【ミリマス】我が恋の運命に応えてあなたっ♪ (18)

※ 独自設定が多々あります。
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少女は部屋に飛び込むなり。

「PさんPさん!」

「なんだ、百合子か、おはようさん」

「はい、おはようさんです」

と、朝の挨拶を男と交わし。

「早速ですけど、髪型、変じゃないですか? 寝癖とかついていませんか?」

「いや別に……いつもの編み込みが無いぐらいだな」

「そりゃそうです。今から編み込むんですから」

と、彼の真横に陣取った。

「百合子、近い」

「近くないです」

「あとな、百合子、これはなんだ?」

男は少女から手渡された一本の紐ゴムを見つめてそう尋ねた。彼女が言う。

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「Pさん、髪紐知らないんですか?」

「まさか」

「なら、別に訊かなくても――よいしょ」

少女は持参した卓上ミラーをテーブルの上にちょんと乗せ、
その隣にこれまた持って来ていたハードカバーの本を置き、

小首を傾げるようにして、可愛く鏡を覗きながら自身の髪をせっせせっせと編み込んでいく。

手慣れた手つきで進むその様子を、黙って見つめている男。

渡されたゴムを手持無沙汰気に伸び縮みさせ、作業が終わるのをジッと待つ。

「Pさん」

「ん」

「今日はゴム、つけてください」

言って、ニヤリと笑う少女。言われ、ニコリと笑う男。

二人はしばし微笑み合い、男は爽やかな笑顔のまま少女に手刀を振り下ろす。

「このアホめ!」

「あ痛ーっ!? どうして突然ぶつんですか!」

「朝から下ネタかますんじゃない! ゴムなら『結んでください』だろ!!」

「ゴムはゴムでも輪ゴムですよ! ほら、"今日、わゴムつけてください"って」

「いけしゃあしゃあとこの娘は……! イントネーションから違ったろうに」


呆れ果てたように言い捨てるが、それでも男は少女の髪を言われた通りにまとめてやる。

男に頭を任せながら、少女が不貞腐れたように言う。

「はぁ~、冗談が通じないな。乙女だったら恋人に、一度は言いたい台詞なのに」

「悪いがそんな台詞を吐く奴は、その時点で既に乙女じゃない」

「でも根強い人気がありますよ? 知りません? 処女ビッチって」

「お前のキャラ付けはそれでいいのか? ……っと、できたぞ」

「ありがとうございます!」

男は自分の方へ体重をかけ始めていた少女の体を押し戻すと、やれやれといった風に嘆息した。

少女が完成した編み込みの具合をチェックして、
「やっぱりPさんにしてもらうと、髪のまとまりが違うなぁ♪」と嬉しそうな声をあげる。

「そうか? 俺にはてんで分からんが」

「Pさん、それじゃダメダメです! 恋人なら、彼女のこういう変化にはいち早く気づけるようにならなくっちゃ」

そうして男を叱った後、からかうように目を細めたどや顔少女に彼は言う。

「そりゃあれか? 些細な変化にも気づいて欲しい乙女心」

「だけじゃないです」

「なら小さな変化に気づくぐらい、常日頃から自分を見てて欲しいって女心」

「う~ん、それもちょっと違うなぁ……」


「違う? なら――分かったぞ! 貴様、もしや百合子じゃないな!?」

言って、指をさされた少女が「くくく」と悪魔的に笑い出す。

「……くっふっふ、まさかこれほどに鈍いとはな」

さらに彼女はすっくとその場に立ち上がると。

「Pさん! いや、七尾百合子のプロデューサーよ!
今の今まで気づかぬとは、たいした節穴をお持ちよのう!」

「くっそぉ~! やっぱり入れ替わっていたか!!」

「はーはっはっは! 今更気づいてももう遅い!」

畳に座る男の背後へ回り込み、その背中に勢いもよくのしかかった!

「ぐはぁっ!? お、重い! まるで41キロの重りを乗せられたかのように!」

「ちょっとPさん!」

「しかもこいつ、温かいぞ! それに若干汗臭い――」

刹那、弾かれたように男の背中を離れる少女。

急いで自身の匂いを嗅ぎ、若干不安気な顔をして、
「そ、そんなことないですよっ!」と顔も真っ赤に否定する。

「大体、汗は女の子の香水だって海美さんが!」


――歌っている『スポーツ! スポーツ! スポーツ!』収録の
『THE IDOLM@STER MILLION LIVE! M@STER SPARKLE 04』は現在絶賛発売中。

私のおススメは『ART NEEDS HEART BEATS』と『あめにうたおう♪』の2曲です。

以上、関連CDのCMでした――閑話休題。

===

「でな」

「はい」

「さっきからちょこちょこ会話に挟んで来る、"恋人"っていうキーワード」

再び男の隣に座り込んだ、少女に向かって彼が言う。

「違うよね?」

「はい?」

「違うだろ?」

「なにがです?」

「だから、"恋人"っていうキーワードが――」

「……ああっ!」

ポンと、少女が理解したと言わんばかりのわざとらしい動作で手を叩き。

「やっぱりここは、"奥さん"の方がいいですかね!?」

「なんでだよっ! 違うだろ!? 俺とお前は知り合いだが、交際なんてしてないだろ!!」

「でもでもでも! 将来的にその可能性が全く無いっていうワケじゃ――」

「ないよ! ありえねぇよ! よしんばそうなったとしても、親戚一同猛反対っ!!」

「障害がある恋の方が、燃えるってことにはなりませんか!?」

「なーらーなーいーのーっ!! なるワケない! 相手が百合子、お前だぞ!?」

言って、彼はすぐさま後悔した。

少女の顔がくしゃくしゃと歪み、うるると涙に濡れるお目々。
ぐすぐす鼻をすすり出せば、彼女は両手を目元に持って行き。


「う、あぁ~! そんにゃ、そんな、おもきりひてーしなくたゃっへぇ~!!」

えんえんえんと泣く、泣く、泣く。

「うんめひなのにぃ、やくひょくなのにぃ、Pひゃ、Pにぃ、えぐ、ひっく……!」

対する男はオロオロと。

「な、泣くなよ百合子。悪かった、悪かったって謝るから!」

言ってみるのだが効果は無い。

そのうち少女は両手も下ろし、両肩をいやいや揺する駄々っ子泣きに移行すると。

「けっこんふるっていったのにぃ~! およめさんにしてくれるっへ言ったのにぃ~!!」

「いや、でも、それは……。まだお前も小さい頃の話だろ?」

「う~そ~つ~きぃ~!!」

少女は大粒の涙をぽろぽろぽろとこぼしながら、
テーブルの上に置いておいた分厚い本を手に取った。

そうして対処に困り果てた男の前で彼女はページをパララと捲り。

「せいやくしょも、書いたぁ~!」

「んなっ!? い、1枚だけじゃなかったのか!?」

「ふぐ、ふぇ……ハンコも、おしたのぉ~、けっぱんぅ、けっこんぅ!」

挟んであった紙を男に見えるよう取り出すと、増々激しく泣きじゃくる。


「ホントにこいつは……ああもう! 小さい頃から要らん事ばかり覚えおって!」

「要らなくないもん! 大事だもん!」

「わかった! 分かったからしまおう? なっ? なっ!? ほら、こっちに渡しなさい!」

だが、少女は男の伸ばした手が届かぬよう紙を胸元に抱き込むと。

「やだ!」

「やだじゃない! 百合子!」

「いや! いや! いやぁ~!」

首もふりふり男を睨み。

「だってだってやぶくもん。前もそう言って破いたもん!」

「そりゃあ誰だって破くだろ!? 子供の遊びとは言えど、結婚の誓約書なんてもん――」

「遊びじゃない! 本気!」

「百合子はそうかもしれないが! 『うん』なんて言えるワケないだろう!?」

バチバチと、両者は向かい合い火花を散らす。
泣き疲れて気持ちも落ち着いたか、先ほどよりは冷静になった少女が彼に言う。

「でも、私、待ってました! あなたが迎えに来てくれる瞬間(とき)を!」

「だからって、人を白馬の王子みたいに!」

「なに言ってるんです? ちゃんと来てくれたじゃないですか――。あの日、あの時、学園祭!」


少女が膝立ちになってにじり寄り、男は離れようとその身を仰け反らす。

「そりゃあ招待状貰ったら寄ってみるよ。親戚の付き合いってモノもあるワケだし……」

「朗読会が終わった後、Pさんは私に言ってくれましたよね?」

そうして少女は――正に夢見る少女。恋に恋する乙女特有の顔をして――ほぅっと息を吐くように言ったのだ。

「"百合子、君を迎えに来た。今すぐお前が欲しいんだ"」

「違う。"招待ありがとう百合子ちゃん。さっきのステージも良かったよ"だ」

「そうしてこうも続けました。"長い間待たせてすまなかった。でももう大丈夫! 君を迎える準備はできたんだ"」

「それも違う。"最近会うことは無かったけど。相も変わらず可愛いね"だ!」

「"だから姫、結婚しよう!"」

「"これならウチのアイドルにだってなれるかも"だったろう!?」

いつの間にやら部屋の壁まで追い詰められ、男はその手にじんわりとした汗を掻いていた。
少女の方も膝立ちから、今は四つん這いのように前のめり。

「だから私はPさんに導かれるままオーディションだって受けたのに!」

「驚いたよ。まさかあの言葉を真に受けて従妹が来るとは思わない」

「面接だって頑張って、アイドルにだってなれたのに!」

「しかも案外成績良いんだもん。落とそうとしても落とせないし」

「なのにここまで私にさせておいて、それでも捨てるって言うんですか!?」

「いっ、言い方に少し気をつけないか! 別に百合子を捨てるつもりはない!」


言われ、少女は驚いたように「えっ?」と呟いた。

「それって、Pさん、もしかして……。私は2号さんになれと?」

「1号だっていやしないよ!」

「あ、なんだ。……よかった! だったらやっぱり、私があなたの一番ですね!」

両手を嬉しそうに合わせ、少女がその甲に頬を乗せる。

そうして彼女は男に向けて「だって、だって私たちは――いとこで幼馴染で年上の幼少時に結婚の約束だってした甘い初恋相手で偶然の再会を果たした趣味に理解も持ってくれる上司と部下の関係で同時に二人はパートナー。恋のライバルも多いけど仲の良さは公認で両親も諦めたように私を追い出し今や住んでる場所も一つ屋根の下な――運命の糸で結ばれた者同士ですもんね!」と一気に捲し立てると頬を染めもじもじと微笑んだ。


ちなみに余談ではあるが、少女が実家を追い出されたのは両親が二人の仲を認めた為では断じてなく、
単に彼女の所有する書籍の数が増えすぎて自室の床がその重さに耐えられなくなってしまったからに他ならない。

その際、家のあちこちに雪崩れ込んだ本と本棚は七尾家をルーブ・ゴールドバーグ・マシンもかくやと力一杯蹂躙し、

一家の長たる父の口から「まだローンだって残ってるのに」という
父親ならば一度は言いたくない台詞TOP3に入るであろう言葉をちゃっかり引き出したりもした。


その結果としての少女と男の同棲だ。

彼女にしてみれば棚から牡丹餅、
男からすれば寝耳に水の引っ越しである。

……今、少女七尾百合子は自信もって断言する。

「Pさんと私は、きっと前世から結ばれる運命なんですよ!
じゃないと、こんなに縁がある理由に説明なんてとてもとても!」

「そうか? そうかな? 案外多分に勘違いが――」

あるんじゃないか? と問いたい男の目の前で、
少女は件の誓約書をヒラヒラさせつつこう続けた。

「だから、こんな誓約書なんてポイしましょ!」

「おっ?」

「代わりに用意したこっちの紙――婚姻届けに判ください♪」

「は、はああぁぁっ!!?」

急転直下。つかぬ間の安心は無情にも粉々に打ち砕かれ、
新たに捲られた本よりいづるはより強力で強大な紙っぺら。

押せば破れるだがしかし、ひとたび押された判の威力は誓約書なんぞの比では無い。

悲鳴を上げた男に向けて少女がじりじりにじり寄る。

「待て! 待て! でも百合子、お前はまだまだ15歳――」

「だから結婚できるって美希さんも!」

「世間体! 俺たちアイドルとプロデューサー!」

「私とこの家に住んでいて、今さらそんなこと気にしますか!?」

「あー、確かに言われてみればそうだよなぁ……。って、いかん! 待て、待て、待てっ!」

だがこの時、天啓! 男は突如思い出した。
百合子を説得する方法、とりあえず窮地を脱するその手段!


「百合子! お前は大事なことを忘れているっ!!」

ストップをかけるよう手をかざし、叫んだ男の言葉に少女の動きがピタリと止まる。

「……大事なこと? なんです?」

「気づかないか? ベタベタな恋愛フラグ立てまくって交際を迫るわりには案外抜けてるトコがあるぞ」

ニヤリ、男が不敵に笑い、少女はハッとした顔になって自分の背後を振り返った。
いつの間にやら二人が騒ぎ立てる居間に続く部屋の扉が開いている――そして。

「……あっ、いえ、これはその!」

立っていたのは眉をひそめて固まる少女に。

「あちゃ、見つかっちゃったね」

と、興味津々と覗き込む女性。

「おや、なんとも間の悪い」

さらには銀髪淑女も誤魔化すように目を逸らし。

「アンタたちってば二人とも、朝っぱらからうるさいのよ! たまのお休みの朝ぐらいどーして静かにできないの!!」と
遅れてこの場にやって来て、爆発するはおでこちゃん。

男が「はっは!」とひと笑い、勝ち誇るように百合子を見た。

「百合子みたいな美少女にな、結婚を迫られてそれでも男が断る理由! それは他にも女がいるからだ!」

「プロデューサー」

「大体よくあるパターンだろ? 大した取り柄も無い冴えない男の家にだな、
突然女の子がダースで集まりプチハーレム――」

「プロデューサー?」

「……ま、まぁ、だからと言って彼女たちがいなかったら、
百合子の申し出を受けるのかって言うと別の話になるけども……」


しかし男は徐々に勢いを失って、最後の方はもにょもにょと。
だが、百合子はそんな彼に「ぐぬぬ」と唇を噛んで見せ。

「私、それでも負けません! 幼馴染が負けヒロイン……。
そんなテンプレートはきっと、きっと覆してみせます!」

ポンと、男の肩に手が置かれた。

仰ぎ見れば、そこには彼と最も長く住んでいる少女が立っていて。

「ち、千早……!」

「私たちが、いつからあなたの女になったのか……。少し、あちらで話しましょう? ね?」

少女の瞳は笑ってない。おでこと淑女も彼を囲み、
自由人はお菓子を片手に見物を決め込むようである。

そんな中、初動に乗り遅れた新参者の娘はぷるぷる震えて訴えた。

「なんやいねっ!」と、このオチは。
とにもかくにも765寮の、賑やかな朝の一幕だ。

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以上おしまい。以前ハーレム物、正確に言えば女難物に挑戦しようと書いた麗花さんの話に紬の話、
それから美咲ちゃんが妹だった世界と同じ舞台。(勃起討論とはまた別です)

前作たちが余りP好き好きって感じじゃ無かった反動か、もしPに対して「好きです!」「愛してます!」「結婚しましょう!」と
オブラートに包むことなく言ってもいい世界ならどうなるか――と思ってできたのが今回の話です。

では、お読みいただきありがとうございました。

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