勇者「ニートになりたい」 (748)

【勇者宅 自室】

勇者「俺の名前は勇者。なんでも生まれた時に“聖痕”なんてもんがケツにあったお陰で神官は大騒ぎ。王様にまで上告した」

母上「勇者ぁ~! 朝よぉ~! 起きなさぁあ~い」トントン

勇者「そして、扉をノックしているのは我が親の片割れ(妻)。王様から金を積まれて18歳になったら魔王退治の旅へと行かせる約束した……」

母上「寝てるのぉ? 開けるわよぉ?」

勇者「うるさいな! 自己紹介の最中に話しかけないでよママン!」

母上「……あら? 起きてるじゃなぁ~い。ちゃんと返事はしないとぉ~」

勇者「い、嫌だからな! 俺は王様のところなんて行かへんぞ!」

母上「またそんな駄々こねぇてぇ。みんなの希望なのよぉ?」

勇者「希望なんてクソくらえ! 誰が死にに行きたいもんか!」

母上「それにぃ、お金も~」

勇者「やっぱり金か畜生!」

母上「うふふ~。今日が旅立ちの日ねぇ~」

勇者「いやだ。俺はいやなんだ。なんで俺ばっかり、というか、ピンポイントで俺だけ」

母上「さぁ、朝ごはんできてるから、食べなさい~。下でお父さんも待ってるわよぉ~」

勇者「なぁ、母上。やっぱり、俺には無理だ……」

母上「あらあらぁ~。そんな弱音を吐く子に育てた覚えはないんだけどぉ~」シャキン

勇者「ひっ⁉︎ ほ、包丁を構えるのはやめて⁉︎」

母上「しごきたりなかったのかしらぁ? 親失格でお母さん悲しいわぁ」ユラァ

勇者「た、足りてる! 足りてるよ! いやぁ! 行きたい! 行きたいなぁ! 魔王なんかけちょんけちょん! ほら、こうやって、この枕め! おりゃ!」ボスボス

母上「……」ジィー

勇者「はっ! 魔王なんて楽勝だぜ! 雑魚が!」チラ

母上「そうよねぇ」ニコォ

勇者「……ふぅ」

母上「それじゃあ、下で待ってるからぁ~。はやく降りてくるのよぉ~」ギィー バタン

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【勇者宅 居間】

父上「シャオラッ! シャオラッ!」ブン ブン

勇者「母上。つかぬことを聞きますが父上は居間でなぜに斧をふりましておられるので?」

母上「ご近所の武器屋さんから頂いたみたいねぇ。勇者のめでたい旅立ちを祝してってぇ~」

父上「おっ! 起きたか! まったく、旅立ちの日にまで朝寝坊するとは肝っ玉の据わったやつだ! さすが俺の息子!」

勇者「(引きこもりたかっただけなんだけど)」

父上「ガハハハッ!」キラン

勇者「(正直に言ったら斧で一刀両断されそうな気がする)」

母上「貴方もそれぐらいにしてぇ~。今日は家族揃って最後の朝食になるかもしれないんだからぁ」

勇者「不吉なこと言わないでくれる⁉︎」

父上「そうだな……。勇者、立派になって。俺は、俺はっ、ぐすっ」

勇者「ち、父上。泣いてるの? そんな、俺なんかまだまだ」

父上「さ、飯でも食うか」ケロッ

勇者「あー、そうですか。あんたらマイペースだったわ」

父上「ところで勇者。伝えわすれていたが、お前今日からこの家出入り禁止な」

勇者「はぁっ⁉︎ なんで⁉︎」

父上「魔王倒したら入っていいぞ」

勇者「俺の家だろーが!」

父上「おい、テメェ誰に口きいてやがる」ポキポキ

勇者「僕の家です、はい」

父上「早い話が王様に親権を譲った。今日からお前は王様の子」

母上「私たちも涙をのんでぇ~。だって、勇者がそうすれば王族になれるしぃ」

勇者「そんな……」

父上「そして、俺たちも王様に恩を売ってがっぽり、ごほん」

母上「あなたぁ、今度ここの温泉に行きたいわぁ」

勇者「それでいいのかよ!」

父上「……」

勇者「俺を育ててくれたんだろ⁉︎ 俺を生んでくれたんだろ⁉︎ そりゃ親孝行はしてないかもしれないけど」

母上「勇者……」

勇者「父さん、母さん……」

父上「いい」キッパリ

勇者「……っ!」プルプル

父上「いずれお前も大人になる。そうなったら嫁ができ、家庭を持ち、自分の子を持つだろう。そうなった時に、俺の気持ちがわかる。お前のためなんだ」

勇者「……俺の、ため」

父上「なんて言うと思ったか!」

勇者「えっ」

父上「ウジウジしてんじゃねぇ! 男だろ! 魔王倒してこい!」

勇者「そんな、無理やり」

父上「世の中なんてもんはなぁ、理不尽の塊なんだ! 社会勉強と思って行ってこい! お前にゃ女神様の加護がついてる!」

勇者「加護って、クジ運なんて一度もよかったことないよ」

父上「あぁん?」キラン

勇者「……わかったよ。俺なんかどうせ、どうせいらない子なんだ。邪魔者なんだろ!」

父上「ようやくわかったか」

母上「あ、あなた……」

父上「黙っていなさい」

勇者「だったらお望みどおり出ていってやるよ!」ガタ

母上「あ、朝ごはん……」

勇者「く……っ! うっ、ぐすっ」ダダダッ バタン

父上「やれやれ……。相変わらず慌てん坊なやつだ」

母上「本当によかったの?」

父上「にこやかに笑って見送る、それができればなぁ。だが、泣いてしまいそうで」

母上「……もう、見栄っ張りなんだからぁ」

父上「あいつも18。いつかは自立しなければならない。信じよう、俺たちの息子を」

母上「(勇者……。辛かったら帰ってくるのよ……)」ホロリ

【城下町】

勇者「とは言ったものの。どうしたもんかなぁ」テクテク

道具屋店主「勇者! ついに旅立ちだな! 期待してるぜ!」

勇者「あ、ども」ペコ

武器屋店主「おっ、王様に謁見しにいくのか! 頑張れよ!」

勇者「ウース」ペコ

老人「あの頼りない子供が」

勇者「俺って立派に見える?」

老人「……やはり、子供のままじゃの」

勇者「……」ガックシ

犬「ワンワン!」

勇者「いいよなぁ、お前は。なんにも悩みなさそうで」

犬「わん?」

勇者「毎日与えられた飯くって、ゴロゴロして、遊んでさ。俺もそんな生活送りてぇなぁ」ナデナデ

犬「ハッハッ」

勇者「王族になりゃそんな生活……だめか。俺は魔王退治で送りだされちゃうもんな」

兵士「勇者か」

勇者「ん? おや、兵士さんじゃありませんか。いまから出勤ですかい?」

兵士「村人Aみたいな喋り方をするんじゃない。まったく、こいつは」

勇者「俺は元々そんなもんすよ」

兵士「王様に謁見だろう。お前を迎えにいっていたところだったのだ」

勇者「はぁ、それはお疲れさんです。じゃ、俺はこれで」クルッ

兵士「待たんか」ガシッ

勇者「勇者ならあっちにいました」

兵士「三文芝居をするんじゃない。ほら、いくぞ」グイ

勇者「いやじゃ~~~! 堪忍してぇ~~~~!」ズルズル

【王城 謁見の間】

王様「ワシが王様でアル」

勇者「はい」

王様「……え? そんだけ?」

勇者「はい?」

王様「もっと、ははーっとか、本日はご機嫌麗しゅうとかないの?」

勇者「子供の頃から知ってるじゃないですか」

王様「あ、そう。……うぉっほんっ、勇者よ! よくぞまいった!」

勇者「(やりたいのね)」

王様「此度の日をどれだけ待ち望んだことか! まずは18の誕生日、おめでとう。祝福するぞよ」

勇者「ありがたき幸せ」ペコ

王様「うむ。と、同時に女神様のお告げどおりの旅立ちの日でもある」

勇者「……」

王様「お主にはこの世界を魔王の脅威から救ってもらわなきゃならん。引き受けてくれるな? 勇者よ」

勇者「いや」

王様「まさかイヤなどとは言うまいて。まさかのぅ」

勇者「あの、ちなみに断ったらどうなるんです?」

王様「税金」ボソ

勇者「え?」

王様「実はの、お主の家だけは税を特別免除しいて、尚且つ、毎月お金を振り込んでいた。勇者という理由での。断れば今までの分を請求する」

勇者「そ、そんな話はじめて聞きました」

王様「まぁ家計事情なんて子供には普通話さんじゃろ」

勇者「(父さんがロクに仕事もせずに毎日過ごせてたのはそういうことか……! クソ親父め!」

王様「ちなみにじゃが、ワシも養子縁組したのは聞いとる?」

勇者「あ、それは今朝」

王様「うむうむ。よって、請求は親にではなく勇者本人にいくことになる」

勇者「なんでだよ!」

王様「だって、実の親とは赤の他人じゃもん。わしも肩代わりするつもりないし。無能の」

勇者「無能って言うな! あの、ちなみに請求っておいくらまん?」

王様「ざっと軽く見積もって300万ゴールドってとこかの」

勇者「さ、さ、さ、さ、さんひゃくっ⁉︎」

王様「18までずっと支給しておったんじゃ。当たり前じゃろ」

勇者「買ってもらったおもちゃといえば竹とんぼだけなのに」

王様「それは1ゴールドじゃの」

勇者「あの、分割とかはもちろんできるんですよね?」

王様「ならん。一括で返納してもらう」

勇者「一括で⁉︎ 無理に決まってる!」

王様「それならば、そうじゃな。やっぱり魔王退治にいってもらうしかないの」

勇者「め、めちゃくちゃや。こんなの」ガックシ

大臣「王様、よろしいですかな?」

王様「お、おお。大臣、おったのか。よいぞ」

大臣「失礼致します。勇者よ、話を聞け」

勇者「なんでせう?」

大臣「泣くな。うっとうしい。旅立ちの手引き書を用意した。これ」ゴソゴソ

衛兵「はっ!」ザッ

勇者「手引き書?」

衛兵「受け取れ」スッ

勇者「……向かう場所、ですか」ペラ

大臣「なにはともあれ旅には仲間がつきものだ。アイーダの酒場で仲間を募集しろ。そして次の国に向かうのだ」

勇者「……」ペラ ペラ

大臣「そして――……」

勇者「あ、あのっ! ちょっといいですか!」

大臣「なんだ?」

勇者「この、ダーマ神殿てなんすか⁉︎ 転職できるって書いてありますけど!」

大臣「そのままの意味だ。職とは、女神様により定められた天命。だが、その洗礼を変えることができる」

勇者「行きます! 俺行ってきます!」

大臣「……?」

勇者「急ぐなくては! じゃ、そゆことで!」ダダダッ

王様「お、おい、勇者よ」

大臣「……」

王様「走って行きおった」

大臣「よもや、勇者も転職できると思ってるんじゃないでしょうか」

王様「できんのにのぅ」

~王宮、王の間~

国王「おお勇者よ! よくz」ゴオッ

側近「陛下!? ウワアアア!」ゴオッ

勇者「おれはゆうしゃになんてなりたくなかった」

勇者「ただひとりで、しずかにすごしていたかった」

勇者「まおうも、おまえたちもじゃまだ」

勇者「ぜんぶもやしてやる」

勇者「ぜんぶはいになれば、しずかになっていい」

勇者「それがおれののぞみだ」

ゴオオオオオオオオオオオオ……

勇者「よし、こくおうたちはぜんぶはいになったな」

勇者「しろのれんちゅうをもやしたら、つぎはまちのれんちゅうだ、そのつぎは」

勇者「あかい、あかい、あかい、あかい」

勇者「ほのおはきれいだ、ぜんぶもえて、しろもとけていく」

~勇者の家~

父親「うわあああああああ!」ゴオッ

母親「ゆ、ゆうしゃ、ああああ!」ゴオッ

勇者「もえろ、もえろ、ぜんぶもえろ」

ゴオオオオオオオオオオオオ……

勇者「…………だいぶしずかになったな、おれのせかいはぜんぶはいになった」

勇者「このまま、まちをでて、ぜんぶもやそう」

魔王「勇者よ、よくぞ」ゴオッ

魔王「な、に、?」ゴオオオオオオオオオオオ……

勇者「いきなりうるさいやつだ、おまえもはいになれ」

~街外れ~

巫女「ゆ、勇者ちゃん……?」

勇者「なんだ、みこか。なんのようだ」

巫女「神殿にいたら、街が物凄い火事になっているのが、見えて、心配で、わたし」

勇者「しんぱいするな、おれがもやしただけだ」

巫女「えっ、燃やしたって」

勇者「じゃまだから、もやしたんだ」

巫女「えっ? 燃やし、勇者ちゃんが、全部?」

勇者「これからすべてをもやしにいく」

勇者「おまえはしんでんにかえれ、あそこはしずかでいい」

勇者「そしてはたけのやさいをたべ、やぎのちちをのみ、くだものをたべてすごすといい」

勇者「そうだな、しんでんはもやさないでおこう、あそこはうるさくないからな」

巫女「すべて……もやし……」

勇者「じゃあな、みこ。おわかれだ」

巫女「!!」

巫女「だめ!」

巫女「お別れも、燃やすのも、全部だめ!」

勇者「じゃまをするな」

ゴオッ

巫女「勇者ちゃん!」

勇者「ほのおのかべでおってこれないようにした」

勇者「おまえはしんでんにもどれ、おれはあそこはもやさない」

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……

巫女「勇者……ちゃん……」

【再び城下町】

勇者「ひゃっほーーーーい! 俺の人生はバラ色だぁーー! 勇者とおさらばでっきるぅ~~~! スキップスキップランランラン♪」

子供「ママァ。あの人」

母親「シッ。見ちゃいけません」

勇者「なんだよ、こんな神殿があるならもっとはやくいっときゃ……いや、待てよ」ピタ

アイーダ「勇者」

勇者「あれ? 結構遠くね? まずいんじゃないか、これ。モンスター多いだろうし」

アイーダ「勇者ってばよ」パコーン

勇者「いっ、てぇなぁ! 誰だよ、頭はた、いた……の?」

アイーダ「あたしだよ」

勇者「こ、これはこれは。腕っ節が強いで評判のアイーダおばさまじゃないですか」

アイーダ「あいかわらず腰の低い子だねぇ」

勇者「いやいや、あっしなんてもう」

アイーダ「誰があっしだよ。ふざけてないでうちにきな」

勇者「なぜでしょーか」

アイーダ「この鳥頭は。王様からなにも聞いてないのかい?」

勇者「あ、あぁ! そういえばなんか言ってたような」

アイーダ「うちにくれば名簿に登録してあるやつと連絡がとれる。仲間、必要だろ?」

勇者「仲間、仲間ねえ。たしかに神殿にいくには仲間がいた方が……アイーダさんってダーマ神殿聞いたことあります?」

アイーダ「あん? ダーマって転職ができるとこだろ?」

勇者「さすが! 荒くれ者どもと繋がりがあるってことは事情通!」

アイーダ「ほんで? それがどしたい?」

勇者「あのですね、ちょびっと気になったんですけどもぉ、転職ってどんな職があるのかご存じです?」

アイーダ「職? あぁ、戦士とか武闘家とか?」

勇者「うんうん」

アイーダ「あとは、魔法使いに僧侶、踊り子」

勇者「そんでそんで?」

アイーダ「一風変わって遊び人とか」

勇者「キタ━(゚∀゚)━!!」

アイーダ「うお、な、なんだこいつ」

勇者「勝つるwwwwこれで勝ったも同然ww」

アイーダ「……」

勇者「うひょおおお! やったぜ! ハーレルヤー!」

アイーダ「……頭おかしくなった?」

勇者「アイーダさん! ありがとう!」ガシッ ブンブン

アイーダ「いたっ、いたたっ、握手はいいけどちょっと」

勇者「そうとわかれば、やはりさっさと行かなければ」ダダダッ

アイーダ「お、おいっ! 仲間はっ⁉︎」

勇者「俺には必要ない! むしろ足手まといだ!」

アイーダ「お、おぉ……」

勇者「待ってろよぉ~~~~っ!!(ダーマ神殿!!)」

>>7
>>8
>>9
この人まったく知らない人なんでNGID登録で

えっ面白い展開キターと思ってたのに違ったのか…
どっちかと言うと別人の投稿の方がワクワクして楽しかった

?勇者「もえろ、もえろ、ぜんぶもえろ」

勇者「ひゃっほーーーーい! 俺の人生はバラ色だぁーー! 勇者とおさらばでっきるぅ~~~! スキップスキップランランラン♪」

この情緒不安定ぶりは草
別人らしいから目瞑っとくけど

>>13
このスレはリレーやアンカーではないので
名前欄に名前あるみたいなんでその人のが読みたければそちらへお願いします

いくつかSSのスレ立てたことありますが無宣言に割り込まれたのは初めての出来事です
面倒なので今後はトリつけます

【アイーダ酒場】

戦士「ふっ、ロイヤルストレートフラッシュ」

僧侶「ひぃ~ん、ツーペア。負けましたぁ」

魔法使い「やるじゃない。戦士」

戦士「あたしはポーカーは得意なんだ。それに、僧侶、顔に出すぎだよ」パサ

僧侶「素直って褒めてくれてるんですか?」

戦士「……たしかに、素直なんだろうけど、なんだろう、あざとさを感じるのは」

僧侶「チッ」

戦士「いま舌打ちしたろ⁉︎」

魔法使い「ふふっ、僧侶なんて雑魚よ。ポーカーといえばこの私。大魔法使いであるこのわ・た・し、でしょ」

戦士「なんだ? やるのか? 勝負事なら手は抜かないよ?」

魔法使い「真面目ね。もっと肩の力抜いたら?」

戦士「遊びだからって勝負は勝負だ。下手な言い訳はしたくねぇ」

魔法使い「女のくせに、男みたいな口ぶりして」

戦士「あたしは女を捨てたんだ。そんなの関係ないね」

魔法使い「そこまで言うなら……なにか賭ける?」

僧侶「か、賭け事はだめですよぉ」

戦士「挑発してんのか? いいぜ、乗ってやるよ」

魔法使い「戦士、貴女もどうせ勇者のパーティーに入りたくてこの街に来たクチでしょ?」

戦士「勘違いすんな。勇者ってのがどんなのか見定めてから決めるつもりだ」

魔法使い「ふーん。ま、どうでもいいけど。私もそう。あぁ、そうっていうのは勇者御一行の仲間入りしたいってことね」

戦士「……それで?」

魔法使い「負けたら、候補から降りるってのはどう?」

戦士「なんだと?」ギロ

魔法使い「見てみなさいよ、店の中。私たちだけじゃない。……どこから聞きつけたのか、今日が勇者の旅立ちの日だと知った冒険者で超満員」

戦士「なぁ~るほど。ライバルは減らしたいってわけ」

魔法使い「私の見立てによれば、他は雑魚。あなたは別格。たたずまいでわかるもの」

僧侶「……」

魔法使い「もちろんあなたもね、僧侶」チラ

僧侶「えっ? わ、わわわたしですかっ?」

魔法使い「猫かぶるのをおやめよ。実力者は実力者でグループを作る」

僧侶「で、でもぉ~私たちは職も違いますしぃ~蹴落とす必要ないんじゃないですかぁ?」

魔法使い「それもそうだけど、もし少人数しか選ばれなかった時に面倒だもの。私はどうしても勇者についていきたいの」

戦士「なんだぁ? 勇者がへっぽこなやつでもか?」

魔法使い「どんなやつでも、よ。“聖痕”という証拠がある以上、勇者であることに疑いはない。魔王を滅ぼし、魔物に殺された母様の仇を討ちたい……!」

戦士「……よし、わかった。お前についていくだけの理由があるとは察した。だがな、あたしだってただ見るためにここにきたわけじゃねぇ」

魔法使い「えっ、だってあんたさっき」

戦士「あたし達は今日はじめて会ったんだ。そんな奴らに本音を言うはずないだろ」

魔法使い「うっ」

戦士「だが、さっきのあんたの仇という言葉を聞いて気持ちが変わった。あたしは、自分の実力を試すために勇者についていきたい」

魔法使い「修行感覚ってわけ? 遊びのつもり?」

戦士「てめぇ……! 身体中にある傷跡を見てそれ言ってんのか? あたしの決心が遊びだと……?」

魔法使い「……」ゴクリ

戦士「女を捨ててまで武芸に身を打ち込んでるんだ。遊びなわけないじゃないの」ガン

魔法使い「……悪かったわよ」

戦士「僧侶、あんたはどうなんだい?」

僧侶「えっとぉ~、私は神官様に言われてここに来たっていいますかぁ~」

戦士「だったら帰んな。神官様とやらには“選べれなかった”と言えばいいだけ」

僧侶「えっとぉ~えっとぉ~」

魔法使い「イライラするわね、この女。私達がわざわざ本音で話してるのに」

僧侶「でもでもぉ~、貴女達が勝手に話しだしただけって言いますかぁ~」


魔法使い「要するに、私達には話しする気ないってわけ?」

僧侶「はうぅ、そんな、極端ですよぉ。女神様も争いは嫌ってらっしゃいますぅ~」

戦士「たしかに……イライラするね。魔法使い、あんたとは気が合いそうだ。僧侶、あんたのその喋り方、なんとかならないのか?」

僧侶「うぅ」

魔法使い「頭悪いんじゃないの? いいえ、悪そうに見えるわよ? 本当に悪いんならお気の毒だけど」

僧侶「……黙って聞いてりゃ調子のってんじゃねぇぞアバズレどもが」ボソ

魔法使い「……!」

戦士「ん? なんか言ったか?」

僧侶「い、いえ~」ニコォ

魔法使い「(聞こえたわよ、やっぱりこいつ)」

僧侶「そ、そうだぁ! ポーカーやるんじゃないんですかぁ?」パン

戦士「あぁ、そうだったな。どうすんだ? 勇者の仲間入りの条件、賭けるのか?」

魔法使い「もちろん。でも、戦士だけじゃないわ。僧侶、あなたも勝負に参加して」

僧侶「え、えぇ? なんで私までぇ?」

戦士「勇者についてく理由がないから参加しても平気だろ」

僧侶「だ、だからぁ。神官様のご提示がぁ」

魔法使い「カード、切るわよ」パサ

戦士「ああ」

僧侶「ひ、人の話を聞いてくださぁ~い」

アイーダ「勝負はする必要ないよ」スッ

戦士&僧侶&魔法使い「アイーダさん?」

アイーダ「トランプをしまいな。集まった猛者ども! みんなよく聞け!! 酒を飲む手を止めてこっちに注目だ!!」パン パン

戦士「勇者がついにくるのか……?」

魔法使い「そのようね」

アイーダ「いいか、勇者は、勇者は……」

僧侶「……」ゴクリ

アイーダ「たった今、旅立った! よって、本日の営業は終わり!!」

店内「は、はああああぁぁぁっ⁉︎」

アイーダ「一人で行っちまった! お前らには悪いが、足手まといだそうだ!! 酒代はチャラにしといてやるよ」

戦士「な、なんだと……?」

魔法使い「そ、そんなのって、あり?」

僧侶「……」

アイーダ「あんた達も。ポーカーなんてやる必要ないんだ。荷物をまとめて故郷にお帰り」

戦士「は、はは。なんて野郎だ。一人で魔王退治だと。そんな肝っ玉座ってる男見たことも聞いたこともねぇや」

アイーダ「あん?」

魔法使い「それほどの強者。さすが勇者ってわけか……」

僧侶「勇者様はいつ頃出発されたのですかぁ?」

アイーダ「つい今しがた」

僧侶「ありがとうございますぅ~」ゴソゴソ

アイーダ「おい、あんたまさか」

僧侶「杖は、あ、ここだ。よいしょっと。それでは私はここで~お疲れ様でしたぁ~」イソイソ

アイーダ「ふぅ……やれやれ」

魔法使い「これから、どうしよ。どうしたらいいの」

戦士「……くっ、まだ修行が足りなかったのか」

アイーダ「あんた達は僧侶と一緒に行かなくてよかったの?」

魔法使い「故郷は別々ですし」

アイーダ「はぁ? あんたら気づいてないのかい? あの子、勇者を追いかけていったよ」

戦士&魔法使い「な、なんですって(だって)⁉︎」ガタッ

アイーダ「機転の利く子みたいだね。切り替えの早いというか」

戦士「あ、あいつ! あたしの剣、剣は」カチャカチャ

魔法使い「こうしちゃいられない……!」ガタガタ

アイーダ「(そんなに遠くには行ってないはずなんたけどねぇ。ま、すぐに会えるだろうさ)」

【街近郊 平原 ~ ミンドガルドの村】

スライム「ピギーッ!」

勇者「逃げる!」ダダダッ

ベビーパンサー「ガルルッ」

勇者「逃げ続ける!」ダダダッ

スカルナイト「ウガー」

勇者「逃げる勇気!!」ダダダッ

村人「――ミンドガルドへようこそ」

勇者「ひたすらに走っていたら、あっという間に次の街についてしまった」

村人「旅の人。宿はどうするね?」

勇者「あ、うーん。どうしよっかな。一泊いくらです?」

村人「8ゴールドだよ」

勇者「それなら……あれ、あ、やっべ! 家からも城からも慌てて出てきたから金あんま持ってねえ」

村人「なんだ、お兄さん、文無しか?」

勇者「いや、ちょっとはあるはず……」ゴソゴソ チャラ

村人「ひぃ、ふぅ、みーと100ゴールドもないじゃないか。それで全財産? お小遣いじゃなく?」

勇者「まぁ、小遣いみたいなもんすけど」

村人「よくそれで旅なんかする気になったねぇ。すぐに底をついちゃうよ」

勇者「そうなったら、野宿とか」

村人「寝てる間の魔物除けアイテムは一個、80ゴールドだぞ? しかも一回の使い捨て」

勇者「そんなすんのっ⁉︎」

村人「アイテム使わないならせめて、見張り番がいないと、なぁ」

勇者「夜行性のモンスター多いし、寝込み襲われちゃいますもんね」

村人「村の中で野宿なんてしたらつまみだすぞ……ハッ、まさか、流れ者の犯罪者じゃ?」

勇者「えっ、誰が……俺っ⁉︎ ち、違いますよ! 違います!」ブンブン

村人「ふん。で、どうする? 宿に泊まってく?」

勇者「そ、そうします~」シュン

【夜 ミンドガルドの村 宿屋 食堂】

勇者「はぁ~、まいったぞ。いきなり資金難になるとは」ペラ

店主「オムライスお待ち」コト

勇者「ダーマの神殿まではどれくらいかかるんだろうか」

店主「ん? お客さん。ダーマ神殿目指してるの?」

勇者「はい?」

店主「ああ、すまんね。独り言が聞こえちまったもんで」

勇者「かまわないすよ、そうです。オムライスうまそっすね」

店主「ダーマっつうとこっから1ヶ月はかかるよ」

勇者「そ、そんなにっ⁉︎」

店主「ああ、ほれ、壁に地図がかかってるだろ。あれ見てみな」

勇者「……」コト

店主「現在地が西のはずれ。ダーマは大陸のちょうど中心地にある」

勇者「うまいすね、これ」モグモグ

店主「まぁな。俺のカミさんが作ってるから。そんで、山を二つ超えなきゃいかんから、はやくて1ヶ月てとこ」

勇者「はぁ……まいったな」

魔法使い「あんた、なんで抜け駆けなんてすんのよ!」バンッ

僧侶「えぇ~。だってぇ、一緒に行くなんて約束はぁ」

戦士「それにしたって黙っていくこたぁないだろう!」

勇者「おっちゃん」

店主「なんだ?」

勇者「あの騒がしい子たちも旅の人?」

店主「らしいよ。ついさっき到着してね。パーティなんじゃないか」

勇者「ふーん」モグモグ

戦士「勇者、どこまで行ってるんだろうな。来る途中は見かけなかったが」

勇者「ん? 勇者?」ピクッ

魔法使い「行動がはやければ、足もはやいなんて。ほんと、たいした男みたいね」

僧侶「私たちが気がつかなかった可能性もぉ~」

戦士「ここまではだだっ広い平原だったんだ。人影の見落としはありえない」

勇者「(……勇者探してんのかよ。こいつら。まさか、王様に見張りを言いつけられたとか?)」

店主「勇者……? おおい、あんた達! 勇者様がどうかしたのかい?」

戦士「ああ、今日が勇者の旅立ちの日なんだ。魔王退治のね」

店主「な、なんだってぇ⁉︎ こいつはたまげた! なら、あんた達は勇者様の付き人かい⁉︎」

魔法使い「だといいんだけどねぇ。私達はまだ……」

戦士「魔法使いの言う通りさ。勇者は仲間が足手まといだとよ」

店主「ひぇ~~!! こいつはまたたまげた! なら一人で旅してるんか⁉︎」

僧侶「店主さん~、今日はお客さんは私たちだけですかぁ?」

店主「ここは辺鄙な村だ。今日チェックインしたのは、あんた達と、ここの――」

勇者「ば、ばかっ!」コソ

店主「そういやあんた、どっから来たの?」

戦士&魔法使い&僧侶「……」ジィ~

勇者「せ、拙者はしがない旅の者でござる」

店主「そんな喋り方してなかったろ」

僧侶「いきなり失礼ですけどぉ~、そちらの旅の方の職業をお聞かせいただいてよろしいですかぁ~?」

勇者「しょ、職業?」

店主「なんでもこのお兄さん、ダーマ神殿を目指してるらしいよ」

魔法使い「なら、転職? なにになりたいの?」

勇者「遊び人に」

魔法使い「遊び人……? ぷっ、変なやつ」

戦士「おい、お前。遊び人なんて怠け者のやる職業だぞ」

勇者「(怠けたいんだから天職じゃねぇか)」

僧侶「……」

店主「勇者様が旅立つのなら号外かお触れでも出してくれりゃいいのにねぇ」

戦士「そんなことしたら魔王に潰されちまうだろ。秘密裏にやる必要があんだよ」

魔法使い「そーそー。絶対的な魔王にとってのただひとつの脅威たる勇者。除外する為には、国ひとつ潰すわよ」

店主「国をか……おっかねぇ」ゴクリ

僧侶「……私ぃ、そちらの旅の方のテーブルに相席したいんですけどぉ」

勇者「へ?」

僧侶「だめでしょうかぁ~」

店主「席は四人がけだ。かまわないよ」

勇者「ちょ、俺の意思は!」

店主「こんなベッピンさん三人のうちの一人と一緒な飯食えるんだ。男なら役得だろ?」

勇者「めんどくさいから、いい――」

僧侶「失礼しますぅ~」スッ

勇者「見かけによらずグイグイくるな!」

魔法使い「僧侶、ちょっと、あんた男の趣味悪くない? そんなのがいいの?」

戦士「まったくだ。そんな軟弱そうなやつ」

勇者「こ、こいつら、なんで俺なにも言ってないのにボロクソいわれとるんじゃ!」

僧侶「うふふ。あちらは無視しておいて。……あ、手にご飯粒つけてますよ」

勇者「え、ついてな……」

僧侶「実は、私ぃ、特技があるんですよ」

勇者「(……? なんだ、手が熱い)」

僧侶「僧侶は癒しの職。女神様の特色が色濃くでる職でもあるんですぅ~」

戦士「そうなのか?」

魔法使い「女神は争いを好まないもの。魔法使いや戦士だって加護を受けてるけど、どちらかというと精霊の側面が強いわ」

僧侶「勇者様は女神様の寵愛を一身に受けられるお方。溢れ出る光に蓋はできません~」ポワッ

勇者「(な、なんだ。やばい感じする!)」

魔法使い「……?」

戦士「僧侶の手が光だしてるのはどういう原理だ? いや、重ねてる手から?」

勇者「や、やだなぁ! ご飯粒なんてついてないじゃないですか!」サッ

僧侶「あっ」

勇者「いやぁ、おいしかった! おっちゃん! オムライスうまかった! ごっそさん!」

店主「いいのか? まだ半分くらい残ってるが」

勇者「職が細いんだ、俺! もうお腹いっぱいになっちまって、残してごめんな?」

店主「いや、金払ってるからかまわねぇが」

僧侶「……」ジィ~

勇者「うっ、じゃ、じゃあ俺は部屋にいくから! あ、あと、明日は早朝にでたいんだけどどうしたらいい?」

店主「料金は先払いでもらってる。そのままチェックアウトしてかまわないよ」

勇者「了解! それじゃ、俺はこれで!」ソソクサ

戦士「なんだぁ、あいつ。いきなり慌ててたっていうか」

魔法使い「たしかに、変ね……それに僧侶。さっきのはなにをしてたの? 回復魔法?」

僧侶「うふふ。みぃ~つけた」ボソ

戦士&魔法使い「……?」

僧侶「先ほどのは、旅の安全を祈ってたんですよぉ」

戦士「そんなことか」

魔法使い「待って。光ってたわ。ああいうのものなの?」

僧侶「そうですよぉ」ニコニコ

戦士「祈りが特技か。しょーもな」

僧侶「なんとでもぉ~。それはそうと、こちらのパーティからは抜けさせてもらいますのでぇ」

魔法使い「いいの? 同じ魔法職だから言わせてもらうけど、前衛は必要よ」

戦士「そうだ、あたしが守ってやるぞ」エッヘン

僧侶「はい~。実は私の元いた神殿というのもダーマでしてぇ。目的地が同じなようなので、先ほどのお方を頼ろうかと思いますぅ」

戦士「目的地が同じって」

魔法使い「……勇者様のことは諦めるの?」

僧侶「元々神官さまに言われただけですしぃ、お二人の言う通り、諦めようかとぉ~」

戦士「まぁ、そうか。あんたには理由がないもんな」

【深夜 魔法使い 部屋】

戦士「魔法使い、まだ起きてるか?」コンコン

魔法使い「その声は、戦士? 鍵なら空いてるわよ」

戦士「失礼する」ガチャ

魔法使い「夜分にどうしたの? というか、まだ起きてたのね」

戦士「あんたもな。なんだ、本を開いて勉強でもしてたのか?」

魔法使い「気にならない? 僧侶の言動。あの子、どうにも信用ならないのよ」

戦士「……同感だ。実は気になってな。あたしのはただの勘だが」

魔法使い「さっきの光、調べてみたの」

戦士「祈りってやつか。それで?」

魔法使い「専門職じゃないから詳しいことはわからないけど、たしかに祈りをするときは祝福の影響で発光することがあるらしいわ」

戦士「……でも、それだけじゃないんだろ?」

魔法使い「貴女も見たでしょ? 重ねてた手の下から、つまり、あの男からの光だったわよね?」

戦士「そんな気がした」

魔法使い「そうであれば、おかしいわ。僧侶の手が光っていなければ」

戦士「だけど、光が強すぎて、その、見間違いってことも」

魔法使い「……」ギシ

戦士「まさか、あいつが勇者だってのか?」

魔法使い「あくまで可能性よ。でも、僧侶はあいつとパーティを組むと決めた。どうにもひっかかる」

戦士「たしかに、男、だもんな。しかも二人きりになるし」

魔法使い「貴女、オンナは捨てたんじゃなかったっけ」

戦士「ち、ちがっ! あたしは、一般的な常識で!」

魔法使い「別にいいけど。それを抜きにしても、前衛を任せられると判断できない者とパーティを組むメリットは、魔法職に無いのよ」

戦士「……強いのか? あいつ」

魔法使い「そこで、提案があるんだけど――」

【宿屋 早朝】

スズメ「チュンチュン」

勇者「っし! 天気は快晴! 今日もマラソン日和! さぁ~走るぞぉ! 目指すはダーマ! ダマされるもんか! なんつって」バタンッ

僧侶「おはようございますぅ~」

勇者「あ、お、おはよう。朝、はやいんだね。というか、なんで扉の前に立ってんの?」

僧侶「一晩ここで夜をあかしましたのでぇ~」

勇者「ここ? ここって通路だよ?」

僧侶「はい~。お布団ならあちらに~」

勇者「あー、うん、綺麗にたたんでありますね。ってそうじゃないわ! 部屋で寝ろよ!」

僧侶「何時に出るかわからなかったんですもの~」

勇者「誰が……? 俺が?」

僧侶「はい~」ニコニコ

勇者「俺が出るのを待ってたと。そして、ここで寝てた。それすなわち……」

僧侶「パーティを組んでいただけませんかぁ?」

勇者「間に合ってます」ピシャリ

僧侶「そうおっしゃらずにぃ~。お話だけでも」

勇者「俺は遊び人になりにダーマ神殿に向かってるんだ。そんなやつとパーティを組んだってろくなことにならないよ」

僧侶「正直なお方なんですねぇ。是非ともご一緒したいですぅ」

勇者「いや、だからだな。あの、人の話聞いてる?」

戦士「ちょぉっと待ったッ!!」

魔法使い「抜け駆けは許さないわよ! 僧侶!!」

僧侶「チッ」

勇者「な、なんだ?」

魔法使い「話は盗み聞きさせてもらったわ。まさか廊下で一晩明かすなんて、よっぽどそいつとパーティを組みたいようねぇ?」

戦士「あたしも驚いたぜ。たまたま通りかかったから発見できたものの」

魔法使い「……そいつ、何者? まさか、勇者様なの?」

勇者「……っ!」ギクゥッ

僧侶「……やですねぇ~。違うんじゃないですかぁ? 本人はそんなこと言っておられませんしぃ」

戦士「なんでそこまでそいつにこだわる? 前衛ならあたしでも困らないだろう?」

僧侶「はぁ……。それはぁ目的地が同じと言ったじゃないですかぁ」

戦士「なら、あたしたちの目的地もダーマだと言ったら?」

僧侶「……そうなんですかぁ? 勇者様は別のところに向かってるかもしれませんよぉ?」




魔法使い「そいつに質問があるのよ。なに壁に張り付いてるの?」

勇者「ボクハオキモノデス」

魔法使い「わー、おもしろーい。メラ」ボッ

勇者「あっつぅっ! 馬鹿野郎! 人に向けて魔法は撃っちゃいけません!」アタフタ

魔法使い「たいしてダメージないみたいね……」

勇者「ふーっ、ふーっ、どうしてくれる! キズモノにされたらお婿にいけないじゃないの!」

魔法使い「将来設計の話なら別の子にしてくれる? 出身地はどこ? 身なりも軽装なようだけど」

勇者「うっ、そ、それは、隣の国の」

戦士「む? そうだったのか。ならば同郷だな」

魔法使い「そうだったの? 隣国に詳しい?」

戦士「もちろんだ。なにしろ生まれ育った国だからな」

魔法使い「そうよね、普通は。あんたも?」

勇者「いや、俺は、その、引きこもり生活をしておりまして。外の世界を知らずに」

戦士「それなのに旅をしてるのか?」

僧侶「お二人ともその辺で。きっとあまりのダメ男っぷりに親に勘当されたんですよぉ~。察してあげましょぉ~?」

勇者「サラッとひどいこと言わないでくれるかな⁉︎」

僧侶「口裏合わせてください~」コソッ

勇者「うっ、わ、わかった」コクリ

魔法使い「ますます怪しいわ。もっと言えば胡散臭い」

戦士「あぁ、そうだな。こうなっちゃ疑うなって方が無理だ」

僧侶「この方は勇者様じゃありませんよぉ~? ねぇ~?」

勇者「もちろんです! 僕勇者ジャナイヨ!」

魔法使い「なぜ、隠すのか。そこもわからないのは確かね」

戦士「ああ。それに、こんなやつが勇者だとは思えないってのも」

魔法使い&戦士「……」ジトー

勇者「えぇい! というか、なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのじゃ! 場の雰囲気に呑まれてすっかり流されてたわ!」ガバッ

僧侶「あららぁ~」

勇者「お前らに付き合ってたら出発が昼になっちまうわ! そんじゃ――」

戦士「待てよ」ガシッ

勇者「……うわぉーお。握力すごぉーい。肩の骨が悲鳴あげそぉ」ミシミシ

戦士「僧侶だけじゃなく、あたしと魔法使いもパーティにいれろ。そんで折れてやる」

勇者「僧侶と組むなんて一言も」

僧侶「はぁ、しかたないですねぇ」

勇者「決めるのそっち⁉︎」

魔法使い「……旅をしながら見定める。こいつが勇者じゃなくても、行く先で情報は集められるだろうし」

戦士「ああ。それが昨夜。あたしらで決めた話だ」

勇者「(い、いかんですよ。こんなやつらとパーティを組むなんてごめんこうむりたい)」

僧侶「なんにせよ、そろそろ離してあげてはぁ~?」

戦士「ほらよ」パッ

勇者「(に、逃げなければ。隙を見て)」

魔法使い「ともあれ、これからよろしくね?」

僧侶「ふつつか者ですが、よしくおねがいしますぅ~」

戦士「……ふん」

【平原】

僧侶「まっ、まってくださぁ~い」トテトテ

魔法使い「ぜぇっ、ぜぇっ、ちょ、ちょっと、なにも走らなくたって」

戦士「いや、あたしは歩いてもかまわんのだが」

勇者「ついてけねぇなら置いてくぞ!」

戦士「こいつがこう言ってるし」

魔法使い「ちょ、ちょっとストップ」

僧侶「もう、走れませんん~」

勇者「……ったく、しょうがないなぁ。おあつらえ向きに岩があるし、休憩するか」

魔法使い「ふぅ、ふぅ、あんた、やっぱり前衛職なのね? そんなに平気な顔してるなんて」

戦士「あたしも驚いたぞ。スタミナがあるんだな?」

勇者「まぁ、小さい頃からそれなりに鍛えられてたし」

戦士「へぇ……」

僧侶「ふぅ、ふぅ……どうしてそんなに急がれてるんですかぁ~?」

勇者「はやく転職したいから」

魔法使い「転職って、ひとつの職を極めた人が行うものでしょ? 極めてるようには見えないけど」

勇者「極めてるとか未熟だとか関係ないよ。俺は今の職が嫌いなんだ」

戦士「む。女神様から与えられたギフトに文句をつけるとは」

勇者「ふてぶてしいとはよく言われる、えへへ」

戦士「褒めとらんわっ!」

魔法使い「なんか調子狂うわ。いい? 職業ってのは、言ってみれば名前みたいなものよ。女神様が各個人にあった適職を振り分けてくださってて──」

勇者「カテゴリー分けだろ、要するに」

僧侶「……」

勇者「戦士だの武闘家だの。いいか、職ってのは生業だ。食を得る糧だ。一種の生き様と断言したっていい」

戦士「……」

勇者「“職に貴賎なし”。昔の人は言いました。農夫が魔法使いより劣っているなんて俺はちっとも思わねぇ。みんなそれぞれ精一杯生きているんだ」

魔法使い「わ、私は別に、見下してなんて」

勇者「そうか? 説教する気なんてこれっぽっちもないけどよ。優越感に浸って、有難がってる。俺にはそう見えるね」

戦士「お前は遊び人志望なんだろう?」

勇者「あ、はい」

戦士「毎日遊びほうけて、ちゃらんぽらんな性格してるあの?」

勇者「おっしゃる通りでございます」

戦士「そんなやつが偉そうに言うことか!」

勇者「う、うぅ。なんでや。発言の自由ぐらいあってもええやないか」

僧侶「でも、確かに、一理あると思いますけどねぇ~」

戦士「……やけにこいつの肩を持つね」

僧侶「神は等しく平等なのですよぉ。私は中立の目線から判断しているに過ぎません~」

戦士「けっ」

岩「」モコ

魔法使い「あんた、結局、なんの──」

岩「」モコモコ

僧侶「あのぉ~、旅の方が腰掛けてるその岩……」

爆弾岩「ウガァー」ボコン

勇者「うおっ」ガク

僧侶「やっぱりぃ~」

魔法使い「モンスター⁉︎」

戦士「爆弾岩だったのか!」ズザザ

爆弾岩「……」ニヤニヤ

勇者「(爆弾岩は様子を見てる……ってか、これ走って逃げたらいいんじゃね?)」

戦士「よぉーしッ! やってやらぁ!」チャキッ

勇者「(戦士は血気盛んだねぇ。しめしめ)」スススッ

魔法使い「物理攻撃では不利だわ! 時間を稼いで! 私は攻撃魔法、僧侶! サポート魔法で戦士の援護を!」

僧侶「はぁ~い」

勇者「(そぉ~っと、そぉ~っと)」コソコソ

魔法使い「あんたは……あれ? あいつは?」

僧侶「あちらで駆け出していますよぉ~」

勇者「ぬぉっ! もう見つかった⁉︎」ダダダッ

魔法使い「……」ポカーン

戦士「どおりゃっ!」ガキンッ

爆弾岩「……」ニヤニヤ

戦士「くっ、刃が……! 岩相手に無理か」

僧侶「爆弾岩は早めに決着をつけないとぉ~」

魔法使い「あ、あいつ……!」ワナワナ

戦士「おい! 魔法使い!逃げ出したやつにかまってる時間はねぇぞ!」

勇者「(すまないな……。恨むならば自分の無力さを恨むがいい……!)」ダダダッ

魔法使い「冷気系魔法を使うわ! 戦士、さがって!」

戦士「おう!」シュタ

魔法使い「氷の礫をくらえっ! ヒャド!」カキン

爆弾岩「……っ⁉︎」ドゴン ヒュー

戦士「おお……! 凍らせるかと思ったが、吹っ飛んだ」

僧侶「初級魔法しか使えないんですかぁ?」

魔法使い「いちいちうっさい! 距離とれたんだからいいでしょ!」

僧侶「……でもぉ、飛ばしただけじゃ」

爆弾岩「」ヒュー

勇者「ん? なんか背後から気配を感じるような……?」クル

爆弾岩「」ヒュー

勇者「なんでこっちに来てんの⁉︎」ギョ

戦士「……魔法使い。狙ってやったのか?」

魔法使い「……うん、そんなつもりなかったけど。まぁ、いいでしょ」

勇者「にょわあああああっ!」ダダダッ

僧侶「あらあらぁ~。爆弾岩が赤くなりはじめてますねぇ~。爆発する兆候ですぅ」

勇者「こっちこないでぇぇええええっ!!」ダダダッ

戦士「なんか、哀れになってきたんだが」

魔法使い「そ、そうね……」

僧侶「旅のお方ぁ~。足を止めて伏せればいいんですよぉ~」フリフリ

勇者「ハッ! そ、そうだ! そうすれば頭上を通りこして――」

爆弾岩「」ズドーン

勇者「目の前に落ちてくるとかお約束やんけ!」

爆弾岩「……」プルプル

勇者「トイレ? う◯こなら我慢しない方が」

爆弾岩「……」ニタァ

勇者「やっぱ我慢して! 平原は公共スペースです! 汚物の垂れ流しはご遠慮してください!」

爆弾岩「」ピカァー

戦士&魔法使い&僧侶「あ、爆発する」

勇者「――ひっ⁉︎」

お気の毒ですが、勇者は死んでしまいました。

勇者「おおい! 死んでねぇわ! ……あぁ、死ぬかと思った」ボロ

僧侶「旅のお方~、大丈夫ですかぁ~?」トテトテ

戦士「爆弾岩の爆破攻撃を食らって生きてるのかよ」テクテク

魔法使い「こいつ、本当に人間? モンスターなんじゃないの?」

勇者「失礼なことを言うのはやめていただけるかな⁉︎」パンパン

僧侶「回復しますねぇ~」ポワァ

魔法使い「自業自得ってやつね」

戦士「いきなり逃げ出すとは、遊び人を目指すわけだ」

勇者「えへへ」テレテレ

戦士「褒めとらんっちゅーに!」

僧侶「でも、さすが、ゆう……旅のお方ですぅ。擦り傷だけなんてぇ」

魔法使い「擦り傷はあったんだ」

戦士「それぐらいで済んでるのがそもそも異常だ。普通なら死んでる」

勇者「俺はなぁ、こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ……! 俺は、俺は……!」

戦士「お?」

勇者「立派なニートにならなければいけないのだからっ!!」ビシッ

戦士「死んでいいぞ」

魔法使い「まったく、モンスター退治したってのにかけらの緊張感もないなんて。へんな感じ」

僧侶「退治といえるかは微妙ですけどねぇ」

魔法使い「細かいことはいいでしょ」

テレテレッテッテッテー
戦士はレベルが上がった。

戦士「女神様から祝福のファンファーレが」

魔法「ほら、やっぱり倒したってことになってる」

僧侶「おめでとうございますぅ~」パチパチ

勇者「はぁ、罪のない命を……」

魔法使い「意外ね。あんたからそんなセリフがでてくるなんて。それとも、レベル上がられた嫉妬?」

勇者「違わい。こいつはただここにいただけなのに」

爆弾岩「」チーン

勇者「モンスターにも社会があるとか考えたことねぇの」

戦士「はっ、社会? 知能があるかすら怪しいぞ」

勇者「そりゃ下っ端はそうだろうけどさ」スッ

魔法使い「魔王の手下なんて人間とって脅威でしかないわ! 絶滅させるべきよ!」

僧侶「あの、爆弾岩の飛び散った破片を拾ってなにをなさってるんですか?」

勇者「元いた場所に埋めてやるんだ。墓なんて大層なもんじゃないけど」

【魔王城 玉座】

魔王「勇者が生まれ落ち、早18年の歳月。そろそろ旅立ちの日を迎えよう」

四天王一同「……」

魔王「にもかかわらず! 未だに詳細が掴めぬとは貴様らはそんなにも無能な集まりであるか!」ブンッ カランカラン

大臣「魔王様、落ち着きなされ。先代のワイングラスを投げては」

魔王「黙れ、黙れ黙れぇいっ!! 貴様達はなにをしておった! 遊んでおったのじゃあるまいな⁉︎」

サキュバス「四天王の一人、淫夢王サキュバスが恐れながら、申し上げます」

魔王「……」クィ

サキュバス「我々には、その、なぜ人間風情ごときをそこまで危険視するのか……いくら女神の加護を得ているとはいえ」

オーガ「同じく! 四天王が一人、巨人王オーガも同意致します! 大魔王様は絶対的存在! なにを恐るることがございましょう!」ズゥゥン

魔王「まだそのような認識でおったのか」

シンリュウ「竜族の長、シンリュウも疑念を抱いております。むしろ、身の程をわきまえていないのは人間達。ご采配をいただければ、すぐにでも国を滅ぼしてまいりましょう」

魔王「余が何度も説明したであろうが」

キングヒドラ「獣族の王! キングヒドラ! 我も理解できませぬ! 勇者が我々と人間の架け橋になるなどとありえぬこと!」

魔王「……古き伝承からあることよ」

サキュバス「し、しかし……!」

魔王「“勇者の冠を擁する者、光と共に、種族を超えた架け橋とならん。汝、争うことなかれ。争いはなにも生まぬ。勇者の作る光の道を闊歩せよ――”」

四天王一同「……」

魔王「なにも力だけが、この世の理ではないのよ。圧倒的な暴力。それは快楽、強さには違いない。だが、それを生みだす原動力がある」

シンリュウ「と、申されますと」

魔王「人間どもの好きな、希望とやらだ」

キングヒドラ「ぐふっ、ぬわっはっはっ! 大魔王! わからぬのはそこよ! 我々を人間と同じ尺度で捉えるとは言語道断!」ジャララ

サキュバス「左様でございます。人など餌同然」

魔王「やはり、わからぬか」

シンリュウ「当然でございましょう。もし、勇者が友好を持ちかけてきても瞬時に灼熱の息で消し炭にしてごらんにいれます」

魔王「……ふぅー」

オーガ「大魔王にはどっしりと構えていただきたい! 我らが種を代表する者であれば、魔王様もまた! 我らの代表なり!」

魔王「(気がついておらなんだか。サキュバス以外は男勝りな言葉使いをしているが、四天王、この私を含んで全員“オンナ”であることに。このままでは……)」

【再び 平原】

勇者「――これで、よしっと」サク

魔法使い「やっぱり変人よ。モンスターに墓標を作るなんて聞いたことない」

僧侶「綺麗なお花ですねぇ~」

勇者「こいつらだって生きてる。アレフガルドの大地の上で暮らしてる」

魔法使い「綺麗事ね。やらなきゃやられてたわ」

勇者「それ自体は否定しないさ。でも、人間だって殺し合いしないわけじゃないだろ」

戦士「おぉ~い! 一角うさぎがとれたぞぉー!」

魔法使い「……火、おこしましょっか。焚き木から離れて」

僧侶「わぁー。なんだか、キャンプみたいですぅ」

魔法使い「そのまんまでしょ。メラ」ボッ

勇者「飯食ったら出発するからな」

僧侶「あのぉ~また走るんでしょうかぁ?」

魔法使い「馬を用意してくれるとかないの?」

勇者「そんな金あるか」

戦士「よいせっと。火は準備してるな、待ってろよ、今から捌いて」スラッ

勇者「しゃーない。走るには走る。だが……戦士」

戦士「なんだ?」

勇者「僧侶、魔法使い、おぶるならどっちがいい?」

魔法使い「は、はぁっ⁉︎」

僧侶「なぁるほどぉ~」ポン

戦士「どういう意味だ? どこか怪我したのか?」

勇者「いいや、好きだろ? トレーニング。まさかそんな格好と職で非力ってわけじゃないだろし」

戦士「あぁ、鍛錬か! お前もそういう志があったのだな!」

魔法使い「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私は嫌よ! 男に体を密着させるなんて!」

僧侶「私はかまいませんのでぇ~」

魔法使い「ま、まじ……? あんた、曲がりなりにも神職でしょ? 神に捧げてる身体を」

僧侶「お堅いんですねぇ。下心がなければかまいませんよぉ~。あってもいいですけど」

魔法使い「う……」タジ

勇者「だったら決まりだな。今後の方針を発表する! 飯を食って小休憩をしたら、次の街までダッシュ!」

魔法使い「なんで仕切ってんのよ。さっき真っ先に逃げ出したくせに」

戦士「うむうむ。鍛えるのならそれでかまわん」

僧侶「かしこまりましたぁ~」

戦士「ほっほっ」ザッ ザッ

魔法使い「……」ジトォー

勇者「あの、僧侶さん?」

僧侶「はぁい?」ニコニコ

勇者「なんだが、背中にあたる感触が妙に生々しく感じるんだけども」

僧侶「もちろんですよぉ~。下はなにも着けておりませんのでぇ~」

勇者「な、なにもって、その」

僧侶「なにもはなにも、ですよぉ~」

魔法使い「不潔」

戦士「どしたどしたぁっ! お前が言い出しっぺだろ! 遅れてるぞ!」

勇者「(俺だって男なんだぞ!突起物があるような)」

僧侶「布でこすれてぇ~、たっちゃいました」

勇者「たっちゃいましたって、な、なにが?」

僧侶「乳房の先端についてる、と・こ・ろ」

勇者「……っ!」

戦士「なんだ、あいつ。前かがみになって」

魔法使い「ますます不潔」

勇者「落ち着け、素数だ。素数を数えるんだ」

僧侶「んっ」モゾ

勇者「悩ましげな声をあげるな!」

僧侶「だっ、てぇ。走る度に、こすれてっあんっ」

勇者「だああああっ! なんかもうちくしょおおおおっ!!」ダダダッ

戦士「やればできるじゃないか」

魔法使い「はぁ……あれがもし勇者だったら、この世の終わりだわ」

【国境の街 アルデンテ】

勇者「ぜぇっ、ぜえっ」バタリ

戦士「だらしないなぁ。そんなに疲労するとは」

魔法使い「疲れてるのは別の理由でしょ」

僧侶「はやかったですねぇ~」ニコニコ

魔法使い「(僧侶、おそろしいやつ)」

村人「さぁ、さあ! 今日はお祭りだよぉ~!」

戦士「騒がしいな。まるで祝賀パレードだ」

魔法使い「記念日? 今日じゃないはずだけど」

戦士「おい、なんの祝典だ?」

村人「おお、これは旅の方! あなた達は幸運ですよ!」

僧侶「なにか抽選会でもあるんですかぁ?」

村人「へ? ち、違います! この村に今、かの有名なあのお方がいらっしゃっているんです!」

戦士「かの有名……な?」

魔法使い「あのお方?」

村人「むっふっふぅ~聞いたら驚きますよぉ! あのお方とは!」

僧侶「お方とはぁ?」

村人「魔王討伐に旅立ったばかりの超有名人! 勇者様! その人です!!」バーン

戦士&魔法使い「なんだって(ですって)⁉︎」

僧侶「はぁ、勇者様が、ですか?」

村人「あ、あれ? そちらの僧侶さんは驚かれないんですか?」

僧侶「……」チラ ジー

勇者「もう、だめ。甘い香り、オンナは……」

僧侶「その勇者様はどちらにいらっしゃるんです?」

村人「酒場にて祝賀パーティーを行っていらっしゃいます! 我が村をあげてのお出迎えですからな」

戦士「おい! 魔法使い!」

魔法使い「ええ! 私たちも向かいましょう!」

僧侶「ふぅん……これは、どうなってるんでしょうねぇ~」


【アルデンテの村 酒場】

村娘「きゃっ、もう、勇者さまったらぁ」

偽勇者「ぎゃっはっはっ! キミかわいいねぇ!」

村娘「いやん。ねぇ、勇者様ぁ、本当に魔王討伐なんてできるんですかぁ?」

偽勇者「おう! あったりまえよ! この俺にまかせておけばなぁ~んにも心配いらねぇ!」

村娘達「きゃーーっ! 勇者様素敵ぃ~っ!」

魔法使い「……あ、あれが、勇者」

戦士「なんとも、下衆な」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「本当に勇者なの?」

偽勇者「愉快愉快! おらぁ、酒だ酒だ! もっと酒持ってこんかーーーいっ!」

店員「ハイ! ただいま!」

戦士「おい」

店員「お客さん、悪いね。見ての通り忙しくて」

戦士「注文じゃない。あれ、勇者っていう証拠あるのか?」

店員「シーッ! 聞こえますよ! アレなんて言っちゃ!」アタフタ

戦士「聞こえてもかまわん」

店員「まったく。……で、なんですか?」

魔法使い「名を騙ってる偽物じゃないの? ってこと」

店員「めっそうもない! あのお方は本物ですよ!」

僧侶「どうしてそう思われたんですかぁ?」

店員「雷魔法ですよ! 伝承にあるでしょう! 勇者しか使えないと記録にあるあの!」

魔法使い「雷魔法……? まさか、ライデイン?」

店員「えぇ、えぇ。そのまさかです。勇者様は雷魔法を使って木を真っ二つに。それはもう、シュババ~っとやっちゃったんです!」

僧侶「それは、妙ですねぇ」

店員「妙なんてもんじゃありませんよ! まさかこんな国境ハズレの村に立ち寄ってくださるなんて奇跡です! あとでサインをいただかねば!」

戦士「伝説の魔法、ライデイン、か……」

魔法使い「勇者、なの? アレが?」

偽勇者「あーっはっはっはっ! 笑いが止まらねえ!」

【アルデンテの街 宿屋】

勇者「おばちゃん。部屋ひとつ」

店主「あら、めずらしい。ひとり旅かい?」

勇者「うん、まぁ、そんなとこ。連れはいるにはいたけどね、どっかいったし。空いてる?」

店主「空いてるよ。勇者様の隣の部屋が」

勇者「勇者? え? この街に来てんの?」ドッキンコドッキンコ

店主「酒場で乱痴気騒ぎさ」

勇者「(てことは、俺のことじゃない! セーフ! セーフ!)」

店主「しっかし、あたしゃにはどうにも勇者に見えないねぇ」

勇者「そうなの?」

店主「勝手なイメージで申し訳ないが、なんてったって勇者だろ? もっと清廉潔白な方かと思ってたよ」

勇者「……年頃のやつだよ。普通の」

店主「そうかもしれないねぇ、若い娘に鼻の下伸ばしてるようじゃ」

勇者「夕食もつけてくれる?」

店主「ああ、追加で2ゴールドになるよ」

勇者「かまわない。メニューはなにかな?」

店主「村の名前を聞いてピンとこないのかい?」

勇者「村の……あぁ、ってことは」

店主「そう、パスタさね」ニコ

【再び 酒場】

偽勇者「キミキミ! キミ達!」チョイチョイ

魔法使い「うげっ、私達を見てない?」

戦士「そのようだな」

僧侶「……」スタスタ

魔法使い「あっ、そ、僧侶」

偽勇者「めっちゃくちゃかわいいねぇ! キミ、その格好は神官見習いだよね? 僧侶?」

僧侶「はい~。はじめまして、勇者様」

偽勇者「挨拶はいいからいいから、隣座ってよ! ねっ! おい、お前は邪魔!」ドンッ

村娘「きゃっ、そ、そんな。さっきまで」

偽勇者「うるせぇな! どつくぞコラァ!」

魔法使い「あいつ……!」

戦士「待て。こらえろ」

村娘「ひっ、す、すみません」ササッ

僧侶「……」

村娘「ど、どうぞ。お座りください」

偽勇者「勇者がキミの為に席をあけたよぉ! ささっ、座って、座って」

僧侶「失礼いたします~」スッ

偽勇者「いや、マジほんとかわいいね! 田舎の芋娘と比べたら月とスッポンだわ!」

僧侶「ありがとうございますぅ~」

偽勇者「料理はまだかよ!」バンッ

店員「ただいまお持ちいたします!」アタフタ

偽勇者「俺ってば勇者じゃん? キミならパーティー組んでもいいよぉ? あっちの子も連れ? もしかしてパーティー組んでる?」

僧侶「すみません、お手を拝借」

偽勇者「おっほっ! 積極的なんだねぇ~、いいよいいよ。なに? 手相でも見てくれるの?」

僧侶「……」ポワァ

偽勇者「重ねるだけ? もっと指を絡めてもいいんだよぉ?」

僧侶「……よく、わかりました」スッ

偽勇者「えっ、えっ? 急に立ち上がってどうしちゃったの?」

僧侶「いえ、私は神殿に帰らなければならないので。失礼いたします~」

偽勇者「……おいっ!」ガシッ

僧侶「はい?」

偽勇者「俺は勇者なんだぜ? お酌のひとつぐらいしてけよ」

僧侶「すみません、あなたには無理ですぅ~」ツネリ

偽勇者「いっつ!」

僧侶「女性からではないと、身体に触れてはなりませんよ」

偽勇者「こ、この野郎……!」ブンッ

戦士「そこまでだ」チャキッ

偽勇者「う……っ!」

戦士「女神様に仕える神職に対する暴力。勇者であっても見過ごせん」

偽勇者「貴様ら! 勇者に向かって!」

戦士「我々はこのまま酒場を後にする。これで手打ちとせよ」

面白い
>>7は無関係ってことでおk?

【宿屋 ロビー】

魔法使い「ひやひやしちゃったじゃない!」

戦士「まったくだぞ。いくらなんでもあれは。相手を選べ」

僧侶「すみません~」

魔法使い「……ねぇ、僧侶。さっきの手を重ねるのって、本当に旅の祈り?」

僧侶「そうですよぉ」

戦士「本当か? なにかを確かめていたんじゃないのか?」

僧侶「いえいえ~。それはそうと、もう一人の旅のお方はどちらにぃ~」

店主「いらっしゃい。あんたらも部屋かい?」

僧侶「はい~。空いてますかぁ?」

店主「うちは団体部屋しか置いてないんだ。今日は相部屋になっちまうよ」

魔法使い「そ、そんなぁ」

店主「すまないねぇ、なにしろ辺鄙な田舎村だろ? 個室を用意しておくと採算がなぁ」

戦士「女将。聞くが、酒場にいる勇者とやらも?」

店主「あぁ、当宿を利用してもらってるさね」

魔法使い「ええ⁉︎ てことは、あいつと相部屋⁉︎」

店主「勇者様は一部屋貸し切りだよ。そうご希望なんでね。大方、村娘を連れ込もうとしてるんだろうが」

魔法使い「ホッ」

戦士「もう一つのところになるのか?」

店主「ああ、さっき、チェックインした青年だよ。あちらも旅の途中みたいだが」

僧侶「そちらでかまいません~」ニコニコ

店主「いいのかい? 男にしちゃかわいい顔してたが」

魔法使い「そいつって、まさか」

>>41
まったくの無関係です
話の繋がりが紛らわしいですかね?

とりあえずNGIDで見えなくするなり対応お願いします
続けます

【宿屋 部屋】

魔法使い「変な気起こしたら、殺すわよ」キッ

勇者「なんでいきなり物騒な目つきされなくちゃいけないんですかねぇ!」

魔法使い「……ふん」プイ

戦士「まぁ、こいつは無害だろう。そう心配するな」カチャカチャ

僧侶「旅のお方は勇者様を観に行かなくてよいのですかぁ?」

勇者「興味ないから」

魔法使い「あ~ぁ」ボフッ

戦士「ライデインを放ったという話は本当なのだろうか?」

勇者「……」ピクッ

魔法使い「木を真っ二つにしたんでしょ? なら、本当なんじゃない?」

僧侶「なにかのまやかしかも~」

勇者「ちょい待ち。ライデインって言った? 今?」

戦士「ああ。この村に到着した時に披露したらしい」

勇者「(子供の頃、遊びで撃ってめちゃくちゃ叱られたなぁ……)」シミジミ

僧侶「お二人は勇者という確信がもてないんですよねぇ?」

魔法使い「むしろ、そうじゃないであってほしい?」

戦士「うーむ」

僧侶「ならば、簡単ですよぉ。勇者には印が刻まれてますからぁ」

勇者「……!」ギックゥ

魔法使い「そうなのっ⁉︎」ガバッ

戦士「なぜもっとはやく言わないんだ!」

僧侶「聞かれなかったものでぇ」

魔法使い「それで、印って⁉︎」

僧侶「“聖痕”といわれるものですねぇ~。身体に刻まれているんですぅ」

戦士「そんなものが……」

魔法使い「それって、もしかして手にあるとか」

僧侶「いえいえ~。目に見える部分ではありません~」

魔法使い「服の下ってこと?」

僧侶「はい~。お尻、ですよぉ~」

戦士「し、シリ。なんでまた、そんなところに」

僧侶「色仕掛けでもして脱がせればすぐにわかると思うんですけどぉ~。旅の方もそう思いません~?」

勇者「アア、ソウダネ」

魔法使い「色仕掛け……あんなやつに……」

戦士「あたしには無理だな」

魔法使い「想像してみたけど、私もパス。生理的に無理」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「でも、聖痕なんてあったんだ」

勇者「……」ドッキンコ ドッキンコ

僧侶「ここって、お風呂はどうなってるんでしょうねぇ~」



【数時間後 宿屋 部屋】

魔法使い「あー、いいお湯だった」ホカホカ

戦士「サッパリしたな」

僧侶「戦士さんって、スタイルいいですよねぇ」

戦士「あたしは鍛えてるだけだよ。僧侶だって胸大きかったじゃないか」

勇者「お、おう、それじゃ次は俺が」

僧侶「旅のお方~」

勇者「な、なんでしょ?」

僧侶「タオル、お忘れですよぉ。大衆浴場になってるので、大事な部分は隠さないとぉ」ニコニコ

戦士「……? 男湯と女湯は別れてたろ?」

勇者「し、失礼します!」パサッ ダダダッ

魔法使い「ねぇ、僧侶。やっぱりあいつに対して扱い違うわよ。どう見たっておかしい」

僧侶「くすくす。だって、必死なのがかわいくてぇ~」

戦士「か、かわいい? アレがか? まぁ、悪い顔立ちはしていないと思うが」

僧侶「そうじゃありませんよぉ~。イタズラを見つかった子供みたいな反応が、です」

魔法使い「遊んでるの?」

僧侶「そうかもしれませんねぇ」

魔法使い「そういう感じ? 私、てっきり」

僧侶「……あの人が勇者だと思った?」

戦士&魔法使い「……っ!」

僧侶「だとしたら、私たちに隠す理由はなんなんでしょうねぇ~」

戦士「そこがなぁ」

魔法使い「わからないのよねぇ」

僧侶「転職する為にダーマを目指してるって話ですしぃ~」

戦士「勇者は転職なんぞできん」

魔法使い「それを知らないってわけでもないだろうしねぇ」

僧侶「勇者とはぁ、職業ではありません~。なりたくてなれるものではないのですからぁ」

戦士「この大地に立つ者の光の存在」

魔法使い「伝説の女神の代弁者」

僧侶「酒場にいた方はそうは見えませんけどねぇ~」

魔法使い「風呂にいったやつも同じでしょ。そりゃ、少しは、マシだけど。モンスターの墓作ったり変なやつよ」

【宿屋 大衆浴場】

勇者「(おかしい。……実はバレてるんじゃなかろうか?)」カポーン

老人「おおい、にいちゃんや」

勇者「(いや、でも、勇者を確認しにいったって話だし。まだバレてはいないはず)」

老人「聞こえとらんのかの? にいちゃんや~い」

勇者「(いやいや、でも、それにしたって、特に……あの、僧侶の態度は……)」

老人「小僧ッ!!」クワッ

勇者「わっ! は、はいっ!」ビクゥ

老人「その若さでぼけっとしとるなや。ずっと呼んでおったじゃろうか」

勇者「あ、す、すまん。考え事してて。どしたのよ、じいちゃん」

老人「どうしたもこうしたもあるかい。大衆浴場は初めてかい?」

勇者「そうだけど」

老人「湯船にタオルは厳禁じゃ。汚いじゃろうが」

勇者「あ、そうなの?」

老人「あったりまえじゃて。それで身体をゴシゴシしとったろ」

勇者「でも、丸見えになっちゃうし」

老人「男同士でなんじゃ! きしょ! きっしょ!」

勇者「若者言葉使うんすね」

老人「とにかくじゃ、それは傍に置いとくんじゃよ。ルールっでもんがある」

勇者「すんません」ザパァ

老人「わかればよろしい」

勇者「じいちゃんもここに泊まってんの?」チャポン

老人「ここは浴場だけ村の共有スペースで解放されとるんじゃよ」

勇者「へー」

老人「有料じゃがな。一回2ゴールド」

勇者「宿屋利用者は宿泊料金に含まれると、いい村だね」

老人「なぁ~んにもない田舎も田舎じゃがな。通り道ぐらいしか利用はせんような」

勇者「でも、嫌いじゃないよ。俺は」

老人「ほっ⁉︎ ほっほっほっ! 変わった若者じゃの!」

勇者「そうかな?」

老人「若者は活気と娯楽をこのむじゃろ。住んでるのは八割方、よぼよぼのじいさんやばあさんじゃ」

勇者「……そういうもんか」

偽勇者「おらぁっ! ……ヒック」バァンッ

勇者「なんだ?」

老人「おお、勇者様ではございませぬか」

勇者「あれが?」

偽勇者「うぃ~っ、ヒック」ヨテヨテ

老人「いかん、かなり酔っ払っておる」ザパァ

偽勇者「あー、飲みすぎた。しっかし、村娘とこのあと……ぐふっぐふふっ」

老人「勇者様。深酔いにお風呂は危険でございますじゃ」トテトテ

偽勇者「あん?……ック」

老人「しばらく外で休んでからの方が」

偽勇者「うるせぇっ!」ブンッ

老人「な、何を……!」

偽勇者「俺は勇者なんだぞぉっ! ほっとけってんだ! じじいコラァ!」

老人「ひ、ひぃ」ドサッ

偽勇者「けっ、よぼよぼのち◯こ見せてんじゃねえっっての」

勇者「……おい」ザパァ

偽勇者「あ?」

勇者「老人は労わるもんだ。親に教わらなかったのか?」

偽勇者「なんだァ? テメエ? 勇者に文句あるっての」

勇者「立派だろうが。シワシワのどこが悪い」

老人「よい、よい。若者よ。ワシのことなぞ」

偽勇者「あ、お前も逆らう気か? 勇者であるこの俺様にィ!」

勇者「逆らう? 勘違いすんなよ。俺はハナからお前のことなんか眼中にない」バチ バチバチ

偽勇者「んだとぉ!」

勇者「じいちゃん、浴室から出ろ」

老人「し、しかし……」

勇者「ここからは俺とこいつの問題だ。余計な口出して悪かった」

老人「……! ま、待っとれ! すぐに人を呼んできてやる!」ワタワタ




偽勇者「ヒック……味方がいっちまったぞぉ? 味方っていってもじじいだが」

勇者「“勇者”」

偽勇者「あ?」

勇者「勇ある者。聞こえはいいよな。人間の希望。魔王を討ち亡ぼす。まさに英雄ってわけだ」

偽勇者「そうだ! 俺は偉いんだ!」

勇者「履き違えるな。勇者は偉くなんかねぇ、ただの、孤独だ」

偽勇者「はっ、あっはっはっはっ! なに言ってるんだぁ! 勇者の力があれば金も! 女も! 自由だ!」

勇者「……」

偽勇者「俺こそが勇者なんだ! お前もひれ伏せェ!」

勇者「少し羨ましい。そう開き直って考えられるお前が」

偽勇者「ヒック」

勇者「ひとつ! 勇者家家訓! 人に迷惑かけるときは、自分が迷惑と思うことはやっちゃいけません!」バチバチ

偽勇者「あっ、な、なんだ。痺れてきた」

勇者「ふたつ! 勇者家家訓! 人に迷惑かけるときは、まず自分に置き換えて考えなさい!」ピシャンッ

偽勇者「あばばばばばっ、痺れ」

勇者「みっつ! 勇者家家訓! 勇者たるもの、老人には優しくしなさい! ……目一杯力加減してやる、明日の朝までオネンネだろうが、勘弁しろよ」

偽勇者「ひっ、ま、まさか、その魔法は」

勇者「──……魔力を雷に変えて、射貫け。ライデイン」

【宿屋 部屋】

魔法使い「な、なに?」ズゥゥゥーーン

戦士「地震か?」

僧侶「どうやら、勇者ごっこは終わりみたいですねぇ」

魔法使い「ごっこ?」

僧侶「なにやら面白そうですしぃ、私たちも行ってみませんかぁ?」

戦士「地震じゃないのか?」

魔法使い「魔力の波動を微かに感じる……これって」

僧侶「さぁてぇ~?」

店主「あんた達!大丈夫かい⁉︎」バタン

戦士「女将。こちらは別になんともないが」

店主「それがもう、大騒ぎさ! 浴場の常連客にじいさまがいるんだけどね!」

魔法使い「落ち着いて」

店主「年甲斐もなく取り乱しちゃって。あの勇者! ニセモノだって話だよ!」

戦士「なんと!」

魔法使い「……」

店主「相当酔っ払って脱衣所に落としてたんだって! ツルギを!」

僧侶「ツルギというとぉ?」

店主「なんでも魔法剣ってやつがあるらしいじゃないのさ! 爺さまでさえ使えば雷を落とせるなんて!」

戦士「それはそれで驚きだな。レア中のレアだぞ」

店主「どこで拾ってきたんだろうねぇ。胡散臭いと思ってたんだよ、あたしゃ」

魔法使い「じゃあ、さっきの振動はその剣を振ったもの?」

店主「あぁ、そうだった! 浴場に急がなきゃ!」ドテドテ

戦士「そういや、浴場にはもう一人いたな」

魔法使い「……そのようね」

【浴場 男湯】

老人「まったく、なんというやつじゃ!」

店員「どうしてくれるんだ! うちの酒場で飲み食いした分!」

村娘「勇者様じゃなかったなんてぇ~。あ~ん、もうお嫁にいけなぁ~い」

偽勇者「」ドサッ

店主「とんでもない詐欺師だよ! 明日の朝一番で役所に突き出さないと!」

戦士「おおーい、女将」

店主「あら、あんた達も来たのかい」

魔法使い「もう一人いなかった?」

店主「あぁ、気絶してるよ」

僧侶「気絶? なにがあったんでしょお?」

老人「あちらの若者にはすまんことをした」

戦士「ははーん、剣を振ったら巻き添えくらったと」

老人「脱衣所で偶然見つけてのぉ。これまた、たまたま振った先の直線上に二人がおったらしい」

魔法使い「運のないやつ……」

僧侶「回復魔法使えますのでぇ、もう一人のお方はどちらに?」

店主「そっち。裸だからタオル被せておいたけど」

僧侶「あっ」トテトテ

勇者「う、うぅーん。嫌や。ヒジキは嫌いなんや。うーん」

戦士「どんな夢見てんだ」

魔法使い「気絶っていうか、ただ寝てるだけなんじゃないの」

僧侶「お目覚めください、勇者様」ボソ ポワァ

勇者「……あ、あれ? ここは?」

戦士「更衣室だ」

勇者「きゃあ! なによあんた達!」ガバッ

戦士「男のくせに気色悪い声だすな」

魔法使い「そんだけ悪ふざけできれば心配なさそーね」

勇者「うー、いてて。さっきのはちょっとだけ痛かった」ムク

戦士「古より伝わる秘宝剣。稲妻のつるぎ。話には聞いていたが、はじめてお目にかかる。爆弾岩といい死んでないとはたいしたものだ」

勇者「(ニセモノが倒れた後で、直撃してなくてよかったな。あいつだったらたぶん死んでた)」

魔法使い「あの剣も王様に献上するのかしら」

戦士「おそらく。野放しにするには、あまりに危険だ」

僧侶「旅のお方も鍛えてらっしゃるんですねぇ」

勇者「男だからって見ていいもんではないぞ」

魔法使い「……ねぇ、お尻、見せてくれない?」

勇者「断る」

戦士「いやな? まさかとは思うが、確認は必要だろう?」

勇者「なぜ近寄る」

魔法使い「痛くしないから」ジリ ジリ

勇者「嫌だと言ってるだろうが」

魔法使い「戦士、抑えて」

勇者「ちょ」

戦士「ほいきた」ガシ

勇者「おい、これ男女逆だったらえらい場面だぞ」

魔法使い「お尻ぐらいいでしょ」

勇者「なんだ? お前なら見られてもいいってのか?」

魔法使い「私はだめ。男と女とじゃ価値が違うもの」

勇者「……なんだかなぁ」

戦士「ほれ、タオルとっちまえ」

勇者「(よく考えたらこれってピンチ?)」

魔法使い「わ、私がとるの? 戦士がとってよ」

戦士「な、なんであたしが。タオルとって見えたら困るじゃないか」

勇者「……おや?」

魔法使い「だ、だから、私だって見たくないもん」

勇者「なんだなんだ? まさか、俺のツルギを見るんじゃないかと臆してらっしゃる?」

魔法使い「つ、ツルギって」

勇者「おんやぁ~? 想像しちゃったのかな?」

戦士「……」

勇者「戦士さんもどうなされたので? 顔が赤いようですが?」

魔法使い「あ、あんたが自分でとってよ」

勇者「嫌に決まっとるやろがい」

魔法使い「う、うぅ~~」プルプル

勇者「な? もう諦めろって。俺のケツなんかなんにもねぇし」

僧侶「えいっ」パサ

勇者&戦士&魔法使い「あっ」

僧侶「私だけ知ってるっていうのもどうかと思いましてぇ~」

勇者「な、なんてことしやがる!」

魔法使い「き、汚いものはやくしまいなさいよ!」

戦士「……これが、オトコの……」ゴクリ

僧侶「おっき、顔に似合わず」

勇者「ち、ちくしょ」アタフタ クルッ

戦士「あ、聖痕」

魔法使い「あ、ほんとだ」

僧侶「……」ニコニコ

勇者「し、しまったぁあああぁああ~~っ!!」

魔法使い「や、やっぱり、あんたが勇者?」

戦士「う、うーむ。異常なタフネスさを考えると、いや、しかし」

勇者「……」ガックシ

僧侶「勇者様、ファイトォ♪」

魔法使い「というか、僧侶! あんたやっぱり知ってたのね⁉︎」

僧侶「気がつかない方が悪いんですよぉ」

戦士「本物、なのか? 今度こそ」

勇者「はは、あはは」

魔法使い「あっちのニセモノも大概だったけど、コレよ? 抜け殻みたいなやつが?」

僧侶「正真正銘の勇者様です。お疑いであれば、あなた方の目が曇っているということ」

戦士「あたしの、目が、ねぇ」

魔法使い「……」

僧侶「改めてご挨拶させていただきます。ダーマ神殿より、遣わされました。勇者様とご一緒してお力添えになるようにと」フワッ

戦士「お、おい。僧侶」

魔法使い「本物、みたいね。間違いなく」

勇者「……」

魔法使い「勇者様、私は──」

勇者「いい」

魔法使い「えっ」

勇者「これまでと同じでいいんだ。俺はみんなと変わらない」

戦士「し、しかし。本物であれば」

勇者「態度を変えるのは失礼な時もある。今がその時ってだけ、俺に対してはな」

魔法使い「そう、お望みであれば」

勇者「あぁー、ったく」ポリポリ

店主「あんた達、ちょっとこっち手伝っておくれ。こいつを運ばないと」

勇者「了解! 服着るからまっててくれ!」

戦士「力仕事なら、あたしが」

勇者「いいんだ、テキトーにやらせてくれよ。頼む」

戦士「……」

勇者「よーし! すぐ着るから!」

魔法使い「……ねぇ、僧侶」

僧侶「はい?」

魔法使い「勇者ってイメージと違うのね」

僧侶「ええ、そうですね。伝説というおとぎ話の中だけじゃない、現実になると」

戦士「等身大の、若者か」

店員「この! ニセモノめ! 吐け! 食ったもの吐きだせ!」

店主「吐いたところでどーにもならいでしょーが! 足の方持ちな!」

こうして、隠していた身分がバレた勇者。

彼のニートになる旅はまだまだはじまったばかり。
旅は続くが、これにておしまい。

ちゃんちゃん

これにて、一応の終劇ということで。
本当ならもっと続ける予定だったんですが、途中の闖入者もありやる気を削がれました。
読んでいただいた方はありがとうございました。

続きはいつか書くかもしれません。では。

【翌日 早朝 宿屋 食堂】

勇者「ごほん」

戦士&魔法使い&僧侶「……」ジィー

勇者「あの、むず痒いからそんなに見つめないでくれない?」

僧侶「話す時は人の目を見て話すものなのでぇ~」

戦士「シャイボーイか」

魔法使い「童貞なんじゃない?」

勇者「言い返せないのが悔しい!」

戦士「なんだ、チェリーの方か」

勇者「……」プルプル

魔法使い「モテそうには見えないもの」

勇者「……はぁ、いいよ、もう。それで、今後の方針だが」

僧侶「勇者様とご一緒であればどこへでもぉ」

魔法使い「あ、あたし、別に、ただ、まぁあんたが勇者なら」

戦士「一緒に行けば強いモンスターと戦えるんだろ?」

勇者「自分の欲望に忠実か!」バンッ

僧侶「私たちから質問よろしいですかぁ?」

勇者「……なに?」

魔法使い「なんで、隠してたの? 勇者だって」

戦士「あたしらにだけじゃない。このまま隠し通せるかどうかは別として理由がわからない。ダーマが目的地というのも」

勇者「(遊び人になりたいのは本当! 隠してたのは面倒になりたくなかったらだよ! ……とは言え、正直に言うとヒンシュクを買いそうだな)」

魔法使い「もしかして、魔王軍からも隠すため?」

勇者「へ?」

僧侶「私もそれは考えましたぁ。勇者の所在がわかれば、近隣に被害が及ぶ恐れがありますもんねぇ」

戦士「……どうなんだ?」

勇者「あ、ああ! そうそう! その通り!」

魔法使い「……」ジトォー

勇者「俺のせいでまわりに被害なんてことになったらいかんですよ!」

戦士「……」ジトォー

勇者「い、いかんと思うのです、はぃ」

僧侶「くすくす。どちらにせよ、ダーマは魔王城に行く道の通過点上にあります~」

勇者「ご、ごほん。パーティの件なんだが、希望するなら組むのはいいよ。上から目線で申し訳ないけど」

魔法使い「ほ、ほんとうっ⁉︎」ガタッ

勇者「ただし、条件がある。特に戦士」

戦士「む?」

勇者「無闇な殺生は禁止だ」

魔法使い「は、はぁっ⁉︎」

勇者「あくまで、正当防衛。鍛錬をしたいのなら半殺しまでにしとけ。喧嘩止まりのな」

戦士「しかし、それではレベルアップが」

勇者「経験値は殺さなくても手にはいる。気絶させりゃいい」

僧侶「そうなんですかぁ?」

勇者「勇者がモンスターを殺した! なんて物騒だろ。まぁ、そこはお察しくださいな部分でもあるが、逆に大雑把な解釈だからこそ、こういう見方もできる」

魔法使い「私達に重要なのは、個々のレベルアップよ。旅を続けていく限り、避けては通れない」

勇者「だから、レベルアップさえできりゃ問題ない。だろ? 無力化でちゃんと手にはいるよ。“ここはそういうもんだ”と思ってくれりゃいい」

戦士「それなら、まぁ」

魔法使い「なんで、なんでそんなにモンスターに情けをかけようとすんの? あいつらは敵なのよ。こっちが命乞いしても聞く耳もたないような」

勇者「俺は神職じゃない。志てるつもりもない。だけど、嫌なんだよ」

僧侶「……かしこまりましたぁ」

魔法使い「僧侶っ!」バンッ

僧侶「私達がパーティを希望している身。ならば、条件を呑むのは当然かとぉ~」

魔法使い「う、そ、それは」

僧侶「それに、戦うな、とは申しておりませんしぃ。正当防衛なら、殺されそうになったらヤッちってもいいんですよねぇ~?」

勇者「しゃーないよ、そうなったら」

戦士「ふむ。あえての鍛錬か。良いかもしれんな」

魔法使い「戦士も!」

戦士「そうカッカするな。どうやら勇者様とやらはこういう人間のようだ」

勇者「……魔法使いはどうする?」

魔法使い「~~~~ッ! わかったわよ!」プイ

僧侶「あ、でもちょっと待ってください~」

勇者「ん?」

僧侶「レベルアップの件については了承いたしましたぁ~。でも、資金調達はどうなさるおつもりでぇ?」

戦士「おっ、そうだった。魔物の皮やツノを売らなければ旅が苦しくなるぞ」

勇者「あ……」

魔法使い「その顔は、考えてなかったって感じね」

勇者「やべ、どうしよう」

僧侶「みなさんいくらもってますかぁ?」

戦士「あたしは300ゴールドほど」

魔法使い「少なっ! 私は1000ゴールド」

戦士「おっ、結構持ってるな」

魔法使い「当たり前でしょ。あんたが少なすぎるのよ」

僧侶「私も魔法使いさんと同じぐらいですぅ~」

魔法使い「まぁ、当面はなんとかなるか。でも、装備もあるし……勇者は? 王様からがっぽり支給されてるんでしょ?」

勇者「……」

戦士「いくらだ? 荷物は軽そうだが」

勇者「……ゴールド」

僧侶「すみません~いま、なんとぉ?」

勇者「は、はちじゅう、ゴールド」

戦士&僧侶&魔法使い「……」ポカーン

魔法「……き、聞き間違いよねぇ? 勇者がまさか、そんな貧乏なはず」

勇者「う、うぅ」

戦士「ほ、本気なのか?」

僧侶「これは、困ってしまいましたねぇ~」

魔法使い「このっ! 貧乏勇者! 甲斐性なし!」ゲシゲシ

勇者「や、やめちくりぃ~。蹴らんどいてくりぃ~」

魔法使い「はぁっ、はぁっ、ヒモ男かあんたはっ!!」ゲシゲシ

勇者「ず、ずびません~」

僧侶「殺生が禁止となるとぉ、戦利品も望めませんしぃ」

魔法使い「王様ならなにも貰ってないの⁉︎」

勇者「それは、色々(ただ慌てて出ただけ)とありまして」

魔法使い「はぁ……どうすんのよ、勇者様」

勇者「……ギャンブルとか、どu」

魔法使い「無一文になるつもりか!」スパーン

戦士「生計の為ならば生を奪う、致し方ないだろう。我々だって、肉を食らう。菜食主義者ではないよな?」

勇者「あー、うん、それはその通り」

戦士「やれやれ……ブレブレのような気がするが、関係のない殺生はしないという解釈でいいか?」

勇者「ははーっ」ドゲザ

僧侶「決まりですねぇ~」

魔法使い「……こ、こんなのが、勇者。私は認めない! 絶対に認めないんだからぁっ!!」

店主「ちょっとちょっと、朝っぱらから騒がしいねぇ」

勇者「あ、おばちゃん。おはよ」

店主「ほい、おはよーさん。まっとくれ、今トーストを準備するから」

僧侶「昨日のニセモノさんはどうなったんですかぁ?」

店主「若い衆に頼んで隣町の役所に連れてってもらったよ。連れてく最中もうるさくてねぇ」

戦士「まだ自分が勇者だと?」

店主「いいや、その逆さ。“ホンモノがいる! あのお方に会わせてくれ!”だと。まだホラふくなんて笑っちまったよ」

魔法使い「ふーん」ジトー

勇者「う、うぅ」シュン

店主「村の連中以外はあんた達しかいないってのに。そっちのお兄ちゃんが勇者なのかい?」

勇者「いや、俺は」

店主「だぁーっはっはっ! そんなわけないよねぇ!」

勇者「(なんだろう、そう見えないっていうのも悲しい)」

店主「ま、牢屋にぶちこまれれば大人しくなるだろ」

【魔王城付近 沼地】

魔王「のぅ、サキュバスよ」

サキュバス「ははっ、ここに」

魔王「幾百年といがみ合う種族の争い。お前は人間達との戦いになにを見る」

サキュバス「群れを主体とする脆弱な生き物。しかし、時にひどい残虐性、憎悪。危険極まりない存在かと」

魔王「ふっ、向こうも我等をそう思っておろうな」

サキュバス「然りにございます。あちらもこちらを悪の象徴と見ているでしょう。決して相入れない、平行線上にいますゆえ」

魔王「……幾千年、繰り返したことか」

サキュバス「ご心中お察しいたします」

魔王「我等は、負けるぞ」

サキュバス「……」

魔王「なにも今すぐという話ではない。内に内にと向いている近親婚のお陰で、個々の血が強まるどころか、衰退している」

サキュバス「それは、魔族繁栄の為、先代様の方針で」

魔王「その結果がご覧の有様だ。巨人王オーガの身体つきを見よ。背丈が代を変わるごとに小さくなっておるでないか。他の種族も……」

サキュバス「……」

魔王「強い種を産むには、交配が不可欠だ。だが、種族間のプライドが邪魔をする」

サキュバス「我々が、負けるなどと。おやめください。群れが主体の脆弱な生き物に敗北しようがありません」

魔王「だからだよ、その驕りに負けるのだ」

サキュバス「我が王よ……」

魔王「率いるとは、調整を余儀なくされる。お主も種を代表する者であれば、我が苦心がわかるであろう」

サキュバス「そ、それは……」

魔王「だが、まだ諦めているわけではない。女神の申し子たる勇者の行方さえ掴めれば、友好などという仮初めの芽を潰せる」

サキュバス「……!」

魔王「どこにおるのやら」

サキュバス「大魔王様の苦心、わたくしも種を束ねる者として充分にご理解できました。勇者捜索はおまかせを」

魔王「なにを……18年も見つけられないでおいて」

サキュバス「必ずや挽回してみせましょう。我が誇りにかけて」

魔王「信じて、よいのだな……?」

サキュバス「必ずや……! 四天王がひとり、淫夢王の名にかけて!」ザッ

魔王「……頼んだぞ、我が友よ」

サキュバス「はっ!」ビシッ

【アルデンテの村 近郊 森林】

勇者「ああ、そよ風が気持ちいい。あの雲のように俺も漂えたら」

魔法使い「邪魔」ドンッ

勇者「人間の扱いして⁉︎」ドサッ

魔法使い「うー、なんでこんな獣道通んなきゃいけないのよぉ~」

戦士「しかたない、だろっと。あそこに見える山を越えなきゃならない」

僧侶「遅いですよぉ~」フリフリ

魔法使い「なんでこんな歩きにくい場所で元気なのよ、僧侶」

戦士「ダーマから来たのなら、ここを通ってるんじゃないか?」

魔法使い「陸路を? 魔法職ひとりで? ……怪しい」

戦士「魔法使いはどうやってアイーダの酒場へ?」

魔法使い「城のすぐ近くに波止場があるもの。船に乗って来ただけ」

戦士「ということは、別大陸出身か」

魔法使い「大陸というか、島国よ」

戦士「ほう」

僧侶「勇者さまぁ~。はやくはやくぅ~」フリフリ

勇者「はいはい」

戦士「足元に気をつけろよ」

勇者「俺を舐めんなよ? ワンパクっぷりは近所でも呆れられてたんだから」

魔法使い「……私は今呆れてる」

勇者「ほっ、よっと」パキッ カチ

戦士&魔法使い「……ん?」クル

勇者「ん? どした? 俺の顔になんかついてるか?」

戦士「いや、なんか、枝じゃない音がしなかったか?」

魔法使い「なにかのスイッチを押したような」

勇者「気のせいだろ。……びびってんのか?」

戦士「それなら、いいのだが」

勇者「まったく~。今からそんなんじゃこれから先が思いやられるぜ」

魔法使い「ムカつく。メラ」ボッ

勇者「ほっ! はっはーっ! チッチッチ、甘い甘いー」ヒョイ カチリ

戦士「おい、今のはっきり聞こえたぞ。カチリって」

勇者「やーいやーい! 魔法使いのノーコン!」

魔法使い「……」プルプル

勇者「ざまぁwww ……あ?」ガコン

戦士&魔法使い「あっ」

勇者「うそぉおおおおっ! なんでこんなところに落とし穴がああぁぁぁぁっ」ヒューー

【??? 洞窟】

勇者「おー、いつつ」ナデナデ

戦士「おぉぉ~い! 大丈夫かぁぁぁ~⁉︎」

勇者「大丈夫! ケツが二つに割れただけで済んだ!」

魔法使い「元からでしょ!」

勇者「……結構落ちたな、しかし、なんにも見えねぇ」キョロキョロ

僧侶「どうしたらいいですかぁぁぁ~?」

勇者「魔法使い! 戦士に手頃な木を用意してもらって松明を作ってくれ!」

魔法使い「まったく、仕切る時は仕切るんだから」ブツブツ

勇者「からかったのは悪かったって! ほんの冗談のつもりだったんだ!」

魔法使い「準備ができたら投げ込むけど、どうやって戻ってくるつもりぃ~? 結構、深いわよねぇ~?」

勇者「こっちに降りるのは危険かもしれない! なんとか出口を探すから、森の入り口で夕方までまっててくれ!」

僧侶「ほんとに大丈夫ですかぁ~~?」

勇者「大丈夫大丈夫! もし戻ってこなかったら迷子と思って探してね!」

魔法使い「かっこつけるんなら最後までかっこつけなさいよ!」

戦士「おい、魔法使い。これでいいだろ」

魔法使い「ん。じゃぁ」

戦士「待て。布を巻いてっと」ビリ クルクル

魔法使い「油で湿らせるの忘れないでね」

戦士「昨日の一角うさぎのやつがある。これで」

魔法使い「メラ」ボッ

戦士「よし。いいかぁ~投げるぞぉ~~~っ!」ヒョイ

勇者「ありがとう! それじゃまた後で落ち合おう!」パシ

僧侶「くれぐれもお気をつけてぇ~!」

勇者「それでぇ、どこだぁ? ここはぁ?」

【数十分後 洞窟 中腹部】

勇者「いんやー、すぐに行き止まりかと思えばなかなか入り組んでるんでない? 炭鉱だったのかな?」

シク……

勇者「唐突ですが、ここで俺が嫌いなものランキングの発表です。第3位、幽霊」

シクシク

勇者「第2位! ゴースト」

シクシク

勇者「そして栄えある第1位はぁ、お化け!」

シクシク

勇者「全部同じでしたぁ~……はは、あはは……」

シクシクシクシク

勇者「なんでずっと泣いてるんじゃ! 出るなら出てこんかい!」バッ

ハーピー「シクシク」

勇者「おっと……なんだ、鳥か」

ハーピー「……っ⁉︎ ニンゲン!」

勇者「人型、言語能力があるのか」

ハーピー「……去れ。コロスぞ」

勇者「そういきるなって。足、はさまって動けねぇんだろ?」

ハーピー「⁉︎ なにかすルつもりか!」

勇者「焼き鳥にして食う。腹減ってんだ」

ハーピー「おのれ……っ! 野蛮な!」

勇者「よいせっと」ドサッ

ハーピー「……!」ビクッ

勇者「俺さ、小さい頃、スライム飼ってたんだ。親からは犬猫にしなさいって大反対されたけど」

ハーピー「す、スライム?」

勇者「スラリンって名前つけてな? 最初はよく反抗したもんだ」

ハーピー「クッ……」バサバサッ

勇者「スラリンもお前みたいに怪我しててさ。治るまでは俺のこと利用してやろうって考えたんだろうな。
治療は素直に受け入れだした、動くなよ」ガタッ

ハーピー「……?」

勇者「よっ、俺にとっちゃ、初めての友達だったんだ。勇者っていってみんなから遠巻きに眺められてるだけだったから」コロ

ハーピー「……」

勇者「そうそう、今のお前みたいに。石をどかしたら俺のこと襲おうと考えてるだろ?」

ハーピー「な、ナニをイッてる」

勇者「お互いに知能があるならさぁ、向いてる方向が違うだけだと思うんだよなぁ。ほれ、とれたぞ」

ハーピー「……」スッ

勇者「行けよ。背中から刺したりしねぇから、あ、でも襲おうってんなら俺も抵抗はするぞ。今はそういう時代なんだろうからな」

ハーピー「……フン」バサッ

勇者「さて、と」パンパン

ハーピー「ギャッ」ドサッ

勇者「……まさか、飛べないとか、そういうお約束パターン?」

ハーピー「う、うぅッ……!」ズリ

勇者「しょーがねぇなぁ! ほれ、こっちこい!」

ハーピー「ダマレ! ニンゲンになど!」キッ

勇者「そのままだったら野垂れ死ぬぞー。プライドと命どっちとるんだー?」

ハーピー「死をエラぶ!」

勇者「あー、そうですか。勝手にしろよ」スタスタ

ハーピー「き、貴様! よるな!」

勇者「死ぬんだろ? なら近寄ったって関係ないじゃん」

ハーピー「くっ」ズリズリ

勇者「俺のマッサージは街のじいちゃんばあちゃんにも高評なんだ、あの世を見せてやんよ」ポワァ

ハーピー「うっ、うぅ……」

勇者「勇者として生まれてよかったことがひとつある。それは、補助系、攻撃系と満遍なく覚えること。バランス方っつーのかな。器用貧乏とも言うけど」

ハーピー「ゆ、勇者ダト……」

勇者「あ、近所にね? 勇者って人がいたんだ。俺じゃないよ?」ポワァ

ハーピー「(暖かい、ヒカリ)」

勇者「少し怪我の具合がひどいか。じっとしてろよ」

【再び数十分後 洞窟】

勇者「これでよしっと。まぁ、飛ぶ分には問題ないだろ」

ハーピー「……」

勇者「どした? まだ痛むのか?」

ハーピー「オマエ、ヘンなやつ」

勇者「よく言われる」

ハーピー「勇者とは、ホントウか?」

勇者「嘘だよ、ウソ」

ハーピー「……」

勇者「あのさぁ、ここの出口があったら教えてくんない?」

ハーピー「ニンゲンにほどこしをウケたなど……! 一族の恥……!」

勇者「困ってんだよねぇ~。出口探すの疲れてきてるし」

ハーピー「獣王キングヒドラ様にお叱りを……! かクなる上は!」バサッ

勇者「せっかく治したのにまた怪我すんの?」ゲンナリ

ハーピー「思い上がるナッ! オマエを殺せばここでのコトもなかったコトに!」

勇者「誰にも言わない。本当。約束する。俺口固い」

ハーピー「信用できるカッ!!」ザシュ

勇者「……っとと。なぁ、考えなおさない?」ヒョイ

ハーピー「チョコマカと!」ザシュ ザシュ

勇者「よっと、ほっ」ヒョイ ヒョイ

ハーピー「~~ッ! 真面目にやれ! ヘラヘラするな!」バササッ

勇者「いや、だからだね」トンッ

ハーピー「うっ」ズキン ドサッ

勇者「言わんこっちゃない。これまたお約束的に」

ハーピー「……くっ、いっそコロセ」

勇者「テンプレのオンパレードか! そーゆうのいいから!」

ハーピー「ナラば、自決を」

勇者「はぁ……あのさあ、ありがちすぎんだろ」

ハーピー「……」スッ

勇者「待てよ」パシ

ハーピー「なぜ、トメル」

勇者「お前らにとって人間ってなに?」

ハーピー「エサだ」

勇者「そう。俺らにとっても、魔物の材料は高く売れる。そっから精製されるもんは重宝されてる。良い値がつく」

ハーピー「だから、ナンだ」

勇者「利用され利用して、高い知能を持った同士が欲のままに殺しあう。そうなれば遺恨を残すし、終わらないサイクルに突入する」

ハーピー「……」

勇者「一枚岩じゃないからな。魔物も人間も、ついついやらかしすぎちまうやつがポッと出てきちまうものなんだ」

ハーピー「イッてる意味が、ワカらん」

勇者「ちっと難しかったか? 第二章! 政治編もあるぜ!」ビシッ

ハーピー「……」ポカーン

勇者「ダダ滑り……なにが言いたいかというと、もっとラクに生きようぜ。しきたりとか垣根とか、今は俺とお前しかここにはいないんだから」

ハーピー「……」

勇者「お前にだって魔物としての吟じがあったりすんだろ? もっとニンゲン殺してやるー! とか。自決なんてもんはバカのすることだ。やりたいことやってから死ね」

ハーピー「お前ハ、ニンゲンがコロサレてもいいのか」

勇者「そんな話じゃない。それぞれの立場でやりたいように生きろ、小難しく考えてもどうせ破綻すんだから」

ハーピー「……コノまま、ススメば出口がアル」

勇者「あ、本当? 風の気配ないからないのかと焦っちゃったよ」

ハーピー「指を舐めてミロ」

勇者「えっ、指?」アム

ハーピー「ソウスルと、風を感じられるはず」

勇者「……んー、おおっ! 指先がちべたい!」

ハーピー「ツギニ会ったら、コロス」

勇者「期待して待ってる。できれば、俺だけを狙ってほしい」

ハーピー「……」

勇者「俺を殺せたら、次の人間を殺したっていいよ」

ハーピー「……そのコトバ、ワスレるなよ」バサッ

勇者「ああ、しっかり覚えといてやる」ニッ

【アルデンテの村 近郊 森林】

僧侶「あのぅ~、勇者さまは森の入り口で待つようにとぉ~」

戦士「魔法使い、ロープ頼む」

魔法使い「死んでたらどうすんのよ。はいってもう一時間も経つわ」

僧侶「ツンデレってやつですかぁ? 古典ですねぇ」

魔法使い「違うわよ! 私はそんなんじゃ!」

戦士「一度村に戻ってロープを買ってきたんだ。あたしが降りて勇者を探してくる」

バサッバサッ

魔法使い「……なにか羽音が聞こえない?」

僧侶「たしかにぃ~。エコーがかかってますねぇ。穴の中から?」

戦士「穴って、ここか?」ヒョイ

ハーピー「ウオッ⁉︎」ドヒュン

魔法使い「わっ、び、びっくりしたぁ……いきなり飛び出して……は、ハーピー⁉︎」

戦士「おぉ。人型だ」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「気をつけて! こいつは中級モンスターよ!」

ハーピー「ニンゲンか……」バサッバサッ

魔法使い「言語を解するのね! 高い知能を持ってる! モンスターにとって知能は強さの現れ! 戦士!」ザッ

戦士「戦闘か!」チャキ

僧侶「でもぉ、戦う意思があるようにはぁ~」

ハーピー「オマエたち、さっきのヤツのナカマか?」

魔法使い「さっきの? って、だ、誰?」

戦士「あ、あたしに聞かれても」

僧侶「そうでぇ~す!」フリフリ

魔法使い「ちょ、そ、僧侶!」

ハーピー「ココから東にススメ。そこに行けばイル」

戦士「な、なんだ……?」スッ

魔法使い「なにが、どうなってるの?」

ハーピー「フン」バサッバサッ

僧侶「……行っちゃいましたねぇ~」

戦士「ど、どうする?」

魔法使い「どうするったって……」

僧侶「ここにいたって暇ですしぃ、まずは行ってみませんかぁ~?」

【森林 東の外れ】

勇者「ふぃー」ザッ

戦士「あれじゃないか? おぉ~い! 勇者ぁ~!」

勇者「あれ? ここって入り口だったの?」

魔法使い「はぁ、はぁっ、呑気な、平気、なの?」

僧侶「ふぅ~」

勇者「なんともないよ。砂埃をかぶっちまったぐらい」パンパン

戦士「なぁなぁ、中はどうだった?」

勇者「なーんにも。宝箱さえなかったね」

魔法使い「ハーピーと遭遇しなかった⁉︎」

勇者「……いんや」

僧侶「そうなんですかぁ~?」

勇者「あぁ。誰とも会わなかったよ」

魔法使い「えっ、でも、それだったら、誰のこと。勇者はたしかにこっちにいたし、えっ、えっ?」

勇者「いいんじゃないの。わからなくても」

戦士「……かっこつけてんのか?」

勇者「ち、違わい! 改めて指摘すんな! 恥ずかしい!」

僧侶「くすくす。怪我がなくてなによりですぅ」

魔法使い「はぁ……つまり、そういうこと。あんたはキザ似合わないから」

勇者「べ、別に、そんなつもり」ゴニョゴニョ

戦士「生きてるならそれでよしとしよう。時間を食ったが、陽が落ちるまでに落ち着ける場所に行かなければ」

勇者「あー、間に合うかな?」

戦士「パス」ポイ

勇者「うぉっ」ドサ

戦士「さっき、村に戻ったついでにテントを買ってきた。勇者が持て」

魔法使い「あんたのせいなんだからそれぐらいしなさいよね」

勇者「は、はい」

僧侶「とりあえず、今日のところは山の中腹を目指す感じでしょうかねぇ~」

戦士「そうだな……。さ、出発だ」

【獣王城 玉座】

キングヒドラ「なにぃっ⁉︎ もう一度申せっ!!」

ねずみモグラ「オラじゃねぇっスよ~」ブンブン

キングヒドラ「それはわかってる! ハーピーがニンゲンの匂いをつけて帰ってきただとぉ⁉︎」ドガーーン

ねずみモグラ「ひぃ~っ」ガタガタ

キングヒドラ「ハーピーはどこだっ!!」

ねずみモグラ「今、巣に」

ハーピー「ただいま、戻りました。キングヒドラ様」スッ

キングヒドラ「……」ギロ

ねずみモグラ「はわわわわっ」ガタガタ

ハーピー「此度の件は」

キングヒドラ「仕事はどうした! 人語を喋れるお前を斥候(偵察のこと)にやった理由を言えぇいっ!!!」ピシャーン

ハーピー「人間どもの、勢力調査です」

キングヒドラ「それがなぜニンゲンの匂いをつけて帰ってくる!! プンプン臭うぞぉっ!!!」

ねずみモグラ「あ、あの、キングヒドラ様ぁ」

キングヒドラ「なんだっ⁉︎」ギロ

ねずみモグラ「もしかして、ハーピー様はニンゲンどもを殺してきたのでは? もともと、匂い自体はめずらしいことでは」

キングヒドラ「……そうなのか?」

ハーピー「……」

キングヒドラ「答えんか。恐怖の爪で引き裂かれる前に」

ハーピー「も、申し訳ございません! 獣王様!」ドゲザ

キングヒドラ「なぜ……謝る?」ドシン

ハーピー「卑しくも、このハーピー。ニンゲンに助けていただきました!」

ねずみモグラ「えぇっ⁉︎」

キングヒドラ「……」プルプル

ハーピー「嘘をつくこと違わず。いかような罰もお受けする所存でございます」

キングヒドラ「……よかろう。正直に話した貴様の誇り、たしかに受け取った」

ハーピー「はい、有り難く」

キングヒドラ「だが、罰を免除することは無理だ! ニンゲンに手助け⁉︎ ほどこしを受けただとぉおおおっ⁉︎」ゴォッ

ハーピー「……もし、機会をいただけるのであれば、万全の状態でやつを殺しとうございます」

キングヒドラ「……なに?」ピクッ

ハーピー「実力を隠しているのやも。こちらが手負いとはいえ、まるで赤子同然でした」

キングヒドラ「ふむ。では、情けをかけられたということか? ニンゲンに?」

ハーピー「お恥ずかしい話ですが、そうなのでしょう。であれば、見過ごすはずがございません」

キングヒドラ「忌々しいッ!!」ドンッ

ねずみモグラ「玉座が壊れちゃうっスよぉ」

キングヒドラ「それで、相手は何人だ? 群れがやつらの特徴だ。五人か? 十人か?」

ハーピー「……一人で、ございます」

キングヒドラ「ひ、ひひひひひひっ⁉︎」

ハーピー「申し訳、ございません」

キングヒドラ「ひ、ひとぉおおおおりぃぃいいっ⁉︎」ピシャア

ねずみモグラ「火炎の息が漏れてるっス! あちっ! あちちっ!」アタフタ

キングヒドラ「出ていけッ!! 貴様など種族のツラ汚しだッ!!!」

ねずみモグラ「シワが増えるっすよ! もうニンゲンでいうとハタチ超えたオナゴなんですからキングヒドラ様も!」

キングヒドラ「だまぁああれぇぇっ!!」ゴォッ

ねずみモグラ「熱っ! あっちゃあっ!!」バタバタ

ハーピー「かしこまり、ました。それがお望みであれば」スッ

【山 中腹部 テント設営地】

戦士「薪はこんぐらいでいいな」カランカラン

魔法使い「メラ」ボッ

勇者「お前、チャッカマンみたいになってきてるなぁ」

魔法使い「なに? チャッカマンって?」

勇者「いや、知らなきゃいい」

僧侶「見てください勇者様ぁ~! アルデンテの村がもうあんなに小さく!」

勇者「おお、いい眺めだ」

魔法使い「戦士、そっちの地図とって」

戦士「ん」ヒョイ

魔法使い「えぇ~と」パサッ

戦士「真面目だよなぁ、魔法使い」

魔法使い「計画性なく行動するのが嫌いなの」

戦士「勇者も見習ったらどうだ」

勇者「お前もな」

戦士「な、なにをぅっ!」

魔法使い「現在地は、ここね。ダーマまでは半分もきてない、か……」

僧侶「それはそうですよぉ。村二つ通りすぎただけですしぃ~」

魔法使い「僧侶、陸路できたの?」

僧侶「そうですよぉ~?」

魔法使い「どうやって? こんな長い距離、襲ってくださいっていってるようなものじゃない」

僧侶「それはぁ、これのおかげです♪」

戦士「アイテムか?」

僧侶「とぉっても貴重なものでぇ、ゴスペルリングっていうんですよぉ」

魔法使い「どんな効果なの?」

僧侶「モンスターに出会わなくなっちゃいますぅ」

魔法使い「えっ⁉︎」

戦士「ほほー」

魔法使い「それって、国宝級のアイテムじゃない!」

僧侶「はい~。世界にひとつしかないアイテムだそうですよぉ」

魔法使い「よ、よくそんなの……」

僧侶「もちろん返納しますよ~。もともとは神殿の魔除けにと保管されていたアイテムですから~」

勇者「どれどれ? 見せてもらっていいか?」

僧侶「どうぞどうぞ~」スッ

勇者「ふぅ~ん。なんの変哲もないリングに見えるけどねぇ」

僧侶「編み込まれるものが特殊なんですよぉ。我々が身につけている装備品もそうですけどぉ」

魔法使い「杖、新調したいな」

勇者「メラしかやってないn」

魔法使い「なんかいった?」ギロ

勇者「このリングすごぉーい!」

戦士「次は山を越えたあたりにある。なかなかに大きいぞ」

勇者「そうなんか?」

戦士「あぁ、コロシアムで有名な街。マッスルタウンだ」

今日はここまでです。

【山頭頂部 付近】

手下「おやび~~ん! 間違いありやせん! あの煙は旅人のもんでさぁ!」

ガンダタ「ぐっふっふ。遠征から帰ってきたとたんにカモがのこのこやってくるとはツイてるぜぇ~」

手下「苦労して手に入れた稲妻のツルギを持ち逃げされやしたからねぇ」

ガンダタ「ばっ、それを言うなよ」

手下「俺たちの中から裏切り者がでるとは。1ヶ月の遠征の後、やっと見つけた塔で、しかも多数の負傷者を出して赤字……お給料もまともに払えないなんて」

ガンダタ「ぬっ、ぬぐぐ……!」

手下「動けるのは俺と、親分のみ……はぁ」

ガンダタ「ガタガタうるせえっ! 働いて補填したらいいんだろうが! 赤字分は!」ガンッ

手下「……働くしかないの間違いではないすか?」

ガンダタ「いいんだよ! 働くって分に変わりねぇんだから! 仕切り直し!」

手下「へい」シュン

ガンダタ「支度するぞ! 俺の斧持ってこい!」

手下「へいへい」

ガンダタ「へいは一回!」

手下「金目の物持ってるといいですねぇ」ゴソゴソ

ガンダタ「……ぐっふっふっ、飛んで火にいる夏の虫とはやつらのことよ。なぁ~に、金がなくても身体がある」

手下「奴隷として売り飛ばすんですかい? 老人じゃなきゃいいでやんすね」

ガンダタ「対面すりゃわかるこった。やつらが寝静まった時間を狙って……うっひっひっ」ニタァ

【魔法使い 夢の中】

魔法使い(母)「メラゾーマ!」ゴォッ

レッサーデビル「ウギャーッ!!」ドサリ

魔法使い「ママッ!」

魔法使い(母)「くっ、油断した」ドロ

魔法使い「血っ⁉︎ 腕から血が……っ!」

魔法使い(母)「よく聞きなさい。走って村の人達を呼んできて」

魔法使い「や、やだよ! こわいもん! ママ、いや! 離れたくない!」

魔法使い(母)「黙って聞くのッ!!」

魔法使い「……っ!」ビクゥ

魔法使い(母)「いつものお使いよ」ニコ

魔法使い「うっ、うぅっ、ぐすっ」ポロポロ

魔法使い(母)「私の心配なら平気。ね、大丈夫だから」

魔法使い「ほ、本当……?」

魔法使い(母)「ええ、もちろん! 来週、ピクニックに行くんでしょ?」

魔法使い「う、うん……」

魔法使い(母)「指、貸して」

キラーナイト「……」ウィーン

魔法使い「……はい」

魔法使い(母)「ゆぅ~びきり、げんまん♪」

魔法使い「ゆ、ゆびきりっ、げんまんっ!」

キラーナイト「タイショウヲ、マッサツ」ピピ

魔法使い(母)「さ、走れるわね?」

魔法使い「う、うん!」ゴシゴシ

魔法使い(母)「行きなさいッ! 振り向いちゃだめよ! 一生懸命走って!!」

魔法使い「わ、わかった! ママ、頑張って!」ダダダッ

魔法使い(母)「ふぅ……さぁ、かかってきなさい。ここから先へは一歩も通さないわよ……っ!」

【深夜 山 中腹部】

魔法使い「――……ママッ!!」ガバッ

戦士「……」チラ

魔法使い「あ、えっ? ここ……」

戦士「平気か? 随分とうなされていたみたいだが」

魔法使い「あぁ……」

戦士「まだ夜は深い。ゆっくり身体を休めておけ」

魔法使い「貴女は、寝なくて平気なの?」

戦士「あと二時間すれば勇者を起こす。代わり番で見張りだからな」

勇者「んがーっ、んがーっ」スヤスヤ

魔法使い「そういや、そうだったっけ」

戦士「昔の夢でも見てたのか」

魔法使い「はぁ……そんなところ。母様の夢」

戦士「……なにやら、仇と言ってたな」

魔法使い「私が小さい頃にね、魔物に殺されちゃったの。遺体は見つかってないけど」

戦士「そうか……」

魔法使い「火、小さくなってるね」カラン

戦士「あたしは慰めが苦手だ。月並み言葉だが、ご冥福をお祈りさせてもらおう」

魔法使い「いいんじゃない、ストレートで。変に飾るよりは好感が持てるわ」

戦士「これしかできないだけだよ」

魔法使い「……変わった勇者よね」チラ

勇者「むにゃむにゃ、もう食べられないのにぃ~」スピー

戦士「どうだかな……正直なところ、掴みきれてない」

魔法使い「どういう意味?」

戦士「曖昧なように感じる。まだ日が浅いが、メリハリというか、なんというか……言葉ではうまく説明できん」

魔法使い「なんで、モンスターなんかに肩入れするのかな……」

戦士「さてな。魔王を倒す旅はしているんだ、肩入れしようとやることさえやっときゃ問題ない」

【中腹部 茂みの中】

手下「おぉ~! 親分! 暗がりでよく見えやせんが、ありゃ間違いなく上玉の女冒険者でっせ! ひぃ、ふぅ、みぃ、男のコブつきみたいですが、当たりですね!!」

ガンダタ「ほぉ~れ見ろ! こうやってな、女神様はきちーんと考えてくださるんだよ!」

手下「へ? か、考える?」

ガンダタ「女神様の声が聞こえるねぇ~。“あなた達は頑張ったのです。ご褒美をあげましょう”ってな~!!」

手下「いや、でも、それじゃ、そもそも稲妻のツルギを持ち逃げされないんじゃ」

ガンダタ「下げて上げるっつーのはまさにこのことよ! 落ち込んでる時に棚からぼた餅なくりゃ、いつも以上に有り難みがますってもんだろぉ~!」

手下「な、なるほど! さすが親分!」

ガンダタ「どれ、では早速」ガサガサ

手下「待ってください! 今は二人起きてるんでもうすこし様子を見ましょう!」

ガンダタ「あぁ? 女におくれをとるガンダタ様じゃねぇぞ!」

手下「俺だって疲れてるんすから! ろくに休みもらえなかったし!」

ガンダタ「うっ、そ、そうなんか?」

手下「ね? 無駄な労力を使わず、まだ時間はあるでやんす。もうちょっと様子見ましょうって」

ガンダタ「しょうがねぇなぁ」

【再び テント設営地】

勇者「……んー」ムク

魔法使い「……? 起きたの?」

戦士「交代には、まだ」

勇者「ネズミがいるな」

魔法使い「ネズミ……? こんなとこに? どこよ」キョロキョロ

勇者「ふぁ~ぁ」コキパキ

戦士「ネズミだったら非常食にとっておきたいんだが」キョロキョロ

勇者「目が覚めた。戦士、交代すっか」

戦士「いや、あたしは」

勇者「俺は目が覚めたって言ったろ? どうせ起きてる。なら眠いやつが寝ておけばいい」

魔法使い「私も目が覚めたし、戦士は休んで大丈夫」

戦士「む、そうか? ならお言葉に甘えて」

勇者「お前もだよ、魔法使い」

魔法使い「え? 私は、べつに」

勇者「夢を見る睡眠ってのは案外浅いもんだ。明日に疲れを蓄積させるな」

戦士「……起きてたのか?」

勇者「いや、あの」

魔法使い「狸寝入りしてたの? キメきれないやつねぇ」

戦士「ふっ、まったくだ。言わなければわからないものを」

勇者「……入っちゃまずい雰囲気かなーと思って」

魔法使い「余計な気は使わない方がいいわよ。自然体でいること」

戦士「起きてるならあたしは休むぞ。マヌケな勇者様ひとりじゃないみたいだからな」ゴソゴソ

勇者「う、うぅ。二枚目キャラになりたい」

魔法使い「だったら空気を読み違えないように」

勇者「へい」

魔法使い「ふざけてばっかりなんだから」

勇者「オホホ、お花をつみに行ってまいりますわ」

魔法使い「くっ、この、ヘンテコ勇者」

勇者「寝たくなったら寝てていいからさ。母さん、生きてるといいな」ポンッ

魔法使い「何言ってるのよ。母様は死んだの」

勇者「遺体は見つかってないんだろ?」

魔法使い「はぁ……あのねぇ、いくら探し回ったか知らないでしょ。生きてるなら帰ってくる」

勇者「……」

魔法使い「ありもしない希望にすがるのは、やめたのよ」

勇者「それなら俺がお前のかわりに祈っておいてやるよ」

魔法使い「いい加減に」

勇者「勝手だろ、誰かひとりぐらいいたっていいじゃないか。そう願う者が」

魔法使い「……好きにしたら」

勇者「あぁ、てなわけで、ラリホー」ポワァ

魔法使い「えっ、な、なに、を……」

勇者「朝までゆっくりしてろ」スッ

【茂みの中】

手下「絶好の機会でやんす! コブの男どっかいきやしたぜ!」

ガンダタ「他も寝静まったみてぇだな」

手下「ラクな仕事すぎて小躍りしそうっすよ!」

手下?「親分! お待たせしました!」ガサゴソ

ガンダタ「おっ? お、おめぇ?」

手下「(青い布つけてるやついたっけ?)」

手下?「ひどいですよぉ~置いてくなんて! それで、なにをするんですか?」

ガンダタ「……まぁ、いいか。あそこで寝てるやつらを縛るんだ」

手下?「盗みですかい?」

ガンダタ「あったりめーよ! 身ぐるみ剥いで女は上玉みてぇだからな、高く売れそうだ」

手下?「なぁ~るほど! 良い値で売れるといいですね!」

手下「大丈夫でやんす! マッスルタウンに富豪がいるっすから! ……ん? 知らないんでやんすか?」

手下?「知ってますよ! あの富豪さんでしょ!」

手下「でげすでげす! 成金趣味の嫌ぁ~な感じのやつっすけど、上客には違いねぇっす! 親分、男はどうしやす?」

ガンダタ「あいつは奴隷商に売りとばそう」

手下?「奴隷商人っていうと、あのお方ですかい?」

ガンダタ「ああ、隣国でなにやら建設してるらしくてな。力仕事をするやつを探してる」

手下「女がひとり、十万ゴールドとして……いや、もっといけるかもしんねぇでやんすな!」

手下?「ところで親分! 他の手下はどちらへ?」

ガンダタ「あ? お前が今来た頂上の洞穴だろーが。山賊が、勉強できねぇのは仕方ねぇけどよ、それぐらい覚えろよ」

手下?「でっへっへ。すみません」

手下「準備はいいすか?」ガサガサ

ガンダタ「ああ、いつでも……」ガサガサ

手下「とつげきぃぃ………うふん」コテ

ガンダタ「気色わりぃな。……おい。……あ? おい?」クルッ

手下?「ラリホー」ポワァ

ガンダタ「あふん」コテ

手下?「……残るは山頂の洞穴だっけ」

ガンダタ「ぬ……っ! 睡眠、魔法……っ!」

手下?「親分、まだ意識あるんですか?」ヌギヌギ

ガンダタ「おのれ……! 稲妻のツルギを奪られた時と同じパターンか」ガク

手下?「稲妻のツルギ……あぁ、ニセモノ勇者の親玉だったのか」ヌギッ

勇者「……うぇっぷ、口の中に髪の毛はいっちった。ペッペッ」

【頂上 洞穴】

勇者「タウンワークはここにおいて……これでよし、と」パンパン

手下達「」スヤァ

勇者「お前らもお前らなりに理由があって仕事してんだろうけど、見過ごしたら被害者出続けるだろうからな。別の仕事見つけてくれ」

手下達「」スヤァ

勇者「……聞こえてないか。あー、肩凝った。ロープで縛るのもラクじゃないなぁ」ドサッ

ガンダタ「う……」ピク

勇者「もうお目覚め?」

ガンダタ「う、うぅっ……はっ! こ、ここは」

勇者「アジトでーす!」

ガンダタ「お、おめぇ! どういうことだ……そうだ、おりゃあ眠らされて」

勇者「耐性が少しはあるみたいだな。さすが親分ってとこか」

ガンダタ「むぉっ⁉︎ いつのまに縛りつけやがった!」

勇者「疲れたわー、親分マッチョだから、ここまで担いで運ぶの」

ガンダタ「おめぇら! 目を覚ましやがれ!」

手下達「」スヤァ

勇者「ねぇねぇ、なんで山賊なんかやってんの?」

ガンダタ「……くっ、不覚。ちくしょう」ガクッ

勇者「おやぶーん!」

ガンダタ「お前手下じゃねぇだろ!」

勇者「シカトすんなや!」

ガンダタ「ちっ、やってる理由なんて社会に適合できねぇからに決まってんだろ。ルールってやつが嫌いなのよ、俺たちゃ」

勇者「わかる! すっごぉーくわかる!」

ガンダタ「な、なんだ?」

勇者「ルールなんてかったくるしいもん俺も大嫌いでさぁ!」ポンポン

ガンダタ「なら、この縄を」

勇者「それは断る」

ガンダタ「……」

勇者「一緒にニートにならない?」

ガンダタ「ニートだと?」

勇者「イエスニート! 無職、遊び人、くぅ~、いい響きだわー! 何者にも縛られずフリーって!」

ガンダタ「どうやって食ってくんだよ、アホか」

勇者「違うの? 要するに、誰かに押し付けられるのが嫌なんだろ? ルールとか型とかにハメられてさ」

ガンダタ「まぁ……」

勇者「アゴでこき使われるのが嫌なだけで、やりたくないわけじゃないもんな? 山賊だってこうして働いてるわけだし?」

ガンダタ「いや、そりゃそうだが」

勇者「残念だわ。せっかくニート仲間が増えるかと思ったのに。なんだよ、真面目かよ」

ガンダタ「山賊に真面目って、お前、頭おかしいんじゃねぇのか」



勇者「ここから西にいけば、アデルの城がある。知ってるだろ?」

ガンダタ「ああ」

勇者「そこに行ってこれを見せたらいいよ」スッ

ガンダタ「……銀細工か?」

勇者「大工の仕事ならあると思うから」

ガンダタ「おい、ガキ。俺を舐めてんのか?」ギロ

勇者「ベロベロバーー!」

ガンダタ「……」

勇者「そんな姿で凄んでもだめだっての。ああ、別に売っちまってもいいから」

ガンダタ「なにがしてぇんだよ、お前」

勇者「俺は俺の好きなようにやってるだけ。親分と一緒」

ガンダタ「性善説とか信じてるクチか?」

勇者「そうでもない。理由を求めてんの? 俺を型にハメようとしてらっしゃる?」

ガンダタ「……」

勇者「おやぶーん、それじゃ筋が通りませんよー」

ガンダタ「からかってるだけか」

勇者「だから、そういうのだよ。自分の中だけで完結すんな」

ガンダタ「……」

勇者「あんたらは負け犬なんかじゃねぇ、社会不適合でもねぇ。……俺がやってるのも人助けでもなく、ただの自己満だ」

ガンダタ「クッ、そうか」

勇者「説教じゃねぇからな? ただ、理解してないようだったから説明した」

ガンダタ「ふん」

勇者「決めるのはあんた達だ。いつまでもその日暮らしのこんな生活できるもんじゃねぇぞ」

ガンダタ「……」

勇者「今が楽しいならいいんだけどさ」スタスタ

ガンダタ「おい、どこに行く! 縄を解いていけ!」

勇者「やーなこった。自分でなんとかしろ」

ガンダタ「小僧! ちょ、待て! 待ってぇー!」

【山 中腹部 テント設営地】

子供『あ、勇者くんだぁー! あそぼー!』

勇者(少年)『う、うんっ! へへっ!』

親『だめよ、勇者くんにもし怪我でもあったら』

勇者(少年)『えっ』

子供『……あ、うん。わかった』

勇者(少年)『ぼ、僕なら大丈夫だよ! ほら、こんなに丈夫なんだ!』バンバン

大人達『さすが勇者! すごいねぇー!』

勇者(少年)『ち、違うよ、僕、すごくなんか、ないよ。普通だよ』

大人達『勇者っ! 勇者っ! 勇者っ! 勇者っ!』パチパチ

兵士『頑張れよ、勇者』

勇者(少年)『僕、勇者ってだけじゃないよ、普通の、普通の……』

王様『勇者よ』

勇者『勇者っていうのやめてよっ! ……僕を……見てよ……』



勇者「――……嫌なこと、思い出したな」

【翌朝 テント設営地】

僧侶「う、うぅ~ん、よく眠れましたぁ~」ノビー

勇者「おはよ」

僧侶「おはよーございますぅ~」

勇者「戦士と魔法使いもそろそろ起こしてやれ」

僧侶「はい~。戦士さん、戦士さん」ユサユサ

戦士「ん、んぅ」

僧侶「魔法使いさん、魔法使いさん」ユサユサ

魔法使い「ん……」

僧侶「ずっと起きていらっしゃったんですかぁ? 交代いたしましたのに~」

勇者「今日はたまたまだ。次は言われなくても起こすよ」

僧侶「……? なにか、あったんですかぁ? 膝のところやぶれてますが~」

勇者「あら? おしっこする時にひっかけちゃったのかな?」

戦士「ふぁ~ぁ、なんだ、もう朝かぁ」

僧侶「あ、おはようございますぅ」

戦士「やけにぐっすり眠れた気がするな。深い眠りは久しぶりだ」

魔法使い「……んにゅ」

勇者「ヨダレぐらいふけよ」

魔法使い「ふぁ? ……っ⁉︎」ゴシゴシ

勇者「みんな、よく眠れたようでなによりだ。朝メシを食ったら出発する」

魔法使い「あれ、昨日、いつのまに寝たんだったっけ……」

【コロシアムの街 マッスルタウン】

傭兵「シェイシェイハ!! シェイハッ!! シェシェイ!! ハァーッシェイ!!」ブンブン

勇者「……でるゲーム間違えてね?」

魔法使い「あいかわらずむさくるしい街ねぇ~」

戦士「いいじゃないか! この熱気! 溢れ出る闘志!」ウズウズ

魔法使い「脳筋って仲間意識あんのね」

僧侶「出店もたくさんありますよぉ~」

勇者「なぁ、戦士」

戦士「どうした?」

勇者「コロシアムって毎日やってんの?」

戦士「ああ。なにしろここの財源だからな。元締めは癒着があると黒い噂があるが」

勇者「ふーん」

魔法使い「財源なんて、ただのギャンブルでしょ」

戦士「それは否定できない。誰が勝つかを予想して観客は一喜一憂するわけだからな。金がかかるから見てる方も熱くなる」

僧侶「勇者さまぁ、フランクフルト売ってますよぉ」

勇者「食べたら?」

僧侶「私に食べろって言うんですかぁ? フランクフルトを~」

魔法使い「公衆の面前で痴女ってんじゃないわよ!」スパーン

僧侶「はうぅ」

勇者「……あそこの上にあるのは?」

戦士「あれか? あれは優勝者に贈られる品物だ」

勇者「なになに……イーリスの杖、か」

魔法使い「えっ⁉︎ うそっ⁉︎」

戦士「魔法職の杖が賞品なんてめずらしいな」

魔法使い「……」ジィー

戦士「レアなのか? あれ」

魔法使い「かなり! 魔力を消費せずにピオリムが放てるのよ!」キラキラ

戦士「ピオリム……素早さを上げる魔法か」
 
僧侶「イーリス。ギリシア神話の虹の女神、あるいはギリシア語で虹……キレイな形状してますねぇ」

魔法使い「……」チラ

戦士「自分の杖見つめて……比べてるのか」

魔法使い「い、いいでしょ別に!」

戦士「余計ひもじい思いするだけだぞ」

【マッスルタウン 宿屋】

勇者「なんか一気に物価あがった気がするんだが? 一泊30ゴールドって」

戦士「しかたないよ。そういうもんだ」

僧侶「幸い団体部屋も同じ料金でしたしぃ~。よしとしましょう~」

魔法使い「次はいつ出発すんの?」

勇者「明日の朝かな」

戦士「なっ⁉︎ おいおい、この街に立ち寄って観戦してかないのか?」

勇者「なにが悲しくて男同士の殴り合いを見なきゃいかんのよ」

戦士「女もでるぞ」

勇者「あ、そうなの?」

戦士「当たり前だ。重要なのは強さであって性別ではない。証拠に今のチャンピオンも女だそうだ」

勇者「へー、そりゃすんごい」

僧侶「文字通り、男顔負けって感じですねぇ~」

戦士「是非! 一度手合わせしてみたい!」キラキラ

魔法使い「戦士がでたら?」

戦士「……そうしたいのはやまやまなんだがなぁ。事前申請が必要で、エントリーまでに一週間もかかるんだよ」

魔法使い「そ、そんなに……」ガックシ

勇者「お前今、杖手に入るかもって期待したろ」

僧侶「やっぱり職業は戦士さんなんですかぁ?」

戦士「いいや……武闘家みたいだ」

【マッスルタウン 路地裏】

武闘家「あちょお~~~っ!! あたっ!!」バキッ

暴漢「ぐぇっ」ドサ

町娘「あ、ありがとうございました。危ないところを……」

武闘家「……ほら。次は気をつけなよ」スッ

町娘「ありがとうございます、ありがとうございます」ペコペコ

武闘家「それじゃ、アタイはこれで」

町娘「あ、あのっ! 質問が、あるんですけど……」

武闘家「ん?」

町娘「現チャンピオンの武闘家さんですよね⁉︎」

武闘家「そうだけど、っ、わぁっ⁉︎」

町娘「ファンなんです! まさかこんなところで会えるなんて、しかも助けてもらって……あぁ、感激ッ!!」

武闘家「あ、あはは~……そ、そう」タジ

町娘「握手してもらっていいですか⁉︎」

武闘家「いいけど……」スッ

町娘「一生洗えない、この手」ギュゥ

武闘家「いや、手は洗いなよ」

町娘「あぁ……」ウットリ

武闘家「うっ……ね、ねぇ、ちょっと、もういいだろ? 手を離してくれない?」

町娘「こ、興奮しすぎちゃって……はぁ、はぁ……」

武闘家「な、なんで息が荒くなるのかなぁ~」

町娘「ぶ、武闘家さん、私、もう……っ!!」

武闘家「ストップ!! それ以上迫ってきたら正拳突きをお見舞いするよ!」

町娘「す、すみません」シュン

武闘家「はぁ……」

老人「これ! こんなところでなにをほっつき歩いてるアル!」

武闘家「し、師匠。助かったぁ」ホッ

老人「道草くってないでいくアルヨ」

武闘家「はい! ただいま!」タタタッ

町娘「武闘家さん、女性なのにさわやかで、ポニーテールが素敵……」

【宿屋 食堂】

勇者「なぁ、いじけるのはよせって。ピオリムなんて使わないだろ?」

魔法使い「付加価値のある杖ってだけでハクがつくんだから!」

勇者「そんな、使わない機能があっても」

魔法使い「全部あんたが悪いのよ! 貧乏なくせに! 貧乏なくせに!」ゲシゲシ

勇者「や、やめてたもれ~」

僧侶「私のゴスペルリングの効果はパーティに適用されますので、このまま進めなくはできなくはないですけどぉ」

戦士「ろくに戦闘をしていない。レベルアップどころの話ではないぞ」

勇者「うっ」

戦士「ダーマに着く頃にはかなり強いモンスター達が闊歩する場所になる。はたしてこのままでいいのやら」

魔法使い「私はイヤよ! なにもできずに死ぬなんて!」

戦士「……勇者はどうなんだ? 戦っているところを見たことがない」

勇者「俺? それなり」

戦士「それなりとは、かなりのは幅がある」

勇者「すまん、正直本気がどこまでかは俺もわからんねーんだ」

魔法使い「……どういう意味?」

勇者「本気だしたことないから、俺」

戦士「それは、なにもしなくてもまわりが倒してくれたとか」

勇者「ああ、いやいや、勝負で苦労したことないの」

戦士「……」ギラッ

勇者「……なぁ、なんか逆鱗踏んだ?」

僧侶「というよりぃ、好奇心にぃ」

戦士「ふ、ふふっ、それは面白いなぁ。これまで城の猛者供と手合わせしていたそうじゃないか? 噂には聞いてるぞ」

勇者「い、いやぁ~。噂って尾ひれがつくもんじゃない?」

戦士「アデル城の戦士長といえば、我が師の同僚だったお方。そのお方とも手合わせをしているはずだよなぁ~」スラッ

勇者「なぜに剣を抜かれる?」

戦士「苦労したことが、ない? ほほう。それはそれは……」ガタッ

勇者「なぁ、僧侶、出店見に行かない?」

僧侶「今はちょっとぉ~」

戦士「おい、勇者ッ……表、でろっ!!」バンッ




【マッスルタウン 宿屋 表通り】

僧侶「二人ともがんばってぇ~!」

魔法使い「(勇者……伝説の。本当に強いのかしら)」

勇者「なぁ~んでこんなことになっとるのかねぇ~」

戦士「剣を抜けッ!!」チャキ

勇者「そろそろ頭冷やせって。俺が本気だしたことないってのはそういう意味じゃない、怠けてただけだっての」

戦士「それなりにと言ったではないか!」

勇者「あー、うん、まぁ、でもそれは俺の中での話だから。全然たいしたことないんだって」

戦士「伝説の存在……ずっと興味があった! いつか手合わせしてみたいと願っていた!!」

勇者「……チッ、またかよ」イラァ

戦士「さぁ、剣を抜け」

勇者「また、“勇者”かよ」

戦士「それとも、私では剣を抜くにすら値しないとでも言うつもりか!」キッ

勇者「……ふぅ」ニコ

戦士「どうした?」

勇者「俺の負けだ。頼む、剣を収めてくれ」

戦士「きさ、ま……っ! それでも男か! 神聖なる決闘を前にして、侮辱する気か!」

村人達「なんだなんだ? 決闘か? いいぞーやれやれぇー!」ガヤガヤ

勇者「なぁ、そんな熱くならなくても」

戦士「私は……っ! 私はこの剣に人生を賭けた! 雨の日も風の日も、オンナを捨て、指のマメが潰れても振り続けたッ!!」

勇者「……」

戦士「その、誇りを……誇りを貴様は侮辱するというのか……?」

武闘家「なんだ……?」

老人「喧嘩アルか? ……む、あやつは」

武闘家「……師匠、知り合いですか?」

老人「面白い見世物にナルヨ。ワシらも見物していくアル」

勇者「はぁ……わかったよ」スラッ

戦士「……恩にきる。一方的な勝負だとは理解してる」

勇者「勘違いしないでほしいんだけど。勇者ってのは、ある一点に優れてるわけじゃないんだ」

戦士「……?」

勇者「なんでもオールマイティーにこなす。戦士みたいな魔法を使えないかわりに、腕力に一点振りしてるではなく」

戦士「それがどうした」

勇者「魔法剣士に特性は近いと思うよ。両立させるという意味では。ピオリム」ポワァ

戦士「むっ……!」

勇者「意味がわかったろ? 自分で自分をサポートできるんだ。スクルト」ポワァ

戦士「くっ、ま、まずい」ダダダッ ブンッ

勇者「全部の呪文をカバーしてるわけじゃ、ないんだけどねっと」ヒョイ

戦士「そっちか!」ブンッ

勇者「あらよっと」ブンッ

――ガキィンッ――

戦士「……くっ」ギリギリ

勇者「ね? タネがわかればしょーもないだろ?」トンッ

戦士「なるほど、たしかに。勇者とやらは便利だな」

勇者「前衛、後衛、どっちでもできるからなぁ。ただ、特化はできないけど」

老人「弟子よ」

武闘家「はい、師匠」

老人「どっちが勝つと予想するアル」

武闘家「五分五分じゃないでしょうか。自魔法サポートは良いですが、自力の勝負で男の方が負けてる気がします」

老人「アイヤー。本気で言うとるアルか」

武闘家「ち、違うんですか?」

老人「お主の目は節穴ネ。あれはただ教えとるダケよ」

武闘家「……」

老人「ワシとオマエみたいな関係ネ。まだ全然ホンキじゃないヨ」

【数分後】

戦士「はぁっ、はぁっ」チャキ

勇者「(そろそろ頃合いか。手を抜いたと悟らせないにも神経使うんだよなぁ。小石につまずいてっと)」ズルっ

戦士「……っ! 勝機っ! くらえっ! ハヤブサ斬り!!」ザシュ ザシュ

勇者「うっ、し、しまっ」カキーーン

老人「わざと剣を手放しおったな」ボソ

武闘家「……」ジィー

戦士「はぁっ、はぁっ、どうだっ!」チャキ

勇者「……まいった。すげーよ」

村人達「おお~! なかなかレベル高い決闘だったぞぉ」パチパチ

僧侶「お二人ともかっこよかったですよぉ~!」パチパチ

魔法使い「(たしかに便利だけど。自力は戦士の方が上ってことか。器用貧乏ね)」

老人「あの負け方はダメアルねー。後々、恨まれるアル」

武闘家「師匠、やはり、私には違いが」

老人「オマエよりも強いヨ。アレ」

武闘家「え、えぇっ⁉︎」

老人「ワシの見立てでは女戦士よりちょっぴり強いぐらいアル。オマエ」

武闘家「そんなことありません! あんなやつすぐに倒せます!」

老人「それがちょっぴり言うテルネ。どんぐりの背比べ。ワシから見たらどっちも弱いシ」

武闘家「……で、では、師匠が強い認める強さとは」

老人「ワシより強くねー? て思うぐらい」

武闘家「……!」ギロッ

老人「ふぉっふぉっふぉっ、一気に闘志が燃えあがたネ。嫉妬したカ」

武闘家「し、失礼しました。でも、あの男、何者……」

戦士「立てるか?」スッ

勇者「お、おう、さんきゅ」

戦士「自魔法サポート。非力な後衛職、力だけの前衛職ではできない戦い方に脱帽した」

勇者「よせやい」

戦士「勇者というだけのことはある。危なかったぞ」

勇者「うんうん、いい汗かいたな」

戦士「あぁ。こんなにもやっていて充実していたのは師匠とやって以来だ。なにやら指導を受けていたようにすら感じる」

勇者「あ、そ、そう」

戦士「……いや、それほどあたしたちの力が拮抗していたのだろう。改めて感謝する」

勇者「もうやめようぜ、さ、メシメシ」

老人「ちと待つアル。ワカモノよ」

戦士「失礼だが、どちらだ?」

老人「ネーちゃんじゃないアル。用があるのはニーちゃんネ」

勇者「じーちゃん、なんだ?」

老人「ちこうよるアル」チョイチョイ

勇者「……?」

老人「もっとアルもっとアル。耳貸すアルよ」

勇者「なんだ? おひねりでもくれんのか?」

老人「お主、手を抜いたロ?」コショ

勇者「……おっとぉ~」

老人「バラされたくなければ、ついてくるヨロシ」

戦士「勇者、どうしたんだ?」

老人「呼ばれている名についても、色々と聞きたいことがあるネ」

【武闘家 家】

老人「話というのは他でもないアル」

武闘家「師匠、お茶をお持ちしました」コト

老人「ワシの弟子と結婚しない?」

武闘家「し、師匠っ⁉︎」バシャアッ

勇者「あっちゃぁっ!!」アタフタ

武闘家「な、なにを言いだすのですか⁉︎」カランカラン

老人「客人におもっくそぶちまけとるけど」

勇者「あつっ!あっつぅっ!」

武闘家「私はまだ修行中です! 先日正拳突きを覚えたばかりではないですか!」バシャア

勇者「おかわりっ⁉︎ ぎゃあっ!」

老人「おい、大丈夫カヨ」

勇者「~~ッ!」ゴロゴロ

武闘家「男なぞ興味ありません!!」

老人「転がってるが」

武闘家「聞いてますか!! 師匠!!」バンッ

老人「落ち着くヨロシ」

武闘家「なぜ、そのような提案を」

老人「子供が強くなりそうネ」

武闘家「それにしても浅はかです! 撤回してください!」

老人「わかた、わかたネ。ドウドウ」

武闘家「……」ブスゥ

老人「して、勇者とやら。オイ」

勇者「~~ッ!」ゴロゴロ、

老人「すまんネ、ワシ、お茶は目一杯暑くするヨ」

【数分後】

老人「落ち着いたカヨ」

勇者「た、たいしたもんだ」

老人「あれに対応するのは難儀ダロヨ。ワシでも無理」

武闘家「……」プイ

老人「話を戻すネ。勇者か?」

勇者「うん、そだよ」

武闘家「……っ!」ジィー

老人「これ。パンダじゃないんだから好奇の視線で見るヨクナイ」

武闘家「あ、すみません、つい」

老人「やりとりだけならば冗談思うヨ。でも、オマエは実力もありそうネ」

勇者「じいちゃんも極めてんな」

老人「マスターと呼ぶイイヨ。若い頃はぶいぶい言わせたもんアル」

勇者「……聞きたいってのはそんだけ?」

老人「明日、コロシアムが開催されるアル。毎日開催してるケド」

勇者「みたいだね」

老人「お前も出場するアル。枠はチャンピオンから口きいてヤル」

勇者「……なんで?」

老人「マク・ドナルドがいいカ? リングネームは」

勇者「なぁ、おい。このじいちゃんボケてんのか?」

武闘家「凄くマイペースなだけ……師匠はこうなったら周りの意見なんか聞かないから」

老人「……どこにやったカ」ゴソゴソ

勇者「うぇ、なんで股間に手を突っ込んでるんだよ」

老人「あったあった」ズポッ ヒラリ

武闘家「そ、それは……!」

老人「光栄に思うヨロシ。ワシが若い頃つけてたマスクよ」

勇者「ずっと入れっぱなしだったのかよ!」

老人「これをかぶって、思う存分ヤッてこい。ほんで決勝で我が弟子をコテンパンにしてほしい」

武闘家「……っ!」

老人「コイツ、最近天狗になってるヨ。こんな街でコロシアムに参加させたのは失敗だた。鼻っ柱を折ってやってほしいネ」

勇者「……えぇ、それかぶんのぉ?」

老人「受けとれ」スッ

勇者「い、イヤすぎるんだけど」

武闘家「私がこいつに負けるとお思いですか!」バンッ

老人「またデタよ。さっきも言うたネ。オマエよりもこっちのニーちゃんの方が全然強い。レベルそのものが違う」

武闘家「……っ!」ギロッ

勇者「なぜに睨まれるんです?」

老人「未熟者の嫉妬ヨ。堪忍するネ」

勇者「いや、それはいいけど。えぇ、俺が出るのぉ?」

老人「さっきの女戦士。真実を知ったら激昂すること間違いナシよ。オマエも問題アル」

勇者「うっ」

老人「ああいうのはコテンパンにやっちまうネ。ありのままの強さを見せることが礼節」

勇者「いや、しかし、立ち直れない可能性も」

老人「今後の人間関係に影響するカ?」

勇者「……」

老人「そうなったらそれまでの関係ヨ。取り繕ったオマエはヒキョウモノに違いナイ」

勇者「ぐぬぬ」

老人「勇者とか全部置いて、一旦忘れるヨ。オマエは明日だけはマスクマンネ」

【宿屋 部屋】

魔法使い「ねぇ、勇者って結局どんくらい強かったの?」

戦士「質問の意図がわかりかねる。見ていただろう?」

魔法使い「うーんと、要するに、魔王と渡り合えると思った?」

戦士「いや、それはどうだろうな」

魔法使い「無理そう?」

戦士「無理とは言ってないが。個人でとなると厳しいだろう」

僧侶「くすくす」

魔法使い「なにがおかしいのよ」

僧侶「強さ議論をしているのがおかしくてぇ~」

魔法使い「どーゆー意味?」

僧侶「彼はそういう次元にいるんじゃないんですよぉ」

戦士「……?」

僧侶「女神様が人間と力比べをなさるはずがありません~」

魔法使い「はぁ、教会特有の信仰心ってやつ」

僧侶「いいえ~真実ですよぉ~」

魔法使い「女神の祝福ねぇ、どういう形で現れるんだろ」

僧侶「勇者さまはありがたぁ~いお方なのですぅ~」シミジミ

戦士「……ふむ」

勇者「ただいま」ギィ

僧侶「おかえりなさいませ~」

戦士「おう、あの老人は何の用だったんだ?」

勇者「明日さ、出発しないことにした」

魔法使い「えっ?」

僧侶「どうして突然~?」

勇者「うん、まぁ、なんていうか、家の修理を頼まれちゃって」

戦士「修理? いきなり他人にそんなものを頼むのか?」

勇者「いや、ほら。俺って手持ちの金が一番少ないだろ? 賃金はずむっていうから引き受けたんだ」

魔法使い「……ふぅ~ん、まぁそれはそうだけど」

勇者「明日は、みんな自由行動でいいよ」

僧侶「ついていってもよろしいですかぁ?」

勇者「いやぁ~それはやめといたがいい。気難しい爺さんだったから。なんでも、オンナが嫌いらしい」

戦士「変わった老人だな」

勇者「そういうわけだから。観光でもしてきてくれよ。な?」

【武闘家 家】

老人「まだ納得してないアルカ。明日になればわかることヨ」

武闘家「あたっ!! ほあっ!!」ビュッ ビュッ

老人「今日はそれぐらいにしとくネ」

武闘家「はぁっ、はぁっ」

老人「……」

武闘家「師匠。ひとつだけ聞かせてください。伝説の存在の勇者、師匠はワシより強い? と疑問系で言ってました」

老人「たしかに」

武闘家「改めて対峙してみて、いかがでしたか。師匠ほどのお人であれば、力量がわかるはず」

老人「引退したとて、格闘家のはしくれ。負けるとは口がサケてもいえないヨ」

武闘家「……では」

老人「今の言葉の中のどこに勝てると言ったカ? 察するネ」

武闘家「……っ! では、師匠の全盛期ならばどうですかっ!」

老人「……イメージがわかない。こんなのハジメてのことヨ」

武闘家「イメージ……?」

老人「ワシが見下ろしてるイメージヨ。倒れているものを」

武闘家「……」ゴクリ

老人「これまで、ゴッドハンドと呼ばれる者と対峙した時でさえ、そのイメージは持てたネ」

武闘家「……伝説に、偽りなしですか」

老人「女神の加護、ありゃバケモン。ヒトでは勝てるもんではない。遠慮なく全力で当たって砕けるヨロシ」

今日はここまで。

すません。レスしようと思ったらアイポン電源が切れました。
俺たちの戦いはこれからだ!でいつでも終わらせられるとだけ。
掘り下げてキレイにまとめて書ききろうと思ったらたぶん800あたりまで行きそうかも。

【翌日 マッスルタウン メインストリート】

――ヒュルルルルゥ~~ ドンドンッ パラララッ――


僧侶「わぁ、花火ですよぉ。昼なのに豪華ですねぇ」

魔法使い「うるさいなぁ。イオ系でも放てばいいのに」

戦士「活気を演出しているんだろう。客寄せだな」パクッ

魔法使い「どこで買ってきたの? しかも、その量」

戦士「んっ? んむっ、んまいぞ。食うか?」

魔法使い「たこ焼きにフランクフルトにイカ焼きに……よく持ちながら食べられるわね」

戦士「食べて減らしているからな!」キラン

受付「エントリーがお済みの方はこちらが入場口になってまーす、番号札を持って順番にお入りくださーい!」

魔法使い「今からはじまるみたいね、コロシアム」

僧侶「実際に見たことはないんですけどぉ、どういうシステムなんですかぁ?」

戦士「予選を突破した者同士の勝ち抜きトーナメント制だ。武器の使用は認められている」

魔法使い「え、それって怪我するんじゃ」

戦士「ありだ。ただし、殺しは即刻牢屋行きになる」

魔法使い「事故とか、ないの?」

戦士「これまでそんな話は聞いたことないよ、あむっ」モグモグ

??「おっと、すま……」ドンッ

戦士「あっ」ポト

??「あ、あれ? お前ら」

戦士「あ~~~っ!! あたしのたこ焼きがぁっ!!」コロ

受付「まもなく番号札の配布を締め切りまーす! まだの方はお急ぎくださぁーい!」

??「す、すまん。先を急ぐので」

僧侶「見慣れない中華服とマスクでしたねぇ。どこかで聞いた声をしていたような……?」

魔法使い「気のせいでしょ。あんなヘンチクリなの知り合いにいないし」

戦士「あ……あ……」ガクン

魔法使い「ちょ、膝ついてやめてよ。みっともない」

戦士「うぅ~。タコちゃん」グスン

僧侶「たこ焼きなら私が買ってあげますからぁ」

戦士「まことか!」パァ

僧侶「ちなみにぃ、コロシアムの観戦料金っておいくらなんでしょぉ~?」

【コロシアム 控え室】

受付「マク・ドナルドさん、いらっしゃいますか?」

マク「あ、はい」

受付「チャンピオンからの推薦というお話なのですが、一応予選は受けていただきますので。こちらが日程になります」パサ

マク「ふむふむ、午前が予選で午後が本戦か」ペラ

受付「そうです。予選は無観客試合となりまして、この先にある広場でグループに分かれて行われます」

マク「天下一武闘会モロパクr」

受付「はい?」

マク「いや、ごほん、なんでもない。割とオーソドックスな形式だからな。うん」

受付「……? 登録される武器はいかがなさいますか?」

マク「武器? 使っていいの?」

受付「当たり前ですよ。職によって得意とする得物がありますし、無手が専門というのならそれでかまいませんが」

マク「怪我大丈夫?」

受付「素人同士ではありませんので。万が一、やりすぎた場合でも、五十人を超える医療スタッフが控えております」

マク「へー。そうなんだ」

受付「どうされます? 武器。なにも持ってきてないんですか?」

マク「うん、てっきり、俺、素手でやるもんだと」

受付「レンタルされますか? 強度に問題はありますが、使えなくはありませんよ」

マク「うーん、レンタルねぇ」チラ

受付「あの、まだ他の方にも聞いてまわらなきゃいけないので」

マク「おねーさんが使ってるそれでいいや」

受付「へ? 私ですか? ……ペンしかもってませんけど」

マク「ペーパーナイフ。貸りるよ」

受付「あ、あのー。やる気、あります?」

マク「ない」キッパリ

受付「……推薦なので、目を瞑りますが、早々に敗退なんてことになったチャンピオンにもペナルティありますので、一応」

マク「なんでよ」

受付「参加希望者は殺到しているからですよ。その貴重な定員枠をひとつ潰すのですから」

マク「めんどくせぇ!」

受付「本当にペーパーナイフでいいんですか?」

マク「はぁ、いいよ。お姉さんの幸運がありそうだし」

受付「……きっしょ」ボソ

マク「聞こえるようにボソって言うのやめていただけるかな⁉︎」

受付「わかりました。それでは、マク・ドナルドさんはペーパーナイフということで」カキカキ

レスですよレスw

【予選広場 グループD】

マク「おー、いるいる」

司会「みなさーん! ご静粛に! ご静粛にー! こちらに注目してくださーい!」バンバン

マク「なんだ?」

司会「これよりぃ、グループ毎に別れて乱戦を行なっていただきまーす! 勝敗はシンプルに最後の一人が本戦出場です! 人数多いのでお願いしまーす!」

参加者達「もうはじめちまっていいのかぁ?」

司会「レフェリーは本戦までいませーん! どうせみなさんのほとんどが雑魚ですしー!」

参加者達「なんだとコラ!」

司会「かませ犬はぱっぱっとやられちゃってくださーい!」

参加者達「……」

烈海王「私は一向にかまわんッ!」

マク「えっ? おっ、おい」

烈海王「私は一向にかまわんっ!!」

マク「司会! 司会の人! どう見てもここにいちゃいけない人がいるよ! 勝てる気しない人が混ざってるよ!」

司会「さぁ、どうぞー! はじめちゃってくださーい!」カーンッ

マク「……」ゴクリ

烈海王「……こぉ~」

マク「あ、あのぅ~。あなた、海王ですよね? でちゃいけませんよね?」

烈海王「邪ッー!! 言葉は要らぬッ!!」ズザッ

マク「うおっ!」ヒョイ

烈海王「女々しくも喋るかァッッ!!」クワッ

マク「ひ、ひぃっ! こいつとやれよ! チャンピオン! ていうか、ふざけるじゃ……!」

烈海王「む……」ピタッ

マク「……?」

烈海王「しまった、闘技場を間違えていたか」

マク「あんたが行くのは地下だよ! ここじゃねぇよ!」

烈海王「失礼する」スタスタ

マク「……か、勘弁してくれよ」タラ~

【コロシアム 観客席】

僧侶「すごい人だかりですねぇ。何人ぐらいいるんでしょう」

戦士「見た所、あむっ、三千人ぐらいじゃないか」

僧侶「大きな建物だったんですねぇ」

魔法使い「外から見る分にはガワだけだしね。収容人数はそんなに入るんだ」

老人「おろ、お主は」

戦士「……? お、昨日のご老人ではないか」

魔法使い「勇者が家の修理にっていってた人?」

僧侶「主人がいつもお世話になっておりますぅ~」

魔法使い「いつ結婚したんだ、あんたらは!」

老人「そうカ。そういう話になってるカ。つったっとら邪魔ヨ。座るヨロシ」

魔法使い「いいんですか?」

老人「む?」

僧侶「女性が苦手なのではぁ~?」

老人「なに寝ぼけたこといってるカ。若い頃は日替わりでとっかえひっかえネ」

戦士「それはどうかと思うが……勇者は」

老人「細かいことはいいネ。デモンストレーションはじまるヨ」

司会「皆さまぁ! お待たせいたしましたぁ! 現っ! チャンピオン! 女武闘家さんの入場でぇぇーーすっ!!」

武闘家「……」スッ

観客「おおーっ! 出てきたぞぉーー!」

観客「きゃーーっ! チャンピオーーン!」

司会「初壇上から負け知らず! 並み居る猛者をばったばったと倒して気がつけばチャンピオン! そう! 私こそがチャンピオン! 好きなものはぬいぐるみと乙女チックだー!!」

武闘家「ちょっ」アタフタ

司会「ただいま予選を行なっておりまして、この後、本戦へと進みますがまだ少々お時間がございます。その間、チャンピオンに一戦してもらおうぜー!!」

観客達「オォーーッ」ガヤガヤ

僧侶「耳がキーンってしますねぇ」

戦士「チャンピオンは目玉だからな」

老人「まったく、勘違いしすぎヨ」

魔法使い「勘違い?」

老人「観客達に言うてナイネ。言うてるのはあのバカ弟子ヨ」クィ

武闘家「……」ペコリ

老人「声援なんぞに応えおってからに。なにしにきたのか本分を忘れてるアル」

戦士「弟子とは……? ご老人、あなたの弟子なのか?」

老人「そうヨ。不甲斐ない弟子を持って穴に引きこもりたい気持ちネ」

僧侶「わぁ、じゃあ、お爺さんも強いんですかぁ?」

老人「当たり前ヨ。強さなんてのは――」

観客「キャーーッ! キラーパンサーよーー!」

魔法使い「キラーパンサー⁉︎ 大人の⁉︎」ガタッ

キラーパンサー「グルルッ」ズザッ

武闘家「すぅ~……はぁ~……」キッ

戦士「なるほど、デモンストレーションとはこのことか」

老人「バカバカしいヨ」

魔法使い「戦士だったら勝てそう?」

戦士「勝てないことはないだろうが、簡単にとはいかない――」

武闘家「哈っ(はっ)!!」パァンッ

キラーパンサー「ギャウッ⁉︎?」ドンッ ドサッ

僧侶「壁に叩きつけていっぱつ……ワンパンってやつですねぇ」

観客「うおおおおおおっ!! 強えっ!! お前こそがチャンピオンだ!」

戦士「……」

魔法使い「戦士より、あのチャンピオンって強いみたいね……」

老人「昨日の戦いぶりを見させてもらたアル」

戦士「ん? あたしか?」

老人「潜在能力ならうちの弟子とどっこいね。武闘家志望なら弟子にとってたが、生憎と剣士のようだシ」

戦士「あたしは、ちゃんと尊敬する師がいるよ」

老人「研鑽を忘れないように。光るモノはオマエももってるゲド、使わなければサビついてしまう」

戦士「ご忠告、覚えておこう」

老人「弟子といいライバルになりそうでなによりネ」

魔法使い「勇者じゃライバルってわけにはいかないもんねぇ」

戦士「あいつとも実力は近いよ。そうだ、今度定期的にやるか誘ってみるか」

老人「……やめとくアル」

戦士「……?」

魔法使い「おじいさん、やめるってなんで?」

老人「あいつとやったって稽古にならないヨ」

僧侶「あっ、帰っていくみたいですよぉ~」

武闘家「……」フリフリ ペコリ

観客達「チャンピオン! チャンピオン! チャンピオン!」

【予選広場 グループD】

マク「――チキンナゲット5ピース拳っ!」ドンッ

ならず者「ぐえっ」ドサッ

司会「おっ! グループDは今ので最後ですねー! ……えぇ~とぉ、マク・ドナルドさん本戦進出けってーい!」カーンッ

マク「ふぅ、やれやれ。異文化コミュニケーションした時はどうなることかと思ったが」

武闘家「……」スッ

マク「おっ、よぉ」

武闘家「素手でやってるの?」

マク「ん? うん、まぁ」

武闘家「師匠はああ言ってるけど、アタイ、信じられない」

マク「いいんじゃないか、それで。言われてもわかるもんじゃないだろ」

武闘家「それは、体験させるって言いたいの?」

マク「なんでそう物事を……斜に構えてとらえるんですかねぇ」

武闘家「本気じゃないから」

マク「む?」

武闘家「苦労した人にはね、ムカつくのよ。あなたみたいな人」

マク「……」

武闘家「アタイだって、昔から才能があると言われつづけてきた。でも、師匠に出会い、天賦の才に奢っていたのは自分だと気がついた。……そして努力するようになった」

マク「……」

武闘家「――あんた、努力したことないだろ」

マク「んー」ポリポリ

武闘家「師匠は今のアタイが気にいらないんだ。鼻を折るつもりだろうけど」

マク「そう言ってたなぁ」

武闘家「これはチャンス! 師匠にアタイの努力を見てもらうための! ……積み重ねてるものを……!」

マク「なぁるほど」

武闘家「勇者だかなんだか知らないけど、踏み台になってもらう。……じゃ」クルッ スタスタ

マク「……勇者と思わない、か。嫌いじゃないねぇ。ああいうの」

【コロシアム 観客席】

司会「れでぃぃぃすあんどじぇんとるめーーん! いよいよ本戦の開幕デーーーースっ!!!」

観客達「おおおおおぉぉぉーーっ!!!」

司会「十連続防衛中のチャンピオンの牙城を崩すやつはどいつだ! はたまた今回も防衛して破竹の新記録をたっせいするのかぁーーーっ! 無謀な挑戦者たちはぁ、こいつらだぁーーーっ!!」

僧侶「いよいよ本戦みたいですねぇー」

戦士「やはりこの空気はビリビリとくるものがある」

老人「口上で誤魔化してるダケヨ」

魔法使い「あっ、出てきた」

老人「さて、どこにおるアルカ」キョロキョロ

僧侶「チャンピオンの他にも知り合いがいらっしゃるんですかぁ?」

老人「今回の本命ヨ」

戦士「本命とは? 普通、弟子だろう?」

老人「ワシの弟子は負けるネ。ネタバラシて悪いけど確定ヨ」

魔法使い「えっ」

マク「……」スタスタ

老人「うんうん、ちゃんと勝ち進んでいるアルな」

僧侶「あのお方は~……」

魔法使い「コロシアムの外で戦士とぶつかったやつじゃなかった」

戦士「あたしはたこ焼きしか見てなかった」

僧侶「くすくす。花より団子ですねぇ」

老人「女戦士よ」

戦士「なんだ?」

老人「アレをよく見ておくよろし。一挙一動、目を離さずに」

戦士「……?」ジィー

老人「勉強にはならないダロけど、気がつくものがあるカモしれないネ」

僧侶「と、いうことはぁ……あの選手が本命さんですかぁ?」

老人「台風の目といっても過言ではないヨ」

魔法使い「べ、べた褒めね」

老人「当たり前ヨ。強者たるもの、自分より強い者を褒めんと、なにを褒めるノヨ」

戦士「なに……?」

老人「独り言ヨ。聞き流すよろし」

【一回戦 マクvsナルシストな優男】

マク「んーとぉ、決勝までは三回勝たなきゃいけないわけか。チャンピオンってその間待つだけなの?」

優男「ふっ。貴様も運がないやつだ!」ビシィ

マク「運はないと思う、たしかに」

優男「一回戦からこのオレに当たってしまうとは……だが、情けはしないよ。なぜなら、女たちが悲しんでしまうから……」

マク「……」

優男「かっこよすぎるオレの罪……あぁっ! マーベラスッ!!」

レフェリー「間もなく試合が開始される。準備はいいか?」

マク「ああ」

優男「いつでも」

レフェリー「よし。まず、殺しはご法度だ。このルールだけは守れよ。じゃないと牢屋行きだからな」

優男「心得ているよ。そうなったら女たちが」

レフェリー「話を続ける。尚、この説明は一回戦のみとする、あとは割愛するからそのつもりで」

優男「彼には必要なかったろう」

マク「了解だ」

レフェリー「双方、立ち位置につけ」

優男「5秒で屠ってあげよう。せめてもの情けだ」ザッザッ

マク「……」ザッザッ

レフェリー「よし、位置についたな。……オーケーだ! ゴングを!」フリフリ

司会「一回戦の準備が整ったようです! キザな優男さんは前回の準々決勝で惜しくも敗れました! 今回は前回よりも高みを目指せるか! 注目の選手です!!」

観客「優男さーーーんっ!!」

優男「ふっ」キラン

司会「対するは、マク・ドナルド選手! チャイニーズの装いでマスクをかぶるというなんともあべこべな出で立ちですか実力やいかに!!」

マク「(……だりぃ)」

司会「それでは、レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

優男「……さぁ、このレイピアの餌食となるか?」ジリ

マク「5秒じゃなかったのかよ。さっさとこいよ」ダラー

優男「むっ、武器は無手か? クローもないのか?」

マク「ああ、これ」スッ

優男「なんだね、それは」

マク「ペーパーナイフ」

優男「ほ、ほう……」ヒクヒク

マク「ほれ」スッ

優男「なにをしているんだね……?」

マク「構えた」プラプラ

優男「ふ、ふっふっふっ、なぜ貴様のようなやつが本戦に」

マク「はよこい」

優男「よかろうッ! 医務室で後悔するがいい!!」ダンッ ダダダッ

マク「バリューセット」スッ

優男「……っ⁉︎」

マク「てりやき三段突きっ!!」ドンドンドンッ

優男「なっ、はやっ……ッ⁉︎ がはっ!!」ドサァ

マク「おっちゃん。医務室に連れてってやれ」クルッ

レフェリー「おっ、お、えっ?」

司会「おーーっとぉ!! どうしたことだこれはぁ!! 優男選手が向うもあえなく返り討ちぃーー!! 倒れてしまったーー!」

優男「」

レフェリー「泡ふいてる。だめだな、こりゃ」フリフリ

司会「あーーっとぉ! レフェリーが腕を交差したぁ! けっちゃーーくっ! なんともあっけない幕切れ!! マク・ドナルド選手の圧勝だぁーーっ!!!」

【観客席】

戦士「……」ジィー

老人「どうネ。理解できたカ?」

魔法使い「あの相手が弱かっただけじゃないの?」

老人「弱いヨ」

魔法使い「な、なんじゃそりゃ」ズル

老人「というか、この大会自体出てるやつみんな弱いネ。ワシから言わせれば。その中で順位競ってるカラ、滑稽なのヨ」

戦士「たしかに、はやかったが」

老人「情報量が少なすぎタカ」

僧侶「あの、でもぉ、準々決勝ならそれなりだったんじゃぁ」

老人「他と比べて普通ぐらいカヨ。次いってミヨ」

魔法使い「それにしても、だるそーにしてたわね。あのマク・ドナルドって人」

老人「かっかっかっ! そらそうよ! 遊び相手にもならんモノ」

僧侶「……でもぉ、どこかで見たことがあるようなぁ~」

【準々決勝 マクvsおかっぱの女】

マク「女かよ」

おかっぱ「……オトコ、男、むおおおおおっ!」ムキムキ

マク「訂正、女じゃなかったわ」

司会「おかっぱの女選手は前回の決勝進出選手なので、シード扱いとなります。よってぇ! 準々決勝はぁ、このカードだぁー!」

マク「シードなんてあったのか。んー、あ、表をよく見ると武闘家は反対側から勝ち進んでるのね」

おかっぱ「おとこおおお、おとこおおおおっ!!」

マク「別の意味で身の危険を感じる」

司会「マク・ドナルド選手は初出場ながらも、初戦は見事な勝利をおさめました! その実力はホンモノなのか! レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「おわかりいただけるだろうか」

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「身長2メートル、体重100キロを超そうな体躯をした女が向かってくる恐怖を」

おかっぱ「ぎぁあああおっ」

マク「恐竜のような雄叫びをあげている様を」

おかっぱ「どっせえぇいっ!!」ブンッ

マク「おっ」ドンッ

司会「おかっぱ選手の張り手がマク選手にクリーンヒットォ!! 直撃だぁーーっ!!!」

マク「……シャオリーです」タンッ

司会「しかーし! なにごともなかったかのようにしているぅー!」

マク「また海王でてきたらこわいからここまでにしとくか。ほら、こいよ」クイクイ

おかっぱ「おとこおおおおおおっ!!」ズンズンッ

【観客席】

魔法使い「なんか飽きてきた」

老人「オマエ魔法職。なら、見ていて楽しいモンではないヨ」

魔法使い「賭ければよかったかな。戦士、誰かに賭けてる?」

戦士「……」ジィー

魔法使い「って、聞いちゃいないか」

僧侶「私は賭けましたよぉ~」

魔法使い「いつ? ていうか、ほんと抜け目ないわよねぇ」

僧侶「魔法使いさんがヌケサクなんですよぉ~」

魔法使い「そ、そう……! ケンカ売ってるわけね?」

僧侶「誰に賭けたか気になりませんかぁ?」

魔法使い「聞いてほしいなら素直に……誰よ」

僧侶「マク・ドナルド選手ですぅ~」

魔法使い「へー、おじいさんの話がホントなら優勝するんでしょ? よかったじゃない」

僧侶「はい~。初出場ということもあってぇ、オッズは150倍でしたぁ」

魔法使い「大穴ね。いくらかけたの?」

僧侶「全財産です~」

魔法使い「ぜっ……や、やるわね。でも、もし負けたら返ってこないわよ?」

僧侶「第六感を信じようと思いましてぇ」

魔法使い「まぁ、あんたのお金だからいいけど」

僧侶「魔法使いさんのお財布もですよぉ~」

魔法使い「……えっ」

僧侶「さっき、席を外した時に麻袋から持っていきましたぁ」

魔法使い「ちょ、ちょっと~、タチの悪い冗談やめてよー……」ゴソゴソ

僧侶「……」ニコニコ

魔法使い「な、ないっ! ない! うそ⁉︎」ブンブン

僧侶「ですからぁ~」

魔法使い「僧侶っ! あんた⁉︎」

僧侶「みんなでマクさんを応援しましょ~」ニコニコ

老人「やるアルネ。オマエ」

今日はここまで。意外に進まない

キリのいいところまで書いてしまいます

【決勝 マクvs女武闘家】

司会「青コーナー! 連戦無敗のチャンピオン! 女武闘家ぁー!」

観客「チャンピオン! 頑張れよー!」

武闘家「谢谢(シエシエ)」ペコ

司会「迎えるは準々決勝、準決勝と危なげなく勝ち進んできた謎のチャレンジジャー! マク・ドナルドだぁー!」

観客「なんかようわからんが頑張れー!」

マク「適当な応援ありがとよ!」

魔法使い「勝て! 死にものぐるいで勝ちなさい!」

マク「あ? なんか聞き覚えのある声がまじってたような」

武闘家「……疲れてないか?」

マク「疲れてたら手加減してくれんの?」

武闘家「冗談。そんなふざけた雰囲気はここでおしまい」

マク「えぇー、やだなー。もっとふざけたいのにー」

武闘家「うざっ」

マク「すみません」

武闘家「……すぅ~……はぁ~……」

マク「それってなんか統一法だったりすんの? 発勁とか?」

武闘家「気が散る」

マク「はい」

司会「泣いても笑ってもこの一戦で今日はフィナーレです! ではぁ、試合、開始ィッ!!」カーン

武闘家「……ひとつ、聞きたい」

マク「なんだね?」

武闘家「強いって、どんな気持ち?」

マク「……」

武闘家「アタイに見えない景色が見えてるんだろ?」

マク「つまんないよ。なにもかも」

武闘家「どうして? 強ければ嬉しくないの?」

マク「ノーテンキに構えてりゃそうかもしんないけどな。俺ってこう見えて繊細なの」

武闘家「……見えないけど」

マク「こう見えてって言ったろ」

武闘家「師匠の言う通り、最初から全力でいこうと思う」

マク「どーぞ」

武闘家「……」ゴゴゴッ

マク「(力溜めてんのか)」

【観客席】

魔法使い「やれ! 殺っちゃえー!」

僧侶「くすくす。熱中してなによりですー」

戦士「女武闘家の雰囲気が変わった。最初からフルでやるつもりか」

老人「いい心構えネ。小細工は不要よ」

戦士「あのマク選手。たしかに強い。これまでの危なげなく勝利した戦いを見ても、そう思う」

老人「……」

戦士「ご老人。しかしだな、あたしはたぶん女武闘家が」

老人「それは合わせてただけよ」

戦士「……なに? 合わせる?」

老人「マクは相手の強さに合わせる。手を抜くのに慣れすぎてるネ。かわいそうな男ヨ……これまでそうしてきたんだロウ」

戦士「手を、抜く?」

老人「つまり、相手が子供だたら自分も子供レベルまで弱くするヨ。優しいんだろネ」

僧侶「……」

老人「だがしかし、それは武に生きる者にとっては、これ以上ない愚弄ヨ」

魔法使い「いけーっ! 今が隙だらけなんだから攻撃するのよー!」

戦士「では、武闘家の強さにも合わせるということか?」

老人「そうであれば、救えないネ。でも、ちゃんと事前にコテンパンするよう言ってあるから大丈夫ダロ」

僧侶「おじいさん、あの人って、やっぱり……」

老人「そろそろ体内の気を練り終わる」

【広場】

武闘家「……ッ」キッ

マク「かもん」クイクイ

武闘家「あちょぉ~~~~ッ!! 二段蹴りッ!!」ダンッ

マク「甘い……!」スッ

武闘家「まだまだっ!! 回転脚ッ!!」ガンッ

マク「おっ、おっ」スッ スッ

武闘家「はぁぁ~~~ッ!! 正拳突きっ!!」バァンッ

マク「うっ」ズザザ

司会「流れるような女武闘家選手の攻撃がマクを選手を襲うー! そしてとどめの正拳突きがクリーンヒットォーー!」

武闘家「……」スッ

マク「いてて。直線的な動きとはいえ、食らうといてぇな」

武闘家「まじめにやれ」

マク「やってるよ」

武闘家「ふざけるなっ!!」ダンッ

マク「いやー、本気でやろうとしてるんだけど、どうやるのか忘れちゃっててね」

武闘家「……そうか、なら思い出せるのからはじめないといけないのか」

マク「うーん、でもまぁ、ちょこっとならいいよ」

武闘家「……」ピク

マク「出し惜しみしてるわけじゃないんだけどな。爺さんがうるさそうだし、本気、見せてやるよ」

武闘家「面白い……! 伝説の存在の力! 見せてみろ!」

マク「んじゃ手始めに」ブンッ バンッ

司会「な、なんだー⁉︎ どうしたマク選手! いきなり地面を殴ったーー!!」

武闘家「……?」

司会「これは降参ですという合図なのかーー⁉︎」

ゴゴゴッ ゴゴゴゴゴゴッ メキメキ

武闘家「な……そんな、まさか……」

マク「地割れって、知ってる?」

司会「な、なななっ! マク選手が殴ったところから大地が割れたーー! きゃあっ⁉︎」ガラガラッ

ゴゴゴッ ゴゴゴォッ

マク「さらに、もう一発」ブン バンッ

ゴォォオーッ

武闘家「ま、まずいっ!」ダンッ

【観客席】

老人「アイヤー、本気でやれ言うたけど誰が見せろ言うたネ。この建物壊す気かあのボケ」

戦士「な、なんだこれは。どうなってる!」

魔法使い「じ、じじじ地震?」

僧侶「あらあらぁ」

老人「イヨイヨなったらワシが止めにはいるヨ。オマエら逃げる準備しとけ」

魔法使い「だ、だだただ大丈夫なの? これ」

老人「無問題」

魔法使い「な、何者よ! あのマクとかいうやつ!」

老人「それは後で本人に聞いてみるがよいよ」

戦士「……っ! こ、こんな力、人間か⁉︎ 」

武闘家「……くっ」

マク「なんでもさ、魔王ってのはいくつも障壁もってるらしいんだよね」

武闘家「だ、大地を割るなんて……」

マク「だからなのかもしれんけど、俺ってばその何層かの膜を打ち破るパワァーがあるみたいなのよ」

武闘家「……っ」ゴクリ

マク「地割れなんてさ、ほんの見せかけだけ。派手だけどな。どうする? もうやめる?」

武闘家「……や、やめられるものか……」

マク「そうだよな。ひっこみつかないよな」

武闘家「い、いくぞっ! 正拳突きっ!!」ダンッ ブンッ

マク「っと」パシッ

武闘家「つ、掴んだっ⁉︎」

マク「正拳突きって直線的すぎるから、当たった時はダメージでかいけど命中率はそんな高くないよ。予測しやすいし」

武闘家「くっ、離せ」ブンッ

マク「はい」パシッ

武闘家「あっ、りょ、両手を。ならば、蹴りで」

マク「……」ギュゥッ

武闘家「いっ⁉︎」ガクンッ

マク「動作を殺すのは、痛覚が一番なんだよ。拳を握られた痛みで、足がでなくなったろ」ギリギリ

武闘家「うっ、く、くぅっ」

マク「でも俺の足はあいてるんだな、これが。女の腹蹴るのは気がひけるから、胸にしとく。いいか、今から胸のあたりを蹴るからな」スッ ブンッ

武闘家「……っ! きゃあっ!!」ドゴーーン

司会「女武闘家選手、壁まで一直線に吹っ飛んだーーっ!! 凄まじい蹴りです!! 単なる蹴りなのでしょーか!」

マク「レフェリーのおっちゃん、隠れてないで出てきて」

レフェリー「ひっ」

マク「毎回悪いんだけど、医務室に連れてかないと」

レフェリー「あっ! だ、大丈夫か⁉︎」

武闘家「」パラパラ

レフェリー「おい、 医務班! 医務班!」

観客達「マジかよ」ザワザワ

司会「えっ? お、終わり?」

【観客席】

老人「一時はどうなることかおもたけど、おわたカヨ。コテンパンにするどころか、ってないネ」

戦士「ご老人!! あれはどういう知り合いだ!!」

老人「まぁ、弱いのは自覚できたろうから良しとスルか」

魔法使い「あ、あんなの、マクがいれば、魔王城付近のモンスターとも渡りあえるんじゃないの……?」

老人「あれでもちょっこっとしか見せてないと思うヨ」

戦士「な、なに? ちょこっと?」

老人「そうヨ。普段を0.1としたら0.5ぐらい?」

魔法使い「それって、1が上限?」

老人「100が上限に決まってるダロ。1だったらたいしたことなくなる」

魔法使い「い、今ので? 補助魔法かけてない状態よ? ……アレフガルド、滅ぼされちゃうんじゃないの……」

老人「大袈裟な。こっち側の人間なんだからいいヨ」

僧侶「これで、賭け金ゲットですねぇ~」ニコニコ

ちと駆け足ですがここまで。

一昔前のなろう小説のような気持ち悪さ

勇者SSとしては結構王道路線なんですけどねw
勇者TUEEE演出するにあたりワンパターンでひっぱりすぎたのが悪かったかなと少し思います
いきなり路線変更しても話がぶっこわれてしまうんでこのままもう少し続きます

【医務室】

武闘家「うっ……」ムク

勇者「目が覚めたか」

武闘家「……そうか、蹴り一発で気を失ってしまったのか……」ポフン

勇者「ちゃんと鍛えてたお陰だろ。気絶で済んだのは」

武闘家「勝者が敗者に……!」ググッ

勇者「悪かった。それじゃ、俺は行くよ」

老人「待つアル」スッ

勇者「じーちゃん」

老人「たかだか一回の敗戦で、なにをイキってるネ」

武闘家「し、師匠」

老人「悔しいカ?」

武闘家「まだ、実感が……」

老人「そうダロよ。何度か寝て起きたらじんわりと負けという事実がのしかかってくるアル」

武闘家「……」

老人「あの時こうしておけばよかた、もっとできたはず……そして、その先にアルものは、自信の喪失ヨ」

武闘家「アタイは……」

老人「オマエが積み重ねてきた拳は、なんのタメにあるのヨ」

武闘家「なんの、ため」

老人「楽しくないとつらい修行はやってられないヨ。オマエ、ドMか?」

武闘家「そ、そんなわけっ、ないじゃないですか……」

老人「成長、変化が楽しく。たまにうまくいった時が気持ちイイからダロヨ」

武闘家「は、はい……」

老人「見世物小屋に長居しすぎたヨ。ワシも悪かったアル」

武闘家「いえ、そんな、アタイが未熟なせいで」

老人「謙虚さがあるならまだ取り戻せる。学ぶ姿勢はイツだって、傲慢とはかけ離れてイル」

武闘家「はい」シュン

老人「勇者よ。マスクかぶってちとついてくるアル」

勇者「お、おう。だけど、ついておかなくていいのか」

老人「ヒナはヒナなりに考える時間が必要ネ。ほっとくよろし」クルッ スタスタ

【通路】

マク「なぁ、じーちゃん、本当にほっといてよかったのか」

老人「オマエ、過保護すぎよ。優しさを履き違えるの、よくないアル」

マク「いや、そうだけど」

老人「負け癖がつくのがよくないだけで、負けは変わるきっかけに他ならないノヨ。弟子をありがとうアル」ペコ

マク「やめてくれよ。俺は、自分のしたかったことをしただけで」

老人「本当にソウか?」

マク「ただの自己満だよ」

老人「ならば、なぜこんなところにイル。女戦士にどう思われようといいダロ? 惚れてるカ?」

マク「そういうんじゃ、ねえけど」

老人「マゴマゴしてないでやりたいように生きればいいアル。オマエは“勇者”に縛られてるんダロ」

マク「……」

老人「人々の勇者に対する期待、羨望のまなざし。いつだってそれに晒されて生きてきた。ガラスの家に住んでいた気分だったロヨ」

マク「そんなたいしたもんでは」

老人「いつしか、心は壊れてしまうネ。勇者という肩書きと、本来の己との乖離のハザマで」

僧侶「あっ、おじいさ~ん!」フリフリ

マク「いっ⁉︎」ギョ

魔法使い「マクってやつもいる!」

老人「ここに集まるアル」

マク「ちょ」サッ

僧侶「初めましてぇ~。マク選手すっごくかっこよかったですよぉ~」

魔法使い「ねえねえ、私たちのパーティに入らない? マクさんがいれば百人力って感じだし! ね! 戦士もそう思うわよね?」

戦士「あ、ああ」

僧侶「無口なんですねぇ~?」

老人「やれやれ。こいつはまだ修行中の身。喋ることを禁じられてるアル」

戦士「そうなのか? そういえば、聞いたことがある、モンクというんだったか?」

老人「この男の肉体的強さは、先ほど見たとおり折り紙つきヨ。しかしアル。心と精神はまだまだネ」

魔法使い「別にいーんじゃない? あんだけ強ければ」

老人「諸刃の剣ヨ。アンバランスな均衡は、時に自分を追い詰めてしまうモノ」

僧侶「……」

老人「マクの代わりに提案があるアル」

戦士「提案? なんだ?」

老人「我が弟子を連れてくヨロシ」

魔法使い「えっ、弟子って、チャンピオン⁉︎」

老人「そんな肩書きはもう失ったヨ。こいつに負けてナ。しがないひとりの武闘家ネ」

僧侶「勇者さまに聞いてみないとぉ~」

老人「……その必要はないよ。マク、どう思うネ?」

マク「……っ!」

老人「ワシも策士ダロ? クビを縦にふるか横にふるかで答えるヨ。そうしなかった場合は――」

マク「~~ッ!」コクコクコク

老人「決まりアル。勇者とやらにはワシの家の修理が終わったら、伝えておいてヤル」

魔法使い「なんで……マクに聞いたら……」

戦士「おっけーなんだ?」

【夜 宿屋 食堂】

魔法使い「それでさぁ、マクが地面殴ったとおもったらメキメキメキィッて亀裂がはしったのよ! 信じられる⁉︎ 大地を割ったの!」

勇者「はいはい」

魔法使い「やがて亀裂が壁にまで到達してさ! 地震かと思っちゃった!」

僧侶「くすくす。魔法使いさん、すっかりマク選手のファンですねぇ」

戦士「いや、しかし、たいしたものだ。どうすればあそこまで極められるのか」

魔法使い「戦いたいとか言い出す?」

戦士「……やめとくよ。差がありすぎてな。なにもできずに終わってしまう」

魔法使い「あっちが勇者だったら信憑性あるのになぁ~。もうほんと凄かったんだから!」

勇者「……そうですか。今日の給料。100ゴールド」ジャラ

魔法使い「あ、そうそう。お爺さんに会ったわよ。全然女嫌いじゃなかった」

勇者「あ、そ、そう?」

魔法使い「勇者って見る目ないわね」

僧侶「それはどちらがでしょうねぇ」ニコニコ

魔法使い「サインもらっておけばよかったかなぁ~」

戦士「握手、してもらえばよかったかな」ボソ

魔法使い「意外ね。戦士もそういうこと思うんだ」

戦士「ひ、独り言だ」

僧侶「灯台下暗し、ですよぉ~」

勇者「……」ハラハラ

僧侶「本当にお二人は、ヌケサクさんですねぇ」ニコニコ

【その頃 武闘家の家】

老人「勇者についてって、見聞を広げるアル」

武闘家「ですが……! アタイはまだ師匠の元で」

老人「子供に旅をさせるのは良いことヨ。ワシも老いたネ。一緒にいくには」

武闘家「……っ!」ギュウ

老人「世界を見てまわり、己の目と耳で見聞を広げヨ。殻の世界に閉じこもるのはここまでにするアル」

武闘家「し、師匠」

老人「いつまでヒナのつもりでイルネ。オマエも自分で判断できる歳ダロヨ」

武闘家「……うっ、ぐすっ、アタイを、見捨てられるのですか……っ」ポロポロ

老人「オマエは優秀な弟子ヨ。この世でただひとり、ワシが才能に惚れこんだのは」

武闘家「……」シュン

老人「ワシが教えられることにも限界がアルヨ。成長する姿を見せることに自信がないノカ?」

武闘家「……」

老人「子の成長はいつだって嬉しいもの。血の繋がりはナイが、それまでは長生きしておいやるアル」

武闘家「師匠……!」ゴシゴシ

老人「行ってくるアル。……結婚したら生まれてくる子供は、ぜひ、ワシの弟子に」

武闘家「別れの場面でふざけないでください!」

老人「いや、本気」

武闘家「なおさら問題です!! 怒りますよ!」

老人「しかし、オマエ、この世界はわりと婚姻ハヤいから、行き遅れなんてあっというま……」

武闘家「あちょお~~~っ」スッ

老人「ま、待つアル! わかたわかた! ドウドウ」アタフタ

武闘家「……はぁ、男には、興味ありません」

老人「人の縁(えにし)とは、わからないモノよ」

【翌日 マッスルタウン 出口】

魔法使い「あ~、今日もマクさん試合するのかなぁ」

戦士「ディフェンディングチャンピオンだからな。当然だろう」

勇者「……」

僧侶「くすくす」

魔法使い「見に行きたいなぁ」チラ

勇者「だめだ。昨日は予定外に道草くっちまったんだから」

魔法使い「ケチ。男の嫉妬ってみっともないわよ」

戦士「勇者も鍛錬すればまだまだ伸びると思うぞ」

魔法使い「そういうんじゃなくて! 圧倒的なのに惹かれるんじゃな~い! 完成形の魅力ってやつ?」

僧侶「育てるのも女の嗜みだと思いますけどぉ」

魔法使い「可愛げがあればいいけどねぇ、こいつじゃ」チラ

勇者「なんだよ」

魔法使い「……」ジトォー

勇者「そんなに目を細くして。ゴミでもはいったのか? 近眼?」

魔法使い「……はぁ」ガックシ

老人「おい、お主たち」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

戦士「ご老体、その馬車は」

老人「これまで賞金を溜め込んでたカラナ。旅の選別ヨ。仲間が増えれば馬車はつきものダロ? まだ増えるかもわからんシ」

魔法使い「くれるの⁉︎」

老人「それと、ほれ」ポイッ

魔法使い「わっ⁉︎」ワタワタ

老人「アイヤー。そんなものも受け取れない反射神経カヨ」

魔法使い「魔法職なんだからいいでしょ! ……あれ、これって」

老人「イーリスの杖ヨ。昨日、マクから渡しておいてもらうように頼まれたネ」

魔法使い「えっ⁉︎」

戦士「ほう、なかなかに粋な計らいを」

魔法使い「で、でもっ、私、ちょっと会っただけなのに」

老人「受け取るヨロシ。それがあいつも望んでおるコトネ」チラ

勇者「ご、ごほんっ!」

魔法使い「そ、そんな……私、お礼を言ってこなくちゃ」ギュウ

老人「マクならもういなくナタヨ」

魔法使い「えっ、そ、そうなの?」

戦士「チャンピオンなのにか?」

老人「すぐに返上したらしいヨ。運営は嘆いていたが、今日にも新しいチャンピオンは決まるアルネ」

戦士「いったい、どこに……」

老人「弟子よ!! いつまで荷台に引きこもってるアルか! 出てきて挨拶するアル!!」クワッ

勇者「……おい、じいちゃん」

老人「黙るアル。最後の指導に口を挟むの良くない」

武闘家「……」スッ タンッ

魔法使い「あ、元チャンピオン」

武闘家「お初にお目にかかります。よろしく」プイ

戦士「な、なんとも……」

僧侶「愛想がないですねぇ~」

老人「なにはともあれ、気楽にやるヨロシ」


~~第1章『マッスルタウンのチャンピオン』~~


くぅー疲。
というわけでここまでを昨日に書ききってしまいたかってんですが睡魔には勝てず。。
これにて一章と位置づけした武闘家が仲間にくわわるまでが終了となります。

わりとオーソドックスな勇者SSを書こうとはじめ、新鮮味はなかったでしょうが、どこかで読んだような安定感はあったはずと自負します。
昔ながらのSS好きな人の琴線に触れることはできたんではないでしょうか?

どんなもんだったでしょ?
批判も含み感想をお待ちしております。

あらかた感想はいただいた感じでしょうかね
書いていただいたみなさんありがとうございます

批判はなければないでいいのですが、別の見方もできますから
やりすぎてる感があるときはたしかにと自分でも思ったりします

では第二章をスタートします

【馬車 荷台】

魔法使い「ふんふーん♪ うふふ♪」ニッコニッコ

僧侶「よかったですねぇ、魔法使いさん」

魔法使い「はぁ、マク様……。ありがとう」スリスリ

戦士「チョロイやつだ。物で釣られるとは」

魔法使い「つ、釣られてなんかっ! ……あんまり、プレゼントもらったことなぃんだもん……」

僧侶「それが欲しいものなら尚更嬉しいですよねぇ~、偶然を加味するとロマンチックですぅ」

戦士「ふん、男なら腕っ節だろ」

僧侶「それもわかりますぅ。強い男性に惹かれるのは、種の生存本能に訴えかけてきますしぃ~」

魔法使い「わからないのは顔だけよね。どんな顔してるのかしら? イケメンだったらどうしよう」

戦士「顔なぞ……」

僧侶「良いにこしたことはないと思いますよぉ? 男性だって、容姿端麗な女性に惹かれるじゃないですかぁ~」

戦士「男の目線はみんな下心だ。女は違うだろ」

魔法使い「戦士はどう思うの?」

戦士「あたしは……さっきも言ったが男は腕っ節だと思う。ほかのは付加価値だな」

僧侶「占める割合が大きいんですねぇ。やっぱりぃ、自分より強い人が好きとか?」

戦士「それもある。嫌だろ、あたしよりなよっちぃ男なんて」

魔法使い「た、大抵の男は戦士より弱いんじゃないの?」

戦士「だから、男は――」

僧侶「マクさんはどうですかぁ?」

魔法使い「……それもそうね、戦士が敵わないっていう条件ならクリアしてるし」

戦士「顔もわからないやつを好きになれるかよ……」

僧侶「んー、顔は重要じゃないってぇ~」

戦士「ちっがぁーうっ! 内面を知らないやつを好きになれるかっての!」

魔法使い「そもそも、オンナ捨ててたわよね」

戦士「うっ、いや、それは」

僧侶「……武闘家さんはどう思いますかぁ?」

武闘家「……」

魔法使い「ねえ、元チャンピオン。パーティにはいったんならもうちょっと愛想良くしたらどう?」

戦士「無理にとは言わないが、まだまだ旅は続くわけだしな。コミュニケーションをしてくれると助かる」

武闘家「……アホくさ」

魔法使い「なっ⁉︎」

武闘家「男だとかなんだとか、そんなのでキャアキャア言ってるなんて」

魔法使い「ちょ、ちょっとあんた! まともに喋ったかと思えばそれ⁉︎」

僧侶「まぁまぁ。おさえておさえてぇ」

戦士「すまない、あたしたちも初対面で馴れ馴れしくしすぎたかもしれん」

僧侶「でもぉ、なんでパーティに入ろうと思ったんですかぁ?」

武闘家「関係ないでしょ」プイ

魔法使い「大方、あのおじいさんに言われたんでしょ? だから拗ねてるんだ?」

武闘家「うるさいなぁ」

魔法使い「あたし達は仲間になってんのよ? 命を預けられる? そんな態度で」

武闘家「別に。自分の命くらい自分で守れば?」

魔法使い「ぐぬっ! じゃあなんでここにいんのよ! 一人旅でもすれば⁉︎」

僧侶「おー、よしよしぃ」ナデナデ

魔法使い「犬扱いすんな!」

戦士「……決勝は残念だったが、その他の戦いは見事だった」

武闘家「あっそ」

戦士「どうだ? 今度手合わせしないか? なんだったら、勇者も一緒に。あいつは私と同じくらいの強さで」

武闘家「戦士……って言ったっけ?」

戦士「そうだぞ。よろしく」

武闘家「それ本気で言ってる?」

戦士「ダメか? 良い鍛錬に――」

武闘家「そこじゃなくて。誰と誰が同じくらい?」

戦士「む……今の話の中でか? あたしと勇者だが」

武闘家「ぷっ、くっくっくっ」

魔法使い「……?」

戦士「なんだ? なにがおかしい」

武闘家「ザコ。勝負なんて願い下げよ」

【馬車 手綱】

勇者「のどかやなぁ~。お前もそう思わんか?」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

勇者「ほんにのどかやでぇ~。このまま時間が止まれば――」

――ドゴォンッ!!――

馬「ヒヒーンッ」ビクゥ

勇者「おっ⁉︎ ちょ、ちょっ! どーどー! 静まれ!」

馬「ブフォ」タンタン

勇者「な、なんだ? 荷台が揺れた……?」

戦士「自分で吐いたその言葉! 簡単には飲むなよ……!」バキィッ

武闘家「ほんとのこといってなにが悪いってのさ」バキィッ

勇者「あんれまー。新品の馬車の荷台をぶっ壊して出てきたように見えたけど。疲れてるのかな」

魔法使い「勇者!」

勇者「やめて。現実逃避してるのにやぶれた穴から話しかけないで」

魔法使い「二人を止めないと!」

勇者「ゆ、夢じゃなかったの? ウソ、ウソだといってよバーニィ」

戦士「コミュニケーションしようと思ったのが間違いだったようだ」チャキッ

武闘家「……ふん。ザコのくせに」スッ

勇者「お、おまえらぁぁぁぁああっ!!」クワッ

戦士「口を出すな、勇者」

勇者「出すに決まっとるわい!! どうすんだよ! いきなり穴あけちまいやがって!! まだ出発して半日もたってねぇぞ!」

武闘家「それは、こいつが……」

勇者「お前もしっかり穴あけとるやないかい! 2つ! わかる? ふーたーつぅー!」

武闘家「うっ」

戦士「穴ぐらいなんだ。男のくせに細かいやつだな」

勇者「ホワッツ⁉︎ アナタ、イマナントイッタカ⁉︎」

戦士「うっ、いや、男のくせに」

勇者「アーユークレイジーッ⁉︎」

魔法使い「僧侶。勇者が言ってるあれ。どこの言葉?」

僧侶「さぁ~。でもぉ、いいんじゃないですかぁ? 勇者様の勢いにタジりだしてますしぃ」

武闘家「あ、アタイは……」

勇者「シャラップッ!!」

戦士「お、おい、勇者、さっきから何語を……」

勇者「シッダウン! シッダウン!!」

戦士&武闘家「……?」

勇者「……はぁ、あのなぁ、知り合ったばかりだし、喧嘩するのもしゃーないけど。物は壊さないようにやれよ」

武闘家「やっぱり、アタイはこのパーティから」

勇者「じいさんと約束してんだろ? 会って日にちが長いわけじゃないけどさぁ。俺に連れてけって言ったんだ。お前はここにいろ」

武闘家「……戦士とは別にしてほしい」

勇者「お安い御用です! 個室を用意します! ……できるわけねーだろ。馬車に仕切りなんか作れるか」

武闘家「……」ブスゥ

戦士「やはり、力で決着を」

勇者「もう太陽が傾きはじめてる。やるなら止めないから、次の村についてからやれ」

【ミンゴナージュの村】

勇者「はぁ、どうすんだよ。この穴」ジー

僧侶「アップリケでもつけますかぁ?」

勇者「トホホ。なんで半日でズボンの穴あき処置みたいなことを……」

魔法使い「あ、蝶々」

勇者「わぁー、ほんとだぁー! ってなるかい!」

魔法使い「暇なんだもん。ここアルデンテの村みたいな田舎だし。それに――」

武闘家「あちょお~~~~っ!! ハイィッ」ダダダッ

戦士「むっ、このっ……! くっ!」キンキン

魔法使い「あっちは脳筋だしさ」

勇者「……」

僧侶「勇者様ぁ、テントの生地がありますよぉ」ビリビリ

勇者「そ、僧侶さん? 普通、ありますって言う時はその後の対応を聞くものでは? なぜに破ってらっしゃる?」

僧侶「使わないんですかぁ?」ビリビリ

勇者「どーすんだよ! これから野宿するとき!」

魔法使い「いいんじゃない?」

勇者「なんでだよ!」

魔法使い「勇者は知らないんだっけ? 私達、今、ちょっとした小金持ちなの」

勇者「へ? こ、小金持ち?」

僧侶「はい~。マク選手に賭けていたお金がありますのでぇ」

勇者「あ、そなの?」

魔法使い「細かく数えてないけど、30万ゴールドは持ってるわよ」ドサッ

勇者「さ、ささささっさんじゅう⁉︎」

僧侶「大穴の150倍だったんですよぉ~」

勇者「そ、そうなんか……」

【宿屋】

店主「祟りじゃ!」クワッ

勇者「え、えぇ……」

店主「祟りじゃ、祟りじゃ、この村は呪われておるぅ~!」

勇者「落ち着けよ。ばあちゃん」

僧侶「あのぉ、部屋をとりたいんですけどぉ」

店主「部屋などと呑気なことを言うとる場合ではない。早々に立ち去るんじゃ」

魔法使い「そんな、困る」

店主「えぇい! 今は満室じゃ!」

魔法使い「なんなのよ、もう」

僧侶「ご無理を言っても申し訳ないですぅしぃ、道具屋でテントを買いますかぁ?」

勇者「しかたない、そうするか」

店主「店じまいしてるよ」

魔法使い「へ?」

店主「みぃ~んな祟りのせいじゃ。道具屋の店主も倒れてしまったわい」

魔法使い「え? え? じゃ、じゃあ買い出しは?」

店主「マッスルタウンに戻るとええ」

勇者「なあ、ばあちゃん、日は沈みはじめてるし、今からってのは」

店主「今宵、儀式がある」ボソ

僧侶「儀式……? なんのですかぁ?」

店主「よそ者は帰れ。あたしゃこれ以上は話す舌を持たん」

勇者「祟り、ねぇ」ポリポリ

【ミンゴナージュの村 入り口】

戦士「くっ、不覚……! 剣がっ!」カキーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ」ピタ

戦士「さ、さすが、チャンピオンといったところか。言うだけはある」

武闘家「ふぅ……」

戦士「それほどの力を持ちながら、なぜ、先ほどはあのような態度を」

武闘家「力と性格になんの因果関係があるっての。アタイはあんたが気に入らないのはたしかだけど」

戦士「むっ、あたしのどこがだい」

武闘家「弱いくせに。アタイより弱っちいくせに誰と同列で語ってんさ」

戦士「……?」

武闘家「はぁ、まだわからないの? いい? 勇者はね――」

僧侶「戦士さぁ~ん! 武闘家さぁ~ん!」トテトテ

戦士「僧侶? どうしたんだ?」

僧侶「今日の宿が決まらないんですよぉ~」

戦士「なに? ……おい、武闘家。さっきはなにを言いかけて」

武闘家「……」プィ

僧侶「喧嘩もいいですけどぉ、問題解決に向けてみんなで協力しましょ~?」

勇者「決着ついたか?」スタスタ

魔法使い「脳筋ってほんと単純だから。どうせ仲良くなってんじゃないの?」

戦士「いや……」

魔法使い「あ、あれ? 違った?」

武闘家「勇者。道具屋でテントを買えば?」

勇者「それがそういうわけにもいかねぇんだわ。武器屋、防具屋、道具屋、全部店を閉めてる」

戦士「……なにがあったんだ?」

僧侶「なんでもぉ、祟りのせいみたいですよぉ~?」

武闘家「タタリ? タタリって、呪いとかそういう類の?」

僧侶「そうみたいですねぇ」

魔法使い「今夜、儀式があるって言ってたけど、なんの儀式かしら」

勇者「……」ジー

僧侶「……? 勇者さまぁ、なにを見てるんですかぁ?」

勇者「気がつかなかったけど儀式ってこの石像が関係してんじゃね?」

戦士&魔法使い&僧侶&武闘家「……?」

勇者「“淫夢王、サキュバス。ここに祀る”……なんだこれ?」

【淫夢城 玉座】

サキュバス「ミンゴナージュ村の様子はどう?」

リリム「精を搾り尽くしている最中でございます。若い淫魔はじめ、かっこうの餌場かと……」

サキュバス「田舎村で人口が少ないのが難点だけど、目立ちにくさという利点もある。このまま枯れ果てるまで絶頂を味あわせておやり」

リリム「もちろんです、お姉様。夢の中という、無防備な空間。どうやって抵抗できましょう」

サキュバス「私達は、“相手の望む姿になれる”」

リリム「それに加えて抜群の性技も……うふふ」

サキュバス「人間にはもったいなさすぎるけどね」

リリム「所詮はエサ……行為自体に愛情のかけらもございません」

サキュバス「我らを軽々しく言った魔族はどうした?」

リリム「ご指示通り。性交を通して魂を抜き取ってやりました」

サキュバス「くふっ、くっはっはっはっ! あわれな。所詮はオトコ。オンナであっても我らの前では……」

リリム「生物はみな種を残すため、そのために性欲をもっている。その性欲を意のままに操る我らこそが魔王軍における最強の眷属でございます」

サキュバス「良い子ね……リリム」スッ

リリム「あっ……お姉様」ウットリ

サキュバス「勇者の捜索は……?」

リリム「ハッ⁉︎ す、すみません、あまりの美しさに……アデルの城が勇者発祥の地であるようです」

サキュバス「アデル……というと、サルマニア国との兄弟国ね」

リリム「伝承を参考にすると、“ロト”がやはり鍵を握っているかと」

サキュバス「どの部分?」

リリム「“東のサルマニア、北のハーケマル、南のクイーンズベル、西のアデル。光は西から登り、東へと進む”」

サキュバス「……勇者、忌々しいオトコ」

リリム「引き続き、調査します」

サキュバス「くれぐれも、ミンゴナージュも手を抜かないように」

リリム「私におまかせください。お姉様のご期待以上の結果をご覧にいれますわ」

サキュバス「魔王様も期待なさっておいででおられる。頼んだわよ」

今日はここまで。

【ミンゴナージュの村 入り口】

魔法使い「ねぇ、いつまで村の入り口にたむろしてるの? 戻るならはやく戻らないと」

勇者「いや、今日はここで一泊する」

僧侶「宿がないのにですかぁ?」

戦士「そうだぞ、テントを予備に複数個買えばいいじゃないか」

勇者「それは、そうなんだが……」

武闘家「……? なにか、気になることでも……」

村娘「もし、旅のお方」

魔法使い「……うわっ、露出度高い服」

村娘「うふふ。なにやらお困りのご様子。よければお話を聞かせていただけませんか」

戦士「いや、今日の宿がなくてだな」

村娘「まぁ。テントはお持ちではないのですか?」

僧侶「それがぁ、切らしておりましてぇ」

村娘「大変。日が沈みはじめるというのに。寝る場所がないと辛いことでしょう」

魔法使い「だからぁ、マッスルタウンに戻ろうよぉ~」

村娘「よければ……私の家でよければ面倒を見ますが」

戦士「いや、しかし、いきなりは困るだろう」

村娘「ご遠慮なさらずに。先日、母に先立たれ、さみしい思いをしていたところでございます」

僧侶「それはそれはぁ、お悔やみ申し上げます~。私でよければ祈りを捧げますがぁ」

村娘「神職様でございましたか、ありがとうございます。そのお礼ということで、いかがでしょうか?」

魔法使い「ねぇねぇ、お世話になろうよ、勇者」

勇者「うーん」

魔法使い「最悪、場所の荷台で寝るんじゃないの? このままなら。寝っ転がれないなんて私は絶対にイヤ!」

勇者「……見ての通り、えぇと、いち、に、さん……俺たちは4人いる。寝床はある?」

村娘「粗末な我が家ですが、布団ならご用意できます」

戦士「すまない、素性もわからない旅人に親切にしていただいて」ペコ

村娘「困った時はお互い様というじゃありませんか。お気になさらず。ささ、どうぞ」スタスタ

勇者「……」

魔法使い「あぁんもうっ、はっきりしないやつ! 勇者は荷台で寝れば⁉︎ 私はついてくからね!」タタタッ

僧侶「勇者さまぁ~。行かれないのですかぁ?」

戦士「好意を無碍にするのは失礼だ」

勇者「……わかった。俺は少しぶらついてから行くよ。みんなは先に行っててくれ」

武闘家「アタイも、残ろうか?」

勇者「いや、いい。腹減ったろ? きっと料理もだしてくれると思うから、お前も行ってろ。僧侶」

僧侶「はい~」

勇者「お返しを忘れるなよ。しっかり包んでやれ。金」

僧侶「かしこまりましたぁ~」ペコ

武闘家「……」スッ スタスタ

戦士「(勇者の言うことを素直に聞くのは、なんでだ……?)」

【村娘 家】

村娘「どうぞ」ギィー

魔法使い「わっ、結構ひろーい!」タタタッ

僧侶「失礼ですよ、魔法使いさん」

村娘「かまいません。見ての通り、一人で住むには広すぎるので」

戦士「手荷物はどちらに置いたらよろしいか?」

村娘「あちらにお願い致します」

戦士「わかった」スッ ボサッ

村娘「お連れの男性の方は……?」

武闘家「ぶらついてから来るそうよ」

村娘「なにもない村ですのに。……今夜はあまり外出なさらない方が」

僧侶「なぜでしょう~?」

村娘「儀式、がございますので」

魔法使い「宿屋のお婆さんも同じこと言ってたわね……なんの儀式?」

村娘「この村は今、不幸続きなのでございます」

戦士「……と、いうと?」

村娘「ある日ぱったりと村の男衆が、倒れてしまったのです。その後は、ベッドから起き上がることも叶わず」

武闘家「呪い?」

村娘「原因不明な病なのです。話を聞こうにも、幸せそうな顔をして眠るばかり。ですが、日に日に体は痩せ細り、弱ってゆく……」

戦士「不可思議な話だ。眠ったままとは」

魔法使い「病気だとしても男だけってのは変ね」

村娘「村の女衆にも異変が――」

僧侶「異変……?」

村娘「口が過ぎました。なので、くれぐれも今夜は外出なさらぬよう。沈める儀式がございます」

戦士「まて、その肝心の儀式とやらの内容がわからん」

村娘「……祈祷師に依頼したところ、おそらく淫夢の仕業だろうということを言われまして」

魔法使い「淫夢? まさか、サキュバス?」

戦士「魔法使い、知ってるのか?」

魔法使い「伝説のモンスターの一角。実際にいるのか怪しい。その祈祷師、大丈夫? 詐欺師じゃない? 困ってるからそれっぽいこと言ってお金だけふんだくろうって」

村娘「しかし……ほかには頼るところも……」

戦士「サキュバス、か……」

【ミンゴナージュの村 広場】

祈祷師「キエエエェエエイッッ!!」バサッ バサッ

勇者「なんじゃあれ。キャンプファイヤー?」

村人達「お怒りをお沈めください。サキュバス様」ドゲザ

祈祷師「南無 三曼多伐折羅赧 悍(ノウマク サンマンダ バザラダンカン)! 悪霊ッ! 退散ッ!」バッ バッ

勇者「ははーん……あれが儀式ってやつか。もうはじめてんのね」

店主「……っ! まだこの村におったのか!」

勇者「宿屋のばあちゃんも参加すんのか?」

村娘達「オトコ、オトコよ」ヒソヒソ

店主「いかん! こっちにこんかい!」グイッ

勇者「おっ、とと。いきなりナンパ? いくつになっても乙女だね」スタスタ

店主「お主! さっき早々に立ち去れと言うたじゃろうが!」

勇者「都合もあってね。引き返すのはやめとこかなと」

店主「この村は呪われておるんだぞ!」

勇者「さっき、村の入り口で石像を見つけたよ。サキュバスって書いてあった。あれに関係してんじゃないの?」

店主「うっ、そ、それは……」

勇者「そんで、悪霊退散って叫んでるところを見るとお祓いしてるってとこ?」クィ

祈祷師「滅っ!! めえぇつっ!! めえええぇえつっ!!」バサッ バサッ

店主「左様じゃ。この村は今、サキュバスの脅威に晒されとる」

勇者「店じまいしてるのもそれが原因か」

店主「正確には男連中に、じゃ。精気を抜き取られておる」

勇者「へぇ……そりゃ、男にとっては幸せだ」

店主「適度ならば、の。精気とは生命力と深い関わりをもっておるでな。抜き取られすぎると、命にかかわる」

勇者「サキュバスってあれだろ? エロいことしてるんだよな? だったら、腹上死か」

店主「夢の中だけじゃよ。ワシも絵本でしか知らぬが、姿を消したサキュバスが枕元に立ち、意識だけ夢の中にはいってくるらしい」

勇者「擬似的なもんか」

店主「なんでも、“理想の姿に変化させる”ようじゃ」

勇者「自分を? それって、例えばペチャパイが好きだったら……」

店主「そういう意味じゃ。男なら誰しもが一度は妄想するであろう。あの子としてみたい、と。そこにサキュバスはつけこむ」

勇者「でも、まぁ、男からしてれば夢が叶うわけだ」

店主「あくまで幻じゃよ。そこに実体はないからの」

勇者「ばあちゃん、よく知ってんね」

店主「古い古い伝説の話じゃ。魔王軍の一角に、サキュバスあり……」

勇者「……」

店主「さぁ、もうわかったろう。さっさと立ち去るがよい」

勇者「もひとつ。男にしか影響ないの?」

店主「いらぬ首をつっこむでないわ!」クワッ

勇者「いや、今日泊まるからさ。ここに」

店主「な、なんじゃと……⁉︎」

勇者「心配してくれるのはありがたいけども」

店主「……いかん、いかんぞ」プルプル

勇者「どした? 俺のことなら別に」

店主「女にも……影響は、ある」

勇者「……? どんな? あ、サキュバスって男もいるの?」

店主「サキュバスは女じゃよ。女に悪影響をもたらすのは、瘴気」

勇者「瘴気……?」

店主「悪い気のようなものじゃ。淫魔の魔力にあてられ、発情しだす。村娘達を見て気がつかなんだか」

勇者「ん?」チラ

村娘「きゃっ、こっち見たぁ」モジモジ

村娘「あたしよ、あたしを見てたのよぉ」フリフリ

店主「わしは歳のお陰で影響は低い。しかし、若い活発な女たちには、これ以上ない毒となって思考を鈍らせておる」

勇者「つまり……ビッチ化してんな」

店主「勘違いするでない。本来は慎ましかで初心(ウブ)なオナゴたちよ。男と目も合わせられんような」

勇者「なるほど」

店主「異性を求めはじめておる。しかし、男はこの村にいる限り、サキュバスの餌食。女たちのぶつけようのない欲求不満はたまる一方じゃて」

勇者「なんかよくわからん被害だな」ポリポリ

店主「この恐ろしさがわからぬのか。一国でさえ狂わせられてまうぞい」

勇者「ふぅーん。まぁ、とりあえず経緯は把握したよ」

【村娘 家】

村娘「勇者……?」ピクッ

戦士「おい、魔法使い」

魔法使い「あっ、言っちゃだめなんだっけ? つい」

戦士「勇者がなぜ我々にまで最初黙っていたか聞いたろう? 立ち寄った村々に被害が及ぶのを防ぐために」

魔法使い「ぶっちゃけ、怪しいけどね」ボソ

村娘「あの、勇者とはいうのは本当に……?」

魔法使い「僧侶、パス。私、しーらない」プイ

僧侶「困った人ですねぇ~叱られるかもしれませんよぉ」

魔法使い「うっ。べ! べつに! あんなへっぽこに叱られたって」

戦士「……はぁ。ああ、本当だ」

村娘「まぁ、なんということでしょう。あの、失礼ですが、勇者と証明できるものは――」

僧侶「戦士さんも~。だめですよ~」

戦士「他言はしないよう言えば大丈夫だろう。あたしたちは一泊の恩がある。勇者も納得してくれるさ」

村娘「そ、それで?」

戦士「“聖痕”があるんだ」

村娘「それは、まさか……女神ルビスが勇者にしか刻まないといわれている伝説の?」

戦士「そのまさかだよ。あいつにはそれがある」

村娘「……そう、ですか。こんなところに……」

魔法使い「驚くのも無理ないけど。秘密ね?」

村娘「ええ、ええ。もちろんですとも。あの、ちなみにですが、聖痕はどこに……?」

戦士「ん? あぁ、あたしたちが嘘をついてると?」

村娘「す、すみません。あくまで可能性の話で」

戦士「いや、当然だ。ニセモノも実際にいたしな。聖痕の場所は、ケツだよ」

村娘「お尻……ですか。なるほど……普段は見えない場所。てっきり、わかりやすくデコか手にあるものかと」

魔法使い「へんてこりんな場所よね」

村娘「そうでしたか。見える場所ばかりを探していても見つからぬハズ……」

戦士「……? 探していた?」

村娘「あっ、いえ。勇者様にあこがれてまして。うふふ」

魔法使い「すぐに幻滅することになるわよ。残念ながら」

村娘「……ここ二、イタのネ……」ニタァ

武闘家「……アタイ、ちょっと出てくる」

村娘「ハッ! な、なりません! もう儀式がはじまりだしています!」

武闘家「大丈夫。サキュバスかなんだか知らないけど、クンフーがあるから」

村娘「お、お腹すきましたでしょう⁉︎ すぐにご用意いたしますよ!」バタバタ

戦士「おい、武闘家。用もないのにほっつきあるくな」

武闘家「どきなよ。どうしようとアタイの勝手だろ」

戦士「恩人に対してそれはどうなんだ。言うことを聞け」

武闘家「……」

戦士「それとも、勇者が言わないとだめなのか?」

魔法使い「……? なんで、そこで勇者が出てくるの? あっ、もしかして、武闘家って勇者がタイプなの?」

武闘家「あんたら……」イラァ

僧侶「すとっぷですよぉ~~。まずは矛をおさめておさめてぇ~~。腹が減ってはなんとらやらと言いますしぃ~」

【道具屋 寝室】

勇者「よっと」カタン

店主「Zzz……」スヤァ

勇者「不用心だなぁ、窓が空いてたら泥棒に入られちまうぜ。道具屋のおっちゃん」

店主「むにゃむにゃ」スヤァ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「……!」ピクッ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「ぐふっ、ぐふふふっ……むにゃむにゃ」

勇者「幸せそーな顔しちゃって。こりゃ淫夢を見せられてるって話がウソってわけでもなさそーだな」

店主「……っ、う、うぅ、っ、く、苦しい……もうやめてくれ、もう出ない」ビクンビクン

勇者「どーやって淫夢を見せてるんだ? 呪文か?」

店主「Zzz」

勇者「伝説だと枕元に立つんだっけ? ……なにもいない」スカッ

店主「うっうぅ……」

勇者「なにか、タネがありそうだな。精子だけに」

店主「た、たすけて、たすけて、くれぇぇ……うーん、うーん」

勇者「待ってろよ。男だって、無理やりされたら嫌だもんな」タンッ

【村娘 家】

魔法使い「おっそい! なにやってんのよ! あいつ!」

戦士「ご飯、ご飯」

魔法使い「見てみなさいよ! 戦士なんて幼児退行しちゃってんじゃない!」

僧侶「私たちだけ先に食べてしまうのも~」

村娘「温めなおせばまだございますよ。今夜はとろぉ~り、濃厚な……シチューでございます」

戦士「白い、ドロドロの」

魔法使い「美味しそう」

村娘「そうでございましょう? 腕によりをかけてご用意いたしましたので。あつあつなままどうぞ」

戦士「な、なぁ、僧侶。ほっておくと、逆に申し訳ないっていうか」

魔法使い「そ、そうね。べ、別に。お腹すいてるからじゃないんだからね」

僧侶「はぁ~。ホントにおふたりはしょうがないですねぇ」

戦士「食べていいのか……?」

武闘家「……」スッ カチャ

戦士「あっ! ず、ずるいぞ! いけないんだぞ! いただきますをしないでスプーンを手にとっちゃ!」

武闘家「……これ、いつ作った?」

村娘「今しがたです。固形ルーがあまっていましたので……得意料理なのですが、お嫌いでしたか?」

武闘家「いや……そうじゃないけど」

戦士「食に対する冒涜は許さん! 好き嫌いせずに食べるんだ!」

武闘家「アタイは、いいや」

村娘「そ、そんな。やはり、お嫌いでしたか」

戦士「武闘家……っ! きさまぁっ! 恩人を悲しませた挙句! 振舞われた料理に口をつけずに……!」

武闘家「ぎゃーぎゃーうるさい」

戦士「……斬る」チャキ

武闘家「まだやる気? さっきやられたくせに」

戦士「届かぬ背中ではなかった。あと数戦もすればいい勝負をしていたと確信する」

武闘家「……調子に乗ってるでしょ」ポキパキ

戦士「そっくりそのまま返そう。何様のつもりだよ」

僧侶「あぁ~~んもう! やめなさぁ~~い! ……戦士さんも、武闘家さんも。食べましょ~」

魔法使い「はぁ、犬猿の仲ってやつね。あむっ……ん~……んっ! 美味しい!」

戦士「いただきますしてないのに!」

魔法使い「戦士も武闘家も食べてみなさいよ! すっごく美味しいわよ! これ!」

戦士「食べる食べる! ……いただきます!」ガツガツ

武闘家「……」ジー

僧侶「武闘家さんも。座って食べましょぅ?」

武闘家「ちっ、しかたないなぁ」

僧侶「くすくす」

武闘家「なにがおかしいのさ」

僧侶「いえ~根は優しいと思いましてぇ~」

武闘家「……なによ」プイッ

【数十分後 同部屋】

魔法使い「ねぇ、なんだか暑くない?」パタパタ

僧侶「そういえば少し~。なんだか身体がぽっぽっとしてきたようなぁ~」

戦士「すまない。窓を開けてもいいか?」

村娘「申し訳ございません。戸締りの調子が悪く」

魔法使い「えぇ~~? 開かないのぉ?」パタパタ

村娘「すみません……。ただいま、氷をお持ちしますので」

戦士「氷、氷といえば、魔法使いの冷気魔法で」

魔法使い「あ、あのねぇ。生活魔法じゃなく攻撃魔法なのよ? 放ったら制御できない」

戦士「そ、そうか」シュン

村娘「しばし、お待ちを。気休めかと思いますが、お香をたかせていただきます」

僧侶「お香……?」

村娘「はい。心身ともに緊張をときほぐす効果がございますので」

魔法使い「暑いだけなんだけど」

村娘「我慢というのはストレスがたまるものでございましょう。ですから、気休めなのです」

戦士「すまない、なにからなにまで」

村娘「いえ、母がいなくなってから……こんなに楽しい夕食は……」

魔法使い「ちょっと、戦士」ドンッ

戦士「あっ、うっ、あたしは、そんなつもりで。決して思い出せるような」

武闘家「食は済んだし、外の風に……っ⁉︎」ガタッ クラッ

魔法使い「どうしたの? 立ちくらみ?」

武闘家「なっ……なんだ、こ、れは……」ガクッ

戦士「体調でも悪い……⁉︎」クラッ

僧侶「まってくださいねぇ~、今回復魔法を~……あ、あらぁ」フラァ

魔法使い「ちょ、ちょっと、どう……した……はれ?」クラッ

村娘「こちらがお香になります」カチッ

武闘家「お、おのれ……っ! 一服、もった、な……っ!」キッ

魔法使い「そ、んな……」ズリ

戦士「くっ、なんと」

僧侶「はふぅ~」

村娘「うふっ、うふふふふふっ。……なんともはや。間抜けな女達よ。こうもあっさりひっかかってくれるとは」

戦士「な、なぜっ……!」ググッ

村娘「なぜ? 簡単なこと。最初からこうするのが目的だったから」バサっ

武闘家「そ、そのっ、はね、はぁっ」

村娘「キレイでしょう? 淫夢族は、人間どもが思い浮かぶ悪魔と酷似している。そう、漆黒の翼を持って」スゥー

魔法使い「サキュ、バス……っ⁉︎」

リリス「――お前たちの旅はここで終着点だ。……言え。勇者はどこにいる?」

武闘家「モンスターめ……! 勇者、が狙いか……!」

リリス「聞かぬでもわからないでか。我が魔族の宿敵。ルビスの加護をその身に宿した者……お前らに価値なぞない」

戦士「ぬぅ、ぬぅうううっ!」ググッ

リリス「シチューには、痺れ薬と幻覚薬を混ぜてある。そう簡単には戻らんぞえ」

魔法使い「か、身体が……意識も……」

リリス「まさかこのような場所に勇者がいるとは。とんだ偶然……いや、僥倖だったわ。貴女達がペラペラと喋ってくれたお陰で。淫夢王様にご報告できる」

僧侶「ん、んんぅ~、き、キアリク」ポワァ

リリス「ふんっ!」ドゴォ

僧侶「あうっ⁉︎」ズザザッ

戦士「そ、僧侶っ!! 大丈夫か⁉︎」

リリス「解毒魔法は使わせないよ。面倒だから、あんたは気絶してな」

僧侶「」

魔法使い「そ、そんなっ! 僧侶! 目を覚まして!」

リリス「ああ、我が愛しいサキュバスお姉様ぁん。……他にまだ聞けるやつはいることだし。さぁ、言え。勇者はどこだ」

武闘家「……すぅー……はぁー……」スゥ

リリス「……? なにもできや――」

武闘家「あちょお~~~っ!!」バッ

リリス「な、なにっ⁉︎」バサッ バサッ

武闘家「ちっ、出遅れた。……飛べるんだ。飾りじゃなかったんだね、その羽」

リリス「な、なんだ⁉︎ なぜ、動ける⁉︎」

武闘家「……くっ」ズキン

リリス「……? ま、まさか……⁉︎ くっ、あっはっはっはっ! お前! 自分の指を折ったねっ⁉︎」

武闘家「だったら、なんだってのさ」ズキンズキン

戦士「そ、そうか、その手が! よし!」ザクッ

魔法使い「う、うわぁ、剣で足を刺した」

戦士「あたしは指を折っては剣を握れない。……くっ」ズキン

リリス「迷いもなくやるとは、なかなかに見上げた根性だ」バサッバサッ

戦士「たしかに痛い。だが、そのお陰でクラついてた頭はすっきりしてる」

武闘家「麻痺は、まだ残ってるけど、ちょうどいいハンデよ」

魔法使い「わ、私も刺さなきゃいけない流れ……?」

戦士「好きにしろ」カチャ

リリス「人間風情がッ! 淫夢族の恐ろしさ!! 舐めるでないよッ!!」バサッバサッ

【武器屋】

勇者「むっ……! こ、この気配は……!」キュピーン

ピロリロリーン
勇者は週間少年ジャ○プを手に入れた!

勇者「お、おお~! 家にいる時は読んでたんだよなぁ! どれどれ、今週のワ○ピは……と」ペラ

店主「う、うぅ~ん」

勇者「……あれ? なんだか読んだことある。おっかしいな~。たしか昨日が発売日のはず……ん~……が、合併号⁉︎ あら~、てことは来週まで続きはお預けか」

店主「うっ、わ、ワシは」ムクッ

勇者「おっ、目が覚めたのか?」

店主「ここは……ワシの家だよな。お前、誰? なんで人ん家のタンス漁ってるんだ……?」

勇者「あ、いやー、あの~。手がかり探しといいますか、勇者の本分といいますかぁ」

店主「さ、さては泥棒……うっ」クラッ

勇者「ああ、無理すんなって。淫夢からの生還おめでとう」

店主「うっ、うぅ」ポフン

勇者「なぁなぁ、夢の中はどうだった?」

店主「夢……そうか、あれは夢だったのか」

勇者「夢を見てるって自覚はないんだ?」

店主「とても……とても、じゃないが。あれは現実だった」

勇者「リアルに感じるなら気持ちいいってこと? せ、セックスってどんな感じ?」

店主「お前、童貞か」

勇者「ど、どどどどっ童貞ちゃうわ!!」

店主「……最初はよかった。若い子を相手にしていた」

勇者「ほ、ほうほう」

店主「だが、気持ちいいのは最初の何発かまで。それ以降は、ただ、搾り取られている。そう感じた」

勇者「牛の乳みたいな?」

店主「それでも、笑うんだ。やめてくれ、もう勘弁してくれと言っても、笑い続ける……ひ、ひぃっ」ガタガタ

勇者「……」

店主「魂を……吸われてた。笑いながら、口から魂を吸ってたんだ……」

勇者「寝る前になにか兆候はなかったのか?」

店主「なにも……あの日、ワシはお香を焚いて寝ただけだよ」

勇者「お香……? 匂いなんかしないが」

店主「するだろう。イチゴのような甘い香り……たしか、枕元に……むっ、どこだ?」ゴソゴソ

勇者「なくなってると……。これはなにやら、きな臭い匂いがプンプンしてくるねぇ」

【再び 村娘 家】

魔法使い「ひ、ひぃ~ん。戦士が短刀をおいてくれたはいいけど決心がつかないぃ~」

武闘家「はあぁぁぁっ!! ハイィッ!!」ビュッ

リリス「……っ!」バサッバサッ

武闘家「くっ、テーブルを足場にしてもだめか……逃げ回るしか能がないの? それも狭苦しい室内で飛んじゃってさ。天井低くない?」

戦士「大層なクチをたたいていたが、薬に頼る時点でわかりきっている。戦闘能力はそうでもないな?」

リリス「くっ」バサッバサッ

武闘家「鳥族に変更したら? ただ飛び回るだけなら」

リリス「き、きさまらあぁぁあっ!! 淫夢族をバカにしたなっ⁉︎」

戦士「怒った怒った。本当のこと言われて怒ってやんの」

武闘家「悔しかったら降りて戦ってみなさいよ」スッ

リリス「……ふふっ、ふぅ、安い挑発ね。貴女達はもはや我が手中のナカ」

戦士「……?」

リリス「若い淫夢のサポートアイテム。それをご覧なさい」

武闘家「なに……?」

リリス「私がただ飛び回っていたと思うのか。羽で部屋に充満する空気をかき乱していたまでのこと」

戦士「この、お香か……?」

リリス「お前タチ。さぞかし身体を動かしていたわねぇ。運動をすれば、多くの酸素を人体は必要とする……たぁっぷり、染み込んだでしょう?」

武闘家「……っ!」クラッ

魔法使い「ぶ、武闘家!」

戦士「なんだ、これは。身体の芯が、暑い」ガクッ

魔法使い「戦士! ……あ、あれ、なんだか、私も」モゾモゾ

リリス「人が……否、生物は種の生存本能からは逆らえない! 子を残すために我らは生まれおちるッ!!」

武闘家「くっ、淫夢って、まさか、女にも」ドサッ

リリス「うふふ。淫らな術中にハマり、悶えて……快楽に身をゆだねなさい」スタッ

戦士「よ、ようやく地に足をついたな……くっ」ドサッ

リリス「もちろん。だって、貴女達は正真正銘、なにもできないから」スタスタ

魔法使い「うぅ、うぅっ」モゾモゾ

リリス「自分で弄ってもいいのよ? それとも、貴女達、みんな処女?」スッ

戦士「不埒なまねを……! 魔法使いに触れるな!」

魔法使い「うっ」ビクッ

リリス「まずはお前から。淫夢に堕ちろ」スッ

魔法使い「あ……あぁっ……」ガクガク

武闘家「せ、戦士ッ! このままじゃやばい!!」ググッ

戦士「わかってる!! わ、わかってるが、か、身体が……」ググッ

リリス「待っていろ。この者が堕ちたら、次はお前達の番だ」スッ

魔法使い「ゆ、勇者……」ガクガク

――ガシャーーーンッ――

勇者「――……呼んだ?」

武闘家&戦士「ゆ、勇者っ!!」

勇者「内鍵閉めてるから窓から入るしかなかったじゃないの。ごめんな、窓ガラス割っちゃって」

リリス「……お前が……勇者?」

勇者「なぁ~んで知ってるんですかねぇ」

戦士「す、すまない……私たちが……っ!」ググッ

勇者「おお、なんか随分と緊迫した雰囲気だな。寝転がってなにしてんの? 床になんかいる?」ジー

魔法使い「」ドサッ

僧侶「」

勇者「……二人気絶の、二人戦闘不能か。あ、そういや四人じゃなかったわ。俺含めて五人だ。布団の数足りる?」

リリス「なんともふてぶてしい男だ。余裕を装っているつもりでいるのか」

勇者「ありのままの現実を受け入れてます」

戦士「き、気をつけろッ! そいつは淫夢族だ! 男には特に!」

勇者「なにができんの? オラわくわくすっぞ」

戦士「手だ! 魔法使いに触れてた手がなにやら怪しい光を放っていた! そいつに触れてはだめだ!」

リリス「チッ」

勇者「やっぱり触れる必要はあるんだ? そこのテーブルにあるのがお香だろ。それはなんのために」

戦士「おそらく、導入剤のようなものだろう、それを嗅がされて、あたしたちも、その」モゾモゾ

勇者「待て、待て待て! え? お前ら、もしかして発情ナウ?」

武闘家「……っ!」キッ

勇者「冗談だって。頼むから襲わないでくれよ。俺を」

戦士「お、襲うかっ!」

勇者「それで、何匹いるんだ? この村には」

リリス「なに……?」ピクッ

勇者「村の男人口に対して、お前ひとりじゃ数が足りないだろ? それとも何人も相手にできるの?」

リリス「……バカじゃないみたいだね」

勇者「どーにもわからねぇんだよなぁ。カラクリが。たぶんどんどん近づいていってるんだろうけど」

リリス「……」バサッバサッ

勇者「飛べるんだ、それ」

武闘家「アタイも同じこと言った」

勇者「伝説によるとさぁ、枕元にたってるんだろう? んで、お香が導入剤。ここまではわかる。納得できる」

戦士「……?」

勇者「触れるのが必要なら、わざわざひとりずつ触っていってたのか? 一度触れてしまえば、後は放置プレイ? 勝手に夢の中で?」

リリス「我が一族の秘密……。きさま、それを探っているのかっ⁉︎」バサッバサッ

勇者「武器屋のおっちゃんが言うには、魂を吸われていたって。てことはだよ? 夢の中にもなんらかの実体があるはずだよなぁ? 吸えねーだろ? じゃないと」

リリス「こ、こいつ……!」

勇者「そこで、今の質問に戻るわけだ。何匹ここにいる」

リリス「答えると思うか……うふふ、女よりも男は容易い」

勇者「ん?」

リリス「男なぞ、所詮タネを飛ばすだけの生物。ヤリたい気持ちが先行するだけの愚鈍な生き物」スッ

勇者「……」ジィー

リリス「……はぁっ!!」バサァッ

勇者「翼目一杯広げて、どうし……あら?」クラッ

リリス「オンナの秘密はね、知りたいのなら命をかけなくちゃ。男ならわかるわよね?」スタッ

勇者「あ、あいにくと、付き合ったことがないもんで」フラフラ

戦士「勇者っ! おい、どうした!」

武闘家「余裕ぶってるから……!」

リリス「あら? 勇者なのに童貞なの? 股間のソードは未使用のまま?」

勇者「とっておいてあるんだ。ここぞって時のために」ガクッ

リリス「経験を積んだ方がいいわよ? 私が相手になりましょうか?」

勇者「結構です」キッパリ

リリス「……人間が。淫夢に溺れれば、そのような減らず口をたたけなくなる」

勇者「……お、おうふ。やはり、体験するって大事だ。ただいまオナ禁14日目に突入した状態だぜ」

リリス「うふふ。切ないでしょう? いてもたってもいられないでしょう?」

勇者「う、うぅ。発情させるのは触れなくてもいいんだね」

リリス「もちろんよ。男はただたぎらせるだけですもの。この翼でね」

勇者「……」

リリス「鱗粉がまけるようになっているの。男に対して、超強力な媚薬効果のある」

勇者「蛾みたいだな」ガクッ

リリス「おだまりッ! ペラペラペラペラと軽口をたたきおって!」チラ

戦士「あの、バカ! なにしに来たんだよ……!」

武闘家「ぐっ! ……身体、動け……っ!」ググッ

リリス「ふふふっ、勇者よ。あそこにメスがいるわよ」スッ

戦士「触られたらダメだ! 勇者!!」

リリス「意識は、ぼやけてくる。種を残したい。それが男の本分。勇者であっても変わらない――」ピト

勇者「あ、あぁ」

リリス「本能を解放なさいな。勇者という枠に捕らわれないで」

武闘家「戦士! 不本意だけど、アタイの腕を折れ!!」

戦士「う、腕を……! し、かし、あたしも、身体が……! それに折ったところでどうする」

武闘家「何かで上書きするしかないだろ! まだ痛みが足りないんだ! というか、それしかない! 最後の力を振り絞れ! このままじゃ、勇者が! 人間の希望が……っ!!」

戦士「くっ! ぐぅぬぬううぅっ!!」ググッ

リリス「さぁ、勇者よ。あそこにメスがいる。よくごらん」

勇者「メ、メス、オンナ」

リリス「そぉ。オンナだよ。衝動をぶちまけたいだろ? 荒ぶる男根をしずめたいだろう?」サワッ

勇者「うっ、はぁっ、はぁっ」

リリス「なかなかにかわいい反応するじゃない。そんなに苦悶の表情を浮かべて……さっきまでの余裕はどこにいったの?」

武闘家「戦士、まだか! まだなのか⁉︎」

戦士「お前は待ってるだけだろうが! こっちだっめ必死でやってるよ!!」ググッ

リリス「うふふ。いいんだよぉ? あいつらを好きにして。勇者なんて忘れちまいなよ。勇者だからしちゃいけないなんてことはないんだから」

勇者「勇者を、忘れる……」

リリス「そぉ……みんな生き物なんだ。魔族も人も動物も。みぃ~んな、本能には逆らえない」ニタァ

勇者「だ、めだ。僕は、勇者なんだ」

リリス「……ボクぅ? ぷっ、クックックッ、ボクっ子だったの?」

勇者「勇者、勇者なんだ……」ブツブツ

リリス「かわいいね。母性本能をくすぐられる……ほら、あそこのお姉ちゃん達と遊んでおいで……?」

勇者「うっうぅ……」

戦士「そんな、まさか。勇者! 目を覚ませっ!!」

武闘家「集中しろッ!! かまうな!!」

戦士「しかし……っ!!」

リリス「くっふっふっふっ! これが伝説か! ルビスの加護とはこんなものか! なんだこのあっけなさは! 」

勇者「う、あう」フラフラ スタスタ

リリス「これなら、淫夢王様に報告するまでもない。ここでお前らは全滅だ!!」

勇者「オンナ、オンナ……」スタスタ

戦士「や、やめろよ、勇者。冗談、だよな? いつもの冗談だろ?」

武闘家「最初から全力でやってれば、勇者ならあんなやつワンパンでいけたはずなのに……!」ボソッ

勇者「はぁっ、はぁっ、たまんねぇ、戦士、武闘家」スタスタ

戦士「く、くんなよっ! こっちくんな!」

勇者「興奮させようとしてるんだろ……? そうやって嫌がって」

戦士「や、やめろ! そんな品定めするような目で見るな! いつもの勇者に戻ってくれよ!」

リリス「クスクス。無駄だよ。そこにいるのはただのオスなんだから」

勇者「お前らだって発情してんだろ? そうだよな?」

戦士「い、いやだっ! あ、あたしは、こんなの……」

武闘家「師匠、ここまでのようです。先立つ不孝をお許しくださ……うぶっ⁉︎」

勇者「おっとぉ、なに舌かもうとしてんだ。させねえよ」

武闘家「ゆ、指を、クチに、いれて、ふぉのっ(このっ)」キッ

勇者「……ここまでかな。良い子に見せられるのは」ボキィ

戦士「ゆ、勇者……?」

勇者「淫夢族のチャームとでもいうのかね。たしかに強烈だ」ダラン

武闘家「ぷはっ、ま、まさか……勇者!」

戦士「お、お前、自分の腕を――」

勇者「傀儡にするというなんとまぁありがちなパターンで。おまけに催眠効果だけど、単純だから強烈。いやはや、危ないもんだ」

リリス「……っ! またか! お前も折りやがったのか!」

勇者「ネタバラシを聞き出すつもりが、まんまと蜘蛛糸にひっかかりそうだった。肝心なところ……どうやって精気を吸い取るのか。淫夢族の秘密とやらは、まだ聞けそうにないな」バチ バチバチッ

リリス「……? なんだ?」

勇者「この村から出て行け。それで話をつけよう」バチ バチィッ

リリス「ふざけるな!! なぜそんなことを――」

勇者「ライデイン」ピュン

リリス「う、うっあっ?」

勇者「反応できないだろ。稲妻の速度は。壁に穴あけるぐらいに抑えたけど、次はもっと強烈なのいくぞ」

リリス「……い、いまのが、伝説の」

戦士「み、見えたか? 武闘家」

武闘家「いや、なにかが、指先から光ったとしか」

リリス「くっ! な、舐めるんじゃな、い……」

勇者「二度は言わないぞ。腕が痛いんだ」バチィ バチバチッ

リリス「うっ」ズサッ

戦士「こ、これが、勇者だけが持つ、攻撃魔法」

武闘家「……」ゴクリ

勇者「あのなぁ、これでもめちゃくちゃ加減してんだ。頼むから帰れよ」

リリス「(ど、どうする、もう一度、翼で……!)」

勇者「変な気起こさない方がいいぞ。指先大ほどのちっちゃな穴がどでかい穴にかわる。お前が反応して避けられるってんなら別だが」

リリス「(バレてる。……しかし、勇者に我が一族の特技が通用する……! これは有益な収穫だ……!)」

勇者「お帰りは俺が割った窓か、玄関。お好きな方をどうぞ。手下がいるかわからずじまいだけど、そいつらもね」

リリス「いいのか? 私がこのまま帰れば、お前の所在もバレるぞ。全魔族に」

勇者「まぁ、しゃーないよね。こうなったら」

リリス「安心して眠れる夜はなくなるぞ」

勇者「うん、まぁでもそれももう少しの辛抱だから」

リリス「……? もう少しの、辛抱?」

勇者「(だって俺、勇者やめて遊び人になるし。勇者いなかったら追いかけるのもやめるだろ)」

リリス「なにかたくらんでるのか……?」

勇者「いやいや。そんなたいしたものでは」

リリス「……いいだろう。この場は退散してやる。帰る理由もあるし」

勇者「助かる」

戦士「い、いいのかっ⁉︎ このまま逃して! ライデインを撃てよ! そうすれば口封じできるだろ!」

勇者「いや、いいよ。不要な殺しは」

リリス「なるほど……やはり伝承は事実か」

武闘家「勇者! そんな甘さではこの先生き残れないぞ!」

リリス「くっふっ。たしかに甘い。魔族との友好など! そんな幻想! 実現するものか!!」

勇者「(友好? なぁーにいってんだこいつ)」

武闘家「ま、魔族との友好?」

戦士「勇者、そんなことを考えていたのか……」

勇者「えっ? いや、あの」

リリス「夢物語は絵本の中だけにしておくんだね!」

勇者「(なんか勘違いして盛り上がってるけど、ま、いいか。ほっとこ)」

リリス「その甘さがいつか命とりになる! あーっはっはっはっ!!」バサッバサッ

勇者「ほーい。おつかれさーん」

戦士「ゆ、勇者、お前ってやつは」

武闘家「飛び立ったばかりの今からでも遅くない、さっきの魔法を! なんなら追いかけてでも!」

勇者「いや、いいんだ。これで」

今日はここまで。
2章はここで終わりません。もうちょっと続きます。

【数十分後 村娘 家】

村娘「みんなが目覚めはじめたわぁ~! 祈りが通じたのよぉ~っ!」タッタッタッ

村人「待てよぉ~っ! こいつぅ~!」タッタッタッ

村娘「きゃっ! いたっ!」ドテン

村人「だ、大丈夫かっ⁉︎」ササッ

村娘「もう、私、寂しかったんだから……ほっとかれて。ずっと寝たままで」

村人「村娘……」スッ


勇者「窓の外じゃキャッキャウフフな光景がひろがってるというのに――」チラッ

戦士「……」ギロッ

武闘家「……」ギロッ

勇者「――なぜにわたくしめは、腰に手をあて仁王立ちしているお二人に正座させられてるので?」

戦士&武闘家「自分の胸に聞いてみろっ!!」

勇者「なんだよぉ~いいじゃないかべつにぃ~」

僧侶「ちょっとぉ~戦士さん動かないでくたざいよぉ~。まだ回復魔法終わってないんですから~」ポワァ

魔法使い「さすがに擁護できないわね」

勇者「異議ありッ!! いったいいつ魔法使いが俺を擁護したと……」

戦士&武闘家「勇者ッ!!」

勇者「はい。すんまへん」

戦士「なんということだ! なんたることだっ!!」

武闘家「どうするつもり? これから。明日にも魔王軍が大挙で押し寄せてくるかもしれないよ」

戦士「いまわかった! いや、前々から掴み所のない奴だと思ってはいたが……お前には圧倒的に自分がわかっていない!!」

勇者「……」

戦士「勇者なんだぞ! ゆ・う・しゃっ! わかってるのか⁉︎ 自分の立ち位置が!」

勇者「わかってる」

戦士「いいや! わかってない! 魔族に甘いのがわかってない証拠だ!!」

魔法使い「横から言うけど、魔族は敵なのよ? 起きていなくなってるからてっきり倒したと思ったのに。聞いてびっくりしたわ。まさか、友好を考えていたなんて」

勇者「俺はべつに」

武闘家「魔法使いが言っていたな! なんでもモンスターの墓を作っていたそうじゃないか! 隠そうとしても無駄だよ!」

勇者「それは、ほら。墓ないとかわいそうかなーって」

僧侶「これで、よしと。足の傷口はふさがりましたけど無理しないでくださいねぇ~。次は、武闘家さん~」

戦士「それがわかってないというんだ! 人間と魔族は敵対してるんだぞ⁉︎ お前は人間の代表的な存在だろう⁉︎」

勇者「そ、そりは、まわりが勝手に」

武闘家「喋るんならハキハキ喋りな!!」バンッ

僧侶「ほらほらぁ~動かないでぇ~。ベホイミ~」ポワァ

勇者「……う、うるさいわいっ! お前らこそ! 勇者に対する扱いというものがなっちゃいないんじゃなかろうか⁉︎」

魔法使い「自分で気楽に接してくれって言ったんじゃない」

勇者「うっ」

戦士「勇者様よ。敬えというのなら敬おう。だが、もっと考えろよ……!」

勇者「す、すんません」シュン

武闘家「……はぁ、過ぎたことをいってもしかたないのはわかってる」

勇者「そ、そうだぞ! ここは頭を切り替えてだな!」

武闘家「黙れ」ギロッ

勇者「ひゃ、ひゃい」

魔法使い「ほらほらぁ~。申し訳ないと思うならワンと鳴いてみなさ~い」

勇者「ワンワン!」

魔法使い「よくできたわねぇ~。お手」

勇者「ワンッ!」ピト

戦士「こ、こいつ。プライドないのか……。怒るのがバカバカしくなってきた……」

僧侶「私たちも悪いんですよぉ~? わざわざ勇者だって教えたのは戦士さんと魔法使いさんですよねぇ~」ポワァ

戦士&魔法使い「うっ」

僧侶「肝心なときに戦闘不能に陥っていたのはどこの元チャンピオンさんでしたっけぇ~」ポワァ

武闘家「そ、それは……」

僧侶「最初に会敵したのは勇者さまではなく私たちなんですからぁ~。助けていただいて感謝すべきではぁ~? あのままだと成すすべありませんでしたよねぇ~?」

勇者「……」

戦士「たしかに、そうだが」

勇者「ペッ!」ビチョ

魔法使い「きゃ、きゃぁっ⁉︎ 勇者! なに人の手にツバとばしてんのよバッチい!!」ゴシゴシ

勇者「あ~ん? なんだぁ? その態度は? 助けていただいてそんな態度でいいのかぁ~?」

魔法使い「こ、こいつ……!」

勇者「僧侶。貴様は我が参謀に格上げいたそう。良きに計らえ」

僧侶「は、はぁ……」

戦士「今はそういう話では!」

勇者「だまらっしゃい! ウダウダいってもしょーがないの! これからどうするかなの! 重要なのは!」

武闘家「ゆ、勇者がそれを言うか」

勇者「だいたいだな。戦士と武闘家はいつのまに息ぴったりになってんだよ」

戦士「お前のせいだ」

武闘家「共通目的があるから」

勇者「やめていただけるかな⁉︎ 俺を口撃して団結すんの!」

僧侶「また話がそれだしてますよぉ~。どうしましょうねぇ」

戦士「魔王軍の戦力。どれほどのものか。実態は誰も知らない」

武闘家「さっきの淫魔は確実に伝えるだろう。そうなれば、言われた通り、全魔王軍……親玉である魔王自らが勇者を潰しにかかるかもしれない……!」

勇者「おっかねぇ」

戦士「だったらなんで逃したんだよっ!」バンバンッ

勇者「……ふむ」ピラ

魔法使い「百歩譲って、勇者は自分が襲われるのを良しとしたとしましょう。でも、この村も危険に晒されるのかもしれないのよ? 滅ぼされたら、どう責任とるつもり?」

勇者「いや、そうはならない」

僧侶「なぜでしょう~?」

勇者「現状が膠着状態だからだよ。俺が立ち寄ったとされる村々を潰せば、人間たちも黙っちゃいないだろ」

戦士「……」

勇者「人間vs魔族の全面戦争が勃発する。なぜだか知らないが、そうはなっていないから。むやみやたらと人間達の住む村々を攻撃しないよ」

魔法使い「その言い分には穴がある。淫魔達はこの村を実質襲っていた。このままいけば、壊滅していたわ」

勇者「まわりくどいやりかた、でな」

魔法使い「……そ、それは」

勇者「なるべく目立たないようにしてたんだと思うよ。もっと大規模にやってもかまわないんなら、人口の多い、例えばマッスルタウンを狙うだろ」

僧侶「アデルの城下町でもいいわけですしねぇ」

勇者「魔王軍は今はまだ、人間達と争う気はないらしい。明日はわからないけど」

魔法使い「じゃあ、あくまで勇者を個人的に狙ってくるってこと?」

勇者「……だといいけどねぇ。ルートを迂回する」

武闘家「どう行く?」

勇者「現在地はここ」

僧侶「西から東に、中心地のダーマに向かってまっすぐきたのでぇ~。3分の1ちょっとを過ぎたあたりですぇ」

勇者「その通り。ここから北に向かう」

魔法使い「北? 北ってことは雪原よ?」

勇者「この村で防寒対策をしっかり行う。休業していた稼ぎをとりかえすため、営業再開はまもなくするだらうからな」

戦士「北か……なぜ、南のクイーズベルではなく北なのだ?」

勇者「行きたくねぇから」

魔法使い「そ、そんな理由」ガックシ

僧侶「暑さよりも寒さの方がお好みなんですかぁ~?」

勇者「いや、知り合いがいるんだよ。南の国は」

魔法使い「寒いと乾燥するから、寒さよりは暑さがいいなぁ。肌によくないし」

武闘家「強い紫外線だって同じだろ」

魔法使い「……へぇ。武闘家も美容に気をつけてるんだ?」

武闘家「ち、ちがっ! そんなんじゃ、ない」

戦士「知り合いとはどういう知り合いだ?」

勇者「こわいのがいるんだ」ゾクッ

僧侶「こわい……?」

勇者「……とっても、恐ろしいやつが……や、やめて! パンツ脱がさないでっ! チン○ンの皮はひっぱるものじゃないよぉ!」ガタガタ

魔法使い「……だいたい想像がつくわね」

戦士「甲斐性の“か”の字もこいつからは感じられん……本当に、ついていっていいのだろうか」

勇者「……そこでだ」キリッ

僧侶「くすくす。コロコロ表情が変わって面白いですねぇ」

勇者「ギャグじゃないわい。……お前らも、よく考えろ」

魔法使い「考えるってなにを?」

勇者「俺と一緒にいると危険だぞ。まだ引き返せる」

戦士「……?」

勇者「いや、あのですね。そんな何言ってんだこいつみたいなキョトンとされても」

武闘家「バカじゃないのか、お前」

勇者「ストレートに言わないで⁉︎」

魔法使い「旅に危険はつきものでしょ」

勇者「危険の度合いといいますか」

戦士「死ぬのがこわいなら最初からついてきていない」

勇者「あ、そう」

僧侶「優しいんですねぇ~。でもぉ、余計な気をまわしすぎですよぉ~」

魔法使い「はぁ……いきなりなに言い出すかと思えば、くだらない」

勇者「すみませんねぇ! ……おや?」ピクッ

武闘家「今度はなんだ」

勇者「ちょっと、トイレ」

戦士「申告しなくていいから、さっさと行ってこい」

【淫夢城 玉座】

サキュバス「勇者を発見したっ!?」

リリス「はいぃ~お姉様ぁ。見事リリスが突き止めましてでございます~」スリスリ

サキュバス「報告! 報告なさい!」

リリス「ハッ! またもやトリップしてしまいました。お姉様がいけないんですよぉ、そんなに誘惑の波動をまきちらしてぇん」

サキュバス「……」ギロッ

リリス「ひっ⁉︎ も、申し訳ありません」

サキュバス「……して、勇者がいたというのは嘘偽りない真実か?」

リリス「はい、まことでございます。ミンゴナージュ村にて、遭遇いたしました」

サキュバス「だからか? 精気を搾り取る前に、撤収してきたのは」

リリス「は、はい。先に報告するのが急務と考えまして」

サキュバス「勇者を殺そうとはしなかったのか?」

リリス「そ、それは……」

サキュバス「目の前にいれば考えるはず。できなかったとすれば、圧倒的に力の差があったか?」

リリス「いいえっ! たしかに……攻撃魔法はたいしたものでしたが」

サキュバス「……攻撃魔法ですって?」

リリス「お姉様……失礼、サキュバス様もご存知のライデインです」

サキュバス「稲妻の……どのような威力であったか」

リリス「実際のところは……でも、通常の属性魔法と違い反応できるものではありませんでした。光速の速さといいますか、パッと光ったかと思い振り向けば、穴が」

サキュバス「それで、おめおめと逃げ帰ってきたか? なにもできず」

リリス「なにもできなかったなんてとんでもございません! お喜びください! 勇者に我が一族の特技は通用いたします!」

サキュバス「ほう……?」

リリス「誘惑が効きました! 精神攻撃が有効なのです! お姉様っ!」

サキュバス「それはそれは。たしかに良い報告ね。でも、そうならなぜその場で殺さなかったの?」

リリス「自分の腕を折り、正気を取り戻したのです。そしてライデインの威力をまざまざと見せつけられ……」

サキュバス「報告は終わりか」スッ

リリス「けっ、けっして! けっして逃げてきたわけではありません! 本当です! 罰はどうか!」

サキュバス「リリス、誘惑するなら骨までトロけさせなさいと言ったでしょう……」

リリス「は、はい」ブルブル

サキュバス「そんなに震えて。どうしたの?」

リリス「や、やはり、今からでも殺してまいります!」

サキュバス「よい。ゆっくり休め」

リリス「お、お願いです! サキュバス様! どうか、お慈悲を!」ガタガタ

サキュバス「……うふふ。かわいいかわいいリリス。怯えなくても平気。勇者には、私が会ってくる」

リリス「淫夢王様がっ⁉︎ そ、それは必要ないんじゃ。魔王様に報告して、あとは招集会議を」

サキュバス「勇者……。どれほどのものか自分で確かめたい。魔王様が、我が大魔王があれほど言う人物。たしかめねば、気が済まないのよ」

【村娘の家 トイレ】

勇者「漏れちゃう漏れちゃう」ジーッ

サキュバス「……」パッ

勇者「ふぃ~この瞬間が心のオアシスやでぇ~」ポロン

サキュバス「……リリスのやつ。転移魔法陣の座標誤ってる。使えない部下なんだか……ら?」キョトン

勇者「あ?」ジョロロ

サキュバス「えっ、ちょ、ちょっと」ビチャビチャ

勇者「おっ、ちょ、なんでいきなり便座に座ってんだよ! 急には止まらないんだって男は!」ジョロロ

サキュバス「め、目にはいっ、うえっ、口の中に」

勇者「顔にあたってはねてる! ばっちい!」チョロチョロ

サキュバス「お前のだしてるものだろうが! か、髪に、私の髪が……っ!」

勇者「……」チョロ

サキュバス「……に、人間よ。なにか申し開きはあるか」

勇者「いきなりは、勘弁してほいかなーなんて。あと場所も」

サキュバス「……」プルプル

勇者「ご、ごめんね? ツラかったよね? 顔にションベンぶっかけられ、髪と衣服まで……着てる服って、あぶない水着?」

サキュバス「――……死ねッ!!」バァッ

【村娘の家 リビング】

僧侶「みなさん機嫌をなおしましょ~」パンパン

戦士「機嫌なら……怒るのもバカらしくなった時点で。……呆れてるだけだよ。これから、魔王軍に目をつけられた旅になるかと思うと」

武闘家「死ぬのはこわくないと言ったくせに、ビビってるのか」

戦士「悪目立ちをしてしまったという意味だ!」

魔法使い「まぁ、その点については私たちも責任の一端があるのはたしかだし。問題は勇者の性格よね」

戦士「あぁ。だいたいあたしもつかめてきた」

魔法使い「てきとー、甲斐性なし」

戦士「うんうん」

魔法使い「私たちがしっかりしないとだめね」

僧侶「そんなことありませんよぉ」

魔法使い「僧侶、ほんっきで勇者に惚れてるわけ? 肩書きなかったら、しょーもないやつでしょ」

僧侶「それはぁ、おふたりの見る目がないだけでぇ」

――バンッ バンッ ドォーーン――

戦士「爆発音⁉︎」

武闘家「トイレの方からだ!」ダダダッ

魔法使い「今の炸裂音は……イオ系よ! イオ系の呪文だわ!」

僧侶「すごい音でしたねぇ」

武闘家「おい、どうした! ゆう、しゃ……」パタン

戦士「武闘家! なぜ扉の前で立ち尽くしている!」タッタッタッ

武闘家「……ない」

僧侶「ないってなにがですかぁ?」トテトテ

戦士「こ、これは……⁉︎」ギョッ

武闘家「トイレが、壁が、なにもかも。丸ごと、なくなってる」ヒュ~

僧侶「あらあらぁ~。外と繋がっちゃってますねぇ」

魔法使い「それで、勇者は……どこ?」

【ミンゴナージュの村 数キロ先】

サキュバス「この淫夢王に向かって、せ、聖水プレイだと……」バサッバサッ

勇者「高くて良い眺めである」

サキュバス「なぜしがみついてるんだお前はっ!!」

勇者「いきなりイオナズンとかぶっ放すから爆風で掴んだのが貴女でした」キリッ

サキュバス「こ、この……! 下等生物……!」

勇者「聖水プレイははじめてだったのか? 力抜けよ」

サキュバス「……」ヒクヒク

勇者「どこまで行くんだ? そろそろ地上に下ろしてほしいんだけど」

サキュバス「よかろう……ならば望みどおりっ!! 落ちるがいいっ!!」バサァ

勇者「おっ、いきなりそんな、あぶなっ、あっ」ツルッ

サキュバス「まだだ……メラゾーマ」ボォ

勇者「落下する相手に追い打ち? だめだよーそんなのは」ヒュー

サキュバス「今度こそ……! 死ねぇぇぇっ!!」ゴォッ

勇者「……っ!」バッ

サキュバス「腕を交差したところで防げるものかっ!! そのまま灼熱の業火で焼かれるがいい!!」

勇者「フバーハ」ボォ

サキュバス「……っ! 耐火魔法か!」ゴォォォッ

勇者「うぉっ! あちっ、なんだ? 防御魔法が」

サキュバス「そんじょそこらのやつが放つメラゾーマだと思うなよ! そんなちっぽけなもので……!」

勇者「にょわわわぁ~~~」ヒュー

サキュバス「……な、なんだ。今のマヌケな叫び声は。落下していったが……一応、確認しておくか」

【ミンゴナージュの村~ 荒野】

サキュバス「このあたりに落ちたはず。岩だらけで目視しずらいわね」バサッ バサッ

勇者「あ~、死ぬかと思った」ガラガラ

サキュバス「……っ⁉︎」ギョッ

勇者「ただのメラゾーマだと思って舐めてたわ。見てくれよ。マントが焦げちまった」ビリビリ

サキュバス「な、なんだお前は⁉︎ こ、この私のメラゾーマだぞ!」バサッ バサッ

勇者「この私ってどちら様か知らんけども。ご近所さんではないな」

サキュバス「ま、まさか、お前が……⁉︎ お前が勇者なのか! そうであろう! 生身の人間でこんな強力な個体などいない!」

勇者「んー、まぁもう隠しても仕方ないか。そうだよ」パンパン

サキュバス「そ、そうか……貴様が。どおりで、消し飛ばしたはずのイオナズンも、焼き殺したはずのメラゾーマも」

勇者「さっきのやつなぁ、俺以外に放つとあぶないと思うんだ」

サキュバス「ふ、ふふっ! 勇者よ! 私はお前に会いにきた!」

勇者「それはどうも。こんにちは」ペコ

サキュバス「その実力。伝説に違わぬかどうか私自らが見定てあげる。――見せてみなさい。魔王様に届きうるか否かッ!!」バサァッ

勇者「めんどくせぇ」ゲンナリ

サキュバス「まずは小手調べといきましょうか。この荒野とともに散りとなるなよ……」

勇者「心配してくれんの?」

サキュバス「がっかりさせるなという意味だ! さっきよりも魔力を高めてるぞ」ギュイィィィン

勇者「(こいつは……今まで会った中で一番やべぇっ!!)」グッ

サキュバス「連鎖する爆風! 小さき精霊(もの)どもよ! 連なり爆(は)ぜろ!! イオナズンッ!!」

【ミンゴナージュの村 村娘の家」

魔法使い「えっ? えっ? 勇者は、どこに行ったの?」

僧侶「もしかしてぇ~。責任を感じて一人で行かれたのではぁ~?」

戦士「そ、そんなタマかぁ? あいつが」

僧侶「絶対ないって言い切れますかぁ?」

魔法使い「可能性の話をしたらキリがないけど」

武闘家「いなくなってるのは事実さ」ドサッ

戦士「どうしたんだ? 座りこんで」

武闘家「どーすんのさ。これから。アタイ達は」

魔法使い「どうするって?」

武闘家「忘れたの? 旅の目的」

戦士「いや、忘れてないが」

武闘家「アタイは師匠との約束を守るため。あんた達は何のためか知らないし、知りたくもないけど……勇者についてく。そう思ってパーティ組んでたんだろ」

魔法使い「……」

武闘家「見切りをつけられちまったのは、アタイ達の方だったってわけだ」

戦士「いや! しかし、あたしたちだって選ぶ権利が」

武闘家「その選ぶ権利とやらはさっき行使したばっかだろ。満場一致で勇者と行動をともにする。そこに疑問なんてあったの?」

戦士「それは、なかったが」

武闘家「アタイが言ってるのは、“勇者にだって選ぶ権利がある”。そういうことだよ」

魔法使い「……で、でもっ!」

武闘家「でももへったくれもないって言ってんだろ!」バンッ

魔法使い「……っ!」ビクッ

武闘家「いなくなってるんだよ……リーダーが……どうすんだよ……これから」

僧侶「メソメソしたって仕方ないですよぉ~」

武闘家「だ、誰がメソメソしてるって⁉︎」

僧侶「私には、武闘家さんが一番ショック受けてるように見えます~。ほかのお二人は、ポンコツさんなので実感がないかもしれないですけどぉ」

戦士「う、うむ。言われてみれば、先ほどはきつく言いすぎたかもしれん」

魔法使い「……」

――ドォーーンッ ドォーーンッ――

武闘家「なんだ……?」パラパラ

戦士「天井からホコリが……それに、かなり離れてるが音が聞こえる」

魔法使い「マッスルタウンの花火?」

戦士「バカいえ。そんな大規模なものでは……それに断続的に続いている」

武闘家「向こうの方角だね。空が……? 雨雲?」

僧侶「さっきまで曇ってませんでしたのにぃ~……これって、まさかぁ、あの魔法ではぁ?」

戦士「僧侶、なにか?」

僧侶「予想が正しければ勇者様はまだ数キロ先にいらっしゃいます~。追いかけますよぉ~」

【ミンゴナージュの村~ 荒野】

勇者「あっぶぇなぁっ!」ヒョイ

サキュバス「危ないで済んでるお前はなんなんだ! すこしは攻撃したらどうっ⁉︎ それか、当たりなさい!」ブンッ ズォッ

勇者「わろたww当たるバカがいるかよww」

サキュバス「……バカ?」ピクッ

勇者「むっ? いや、言葉のあやで」

サキュバス「バカにしたのか? 王の前で、一族を……?」ゴゴゴッ

勇者「(煽りすぎたか。顔真っ赤やで)」

サキュバス「この私をおおおおおっ!! 誰だと思っているかぁぁああッ!!!」バサァッ

勇者「……ぬっ⁉︎」グッ

サキュバス「――……“誘惑の波動”」キィィィッ

勇者「な、なんだ? あり?」ガクガク

サキュバス「どうした? 勇者よ、下等な人間よ。膝が笑っておるぞ」

勇者「ぬぐっ、ち、力が、抜ける」ガクッ

サキュバス「そうだ! 膝をつけ! それこそが王たる私にふさわしい姿勢! バカにするなど万死に値するッ!!」キッ

勇者「ま、まずいぞ、これ」ドサッ

サキュバス「リリスの報告はただしかったようね。ねぇ、なぜ私が淫夢の王になれたと思う?」

勇者「し、しらないけど」ググッ

サキュバス「それは、魅惑の魔眼を開花できたから。この魔眼を開花するには膨大な魔力を必要とするの。体力もね……でも、効果は絶大」

勇者「どんな、チートなんだ」

サキュバス「どんな強者であっても、見つめられると私の意のままに操れる」

勇者「そ、それはまた、ありがちな能力で」ググッ

サキュバス「それだけじゃないわ。意のままに作り変えることができる。過去も未来も」

勇者「……?」

サキュバス「現在は、過去と未来の中にあるのよ。普遍的なものではないから。あなたが成り立っている過去、家族、全てを忘れられたら……?」

勇者「意味が、わからん」

サキュバス「別の人間になってみる?」

勇者「な、に……?」

サキュバス「リリスも使ったかもしれないけど、あの子はまだ開眼できていなかったでしょうから。……勇者よ、あなたは今から勇者ではない」キィィィン

勇者「……」フラァ

サキュバス「そう……いい子ね。あなたはもう勇者ではないのよ」

勇者「勇者じゃ、ない」スゥ

サキュバス「ただの青年。疲れたでしょう? 人間たちの御輿に担がれるのは」スタッ

勇者「でも、僕は、みんなが期待してるから」

サキュバス「(深層心理がでてきてる……)……いいのよ。忘れて。魔族になりましょう」

勇者「だめだよ、そんなのっ! 僕が、僕がやらなくちゃ……!」

サキュバス「……言うことを聞きなさい」キィィィン

勇者「うっ、あ、あぁっ」ガクガク

サキュバス「いい? あなたは――……勇者じゃない」

勇者「わかった……」ビュッ

サキュバス「……っ⁉︎ き、消えたっ⁉︎ そ、そんな、どこに……っ⁉︎」

勇者「……こっちだ。ウスノロ」ビュッ ブンッ

サキュバス「……っ! う、うしっろぉ……っ⁉︎ ぎゃあっ」ドゴーーンッ

勇者「……」スッ

サキュバス「……う、うぅっ」パラパラ

勇者「……僕は、勇者じゃない」バチィ バチバチィッ

サキュバス「くっ、な、なんだ……っ⁉︎ 今の一撃は! 今のスピードは! パンチは! わ、私の障壁が……っ!!」ゾワッ

勇者「お前を殺すぞ……」

サキュバス「あ、雨雲が……勇者の頭上に。いつのまに。……やつが作ってるのか⁉︎」ギョッ

勇者「ギガ……」バチィッ バチバチィッ

サキュバス「ひ、ひぃっ⁉︎」アタフタ

勇者「ギガ・デイン!」バチバチィ ピシャン

サキュバス「――……ギャぁあああああっ!!」バチバチィ

勇者「まだまだ……!」バチバチィ

サキュバス「うがぁぁぁぁあッ!! こ、こんなもの、こんなぁっ、ギャあああっ!!」バチバチィ

勇者「……う、うぅっ」ピタッ

サキュバス「ああァァッ――……あっ、あっ、うっ」プス プス

勇者「だ、だめだ。こんなの……」

サキュバス「うっ、うっ、一瞬で、障壁が、すべて……こ、こんな……こ、こいつの牙は……ルビスめ……隠していたのかぁ……!」プス プス

勇者「」ドサッ

サキュバス「き、気絶した、のか。じょ、冗談ではない、ぞ。我を失っていたとは、いえ……それは、本来持ってる力をふるっただけ、のはずっ」ズリ ズリ

勇者「」

サキュバス「息の根を止めねば……! こ、こいつの力は……魔王に、匹敵する……ッ! 友好などと……なまっぬるい話ではない、我が王の不安は、正しい……ッ!」ズリ ズリ

勇者「」

サキュバス「こいつは、今っ、ここでぇ、殺しておかねばならないッ……!」ブンッ

サキュバス「――……なんの、なんの」ズワナワナ

ハーピー「……」バサッバサッ

サキュバス「なんのつもりだっ!! ハーピーッ!!」クワッ

ハーピー「……すミません」スタッ

サキュバス「魔族語でよいわ! 担いでる勇者を連れてさっさと降りてこい!! なんならお前が息の根をとめろ!!」

ハーピー「……」チラッ

勇者「」

ハーピー「この者の命、私が預かります」

サキュバス「ばっ⁉︎ バカなことを言うなっ⁉︎ すぐに出てこれたということは、お前も見ていたんだろうが!」

ハーピー「転移の魔法陣で送ります。サキュバス様であれば、一命はとりとめるでしょう」

サキュバス「だめだ、だめだだめだだめだぁッッ! 今すぐ殺せ! やれ!! なぜ人間を助ける! 魔族だろうが!!」

ハーピー「魔族、だから、です」

サキュバス「な、なにを世迷言を……」

ハーピー「誇りがあるからっ! この者は、必ず私が殺します」

サキュバス「中級のお前なぞに敵うものか! 一瞬で消し炭にされるぞ!! 私の姿を見よ!!」ズリ

ハーピー「そう、かもしれません」

サキュバス「獣王に報告するぞ⁉︎」

ハーピー「追い、だされ、ました」

サキュバス「~~~ッ!! この馬鹿者がっ!! 誘惑の波動ッ!」キィィィ

ハーピー「ご無理をなさらない方が。今は力を回復に回すのです。……本当に、死んでしまわれます」

サキュバス「くっ、おのれぇぇえええっ!! 力が……!」ガクッ

ハーピー「私は、魔族にも、人間にも、属さぬ身。しかし、魔族である誇りは失っていません」

サキュバス「な、なぁ? そいつを殺せば、クチを聞いてやろう! 獣王との仲をとりもってやろう!」

ハーピー「それもまた、然り」

サキュバス「か、かたいことを言うな! 我らは魔族だろうが!」

ハーピー「ご達者で。獣王さまにもよろしくお伝えください」スッ

サキュバス「ハァァァピィィィッッ!! 許さんぞ!! 貴様の一族! 家族! 親兄弟全ての魂を抜き去ってやるっ!! 魔王様にも報告して、未来永劫地獄の業火で焼かれ――ッ!!」スゥーー

ハーピー「はぁ……ばいばい。サキュバス」

勇者「」

ハーピー「……これで、貸し借りなしよ。お前は、勇者は私が必ず殺す。もっと強くなって。命は私のものだ」バサッバサッ

【一時間後 荒野】

魔法使い「な、なによ、これ。地形変わってるんじゃないの? 隕石でも落ちてきた?」ゴクリ

戦士「足場がかなり脆くなってる! 踏み外して足をくじかないように気をつけろよ!」

武闘家「……」タンッ タンッ

僧侶「ぶ、武闘家さん待ってくださぁ~い。そんなに軽々と超えられませんよぉ~」

武闘家「爆心地にいるはず。どこだ……」キョロキョロ

戦士「焦げ臭い匂いがする。枯葉が焼かれているのか」

武闘家「……」キョロキョロ

魔法使い「かすかに魔力の残り香を感じる……戦ってた? ここで?」

僧侶「ふぅ、ふぅ。よいしょっうんしょっ」カラカラ

武闘家「いたっ!」タンッ タンッ

勇者「」

武闘家「おいっ! 勇者!!」ダダダッ

戦士「ん⁉︎ 勇者? おぉーい! 武闘家! そっちに勇者がいるのか⁉︎」

武闘家「身体が、熱い……! 僧侶! こっちだ! 早く来い!!」

僧侶「そ、そういわれましてもぉ~。急いでますよぉ~」

武闘家「……」ピトッ

僧侶「到着~おでこをくっつけられてますけどぉ、熱があるんですかぁ?」

武闘家「あぁ、かなり熱い。診てやってくれ」スッ

僧侶「わ、私は医者じゃありませんので診断はぁ。とりあえず、回復魔法をぉ。ベホイミ」ポワァ

勇者「」

僧侶「キアリク」ポワァ

勇者「」

僧侶「キアリー」ポワァ

戦士「よいせっと。……ん? 勇者どうしたんだ?」

魔法使い「せ、戦士、手を貸して」

僧侶「……これは、まずいわ」

戦士「まずいって、なにが?」

僧侶「武闘家さん! 勇者様を担いではやく村に戻るのよ!」

武闘家「えっ、あ、ああ」

僧侶「はやく! 貴女の足が一番はやい! 村に帰ったら氷水につけたタオルで冷やして!」

戦士&魔法使い「……」ポカーン

僧侶「なにボサっとしてるのよ! 急げっつってんだろ!! ロッドでぶん殴るぞコラァ!!」

【数時間後 村娘の家】

僧侶「……いま、タオルをとりかえますね」スッ チャポン

勇者「Zzz」スヤァ

戦士「な、なぁ。そ、僧侶、さん?」

魔法使い「沈痛な表情浮かべてるところ悪いんだけど、さっきの、言葉使いって?」

僧侶「なんですかぁ?」

魔法使い「ええぃ! まどろっこしい! 素は違うんじゃないの⁉︎」ビシッ

僧侶「なんのことでしょお~?」

魔法使い「……二重人格とかじゃ、ないわよね?」

武闘家「アンタたち、今は勇者だろ。僧侶、どうなのさ」

僧侶「知恵熱、みたいなものでしょうか~」

戦士「知恵熱? というと、詳しい原因がわからないという、赤ちゃんがよくなるあの?」

僧侶「そうですよぉ~。びっくりしちゃったんでしょうねぇ」

魔法使い「びっくり……?」

武闘家「普段から慣らしておかないからってことか」

戦士「なんで武闘家は合点がいったみたいな顔してるんだ」

魔法使い「……?」

武闘家「……心配なさそうね」

僧侶「はい~。一時はどうなることかと思いましたが、たいしたことなくてなによりですぅ」

武闘家「外で風に当たってくる」

魔法使い「ね、ねえっ! 私達だけ置いてけぼり⁉︎ 勇者はなににびっくりしてんの? 荒野のあの惨状は⁉︎」

僧侶「さぁ~。なぜなんでしょうねぇ」

戦士「……んー?」

【ミンゴナージュの村 翌朝】

勇者「あぁ~よく寝た。なんだかやけに気分がスッキリしてんな。ストレス発散でもしてきたような……」

僧侶「Zzz」スヤァ

勇者「俺の膝に顔を置くとは100年はやい……あり?」

魔法使い&戦士&武闘家「Zzz」スヤァ

勇者「なんでこいつら座ったまま寝てんだ? 布団なかったのか?」

僧侶「ん……あっ」ゴシゴシ

勇者「お、おはよう」

僧侶「おふぁようございますぅ~」

勇者「な、なぜにみんな座ってんの?」

僧侶「昨日はあまり寝れなかったのでぇ~。深夜遅かったですしぃ」

勇者「あ、あぁ。……あれ? あの後俺どうやって帰ってきたんだっけ」

僧侶「お疲れ様でしたぁ」ペコ

勇者「なにが……?」

武闘家「ん、おっ、目が覚めたのか……ふぁ~ぁ」ノビー

勇者「ああ、おはよう」

武闘家「今日出発すんだろ? アタイは顔洗ってくるよ。あと、あんまり無理すんなよ」スッ

勇者「あ、ああ」

僧侶「勇者さまぁ、あらためてぇ、不束者ですが、これからもよろしくお願い申し上げますぅ」ペコ

勇者「……俺死ぬの? 優しくされると不安になっちゃうんだけど」ハラハラ

【淫夢城 回復室】

サキュバス「ぷはぁっ……ここは……?」バシャァ

リリス「さ、サキュバス様ッ!! よ、よかった! 瀕死の状態で帰ってきてから気を失っていたんですよぉ!!」ホッ

サキュバス「そうか、生命のスープにつかっていたのか」

リリス「す、すみません。生臭い匂いがお嫌いなのは存じていますが、この回復法が細胞を傷つけないので」

サキュバス「障壁の回復はまだのようね……」

リリス「な、なにがあったんですか? あんなボロボロの状態になっていたなんて。あっ、タ、タオルです」ササッ

サキュバス「特別収集会議をすぐに開く。各城に伝達を。魔王様には、私が直々に出向く」フキフキ

リリス「は、はいっ! ただいま!」バサッ

サキュバス「……おのれッ……許さぬ……っ!! 許さぬぞっ!! ハーピーッ!!」クワッ

【ミンゴナージュの村 入り口】

勇者「さて、必要なものは買ったし。出発すっかね、みなさん」クルッ

戦士「あ、あのだな。勇者」

魔法使い「べ、べつにっ! あんたのためになんか」

勇者「お前ら起きてからそればっかりだなぁ、なにを拾い食いしたんだよ」

魔法使い「……こ、こいつがこんなやつだから……!」

僧侶「くすくす。おふたりはですねぇ、昨日言いすぎたんじゃないかと気にしてるんですよぉ」

勇者「なにをだよ」

戦士「そ、それはその。魔族を逃した時に」

勇者「あ? ……あー! そんなことあったなそういや」

魔法使い「ちょ、ちょっとだけ! きつく言いすぎたかなって」

勇者「いや、俺こそすまん。考えが浅くて」ペコ

戦士「や、やはり、気にして……」

勇者「ばぁ~~~っかじゃねぇの?」

魔法使い「……」

勇者「思わず有名なコラ画像貼りたくなったわ。あぁ~んなもん気にするかよ。俺は煽り耐性鍛えられてんだ」

魔法使い「……そ、そう」プルプル

勇者「落ちこんでると思ったのw やばいねw」

戦士「やはり、私が間違っていたようだ」スラッ

勇者「お前らはもうちょっと煽り耐性つけたほうがいいと……」

魔法使い「メラミッ!!」ボッ

勇者「当社比50パーセント威力アップ!」ササッ

戦士「根性を叩き直してくれるッ!」チャキ

武闘家「はぁ……おぉ~い勇者ぁ。馬車に荷物積んだよー。行くんならさっさとしろよー」

勇者「まて! 殺気が本物だろ! 待てって! 落ち着け! 冗談だってば!」ヒョイ ヒョイ

僧侶「次の街はぁ、どこなんでしょうねぇ」

魔法使い「ヒャド!」カキンッ

勇者「待てッ! そこはケツ! アーーーーッ!!」

【魔王城 付近 沼地】

魔王「――それで、終わりか」

サキュバス「我が王よ。私が間違っておりました!!」

魔王「で、あるか」

サキュバス「魔王様は勇者が架け橋になると不安がっていましたが、それとはまったく別ッ!! 不安は別の形で正しかったのでございます!!」

魔王「ふぅ……で、あるか」

サキュバス「特別招集会議をすでに呼びかけております! 今すぐに万を超えるモンスターをかき集め、勇者を滅ぼさなければ!」

魔王「で、あるか」パサッ

サキュバス「き、聞いておられますかっ⁉︎ 沼地のマドハンドに餌をやっている場合では……」

魔王「ピーピーピーピーと」

サキュバス「ハッ!? し、失礼。取り乱してしまい」

魔王「お前も種族の王。であれば、冷静さを失わぬことだ。足元をすくわれるやもしれんぞ」

サキュバス「お、おそれながら我が王よ。勇者は魔王様に匹敵を――」

魔王「それ以上は許さぬ。二度はないぞ」ゴォッ

サキュバス「ひっ⁉︎ ま、魔王様の波動……!」ゴクリ

魔王「そうか。遂にやつを見つけたか。万里先を見通す水晶でも見つけられなかったやつを遂に……!」

サキュバス「皆が、種族達の王が魔王様をお待ちでございます」

魔王「勇者……! 面白い、貴様の伝承が真実であれ、実力者であれ、余は勇者の全てを否定してやる!」

サキュバス「我らの王よ。絶対的な神よ。すべては、あなた様の御心のままに」

~~第2章『ミンゴナージュ村のタタリ』~~


これにて2章完。
ど直球に王道突き進んでます。レスくれた方々ありがとうございました。見てる人がいると思うと励みになります。

今後の展開についてはコメントを差し控えます。

SSをエゴサ(自分のこと調べること)してみると
、有り難いことに某まとめブログさんにまとめられていたました。
少しでも多くの目に触れる機会が増えて大変嬉しく思っております。

・二章について
導入(旅立ち~仲間加入)である一章と比べ二章は、これまでの基本路線は守りつつ
話に広がりを持たながら伏線要素を散りばめないといけませんでした。
安易にバトルをやりすぎたのはどうかなと自分では思います。
ただ、どこかしらで必要なのでここでやっちゃった感じです。

三章は少し時間あけようかどうしようか迷ってます。
読む人も書く人も、長いSSになると次第に飽きてくるのが難点でございます。

娯楽や暇つぶしでSSは存在しているので飽きさせないで読めるのが一番いいんですけどね。
書いてる側としてはプラモデル組み立ててるような感覚として書いてます。
構成や見せ方を考えながら書くのが難しく、また楽しくもありって感じです。
頭の中で場面場面が思い浮かぶようなセリフになっているはずです。

今読んでくださってる方々は「なんかあるぞ、読んでみるか」「つまらん」というかたも含め
ほかには「続きが楽しみ」と読みたくて読んでる方がもちろんいると把握してて、待っている状態だと思います。

なのでそういう人達向けに続けたいと思います。
三章は今日の午後あたりからスタートします。

【ダーマ神殿 聖堂】

大司祭「な、なぜ勇者様の目に枝が被っているものしかないのだね」

神官「それがそのぅ、投影機で撮影しようと思ってもこうなってしまいまして」

大司祭「これではまるで犯罪者ではないかっ! 指名手配でよくあるあの!」

神官「す、すみませぇ~ん。機材が重くてぇ、勇者様を撮影するたびに移動するのが大変でぇ」

大司祭「……うぅむ。まぁよい。こちらに到着してから改めて、撮影させてもらおう」

神官「は、はいぃ~」シュン

大司祭「それで、定期的に伝書鳩はきているのか」

神官「ちゃぁ~んと来ていますよぉ」

大司祭「真面目に仕事をしとるようだな」

神官「かわいそうですよぉ~。あの子は立派に改心いたしましたー」

大司祭「才能はピカイチなんだがなぁ。あのはねっかえり娘は」

神官「で、ですからぁ~、今はそんなことありませんってばぁ」

大司祭「人はそう簡単には変わらん。幼い頃、この大聖堂にきてからは喧嘩ばかりおこしていたではないか。神官も覚えておろう?」

神官「は、はぁ。それはぁ」

大司祭「“ダーマの殴り僧侶”“ロリヤンキー”。通り名がいくつあったことか。ワシは何度も恥をかかされた」

神官「くすくす。大司祭様のパンツにワサビをぬったこともありましたかっけぇ」

大司祭「あ、あれは……今思い出してもシャレになっとらん」タラ~

神官「芋虫からサナギへ。そして蝶になりはばたいてゆくのですぅ~。私たちが知らない内に」

大司祭「淑女になっていればいいがなぁ。お前の口調をマネだしてからは大人しくなったが」

神官「あの子もそういうお年頃だということですわぁ~」

子供「司祭さまっ! 賛美歌の準備ができました!」

大司祭「おお~もう済んだのか。えらいぞ」

子供「えへへっ! みんなはあちらに!」ススっ

大司祭「うむ。それでは子供達よ――」

子供達「はーーいっ!」

大司祭「――……両の指を絡め、女神ルビス様を讃える唄を。この世に祝福の光、あれ」

喜び、それは、美しき神々の閃光。楽園からの乙女。

われらは熱情に酔いしれて、汝の聖殿に踏み入ろう。
汝の魔力は世の習わしにより冷たく引き離されたものを再び結び付。
勇者の優しき翼のもと、全ての生物は兄弟となる。

神官「(僧侶。勇者様の力に精一杯なりなさい。お務めを果たすのです。祈りましょう。私も、あなた方の旅の無事を祈って……)」

【ミンゴナージュの村 ~ 森林 馬車の中】

僧侶「ふぅ~」パカっ

魔法使い「……なに? それ。手鏡?」

僧侶「はい~。これは私の大切な方からいただいたものなのですぅ」

戦士「故郷か、親からの餞別品か?」

僧侶「いえ~。私、親はおりませんのでぇ」

戦士「そうなのか。亡くなられた、とか」

僧侶「いえいえ~。捨て子だったのですよぉ。ほらぁ~、よく聞くでしょぉ~? 教会に赤ん坊の入った籠をおくとぉ」

魔法使い「あ、あんまり、聞かない」

僧侶「そうですかぁ? 教会は駆け込み寺的な場所でもありますからねぇ~。もしおふたりが無計画に子供を産んで、どうしてもとなったらぁ」

戦士&魔法使い「するかっ!!」

僧侶「……でもぉ、残念なことにそうしてしまう親もいらっしゃるのですぅ」

武闘家「親のこと、恨んでないの?」

僧侶「顔もわからない方をどうやって恨めというのですかぁ?」

武闘家「なぜ、捨てたのか、とか……」

僧侶「さぁ~。事情があったのかもしれませんねぇ~、なかったかもしれませんがぁ~」

戦士「サッパリしてるんだな」

僧侶「そういうんじゃありませんけどぉ。そういう時期は過ぎ去ったというだけですよぉ」

武闘家「まぁ、でも、大切な人ができたならいいんじゃないさ」

僧侶「そうですねぇ~。人は出会いがあり成長していくもの。女神様に感謝せねばなりません~」スッ

魔法使い「信仰、ねぇ」

僧侶「耳を澄ませば、今にも聖堂からの賛美歌が聞こえてくるかのようですぅ」

魔法使い「なんだか、後光が見えるわ。僧侶から」

戦士「徳を勇者にも少しは分けてやったらどうだ?」

僧侶「またおふたりはそうやってぇ~。勇者様は私たちが拝むべきお人なんですよぉ」

魔法使い「聖人君子なら拝みもするけどね。あれじゃあね」

戦士「うんうん」

僧侶「いつか、あなた方にも勇者様の御心を察することができるといいですねぇ」

ガタン ガタン

勇者「おい、ついたぞ」ヒョイ

僧侶「はい~かしこまりましたぁ。勇者さまぁ~」ニコ

【森林】

魔法使い「ついてないじゃないのよ!」スパーン

勇者「顔はやめて!」ドサ

武闘家「おかしいと思ったんだ。ミンゴナージュを出発してからそんなにたってないし」

戦士「うぅん、獣道のせいで車輪がグラついてるな」ギィ ギィ

僧侶「大工道具は買ってきませんでしたよねぇ」

勇者「いてて、戦士。車輪持ち上げられるか?」

戦士「お前はあたしをオンナアマゾネスかなにかと思ってるのか?」

勇者「ちがうの?」

戦士「ふんっ」ドゴォ

勇者「ガゼルパンチッ⁉︎」ドサ

武闘家「新品の状態でもらったのに。ボロボロじゃないか」

勇者「う、うぅ、元はといえばお前らが暴れるのが悪いんやろが」

武闘家「そ、そうだっけ?」

勇者「あの時にグラつく兆候を作ったのかもしれん」

戦士「む、無効だ! そうならあの場で指摘すべきだ!」

魔法使い「馬車には食料もつんであるし、おいてけないわよ。ここに」

ギャアー ギャアー バサバサッ

僧侶「モンスターの鳴き声が聞こえますねぇ」

魔法使い「馬が怯えて逃げ出すかもしれない。勇者、どうする?」

勇者「うーん。馬は使えるんだからトンカチ買いにひとっ走り行ってくるか」

魔法使い「私たちはこのまま?」

勇者「そんなに時間かからんだろ。それに、ここらのモンスターなら襲われても対処できるんじゃね」

武闘家「アタイがいれば平気だろ」

勇者「なんでもいいけど。じゃあ、俺が馬にのって行ってくるから」

僧侶「お気をつけてぇ」

勇者「俺、無事に帰ってきたらあの子と結婚するんだ」

魔法使い「誰とよ!」

勇者「フラグもわからんとはなっとらんやつだ。よっ」ザッ

馬「ブルルッ」

勇者「はいよー、シルバー!」バシッ

馬「……」

勇者「あ、あり? は、はいよー!」バシッ

戦士「なにやってるんだ。こいつ」

魔法使い「馬にまで舐められてる」

勇者「そ、そんなバカな⁉︎」

武闘家「はぁ……いってこいッ!!」バシィッ!

馬「ヒヒィーーンッ!!」ガバァ

勇者「あっ! そんな、いきなり、はげしっ! らめぇええええ~~っ!」パッパカ パッパカ

魔法使い「……勇者ってふざけないと死ぬ病気なのかしら」

【森の中】

勇者「これなら、すぐに森を抜けられそうだな。しっかし、ロケーションが物足りない気がする」パッカパッカ

ビュッ ズバッ

馬「ヒ、ヒヒーンっ!」ズサァ ピタッ

勇者「うおっ⁉︎ ど、どーどー! な、なんだ今のは。なにかが横切ったよな?」

スラリン「ピギーッ!」ポヨン

勇者「このありがちな鳴き声と他のスライムと見分けのつかない姿はっ! お、お前っ! もしかしてスラリンか⁉︎」

スラリン「ピギーッ!」ポヨン ポヨン

勇者「お~~っ!! 初めてにして最後の友よ!! はははっ! 元気だったか⁉︎」

スラリン「ピィッ!」

勇者「こんなところにいたんだなぁ。立派になって。チ○コの皮も剥けたか?」

スラリン「ピッ?」

勇者「スライムってゲルだからないのか? どれどれ」ムニィ

スラリン「ピィっ⁉︎ ピギーッ!」ボフンッ

勇者「おうふっ。今のは言葉がわからなくてもなぜ怒ったかわかる気がする……」ドサ

馬「ヒヒーンッ!」パッカパッカ

勇者「あっ! しまっ! ちょ、ちょっと待てよ! どこ行くんだ勝手に! ま、待ちなさい! 待ってくだはい!」

スラリン「ピー……」

勇者「い、いってしまわれた。ま、まずいぞ。このままじゃ、あいつらに殺されてまう……!」

スラリン「ピッ?」

勇者「す、スラリン。た、助けてくれ!!」クワッ

スラリン「ピィ?」

勇者「お、俺は、実は。召使いのようにこき使われとるんだ」

スラリン「ピッ⁉︎」

勇者「来る日も来る日もまわりにふりまわされ。足蹴にされる日々……う、うぅ」

スラリン「ピィ……」ススッ

勇者「慰めてくれるのか! 心の友よ!」ダキツキ

スラリン「ピィッ⁉︎」

勇者「け、決してあいつらがこわいわけじゃないぞ。馬が逃げたのも不慮の事故だ。オレ、ワルクナイ」

スラリン「ピッピッ」ヌル ポヨンポヨン

勇者「あ、どこに行くの? 俺を今ひとりにしないでぇ! メンヘラになっちゃうよぉ!」ヨタヨタ

【茂みの中】

勇者「ここは? スライムの集会所か……?」ガサガサ

スライムベス「ピッ⁉︎ ピギィーッ!!」

勇者「おもっくそ警戒されとるな」

スラリン「ピィー!」ポヨン ポヨン

メタルスライム「」ササッ

勇者「慌てるでない森の住民よ。ワシが危害をくわえるつもりは」

スライムベス「ピギィー!」ドンッ

スラリン「ピッ⁉︎」ズザザァ

勇者「これこれ。やめなさい。浦島太郎の亀さんいじめる子供かお前らは」

「誰? 誰かそこにいるの?」ガサガサ

勇者「……今のは、空耳かな? 人間の声が聞こえたような気がしたんだが」

「あなた、ニンゲン? 私の言葉がわかるの?」

勇者「やっぱり聞こえる。どちら様で?」

「下よ、した」

勇者「下には、スライムしか……」

「いるじゃない。声は聞こえるだけで見えないの?r

勇者「んん~?」ジィー

「まだ見えない?」ボヤァ

勇者「おお、なんかうっすらと……だんだん鮮やかになってきた」

妖精「驚いた。本当に見えだしてるんだ」スゥー

勇者「ああ。今はっきりと見えた。紫の髪で虫みたいな羽があるな」

妖精「虫は余計でしょ。あなた、本当にニンゲン?」

勇者「うん、そだよ」

妖精「ニンゲンには見えないはずなのに。……わかった! 変わったニンゲンね!」

勇者「なんの違いが?」

妖精「こんなところでなにしてるの? ニンゲンはここに用なんてないでしょ? 薬草でもとりにきた?」

勇者「いや、懐かしい友にあってね」

スラリン「ピッ!」ポヨン

妖精「えっ⁉︎ ニンゲンと友達なの⁉︎ うそぉっ⁉︎ 信じられない!」

勇者「むしろ俺人間に友達いないんだ」

妖精「え? そんなのありえなくない? 実は魔族?」

勇者「い、いや。そ、その。避けられてたっていうか」

妖精「いじめられてたの?」

勇者「違うよ! 俺はひとりでいたかったの!」

妖精「……隠キャ?」

勇者「フヒヒ。よ、世の中が悪いんだぁ! 俺は悪くねえ……」ドヨーン

妖精「はぁ……変なニンゲンね」

勇者「ここに住んでんの?」

妖精「ええ、そうよ。この森は精霊様のお膝元ですもの」

勇者「へー、そうなんだ。村からあまり離れてないのに」

妖精「ミンゴナージュの村? もともとあの村はここにいる精霊様を祀ってたの」

勇者「サキュバス祀っとったぞ」

妖精「ニンゲンは得体の知れないものに出会うとすぐに信仰を鞍替えするのよね。なにもしてくれないからっていって」

勇者「生きるのに必死なんじゃない?」

妖精「自分たちのことばっかりよ。ニンゲンなんて。集団で生活するから周りの影響に流されやすいでしょ」

勇者「うん、まぁ」

妖精「感情が不安定だしね。って、ニンゲンにいってもしかたないか」

スラリン「ピッ」ポヨン

妖精「……スライムが人間の膝の上に。そんなの聞いたことない」

勇者「こいつはな。昔怪我したところを助けてやったんだ」

妖精「へぇ」

勇者「それからだよな? 仲良くなったのは」

スラリン「ピィッ!」

妖精「それにしたって異常よ。恩を感じるなんて」

勇者「細かいことはいいんだよ。こうなってんだから。なー?」

スラリン「ピィー!」

妖精「私の姿が見えるし……ねぇっ、あなたってもしかして、勇者ってやつじゃない?」

勇者「違うよ。俺は」

妖精「なぁーんだ残念。勇者なら面白いもの見せてあげようと思ったのに」

勇者「……ちなみにどんなもの?」プニプニ

スラリン「ピッピッ」スリスリ

妖精「“ロトシリーズ”って聞いたことない?」

勇者「ん……?」ピクッ

妖精「何代かに渡る勇者の物語。その石碑があるんだよ」

【森林 祠】

勇者「……これが」スッ

妖精「もー! 勇者じゃないくせに!」

勇者「初代ロト……二代目、三代目……」

妖精「当時の魔王との争いが描かれているみたい。ほら、そこに描かれてるのが不死鳥ラーミアにまたがってる」

勇者「勇者って、なんなんだ?」

妖精「えっ?」

勇者「女神の加護。先代……これまでの勇者も同じように?」

妖精「よくわからないけど、血統があることはたしかね。勇者である一族は、決められた家系から排出されてきたみたい。唯一違うのは、初代ね」

勇者「古代語で読めないな」ザリ

妖精「うーんとね、曖昧なのよ」

勇者「曖昧?」

妖精「そう。ひとつひとつの繋がりがね。もしかしたら別の時間軸の話かもしれない」

勇者「は、はぁ?」

妖精「例えば、私がりんごを落とすとするわよね。それを拾ったAである私と、拾わなかったBである私。そうした感じでAとBが分岐しているの」

勇者「つまり、別の世界とか?」

妖精「なくはないってだけ。全部繋がってるのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。だって、大昔の話ですもの」

勇者「魔王、倒してるなら、平和になってるはずだもんな」

妖精「どうなんだろう。よくわからない。魔王ってね、定期的に復活するって書いてあるよ?」

勇者「なんじゃそら」

妖精「もちろん、数千年とか数万年とか長い感覚があくし、同じ魔王ってわけじゃないみたいだけど」

勇者「今の魔王も復活してきてんのかな?」

妖精「今代の魔王は先代から継承する形だったらしいよ。だから、復活はしてないんじゃない?」

勇者「ん? ……って、話は戻るが勇者って結局なんなんだよ」

妖精「さぁ? だからよくわかんないの」

勇者「父上も……? 父さんは勇者の家系なんて聞いたことがない。それに、“聖痕”とはいったい」ボソッ

妖精「ほら、こっちこっち! これ見て!」

勇者「これは……?」

妖精「ルビス様だよ!」

勇者「ルビス? ……これが……? そんな、これじゃまるで」

妖精「? なにに驚いてるの?」

勇者「こ、これが女神……?」

妖精「あー! そういうこと? チッチッチッ。違うんだなぁ。魔族も人間もなぁーんだか勘違いしたままだけど」

勇者「勘違い……」ザリッ


妖精「――……そうだよ! だってルビス様は精霊王なんだもん!」

【森の中 馬車】

魔法使い「あーあ、暇だなぁ。モンスターでもでてこないかなぁ」

戦士「鍛錬にもなるしな。どうだ? 武闘家。一戦交えないか?」

武闘家「同じ相手とばかりやるのはやめたほうがいいよ。慣れすぎちゃうから」

戦士「む、そ、そうか」シュン

武闘家「素振りでもしてればいいじゃないのさ」

戦士「相手がいないとどうにもなぁ。あたしは実践型なんだ」

馬「ヒヒーーンッ」パッカパッカ

魔法使い「ねぇ、見間違い? こっちに向かってくるのってどこかで見覚えのある馬じゃない?」

武闘家「ちぃっ!」シュバッ

僧侶「……勇者さまが乗っていませんけどぉ」

戦士「武闘家! 傷つけるなよ!」

武闘家「わかってる!」シュタッ

馬「⁉︎ ヒヒーンッ⁉︎ ブルルッ!!」バタンバタン

武闘家「どぅどぅ、落ち着いて……大丈夫、こわくない」ナデナデ

馬「……ブルッ」タンタン

魔法使い「またあのバカは。どこでなにやってるのよ」

僧侶「どうしましょうねぇ~連絡手段がないので~」

武闘家「アタイが村に戻って確認してくる! アンタ達はここで待ってな!」グイッ

戦士「お、おい。武闘家」

武闘家「はぁっ!」バンッ

馬「ヒヒーン!」パッカパッカッ

僧侶「――……武闘家さんの行動力は見習わないといけませんねぇ」

【森林 祠】

勇者「ルビスは、神じゃない……?」

妖精「そもそも神の定義って、絶対的なものを指す場合だってあるでしょ? それだけルビス様がすごかったって意味でもあるけど」

勇者「神と思えるような能力を持ってた、とか?」

妖精「そのほかにも、“マネできない偉業を達成した”とかね。伝説のさらに上にあるのが神ってもんよ」

勇者「じゃあ、ここに描かれてるのは、神と崇められるの前の?」

妖精「そう、精霊王ルビス様その人! いつのまにか女神っていうのが定着しちゃってるけど、精霊を束ねるお方なんだよ!」

勇者「も、もしかして、まだ、生きてたり?」

妖精「うん? ばっかだなぁ」

勇者「そ、そうだよな。生きてるはずない――」

妖精「あったり前じゃない! ルビス様は今もピンピンしていらっしゃるよ!」

勇者「は、はぁっ⁉︎ い、いいいっ生きてる⁉︎」

妖精「そだよ?」キョトン

勇者「え、ええ……じゃ、じゃあ、俺のケツにある聖痕っていったいいつ……そもそも何故俺に。わ、わけがわからなすぎるぞ」

妖精「直接聞いてみたら?」

勇者「どうやって? 会える方法があるのか? というか、今どこにいるんだ?」

妖精「……時のハザマ。そう呼ばれるところにいらっしゃるよ」

勇者「時の、ハザマ?」

妖精「だけど残念! 特殊な結界で往来の制限がされてるから行けないんだ!」

勇者「だけど、制限ってことは、行く方法はあるってことだよな?」

妖精「あるよ? 勇者じゃないと無理だけど」

勇者「ちなみに、勇者だったらどうやって行くんだ?」

妖精「通行手形があるでしょ?」

勇者「どこに? どうやって手に入れるんだよ」

妖精「手に入れるぅ? 身体に刻まれてるでしょ?」

勇者「……あっ! そ、そうか! 聖痕か⁉︎」

妖精「んー、たぶんそれ」

勇者「聖痕は、目印じゃない。通行証だったのか」

妖精「勇者じゃないのに知ってどうするの?」

勇者「会ったら教えとく。それで、どこから? 聖痕があると仮定して」

妖精「鏡から」

勇者「どこの? 主語がない」

妖精「クイーンズベルのお城」

勇者「く、くくくっクイーンズベルっ⁉︎」

妖精「そこがゲートになってるの」

勇者「な、なななっなんでそんなところに」

妖精「ルビス様ゆかりの土地らしいから」

勇者「く、クイーンズベルといえば……」ポワンポワン

『オーッホッホッ! オーッホッホッ! オーっげふっ、ごほっ、おぇっ、む、むせたんですの……うぇっ』

勇者「こ、こいつがいるところじゃないか……」ガタガタ

妖精「大丈夫? 顔青ざめて震えてるけど。なにか思い出したの?」

勇者「だ、だがしかし、戦わなくちゃ現実と!」ゴソゴソ

妖精「?」

勇者「じゃじゃーん! 世界地図ぅ~!」ピロリン

妖精「わっ、それってニンゲンの? けっこう精密なんだねぇ」

勇者「北から迂回しても南から迂回してもダーマまでの距離はほとんど変わらないか……ならば」

妖精「おっ?」

勇者「行かねばなるまいっ! クイーンズベルへっ!!」クワッ

今後もドラクエ用語は随所に出てきます。
ただどこまで関連性をつけるかなどは書きながら決めてる部分があるので明言いたしません。

多くのSSがぼかしてますが魔王勇者SSの原典はドラクエだと個人的に思ってるんで、そういうものだと思っていただければ。

【ミンゴナージュの村】

武闘家「すまない、若い男を見なかったか?」

村人「え? 俺のこと?」

武闘家「そうではなくて。旅の者なんだが」

村人「いや? 見てないよ」

武闘家「……ありがとう」スッ

店主「さぁ~安いよ安いよぉ~!おっ! へへ、さっきはどうも」ペコペコ

武闘家「道具屋の店主。早朝は無理をいって店をあけてもらって悪かった」

店主「あぁ、気にしないでくださいよ。こちとら稼がなきゃおまんま食いっぱぐれちまうで。かあちゃんも取り戻すんだーってはりきってますし」

武闘家「連れの者を覚えてないか?」

店主「へぇ? 連れの者というとどちらさまで? 若いお姉さんたちがいましたが」

武闘家「もう一人いただろう? その中に若い男が混じって」

店主「ああ、はい、はい。いらっしゃいましたね。荷物持ちさせられてた小間使いさん」

武闘家「い、いや。小間使いではないんだけどさ」

店主「その方がどうか?」

武闘家「村に戻っているはずなんだけど見当たらないのよ。見かけてない?」

店主「見てないですね……。見たらわかるんですが」

武闘家「本当か? 見落としてるだけとか」

店主「ありえませんよ。客商売をしているとね、お客さんの顔は覚えてるもんなんです。それに、こんな田舎村でしょう? 店舗に来るなんて珍しいんで」

武闘家「そうか……」

店主「ほかのお姉さん達はいらっしゃらないので?」

武闘家「ああ、別の場所にいる」

店主「小間使いさんとはぐれちまったんですかい? そりゃ大変だ」

武闘家「いや、だから小間使いではないと――」

店主「どこではぐれたんですか?」

武闘家「北に数キロいったところに森林があるでしょ。あそこから出てきたはずなんだが」

店主「森林……というと、精霊さまの……」

武闘家「精霊さま?」

店主「へぇ。あの森にゃ古くからある言い伝えで精霊さまのお膝元なんて言われてる森なんでさ。村の者ですら忘れかけてますが」

武闘家「そうか。でも、今はそういう話は」

店主「もしかしたら、神隠しにあったのかもしれませんねぇ」

武闘家「ん……?」ピクッ

店主「いや、これも古くから。子供を危険な場所に行かせない与太話なんですがね。妖精がいるって噂が一時期たったらしいんですよ」

武闘家「妖精……」

店主「いつだったかなぁ。ボヤ~っとした姿の妖精を見たっていう子がいて。もうだいぶ昔の話なもんで」

武闘家「神隠しとは、どんなもの?」

店主「ふらふら~っと迷って、いつのまにやら別世界の扉の中に入っているっていう伝承みたいなもんですよ」

武闘家「……そう」

店主「もう一度、森に入って探してみては?」

武闘家「そう、ね。村にいないのならいつまでもいても仕方ない。あ、それと店主」

店主「へい?」

武闘家「トンカチとロープ。貰える?」

店主「お買い上げですかい? ありがとうございます!」

【森林】

妖精「ねぇ、ニンゲン。なにを知りたいかわかんないけど、勇者じゃないと無理だよ?」

勇者「元気でな、スラリン」ナデナデ

スラリン「ピッ!」スリスリ

妖精「聞いてるのー?」

勇者「ちゃんと聞いてるよ。お前らもいきなりお邪魔して悪かったな」

スライムベス「……ピッ」

勇者「わはは。そんな簡単にゃ警戒心解けないか」

妖精「当たり前。スライムが懐くなんてありえないんだから」

勇者「人間だって同じだよ。いきなり分かり合える人なんてなかなかないないもんさ」

妖精「種族の壁があるってわかってないの? モンスターと人間ってそういうもんじゃないでしょ?」

勇者「まぁ、そうだけど。大事なのは調整であってだね」パンパン

妖精「ほんっとーに変わったニンゲンね。向いてる方向が違うのに調整もないわ。宗教みたいな統一思考でもない限り無理よ」

勇者「“私こそが魔物と人間をつなぐ架け橋である!! 皆の者! 手を取り合おう! 争うのをやめるのだ!” 」スラッ

妖精「い、いきなり剣を抜いてなにやってるの? 気でも狂った?」

勇者「やってみたかったんだ」チャキン

妖精「あながち間違いではないかも。夢という理想で覆い隠せば、人も魔物もいっときの幻想に溺れるかもね。もちろん、反発もあるだろうけど」

勇者「やけに他人事じゃないか。人間と魔物が本格的な争いに突入すれば、精霊だって迷惑だろ?」

妖精「そうだけど、大きな流れの前ではなにやったって無駄だもん。争いはやめてっていってやめる?」

勇者「やめないねぇ」

妖精「魔物と人間ってどちらかが滅びるまで争いをやめないんだと思う」

勇者「……」

妖精「私は、傍観者としてひっそりと生きてくだけ。この子たちと一緒に」

スラリン「ピィッ!」

勇者「楽しそうでいいな」

妖精「一緒に住む? 私が見えるんだから考えてあげてもいいよ」

勇者「人生プランの選択肢のひとつとしていれておくよ」

妖精「ほかになにがあるの? ……やっぱり、魔物を殺すの?」

勇者「いいや、ニート」

妖精「へ?」

勇者「無職とか遊び人」

妖精「ぷっ、きゃははっ! 変なの~」

勇者「……グータラしたいんだよなぁ」

【馬車 荷台】

魔法使い「あっ! 帰ってきた! おーい、ここここ!」

僧侶「……やっぱり勇者さまの姿が見えませんが
~」

馬「ブルルッ」タンタン

武闘家「どぅどぅ」ナデナデ

戦士「村にいなかったのか?」

武闘家「ええ。そんなに遠くには行ってないはずだけどね」ボトッ

僧侶「修理道具は買ってきていただけだんですねぇ」

武闘家「このままだとここで夜を明かすことになる。それはできれば避けたい、戦士」

戦士「合点承知。あたしが直しておけばいいんだろ?」

武闘家「このままアタイは近辺を探してまわってくる」

魔法使い「もし、もしなんだけど、落馬して気絶してるなんて理由だったら目が覚めたら帰ってくるんじゃない?」

僧侶「それもそうですねぇ~。さっきまで変わった様子はありませんでしたしぃ~」

戦士「それもそうだな。馬も疲れてるし、少し様子を見ないか? 武闘家?」

武闘家「……わかった。けど、数時間戻って来なければ探しに行くよ」

僧侶「私たちだって心配してますよぉ~」

魔法使い「武闘家って世話焼きなのね」

武闘家「アンタらが能天気すぎるんだ。何度も言うが、勇者はアタイらの核なんだぞ。勇者がいて、魔王討伐の旅があって、アタイらがいる」

僧侶「……そうですけどぉ」

武闘家「勇者がいなければ、アタイ達に行動を共にする理由はない。違うか?」

僧侶「それはそれで、さみしいっていいますかぁ」

武闘家「慣れ合うだけだろ。アンタ達、っと」タンッ

馬「ブルルッ」

武闘家「おつかれ」ナデナデ

戦士「な、なにをぅっ! 旅は道連れ世は情けというじゃないか! 寝食を共にするからこそ、絆も深まる!」

魔法使い「そうよ! それに、いざというときコンビネーションは必要だわ! 信頼できるかどうかだって大事なの!」

武闘家「……そうかい。だったら、もっと強くなりなよ。信頼されるように」

戦士「……っ!」ギリッ

武闘家「なに歯をくいしばってんのさ。わかってんだろ? ……自覚してんだろ? アタイがこのパーティで二番目に強い」

戦士「うぬっ⁉︎ こ、こいつ……へ? 二番目?」

魔法使い「むきーっ! 一番は武闘家でしょ! ここにいる戦士と勇者は同じぐらいなんだから! ちっともそんなこと思ってないくせに、嫌味なやつぅ!」ダンダン

戦士「そ、そうかっ! 嫌味で言ったのか!」

武闘家「……はぁ」

【数時間後 馬車】

武闘家「日が傾きだしてきた。やっぱり、探しに」

ガサガサ ガサガサ

戦士「待て。なにかが、いる」

武闘家「……魔物か」スッ

魔法使い「強いモンスターはいないから、平気だと思うけど」

ガサガサ ガサガサ

勇者「お、いたいた」ピョコ

戦士&武闘家&魔法使い「……」ポカーン

勇者「ただいま戻りましてでござ~い。いやぁ、迷っちゃってさぁ、森って見通し悪いもんなんだね」

僧侶「おかえりなさいませぇ~」

勇者「くるしゅうない。草だらけになってしまった」パンパン

戦士「おい、勇者」ゴゴゴッ

勇者「ん?」

魔法使い「まずは、“ごめんなさい”じゃないかしら……?」ゴゴゴッ

勇者「え~。意味わかんなぁ~い。無事に帰ってきてなんで謝らなきゃいけないのぉ~? マジ意味わかんないんですけどぉ」

武闘家「……誤魔化してるつもりなんだね」ゴゴゴッ

勇者「や、やっぱ、ダメ?」タラ~

魔法使い「ダメに決まってるでしょ!」スパーン

勇者「暴力反対!」ドサ

魔法使い「散々心配かけておいて謝罪の言葉もないとかクズかあんたは!!」

勇者「堪忍や~。自分で自分を守るため開きなおるしかなかったんや~」

戦士「どこほっつき歩いていた。このグータラ勇者」

勇者「そ、それが、その。馬がね……あっ! 馬いるやんけ! いつのまに帰ってきたんだ! 俺を置いて!」

馬「……」チラ

勇者「俺、どーなることかと思って……!」

馬「ブルルッ」プイッ

勇者「な、なんだぁこの野郎! 調子のってんじゃねぇぞ! 俺を誰だと思ってやが――」

武闘家「呀ァッ(ヤ)!!」ブンッ

勇者「本気の一撃⁉︎」ドサァ

魔法使い「うわっ、いったそぉ」

武闘家「……おい、勇者」

勇者「~~ッ! うぉぉぉ、腹が、腹が」ゴロゴロ

武闘家「ふざけるのはよせ。真面目に聞け」

勇者「は、はい」ピタッ

武闘家「アンタがアタイを、アタイ達をどう思っていてもいい。だけど、心配をかけるな。止むを得ずそうなった場合は、誠意を見せろ」ジロ

勇者「す、すんません」シュン

戦士「さっきの話じゃないが、この際はっきりさせとくか」

勇者「話とは? ……なんのことでございましょ?」

魔法使い&僧侶「……」

戦士「あたしらは、お前にとってなんなんだ? 勇者」

勇者「は、はぁ?」

戦士「さっき、武闘家に言われて思ったんだ。あたしらの旅の目的。その中心に勇者がいる。その指摘自体は間違っちゃいないってね。言い方はきにいらないが」

武闘家「ふん」プイッ

戦士「あたしらはそれぞれ目的がある。勇者といけば、その目的が叶うと思っている。だから、一緒にいる」

勇者「ふむ」

魔法使い「勇者は何のために私たちと一緒に旅をしてるの? 仲間がいるにこしたことはないでしょうけど」

僧侶「……」

魔法使い「――そもそも、勇者は私たちを仲間だと思っているのかしら? そう思ってないから、適当な対応しかしないの?」

勇者「そんな深刻にならんでも」

戦士「ふざけるのはなしだ」

勇者「……ふぅ、あのなぁ。ついてきたいと言ったのは、お前らだろう? 武闘家は、爺さんに頼まれてってのもあるが」

魔法使い「つまり?」

勇者「今後についても決めるのはお前らだと言ったはずだ。淫魔を逃した時に」

戦士「なるほど。では……あたしらは仲間じゃなく、ビジネスな取り引き相手だと言いたいわけか?」

勇者「うっ、そ、そうは言っちゃいないが」

魔法使い「そういうことでしょ。逃げるのは卑怯よ」

僧侶「私たちは責めているわけではありません~。ただ、知りたいのですぅ~。本心を~」

勇者「……」ポリポリ

戦士「リーダーの方針には従う。そうであるというのならば、今後の付き合い方にも影響する」

魔法使い「慣れ合いがしたいって言ってるわけじゃないのよ? 仲良しサークルじゃない。それはわかってる」

戦士「あたしの本心を言わせてもらえば、できれば、その、うまく付き合っていきたい」

勇者「つ、付き合うって……」ソワソワ

魔法使い「童貞か! ……ふざけるんじゃないって言ってるのに」キッ

勇者「ついつい。……わかってるよ。人間関係的な話だろ」

戦士「そうだ。所詮は他人同士。時にはぶつかることもあるだろう、こうして話合いの機会を設けることだって少なくないかもしれない。それ自体は悪いとは思わない」

魔法使い「……でも、そればっかりじゃ、疲れちゃうでしょ? どうせなら、楽しくしたい」

武闘家「……」

勇者「うん、言ってる意味はわかるよ」

戦士「だが、それはあくまであたしらの希望であって決めるのはリーダーだ」

魔法使い「勇者、あんたのことよ」

僧侶「……」

勇者「よし、こうしよう」ポンッ

戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……」ジィ

勇者「一度、みんなで風呂にでもはいって親睦を深めあうってのは? 俺ももちろん一緒に」

魔法使い「あ、あんたね……」

勇者「すべてを分かりあうなんて不可能だ。他人同士の壁、性別の壁。色んな壁がある。ケツに泥ついちまった」ムクッ

戦士「……」

勇者「お前らが旅を楽しくしたいと望んでるのなら、俺はそれにできるだけ応えるよ。必要ならそうする」

僧侶「それだとぉ、私たちがそうさせてるっていうかぁ」

勇者「結局のところ、お前らはどーしたいんだよ。そういう話になった時に、言ったんだろ」

戦士「それは、そうだが」

勇者「俺はその要望を汲み取るって言ってるんだ。リーダーとして」

武闘家「でも、それだと、こいつらが言ってるのとはたぶん違う気がする」

勇者「(ふぅ、やれやれ)」

僧侶「私たちは勇者さまのお言葉がほしいのですぅ」

魔法使い「これは、私たちも卑怯かもしれないけど、理由がほしいのよ。それさえあればいい」

勇者「ただひとつ言えるのは、俺は、お前らのことが必要だと思ってるよ」

戦士「本当か……?」

勇者「当たり前だろ。だから要望を聞いて合わせようとしてるんじゃないか」

僧侶「それは、お優しいからではぁ~」

勇者「いんや。助かってる部分はあるし、旅の中でそれは思った。本心でだ」

魔法使い「続けて」

勇者「本心を言えば、戦士や魔法使いが要望通りすれば得られるものがある。その損得勘定の一方で、仲良くできればいい、そう思ってる」

魔法使い「じゃあ……」

勇者「だが、勘違いするな。仲良くなれるかどうかなんて個人間の問題だということを。旅は楽しければいい。そりゃそうさ」

戦士「……」

勇者「無理して仲良しを装うほどつまらないもんはないだろ。努力は必要だが、合う合わないはある。分かり合えるきっかけなんて些細なものだが、それが生まれない場合もあると理解しろ」

僧侶「はい~」

勇者「まずはお互いがなにを求めているのか、そこからはじめたのは良いことだと俺は思う。良い方向に考えればだが」

戦士「……」

勇者「気楽にやりましょーってことで」ゴソゴソ

戦士「お、おい。まだ話は終わりじゃ」

勇者「うーるせぇなぁ。時間が解決してくれることだってあんだよ。なに生き急いでんだ」ピラ

武闘家「地図広げてどうしたんだ?」

勇者「方針を発表します! 今から、南のクイーンベルに向かいます!」ビシィ

僧侶「あらまぁ……」

魔法使い&戦士&武闘家「――……はぁぁっ⁉︎」

すいません、寝落ちしてました。
今日は午後~夜ぐらいに再開すると思います

【魔王城 玉座】

キングヒドラ「なぁにぃ⁉︎ 勇者の居場所がわかっただぁ⁉︎」ドンッ

シンリュウ「ならば、消せば良い」

オーガ「そうだ! 勇者を殺しッ! 残った人間は一匹残らずすり潰してやるッ!!」

サキュバス「コトは……そう単純ではなくなってしまったのよ」

オーガ「なにがだ⁉︎ 我ら魔族の連合軍を前にして敵など皆無! 力を存分に発揮して蹂躙しつくしてやればいいだろうッ!」

魔王「……時期ではない」スゥ

シンリュウ「我らが王よ。なぜ? なぜでございましょうか。人間を過大評価するのは」

魔王「まず一つに、数だ。我ら魔族は強力な個体を強みとするが、人間共の母数に比べれば半分にも満たない」

オーガ「数など……っ!」

魔王「次に、数を活かした組織力にある。有象無象の衆を相手にしたとなれば……たやすく蹴散らせる。しかし、戦局が複雑化すれば次第に我らと均衡するであろう」

キングヒドラ「なぜだッ⁉︎」ビターン

魔王「やつらもやつらで団結するからである。生産能力は侮れぬ。首脳陣が保身しか考えない無能であれば話は別だが……あれを見よ」ピタ

四天王一同「……」

魔王「知っておろうが、ニンゲン共が作った世界地図だ。アレフガルドには、人間達の国が四つある」

サキュバス「アデル、クィーンズベル、ハーケマル、サルマニアですね」

魔王「我らの大地は“裏にある”。地図を裏返してみよ」

大臣「ははっ!」ペラ

魔王「……して、見てどう思う?」

四天王一同「……?」

魔王「気がつかないか。領土の広さは人間どもの治める大地に比べて……」

シンリュウ「当たり前のことすぎて……」

オーガ「なにが言いたいのですか⁉︎」

魔王「我らもいずれはやつらの治める大地……有り体に言えば人間界へと侵攻するであろう。準備が足りないのだ」

キングヒドラ「ですから! 準備などせずとも!」

魔王「黙れ……」ギロッ

キングヒドラ「……っ!」ビクゥッ

魔王「ラクに勝てる道を前にしてなぜイノシシのごとく突進するのか。我らは個を有利とすればこそ、失った時の損失もまた大きいのだ」

サキュバス「領土を広げるには、子を産み、魔族の母数を広げることが最重要課題」

魔王「で……ある。そうなればどちらにせよ今の領地では足りなくなる。資源も、土地も」

シンリュウ「勇者は……?」

魔王「やつは殺す。これ以上力をつけられる前に」

キングヒドラ「ならば! 私におまかせを! 必ずや勇者の息の根を止めてごらんにいれましょう!」

魔王「……場所はわかっておるのであろう?」

サキュバス「はっ。ミンゴナージュで遭遇してから日数がたっておりません」

魔王「キングヒドラよ」

キングヒドラ「ははっ!」ザッ

魔王「人間共のをなるべく刺激しないようにできるか?」

キングヒドラ「うっ……」

シンリュウ「そういう理由ならば我におまかせを。竜族は時に激しく、そしてまた時には静けさを持ち合わせております」

魔王「シンリュウよ。王、自ら動くのか?」

シンリュウ「サキュバスからの周知徹底によると、勇者はとんでもない力を秘めているとか。……であれば、下っ端にまかせるわけにもいくますまい」

魔王「返り討ち、なんて顛末にはなるまいな?」

シンリュウ「所詮は人の子。戦闘向きではない淫魔族が遅れをとったとて、古代から続く竜に敵うものですか」

魔王「良いか。よく聞け」

四天王一同「……」

魔王「先走るな。繰り返し念を押すが、お主らのどこが欠けてもまた時間をかけねばいけないくなる。我らに欠如して良い部族はない」

四天王一同「……」

魔王「狙うは勇者のみだ。よいな?」

四天王一同「……ははぁっ!」ドゲザ

【魔王城 通路】

シンリュウ「これはこれは……サキュバス殿ではありませんか」

サキュバス「……」スッ

シンリュウ「なぜ、通路でお待ちに? 招集会議なら終わったばかり――」

サキュバス「勇者を、侮ってはいけない」

シンリュウ「ふっ、ふふっ、笑わせないでいただけますか。我らをどの一族だと思っておいでか」

サキュバス「どの一族でもだ。巨人族でも、獣族でも同じこと。油断すれば、消されるぞ……! やつの……力に」ゾワッ

シンリュウ「相当、恐ろしい思いをなさったようだすねぇ。竜族を、理解しておられないようで」

サキュバス「我ら魔族は、力がある。その特異性もあってか、力のある個体を好む。魔王様に従い、尊敬するのも同じことよ」

シンリュウ「おやおや。では、貴女は勇者の力にときめくものでもあったと? 魔王様に反旗を?」

サキュバス「ち、違うわっ! 私は、そんなこと……。貴女の心配をしてるのよ!」

シンリュウ「ですから、その心配が我が一族に対する侮辱だと申しているのです。人間でしょうが」

サキュバス「あ、あれは人じゃないっ! 人間の強さじゃないのよ!」

シンリュウ「では、ガタガタと震えていらっしゃいませ」

サキュバス「な、なに……?」

シンリュウ「ニンゲンがこわいよぉ~、と……。淫夢城の片隅で」

サキュバス「き、貴様ぁっ!! 私をバカにしているのかえっ⁉︎」キィィィン

シンリュウ「きっかけを作ったのは貴女でしょう。では、失礼。淫魔の王よ」コツコツ

サキュバス「……ぐっ! ……おのれっ……おのれえええぇえええっ!!」ギリギリ

【数十分後 竜王城 玉座】

ベビードラゴン「おかえりだす!」

シンリュウ「ただいも。えんらく疲れちまっただよ。堅苦しい空気は苦手だぁ」

ベビードラゴン「口調は大丈夫だったか?」

シンリュウ「いや~、危なっかしい場面チラっとあったけんど、気がつかれてなかったっぽい。ハラハラしちまったよ」

ベビードラゴン「威厳もへったくれもあったもんじゃないもんな!」

シンリュウ「そりゃあなぁ。奥地に住んでたらいつのまにかこんな方言定着してたなんて知られたら笑いものだっぺ」

ベビードラゴン「なんの招集会議だっただか?」

シンリュウ「……なんでも、勇者の居場所をつきとめらし」

ベビードラゴン「へぇ~! 勇者ってあの勇者だろ? ずーーーーっと昔には協力関係にあったかもしれないっていうあの!」

シンリュウ「その時代に生きとるやつなんかいんね。伝説なんじゃねの」

ベビードラゴン「そうはいうけど、壁画が残ってるし」

シンリュウ「戦ってる壁画もあんだべよ。時には戦い、時には協力。こんれもまた、時代なんだっぺなぁ」

ベビードラゴン「今は魔王様いるしな! 勇者を殺すのか?」

シンリュウ「ほんとは行きたくなかっただすぅ。でも、あの場の雰囲気がワタスを動かしてぇ」

ベビードラゴン「わかるわかる。やらねばって感じになるよな」

シンリュウ「おめぇがいづから部族の代表になったのよ。しんねぇくせに」コツン

ベビードラゴン「いたっ。えへへ、で、どうすんだ?」

シンリュウ「人間、だもんなぁ。サキュバスはああいうけど、正直負ける気がしねぇ」

ベビードラゴン「サキュバス? 負けるのはありえないんじゃないか?」

シンリュウ「んだども、どうすっぺかなぁ」

【三日後 クィーンズベル 国境 砂漠地帯】

魔法使い「照りつける太陽、からからに乾いた大地。景色がゆらゆらぁからゆらゆらぁ~」

武闘家「最後のひと瓶だ。それ」ポイ

魔法使い「あっ、えっ、わっ」アタフタ

武闘家「ばっ、ばかっ⁉︎」

魔法使い「あっ」ツル パリンッ

僧侶「あらあらぁ、水がぁ」

武闘家&魔法使い「う……あ……」

魔法使い「ど、どどどどっどうすんのよ⁉︎」

武闘家「どんな壊滅的な運動神経をしてるのさ⁉︎」

魔法使い「う、うるさいわねっ! 暑くてだるかったの!」

戦士「暑いんだから喧嘩しないでくれぇ~」

僧侶「勇者さまぁ、最後のひと瓶がぁ」ヒョコ

勇者「……」

僧侶「勇者さまぁ?」

戦士「心頭滅却すれば火もまた涼し。ここにきて、勇者、ついに悟りを……」

勇者「」コテ

魔法使い「気絶してんじゃないの!」

武闘家「無理もない。この炎天下の中、ずっと外で座ってちゃ」

僧侶「一日ですっかり肌も焼けてしまってますねぇ」

魔法使い「ま、真っ赤よ⁉︎ 火傷しちゃってない⁉︎」

勇者「う、うぅ。み、水を。水……」

僧侶「それがぁ、先ほどお伝えいたしたとおり、魔法使いさんが割ってしまいましてぇ」

魔法使い「私のせいじゃない! 武闘家が悪い!」

武闘家「アタイのせいにすんなよ⁉︎ アンタの運動神経が――」ギャアギャア

勇者「な、なんでもいいから、水くれぇぇぇ…………」

【クイーンズベル城 寝室】

姫「ふぅ……今日の外気温度はいかほど?」

メイド「39度でございます。お嬢様」

姫「今日もいつもと変わらずね」

メイド「左様でございますね、お嬢様。この砂漠土地独特の気候で」

姫「紫外線対策は?」

メイド「こちらに。UVケアクリーム、日傘、靴下、手袋、ありとあらゆる品をとりよせてございます」ササッ

姫「黒なんてもう流行らない、女は白い肌。ましてや私は姫……」

メイド「んまさにっ! 透き通るような珠のお肌でございます、お嬢様」

姫「オーッホッホッホ! もっとよぉ~! もっと言ってちょうだぁ~い!」

メイド「素敵です! さすがです! ビューーーティホーーーッでございます!」

姫「はぁ……そう。私こそがこの国一番の淑女にして美女……美しいって……つ・み」

メイド「素晴らしい!」パチパチ

姫「使者はどうか?」スッ スタスタ

メイド「間も無く帰ってくるかと思われます。お椅子を」スッ

姫「……んふっ」フワッ

メイド「噂によると、いよいよ勇者が旅立ちを迎えたとか。懐かしゅうございますね」

姫「口紅を」スッ

メイド「こちらを。……時を同じくして生まれたおふたりはいわば幼馴染。アデルのお城に特使として訪れた際には大層仲の良かったことで」

姫「あぁ……勇者よ。どこにいるのであろうか。あの嫌がる顔をもう一度見とおてたまらん」ヌリヌリ

メイド「お嬢様、それぐらいに」

姫「今日も美しい。この“鏡”にうつる私は、今日も美しくてよぉ~~! オーッホッホ! オーッホッホッ!」

メイド「素敵でございます! お嬢様!」パチパチ

【クイーンズベル城 玉座】

姫「な、なななっ⁉︎ このあたくしがお見合い⁉︎ どういうことですの⁉︎」

王様「姫も18になった。そろそろ婚礼を迎えてもいいであろ」

王妃「ええ、貴方。相手は北のハーケマル。その第一子嫡男であるハーゲよ」

姫「朝の身支度を終えて来てみれば……そんな……っ! それになんですの⁉︎ ツルピカってそうな名前は!」プルプル

王様「これ、失礼であろ。名前は親がつけたもんじゃ。親はもう毛根が……ゲフンゲフン」

姫「やっぱりハゲるんじゃありませんこと⁉︎」

王妃「ハゲハゲ言うんじゃありません。髪の話などしても不毛よ。髪がないだけに」

王様「……座布団没収」ボソ

姫「お父様! お母様! ダジャレを言い合っている場合ではないんですの!!」

王様「しかしのぅ、この縁談は政治的側面もあるんじゃよ」

姫「……っ!」

王様「姫も知っておろ? 四つ国は西と東、南と北でそれぞれ兄弟国になっておる」

王妃「私も元々はハーケマルの姫だったのよ?」

王様「うむ。こうして代々、王家同士で和睦と太平の契りを交わすため、家族となるのじゃ」

姫「そ、それは……でもっ」

王妃「夫婦生活なんて慣れよ。この人と結婚するのなんて、私も最初は嫌々だった」

王様「本人を前にして言うかの」

王妃「よく聞きなさい、姫。王家の女はね、男と結婚するのではない」

姫「……お母様」

王妃「いいから聞きなさい。王家の女は、民と結婚しなくちゃいけないのよ」

王様「ふむ」

王妃「所詮、女なんて道具に過ぎない。慰めにならないと思うけど……貴女の勇気が、民を安心させる」

姫「い、いやですわ。そんなの納得いかないんですのっ!!」タタタッ

王様「おう⁉︎ ひ、姫っ」

王妃「……今はほっときましょう。私もそうでした。あの子は帰ってきます。身体に王族の血が流れている限り」

他の登場人物は勇者を持ち上げるためにいる
そのため勇者に魅力は感じず、他の登場人物も総じて薄っぺらく見える

【砂漠の国 クイーズベル 城下町】

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 水だ水だぁっ!!」ドン

老人「あうっ」ドサッ チャリン

荒くれ者「ん……? なぁ~んか今、金目の音がしなかったかぁ~?」

老人「あわわっ」ササッ

荒くれ者「おぉ~い爺さん! 金だしなァッ!!」グィ

老人「ひ、ひぃっ! やめてくだされ! それはモミの木を買う金でっ」

荒くれ者「しらねぇなぁ~!!」ブンッ

勇者「……待て」

荒くれ者「あァん?」チラ

勇者「お前らの血は何色だ?」

荒くれ者「なんだぁテメェ?」

勇者「おまえらの血は何色かと聞いているゥッ!」ビシ

荒くれ者&老人「……」ポカーン

勇者「この俺の前で悪事を働いたのが運の尽き。この北斗神拳の餌食に――」

魔法使い「さっさと助けなさいよ!」スパーン

勇者「み、見事だ。天に還る時が」ドサ

戦士「そのまま寝てろ」ゴツン

勇者「」

荒くれ者&老人「……」ポカーン

武闘家「はぁ……おい、そこのお前。お爺さんから手を離しな」

荒くれ者「な、なんだァ、テメェは⁉︎ 俺は女だからって容赦しねぇぜぇ⁉︎」

戦士「奇遇だな。あたしらも男だからって容赦しないんだ」スラッ

荒くれ者「……あ、あれ?」

武闘家「さぁ、覚悟はいいかい」ポキポキ

荒くれ者「~~~~ッ! 舐めんじゃねぇぞおっ!!」ブンッ

>>271
何度も書いてますがあえてのそこをやってるのですよ
感想をいただけるだけでもありがたいのですがせっかくなら読んでからもらえるともっとありがたいです

【数分後】

荒くれ者「」

戦士「大丈夫だったか? 爺さん」

老人「あ、ああ。それにしても強いんだねぇ、お嬢ちゃんたちゃ」

僧侶「危ないところでしたぁ」

老人「……あっちの若者はいいのかね」チラ

勇者「」

魔法使い「あぁ、いいのいいの。いつものことだから」

老人「ふ、ふむ」

戦士「どーなってるんだい? 井戸に水がはいってないなんて」

老人「旅人か。この地方は雨が降る割合が極端に低いのは知っとるかい?」

武闘家「見ればわかる」

老人「であるからして、こうして地下の源泉を掘り当てた湧き水を使っとるんじゃが……」

僧侶「聞いたことがありますねぇ。いずれ乾いてしまう場合があるとか」

老人「大抵の場合は風で運ばれてきた土が原因じゃ。ここが枯れた理由はさっぱりわからん」

戦士「水がわかなくなったってのはたしかだ。生活できないだろ?」

老人「水を宅配してもらっとるんじゃ。その金がまたバカにならんくての」

魔法使い「水のデリバリー?」

勇者「ほーん」ムク

僧侶「今回は復活まで時間がかかりましたねぇ~」

>>276
もちろん見ていますよ。
その上で書いている通り、“個人的に”そう思っているというお話です。
応援ありがとうございました。今度はちゃんと読んでいただけるとありがたいです。

これだけは名言しておきますがこのSSの基本方針は>>153で書いている通りです。
読んでないなってレスや感想は一発でわかります。

とりあえず今日はここまでということで。また明日にでも続きは書きます。

批判になるかはわかりませんが>>144>>13のような指摘や感想はすでにもらっています。
にもかかわらずなのですから「あ、読んでないな」とわかってしまうのです。

投稿するときはsagaしてるので多くの人の目につくようになります。
感想をいただくのはありがたいのですが、読んでからの方がもっとありがたいのです。

それはその通りですね^^
武闘家加入までが量が一番多くて投下ペースもはやく、タタリ~はちょっとペースが落ちて短くなってます。
なので現在進行してる部分は尺をもう少しとろうかなと思って。あと書くペース自体もどんどん落ちてきてるのもあるんですけどね。
ダラダラしてるのは自分でも思います。

お目汚し失礼しました。
とりあえずまた明日以降に投下します。

【数分後】

荒くれ者「」

戦士「大丈夫だったか? 爺さん」

老人「あ、ああ。それにしても強いんだねぇ、お嬢ちゃんたちゃ」

僧侶「危ないところでしたぁ」

老人「……あっちの若者はいいのかね」チラ

勇者「」

魔法使い「あぁ、いいのいいの。いつものことだから」

老人「ふ、ふむ」

戦士「どーなってるんだい? 井戸に水がはいってないなんて」

老人「旅人か。この地方は雨が降る割合が極端に低いのは知っとるかい?」

武闘家「見ればわかる」

老人「であるからして、こうして地下の源泉を掘り当てた湧き水を使っとるんじゃが……」

僧侶「聞いたことがありますねぇ。いずれ乾いてしまう場合があるとか」

老人「大抵の場合は風で運ばれてきた土が原因じゃ。ここが枯れた理由はさっぱりわからん」

戦士「水がわかなくなったってのはたしかだ。生活できないだろ?」

老人「水を宅配してもらっとるんじゃ。その金がまたバカにならんくての」

魔法使い「水のデリバリー?」

勇者「ほーん」ムク

僧侶「今回は復活まで時間がかかりましたねぇ~」

勇者「なぁなぁ、じいちゃん。井戸の水て突然枯れるもんなの? 原理としては」

老人「む? ワシもくわしいことはわからん。だが、現実として枯れてしまった。はっきりしてるのはそこじゃ」

勇者「原因を探ろうとしないのか? 例えば、もっと深く掘ってみたとか」

老人「そりゃするさ。なにせ水は生活に欠かせないものじゃからな。クイーンズベル王国の調査団が水脈を調べておる」

勇者「ほむ」

魔法使い「近いうちに究明されるんじゃない? 学者達もいるだろうし」

老人「左様、ワシらよりもうんと賢いお方が調べておるんじゃ。いっときの辛抱じゃよ」

勇者「……そうは言うけど、干上がってどれくらいになんの?」

老人「かれこれ、二週間になるか」

勇者「その間、生活水を実費で購入してるわけだろ? 国から補助が出るわけもなく?」

老人「そういう段階ではなかろうて。ワシらはお国を信じて待っとりゃいいんじゃ。ぜぇ~んぶ、国王さまが良くしてくれる」テクテク

勇者「……」

武闘家「爺さんは行ってしまったぞ。考えこんでいるようだが」

魔法使い「どうせ晩ご飯なににしようとか悩んでるんでしょ」

戦士「なにっ⁉︎ メシっ⁉︎ 一緒に考えよう! あたしはケバブがいいぞ!」

勇者「行きつく先々で。なんでめんどくせぇんだよ。俺はコナンくんじゃねーぞ」ブツブツ

【クィーズベル城 南西方向 廃墟 】

お頭「おい、割符はちゃんと配ったか」

手下「へへ。これを忘れちゃ報酬が受け取れませんもんね」スッ

お頭「もうすぐ緋の月だ。それまで水を干上がらせておく……」

手下「風の噂によると姫に縁談の話があるとか。北のハーケマルから第一皇子がわざわざ出向いてまで」

お頭「そうなりゃ国を挙げての催事になる。水はもちろん使う。なにせここは暑いからな」

手下「さすがお頭(かしら)。国王を相手にぶんどろうなんてちんけな小物にゃ考えつきませんぜ」

お頭「まだ計画は道半ばだ。明日の朝日一番で城にいく準備をしておけ」

手下「へい」

お頭「いいか、あくまでもお前らは兵の配置を調べるための偵察にいくだけだ。あまり深入りすんじゃねぇぞ」

手下「わかってますって。おい新入り! 馬の餌やりおわったんならボサッとしてんじゃないぞ!」

ガンダタ「……悪い」ムクッ

手下「けっ。山賊だかなんだか知らねーがいい歳こいたおっさんが。こうなっちゃおしまいっすね」

お頭「ガンダタよ。オレも驚いたぜ。この業界でちったぁ名の知れたお前さんが……まさか給料の未払いで手下どもに逃げられちまうとはよ。今はどんな気分なんだい? 聞かせてくれよ」

ガンダタ「……」

お頭「なんだァ? 喋る気もねぇってのか? え? 下働きさんよ」

ガンダタ「暇してんのか? お頭」

お頭「あ?」

ガンダタ「下働きにかまってるんだ。見たまんまの感想だろ」

お頭「からかってるんだよ。それすらもわからねぇのか」

ガンダタ「俺は暇じゃねぇんだ。馬の洗体が残ってるんでね」

お頭「おい……。ガンダタさんよ」

ガンダタ「……」

お頭「郷に入っては郷に従えってしらねぇんだな。言葉遣いにゃ気をつけろよォ?」

ガンダタ「……へい。お頭」

お頭「ふん……おい、野郎ども! 明日は骨董屋に戦利品を売りさばきにいく! うんとふっかけてやれ!」

手下達「へいっ!」

お頭「いいか! 先の大仕事が終われば、お宝が俺たちを待っているッ! なんでも好きなことができるぞ! 報酬は弾む! だから気合いを入れろ!」

手下達「おおおぉぉぉっ!!」

【クィーズベル城 玉座】

学者「こ、国王さまぁ~~っ! 国王さまぁ~っ!」バタバタ

大臣「騒々しいぞ。国王様ならあちらに。御前である」

学者「はひっ! ひっ、ひっ、ふぅっ……ふぅ……なにしろ、取り急ぎお伝えしたいことが」ドゲザ

国王「よいよい。申して見よ」

学者「水が枯れた原因がわかりませんっ!!」クワッ

国王「……」ズルッ

学者「どうしたらよいのでしょうか⁉︎ 国王さま!」

国王「おまっ、そこは普通わかりました! じゃろう」

学者「そ、それが……水は止まっていないはずなのですぅぅ」

国王「なに……? どういうことじゃ?」

学者「一週間前に派遣団を結成いたしておりまして、地奥深くに流れる水脈を調査開始致しました」

国王「知っておる。余が承認したからの」

学者「そ、その結果、水が、逃げていることが判明致したのです」

国王「逃げとるじゃと? 枯れたではなく?」

学者「そ、そうなのでございます。棒を突っ込むと先端は濡れておりまして。ならばと思いそれを目印に掘り進めど水は一向に出てこず」

国王「……んぅ~?」

学者「本来ならばそこに在るはずの水源がないのでございます!! 我ら学者一同頭を抱えておりまして」ペラ ペラ ペラ

大臣「なにを広げておるのだ、勝手に」

学者「こ、これは調査記録でございます。井戸というのはですね、地層水と呼ばれるもので――」

国王「能書きは良い。水は、民この国にかかせない資源じゃ」

学者「は、はいィッ!」ビシィ

国王「“逃げている”、か。にわかには信じられん話じゃが、それで間違いないのか?」

学者「わ、我々も何度も何度も手作業で掘り当て……岩盤層が出てくると爆薬を使い、そしてさらに掘り進みましたが」

国王「……ラチがあきそうにないのぅ」

学者「も、もうしわけまりませんんんんっ!!」ドゲザ

国王「大臣よ。水売りにきている者たちはどうじゃ? 暴利をふっかけてきておらなんだか?」

大臣「今のところは。しかし、最近は、なにやらどうも出し渋りはじめてきたようで」

国王「もう二週間にもなる。長期的になると薄々感づいてきておるのかもしれんな。商人の嗅覚は侮れないものよ……」

大臣「足元を見られるわけにもいくますまい」

国王「同時に、国王が圧力をかけるなどあってはならぬことよ。いくら困っているとはいえ、商人には商人の道理があり、権利がある」

大臣「国の一大事に発展するとならば話は別っ! 水! 水なのですぞ! ない生活など不可能です!」

国王「なにか妙案はないものかのぅ」

【クィーズベル城 姫の個室】

メイド「姫様。もっとお腹にお力を。息をめいっぱい吸いこんでくださいまし」ギュ ギュ

姫「……はぁ」

メイド「吐いてはコルセットが……縁談の件で心を悩ませておいでなのですか?」

姫「そうですの。ねぇ、貴女は恋をしたことはある?」

メイド「いえ。私は王宮に、そして姫様に仕える身として従事させていただければ本望でございます」

姫「楽しいんですの? そんな人生が」

メイド「私にとっては全てでございます。……お悩みは、同じ女としてお察しします」

姫「お父様もお母様もひどいんですの。まるで、私に心を殺して生きる人形になれとおっしゃっているかのよう」

メイド「国王両陛下もお苦しいのだと思われます。一人娘です。決してそのような――」

姫「そんなの! 私は望んでいないんですのっ!!」

メイド「ひ、姫様……?」

姫「わたくしは恋をしたい! もっと一人でいたい! 結婚して妻になれば民は安心する⁉︎ 私はどうなるんですの⁉︎ 幸せは⁉︎」

メイド「……」

姫「いやです。会ったこともない人の妻になるなんて……うっ」ポロ ポロ

メイド「泣くのはおやめください。ハンカチです」スッ

姫「うっ」

メイド「覚えていらっしゃいますか。姫様は昔、泣き虫でした。そのたびに私がこうしてハンカチを差し出してましたね」

姫「忘れたんですの、そんな昔の話」グスッ

メイド「ふふ。私は全て覚えております。……姫様、強くおなりください」

姫「……」

メイド「この国は王子が生まれませんでした。子を授かる、それ自体は誰しも責められぬこと。一部の者は妃様の陰口を叩いておりますが、王様の人望が黙らせております」

姫「ええ、知っています」

メイド「この国の未来は、貴女様にかかっているのでございます。民たちの笑顔をさせることも、がっかりさせることも」

姫「……貴女まで、そんなこと……」

メイド「姫様だからこそです。お立場と向き合うというのならば、私はこれからも、いいえ、死ぬまで片時もお側から離れません。おこがましい申し出ですが、辛さを分け合えたらとさえ思っています」

姫「……」

メイド「男など、手のひらで転がしてやればよいのです。お妃様のように、王様に惚れさせて」

姫「惚れ、させる……」

メイド「必ずや、姫様にはその器量があると信じております」

姫「うぅ~ん」

メイド「まずは、会うだけ会ってみましょう。それから判断しても遅くはございませんよ。……ね?」

【クィーズベル城 姫の部屋前】

メイド「……ふぅ」ギィー パタン

衛兵「お疲れ様です」

メイド「これはこれは、衛兵殿。そちらこそ。では、私はこれで」スッ

衛兵「お待ちください」

メイド「……なにか御用でしょうか? 忙しいのですが」

衛兵「――……お頭からの指示がある。城の見取り図を手に入れてほしいそうだ」

メイド「……! 城内では接触しないでとあれほど……!」

衛兵「決行がそろそろ近くなりそうだ。ハーケマルの王子がくれば兵は各地の警備に分散され、人の出入りで慌ただしくなる」

メイド「……」

衛兵「なぜ返事をしない? お前の弟が人質なのを忘れるなよ。ここにきて裏切ったらどうなるか」

メイド「……っ、わ、わかっていますっ! 弟は、勘弁してやってください」

衛兵「お前次第だ。心配すんな、全部終われば無事に帰ってくるさ。この国はやばいことになるだろうがな」

メイド「せ、せめて、無事だと思える確証を」

衛兵「なら見取り図を手に入れろ。俺たちにはどうしても必要なんだ。王に水の交渉を持ちかけている間に、宝物庫に忍びこみごっそりといただくためには」

メイド「ほ、本当にそうすれば……弟に、合わせていただけるんですね……?」

衛兵「何度も言ってるだろうが。めんどくせえ女だな」

メイド「……」ギュゥ

衛兵「いつまでに手に入れられる?」

メイド「3日、時間をくださいまし。城の見取り図は重要な情報。必要な時だけ取り出せるよう厳重に保管してあります」

衛兵「いいだろう。さっさといけ。誰かに見られたら厄介だ」

メイド「……」スッ スタスタ

衛兵「(何度見てもいい女だぜ。個人的に楽しむってのもありかもしれねぇな)」

【クイーンズベル 宿屋 食堂】

勇者「なんで鍋なんよ?」

魔法使い「……」タラ~

勇者「なんでっ! 外気温が39度もあるのにっ! 地獄鍋なんよっ!」バンバン

戦士「はふはふ、うまいっ、暑いっ、あつうまっ」モグモグ

勇者「お前もうなんかペット化してきてんな!」

僧侶「しょうがありませんよぉ~。これしかないっておっしゃるんですからぁ」

勇者「我慢大会やってるんじゃないんだぞ!」

魔法使い「暑くなるんだから、騒がないでよ。バカ勇者」ダラダラ

勇者「滝の汗になってるけど、平気?」

武闘家「……アタイ、やっぱり店員に」

戦士「待て」ガシッ

武闘家「はぁ……なんだよ」

戦士「出されたものをすべて平らげてからだ。それこそが道理」

勇者「お前ルール押し付けてんじゃねぇ! 俺はもう我慢ならん! 店員さぁーん! ちょっとカマン!!」パチン

魔法使い「指鳴らすとかやめてくれない?」

店員「チッス。追加の鍋ご注文ッスか?」

勇者「いらねーよ! どうなってんのよ!鍋って!」

店員「暑い中食う鍋が今年のトレンドなんスよ」

勇者「いや、ほら。ほかにもあるだろ? 本当は」

店員「あるにはあるすけど。激辛ラーメンとか」

勇者「な、なんでそんなもんばっかり」プルプル

店員「サーセン。お客さん、旅人っスよね? この地方ってみんなこうなんすよ。どこいってもこうすっよ」

勇者「そんなの絶対おかしいよ!!」バンッ

店員「たくさん汗かいてたくさん水のむっス。身体にもいいんスよ。長生きの秘訣っス」

勇者「す、住めない。ここには絶対に……!」

魔法使い「はふぅ」コテ

勇者「お、おいっ! 魔法使い! しっかりしろ!」

魔法使い「ゆ、勇者……水……」

勇者「ほら! 飲め!」スッ

魔法使い「んくっ、んくっ」ゴクゴク

勇者「き、きさまああぁぁっ! よくも魔法使いを!」

店員「なに三文芝居やってんスか。注文ないなら失礼シャース」テクテク

勇者「うっ、うっ」ポロポロ

僧侶「勇者さまぁ、泣かれておられるのですか?」

勇者「これだから、これだからこの地方は嫌いなんだ……! なにもかも……」ポロポロ

武闘家「はぁ……」ガックシ

戦士「うまっ、はふっ、はふっ。店員さーん! ラーメン追加ぁー!」モグモグ

【翌日 朝 宿屋】

魔法使い「――はぁ?? ここにしばらく滞在するぅ?」

勇者「そうだ」

戦士「てっきり、あたしは通過地点程度にしか思ってなかったが」

武闘家「アタイだってそうさ」

僧侶「ダーマに急がなくてよろしいのですかぁ?」

勇者「(ど、どうする……。まさか、私用で……それも勇者にまつわる話だと正直に言うとこいつらのことだ。騒ぎそうだし、めんどくせぇ……)」

戦士&武闘家&僧侶&魔法使い「……?」

勇者「(よし、また適当なウソつくか)……ミンゴナージュからここまでは少し疲れたからな。休息も必要だ」

戦士「疲れてもないが?」

勇者「お前らは揺られてただけだろうが!」バンッ

魔法使い「あんただって手綱握ってた……馬にってこと?」

勇者「そ、その通り!(ということにしておこう)」

僧侶「それにしてはぁ、まるでご自分が疲れたかのようなぁ」

勇者「言い方間違えただけ! 細かいことはいいの!」

武闘家「馬車を失うのは痛いもんね」

勇者「そうだ! 人手で運ぶには限界がある! 魔法使い!」

魔法使い「……なによ?」

勇者「お前、何十キロも重りつけて歩けるか?」

魔法使い「無理だけど」

勇者「だろう⁉︎ 人は便利さを知る前と後ででは感覚が違う! 物資も買った!」バンッ

戦士「む、たしかに。買いこんだな。勇者が最初は北にいくなんていうから余計な荷物まで」

勇者「こ、細かいことは忘れよ⁉︎ ……ごほんっ、それでだな。馬もいたわってあげなきゃいけない。僧侶!」

僧侶「はい~」

勇者「俺が言ってることになにかおかしい点はあるか?」

僧侶「いえ~。暑いですからねぇ~」

勇者「そうだろう、そうだろう! なにもおかしくはない!」

武闘家「……何日ぐらい予定を伸ばすのさ?」

勇者「へ?」

戦士「いや、もちろんすぐにとはいかないが、異常があるわけじゃないんだ。武闘家が言うようにあまり伸ばしても」

勇者「(し、しまった。見切り発車でそこまでは考えてなかった)……三日ぐらいかな?」

魔法使い「ふぅ~ん、まぁいいけど。それならマッスルタウンで羽伸ばしたかったなぁ。ここ住みにくいし」

勇者「……」ホッ

戦士「馬舎に預けてあるから簡単な世話はしてれるよな。あたしらはその間、フリーでいいのかい?」

勇者「そうだな。一緒に行動する理由もない。思い思いに休息してくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」

【宿屋 部屋】

勇者「よし、うまくいったぞ。えぇーと……どこにしまったんだっけ」ゴソゴソ

従業員「掃除しても大丈夫です?」ガチャ

勇者「あー、どーぞどーぞ。お疲れ様です」

従業員「すみません、他の部屋もまわらなくちゃいけないもので。失礼します」バタン

勇者「おっ、あったあった。マク・ドナルドの時の覆面。これを探してたんだよなー。でも、このままだと武闘家は知ってるから~……従業員さん」

従業員「はい?」

勇者「ここらへんって服の仕立て屋ありませんかね?」

従業員「ありますよ。宿をでてしばらく歩くと十字路の大通りにでますから、そこを右に曲がった角です」

勇者「裁縫もやってくれたりします?」

従業員「えぇ、まぁ頼めばやってくれないことはないと思いますが。なにか破れたんですか?」

勇者「いえ、そういうわけじゃないんですけどね、これに手を加えてほしいなーなんて」

従業員「マスクですか? 仮装用の?」

勇者「そんなもんです」

従業員「けっこう痛んでますね。新しいもの買ったらどうです?」

勇者「へ? 売ってるんですか?」

従業員「ええ。変わった店ならいくらか」

勇者「おお! どこに行けば⁉︎」

従業員「それなら、大通りの十字路をそのまま――」

【仮面屋】

店主「いらっしゃい」ニタァ

勇者「魔物め!」スラッ

店主「……なぁ~に言っとるんだい」

勇者「つ、つい。店内薄暗いのにロウソクで下から照らしちゃってるから」

店主「余計なお世話だよ。ひやかしなら帰っとくれ」

勇者「いやいや! 買う! 買いに来た!」

店主「ふん……お探しはなんだい? 仮装用かい?」

勇者「見た目はなんでも。希望は顔の全面が隠せるもので、なるべく通気性の良いものがいいな」

店主「布地がいいかね。麻か、もっと薄くなると透けちまうから……」ゴソゴソ

勇者「けっこう色々あるんだなぁ」キョロキョロ

店主「なんだい? こういう店に慣れてないのかい?」

勇者「ていうか、あんまり見かけない」

店主「そりゃそうかもしれないねぇ。クィーンズベルでもこの1店舗だけさ……これなんかどうだい? 体もセットという代わり品だ」スッ

勇者「おもっくそスパイダー○ンやんけ!!」

店主「す、すばだー?」

勇者「……知らないならいいんだ。でも、ちょっと派手かな? この世界観にそぐわないっていうか。もっとファンタジー色の強いものがいいと思う」

店主「さっきからなに言っとるんだい」

勇者「うんとね、なんかこう、仮面です! って仮面?」

店主「……やっぱり、ひやかしかい」ジトォー

勇者「いやいや違うよ!」

店主「あんたの要望にはそれしかないよ」

勇者「え、えぇ……これ?」チラ

店主「買わないんだったら帰っとくれ」

【数十分後 城門前】

兵士「なんだ貴様は」

スパイダー○ン「ハーイ! ボクの名前はスパイディーさ!」

兵士「不審者か」

スパイダー○ン「違うよ! 正義の味方で悪者をやっつけるんた!」

兵士「……それで、なんの用だ」

スパイダー○ン「城に入れないか――」

兵士「だめだ。帰れ」チャキ

スパイダー○ン「い、いきなり槍の剣先向けないでよ!ボクがなにをしたっていうのさ⁉︎」

兵士「なにかしそうだ」

スパイダー○ン「冤罪だ! 人を見た目で判断しないで!」

兵士「なら、脱げよ」

スパイダー○ン「だ、だめだよ。そんなことしたら、ボクが一般人のピーター・○ーカーだって」

兵士「……」スゥ

スパイダー○ン「笛ふこうとしないで⁉︎ 仲間呼ぶつもりでしょ⁉︎」

兵士「帰れと言ってるだろうが。捕まえるぞ」

スパイダー○ン「い、いや、だからボクは犯罪者じゃなく悪者をやっつけるヒーローで」

兵士「すぅー……」ピィィィィ

スパイダー○ン「戦術的撤退ッ!!」ダダダッ

まだアンチ湧いてたのかw
残念ながらまとめサイトの感想欄ではみんな面白い面白いて読んでるよ
面白くないんなら散った散った

バカバカしすぎるw
エレ速のコメ欄とか有名SSでさえ「なろう産みたい」にピンポイントで反応して叩く吹き溜まりの集まりじゃねーかw
しかも世界観壊れてるとか衣装って設定でギャグSSにありがちなメタ発言でwww

>勇者「……知らないならいいんだ。でも、ちょっと派手かな? この世界観にそぐわないっていうか。もっとファンタジー色の強いものがいいと思う」

この一文があっての世界観壊れてるツッコミとかそっちのが草生えるわw

俺は有名SSの「仲間TUEEE」SSのコメ欄が今のこことまったく同じような「なろうみたい」「作者の自演で察する」になったときにあのサイトは変なの住み着いたなと逆に察したなw
このSSに粘着してるのも同じやつだったりしてw

    _
    \)    ()フ
     Y) (\/

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       L<\/

        ヘ
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       ロ/  (
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  ∠___   n/
/\ ヘヘロ/ n_/

L |L_/ L/
`Ln/

    十ヽ -|-、レ |
    d⌒) /| ノ ノ

【仮面屋】

スパイ○ーマン「ぜぇっ、ぜぇ、はぁっ……ふぅ~」バタン スポッ

店主「おや、あんたついさっきの」

兵士「チッ、見失ったか。おーい! 向こうを探せーっ!」ザッザッザッ

勇者「うっ、やばっ」ササッ

店主「表が騒がしいねぇ。捕り物でもやっとるのか」

勇者「行ったか……こうなると思ってた! 思ってたよ!!」ビターン

店主「なんだいきなり。物を粗末に扱うんではないよ。ましてやうちの元商品を。買った店で床にたたきつけるなんぞ……」

勇者「ば、ばあちゃん! 俺も漫画は好きでよく読んでたけどさぁ……! 」

店主「そりゃ子供達がよく読んでる本の代物だったのかい。だったら買手がつきそうなもんだがねぇ、なんで売れ残ってたんやら」

勇者「コアな方だからな! アデルでも数冊しか見かけないぐらいの!」

店主「詳細はどうでもいいよ。あたしゃあんたの希望に沿う品をご提示しただけだから」

勇者「もっと他になんかない? ファンタジーでなくてもいいからもっと普通の……そう、舞台や劇であるような! これならばあちゃんもわかるだろ?」

店主「劇……そうか。それなら最初から言ってくれればいいのに」

勇者「あくまで俺が悪いみたいな言い方やめていただけるかな⁉︎」

店主「……そうさね、演劇で使うとなりゃ……」ゴソゴソ

勇者「つ、使うわけじゃないけど」

店主「ん~と……これならどうだい?」ポイッ

勇者「おっと……⁉︎」ズシッ

店主「そりゃちょっと曰くつきなんだけどね。なんでも役者が着けてる時に死んだっていう」

勇者「縁起わりーな! ……甲冑の鉄仮面か。これなら。たしかに、さっきより」

店主「違和感とかさっきからお前はなにを言っとるんだい?」

勇者「あぁ、いや、城に行くのにさ」

店主「お城に? そんなもん着けて城にいくのかい?」ジトォー

勇者「あんたんとこの商品だからな!」

店主「客の個人事情なんか知ったもんか。あたしが知りたいのは用途だよ。城に行くならはやく言えってんだ」ゴソゴソ

勇者「……これ、着けたら呪われたりしないだろうな……」ジー

店主「それはその場に置いておきな」ポイッ

勇者「んっ? ……っと」ポト

店主「城に行くならそれなりの格好でなきゃ行けないだろ。それ着けてきな」

勇者「これは……? 仮面か?」

店主「貴族が愛用してるマスカレードマスク(舞踏会で用いられる仮面に装飾が施された物のこと)さ。……あんたの格好じゃチグハグだね」

勇者「だって、体もスパイダー……いつもの服でもダメだな」

店主「亡くなったじいさんがかっこよさコンテストで着ていた服がたしかこっちのタンスに――……」

【竜王城 司書室】

シンリュウ「ふむふむ」ペラ

ベビードラゴン「んしょ、よいしょ、紅茶と人肉クッキーを運んできましたよぉ」

シンリュウ「そごにおいででぐれ」ペラ

ベビードラゴン「精がでるっすねぇ~」コト

シンリュウ「……」ペラ

ベビードラゴン「勇者をお調べになってるだっしょ? 正直、たかが人間をなにを恐れるてのやら」

シンリュウ「わだすもそう思う。だけんど、伝承によっちゃ、歴代魔王様の天敵扱いになってっぺな」パタン

ベビードラゴン「勇者ってそもそもなんす? 記録が残ってるんすか?」

シンリュウ「時代によっで解釈が変わる。勇あるもの、女神に愛されしもの、世界に平和と均衡を繋ぐもの……呼び名は様々だぁ」カチャ

ベビードラゴン「ふぅ~ん。あっ、一枚もらうっす」ポリッ

シンリュウ「“勇者”とはあくまで符号にしかすぎないのか? たまたまそうなった者が勇者と呼ばれる」

ベビードラゴン「血統は関係ないんすか? んぐっ、あむっ」モグモグ

シンリュウ「そんれがなぁ~、それもたまたまかもしれないし、そうじゃないのかもしんね」

ベビードラゴン「よくわかんねっす」ゴクン

シンリュウ「生まれ持った“ギフト(女神からの贈り物)”なのか……そうだとしたら……勇者とは“運び手”じゃないんかなぁ……」

ベビードラゴン「運び手わっしょい、運び手わっしょい!」パタパタ

シンリュウ「この部屋にある壁画。世界樹を前に、我が祖先と勇者が共に戦う姿……」

ベビードラゴン「ほんとなんすかね? 祖先様は人肉を食べるのをやめたって話」

シンリュウ「……」カチャ ズズ

ベビードラゴン「こんなにおいしいのに」ポリッ

シンリュウ「……っ⁉︎ あっつぅいっ! ベビー! ちょっとあんだ!」ブボッ

ベビードラゴン「あっ、紅茶、暑すぎたっすか? 猫舌ですもんね」

シンリュウ「冷ましてから持ってぎでっていづも言っでるだに!」

ベビードラゴン「んだども、猫舌の竜王なんて聞いだごども。火炎の息はくのに」

シンリュウ「覚えてけろっ! 何度言わせんの!」プルプル

ベビードラゴン「す、すいません!」

シンリュウ「……祖先様は、勇者のどこに惹かれたんだっぺな……」ボー

【クイーンズベル城 城門前】

勇者?「はっはっはっ、いやぁ、今日も暑い中ご苦労だねぇ!」

兵士「ん……?」

勇者?「失礼。私は名家出身である、ジャンポワール・ルネッサンスというものだが」

兵士「は、はぁ」

ジャン「気軽にジャンと呼んでくれたまえ」

兵士「……」ジー

ジャン「(バレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんように……!)」

兵士「……本日はどのようなご用件で?」

ジャン「(キターーー! ばあちゃん感謝!!)……この城の中に知り合いがいてね」

兵士「はぁ、お知り合いですか。それならば名簿を」

ジャン「いい、いい。私は貴族でありながら庶民の苦労を汲みたい」

兵士「……?」

ジャン「いや、だからだね、手を煩わせるのも悪いだろう?」

兵士「あ、あぁ。いえ、これも務めですので、お名前を教えていただければ――」

ジャン「申すな申すなぁ。せっかくこちらが気を使っているというのに」

兵士「……」

ジャン「……」ゴクリ

兵士「――……あ、ありがとうございます。実はちょうどそろそろ交代の時間で」

ジャン「そ、そうだろう⁉︎ そうだろう! 気にしなくていいんだぞ⁉︎」

兵士「お優しい貴族様で。あの、それでなんですが城内に入るということで?」

ジャン「無論だ。じゃないと自分では探せないからな」

兵士「無許可で通すのはちょっと。そうだ、本日は身分証をお持ちでいらっしゃいますか?」

ジャン「み、身分証?」

兵士「はい。貴族様であれば、身分を証明するものをお持ちですよね?」

ジャン「も、もちろんである!」ゴソゴソ

兵士「……」ジー

ジャン「あ、あれぇ~? どこやったっけなぁ……わ、忘れちゃったかなぁ?」

兵士「……忘れた?」

ジャン「い、いやぁ~ついうっかり。忘れるなんて慌てん坊さん! てへっ!」

兵士「貴様……」チャキ

ジャン「な、なんでせう?」

兵士「貴族が身分証を忘れただぁ?」

ジャン「た、たたたんま! 本当に! ウソじゃないて!」

兵士「身分証を持ち歩かない貴族など聞いたこともない!」

ジャン「今回がはじめてのケース! やったね! きみの童貞は捨てられたよ!」アタフタ

兵士「ますます怪しいわ! 貴族がそんなにふざけた言葉遣いをするものかっ!!」

ジャン「言っただろ⁉︎ うちの家系そうなの! こういう教育方針なの!」

兵士「……では、どこの出身だ」スッ

ジャン「ん?」

兵士「出身地と名家であるという証拠を別の形で示せ」

ジャン「ん??」

兵士「できないのか……?」

ジャン「で、できるよ! もちろん! 我が家系は先祖代々アデル王と関係を持っていて」

兵士「ほう」

ジャン「そ、それから、えっと、アデル王と親交が深くて」

兵士「ふむ」

ジャン「……アデル王と仲がすっごくいいんだ!!」

兵士「で?」

ジャン「ん??」

兵士「だからなんだ?」

ジャン「いや、だからさ、そんな凄い貴族ってことで、ここはひとつ」

兵士「なにひとつ証明になっていないのだが?」チャキ

ジャン「矛先って人に向けたら危ないと思うんだ」

メイド「――……これ。なにをしているのです、城門前で」テクテク

ジャン「(ん? あいつは……)」

兵士「こ、これはこれは。姫様専属の……職務に励んでいたのであります!」ビシッ

メイド「貴方は品格を落とすのが務めですか」

兵士「いえっ! 不審者を取り締まり! 王と場内の安全を確保するのが務めであります!」ビシッ

メイド「こちらが、不審者……」ジー

ジャン「(ま、間違いない! あの凶悪姫と小さい頃から一緒にいた……! 俺がいじめられてたのをほくそ笑んでいたメイド……!)」

メイド「城の者が失礼致しました。貴族様と見受けられますが、本日はどのような」

兵士「メイド様! 騙されてはなりません! そいつは怪しいです!」

メイド「黙りなさい。この方がつけているマスクは由緒正しきマスカレードマスクではありませんか。贋作でもない、真贋です。なにを疑っているのです」

兵士「えっ? そ、そうでありますか⁉︎」

ジャン「(な、なんとぉっ⁉︎)」

メイド「……大変失礼致しました。兵にあまり学はないもので」ペコ

ジャン「……いやっはっはっ! いい、いい! 私も身分証をついうっかり忘れていてね!」

メイド「まぁ……それは」

ジャン「だからそこの兵士くんが疑うのも当然よ。責めないでやってくれ」

兵士「……っ! し、失礼いたしましたぁっ!!」ペコペコ

メイド「重ね重ね、こちらの非礼をお詫び致します」ペコ

ジャン「(けっ、なぁ~にがお詫びいたしますだ! 俺はあの時助けてくれずニコニコしてたお前を忘れちゃいねーぞ!!)……知り合いが城内にいてね。会いにきたのだが」

メイド「お名前がわかればすぐにお調べいたしますが」

兵士「そ、それがっ、貴族様は、ご自分で探していただけると」

メイド「……? なぜ?」

兵士「私を労っていただいて。それなのに、疑ってしまい、本当に申し訳ないことを……」シュン

ジャン「(ちったー反省しろこのタコ!!)……いいんだ。間違いなど誰にでもある。キミはキミの職務を全うしようとていた。責任感に感服する思いだよ」キラン

兵士「お、おおおぉぉぉっ」

ジャン「これからも励み、そして必ずやこの国の、ひいては民の安全を守ってほしい。キミにしかできないのだから」ニコ

兵士「くっ、我が人生、このようなお言葉をかけていただいのは初めてのこと! 私は自分が恥ずかしい!」ガクッ

ジャン「――失敗を糧にしろ」

兵士「糧に……?」

ジャン「学べばよいこと。そうすればキミという価値もさらに高みに近づける」

兵士「そ、そうか……俺は、たるんでいたのか」ギリッ

ジャン「キミは私ができないことをしている。尊敬するよ」ポンッ

兵士「うぅっ、うっ、ありがとうございます、ありがとうございます」

ジャン「(なーっはっはっはっ!! きんもちええwwww)」

メイド「本当に、素晴らしいお考えですね」

ジャン「フッ、よしてくれ。私は父と母の教えに従っているだけで」

メイド「かしこまりました。では、私が城内をご案内させていただきます」

兵士「いえ! それならば俺が! 交代の時間ですし!」

ジャン「(ん……?)」

メイド「あなたよりも私が詳しい。空き時間があるなば……」

兵士「ハッ! そ、そうだ! 高めねば! 自分を!」

ジャン「いや、ほら、メイドさんも忙しいんじゃ?」

メイド「お客様をご案内するのも務めなのでございます。失礼のないように」

ジャン「(どうしてこうなった)」

メイド「自己紹介が遅れて申し訳ございません。私は、クィーズベル王の一人娘にして第一王女。……その専属メイドを務めさせていただいております」フワッ

【クイーンズベル城 城内】

メイド「あの、なぜ先ほどから目につく鏡ばかりを熱心に」

ジャン「えっ⁉︎ ご、ごほんっ、身だしなみは大切だからね!」

メイド「左様でございましたか。法務室はこの先の右手になります」

ジャン「(くっそー、この城って鏡こんなにあんのかよ! ナルシストかっつーの!)……あぁ、案内ありがとう。礼を尽くしてくれて感謝する」ペコ

メイド「……」キョトン

ジャン「では、私はこれで」

メイド「お、お待ちをっ!」

ジャン「……? なんだい?」

メイド「下々に頭に下げるなんて聞いたことが。あの、どちらの家柄はどちらの」

ジャン「フッ、名乗る時には相応しい場がある。今はその時ではない」

メイド「それは、なぜでございましょう」

ジャン「貴族とはなにか。そう下々に尋ねると権力と富の象徴だと答えるだろう。そこに差はないのだよ」

メイド「……?」

ジャン「つ、つまりだね、私はひけらかしたくないのだ。自分の家柄を」

メイド「……またもや、ご無礼を。私もまだまだ見識が足らぬようです」

ジャン「良いんだ。こういう貴族もいるとこれかは知っていてくれれば」

メイド「感服の極みでございます」ペコ

ジャン「うむうむ、ではこれで」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……っ!?」ビクッ

ジャン「(……ん?)」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……ふぅー」ホッ

ジャン「(なんだ? 今の表情は? 怯えていたような)」

メイド「退城の際はお声かけくださいまし。私は最初に通りましたホールでお待ち致しておりますので」

ジャン「あ、あぁ。わかった。そうするよ」

【クィーズベル城 法務室前】

ジャン「……よし、邪魔者はいなくなったな……」ササッ

学者「ど、どどどいてくださいっ!」アタフタ

ジャン「へっ?」クルッ

学者「わひゃあっ」ドーンッ パラパラ

ジャン「お、おお、自分でぶつかって自分でこけた」

学者「ひ、ひいぃいいっ!! せっかく順序よく並べた資料がぁっ!」カサカサ

ジャン「す、すまん。拾えばいいのか?」スッ

学者「触らないでくださいっ!! どこになにがあるのかごちゃごちゃになるでしょう!!」クワッ

ジャン「あ、はい」

学者「あーっ、もう、急いでるのに。なんで角に突っ立てたんですかっ!!」

ジャン「す、すみません」ペコ

学者「うぅ~。間に合わないのにぃ、時間押してるのに~……はやく水質調査団と合流しないと」カサカサ

ジャン「水質? それって井戸のこと?」

学者「そうですよ! この国に住んでるなら知ってるで……あなた、誰?」

ジャン「いや、私は貴族のジャンというもので」

学者「お客様でしたか。城に入れるのならさぞかし誉れ高い名家なのでしょうね」トントン

ジャン「それでさ、水質どうなってんの?」

学者「どうもこうもありませんよ。民には伏せてますが、原因がわからないのです」

ジャン「へぇ、伏せてんの? それってまずくない?」

学者「ならば公表しろと? 無用な混乱を招くだけです。水はたださえ欠かせないもの。この国の気候ならば尚更です。大恐慌が起きますよ」

ジャン「……」

学者「国王様も長期化の憂いは充分理解しておいでです。法務担当の者達が法王庁との協議にはいっています」パンパン

ジャン「(法王庁。たしかアデル王のとこに遊びいった時にきいたことあんな。名前だけだけど)」

学者「水売りに来ている商人があるので、すぐに困窮するともないですし、外部の貴族様が知らなくてもよいですよ」

ジャン「あ、そう」

学者「どいてもらっていいですか? 急いでるので」

ジャン「キミ、貴族に対してフランクだね」

学者「もう一度言います、急いでるので。……罰なら後で受けます」

ジャン「いや、そういう意味ではないけど」

学者「失礼っ、っと、わたたっ」ヨテヨテ

ジャン「前見えてないじゃん。よこせよ、半分」

学者「は、はい?」

ジャン「持ってやるから。整理し終えたんたなら触っても問題なかろうて」

学者「ば、バカじゃないですか⁉︎ ……ハッ! もしや、貴族様に荷物持ちをさせてる現場を見させてさらに重い罰を……」

ジャン「ばっかじゃねーの? そのかわり、ちょい話を聞かせてくれや」

学者「話……?」

ジャン「そうそう。歩きながらでかまわんから」スッ

【クイーンズベル城 大広間】

メイド「(会いたい。……一目だけでも無事かどうか確認したい。私のたったひとりの弟)」ボー

姫「こんなところでなにしてるんですの?」ヒョイ

メイド「……姫さま。午前の教養の部は?」

姫「退屈だから抜け出してきちゃった」

メイド「はぁ……」ガックシ

姫「貴女こそなぜここに? 暇してるわけじゃないでしょ?」

メイド「私は、お客様のお帰りをお待ちなのです」

姫「お客様? なぜ、貴女がそんなことをするの? わたくしの専属なのに」

メイド「姫様のお付きであると同時に、国にも従事しているのです。丁重におもてなしするのは当然のこと」

姫「いいえ! わかってないのは貴女の方なんですの。私が右といったら右。左といったら左を向くのが貴女の務め」

メイド「ひ、姫様。そのようなことをいつまでもおっしゃるから、国王様は私に」

姫「うるさいんですの! お父様の名前を今持ち出さないで! 縁談の話を思い出したくないのですからっ! べーっ!」

メイド「……はい」

姫「それで? そのお客様というのはどちらですの?」

メイド「……はい?」

姫「わたくしの付き人をこき使った罰を与えてやらなくちゃいけませんの」

メイド「ひ、姫さまっ!! 国賓なのですよ! 自覚をお待ちくださいませ! 第一皇女がそのようなマネを!!」クワッ

姫「うるっさいんですの。どうせどこかの貴族だったのよね? アイツらすぐに舐めたマネしやがるから。セクハラされたんですの?」

メイド「い、いえっ! そ、そのような!」ブンブンッ

姫「口止めされたんですのね。全く許されないんですの!」コツコツ

メイド「ひ、姫さまっ! お待ちを! お待ちくださいっ! そちらでなく法務室にっ⁉︎」バッ

姫「そうなんですのぉ……」ニヤァ

メイド「ち、違います! だめです! なりません! 貴族相手とはいえ姫さまが直々に! 大事になりますよ! 家柄を潰す気ですか⁉︎」アタフタ

姫「大げさなんですの。ちょっとこらしめてやるだけなのに」コツコツ

メイド「待って! お待ちくださいまし! 後生ですから!」タタタッ

【クイーンズベル城 通路】

ジャン「――ふぅん、水脈が逃げてるねぇ」テクテク

学者「信じられないでしょうが、事実なのです」テクテク

ジャン「岩盤に使う火薬が足りないんとかじゃなく?」

学者「硬い地層については爆薬で突破し、さらに掘りすめたのですからそういう話ではないしょう」

ジャン「いっそ、別の場所を掘ってみるとか」

学者「どこでも掘ればいいという条件ではないのですよ。水脈が流れているか、もしくは地中に溜まった水蒸気が溜まっていないと。生活水として使うまでには濾過も必要ですから」

ジャン「なら、今ある井戸の再利用できないかと模索してるわけ?」

学者「可能ならばそれが一番いいのです。ですが、厳しい……はぁ」ガックシ

ジャン「そりゃ困ったな。できることと言えば掘るしかないしな」

学者「せめて、なぜ水が逃げているのか……その原因さえ突き止められれば」

メイド「ひ、姫さまぁっ!!」タタタッ

姫「……」ズンズン ズンズン

ジャン「……あ、あれは……こっちにまっすぐ向かってくるのは……ま、ままままま、まさかっ!」

学者「あ、姫様だ」ペコ

姫「……見つけたぁ……」ニヤァ

ジャン「ひ、ひぃっ! 10年ぶりかぐらいになるが忘れもせんぞ! そのおもちゃを見つけたような笑み!」ガクガク

学者「頭さげなきゃ。貴族といえども、怒られますよ」コツン

ジャン「(た、たたたのむっ! はやく通り過ぎて! と、トラウマが! やめて! そこはネギを刺す穴じゃ!)」ペコ

姫「……」ズンズン ピタッ

メイド「ひ、姫さま。立ち止まらずにそのまま歩きましょう! ねっ! そうしましょう!」

姫「――……これ。そこのお前」ビシッ

学者「わっ、姫さまから声かけられてるよ」

ジャン「(か、勘弁してくれぇぇぇっ)」ガタガタ

姫「聞こえんのか? マスカレードマスクなどつけておる小癪なお前のことよ」

ジャン「はっ、はいぃっ!」ビシッ

姫「なんだそのナリは? 舞踏会にでもきたつもりかえ? 着飾って……なんとまぁ、無様な男よ」

メイド「姫さまっ!!」クワッ

姫「オーホッホッホッ! 見てみるんですの。震えておる! くふふっ」ニマァ

ジャン「(に、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃ、だめだ! トラウマなんか平気だい!)」

メイド「気は晴れましたでしょう? ささ、私たちは――」

ジャン「……失礼。あまりにも麗しいお姿なので、身体に電流が走っておりました」

姫「おべっかを使う作戦に切り替えたんですの? なんでも、このわたくしの付き人をこき使ったようですね」

メイド「来る途中に何度も……! それが私の務めであり、なにより、私から!!」

ジャン「よいのです。たしかに自己紹介をされた際に専属だと。辞退すべきだったのです」

姫「ほう?」

メイド「も、申し訳ございませんっ!」ペコペコ

姫「お前が頭を下げるではないわ。私までさげたことと同義になるであろうが」

メイド「ひ、姫さまぁ」

姫「マスクをとって顔を見せよ」

ジャン「……はい?」

姫「なにかえ? とれぬと申すか?」

ジャン「あー、んー」

姫「私の頼みを聞けぬのか?」

ジャン「(だ、だだだだ大ピンチッ!! ど、どないしよ! こいつ俺の顔覚えてたらえらい目にあうど!!)」

姫「どうした?」

ジャン「(で、ででもっ、10年前の話だし、顔なんか忘れちゃうし? ちっくしょおおおっ! これじゃ変装した意味が! なんとか誤魔化さなければ!)」

学者「……なにやってるんですか。とったほうがいいですよ。無礼です」コソ

姫「はやくとらぬか。お父様に言いつけるぞ」

ジャン「(ええい、ままよっ!!)……メラミ」ボソ

姫&メイド&学者「え、ええっ⁉︎」ギョッ

ジャン「~~~っ! ぐはっ、ぐあぁ」ゴロゴロ

姫「こ、こいつ、自分の顔に向けて火炎魔法を撃ちおった……気でも狂ってるんですの?」

メイド「だ、大丈夫ですか⁉︎ すぐに神官職のものを」

ジャン「(俺の魔法ってこんないてーの⁉︎ 自分に撃ったことないからわからんかった。で、でも! 困惑させることには成功したぞ!)……これでいいのです」ボォッ

学者「いい、って燃えてますよ。服」

ジャン「え? あ、やばっやばっ! あちゃ! あちゃちゃ!」バタバタ

姫「……」ポカーン

ジャン「ふぅ……私の無礼には今、私自らが罰を与えたのです」

姫「罰? あなたが?」

ジャン「姫。聞いてもらえますでしょうか」

姫「なんですの?」

ジャン「(見よ! 俺の演技力を!)……実は、この仮面の下はひどいヤケドの跡がございます」

姫「……」ピク

ジャン「あれは幼き日のことでございました。実家にある納屋で可愛がっていた馬とお昼寝をしていると……放火魔が」

学者「ま、まさか。それで火をつけられて、逃げ遅れて」

ジャン「警備の者が火事に気がついて救出された際、私は一命をとりとめましたっ!! 顔にひどいヤケドをおって……」

メイド「な、なんということを……」

ジャン「でも! でもっ!! それより悲しかったのは……!! なにかおわかりですかっ⁉︎ 姫っ!!」クワッ

姫「な、なんですの……?」タジ

ジャン「私の仲良かった馬が……っ! 仲の良い馬が巻き込まれてしまったこと……」ポロ

メイド「……涙が」

ジャン「守りたかった!! 守れなかった!! もう帰ってこない! あぁ、ロビー! ……うっうっ……」ポロポロ

学者「そんなにまで……」

ジャン「姫……。本来ならば罰は姫からいただくが道理。しかし、私にとって最も辛い処罰がわかるのは、私なのです」

姫「……トラウマを……ほじくり起こしたんですのね?」

ジャン「(おめーにほじくられてるよ馬鹿野郎!!)……左様です。追加の罰があれば、なんなりと。仮面を脱げと言われれば脱ぎましょう」スッ

メイド「……っ! お、お待ちください!!」ガシッ

ジャン「ど、どうなされたのです?」(困惑の演技)

メイド「姫さま! 罰というのなら私も同罪でございます!!」

姫「うっ」タジ

メイド「この方はこんなにキレイな瞳をしていて、涙をためてるのに……これ以上なんの罰が必要でしょうか⁉︎」

姫「(な、なんですの。このクソ寒い流れは)」

メイド「さぁっ! 罰を! この方も、そして私も謹んでお受け致しますっ!!」

ジャン「(いや、ちょ、ちょっと。せっかくうまくいきそうだったのに)」ハラハラ

姫「……私が貴女に罰を与えるわけないでしょう」

メイド「では、この方も」

姫「はぁ……なんだか。もうどうでもいいですわぁ」

ジャン「あ、ありがたき幸せっ!!」ドゲザ

メイド「姫さま、寛大なお計らいに感謝を申し上げます」ペコ

姫「はいはい」ヒラヒラ

メイド「さぁ、お立ちを。なにも恥じることはないのです。申し訳ありません、はるばるハーケマルから来ていただく予定の国賓の使者たる方に」

姫「ん……?」ピク

ジャン「ハーケマル?」

メイド「実は……申し上げずともわかっておりました。そのマスクはハーケマル由来のもの。第一皇子に先駆けて様子を見にいらしたのでしょう?」

姫「な、な、な……」プルプル

ジャン「(城門の兵士さんにはアデルって言っちゃたけど。まぁ、いっか。それで。どうせ目的の鏡見つけりゃいいし)……バレていましたか」

姫「……っ⁉︎」ギロッ

メイド「お帰りの際に、王室へとご案内しようと思っていたのです」

ジャン「いや、そ、そこまでは。今回は隠密でして」

姫「……」プルプル

メイド「姫さま、よかったですね。ハーケマルの国からの使者がこのように清い方で。これなら、民も第一皇子もさぞかし……」

姫「おい」ギロッ

ジャン「ひっ⁉︎」ブルッ

姫「ハーケマルの皇子ってのに伝えるといいですの」

ジャン「(こ、この目はっ! なにかに無性にイライラしている時の! や、やめて! 第二のトラウマを発動させないで!)」ガタガタ

姫「わたくしは、貴方と結婚するつもりは毛頭ないと。頭の毛ぐらいにね!!」

ジャン「あわわわわっ、ごめんなさい、許してください、もう勘弁してください」ブルブル

メイド「姫さまっ!」

姫「……? なんですの? 別に使者に言ってるわけではありませんのに」

ジャン「い、いやだ。診察ごっこはもう嫌だ……」ガタガタ

学者「体育すわりしてなんか言ってますね」

姫「診察ごっこ……?」ピク

メイド「やはり、先ほどのトラウマが!! こうしてはおられません! すぐにお部屋にお通しいたします! 本日は城にお泊まりくださいませ!!」

ジャン「いやなんや……そこは違う穴なんや……」ブツブツ

姫「……どこかで……? なにか……見落としてるような……」

【クィーンズベル城 玉座】

王様「まことかっ⁉︎ ハーケマルからの使者が!」

メイド「今は、部屋でお休みなさっておいでです」

王様「そうかそうか! そうじゃったか! 失礼はないであろうな!」

メイド「そ、それは……」

王妃「懐かしい。ハーケマルといえば私の母国でもあります。使者といえば、いつもの貴族かしら」

メイド「今回のご来訪は、王子に先駆けての隠密だそうでして」

王様「なるほどのう、視察に参ったというわけか」

王妃「……? それにしては、おかしいような? 定期的に文を渡しておりますし、なにより私が嫁いでいる国をいまさら」

王様「よいよい。あちらの王にとっても大事な息子なのであろうて。気になりもする」

王妃「……左様で、ございますね……」

メイド「目が覚めたら、お通しいたしますか?」

王様「うむ……いや、まて。今日は自由に見てもらって、明日にでも会食を設けよう。ワシが出張っては隠密の意味がなくなる」

メイド「承知いたしました」

王様「お主に世話役をまかせよう。くれぐれも、失礼のないようにな。姫の大事な面談相手に悪印象を持たせるわけにはいかん」

王妃「あなた、その席には私もご一緒してもかまいませんか?」

王様「よろしい。許可しよう」

メイド「姫さまとのご縁談がかかっております」

王様「うむ……お主にも、無理を言ってすまなんだ。小さき頃より共に育った間柄を逆手にとり、姫を説得させようなどと」

メイド「拾っていただいた恩は忘れておりません。姫さまにとっても幸せな婚姻となると信じております」

王様「うむっ! お主の忠義やあっぱれ! ……これからも、姫をよろしく頼む」

王妃「私たちは少々甘やかしすぎたようです。あの子には自覚がたりない。頼りにしていますよ」

メイド「もったいなきお言葉にございます」

【クィーンズベル城 客室】

ジャン「Zzz」

メイド「……」パタン

ジャン「うっ、うぅっ」ビクゥッ

メイド「……起きていらっしゃるのですか?」

ジャン「いややっ、やめてっ」

メイド「うなされている……おかわいそうに、よっぽどお辛かったのですね」

姫「失礼するんですの」バターーンッ

メイド「……っ⁉︎」ギョッ

姫「あら? 貴女まだいらしたんですの?」

メイド「ひ、姫さま! お静かに! 休まれているんですよ!」

姫「どーにも喉に小骨がひっかかっているような気がして。やっぱりそいつの顔見たいんですの」

メイド「な、なりませんっ! どうしてもというのならせめて許可をお取りください!」

姫「あらあら? 歯向かうんですのぉ?」ニタァ

メイド「な、なんですかぁ?」タジ

姫「めずらしいですわね。貴女が反抗するなんて、十年間はなかったことですの。最後に……かばおうとしたのは、勇者相手だったかしら」

メイド「……っ!」

姫「あの頃の貴女は今よりも引っ込み思案でしたものね。いつもニコニコ笑って、取り繕っていたのをよく覚えていますわ」

メイド「む、昔の話です」

姫「勇者と私と貴女の三人で。アデル王に連れられてやってきた勇者と仲良くなるのはそんなに時間がかからなかったんですの」

メイド「……そうでしたね」

姫「遠く過去のように感じますわ……本当に遠い過去なんですけど」コツコツ

メイド「姫さま! ドサクサ紛れでなにを近づこうとしているんですか!」

姫「……なぁ~んかひっかかるんですの……診察ごっこをしていたのを覚えている?」

メイド「え……? 覚えては、いますが。勇者様とやっていたおままごとの」

姫「ええ。私が妻、そして貴女が愛人」

メイド「い、今思うと、子供ながらにとんでもない設定を」

姫「仲間外れにしてはかわいそうだと思ったんですの。……その診察ごっこをしたのは、後にも先にも勇者だけ……」

メイド「左様です。勇者様が1ヶ月間滞在していた時にやった遊び。アデルにご帰国の際には、遊び疲れたのか、勇者様が憔悴しきっていたのをよく覚えています」

姫「楽しかったですわよね。……こいつは、なんでさっき“診察ごっこ”と口走ったのか」チラ

ジャン「Zzz」

メイド「遊び自体は、よくある遊びですよ」

姫「……それも、そうなんだけど……」ジー

ジャン「違う、皮ひっぱらないで、う、うぅっ」

メイド「良くない夢を見ておられるのです。今はそっとしてあげましょう、姫さま」

姫「うぅ~~~ん? なんで、こいつを見てると勇者を思い出すんですの……?」

【その頃1 クィーズベル城 郊外】

戦士「はぁぁぁぁっ!!」ザシュ

武闘家「ハイィィィィッヤァッ!!」ドンッ

戦士「ぐっ⁉︎ がはっ」キーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ……ふぅー」スッ

戦士「く……っ、ち、ちくしょう、また負け、か」ガクッ

武闘家「まだやる?」パンパン

戦士「ふん、あたしは負けず嫌いなんだ。身体が動けばすぐにでもやりたいが……少し休憩するか……ふぅ」

武闘家「……」ドサッ

戦士「なぁ? 気になってたんだが……老人は……武闘家の師匠はなんで勇者についてけって言ったんだ? 修行のためか?」

武闘家「見聞を広げろって。……そう言われた。アタイが井の中の蛙だって思い知ってちょうどよかったんだと思う」

戦士「マク選手のことか。たしかにあの強さは尋常じゃなかったな。できれば、あたしももう一度会いたい」

武闘家「毎日会ってるじゃないさ」ボソ

戦士「……武闘家……お前はあたしより、強い。悔しいが認めなきゃいけないみたいだ。なにかアドバイスをもらえないか?」

武闘家「タフさに自信がありすぎるんだ。防御が疎かになりすぎ。アタイの動きは見えるんだろう?」

戦士「ああ、だが、速すぎて反応できない」

武闘家「動体視力は悪くない。これまでの相手は多少攻撃を受けても自前のタフさがあってどうにかなってたかもしれないけど」

戦士「……」

武闘家「――達人に近づけば近づくほど甘くないよ」

戦士「防御か。攻める方が好きなんだけどなぁ」

武闘家「得意不得意は誰にでもあるもんさ。アタイだって人に教えられるほど高みにいるわけじゃない。勇者に教えてもらえば?」

戦士「むっ? なぜだ? あいつはこのパーティで三番手だろう。器用貧乏だと言ってたのはその通りだったし……武闘家はまだ勇者と手合わせしてないから実力を知らないのか」

武闘家「……はぁ」

戦士「もっと、もっと、強くなりたい……マク選手とまではいかないが、背中が見えるようには」

武闘家「そこに関しちゃ同感だね。あいつの顔色を変えるぐらいの一撃を放ってみせる……! やられっぱなしでたまるもんか……!」ギュゥ

戦士「ぷっ、ははっ、お前もあたしと同じぐらい負けず嫌いなんだな」

武闘家「……なんで笑うのさ」

戦士「いやいや。目標があるとはいいものだ。無愛想だが、嫌いじゃないよ、あたしは」

武闘家「アタイは嫌いだけど」

戦士「なっ⁉︎ 今ようやくいい雰囲気になろうとしていただろうが!」

武闘家「女同士でなに言ってるのさ。アンタ、そっちの気でもあんの?」

戦士「~~ッ! き、嫌いだ! やっぱりお前なんか! このひねくれ者!」

武闘家「くっ、ひ、人が気にしてるところを」

戦士「あ? ……なぁ~んだ。自覚あったのか? やぁ~~い」

武闘家「立てッ!! 足腰立たなくしてやるッ!!」クワッ

戦士「やろうってのか!! あたしが何遍も黙って負けると思ってんだろ!」ムクッ

武闘家「弱いくせに。ウププッ」

戦士「い、言いやがったなぁっ⁉︎ 叩き切ってくれるッ!!」

【その頃2 クィーンズベル城 防具屋】

魔法使い「見てこれ見てこれ~っ! ピアスかわいくないっ⁉︎」

僧侶「お似合いですよぉ~」

魔法使い「はぁ、自由に買い物ができるなんて……甲斐性なしの勇者についてってたら一生できないと思ってたぁ! ふんふ~ん♪」

僧侶「賭けにかってよかったですねぇ」

魔法使い「マク選手! あぁ、素敵! この杖も貰っちゃたし! ん~、ちゅっちゅっ」

僧侶「杖は手垢がついて汚いですよぉ……でもぉ、考えてみればマク選手って不思議な人でしたよねぇ?」

魔法使い「不思議? へんてこりんなマスクや格好が?」

僧侶「それもありますけどぉ。なんで無口なんでしょぉねぇ?」

魔法使い「修行なのよ。あれが」キリッ

僧侶「なんだか、喋りたくなかったみたいなぁ~?」

魔法使い「チッチッチ、僧侶ったらなんにも知らないのね。サイレントモンクっていうのよ。あれが自分に課した制限なの。はぁ……かっこいい」ウットリ

僧侶「……はぁ、やっぱりポンコツなんですねぇ」

魔法使い「きっと、きっとね、あのマスクの下はすごぉ~く、かわいい顔してるのよ? なんで私に杖くれたのかしら……ま、まさかっ⁉︎ 一目惚れされてたっ⁉︎」

僧侶「……」

魔法使い「や、やだぁ~! ど、どうしよ! 私にに恥ずかしがってたってこと⁉︎」バンバン

僧侶「叩かれると痛いですぅ~」

魔法使い「修行があけたら私に会いに来たりして……好きだ、結婚してくれ」(マクの真似のつもり)

僧侶「あのぉ、そもそも声を知らないのではぁ?」

魔法使い「純粋な目を見てわからなかったの⁉︎ そんなことも想像できないの⁉︎」クワッ

僧侶「は、はぁ」

魔法使い「ぐへ、ぐへへっ……だめよ! 私、ダメ男代表の勇者についていかなくちゃ! 魔王が!」

僧侶「……」

魔法使い「それでも僕はかまわない。魔法使い、君がほしい!! ……なぁ~んちゃってなんちゃってぇ!!」バンバン

僧侶「幸せそうでなによりですよねぇ~」

【数時間後 クイーンズベル城 客室】

ジャン「――せ、洗濯バサミはだめだっ!」ガバッ

メイド「目が、覚められましたか……?」

ジャン「こ、ここは……? 知らない天井だ……」

メイド「姫さまと通路で会ってから、しばらくしてからこちらの客間にお通ししたのですが」

ジャン「お、お前は……姫……思い出したぞ! なぜ俺がここにいるのか!」

メイド「そうですか、よかったです。睡眠中もなにやらうわ言のようにうなされていたので!」

ジャン「(誰のせいだと思ってやがる!)……し、失礼。取り乱してしまい、申し訳ない」

メイド「起きたばかりで、このようなことを申し上げるのは、大変恐縮なのですが」

ジャン「あ、あぁ、長居しすぎたか。こちらこそ――」

メイド「いえいえっ! そうではありません! 本日はお泊りくださいませ!」

ジャン「泊まる? いや、それはご迷惑では」

メイド「申し訳ございません。王に、国王様に今回の使者様のご来訪を報告致しました」

ジャン「(あー、王っていうと、気さくなおっちゃんことか。10年前だからなぁ、顔もあやふやになっちまってるが。じいちゃんになってんのかね)」

メイド「隠密だというお立場を知りながら。責任は全て私にございます」

ジャン「……いや、バレてしまったのならば仕方のないこと。体裁さえ守っていただければかまいませんよ」

メイド「ありがとうございます。城内、街はご自由にご覧くださいませ」ホッ

ジャン「(泊まりの上に行動制限もなし、か。それだったら大義名分のもとゆっくり鏡を探せるな)」

メイド「あの、実は、お伝えしたいことがもうひとつ」

ジャン「ん?」

メイド「姫さまでございます」

ジャン「(かーっ、かーっ、またあいつかよ。顔も見たくないわ)……聞きましょう」

メイド「姫さまを、悪く思わないでくださいまし」

ジャン「……?」

メイド「本来は、とっても心お優しいお方なのです」

ジャン「(ないね)」

メイド「淑女たる教育、求められる姫というお立場、そして……政略結婚の道具。18の年齢にかすにはあまりに重すぎる重圧……」

ジャン「(まぁ、一国の姫だからなぁ。勇者という立場を冠する者として同情はするけど……政略結婚?)」

メイド「ハーケマルとクイーンズベルは長年築いてきた地位が、秩序がございます。それはなにを優先しても守られなければならない」

ジャン「待った……ごほん、待ってくれ。政略結婚と?」

メイド「……っ! ち、違います! 姫さまはまだ会ったことのない王子を悪く言ってるわけでは!」

ジャン「ハーケマルの王子と?」

メイド「会えばきっとお互いを知るきっかけになります! 姫さまはとっても魅力的で!」

ジャン「(縁談か……なぁるほど、だから俺がハーケマルの使者だと聞いて機嫌悪くしやがったんだな)」

メイド「ですから……その、先ほどの無礼はお許しいただけると」

ジャン「(そんでこいつは、さっきのを“なかったことにしてくれ”と打診してるわけだ。ようするに、報告すんなと、王子に)」

メイド「いかがでしょうか?」オズオズ

ジャン「……元よりそのつもりでした。発端は私の無礼のせいなのですから」

メイド「こちらこそ。王様よりは丁重におもてなしせよとのご命令を受けております」ホッ

ジャン「(あーあ、安堵した顔しちゃって。こりゃこの縁談、よっぽど重要みたいだな。ハーケマルとクイーンズベルか……)」

メイド「もし、空腹であればお食事のご用意を」

ジャン「それより、許されるならば貴女からお話を伺いたいのですが」

メイド「はい……? なんなりと」

ジャン「姫は縁談相手である王子をどう思っておいでで」

メイド「……それは、その、ここだけの話でしょうか?」

ジャン「約束しましょう。帰っても話さないと誓います」

メイド「当たり障りのないお話を申しますと、あまり、良くは。なにぶん、会う機会すらなく」

ジャン「(じゃあ、初対面で結婚! みたいな感じか。親同士であらかじめ決められる許嫁みたいなもんかね。家柄ってのは難儀だねぇ)」

メイド「この年齢の婦人は、また複雑なのでございます。姫さまは、誰かと恋愛したことすら、ありませんので……ハッ! い、いいえ! 嫁入り前のお身体を傷物にするというわけではなく!」

ジャン「大丈夫ですよ。言っている意味は伝わっています」

メイド「……ですから、その、現実としてまだ直視できていないご様子で……」

ジャン「(ん? いやでもまてよ?)……王妃はハーケマルのご出身では?」

メイド「もちろん、それは使者さまもご存知の通り。なので、王妃様からもご説得をしたのですが」

ジャン「(え? 待って待って。王妃の血族ってことは……いとこ? え? うっすいけど血の繋がりあんじゃね? うはー、まじかよ。いとこやはとこ同士で毎回結婚してるみたいなもんじゃねぇか)」

メイド「……聞きたことというのは、聞けましたしょうか」

ジャン「(あれ? でも、だとすれば……なんだこりゃ、どうなってんだ? ……探り入れてみるか)」

メイド「……?」

ジャン「いやいや、多感なお年頃だとは理解できます。私は当人達の感情よりも別のことが気がかりかと思っておりました」

メイド「別の?」

ジャン「はい。“ハーケマルから婿入りにこれても、クィーンズベルからは誰も出せない”」

メイド「……」

ジャン「(クソ姫は一人娘だ。男の兄弟がいるわけじゃない。王の直径にあたる人物は交換じゃないとパワーバランスが崩れてしまう)」

メイド「その点は、姫様のご裁量にかかっております」

ジャン「我が国……ハーケマル王子を操ると?」

メイド「い、いいえっ! そんなまさか! 子を産み、その子が成人した暁にはハーケマルに送ると盟約を交わされているではありませんか!」

ジャン「(じ、次世代予約システムっ⁉︎ えげつねーことしてんなこいつら)……そうでしたね」

メイド「永遠の友好は、紡がなければならぬこと。姫様ならば、必ずや元気な赤子を生まれるでしょう」

ジャン「(気の長い話だが、一人娘なのはどーしようもないかんな。それが落ち所ってやつなのかね)」

メイド「他には、なにか?」

ジャン「いや、ない」

メイド「それならば、私はこれで。なにかご用があれば備えつけの鈴をお鳴らしください。表にいる衛兵がすぐに使用人を連れてまいります」ペコ

ジャン「なにからなにまでありがとう。キミには感謝している」

メイド「い、いえ。私はこれが責務ですので。失礼致します」ガチャ パタン

ジャン「――……ふぅ、結婚か」スポッ

勇者「聞きました奥さんwwあの姫が結婚ですってよwwしかも望まないwwメシウマww」ゴロゴロ

メイド「ジャン様、よろしいですか?」コンコン

勇者「おっとww……ごほん、しばし待たれよ」スポッ

メイド「あの、何度も申し訳ございません。会いたいというお方が」

ジャン「どうぞ。お入りください」

メイド「失礼致します」ガチャ

姫「……」スッ

ジャン「(ぬ、ぬおっ⁉︎ な、なななぜっ⁉︎)……これはこれは、ご機嫌麗しゅうございます。先ほどは大変失礼を」スッ

姫「上っ面だけのおべっかはいいんですの」チラ

メイド「ひ、姫さま。くれぐれも。では」パタン

姫「……」ジー

ジャン「(こいつとは1秒たりとも同じ空間にいたくねぇ)どうなされました? 私になにか? まずはお座りください」

姫「あなた、この城に来るのは何回目ですの?」

ジャン「え? えーと、数回ほどです。いや、回数をよく覚えていないのは前回から期間が開いておりまして」

姫「どれぐらい?」

ジャン「(や、やけにつっこんでくるな)一年ほどでしょうか。申し訳ございません、あやふやで」

姫「声の感じからして年配には見えないですけれど。ボケてるんですの? それとも物覚えが悪いだけ?」

ジャン「(こ、このっ、腐れビ○チ)気を悪くされたのならば申し訳ありません」

姫「そのマスクの下は、ひどいヤケドがあるんでしたわね?」

ジャン「はい」

姫「とってみてはくれませんの?」

ジャン「(しつけぇな!)私はかまいませんが、姫を不快にさせるわけには」

姫「かまいません」

ジャン「い、いえ、でも、それでは」

姫「かまわないと言っているんですの」

ジャン「(なんなんだよこの食いつきようは)……なぜ、私のヤケド痕を? やはり、先ほどの罰では」

姫「仮にも一国の姫が免除すると言ったこと自体は撤回しないんですの。ただ――」

ジャン「……?」

姫「どーにも、ひっかかるんですの。以前、城に来た時にわたくしに会った?」

ジャン「(なんだこいつは⁉︎ 野生の勘でもあんのかっ⁉︎ )な、ななにをっ? そ、そんなわけがございません」

姫「前回来た時は何しに? お母様に言われて?」

ジャン「(ま、まずいぞ。演技どうこうじゃねぇ、ウソで塗り固めて二分の一の賭けに勝ち続けるしか。辻褄が合わなければ一発でアウトだ)左様です」

姫「そう……定期的に文を渡してるのを見たことあるんですの。でも、その時の貴族はマスクをしては」

ジャン「ち、父上なのです! 私は息子です!」

姫「父上……?」

ジャン「はい、この度は、隠密ですので。あまり顔を知られていない私がと」

姫「ふぅん」

ジャン「(ど、どうだ? 息子いるよな? どうなんだ?)」

姫「……そうなんですの」

ジャン「(セーーーフッ!! セーフっぽい!)」

姫「では、私と面識はないんですのね?」

ジャン「ありません! 誓って!」

姫「あなた、いくつですの?」

ジャン「……18になりました」

姫「……」ピクッ

ジャン「(空気が重てえ! こいつは何気なく聞いとるのかもしれないが、俺は生きた心地してない。帰りたいよぉ~)」

姫「同い年なんですのね。私も18の誕生日を迎えたばかりです」

ジャン「そ、それは、めでたきことで」

姫「ハーケマルとはどんな国?」

ジャン「王妃様が、よくご存知のはず」

姫「色々な見方を聞いてみたいんですの。あなたとは歳が近いとわかったし、価値観が似ているやも」

ジャン「私の価値観が王族と肩を並べるとは、恐れ多くも」

姫「かまいません。いわばここは外界より隔離された室内。この場での発言は全てなかったことにすると確約いたしましょう」

ジャン「ですが、体裁が」

姫「保つのは第三者の目がある時のみでよい。今はない。この意味がわからないほど愚鈍なんですの?」

ジャン「(俺もその考えに同意だが、こいつに言われると腹たつゥッ!)」

姫「王子とはどんな方?」

ジャン「(知らねーよ。俺会ったことないし、顔すら知らねー。……とは言えないし)我が国を誰が悪く言えましょう」

姫「それは、本音を言えば悪いと?」

ジャン「信用の問題でございます。私が良く言おうと、悪く言おうと、姫様は私の発言する言葉を信じていただけますか?」

姫「……」

ジャン「仮に、王子を褒めたとしましょう。そうしても“どうせ出身国なのだから”、と。勘繰りはいたしませんか?」

姫「わたくしを馬鹿にしているんですの?」

ジャン「いいえ。誰しもが同じなのでございます。そう思うのが自然なのです」

姫「王族であるわたくしを同じだと?」

ジャン「(めんどくせぇ。これだから血筋にこだわるやつらは。一方で嫌いつつも一方でプライドもってやがる)……恐れ多くも、発言がすぎました」

姫「……わたくしの質問に答えればよいのです」

ジャン「北のハーケマルといえば、年中寒さが厳しい国です」

姫「知ってるんですの」

ジャン「この国とはちょうど真逆ですね。しかしながら、そのような厳しい環境にあっても民達からの不平不満は聞こえてきません」

姫「それも知ってるんですの。ハーケマル現王がお父様と同じく賢王であることも。でも、息子もそうであるとは限らないでしょう?」

ジャン「(お前がそうだからなww)……ご自分の目でお確かめを。それ以上は言えません」

姫「忠を尽くしているつもりなんですの?」

ジャン「この縁談は両国間の今後に強く影響致します。お姫様はまだまだうら若き年齢、気分ひとつで悪い結果になりかねません」

姫「……そう、そうなんですの。あなた、犬っころなんですのね。駄犬」

ジャン「なんとでも」

姫「……っ! こ、やつ! こんなやつがあいつのはずないんですの!! 不愉快です!!」バシャ

ジャン「(水ぶっかけてきやがった。お前をデスノートに書いてやる)」ポタポタ

姫「なんとか言ったらどうですのっ⁉︎」ブンッ スコン

ジャン「(今度はコップ投げつけてきやがった。お前をデスノートに……これさっきも思ったか)」

姫「~~ッ!! 私は、結婚なんかする気は、ぜぇ~~~ったいに、ないんですのっ!!」ビシッ

ジャン「(まぁ別に俺は自分の正体さえバレなきゃ)」

姫「王子のことを悪く言うんですの! お父様に報告してなかっことにしてもらうためにっ!!」

ジャン「(なりふりかまわず言いやがったな! なにが発言をなかったことにだ! お前最初からそのつもりだったな!)……できません」

姫「ムキーーーッ!! あなた! 国に帰れなくなりますわよ⁉︎」

ジャン「(使者を脅すなよ……)私がどうなろうと、それだけは」

姫「……」カチャ スラッ

ジャン「ひ、姫様? 暖炉に飾ってあるレイピアを握ってなにを……?」

姫「女はつつましく、男の三歩後ろに下がりついていく。そんなのは前時代的な考えなんですの」ズンズン

ジャン「は、はわわっ」ガタガタ

姫「女であろうと戦う。自分の幸せは自分で勝ち取る。良い時代とは思いませんこと? 使者よ」ニタァ

ジャン「す、鈴、鈴……」カサカサ

姫「お待ちなさい」グサッ

ジャン「いっ⁉︎ (さ、刺した⁉︎ ガチで俺の脚刺しやがったぞこいつっ⁉︎」

姫「どうせお父様がわたくしを守ってくれるんですの。人の一人や二人殺めても」ユラァ

ジャン「(お坊ちゃまが犯罪起こす時にありがちな思考回路⁉︎)ひ、姫? それはまずいですよ。俺使者ですよ」

姫「あなたを殺せば、破談になる、破談になる、破談に……」ブツブツ

ジャン「ひ、ひぃっ⁉︎ (メンヘラにクラスチェンジした⁉︎ やばい、だたやだやだ!俺はニートになるまで死にたくない! せめて自分の好きにやって死にたい!)」

姫「だぁ~いじょうぶですの。痛くない、すぐ終わりますからぁ」ニタァ

ジャン「(こ、この笑みは、10年前と同じ……! ま、またトラウマが……! あ、あぁぁっ!)」ガタガタ

姫「さぁ、覚悟するんですの――……」





ジャン「――……やっ、やめてよっ!! 姫ちゃん!!」ブルブル





姫「へ……?」ポロッ

ジャン「や、やめて。それはいかんて。それは……」ガタガタ

姫「その呼び方は……あなた……? やっ、やっぱりマスクを……!」グィ

ジャン「うっ、うっ、尻穴が、痛い」スポッ

姫「……っ⁉︎ まさか、そんな、で、でも、面影が……」

勇者「汚された。汚されてしもうた……うっうっ」

姫「勇者? 勇者、なんですの? そ、そうだ! お尻見せるんですの!!」グィ

勇者「やだぁっ! またお尻!」ペカー

姫「こ、これは。聖痕……間違いない、勇者……なぜ、ハーケマルの使者だと……」

メイド「お嬢様!! 姫様!! なにをやってるんですか⁉︎ 開けますよ⁉︎」

姫「い、いけませんわっ!!」ダダダッ ガチャン

メイド「鍵閉めましたね⁉︎ 本当になにをやってるんです⁉︎」

姫「えーと、えーと、お、お待ちなさいっ!!」スポッ

ジャン「うっうっ」

姫「これで仮面は元通り。あとズボンも」ゴソゴソ

メイド「かまいません!! ドアをぶちやぶってください!!」

兵士「はっ!」

姫「今開けるというておる!!」タタタッ

――ガシャーーーン――

兵士「あ、あきました!」

メイド「姫様、いったい、なにを――……きゃ、きゃああああああっ⁉︎」

姫「はぁ、今開けるともうしたのに。なにを叫んでいるんですの」

兵士「……」ポカーン

メイド「ひっ、ひっ、ひっひっひっ、ひっ姫様、様」プルプル

姫「……?」

メイド「そ、そっそそそそっ、それはぁ?」

姫「どれですの?」クル

兵士「れ、レイピアが、使者様の太ももに刺さっておりますが……」タラ~

メイド「あふぅ」ドサッ

兵士「メイド様! 気をしっかり! 気絶なされた! お、おーい! 誰か!」

姫「足に刺したまんまなの、忘れてたんですの……」タラ~

【クィーンズベル城 玉座】

王様「な、なんたることを……っ! なんということをぉっ!」ドンッ

姫「……」プイ

王様「~~ッ! なにをしでかしたかわかっておらんのかァッ!!!」ドンッ ドンッ

王妃「あまり怒られては血圧に……メイドよ。貴女がついていながらなんという失態です」

メイド「も、申し訳ございません! 申し訳ございません!!」ペコペコ

王様「前代未聞の出来事じゃ!! 友好国の使者を刺しただァッ⁉︎ しかも、姫が⁉︎ なにをされたというわけでもなくゥッ⁉︎」

姫「ぷっ、顔真っ赤ですわよ、お父様」

王様「お、お前は……っ、いったいどこで育て方を間違えてしまったのだ……! なぜ、このような……」

姫「押しつけるのが悪いんですの。私にできる意思表示をしたまで」

王妃「姫よ。あなたの感情のせいで外交問題に発展するのですよ……どれほどの心労が貴女のお父様の……民の不安に繋がるか考えないの……?」

姫「わたくしがいつ! そんなのを望んだって言うんですの⁉︎ ……それに、外交問題には発展しませんからご心配なく」

王様「な、なにィ? 使者だぞ? こちらが弱みを握られるのだぞ?」

姫「わたくしが解決してみせます。その方法も心得ております。お父様とお母様はどーんと大船になった気持ちでお待ちくださいませ」

王様「こ、こやつは……なんと」プルプル

王妃「あ、あなた。落ち着いて」

王様「使者が回復次第、ここに連れてまいれ。ワシ直々に頭を下げる」

姫「ですから、その必要はありません」

王様「お前がなくてもワシにはあるんじゃ!!」クワッ

王妃「姫は一週間の自部屋謹慎処分です。事態が落ち着いたら、また追加で罰を与えます」

王様「よいなっ⁉︎ お前はもうなにもするな!! この件には一切かかわるな」

姫「いいんですの? 本当にあっというまに解決できますのに」

王様「メイド!! この大馬鹿娘をはやく部屋に連れてゆけっ!!!」クワッ

メイド「は、はいぃっ!! かしこまりましたぁ!!」

【クィーンズベル城 通路】

姫「るんたったらん♪」コツコツ

メイド「ひ、姫様、あの、上機嫌ですけどご自分がなにをしたのかご理解していらっしゃいます?」

姫「不安がってるようですわね。さっきも言ったでしょ? 大船に乗ったつもりでいろと」

メイド「や、やってしまった姫様が言える台詞じゃ」

姫「だいたい回復魔法ですぐに治るんだから騒ぎすぎなんですの。使者はどこですの?」キョロキョロ

メイド「な、な、な、なぁっ⁉︎ この後に及んでまだなにかやろうと⁉︎」

姫「懐かしい友人に会いにいくだけですの」

メイド「……へ? 懐か、しい?」

姫「貴女も知ったら驚くんですの。仮面の下はヤケドなんてありませんでしたよ」

メイド「へ? そ、そうなんですか? じゃ、じゃあウソ?」

姫「いいからはやく案内するんですの」

メイド「で、でもっ……姫様がウソついてる可能性が」

姫「わ、私を疑うんですの?」ヒクヒク

メイド「だって、こんなことしでかす人を!!」

姫「まぁ、本当にハーケマルの使者でも同じことをしてたでしょうけど」

メイド「な、なんという……!」

姫「それはそれ。これはこれです。今回は違ったのですからよしとしましょう」

メイド「……本当に違ったのですか? ハーケマルの使者では……?」

姫「さぁて♪ あなたも見ればわかるんですの♪」

【クィーンズベル城 南西方向 廃墟】

ガンダタ「飯だ」

見張り番「おっ、やっと飯か。……ん? なんだそれは。なんで2つも持ってんだ? まさか、あいつの分か?」チラ

少年「……」

見張り番「いらねーよ! もったいねぇ、よこせ、俺が食う!」グィ

ガンダタ「人質は生きてなくちゃ意味がねぇ。お頭からの指示だ」

見張り番「お、お頭ァ? ほんとかよ、それ」

ガンダタ「ああ」

見張り番「チッ、だったらしょうがねぇか。俺は酒とってくる。ガンダタさんよ、その間見張り番頼んだぜ」テクテク

ガンダタ「……」スッ

少年「……」ビクゥ

ガンダタ「……飯だ、食え」コト

少年「い、いらない。ねぇ、家に帰して。なんでここに連れてこられたの、家に帰してよ……うっ、うっ」

ガンダタ「食わなきゃ力つかねーぞ」

少年「……」

ガンダタ「お前は単なる人質だ。生きてさえいりゃ家に帰れるだろうよ」

少年「ほ、ほんとう……? お姉ちゃんに、また会える?」

ガンダタ「希望にすがるのはおめぇの勝手だが、不確定な部分もある。……とにかく、今は食って体力を確保しろ。それがお前のすべきことだ」

少年「うっ、うっ」ポロポロ

ガンダタ「メソメソすんじゃねぇ! ……俺もお前も境遇は一緒よ」

少年「……?」

ガンダタ「牢にいれられ、虎視眈々と脱出を狙う。這い上がるチャンスをな。お前はその機会が与えられるのをただ待ってるだけだがな」

少年「……な、なに言ってるのか、意味が……」

ガンダタ「わからなくていい。見張り番の気が変わっちまったら、取り上げられちまうかもしれねぇぞ」

少年「うっ」ぐぎゅるる~

ガンダタ「腹、減ってんだろ?」ススッ

少年「よく、わからないけど、ありがとう、おじちゃん」カチャ

ガンダタ「おじちゃんじゃねぇ。俺の名前はガンダタ。いずれアレフガルドの大盗賊団の長になる男よ」

少年「へ、へー」

ガンダタ「ふん、今はこんな場所にいるけどよ。必ず這い上がってみせるぜ」

少年「うん」パクっ

ガンダタ「(旅の若僧め、えらそーに説教たれてきややがって……! お陰でこっちはあの後手下どもに逃げられ……アデルで、だ、大工仕事だぁ? いまさらできるかよ!!)」プルプル

見張り番「おぉ~い、すまねぇな」テクテク

ガンダタ「(見つけたらただじゃおかねぇぞ! ぶち殺して、やつに渡された銀細工を……)」

見張り番「どうだい、お前も酒飲む――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせェッ!!」ブン

見張り番「え? ちょ……っ⁉︎ うっ!」ドゴォッ

ガンダタ「あっ」

見張り番「」ドサッ

少年「あ、あわわっ」ガタガタ

ガンダタ「し、しまったぁぁぁっ!!」

少年「……」ブルブル

ガンダタ「ま、まずいぞ。大人しくしてるつもりが、つい、はずみで」チラ

少年「こ、殺したの?」

ガンダタ「(ど、どうする。このガキがやったことに、ええぃ、できるはずがねぇ。喧嘩の末にやっちまったって感じに――)」

少年「こ、こわいよぉ、お家帰りたいよぉ」ポロポロ

ガンダタ「側で泣くな!! 今考えてるんだからよ!」

少年「ひっ」ブルッ

ガンダタ「ちくしょおぉぉっ、仲間内での殺しはご法度だ。例え喧嘩だとしても、許されるもんじゃねぇ……くっ、なんてこった……こ、ここまでか」

少年「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん」

ガンダタ「泣きてえのはこっちも同じ……ん? お姉ちゃん?」

少年「うっうっ、ぐすっ」

ガンダタ「おい、ガキ。おめぇ、そういやなんで人質になってんだ?」

少年「し、知らないよぉ」

ガンダタ「(クソ、イライラさせるガキだ。……いや、まてよ。まだ生き残る道があるかもしれねぇ、このガキを使やぁ)」スタスタ

少年「ひっ、な、なに……」

ガンダタ「――ついてこい。ここから逃げるぞ」

少年「えっ⁉︎ お家に帰れるの……?」

ガンダタ「家には帰れねぇが」

手下「が、ガンダタ……おめぇ、なにしてやがる……」

ガンダタ「……っ⁉︎」ギョ

手下「酒が足りねえだろうと思って、来てみりゃ……まさか、お前、裏切るつもりじゃ⁉︎ お、お頭らァッ!! みんなぁっ!!!」

ガンダタ「チッ」ヒョイ

少年「うっ、わっ」

手下「人質を担いでどうするつもりだ! そいつは――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせぇよ」ヒュッ

手下「うっ」グサッ

ガンダタ「(手持ちの投げナイフは今ので最後か)」スチャ

手下「う、ううっ」ドサッ

ガンダタ「急所は外してある。お頭に伝えな。人質を返してほしけりゃ、追って連絡を待てとよ」

手下「ぐっ、ガンダタァっ! 身内殺し、裏切りはこの業界じゃご法度だと知らねーおめぇじゃねぇだろ!!」

ガンダタ「まともなことやってちゃ時間がかかるのよ。それに、なにがご法度だ。俺もお前も、社会のはみ出し者だろうが」

手下「ぐっ、ぐぬぬっ! 許されるこっちゃねぇぞ! ガンダタァッ!!」

ガンダタ「……なら、追ってこい。誰も止めやしねぇよ。お前らも止まるつもりねぇだろうがな」

少年「お、お家、帰りたい」

ガンダタ「(クィーンズベル城で働くメイドの弟だったな。こうなっちまったらしょうがねぇ、やるとこまでやるっきゃねェッ!! 男ガンダタ、ただでは死なねぇぜっ!!」

~~第3章『砂漠の花と太陽と雨と』~~(前編)

長くなりそうなんでここで一旦区切ります。
いろいろ書いてるフラグ回収してたらこの章ちょっと長くなりそうです。
なので今回は前編、後編と分けることにしました。

今日はレスしません。
ちょい時間あけます。

【数十分後 廃墟】

お頭「そうかい……ガンダタの野郎。ついに裏切りやがったか」グビッ

手下「お、お頭ァ! そんな悠長に酒飲んでる場合じゃねぇですよ!」

お頭「騒ぐことはねぇ。あいつはいつか裏切ると思ってた」

手下「……え? そ、それなら、なんで?」

お頭「“目つき”よ。目は口ほどに物を言うっていうだろ。ありゃあ下につくやつの目じゃねぇ。下克上を考えてるやつのモンよ」

手下「だったらなんで手下に加えたんでさぁ⁉︎」

お頭「こうなると予測はついてたっつったろ? まさか……人質をかっさらうとは思ってなかったが」

手下「ガンダタがいなくなって、見張り番を殺られちまったのもかまいやしません。でも、人質は……!」

お頭「計画にケチがついた。おめェはそう言いてんだろ?」

手下「うぐっ」

お頭「修正すりゃいいのよ。予定が狂ったんなら。……やるべきことをやるだけで慌てたってなんにもならねぇ」

手下「なら、すぐに追っ手を!」

お頭「ああ。馬10頭とそれに見合う人数で走らせろ。見つけたら殺せ」

手下「へ、へいっ!」タタタッ

お頭「(ガンダタよ。おめェに一目置いてたんだぜ? 人質掻っ攫われた俺と、行動を起こしたお前。ヘタ打ったのはどちらか、白黒ハッキリつけなくちゃいけねぇみてぇだな)」

手下「あ、そ、そうだっ!」ピタッ

お頭「ん……? どうしたい?」

手下「城に潜伏させてる密偵から連絡がありましてね。なんでもハーケマルの使者がきてるらしいです」

お頭「あ? 使者ァ?」

手下「へい。なんでも、王子来訪に先駆けてだそうで」

お頭「そりゃ都合が良い。水が干上がっちまってるのがバレちまうだろ」

手下「そ、それが……。王も黙って成り行きを見守るつもりはないらしく、法王庁と協議に入ったとか」

お頭「なんだとォ?」

手下「おそらく、援助を要請する腹づもりでしょうね。長期化しても耐えられるように」

お頭「……まじィな。ガンダタよりもそっちのが問題だ。計画がご破算とかしちまう」

手下「どうしやしょう? 予備も含め王子来訪に合わせて水不足に陥っていなきゃ」

お頭「(法王庁か。やつらの援助で水を確保できりゃ、俺らがいくら干上がらせたところで……)」

手下「いっそのこと、こちらも長期化させて、王子来訪の後にズラしますかい?」

お頭「バカやろ。どれくらいの金と期間をかけて下準備してきたと思ってやがる。それまでこっちの体力がもたねぇの。小銭稼ぎじゃ給料が払えなくなっちまう」

手下「う……」

お頭「しかたねぇ。さらに金をばらまくか。……おい」

手下「へ、へい?」

お頭「潜伏してる手下に伝えろ。使者ってやつが金で動くかどうか確認しろとな」

手下「へい!」

お頭「(全てが計画通りとはいかねぇか。だが、それでこそやりがいがあるってもんよ)」

【クィーンズベル城 癒しの間】

ジャン「(うぅ……ここは……)」

神職「ルビスよ。聖なる守護者よ。彼の者を癒し給ええ」ポワァ

ジャン「(……回復魔法……そうか、また気を失ってたのか。自由に動けてもクソ姫とエンカウント率高かったらたまらんぞ……)」

姫「ここかしら⁉︎」バターーンッ

メイド「姫さまぁっ!」

神職「ひ、姫さま?」

ジャン「(思ってるそばからぁ⁉︎ まだ、寝たふりしてよう)」

姫「神職、あなたはもう下がってよろしくてよ」

神職「し、しかし、目が覚めたら玉座にお通ししろと仰せ司っております」

姫「後はこのわたくしとメイドが面倒を見ます」

ジャン「(ひ、ひぃっ⁉︎ なんでこいつはこうも俺にまとわりついてきやがる!)」

神職「王様は、姫さまは謹慎処分だと」チラ

メイド「う、うぅ」オズオズ

神職「メイド。王に報告いたしま――」

姫「貴女。誰に向かって、誰の専属メイドにモノを申しているんですの?」ギロ

ジャン「(負けるな! 神職さん! あんたは正しい! 責務を全うしようとしている!)」

神職「うっ、し、しかしですね」

姫「まさか? まさかねぇ? たかが宮使いの神職が姫直属の従者に向かってそのような……」

神職「王令は、姫さまと言えど」

姫「おだまりなさいっ!!」バンッ

神職「……っ!」ビクゥ

姫「その王の血を引く者に向かってなんたる無礼なっ!!」

神職「そ、そのようなつもりは」

姫「いいえ、そう聞こえます。嫌というほど聞こえます。貴女がわたくしを軽視していると」

神職「わ、私はただ、王令を尊守しているだけでございます」

姫「チッ。しつこいですわね」

ジャン「(王に報告しろ! 今すぐ報告しろ! どんだけ甘やかされて育ってやがる! こんなのは横暴だ! 許されないよ!)」

メイド「姫さま……。神職殿のお立場も考慮なさってください。彼女は与えられた責務を」

姫「なんでも責務責務。……ふう。わかりました。十分外にでておれ」

神職「……」チラ

メイド「こ、今度は、私もそばについておりますので」ペコペコ

神職「……わかり、ました。十分だけです」

姫「誰にモノを申しておるか。わかったならとっとと出て行け」

ジャン「(だ、だめだぁっ! 行かないで! 友よ! この城の良心よ! 神職さまぁ!)」

神職「失礼致します」ペコ

ジャン「(い、いって、しまわれた。目を覚ましてやりすごさねば……)」

姫「メイド。よく見ておくんですの」コツコツ

メイド「い、いったいなにをされようというのです?」

姫「この者の正体。なぜハーケマルの使者と名乗っていたのか……」

ジャン「(な、なに……? 正体だと?)」

メイド「先ほども言っていましたが、ハーケマルの使者ではないのですか……? では……ハッ! ま、まさか⁉︎」

ジャン「(こ、こいつ……っ⁉︎ 俺が気絶してる間に仮面とりやがったな⁉︎ やっぱり顔覚えてやがったのか!)」

メイド「な、なりません! 姫さま!」ガシッ

姫「えっ、ちょ、な、なぜ止めるんですの? 貴女も知ってる懐かしい――」

メイド「ま、まさか、姫さまにまで接触していたなんて……!なりません! 危険です!」

ジャン「(……? な、なんだ?)」

メイド「(そうよ! まさか盗賊の一味が毒牙を……! 姫さまだけは巻き込んじゃだめ!!)」

姫「な、何言ってるんですの? 危険なはずがありませっ、はなっ、離しなさい」グィ

メイド「私におまかせくだっ、さいっ! 危害が及んでは王に顔向けできなくなります!」ググッ

姫「あ、貴女、ちょっと、なにか勘違いしてるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「いいえ! 姫さまこそ! この人達は危険なんです! ご自分のお立場と御身をご理解ください!!」

姫「……っ!」カチーンッ

メイド「だいたい! 姫さまはいつもそうです! 小さい頃は泣き虫だったくせに! 勇者様と会ってからはすぐ調子に乗るようになって!」

姫「なんですのっ⁉︎ 貴女だって昔はニコニコ笑うだけの引っ込み思案だったくせに! お姉さん風吹かせてたのは最初だけ! 後は私の後をぴょこぴょこついてきてでしょ⁉︎」

メイド「……っ!」カチーン

姫「歳を重ねるにつれて姫さまお嬢様と!」

メイド「それを言うんだったら言わせてもらいますけどねっ⁉︎ 姫さまは本当は芯が脆いんじゃないんですか⁉︎ 私がいなくなってもいいんですかっ⁉︎」

姫「なっ、ななななぁっ⁉︎ 貴女、自分をなんだと⁉︎」

ジャン「……あの」ムク

メイド「本当はさみしいだけでしょ! 今だって私がいなきゃ着替えもできないのに!」

姫「で、できますわっ! 貴女こそ!」

メイド「……私がなんだって言うんです?」

姫「ぐっ、ぬぬっ……!」

ジャン「いや、あの~、もしも~し」

メイド「いいんですよ~? 昔みたいに泣き虫になっても? ハンカチ貸してあげますからぁ」

姫「あったまきた! 頭きたんですの! 戦争ですわ!」

メイド「なにが戦争ですか! いつまでも子供みたいなこといって!」

ジャン「……おい、お前ら」

姫&メイド「なんですの(か)っ⁉︎」

ジャン「なんでもないです。どうぞ、お続けください」

姫「このクソメイド!! そんな思い込みが激しいからなんでもかんでもすぐポカやるんですの!!」

メイド「あーあー、聞こえませーん。子供姫に言われたくありませーん」

ジャン「……ふぅ」テクテク

姫「耳腐ってるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「幼児退行してるんじゃありません⁉︎」

ジャン「ごゆっくり」パタン

【クィーンズベル城 通路】

神職「目が覚められましたか」

ジャン「あ、どうも」ペコ

神職「部屋の中からなにやら喧騒な声が」

姫&メイド『――――ッ!!』ギャアギャア

ジャン「喧嘩するほど仲がいいと言いますしね。そっとしておきましょう」

神職「は、はぁ。傷は塞がっておりますか? 痛みなどは?」

ジャン「おかげさまで」

神職「回復力が良いのですね。羨ましいですわ。まるで精霊に愛されているかのよう」

ジャン「大袈裟ですよ。それより、少し城の中を散策したいのですが」

神職「王が会いたいと仰っておいでです」

ジャン「(まぁ、姫が使者を刺したとなればそうなるか)……私は気にしておりませんが」

神職「寛大なお心とお申し出に感謝致します。しかし、事がコトですので、なにもなしというわけにも……」

ジャン「一国の王の申し出ですしね。お誘いを無碍に断ってもカドが立ちますか」

神職「さすがハーケマルの使者様でございます。どうか、我が王を安心させてはいただけませんでしょうか」

ジャン「(弱ったなぁ。俺もボロがでそうだからできれば会いたくないんだけど……かと言って、会わないというわけにも)」

衛兵「神職殿。……と、こちらの方は、ハーケマルの使者様ですね」

神職「これはこれは。お勤めご苦労様です」

衛兵「国王陛下がお呼びです。目が覚め次第、お連れせよと」ペコ

ジャン「ふぅ、わかりました。行きますよ」

神職「ありがとうございます」

ジャン「(今さらだけど、こうなるんだったら忍びこめばよかったなぁ)」ポリポリ

【クィーンズベル城 玉座へと続く階段】

衛兵「この度は、災難でしたね」コツコツ

ジャン「あぁ、いえ」

衛兵「我々も姫のおてんばぶりには手を焼いているのですよ。トホホ」

ジャン「(同情するわ)」

衛兵「ところで、使者様の生家は名家なのでしょうか?」

ジャン「なぜ、突然?」

衛兵「い、いえ。私は平民出ですので、少し興味が。使者という大役を任せられるとはどのような家柄だろうかと」

ジャン「(俺も普通の家だぞ)たいしたことはございません。我が家系は王に代々使えているだけのこと」

衛兵「やはり。謙遜しておいでなのでしょうが、裕福なのでしょうね」

ジャン「いえいえ、ちっぽけな家でございますよ」

衛兵「またまたご謙遜を」

ジャン「(そういや、勇者特典で王様から支給されてた300万ゴールドはいったいどこへ……夫婦の旅費に消えたんだろなぁ)」

衛兵「……まさか、お金にお困りなのですか?」

ジャン「いえ、困っているというわけではないと思いますが。私が買ってもらったのは竹とんぼなんですよ」

衛兵「た、竹とんぼ……?」

ジャン「はい」ガックシ

衛兵「それは、つまり、お小遣いがなかったと? 教育が厳しくて」

ジャン「厳しい……かは甚だ疑問ですが、自由に使えるお金はなかったですね」

衛兵「ほ、ほうほう! それでしたら! お金があればどんな使い方をしたいです⁉︎」

ジャン「お金があれば……ですか?」

衛兵「パフパフをしてみたり?」

ジャン「(そうやなぁ、それもいいな。ぐへへ。今の金で豪遊すると魔法使いとかがうるせぇだろうしな)」

衛兵「ギャンブルもしてみたり?」

ジャン「い、いいですね」ニマ

衛兵「そーですか! そーですか! 使者様とは気が合いそうですね!」

ジャン「男ならみんなそんなもんでしょう?」

衛兵「たしかにたしかに! たまぁ~にいるんですよ! 堅物が!」

ジャン「何が楽しくて生きてるんでしょうね」

衛兵「いや! まさにその通り! ごもっとも! ……使者様においしいお話があるんですが、どうです? 今夜、酒場で一献」

ジャン「今夜ですか? いや、今日は城に泊まると」

衛兵「城下町の視察だって言って抜けりゃいいじゃないですか! 可愛い子つけますよ? パフパフッ。パフパフッ」

ジャン「う、ううん」

衛兵「おっぱいでパフパフっ。パフパフっ」ワキワキ

ジャン「ご、ごほん。なにやら重要な話みたいですね」

衛兵「(チョロいな! こりゃあお頭が喜ぶぞ!)……楽しい夜になりそうですな。ぐふっ、ぐふふっ」

ジャン「衛兵よ。お主もワルよのぉ、ぐふっ」

ジャン&衛兵「ぐふふふふっ」

【クィーンズベル城 玉座】

王様「本当に、ウチのバカ娘が申し訳なんだ」

ジャン「私は気にしておりません」

王様「う、む。そう言ってくれるのはありがたいのだが。どうだろうか、本心を聞かせてもらえぬか」

ジャン「と、申されますと?」

王様「国を代表する使者として来場している身。母国に忠あればこそ、報告する理由があろう」

ジャン「(あのおっちゃんもだいぶ白髪が目立つようになってんな。喋り方まで。苦労してんだろな)」

王妃「陛下同様、妾も身体に大事ないか心配しておった。傷の具合はどうか……?」

ジャン「(なんでこんなできた親からあんな娘が。……甘やかしだろうな。原因は)神職様に手厚い治療を受けまして、この通り。すっかり傷も癒えましてでございます」

王妃「いつもの貴族ではないようですが……」

ジャン「(ぎ、ぎくぅっ!)あの方は流行りのインフルエンザにかかっておりまして」

王妃「まぁ……そうであったか。北では難病が流行っておったか」

ジャン「収束傾向を見せておりますのでご心配なく」

王妃「ハーケマルに戻った暁には、私も民たちの安全と健康を心より祈っていると伝えておくれ」

ジャン「御意」ペコ

王様「話を戻すが、なにか、望みの物はあるか?」

ジャン「(賄賂だな。物を与えるかわりに黙ってろと。すんなり黙っていますでは忠義がないと判断して、受け取らなければ信用しないつもりか)……では、出立の際に金貨を10万ゴールドほど」

王様「……ふむ、よかろう」

王妃「気を悪くしないでね。これもまた、政治なのです。両国が正しく、良い関係を続けるための」

王様「うむ。お主の国に対する忠義を疑っているわけではない、ただ、保険として――」

ジャン「陛下のご意向。私もしかと感じております。両国の発展と、民が安心して暮らせるのならば、是非もなく」

王様「ほっ⁉︎ ほっほっ。優秀な若者……仮面をかぶっておるからわからんが、優秀であることに違いない」

ジャン「(いやぁ、ホントは素顔で会いたいんだけどね。クソ姫がいるからね)」

王妃「貴方の家柄を取り立てるよう、私からハーケマル王に文を持たせましょう。今後の使者としても」

ジャン「いっ⁉︎ そ、それは、さすがに出来過ぎといいますか」

王様「謙虚な。……国を想う心がそうさせるのか。うむっ! 気に入った!」バンッ

ジャン「陛下。そんないっときの気分で人事を」

王様「ワシの見る目を疑うというのかの?」ギロッ

ジャン「(こ、こいつら……っ! やっぱり親子やんけ!)」

王妃「陛下は一度言い出したらきかぬ頑固者なのです。まったく、あの娘も変なところばかり似て」

王様「だから可愛いのよ」

王妃「ええ、そうですね。ふふっ」

ジャン「(甘やかしてる片鱗を見た気がする)」

王様「使者よ。此度の来訪の目的は隠密での視察だと聞いておるが」

ジャン「はい」

王妃「ハーケマル王も人が悪い。私にさえ秘密にするなんて」

王様「自由に見て回るがよい。大臣よ。この者に、首飾りを」

大臣「かしこまりました」ゴソゴソ

王様「使者よ。心して聞け。今から渡すものは、王家代々伝わる由緒正しき宝具。それを身につけてさえおれば、王族同等の扱いを受けるであろう」

ジャン「畏れ多い。よろしいのですか?」

王様「たかだか10万ゴールドなどはした金で水に流してもらったのだ。こちらも器量を見せねばな。ここに滞在する間のみの貸し出しだが」

王妃「これも、クィーンズベル王陛下のご采配があればこそ……ハーケマルの使者とはいえ、寛大さに感謝するように」

ジャン「はっ!」ドゲザ

【クィーンズベル城 通路】

ジャン「宝具ねぇ」キラン

メイド「玉座に向かったと……ならば、こちらに……」キョロキョロ

ジャン「なにか特殊な付加効果あったりすんのかな。ただの飾りか……それにしても、久しぶりだった。おっちゃんにあったの」テクテク

メイド「……いたっ! 見つけた!」ダダダッ

ジャン「ん……?」クルッ

メイド「めぇいどぉ~~キィィィィック!!」ドゴォッ

ジャン「ぐはっぁ⁉︎」ドサッ

メイド「……はぁっはぁっ……」

ジャン「あ、あ……? な、なにしやが――」

メイド「姫さまをどうするおつもりです⁉︎ 弟だけではなく姫さままで!!」

ジャン「はぁ?」キョトン

メイド「いつから接触していたのですか⁉︎ 見取り図を渡せといってきたのはつい最近の出来事でしょう⁉︎」グイッ

ジャン「お、おい。ちょっと落ち着け」

メイド「姫さまをどうするおつもりですか! 姫さまを姫さまを姫さまを姫さまを姫さま姫さまをっ!!」ブンブン

ジャン「お、おおっ、おちっふるなっ、ガクガクさせるなっ、ままっまたんかいっ」ガクガク

メイド「私が仕事をしないからですか⁉︎ 弟を人質にとるだけではなく姫さままで⁉︎」

ジャン「ひ、人質……?」

メイド「うっ、うっ、わかりました。城内の見取り図はお渡しします。ですから、もう、姫さまだけは勘弁してくださいまし……」ガクッ

ジャン「いや、あの」

メイド「弟にも、会わせてくださいまし。お金が目的なら、それでいいでしょう⁉︎」キッ

ジャン「う、うん?」

メイド「……弟を助けだしたら、王に罪を告白して、自決します」スッ

ジャン「お、おい」ポカーン

メイド「本日の夜。城下町の酒場に来てください。……そこで、約束の物をお渡しします」

【10年前 クィーンズベル城 中庭】

姫「ねぇ、ゆうしぁ? おままごとしない~?」

勇者「ええ、またぁ? 姫が奥さんでメイドが愛人の? やだよ。飽きた」

姫「……うっ、うっ、ひぐっ……い、いやなのぉ?」

メイド「お、じょうさま、はんかち」ゴソゴソ

姫「いやだっていわれちゃったぁ……ひぐっひぐっ」

勇者「……泣くことないじゃないか」

姫「あああああんっ!! びいゃあああっ!!」ポロポロ

メイド「な、泣かない。泣かない。お鼻、ちーんっ」スッ

勇者「ちぇ。……ただいま。今日もつかれたなぁ」ドサッ

姫「……? ん、すんっ、すんっ」

勇者「今日のゴハンなにかなぁ」

メイド「お、おじょうさま。ほら」ニコニコ

勇者「泥団子まだかなぁ」

姫「ち、違うもん。そうじゃないもん、ひぐっひぐっ」

勇者「違うのぉっ⁉︎ 役が違った⁉︎」

姫「うっ、診察、ごっこっ、すんっ」

勇者「しんさつぅ?」

姫「わたくしが、お医者さんで、ゆうしゃは患者さん。メイドはナース」

勇者「な、なに、それ」

姫「今日はどうしましたかぁ?」

勇者「うっ、や、やだよ。やっぱり」

姫「ぴっ⁉︎ ま、まだやだっでぇ……!」

メイド「ゆ、ゆうしゃさま」ジー

勇者「……お、お腹いたいです」

姫「そうなんですかぁ? じゃあ見せてくださいっ!」

勇者「み、見せるの?」チラ

メイド「……」ジー

姫「見せてくださいっ!」ニッコニコ

勇者「わ、わかった。はい」グィ

姫「うーーん」ピト ピト

勇者「……」

姫「これはいけませんねぇ! 手術です!」

勇者「え……?」

姫「メイド! 患者さまを四つん這いに!」

メイド「はい、おじょうさま」

勇者「え? え?」

姫「だぁいじょうぶぅ。ちょこっとちくっとしますからねぇ」

メイド「あ、あの、おじょうさま。なにを」

姫「ニンジン! 生えてたんですの!」ニタァ

勇者「ちょ、なにするつもりっ⁉︎」

メイド「おじょうさま、勇者さま、嫌がって」オズオズ

姫「逆らうんですのぉ?」ニタァ

メイド「……」ガシッ

勇者「メイド、ちゃん? な、なんで抑えてるの?」

姫「おーほっほっほっ! 天井のシミ数えてる間に終わるからねぇ」

勇者「ひっ、や、やめて、いや」

姫「さきっちょだけ。さきっちょだけ」

勇者「や、やめてっ! あ、アッーーーー!!!」

【クィーンズベル城 姫の自室】

姫「懐かしいですわ。なにもかも――」ゾク

勇者『姫ちゃん! やめて! そこは違う! 穴が違う!』

姫『おーほっほっほっ! ならどこの穴ならいいんですのぉっ!』グリグリ

姫「――なにもかもが、懐かしく、また……いつまでたっても色褪せることはない、うふっ、うふふっ」ゾクッゾクッ

メイド「……ただいま、戻りました……」パタン

姫「もう帰ってきたんですの?」プィッ

メイド「先ほどのやりとり、まだ怒っておいでなんですか?」

姫「当たり前ですわ! というか、さっきの今でしょう! わたくしにあのような無礼千万なことをツラツラと!」

メイド「そ、そうですね。ついカッとなり、失礼いましました」ペコ

姫「なんですの……? いきなり」

メイド「姫さまは、私が守ります」

姫「……? あ、さっき伝えそびれていたんですけれどね、ハーケマルの使者というのは――」

メイド「姫さまはァッ!! 私がッ!!守護(まも)りますッ!!」クワッ

姫「……っ!」ビクゥッ

メイド「私、これまで、勘違いしておりました」

姫「は、はぁ?」

メイド「立ち向かわなければならなかったのです。怯えるのではなく! その、せいで……! 姫さままで!」

姫「いったい、なにを」

メイド「ハーケマルの使者のことは、お忘れください。私がカタをつけてまいります」

姫「ちょ、ちょっと?」

メイド「必ずやっ! この命にとしても!」

姫「……そ、そう」タラ~

メイド「貴女は死なないわ……。私が守るもの」スッ

姫「……」

メイド「では、準備がありますので、私はこれで」

姫「が、がんばってね?」

メイド「御意」ペコ

【夜 城下町 酒場】

バニーガール「いらぁっしゃぁ~いん♪」

ジャン「お、おう」

バニーガール「あらぁ? その格好は貴族さまぁ~ん? パフパフ……い・か・がぁ?」

衛兵「ジャン殿! ここ! ここ! ここですよぉ!」フリフリ

バニーガール「衛兵さんのお連れだったのぉ~ん?」

衛兵「今日もかわいいねぇ、可愛い子三人テーブルにつけちゃってよ。チップは弾むからさ、これぐらいでどう?」スッ

バニーガール「んもぅ、しかたないわねぇ~ん」カサ

衛兵「ジャン殿。遅かったですね!」

ジャン「ちょっといろいろと見て回ってたもんで」ガタッ

衛兵「何飲まれます! 席についたらなにか飲まなくちゃ!」

ジャン「じゃあ、カクテルを」

衛兵「貴族さまは小洒落てますなぁ! おーい! なんかカクテル! あ、おしぼりどうぞ」スッ

バニーガール「ただいまぁん♪」

衛兵「どうですか? クィーンズベルは。都会なようでなんにもない街でしょー? 賑わっちゃいますが」

ジャン「活気があるのは良いことですよ」

衛兵「そうは言うてもですねぇ、実がないと田舎となにも――」

メイド「た、たたたたのもうっ!!」バターーンッ

店内「……」シーン

メイド「~~~ッ!! あ、あのっ!」

バニーガール「メイド喫茶と間違えたのかしらぁん?」

店内客「わははっ! ねーちゃん! そんな力いっぱい扉開けたらびっくりするだろうがっ!」

衛兵「……っ⁉︎ あ、あいつっ⁉︎」ガタッ

ジャン「お知り合いですか……?」チラ

衛兵「い、いえ、そ、その」

バニーガール「どうしたのぉ? ここはメイドさんが来る場所じゃ」

メイド「人と、待ち合わせしているんですっ!!」

バニーガール「そ。ミルク、でいい?」

店内客「ぎゃっはっはっ! かわいそーだろ! 俺の席につけてくれよ! そのメイドねーちゃん!」

バニーガール「あらぁ? うちの子じゃ不満~?」ギロ

店内客「うっ! そ、そうは言っちゃいねぇが」タジ

メイド「……」キョロキョロ

衛兵「うっ」ササッ

ジャン「どうなされました? テーブルの下に隠れて」

衛兵「い、いえ。小銭を落としてしまったもので」

メイド「……あ、あんなところに……!」ズンズン

ジャン「(ふーん。やはり、メイドの狙いは俺か。あれから城の中を調べてみたが、さしたる収穫はなし。鏡についてもどれがどれやら――)」

メイド「お、お待たせしましたっ!」

ジャン「――あぁ」

衛兵「お、お前ッ!! なんでここに! 俺を探していやがったな⁉︎」ガバッ

ジャン「あ……?」チラ

メイド「や、やはり……! 一緒にいるということは! あなたも盗賊の一味で間違いないようですね!」

ジャン「あなた、“も”?」

衛兵「ばっ⁉︎」アタフタ

ジャン「(おやおやぁ? これはもしかして、もしかすると、とんでもないマヌケな図式になってるんでない?)」

メイド「裏でこそこそと結託して!! 恥ずかしいという気持ちはないのですかっ⁉︎ 挙句に姫さままで!!」

衛兵「……ひ、姫?」

メイド「とぼけたって無駄です!! あなた方が二人でいることがなによりの証拠!!」バンッ

衛兵「ジャ、ジャン殿。少々席を外しても?」

ジャン「ええ、かまいませんよ」

衛兵「バニーガール! 奥の個室使わせてもらうよ!」

バニーガール「ご自由にぃ~」

衛兵「おまえ、ちょっとこいっ!!」グィッ

メイド「いたっ、はな、離しなさいっ!」タタタッ

ジャン「やれやれ。これが衛兵とメイドで彼氏彼女の関係なら、ここでお幸せに~で帰るんだけどねぇ」

【酒場 個室】

衛兵「な、なにしにきやがった⁉︎ 俺はこれから大事な接待をするところで!」

メイド「……」ゴソゴソ

衛兵「ああっ、ちくしょう! 絶対怪しまれちまった……警戒心を解くのが肝心なのに……どうしてくれんだよ、ったく」

メイド「これです! これが目的だったんでしょう!」バンッ

衛兵「そりゃぁ、もしかして、城の見取り図か⁉︎」

メイド「夕食の配膳係を変わっていただき、その際に宝物庫の鍵をとり。忍びこみ持ってきました」

衛兵「これは、原本か? そうなんだな?」

メイド「はい。間違いございません。……さあ、約束の品は渡しました」

衛兵「これがこうなって……ふんふん、おお、こんなところに隠し通路が……こっちにも! 隠し階段が!」

メイド「弟はどこなんですかっ⁉︎ 会わせててくれるって約束でしょう⁉︎」

衛兵「あ、あぁ。そうだったな、心配すんな。合わせてやる。ただ、今日はだめだ。これから接待を――」

メイド「私は約束を守ったじゃないですか! どうして弟に会えないんですかっ!」グィッ

衛兵「お、ちょ、あぶっ」ビリ ビリ

メイド「嘘つき! 嘘つき!」ブンブンッ

衛兵「まっ、待て! 破れる!!」ビリィィィッ

メイド「あ……」

衛兵「……う、うそ、だろ……っ。や、やべぇ、ぞ。真っ二つに破れて……どけっ!」ドンッ

メイド「あぅっ!」ドサ

衛兵「……だ、大丈夫だ、真っ二つに破れただけだから、繋ぎ合せりゃいいんだ……」

メイド「……」ムクッ ユラァ

衛兵「おまえどーかしてるんじゃないのか! 会わせると……⁉︎」ギョッ

メイド「……弟は、どこですか……?」スラァ

衛兵「た、短刀⁉︎ お、おまえっ! な、なにするつもりだ⁉︎」

メイド「弟の居場所を、教えて。会わせてください」スッ

衛兵「ま、待てっ! 落ち着け! な?」

メイド「(姫さまにも、お城にも迷惑をかけません。弟を助けたら、見取り図は必ず戻します……だから……っ!)」プルプル

衛兵「……? ふふぅ~ん?」ニヤ

メイド「な、なんですか? なにがおかしいんですか! 私は本気ですよ!!」プルプル

衛兵「そんなにナイフの切っ先を揺らしてか? よく見りゃ膝もふるえちまってるぜ? お前」

メイド「……っ!」

衛兵「冷静になって考えりゃ、メイドに人を刺した経験なんたありゃしねぇよな」ムクッ

メイド「わ、私は本気でっ!!」





衛兵「本気で? なんだよ?」

メイド「ち、近寄らないでっ!」プルプル

衛兵「……ふんっ!」バシィ

メイド「あっ! うっ!」カランカラン

衛兵「こちとら潜伏してる盗賊とはいえ、毎日兵としての訓練もこなしてるんだ。やわな鍛え方しちゃいねぇぜ」スッ

メイド「うっ……くっ……!」キッ

衛兵「なんだぁ? その目は? こっちは予定を狂わされてちぃとばかし怒ってるんだぜぇ?」

メイド「弟に……」

衛兵「弟弟ってうるせぇっ!!」バンッ

メイド「ひっ」ビクゥ

衛兵「黙ってりゃ会わせてやるって言ってんだ!! わからねぇのかよ!!」

メイド「……うっ、うっ……ぐすっ……」ポロ

衛兵「あ~あ、女はすぐこれだ。泣きゃいいと思ってやがる。なぁ?」グィッ

メイド「うっ、さ、触らないで」パサッ

衛兵「……おう、メイド服ってのは、そそるなぁ?」

メイド「な、なにを……?」

衛兵「お前のうなじ……はだけた胸元、前からいい女と思ってたんだ……」ゴクリ

メイド「……っ⁉︎ な、なに! いやっ! は、離して! だ、誰かぁっ!」ジタバタ

衛兵「だぁ~れもきやしねぇよ。ここの個室はな、そういうこと専門なんだ。……よっと」ビリビリ

メイド「きゃ、きゃあああああっ⁉︎」ドサ

衛兵「白、か。ありがちだが悪くねぇブラジャーだ。着痩せするタイプなんだな」

ジャン「――……衛兵さーん!」コンコン

衛兵「チッ。良いところで」

メイド「……っ、や、やだ、っ、に、逃げないと……」ガタガタ

ジャン「そろそろ帰ろうかと思うんですけどー?」

衛兵「どうするか、こいつとヤレそうだってのに。しかし、使者を抱き込まねぇと」

メイド「と、扉、扉」ガチャガチャ

ジャン「内鍵閉まってますよねー? 蹴破ってもいいですかねー? 離れてた方がいいよー」

メイド「えっ?」

衛兵「な、なに?」

ジャン「よいせっと」バターーンッ

メイド「あうっ!」ゴチーーン

ジャン「あっ」

メイド「」

ジャン「だ、だから離れてろって警告したのに。お、おい、大丈夫か? ええい、くそ。ベホマ」ポワァ

衛兵「……」ポカーン

ジャン「ちょ、ちょっとまってね? すぐに治すから」ポワァ

衛兵「……ジャン殿? あの、扉が、壁にめりこんでますが、あれぇ~? 見間違いかなぁ~?」ゴシゴシ

ジャン「あ、それ? だいぶ加減したつもりなんだけどさ、よし」

メイド「」

ジャン「外傷は癒えたな。その内意識も取り戻すだろ」

衛兵「か、か、壁に、扉がぁ⁉︎」ギョッ

ジャン「さて、壁にコップを当てるというなんとも古典なやり方で聞かせてもらったよ。盗賊さん」

衛兵「えっ? えっ」

ジャン「とりあえず、右手と左手どっちがいい?」

衛兵「そ、それは~。なんの質問でしょう?」タラ~

ジャン「なんだと思う?」ニヤ

衛兵「ほ、暴力じゃないですよねぇ?」

ジャン「残念。でも当たり」ブンッ

衛兵「う、うわあああああっ⁉︎」アタフタ

【数分後 同個室】

ジャン「ふんふん、それで? 城の見取り図を入手するため、こいつの弟を拉致ったと」

衛兵「ひゃい」ボロッ

ジャン「盗賊団はどうやって井戸の水脈を……たしか、学者に聞いた話だと“逃げさせてる”んだったか」

衛兵「わかりまひぇん」

ジャン「嘘?」スッ

衛兵「ひっ! ほ、ほんとへす! お頭が別働隊を仕切ってて、そっちの仕事で!」

ジャン「別働隊か。団全体で何人ぐらいの規模なんだ? 二、三十人ぐらいか?」

衛兵「詳しい数は、お頭しか、把握してないと」

ジャン「あ、そう。まだ殴られたいんだ」スッ

衛兵「ひゃ、百人は! いると思います! はい!」

ジャン「へぇ……結構でかい団じゃないか。シノギも大変だろう」

衛兵「まぁ、そこはその、こうしてたまにデカイヤマを扱ってるんで」

ジャン「この国だけじゃなく?」

衛兵「貴族様から依頼されることもあります。……ジャン様もももしよかったら」

ジャン「……」スッ

衛兵「な、ないですよねっ! だと思ってました!」

ジャン「あー、もう。なんでこう芋づる式になっちまうのかねぇ」ポリポリ

衛兵「あの、もう帰っていいですか?」

ジャン「いいわけないだろ。牢屋行きだからな、お前」

衛兵「そ、そんなぁっ! 頼みますよ! 謝礼はウンとはずみますから!」

ジャン「(まずは、人質になってる弟とやらの確保だな。じゃないとこいつが牢にはいったとバレると……)」チラ

メイド「Zzz」

ジャン「(危険になるだろうなぁ……どうするか……どうする? やることは決まってんのかねぇ)」

衛兵「考えなおしてくれました……?」

ジャン「アジトに連れてってくれたら考えてもいいよ」

衛兵「え、えっ? 俺らの仲間に?」

ジャン「行ってから決めるけど。儲けはどれぐらいもらえんの?」

衛兵「一人頭、100万ゴールドはかたいと」

ジャン「お前らさぁ、この国潰す気? 百人いたら最低一億ゴールドじゃない。元締めである親の取り分が100ぽっちってことはないだろし」

衛兵「そう、ですけど?」

ジャン「だぁ……」ガックシ

衛兵「へへっ、お頭、たいしたもんでしょ? どうされます?」

ジャン「とりあえず、バニーガールさん呼んできてもらっていい? ……そのまま逃げたら地の果てまで追っかけてぶち[ピーーー]からな」

衛兵「へ、へい」

【数時間後 酒場】

バニーガール「とっとと起きなァッ!!」バチィン

メイド「ひゃっ、ひゃいぃぃっ! ただいま支度をっ……はれ? へっ? ここは?」

バニーガール「なぁに寝ぼけてんの」コチン

メイド「あ……? 貴女は……」

バニーガール「そろそろ店じまいの時間だから帰ってよ」キュッキュッ

メイド「……あのっ! 私、なぜ?」

バニーガール「仮面つけてる貴族の人から起きるまで面倒見てくれって頼まれたの。最初は送ってくれって言われたんだけど……ねぇっ、あんたってお城で働いてんの?」

メイド「あ、そ、そうですけど? か、仮面の人から?」

バニーガール「いいなぁ~! お城でメイドやりゃ貴族様とお知り合いになれるなんて! ……でも、んふふっ、お金はたんまりと弾んでくれたしいっか♪」

メイド「貴女、さっきと言葉使い違いません?」

バニーガール「ありゃ商売の顔。接客のね。男どもなんて媚び売っときゃいいのさ。酒場に来るようなやつらはみぃ~んなさみしくて、気持ちよく飲めれば満足なんだから」

メイド「そ、そうなんですか」

バニーガール「よく見りゃあんたもかわいい顔してるじゃなぁ~い……スタイルもメイド服ぬぎゃ悪くなさそうだし。おっぱい何カップ?」

メイド「……っ⁉︎」ササッ

バニーガール「女同士でなに隠してんのよ。……そっか。生娘か。ならウチはだめだ」

メイド「働くなんて一言も……! このような汚らわしい場所で……!」

バニーガール「……ちょっとあんた。今なんつった?」ギロッ

メイド「うっ、だって、そうじゃありませんか。無精髭を生やしているような、清潔感のカケラもない男を」

バニーガール「そうかい。なら尚更だめだな。あんたにゃ城の中が似合ってるよ。世間知らずのガキが」

メイド「ガキって……!」

バニーガール「そうだろ? 男を知らないで、ホイホイついてっちまってさ。貴族様がいなけれりゃ、あんた、犯されてたよ」

メイド「……っ⁉︎」ブルッ

バニーガール「人生ってのはね、生まれながらにして平等じゃない。メイド服きて城の中に住めるだけラッキーってもんだ。……あたしらは、その運がなかっただけ」

メイド「……」

バニーガール「運だよ。この世は。決められた定員数があって、それにあぶれりゃ問答無用で選択肢は狭まる。じゃなきゃ、理不尽なことに説明なんかつくもんか……っ!」ギリッ

メイド「あ、あの。貴族の人が、私を?」

バニーガール「そう言ったろ。……あんたから貴族様にあたしのこと紹介しておくれよ? おもいっきりパフパフするからって♪」

メイド「(どうして、助けて、くれたの……? 盗賊の仲間のはずなのに……)」

バニーガール「あのお方お抱えになればここから抜けだせそうだしさ。ね? 頼むよぉ~」

メイド「貴族様は、どちらに?」

バニーガール「あん? 手癖の悪い衛兵さんと一緒にどっか行っちまったよ」

メイド「(行動をともにするということは……やはり……でも……)」

バニーガール「んふふっ、銀細工までもらっちゃったぁ」キラン

メイド「……? そ、それは……ちょっ、ちょっと! 見せてもらえませんか⁉︎」ガバッ

バニーガール「だめだよ! これは! あたしんのなんだからぁっ!」

メイド「み、見るだけ! 見るだけですから!」

バニーガール「……そんなに見たいの?」

メイド「はいっ! 見たいです! すごく!」

バニーガール「なら、カネ。カネだしな。見物料」クイクイ

メイド「えっ? えぇと、今、手持ちが」ゴソゴソ

バニーガール「じゃあ見せられないね!」プイッ

メイド「300ゴールドあります! これでどうですか⁉︎」ジャラジャラ

バニーガール「たった300ぽっちぃ? そんなんじゃ一晩の遊び代にもなりゃしないよ」

メイド「うっ、あの、今はこれが全財産で。お城に行けばまだ」

バニーガール「だぁめぇ~! 今度、いつか、なんて口約束ほど信用ならないもんはない」キッパリ

メイド「う、うぅっ、でも、約束は必ず守りますから」

バニーガール「ふぅ~ん、ま、いっか。盗むんじゃないよ」スッ

メイド「こ、これは……間違いない。見間違えようがない……アデルの……」

バニーガール「なんでもさぁ、アデルにいってこれを見せりゃ仕事を斡旋してくれるって言ってたけど」

メイド「な、なんですって⁉︎」ガタッ

バニーガール「きゅ、急に乗り出してきたらびっくりするじゃないのさ」

メイド「(まさか……っ⁉︎ まさかまさかまさかまさかまさかっ⁉︎)」ギュウッ

バニーガール「ちょっと! なに握りしめてんだ! あたしんのだ!」

メイド「その方は! 今っ! どちらにっ⁉︎」バンッ

バニーガール「……いや、だから知らないって……」

メイド「な、なんてこと……私ったら、なんて勘違いを……」ワナワナ

バニーガール「あのさぁ、そろそろ返してくんない?」

メイド「あ、す、すみません」スッ

バニーガール「でも、ほんとなのかねぇ。これ見せれば選択肢が広がるって」

メイド「なんと、言われたんですか?」

バニーガール「ん? いや、少し世間話をしていたら、ひょんなことを言われたのさ」

メイド「……?」

バニーガール「“なりたいものがあるなら諦めちゃだめだ”って。ふふっ、なんとも青臭いセリフだけどね。ああまで透き通った瞳で言われちゃうとさ」

メイド「……」

バニーガール「私も、自分に対する負い目はあるからさ。境遇は運だけど、いつのまにやら、今の環境に慣れちまってる自分もいる」

メイド「そう、ですか」

バニーガール「つまらない話しちまったね。さぁ、はやく帰ってくれ。この300ゴールドはもらうよ」

メイド「(や、やはり、違う。盗賊なんかじゃない! この銀細工は……この形は……あの時の……ゆ、勇者様……?)」


姫『貴女も知ってる、懐かしい友人ですの――』


メイド「……っ⁉︎」ガタッ

バニーガール「わ、わぁっ! だ、だから勢いよく立つなって」

メイド「姫さまは知ってた⁉︎ 気がついてた⁉︎ あの人の正体に⁉︎」

バニーガール「ひ、姫さま……?」

メイド「も、戻らなくちゃ! お城に戻って確認しなくちゃ!」タタタッ

【クィーズベル城 南西方向 廃墟】

ジャン「ぶえっっくしょんっ!! あー……風邪かな」ズズッ

衛兵「も、もう少しですよ」

ジャン「けっこー離れてんのな。かったりぃったらありゃしねぇ」

衛兵「あ、あの~。さっき、バニーガールに支払ったお金は……」

ジャン「ん?」

衛兵「に、2000ゴールドも、その、俺の財布から。い、いつか、返してもらえるかな~なんて?」

ジャン「お前がやらかしたからだろ?」

衛兵「そうはいわれましてもぉ~? 気絶させたのはジャン殿といいますかぁ」

ジャン「お前がこじ開けなきゃいけない状況を作ったからだろ?」

衛兵「ぐっ、で、でもぉ、やっぱりぃ~、最後の決めてはぁ」

ジャン「あ?」スッ

衛兵「さぁッ! 先を急ぎましょうっ!!」クルッ

ジャン「これこれ。待たれよ」

衛兵「……なんすか?」

ジャン「疲れたのである。おぶってたも」

衛兵「……」ヒクヒク

ジャン「おぶってたも」クイクイ

衛兵「こ、この野郎ッ!!!」

ジャン「あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

衛兵「おぶらせていたたぎますっ!」ササッ

ジャン「素直で嬉しいでおじゃる」

衛兵「(あ、アジトについたら、全員で、袋叩きにしてやる……っ!!)」ヒクヒク

ジャン「……その顔は良からぬことを企んでいるでおじゃ」

衛兵「い、いいぇ~っ! そんなわけありませんよぉ~!」ニコォ

ジャン「なんでもいいからおぶれや」(鼻ホジ)

衛兵「(殺してやる……!)」ギリッギリッ

【城下町 宿屋】

魔法使い「もう何度目? バカ勇者が無断で帰ってこないの」

僧侶「せめてぇ、帰ってこないのなら連絡の一本ぐらいほしいのですがぁ。せっかく使ったご飯も冷めてしまいますしぃ」

魔法使い「作ってないでしょ!」

戦士「勇者の勝手っぷりには困ったものだ。遊び人の方が似合ってるんじゃないかとさえ思えてきた」

武闘家「まぁ……この街にいるのは間違いないだろうし、ほっといたら帰ってくるだろうさ」

戦士「世話焼きの武闘家にしちゃめずらしいなぁ。前回なんか、アタイ達のリーダーがっ! って慌ててたくせに」ニマァ

武闘家「さっきの勝負をまだ根に持ってんの? 何回やっても負けは負け。アタイの5勝。アンタは0勝」

戦士「ぬぐっ。そ、それがなんだぁっ!」バンッ

魔法使い「あ~はいはい。わかったから。武闘家の言う通り、この街にいるのは間違いないと思うし、どっかで遊びほうけてるだけでしょ」

僧侶「酒場にいらっしゃったりしてぇ」

魔法使い「あいつ、酒なんか飲むの?」

僧侶「さぁ~? 存じ上げませんが、アレフガルドでは18が成人の歳。飲んでいたとしてもなんら問題ありません~」

魔法使い「……それもそうね。酔っ払って嫌な絡み方しなければいっか」

武闘家「しばらく、様子を見よう。明日以降も戻らないようであれば、探しにいく」

戦士「ははっ、なんだよ。やっぱり世話焼きだ」

武闘家「そうじゃなくて、アタイはリーダーを」

戦士「ほぉら、また始まったぞ」ニマァ

武闘家「めんどくさいね、アンタ」

僧侶「……やっぱりぃ、まとめてくれる方がいないと締まりませんねぇ」

魔法使い「まとめる? 誰が?」

僧侶「勇者さまがですよぉ」

魔法使い「あ、あいつが? まとめてられてる様な気がしたことないんだけど? 私達が合わせてやってるだけで」

僧侶「衝突しそうになったら、勇者さまが身を呈して団結させてくれるではありませんかぁ~」

戦士「いや、あいつは好き勝手にふざけているだけだろう」ピタ

武闘家「アタイもそれはちょっとどうかと……」

僧侶「そうは言われましてもぉ、こうして話題になると戦士さんと武闘家さんの喧嘩は止まりますしぃ」

戦士「それは……うーん? なんでだ? 魔法使い」

魔法使い「余計にツッコミやすいからに決まってるじゃない」

僧侶「なんだかんだで、率先してやられてるんですよぉ? 私達の間のクッションになっていただいてぇ」

魔法使い「例えそうだとしても! 連絡もよこさず勝手な振る舞いをしてるやつよ! ただテキトーなだけ! 夢見すぎ!」ビシッ

僧侶「それはぁ~そうですがぁ」

戦士「うん、勇者がダラシないやつという部分に疑いはない」

僧侶「武闘家さんもそう思われますかぁ?」

武闘家「あ、アタイは、武に生きる者として、尊敬する部分もあるが、あいつの人柄を、そこまでは良く考えられない。人間的な部分は出来の悪い弟弟子というか」

僧侶「そうですかぁ~」シュン

魔法使い「僧侶も勇者だからって甘やかしてばかりいちゃだめよ。信仰心という補正がかかってるだけなん――」


「きゃあああああ~~~~ッ!! だ、誰かぁ~~ッ!!」


戦士「叫び声っ⁉︎」ガタッ

武闘家「表の通りからか……!!」ダダダッ

魔法使い「あっ、ちょ、ちょっと!」

戦士「魔法使いと僧侶は後からこい!!」チャキッ ダダダッ

【城下町 表通り】

荒くれ者「逃さねぇぜぇ~コイツぅ~っ!」

メイド「あ、あ……」

荒くれ者「そんなはだけた格好で走ってどこいくのぉ~? お嬢ちゃん」ニヤニヤ

メイド「ど、どいてくださいっ! 私はお城に! 見回りの兵はっ⁉︎」キョロキョロ

荒くれ者「四六時中いるもんかぁ~! 恨むんならテメェの運の悪さを恨みなぁ。へっへっへっ」ジリ ジリ

武闘家「――お前らっ!! なにをしているっ!」ズザザッ

荒くれ者「あぁん? なにをって今からお楽しみに決まって……」クルッ

戦士「こいつらは……たしか、昼間のモミの木のタネの老人からお金を巻き上げようとしていた……」

荒くれ者「あ……っ、あっ……あ、あんたらは……」

武闘家「まだこんな元気があったんだね」ポキ ポキ

荒くれ者「ひ、ひィッ!」ガタガタ

戦士「ちぇ、雑魚か。ならあたしの出番はないな」ドサッ

荒くれ者「きょ、今日の昼間はたまたま調子が悪かったんだ! 今度はそうはいかねぇぞっ!!」

武闘家「御託はいい。さっさとかかってきな。今度はしばらく悪さできないようになるけど」クイクイ

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」ブンッ

【数分後】

魔法使い「――あれ? もう終わってたの? ってこいつ、昼間のじゃない?」

荒くれ者「」チーン

魔法使い「うわっ、顔面ぼっこぼこ」

戦士「弱い者いじめだよなー」

武闘家「アンタじゃ勝てなかったかもよ」

戦士「んなわけあるかっ!!」

僧侶「これは、少々やりすぎでは~」

メイド「あの、助けていたたぎありがとうございました」ペコ

戦士「あぁ、かまわな――」

武闘家「アンタ見てただけだろうさ」

戦士「なんだよ! いいだろあたしが言っても!」

僧侶「あのぉ~。そのような格好で出歩かれてはぁ~。時間も時間もですしぃ」

魔法使い「……露出狂?」

メイド「ちっ、ちちちっ違いますっ! 急いでて!」

僧侶「そうでしたかぁ~。なにやらご事情があるご様子。でしたら、私の着ている服を~」ヌギヌギ

魔法使い「二人に増やすんじゃないわよ!」

武闘家「……ほら、汚いマントだけど。これなら胸元隠せるだろ」パサッ

メイド「ど、どうも……ありがとうございます」

戦士「勇者がいたら喜んでたかな?」

魔法使い「きゃははっ、ないわよ。あいつ、絶対童貞だし」

僧侶「またお二人はそうやってぇ。純粋と言ってあげないとぉ」

魔法使い「甘い甘い。童貞は皆すべからずムッツリなの」

メイド「ゆ、勇者? そうおっしゃいました?」

武闘家「あ、んー……まぁ、その、アタイ達のパーティに」

メイド「今もご一緒なんですか⁉︎」

魔法使い「見たいの? やめといたほーがいいわよ。幻滅するから」

戦士「見た目は悪くないが、サインをもらうような相手ではな」

メイド「教えてくださいっ! 今もいらっしゃいますか⁉︎」

僧侶「いぇ~。今日は別行動をしておりましてぇ、今は帰ってきておりません~」

メイド「こ、これっ! これ見たことありませんかっ、私が小さい時にもらったお守りなんですけど……見覚えは……?」スッ

戦士「銀細工みたいだが、ススだらけだな。あるか? 魔法使い」

魔法使い「んーん、ない」

メイド「そ、そんなはず……! 勇者様のパーティなら見覚えが!」

武闘家「アタイも、ないな。僧侶は?」

僧侶「私もありません~」

メイド「そ、そうですか。勇者様なら、コレを持ち歩いているはず……“別の勇者”なのでしょうね……」

戦士「偽物は実際に出ていたが、あたし達が同行している勇者は本物の――」

メイド「いえ、いいのです。姫さまに確認すれば済む話ですので」スッ

武闘家「ちょっと待ちなよ。アタイ達がウソつきだっていうのか?」

メイド「そうは言ってません。ですが、私も、なにがなにやらわからなくて……混乱しているんです……」

戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……?」

メイド「助けていただきありがとうございました。後日、お城におこしくださいませ」ペコ

【数時間後 廃墟】

お頭「でえっへっへっ!! おめぇ、なかなかに面白いやつじゃねぇかっ!」

ジャン「いやぁ、お頭ほどでもないですよ」モミモミ

衛兵「(な、なんで……こいつが、気に入られてやがる……っ!!)」

ジャン「それそうとお頭、分け前の話なんですけどね」

お頭「そんなにカネが好きか? あァ?」

ジャン「大好き! カネのためならハーケマル王の足の裏だってペロペロしちゃう!」

お頭「ぎゃはっはっ! プライドねぇのかよぉ~おめえ」

ジャン「そんなんで金儲けできたら苦労しませんて。俺も噛ませてくださいよー」

お頭「おう、衛兵。帰ってきたと思えばなに神妙な顔してやがる。酒だ酒」

衛兵「へ、へい」トクトク

お頭「おめぇもご苦労だったな。ハーケマルの使者を見事にだきかかえちまうとは」

衛兵「あ、いや……それが」

ジャン「そりゃあねぇ、衛兵さんが頑張ってくれたおかげでこうして席があるわけですから」

お頭「違えねェ。お前の取り分、成功報酬から三割上乗せしといてやるよ」

衛兵「えっ⁉︎ い、いいんですかい? 三割……というと基本が100だから、130⁉︎」

お頭「なんだァ? 足りねぇか? ……そうだな。使者の協力があれば、成功したも同然だし、200ぐらいいっとくか」

衛兵「ば、ばばばはっ倍ですかいっ⁉︎」

ジャン「さすがお頭! 太っ腹!」

お頭「まぁよっ! 俺ぐらいになりゃあこれぐらい豪気じゃねぇとな!」

衛兵「(あ、あれ? こいつって、もしかして、良い奴?)」

ジャン「協力したいんですってぇ~! でも、計画がどういうものかわからなきゃだめでしょ~?」

お頭「……把握する。それが、狙いか?」ギロッ

ジャン「……」ピタ

お頭「だぁっはっはっ! ちょっと睨んだだけじゃねぇか!」

ジャン「(目は笑ってなかった。半分以上は俺を疑ってるな)」

お頭「いやいや、おめぇはおもしれーやつだ。ちっとも貴族らしくねぇ。だがな、だからこそ、大丈夫か? とも思う」

ジャン「はいはい~」モミモミ

お頭「衛兵。お前は使者をどう見る?」

衛兵「へい? 俺ですか? ……そいつは」

ジャン「思った通りに行ってくださいよー。疑う余地はないって」

衛兵「お、お頭、実は……」

お頭「ん? なんだ? どうした」

衛兵「……そ、そいつは……」

ジャン「……」ジー

衛兵「俺からジャン殿に質問させていただいてもいいですかいっ⁉︎」

お頭「かまわねェよ」

衛兵「ジャン殿、ちょっと」

お頭「なんだァ? 俺の目の前でコソコソ内緒の打ち合わせか? まさかおめぇら二人で宝を横取りするつもりじゃあるまいな」ニタァ

衛兵「ひっ⁉︎ い、いいえっ! そ、そういうわけではなく!」

ジャン「衛兵さん。お頭は俺たちの雇用主になるわけです。信用を失っちゃったら元も子もありませんよ」

お頭「……」

ジャン「聞きたいことがあれば、どうぞ。ご随意に」

衛兵「(よく考えろ! ここは、俺の岐路だ。分岐点だ。こいつは危ないやつだって、お頭に教えるべき。……で、でも、そうなったら俺の倍のボーナスは、どうなる……?)」

お頭「なにか、あんのか?」

衛兵「(密告しても、もらえるのか? この野郎はどこまでが本気でどこまでがウソなんだ。俺たちの仲間になりたいのは……本気……なのか? 女を襲ったのが気に入らなかっただけか?)」

ジャン「はやくしないと俺だけじゃなく衛兵さんの信用まで失ってしまいますよー」

お頭「だぁっはっはっ! おめェ、よくわかってんじゃねぇか!」バンバン

衛兵「~~~~ッ! ジャン殿っ!!」

ジャン「はい?」

衛兵「お、お金。お金は、好きですか?」オズオズ

ジャン「好きですよ」

衛兵「じゃ、じゃあ、女を襲うようなやつは?」

ジャン「嫌いですね。陵辱は胸糞悪くなるので」

お頭「あァ? そうなのかァ? 嫌がる女を征服するっていいもんだろうが」

ジャン「いやぁ~俺ドMなんで」

お頭「……まじかよ」(ドン引き)

ジャン「や、やだなぁ! 冗談ですって!」

衛兵「(な、なら、でも、牢屋いきだって言ってたしな。俺を。やっぱり報告するか! 報告して報酬もらおう! それでいこう!)」


ジャン「ほかになにか――」

衛兵「お頭ァッ! そいつは危ねぇやつです!!」ビシッ

お頭「あん? どういう意味だ?」

衛兵「そいつに殴られました! そんななりしてめちゃくちゃつええっす! そいつ!」

お頭「へぇ。おめェ、衛兵よりつええのか?」

ジャン「貴族なもので。幼少の頃より武術と剣術は嗜んでおります」

衛兵「俺が女を襲おうとしたら、こいつが扉を蹴破って入ってきたんです!! そんで俺をぼっこぼこに……!」

お頭「そのわりには、怪我が見当たらねぇが?」

衛兵「ここまで案内させるのに治しやがったんでさぁっ!!」

ジャン「まぁまぁ落ち着いて」

衛兵「お頭、そいつは……」

ジャン「俺、女を襲うようなやつは嫌いなんですよ。でもこの計画には一枚噛みたかった。だから案内してもらったんです」

お頭「ふぅん……」

衛兵「そいつは俺を殴った後、団の内情も聞き出そうとしてて!」

お頭「なに?」ピクッ

ジャン「それも全て、どういう規模で活躍されてるか知りたかったのです。より良い取り引きのために」

お頭「……なるほど?」

ジャン「雇い主を無条件に信用するほどおめでたくありませんよ。ましてや、こんな無能を雇っているようでは」

衛兵「な、なにをぅっ⁉︎」

ジャン「お頭。気がつかないんですか? ならなぜ最初からこいつは報告しなかったのか」

お頭「そいつは俺も気になっていた。なんで今頃になって言う?」

衛兵「……うっ、そ、それは、すぐバレると思って……」

ジャン「予想外に相手に取り入ってしまった。俺にビビってたのか?」

衛兵「ぬぐっ」

ジャン「別にそこはどーでもいいんだけど。ボーナスの話が出たからだと思ってた」

お頭「……」ピクッ

ジャン「迷ってた。俺に金に好きかって聞いたのはなんで?」

衛兵「そ、それは、その、よ、よく考えてから」

ジャン「ほーらね。こいつも俺も金が大好きなんですよ。金のためなら平気で打算しますよ。お頭だって好きでしょ? カネ」

お頭「ああ……」グビッ

ジャン「そこで――こっからは俺の取り引きです」

お頭「……言うだけ言ってみろ」

ジャン「この場所を知られてしまった以上、お頭達は俺を黙って帰すつもりはないでしょう。なので、先に条件を提示します」

お頭「……」

ジャン「俺を仲間に引き入れれば、計画はさらに円滑に進められるでしょう。そこの衛兵さんをボコった際に聞き出したのですが、なんでも井戸の水を枯れさせているとか」

お頭「おめェ……っ! ペラペラと喋りやがったのか!!」ギロッ

衛兵「ひ、ひっ⁉︎ す、すみませっ!」ドゲザ

ジャン「話を進めても?」

お頭「……」コクリ

ジャン「ハーケマルの使者として、お力になれることは多いはず。取り分は、そうですね。300万でいかがでしょうか?」

お頭「……話を聞くだけといったはずだ。誰がお前を仲間にいれるといった」

ジャン「決めるのはお頭です。どうぞ、存分に打算なさってください。俺を引き入れることによって得られる利点と危険を天秤にかけて」

お頭「……」

ジャン「黙って殺られる気はありませんよ。だめだというなら懐に隠してある短刀で抵抗します」スッ

お頭「……俺をおどそうってのか?」

ジャン「めっそうもない。……お頭らぁ~。頼みますよぉ~。俺もお金もうけしたいんですぅ~」モミモミ

お頭「……」グビッ

ジャン「(考えてる考えてる。口から生まれたと俺に勝とうとは10年はやいわっ!ボケ衛兵が!)」チラ

衛兵「お、お頭。そ、そいつは」オズオズ

お頭「おめェはだぁってろ!! ……ボーナスはなしだ」

衛兵「そ、そんなぁ……」ガックシ

お頭「使者さんよ……まずはおめェになにができるか聞かせてもらおうか」

ジャン「私はハーケマルとクィーンズベルとを結ぶ使者でございます。そうですね、パッと思いつくのは、王子来訪と合わせ帯同してくる」

お頭「それで?」

ジャン「お頭達が安心して、余裕をもって仕事を行えるどころか、逃げ道までお手伝いできるかと」

お頭「う、む。注意を引きつけられるのか?」

ジャン「立場を利用すればたやすい。難しいことではないと想像できますでしょう?」

お頭「……」

ジャン「なにがひっかかてるかじゅ~~ぶんに理解できます。計画の重要ポストにおいたら、消えたり裏切りにあっては痛手。それもかなりの」

お頭「そうだ」

ジャン「私が信用できない。そこがひっかかってる」

お頭「……あぁ」

ジャン「信用できるようになにかやりましょう。あ、そうだ。メイドの弟を拐ってると聞いたのですが。衛兵さんから」

お頭「……なにから、なにまで……ペラペラと……っ!」ブンッ

衛兵「いたっ」コツン

ジャン「その弟の居場所を教えてもらえれば――」

お頭「いねぇよ」

ジャン「――はい?」

お頭「俺もヘタこいてな。ガンダタってやつに持ってかれちまった「

ジャン「な、なんですとぉっ⁉︎」



【クィーンズベル城 郊外】

ガンダタ「どおりゃあっ!!」ザシュっ

手下「うっ」ドサッ

ガンダタ「ふうっ、ふうっ、これで最後か……」

少年「ひっ、ひぃん」ガタガタ

ガンダタ「む、ぅっ、さすがに10人いっぺんには、こたえる」ガクッ

少年「お、おじちゃん」トコトコ

ガンダタ「ガキ。おめぇ、逃げなかったのか。バカなやつだ」

少年「こ、こわくて。動けなかった」ヘナヘナ

ガンダタ「あ? よく見りゃ小便漏らしてやがる。小便小僧だ」

少年「うっ、うっ、ぐすっ」

ガンダタ「おめェの姉ちゃんに会わせて、俺は金をもらう。そして、そのまましばらく姿をくらませる。再起は、その後だな」ドサッ

少年「だ、大丈夫?」

ガンダタ「ちっらたぁ根性見せたらどうだ。女みたいに人の顔色ばかりうかがってないでよ」

少年「あ、あぅ」

手下「ぐっ、ガンダタァッ……!」

ガンダタ「なんだ。まだ死に損ないがいたか」

手下「美味しい思いだけをできると思うなよ……! 追っ手は俺たちだけじゃねぇぞ!! うっ、ゲフッ」

ガンダタ「わかってるよ」ムクッ

手下「そいつを、渡して、謝礼をもらえてもっ、所詮、おめェは犯罪者だ。腐りきったクズ野郎だ」

ガンダタ「……あぁ」スタスタ

手下「仲間殺し、裏切り、裏社会での暗黙の了解を破ったお前に、もはや居場所なんか、ねぇっ!!」キッ

ガンダタ「だったらよ、俺は自分だけの居場所ってやつを作るだけだ」グサッ

少年「も、もういやだぁ、お、おねぇちゃぁ~ん」ポロポロ

手下「が、がはっ」ドサッ

ガンダタ「自分の居場所なんてもんは勝ち取るもんだ。そうだろ」グサッ グサッ

手下「」

ガンダタ「――俺は生きる。生き残って、あがいてあがいてやる。その先が地獄なら、鬼になってもな」ポタポタ

【再び 廃墟】

お頭「どうして驚いて……いや、ちょっと待て。頭を整理したい」

ジャン「(まずいぞ。弟はいったいどこに……)」

お頭「使者よ……ジャンっつったか。おめェの指摘には間違いがいくつかある」

ジャン「あ……はい? 間違いとは?」

お頭「たしかに俺ァ金が好きよ。ボンクラ衛兵も、お前も好き。ソレに違いはねぇ……ただな、俺にとっちゃ、カネなんてものは手段にすぎねえ」

ジャン「……?」

お頭「“金に溺れてるつもりはねぇ”。そういうこった。富、権力、そういうものを追い求め野望を胸にしてりゃ、金は後からついてくる。金なんてもんは所詮――」ゴソゴソ

ジャン「……」

お頭「贅沢をするための、道具だ」チャリン

ジャン「さっすがお頭――」

お頭「腹をわって話しようぜェ? ジャンさんよ。おめぇは“カネに使われるモノか”、“カネを使うモノか”。どっちなんだァ? あぁ?」

ジャン「なんのことやら、さっぱり」

お頭「くっくっ、とぼけるんじゃねェよ。俺の手下を無能呼ばわしたお前が、これぐらいを察しがつかねぇでどうする。そんな無能なら、俺がいらねェ」

ジャン「……そうですねぇ、いずれは一人立ちしたいと考えています。いつまでもコキ使われるのはイヤなので」

お頭「盗賊になるか?」

ジャン「俺は働くのが嫌いなクズなんですよ。盗賊だって社会からはみ出して、人の迷惑をかえりみない犯罪まがいのことやっちゃいるが、ルールがある。働いてますよね、一応」

お頭「一般人が積み上げてきたものをぶち壊す汚ねェ手段ばかりだがな」

ジャン「性善説なんてありえませんし、あなた方みたいな人は、人が人間である以上、必ず出てくる。必然的にね」

お頭「……」

ジャン「そんなに複雑な話じゃないんです。私は、のんびり気ままなニートを目指してまして」

お頭「ニート? てェと、無職、世捨て人になるつもりか」

ジャン「今の肩書きを捨てたいだけなのかもしれませんね」

お頭「ほかに大きな野望はねェのか?」

ジャン「そんな先のことまで考えてませんよ」

お頭「そうか……骨のあるやつを期待したんだがな」

ジャン「お頭のおっしゃっている意味は理解できます。その先になにを求めているので? カネが主目的ではない、後からついてくる副産物なら……」

お頭「“国盗り”よ。それが俺の夢であり、盗賊としての野望」

衛兵「く、国盗り……お頭、自分も初耳です」ゴクリ

お頭「そんなんだからおめェはカネに振り回されてんだ」

ジャン「(こいつは……どうしたもんでしょ)」

お頭「ジャンよ、おめぇのここ(胸)になにもないんなら……カネほしさに国を潰せる突き抜けたクズ野郎か?」トントン

ジャン「宝を奪い、財政難に陥れるだけで国が陥落するわけがないでしょう。そうなる前に、ハーケマルや他の機関が援助に動きだします」

お頭「くっ、くっくっくっ。そうはならねぇのさ。なぜなら、落とすからだ」

ジャン「戦をしかけるおつもりで? たった百人たらずの盗賊団で?」

お頭「衛兵から聞いたか……ぎゃっはっはっ! 百人じゃねェのよ。俺たちの団は」

ジャン「例え千でも同じこと、万を超える数ではないと……万もいるとか?」

お頭「いいや。いねェ、くっ、くっくっ」

ジャン「お頭ぁ、わかりませんよぉ~」

お頭「“魔族”だよ。俺たちのバックにはやつらがついてる」

ジャン「(あぁ? ……ちっ)」

衛兵「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」

お頭「どうだい? これなら信じられないこともないだろう? 国を落とせると」

ジャン「魔族が人間と協力か、もしくは協同ともいいましょうか……初めて聞きましたが」

お頭「俺も驚いたさァ。なにしろ、人間の若い女の姿をしていたからなァ。最初は気がつかなかった」

ジャン「(人間の若い? 淫夢族か?) ……それで、どうやって?」

お頭「そこまで話する気にゃならねェ」

ジャン「魔族がいるかどうかだけでも」

お頭「今言ったろ……チッ、証明か」ゴソゴソ

衛兵「……そ、そんな……ま、魔族と繋がってたなんて……」ブツブツ

お頭「ほらよ。このビー玉見てみな」

ジャン「それは?」

お頭「こりゃあ、なんでも特殊な瘴気の溜まってるもんを閉じこめてる玉らしい。中でケムリが渦になってるのわかるだろ?」

ジャン「(たしかに、紫色の、なにか、形作ってないか?)」ジー

お頭「こんなもんは人間には作れない代物だ。呪いのアイテムなんかでもねぇ」

ジャン「(よく、見ると、竜か?)もっと、よく見せていただいても?」

お頭「ダメに決まってるだろうが。証明はコレで済んだ」サッ

ジャン「……けちんぼぉ~」

お頭「さぁ、どうするよ? お前の結論は」

ジャン「お頭に協力します」キッパリ

お頭「あ、あぁ? 悩むそぶりも見せずにか?」

ジャン「他人が血を流そうかどうなろうか知ったこっちゃありません。俺はクズじゃなくドクズだったようです」

お頭「軽率なやろうだ」

ジャン「単純明快でいいじゃないですか。俺は答えましたよ。お頭はまだじっくり考えたいですか?」

お頭「うう、む」

ジャン「(魔族がなんでまた人間に。あいつら種族のプライド高いはずだけどな~、クィーンズベルを潰すために人間同士の争いに演出するつもりなのかなぁ)」

手下「お、お頭ぁッ!!」ダダダッ

お頭「うるせぇなァ!! ゆっくり考えられねぇだろうがッ!!」

手下「す、すいませんっ! でも、ガンダタを追っていかせた、馬たちが……帰ってきてて……!」

お頭「馬? 馬だけか?」

手下「し、死体をくくりつけた、馬が……!」

お頭「チッ、やられたか。なら、さらに人員を増やして……いや、まてよ。おめェ、衛兵よりつええんだったな……なら、こうすッか。ガンダタって野郎を殺ってこい。そしたらお前を信用する」

ジャン「かまいませんけど、顔がわかりませんよ」

お頭「人相書きなら、ほらよ」ポイッ

ジャン「……」パシッ シュルシュル

お頭「そいつが、ガンダタだ」

ジャン「(あれ? これどっかで……あぁっ⁉︎ 山で出会った山賊じゃねっ⁉︎ こっちに合流してたの⁉︎)」

【宿屋前 表通り】

ガンダタ「ぬっ、ぐっ」ヒョコヒョコ

少年「ずっと足ひきずって歩いてるけど」

ガンダタ「(矢を受けた足の痛みがおさまらねぇ、毒でも塗ってやがったな……!)」ヒョコヒョコ

少年「お、おじちゃん……」

ガンダタ「うるせぇよ、小便小僧。お前はもうすぐ解放されるんだから喜んでろ」

魔法使い「――たまには外食もオツなものよねー!」スタスタ

僧侶「そのわりにはぁ、あまりハシが進んでませんでしたけどぉ」

魔法使い「だって暑いか辛いしかないんだもんっ!! 気分だけでも味わいたくて言ったただけ!」

戦士「あたしは美味かったけどなぁ」

魔法使い「あんたは食えればなんでもいいんでしょうが!」

ガンダタ「(うるせぇ女どもだ。さっさと通りすぎやがれ)」

僧侶「武闘家さんもくればよかったんですけどねぇ~」

戦士「ほっとけ! あんなひねくれ者!」

魔法使い「宿屋のご飯食べるっていたし、まぁいいんじゃない?」

ガンダタ「(いや、まてよ。こいつら、どこかで……?)」

魔法使い「寝苦しくないといいな~」スタスタ

ガンダタ「思い出した……! おめぇらっ! 若僧のツレで寝てたやつ!!」

魔法使い「へ?」ピタッ

ガンダタ「あいつはっ、どこだぁっ!!」ブンッ

少年「わ、わぁっ、またぁっ⁉︎」


――バチィンッ――


魔法使い「あ? へ……?」ヘナヘナ ペタン

戦士「大丈夫か? 魔法使い」ザッ

ガンダタ「(こいつ……俺様の正拳突きを止めやがった……!)」

戦士「いい突き出しだ。ちょっと反応遅れたらウチの魔法職さんに当たってたろう。でも、残念ながらもっと凄いやつの正拳突きをあたしは知ってる」

僧侶「武闘家さんのことですねぇ~」

戦士「余計な解説いれんでいい!」

ガンダタ「なんだァ? てめぇは」グリッ

戦士「むっ⁉︎」シュタッ

魔法使い「せ、戦士ッ! 平気⁉︎」

戦士「(さらに拳に力が入っていたな、思わず距離をとったが)……問題ない」スラァ チャキッ

ガンダタ「小便小僧。少し離れてろ」

少年「あ、あわわっ」トテトテ

僧侶「補助魔法、おかけしますかぁ?」

戦士「いや、必要ないだろう」

魔法使い「ほ、ほんと? 油断してて負けるとかやめてよ?」

ガンダタ「……おい、ねぇちゃんよ。俺は血を見てちィとばかし、気性が荒くなってる。おめぇらの中に若僧がいたろ。あいつはどこだ?」

僧侶「勇者さまを訪ねる方が多いですねぇ。さすが有名人でしょぉかぁ~」

魔法使い「い、嫌な来訪者だけど」

戦士「……あいにくとあんたの探してるやつはいない。今はね」

ガンダタ「ウソついてちゃなんにもなんねぇぞ」ヒョコヒョコ

戦士「……? 足、怪我してるのか? そんな状況であたしと――」

ガンダタ「だったら、なんだってぇんだっ⁉︎」バッ

戦士「――っ⁉︎ 砂っ⁉︎ い、いつのまにっ、くっ」

ガンダタ「正攻法だけでくると思うなよネェちゃんっ!」ブンッ

戦士「目に、砂がっ」ガクッ

魔法使い「……っ! メラミッ!!」ボフゥ

ガンダタ「なにっ」バァンッ

魔法使い「あんたこそっ! この大魔法使いである私の存在を忘れちゃいないでしょうね!」スチャ

僧侶「なんだかぁ、不意討ちのようなぁ~」

魔法使い「し、しかたないでしょ! 戦士が危なかったんだから!」

ガンダタ「……魔力が練りこまれてねぇじゃねぇか。中級魔法(メラミ)の名が廃れるぜ」モクモク

魔法使い「言ったわね……! 時間なかっただけだもん! 咄嗟だからだもん!」キィィィン

ガンダタ「させるかよっ! 俺の斧でもくらっとけ!」ブンッ

魔法使い「え? ちよ、ちょっと、ま、まずっ⁉︎」アタフタ

武闘家「あちょぉ~~~っ!!」キンッ

ガンダタ「……っ⁉︎ なんだぁおめェ」

武闘家「今度は誰かと思えばアンタ達か。まったく、戦士。なんてザマなのさ」タンッ

戦士「くそっ」ゴシゴシ

魔法使い「た、助かった。あ、ありがとう、武闘家」

武闘家「……」キッ

ガンダタ「そーかい。おめェも仲間ってわけかい。女ばかりがゾロゾロと」

武闘家「女だと思って甘くみるんじゃないさ。……痛い目みるよ」スッ

ガンダタ「うるせぇよ。見たところ前衛職二人に、後衛職二人か……」

僧侶「あのぉ、争いはやめたほうがぁ」

魔法使い「女神様は休暇中で見ないことにしてくれるってさ!」

ガンダタ「俺も満身創痍な状態でこれはきついか。これを使うのは気が進まねぇが」

僧侶「……?」

ガンダタ「おい、お前ら。おれが喋る最後のチャンスだ。あの若僧はどこだ」

戦士「だから言ったろう! いないと!」

武闘家「また訪ねてきてるのか?」

僧侶「みたいですねぇ」

ガンダタ「そうかい……へ、へへっ、せっかく、最後の機会を与えたってのによ……」シュゥゥゥ

戦士「なんだ……? 身体から、煙が」

魔法使い「気のせい? 真っ赤になってきてない?」

武闘家「……こ、これはっ⁉︎」

ガンダタ「うっ、うぅっ! うぅっ、ヴゥうぅっ」シュゥゥゥ

戦士「唸ってるが」

魔法使い「唸ってるわね」

武闘家「僧侶! スクルトを! はやく戦士とアタイに! 戦士! 本気を出せッ!!」

僧侶「は、はいぃ~」ポワァ

戦士「なんだ? いったい……?」


武闘家「こいつは……ッ!! バーサーカー(狂戦士)だッ!!」


戦士「バーサーカー?」

ガンダタ「う、ヴぅ」ピタ

武闘家「――来るぞっ!!」

ガンダタ「ウガァッッ!!!」ダンッ

戦士「むっ! あたしに来るか!!」チャキッ

ガンダタ「がァッ」ブンッ

武闘家「避けろ! うけようとするなっ!!」

戦士「なっ、なんだこの力、づよさっ、きゃあぁぁぁっ!」ドーーーンッ

魔法使い「え……戦士が……女の子の悲鳴あげながら、吹っ飛んでった……」

武闘家「だから言ったじゃないさ!」

僧侶「ピオリム~」ピュイ

武闘家「ナイスだ僧侶! はぁぁぁぁっ!! 哈ぁっ!!」ドゴンッ

ガンダタ「ヴゥッ?」ギロ

武闘家「ビクともしないか……っ! アタイの拳を舐めるんじゃないよ!! あちゃぁ! ほぉあたぁっ!!」ドゴォ バキィッ

ガンダタ「……」

武闘家「一撃必殺ッ!! 正拳突きぃぃっ!!」ドゴーーンッ

ガンダタ「うっ……っ!」ヨロ

武闘家「どうだ!」

ガンダタ「……」ギロッ

武闘家「ば、ばかなっ!? アタイの正拳突きがっ!? き、筋肉に阻まれてる……!?」

僧侶「戦士さんを回復してきますぅ」タタタッ

魔法使い「えーと、えーと、えーと、えーと、私は魔力を練らなきゃ」キィィィン

ガンダタ「ヴゥッ!!」ブンッ ブンッ

武闘家「うっ、くっ」ヒョイ ヒョイ

魔法使い「(ひ、ひぃ~ん。ど、どどどうしよぅ。メンバーには黙ってたけどメラミ以上の魔法使えないのにぃぃ~~)」

僧侶「ベホイミ」ポワァ

戦士「うっ、うぅっ」

僧侶「じっとしててください」

戦士「う、受けた、剣が、折れた。ぶ、ぶとうかぁっ、そいつの攻撃は、うけちゃだめだ……」プルプル

武闘家「アタイが最初に言ったろ⁉︎」クルッ

魔法使い「あっ! よそ見っ!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

武闘家「しまっ――」グッ

【数分後】

武闘家「……うぐっ」ガラガラ

戦士「どうなってるんだ! いくらダメージを与えてもおかましなしじゃないか!」キィンッ ギュインッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ ブンッ

魔法使い「ぜんぜん効いてないじゃないのよぉ~っ!
メラミッ!」ボヒュウ

武闘家「うっ、足が……」ズキンッ

僧侶「今治しますよぉ~」ポワァ

戦士「武闘家っ!」ズザザッ

魔法使い「ちょっとぉ~! なによアレはぁ!」タタタッ

武闘家「……コロシアムにいた時に聞いたことがある。何代か前に、バーサーカーと呼ばれるチャンピオンがいたと」

戦士「……」ジトォ~

武闘家「なにさ、その目は。“もっとはやく教えろ”。そう思ってるな? ……しかたないだろ。バーサク化する特徴で気がついたんだからさ」

魔法使い「それじゃあ、あの化け物もマッスルタウンの元チャンピオンっ⁉︎」

武闘家「同一人物かは知らない。……戦士、今から言うことを良く聞け」

戦士「なんだ?」

ガンダタ「ウゥ……」ノシノシ

武闘家「バーサーカーはアドレナリンを分泌させて筋強アップや痛覚を麻痺させてる。でも、ダメージが蓄積されてないわけじゃない」

戦士「そうは見えないが……」

武闘家「されてるんだよ。アレはいってみれば“究極のやせ我慢”状態なのさ。状態解除されれば、本人もただでは済まない。恐ろしいほどのペイン(痛み)が肢体を駆け巡る」

戦士「状態解除といってもなぁ、止まる方法はなんなんだ?」

武闘家「一度あのモードにはいったら、目的を達成するまで止まらない。我慢を上回るダメージを積むしかない……!」ムクッ

僧侶「あぁ~まだ途中ですよぉ~」ポワァ

戦士「一発でも受ければ致命打だ。先にどでかいのもらうか、手数をぶちこむかの戦いってことだね?」

武闘家「その通り……!」

魔法使い「じゃ、じゃあ! 私も魔力が尽きるまで魔法を撃ちまくって当てまくればいいのね!」

戦士「僧侶。回復は最小限にして補助魔法を頼む」

僧侶「……はい~。スクルトォ~、ピオリム~」ポワァ

武闘家「まさか、いきなりで苦戦を強いられるとは……世の中ってのは、ホントにわけがわからない」

ガンダタ「うがぁぁぁぁあっ!!」ズンズン

戦士「さっきまでは人間と思えてたんだが、あれじゃモンスターだな」

武闘家「……すぅーっ……はぁ~……総力戦だっ!!」クワッ

僧侶「作戦名はぁ~“ガンガンいこうぜ”。と、いったところでしょうかぁ」

【クイーンズベル 郊外】

ジャン「はぁ~、なにやらこんがらがってきたな~」パッパカ パッパカ

衛兵「……」

ジャン「どしたんだ? さっきから黙りこくっちゃって」

衛兵「魔族と裏で繋がってるなんて聞いて平気でいられるのがおかしいんですよ」

ジャン「悪そなやつはだいたい友達でいいんじゃないの。最高峰の魔族とツルんでるんだから、誇れば?」

衛兵「に、人間じゃないんだぞ⁉︎ お、おっかねぇ」ブルッ

ジャン「よくわからんなぁ~。人間だからだとか魔族だからとか。やってる非道さは似たようなもんだろ」

衛兵「あいつらは人を食う!」

ジャン「……人間は人間を食わないけどさ、普通は」

衛兵「エサとしか見てねえだろ! お、俺らはそこまではしちゃいねぇ」

ジャン「お前なぁ、一般人から見たらどっちもタチ悪いんだが? ビビりめ」

衛兵「そんなんじゃねぇよ、俺はただ」

ジャン「衛兵が弱者を襲ったりする時だけ強気な典型的クソ野郎だとはわかったよ」

衛兵「な、なんとでもいえっ!」

ジャン「ガンダタは城に向かったのは確かなのか?」

衛兵「血の跡がまっすぐ続いてる。盗賊団との取り引き材料に使うよりも、謝礼を貰う方を選んだみたいだな」

ジャン「(このままほっとけば弟くんはメイドの元に帰る、が――)」

衛兵「お頭は人質の奪還をお望みだ。そうしないと、入団も認めてくれねぇぞ」

ジャン「(そこなんだよなぁ。魔族と井戸の原因がまだ判明してない……とりあえず、弟くんの無事を確認したら今わかってる情報だけ王様にながすか……?)」

衛兵「こういう取り引きはよくすんのか?」

ジャン「ん? いや、しないよ」

衛兵「それにしちゃ、慣れてるように感じたが。おカシラにもすぐ気にいられてたし」

ジャン「気に入ったんじゃなくて値踏みしてんの」

衛兵「……値踏み、ねぇ」

ジャン「気に入ったそぶりを見せてたのはハーケマルの使者だから。こいつは使えるとわかってはじめて“気にいる”のスタートラインに立てる」

衛兵「なるほど……」

ジャン「我輩のコミュ力におそれいったかね? なっはっはっw」

衛兵「もうすぐクイーンズベルだ。ジャン殿、まずは宿屋にいきやしょう」

ジャン「あっ! お前スルーしやがったな⁉︎ さみしいじゃないか!」

衛兵「めんどくさいんすよあんたの絡み!」

▼勇者は心に198758のダメージを受けた!

ジャン「き、傷ついた。会心の一撃をお見舞いするとはやるやないか……!」

衛兵「打たれ弱いな!」

ジャン「なんだよぉ、もっとかまってくれよぉ」

衛兵「さらにめんどくせぇ! ……城門は閉まってます! なんで! 宿屋です! 宿屋からいきやしょう!」

ジャン「はいはい」

衛兵「はぁっ」バシィッ

馬「ヒヒーンッ」

【クィーンズベル城 姫の部屋】

メイド「……はぁっ……はぁっ、お、お嬢様」ガチャ

姫「わたくしの専属メイド様じゃございませんの。いいご身分ですわね、仕事を放棄していったいどこを……」ポト

メイド「……息を、乱してしまい、失礼いたしました……」

姫「貴女……そのマントは? そんなにメイド服を汚して、なにがあったんですの?」

メイド「姫さま、教えてくださいまし。ハーケマルの使者の正体について」

姫「まずは着替えて――」

メイド「お願いします、姫さま! わたし、とんでもない勘違いをしていたんじゃないかと……盗賊団の仲間かと思ってて、気が気じゃないんです……」ポロポロ

姫「盗賊団……?」

メイド「……もしや、もしや、あの方は、勇者さま……なのでは?」

姫「……そうですわよ」

メイド「や、やはり……そんな、どうして」ペタリ

姫「勇者も見かけなくなりましたけど、なにがあったの……盗賊団と間違えてたってなに?」

メイド「あ、謝らなければ。で、でも、盗賊団と一緒にどこへ」

姫「落ち着いて。順を追って説明なさい」

メイド「いえ、姫さまを巻き込むわけには……」

姫「余計な心配です。貴女はわたくしの従者なんですよ。主人に秘密を持つとはなんたることですか。裏切り行為です」ギロッ

メイド「す、すみません」シュン

姫「それとも、話せないほどわたくしは頼りない?」

メイド「いえ! そんな!」ブンブン

姫「ならば、申してみよ。一国の姫として命ずる」

メイド「……っ!」ギュゥ

姫「……」ジー

メイド「ふぅ~、わかりました、姫さま。告白せねばならぬことがございます」

姫「……申せ」

メイド「実は……弟が、盗賊団を名乗る者に拐われ拉致されました……」

姫「なんですって? 城外にメイドの母と二人で暮らしているという。たまに遊びにきてたわよね」

メイド「ご存知の通り、私の母は、飲んだくれの父に先立たれてから床に伏せております。どうしようもない父でしたが、母には、心の拠り所だったようで」

姫「ええ」

メイド「給金が酒代に消えていたのはお嬢様も薄々感づいておられたのでしょう?」

姫「……」コクリ

メイド「父が不摂生な生活がたたり亡くなってからは、幼い弟が母の身の回りの面倒を見ていたのです」

姫「それもわかっておりました」

メイド「ちょうど二週間ほど前のことでした。城で従事している衛兵に呼び止められ、“弟を拉致した”……そう告げられたのは」

姫「衛兵が……?」

メイド「はい。私にとっては、晴天の霹靂(せいてんのへきれき)でした。父と母を忌み嫌っている私は、弟しか、家族と呼べる者がいないのですっ」ポロ

姫「それで……?」

メイド「うっ、ぐすっ、そ、それから、私は、あろうことか、お城の内部情報をっ、盗賊に流すようになりましたっ」

姫「……」

メイド「幼き日、姫さまの従者として取り立てていだいた恩を感じながらもっ、私はっ、弟を失いたくないっ、それしか考えられずっ」

姫「盗賊団の狙いは? 身代金の要求じゃなく情報なんですの?」

メイド「ひっ、姫さまの、ぐすっ、縁談に合わせて、宝物庫に忍びこむらしいです」ポロポロ

姫「……そう。それで、勇者をなぜ盗賊団の関係者と?」

メイド「そ、それはっ、私が早合点してしまい、姫さまがハーケマルの使者じゃないといったときに、盗賊団の者が接触していたのかと」

姫「ここまでは理解しました。先ほど、謝らなければと言っていたわね? 勘違いが解け勇者とわかったきっかけはなに?」

メイド「私は、勇者さまが盗賊団の者だと勘違いしていた折に、姫さまが危険だと感じて、焦っていました」

姫「だから、出かけていたのね?」

メイド「はい。かねてより要求されていた物を手にして」

姫「要求されていたもの? それはなに?」

メイド「城の見取り図でございます」

姫「……っ⁉︎」ガタッ

メイド「弟を無事返していただいたら、王に全てを告白し、自害するつもりでおりました」

姫「自害で済むと思うっ⁉︎」バンッ

メイド「申し訳、ございません」ペコ

姫「でも、相手が勇者だと気がついたのなら見取り図を持ち帰ってきたのですよね? そうでしょ?」

メイド「いえ。それが……待ち合わせ場所である酒場に到着すると、なぜか、衛兵と勇者さまが一緒に卓を囲んでおられたのです」

姫「なんですって……?」

メイド「私はハーケマルの使者が、盗賊団の一味だったという確信を持ちました。そして、衛兵に個室に連れていかれ、二人きりの状況で見取り図を渡したのです」

姫「勇者が、なぜ……そ、それからっ⁉︎ どうなったんですのっ⁉︎」

メイド「……はやく弟の無事を確かめたかった私は、衛兵に詰め寄りました。懐に隠していた短刀を突きつけて」

姫「……」

メイド「でも、こわくてこわくて仕方なかった私は、身体中が震えてしまって……衛兵に気がつかれた後はは、たやすく武器を奪われ、襲われかけました」

姫「だから、そんな格好してるんですのね」

メイド「逃げようと必死になった時でした。個室の扉の前から勇者さまの声が聞こえてきて」

姫「……」

メイド「覚えているのはここまでです。どうやら、扉を無理やり開けてきたらしく、その際に私は気絶してしまい」

姫「目が覚めたら、どこにいたんですの?」

メイド「酒場の椅子に横たわっていました。そこでバニーガールからこれと同じものを見せられて」スッ

姫「それは……勇者の……貴女、まだ後生大事にしてたの……」

メイド「ふふっ、なにをいうんですか。姫さまもオルゴールの箱に大切に隠しているではありませんか」

姫「しっ、知ってたんですのっ⁉︎」

メイド「これは、アデルの像をかたどったもの。勇者さまが生まれた日に作られた記念の銀細工」

姫「サインみたいに配りまくってましたけどね」

メイド「勇者だけが配ることを許された品でもあります。底に刻印が掘ってあるのを気がつかれてましたか?」

姫「ええ……」

メイド「これには、特殊な意味があるのです。姫さまに渡したものも、私に渡したものも。ただ、無闇に配っているわけではないのですよ」

姫「……わかってるんですの。ただ、あんまりにも渡しすぎるから。一時は袋に目一杯つめて歩いてましたもの」

メイド「あの時の勇者さまったら、ズルズル袋を引きずりながら」

姫「ふふっ……って! それでっ⁉︎ 見取り図はっ⁉︎」

メイド「申し訳ありません」ペコ

姫「勇者が持ってるんですのっ⁉︎」

メイド「なにぶん、気を失っておりまして」

姫「お父様に報告するにも、見取り図がなくては。貴女が……」

メイド「私のことはどうか、お気になさらないでくださいまし」

姫「き、気にするなですって……?」

メイド「罰を受ける。その覚悟で持ち出したのです。私は、最初から王と姫さまに打ち明け、弟をお頼みするべきだった」

姫「あ、貴女ねぇっ!」ブンッ

メイド「……」

姫「いい加減にしなさいよっ!!」バチィンッ

メイド「……っ、お怒りはごもっともでっ」

姫「痛いでしょう⁉︎ 頬を叩かれて痛くないわけないんですの⁉︎」

メイド「……」

姫「でもっ! 叩いた私の手だって痛いっ!! なぜ叩くと思う⁉︎ 楽しいからじゃあませんのよっ⁉︎」

メイド「も、もうしわけっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ

姫「貴女が私の友だからでしょう!」ビシッ

メイド「ひぐっ、ぐすっ」

姫「……お父様には、まだ伏せておきます」

メイド「ひ、姫さまぁ、それでは、見つかった時に、姫さままで罪にぃっ」

姫「黙りなさい!! 勇者……勇者はどこほっつき歩いてんるんですの……!」

【再び 宿屋前 表通り】

戦士「予備の剣まで折られるなんて……」カランカラン

ガンダタ「ヴぉおおおおぉっ!!」ブンッ

武闘家「諦めるなっ! 心が折れなければっ……ぐぁっ」ドゴォーーン

魔法使い「武闘家ぁっ! め、メラ……魔力が……力が、抜けてく」ガクッ

僧侶「私も精神力がぁ~」ガクッ

戦士「こいつの、やせ我慢が勝ったか」

武闘家「まっ、まだまだぁっ!」ガラガラ

戦士「もう、いいよ」

武闘家「……戦士、アンタ、なに言って……」ズル ズル

戦士「世の中は広い。武闘家に負けて、こんないきなり出会ったやつにまで。つくづくあたしは、弱い」

魔法使い「戦士……」

戦士「なにが、自分の力を試したい、だっ。あたしが勝てないやつばかりがゴロゴロいるじゃないか」ポロ

ガンダタ「ウゥ」ノシノシ

武闘家「泣き言はいい、まだ戦えるだろ。折れた剣をとれ」ヒョコ ヒョコ

戦士「お前も! もう足がまともに動かないんだろ⁉︎ 勝てない! 勝てないんだよ! だったら、もう……いいじゃないか……」

武闘家「ふぬけがぁ……っ!!」

戦士「強くなりたかった。強くなりたいってことは、自分が弱いと思ってるってことだ。そうだ、あたしは、弱いんだ」

武闘家「それで納得するのかっ⁉︎ “とことん”までやってないだろ⁉︎」

戦士「立て続けに負けたことのないあんたにはわからないのよ! 自分の強さが、信じていたものを立て直せなくなる!」

武闘家「武は、いつだって己との戦いだ! 背を向けているものに微笑みかけはしない! それでも! 諦めないものに、勝利をもって微笑んでくれる!」

ガンダタ「うおおぉっ」ズシン ズシン

魔法使い「熱く語りあってるとこ悪いんだけど、待ってくれないみたいよ……」

武闘家「お前はそこで見てろ!! 戦いとはなにか!」

戦士「……」

僧侶「す、スクルトぉ~!」ポワァ

武闘家「戦いとは――意地のぶつけ合いだッ!!」シュタッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ

武闘家「くっ」ササッ スッ

ガンダタ「……ウゥッ」ヨロッ

武闘家「(やつも相当なダメージが蓄積されてる。もう少し、もう少しなんだ……!)ハイィィィィヤァッ!!」ドゴォ

ガンダタ「……っ」ヨロヨロ

魔法使い「き、効いてる? ねぇっ! あれって、効いてるんじゃない⁉︎」

戦士「……」ジー

僧侶「私たちも殴りにいきますかぁ~?」

魔法使い「え……? あ、あの中に?」タラ~

武闘家「あちょぉ~! ちょぁっ!!」バキィ

ガンダタ「うがぁっ!!」ブンッ

戦士「無駄だよ。じきに、武闘家は捕まる」

魔法使い「戦士っ! どうしちゃったのよ!」

戦士「勝てないんだ、あれじゃ」

僧侶「押しているように見えますが~」

戦士「武闘家の攻撃は、疾く、拳の質もいい。的確に急所を狙ってくる。でも――」

ガンダタ「ヌガァァッ!」ブンッ ドゴォ

武闘家「がっ! かはっ」ドサッ

戦士「足をやられ、翼をもがれた武闘家は、こわくない」

僧侶「やっぱりぃ~、武闘家さんも痛みを我慢してたんですねぇ」

ガンダタ「ウゥゥゥ」ガシッ

武闘家「……ぐっ⁉︎」

戦士「ほら見ろ。言ったそばから捕まった。ああなったら、おしまいだ」

魔法使い「た、助けないとっ! め、メラ……あれ……鼻血が……」ツゥー

僧侶「魔力を使いすぎたんですよぉ」

魔法使い「え……? 魔力って使いすぎたら、鼻血でるの……」

僧侶「知らずに魔法使いをやってるんですかぁ? そのまま使えば血管切れて死んじゃいますよぉ」

魔法使い「ひっ……し、死ぬ……?」

僧侶「もっともぉ~死ぬのは武闘家さんが先かもしれませんがぁ」

ガンダタ「わカぞうは……ドコだ……」ギリギリッ

武闘家「ぐぁぁぁっ」ミシミシッ

戦士「勇者か。なぜ探してるかは知らないが、勇者がきたところで――」

【このちょっと前 宿屋 角】

衛兵「やけにうるせぇと思ったらストリートファイトしてる。それもすっげーハイレベルの」コソッ

ジャン「な、なにやっとんだ。あいつらは」

衛兵「ガンダタってあんなに強かったのか。お、おっかねぇ~」ブルブルッ

ジャン「衛兵。使いパシリいってこい。ダッシュな」

衛兵「へ? どこに行くんですかい? ガンダタの首をとらねぇと」

ジャン「宿屋にヘンテコなマスクが置いてある。いや、俺の今つけてるやつじゃないよ。覆面レスラーみたいなやつな」

衛兵「は、はぁ」

ジャン「それ探してこい。とにかく急げ。俺はちょっくら時間稼いどくから」

衛兵「部屋番号は何番ですかい?」

ジャン「わからん」

衛兵「わ、わからんって……」

ジャン「僧侶か武闘家か戦士か、はたまた魔法使いかで部屋とってるはずだ。その部屋に荷物があるから。他のやつの荷物には触るなよ。俺のにはゼッケン貼り付けてある。母さんお手製の」

衛兵「へ、へい」

ジャン「くれぐれも。かわいい子だからって下着ドロなんかすんなよ」

衛兵「し、しませんて! 俺は生身にしか興味ないんで!」

ジャン「余計な情報はいらん。わかったら行け」スポッ

衛兵「わかりました」タタタッ

勇者「……ふぅ、しかたねぇなぁっ! ったくもぉっ!」タタタッ

勇者「――ちょぉっとまったぁっ!!」ズザザッ

僧侶「あ、あれは……」

ガンダタ「……」ピクッ

武闘家「あ……う……っ」ドサッ

戦士「勇者……」

魔法使い「バカ勇者! 今までどこいってたのよ!」

勇者「酒場でパフパフしてもらってた」キッパリ

魔法使い「こ……っ、このっ、ボンクラ……っ!」

勇者「久しぶりじゃないか。おっちゃん。山で会って以来だな? 元気してた?」

ガンダタ「てメぇ……」

勇者「おやぁ? 前はもっとハキハキ喋ってたと思うけど、どうしたの? ダメージくらいすぎた?」

武闘家「ゆぅ、しゃぁっ! こいつは、バーサーカーだ!」

勇者「それってなぁに?」

僧侶「やせ我慢男みたいですぅ~」

勇者「なるほど。わからん」

魔法使い「とにかく! あともうちょっとみたいなんだから! ピンピンしてるあんたがやりなさいよ!」

戦士「無理だ。勇者、逃げろ」

魔法使い「戦士っ⁉︎」

戦士「勇者の剣さばきじゃ、すぐに終わる」

勇者「(戦士ったらすっかり自信なくしてやがんの。うけるw ……まぁ、サキュバスの時は精神攻撃だったから仕方ないとはいえ、こうも立て続けに負けてちゃなぁ)」

武闘家「戦士……っ、安心しろ、この勝負、アタイたちの、勝ちだ」ムクッ

戦士「勇者じゃ勝てない」

武闘家「勝てる」

戦士「なぜ……? そうか、武闘家は、知らないんだったな」

武闘家「知らないのは、気がついてないのはあんたさ」ズリズリ

勇者「薬草をすりつぶした塗り薬だ。僧侶」ポイッ

僧侶「はい~」パシッ

勇者「仙豆とまではいかないが、そいつを傷口に塗ってやれ」

ガンダタ「こ、コゾぉっぉおおおおっ!! おまえのせイでぇぇ」

勇者「カカロットォってか。いやはや、中途半端なことして悪かったな。おっちゃん」

ガンダタ「こ、コロしてやるッ!!」ズシン ズシン

勇者「……」チラッ

武闘家&戦士&魔法使い「……」ジー

勇者「(ばっちり見られてるねぇ。やっぱり、テキトーに時間稼ぐとするか)……スクルト、ピオリム」ポワァ

ガンダタ「ウガァァァッ!」ズンズンズン

武闘家「補助魔法……? 勇者、まさか……」

戦士「知らないのだろう。あれが、勇者の戦闘スタイルだ」

魔法使い「自身を強化する魔法剣士。一人でも戦える。だけど、なにかが突出してるわけじゃない器用貧乏」

武闘家「勇者ぁっ!! 本気でやれっ!!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

勇者「むっ」チャキ

戦士「ば、バカっ!! 受けようとするな!!」

ガンダタ「うぅぅぅっオオォォおおっ!!」

勇者「(おおっ、なかなかに重い……! こりゃ苦戦してるわけだ)」パキィッン

魔法使い「勇者の剣がっ!」

戦士「……終わった」

ガンダタ「ゥゥッ」ピタッ

勇者「……なぁ、おっちゃん。アデルに行かなかったのは自由だけど、なにも俺に会いにこなくたって」シュタッ

ガンダタ「オマエのせイで、オレはこうナッた」

勇者「自業自得な面もあると思うよぉ。いつまでも続けられるわけじゃないとわかってると思ってたけど」

ガンダタ「……」シュゥゥゥ

武闘家「……バーサーカー状態が、解けた……?」

ガンダタ「うっ、むぅ……」ガクッ

勇者「終わりか?」

ガンダタ「慌てるな。若いってのはせっかちでいけねぇな」ゴソゴソ

勇者「……?」

ガンダタ「お前が置いてったもの。こいつを返したくてよ」キラン

魔法使い「あれって……さっき、メイドが持ってたやつと同じ……?」

勇者「それは俺がおっちゃんにあげたもんだ。捨てるも自由、なにするも自由だ。俺が受けとらないのもね」

ガンダタ「勘違いすんな。これは、オマエの墓標に添えるもんだ」

少年「お、おじちゃん。終わったの?」ヒョコ

勇者「キミは……もしかして、メイドの弟くん?」

少年「えっ、な、なんでお兄ちゃんが、お姉ちゃんを?」

勇者「そうか……。なぁ、おっちゃん。悪いことは言わないからこのまま城に行け。そして、弟を助け出したと言うんだ」

ガンダタ「くっ、くっくっ」

勇者「金もらってどことなり消えりゃいいだろ。な?」

ガンダタ「そこだよォっ!! 俺が気にくわねぇのはぁーっ! なに上から目線で見てやがる!! オマエは! 誰に向かって言ってるんだ⁉︎ あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

勇者「……」

ガンダタ「オレはッ!! オレ様は認めねぇ!! お前みたいな世の中をなんも見てきてねぇでわかったようなツラしてるガキをッ!!」

勇者「現代っ子なもんで」

ガンダタ「ガキィッ!! だったら、オレが教えてやるよっ!!」シュゥゥゥ

魔法使い「そ、そんなっ……! またっ⁉︎ 武闘家、解除したら痛みが襲うんじゃなかったの⁉︎」

武闘家「意地があるんだ。その意地が、肉体と精神を凌駕している」

戦士「……」

武闘家「あいつも、戦ってる。胸がムカつくことに対して、認めないと」

戦士「勇者ぁっ! 剣の予備はもうない!」

勇者「そいつは、残念」タラ~

ガンダタ「さァッ!! 覚悟ハいいカッ!!」クワッ

【宿屋 部屋】

衛兵「ちぇっ、俺をアゴでこきつかいやがって。なんだってんだよ」ギィ

――ドゴォーーンッ――

衛兵「え……」

勇者「バーサーカーって筋力までアップされてんのな」パンパン

衛兵「あ、あの……。表から、ここまで?」

勇者「吹っ飛ばされてきた。ここってもしかして、俺らの部屋?」

衛兵「す、素顔はそんなに若かったんすね。仮面したまんまだから」

勇者「え~と、たしかこのへんにぃ~と」ゴソゴソ

衛兵「隠れてていいっすか?」

勇者「おっ、あったあった。いいよ。ここなら安全だろうから」スポッ

衛兵「ちなみに、なんでマスクを?」

マク「いろいろとめんどーなことにならないため」

衛兵「は、はぁ」

マク「服の衣装がないけど、とりあえず、同じなままじゃバレちゃうから……たしかこっちに、寝巻きが」ゴソゴソ

衛兵「正体を隠しているので?」

マク「まーね。ヒーローはいつだってそんなもんだろ?」ヌギヌギ

ガンダタ「ワカゾォォォッ!! 降りてコイっ!!」

衛兵「およびが、かかってますが」

マク「人にはせっかちだとか言ってたくせに」タンタン

衛兵「……」

マク「なにも盗るなよ? 盗ったらボコすかんな?」

衛兵「ひゃい」

マク「んーと、となりの部屋から飛び出すか」タタタッ

衛兵「(ここまで吹っ飛ばされて、無傷って……どうなってんの……)」

【再び表通り】

魔法使い「勇者、死んだんじゃ……?」

戦士「可能性としては、ありうる。もしくは戦闘不能になってるか」

武闘家「ないね」キッパリ

戦士「あれを見ろ。踏みこみで足跡がくっきりついてる。宿屋の三階まで吹っ飛ばされてるのが衝撃の強さの証拠だ」

僧侶「そろそろ出てくるんじゃないですかねぇ」

――バターンッ――

マク「……」シュタッ

魔法使い「あ、ああ、あ、あれはっ⁉︎」

戦士「マクさんっ⁉︎」

武闘家「(やっぱり……とことん隠したいみたいだね。勇者のやつ)」

僧侶「……くすっ」

ガンダタ「……?」

マク「……」クイクイ

魔法使い「見て見てえっ! 隣の部屋から出てきたわよぉ! マク様が泊まってたなんてぇ~っ!! 颯爽と飛び出して……キャーーーッ! かっこいいっ!!」キラキラ

戦士「マクさんなら、あるいは……」

武闘家「こ、こいつらは……。アタイが全部ぶちまけてやろうかな」ボソッ

ガンダタ「ジャマするノなら容赦しねェッ!」ブシュウ

マク「(血が吹きだしてやがる。時間稼ぎのために長引かせて悪かったな。本当はとっくに限界こえてんだろ)」スッ

魔法使い「マクさまぁっ! がんばってぇ~~!」フリフリ

戦士「動きが、構えが洗礼されてる。勇者とは大違いだ」

武闘家「頭痛がする」

僧侶「くすくすっ、なんでもいいじゃありませんかぁ」

マク「(こっちの都合で本当にごめんな。一発でケリをつけるよ)」ビュッ

ガンダタ「ウォおおおっ!!」ブンッ

マク「(普通のパンチ!)」ズパァァァァンッ

魔法使い「戦士。み、見えた?」

戦士「見えない。いつのまに近づいて攻撃したんだ」

武闘家「(やはり、勇者は次元が違う。あそこまでの高みにはいったいどうすれば)」

ガンダタ「う……オォ……っ! な、なんだァ? テメぇ……」ヨロヨロ

マク「(俺の拳を耐えるとはたいしたもんだよ。人間の枠の中じゃおっちゃんは強い。でもな、俺は魔王に勝てる勇者。人間じゃ、勝てないんだ)」スッ

魔法使い「え……」

ガンダタ「ば、バカなぁっ! たった、一発でぇ」

戦士「限界間近だったのか……?」

武闘家「とっくに限界を迎えて、認めたくないという意地で保ってた。健気に歯をくいしばって耐えてた根性を上回る一撃だったのさ」

戦士「ど、どんだけ強いんだ……」ゴクリ

ガンダタ「」ズゥゥン

マク「(いかん、おっちゃんが死ぬかもしれん。ベホマ)」ポワァ

魔法使い「あれって回復魔法っ? 武闘家! モンクって魔法使えるの?」

武闘家「ん? ん~、えーと、き、聞いたことがあったよーな。体内で練りこんだチャクラを分け与えると」

僧侶「ブフッ……だめっ、こらなきゃっ」プルプル

魔法使い「しゅごい。あんだけ強くて、回復まで。完璧な人ね」

魔法使い「求婚されたら、オーケーしちゃうかも。ケーオーされちゃうかも……いやぁ~ん」クネクネ

戦士「惚れ惚れする強さだ。あたしの師匠よりも、強い。勝てる人間がいるのかとさえ思う」

ガンダタ「う……」ピクッ

マク「(全快させても面倒だからな。これぐらいでいいか)」チラッ

魔法使い「あっ、だめっ。目が合っちゃった。妊娠しちゃいそう。むしろ子供ほしい……」ジュル

僧侶「ぶーっ、くっくっ、よだれでてますよぉっ」プルプル

マク「(ウチのメンツも満身創痍って感じだな。回復してやるか)」テクテク

戦士「あっ、あの……?」サッ

マク「(ベホマ)」ポワァ

戦士「治して、くれるのか。あ、の。あ、ありがとぅ」

マク「(ゆでダコみたいになっちゃってまぁ)」ポワァ

魔法使い「うらやましい……わ、私も怪我してれば……折れた剣、折れた剣はどこ」カサカサ

武闘家「傷つけるなら戦えよ!」

魔法使い「女の戦いよ! 武闘家にはわからないんでしょーけどね!」クワッ

戦士「(凄まじい治癒力だ。それに光が、暖かい)」ぽーっ

魔法使い「見なさいよ! あの戦士の表情! 軽くイッてんじゃないの⁉︎」

戦士「……ばっ、バカなこというなぁっ!!」ボッ

マク「(マジでうるせぇ。これぐらいでいいだろ。次)」テクテク

武闘家「アタイは、いい」プイ

マク「足、見せてみろ」ボソッ

魔法使い「あーーーっ! 武闘家だってなに黙ってやらせてんのよ!」

武闘家「うるさいなっ!」

マク「(無理したなこりゃ。ベホマ)」ポワァ

武闘家「なんで、そんなに隠すのさ」ボソ

マク「……」ポワァ

武闘家「ちゃんとしてれば、アンタだって、それなりに……」

マク「黙っててくれてるのは、感謝する」ボソ

武闘家「……別に、いいケド」

魔法使い「ね、ねぇっ⁉︎ 小声で喋ってない⁉︎ マク様喋っていいの⁉︎」

マク「(目ざとい)」

武闘家「なんでそういうとこばっかり気づいて別のことは気がつけないんだよ!」

僧侶「イメージの固定化でしょおねぇ~。この人はこう、そう思ってるからわからないんですよぉ~」

マク「(よし、これなら歩けるはずだ)」スッ

武闘家「マク。あとのことはアタイたちにまかせてアンタは行きな」

魔法使い「ちょっと武闘家! マク様を気やすく呼び捨てッ⁉︎」

戦士「武闘家は、マクさんと兄弟弟子なのか? あの、あたしにも紹介を……」モジモジ

武闘家「きっしょくわるいんだよ! アンタたち!」

魔法使い「独り占めしてんじゃないわよ! そうやってほかの女を遠ざけてんでしょ⁉︎」

僧侶「わ、わたし、我慢するの、限界ですぅ~、あはっ、あははっ」

【宿屋 部屋】

衛兵「ば、ばばばっ、バカなぁっ⁉︎ なんだあの強さは! 人間じゃねぇっ!」ガクガク

マク「お疲れちゃん」スポッ

衛兵「ひ、ひぃっ」ズザザッ

勇者「あー、壊れた窓から見てたのか。そんな距離とらんでも。俺を化け物だと思ってるんだろ」

衛兵「す、すいませんっ! もうご無礼はいいません! どうか、これまでのことはお許しをっ!」ドゲザ

勇者「……強すぎるってのはさ、なにも良いことばっかりじゃない。女にモテる。チヤホヤされる。それは、あくまで人間の枠の中での強さの話」テクテク

衛兵「……ひっ」

勇者「最初だけなんだ。みんな。次第に尊敬が畏怖にかわり、そして、怯えていく。魔族がいるから緩和されてるけどね」

衛兵「……」ガタガタ

勇者「ちょっとでも鍛錬したことあるやつなら余計に俺がこわいだろ。忌々しいったらない」ヌギヌギ

衛兵「ひゃ、ひゃい」

勇者「衛兵はアジトに戻ってお頭に報告しろ。俺は後から行く」

衛兵「ガンダタは、まだ息があるようですが」

勇者「きっちり殺っとくよ。信じねえの?」

衛兵「信じます! ジャン殿ならいつでも殺せますよね!」

勇者「これ。ガンダタの血をたっぷり染み込んだ布持ってきたから。渡しとくように」

【アデル城 玉座】

大臣「また夜分遅くにこんなところで。歳も歳なんですからご自愛くださいといつも申しておりますにた

王様「ふぉっふぉっ。また、あの時の夢を見てしもうての。ワインを飲み気を紛らわせておったところじゃ」

大臣「もうお忘れなさい。あれは、あの“事件”は仕方ないことだったのです」

王様「悔やんでも悔やみきれなんだ。あれから……勇者は、両親に、ワシに……いや、人間に対する目つきが変わってしまった」

大臣「普段おちゃらけてますのは、その反動でしょうな」

王様「理解者は少ないがおる。アイーダの酒場の店主、城内の兵士達の一部。だが、ワシも含めて、目の奥に宿った恐怖は、ぬぐいされるものではない」

大臣「……」

王様「恥ずべきことよ。王が、たった一人の民に恐怖し持て余すとは。勇者とはなにか? そう聞かれた時になんと答える?」

大臣「人類の代表であり、女神の代弁者です」

王様「違う、違うのだ。勇者とは“孤高”であり“孤独”である。てっぺんのいただきに立つ瀬に見る景色は、そこに立たなければわからぬ」

大臣「陛下のような……?」

王様「王とはいうなれば、民達の親である。ワシもワシで孤独を感じることに否定はしない。勇者の抱えるものは、それよりもっと、異質なのだ」

大臣「人は、誰しもが心に孤独を感じて生きております。繊細であればあるほど過敏になりましょうが」

王様「だからじゃよ。あの子に対して普通の子と同じように接するべきじゃった。勇者として利用するのではなく」

大臣「……」

王様「(ワシは信じる。おぬしの帰るべき場所を用意して待っておるぞ。勇者よ)」

【宿屋 表通り】

勇者「ぬぁぁっ、い、いてぇ」ノロノロ

魔法使い「チッ、使えない勇者が今頃ノコノコと」

勇者「あれ? 終わってたの?」

戦士「マクさんがやってくれた。感謝しなければな」

魔法使い「こっち見ないでよ! ぱふぱふなんかしてくるよーな男!」

勇者「生理現象だろーが! ずっと欲情すんなってのか⁉︎ 自慰マスターに俺はなる!」

魔法使い「……部屋の中でやったら、殺すわよ……」

僧侶「勇者さまぁ、この子はどうされますぅ?」

少年「……あ、う、お、おうち、帰りたいです」

勇者「その子は……戻すは戻すけど、なぁ、弟くん。そこのおっちゃんどう思う?」

少年「こわい……」

勇者「そうだろうな。こわいだけかい?」

少年「……こわいよ……うっ、ぐすっ」ギュゥ

勇者「……そっか。なら、お前らの中の誰でもいい。城に連れていってメイドを訪ねてやれ」

武闘家「メイド……? さっき訪ねてきて勇者を探してたさ」

勇者「な、なにぃ……?」ヒクヒク

僧侶「お知りあいさんですかぁ?」

勇者「(メイドにもバレてると考えるのが妥当か)……小さい時に少しね。それと、見取り図は俺が預かってると伝えといてくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」

勇者「明日の朝一番で頼む」

僧侶「今夜はぁ、お姉ちゃん達と一緒に寝ましょうねぇ~」

少年「ほんと? 明日になれば、帰れる?」

僧侶「帰れますよぉ~」ニコ

勇者「俺はしばらく別行動する。戦士」

戦士「なんだ?」

勇者「お前は弱くねぇ」

戦士「……っ、な、なんだ、突然」

勇者「要領が悪いんだ。頭がバカなのは仕方ないから、長所をもっと伸ばせ」

戦士「あんたに言われずとも!」

武闘家「戦士、黙って聞いておいたほうがいい」

戦士「武闘家……なぜ……?」

勇者「お前は防御が下手くそだ。自覚あんのか?」

戦士「うっ、それは武闘家にも言われた」

武闘家「アタイは防御もできるようになれと言ったさ」

勇者「不得意の分野を伸ばしても人並みにしかなりゃしねぇよ。お前にはタフさがあんだろ? だったらもっと鍛えて、鍛えまくって“仁王立ち”できるまで極めてみろ」

戦士「……」

勇者「武闘家、お前もだ」

武闘家「……」スッ

勇者「お前自身にゃ力はない。踏み込みの鋭さとしなやかさで慣性の法則を生み出してる。その点についちゃ俺もいい線いってると思う」

武闘家「だけど……それも、最近壁が」

勇者「はやければいいってもんじゃない。壁が見えだしてんなら、考え方を変えろ。お前の脚力はほかに使いようないのか?」

武闘家「脚力……足……」

勇者「あと、魔法使い」

魔法使い「んー? なに?」

勇者「もっと頑張りましょう」ポン

魔法使い「なにっ⁉︎ なんか私だけものすごい適当じゃないっ⁉︎」

勇者「僧侶は――」

僧侶「……はい~?」

勇者「真面目にやれよ。俺が言うのもなんだけどさ」ポリポリ

僧侶「やるときはちゃんとやりますよぉ~。私の第一は勇者さまなのでぇ~」

勇者「さいですか。……よいせっと」ヒョイ

ガンダタ「」ドサッ

武闘家「そいつ、どうするのさ?」

勇者「俺が蒔いた種だ。後始末は俺がつけるよ」

魔法使い「ケッ。なぁ~にかっこつけてんだか」

戦士「……う、む。だが、気をつけろよ」

【クィーンズベル 郊外】

ガンダタ「むう……」ムクッ

勇者「おはよう」

ガンダタ「んだぁ、おりゃあ、寝てたのか」

勇者「ヘンテコな覆面野郎に負けたっしょ。あれ、俺なんだけどね」

ガンダタ「……」

勇者「驚かないの?」

ガンダタ「どーでもいいんだよ。んなこた」

勇者「これから、どうする?」

ガンダタ「おめぇを殺りそこなったのはたしかだ。また殺りあうか」

勇者「それしかできないのならいいよ。けど……さぁ。強さってそこまで重要かなぁ?」

ガンダタ「あぁ?」

勇者「人生の先輩として教えてくれよ。わからねーんだよ、俺。魔物がいる世界で、人間が強さを追い求める理由があるのはわかる。強ければえらい、かっこいい、だからって、そうならなくても」

ガンダタ「……ふん」

勇者「強さなんてそいつの人間性になんの関係があるんだよ?」

ガンダタ「力だからだろ」

勇者「……」

ガンダタ「金、腕力、権力、地位、名誉。どれかひとつが突出してりゃ、それはチカラだ。いつの世も、チカラあるものが正義なんだよ」

勇者「善じゃなくてもか? チカラさえあれば――」

ガンダタ「力なき善に正義はない。良い志を抱えたとしても、実現できなけりゃ、無力だ。……わかるか? 無力って言葉の意味が」

勇者「……」

ガンダタ「無知、無力、能無し。“無”に共通することといやぁ、ただのゼロよ」

勇者「そうか、そうだな」

ガンダタ「おめぇはおめぇでこじらせてるみてぇだな、くっくっ」

勇者「……認めたく、ないんだ」

ガンダタ「なにをだ」

勇者「みんながっ、俺を勇者として、見る視線にっ! 化け物として扱う視線……擦り寄ろうとする視線……誰も、俺を見ちゃいない」

ガンダタ「だったらなんだってんだ? あァ?」

勇者「……」

ガンダタ「そんな雑魚どもはどうやったって寄ってくる。無視しときゃいいだけの話だろ」

勇者「……そうだな」

ガンダタ「ふん、知ったことか」

勇者「よかったら、俺と一緒に旅しないか? 中途半端にした責任もあるし」

ガンダタ「アホぬかせ。俺はおめぇを殺す。それを目的としてしばらくは生きていく」

勇者「……そ、そうか」シュン

ガンダタ「さては心許せる相手がいなくてさみしいんだなぁ?」

勇者「へ、へへっ、そんなんじゃあーりません!」

ガンダタ「ひとつ、忠告しておいてやる」

勇者「なんだね?」

ガンダタ「おめぇの強さは常軌を逸してる。どこまでいっても孤独だぜ。勇者さんよ」

勇者「途中から意識があったな……狸寝入りしてやがったのか」

ガンダタ「メスどもがあんまりにもうるせぇからな。なぁ? わかってるか? 孤独を」

勇者「……」ギュゥッ

ガンダタ「ぎゃはっはっはっ! 芋虫を噛みしめたような顔しやがって! 充分理解して生きてきたかぁ? あ゛ぁ?」

勇者「黙れ……もう、行け」

ガンダタ「魔族でもねぇ! 人間でもねぇっ!! 勇者なんだぁ!! だぁっはっはっはっ! 笑えるぜぇっ! 知ったようなツラしてる若造が、誰より孤独な存在だとよぉっ!!」

勇者「やめろ、殺すぞ……!」ギロッ

ガンダタ「やってみろぉ? できんのかぁ? 勇者さまよぉ? ……偽善者なのもじゅ~~ぶんに理解ができた。おめぇはどっちつかずの、コウモリ野郎だ」ニタァ

勇者「……」バチィ バチバチィ

ガンダタ「殺れよっ!! やってみろ!! お前の本性を見せてみろやっ!!」

勇者「……行け」フッ

ガンダタ「ほぉら、コウモリ野郎だ! 口先ばっかりでなにもできやしねぇ! おめぇは自分の為に、勇者をやってるって気づいちゃいねぇ大馬鹿野郎よ!」

勇者「……」ギリッ

ガンダタ「せいぜい孤独と隣あわせで生きろや。いつか俺様が引導を与えてやるからよ、こいつぁ、傑作だ、だぁっはっはっはっ!」ノシノシ

勇者「(気づいてない? 俺は嫌というほどわかってるよ。だから、ニートになりたいんだ)」クルッ

【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

お頭「ほんとかぁ? なんでもいいけどよぉ、相手は10人をぶっ殺しちまいやがったガンダタだろぉ?」

現場にいた衛兵は様子をこう語る……

衛兵「ガンダタを一発ですよ。一発で倒しちまいやがったんでさぁ。強さへの憧れを通り越して恐怖って言うんですかね……ぶっちゃけ逃げ出したいくらいでしたよ」

手下「エフッ、エフッ」

衛兵「やべぇよ。アレは。俺命からがらでさ」

お頭「で、ガンダタはちゃんと殺ってきたんだろうな」

衛兵「へい。これを渡すように頼まれました」スッ

手下達「うぉぉぉ~~まじかよぉ~」

お頭「そうかィ。ちゃんと見てきてんだろうな? 殺したところを」ギロッ

衛兵「(まぁ、大丈夫だろ)……へい」

お頭「契約をきっちりやったってわけだ。なら、しょうがあるめェ」

手下「なぁなぁ? どこにパンチいれたんだ?」

衛兵「よく見えなかったけど。腹にじゃねぇか?」

手下「腹かよぉ。夜飯くったばっかだから、やべえな[

衛兵「胃が破裂するな」

手下「オイオイオイ、死ぬわw俺w」

お頭「ジャンはいつ頃戻ってくる?」

衛兵「さぁ。しばらくしたらとしか」

お頭「わかった……野郎ども! 月が傾いて二食形になりつつある! 就寝だ!」

衛兵「俺は城に戻りやす」ペコ

お頭「ああ。しっかりやれよ」

【宿屋】

魔法使い「……」ササッ

戦士「魔法使い。廊下でなにしてるんだ?」

魔法使い「戦士っ⁉︎ しーっ! しーっ!」

戦士「なんだ?」

魔法使い「……声を潜めて。ちょっと耳貸して」チョイチョイ

戦士「……?」

魔法使い「忘れたの? マク様が隣の部屋に止まってるの」

戦士「……いや、覚えてるが……」

魔法使い「話しかけるチャンスじゃない!」

戦士「どこかに行った様子だったが。部屋に帰ってきてるのかな?」

魔法使い「帰ってきてなかったらそれでいいの! はぁ~ドキドキするぅ」

戦士「くだらん。あたしは行く」

魔法使い「とかなんとか言っちゃってぇ~? 戦士もまんざらでもないくせにぃ」

戦士「あ、あたしはっ、前も言ったろ。きちんと話してからでないと」

魔法使い「そのわりにはぁ~。治療してもらってる間、顔真っ赤にしてたみたいのはどこのどちらさまかしら~」

戦士「……っ!」ボッ

魔法使い「ぷっ、わかりやすいのね。戦士って。ウブなんだ? 慣れてないんでしょ? 自分より強い男に会うのが」

戦士「し、師匠はあたしより強い!」

魔法使い「歳がひとまわりもふたまわりも離れてる相手……まぁ、そういのが好きってのもいるけど、戦士はそうじゃないでしょ? 親みたいな感覚なんじゃない?」

戦士「うっ」

魔法使い「マク様って、ぜぇぇぇったい、若いわよ。あたし達と同年齢ぐらいだと思う」

戦士「なんでわかるんだ?」

魔法使い「匂いよ、匂い。おっさん臭しないし」

戦士「に、匂い」(ドン引き)

魔法使い「私、こういう時の勘は外したことないの」

戦士「そ、そうなの?」

魔法使い「ねぇねぇ、戦士」

戦士「う、うん?」

魔法使い「どうする? マク様が一緒に鍛錬しないかって言ってきたら」

戦士「ええっ⁉︎ そ、それは……その、やぶさかではないよ、うん」

魔法使い「ふたりきりで?」

戦士「二人でも三人でも同じだ! 鍛錬してれば、雑念は消える!」

魔法使い「ほんとにぃ? マク様あんなに強いんだもの。動きに見惚れちゃわない?」

戦士「……見惚れる……」ポー

魔法使い「ねぇ? 今、妄想してるでしょ?」

戦士「なっ⁉︎ な、してないっ!」

魔法使い「いいじゃない。私達だってオンナなんだから。なんで隠すの?」

戦士「べ、別に話することじゃないだろ!」

魔法使い「共有しましょって言ってるのよ。武闘家とマク様の関係、怪しくない?」

戦士「元々、マクさんは武闘家の師匠である老人が知っていたんだ。なんら不思議はない」

魔法使い「さっきさぁ、マク様ってば、武闘家に話しかけてた。おかしくない? サイレントモンクなのに」

戦士「……」

魔法使い「なにかあるのよ。あのふたり」

戦士「……ふぅ、やっぱり、くだらん。あたしは寝る」

魔法使い「いいの? マク様が部屋にいるかもしれないのに」

戦士「魔法使いを見てると我にかえった」

魔法使い「あっそ。じゃあ、いいわよ。さっさと寝てれば? 私はマク様にぃ~ゴホン」コンコン

戦士「ちょ、深夜だぞ⁉︎ ノックするやつがあるか!」

魔法使い「寝てたら出ないでしょ! そしたら帰る!」

      「はぁい」

魔法使い「……っ⁉︎ お、起きてるっ⁉︎ ていうか、普通に返事した⁉︎ ど、どどどどうしよっ、戦士!」

戦士「し、知らないよっ! どうするんだよ!」

魔法使い「戦士が先に挨拶して!」グィッ

戦士「なんであたしなんだよ! 魔法使いだろ! 会いたかったの!」

魔法使い「恥ずかしくなったの!」

おじさん「……どちら様?」ガチャ

魔法使い&戦士「……へ?」

おじさん「……?」

魔法使い「あ、あのぉ~。マク、様?」

おじさん「マク? なんだそら?」

戦士「この部屋に宿泊しているはずなんだが」

おじさん「いんや。俺しかいないよ。お姉ちゃん達、マッサージにでも来てくれたの?」

魔法使い「……いえ」ブスゥ

戦士「す、すまない。どうやら、手違いがあったようで」

おじさん「はぁ?」

戦士「部屋を、間違えました……」

【宿屋 部屋】

僧侶「あはっ、あははっ、面白すぎですぅ~!」バンバン

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「魔法使いにも困ったものだ」

魔法使い「戦士だって少しはその気があったくせに!」

戦士「ないよ!」

魔法使い「いーや! あった!」

武闘家「明日はお城に行かなきゃ行けないんだ。さっさと寝るよ。……この子が起きちまうだろ」

少年「Zzz」

魔法使い「あいかわらずね。武闘家って世話やければ誰でもいいの?」

武闘家「アンタと一緒にすんな。この万年発情色情魔」

魔法使い「むぐぐ~~やめてほしいんだったら! マク様を紹介してよ!」

武闘家「できない。本人が望んでない」

魔法使い「なんでわか……っ、やっぱり、あの時なんか小声で話してたのはそのこと⁉︎」

武闘家「殴るよ? アタイは女同士だからね。優男みたいに躊躇しない」

僧侶「まぁまぁ~」

魔法使い「武闘家って前々から気に入らないと思ってたけどさぁ、なんだか最近ますますいやぁ~な感じ」

武闘家「なにも変わっちゃいないさ。そう感じるのは、アンタが嫉妬してるからだ」

魔法使い「なんですって⁉︎」キッ

僧侶「そこまでそこまでぇ~。女の敵は女といいますがぁ、本人がいないのに争っても意味ないですよぉ」

魔法使い「あんたはいいわよね。勇者一筋で」

僧侶「そうですねぇ~」ニコニコ

魔法使い「ほんっとに、あんなののどこがいいわけ? 理解できない」

僧侶「はいはい~理解できないのならそのままでいいじゃないですかぁ~」

魔法使い「どーしようもなくテキトーで、グーダラで、どこほっつき歩いてるかわかんなくて」

僧侶「そぉですねぇ~」

魔法使い「おまけにむっつりで、童貞で、たいして強くもなくて」

武闘家「いい加減にしなっ!!」

魔法使い「な……なにっ?」

武闘家「うるさいんだよ。アンタのオンナの部分がうっとおしい」

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「……もう、寝よう。今夜は、あたしらもおかしいみたいだ」

僧侶「一人の話題なんですけどねぇ~、くすくすっ」


【クィーンズベル城 郊外】

勇者「……」フラフラ

老人「これ、そこいく若者よ」

勇者「ん?」

老人「このような夜更けにどうした?」

勇者「じいちゃんこそ。俺は酒でも浴びたい気分なんだ」

老人「ふぇっふぇっふぇっ。お主、まだ若いじゃろ。なにを世に憂うことがある」

勇者「俺はさぁ、人間も魔族も、違いがわからねーんだよ。みんなは敵だなんだっていうけど、人間だって悪いことしないわけじゃないじゃん」

老人「人は、誰しもが宿命を背負って生まれおつるのよ」

勇者「……だぁったら教えてくれよ。ハッキリとした答えをくれよ! わかりやすくさぁ!」

老人「時がたてばわかる。お主の持つサダメが」スゥー

勇者「じぃちゃんが透けて見えるのは俺の目がいかれたんだろかねー」

老人「迷える勇者よ。砂漠の花を探すがよい」

勇者「……」

老人「太陽と雨が交わる場所に、一輪の花がある。その花を見つけた時に、また会おう」フッ

勇者「砂漠の花……太陽と雨が交わる……意味がわかんねぇっ……ての……」ドサッ

~~第3章『砂漠の花と太陽と雨と』~~(中編)

ここで一旦区切ります。
徐々にフラグ回収が進んでおりますのでたぶんですけど終えるのにあと100レス~150レスぐらいだろうと判断しました。

以前にちゃんと書いたら800レスぐらいだろうと書きましたがそんなもんじゃ終わらないのがこの時点で確定
適当なところで切り上げたいと思います

【翌日 早朝 クィーンズベル城 城門前】

兵士「えぇいっ、だまれだまれ! 身分を証明する物がないやつを通すわけにはいかん!」

魔法使い「だからさぁ~! メイドを呼んできてってお願いしてるだけだってばぁ!」

兵士「どこの馬の骨ともわからぬやつ! そんなやつの弁など聞く耳を持たぬ!」

魔法使い「そんな融通がきないこといいはって本当に知り合いだったらどうするつもり⁉︎ あんたよくそれで門番が勤まってるわね! 頭でっかち!」

兵士「なっ⁉︎ ななっ⁉︎」

僧侶「……じゃんけんっ、ぱー」

少年「あっち向いて、ホイ」

僧侶「あらあらぁ~、また負けちゃいましたぁ」

少年「あの……いいよ。お姉ちゃんに会えなくても。ウチに帰れば母さんがいるし」

魔法使い「そぉ? 姉と弟の再会を邪魔する兵士のせいでぇ~。ごめんねぇ~」

兵士「うぬっ」タジ

武闘家「そうは言っても伝言も預かってる。メイドには会わねばならん」

戦士「昨夜、あたしたちはならず者から彼女を助けてるんだ。後日、城に来るようにも言われてる。メイドからなにか聞いてないか?」

兵士「知らん」プイ

魔法使い「ほんとにぃ? 大目玉くらうのは兵士さんなんだからね?」

兵士「知らんもんは知らん! ……メイド様は姫様専属だ。私は普段会えないんだ」

僧侶「仕方ありませんねぇ~」

武闘家「? 少年を家に送り届けようというのか?」

僧侶「いえいえ~。これを拝見したいだたきたいのですがぁ」パサ

兵士「はぁ……なんだ? 紙切れを出されたところで一般人の入城は――」シュルシュル

戦士&魔法使い&武闘家「……?」

兵士「……っ⁉︎ こ、これはっ⁉︎」ギョ

僧侶「どうですかぁ? これなら許可をいただけると思うのですけどもぉ」

兵士「しっ、失礼いたしました! ダーマ神殿“法王庁”の御婦人でしたか!」

戦士「ダーマ……」

魔法使い「法王庁……っ⁉︎」

僧侶「師にあたる方が最高顧問を務めておりましてぇ~」

魔法使い「法王庁といえば特権階級にいる超エリート集団じゃない⁉︎ 僧侶って、そこから来たの⁉︎」

僧侶「はい~」

兵士「他三名はお付きの者でしょうか?」

戦士「誰が付き人だ!」

僧侶「くすくすっ、まぁまぁ~。穏便に済むのならいいじゃありませんかぁ」

武闘家「(こ、こいつ……いったい……)」

僧侶「行きますよぉ~。お付きの方々~」

魔法使い「(ダーマ神官の中でも選りすぐりの才能を持つ者だけ通れる狭き門。倍率はすごく高い。たしか……噂でつい最近、百年にひとりの天才を輩出したと……まさか……?)」

僧侶「さぁ、行きましょぉねぇ~」

少年「う、うん」

魔法使い「(ま、まさかねぇ……)」

【クィーンズベル城 玉座】

王様「よくぞまいった! オモテをあげラクにせよ」

僧侶「王様。ご息災であられましたでしょうか」スッ

王様「健康だけが取り柄よ。この地の気候はなににつけても暑い。過酷ではあるが、丈夫な身体にもなる」

僧侶「健康だけとは、ご冗談が過ぎます。クィーンズベルは陛下のご采配で民達の笑顔が守られているのですから」

戦士&魔法使い&武闘家「……」ポカーン

王様「此度(こたび)は、水不足の件で参ったのであろう? ワシも不安でじっとしておられなんだ」

王妃「法王庁に申請を出してから、よもやこんなにはやく対応していただけるとは」

僧侶「……? いえ、今回わたくしは、法王庁とは別件で動いております」

王様「なに? では、法王庁からの使者として参ったのではないのか?」

僧侶「おそれながら。わたくしは勇者様と行動を共に致しております」

王様「勇者……勇者だと……⁉︎」ガタッ

王妃「まぁ……懐かしい。十年前に見かけたきり。大きくなったのでしょうね」

僧侶「左様でございます、陛下。その旅の途中で御国に立ち寄る運びとなり、この子を……」

少年「……」オズオズ

王様「そうか……勇者がこの国にいるか……ならば後で挨拶にこさせよ。して、その子は――」

姫「失礼いたしますっ!!」バターーンッ

王妃「……なんですか、騒々しい……姫……あなた、自室謹慎処分だと……」

姫「お説教ならば後で! さ、メイド」

少年「あっ!」

メイド「あ……あぁ……っ!」タタタッ

少年「お姉ちゃぁ~~んっ!」タタタッ

メイド「あぁっ、よかったっ、ほんとにっ、よかったっ」ギュッ

少年「うぐっ、ひっ、うぁぁあんっ」ギュッ

王様「こ、これは……? どういう……?」

姫「お父様。家族の再会です。それだけなんですの」グスッ

【クィーンズベル城 姫の部屋】

魔法使い「わぁ、ベッドがおっきぃ~」

姫「横になってみる?」

魔法使い「そ、そんなっ、おそれおおいっ!」

姫「気にせずともよい。勇者のパーティであれば妾(わらわ)とっても友同然である。僧侶……といったな」

僧侶「ここに」スッ

姫「法王庁出身者とはまことであるか?」

僧侶「はい」

姫「その若さでか? 神官としての経験を積んではじめて選別されると聞いたことがあるが」

僧侶「良き師のお陰でございます。わたくしに力はなにもありません」

姫「謙遜するな。口利きで入れるというというのなら、格式と品格を落とす行為なるぞ」

僧侶「ごもっともでございます」

姫「役職はどこであったか?」

僧侶「……」チラ

戦士&武闘家&魔法使い「……」ジー

姫「なんだ? パーティの面々まで興味津々といった面持ちで眺めておるではないか」

少年「このお菓子おいしぃ」パリパリ

メイド「まだこっちにもあるわよ」ニコニコ

僧侶「内部事情をお話すのは戒律により厳しく禁じられているのでございます。どうか、ご容赦を」

姫「(つまんないんですの!)……そうか」

メイド「それで……勇者さまはいずこへ……」

戦士「ゆ、ゆうしゃはぁっ! どっかいっちゃったでありんすっ!」カチンコチン

魔法使い「ブフゥっ、あ、ありんすって」

姫「どこか? どこに行った?」

戦士「知らないです! 見取り図を持ってると伝えてくれと言われましたぁっ!」

姫「そう……やはり……」

メイド「姫さま。勇者さまが持っているのは幸いでございます。彼の方ならば、きっと悪いようには致しません」

姫「そうね……」

メイド「皆様、昨日は大変失礼を致しました。危ないところを助けていただいたばかりか、勇者様のパーティであることを疑ってしまい」ペコ

戦士「きっ、かかっ、きにしてなぁ~~いです!」

魔法使い「きゃはははっ!」バンバン

戦士「あとで覚えてろよ……」

姫「……堅苦しい挨拶はここまでにするんですの。メイド。皆さまに紅茶を」

メイド「ただいまご用意致します」ペコ

姫「――実は、実力者たる皆に折り入って頼みがあるんですの」

魔法使い「き、聞いたっ⁉︎ 実力者だって! 私たちののとかなっ⁉︎」

戦士「あたしたちしかいないだろ」

姫「なんです? 違うんですか? 法王庁出身とあれば疑う余地はないと思い、他三名もと思ったのですが」

僧侶「いえ。全員、“才能は”ピカイチの者たちばかりです」

姫「なにやら引っかかる物言いですの。まぁ、いいわ。頼みを聞いていただけるかしら?」

武闘家「……」

姫「貴女は先ほどからなにも喋っていませんね。どうですか?」

武闘家「アタイは、王族に興味ありませんので。内容を聞かずにはなんとも」

魔法使い「無礼よっ! お尋ね者になりたいのっ⁉︎」コソッ

姫「ふふっ、勇者は個性的な面々をパーティに選んだようなんですの。たしかに、まずはこちらからお話すべきでしょう」

僧侶「頼みとは……?」

姫「この国の財源が、脅威に晒されています」

戦士「脅威、ですか?」

姫「近く、わたくしの縁談があるのはご存知ですの?」

魔法使い「えぇと……?」

姫「省略しますと、盗賊団が宝物庫に忍びこもうとしているのです」

僧侶「まぁ……」

姫「勇者が盗賊団に接触しているので――」

魔法使い「え、えぇっ⁉︎」ガタッ

姫「……?」

魔法使い「あ、あわわっ、な、なんてこと。ついに悪事にまで手を染めるなんて」

戦士「いや、なにもまだそうと決まったわけじゃ。騙されてるのかもしれん」

武闘家「はぁ……」ガックシ

姫「……もしや? 貴女達は、勇者からなにも聞いてないんですの?」

メイド「姫さま」チラ

姫「……」コクリ

僧侶「皇女様。お話の続きをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

姫「いえ、やはり、やめにします」

魔法使い「や、やっぱりぃっ、ち、違うんですっ、あいつも根は悪いやつでは」

姫「お黙り」ピシャリ

魔法使い「は、はぃぃっ」シュン

姫「見取り図の件を知っていなければ、勇者のパーティではないと疑っていたところです」

魔法使い「は、はい?」

姫「なにも聞かされていないとは……貴女達、信頼されていないんじゃ?」

戦士「え……」

姫「成人の儀を終えた勇者が魔王討伐のため、アデルを出発すると各国に早馬が飛ばされたのが二週間ほど前。いつから一緒に旅を?」

僧侶「私達三名は翌日には帯同していたと思われます」

姫「三名? もう一名は?」

武闘家「アタイは、マッスルタウンについてからだから、半分ぐらいかな?」

姫「期間が短いとは言い訳になりません。貴女方は勇者に選ばれて旅を共にしているのでしょう」

魔法使い「い、いぇ~、最初は押しかけたっていうかぁ、私達の方から連れていってとお願いしたのでぇ」

姫「なんですの……?」

魔法使い「ですから、その、勇者と一緒に牢に入れられるのは……」

メイド「勇者様からのご指名を受けて旅をされてるのではないのですか?」

戦士「アイーダの酒場で待ってたんですが、勇者は“仲間は足手まとい”といって先に行ってしまったんです」

魔法使い「そうなんです! 私達もてっきり! 最初は凄く強い人なんだろーなーって思ってたんですけど!」

姫「……」ギュゥッ

メイド「姫さま」

魔法使い「それがぜんっぜん……てことはないけど、戦士と同じぐらいで」

姫「ほう。戦士とはそこまで強いのか?」

戦士「いや、あたしは、まだまだで」

姫「勇者は4歳で我が国の兵士長をデコピンで負かしたぞ。さぞや強いのだろう?」

戦士&魔法使い「へ……?」

武闘家「ごほんっ! あー、勇者はぁ、補助魔法を使うからなぁ!」

僧侶「勇者様の実力のほどはしかと。戦士と魔法使いは、その……」

姫「なんだ? さっきから黙って聞いておれば、妾の友をバカにしておるのか?」

メイド「ひ、姫さまっ! なりません! 勇者様が選ばれていないとしても! 共に旅することを認めておられるのです!」スッ

魔法使い「えっ? ど、どゆこと?」

姫「……そうですね」

戦士「(4歳の時に、兵士長をデコピンで? ははっ、さては冗談だな?)」

姫「失礼した。でも、貴女方に不満が残るのも事実です。勇者と連絡をつける方法はないんですの?」

僧侶「しばらく別行動をすると」

姫「なにか考えがあるようですね。しかし、その考えがわからぬことにはこちらも動きずらい」

メイド「しばらく、様子をみては?」

【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

ジャン「本日からはいりましたー! 新人のジャンくんでーす! よろしくねー!」

手下「なぁ、あいつがホントにガンダタ倒したのか?」

ジャン「陰口なら見えないところでお願いしまーす!」

お頭「おめぇらァっ! こいつはあのガンダタを殺してきたそうだ!」

ジャン「ナイフでグサーっとやったりました!」

お頭「功績を認め、団の幹部にとりたてるッ!!」

手下「お、お頭ぁっ! いきなり新人をそんな扱いをするんですかいっ⁉︎」

お頭「当たりめェよ! この団はいつから年功序列になった! 実力主義だろうがッ!」

手下「うっ、それは、そうですけどぉ」

ジャン「(ざまぁwww)」

お頭「納得いかねェやつは前でろ。ジャンが相手になる」

ジャン「……ん?」

手下「いいんですかい? 仲間内での殺しは……」

お頭「このアホたれ。誰が殺し合えといったんだァ。喧嘩は日常茶飯事だろうが」

手下「なぁ~ほどぉ。そういうことか」

ジャン「んん~?」

手下「俺やりやす! こいつは強そうに見えねぇ! きっとマグレだったんでさぁ」

お頭「俺も強さを直に見たわけじゃねェからな。素手でやれよ」

ジャン「……めんどくせぇ」

【数分後】

手下「」ドサッ

ジャン「どんなもんでしょ?」パンパン

お頭「……ワンパンか……つえぇな。貴族とたまに取り引きしてるが、武術に精通してるやつなんてめずらしいぜ?」

ジャン「そのめずらしいやつの中の一人なんですよ。ほかの皆さんも信じていただけましたけねぇ~?」

手下達「……」ゴクリ

お頭「くっ、だっはっはっ! 俺たちの団にようこそ!」

ジャン「取り引きが終わるまでの間ですけどね」

お頭「まぁ、そう生き急ぐなよ。こっちにこい。計画の詳細を説明する」

ジャン「(いよいよ核心に迫れるのかね。どうやって井戸の水を枯れさせてるのか……)」

手下「お待ちを。お頭。お客様です」ササッ

お頭「後にしろ。どうせ行商頼んでる水売りだろ」

手下「いえ、それが――」コショコショ

お頭「――なにィ? ……わかった。すぐいく」

ジャン「俺もご一緒しても?」

お頭「あ~? ん~、まぁ、いいか。そのかわり、なにも喋るなよ。口開いてご機嫌損ねたら舌を切るぞ」

ジャン「あいあいさー!」ビシッ

【廃墟付近】

お頭「お待たせしたな」

占い師「忙しいようだな。商(あきな)いは順調か」

お頭「お陰様で」

占い師「そちらの男は……?」チラ

ジャン「(まーた新しいやつが出てきた。フードを深めに被って顔はわからないが、女だな)」

お頭「ハーケマルの使者だ。なかなか使えるんで、仲間に抱き込んだ」

占い師「なに……? 間者ではないのであろうな。情報が筒抜けになるぞ」

お頭「金の魅力に取り憑かれてる男よ。なにかあった場合のケツは俺がとる」

占い師「……準備の進捗具合はいかが」

お頭「アンタに教えられた方法で、井戸の水を枯れさせてる。国相手となれば体力も尋常じゃねェ。困窮させるには期間を要する」

占い師「急いては事を仕損じるだけだ。かといって悠長に構えているつもりはない」

お頭「わァってるよ。ハーケマル王子の来訪に合わせられるように進めてる」

占い師「私の雇い主は気の長いお方ではない。計画が頓挫しようものなら、死を覚悟しろ」

お頭「その分、見返りはでかい。ハイリスクハイリターンってとこだな。俺にとっても国盗りの夢を叶える良い機会だ」

占い師「あのお方はクィーンズベルの没落を望んでおられる」

お頭「現政権を追い込んだら、俺を後釜に据えるという約束、忘れちゃいねェでしょうな」

ジャン「(そんな簡単にコトは済まんだろうに)」

占い師「覚えている。が、政権転覆となるとそうやすやすとはいかない」

ジャン「(そぉ~らきた)」

お頭「な、なんだとォっ⁉︎ 約束を違える気かっ⁉︎」

占い師「名家出身でもない、王族でもない、盗っ人なぞに国を任せると思うか? 第一、周辺国にどう認めさせる」

お頭「国を疲弊させれば、現在の王族は窮地に立たされ、民の信用を失い――」プルプル

占い師「……」

お頭「そう持ちかけてきたじゃねェかッ!!」ビシッ

占い師「王になったとて、その先になにを見る?」

お頭「“自由”よッ!!」

占い師「愚かな……」

お頭「王になりゃぁ、国を、兵を、財をッ! 好きなように操れるッ!!」

占い師「使者とやら。貴族であろう? こやつに王としての器があると思うか?」

お頭「言ってやれッ!! あるとッ!!」

ジャン「暴君としてならばあるんじゃないでしょかね? それか、独裁者か」

占い師「うふっ、はっはっはっ。暴君か。たしかに、それならば才気は望めそうだ」

お頭「暴君だァ?」

占い師「国をなんと見る? お山の大将よ」

お頭「お、オィ。誰にモノ言ってやがる」

占い師「国は、生き物だ。内政、物流、通貨、交通、さまざまな分野が折り重なり、人が生きて、国と成る」

お頭「……」

占い師「お前に国を任せたとしたら、5年もたないだろう。部下に殺されるか、民たちに殺されるか。そういう未来が見える」

お頭「な、なんだとォッ⁉︎」

占い師「盗賊として報酬を望め。その後は、このヤマから身を引け」

お頭「こ、このッ!」バンッ

占い師「……ふぅ。フードがうっとうしい」ファサ

ジャン「(若い。見た感じ俺とそんな変わらないぐらいか)」

お頭「魔族に会わせろ。オメェじゃ話にならねぇみたいだからな」

占い師「私に言っているのか?」

お頭「俺とジャンとオメェしかいねぇだろ!」

占い師「ニンゲンよ」

ジャン「(なんだ……この気配は……)」

お頭「あ……? あぐっ……⁉︎ アガガッ⁉︎」ガクッ

占い師「貴様に預けた水晶はどうだ。大切に持っているか……? ん?」

お頭「息がっ……! あぐぅぁあっ!!」ジタバタ

ジャン「(お頭には指一本触れてない。どうやってるんだ?)」

占い師「脆い生き物よ。脆弱で、浅はかで、欲深い。そなたたちが醜くければ醜いほど、憎めずにいる。そこのモノ、助けなくてよいのか……?」

ジャン「どうやって助けろというんです? 貴女の首をハネますか?」

占い師「試したらどうだ?」

お頭「ひゅー……ひゅー……っ」ドサッ

ジャン「いいんですか? お頭を殺せばこれまでの準備が全て無駄になっちゃうと思うんですけど」

占い師「……おおっ、そうであった」シュゥ

お頭「」ドサッ

ジャン「あの~結局あなたはなにしに来たので? からかいに来ただけ?」

占い師「いや、私は、お頭に用があって。……あれ?」

お頭「」

占い師「これ。起きろ。起きんか」ペチペチ

ジャン「代わりに聞いときましょか?」

占い師「やれやれ。ニンゲンは脆すぎていかん。そう思わんか」

ジャン「まるで自分が人間じゃないように言いますね」

占い師「あぁ……そうだな。気になるか?」ニタァ

ジャン「いいえ。ちっとも」

占い師「なんだ。肩透かしだな」

ジャン「俺媚びへつらうのは上に対してだけって決めてるんで」キリッ

占い師「なんぞ? 私はお前より下か?」

ジャン「誰かの指示で動いてるんだろう? あのお方と言っていた」

占い師「言ったが?」

ジャン「でかいヤマになればなるほど関わる人間は……あんたは人間じゃないかもしれないけど、数は増える。中間管理職に媚びたって、ねぇ?」

占い師「お前はさらに末端の下の下ではないか」

ジャン「違いない。だけど、計画を遂行するには、気絶してるお頭は必要だろ? ……話が逸れてる。なんでもいいから、用件があるならどうぞ」

占い師「小癪なやつだ。新しい水晶と古い水晶の交換にきた」

ジャン「なぜ?」

占い師「それは、水脈を止めるために決まってる」

ジャン「(いや、決まってるて知らねーし。調子合わせるか)……そうでしたね。さっきお頭から水脈を止める原理を聞いたばっかりで」

占い師「これには瘴気がつまってる」スッ

ジャン「らしいですね。それ使って逃げさせてるんでしたっけ?」

占い師「……」ギロッ

ジャン「(あら? 違った? 軽率だったかな?)」

占い師「……そうだ」

ジャン「(合ってるんかーい! ドキドキさすなこのボケッ!)いやぁ~しかし、便利なアイテムですねぇ。それどうやって使うんです?」

占い師「水脈には、地点地点に息吹が存在する」

ジャン「ほぉ」

占い師「割り振られた場所にコレを埋める。すると、水は玉から染み出す瘴気を避けるようにして逃げていく」

ジャン「ほぉほぉ。てことは、ひとつじゃないですな? 何箇所にも埋まってると」

占い師「定期的な交換が必要でね。これを持ってきた」ジャラジャラ

ジャン「(にー、しー、ろー、はー……10個か)」

占い師「穴が結構な深さになるから、これを別働隊に渡してほしい」

ジャン「(なんだ。結局どんなカラクリがあるかと思えば、アイテムか。つまんねーの)……かしこまりました。たしかに伝えときます」

占い師「あと、もうひとつ。これを渡しておく」

ジャン「(アイテムとかつまんねー。冷めた。なんだかすっごく冷めたわ)なんでしょ? 剣ですか?」

占い師「念のため、これを5個目の地点に一緒に埋めておけ。呪いをかけてある」

ジャン「どんな?」

占い師「お前は知らずともよい」

ジャン「あ、そう」スッ

占い師「……あの、本当に気にならないの?」

ジャン「え?」

占い師「や、普通だったら、こいつ何者だっ! とか、これにはこんな効果がっ⁉︎ とか」

ジャン「いや? 劇じゃないんだから用件が済んだなら帰れば?」

占い師「え……」

ジャン「あー、忙し忙し。お頭おぶっていかなくちゃ」ヒョイ

占い師「ちょ、ちょっとっ」

ジャン「ん?」

占い師「聞いて驚くがいい! その剣は呪われている!」

ジャン「聞いたよ」

占い師「うん、2回目……」

ジャン「じゃ、そういうことで」

占い師「聞くがいい! 私はっ!」

ジャン「……なによ?」

占い師「聞きたい?」

ジャン「いや」

占い師「……」プルプル

ジャン「わぁ~。すごいなぁ~。この剣にはこんな効果があったのかぁ~」

占い師「聞いてないじゃん! 知らないじゃん! どんな効果があるとか!」

ジャン「……話したいの?」

占い師「……」プィ

ジャン「あー、魔族ってのはどの種族だぁ?」

占い師「き、聞きたいっ⁉︎」

ジャン「教えてほしいなぁー」

占い師「ふふっ、いやしい人間め。そんなに魔族と会いたいか。欲に目がくらみ――」

ジャン「厨二病か。お大事に」テクテク

占い師「ま、まてぇいっ」ポンッポンッスポポンッ

ジャン「……?」

ベビードラゴン「オラがせっかく盛り上げた雰囲気さ、壊すでねぇっ!!」

ジャン「お、おお」

ベビードラゴン「なんで無視するだ! 人間のくせして生意気だど! 恥ずかしいと思わんのか!」パタパタ

ジャン「すまん」

ベビードラゴン「謝っで済むことか! せっかく、せっかく……クールな人間を演じて盛り上がってたんに!」

ジャン「本当にすまん」

ベビードラゴン「もっかい仕切りなおしだど。ちゃんどやれっぺな?」

ジャン「あ、ああ」

ベビードラゴン「ふふっ、いやしい人間め――」

ジャン「す、すまん。ちょっといいか?」

ベビードラゴン「なによっ⁉︎ 現場の空気乱さないでぐんねっ⁉︎」

ジャン「どうしても気になってることがあって」

ベビードラゴン「それ、解決しなきゃできそうにない?」

ジャン「うん、まぁ、そうだな」

ベビードラゴン「だぐぅ、ぺっこしかたねぇ。質問は一個だけだかんな。特別にこだえてやる」

ジャン「――……竜族だろ?」

ベビードラゴン「……っ⁉︎」

ジャン「……」ジー

ベビードラゴン「なしてそげなこと思うだ?」

ジャン「なんでだろうな?」

ベビードラゴン「オラは見ての通り、人間だど」パタパタ

ジャン「……そだな」

ベビードラゴン「変わったニンゲンだっぺね。いきなり人を竜族なんて」

ジャン「うん」

ベビードラゴン「あ~なんかシラケちまったよ。オラ帰る」

ジャン「うん、気をつけてな」

ベビードラゴン「おめっ! マジで言葉使いなんとかしろっ⁉︎ オラに馴れ馴れしいぞっ⁉︎」

ジャン「あんまりにも可愛いらしくて、つい」

ベビードラゴン「はっは~ん。そっちの欲か。けがわらしい」

【クィーンズベル城 訓練城】

兵士長「全体ッ! 休めッ!」

兵士達「はっ!!」ザッ

姫「兵士長。精が出ますね」

兵士長「皇女殿下でございませんか。最近は歳による衰えを感じておりまして……そちらの方々は?」

魔法使い「うわぁ……むっさくるしい場所……」

姫「客人です。暇なので城内を案内していたんですの。気になることもあったし」

戦士「いいなぁ、この空気。懐かしいなぁ」

姫「戦士は勇者と同じぐらいの強さだそうよ」

兵士長「っ⁉︎」ギョッ

戦士「あ、いや……」

魔法使い「らしくないわね、なに謙遜してんのよ。拮抗してたけど勝ったじゃない」

兵士長「かっ、勝った⁉︎ あの勇者にっ⁉︎」

武闘家&僧侶「……」

魔法使い「そんなに驚かなくても」

兵士長「驚かずにいられるか!!」

姫「して、そのチカラがいかほどか見てみたいと思ってね」

兵士長「……なるほど……よろしいでしょう。私も歳をくったとはいえより激しくレベルアップに励んでまいりました」

戦士「え? あたしがやるのか?」

姫「こわいんですの? 勇者に勝っておきながら、兵士長ごときが」

戦士「冗談にもほどが過ぎます。あたしはまだ修行中の身」

兵士長「これも鍛錬の一環だと思えば問題なかろう。私が相手だと役不足かもしれんが」

戦士「役不足って、そんなわけないでしょう。あたしは……」

武闘家「ちょっと待ってくれ」スッ

姫「どうしたんですの?」

武闘家「その……姫さま。ちょっと」チョイチョイ

姫「……?」テクテク

武闘家「戦士は気がついてないんですよ。実力差を。以前勝ったのも勇者に手加減されてて」コショコショ

姫「どうせそんなことだろうと見当はついてましたわ。身の程を分からせる良い機会です」

武闘家「それが、勇者はなぜか知らないけど、隠したいみたいで」

姫「隠したい?」

武闘家「アタイにも、直接口止めはしてきてないけど、なんていうか、言わないでほしいって雰囲気が伝わってきてて」

姫「……ふぅ~ん……」

僧侶「武闘家の言葉は真実です」

姫「そうなの?」

僧侶「私は、理由が、なんとなくわかるのですが……」

武闘家「な、なんだって?」

姫「して、理由とは?」

僧侶「おそらく、勇者として見てほしくないのだと思います」

姫&武闘家「勇者として、見てほしくない?」

僧侶「確証はいまだ持てませんが。考えを巡らせると、そこにたどり着くような気がしてなりません」

姫「なぜです? 比べるのもバカげていますが、王よりも尊い存在だと言えるかもしれない唯一無二なんですの」

僧侶「……そこに、根が張っているのではないかとぉ」

姫「わかるように説明なさい」

僧侶「生まれながらにして勇者。その孤独を想像した経験はございませんか……?」

姫「ないわね」キッパリ

僧侶「大抵の人は勇者に羨望の眼差しを向け、時には嫉妬さえ抱いていると思います。なぜか? 勇者が符号として成立してしまっているからです」

姫「……」

僧侶「恩恵とでも言いましょうか。様々な高待遇を約束され、魔王討伐という伝説に彩られた華道を進める」

姫「それで? 王族だって似たようなしがらみにとらわれているんですの」

僧侶「そうなのですが……勇者という職業は……」

姫「妄想はしなくてよいのです。“なにしろ勇者なのですから”」

僧侶「王族でさえ、色眼鏡で見てしまわざるを得ない存在なのです」

姫「あっ、当たり前ですのっ!」

僧侶「……」

姫「この世界の希望なんですのよ! 私達が勇者をサポートしなければ!」

僧侶「はい……おっしゃる通りです……」

姫「妬みなぞもっての他!」プイッ

僧侶「……そう、ですね……」

なんつうかつくづく面倒くさいやつだな、姫
独善的すぎて胸くそ悪い

>>540
あえてそう書いているのですよ
用心深く見えて割と簡単に言いくるめられる盗賊の頭

後付け感半端じゃなさそうな勇者の過去
殺人犯した奴に「一緒に旅をしないか」と言い出す情緒不安定な勇者

あえてそう書いているのですよ

>>544でした
あえてそう書いているのですよ
用心深く見えて割と簡単に言いくるめられる盗賊の頭

後付け感半端じゃなさそうな勇者の過去
殺人犯した奴に「一緒に旅をしないか」と言い出す情緒不安定な勇者

あえてそう書いているのですよ

続けます。

【クィーンズベル城 客室】

魔法使い「脳筋の戦士が試合を断るなんてめずらしいわね」

戦士「いやぁ~、うん、ははっ」ショボン

武闘家「大方また負けるのが怖かったんだろうさ」

戦士「むっ」

魔法使い「あ~、悪いこと言っちゃった?」

戦士「いや……。正直、なにも言い返せない」

武闘家「剣でもふってくるといいよ。身体を動かしてりゃ余計な考えは浮かばない」

戦士「う、うん。そうだな。そうする……」テクテク

武闘家「戦士」

戦士「なんだ?」

武闘家「自分に、負けるなよ」

戦士「……あぁ」バタン

魔法使い「ちょっと、もう少し優しい言葉かけてやりなさいよ」

武闘家「課題は見えてるんだ。立ち直るかどうかはあいつ次第だね」

魔法使い「……はぁ。つまんないなぁ~」

武闘家「マクでも探してきたらいいんじゃないさ?」

魔法使い「いい考え! ……待って、まだ街にいるの?」

武闘家「いると思うよ」

魔法使い「それならそうと早く言ってよね~! っと。それと、僧侶」

僧侶「はい~?」

魔法使い「あんたのその間延びした口調! 作ってたのがよぉ~くわかったわ! 今度からは普通に喋りなさいよ!」

僧侶「なぜですかぁ?」

魔法使い「たまぁ~にイライラするから。なんていうの? レスポンスが遅くて」

僧侶「はぁ~」

魔法使い「だからっ! そういうところ!」

僧侶「でもぉ、普段はこうですしぃ」

魔法使い「ハキハキ喋るのはよそ行き用ってわけ?」

僧侶「そうですねぇ~」

魔法使い「親しき仲にも礼儀ありなんだからね? たまには普通に喋ってくれると助かるけど?」

僧侶「善処いたしますぅ~」

魔法使い「……」ヒクヒク

僧侶「マクさんをお探しにどうぞぉ~」ニコニコ

魔法使い「もうっ! 本当につまんないんだから!」タタタッ バタンッ

武闘家「僧侶。聞きたいことがある」

僧侶「くすくすっ。わざわざ人払いしてまで~。勇者様のことでしょう~」

武闘家「そうだ。さっき、“勇者として見られたくない”そう言ったね」

僧侶「はい~」

武闘家「どういう意味だ? アタイも、勇者は勇者として思ってるし、見てる。それでいいと思ってる」

僧侶「根は深いのですよぉ~」

武闘家「だから、それが意味がわからないと」

僧侶「この世界は、長い間、宗教の観念が色濃いのですぅ~」

武闘家「……?」

僧侶「それもこれも、ルビス様を至上とする宗教主義が行政と思想に強い影響力を与えているからなのですがぁ~。武闘家さんは、ルビス様に対する信仰はいかがですかぁ?」

武闘家「アタイは、人並みぐらいだと思うけど」

僧侶「そうでしょうねぇ~、そう答えるでしょうねぇ~」

武闘家「……」

僧侶「このクィーズベルの皇女様も、そして、私も、武闘家さんも。生きる人々すべてがみぃ~んな勇者さまの影にルビス様の栄光を見ているのですよぉ」

武闘家「ルビスを、見てる……?」

僧侶「そもそも、勇者が凄いってなぜなんでしょうね~?」

武闘家「それは、“ルビスの加護を受けてて、魔王を倒すという伝説の存在だから”」

僧侶「そうですよぉ~。その言葉が自然と出てくるほど、私たちの生活の中にルビス様信仰はあるのですぅ~。人並みと答えた武闘家さんであっても~」

武闘家「……」

僧侶「誰が悪いではないのですぅ。でも、勇者さまはきっと、“そうなってみないとわからない”。そんな状況に苛まれているような気がしてぇ~」

武闘家「よく、わからない」

僧侶「申し上げてるじゃないですかぁ。私たちはおもんばかることはできても、勇者さまが抱える悩みやお立場には、なってみないとわからないのですよぉ」

武闘家「……」

僧侶「おそらく、さみしさ。私だったらと考えると、そう思います~」

武闘家「さみしい……って、あの勇者が?」

僧侶「単独で動かれるのを好まれる傾向にありますしぃ~。姫さまがおっしゃっていた、私たちが信頼されていないというお言葉。あれにはドキッとしちゃいましたぁ」

武闘家「勇者は強すぎるから、自分でやった方が効率いいからじゃないの?」

僧侶「それも可能性としてありますねぇ~。その方が手っ取り早い。そう考えているかもしれません~」

武闘家「……」

僧侶「人の心情を掴むのは、靄の中にいるようで難しいですねぇ~。決まったものではないのでぇ~」

武闘家「アタイ達は、勇者にどう接するべきだと思う?」

僧侶「……わかりません」

武闘家「……」

僧侶「望むように、ある程度の距離感を保ちながらがいいのか。それとも、こちらから踏みこむのがいいのか」

武闘家「さすが童貞だな。繊細な上にめんどくさい」

僧侶「まだ時間が必要だとも思いますしぃ~、このままだとなにも変わらないとも思いますしぃ~」

武闘家「アンタ、ちゃんと考えてるんだね」

僧侶「もちろんですよぉ~。将来の夫になっていただく方ですから~」

武闘家「訂正する。ヨコシマな考えだ」

僧侶「私の師ならなんて言葉をなげかけるのでしょう~……」

【クィーンズベル城 南西方向 廃墟付近】

手下「ジャンさーん! スコップ持ってきましたよー!」

ジャン「オラララララァッ!!」サクサクッ

手下「す、すげぇぇ。スコップの二刀流だ」

ジャン「野郎ども! 手を休めないで掘れ!」

手下達「へいっ!」

ジャン「ギガ・ドォリルゥゥゥゥッ!!」サクサクサクサクッ

手下「な、なぁ……なんで、あの人が仕切ってんだ?」

ジャン「私語するなって言ってるだろうが! 日が暮れちまうぞ!」

手下「……へい」

ジャン「あーはっはっはっ!! 豆腐のような土じゃないかァッ!! いいゾォ~これ!」サクサクッ

手下「ジャンさん」

ジャン「……」ギロッ

手下「ひっ」

ジャン「俺は今なんつった? 波紋を……いや、スタープラチナ召喚してほしいのか……?」

手下「スタープラチナ……? い、いや、業務報告です。埋める物なんですが」

ジャン「そして時は止まる」ズギュゥゥン

手下「は、はい?」

ジャン「なんだよー。ノリ悪いなぁ。そこはURYYYも知らないの? 漫画ぐらい敬意をこめて読め」

手下「(へ、変人だ……)掘り起こした玉なんですけどね」

ジャン「新しいやつはこっちね」ジャラ

手下「了解です」

ジャン「(中身はただのビー玉にすり替え済みだけどな)」

手下「あと、剣なんですけど」

ジャン「あぁ、そういやあったな」

手下「これ、いかにも禍々しいオーラを放ってて。みんな怖がって持ちたがらねぇんすよ」

ジャン「呪いのアイテムらしいよ」

手下「ジャン殿にお願いしていいですか? なんだか妙に古めかしい作りしてますし、とんでもない呪いだったらと思うと恐ろしいんで」

ジャン「なんだなんだぁ? 盗賊団ってのは腰抜けばかりかぁ?」

手下「俺たちゃ、いわくつきとか得体の知れないものは嫌いなんでさぁ」

ジャン「まったくぅ。いいか? 見てろ? 呪いなんてものは大抵迷信なんだから」カチャン

手下「ちょっ、ちょちょっ⁉︎ な、なにをする気でっ⁉︎」

ジャン「なにって、鞘から抜くんだよ。刀身を」スラァ

手下「あーーーーっ!! あんたなんばしょっとぉっ⁉︎」

ジャン「む……こ、これは……」

手下「ひ、ひぃぃぃっ⁉︎ わざわいがぁっ」ササッ

ジャン「……なんもねぇわ」ポコン

手下「あいてっ! え? そ、そうなんですか?」

ジャン「見てみりゃわかる。ただの普通の剣」チャキ

手下「切っ先こっちむけないでくださいよっ⁉︎」

ジャン「(本当に普通の剣だな。なんでこんなもん埋めさせようとしたんだ?)」ジロジロ

手下「え、ジャン殿。なんか、気のせいですかね」ゴシゴシ

ジャン「……なに?」

手下「しり、尻が光ってますよ」

ジャン「んなバカな……」クルッ

手下「やっ、やっぱり呪いがっ!!」

ジャン「ほ、本当だ……えっ、なにこれ、痔になる呪い? そ、そんな呪いあり?」ペカー

手下「知りませんよ! きっと死ぬまでいぼ痔だが切れ痔に悩まされるんですよぉっ!」

ジャン「おおお、おちっ、おちけつっ、そ、そんな呪いがあるはずが……ケツ? ケツだって?」

手下「ほらぁっ! 剣まで光ってきてますしぃっ!!」

ジャン「な、なんだこれ……」ゴゴゴゴォォッ

手下「とんでもない呪いだったんですよぉっ! 抜くからぁっ! 本当バカバカバカバカンス!」

ジャン「……手下。俺、思い出した」ゴゴゴゴォォッ

手下「な、なにをです?」

ジャン「セリフな。そして時は止まるじゃなくて、動きだすの間違いだったわ」ゴォォオオオオオオッッ

手下「どうでもいいだろバカやろーーっ!!」

【竜王城 玉座】

シンリュウ「おはよ」

ベビードラゴン「もうお昼だすよー。お寝坊さんですねー」パタパタ

シンリュウ「まだ眠い」クァ

ベビードラゴン「昨日、オラが帰ってくるころには寝てたじゃないですかぁ」

シンリュウ「んだなすぅ。眠くて眠くてぇ」

ベビードラゴン「ほっといたら数年寝てそう……」

シンリュウ「ニンゲンにはあってきたんだっぺ?」

ベビードラゴン「もたろんだすっ! ちゃぁ~んと言いつけを守ってきたっすよ!」

シンリュウ「勇者はクィーンズベルの近くにいるはずだなす。ちょっかいを出してどう動くか観察するべよ」

ベビードラゴン「国も潰せれば一石二鳥ですしねっ、ニシシッ、さすが竜王さまぁ~っ! あったまいい!」

シンリュウ「……あんれ?」

ベビードラゴン「どないしただす?」

シンリュウ「玉座の横に置いてあった、“ロトの剣”があったっぺよ? あれ、どこさ持っていっただ?」

ベビードラゴン「それなら、言いつけ通り、盗賊団に渡しただよ」

シンリュウ「誰の言いつけだっぺ?」

ベビードラゴン「やだんもぉ~。シンリュウ様に決まってるじゃないすかぁ」

シンリュウ「わだすが、いつ、どこで、何時何分何十秒にそげなこといったのよ」

ベビードラゴン「呪いの剣を埋めておいてって言われたではないずかぁ」

シンリュウ「それは言った。でも、この城の別の部屋にある“血塗られた剣”な?」

ベビードラゴン「え……」

シンリュウ「んでもって、ここに置いてあったのは“ロトの剣”な?」

ベビードラゴン「あ……」

シンリュウ「んで、最初に戻るけど、わだすがいつ言ったのよ?」

ベビードラゴン「あぁ~用事思い出したっ! いっげね、こうしてる場合じゃ」パタパタ

シンリュウ「待てコラ」ガシッ

ベビードラゴン「ひっ」

シンリュウ「おめぇ……まさか、まさか、まさか、勇者が近くにいるのかもしれねってのに、わざわざ、ロトの剣を置きにいったのけ?」

ベビードラゴン「の、呪われてただすっ! それは間違いねぇすよ!」

シンリュウ「あの剣はなぁ、多くの魔物の血を吸ってる。呪われてるのは当たり前なのよ。でも、勇者が抜くと浄化される」

ベビードラゴン「へ、へぇ~」

シンリュウ「勇者、いま、どこにいるんだっけ? マーキングしてるんだべな?」

ベビードラゴン「……んだなすぅ。サキュバスが服につけてるから。クィーンズベルの宿場のはずだす」

  ゴゴッ  ゴゴォッ  ゴゴゴゴォォッ

シンリュウ「んだ……地震か? 火山でも噴火したかな?」

ベビードラゴン「(誤魔化すチャンス!)み、見に行くっぺ! 竜王様!」

【アデル城】

大臣「お、王様っ!! あれを!」

王様「うむ! あれは、あの光の柱は……っ!」

大臣「見てください! 空にくっきりと紋章がっ! あれこそがっ、まさに伝説の……“ロトの紋章ッ”!!」



【ダーマ神殿】

大司祭「おおっ! つ、ついに……! ついに勇者様が伝説の宝具のひとつ、ロトの剣を……!」

子供達「わぁ~。見て見てぇ。線が一直線に伸びてるぅ~」

神官「そんなっ! これほどはやいとは……! ルビス様のお導きに感謝しなければ……!」

大司祭「こうしてはおられん! 子供達よ! 賛美歌の準備を!」

子供達「はーいっ!」タタタッ

神官「祝福を! 勇者の旅路にさらなる栄光が降り注ぐよう!」

  喜び、それは、美しき神々の閃光。
  楽園からの乙女。

  われらは熱情に酔いしれて
  汝の聖殿に踏み入ろう。

  汝の魔力は世の習わしにより
  冷たく引き離されたものを再び結び付。

  勇者の優しき翼のもと
  全ての生物は兄弟となる。


【クィーンズベル城 姫の自室】

メイド「ひっ、姫さまぁっ!」バターン

姫「ええ、ええ……っ! 窓から見てる……っ、ああ、なんという……神々しい光なんですの……」

メイド「お城中、いえ、国中大騒ぎです! あの規模の光なら、アデル、クィーンズベル、ハーケマル……全ての大地から確認できるでしょう!」

姫「勇者……」



【クィーンズベル城 鍛錬場】

戦士「これは、どうしたことだ……」



【クィーンズベル城 客間】

武闘家「す、すごい……なんだ、あれは……」

僧侶「……」ジー



【クィーンズベル城下町 宿場】

魔法使い「なに……あれ……」ポカーン

【数十分後 魔王城 玉座】

シンリュウ「失礼いたします」ギィ

魔王「きたな。ひざまずけ。そして舌を噛んで死ね」

シンリュウ「……せめて、経緯を」

魔王「聞くまでもない。数十分前に、人間界でロトの紋章が確認された。その振動はこちらの“裏の世界”まで轟くものであった」

シンリュウ「……」

魔王「……シンリュウよ。勇者に、お前が保管するロトの剣を渡したな……?」ゴゴゴッ

シンリュウ「……」

魔王「余を、この私に対して、背信行為を働いたのだな?」

シンリュウ「誓って、そのようなつもりはなく」

魔王「結果はどうであれご覧の通りだ。人間達が活気づく。貴様はそれに加担した」

シンリュウ「……はい」

魔王「これまでの功労を讃え、一日の猶予をやる。それまでに後任の竜王を決めておけ」

シンリュウ「はい。もったいなきお言葉」

魔王「竜王よ。私は、ガッカリしたぞ」

シンリュウ「……っ」ギュゥ

魔王「……行け。二度とその顔見とおない」

シンリュウ「失礼、いたします」

【魔王城 通路】

ベビードラゴン「りゅ、竜王さまぁ、あのぅ~」シュン

シンリュウ「なにも喋るな。城に帰るぞ」

ベビードラゴン「ひぐっ、ず、ずびませぇ~ん」

サキュバス「くっくっ、あっはっはっ!」

リリス「竜王の失態! 大っ失態っ!」

シンリュウ「……」

ベビードラゴン「淫夢族……」

サキュバス「まだ生きながらえていたとはね。魔王様の前で命乞いでもしてきたか?」

リリス「サキュバスさまぁっ、そんな傷口に塩塗ったらかわいそうですよぉ~。どうせ極刑は免れないんですからっ」

ベビードラゴン「きさまらぁっ! こちら竜王様であらせられるぞ!」ギロッ

サキュバス「廃位される王でしょ? ……そうよね? 竜王殿?」

ベビードラゴン「え……そ、そんなっ、竜王様っ! うそ、うそですよね……?」

サキュバス「魔王様は一度下した決断を覆したりはしない。なぜなら、絶対王だから」

シンリュウ「……退け。淫魔の王よ」ギリッ

リリス「あらあらぁ? よくみたら拳握りしめてぇ。我慢してらっしゃるのぉ?」

サキュバス「それはいけないねぇ。我慢は身体に毒だ。我らでガス抜きをしてやろうか」

ベビードラゴン「……お、オラのせいで……」プルプル

サキュバス「オマエが気に病むことはないのよぉ~? 子の失敗は親の責任。部下もまた、然り。ね?」ニタァ

シンリュウ「ふぅ……五月蝿い。そこを退けと言った。いくぞ、ベビー」コツコツ

サキュバス「――……貴様ッ!! 自分のしでかしたことがわかっているのかッ!! 竜王ッ!!」

シンリュウ「……」ピタ

サキュバス「勇者にロトの剣を差し出すようなマネをしおってっ!! あの勇者に……ッ!!」

シンリュウ「……これはこれは。そういえば淫王は勇者にこっぴどくやられた経験がおありでしたね?」

リリス「さ、サキュバス様ぁっ。薮蛇ですよぉ~」

サキュバス「貴様は対峙したことがないからわからんだけなのだ! 魔王様に対する脅威! その脅威に更に力を与えたことを責めておる!」

シンリュウ「責任は、とれない」

サキュバス「ぬけぬけと……ッ!」

シンリュウ「……次の竜王に望みを託す。私は、これまでのようだから」

ベビードラゴン「りゅっ、竜王様ぁっ!」ウルウル

シンリュウ「城に帰る。お前まで何度も言わせるな」

【魔王城 玉座】

魔王「おのれ……っ!」ブンッ カランカラン

大臣「魔王様。おいたわしや」

魔王「なぜだっ! なぜこうも勇者に関わることになると裏目にでるっ!」

大臣「竜王は、あやつの落ち度で……」

魔王「今回だけではない! 成人の儀まで見つけられなかったこと! ……これではまるでなにか強力な“引力”が働いてるようではないか⁉︎」

大臣「お気を強くもたれなさいませ」

魔王「弱気ではないッ!出来過ぎていると申しておるのだッ!」ゴォッ

大臣「ひっ」

魔王「余は腹心の一匹を失う! 勇者は新たな力を手に入れた! やつの失ったものはなんだ……? やつは、なにをした? なにもしていないではないか……」

大臣「我々の自爆でございますに」

魔王「竜王はバカではない!」

大臣「左様でございます。しかし、部下の管理がなっていなかったのは……」

魔王「……」

大臣「ご心中お察しいたします。今代の竜王の代わりとなるものは、間違いなくまた弱くなるでしょうから」

魔王「……」ギリッ

大臣「明日、処刑を執り行います。竜王が逃げないか監視をつけますか?」

魔王「心配は無用だ。アレはそういうタマではない。甘んじて死を受け入れるだろう」

大臣「御意に」

【クィーンズベル城 南西方向 廃墟付近】

ジャン「お~いてて」ムクッ

手下達「」

ジャン「全員気絶してら。すっごい衝撃波だったもんなぁ」チャキ

テレレ レッテッテッテッテー
▼勇者はロトの剣を手に入れた!

ジャン「なんだろう。なにも努力してないのに手にいれた有り難みのなさ……」

  ドドドドドッ

ジャン「ん? 馬の蹄の音……?」

兵士「こっちだぁーっ! こっちの方角から光の柱があがったぞーっ!」

ジャン「おや? あれはクィーンズベルの兵士達でない? さてはさっきので……手下達を起こさにゃ」

手下達「」

ジャン「いや……でも待てよ? 弟は取り返した、井戸が枯れた原因は突き止めた、盗賊のアジトもわかった、どの魔族かもわかった……あれ? 俺なんで穴掘りなんかやってたんだっけ……」

手下「う、う~ん」

ジャン「あれれ? これってもう俺ってば、お役御免でいいんじゃない?」

手下「うぅ……さっきの、光はいったい……」ムクッ

ジャン「ていっ」トスッ

手下「あふん」ドサッ

ジャン「アジトで気絶してるお頭も捕まるだろうし、あとは兵士達にお任せして俺はトンズラすっか」

手下達「」

ジャン「俺を恨むなよ……。恨むなら自分達の不運を呪うがいいっ!! さらばだっ!!」シュタッ

【竜王城 玉座】

シンリュウ「ふぅ……次期竜王の選別を行う。カイザードラゴンを呼んでまいれ」ドサッ

ベビードラゴン「オラのせい、オラのせいで」ブツブツ

シンリュウ「ベビー……」

ベビードラゴン「……うっ、そんなっ、うぅっ……」ポロポロ

シンリュウ「ベビー!」バンッ

ベビードラゴン「……っ!」ビクゥ

シンリュウ「済んでしまったことだ。気にするのはおやめ」

ベビードラゴン「でっ、でもっ」

シンリュウ「これからのことを考えねばならない。一族を守る。それだけを考えるのだ。魔王様の取り計らいで、わたしだけで済んだ。それで良しとしよう」

ベビードラゴン「りゅぅ、おうさまぁっ」

シンリュウ「よくお聞き。我ら魔族は魔王様の圧倒的カリスマで統率を保っておるが、各種族の横繋がりは薄い。いがみあっておると言ってもいい」

ベビードラゴン「……」

シンリュウ「我が背信行為をしたという事実。その責を問い、末席に追いやろうと計略するものがいる。誰か、わかる?」

ベビードラゴン「サキュバス、ですか?」

シンリュウ「そう。あれはしたたかだ。他の獣王や巨人王は知能が足りない。サキュバスは、これを機に魔王様のご寵愛を一身に受けようとするはず」

ベビードラゴン「(竜王さまをオラの前でバカにした……! 報いは必ず万倍にして返す……!)」

シンリュウ「後任の竜王には、辛酸を舐めさせような辛い思いをさせることだろう。残念だが」

ベビードラゴン「そっそんなっ! 竜王様はなにも悪くないとオラが言います!」

シンリュウ「やめよ」

ベビードラゴン「なっ、なんでだすかぁっっ⁉︎」

シンリュウ「既に裏世界でも噂になっておろう。私の部下が、ロトの剣を渡したと。ベビー、お前の話題だ」

ベビードラゴン「だっ、だからっ! 私が責任をもってっ!」

シンリュウ「生きよ。生きて立派に魔王様、次期竜王に忠をもって尽くせ」

ベビードラゴン「……っ」

シンリュウ「奪還しようにも時間がなく、勇者はもはやどうしようもないが、やらかした責任は私が墓まで持っていく」

ベビードラゴン「い、いやだぁっ!」ポロポロ

シンリュウ「これがお前の罰なのだっ!!」バンッ

ベビードラゴン「堪忍してぇっ。竜王様だけを逝かせるなんて」

シンリュウ「くるしかろう。死ぬよりももっと辛い想いを抱いてこれから生きていかなければない。何度も思い出して、後悔して……それでも、腐らず前を向いて生きていかなければならない」

ベビードラゴン「うっ、うっ、うわぁぁぁあんっ!」ポロポロ

シンリュウ「生きる。それがお前に化す、わたすからの罰」

ベビードラゴン「……うっ、うっ……」ポロポロ

シンリュウ「わたすが死ぬことで同族からも忌み嫌われるだろう。耐えて、必ずやわたすの志を紡いでおくれ」

ベビードラゴン「あぁあぁぁっ! びぃやあああっ」ポロポロ

シンリュウ「……よいな。なにもするな。さぁ、カイザードラゴンを呼んでまいれ」

【竜王城 通路】

カイザードラゴン「どのツラさげて……ッ!」ビターンッ

ベビードラゴン「竜王様が、およびでずっ、ぐすっ」

カイザードラゴン「貴様……なぜ泣いているのだ。まさか、竜王様の前で泣いていたというつもりか……?」

ベビードラゴン「……ぐすっ、うっ……」

カイザードラゴン「バカも休み休みにしろ! 泣きたいのは我らだ!竜王様だ! お前以外の一族全員だっ!! このッッ大戦犯めッッ!!」ゴォッ

ベビードラゴン「ず、ずびませぇ~ん」

カイザードラゴン「竜王戦の元にいく。少しでも申し訳ないと思うなら、明日の朝日の前に……自決しろ」

ベビードラゴン「竜王様はぁ、オラに生きろって……」

カイザードラゴン「な、なにぃっ⁉︎」

ベビードラゴン「……」シュン

カイザードラゴン「もし、もしも、私が次期竜王になったら、即座に八つ裂きにしてやる……!」

ベビードラゴン「うぅ……それじゃ、竜王様との約束が……」

カイザードラゴン「約束もへったくれもあるかッ! お前は生きていることが罪なのだ! その罪を! 私が断罪してやるっ!!」

ベビードラゴン「……」

カイザードラゴン「かばいだてするものは誰もいないぞ。勇者の元に行って、剣を奪還してくるぐらいの気概を見せたらどうだ」

ベビードラゴン「勇者の、元に……」

カイザードラゴン「竜王さまは生きておられる。お前にできることをしろ。一族のために。面汚しめ!」

ベビードラゴン「(そうだ。勇者を探して剣を取り返せば……! 竜王さまも……っ!)」

【竜王城 玉座】

カイザードラゴン「馳せ参じました」

シンリュウ「優秀な個体を見繕っておくれ。お前の選んだ者の中から次期竜王を決める。無論、候補者にはカイザーも――」

カイザードラゴン「その前に! たしかめるまでもないですが……竜王様の口から直接! 噂の真相をお聞かせ願いたい!」

シンリュウ「噂には尾ひれがつくもの。ベビーは私の指示にしたがったまで」

カイザードラゴン「この後に及んで虚言を申されるのですかッ⁉︎ やつがロトの剣を持ち出したのでしょう⁉︎」

シンリュウ「それも、すべて、私のせいだ」

カイザードラゴン「では! 竜王様自らが勇者にロトの剣を渡したとお認めになるのですかっ⁉︎」

シンリュウ「そうではない。認めれば一族に災いがふりかかる。任せるものを間違えた。その責は私にあると言っておる」

カイザードラゴン「ベビードラゴンの処刑を今すぐにご下命ください! 我らの憤りは万の言葉をもってしても解消できませんっ!!」

シンリュウ「カイザー。いつも通り話すっぺ」

カイザードラゴン「……」

シンリュウ「ベビーはたしかにやらかした。んだども、なんとか、生かしてやっておいでぐんね?」

カイザードラゴン「アホぬかせぇっ! そったらこと認められっかあっっっ!!」

シンリュウ「おめぇらの憤りもわかる。でも、でもな? あいつのポテンシャルは、一族の誰よりだかいのよ」

カイザードラゴン「そっ、そったらこと」

シンリュウ「魔族は全体的に、世代交代するにつれてどんどん弱体化してってる。魔王様もお気づきのことなんだろうけどな」

カイザードラゴン「それがなんだっていうんだ! 人間より弱くならなきゃいいでねかっ!」

シンリュウ「わだすも同意見。だけんど、勇者っていう強力な個体がいる今、ちょっと不安。ちょっとだけな?」

カイザードラゴン「たかがにんげんだっ!!」

シンリュウ「それもそう。実際に力比べしてくりゃよかったと今になってさ、思うんだ。サキュバスが怯えきってるのがどーにもひっかかる」

カイザードラゴン「淫夢族など! 力はあまり強くないでねぇかっ!」

シンリュウ「ふふっ、わたすも死ぬと決まるまではなにからなにまでおんなじこと思ってた。ベビーは生きさせてあげてよ」

カイザードラゴン「……りゅ、竜王様……っ!」

シンリュウ「あの子が成長するまで、見守ってあげで。それが、一族のためになるがら」

カイザードラゴン「ば、ばかなっ!」

シンリュウ「呑んでくれれば、次期竜王選出なんで形だけでカイザーを指名してあげる。……遺言、聞いてくれるよな?」

カイザードラゴン「そっ、それでいいのか……大罪人になって、同族からツバをかけられるぞ」

シンリュウ「しかたねぇっぺよ。どうせ死ぬんだ。なにも怖いものなんかねぇ。屈辱は耐えればいい」

カイザードラゴン「……バカな王だ……」

【数時間後 宿場】

勇者「ふぅ~、着替え完了っと。パーティメンバーどもはまだ道草くってんのか」パンパン

店員「あれ見たかよ! なんでも勇者様がこの国にいるらしいぞ!」ザワザワ

勇者「……」ササッ ピトッ

おじさん「でも、兵達が現場についたら盗賊団の一味しかいなかったって噂だけど。行列作って表通りを連行されてたじゃないか」

勇者「(よしよし、ちゃんと捕まえたみたいだ)」

店員「勇者様がいるのに疑う余地なんかないだろ。だって、光の柱があったんだから――」ザワザワ

勇者「うーん、どうしたもんか。このままノコノコとでてってパレードなんて開かれてもな。かといってこのまま消えちゃ鏡を探し出せてないし」

コンコンッ

勇者「おっ、ようやく帰ってきたか。今あけるよ」テクテク ガチャ

占い師「……」

勇者「あれ、お前――」

占い師「勇者は、どこだ」

勇者「うぅん、ごほん。……勇者? 誰だそれ? 人違いだよ」

占い師「嘘をつくな。マーキング反応が……っ⁉︎」ギョッ

勇者「マーキング? そんな犬猫じゃあるまいし」

占い師「……お前か……オマエが、勇者か……?」シュゥゥゥ

勇者「(なんだ、息が、できない)」

占い師「剣は、どこだッッッ!!」

勇者「かっ、かはっ、剣なら、背中に」キラン

占い師「……なんだ、その色はッ⁉︎ 剣は禍々しい紫だったはず、純白に輝いて……ハッ⁉︎」

シンリュウ『あれは多くの魔物の血を吸ってる。勇者が抜ぐど浄化されんのよ』

占い師「(間違いない……! こいつが、勇者……!)」

勇者「今度は俺じゃなくて、剣が、有名人か?」ガクッ

占い師「――どっちもに決まってるだろうがクソやろおおおおおッッ!!」ゴゴゴゴゴッ

勇者「おっ、息ができるようになった」

占い師「魔王様にッ!! 竜王様にあだなす勇者めっ!!」ギロッ

勇者「俺、なんかした?」

占い師「ぬぅぅぅっ!!」ゴゴゴゴゴッ

勇者「ちょっとストップ。ここでおっぱじめるの? 一般人多いから場所移さない? 日中だし」

占い師「しるかぁぁああああっ!!」

勇者「あぁそうかよ。だったらちょっと痛いけど我慢しろよ」シュン

占い師「……ッ⁉︎ き、消えッ⁉︎」

勇者「ふっとべ」ズパァァァァァンッ

占い師「ぎゃぅッ!」バコーーン ヒュー

勇者「昨日の件といい。修理代だけで何万ゴールドとられるのやら……はぁ~」ガックシ

【クィーンズベル 郊外】

占い師「ぬぅぅぅっ!!」スポン ポン ポポポンッ

ベビードラゴン「――ぷはぁっ! ん、んだぁ? いまのパンチは……」キキッ

勇者「おーーーいっ」ダダダッ

ベビードラゴン「いてて……」パタパタッ

勇者「おーーいってば~! 俺は空までサポートしてないんだよー! 降りてこいよー! じゃないと撃ち落としちゃうぞー!」

ベビードラゴン「だれがおめぇの言う通りになんかすっか! くらえっ! 火炎の――」

勇者「ライデイン」ピュン

ベビードラゴン「わっ⁉︎」バサッ

勇者「ホッホッホッ。あなたにこのフリーザ様のデスビームを避けられますかねェ」ピュン ピュン

ベビードラゴン「ちょっ⁉︎ まっ! っとぉっ! わぁっ!」バサッバサッ

勇者「ほぉ、避けてるってことは稲妻の速度が見えてるのか。すげーじゃん。今まで出会った中でお前がはじめてだ」ピタ

ベビードラゴン「はぁっ、はぁっ、お、おわった……?」

勇者「ライデインver.2」バチ バチバチィ

ベビードラゴン「な、ななななっ⁉︎」

勇者「ここまで私をコケにしたのはあなたがはじめてですよ……ジワジワとなぶり殺しにしてくれるっ!!」クワッ

ベビードラゴン「な、なんだかわかんないけど、火炎の息ッ!!」スゥゥゥ

勇者「フバーハ」ポワァ

ベビードラゴン「ばかめっ! これは魔法なんがじゃねぇっ! 耐火魔法でふせげると思うなよっ!!」ゴォォォッ

勇者「そ、そうなん? え、じゃあ、どうしよ。しまった。フリーザも変身前にやれって誰かが言ってたの。先手必勝の教えを活かせなかった」アタフタ

ベビードラゴン「(かっ、勝った! 骨まで溶けておしまいだっ!!)」ボォォォォッ

勇者「えーと、とりあえず、格好だけでもつけとくか」スラァ

ベビードラゴン「しねぇっ!! 勇者ぁっ!!」

勇者「ほいっ」ブンッ

――シュパァァァァァン――

ベビードラゴン「……え?」ブシュゥ

勇者「お、おぉ……マジかよ」

ベビードラゴン「な、なんだ、今のは」ヒュー

勇者「(俺が聞きてえよ。この剣は……離れてる相手を切るとか斬撃が飛ぶとか、そんなチャチなもんじゃねぇ……炎を、まるごと“空間を切り裂いた”……?)」

ベビードラゴン「あぅっ」ドサッ

勇者「なんというチート。こんなもん使って歴代の勇者は戦ってきたの? そら勝てるわけじゃん。こりゃ封印たな」チャキン

ベビードラゴン「……うっ、く、ぐぞぉっっ!」ググッ

勇者「ちょいまち。結構パックリ切れちゃってるだろ。今回復してやっから。ベホマ」ポワァ

ベビードラゴン「か、回復なんかすんなぁっ! おめぇ、魔族の誇りに泥をぬって辱めようというんだな! さすが勇者汚い!」

勇者「褒めてるのか貶してるのかよくわからん」ポワァ

ベビードラゴン「やめっ、やめろぉぉぉっ」ジタバタ

勇者「治してるそばから傷口開いてるじゃねーか」

ベビードラゴン「オラは、剣を持って帰って、竜王様を……!」

勇者「あ? なんだ、剣がほしいのか? なら最初から言えばいいのに」カチン パチン

ベビードラゴン「……?」

勇者「ほら。持ってけ」ポイ

ベビードラゴン「え」ポカーン

勇者「それは危ねぇわ。持ってても使わないからあげる」

ベビードラゴン「えぇっ⁉︎」

勇者「なぁなぁ、さっき息できなくしたのどうやったん? 火炎の息よりもアレメインに使った方がいいと思うよお前」ポワァ

ベビードラゴン「いや、アレは。まわりの空気吸って、真空にするっていう」

勇者「あー! なるほどね! 竜族の肺活量ならではってわけか! やばいね! 俺だって酸素吸わなきゃ死んじゃうし!」

ベビードラゴン「あの……ほんどにいいのけ?」

勇者「なにが? 剣? うん、いいよ」

ベビードラゴン「だ、だども」

勇者「気にするなって! 困った時はお互いさまだろ!」

ベビードラゴン「いや、そうではなぐで。魔族がニンゲンにもらって帰ってぎだって知られたら」

勇者「あー、そうな。かといって死んであげるわけにゃいかないしなぁ」

ベビードラゴン「おめぇ、つ、強いんだな」

勇者「勝負じゃなくて武器の性能だろ。ガキでも勝てちまうわ」

ベビードラゴン「ほどんど遊んでただろ。それぐらいわかる」

勇者「お前もちゃんとしたとこ見せるまでやれなくてすまなかったな。実力確認する前に終わるとは思わんかった」

ベビードラゴン「サキュバスにも、勝ったんだっぺ?」

勇者「あのグラマラスなおねーさん? 記憶がほとんどなくてねぇ……治ったぞ」

ベビードラゴン「……」サスサス

勇者「仕切り直しでもういっちょやる?」

ベビードラゴン「できれば――」

勇者「よしきた、それじゃあ」パンパン

ベビードラゴン「――ニンゲンの浅知恵を貸してくんろ」

勇者「あぁん?」

ベビードラゴン「こうなりゃ恥やプライドも捨てる竜王様をとにかく、助けてぇんだ。ニンゲンはコソコソやるのが好きなんだろ? そうだっぺな?」

勇者「なにがあったんだ? 魔族が人間に縋るなんてよっぽどだろ。しかも、俺ってば勇者よ? ひどい裏切り行為なんでない?」

ベビードラゴン「うっ……!」

勇者「悪かった悪かった。詳細話してみろ」

ベビードラゴン「(ほ、本当に、話していいんだべか。竜王様、きっとすごくお怒りになる。魔王様も、オラを許してくんね。で、でもっ)」

勇者「……」

ベビードラゴン「(こ、こいつには、本気でやっても勝てそうにない気が、する。たぶん、勝てない)」

勇者「どした?」

ベビードラゴン「に、にんげんよ」

勇者「なんだね?」

ベビードラゴン「こ、この場のやりとりは、墓まで持っていくと、約束するか?」

勇者「なに? そんなに大それた話? よっぽど必死なんだな。会ってすぐのやつに縋るなんて」

ベビードラゴン「時間がないのだ! 時間があれば、お前なんかに……!」

勇者「わかった。約束する」

ベビードラゴン「よ、よし。ならば、あとで魂の契約を交わせるか?」

勇者「えぇ~なにそれ」

ベビードラゴン「口約束なんか信用できっか!! できないなら喋らねぇど!」

勇者「いや、お前が……まぁ、いいよ。話が進まないから」

ベビードラゴン「よ、よし。本当だな? やっぱりやーめたっとか無しだかんな?」

勇者「はいはい」

ベビードラゴン「――……実は、かくかくしかじかで」

勇者「剣間違えて持ってきちゃったんだ? てことはだ、正規ルートでいけばラスボス手前とかの最強アイテムが序盤も序盤で手に入ったみたいな?」

ベビードラゴン「うぅ」シュン

勇者「お前人間の姿のままでいたら? 元に戻ると本当マヌケじゃん。喋り方もなんだか訛ってるしさぁ」

ベビードラゴン「そったらことどうでもいいだろ! 剣持ち帰っただけじゃ! きっと魔王様は持ち出した失態を取り消しはしねぇっ! 竜王様が死んじゃう!」

勇者「俺に勝って持ってきたっていうのもなぁ」

ベビードラゴン「騙せるのは何匹かいるかもしんね。魔王様は心の奥の奥まで見通すお方だ。肝心のあのお方を納得させるプランでねぇと」

勇者「そんなに大事か? 竜王ってのは」

ベビードラゴン「命よりも、誇りよりも、なによりも大切なお方だっっ!!」

勇者「そうか。じゃあ、取り引きしないか。魔王への伝言を頼みたい」

ベビードラゴン「伝言?」

勇者「俺は、勇者やめたがってる。そう伝えてほしいんだ」

ベビードラゴン「そんなウソついて。なに企んでるかしんねぇけど信じるもんか」

勇者「いや、信じさせる妙案を思いついた」

ベビードラゴン「……」ジト~

勇者「どうする? 乗るか乗らないかは決めていいよ」

【数時間後 竜王城 玉座】

シンリュウ「――ほんで? おめぇが勇者に勝ってこの剣を取り戻しでぎだってのけ?」

ベビードラゴン「……」パタパタ

カイザードラゴン「どうしたッ!! はやく答えろッ!」ビターンッ

ベビードラゴン「そうだす。勇者は強かったんけんど、取り戻すことができただす」

シンリュウ「ふぅ~ん?」チラ

カイザードラゴン「竜王様。ここに、勇者の腕が」ゴトッ

ベビードラゴン「……」

シンリュウ「たしかに、間違いなくニンゲンの腕だな?」

ベビードラゴン「勇者本人のものだす。噛み切ってやっだなす」

シンリュウ「……ニンゲンの腕ではあるが、勇者本人のものとは」

ベビードラゴン「血を飲めばわかるはずだす」

シンリュウ「血を……?」

ベビードラゴン「ルビスの加護。オラも噛み切った時にはじめて知っだけんど、その加護の宿った人間の血は、魔族にとって毒だなす」

カイザードラゴン「それはまことか……!」ペロッ

ベビードラゴン「……」

カイザードラゴン「うっ、まずっ! な、なんだこの臭みは。これでは野ウサギの方がまだマシだ、ぺっぺっ」

ベビードラゴン「これまで飲んだことの味というのが証明になるはずだす。魔王様に謁見の許可を。竜王様」

シンリュウ「謁見して、なにをするづもりだ?」

ベビードラゴン「ただ、ありのままを報告するだす。隻腕(片腕のこと)になったのは、魔王様にも報告せねばならぬこと」

シンリュウ「わだすではなくお前がか?」

ベビードラゴン「現竜王様は、魔王様のご機嫌を著しく害しておられるだす。会ってくれるかどうかもわからないだす」

カイザードラゴン「勇者の腕をもぎとってにたとあれば……! 竜王様っ!」

シンリュウ「まだわだすは竜王だ。ベビー……嘘はついてない?」

ベビードラゴン「誓って。嘘なんかついてねぇ」

【数時間前 クィーンズベル 郊外】

勇者「勇者によるワンポイントレッスン! はぁじまーるよぉー!」

ベビードラゴン「……」ポカーン

勇者「拍手! 歓声!」

ベビードラゴン「わ、わぁ~」パチパチ

勇者「うむ! いいか、まず本作戦のキモはいかにしてウソがばれないかだ! といことは、つまり、大大大大前提としてウソをつく! これをまずわかれ!」

ベビードラゴン「いや、そったらごど言われんでも」

勇者「いいや! わかってない! ウソを舐めるな! ウソなんてものはすぐボロがでちまうもんだ! まず、第一の基本! ポーカーフェイス!」

ベビードラゴン「……」キリッ

勇者「わざとらしいわボケナスゥッ! 自然体でいいんだよ自然体で。ポーカーフェイスは決して動じないこと。これに尽きる。予期せぬ質問がきても鉄仮面をかぶれ」

ベビードラゴン「は、はいっ!」

勇者「魔王であっても竜王であっても本当に心が読めるわけじゃないんだ。忠誠を誓っているのに、後ろめたい気持ちなくウソをつけるか?」

ベビードラゴン「が、がんばるっ」

勇者「やれ。絶対にやりとげろ。じゃなきゃ竜王が死ぬ。いいな?」

ベビードラゴン「……」ゴクリ

勇者「実際目で見た情報があれば信じやすい。それは変わらん。これ視覚から訴えかける情報量が強い。獣族は嗅覚かもしれんが」

ベビードラゴン「うんうん」

勇者「まずは竜王城に帰り。勇者と戦ってきて勝ったと報告しろ。喋るときは淀みなく喋れよ? かといって饒舌になりすぎず、普段通りだ。聞かれる前に証拠を差し出せ」

ベビードラゴン「証拠ってなに? 剣? んだども、それじゃ信じてもらうには」

勇者「俺はリリスなどを逃したことがあるから、魔族に温情や同情をかけたと思われるかもしれん」

ベビードラゴン「うん」

勇者「というわけで、俺の左腕を噛みちぎれ」

ベビードラゴン「へ?」

勇者「どっちみち、剣だけで信じてもらえても取り返しただけってことで竜王は死ぬ。管理体制が甘いとか、不祥事の責任っていわれたらそれまでだから」

ベビードラゴン「そ、そりゃぁ、そうかもしんねけど」

勇者「さらなる特典が必要だ。恩賞をかけてもらえるだけの。俺も死ぬわけにゃいかんから利き腕じゃない腕が精一杯」

ベビードラゴン「ほ、ほんきかっ⁉︎ おめぇっ⁉︎」

勇者「(ニートになるための必要な犠牲と思えば)……本気だ!」

ベビードラゴン「……ま、マジ……?」

勇者「たぶん、オナニーを左手でできんのが不便だなくらいだと思う、きっと、おそらく」

ベビードラゴン「いや、もっと色々不便になると思うけんど」

勇者「そんで、竜王を突破したら次は魔王だ。魔王は竜王の命運の決定権を持っている。ここはわかるな?」

ベビードラゴン「う……いや、腕を無償で差し出されたら……魔族の名が……」

勇者「竜王のためになんでもするんじゃなかったのか! プライドは捨てろ! 誇りなんて忘れちまえっ!」

ベビードラゴン「うぅ……わがっだよ、わがった」

勇者「魔王には、こう切り出すんだ? 今から俺が言うことをよぉ~く覚えて帰れ」

【魔王城 玉座】

魔王「――ほう。“この腕のかわりに竜王の死罪を取り消せ”と。そう申すのか」

ベビードラゴン「……」コクリ

大臣「開口一番で要求とはなんたる無礼な!」

魔王「……よい」スッ

大臣「魔王様⁉︎ 絶対王が一度下命したものを取り消すなどど!」

魔王「そう早合点するな。取り消すとの意味ではない。ベビードラゴンよ、ちと気を急いたのではないか?」

ベビードラゴン「オラの望みは魔王様であればこそ、最初から見当がついてるはずだなす。先にご提案したまで」

魔王「慕う王と、一族の地位、そのどちらも守れる。たしかにな」

ベビードラゴン「バカなのは恥ずべきことかもしんね。けど、オラは頭良くねぇのわかってるから」

魔王「“札(カード)”を最初から切ったわけか」

ベビードラゴン「本来なら魔王様から褒美を与えると言われるまで待たなきゃ失礼にあたるのは、オラでもわかります」

魔王「ふぅん……勇者の強さ。それに打ち勝つのは並大抵のことではなかったはず。……お前は無傷のまま綺麗な体をしているな? なぜだ?」

ベビードラゴン「おそらく、勇者はまだ本気ではなかったと思うのだす」

魔王「ならば、あえて剣を差し出しされたと、そういうことか?」

ベビードラゴン「いんや。そうじゃねぇだなす。あれが対峙した時の本気だったとも思うだなす」

大臣「魔王様にむかって適当なことを申すでない!」

ベビードラゴン「オラは忠義をもって包み隠さず報告しているだけだなす」

魔王「虚偽の発言ではないとすれば、どういう意味だ?」

ベビードラゴン「“覇気がなかった”そう思うだす。やる気がないといった方が正しいかもしんね」

魔王「なに……? 勇者のやる気が……? わざと負けようとしたのではないか?」

ベビードラゴン「わざとにしても、腕を噛みちぎられる人間なんているはずがないだなす」

大臣「うむぅ」

ベビードラゴン「恐れながら申し上げさせていただきますと――」

魔王「なんだ? かまわんから続けろ」

ベビードラゴン「勇者は、勇者であることを嫌がっていただなす」

大臣「なにを言うかと思えば……バカバカしい」

【数時間前 クィーンズベル 郊外】

ベビードラゴン「い、いきなり要求なんかしちゃ機嫌悪くなっちまうんじゃないだべか?」

勇者「ばかたれ。どうせ最初から機嫌は悪いんだから気にしなくていいんだよ。いっそのこと開きなおれ」

ベビードラゴン「そ、そうはいっでも」

勇者「ご機嫌とりなんかしなくていいんだ。求めるものは怒られる度合いを減らすことじゃなく要求を通すことだろ?」

ベビードラゴン「でも、機嫌が良い方が。お願い通りやすくなっぺよ」

勇者「だから腕を持って帰る。これは色々な用途の効くエサだ」

ベビードラゴン「ほんとに信じて大丈夫だべか」

勇者「頭が良くて慎重なやつほど、用心深く観察してくる。そういうやつは騙しにくいと、そう思うか?」

ベビードラゴン「……よぐ、わがんねぇげと」

勇者「実際は真逆だ。そういうやつほど胡散臭いことにハマりやすいし騙されやすい。なぜなら、頭がいいからな」

ベビードラゴン「?」

勇者「インテリってのはなぁ、極端だが、なぁーんにも意味がないことを意味があるんじゃないかと考える」

ベビードラゴン「魔王様も、そうなんか?」

勇者「わからん」キッパリ

ベビードラゴン「……」

勇者「そうであってほしいという博打はぶっちゃけてある。今回は、そこに俺の腕と、お前の命と、竜王の命までワンセットで賭ける」

ベビードラゴン「えぇ……」

勇者「無理難題を通すにはある程度の無茶も必要だってことだ。なにしろ、時間がない。最低限の準備が済んだだけ。“騙せる下地”を作っているにすぎん」

ベビードラゴン「う、うぅん」

勇者「お前が独力で剣を奪い、腕をかみちがってきたと騙せるかどうかは、でたとこ勝負ってとこだな」

ベビードラゴン「無理なような気がしてきた」

勇者「やれないとはないはずだ。ご機嫌とりとかあれもこれも欲張るな。ただ、俺を倒した。この一点を信じさせることだけできればいい」

ベビードラゴン「う、うん」

勇者「実力で劣るはずのお前がなぜ俺を倒せたか、理由は俺のやる気のなさだと答えろ」

ベビードラゴン「やる気?」

勇者「そうだ。俺は勇者をやめたがってると言ってたと魔王に伝えるんだ」

ベビードラゴン「わがっだ。そんで?」

勇者「そうすると用心深いやつは罠か? とまず考える。しかぁ~し、ここでも腕の存在が頭をよぎる。罠で腕を差し出すまでするか? と」

ベビードラゴン「うん、それはたしかに。オラもそう思う」

勇者「お前はマヌケだから、そこまでするはずがないで終わりだろ。ミスリードの原理だ」

ベビードラゴン「……?」

勇者「“真実の中に嘘を混ぜる”。誤った道しるべに魔王をハメる……くっくっくっ、なぁーはっはっはっ!」

ベビードラゴン「(なんがごいづ、悪役みてぇだな)」

勇者「お前を俺の舌の上でぺろぺろ転がしてやんよぉ~! チュッパチャプスみたいによぉ~!」

ベビードラゴン「表現が汚ねぇ」

勇者「ひゃっはっはっ! 間接的に勇者vs魔王のはじまりだぁッ!!」

【再び魔王城 玉座】

魔王「……興味深い話だ。なぜ、勇者はやめたがっていると思った?」

ベビードラゴン「実際に耳にしたからだなす」

大臣「な、なんとっ⁉︎ 勇者自身がそう言ってたのかっ⁉︎」

ベビードラゴン「魔王様。オラはわかんなくなっただす。たしかに、勇者は強かった……いや、強いはずだす。サキュバス様を瀕死の状態に追いやったのですから」

魔王「……それで?」

ベビードラゴン「にもかかわらず、力の片鱗を見せたのは最初だけで、やる気がなかった。だからオラは無傷でいられた」

魔王「……」

ベビードラゴン「勇者は本当に恐るるに足る人物なんだべか?」

魔王「だから、勇者を殺さなかったのか?」ギロッ

大臣「そ、そうじゃ。その状態の勇者であればいともたやすく息の根をとめられたはず」

魔王「だから、罠かと疑いもせずに、帰ってきたのか?」

ベビードラゴン「ま、魔王様。勇者の罠かと疑っているんだすか?」

魔王「可能性としてなくはあるまい? 腕をさしだすとまでなると不可思議だが」

ベビードラゴン「(ゆ、勇者が言った通りだ……魔王様が、あの魔王様が、腕を気にかけておられる……)」

魔王「さらに踏み込めば、おそらく勇者はこれを持ち帰らせることにより、なにかを企んでいるやもしれぬ。大臣よ」

大臣「はっ!」

魔王「確認の為、この腕を調べてまいれ」

大臣「ははっ!」

ベビードラゴン「(えぇと、えぇと、次は――)」

【数時間前 クィーンズベル 郊外】

勇者「魔王はまず、腕を確認する。本物であるかどうか、罠がないかどうか。動機は多岐にわたるが、ぜぇぇったいに腕を確認する。気になって気になって仕方ないはずだ」

ベビードラゴン「そうだべか」

勇者「そら心中はソワソワしっぱなしよ。目の敵である勇者の腕なんだからな。魔王にとっちゃ宝の山ほど価値あるもんだ」

ベビードラゴン「自己評価高すぎでねか? なんとも思わねえかもしれねぇど」

勇者「なんとも思ってねぇやつをわざわざ追跡させるかよ。剣渡したぐらいで竜王を死罪にするか? あぁん?」

ベビードラゴン「……そうだけんど」

勇者「お前は“たかがニンゲン”。これをゴリ推しして持論を展開しろ。普段エサだと思ってる存在なんだ、簡単だろ」

ベビードラゴン「はい」

勇者「よしよし。勇者であってもたかがニンゲンだからな? ちゃぁ~んと言えよ? その程度の認識しかないと伝えることに意味がある。殺さない理由になる」

ベビードラゴン「虫けらだもんな」

勇者「そう! エクセレント! それでいいんだ! これに、淫夢族が逃がされたやり返しだとも言え」

ベビードラゴン「そったらごとしたら、サキュバス顔真っ赤になるぞ。面目丸つぶれだし」

勇者「淫夢族がどう思おうが別に関係ないだろ?」

ベビードラゴン「ねぇな。あいつら、竜王さまバカにしたから、良い気味だ……でへっ」

勇者「その意気だ。魔王にも魔王でプライドがある。勇者がこわいよぉ~なんで殺してきてくれなかったのぉ~なんて言える立場じゃない」

ベビードラゴン「魔王様に楯突く存在だべ? 殺してこなかったなんて不忠になるんでない?」

勇者「あー……うーん、まぁ、そこはゴリ推ししてお前がなんとかしろ」

ベビードラゴン「(思いつかなかったんだな……)」ジトォー

勇者「なんだその目は! なんでもかんでも頼るんじゃありません!」

ベビードラゴン「わがっだ。ゴリ推ししてみる」

【魔王城 玉座】

ベビードラゴン「(とにがく、ゴリ推しだっぺな)……魔王様っ!!」ドゲザ

魔王「……」チラ

ベビードラゴン「勇者なんていっても所詮ヒトだど⁉︎ オラは魔王様の偉大さにひれ伏す存在だと思ってるだなす!」

魔王「……そうか」

ベビードラゴン「魔王様は勇者をどう見てるだなすか⁉︎ 竜王様の命を犠牲にするほどの脅威とお考えなんだすかっ⁉︎」

魔王「勘違いするな。竜王が死ぬのは自身の不手際の責を受けるのだ。部下の不始末、その責を――」

ベビードラゴン「でもっ!! 発端は剣を渡したことでしょ⁉︎ たかがちっぽけなニンゲンに!!」

魔王「……」

ベビードラゴン「勇者じゃなかったらどうだすか⁉︎ そこらにいる兵士に剣を竜王様が渡していたら⁉︎ 魔王様は鼻で嗤い許していたと思うだなす!」

魔王「余が、勇者に臆していると……そう言いたいのか」ゴゴゴゴッ

ベビードラゴン「違うっ!! もっと堂々としていてほしい! オラはそう言っているのだす! 死罪を撤回……腕の恩賞を与えてくんろ!」

魔王「お前の非礼はどうなる? 自身の死を覚悟の上の発言か?」

ベビードラゴン「オラは竜王様の臣下でありますっ! 救えるのなら、この命など惜しくはねぇっ!!」

魔王「……」

ベビードラゴン「(よし、ここであの言葉を言えばいいんだな)」

魔王「……なるほど。良き家臣を持ったようだ。今回の働きに免じて、望みを叶えてやろう」

ベビードラゴン「……え? へ?」

魔王「なんだ? それが望みではないのか?」

ベビードラゴン「(あ、あれ? まだ続きがあったんだけど、こうもあっさり)」

魔王「望みを言うがよい」

ベビードラゴン「竜王様に生きる機会を与えてやってください! 交代もさせないでくださいっ!」

魔王「いいだろう。釈命をだす。此度の働きと功績を称え、竜王の減刑を認める」

ベビードラゴン「ほ、ほんとですかぁっ⁉︎」

魔王「二言はない。幾度も撤回したりしていては威光を保てんたからな」

大臣「魔王様……」

魔王「ただし、もし勇者の腕ではなかったり、罠だったと判明した場合には、その命。……即座にないものと思え。私自ら殺しにいくぞ」

ベビードラゴン「もちろんだすっ!! 何百回、何万回でも殺してくんろっ!!」ニコニコ

【数十分後 魔王城 玉座】

大臣「魔王様。間違いありません、鑑定の結果、勇者の腕だと判明いたしました。罠と思われる術式やアイテムの形跡もなく、ベビードラゴンの唾液のみです」

魔王「そうか……」

大臣「おそれながら……もう、自身のだした命令を撤回するのはやめなされ」

魔王「ベビードラゴンのみならず、お前まで小言を言うつもり?」

大臣「ワシは魔王様の家臣でございますゆえ。必要な忠言だといつも申しておりますに」

魔王「小言はいつものことだったわね」

大臣「魔王様。決して、ブレてはなりません。貴女様の絶対的カリスマは、迷うてはならぬのです」

魔王「……」

大臣「……簡単に許したのは、竜王を死罪にしたくなかったのでしょう? らしくもない」

魔王「損得よ。次期竜王は確実に弱くなるならば、今の竜王に続けてもらった方が利益になる」

大臣「……そういうことにしておきましょう。ですが、良いですな? こういうことはこれきりにしていただきたい」

魔王「気になるのは勇者」

大臣「“やめたい”と、そう言っていたことですか?」

魔王「もし、もしも本気でそう考えているのならば、より注視をしなければ」

大臣「なぜでございましょう? 魔族にとって都合が良いのでは」

魔王「辞めるのならば、ね。でも、おそらく――私の推測がただしければ、“勇者は狂う”」

大臣「狂う? ですと?」

魔王「“勇者として輝くか、ニンゲンとして狂うか”。くふっ、うふふっ、あは、あはははっ」

大臣「ま、魔王様……?」

魔王「大臣よ。竜王に処刑を命じた後に余はこう問いたな。勇者はなにを失っておるのかと」

大臣「はい、魔王様はなにも失っていないとの発言を」

魔王「間違っておった!! 間違っていたのだ!! あっはっはっ!」

大臣「……?」

魔王「勇者は、闇に堕ちるやもしれんぞ……くふふっ、うふふっ」

【淫王城 玉座】

サキュバス「おかしい。なにかある。リリスよ」

リリス「はい~お姉様ぁ~」

サキュバス「クィーンズベルに行き勇者が隻腕となっているか確認してまいれ」

リリス「えぇ~あそこ暑くてあんまり好きじゃ――」

サキュバス「なにか?」ギロッ

リリス「すぐに支度して行ってまいりますぅ~」

サキュバス「(ベビードラゴンが勝った? あのデタラメな強さの勇者に? そんなのは不可能だわ)」

リリス「まったくぅ、人使いが荒いんだからぁ」ブツブツ

サキュバス「(なにか裏があるはず。勇者の企みを突き止めなくては……)」

【魔王城 玉座】

大臣「魔王様、この老いぼれにはなんのことやさっぱり」

魔王「――……アイデンティティ(自己証明)の喪失。聞いたことはあるか?」

大臣「いえ」

魔王「ふふ、“ゲシュタルト崩壊”でもよい。兎角、勇者は己を見失っておるやもしれん」

大臣「な、なんですとっ⁉︎」

魔王「ふっ、くふふ、勇者であることを誇りもせず……逃げている。おそらく、人間と勇者の狭間で見失ってしまった。本来の自分を」ニタァ

大臣「ではっ⁉︎ 今の勇者は⁉︎」

魔王「心に偽りの仮面をかぶっておるはず。……常にな。ニンゲンどもの手前でだけ、“勇者を演じておる”のやも」

大臣「魔王ぁっ! これはまたとない機会でありますぞ!」

魔王「どのような機会と申すか」

大臣「揺れ動いているのなら、いっそ、我ら魔族側に!」

魔王「……だめだ」フリフリ

大臣「なぜっ⁉︎ 天秤がニンゲンどもの方に傾いてしまえば、脅威に!」

魔王「“どちらにも傾きうる”から問題なのだ。計りに重りを乗せるにはどうする……?」

大臣「追加で――」

魔王「“手がなければ乗らぬ”であろう? この、手が」プラプラ

大臣「(傾く重りを我々で用意するということですな)――では、計略を講じますか」

魔王「いや、なにもしない」

大臣「な、なぜっ⁉︎」

魔王「別にほしくないから。あちら(勇者)が来たいと言ったら考えるがなぁ! あっはっはっ!」

大臣「……っ!」

魔王「よいな……? なにもするな」

大臣「御意に」

魔王「あぁ、待て。アデルに密偵を派遣して、勇者の生い立ちについて調べさせよ」

大臣「は?」

魔王「調べるだけでよい」

大臣「ははっ!」ドゲザ

【数十分後 魔王城 玉座】

大臣「魔王様のぉ~、ご壇上ぉ~」

四天王一同「……」ドゲザ

魔王「皆の者、ラクにせよ」スッ

四天王一同「はっ」ムク

大臣「各王よ。おそれながら本日も進行役を務めさせていただきます。ようこそ、魔王城へ」

魔王「今回の議題については特別に余が発表する。それはこの“勇者の腕”についてだ」ゴト

キングヒドラ「ホンモノでお間違いないのですかっ⁉︎」

大臣「何重にも検査をした結果、間違いございません」

オーガ「ベビードラゴンに咬みちぎられたというのも?」

大臣「お間違いござませんですじゃ」

キングヒドラ「……なんだ。たいしたことない。サキュバスよ。お前の報告と随分差があるようではないか、なぁ?」ニタァ

サキュバス「獣臭い顔でいやらしく笑わないでくれる? 醜くて不快だから」

キングヒドラ「な、なんだとぉっ⁉︎ 貴様ぁっ! 誰に向かって悪態をついたっ!!」ズシーン

サキュバス「わからないのかしらぁ? 頭お花畑?」

キングヒドラ「……」ゴゴゴッ

オーガ「事実をいわれ論点をズラしているよう見えるが」

サキュバス「おだまりっ!!」ピシャン

キングヒドラ「……なんだなんだ……そうかぁ、認めたくなかっただけかぁ」ニヤニヤ

サキュバス「貴様らは知能が低いから疑うこともしないだけであろう! 勇者が負けるはずがない!!」

オーガ「だが、証拠はある」

サキュバス「……っ!」

キングヒドラ「随分と高く勇者を評しているようだな? 負けるはずがなぁい? まるで恋人を想うようじゃないか?」

サキュバス「貴様……っ! 淫夢王をバカにしているのかっ⁉︎」クワッ

キングヒドラ「貴様こそ! 獣王をバカにしているのかぁっ!!」クワッ

大臣「み、みなさま、ご静粛に、ご静粛に。魔王様の御前であられますぞ」

サキュバス「魔王様、私からもご質問。ベビードラゴンはどうやってコレを?」

魔王「やる気がなかったおかげで、噛みちぎれたそうだ」

シンリュウ「……」

オーガ「ぬはっ、ぬっはっはっ、なんとまぁ。やる気がでなかったから腕をさしだした? 言い訳にしても見苦しい」

キングヒドラ「ブフッ、勇者とやらは、阿呆なのですか……? そんな理由で腕をさしだすわけがない。自力でベビードラゴンに敵わなかっただけでしょう」

サキュバス「(貴女達二匹は……! 笑う暇があればもっと知力高めたらいいのに)」

魔王「お前達の意見も是非聞きたい。……が、その前に、シンリュウよ」

シンリュウ「はっ」スッ

魔王「ベビードラゴンから報告を受けておろうが、今回は罷免する」

シンリュウ「……はっ」

魔王「決定に異議のあるものはおるか?」

四天王一同「……」シーン

魔王「おらんのか? 貴様ら、余の犬畜生か?」

オーガ「魔王様の決定ならば、当然のこと」

魔王「では、問おう。巨人王オーガよ。今この場で命をたてと言われれば死ねるか」

オーガ「理由は……」

魔王「ない。ただの気まぐれだ」キッパリ

オーガ「そ、それはあまりにも」

魔王「余の為ならば、死をも厭わない。その覚悟たるやよし。しかし、死に場所がふさわしいものであってほしいと願っておるのだろう?」

オーガ「……」

魔王「なぜ無言でおる。私をナメておるのか?」ゴゴゴッ

オーガ「な、なぜっ⁉︎ そんなっ! めっそうもない!」アタフタ

魔王「よく聞くがいい。命令を撤回するのはこれきりだ。貴様らが余の下命を疑問に思うが、理不尽だと感じようが、次はない」

四天王一同「……」ドゲザ

魔王「我こそが貴様らの王だ。……よいな」

四天王一同「ははっ」

【数時間前 クィーンズベル城 郊外】

ベビードラゴン「そったらば、失礼しで」

勇者「ちょ、ちょちょっ! たんまっ! まだ麻痺してないから!」

ベビードラゴン「おどこらしく覚悟決めろ? ほんっと情け無いやつだなぁ」

勇者「布で縛ったら痛みが軽減されるって漫画で読んだことあるのに……おかしいな」

ベビードラゴン「なんでもいいけどよぉ、はやく帰りてーんだけど……はぁ」ガックシ

勇者「お前はいーよな! 腕をなくさないんだから!」

ベビードラゴン「合意の上でねか。むしろ、お前から言い出したこどだぞ? 講釈たれて」

勇者「そうだけどさぁ、いざ噛まれるとなると」

ベビードラゴン「だいじょーぶだで。ちょっとチクってするだけだから」

勇者「そ、そそそのっ、セリフはやめろ? と、トラウマが」

ベビードラゴン「ほんにめんどくせぇなぁっ!」

勇者「……わかった。俺も男だ」

ベビードラゴン「……」ジトォ~

勇者「いいぞ、やれ。でも、絶対失敗すんなよ! 俺の腕を無駄にすんなよっ⁉︎」

ベビードラゴン「わがったわがった……あ~~ん」クパァ

勇者「た、た、た、たんまっ!」

ベビードラゴン「……」ピタ

勇者「やっ、やっぱさ? 別の方法、考えない?」

ベビードラゴン「……あむっ」ガブリ

勇者「~~っ⁉︎ ぬ、ぬおおおおぉっ! 牙が、牙が腕に!」メリメリ

ベビードラゴン「(硬え肉だな)」ゴリゴリ

勇者「いだだだだっ! 痛いっ! ちょっとこれは耐えられない! 耐えられそうもない! ギブアップ!」

ベビードラゴン「(うるせぇ……)」ブチブチ

勇者「ひぃっ⁉︎ 待てと言うとるにっ! 腕からいやな音がっ! 血が噴水みたいになってるよ⁉︎ 動脈切れてるんじゃない⁉︎」プシュー

ベビードラゴン「(むっ、このっ)」ガブガブ

勇者「いだぁぁ~~っ! なんだてめぇっ⁉︎ やるなら一気にやれや! ぶち殺すぞっ⁉︎」

ベビードラゴン「かたっ、くふぇ、ぬぅぅ」ブチンッ

勇者「あっ」プシュー

ベビードラゴン「お、食いちぎれた」アムアム

勇者「お、おぉぉぉあ、俺の腕がぁぁぁ~~っ!」

ベビードラゴン「うぇっ⁉︎ ま、まずぅっ⁉︎ ペッペッッ」ゴト

勇者「な、なな、なっ、なんてことしやがる⁉︎ 人の腕をっ⁉︎」

ベビードラゴン「止血しねぇと、死ぬど。オラは死体のが都合いいんけんど」

勇者「ハッ⁉︎ そ、そうだった! うおぉぉっ! 俺の右手が真っ赤に燃えるッ! 傷を治せとどろきさけぶ! ベホマぁぁっ!」ポワァァァ

ベビードラゴン「ふつうにできねのかよ」

勇者「それぐらい全力だってことだ! あぁ~、本当に腕を食いちぎりやがって……」ドクドク

ベビードラゴン「お前がそういったんでねか。ん、でもちょうどいいな、勇者、傷口だせ」

勇者「傷口ならだすどころか晒されとるわい」

ベビードラゴン「それもそだな。そのままじっどしてろ」

勇者「はぁ?」

ベビードラゴン「よいしょっと」ジュク

勇者「いでぇっ! ツメをつっこむな!」

ベビードラゴン「 ممكن. العمل على طلبيتك بأسرع وقت」ポワァ

勇者「な、なんだ?」

ベビードラゴン「(これで魂の契約は完了っと)」

勇者「あぁ、もういやだ。そもそもなんでニートになるためにここまで苦労せにゃならんのか」

ベビードラゴン「おめぇよ。ほんどーに勇者やめるつもりなんかよ」

勇者「やめる」キッパリ

ベビードラゴン「……なんでよ? オラが言うのも筋違いかもしんねぇけどよ、人間にチヤホヤされるんだべ?」

勇者「なにがいいかなんて決めるのは俺の権利だ。ノットハーレム、ノットチヤホーヤ」

ベビードラゴン「魔王様に伝えたら、なんか意味あんのか?」

勇者「何度も言うが、意味はある。打算で動くようなやつに俺が遅れをとると思うかぁ?」

ベビードラゴン「しんねぇ」

勇者「予言してやろう。整理して考えだすと、魔王は俺の過去に興味を持ち出すはずだ」

ベビードラゴン「はぁ」

勇者「過去を知れば、ますます確信を持つことになるだろう」

ベビードラゴン「よぐわがんね」

勇者「ふっふっふっ……とにかくだ。お前が勇者の腕をとってきた。これで竜王の命を救え、お前自身のお咎めもなければ、それで俺の勝ちだ」

ベビードラゴン「そうなんか?」

勇者「利口なやつほど蜘蛛の糸にがんじがらめにされにくる。自分からな」キッパリ

ベビードラゴン「……もし、魔王様や竜王様に害をもたらすなら、オラが殺すど」

勇者「心配せんでいい。俺の望みは何者にも縛られない自由になることだ。それをニートと言ってるにすぎん」

ベビードラゴン「……今はおめぇを信じてやる」

勇者「しっかりやれよ」

ベビードラゴン「うまくいっだら、借りは、いつか返してやるよ」パタパタ

【クィーンズベル城 玉座】

王様「お主たちは、なにをくわだてておった」

お頭「俺たちゃしがねぇ盗賊ですよ。そんな、くわだてるって」

姫「嘘ですわっ! メイド!」

メイド「私の顔に、見覚えがありませんか……?」

お頭「ありませんねェ。なんことやら」

メイド「そうですか。では、衛兵ならば私の顔に見え覚えがあるのでは?」チラ

衛兵「……っ」

メイド「陛下。こちらの衛兵は盗賊団の密偵でございます」

衛兵「虚偽の申告をいたしておりますっ! 陛下を裏切るようなマネなどできましょうか!」

メイド「まだ嘘で塗り固めるおつもりですかっ⁉︎」

衛兵「陛下! わたくしめを信じてくださいっ! この女に惑わされてはいけません!」

姫「わたくしの専属メイドに……っ!」

衛兵「公平な裁きを求めているだけでございますっ! 姫様ごひいきのメイドならばこそ!」

メイド「……っ」ギュゥ

姫「生き恥をしてまで……! そんなにも生きたいのかっ⁉︎」

衛兵「(当たり前だろうが。ここで罪を認めちゃ死罪は免れねぇ。お頭、これでいいですよね)」チラ

お頭「(いいぞ。それでいいんだ。俺たちがなにをやろうとしていたか、その証拠はまだねぇはずだ)」

衛兵「王様ぁっ! なにとぞ! なにとぞ調査を!」

王様「……ふぅむ」

姫「お、お父様っ⁉︎ なぜっ⁉︎ なぜ考えこむのですか……⁉︎」

王様「罪を明らかにせねば、適した罰を与えられん」

姫「それはっ……そうですけど……」

メイド「……王様。私は、告白せねばならぬことがございます」

姫「なに……ハッ! や、やめなさい!」

王様「告白? なんだ?」

メイド「私も、罪を償わなくてはなりません。ご寵愛に守られたままでは、この者が言う通りになってしまう。姫様を侮辱されるのは、許せません」

衛兵「(ま、まさかっ、見取り図の件を……? そ、そんなことすれば……お前もただではすまんぞっ!)」キッ

メイド「…………私は、宝物庫に忍び込み」







ジャン「ちょぉ~~~っと待ったッ!!」バターーンッ







王様「お主は……ハーケマルの」

姫「ゆ、ゆうしゃ?」

メイド「なぜ……」

ジャン「王様、ここは無礼講でお願いします」

王様「かまわぬが。今は尋問の最中である。控えてくれると――」

ジャン「それはできません! なぜなら、私が証拠だからでございます!」

王様「なに? どういう意味じゃ?」

ジャン「この私が見取り図を持ち出しました」パサッ

王様「……そ、それはっ⁉︎」

お頭「(こ、こいつっ⁉︎)」

衛兵「(なに考えてやがるっ⁉︎)」

メイド「な、な、なにを……」

ジャン「それもこれも、お頭に指示されましたからです。ちなみに井戸の水が干上がっているのも盗賊団が原因です」

王様「なんだとっ⁉︎」ガタッ

ジャン「原因はこのビー玉だったんですよ。お調べください」ジャララ

王様「び、ビー玉?」

ジャン「魔族のアイテムです」

王様「ま、魔族ぅっ!?」ギョッ

ジャン「落ち着いて考えれば、全て繋がるはず」

姫「な、な、なんですの、これは、いったい盗賊の狙いは、宝のはずのでは」

ジャン「表向きはね。真の狙いは、魔族と組んで国を転覆させること。……そうですよね? お頭♪」

お頭「お、おめェっ! 気でも狂ってるんじゃねぇのか!」

ジャン「俺は打算とか計算が大好きなんですよ。でも好きなだけの趣味って感じですかね、だからそういう“生き方”をしてるやつらの考えがよくわかる」

衛兵「……っ」

ジャン「そこの衛兵も密偵です。言い逃れしてただけですよ」

王様「警備兵よ! ただちにこやつらを引っ立てて、真実を吐かせよ!」

警備兵「はっ!」ザッ

衛兵「ジャン殿っ! あ、あんた……っ!」

お頭「ロビンフッドになったつもりかっ⁉︎ お前も死刑だぞっ⁉︎」

ジャン「言ったでしょ? ただの趣味なんです。俺もいつかは死ぬ。そん時は天国で会おうぜ」

お頭「こ、こいつっ、殺して、殺してやるっっ!」ジタバタ

警護兵「おい、暴れるな。行くぞ」グィッ

お頭「は、はなせェっ! くそっ、ちくしょぉっ!」

衛兵「な、な、なんで、こんなことに」

ジャン「あんたらの悪手は、最後までシラを切り通さなかったことだ。俺の登場で明らかに動揺したな。どっちみち逃げられないけどね」

王様「……して、貴様はどう申し開きをするつもりだ?」ギロッ

姫「お、お父様っ! 違いますっ! この者は――」

メイド「王様っ! 私です! 私が見取り図を――」

王様「だまれぇぇぇぇいっ!!」クワッ

姫&メイド「……っ」

王様「一国の王のっ!! 発言にっ!! 口をはさむなっ!!」バンッ

ジャン「(さてさて……)」

王様「……ハーケマルの使者よ」

ジャン「はい、王様」

王様「その見取り図。無断で持ち出したことの釈明を聞こう」

ジャン「いや、今いったままです。言い訳はありません」

姫「ば、ばかなっ⁉︎」ギョッ

メイド「そんなっ⁉︎」ギョッ

ジャン「……ちなみに俺はハーケマルともなんら関係ありません。盗賊団の一味です」

王様「なぁにぃ?」

ジャン「どうぞ、犯罪者として指名手配なさってください」

王様「指名手配? 逃すと思うのかっ! 警護兵っ!」

ジャン「(舞台は整った。ここだな)」ビュッ

王様「な、き、消え……っ⁉︎」

姫「きゃあっ!」

ジャン「動かないほうがいい。姫を殺すぞ」チャキ

姫「……っ⁉︎」ギョッ

王様「お、おのれぇぇっ! 人質をとるつもりか」

ジャン「すぐに返してあげますよ」パサッ

姫「ゆうしゃ、いったいなにを考えて……ど、どうしたんですのぉっ⁉︎ その腕ぇっ⁉︎」ギョッ

メイド「腕がっ……そんなっ、左腕がっ、ない⁉︎ なくなってるっ⁉︎」

ジャン「自身の心配をなされよ。砂漠国のプリンセスよ」

王様「生きて逃げおおせると思っておるのかぁっっ! 例え……っ! 例え、逃げられたとしても生きた心地のしない逃亡生活が待っておるのだぞっ⁉︎」

ジャン「これは異なことを申される。私の素顔を王はご存知でない」

王様「ぬぐ……っ⁉︎」

ジャン「ハーケマルの使者だと気がつかずとも、一言、“仮面を脱げ”といっていればよかったのに。自身の落ち度に対して卑怯とは、おっしゃられますまいな?」

王様「ぬぐぐっ」ギリッ

ジャン「逃げることには変わりがありませんが、わざわざ姫を拉致したのは別の理由がある」

王様「別の、理由じゃと……?」

ジャン「金銭の要求や、魔族を引き合いに出すのではありません。今回起こったことを、民に公開するのです」

王様「な、なに……?」

ジャン「無論、他三国はもちろんのこと、ハーケマルに詳細を知られることとなるでしょう。姫の政略結婚は、一時見送りになるやもしれませんね」チラ

姫「……っ⁉︎」

王様「こ、これを、醜態を公開せよ、と」

ジャン「王様、世間を縦だけてはありません、横もあるのです」

王様「なにが言いたい」

ジャン「縦とは階級社会、横とは、支配される者とされない者。つまり、民の世界です」

王様「……」ギロッ

ジャン「あんたら王族、貴族、豪族はあくまで縦の存在だ。横になってる民の上で成り立ってる。無知なまま、蓋をして終わらせようとするな」

王様「民は、王政に幻想を抱いておる。“王様にまかせておけばいい”、“まかせておけば安心して暮らせる”。日々の安心感を捨て、民に暴風に晒された生活をしろと」

ジャン「……」

王様「ガラス張りで透明性のある政事などしていては、統治など到底無理だ! なぜならば、ワシら王族も、貴族もっ! 全て、人だからじゃ! 聖人君子などおらん! 失敗もする!」

ジャン「……」

王様「民は口先だけの集まりなのじゃ! 口では、クリーンな政治を求めておきながら、その実、“平和”や“安心感”というボヤっとしたものがあればいい!」

姫「お、お父様……」

王様「此度の件を公開する? ふん、それで? その後はどうなる? 報告してなにを得られる? 民たちは不満を抱え、ワシは王としての権威を保てなくなる」

メイド「……」ゴクリ

王様「問おう。民達の弾弓に耐え、どうやって統治を……この国を治められようか? 方法があれば、聞こうではないか」

ジャン「ただ、希望を与えてやってほしい」

王様「……貴様は、群衆の愚かさをなにもわかっとらん……」

ジャン「今回の一件は、大事になる前に見事、収束させてみせたのです。王権の失墜など起こらないでしょう」

王様「欲を、民たちのもつ欲深さを知らんのだろう。青臭い希望では」

ジャン「民に目を向けられよ」

王様「しかと見ておる」

ジャン「いいや、見てない! あんたはそんなに普段から完璧でいるつもりなのか⁉︎ 民衆をバカにするのもいい加減にしろっ!」

姫「お父様に、なんてことを……」

ジャン「我慢できないわけじゃない! この水のなかった期間だって、最後には王様がなんとかしてくれる、そう思っていたとしても!」

王様「だから、幻想を抱いておるというとるに」

ジャン「希望を抱いていたいんだ! ……今は、いう通りかもしれない。でも、そこをなんとかするのが、王たるあんたの使命だ」

王様「……民自身が、無知でいることを望んでいるとしてもか」

ジャン「常識が形式化してしまえば誰だってそうなる。歩行具をつけたまま何世代も歩かせる気なのかよ」

王様「知識を得るのは苦痛が伴う。民は、ひどく疲れるぞ」

ジャン「だから希望が必要なんだ。希望は、苦痛や疲労に耐える力を与える。歩けるようになるまで、あんたが支えてやれ」

王様「わかったような口を」

ジャン「俺は、人間の汚い、醜い部分を多く見てきたつもりだ。結局、どういう国を夢見てるんだよ? 王様は、なんの幻想にすがってるんだ?」

王様「ワシが……?」

ジャン「そうだよ。あんただって人だろ。民達を導いている優秀な指導者か? そこを拠り所にしているのか?」

王様「……」

ジャン「“民と王で同じ夢を見られない国は滅ぶ”。これだけは、言っておく」スッ

王様「……っ」ギリッ

姫「お父様ぁっ! この者はゆう――」

ジャン「はいストップ」ムギュ

姫「もごっ⁉︎ むーっ!」

ジャン「(パーティのやつらは宿屋に置き手紙残してきたから、その内追いかけてくるだろ。来たかったらだけど)」

メイド「姫様っ!」

ジャン「……メイドとやら。軽はずみに口を開がないほうがいい。姫がキズモノとなるぞ」ピト

メイド「なぜっ、このようなことを……っ」

警護兵達「お、王様ぁっっ!」ゾロゾロ

兵士長「王様っ! ……な、なんとっ⁉︎ 姫さまがっ⁉︎」ギョッ

姫「(この者は勇者ですっ! 勇者なんですっ!) もごもごっ! むーっふっ! ふもーっ!」

ジャン「(しかし、口おさえるとなんもできんな。両手がないとやっぱり不便。パッと手を離した瞬間に気絶させるか)」トス

姫「うっ」

警護兵達&メイド&兵士長「ひ、姫さまぁっ!!」

姫「」グッタリ

ジャン「(あとは顔真っ赤にさせて、と)マヌケな兵士たちよ! 雁首そろえて女一人守れなくてざんねんしたぁwww 悔しいねぇ? 今どんな気持ち?? ねぇ、どんな気持ち??」

警護兵達「ぶち殺してやるっ!!」

ジャン「王様、それじゃ俺はこれで失礼を」シュタッ タタタッ

王様「すぐに追いかけろっ!! 絶対に逃がしてはならんっ!!」

【クィーンズベル城 廊下】

戦士「なんだ? えらくごったがえしてるが」

僧侶「なにやら起こったみたいですねぇ~」

武闘家「……?」

   ドガシャーンッ

ジャン「なーはっはっ! 遅いわボケナスどもぉ~!」タタタッ

兵士長「まて、またんかァっ!!」ダダダッ

ジャン「とっつぁ~ん! 待てと言われて待つルパンがどこにいるんでぇ~?」タタタッ

戦士「こちらに走ってくるのは、賊か」チャキ

武闘家「やれやれ。この国の治安はどうなってるんさ。白昼堂々と城に」スッ

ジャン「ん……? おっ、お前ら……⁉︎」ギョッ

戦士「大人しくお縄につけ。……はぁぁぁっ!」ダダダッ

ジャン「むっ」パクッ

戦士「電光石火ッ!! はやぶさ斬り」ザシュ ザシュ

ジャン「ふんもっふ!」ササッ

戦士「なに、避けたっ⁉︎」

僧侶「あらあらぁ。器用に口で剣を加えたままで……片腕しかない……?」

武闘家「なかなかやるじゃないかっ!」

ジャン「(邪魔くせぇっ! 手加減してやらねーと)」

警護兵達「まぁ~~~てぇ~ごるぁあああっ!!」ドドドッ

ジャン「(そんな暇もないか)」パリンッ ガシャーン

武闘家「あっ! チッ!!」

兵士長「窓だっ! 窓から逃げた!」

警護兵「ここ城の三階ですよ⁉︎ 一般家屋とは違い、城の三階は高さが……」

兵士長「堀に捕まっているのかもしれん!」

ジャン「(そう思うじゃん? ふつうに落ちてるんだなこれが)」ヒューー

武闘家「この高さでは、助からないな」

戦士「な、なんだったんだ?」

僧侶「……」ジー

ジャン「(あらよっと)」クルクルッ シュタッ

兵士長&警護兵達「な、なんだとっ⁉︎」ギョッ

ジャン「(決まった。我ながら10点満点の着地である)」

戦士&武闘家「……」ポカーン

僧侶「宿屋に戻りますよぉ~。今すぐにぃ~」

【クィーンズベル 城下町】

魔法使い「はぁ~~。マク様はいったいどこに……」

戦士「おっ、魔法使い」キキッ

魔法使い「朝っぱらからジョギング?」

戦士「いや、なんだか、僧侶が焦ってるみたいで。宿屋に帰ると言われて」

魔法使い「はぁ?」

戦士「ほら、あそこ。前走ってる」

僧侶「(先ほどのすれ違いざまに感じた聖なるオーラは……まさか、まさかっ⁉︎)」シュタタタタタッ

武闘家「くっ、は、はやいっ⁉︎ どうなってるんさッ⁉︎」

戦士「いやぁ~、人間ってのはわからないもんだ。僧侶があんなに早く走れるなんて。魔法職だよな? あいつ」

魔法使い「な、なんなの。俊敏がウリの武闘家が追いついてないじゃない……」

戦士「いやぁ~~~。ほんっとーーにわからないもんだ。まさかとは思うが、僧侶があたしより強いとか、ないよな?」

魔法使い「えっ?」

戦士「いや、ないよなぁ~~さすがにそれはないよな? 魔法職だもんな? サシで負けるなんてこと」

魔法使い「な、ないんじゃない? だって、私たち魔法職は、防御能力ないし」

戦士「……そうだよなっ! あたしのパーティの序列がさらに下がるなんてことないよなっ!」

魔法使い「(僧侶、あいつ、一体……なんなの?)……私も宿屋に戻る!」

戦士「お、おいっ! ほんとにないよな? 僧侶が強いなんてことはないよなぁっ⁉︎ 」タタタッ

【クィーンズベル 宿屋】

戦士「僧侶が強いなんて、そんなはずない、そんなはずないんだ」ブツブツ

魔法使い「ねぇっ、僧侶ってばぁっ!」

僧侶「……」ゴソゴソ

魔法使い「あんたいったいどうなってるのっ⁉︎ なにか私たちに話してないことあるでしょ⁉︎」

僧侶「はやく荷物まとめないとぉ~」ギュッギュ

武闘家「……“次の村の宿屋で二日まつ”か」パサ

戦士「うぅ~、いやだ、もう負けたくない。負けたくないんだぁ」ブツブツ

魔法使い「教えなさいってば!」グィッ

僧侶「別にいいじゃありませんかぁ、知らなくてもぉ」

魔法使い「一緒に旅する仲間でしょう⁉︎」

僧侶「ふぅ……私は勇者さまさえ無事ならそれでいい。言えるのはこれだけですねぇ」

魔法使い「どういう意味……あんた、まさか……」

僧侶「歯ブラシ、はここにっと」スポッ

魔法使い「手を抜いてやってるの……? 勇者が本当に危なくなった時の為に、力を常に温存してるんじゃ……」

僧侶「どう受け取ろうとご自由に~」

魔法使い「今まで一緒に戦った時も、本気でやってたんじゃなかったの⁉︎ ……なんとかいいなさいよっ!」

村娘「こんにちはぁ~」ガチャ

戦士「……?」

村娘「(あいかわらずマヌケなやつら。私がリリムだって気づきもしないで)……こちらに勇者様がお泊りしていると噂になってて」

武闘家「勇者なら、いないよ」

村娘「今は席を外されてるんですか? 男性用のマントがありますが」チラ

魔法使い「知らないわよっ!! あんなやつっ!!」プィッ

戦士「おい、魔法使い」

村娘「(なにヒスっちゃってんのこいつ)サインもらいたかったのにぃ」

僧侶「……」スクッ テクテク

村娘「貴女様はご存知でしょうか?」

僧侶「なにしにきたんですかぁ?」バァンッ

村娘「……え?」

戦士「おお、乙女の憧れという壁ドンか」

魔法使い「なんか使い方間違ってるような気がしないでもないけど」

僧侶「“また”来たんですかぁ?」ニコニコ

村娘「は、はい?」

武闘家「……?」

僧侶「今はすこぶる機嫌が悪いんですぅ。誰かに八つ当たりしたくてぇ」ゴゴゴゴッ

村娘「……え? へ?」

僧侶「魔法使いさん」チラ

魔法使い「なによ」

僧侶「ちょっぴり話するとぉ、私、ダーマで結構有名人なんですぅ」

魔法使い「あっそ。そりゃ法王庁出のエリートならそうでしょ」

僧侶「いいぇ~。そうじゃなくて“悪名高い”のでぇ」

戦士「悪名? って、僧侶が?」

僧侶「はい~。幼い頃からのあだ名がありましてぇ、“殴り僧侶”とか色々言われてましたぁ」ブンッ

村娘「なっ⁉︎ ……ちょっ⁉︎」ギョッ

僧侶「しゃーーーっんなろぉーーっっっっ!!!ドゴォォォォッッンッッッ

村娘「~~~~ッ⁉︎⁉︎ ぎゃぁっ⁉︎」バコン バコン バコーーーンッ

おっさん「わぁっ⁉︎ 隣の部屋から人が突き破ってきたぁ⁉︎」

魔法使い&戦士&武闘家「……」ポカーン

僧侶「……少しスッキリしましたぁ」パンパン

魔法使い「う、うそ、でしょ……」アングリ

戦士「は、は、はは。夢だ。悪い、夢だ」

武闘家「な、なんちゅー怪力だよ」ゴクリ

魔法使い「魔法職なのに、一体、どうやって……」

僧侶「さぁ? どうやってるんでしょうねぇ~」ニコニコ

武闘家「と、というかっ! 村娘は⁉︎」ダダダッ

おっさん「ひっ、扉からはいってこいよぉ!」

リリム「」チーン

武闘家「こ、こいつはっ……!」ギョッ

僧侶「まだ息はあるはずなのでぇ~。回復してどうなってるのか吐かせないとぉ」テクテク

【数十分後 同宿屋】

リリム「ん……んん……」

僧侶「目が覚めましたぁ?」

リリム「(くそっ、私の正体に気がついてたやつがいたなんてっ⁉︎ ……し、縛られてるっ⁉︎)ふもーっ! ふむもっ!」ジタバタ

僧侶「殺す気なら寝てる間に何百回も殺せましたよぉ。目的はそうじゃないのでそうしませんでしたけどぉ」ニタァ

リリム「……っ⁉︎」ゾクッ

僧侶「どうしてここに勇者さまがいるとわかったんですかぁ?」

リリム「ふもーっ! ふむむっ!」

僧侶「喋れませんでしたねぇ。いま、噛ませてるタオルをとってあげますぅ」スッ

リリム「ぷはっ! 貴様ぁッ! こんなことしてたタダで済むと思うなよッ⁉︎」

僧侶「戦士さん。ちょっと剣をお借りしますねぇ」スラァ

戦士「えっ? なにする――」

僧侶「えいっ」ザシュ

リリム「ぎゃっ⁉︎」プシュー

魔法使い「きっ、斬ったっ⁉︎」ギョッ

戦士「無抵抗な相手だぞっ⁉︎」

武闘家「……待て。なにも理由がないとは思えない」

僧侶「痛いですかぁ?」ジー

リリム「ぐっ……!」ギロッ

僧侶「治してあげますよぉ」ポワァ

リリム「……殺せ」

僧侶「いいえ~。殺すなんてしません~。死なないギリギリのラインで痛めつけ続けてあげますよぉ」

魔法使い「あ、あんた……っ⁉︎ なにいってるのっ⁉︎ 聖職者がそんなっ」

僧侶「手段は選びませんのでぇ。言ったでしょ~? 機嫌が悪いとぉ~」

戦士「僧侶、お前……」

僧侶「――……どこのどいつかさっさと言えっつうんだコラ。勇者さまの腕を切り落としたのはどこのクソ魔族だ?」グィッ

リリム「うっ!」

武闘家「……な、なんだって……」

魔法使い「勇者の、腕が……?」

戦士「切り落としたぁっ⁉︎」ギョッ

リリム「……くっ、くっくっ、事実だったのか、余裕しゃくしゃくでいけ好かない男。隻腕になったんだぁ?」

僧侶「言葉に気をつけないと、死ぬよ」

リリム「殺したらいいじゃなぁ~い? そんなことしても勇者の腕は元に戻らないケド♪」

僧侶「……っ!」ギリッ

リリム「悔しそぉ~~。なにも知らなかったんだぁ? あんた達も。パーティの仲間なのにぃ?」

武闘家「おいっ! 勇者は、いまどこだっ!」ガンッ

リリム「知るわけないでしょ? そこに置いてあるマント。私はマーキングを頼りにここに来ただけ」

魔法使い「いつのまに……えっ、だって、昨日は、腕があって」

僧侶「腕は、いまどちらに?」チャキッ

リリム「ま・お・う・さ・ま・のぉ~……と・こっ♪」

僧侶「……」ポトッ

リリム「キャハハッ! ざぁ~んねぇんでしたぁ~っ!」

魔法使い「武闘家っ!! さっきの置き手紙なんて書いてあったって⁉︎」バサッ

リリム「クックックッ、おっかしぃ~~っ! あんた達なにやってたのぉ~?」

戦士「……片腕……そんな、剣士としてはもう、終わりじゃないのか……」

リリム「終わり終わりぃ~! キャハハハハッ!」

武闘家「知ってることをすべて話せっ!! 今すぐっ!!」バンッ

リリム「やぁだ」プィッ

武闘家「……おい」ゴゴゴゴッ

リリム「好きなだけ拷問でもなんでもすれば? でもぉ、私はぜぇぇったいに喋らないけど? あんた達の青ざめた表情見てるだけで悦にはいれちゃうしぃ~?」

僧侶「……勇者様の服はここに置きっ放しになってます。今すぐ全て燃やしましょう」

戦士「なぜだ?」

僧侶「いちいちイライラさせないでよっ!! マーキングされてるって聞いたでしょっ⁉︎」キッ

戦士「……っ、す、すまん、そうだな」

魔法使い「メモを残してあるってことは、まだ、生きてる。とにかく、次の村に急がないと……!」

武闘家「荷物をまとめろ、はやくっ!」

リリム「あらあらぁ~? 拷問してかなくていいのぉ~?」

僧侶「ご同行願います~。お話は後でゆっくりと~」

リリム「ふふぅん?」ニヤニヤ

【クィーンズベル 郊外】

ジャン「そろそろいいか」スポッ

姫「……お父様が今ごろカンカンですわよ」ジトォ~

勇者「10年ぶりだね、姫ちゃん」

姫「なに考えてるんですのっ⁉︎ こんなことしてっ! そ、それに、その腕はっ⁉︎」

勇者「ああ、これ? ……未来にッ! 賭けてきたッ!」ドンッ

姫「み、未来?」

勇者「ワン○ース知らない? 漫画なんだけど。それでシャンクスっていうのがいてさ」

姫「そうではなくっ! 漫画なんてどうでもいいでしょ⁉︎」

勇者「俺って友達がいなくてねぇ。漫画ばっか読んでたから、あはは」

姫「……どういうつもりなんですの? 腕はなくしてるわ、見取り図は自分が盗んだというわ」

勇者「ああでもしないとメイドちゃんが自白してたんじゃないかと思って。それに、この国のあり方についても思うところあったし」

姫「内政干渉ですわ。お父様が素直に言うことを聞くはずありません」

勇者「それはそうだ。姫ちゃんが唯我独尊なのって父親の血を受け継いでるとこあるね。わがままっぷりも半端ないけど」

姫「わ、わがっ……⁉︎」

勇者「一応、兵士たちもきっちり煽ってきたことだし、大規模な捜索部隊を編成してるだろ。国民にはバレるよ」

姫「……」

勇者「本当は、ルビスに会いに来たんだけど、また次にする」

姫「ルビス、さま?」

勇者「知らなくていい。ダーマ神殿に行かなきゃいけないんだ」

姫「……魔王討伐の旅の途中でしたものね。光の柱は、勇者のものだったのでしょう?」

勇者「そだよ」

姫「……そう」

勇者「ここで待ってればすぐに見つけてくれるはず。なにかあったらいけないから、遠目から見てるよ」

姫「も、もう行くのっ⁉︎ せめて、お父様の誤解を解いてから」

勇者「メイドちゃんはどうなんのよ」

姫「そ、それはっ、でも、きちんと正直に話すればお父様も」

勇者「ほかの手前もあるからそうはいかないかもよ。政治っていうのは内向きと外向きがあるんだ。今回のは内向きだ」

姫「……」

勇者「俺は仮面を被っていたお陰で、正体を知る者は極少数に限られてる。片手で数えれるぐらい……姫ちゃんと、メイドちゃんと、衛兵。犯罪者の衛兵の言葉なんて誰も信じないし」

姫「私と、メイドが、黙っていれば、勇者は罪に問われない……ってことですわね」

勇者「そうなるね。けど、言ってもいいよ。そこはまかせる」

姫「そ、そんなのっ、言えるわけ、ありません……」

勇者「……そっか」

姫「全部、勇者の狙い通りなんですの?」

勇者「ん?」

姫「だって、そうでしょ?」

勇者「んー」ポリポリ

姫「メイドは勇者の身を案じて真実を告白できない、わたくしは大切な友を失わずに済む。罰せられるべき者たちは罰せられ、大円団じゃありません?」

勇者「ははっ、あははっ」

姫「ふふっ、お父様まで巻き込むなんて」

勇者「……大円団なんかじゃないよ」

姫「ど、どうして? だって、結果だけ見れば」

勇者「本来なら罪に問われるべきなんだ。メイドちゃんも。俺もね」

姫「で、でもっ!」

勇者「姫との縁故を利用して、裁かれるべき人が抜け道を通った。苦し紛れの、胸糞悪い結果なんだよ」

姫「……っ」

勇者「これから俺たち三人は、罪を共有してく。それは、王にウソをついた不敬罪、隠匿罪。まぁ、そこさえ気にしなきゃいいんだろうけど」

姫「わたくしは、気にしません」

勇者「……メイドちゃんによろしく伝えておいてよ」

姫「あの子、会いたがってましたわよ。勇者が、くれた、銀細工……ススだらけになるまで持ち歩いて」

勇者「また機会があったら遊びにくる」

姫「腕は? 本当に大丈夫ですの?」

勇者「なんとかなるんでない。わかんないけど」

姫「……あいかわらず、なんですのね」

勇者「あ、ねぇ。ひとつ聞きたいんだけど」

姫「なんですの?」

勇者「ここらへんってさ、花ってある?」

姫「花? サボテンに咲く花ぐらいかしら……」

勇者「なにか、伝承があるとかない? 雨と太陽が交わる場所とか」

姫「雨と、太陽……あぁ、“結晶の薔薇”のことですわね」

勇者「ほ、ほんとにあんのっ⁉︎」

姫「自分で聞いたのではないですか」

勇者「いや、そうなんだけど。まさか、あるとは」

姫「ありますわよ。ただ、今はありませんけど」

勇者「今は? 時期的な話? ここ気候は年中同じだよね」

姫「いいえ、年に一度、雨が降るんですの」

勇者「へぇ」

姫「雨があがれば、太陽がさしこむ。一輪の薔薇が咲いてます。学者たちの研究でもよくわかっていません」

勇者「そりゃー、神秘的なお話で」

姫「お城にいけば、ありますわよ」

勇者「どこに……どうせ宝物庫だろ」

姫「観賞用ですから厳重に保管してありません。わたくしの部屋にあります。鏡の前に」

勇者「あ、そう。……鏡?」

姫「ええ、そうですけど」

勇者「そう……そうか……偶然……だよな?」

姫「……?」

勇者「……気にしないでくれ。それと、返しとく」ジャラ

姫「これは、王家に伝わるアクセリー?」

勇者「姫ちゃんに足さされた時に貸し出されたんだ。ちゃんと返しておくよ」

姫「わかりました。お父様には、拾ったと伝えておきます。……あの、勇者」

勇者「なに?」

姫「わたくしの、政略結婚まで、考えてくれて、あ、ありがとぅ」ポッ

勇者「……」ぞわぞわっ

姫「は、ハーケマル王子との婚姻は、きっと、延期されるでしょう」

勇者「う、うん。いいよ」

姫「あ、あのっ、次は、いつ来る……?」

勇者「そのうちに」

姫「お父様も、勇者に、会いたがってましたし……その、もしかしたら、け、けけけっ、結婚相手が変わるなんてことも」

勇者「さてっとぉ」テクテク

姫「どこ行くんですの。まだお話の途中ですが」ガシッ

勇者「……」

姫「勇者なら、王族とも、肩を並べてもおかしくないというか、メイドを側室として迎えて、わたくしと」

勇者「姫ちゃんッ!!」クワッ

姫「は、はいっ!」

勇者「……」ジー

姫「あ……」ドッキンコドッキンコ

勇者「ライデイン」ボソ

姫「……えっ⁉︎ えぇぇぇぇっ⁉︎」ビリビリ

勇者「出力は抑えてある」バチバチ

姫「」プスプス

勇者「結婚なんか人生の墓場だっ!!不吉なこと言ってんじゃねーぞ!!」クルッ

【クィーンズベル 廃墟】

老人「ふぉっ、ふぉっふぉっ。ワシに会わずにゆくか、勇者よ」パァァ

ルビス「――……せっかくお膳立てしてあげたのに」

妖精「ルビス様ぁ~、もう帰りましょ~」

ルビス「ねぇ」

妖精「はぁい?」

ルビス「魔王なんか小物の前座で私が真のラスボスって言ったら、あの子、どんな顔して喜んでくれるかな? かな?」

妖精「真実知ったら恨まれると思いますよぉ? こーんな顔して」グニ

ルビス「そっかぁ~、うんうん、そーよね」

妖精「時の狭間に帰りましょ~」

ルビス「見たかったなぁ。あの子の絶望してる表情」

妖精「もぉ、ルビス様ったら」

ルビス「つまみ食いはよくないもんね? 楽しみはとっておきましょっか♪」

【馬車の荷台】

魔法使い「はぁぁぁあっ! メラミっ!」ポフン

武闘家「……」

魔法使い「ありゃ、もう魔力きれちゃった」

武闘家「魔法使い、静かにしてよ」

戦士「はぁぁ~~~っ」ショボン

魔法使い「戦士ったらまだグジグジしてんの? 僧侶の怪力見たからって。戦ってみたら?」

戦士「……また負けたらどうするんだよぅ」

魔法使い「三度目の正直、と言う言葉があるわよ」

戦士「二度ある事は三度ある、というじゃないかぁ」イジイジ

魔法使い「そうね、二度ある事は三度ある、三度目の正直、どっちも言うけれど、どっちが本当なのかしらね」

武闘家「くだらない。どっちも同じじゃないさ」

魔法使い「?」

武闘家「三度とも正直なら、同じ事」

魔法使い「は? なにあんた、空気で頭でも打った? 意味わかんないんだけど」

リリム「……」ボロ

魔法使い「ねぇねぇ、魔族の貴女はどう思う?」

リリム「……」

魔法使い「シカト? 人間を餌にしか思ってないんでしょ~? こうして逆に痛めつけられるなんて思わなかった?」

リリム「いちいちうるさいなぁ。陰湿」

魔法使い「あんたに言われたかないんだけどぉ?」

リリム「魔法使いって呼ばれてるんだっけ。魔法の才能ないよ? キャハハハハッ!」

魔法使い「……なんで?」

リリム「バカの一つ覚えみたいにメラミメラミってさぁ。魔力はまったく練りこめちゃいないし、学芸会でもやってるのぉ?」

魔法使い「なんですってこの低級三下魔族が」

僧侶「あのぉ~、そろそろ手綱かわってほしいんですけどぉ」ヒョイ

魔法使い「……私、やる。ここいてもつまんないし」

リリム「逃げた逃げたぁ」ニヤニヤ

僧侶「傷の具合はいかがですかぁ」

リリム「(こいつ。厄介なのは、こいつだ。このパーティで、無抵抗な弱者を傷つけるのを躊躇わらない)」

僧侶「勇者さまの腕をやってのはどの魔族か言う気になりましたぁ?」

リリム「言うわけない」

僧侶「そうですかぁ」ゴソゴソ

リリム「……」ジー

僧侶「これぇ、モーニングスターっていう武器なんですけどぉ。鎖の先端にイボイボの鉄球がついてるんですぅ。当たれば痛いですよぉ」ヒョイ

リリム「……だから?」

僧侶「わたしねぇ、勇者さまって、かわいそうだと思うんですよぉ。自分らしくありたいって、そう主張してる男の子にしか見えなくてぇ」

リリム「……」

戦士「僧侶、それ、使う気か? いくらなんでも、そこまで。いっそ、ひと思いに殺してやったほうが」

僧侶「お師匠さまにぃ、言われてるんですよぉ。“精一杯、勇者さまのお力になってきなさい”って。そう思ってた、そう思ってたのに。でき、なかった」

武闘家「……」

僧侶「距離を測るべきか、詰めるべきか、悩んでる内に。腕をなくしちゃってましたぁ~。あはは、臆病ですよね、私のせいですぅ」

リリム「(なんだ、こいつ、やばい……目に、光がないっ)」ゾワッ

戦士「僧侶……」スッ

僧侶「次なんてあるかわからない」パシッ

戦士「な、なにもあたしの手をはたかなくったって」

リリム「……アンタ、本当に、聖職者……?」

僧侶「でも、だから。だから、次こそは。うん、次なんて、あるのかどうか、あっても何をすればいいのか分からないけど。でもね、次こそは私、勇気を出そうと思う……ね?」カチャ

リリム「……」ゴクリ

武闘家「僧侶、やめろ」

僧侶「邪魔するの? 武闘家さんは少しだけ聡いと思ってたのに」

武闘家「次の、村だ。村につけば、勇者がるはずじゃないさ。直接、聞けばいい」

【1日後 クィーンズベル城 姫の自室】

姫「……」ブッスゥ

メイド「お、お嬢様。そろそろご機嫌をなおしてくださいまし。きっとなにかの手違いで」

姫「いいえっ!! たしかに痺れましたっ! それになにかボソッつぶやいてましたしっ!! 魔法を唱えたんですわっ!」

メイド「……あの、私の罪をかぶっていただき、命を救っていただいたのは事実ですし」

姫「それとこれとはなにも関係ありませんっ!」

大臣「姫さま、失礼いたします」ガチャ

姫「あーら、じじい。淑女の部屋になんのごよう?」

大臣「じじい……せめてじいやとか」

姫「じじい」

大臣「(この小娘がっ!!)」ニコニコ

姫「用件は?」

大臣「いやいや、用件はないんですけども。声が廊下まで聞こえていたので」

姫「用がないのなら、回れ右」

大臣「ぬぐっ! ……なにやら、痺れたとか」

姫「いやらしいじじい。盗み聞きしてたんですの?」

大臣「ほ、ほほ」ヒクヒク

姫「あなたには関係ないわ。出てって」

大臣「姫さま。僭越ながら、その魔法に心当たりが」

姫「……?」ピク

大臣「メイドよ。恋に落ちた時はあるか?」

メイド「は、はい?」

姫「セクハラですわ。お父様に言いつけて――」

大臣「それこそが、魔法の、正体なのです」

姫「ついに耄碌したんですのね」

大臣「古今東西、恋に落ちた時は、身体に稲妻がはしるという感覚と決まっております。のう、メイドよ?」

メイド「は、はぁ」

姫「恋……? そうなんですの?」

メイド「いえ、私は、よくわかりませんが」

大臣「ペットかなにかでも見つけられたんですかの? ……ごほん、良いですか。それはいわゆる、見惚れた時に現れる現象です」

姫「み、見惚れた……?」

大臣「犬ですか? 猫ですか? どちらでもよいですが。胸に手を当てて、愛くるしい姿を想い浮かべてごらんなさい」

姫「(勇者を……?)」

メイド「あ、あの、大臣さま。それ以上は……姫さまは嫁入り前の」

大臣「そうすると、たまらなく愛おしく思えてくるでしょう? ワシも犬を飼っておりましてな。野良だったのですが、最初の出会いはそりゃもうビリビリと電撃かと思ったくらいで」

姫「(勇者……あの時、見つめられて。そういえば、わたくしったら結婚の申し出を自ら、してた?)」ポワァンポワァン

メイド「自覚を、促すなんて……私、知りませんよ」

姫「……っ」ボッ

大臣「人生のパートナーとは、かけがえのない巡り合わせという運命でもあるのです。話は変わるが、メイドよ」

メイド「はい……」ブスゥ

大臣「? なにを不貞腐れておる」

メイド「知りませんっ! 本当にどーなっても知りませんからねっ!!」バンッ

【数十分後 クィーンズベル城 玉座】

王様「粛々と述べよ」

兵士長「はっ! ご報告致します! 捜索隊が出立、数刻後に無事確保、気絶しておられましたが、なんら異常は見受けられませんっ!」ビシッ

王妃「噂はどうか」

兵士長「……恐れながら申し上げます! 此度の一件にらつきましては、城内の使用人から漏れたのか、その、民たちの間でも」

王妃「陛下……」

王様「やはり、人の口に戸はたてられんか」

兵士長「箝口令(喋ったら罰すること)を敷きますか?」

王様「いや、そのような愚策をすればますます不信感を募らせる。漏れ出す前ならまだしも、後ではな」

王妃「ならば、別の噂で上書きしてしまうのは?」

王様「?」

王妃「ポジティブに捉えるのです。不祥事を隠さない王権はクリーンだと民たちに訴え、宣伝に活用してはいかがでしょうか」

王様「どちらにせよ、非はある。騙せたとしても一度が限度であろう」

姫「お父様っ!!」バターンッ

王妃「……はぁ、まったく、はしたない」

王様「姫よ。身体に大事ないか」

姫「わたくしっ! 結婚いたしますっ!!」

王妃「まぁ……」

王様「……そうか、危険な目にあい、王室に逆風が吹こうかというこの節目にようやく、ようやく自覚が芽生えたか……」

姫「勇者とっ!! 婚儀をあげますっ!!」

王妃「……」

王様「……」

兵士長「ひ、姫さま? いま、なんと?」

姫「ですからっ! 勇者とっ! 結婚いたしますっ!!」

メイド「ひ、ひひひっ、姫さまぁ~、はぁっはぁっ」タタタッ

姫「メイドっ! 今伝えたところよっ!」

メイド「ひ、ひぃぃぃぃ~~~~っ⁉︎」ガタガタ

王妃「この子は……なにを考えてるのやら……」

王様「ば、ば、ばっ、ばっかもぉぉぉおおおっんっっ!!」

姫「なぜでしょうか⁉︎ 勇者であれば王室と婚姻を結んでも身分は問題ないはず! アデルに問い合わせてください!」

王妃「そういう問題ではないのです。ハーケマルとは兄弟国なのですよ。いわば、王子とは許嫁の身。許嫁とは、家同士の契約なのです」

王様「このっ、このっ、バカ娘がっ!」

姫「そんな婚姻に幸せはありませんっ! お父様! お母様! 娘の幸せをお望みではないのですか⁉︎」

王妃「理解してちょうだい。望むだけが幸せではないと。……結婚生活は、いずれ、慣れます」

姫「お母様は、なにも理解しておられません」

王妃「姫。母親に向かってなんたる口を……!」

姫「あの“勇者”なのです! 世界の希望! もし、私と結婚をするとなれば、ゆくゆくは国王! 勇者が国王になるのです! 民たちはこの国こそが一番だと喜び踊るでしょう!」

王妃「そ、それは……」

王様「ハーケマルが孤立するじゃろうが」

姫「そこはお父様の外交手腕の見せ所じゃありません?」

王様「なにも利ばかりが全てではない。信頼とは持ちつ持たれつで成り立っておる。本音を言えば、勇者を迎えたいのは四つ国同じよ」

姫「それじゃぁ、勇者が魔王を倒したら? どうなさるおつもりです? アデルに帰るのを指を咥えて見てるおつもり?」

王様「アデルは、勇者出生の地である。優先権はあそこにある」

姫「それも、国同士の決まりごと? バランスをとるための?」

王様「左様じゃ。我らが強引に動けば、まずアデルが黙っておらん」

姫「勇者が希望していたとしても?」

王様「なに?」ピクッ

王妃「姫……。まさか、勇者自身が、婚姻を望んでいると?」

メイド「ひ、ひめさまぁ、それ以上はまずいですぅ、後戻りが――」

姫「はいっ!! 勇者から求婚されましたっ!!」キッパリッ

王様「まことかっ⁉︎」ガタッ

メイド「…………し、知りませんよ、わたし、なにも、しりませんよぉ」

姫「ウソじゃありません! ですから! お認めください!」

王様「……う、うぅむ……」

王妃「勇者が……そう。この国にいると聞き及んではいたが、会ったのね?」

姫「はい!」

王様「当人は、どこにおる?」

姫「魔王討伐に急ぎでかけられました。戻ってきた時には、かならず妃にすると」

王妃「まぁまぁ、あらあらぁ」

王様「な、なんと。必ずと、そう申したのか」

姫「お父様、お母様。これは、政治的側面においてもチャンスなのではないでしょうか?」

王様「……兵士長よ……」

兵士長「はっ!」ビシッ

王様「この国を除く三国に早馬を飛ばせ。四つ国会議を申請すると。仲介役は、法王庁に」

兵士長「頂上議会を……!」ゴクリ

王様「伝文は、“魔王討伐後の勇者の所有権”。――よいな?」

兵士長「ははっ!」ドゲザ



【クィーンズベル城 姫の自室】

メイド「ひ、ひひひっ、ひめさまぁ。どうなさるおつもりなんですかぁ~」

姫「なにが?」ケロッ

メイド「嘘なんでしょおっ? 求婚されたなんて一言も……人間達で争いが勃発しますよぉ~ばかばかばかぁ~」

姫「ウソなんて真実にしてしまえばいいのよ」

メイド「もし、もしも、バレたら、この国、滅ぶかもしれませんよ」

姫「転覆を目論んでいた盗賊団がいたじゃありませんの。勇者がいなければ気がつけていたかどうか」

メイド「ひぃ、ひぃぃぃぃんっ」

姫「うまくいけば、貴女を第一の側室に申請してあげる」

メイド「……え?」

姫「あら? 嫌だった? なら、どこの馬の骨ともわからない貴族と縁談を」

メイド「い、いえいえっ! 嫌だなんてそんなっ! わ、わたしですかっ⁉︎ というか、側室だなんて、そんなっ! 姫さまいいんですかっ⁉︎」

姫「英雄色を好むというでしょう。優秀なタネであれば多くの女を孕ませる権利がある。子は恵まれるにこしたことはないし」

メイド「え……わ、わたしが、勇者さまの、お嫁に……」

姫「ちょっと! 正妻はわたくしです! あなたは側室っ!!」

メイド「は、はい、それは、もちろん……」

姫「……そういえば、勇者ったら、なぜこの花を探していたのかしら」ゴト

メイド「鏡の前にある結晶の薔薇を?」

姫「ええ。急に聞かれたのだけれど……」

妖精『クスクス』

姫「――ねぇ、今、誰か? 笑った?」

メイド「いえ? 空耳では? この部屋には二人だけですし」

姫「そう……? 変ね……」

【ブサイク村 宿屋】

勇者「この村のネーミングセンスやばない? 悪い意味で」

店主「……リア充はしね」

勇者「おおい! 直球だな! いらっしゃいませな!」

店主「一晩100000万ゴールドになります」

勇者「たかいよ。足元見てるってレベルじゃねーだろ」

店主「ちっ、これだから陽キャは」

勇者「脈絡なくディスらないでいただけるかな。とにかくなんでも文句つければいいと思ってないか……部屋あいてる?」

店主「は? は? はぁ?」

勇者「……」

店主「部屋ぁ? リア充は外でキャンプファイヤーとバーベキューしてればぁ?」

勇者「……俺は、仲間だぞ」

店主「ケッ。あんたどう見ても女にかわいいとか言われる部類じゃん。心の中で哀れとかバカにしてんだろ。くっさ」

勇者「……」スッ

店主「なにを見せようって――」

勇者「これは、俺が無人島に持っていくバイブル。ToLOVEるという」

店主「……カジュアルオタか。そんなファンタジー漫画ぐらいで」

勇者「まだある」スッ

店主「……っ! こ、これは……っ⁉︎」

勇者「そう。この世界ではめったに手に入らない機械文明というファンタジーの金字塔――ガ○ダム」

店主「うぉ、おおおっ、あまりの売れ行きの悪さに絶版になっているあの……っ! し、しかもこれは……っ」ペラ

勇者「真っ先に確認するとは、おぬしもなかなかの通よ。そう、これは、幻の初版だ」

店主「……っ」ガタッ

勇者「値はつけられるものではない。欲しい人にとっては、価値がある。しかし、欲しくない人にとっては、ただの紙。お前はどっちだ? 価値を見出せる人間か?」

店主「……あ、あんた……どうやって、これを……」

勇者「答えは簡単だ。俺は、友達がいない」

店主「……あ、あぁ……あぁあああっ……」プルプル

勇者「実話の話だ。だから、心を癒してくれる、漫画の世界に逃げた。ありとあらゆるジャンルを読破した」

店主「そ、そんな見た目をしてるのに」

勇者「ふ、ふひひ。俺の纏う負のオーラにシンパシーを感じないのか?」

店主「……そ、そういえば……目が、ピュァだ」

勇者「(そっちかい!)……幻想を愛してるからな。二次元は俺の嫁。三次元はお断りします」

店主「……わかった。俺が間違ってた。ようこそ、ブサイクだらけの村。文字通りのブサイク村へ」

勇者「(とんでもねぇ村だな)」

店主「お前さんの容姿に嫉妬を禁じ得ない。我々のコンプレックスをあまり刺激しない方がいい」

勇者「はいはい。なんでここにはブサイクしかいないんだ?」

店主「この村はみーんな容姿を理由にいじめられた過去を持つコミュニティなのよ。イケメンや美女の前だと緊張しちゃったり構えたりするようなやつら」

勇者「また、なんとも……隠キャっぽい」

店主「あん?」ピクッ

勇者「なんでもない。とりあえず、宿をお願い」

【数時間後】

店主「ようこそブサイク村へ御一行様ですかお風呂にしますかそれともお食事にしますかなんなりとなんかりとお申し付けくださいむしろ豚とののしってください――」

魔法使い「……っ」ビクゥ

店主「(びびびびっ、美女集団が、この村にっ、やっ、やってきたぁああっ!)」ガクガク

魔法使い「早口すぎて聞きとれなかったからもう一度言ってくれない?」

店主「あひっ、あのっ、やど、やどになりましゅ」プルプル

僧侶「……あのぉ~」ピトッ

店主「ひゃ、ひゃわっ、て、ててて手ぇをにぎって、なにをっ」

僧侶「ゆっくりで大丈夫ですからぁ~」ニコ

店主「(……て、天使……?)」クラァ

戦士「勇者が来てるか聞けばいいだけだろう?」

勇者「おーう、やっぱり追いかけてきたのか」トントン

魔法使い「あっ!! あんた今までどこでなにやって――」

僧侶「……っ」タタタッ

勇者「ん?」

僧侶「勇者さまぁっ」ボフッ

勇者「お、おい」

僧侶「すみません、なにもお力になれず、申し訳、ありません」ギュウ

勇者「……な、なんだぁ?」

魔法使い「僧侶、そんなに心配してたの……」

戦士「あたしたちだって心配しなかったわけじゃない!」

武闘家「腕、聞いたよ。どうなのさ?」

勇者「聞いたって、誰から――」

僧侶「……」ソッ パサッ

戦士「……ほ、ほんとに、腕が、ない……」

勇者「まぁ見たまんまなんだけど」

魔法使い「どうするつもりなのよぉっ! 誰にやられたのっ⁉︎」

武闘家「勇者が腕を持ってかれる相手なんて想像もしたくないが、負けたの?」

勇者「んー」ポリポリ

戦士「両手で剣を使えないなんて死活問題だぞっ⁉︎」

勇者「質問はひとつずつにするのと俺の質問が先! なんでリリムがここにいるの?」

リリム「……」プィ

魔法使い「勇者を襲いにきてたのよ」

勇者「あらー、そっか。とりあえず部屋いくべ」

店主「(このくそやろぉおおおおっ!! やっぱりリア充なんじゃねぇかおまええぇぇっ!!)」ゴゴゴッ

勇者「この村には、あまり長居できねーな……はぁ」

【宿屋 部屋】

勇者「とりあえず、僧侶は俺の腰から離れろ」

僧侶「……いやです」ギュウ

勇者「離れろ」グイッ

僧侶「今回は次がある。でも次は、その次がないのかもしれないから」ガッシリ

勇者「(なんじゃこいつ)……離れんかい」ググィッ

僧侶「いや、です」ググッ

勇者「いだい。まって、いだっ! いだだだっ⁉︎ なにこの馬鹿力っ⁉︎」

僧侶「離れまっ、せんっ」ギリギリ

勇者「お、おぉぉぉっし、締まる、さば折りになってきてるっ! タップ!」パン

僧侶「四六時中、ずっとそばについてます。喉が乾いたりしたら言ってください。ちゃんと水差しは用意してあります。ご飯なら食べさせてあげます。トイレも片腕では自由もあるでしょうから私が手伝って」

勇者「ヤンデレか! お前らも見てないで止めんかい!」

魔法使い「いい気味よ」

戦士「お灸が必要だ」

武闘家「……異議なし」

勇者「お前らなぁ、こういうやつが一番ぶっとんでるとセオリーがあるんたぞ! その内パーティ内で血みどろの殺人事件が!」

魔法使い「私、別に勇者個人を男として見てないから。僧侶と争うのもない」

戦士「同じく」

武闘家「……誰にやられたのか言いなよ」

僧侶「私、これまで実のところ我慢していたんです。普段から色々してやりたかったから、都合が良いぐらいで。勿論、勇者さまの腕がこのようになって喜ばしいと言う訳じゃなく、でも、これからは心置きなくやれる理由ができたというのもあって」

勇者「ほらぁ! もうやばいってこいつ! なんかあったら俺刺されるやつだってこれぇっ!!」

魔法使い「刺されたら? バカは死ななきゃ治らないって言うし」

勇者「切り捨てないで⁉︎」

僧侶「……そんなに、そんなにっ、信用、できないですか……」

勇者「……はぁ?」

武闘家「通訳してやる。なんで個人行動をしたがるのさ? こう言ってる」

勇者「いや、俺は俺のしたいようにしてるだけで」

僧侶「腕をなくされるのもですかっ⁉︎ 私は、そんなに頼りになりませんかっ⁉︎」

魔法使い「私じゃなくて、私たちでしょ」

戦士「前にも話したが、このパーティのこと、もう一度、話し合いする機会が必要なんじゃないか?」

リリム「……ばっかみたい」

魔法使い「三下魔族がしゃしゃりでてくんな」

リリム「ニンゲンってホントバカよね。頼りない? そんなこと聞かずとも、それしかないでしょ」

戦士「……黙ってろ」

リリム「魔族はその点わかりやすい。なんていったって力がすべてだから。それでぜぇーんぶ決まっちゃう。勇者に、相手にされてないのは、アンタ達だよ。キャハハッ!」

僧侶「……」ユラァ

勇者「まて」ガシッ

僧侶「なぜ、止められるのですかぁ? 用済みなので殺してしまいましょう」

リリム「やれば?」

勇者「……はぁ、解放してやれ」

魔法使い「……っ! いい加減にしてよっ!!」バンッ

勇者「……」

魔法使い「こいつは、敵っ!! てきてきてきてきっ!! 敵なのよ! 野放しにしてどうするつもり⁉︎ 人間に害をもたらす! 罪のない人が殺されちゃってもいいのっ⁉︎」

戦士「残念だが、あたしもそう思う。綺麗事だけでは被害をとめられない」

武闘家「……わかった。勇者ができないっていうのなら、アタイが」

勇者「やめろって」

魔法使い「我慢できるとかできないとかじゃない! それ以前の問題なのっ!」バンバンッ

戦士「あたし達の旅の目的は魔族の首領、魔王なんだ。遅かれはやかれ、殺すことになるんだぞ」

勇者「今は無力だろ。そこまで必死にならんでも」

魔法使い「今はね! 回復したらまた人を襲う! ねえっ、あんた……ほんとに勇者っ? そんなんで魔王討伐なんかできるつもりでいるの? こいつは、害虫!」ズビシ

リリム「が、害虫だと……っ?」

勇者「やめろっつうのに。縄といてやっから」シュルシュル

リリム「甘い……とろけるような甘さのおぼっちゃま。クックックッ」ニヤァ

魔法使い「勇者っ! やめなさいってばぁっ!」グィッ

勇者「頼むっ」ドゲザ

魔法使い「うっ……え……?」

勇者「こいつの命、助けてやってくれ。この通りだ」

魔法使い「ま、魔族の為に、土下座……こ、こんなやつ、勇者じゃ、ない」

戦士&武闘家&僧侶「……」

魔法使い「無理。あんたみたいな腰抜けが魔王と渡り合えるわけない。伝説は所詮伝説なのよ……」クルッ

戦士「魔法使い、どこいくんだ」

魔法使い「抜ける! 私もうこのパーティにいたくないっ!!」

武闘家「……」

魔法使い「魔族は、お母様の仇なのに……っ! 勇者についてけば……っ、無念をはらせるって……なのにっ」ギロ

勇者「すまん」

魔法使い「あんたには心底失望したわ。二度と顔見たくない」スタスタ

勇者「じっとしてろ」

リリム「ありがとぉ~♪」

戦士「勇者……いいのか、これで……パーティメンバーよりも、魔族をとるのが、答えなのか……?」

勇者「そうだ」

戦士「……っ、そ、そんなっ、馬鹿げた話があるかぁっ! 長いとは言えない期間だが、苦楽をともにしてきた仲間だろう! 魔族はお前になにを……なにもしてくれるつもりなんかないだろっ⁉︎」

リリム「あはっ♪ ほんとに縄といてくれたぁ」

戦士「こ、こんなバラバラのパーティで、この先もやってくつもりなのか? なぁ、答えてくれよっ!!」

勇者「……ついてきたいと言ったのはお前たちだ。合わないのなら、戦士、お前も抜けろ」

戦士「……っ」

勇者「リリム、さっさと来た元へ帰れ。ニンゲンは襲うなよ」

リリム「はぁ~い♪ お優しい勇者さまぁ~、感謝しますぅ~……い・ま・だ・けっ♪ キャハハハハッ!」バサッバサッ

戦士「……勇者……あんた、間違ってる。間違ってるよ」スタスタ

勇者「ふぅ……武闘家と僧侶はいかなくていいのか」

武闘家「正直、なにがしたいのか理解できない。でもアタイは師匠との約束があるから」

僧侶「聞かれるまでもありません~。雲を貫く天でも地獄の底でも、お供いたしますぅ~」

【宿屋 外】

魔法使い「あああっ! もうっ!!イラつくイラつくイラつくイラつくっ! むきーーーっ!!」ダンダンッ

商人「お嬢ぉ~さんっ♪」

魔法使い「……なに」

商人「こんなブサイクだらけの村にお嬢さんみたいなキレーな人がいるなんてぇ~。ひょっとして、旅のお方?」

魔法使い「そうだけど? そちらは行商人?」

商人「行商人なんてそんなそんなぁ。ボクはしがない旅商人ですよぉ。なにお悩みみたいですね?」

魔法使い「関係ないでしょ」プイ

商人「先ほど、宿屋でチラッとみかけてしまったんですが、男女のモツレですか?」ニマ

魔法使い「……はぁ。そんなわけない」

商人「へ? そうなんですか? なにやら男性の方に詰め寄っているような会話が聞こえてきましたが」

魔法使い「聞こえてたのね。別に。あんまりにもだらしないから嫌になっちゃったってだけ」

商人「わかりますわかります。男ってのはなんで身勝手なんでしょうねぇ~」

魔法使い「ボク……って言ってたけど、あなたは男じゃないの?」

商人「これは失敬! 帽子かぶったままではわかりませんよねっ。ちゃぁ~んとした女ですよっ♪」パサ

魔法使い「あっそ」

商人「実はぁ~……」ゴソゴソ

魔法使い「ねぇ、今は雑談とかする気分じゃな――」

商人「こちらっ! このおススメの商品がありましてぇ~」スポンッ

魔法使い「うっ、くさっ⁉︎ な、なによっ⁉︎ なにだしたの⁉︎」

商人「お聞きになりたいですかぁ? コレ、惚れ藥になってますぅ」

魔法使い「ほ、惚れ薬ぃ?」

商人「女でも。男でも。みぃ~~んがほしいと一度は願うあの惚れ藥ですっ! だらしない男だと思っても見限るのはまだはやい!」

魔法使い「……?」

商人「そんな時はコレ! なぜなら! “惚れた異性”には死にものぐるいで頑張るものなんです!」

魔法使い「はぁ」

商人「“惚れた弱み”とよく言うじゃありませんかぁ? だらしないのならば、心底惚れさせればいいのです! 心の底の底からっ! 貴女以外なんて見えないように!」

魔法使い「……それはそれで重すぎるというか、めんどくさそう」

商人「うまぁく操ってやればいいんですよぅ。今なら一本買えば二本目は無料です」キリッ

魔法使い「原材料はなんなの?」

商人「マンドラゴラとドラゴンの涙です」キリリッ

魔法使い「……嘘ね。胡散臭すぎるからハナから信じちゃいないけど、両方とも入手困難な素材じゃない」

商人「ウソだなんで人聞きの悪いですね」ムッ

魔法使い「今は一人になりたいのよ。物売りなら他を当たってくれない?」

商人「あぁ~そうですか。いいですよーだ。トルネコ印の商品なのに」

魔法使い「――トルネコ? トルネコって言った? いま」

商人「そうですよ。ウソだとか言われるのは心外なので、先に見せておきます。これです。これがトルネコの会員バッチ」キラン

魔法使い「へぇ……ホンモノ?」

商人「なっ、なななっ、なんですかあなたは⁉︎ 疑い深いにも程がありますね! ボクはちゃぁ~んとした会員です!」

魔法使い「ふぅ~ん」ジトォー

商人「これからクィーンズベルに向かう途中なんです! ホントのホント!」

魔法使い「……あっそ。興味ないからいっていいわよ」

【数十分後 ブサイク村付近 丘】

戦士「おぉ~い、魔法使い」タタタッ

魔法使い「はぁ……なによ、もう連れ戻しにきたの?」

戦士「いや、残念ながらそうじゃない」ポリポリ

魔法使い「……引き止めるなんてするわけないか」

戦士「ああ……残念なことだ。勇者は、あたし達より魔族を選んだ。広義で言えば、人間よりもだ」

魔法使い「要するは“勝手についてきてるだけ”。それ以上でも以下でもないってだけでしょ、あいつにとって」

戦士「そう、かも……しれないな」

魔法使い「あんなのが勇者だなんて、人類全体が不幸だわ。魔王を討伐する。そのことを期待されてるのに」

戦士「……これから、どうする?」

魔法使い「さぁ? ただ、今は……“時間を無駄にしちゃった”。そう感じるってだけ」

戦士「酒でも、飲むか?」

魔法使い「ぷっ、気を使ってるつもり?」

戦士「いいや。やるせないのは、あたしも同じなんだ」

魔法使い「……」

戦士「まさか……まさか、勇者が魔族に肩入れするなんて夢にも思わなかった。アルデンテの村にいた偽勇者の方がまだマシかもしれない」

魔法使い「あの傲慢チキの女好きかぁ」

戦士「勇者としての役割を全うするのなら……だけどな」

魔法使い「私はどっちもイヤだな」

戦士「それは、そうだが。どっちかといえばの話だよ」

魔法使い「現実って、残酷よね。おとぎ話や、伝説みたいな花々しくて、冒険譚のような展開が待ち受けてるものだと思ってたのに」

戦士「儚い夢と消えてしまったな」

魔法使い「どうなるのかな、これから。魔王に、魔族に……人間は一生頭が上がらないまま、過ごさなきゃいけないのかな」ポロ

戦士「……」

魔法使い「うっ……ぐすっ、勇者ならっ、きっと、魔王を倒して、お母様の仇をっ、とってくれると思ってたのにっ」

戦士「……魔法使い……」

魔法使い「あは、あははっ、あ~ぁ、ホントに、ぐすっ、なんでっ、なんで、現実って思うようにいかないんだろ、勇者も、なにもかも」

【宿屋 食堂】

僧侶「はい、あ~ん」カチャ

勇者「あーん」

僧侶「おいちぃですかぁ?」

勇者「うんっ! おいちぃっ!」モグモグ

僧侶「よかったですぅ~。はい、もう一口~」

武闘家「――ええいっ! うっとおしいっ!」バンッ

勇者「こわぁい」

僧侶「よしよし、大丈夫でちゅからねぇ~」ナデナデ

武闘家「勇者っ! アンタなに餌付けされてるんだよ! 最初はやめろとか言ってたじゃないさ!」

勇者「……餌付けじゃあない」

武闘家「はぁ?」

勇者「これは……そう、“バブみ”。バブみを感じたから、俺は漢(おとこ)として応えているまで」

僧侶「よしよしぃ~」ナデナデ

勇者「見ろ。この女子力ではない、バブみ力の高さ。男ならおギャりたくなるってもんだろうが! シャア・アズナブルもララァは私の母になってくれるとか言うとった!」

武闘家「ま、また、わけのわからないことを」

勇者「おんぎゃああああああっ!!」

武闘家「な、なにっ」ビクゥ

僧侶「いいんですよぉ、い~っぱい甘えてぇ、私が勇者さまの腕のかわりになりますからねぇ」

勇者「くるしゅうない」

武闘家「こ、このっ! だ、ダメダメ勇者がぁッ」ゴゴゴッ

勇者「まぁ、落ち着きたまえ。そうカッカすると人生――」

武闘家「正拳突きぃぃぃっ!!!」ズバァァァンッ

勇者「ぴっ⁉︎」ドゴーーーンッ

武闘家「ふーっ、ふーっ」

勇者「」パラパラ

店主「ひ、ひぃっ⁉︎ 壁がっ! リア充は場所と時を選ばないから嫌いなんだぁっ!!」

武闘家「立てッ! どうせたいしてきいちゃいないのはわかってるよッ!!」

僧侶「も~。武闘家さんも遊んでもらいたかったら素直に言えばいいのに~」モグモグ

【数日後 クィーンズベル城 姫の自室】

姫「……」ボー

妖精『うふっ、うふふっ。結晶の薔薇……。この薔薇見ていると、アナタはなにも考えられなくなる……』

姫「――……なにも……――考え……」

妖精『そぉ。なぁ~んにも考えなくていいの」

姫「――……はい」

妖精『太陽と雨。対極に位置するその意味は……崩壊。この薔薇は、見た目は美しいけど、破滅を指している』

姫「破滅……美しい」

妖精『終わりって美しいよね? あなたがこの国を終わらせるのよ。呪われし姫君となるの』

姫「はい……」

妖精『さぁ、目を開けて。意識を取り戻すの。この会話をすっかり忘れて』

メイド「姫さま。失礼致します」ガチャ

姫「……」ボー

メイド「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか? 器用に鏡の前で」

姫「え……?」

メイド「……? 姫さま? 顔色がすぐれぬようですが、どこかお体の具合でも」

姫「えっ? ……あ、あぁ。な、なんでもない。なにしてたのかしら、わたくしったら」

メイド「シーツを交換してします」

姫「ええ……」

~~第3章『砂漠の花と太陽と雨と』~~(後編)

最近忙しくなってしまって書いてる時間ろくにとれないのでここで一旦切ります。

勇者「っでググッたらこのSSが1番上に出てくる
しかも勇者「魔王倒したし帰るか」を差し置いて
どういうことや……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年08月04日 (土) 13:03:44   ID: u7Byo7Bf

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