モバP「飛鳥との日常」 (14)

短編3つとなります。

1. モバP「飛鳥とスタドリ」
2. 二宮飛鳥「ある日の朝」
3. 二宮飛鳥「キミに贈るもの」

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 1. モバP「飛鳥とスタドリ」

「お疲れのようだね」そう言いながら、飛鳥は僕にスタドリを差し出した。ちひろさんから頼まれたんだ、と彼女は目を逸らしながら付け足す。
 いつものアンニュイな表情にとてもマッチしているその動作を見て、少し遊びたくなった。
 あれ、これちひろさんからか? いつもならここにメッセージが書かれてるんだが……。一瞬驚いたような表情を見せた彼女だったが、すぐにいつもの表情へ戻った。
 
「ちひろさんだって、忘れることぐらいあるだろう」

 今度は少し目が泳ぐ。あまり焦る様子を見せない飛鳥だ。この珍しいところを見ていたいが、このまま、というのも彼女に申し訳ない。礼を言いつつネタばらしをすると、大きなため息をつかれた。


「全く、キミのそういうところが気に食わない。言いたいことはたくさんあるが、今は早く仕事を終わらせてくれ」

 そう言いながらこちらに背を向け、机に寄りかかる。なんというか、彼女なりの励ましだろう。わかった、とだけ返事をしてから仕事を再開する。
 キーボードを叩く音だけが室内に響く。飛鳥は机に寄りかかったままだ。不思議な空間が広がっていたが、彼女がそれを良しとしているのであれば、僕も良しとした。
 程なくして携帯のバイブが鳴った。自分の携帯を確認しても特に通知はなかった。ということは彼女のだろう。見上げるとちょうど携帯を確認しているところだった。
 
「それじゃあボクは帰るから。無理しない程度に」

 背を向けながら心配してくれる飛鳥はやはり面倒だ。それが彼女の良いところでもあるんだけども。
 
「わかってるよ、飛鳥も気をつけてね」

 彼女が部屋から出たのを確認してから、PCの画面へ目を移す。さて、まだ一ページ目の企画書をどうしたものか。
 気合をいれるために飛鳥から受け取ったスタドリを一気に飲み干す。体内に栄養がめぐり、頭が冴えてきた。時刻は午後九時を回ったところだ。朝までには片付けよう。
 担当アイドルである飛鳥の顔を思い浮かべながら、仕事を再開した。


 2. 二宮飛鳥「ある日の朝」

 ピピピ、ピピピ。カチッ。
 朝だ。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。朝はいつもこうだ。どれだけ長く夢を見ようと、朝は等しく眠い。……だからと言って、お気に入りのラジオを遅くまで聴いて良いわけではないが。
 掛け布団と枕の隙間から時計を確認すると、七時を少し越え、長針が二の数字へ差し掛かろうとしていた。今日は少し遠いところでロケがある。八時半過ぎに合流する予定だから、あと五分だけ……。
 布団のさらに奥へ潜り込み、一瞬の二度寝を味わおうとしたところだった。

 コンコン、コンコン。
 誰だ、ボクの二度寝を邪魔する奴は。こんな時間にボクの家へ来るような人は……周子さんと、フレデリカ……と考えたところで、ドアの向こうの主から声が聞こえた。
「飛鳥、起きてるか?」
 なんだ、キミか……。予定の時間まで余裕はある。申し訳ないけど、あと五分は──
 カチッ、ガチャ。
「邪魔するぞー。まだ寝てるのか?」
 そういえば彼は合鍵を持っているんだったな……。何度か家へ呼んでいるうちに、面倒になって鍵を渡していた。まだこっちは眠っているというのに、入ってくるやつがいるか。
 いや、こうやって狸寝入りしているボクが全面的に悪い……のか?

「起きろー。昨日あのラジオ聴いてただろ。二時まで起きてるから起きられないんだぞ」

「ん、んぅ……。キミも、昨晩は聴いてたのかい?」

「仕事ついでに、な。ほら、シャワーで目を覚ましてこい」

「うん……」

 まだうまく開かない目をこすりながら、浴室へ向かった。

 少しぬるめのシャワーを浴び、少しずつ頭を覚醒させる。鏡に映る自分を確認し、いつものエクステが無い頭部を見つめる。今日は何色にしよう。
 ふと、今朝のプロデューサーの姿が脳裏に浮かんだ。いきなり入ってくることに関しては少し、配慮が足りないと思う。
 もしボクが着替え途中だったりしたら……入って来ないな。プロデューサーはそういうヤツだ。ボクが寝ていると思っていたから入ってきたんだ。
 そんなことを考えながら浴室から出て着替える。ドライヤーで髪を乾かしてからエクステを編み込む。初めは時間がかかっていたこの作業も、今では慣れた単純作業だ。
 ある意味、日常となってしまったことに微かな寂しさを感じた。今度、別の髪型にしてみよう。また何か新しい発見があるかもしれない。
 そうしているうちにキッチンの方から何かを焼く音が聞こえてきた。あと……目玉焼きと、トーストの匂いだ。

「改めておはよう、飛鳥」

「おはよう、プロデューサー」

 小さなテーブルを囲んで朝食をとる。夕食であれば何度も一緒にしたが、朝は初めてだ。

「いただきます」

 自分で作る時よりちょっと形が汚い目玉焼きが乗ったトーストを頬張る。一口、二口……。

「塩、かけすぎ」

「そうか? いつもこれぐらいだけど」

「塩分過多だよ。キミはもう少し健康に気をつけたほうが良い」

「それ、飛鳥が言う?」

「フフッ、そうかもしれないね」

 いつものように軽い冗談を言いながら、横に置いてあるコーヒーを一口飲む。普通より少し砂糖が多めの、ボク好みの味。
 全く、糖分の量はピッタリで……。普段荒っぽいというか、雑というか。それなのにこういうところはシッカリしてるからズルい。
 少し恥ずかしくなって、つい目を逸らしてしまう。そんなボクの気持ちなんか知らんとばかりに、プロデューサーは手を止めず、トーストを口へ運んでいた。

 食事を終えると、時刻は八時半を越えようとしていた。急いで支度をし、いつもの社用車の助手席に座る。後部座席は広くて、のびのびできるから嫌いではない。
 でもボクは、キミを近くに感じられる助手席の方が好きだ。

「シートベルトしたか?」

「問題ないよ」

 ただ、このボクを縛るシートベルトさえ無ければ、もっとキミに近づけるのに。

 二宮飛鳥「キミに贈るもの」

 二月十四日、女性が意中の男性や、仲の良い男性にチョコレートを贈る、いわゆるバレンタインというやつだ。お菓子会社の策略に踊らされるなんて、全く、これだから大衆というヤツは……。

「まぁ、そんなことを言いつつも、今回はボクもその大衆の一人なんだけど、ね」


 その日を明日に控え、ボクは自室でチョコを溶かしていた。手の動きを止めず、ドロドロになったボウル内のチョコレートをテンパリングし、型に流し込んでから冷蔵庫へ入れる。あとは固まるのを待つだけだ。
 お気に入りのクッションに腰掛け、テーブルの上に開かれた本をパラパラとめくる。本のタイトルは『手作りチョコの作り方』だ。一週間ほど前に、ちひろさんから手渡されたものだった。

「飛鳥ちゃん、これあげます!」

 ちひろさんはそう言いながら、ボクに本を差し出した。本を受け取り、タイトルを確認する。

「手作りチョコの、作り方……?」

「プロデューサーさん、絶対に喜ぶと思いますよ」

 生憎だけどボクはそんなキャラじゃない。そもそも、渡したいものがあったら渡すし、会いたくなったら会う。プロデューサーとはお互いそうしてきたし、これからもそうすれば良い。
 バレンタインだから、なんて理由でチョコを、ましてや手作りだなんて……。

「……気が向いたら作ってみるよ」

「ふふっ、絶対作ってあげてくださいね。では私は仕事があるので」

「あ、あぁ。お疲れ様」

 と答えると、ちひろさんは部屋から出ていってしまった。残されたのはボクと、右手の本だけ。
 まぁ、せっかく貰ったものだ。今度暇になった時に読んでみよう。

 そんなことがあったせいだろうか、その日からバレンタインのことが頭から離れなくなってしまった。
 学校に行けば周りの女子が、外に出れば駅やコンビニの広告が、事務所では他のアイドルが、至るところでバレンタインがこびりついていた。今までこんなに気になったことなんて無かったのに。
 ちひろさんから本を受け取ってからというもの、ボクの意識は予想以上にバレンタインへと染まっていた。
 しかし、プロデューサーはいつもと変わらないままだった。事務所で雑談する時、スタジオで仕事をしてる時、送り迎えの車の中、どれを取ってもいつも通りの、普通のプロデューサーだ。
 ボクの意識には常にバレンタインが居座っているのに、どうしてキミはいつも通りなんだ……。
 何度か話をしてみようと思ったことはあったが、喉から先へ言葉は出ていかなかった。
 はっきりとしない日々が続き、ボクは一つの答えに辿り着いた。ここまで意識し、悩んでしまうのであれば、いっそのこと作ってしまえばいい。そうすれば楽になるだろう、と。

 それから材料や包装用紙を買ってきて、今日に至る。時計を確認すると、冷蔵庫にチョコをいれてから一時間半ほど経過していた。

「そろそろかな」

 立ち上がり、冷蔵庫から型を取り出す。逆さにして軽く叩くと、小さなハートの形をしたチョコレートがいくつか落ちてきた。何と言うか、直球すぎるなこれは……。
 味の方はどうだろう。一つ手に取って口へ運ぶ。……うん、チョコの味だ。それはそうだろう。溶かして固めただけ。むしろ変わってもらっては困る。
 別のレシピや、少しアレンジしてみたいが、期日はもう明日に迫っている。仕方ない、チョコ以外の部分で自分を表現しようじゃないか。
 買ってきた包装用紙、箱、リボンを机に並べ、目を閉じた。いろんなパターンを脳内に膨らませ、自分らしい色や形を考える。
 赤に黄色のリボン……ピンクは、いや、それは恥ずかしいな……。ここは奇をてらわずに茶色をベースとして……。

 窓の外が暗くなってきた頃、ある程度満足できるデザインとなった。焦げ茶色の包装用紙に、赤と黄色のリボンというありきたりな組み合わせになってしまったが、それもまた良いだろう。ただ、何かが足りない。これでも悪くないが、何かを……。

「あ、あれだ。フフッ、ボクとしたことが見落としていたよ」

 足りないものに気付いたボクは、小物入れに入っているソレを取り出し、リボンが結ばれているところへ付けた。

「よし、これで完成だ。喜んでくれると良いが……」

 翌日、ボクはいつものように屋上にいた。
 フェンスから外を見ると、いつもの見慣れたコンクリートジャングルに、綺麗な夕日が映っている。何度か見たことのある景色だ。ただ、いつもと違うのは、右手に小さな箱を持っていることだった。
 焦げ茶色をした包装用紙に、赤と黄色のリボンが結ばれている。交差部分の結び目には、羽根のアクセサリーが付いていた。
 結局お菓子会社の策略に、ちひろさんの策略に踊らされてしまったが、意外と楽しいものだということに気付けた。その点は感謝して良いかもしれないな……。

 そろそろ来る頃合いだろう。目を閉じて、息を大きく吸い、ゆっくり吐き出す。小さく呟きながら、リハーサルを行う。受け取って貰えるだろうか、喜んでくれるだろうか。一抹の不安がよぎるが、すぐに思考を破棄する。
 まだ何も言ってないのに不安になってどうする。その時のことは、その時に考えれば良い。今は渡すことだけを考えるんだ。
 脳内で何度も言葉を繰り返す。しっかりキミに伝わるよう、丁寧に、感情を込めながら。
 そして、後ろからプロデューサーが来たことを伝える音がした。一瞬、体がこわばって言葉が消えそうになるが、小さく深呼吸をし、消えかかっていた言葉を脳内へ繋ぎ止める。

「すまん、待たせた。用事ってなんだ?」

 いつもの調子と変わらない、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

「謝る必要はないさ、急に呼び出したこちらが悪い。さて、今日はなんの日か、知っているかい?」

 箱を見られないよう、自然な動きで振り向く。

「あー……バレンタイン、か?」

「ご名答。そんなキミへサプライズプレゼントだ」

 プロデューサーの顔を見る。急に恥ずかしくなってきたが、目を逸らさないようにこらえる。きっとこの夕日なら、自分の顔色を隠せると信じて。
 箱の中のチョコへ、ボク自身の想いを乗せ、手を伸ばしながら口を開く。何度も繰り返した言葉を届けるんだ。

「心からの愛情を込めて、キミに贈ろう。……ハッピーバレンタイン、フォーユー」

おわり。飛鳥と同棲したい
依頼出してきます

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