【ガルパン】雨夜のチェイス (40)

ホシノの過去妄想
独自設定あります
自動車部のメンツの口調がおかしいかもしれませんがご容赦を


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ツチヤ「あぁ^~」

ホシノ「やっぱ一仕事終えた後のドラム缶風呂はいいな!」

スズキ「着替えを用意しないとボイラーが起動しないようにしたから安心して入れるね」

ナカジマ「ただあの“重量センサー”はちょっと改良の余地が…」

ツチヤ「自分の服着たマネキンがこっち見てるのこわい」

スズキ「大丈夫だよツチヤ、私がいるから」

ツチヤ「もっと、くっついていい…?」

ホシノ「なんだこの雰囲気は」

ナカジマ「レオポンソードでダイレクトアタックした方がいいかな?」

ホシノ「頼んだ」

スズキ「待った待った!金属バットで殴るとかガチで死人が出るから!」


ナカジマ「そういやこれを独立ユニット化する計画全然進んでないね」

ツチヤ「最近戦車、戦車で本業の車にすらあんまり手回せてないからな~」

スズキ「サンダースはシャワー車とか持ってるし大洗もドラム缶風呂車で対抗しないと!」

ホシノ「軽トラにでも乗っけて運ぶ?」

スズキ「ビジュアルで完敗すると思う」

ツチヤ「じゃあソアラを改造して乗せよう」

ナカジマ「一基搭載しただけでとんでもないシャコタンになりそうだ」

ホシノ「もうこの際何かに乗せて運ばなくてもいいか、適当に設置して360度ビューを楽しもうよ」

ツチヤ「試合会場でそんなんやったら…」

スズキ「ほぼ間違いなくカメラ小僧の餌食になるね」

ナカジマ「というかそれは“独立ユニット”って言えるのだろうか」

ホシノ「う~ん、なら…」

ポツッ…ポツッ…


ザーッ…

ホシノ「…雨か」

ナカジマ「いい感じに降ってきたね」

スズキ「夜のレースはナカジマでいく?」

ナカジマ「私でもいいけどレストア終わった“アレ”も試したいからホシノかなぁ」

ツチヤ「“アレ”?レストア中だった車なんてあったっけ」

ホシノ「今まで誰にも言ってなかったから知らなくて当然だ」

ナカジマ「私とホシノの二人だけで直してた秘密の車があるんだよ」

スズキ「えっでも部のガレージには…」

ホシノ「これまた秘密のガレージがあるんだ、元々私一人のモノだったけど」

ツチヤ「おおっ、なんか秘密基地みたいでカッコいいな!」

スズキ「のんびりお風呂になんかつかってられない、早く見に行こう!」ザバァ

ナカジマ「あっ、そんな急いで出ると…」

グラッ…


ツチヤ「まだ痛い…」

ホシノ「二人そろってドラム缶ごと地面に叩きつけられたからな」

ナカジマ「慌てなくても車は逃げないよ」

スズキ「…自動車部魂に突き動かされたっていうか、そんなアレで」

ホシノ「まあ分からなくもない」

ツチヤ「ところでどんな車なんだ?ハチロク、スカイライン、それとも…」

スズキ「もしかして潰されたっていう学園長のフェラーリを復活させたとか」

ナカジマ「さすがにそれは…見てのお楽しみってことで」

ホシノ「一応日本車ってだけは言っておくよ」

ツチヤ「ドリフトは、ドリフトはできるのか?」

ホシノ「ああ、ドリ車にされることもある車だな」

ツチヤ「おっ、いいね~」


スズキ「これは、シルビアのS13型!」

ツチヤ「後期のターボ付き…こんなのどうやって調達を?」

ホシノ「私が見つけた」

スズキ「えっ、ソアラみたいに工場のおっちゃんから譲ってもらったとかじゃないの?」

ホシノ「違うよ、こいつはここで眠ってたんだ」

ホシノ「それを私が叩き起こした、中3の時にね」

ナカジマ「二人とも高等部から入学したから知らないだろう」

ナカジマ「その頃、この学園艦には“白い悪魔”って呼ばれる暴走車が居たんだ」

ツチヤ「このシルビアも白いけど…」

スズキ「まさか」


ホシノ「…二人に話すつもりかあの時のこと」

ナカジマ「もう昔のことだし、そろそろ卒業するんだから時効だろう?」

ホシノ「そうかもしれないけど…」

スズキ「もしかしてこれがその暴走車で…」

ツチヤ「ホシノがドライバーだったのか?」

ホシノ「恥ずかしながらね」

スズキ「確かにちょっと悪そうな顔してるけど、ガチのマジで不良だったなんて」

ホシノ「二人も含めた色んな人に避けられるかも、って思ったから今まで秘密にしてたんだ」

ホシノ「それに“昔はワルだった”みたいな話するのは頭悪いじゃないか」

ツチヤ「卒業直前で意外な過去が…」


ツチヤ「あれ、じゃあなんでそんなことナカジマが知ってる感じなんだ?」

スズキ「ホシノのバディでブイブイいわせてたとか…」

ナカジマ「ははっ、違う違う」

ナカジマ「まあその頃のホシノと走ってたのは事実だけど…んっ?」

ホシノ「どうした?」

ナカジマ「学園長からメールだ、えーと…ああ、一時間くらい遅れるって」

ツチヤ「廃校撤回されたからドタバタしてんだろうな~」

ホシノ「ちょうどいい、その間にテストを兼ねてドライブでもするか」

ナカジマ「そうだね」

スズキ「ホシノが運転するの?」

ホシノ「いいのか、ナカジマ」

ナカジマ「ああ、“返す”」

ナカジマ「久しぶりに可愛がってあげなよ」

ホシノ「…分かった」


ブウゥゥゥーーン…

ツチヤ「おお~いいね~!」

ホシノ「……」

スズキ「…思い出してるの?昔のこと」

ホシノ「ああ…」

ナカジマ「あの金髪のニワトリみたいな髪型したホシノはもういないんだなぁ」

ツチヤ「えっ、そんな尖ってたの?」

スズキ「…聞きたいなその頃のこと、ホシノがよければ」

ホシノ「いいよそのつもりだった…ま、黒歴史もいいところだけど」

ナカジマ「いや~あの時は大変だったね~」

ホシノ「ナカジマにもだいぶ迷惑かけたな」

~~~

バリバリバリバリ!……

ナカジマ「はぁ…」

ナカジマ(またあの暴走車か)

ナカジマ(走り屋の風上にも置けない奴だな、まったく)

ナカジマ(この調子じゃ、私らが風紀委員から要らぬ疑いをかけられそうだ)

ナカジマ(ちょっとここらで追いかけてとっちめてやるか)



ホシノ「ん…?」

ホシノ(アイツ、さっきからずっとついてきやがる)

ホシノ(…たまに追っかけてくるダサいのとは違うな)

ホシノ(ふん、何だろうがあたしのクルマについてこれる奴なんていないだろ)

ホシノ(ちょっと遊んでやるか)

~~~

~~~

ナカジマ「……」

ナカジマ(いつもくろがね四起しか相手にしてこなかったみたいだな)

ナカジマ(こっちのことを完全にナメた動きをしている)

ナカジマ(風紀委員には悪いけど、あんなの一緒にしてもらっちゃ困る)

ナカジマ(…いくぞ!)



ホシノ「なっ…!」

ホシノ(すごい加速だ!)

ホシノ(なんだ、こんな骨のある奴がいたんじゃないか)

ホシノ(面白い)

ホシノ(どこの誰だか知らねぇが…)

ホシノ(あたしを熱くしてくれよ、ハバネロクラブみたいにな!)

~~~

~~~

ナカジマ「くっ…!」

ナカジマ(本気を出してきたか)

ナカジマ(マシンもドライバーもなかなかのモノだ)

ナカジマ(だけど…)

ナカジマ(コーナリングがまだまだ荒いな)

ナカジマ(次のコーナーで抜かせてもらうよ!)



ホシノ「ちっ…」

ホシノ(前に出られちまった…なんなんだコイツ)

ホシノ(抜こうにも上手くブロックされて抜けねぇな)

ホシノ(…あ?ハザード?)

ホシノ(はん、いい度胸だな)

ホシノ(誰だか知らねぇがちょっと痛い目にあってもらおうか)

~~~

~~~

ホシノ「おい、出てこい!」

ナカジマ「…はいはい、最初からそのつもりだよ」

ナカジマ(うわっ見た目からして明らかにヤバいな、デーモン閣下も真っ青の金髪トゲトゲだ…)

ホシノ「チビっこいなぁ、なんだ上には小学生がいたのか?」

ナカジマ「よく間違われるけど私は中3だよ、失礼な」

ホシノ「中3?あたしとタメか…ならぶん殴るのになんの問題もねぇな!」

ホシノ「おらぁ!」

ナカジマ「…!」

ホシノ「っ…」

ホシノ(喉元にデカいモンキーレンチを突きつけてきやがった…)

ナカジマ「…やっぱり走り屋の風上にも置けない奴だな」

~~~

~~~

ナカジマ「車での因縁は車で決着つけようよ」

ナカジマ「君、名前は?」

ホシノ「…ホシノ」

ナカジマ「ホシノ…そうか」

ナカジマ「日本一速そうな名前だね」

ホシノ「お前は?」

ナカジマ「私に勝ったら教えてあげるよ」

ホシノ「はっ…上等だ」

ホシノ「次は絶対に抜かせないからな、覚悟しとけチビ」

ナカジマ「チビは余計だよ…」

~~~


スズキ「確かにヤバいね」

ホシノ「こじらせた中二病とか大人への反発とか…まあ色々あって」

ツチヤ「ナカジマとのレースはどうだったんだ?」

ホシノ「私の負けに次ぐ負けだったよ」

ホシノ「しかも一回負けるごとに一カ所、ナカジマは私の車に改造をしていった」

ナカジマ「ダサくてデカいだけのエアロ、爆音マフラー、鬼キャン、シャコタンなどなど」

ナカジマ「車がかわいそうで見てられなかったから」

ナカジマ「特にマフラーは一番最初に取り替えたよ、うるさいだけのバッタモンだったし」

スズキ「ナカジマ、そういうヤンキー仕様の改造嫌いだったね」

ナカジマ「“車高の低さは知能の低さ”、だよ」


ツチヤ「でも素人改造の改造箇所なんてたかが知れてるだろう?」

ナカジマ「ああ、さっきも言ってたけどホシノの連敗だったから…」

ナカジマ「二か月もするともう悪魔的な改造の面影は消え去ったよ」

スズキ「かなしいなぁ」

ナカジマ「ドライビングセンスの片鱗は見せてたんだけどね」

ホシノ「そんなこんなでこいつがすっかり様変わりした頃…」

ホシノ「ナカジマから最後の勝負をもちかけられた」

スズキ「最後の勝負?」

ホシノ「ああ」

ホシノ「私とナカジマそれぞれの全てを賭けた、ね」

~~~

ホシノ「次負けたらクルマをよこせだぁ?」

ナカジマ「うん」

ホシノ「ふざけんなよお前!散々あたしのクルマいじくりまわしておいて!」

ナカジマ「勝つ自信がないの?」

ホシノ「はっ、そんなわけ…」

ナカジマ「ホシノが勝ったら私の車が手に入るんだよ?」

ホシノ「!」

ナカジマ「その時は煮るなり焼くなり壊すなり、好きにすればいいよ」

ホシノ「……」

ホシノ「…何が狙いだ」

ナカジマ「ん?」

ホシノ「ソアラで今までチギってきたのに…」

ホシノ「そんなリスクを負ってまであたしのシルビアを手に入れようとするのは解せないな」

~~~

~~~

ナカジマ「そうでもしないと暴走やめてくれないでしょ?」

ホシノ「だいぶ惜しいが、他のクルマを探してまた走ってやるさ」

ナカジマ「じゃあ私が勝ったら、“ホシノ”も私のモノになるってことにしよう」

ホシノ「は?」

ナカジマ「自動車部に来ないか、ホシノ」

ナカジマ「そのドライバーとしての才能を磨かないまま腐らせておくのはもったいない」

ホシノ「ふん、やなこった」

ホシノ「あたしはあたしのやり方で自由にやりたいんだ、お前のお仲間なんて願い下げだよ」

ナカジマ「じゃあ風紀委員に突きだすしかないな」

ホシノ「そんなんが今更脅しに…」

ナカジマ「なるよ、この状況ならね」

ホシノ「…なっ……!」

~~~

~~~

そど子「あなたは完全に包囲されてるわ!観念しなさい!」

ナカジマ「…さぁ、どうする?」

ナカジマ「ここで風紀委員に捕まって営倉へぶち込まれ、愛車も学籍もスクラップにされるか」

ナカジマ「“最後の賭け”に乗って一縷の望みを残すか」

ホシノ「…あたしが勝ったら、車の他に何か付けてくれんだろうな?」

ナカジマ「無罪放免、今まで付け替えたパーツ、あと“私”も付けようか」

ナカジマ「車と一緒に好きにすればいいよ」

ホシノ「ずいぶん強気だな」

ナカジマ「今まで以上に勝つ自信があるからね」

ホシノ「こいつらにあたしの邪魔でもさせる気か?」

ナカジマ「まさか」

ナカジマ「ただ…今夜の天は私に味方してくれるってだけだよ」

ホシノ「天…?」

ポツッ…ポツッ…

~~~

~~~

ザーッ…

>ナカジマ「あ~テステス、ホシノ聞こえてる?」

ホシノ「ああ」

>ナカジマ「コースはいつも通りの学園艦一周、各所に風紀委員がいるけど安全確認のためだから気にしなくてもいいよ」

ホシノ「本当に邪魔してきたりしないんだろうな?」

>ナカジマ「それだけは絶対しないように言ってある」

>ナカジマ「アンフェアな方法で勝つのは私のプライドが許さないからね」

ホシノ「そうか」

ホシノ「でも万が一あのおかっぱ共の邪魔が入ったらお前の負けだからな」

>ナカジマ「分かった」

ホシノ(…雨が強くなってきやがった)

ホシノ(あいつの“天が味方する”ってこういうことだったのか?)

ホシノ(こんなひどい天気の時に走ったことないし今日も…)

ホシノ(…はっ!)

ホシノ(なに弱気になってんだ!勝てばあのスカしたツラに一発かますチャンスなんだぞ!)

ホシノ(でもなぁ…)

~~~

~~~

>ナカジマ「どうした~?スタートしていいよ~」

ホシノ「ああ分かってる!」

>ナカジマ「ならいいけど」

ホシノ(やるしかねぇか)

ホシノ(勝負から逃げるのはそれこそあたしのプライドが許さない)

ホシノ(これだけ雨が降ってて路面が濡れてればあいつも大胆に仕掛けてはこれないはず)

ホシノ(死ぬほどしつこくブロックしてやればいい)

ホシノ(よし)

ホシノ(…行くか!)

~~~


ツチヤ「“天が味方する”…ナカジマさんかっけー!」

ナカジマ「いや~それほどでも」

スズキ「園さんは当時も風紀委員だったんだ」

ホシノ「中等部の風紀委員長を務めてた」

ホシノ「あの時はうるさいおかっぱチビとか思ってたな」

スズキ「面識あったの?」

ホシノ「そりゃあもう、たまに顔を合わせれば“校則違反よ!”の連撃だったよ」

スズキ「今と変わらないんだね…」

ホシノ「…そういえばナカジマ、なんであんな風紀委員の包囲なんかできたんだ」

ホシノ「最初から協力してたのか?」

ナカジマ「いや、あれは…」

~~~

そど子「中嶋さん、呼び出された理由は分かってるわよね」

ナカジマ「例の暴走車の件?」

そど子「そうよ、どうやらあなたあの車の運転手とお友達みたいじゃない」

ナカジマ「どんな報告を受けたかは知らないけど、それは誤解だよ」

そど子「じゃあこれはどう説明するの?運転手の星野さんと随分親しげに話してるみたいだけど」

ナカジマ「……」

ナカジマ(これこの前の…いつの間に撮られてたんだ)

ナカジマ(それに暴走車の正体がホシノというのもバレている…)

そど子「いくら自動車部に所属しているとはいえ暴走行為に加担するのは重罪よ」

そど子「最悪退学に…」

ナカジマ「ちょ、ちょっと待った!」

ナカジマ「私も暴走を止めるために動いてるんだ、ホシノに接触してるのはその一環で」

そど子「…本当に?」

ナカジマ「ああ」

~~~

~~~

そど子「じゃあ彼女の確保に協力してもらえるわよね?」

ナカジマ「もちろん」

ナカジマ「あの一応、聞いときたいんだけど」

そど子「何かしら」

ナカジマ「ホシノの処分は…どうなるんだ?」

そど子「退学よ、当たり前じゃない」

ナカジマ「それはちょっと考え直してくれないか」

そど子「彼女の肩を持つつもり?」

ナカジマ「暴走行為を擁護するつもりはさらさらない」

ナカジマ「ただホシノはウチの部に欲しいと思っている、あいつは磨けば光るレーサーの原石だ」

そど子「暴走するような不良を引き込んでどうするの?自動車部ごと取り締まるわよ」

ナカジマ「私が更正させる」

ナカジマ「もう風紀委員の手を煩わせないようにするよ」

そど子「……」

ナカジマ(頼む…)

~~~

~~~

そど子「…分かったわ」

ナカジマ「ホント!?」

そど子「模範生のあなたに免じて…ただし条件があるわ」

そど子「あなたがどんな考えか知らないけど、失敗した時は…」

そど子「あの車の運転手である星野さんと同等の処分をあなたも受けてもらうわ」

ナカジマ「…退学か」

そど子「ええ」

そど子「成功しても星野さんの営倉行きと反省文は免れないけどね」

そど子「あなたにも形式的に何らかのペナルティを課すかもしれないわ」

ナカジマ「退学とか強制退部とかじゃなければなんでもいい」

そど子「そう…じゃああなたの計画を聞こうかしら?」

ナカジマ「ああ」

~~~


ナカジマ「…ってわけ」

ナカジマ「包囲させて退路を断った上でレースに勝つって計画だったんだ」

ホシノ「私がもし怖気づいて無理に逃げていたら…」

ナカジマ「車を降りたところを捕まって退学だったかもね」

ホシノ「…そうか」

スズキ「尖ってたのが逆に功を奏したってわけか~」

ツチヤ「雨の中でのレースはどうなったんだ?」

ホシノ「“雨のナカジマ”に、スポーツドライビングの心得もない当時の私が…」

ホシノ「レインコンディションで勝てるわけないだろう」

ナカジマ「絶対勝つ自信はあった、ただあんな結末になるとは想像してなかったよ」

スズキ「何が起こったの?」

ホシノ「整備不良が起こした悪夢ってところかな」

ナカジマ「車ごと海の藻屑になるところだった」

ツチヤ「えっ」

~~~

ナカジマ「……」

ナカジマ(ホシノはこんな雨の中で走ったことがなさそうだな)

ナカジマ(明らかに操縦に苦しんでいる)

ナカジマ(とはいえ最低限のブロックはしてきているから、今無理に抜くのは危ないな)

ナカジマ(もうちょっと様子を見よう)



ホシノ「くっ!」

ホシノ(なんだこれは!)

ホシノ(いつもと同じスピードを出すと不安定になってコントロールしきれない)

ホシノ(いや…雨ってのを差し引いてもこの不安定さは変だぞ…)

ホシノ「……」

ホシノ(…!?)

~~~

~~~

>ナカジマ「…ホシノ!聞こえるか!」

ホシノ「なんだ!今喋ってる余裕はない!」

ホシノ「ハンドルもブレーキも利かねぇんだよ!」



ナカジマ(滑るように進んでたからまさかとは思ったけど…)

ナカジマ(ハイドロプレーニングだ!この辺古い道路だから雨量に排水が追いついてないんだろう)

>ホシノ「クソ、どうすりゃいいんだ!」



>ナカジマ「ペダルから足を離してハンドルをしっかり握れ!」

ホシノ「何!?」

>ナカジマ「その状態を維持し続けるんだ、いずれグリップが回復する!」

ホシノ「いずれって、もうあと少しで外縁ストレートに繋がるコーナーだぞ!」

ホシノ「それまでにどうにかなるのかよ!」

~~~

~~~

ナカジマ「!」

ナカジマ(確かにもう少しでコーナーだ)

ナカジマ(このスピードのままで突っ込んだら…)

ナカジマ(外縁の公園部分を飛び越えるかもしれない)

ナカジマ(そうなったら400m下の海へ戻れないバンジージャンプをすることになる)

ナカジマ「……」

ナカジマ(道の両側はどっちも農業科の艦上畑、簡易な金網柵だからシルビアを横から押し付けたら破れるな)

ナカジマ(こうなったら無理やりにでも前に出てこの車を壁にして止めるしかない)

ナカジマ(ソアラとシルビアの重量差は約400kg…)

ナカジマ(…やるか)

~~~

~~~

>ナカジマ「ホシノ」

ホシノ「なんだ!?」

>ナカジマ「今から私が前に出てホシノを止める」

ホシノ「正気か?」

>ナカジマ「それしか方法がない」

ホシノ「…車、ぶっ壊れるぞ」

>ナカジマ「車は廃車からでも直せる、でも人はそうもいかないだろう?」

ホシノ「……」

>ナカジマ「いいね?」

ホシノ「…あぁ、頼んだ」

~~~

~~~

ナカジマ「いけっ…!」

ナカジマ(コーナーまであと150m程)

ナカジマ(水の抵抗で減速してるとはいっても追い抜いて完全に止めるにはギリギリな距離だな)

ナカジマ(止まり切れずに土手を転げ落ちるかもしれないけど…)

ナカジマ(死ぬこと以外かすり傷だ、どうにでもなれ!)

~~~

~~~

ナカジマ「と、止まった…」

ナカジマ「ホシノ、大丈夫か?」

>「……」

ナカジマ「ホシノ?」

>「……」

ナカジマ「ホシノ!」

~~~

~~~

ナカジマ「ホシノ!どうした!」

ホシノ「…なんで……」

ナカジマ「え?」

ホシノ「なんで、ここまでして助けた…?」

ナカジマ「シルビアを魚のエサにするのはもったいないからね」

ホシノ「はっ…」

ナカジマ「ふふっ、冗談だよ」

ホシノ「あたしの…負けか」

ナカジマ「まだ続ける?一応決着はついてないけど」

ホシノ「もう無理だ、あんたには敵わないってのがよく分かった」

ホシノ「結局、最後まであんたの名前を聞けずじまいだったな…」

~~~

~~~

ナカジマ「…中嶋悟子」

ホシノ「えっ?」

ナカジマ「私の名前」

ホシノ「ナカジマか…なるほどな」

ホシノ「今夜の天はお前に味方するわけだ」

ナカジマ「ケガはない?」

ホシノ「ない、まあその…ナカジマのおかげだ、ありがとな」

ナカジマ「…意外に素直で可愛いとこあるんだね~」

ホシノ「うるさい!…おい頭をなでるな!やめろ!」

ナカジマ「ははははっ…!」

~~~

~~~

ナカジマ「これからは自動車部の仲間だね、ホシノ」

ホシノ「クルマもガラも抑えられちゃ従うしかないな」

ナカジマ「不良も暴走ももう終わり」

ナカジマ「ここでホシノは生まれ変わるんだ」

ホシノ「ああ…」

ナカジマ「よろしく、ホシノ」

ホシノ「よろしく…ナカジマ」

~~~


スズキ「映 画 化 決 定」

ホシノ「そこまでか!?」

ツチヤ「二人仲良いな~とは思ってたけどこんな濃いエピソードがあったのか」

スズキ「これは武部さんじゃなくても惚れちゃうよ」

ナカジマ「えっ、それはさすがに…ないよね、ホシノ?」

ホシノ「……」

スズキ「あれ…」

ツチヤ「おやぁ…?」

ナカジマ「ホシノ…もしかして?」

ホシノ「…ふっ、はっはっはっはっ!!」

ホシノ「そんなわけないだろ!いや嫌いってわけではないけど!」

スズキ「なんだ~シリアスな雰囲気出すからまさかと思ったのに」

ツチヤ「キマシタワーを建てる準備はしてたよ、私」

ナカジマ「なんだそれ…」


ナカジマ「あ、またメールが…今日学園長来れないって」

スズキ「え~、じゃあこれからどうする?」

ナカジマ「学校に戻ろうか、荷物置いたままだし」

ツチヤ「私は二人の対決が見たいな~」

ナカジマ「今やったら負けちゃうよ、きっと」

ツチヤ「それは分からないでしょ」

スズキ「やってよ!私たちも同乗して!」

ホシノ「リベンジマッチか…あの頃の私とは一味違うぞ、ナカジマ」

スズキ「ホシノもやる気満々だし…ね?」

ナカジマ「…分かったよ」

ナカジマ「負けた方は皆に74アイスを好きなだけおごるっていう条件でどうかな?」

ホシノ「いいね、腹いっぱいポッピングスパーク食べさせてもらおう」

ナカジマ「財布がスッカラカンになるのはホシノの方だよ?」

ホシノ「はっ、言ってくれるな」


>ツチヤ「…用意はいい?」

ホシノ「ああ、大丈夫だ」

>ナカジマ「コースはあの時と同じで学園艦一周ね」

スズキ「コースは学園長レースの時と同じなんだ」

ホシノ「というか知り尽くしたコースだから学園長レースのコースにしたんだ」

ホシノ「…カモれるから」

スズキ「そうだったんだ…」

>ツチヤ「カウントダウンはサーキットアプリでやるから」

ホシノ「私が先に行かせてもらえるんじゃないのか?」

>ナカジマ「今そんなハンデもらって嬉しい?」

ホシノ「いや」

ホシノ「それに…雨もあがったからな」

>ナカジマ「じゃそういうことで」

スズキ「頼んだよ、ホシノ!負けたら私も奢らされるんだからね!」

ホシノ「任せておけ」


ナカジマ「始めるよ」

>ホシノ「いつでもいいぞ」

ナカジマ「ツチヤ」

ツチヤ「カウントダウン…開始!」


 5、4、3、2、1…

 
 Go!!



以上です
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