義賊「勇者を飼いたい?」 手下「はい♪」 (21)

手下「姐さん姐さん姐さーん!」ドタバタ

義賊「あー、もうなんだい騒々しい……」

義賊「こっちは昨日の酒が残ってるんだ、静かにしておくれ……」

手下「それどころじゃないんだって姐さん!」

義賊「はいはい……どうせまた怪我した子猫か子犬でも拾ってきたんだろう?」

手下「もー、姐さん起きてってば!山向こうの平原で兵隊たちがやりあってるの!」

義賊「……なに?」

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~山頂~


義賊「ああ、確かにどっかの部隊が争ってるねえ、先か短い人生なのに、元気なにこった」

手下「姐さん、どうする?どっちかに加勢するの?」

義賊「なーんでアタシがそんなことしはなくちゃならないのさ」

手下「じゃあ、ただの見学?つんまないの」

義賊「見学じゃあないよ、仕事の準備さ」

手下「仕事?」

義賊「いいから見てな……ほら、そろそろ決着がつくみたいだ」

義賊「……にしても、あれは何処の部隊だい?」

義賊「片方は帝国の兵士たちみたいだけど、もう片方は……」

手下「んー、なんか旗に太陽のマーク書いてあるよ」

義賊「相変わらずアンタは目が良いねえ」

義賊「……太陽の印ってことは、勇者教団かい」

義賊「……どうやら戦闘が終わったみたいだね」

手下「うん、太陽のマークのヒトたち、全員動かなくなっちゃった」

義賊「生き残った帝国部隊は何人だい」

手下「えーと、いち、にい、さん……いっぱい」

義賊「って事は、両手の指の数以上……つまり10人以上は生き残ってるってワケか」

義賊「よし、夜まで待つよ、それまで休憩だ」

手下「はぁい」

手下「姐さん姐さーん」

義賊「なんだい」

手下「勇者教団ってなにー?」

義賊「なんだい、アンタそんな事も……」

手下「姐さん?」

義賊「いや、アンタの年齢だと知らないのも当然かね」

義賊「アンタも勇者ってヤツは知ってるだろ?」

手下「知ってるー、魔王を倒そうとした偉い人でしょ?」

義賊「そうそう、そんな感じ」

義賊「今から語るのは、勇者が世界を救おうとした話だ」

義賊「そして」

 



「勇者『様』が世界を救えなかった話だ」





今から15年前。

世界を脅かす魔王を討伐する為、勇者は単身で魔城へ向かった。

魔城には様々な魔物が住んでたって話だからね。

常識で考えると、1人で向かうのは無茶ってもんだ。



けどね。

勇者は異常に強かったんだ。

状態異常無効の身体を持っていたし、何より「女神の加護」がついていたんだ。

例え志半ばで死んでしまったとしても、女神の神殿で自動的に蘇生されるような加護が。

勇者にはついてたんだ。

仮に勇者が魔王討伐に失敗して息絶えてしまったとしても。

二度目三度目の再出発が可能って事さ。



これなら何時か必ず魔王の首元に刃が届く。

あとは「何時倒せるか」の問題だ。

そう思ってた。



帝国の皇帝も、共和国の王達も、亜人同盟の代表者たちも。

東方の拳王さえも。

全員がそう思ってた。

勇者は人格者だったって話だからね。

皆が皆、勇者に期待していたんだ。

勇者は人類圏の、希望だったんだ。

希望だったんだよ。

けど。

それっきり、勇者は、帰ってこなかったんだ。

死んだなら各地にある女神の神殿で蘇生される。

けど、その形跡はない。

つまり生きてるはずなんだ。

けど、戻って来なかった。



1ヵ月待っても。

半年経っても。

1年耐えても。


勇者は戻ってこなかった。

人類の希望たる勇者が、ね。

人々は囁きあった。


「勇者は逃げたのだ」

「あの子が逃げるはずがありませんわ」

「なら何故戻ってこないのだ」

「何度も死ぬ苦しみを味わうくらいなら逃げたくなるのも当然至極」

「しかし、逃げるか、あの勇者が」

「あの勇者『様』だぞ」

「なら」

「ならどうして」

「……」

「ひょっとしたら」

「ひょっとしたら?」

「誰かが、勇者を浚ったのかもしれない」

「勇者は人類の希望だ」

「ならば、その希望を独り占めして」

「自分の国の利益として利用しようとする者がいても」

「不思議では無い」

「いや」

「まさか」

「まさか……」

そう、まさか……さ。

常識的に考えると、そんなヤツがいるはずがない。

子供が考えても判る理屈だ。

だって、勇者が魔王を倒さなければ。

この世界は終わってしまうのだから。

まだ「勇者は魔王に捕まったのだ」と考えたほうが頷けるってもんだ。

けど、この考えに飛びついた奴がいた。

飛びついた奴等がいた。

私達が思ったよりも、それは多かった。

連中は勇者を探した。



帝国の研究施設に忍び込み。

共和国の遺跡を探索し。

各地に存在する秘境を踏破し。

古い王族の墓を暴き。

大商人の蔵を襲い。

旅芸人達を皆殺しにし。

貧村を焼き払い。

「隠された勇者」を探した。



その為ならば倫理から外れた行為も許されると叫んだ。

それは熱狂的な波となって世界に伝播した。



狂信的な勇者信奉者達。

それが「勇者教団」さ。

あの頃は本当に酷かったよ。

なんといっても、法と秩序を守るべき憲兵達の中にさえ勇者教団が居たからね。

連中が行った全ての行為は正当化された。

例えそれが悪逆な行為だったとしても、だ。


……。

……。

ま、そんな勇者教団も、長くは続かなかったがね。

だって世界中を探しても勇者は見つからなかったんだから。

各地に広がった熱も冷めていって。

最後には……。



集団で魔城へ突撃して潰えたって話だ。

義賊「連中の旗を掲げてたって事は、生き残りが居たんだろうねぇ」

義賊「勇者教団は羽振りがよかったって話だから、帝国の兵達がこのまま撤退するなら遺体から金目の物を……」

手下「ぐぅ……」zzz

義賊「こら、人に説明させておいて寝るんじゃ……」




ドスンッ!



義賊「あん?」

手下「むにゃ……?」

手下「姐さーん、今、何か雷が落ちたみたいな音が……」

義賊「みたいな、じゃなくて、落ちたよ、雷が」

義賊「さっきまで帝国の兵士と勇者教団が戦ってた場所に」

手下「え、え、ホントに落ちたの?」

手下「見に行こう!ねえ姐さん!」

義賊「……立ってるやつは居るか、見ておくれ」

手下「んんー……居ないみたい」

義賊「何だか嫌な予感がするねえ……」

義賊「けど、アタシの縄張りで起こった事だ」

義賊「最後まで見届けないと気色が悪い」

義賊「よし、ちょっくら様子を見に行くよ」

手下「がってん♪」

~平野~


義賊「こりゃあ、また、随分と……」

手下「くろこげだぁ!」

義賊「参ったねえ、これじゃあ金目の物も頂けないじゃないかい」

手下「姐さん姐さん、この剣は?」

義賊「炭化してボロボロじゃないか、こんな剣じゃ大根も斬れないよ」

手下「じゃあ、この盾は?」

義賊「指で突いただけで穴が開きそうだねえ」

手下「じゃあじゃあ……」

義賊「はいはい、アンタはちょっと真っ黒じゃない物を探してきておくれ」

手下「はーい!」トテトテ

義賊「……」

義賊(こっちの全身鎧の連中が帝国兵で、向こうの軽装の連中が勇者教団かい)

義賊(思ったよりも数が多いねえ)

義賊(それに、森のほうへ続く馬の足跡が数頭分残ってる……)

義賊(帝国兵達が乗っていた馬達が、落雷の音に驚いて逃げ出したんだろうけど)

義賊(雷に巻き込まれて死んだ馬の死体は、一つもない)

義賊(ヒトや荷物は全て炭化してるのに、馬だけ全頭生き残ったなんて、ありえるかい?)

義賊(もしこれが人為的な現象なら、魔法使いの仕業ってぇ事になるだろうが)

義賊(あの子が確認したときに、生きて立っている人間は1人もいなかったんだよねぇ)

義賊(勇者教団の誰かが、死ぬ間際に魔法を使った?)

義賊(ううん、それにしては状況が……)

義賊(……どうにも解せないよ)


手下「姐さん姐さーん!これ見てこれこれ!」

義賊「だから、真っ黒じゃないモノを探しなって言ってるだろう?」

手下「真っ黒じゃないよ、ほら、肌色が随分残ってる、ピカピカしてるのも!」

義賊「……ああ、こいつは、長い髪に覆われてて判りにくいが」

義賊「生首かい」

手下「うん!」

義賊「うん、これは悪くない顔立ちだ、栄養を十分に取った貴族の生首って事か」

義賊「多分、落雷前の戦闘で首を跳ねられたんだろうね、だから黒焦げにならずに済んだ」

義賊「血が出た形跡がないのは奇妙だけど、まあ、落雷の熱の影響で蒸発しちまったのかもね」

義賊「額や耳の飾りは、宝石かい」

義賊「これを頂けば、高くで売れそうだねえ」

手下「えらい?えらい?」

義賊「うんうん、えらいえらい」

生首「ああ、私もほめてやろう、えらいぞ、よく私を見つけた」

手下「えへへー、ほめられちゃった!」

生首「しかし、その宝石に手をつけるのは辞めてもらおう」

生首「それは、勇者である私の装備だ」

義賊「……」

手下「……」

生首「して、ここは何処だ、そして今は何時だ」

生首「この私の問いに答えよ、賊よ」

手下「姐さん姐さん姐さん姐さーん!」ペタペタ

手下「喋ってる!この子喋ってる!」ペタペタ

義賊「……こいつは、驚いたね、最近トンと見なくなったが、アンデッドかい?」

生首「無礼者、歩く屍などと一緒にするでない、私は勇者だ」

手下「姐さん!この子、首だけなのに凄く偉そうだよ!」ペタペタ

生首「小娘、本来なら私に気安く触れるなぞ万死に値するのだぞ」

生首「私を発見した褒美として今は許すがな」

手下「あはははははははは!姐さん!この子飼いたい!飼っていいでしょ!」ペタペタペタ

生首「ええい、こいつでは話にならんわ」

生首「賊よ、貴様が返答せよ」

義賊「……アンタ、勇者って言ったかい」

生首「いかにも、私は勇者だ」

義賊「魔王討伐に向かって、それっきり戻らなかった、勇者『様』かい?」

生首「ふはははは、様を付けるとは、貴様、なかなか判っているでは無いか」

生首「そう、私は魔王討伐に旅立った、勇者だ」

義賊「魔王を倒せなかった、そして、人類を救えなかった」

義賊「あの勇者『様』だってのかい」

生首「はっ、笑わせるな、人類の救済も魔王の討伐も、まだ途中なだけだ」

生首「そして喜べ」

生首「私を発見したお前達の偉業をもって、それらは再開されるのら」

手下「むにー」グイー

生首「ええい、頬を引っ張るら、喋りにくいわ」

義賊「……」

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