【ミリマス】「依存と共存と約束の地」 (51)

「…っ、足り…ない…」

誰も居ない劇場の控室

苦しげな声を上げながら壁に手をつく少女が一人、覚束ない足取りで歩いて行く

「はあっ…はあ…」

少女はソファに倒れ込み、天井を見上げる

喉が、渇く

身体が、本能が求める

この餓えと渇きを癒やすモノを

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だけど理性が、ソレを拒絶する

求めてしまったら、きっと歯止めが利かなくなるから

なのに、時間が経つにつれて段々と抗えなくなってくる

…今、誰かと会うのは危険だ

きっとその人に襲い掛かってしまう

だからアタシは目を閉じる

この衝動が収まるまで

今までずっとそうしてきたように

しばらくそうしていると、アタシの意識は心地良い闇の中に沈んでいった

P「良し、この部屋も問題無しっと」

誰も居ない劇場を、一人の男が戸締まりを確認しながら歩く

この男はこの劇場のプロデューサー兼責任者

時刻が天辺を過ぎたのでそろそろ帰ろうとしていたところだ

P「…ん、鍵が開いてる?」

順調に戸締まり確認をしていたのだが、控室の前で足を止めた

他は鍵が掛かっているのに、控室だけが開いていた

P「閉め忘れたかな」

扉を開けて中を覗き込むと、明々と電気が点いていた

P「誰か点けっぱなしにしたのか?まったく…」

アイドルの誰かが電気を点けっぱなしにして帰ったようだ

明日注意しておこう

念の為部屋を確認する

もしかしたら侵入者がいる可能性もある

部屋に入った俺は、室内をグルリと見渡し…

P「…!?恵美!」

ソファで苦しそうな表情を浮かべて意識を失っている所恵美を発見した

P「恵美!しっかりしろ、恵美!」

何があるかわからないので揺らさないように恵美に声をかける

恵美「…プロデューサー…?」

すると声が届いたのか、恵美が微かに目を開けた

P「!恵美、大丈夫か、何があったんだ!」

恵美「アタシ…」




声が聞こえて目を開く

まず目に入ったのは、アタシの大切なプロデューサーの顔、心配そうな表情を浮かべている

そして…

P「いやまずは病院か、救急車を呼ぶから待っててくれ」

無防備に晒された、美味しそうな首筋だった

恵美「…あっ…」

心臓が跳ねて、鼓動がうるさい

本能がアタシにやれと命令する

だけど理性がブレーキをかける

理性と本能の間で揺れ動く心の逃げ場所を求めて、アタシは手を伸ばした

するとプロデューサーがアタシの手を握ってくれる

…凄く、温かい

その温かさで

アタシの理性は吹き飛んだ

P「めぐ…み…?」

恵美が、俺の首筋に噛み付いた

歯が首筋に入ってくる

しかし痛みは無い

だが

P「ぐっ…!?」

体から何かが抜けていくような感覚

これは…恵美に何かを吸われている?

恵美「んっ…はあ…」

一心不乱に俺の首筋に吸い付く恵美

さっきと同じように意識があるようには見えない

ということは無意識に何かを求めているのは間違いない

この何かが抜けていくような感覚とそれが関係しているのなら…

俺は…

恵美「はあ…」

意識がクリアになっていく

アタシの身体に取り入れたモノが、全身を巡って餓えと渇きを癒やしていく

そしてアタシは今更ながら気付いた

自分の犯した過ちに

恵美「…え?プロデュー…サー…?」

アタシの前には、首筋を抑えて膝をついているプロデューサーがいた

…じゃあ、さっきアタシが吸ったのは…

恵美「プ、プロデューサー!」

P「め、恵美、正気に戻ったか」

恵美「あ、アタシ、アタシそんなつもりじゃ…」

P「し、心配するな、この位大した傷じゃない、痛みも無いし」

恵美「違う!違うの!アタシが血を吸ったから、プロデューサーは…!」

P「だから大丈夫だって、首筋を隠せば誰にも…」

恵美「アタシのせいで、吸血鬼に…」

P「えっ」

P「えーっと、つまりだ」

P「恵美は吸血鬼なのか?」

恵美「うん…生まれたときからだったかな」

P「え、でも恵美は海も平気だし鏡にも普通に映るよな?」

恵美「あれはフィクションの吸血鬼だけ、じゃないとそんな特性持ってたらすぐバレちゃうでしょ?まあ心臓に杭を打ち込まれるだとか、銀の弾丸が苦手だっていうのは本当だけどさ」

恵美「そんなの普通の人間が食らっても死ぬしね」

P「まあな」

恵美「アタシ達吸血鬼は基本的には人間と変わらない、確かに普通の人よりちょっと身体能力が高かったり寿命が普通の人よりちょっと長かったり、怪我の治りが早かったりするけど」

恵美「コウモリになって空も飛べないし太陽光で焼かれるって事も無い…人間と違うのは…」

P「その名の通り、血を吸うってとこか」

恵美「…うん」

P「…ま、人間と大差ないなら今とそんなに変わらないだろう、むしろ身体能力が上がったなら前よりも更に長時間労働できるから万々歳だ」

恵美「…プロデューサー、言っとくけど吸血鬼でも普通に過労死するかんね」

P「えっ、マジか…」

恵美「それよりも、吸血鬼は最大のデメリットがあるの」

P「デメリット?」

恵美「…長期間吸血をしなかったら、死ぬ」

P「えっ」

恵美「…喉が渇いて、身体が血を求めるようになったらその予兆、次第に意識が朦朧として、熱に浮かされたみたいになって、地獄のような苦しみに襲われる」

恵美「そのうち意識を失って…」

P「…死に至ると?」

恵美「うん」

P「じゃあさっきの恵美はかなりマズかったんじゃないか!?意識も失ってたし!」

恵美「一応猶予はあったからさ、一眠りして帰ってから保存用血液を飲むつもりだったの」

P「あー、なら早とちりしちゃったのか…いや、でもなぁ…」

恵美「でも嬉しかった、アタシの為に必死になってくれて…だからアタシは…」

恵美「…」

P「恵美?」

恵美「…吸血ってさ、種類があんの」

恵美「一つは食事としての吸血、一つは眷属を作るための吸血」

P「眷属ってアレだっけ、なんか僕みたいにするやつ」

恵美「そんな感じ…そしてもう一つは、吸血鬼を作るための吸血」

P「吸血鬼を…作る?」

恵美「…吸血鬼が本能のままに吸血することで相手を自分と同じ吸血鬼へと変貌させるってお婆ちゃんは言ってた」

恵美「まあ例外はあるみたいだけど」

P「お婆さんが吸血鬼だったのか」

恵美「うん…アタシのご先祖様のクリスティーナって吸血鬼がエドガーって人を吸血鬼にしたらしくて」

P「クリスティーナ?」

恵美「うん、若くして亡くなったらしいけど、その子孫が日本に渡ったんだって」

P「なるほどね」

恵美「両親は普通の人間なんだけどね、たまにお婆ちゃんやアタシみたいに吸血鬼として産まれるパターンもあるみたい」

恵美「…吸血鬼が吸血相手を眷属じゃなくて吸血鬼にするには理由があるらしくてさ」

恵美「人間と吸血鬼は子孫を残しにくいからだって」

P「子孫を…?」

恵美「うん…でも、吸血鬼と吸血鬼なら割と子供が出来やすいみたい」

恵美「多分生存本能かなんかなんだろうね、種の繁栄のために、命の危険を感じたら子孫を残そうとするんだと思う」

P「ふーん…」

その説明を聞いた俺は恵美をジッと見つめる

恵美「あ、あんまりこっち見ないで」

顔を真っ赤にしてそっぽを向く恵美

可愛い奴だ

P「…はは、なるほどね」

恵美「~~~!」

P「ま、なっちまったものは仕方ない、受け入れるさ」

恵美「本当にごめん、アタシも出来る限り責任取るから…?」

恵美「…」

P「恵美?」

恵美「な、なんで…」

また吸血衝動がアタシを襲う

ここにはアタシとプロデューサーの二人しか居ないのに

吸血鬼は同じ吸血鬼に対して吸血衝動は起こらないってお婆ちゃんも言ってたのに

なんで

目の前あの美味しそうな首筋に吸い付きたい

あのとても美味しい血を飲みたい

プロデューサーの血が欲しい

恵美「はっ…はっ…」

動悸が激しくなる

欲しくて堪らない

プロデューサー…

P「恵美、どうしたんだ」

目の前には再び息を荒くした恵美

その目は熱を帯びて俺を…いや、俺の首筋を見ている

…これが吸血を求める状態なのだろうか?

なら俺のしてやれることは一つしかない

吸血鬼の血が吸血鬼の癒やしになるかは分からないが

恵美が求めるなら、血を差し出すくらい苦ではない

P「恵美」

俺は襟を開け、見えやすいように首筋を叩いた

恵美「ん…はあっ…美味しい…」

P「そうか」

首筋に吸い付く恵美の背中をあやすように叩きながら、俺は虚脱感に包まれる

…け、結構がっつり吸うんだな

そのまましばらく吸われ続け、そろそろクラクラしてきた頃

恵美「んっ」

満足したのか、恵美が離れた

P「ま、満足したか?」

恵美「うん…すっごく美味しかった…って、アタシまた!」

P「き、気にしなくて良い」

恵美「で、でも、何で?何でプロデューサーは…」

恵美「何でプロデューサーは、吸血鬼になってないの?」

P「えっ」

P「吸血鬼化するはずの吸血をされても変化無しか…」

P「けど自分が吸血鬼かどうかって自覚出来るもんなのか?」

恵美「さあ…アタシも自分が吸血鬼だって自覚したのは生まれて初めて吸血衝動に襲われたときだったし」

P「ソレまではどうしてたんだ?」

恵美「トマトジュース飲んでた」

P「トマトジュースで代用出来るのか…」

恵美「なんか赤ワインでも良いみたいだけどね」

P「割と適当だな吸血鬼…けど俺、本当に吸血鬼化してないのか?」

恵美「それは間違いないと思うよ、吸血鬼は吸血鬼の血を吸っても吸血衝動抑えられないし」

恵美「吸血衝動を抑えられるのは人間の血液だけ」

恵美「もしかしたらプロデューサーは何らかの抗体を持ってたりするのかもね」

P「抗体ね…何にせよ人間のままで良かったよ」

恵美「…だよ…ね、やっぱり吸血鬼なんかになるよりは人のままで居た方が…」

P「これで恵美が苦しい時でも、傍に居てやれる」

恵美「…え?」

P「俺が傍に居れば、恵美が吸血衝動で苦しんでもすぐに血を分けられるだろ?」

P「俺は恵美の苦しむところは見たくない、だからその苦しみを少しでも取り除けるなら血を分けるくらいどうって事ないさ」

恵美「プロデューサー…」

恵美が俺の胸に頭を埋める

恵美「ごめん、そして、ありがとう」

P「どういたしまして」

この日から、俺と恵美は一緒に行動するようになった

恵美「プロデューサー…」

P「ん、こっちにおいで恵美」

恵美「うん…」

恵美の手を引いて、人気の無い所に行く

恵美「いただきます」

P「…っ」

恵美の牙が首筋に刺さる感覚

しかし痛みは無い

恵美「ん、ん」

恵美は夢中で俺の血を吸い上げる

舌も使っているので少しくすぐったい

恵美「はっ…」

やがて恵美は首筋から離れ、惚けた顔をする

P「恵美、美味かったか?」

恵美「うん…アタシ、もうプロデューサーのじゃないと満足出来ない」

恵美「この味を知っちゃったらもう輸血パックも、トマトジュースも…アタシの渇きは癒やせない」

恵美「だからプロデューサー…もっとアタシに頂戴?」

P「ああ、好きなだけ持っていけ」

恵美「ね、プロデューサー、寝る前にさ」

P「わかってる」

恵美「ありがと」

二人で布団に入り、恵美に体を任せる

恵美「んっ…」

俺を抱き締めながら血を吸う恵美

俺はそんな恵美をそっと抱きしめた

恵美「温かいね」

吸血を終えた恵美が俺の胸に顔を埋め、呟く

P「ああ、温かいな」

恵美「プロデューサーの血も温かさも、プロデューサーの全部は、アタシのものだから」

恵美「だからアタシの全部を、プロデューサーにあげる」

P「恵美…」

恵美「アイドルとしては間違ってるのかもしんないけどさ」

恵美「所恵美としては、絶対間違ってないよ、この気持ち」

P「…」

恵美「クリスも、エドガーと一緒に約束の地を目指した時、こんな気持ちだったのかなぁ…」

俺は何も言わず、恵美の頭を撫でる

この夜、唇に一つの約束が刻まれた

そんなある日のこと

恵美「んっ…」

P「…」

劇場の控室で恵美に血を吸わせていた俺はそっちに気を取られて周囲への警戒を怠っていた

だから控室に誰かが入ってくることに気付かなかった

千鶴「私としたことが忘れ物をするなんて…あら?」

P「えっ?」

控室に入ってきた千鶴さんが俺達を見て目を丸くする

まずい、恵美の吸血を見られてしまった

なんとか誤魔化さないと

P「ち、千鶴さん、これはそのですね」

千鶴「恵美…貴女まさか、ヴァンパイアなのですか…?」

P「え?」

千鶴さんの口から思わぬ単語が飛び出す

千鶴さんは吸血鬼を知っているのか?

恵美「…え、千鶴?」

吸血を終えた恵美が、千鶴さんに気付く

千鶴「答えなさい恵美、貴女はヴァンパイアなのですか」

恵美「アタシは…うん、吸血鬼だよ」

千鶴「…そうですか、それなら…」

千鶴さんがハンドバッグに手を入れ、取り出したのは

千鶴「今ここで貴女を殺しますわ」

装飾の施されたナイフだった

P「ちょっ、千鶴さん!?」

刃渡り的に明らかに銃刀法違反のナイフを取り出した千鶴さんに驚く

恵美「千鶴、まさか…」

千鶴「そのまさかですわ、私はヴァンパイアハンターの末裔です」

P「ヴァンパイアハンター?」

恵美「アタシみたいな吸血鬼を狩ることを専門にした連中だよ」

千鶴「恵美、貴女がヴァンパイアである以上は貴女を生かしておく訳にはいかない」

千鶴「ヴァンパイアを狩り、人の世に平穏をもたらすのがハンターである私の仕事ですから」

恵美「アタシは人を殺した事なんて無い、それに吸血鬼だって言うだけで殺されるなんて間違ってる!」

千鶴「ヴァンパイアは人に仇成す存在、生きていること自体が罪!それを放っておくなど、到底許されることではありませんわ!」

恵美「生きていること自体が罪な存在なんていない!吸血鬼にだって幸せになる権利はある!」

千鶴「ふう…かつて私の先祖、アレクサンドラも貴女と同じように考えていましたわ…存在自体が罪な生き物などいない…と、けれど彼女は殺されてしまった、他でもないヴァンパイアに」

恵美「っ!」

千鶴「残されたアレクサンドラの妹、ノエルは姉の仇であるヴァンパイアへの復讐を誓い、ヴァンパイアハンターとなるためにベルモンド家へと嫁いでいった…」

千鶴「最も、ノエルもヴァンパイアに殺されてしまいましたが」

千鶴「だからこそ私は、ヴァンパイアに殺されてしまったアレクサンドラとノエルの血を継ぐものとして、ヴァンパイアを一人残らず狩らねばなりません」

恵美「っ…!」

千鶴「恵美、覚悟なさい!」

千鶴さんが刃を上向きに、ナイフを腰に構えて恵美に向かって走る

本気で殺す気だ!

恵美「!」

P「駄目だ!千鶴さん!」

俺は咄嗟に恵美と千鶴さんの間に飛び込む

もしかしたら止まるかもしれないと淡い期待を抱きながら

しかし現実はそんなに甘くは無く、当然人も急には止まれない

P「うぐっ…」

千鶴「なっ…!」

止まれなかった千鶴さんのナイフは、俺の腹を綺麗に貫いていた

P「ぐうう…!」

傷が焼けるように痛む

そして傷口から、俺の赤い命が止まることなく流れ出していく

千鶴「そ、そんな…」

恵美「プロデューサー!」

俺は尻餅をつき、仰向けに寝転がった

まずいな、目が霞むぞ

恵美「やだよプロデューサー!死んじゃやだ!」

霞んでいく視界に、泣きながら俺の名前を呼ぶ恵美が映る

P「ごめんな恵美…一緒に居てあげられなくて」

恵美「やだ!やだってば!ずっと一緒に居てよ!」

P「ああ…ずっと一緒に居るさ…俺は恵美のものだからな」

恵美「プロデューサーの全部はアタシのものって言ったじゃん!勝手に死んで勝手に無くすなんて許さないから!」

P「はは、どうやったら…許してくれる…?」

恵美「一緒に…一緒にいてよっ…!」

恵美が俺の手を握りながら嗚咽を漏らす

…なんだか、眠いな

少し、目を閉じるか…

P「…」

恵美「プロデューサー…?プロデューサー!」

プロデューサーから返事は帰ってこない

それどころか、握った手からどんどん体温が失われていくのを感じる

千鶴は床に座り込んで呆然としている

何か、何か出来る事

プロデューサーを生かすために、出来る事は…

恵美「…あっ」

ある

たった一つだけ

でもこれは賭けだ

お婆ちゃんも、確実じゃないからやってはいけないって

だけど

だけどアタシは

プロデューサーを助けたい

アタシは引き出しからカッターを取り出して、自分の指を切った

痛みと共に血が滲み出す

だけどそれがなんだ、アタシにとってはこんな痛みよりも、プロデューサーを失う方がよっぽど痛いし苦しい

アタシはプロデューサーからナイフを引き抜くと自分の血を口に含み、プロデューサーに飲ませた

恵美「ん…」

吸血鬼の血を人間に飲ませる…吸血以外で人を吸血鬼に変えるもう一つの手段だ

例え吸血鬼にしてでも、アタシはプロデューサーを助ける

助けないと

恵美「お願い…!」

やれることはやった、後は…

P「…ん?」

背中に感じる冷たさに、目を覚ます

あれ、俺なんで床で寝てるんだ?

状況を把握しようとして頭を振る

そして思い出した

何があったのか

俺は確かさっき恵美を庇って千鶴さんに刺されて…

P「そ、そうだ、恵美!?」

恵美は、恵美は無事なのか!?

恵美「プロ…デューサー…?」

P「恵美!怪我は…無いみたいだな」

恵美の無事を確認し、安堵した次の瞬間

恵美「プロデューサー…プロデューサー!」

恵美が俺に抱き着いてきた

P「め、恵美?」

恵美「良かった…本当に良かった…!」

P「…ごめんな、怖がらせて」

恵美「ううん…!プロデューサーが無事なら、
アタシはそれだけで…!」

恵美の背中を撫でてあやす

恵美は俺を抱き締めたまま、泣き出した

千鶴「…プロデューサー」

P「千鶴さん…」

千鶴さんが、憔悴しきった表情で俺に話し掛けてきた

千鶴「護るべき人を護るどころか殺しかけてしまい、本当に申し訳ありません…」

千鶴「あの時、プロデューサーが恵美を守るのは分かりきっていたのに…私は仇討ちを優先してしまった」

千鶴「私は…」

P「千鶴さん」

何度も頭を下げる千鶴さんに、俺は声をかける

P「俺は、千鶴さんが間違っているとは思いません」

P「先祖が吸血鬼の手に掛かって殺された…憎むのも当然です」

P「だけど、すべての吸血鬼がそんな悪の存在というわけじゃない」

P「恵美みたいに、危害を加えずに、ひっそりと生きてる人達もいます」

P「だから俺は、最初から決め付けることはしたくない」

P「千鶴さんから見て、恵美は悪い吸血鬼でしたか?」

千鶴「いえ、恵美は…私にとって…」

千鶴「私にとって、大切な…劇場の仲間です」

千鶴「殺そうとしておきながら虫が良いかもしれませんが…」

P「それで良いんです」

千鶴「プロデューサー…」

P「俺達は仲間なんです、だから間違えても、何度だって助け合えば良い」

P「そうでしょう?」

千鶴「…ですわね」

P「これからも頼りにしてますよ、千鶴さん」

千鶴「…ふふ、頼られましたわ、プロデューサー」

千鶴さんがいつものセレブらしい気高さを感じる表情に戻る

千鶴「恵美」

恵美「…何?」

千鶴「プロデューサーと、幸せになってくださいまし」

恵美「!うん!」

千鶴「ふふ、良い返事ですわ!」

そう言うと千鶴さんは去って行った

千鶴さんが去った後、ナイフの刺さっていた箇所を確認する

今は傷一つ無い

P「いやーしかし何で生きてるんだ俺」

P「前に事故って腕がもげた時はスパドリがあったから再生したけど、今は切らしてたはずだし」

恵美「アタシの血を飲ませて、吸血鬼化させたからだと思う」

P「恵美の血を?」

恵美「うん、前も言ったけど吸血鬼は大抵の怪我とかはすぐ治るから」

P「そっか…じゃあ恵美が助けてくれたんだな」

恵美「うん…」

P「しかしこれで俺も吸血鬼か…恵美に血をあげられなくなったのは残念だ」

恵美「あ、その事なんだけど」

P「うん?」

恵美「プロデューサー、なんか人間に戻ってるみたい」

P「えっ」

恵美「今もプロデューサーを見てると胸が高鳴ってさ…すごいどきどきしてるし」

恵美「…触って確かめてみる?」

P「………………………いや、良い」

恵美「すごく間があったけど、まあいいや」

恵美「とにかく、プロデューサーは人間のままってこと」

P「そっか…じゃあまた恵美の傍に居られるな」

恵美「うん…ずっとアタシの傍に居て」

二人で抱き締め合う

恵美「…ねえ、プロデューサー」

P「ん?」

恵美「アタシに、もっとプロデューサーを感じさせてよ」

P「…ああ」

二つ目の約束が、身体に刻まれた

それから数カ月後

P「新しい仕事だ」

恵美「何の仕事?」

P「劇場で演劇をやるんだ、舞台は中世ヨーロッパで、テーマは人間の男装少女とヴァンパイアの女装少年のボーイミーツガールだ」

朋花「ヴァンパイアのお話ですか~、ふふ、面白そうですね~」

千鶴「あら…この配役は」

莉緒「私は伯爵夫人で悪女!ふふふ、セクシーに演じてみせるわよ!」

恵美「ねえプロデューサー、これって…」

P「恵美からクリスとエドガーの話しを、千鶴さんからアレクサンドラとノエルの話しを聞いて思ったんだ」

P「現実のクリスとエドガーの人生は確かに良い結果にはならなかったかもしれない」

P「でもお話なら、ハッピーエンドでも良いだろ?クリスも、エドガーも、アレクサンドラもさ」

恵美「…そだね、やっぱりハッピーエンドが一番良いよ」

恵美「でもさプロデューサー、アタシ達もこのハッピーエンドに負けないくらい、この先も幸せで生きたい」

恵美「だからさ、アタシと一緒に歩いてくれる?」

P「もちろんだ、俺と恵美なら絶対ハッピーエンドに辿り着けるさ!」

恵美「にゃはは!期待してるからね、プロデューサー!」

恵美「クリスとエドガーが辿り着けなかった約束の地に、アタシを連れて行ってね」

P「ああ、行こう、一緒に」

いつか二人で、約束の地に…

尾張名古屋

http://i.imgur.com/xWRMBYx.jpg
今のイベントが元か、いいつなげかただった
乙です

>>5
所恵美(16)Vi/Fa
http://i.imgur.com/wAujv7U.jpg
http://i.imgur.com/jU8fQ4I.jpg

>>26
二階堂千鶴(21)Vi/Fa
http://i.imgur.com/StuD9oF.jpg
http://i.imgur.com/j8Z8PSW.jpg

>>44
天空橋朋花(15)Vo/Fa
http://i.imgur.com/cM5XoLi.jpg
http://i.imgur.com/SGZRpab.jpg

百瀬莉緒(23)Da/Fa
http://i.imgur.com/Rw3h880.jpg
http://i.imgur.com/fEttMSy.jpg

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