ダイヤ「──とある寶石の誕生日。」 (11)

ラブライブ!サンシャイン!!SS

ダイヤちゃんの誕生日なので、ダイヤちゃんのお話です。

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──ダイヤモンドという宝石をご存知でしょうか。

……ふふ、問うてはみましたが、聞いたこともない、と言う方はほとんどいないでしょうね。

最も硬い宝石として、有名なダイヤモンド。その光沢はダイヤモンド自身の持つ、非常に高い屈折率から、光を浴びると美しく光輝くため、『金剛光沢』や『ダイヤモンド光沢』などと呼ばれています。

石言葉は『永遠の絆・純潔・不屈』

わたくし──黒澤ダイヤの名に相応しい宝石と言えるでしょう。

……さて、ダイヤモンドと言えば多くの色のついた種類があるのはご存知でしょうか?

ブルー、ピンク、レッド、パープル、バイオレット、グリーン、イエロー、オレンジ、ブラウン……。

ブラックダイヤモンドと呼ばれるモノは特に有名かしら?

──とは言っても、やはりダイヤモンドと言われて真っ先に思い浮かぶのは無色透明なダイヤではないでしょうか。

先程も述べたとおり、無色のダイヤはたくさんの光を屈折し、美しく輝きます。

そして、きっとわたくしの名に充てられた『DIA』も──きっと、この無色透明なダイヤモンドだと思うのです。

誰かの輝きをより強く、眩く、増幅する──“装飾品”に相応しい、名前。





    *    *    *





「ダイヤ、お前は黒澤家の跡取り娘として、常に強く、毅然と振舞いなさい」


──お父様にそのようなことを言われたのはいつのことだったでしょうか。

物心が付いたときには、すでにこの言葉がいつも頭の中で木霊していた気がします。

……もしかしたら、生まれたその日から言われていた──いえ、お母様のお腹の中に居た頃から、そう教えられていたのかもしれません。

わたくしはダイヤ──黒澤ダイヤ。

黒澤の家名を背負って、大きな命運を背負って、歩き続ける。世界一硬い、黒澤の宝石として。





    *    *    *





齢一つ半の頃──妹が生まれました。

名をルビィと言います。

もちろん、その名の由来は宝石の『ルビー』です。

石言葉は『情熱、勇気、威厳、活力、集中力、努力』

──たくましく、勇ましい子に育って欲しいと言う願いが込められていたのでしょうか。

ですが、今になってルビィを見ると──この願いはあの子には重すぎたのかもしれません。

そんな重い願いを無意識に汲み取った──のかはわかりませんが、1歳半の時分。

まだ物心も付いていないはずだったあの時のわたくしですが、新生児だったルビィがわたくしの小さな手を、更に小さなその手で握った、あのときから、

わたくしはこの子を守らなくてはいけない。

そのようなことを子供心──いえ、物心が付く前ですから、子供心ですらないのですが……。そのように思ったことを何故か覚えています。

──唯……唯、わたくしはあることで、ルビィに──『ルビー』に嫉妬したことが、二つだけありますの。

──噫、これはルビィには秘密にしてくださいませね。姉の威厳に関わりますから。

『ルビー』という宝石は、所謂モース硬度と言われる宝石の硬さではダイヤモンドに劣るのですが

──ダイヤモンドとルビーぶつけると、砕けるのはわたくしなのです。

靭性、と呼ばれる頑丈さの基準がルビーの方が大きいのです。

自分が最も硬く、強い石だと、言われ育ってきたわたくしはその事実を知ったとき、僅かながらショックを受けました。

──まあ、今になって考えてみるに、姉のダイヤにも負けないような強い子に──強い“意志”を持って欲しい。そのような願いも込められていたのかもしれません。

だから、こちらはいいのです。問題はもう一つの方。

『ルビー』──あの真っ赤な宝石にはもう一つ、大きな特徴があります。

それは、緑色の単色光──即ち赤色成分を一切含まない光源の中に置いても尚、赤く、紅く輝くと言う性質です。

わたくしのような、誰かの光を反射し綺麗にさせるだけの輝きと違って、あの子は──絶対に変わることのない色を持っている。

真っ赤な──紅い石。

両親がどこまで考えているのかは存じません。

ですが、わたくしとルビィは明確に違う。

わたくしは誰かの光があって初めて輝くのだと、

ルビィのように、自らが最初から持っている、光を──色を、わたくしは持っていない。

──わたくしは、誰かをより際立たせるために存在する……装飾品なのです。




    *    *    *





果南「やっほ ダイヤ、元気?」

ダイヤ「果南さん……」


高校三年生の冬休み。

函館にSaint snowさんに招待され、その遠征から帰ろうと言うとき……ルビィたち1年生組が『函館に残る』と言い出したときは本当に面を食らいました。

ですから、両親が忙しいこの師走の時期故、今はこの広い家に一人──いえ、お手伝いさんが今日も忙しなく働きまわってはいますが。

そんなわたくしを慮ってか、代わる代わる鞠莉さんや果南さんがお見舞いに来てくれます。──別に病人ではないのですが。


果南「もう……ちょっとルビィと離れてるだけでしょ?」

ダイヤ「それはそうなのですが……」

果南「ダイヤは過保護すぎだよ。ルビィはダイヤが思ってるより、ずっと強い子だよ?」

ダイヤ「……そのようなこと、果南さんに言われなくても、知っていますわ」

果南「どうだか……」


わたくしは開け放った障子の先にある、廊下の窓から、冬の寒空を見渡す。

このどこまでも繋がっている空の先で、今ルビィは何をしているのでしょうか。

──もう、ルビィも子供ではないのですから、大丈夫だと言うのはわかっているのですが……。

──いえ……むしろ、不安なのはわたくしなのかもしれない。

あの子がわたくしの知らないところで、わたくしの知らない何かをしようとしていることが──。

…………。


果南「……ねぇ、ダイヤ」


物思いに耽るわたくしを見て、声を掛けてくる果南さん。


ダイヤ「……なんですか?」


わたくしは何の気なしに、返事をしたのですが、


果南「……怖い?」

ダイヤ「……え?」


予想もしていなかった質問にやや面食らう。

果南さんは極めて真面目なトーンで、わたくしにそう尋ねて来ました。


ダイヤ「怖い……とは?」

果南「──鞠莉も、ルビィも……ついでに千歌も居ないし、いい機会かなって」

ダイヤ「?」


果南さんの意味深長な言葉選びに、思わずわたくしの頭には疑問符が浮かぶ



果南「ダイヤさ……昔はすごく引っ込み思案だったでしょ」

ダイヤ「……昔のことは余り覚えていませんの」


すっとぼけて見せましたが、


果南「……ある日、突然……ってほどでもないけど──」


果南さんは無視して話を続けます。


果南「──今思い返してみると、ダイヤが変わったのって鞠莉がこっちに来てからだったかなぁって思ってさ。」

ダイヤ「……何が言いのたいのですか?」

果南「ダイヤは……鞠莉に自分の居場所が奪われる──とか、思ってたのかなって」


わたくしはその言葉に顔を顰める。


ダイヤ「自分のことを、わたくしの居場所だと豪語するとは、随分傲慢ですわね?」

果南「あはは、そうかも」


果南さんはわたくしの皮肉を笑って流す。


果南「鞠莉さ、外国育ちのせいなのかな? 昔っから気が強くって、絶対に自分の意見曲げなかったじゃん」

ダイヤ「……」

果南「まるで今のダイヤみたいに頑固でさ」

ダイヤ「そっくりそのままお返ししますわ」

果南「……だね。私もダイヤも、鞠莉が来て良くも悪くも、変わったんだと思う。」


果南さんが部屋の天井を仰ぎながら、思い返すように続ける。


果南「ダイヤ、昔は臆病で何も言い出せない子だったのにね」

ダイヤ「……。……鞠莉さんを見ていて、このようなに振舞っていいんだ、と。確かに思いましたわ。」

果南「お、喋る気になった?」

ダイヤ「茶化すなら、やめますわよ?」

果南「ごめんごめん、続けて」

ダイヤ「……はぁ」


なんだか、果南さんと二人で堅苦しい話というのも調子狂いますわね。


ダイヤ「同時に……鞠莉さんがいると、自分はなんて儚い存在なんだと、思ったことがあります。」

果南「……」

ダイヤ「いつも、何時でも、自分があって、自分のしたいこと、やりたいこと、こうありたいと言うビジョンや、未来……そういうものを常に明確に持っていて」


わたくしは言いながら、視線をゆっくり落とす。


ダイヤ「まるでそこにいるだけで自分と言う存在を主張している、彼女が──確かに少しだけ……少しだけですが、怖かった。」

果南「……うん」

ダイヤ「言われるがままに、期待されるままに、皆が望むままに振舞って生きてきた──いえ、これからもそう生きていく、わたくしの全てを否定されているのではないかと」

果南「……」

ダイヤ「鞠莉さんを見て……本当のわたくしは何処にいるのか──と」



そのような言葉と共に、“あのとき”のことが頭を過ぎって、わたくしは思わず唇を噛んで。


ダイヤ「──ごめんなさい……」


──謝罪の言葉が口を衝く。


果南「……? どしたの、突然」


わたくしからの突然の謝罪に、少しだけ困惑した表情を向けてくる果南さん。

……わたくしは言葉を続ける。


ダイヤ「……鞠莉さんが居なくなったあの1年生の夏──わたくしは心の何処かで、安心していた気がして……」

果南「……ダイヤ」

ダイヤ「同じくらい、一緒に居て欲しい、一緒に居たいという気持ちがあったのに、そんな風に言い出せなかったのは──わたくしの心の何処かにそのような気持ちがあったからではないのか、と」

果南「……」

ダイヤ「貴方に全部言わせて、自分はそれを汲んだのだとでも言わんばかりに……わたくしはいつもそう。そして、これからもそうなのでしょう。」

果南「ダイヤ──」


思わず握りこんでいたわたくしの手を果南さんが自らの両手で優しく包み込んだ。

わたくしは、それを見てから、一度軽く息を吐いて、続ける。


ダイヤ「……だから、今感じている不安も、純粋なルビィを心配する気持ちよりも……ルビィが何処かに行ってしまうのではないか、そのように思ってしまう自分が居て。」

果南「……うん」

ダイヤ「あの子は掛け替えの無い“色”を持っている。だから、わたくしなんか居なくても輝きを見つけて、わたくしよりも眩く光るのではないかと」


言って俯く。


ダイヤ「……もちろん、それは嬉しいことなのです。幸せなことなのです。でも、だから──寂しくて仕様が無い……。わたくしは“透明”だから」


そう、ダイヤモンドは──他の光があって初めて輝く。

金色の髪を靡かせて、弾けるように輝く、あの人や、

とても臆病で、でも真っ直ぐ通った芯を持った、真っ赤な妹や、

太陽のように、輝く笑顔と、光を持ったあのリーダーのような、


ダイヤ「──わたくしは、透明であることを望まれるから──」


旧家の令嬢なんて、神輿もいいところですから。これでいいのです、これで……


果南「……そっか」

ダイヤ「……少し、話しすぎてしまいましたわね」

果南「……ううん、ダイヤの本音、聞けてよかった。話してくれてありがと」

ダイヤ「果南さん……」

果南「強くありたいって気持ちも、黒澤家の期待を背負うダイヤの気概も、だからこそ寂しいって思う気持ちも私は全部知ってるから」

ダイヤ「……はい」

果南「全部否定するつもりもないからさ。それも全部ダイヤだから。」

ダイヤ「ふふ……貴方らしいですわ」

果南「……嫌な話、将来は私も黒澤家のダイヤ様を担いで仕事することになるかもしれないしさ」

ダイヤ「……本当に嫌な話ですわね。」



全く縁起でもないのですから……


果南「でも、ダイヤ」

ダイヤ「?」

果南「海の底は光が届かないくらい真っ暗だからさ……そんな私ならもしかしたら、光が無くても、ダイヤを捕まえられるかもよ?」

ダイヤ「……ふふ、そうかもしれませんわね。……そのときはお願いします。」


わたくしは光ってなくていいのだ──果南さんがそう肯定してくれて、少しだけ溜飲が下がった気がしました。





    *    *    *





──年が明けて、1月1日になりました。

クリスマスのその日に妹達から掛け替えのない贈り物を貰って、

──ルビィはもう大丈夫、ちゃんと一人で歩いていける。

そんな風に確信を得て。


ダイヤ「やっぱり……ルビィは貴方自信で眩く、眩しく、光るのね」


そんな風に独り言ちる。


ルビィ「あ、お姉ちゃん」


そんなわたくしの元にルビィがやってくる。


ダイヤ「ルビィ、明けまして──」

ルビィ「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!」


…………?

…………あ

言われて思い出す。誕生日でしたわね。


ダイヤ「ありがとう、ルビィ」

ルビィ「うぅん」

ダイヤ「……いつもは誕生日を祝うなんてあまりしないのに、どうしたの?」

ルビィ「……あのね、ルビィ……この前のライブで、お姉ちゃんがお姉ちゃんで居てくれてよかったなって思ったから、ちゃんとこの機会に伝えておこうって。」

ダイヤ「……?」

ルビィ「お姉ちゃんと一緒にアイドルが出来て……やっぱりお姉ちゃんと一緒でよかったって思ったから」


ルビィは優しく笑いながら、


ルビィ「ルビィのお姉ちゃんで居てくれて、ありがとう。お姉ちゃん。」

ダイヤ「ルビィ……」


わたくしは思わずルビィを抱きしめる。


ルビィ「お、お姉ちゃん……苦しいよ」

ダイヤ「あ……ご、ごめんなさい……」


わたくしはルビィを放して、向き直る。


ルビィ「ルビィね……やっと、自分がどうしたいか見つけられたから。一人でちゃんと歩いていけるから」

ダイヤ「ルビィ……そうね」


あのような素晴らしいライブを見せて貰ったのですから。


ルビィ「これから、離れ離れになっちゃうかもしれないけど……ルビィ大丈夫だから」

ダイヤ「……ええ」

ルビィ「……お姉ちゃんがルビィの進む道を照らしてくれなくても、もうちゃんと自分で見つけられるよ」


ルビィの進む道を照らして──そんな言葉を聞いて思わず笑ってしまう。



ダイヤ「貴方の道は、わたくしが照らして居たのではないのよ」

ルビィ「え?」

ダイヤ「貴方が自分の色と光で……しっかりと足元を照らしていたからなのよ」

ルビィ「……?」

ダイヤ「……わたくしは光ってなど居ませんから、鞠莉さんや千歌さんや……貴方のように──」

ルビィ「違うよ」


──ルビィは言った。


ダイヤ「え……?」

ルビィ「──それは違うよ」


──そう言った。



ルビィ「お姉ちゃんは、いっつもキラキラ眩しくって、ずっとルビィの憧れだったもん。ルビィはそんなお姉ちゃんの背中を追いかけてきたから、ここまで頑張ってこれたんだもん。」

ダイヤ「で、ですが……それはそのような振る舞いを求められて……いえ、黒澤の娘として、正しく振舞っていただけで」

ルビィ「それもお姉ちゃんだよ」

ダイヤ「……」

ルビィ「お姉ちゃんが自分でそうした方がいいって思ったから、そう出来たんだよ。きっとルビィが最初からそうしなさいって言われたら、投げ出しちゃうもん。」

ダイヤ「で、でも……わたくしはダイヤ……無色透明で、他の人の光があって初めて輝く──」

ルビィ「それは『ダイヤモンド』でしょ?」

ダイヤ「……え」

ルビィ「お姉ちゃんはダイヤモンドじゃなくて──ダイヤお姉ちゃんだよ。ルビィのたった一人のお姉ちゃん。」


わたくしはその思わず言葉にハッとなる。


ルビィ「お父さんとか、お母さんはそういう願いを込めた……のかもしれないけど、お姉ちゃんはダイヤモンドじゃなくてお姉ちゃんだもん。」

ダイヤ「ルビィ……」

ルビィ「お姉ちゃんがどう思ってるかはわからないけど……ルビィの目にはお姉ちゃんはずっとキラキラ眩しく光って見えてた。そんなお姉ちゃんに憧れてずっと、歩いてきた。」

ダイヤ「…………」

ルビィ「ルビィね、そうやって憧れて頑張って、お姉ちゃんと一緒に輝けるAqoursって場所に来られてすごく嬉しいって思ってた。」


ルビィがわたくしの手を取った。


ルビィ「でも、もしお姉ちゃんの中で、まだその輝きが見えてないなら……一緒に探そう──ラブライブで、決勝の舞台で。」

ダイヤ「──わたくしは輝いていいのでしょうか……」

ルビィ「当たり前だよ!」


間髪入れずに断言するルビィの言葉にわたくしは目を見開いた。


ルビィ「だから、皆で── 一緒に輝こう、お姉ちゃん」

ダイヤ「ルビィ……ええ……」


──気付いたら一周りも二周りも頼もしくなった、妹の手を取って──わたくしは噫、自分はなんて詰まらないことで頭を悩ませていたのだろうと、そのようなことを思いました。


ダイヤ「ええ……! 皆で……輝きを見つけましょう……!」


1月1日──わたくし、黒澤ダイヤの誕生日──例年通り、妹にお祝いの言葉を貰った以外は誕生日らしいことはほとんどありません。

黒澤の家の長子に生まれ育った身の上故、これまでも、そしてきっとこれからもそうでしょう。

ですが、ラブライブ決勝と言う夢の大舞台に立つこの年の初めに、半生を振り返り、自分の輝きを探す決意を今ここで改めて出来たこと──

ただ、誰かの輝きを照り返して、眩く見える存在なだけではなく、自分一人でも光輝けるように、わたくしは妹の言葉を胸に、最後の戦いに向けて、決意を新たに致しました。





<終>

終わりです。

お目汚し失礼しました。


改めて、ダイヤちゃん誕生日おめでとう!

また何か書きたくなったら来ます。よしなに。


こちら過去作です。よろしければ。


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