八幡「荒廃した世界で」 (8)

 ちょうど俺がアメリカに単身、旅行していた時のことだ。某国の実験と呈した核攻撃をきっかけに第三次世界大戦の火蓋が切って落とされた。
 国家間の関係がその大戦によって崩れていった。中立や立場を曖昧にしていた国家も、もはやその立ち位置を決めなければならなくなり、やがて世界は二極化された。世界終末へのカウントダウンはその時から、既に始まっていたのだった。

 大戦末期の状況については詳しく知らない。日本に帰れなくなっていたから、俺はアメリカで約2年間を過ごしていたし、そこでは強制的に軍に参加させられていた。
 だから最初にどちらがそのスイッチを押したのかはわからない。それに今では知りようもなくなってしまった。それぞれの発射管から放たれた無数の核ミサイルは、対象国のみならず世界を核の嵐で襲い、あらゆる生命と文明を破壊してまわった。そして地球は、人の住むことの困難な環境になってしまった。

 そんな世界になってもなお、俺はその捻くれた性格と悪運の強さから、もうかれこれ5年も生きてこられていた。死にそうな目にも多々あったが、毎回そういう時に限って持ち前の懐疑心、猜疑心によって救われた。
 この5年で俺は、この世界で生き残るには人を疑う心が最も重要であることを学んだ。それは俺が変わらず持ち続けていたポリシーにちょうどマッチしていた。そうわかってからだ。前よりも生きやすいと、俺は少しばかり感じはじめていた。新世界は、俺がありのままに生きることを許してくれたのだった。

 そして今、俺は自分の故郷である日本へ帰ってきていた。その目的は自分の家族、特に小町を見つけるためだ。生きてなくとも、せめてその痕跡だけは知りたい。俺が日本を離れて、すでに8年が経っていた。

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(……スカイツリーがない)

 ちょうど俺が日本を出る1年前くらいに、スカイツリーが完成したんだっけか。あんまりよく覚えていないが、東京の街では一番高く見えたから印象に残っていた。

 今俺は当時京葉線の走っていた駅のホームに立っている。剥き出しの鉄筋や、崩れかけのコンクリートからでは、そこが駅であったかどうかはわからないが、あらかたひらけた作りになっていて、一段下の高架橋沿いに線路が見えるので、恐らく駅なんだろう。場所からして考えると、八丁堀駅だ。昔はここからスカイツリーがよく見えた。

 俺はそんな日本の象徴ともいえる建物の変わりように、少しの感慨も浮かばなかった。ここに来るまでにそういった予想はできていたし、戦争が起きて世界が滅んでしまったという事実を、俺はとうの昔に受け入れていた。そもそも、俺はスカイツリーに行ったことない。だから思い出なかったし、行きたいなんてこれっぽっちも考えたことがなかった。


 スカイツリー(のあった場所)を横目に、俺は自分の家のあった場所、幕張方面へと歩きはじめた。電車なら2、30分で着くはずだが、徒歩だと恐らく5、6時間かそれ以上かかるだろう。昔なら気が遠くなっていたかもしれないし、俺は運動部ではなかったから、まず無理だ。
 しかしこの世界の主な交通手段は徒歩だ。車やバイクも存在するが、その動力となるガソリンがなかなか手に入らないため、殆どのサバイバーたちは歩きでそれぞれの目的地へと向かう。俺もそんな世界で5年も生き抜いてきた。5時間歩くことなど日常茶飯事だった。

 2時間ほど歩くと、某テーマパークらしきものが見えてきた。流石の俺も歩いていた線路から外れて、テーマパークへと向かった。少し胸が弾んでいた。

 

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