千冬「もしも一夏が、私にぞっこんだったら!」 (55)


     キーン コーン カーン コーン

千冬「それでは、授業はここまでとする」

千冬「各自、復習しておくように」

     ハーイ

千冬「…………」 チラッ


セシリア「一夏さん、今日のお昼、わたくしと一緒に……」

ラウラ「当然、夫婦が優先されるよな?」

シャル「そんなの理由にならないよ、ラウラ」

箒「はっきりしろ、一夏」

箒「私と行くつもりだ、と」


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     ガラガラッ

鈴「一夏! お昼、行くわよー!」

セシリア「ちょっと鈴さん! いきなり横から顔を出さないでください!」

鈴「うっさいわねー、あんた達は一夏と同じクラスなんだから、少しは遠慮しなさいよ!」

シャル「それなら2組の鈴は、部外者でしょ?」

ラウラ「そうだ。 2組に帰れ」

鈴「ムカ! そんなの関係無いわ!」

鈴「一夏! あたしと……あれ?」

ラウラ「む……?」

セシリア「一夏さんと……箒さんが、いつの間にか居ませんわ!?」

シャル「……しまった!」


セシリア「箒さん! 抜け駆けしましたわね!」 ダッ!

ラウラ「食堂に向かったのなら、こっちだな!」 ダッ!

シャル「ボクは、購買の方を当たってみる!」 ダッ!

鈴「シャルロット! あたしも行くわ!」 ダッ!

     ドドドドドドドド……

千冬「…………」

千冬(やれやれ……)

千冬(これだからガキは……) フウッ…

千冬(…………)




     ……少し、気分転換をしようと思った。

     学園の屋上でも良かったのだが、あそこは生徒に開放されてもいる。

     そこで私は学園裏にある、雑木林を抜けた先にある丘を目指した。



     そして……私はアレを見つけてしまう。


     


千冬「…………」

千冬「……何だこれは」

千冬(電話ボックスだが……明らかに古めかしいデザイン)

千冬(そして、こんな所に公衆電話など作っても意味はない)

千冬(…………)

千冬(束か……?)

千冬(……いや、あいつなら、こんなデザインにはしないだろう)

千冬(人参にしろ何にしろ、あから様に束の仕業とわかる物にする)

千冬(そういう奴だ……)

千冬(…………)

千冬(そういえば子供の頃、一夏と一緒に見たアニメに、こんな道具があったな……)

千冬(一夏は、テレビに釘付けになって食い入るように見ていた)

千冬(…………) クスッ




     この時の私は……正直どうかしていた。

     一夏の周りには、いつも誰かしら居る。 その事に不満はない。

     ただ……それに加われない自分が……少し、嫌だった。

     それだけだった。



     私は、その電話ボックスに入ると受話器を取り

     アニメと同様に使用した。


     




千冬「もしも一夏が、私にぞっこんだったら!」



千冬「…………」

千冬「……何をバk」


     ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリンッ!


千冬「!?」

千冬「くっ……!」

     ガチャ キィ……バタンッ!

千冬「…………」


千冬「…………」

千冬「……いたずら、か?」

千冬「…………」

千冬(だが、人の気配はしない)

千冬(監視カメラの様な物も、その他、電子機器が動いている気配も感じない)

千冬(…………)

千冬「……やれやれ」

千冬「誰の仕業か知らんが、この電話ボックスは不法投棄扱いで」

千冬「後で処分しておこう……」

     テク テク テク…


 ——IS学園・中庭付近——



     テク テク テク

一夏「織斑先生」

千冬「む? ……織斑か」

千冬「どうした?」

一夏「いえ……明日の約束の事なんですが」

千冬「明日? 何の事だ?」

一夏「……やっぱり忘れてたか」

千冬「何をだ」

一夏「2週間くらい前に、家のカーテンを買い換えようって、約束してただろ?」


千冬「…………」

千冬(……真面目にそんな記憶はない……が)

千冬(カーテンが古くなってて、そろそろ換えなければ、と思っていたのも事実だ)

千冬(ここのところ忙しかったし……失念していたかもしれん)


千冬「そうだったか……済まない、織斑」

一夏「いや、いいんだよ」

一夏「そういうところも……」

千冬「?」

一夏「ううん、何でも無い」

一夏「それじゃ明日、朝の8時くらいに迎えに行くから」

千冬「わかった」

一夏「失礼します、織斑先生」


千冬「…………」

千冬(……おかしい)

千冬(今、何か違和感を感じたが……)

千冬(…………)

千冬(強いて言えば、私をちゃんと『織斑先生』と呼んでいた事くらい)

千冬(…………)

千冬(いかんな……、一夏がやっとケジメをつけられる様になったというのに)

千冬(それをいぶかしる様では、教育者として失格だ)

千冬(…………)

千冬(少し、疲れているのかな……私は) フウッ…

     テク テク テク…


 ——翌日の休日——

 ——IS学園寮・宿直室前——



     コン コン

一夏「織斑先生、迎えに来ましたよー?」

     ガチャ…

千冬「時間ぴったりだな」

一夏「そりゃどうも」

千冬「では、行こうか」

一夏「ああ」


千冬「ところで、どこで買うつもりだ?」

一夏「○○町のデパート」

千冬「○○町? ずいぶん遠出するんだな?」

一夏「まあね」

一夏「せっかく外出するんだし……たまにはいいかと思って」

一夏「嫌なら、いつものショッピングモールにしようか?」

千冬「いや……それでいい」

千冬「気分を変えるのは、いい事だな」 クス

一夏「じゃ、決まりだな」 ニコ


一夏「…………」

一夏「ところで、さ」

千冬「ん?」

一夏「学園から出たら、千冬姉って呼んでもいいかな?」

千冬「何を言っている、一夏」

一夏「!」

千冬「私は、公私混同をするな、と言っている」

千冬「今日は休日だ。 姉弟に戻っても問題はない」

一夏「……そうだな、そうだよな」

一夏「千冬姉」

千冬「ああ」


 ——○○町・デパート——



     ガヤ ガヤ

一夏「結構な人混みだな」

千冬「休日だし、このくらいは想定の範囲内だ」

一夏「へへ……さてと、カーテン売り場はどこかな?」

千冬「衣類……もしくは、家具売り場の階あたりだろう」

一夏「なるほど」

一夏「えーっと、衣類、衣類……」

一夏「衣類は4階で、家具は5階か」

千冬「じゃあ、のんびり4階から見ていくか」

一夏「よし、まずは4階だな」


一夏「この階か。 ほとんど婦人服売り場だな」

千冬「メンズ売り場は……別の階か?」

一夏「みたいだ」

一夏「お、この服……千冬姉に合いそうだな」

千冬「そうか?」

一夏「いつもはスーツばかりだけど、こういうトレーナーやシャツも似合うと思うな」

千冬「ふむ……」

千冬「少し見ていっていいか?」

一夏「ああ、構わないぜ!」

千冬「ふふ……♪」


千冬「つい衝動買いをしてしまった……」

一夏「たまにはいいじゃないか、千冬姉」

一夏「自分で稼いだお金なんだし……問題ないよ」

千冬「……まあそうなんだが」

一夏「弟としても、姉が綺麗でいてくれるのは嬉しいぜ?」

千冬「……!?」 ドキ

千冬「…………」

千冬「馬鹿者……大人をからかうな」

一夏「お? 少し照れてる?」

千冬「ほら、目的の物を見に行くぞ」


一夏「あったあった、カーテン売り場」

千冬「さて……何色にするかな」

一夏「色はともかく、柄物にはしないのか?」

千冬「特にこだわりはないが……」

千冬「一夏は、柄物にしたいのか?」

一夏「滅多にないけど、汚れた時、柄物の方が目立たないからな」

千冬「なる程……そんな利点があるのか」

千冬「じゃあ、今回は柄物にするか」

一夏「いいと思うぜ」



———————————


一夏「発送手続き、終わったよ、千冬姉」

千冬「うむ。 すまないな、一夏」

一夏「なぁーに、これくらい大した事はないさ」 ニコ

千冬「そうか」 クスッ

千冬「そういえば、そろそろ昼時だな……」

千冬「昼にするか? 一夏」

一夏「待ってました! さっきから腹がグウグウなってたんだよ……」

千冬「全然聞こえなかった」

一夏「人混みがすごいからなー」


     イラッシャイマセー

一夏「ふう……やっと座れた」

千冬「家族連れが多いからな……仕方ない」

一夏「それじゃあ千冬姉、何食べる?」

千冬「…………」 ウーム…

千冬「ふむ……この天ぷら定食にするかな」

一夏「じゃあ俺は、ハンバーグセットで」

千冬「決めるのが早いな?」

一夏「ハンバーグは、割とハズレが少ないから」

千冬「そうなのか?」

一夏「まあ、俺個人の勝手な経験則だけど」

一夏「すみませーん! 注文、お願いしまーす!」


千冬「…………」

一夏「…………」

一夏「……そういえばさ」

千冬「む?」

一夏「千冬姉はふだん、昼はどこで食べているんだ?」

千冬「職員室だ」

千冬「特にそういう取り決めがあるわけじゃないが……」

千冬「教員は誰も食堂を利用しないな」

一夏「職員室って事は、購買で何か買って?」

千冬「そうだ」

千冬「私はよく幕の内弁当を購入している」


一夏「…………」

一夏「なあ、千冬姉」

千冬「うん?」

一夏「よかったら、俺が弁当を作ろうか?」

千冬「ほう……それはありがたいな」

千冬「だが、お前の本分は学業だろう?」

千冬「私の弁当を作ってくれるのは嬉しいが……それが成績に影響を与えるかもしれん」

千冬「だから、気持ちだけ受け取っておく、一夏」

一夏「もう少し信用してくれよ……」

千冬「ふふふ…」


千冬「それに」

一夏「?」

千冬「あの5人はどうなる?」

一夏「5人って……箒たちの事か?」

千冬「……まあ、あまり強くは言えないが」

千冬「いい加減にしないと、お前、後ろから刺されるかもしれないぞ?」

一夏「俺とあいつらは、そんな関係じゃないって」

一夏「本当にただの友達だよ」

千冬(……こいつ、本当に刺されるまで気がつきそうにないな)

千冬(我が弟ながら……まったく) ハア…

一夏「?」


     アリガトウゴザイマシター

千冬「さて、帰るとするか」

一夏「え? もう?」

千冬「目的の物は購入したし、余計な物も既に買ってしまった」

千冬「……ああ、一夏、何か欲しいものがあるのか?」

一夏「そういうわけじゃないけど……せっかく遠出したんだし」

一夏「天気もいいから散歩がてら、ぶらぶら回りたいかなって」

千冬「私と、か?」

一夏「ダメか?」

千冬「…………」

千冬「……いや」

千冬「たまには、それもいいかもしれないな」 クスッ

一夏「じゃあ、決まり」 クスッ


 ——どこかの公園——



一夏「う——んッ……」 セノビー

一夏「ふう、気持ちいいな」

千冬「そうだな」 クスッ

一夏「やっぱり、家族連れが多いな、今日」

千冬「ああ……」

     テン テン テン…

子供「すみませーん、ボール、取ってもらえますかー?」

一夏「おう、ほらよ」 ポーン

子供「お兄さん、ありがとう!」

     タッ タッ タッ…


千冬「…………」

千冬(一夏にも、あんな頃があったな)

千冬(私は……早く独立したくて、遊びとかで構ってやれなかった)

千冬(一夏のためを思って、甘やかさないつもりで接していたが……)

千冬(寂しい思いをさせたかもしれない)

千冬(…………)


一夏「千冬姉?」

千冬「……ん?」

一夏「どうしたんだ? 考え事か?」

千冬「いや……大した事じゃない」

千冬「一夏にもあんな頃があったな、と懐かしく思っていただけだ」


一夏「そりゃそうだよ」

一夏「千冬姉だって、そんな頃もあったさ」

一夏「孤児院の先生が、千冬姉の武勇伝を聞かせてくれたぜ?」

千冬「え?」

一夏「近くのガキ大将を再起不能にしたりとか」

一夏「花屋のお兄さんに告白した事とか」

千冬「…!!」 ///

千冬「わ、忘れろ! 今すぐに忘れるんだ!」 ///

一夏「ハハハ……」




———————————



一夏「そろそろ夕方か……」

千冬「ずいぶん歩いたな」

一夏「疲れたか? 千冬姉」

千冬「私を誰だと思っている?」

一夏「へいへい。 そうでしたね」

千冬「そろそろ帰るか」

一夏「そうだな」

一夏「…………」

一夏「なあ、千冬姉」

千冬「ん?」

一夏「最後に……行きたい所があるんだ」


 ——どこかの神社——



千冬「ここなのか?」

一夏「うん」

千冬「……何の為に来たんだ?」

一夏「深い意味は特にないよ」

一夏「ただ……静かな場所だったから」

一夏「それだけ」

千冬「……?」


一夏「…………」

一夏「なあ、千冬姉」

千冬「む?」

一夏「俺たち……姉弟だよな」

千冬「ああ」

一夏「そして、唯一の家族だよな」

千冬「そうだ」

一夏「……でも、さ」

一夏「俺……あの時……臨海学校の時」

一夏「はっきりと分かった事がある」

千冬「…………」

一夏「……俺」




一夏「千冬姉の事が好きだ」



千冬「……」

千冬「は?」

一夏「……真面目に言ってるんだぜ、千冬姉」

千冬「ちょ、ちょっと待て……」

千冬「それは、姉として、なn」

一夏「違う」

千冬「!」 ドキッ


一夏「そうやって……そう考えて、ごまかしてきてた」

一夏「これは尊敬の、羨望の気持ちだ、と」

一夏「でも」

一夏「はっきりとわかったんだ」

千冬「…………」

一夏「あの時、千冬姉の眩しい水着姿を見て……俺は……」

一夏「千冬姉に『女』を見ているって」

千冬「!?」 ドキッ///

一夏「俺は、ひとりの男として」

一夏「千冬姉を……いや、『千冬』の事が」

一夏「好きだ」

千冬「……」 ゾクッ…




     私は

     真剣な眼差しの一夏に……『男』に魅入られた。

     体の奥が、芯の部分が、熱くなってゆく……



     だが

     同時に、恐怖と嫌悪感も感じていた

     矛盾しているが、心地よくもおぞましい……

     そんな感情だった。


     


千冬「い、一夏……! 落ち着け」

一夏「落ち着いている」

     ズイッ

千冬「く、来るな……!」

     トンッ…

千冬「!!」

千冬(いつの間にか、か、壁際に!)

一夏「千冬……」

一夏「俺のモノに」

一夏「なれ」

千冬「…っ」 ゾクゾクッ!




     私は……言い知れない嫌悪感と恍惚の中

     一夏に唇を奪われた……



     周りに人けのない夕暮れの神社で……



     こんなのはおかしい

     どうして私は抵抗しない?

     その気になれば、一夏を投げ飛ばす事など

     容易く出来るはずだ


     




     ……どうしてだ?

     望んでいるのか? 私は?



     世の中の理(ことわり)や摂理

     世間の常識や倫理に反して

     血の繋がった 実の姉弟でありながら



     男女の契(ちぎり)を交わす事を!!



     




     ドンッ!



一夏「ぐっ!」

千冬「はあっはあっはあっ……」



     ダッ!



一夏「あ……!」

一夏「千冬!」

     タッ タッ タッ…

一夏「…………」

一夏「…………」

一夏「千冬……姉……」

一夏「…………」



———————————


千冬「はあっはあっはあっ」

千冬「はあっ…はあっ…」

千冬「はあっ……はあっ……」

千冬「はあっ……」

千冬「ふー……」

千冬「…………」

千冬「…………」

千冬(雑木林に……あそこに行かなくては)

千冬(他に思いつく原因が無い!)


 ——IS学園裏の雑木林——



     テク テク テク…

千冬「…………」

千冬「……!」

千冬「あった!」

     ガチャ……キィ……パタン

     チンッ☆(受話器を取った)

千冬「元に戻れ!」


     ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリンッ!


千冬「…………」

千冬(これで……いい……これで……)




     私は

     今まで味わった事のない極度の疲労を感じた。



     も○もボックスを破壊しておかなければ、と思っていたが

     もうそんな気力は無く……自室に戻るので精一杯だった。

     ベッドにそのままの格好で倒れこむ。


     




     そして、翌日の早朝に処分を行おうとしたが

     もし○ボックスは跡形もなく……私は、本当に夢でも見ていたのだろうか?

     と、自分を疑ってしまう程だ。



     恐る恐る、だが、それを気取られない様に

     一夏に私と買い物をしたのか訪ねてみた。

     答えは、『ノー』だった。



     だが、数日後。

     あの世界で購入した服やカーテンが自宅に届けられ

     夢などではなかった事が証明されてしまう。


     




     私は……

     ただただ困惑した。



     困惑しか、できなかった……。



     


 ——更に数日後の夜——

 ——バー・ボウガット イヅル——



山田「お待たせしました、織斑先生」

千冬「山田先生」

山田「マスター、フェリチータ(カクテル)を」

     カシコマリマシタ

山田「ふう……」

千冬「すまない、急に付き合わせてしまって」

山田「いえ」

山田「ここのカクテルは絶品ですし、私も少し飲みたい気分でしたから」

千冬「そうですか……」

千冬「…………」

山田「…………」


千冬「山田先生」

山田「はい」

千冬「私は……たぶん酔っている」

千冬「だから、くだらないたわ言を言うだろう」

山田「……はい」

千冬「話半分でいいし、冗談だと思ってもらっても構わない」

千冬「……でも、聞いてくれ」

山田「ええ、いいですよ?」 クスッ

千冬「済まないな」


千冬「——夢を」

千冬「そう……夢を見た」

山田「…………」

千冬「その夢の中で、私は」

千冬「一夏に……実の弟に告白された」

山田「……!?」

千冬「…………」

山田「…………」

千冬「……マスター、マティーニを」

     カシコマリマシタ

千冬「……夢の中で、だが」

千冬「私は、ただ困惑した」

千冬「不覚にも……このまま一夏の気持ちを受け入れたい」

千冬「そんな事も考えてしまった」

山田「…………」


千冬「軽蔑しただろうな……」

山田「…………」

山田「……いえ」

山田「そんな事はありませんよ」

     フェリチータ、オマタセシマシタ

山田「マスター、ありがとう」

千冬「…………」

山田「織斑くんは、素敵な男の子ですし」

山田「将来は有望そうですし」

山田「女の子なら、放っておきませんよ」


千冬「山田先生、私は——」

山田「いいじゃないですか。 姉弟の禁断の恋」

山田「そういうの、少し憧れがありますよ? 私」 クス

千冬「…………」

     マティーニ、オマタセシマシタ

千冬「ありがとう、マスター」

千冬「…………」 グイッ

千冬「ふう……」

山田「……たとえ」

千冬「ん?」

山田「姉弟であっても、親であっても、どれだけ年を取っても」

山田「女って……”女”を捨てられないものですよ、きっと」

千冬「……!」

千冬「…………」


山田「それに」

山田「過去の歴史上、兄妹、姉弟の間柄で結婚した事例も記録として残っています」

山田「エジプト古代文明は有名ですね」

千冬「…………」

山田「……」 グイッ

山田「ふう……」

山田「もちろん、オススメはしませんけど」 クスッ

千冬「当然です」

山田「あははは」

山田「…………」

山田「今日は、とことん付き合いますよ、私」 スッ…

千冬「…………」

千冬「ありがとう、山田先生」 スッ…

     ……チンッ☆


 ——数日後——

 ——1組教室——



セシリア「一夏さん、今日のお昼なのですが」

シャル「ボクはお弁当を作ってきたんだけど」

ラウラ「嫁よ! 秘密裏に日本国自衛隊の『海軍カレー』パックを購入した!」

箒「もちろん、私と食堂で……」

     ガララ…

鈴「一夏! 久しぶりに酢豚作ったの!」

鈴「会心の出来なんだから、食べなさいよね!」


     ワー キャー ワー キャー

千冬「お前達」

セシリア「! お、織斑先生」

シャル「さ、騒がしかったですか?」

千冬「いや」

ラウラ「それでは……何か御用でしょうか?」

千冬「……そうだな」

千冬「…………」

千冬「たまには、生徒との交流も必要だろう」

千冬「私も昼食を一緒に取りたいのだが」

千冬「構わないか?」

一同「」

一同(ええ——!?)

一夏「あのー、俺の意見は……」


 ——屋上——



     シーン……

千冬「どうした? いつものバカ騒ぎは?」

セシリア「え、えと……その」

ラウラ(き、緊張してしまうな……)

シャル「……そ、そうだ、織斑先生は」

シャル「どんな学生時代を過ごされたんですか?」

千冬「私の、か……」

シャル「きっとモテたんでしょう?」

一夏(……モテたなんて話、聞いた事無いけど)


千冬「まあ、正直言うと」

千冬「そんな事に構っていられなかったな」

千冬「金銭的に一番余裕のなかった時期だったし……」

千冬「私に言い寄ってくる男など、いなかった」

一夏「でもあの時から綺麗なのは確かだぜ?」

ヒロインズ「」

千冬「……」 ///

一夏「千冬姉はモテないって言うより」

一夏「近寄りがたい、って感じだったと思う」

千冬「そ、その辺にしておけ、一夏」 ///

鈴(……この姉弟、本当に怪しい気がしてきた)

箒(幼い頃も一応知っているが……見ていて気が気ではない)


一夏「おっ? もしかして照れてる?」

千冬「馬鹿者。 そんなわけがあるか」

千冬「それよりも一夏」

千冬「お前こそ周りに気をつけておけ」

千冬「背中から刺されないようにな」

一夏「何でそんな事になるんだよ?」

一夏「俺は、誰からも恨みを買うような事はしていない」

ヒロインズ「…………」

千冬「…………」 ハア…


千冬「……なんと言うか、すまないな、みんな」

セシリア「いえ」

ラウラ「教官のせいではありません」

シャル「気にしないでください」

鈴「慣れています」

箒「幼い頃からこんな感じでした」

一夏「……?」

千冬「…………」

千冬「…………」 クスッ



     私は久しぶりに、楽しい食事をしたと思った。



     おしまい

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