【氷菓IF】奉太郎「伊原摩耶花という女」 (121)

氷菓が摩耶花ヒロインだったらというSSです。

学園要素多めで推理要素はほぼゼロになっています。

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世の中には、永遠に不変なんてありえない。どんなものも、時がたっていけば劣化していく。

車も家も金も。人間だってそうだ。顔のしわが増えていけば、肉体や精神は衰えていく。

地方新聞にたまに出る、満面の笑みをうかべた高翌齢者の写真とともに、いくつになっても元気な○○さん。といった見出しが躍るが、あれはただ衰えが緩やかなだけだ。

街並みだって変わる。地方都市に分類される俺の住む神山市だって、昔は農村だったと聞く。

形が変わってしまうのか、壊れてしまうのか。方向性はともかく未来永劫不変のままなんてわけはない。

壊れてしまった場合は、二度と元には戻らない。

俺の隣に立つ、中学から愛用している学生服の色おちを嘆く福部里志にそんな話をした。

里志は苦笑しながらこう言った。

「フォローしてくれているのかな。ホータローは」

「どういう意味だよ」

俺がそう返すと、人差し指をぴんと立てこちらに向けてくる。

男子にしては小さな背丈で、短髪に切られた髪の毛。大きな瞳。

いわゆる童顔というやつで、中学時代、先輩を中心とする女子からは人気があった。

「一つ気になることがあるんだ」.

あごをしゃくって、言ってみろ、と合図をする。

「どんなものとは、目に見えないものも入るのかな?」

俺は少し間を置く。一際声を大きくしていった。

「もっと具体的に言ってくれ」

「目に見えないものを具体的にだって? そりゃ無茶振りってもんだ」

そんなことを言いながらも、里志の横顔は上を向く。指は口元に置かれた。

その間、俺は周囲を軽く見回してみた。

その間、俺は周囲を軽く見回してみた。

すぐ隣にいる里志とも大声で話さなければならない程に、周囲は騒がしかった。

朝っぱらからよくそんな元気があるものだと感心する。

入学式前の校舎内ロビーは、新1年生でごったがえしていた。

奥の方には、階段があり、登って行けば一年生の教室がある。

目的はその横、俺たちの遥か前方にある掲示物。

あれを見ないことには、階段は登れない。

手短に済ませたいことなのだが、なかなか列が進まない。

強引に前に進んでやろうともおもったが、不運なことに俺たち二人の周囲にはセーラー服ばかりが集まっていた。

ポンポンと里志に肩を叩かれる。答えがきまったようだ。

「絆とか、人のつながりとか」

俺はそれを受けつぐ。少し言うのをためらって、

「愛とか? 友情とか?」

 今度は里志が。

「輝かしい青春の思い出! 煌めき! そしてほろ苦い初恋!」

「あるのか?」

俺の平坦な返しに、里志はおどけた。

「願わくば、これからできますように。それができるかどうかは、あれにかかってる」

そういって目を前の方へ向ける。

今日から高校生活が始まる。今回はその最初のイベント。クラス替えである。

心躍らないといえばうそになるが、こうも長引くと苦痛になってくる。

前方からはまた歓声。喜びの声も、何度も聞いていると耳障りになってくる。

確認したのなら早くどこかへ行ってくれ。

「あんなの大したことじゃないだろう。自分は自分。人は人」

里志に対しても思わずそんな言葉が口をついてしまう。

「夢がないねえ。高校に入っても変わんないよ。ホータローはさ」

俺は、変わらない、という言葉で、うやむやになっていた話題を思い出

「さっきの話な」
「え?」
「目に見えないものも変わるかって話」
里志は、ああ、とうなずく。
こいつがどう思っているのかは知らないが、俺と里志は特段深い仲というわけでもない。

学校外で遊んだことはないし、お互いの家も知らない。どうして付き合うようになったのかよく思い出せない。けれどこうして、互いの姿がみえれば雑談はする。ある程度のつながりはあるといっていいだろう。

「変わるさ。そりゃ」

言葉は自然に出ただろうか。

「その心は?」

「クラスが違えば、俺とお前は会わなくなる」

これは里志だから言えることだ。俺たちの付き合い方とは大きな矛盾があるのだが

こいつとなら腹を割って話せるのだ。

「ただ疎遠になるだけならいいさ。けど壊れてしまえば元には戻らない」

俺は自分でいいながら、過去を思い出してしまう。俺の不注意で壊してしまった関係。

あれこそ元には戻らないだろう。

里志のぶっ、という吹き出し笑いが俺を現実へ引き戻してくれる。

「疎遠になるだけで安心だよ。けれど違いないねえ。 
 そしてそれぞれお互いの知らない友人ができると。同じ部活にでも入れば話は変わってくるだろうけど」

「入らないぞ」

「だろうね」

話しているうちに、ある程度人は減っていた。里志は動きだし、人をかき分けて前に進んでいく。

不本意ながら俺も里志の後に続く。

「ねえホータロー。見えるかい」

掲示板が見える位置までたどり着いた。最前列ではないが、視力に問題がなければ見える位置だ。

里志は指をさす。掲示板にはられているのは、新入生の名前が書かれた模造紙。

うえにはA、Bといったアルファベットが書かれている。そう。あれはクラス替えの表だ。

「幸か不幸か。君と僕の関係はまだ続くみたいだねえ」

三年A組の枠に折木奉太郎、福部里志の名が記されている。

少しうつむく。表情がほくそ笑んでいるのは、うまく隠せているだろうか。

顔を上げると、隣の、さわやかな笑みを浮かべる男子へ手を挙げた。

意図を察したそいつも手同じ仕草をした。

瞬間、周囲の喧騒は収まっていないにも関わらず

掌が軽くぶつかるとほぼ同時、パチンと小気味良い音が響く。

何気なく、もう一度表を見た。確かに書かれている折木奉太郎。

けれどある名前をみつけて視線が寄せられる。試験会場でみかけたから同じ高校だとは知っていたが。

俺は神様だとか運命なんて信じない。信じないから天罰が下ったのか。

こいつとは同じクラスにはならないでくれと、祈っていたのに。

伊原摩耶花という名がすぐ上に記されている。晴れていた心はみるみる曇っていった。

おわりです

最終章予告
葉山「やったか?」
八幡(?)「GYAAAAAAAAAAA!!!!!!」
八幡「あぁ、俺は…好きなのか…。」
闇八幡「俺はお前だ!」
闇八幡「黒幕はお前をりようしている。」
八幡「俺、比企谷八幡は…を愛し続けます。これから先ずっと一緒にいてくれないか?」
そしてすべての交錯した世界は加速して行く
多重人格者の俺の復讐するのは間違っていない
最終章
『闇夜を切り裂き未来を手に掴む。』

体を起こし、パンでも菓子でもつまもうかと二階へ降りる。

俺はだるさが残る体を引きずるようにして、戸棚をあさった。

見つけた食パンをトーストし、マーガリンを塗りたくったそれを持ってリビングへ移動。

ソファーに座るとだらしなく股を開く。

沈黙の中、一人パンを頬ぼるというのもなんだか居心地が悪いので、BGM替わりにテレビをつけた。

画面が現れてすぐ、金切り声が聞こえて俺はびくりと体が震えた。

テレビドラマが流れていた。家の中らしき場所で、女同士がぎゃんぎゃんと何かを叫んでいる。

ところどころで、男の名が聞こえるから主婦向けの愛憎劇ドラマだろう。

元々ドラマの世界に浸る趣味もない俺は、何を思うわけでもなくそれを眺めながら、もそもそとパンをかじる。
 
からっぽの頭に浮かんできたのは伊原の顔だった。昨日。あれは本当に現実だったのだろうかと思う。

四年間、ろくに言葉をかわしていない、以前割ったマグカップのように、関係は決裂したと思っていた女子と話した。

ささやかだが感謝もされた。そこまで考えてはたと気づく。

ならこれからはどうすればいいのだろうか…。もう俺と伊原が会話する口実はなくなってしまった。

あれは、あの日だけのことで終わってしまう。伊原はあの日のことなどなかったかのようにふるまうだろう。

テレビの音が一層耳障りになった。女二人の罵り合いだった場面が、いつの間にか老婆が二人加わり四人での言い争いになっている。
溜息をつき、チャンネルを回す。

その直後に電話が鳴った。重い腰を上げ、心持ち急いで電話を取る。

「もしもし?」

という声は、聴きなれた声。トーンは高いが男子のものだ。
 
「里志か?」



電話のコール音。足を引きずるように、こころもち急いで一階に下りる。

受話器を取ると、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。

〈やぁ。元気かい? ホータロー〉
 
「超元気だ」
 
俺はわざと、低めのトーンで言ってやった。
 
〈ははは。そのジョークができるなら、だいぶ回復したみたいだね〉
 
電話の主は里志だった。昨日は俺以上に濡れねずみとなって家路についたはずなのに、

聞こえる声にはいつも通りの快活さがある。

青春を謳歌するには、容姿やコミュニケーション力以上に、頑丈な体が必要なのかもしれない。

「ホータローの家、来ようと思うんだけどいいかな?」
 
 「え?」

思わぬな問いかけに、呆けた声を出してしまう。
 
里志は、友人といってもいい仲である。

けれど何をするにもいつも一緒、なんてことはなくある程度の距離感は持っていた。
 
俺の疑問をよそに、里志は「家の住所読み上げてくれないかな」などと言っている。

「ねぇホータロー? 何黙ってるのさ」
 
「なんでもない」

俺は半ば投げやりに、見舞いに来てくれるよう伝えた。

里志の、やけに耳障りな声のリピートに耐えながら、自宅の住所を教えた。

電話をきって、ソファーに座る。



しばらくしてインターホンが聞こえる。

ドアをあけると 、やぁという快活な声。相変わらずの、憎らしいくらい晴れやかな笑顔。

「おう」

そう言って里志を家に通そうとした。が、背後にいる影に気づく。

俺は一瞬体動きが止まった。目を伏せていたそいつは俺が気づくと同時に顔を上げる。

伊原摩耶花がいつも通りの仏頂面で折れに向かって小さく頷いた。

「伊原か」

俺はそう言った。か細い消え入るような声だった。

場に沈黙が漂う。伊原と俺がよそよそしく見つめあう。そこへ助け船が入った。

「ホータロー、立ち話もなんだからとりあえずさ」

里志が開いた玄関の奥を指さし、悲痛な空気は消えていった。

俺は友人の華麗なフォローに感謝しつつ、家へ通す。

 リビングでおののが腰かけると口火をきったのはやっぱり里志だった。

「その様子だと、すっかり元気になったみたいだね」

「雨風の中帰るなぞ、省エネ体質にはきつすぎた」

「ふーん、そうかい」

里志はすくっ、とソファーから立ち上がった。

「もう行くのか?」

「僕の役割はここまでだ。いや本来なら家に入るのは予定外だったけどね」

「お前何いって」「伊原さん」

里志が俺の言葉をさえぎって伊原へと顔を向ける。当の伊原はこくりとうなずいた。

俺の伸ばした足は、自然とさわさわと動く。なんだか自分の家だというのに居心地が悪い。

二人の間でなにか秘め事があるらしい。

「じゃ」と里志は軽く手を振って、玄関へと向かった。
なんだろう、と考えた。昨日の礼ならもう終わったはずだ。

重ね重ねの礼なら、言っちゃ悪いがはた迷惑だ。こっちも気を使う。

だがそれは違うだろう。俺の知る伊原は、周囲から煙たがれるくらいに、モラルやルールに厳格なのだ。

がちゃり、とドアの閉まる音が聞こえた。

静寂となったリビング。家の外に聞こえる、小学生のはしゃぐ声がいとおしく思える。

いつのまにか、俺の背中に冷たい汗が流れていた。たまらずリモコンに手を伸ばす。

「ねぇ折木」

同時に声がした。

「……おう、なんだ」

つとめて自然に。明かるくそう答える。

「風邪、大丈夫」

「ああ、もう平気だ」

「そうなんだ」

「ああ」

どうしてなのだろう。仮にも昔は学校内外で長く行動を共にした仲だ。

大げさかもしれないが絆ようなものが深まっていたはずだ。

どうやらコミュニケーションというものに、昔取った杵柄というものはないらしい。

幼馴染の女を前にしても、言葉がでてこない。

「あのさ折木」

「どうした」

「昨日はごめんっ!」

がばっと伊原が頭を下げる。突然の大声に俺の体が硬直した。

伊原の小さな手がぎゅっと拳をつくっている。俺はふっと一息。つとめてゆっくりと話す。

「待て待て。伊原。よく意味が分からなんのだが」

「はぁ?」

なんだか聞き覚えのある、間髪入れない伊原の突っ込み。

「待て待て。えっと…」

俺は昨日のことを思い出す。昨日、俺は伊原と久々に言葉を交わした。

距離を近づけたとはいいがたい。ただその場にいるから。話しかけないのは気まずいから。

そんな半ば義務的の動機でされた会話だった。

ふったのは俺の方。伊原はむしろ嫌がっている様子だったから謝るべきは俺のほうなのではないか。

それとも。

「昨日か」
俺の言葉に、伊原がうんうん、とうなずく。

「俺に対してそっけない受け答えしたことなら、気にしなくてもいいぞ」

伊原はぽかんとした表情を浮かべ、ぶつぶつといいながらまた考え込んだ。しばらくしてまたしゃべりだす。

「折木、あんたが熱だしたのは昨日雨に打たれて帰ったからよね?」

「それも一因だな」

そもそもの原因は姉貴の冷酷非道な対応だが。

「今日、折木、熱出して休みって聞いてさ、あぁ悪いことしたなぁってさ。あんたはあたしの図書当番手伝ってくれたのにさ。あたしはそれ無下にして」

「あれは俺が勝手にやったことだ。お返ししろなんておもっちゃいないさ」

「だとしても困っている人は助けるのは常識なのっ!」

静寂。そして俺はまた、伊原の一面を思い出していた。

熱い正義感ゆえまっすぐで、意地っ張り。一度きめたことはなかなか曲げようとしない。

それは自らの行いに対してもだ。

思い出せ。こういうときは。

「そう、かもな」

伊原の仏頂面はいつのまにか悲しみまじりのか弱い表情に変わっている。

この提案なら伊原は納得するだろう。もちろん俺だって…。

「なら伊原、別の方法で礼をしてくれないか」

「えっ?」

「頭下げ続けるのは嫌だろう? 俺だってお前のそんな姿はみたくないさ」

そう。自らの間違いを吐露するというのは、限りなく苦痛だろう。伊原ならなおさらだろう。

固く口を結んだ伊原は俺のそばへと体を寄せてきた。

「わかった。うん。何するの?」

これは嫌がる可能性だってある。最悪、二度と口をきいてくれなくなるかもしれない。

だけど立ち向かわなければ何も変わらない。ありのままでいい、なんていうのは逃げ口上というやつだ。

「放課後な、図書室を使わせてくれ」

「えっ」

呆けた伊原の顔。これはどう判断するべきなのだろう。

「あのさ、別にあたしに頼まなくても使えるけど?」

「違う」

そう。少しニュアンスが違う。本当の目的は図書室で本を読むことじゃない。

「伊原」

「なによ」

「本を読む、それはもちろんだ。昨日分かったよ。うちの図書室、意外と面白い本がいっぱいあるって。そういう意味じゃ、昨日は雨が降ってよかったって思ってる」

「う、うん。ありがと」

少し目をそらして、言った。家にきてから少しずつ態度が柔らかくなった気がする。

俺だっていつのまにか口数が増えている。

「それでさ、これからお前にいろいろと聞いていいか?」

「えっ?」

「時々図書室にきて、本について話しかけたり。まぁたまに教室でも話しかけたり、お昼を食べたり? そういうことをしていいか?」

「えーっと」

想定外の頼みだったらしい。視線がきょろきょろと空中をうろついている。

気のせいか、さっきより俺との距離が広がっている。やばい。ドン引きさせたか。

「伊原、わかってる。今、断ってもいいし、ここで受けても、おまえがやめろと言えばすぐにやめる。これだけは約束する」

伊原はぎゅっと口を結んだ。そして…

「…ごめん…」

そういって立ち上がる。手はカバンをつかんだ。

やはりそうなるよな。変わることは難しい。俺に背中を向けた伊原は微動だにしない。

そして…

「金曜日」

「えっ?」

「図書当番。あたしは毎週金曜だからっ」

「いいのか? 来ても」

そういうと顔だけこちらにむけた。表情はデフォルトの不機嫌そうな仏頂面。

「好きにしなさい。その代わりうるさくしたら図書室から放り出すからね」

そういってドタドタと音をたてて家を出て行った。

俺は伊原の言葉がすぐに呑み込めず、しばらくぼんやりと座り込む。

成功、ということでいいのだろうか。

一応伊原との関係は続くことになった。

いつの間にか、窓から差し込む日差しがソファーの半分を照らしている。

寝転ぶとちょうど腹の方に太陽があたるだろう。




夏は間近。けれど今日の太陽はぽかぽか陽気といっていい暑さだ。

俺はソファーに寝転び目をつむる。眠りにおちるのにそう時間はかからなかった。

以上。完結です。ありがとうございました。

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