花丸「──最後の誕生日。」 (21)

ラブライブ!サンシャイン!!SS

花丸ちゃんの誕生日なので、花丸ちゃんのお話です。

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この世には数多の物語がある。

時に憂鬱な物語

時に期待を孕む物語

時に不幸な物語

時にふとあの日を思い出すような物語

時に過去の自分と向き合う物語

時に誰かを慮ってすれ違う物語

時に自分の価値を省みる物語

時に時間の流れの中で生きていくことを考える物語

本当に多種多様な物語がこの世界には溢れている。

そしてそれはいろんな人の生きてきた経験や心そのものなんだと思う。

だから、もしかしたら今こうしてマルが考えていることも物語なのかもしれないね。

誰もが人生と言う自分が主人公の物語を紡いで生きていくのだから──




    *    *    *




そして、誰もが1年に1度だけ、胸を張って主人公になれるんじゃないかな?──そんな日が誕生日だと思う。

マルはAqoursの中でも一番誕生日が遅い3月4日

そんな日を閉校を間近とした浦の星女学院の図書室でぼんやりと過ごしている。


善子「ずら丸? 何してんの?」

花丸「……善子ちゃん」

善子「部室はパーティで大盛り上がりなんだけど……主賓が勝手に席外すんじゃないわよ」

花丸「あはは……ごめんなさい」

善子「それで?」

花丸「ずら?」

善子「何してたの?」


善子ちゃんがマルの顔を覗き込んで尋ねてきた。


花丸「……うん。ここの匂いを感じてた……のかな」

善子「匂い……?」

花丸「本の匂い──紙と糊の匂い……マルがずーっと一緒に過ごしてきた、落ち着く場所なんだ」

善子「……そう」

花丸「……こことももうお別れだね。明日くらいからは本腰入れて、本の整理も始めなくちゃいけないし」

善子「……そうね」


善子ちゃんは頷くと、図書室の受付の机を飛び越える形で、こちら側に飛び行ってマルの横に腰を降ろした。



花丸「善子ちゃん……?」

善子「Aqoursの皆も最後のイベントだからって張り切ってたけど……ずら丸にとってはここも同じくらい大切な場所なのよね」

花丸「……うん、そうかな」

善子「……困っちゃうわね。この学校、どこに行っても、もう残された時間が少ししかないんだって思い知らされる」

花丸「……そうだね」

善子「……花丸」

花丸「?」

善子「ありがとね」

花丸「……? 急にどうしたの、善子ちゃん?」

善子「……あの日、あんたが見つけてくれたお陰で学校にも戻ってこられて、Aqoursにも入れて……すっごい楽しい1年だった」

花丸「善子ちゃん……」

善子「……あーダメね、折角のずら丸の誕生日なのに、ちょっと湿っぽい雰囲気になっちゃうわね……」

花丸「うぅん。こういう機会じゃないと落ち着いて二人で話すことってあんまりないから……いつも皆が一緒にいたし」

善子「……確かにずーっと騒がしい1年間だったわよね」

花丸「大人しいマルには不釣合いなくらい騒々しい1年だったずら。マルは誕生日もルビィちゃんがささやかにお祝いしてくれるくらいで、誕生会なんて開いてもらえる機会が来るなんて思ってなかったし」

善子「まあ、そんな誕生会をフケてる主賓がここにいるんだけど」

花丸「むぅ……またそこに戻るずら? そういえば善子ちゃんも誕生会やるかやらないかでゴネてたよね」


──7月13日。善子ちゃんの誕生日。


善子「あ、あれは……まあ、結局堕天使の力を持ってしてもその不幸な定めすらも打ち破る──」

花丸「千歌ちゃんに感謝だね~」

善子「最後まで言わせなさいよ!!」


いつも通り八重歯を光らせながらキシャーと怒る善子ちゃん。


善子「……まあ、その……そのことなんだけど……」

花丸「?」

善子「……もし、よかったら、さ」

花丸「うん」

善子「あのとき……幼稚園で歌えなかったあの歌……今歌ってくれない?」

花丸「え……」

善子「私の誕生日じゃないし、気持ちで十分って言ったけど……あんたの独唱、ちゃんと聞かせてもらったことなかったから」

花丸「……うん、いいよ」


マルは椅子から腰を上げて、ゆっくりと図書室の広めのスペースに歩を運び。


花丸「あの日、歌ってあげられなかったお祝いの歌──今贈るね」


ゆっくりとお辞儀をして、謡い始めました。





    *    *    *





ダイヤ「花丸さん」

花丸「ダイヤさん?」


善子ちゃんが去ったあと、次に図書室に来たのはダイヤさんでした。


ダイヤ「主賓が抜け出して……って、わたくしも祝われるのが苦手だから人のこと言えないかもしれないわね」


言われて見れば1月1日──ダイヤさんの誕生日。

なにはともあれ、そんなことを呟きながら、優雅に足を運んで、ダイヤさんはマルの隣に腰を降ろす。


ダイヤ「まあ、それに……」

花丸「それに……?」

ダイヤ「少しでも長く、自分の居ついた場所に腰を落ち着けていたい気持ち。少しわかりますわ。わたくしにとっての生徒会室のように……ね」


ダイヤさんはそう言ってから目を細めて、虚空を見つめるような素振りをする。


花丸「ダイヤさん……」


それは生徒の代表として、学校を見守ってきた人の顔だった。


ダイヤ「……花丸さん」


そんなことを思っていたら、ダイヤさんがマルの方に向き直って

──ふわりと、頭を撫でてくれる。


ダイヤ「図書委員のお仕事……お勤め御苦労様でした。生徒会長として、お礼を申し上げますわ。」

花丸「……うぅん、マルが好きでやってたことだから」

ダイヤ「それでも、自分に課された役割を全うするのは立派なことですわよ。……確かに表立って何かするわけではないから、目立たない役職かもしれないけれど……それでも、この書架たちを見守ってくれたのは紛れも無く、貴方ですから。」

花丸「……えへへ、ありがとうございます」

ダイヤ「それと……その……」

花丸「ずら?」


打って変わって、ダイヤさんの歯切れが悪くなる。



ダイヤ「……花丸さんには他にもお礼を申し上げないといけないことが……」

花丸「他……?」

ダイヤ「……ルビィのこと。いつも有難う御座います。」

花丸「え、そ、そんなそれこそ、ルビィちゃんは友達だし……」

ダイヤ「ふふ、有難う。そう言ってくれる友人がルビィの傍に居てくれることが、姉としては何より嬉しいことですわ。ただ、それもありますけれど……」


ダイヤさんはマルの目を真っ直ぐ見つめて


ダイヤ「あの日、呼び出されたあの場所で花丸さんに言われた言葉で……わたくしはハッとしましたのよ」


『ルビィちゃんの話を──ルビィちゃんの気持ちを……聞いてあげてください』


ダイヤ「今になってみれば……自分が本当はどうしたかったのかもわからなくなっていた気がします。そんな身動きの取れない状態から、ルビィを解き放ってくれたのは、紛れも無く貴方ですわ。──だから、有難う。」

花丸「ダイヤさん……」

ダイヤ「それはきっかけの一つではありましたが……お陰でこのような幸せな時間を過ごすことが出来ました。」

花丸「……ダイヤさんもいろいろありがとう」

ダイヤ「いろいろ?」

花丸「その……廃校のこと、とか」

ダイヤ「……力及ばず、でしたわね。」

花丸「あ、いや……その……」

ダイヤ「……いいのです。出来ることはやりきりました。悔いはありません。」


そういうダイヤさんの顔は少し寂しげで……でも、確かに悔いはない。そんな風に感じさせる不思議な表情だった。


ダイヤ「学校は守ることが出来なかったけれど……それでも、わたくしはわたくしの輝きを見つけることが出来たから……」

花丸「……ずら?」

ダイヤ「ふふ……こっちの話ですわ。それでは、後の支えてますし、わたくしはこの辺りで」


そう言いながらダイヤさんが席を立つ。


花丸「後が支えてる……?」

ダイヤ「ええ」


ダイヤさんはニコっと笑って、図書室から退出していきました。




    *    *    *




果南「やっほ、マル」

花丸「果南ちゃん」


次に図書室に顔を出したのは果南ちゃんでした。

後が支えてるって言うのはそう言う……


果南「なんか、今日はマルとの個人面談が出来るって聞いて来たよ」

花丸「う、うーん……皆に足を運んでもらうのは申し訳ない気もするずら。やっぱりマル部室に戻った方がいいんじゃ……」


そう言って立ち上がろうとするマルを


果南「まあ、いいからいいから」


果南ちゃんが両肩に手を置いて座らせる。

果南ちゃんは対面に立ったまま、受付の机に肘をついて


果南「たまにはのんびりお話しようよ」


穏やかにそう言った。


果南「なんか普段から、千歌やら鞠莉やら、騒がしいのが周りにいるから、こんな機会じゃないとマルと落ち着いて2人っきりで話すタイミングもないかなって思ってさ」

花丸「そっか……」

果南「うん」

花丸「……」

果南「……ところで、何話そうか」

花丸「それは考えてないずらね……」


ある意味、果南ちゃんっぽいずら……


花丸「そういえば、進路……」

果南「ん? ああ、うん。私も鞠莉と同じで海外だね」

花丸「果南ちゃんはすごいね。自分のやりたいことちゃんと決めてて」

果南「……まあ、生まれてからずーっと潜って来たからね。その流れと言うか、ね。ダイビングに関わる以外の仕事をしてる自分ってのも逆に想像できないし」

花丸「不安に思ったり……しない?」

果南「あはは、マル? 私を誰だと思ってるの?」



果南ちゃんは一旦苦笑いしてから、


果南「……不安だよ」


そう言った。


果南「……不安でいっぱいだけど……それと同じくらいこれからどんなことが起こるんだろうって期待もいっぱいある」


果南ちゃんはそう言いながらマルに背を向ける。


果南「……この空は繋がってるから、皆にお祝いしてもらった誕生日のときに、鞠莉とダイヤと──皆と一緒に過ごして、そう思った」


──2月10日。果南ちゃんの誕生日。


果南「だから、不安はあるけど、怖くは無い……かな」

花丸「そっか……」

果南「……あはは、なんかこうしていざ二人っきりになってみるとどんな話題振ればいいのかわからなくって変な空気になっちゃうね。私らしくないなぁ」

花丸「じゃあ、さ」

果南「?」

花丸「……海外に行ったら、見て聞いて感じたことをマルに教えて欲しいかな。マルは世界のいろんな物語が知りたいから。……果南ちゃんの物語も」

果南「……なるほどね。じゃあ、そのときまで土産話をたくさん蓄えておくよ。」





    *    *    *





千歌「とーう!! 到着!!」

花丸「千歌ちゃん、図書室ではお静かに、ずら」

千歌「っは! ご、ごめんなさい……」


次のお客さんは千歌ちゃん。


花丸「千歌ちゃん」

千歌「んーなぁに?」


名前を呼ばれてとてとてとマルのいる受付に歩いてくる。

そんな千歌ちゃんに向かって──


花丸「マルをスクールアイドルに誘ってくれて、ありがとう」


マルはそう言って頭を下げる。


千歌「えへへ……そんなお礼言われるようなことじゃないよ。むしろこちらこそ、一緒にスクールアイドルを──Aqoursで活動してくれて、ありがとう」

花丸「うん」

千歌「まあ、実質花丸ちゃん誘ったのもルビィちゃんだし。チカの手柄は半分くらいかな?」

花丸「ふふ、そうかもね」


それでも半分は自分の手柄だと言う千歌ちゃんに思わずくすくすと笑いが零れてしまう。


千歌「それで、今回高海千歌、花丸ちゃんと誕生日トークをしてくるようにオオセツカッテきました!」

花丸「あ、そういう流れになってるんだね」

千歌「でも、誕生日トークと言われても、うーん……」

花丸「誕生日……そういえば千歌ちゃんも誕生会抜け出してたよね」


──8月1日。千歌ちゃんの誕生日。


千歌「……やや、ばれてたか」

花丸「いや、だって普通に居なかったし……果南ちゃんのところに行ってたんだよね」

千歌「うん。梨子ちゃんから聞いたの?」

花丸「うぅん、そういうわけじゃないけど……きっと、そうなんだろうなって」

千歌「……そっか」

花丸「うん」

千歌「……すっごくね」

花丸「?」

千歌「……すっごく綺麗な星空だったよ」


言葉足らずで説明足らずな千歌ちゃんらしい──でも万感の想いが篭った言葉。



花丸「そっか……」

千歌「……気持ちはやっぱり、言葉にしないといけないなって改めて思ったよ。」


千歌ちゃんは改めてマルに向き直って、


千歌「あのとき──皆と0を1にしようって決めたときも思った。ちゃんと思ったことを声に出して、伝えて、前に進んでいくのかなって」

花丸「……言霊みたいだね」

千歌「言霊……」

花丸「言葉は力を持ってるから、口にすることでそれが皆の背中を押す力になってくれるかもしれないね」


マルは特に、口数も少なくて読んで溜め込むばっかりだったから、尚更強くそれを感じていたかもしれない。


千歌「……そう、そうだね」

花丸「0が1になって、1が10になって……」

千歌「10は100にはならなかったけど……」

花丸「……」

千歌「消えない∞の想いがここにあるから……」


千歌ちゃんはそう言って胸に手を当てた。


千歌「……来年から、どうしよっか?」

花丸「オラはまだ考えてない……かな」

千歌「えへへ、じゃあ私と同じだね」


千歌ちゃんははにかみながら背を向けて、


千歌「これからも、いろんなこと言葉にしていこうね。花丸ちゃん」


そう言って、図書室から去っていきました。





    *    *    *





梨子「失礼します」

花丸「梨子ちゃん、いらっしゃい。」

梨子「誕生会の会場から、主賓に会いに代わる代わる一人ずつ来るってなんか可笑しいね」

花丸「あべこべな感じはマルもするけど……そういう流れみたいだから」

梨子「……私も花丸ちゃんもなんだかんだで誰かが作った変な流れに逆らえないところあるもんね……」

花丸「苦労はお察しするずら」

梨子「……お互いね」


梨子ちゃんは苦笑いしながら、少し離れた図書室の利用生徒が使う椅子に腰を落ち着ける。


梨子「えーっと……そうだなぁ、花丸ちゃんと二人っきりでお話したいんだけど……何を話そうかな」


梨子ちゃんは少し考え込んでから、


梨子「まあ、やっぱり曲のこと、かな」


そう切り出す。


梨子「素敵な歌詞、いつもありがとう」

花丸「うぅん、作詞もほとんどは千歌ちゃんが作ってくれてたし……マルはちょっとした手直しくらいで」

梨子「……そんなことないよ、私花丸の書く詩、好きだよ?」

花丸「えへへ……そう言われるとちょっと照れるずら」

梨子「それに私は曲先よりも詩先の人だから……千歌ちゃんだけだとどうにも進捗が詰まりがちで、そういう意味でも助かってたし。……あ、ごめん、えーと曲先って言うのは……」

花丸「楽曲を作る際に詩に対して音を置いて曲を作るか、曲が先にあってそれに歌詞を割り当ててくかってことだよね」

梨子「あ、うん。さすが花丸ちゃん。物知りだね」

花丸「たまたま本で読んだことがあっただけずら」

梨子「やっぱり本から得られる教養は幅広いよね。……まあ、詩先曲先以前に、そもそも歌詞のある曲を作ったのなんて初めてだったから、最初は上手く出来るのか心配だったけど」

花丸「マル、梨子ちゃんの作る曲、大好きだよ?」

梨子「ふふ……ありがと、花丸ちゃん」



梨子ちゃんはお礼を言いながら、ふと少し切なげな表情をして、


梨子「……今は自分の中に音や輝きが溢れてて……どうして、あのとき自分の音が聴こえなくなっていたのかが不思議なくらい……」


そう呟く。

──9月19日。梨子ちゃんの誕生日。

あの日に聞かせて貰った、あの話を思い出してるんだろうな。


梨子「Aqoursの皆に出会えて、本当によかった……」

花丸「うん……マルもそう思う」

梨子「……私たち完全インドア派なのに、気付いたら歌って踊るアイドルしてたんだもん。不思議ね」

花丸「確かに……」

梨子「活動は一区切りついちゃうけど……これからも何かあったら作詞とかお願いするかも」

花丸「ふふ、マルも作曲をお願いするかもしれないずら」

梨子「うふふ」


なんだか可笑しくって、二人して笑ってしまった。





    *    *    *





曜「──渡辺曜! 到着であります!」

花丸「曜ちゃんだ」

曜「じゃあ、何話そうか? 誕生日のテーマトークとか言ってたっけ」

花丸「……あれ曜ちゃんの誕生日って確か……」

曜「……ああ、そういえば、花丸ちゃんがAqoursに入る前だったよね」


──4月17日。曜ちゃんの誕生日。


曜「私ね、最初に千歌ちゃんと二人でアイドル初めてね」

花丸「うん」

曜「梨子ちゃんが入って3人になって、そのあとルビィちゃんと花丸ちゃん、善子ちゃん、そして三年生が入って9人になって……」

花丸「うん」

曜「これは鞠莉ちゃんにも言ったんだけど……実は千歌ちゃんと一緒にするの私じゃなくてもよかったんじゃないかなって思ったときがあってさ」

花丸「……」

曜「でも、今は……この9人でよかったなって……そう思ってる」


曜ちゃんはそう言ってから、


曜「……っていきなり何の話してるんだ、私」


そういってわたわたとしながら、受付を挟んでマルの向かいに移動してくる。


曜「まーだから、なんというか……花丸ちゃんとAqoursで活動できて楽しかったよってこと、かな?」

花丸「千歌ちゃんと二人きりじゃなくて残念……って話じゃないんだね?」

曜「うーん……もしかしたら、そういう気持ちも最初はあったのかもしれないけど……」


曜ちゃんは少し目を瞑って考えてから、


曜「……今は、Aqoursはやっぱりこの9人だなって思うかな」

花丸「そっか、よかった……実はおじゃまむしだと思われてたら、マルはただの本の虫に戻るところだったずら」

曜「あはは、本の虫かぁ……確かに花丸ちゃん、最初は運動苦手だったもんね」

花丸「今ではダンスもバッチリ……だといいな」

曜「あはは、バッチリだよ。私が保証する」

花丸「曜ちゃんのお墨付きをもらえたずらー」

曜「あのとき、ここで……始めてみて、よかったね。花丸ちゃん。」


あのとき──ルビィちゃんがマルと一緒にスクールアイドルをやりたいと言ってくれたあのとき


花丸「うん……本当にそう思うずら」


苦手と割り切って、諦めなくてよかった──

──コンコン

そのとき図書室の引き戸が突然ノックされた。


曜「うぇ!? なんかもう次が来た……」

花丸「ふふ……噂をすれば影、かもよ?」

曜「下校時間が近いから巻き進行になったのかなぁ……」

花丸「じゃあまた、今度話そ? 曜ちゃんとは新学期からも同じ学校だろうし……」

曜「……そうだね」


そう、曜ちゃんとはまだ一緒に学生生活を送れる。


曜「じゃあ、またね。花丸ちゃん」





    *    *    *





鞠莉「Hellow.マル~♪ 寂しくって来ちゃった♪」

花丸「鞠莉ちゃん、いらっしゃい」

鞠莉「マル」


鞠莉ちゃんは入室するやいなや、受付テーブルを乗り越えてマルの居る席に近付いて


鞠莉「マル……」


──ぎゅっとハグしてくる。


花丸「鞠莉ちゃん……?」

鞠莉「……マルの大切な場所、守ってあげられなくて……ごめんね」

花丸「鞠莉ちゃん……。……大丈夫、本は旅立って行くから……必要とされる人のところへ」

鞠莉「そっか……ありがと……」


鞠莉ちゃんは静かにお礼を言って、離れる。



鞠莉「あはは……Sorry... 湿っぽい話がしたかったわけじゃないんだけど……」

花丸「うぅん、大丈夫だよ。」

鞠莉「えっとそれで……BirthdayにまつわるTalkだっけ……?」

花丸「……なんか、そうなってるみたいだね」

鞠莉「うーん、でもわたしの誕生日かぁ……」


──6月13日。鞠莉ちゃんの誕生日。


鞠莉「果南とケンカの真っ最中だったのよね……祝われ損なったわ」

花丸「来年から、いなくなっちゃうし……お祝いする機会がなかったのはちょっと残念ずら……」

鞠莉「Hmm... まあ、いいわ。きっといつか戻ってきてダイダイテキにお祝いしてもらうことにするわ。そのとき果南にもしっかりお祝いしてもらうことにして……」


鞠莉ちゃんはマルに向き直って


鞠莉「次会うときは……大切なものは全部守れるマリーになってるから……期待しててね」


そう言った。


花丸「鞠莉ちゃんが言うとホントにそうなりそうずら」

鞠莉「そうなりそうじゃなくって、そうするのよ……さて」


鞠莉ちゃんがチラリと時計を見る。


鞠莉「皆、時間配分がなってないのよね……大本命を前にしてだらだら居座るわけにもいかないし」

花丸「大本命……」

鞠莉「最終下校時間までにはもう一度部室に来てね、それじゃ」


鞠莉ちゃんはそう言って颯爽と出て行きました。




    *    *    *




ルビィ「花丸ちゃん」

花丸「うん」


もう見なくてもわかった。

Aqoursの中でも一番聞きなれた声。


ルビィ「……でも、いまから花丸ちゃんと二人っきりで何お話しようかな?」

花丸「逆に困っちゃうよね」


思わず二人で顔を見合わせてくすくすと笑ってしまう。

マルは席から立って、受付机を挟んで反対側にいるルビィちゃんの元へと歩いていく。


ルビィ「皆にルビィが大本命だからって……多めに時間を貰っちゃったんだけど……」

花丸「大本命、マルとルビィちゃんの仲だもんね」

ルビィ「……だからね、ルビィなりに考えたんだけど」

花丸「?」

ルビィ「部室……行かない?」

花丸「うん……そうだね」





    *    *    *





ルビィ「ルビィね、誕生日にお祝いして貰えてすごく嬉しかったんだぁ」


──9月21日。ルビィちゃんの誕生日。


ルビィ「それも皆で、わーって!! 初めてだったから、びっくりしたけど……お誕生日をお祝いしてもらえるのって、こんなに嬉しいんだって」


廊下を歩きながら、繋がれたままの手から、ルビィちゃんの気持ちが伝わってくる。


ルビィ「だからね、花丸ちゃんにもそういう嬉しい気持ち、いっぱい感じて欲しいから……!」


そして、今日もルビィちゃんはマルに新しい物語を与えてくれる──





    *    *    *





部室のドアを開け放つとそこには7つの人影。


鞠莉「Oh...? もう終わりなのデースか?」

善子「魂の楔で繋がれた二人にこれ以上の言葉は不要だと言うことね……」

梨子「……相変わらず普通の言葉で喋れないのね」

曜「最後まで善子ちゃんらしくていいけどね」

果南「要は仲良しの二人にこれ以上の言葉はいらないってことでしょ? いいことじゃん」

ダイヤ「ええ……その通りだと思いますわ」

千歌「えっへへ、それじゃ花丸ちゃん」


ルビィちゃんにポンと背中を押されて、部室の中に押し込まれる。


ルビィ「えへへ、ルビィなりの仕返しだよ?」


8人「「「「誕生日!! おめでとーう!!!」」」」

花丸「うん、皆! ありがとう!」


3月4日──オラ、国木田花丸の誕生日──数多ある誕生日のお話がまたここに一つ生まれました。

人はこうして、この大事な日の物語を重ね続けて、生きていくんだとマルは思います。

それは、良い話だったり、悪い話だったり、取り留めのない話だったり、本当にありとあらゆる物語があるんだろうけど、そこにきっと貴賎はなくて、だから物語は愛おしいと言うことをこれからも感じ続けていければいいな。

……さて、Aqoursというグループの中で最後の誕生日の物語をここに綴って……一つのお話の区切りとしたいと思います。御清覧、ありがとうございました。




<終>

終わりです。

お目汚し失礼しました。


改めて、花丸ちゃん誕生日おめでとう!

これにてAqours誕生日シリーズ完結です。お付き合いありがとうございました。

また何か書きたくなったら来ます。よしなに。


こちら過去作です。よろしければ。


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