【まどマギ】ほむら「さて、昼食を食べに行かないと」さやか「……」 (78)

まどか「さやかちゃん、どうしたの? ほむらさんが気になるの?」

さやか「……ごめん、まどか。今日あいつとお昼食べるわ」

まどか「え? あぁ、うん、そうなんだ……」

さやか「ほんとにごめん。向こうで杏子が待ってると思うから、一緒に行ってやって」

まどか「分かった。じゃ、またあとでね」

さやか「うん、また……はぁ、さてと」トタトタ

ほむら「……何かしら、美樹さやか」

さやか「何ってほどでもないんだけどさ。一緒にご飯食べない?」

ほむら「なぜ私があなたと?」

さやか「いいじゃん。前の世界の記憶持ってんの、あんたと私だけなんだし。そういう意味じゃ、浅い仲じゃないでしょ?」

ほむら「その記憶を持ってるからこそ、私とあなたは敵対せざるを得ないのだと思っていたのだけれど」

さやか「まぁそうなんだけど、そうなんだけどさ……」

ほむら「じゃあ用はないわね」

さやか「……あー、もう! とにかく行くよ」グイグイッ

ほむら「ちょっと」

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さやか「……」モグモグ

ほむら「あなたと二人で向かい合って昼食……なぜこんなことになっているのかしら?」

さやか「一人で食べるより二人で食べた方がご飯がおいしいじゃん、会話も弾むし」

ほむら「美樹さやか、言葉の意味は正しく覚えておきなさい。この状況を指して会話が弾むと言うのはあなたくらいよ」

さやか「いや、まぁ確かにちょっと会話は弾んでないかもしれないけどさ……」

ほむら「……はぁ、一体なぜ私を昼食に誘おう何て思ったの?」

さやか「それは……まぁなんつーの。見てていたたまれなかったというか、見てらん無かったというか」

ほむら「鏡でも見たのかしら?」

さやか「あんたのこと! そういうとこだよね! ほんとそういうとこだよ。悪魔になってすれちゃってんのかしらないけどさ!」

ほむら「私のどこが見てられないって言うの?」

さやか「いやだって……まぁその、言いたくないけど、あんたのいっつもボッチ飯でしょ?」

ほむら「……」

ほむら「美樹さやか、寝言も休み休み言いなさい、私のどこがボッチ――」

さやか「昨日、三階の空き教室で食べてたでしょ?」

ほむら「……」

さやか「っていうか、一昨日もその前もその前の日も、毎日あの埃臭い空き教室行って一人で食べてたでしょ」

ほむら「ふん。例えそうだったとしても、それは人を避けるため私が望んでしていることよ。あなたに余計な首を突っ込んで欲しくはないわね」

さやか「いやぁ、それはないわ。二週間くらい前まではトイレで食べてたし」

ほむら「……」

さやか「正直引いたよ。ほんとにいるんだって……でもトイレがお弁当臭いって言われちゃってさ」

さやか「それで涙目になりながらそっと出てきて、次の日からどうすんのかなって思ってたら、二日くらいは教室で食べてて」

さやか「でも何となく居心地悪くなったんだろうねぇ。その後は弁当持ちながら放浪する日々。で、やっと見つけたのが空き教室だもんね」

さやか「いやぁ、あの時は見てる私までほっとしたよ。あ、その時のほっとしたほむらちゃん写真あるんだけど見る? ほれほれ」

ほむら「……あ、あなたは私のストーカーなのかしら?」

さやか「あぁ、別にそういうんじゃないんだけどね。はじめはあんたがお昼になったらいそいそ隠れるように出て行くからさぁ」

さやか「悪巧みしてるんじゃないかって気になって追いかけてっただけ。そしたらトイレに入っていくの見かけてさ」

さやか「その時は何やってるのか分からなくて、そのあと何回か追いかけたんだけど……」

さやか「まさかのボッチ飯だと知ったときには、さすがの私も涙が止まらなかったよね」

ほむら「……」

ほむら「それで、何かしら。あなたが私の友達になってくれるとでも?」

さやか「まぁ、そういうことかな」

ほむら「……健忘症なのかしら? ついさっき前の世界の記憶を持っている以上、敵対せざるをえないとあなたも認めたはずなのだけれど」

さやか「そりゃそうだけどさ。でも今すぐやりあうってわけじゃないでしょ? さすがに今の私じゃ勝てないし」

さやか「それに敵対って言っても、よくよく考えれば私はあんたを倒したいわけじゃないんだよね。まぁ一発くらいは殴りたいけど」

ほむら「どういう意味かしら?」

さやか「そもそもこの世界になる前、私がまどかやなぎさと一緒にほむらのとこに行ったのは、救うためなんだよ。倒すためじゃなくて」

ほむら「……」

さやか「それをあんたが滅茶苦茶にしてくれて、そりゃまぁ腹は立つし一発殴ってやりたいって感じはもちろんあるけどさぁ」

さやか「でも元々はほむらを救うってのが、まどかの願いであり、私の願いでもあるわけです、はい。分かった?」

ほむら「……まぁ、理解できなくはないわね」

さやか「ということで! 魔法少女神まどか様代理人たる大天使さやかちゃんとしてですよ」

さやか「悪魔になっちゃったほむらちゃんを救うべく、まずはその第一弾として、君を涙のボッチ空間から救ってやろうかなとか何とか、まぁそういうことで」

ほむら「なるほど……で、どっちみち私からすれば余計なお世話なのだけれども」

さやか「だからぁ、そういう言い方するなってば」

ほむら「でもまぁ、私がどんなに迷惑がっても、無理やりにでも押し通す気なのでしょうね」

さやか「お、分かってるじゃん」ニシシ

ほむら「……はぁ」

~放課後~

ほむら「美樹さやか。確かに私はあなたと昼食を取ることに、不承不承ながら、納得したわ」

さやか「うん」

ほむら「だからと言って放課後まで一緒にいることは無いと思わないかしら?」

さやか「いいじゃん。力をまどかに返してってほむらを説得するチャンスあるかもだし、悪魔の力を使って何かしないか監視できるし。一石二鳥」

ほむら「私にとっての利点がないのだけども」

さやか「私と一緒にいれること自体がプラスだとは思わないかね? 暁美ほむらくん」

ほむら「言い回しが気に食わない、マイナス100点」

さやか「おおっと、いきなり減点されちゃったかぁ、あっはっは」

ほむら「というか、さっきからあなたのその妙に高いテンションは何なのかしら?」

さやか「……いやなんていうかさ、正直に答えるとあんたとまともに話した記憶が薄すぎて、どう接すれば良いのか分からないんだよねぇ」

ほむら「ならいっそ接しないというのはどう?」

さやか「うん、それはないね」

さやか「そんで、これからどこ行くの? いつもと方向違うみたいだけど」

ほむら「あなたには関係ないわ」

さやか「ま、関係なくても勝手に着いていくからいいけど」

ほむら「……好きにしなさい」

さやか「へいへーい」

~TSUT○YA~

さやか「まさかレンタルDVDとは」

ほむら「何か文句でもあるのかしら? あるなら帰っていただいて結構なのだけれど」

さやか「いや、文句はないけどさ。何ていうんだろ……ほむらはいつもここに借りに来るわけ?」

ほむら「そうね。最近はそれなりに」

さやか「最近?」

ほむら「少なくとも、この世界になってからね」

さやか「なんでまた。新しい趣味探しとか?」

ほむら「そんなところよ」

さやか「ふーん」

ほむら「腑に落ちないかしら?」

さやか「何ていうか、趣味とかそういうの、あんまイメージ無かったからさぁ」

さやか「趣味の欄とかには無難に読書とか書いてる感じだと思ってたし」

ほむら「……そうね。まぁ、当たらずとも遠からずよ」

さやか「?」

ほむら「時間をループしていた頃の私には、趣味に勤しむ時間も余裕もなかったわ」

ほむら「まどかを救うことに必死になっていたから、それ以外のことなんて目に入らなかった」

さやか「……」

ほむら「そのループはまどかが自分を犠牲にすることで断ち切ってくれて、私は私の時間を生きれることになったけれど」

ほむら「そうなってからも考えるのは結局まどかの事だった」

ほむら「本当にあれで良かったのか。本当にあれがあの子が望んだ結末だったのかって。何度も悩んだわ」

ほむら「そして私がアレをして、世界を作り直して、ようやく私なりのハッピーエンドを作れたわけだけれど」

ほむら「そのエンドを迎えた時点で、同時にそれまでの私も終わってしまったのよ。まどかに出会ってから私の人生の軸はずっとあの子だったから」

ほむら「まどかに自分の人生を生きてもらうのが、私の願い。ハッピーエンドを迎えたら、もう私にできることはないわ」

ほむら「それで、まぁ私は私なりに、あの子が自分の人生を生きる間、暇つぶしに自分の人生を生きてみるのも悪くないと思って色々趣味探ししているのよ」

ほむら「これもその一巻ってところね」

さやか「ほむら、あんた……」

さやか「ええ子やなぁ、うんうん」グシグシ

ほむら「美樹さやか、抱きつかないでくれるかしら。さりげに涙を私の制服で拭うのもやめてちょうだい」

さやか「まさか、ただDVD借りる行為にそんな決意が込められていたなんて」

さやか「T○STAYAでDVDを借りる前にこんなに感動させられるとは思わなかったよ」

さやか「そうだよね、あんたも色々頑張ってたんだもんねぇ、うんうん。自分の時間を生きればいいよ」ヨシヨシ

ほむら「そうね、私もそう思うわ。だから今すぐ頭を撫でるのをやめて、離してくれるかしら。歩きづらいわ」

さやか「で、何借りる? 正直、今の話以上に泣けるものはないと思うけどさ」

ほむら「私はこのあなたの汁で汚れた制服を見て、今泣きそうになっているのだけどね」

さやか「あーうん。ごめん。でもまぁそこはさ、ほら、悪魔パワーでささっと、みたいな?」

ほむら「……簡単に言わないで欲しいわね」

さやか「うん? なんで?」

ほむら「力と言ってもそう気軽に使えるものではないのよ」

ほむら「円環の理という一つの法則が乱されて、今この世界はそれなりに不安定になっているわ」

ほむら「システムは機能していると言っても、やはり核となるあの子自身が抜けてしまったのだからね」

さやか「ふむふむ。ってその辺はあんたのせいじゃん」

ほむら「そうよ」

さやか「全く悪びれねーなぁ、オイ」

ほむら「悪魔だもの――と、まぁそれはさておき。そんな不安定な状況でさらに悪魔の力を使って無理に世界をいじくり回そうとすれば」

ほむら「世界の不安定さがさらに進む危険もあるわ」

ほむら「私の目的はまどかの平穏な生活。そのためには世界を維持することも必要である以上、安易に世界に干渉して不安定にしたくはないのよ」

さやか「うーん。まさか制服をちょっと綺麗にするだけで、そこまで大きな影響が出るとは……」

ほむら「あぁ、いえ。制服のクリーニングくらいなら、全く問題はないのだけどね」パチン

さやか「って、問題ないんかーい! っていうか、めっちゃ綺麗になってるし。新品?」

ほむら「……はぁ、無駄なことを話すぎたわ。漫才なら一人でやってくれるかしら」スタスタ

さやか「あ、ちょっと、待ってよ」

さやか「それで、結局どれを借りるわけ?」

ほむら「特に決めてないわ。この棚にあるものはおおよそ見たけれど」

さやか「ってことは今度は隣の棚とか? うむ、ホラー系のコーナーですか」

ほむら「……別にそこの棚である必要はないでしょう」

さやか「でも折角一つの棚制覇したなら、その勢いで隣も行きたくない?」

ほむら「制覇したわけじゃないわ。面白そうなものはだいたい見終わったというだけよ」

さやか「そうなの?」

ほむら「それにホラー物と言ったって、今は私自身が悪魔なのよ。怖がりもできないし、楽しめないでしょう」

さやか「まぁそれは確かにねぇ」

ほむら「はぁ……私は自分で好きなのを見つけてくるから、あなたはその辺で待ってなさい」

さやか「ん? 待ってなさいってことは、待ってて欲しいってことなのかな? ほむらちゃん」

ほむら「帰ってと言えば、帰ってくれるのかしら?」

さやか「帰らないねぇ」

ほむら「じゃあ大人しく待ってなさい」

さやか「へいへーい……」

さやか「ふーむ、しかしレンタルDVDの店っていうの、私も久しぶりに来た気がするよねぇ」

さやか「ほむらほどではないにしろ、私も魔法少女になってからは余裕無かったし」

さやか「円環の理に導かれてから、レンタルDVD店なんか行きようもないしさぁ」

さやか「そういえば前に借りた作品で面白かったのがあったような……えっと、なんだっけ?」

さやか「うーん、思い出せない。記憶にモヤがかかってるような。こう思い出せそうで思い出せない。むずむずする感じがぁ……」

さやか「まぁ、いっか。とりあえず見たことありそうなので適当なのをオススメって言ってほむらに渡してやれば、そこから話が広がるかね」

さやか「と、いうことで、さやかちゃんが見たことありそうなのは……これとか? 何か見たことある気がする。あんまり内容覚えてないけど」

さやか「ま、あとでネットでネタバレとかあらすじとか読めば思い出せるでしょ。よし、私のオススメはこれだ」

ほむら「今日はこのくらいでいいわね」

さやか「ほむらー」

ほむら「……あなたは大人しく待ってるということもできないのかしら?」

さやか「いやいや、ただオススメを見つけたから渡しに来ただけだって」

ほむら「オススメ? あなたの?」

さやか「そうそう。コレ」

ほむら「あなたと私の感性が合うとは、どうしても思えないのだけどね」

さやか「ホント言うよねぇ。でもさすがにちょっと慣れてきたわ。そこは物は試しってことでさ」

ほむら「……まぁ、いいわ。どうせ時間つぶしになれば何でも良いものだしね」

さやか「うんうん。見終わったら感想聞かせてよね」

ほむら「それじゃあ、借りてくるから今度こそ大人しく待ってなさい」

さやか「はいよー」

アリガトウゴザイマシター

さやか「このあとはなんかあるの?」

ほむら「どうするって、帰るだけよ。他に用もないもの」

さやか「ふーん。そうだ、予定ないなら帰る前に喫茶店でも行かない?」

ほむら「私は早く帰りたいのだけれど」

さやか「まぁまぁ、そこは付き合いってことで」

ほむら「付き合う義理はないわ」

さやか「冷たいなぁ。一杯くらいおごるからさ」

ほむら「……どうしてあなたはそこまでして私と一緒にいようとするのかしらね?」

さやか「え?」

ほむら「私が、あなたの言うボッチで、かわいそうだからかしら」

さやか「うーん、どうなんだろ。自分でも分かんない。けど、なぁんかほっとけないんだよねぇ」

ほむら「……そう」

さやか「で、どうする?」

ほむら「いいわ。付き合いましょう」

さやか「そうこなくっちゃ」

~喫茶店~

ほむら「……」モグモグ

さやか「……おいしいですか、ほむらさん」

ほむら「ええ、なかなかおいしいわ」

さやか「値段が一番高いやつございますしね。結構なことでございますよ」

ほむら「好きな物を選べと言ったのはあなたよ」

さやか「そりゃそうだけど、そうだけどさー。何もケーキセットで頼まなくて良くない?」

ほむら「別にこちらから頼んだわけではないわ。あなたが一杯おごるというから、おごられただけだもの」

さやか「一杯だよ一杯。ケーキを一杯って数えますか?」

ほむら「細かいことを気にする人ね」

さやか「中学生の財布にとっては大問題なの! はぁ、今週発売のCDは諦めるか」

ほむら「あなた、まだCDなんて買っていたの? えっと、恭介だったかしら、完全に彼のためだと思っていたけど」

さやか「まぁ影響は受けてるだろうね。でも、それが高じてって言うか、今でもたまに聞いたりするんだよ」

ほむら「……」

さやか「なんですかー、そのいかにも『似合わないなぁ』って顔は」

ほむら「良く分かってるじゃない。似合わないなぁって顔よ」

さやか「かぁー! はっきり言うなぁー。全くもー」

ほむら「……そういえば、あなたはどうなのかしら?」

さやか「どうなのって?」

ほむら「その恭介とかいう男、結局この世界でもあなたとくっつくことはなさそうだけれど」

さやか「あー、うん。まぁそうだろうね」

ほむら「見ていて辛いとかは、ないのかしら」

さやか「なに? 心配してくれてんの?」

ほむら「いえ、ただ話の流れで、何となく聞いてみただけよ。答えたくないならそれでいいわ」

さやか「うーん、さすがにもう辛いとかはないかな。とっくのとうに吹っ切れてる感じだし」

ほむら「そう」

さやか「あんたの方はどうなのさ?」

ほむら「私?」

さやか「特別まどかとお近づきになろうって感じじゃないよね。あれだけ拘って、世界変えてまで自分の所に引き摺り下ろしたのにさ」

ほむら「それは……」

さやか「あー、そっか。コミュニケーション能力ないからなぁ」

ほむら「……」

さやか「人と距離取るコミュニケーションは得意でも、近づくコミュニケーションは苦手そうだもんねー、あんた」

ほむら「例えそうだったとしても、まどかに近づかないこととは別問題よ」

さやか「別問題って?」

ほむら「簡単に言えば、私が近づけばまどかが前の記憶を取り戻すリスクが増えるのよ」

ほむら「最初にあの子に近づいた時、あの子は記憶を戻しかけた」

ほむら「恐らくまどかと円環の理の全ての繋がりを完全に断てたわけじゃない。円環の理としての記憶を取り戻してしまう可能性がある」

ほむら「あの子を引き剥がした私の存在とこの力は、そんなあの子が記憶を取り戻すきっかけになりかねない」

ほむら「私はあの子が平穏な暮らしができてるか監視できる距離を保ちながら、できる限り離れているしかないのよ。少なくとも今はね」

さやか「ふーん。でもさ、折角まどかを取り戻したのに近づけないって寂しくない?」

ほむら「満足しているわ。まどか自身が幸せなら私はそれで」

ほむら「気持ちは分かってもらえるんじゃないかしら? 他ならぬあなたになら」

さやか「……まぁね」

さやか「けどさ、やっぱり救った以上はお近づきになりたいもんじゃないの?」

さやか「私だってその気持ちがないわけじゃないんだよ?」

ほむら「知ってるわ。その気持ちのせいであなたを何度助けようとして徒労に終わったかしれないもの」

さやか「……ま、まぁ過去の話は置いといてですね」

ほむら「あなたが言い出したんでしょう」

さやか「あくまで一例として、だよ! あんたはまどかに近づいて話したいこととかないわけ?」

ほむら「特に無いわ」

さやか「えー、そんなことないでしょ。あれだけ色々やらかしといて、それは――」

ほむら「美樹さやか」

さやか「……はい?」

ほむら「まどかに近づけば記憶が戻るかもしれない以上、どんな思いを抱えていようと私はあの子には近づかないわよ」

ほむら「あなたがそれを狙って色々手を回そうと、絶対にね」

さやか「べ、別にそんなこと狙ってるわけじゃ」キョロキョロ

ほむら「人魚姫は目を泳がすのもお上手なようね。分かりやすくて助かるわ」

さやか「……」

さやか「ま、まぁ、この話は今度するとして」

ほむら「何度しても乗る気はないのだけどね」

さやか「う、うん。まどかはそれで良いとしても、他の友達を作らない理由にはならなくない?」

ほむら「作る理由も無いわ」

さやか「そりゃそうかもしれないけどさー。でもあんたって実は結構寂しがり屋じゃん?」

ほむら「……」

さやか「違うの?」

ほむら「どこからそういう発想が出てくるのかしら。全く理解ができないわ」

さやか「だって、あんたの魔女の結界の中で、みんなでダンスさせられたり歌わされたりしたし」

ほむら「ぶっふ」

さやか「あ、ちょっと! なに噴出してんのよ。大丈夫?」フキフキ

ほむら「あ、あれは、ち、ちが……わ、私の……」

さやか「声かすれてるしさ。ちょっと落ち着きなって。顔真っ赤だよ?」

ほむら「……」

ほむら「……」フキフキ

さやか「いや、悪かったって。だから布巾で同じ場所拭いてないでさ、いい加減に機嫌直してよ。黒歴史に突っ込んじゃったことは謝るからさぁ」

ほむら「美樹さやか、さっきも説明したけれどあれは黒歴史ではないわ。というより、あれはあくまで魔女話であって、私の――」

さやか「あーうん、分かった分かったってば。ちゃんとさっき聞きましたよ」

ほむら「……」

さやか「まぁあんたの言うとおりだったとしてもさ、でもやっぱり友達が全くいないより、何人かはいた方が都合良いんじゃないの?」

ほむら「どういう意味かしら?」

さやか「だってほら、こうやって私に捕まってるのだって、そもそもはあんたがボッチ飯してたのが原因じゃない?」

さやか「まどかに近づかないようにってことは、向こうからも来られたくないんでしょ?」

さやか「じゃあ一人ぼっちでいて変に目立っちゃうより、まどかと別の友達グループに入ってた方が都合良いんじゃないかなってさ」

さやか「まどかってほら、人のために神様にまでなっちゃうような性格だし」

さやか「このままボッチだってばれたら、まどかの方が心配して話しかけにきたりするんじゃないの?」

ほむら「……あなたにしては、まともな指摘ね」

さやか「それはどうも」

ほむら「けれど、私には友達グループなんて無理よ」

さやか「なんでさ?」

ほむら「今この時期からグループに割り込んでいくようなコミュニケーション能力がないもの」

さやか「結局そこじゃん!」

ほむら「仕方がないでしょう? 長い間入院生活で同年代の子と話す機会も少なかったのだし」

ほむら「退院してからできた友達はまどかと、まどかの紹介で出会った人がほとんどだったもの」

ほむら「ループに入ってなれ始めてからは、むしろどうやって一定の距離を保つかということを考えるようになっていったもの」

ほむら「まぁ、さっきあなたが言ったとおり、私は距離を取るコミュニケーションは得意でも」

ほむら「あなたみたいにずけずけと人の心に土足で乗り込んでいくコミュニケーションは得意じゃないのよ」

さやか「さりげに人聞き悪い言い方をするなっての」

ほむら「その点あなたは得意そうね。そこは素直に羨ましく思うわ」

さやか「まーね。普通にしてれば自然と友達ができちゃうんだよねー。やっぱみんなさやかちゃんの魅力に惹かれてるのかな?」

ほむら「ふむ、そういう鬱陶しさ――いえ、ウザさもコミュニケーションには重要なのかしら?」

さやか「ねぇ、言い直した意味ある? 鬱陶しいをウザいに言い直した意味ある?」

ほむら「まぁそれは置いといて」

さやか「あーはい、置いときますか……」

ほむら「あなたのコミュニケーション能力が羨ましいのは本当よ。まどかとも転校してすぐ仲良くなっていたようだし」

さやか「記憶が無くなろうと状況が変わろうと、まどかはまどかだからね。私とは根本的なところで気が合うんだよ、きっと」

ほむら「そういうものかしら?」

さやか「あんたの方はどんどんまどかと疎遠になっていくよね。まぁわざと距離を置いてるってのはさっき聞いたけどさ」

さやか「まどかも最初の頃ほむらちゃんって読んでたのが、いつの間にかほむらさんになってるし」

さやか「それがあんたの作戦だっていうなら、確かに成功してるよね」

ほむら「……」

さやか「うん? どうしたの?」

ほむら「……さん付けなの?」

さやか「は?」

ほむら「まどかは私のこと、さん付けで呼ぶの?」

さやか「そうだけど。もしかして知らなかった?」

ほむら「初耳だわ……そういえば最後にまどかと会話したのっていつ……まどかがさん付け……」

さやか「おっとぉ、これはほむらちゃん、意外と大ダメージなのかな?」

ほむら「」ションボリ

さやか「っておいおい、結構本気でしょんぼりしちゃってんじゃないのよ……」

ほむら「……」

さやか「ま、まぁまぁ。ほむらさ、元気だしなって。ほら、今は私がいるし? ほむらだって一人じゃないよ」

ほむら「」ジー

さやか「うん? どしたの、いきなりこっち見つめて……あの、ちょっと不安になるんだけど」

ほむら「はぁ……」ガックリ

さやか「ちょ、なんでいきなり私の顔見てがっかりしてんのよ!」

ほむら「いえ、あなたを見ていると無性に自分が恥ずかしくなるのよ」

さやか「なにそれ? どういうこと?」

ほむら「はぁ、これがまどかだったら……」

さやか「くぅー、そんなにか! そんなにまどかとは違うのか!」

ほむら「当たり前でしょう。あなたじゃまどかの代わりになんてなれないわ」

さやか「いや、まぁそりゃ知ってたけどさ、うん」

ほむら「まどかがあなたの代わりにはなれないようにね」

さやか「……ほむら、さん?」

ほむら「まぁ、いいわ。これも全て私の自業自得だもの。受け入れましょう」

ほむら「まどかがさん付けで呼ぶことも、あなたの存在も」

さやか「だから、何なのその並ばせ方は?」

ほむら「さてと。そろそろ時間も時間だから、私は帰るわ」

さやか「あぁ、そうだね。私も帰ろうっと」

ほむら「……」

さやか「うん? どうした?」

ほむら「家までついて行くとか言い出すんじゃないかと思って身構えてたのよ」

さやか「さすがにそこまではしないって。それともついてって欲しいわけ?」

ほむら「お断りするわ。半日もあなたと顔を突き合わせれば充分よ。もう飽きたわ」

さやか「言いおりますなぁ……ま、私の方でも無理なんだけどね。今日お父さんもお母さんも出かけちゃうから」

さやか「杏子に夕飯作ってやらないと」

ほむら「そう。では、ここでさよならね」

さやか「はいよ、また明日」

~ほむホーム~

ほむら「……ただいま」

ほむら「ふぅ、今日は久しぶりに疲れたわ。まさか美樹さやかがあそこまで絡んでくるとは思わなかったし」

ほむら「さて、夕飯は昨日買ってきた冷凍のものを適当にレンジで温めればいいとして」

ほむら「早速、借りてきたDVDを見ようかしら。結構まとめて借りてきたし、今から見ないと返却期限までに観終われないかもしれないし」

ほむら「えっと、それじゃ最初に見るのは……これ、確か美樹さやかのおすすめって言っていた作品ね」

ほむら「まぁ、いいわ。これから見ましょう。それじゃ、再生を」

ピッ

~さやかホーム~

杏子「さやかー、飯まだー?」

さやか「もうすぐだよ」

杏子「おー。で、何作ってんの?」

さやか「ハヤシライス」

杏子「ハヤシライス? あれ、確か一週間前に作ったのもハヤシライスじゃなかったっけ?」

さやか「いや、あれはカレーライス」

杏子「似たようなもんじゃん」

さやか「なによ、文句あるってのかい?」

杏子「いや全然。むしろ大好きだし」

さやか「じゃあ、いいじゃん」

杏子「あぁ、さやかの料理は何でもうめーからなぁ」ギュッ

さやか「あーこら、後ろから抱きつくな。火ぃ使ってるんだから、危ない」

杏子「はー、おいしかった。ごちそうさん」

さやか「お粗末さまでした。それじゃ、ちゃっちゃと皿片付けちゃいましょうかねー」

杏子「それくらい私がやるよ?」

さやか「……いや、あんたすぐ皿割るからいいわ」

杏子「任せときなって。今回は絶対割らねーから」

さやか「何でそんなに自信満々なのよ」

杏子「私この間、まどかとマミと一緒にDVDで拳法練習してきたんだよねー」

さやか「は? 拳法?」

杏子「そそ。マミがさ、護身とダイエットをいっぺんにできて一石二鳥だとかで買ったんで一緒にやろうって話になってさ」

杏子「これが意外に本格的っぽくて、瞬発力と反射神経が鍛えられたような気がして、こうサササッと効率よく動けるようになったような気がするんだよ」

杏子「体幹やバランス感覚も鍛えられた気がするし、万が一手が滑ってもササッと落ちる前にキャッチできる気がするしさ」

さやか「それ、全般的に気がするだけなのでは……?」

杏子「大丈夫大丈夫、この動きを見ろよ。極めればほとんど触れるだけで岩をも粉砕する拳法の極意だぜ!」

さやか「……いや、お皿は粉砕しちゃダメだから」

さやか「はい」

杏子「あいよ」フキフキ

さやか「これ、ラストね」

杏子「ほいさ」フキフキ

さやか「よし、終わりっと。はーあ」アクビ

杏子「……さやかさぁ、疲れてんの?」

さやか「うん? なんで?」

杏子「何となく眠そうだし」

さやか「そっかな? そうかも。今日は慣れない空気吸いっぱなしだったし」

杏子「慣れない空気って、暁美ほむらのこと?」

さやか「まぁね」

杏子「最近ずっと気にかけてる感じだな。何かあったわけ?」

さやか「うーん……説明しづらいものがあるなぁ」

杏子「何だよぉ、隠し事かよぉ。そんなことなかったじゃんか」

さやか「いや、私にだって隠し事の一つや二つあるでしょうよ」

杏子「え、そうなのか? 聞いてないぞ、おい」

さやか「そりゃ隠し事ですから」

さやか「そうだなぁ。杏子さ、例えば、例えばだよ? もしこの世界がついこの間作り直された世界だったとしてさぁ」

杏子「うん? 作り直された世界?」

さやか「まぁいいから。それでね、自分だけは作り直される前の世界のこととか、それに関する記憶を持っていて、他の人たちはみんなそのことを忘れててさ」

さやか「それで自分一人、孤独でいるしかなくなっちゃったとしたら、どう思う?」

杏子「えー、そりゃまぁ、寂しいって思うんじゃねえの?」

杏子「なんつーか、話の内容は良く分かんないけどさぁ、理解者も見守ってくれる人もいなくなって、自分一人ってのは結構辛いもんだよ」

さやか「だよねぇ――それじゃあさ。もし、そんな状況の中で唯一理解者になってくれそうな人がいたとして」

さやか「でもその人が、ほとんど確実に将来敵になるだろうって人だったらどうよ?」

杏子「どうって?」

さやか「仲良くしようって思う?」

杏子「仲良く……いや、そんなの、分かんねーよ。そんな状況になったことねーし」

さやか「あはは、だよねー。ごめんごめん」

杏子「ってか、だからそもそも何の話なんだよ、これ」

さやか「なんでもないよ。なんでもない、なんでもない」

杏子「……?」

さやか「それじゃ、私は先にお風呂入ってくるから」

杏子「おぉ、じゃ一緒に入ろうぜー」

さやか「嫌です」

杏子「なんでだよー。別にいいだろ、女同士なんだから」

さやか「あんたと入ると落ち着いてらんないのよ。すぐ抱き着いてきたりするし」

杏子「背中流してやるから」

さやか「自分でやるからいい。それじゃ、お先」

杏子「チェッ、つれないなー。テレビでも見るか……」

~お風呂~

さやか「はぁ、明日からどうするかなぁ。ほむらは結構迷惑そうに見えたけど、あいつ一人で抱え込むところあるからなぁ」カラダゴシゴシ

さやか「一応、そういうことなんだと思ってたけど……うーん、やっぱ今のほむらの考えることなんてよく分かんないよ」

さやか「あるいは私の中でスーパーな力が覚醒して、無意識の内に取り戻したって可能性も――」

ほむら「良く分からないけど、それはないと思うわ」タッチ

さやか「うわああああ! 何! 誰! うっはあああ、びっくりしたー!」

ほむら「いきなり暴れたらあぶないわよ」ササッ

さやか「って、ほむら! 何でなんでに?!」

ほむら「驚いてくれたかしら?」

さやか「そりゃ驚くわよ! っていうか何してくれちゃってんの? 心臓止まるかと思ったわ!」

ほむら「ふっ、作戦成功ね」

さやか「何の作戦よ……っていうかここお風呂なんですけど?!」

ほむら「知っているわ。だからこうしてちゃんと服を脱いで、バスタオルを巻いて」

さやか「そうじゃなくて、ここは私んちのお風呂なのに何であんたがここにいんのよってことを訊いてんの!」

ほむら「あぁそのこと。それは今は横に置いておきましょう。ほら、背中流してあげるわ」

さやか「無理だから。こんなどでかい問題を横に置きながら素直に背中流せるわけないでしょ」

ほむら「そこは背中を流されるとともに、話も流してくれるのが友達ってものじゃない?」

さやか「友達って言葉を便利に使うな。そして、大してうまくもない」

さやか「っていうかあんたね――」

ドタドタドタッ

バタンッ

杏子「さやかぁ大丈夫かぁ! ダイエット拳法で今助けて――」

さやか「あっ……」

ほむら「あら」

杏子「暁美ほむら、なんでここに……」

さやか「きょ、杏子、いや、これには事情が、えっと……ほむら、黙ってないでちゃんと説明しなさいよ!」

杏子「さやか……お前……」

さやか「杏子、さん……?」

杏子「私とはお風呂に入れないってのに、ほむらとは入れんのかよー。うわー」ダーッ

さやか「え、うん、そこ? って杏子! ちょっと待って!」

ほむら「なかなか良い走りね。県大会狙えるんじゃないかしら?」

さやか「あんたもそこじゃないでしょうが!」

さやか「はぁ、まぁ杏子にはあとで説明するとして……で?」

ほむら「で、とはなにかしら?」

さやか「何でここにいるのかって訊いてんのよ」

ほむら「別に特別なことじゃないわ」

さやか「この状況がすでに特別なんですけど」

ほむら「レンタルDVD」

さやか「は? DVD?」

ほむら「そう。その感想を聞かせて欲しいと言っていたでしょう?」

さやか「うん? あぁ、確かに言ったけど、それが?」

ほむら「見終わったので聞かせにきたわ」

さやか「……感想を、聞かせにきたってこと?」

ほむら「えぇ」

さやか「この時間、お風呂に入ってる私に?」

ほむら「そうよ」

さやか「本当にそれだけ?」

ほむら「それだけよ」

さやか「……あんたさぁ、前から分かんないやつだとは思ってたけど、ホントマジで何考えてんの?」

さやか「はぁ……いや、まぁいいわ。じゃあ、感想言い終わったら帰ってくれるわけね?」

ほむら「そういうことになるわね」

さやか「で? どうだった?」

ほむら「えぇ、最高によく出来たホラー作品だったわ」

さやか「ホラー? あぁ確かホラー作品コーナーから探したんだっけ。ふーん、それで?」

ほむら「設定、物語、演出、あらゆる面で人の恐怖心を呼び起こすようなものばかりで、見ているだけで背中に寒いものが走るようだった」

ほむら「正直、途中で見るのを辞めたくなって何度も消そうかと思ったのだけれど、どうしても続きが気になって見るのをやめられないのよ」

ほむら「そして、私は最後まで見終わった。けれど、見終わってからもなんとなーく後ろに気配を感じていて、それが離れないのよ」

ほむら「あと何故だか聴覚が異様に研ぎ澄まされて、冷蔵庫のジーって音とか、遠くで吠える犬の鳴き声とかがやけに気になり始めて――」

さやか「要するに一人でいるのが怖くなって家に来たと?」

ほむら「……そうは言ってないでしょう。私はただ」

さやか「怖かったんだよね?」

ほむら「あ、悪魔がホラー作品ごときで怖がるわけないでしょう?」

さやか「じゃあもう帰ってくれる? 感想はもう良い終わったわけだし、ここにいる理由ないでしょ?」

ほむら「それはそうなのだけれど、あー、えっと……」

ほむら「あぁ! それじゃ良い映画を紹介してくれたお礼に、私が最近見て面白かった映画ベスト100を紹介するわ。まずは第100位――」

さやか「怖かったんだよね? 暁美ほむらさん?」

ほむら「……ま、まぁ、そういうことにしておいてもいいわね」

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