていて!」

島風「救援は今もこっちに向って来ているから!」



一気に言い切った島風から無線機を奪いとる駆逐棲姫。

しかし、島風が追いすがりそれを奪おうとしたため已む無く破壊。



「救援が来る!」

「島風が強いと言うとてつもない精鋭が来る!」



目の前の敵拠点が一気に熱を帯びてくるのが分かる。

島風の言葉は立て篭もり耐えている艦娘達にとってこれ以上ない希望となった。




戦姫「やってくれたわねぇ。」フフフ

戦姫「いえ、その見上げた根性。天晴れと言うベきね。」



味方と連絡を取る為の無線機を壊され、

必死に考えた結果が演技をし敵の無線を利用する事で味方達に希望を与えるという事。

そこに自分の命の事など一切を考えない高潔さ。

してやられたはずの戦艦棲姫をして天晴れと評価する程の自己犠牲。



戦鬼「でも、困ったわね。私達深海陣営に加わらないのなら死んでもらうしか無いわね。」



そう、深海棲艦陣営に寝返る事が島風生存の為の絶対条件。

先程の無線での援軍が来る連絡は間違いなく反故にする連絡。



重巡「普段なら艦娘の死体なんざ、イ級達のおやつなんだがなぁ。」



ぽりぽりと頭をかきながら語る重巡棲姫。



重巡「肉片を残さず綺麗に吹き飛ばしてやるよ。」

重巡「私はねぇ、あんたみたいに根性が座った奴は嫌いじゃないんだよねぇ。」



なればこそ。



重巡「その死体を下級連中の餌にするのは忍びない。」



方向の捩れた敵への敬意の払い方。だがそれは彼女なりの最大限の賛辞なのだろう。

そして速やかに刑は執行へ移される。



戦鬼「あなたが私達の仲間にならなくて残念だわ。」

戦鬼「これは心からの本音よ。」



戦艦水鬼、戦艦棲姫、重巡棲姫、そして駆逐棲姫に駆逐古姫。

主砲を一斉に向け、更には魚雷を持つものは魚雷発射管を島風へ向け。




戦姫「最後に言い残す事はあるかしら?」

島風「えへへ。そうだなぁ、あえて言うなら…。」

島風「悔いは無い、かな!」

戦鬼「総員!砲撃始め!」



ドン!



複数の砲声が鳴り響き、複数の魚雷が炸裂。

標的艦への砲撃演習かの如く全弾島風に命中し、島風は文字通り跡形も無く散った。

深海棲艦達の哨戒網ぎりぎりの所で瑞鶴達は偵察機の視界を通してそれを見ていた。



瑞鶴「島風……。」

時雨「……。」

雪風「島風さん……。」

川内「格好よく散っていったね。」

瑞鶴「提督さんから言われたプレゼントを敵に渡したら私達は帰るよ。」

瑞鶴「皆も分かってると思うけど、あいつらをぶっ潰すのは私達なんだから。」



静かに闘志を燃え上がらす瑞鶴に同意する一同。

グオォォォォオン

彩雲に括り付けていた荷物が切り離され戦艦水鬼前に落ちてゆく。




駆逐「爆撃!?」

戦姫「いえ、落下傘が開いたわ。別の物の様よ。」


静かに着水。

それは軍用ではなく民生品のごくごく有り触れた無線機だった。

ザザッ


「そこに総指揮官はいるか?」



無線機から漏れ聞こえるは年齢を重ねた男の声。



重巡「爆弾の可能性もあるかも?」

古姫「やるつもりならこんな回りくどい遣り方しないわよ。」


呼び掛けに応える戦艦水鬼。


戦鬼「私が総指揮官よ。何か用かしら?デートのお誘いには思えないけど?」

「あぁ、あんたが総指揮官か。名前を聞いてもいいか?」

「俺は今からお前さん達の頬っ面を引っ叩きに行く予定の少将提督だ。」

戦鬼「私の名前は戦艦水鬼よ。

   それにしてもレディの頬を引っ叩くなんて紳士にあるまじき行為じゃないかしら?」

提督「はっはっは。寝ぼけてるんじゃねぇや。お前ら深海棲艦どもがレディなんて名乗ってみろ。」

提督「暁が泣くぞ。」クックック

戦鬼「暁?あぁ、貴方達の駆逐艦にそんな娘が居たわね。

   私達を駆逐艦程度に見ているのかしら?」

戦鬼「随分と下に見られたものね。」

提督「ははは。馬鹿言うな。お前達はそれ以下だ。

   なぜなら俺が率いる部隊が貴様らを海の藻屑に変えるんだからな。」

提督「未来の死体が何をかいわんやだ。口を慎みやがれ。」

戦鬼「女性への口の利き方と言うのをまったく知らない下衆の様ね。」

提督「悔しかったら俺の顔にビンタの一発でも決めてみせるんだな三下。」

戦鬼「分かったわ。女性の扱いを知らない馬鹿に教育をしてあげる必要が有る様ね。」


提督からの安い挑発。


提督「あっはっは。」


戦艦水鬼を完全に馬鹿にした大笑い。


提督「出来るもんならかかって来い。俺は逃げも隠れもしねぇ。」

提督「待ってるぜぇ。」


ブツン

言いたいだけいい提督は無線を切った。




戦鬼「何て失礼かつ馬鹿げた態度をとった奴なの!」



島風の様に敵でありながら尊崇の念すら抱かせるような敵をいれば。

なんて失礼極まりない。目の前にいれば唾を吐きかけて殴りつけてやるというのに。

提督がとった態度に戦艦水鬼は激怒した。

その憤怒の相は周囲の味方達が提督の挑発に対して激怒した事を忘れさせるほどに気持ちを引かせた。



強襲揚陸艦内 艦橋



米海軍観戦武官大佐(以下大佐)「随分な挑発をされますね……。」

提督「ははは。大佐。これくらいで引いていちゃ軍を率いていけませんぜ?」



少将という上の階級でありながら友人の様に気さくに話しかける提督。



提督「とりあえず敵を幾らかこっちに吊り上げない事には始らないんですよ。」

提督「まぁ、吊り上げるのに失敗したところで痛くもないですがね。」

提督「あの程度の安い挑発で吊り上げられるくらいなら金を払ってでも吊り上げたいもんですよ。」

大佐「勉強になりますな。」

提督「大佐。気楽に行きましょうや。」




提督「敵は島風が……、

   恐らく自己犠牲により我々が救援に向っている事を知らせた事に感動しているでしょう。」

提督「逆の立場でも私は感動しますからね。

   感動して、その余韻が残る所に私からの挑発ですよ。」

大佐「あぁ…、感動映画を見た後にスタッフロールでお笑いNGシーンを見せられる様な。」

提督「そうです。感動をぶち壊し。怒らない奴などいない。」

大佐「怒りは通常以上の力を発揮させる可能性がありますが?」

提督「怒りは冷静さを失わせる。戦場で最初に死ぬのは冷静さを失った奴からですよ。」

大佐「相手の心理を手玉に取る為に怒らせますか。」

大佐「少将殿は随分と豪胆な神経をお持ちの様だ。」

提督「とんでもない。私ほど臆病者は海軍の何処を探しても居ませんよ。」

提督「大佐。戦場で長生きするのは臆病者ですぜ?」

大佐「肝に銘じておきましょう。」



秋津洲「提督!準備出来たよ!瑞鶴さん達もこっちに向ってきているって!」

提督「随分と早いじゃねぇか。」

秋津洲「深海棲艦達をぶちのめすっていきまいているよ。」

提督「……、冷静になれと言ってやれ。出番は俺が作ってやる。」

提督「まだ、ミュージカルの幕は上がってねぇ。」

大佐「ミュージカルですか。」

提督「えぇ、命が燃え尽きるまで舞台の上でそれぞれ与えられた役を演ずる。」

提督「殺す、殺す、殺す、と歌を謳い敵の断末魔がそれを彩る痛快ミュージカル。」

提督「コーラスラインからこっち側で役を演じられたいのでしたら

   無用な口出しは止して頂けると助かりますよ。」ニヤリ

大佐「ははは。少将殿は日本海軍より我々米軍に居た方がいらぬ頸木に捕らわれずに活躍出来そうですね。」

提督「ははは。」



提督と大佐。

艦橋に響く士官達の笑い声は他の乗員達にどの様に聞こえたか。

開戦の幕が上がるのはもう、間もなくである。



本日の更新は以上で終了です

前回の更新において叢雲が轟沈済み、島風が鳥居強右衛門の役割なのを見抜かれた方、洞察力鋭いと感心しておりました

また、まとめスレからこちらを読んで感想レスを頂きました読者の方、ありがとうございます、多くて驚きです

これからも末永く、どうぞ宜しくお願いいたします

まとめサイト、主にエレ速での自分の作品は長いとか、なろうとか言われ放題なの把握しているので、

頂いたレスが酷い事言われなくてほっと一安心したのは私が小心者だからですね……

SSまとめ速報は現在進行形のものも掲載されていてい珍しいなぁと思いましたので

前回の更新時に話題として取り上げさせていただきました

その件につきましては御不快な思いをされた方がいらした様で申訳ありませんでした

今回の話でノーフォークで埃を被った鉄屑が将来的に出てきても大丈夫ですよね!うん

後編は先にいいますと2回くらいに分かれることになるかと思います、下手したら3回……

計画性が無くて申し訳ないですがどうぞ、お時間宜しければお付き合いいただけると幸いです

後、ネタばれ的な感想レスについては自分は全然問題ないと考える方です

いい意味で予想を裏切る、或いはより良いものに出来ればなぁと考えている感じです(今回の島風の役割とか)

正直に言いますとレスが付かない方が読んでいただけているのかと心配でかえって怖いです

今回も色々御挨拶が長くなりましたが次回もお時間宜しければお読みいただけると幸いです


_(:3」∠)_ 

これ結構長引く奴だ……
1です、久しぶりの更新となります、お時間宜しければお付き合いいただけますと幸いです



第十二話 天国への扉 後編


強襲揚陸艦艦橋

提督「それにしても艦番88とは…。」

大佐「どうされました?」

提督「あぁ、いえ、この艦の艦番なんですがね。

   私が普段指揮を執る鎮守府の管理番号と同じでしてね。」

提督「なんの因果かと思いましてね。」

大佐「あぁ、それでコールサインが88なのですね。」

提督「えぇ。こういうのは普段どおりの方がいい。」ニッコリ



提督と大佐がにこやかに談笑している所に開演のブザーが鳴る。



「ワイルドギース01から入電!

 敵の偵察機がエリア3 -A―01からこっちに来てるかも!」(無線)

提督「こちら88コントロール。伯爵、聞こえているか?」(無線)

グラ「こちら伯爵。加減は?」(無線)

提督「1~2機は帰してやってくれ。

   こっちの居場所を知ってもらわない事には始らない。」(無線)

グラ「こちら伯爵了解した。」(無線)

大佐「こちらの位置をわざとにばらすのですか?」

提督「えぇ、そうですよ。あくまでメインステージは此方ですから。」

提督「踊るならこちらで踊ってもらわないと色々と折角の舞台演出が無駄になりますからね。」

提督「スポットライトの舞台装置に大道具。全て重要ですよ。」


強襲揚陸艦から救援予定鎮守府方向20海里地点 水深70m



ゴポリ

伊58「海底に岩だらけでち。」



提督から渡されたドラム缶を面倒くさそうに海底にアンカーで固定しながらゴーヤが言葉を紡ぐ。



伊8「米軍の海底データが役立ちますね。」

伊13「その…、海水がねっとりとしてて……。温度も……。」

伊58「提督はなかなか潜水艦ってのを良く理解しているでち。」

伊58「米軍のデーターが無いとこんな大胆な作戦は考えられないでち。」

伊8「私達が一番槍……、ですね。」

伊58「敵さんの探信儀に聴音機じゃここに潜むゴーヤ達は見つけられないでち。」

伊8「先駆けからの大物食い、ですね。」

伊13「ですが…、そのタイミングが。」

伊58「その通りでち。でち達からも敵の音は拾いにくくなるでち。」

伊58「だけど、敵は大艦隊でち。

   拾う為の努力をせずとも大音量が聞こえるはず。」

伊8「提督が言っていました。

   敵は提督へのカンツォーネを謳いながら来るだろうから煩いだろうって。」

伊13「……、あの、敵はセイレーンか何かなのでしょうか……。」

伊58「魅了されたら海に引き摺り込まれるという意味ではそうかもしれないでち。」

伊8「後は急速浮上後の目標の推進音を間違えないようにしないと。」

伊13「…提督は間違えても周辺護衛を仕留めれれば御の字って言っていましたが。」

伊58「大物食いは刑期大幅短縮、それに提督の話を信じるなら。」

伊8「大物食いに成功すれば解放されます。」



海上での戦闘というのは陸の平原戦と似ているが

海中という不可視の要素が加わるのが厄介である。

何故なら、海中に潜む潜水艦というのは

時として局面を引っくり返すワイルドカードに成り得るからだ。

適切な位置とタイミング。

テーブルに並べられたコミュニティカードに自分の手札。

当たり前だがカジノでの勝負と同じようにお互いの手札は見えず伏せられたまま。

戦場というテーブルに敵、味方、加えて地理的要因という場札。

そして、手札には自軍の戦力。賭けるチップは自軍部下達の命。

提督と深海棲艦のポーカー勝負は既に始っている。



強襲揚陸艦内



提督「初手からチェックなんぞしていちゃ心理戦に持ち込む以前の話ですぜ。」

大佐「だからと言って初手からベットして行きますか。」

提督「ホールデムは相手をいかにフォール。下りさせるかの勝負ですぜ。」

提督「特にプレイヤーが2人なら下りさせれば勝ちだ。」

大佐「ですが初手、

   まだゲームが開始されたばかりだとコールやレイズをしてくるのでは?」

提督「それが狙いですよ。大佐。」

大佐「賭け金を吊り上げさせるだけ吊り上げますか。」

提督「ラストターンまで待つ気はないですがね。」

提督「今回は私も頭に来てましてね。

   フォールの声を聞くつもりはないんですよ。」

大佐「既に役が出来ているという事ですか?」



ここで提督はさぁてねと意味ありげに手をひらひら。



提督「敵についてですが今回は姫の上の格。鬼級が出張ってきている。」

大佐「あぁ、先程のお互いの自己紹介でそう言っていましたね。」

提督「深海棲艦の指揮官個体は艦種での違いは無く同格だそうですよ。」

大佐「指揮系統が複雑そうですね。」

提督「と思いきや鬼号個体が指揮を執ればそれに従う。

   鬼同士では指揮系統の順位があると海軍の研究が出ています。」

大佐「敵の総指揮官は戦艦水鬼でしたですか?」

提督「えぇ、今回の敵の総指揮官は戦艦水鬼です。なかなか厄介な手合いですよ。」

大佐「油断ならぬ相手、という事ですか。」

提督「えぇ、救援を呼ぶ艦娘が出られないように包囲網を適切に構築しているようです。」

提督「島風が這い出てこられたのも島風だからと言って過言じゃないでしょう。」

大佐「随分と強個体だったようですね。」

提督「えぇ、死なせるには惜しすぎる艦娘でしたよ……。」



艦橋内にある各種モニターに映る光の明滅を見ながら提督がぽつり。



提督「時に大佐は博打の必勝法を御存知ですかな?」

大佐「はて?」

提督「賭けない事ですよ。」

大佐「違いない。」

提督「まぁ、相手が目の前に居なくてよかったですよ。」

大佐「?」

提督「私はポーカーフェイスってのが苦手でして。顔に出やすいんですよ。」ニタァ

大佐「成程、良い笑顔ですね。」




敵にも居るはずの潜水艦。

しかし、提督はこれが自分達救援部隊への迎撃に向ってこないと計算していた。

そして、仮に向ってきても脅威足りえないと。



コーン


          シャッシャッシャ


     コーン


シャッシャッシャ
         コーン



空鬼「敵の潜水艦は居ないようね。」

駆逐「えぇ。外周に配置したナ級の報告では探信儀に敵の反応は無いわ。」

空鬼「敵救援艦隊は随分大きな的を備えている様ね。」



グラーフがトニー賞俳優顔負けの迫真の演技で逃した偵察機からの情報で

深海迎撃艦隊は提督達のいる方向へと進路を向けていた。

ソナーには2種類あるのは皆さんも御存知だと思うが探信儀と聴音機。

この2種類の違いについては今更説明する必要性はないと思う。

潜水艦の探知については探信儀の方が性能が高いのだが

自軍に潜水艦が随伴している場合は現代艦で構成される機動艦隊は控える事が多い。

では、何故深海棲艦は探信儀を気兼ねなく使っているのか?

単純明快、自軍の潜水艦が随伴していないからである。

艦隊行動をする上で潜水艦の随伴というのは良くあるのだが。

潜水艦の基本の戦い方は待ち伏せ。

現代では機関や形状等が進化した事により潜行したまま艦隊についていけるが

第二次世界大戦時は浮上航行した上で会敵予想海域に潜むというのが専らの戦い方なのだ。

であるからこそ、既に防御線を構築している状態から潜水艦を引き抜き

艦隊に随伴させるというのは少々戦い方として無駄がある事になる。




駆逐「敵の包囲網に使っている艦を回すわけには行かない……。」

空鬼「ここが難しいところよね迎撃側になる此方は速力重視になってしまうから

   速力に不足がある潜水艦は艦隊行動について来れない。」



現代艦艇の潜水艦と比べればその速力は浮上航行時でも当然遅く更に。



空鬼「敵潜水艦が待ち伏せて襲撃をかけて来ると予想される中で

   爆雷対処を行った場合に味方の潜水艦を巻き込む恐れが有るのよねぇ。」

空鬼「音を立てずに海中に潜んでいると見つけにくいのよね。」

駆逐「無闇にソ級達を沈めると潜水棲姫に怒られる…。」

空鬼「今回の作戦にあの娘の軍勢借りてるから無駄に沈めると後が煩いのよね…。」



現代兵器であればキャビテーションノイズ等で艦事の区別は付くのだが……。



空鬼「敵味方の潜水艦入り乱れての混戦になると却って困るのよね。」

空鬼「浮上航行の潜水艦なんて鈍亀もいい所だし。」

駆逐「浮上航行している潜水艦は敵にとっていい的でしかない。」

駆逐「私達の爆雷は潜水艦を[ピーーー]。敵も味方も無い…。」

空鬼「であるならば対潜に力を入れて探信儀で

   広範囲に捜索をかけて敵を先に見つける事に重点を置いた方がいいわ。」

空鬼「陣形の外周を探信儀持ちで固めて広範囲の捜索。

   発見した場合は同じく駆逐、軽巡で処理。これが一番現実的かつ合理的よね。」

駆逐「そう…ね…。」



深海側が採っている陣形は空母機動艦隊、米軍が海上航行をする際にとる輪形陣である。

単純にかつざっくりと陣容を説明するなら

外周の的がやられても内側の空母等の重要艦を沈めさせないという陣形である。

だけに。




伊58「内側に完全に入り込まれると対処がしにくくなるでち。」ニタリ



提督から事前に話された敵がとってくるであろう陣形。

それは輪形陣の一陣形、

アイロン型の陣形で内側に深海側にとって重要艦を固めて来るであろう事。

そして、提督から艦内で改めて聞かされた

今まで色々な鎮守府が撮り貯めてきた深海棲艦達の各艦種、姫、鬼級達の推進音。

それを思い出し。



伊58「海のスナイパー。潜水艦の真骨頂を見せ付けてやるでち。」ニタリ



ゴポリ



伊8(そろそろです……。)



10……9……8……7……6……



5………4………3………2………………1



0 !



一秒が一時間にも感じられる程の張り詰めた雰囲気の中、

頭上を通り過ぎていく敵艦隊の推進音は

音が拾いにくい所にいるはずのゴーヤ達の所にもしっかりと届いていた。



伊58「今でち!」



70mの海底から一気に急速浮上。目標とする敵の後ろを取る。

その完璧なタイミングを推し量り、潜水艦達は急速浮上をかけた!



駆逐「潜水艦の浮上音!?」



敵輪形陣中央に浮上。




伊58「海の中からこんにちは~!」ザバン!



シャコーン

冷たい立体反響音が当たりに響く。その正体は魚雷発射管が開く音。



伊58「そして、[ピーーー]ぇ!!」



敵の真後ろ、提督達のいる方向へ向けて航行中のため急に後ろを振り向く事など出来るわけも無く。



シャ ――――――――― !



ズドン!



ゴーヤ達3人の放った魚雷が一斉に扇形に広がり輪形陣の中心にいた深海棲艦達に命中!

そして上がる命中の水柱。



伊8「全弾、命中確認、ですね!」

伊13「敵被害確認、カメラでの撮影完了!」

伊58「長居は無用でち!急速潜行で海域から離脱でち!」



その存在を検知出来なかった場所からの敵。

ゴーヤ達の奇襲は完璧なまでに決まり、成功した。




空鬼「駆逐ちゃん。」

駆逐「何?」

空鬼「あなたに指揮権を移譲するわ。機関をやられたわ…。」

空鬼「艦載機の発着艦は出来るけど後方からやられた所為で

   このまま敵本隊にぶつかればいい的にしかならないわ。」

空鬼「自力航行不可能よ……。」

駆逐「離脱するのね……。」

空鬼「えぇ、後は宜しくね……。」


ゴーヤ達の魚雷は艦隊の中心部に居た空母水鬼に見事命中。

他にも多数の重巡達に大破や中破といったダメージを与える事に成功していた。


駆逐「ナ級達。敵潜水艦を沈めて頂戴。」


艦隊外周の駆逐艦達に冷静に見える様でありながらも腹立たしい表情で指示を出すが。


駆逐「敵の反応が無い?」

駆逐「馬鹿な!敵にそんな高速潜水艦等居るはずがない!」


だが、返ってくる言葉は不明(ロスト)の返答。


駆逐「忌々しい!」


駆逐棲姫が毒づく言葉を吐き周囲への爆雷攻撃を命じる。

ゴーヤ達を探知出来ている訳では無い。

だが、潜水艦の脅威を放っておくわけにはいかない為周囲全体に爆雷を大量に撒く。

そして。


駆逐「敵艦からの浮翌遊物を確認。」


撃沈したと思しき大量の油と敵艦娘特有の制服を確認。

ナ級からの報告に溜飲を下げる駆逐棲姫。

進軍速度を落とし被害の確認。

空母水鬼が大破撤退したものの空母全体でみれば被害は軽微。

そして、重巡や軽巡、戦艦といった者達にも撃沈が出てはいるがこれもそれ程数が減った訳では無い。

まして、奇襲という手を食らって敵と一合も刃を交えず退くという事など。


駆逐「選択肢としてない!」


事前の偵察機からの情報では艦隊の数、そして空母艦載機数で圧倒できる。


駆逐「地獄を見せてやる!」


激昂し普段あまり表に出さない感情を顕わにし。


駆逐「絶対[ピーーー]!」


怒りのままに進軍速度を早めたのだった。



強襲揚陸艦内艦橋


不知火「司令、ゴーヤさん達から入電です。」

提督「読み上げてくれ。」

不知火「トラ!トラ!トラ!我、奇襲に成功せり! です。」



不知火の読み上げる電文に苦笑する士官二人。



提督「大佐、これは申訳ありませんな。」

大佐「いえいえ。お気になさらず。」



そして、不知火から敵に与えた被害を聞き満足そうに頷く提督。



大佐「あまり敵に与えた被害が大きくは無いようですが。」

提督「とんでもない。連中は値千金の仕事をしてくれてますぜ?」



提督の言葉に疑問を持ったのか腑に落ちなさそうな顔をする大佐。



提督「大佐、指揮官を一人、

   それも空母水鬼を行動不能に出来たというのはこっちの防衛戦は勝ったも同然です。」

提督「空母水鬼とその他の指揮官では艦載機の管制が雲泥の差。」

提督「制空争いに余裕がかなり出来ることになるんですよ。」

提督「敵の数が勝っていたとしても質で此方は拮抗に持ってはいけますがね。」

提督「あくまで拮抗。勝つための決定打が足りない。」

提督「その決定打を今、潜水艦の娘達が敵に与えたって事ですぜ?」

大佐「それなりに策は用意されているかと思っていたのですが?」

提督「えぇ、おっしゃるように勝つための策は用意していましたがね。」

提督「使う必要性が無いなら使わない方がいい。

   私の所はそちらほど台所事情がよくないのでね。」




大佐「それにしてもそちらの潜水艦の娘達は実に大胆な手法を取られましたね。」

提督「もともと其方がこの辺りを縄張りにしていた御かげで

   蓄積されていた海底データが役に立ちましたよ。」

大佐「やはり温度躍層に、ですか?」

提督「手品のタネを明かすならそうですね。

   曳航式ソナーなんて敵は持っていませんしな。」

提督「攻めてきた側の連中が周辺海域の詳細海底データーを持っているとは思えませんし。」

提督「知っているなら対策もとっていたでしょうや。」

大佐「成程。なかなか面白い事を考え付かれますね。」

提督「簡単に真似出来ると思ってはいただきたくないですね。」ニィッ

提督「今回海中に潜んでいた連中は何百、何千と深海連中を沈めてきた歴戦ですからな。」

提督「御存知とは思いますがうちの特性上沈めた艦種によって報酬は大きく変わる。」

提督「だからこそ、狙う前に敵の機関の推進音を一瞬で聞き分け、

   より報酬がでかくなる対象を狙う。」

提督「急速浮上から奇襲、そして急速潜行、戦域離脱。

   普段から死線をギリギリでさまよっているうちの連中だからこそ出来る芸当ですぜ?」

提督「まちがっても余所の錬度でやっちゃ駄目ですな。

   急速浮上後に目標を見つけられずに沈められるのが関の山ですからな。」

大佐「精鋭揃いなのですね。」

提督「えぇ、精鋭も精鋭。気を抜くと自分の首に大鎌が押し当てられますので。」

提督「最初に敵に与えたこの攻撃で敵の先手は取った形になります。」

大佐「切り札を最初に切ったと?」

提督「えぇ、切り札なんてもんは温存しといて

   切るタイミングを失うよりさっさと切ってしまった方がいいんですよ。」

大佐「成程、どこかの国の戦艦がそんな最期でしたな。」

提督「……、皮肉がすぎますな。」ハハッ



始めの電文に対しての軽い応酬。




大佐「これは失礼しました。ですが、今後の展開も楽しみですね。」

提督「楽しむ余裕があるというのは重要ですよ。」

提督「余裕があるうちは頭も動いている証拠ですからね。」

提督「さてと、不知火。」

不知火「はい。」

提督「この艦の周りに配置についている連中に連絡だ。」

提督「幕は上がったとな。」

不知火「了解です。」

提督「さてと、大佐にはプロデューサとしての私の腕前を見ていただきますか。」

大佐「地方公演なしにいきなりのブロードウェー。素晴らしい大作なのでしょうな。」

大佐からの皮肉に、にこやかな笑顔を返し。

提督「勿論ですよ。まぁ、I dreamed a dream になる訳にはいきませんので。」

大佐「レ・ミゼラブルですか。」

提督「御名答。」



艦橋内で提督からの指示を

強襲揚陸艦外周辺海域に展開する各艦娘と連絡を伝え全員が意気軒昂なのを確認。



提督「さぁ、舞台は整った。」



後は敵をいかに潰すか。手札の役は既に敵にとって致命傷。

敵の積み上げたチップを全て残らず奪い取る。



秋津洲「ワイルドギース02から88コントロールへ!」(無線)

秋津洲「敵艦載機編隊がエリア2-A―03より襲来!」(無線)

提督「了解!全員褌締めて掛かってくれ!

   前哨戦だがここから先は全て息を切らさぬクライマックスの連続だ!」



提督の呼び掛けに全ての無線は応とかえってくる。



提督「気を抜くと尻の毛全て毟られるぞ。」



提督の台詞に笑う無線の返事多数。



提督「さぁて、いつも通り。行こうか。」



ぽんと手を一つ叩き、艦橋内の各種モニターを見つめ

どう敵を料理しようかと提督は不敵な笑みを浮かべるのだった。

本日の更新はこれにて終了です、次回へ続きます

次回嘘予告

追うものと追われるもの。そのおこぼれを狙うもの。
牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の海。あらゆる悪意が武装する、赤い海。
ここは深海との戦いが生み出した死の戦場。
時雨の体に染み付いた硝煙の香りに引かれて危険な奴らが集まってくる。
次回、『 出会い 』。時雨が飲む、鎮守府のコーヒーは苦い。

337様、本当に駅あるんですねググってびっくりしました
333様、本当に数レス上げたボツネタ供養からここまで続くとは思っていなかったです
ボツネタに対して続きは?と多くのレスをいただき背中を押していただいた部分も多いかと思っています
実際、ボツにした理由も需要ないだろうなぁと思っていた部分が大きかったですので
ですので更新の度に多くのレスをいただいている現状は1としてありがたいやら恐縮するやらで……
このお話の後に砂の薔薇をベースにした番外編をやれるようそちらも筆を少しずつ進めていますので
これからもお時間よろしければお付き合いの程宜しくお願いいたします
感想レス、乙レス、いつも励みになっています、本当にありがとうございます
変態仮面のSSも書いてます、方向性が180度違いますが間違いなくどちらも同一人物が作者です、はい
では、また次回の更新で!!

あっ sagasageを打ち込まなかった所為でピーが発生してる…
>>346は死ね
>>347は殺す
ですね、締まらないなぁ…、御迷惑お掛けします……

前回は他の作者様のとこに書き込みしてsageになっていたのを直さず投稿してご迷惑をお掛けしました
良く忘れてやらかす…、駄目駄目ですね……
少しまた期間が空きます事のご連絡とおまけネタで読んでみたいとレスいただいていました
ガングートのお話を少し、宜しければお読み下さい


おまけ話  ガングートは底辺から脱出したい


ガングート着任初日

その日、不知火は提督からのお使いで艦隊司令部に行っており

既に帰途に付いていたものの帰ってくるまでにはまだ時間が掛かるはずだった。



ポンポンポン



いつもの様に軽快なエンジン音を立て艀に接岸するボートが一艘。



提督「お疲れー。今回の荷物は外交問題だって?」

水兵「ははは。私からはあまり詳しくは。」

提督「うちに厄介ごとの丸投げ止めて欲しいもんだよ。まったく。」



そしていつもの通りにお互いの認識票を端末に翳して受領手続き。

その後、水兵が去った後に荷物の拘束を解いていた所に不知火が帰ってきた。



不知火「司令!不知火、帰投しました!」



みえない尻尾がぶんぶんと。

振り切れそうな勢いで振れているなぁと提督はぼんやり。



提督「うん。お疲れ。予定より早いようだが。」

不知火「途中で船を降り艤装で全力航行してきました。」



頭を撫でろと差し出しくる不知火の頭を撫でていると罵声が飛んできた。



「貴様!駆逐艦の相手などせずにさっさと外せ!この馬鹿者が!」



猿轡を先に外し、足の拘束を外そうとしていた提督に偉そうな口を利く艦娘。

ブチッ



不知火「2割殺しで許してやる。」



たった一言。余分は不要。

メキャァ



提督「あっ。」



提督は後に時雨に語った、艦娘って戦艦でもあんなに吹っ飛ぶもんなんだなぁと。



時雨「あれで2割なんだ……。」



とは時雨の返答。


そして、1週間程、意識が三途の向こう側へ行きかけた後。

栄養を取る為に彼女が食堂を利用した時の事だった。

昼食をとりに提督が食堂へ顔を出せば揉めている声がする。


ガン「なんだと!?ボルシチが出せないだと!?」

「いや、予め言ってくれれば用意はするけど。」

「普段からメニューにないのを急に作れって言われても無理だよ。」

提督「まぁまぁ、落ち着いて。」



提督がなだめようと間に入るが……。



ガン「何が落ち着けだと!?貴様!銃……「露助、司令官を敬え。」



一閃、綺麗な兎飛びアッパーが決まる。

ボゴォ゛



提督「あっ。」



提督は雪風に語る。天井に人が突き刺さるって事があるんだねぇと。



雪風「装甲は腐っても戦艦ですから。」



とは雪風の言葉。



そして、三途の渡し守から追い返されてから三日後。



秋津洲「今日は二式大艇ちゃんの整備日和かも!」

提督「二式大艇ってこう、なんか愛嬌あるデザインだよなぁ。」



執務室が禁煙にされてしまっている為、煙草を吸いに埠頭まで来ていた提督が秋津洲に語りかける。



秋津洲「さっすが提督!よく分かってるかも!」

秋津洲「でも煙草に火をつけたまま近づくのは危険だから駄目かも!」



ジュッ

咥えた煙草を奪われ火を消される。



ガン「頼もう!」

秋津洲「はーい、いらっしゃいませかもー!」

ガン「すまないが燃料と弾薬を売ってくれ。支払いはこれで。」

つ ルーブル

秋津洲「げぇぇ。まじもんの紙屑かもぉ!」(1ルーブル≒1.78円)

ガン「なにぃ!?貴様!我が祖国を愚弄するか!?」

秋津洲「ここでの使用可能通貨はドルかも。」

ガン「その様な物等ない!」

提督「ルーブルは流石に両替を受けてないな。」

秋津洲「お金が無いならお帰りはあちらかも!」指差し

ガン「金は無いが武器はある。」チャキッ

秋津洲「きゃぁ――、強盗かも ――(笑)。提督を守らないとかも――(笑)。」


役得とばかりに提督に抱きつき、えいっと可愛らしくパンチを一つ。


ドゴ!



提督「あっ。」



秋津洲の右ストレートが炸裂。

二式大艇は自重だけで約18t、爆装等込で最大重量約35t。

それを片手で担ぎ上げる秋津洲のパンチが決まったのだ。

提督は後に長門に語る。反跳爆撃で飛んでいく爆弾の様に水を切りながら飛んでいったと。



長門「学ばない奴だな。」



とは長門の言葉。




そして。



明石「金を稼ぐ前から修理代ばかり嵩ませて、

   払うあてが無いなら艤装ばらしてあんたの部品を担保にして貰おうか?」

明石「人体ってのは綺麗にばらせば300万にはなるんだ。腎臓の一つでも売ってみるかい?」



鬼より怖い明石に睨まれ。

艦娘が入れる生命保険等ある訳も無く。



ガン「身の程を弁えず申訳ありませんでした ――――――― !」



提督に地面で額を摺りきらんばかりの勢いで土下座をかまし。



ガン「助けてください~。」



全力で泣きを入れた。



提督「あー、まぁ、うん。気をつけろよ。」

不知火「2度は無い気をつけるんだな。」ヌイ!

ガン ヒィィ!



提督が明石に上手く取り計らい、ガングートは内臓を売る事無く着任する事が出来たのである。

マイナスからのスタートなのは言うまでも無い。

以上超短編
お読みいただきありがとうございました、最近板自体が管理人さん不在の所為かスレ建て荒しなどの放置が目立ちますね…
そろそろ移住を考えた方がいいのやらやら……
では、ここまでお読みいただきありがとうございました
乙レス、感想レス、いつもありがとうございます!励みとして続きを書くエネルギーに変換しています!
では!また次回の更新でお会いいたしましょう!

8月に入る前になんとか更新出来そうなので更新に来ました
久しぶりにフライトシミュやったけどコクピットモードで3D酔い、ゲーム自体は好きなんだけどなぁ…
少し長めの更新となりますが宜しければお付き合いいただけますと幸いです


グラ「Falke(隼)02は01と協力して3―B―01だ。」



自己管制下にある最新鋭機Ta152艦載型の編隊を敵の襲来している空域へ差し向ける。

ポン!



グラ「と、お次はAdler(鷲)01と02、3-A―01だな。」



ポン!ポン!



グラ「正面と右翼からの浸透か。」

グラ「まずはお手並み拝見と言ったところか?」



高高度作戦機が豪とエンジンの唸りを、

咆哮をあげ提督が乗る強襲揚陸艦へ襲撃を掛けてくる敵機を落とす。



グラ「高高度における機体性能は私の機材の方が上の様だな。」



ポ―ン!



グラ「と、このエリアはサラトガだったな。」



ポ―ン!



グラ「ふむ。Conder(コンドル)を援護に回そう。」



先程からグラーフの目に映っているのは周辺戦闘空域に飛来している敵機編隊数。

グラーフはウェラブル端末の透過式グラスの表面に表示される

敵飛来方向等から自艦載機部隊に戦闘指示を出している。

そのグラスはポーンポーンと軽快に音を立てては戦況を随時更新。



グラ「外周のピケットが食われないようにしないとだが…。」

グラ「フム、初月達が動いたか。電探持ちがやられるときつくなるからな。」

グラ「Conder(コンドル)02、03はそのまま上空で二式大艇の護衛を続けてくれ。」

グラ「敵増援が来れば護衛機は追加しよう。艦隊の目だ。くれぐれも落とされないでくれ。」



グラーフは一体何をしているのか?




強襲揚陸艦 艦橋



不知火「大艇からのデーターだと、敵艦隊はこちらの方角です。」



不知火が二式大艇に積まれた機上電探からの情報を

提督が机代わりにしているタブレットを大きくしたような大型モニターに

データとして表示させながら説明する。



提督「そろそろグラーフだけでの管制は厳しくなってくるだろうな。」

提督「俺が管制の指示を出そう。」

大佐「航空管制の経験がおありですか?」

提督「うちの国は人材がつねに不足していましてね。なんでも出来ないと提督は務まらんのですよ。」

提督「もっとも、なんでも出来た所為で辺境の指揮官なんてものをやっていますがね。」



大型モニターに数字と襲来方向の矢印、

そして、敵機を表す光点が徐々に増え始めるのを見て提督が頭にレシーバーを嵌める。



提督「うち所属の空母艦娘ども、敵の数が借金取り並だ。」

提督「ここからは俺が管制をする。

   指示は各々がつけてるウェラブルグラスに迎撃に向わせる空域と編隊名が出るからその指示に従ってくれ。」

提督「後、米国からのお客様、サラトガ嬢は未通女(おとめ)なんでな。」

提督「悪い虫が付かないように守ってやってくれ。以上だ。」



提督からのいつもの軽口付きの指示。

どうやらいつも通りやれているようだ。いつも通り、普段の様に頭が動いているなら。



グラ「Admiralの勝ちだな。」



にしても。



グラ「カバー範囲が広いものよな。」



だが。



グラ「私になら出来るというAdmiralからの信頼。それに応えぬ訳にはいくまいよ。」



上官への尊崇。それ以外もあるが。口には決して出せない秘めた思い。



グラ「火事と喧嘩は江戸の華だったか。」



なれば鉄火場こそ己の魅せ場。

纏う火の粉を紅に変え、硝煙の香りを上等のフレグランスへ。

堅牢な城門を壊し城を陥落させるようにあの朴念仁を堕とそうではないか。



グラ「独逸撫子もいいもんだとあの男に言わせねばならんのでな!」

グラ「必勝と行かせてもらうか!」



高度1万メートル

高高度作戦機の縄張りであり空気は薄く、

大馬力エンジンが支配する絶対空域。

馬力の無いエンジンを積んだ飛行機では辿り着けても

敵に追いすがる事など出来ない性能こそが神として君臨する空域。

その高度をグラーフの管制下にあるTa152の各編隊は悠々と飛行していた。



大隊長「編隊長から各機へ。ターキーショットと思って手を抜くなよ。」

大隊長「グラーフ嬢が想い人にいい所を見せようとしているようだ。」

副長「それは気合いれて掛からないといけないですね。」

隊員A「でも、告白するんですかね?」

隊員B「いつも寸前で止まってますからねぇ。」

大隊長「相手は昔の女に捕らわれているらしい。」

副長「男としては憧れますが。」

隊員A「好きになった女にとっては迷惑極まりないですね。」

大隊長「なればこそ我らが戦果をあげていい女として認めて貰えるように頑張らねばな!」

一同「「「 Ja!」」」



軽口を叩く妖精一同。

そして、グラーフの指示に従い眼下に見える敵機編隊へ襲いかかりる。

ドイツ空軍、ルフトバッフェの基本戦術2機1小隊を2つにして4機で1編成のケッテとよばれる編成単位。

ドイツ空軍が採用の後、実戦に投入しその有用性に目をつけた英国空軍も取り入れ4本指、

フォースフィンガーという名称でこの編成方法は知られている。

彼らは定石通りに高空から一気に眼下の敵編隊へ襲い掛かった!




ドドドドドド!

機銃の音が空間へ響き渡り深海棲艦の機体を撃墜!



隊長「Falke(隼)大隊長01より各小隊長へ!被害報告をされたし!」



突入してのそのままの勢いで急降下をしている状況で余裕の被害確認。

Falke隊からの急襲を散開させることによりなんとか逃れた深海棲艦の艦載機は急降下で追撃!



「02小隊被害なし。」

「03小隊同じく被害なし。」

「01了解。Adler(鷲)編隊!準備は!?」

「こちらAdler大隊長01。いつでもどうぞ。」



各編隊からの報告に満足したように頷くと

急降下していた状態から一気に操縦桿を引き機首を上方へ向ける。



大隊長「馬力のある機体が逃げる時は下じゃなく上が定石だからな。」



攻撃を仕掛けた編隊が急に機首を上に上げたのに合わせ急降下で追撃していた敵機も追いすがる!



大隊長「まったく、japanの言葉でダボハゼだったか?」

大隊長「ちったぁ罠を疑えってな。」

大隊長「Falke大隊長01よりAdlerへ。お客さんをお連れした!盛大に歓迎してやってくれ!」



ドドドドドドドン!



Adler大隊長01「Willkommen(いらっしゃい)コーヒーは如何かな?」



上空へと逃れるFalke隊を追いかけてきた敵機は次の瞬間全機撃墜される!



大隊長「待ち伏せお疲れ。」

Adler大隊長01「どういたしまして。敵は余裕が無い様だ、コーヒーの誘いを断られたよ。」

大隊長「紅茶好きだったんだろ。」

Adler大隊長01「成程、それは粗相したな。」



何のことはない。

急降下突撃した部隊が敵の生き残り編隊を急上昇で吊り上げ

高空で待機していた別の編隊へ上がってきたところを叩かせる。

上昇力に明確な差があるからこそ出来る戦術であり。

二式大艇からの電探情報、提督からの敵機位置情報、

各編隊との無線機でのやり取りがばっちりと嵌ればこその戦術である。




大隊長「釣り野伏せだったか?」

副長「japanでの名称ですか?」

大隊長「あぁ、瑞鳳嬢の旗下連中から聞いたんだが

   japanの戦闘民族が得意とした戦法なんだそうだ。」

副長「我らゲルマン民族の様に勇猛果敢な民族もいたもんですな。」

大隊長「そうだな。Falke大隊長から大隊全機へ!

    最初の突撃で担当空域内に侵入している敵は3割しか落せていない!敵が多すぎるな!」



大隊長の言葉に笑いが漏れる楽しい職場。



大隊長「ここから先は各個撃破となる!各小隊の奮闘期待する!以上!散開!」

Adler編隊長「同じくAdler隊も散開!各個撃破だ!以上!」



高空からの奇襲は一度限りの先手必勝。それを使えば後は一撃離脱の回数を重ね敵を落すしかない。

こうして狼達は野に放たれた。

ギュオォォォォォオオオォン!

機体性能を十分に活かし再度の急降下突撃。



大隊長「逃すか!」



一気に敵を3機程屠った後、僚機を従え他の敵機が飛ぶ高度で水平飛行へ!

そして機体性能を活かし速度を上げ敵の背後を取り敵機を更に撃墜!



大隊長「これが生身の人間なら体に掛かるGが激しいんだろうなぁ。」

副長「妖精に転生してその辺りの負荷があまり感じなくなりましたからねぇ。」

大隊長「先の大戦時でもそうだが、ますます人間を辞めた感があるな。」

副長「元々人間でしたっけ?」

大隊長「そういわれるとそうだな。」



ドドドドドド!

鼻先僅か10m。敵機が艶やかな華を咲かせ、ばらばらに散っていった。



副長「撃墜のコツは。」ニカッ

大隊長「自分の機体を当てる心算で近づけ。」ニヤリ



Ta152量産型の20mm機関砲、2機分、合計6門が火を噴けば並大抵の装甲では耐える事など出来やしない。




ダダダダダダ!

大隊長「早漏だねぇ。」

副長「そういえば、深海棲艦の艦載機は男が乗ってるんですかね?」

大隊長「女なのか?あれ?」

副長「そもそも操縦士が乗っているのかどうか?」

大隊長「……、機械に落とされるのは癪だな。」



水平飛行を続ける二人の機体に敵が仲間の敵とばかりに攻撃を仕掛けてくる!

が!その銃撃はあまりにも遠すぎる為か当たらない!

なにより数多の修羅場を潜った末に妖精に転生している二人は

殺気を感じた時点で機体を次の行動へ移すべくタイミングを計っていたのだ。

二機の機体のエンジンが更に唸りを上げ速度がどんどん上昇。



大隊長「重力なんてもんを感じなくてよかったよ。」

大隊長「感じてたら奥歯の一本は覚悟しねぇとならなかったかもしれないからな。」



ふわり。

それは一瞬の出来事である。

機首を上げ機体を右方向へ捻りこみながら縦方向へ180度のループ。

ループをしながら機体を捻るためループ終了後の機体は水平に。



戦技 インメルマンターンの炸裂である!



敵の上方へ進行方向を逆にする形でターンする為、隊長達の機体の下を敵機がすり抜ける!

その結果、互いの速度差で距離が一気に離れていく!



大隊長「お疲れさん。」



水平飛行へ移行後少しばかりの距離を飛んだ後、2機は再度、下方向へのループを行った!

インメルマンターンの逆バージョン。



戦技 スプリットS である!



両方の技は共に少しの操縦ミスで機体の失速を招く高難度空中格闘戦技であり

それを間髪入れずに行うのは耐Gスーツを着ていたとしても

その体はもとより機体そのものに掛かる重力は凄まじいものとなる。

エアショーで機体が地面とフレンチキスをやらかして

大事故になる事が多いのもだいたいどちらかの戦技の失敗だったりする。



副長「まぁ、敵の技量はうちの飛行隊だとワンデイですな。」


ピタリと追撃してきた敵機の後ろに付け2機の銃撃により敵機小隊は撃墜された。


大隊長「まったく、インメルマンの後にスプリットなんぞやってたら普通死ぬわ。」

大隊長「体への重力のかかり方が死ねる。」

副長「敵との距離が離れていましたからねぇ。」

副長「ビタ付けしている状態だったらそのままループだけでよかったんですけどね。」

隊長「敵がどん亀なのが悪い。」

副長「そーですそーです。」

大隊長「さぁて、敵の残りをいただきますか。」

大隊長 副長「「我らがグラーフ嬢の為に!」」



そして、2機は再度、敵編隊へと襲い掛かかっていくのだった。



グラーフ「 /// 。」



穴があったら入りたいとはまさに今のグラーフの為にある言葉だろう。

各妖精隊に指示を出す為に無線を繋ぎっぱなしのグラーフには

先ほどからのやり取りは全て筒抜けだった。



初月「やぁ、伯爵。そんなに赤面してどうしたんだい?」

グラ「あぁ、初月か。初月が来たという事は。」

初月「うん。そろそろ敵が抜けてくるだろうからって提督からの指示だ。」



現実的な話上空で空戦を行っている戦闘機だけで敵の攻撃機全てを落せる訳がない。



提督「時に大佐。この船の喫水線防御なんですが。」

大佐「強度としては大戦時の大和級準拠ですよ。」

提督「流石に色々と資料を残されている国は違いますな。」

大佐「大和級の固さは我が国にとって悪夢でしたからね。」

大佐「深海棲艦達の使う魚雷が大戦時の物と同じという情報を信用するなら

   単純に喫水線下の防御を固めるのが対策として至極簡単です。」

大佐「おかげで基準排水量がかなり増える事になってしまいましたがね。」

提督「さてと、接触と磁気、どちらの信管か。」

大佐「接触だと思いますよ。」

提督「ですかね。」



誘導装置が魚雷に搭載されたのは先の大戦も終戦間近、今までの深海棲艦達からの攻撃データーからの判断でも。



提督「敵の魚雷は接触式信菅とみて動きますか。」



そして、針路変更の指示を出す。



提督「面舵20度」

大佐「艦の進行方向を変えますか。」

提督「魚雷からの回避行動といえばジグザグ航行が一般的ではあります。」

提督「ですが、うちの防空艦連中の腕を信用するならばこの程度の針路変更で問題ないですよ。」



強襲揚陸艦が針路を変える少し前。

初月率いる対空兵装を満載した防空駆逐艦隊は提督の指示に従い

上空の防空網を抜けてくる敵機を探す為空を睨んでいた。



初月「そこだぁ!!」



初月の長10cm砲、対空機銃が豪快な音を立て上空の網を抜けてきた敵艦攻隊を撃ち落とす。

ドドドドンドンドンドン!      

キンキンキンキン!



ボフォースからの薬莢が海中へ綺麗な放物線を描きながら消え

傾き始めた西日を受けきらきらと戦場に不釣合いな美しさを描き出し海中へ消えていく。



初月「ここは通さない!」



初月達防空艦達の対空砲火を浴び敵機が次々と火達磨になり消えていく。

だが、艦攻の役割は魚雷を投下し敵艦へぶつける事がその主目的である。

撃墜されたとしても魚雷を落せれば勝ちなのだ。

初月の対空砲火を浴びた敵機が、当たれば儲け、鼬のなんとやらとばかりに魚雷を投下した。



グラ「初月!魚雷が!」

初月「くそぅ!この方向はまずい!」



雷跡が提督達が乗る強襲揚陸艦へと走る。

が!



提督「当たらんよ。」



敵機から放たれた魚雷は強襲揚陸艦の左舷艦首先を駆け抜けていく。



提督「面舵30度。」



淡々と操舵指示を出す提督。




大佐「魚雷が来る事も予想されていた……、

   というより射線を制限しているという方が正しそうですね。」

提督「あぁ、やはり分かりますか。」

大佐「自分の部下を完全に信用しているから出来る芸当とは思いますがそこまで部下に命を預けれますか。」

提督「流石に配られた手札で勝負せにゃならんですからね。

   いかさま無しの一発勝負となれば手前の手札をいかに有効活用するかですよ。」

大佐「成程。」



そして、机代わりのモニターに広がる数字を見て。



提督「敵の数がこちらの3.5倍は居るようですからね。打ち漏らしも出て当然と考えないといけませんよ。」

大佐「という事はこの艦が被雷、被弾することもあると言われる。」

提督「出来れば無いと願いたいですがね。まぁ、そこの所は神に祈りましょうや。」

大佐「神に祈るですか。」



これまでの用意周到振りを考えれば似つかわしくない言葉。



提督「たまには神様に仕事をしてもらわないと、

   いざという時に仕事の仕方を忘れていたじゃこちらが困りますからね。」

大佐「ははは。」



再び海上



グラ「流石Admiral 魚雷が抜けることも考えて予め回避行動をとっていたか。」



そう、提督は上空の防空網にわざとに穴を開けていた。

全ては敵の攻撃機がそこの穴から攻撃を仕掛けてくる様に仕組む為に。

それは城にわざとに攻めやすい弱点を設けることで

敵の攻撃をそこへ集中させ守りやすくする篭城戦の基本戦術のようである。

だが。



初月「まるで僕が失敗をするのを見越していたようで癪にさわるな。」イラッ



決してそうではないのだが。



初月「これより全ての敵機は通さない!」

初月「全防空担当駆逐艦に編隊長初月の名において命ずる!」

初月「これより我ら修羅になる!敵機は一機残らず血祭りだ!」




提督が艦を動かしたのは万一に備えての事であり決して初月達の能力を侮ったからではない。

しかし、この行動は初月のプライドを著しく傷つけた。

更に避けていなければ被雷していたという事実もその初月のプライドを傷つけるのに拍車をかけ、

より闘志を燃え上がらせる燃料となる。

だけに。



初月「そ こ だ ぁぁぁぁあぁあぁぁ !!!!!!」



ワルツを踊るように滑らかに駆け抜け機銃弾の薬莢、長10cm砲から上がる砲煙。

そして秋月型特有の白を基調とした制服は日が傾き橙色に染まる海上へ彩を添えた。



グラ「ほう、なかなかこれは。」



美しいものだなと声がでかかるが戦場という美と程遠い世界に居るものが

語るべきではないなと思い続く言葉を噤むグラーフ。

ポーン!



グラ「流石に数を頼みとする深海連中だけある。」



身に着けるウェラブルグラスには敵の編隊がまだまだ相当数いる事が表示されている。



グラ「とっ、2―D―02からのお客さんか……、これは瑞鳳のエリアだな。」



格闘王瑞鳳。



グラ「相手が哀れと言うかなんというか。」



狂気王瑞鳳。



グラ「Admiralが艦後方に位置する所に配置しているのはそういう事なのだろうな。」



瑞鳳の配置場所は米軍からの借り物でありゲストのサラトガの近く。



グラ「味方であれば心強いのではあるのだがいかんともなぁ。」





瑞鳳常識無知也。



瑞鳳「んふふふん。」ヌチヌチヌチ



その少女はポールダンスを踊るストリッパーの様に体をくねらせ全身から歓喜の声を上げていた。



瑞鳳「あっ、駄目、溢れてきちゃう。」



戦場に長く身を置く事で常識感覚が欠如して戦闘狂になる兵士というのはよく居る。



瑞鳳「あっ、んっ、あっ。」



戦闘狂であれば御する事は容易い。

しかし本当に危険なのは狂っていながらも冷静さを併せ持つ相手。

88所属の瑞鳳はネームド制度が終った後に艦娘になった為二つ名持ちではない。

彼女は敵を殺すことに快楽を求め、

性的要求を満たす為に敵をさながら蟻を潰すかのごとく嬲り殺すことが好きだった。

その残虐性に一緒に出撃していた艦娘がPTSDを発症する事も珍しくなく、

敵を時間を掛け嬲り殺す事を最大の快感とし、

それを止めようとした味方艦娘を殺しかけた事が原因で此処に流されてきた。

そして、提督はそれを受け入れた、曰く。



「敵を確実に殺すんなら何も言わんよ。結果を出し続ける限りはお前の味方だ。」



今まで瑞鳳を狂っているとした鎮守府の無能達と違い彼は結果を出せばどうでもいいと、

瑞鳳に道端へ転がる石を見るような無関心とも言える冷たい視線をくれるだけだった。

それが瑞鳳にどういう印象を与えたのかは不明なのだが。




瑞鳳「んっ、あっ、提督ぅ~。」ビクビクッ



絶頂を向え暫しの余韻の後、改めて自己担当空域に迫る敵の数を確認する瑞鳳。



瑞鳳「んっ、さて、私の場所を守るためにも頑張らなきゃ。」ホウッ



お漏らしをした様に濡れた袴。

愛液が滴る指を振りその雫を飛ばした後、

彼女は意識を既に上空へ展開済みの自己艦載機群へと向ける。



瑞鳳「さぁてと……、徹底的に嬲り殺そうかぁ。」ニタリ



グロロロロロ

零戦のエンジン音が甲高くなり増速を始める。

敵機が進入してきている高度はやや低め。

高度にして6000m。

瑞鳳が使う、否、帝国海軍が様々な悲しい事情も含めて

終戦時まで主力として使用した零戦シリーズが得意とする高度である。

じゅるり。

待ちきれない。そして、来た。

敵機を見つけ、瑞鳳は今か今かと待ちわびる自己艦載機編隊に迎撃の指示を下した。




「全機突撃じゃぁ  ―――――――― !!!」

「おはんら深海の蛸どは鬼ころ飯じゃぁ !!!」

「ちぇすとぉぉぉぉぉ ――――――― !!!」

「命(たま)置いてけやぁ ――――― !!!」



機体に色とりどりのペイントアート。

戦闘機の塗装は空に溶け込むもの、

あるいは海上の色に溶け込むものを使用するのが主なのだが。

その零戦の一団は機体全体に派手派手しく極彩色の塗装がされていた。

それら機体に乗る妖精達は使用者の瑞鳳が頭一つ跳び抜けて狂気を持っている影響もあってか狂気の塊。

しかし。

その空戦格闘技術はまぎれもない本物。



「貴様(きさん)しんどけやぁ ―――― !」



槍合わせの形になる正面からの突撃!

方向桿を操作し操縦桿を逆方向へ入れ機体を横滑りさせる!



「奪ったどぉ ――――― !」



横滑りしながら正面敵機を撃墜!

正面突撃を全力ですれ違った零戦の後ろをまた別の敵機が取った!

速度は悲しいかな零戦の方が遅くエンジン馬力も深海棲艦の最新鋭機と比べれば非力。

だが、瑞鳳航空隊の狂人妖精達には誰一人としてそれを不利とするものは居ない!

後ろを取られた瑞鳳隊の零戦が敵機から逃れるべく上昇を始めるがその後ろを敵機が猛追!

そして、上昇を続ける零戦は暫くすると急に失速し機体が左右に振れ始めた!

これは決して操縦を誤ったものではない、狙って行っている操縦である。

そう!零戦の運動性能だからこそ可能とされる戦技!



木の葉落とし である!



木の枝から葉っぱが地面へ落ちるように左右に大きく揺れながら動く為

その名が付けられた空戦機動戦技である!

失速した零戦を追い越した敵機の背後に付き直す零戦!



「ちぇすとおぉぉぉ ―――――――― !」



気合一声、敵機撃墜!

零戦の性能で垂直上昇時の失速は零戦の機体性能では起こり得ないともされるが

彼らはそれを無理やり、そう、道理を力で捻じ伏せる事で可能にしていた。



「そこんお前(はん)!命置いてけやぁ ―――――― !」



視界の端に見えた敵機へ急降下をかけ撃墜。

敵機が撃墜され搭載燃料や弾薬に火がつき方々であがる艶やかな華。



「ここが戦場(いくさば)、命捨てがまるは今ぞ!」



狂人戦闘機集団。

搭乗員妖精は使用者である空母艦娘が撃沈されない限りは熟練度が落ちこそすれ同じ存在として黄泉還る。

だからこそ。



「はぁっはっはっは!共に黄泉路を逝きたもっそ!」



ぼうぼうと別の敵からの銃撃により機体から火の手があがる零戦。

建て直しが出来ないと判断するや手近の敵機へと突っ込み戦果を積みあげ、逝った。

彼らの思想はいたって単純明快。



「瑞鳳の姫御さえ残れば俺達が勝ちじゃぁ!」



そう、軽空母艦娘瑞鳳さえ残れば勝ち、大将さえ生き残れば勝ちなのだ。

であるからこそ、戦闘不能となれば敵機へ突っ込む事になんら躊躇いはない。





深海空母機動艦隊



ヲ級F「あっ頭が狂ってやがる!」



気配、殺気や狂気に色があり目に見えるとしたらきっと丹とか真紅とか鈍錆とかだろう。

瑞鳳の艦戦部隊がとる狂人の戦い方は相手取る深海棲艦達を震撼させた。

まともな相手なら、武人として相手とれるなら戦う事も誉れになるだろうが。



ヲ級F「ひぃっ!笑いながら突っ込んで来る!」



自己管制下の艦載機に意識を乗せていれば特攻をかけてくる瑞鳳隊妖精の顔も見え、

その搭乗員妖精はひとり残らず狂喜の笑顔。

死ぬ事を喜びとする狂人のそれ。

自分の命を路傍の石程度にしか考えていない狂気のそれ。



ヲ級F「来るな来るな来るなぁ!!」



一機一機を細かく操縦している深海棲艦は艦載機から受ける情報は艦娘より多い。

その為、瑞鳳の艦戦隊から伝わってくる狂気は空母深海棲艦を恐慌へ駆り立てた。



「ん?ぼかっと動きが鈍なった?」(急に動きが鈍くなった?)



耐え切れなくなったヲ級が自己艦載機との意識の接続を切ったのだ。

先ほどまでの精細を欠けば精鋭狂人達の相手ではなく結果、

瑞鳳の受け持つエリアに侵入した敵艦載機は一機残らず撃墜された。



瑞鳳「ねーねー、グラたーん。瑞鳳の応援いりゅ?」エヘヘ

グラ「申し出はありがたいがそろそろ完全に日も落ちる。敵も一旦引き上げるだろう。」

グラ「となれば私達の艦載機も一旦収容する必要があるかと思う。」

瑞鳳「あっ、うん!そうだね!そうだよね!じゃぁ、夜間ハラスメントいきゅぅ?」

グラ「あぁ、エスコートさせていただこうか。」

瑞鳳「グラたんのそういう優しい所好きぃ~!」



無線での可愛らしい(?)やり取り。



強襲揚陸艦 艦橋内作戦司令室



提督「秋津洲。二式大艇は全部降ろしてくれ。」

秋津洲「いいの?」

提督「夜間警戒を考えれば欲しいところだが替えが効かない。」

提督「夜間の敵が見えない状況で落とされるほうが痛い。」

提督「夜間の警戒は外周のピケット連中とグラーフの夜間機に任せる。」

提督「明日に備え休んでくれ。」

秋津洲「了解かも!」



インカムを通してやり取りをする提督。



提督「不知火。ちょっと眠気覚ましに顔を洗ってくる。

   その間に被害状況を纏めておいてくれ。」

不知火「了解です。」



艦内 士官用 個室



びちゃびちゃと吐瀉物を吐く音が室内に響く。



提督「なかなか。きついなぁ……。」フィ

「ねー。」

提督「なに勝手に入ってきてるんだ?」

「そろそろご飯の時間だからリクエストをと思ったっぴょーん。」

提督「何か見たか?」

「げーげー吐いてる汚いおっさんを見た。」

提督「見てたか。」

「うん。」

提督「他の連中には黙っていろよ?」

「指揮官が体調崩してるなんて吹聴して回るほど野暮じゃないよ。」

提督「…………、ちげぇよ。プレッシャーに弱いだけさ……。」

「プレッシャー?」

提督「あぁ、毎度の事だが鎮守府総勢を動かすとなるとな。敵もやはり強力だからな。」

提督「被害0なんて事はまず無理だ。」

「そんなものかなぁ?」

提督「誰も死なずに勝つなんてのは物語の中だけだ。」

提督「昨日まで一緒に飯食ってた間柄の奴が今日死ぬとかがざらだ。」

「繊細なのねぇ。」

提督「毎度毎度、胃がきりきりと痛むのさ。」

提督「俺の指示が一つ間違えば全員死ぬなんてのが有り得る。」

提督「傲岸不遜で通して行きたいがな。やはり不安なのさ……。」

「じゃぁ、夕飯は胃に優しいもの作ってあげるぴょん!」

提督「あぁ、頼む。」



吐いた物を洗い流し、口元を含め綺麗に顔を洗い、改めて気合を一つ。

そして、提督は艦橋へ再び戻ってきた。




艦内 士官用 個室



びちゃびちゃと吐瀉物を吐く音が室内に響く。



提督「なかなか。きついなぁ……。」フィ

「ねー。」

提督「なに勝手に入ってきてるんだ?」

「そろそろご飯の時間だからリクエストをと思ったっぴょーん。」

提督「何か見たか?」

「げーげー吐いてる汚いおっさんを見た。」

提督「見てたか。」

「うん。」

提督「他の連中には黙っていろよ?」

「指揮官が体調崩してるなんて吹聴して回るほど野暮じゃないよ。」

提督「…………、ちげぇよ。プレッシャーに弱いだけさ……。」

「プレッシャー?」

提督「あぁ、毎度の事だが鎮守府総勢を動かすとなるとな。敵もやはり強力だからな。」

提督「被害0なんて事はまず無理だ。」

「そんなものかなぁ?」

提督「誰も死なずに勝つなんてのは物語の中だけだ。」

提督「昨日まで一緒に飯食ってた間柄の奴が今日死ぬとかがざらだ。」

「繊細なのねぇ。」

提督「毎度毎度、胃がきりきりと痛むのさ。」

提督「俺の指示が一つ間違えば全員死ぬなんてのが有り得る。」

提督「傲岸不遜で通して行きたいがな。やはり不安なのさ……。」

「じゃぁ、夕飯は胃に優しいもの作ってあげるぴょん!」

提督「あぁ、頼む。」



吐いた物を洗い流し、口元を含め綺麗に顔を洗い、改めて気合を一つ。

そして、提督は艦橋へ再び戻ってきた。


また二重投稿やってしまった……
>>390は見なかった事にしてください


艦橋内 作戦司令室


提督「前半戦は終了だ。こっから先はブラフをいかに効かせるか勝負だ。」

提督「配られた手札は変えれねぇ。不知火。被害報告を頼む。」



気合を入れるかのような独り言を一つした後、不知火からの報告を受ける。



不知火「撃沈ですが外周ピケット担当艦の駆逐艦娘が4名。

防空担当艦に2名。空母艦載機艦戦隊の損耗が搭載機数の5割です。」

提督「グラーフ達以外が結構落とされた感じか。」



精鋭揃いといえど規格外はほんの一握り。



提督「存外、被害が少なく済んでいるな。」

大佐「流石ですね。」

提督「えぇ、ここまで少ないのは後の作戦も有利に運べますからね。」



「General!」



大佐と会話をしている所に指揮官としてのジェネラル呼びで提督を呼び出す声がする。

提督「指揮官の少将提督だ。サラトガか?どうした?緊急事態か?」



所属はあくまで米軍。

その為指揮権を一時的に借り受けている形の為階級での呼び出しをしてくるとしたら

サラトガかアイオワのどちらかだろう。

そして、タイミングがグラーフ達へ夜間ハラスメントを指示しようかとしてのタイミングだった為

サラトガかと推測したのだが、それは間違いではなかったようである。



「サラの子も参加させていただいて良いでしょうか?」

提督「?」

提督「夜間攻撃機を所持しているなら是非お願いしたいが……?」



F6F-5Nといった機材は米軍から日本海軍へも供与されている。

わざわざ使用許可を取るような物ではないはずと頭で考えれば目の前の大佐がやっちまったの表情。

ははぁ、成程。



提督「大佐、新鋭機をお持ちですか。」


しかも夜間攻撃へ移ろうかというタイミングでの申し出。となれば夜間攻撃機で間違いない。


大佐「すみませんね、隠す心算ではなかったのですが。」


新鋭機ともなれば同盟相手でも出来れば秘匿しておきたい物だ。

この狸め、と思いながらどんな新鋭機が出てくるのやらとはやる気持ちを押さえ訊ねる。



提督「サラトガは一体何を持ってきているのですかね?」

大佐「F7Fですよ。」



こいつぁ驚いたと提督が驚いた顔をして見せればしてやったりの大佐。

双発艦上戦闘機、それも夜間用とくれば3Nのレーダー強化型に違いない。

しかし、指揮権を借り受けているとは言え

秘匿しておきたい新鋭機をわざわざ自分に使用許可を求めてくる辺り……。

どうやら大佐も苦労してそうだと、なんとはなしに同情を禁じえない。



提督「うちにも是非、融通していただきたいものですな。」



明石のルートに出回ってないという事は完全に試作も試作。少数生産も良いとこの物。

何とは無しに明石の悔しがる顔が思い浮かぶ様である。




大佐「それは……、少将次第でしょうか?」



含むような言い方に言外の意図を悟る。



提督「休憩がてら甲板に出ますか。夜間攻撃はあくまで嫌がらせですからね。」

提督「グラーフ。」



レシーバーのスイッチを入れグラーフを呼び出す。




グラ「Admiral、何か用かな?」

提督「夜間攻撃の指揮はお前に任せる。編隊の数が少ないから任せても大丈夫だろ?」

グラ「承知した。」

提督「頼む。」



提督から頼むといわれグラーフは瑞鳳隊の援護の為、自己艦戦隊の夜間攻撃機を上げる。



グラ「Adler隊は上空援護、Falke隊が下りてUhu(鷲ミミズク)隊があがってからだ。」



Uhu隊、その愛称を部隊名にそのままに艦載型へ無理やり改造した部隊。

He219改艦上型 双発夜間攻撃機であり機上レーダーを積んだ夜の愛し子。



グラ「さてと瑞鳳の方はどうであろうか?」

瑞鳳「大丈夫、彗星艦爆隊は準備万端なんだから!」



頭がおかしい狂人集団の中でも一際いっちゃってる搭乗員妖精が乗る艦爆隊。

彼らは夜間攻撃隊でありながら急降下爆撃もやるいかれ。



瑞鳳「がんがん殺っちゃうんだから!」

サラ「Hi ! Generalから許可をいただきました!サラの子も護衛しますね!」



といってもその武装は胴下パイロンに魚雷を一発抱える艦攻仕様でこちらも同じく殺る気まんまん。

血の気の多い姫達だとやれやれ感のグラーフ。

期せずしてここに独、日、米の夜間攻撃隊が揃い踏みとなった。



強襲揚陸艦 甲板



提督「煙草を吸ってもいいですかね?」



相手からの承諾を得て手持ちの紙巻に火を点ける。

ふいと一息。



「それで 「まずはお話したいことが。」」



二人同時に話始め。どうぞどうぞと譲りあった後、提督から話が始った。



提督「米軍は私達からの応援要請がなくても自分達だけで出撃される心算だったんではないですかね?」



無言の肯定。



提督「うちの不知火がそちらに救援への援助打診をした後が早すぎたのが気になりましてな。」

提督「あらかじめ準備済みだったという気がしてならんのですよ。」

提督「それが悪いとか言うつもりは一切ありませんし

   寧ろ大助かりな現状をみれば何ゆえにそれを備えていたのかを伺えないですかね?」



暫しの間が空き。



大佐「成程、ペンタゴンの分析通りのお方のようですね。」



CIAではなくペンタゴンね。と心の中でごちる提督。



大佐「我々は現在救援に向っている拠点が敵に襲撃を受けていた事は事前に把握していました。」

大佐「ですが、そこはそちらの海軍の拠点であり我が国が同盟国であったとしても。」

提督「勝手に救援を派遣するのは侵略行為と他の国にとられかねないでしょうね。」



そう、仮に同盟相手が攻撃を受けていたとしても救援の要請が無い限り

勝手に動けばそれは内政干渉であり侵略行為の烙印を押されかねない。



大佐「我が国が攻撃を察知した時点でそちらの上層部、軍、政府双方へ

   外交ルート等を用いて救援の必要性を説いていたのですよ。」



はて?ならば何故軍令部が把握していなかった?

単純な疑問が思い浮かぶがそれの答えは提督が口に出す前に大佐が答えてくれる。



大佐「我が国は少将提督の国の上層部に強い懸念を抱いています。」



成程、つまりはそういう事か。



提督「情報を止めた連中が居ると。それも思いもかけないような上の方に。」

提督「それでは、独自に私が救援に出ると言う話を持ちかけたのは渡りに船だったという事ですか。」

大佐「その通りです。因みに我々の方でも救援に向う上で日米合同の形を取りたかったですからね。

   その上で少将提督の鎮守府に出撃していただきたかったと言うのはあります。」

大佐「そして、今後を見据えて我が国の利益を守る為にも少将提督には協力者であって戴きたい。」



本題が来たかと思う提督。

そして、成程なと得心。

言葉の端々に大佐が同じ軍人でもエスタブリッシュの出身臭い教養を感じては居た。

米軍人としての出世コースの一つである潜水艦乗りとしての知識、

かと思えばミュージカル等の文化教養も備えている。

加えて自分より随分と若そうでありながら中将の補佐として観戦武官も勤め上げる。



提督「質問ばかりでなんですが大佐はTIMEの表紙を飾られるおつもりですか?」

大佐「今ではなく4年後に。」

提督「州知事?上院議員?どちらの道を進まれるおつもりですか?」

大佐「はははは。少将提督は実に聡いお方だ。」

大佐「今後とも、どうぞ良しなに。」



質問への答えをはぐらかすように握手を求める手。だが、答えは既に出ている。




提督「えぇ、今後とも宜しく。

それで今後も仲良くする為に教えていただきたいのですが

この船の乗員は海兵隊の者が多いようですが拠点救出後は制圧作戦でもするつもりなのですかね?」

大佐「必要とあらば。体つきで分かられましたか。」



同じ軍人でも特殊部隊員と一般機関員とではやはり色々違い、ろくでもねぇと思うが。



提督「何ゆえにかの理由をお教えいただけないですか?

まさか星を1つ増やす目的ではないでしょう?」

大佐「この救援作戦は南太平洋での潮目を変えるのは間違いないでしょう。」

大佐「南太平洋一の大国との航路が復活すれば資源や食料、その他色々の輸出入が活発化します。」

提督「パワーバランス、軍事ではなく経済の方での問題ですか。」

大佐「えぇ、我が国がこれからも優位を保ち続ける為に。」



えげつない。敵からの監禁が味方からの監視付監禁に変わるだけか。

とはいえ解放した後の海上航路の護衛を向こうが引き受けてくれると言うのなら利用しない手は無いだろう。

日本に余分を裂くだけの国力は無い。



提督「我が国の担当をきちんと同席させてケーキの配分にありつけさせていただけるんでしょうか?」

大佐「もちろんですよ。」

提督「公文書館に残る形でお願いしたいもんですね。」



口約束では困る。



大佐「決定権のある上に上申しておきましょう。」


ここまで準備出きる権限を与えら得ている人物の上。

恐らくはアメリカという国を一人称で語れる人物。

大佐の後ろ盾を垣間見たようで少し背筋に冷たいものを感じる。



大佐「余計な詮索はおよしくださいな。お互いの為にも。」



そういい残し大佐は艦内へと帰って行った。

深く、ちりちりと煙草が一気に燃え尽きるまで肺に煙を送り深く深く吐き出す。

そして、兎型の携帯灰皿で火を消す。



提督「予想以上にこっちの尻に火が付いている状況か。」

提督「ろくでもねぇ。」



吐き捨てるように呟くと提督もまた艦内へと戻っていった。


レス数を抑える為に1レスに詰め込もうとすると改行のしすぎって怒られますのん……
今回の更新はこれにて終了です、当初の予定が大幅に狂っています、ごめんなさい、まだ結構続きそうです
計画性の無さが露呈していますが宜しければ今後もお付き合いいただけると幸いです。



次回嘘予告他

どこかの鎮守府

大淀「提督が死んでいる!」

明石「……、頭を鈍器で殴られたようですね。」

明石「これは…、南瓜?」

大淀「まさか!?」

涼月「てっ提督がわるいんですよ…。」

涼月「南瓜はもう飽きたって言われた提督が……。」

88鎮守府

提督「上官を撲殺。」

不知火「ですが対空に関しての戦績はなかなかのようです。」

提督「何が原因なんだ?」

不知火「痴情のもつれと書いてありますが。」

提督「困ったもんだ、まったく。」

こうしてまた問題児が一人地獄へ着任した。


Q1 グラーフの艦載機は最新鋭なのに何故瑞鳳の機体は零戦なんですか?

A  敵に体当たりして壊す事が多いのでその度に買い換えていたらお高くなる為コスパ優先だからです

Q2 サラトガの機体はどうしてF7Fなの?もっといい機体あるじゃん!

A 双発機のロマン優先です。
  またF8Fの夜間攻撃機もありますが調べている上で武装がロケット弾等になっていた為採用を見送りました


感想、応援レスいつもありがとうございます!いつも楽しみにしています!よかったら気軽にレス下さい!(レス乞食)
以上で本当に更新終了です、ではまた次回の更新でお会いしましょう!

エリア88モチーフなので空戦描写をどこかで入れたいと思ってやりました後悔はしてないです
燃え系のSS増えないですね、追っかけてた方のまた止まっているし……
増やす為にはまず自分からの意思もあり書き始めたものの別のところでやったほうがいいのかしら……
萌え系SSは多いのだけど、なぜでしょうねぇ……、ぐぬぬ
需要が少ないであろうSSにお付き合いいただいている皆様に改めての感謝です

夜になっても気温が落ちない……
毎日暑いですね、頭に話は浮かんでもなかなかアウトプットにまで時間が掛かる……
本日の更新に参りました、お時間宜しければお付き合い下さい



強襲揚陸艦付近 海上



グラ「夜間攻撃に出ている部隊が敵と接触するまで少し時間があるか。」

グラ「サラトガに瑞鳳、よかったら珈琲はどうかな?」



無線での珈琲ブレイクのお誘いに二人がグラーフの元に集まる。



瑞鳳「流石グラたん。珈琲美味しいね!」

サラ「うぅ~ん。実にperfectな味です。」



夜間攻撃隊を出しているのは3人だけであり

その管制を行う者が一箇所に固まるのは良くないのだが。



瑞鳳「南の海でも夜は少し冷えるね。」

グラ「ならば私のマントを貸そう。」

瑞鳳「やだ、グラたん。天然スケコマシなんだから…… /// 」

瑞鳳「そういう所愛してるぅ~ /// 」ダキツキ



ポーン!



グラ「あぁ、ありがとう。さてと、とりあえず、

   此方の部隊が敵に届け物をするより先にお客さんがお越しのようだ。」

サラ「確かに、電探に機影が幾つか反応しているようですね。」



ウェラブルグラスに新たに表示される敵編隊襲来の報。

先遣隊と接触することなくどうやら上手くすれ違ったようである。

抱きついてきた瑞鳳を体から剥がしながらサラトガのほうに向き直る。



グラ「こちらに夜間攻撃機があるなら当然相手にもあると考えて当然であるな。」

サラ「でしたらサラにお任せいただけますか?」



ふわりとスカートの裾をたくし上げる。



サラ「サラはお茶会を邪魔する不埒な深海棲艦を許しましょう。」



あら大胆と瑞鳳が感想を漏らす間に

スカートのドラムマガジンをトミーガンに模した射出装置に嵌める。



グラ(ほう、心が広いのだな。)



思ったよりまともなのかなとグラーフが感想を抱いて直ぐ後。



サラ「だが!このトミーガンが許すかなぁ!?」



憤怒の相をしたサラトガがサブマシンガンをぶっぱなし始める。



グラ  ブフォー 

瑞鳳  ブハー



サブマシンガン特有の弾のばら撒きが始まり強烈な音が

けたたましく空間に響き渡り艦載機が顕現し夜空へと消えていった。



サラトガ「ふぅ~、快感 /// 」



一仕事やりとげた。そんな晴れやかな顔を見せるサラトガ。

夜の闇にF6F-5Nが舞い上がり溶け込み消えていく。

暫くすれば仕事をきちんとこなしているのか方々で火の手が上がるのが見える。



グラ「ふむ、私の部隊とスコア勝負をしようというのか。面白い。」

グラ「見せてもらおうか。合衆国の夜間攻撃機の性能とやらを!」



どうやら艦隊の上空警戒として先に上がっていたグラーフの夜間戦闘機と

サラトガの夜間戦闘機の搭乗員同士無線での会話で撃墜数勝負をする事が決まった様である。

しかして30分もすれば勝敗が決まる。



サラ「Oh My God …… 」

グラ ンフ― (ドヤッ)




このドイツ人!新人への容赦なし!



グラ「さてと、勝負であったからな。」



ずいと差し出すのは手袋を嵌めた両手。



サラ「これを差し上げたのは内緒にしてくださいね。」

グラ「勿論だ。」ンフー



勝負に勝ったグラーフはサラトガから夜間戦闘機F6F-5Nをカツアゲ、

ではなく善意で1機、コレクション目的で受取っていた。



グラーフ達が迎撃に当たっていたその頃、

提督は艦内でせわしなく作業をしている明石を見つけ色々打ち合わせを小声で行っていた。



明石「流石アメリカ級ですね。

   艦内に手術室やらまぁ、まぁ、色々充実してますよ。」

提督「ワスプ級の拡大発展型だからな。その辺も数は増えているだろうさ。」

明石「キッチンがちょっとしょぼいと感想も聞きましたけどね。」

提督「あいつは料理……、そうだな料理が生きがいだからな。」

明石「たまに料理に違う意味も混じってきますがそれは置いておきましょう。」

明石「ところで提督はどういった御用ですか?」

提督「分かっているんだろ?俺はこいつの簡易ドックのシステムが欲しい。」

提督「データとして持って帰れそうか?」

明石「流石に提督は悪ですねぇ。御参考にどう使うか教えていただけます?」

提督「コンテナモジュール化できないかなと思っているんだ。」

明石「ははぁ、成程。」



提督の考えはこうだ。簡易入渠施設を海上輸送に使用される

12フィートコンテナに納まるように改造、

ひとつのユニットとして独立させるという物である。

コンテナという規格の中に押し込めることで簡単に運搬、展開が出来るようになる。

こうする事で貨物タンカーや鉄道貨物、あるいはトラックに載せて海上、陸上。

場合によっては貨物輸送機からの現地への投下。

すばやく艦娘を展開する為に必要不可欠な修理施設を設置可能になるという考えなのだ。



提督「コンテナでモジュール化しておけば

   貨物タンカーが移動鎮守府として使えなくもないだろ?」ニヤリ

明石「提督の考えはどちらかというと見た目の偽装に重きが置かれているようですがね。」ニヤ

提督「お前には敵わねぇな。」

明石「付き合いが長いですからね。」

提督「じゃぁ、まぁ、そういう訳だ。頼むよ、あぁ、それから飯について何か聞かれたら

   あいつには艦橋に持ってきてくれと伝えておいてくれ。」

提督「あとな、他にもぶっこ抜いてるデータ、ばれない様にしとけよ?」

明石「勿論ですとも。」



去り行き際に小声で注意する提督に同じく小声で返す明石。

悪巧みは計画的かつ内密にという奴なのである。


艦内をぐるりと色々見て回って後。

提督は艦橋にある作戦司令室へと帰って来た。



提督「いやぁ、休憩ついでに物見遊山とばかりに
   
   艦内を散歩してきたのでお待たせしました。」

大佐「いえいえ。私のほうは先に夕餉をいただいていますよ。」

大佐「実に腕前のいいコックをお持ちですね。」

提督「料理の質は士気に直結しますからね。」

不知火「司令。グラーフさんから此方に襲撃をかけてきていた

    敵夜間攻撃隊の迎撃を完了したとの報告が来ています。」

提督「敵に追加を出す余裕は無いだろうが一応第二陣、第三陣の可能性もあるから

   気を引き締めて引き続き警戒に当たるよう指示を出してくれ。」

提督「防空担当連中はどうだ?」

不知火「現時点での追加の撃沈は出ていません。

    また、長門さんを始めとする別働隊には出撃をしていただきました。」

不知火「他にも再度の補給が必要だった娘達には補給をすませ

    夜間のうちに交代で休憩に入らせています。」

提督「敵の機動部隊との接触は?」

不知火「現在の速度のままですと明朝、夜明けと同時くらいです。」

提督「払暁戦か。」



日の出、日の入りの時間というのは敵味方双方の判別がしにくくなる為本来は避けるのが定石。

当然ながら提督達所属の艦娘や使用艦載機に敵味方判別装置を積んではいるものの

空母艦載機は発着艦はしにくくなったり艦娘は視認性が落ちるなど積極的に仕掛けるべき時間帯ではないのだ。



提督「グラーフ達の夜間攻撃隊がどれくらい嫌がらせを出来るかが重要そうだな。」

大佐「夜間ハラスメントですか。」

提督「その重要性についてはお国でしたらお心辺りがあるのでは?」



ベトナム戦争時、ベトナム兵狙撃手による連日の夜間襲撃に業を煮やした米軍が

山一つを大量の軽機関砲に対空砲で禿げ山にしたのは軍事界隈では有名なお話。



大佐「眠らさせてもらえないというのは判断能力が落ちますから。」



苦笑しながら返事を返す大佐。



大佐「私どものサラトガも仕事をしてくれるでしょう。」

大佐「それに期待する事にしましょう。」

提督「ですな。」

提督「で、敵の機動部隊を叩いた後の話なのですが、敵の物資集積所。」

提督「デポを叩く方を優先します。」

大佐「敵の糧道を断つのは戦争を行う上での初歩ですしね。」





再び強襲揚陸艦付近 海上



グラ「さてと、そろそろか……。」



機上レーダーが敵の艦隊郡を捉え巡航高度から

一気に敵艦隊に向け高度を下げ始める夜間攻撃隊。



グラ「サラトガ、一番槍は譲ろう。盛大に花火をあげてくれ。」



3人の夜間攻撃隊は艦攻、艦爆、艦戦の役割分担。

蝿叩きがグラーフの仕事ならば。



サラ「Okey-dokey  まずは、定石どおり外周から、ですね!」



野戦攻城、蟻の一穴。

艦隊布陣を城に見立てるのであれば

城の本丸に陣取る大将とその護衛を引き吊りださねばならず。

城に籠もられていては倒せない。

その為にも外堀、石垣に相当する外側を突き崩し。

野戦に持ち込まないといけないのだ。



グラ「敵に祈る神が居るとすれば祈る時間が来たようだな。」



敵艦隊上空に展開する夜間警戒機を叩き落しながらグラーフがポツリ。



サラ「No、深海棲艦達の神は留守です!」

グラ「?」

瑞鳳「?」

サラ「休暇を取ってベガスに行っていますから。」フフン

得意げにドヤ顔をするサラトガ。

グラ「成程、それは痛快だな!」

瑞鳳「うふふ。瑞鳳艦爆隊、がんばっちゃうんだから!」



グラーフ達の夜間攻撃は徹底して外側のみに集中して行われた。

陣形内側にまで浸透攻撃をする必要性は零だから。

嫌がらせ、ハラスメントは敵の神経を逆撫でする事に意味がある。




深海機動艦隊



駆逐「くそう!陣形外側の駆逐ばかり!」

駆逐「いや、駆逐だけを狙って?」

駆逐「そんな!いや、これは明らかに駆逐のみを狙っている!」



駆逐艦という艦種は一番使い捨てになりやすいが実の所、

一番数が居ないと駄目な艦種でもある。

数が多いが故に多少の損害も甘く見られがちだが……。

補充が利きにくい状態での損害は致命傷となり易い。



駆逐「敵の攻撃は一方向に集中されている…。」



輪形陣内の空母達で夜間攻撃可能な者達に迎撃に向わせるも。



駆逐「逃げられた!?」



蝶のように舞い、蜂のように刺す。

その嫌がらせはヒットアンドアウェーの徹底。



瑞鳳「盆の迎えに、ちょいと早いが、迎え火一つ、点けましょう~♪」



軽い鼻歌、それこそ近所のコンビニへ買い物にでも行くような気楽さで指示を出す瑞鳳。

この瑞鳳が敵にとって最悪なのは

サラトガ隊の魚雷が当り火が灯れば損害無視の艦爆隊を突っ込ませる事。



駆逐「外周のナ級達が……!」



そして。



駆逐「うっ、眩しい!」



嫌がらせとばかりに落とされる照明弾。

夜の暗さに慣れてきている所に照明弾の強烈な光は目に刺さり、

同じくついでで音響爆弾も落としていく周到さ。



駆逐「味方同士での砲撃は止めろ!」



どんどんと響く音をすわ敵からの砲撃かと

勘違いした愚か者が音のするほうへと砲撃を開始する始末。



駆逐「おのれ!おのれぇ!!」



波状攻撃での嫌がらせは自分達への物理的被害は少ないが。



駆逐「艦隊全艦は敵の再度の夜間襲撃に備えろ!」



残存艦全てに指示を飛ばし緊張を持って夜間警戒に当らせる駆逐棲姫。

夜間攻撃に対して予め備えており警戒はさせるものの交代で休憩をさせる事の出来た提督達と

艦隊全艦で休憩を入れる事無く敵からの再襲撃に備えた深海棲艦達。

その差が出るのはもう、間もなくである。



提督達が駆逐棲姫達の機動艦隊へ向け針路を取っていた丁度その頃。

また幾つかの部隊が海上を夜陰に紛れ移動をしていた。



時雨「ねぇ長門。」

長門「どうした?」

時雨「ゴーヤ達の報告を考慮して

   敵の機動艦隊指揮官は何人くらい残っているかな?」

長門「そうさな提督達が向っている機動艦隊については少なくとも1名。」

長門「多く見積もっても2名ほどだろうさ。」

川内「そんなものなの?意外に少ないんだね。」

長門「あぁ、敵の攻撃パターンからいって

   あまり機動艦隊に置ける艦載機の扱いになれていない節がみてとれたからな。」

長門「敵が指揮艦へ攻撃を仕掛ける際の攻撃が3方向からだった。」

長門「外周配置のレーダピケット艦……、本来のレーダーピケット戦術とは違うんだがな。」

長門「まぁ、とりあえずでの問題ではない、電探での早期警戒艦と思ってくれ。」

長門「艦隊の頭脳をやるつもりなら処理負担を増大させ

   処理落ちさせるのが教本通りでの攻め方になる。」

時雨「そうなんだ。」

長門「あぁ、戦術的な話をするのであれば艦隊の目を潰すのが最優先だ。」

摩耶「確かに敵の偵察機やら電探持ちを落すのは重要だもんな!」



長門「それを考慮すれば敵がとるべき攻撃は一方向に飽和攻撃をしかけ

   一点突破を目指すやり方が正解だったんだ。」

時雨「でも、それを取らなかったんだね。」

瑞鶴「だから機動艦隊の指揮に慣れていないものが指揮官であると判断できたわけね。」

長門「そういうことだ。」

瑞鶴「じゃぁさ、なんで最大で2名なの?」

長門「それはこの周辺海域の状況からの話から説明しないといけないな。」

川内「結構面倒そうだね。」

長門「まぁ、聞いてくれ。

   今回敵が割ける指揮官クラスの人員としては前線から後方支援まで考えても最大10名ほどだ。」

長門「これ以上を割くと他の戦線の支障が出るギリギリだな。」

長門「その中で前線に遅滞なく物資を送る補給線の構築を考えると

   最低で2名以上は集積地の拠点守備に回さなければならない事、

   前線での攻撃と攻撃地点以外の各鎮守府への牽制に必要な人数を考えていけばだ。」

長門「機動艦隊にまわせる指揮官クラスは2名から3名。

   その内の1人についてはゴーヤ達が仕留めている為、

   最大2名と結論づける事が可能という訳だ。」



時雨「流石だね。」

時雨「それで、今、僕らが向っているのは?」

長門「大小幾つかあるなかで

   敵にとってやられると痛いであろう集積所だ。」

摩耶「でもまぁ、本当にあるのかねぇ。」

長門「この周辺の海域図と以前から掴んでいる敵泊地に拠点。」

長門「それらから割り出した凡そこの辺りにあるだろうでの位置だからな。」

長門「我々の部隊かウォースパイト達の部隊のどちらかが壊滅させればいいさ。」

摩耶「まっ、私としちゃ出番があればそれでいいけどさ。」

瑞鶴「島風の死を無駄にしないためにも派手に暴れてやろうじゃない!」

長門「提督曰く、敵の退き口を潰す為の布陣だそうだ。」

時雨「相変わらず提督の考えはえぐいや。」

川内「まぁ、敗軍の将っていうのは必ず討ち取るべきだからね。」

時雨「そうだね。」

川内「負けた相手を逃がせば相手は臥薪嘗胆の思いで復讐に帰ってくる。」

川内「それも前回の負けを己の糧として一回り強くなって帰ってくる。」

摩耶「あぁ、そうだね。そいつだけはいただけない。」

瑞鶴「負けは人を強くするもんね。負けを知らない奴はここぞという時が弱い。」

瑞鶴「ぎりぎりの戦いをする上でそういう心が弱い娘とは組みたくないわ。」

長門「同感だ。まぁ、ここに居る者達には心配はないと思うがな。」

長門「我らを送り出した提督はなんと言ったって人生の負け組みだからな。」

時雨「それは本当かい?」

長門「あぁ、勿論だ。でなければ88鎮守府の提督なんかやっていないだろうさ。」

川内「じゃぁ、敗北の味を知っている提督が指揮を執る私達が勝つというの当然かー。」

摩耶「まっ、そうだろうさ。」



ここで一同大笑い。



長門「天国の扉は開いた。」

長門「後は我々が階段を上らせてやるだけだ。」

瑞鶴「ふふふ。良いわね。それ実にいいわ!」

長門「全員、気を引き締めて掛かるぞ!」



応とその場に居た者達が全員が応じる。

この戦いにおける天王山の訪れはもう間もなくである。


本日の更新はここまで
次回から話のタイトルが変わります、といっても単なる続きに繋がるだけですが…
後編が長く無計画に続いちゃっているので仕切りなおすべくタイトルだけ変更
次回から天国の階段編へとつながります、尚、雪風はウォースパイト、北上、ポーラ組みと行動しております
乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、色々勉強になるレスも頂く事があり感謝です
空中格闘戦の部分が空回っていたとのレス、申訳ありませんでした
量を減らすべきだったかと頂いたレスを見直して反省です
関係ないですが、点滴を受けている間の時間って何も出来ないで暇ですね
皆様、体調にお気をつけください、以下、もう少しだけ瑞鳳を採用するか隼鷹を採用するかで迷っていた際に書いた
隼鷹の艦載機発艦シーンのみを投稿させていただきます、ここまでお読み頂きありがとうございました


酒瓶に口をつけ、くぴりと一口。

肺活量を活かし全開噴射。

あたりに酒精の香りが漂う中。

軽空母隼鷹はばさりと音を立て一巻の巻物を豪快かつ手荒に広げた。



隼鷹「剛気詔(ごうきみことのり)!」

隼鷹「黄泉の国の国主、洗鼻神、建速須佐之男命の名において召還す!」

隼鷹「黄泉より英霊、今、舞い戻り我が兵となり敵をニライカナイへ案内(あない)せよ!」

隼鷹「一二三四五六七八九十、布留部 由良由良止 布留部、布留部 由良由良止 布留部」

隼鷹「勅命! 英霊召還 急急如律令!」



死者蘇生の詔。

酒で場を簡易的に清め召還術式の発動。

陰陽師型軽空母の発艦儀式。

ぽうと巻物に挟まれていた人型に切られた式神が光り始める。

詔をあげる必要性から少し発艦に時間は掛かるが。

読み終えてしまえば一度に全機発艦が可能となる。



隼鷹「全機! 発艦!」



轟と一度に全機が上がる様は正しく圧巻。



隼鷹「何度やってもこの瞬間はたまんないねぇ。ヒャッハァー!」



彼女もまた、88鎮守府の特色ある一人なのである。



※途中の言上は布瑠の言(ふるのこと)をそのまま使用しています
 読みとしては ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ
 中二漫画で巫女さんが割とよく使う詔でお馴染みでしょうか?

格好いい隼鷹さんを演出したかった形になります、以上ボツネタでした。

Html化で海域リセット!皆様、どこまで再解放されていますでしょうか?
やっとさ6-4まで辿り着きましたが相変わらずの糞さ加減にストレスマッハでございます
秋津洲は鬼回避するのになにお前さん達はなに大破してるんですかねぇ……、とイライラしだしたら止め時……
左ルートはCマスが鬼門かつお祈りポイント、仕方ないです
では、久しぶりの更新をさせていただきます



おまけ日常編  とある料理長のお品書き




「うし、夜間の人達への引継ぎ分の仕込みも終了。」

「さぁてと、今日は露助リクエストの食材を買いに市場へいきますかねぇ。」



パンと糊の利いたエプロンを叩き、着替えを終えると明石達の工廠へ。



明石「あっ、こんにちは。今からですか?」

「うん、司令に許可貰ってるからね。市場に買出し。」

秋津洲「預かっていた包丁の研ぎなおしも終わってるかも!」

「自分で研いでいてもやっぱり何回かに一回は研ぎなおしにださないと切れ味が落ちるからね。」

「見せてもらっても?」

秋津洲が店の奥からいかにも業務用といった包丁を数本抱えてやってくる。

秋津洲「切れ味はこんなだよ!」



ぷつりと自分の銀髪を一本抜いた後、ふっと風に乗せる秋津洲。

その髪は風にのり包丁の刃先に当った髪は抵抗なくさっくりと二つに切れた。



「いい仕上がりだね。」

明石「この包丁で斬られた人は斬られた事に気付かない事を保障しますよ。」



その切れ味、名刀級。



「市場で持ち歩くわけには行かないからね。買出しからの帰りに受取るよ。」

秋津洲「よろしくかも!」



そして、分かれた後、拠点から少し離れた所にある巨大な市場のある島へ。


雪風「護衛、いります?」

「まー、司令官が付けとけって言うからさ。」



脱走を危惧という訳ではなく行方不明を危惧してである。

脱走は無い訳では無いが脱走は確定と同時に高額賞金首へ変貌。

それもあり、艦娘によっては作戦中にわざと隙を見せ

懲役組みの脱走を誘発する者もいたりとなかなか闇が深い。

そして、行方不明というのも作戦中に脱走ではない原因で消える事もあるという事なのだ。



「まー、艦娘やめているとはいえ私ってば、か弱い乙女だからさ。」

雪風「よくいいますよ。」



見た目こそ少し成長した中学生くらいの少女とその妹らしき雪風。

ただ、危険度は歩く核弾頭。



「雪風はこういうのどうなの?」



雑多とした市場ならではの衣類のまとめ売りダンボール箱の中からぴらりと見せる女性物下着。



雪風 ブフォォォーッ



なんだ、その反応、乙女か。



雪風「ゆっ、ゆきかぜにはまだ、早いと思います……。」



顔を真っ赤にし手で顔を覆いちらちらとこっちを見る雪風。

ちくせう、萌え死にさせる気か。



「でも、司令官ってこういうの好きそうだよね。なんかむっつり系なエロ?」

店主A「それなら箱1つで10ドルだよ?」



超安値。



雪風「10……、10ドルですか……。」ムムッ



鎮守府の定期便で足りない物を買いに来ることもあれば。

休暇中の艦娘が複数人数で相互監視のもと、市場に訪れる事もある。

あるいは、作戦が終わっての帰りに市場の露店で一杯と割と自由でもある。

ついでに言えば周辺海域の治安維持も88鎮守府が担っているといった

様々な事情も有り市場の人達とは大体が顔見知りでもある。

その為か気さくに声をかけられることも多い。



「結構安いのね。」



セクシーランジェリーの部類になるのだが予想外の安さ。

10ドルという言葉を呪文のようにぶつぶつと繰り返す雪風。



「これは童貞殺し。」



いわゆるタンキニという奴が箱から覗いていたので引っ張り出し雪風の眼前にちらり。



雪風 ブフォ ――― ッ



なるほど、戦場の鬼神と言われる雪風にも弱点はあるようだ。

少し意地悪をしてみたくなるのも性という奴である。



「こんなのどうよ?」

雪風「あっ、それは天津風さんが着用しているのを見たことあります。」



Vストリングなのだが、まじか、あの痴女。



雪風「随分前に所属していた所での話ですが。

   上官であるしれぇが強要していたんですよ。」

「あぁ……。」

雪風「当時の雪風に今ほどの力があれば事故死して貰っていたんでしょうけれどね。」



ちょっと嫌なことを思い出させてしまったらしい。


店主B「おーい、料理長。いい加減うちの店に来てくれよ。」

「ん?おう!おっちゃん。ごめんよ!忘れていた!」



少しばかり重くなっていた空気を読まずに声をかけてきた精肉店の店主へと向き直る。



店主B「和牛を輸入するのは大変だった。」

「その分の金は払っているでしょ?」

店主B「いただく物はいただいているからね。」

重そうに店主Bが肩から下ろしたのは。

雪風「今日のメイン食材ですか?」

「そ、露助からのリクエストに使う食材。」

「司令官に正規の手続き踏んで申請してきてたからまぁ、応じてあげようかって所。」

「故郷の味が食べたいってね。」

雪風「故郷ですか。」

「木の股とかから生まれたのでなければ誰しも故郷と呼べる場所くらいはあるさ。」

「いい思い出にしても悪い思い出にしてもね。」

雪風「そう、ですね。」



少し思う所があるのか小さく首肯する雪風。



「そのダンボールの衣類は私が雪風に買ってあげるよ。高いもんでもないしさ。」

雪風「えっ!?いいんですか!?」



なんだこの喜びようは小動物か。



「後は、頼んでいた香辛料を受取って帰るよ。」

雪風「はい!」



大き目のダンボール箱にブロック肉が入ったクーラーBox。うん、なかなか量がかさばる。



店主A「台車を貸してあげよう。ちょっと待ってて。」

「ありがとうね!」

店主A「台車は次回にでも返してくれればいいから。」



そういい店主Aは何処かへと去っていった。

大きな荷物を抱え店主Aの帰りを待つ二人。



「ちょっと道の横に避けていようか。」

雪風「そうですね。」



通りの邪魔にならないように荷物を避けていた時に事件は起きる。



チンピラ「あいたたたぁ!」



雪風がどけたダンボールにわざとらしくぶつかり大げさに痛がるチンピラ。

そして、そこに台車を持って戻ってくる店主A。



チンピラ「これは治療費と慰謝料をもらわねーとなぁ。ガキ共よぉ。」

チンピラ「両方あわせて1000ドルで我慢してやるわ。」

店主A「オイオイオイ。」

店主B「死んだわあいつ。」




1分後



雪風「1000ドル分の治療費ですともう少し骨を折らないと駄目でしょうか?」

「うーん、両手両足折ったから後もう少しとなると肋骨かなぁ?」

チンピラ「たったすけ」

「1000ドル渡したでしょ?だったら金の分だけいい声あげなよ。」

「1000ドル分だけの美声聞かせてくれるつもりだったから声かけたんでしょ?」

「じゃ、後は肋骨ね。」



笑顔で拳を振り上げた丁度その時だった。



顔役「姉さんたちうちの馬鹿がすみません!」



血相を変えて市場の顔役がやって来た。そして、その勢いのまま土下座。



雪風「土下座なんて知っているんですね。」

「まぁ、知っている知っていないはどうでもいいけどそんな価値の無い土下座されてもね。」

「顔役ならさー、治安を良くするべく動くべきなんじゃない?」

顔役「返す言葉もございません。」

「いやさぁ、1000ドルって大金よ?」

「それをさー。」



艤装の力を使わなくても強い艦娘は強い。

そして、自分達以外にも被害が起きている可能性もある訳で

ねちねちと嫌味を言い続ける。

その結果。


「ただいまー。」

明石「あっ、お帰りなさい。楽しめました?」

「それがさー、聞いてよー。」



女子会のノリで市場での出来事を話す二人。



「侘び代わりに私達が買った商品代金返してくれたのはいいんだけどさー。」

「あの露助がね、

 みんなから離れて買い物していた時にかつあげされてたのが発端みたいでさー。」

秋津洲「情けない艦娘かも。」

「本当だよ。かつあげされたのが恥ずかしいからって黙っていたせいでこの始末よ。」

明石「申告してくれていたら対処出来ていたわけですしね。」

「そーそー、それで、そのチンピラが味を占めたのか今回の馬鹿に及んだって訳。」

雪風「まったくもって艦娘の恥さらしです。」

「そんな訳で雪風と話して楽しいブートキャンプに御招待と思ってね。」

明石「いいですねぇ。」

明石「丁度色々新製品を試してみたかったんですよ。」

「いいねぇ。」

「私はコマンドサンボとかカポイエラとかの格闘技中心に三途の川を渡って貰おうかなって。」

雪風「雪風はスパルタンに仲間全員に声をかけてサバイバル形式で行こうかと。」

秋津洲「ちょっと同情しちゃうかも。」ウヘァ

明石「最近は大規模作戦も来ないから皆さん暇してますしね。」

「そういう台詞はフラグじゃない?」

明石「まぁ、鎮守府総員が出撃とかなると私の場合は潤うんで。」

明石「ありがたいですかね?」

「商売人だねぇ。」

明石「死んだ人間、艦娘の魂以外なら。」

明石「金さえ払っていただければ「クレムリンだろうと引っ張ってくる。」

雪風「だったですね。」


明石の決め台詞に雪風が被せる。


「だったらちょいと頼まれない~?」ウヒヒヒヒ

明石「楽しくて利益の出る事でしたら。」ニヒヒヒ



後日、ガングートが色々な意味で死んだ事を話の結びとして語らせていただく事とする。



ガン「いやぁ~ ――――――――― !」

 ボガーン!    

                                              ヒュ ――――――― ン!

時雨「戦艦ってあんなに飛んでいくものなんだね。」

長門「なんだ?鎮守府ホームランダービの開催か?」

スパ「いいですねー。」




第十三話 天国への階段



駆逐「こんなの聞いていた話と違う!」


この作戦における総旗艦戦艦水姫から迎撃の任務を受けた時の説明は。


「簡単な迎撃任務よ?」



自分と空母水鬼に与えられた空母、戦艦、重巡等。

それらの戦力は機動艦隊としてそこらの敵鎮守府を1つ2つは余裕で叩き潰せる。

なんなら敵の大規模拠点を落しにいくことさえ出来る程の過剰戦力。



駆逐「おかしい!」



自分の置かれている状況を考えれば絶叫せずには居られない。

最初の敵との接触で空母水姫が撤退。それはまぁ、どうでもいい。

問題はその後だ。



駆逐「勝てるはずなんだ!」



敵の空母達が搭載している艦載機を凡そ半分は落とした。

敵の駆逐艦だって何隻か沈めた。

にも、関わらず。

自分達が連れてきている空母達の艦載機の数は全体で4割も落とされている。

空母の数で言えば自分達の方が当然多いため

母数が大きくなる自分達の方が同じ4割でも敵の半数より多く落とされている。

しかし、見方を変えれば6割という未だ、いや、敵を圧倒できる筈の戦力があるのだ。



駆逐「なのに、なんで夜間攻撃なんて仕掛けてくる!?」



夜間攻撃は戦果が得にくい物であり

自軍の残機が少ないのであれば控えるべき物。

敵の被害を考えれば夜間攻撃機があったとしても

夜間哨戒を自艦隊周辺に上げるくらいがせいぜい。

自分が敵の立場であれば仕掛けるなんて思考の外である。




駆逐「あり得ない!」



敵の夜間攻撃隊はそれでいて自軍のナ級達や

同士討ちをした愚か者共の所為もあり一定の戦果をあげ悠々と帰還。

此処に来て思い知る自軍との錬度の差。

そして、脳裏によぎるのは認めたくない二文字。



駆逐「私が負ける!?」

駆逐「この私が!?」



深海棲艦において敗北というのは単純に負けるだけでは済まない。

武威を示す事こそがその存在理由とする者達が多い中で、

更に言えばその最上種たる姫級。

となれば敗北は頂点からの転落を意味する。

此処に来てその矜持が彼女の判断を狂わせた。



駆逐「敵の機動艦隊を直接叩く!」

普段の自己評価が高い者程陥る罠。

駆逐「敵の旗艦、そう、指揮官の人間が乗る船を沈めて殺せば私の勝利!」

駆逐「私の勝利だ!」

駆逐「私達の被害もあるけれど敵の被害は私達以上。」

駆逐「であれば敵は全力での殴り合いでは絶対に勝てないはず!」



そして、自分がこうであるから相手もこうであるだろうという単純な思考の帰結。

この思考が彼女に此処での敗北を齎し、結果、海の藻屑へと還らせる事へとなった。



強襲揚陸艦 艦橋内 作戦指揮所



提督達は定時連絡による位置確認で更新されていく

分遣隊の海図の光点を見つめながら会話をしていた。

その内容は、もうまもなく訪れる払暁戦に備えての会話である。



提督「相手の心理、行動を推し量る際に

   自分ならどうするかという風に考えるのは誰しもがやる事です。」

大佐「確かに。」

提督「私も自分ならどう動かしどう弱点を突くかと考えますからね。」

提督「自分がこう考えるなら相手もこう考えている。

   それならば相手はこう出るはずとの自分の行動原理が下地になる思考。」

大佐「それでその思考における問題とは一体?」

提督「そうですね。思考については誰もがやりがちですし、実際にやる事です。」

提督「私が問題とするのは正常性バイアスですね。」

提督「自分は大丈夫。自分ならこの状況を切り抜けられる。」

提督「相手がこう出るのは間違いないから自分は切り抜けられるという考え。」

提督「ある程度までならポジティブシンキングとも言えなくは無いですがね。」

大佐「過ぎれば損切のラインを見誤るという事ですね。」

提督「その通りです。」

提督「ここは人によって賛否が出るところでしょうがね。」

提督「軍隊という組織である以上、

   結果とは勝利であり勝利という結果を残せない将は無能の烙印が押される。」

大佐「確かに。」

提督「その上で無能の誹りを恐れずに敗北を受け入れられるかどうか。」

提督「それが本当の名将の条件になってくるでしょう。」

提督「常勝無敗などというのは幻想ですよ。」

大佐「…………。」

提督「百の兵を失いつつも千の兵を残し雪辱を果たすべく備えるのと、

   全ての兵を失い雪辱を果たす事すら敵わない。」

提督「どちらの将が愚将とされるかは明白でしょう?」

大佐「負けを知っていれば敵への対処方も考えられますしね。」

提督「そうです。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。」

提督「命があれば学べる機会がある。その機会があるだけ儲け物です。」

大佐「引き際は大事ですね。」

提督「えぇ、つねに自分の中で引き際を決めて掛かる事は大事ですよ。」



珍しく苦々しく、そして重苦しそうに提督は言葉を紡ぎ会話を終えた。



そして、数時間の後。

お互いの艦隊が近付きその先鋒を早期警戒の二式大艇が電探に捕らえる。

早期警戒機の役目をさせている二式大艇からの索敵情報。

つづいて敵を補足した艦隊外周に配置している電探担当駆逐艦隊からの電探情報。

それらを強襲揚陸艦のデータ処理能力を活かし

敵艦隊から飛来する敵機の高度、方向、数を正確に分析処理。

そして、艦隊の全員へ一斉に伝達。



グラ「Achtung!!」



すでに警戒用の艦戦は上がっている。

グラーフが母国語で傾注、あるいは敵発見の言を大声で吐いた。



グラ「全機発艦!Vorwärts!!」



この号令は空母機動部隊の旗艦として所属空母達への一斉攻撃の命。

それは実にあっけない幕切れだった。

この結果を演劇などに例えれば手抜きとも消化不良とも尻切れ蜻蛉。

あるいは打ち切り漫画。

そういった誹りを受けてしかるべき位に間の抜けた最後。

その最後を決めたのは空母艦隊決戦にはあるまじき戦艦の一撃だった。



グラ「アイオワ、諸元入力を頼めるか?」



グラーフから無線を通して手持ち無沙汰気味に対空射撃をしているアイオワへの依頼。



アイ「What?」

グラ「外周駆逐艦からの電探情報、二式大艇からの敵艦隊位置情報。」

グラ「それに迎撃に上がっている私の艦載機。」

グラ「それら情報を総合した上で敵の旗艦位置情報を伝える。」

アイ「いいのかしら?」



戦艦が主砲をぶっぱなす。

ともなれば弾道はもちろん標的周囲に展開する飛行機は敵、味方区別無く消滅である。



グラ「巻き込まれる味方機なぞおらんよ。」



何を言っているのかと木で鼻をくくる返答。

つまりはその程度の艦載機しか扱えない空母艦娘等居ないという意思表明でもあり。

お前のところはその程度なのかという嘲笑も含めた冷たい態度の返答。



アイ「Hey!Holy Shit!That’s great !」

アイ「Ok!Come on !」



戦艦としての仕事が出来る事に喜びと興奮を隠せないアイオワ。

また、自分達を見くびるような態度への反発も入り挑発気味な返答。



グラ「頼んだ。」クスリ



自尊心の高い米軍海兵であればそうなる事を計算ずくでのグラーフの先の態度。

扱いやすくもあり素直であるとの事に少し好ましさを感じる。

強襲揚陸艦で情報が統合され位置が確定。

そして、先ほどからグラーフの艦載機がへばりつき位置を常に追いかけ続けている敵の旗艦。

最新鋭の戦艦に搭載されている演算装置にデータが送られ入力処理が完了。

ガコガコと音を立て主砲が向きを変え見えない位置の水平線の向こう側。



アイ「Lock on !」



敵艦隊の一番後ろに居る敵を葬るべく主砲が火を噴いた。



アイ「Yeeeeeeeeeeeya!」

アイ「Yippee yi yea , Mother Fuker!」

瑞鳳「うわぁ――。」



スラングに瑞鳳がややドン引きするが、その火力 is Powerな砲煙と。



グラ「空気振動の凄まじさは流石だな。」



ビリビリと空間を揺らす振動に巻き込まれ落ちてゆく敵機。


アイ「Fire! Fire! Fire!」



深海側 艦隊最後尾



駆逐「なんで?どうして?」

駆逐「どうしてこうなるの?」



自軍の自慢の艦載機は敵機に落とされ

敵の駆逐艦娘達が先陣を切って雷撃戦を仕掛けてくる始末。

艦隊の前列は今、愁嘆場となっている。



駆逐「逃げなきゃ!」



此処に来てようやく生存本能が矜持を上回るが。



グラ「とき既に「遅しよ!」



艦載機達でマークし動きを完全に補足しているグラーフの一言。

そして瑞鳳はグラーフの言葉に被せどや顔。

当たり前に敵へ聴こえるはずはないのだが、二人ともしてやったり、と、いい笑顔。



アイ「Well done !」



初弾は駆逐棲姫の鼻先に着弾。



駆逐「ひっ!」

アイ「Go to Hell !」



アイオワ型戦艦の主砲弾が南方特有の豪雨の様に降り注ぐ。

その様は正に悪夢。



駆逐「いやぁ!まだ!まだ死にたくない!」



懇願むなしくその狙いは正確に。全弾が命中した。



アイ「Good Game! Well played!」



アイオワが相手の健闘を讃える頃には駆逐棲姫はその活動を停止していた。



グラ「残心であったか?」

瑞鳳「擬態を警戒!瑞鳳艦爆隊の皆!殺っちゃって!」



殺り残しの無い様にしっかりと止めを刺す両名。



サラ「Oh …… ミンチより酷いです。」



惨状の確認をして漏らす言葉は心からの本音。

そして、駆逐棲姫は完全に活動を停止した。

また、時を同じくして別々の海域では此方もクライマックスへ向け動き始めていた。



旗艦雪風 第一分遣隊



雪風「艦隊の空母の皆さんは全機発艦をお願いします!」



通常の鎮守府であれば戦艦や空母、

或いは重巡といった者が旗艦を任されるわけだが。



雪風「旗艦雪風から全員へ連絡です!」

雪風「まもなく敵の哨戒網に引っかかると思われます!」

雪風「敵からの猛攻が予想されますが敵の後方基地を破壊できれば

私達救援部隊の戦略的勝利がより達成しやすくなります!」

雪風「総員、気を引き締めて掛かってください!」



そこは通常という常識の外の連中。

旗艦を勤めるのは最も修羅場を潜った者になるのが自然な成り行きでもある。



「雪風さ~ん?」



個人通信回線で旗艦の雪風を呼び出す声がする。



雪風「雪風です!ポーラさん、何用でしょうか!?」



雪風が自身が見落とした何かがあったのかもしれないと思いつつ返答。



ポーラ「あの~。あのですね?」

ポーラ「もしも~、もしもですね?

敵の旗艦が重巡棲姫だった時はポーラに譲っていただけませんか?」

ポーラ「戦果はお譲りしますから沈めるのだけはポーラに殺らせてもらえませんかね?」

雪風「そこに拘る理由があるんですね?」



場数を踏んでいる雪風ならではの勘で何かを察する。

恐らくそれは瑞鶴が88鎮守府に流れてきたのと同じ理由。


ポーラ「 Si 」



返答に満足気に首肯をすると無線を艦隊全員へ飛ばす。



雪風「総員傾注!」

雪風「敵旗艦が重巡棲姫の場合、空母のエアカバー以外は一切の手出し無用!」

雪風「旗艦雪風の名においてポーラさんへの邪魔立ていっさいを禁じます!」



艦隊全員へポーラがその首級を挙げることへの妨害行為等を禁じる旨を宣告。



雪風「舞台は整えます。重巡棲姫が敵旗艦の場合は存分に。」

ポーラ「Signorina Yukikaze Grazie di cuore!」



そして、先に接触した空母艦娘の哨戒機からの報告。



雪風「ポーラさん!敵旗艦は重巡棲姫だそうです!」

雪風「後、角が一本、折れているとかだそうですよ?」



旗艦として情報を受取りそれをポーラへと伝達。

敵旗艦は珍しく身体的特徴があるようだ。




ぞる。




幾度となく死線の向うとこっちを行き来してきた雪風ですら久しぶりに感じる殺気。

今まで様々な種類の姫、鬼級達と対峙してきたがその中でも特級。

歴戦の姫、鬼級、片手の指で納まる程にしか体験した事のない殺気。

それは思わず振り返らずには居られないほどの殺気。

そこには恍惚とも憎悪とも、歓喜に震える、あるいは激情の怒りに震える。

雪風をして異様と言いたくなる艦娘が居た。



「尻尾を引きちぎって。」


「右腕を引き抜いて。」


「左腕を食いちぎって。」


「右足を吹き飛ばして。」


「左足をぶっ潰して。」


「腹に主砲をぶっこんで。」


「内蔵を掻き出して、引っ張り出して。」


「内側からミンチにして。」


「頭を最後に踏み潰す。」


「足りない、足りない。」


「こんなんじゃ、全然足りない。」


「十遍でも、百篇でも、千篇、万遍。苦しませて。」


「あぁ、日本語で万死に値するだったかしら?」


「そう、姉さまはもっと苦しんで死んでいったはず。」


「姉さま以上に苦しませてやらなきゃ。」



そして。



「 み   つ   け   た  。」




恋焦がれ、相手の事しか見えなくなる。

つねに相手の事を考え続けいつしか相手の感情と同化する。

しかして、それは恋愛感情ではなく。

純然たる、純度100%の。




憎しみ。





「北上~。」

北上「あいよ―。」

ポーラ「背中、宜しく。」

北上「あいあい。」

ポーラ「彼女には命を持って支払いをしていただかないといけませんねぇ。」

北上「マフィアか。」

ポーラ「シチリアでは女はショットガンより危険ですよぉ~。」

ポーラ「ポーラは幸せです。北上という得がたい友人を得る事が出来ましたから。」

ポーラ「どんなに強い者でも友人は必要ですからね~。」

北上「よせやい。照れるぜぃ。」ニシシ



重巡と雷巡コンビ。

今、重巡棲姫を倒す為に両名が並び立つ。

本日の更新は以上でございます
駆逐棲姫は最初から噛ませ犬の予定でしたのでその最期はお読みいただいている皆様から
お叱りを受ける事覚悟のあっさりかつ淡泊な最後とさせていただきました
ポーラが頭ぶっ飛んでいた理由はそういう事ですので次回はポーラと北上コンビ戦となります
体調が優れないことが多く亀更新となりつつありますが今後とも宜しくお願いいたします
質問でいただいております九字護法での召還士は事前設定では正直に言いますと作って無かったです
龍驤、雲龍のパターンとかは考えてはいたのですがどちらも中国導師寄りでした
乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、書くための励みになっています
お時間よろしければ次回もお読みいただけると幸いです
それでは、また、次回

週末にあげますと宣言通りに更新にやってまいりました
鯖復活後の最初の本編更新をさせていただきます
宜しければお付き合いいただけますと幸いです


ポーラが思い起こすは自分に優しかった姉。



ザラ「ほら、ポーラ。リボンが曲がってるわよ?」

ポーラ「戦えばどうせまがるです~。」

ザラ「もう、そういう事は言わないの。

普段からの身だしなみは大切よ?」



二人は血の繋がった姉妹だった。

艦娘は適正のある人間が選ばれ、なるもの。

となればその血縁者ともなると自然姉妹で適正があるという事も珍しくなく。

二人もまた適正有りとされ艦娘へなった。

それも、イタリア海軍の重巡艦娘ザラ、

そしてその妹ポーラとして選ばれた。

世話焼きな姉は軍へ入った後も

つねに自分の事を気にかける少し妹離れの出来ない困ったさん。

ポーラという艦娘は酒好きが多いようだが自分はそこまで好きではなかった。

どちらかといえば嗜む程度。

だが、あの事件以降は少し、そう、少し飲む量は増えた。



数年前 地中海上 某所



ザラ「ポーラ!貴方は逃げて頂戴!」

ザラ「これは負け戦よ!」

ザラ「でも!戦訓を後に生かすためにも誰かがその負けた事実を。」

ザラ「どうして負けたかを伝えなければいけないわ!」

ザラ「貴方にとても辛いお願いをしているのは分かっているわ。」

ザラ「でも、貴方にしかお願い出来ないの!」



姉から託され全力で振り返らずそれこそ恥という物を知らないほどに逃げた。

そして、上層部は必死の思いで持ち帰った負けの報告を仕方なしの一言で片付けた。

また、ポーラへの処罰は当たり前かのように無かった。



ポーラ「仕方ない?」

ポーラ「冗談じゃない。」

ポーラ「まるで、負けることを初っから分かっていたみたいじゃないですか。」

ポーラ「時間稼ぎの捨て駒?」

ポーラ「 Vaffanculo !」(糞食らえ)



雌伏しその後もイタリア海軍に在籍を続け姉の仇の情報を集め続けた。

自分の足りない実力の所為で姉のあの最後を迎えてしまったという思いがあった為。

最後に見た姉の姿と姉の砲撃により折れた相手の角。

相手が修復していたらそれは消えてしまう手掛かり。しかし幸にして。

相手はそれを修復していなかった。

そして、その出現情報を追い続けるうちに敵は追いかけられない範囲の外へ出た。



ポーラ「だから、ポーラはここに来たんですよ。」



外地鎮守府管理番号88。

この鎮守府は任務、仕事の形態で通常の軍管区の括りに捕らわれない。

それは国ごとの受け持ちの外にあり、過去については問わず語らずの傭兵稼業。

その作戦行動海域は受けた任務、仕事によって世界の何処へでも形式上は出撃可能。



ポーラ「まさか、ここで 相見える事が叶うとは。まさに姉様の導き。」



艤装の主機が大きく咆哮を上げ速度を上げ始める。



深海側拠点



重巡「敵の艦隊が迫って来ているか。」



頭上を通過していった敵偵察機、

自軍の哨戒網に引っかかった敵艦隊の情報。



重巡「ここの重要性を考えれば来ない方が変ではあるな。」

重巡「出番か。」

重巡「楽しめるといいねぇ。最後の最後まで足掻いてくれる。」

重巡「先日の島風、さらにその前の重巡。仲間の為に自分の命を差し出す。」

重巡「そんな気合の入った虫けらがくると……、実にいい。」



その性格。

サディストである。



雪風「皆さん!敵艦隊と接触します!」

雪風「乱戦になるかと思いますが各員の奮闘期待します!」



艦隊が敵艦隊と接触、方々で砲撃の歓声が上がり始める。



雪風「ウォースパイトさん!」

スパ「Yes Ma'am !」

雪風「敵の大将はポーラさん達に任せるので雪風達は雑魚退治です。」

雪風「加えて敵の揚陸済みの物資の破壊。設営済みの地上拠点の破壊が主な仕事です。」



雪風からの指示にこくこくと頷き確認をするウォースパイト。



雪風「それと。」

雪風「イタリア語だと思うのですが先程からポーラさんが歌われているこの歌なにかわかります?」

それはポーラが上機嫌で歌っている歌。

スパ「あぁ、この歌ですか。」

スパ「有名なオペラ、椿姫の曲で乾杯の歌っていう歌ですよ。」

雪風「乾杯ですか。」

スパ「えぇ。」

雪風「勝って祝杯をあげるつもりなのでしょうね。いい事です。」



乾杯の歌は娼婦のヒロインを好きになった主人公がめぐり合えた事に感謝して歌うといった場面で歌い上げる歌。

その場面としてはとても情熱的かつ実に盛り上がる歌であり椿姫の中で一番有名な場面とも言える。

スパ(でも、最後はヒロイン死んじゃうんですよねぇ。)

流石にどちらが死ぬかがわからない現状でそれを口にすべきではないだろう。

戦場では結果を口に出す、それが時として言霊として戦う兵を縛るからである。



雪風「ウォースパイトさん!面舵一杯です!」



雪風の指示に慌てて反応し面舵を取れば。



スパ「あっぶな!」



避けた眼前を敵砲弾がすり抜け後方の海面に着弾。



雪風「敵の大将首が来ますよ……。」



砲煙の向うから現れるのは敵の指揮官とその随伴達。



重巡「チッ。勘のいい奴だ。」



そして、眼前からの敵指揮官艦隊に対峙するのは。



ポーラ「敵を取り違えてんじゃねぇ、mommone(マザコン野郎)。」



後方から主機を全開でぶん回しやって来たポーラ。

雪風とウォースパイトの間を抜き重巡棲姫に向け砲撃を試みるポーラ。

その砲撃を体を横にしてかわす重巡棲姫。



重巡「なんだ、随分いきった小娘がいんじゃねーか。」

重巡「遊んでもらいたいってのかい。」



ニタニタと笑顔を向け尻尾の砲塔を向ける重巡棲姫。



ポーラ「遊ぶ?testa di cazzo!(このち○こ頭)」

ポーラ「歯は磨いたか?聖書の一節はきちんと諳んじれるか?」

ポーラ「これから先はお前が死ぬその寸前まで5秒おきに手前が命乞いをするショーだ。」

ポーラ「トイレには行って来い。今ならまだ待ってやる。」



普段の何処か抜けたような喋り方と打って変わって一言一言が殺意を持った喋り。



重巡「いいねぇ。いい感じに頭が切れてやがる。」

重巡「It’s Shoutime !」



重巡棲姫が大声をあげると一気に距離をとり始める両名。

お互いに同じ重巡であればお互いの砲の性能や魚雷性能も凡そ予想がつく。



雪風「おっと、随伴のお友達は雪風達がお相手です。」



重巡棲姫の随伴艦たちを遮る雪風とウォースパイト。



重巡「この距離ならお互いに必中かぁ!?」



ドンドン!



ポーラ「はん、表六玉。当るわけが無い。」



上半身を右へ逸らし重巡棲姫の砲弾を交す。

いずれは当る事が望める挟叉というより

どちらが当てるかを先に挑むロシアンルーレット。



ポーラ「さぁ!避けろ、避けろ!手前の命を賭けてあがけ!」



重巡棲姫の周囲をぐるぐると円を描くように動くポーラ。

それに呼応するように重巡棲姫も

円軌道を取りながら互いに砲弾を交していく。

スン



雪風「!」

雪風「ウォースパイトさん、二人から距離を取りますよ!」



スン



スパ「これは?」



雪風が砲煙に混じる火薬の香り以外に油。

それも艦娘が艤装に使用している燃料の香りに気付いた。



スパ「周囲ではまだ誰も沈んでないですよね?」

雪風「だからですよ!火に飲まれたくないなら距離をとって下さい!」



雪風がポーラと重巡棲姫との決闘している周辺から

離脱するようウォースパイトに指示を出したと同時だった。

ゴォウ

海上に流出していた燃料に火がつき炎上。



ポーラ「邪魔が入っちゃ困りますからねぇ?」

重巡「お前、自分の艤装から燃料を撒いて火をつけたのか!?」



その言葉に返事を返す事無くニタリと微笑みを返す。



ポーラ「さぁ、楽しもうか。」



笑顔で砲撃が再開される。

間断なく周囲に響き渡る砲声。



重巡「?!」



そして、重巡棲姫は気付いた。



重巡「ちぃ!燃料の炎の所為で陽炎が出来やがる!」



強力な火炎により出来る空気の密度混ざり合い、

そこに昼間であるがために光が当ると屈折して見える自然現象。



ポーラ「昔ですね。

少しの間、コンビを組んだ事のある駆逐の娘に教えてもらったライフハックですよ~。」

重巡「照準がずれる!」



お互いが視認出来る距離での砲撃戦。

当然ながら目視での照準付けのため

陽炎によりその距離感を狂わされればその命中精度も落ちる。



重巡「敵も同じはずなのに!!」



しかしポーラからの砲撃は確実に当り始めている。



ポーラ「あんたがこっちの挑発に、踊りのステージに上がった次点で敗北は確定なんだ。」

ポーラ「この火炎の舞台は私のフィールドだ。ボレロといこうじゃないか。」



ドンドン



重巡「ちぃっ!」



しかし、姫級の装甲は伊達ではない。

装甲へ与えるダメージは少ない。



重巡「それなりに痛いだけだぁねぇ。」

重巡「それに照準がずれるのも慣れてきた。

今度は此方からの攻撃と洒落込ませて貰おうか。」

ポーラ「その程度は予想してる。かかって来いよ。」



不敵に笑い手で挑発。

炎上する海上でポーラと重巡棲姫達の砲撃戦が続く。


そして、その周囲。


雪風「慈悲を請え。今日の雪風は優しいです。」

雪風「苦しませずにあなた方をあの世へ送ることを保障しましょう。」



重巡棲姫の随伴として来ていた

ル級や雷巡チ級達と雪風、ウォースパイトが対峙していた。

ドン!

問答無用とばかりに雪風達へと砲撃を開始するル級達。



雪風「ウォースパイトさん。」

スパ「はい!」

雪風「背中任せます。期待に応えて下さいよ?」ニヤリ



前衛を雪風、後衛をウォースパイト。

また別の戦いも始っていた。

そして、重巡棲姫は砲撃の照準をつけることに慣れてきた頃合でまた別の疑問にぶち当たっていた。



重巡(あたらねぇ。回避性能が段違いに上じゃねーか…。)

重巡(こっちの魚雷も綺麗に回避しやがる。)



ポーラは重巡棲姫の砲雷撃を全て華麗にかわしていた。

それは氷上を踊るスケーターの如く。



重巡(回避能力は知っているイタリア重巡と違う。)



重巡棲姫の本来の受け持ちは地中海方面部隊。

そこで普段相手取っているイタリア海軍の重巡艦娘と比べても格段に反応がいい。



重巡(なぜだ?まるで排水量そのものが違うような……。)

重巡(!)



重巡棲姫はポーラが先程から自分の砲撃を超回避し続ける事が可能である理由を把握した。

それは自身の攻撃を予測してかわしているというのは大前提であるがそれ以外にもう一つ。

艤装から燃料を捨て、自身の、艦そのものの重さを軽くした事により

機関の速度上昇等の恩恵を受けやすくしたのだ。

それはさながらカーレースやバイクレースの優勝常連チームが

あえて燃料を補給する回数を押さえギリギリにする事により

タンク内燃料の重量すら速度増加の敵とするかのように。

今、ポーラは燃料を限界まで捨て去った事により

カタログスペック以上の速度と回避性能を手に入れたのである。


重巡「そして、捨てた燃料は攪乱に使うか。」

重巡「見た目以上に頭が働いているじゃねぇか。」



血が滾る、好敵手、たり。太平洋にはなかなか歯応えのある敵が居る。

そう考え、にやついていたときだった。

砲弾ではない何かが頭上に飛んでくる。

砲弾のような速度ではなく人の手で投げたようなもの。

それはゆっくりと放物線を描き飛んできた。



重巡「とっ。」



音速に近いスピードの砲弾は敵が撃つ前に砲撃を予測して避けるのが当然なのだが。



重巡「なんだこりゃ?」



いかにも投擲といった形で飛んできたそれはスピードがあるとはいえ充分視認可能な速度。

そして、真横に落ちる。



ポーラ「チッ。」



ドンドン



重巡「なんだこりゃ?」



砲撃の音声に混じり飛んでくる酒瓶。

対空機銃弾で割ってみれば内容物が周囲に霧状になり広がる。

一部は飛散し重巡棲姫の体に降り注いだ。

スン

自分の体に掛かった液体の香りを嗅ぎ、その正体を確認。



重巡「ワインか。勿体無い事をしやがる。」

ポーラ「私の故郷に世界最大の詐欺集団の総本山がありましてね?」

ポーラ「連中の元締めである神曰く、ワインは自分の血であるとかで。」

ポーラ「神の血を浴びれば負の塊である

あんた達も浄化出来るんじゃないかと思いましてー。」ゲラゲラ



ワインを頭から被った敵の姿が笑いの壷に入ったか笑うポーラ。



重巡「……?謎理論だな。」

ポーラ「お前をあの世に送ってやるという意味ですよー。」


なおも砲撃の間にワインの投擲は続く。


野球で速い球ばかりに慣れていたバッターが

急に遅い球を投げられた所為でバッティングを崩し討ち取られる事がある。

ポーラの投擲はそんな影響をじょじょに重巡棲姫へもたらし始めていた。

敵の砲撃をかわすには敵が自分の位置の先読みをして

砲撃してくるさらにその先を読まないといけない。

ポーラのワイン瓶の投擲はその先読みした着弾点のちょっと手前、

或いはちょっと先、つまり砲撃が当らないように避けた地点に落ちてくる。

しかもタイミングを効果的にずらしながら。



重巡「うっとうしい!」



機銃で対処せざるを得ない事が何度か。

しかし、中身は所詮、ワインである。

次第にその中身を被る事に抵抗はなくなる。



重巡(私をワインまみれにしたいだけとはいえ。どれだけの量を持っているんだ!?)



すでに10に近い瓶を投擲され。その間も続く砲撃をかわし続け。

いくつも機銃で撃ち落し少なくない量のワインを体に被っている重巡棲姫。

ポーラからの間断ない攻撃を交し、応撃する事に全神経を集中。

ワインは料理のフランベに使えるほどアルコール度数は高くない。

その為体に掛かったところで火が付くことはない。

その為重巡棲姫はワインが体に掛かっても大して気には留めてることはなくなっていた。

せいぜいが酒臭くなるな程度。

であればこそ。ポーラの罠に嵌ったのは仕方のない事といえよう。


ボン

幾本にも渡り打ち抜いてきたワイン瓶。

重巡棲姫は迂闊にもそれを打ち抜いてしまった。

幾度となく中身が無害なワインであれば飛んできたそれを疑う事無く、

今回もまた中身はワインと思ってしまったのも無理はない。

しかし、この一本。

そう、この一本はスペシャル。特別製だった。

ビチャァ

打ち抜いたそれの内容物は周囲に広がり、一部は重巡棲姫の表面に掛かった。



重巡「ヴェアアァアァァァァァァァァァアアアァァ!!!!」

重巡「あぁぁぁ!!痛い!痛い!焼ける!ぁぁあぁぁぁぁ!!!」



ポーラが投げたそれはアルコールに限界まで

カプサイシンの結晶を溶かした物の瓶詰め。

その液体が体に掛かれば激痛という言葉表現では生温い痛みが曝露箇所を襲う。

そして、アルコールである。可燃性の液体なればこそ周囲の火が燃え移った。



重巡「あぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!」



その炎は視界を奪い、顔周辺の酸素を奪う。

呼吸でもしようものなら炎は口から喉へ通り気管を焼く。



ポーラ「その酒は奢りだ。味わって飲みやがれ。」

ポーラ「末期の酒にはちょいと刺激がありすぎたかもしれないがな。」



重巡棲姫の視界を奪い激痛を与える。

痛みと炎は全ての思考を止めさせ行動する事を不能とする。

そして、動きを止めたその一瞬。

そう、その一瞬をポーラは狙っていたのだ!


シャー!



重巡「!?」



ポーラの実艦であるザラ級重巡洋艦は本来魚雷発射装置はついていない。

日本にイタリアから来ているザラ級の彼女達が

魚雷を搭載可能なのは日本で改造をされたからという裏事情があったりする。

普段の相手がある意味での純正イタリア艦相手であった事。

この一瞬のその時までポーラがまったく魚雷を使ってこなかった事。

そして、それらを気取らさせないように

砲撃やワイン瓶投擲を繰り返し意識を一切向けさせなかった事。

また、海面に燃料を撒き火をつけることにより海中、炎の下を通る雷跡を見難くした事。

詰め将棋のように一つ一つを組み立て、最後の王手。

その全てが繋がり。攻撃が決まった。

ドン!

派手にあがる水柱は命中を確信させる祝砲。



ポーラ「Che gioia !」

ポーラ「死にましたかねぇ?」



うきうきとした様子でポーラが重巡棲姫の生死を確かめる為近付く。



ポーラ「と、止めはしっかりとは基本でしたね。」



そして、念入りにとばかりに近付く前に魚雷をもう1発。



ポーラ「これで……。」



ドン!



ポーラ「終わりです。」



そして、戦果を確認の為、警戒しながら近付く。



ポーラ「……。死んでいますかね?」



腰をかがめ、波間に漂う重巡棲姫の顔を覗き込み生死の確認。

その瞬間だった。

ポーラの首を掴み重巡棲姫が海面に再び立ったのだ!


重巡「やってくれたなぁ!!!!!」



その表情には先ほどまでの余裕は一切無い。



重巡「ここまで。」

重巡「ここまで追い込まれたのは生まれて初めてだよ!」



憤怒と恍惚、両方が入り混じったどちらとも取れない表情の重巡棲姫。

それに対してポーラの表情は絶望。

無理も無い先ほどまでの確定的な勝ちからの逆転負け。



重巡「あんたはよくやったよ。あれだけの仕込みをして最後の最後まで。」

重巡「切り札をとっておいた。これはなかなか出来る事じゃない。」

重巡「実際、私の装甲でもぎりぎりだったよ。

   もう少しダメージを食らっていたら終わっていた。」

ポーラ「でも、勝てなきゃ意味がないです~。」



首に手を回され宙に体を持ち上げられる。

その足はすでに海面に立ってはいない。



重巡「まぁ、確かにその通りだね。」

重巡「にしても、今のあんた、実にいい表情をしているよ。」



重巡棲姫の手に籠めた力がぎりぎりとポーラの首を絞めていく。



ポーラ「そ…う…ですか…?ちょっと首が…しまりすぎな。そんな気がしますがねぇ…。」

重巡「私はねぇ。愉悦に浸っていた相手の顔が絶望に染まる瞬間の顔が大好きでねぇ。」

重巡「今のあんたの表情。実に。」

重巡「実に最高だよ。」



重巡棲姫の艤装の砲塔。

尻尾のような砲塔が一斉にポーラの顔へ向く。



重巡「この距離じゃぁ、あんたらの防壁も役をなさないだろ?」

ポーラ「あぁ……、確かに…、少しばかり厳しいですかねぇ。」



艦娘の防御はその艤装が展開する障壁と衣服の反応装甲の2種。

しかし、至近距離からの重巡、

それも姫級の砲撃ともなれば流石に戦艦であろうとただではすまない。

ましてや、ポーラは重巡である。


重巡「まぁ、あんたは頑張ったよ。面白かった。退屈しのぎにはなったさ。」

重巡「太平洋には骨のある、根性座った奴らが多いねぇ。」

ポーラ「んん…、褒められるのは悪い気がしませんねぇ…。」

重巡「……、その艤装の煙突に書いてあるクロバーリーフに唐辛子の意匠。」

重巡「昔に見たことあるな。」

ポーラ「やっと思い出したかこのスカポンタン。」

重巡「ははぁ。成程ねぁ、姉妹の仇討ちか。実に、実に殊勝な心がけじゃないか。」

重巡「ただ、その願いも叶わずここで妹もまた私の手にかかると。」

重巡「実に喜劇じゃないか!」



笑いながら語る重巡棲姫。



ポーラ「あー……、あんたに伝えたい重要な事があるのだけど?」

重巡「あん?」

ポーラ「いいですか?一度しか言わないのでそのボロ耳よーくかっぽじって聞きやがれ。」



自分の首にかかる重巡棲姫の手を両手でやや引き離し話しやすくした状態で会話を続ける。



ポーラ「まず、一点。今のポーラは海面に立っていません。」

重巡「?」

ポーラ「次にもう一点。ポーラは現状一発も。そう、一発も被弾していません。」

重巡「お前、何言っているんだ?」

ポーラ「そして、最後に一番重要な事。」

ポーラ「絶望とは幸せの絶頂から叩き落される時が最も大きくなる。」

重巡「何いってんだお前?」

ポーラ「今、そう、正に今だ。」



ポーラがそう言い終えた。まさにそのタイミングだった。

炎が壁として立ちはだかりその姿を捉えることの出来ない向こう側。

ポーラと重巡棲姫の戦闘はそれぞれが望んだこともあり邪魔が入らない状態。

であった、いや、故意にポーラがそう思わせていた為に思考の完全に外からの。






北上「片舷20門、全40門。」











北上「93式酸素魚雷!やっちゃってぇ ―――――!」






その速力45kt

弾頭重量は艦艇用の増量型の三型のため780kg

その無機質な死神達の群が一斉に海面を走り重巡棲姫に襲い掛かる。

死神達は接触式信菅であり触れたものの首を切り落とす。

始まりは一本の命中。それによる爆発が周囲の魚雷の誘爆を起こし一気に爆発。

爆発による衝撃波、爆風、炎熱。それらは周囲で戦闘していた雪風達の元にも届き。

ポーラの艤装から撒かれた油についていた炎さえも消し飛ばす程の物であった。



北上「ポーちゃんは生きてるかなぁ?」



重雷装巡洋艦の魚雷一斉射。

その量は姫、水鬼級達を屠るに余りある量である。



ポーラ「かろうじて~……。」

北上「あら――。セクスゥィー。」



艤装の全防御能力集中での防壁に制服による反応装甲、

それら全てで爆発の衝撃を和らげてなお。



ポーラ「あと少しで轟沈でしたよぉ~。」

ポーラ「でも、北上ならポーラの意を汲んで

    容赦なく撃ってくれると信じてましたよ~。」

北上「相方が覚悟を決めたんだ。」

北上「それならその覚悟に応えるのが相棒ってもんでしょ?」

ポーラ「流石の北上です~。」

北上「よせやい。照れるぜぃ。」



そうなのだ、ポーラは万一に備え、そう、自身が仕留めそこなった時。

その最悪の事態まで想定して備えていたのだ。

重巡棲姫と最悪刺し違えるまでを考え、最後は北上の暴力的物量の魚雷による飽和攻撃。

自分が囮となり相手の動きを止めさせ注意を引く。

足が止まった艦への魚雷は目を瞑っていたとしても当る。



ポーラ「流石に機関が死んでますね。浮いているのが不思議です~。」

北上「ポーちゃんってこうみるとグラマラスだね。」



制服が形をなしていないためその服下から覗くサイズのよい胸を眺めながら北上が語る。



ポーラ「おっぱい揉んでみます~?」ユサユサ

雪風「それもいいですが、敵旗艦の死亡確認です。」



ル級達を鎧袖一触とばかりに一掃し爆心地のポーラの元へ現れた雪風が気を引き締める一言。



雪風「大願成就、おめでとうございます。」

雪風「ですが、敵の死体を確認するまでは気を引き締めてでお願いします。」



旗艦としての一言。



北上「だねー。さぁて、敵さんは何処へ吹き飛びましたかねぇ。」



ポーラがもといた位置からかなり吹き飛ばされていた事を考えれば

重巡棲姫もかなり吹き飛ばされていておかしくは無い。



スパ「雪姉さん。あれ?重巡棲姫の体?じゃないですかね?」



周囲の戦闘もあらかた片付き既に残敵掃討に移っている状態の中で

波間に漂う重巡棲姫らしきものをウォースパイトが発見。



ポーラ「おぉ。いい形になっているじゃないですか~。」


その視線の先には胸から下がなくなり腕も右しか残っていない。

どうにか人と判別できるだけの状態の重巡棲姫が文字通り波間を漂っていた。



ポーラ「美人になりましたねぇ~。」

北上「随分過激なダイエットに成功したもんだ。」



そして、ポーラがそれの髪を掴み引き上げた。



ポーラ「ざまぁないねぇ。今の気分はどうだい?」

ポーラ「もっとも生きて口が利けるかどうか知りゃぁしないが。」

ポーラ「姉さまの仇も無事討ち取れました。」

重巡「……、さすがあいつの妹と言ったところか。」

ポーラ「まだ喋れますか。今、楽にしてやりますよ。」

重巡「まぁ、まてよ…、こんな状況じゃなにも出来ねぇ。最後の話くらい聞けよ。」



重巡棲姫がポーラに吊り下げられ、



重巡「お前の姉は…。煙突にクロバーリーフと太陽のモチーフをペイントしていなかったか?」

ポーラ「えぇ。それが何か?」



いぶかしみ、眉根を潜める。

自分の艤装のファンネルマークに見覚えがあれば

姉のファンネルマークに覚えがあってもおかしくはない。

瞬時にその考えにいたるのだが重巡棲姫の質問には言外の含みがあった。


重巡「お前の姉なぁ?生きてるよ。」

ポーラ「!」

重巡「地中海でな?深海棲艦の地中海方面軍第二艦隊旗艦やってる。」

重巡「まぁ、ここで私が死ぬから格上げで地中海方面軍の総旗艦だ。」

重巡「めでたいよなぁ~?」



ニタリと笑った後に大音声での笑い声があたりに響く。



ポーラ「そんな、姉様が生きていて。」



知りたくなかった事実。その事実がポーラの反応を遅らさせた。



重巡「さようならは…、なんて言うんだったかな?」

重巡「あぁ、そうだった。Addio だったな。」

重巡「これで最期だ。Addio !」

雪風「ポーラさん!離れてください!」



重巡棲姫が自身の最期の力を集中させての道連れの自爆。

その瞬間、周囲を爆炎と爆音が空間を支配した。

本日の更新はこれにて終了です、なにげに1年近くやっているのかと少し感慨深くもあるところ
カプサイシンの結晶ですが市販されたもので1600万スコルビィル値だそうです
デスソースの一番辛い奴で10万スコビィル値、やばさはお察し下さい
因みに素手で触るなどは危険とされゴム手袋の着用が推奨されています(触って何かあっても知らないよという奴)
ご質問いただいていた陰陽道系統の1の設定としては陰陽道自体が道教、神道、密教系仏教のごちゃまぜなので


師匠 龍驤 弟子雲龍型 →道教系陰陽道(キョンシーとかがこの辺りの系列)

飛鷹、隼鷹       →神道系陰陽道(神、英霊を降ろす系列)

あきつ丸        →真言密教系陰陽道(蘆屋道満、お化け、妖怪とかの類の系列)


とこんな感じでの設定です、本編に関係ないところではあるのですが…


鯖落ちでお読みいただいていた方々が戻ってきて下さっているのか多少の不安がある状態ではあります
レスいただけてると、読んでくださっている人いたんだよかったと胸をなでおろす状況
こういう内容のSS増えないですねぇ……、ほんと、なんでなんだろうか……
感想レス、応援レス、本当にありがとうございますでは、また次回の更新でお会いしましょう!

皆様こんばんは
こっそりと更新に来ました
今回の更新部分は艦これ二次SSではあんまり語られない?世界情勢というかその辺りが少し
エリア88ベースである以上触れずにいる事が出来ないわけで……
読み飛ばしていただいてもそれ程問題はないかな?
では、お時間よろしければ本日の更新にお付き合いいただきますようお願い申し上げます


悲痛な叫び声が響く。

今まで彼女と同行した者がいたとすれば

恐らく初めてと言えるかもしれない叫び声。



雪風「あぅぅぅ!」



とっさで重巡棲姫とポーラの間に割って入った雪風が

その体に全ての衝撃を受け吹き飛ぶ。

いかに改装を重ね装甲を増しているとは言えその装甲はあくまで駆逐艦。

ポーラを守った事により雪風はあっさりと大破した。


雪風「……、涼しくなってしまいました。」イテテ

ポーラ「雪風!?」

雪風「雪風はいいワインを所望します。」ニマァ



大破ながらにまだ余裕の有り気な雪風。



ポーラ「……、Si、戻ったらバローロの当たり年を開けましょう!」



明るく応じるポーラを確認し。



雪風「第一分遣隊総員傾注!」



一匹の獣として敵拠点を屠りつつあった部隊の全員に聴こえるように連絡。



雪風「旗艦雪風大破の為、旗艦権限を戦艦ウォースパイトへ移譲します!」

スパ「うぇぇぇ!?」

雪風「ウォースパイトさん、あとは任せましたよ。」

雪風「雪風は後方へ下がります。」

北上「やー、これは責任重大だねぇ。まぁ、私は二人を曳航して下がるからー。」

北上「がんばってね。」ニヤニヤ



そして、ウォースパイトへの個人無線へ雪風が一言。



雪風「島風さんの無念晴らしてきて下さい。」

雪風「雪風は一旦後方へ下がります。」

スパ「えっ、でも雪姉さん!?自分でいいんですか?!」

雪風「雛が巣立って鷲になるのを見せて下さいな。」

雪風「しれぇから説明を受けた作戦、Operation Woodpecker (きつつき作戦) 」

雪風「成功に導いてくださいよ?」



プレッシャーとも期待の一言ともとれる言葉をつげ雪風達は海域を離脱した。


強襲揚陸艦内



不知火「司令。雪風からの連絡で大破の為後方へ下がるとの事です。」

不知火「旗艦はウォースパイトさんへ引き継ぐと。」

提督「珍しいな。雪風が大破するとは。」

不知火「此方に向け同じく大破されたポーラさんと向って来ています。」

提督「ポーラも大破か。」

不知火「はい。大破については2名だけだそうです。」

提督「第一分遣隊の状況は?」

不知火「敵拠点の破壊、旗艦の排除に成功、ウォースパイトさんの指示の元、

    第二分遣隊との集合地点めざし艦隊の再編成を行っています。」

不知火「また、残敵追討についてはリスク考慮の上で不要判断をウォースパイトさんが下しています。」

提督「うん。及第点だ。状況完了までの時間は?」

不知火「完了まで後2時間程を予定と報告がありました。」

提督「そうか。長門達の方の状況も確認してくれ。タイミングが大事だからな。」



さも当然、想定内といわんばかりに淡々と確認作業を行う提督。

そして、それに従う不知火。

艦橋内の海図を再度見つめなおし、ふんと鼻をならした所に大佐が話しかけてきた。


大佐「少将、その?」

提督「どうなさいました?」



その顔は大丈夫なの?とでも言いたげ。



大佐「そちらの鎮守府に所属の雪風といいますと

    Queen of Heartsだったと思うのですが?」

提督「ハートの女王ですか。随分なコードネームが割り振られているもんですな。」

大佐「そちらの登録名は死神や生還者だったと思うのですが。」

提督「えぇ、それなら間違いなくそうですが。」



それがどうした?



大佐「そちらの鎮守府において相当な戦力と認識しているのですが。」

提督「英雄を頼みとして作戦立てをする程おろかじゃないですよ。」

提督「戦力としてみた時に一人ひとりの能力が高いという事は実に重要ではありますが。」

大佐「英雄頼みになるような戦場は既に劣勢であるという基本ですね。」

提督「おっしゃる通りです。

   一人の英雄が戦況を左右するような事というのは正直いいとは言いがたいですね。」

提督「戦争というのはいかに標準規格の兵士と物資を

   いかに効率よく消費と配置で勝つかが重要ですので。」

大佐「確かに英雄は所謂『 規格外 』になってしまいますね。」

提督「私が率いている連中が一般鎮守府の理の外にある事は自覚しています。」

提督「ですが、それを頼みとしての作戦の立案は後に繋がらない。」

大佐「少将はその後の事もお考えと。」

提督「そうです。我々は此処に常駐する軍ではないですからね。」

提督「今いる連中で後の対処も出来るように見本を見せないといけないわけです。」

提督「持てる力全てで相手を叩き潰しますが、

   一般兵レベルでも倒せるというやり方を覚えてもらわにゃならんのです。」ハァ



言外に出さぬ現上層部、そして味方である正規軍連中への不満。

まさしく自分の部下達を独楽鼠の如く北へ南へと

動かざるを得ない状況を溜息と共に吐き出したのだった。

そして、それは同盟軍であり本来の太平洋の盟主である米国。

目の前の相手への不満でもある。

だけに大佐が述べた質問はある種のカウンターパンチであり不意打ちだった。



大佐「時に話は変わりますが、

   そちらに英国王室の血を引かれる方がいらっしゃいませんか?」

提督「!?」

大佐「そのお方は次期国王陛下としても家柄、血筋、序列が申し分ない。」

大佐「実に次期国王として相応しいと思いませんか?」



少しばかりの沈黙。



提督「……。」

提督「その様な高貴な出自の艦娘がいるかどうかは分かりかねます。」



正しく後頭部をハンマーで殴られた衝撃。

普段の提督であれば質問の意図を考える為に思考を巡らせられたであろう。

だが、内容がまったくの不意打ちだっただけに

考えるのが一瞬遅れ動揺したのが顔に出てしまった。



大佐「初めに御紹介いただいたように表情を隠せない方のようだ。」

大佐「 『 艦娘 』とは私は一言も言ってはいませんよ?」

提督「!!」



動揺したが故の失言。



大佐「我が国は大西洋戦線における現英国政府を見捨てる選択をとろうとしています。」



あっさりと質問をした理由を述べ、人懐っこくニコニコとした顔で提督の顔を覗きこむ大佐。


提督「……、その、どうしてそのような?」



鏡があれば映る顔は引き攣った顔なのは間違いないだろう。



大佐「お教えしたいのはやまやまですが宜しいのですか?」

提督「…………。」



先ほどから我が国を強調する大佐。これはつまり個人で国を代表できる人物。

米国大統領が関わっている、それもアフリカや中南米の後進国の国家転覆等ではなく。

先進国、それも国連での五大常任理事国の一国を紐付きにしようという謀略。

その話しを聞くのは正しくパンドラの箱を開けるが如しであり底に希望は残らない。

だが、提督は既に、そう、うっかりと決定がされた理由を尋ねてしまった。

これは見ようによっては協力はしないが容認はすると言っている様なものである。

さらに提督の失態が有るとすれば

初めに英国王室関係者、王族がいる事を強く否定しなかった事。

そればかりかうっかりと艦娘にそれがいると言ってしまった事。

これは以前に明石との会話でも漏らしたように何某かの切り札になるかもしれないと、

面倒ではあるが使い方によっては強力な毒にも薬にもなる代物と判断していたという背景がある。

その所為で大佐に匿っているという情報を与え、

その出自を把握している事を自白したも同然なのである。

そして、続いた衝撃の計画。

初めに鍵を握っている人物が自分の手元にいる事を仄めかしてしまった為にその計画を阻止すればどうなるか。

そして、阻止できない事を提督程の人物ともなれば理解が出来ない訳ではない。

ゆえに、積極的に協力は出来ないとなれば消極的に何もしないという選択肢しか残らないのだ。

つまりは沈黙と黙認、ということである。それを理解し、大佐が言葉を続ける。



大佐「考えられているほどに最悪の事態ではありません。」

大佐「我が国はあくまで現英国政府が

   信用の置ける友好的政府へ交代していただきたいだけですよ。」



それは、つまり、現政府は信用に値しないという事。それも政権交代を考えるほどに。

でも、どうやって?



大佐「現女王陛下は高齢で公務を全て代理の方が行われている状況です。」

大佐「新国王の即位は英国民が望んでいる状態でもあります。」



話が見えてきた。国王が変われば国璽も変わる。

英国政府の公文書に押される印は殆どが当代国王の戴冠する姿を表した国璽である。

つまりは現女王から印を預かる大法官を含めて英国政府の一部、

或いは全部が勝手に印を押し国家を正しく我が物としている。

大法官の任務は庶民院からの議員が選ばれなくはないが

慣習として貴族の有力者が選ばれ、そして大臣としての権能は法務に関わる。

地味ではあるがその役割は意外と大きく、なにより英国を体現する貴族社会の有力者のみがなりえる仕事。



大佐「新国王への忠誠を盾に英国貴族達を割る予定です。」



それは今までの国璽が変わるという事実をつきつけ

敵か味方かの踏み絵を貴族たちへ迫るという事でも有る。

議会と貴族社会に睨みの利く要職が変わる。

それはそのコミュニティに所属する者からすれば正しく青天の霹靂であろう。



大佐「これから先の話は世界の趨勢にも関わりますので

   少将にも覚悟いただきたいのと、一つ条件を飲んでいただきたい。

   我が国からの駐在武官をそちらの鎮守府で引き受けていただけないでしょうか。」



それは同盟国全ての政治について話が大きくなっているという意味。

旧き友人から託されたバスクリン缶の中身に、先の保険の引受人の一覧。

時雨やウォースパイトが88鎮守府に流れ着いた理由。

一見関係ないように見える、一つ一つの点と点がつながり線になる。



現英国政府は深海棲艦と何某かの

それも同盟国に対し隠すほどの密約を結んでいるという事。

大方、カリブに浮かぶバージン諸島がそれらの裏取引の舞台になったのであろう。

考えてみれば当然とも言える。

日本のように自国で艦娘を独自開発という事無く、まして、島国。

大陸諸国であるドイツ、フランス、イタリアといった国と比べ

海上封鎖ともなれば圧倒的な不利が出る。

加えて多くの海外領、それらの安全の保証は盟主であるイギリス本国の責任でもあるのだ。

深海棲艦達と取引せざるを得ないだけの事情はある。だがしかし。

世界はそれをどう判断するであろうか?

ましてや現状として世界の海で船の航行の安全が保たれていない状況において。

英国が島国であり自国周辺に欧州棲姫や水姫といった強個体がいるにも関わらず国を保てている。

ドイツ、フランスが軍港等の軍事的重要拠点を奪われ、

イタリアが地中海の制海権を完全に掌握していない状況から見ればどうであるか?

日本からの救援部隊が幾度か送り込まれたのが敵深海棲姫達を容易に撃退出来たのも実は出来レース。

疑われない為の猿芝居。更に言えば戦後の事まで考えた二枚舌外交。

英国は深海達と手を組み人類側を裏切っている可能性まで有り得ると言う事である。

そして、考えたくは無いが最初に艦娘を作り出した日本もまた島国なのである……。

自国の利益を最大限にするのが外交ではあるが

世界のリーダーを自負するアメリカからすれば英国のそれは容認できるわけがない。

また、似た地理的状況の日本に疑念の目が向くのも納得のいく理由では有る。



提督「……、条件ですが、駐在武官の派遣という事でしたら

   駆逐艦娘をお願いします。」

提督「この一線は越えられませんな。」



提督が黙ること数分。考えられる限りの可能性を考え出した結論。



大佐「この一件はお分かりかと思いますが貴国政府にも無関係ではないです。」



そう、今回の一件、現在、救援に向っている所が

襲撃を受けているという情報が故意に握りつぶされた。

恐らく、遅れていたという表現に置き換わるのだろうが。

それを自分が察知し撃退したとなれば。



大佐「そちらの国内の敵対勢力。そうですね。

   そちらに少将提督は皮手袋を投げつけたようなものでしょうか?」



ニコニコと満面の笑みを浮かべる大佐。

救援を遅らせることが予め密約として成り立っていたのであれば

それを壊した提督は当然の如く敵となる。

提督の階級が責任と仕事を増やし動きを鈍くする事を

狙ったかの様に作戦前に上がった事を考えると敵は自ずと見えてくる。

それは間違いなく軍上層部。人事を自在に出来る立ち位置に居る。

そして、時雨をここに叩き込んだ相手に繋がっているだろう。



大佐「駐在武官で駆逐艦ならば受け入れていただけるという事でしたら……。」

大佐「そうですね。サミュエル・B・ロバーツを派遣いたしましょう。」

大佐「駆逐艦でなければ少将提督も安心出来ないでしょう?」



想定内、いや予めその答えを予定していたと言わんばかりに艦娘名を挙げる大佐。

戦艦や空母といった艦娘の派遣はすなわち派遣先を

武力制圧する可能性も見据えているという意思が見えなくも無い選択。

また、逆の見方、提督と敵対する相手からみれば

米軍から戦力の支援を受ける事が容易であるという誤ったメッセージを送ることになる。

敵がはっきりとしていない状態で緊張をより深めるのは賢いとは言いがたい。

それらを抑えつつでのギリギリの妥協点が駆逐艦なのである。

さらに言えばそれらを配慮する必要が有るという事は

米国側も日本国内の敵をはっきりと特定しきれていないということでもある。



大佐「財閥系の企業、軍上層部。我が国の諜報機関の全力で調べても解明は難しいですな。」

大佐「何せ人種そのものが違いますから。」



欧米の顔つきとアジア人の顔つき。当たり前といえば当たり前。

直接動けば人種の違いは枷となる。



大佐「我が国は戦後もリーダーであり続けることを自認しています。」

大佐「少将の協力、感謝いたします。」

この一言に含まれる意味。

それは日本が戦後に艦娘を利用しての海洋権益の拡大は元より、

現在の提督にとっての不明な敵が英国とも繋がっている可能性、いや繋がっているという事。

そして、米国は決してそれを許さないという強い決意表明であり

敵対勢力は容赦なく制裁するという事。




大佐「太平洋の盟主は今後も中国などでは無く我が国です。」



中国をわざわざ挟むという事は国内の敵は中国とも通じているという明示。



提督「……。軍人の私が政治に嘴を挟むわけにはいきませんので……。」

提督「とりあえずは目の前に集中しましょうか。」



自分の手には余る話し。関わりたくないというのが本音。

そして、それは望むと望まざると今後に関わってくるといううんざりするほどの現実。



提督(目の前の深海連中を叩きつぶすだけの方がどんなに楽か。)



目の前でニコニコと笑う相手の顔が

これほど憎らしく見える事はこれからもまずはないだろう。

頭を切り替え、やるべき事。再び海図に目を落す提督だった。

時を遡り雪風達が重巡棲姫達と事を始める頃と同じ時。

長門達もまた敵の部隊と事を構えようとしていた。



深海陣営 後方集積所守備隊 泊地

戦艦棲姫は一人、思考を巡らせる。



戦艦「……、あの指揮官が出てきていたら負けねぇ。」



脳裏によぎるは北方水姫が鮮やかに負け、沈んだ先の一戦。



戦艦「それに、あの時の、あの場所に居た戦艦の艦娘達。」



そして、自身の目の前で行われた鮮やか退き口。



戦艦「英雄に頼らなければいけない戦場は駄目だけれど

   英雄というのは時として全ての事象を引っくり返すトリックスター。」

戦艦「世の理を無視する事の出来る者。」

戦艦「この泊地の位置は本隊への補給拠点、

   そして、周辺敵鎮守府への睨みを効かす意味でも重要な場所。」

戦艦「巧妙に隠してはあるけれど。

   それを理解できる相手、そして、こちらを先に排除する事を目的としてくる相手ならば。」



本隊の後ろを取るつもりであるという意思は明確。

さらには重巡棲姫が守る泊地へまで敵が部隊をまわしている可能性は充分にある。

そしてその二つを襲撃、壊滅された場合は。本隊の退路が絶たれる事になる。


戦艦「敵が優秀だと、相手が打つ手を予想しやすいからいいことだけれど。」



最悪の結果になる事はいただけない。いや。そこまで出来る相手ならば。



戦艦(部下の兵の質も当然良いでしょうね。)

戦艦(敵が羨ましい。)



将として上に立つ者であれば

配られた手札で戦わねばならないのは兵家の常だが。

無いものねだりをしたくなるのも性である。



戦艦「タ級ちゃん、頼まれごとをお願いできるかしら?」



迎撃に出たはずの駆逐棲姫が既に水底に沈んだ事は把握済み。

敵が愚かしい事を願うは無策の極み。



タ級「戦艦棲姫様。用事と言うのは一体?」

戦艦「駆逐古姫様に意見具申を。」

タ級「駆逐古姫様にですか。」



姫級は艦種の違いはあれど対等。

これは基本原則ではあるが何事にも例外という物はある。

名前に古(いにしえ)とわざわざつけられる様に

その個体は極初期から確認されていた。

艦娘システムがある程度制度化し同盟国と国際コードネームで

情報の共有を行っていく中で割り振られた名前が古姫。

それは姫達の中でも古(いにしえ)とあえてつけられる古参兵である。

駆逐艦というその艦種も先駆けを誉れとする艦種という事も考えれば、

生き残り、そこに存在する事の意味は自ずと分かるというものである。

なればこそ姫級であれば敬意を払わないものはおらず、

水鬼級指揮官も参謀職として重用したりしている。

そして、この戦場の深海側総旗艦である戦艦水姫もまた、

彼女を参謀として用いていた。


戦艦「私達のいるこの泊地、もしくは重巡棲姫が守っている泊地。

   どちらかが落ちるような場合があれば即時撤退をと、駆逐古姫様に伝えて頂戴。」

タ級「無線での連絡ではなくですか。」

戦艦「今は無線封鎖中よ。それに戦う前から撤退の話しを無線でしてみなさい。」



誰が聞いているか分からないのに、いらぬ動揺を招くでしょと察しの悪い自身の部下を叱責。



戦艦「あの方ならば私からの言葉を聞いてくださるわ。」



既に損切の期限は過ぎている。戦艦棲姫は確実に理解していた。

そして、自分たちの将である戦艦水鬼に思いを馳せる。優秀ゆえに負け知らず。

百戦百勝、全戦全勝、常勝無敗。

で、あるが故に。部下からの意見を聞き入れたがらない一面もある。



戦艦(今回の負け戦を負けと認めるまでには時間が掛かるでしょうね。)



タ級が駆逐古姫へのメッセージを持ち泊地を出て行くのを見送る戦艦棲姫。



戦艦「今度の戦で戦艦水鬼様は一回り大きく、より強き将へなられるはず。」

戦艦「将は大敗をして真の名将になる。」

戦艦(なればこそ。命惜しむ訳にはいかないわね。)



駆逐棲姫への意見具申が仮に通ったとしても

いままで掛けた損害をそうやすやすと損切出来るとも思えず。

ましてや敵の拠点は後一歩で陥落寸前まで来ている。



戦艦(ゴール目前での撤退なんて考えないわよね。)



総旗艦ではなくあくまで艦隊の一員であるがため

思考に余裕があるからこそ見えてくる現状。

総旗艦であれば恐らくは自身も損切のラインを見誤っているであろう事。

駆逐古姫へ意見具申した撤退を考えるラインも実は遅いのではないかと少し思っている事。


戦艦「全てに時遅し。」

戦艦「なれど…、なれど退くは恥。死して時を稼ぐもまた配下の将の勤め。」



惜しむらくは。



戦艦「深海棲艦としての今後の行く末を見届けられない事かしらね。」



戦艦水鬼がこの方面の指揮官として移動をしてきて共に巡った戦場の思いに浸る。

今まで上官が無能であったが故に放置されてきた敵の突出部への侵攻作戦。

先任へ幾度かその重要性について意見具申をしたことはあったが無視されてきたもの。

ゆえに戦艦棲姫も放置を決め込んだ突出部。

新しい総旗艦は幾度かの戦役を過ごした後、自身の才能でその重要性に気付き

敵拠点の奪取を計画、立案、実行。

それは戦略的勝利に今一歩のところまで迫ってはいた。

戦艦棲姫に己の命を掛けてもよいと思わせるほどの才能の片鱗。



戦艦(敵の指揮官が有能であったという事ね。)

戦艦(あの世があるならば。)

戦艦(敵の指揮官が死んだ後にでもあの世で教えを請いたいものね。)



戦艦棲姫は指揮官として優秀な将である為、

現状、自分の命が助からない事を悟っている。

敵の偵察機などは来ていないが間違いなくまもなく接触するはず。

願わくばその命、燃え尽きるまで、立ったままで死ぬることを願い。

彼女は配下の深海棲艦へ即時戦闘態勢を取る事を命じたのだった。

本日の更新これにて終了です

どうにかこのスレ内で救援の話は終われそうな感じです

88メンバーでのスピンオフ?的番外編は多分、別スレになる予感

それまでにはスレ建てバグがなおっているといいなぁと思います

Rに建てられるとか困りますね本当、アゲ荒しがいるのか特定のスレがあげられているのが目に付きますし

管理人さん管理して……の現状こまりました、愚痴的な部分が多く申訳ありません

本日も、長々とした本作品をお読み頂きありがとうござました

こういったシリアス系SSが増えない中ニッチなのを読んでくださっている方がいるのは本当に感謝です

応援レス、感想レス、いつもありがたく拝読しています

どうぞ、お気軽にレスいただきますようお願い申し上げます

久しぶりにケルベロスよんでてふと思いついた一発ネタ
よろしければ御笑納ください


鹿児島県 海軍 岩川基地



大淀「提督、救援要請です。」

提督「救援依頼を受理した。」

提督「至急、救援を送る。」

大淀「相手先へは?」

提督「30分程我慢してくれと連絡を。」



太平洋某所



陽炎「後、30分我慢しろですって!?」

陽炎「30分も持つわけが無いわ!」

陽炎「だいたいこの近くの鎮守府から救援に来るっていったって30分でなんて無理でしょう!!」

叢雲「……。」

叢雲「救援を30分で届けるっていったのね?」

陽炎「えぇ、そうだけど。」

叢雲「もしかして『 明王 』が来るのじゃないかしら?」

陽炎「明王ってあの特殊作戦群の?」




キィィィィィ



機長「高度維持。」

副機長「了解。」

機長「これより1分後、荷物を投下する。」

副機長「了解。」

機長「こちらB1輸送隊、近隣の友軍へ連絡。まもなく部隊の輸送が完了する。」



ガポン



「こちら不動隊。降下準備良し。」

機長「了解。爆弾庫の扉を開ける。Good luck!」



バシュッ



陽炎「ウィングスーツが6人!?」

叢雲「来た!戦場の死神!軍神!」



シュー!



バッ!



ドン!



叢雲「空中からの砲撃が敵に命中したわ!」



「ガァァァ!」



叢雲「艤装にペイントされている部隊マークは不動明王!間違いないわ!」

叢雲「あれは、四菱重工製 重火力強化型外部追加艤装 紅朱雀 試製甲型!」

叢雲「他の戦場で一度だけ見たこと有るわ!」

叢雲「あれは戦場の伝説!不動明王隊よ!」


超音速の爆撃機をただ前線に兵士を送るためのタクシー代わりに利用。

音速の世界には深海棲艦の持つ艦載機がどんなに優秀であろうと。

追いつける者などいやしない。

海軍岩川基地は海に面していない代わりに特殊部隊が配属されたいた。

特殊機動降下猟兵、不動明王隊。

深海棲艦を圧倒的戦力で打ちのめす姿が仏敵を容赦なく討ち滅ぼす

その姿に似ていたことからいつしか戦場の伝説と呼ばれるようになった。

彼らは先行試製追加艤装を使用し危機的状況に陥った部隊の救援活動を行っていた。

また、超音速爆撃機を利用した強襲作戦も行い戦果をあげていた。

その追加艤装を用いた艦娘は駆逐艦娘でも戦艦の火力を優に超える。



「岩川海軍基地所属 特殊作戦群 不動明王隊所属 夕雲型 19番艦 」



「 清霜!救援に推参! 」



彼女達が通った後には敵の骸が転がっていたという。

この物語は一人の駆逐艦娘が軍神へと至るまでの物語である。

本編すすめず何やってんだ
岩川基地所属の提督の方いらしたらごめんなさい
海が無い基地の岩川って実はこういった感じで艦娘を出撃させてるんじゃない?という
なんとなーくな妄想からの一発ネタでした、お読み頂きありがとうございました

少しだけ本編更新
体調が優れない日が多い…
お時間よろしければお読みいただけると幸いです


戦艦「敵偵察機に逃げられたのね。」

戦艦「そう、随分と愉快な敵みたいね。」



哨戒に出ていた部隊からの報告に微笑む。

敵の偵察機は戦艦棲姫達のいる泊地を確認後、全力でこちらの迎撃機を振り切り離脱。

離脱時に平文で『 我ニ追イツク敵機ナシ 』と挑発して消えていった。



戦艦「来るのね。」



偵察機が敵泊地を発見し強襲。

各所で戦端が開かれそこかしこに砲煙があがり火蓋は切られた。


長門「………。」

時雨「どうしたの?」

長門「瑞鶴!」

瑞鶴「何?」

長門「すまないが旗艦を任せてもいいか?」

瑞鶴「ずっとはやらないわよ?」

長門「何、直ぐに済ませるさ。」

長門「時雨。川内と二人で瑞鶴の護衛を頼む。」

時雨「任されたよ。長門はどうするの?」

長門「一仕事だ。」

時雨「そっか。」

時雨「……。Good Luck!」b サムズアップ

長門「あぁ、行って来る。」フッ



そこかしこで戦闘が行われる中、

長門は一人、一番激しく戦闘が行われている所へ向った。



深海泊地 守備隊本隊



戦艦「この首、あなた達雑兵にくれてやるほど安くはないわよ!」ドンドン!

戦艦「さぁ!どうしたの艦娘というのはその程度のものなの!?」



その激戦区では戦艦棲姫が部下を従えず一人で複数の艦娘達を相手していた。

普通に考えれば1対複数となれば多勢に無勢で負ける。

だが、これはあくまで一般論。

相手との力量差が明らかに大きければ大きいほど

複数で戦うほうが不利になる。



戦艦「それを狙っていたのは分かっていたわよ?」



巨大な人型艤装を軽々と移動させ自身の正面に居た艦娘を

背後から他の艦娘が自分へ向けて撃った魚雷で仕留める。

戦艦棲姫は自分を狙った軽巡艦娘の魚雷を自分の艤装を影にして射線を見せず

その背後からの攻撃をさらに利用して正面に相手どっていた重巡艦娘に当てたのだ。

そう、1対複数での戦いは敵が老練であればあるほどこちらの攻撃が味方への攻撃として利用される。

そして、乱戦ともなれば空母艦載機による爆撃も味方への誤爆もある為、ほぼ不可能。



戦艦「あら、足を止めちゃ駄目でしょう?」



陣形を整え一丸となって戦おうと

態勢を立て直し始めた艦娘達の集団に戦艦棲姫は一気に突っ込んだ。



戦艦「他愛の無い物ねぇ。」



陣形の中に突っ込まれると味方同士の距離が近い為

魚雷等の射線が制限されてしまう。

そして、近接距離での砲撃戦になると当然。


戦艦「私の勝ちよ?」



立て直しつつあった陣形の中に突っ込まれ

中から切り崩された結果、艦娘部隊は全員死亡した。



戦艦「思った程、強くない相手だったかしら?」



闇夜を切り取ったかの様な

漆黒のロングドレスに付いた敵の肉片を手で軽く払う。



戦艦(駆逐古姫様への進言は杞憂だったかしら?)



上空を睨み、敵攻撃機への牽制の対空射撃をしつつ

益体もない事を考えていた時だった。



戦艦「!」ゾクッ

戦艦「この感覚は……。」

戦艦「恐怖!?」



背中に一筋ながれる冷や汗。

敵の姿は見えていない、それでも感じる威圧感。

姫級としていくつもの戦場を渡り歩いてきたが。

とうの昔に忘れたはずの感覚。であるにもかかわらず。



戦艦「再び恐怖を感じる事があるなんて。」



その身に感じるは高揚感。

ドン!

敵の砲弾は自身の目前に着弾した。



戦艦「挨拶代わりというわけね。」



面白い、間違いなく、あの時のあの戦艦が来たのだ。


ザリザリザリ



戦艦「あなたが砲撃をしたのかしら?」



無線での呼び出しがあり、それに応答する。

恐らくは総旗艦と会話をした際に使われた無線と同じ周波数。



長門「そうだ。」



やはりか。



戦艦「何のようかしら?降伏勧告かしら?」

戦艦「悪いけれどキャッチセールスなら間に合っているわよ?」

長門「ふん。なかなか冗談の出来る相手のようだ。」

長門「お前か?」

戦艦「そうよ。」

戦艦「貴方が?」

戦艦「そうだ。」



なれば。



戦艦 長門「「言葉は不要!!」」



オレンジの砲火に大量の砲煙、砲撃の轟音が周囲に響き渡る。



戦艦(反応の速さは流石ね)



戦艦棲姫の人型艤装についた砲塔が回転し終わる前に舵を切り回避。



長門「私を仕留める心算なら目で追っているようでは無理だぞ?」

戦艦「厄介な相手ねぇ。」ニヤリ

長門(あれだけの巨体を細やかに動かすか。)



高火力、高出力、大きい事はいいことだを地でいく艤装でありながら

長門の攻撃を目で確認した後で回避をする。



長門「戦い難い相手だなぁ。」ニィッ



空母艦載機による攻撃が艦艇に対して有効ともなれば航空主兵論が台頭するは当たり前。

そんな中での戦艦ともいえば時として時代遅れとも揶揄される。

一人の艦娘と一人の深海棲艦。

戦艦という同じ艦種の二人は今、その生まれ持っての役割を大いに楽しんでいた。


砲撃して離脱。艦砲射撃の基本、同航戦を避け、ジグザグ航行。



長門「その程度の基本を守った所で。」

戦艦「倒せるような相手ではない事は分かっているわよ?」



ガコガコガコ

長門の艤装の第一砲塔、第二砲塔がクロスショットを狙い仰角を修正。



戦艦(第三砲塔はあえて外すわけね)



第一、第二砲塔は散布界を重ねる様に砲撃。

そして、戦艦棲姫の進路を制限する為に第三砲塔は回避行動の先へと砲撃。

戦艦棲姫はその意図を読んでか長門の狙う方向以外へと回避。



長門(流石に見え透いた罠にはかからんか。)



何度かの反航戦の後、先に仕掛けたのは戦艦棲姫だった。


巨大な人型艤装の腕が海面に向って打ち込まれる。

どどん!

その深海の姫級の全力で打ち込まれた海面からは巨大な水柱があがる!

そして!海水の壁が出来、長門と戦艦棲姫の間の視界を塞いだ!



長門「目くらましか!」



直前の戦艦棲姫の位置、そして自分の位置。

それから敵が砲撃を仕掛けてくるであろうポイントを即座に判断し、

それに備え防御態勢をとる。

しかし、次の瞬間に長門を襲ったのは砲弾では無かった!



長門「これは!」



水壁を突きぬけ飛んできたのは砲弾でも戦艦棲姫でもなく。

視界に飛び込んできたのは先ほどまで周囲で戦艦棲姫と戦っていた仲間達の骸だった。

長門だからこそ、戦闘中もそれが視認出来る程の余裕があった訳だが。

その余裕が長門に一瞬の躊躇をさせた。

ドン!

戦艦棲姫の砲撃音が響き長門の位置へ全弾着弾。



戦艦「水柱を抜けて威力が多少は落ちているでしょうけど。」

戦艦「当れば只ではすまないでしょう?」ニマァ



その笑顔は命中を確信してのものであり。



戦艦「あなたの仲間の死体を目くらましに使ったことを卑怯だなんて。」

戦艦「まさか言うようなタマじゃないわよね。」



水柱が納まるのを待ちつつ、戦艦棲姫は備える。

なぜなら自身の砲撃を一、二発受けた程度では沈む訳がない事を確信しているから。



戦艦「まだ、終わりじゃないでしょ?」



戦艦棲姫は戦闘態勢のまま、正面を睨みつけた。

今日はここまでの更新です、ホント少しだけ
現実的な話、艦娘同士の一騎打ちとかは条件がかなり限られると思います
話の盛り上がりの為にポーラや長門において採用していますが笑って許していただけると感謝です
バトル部分も擬音だけですませると味気ないしなぁとかとか色々悩みますね……
感想、乙レス、いつもありがたく拝読しています
本当に感謝です、レスが付かないのは書いていて色々心配になる性格なので本当……
では、こんな感じではありますが次回もお読みいただけると感謝です

だいぶ間が空きましたが年内に終わらせれるように頑張ります
多分、このスレ内で第二部?的な形でのある程度キリがいい所まで話しを進める事は出来ると思っています
艦これSS書いていた人達で定期的に挙げていた人達がやめちゃったのか数が少なくなりましたね……
どこに移動したのやら、それでは本日も長めで申し訳ないですがお時間よろしければお付き合いください


ドン!

砲声に構え人型艤装の左腕が守るように戦艦棲姫の前に被さる。

戦艦(やはり生きていたわね。)ニヤリ

顔が緩むのが自分でも分かる。

そして、その一瞬を突かれた。

シャーッ!



戦艦「ばかな!」



そう、それは敵が自分と同じ戦艦であれば本来は使えないはずの兵装。



長門「なに、私は人から艦娘になったのでな。」

長門「最初の、艦娘としての初等訓練で駆逐艦種の訓練も受けていたに過ぎんよ。」

長門「ほんのお遊び程度だがな。」



長門が放った魚雷は周囲で兵装をつけたまま死んだ艦娘の魚雷である。

戦艦棲姫の水柱を目隠しにしての攻撃を長門も利用し

周囲に漂っていた駆逐艦娘の魚雷発射装置を利用したのだ。

そして、その魚雷は見事に戦艦棲姫に命中した。



戦艦「やるじゃない。」



被雷直前に人型艤装の右手が海面に刺さり

魚雷が重要機関へと当るのを防いだ事もあり。

戦艦棲姫には見た目にさほどダメージは入っていないようである。

だが、後方の人型艤装の右手は指が吹き飛び

ダメージを与える事に成功しているのは間違いない。



長門「お前さんほどではないさ。」



水柱による視界の制限、味方艦娘の死体を利用しての不意打ち。

長門はこれに対応する為に一時的に姿勢制御システムを手動でダウン。

これにより砲撃の反動の衝撃が長門の体へ直接伝わる事になる。

砲撃の反動を緊急回避に使用した形である。

しかし、体への負担はどれだけの物か。



戦艦「大丈夫かしら?」

長門「心配してもらうほどではないさ。」

長門「それよりお前の方こそ大丈夫なのか?」

戦艦「それこそそっくりそのまま返すわ?」



お互いの状況をじっくりと眺め、互いのダメージを推し量る二人。



戦艦「ふっふっふっふ。」

長門「くっくっくっく。」



二人はお互いの状況を確認して笑い出した。

そして、ひとしきり大声で笑った後。どちらからともなく。



戦艦「名前を聞いてもいいかしら?」

長門「名前?」

戦艦「えぇ、戦艦長門ではなく。

   そうね、貴方ほどの将なら二つ名の一つや二つあるんでしょ?」

長門 フン

長門「名乗る程の名ではないが……。」

長門「そうだな。火車曳兎が一番古い名か。」



長門の言葉に驚くような顔をする戦艦棲姫。



戦艦「あなたが……、そう。

   あなた、私達の間で名の知れた賞金首(アイドル)よ?」

長門「そうか。それならサインに握手でもしてやろうか?」

戦艦「冗談。」

長門「それで、随分と我々人間側の事情に明るいようだが?」

戦艦「今こうして貴方と会話をしている。お互いの言葉を理解出来ている。」

戦艦「あなた達が私達を研究しているように。

   私達もあなた達の事を研究していない道理が無いわよね?」



言われてみればそれは至極最も。

つまりは占領した地域に残った鎮守府施設などから

可能な限りの機密情報などを拾い上げこちらを研究しているという事であり。

場合によっては人間側と何某かのやり取りを行っているという事。

人類側は決して一枚岩では無いと言う事である。


長門「で、私だけ名乗るというのは不公平なのではないかな?」

戦艦「あぁ、これは失礼したわね。」

戦艦「そうね。私の名前ね。」

戦艦「私達の間での呼び名はあなた達の言葉では発音できないわね…。」



そして、思い出したかの様に言葉を繋ぐ。



戦艦「あなた達が私につけた名前は……、そうね。

   確か。グレモリーだったかしら?」

長門「………。貴様が。貴様がグレモリーか。」



瞬間、空気が震えた。



戦艦「えぇ、そうよ。お互いに、面白い縁だとは思わない?」

長門「成程、ソロモン……、アイアンボトムサウンド以来という事か…。」



お互いに因縁浅からずという奴である。

そして、将として、名乗りを挙げれば

その戦い方は自ずと決まる。



戦艦「小細工無しなんてどうかしら?」

長門「部隊を率いる指揮官のする戦い方ではないな。」

戦艦「あら?いやだったかしら?」

長門「いや?久しく一騎打ちなどしていなかったのでな。」



三次元での戦いを仕掛けることの出来る空母艦載機が主兵力となる戦場へ移行する中で、

戦艦である彼女達がその活躍をする機会と言うのは実際には少なくなってきている。

その活躍の場といえば艦隊の主力となる空母の護衛であったり、

味方が敵艦隊の航空戦力を屠った後での殲滅、止めの一撃。

更に言えば連合艦隊の旗艦として、

指揮艦として全体の流れを見て指示を出すという責任ある立場になれば

一騎打ちは元より最前線で戦うなどという機会はまずない。

だけに二人にとってのそれは一軍を率いる将ではなく一戦士としての決闘。


戦艦「戦いの合図は任せても?」

長門「随分と信用して貰ったもんだ。」

戦艦「こういう時の戦い方の相場はあれでしょ?

   あなた達の映画でみたわ?」

長門「西部劇か?」ニヤリ

戦艦「そうねぇ。

   『 賢い者程、最後まで銃を手に取らない 』だったかしら?」ニヤリ

長門「それであれば、銃を、いや、初めから砲で語り合う我らはなんであろうなぁ?」ニタリ

戦艦「そうねぇ、少なくとも賢者ではないわよね。」ニタリ

長門 フフン



そして、上着のポケットの中から一枚のコインを取り出す長門。



長門「クオーターか……。」(25¢硬貨)

長門「こいつでどうだ?」

戦艦「実に雰囲気がらしくていいじゃない。」



そして、長門が手に乗せたコインを指で上空に弾いた。

チィ ――――――― ン

コインが上空へと飛び上がった瞬間から

長門の艤装が黒煙を大量に吐き出す。

そして、戦艦棲姫の人型艤装もまたその瞬間に備え

大きく振動を始め口から大きく息を吐いた。

一秒が一分にも、一時間にも、あるいは一日。

スローモーションでコインが上空から二人の間に落ち。

チャプン

海に沈んだ。



その瞬間からの全ての支配者は砲声と砲煙だった。

仰俯角、共に零でお互いに回避が出来ても

間に合わない距離からの砲撃が開始された。

砲煙は周囲に黒々と広がり視界を封じる。

お互いに回避行動をとりつつ砲撃を続ける、

相手の姿は煙の中で見えないはずだが。



長門(回避行動での動きで空気が動けば。)

戦艦(煙も動く。その始まりに相手はいる!)



砲撃を行えばその衝撃で煙は晴れるがまたその砲撃で発生した砲煙で周囲が煙る。

間断なく激しい砲声が続き周囲を黒々と染め上げ時折なかで火花が明滅。



戦艦(砲撃の最適距離の確保を!)



戦艦棲姫は砲撃の為に距離をとる。

お互いの息遣いが聞こえそうな距離での砲撃戦は

被害が甚大になりやすく通常選択するべきではない選択肢。

そして、戦艦棲姫は小細工なしとはいったが彼女自身の目的は時間稼ぎ。

自分が長門をこの場に引き止めていれば

それだけ本隊の逃げる時間を稼げると算盤を弾く。

そして、敵の長門にしても自分と戦った後がある。

だから被害が大きくなるのは避ける筈。

指揮官として戦艦棲姫は冷静判断し距離をとった後、

砲弾の雨で長門を倒す選択をした。



長門「最後まで将であるか。」

煙の中から眼前に突きつけられたのは長門の第一主砲塔。

そう、長門は被害無視で戦艦棲姫が後退したのに対し、

真逆で前に!前に出たのだ!

ガオン!



戦艦(チィイイィィィ!)



盛大な舌打ちをし人型艤装の手で砲身を殴りつけ砲撃を逸らす。

ズァッ!



戦艦(蹴り!?)



その蹴り自体に自分を撃沈できるだけの威力は無い。

しかし、戦艦の艦娘の全力が乗った蹴りである。

当たれば無事である訳がない。

眼前に迫る長門の蹴りをギリギリで見切り交す。



戦艦「次はどこから!?」



それは驚喜。自分の予想を超えてくる敵がいた事に対して。



戦艦「そっちかぁ!」



空気が動く、ちりちりと肌が焼ける気配。

砲塔の回転が間に合わない。

長門が人型艤装の脇を蹴りを交された勢いを利用してすり抜ける!



長門「背後をとったぁ!」



腰を低く落とし戦艦棲姫の背後をとった長門が砲撃の構えに入る!

ドォン!

長門の砲撃と同時に人型艤装の左手が長門の横っ腹に直撃した。

横へ大きく吹き飛ぶ長門、

だが、その視界には敵の艤装の右腕が彼方へ吹き飛ぶのを捉ええていた!



長門「こいつは効くなぁ。」



長門は掬い上げるように殴られた為に

艤装左側、第三砲塔と副砲が破損。



戦艦「やられたわね。」



片や戦艦棲姫は艤装の右腕を犠牲に重要機関が砲撃されるのを防いだ。



戦艦(全ての砲撃を防ぎ損ねたわね。)

戦艦(艤装の背骨をやられたみたい…。神経伝達が上手く行かないわね…。)

長門(第三砲塔と副砲であれば火力は落ちるが致命傷ではない。)

長門(こちらより向うの方が受けたダメージは大きいようだな。)ニヤリ



ぐいと口から垂れる血を拭い。



長門「死ぬ前のお祈りは済ませたか?」

戦艦「月並みな台詞ねぇ。気の利いた台詞を考えなさいな。」

長門「お前さんを倒した後にでもゆっくり考えるさ!」

戦艦「簡単には逝かないわよ!」



再びの砲撃戦。長門の主砲弾は戦艦棲姫の艤装砲塔を直撃した。



戦艦「主砲が死んでも、まだ!まだやられないわ!」

戦艦(敵の右側の砲塔の動きにだけ集中すれば弾道を読める!)

戦艦(少しでも!少しでも時間を!)

長門(敵の艤装の損傷は予想以上!ここは一気呵成に!)



時間を稼ぐ為の守りへ入る戦艦棲姫、そして、一気に畳み掛ける長門!



戦艦「あなたは、あなたは何の為に戦っているの!?」



長門の砲撃の直撃を交しながら長門へと問いかける。



長門「そうだな。貴様に私の話しを少ししてやろう。」

長門「私には守るべき故郷といえるものはない。」

戦艦「国を守っているのではなくて!?」ブン!



人型艤装の残った左腕が長門へと振り下ろされる。

そして、頭の上でそれを両手で受け止める長門。



長門「ぐぅ!なぁ、戦艦棲姫よ…。

   指揮官として幾つもの海戦を戦えばいつの間にか感情。」

長門「そうだな。

   部下をいつしかただの駒としてしか見なくなっていてな。」

それは戦場を俯瞰的に考える事が多くなれば成程、

そして立場が上になればなるほど。

そうあれかしとして求められる視点。



戦艦「それがどうしたというの?普通じゃない!」



勝つためには犠牲が必要。当たり前の話。



長門「あぁ、お前にとっては普通なんだろうな。」

長門「嘗ての私にとってもそれは普通だった…。」



艤装のフルパワーで耐えるが戦艦棲姫の艤装の力の方が勝るのか

徐々に海中へと押し込まれ始め少しずつ体が沈んでいく。



戦艦「それなら!ここで納得して沈みなさい!」

長門「私はな…、とある事が切欠で変わることが出来たのでな……。」



ガコガコガコ



戦艦「はん!変わったからといって何になるというの!?」

戦艦「結局はここで血みどろの戦いに明け暮れているだけじゃない!」



戦艦棲姫本人がなかなか沈まない長門に痺れを切らし長門の首を直接絞め始めた!


長門「確かにな。結局は戦いに明け暮れるだけの毎日だ。」

長門「だがな。

   ここで、今の鎮守府に移動して得た物がたった一つだけある…。」

戦艦「一体なにって言うの!!」

長門「絆だ。」ニヤリ

戦艦「なんですって!?」



なおも長門の首を絞める手に力が入り続け、

長門を押さえつける腕にも力が込められる。



長門「戦場を生き抜いて、

   仲間と今日も生き残ったとお互いに馬鹿を言う。」

長門「息の根が止まるその時まで一戦士として生き。」

長門「そして、戦場で互いの為に命を張る。」

長門「例え最後に燃え尽き、灰になったとしてもだ……。」

長門「仲間との絆ってのはそんなもんだ……。」

戦艦「取るに足らないわ!」



ドゴォン!



長門の艤装右側、第一砲塔、第二砲塔が火を噴いた。

避けようのない必中距離からの砲撃は戦艦棲姫の体を貫通。

これが致命傷となり二人の戦いを終わらせる幕引きとなった。



戦艦「絆…、絆ね…。」

戦艦「そんなものを持っていると……、重くて疲れるわね……。」グラリ



死す時は前のめり。

戦艦棲姫は前向きに倒れ、その体が海中に没した。



分遣隊本隊



時雨「瑞鶴、長門は大丈夫かな?」

瑞鶴「大丈夫よ。長門だもの。」

時雨「………。」

瑞鶴「私はね。長門を知っているから。」

時雨「そっか。」



二人がなかなか帰ってこない長門について会話をしていた時、無線が入る。



長門「瑞鶴。」

瑞鶴「分かってるわ。

   護衛を出してあげるから後方へ下がりなさい。」

長門「すまない。」

瑞鶴「いいわよ。そうなるだろうと分かってたわ。」

瑞鶴「それより。満足した?」

長門「あぁ。」

瑞鶴「そう、じゃぁ、後は任せなさい。」

長門「頼む。」



戦艦棲姫との戦いを終えた長門はその損傷が激しい為、戦線を離脱した。



川内「大まかに敵拠点の破壊終了といったところかね。」

瑞鶴「そう、分かったわ。ありがとう。」

川内「なんというか、試合に勝って勝負に負けたといったところかねぇ。」

瑞鶴「そうね。

   敵の目的が本隊撤退の為の時間稼ぎだとすれば目標達成でしょうね。」

瑞鶴「よく分かったわね。」

川内「敵の動きが拠点から出て迎撃というより遅滞防衛、

   早い話が死守をする形だった。」

瑞鶴「『 かわうち 』は時に鋭いわね。」

川内「どーも。」

川内「で、時間の遅れと今後の行動はどうする?『 旗艦 』様。」

瑞鶴「どうもしないわ。いつも通りよ。」

川内「了解。」



そして、とんと拳を付き合い交す二人。



川内「時雨。これからきつくなるよ。」

時雨「分かってるさ。」



そして、こちらも同じく拳を交し気合一声。



川内「さて、散歩いきますか。」

時雨「気楽に言うね。」

川内「こういうのはいつも通りが大事なの。」

時雨「了解。」



時雨と川内は残敵掃討へと向ったのであった。

以上終了です、お読み頂きありがとう御座いました
いつも、乙レス、感想レス本当にありがとうございます
何度も読み返し、書く気力をいただいています、本当にありがとうございます
冒頭でも触れましたが艦これSS、落ちる前に比べて数が減りましたね……
燃え系のSSは今後望めないのだろうかと少し不安です、増えて欲しいのですが……
では、お読み頂き本当にありがとうございました!

少しだけ更新です
お時間宜しければお読みいただけると幸いです


救援部隊本隊 強襲揚陸艦艦内指揮管制室



提督「長門は修理の為に帰還か。」

不知火「はい、その様に連絡が入りました。」

提督「長門が戦線離脱か。」



正しく予想外。

いつだってこちらの想定通りには事が運ばないと心の中で一人ごちる。



提督「……、遅れはどのくらいだ?」

不知火「凡そ1時間程の遅れが出ていますが想定の範囲内だと思われます。」



主力である雪風、北上、ポーラに長門。

88鎮守府の看板役者が戦線を離脱。

彼女達の実力は88以外の鎮守府であればどこででも即で一軍。

それも主力中の主力をやれる実力の持ち主である。

並みの鎮守府であれば作戦続行を諦めるほどの物である。

であるにも関わらず、想定の範囲内と言うかと。

不知火の見解に頼もしさを感じると共に、

自軍がいかに規格外かを改めて実感。

そして。


不知火「現在、ウォースパイトさんが旗艦を勤められる第一分遣隊と

    瑞鶴さんが旗艦を勤める第二分遣隊との合流、部隊の再編成は後30分程で完了との連絡。

    総旗艦は瑞鶴さんでよろしいですか?」

提督「あぁ、その様に進めてくれ。」



そして、少しだけ黙考。



提督「細工は終わったな。」

大佐「いよいよですか。」

提督「えぇ、グランドフィナーレ。最終幕の開幕です。」

提督「不知火。無線の全回線オープンだ。」

不知火「了解です。」

提督「周辺全鎮守府へ通信!」

提督「進軍命令!Operation Woodpecker (きつつき作戦)発動!」



提督の指示に従い強襲揚陸艦から海域にある全鎮守府へ

進軍命令の符丁が打電される。





『 真鐡(まがね)の城達よ!皇国(みくに)の四方を守るべし! 』



『 汝らの弾撃つ響きは雷(いかづち)なり! 』



念をいれ、複数回の打電が行われる。



大佐「勇ましい符丁ですね。」

提督「うちの連中が全力で後顧の憂いを断つべく

   敵の後方拠点をつぶしましたのでこの周辺の臆病者(チキン)連中に

   仕事をしてもらわにゃならんという訳です。」

大佐「臆病者(鶏)が突撃兵(きつつき)ですか。」フフッ



きつつきが連続して木を叩く音は時として銃声の様に形容される事を意識して

突撃小銃を持ち敵を掃討する突撃兵ときつつきを掛ける大佐。

また、余談ではあるが、きつつきの一種ウッドスパイトに掛けて

敵の船に穴を開けるとして戦艦ウォースパイトの艦船紋章に一時期使用されていた事もある。




提督「私が今回の一件を知る事になった島風なんですが。」

大佐「はぁ。」

提督「この周辺鎮守府全てに立ち寄り救援を求めていた

   その航行記録はきっちり艤装に残っていたんですよ。」

提督「そしてですね。私の鎮守府での島風との会話は全て録音済みなんです。」

大佐「成程……。」

大佐「更迭、収監、懲役のお買い得3点セットを選ぶか救援の。

   救国の英雄になるかの簡単な二択を選ばせたという事ですか。」

提督「えぇ。とはいえ選択肢のない選択にはなります。」

大佐「一般的に前者を選ぶ人間はいませんかね。」フフッ

提督「おっしゃる通りです。」

提督「私が事前に本土の主管に問い合わせて

   救援を断った連中がどうなるかというのを教えたやりましたからね。」

提督「私が連中の説得に使ったのは

   お買い得3点セットの書類を先に作っておいたくらいですかね。」

提督「ここへ救援に向かっている間に幾人か

   周辺鎮守府へ連絡に向かわせていましてね。」

提督「もちろんきっちりと公式に記録に残る形で、です。」

大佐「不測の事態で連絡が来ていなかったとの言い訳を封じられますか。」

提督「椅子磨きに長けている連中は磨くのに長けておりますからな。

   よく滑りを良くするワックスを持っています。」

大佐「成程、口の滑りはいいでしょうなぁ。」

提督「ワックスの製造業者をお聞きしたいと囁くように部下には申し伝えてもいます。」

大佐「随分と人が悪い方だ。」



つまりは無能でありながらその地位にいるというのは口八丁、話術に長けるという事。

言い逃れをされては敵わないという奴である。

そして、そのワックスとは人と人の関係をよくする麗しきかな潤滑剤(賄賂)でもある。

小人なんとやら本土から離れた鎮守府ともなれば不正が横行するのもままあるわけで。

提督がその交友関係にある旧き友人にそれとなく連絡をとっていたというのは言うまでも無い。



もっともその友人曰く。



「肥え太らせた後に出荷するつもりだったけどまぁ、どうぞ。」



と、軍人としての才ではなく商人としての才能は評価していたようである。

最も事態を説明した後、早く言えと慌てて証拠を送ってきたり

何処で情報が止められていたのか調べておくと言ってきたりとなかなかな友人でもある。

それらの合わせ技ともなれば麻雀ではないが数え役満で収監後、銃殺。

なんて結果になってもおかしくは無いわけである。



提督「願わくば尻に火が付いたアホ指揮官が部下を浪費しない事ですかね。」

大佐「消費ではなく浪費は困りますね。」

提督「おっしゃる通りです。」

大佐「しかしてこの作戦ですが……、Battle of Kawanaka?」

提督「よくご存知で。

   正しくは何度かあった川中島の戦いで特に有名な第四次の戦いで用いられた戦法です。」



武田の名軍師。

山本勘助がきつつきが木の表皮を叩き虫を中から叩き出し

その食べる姿から構想を得たと言われる作戦である。

この作戦自体は敵の上杉に見破られ成功はしなかったのだが

その作戦内容としては単純かつ有効な作戦である。




基本的な流れとしては鉄床戦術そのものであり敵の背後を急襲。

そして正面に布陣した本隊とで挟み撃ちで叩くという物である。

しかし、違いも勿論有り通常の鉄床作戦は

前線で歩兵部隊が囮となりひきつけている間に敵後方を襲撃するのに対し。

今回のきつつき作戦は敵後方を急襲させ

敢えて作っている逃げ道へ敵を誘導するというやり方である。

当然ながらその逃げ道には本隊による待ち伏せつきな訳である。

総旗艦として無線機能の充実、経験の申し分ない瑞鶴がこれに当るのは当然といえる。



提督「周辺鎮守府の全力で当たらせれば後方急襲部隊の数は。」

提督「そうですね、数だけは我々が減らしたぶん敵を上回るでしょう。」

大佐「そして逃げ道に殺到したところを叩くわけですな。」

提督「航空戦力については艦載機の扱いに長けている連中を此方に残していますからね。」

提督「本音を言えば瑞鶴についてもこちらにまわしておきたかったくらいです。」



三次元機動可能な航空機による攻撃というのは直線軌道で飛んでくる大砲の弾より厄介な物である。



大佐「なかなかに見ものなようですね。」

提督「最後の仕上げですからね。画竜点睛とならぬよう締めてかかりましょう。」



分遣隊集合地点

部隊を分け敵後方拠点を叩いていた部隊が合流する。

その集合地点に時雨の姿はない。



スパ「総旗艦に敬礼!」ガッ

瑞鶴「あー、そういうの良いから。」

スパ「礼を欠くと雪姉さんに後で怒られちゃう……。」

瑞鶴「よく教育が行き届いている事ね。」

瑞鶴「雪風は、確かに異質だけどねぇ。」

スパ「やっぱりそうなんですか?」

瑞鶴「あの娘が本気だすと電探でないと存在を追えないわよ?」

瑞鶴「存在が完全に周囲と同化しちゃうから。」

瑞鶴「居る、しかし、存在はしない。

   矛盾を含んでるけどそう表現するしかないもの。」

川内「だねー。だてにうちの駆逐No1じゃないよ。」

川内「提督がどこから拾ってきたか割りと謎だけどね。」

川内「瑞鶴。周辺鎮守府連中の木っ端どうする?」

瑞鶴「私達との艦隊行動は練度が段違いに低いから望めない。

   個別に戦闘目標を設定してつぶして貰ったほうがいいでしょうね。」

川内「了解。」

瑞鶴「ウォースパイト、私と、あなたが積んでる通信機の出力が大きいから

   そっちでも語りかけて貰えるかしら?」

瑞鶴「複数チャンネルで聞こえて居ませんでしたってのは勘弁願いたいからね。」

スパ「了解です!」ビシッ

瑞鶴「この作戦の肝は全軍の動きを合わせないといけない事なのよね。」

瑞鶴「たたき出す方向を間違えるとこっちが面倒な事になる。」

スパ「瑞鶴さん!各部隊への指示命令は何と打電しましょうか?」



川内との打ち合わせ中に88鎮守府以外の艦娘達へ何と指示を出すかとウォースパイトが訊ねてくる。



瑞鶴「………そうね。」

瑞鶴「あなたの国の有名な提督が言った名言でいいんじゃない?」

スパ「おぉ。あの名言ですか。」

瑞鶴「個別の標的を指示するよりいいでしょう。

   最優先事項だけはっきりさせて頂戴。」

瑞鶴「何をすべきかの作戦の概要はきっちりと理解しているでしょうからね。」



こうしてウォースパイトから各鎮守府の艦娘へ指示が出された。

その内容は。




『 我が国は各員がその義務を果たすことを期待す! 』




すこしだけ変えられた名言ではあったが。

簡潔なその電文は勇ましい文言ではないからこその

飾り気のない言葉が参加している艦娘達を奮いたたせた。

島風が周辺に助けを求めて回っていたことを

中央に報告していなかったとしても現場。

その現場に居た艦娘達が目撃をしていない訳がなく、

また人の口に戸は立てられないもの。

ともなれば今回の救出作戦を待ち望んでいた者の方が多いのは当然でもある。

88メンバー達と比べ練度低かれど、その意気軒昂也。

窮地に陥った仲間を救出せんと鬨の声をあげる。



瑞鶴「いいじゃない。」

川内「だね。時雨は別働?」

瑞鶴「えぇ。時雨クラスになれば考えて動いてもらった方が楽よ。」

瑞鶴「何人か下つけて自由にさせてるわ。」

川内「まー、将来の指揮官だよねー。」

瑞鶴「なんでうちに流れて来たのやら。」

川内「じゃ、ま。仕事をしますか。」

瑞鶴「あんたはいいの?」

川内「そうだねー。いつもの面子と以外だとね……。」

川内「一人の方が気楽かな?」

川内「まぁ、瑞鶴のお守りをしますかね?」

瑞鶴「へーへー。それでは背中宜しくお願いしますだよぉ。」

川内「任された。」

瑞鶴「よろしく。」


訳知り合った頂上同士のコンビ。

猟犬は野に放たれ、狩りは始まった。

近接兵装はロマンですよね…、一部艦娘は所持したイラストになってますが使うことあるのでしょうか?
ボツネタにしたので近接で戦う川内姉妹のネタはあるんですがね
そういうのも書く人少ないなぁでそれなりに量は書いたものの筆がとまっている
イチャコラ読んでりゃ他のも読みたくなるというやつで…、自分で需要を満たすのもなんか違うと思うのです
他のSS作者様で書いてくださらないものかねぇと思うこと最近、増えませんね
愚痴が多くてすみません、皆様からの乙レス、感想レス、いつもありがたく拝読しています
本当にありがとうございます、宜しければお気軽にレスいただけると感謝です
今日はこれにて終了です、本当に少しで申し訳ないです、またの次回も御待ちいただけると幸いです

お世話になります、更新に参りました
いよいよ大詰めへ、何とかこのスレ内に納めるぞ…


瑞鶴達88鎮守府救援部隊分遣隊の合流2時間前



敵 深海側包囲軍 駆逐古姫隊



古姫「連絡…、遅かったわね…。」



タ級からの伝言を苦悶の表情で受ける駆逐古姫。



タ級「………。」

古姫「みなさい。あれを。」



駆逐古姫が指差す方角、水平線の向こう側からは黒々とした煙が上がるのが見えた。



タ級「あの方角は!」

古姫「えぇ、貴方の主である戦艦棲姫が

守将として守備に付いていた後方拠点のある方角。」



その煙の量をみれば拠点が陥落した事は察しが付く。



古姫「戦艦棲姫は覚悟を決めていたのでしょうね……。」

タ級「………。」

古姫「仇討ちや後追いはやめなさい。」

古姫「戦艦棲姫が貴方を此方に遣した意味を考えなさい。」

タ級「意味ですか?」



はるか遠くの煙を睨み付ける表情をしていたタ級へ嗜めるように言う駆逐古姫。



古姫「あの娘が撤退の進言に貴方を遣したという事は

貴方にしか出来ない役割が此方であるという事よ。」



タ級は戦艦である。そして、その装甲は厚い。

何かに思い至ったかはっとする表情を見せるタ級。



古姫「そういう事よ。

戦艦棲姫は貴方に戦艦水鬼様を逃がす際の殿を託したのよ。」



戦艦棲姫の覚悟とその託された想い、

それを知ったタ級はがっくりと項垂れる。

重巡棲姫との連絡も付かなくなっている。

これから導き出される敵の行動は……。

駆逐古姫は考える。考える為の時間は少ない。

自身の経験、そして、敵が設定しているであろう勝利目標。

自分達の現状を考えれば撤退しか道はないのだが

どうすれば安全に総旗艦の戦艦水鬼を逃がす事ができるか。

敵の目的は何であろうか?

至上命題なのはこの地に残る味方戦力の救出なのは間違いない。

では、こちらの殲滅についてはどうであろうか?

その答えを導く鍵は敵が先に後方拠点をつぶしに掛かったという点。



古姫「一般的な鉄床戦術を取るのであれば

   本隊となる部隊で前線を押さえる陽動を図るはず。」



そう、一般的な鉄床戦術は装甲に勝る兵科で前線の敵をひきつけ

機動力に勝る兵科で敵の後ろを奇襲し前後で挟み撃ちを行う包囲殲滅戦。



古姫「挟み撃ちをするのであれば

   先に行動を起こすのは後方拠点の襲撃ではないはず。」



正しく行うなら、先に本隊を叩き、本隊側に後方拠点から援軍を送らせるなどをして

後方への注意が逸れた時に機動力を持った精鋭で突き後方を陥落させるのが定石。

だが、敵は順番が違う。



古姫「理由は?そうせざるを得ない理由があるという事?」



一般的?そう、一般的ではない。

一般的な鉄床作戦は前方で釘点けにする本隊と

後方襲撃の部隊とは連携が密に出来ないと無理なのだ。

それは作戦の決行において双方の部隊の練度が同程度

或いは後方側担当が精鋭である事が望ましい。



古姫「なるほど。」



一つの推論。いや、それこそが理由であり結論だろう。



古姫「後方部隊は数が多いけれど存外錬度の低い兵の方が多い?」

古姫「連携に不安要素がある。」



敵に囲まれ後方を、

退路を絶たれ逃げ道を指定されている中での一筋の光明。



古姫「艦隊参謀長駆逐古姫麾下の全軍へ告ぐ!」

古姫「我が部隊は敵拠点攻略を停止!別命あるまで待機!」



自分の指揮権下にある部隊へ敵攻略の手を止め待機命令を下す 。

これは臆病風に吹かれてのものではなく。

総旗艦からの撤退命令が出れば即応させる為の物であり

その後の目的については。



古姫(突破口を切り開く為の捨て駒に……。)

古姫(麾下の皆。すまない……。)



ここからは時間との戦い。

敵が後方拠点を潰したのであれば現在包囲している敵

目の前の敵救援対象が呼応して反攻してくる可能性もある。

その事態は避けたい。



古姫「戦艦水姫様の下へ行かないと!」



自分の麾下部隊へ撤退の為の方角と指示を飛ばし

撤退時は先頭を切れるような状態にして駆逐古姫は本陣へと急いだのだった。



深海敵地攻略部隊 本隊 戦艦水鬼部隊 本陣



戦水「状況は分かったわ。」

戦水「正面の敵拠点攻略は諦めましょう。」

空鬼「私が最初に負傷し敵本隊の迎撃に失敗したばかりに…。

   申訳ありません。」

戦水「あなたに問題はなかったわ。あれについては敵を褒めるべきかしらね。」

空姫「正面を攻略し我々が拠点とするのはいかがでしょうか?」

戦水「愚作。それこそ無能の極みよ。

   これだけの相手に篭城戦を戦える自信は私は無いわね。

   それよりも敵の包囲網が完成する前に

   撤退をすべきと言う駆逐古姫の進言が正しいわ。」

戦水「今なら損害は多いけれど全滅は避けられる段階。

   全軍に撤退命令を出して頂戴。」

古姫「進言を受け入れてくださりありがとうございます。」



予想以上にあっさりと進言を受け入れ撤退の決意をする戦艦水鬼。

状況が不利と判断すれば撤退する事に迷いが無い辺りは

他の水鬼級と比べ秀でているであろう。

だけにもっと早く、そう、空母水鬼が負傷し戻ってきた時点で撤退を決めていれば。

駆逐棲姫達の部隊は元より重巡棲姫、

そしてなにより戦艦棲姫を失わずに済んだであろう。



戦鬼「嘆いても時は戻らないわ。

   古姫、どの方向へ逃げるのが最適解と思うのかしら?」

古姫「はい。私が考えるにこの方角に敵の包囲網の穴があると思われます。」



そして、駆逐古姫の指揮下で深海の撤退戦が、提督の指揮下で艦娘の追撃戦が始まった。



強襲揚陸艦 艦橋 指揮司令室



提督「大佐。始まりましたよ。」



司令室内のモニターに明滅する光を見ながら提督が語りかける。



大佐「見事に前方へ叩きだす事に成功したようですね。」



それは敵が見事に策に嵌ったとの証の明滅。



不知火「司令。こちらを。」

提督「減った戦闘機、艦攻、艦爆も到着予定か。」



不知火が渡してきたメモ紙に目を通す。



大佐「あぁ、初めの戦闘で減った機材の補充ですか……。」



強襲揚陸艦には艦娘用の艦載機の予備は

それ程積んできては居なかったはずだがと思う大佐。

最初の防衛戦時に当てはあると言っていたそれが着くのであろう。

だが、この光点の数は……。まさか?!


提督「お気づきになられましたか。」ニヤリ

大佐「確かに船で輸送するより直接飛ばした方が早いですね。」



船で運ぶより飛行機を飛ばしたほうが運搬という点では早いのは当たり前。

ただ、人でやろうと思えばパイロットの疲労問題や

人員の都合などでとてもではないがやれたものではない。

更に言えば長距離、長時間飛行した後にさぁ、戦え、根性だ。

となればいかな熟練パイロットであろうと最高の結果を出す事は困難だろう。

だが、艦娘の使う艦載機のパイロットは疲労しらずの妖精さん達である。

妖精達の疲労は使用者の艦娘に移るとの話でもあるが……。

その頃の海上では栄養補給にいそしむ姿があった。



グラ「疲労回復の為に甘味を採るか。」ゴソゴソ

瑞鳳「あっ、そろそろ?」

グラ「あぁ、瑞鳳も食べるといい。」

瑞鳳「じゃぁ、お茶にすりゅ――?」

グラ「いただこうか。」



そう、艦娘には疲労回復専用の戦闘糧食。甘味間宮羊羹がある。



大佐「成程。成程。実に合理的だ。」

大佐「ですが。航続距離については?

   空中給油機など無いはずでは?」

提督「それについてはそちらの同盟国の

   フォークランド時の対応を参考にさせていただいています。」

大佐「Operation Black Buck ?」(ブラックバック作戦?)

提督「その通りです。爆撃機と戦闘機や艦爆といった違いはありますが

   無理やり航続距離を伸ばすやり方は参考にさせてもらっています。」

大佐「成程。敵の尻を蹴りだせばこちらに向ってくる敵の方角は

   分かりきってますから早期警戒機の幾つかを誘導に回せるという事ですか。」

提督「我々の鎮守府からこの海域までのあいだに補給艦と護衛隊をつけた空母を配置。」

提督「燃料を補給後離陸。それの繰り返しで艦載機を飛ばし続けている形です。」

大佐「なるほど補給艦をリレーで回すことで

   空母艦娘とその護衛艦隊へ燃料、弾薬を切らさない形ですね。」

大佐「空母へは燃料だけの補給で良い訳ですから

   補給艦娘に積む燃料も弾薬を減らして多く積めますね。」

大佐「艦載機については収容可能数以上であったとしても救出先に地面はありますしね。」

提督「そうです。仮に我々の空母娘達で収容出来なくても

   周囲に島が幾つもありますからね。そこへ降ろせばいいわけです。」

提督「奇策で理屈は分かっても普通はやらないという奴です。」

大佐「かの国はそれをやりますからね。」

提督「かの国の柔軟な発想は当り外れありますが様々な戦訓を与えてくれます。」



提督の言葉に頷く大佐。



「You have control 」(無線)

グラ「I have control 」モチモチ(無線)



グラーフが艦載機の管制を中継した艦娘から無線を通し受け継ぐ。



グラ「零52型が中心か。」

グラ「フム。さてと、艤装を無理やり拡張しているからな。」

グラ「どれだけ余分に動かせるかといった所か。」

瑞鳳「リミッター外す感じ?」

グラ「うむ。

   艤装の寿命を縮めるから好ましくはないが贅沢も言ってられまい。」

グラ「我々が始めて、我々が終わらせる。」

グラ「ともなれば主人公は我々であろう?」

瑞鳳「やだ、グラたん口説いてる?」

グラ「Shall we dance ?」ニヤリ

瑞鳳「きゃぁ ――――― ///」



秋津洲「ワイルドギース01より管制へ!」

不知火「こちら88コントロール。どうされました?」

秋津洲「敵艦隊発見!艦影のライブラリへの照会よろしくかも!」

不知火「確認しました。照合します……。」



二式大艇から送られてきたデータの照合。



不知火「照合完了、艦影、空母水鬼です!」



にわかに色めき立つ司令室内。



提督「敵の将官か。優先して狩ってくれ。」



提督の指示が排除への優先順位を告げる。



グラ「艦載機の数で押せるのであれば我らが有利!」

瑞鳳「艦攻隊に艦爆隊のみんな!やっちゃぇ!」



正面、提督達本隊の空母艦娘が管制する艦載機部隊が一斉に哀れな獲物。

空母水鬼へと襲いかかる!



空鬼(来たわね!これでいい!これで!)



空母水鬼の随伴は対空に定評のあるツ級ではなく駆逐ナ級。

もっともナ級自体が最新鋭である為それもなかなかの対空ではあるのだが。



グラ「ふむ。なにやら覚悟を決めた様子だな。」

瑞鳳「負けを悟った感じ ――― ?」

空鬼「そういうことよ!さぁ!かかって来なさい!」



覚悟を決めた空母水鬼。

最後の足掻きと自身の艦載機を全て出しグラーフ達の部隊に抗う。

だが、最初の接触時と違いその戦闘機や艦爆、艦攻の数は決定的に違う。

空母水鬼の随伴は徐々に数を減らし、その直援機もついには零となる。

飛行機達の攻撃が集中すれば制空の取られた状況では為すすべなどある訳が無く。

空母水鬼は集中攻撃を浴び、大破炎上、そして轟沈へ。



グラ「なかなか頑張った。いい、戦争だった。」フム



お互い顔の見える距離ではない。

グラーフははるか遠くの距離で炎上、

ゆっくりと沈降して轟沈してゆく相手へ最大限の賛辞を贈った。



空鬼「これで、これでいい。」

空鬼「私は役割を果たした………。」

空鬼「戦艦水鬼様……。後は。後は、宜しくお願いいたします……。」



そして、空母水鬼は役割を果たし、

満足した顔で水底へと逝った。



今日はこれにて終了
お読みいただいている皆様には展開が遅いよ!と怒られそうですがもう少しでなんとか…
今まで何も動いていなかった娘達がようやく出番です!(雪風達負傷組みは……)
後少しで終われそうですので今しばらくお付き合いいただけると幸いです
乙レス、感想レスありがとうございます、いつもありがたく拝読しています
どうぞ、お気軽にレス残していただけると幸いです

私事でばたばたしてきておりますが更新にきました
お時間よろしければお付き合いいただけますと幸い

提督達救援対象鎮守府



その鎮守府の指揮は提督が嘆いたように少佐が執っていた。

階級としてそれは余りにも低く提督として新米と言えた。

しかし、彼は踏ん張り救援が来るまで耐えきった。



少佐「敵が。敵が撤退していく?!」



目の前の包囲網が解かれ、敵が撤退していくのが見える。



少佐「ここは敵の追撃を!」



今まで篭城戦を戦ってきていた全員に命令を下す少佐提督。



「島風の仇!」

「仲間の恨みを!」



目の前で惨殺された島風、

そして、幾度にも及ぶ攻撃で散っていった仲間達の仇を討つ。

その強い意志が極限まで追い詰められ疲労しているはずの彼女達に力を与えた!



ウォォォォォォオオオ!




古姫「包囲していた敵が追ってきたわね…。」



予想の範疇。

既に深海勢は撤退戦に切り替えて部隊を素早く退いている。



タ級「空母水鬼様撃沈の報!」

戦鬼「空母水鬼が撃沈?!」



彼女程の豪の者であれば

包囲網を抜けられると思っていたのにも関わらず轟沈したと?

包囲網の穴と思われる所へ斬り込みを掛けていた自分の部下、

指揮官級がやられた事は戦艦水鬼に更なる衝撃を与えた。



古姫「戦艦水鬼様!立ち止まられてはいけません!」

古姫「空母水鬼様が何の為に沈んだと思っているのです!」

戦水「駆逐古姫……。ここを攻めたのは間違いだったのかしら?」

戦水「戦艦棲姫を始めとした優秀な部下を失ってまで獲るべき場所だったのかしら?」



自身の部下が次々と為すすべなくやられていく戦況というのは

今まで負けなしできていた戦艦水鬼には実に耐えられない物の様であった。



空姫「戦艦水鬼様?」

戦鬼「敵は強いわねぇ、私達、皆、死ぬのかしら……。」

戦鬼「ねぇ、どうせ皆死ぬのなら敵の旗艦を潰して…「この痴れ者!」パァン!



自暴自棄になりかけた戦艦水鬼に駆逐古姫の張り手が決まる。



古姫「貴方という方は何を考えているんですか!!」



戦艦水鬼の発言に怒り心頭に発した駆逐古姫が戦艦水鬼の服の襟首を掴む。



古姫「戦艦棲姫や空母水鬼様が何故に死んだと思っているのです!?」

古姫「皆、貴方に次の、深海棲艦の未来を託し、

   生き延びて欲しいが為に死んでいったのですよ!?」

古姫「この世界の支配者の器たる才を貴方に視たからこそ

   彼女達は命を賭して貴方が逃げる為の時間を稼ぎ敵を防いだんです!」

古姫「ここで貴方が折れてどうするんですか!」

古姫「死んでいった者達にすまないと思うなら

   生きて敵を滅ぼす為に再起を誓うべきではありませんか!」



激昂し、その怒りのままに戦艦水鬼を叱り飛ばす駆逐古姫。

そして、戦艦水鬼のドレスの襟首を掴む手は怒りに震えていた。



戦鬼「手を……。手を服からどけてもらえるかしら。」

古姫「これは…、無礼いたしました…。」

戦鬼「いえ、私が愚かだったわ。」



その顔からは迷いが消えた。



戦鬼「私は全力で逃げるわ!」

戦鬼「駆逐古姫!空母棲姫!二人とも殿は頼んだわ!」



そして、戦艦水鬼は護衛を連れ全力で海域を離脱していった。




古姫「ふ ―――― …。

   戦艦水鬼様が全力で逃げるなら追いつけないでしょうや。」

空姫「流石に戦艦水鬼様ほどの方になると逃げっぷりもさまになるわねぇ。」

古姫「あれくらい豪快に逃げてもらわないと困るわ?」

空姫「そうね。戦艦水鬼様には逃げて深海棲艦の戦力を立て直していただかないと。」

空姫「それにしても、始めに敵の本隊の力量を見誤っていなければ

   犠牲は少なかったかもしれないと思うのだけれど。」

古姫「やめときましょう。戦の『たら』『れば』なんて言い出したらきりがない。」

古姫「今回は敵がたまたま一枚上手だっただけよ。」

古姫「私達はここで私達がなすべきことをしましょう。」

空姫「えぇ。そうしましょう。」

空姫「エンドロールが流れ始めたからといってまだ完全に終わった訳ではないですもの。」



二人の姫が敵へ向き直り咆哮を挙げた。



強襲揚陸艦内 艦橋司令室

不知火「秋津洲さんから入電です!」

提督「どうした?」

不知火「撤退中敵旗艦艦隊と思しき艦隊を発見するも

    敵艦隊の攻勢激しく警戒機の護衛が落とされたので

    撤収するとの事です。」

提督「敵さんも必死こいて逃げているようだな。」

提督「位置は?」

不知火「此方です。」



机代わりにしている大型モニターにタップして敵を表示させていく不知火。



大佐「ははぁ。これは敵に天晴れな才を持った者が居たようですね。」

提督「確かに。これは上手い事こちらの隙間を突いて来ています。」



駆逐古姫が戦艦水鬼を逃がす為に戦闘を行っている場所は

丁度、提督達88鎮守府組み本隊と周辺鎮守府連中の合わせ目だった。

三角形をイメージしていただけるだろうか。

包囲網が三角形で構成された場合、一辺を瑞鶴達遊撃隊、

もう一辺が周辺鎮守府部隊。

そして、底辺が提督達本隊。

ただ弱いところを突くというのであれば周辺鎮守府部隊を潰せばいいのだろう。

だが、思い出していただきたい。

深海棲艦達が攻め立てた場所の特徴を。

そう、この場所は敵、深海棲艦の陣地へと食い込む形に突出した場所である。

だけに周辺鎮守府で構成された部隊の方向を突き抜ければ

そこは深海棲艦達にとって敵である艦娘側勢力下なのだ。

寡兵でもって敵の支配地域を追撃を交しながら逃げるというはとても困難である。

たまたま上手くいった狂人集団達が歴史にその名を残してはいるが普通は行わないもの。

失敗した者の方が多いのは当たり前でそれが語られる事が無いのは歴史が雄弁に物語る。

で、あればという事で駆逐古姫が目をつけたのが包囲網端である。

中心部分からの面の構成ははどうしても端の部分の展開が遅れる。

駆逐古姫はそれを巧みに見抜き一番脱出できる可能性がある方向を目指していた。



提督(……、救援の目的は達したと言えなくは無いか。)

提督(敵の指揮官をどうみるか……。)



後顧の憂いを断つのは基本なれど。



提督(手札が足りない。大役は狙うべきではないか。)

提督(現状で目的は達して後はボーナスを狙うかどうか。)

提督(ポーカーにしてもなんにしても賭け事ってのは引き際が肝心だ。)

提督(伏せ札で一枚とっておきがあるとは言え、

   今時点で幕を下ろすのもありか。)

提督(周辺鎮守府連中には期待できんしな……。)



88鎮守府の主力に負傷者が出ている現状で最優先の目的は達成済み。

となれば逃げる敵は追うべきではないか?

死に物狂いで逃げる敵と言うのは時として予想以上の力を発揮する事がままある。

その必死の力に盆を返されてはたまらない。

提督がそう考えた時だった。



不知火「司令。瑞鶴さんから無線通信が入っています。」

提督「繋いでくれ。」

瑞鶴「提督。空母棲姫が頑張っているって?」(無線)

提督「あぁ。」(無線)

瑞鶴「私がやるわ。」(無線)

提督「そうか。頼んだ。」(無線)



そして、瑞鶴からの無線通信を終えたくらいに

また一人の艦娘からの通信が入る。



不知火「司令。時雨さんからも通信が入っています。」

時雨「提督。」(無線)

提督「瑞鶴の護衛ではなく移動していたんだな?」(無線)

時雨「うん。察しが良くて助かるよ。僕も行くよ。」(無線)

提督「頼んだ。」(無線)



瑞鶴からの許可を得て、

手勢を連れ遊撃隊として行動していた時雨は

予め包囲網の穴となりそうな場所を予測して動いていた。



提督(敵の殲滅……、いけるか?)

提督(総大将を逃がす為に敵は必死になるだろうが。)

提督(瑞鶴に時雨…。自分で考え動く事が出来る、

   更に有効打を打てる兵というのは実に得難い。)

提督(指揮官として将として。次代を担える存在だ。)

提督(追撃戦は大事だが。二人を失う愚は避けないといけないな…。)


88鎮守府敵後方襲撃部隊


瑞鶴「川内!私の体の護衛頼まれてくれない?!」

川内「……。全力でいくの?」

瑞鶴「敵の艦隊を追っかけるのに

   私が向っていちゃ間に合わないしね。」

瑞鶴「今飛んでるのを直接向わせるしかないでしょ。」

川内「そっか。」

瑞鶴「魂降ろし(フルダイブ)をやるわ。」

川内「了解。お姫様の体には指一本触れさせないよう頑張るよ。」

瑞鶴「宜しく。」



そして瑞鶴は意識を集中させ両手を顔前で合掌した。

嘗て、深海棲艦への対抗策として艦娘が出始めた頃の事。

まだ二つ名持ち(ネームド)制度が始まる前の事。

比類なき強さを誇った、

その種類の艦娘として艤装の製造番号が初期の艦娘が居た。

一人は呑波の赤鬼と呼ばれもう一人は呑舟の青鬼と呼ばれた。

呑波、呑舟、どちらも意味は同じで舟を喰らう程の大魚。

二人はその名の通りに多くの舟、深海棲艦を喰らい沈めた。

そしていつしか、二人を合わせて呑波呑舟、大喰らいの一航戦と呼ぶようになる。

その強さ比肩する者なし、時として国士無双と賞されるほどだった。

強すぎた艦娘。

強すぎた為に敵深海棲艦に徹底的に狙われ

最優先排除対象とされ最期は水底へと消えていった。

その半ば伝説として語られる二人が得意とした、

いや二人だけが使えた特殊な艦載機操縦方法がある。

それは艦載機に自己の意識を載せるやり方『 魂降し 』と呼ばれ、

それは艦載機の搭乗員妖精と自己を完全に同化する手法だった。

同化した艦載機達は一個の群体として動き敵を屠っていった。

ある程度の指示を与えた後は搭乗員妖精に任せる通常の操縦方法と違い

艦載機全てを操り自己の視界とするするその操縦方法は

艦載機妖精同士の連携が不要となり最強を誇った。

しかし、それを行う艦娘への負担は計り知れないほど大きく、

結局、この二人以外行えた者は居ないとされる。



瑞鶴「加賀さんみたいに降ろした後にお握り摘むような余裕は無いけどね。」



パンと改めて一拍。


瑞鶴「88鎮守府筆頭空母、瑞鶴!相手仕る!戦技!魂降し!」


その瞬間、瑞鶴が繰る艦載機達の纏う気配が変わった。



殿軍部隊 空母棲姫



空姫「敵の攻撃隊は温いわねぇ!」



撤退する深海棲艦軍の殿軍を駆逐古姫と

空母棲姫は自己の手勢と共に勤めていた。



古姫「予想通り後方を襲撃した連中と比べて練度が低いわね。」



機関全速で撤退する中で追撃を仕掛けてくる敵の艦載機攻撃隊は動きが鈍重。

そして、艦娘による砲撃も雷撃も命中精度は低かった。



古姫「回避しやすい単調な攻撃というのは助かる。」



ひょいひょいと敵の攻撃を交し追撃部隊にお返しとばかりに砲雷撃。



古姫(これなら私と空母棲姫も脱出できるかもしれない。)



そんな淡い夢を見たときだった。

戦う二人の間を一陣の風が吹き抜けた。



空姫「駆逐古姫様……。」



急に敬称をつけて駆逐古姫を呼ぶ空母棲姫。

一体どうしたというのか。



古姫「どうしたの?」

空姫「重要機関をやられました。」



そんなばかな。たった今のその一瞬で?

そんな動きの取れる敵機は対空戦闘が始まった先程からまったく見ていない。



空姫「胴体シンボルに加賀梅鉢。尾翼マークに二羽飛び鶴。」

空姫「私の真横を一瞬ですが見せ付けるように飛んでいった部隊がいました…。」

空姫「青鬼の弟子でしょうや……。」

古姫「あの!あの青鬼に弟子がいたの!?」



駆逐古姫程の古参となれば敵の強兵の名を知っているのは当然であり

その名は驚愕を伴いつつ古い記憶を呼び起こした。



空姫「過去の因果が追いついたと言うところでしょうか。」

空姫「あれの弟子がここにいる以上は足止め出来るのは私だけでしょう。」

空姫「操る艦載機全てが落とされるまであがき時間を稼ぎます。」

空姫「戦艦水鬼様をどうぞ。よろしくお願いいたします。」



畏まり深々と頭を垂れる空母棲姫。



空姫「お行きください。」



そして駆逐古姫を見送ると空母棲姫は改めて追撃部隊の方へ向きなおる。




空姫「殿軍としての務め。しっかりと果たしてみせましょう。」

瑞鶴「いいじゃない。その覚悟。受取った。」



瑞鶴の意思が乗った艦載機、いや、瑞鶴そのものと言って過言ではないだろう航空隊が

覚悟を決めた空母棲姫へ襲い掛かる。



空姫「動きが捉えきれない!」



敵の攻撃隊を一言で形容するなら俊足俊英。

一機が魚雷を落せばその機体とまったく同じ高度、位置につけた二番機がそれに続く。

前衛の機体を盾に後続が全て突撃。突撃タイミングはコンマ以下秒のずれもない、

そして迎撃機が敵の死角位置から後ろを取れば迎撃機の死角に敵が居る。

背中に目がついているのかはたまたその敵機は本当にそこに居たのか或いは未来予知?

いいように翻弄され空母棲姫はあっという間にダメージを重ねていく。



空姫「私が相手をするには力不足だったようね……。」

空姫「……、青鬼の弟子という事であればこんな戦場では

   仮に旗艦を勤めているのであったとしても役不足なのでしょうけれど。」

空姫「自分の命を奪っていく相手の顔くらいは拝みたかったわね。」



既に艦攻からの魚雷の命中弾が数発。

そして、艦爆からの直撃弾も食らっている。

錬度の低い敵攻撃隊に上手く紛れて攻撃してくる精鋭。

その姿、気配を見ることは最期まで敵わなかった。



空姫「ここまでですか……。」

空姫「これほどの強さを誇る艦娘がまだ隠れていたとは……。」

空姫「我々の完敗ですね……。」

空姫「駆逐古姫様……。

   後は、どうぞ、どうぞ…よろしくお願いいたします。」


瑞鶴「ふん。なかなか頑張ったじゃない。」

瑞鶴「でもね。ひとつだけ訂正して逝きなさい。」

瑞鶴「私に技を教えてくれたあの人はこんなもんじゃないわよ。

   正しく鎧袖一触だったわ?」

瑞鶴「私はあの伝説の足元にも及ばないんだから。」

瑞鶴「私はあの伝説と比べて自分がそれに並べるなんて思っちゃいないわ。」

瑞鶴「あんたがここで負けたのは、

   たまたまあんたが私より弱かっただけよ……。」



意識を載せた艦載機達の視界に

空母棲姫が炎上、轟沈する様を捉え瑞鶴は意識を体へと戻した。



瑞鶴「……、川内?」

川内「お帰り。」

瑞鶴「迷惑掛けたわね。」

川内「いえいえ。戻ってきたなら何より。」



敵の必死の猛攻は意識がなくなり

棒立ち状態だった瑞鶴を格好の的としていたようである。

瑞鶴が自分の体に戻ってきた時、

体の護衛を頼んでいた川内はかなり消耗しているようだった。



瑞鶴「あの人達みたいに意識を飛ばしていても

   自分の体を動かすなんて芸当は無理ね。」

瑞鶴「まだまだ修行が足りない事を痛感したわ。」

川内「んー、まぁ、瑞鶴は瑞鶴でいいんじゃない?」

川内「まっ、確かに明確な目標があったほうが

   やりやすいってのはあるかもだけどね。」

川内「で、首尾は?」

瑞鶴「上々よ。」

川内「じゃま、後は時雨にまかせますか。」

瑞鶴「そうね。さすがに疲れたわ。」

瑞鶴「ウォースパイト?」(無線)



瑞鶴が無線でウォースパイトを呼び出す。



スパ「お呼びですか?」(無線)

瑞鶴「疲れたから旗艦よろしく。

   副官として補助はしてあげるから頑張んなさい。」(無線)

スパ「えぇ!?」(無線)



そして、二の句を告げさせず無線を切る。



川内「いいの?」

瑞鶴「そろそろ一人立ちさせるべきでしょ?」

瑞鶴「這えば立て、立てば歩めの親心よ。」

川内「スパルタだねぇ。」

瑞鶴「雪風が過保護なのよ。」



そう川内に返し瑞鶴はゆっくりと自己の艦載機を再度発艦させた。


以上更新終わりで御座います

590様、そういっていただけると何よりです
深海側のドラマもある程度あると主人公側も引き立てられるかと思いながらの話づくり
主人公側を面白く見せるには魅力あふれる敵役も重要と自分は思っています

591様、乙レスありがとうございます

592様、いつも話の展開を考えて感想レスを下さっている方でしょうか?
考察ありがとうございます、戦国史好きなら外せない戦いですよね、自分も好きです

593様、レスありがとうございます
軍艦としてではなくあくまで艦娘だから出来る作戦や手法をいくつか足した話し作りのほうが
他の艦これ2次と差別化できるかしら?と無い知恵をうんうん絞ったかいがありました

次回は時雨が満を持して主役(?)の貫禄。ヒーローは遅れてやってくる!
何とか年内に終われるよう頑張ります、この救援話しだけでスレの半分くらい消費している事実
もっと上手くまとめれないと駄目ですね…
いただいているレスには目を通して返せる場合はレスを返しますのでどうぞお気軽にレスを残していただけると嬉しいです
では、次回もお時間の都合が宜しければお読みいただけると幸いです
ここまでお読み頂きまことにありがとうございました

室内の吐く息が白い、少しだけ更新します
イベントやる気が出ない、皆様もう突っ込まれてます?
新艦は可愛いなぁと思うのですが、にんともかんとも


深海棲艦達の撤退は三々五々、

四分五裂といったいかにもな敗残軍の撤退ではなく。

駆逐古姫が逃げるべき方向を示し、

その他の姫級たちが死ぬ最後まで指揮を執っていたことも有り只の敗残兵とは違った。



提督「負けているにも関わらず統制が執れている敵というのは厄介ですね。」

大佐「えぇ、平時の練度と敵の統率力の高さを窺い知れます。」



ここで多くの敵指揮官を倒せた事は後々有利に働くと二人は考える。



提督「時雨はそろそろか。」



先の無線時に聞いた座標から秋津洲が連絡してきた敵旗艦艦隊の座標とを見比べ、

手元の時計を見て呟く。

本隊の艦載機部隊は提督の指示の元、

撤退しつつある敵旗艦艦隊以外の敵を先に始末していっている。



大佐「丁寧な仕事ですね。」

提督「今、敵主力に向っている部下が任せろと言ったんです。」

提督「上がやれることはその言を信用して

   周りの邪魔が入らないようにすることですよ。」

大佐「部下を育てる為に裁量を与え見守るという事ですか。」

提督「最悪仕留めきれずともこの戦域における絶対的勝利は我々のものです。」

提督「我々の強さを知れば復讐を誓うにしても相応の期間を置くでしょう。」

提督「現状、時間は我々にも必要です。」



提督の言葉には大佐から示唆された色々な面倒事を片付ける為の時間が居るという事であり。



大佐「銃後の面倒事、政治の方は厄介ですからね。」

大佐のこの一言は根が恐ろしく深い事をしめしている。


深海棲艦 殿軍 駆逐古姫隊



古姫(電探に敵機影が映り始めたわね。)



空母棲姫を残し自軍の直参を連れ

戦艦水姫の殿軍を勤める駆逐古姫の部隊にも

グラーフや瑞鳳の艦載機達が迫ってきていた。

しかし。



ツ級「ツァ!」



駆逐古姫直参部隊ともなれば、深海を支える精鋭なのだ。



グラ「ふむ。さすがに普段使わない52型だと操作に難ありか。」

瑞鳳「へぇー、あそこまで海面スレスレに飛んでる艦攻隊を落せるかぁ。」



艦攻隊が海面スレスレを低く飛ぶのは対空機銃の俯角には限界値があるため。

機銃を下向きにした範囲内で狙えなくなる範囲の内側にまで入り込めば

雷撃はやり放題になる。

だが、敵の殿軍の精鋭達はそれをさせてくれない。



グラ「雷撃のコースに乗る前に落とされると抱えた魚雷が無駄になるな。」

瑞鳳「うん。余り意味の無い物になっちゃう。」



追撃隊の艦載機達が落とされ始めた時にグラーフ達の無線に連絡が入った。



時雨「ようやく敵殿軍に追いついたよ。」(無線)

グラ「時雨か。」(無線)

時雨「道中の抵抗もなかなか厳しくてね。」

瑞鳳「直接やる?」(無線)

時雨「うん。僕がやる。任せて貰えるかな?」(無線)

グラ「上空は任せて貰えるか?」(無線)

時雨「お願いするよ。」(無線)

瑞鳳「それじゃぁ、周辺のお掃除はこっちがするね!」(無線)

時雨「うん。お願いする。」(無線)




古姫(ここに来て、まだ強兵の手札を切れるか……。)

古姫(敵の…、敵の救援部隊の層のなんと厚いことよ…。)



迫ってきた時雨の纏う雰囲気は歴戦の古参兵のそれ。



古姫(なれど、救援部隊の中核のみが頭抜けて質が高いだけのようね。)

古姫(全体の軍の質であれば我ら深海側の方が上なのは揺るがない。)

古姫(それだけ相手は全体的に追い詰められてきている。)

古姫(なればこそ、今回は相手が一枚上手だった。)

古姫「それにつきるわね。」

時雨「?」

古姫「こちらの独り言よ。」

古姫「今、この場に立つということは

   あなたもそれなりに名のある艦娘と思うのだけれど。」

古姫「名乗る名があるのなら聞いてもいいかしら?」



古姫が連れていた直参の深海棲艦達は

時雨が瑞鶴に任された部下達が相手取り

グラーフ、瑞鳳の攻撃隊がそれを援護する。


時雨「名乗れる程の名は無いけれど。」

時雨「そうだね。

   僕は外地鎮守府管理番号88所属。」

時雨「白露型二番艦、時雨だよ。」

古姫「此方の求めに応じてくれて感謝するわ。」

古姫「流石にこの首、

   知らない相手にくれてやるには惜しいかと思っていたのよ。」

時雨「それで、君は?」

古姫「深海南方方面軍戦艦水鬼艦隊が参謀長駆逐古姫。」



名乗りを終え、武者両名の戦が始まった。

先の先、先の後、後の先。

剣道でよく言われる試合運びの為の対峙法であるが

武芸者同士での戦い方の心得の一つ。

相手の動きを先読みしそれに対して先に動く。

また、相手が仕掛けてきた際に出来た隙に対してカウンターを返す。

先に長門と戦艦棲姫が演じた演武の様に戦うが。

その駆逐艦たる二人の動きは正しく自由自在。

砲が擬装に固定され砲の動きが制限される戦艦達と比べ

駆逐艦である二人の砲は携行式。

そこには仰角、俯角という艦艇に固定される砲の概念はない。

更には。


時雨「流石にいい所に魚雷を撃ってくる。」



ひらりとかわし避けきれない魚雷を砲撃。



古姫「軽くかわしてくれるものねぇ。」



時雨がお返しとばかりに

返してくる魚雷を避けた先の砲撃を交しつつ返す駆逐古姫。

ただ、戦艦同士の戦いと違い。

こちらは駆逐艦である。

一撃一撃はお互いに致命傷になる確実なダメージとなる。

駆逐古姫の方に装甲の分があるとは言え

流石にそれに頼った戦いは出来ないだろう。

お互いに死への一撃を軽くいなす戦い。



時雨「そろそろ観念してその首、渡しておくれよ。」

古姫「今はまだあげられないわねぇ。」



魚雷を放った後にその後ろで加速して突っ込んで来る時雨。

これは駆逐古姫が魚雷を避けきると確信しているからこそ出来る芸当。



古姫「自身の放った攻撃を

   一撃も無駄にしないその心意気は素敵だと思うわよ?」

古姫「でも、魚雷が私に当っていたら貴方、爆発に巻き込まれていたわよ?」


ほいと時雨の放った牽制の蹴りを

海老ぞりで交しつつ言葉をかける駆逐古姫。



時雨「あれに当ってくれるような君なら

   僕が此処で戦っていなくて済むんだけどね。」



蹴り抜けた足の勢いを活かし

駆逐古姫の後ろを取ろうとした時雨に駆逐古姫が砲身の先を向けてくる。

それを体を捻らせ砲撃で逸らし言葉を返す時雨。



古姫「本当に困った相手がいたものね。」

時雨「どうも。」



この期に及んでというのが正しいのかは別として。

相手を褒めるに困った相手というのは適切なのかどうか、

そしてそれに謙遜ともとれる無気力な返事。

弛緩した雰囲気が漂うが周囲は敵味方入り乱れ命のやり取りが行われている愁嘆場。


古姫「貴方が敵でなければ

   野点の一つでもと誘いたいところなのだけれどね。」



幾度にも及ぶ砲雷撃。

それを交わし続ける二人に少しづつの変化が出始めていた。

方や明石によりつねに最新の技術を投下され進化し続けている兵装。

そして、その体力は無尽蔵ともいえる若さからくる。

対峙する駆逐古姫は、その名の示すように時雨と比べれば年をとっている。

更に、艤装そのものが持つ性能は決して悪い物ではないのだが。

事、ここに至っては総合力で時雨に分があるのである。

更に元々の戦況も今は時雨に味方する。

時間が経てば経つほどにこの海域に敵が、

艦娘が集まってくるのは明らかである。

時雨の三つに編んだお下げが回避行動にあわせくるりと揺れる。



古姫(美しいものよな。)



だが、見惚れていては自分の首に当てられた死神の鎌が振り下ろされる事になる。



時雨「なかなかに時間を稼いでくれるね。」

古姫「あら、流石に見抜かれていたわね。」

時雨「消極的な戦い方をされているとね。」

時雨「ここに僕の仲間が集中すれば

   君が逃がそうとしている総旗艦を追う者は少なくなるからね。」

時雨「かといって君の相手が単騎で出来るのは僕くらいだろうしね。」

時雨「乱戦で戦う方が得意なタイプと見るよ。」

古姫(本当に困った相手だ。)



その双眸はこちらを良く観察しこちらが得意とする戦いへ持ち込ませないように

周囲の部下へ戦闘の参加を禁じ、自分たちを無視し本来の追撃を行わせている。



古姫(こちらの手をきっちりと封じてくる。)


会話を楽しんでいるように語っているが実際は

自分を引きとめ戦艦水鬼へ追撃隊を殺到させているのだろう。

お互いにお互いを引きとめておきたいという意味では利害が一致しているとも言えるが。


古姫「貴方だけしか止められないのであればそれは意味無き事。」

時雨「なんだ、こっちの意図も読まれてたか。」

古姫(涼しい顔で。子憎たらしい。)



しかし、その内心は晴れやか。

死出の旅路によき敵に合間見えた事、その喜びが大きい。



古姫「今、再び、一武人として戦える。」

古姫「時雨。あなたに感謝を。」

古姫(といっても体がもう気持ちに追いついて来ないわね。)

古姫(歳はとりたくないものね。)

時雨「……。」

時雨「改めて。僕は外地鎮守府管理番号88所属。白露型二番艦時雨。」

時雨「相手をさせて貰うよ。」

古姫「深海南方方面軍戦艦水姫参謀長 駆逐古姫。」

古姫(あぁ、成程。)

古姫(此方が一息入れるだけの。その一息で調子を戻せと。)



時雨が改めて自分の名乗りをあげ、敢えて作った間の意図を見抜き。


古姫(尚も全力を出せと目の前の将は言うか。)

古姫「貴方は貴方の指揮官に老人を敬えと教わらなかったのかしら?」

時雨「労わらなければいけないほどの歳なのかい?」



ここに来て、駆逐古姫はようやっと時雨の意図を理解し

その行為に敬意を払いたいという、いや払うべき行為と気付いた。

時雨は自分に全力を出し切らせ、そして武人として死なせる。

最大限の名誉を与え死なせる心算なのである。

殿軍の将といえば追撃され命を落とす事が多いのが常。

更には名の知らぬ者に狩られその死体は切り刻まれ辱めを受ける事が多い。

時雨が味方から信頼されて部下を良く使っているのを見れば分かる。

時雨自身、それなりの位置にいる者なのだろう。

実力で他のものに自分の命令を聞かせるだけの力がある。

その者が自ら自分を倒し、

誰とも知らぬ者に首を獲らせ不名誉な死に方はさせぬとの意思表示。

名誉ある死を与えると言っているのだ。

戦い、銃口を、魚雷を突きつけ合わせた僅かな時間で時雨の人となりは理解出来た。



古姫(………。

   戦艦水姫様が電探の感知範囲から消えて大分たつ。)



一呼吸入れさせて貰ったものの時雨の動きに自分の老いた体は再び遅れ始めている。



古姫(………、どうやらここまでですか。)

古姫(いえ、よく持ったといえますか。)



反応速度の遅れから時雨の放った魚雷が駆逐古姫に命中した。



古姫「時雨。貴方の勝ちよ。」

時雨「君はまだ動ける。」

古姫「流石に老体にこれ以上は無理よ。」

古姫「そして、時雨、ごめんなさいね。

   この体。貴方達の研究材料にくれてやる訳にはいかないわ。」



時雨程の人物がそれをするとは思わないが。



古姫「代わりにこれを討ち取った証拠にしなさい。」



シュルリと髪を解き纏めていた、りぼんを時雨に投げる。



時雨「とっとっと。」



時雨が手を出して拾おうと目を一瞬だけ離した隙だった。

ズドン!



時雨「!」



駆逐古姫は自分の主砲を自分に向け発砲。

そして、自沈した。



時雨「なんて覚悟だ。」



自らの腹部を吹き飛ばした後、

艤装に残っていた砲弾を砲身内でわざとに爆発。

誘爆がおきて駆逐古姫が沈み消えるまではあっと言う間だった。



古姫(これで、これでいい……。)

古姫(戦艦水姫様に足りなかったもの。敗北の経験。)

古姫(それが、やっと、やっと足りた……。)

古姫(電探の範囲から消えて大分たつ。

   無事逃げおおせたでしょう。)

古姫(この敗北の経験は戦艦水鬼様を真の名将にしてくれるでしょう。)

古姫(皆さん、やりおおせました。)

古姫(先に逝った戦艦棲姫や空母棲姫。空母棲鬼様にこれで顔向け出来る。)

古姫(笑って出迎えてくれるでしょうね…。)



海底へ向け沈み行く体、薄れ行く意識の中で駆逐古姫は考える。

その表情は笑顔。



古姫(後は……、今しばらく、今しばらくの時間を。)



目の前で駆逐古姫が沈んでいくのを見届け

時雨はようやく自身の電探を起動させた。

時雨は余裕をある風を装っていたが

電探を切りそれで生じた処理能力の余分を艤装の他の動作処理に回していたのだ。

いや、回さざるを得なかった。

実際はそこまでしなければならないほどに駆逐古姫は手強かった。

そして、電探の範囲内には敵の部隊と言えるものが残っていない事に勝利を確信。

そしてまた敵の大将はまんまと逃げおおせた事を把握した。


瑞鶴「とまれ勝利は勝利よ。」(無線)



測ったように。いや。

ブィィィィィン---



瑞鶴「見てたわよ。彩雲を通して。」(無線)

時雨「やれやれ。壁に耳あり空には彩雲ありか。」(無線)

瑞鶴「お疲れ。」(無線)

時雨「うん。ありがとう。」(無線)

川内「今回はお守りだったぁ ―――― 。」(無線)

瑞鶴「あんたは縁の下の力持ちやったんだから誇りなさい。」(無線)

川内「えぇ ―――――― 。」(無線)



時雨と瑞鶴の無線に活躍の場が無かった川内が割り込む。

実際には瑞鶴の護衛として充分以上の働きをしていたのだけれど。



瑞鶴「は ―――― 。あんたには私の報奨金あげるから。」(無線)



それで満足しなさいと恐らく言葉が続いたのであろうが。



川内「わ ――――― い。」(無線)



無邪気な歓声でそれはかき消された。

相変わらず地の文多めです
クリスマスギャグスレ建てたらRに飛ばされちゃいました
スレ建てバグ直ってないみたいですね、新スレ建てるのに専ブラどうなのさ日向状態
このお話はもうちょっとだけ続きます!今年もあと少し!
ねっ年内には終わらせるし!31日の12時までは年内だし!
E3の輸送で涼月掘りたい、所持制限無いみたいですよみなさん(尚、掘れるとは)
イベ、やる気持が出らんですねぇ、複数持ちしたくなるのが涼月くらいしかない
乙レス、感想レス、いつもありがたく拝読しています、どうぞ、お気軽にレスを残していただけるとありがたいです
では、次回で最後の更新とできる様に頑張りたいと思っています
ここまでお読み頂きありがとうございました

ところどころ水鬼が水姫になっているのは
お読みいただいている皆様の心の中で訂正いただけると感謝いたします
いっちの不始末です

年内間に合わなかったぁ!?
いや!まだ2018年12月31日25時!?(悪あがき)
最後の更新となります、お時間よろしければお付き合いください


深海勢力と人類側勢力の境界付近



チャプ

時刻は夕暮れを迎え日は水平線の向うへと消えようとしていた。



伊58「敵艦影、いまだ発見せず。」

伊8「目視範囲内には敵は居ないよ。」

伊13「同じくこちらも見つけられません。」

伊58「もうすぐ日が暮れるでち。」



夜は潜水艦にとって一番襲撃を掛けやすくなる時間帯。

だが、今、待ち伏せをしている場所は敵と自勢力の境目。

彼女達に指示を出した提督は敵を沈められなくてもいいと言った。

それは初めの会敵後に魚雷と燃料の補給の為に一旦戻った時の事だった。



提督「この方角に逃げてくるだろうぐらいしか分からん。」

提督「海は広いからな。」

伊58「適当でち。」

提督「柔軟性を持った対応といってくれ。」ハハ

提督「まっ、それはさておきだ。」

提督「この作戦を終了すればお前さん達は晴れて自由の身だが国内には戻せない。」



58達の過去を考えれば当然。


提督「でだ、再就職先に米軍の新設潜水艦艦隊の教導の席を用意した。」

提督「収監中の伊14については既にアラスカ経由でアメリカに入ってる。」



こいつを見てくれと提督がノートPCを取り出す。



「あっ!姉貴-!」



通話アプリに姿が写るのは伊14。



伊13「イヨちゃん!?」



暫しの会話の後、伊14がアメリカに間違いなく居る事を確認。



伊58「どんな手品でち?」

提督「例のウォースパイトが頑張った作戦があるだろ?」

提督「あの後に色々米軍と仲良くしておいたんでな。」

提督「お前さん達は今回の仕事が終わったら

   こっちの方向へ向かってくれ。」

提督「米軍の収容部隊が来ている。

   表向きには観戦、情報収集という形だ。」

提督「相手先はこの時間には引き上げるから絶対に遅れるなよ?

   遅刻は無しだ。」

提督「いいな。この船には戻るな。」



そういうと三人に小冊子を渡し始める。



提督「本物の偽物だ。

   米国に着いたらグリーンカードに切り替えるから直ぐに不要になるが

   とりあえずの身分証明に必要だからな。渡しておく。」



そして続いて渡すのはプラスチック製のカード。



提督「洗濯機を回して綺麗にした奴を入れてある

   バンカメのキャッシュカードだ。」

提督「暗証番号はここでの個人認識番号の下4桁だ。向うに着いたら直ぐ変えとけよ。」



最後に3人へと腕時計を取り出す提督。


伊8「これは…、パネライ、ですか?」

提督「流石、博識だな。」

提督「餞別だ。金に困ったら売るといい。」



一人ひとりの腕に巻く姿を見た後に一言。



提督「二度と帰ってくるな。せっかく生きて出られるんだからな。」

提督「新天地で頑張れよ。」



ポンと伊58の肩を叩き提督は司令室へと踵を帰す。



伊13「あっ、あの!」

提督「なんだ?」

伊13「ありがとうございます!」



司令室に戻りかけた体を再度三人の方に向け、

思い出したように敬礼。

そして、伊13の言葉に笑みを返し提督は艦橋へと帰っていった。



伊58「最後の大立ち回り。」

伊8「なんとか成功させたいですね。」



だが、自分たちを収容する予定の艦隊との合流時間は迫っている。



伊58「………、時間でち。」



提督が示した敵の退却経路。

移動を考えればその範囲内に留まれる時間はもう無い。



伊13「敵艦隊発見!」



待ち伏せである為に電探で

自己の位置を逆探される様な電波を出すわけには行かない中。

そして、夕暮れを迎え夜の帳が下り、

目視での敵艦影が発見しにくくなるギリギリ。

伊13が敵旗艦艦隊を見つけた。


伊58「敵艦確認!」

伊58「魚雷発射後全力離脱!」

伊58達が発射した魚雷は敵へ向って一気に殺到した!

ネ級「右舷30度!距離300!敵魚雷!」



魚雷の針路は図ったようにまっすぐと戦艦水鬼への衝突コース。

命中かと思われたタイミングだった!

ズドン!



タ級「どうにか、お役目果たせたようです。」

戦鬼「タ級!?」

タ級「戦艦棲姫様に胸を張って会いに行けます。」

タ級「後ろを振り返らずこのままお逃げ下さい。」

タ級「敵の艦影が見当たらない以上は潜水艦からの攻撃。」

タ級「立ち止まれば敵の思う壺です。」

戦鬼「タ級、ごめんなさい。」



その謝罪は曳航せず、置いていかざるを得ない事への物であり。



タ級「覚悟の上です。いえ、最後の奉公が出来てよかったです。」



タ級が戦艦水鬼を庇って被弾したのは伊58達にも見えていた。


伊8「もう夜になるからもっと近付かないと視認出来ないよ!」

伊13「聴音襲撃だと敵艦隊の隊列が密だから聞き分けが困難です!」

伊8「どうする!?」

伊58「………。」

伊58「撤収でち。」

伊8「!?」

伊13「ここまで来てですか!?」

伊58「ゴーヤ達をアメリカへ送り出す為に

   提督は危ない橋を渡っているのは間違いない。」

伊58「わざわざ腕時計を餞別に贈って来た意味を考えろ。」

伊58「時間だ。」



敵艦隊の艦種までは判別出来ないほどに既に周囲は暗闇の中。

そして、敵勢力圏は直ぐそこ。

いや、既に内側に入っていておかしくない。

提督がなぜそこまでをしたのかを考えれば。

伊58が強い口調で撤退を言うのは当然ともいえる。


伊58「もう一度言う。撤退。」

伊8「……、了解。」

伊13「了解しました……。」



提督が仕掛けた最後の罠はタ級の献身的犠牲により不発に終わった。

そして、明けて翌日、残敵の掃討終了、

当該海域での戦闘終結宣言がなされこの海域での戦闘は終了した。



一ヶ月後  88鎮守府 荷揚げ用埠頭


長門「こんな所にいたのか。」

提督「色々な処理がある程度落ち着いたんでな。」

提督「さぼりだ。」

長門「そうか。それでよかったのか?」

提督「よかったのか、というのは?」

長門「例の不正を行っていた鎮守府の提督連中は処分保留だそうだが?」

提督「首をほいほい挿げ替えられるほど人間が残ってないのさ。」

提督「お前が提督になるのを受けてくれていれば話は違ったんだがな。」


先の作戦時に島風が救援を求めて立ち寄った鎮守府の提督達は

救援を断った事、他にも色々とあった不正への処分は保留されていた。


提督「だいぶ前の作戦のときに首を飛ばしすぎた。」

提督「これ以上飛ばすとなり手が居ないだとさ。」

長門「私はやらんよ。」

提督「艦娘でベテランの連中を

   提督へってのは前から少しずつは進められているんだがなぁ。」

提督「要件を満たせる奴がほとんどいない。」

長門「だから私はやらんよ。」

提督「分かってるよ。二度も繰り返すな。」

長門「大事な事だからな。」

提督「処分保留にして

   手綱を握っておいたほうがいいだろうと考えたらしい。」

長門「大丈夫なのか?」

提督「一応あの辺りの人事異動はやったそうだ。」

提督「例の救援にいった所な?

   あそこの提督は後ろに下げて不正をやらかしてた連中で

   一番階級の高かったやつらから近い順に最前線。」

長門「ははぁ。死にたくなければ頑張れよと。」

提督「あぁ、例の頑張った少佐は昇進して周辺に睨みを利かせる事が出来る位置に移動だ。」

長門「なるほどなぁ。」


長門「ところで、教導の昔の部下だった娘から

   今回の救援作戦が艦娘養成学校の教科書に掲載されたと聞いたのだが?」

提督「月並みだがな。人の寿命は二つあるって奴だ。」

長門「肉体の、命が尽きたときと人の記憶から忘れ去られた時の二つだったな。」

提督「そうだ。島風が生きた記憶を。生き抜いてなした事を。」

提督「島風の自己犠牲の精神を真似ろとは言わないが、その高潔さを知って欲しい。」

提督「そして、皆の記憶の中に残れば、残っている間は島風も死んでいないだろ?」

長門「……、そうだな。島風は皆の心の中で行き続けるだろうな。」

提督「あぁ。」



そして少しの間があって長門がまた提督に話しかける。


長門「グラーフやポーラが本国へ帰ると聞いたのだが。」

提督「今回俺たちは目立ち過ぎた。」

提督「グラーフに関しては

   それを面白く思わない連中が手を回してうちの弱体化を狙ったんだろ。」

提督「ポーラはもともと志願だ。契約が終われば帰るだろうさ。」

長門「他にも人員が抜けるようだが?」

提督「出る杭は打たれるのが世の慣わしだろ?」

長門「打たれるどころか引っこ抜かれそうな勢いだな。」

提督「今回は目立ち過ぎた。それだけだ。」

提督「日陰者は日陰者らしくしとけという事さ。」

長門「これから厳しくなるな。」

長門「我々は守れただけだからな。」

提督「それが理解出来ているお前はさっさと艦娘やめて提督になってくれよ。」

長門「だからならぬと言っているだろうが。」

提督「あー…、そうだったな、すまん。」

長門「………。」



そして、また、しばしの沈黙。



提督「………。なぁ、長門。」

長門「なんだ?」

提督「島風は死ななきゃいけなかったのかな?」

長門「止められたのに止めなかった事を悔いているのか?」

提督「お前は察しがいいな。」

長門「付き合いは長いからな。だが、それは、たら、ればだろう?」

提督「……、そうだな。議論するだけ意味の無い事だったな。」



そして、また間が空き提督が口を開く。


提督「長門。煙草を吸ってもいいか?」

長門「……、あぁ、いいぞ。」



そして、一本取り出し。火をつける提督。



長門「……、鬼の目にも涙か?」

提督「ちげえよ。煙草の煙がな……。」

提督「煙草の煙が、目に染みただけさ……。」



人生の最後が幸せに迎えられたかどうか。

それを決められるのは本人だけだろう。

或る者は裏切られ、また或る者は金を稼ぐ為。

或る者は復讐を胸に誓い、或る者は世話になった者への忠誠を誓う。

ここは外地鎮守府管理番号88。

様々な艦娘達の人生が交差し、また離れていく場所でもある。

ここへ送られてくるのは人生が終わりの一方通行ではなく交差点である。

彼女達の活躍は仲間の心に、記憶に残る。

それだけで充分だろと彼女らは今日も出撃する。






続外地鎮守府管理番号88 完

以上一年近く長々と続きました第二部完でございます
お付き合いいただき本当にありがとうございました、途中でネタやおまけなど色々脱線ありましたが…
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました
お読みいただいている皆様の乙レス、感想レスにやる気をいただきながらの作成でした
本当にありがとうございました、依頼を出しに行き、このスレは終了とさせていただきます
スレがあまっているのでボツネタの投下等に使うかもしれませんがその際は生暖かい目で見てやっていただけると幸いです
ではでは、本当にお付き合いいただきありがとうございました!

おまけネタ 日常を少しな話し



提督「今日は何曜日だったか…。」



或る冬の日、窓からの日差しは暖かくまさしく小春日和だった。



不知火「今日は月曜日ですね。どうされました?」

提督「あぁ。今度、定例の提督会議があるだろ?」



各方面軍事での提督が集まっての戦略会議。

提督曰くおっさん達の同窓会だとか。

早い話、中身がないという事でもある。

以前に時間の無駄とばっさり言いきっていた程でもある。



提督「出席しないと後の割り当てにケチが付く。」



防衛を担当している戦域からの『 あがり 』。

燃料等のその他工業製品の割り当てはこの会議の後の打ち合わせで決まる。

当然の様に戦果が一番大きい提督の所が割り当ては大きいわけだが、

その打ち合わせの場に居なければ減らされてしまうというのもありえてしまう。

必要な所に必要なだけ送るという基本的な事にも、

袖の下、派閥、階級なんてものが付いて回るのである。


不知火「鼻薬、手土産、お歳暮は手配しております。」

提督「あぁ、いつも助かっている。」

不知火「では?」



何か落ち度でも?と言いたげに首を傾ける不知火。



提督「月曜日は理髪店協会の加盟店は営業しないんだ。」



自身の頭をぽんぽんと叩く提督。

なるほど散発かと合点がいく不知火。



不知火「それでしたら。」

提督「ん?」

不知火「お切りします。」ヌイ!

提督「そうか。では頼もうか。」



そして、窓辺の明るい場所で散髪が行われたのだった。


チョキチョキチョキ

軽快な鋏音。



提督(窓ガラス越しの日差しというのは暖かいな……。)

南方というのを考えれば暑いくらい。

提督(少し、眠くなってきたな……。)zzzz

提督 Zzzzzzzzzz



チョキチョキチョキ



そして、悲劇は起こる。



提督 Zzzzzzzzzz カクッ



チ゛ョ゛キ゛ン゛



不知火「!」

不知火「ヌイィィィ!!」



眠りに落ちた提督の首が傾く。

そして、鋏はそれに対応できず、

余分に切りすぎてしまった……。



不知火「バッバランスを!」



チョキチョキチョキ



不知火「まっ、まだなんとかなるはずです……。」



チョキチョキチョキチョキ



不知火「こっ、こっちを……。」



チョキチョキチョキチョキチョキ


30分後



提督「と、思わず寝てしまった。」

提督「不知火。すまなかったな。」

不知火「………。」

提督「?」

提督「随分とさっぱりしたのか気持ち頭が軽くなった気がするよ。」

不知火「!!」

提督「鏡はあるか?」

不知火「申訳有りません……。」

提督「あぁ、鏡なかったか。まぁ、いいさ。」

提督「少し、眠気覚ましに散歩に行って来る。

   どうにも眠くてな。」フワァ



そして、提督は執務室を出て散歩へと向った。



長門「おっ、提督。」



提督の後ろ姿を見て声をかける長門。



提督「ん?なんだ?」クルリ

長門「………。その、随分と思い切ったイメチェンだな。」

提督「そうか。不知火に頼んだんだ。」

長門「そうか。」

提督「眠気覚ましに散歩中でな。どうだ?付き合うか?」

長門「いや、遠慮しておこう。」

提督「そうか。」



その後、長門以外にも幾人かと会話を交わしたのだが

何故か皆、歯切れの悪い会話。

そして、提督はウォースパイトとの会話で気付いた。


スパ「Admiral」

提督「ん?どうした?」クルリ

スパ「あっ、Admiralのお客様でマフィアの方でしたか。」

スパ「勘違い失礼いたしました。」ペコリ

提督「…………。」



埠頭まで来ていたこともあり明石の工廠に立ち寄れば。



明石「どこのヤクザの組長が来たかと。」

秋津洲「マフィアのボスでも相当ヤバイクラスかも!」

提督「忌憚無い感想ありがとうな。」ハァ―



提督は自分の状態を把握した。



明石「なるほど道理で皆さんが

   紫電改を注文に来ると思いました。」

提督「艦載機のか?」

秋津洲「育毛剤かも。」

提督「あー、成程……。」



なお、育毛剤は間に合わず、

この状態で提督会議に出席した提督は

他の提督にいつも以上の威圧を周囲に与えていたそうである。



不知火「この不知火。自沈してお詫びを……。」

提督「いいさ。結果的に上手く事は運んだし暫く髪を切る必要もなくなったし。」

提督「前向きに考えるさ。」

スパ「元々少なかったですしね。」



余計な一言が原因でこの後ウォースパイトが

楽しい演習に参加する事となったのは言うまでもない。

ちょっとした鎮守府の日常ほのぼの
お読み頂きありがとうございました
完結にあたっての第三部期待のコメント沢山ありがとうございます
改めてここに御礼もうしあげます
コネタや日常ネタなんかで今後もこちらにあげることあるかもしれませんが
その際は温かい目でみてやっていただけると幸いです

艦これ小ネタスレにだいぶ昔に投下して
色々考えて続きを書いたけど結局やめたものを供養代わりに投下します
御笑納ください(続きはかかないんだからね!)


『 赤備え 』


じゃらん。

錫丈の鐶の音が響く。

暗闇に、水底に敵を引きずり沈めゆく。

奴等は赤備え。

奴等が通った後には深海棲艦は一隻として残らない。

全てが灰燼に。

灰は灰に塵は塵に。

軽巡陸人の近接切り込み戦隊。

彼女達を知るものは言う。

陸人の女武芸者達には近寄るなと。

鐶の音が聞こえた時には手遅れだと。

奴等の艤装は敵の返り血で染められたものだと。

冥府の使者、黄泉比良坂の案内人。

血濡れの錫丈、仕込三味線、地蔵菩薩の代弁者。

彼女らを表現する言葉は無数に有る。

魂を送り届ける先は黄泉の国か、はたまた冥府か。

面頬に隠れたその下を覗くはその命、無きものと知れ。

彼女らが何処から現われ何処へ消えるか知る者は居ない。

ただ、その艤装が赤く染められている事からか

海軍の公式記録には

『 赤備え 』の所属不明な壱団有りと記されている。

『 闇に咲くは地獄華 』



都内高級料亭 上客用離れ



大将「いや、座敷遊びまで手配しておるとはな。」

中将「大将閣下には日頃お世話になっておりますので。」



ベンベンベンベべべべ。

はぁーっ!

〽  妖も人も 死ねば変わりは無き事よ

大将「舞を踊っている舞妓もだが、三味線奏者もなかなかだな。」

〽  少し渚に人待てば 果てる命はなかるるに

中将「向島の置屋で一番の綺麗所をお願いしていますので。」

〽  この世儚く 夢落つる

大将「ふん。なかなか美形さな。」

〽  憂き捨てて 捨てて憂き世の浜千鳥

ぺぺぺぺぺん。いよっ!


中将「次の作戦であの鎮守府を・・・・。」

大将「あぁ、あの生意気な若造を潰す。

無理な作戦海域を割り当てて引責よ。」

中将「まぁ、口のきき方も弁えぬ小僧でしたからな。」

大将「ふん。」



酒をほとほとと飲み始める二人。

酔いが回り始めた頃にそれは起きた。

じょあぁぁぁーーーん。

三味線の音と共に照明が一斉に消えたのだった。



大将「むっ?停電?まぁ、直ぐに元に戻るだろう。」

「さぁて、灯りが戻るまで命が持てばいいけどねぇ。」



言うが早いか白刃一閃。

大将の首が椿の花が落ちるが如くぼとりと落ちる。


中将「なっ!何事?!何も見えない、聴こえないぞ!?」

「あの世で閻魔にあったら私の名前を出すといい。

刑期の割引をしてくれるはずだよ。」

「川内にやられたってね。」



背中側を三味線の撥による袈裟斬り。

斬った本人は撥に付いた血を相手の軍服で拭う。



「撥には毒が塗ってあるんだー。

えへへ、万が一にも助からないよねー。」

「姉さん、早めの撤収を・・・。」



カラリと襖が開く。



「姐さん、こっちも終わりやした。」

「天さん達も終了かい。こっちも今、方が付いたよ。」

「那珂。そこの鞄を忘れずにね。」

「はーい!」

「書類鞄は後でじっくりと拝見と行こうじゃないか。」

「姉さん、ここはこのままで?」

「海軍の偉いさんが何をしていたって話でしょ。表沙汰には出来まいよ。」

「帰ったら風呂にするよ!豚の血は臭くて敵わないわ。」

「姐さん、そいつは豚に失礼ですぜ。」

「あぁ、俺もそう思うな。」

「姉さん、私もそう思います。」

「そうねぇ~。私は豚の方がまだ可愛いと思うわ~。」

「那珂ちゃんも完全同意!」

「あらま。まぁ、いいや。フタフタマルマル、作戦終了。帰投するよ。」

「了!」



東京不夜城。

夜の闇に今日も命の灯が消えた。


『 始まりの詩 』



2×××年

人ならざる者達が諸国沿岸に現われ人類へ攻撃を開始した。

始めは大型海洋哺乳類のような異形の物達が

統率されることなくただ暴れていた。

多くの国家は自国の軍事力で多大な労力と犠牲を払い撃退。

そして、段々と敵は人型を取るようになり

ある一定の水準を超えたとき劇的に進化した。

彼らの進化により現代兵器での戦闘は割りに合わなくなった。

世界はその敵を深海棲艦と名付けた。

敵は現代兵器を満載した船舶をあざ笑うかのごとく沈めていく。

しかし、海に出ない限りは襲ってこない。

結果として巨大輸送船団の護衛に軍を回せる国のみが生き残る。

大陸諸国は自国が生き残る為に弱い国を侵略。資源の収奪を繰り返す。

世界最強の国は自国だけで全てが回せる為沈黙を貫く。

そんな中、極東の島国がオカルト的アプローチにより事態の解決を図る。

『 相手が得体の知れない化け物ならこっちも化け物で応じればいい 』

これがプロジェクトを進めたものの台詞。

研究は進められ、嘗て皇国の四方を守った鉄の城達の御霊。

これを燃料、弾薬、鋼材、ボーキ、そして開発資材という名の有機物。

5つの要素をいい塩梅で混ぜて御霊を降し、艦娘と呼ばれる兵士を作り上げた。

彼女ら兵士は強かった、

そして海軍は分霊(わけみたま)で同じ艦娘を複数作り上げて行った。

人ならざるものに人ならざるもので戦う。

倫理観等はそこに有る訳も無く

彼女達を押し込み留めた場所は鎮守府と呼ばれる収容施設。

ここには幾人もの兵士が押し込まれていた。

同じ武器、同じ顔、同じ名前。ややこしいと思うだろう。

同じ物であったとしてもそれが価値あるものであれば

双方とって置くのだろうが特に価値が無ければ?

取り置くのは片方だけ、それも先に有る方だけだろう。

兵士から『 魂 』を抜き元の無機物に戻す作業を彼ら海軍は『 解体 』と呼んでいた。

これはある収容施設に拾われ解体されるはずだった者達が逃げ出したことから始まる物語。


『 不要とされた者 必要とした者 』



ザザーン。



大淀「こちらが本日ドロップ現象で

入手したと連絡のあった艦娘の報告です。」


艦娘を海軍が創り出した時、

黄泉路は開かれ偶に海軍の意図しない降霊が起きる事があった。

海上の有機物、海草の塊や、水生生物の死体といった有機物を憑代として

艦娘が海上に生まれることを海軍は魂が堕ちるという意味も含め

ドロップ現象と名付けていた。



提督「ちっ、レアはいないんだろ?」

大淀「・・・・、川内型が3人です。」

提督「けっ、ハズレかよ・・・、ったく。

艦隊が戻り次第全員解体にまわしてくれ。」

提督「いや・・・・、今日は何曜日だ?」

大淀「日曜日ですが。」

提督「ちっ、めんどくせぇ。

明日の任務入れ替わりの際の近代化合成任務用においといてくれ。」

提督「逃げ出したりしないように営倉につっこんどけ。」

大淀「・・・・、了解しました。」

提督「まったく、今更夜偵なんざいらねぇし。育てる資材も勿体ねぇ。」



ぶつくさと太った身体をゆすらせながら

提督と呼ばれた男は鎮守府建屋へと消えて行った。

程なく帰投を告げる無線の声が聴こえ、

出撃をしていた艦娘達が帰ってきた。

そして、大淀は連れて帰ってこられた艦娘の一人に目を留める。

自分と同じ。

純粋じゃない目。

混ざり者の目。

大淀はそれを見て予てよりの計画を実行に移す決意をした。

以上導入部分だけ
お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが隼鷹さんを始めとする
軽空母や空母の艦載機の設定は元々はこっち用で用意していたものです
こういうシリアス系の奴は書いていて乙レスいただけにくいのでモチベが保てない奴です
モチベが保てないとエタっちゃう……、うん、ごめんなさいです
お読み頂きありがとうございました、とりあえずのボツネタ供養でした

ボツネタその2
カウボーイビバップとブラックラグーンを足して割らない感じのをやろうとして止めた奴です
それと、瑞鶴の師匠との思い出話しを少し
お時間よろしければお読み下さい


阿賀野型が主人公になるSSってみないなぁとの考えからのお話です




Cowgirl 阿賀野



※この作品は喫煙、暴力、麻薬、キャラ下げ等の内容が含まれます。
 これらが駄目という方は読むのは御遠慮いただきますようお願いいたします。



人類と深海棲艦達の長期にわたる戦争は終結し世界は平和を取り戻した。

人類と深海棲艦達の間には和平が結ばれ世界は復興へ向け歩み始める。

嘗て深海棲艦を敵として人類は一つとなり世界政府という、壮大な。

そう、戦争前には夢物語と言われた物が樹立され

その構成メンバーに深海棲艦を迎え入れるという形で平和を得た。

だが、深海棲艦達の中には破壊と殺戮を好む者も多く残り

彼女らは本能の赴くままに破壊活動を行っていた。

更には退役した艦娘が犯罪組織を作り非合法活動を行うなど

正しく魑魅魍魎が跳梁跋扈し戦争中より混沌とした状況となってしまう。

その為、事態を打開すべく嘗て艦娘として人類を守り、

平和を向かえ人員削減を迎えることとなった彼女達の一部へ

世界政府はある許可を与えた。

そう、さながら、アメリカ西部開拓時代のように賞金稼ぎ、

Cowgirlとして無法者達を取り締まるべく新たな活躍の場を彼女達へ与えたのだ。


大型クルーザー 前部甲板



ペコリ

ペコリ

フン! ハッ

      ガッ ゴッ ベキ!

ヅン!  ホッ!

阿賀野「ねぇ!能代!矢矧!ごはん出来たよ!」

酒匂「ぴゃん!阿賀野お姉ちゃんの特製炒飯だよ!」



クルーザー内 食堂



矢矧「ねぇ、阿賀野姉。

   海老無し具無し焼き飯は炒飯って言わないんじゃないかしら?」

阿賀野「矢矧、お金が無い時はただの焼き飯も炒飯っていうんだよ。」

能代「今月はちょっと厳しいからね。

   船の燃料と税金払ったらかつかつだわ。」

酒匂「そんな皆にグッドニュースだよ!」

能代「あら、何かしら?」

酒匂「ジャーン。空母イントレピッド、賞金100万ドル。」

阿賀野「何したのその芋。」モグモグ

矢矧「えーっと?麻薬密売、臓器売買に政府機関への襲撃。」

能代「悪の総合デパートかしら?」

酒匂「艦娘として働いていた時からの悪事みたいだよ!」

阿賀野「あー、アメリ艦でも一人だけ白系華人っぽい顔立ちだったからねぇ。」

矢矧「中共のスパイ説もあったわね。」

能代「華が無かった。」

矢矧「華人なのに華が無いとはこれ如何に。」

阿賀野「まぁ、それらはおいておくとして100万はでかいわ。」

矢矧「確かに。」

能代「矢矧は今度は気をつけなさいよ?

   この間捕まえた相手ぼこぼこにしすぎて顔が変わっていた所為で引き渡した後、

   阿賀野姉と二人、警察に文句を言われたんだから。」

矢矧「能代姉もかなり殴ってなかったかしら?」

酒匂「とりあえず、今回はこの元艦娘が獲物だよ!」

一同「了解。」



アジアのとある港町



ガン「さてと、ラングレーの人間が

   こんな辺鄙な所にバカンスへ来た理由を聞こうか?」

ヴェル「同志、葉巻を持ってきたよ。」

ガン「あぁ、ありがとう。さてと、ヤンキーの貴方は煙草は好きかね?」ン?

ガン「私は大好きでね。特に葉巻が好きなんだよ。」

ガン「君も吸うかね、1本どうだ?

   シガーパンチで吸い口を作ってあげようじゃないか。」

バチン

ガン「どうだね?此処へ来た理由を話してみないかな?」

フン

ガン「そうか。実に残念だ。

   ところで葉巻と指の太さは近い物があると思わないか?」

ガン「あぁ、いやいや。君がそう震えなくても大丈夫だ。」

ガン「ここには10本ある。ゆっくりと考えてくれて大丈夫だ。

   私もゆっくりと切るからな。」

ブツン

ギャァ!!

ガン「やれやれ、まだ1本しか切っていないんだがな。」フゥ

ガン「話したくなったかね。そうかそれは実にいいことだ。」

ガン「君にはこの葉巻を進呈しよう。何、遠慮なくたっぷりと吸ってくれ。」

ガン「キューバ産の上物だ。」

ゴトゴトゴト

ヴェル「同志大佐。準備が出来たよ。」

ガン「Молодец では、我々は帰るとするか。」

ガン「あぁ、その葉巻は落すなよ?命が惜しければな。

   ん?何?燃えるのが早い?」

ガン「君用の特別な葉巻だからな。ゆっくりと味わってくれ。」

ギィィ

バタン

ドゴン!!

ヴェル「同志大佐。欲しい情報は手に入ったのかい?」

ガン「あぁ、ヤンキー共が戦争の下調べに来た理由は分かったよ。」

ガン「予想通り例の麻薬絡みだ。雪風に繋ぎを取ってくれ。

   陽炎と直接話をしなければいけないな。」

ヴェル「了解。」

ガン「まったく厄介な芋が。」

ガン「同じ芋でも酒の原料にもなりゃしない。」

ガン「頭が痛い話だ。」

とあるアジアの仏教国

阿賀野「入港の手続きも終わったから情報を集めに行きましょ!」

矢矧「阿賀野姉ぇ。ここは確か。」

能代「陽炎ちゃんが仕切ってた街だよね。」

酒匂「今は雪風ちゃんが代表しているみたいだよ!」

阿賀野「雪風と連絡とってるの?」

酒匂「うん!陽炎ちゃんは今、日本の本拠地を固めてるんだって。」

酒匂「それで東アジア地域は雪風ちゃんが担当してるんだよ!」

阿賀野「雪風なら話がしやすいわね。」

酒匂「うん!」



とある酒場

ドラムがテンポを刻み始め、

トランペットの音が甲高く流れる。

続いてサックスが謳い始める。

ガン!

入り口扉を蹴破る音がした後、二人の少女が入り口に立っていた。



「ちょうどいい曲ではないか。踊って貰おうか。」

「磯の字。曲名はSingじゃけぇ踊るゆうより謳うやわ。」

「むっ?そうか?」

「まぁ、ジャズダンスいうのもあるからあながちハズレやないかもしれんけど。」



元艦娘の1人が取り出したのはM134



「うちのシマで勝手やってくれとるのを

  見逃すんは他に示しがつかんからねぇ。」



ドドドドドドド キンキンキン



「セッションにはちょいと無粋な金属音やったかねぇ。」

「浦風よ、今気付いたのだが生存者が残らないな。挽肉だ。」

「肉屋を開店出来る勢いだぞ。」

「あぁ、まぁ仕方ないねぇ。

 うちらのシマで薬物捌いてるあほぼん残すんは雪風も嫌っていたし。」

「ふむ。まぁいいか。火は付けて置くか?」

「そうやね。後始末が楽でええね。」

「ふむ。秋刀魚を持ってきていれば良かったな。料理にいい感じの火力になりそうなのだが。」

「せやろか。」

「うむ。料理は火加減こそ大事だと浜の子も言っていたからな。」ムフー

「帰るか。」

「せやねぇ。」


以上これまた導入でとまったボツネタ供養

続いて瑞鶴の過去話、おまけです


「やれやれ、どっこい祥鳳」

「ちょっ。(笑)」


目の前で疲れたとばかりにブイのように漂う敵の死体を腰掛にするのは

私の教導を勤める先輩というか師匠の加賀さん。

そしてその僚艦の赤城さんは先の駄洒落におなかを抱えて笑っている。



加賀「これに喧嘩売るにはまだ早いっていったでしょう。」ゲシッ



これ、とはレ級である。



加賀「喧嘩を売ってでも仲間を逃がす為に時間を稼ごうとした心意気は褒めますがね?」

加賀「あのね?そういうのは実力があって初めてかっこよくやれるのですからね?」

赤城「加賀さん、おこ?」

加賀「おこです。下手したら死んでいたのかもしれないんですよ?」



げしと尻下のレ級だった物に蹴りを入れる師匠。



加賀「瑞鶴?あなたに死なれると目覚めが悪いんですから。」

赤城「加賀さんね?貴女が殿を務めているって聞いて全力で来たんですよ?」


それは分かる。

自分をしとめに来たレ級その他が目の前で瞬殺されたのをみて

それが出来るのは自分が知る限り2人しか居ないから。


加賀「反省しました?」

瑞鶴「はい。」

加賀「うん。よろしい、では、帰りましょうか。」

赤城「今日の夕飯のデザートは瑞鶴さんの奢りということで。」



加賀がそういうと周囲にいた駆逐艦の娘達もわあと歓声をあげる。



瑞鶴「えっ。」

加賀「あらん?」ギギギギギ



ニッコリと笑っているが鬼の形相で振り返る加賀。



瑞鶴「おごらさせていただきまぁす。」

赤城「よろしくお願いしますね。」キャッ

瑞鶴「はぁー、強くなりたい。」



二人の、伝説といわれる二人の

大きな背中を見ながらぼやきを入れる毎日である。



提督「まぁ、無事でよかったよ。」



そういってくれるのはここの提督で初老に見えるのは苦労が耐えないからか。



提督「うちに新人が配属されるなんて何年ぶりだったか。」



いやまて、本当にここだったのかと突っ込みを入れたいが。



提督「しかも最新鋭空母だなんてねぇ。」シミジミ

瑞鶴「頑張ります。」

提督「一航戦の二人とは仲良くやれてる?破天荒な二人だから苦労していない?」

瑞鶴「あの、今更ですけどここって特殊というか結構激戦地?なんですか?」

提督「あの二人が強いからね。

   色々な戦役を重ねていたら精鋭ばっかりになっちゃってね。」



一航戦の二人が戦果を重ねるほどにやらされる事が増え

結果それに付いていける者だけが残ったという事である。

実際駆逐艦娘も精鋭ばかりで毎日足をひっぱる日々で肩身が狭い。


提督「だから新人なんて来る筈がないと思ってたんだよ。」



いきなり右も左も分からないひよっこを最前線に叩き込めばどうなるか?

当たり前の話だが訃報の電報が着任の翌日に遺族に送られる事になるのは想像に難くない。

では、なぜ瑞鶴がそんな所へというのは。



瑞鶴(辞令書がどうも配属先の鎮守府の管理番号を間違えていた臭いのよね…。)



そう、この激戦区の鎮守府は横須賀鎮守府第108番。

そして瑞鶴が本当は着任するかもだった新人向け鎮守府は111番。

お気付きだろうか?辞令書は漢数字で書かれるのが慣わしであるため。

111、この文字列が百と11に別れ、

手書きでその草案を書いた担当者の字が汚かった不幸もかさなり。



「えーっと?百……八?」



養成学校から卒業した後に大量に作成される着任の辞令書の前に

そのうっかりはそのまま何事も無かったようにスルーされ。



瑞鶴「気が付いたら激戦地。」



しかし、新人が来た事に鎮守府あげて歓迎してくれた事もあり。



瑞鶴「笑顔が絶えない明るい職場だけれど瑞鶴は元気です。」



実家への手紙にはそう書くしかなかった。

そして、一航戦の二人の指導は、はちゃめちゃだった。



加賀「矢なんてとりあえず飛べばいいのよ。」

瑞鶴「えぇ!?」

加賀「当たり前田のクラッカーでしてよ?」



養成学校では的へ命中させる事とか

射るときの姿勢とか煩かったのになぁ。



加賀「無駄ね。」

瑞鶴「えぇ!?」

加賀「じゃぁ聞くけど、あなたの敵は的なの?」

瑞鶴「いえ、深海棲艦です。」

加賀「そう。深海棲艦の相手は矢に降ろした艦載機の妖精さん達が殺るわね。」

瑞鶴「うっす。」

加賀「だから本当に重要なのは矢を放った後の艦載機の動きへの指示ね。」

瑞鶴「まじですかー。」

加賀「学校では指示の出し方とか色々教えたと思うのだけれどね。」

加賀「妖精さんがある程度勝手に敵を倒すからあんまり深く教えなかったでしょ?」

瑞鶴「えーっと。そうですね。」

赤城「学校では深く教えてくれない!何故か!」

加賀「無知だからよ。」

瑞鶴「えー…。」

加賀「例えば駆逐艦が輪形陣で守る空母がいたとします。」

瑞鶴「はい。」

加賀「これを妖精さんにまかせちゃうとどうなるか分かります?」

瑞鶴「空母から攻撃ですか?」

赤城「ファイナルアンサー?」

加賀「ライフライン残っていますよ?」

瑞鶴「ファイナルアンサーです。」

赤城 加賀「「…………。」」

赤城 加賀「「正解。」」



瑞鶴「でも、攻撃方法として敵の頭を叩くのは重要なのじゃないでしょうか?」

加賀「最後はそうあるべきよ。

   でもやるべきは先に周りの駆逐艦を潰すのが先。」

赤城「天下に名高い堅城として知られた大阪城も

   堀を埋められたらあっという間に落ちたですよね。」

赤城「それと同じで『 将を射んと欲するならばまずは馬を射よ 』という事なんです。」

加賀「駆逐艦は的が小さいから精密操作をして指定してあげないといけないの。」

赤城「特に魚雷を落すタイミングなんかは近すぎても遠すぎても駄目なんですよ。」

瑞鶴「成程。」

加賀「そういうわけで今日の訓練は!」

赤城「流星隊チキチキ艦攻勝負!」ヒャッホウ!

瑞鶴「あの。」

加賀「なにかしら?」キリッ

瑞鶴「敵に囲まれつつあるこの状況で訓練ですか?」



偵察機に電探の情報では既に周囲を敵機動部隊が

2艦隊程迫って来ているようなのだが?



加賀「習うより慣れろ!でしてよ!」オホホホ!

赤城「実戦こそ最高の訓練と偉い人はいいましてよ!」オホホ!

瑞鶴「お嬢様口調で騙されませんから!」

加賀「生き残れれば名誉一航戦の称号を与えます!」ヒャッホゥ!

赤城「ワォ!こいつはすごいや!ジョンに連絡しなくっちゃ!」ヒャッハァ!

瑞鶴「命の危機感ゼロだ ―――― !後、ジョンって誰だぁ!」ウワーン!



そして月日は流れ現在。



瑞鶴(よくもまぁ、あの人外の後ろを付いていけてたものね。)

瑞鶴(とはいえ無茶はさせても無理はさせない人達だったからなぁ。)

瑞鶴(だからこその強さだったんだろうな。)

瑞鶴(まだまだ背中が遠い。)

瑞鶴「つくづくとんでもない人達と肩を並べて戦っていたものね。」



在りし日の記憶。今は昔の記憶である。

あくまで個人的な話しですが弓道うんぬんって敵が迫ってる状態で姿勢うんぬんなんじゃいなーと
とりあえず矢がとべばいいんだ、こまけぇこたぁいいんだよな感じの姿勢の一航戦がいてもいいじゃないと
とにかく数をあげる、弾幕うすいよ!じゃないですけど艦載機をさっさと飛ばせやぁ!って感じでしょうか?
こんな師匠たちと一緒に戦っていればそりゃ強くなりますって奴です
冒頭のどっこら祥鳳はツイ?だったかでみかけたよっこら翔鶴の派生、元ネタのよっこい正一の派生と思います
今後もこちらには小ネタなどをあげて行きますので宜しければお読みいただけると幸いです
メンバーの話しとかで気になる部分とかありましたら可能な限りはお答えしたいなぁとも思っています
お読み頂きありがとうございました


ある日の食堂

時雨「そういえば瑞鶴と初月ってコンビを組んでる事が多いけど

此処に来る前からの付き合いなのかい?」

瑞鶴「いきなりなにかと思えば…。」

初月「そうだな。僕が瑞鶴とコンビを組んでいるのは瑞鶴の師匠によるものが大きいな。」

雪風「あー、あの、知らずの一航戦のお二人が関わっていたんですか。」アキレ

瑞鶴「あれはそうね…、私が着任一周年を迎えた日の事だったかしら……。」

それは丁度着任一年目の事だった


回想

加賀「赤城さん、懐かしいですね。」ナツカシイ

赤城「えぇ、ボストンバッグを肩にした瑞鶴さんが

青褪めた顔をしていたのを思い出します。」シミジミ


ゴトゴト バタバタ

瑞鶴が着任した日は丁度大規模作戦の真っ最中で。



瑞鶴「野戦病院さながらでしたねー。」

瑞鶴「周囲に転がる死者累々。」

赤城「バケツぶっ掛けるのが追いつかずで入渠待ちがいっぱいいました。」

加賀「ドックとセットで使用しないといけないというのはもどかしいものです。」

瑞鶴「最前線の空気というのを感じました。」

加賀「それからでしたねぇ。とりあえず手が足りないから空母なら直ぐに来てと。」

赤城「ボストンバッグを奪い、艤装をつけさせて出撃させたのでしたねぇ。」

瑞鶴「いきなり矢筒渡されて、大丈夫だから背中はちゃんと守るからと言われたのを思い出しました。」

瑞鶴「沈んでも直ぐ引き上げるからとか言われたの忘れていませんよ!?」

加賀「いやぁ、懐かしい。」

赤城「懐かしいです。」

加賀「ほんとに1年ちゃんと生き抜いてくれて…。」ベソベソ

赤城「立派になりました。」ベソベソ

加賀「よく戦力に……。」



ムームー!ゴトゴト!



瑞鶴「あの、やっぱり1年持たないんですか?」

加賀「うちの損耗率は極端に低いですが、理由はあります。」

赤城「それは全員が余所の鎮守府であればその艦種のエース。

切り札足りえる程に精鋭だからなんですね。」

瑞鶴「異常に練度は高いですよね。」

加賀「ここが出来た当初は酷かったんですよ?そりゃもう。」

赤城「2人に2人が死ぬ状況でしたねぇ。」

瑞鶴「あれ?それだと致死率100%…。」

加賀「あれ?」

赤城「あら?」

瑞鶴「あれ?」

加賀「………。」

加賀「そんな訳で生き残れば誰でも精鋭になれる状況だったわけです。」


瑞鶴「さらっと流したぁ!?」

赤城「私達二人は空母として苦労しましたから

後輩が出来る事があれば苦労させたくないねと

以前から話しをしていたんです。」

瑞鶴「うっそだ ―――― 。」

加賀「いえいえほんとのほんとですよ?」

赤城「最短で戦力になるように所謂パワーレベリングをやってきたわけです。」

加賀「私達ベテランが新人の貴方をお守りしながら危険地帯にハイキング。」

赤城「あれですよMMORPGとかでギルドのベテランが初心者のレベリングに装備作り。」

加賀「さらにはハイランクモンスターの狩り方の立ち回りとかを全て教えてあげるあれです。」

瑞鶴「確かに最初から命の危機に瀕した状況スタートだと

物事を覚えるのは早かったです。」

加賀「でしょ!」ドヤッ!

赤城「ですよね!」ドヤドヤッ!

瑞鶴(うわっ、なんか腹立つわ)



モガモガ!ジタバタジタバタ!



瑞鶴「その、それで先程から気になっているんですけど……。」

瑞鶴「その動いているのはなんですか?」ユビサシ

加賀「よくぞ聞いてくださいました!」

赤城「瑞鶴さんの着任1周年記念に私達からのプレゼントです!」






時雨「あっ、なんとなくオチが読めたよ…。」

瑞鶴「まぁ、予想通りよ。

その袋のなかに猿轡嚙まされた初月が突っ込まれたのよ。」

雪風「流石(常識)知らずの一航戦……。」





瑞鶴「なにしてるんですか!

なにしてるんですか、真面目に、ほんっと!」

瑞鶴「貴方達馬鹿ですか!?

うちに新人というか最新鋭駆逐艦の新人とか着任するわけないじゃないですか!!」

瑞鶴「どっから拉致してきたんですか!!」

加賀「拉致だなんて人聞きが悪い。」

赤城「きちんと配属希望申請出ていますよ。」

つ 配属希望書類

瑞鶴「あれ、本当だ……。」




時雨「その、それは捏造とかでは無かったんだね。」

瑞鶴「まぁ、捏造に近いかしらね……。」

初月「あぁ、養成学校卒業前の僕に

   しこたま酒を飲ませて酩酊状態にした挙句。」

初月「外泊証明書と嘘を言ってサインさせたのが捏造で無ければね。」

瑞鶴「手続き上はサインを本人が書いた物である以上は希望が通るのよ。」

雪風「あぁ、そうなんでしたか…。」

初月「そして僕がそれに気が付いて再度の訂正をしようとする前に。」

雪風「拉致されたという事なんですね。」

初月「朝起きたらどうやって生徒寮に侵入したのか

   如何にもエージェント然とした二人が立っていて、

   バチッとされて気が付いたら袋の中だったんだ。」

瑞鶴「で、私が謝罪したおして着任してもらった感じかなぁ。」

初月「その後も色々と演習や前線に引き摺られて行ったのは

   今となってはいい思い出かな。」


対空訓練中


加賀「初月さん!

   あなたと言う方は一体いつになったら

   撃ち落すべき艦爆の区別がつくようになるんですかねぇ!?」



ギューン!



赤城「回避すべきなのと撃墜する必要のある物の区別がつけられないなんて

   駄目ですねぇ!?」

初月「明日までにはなんとか!なんとかする!」タタタタ!テテテテテ!

加賀「明日の何時になれば一体習得できるんですか!?」

初月「明日の、明日の6時までには!」ドドドドド!

加賀「6時!?一体いつの6時ですかねぇ!?」

初月「夕方だ!」ダダダダダダ!

加賀「赤城さん!!」

赤城「えぇ!」サッ ←携帯を取り出す



ピポパポ



赤城「あっ、いつもお世話になっています。

   横須賀第108鎮守府の赤城です。」

赤城「はい。はい…。えぇ、はい。」

赤城「加賀さん!何人で予約しておきますか!」

加賀「とりあえず明日の非番は20人くらい居たので25人くらいで!」

加賀「足りない時はお隣の大笑いの二人を連れてきます。」キリッ

赤城「加賀さん!いつもの焼肉店の予約とれました!」

加賀「初月さん!明日は終われば焼肉食べ放題に飲み放題です!」

加賀「頑張りましょう!」

初月「あぁ!頑張る!」トトトトト!




時雨「ツンデレかな?」

初月「とはいえ出撃とかは無茶苦茶だったよ。」

初月「初陣は対空母棲姫だったかな。」

瑞鶴「あぁ、あの裸踊り事件だったわね……。」

雪風「なにをさせたんですか……。」

瑞鶴「艦隊は守ったんだけど迎撃段階で中破した初月に師匠達が切れてねぇ……。」




加賀「あっといっちまい!」イヨッ

赤城「あっといっちまい!」ゲラゲラゲラ

陸奥「あの、とどめ刺してもいいかしら?」ヤレヤレ

加賀「あっ、いいですよ。」

赤城「装甲を少しずつ剥いていくのも飽きましたんで。」

陸奥「身につけてるのが下一枚って器用な攻撃するわね。」

加賀「うちの新人を可愛がってくれたお礼です。」ニタリ

赤城「覚えとけ糞虫が、うちの新人を中破させたらどうなるか。」Fuck!

加賀「あの世でしっかり敗北を噛締めるといいわ。」b→q ビシッ!

赤城「日が昇る東の水平線から、日が沈む西の水平線まで。」

加賀「私達一航戦は敵を討ち地獄へ送る。」

赤城「私達の支配する領域に貴方達の居場所はありません。」

加賀 赤城「「あの世へ特等席で待っていなさい。」」

ボガーン!


瑞鶴「師匠の二人が本気で切れてたからなぁ…。」

初月「今だから言えるがあの時加賀達の恐ろしさに

   少しだけ漏らしてしまったんだ。」

雪風「仕方ないかと。初陣で生死の境に触れれば無理もないですよ。」

雪風「さらに言えば、瘴気纏った一航戦が近くにいれば、まぁ…。」

時雨「そうだね。

   それを笑う者が居るとしたらこっちとあっちの

   境界が分からない鈍感くらいだろうさ。」

雪風「にしても聞きしに勝る規格外だったんですね。」

瑞鶴「いまだに語り継がれる変態だからね……。」

瑞鶴「さてと、まぁ、そういう訳でコンビをずっと組んでるわけよ。」

初月「あぁ、どちらかが死なない限りは解消される事もないだろう。」



食堂で時雨達の近くにいた長門



長門(死が二人を別つまでか……、夫婦かな?)

長門(まぁ、大方瑞鶴は守るものがあったほうが

   強さを発揮できるタイプだからな。)

長門(そういう所を見抜いた上でのコンビを組ませたんだろうな。)

長門(守るものが無い時に強さを発揮できるもの。)

長門(或る方がより発揮できるもの。)

長門(その辺りは人それぞれだ。……、瑞鶴が少し羨ましくはあるな。)

瑞鶴「あっ!長門!」

長門「うん?なんだ?」

瑞鶴「戦艦の随伴お願いしたいんだけど!」

長門「私は高いぞ?」

瑞鶴「敵の泊地強襲のピンポンダッシュやるから報酬はいい作戦よ。」

長門「報酬と危険度は比例するぞ?」

瑞鶴「今更でしょ?成功10万の頭割りよ。」

長門「チームは私を入れて何人だ?」

瑞鶴「今居る5人にかわうち入れて6人。割ったときの細かいのはかわうち行き。」

長門「いいだろう。一口乗ろうか。」

瑞鶴「じゃ、食事終わったら出撃ドックで。」

長門「あぁ。」

モグモグモグ

長門「さてと、明日の飯代の為に仕事に行きますか……。」

長門「料理長。食器は返しておくぞ。」

「了解。」

「長門!」

長門「む?」

「いってらっしゃいぴょん!」b ビシッ

長門「あぁ、いってきます。」ニヤリ


メインのPCお亡くなり、サブのPCも挙動が怪しい、お金ない…
プロットが全部飛んだのが痛い……
香港編も死んだし、変態仮面も死んだし、はぁ……
久しぶりに少しです、お読み頂きありがとうございました

少しばかりはお話前、後編
香港編を記憶に頼りに再度書いてますが艦娘同士の戦闘分が少ない!と感じたのでこっちで補給
なにやってんだ!さっさと更新しろ馬鹿!という声が聞こえてきそう…
お時間宜しければ読んでやってください


それはほんの軽い冗談のような切欠だった。

それは、ある日の食堂での仲間同士での軽い会話だった。



スパ「駆逐艦の方々は妙にオーラというか雰囲気のある方が多いですけど、

   実際誰が一番強いんですか?」

提督「うん?それは俺への質問か?」



食堂でウォースパイト達の席近くでうどんを啜っていた提督が

自分への質問かと確認の声をあげる。



スパ「もちろんですよ。」



提督の答えに近くに座っていた一同が聞き耳を立てる。



提督「そうだな。普段任務に出る奴らでなら時雨か雪風だな。」



妥当。



周囲に居るもの達はみな納得という風に頷く。



スパ「任務にでる娘っていう事はその他も加えると

   更に上がいるという事ですか?」



後日、川内は語った。

こんな時だけなぜに聡いのかと。



提督「あぁ。まぁ、そうだな。全員という事でなら不知火を推す。」

提督「総合的に判断してだがな。」ズルズル

スパ「えー、前回の作戦で早々に戦闘不能になっていませんでしたっけ?」



馬鹿者というのは時として地雷原を全裸で全力疾走することが有る。


長門(さっ、寒い!なんだこの空気の冷え込みは!?)

瑞鶴(体感気温が急に下がった!)

提督「あれは俺の不始末だ。不知火に責はねぇ。」

スパ「前回の作戦で駆逐艦で一番戦果を上げたのは時雨さんですよ。」

スパ「最強は時雨さんなのでは?」

提督「お前は不知火に散々可愛がられた記憶が抜けているのか?」

スパ「あっ、いえ、そういう訳では無いですけど……。」ガタガタ

提督「なら議論しなくても分かるだろう?」

スパ「………。でも、普段事務職されていますし……。」

提督「それは俺がそれを望んでいるからだ。」



提督がウォースパイトの議論を切ろうと手を翳すが……。

提督は何かに気付く。



提督「………、時雨。

   3日後、予定を空けられるか?」ハァ……

時雨「僕に用かな?」

提督「あー、まぁ、そのなんだ。

   あっちの入り口で静かに闘志を燃やしている奴がいてな。」

提督「もし良ければ演習の相手をしてやって欲しい。」

時雨「僕で相手が務まるかな?」

提督「あぁ、大丈夫だ。気軽に付き合ってやってくれ。」

提督「不知火。3日後だ。

   ルールはありあり、戦闘システムダウン、

   もしくは降参宣言させた方の勝ち。いいな。」



言い切った後にうどんのスープを飲み干し。



提督「時雨、迷惑掛けるな。」

提督はそういい残し出て行った。

雪風「時雨さん、御武運を。」

時雨「一度、全力ではやってみたかったんだ。

   胸を借りるつもりでいくよ。」

そして迎えた3日後



明石「えー、おせんにキャラメルいかがですかー?」

秋津洲「キンキンに冷えたビールあるかもー!」

摩耶「あるの?ないの?」

秋津洲「あるかも!じゃなかったあるよ!」

摩耶「一つ貰おうか。」

秋津洲「毎度ありかもー!」

提督「ちょいとしたお祭り騒ぎになってるな……。」

明石「まぁ、時雨さんに不知火さんの演習対決ともなればですねぇ。」

提督「一応聞いておくが賭博なんかやってないよな?」

提督「まぁ、成立するとは思わんがな。」

明石「ところがどっこい。」



提督が明石の言葉に頭を抱える。



明石「ウォースパイトさんが逆貼りで。」

提督「………。」

明石「ちゃんと証文も作ってますよ!」

提督「あー、なになに?

   負けた者が勝った者に酒を一杯奢る。か…。」

提督「時雨が勝てばウォースパイトの総獲りでその酒代がお前の丸儲け。」

明石「負けてもウォースパイトさんが皆に奢るので私のお店は潤います。」

提督「お前、二枚舌外交の本家のお国をよくもまぁ……。」

明石「日本語は難しいですからねぇ。」ニヤニヤ

提督「まぁ、身から出たなんとかだな。」

明石「ですとも。」ニヤニヤ



そして、提督が埠頭に用意した椅子に腰掛け。

明石がその近くの大型陸上設置型電波探信儀の電源を入れた。


提督「アメリカ製か?平面座標表示が出来るようだが?」

明石「戦後の技術を突っ込んで改良できるといっても

   ベースが二次戦ですからね。」

明石「元のスペックが良いものを観戦用に用意しました。」

提督「どうせ実験的データー獲りも兼ねているんだろ?」

明石「御明察。後は秋津洲さんの大艇で現場の映像をライブで流しますよ。」

明石「提督はどうみます?」

提督「途中までは五分だな。」

提督「だが、最後は不知火が勝つ。

   どう勝つかは分からんが結末は読める。」

提督「それだけだ。」

明石「さようで。」

提督「見届け人で長門と瑞鶴にでばってもらっちゃいるが……。」

雪風「止め時は見誤らないようお願いします!」

提督「あぁ、分かっているさ。」

明石「一応お二人の艤装にダメージ計測装置積んで演習用モードにしちゃいますがね?」

提督「あの二人なら演習用モードでも敵をぶっ殺せるからな。」

提督「長門達にもまずいと思ったら俺の判断待たずに止めに入れともいっちゃいる。」

雪風「しれぇ!万一の時は雪風も行きます!」

提督「そこまで理性のなくなるような事にならない様祈るよ……。」


なんで許可しちゃったかなぁと言いたげに提督が雪風に答える。


そして、埠頭から離れた本日の演習用にわざわざ設定された海域では。



長門「という訳だ。万一の際は我々の判断で止めに入るからな。」

時雨「うん。宜しくお願いするよ。」

瑞鶴「といってもま、気の済むまでやるといいわ。」

不知火「お気遣い感謝します。」

不知火「時雨さん。」

時雨「なんだい?」

不知火「胸をお借りします。」ヌイッ!



艶やかに、そして神々しいまでに白い

陽炎型専用手袋を再度きっちりと嵌めなおし。

時雨へと礼儀とばかりに頭を下げる不知火。



時雨「それは僕の台詞だ。」

時雨「今の僕が君に何処まで通用するかは分からないけど……。」

時雨「全力で行かせて貰うよ。」

不知火「望むところです。」ギチギチッ



手袋の嵌り具合を確かめるようにグーパーを行う不知火。



長門(やれやれ。頼むから我を忘れるような事にはなってほしくないもんだ。)

長門「それでは。両者いいかな?」

時雨 不知火「「勿論」」

瑞鶴「では、只今より演習開始!」



モモモモモモモモ

演習の火蓋が切って落とされると同時に

時雨の機関から大量の黒煙が上がり始める。



長門「初手煙幕か。」

瑞鶴「悪くわないわね。」



埠頭



提督「成程。やはり初手煙幕か。」



双眼鏡を最大倍率で覗きながら提督が言う。



川内「これは不知火との実戦経験の差をつめるためのものかな?」

雪風「ですね。目視下での攻撃であれば

   不知火さんの方に間違いなく軍配が上がります。」

スパ「それほど差があるんですか?」

雪風「実戦に出る機会が少ないですが不知火さんの強さは本物です。」

雪風「砲撃の精度はその類まれなる感性に寄るものです。」

川内「でも、どんなに狙撃能力に優れようと敵を目視、照準を決めて、撃つ。」

川内「この動作は避けられない。」

川内「不知火はそこに居るという気配だけで撃ってくるような化け物だけどね。」

川内「だけど、その気配だけで撃つ事を続けるのは

   通常の砲撃から比べると精神的な負担は大きい。

   いつまでもやることは出来ない。」

雪風「その通りです。ですので煙幕でその視界を奪うというのは理にかなっています。」

雪風「本来の煙幕の使用方法とは違いますが……。」



演習海域



瑞鶴「なかなか考えたものね。」

長門「あぁ、だが……。」

瑞鶴「やっぱり?」

長門「昨日、提督と話しをしたのだがまぁ、予想していたぞ。」

瑞鶴「あのハゲ親爺はほんと食えないわねぇ。」

長門「起こりうる事象を複数考えて

   それに一つずつ対処方法を考えるのが参謀職といってたからな。」

長門「といっても負けをやる前から悟っているなら

   やらせないのが仕事とも言っていたぞ?」

瑞鶴「どの口が言うかと言いたいわね……。」

瑞鶴「まっ、公正を期すために不知火に対処法を教えたりはしていないんでしょうけど。」

長門「秘書が長いからなその思考は似通っている。

   不知火もまぁ、読んでいるだろうよ。」

瑞鶴「まったく食えない上だわね。」

長門「まったくだ。」


煙幕内



時雨「煙幕内であれば電探性能にまさる僕の方が有利だよ。」



時雨の艤装につまれている電探は最新鋭のアメリカ製。

オシロスコープで敵の映像を捉え電探の方向を手動で変えている

旧式の日本製と異なり最新鋭で全てが自動で行われ。

その受像機である平面座標表示には敵への距離、方角が明確に表示される。



時雨「艤装の性能差が実力差を埋めてくれる。」

時雨「そして、それをカバーする為に不知火が集中するならば。」

不知火「私の消耗が早いという計算ですか……。」



ドゴン!

煙幕内での砲撃が開始された。



不知火「流石に艤装の性能差は致し方ありませんね。」

不知火「ですが、音の方向でより正確に方角が分かりました。」



そして始まる砲撃戦。



埠頭



摩耶「煙幕内での戦い方となると魚雷の使い所が難しいだろうね。」

提督「あぁ。闇夜での戦闘と変わりないからな。」

提督「闇夜ってのは思っている以上に感覚を狂わせる。」

提督「艦娘の皆は夜戦を幾度もなく行っているからわかると思うが

   戦闘に集中してしまうと自艦の位置を見失いやすい。」

雪風「夜間の戦闘は魚雷が見えにくくなりますから味方にうっかり魚雷が怖いです。」

スパ「でも、一対一での演習ですよね?」

提督「あぁ、だからお互いに魚雷は撃ち放題。」

提督「だがな、魚雷を撃つって事はお互いの必殺アイテムを減らす事になる。」

提督「駆逐艦の砲撃ってのは大したダメージを与えねぇ、あくまで本命は魚雷だ。」

雪風「ですのでそれをそうそうに撃ち尽くすのは勝率を自分から落す事になります。」

川内「どこで撃つかを考えながら煙幕内を接近していっている感じかな?」

提督「不知火からしたらそれしかないからな。」

提督「不知火の艤装の電探性能では相手の懐に入らないとどうしようもならん。」

提督「あいつは俺の部下扱いになるから艤装の改造の自由が少ないのが裏目にでちまってる。」

スパ「あぁ、それでノーマルに近いんですね。」

提督「機関の交換とかはしているがな、あいつには悪い事をしてると思っているさ……。」


演習海域


時雨「流石に距離を開けさせてくれないか。」



砲撃を繰り返しながら一定の距離を保ちつつお互いに煙幕中を移動していた。



不知火「時雨さんの方が正確な砲撃をしてきますね……。」

不知火「やはり砲撃タイプの違いも影響しますね。」



ドン!

冷静に分析する不知火の頬を時雨の砲撃が掠めていく。



不知火「着弾の位置を調節しつつ当てて来ますね。」

不知火「二丁拳銃の強みをしっかりと生かされています。」



時雨の砲は単装砲のように一つずつ手にもつ二丁拳銃スタイル。

対して不知火の砲はアサルトライフルの様に構えスタイル。

駆逐艦の砲は艤装に固定されない。

その為、一度に砲撃できる範囲については時雨の砲に優位である。

これはやろうと思えば前方と後方を一度に撃つ事が可能な

二丁拳銃スタイルの強みでもある。

砲撃の際にカバーできる高さの範囲についても

二点同時砲撃可能な時雨有利になるのである。

上、中、下の高さで砲撃をしようと思った際に時雨は

上、下あるいは上、中さらには中、下等といった組み合わせで砲撃が可能となる。

対して不知火の場合は上で撃った後に高さを変えて持ち替える必要がある。

それは当然ながら反応の遅れとなり敵への砲撃の遅れとなる。

結果、仰角、俯角、手に持っての調整で

より多くの範囲を時雨の場合はカバーできることになるのだ。



不知火「煙幕で此方の視界を奪い、電探で位置を測り。」



ゴン!

不知火の艤装に演習弾が掠め着弾を示すペイントが広がる。



不知火「音で微調整ですか?」



スイッ。

細かく移動し位置を掴みにくく行動する時雨。

それに対して不知火は電探の性能上、時雨を探知する為にあまり激しく動く事が出来ない。

いや、敢えて動こうとせずに単調な動きを続けている。



時雨「反攻戦に誘っているということか。」

時雨「いいね。流石、その誘い、乗ろうか。」



ここまで煙幕を張ってまで慎重に運んできたかのように振舞ってきた時雨にしては大胆な。

いや、ともすれば愚かとも言える挑発にのる。


埠頭



川内「あら?時雨が不知火の思惑にのるのかな?」



電探の受像機に表示されている光点を見ながら川内が呟く。



摩耶「らしくねぇな。」

雪風「当然の様に策があっての物だと思いますが……。」



雪風が時雨に何を売った?と明石を見れば。



明石「おおっとそれはこれからのお楽しみですよ?」ニヒヒ

提督「まぁ、何が起こるか。楽しもうじゃないか。」

秋津洲「提督余裕の表情かも!」

提督「時雨にゃぁ悪いが俺の中での絶対的評価は変わらねぇ。」

提督「どうせ最後に勝つのは不知火だ。」

提督「過程なんざ糞喰らえだよ。」

明石「上に立つものの言葉じゃないですねぇ。」ニヤニヤ

提督「俺があいつを信用しなくて誰が信用してやんだよ。」

提督「あいつが勝つと言ったなら俺は黙って結果を待っていればいいんだ。」

提督「今の俺に出来る事は黙って待っていることだけさ。」



提督はそういうと煙幕で見えないはずの向こうに再び双眼鏡を向けるのだった。

次回決着!
日本とアメリカのというか二次戦時の電探で最も技術が進んでいたのはイギリスです
日本もですね、大戦末期には追いついてきてはいたようです、ようです…
作中にも触れていますが受像機がそもそもしょっぼい、アメリカ側は全自動で敵を追尾して距離も方角も自動表示してくれるのに
日本側はオシロスコープみたいなものにぼやーん…、そして計算尺で計算!そら負けますわ
冶金術が連合国と比べて劣っていた所為も有り純度の高い銅が作れなかった為真空管の性能についてもかなり低かったそうです
というかですね?電探(探知機、探信儀)の基礎理論ね?マイクロウェーブ含めて日本の先生が提唱ですよ?
ホント、新しい物を積極的に取り入れていなかった所為でという奴ですね
といっても取り入れていたところで物量に勝る米帝に勝てていたかというとまた別のお話にすぎません
どうせ負けています、早いか、遅いかだけです、はい、春イベ、モチーフどこでしょうねー、資源備蓄してまってます!

デデン!
3部へ向けてプロット作っているデース!
金剛改二丙デース!デース!
とりあえず、続きになります、お時間宜しければお読み下さい



スパ「にしても、なんでわざわざ煙幕内で?」

提督「それはあれだな。

   魚雷を装備として使わない者だから出てくる意見だな。」

雪風「確かに煙幕内で戦うのは最善手とは言えません。

   ですが、駆逐艦の主兵装は魚雷です。」

雪風「煙幕を嫌って外に出れば電探の性能上

   一方的に魚雷を撃たれてしまう可能性が高くなってしまいます。」

提督「そうだ。少なくともお互いに魚雷を打ち合ったときに

   安全距離をとれない状態を維持していれば鍔迫り合いの状況に持っていける。」

提督「レーダーレンジ(電探の感知できる範囲)が不知火の方が狭いからな。」

提督「その外から移動しながら撃たれると不知火も被弾の危険性が高くなる。」

提督「さらに言えば魚雷は電探に写らないからな。雷跡を見て避けるしかない。」

雪風「ですが、時間を掛ければ不知火さん有利な状況ではあります。」

雪風「いずれ煙幕は晴れますから。

   時雨さんにしても何度も張り直せるほどの追加は持っていないでしょう。」

スパ「だから不知火さんが仕掛けたのに時雨さんは敢えて乗ったという事?」

提督「勝算があっての賭けだろうがな。」

煙幕外


長門「と、この反応は……。」

瑞鶴「時雨がデコイを蒔いたみたいね。」



煙幕内



不知火「……、こちらの電探が低性能である事をとことん突くようですね。」

不知火「敵の弱点を分析した上で利用できるだけしますか。流石ですね。」ヌイ!

時雨(大方、関心されているんだろうなぁ。)



埠頭



ガン「あの~、今、どんな状況なんでしょうか?」

提督「ん?なんだお前も居たのか。」

ガン(ひどい!)



着任時のぐだぐだの所為で若干空気気味なガングートが

恐る恐るといった感じに提督に声をかける。



川内「そうだねぇ。明石のレーダーの情報を見る限りは

   これは時雨がいつぞやのデコイを蒔いたようだね。」

摩耶「だね。だけど、不知火の電探の性能を考えるにこいつは不利なんじゃね?」

提督「そうだな。明石のこれはアメリカ製だから有る程度の数が分かるが…。」コンコン

明石「日本製電探の不知火さんのだと多分、塊になってるでしょうね。」コワサナイデクダサイヨ?

川内「いいとこ大きな円表示かなぁ。」

ガン「という事は、不知火さんは時雨さんの位置が分かっていない状態という事ですね?」



そう、時雨が使ったのはいつぞやの千島列島作戦で使用されたデコイつき魚雷。

それは電探に実像を写すデコイ付き。

速度に関しても駆逐艦の範囲内に納まるように調整された代物である。



煙幕外



長門「密集状態だと電波の反射が拾いにくくなるな。」

瑞鶴「そうね。艦戦、艦攻が編隊組んで飛ぶのと同じ理由になるわね。」

長門「あぁ、確かまとまる事によって

   電波反射での数の把握をしにくくする目的があったな。」

瑞鶴「そうよ。攻撃機の全体数の把握を抑える効果があるわ。」

長門「となると、不知火はこの煙幕の中だと時雨本体が探しにくくなるか……。」

瑞鶴「不知火が煙幕の中から出ずに戦う事を

   選択する事を見越した上での準備だったと見るべきでしょうね。」

長門「確かにな。時雨が作り出した時雨に有利な状況に敢えて乗ったわけだからな。」

瑞鶴「不知火の慢心、或いは。」

長門「それを力で捻じ伏せれるだけの策があるのか。」

瑞鶴「はたまたそれすらも利用するつもりだったのか?かしらね。」

長門「なぁ瑞鶴。こんな言葉を知っているか?」

瑞鶴「何?」

長門「飼い犬は飼い主に似るそうだぞ?」



それは個体差はあるものの艦娘の不知火という艦が提督の指示を忠実に、

そう、狂気的に守る事から狂犬とも忠犬とも言われる事を揶揄したものだろうか。



瑞鶴「あれが犬?狼かなにかの間違いじゃないの?」ジョウダン

長門「………、確かにな。」ジョウダンダ

瑞鶴「飼い主というとあの曲者だものねー。」

長門「提督だからな…、不知火が何手先まで読んでいるかだな。」

瑞鶴「詰め将棋みたいね。」

長門「結局は相手との心理戦だ。

   いかに騙し、相手を躍らせるか。だ。」

瑞鶴「時雨は割と純だからねぇ。」

長門「いい意味で汚れてないからな。」

瑞鶴「あら、私達がひねくれているみたいじゃない。」

長門「自覚がないのか?」

瑞鶴「あるわよ。大有り。」クスクス

長門「さて、どうなるかな。」

瑞鶴「楽しんでるわね。」

長門「まぁな。」


煙幕内



不知火(成程、いい判断です。)

不知火「間違いなく最後尾に陣取っているのでしょうが、

    このデコイに使用している魚雷は弾頭有りや無しや?」

不知火「それを判断するに当って

    行動分析においての最適解の建て方をよく理解されています。」

不知火「不知火にとって敗北につながるのはこの魚雷が弾頭有りであった場合、

    そして、もう一つのパターンが無弾頭であり

    時雨さんがこのデコイに紛れて不知火に接近、

    致命傷を負わせる事を狙う場合です。」

不知火「私がそれを防ぐには当然ですが飽和的に魚雷を撃ち接近を防ぐしかありません。」

不知火「成程、考えたものです。」

不知火「不知火が安全策、つまり最悪を事前に潰す事を好むのを良く考えられていますね。」



不知火が喋りながら魚雷を次々と発射するのは

自身に爆発の衝撃が来ないようにする安全距離ギリギリの為。



時雨「そう、不知火は魚雷で対処しなければならない。」

時雨「自分が不利になる可能性を考えた際に

   それを無視することが最悪の結果を齎すと判断するのであれば。」

時雨「例えそれが無弾頭のデコイであったとしてもだよ。」



正面のデコイへ向けて放たれた魚雷の第一陣だろうか、深度設定を間違えたのか。

デコイ群をすり抜け時雨のはるか下の海中を魚雷が抜けていく。

魚雷が深度設定の問題から敵の艦底をすり抜けて行くことは稀にある事。

だから時雨はこれをあまり気に留めなかった。



不知火「……、やはり無弾頭でしたか。」

時雨「であったとしても、潰さなければならない状況なのは辛いよね。」

不知火「さすがに先手を取られてしまった状況ですので。」ヌイッ



埠頭



提督「煙幕が薄れだしたな。」

雪風「煙幕内での魚雷の爆発音もかなりありましたから

   それで煙もそれなりに流れたと思います。」

川内「魚雷の残りの残段数で行くと不知火が不利だろうね。」

摩耶「といっても有視界での戦闘になってくると不知火に軍配があがるかな?」

スパ「ここからは砲撃もお互いに精度の高い争いになるという事ですか?」

提督「そうだな。

   だが煙幕内での戦闘においてダメージを蓄積させられているのは不知火の方だな。」



お互いの損傷状況を知らせるモニターをちらりと見る提督。



雪風「不知火さんの魚雷の残弾数は最大で残っていても一斉射分。」

川内「四連装2基に残る8本で終わりだろうね。」

摩耶「いざという時までは撃てない。」

提督「そうだな、使い方を誤ると負けだな。」

スパ(勝ったな。)



中破寸前の不知火に対し、カスダメ程度の時雨。


演習海域近く



長門「まさしく土俵際といった所か。」

瑞鶴「古典的な言い方をするなら俵を割る寸前かしらね。」

長門「で、どっちが勝つと思う?」

長門の質問に無駄な質問をといわんばかりに鼻を鳴らし。

瑞鶴「勝敗が読めないほど仲間の力量を見誤るもんじゃないでしょ?」

長門「まぁ、そうだがな。」

瑞鶴「時雨は強いわよ。私の背中を任せていいくらいにはね。」

長門「ほう。」

瑞鶴「だけど、敵は深海棲艦ではなく不知火だった。」

長門「あぁ。」

瑞鶴「それだけよ。」


演習海域



煙幕が薄れてきてお互いの姿をしっかりと捉えてからの砲撃戦が始まる。

時雨が煙幕を張ったのは電探の優位性を生かし

視界不良下でのレーダー射撃を行うのが主目的。

と思わせておいてその実は不知火の継戦能力を奪うべく

魚雷を大量に使用させることが目的だった。

そして、視界がクリアになれば不知火は一撃必殺の為の残り少ない魚雷を生かし。

尚且つそれを叩き込む為の一瞬の隙を狙うべく砲撃を行う。

となれば。



時雨「狙ってくるのは勿論」

不知火「魚雷発射装置。」



時雨と不知火はお互いに距離を保ちつつ再び砲撃戦に興じている。

ただ、砲撃の弾を当てるだけであれば面積の多い胴体を狙うが常套。

しかし、魚雷の誘爆を狙うのであれば正確な射撃が必要となる。



時雨「残りの魚雷をここで使うのかい!?」



自分の進路を遮るかのように放たれる4本の魚雷。

煙幕内であれば雷跡、発射のタイミングは見えない為避ける事は難しいだろう。



時雨「でも、もう煙幕は薄れている状態だ。」



だからこそ回避は容易。



不知火「太腿の魚雷発射装置を狙うために方向転換をしていただく必要性がありましたので。」ヌイ!



時雨の魚雷発射装置は足、対して不知火の魚雷発射装置は背中の機関のサイド。

正面から撃ちあいすれ違う反攻戦を繰り返すのであれば狙いやすさについて。



時雨「不知火に分がある。」

不知火「ギリギリで耐えてきたかいもあると言うもの。」



さらに言えば魚雷を先に撃てるだけ撃ってしまっている分、

不知火の方が魚雷の誘爆の危険度は少ない。

いや、既に1基分は空の為、

背負い式の艤装の機関を守る防御盾、装甲代わりに使えなくも無い。



不知火「すれ違う際に既に空になっているサイドを盾にさせてもらいます。」



そして、すれ違い相手の背中をとる一瞬を逃さず狙いを付ける不知火。



時雨「目に頼りすぎて電探を忘れちゃ駄目だよ。」

時雨「せっかくの2丁拳銃スタイルなんだ。」

時雨「あちこち撃てなきゃ意味が無いよね!」



ドン!

しかし、電探の反応に従い後ろを振り返らずに砲撃をする時雨。

それにより一瞬のチャンスは潰された。

シャーッ!

そしてここぞとばかりの魚雷のおまけつき。



不知火「なかなかこれは面白いですね。」

埠頭



スパ「勝てそう!」

雪風「時雨さんが確実にポイント貯めて来ていますね。」

提督「問題ない。」

明石(あれ?なんかやばい?)

摩耶「不知火は後、2~3発もらうと終わりか?」

川内「不知火らしいといえばらしいかなぁ。」

雪風(劇的な逆転劇を演じて後々の

   トラウマを植えつけるおつもりでしょうか?)

雪風(心底恐ろしい)

提督「そうでもないさ。

   不知火は時雨と演習ができるのを本気で楽しみにしていた。」

提督「トラウマみたいなものを与える心算なら初めから全開でやるさ。」

提督「あいつはスロースターターだからな。」

提督「それに演習用の炸薬量が抑えられた魚雷にペイント弾だ。」

提督「ステゴロをやらかすような事にはならんよ。」



身震いをしていた雪風の頭に

その考えを見透かしたかのように手をポンと置く提督。

まもなく演習海域では雌雄を決する時が訪れようとしてた。


演習海域

時雨(なかなかしぶとい!)



それは時雨が不知火の方へ向け進行方向を変えた時だった。

ドン!

轟音を立て、足元の海中が急に爆発。



時雨「えっ!?何が!?」



何が起きたかは分からない、

だが、この一瞬を相手が見逃すわけが無い。



時雨「不知火は!?」



バランスを建て直し不知火の方向を顔を向けた。

正にその瞬間だった。

一瞬の出来事に気がとられ電探ではなく

直接目で見て不知火の位置を確認しようとしたのが裏目にでる。



時雨「あぁ!!」



強烈な光、探照灯の灯りを目に当てられ完全に視界が消失する時雨。

駆逐艦用の探照灯でも約10万カンデラ、ワット数で凡そ1600W。

それだけの明りを照射されれば視力は一時的に失われる。

その一瞬を不知火が見逃すわけが無い、

瞬時に判断を下した時雨が次にとった行動は。



時雨「降参。」

時雨「不知火はここまで読んでたの?」



電探の端に魚雷の安全距離に位置取る不知火を捉え敗北宣言をする時雨。



不知火「不知火の仕事は司令の事務仕事の手伝いです。」

時雨「うん。そうだね。」

不知火「日々、皆さんの提出される戦闘映像を分析し報酬の支払い査定を行っています。」

時雨「うん。」

不知火「ですので、皆さんの戦闘行動時の思考パターン、

    行動パターンはある程度トレースが可能です。」

時雨「あー、つまり初めから全て読まれていたという事か。」

時雨「どうやら僕は孫悟空だったようだ。」


一瞬の照射だったおかげでようやく視力が戻ってきた時雨が

不知火の方へ近付き手を差し伸べてくる。



不知火「彼を知り己を知れば百戦殆うからず、

    戦う前に相手の情報を徹底的に洗える相手。」

不知火「つまり時雨さんだったからこそ勝ちを拾うことが出来たといえます。」



握手を交わし、時雨へと感謝を述べる不知火。



不知火「いい演習、ありがとうございました。」ペコリ

時雨「は ――――――。君の爽やかさに毒気が抜かれるよ。」

時雨「僕の完敗だ。まだまだ君には敵いそうにないや。」

不知火「いえ、いずれ、すぐに抜かれてしまうかと。」

不知火「ですが、不知火より強い方が増えるのは

    全体の戦力の底上げになりますので大変喜ばしい事と思っています。」

時雨「やれやれ、かな……。」



器の大きさも負けた。本当の意味での完敗である。



埠頭



提督「勝負が付いたようだな。」

雪風「しれぇ、不知火さんはどういう手品を?」

提督「ん?雪風ほどの者でも分からないか。」

ガン「あの、解説お願いします…。」

川内「足元の爆発は魚雷?」

摩耶「機雷を用意していたようには見えなかったし、

   そもそも自分も危ないもんな。」

提督「あれは遅延信管を仕込んだ魚雷の接触信管を感度あげまくってたんだろ。」

提督「信管の感度設定をみすると魚雷が海中で波などの衝撃で

   作動した結果、敵に当る前に爆発する事があるだろ?」

雪風「感度設定は確かに難しいです。」

提督「その感度を良くした状況で魚雷を投げれば勝手に作動するわけだ。」

川内「成程、つまり本来は戦艦等の装甲を破って突き刺さった後に

   破孔をより大きくする為に使う遅延信管を使用した事で

   魚雷が時限爆弾に化けたわけか。」

提督「うまいこと爆発するタイミングを見計らったという事なんだろ。」

摩耶「よくもまぁ、上手くいったもんだな。」

提督「さらに言えば燃料も少なめにして魚雷が余り走り過ぎないように調整したんだろ。」

川内「全ては時雨のデコイを掃除する時に仕込んでいたってわけか……。」

提督「それ以外に進路を読まれないように砲撃で制限し、

   魚雷が潜んでいるところに誘導したり、

   自分の残り少ない魚雷を使ったというのが手品の種明かしだ。」


ガン「でも、時雨さんがその場所へ行く保障なんてないのでは?」

提督「人間だれしもピンチに陥った時の一瞬の閃きを勘とかよく言うだろ?」

川内「あぁ、やま勘って奴だね。」

提督「そうだ、だがな。勘なんてものはあるようでないもんなのさ。」

雪風「?」

提督「勘だの閃きだのと思うのは全て、

   本当は自分の今までの経験や知識の中から最短距離で

   自分が正解と思えるものを導きだしているだけなのさ。」

摩耶「てことは時雨が勘で避けてくるのは折込済みだった?」

提督「普段の業務で得た時雨の戦闘データーで全て読んでいたということだな。」

提督「どこを狙えばどう避けるか、魚雷の回避は右と左、どちらを好むか。」

提督「全て、想定内、いや、そう思わせることすらも不知火の術中なのかもしれないな。」



胸元から煙草を取り出し、一本咥え、火をつけふいと煙を吐く。

提督の周りの艦娘はその圧倒的格上な不知火の実力に溜息を漏らす。



提督「さてと、勝負は付いたわけだ。」

摩耶「あっ、そうだった。」

川内「宴会だねぇ。」

明石「ウォースパイトさん!これ。支払い宜しくお願いしますね!」



そして渡される請求書。



スパ「えっ、何この金額。」

提督「俺は助けないからな。」

明石「いっぱい(many)飲まれる方が多いですからねぇ。」

スパ「a cup of (一杯)じゃないんですか!?」

明石「契約書は絶対。」ニヤニヤ

スパ「Nooooooooooooo !!」


絶叫を上げるウォースパイトを背に

提督は戻ってきている不知火達を迎えにいったのだった。


長門「なかなかいい試合だったな。」

瑞鶴「探照灯で視力を奪うとはね。」

長門「らいしといえばらしいな。

   時雨がああすれば負けを認めると読んでいたんだろうな。」

瑞鶴「そうね。あっさりと負けを認めたというのがよかったわね。」

長門「我々の出番もなかったからほっとしたよ。」ヤレヤレ

瑞鶴「そうね。殴りあいはまだしも虐殺状態になるのは勘弁だったわ。」

長門「不知火がその辺は弁えたという事かな?」

瑞鶴「そうでしょうね。いい意味で丸くなったと思うわ。」

長門「確かに、見ていてそう思う。」

瑞鶴「何が切欠なんでしょうね?」

長門「さぁな。」



そして長門達もまた宴会に参加すべく鎮守府へと戻ったのである。

尚、皆が飲んだ酒代の所為で

ウォースパイトが数ヶ月ただ働き状態だったのはまた別の話である。


とある日の鎮守府会議室

提督は米軍の将校二人と会議を行っていた。



提督「と、以上で打ち合わせについては終了ですかね?」

米中将「あぁ、実に有意義な会談だったよ。」

提督「いえ、先日の救援作戦においては色々助けていただきましたし

   その際の礼もありますので。」

米大佐「こちらに我が国から派遣する駆逐艦に付いてですが

    最新鋭に交代させていただいて宜しいんですね?」

提督「えぇ、そのくらいの変更を受け入れないほど狭量でもありませんよ。」

米中将「最新鋭の方が抜けるデーターも多い?」

提督「虐めるのはお良し下さいな。」ハハ

提督「と、先日の救援のお礼という訳では無いですが

   宴席を用意させていただいるのでどうぞ食べていっていただけませんか?」

提督「うちの料理長が腕を奮っておりますので是非。」

米中将「大佐から腕のいい料理人がいると聞いている。是非に食べさせていただくよこう。」

提督「ありがとうございます。」



そして。



「こちら前菜でございます。」



いつもと違い、シェフ然とした格好の料理長が配膳を行う。



米大佐「実に素晴らしい彩……。」

「桜と薔薇をイメージし、当鎮守府周辺で取れた野菜を使用しております。」

米中将「実に素晴らしい味わいだ。」



一つ一つの料理に料理長が素材の産地や料理方法を説明していく。

前菜が終わり、メインのスープが終わる。

そして、魚介料理へとメニューが移ってゆく。



「こちら、あこや貝の貝柱バターポワレ、

 ほうれん草のグリーンソース添えになります」

米中将「あこや貝かね?」

「はい、あこや貝そのものは食べれたものではありませんが、その貝柱は別物」

「本日の貝柱は三重県、伊勢湾産を使用しています」

米大佐「うーん。お酒は日本酒ですか?」

「えぇ、獺祭ですよ。

 日本酒は魚貝にあう物が多いので気に入っていただけたのでしたら幸いです。」



そして尚もコースは続いてゆく。


「此方、鳩肉の唐揚げ香草添えになります。」

米大佐「鳩肉ですか。」

「えぇ、フレンチのではなく中華の香炸。

 予め下味をつけた物を揚げています。」

「蜂蜜や老酒で下味をつけています。詳細はお教えできませんが…。」

米大佐「実に食感も素晴らしいですね。」



そしてメインデイッシュも終盤へ。



米中将「目の前で切り分けるパフォーマンスかね?実に素晴らしい」

「牛フィレ肉フォアグラと抱き合わせにしロッシーニ風に仕上げ」

「どうぞ」

提督「ソースのコントラストが美しいものですな」

米大佐「あぁ、ジョエル・ロブションの期間限定メニューで見た事がありますね。」

米中将「……、再現出来る腕前とは恐れ入る。」

提督「肉が綺麗な円形に整形されている。」

「その様な形になるように型にいれ整えておきましたので。」

そして楽しい食事会は最後のデセール(デザート)へ。

「こちらミニャルディーズ、プチフール、

 季節の果物、春の香り添えになります」

米中将「あぁ、実にいい香り、味。」

米大佐「実に素晴らしい。」



人は本当に美味しいものを食べると語彙力が無くなるとか。

提督が設けた二人の米軍高官をもてなす食事会は無事終了したのだった。

そして、帰路に着いた米軍人の二人は船内で改めて提督について話をしていた。



米中将「会議で表明できない自分の立ち位置を料理で伝えてくるとはな。恐れ入る。」

米大佐「大使館勤務経験のある料理人だったのでしょうか?」

米中将「かもしれん、そこは分からんが。超一流なのは間違いない。

    それと、少なくとも、あの提督は我々と事を構えるつもりは無いようだ。」

米大佐「歴史に従うという事ですか。」

米中将「あぁ、そして脅威となる連中についてもある程度示唆してきていたな。」

米大佐「終わった後の事でも共闘できる部分はするということでしょうか?」

米中将「あの料理のメニューで判断する限りではな。」




鎮守府食堂



提督「上手く伝わったかな?」

「司令官の意思に添える料理は出したと思うよ?」

「ただ、それを読み取れるかどうかは相手次第でしょ?」

「それにそれを読み取れない程度のニブチンならかえって扱いやすいんじゃないの?」

提督「まっ、そうだな。」

「司令官も大変だねぇ。」

提督「なに、手元に有効な手札があったんだ。使いたくもなるさ。」

提督「今日はありがとうな。また、頼むよ。」



戦場は何も魚雷と砲弾が飛び交う場所だけではない。

政治の駆け引きもまた戦争なのである。

以上で更新おわりでございます!
首脳会談時の晩餐会や昼食会での料理のメニューは様々なメッセージがこめられている事が多いので
興味をもたれましたら調べてみるのも面白いかもしれません
個人的に記憶に残っているのは習近平がイギリスに行った時の皮肉たっぷりな晩餐会メニュー
色々、隠されたメッセージを受信出来ないと無能呼ばわりされる外交の世界
こわいですね!ここまでお読みいただきありがとうございました!
また、更新間隔がのびのびになっていることをお詫び申し上げます
乙レス、感想レスいつもありがとうございます、お気軽に残していただけるといっちが喜びます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年03月10日 (土) 18:10:29   ID: MvV5Kw01

かっけぇ…

2 :  SS好きの774さん   2018年04月12日 (木) 01:50:54   ID: I6aBuzal

明石編から脱線してよく分からんくなった

3 :  SS好きの774さん   2018年04月14日 (土) 17:59:40   ID: OQTgehOn

街の遊撃手でしたね>ジェミニのCM

車2台使ってのカースタントは、とても格好良かったのを今でも覚えています。

今度YouTubeで見直してみよう。

4 :  SS好きの774さん   2018年05月01日 (火) 21:54:07   ID: yeQXMCq9

めっちゃ面白い!
何度も読み返してます。

5 :  SS好きの774さん   2018年05月22日 (火) 21:59:23   ID: 3KvVmMRe

卯月は撃沈貰ったけどって感じですね今回も面白い話でした。始めから読ませて頂いてます。

6 :  SS好きの774さん   2018年05月28日 (月) 16:12:32   ID: 8o-SYAPl

USO800で5963か…

7 :  SS好きの774さん   2018年06月06日 (水) 23:45:03   ID: Wm7nZpU3

保険のくだりとか凄すぎるww

8 :  SS好きの774さん   2018年07月30日 (月) 14:41:23   ID: 0JoB5u5w

この世界の正規軍不甲斐無さ過ぎて心配になるわ

9 :  SS好きの774さん   2019年01月06日 (日) 18:50:27   ID: dZc-Bwqd

これ、本スレ終わってるみたいだけどこっちは更新しないのかな

10 :  SS好きの774さん   2019年01月07日 (月) 13:36:24   ID: j2dRh1IE

そう言えば途中からまとめられなくなったな。
技術的なトラブル?

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未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

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