千歌「ラストクリスマス」曜「特別な君へ」 (20)

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千歌「ハー……」

曜「うぅ、寒い」

千歌「息が白いねー」

曜「なんでこんな日にバイト入れちゃったかなあ」

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千歌「だって、1年……2年生ズはクラスのみんなにお呼ばれしてるっていうし、梨子ちゃんはパーティーのピアノを任されちゃったって言ってたし」

曜「何もない私たちは仕事するしかないか……悲しいね」

千歌「すごいよ、よーちゃん。どこを見てもカップルばっかり」

曜「そりゃあ、こういう日は好きな人と過ごしたいよねえ」

千歌「はぁ……私も、一度でいいからしてみたかったなあ」

曜「何を?」

千歌「決まってるでしょ? カップルイベント」

曜「だよねー」

千歌「梨子ちゃんばっか告白されて……私たち、何もなかったもん」

曜「でも、1年間ずっと断り続ける梨子ちゃんも不思議だよね。中には、サッカー部のキャプテンもいたって話だよ」

千歌「梨子ちゃん、留学しちゃうからかな」

曜「あー……多分そうかも」

千歌「遠距離恋愛、したくないもんね」

曜「うん。離れてると、やっぱり辛いし」


千歌「――ほら、よーちゃん。ちゃんとケーキの宣伝しないと!」

曜「あ……うん。そうだね」

―――




店長「いやー、君たち2人がいてくれて助かったよ。毎年この時期は人手不足でさ」

千歌「いえ、いいんですよ。私たち暇ですから」

曜「そうそう、一緒に過ごす恋人もいないですし」

店長「独り身は寂しいよねぇ。ま、おふたりさん美人だし。きっといい人も見つかるって」

千歌「美人なんて、そんな……」アハハ

曜「……千歌ちゃん、帰ろ?」

千歌「あ、うん……お疲れ様でしたー」

―――




千歌「うわあ……結構もらえたね」

曜「クリスマスだからね。時給も高く設定されてるんだよ」

千歌「えへへ……なに買おうかな」

曜「あんまり使いすぎちゃダメだよ? いくら実家暮らしだからって」

千歌「はーい、気を付けまーす」


曜「千歌ちゃん。このあと予定空いてる?」

千歌「ん? そりゃあ、特になにもないけど……」

曜「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」

千歌「いいよ。でも、あんまり遠くには行けないよ? こんな時間だし」

曜「わかってるわかってる。ほら、こっちだよ」

―――




千歌「ここ、レストランじゃん……」

曜「そうだよ。さ、中に入ろ?」

千歌「え、ちょっと……すっごく高そうだよ? それに、予約しないと入れないんじゃ……」

曜「心配しないで、私に任せて」

千歌「へ……よーちゃん?」


店員「いらっしゃいませ」

曜「渡辺です」

店員「はい、渡辺様ですね。お待ちしておりました」


千歌「え、ちょ……えぇ?」

曜「ほら、千歌ちゃん」グイッ

千歌「わわっ……」

ストン…


店員「ご注文はBコースでよろしかったでしょうか」

曜「はい、よろしくお願いします」

店員「かしこまりました」


千歌「……」ポカーン

曜「どうしたの、千歌ちゃん?」

千歌「いや、どうしたのって……なに、これ?」

曜「なにって、レストランだけど」

千歌「え……でも私、今バイト代しかないし」

曜「私に任せてって言ったでしょ?」

千歌「えっと……説明してほしいかも」

曜「何を?」

千歌「だから、その……どうしたの、これ。何かのサプライズ?」

曜「……まあ、そんなところ。イヤだった?」

千歌「イヤっていうか、寧ろ嬉しい……はずなんだけど。ちょっとまだ整理できてないかな……」

曜「そっか……そうだよね」

曜「――あのね、千歌ちゃん。私、話しておきたいことがあって」

千歌「うん」


曜「私……高校を卒業したら、東京の大学に行くことにしたんだ」


千歌「うん、知ってるよ?」

曜「だよね……その、スポーツ推薦もらっててさ。オリンピック選手を目指さないかって話、持ち掛けられて。正直……かなり迷った」

千歌「どうして? よーちゃんなら、絶対行くって言うと思ってたのに」

曜「自信無いってわけじゃないけど……ただ」

千歌「ただ?」

曜「……スクールアイドル、どうしようかなって」

千歌「――そんなの、決まってんじゃん」

曜「え?」

千歌「私たちのスクールアイドルは、もう終わったんだよ」

曜「……」

千歌「私たちはあの時、誰もが全力だった。みんな輝いてた。……でも、終わりは必ず訪れる」

曜「……うん」

千歌「でも、終わりが来れば、また何かが始まる。私たちは、別の輝きを見つけに行くんだよ」

曜「うん」

千歌「それぞれ、歩く方向は違うかもしれないけどさ。でも、きっといつまでも忘れない。私たちが、あの時あの場所で、一緒に輝いていた証は……私たち自身の胸に、いつまでも残ってる。それが消えてしまう事は、絶対にない」

千歌「だから……よーちゃんは、よーちゃんの道を進めばいいんだよ」


曜「うん、わかってる」

千歌「……フフッ、らしくないこと言っちゃったね」

曜「そんなことないよ。千歌ちゃん、割と頻繁にそういうこと言うから」

千歌「えぇ? そうかなー」

曜「そうそう」


店員「お待たせいたしました」


曜「あ、はーい」

―――




千歌「すごい……このアイス、雪みたいに溶けるよ」

曜「流石に人気レストランだけあって、どの料理も信じられないくらいおいしかったね」

千歌「はぁぁぁ……チカ、こういうところ、生まれて初めて来たよ」

曜「えへへ、実は私も」


千歌「――ありがとね、よーちゃん」

曜「うん?」

千歌「私、今日のこと一生忘れないよ」

曜「……ホント?」

千歌「ホント。素敵なクリスマスプレゼントだった」

曜「あのね、千歌ちゃん」

千歌「うん」

曜「プレゼントは、また別に用意してあるんだ」

千歌「別に……?」


店員「――こちらで、お間違えないでしょうか」

曜「はい……ありがとうございます」


千歌「え……どうしたの、これ」

曜「開けてみて。千歌ちゃんに、私からの……ささやかなクリスマスプレゼント」

千歌「……わああ、綺麗」

曜「でしょ? 千歌ちゃんなら、絶対気に入ると思って」

千歌「でも、これ……指輪だよね?」

曜「うん。って言っても、ペアリングだけどね。そんなに高くないやつ」

千歌「えっと……」


曜「あのね、千歌ちゃん」

千歌「う、うん」

曜「去年、私言ったじゃん。『おばあちゃんになるまで、一緒にやろっか』って」

千歌「……うん、覚えてるよ。今でも」

曜「なのに私、来年からは千歌ちゃんと一緒にいれなくなるから」

千歌「そうだね……」

曜「だからさ。それ、千歌ちゃんに持ってて欲しいんだ」

千歌「私に?」

曜「その……イヤだったら、別にいいんだけど」

千歌「……ううん、イヤじゃない。ずっと持ってる。大切にするよ」

曜「そ、そっか……よかった」

千歌「あの……よーちゃん」

曜「うん?」

千歌「どうして、ペアリングなの?」

曜「それは……その……千歌ちゃんが、私のこと忘れないようにって。私もずっとつけて、忘れないようにするからさ」

千歌「本当に……それだけ?」

曜「えっと……」

千歌「それだけじゃ、ないよね」

曜「う……」

千歌「だって、こういうのって……恋人同士でするじゃん」

曜「うぅ……///」

千歌「そういう意味で……いいんだよね?」

曜「……うん」


曜「あの、千歌ちゃん」

千歌「……はい」


曜「――好きです」


曜「ずっと、ずっと好きです。小さい頃から、ずっと……そして、これからも」

千歌「……うん」

曜「……私、いつか必ず迎えにくるから。だから……それまで、待っててくれますか?」

千歌「よーちゃん」

曜「う、うん……」


千歌「――私も、好き」


曜「……え?」

千歌「プレゼント、すっごく嬉しいよ。よーちゃんが迎えに来てくれるその日まで、ずっと大切にする」

曜「千歌ちゃん……」


千歌「だから……待ってます。いつまでも」

―――




曜「……じゃあ、また明日」

千歌「うん」


曜「――待って、千歌ちゃん」

千歌「え?」


曜「その……私たち、恋人……に、なったんだよね?」

千歌「……うん、そうだね」

曜「ホッ……その、えーっと……」


千歌「――恋人っぽいこと、する?」

曜「あ……うん、したい」


千歌「……実は、私もしたかったり」


曜「千歌ちゃん……」

千歌「よーちゃん」


曜「……///」ドキドキ

千歌「えっとぉ……いきなりキスとかは、やっぱり恥ずかしいね……///」

曜「そう、だね……」


千歌「じゃあ、手……繋ごっか」

曜「手?」

千歌「あ、でも……いつも繋いでるし、新鮮味はないかな?」


曜「……ううん、そんなことない」


ギュッ…



曜「……///」ドキドキ

千歌「う……ぅ……///」

曜「なんか……すっごく恥ずかしいかも」

千歌「意識すると、やっぱり……ね」

曜「……千歌ちゃん」

千歌「うん」

曜「卒業して、離ればなれになるまでに……いっぱい思い出作ろうか」

千歌「うん……2人だけの思い出」


曜「――じゃあ、今度こそ」

千歌「うん……バイバイ、よーちゃん」



曜(はああああああ……心臓バックンバックンいってるよ)

曜(こんなんで、キスまでいけるのかなあ……)

曜「はぁ……」


タッタッタッ


曜(うん? 足音……)


チュッ


曜「へ?」

千歌「……えへへ。私からも、クリスマスプレゼントだよ」

曜「千歌ちゃん……今、なにを……」

千歌「やっぱ、しときたいかなって……ほっぺただけど」

曜「……」ポカーン


千歌「じゃ、またね!」


千歌「~~~~~~~~~~~///」パタパタ



曜「え……え?」


曜(今……ほっぺたに何か、柔らかいものが……)


曜「……っ!!」カァァァァァ

曜「う……うそっ……千歌ちゃ……ええええええええええっ!!///」

END

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