【ガルパン】 杏「西住ちゃん」 (118)


※劇場版微ネタバレ注意
※スピンオフ未読

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あたしは、秋が嫌いだ。
あたしの誕生日は一月一日で冬だし、あたしの名前にもなってる植物の杏が実をつけるのは初夏のころ。杏の花に至っては春に咲き誇る。
別にそんなことは理由ではないが、とにかくあまり好きになれない。暑くて大変な夏が終わるのは結構なことなのだが、秋になるとなんとなく寂しい気持ちになるのだ。
小学校のころ、同じクラスのうるさい男子が、親の都合で引っ越してしまった後に似ている。
別に構わないのだが、なんとなく心に穴の開いたような気分になる。
だからあたしは、秋が嫌いだ。

今あたしは、紅葉を眺めながら散歩をしている。

いつになく、生徒会の仕事が早く終わったんだよね。

大学選抜戦からこっち、廃艦の撤回の撤回の撤回なんていう未曽有のややこしい事態に巻き込まれたせいで、生徒会はとんでもなく忙しかったんだけど、ようやく落ち着いてきたんだ。

河嶋から、一緒に帰ろうって誘われたんだけど、なんとなく断っちゃった。

秋は嫌いなんだけど、秋になるとなぜだか紅葉を見ながら散歩したくなる。

嫌いなのにそんなことをしたくなるって心理は、でっかい石をひっくり返して、その裏にいるであろう虫を見たくなっちゃう気持ちに似てるかもね。全く似てないかもしれないけど。

そんなことを考えながらぶらぶらと歩いていると、見覚えのある後姿が目についた。

いつものパンツァージャケットと違っていやにひらひらした服を着てるけど、あの栗色の髪となんとなく危なっかしいふわふわした雰囲気は間違えようがない。

「西住ちゃん」

あたしの声を聴いた西住ちゃんは、ゆっくりとこっちを振り返り、ぱっと表情を明るくしながらお辞儀をしてくれた。

「あ、こんにちは、会長!」

いやいや、そんなにかしこまってお辞儀なんてしなくっていいって。さっきまで戦車道の授業で会ってたじゃん。

「かわいい服着てんねー。もしかして、デートだったり?」

「ち、違います! ただ、夕飯を買いに行こうと思って・・・」

なんだ、それだけか。

つまんないような、ほっとしたような。妙な気持になったあたしは、もう少し西住ちゃんに突っ込んでみることにした。

「それにしてはかわいい服じゃん。何買いに行くの?」

「え、えっと、それは・・・」

にひ。やっぱり。なんか隠してるねぃ。

「いーから言ってみ。誰にも言わないからさ」

「・・・その、コンビニに・・・、お弁当を、買いに行こうと」

あちゃ、そっち方面の恥ずかしがり方だったか。

別にコンビニ弁当買いに行くとこ見たからって、ずぼらだなんて思わないのに。

それにしても、コンビニにしては嫌に気合の入った服に見えるけど。どこか世間とずれてるのも西住ちゃんが天才たる所以なのかもねえ。


・・・あ、そうだ。

いいこと思いついた。

「そっかそっかー。でもね、コンビニ弁当なんか食べてると、大きくなれないよ」

「ええ!?」

「今、こいつにだけは言われたくないって思ったっしょ」

「い、いいえ! そんなことはないです!」

「ほんとかなー? ま、いいや。というわけで、あたしが西住ちゃんの家にご飯を作りに行
ってあげよう!」

「え・・・。えええ!?」

驚いた様子を見せる西住ちゃん。まあ、当然だよね。あたしたち、別に個人的にそんなに付き合いがあるわけでもないし。

だけど、なんか西住ちゃんってほっとけないんだよね。おいしいもん食べさせてあげたいっていうかさ。

「悪いです! いいです!! あの、わたし、いつもコンビニ弁当なので、免疫ついてますから!!」

「いや、それだとなおの事ダメでしょ。遠慮しなくっていっからさー」

ていうか、免疫って。普通にコンビニに失礼でしょ。

さっきけなしたあたしが言えたことでもないけど。

「ほ、ほんとにいいんですか・・・?」

「いいっていいって。あたしも暇だしさー。食材とかある?」

「ええっと・・・。ケチャップとマヨネーズならありますけど」

「うん、買い出しからいこっか」

やっぱり、声かけて正解だったみたいだね。


~~~~

~~~~

「ほい、召し上がれー」

コンビニのご飯に慣れてる西住ちゃんには基本的な家庭料理を食べてもらう方がいいと思って、サバの味噌煮にきんぴらごぼう、おひたし、味噌汁にご飯という定食屋みたいなメニューを作ってみた。おしゃれなメニューじゃないけどね。

反応が気になって西住ちゃんの方を見ると、なんだか目を真ん丸にしてこっちを見ている。なんかやらかしたかな。

「どったの西住ちゃん。嫌いなもんでもあった?」

ピーマンは、入れてないはずなんだけど。

「い、いえ! その、会長が、本当にわたしのために普通の料理を作ってくれるなんて思わなくて・・・」

「あのねえ西住ちゃん。あたしのこと一体どういう風に思ってんの?」

「す、すみません!」

「いーから食ってみ。ほれ。おいしいからさ」

「い、いただきます」

美味しくできてるはずだけど。大丈夫かな・・・。

家庭科は全般的に大得意のあたしだけど、やっぱり料理を人に食べてもらうときはちょっと緊張する。

人によって味の好みもあるからねえ。

でも、西住ちゃんの顔を見てると、そんなあたしの心配が杞憂だとすぐに分かった。

「ううん、おいしい! 会長って、本当に料理がお上手なんですね!!」

「にひひ、でしょー。あたしも食べよっかなー。いっただっきまーす」

うん、おいしい。味見はきちんとしてたけど、やっぱり食卓に並んでるのを誰かと一緒に食べるのが一番おいしく感じる。

食べながら、あたしは西住ちゃんと他愛もない話をした。

思えば、こんな風に西住ちゃんと雑談するのは初めてかもね。

武部ちゃんがゼクシィのために新しく本棚を5つ買い足した話はさすがにドン引きしたけど。
あの子はどこに向かってるんだろう・・・。

でも、料理が八割方無くなるころにはそんなお馬鹿な話は尽きてきて、徐々に真面目な話にうつっていった。

この冬に復活する無限軌道杯をどう戦っていくのか。そして、来年以降の大洗の戦車道をどうしていくのか。

そんな中、西住ちゃんがある話題を口にした。

「来年といえば、会長と副会長、それから河嶋先輩はもうすぐ生徒会の任期が終わっちゃうんですよね」

「ん・・・。そだねー」

当然知ってはいたけど、あたしたちが目を背けていた話題。

目の前の仕事で精一杯なふりをして、三人とも見ないようにしてた。

そりゃ、そんなことしてたら、目の前の仕事がなくなると見えちゃうよね。

「まあ、大変だったからなー。ようやくってところかねぃ」

心にもないことを口にしてお茶を濁してみる。まあ、こんな話題掘り下げてこないだろうし。適当に返しとけば次の話題にうつるっしょ。



あたしのそんな見通しが甘かったことに気付くのは、本当にすぐ後の事だった。


「会長、本当にお疲れさまでした。それから・・・、ありがとうございました」

西住ちゃんが謎のお礼を言ってきた。恨まれこそしても、そんなお礼言われるようなことしたっけな・・・。

別の話題にうつろうとしてたはずなのに、あたしからこの話題を掘り下げたくさせるんだからなあ。西住流ってやっぱりヤバいね。

「あんがと。で、それは何に対するありがとうございましたなの?」

「それは・・・。わたしの大好きな大洗を守ってくれたことと、わたしを戦車道に戻してくれたことです」

大好きな大洗を守ってくれた、か。

守ってくれたのはあたしじゃなくてむしろ、西住ちゃんだったような気がするけどね。

「大好きなって、西住ちゃんはあのとき転校してきたばかりだったじゃん。それに・・・」

「時間は関係ありません!」

西住ちゃんが真剣な顔になってこっちを見つめる。

なんとなく、ぎくりとした気分になって。あたしは何も言えずに西住ちゃんの顔を見つめ返した。

「・・・確かに、最初は戦車道がないってだけで選んだ学校でした。だけど、沙織さんや華さん、優花里さん、麻子さん。それから、会長たち生徒会の人や戦車道の皆さん・・・。
みんな、暖かくて、面白くて、大好きで。時間は短かったかもしれないけど、わたしにとっては、大洗は本当に大事な学校になったんです。
その学校を会長たちが守ってくれたので・・・。本当に、ありがとうございました!!」

・・・声、大きいって。

なんとまあ、こんな風に言われると、会長冥利に尽きるっていうか・・・。うん、ジーンときたよね。

あたしがまた何も言えないでいると、西住ちゃんは何を勘違いしたのか慌てて

「あ、ご、ごめんなさい! わたし、一人で舞い上がっちゃって・・・」

なんて謝ってきた。

いやいや、勘違いだって。この状況で怒るってあたし心狭すぎるでしょ。

・・・でも、あまりに卑屈すぎるよね。西住ちゃんのおかげで大洗は廃校にならずに済んだってのに。


そんな態度に無性に腹が立ったあたしは、

「西住ちゃん」

思わず、

「は、はいっ! なんですか?」

やめときゃいいのに、

「あたしの生徒会の話・・・、聞いてくれるかな」

話し出してしまったんだよね。

後から思うと、本当に間違いだった。そんな重い話する席じゃないんだよー。楽しい楽しいご飯会なんだよー。

そんなことするから、それが起こっちゃうんだよね。


あんなことが、さ。

もうご飯も食べ終わっちゃって、早く後片付けをしなきゃって時なのに。

あたしの話は止まらなかった。

この間、西住ちゃんを生徒会室に呼び出した時に話したような話から始まり、小山と河嶋とあたしの三人しか知らないようなこと。果てはあたししか知らないような話まで。

いくら話しても話しつくせないくらい、あたしにとって生徒会は大切なもので。

あたしたちが過ごした三年間。いいや、まだ二年半くらいか。その時間はあまりにも長かったんだよね。

だけど、これをそのままぶつけても、西住ちゃんは困惑するだろうから。


あくまでも、笑い話として話してあげないとね。


「・・・って感じでさあ。まあ、生徒会ってのは大変なわけよー」

「そうだったんですか、そんなことが・・・」

あくまでも、笑い話として。

「だからねえ、終わりに近づいちゃっても、寂しいって思いよりもやっと終わったかーって思いの方が・・・」

笑い、話として・・・。

あれ? なんでだろう。この先の声が出ない。ここらで話を落としにかかる流れのはずなのに。

「会長・・・!」

あれ? なんで西住ちゃんがそんな険しい顔してこっちに近づいてくんの?

え、待って待って待って。



なんであたしを抱きしめようと―――。


「心にもないこと、言わなくていいんですよ。・・・寂しいのは、当然ですから」

「に、西住ちゃん? あたしは、別に・・・」

おお、やっと声が出た。西住ちゃんってば、さえずりの蜜か何かなのかな。


・・・ん? あたしの声、なんでこんなに震えてんの?

「ほら、無理して強がるから。・・・泣いちゃってるじゃないですか。いいんですよ。寂しいときは・・・、つらいときは、つらいって言っても」

・・・え?

あ・・・。ほんとだ。

あたし、いつの間にか泣いてたんだ。

だから声が出なかったんだねぇ。

だから、あたしは今、西住ちゃんに抱きしめられてるのか。


・・・だから今、西住ちゃんにすがりついて大泣きしちゃってるのか。

「に、にしずみちゃ・・・っ、ごめ・・・」

「全然、いいんです。つらいときは、泣いちゃった方が・・・。後ですっきりしますから。思う存分、泣いてください」

・・・そんなこと言われちゃったら、止まらないじゃん。

まずいなあ、まだ会長なのにさ。威厳も何もあったもんじゃない。

だけど・・・。もう、言っちゃった方がすっきりするのかな。

「あたしね・・・、もうすぐ、生徒会が、終わりだって・・・。考えないように、してたんだけどさ。だけど、ふとした瞬間に、考えちゃって」

「そのたびに、胸が、張り裂けそうに・・・。寂しいし、終わってほしくないし、あたし」

あーあ、言っちゃった。

いよいよあたしの威厳も地に落ちたね。明日からどんな顔して西住ちゃんに会えばいいんだろ。

・・・だけど、西住ちゃんは、そんなあたしの情けない言葉を、特に否定も肯定もせず。

うんうん、と頷きながら、いつまでも聞いてくれて。

その度にあたしは涙を流して。

西住ちゃんが頭をなでてくれて。

ようやく落ち着いたころには、もう水分が枯れて涙が出なくなっていたんだ。


~~~~

「ありがとうございます、ご馳走してもらったのに、後片付けまで手伝ってもらっちゃって・・・」

「何言ってんの。あたしも一緒に食べたんだから当然じゃん」

あたしが落ち着いてしばらくしてから、西住ちゃんと一緒に後片付けをした。

時間が経ってたから皿の汚れはちょっと落ちづらかったけど。ぴかぴかに磨いたからいいよね。

しっかし、後片付けしながら思ったけど・・・。西住ちゃんって戦車から降りるとほんとに危なっかしいよね。

皿は割りそうになるし、自分の家なのに壁に頭ぶつけそうになっちゃうし。

いちいち大丈夫なのかなって思っちゃうね。


・・・そんな危なっかしい子に縋り付いて泣きじゃくってたのは、あたしなんだけどさ。

「あ、もうこんな時間かー。そろそろお暇しよっかなー」

「そうですか。・・・もう遅いですから、お気をつけて帰ってくださいね」

「近いから大丈夫大丈夫ー。・・・西住ちゃん」

「はい?」

「ありがとね、話聞いてくれて」

偽りのない、あたしのかっこ悪い部分を受け入れてくれて。

「いえ、全然です。・・・わたしも昔、お母さんに厳しく指導されてつらいとき、よくお姉ちゃんに抱き着いて泣いてました。ああやると、すっきりしますから」

「・・・そう言ってくれると、助かるよ。あと、出来たら今日のことは」

あたしが不安そうにしてるのを知ってか知らずか、西住ちゃんは少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら約束してくれた。

「はい。みんなには内緒、ですね?」

女同士の約束だからね。頼んだよ、西住ちゃん。


あたしが家に着く頃には、もう九時を回っていた。

明日も早いのに・・・。勘弁してよ、もう。

これじゃ生徒会が忙しいときとそんなに変わんないじゃん。

まあ、今日の場合は仕事じゃなくて遊んでたみたいなもんだからあたしが悪いんだけどさ。一日が短すぎるんだよね、大体は。


そんな風に心の中でぼやきながら、あたしはいつものようにお風呂に入っていつものように歯を磨き、いつものように身支度をして布団に入ったんだけど。

布団の中に入ったところで、なんとなくすっきりした気分でいる自分に気が付いた。

いつも、生徒会で大変な時は、身も心もすっかり疲れていて。

確かに生徒会で忙しくしてるのは楽しいっちゃ楽しいんだけど、すっきりするもんではないよね。

今日一番特別だったのは・・・。



『つらいときは、泣いちゃった方が・・・。後ですっきりしますから』



あれだよね、やっぱり。

すごいね、西住ちゃんは。あたしったら、ほんとにすっきりしちゃってるんだもん。

こりゃ西住ちゃんにはまた干し芋でもあげないとね。


こんなにすっきりしているんだからすぐに眠れるはず。

そう思って、布団に身を任せてみたんだけど。

・・・なんで眠れないかなー。

いつもはこんなにすっきりしてないけど、すぐに眠れちゃうのにな。

なんだか顔が熱いんだよね。暖房なんてまだつけてないのに・・・。

風邪ひいて熱でも出たのかな。喉なんて全然痛くないんだけど。

いつから顔が熱いんだろう。



「・・・あ」

そこまで考えて、思わず声が出た。

さっき、西住ちゃんのことを考え始めてから顔が熱いんだ。

この感情を、あたしは知ってる。だけど・・・。



「なんで・・・?」

この感情って、普通かっこいい男に抱くもんじゃないの?


確かに、戦車に乗ってる西住ちゃんはかっこいいけどさ。

基本的には、何の変哲もない女の子だよね。いや、まあ、あれだけの戦車の天才捕まえて、何の変哲もないなんて、何様だって話だけどさ。

ないない。フツーにありえない。

考えるのやーめよ。絶対それはないから。

・・・でも、顔は熱い。

胸の音も、なんだか騒がしくなってきてるしさ。今から寝るんだから静かにしてよね。



・・・結局あたしはその日、ほとんど眠れず。

その感情の正体にも、結論は出せなかったんだ。


とっくに、それが何かなんて分かっていたくせに。

とりあえず今日は以上になります。

台本形式で軽いみほ杏を書こうと思ったのに・・・。
どうしてこうなった。

地の文形式は読むのも書くのもわりと大変ですが、お付き合い願えればと思います。

それでは、また明日。

こんばんは。

遅くなってしまい、申し訳ありません。
本日分投下します。

あの日、西住ちゃんの部屋で一緒にご飯を食べてからしばらく経って。

いよいよあたしたちの任期も残り少なくなってきた。

もういくらもないんだし、一生懸命仕事やんないとね。

そんな風に思って、仕事にいそしんでたんだけど・・・。


「・・・長・・・・・、会長!」

「え、あ、なに河嶋?」

「いえ、この書類にもサインをいただこうかと」

「はいほーい。ああ、これね」

「あのー会長、この書類のチェックはしていただけましたか?」

「ん、どれ? 小山。・・・げ、すっかり忘れてた。すぐやるからちょい待ってて」


なんだかうまくいかないんだよね、最近。

・・・まあ、なんでうまくいかないのかなんて、わかってるんだけどさ。


あの日から、西住ちゃんのことが頭から離れないんだよね。

一緒の空間にいるとつい目で追っちゃうしさ。

最近では気を抜くと、一日中西住ちゃんのことを考えてることだってある。

最初は、あの日のことばかり考えてたんだけど。

だんだん、今までにあの子があたしたちのために成し遂げてきた色んなことを思い浮かべるになってきて。

今ではもう、西住ちゃんの一挙手一投足を思うだけで顔が熱くなって、胸が高鳴るようになってきた。

・・・このままじゃあたし、どうなっちゃうのかな。


「会長? チェック終わりましたか?」

「ああ、うん。終わったよん。問題なさそうだねぇ」

「ありがとうございます。ええと、あとはあれをしないといけないよね・・・」

小山も河嶋も、忙しそうにしてる。

当然か、跡を濁したくないのはみんな同じだもんね。

呑気に他のこと考えてるのは、あたしだけかぁ・・・。


「会長、そろそろお時間です」

「おー、もうそんな時間か。じゃ、格納庫いこっか」

戦車道の時間。

西住ちゃんに、会える時間。


「みんな揃ったか? ・・・では、西住。今日の練習メニューを」

河嶋に促されて、西住ちゃんが話し始めた。

今までぽんやりした表情を浮かべてたのに、急にきりっと顔を引き締めるあたりはやっぱり流石だね。

「はい。今日は、紅白戦をやりたいと思います。赤チームは、あんこうチーム、カバさんチーム、アヒルさんチーム、アリクイさんチーム」

「白チームは、ウサギさんチーム、カメさんチーム、カモさんチーム、レオポンさんチームでいきます」

西住ちゃんとは別のチームかぁ。・・・まあ、いいんだけどさ。


「ルールは殲滅戦ルールです。赤チームの隊長はわたしが。そして白チームの隊長は・・・。澤さん、お願いします」

「あ、あたしですか?」

「はい。来年以降のことも考えて、経験しておいて損はないと思います」

「わかりました、西住隊長!」

澤ちゃんが目を輝かせた。

まあ、確かに次の代の副隊長候補筆頭だもんね。全体の指揮とる経験もしとかないと。

・・・でも、あんなに嬉しそうに西住ちゃんのことを見つめる必要はないんじゃないかなー。

「それでは今から30分間作戦会議の時間をとります。その後、速やかに初期位置についてください。では、各組に分かれて作戦会議、開始してください!」

おっとと、会議を始めないとね。

その音頭を取るのは、澤ちゃんの役目だけどさ。

作戦会議が終わって、あたしたちは初期配置についた。

会議で澤ちゃんが考えた作戦はこんな感じ。


まず、森に全チームが隠れて待機する。

そうすると、西住ちゃんはアヒルさんを偵察に送り込んでくるはずだから、何としてもこれを発見し、撃破する。

その後、あんこうたちが森にやってこようとする。

赤チームが森に入る前に、あんこうにレオポンをぶつけて足止めしつつ、
アリクイさんにうさぎさん、カバさんにカモさんをぶつけてそれぞれのチームを森にうまく誘導し、潜んでいるあたしたちカメさんがこれを各個撃破する。

残ったあんこうに関してはその時に考える。


なんでも、おケイに教わった優勢火力ドクトリンを実戦で使ってみたいらしいね。

確かにこの作戦だと、誘い込むところ以外は多対一に持ち込めそうだけど、そううまくいくかねえ。

ま、うまくいかなくっても経験か。

そんな風に思ってたんだけどさ。


結論として、うまくいったみたい。


本当に作戦通りに局面が進んで、赤チームは残っているのがあんこうだけになった。

作戦と違ったところは、森に引きずり込む前にカモさんがやられたってことと、同じく森に引きずり込む前にウサギさんがアリクイさんをやっつけたってこと。

いやあ、あの子たちも上手くなったもんだねぇ。最初は怖がって戦車から逃げ出してたのにさ。

力尽きる直前に狙いをあんこうからカバさんに変えたレオポンがカバさんを撃破。

んで、あんこうはウサギさんを追って森の中にやってきた。

今の局面はそんな感じ。いやぁ、初めてにしては澤ちゃん、大健闘だねぇ。

幸か不幸か最初から全然砲撃する機会のなかったあたしたちは、相手に全く見つからずに森に潜んだままだった。


・・・ん?

ウサギさんから無線が入ったみたい。


『会長、あたしたちが会長たちのいるところまであんこうをおびき寄せます。その後、停止してあんこうを砲撃します』

『そしたらあんこうも一瞬停止してあたしたちを撃つはずですから、そこを陰から狙ってください』

「りょうかーい。んじゃ、装填よろしく、河嶋」

「はっ」

確かに、五十鈴ちゃんの性格上、確実に当てるために停止射撃をさせるはず。

ただ、本当に一瞬だろうから、確実に当てないとね。

・・・あ、ウサギさんが来た。じゃあ、もうそろそろだね。

予想通りやってきたあんこうに、照準を合わせる。

ウサギさんが砲撃、それをあんこうが避けて停止した。


今、引き金を引けば勝てる。

今撃てば確実にあたる。

だけど、あのⅣ号の中には。

西住ちゃんがいる。



「・・・っ」

一瞬、ほんの一瞬だけ。

引き金を引くのをためらってしまう。

振り払って、引き金を引いて。停止していたⅣ号の位置に寸分たがわずに砲弾は着弾したんだけど。

一瞬の停止で射撃を成功させたあんこうチームは、すでにそこにはいなかった。


「あ・・・」

おまけに、今の砲撃のせいで完全にあんこうに位置がばれた。

Ⅳ号の砲塔がこっちに指向して―――――――


気づいた時には、あたしたちのヘッツァーからは間抜けな音とともに白旗が上がっていた。

「本日の練習はここまでとする! それでは、解散!」

河嶋の号令とともに練習は終わりを迎えた。

結局、残存車両1対0であたしたち白チームは負けちゃった。

澤ちゃん、悔しそうだったな・・・。

あたしがあそこでためらわなければ、勝たせてあげられたのかな。

でも・・・。


そんな風にあたしが自問自答してると、河嶋がなんだか難しい顔をして近づいてきた。

「会長」

「ん? どったの河嶋」

「その、大変申し上げにくいのですが・・・」


河嶋の表情を見て、なんだか嫌な予感がしたんだよね。

あたしは、全力でこの場を誤魔化して逃げ出すことに決めた。

「あー、そっかー。河嶋、留年決まっちゃったんだー。どんまい」

「ち、違います! 会長、失礼ですが、なにかご不安なことでもあるのですか? その、最近様子がおかしい気がして・・・」

やっぱその話だよねー。

ごまかし路線に入っててよかった。このまま誤魔化そう。


「いやあ、気づいた? 実は、最近心配事が多くてねえ」


「心配事、ですか?」

「そそ。河嶋がちゃんと卒業してくれるか心配で心配で」

「え、えええ?」

ごめんね、河嶋。

「ちゃんと勉強しないとさー。来年も生徒会やることになっちゃうよん」

誤魔化すのに、利用しちゃって。

「ううう、会長・・・。うわーん! 会長がいじめるよぅ、柚子ちゃーん!!」

河嶋がちゃんと頑張ってるのは知ってるけど、でも。

その質問を正面から受け止められるほど、今のあたしに余裕はないんだ。

「んじゃ、頑張ってねー河嶋。あたしはちょっとその辺ぶらついてくるよん」

「あ、か、会長? ちょっと、桃ちゃん、いい加減離して・・・」

小山の声が聞こえなかったふりをして。

あたしは、その場をそそくさと後にした。


「・・・はあ」

その辺をうろつくって言ってもなあ・・・。

まだ仕事も終わってないし。

結局生徒会室に戻らざるを得ないよね。

二人の仕事が終わるだろう時間を見計らって来たかいがあって、生徒会室には誰もいなかった。

少し冷静になって机を見てみると、今日やらなくちゃいけない仕事が山積みになってるのが目に入る。

うん、やっぱりあたしは仕事に身が入ってないみたいだね。

だって、小山と河嶋のデスクを見たら、すっきり片付いてるもん。

ここらでいっちょ自分に喝入れないとね。



そう思って、この間おケイに貰ったコーヒーを淹れようと立ち上がった瞬間。

生徒会室がノックされた。


一瞬、息が止まったようになる。

河嶋? 小山?

どっちが来ても、今のあたしはちょっと困る。

だけど、また文科省が何か言ってきたのかもしれない。

居留守を使うわけには、いかない。


「開いてるよー。どぞー」

無理やりそんな言葉を喉から絞り出して。

入ってきた人を見て、あたしは今度こそ本当に一瞬息が止まった。




なんで、西住ちゃんがそこに立ってんの?


「し、失礼します・・・」

西住ちゃんは、申し訳なさそうな表情をして、生徒会室に入ってきた。

そんな姿を見て、あたしは耳が熱くなるのを感じた。

いや、赤くなっちゃまずいっしょ。気づかれちゃうよ。その、色々とさ。

この場から逃げ出したくなるのを抑えて。できるだけ飄々とした表情で、西住ちゃんに声をかけよう。

「どったの、西住ちゃん。ま、とりあえず座っててよ」

やば、声震えちゃった。

まあ、裏返らなかっただけマシか。


「今おケイに貰ったコーヒー淹れようと思ってたんだけどさあ、西住ちゃんも飲む?」

「あ、はい。いただきます」

西住ちゃんも飲むんなら、美味しく淹れないと。


数分後、あたしが今までで一番注意を払って淹れたコーヒーが完成した。

「入ったよー。どうぞ、西住ちゃん」

ここに持ってくるまでにこぼさなかったのは、あたしのファインプレーだね。

「ありがとうございます。わあ・・・、いい香り」

よかった、無駄な努力じゃなかったみたい。

どれ、あたしも飲もうかな。・・・うん、美味しい。

「んで、どしたのー? 珍しいじゃん、西住ちゃんからここに来るなんて。もしかして、次の会長でもやりたいの?」

やばい、なんかめっちゃ早口になる。

落ち着け、落ち着け・・・。

「いえ、そうじゃなくて・・・。その、会長、大丈夫かなって」

・・・またその話かぁ。

そんなに変だったのかな、あたし


「んー? なにが?」

「今日の紅白戦、本当ならわたしたちは負けていました。だけど、会長の砲撃が・・・、いつもと違いました。それで、わたしたちは勝てたんです」

やっぱり、西住ちゃんだね。

戦車の事ならどんな些細な違いでもバレちゃうかあ・・・。

「ちょっと、くしゃみを我慢してたんだよね。ごめんごめん」



「・・・この間の、ことですか?」


「・・・え?」

「この間、会長がわたしの家で話してくれたことと、関係があるのかなって・・・」

「・・・」

痛いところを突かれて、つい黙っちゃった。

まずい、このままだと話のペースを西住ちゃんに握られてしまう。

「この間、会長は寂しいっておっしゃってましたよね。だから、その思いで会長の頭の中がいっぱいなのかと思ったんです」

違う。

「確かに、寂しいときの気持ちはわかります。わたしも、黒森峰を離れるときは、ほんの少しだけど寂しかったから・・・」

そうじゃないんだよね。

「だけど、寂しいときにそのことを考えてると、もっと寂しくなって、何も手につかなくなって。後になって後悔しちゃうことになるんです」

やばい。適当に誤魔化そうと思ってたのに。

「わたしも、もっとエリカさんや小梅さんときちんとした形でお別れできなかったのかなって・・・」

やめて。このままだと、

「だから、会長も、寂しい思いをこらえて頑張ってほしいんです」

誤魔化すことが

「会長に・・・、後悔してほしくないから」

できない


「・・・そういうわけじゃあ、ないんだよね」



「・・・え?」

ああ・・・。ついに話に乗っちゃった。

「別にあたしは、寂しいからって上の空なわけじゃない」

「じゃあ、どうして・・・」

どうして、か・・・。

「・・・それは」

そんなこと、決まってんじゃん

「・・・会長?」




西住ちゃんのことが、好きだからだよ。

~~~~


「会長が、おかしい?」

そうやって、河嶋先輩たちから相談を受けたのは、今日の戦車道の練習、紅白戦が終わった後の事でした。

後片付けも終わって、みんなでアイスでも食べて帰ろうとしてた時に河嶋先輩からいきなり呼び出されたから、一体何をされるんだろうとどきどきしてたんだけど・・・。

「ええっと、おかしいって、一体どういう・・・」

「西住、お前今日の会長の砲撃を見てなんとも思わなかったのか?」

「えっと、すみません・・・」


「桃ちゃん、西住さんはチームが違うんだからわからないと思うわよ」

「桃ちゃんと呼ぶなぁ! コホン。今日、我々はお前たちあんこうチームを完全にとらえていたんだ。だけど、会長の砲撃が一瞬遅れ、外れてしまい、結局この結果になったんだ」

「あのときの会長、何かをためらったようにみえたのよね・・・」

「そうですか、そんなことが・・・」

確かに、あの時はあと少し動くのが遅れてたら危なかった、って思ったっけ。

華さんが一瞬で命中させてくれたおかげだと思ってたけど・・・。

もっとちゃんと索敵しないと。次からはこんなことがないように・・・、じゃなくって。


「あの、それでどうして、その話をわたしに?」

「そのことなんだが・・・。実は、今日に始まった話じゃなくて、最近会長がどこか上の空な気がしてたんだ。ただ、今までは別にこれと言って支障もなかったから、疲れてるだけかと思ってほっといたんだが、今日のはさすがに異常だと思ってな」

「それで、桃ちゃんがさっき会長に何か心配事でもあるのかって聞いたんだけどね。会長、うまくはぐらかして逃げちゃったのよ」

「・・・悔しい話だが、わたしたちでダメとなると、あとは西住しかいないと思って、お前に話をしたんだ」

「そうだったんですか・・・」

会長、ずっとそんな調子だったんだ・・・。

この間、わたしのところに来て、ご飯を作ってくれたときは、その、大泣きしてたから、大丈夫かなって心配したけど。

次の日以降、にこにこしてたし、すっかり元の会長に戻ったと思ってたんだけどな・・・。


「西住。すまないが、会長に何か心配事はないかお前から聞いてくれないか?」

「わ、わたしがですか?」

「そうだ。さっきも言ったが、あとはお前しかいないだろう」

「西住さんでダメだったら、もうお手上げだけどね・・・」

えええ?

わたし、そんなに頼られてるの?

そんなぁ・・・。確かに、戦車道ではみんなより作戦とか立てるのは得意かもしれないけど。そんなに頼られるようなことできないよ。


でも・・・。

「・・・わかりました。会長が話してくれるかどうかはわかりませんが、やります」


あの日の会長の姿を思うと、断れません。

今までは、会長って本当に強い人なんだなあって思ってたけど。あの日、会長にもわたしと一緒で泣きたい時があるって知ったから。


支えが必要な時があるって、知ったから。


「そうか。礼を言うぞ、西住」

「桃ちゃんったら、もっとちゃんとお礼言おうよ・・・。ありがとう、西住さん。あのね、会長、生徒会室にこもってると思うから、行ってあげて。よろしくね」

「はい、わかりました。行ってきます!」


わたしじゃ、全然力になれないかもしれないけど・・・。

待っててくださいね、会長。


「生徒会室・・・」

ここに来るのは、なんだか緊張しちゃう。

沙織さん、華さんと一緒に最初に入った時のことが、やっぱり頭から離れない。

・・・でも、今はそんなことも言ってられないから。

ちょっと勇気がいるけど、ノックしてみよう。



・・・

あれ? 誰もいないのかな?

そう思った瞬間、中から声がしました。

『開いてるよー。どぞー』

会長の声・・・。

小山先輩の言ったとおりだ。やっぱり、生徒会の人たちってなんかすごいなあ・・・。

言われなくってもお互いの位置が分かるなんて、尊敬しちゃいます。

わたしが扉を開けると、会長は一瞬だけ、驚いたように目を見開いてました。


「し、失礼します・・・」

どういう風に切り出そう。

河嶋先輩みたいにいきなり聞いても、はぐらかされるかも・・・。

わたしがいろいろと考えてると、会長が先に声をかけてくれました。

「どったの、西住ちゃん。ま、とりあえず座っててよ」

そう促されて、わたしはとりあえず座ることにしました。

そうすれば多分、会長も座るだろうから。

座れば、逃げられる確率も下がると思って。


すると会長は、後ろを向いて、流し台に向かって歩きながら、

「今おケイに貰ったコーヒー淹れようと思ってたんだけどさあ、西住ちゃんも飲む?」

と、わたしに訪ねてきたので、せっかくだから、お言葉に甘えることにしました。

「あ、はい。いただきます」


コーヒーかあ・・・。昔、黒森峰にいたときは、よく夜に作戦を考えようとしてお姉ちゃんと一緒に飲んでたっけ。

最近はあんまり飲んでないなあ・・・。

そんなことを考えていると、コーヒーを淹れ終わった会長が運んできてくれました。

「入ったよー。どうぞ、西住ちゃん」

コーヒーがわたしの前の机に置かれると同時に、とてもいい香りが漂ってきます。

「ありがとうございます。わあ・・・、いい香り」

一口飲んでみると、香りだけじゃなくて味もとってもおいしくて、思わず顔が緩んじゃいます。

会長って、料理だけじゃなくてコーヒー淹れるのも上手だったんだ。

あんまり料理が得意じゃないわたしからすると、尊敬しちゃうなあ・・・。


「んで、どしたのー? 珍しいじゃん、西住ちゃんからここに来るなんて。もしかして、次の会長でもやりたいの?」

会長が、いつになく早口になってわたしに尋ねてきました。


・・・会長って、こんな雰囲気だったっけ?

そういえば、さっきからなんだか様子がおかしい。コーヒーを運ぶ時の手もちょっと震えてたし・・・。

わたしの知ってる会長って、もっと飄々としてて、いつも余裕な感じなんだけどなあ・・・。

今日の会長はなんだか余裕がないように見えました。


・・・やっぱり、河嶋先輩の言う通り、会長はいつもとは違う。

わたしはお腹にぐっと力を入れて、思い切って聞いてみることにしました。



「いえ、そうじゃなくて・・・。その、会長、大丈夫かなって」


一瞬、会長の目がちょっと剣呑なものになりました。

でも、その後すぐにいつもの顔になるのは、さすが、いつも抜け目のない大人たちと渡りあってる
会長だからこそだなあと思います。

「んー? なにが?」

ここが、正念場。

わたしの得意な戦車道の話で、主導権を握ろう。


「今日の紅白戦、本当ならわたしたちは負けていました。だけど、会長の砲撃が・・・、いつもと違いました。それで、わたしたちは勝てたんです」

本当は、河嶋先輩に言われて知ったことだけど、今河嶋先輩の名前を出すのは得策じゃないかな。

すると会長は、申し訳なさそうな笑みを浮かべて、

「ちょっと、くしゃみを我慢してたんだよね。ごめんごめん」

と、とぼけてきました。

このままじゃ、誤魔化されてしまう。

そう思ったわたしは、核心に踏み込んでみることにしました。



「・・・この間の、ことですか?」


「・・・え?」

会長の顔が、さっきとは打って変わって神妙なものに変わりました。


・・・やっぱり、この間の事なんだ。

河嶋先輩がわたしに声をかけたのは、間違ってなかったみたい。

あの日のことは、わたししか知らないことだから。

「この間、会長がわたしの家で話してくれたことと、関係があるのかなって・・・」

「・・・」

会長が、何も言えずにいるのを見て、一瞬躊躇してしまいます。

このまま、畳みかけるように言葉をかけてもいいのかな・・・。

でも、もう後には引けません。


「この間、会長は寂しいっておっしゃってましたよね。だから、その思いで会長の頭の中がいっぱいなのかと思ったんです」

会長の目が、何かを言いたそうにしています。

でも、口はずっとつぐんだまま。

「確かに、寂しいときの気持ちはわかります。わたしも、黒森峰を離れるときは、ほんの少しだけど寂しかったから・・・」

唇をぐっと噛み締めているその姿が、とってもつらそうに見えて。

「だけど、寂しいときにそのことを考えてると、もっと寂しくなって、何も手につかなくなって。後になって後悔しちゃうことになるんです」

会長が、今にも壊れちゃいそうに見えて。

「わたしも、もっとエリカさんや小梅さんときちんとした形でお別れできなかったのかなって・・・」

わたしが、壊れちゃったときの事を思い出して。

「だから、会長も、寂しい思いをこらえて頑張ってほしいんです」

過去の自分に言いたいことを

「会長に・・・、後悔してほしくないから」

一方的に、ぶつけてしまいました。


すると、会長は、自嘲気味な笑みを浮かべながら、我慢できなくなったとばかりに口を開きました。

「・・・そういうわけじゃあ、ないんだよね」

どうやら、わたしの言葉は・・・。

「・・・え?」

「別にあたしは、寂しいからって上の空なわけじゃない」

わたしにしか、届かないものだったみたい。



「じゃあ、どうして・・・」


思わず、会長に尋ねてしまいました。

あの事が原因じゃないのなら。

会長は、どうしてあんなに壊れそうになってたんだろう。

「・・・それは」

そこまで言って、会長は再び口をつぐみました。

まるで、心からの叫びを、無理やり押さえつけるように。

「・・・会長?」

わたしが、会長に呼びかけた後、しばらく経ってから会長は。





「言えるわけないじゃん・・・」

今にも泣きそうな顔をして、そう呟きました。

今日のところは以上になります。
コテを入れたまま投下しちゃってすみませんでした。
読みづらいですね。

会長とみぽりんの心情を対比して読むと面白いかも知れません。
面白くないかも知れません。


それでは、また明日来ます。

ようやくガルパンのBDが揃いました。
投下していきます。

ドリームタンクマッチやってて気づいたらこの時間でした。
本日最後です。投下していきます。


そんなあたしの願いもむなしく、やっぱり朝はやってくるんだよね。

・・・汚れた制服と、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔と枕を傍らに連れて。

ま、当然か。



一晩眠ったことで、少しだけ頭はすっきりしていた。

まだ時間も早いし、とりあえずお風呂に入ろっかな。

今のあたしの姿を見たら、百年の恋も冷めることは間違いないし。

百年の、恋も・・・。

・・・。

・・・訂正、恋はそんなに簡単に冷めない。

少なくとも、あたしの数週間の恋は冷めそうにない。

昨日あんなことがあって、あんなに懲りたはずなのに。

西住ちゃんのことをちょっとでも考えると、体が熱くなるんだから。

あ、でも冷めないのはあたしの恋だけで、他の人の恋は冷めんのかもね。

・・・何考えてんだろ、さっさとお風呂入ろっと。

以上で本編終了になります。
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。

この後、後日談を二つ投下させていただきます。

後日談その1



「うわっ、もうこんな時間! やっばあ」


このままじゃ、そど子に怒られちゃうじゃん。早く学校行かないと。

生徒会を五十鈴ちゃんたちに引き継いだあたしは、なんだかちょっとずぼらになっていた。

気が抜けちゃったからね。

だけど、今日からは無限軌道杯に向けた練習も始まるんだから、気を引き締めないとね。

河嶋の大学進学のために。

うーん、今までの戦いよりも目的がしょぼいせいか、いまいち気が引き締まらないなあ・・・。


家を出たあたしをまっていたのは


「杏さん、おはようございます」


あたしの、最愛の人。



「西住ちゃん」


「もー会長、だからわたしのことは・・・、あ」

「西住ちゃんだって、あたしのこと名前で呼べてないじゃん」

「それでもだめです。呼んでください」

「えー? わ、わあったよ・・・。み、みほ」

「はい、杏さん♪」


やば。鼻血出そう。


「えへへ・・・。あ! 杏さん、このままじゃ遅刻です! ほら、あそこに麻子さんが・・・」

「うわ! やっば! 冷泉ちゃん抱えて全力で走るよ、西住ちゃん!」

「はい! って、またその呼び方で・・・」

「パンツァーフォー!」

「杏さんもそれ、言ってみたかったんですね・・・」


あたしの大洗での生活ももういくらもないけど。

かつて西住ちゃんが言ったみたいに、後悔の無いように全力で駆け抜けようと思う。


それが、あたしと西住ちゃんの戦車道だからね。

後日談その2



『へー。じゃあ、うまくいったのね』

「うん! エリカさんのおかげだよ。ありがとう!」

『この借りは高くつくわよ』

「お、お手柔らかにお願いします・・・」

『冗談よ。それじゃ』


エリカさんとの電話を切ったわたしは、今日のことについて思い返していました。

会長、やっぱり逃げようとしたなあ。

あの時の会長、泣き叫んでたけど・・・。かわいかったなあ。

その後のしおらしくなった会長もかわいかったなあ。


でも、会長もそろそろ会長じゃなくなるんだよね。

いつまでも会長って呼び続けるのも変だし・・・。

そうだ、明日会長に提案してみよう。

杏さんって呼んでもいいですか? って。

ううん、やっぱり明日も楽しみです!

以上になります。
時系列的には、本編→後日談2→後日談1って感じになります。
あくまでも杏が主役なので、こんな順番にしてみました。
わかりにくいですね。

以上で完結となります。

それでは、また。

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