ぐだ子「監査官が来るから皆帰って~」 エレシュキガル「ええ!?」 (47)

~村~


監査官「それでは、カルデアのサーヴァント達が退去していない可能性がある……という事ですね」

職員「俺はカルデアが帰還した直後に魔術協会から呼び出されて山を下りたから、それ以降の事は判らんよ」

職員「しかし、連中はマスターの事を慕っていたからな」

職員「退去命令を無視して居残っている連中がいないとも限らない」

監査官「なるほど、有益な情報、ありがとうございます」

職員「……」

監査官「ひとつ宜しいでしょうか」

職員「何だ」

監査官「貴方はカルデアの職員で、あのマスター達と共に人理を守ってきたんですよね?」

監査官「お互いに強い信頼関係で結ばれていたのだと思うのですが……罪悪感とかはないのですか?」

職員「……そりゃあ、あるさ」

職員「けど、何時までもカルデアにしがみ付いていても仕方ないだろう」

職員「こっちにも、生活ってものがあるんだから」

監査官「まあ、それもそうですよね」

職員「……こっちも、一つ質問いいか」

監査官「答えられる事なら」

職員「アンタらは、カルデアをどうするつもりだ」

職員「俺としては、もう放っといてやってほしいんだがな」

監査官「それは……私のボスが決める事ですよ」

監査官「私は監査官の一人にすぎないんですから」

職員「……そう、か」

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監査官「さて、私はそろそろカルデアに向かいます」

職員「……」

監査官「そんなに落ち込むことないでしょう、貴方にとってはもう終わった事なんですから」

職員「……そう、そうだ、もう終わった事だ、悪くない、俺は悪くない」

監査官「報酬はここに置いておきますので」

職員「悪くない、悪くないんだ、俺は」ブツブツ



監査官(まったく、そんなに怯えなくてもいいでしょうに)

監査官(けど、情報を落としてくれた事には感謝しますよ)

監査官(さて、急いでヘリでカルデアに向かわないと)

監査官(またボスが癇癪を起してしまいます)



ビービービー



監査官「うわ、予想通りボスから通信だ……」ピッ

監査官「はい、はい、大丈夫です、こちらの任務は滞りなく」

監査官「すみません、そんなに大きな声出さなくても聞こえてますから」

監査官「私も至急カルデアに向かいますから、はい、はい」

報告書  204-3343

日時   規定により抹消

報告者  規定により抹消

役職   監査官


13:37。

カルデアへ到着。

ゲートも問題なく開放。

村で得た情報を先遣部隊に報告。

幾つかの叱咤を受けた後、次の任務に就く。

任務内容はカルデア職員の監査。





カルデア内部は予想よりも寒いです。

先遣隊がカルデアの機能の一部を弄ったようなので、その影響なのかもしれません

まあ、三流魔術師達が作り上げた施設なのだから、不具合が生じても仕方が無いのかもしれませんが。


ふと、交霊科にいる親友の言葉を思い出しました。


「知ってるかい、霊がいる部屋の温度は物理的に下がるんだ」

「だから、自分の部屋がやけに寒いなと思った時は、気をつけたほうがいい」

「見えないけど、居るのかもしれないから」


カルデアのサーヴァントは一騎を除き全て退去している……はず。

けど、もしかしたらあの職員が言っていた通り。

サーヴァント達は残っているのかもしれません。

霊体化して、私達を監視しているのかも。

だからカルデア全体の温度が下がっている?






馬鹿馬鹿しい話だとは思いますが。

可能性としては排除できません。

監査官として与えられた部屋で書類をまとめていると、部屋をノックする音が聞こえました。



「すみません、誰かいますか」



……。

……。

……そういえば、4時からカルデアのマスターを審問するのでした。



「どうぞ、入ってください」

「扉のロックは開いてますから」



扉を開けて入ってきたのは、少し怯えた感じの少女でした。

報告書に添付されている写真と見比べてみます。


視覚判定は問題なし。

魔力波形も問題なし。

幻惑系の魔術が展開されている様子もありません。

つまり、彼女こそがカルデアのマスター。

世界を救った英雄なのです。

「どうぞ、お掛けください」

「……は、はい」

「緊張していますか?」

「えっと、その、少し……」

「受け答えに問題が無ければ、すぐに開放しますから、安心してください」

「……はい」

「では、まず、貴女の名前を教えてください」

「……」



カルデアのマスターは、そこで黙り込みました。

黙り込んだまま、机の上をジッと凝視しています。

変ですね、先ほどまでは比較的普通に受け答えしていたのですが。

「……知ってる、癖に」

「はい?」

「知ってる癖に、どうしてそんなこと言うの」

「……確かに私は貴女の名前を知っていますが、これは審問の形式として必要な事なのです」

「そんな事が聞きたいんじゃないよ……」

「忠告しておきます、この会話は録音されています」

「……」

「自分が不利になるような発言は控えたほうが良いと思いますよ」

「あ……は、はい、私……すみません……失礼なことを……」

「……それで、お名前は」

「■■○△です、えっと、けど、仲間からは別の名前で呼ばれていて……」



そう、彼女は任務中、ずっとコードネームで呼ばれていたようです。

魔術師同士の争いで真名を隠すのは当然の事です。

ですから、彼女たちの判断は正しいと解釈出来ます。


コードネームは随分とご大層な内容で。

私達の言葉で訳すと「グランドオーダーを担う女」だったと思います

東洋人である彼女の母国語では、確か。



「ぐだ子」



そう、呼ばれていたと記録されています。

彼女……いえ、敢えてぐだ子と呼びましょう。

ぐだ子は、世界を救った英雄だといわれています。

そう報告されています。

しかし……。


「私はあなたの事をなんて呼べばよいでしょう」

「……」

「本名で?それとも、英雄さんって呼んだほうがいいでしょうか?」

「……いや、それは」

「それでは、ぐだ子さん、とお呼びしましょう」

「……はい」


私は彼女が英雄であると認めていません。

絶対に何か裏があるのでしょう。

だって、魔術回路が乏しく魔術的知識にも疎い一般人である彼女に。

そんな偉業を成せるはずが無いのですから。

何かの偶然と運気に恵まれて、第一特異点を突破できたとしましょう。

全てが順調に進みカルデアからのバックアップが十全に発揮できれば、そういう事もあるかもしれません。

けど、続けて第二特異点、第三特異点を突破できる可能性は極めて少ない。

それが第七特異点まで続くとなると、可能性は0と言ってしまっても良いレベルでしょう。



その上、魔術王ソロモンを倒した?

そんな事は有り得ません。

何かが間違っている。

何かが誤魔化されている。

何かが隠されている。



それを暴くのが。

監査官としての私の役目です。

「では、まず、貴女の得意な魔術に関してお聞きしましょうか」

「ま、まじゅつ……」

「はい、そうです、使えますよね、カルデアのマスターなら」

「……あ、は、はいっ!」


緊張がとれない様子のまま、彼女は懐から紙を取り出しました。

それを読もうとしています。


「ま、待ってくださいね、えっと、私の得意な魔術は……カルデアのバックアップを受けた、あの」


……。

……。

カンペでしょうか。

予想される質問と回答を事前に検討して紙に書いておいた……という事なのでしょうか。

流石に目の前でそれを読まれると私も止めない訳にはいかないのですが。


「あの、ぐだ子さん、その紙は」

「え、あ、あれ、違うんですこの紙は、その」



次の瞬間、彼女が持っていた紙は、クシャリと潰れました。



ぐだ子さんがやったわけではありません。

当然、私もそんなことはしていません。

ひとりでに、誰の手も触れていないのに。

クシャリと潰れたのです。


まるで、見えない誰かが握りつぶしたみたいに。

私は彼女に気取られないように探知魔術を開放しました。

部屋の内部に魔術反応は有りません。

霊波の乱れも感じられない。

この部屋には、私と彼女しかいないはずなのです。

はずなのですが……。



恐らく、居るのでしょう。

彼女のサーヴァントが。

この部屋に。



事前に情報を仕入れていなければ、私はかなり狼狽してしまっていたでしょう。

場合によっては、審問をここで中断していたかもしれません。

けど、そうはならなかった。

残念ですね、ぐだ子さん。

貴女が素直な審問を受けて大人しくしていれば、開放される可能性も少しは有ったのでしょうけど。

こんな態度を取られるのであれば、話は別です。



徹底的に。

最後まで。

貴女の秘密を暴いた上で。

反抗意識が強い危険な魔術師としてボスに報告してあげます。

「では質問を続けましょう、貴女の魔術的性についてです、該当機関で検査を受けた事は?」

「え、あ、あの」

「ご家族の誰かが魔術に携わっていた事は?」

「いあ、それは、無かったかと」

「カルデアに赴任する前に占いやウィジャボードをやった事は?」

「あ、こっくりさんなら何度か」

「小さい頃に妖精や幽霊を見た事は有りましたか」

「……ないと思います」

「狼に噛まれたことや、猿に引っかかれた事は有りますか」

「小さいころに犬に噛まれた事は、えっと、あります」

「この部屋にいるのは何人か答えてください」

「さ……いや、二人です……私と、貴女で」

審問は2時間続きました。

内容については「簡単ではあるが複雑に解釈することも可能な質問」を繰り返しました。

彼女の精神を弱らせるためです。

案の定、彼女は疲弊し始めました。


「いい加減にしてください!これは正式な審問なのですよ!」

「先ほどの返答と、矛盾があるではないですか!」

「これは隠し事をしている人間の反応です!」

「貴女は隠し事をしています!」

「貴女自身がそう告白しているのです!」

「一体、何を隠しているのですか!」


机をバンと叩くと、彼女は強く反応しこちらを見上げてきました。

目には涙が溜まっています。

頃合いです。

「……申し訳ありません、少し口調が強すぎましたね」

「い、いえ……」

「お茶でも淹れましょうか、貴女の母国の……えーと、グリーンティでしたっけ、それも用意できますよ」

「……いあ、私は別に」

「私が飲みたいのですよ……淹れてきますね」

「……すみません」



荷物の中から茶葉を取り出し、お茶を淹れる。

二人分のカップに注ぎ、テーブルへと運ぶ。


彼女はずっと俯き、机の上を眺めている。

私のほうを見ようともしない。

「お茶、冷めないうちにどうぞ」

「……はい」

「一つ、勘違いしてらっしゃるのかもしれませんが、私は別に貴女が憎いわけではないのです」

「……」

「寧ろ、助けてあげたいと思ってるのですよ?」

「……た、たす、ける?」

「ええ、そうです、だって酷いじゃないですか」

「……」

「貴女みたいな普通の人間に世界を救うなんて任務を背負わせて」

「……」

「それが終わった後も魔術協会に縛られて」

「……」

「貴女も、本当はこんなのイヤでしょう?」

「……いや」

「そうでしょう、そうでしょうとも……だからこそ、私には全てを打ち明けてほしいんです」

「すべて」

「はい、全てです、そうすれば貴女を守ってあげられます」

「全て、を話せば、私を守ってくれるんですか」

「当然です、その程度の裁量は私にも与えられていますから」



まあ、嘘なんですけどね。

「あ、あの、本当に、本当に助けて、くれるんですか」

「ええ、ええ、助けますよ、ですから……」

「お、お願いします!助け、助けてください!」


彼女は椅子から転げ落ちると、私の脚にすがりついてきた。

涙を浮かべたまま、私を見上げてくる。

その様子を見て私は。





……私は、何故か昂りを感じた。

世界を救ったと言われる英雄が。

魔術王を倒したという英雄が。

カルデアの最重要人物である彼女が。

私の脚に縋りついて、懇願している。

とても哀れでか弱い一人の少女として。

私を頼ってきているのだ。



凄まじい優越感が心の中からわいてくる。

いや、駄目だ、落ち着け。

落ち着こう、私。

ここは冷静に、もう一歩、審問を先に進ませましょう。



「は、話します、話しますから……」

「まずは落ち着きましょう、ほら、お茶が冷めてしまいますし」

「は、はい……」

「それを飲んでから、話をしましょうね」



当然、お茶には「気持ち良くお話しできるお薬」が混入されています。

仮に今の様子が演技だったとしても。

これを飲んでもらえれば、彼女は私の思うがままになります。

マスターさえ押さえてしまえば、潜んでいるサーヴァント達も何もできないはずです。



彼女は、ゆっくりとお茶を口にしました。

その直後、彼女は激しくお茶を吹き出しました。

……しまった、混入していた薬を察知されましたか。

言い訳を考える必要がありますね。



「ごほっごほっ……う、うう、もう、いや、いやだよぉ……」

「どうしたのですか、ぐだ子さん」

「た、助けて、もう嫌なの、いや、いや……」

「ぐだ子さん?」



私の言葉が聞こえていないのか、彼女は首を振り続けています。

……様子がおかしいです。

思えば、彼女の言動は部屋に入ってからずっとおかしかった気がします。

反抗的な発言をしたかと思えば、突然へりくだった態度をとったり。

潜んでいるサーヴァントから何か助言を受けて発言してるのかと思っていたのですが……。



「……それに、何ですか、この匂いは」



彼女がお茶を吐き出した直後から、部屋の中に何か薄い匂いがします。

とても身近な、最近嗅いだ事がある匂い。

何でしょうか、これ。

魔術により嗅覚を強化し、匂いの元を辿ってみます。

何のことはない、彼女がこぼしたお茶が匂いの元でした。



……いいえ、それはおかしいです。

このお茶は私が淹れた物。

その時は、こんな匂いはしていなかった。



私は、カップに残ったお茶の匂いを嗅いでみました。

違和感。

指で少しだけ掬って舐めてみます。

自白剤も、この程度なら害はないでしょうから。



結論から言うと、カップのお茶は苦かったです。

いえ、苦かったというよりも。



塩が。

塩の味がしました。

寧ろ、塩の味しかしなかった。



「いや、もう、ゆるして、ごめんなさい、私が、私が……」



彼女はぶつぶつと何か呟いています。

これは……彼女のサーヴァントの仕業でしょうか。

もしそうだとしたら、何故?

私が自白剤を淹れたから、それを塩に転化した……とか?

それにしては、彼女が酷く怯えているのが……。



とにかく、こんな物は捨ててしまいましょう。

私が自白剤を淹れた事の証拠になりかねない。



カップの中身を流し台にぶちまけると、匂いは更に強まりました。

ああ、思い出しました。

これは塩の匂いではありません。

様々な不純物が混ざった……。



「海の、匂いです」

つまり。

私が出したお茶は。

何時の間にか海水に変わっていた、という事でしょうか。



「監査官さん、聞いて、聞いてください、話します、全部話しますから、私を助けて」

「私は、私は確かに、色んな特異点を渡り、事件を解決してきました」

「私一人の力じゃありません、仲間がいた、マシュや、ダヴィンチちゃん、ドクターや、他の職員さん達」

「それに、それに色んな英雄達が、がんばってくれたんです」

「私は、ほんのちょっと手を貸しただけで」

「彼らこそが、本当の英雄だったんです」

「ああ、けど、彼らももういない」

「居ないんです、全員、全員、帰還してもらって」

「最近来たばかりだったエレシュキガルは、帰るのを嫌がりました」

「他にも嫌がった子達はいました」

「けど、けど最後は、納得して帰ってもらったんです」

「帰ってもらったはずでした」

「ああ、いやだ、いやなの、いや、あの目が」

「そう、そうです、帰らなかった子が」

「どうしても、退去させられなかった子が」

「ひとり」

「最初は、仕方ないって事で隠れててもらったんです」

「けど、けど、あ、あははは」

「けど、駄目だった、あの子は」

「あの子は、何時の間にかいなくなって」

「けど、音は聞こえるんです」

「隙間から姿が見える事もあります」

「けど、あれは本当に」

「本当にあの子なの?」

「だって、音がする」

「ずるずると這いまわる音が」

「あの子は、歩くときにあんな音は出さない」

「出さないはずなんです」

「ああ、けど、けど、私は見てしまった」

「夜歩く、あの子の姿を」

「あの子は、あの子はね、ふふふ、ふふふふ、あの子は」

「洗面台の、排水溝に、ずるずると、入って行ったんです」

「だから、だからね、きっと、きっとこの部屋にも」

「彼女はいます、だって」

「声がしますから」

「この部屋に入ってから、姿は見えないのに、私に話しかけてきて」

「私は、何時の間にか、紙を持ってて」

「あの言葉を」

「あの呪文を」

「読もうとしてしまう」

「何時の間にか、私は口にしようとしてしまうんです」

「多分、きっと」

「あの呪文を口にしたら、私は人ではいられなくなる」

彼女の独白に、あっけにとられてしまいました。

一体何を言っているのでしょうか。

彼女にも制御できなくなったサーヴァントが、カルデアに居る……という事でしょうか。

だとしたら。



カリカリカリカリ



流し台の排水口から。

何か音がします。

まるで。

何かが這いあがって来ようとしているかのような。

そんな音が。



「いや、いや、いやなんです、いあ、いあ、くとぅるう、ふたぐん」

「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるう、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐん」

「みんな、みんないなくなった」

「マシュも、ダヴィンチちゃんも、他の職員さん達も、みんな」

「こわれた、こわれた、カルデアがすべて、すべて」

「私は一人で外に逃げ出そうとしたんです」

「けど、出来なかった」

「外には、外には、沢山の、沢山の、ああ、そんなはずは」

「ここは、標高6000mの山の上のはずなのに」

「どうして、どうして潮騒の音が」



魔術回路を起動させ、流し台の排水口に封をしました。

何が這い出してこようとしてるのかは知りませんが、これで暫くは持つでしょう。



「みんな死んだ?そんなはずはないでしょう」

「カルデア職員は全員我々が確保しています」

「あの万能のキャスターとて、今は私のボスが事情聴取しているはずです」

「みんな、しんだ、みんな、きえた、わたしが、わたしがひとりだけ、のこされて」

「もういいです、頭のおかしくなったマスターに用はありません」


机に座り、ブツブツと呟く彼女を放置し、私は扉を開放して廊下に出ました。

外に待つ警備員に事情を話して、彼女を拘束して貰ったほうがよいでしょう。

それに制御不能のサーヴァントがいるのであれば、それをボスに報告しないと……。












あれ?














外は、全ての照明が消えていました。

いえ、それどころか、至る所が破壊されていました。

天井は一部崩れていて、外の景色が見えています。

廊下には瓦礫と砂埃が溜まっていて。

まるでずっと昔に破壊されたかのような、



寒い、とても寒い。

どうして、こんなに寒いのでしょうか。

暖房が利いていない?

ああ、それはそうでしょう、ここまで破壊されているのに暖房機能が生きているなんて有り得ない。

けど、私が先ほどまでいた部屋はちゃんと暖かくて。



「ぐ、ぐだ子さん、これはどういう事です」

「私に幻術でも見せているのですか?」



彼女は……。

彼女は、机の上に突っ伏していました。

眠っているのでしょうか。



私が彼女の肩に手を触れると。

彼女は、そのまま崩れ落ちました。

床に倒れて、動きません。

その姿は。



ああ、その姿は。

どう見ても死後数年は経過しているミイラで。



私は。

私は、死体と話をしていたのでしょうか。



ふと、彼女の手に、何かが握られているのが見えました。

あの紙です。

彼女がカンニングペーパーとして用意したであろう紙が。

その手に握られていました。



私はそれを手に取り。

紙を広げ。

中身を。

ああ、どうして。

どうしてそんな事をしてしまったのでしょう。

魔術師としての好奇心でしょうか。



私は、その紙に書かれている事を。

口に出して読んでしまいました。



それは、決して口にしてはいけない言葉でした。

調査員「監査官さん?」

監査官「……え?」

調査員「大丈夫ですか?」

監査官「……あれ、私はここで何を」

調査員「しっかりしてくださいよ、我々は10年前に謎の爆発事故で閉鎖された研究機関を調査に来たんじゃないですか」

監査官「……ああ、そうです、そうでした」



どうして忘れていたのでしょう。

そうです、私達は10年間閉鎖されていた研究機関カルデアを調査する為に来たのでした。

村で当時の職員から情報収集したのも、その為です。

人理継続保障機関カルデア。

世界を救ったと喧伝していた組織です。

実際は、魔術協会の調査が入る前に爆発事故が起こり閉鎖されてしまったのですけど。



最近になってカルデアの研究記録が見直され、その技術を継承すべきという流れが発生しました。

うちのボスがその流れを汲んで、調査の指揮を執ることになったのです。

私はその為の情報を集めるのが仕事で……。

調査員「それで、カルデアマスターの情報は集まりましたか?」

監査官「書面的には、十分集まりました」

監査官「彼女は本当にただの一般人だったようですね」

監査官「人理を救う為の旅路も、きっとおっかなびっくりでこなしてきたのでしょう」

調査員「サーヴァントが居残っている可能性があると、さっき言っておられましたが」

監査官「彼女の墓守としてですか?ははは、良く考えるとそんな事はありえませんよ」

監査官「あれからもう、10年も経ってるんですから」

調査員「そうですか」

監査官「カルデアスやシバの様子はどうです?」

調査員「ええ、機関系統はすべて調査しましたが……あそこまで破壊されていると復旧は不可能です」

監査官「そうですか、じゃあ、もう帰りますか」

監査官「ここには、もう、何もないんですから」

調査員「そうしましょうか」

監査官「時計塔で待っているボスには、私から報告しておきます」

監査官「さあ、ヘリの準備をしてください」

調査員「……あれ」

監査官「どうしました」

調査員「い、いえ、今、貴女の後ろに、誰かいたような気がして」

監査官「あははは、そんなはずないじゃないですか、驚かさないでくださいよ」

調査員「そ、そうですよね、すみません」

監査官「……」

監査官「……」

監査官「……」

 


私は、傍らに立つ少女の頭を撫でて、こう言った。


「さあ、帰りましょう」

「私達の、新たな世界に」


 

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