凛「ある日森の中で熊さんに出会ってしまったにゃ」 (65)

ラブライブの合宿回をベースにした話です
一部にグロテスクで残虐な描写がありますので注意してください

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海未「すっかり日が暮れてしまいましたね・・」

希「今日はここでテントを張ってキャンプをしましょう」

凛「え~キャンプ~?真姫ちゃん達の別荘まで降りた方がいいんじゃない?」

希「もう日が暮れちゃって足元が暗くて危ないからね・・転んでケガするのも嫌やろ?」

凛「まあ・・それはそうだけど・・」

海未「ほら凛!テントの支度をしますから手伝ってください!」

凛「はーい・・」

こうして凛たちは木の下にテントを張ってキャンプをすることになったんだ・・今思い返してみると無理にでもわがままを言って真姫ちゃんの別荘に降りるべきだったんだにゃ・・・そうすればあんな恐ろしい体験をしなくてすんだのに・・

希「海未ちゃーん!!鍋の準備できたで~ 食材とって~」

海未「はーい!」
希ちゃんと海未ちゃんは手際よくレトルトの食材を調理していく
バーナーの上にアルミ製の鍋を乗せてレトルト食品を投入し温める

海未「凛が好きだと思ってカップラーメンも買っていたんですよ♪」

凛「わーこれ凛の大好きなラーメンだにゃーありがとー海未ちゃーん・・」

最初から凛を登山に連れて行くつもりだったんだと思い乾いた笑いと共に溜息が出そうになった

希「ご飯炊けたで!!」
希ちゃんが元気のいい声ではんごうを取り出す
はんごうの中には白米がつやつやとおいしそうな光を出していた

凛「おいしそう!!」

希「えへへーちょっと味見・・」
希ちゃんはご飯粒をつまんで口の中に放り込んで咀嚼する

希「うーんおいしい100点満点!!」
希ちゃんは満足げな笑みを浮かべた

海未「こっちのレトルトカレーもおいしそうな匂いですよーご飯にかけて食べましょう!!」

登山に慣れている2人がせっせと調理の準備を行い凛はほとんどただ見ているだけの人になっていたにゃ・・

容器にご飯を乗せてその上にレトルトカレーのルーを乗せる、ただそれだけの簡単な料理だったけど、登山でくたくたになった凛にとってはよだれが口からこぼれそうなくらいおいしそうなカレーができあがったんだ

3人「いただきまーす!!」

希「うーんやっぱりおいしい!!」
凛「海未ちゃんおいしいよ!!」

海未「ふふっそうでしょう♪これも登山の醍醐味の一つですよ♪少しは登山が好きになってもらえましたか?」

凛「崖から落ちそうになったりさんざんな一日だったけれど・・凛は山が好きになりそうだよ!!」

海未「ふふっ♪それはよかった」

海未ちゃんは満足げにほほ笑んだ、その笑顔が見れただけでも登山に付き合ってよかったかも・・そう思ったんだよその時は・・



希「さあもう寝ようか!明かりを消すで!」

凛「凛もう少しみんなとお話ししたいにゃー」

希「お話なら明かりを消してもできるでしょ。消すでー」
希ちゃんはそういうとランプを消した

ランプの灯が落ちてテントの中は暗闇に包まれる
星空の幻想的な光と月明かりだけがキラキラと輝いていた

凛「星がきれいだねー」

海未「東京では考えられないくらいキレイですね・・」

希「ホントやねー・・海未ちゃんに登山しますよ!!って言われた時はどうしたものかと思ったけどついてきてよかったよ」

希ちゃんが海未ちゃんの方に体を向けて笑顔を浮かべる

凛「凛もびっくりしたんだからね!ちょっとついてきてくださいって言われてついてきてみたらこんな山奥まで連れてかれて・・死ぬかと思ったにゃー!!」

海未「し・・仕方がないではありませんか・・そうでも言わないと来てくれなかったでしょう・・」

凛「作詞にきたはずなのに・・なんでこんな山奥に凛は・・」

希「まぁまぁ凛ちゃんその辺にしときや・・海未ちゃんも少しは反省しとるようやし・・な・・そうやろ?海未ちゃん?」

海未は・・はい・・私のわがままに付きあわせてすみませんでした・・そしてありがとうございます・・」

希「いえいえ♪ウチはウチで楽しめたしまた、誘ってや♪」

凛「凛は・・危険なことはイヤだけどまたこの3人で何かできたらなと思うよ!!海未ちゃんも希ちゃんも大好きだよ!!」

海未「希・・凛・・」
暗くてよく見えないけれども海未ちゃんの顔が赤くなったような気がした

海未「さ、さあもう寝ますよ!」

希「クスクス照れちゃって・・」

凛「かわいいにゃ~」

海未「おだまりなさい!!」

希・凛「あははははははは!!!」

そうして凛たちはしばらくして眠りについたんだ・・

どれくらい時間が経ったんだろうか・・
凛ははなんだか外からガサガサ・・ガサガサ・・っていう音が聞こえるから目を覚ましてしまったんだ・・

凛「う・・・・う~~ん・・なにこの音・・海未ちゃん?希ちゃん?」

海未「スー・・スー・・・」
希「zzzz・・・zzzz・・・]

海未ちゃんと希ちゃんは登山の疲れでグッスリ眠りについていた

凛「2人とも・・グッスリ眠っているね・・」
それじゃあこの音はいったい・・

気になった凛は周囲をよく見渡した
ガサガサ・・ガサガサ・・という何かを漁るような音が聞こえる・・
音はテントの外から聞こえてきていた

凛「な・・なに・・何かいるの?」
凛は恐る恐るテントを少しだけめくって音の正体を確認した

凛(なにか・・・いる?)

暗闇の中満月の光が煌々と輝いていた

私たちがさっきまで食事を作っていた調理器具の周辺に何か黒くて大きな物体が歩き回っているのが見えた

凛(な・・なに・・なにがいるの?)
ソイツは凛が食べていたカップラーメンの容器や、カレーをよそった紙トレーを取り上げて舐めまわしていた
グルルルという荒い息遣いが聞こえてくる
しばらく歩きまわったソイツに月明かりが当たり、正体を現した

凛「あ・・・・あ・・・」

ソイツは体長180センチはあろうかという大きなツキノワグマだった
全身真っ黒な体毛で覆われていて、闇と完全に同化してしまっていた。闇の中に二つの目がギラギラと光って、獰猛な牙を剥き出しにしている
額の一部分の毛が剥げており、傷跡のようなものが目立っていた

驚いて腰が完全に抜けてしまった私は、床を這いながら気配を殺して海未ちゃんと希ちゃんの寝袋へと這っていった

凛「海未ちゃん・・!!希ちゃん・・!!起きて!!起きて!!」ひそひそ

海未「う・・う~ん・・なんですか?凛」

希「どうしたん?まだ朝には早いように見えるけどなあ・・」
2人は眠そうに眼をこすりながら私の事を不満げな目で見つめる

凛「静かにして・・絶対に音は立てないで・・あれ見て・・あれ・・」

希「なんなん・・・え・・・?」
海未「どうしたと・・・な・・」

テントの隙間から外を見た二人は熊を見て硬直してしまった
熊はさっきとかわらずに私たちが食事の跡の紙トレーを舐めまわしていた

不満げに紙トレーを地面に投げ捨てると足で思い切り踏みつけ紙トレーはバラバラに砕け散る

海未ちゃんと希ちゃんは顔を真っ青にしているけれども熊からは一瞬たりとも目を離すことはなかった

希「ど・・どうする・・?たしか熊は大声を出すと逃げていくって・・本で読んだことが・・」
海未「そ・・それは最後の手段にしましょう・・幸い熊はテントの中にいる私たちには関心がないようです・・熊がいなくなるのを待ってそれから急いで真姫の別荘に行きましょう・・」

凛「凛も海未ちゃんに賛成だよ・・とても怖くて大声なんて出せないよ・・」

私たちは3人で抱き合いながらガタガタと震えて熊が立ち去るのを待ったんだ・・

ガサガサ・・ガサガサ・・グルルル・・ハフハフ・・
ガサガサ・・ガサガサ・・グルルル・・ハフハフ・・

どれくらいの時間が流れたんだろう・・数分だったのかもしれないしあるいは数時間くらいは経ったのかもしれない・・
永遠に感じる時間が流れ続けた・・空から朝日が差し昇るころになってようやく熊は、テントのそばから離れた

ドドドド・・という地響きが聞こえてきそうなくらいの重量感を感じさせる音と共に熊は山の中へと消えて行った

熊が去っても凛達3人は目を固く瞑って抱きしめあっていたんだ・・
誰一人熊が怖くて動けなかったんだよ・・



海未「希、そっちをお願いします」
希「はいはい・・せーの!!」

朝日が完全に上った頃海未ちゃんと希ちゃんがテキパキとテントを畳んでいるのを尻目に見ながら
凛は荷物の後片づけをしたんだ

熊に荒らされちゃってもう使い物にならないバッグもあったけれどもまだ使えそうなものを一まとめにしてリュックサックに押し込んだ

海未「凛!準備はできましたか?早く行きますよ!?」

出発の支度を急いで整えた私たちは逃げるようにこの場を立ち去った
私たちはとんでもないミスをこの時犯してしまっていたんだと気づかずに・・

登っている時と違い下りの時は3人とも黙ってただ黙々と下山の道をたどった
早く安全な別荘に帰りたい、残りの仲間たちと合流して安心したい、みんなそんなことを考えていたんだと思う・・

海未「もう少しです!!希!凛!大丈夫ですか!?」
希「ウチは大丈夫よ!!凛ちゃんは大丈夫!?」

凛「はぁはぁ・・り・・凛も大丈夫だよ・・!早く行こう!!」

海未「よし!あと少しで真姫の別荘に着きますよ!!急ぎましょう!!」
かなり早いペースで下山していることは山初心者の凛でもわかったよ・・正直きつかったけれどもあの恐ろしい熊がいるこの山を早く抜けたいという
気持ちが強かったから凛はなんの文句も言わずに海未ちゃんの指示に従ったんだ・・


そのままのペースで歩き続けてちょうどお昼ごろに真姫ちゃんの別荘に到着した

山の中をいろいろと歩き回ったから別荘にたどり着くころには凛たちは3人とも泥だらけになっていた

別荘に私達3人はなだれこむように駆け込んだんだ
玄関にはちょうど真姫ちゃんと穂乃果ちゃんがいて、泥だらけになった凛たちを見て目を丸くして驚いていたよ

穂乃果「おかえりなさーい!・・ええええ!!?どうしたの3人とも!?泥だらけだよ!?」
真姫「きゃあ!!そのまま中に上がるつもりなの!?ああもう!!玄関泥だらけになっちゃったじゃないのよー!!だれが掃除すると思ってんのー!?」

絵里「あら3人とも帰ったの・・て・・ええ!?泥だらけじゃないの!?」
絵里が希達が帰ってきたのを確認するためにひょっこりと顔を出した

海未「穂乃果・・」
希「エリチ・・・」
凛「真姫ちゃん・・・」

しばらく名を呼んだ人と見つめあいそして・・

海未「ホノカーーーーーー!!!!!!」
希「エリチーーーーーーーー!!!!!!」
凛「マキちゃーーーーーーーん!!!!!」

海未ちゃんは穂乃果ちゃんに抱きついた
希ちゃんは絵里ちゃんの足にしがみついてオイオイと泣き出した
凛は真姫ちゃんに抱きついたんだ

穂乃果「ちょ!?海未ちゃん!??ええ!?どうしたの!!??」
海未ちゃんが突然抱きついてきたため穂乃果ちゃんは廊下に押し倒されるような形になって大の字に倒れた

海未「うう!!怖かった怖かったんですよ~!!!穂乃果~~!!」
穂乃果ちゃんの胸に顔をうずめてグスグス泣き出す海未ちゃん

絵里「希!!??ええ!!???」
希「エリチーー!!生きて会うことができてウチはうれしいんよー!!!!」
絵里ちゃんの足にしがみついて離れない希ちゃん

凛「真姫ちゃーん!!!怖かったにゃーー!!!」
真姫「ちょ!!離れなさいよ!!あーもう私まで泥だらけになっちゃったじゃない!!イミワカンナイ!!」
凛は真姫ちゃんに飛びついて頬ずりをしたんだ

それからしばらく抱きついた後、泥だらけの凛たちは真姫ちゃんに言われて露天風呂に入ることになった

泥だらけになった凛達3人に抱きつかれたから真姫ちゃん達も一緒にお風呂に行くことになったよ

真姫「そんな汚い体で別荘の中を歩かせないわよ!!あなたたち3人も!!穂乃果も絵里も!!そして私も!!全員お風呂に入らないと別荘に入れないわよ!!」

穂乃果「ええーー!?私たちも入るの~!?」
絵里「ま・・まあいいじゃないたまにはこんな時間にお風呂に入るのもいいと思うわよ?」

凛達6人がお風呂に入る間に残ったかよちん・ことりちゃん・にこちゃんの3人が昼食を作ることになったんだ

露天風呂のお湯に浸かりながら私たちは山であったことを真姫ちゃんたちに話した

真姫「う"ぇえ!?あなたたち・・熊に遭遇したの!?」
凛「死ぬほど怖かったにゃ・・とっても大きいし、額には傷跡があって怖いし」
凛達の報告を受けて目を丸くして仰天する真姫ちゃん

絵里「ク・・クククク・・クマって・・熊のことよね!?あの動物の!!大きくて山とかによくいるあの熊よね!?」

希「そうよーその熊なんよ・・エリチが添い寝するときに使うテディベアのぬいぐるみみたいなかわいい奴じゃないで・・」

絵里「な・・///この年になってテディベアで添い寝なんてしません///」

凛「その割には顔を真っ赤にしているにゃ・・きっとぬいぐるみと添い寝してるんだね絵里ちゃん」

絵里「し・・してないってば////」
顔を真っ赤にする絵里ちゃん・・かわいいにゃ

希「話を戻すよ?熊がテントの周りをうろついていて私たちの荷物を物色していたんだよ・・一晩中・・生きた心地しなかったわ~」

凛「ここで死ぬとおもったにゃ・・」

真姫「そんなことがあったなんて・・」

穂乃果「まったく・・急に登山しますっていう紙を残して3人で消えるから心配してたんだよ?」

海未「申し訳ありません・・山が私を呼んでいたんです・・」

穂乃果「心配するようなことをしないでって私は」

海未「そこに山があったら登らないと気が済まないんです!」

穂乃果「・・・」
穂乃果ちゃんは洗面器を取り上げるとなにも言わずに海未ちゃんの頭を叩きました
スカーンという小気味のいい音が露天風呂の中に響いたにゃ

海未「イタイです!!なにするんですか!!」
穂乃果「海未ちゃんなんてもう知らない!!」
穂乃果ちゃんが頬をふくらませてぷんぷんと怒るのを見て海未ちゃんは慌てた様子でなにやら弁解をしていました。

真姫「・・・・」

凛の横で湯に浸かっている真姫ちゃんがなにやら青い顔をしているのが気になったから声をかけてみた

凛「どうしたの?真姫ちゃん?顔色悪くない?」

真姫「え?・・いや・・そんなことないわよ・・」
(額に傷跡がある熊? まさかね・・あの事件の熊じゃないわよね・・もう何年も前の事件だし・・関係ないわよね)

穂乃果「しかし、熊が出るなんてなんだか物騒だよね・・」

絵里「戸締りは昨日よりしっかりして寝ましょう」

海未「そうですね・・明日になったら帰るんですし」

真姫「そろそろあがりましょう」

穂乃果「そうだね!!そろそろにこちゃんたちが料理を完成させる頃だと思うし」

遠くでガラスが割れるガッシャーンという音が聞こえてきたのは穂乃果ちゃんが湯船から立ち上がろうとした時だった

真姫「な・・なに・・今の音・・ガラスが割れるような音だったけど・・」

凛「き・・きっとにこちゃんか誰かがガラスのコップか何かを落として割っちゃったんだよ・・」
私は頭に浮かんだ恐ろしい考えを否定するためにとっさに楽観的な予想を口にした

穂乃果「いや・・ガラスのコップが割れたくらいでここまで大きな音はでないよ・・」

絵里「じゃ・・じゃあまさか・・!!」

きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!

絵里ちゃんが顔を真っ青にした時だった・・遠くからことりちゃんたちの耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきたのは

穂乃果「「ことりちゃん!!」
穂乃果ちゃんが湯船から立ち上がると皆金縛りが解けたかのように脱衣所に駆け出した

絵里「穂乃果!!」
海未「ま、待ってください!!」
穂乃果に続いて絵里ちゃん達が駆け出した

凛「真姫ちゃん!希ちゃん!凛達も追うよ!!」
2人はわかったとうなずいて、凛達も後に続いた

ことりたちは穂乃果ちゃん達が露天風呂に行っている間にお昼ご飯の準備をしていました

ことり「ふんふーん♪」コトコト
ことりの目の前ではシチューがコトコトという音を立てて真っ白でおいしそうな匂いを醸し出しています

にこ「しっかし・・あいつらほんとになにやってんのよ・・」ザクザク
ことりの隣ではにこちゃんが苦い顔をしてお野菜を丁寧に刻んでいきます

ことり「海未ちゃんたちのこと?」

にこ「そうよ!なんで3人で全員分の食事を用意しなくちゃいけないのよ・・」

ことり「まぁまぁ・・しょうがないよ・・みんな泥だらけになっちゃってたもん・・」

花陽「でもよかったよぉ・・凛ちゃん達が無事に帰ってきてくれて・・あ・・ごはんが炊けたみたいです♪」ピー

花陽ちゃんが心底ほっとしたような顔をしています
花陽ちゃんがタイマーを入れた炊飯器がご飯が炊きあがったという合図を送ってくれました

ことり「でもどうしたんだろ・・なんか熊がどうのこうのと海未ちゃんが穂乃果ちゃんに泣きつきながら言っていたような・・」

にこ「どうせキツネにでも化かされて道に迷ったんでしょ」

花陽「キツネに化かされるって・・」

ことり「あはは♪にこちゃんおばあちゃんみたい♪」

にこ「あん?」ピキピキ
にこちゃんは顔に青筋を浮かべてことりの事を睨みつけた

ことり「ピイ!お、怒っちゃやだよにこちゃん!」
花陽「だ、ダメだよ!にこちゃん怒っちゃやだよ!」

にこ「はあ・・あんたたち相手じゃ怒る気にもなんないわよ・・」
そういってにこちゃんは肩をすくめて野菜をザクザクと切り刻んでいく

ガリガリ・・ガリガリ・・キキキキ・・
何かをひっかくような耳障りな音が聞こえてきた

にこ「?花陽なにか言った?」

花陽「え?なにも言ってないよ?」

にこ「おかしいわねえ・・」

音はまた聞こえてくる
ガリガリ・・ガリガリ・・キキキキ・・
ガリガリ・・ガリガリ・・キキキキ・・

にこ「あーもううるさいわね!!何の音よ!!」
ことり「変だね・・どこから聞こえてくるんだろう・・」

グルルルルル・・
バン・・バン・・バン・・ダンダン!!ダンダン!!

にこ・ことり・花陽「ひっ!!」

その音は私たちのすぐ近くからなっていたんだ
キッチンの外から壁を叩くような音が聞こえてきて私たちは全員その音の正体がはっきりわかってしまったんだ

黒くて大きなツキノワグマが窓ガラスを引っ掻いて壁を叩いていた
窓から熊がキッチンの中を覗き込んでいてことりたちと目がばっちり合ってしまった

花陽「き・・きゃあああああああああああ!!!」
花陽ちゃんが悲鳴を上げると熊が興奮したグオオオ!!という雄叫びを上げた

大きな音を立てて、窓ガラスがぶち破られた、ガシャアアアアアンというけたたましい音が別荘に鳴り響く
ガラスをぶち破った窓から真っ黒で大きな熊がキッチンの中に入ってきた

ことり「い・・いやああああああああああああああああ!!!!」
にこ「な・・なによコイツ!!なんなのよ!!」

熊はグオオオ!!という叫び声とともに鍋の中にあったシチューを手で薙ぎ払い床にぶちまけた
真っ白なシチューが床に広がり茶色の床が真っ白に染まっていく

熊はダイニングテーブルをひっくり返してテーブルの上にあった食材やお菓子などを床にぶちまけて
食い散らかしていく

ことり「い・・嫌だ!!」
花陽「だれか助けてえーーーーーーー!!!!」

熊は花陽をわずらわしげに睨み、獰猛な牙を剥いて花陽を威嚇した
花陽「いや・・やだ・・こっちにこないで!!」

熊は花陽に向かって歩き、ゆっくり距離を縮めていく

ことり「花陽ちゃん!!」
にこ「させないわよ!!」

ことり「にこちゃん!?なにを!?」
にこ「花陽から離れろ!!」

にこちゃんは備え付けの消火器を取り出してピンを引き抜いて消火剤を熊目がけて噴射した
消火剤は熊の顔に命中し、目と鼻に消火剤が直撃したことで熊は苦悶の叫びを上げて手をめちゃくちゃに振り回した

にこ「ことり!花陽!今のうちよ!!逃げるわよ!!」

にこちゃんが尻餅をついていた花陽ちゃんを掴みあげ、もう片方の手でことりの手を掴んで駆け出します
熊がにこちゃんに襲い掛かろうとしますがにこちゃんは残りの消火剤を再び熊目がけて噴射します

再び消火剤が直撃したことで熊は床を転げまわり、床に穴が空いた
冷蔵庫がバターン!というすさまじい音を立てて倒れる

にこ「早く!!にげなくちゃ!!花陽!?」
花陽「ご・・ごめん・・腰が抜けちゃって動けないよ・・」

にこ「なに言ってるの!!逃げなくちゃ殺されるわよ!?」

花陽「花陽を置いて2人は逃げて!!」
ことり「そ・・そんなことできないよ花陽ちゃん!!」

にこ「くっ!ことり!花陽をおんぶして先に逃げなさい!!消火器はもう1本あるからそれで私があんたたちが逃げるくらいの時間は稼ぐわ!!
ことり「にこちゃん!?何言ってるの!?」

にこ「早く行けって言っているのよ!!先輩命令よ!!」
ことり「できるわけないよそんなの!!」

にこ「グズグズしてたら全員殺されるわよ!!早く露天風呂に行って穂乃果たちにこのことを伝えるのよ!!そして外から助けを呼んできて!!」

ことり「にこちゃん!!」
にこ「行け!!行けっていったらいけ!!!早く行け!!!早く早く早く走れえええええええええ!!!!!」

にこちゃんは憤怒の表情でことりを睨みつけてその口から怒鳴り声を上げました

ことり「必ず助けを呼んでくるからね!!」
花陽「やだよ!!にこちゃん!!にこちゃん!!」

ことりは花陽ちゃんを背中に担ぎ上げてキッチンを飛び出しました

ことり(早く助けを呼んでこなくちゃ!!)

にこ「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
キッチンの中からはにこちゃんが消火器一本で熊と戦っている叫び声が聞こえてきます
ガシャンドタン!! ブシャーーーーー!! バリバリ!! ビリビリという激しい戦いと破壊の音が廊下に響き渡ります

花陽「ことりちゃんどうして!?にこちゃんがこのままじゃ熊に殺されちゃうよ!!」

ことり「暴れないで花陽ちゃん!!」
花陽「でもにこちゃんが!!」

ことり「ことりたちがここにいても何もできないよ!!あの熊に殺されちゃうだけなんだよ!!」
花陽「にこちゃん!!にこちゃん!!」

今は一秒でも時間が惜しいというのに駄々をこねて暴れる花陽ちゃんに内心腹が立ちました
ことりは花陽ちゃんの頬を思い切りひっぱたきます

花陽「ことりちゃん?」
ことり「私たちまで殺されたらにこちゃんがの決意が無駄になるんだよ!!どうしてそれがわからないの!?さあ立って!!早く逃げるよ!!」

その時でした、キッチンの中からにこちゃんが体をくの字に曲げて飛び出してきました
にこちゃんはそのまま廊下の壁に激突し、床にバタンという大きな音を立てて倒れ伏します

ことり・花陽「にこちゃん!?」

にこちゃんの体からは赤い液体が流れだしてきました
にこちゃんの体はピクリとも動きません
空になった消火器がカランカランという空虚な音を立ててことりたちの足もとまで転がってきました

花陽「あ・・・あ・・・」
花陽ちゃんはその場に座り込んで動けなくなってしまいました

そしてキッチンからギシ・・ギシ・・という大きな音を立てて真っ黒な体に消火剤で頭だけ雪山のように真っ白になった熊が出てきました

真っ白な顔に眼だけが充血して血走っています
かなり興奮しているようでよだれを垂らしながらグルルルという唸り声をあげています

花陽「い・・いや・・こないで!!」
ことり「あっちいって!!」

ことりは空になった消火器で熊の頭を思い切り叩きました
熊は怒りの眼差しをことりに向けます

ことり「花陽ちゃん逃げて!!」
熊の次のターゲットをことりにして花陽ちゃんを逃がそうとした時でした

穂乃果「ことりちゃん!!花陽ちゃん!!」
穂乃果ちゃんの叫び声が廊下の向こうから聞こえてきました

ことり「ダメ!!穂乃果ちゃん!!来ちゃだめ!!熊が出たんだよ!!逃げて!!」
ことりは消火器のホースを熊に向けて威嚇しながら熊との距離を一定に保ちます

穂乃果「え・・く・・熊?・・に・・にこちゃん・・・?」

穂乃果ちゃんの後からバタバタという足音がいくつも聞こえてきた

熊は足音に驚いてビクッと体を震わせた

絵里「穂乃果!!ことり!!」
海未「穂乃果!!!」
真姫「きゃあ!!に・・にこちゃん!?」

凛「え・・・・く・・熊だよ!!!熊がいるよ!!!間違いない!!!山で出た熊だよ!!額に傷がついているもん!!!」

熊は人間がたくさんやってきたことに驚いて、ぶち破った窓ガラスから外へと逃げて行った

ことり「た・・助かった・・」

ことりは命拾いし腰が抜けてその場にへなへなと崩れ落ちてしまいました

穂乃果「ことりちゃん!!大丈夫!?」

ことり「わ・・私は大丈夫・・それより・・」

花陽「にこちゃん!!しっかりして!!にこちゃん!!」
花陽ちゃんが血を流して動かないにこちゃんに覆いかぶさって泣きわめいていました

穂乃果「にこちゃん!!にこちゃんはどうして倒れているの!?」

花陽「花陽を守るために・・にこちゃんは・・にこちゃんは!!」

真姫「にこちゃん!!しっかりして!!にこちゃん!!」
真姫ちゃんは花陽ちゃんを押しのけてにこちゃんの心臓に耳をあてました

真姫「生きてる・・大丈夫!!にこちゃんは生きているわ!!」

絵里「にこ・・どうしてこんな・・」

希「とりあえず、にこっちを手当しよう・・出血はひどいけれど・・見た感じでは命に関わる傷は負っていなさそうやし・・」

穂乃果「あの熊はいったいなんなの?凛ちゃんさっき山で見た熊だっていっていたけれど・・あれがそうなの?」

凛「そ・・そうだよ・・額に傷を負っていた熊・・間違いないよ!!」

絵里「話は後よ・・にこを部屋まで運ぶわよ 真姫、救護箱を持ってきて」

真姫「わかったわ!!」

全員集合した凛達は2階の大きな部屋に集まり、にこちゃんをベッドの上に寝させて緊急会議を開いた

ことり「危機一髪だったよ・・穂乃果ちゃんがあの時来てくれなかったら私達3人はあのまま熊に・・」
ことりちゃんが目に涙を浮かべながらにこちゃんの顔を覗き込む
海未ちゃん・希ちゃん・凛ちゃんは真っ青な顔でにこちゃんの顔を見守っていた

海未「にこの・・具合はどうなのです?」

真姫「熊の突進を体に受けたことで弾き飛ばされたことによる打撲、頭部を壁に強打した際にできた頭部裂傷、および出血、昏倒して意識がないけれどもしばらくすれば目覚めると思う・・命に別状はないわ・・ただ何かあったら怖いから後で大きな病院でレントゲンとCTやMRIをやっておいたほうがいいと思う・・」

花陽「にこちゃん死なないんだよね!?」

真姫「ええ・・死ぬことはないと思うわ・・そのうち目覚めるわよ・・」

花陽「よかった・・よかったよお・・にこちゃん死んじゃったと思ったから・・」
かよちんは目に涙をためて顔を両手で覆いその場に崩れ落ちた

ことり「よかった・・本当によかった・・」
あの場に居合わせてしまった、かよちんとことりちゃんが二人で抱き合いながらにこちゃんの無事を喜んでいた

絵里「それで・・これからどうする?もう夕方だけど・・」

ことり「そ・・そんなの決まっているよ!!早く助けを呼ばないと!!」

真姫「無理よ・・さっきの熊の襲撃で電話を壊されてしまったわ・・ここは山の中の別荘だから携帯も圏外だし、近くには人も住んでいないわ」

凛「と・・とにかく人のいるところまでいって助けを呼んで・・」

絵里「街まで降りましょう!!来るときバスで来たじゃない!!バス停まで行けば!!」

真姫「バスは一日一本しかないわ、お昼ごろに来るのが一本だけ・・明日のお昼までバスはこないわ」

凛「人は住んでいないの!?民家とかあるでしょ!?」

真姫「誰もいないわ・・だれもいない場所だからパパはここの別荘を買ったのよ、人里離れた場所で気晴らしできるようにって」

ことり「じゃ・・じゃあ!!」

真姫「明日のバスが来るまでここで籠城するしかないわね・・さっきの熊の襲撃で冷蔵庫を壊されちゃって食料はあまり残ってないけれど、明日までだったら持つわ」

穂乃果「車道を歩いていくのはだめかな?町まで歩いていけない?」

真姫「無理ね・・駅からここまでバスで一時間くらい走ったでしょ?ここは相当町から距離があるのよ」

絵里「歩いていくのは無理・・か・・」

凛「この別荘に乗り物はないの!?キャンピングカーとか」

真姫「ないわ・・パパが来るときはたまに車を使うこともあるけれど、女子高生しかいないんだから車はないわよ、それに誰が運転するのよ・・まだ免許持っている人いないでしょ・・」

花陽「じゃ・・じゃあ・・」

絵里「状況を整理すると熊が私たちを狙っている中で生き残るしかないわね・・」

絵里「それに今からではまた日が暮れてしまうわ・・暗い山道を歩いて降りていくというのは危険すぎるわ」
太陽はすでに西に落ちかけていた、もうすぐ夕方がやってくる

希「みんな・・ほんとにすまん・・うちらが山から熊を連れてきてしまったんや・・」

海未「にこ・・ことり・・花陽・・申し訳ありません・・う・・ぐす・・申し訳ありません・・」
海未ちゃんと希ちゃんは泣きながらみんなに謝罪していた

凛「あの熊・・また襲ってきたらどうしよう!!」

穂乃果「たぶん・・また襲ってくると思う・・電話は壊されて助けを呼べない・・こっちはけが人がいるから満足に動くこともできない・・」

穂乃果「それにしても変じゃない?山では海未ちゃん達になんの関心も示さなかった熊がどうしてわざわざ海未ちゃん達を追いかけてまでして、ここに来たのかな?」
絵里「そういえばそうよね?希、本当に山では危害を加えられなかったの?」

希「うん、山ではウチ達には関心がないみたいに、ウチたちのバッグを漁ったり、残飯を食べているだけだったよ・・」

真姫「もしかして、熊が触った荷物を持ち帰ってきたんじゃない?」

海未「え、ええ・・まだ使えそうなものがありましたからそのまま持ち帰ってきましたが・・」

真姫「はぁ~・・やってくれたわねあなたたち・・」

海未「ど、どういう意味です?」

真姫「熊はね・・自分の持ち物への執着心がとても強いの、熊が荷物に触った時点で熊は荷物を自分の物だと認識したのよ・・あなたたちは荷物を置いて帰ってくるべきだったのよ・・」

海未「そ・・そんな・・」

真姫「海未・・これは登山の常識なんじゃないの?山に行くときはもっと勉強してから行きなさいよ」

海未「返す言葉もありません・・」
海未ちゃんはがっくりと頭を垂れた


絵里「真姫、あなた熊に関してずいぶん詳しいみたいね・・さっき襲ってきた熊に関してなにか知っているんじゃないの?」

真姫「ええ・・ちょっとね・・」
真姫ちゃんはきまずそうな顔をして目を伏せた

真姫「もう数年も前の話になるんだけどね・・凛たちが入った山で人のバラバラ死体が見つかったのよ・・」

凛「にゃ!?」

海未「な・・なんですって?」

真姫「遺体はタケノコ採りに来ていたおばあさんだったんだけど・・その遺体は何かに食い荒らされたようにバラバラになっていたらしいの・・臓器を中心に食い散らかされていてそれはもう凄惨な死体だったらしいわ・・」

真姫「警察の捜査の結果、熊によって殺されて食べられたのだろうという結論になったわ」

一同は真姫の話に聞き入る

真姫「地元猟友会が出てきて、クマ狩りが行われたんだけれども・・」
真姫ちゃんが言いずらそうに口ごもった

絵里「行われたけどどうしたの?先を言って」

真姫「熊に深手を負わせることはできたけれど、狩りに参加した猟友会のメンバーの一人が熊に殺されたわ」

絵里「え!?」

真姫「致命傷を負わされたメンバーが死に際に撃った弾丸が熊の額に命中したらしいわ・・熊は大量の血を残して逃げて行ったわ」

真姫「その後も熊の捜索が続いたけれども・・熊の死体はとうとう発見されなかった」

真姫「頭部に銃弾を浴びせたことと出血の量から、おそらく致命傷を負わせただろうと判断されたけれども、地元の住民は今でもその熊を恐れている」

真姫「それ以来その熊はここの地方では人食い熊として恐れられているの・・」

希「その事件聞いたことがある・・確かウチ達が1年生の頃、そんなニュースがテレビでやっていたような・・」

絵里「そ・・そうね・・確か人が何人も犠牲になったって・・」

希「だ・・大丈夫だよ・・ウチ達が遭遇した熊はウチ達には興味も示していなかったし・・」

凛「そ・・そうだよ・・凛達が遭遇したのは別の熊だよ・・きっと熊違いだよ」

穂乃果「でもあの熊、額に傷跡があったよね?あれが銃で撃たれた痕じゃないのかな?」
穂乃果ちゃんのその一言で部屋は水を打ったようにシンと静まり返った

絵里「ま・・真姫!!人食い熊がいる場所なんてどうして合宿先にしたの!?」

真姫「熊はもう死んだと思っていたのよ!!それにもう2年も前の話だし、大丈夫だと思ったの!!それに合宿よ!って私に別荘を貸してって言ってきたのは絵里だったじゃない!?」

絵里「それはそうだけど!!こんな危険な場所だなんて!」

真姫「私だって別に熊に会いたくてここにしたわけじゃないわよ!!それに海未達が山に入らなければあんな危険な熊を呼び寄せることもなかったのよ!?にこちゃんがケガをしたのも海未達の不始末のせいじゃない!!」

海未「はい・・すべては私の責任です・・」
海未ちゃんは消沈して顔を下に向けた

穂乃果「落ち着いてよ絵里ちゃん真姫ちゃん・・海未ちゃんも顔をあげて?落ち込んでもしょうがないよ・・起きちゃったことはもうしょうがない・・問題はこれからどうするかってことだよ・・違う?」

真姫「だ・・だって!!」

穂乃果「仲間割れをしている場合じゃないよ!!今やるべきことは力をあわせてどうやってあの熊から生き延びるかってことを考えないと!!」

絵里「そうね・・穂乃果のいう通りだわ・・ごめんなさい真姫・・あなたを責めていたわね・・」

真姫「いえ・・別に私は・・」

穂乃果「真姫ちゃんも海未ちゃんに謝って?にこちゃんがケガをしたのは海未ちゃんのせいじゃない・・全部熊に負わされた傷なんだよ?」

真姫「わ・・私は・・ごめんなさい海未・・言い過ぎたわ・・」

海未「いえ私は・・」

希「とにかく善後策を練ろう!ウチはまず窓という窓を全部封鎖するべきやと思う・・板を釘で打ち付けて熊が入ってこれないようにするんや」

穂乃果「あとさっき熊に破壊された場所をバリケードか何かを作って塞がなくちゃ!!」

ことり「で・・でも・・大丈夫なの?あの熊、壁を壊していたよ?バリケードなんてなんの役にも立たないんじゃ・・」

真姫「そうね・・でもないよりはあったほうがいいでしょ?」

ことり「う・・うん・・それはそうだけど・・」

真姫「分担をしましょう!!ことりと花陽はにこちゃんの看病をお願い!」

花陽「花陽はにこちゃんに命を助けられたから今度は花陽がにこちゃんを守ります!!」

ことり「ことりは・・・にこちゃんを見捨ててことりは助かろうとした・・だから償いの意味も込めてにこちゃんのそばにいることにするよ・・」

希「にこっちは自分から熊の囮になることを申し出たんやろ?ことりちゃんが負い目を感じることはないで、にこっちが起きたら似たようなことを言うと思うよ?」

ことり「希ちゃん・・」

希「花陽ちゃんとことりちゃんはにこっちの側についていてあげてな・・にこっちが目を覚ました時に2人がいればきっとにこっちは2人を守れたことを知って安心するはずやから・・」

ことり「うん・・わかった」

穂乃果「にこちゃんの看病は真姫ちゃんが加わったほうがいいんじゃないの?この中で医学知識に一番精通しているのは真姫ちゃんだし」

真姫「私はいろいろと物を集めないといけないのよ!人手がいるわ!穂乃果、凛!!私に手を貸してちょうだい!倉庫から斧とか鉈とかを持ってくるから」

凛「武器ってこと?」

真姫「そうよ・・ないよりはあったほうがいいでしょ?」

真姫「え~とあとはランタンと・・保存食が入った缶詰と・・着火マンもあったほうがいいわよね」

穂乃果「ねえ、双眼鏡はないの?」

真姫「あるけれど・・何に使うのよ?」

穂乃果「交代で2階のテラスから外を見張る見張りを付けようよ・・熊の接近がわかれば対処しやすいでしょ?」

真姫「!!そうね・・」

絵里「いい考えだわ穂乃果」

穂乃果「あと、この別荘に猟銃って置いてないの?」

真姫「あるわよ!それもこの後パパの部屋から取ってくるわ」

穂乃果「よし!銃があれば心強いよね・・・」

花陽「な、なんで銃なんて置いてあるの?」

真姫「パパが狩猟用に一丁だけ置いているのよ・・」

真姫「残りの海未、絵里、希で一階の窓やドアを板で封鎖して頂戴!!」

絵里「わかったわ!!海未、希!行きましょ!!」

真姫「私たちの作業が終わるまではことりと花陽で熊の見張りをお願い!!」

ことり「わ・・わかった・・」

真姫「暗くなったら危険度が上がるわ!迅速に行動しましょう!!」
真姫ちゃんのその声でその場は解散となり、散りぢりとなって各々の作業に取り掛かった

真姫ちゃん率いる、穂乃果ちゃんと凛は別荘の物置へと足を運んだ

穂乃果「うわ~いろいろあるね~」

凛「さすが真姫ちゃんの別荘にゃ~倉庫といってもいっぱいモノがあるにゃー!!」

真姫「無駄話はしてないで、はいこれ、ふたりとも持ってて」

穂乃果「わっ!」
真姫ちゃんは穂乃果ちゃんに薪割りに使う斧を手渡した

真姫「凛はこれを」

凛「これ鉈だよね?実物は初めて見るよ」

真姫「熊相手には役に立たないと思うけれど・・気休め程度にはなるわ!さあ、次はパパの部屋に行くわよ!!」
凛達3人は真姫ちゃんの後をくっついて歩き、真姫パパの書斎へと足を運んだ

穂乃果「これが猟銃だね?」
真姫「ええそうよ・・本当は免許がない私たちがこうやって手に持っているだけでもいけないことなんだからね?」

穂乃果「わかってるよ・・怖いからあんまり触りたくないよ」

真姫「説明書にはベレッタ686Eスポーティングと書いてあるわ・・これがこの猟銃の名前みたいね・・」

穂乃果「本来はクレー射撃とかに使う銃みたいだね」

真姫「スポーツ用とはいっても散弾銃だから熊にも十分通用するとおもうわ・・」

真姫「この銃は2発しか弾を装填できないみたいね・・2発撃ったらここをこうやって折って弾を込めるみたいよ?」

穂乃果「真ん中がガシャって折れるんだよね?知ってるよ昔映画化なにかで見たことがある銃だ」

凛「これで、用意するものは全部だよね?絵里ちゃん達準備できたかな?ちょっと外を覗いてみるね!!」

凛「絵里ちゃーん!!窓は全部封鎖できたー!?」
凛は下の階で作業をしている絵里ちゃんに呼びかけた

絵里「封鎖できたわよ!!こっちは終わったから凛達も準備ができたら下に降りてらっしゃい!!」

凛「封鎖作業終わったって!!」

穂乃果「絵里ちゃん達と合流しよう!!」

各々の作業を終えた一同は再びリビングへと集合した

絵里「それじゃあこれからの役割を分担するわ、」

絵里「一人は2階のテラスに立って双眼鏡で熊の監視をする」

絵里「一人は猟銃を持って熊が襲ってきたときに撃って追い払う・・あるいはそこで仕留める役よ・・残りのメンバーはそれまで待機」

ことり「ね・・ねえ・・この中で猟銃なんて撃った人事ある人いるの?」

ことりは一同を見渡すが首を縦に振る者はだれもいない

凛「真姫ちゃんは?お金持ちのお嬢様だからクレー射撃とか嗜んでそうなイメージがあるけれど・・」

真姫「ないわよ銃なんて撃った経験・・ピアノ一筋だったからそういうクレー射撃とかにも興味を持ったことはないわ」

穂乃果「海未ちゃんはどう?弓道うまいし、ラブアローシュートなんてやっているくらいだし・・」

海未「バカにしているんですかあなたは!?・・・ありませんよ銃を撃った経験なんて・・弓と銃を一緒にしないでください」

凛「絵里ちゃんは?ロシアの血が混ざっているんだから酷寒のシベリアでグリズリーを仕留めた事とかあるんじゃない?」

絵里「あるわけないでしょ!!そんな経験!!」

穂乃果「それじゃあ私がやるよ・・」

海未「え・・?穂乃果?」

真姫「あなたさっき猟銃には怖いから触りたくないって言っていたじゃない・・大丈夫なの?」

穂乃果「私がμ.sのリーダーだし・・私がこの手でみんなを守るよ!!誰も死なせない・・みんなは私が守る・・」

真姫「はあ!?あ・・あなた何言ってるのよ!!自分が何を言っているかわかっているの!?」

絵里「そ・・そうよ!!あの壁を見たでしょう!?壁をあそこまで破壊することができる生き物にあなたみたいな女子高生がかなうわけないでしょう!!これはあくまでも威嚇のための物よ」

穂乃果「でも誰かが銃を持って警戒しないといけないんでしょ?その役目は穂乃果が担うよ」

穂乃果「それにね・・あの熊には私の仲間を傷つけたけじめをとってもらわなくちゃ」
穂乃果ちゃんの声が急に低くなって張りつめた空気になる

ことり「え?」

穂乃果「仲間を傷つけたあの熊は許せないんだよ・・にこちゃんの落とし前はつけてやる!!」
穂乃果ちゃんは決意を込めて猟銃を取り出し、弾を込めてスライドさせる、ガシャリという無機質な金属音が響いた

穂乃果「思い知らせてあげるよ・・食うか食われるか・・私の仲間を傷つけるとどんな恐ろしい目に合うのかを・・」

ことり「ほ・・穂乃果・・ちゃん・・」
穂乃果ちゃんの瞳には熊に対する憎悪の炎が灯っていた

穂乃果「食料がほとんど残っていないんだよね?大丈夫だよ・・穂乃果が新鮮なお肉をみんなにごちそうしてあげるよ・・今夜の晩御飯は熊鍋だよ!!!」

希「おお!!そら景気がええ話やな・・!!本当に仕留められたらウチが熊を解体して熊鍋作ったるで」

凛「へ?の・・希ちゃん熊の解体なんてできるの?」

希「ウチの家族って転勤族やろ?それで東北地方に住んでいたことがあるんよ」

絵里「そうなの?初めて聞いたわよそれは」

希「そこでマタギの人と知り合ったことがあってな、猟のこととか、マタギの心構えとかいろいろ教えてもらったんよ。熊の解体も直接見せてもらったことがあるから手順は知ってるよ」

穂乃果「あれ?じゃあもしかして猟銃も撃ったことあるの?希ちゃんが銃持ったほうがいいかな?」

希「いや、銃は撃ったことないし、生き物を狩ったこともないよ・・ただ猟の心構えだけは知っとる」

希「猟はやたらめったら獲物に銃弾を撃ち込むもんやない・・一発や・・獲物が苦しまんように一発で仕留めるのが猟なんや・・相手に気取られる前に相手を発見し、一撃で相手を殺す・・穂乃果ちゃん一発で仕留められるか?」

穂乃果「難しいと思う・・でももし襲ってきたらみんなを守るために必死で戦うよ!!」

穂乃果「穂乃果にはみんなを無事に返す責任があるの!!私はμ.sのリーダーなんだよ!!絶対にみんなを守るんだ!」

穂乃果「メンバーを傷つける敵には私は容赦しないよ!!」

希「その意気や!!頼りにしとるでリーダー!!」

絵里「ちょっと希!!無責任な事を言って穂乃果を煽らないでちょうだい!!あなたたち本気で熊を狩る気なの!?勝てるわけないでしょ!?」

凛「そ・・・そうだよ!!凛たちはただの女子高生なんだよ!?そんなマタギみたいな真似できるわけないよ!!」

希「それじゃあエリチと凛ちゃんはここで死んでもええんか?」

凛「え?」
絵里「死んでもいいなんて・・そんなこといってないでしょ!?」

希「奴はウチラを狩る気やで・・あの熊が最初に食べた人間はおばあさんだったそうやな・・熊はな・・最初に女を食ったら女ばかりを食うんや・・男を殺しても食べはせん・・数年前殺された猟友会の人たちは食べられなかったらしいな・・そうやろ真姫ちゃん?」

真姫「え・・ええ・・確かにそうよ・・食べられたのはおばあさんだけ・・猟友会のおじいさんが食べられたなんて話は聞かなかったわ」

希「あの熊はウチラを食いたがってる・・若い女の肉をしこたま食べて腹を満たしたいと考えているんや・・ヤツは必ずまた来るよ・・これは殺るか殺られるかの話なんよ・・エリチ達も腹を括らんと食べられてしまうで」

重苦しい沈黙がその場に漂った
誰かが唾を飲み込むゴクリという音が聞こえた気がした

それからは誰も熊を仕留めることに異を唱える人はいなかった

30分交代で2階のベランダに立ち熊を見張った
当番じゃない子は1階のリビングで待機していたが、皆緊張した面持ちで口数も少なくなった

日が完全に落ち夜がやってきて、深夜になろうという頃
ことりちゃんが見張りをしている時に事は起こった

ことり「み、みんなーーーー!!!!!!熊が来たよーーー!!!!」
ベランダで見張りをしていることりの悲鳴にも似た甲高い絶叫が別荘の中に響きわたった

絵里「ほ・・本当に熊が来たの!?」

希「穂乃果ちゃん・・頼んだで!!」

穂乃果「う、うん!!」

真姫「熊が体制を立て直したようね!!」
真姫が板を打ちつけた窓の隙間から外を覗き込む

窓の外を覗き込むと、別荘から50メートルほど離れた森の中に熊がいるのが確認できた

真姫「絵里・・別荘の窓や扉は全部封鎖したのよね?」

絵里「え・・ええ・・さっき熊が破壊した窓のところには家具とかをめちゃくちゃに置いてバリケードのようにしといたし、そのほかの窓やドアも板を打ちつけて、簡単には入ってこれないようにしてあるわ!!」

凛「じゃ、じゃあ・・ここは大丈夫なんだよね?凛たちは安全な場所にいるんだよね?」

真姫「静かにして・・ヤツはこっちの様子を伺っている・・じっと待っているんだわ・・こっちが油断するのを・・」

熊は建物の周りをうろうろしていたが、しびれを切らしたかのように窓ガラスを封鎖している板を殴り始めた

ガン!!ガン!!ドガン!!ドガン!!というけたたましい音が別荘に響く

凛「あわわわわわわ・・!!!こ・・こっちに来るにゃ!!!」

熊は凛たちが詰めているリビングへとやってきた
獣の匂いに混じってグルルルという野獣の鳴き声がリビングに轟く

希「凛ちゃん・・静かにして・・みんな、絶対に窓に近づいたらあかんで・・」
絵里「言われるまでもないわよこんなの・・」

絵里ちゃんはは強がっていたけど両足はガタガタと震え、声は完全に裏返っていた

熊はリビングの小窓をガンガンと殴りつける
板が破壊される、バキッという音の後にガシャンとい窓ガラスが破壊される小さな音が鳴った

小窓から熊の片目が室内を覗き込んだ
室内のメンバーは熊の凶暴な眼差しに覗き込まれて恐怖で身が固まってしまう

海未「う・・うわあああああああああああ!!!!!」
海未ちゃんが蛮勇を発揮して、肉切り包丁を握りしめ熊に向かって突進した

絵里「う、海未!?な、なにを?」

絵里が海未を制止する間もなく、海未は肉切り包丁を窓を覗き込む熊の顔めがけて思い切り突き出した
海未の手には包丁が肉を突き刺す感触が伝わる

窓の外からグガアアアアアーー!!という甲高い叫び声が聞こえてくる
海未の包丁は熊の頬に突き刺さったが、熊の体はとても固く、肉切り包丁では傷一つつけることができなかった

それでも熊はかなり痛かったようで海未を捕まえて首の骨をへし折るために手を伸ばした

海未「くっ!」
辛くも熊の手を回避する海未

凛「だめにゃ・・包丁じゃ熊には傷一つ付けることができないんだ・・」

痛みで凶暴化した熊は小窓を思い切り殴りつけた
壁に亀裂が入っていき、ギシッミシッという音が鳴り響く

穂乃果「海未ちゃん下がって!!」
穂乃果が猟銃を窓に向けて引き金を引く

ドゴーン!!という轟音の後、弾丸が小窓を完全に粉砕した

窓の外で暴れ狂っていた熊は猟銃の音を聞くと冷静さを取り戻し、窓から離れた

穂乃果「待て!!」
穂乃果は窓へと駆け寄り、破壊された小窓の跡から猟銃を外へと出し、熊への追撃を試みるが窓の外にはすでに熊の姿はなかった

穂乃果「いない・・いなくなってるよ!!」

凛「逃げたってこと?追い払ったの?」

真姫「油断しないで・・ヤツは私たちの油断を待っているはず」

その時だった・・ドスンという重いものが床に落ちたような鈍い音が別荘に響いた後に
地震と錯覚するような振動が建物全体を振動させた

穂乃果「な、なに!?何が起こったの!?」
外を見ると屋根の瓦の破片や、建物の一部だった木片が散乱していた

凛「あれは・・瓦?どうして屋根瓦なんかが・・」

希「きっと熊が木を登って屋根に飛び乗ったんよ!!気をつけて!!ヤツはまだウチらを狩ることをあきらめてない!!」

屋上から屋根瓦が次々と落ちてきてガシャンガシャンという音を立てて、瓦がカチ割られていく
屋根の上で何か大きな生き物が動き回るような音がしばらく続いていたが急に足音はなくなり静かになった

その直後にどこからかごそごそ・・ズズズズ・・というなにかがこすれるような音が聞こえてきた

絵里「気を付けて!!きっと熊よ!!」
石壁を引っ掻くようなガリガリという耳障りな音が聞こえてくる

凛「な・・なんなのこの音・・どこから聞こえてくるの?」
大きな物が狭いところを無理やり通りぬけようとしているかのような擦れる音が継続的に響き渡る

ゴソゴソ・・ゴソゴソ・・ズズズズ・・
ゴソゴソ・・ゴソゴソ・・ズズズズ

絵里「熊はいったいなにをしようとして・・」

その時、ドッスーーン!!!!という音と共にとてつもない地響きが部屋の中に響き渡った
暖炉の中から灰とほこりがもうもうと舞い上がる、

凛「い・・いやああああああああ!!!」
絵里「わああああああああああああ!!!!」

暖炉の中からススまみれになった熊が現れ、その巨体を窮屈そうに暖炉の中でうごめかせていた
体が大きすぎて熊は暖炉から出ることができない

穂乃果「お、落ち着いて!!なんか、暖炉から出ることができないみたいだから今のうちに穂乃果が仕留めちゃうよ!!」

穂乃果は熊の頭部に猟銃の標準を向けた

絵里「待って!!室内で発砲したら弾丸が壁に当たって跳ね返ってくるかもしれないわよ!?」
穂乃果「で・・でも!!じゃあどうするの!?」

グオオオオオオオオオオ!!!!!
ガリガリ・・メキメキ・・ガゴオオオオオオオン!!!!

熊は怒りの雄叫びをあげ、暖炉を壁ごと力づくで破壊して、暖炉の中から這い出してきた

絵里「あわわわわわわわ!!穂乃果!!撃って!!」
穂乃果「言わんこっちゃない!!この!!」

ドゴーン!!という銃声の後、ギャウ!という熊が悲鳴を上げた
弾丸は熊の右腕に命中し、熊は右腕からボタボタと出血させる

グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
ガシャ!!ガシャ!!バキイイイイン!!

痛みで逆上した熊は腕を振りまわしてめちゃくちゃに室内を破壊する
室内には陶器や絵画などが散乱する

ソファがひっくり返り、テーブルは熊が前足を乗せたら重みでベキベキという音を立て、真ん中から折れてしまった
天井で回っていたシーリングファンが外れて、地面に落ちカランカランという軽い音を立てる
腕が壁に当たり壁に大穴が空いた

絵里「みんな!!建物の外に出るのよ!!ここにいたら全員殺されるわ!!」

絵里のその言葉を合図にして部屋の中にいた6人は壁の穴から外へと飛び出した

絵里「全員森の中に走って!!」
凛「まだ、かよちん達が2階にいるよ!!」

真姫「熊は私たちに夢中で2階にいるにこちゃん達には目もくれていないわよ!!いいから逃げるわよ殺されたいの!?」
海未「穂乃果!!希!!急いでください!!」
希「穂乃果ちゃん急いで!!」
穂乃果「う、うん!!」

グオオオオオオオオオオオオ!!!!
6人が別荘の外に脱出したとほぼ同時に熊が雄叫びを上げて別荘から顔を出した
獰猛な瞳で獲物を睨みつける

絵里「くっ!!こうなったら死の物狂いで戦うしかないわ!!みんな武器を構えなさい!!」
希「来るで!!」

ドドドド!!!という地響きを立てて熊が突進してきた。熊は血走った眼をギラギラさせてよだれを垂らしながら唸り声をあげる

海未「まともに戦ったら熊相手では瞬殺されます!!目を狙って攻撃してください!!」

希「わかっとる!!うわ!!!」
熊が希に拳を繰り出した。希はギリギリで拳をかわすことに成功する、希の長い髪の毛が数本持ってかれた
熊の拳は希の後ろにあった木に直撃し真っ二つにへし折れた

凛「ひっ!!」
絵里「な、なんて破壊力なの!?これが熊・・」

希「危ないやないか!!この!!」
希は鉈を熊の首めがけて振り下ろす

熊は裏拳で鉈を殴りつける
ガキイン!!という金属音がした後、鉈はクルクルと弧を描いて回転し、地面にザスッという音を立てて突き刺さった

希「痛っつ~・・・」
右手にジンジンとした痛みを感じ希は手をさすった

グオオオオオオオオオオ!!!!!
熊は雄叫びを上げて希に襲い掛かった

希「うわ!!」
熊に突き飛ばされて地面に倒れる希、熊が希に覆いかぶさって希の首を噛みちぎろうとする

絵里「希!!この!!これでも食らいなさい!!えい!!」
絵里は近くに落ちていた大きめの石を拾い上げ熊の顔めがけておもいきり投げつける

石は熊の鼻に命中し、熊は痛みで小さく悲鳴をあげた

凛「希ちゃんから離れろ!!」
凛が鉈を拾い上げ熊の脳天目がけて振り下ろした

ザスッという鈍い音がし、鉈が熊の頭部に食い込んだ

グギャオオオオオオオオオオ!!!!!
熊は苦悶の叫びを上げて希から飛び退いた

海未「ハアアアア!」
海未が熊の背中に飛びつき両腕を首に巻きつける
驚いた熊は海未をはたき落そうとするが背中の海未までは腕が届かない

腕で熊の首を絞め上げながら手に握っていた斧を熊の首筋に押し付ける

海未「死になさい!!」
斧の刃は熊の首筋に少しずつ切り込んでいき、熊の首筋から血が流れ出す
熊は海未を振り払うために体を左右に大きく振った

海未「くっ!!」
負けじと海未も熊に食らいつく、斧はどんどん熊の首にめり込んでいく
斧の刃は熊の血を吸って刃が赤く染まる

腕を振り回す熊の爪が海未の両腕を引っ掻いた

海未「があああああああああああ!!!??」
海未は斧から手を放してしまい、熊に振り落とされてしまった

花陽「海未ちゃん!!」
真姫「海未!!」

海未「痛い・・痛い・・!!くっ腕が!!」
海未の上腕から血があふれ出し、血まみれになっていく

グルルルルルルル・・

熊の首に刺さっていた斧が抜け、ガランガランという音を立てて地面を転がった
熊も深手を負ったらしく、一同から距離を取って様子を伺いながら唸り声をあげる

首筋と頭から血が流れだし地面を血が流れていく

絵里「熊も相当深手を負ったようね・・」
希「油断せんといて・・ヤツはまだやる気があるみたいよ・・」

一同を睨みつける熊
熊にカウンターをくらわせるために武器を構える絵里と希

遠くで鳥の鳴くギャーーという鳴き声が聞こえた

それが人間と熊の命を懸けた最後の戦いの合図となった
興奮した熊はグガアアア!!という雄叫びを上げて、敵の中で最も脅威的な武器である猟銃を持つ者を最初に仕留めようと思い
穂乃果に向かって突進した

穂乃果「この!!こっちにこないで!!どっかいって!!」
穂乃果が熊に銃口を向けて引き金を振り絞った

一瞬の閃光の後にドゴーン!!というけたたましい銃声が闇夜を切り裂いてびりびりと響き渡る
弾丸は外れ、別荘の壁に蜂の巣みたいな穴が空いた
熊は一瞬怯み、ビクッと体を震わし穂乃果を睨みつける

穂乃果「ヒウッ!」
穂乃果は熊の眼光に射すくめられ、体を硬直させてしまう

弾丸は熊には命中せず、熊はびくともせずにそこに立っている
獰猛な牙が並ぶ、口からはよだれが零れ落ちた

真姫「散弾銃だからもっと相手をひきつけてから撃たないとだめよ!!」
真姫の叱責が穂乃果に飛んだ

熊は穂乃果と一定の距離を保ちながらじりじりと、にじり寄る

穂乃果を自分より弱いと判断した熊は唸り声をあげ、穂乃果目がけて突進した

穂乃果「うわあああああああ!!!」
恐怖に駆られた穂乃果は再び銃の引き金を引く、ドゴーンという音が再び別荘周辺に響き渡った
真正面から突進してきた熊に散弾が数発突き刺さり、熊は苦悶の悲鳴を上げる

穂乃果「はあ・・はあ・・この・・このおおお!!!」
穂乃果は熊に再度弾丸を撃ち込むために、銃を熊に向けて引き金を振り絞った
カチンという金属の軽い音が鳴り、銃からは弾が撃ちだされることはなかった

穂乃果「え・・・え・・?」
狼狽する穂乃果

真姫「その銃は2発で打ち止めよ!!弾を再装填しないと!!」

穂乃果「え・・あれ?・・どうやるんだっけ・・えっと・・あれ?え・・え・・?」
恐怖でパニックを起こして頭が真っ白になった穂乃果は弾丸の装填の仕方がわからなくなってしまう

海未「穂乃果!!銃を二つに折るんです!!そうやれば薬莢が排出されて、再び弾を込めるんです!!」

穂乃果「あ・・そ・・そうだったよね!!はあ・・はあ・・あっ!!」
穂乃果は極度の緊張で手が震えてしまい弾丸を、地面に落としてしまった
弾丸が数発地面に転げ落ちコロコロと転がっていく

熊はその隙を見逃さずに穂乃果目がけて突進する

穂乃果「わああああああ!!!」

希「穂乃果ちゃん!!」
希は持っていた海未が落とした斧を拾い上げて熊目がけて投げつけた
熊は飛んでくる斧に怯み、突進を止めて足をすくませる
その隙に希が穂乃果にかけより、地面に落ちた弾丸を拾い上げ、穂乃果から猟銃をひったくった

斧を投げつけられた熊は怒り狂い、ターゲットを希に変更して、希目がけて突進する
希(クッ!間に合うか!!)

希は急いで銃を真ん中から二つに折り、拾った弾丸を一発詰め込む 
ガシャッという音がし、弾丸がリロードされたことが確認される

熊は希の眼前まで迫り、希の視界は熊の真っ黒な体で埋め尽くされた
熊は希を引き裂くために前足を繰り出す

希(くっ間に合わんな!!一かバチか!!)
希は猟銃の銃身で熊の鼻面を叩いた

希の肩を熊の爪先が掠める

希「グア!!」
痛みで猟銃を取り落してしまう希

熊は鼻先を叩かれたことで怯み、グウウ!といううめき声を上げる
痛みで狙いが狂わなければその爪は希の首筋を引き裂いていただろう

穂乃果「希ちゃん!!」
希「今や穂乃果ちゃん!!撃って!!」

穂乃果ははっとし、地面に落ちた猟銃を拾い上げて、再び銃口を熊に向けた

穂乃果「このおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
ドゴーン!!という銃声が別荘に響き渡る

今度の弾丸は熊の至近距離から射出されたため、散弾は全弾熊の胴体に命中した

熊はガアアアアア!!!という断末魔の叫びを上げて、地面にバタリと倒れた
倒れた熊からはおびただしい量の血液が流れだし、緑色の芝生を血が赤く染め上げていく

穂乃果「はぁ・・はぁ・・や・・やった・・やったよ!!みんな!!」
穂乃果は安堵し、絵里たちがいる別荘の方向を振り返った

絵里「穂乃果!!危ない!!」
絵里が悲鳴を上げる

穂乃果「え?」
穂乃果が再び熊を振り返ったときには熊が再び起き上がり、穂乃果を地面に組み伏せた

穂乃果「うわああ!!」

熊の黒い体からは血液がダラダラと流れ出しており、相当な深手を負ったことを物語っていた

穂乃果は必死に抵抗し、銃身でなんども熊の頭を殴りつける
熊は穂乃果の首筋を狙って噛みつこうとするが、傷の痛みと何度も銃身で顔を叩かれるためになかなかうまくいかずに、いらだち唸り声を上げる

穂乃果(ああ・・私ここで死んじゃうのかなあ・・)
穂乃果がそんなことを思い諦めかけていた時に、急に熊の力が抜けて、その巨体が横にバタリと倒れた

穂乃果「いったい・・なにが・・」
穂乃果が熊の組み伏せから解放されたときに、目に移ってきた光景は熊の真っ黒な首筋に斧を深々と突き刺し、
両腕から流れ出る血と熊の返り血で血まみれになっている鬼のような形相をしている海未だった

海未「私の大切なおさななじみになにをしようとしているんです・・・このバカモノ!!」
穂乃果を殺されそうになって逆上した海未は斧を引き抜き、何度も、熊の頭を斧で叩き割る

熊は首から大量の血を流し、地面に横たわりその体をけいれんさせていた

穂乃果「海未ちゃん・・」
穂乃果はあっけにとられて海未を見守る

希「熊の生命力を舐めちゃあかんよ穂乃果ちゃん・・危ないところやったな・・」
希は落ちていた猟銃を拾い上げ、その銃身を二つに負って弾丸を込める

希「海未ちゃん離れて・・もう起き上がってこれないようにとどめを刺しておくから」

海未「は、はい!!」
海未はあわてて熊から離れた
虚ろな瞳を浮かべて銃口を覗き込む熊

希「悪く思うなや・・成仏せえ!!」
希は熊の顔に銃口を向けて0距離で引き金を振り絞る
ドゴーン!!ドゴーン!!という2発の銃声が鳴り響いた後、熊の頭は粉々に吹き飛んでいた

希「終わったみたいやな・・」
希が手に持つ猟銃から煙がもうもうと立ち上っている

希「南無阿弥陀仏」
冥土の土産に念仏を唱えた後、希は銃口に息をフッと吹きかけた

絵里「希!!大丈夫!!」
絵里が別荘の中から飛び出してきて希にケガがないことを知り、ほっと胸をなでおろした

凛「やったにゃ!!さすがだよ希ちゃん!!」
花陽「し・・死んでいるの?」
かよちんは首を失って血の海の中に沈む、熊の首なし胴体を見てぶるぶると震える

希「ああ、死んどる・・・手のひらが上を向いてるからな・・」

凛「どういうこと?」

希「熊は生命力が強い生き物や・・まだ生きている時はなんとか起き上がろうとするから手のひらを地面につけているんよ・・この熊はもう死んどるから手のひらが上を向いているやろ?まあ、そもそも首がないのに生きているわけがないんやけどね」

凛「ほ・・本当だ・・確かに手のひらが上を向いているね・・」

穂乃果「やったよ・・」
希「おつかれさん穂乃果ちゃん」

穂乃果ちゃんの顔からは生気が消え失せており、死人のように血の気が失われていた

穂乃果「私たちは・・みんなを守れたんだよね?この熊は悪い熊だったんだよね?」
生き物の命を奪った重みを感じているのか、穂乃果ちゃんが縋るような目で希ちゃんを見つめた

希「確かに・・守ったな・・負けた方は死ぬ・・これが自然の摂理や・・たとえ熊にウチらが負けて皆殺しにされたとしてもそれもまた自然の摂理やったんや」

穂乃果「穂乃果は・・悪いことなんてしていないんだよね?そう・・だよね?」
希「食うか食われるかやからな・・人間と熊が自然の中で戦い、勝った人間が生き残り、負けた熊は死んだ・・ただそれだけの話や・・さて、まだやることがあるやろ・・」
希ちゃんは地面に落ちていた鉈を拾い上げた

穂乃果「ああ・・そうだったね・・」

希ちゃんは鉈の刃を熊の股にあてがい、股間からのどもとまで丁寧に切り開いていく
見ている間に、どんどん熊の体が切り開かれていき、全身の毛皮をきれいに剥いでいく

穂乃果「なにか手伝えることある?といっても・・穂乃果にはなにもできそうにないけど・・」

希「そうやな・・熊の解体は専門的な知識がいるからな・・うち一人でやるよ」

ギコギコギコギコという鉈が熊を切り刻む耳障りな音が響いた

希「大きく育ったな~・・あんさんはおいしく料理して食べたるで・・」

ギコギコ・・ギコギコ・・ギコギコ・・
希「ユメノトビ~ラ~ずっとさ~がし~つづけ~た~君と僕と~の~つながりをさが~し~つづけ~た~」

希は熊の筋肉を切り裂き、厚い脂肪を開いて内臓を露出させる
そして、熊の胆を慎重に切り取って、乾いた芝生の上に置いた

希の鼻歌と共にギコギコという熊をバラバラに切り刻む音が鳴りやむことはなかった

希「ほーら・・こんなに肉がいっぱい取れたなあ・・」

絵里「こ・・この肉を食べるの?」

希「そうや・・熊の肉なんてなかなか食べられるもんじゃないで・・・楽しみやろ?」

花陽「ね・・ねえ・・これを本当に食べるの?べ、別に食べなくてもいいんじゃないかな・・」

希「花陽ちゃんは残酷なことをいうね・・ウチらが食べてあげなかったらこの熊はなんのために死んだんや?」

花陽「そ・・それは・・」

凛「晩御飯は缶詰だけだったから凛はもうお腹ペコペコにゃ!!この際熊でもなんでもいいから食べたいよ!!」

ことり「みんな~!!!!」

ことりが真姫の別荘から駆け寄ってきた

ことり「にこちゃん目を覚ましたよ!!穂乃果ちゃん達が熊を仕留めたっていう報告したら目を丸くして驚いていたよ!!」

希「ほんとに!?にこっち目を覚ましたんか・・よかったぁ~」
ウチは安心してほっと胸をなでた

希「それじゃあ傷が早く治るように栄養のある物を食べさせてあげないとあかんな!!」

ことり「う・・うわー・・えぐいね・・」
希の隣にはさっきまで熊だった物をバラバラにした熊肉があった

希「これが腸や・・これが心臓、こっちが胆嚢、これが肝臓、これが・・」

ことり「いいよ!!解説しなくて!!」

希「はい、真姫ちゃん・・熊の胆嚢は真姫ちゃんのものや」

真姫「う"ぇ"ぇ"!?い・・いらないわよ・・そんなグロテスクなモノ!!」

希「ありゃ?知らんのか?熊の胆嚢はとても高価な物なんやで、業者に売却すれば値千金と呼ばれているんや、これで別荘の壊れた部分の修理代にあてればいいよ」

真姫「そ・・そうなの?それじゃあ・・壁と窓の補修費とにこちゃんの治療費にでも当てさせてもらうわ」

希「それじゃあ・・大きな鍋を用意してや真姫ちゃん・・」
希はそういって眼前の熊の肉塊を指差した

穂乃果「にこちゃんを連れて来よう!!宴を始めよう!!今日のご飯は熊鍋だよ!!」

別荘の庭にテーブルが置かれ、テーブルの上にカセットコンロが乗っけられる
その上に大きな鍋が用意され鍋を強火で加熱する熱した大なべの中に野菜や刻んだ熊の肉を投下していく

9人の女子高生が鍋を囲み、鍋が煮立つのを待った

にこ「・・・・まさか昼間襲ってきた熊が夜食になるとは思いもしなかったわよ・・」
頭に包帯を巻いているにこが不機嫌そうな顔で鍋の中の熊肉を見守っていた

花陽「にこちゃん痛むところはない?大丈夫?」

にこ「正直あちこち痛いけれど・・しばらくすれば自然治癒するわね!!」

花陽「ごめんにこちゃん・・花陽がドジだったからにこちゃんがこんなケガをすることに・・」

ことり「あの時私はにこちゃんを見捨てて逃げた・・ごめんなさい・・」
花陽とことりはにこに向かって頭を下げて謝罪の言葉を口にする

にこはそんな二人を呆れたような目で見つめ、二人の額にデコピンをくらわせた

花陽「イタっ」
ことり「ぴぃ!痛い!!!に・・にこちゃん?」

にこ「なーに辛気臭い顔してんのよ!!アンタたちはスクールアイドルμ.sのメンバーなのよ?ほら、笑って笑って!!こうやってにっこにっこにー♪って!!」

にこ「私はアンタ達のために犠牲になる気はこれっぽっちもなかったわよ!!自分から熊を食い止めるって言ったの!!だって私は部長なんだから!!」

にこ「アンタ達を守るのは私の使命よ!!だからごめんなさいなんて言わないで!!」

ことり「にこちゃん・・」
ことりは涙ぐんでにこの顔を覗き込む、ふと、希の方を見ると、自分の言った通りやろ?と言いたげにウインクをしていた

希「部員を守ってくれてありがとな?部長さん♪」
希はにこの肩に手を回して胸をもみしだく

にこ「・・・おい、お礼を言いながらわしわしするとはどういう了見よ?」

希「ええやん、ええやん♪ん?にこっち胸に肉が全然ついとらんなあ~ほら、熊肉を食べて大胸筋にもっと肉をつけるんや!!

にこ「余計なお世話・・おぼおお!!??」
希はにこの口の中によく煮えた熊肉をはしでつまんで突っ込んだ

希「おいしいか?おいしいやろ?熊肉を部長さんに一番最初に食べてもらいたくてなあ・・うまいか?おいしいか?」

にこ「ごほごほ!!死ぬかと思ったじゃない!!何すんのよ!!」

希「食うか、しゃべるかどっちかにしや、行儀悪いで?それでどうや熊肉は?」
にこは神妙な顔で口の熊肉を咀嚼する、うまいともまずいともわからない微妙な顔で熊肉を頬張った

にこ「・・なんて言えばいいのかしらね・・今まで食べたことない味ね・・獣臭いっていうのかしらね?」

希「まあ、確かに熊の肉は獣臭くて固いってよくいうしね・・ああ・・じっくり煮込んだから寄生虫の心配はないから安心しや♪」

にこ「ブフォーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
にこは食べていた熊肉を盛大に噴き出した

希「ああー!!にこっちなにするん!?ウチらが命がけで手に入れた熊肉を噴き出すなんて!!」

にこ「ごほっ!!ごほっ!うっ・・みず・・・水~!!」

花陽「はいにこちゃん!!お水です!!」
にこは花陽から水を受け取り、口の中に流し込む

にこ「はぁ・・はぁ・・あ~苦しかった・・・なによ寄生虫って!!」

希「熊の肉には回虫や繊毛虫っていう寄生虫が宿っていることがあるんよ・・まあでも火をじっくり通したからこの熊は大丈夫よ!!さあ、みんな食べて食べて」

凛「ええ・・今の話を聞いて食欲が・・」

穂乃果「はむ・・ほんとだ獣臭いけれど・・おいしいねこれ!!」
熊の肉を頬張り満足げな顔で笑う穂乃果

ことり「ほ・・穂乃果ちゃん!?」

絵里「さすがね穂乃果・・今の話を聞いて物おじせずに熊の肉を頬張るなんて・・」

穂乃果「せっかく仕留めたんだもん!!それに熊の肉なんてなかなか食べられる物じゃないよ?ささっことりちゃんも食べて食べて!!」

ことり「うううっ穂乃果ちゃんがそういうなら・・えーい!!はむっ・・・おいし~い!!」

穂乃果「ね!?おいしいでしょ!?」

ことり「うん!!ちょっと獣臭いけれど・・とってもおいしいよ!!」

花陽「ことりちゃんがそういうなら・・花陽もちょっとだけ食べてみようかな」

凛「かよちんが食べるなら凛も食べるにゃー!!」
ことりが笑顔でおいしいといったことで他のメンバーも熊肉を求めて鍋をつつき始めた

わいわいがやがや

海未「・・・・・」
皆が熊鍋に夢中になり、鍋を囲んでいるのを少し離れたところから海未は見つめ、物憂げな表情を浮かべていた

真姫「どうしたの海未?食べないの?」

海未「いえ、少し考え事を・・私は後で食べますからお気になさらず食べてください」

真姫「考え事?なによそれ?」

海未「登山はもうおしまいにしようかと考えていたんです・・私の浅はかな行動から凛や希を危険に巻き込み、さらには真姫の別荘まで熊を連れてきてしまった・・これはとんでもない失態です・・一歩間違えばあの熊に大切な仲間たちを殺されていたかもしれないのです・・」

真姫「それは・・まあその通りなんだけどね・・」

海未「穂乃果を危険にさらし、にこにケガをさせることになってしまったケジメをつけなくてはなるまいと思っていたんです」

真姫「ケジメをつける・・・それが登山をやめるってこと?」

海未「はい・・正直登山をやめる程度では済まない迷惑を他のメンバーにかけました・・」

真姫「まあ、私は海未が登山を続けても、やめてもどっちでもいいんだけどあなたはそれでいいの?」

海未「なにがです?」

真姫「やりたいことを我慢するってとても辛いことよ?私がピアノを我慢した時はとても辛かった・・まるで自分が自分で無くなるような感覚だったわ・・
海未にとっての登山は生きがいのようなものなんじゃないの?」

海未「はい・・生きがいのような物です・・ですが、登山より大切なμ.sのメンバーを危険にさらしてしまった償いはきちんとしないと・・」

真姫「正直あなたが登山をやめても特に償いだと感じるような人はμ.sの中にはいないわよ?少なくとも私はそう思う」

海未「そ・・そうでしょうか?」

真姫「あなたがそんな辛気臭い顔して、辛そうにしていることのどこが償いになるっていうのよ・・チームの士気が下がって逆に迷惑だわ」

海未「じゃあどうしろというのですか・・・?」

真姫「今度私を登山に連れてって・・少なくともそれでチャラにしてあげる」

海未「そ・・そんな・・!!私が登山をしたからこんな熊騒動を引き起こしたのに・・真姫の別荘を壊した原因を作ったのに・・」

真姫「ええ!!煙突からサンタさんの代わりに大きなクマさんが入ってきたしね!!クリスマスプレゼントにしては大きすぎるテディベアだったわね!!」

真姫「それとも煙突と暖炉の修理代でも払う?希と海未と凛の3人で・・高くつくわよ?」

海未「うう・・希と凛は勘弁してください・・元はといえば私が言い出したことなので・・働いて必ず」

真姫「冗談よ・・別荘を壊れたのは自然災害のようなモノよ・・あなたのせいじゃないわ」

海未「真姫・・」

真姫「私は山に対して恐ろしいというイメージを持ってしまったわ・・あなたが責任をもってそのイメージを払しょくして頂戴!!ああ・・危険な山はイヤだからね?危険な野獣のいなくて簡単な山にしてよね・・?」

海未「は・・はい・・わかりました!!」

真姫「ようやく笑ったわね・・スクールアイドルなんだから楽しい気分で笑顔を作らないとダメよ・・」

海未「真姫・・ありがとうございます!!」

真姫「ほら、あなたも食べなさいよ・・って両腕をケガしているんだったわよね・・しょうがないわね・・食べさせてあげる、口を開けなさい」

海未「へ?い、イヤ、いいですよ!自分で食べられますって!!」

真姫「この真姫ちゃんが食べさせてあげるっていっているんだからあなたはおとなしく口だけ開けていればいいのよ!ほらっ口開けなさい!!」

海未「は・・はい・・わかりました・・では」

真姫「はい、あ~ん」

海未「あ、あ~ん・・」もぐもぐ

真姫「どう?おいしい?」

海未「おいしい・・んですかね?ちょっとよくわからない味です」

真姫「なによそれ!私があ~んってしてあげたんだから嘘でもおいしいって言いなさいよね!!もう・・」

海未「す・・すいませ・・・ん?」
海未の顔にまぶしい光が当たった

真姫「見て、夜明けよ・・朝日が昇ってくるわ!!」

海未「私たちは生き残ることができたんですね・・」

山の山頂から朝日が顔を覗かせはじめ、太陽の光が森や別荘を照らし出した
熊との死闘を演じた恐ろしい一夜はこうして幕を下ろした

完結です、作中では穂乃果たちは熊を倒すことに成功しましたが、
現実で素人が熊に挑むと殺されるのがオチですので絶対にやめておきましょう

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