荒木比奈「二人で溺れる愛の営み」 (17)

 毎日を過ごしている自分の家の部屋の中。ベッドに腰掛けるプロデューサーから優しく頭を撫でられながら、その足の付け根の辺りへ私は顔を沈めていた。

 お互いに下着姿でいる私とプロデューサー。その下着も捲り上げてずり下げて、二人揃って脱ぎかけのだらしない半裸姿。隠すべきところを隠せていない、本来の用途を無視して……むしろ劣情を煽る装飾品として使っているような状態。

 ベッド下の床へ胡座の形で座らせた身体を前へ大きく傾けて、プロデューサーの身体へ倒れ込むようにする。片方の腕はプロデューサーの太ももへ添わせて、逆側の腕は自分の股の辺りへ差し込んだ形。

 まだ乱れてまではいないけれど、少しずつ大きく荒くなり始めたプロデューサーの吐息。吸うのも吐くのも普段よりいくらか深く速い。興奮を隠さず伝えてくれるそんな吐息を頭の上に感じながら、私もだんだんと鼻息を荒くしてしまう。

「……プロデューサー。ちゃんと気持ちよくなってくれてまスか……?」


 ねと、と。少し粘ついた唾液の糸を作りながら、それまで沈めていた顔を後ろへ下げる。

 そしてプロデューサーへそう問うと、肯定の言葉と共に頬をそっと撫でられる。優しくて温かい大好きないつもの瞳、それをいつもとは違う熱に焼けた状態で向けられて。きっと必死に抑えてくれているのだろう興奮が、けれど隠しきれずに手の震えとして現れているのを感じて。昂ったプロデューサーの様子に自分も引っ張られ昂ってしまう。

 昂って、だからすぐに再開。間に架かった糸を舌で手繰って絡め取るようにしながら顔を前へ突き出して、一旦放していたそれをもう一度咥え込む。プロデューサーの性器。私を女にしてくれた、私にとって唯一の男性の象徴。

 ずる、ぢゅるる、と音を立て吸い上げながら深く深く受け入れる。喉奥まで届いた先端からはさらさらとした少し薄味の先走り。潤滑油としての役割を担ったそれは、けれどその役割を超えて私を刺激してくれる。空気に触れていないそのままの状態だからか濃厚に感じる匂い。直接身体へ流し込まれるそれのいかにも雄といった官能的な匂いが鼻を抜けて、お腹の奥が震えて疼く。

 まだほんの数分しか経っていない。行為を始めてからまだほんのそれだけ。でも、それでも私の口の中のそれはこれ以上ないくらいに膨れて張っていた。今にも煮えた精を吐き出してしまいそうな、達してしまいそうなほど。……そして、それを咥えた私も同じように達してしまいそうなほど濡れていた。

 きっと理由も同じなんだと思う。二人して仕事のない今日という休みの日。朝に招き入れてから今この夕暮れ時までずっと一緒に過ごしてきた。仕事の話や趣味の話をして、漫画を読んだりゲームをしたり。そうしてずっと過ごしてきた。……過ごしながら、ずっと身体を昂らせていた。

 会話がふと途切れた瞬間。会話をしている途中にさえ。漫画もゲームも半ば意識の外へ放り出して。そうしてずっと。部屋の中へ二人になってからずっと思っていた。したい。早くしたい。セックスしたい。まるで盛った動物のようにずっとただそのことを。

 ずっと思っていて、でも私もプロデューサーもなかなかそれを切り出せなくて。きっと相手も同じ気持ちだってそれは分かっているのに、なのにお互い言い出せず、きっかけを探り続けながらすっかり時間を尽くしてしまった。

 でもそのおかげで今はこう。プロデューサーも私も、二人して今にも達してしまいそうなほど出来上がっている。ずっとずっと何時間もかけて前戯を繰り返していたようなもの、始まる前からもう蕩け溺れていた。


「比奈……」


 溢れてくる先走りを喉奥へ染み込ませるようにぐりぐり、と深く飲み込み押し付きながらいると頭の上から声。吐息混じりの、余裕のない声が降ってくる。

 頭を撫でてくれる手からも余裕が失せて限界が近いのが伝わってくる。口に含んだのはそのままで上を見ると目が合った。さっきまでよりも更に焼けた、潤む、そんな瞳。

 言葉はなくても分かる。射精したい。そう目が言っていた。私の目もそう。射精してほしい。そう言っているのがきっとプロデューサーにも伝わってくれたはず。

 重なった視線を外して動きを激しく。それまでしていたような、ねっとりと舌を這わせて溶かすようにするのとは違う。唇をぎゅっと締めて、下品な音をうるさいくらいに響かせながら思いきり頬をへこませて吸い上げる激しい口淫。

 ずんずんと強く何度も喉奥を突かれて苦しくなる。口の中を余さずすべて占領されて息も辛い。激しく突き入れられるプロデューサーのそれに押し退けられて舌も唇をはみ出してしまう。

 荒い鼻息。垂れ流されるまま唇の端から溢れ出していく、どろっと泡立った大量の唾液。涙に潤みながらどうしようもなく熱に浮かされた瞳。そんなだらしない……プロデューサーにしか見せられない爛れた姿を晒しながら、射精を求めて奉仕する。

 苦しいのに気持ちいい。辛いのに満たされる。初めにした時はゲホゲホと咳き込みながら「漫画みたいにはいかないもんなんでスね……」なんて言って、もうすることは二度とないとさえ思っていたこれに今はもう幸せすら感じてしまう。

 きっと元々の素質もあったんだとは思う。それをプロデューサーに開花させられて、今ではこんなにえっちな女になってしまった。こんな行為で幸せを感じてしまうような、そんなふうにさせられた。

 それを思うと嬉しくなる。プロデューサーに染められた今の自分を思うと、プロデューサーのものになれた気がしてたまらなく。

 嬉しくなって、だから強く早く深くする。もう頭の上の手は動いてさえいない。喉奥から立ち昇って鼻を抜ける饐えた匂いも濃くなって、伝わる味も舌を痺れさせるくらいに強くなる。きっともう出てしまうんだろう。それを感じ取ってラストスパート。

 プロデューサーの太ももへ添わせた手は固く握って。胡座をかいた足の間へ差し込んだ手は、もうすっかりびしょびしょになって濡れきったパンツの上へ。絶え間なく愛液を溢れさせてしまう自分のそこを、パンツ越しに擦って弄る。

 達したい。一緒に気持ちよくなりたい。プロデューサーの精液を受け止めながら私もイキたい。幸せと息苦しさにぼんやり霞む意識の中でそう願いながら、絶頂へ向けて駆け昇る。

 出して。射精して。飲ませてください。そんなふうに頭の中で叫びながら顔を振る。ぢゅぞぞぞ、と卑猥な音を響かせながら何度も何度も。


「……っ、ひな……!」


 切羽詰まったような声、と同時に衝撃。

 びゅく、びゅるる、と。まるで叩き付けるみたいな勢いの射精。

 多分無意識なんだろう、射精の瞬間プロデューサーが腰を突き上げる。奥へ奥へと差し込まれたそれを、けれど私はむしろ前に出て迎え入れた。

 う、おう”っ、と変な声を上げてしまいながら絶頂する。ぼんやりとしていた意識を手放してしまいそうになりながら、なのにはっきりしっかりとこれ以上ないくらい鮮明に快感を感じて。びく、びく、と震えながら達してしまう。

 喉奥を叩かれる。それさえ越えて、もう直接身体の中へと吐き出されるような深い射精。なんだか淫靡で背徳的で、身体のすべてをプロデューサーに汚され作り替えられているようで……頭の中にチカチカと火花が散るような、そんな感覚に落とされる。

 頭の上からプロデューサーの押し殺したような溜め息。まるで過呼吸にでもなってしまったみたいに鼻息を荒げながらそれを聞いて、満足してもらえたんだな、と満たされる。

「ん、ふっ……ふう……んふ、う……っ」


 ずるるる、と。大きな波を四度か五度繰り返したそれが抜けていく。

 ゆっくりとゆっくりと、深く突き刺さっていたそれが少しずつ抜けていくのを感じる。荒いまま整わない吐息。涙に滲む視界。ぼやけた意識。そんな状態で、でもその感覚はしっかりと鮮明に喉や口内のすべてで感じて受け取れる。

 私の中から抜けていくそれを吐き出してはしまわない。唇を一瞬緩めては締め付けて、そうして搾り取るようにしながら送り出す。

 身体の中へ深く濃く染み付いた匂いに胸が跳ねる。口の中を満たす独特の味に全身が痺れる。精液の、プロデューサーの匂いと味。……べつに良い匂いだとは思わない。味も美味しいとは思わない。なのに何故だか嫌いになれない。どころか愛おしさまで感じてしまうようなこれ。もっと欲しい。もっと欲しい。と何度も繰り返し求めてしまいそうになるような、そんなこれに染まってしまう。

 やがて離れる。最後にぐぽ、と音を立てながら、私の唾液とプロデューサーの精液に塗れてぬらぬら光るそれが私の元から離れていく。離れていってしまう。

「……!」


 意識は朦朧としていて、だから考えてしたことじゃなかった。したくてしたこと。本能のまま、欲望のまま、自分が心の底から本当にしたいと願ったからしたこと。

 プロデューサーを押し倒した。


「……プロ、デューサー……私、もう駄目っス……」


 射精した直後のプロデューサーを押し倒すのは難しくない。男の人が全員そうなのかは分からないけれど、少なくともプロデューサーはそう。力の弱い私でも、簡単に押し倒して組み敷ける。

 口の中の粘つく精液と荒い吐息のせいでたどたどしい言葉遣いになりながら、立ち上がるのと同時に吸い切れない愛液をぽたぽた落としているパンツを脱いで、呆けた様子のプロデューサーをベッドの上へ押し倒す。

 仰向けになったプロデューサーの上へ膝立ちで跨がった。身体の下へ手を伸ばしてみれば、ついさっき射精したばかりなのに固いまま。大きく勃ち上がったそれに満足感を覚えつつゆっくりと腰を下ろして、まだ唾液と精液に塗れて汚れたままのそこへ濡れて熟れきった割れ目を宛がう。

 するとプロデューサーの手が上に。唇が小さく「ひな」と動いて震える。

 それに一度停止。何を言いたいのか、何を考えているのかは分かる。きっとゴムのことなんだろう。避妊具。それを着けていない、ってそのことなんだろうとは。

 でも駄目。ぼんやりした意識のせいで上手く理性が働かない。今の私はしたいことに素直な状態。プロデューサーと繋がりたい。プロデューサーと気持ち良くなりたい。……プロデューサーの赤ちゃんが欲しい。そんな想いを止められない。


「ごめんなさい。……大好きでス」


 伸ばされた手を取って、それをプロデューサーの頭の上へ。ベッドへと押し付けて動かないように拘束する。

 そしてそのまま。心の躊躇もない。身体の抵抗もない。プロデューサーへの想いに出来上がっていた私はそのまま一気に腰を落とした。心と同じくプロデューサーに出来上がっていた身体は狭い膣を勢い良く入ってくるそれを少しの抵抗さえなく飲み込んで、奥の奥……一番大切な場所、さっきから疼いて疼いて仕方なかった赤ちゃんの部屋の入り口まで受け入れた。

「……あ、っ……はっ……」


 膝立ちの体勢。だけど膝に体重はほとんどかけていない。自分の身体を支えているのはプロデューサーを押さえ付ける手が少し、それと残りはすべて繋がったその場所で。

 ばちゅん、ばちゅん。生々しい音が何度も響く。そしてその度、一つ突き上げられる度、重たい衝撃が子宮を襲う。

 自分の体重のほとんどが乗った衝撃。一切の躊躇なく何度も何度も繰り返し襲ってくるそれに意識が揺れる。

 奥へ奥へと挿入される度に全身の毛が立ち上がるほどゾクゾクとした快感が広がって、一番大事な一番良いところを突き上げられる度に意識を飛ばされそうになって、引き抜かれる度に膣内をカリ首で執拗に擦られ飛びそうになった意識を引き戻されて。それを何度も繰り返す。

 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

 涙も汗も、涎も愛液も何もかもが溢れていく。溢れていくまま止められない。身体を動かす度に汗が跳ねる。腰を打ち付ける度に水の音が増していく。溢れた涙と涎が垂れ落ちて、ぽたぽたプロデューサーの頬を汚す。

 そんな私をプロデューサーは受け入れてくれる。元々ほとんどなかった抵抗はまるでない。蕩けた瞳と表情で、むしろ私を求めてくれる。うわ言のように口から漏らす私の「好き」にプロデューサーも「好き」を返してくれる。私が腰を落とす度、プロデューサーは腰を突き上げてきてくれる。

「すき……すきっ……だい、すきぃ……!」


 子宮が下へ降りてきた。くぱ、とだらしなく口を開いた子宮の入り口が亀頭に吸い付いて精液を飲みたいとねだっているような、そんな感覚。

 漫画の中の世界とは違う。だからきっとそんなことにはなってない。それでもそんなふうに感じられてしまうような心地。漫画の中の世界ではないけれど、まるで漫画の中の登場人物が振る舞うように快感に喘ぎながら何度も何度も絶頂を繰り返す。


「比奈……比奈……!」


 プロデューサーの声。どろどろに蕩けた呂律の怪しい声が私の名前を呼ぶ。

 何度も重ねて迎えた絶頂の快感に溺れながら、それでもその声は受け取れた。はっきりと聞こえた。達しようとしているプロデューサーの声。もう出る。出したい。出すぞ。そんな声。

 それを聞いて腰の動きを速くする。一突きごとに壊れてしまいそうな快感で恍惚となりながら、感じすぎておかしくなってしまいそうになりながら、だけど構わず速くする。

 欲しい。射精してほしい。一番奥へ証を刻んで、私をプロデューサーのものにしてほしい。

 恥も外聞も何もない。全部全部、何もかもをそのまま晒す。思いきり締め付けて、夢中になって腰を振って、そうして淫らに射精をおねだりする。大好きな人へ、大好きな貴方との子供がほしいと想いを叫ぶ。

「きて……! プロデューサーのっ、精液、ほしい……っ! あかちゃんっ、プロっ、デューサーの……ください……!」


 プロデューサーの身体がびくん、と固まる。これまでの中で一番深く、まるで全身を貫かれてしまったみたいに錯覚するほど思いきり突き上げられて、そしてそのまま子宮の中を犯される。

 お”、おう”っ、と獣のような声が漏れる。「比奈」と私の名前を呼ぶ声と共に吐き出されたプロデューサーの精液が、子宮の中へまで注がれる。

 身体の一番奥の奥。自分自身でも触れることのできない大切な女の場所を汚される。支配される。プロデューサーのものになる。

 快楽に溺れ恍惚となりすぎて、身体がどうしようもなく敏感になってしまう。呼吸の度、鼓動の度、そんなもの一つ一つの度に絶頂に昇ってしまう。

 どくんどくん、と熱く煮えた精液を注がれて頭の中が真っ白になる。元からぼやけていた思考や意識が、もう完全にプロデューサーとの快楽に塗り潰される。

「ぷろでゅ、さー……」


 何度か脈打つのを繰り返して、子宮どころか膣内にさえ収まらないほど大量に吐き出して。私の中を満たし尽くしてからようやく止まる。

 精液は出し終えた。私の膣内で、だんだんと小さく萎えていく。絶頂を迎え射精を果たして、そうして私の中から出ていこうとするそれを……プロデューサーを、けれどもう一度捕まえる。

 放さない。放したくない。ずっとずっと、もっともっと、プロデューサーと繋がっていたい。

 力を込める感覚もふわふわとぼやけているけれど、それでも叶う限りの力を込める。小さくなっていくのを締め付けて放さずに、ぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら擦り上げて続きをねだる。


「だぁ、め……おちんちん……もっと、欲しい……でスからぁ……」


 自分ではもう止められない。きっとまだ数時間……今日の夜までずっとずっと……もしかしたら明日の朝になるまで止まらないのかもしれない。

 気持ちいいのが終わらない。絶頂の震えが収まらない。プロデューサーへの愛しさが溢れてきて止まらない。

 好き。好き。好き。

 どうしようもなくどうにもならないほど、プロデューサーとの快楽に溺れてしまう。理性も倫理も何もかもが消えて失せて、愛欲に突き動かされるまま求めてしまう。


「す、きっ……プロデューサー……私、だいすきっ、でスからぁ……いっぱぁい、愛してまスから、ね……っ」

以上になります。

速水奏「裸で重なる一時」
速水奏「裸で重なる一時」 - SSまとめ速報
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以前に書いたものなど。よろしければどうぞ。

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