神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 4社目(909)


神使「神様、 早くして下さい」

神様「待ってよ、重要な問題なんだからぁ」

神使「も~ どれも同じじゃないんですか?」

神様「何言ってんだよ全然ちげーよ。 おばちゃん、あと幾ら分?」

おばちゃん「あど80円分だがね」

神様「80円か~ どうすっかな~」

神使「限界です。 バス来ましたから行きますよ」

神様「うそ! じゃぁ残り全部ヨーグルで良いや」

おばちゃん「きーつけんよ~」


神使「あっ! バスが! すいません~ バス乗ります~!」タッタッタッ


プッ プッー


~あらすじ~

神様「私は神様! 神宮に籍を置くとっても立派でかわゆい理想の女神!」

神使(訳)「神宮が誇る最悪の問題児、減給左遷を総なめにするダメ神です」


神様「悪の手先の陰謀にも負けず、今日も私を待つ者を救うべく旅を続ける」

神使(訳)「数々の問題行動の発覚により無期出向となった神様は全国の廃神社の管理を命じられたのでした」


神様「そう! 私は神の中でも最も優れた力を持つ最強の神様だ!」

神使(訳)「“ダメ神”です」


【#18】


─── バス内

ブーン


神使「そんなに駄菓子ばかり買い込んで・・・」

神様「あ? 私のお小遣いじゃこんな贅沢しかできないんです~」ベー

神使「何ですか? その小さいヨーグルトみたいなもの」

神様「ヨーグル」

神使「相変わらず説明になっていないですね・・・ そんなに沢山買って好きなんですか?」

神様「お前が急かすからだよ」

神使「一遍に食べちゃダメですよ?」

神様「だから、子供扱いすんなって!」

神使「お子様しか食べないものをそんなに持っていたらお子様です」

神様「お~け~ 神罰!」ゲシッ

神使「痛い! ですから、それは神罰ではなくただの足蹴りですから・・・」スリスリ



─── 1時間後


プシュー


運転手「あんだ達こげな所で降りてどこさ行くん?」

神様「どこ行くの?」

神使「よりより村です」

神様「です」

運転手「よりより? んぁ~ そう言えばこの先にそげな名前の村さあっだな」

神使「私達しか乗客がいないようですが、あまり村に行く人はいないんですか?」

運転手「居にゃーよ。 客っこ居にゃーから、この路線も来月で廃止になるんよ」

神様「にゃにゃにゃ~?」

運転手「きーつけんよ~」



─── よりより村・入り口


神様「さっきの運転手、訛りきつかったな」

神使「そうですね。 しかし、空気が美味しい所ですね」

神様「本当に人住んでんのか?」

神使「よりより村はここから徒歩で30分ほど行ったところだそうです」

神様「さらに歩くのかよ・・・」

神使「日が暮れるまでには村に入りたいので急ぎましょう」

神様「ちょい待ち!」

神使「?」


神様「取りあえずさぁ、何しに行くか教えて?」

神使「これから行くよりより村は20年に一度、神の立ち寄りを行う風習があるようです」

神様「ふ~ん、で?」

神使「私達がその役を拝命しました」

神様「なんで? ここら辺の神に行かせれば良いと思うの」

神使「神社の統廃合で神が別の場所に移動されたので、近くに神がいないそうなんです」

神様「うん、だからなんで私達なの?」

神使「丁度、近くにいたもので・・・」

神様「近くなかったよね? 電車で2時間、バスで1時間かかってるし。 しかもこれから徒歩で30分歩くんでしょ?」

神使「・・・・・・」


神様「本当の理由は?」

神使「特別出張費が3万円支給されます」

神様「そんな事だろうと思ったよ」ハァ

神使「資金難は今の私達にとって死活問題ですので」

神様「そこまでお金ないの?」

神使「このままですと、1日一食減らす必要があります」

神様「・・・マジ?」

神使「神様のコーラ代なんか出すことも出来なくなるでしょう」

神様「よし! よりより村にレッツゴー!」トテトテ



─── よりより村


テクテク


神使「ようやく村に着いたみたいですね」

神様「ここは現代日本か? 江戸時代の村みたいなんだけど・・・」

神使「良い感じじゃないですか。 かやぶき屋根のお家とか」

神様「いや、ほとんど廃墟化してんじゃん。 あっちの家なんか崩れてるよ?」

神使「限界集落なのでしょうね。 神様はこういう雰囲気はお嫌いですか?」

神様「私の夢は超高層ビルの最上階で毎日ダラダラお賽銭だけで暮らすこと」

神使「そうですか・・・」

神様「ビル住みたい!」

神使「あっ、正面に鳥居が! あの神社ですね」

神様「崩れ~ かけの~ 神社♪」



─── よりより神社・社務所


神使「すいません」

村人「はい?」

神使「こちらの神社を管理されている方はおりますでしょうか?」

村人「私で大丈夫ですが」

神使「立ち寄りで参りました」

村人「立ち寄り?」

神使「はい。 その・・・ 20年に一度の・・・」

村人「・・・・・・。 もしかして、神さまですか?」

神様「神は私! かわゆいでしょ」ウフン

村人「・・・・・・。 ご案内いたします」ヨイショ

神様「本殿? 私あんまり本殿とか好きじゃないから別のところが良いなぁ~」

村人「ご安心を。 本殿ではありません」



───汚い小屋


神様「うわっ、本殿が嫌だって言ってもこの小屋はさすがに・・・」

神使「贅沢は言いませんが、せめてもう少し綺麗な部屋を頂けると」


ガチャン


神様「ちょ、何で鍵閉めるの!?」

神使「鉄格子? いくら何でもこの扱いは失礼かと思うのですが?」

村人「いや~ 実は神さまは昨日到着されていましてね」


神様・神使「はい?」


村人「つまり、どちらかが偽物ということに」

神様「いやいや、私本物だよ?」

神使「あの、何かの間違えでは?」

村人「それを確かめるまで、申し訳ありませんがここにいて下さい」

神様「マジっすか・・・」

村人「村長に確認取るまでは、我慢して下さい。 それでは」テクテク

神様・神使「・・・・・・」


神様「・・・ねぇ神使君?」

神使「はい」

神様「来ない方が正解だったんじゃないの?」

神使「そんな気がしますね・・・」


神様「んがー! せめて夕飯だけでも食べさせてー! お腹空いた~!」ドンドン

神使「神様、恥ずかしいのであまりそう言う事は大声で言わないで下さい・・・」

神様「お願いだよ・・・ 生米でも良いから・・・」ガクッ


ゆっくりと



─── 1時間後


神様「ほらほら、神使君もたんとお食べ」モサモサ

神使「どうも・・・」

神様「ヨーグルいっぱい買っておいて良かっただろ?」

神使「あまりお腹には溜りませんね、コレ・・・」モサモサ

神様「しっかし、私達より先に神が来てるってどういう事だよ」


神使「一体誰なんですかね? この近くに神がいるなんて聞いていな───」

神様「シッ! 静かに」シー

神使「?」

神様「誰か外で話をしている気がする」

神使「外?」


神様「聞こえるかな?」ペタッ

神使「壁に耳を当てたくらいで聞き取れるんですか?」

神様「この壁薄い。 お前も耳当ててみろ」

神使「はぁ」ペタッ


村人A「もう一組神様が来たんだって?」

村人B「あぁ。 どちらかが偽物だって噂だ」

村人A「偽物?」

村人B「たぶん、貢ぎ物目当てじゃないかって」

村人A「最初に来た人達が本物だろ? あんな事できるのは神以外じゃ考えられない」

村人B「そうだな」

村人A「って事はこの小屋に閉じ込めてある奴らが偽物・・・」

村人B「他の皆も同じ意見だ」

村人A「バカな奴らだ」


神様「声でけーな。 耳当て無くても丸聞こえじゃん」

神使「私達、偽神扱いされているようですね」

神様「う~ん・・・」


神使「どうしましょうか? 私達より先に来た方も神のようですし、理由を話して帰りますか?」

神様「何を言っているんだい、神使君や」

神使「?」

神様「聞いていなかったのかい? 貢ぎ物があるのだよ?」ニヤッ

神使「まさか神様・・・」

神様「20年間村が蓄えた貢ぎ物。 これは期待できそうじゃないか」ニヤッ

神使「しかし、先に来た神は・・・」

神様「そんなもん追い返すに決ってんだろ。 財宝は私のものだ!」

神使「財宝とは限らないと思いますが・・・」


神様「でも先に来た神って誰だ? 神力を全く感じないんだけど」

神使「神様と違って高位の神ではないですか? 神力を隠しているとか」

神様「神罰」ゲシッ ゲシッ

神使「痛い!」ガクッ


神様「取りあえずここから出て、その神に会いに行こう」

神使「入り口に錠がかかっているので出られませんが」

神様「裏の扉は?」

神使「先ほど試しましたが開きませんでした」


神様「んじゃ、入り口の鍵を壊して外に出ますか」トテトテ

神使「南京錠ですよ?」

神様「こんなホムセンで売っているような南京錠、開けるの簡単だよ」

神使「またそんな出来もしないことを・・・」

神様「まぁ見てろって」



ゴソゴソ

神使「ん?」チラッ


神様「さてと、この針金で良いかな」ガチャガチャ

神使「あの・・・ 神様?」

神様「なんだよ、今開けるって」ガチャガチャ

神使「いえ・・・ その、隣の窓の外に・・・」

神様「窓? お化けでもいるか?」クルッ


村人「何やってるんです?」

神様「・・・・・・お化けさんですか?」

村人「死んだ覚えは無い」

神様「そのようですね。 先ほどお会いしましたね」


村人「で? 何やってるんです?」

神様「とても素敵な南京錠だったもので、つい見とれてしまって・・・」

村人「・・・・・・」

神様「食べかけですけど、ヨーグルいります?」スッ



テクテク


神様「逃げねーから腰縄外せー!」ジタバタ

村人「さっきから逃げる気満々じゃないですか。 ほら、速く歩いて下さい」

神使「あの、私達どこに連れて行かれるのでしょうか?」

村人「行けば分かるから」

神様「私を黙って連れていきたいなら牡蠣フライ食わせろ!」

村人「どうぞ」スッ

神様「え!? マジで? 何で持ってんの?」パクッ

村人「さつまいもフライですが」

神様「うっ! ボソボソ! こんなの喰ったらおなら出ちゃうって」モグモグ

神使「何にでも食いつく癖直して下さいよ、神様・・・」

神様「ふもっ」モグモグ



─── 本殿前


村長「お宅らが先ほど来られた神さまですか?」

神様「村長さん、スーツ姿がキマってますね」

村長「神さま、で間違いないですか?」

神様「見て分かる通り、私はとっても立派でかわゆい理想の女神!! ドドン!」

村長「・・・隣の方は?」

神様「神様のお付で神使と申します」ペコリ

村長「神を名乗ってこの村を訪れたのはあなた達だけじゃないんだ」

神様「そうらしいね。 ちょっとその神と合わせてくれない? 話があるから」

村長「この村に同時に神が2組も訪れるなんて変だと思わないか?」

神様「村長さんのパーパリーのスーツの方が気になる。 それ高いんじゃない?」

村長「偽物が紛れ込んでいる!」


ザワザワ


神様「そのスーツ、村で買ったの? ここら辺にお店あるの?」

村長「神の名をかたる偽物はこの村から返すわけには行きません!」

神様「なるほど。 私の話を聞かないパティーンですね?」


神使「あの、なにかの手違いという事も考えられますので決めつけるのはどうかと思いますが」

村長「20年に一度の立ち寄りで同時に来るなんてあり得ない!」

神様「取りあえず先に来た神に合わせてよ。 白黒付けるから」

村長「そのつもりです」

神様「あっ、聞いた」


村長「これから、どちらが本物の神か勝負をしてもらいます」

神様「勝負?」

村長「正直、私達は最初に来た方達が本物の神だと思っています」

神様「私達は偽物確定ということですね?」

村長「あなた達が本物だというのであれば勝って証明して見せれば良いかと」

神使「待って下さい。 神同士を勝負させるだなんてそんな不敬なこと───」

神様「いや、良いだろう! その勝負のった!!」

神使「え!?」


神様「大丈夫だって。 相手も神ならお互い分かるし、私がちょっと言えばいなくなってくれるから」ボソッ

神使「私達が引くという選択肢はないんですね・・・」

神様「さぁ! 勝負だ! 勝負!」


村長「本殿の扉をお開けしろ」

村人「はい」


ギーッ



ピカー


神様「うお! まぶしっ!」

神使「もの凄い後光ですね」

神様「後光って言うかここまでくるとスポットライトだよね」


偽神「我は神!」ピカー

村人達「はは~っ」ドゲザ


神様「ほぇ~ 凄い衣装着てるな。 どこに売ってんだよ・・・ まさか、あれもパーパリー!?」

神使「それはないと思いますが・・・ 隣にいるのは神使さんでしょうか?」


偽神「頭を上げる事を許す!」

女神使「みなさん、楽にして下さい」


神様「あっ、かわゆい女の子」

神使(あれ? あの方・・・)


神様「ねぇ神使君、あの凄い衣装のヤツ私知らない。 アレ神じゃなくて人間だよ」

神使「・・・・・・」

神様「神使君?」

神使「えっ? あっ、すいません。 何ですか?」

神様「・・・・・・。 いや、別に」


村長「神さま、お手を煩わし恐縮ではございますが神のお力をお見せ頂ければと」

神様「しょうがないな~」トテトテ

村長「アンタじゃない。 こちらの神さまだ」

神様「あ~」


偽神「ふっ、良かろう。 おい、そこの巫女!」

神様「ミー?」

偽神「そうだ。 おっと失礼、神だったか?」ニヤッ

神様「本当、失礼なヤツだな。 私に何か用?」トテトテ

偽神「これは知っているか?」スッ

神様「トランプ」

偽神「違う! 神☆トランプだ!」

神様「おっ、忍天堂のヤツじゃん。 結構高かったんじゃない?」

偽神「シーーット! 一般人が触れることは許されない神☆専用の神具だ」

神様「そうですか・・・」


偽神「この神☆トランプから好きなものを1枚、神☆私に見えないように引くことを許す」

神様「は?」

偽神「二度言わすな」

神様「触れちゃダメなんじゃないのかよ・・・」

偽神「今日は特別に許してやる。 有り難く思うんだな」

神様「そりゃどうも。 んじゃコレで」スッ

偽神「柄を覚えたら好きなところに戻せ」

神様「どこでも良いの?」

偽神「無論! 神☆私が許す!」

神様「うぜ~」スッ


偽神「イッツ☆ショータイム!」

神様「ショーなの?」



ピカー


神様「だから一々眩しいんだよ!」

村人達「お~ この神々しさ、まさに神!」

神様「神力はこんなに光らねーよ・・・」


偽神「神☆私の力で、この神☆トランプは全てお前が先ほど引いた柄に置き換わった!」

神様「はい?」

偽神「見るが良い!」



バラバラ


神様「うわっ! 全部同じ柄! さっき私が引いたババだ」

偽神「神☆ババだ!」


村人達「お~」パチパチ


偽神「コレで驚くのはまだ早い! 夜空を見よ!」

神様「空?」

偽神「神☆私から視線を外すことを許す! さぁ夜空を見上げよ!」

神様「本当、一々ウザいなぁ~」クルッ


村人A「見ろ! 夜空に神☆トランプの柄が!」

村人B「ババだ! 神☆ババが浮かんでる!」

神様「お~ すげーじゃん」


村長「さすが神さま」ドゲザ

村人達「はは~」ドゲザ


偽神「どうだ巫女よ! 神☆私の力を見て言葉も出まい!」ワハハ

女神使「・・・・・・」


神様「ん~」チラッ

神使「・・・・・・」


村長「それじゃ、今度はお宅の力を見せてもらおうか」

偽神「偽神と認めるなら今のうちだぞ」

神様「・・・・・・。オッケー、私の負け」


シーン


神使「え? えっ!?」

神様「この勝負、私の負け。 そこのハデハデ衣装野郎には敵わないわ」

偽神「何と失礼な! 神☆私に向かってなんたる侮辱!」

女神使「・・・・・・」


神使「ちょ、神様! どうしたんですか?」

神様「帰ろう。 3つ前の駅に温泉があったから入りに行こうぜ~」テクテク


村長「待ちなさい!」

神様「ん?」

村長「負けを認めて、この村から帰れるとは思っていないよな?」

神様「え・・・」

村長「この者どもを小屋に連れて行き閉じ込めておけ!」

村人達「承知!」ダダダッ

神様「まじかよ!」



─── 小屋


神様「ここから出せー! 焼肉食わせろ! 浜焼きさせろ!」ドンドン

神使「あの、神様?」

神様「お前も犬ころなら穴掘って抜け道を作る努力をしろよ」

神使「そんな芸は持ち合わせておりません。 それより・・・」

神様「あ?」

神使「どうして、あっさり負けを認めてしまったのですか?」

神様「・・・・・・」

神使「神様の性格上、自分から負けを認めるとは思えません。 それに貢ぎ物を簡単に諦めるはずありませんし」

神様「神使くんさぁ、私をそう言う目で見てたの?」

神使「はい。 間違っていないと断言できます」

神様「相変わらずサラッと猛毒吐くねぇ~」


神使「で、どのような理由が?」

神様「・・・・・・。 負けた方が良い気がした」

神使「えっ?」

神様「偽神は人間だけど、お付きの子は神使だよな。 本物の神使」

神使「・・・・・・」

神様「あの子の目、とても強い意志を感じた。 遊び半分で私が首突っ込まない方が良いかなぁって思ってさ」

神使「神様、あの方はご存じで?」

神様「うんにゃ知らん。 初めて会った」

神使「そうですか・・・」

神様「それより、逃げる方法考えろよ。 すいませ~ん! 誰か南京錠の鍵持ってきてくれませんか~」ドンドン


神使「彼女は・・・ 神使学校時代の先輩です」

神様「知り合い?」

神使「何度か学校で見かけた程度です。 多分彼女は私のことを知らないと思いますが」

神様「話しにくかったら無理に話さなくて良いよ?」

神使「いえ、私も少し気になることがありまして・・・」

神様「・・・話してみ?」


神使「彼女は、神使学校始まって以来の天才でした」

神様「え~ 犬ころまた謙遜してるんじゃないの?」

神使「いいえ、たぶん天才というのは彼女のようなことを言うんだろうと思います」

神様「そこまで? でも神使学校を卒業した生徒の成績は私も目を通してたけど、そんな子記憶にないよ?」

神使「彼女は卒業しておりませんので」

神様「は? 途中で辞めたって事? あそこ退学とかないだろ」

神使「どのような扱いになっているのかは分かりませんが、卒業していないことは間違いありません」


神様「さっき、先輩って言ってたよね?」

神使「私の3つ上です」

神様「確か神使学校は6年制だから、神使君が入学した時は4回生だったのか」

神使「いえ、6回生でした」

神様「計算合わなくね? まさか、私の知っている計算方法が間違ってる!?」

神使「飛び級です」

神様「ほぇ~ あそこで飛び級なんて凄いな。 はじめて聞いた」

神使「入学した時にはすでに医学と生物学、それと物理学の博士号を持っていたそうです」

神様「マジかよ・・・ なんでそんな頭が良いのに神使学校に入ったんだよ」

神使「彼女が神使学校に入学した理由は、神と神使の存在を科学的に証明すること」

神様「・・・・・・」


神使「神使学校で1年に一度開かれる論文発表会で一度だけ彼女の発表を聞いたことがあるんです」

神様「あ~ 昔の事をあーだこーだ言うつまんない論文の発表だろ?」

神使「つまらないって・・・」

神様「で、彼女は何を発表したんだ?」

神使「神力の科学的証明」

神様「ほぉ。 それは興味深いな」

神使「神の力を科学と一緒に扱うなんてタブーですよ」

神様「お堅いね~ で、内容の方は?」

神使「正直、専門的すぎて全く分かりませんでした」

神様「一度その論文見てみたいな」

神使「発表会の後に配られた論文集に、彼女のものは掲載されていませんでした」

神様「ふ~ん」

神使「その数日後、彼女は学校から・・・」

神様「なるほどね」


神使「偽神さんの方は、私は存じ上げないですが・・・」

神様「アレはやり手の手品師って感じだよな」

神使「手品師!? 先ほど見たものは手品だったんですか?」

神様「どう見ても手品だろ・・・」

神使「つまりタネがあると?」

神様「あのトラン・・・ 神☆トランプは全部の柄が最初から神☆ババだったんじゃね?」

神使「え!?」

神様「最初にトラン・・・ 神☆トランプの全柄を見せてなかったし」

神使「そういえば・・・」

神様「空に柄を浮かばせたのも事前に柄が分かっていたから。 たぶん投影機かなにか使ってんじゃないの?」


神使「あの天才の彼女が手品師とグルという事ですか!?」


 ?「グルという言い方は適切ではないと思います」


神様・神使「!?」クルッ

女神使「夜分遅くに失礼いたします」フカブカ

神使「えっ、ちょ・・・ どこから入ったのですか? この小屋には鍵が・・・」

女神使「タネを明かすことは出来ませんので」

神使「それって・・・」

神様「おや? 仕掛けありだって認めちゃうの?」

女神使「はい。 絶対にバレない自信はありますから」

神様「抜かりなしか。 どこら辺から私達の話を?」

女神使「全てを。 右側にある箱の上に盗聴器を置いてあります」

神使「盗聴器!?」


神様「・・・・・・。 本物の神がここに来ると知ってた訳か。 いや、そう仕込まれたと言った方が良いかな?」

女神使「さすが本物の神さまは違いますね。 どこまでお見通しなのでしょうか?」

神様「タネは明かせませ~ん」ベー

女神使「・・・・・・」

神様「目的は?」

女神使「正直がっかりしました。 なぜ本物のお力を見せて頂けなかったのでしょうか」

神様「・・・・・・」

女神使「こう見えて、結構時間をかけて仕掛けをしたんですよ?」

神様「・・・・・・」

女神使「今日はこれで失礼させて頂きます」フカブカ

神使「失礼って・・・ どうやって出るんですか?」

女神使「ご心配なく」

神使「?」



 村人「あれ!? 女神使さん!?」


女神使「丁度見回りの時間なんです」

神様「・・・・・・」


村人「どうして小屋の中に女神使さんが?」

女神使「神の命令でこの者達と話をするようにと言われ、ここに飛ばされました」

村人「お~ なんというお力」

女神使「話は終わりましたので鍵を開けて私を出して頂けますでしょうか?」

村人「はい」



ガチャン


女神使「ありがとうございます」スタスタ

神様「私も出る~」トテトテ

村人「ダ~メ」

神様「んだよ、ケチ!」

女神使「また明日、お目にかかりたく思います」

神様「・・・・・・」

女神使「明日こそはよろしくお願いいたします。 それでは」フカブカ


ガチャン


神使「あの、神様?」

神様「あ?」

神使「全く意味が分からなかったのですが・・・」

神様「お前の言ったとおり、あの子頭良いな」

神使「?」

神様「本物の神が来る前に、偽神達はこの村に来て私達を待っていたんだろう」

神使「どうしてそんな事を?」

神様「村の奴らへ先に自分たちが本物の神と思わせるため」

神使「・・・どういう事です?」


神様「村人達に自分たちが神であると刷り込ませる。 その後に来た神は偽物扱いされてここに閉じ込められる」

神使「しかし、後から来た神が神力を使えばバレるのでは?」

神様「普通の神は自分の管理地以外で神力は使えない」

神使「あっ・・・」


神様「アイツら前々からこの村に入り込んで、そこら辺にタネを仕込んでいるんだろうな」

神使「まさか、鍵のかかったこの部屋に彼女が入ったのも・・・」

神様「裏の扉、多分外からだけ開くような仕掛けでもしてあるんじゃないか?」


神使「つまり、この件は計画的に仕込まれていたと?」

神様「たぶん。 絶対にボロが出ないように念入りに」

神使「何故そこまで手の込んだことを・・・」

神様「本物の神の力を見るため」

神使「神の力?」

神様「・・・・・・」

神使「しかし、そんな大がかりな仕掛けをしていたら村の人達にもバレるのでは?」

神様「そうなんだよね~・・・ 何か引っかかるんだよな~」


神使「あっ、神様が着てる巫女服に穴開いてません?」

神様「え!?」キョロキョロ

神使「汚れも酷いですし・・・」ハァ

神様「マジかよ~ 新しいの買って?」

神使「今度は安物ですよ?」

神様「え~ キラキラしたドレスが着たい!」

神使「何でですか・・・ 神社でそんな物を着ていたら不釣り合いです」

神様「不釣り合いって ・・・ん?」

神使「? どうされました?」

神様「服・・・」

神使「ふく?」

神様「なるほど・・・ 違和感はコレか・・・」

神使「?」

神様「前言撤回。 ちょっと遊んでみますか」ニヤッ


良いお年を



─── 翌日・本殿前


神様「昨日は体調が悪く力を発揮できず申し訳ありませんでした」ペコリ

村長「今日は大丈夫だと言うんですか?」

神様「おうよ!」


村長「神さま、お手間を取らせ申し訳ありません」

神様「そんなに畏まらなくても大丈夫だって~」

村長「アンタじゃない」

神様「あ~」


偽神「気にするな。 神☆私は心が広い!」

村長「では、見せて頂きましょう。 神の力を」

神様「よっしゃ! お望み通り見せてやるよ!」

女神使「・・・・・・」ゴクリッ


神様「と言いたいところだけど~ 本殿にある神体貸してもらっても良い?」

偽神「神体?」

神様「私、ちょっと訳ありで神体に入っている神力経由じゃないと力出せないんだよね」

偽神「・・・・・・」


女神使「彼女の言うとおりに」

偽神「おい、村人!」

村人「はい」

偽神「神☆私の名において命ずる! 本殿の神体を彼女へ渡すのだ!」

村人「わかりました」タッタッタッ


偽神「さて、どんな力を見せてくれるのかな?」

神様「神体に入っている神力量にもよるけど」

偽神「神☆私を驚かせる位のことはしてくれよ?」


村人「この神社のご神体です」スッ

神様「ども~」


神使「大丈夫ですか? 神様」

神様「・・・・・・ぁ」

神使「神様?」

神様「これ、神力が入ってない・・・」ボソッ

神使「え?」

神様「この神体、神力がスッカラカン」

神使「ちょ、どういう事ですか?」

神様「・・・・・・」


神使「と言うことは・・・」

神様「やべ~ どうしよ」タラタラ


偽神「おい、どうした! 早く神の力を神☆私に見せてみろ!」

神様「え!? あっ、ちょ、ちょっと待ってて」

神使「ど、どうするんですか神様」オロオロ


神様「あ・・・」

偽神「あ?」


神様「あ、明日の天気は“晴れ!”ドドン!」


偽神「・・・・・・」

村長「・・・・・・」

村人「・・・・・・」



シーン


神使「神様・・・」

神様「テヘッ」


女神使「っ!」キッ



─── 小屋


村人「ほら、早く入りなさい!」


ドンッ


神様「うぎゃ!」ドサッ

神使「うわっ!」ドサッ


村人「・・・・・・」

神様「うわ~ その汚物を見るような目。 ゾクゾクしちゃう」


ガチャン


村人「偽神め」スタスタ


神様「吐き捨てられましたよ」

神使「明日の天気の予言だなんて・・・ もう少しまともなことは出来なかったのですか?」

神様「昔はあれだけで食っていけたんだよ!」

神使「神様の言う昔というのがいつのことなのか・・・」


神様「これさぁ、私達どうなっちゃうの?」

神使「生きてこの村からは出られないでしょうね」

神様「ま~じ~か~よ~」


神使「しかし、ご神体に神力が入っていないなんて」

神様「見事にスッカラカンよ」


神使「どうしてでしょう? 村の人達、信仰深そうな感じなんですけどね」

神様「そう?」

神使「え?」

神様「神使君は、この村違和感ない?」

神使「違和感ですか?」

神様「だからお前は犬ころなんだよ。 この村間違いなく───」

神使「あっ」

神様「?」


女神使「・・・・・・」


神様「女神使ちゃん! お願いここから出して~」ガチャガチャ

女神使「貴方には失望しました」

神様「うっ」

女神使「貴方たち神はいつもそう・・・」

神様「いや、あれはちょっと手違いが───」

女神使「ふざけないで!!」

神様「!?」

神使「女神使さん・・・」


女神使「そんなに神の力を奇跡にしておくことが大事なの!?」

神様「・・・・・・」

女神使「いつもそうやって貴方たちは逃げてばかりで! ・・・卑怯者」

神様「・・・・・・」

女神使「どうせ神の力でここから消えるんでしょ? もう会うこともないでしょう、さようなら」スタスタ


神様「待って!」

女神使「・・・食事のおねだりですか?」

神様「違う。 力を見せてあげる、本物の神の力を」

女神使「・・・・・・」


神様「見たんだろ? いや、調べたいんだろ? 神の力を」

女神使「!」

神使「え? 調べる?」


神様「最初からそう言ってくれれば良いのに」

女神使「・・・・・・」

神様「私が神力を使う時に、思う存分測定でも何でもすれば良い」

神使「ちょ、神様」

神様「私は他の神と違って神力を使う場合に少し特別な条件が必要なんだ。 その代わりその力は桁外れだ」


女神使「・・・・・・もう、騙されません」


神様「神勅! 私、神様は女神使に神の力を見せ様々な測定や実験を行うことに同意する!」

神使「!?」フカブカ

女神使「神勅・・・」


神様「神使、私の鞄からお守りを3つ取ってくれ」

神使「承知いたしました」ゴソゴソ

神様「見せてあげる。 本物の神の力を思う存分」

女神使「・・・・・・」


神様「以上、神様から神勅を申し伝えた!」



─── 本殿前


神様「さてと、隠しっこなしでいこう」

村長「と言いますと?」

神様「あんた、この村の村長じゃないな?」

神使「え!?」

村長「ほぉ」

神様「この村の者ですらない」


村長「そう思われた根拠をお聞かせ頂けますか?」

神様「その格好」

村長「格好?」


神様「こんな山奥の崩壊が進んでいる村でスーツ姿なんておかしい!」

村長「・・・・・・」

神様「この村に合うのはパーパリーのスーツじゃなく、ワークメンの作業着だ!」フンスッ

神使「そんな失礼な・・・」

村長「それだけでは証明にかけますね」


神様「この村、廃村になっているんじゃないの?」

神使「村の方達がいるのにですか? ・・・まさか、村の方も全員!?」

神様「お仲間。 おそらく~ 研究者とか?」

神使「研究者!?」


神様「あんた達、全員訛りがない。 ここ来るときに乗ったバスの運転手、すげー訛りがあったのに」

村長「・・・・・・」

神様「それに、この村の家ちょっと崩壊しすぎ」

村長「・・・・・・」


神様「あとは~ 神体」

村長「神体?」

神様「女神使ちゃんは神体のこと位は知っているでしょ?」

女神使「あの神体はこの村に代々伝わる本物です」

神様「本物偽物は関係ない。 あの神体にはお願い事が入っていないんだよ」

女神使「お願い事?」


神様「そう。 見た感じ20年前にここに立ち寄った神が成就のために神力を吸い上げてから、誰もお願い事をしていない」

女神使「・・・・・・」

神様「人がいて、神社があって20年間お願い事がないなんておかしい訳。 願いがないから神力もない」

神使「それでご神体の神力がカラだったんですね」


村長「抜かりましたな。 そこまで頭が回りませんでした」

神様「納得?」

村長「はい、見事な証明です」


神様「いつからこの村に?」

村長「20年に一度、この村に神が立ち寄るという情報を私達は2年前に聞きました」

神使「まさかそんなに前からこのい村に!?」

村長「確実に神が神力を使う場所で、様々な測定器を配置するには好都合でした」

女神使「2年前、無人だったこの村の土地を全て買い取って入念に準備をしてきたんです」

神使「そこまでして・・・ 貴方たちは一体何者なんですか?」


神様「さて、それじゃぁお互い自己紹介といきましょうか」

村長「・・・・・・」

女神使「所長、全て話しましょう」

村長「そうだな」


女神使「私達は、有職故実研究財団の研究グループです」

神使「有職・・・ それって確か神宮管轄の外郭団体ですよね?」

神様「あ? 何それ」

神使「過去にGHQの意向で設立された帝都有職研究公団が母体で、現在は神宮が引き継いでいる機関です」

女神使「お詳しいんですね」

神使「私も神宮の者ですからその位は」

神様「・・・お、おうよ。 公団ね、知ってる。 日本道路公団」


神使「しかし、私の知る限り今は運営が停止されていると思うのですが」

神様「そうそう、今はJHだよね。 はっ! JHのJは神宮のJ・・・」

神使「・・・・・・」


村長「表向きはね」

神使「表向き?」

村長「財団の管轄は神宮だけじゃないんだよ」

神使「?」

村長「さっき自分で言ったじゃないか、外郭団体って」

神使「・・・ まさか!」

神様「JH!」

神使「神様、ちょっと黙っていて下さい。 それと今はJHでなくNEXCOです」

神様「はい」


村長「資金は、国からも回っているんだよ」

神使「国が・・・」

村長「まぁ、神宮も停止中と言いながら後ろ盾しているがね」

神使「それって・・・」

村長「神宮の闇。 いや、日本の闇と言った方が良いのかな?」


神使「貴方たちの目的は?」

村長「私達のグループは、神力を解明することが研究テーマだ」

神使「それを解明して何をするんですか?」

村長「私達は研究者だ。 テーマを研究し結果を出して上に提出するのが職務だ」

神使「どのように扱われるかも分からないのに研究するんですか?」

村長「電子を研究した学者はどのように扱われるか分かってやっていたと思うのかね?」

神使「・・・・・・」


村長「ただ、これだけは分かって欲しい。 もし、研究成果が悪に使われるのであれば私達はそれを阻止する義務もある」

神使「・・・・・・」

村長「その為にも研究は必要だ。 今は神という存在がその力を抑止しているから良いが、この先どうなるか誰も分からない」

神使「そんな極端な・・・」

村長「神力だっていつかは科学で証明される。 神の奇跡と思われていた雷や地震だって今や科学的に説明が付く」

神様「うんうん」

神使「ちょっと、神様・・・」


神様「詳しいことはよく分からんけど、信念は理解した」

神使「本当に理解したんですか?」

神様「あれだろ? 日本道路公団がNEXCOになっても高速道路を作り続けなくちゃいけないって事だろ?」

神使「誰もそんな事は言っていないのですが・・・」

神様「大丈夫だよ」

神使「しかし、神力を科学的に測定させるだなんて危険では・・・」

神様「いいや。 村長の言っていることに私は賛同できる」

神使「・・・・・・」

神様「時代は進む。 止まっちゃダメなんだよ」

神使「・・・わかりました。 神様がそう言うのであれば」


神様「でもさぁ、何でこんな回りくどい事をしてまで神力を調査しようとしたの?」

女神使「私達も好きでこんな大掛かりな仕掛けをしたわけではありません」

村長「正攻法では他の神の協力を得ることが出来ませんでしたので」

神様「神宮に申請すれば多少は協力してくれるんじゃない? 関連団体なんだし」

村長「表向きは停止中の機関。 毎年名を変え研究協力申請は出しましたが未だ許諾は出ておりません」

神様「神宮も相変わらずそういう所がダメだな。 やっぱここら辺で私が頂点に立って───」

神使「ちなみに神宮のどちらへ申請を?」

女神使「広域特務課です」


神様「・・・・・・」

神使「へぇ~ 広域特務課ですか」ジー


神様「さて、次は私達の自己紹介を」アセアセ

神使「・・・・・・」ジー

神様「だから、そんなに見つめられると照れちゃうって言ってんだろーが!」ゲシッ

神使「痛い!」ガクッ


神様「こいつは私のお付きで、極悪邪道腐れ犬ころ変態すけこま意識高い系ポークビッツアホ神使」

神使「狛犬の神使と申します」ペコリ

女神使「神使学校で何度かお見かけしました」

神使「覚えていてくれていたんですか!?」

女神使「私の論文発表であなただけが真剣に話を聞いていてくれましたから」

神使「お恥ずかしい・・・ ほとんど理解できなかったんですが・・・」


神様「そして、私の名前はかわゆい神───」

村長「私は、あの論文を見せられて衝撃が走ったのを今でも覚えているよ」


神様「私の名前は、かわゆ───」

神使「ちなみにあの後、女神使さんは学校を辞められてしまったのですがどういう経緯があ───」

神様「聞けよ!!」ゲシッ

神使「痛い! 何で私だけ!」ガクッ


神様「私はかわゆい神ちゃん! 神宮の最高神だ!!」フンスッ

村長・女神使「え!? 最高神?」

神使「そこまでバラさなくても・・・」

神様「うるせー こうでもしないと私に注目が集まらないんだよ!」

神使「またチヤホヤされたい病ですか・・・」


女神使「最高神って・・・ 本当に存在していたんですか・・・」

神様「今までどこからも協力してもらえず大変だったであろう。 今日は気の済むまで最高神の神力を味わうが良い」キリッ

神使「申請をほったらかしにした罪滅ぼしですね」

神様「シーット!」ゲシッ

神使「痛い!」ガクッ


神様「ところで、そちらの偽神さんは? お宅も研究者?」

偽神「あっ、私はマジシャンです」

神使「財団の方ではないのですか?」

偽神「はい、女神使さんからマジックアドバイスの依頼を受けまして」

神使「そうだったんですか・・・」

偽神「役者の仕事もやっているんで、何かお仕事があればお声がけ下さい」

神使「はぁ」


女神使「それでは偽神さん、ありがとうございました。 演料は明日にでもお振り込みいたしますので」

偽神「分かりました、では失礼いたします。 あっ、マジック道具はあとで送っておいて頂けますか?」

女神使「はい。 後ほど事務所にお送りいたします」

偽神「では、偽神☆私はこの地を去る!」テクテク


神使「部外者にマズいことを聞かれてしまったような気がしますが・・・」

女神使「あの方もプロです。 ここでの事は他言無用で契約いたしましたから」

神使「大丈夫でしょうか・・・」

女神使「神宮管轄の芸能プロダクションですからご心配なく」

神様「え!? 神宮って芸能プロダクションもあるの?」

神使「雅楽等の派遣依頼もあるので、そういう団体を持っているというのは聞いたことあります」

神様「後で教えて。 私も登録する」


神使「・・・・・・。 それで、神力の調査というのはどのように?」

女神使「この神社の周囲に様々な測定器が設置されているので、神力を発動して頂けるだけで大丈夫です」

神使「神力を測る機械なんてあるんですね」

村長「いいえ、実際動作するのかも分かりません」

神様「そうなの?」

女神使「なにしろ初めてですから。 神力が何に反応するのかも分からないので」

神様「ふ~ん」ゴソゴソ

女神使「? あの、何を?」

神様「ん? 私、自分の神力封印していてさぁ、お守りに昔の神力を入れてあって必要なときに使うんだよ」

女神使「神力は保存が利くのですか?」

神様「うん。 適当な依代があればそこに移せる」

村長「これは驚いた」



神様「我、封印されし神力を解放す」


ポワポワ


神様「さぁ~て、何を見せようかなぁ~」

女神使「出来れば最初は軽めの物からお願い出来ればと」

神様「んじゃ、風吹かせますか」

村長「測定器の準備は良いか?」

村人「はい」


神様「風よ吹け吹け、風よ吹け~」クルクル



ビュー


神使「風ですね」

村長「これは凄い。 無風状態から風が・・・」

女神使「測定器に反応は?」

村人「地表の温度が一時的に高温になったようです」

村長「周囲の大気温度も上昇したようだな」

女神使「ベナール対流でしょうか?」

村長「あぁ、近いかもな」


神様「何か分かった?」

女神使「つむじ風の発生する原理に近い現象のようですが・・・ まだ何とも」

神使「科学的に説明できるんですか?」

村長「風が起こる仕組みは説明できるんですが、その条件を満たすまでの課程が分かりません」


神様「じゃぁ、次は少し難易度を上げちゃいましょうかね」

神使「難易度?」

神様「あの枯れ木に花を咲かせましょう~」クルクル


ポンポンポンッ


一同「!?」

神様「綺麗」


女神使「すごい・・・」

村長「こんな事が・・・」


神様「調子出てきた! 次は思い切ってあの山を真っ二つに!」

神使「ダメです」

神様「え~」


神使「測定の方はどうですか?」

村長「特に反応は・・・」

村人「こっちの計器にも変化はありません・・・」

神様「ん~ 残念。 まぁ今のはかなり難しい神力の使い方だからね」

神使「さすがに現代の器械では測定することは出来ないようですね・・・」

女神使・村長「・・・・・・」


神様「じゃ、残った神力を使ってその体で神力を感じてみる?」

女神使「体で?」

神様「皆の健康を願い我が神力を持って成就せよ」


ポワポワ


村長「!?」

女神使「体が・・・ 温かい・・・」


神様「どう? 神力は感じた?」

女神使「は、はい」

神様「よかった」ニコッ


神使「・・・あの」

神様「あ?」

神使「私には掛けてくれないのでしょうか?」

神様「忘れてた」

神使「そうですか・・・」



─── 深夜・社務所


神様「こんな遅くまでお仕事?」

女神使「!?」クルッ


神様「あまり役に立てなかった?」

女神使「そんな事ありません。 まだ未解析のデータもありますので」

神様「村長とか他の人は?」キョロキョロ

女神使「収集したデータを持って研究所の方に。 たぶん明日の夜には戻ると思いますが」

神様「そう。か弱い女の子を一人置いていくなんてダメだなぁ~」

女神使「そんな事ないです」

神様「?」

女神使「研究者に男も女も関係ありませんし。 分け隔てなく扱ってくれることには感謝しているんです」

神様「いや~ でもさぁ」


女神使「研究所の皆、私が神使だって知っても普通に接してくれて」

神様「・・・・・・」

女神使「私、ビックリすると・・・ その・・・ 耳とか尻尾とか出ちゃうんですけど・・・///」

神様「ウサちゃんだよね」

女神使「はい/// そんな事になっても研究所の皆は驚きもせず・・・」

神様「ふ~ん」

女神使「神使という事を隠さず、気兼ねなく過ごすことが出来るのがすごく嬉しくて」

神様「そっか。 でも、女神使ちゃんはどうして神力の解明をしたいと思ってるの?」

女神使「自分の・・・ 自分の存在意義を調べるためです」

神様「自分?」

女神使「どうして神使というものが存在しているのか・・・ 神力を解明すればきっとそれが分かると思って」

神様「・・・・・・」

女神使「でも、先は長そうです」ニコッ


神様「神力はすべてが説明できる事象だ。 当然、神使の存在にも理由がある」

女神使「え?」

神様「人がこの力を理解できるのはたぶんもう少し先。 ただ、これだけは約束する」

女神使「?」

神様「神力は将来誰もが使えるようになる。 その時、神も神使も人もその区別はなくなる」

女神使「区別・・・」

神様「神の存在も、神使の存在も当然説明できる日が来る」

女神使「!?」

神様「本気で神力を解き明かしたいなら、もっと勉強すること。 その先に目指す目的地が必ずある」

女神使「はい」


神様「まぁ堅いことは抜きにして。 頑張り屋の女神使ちゃんに私からプレゼントをあげよう」

女神使「?」

神様「はい」スッ

女神使「これは・・・」

神様「さっき私が使ったものと同じお守り」

女神使「確かこの中には神力が・・・」

神様「2つ上げるから。 一つは好きなときにでも使って」

女神使「もう一つは?」

神様「自分で神力の謎を解き明かしたときに開封すること」

女神使「・・・・・・」


神様「きっと役に立つ」

女神使「でも、私が神力を解明なんか・・・」

神様「女神使ちゃんはきっと神力を解明出来る」

女神使「・・・・・・」

神様「まぁ、ちょと先の話だと思うけどね」

女神使「ありがとうございます」フフッ

神様「キッとした女神使ちゃんも凜々しくて好きだけど、やっぱり笑っていた方がかわゆい」

女神使「うっ・・・///」



ガラガラッ


 神使「あっ、神様ここにいたんですか」


女神使「!?」ビクッ

神様「!!」


神使「女神使さんもこちらに・・・ すいません、驚かせてしまいました」

神様「ぁ・・・ ぁ・・・」

神使「神様、どうされました?」

神様「み・・・ み・・・」

女神使「あっ! 耳が・・・」ピョコピョコ

神様「か、かわゆい・・・」ワナワナ

女神使「うぅ・・・///」モジモジ


神様「うひょー かわええ~」ピョーン


神使「って、何やっているんですか!」グイッ

神様「ぐへっ!」


神使「もぉ、すぐ飛びつくんですから・・・」

神様「離せー」ジタバタ

神使「女神使すいません・・・ 大丈夫でしたか? お怪我はありませんか?」

女神使「だ、大丈夫です」

神使「神様、まさかずっと女神使さんに悪戯してたんですか?」

神様「まだしてねーし! 今まですげー神さましてた所だし!」

神使「本当ですか? 飛びついてペタペタ引っ付こうとしていたじゃないですか」


神様「神使君さぁ、私の事どう思っているわけ?」

女神使「ふふっ、ご安心を。 神様からはご助言を賜っていただけですので」

神使「だったら良いんですが」

神様「おいコラ、クソ犬。 私の尊厳を傷つけたお詫びとして金よこせよ」

神使「なんですか、そのダイレクトな脅迫は・・・ 現にセクハラしようとしてたじゃないですか」

神様「まだしてない!」

神使「それは、しようとしていたという事ですよね?

神様「うるせー クソ犬!」ゲシゲシ

神使「あっ、ちょっと神様! 痛い! 止めて下さい!」


ジタバタ


女神使「フフッ、仲がよろしいんですね」

神使「とても嬉しいお言葉なのですが、この状況でそう見えるのもどうかと・・・」

女神使「・・・・・・」

神使「女神使さん?」

女神使「神使さん、神様、この度の無礼お許し下さい」フカブカ

神使「いえいえ、お気になさらず」

神様「そうそう、楽しかったし謝る必要ないよ」

神使「神様は謝って下さい。 セクハラ未遂をきちんと謝罪できたらコーラ買ってあげます」

神様「調子に乗って本当にすいませんでした!」ドゲザ

女神使「そ、そんな頭を上げて下さい」オロオロ

神使「なにも土下座までしなくても・・・」

神様「土下座位でコーラ買ってもらえるんだったらいくらでもしてやる!」

神使「神様の土下座は130円の価値なんですか・・・」



─── 翌日・社務所


ザー


神使「神様が預言した天気予報大外れですね」

神様「・・・・・・」

神使「大雨ですよ?」

神様「私は、夕方の天気を預言したのだよ」

神使「今日は全国的に一日中雨だそうです」


神様「」ブッ


神使「ちょ、神様! 何してるんですか、はしたない・・・」



ガラガラ


女神使「朝食の準備が出来ました」スタスタ

神使「あっ、わざわざすいません」

女神使「私、あまり料理が上手でなくてお口に合うかどうか・・・」

神使「お気になさらず。 神様は落ちている物でも気にせずいける口ですから」

神様「神使くんさぁ、レディーに向かって失礼だよ?」

神使「レディーは人前ではしたない行動は取りません」

神様「お前だってオナラくらいするだろうがよ!」

神使「神使はそんな物しませんよ?」

神様「え? うそ! オナラするよね?」クルッ

女神使「・・・・・・。 しません」

神様「マジで!? どういう構造してんの?」


神使「それでは頂きましょう」

神様「ちょ、教えてよ。 本当にしないの?」


神使「このお味噌汁のお椀、蓋付きなんて手が込んでいますね」パカッ

女神使「あっ、それご飯です」

神使「・・・・・・。 みたいですね」ハハハ

神様「さすが極悪邪道腐れ犬ころ、陰湿レベルの失礼さに磨きがかかってますな~」

神使「すいません・・・」


神様「この美味そうな茄子は醤油付けた方が良い? 辛子欲しいな」

女神使「それは・・・ 茄子でなくお芋です・・・」

神様「へ、へ~・・・ あっ、黒っぽいサツマイモかな?」

女神使「じゃがいもです」

神様「・・・そうですか」


女神使「すいません! 私、料理が苦手で・・・ 研究所の寮でもあまり作らせてもらえないんです・・・」

神使「き、気にしないで下さい」パクッ

神様「そうそう、私そこら辺に生えてる草でも美味しく頂いちゃう位だから」パクッ



神使・神様「!?」ゴリッ


女神使「あ! ご飯に芯がありましたか? 芋が煮えてませんでしたか!? 本当にごめんなさい!」

神使「だ、大丈夫です。 私は固めのご飯が好きなので」ゴリゴリ

神様「うんうん。 芋も堅い位が丁度良いって」ゴリゴリ

女神使「料理も・・・ もっと勉強します・・・」

神様「料理は簡単だから。 すぐ上達できるよ」ハハハ

女神使「はい! お昼と夕食は気合いを入れます!」

神様・神使「!?」


女神使「神様は草も大丈夫なんでしたら、裏にすごく美味しそうな草が生えてたのでお昼は一緒に食べましょう!」

神様「え!? 草?」

女神使「裏に生えている草は絶対美味しいと思います!」

神様「・・・そう」

女神使「はい! わたし元はウサギなので、今でもたまに草をハムるんですが・・・ お腹の調子を整えるには最適で溜っていた物もすぐ出るんですよ?」ジー

神様「!? わ、私のお腹は何も溜ってないよ?」

女神使「私、草には結構拘りがあるので任せて下さい。 久々に一緒に食べてくれる人がいてうれしいです///」

神様「うっ・・・ し、神使君?」チラッ

神使「そ、そう言えば私達は・・・ 次の立ち寄り依頼の方に向かわないと行けませんでしたね?」

神様「そ、そうだったね。 昼前には出ないと間に合わないよね」


女神使「そんなに早くですか!? 夕飯は、裏の池に沢山エビがいるのでエビパーティーでもしようかと思ったのですが・・・」

神使「池に、エビですか・・・?」

神様「それ、ザリガ───」

女神使「あのエビ、大きくて絶対に美味しいと思うんです! 他の研究者の方達も昨日誘ったのですが・・・」


神様「チッ、所長達は逃げたな?」ボソッ

神使「私、草はさすがに・・・ ザリガニも色々とマズいと思うんですが・・・」ボソッ


神様「・・・・・・。 さて、朝食も食べたし帰りましょうか神使くん」

神使「畏まりました神様」


女神使「次のバスは夕方ですよ?」

神様・神使「・・・・・・」


女神使「では、草を選びに行きましょうか」バッ

神様「えっ!? ちょっと早くない? 食べたばっかりだし」

女神使「今日は雨ですから、良い草を摘んで乾かさないといけません。 さ、行きましょう!」ガシッ

神様「ちょ、ちょっと待って・・・ 神使くん助けて!」ズルズル


神使「神様、ご武運を」


女神使「ついでにエビも捕まえてきましょう!」

神様「嫌だ~ 草もザリガニも食べたくない~!!」ズルズル



助けて~!!





神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
#18「我☆偽神」 ―END


<(_ _)> ありじゃした


神様「オレ!」

神使「・・・・・・」


神様「いや、波に乗った方が良いかなって・・・」


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ボー
ザバーン ザバーン


神使「いや~ 風が気持ち良いですね」

神様「・・・・・・」バリボリ


神使「神様? そのえびせんはウミネコの餌用に買った物なんですが・・・」

神様「神使さんよ~ 一体何なんだよ。 いい加減にしてくれませんか?」

神使「あと15分くらいで島の港に着くと思います」

神様「知ってるよ! これ、ねこねこアイランド行きのフェリーだろ」

神使「次の立ち寄り先はにゃんにゃん島です」

神様「だ・か・ら! 何でまた行くんだよ!」 バリボリ


~あらすじ~

神様「かわゆい神ちゃん」

神使「狛犬の神使です」


【#19】


─── にゃんにゃん島


神使「神様、タラップと桟橋の間に───」

神様「段差があるんだろ? 言われなくても分かっ」ガクッ

神使「・・・・・・」

神様「前回より段差が3センチくらいズレてるな。 うん、これは分からないわ」

 ニャー

神様「?」

 ニャー ニャー

神使「猫さんですね」

 ニャー ニャー
 ニャー ニャー

神様「相変わらず猫だらけだな。 どんな生態系してるんだよこの島は」



─── 山道


テクテク


神様「で? 何でまた、ねこねこアイランドなんだよ」

神使「猫神さまがしばらく留守にするそうなんです」

神様「で?」

神使「その間、神社の方を預かってくれないかと相談がございまして」

神様「初耳でございます事よ?」

神使「先日、電話がありました」

神様「何で私にかけてこないの?」

神使「・・・・・・」


神様「どいつもこいつも私を無視して勝手に話進めやがって」

神使「神様にお話しをすると絶対に仕事を引き受けないじゃないですか」

神様「当たり前だろ。 そこに娯楽が無い限り、私が仕事を受ける事はあり得ない」

神使「そうですか」

神様「それに、一度立ち寄ったところは特別な理由が無い限り行かない事にしてるんだよ。 お前だって知ってるだろ」

神使「そうですね」


神様「・・・・・・」ジー

神使「・・・・・・」プイッ


神様「おい、クソ犬。 お前何か隠してるだろ」

神使「・・・・・・。 あっ、そろそろ“もふもふ神社”ですね」


神様「おい」

神使「・・・・・・」


神様「正直に言ってみそ?」

神使「日給3万です」

神様「それは特別な理由に値するな。 よし、早く行くぞ~」♪



─── 神社境内


神様「あの・・・ 神使くん?」

神使「はい・・・」

神様「猫神んとこの社務所兼喫茶店って、私の記憶だと結構小さかったと思うんだけど」

神使「そうですね」

神様「私の目の前あるのは3階建ての格好いいビルなんですが」

神使「デザイナーズビルでしょうか・・・ オシャレですね」

神様「道間違えた?」

神使「隣に神社もありますし、入り口には“Cafe NekoMata”という看板も・・・」



ウイーン
カランコロン


猫娘「ニャニャ! 神ちゃんさまと神使先生だニャ! ニャ」

神使「猫娘さん、お久しぶりです」

神様「おい猫、コレ何?」

猫娘「ニャ? ニャ」

神様「なんで“喫茶ねこまた”がこんな事になってんだよ!」

猫娘「Cafe NekoMataですニャ。ニャ」

神様「同じだろ!」

猫娘「立ち話も何ですニャ。 どうぞお入り下さいニャ。 ニャ」


神様「ニャーニャーうっせーよ! 猫かよ」

神使「猫さんです」



─── 店内


猫娘「何か飲みますかニャ? ニャ」

神使「私はホットコーヒーを」

神様「コーラ、2リットル」

猫娘「はいニャ。 ニャ」スタスタ


神使「どんな頼み方ですか・・・ ガソリンじゃないんですから」

神様「同じ様なもんだよ」


神使「所で・・・」

猫娘「何ですかニャ? ニャ」

神使「床に誰か倒れているようですが・・・」

神様「あれ、B夫だよな」

神使「そう言えば、B夫さんは神宮からドナドナされてこちらに来たんですよね」


猫娘「アレは気にしなくても良いニャ。 ニャ」

神様「って言うか、生きてんの?」


B夫「・・・・・・」ムクッ


神使「あ、起きましたね」


神様「お前、床に転がって何してんだよ」

B夫「あっ、神ちゃん。 久しぶり」

猫娘「もう起きたんですかニャ? 手加減なしでひっぱたいたのにニャ。 ニャ」

神様「お前、猫娘に叩かれて気を失ってたのか・・・」

B夫「ケーキ食べただけなんだけど。 ちなみに平手じゃなくグーで左右2往復殴られた」

猫娘「売り物ですニャ! お金払って下さいニャ! ニャ」

神使「B夫さん、売り物を食べるのはダメだと思うのですが・・・」

猫娘「そうニャ! そうニャ! ニャ」


神様「それより猫娘さぁ。 ニャの後に何でさらにニャを付けてんの? ニャーニャー鬱陶しいんだけど」

B夫「いやいや神ちゃん。 語尾にニャを付けるのが癖になっても昔の名残を残し、アイデンティティーと化したこのニャニャはグッとくるから良し!」

神様「相変わらず、気持ち悪いなB夫は」

猫娘「本当、気持ち悪いですニャ。 ニャ」

B夫「そんな事言っても猫さんは俺に首ったけ」

猫娘「全然そんな事ありませんから。 不快なのでそういう冗談は止めてもらっても良いですか?」

一同「・・・・・・」


ニャ


神使「そ、それより・・・ この喫茶店の変わり様は一体・・・」キョロキョロ

猫娘「寄付が沢山あったので建て替えたんですニャ。 ニャ」

神様「寄付?」

B夫「俺が寄付した、というか奪われたんだけど」

神様「B夫ってそんなに金持ちだったの?」

B夫「ピットコインで5億もうけた」

神様・神使「5億!?」

猫娘「使い道のない穀潰しニートもたまには役に立つニャ。 ニャ」

B夫「ニートではない。 ちゃんとNekoMata通販のシステム管理してるし。 CIAも真っ青の鉄壁なセキュリティー」

猫娘「1日3件の注文もない通販にそこまでのセキュリティーは必要ないニャ! ニャ」


神様「ねぇ、B夫先生?」スリスリ

B夫「なに?」

神様「その~ ピットコインとやらについて詳しく教えてほちぃなぁ~」クネクネ


B夫「神ちゃんじゃ無理」

神使「神様には向いていないと思いますよ?」

猫娘「あんなもの暇を持て余すニート以外無理ですニャ。 ニャ」


神様「何だよ皆して! 私にだってニートの素質位あるわ!」

神使「そういう事を言っているのではありません」

B夫「そうそう。 俺位のトップアスニートになると毎日が戦争。 止めた方が良い」

猫娘「やっぱりニートにゃ。 ニャ」

B夫「ニートではない」

猫娘「ちょと何を言っているのか分からないんですけど。 日本語理解できてます?」

一同「・・・・・・」


神使「ま、まぁ、B夫さんが昔と変わらないようで安心しました」

猫娘「安心されても困るニャ。 ニャ」


B夫「そんな事より神ちゃんにはもっと良い話が」コソッ

神様「ほぅ」

B夫「後で」ボソッ


神使「・・・・・・」



猫娘「お待たせしましたニャ。 ニャ」コトッ

神使「ありがとうございます。 これは良い香りのコーヒーですね」

猫娘「とっても希少なコーヒー豆なんですニャ。 ニャ」

神様「私もそれ飲みたい」

B夫「止めた方が良い。 それ猫のうん───」

猫娘「」ダッ


ガシッ


B夫「・・・・・・。あの・・・ 猫さんの鋭利な爪が喉に刺さりそうなんですが・・・」ブルブル

猫娘「ニートはニートらしく遠慮して生きるべきDEATHニャ。 ニャ」

一同「・・・・・・」


猫娘「はい、神様にはコーラですニャ。 ニャ」ドンッ

神様「あ、ありがとう。 猫娘ちゃん性格変わった? なんか、猫神に似てきたんだけど・・・」

猫娘「そんニャ~ 猫神様に似てるだなんて照れちゃうニャ~。 ニャ」ポッ

神様「褒めてないよ? あと、コーラがバケツに入ってるんだけど・・・」


神使「そ、そう言えば猫神様はどちらにお出かけなのですか?」

猫娘「神宮の方に用事があると言っていましたニャ。 ニャ」

神様「神宮?」

猫娘「詳しい事は聞いていないですニャ。 ニャ」

神様「ま、しばらくはのんびり過ごしますか。 こんなクソ田舎でやる事なんか無いし」

猫娘「それが・・・ 明日、団体客の宿泊が入っているんですニャ。 ニャ」

神使「宿泊?」


神様「旅館業にまで手を広げたのかよ」

猫娘「ペンションですニャ。 ニャ」

神様「同じだよ! っていうか、猫神がいないのに宿泊の予約なんか取るなよ」

猫娘「猫神様がいない期間は予約受付ストップしたはずなんですけどニャ~。 ニャ」ギロッ

B夫「俺の完璧なシステムに問題は無い」

猫娘「さっきパソコン見たら予約が入っていたニャ。 ニャ」

神使「何人来るんですか?」

猫娘「5人ですニャ。 ニャ」

B夫「ふ~ん」カタカタ カタカタ

神様「何々? ハッキングでもされた?」

猫娘「あんなにサーバー使ってるのに使えないシステムだニャ。 ニャ」ハァ


B夫「・・・・・・」



─── 夜・喫茶


神様「ふぃ~ 良いお湯だった」ホクホク

B夫「神ちゃん、お風呂長過ぎ」

神様「いや~ 風呂の中で爆睡しちゃってさぁ。 指フニャフニャになっちゃったよ」ホラ

B夫「ふやけたんじゃなくて老化じゃない?」

神様「・・・・・・。 表出る?」

B夫「うそうそ」

神様「ったく。 あれ、B夫だけ?」キョロキョロ

B夫「神使さんは泊まる部屋の掃除、猫さんは帰った」

神様「猫娘は相変わらずここに住んでないの?」

B夫「夜は仲間と一緒にいたいんだって」

神様「猫娘も神使扱いとはいえ、一応は神なんだから人の姿で過ごすべきなのになぁ~」

B夫「猫神様がいるうちは良いんじゃない? 今しか出来ないんだから好きなようにさせてあげるべき」


神様「ほぉ~ 随分と大人な意見じゃん。 ちょっと見直したわ」

B夫「前に猫神様が言ってただけ」

神様「さいですか」

B夫「神ちゃんも飲む?」カランッ

神様「ウイスキーなんて大人だね~」

B夫「アイスティーだけど」

神様「その分量、どう見てもウイスキーのロックだよね?」

B夫「雰囲気」

神様「へいへい。私はコーラで」

B夫「オッケ」


神様「で? 風呂上がりの乙女を待ち伏せして何の用? あっ、ちなみに私には心に決めた人がいるから」

B夫「大丈夫。 神ちゃんには1ミリも興味ない」

神様「そんな事言って~ 湯上がりの乙女の香りにクラックラでしょ」

B夫「年齢不詳の女の臭いに興味無し」

神様「よし、表行こう。 この一体をピンポイントで海に沈める」

B夫「冗談だって。 はい、コーラ」コトッ

神様「だからもっと入れろよ! こんなん一口じゃん!」

B夫「雰囲気を楽しむべき」

神様「ったく、で何の用だよ」

B夫「明日の客の件」

神様「あ~ B夫のミスで予約受け付けたやつ?」

B夫「俺がミスするわけ無いじゃん」

神様「あ?」


B夫「システム上はネット予約受付が出来ないようになってる。 ただし、ある特定の場所からだけは予約可能」

神様「どういう意味?」

B夫「猫神さまが留守にするこのタイミングで、ここに来たいと思うのって誰だと思う?」

神様「?」


B夫「“神への冒涜計画”」


神様「・・・おい」

B夫「フェーズ2に移った」

神様「!?」


B夫「これ、明日来る予定の人達のリスト。 予約してきた端末から割り出した」ペラッ

神様「これは・・・ 中枢メンバー・・・ 本当なのか?」

B夫「何のためにオレがここまでのシステムを入れて調べてきたと思う?」

神様「・・・・・・」


B夫「どうする? 神ちゃん」

神様「決ってる」グビッ

B夫「そう言うと思った」フッ


神様「・・・・・・。 これ、コーラじゃなくてウイスキー・・・」ヒック


カランッ


=====

神使「神様、私達の旅を全部読んで下さったそうですよ?」

神様「へ~ お礼に神使くんがさっき買ってきた偽コーラ上げる」

神使「流石にいらないと思いますよ? それ変な味しますし」

神様「知ってんならちゃんとしたコーラ買えよ!」ゲシゲシ

=====



─── 翌日


神様「おはよ~」トテトテ

猫娘「おはようございますニャ。 ニャ」

神使「もうお昼ですよ?」

神様「いや~ 昨日久しぶりに・・・ って、B夫はなんでまた床に倒れてるの?」

神使「それが・・・」

猫娘「昨日の夜、勝手にお店のお酒を開けて飲んだんですニャ。 ニャ」

神様「・・・・・・。 へ、へ~ それは大変だね」


B夫「」ムクッ


猫娘「もう起きたニャ。 ニャ」

神使「大丈夫ですか? B夫さん」

B夫「俺なんで殴られたの? 起きてここに来たらいきなりパンチされたんだけど」

神様「深い事は気にするな。 人間、過去を振り返ってはいけない」ポンッ


猫娘「B夫は邪魔だから早く自分の部屋に戻って欲しいですニャ。 ニャ」

B夫「朝ごはん食べてないんだけど」

神様「気にするな。 私も食べてないし、時間はすでに昼を回っている」


神使「猫娘さん、お泊まりのお客さんはいつ頃来られるのですか?」

猫娘「2便のフェリーなのでそろそろ来ると思いますニャ。 ニャ」


神使「神様、失礼の無いように接客して下さいね」

神様「分かった。 ドアが開いたらチップ先払いで荷物持ってあげる」

神使「そういうのを止めて下さいと言っているんです」


B夫「来客センサーに反応。 後5メートル」

神様「よっしゃ! 5人だから1人1000円で5000円ゲット!!」タッタッタッ

神使「ちょ、神様!」


ウィーン
カランコロン


神様「いらっしゃ・・・ い・・・ ま・・・」


黒ずくめ達「・・・・・・」ゾロゾロ


神様・B夫「黒いっ!」


猫娘「あニョ・・・」

神様「強盗?」

男「失礼だな。 予約している者だ」

猫娘「CCCさま・・・ ご一行ですかニャ? ニャ」

神使「CCC?」

B夫「カルチャーコンピニエンスクラブ?」

神様「ツダヤか! Tポイントくれ!」ゴソゴソ

神使「絶対違うと思います・・・」

B夫「CCCというか黒いKKK」


男「部屋へ案内を」

猫娘「あっ、はいニャ。 その前にチェックインのサインをお願いしますニャ。 ニャ」

黒ずくめ女「私が書きます」サラサラ

猫娘「字がとっても上手ですニャ。 ニャ」

女「当然なのです」

神使「・・・・・・」


猫娘「ニャニャ? AAAさま・・・ ですかニャ? ニャ」

神様「CCCちゃうんかい」

黒女「わ、私達は謎の黒い集団。 名前も偽装なのです」

猫娘「それは、困るんですニャ・・・。 ニャ」


神使「・・・・・・」ジー

女「わ、私の顔に何か付いていますか? それともあまりの可愛さに心を奪われましたか?」

神使「いえ、覆面なので顔は分かりませんが・・・」

神様「ねぇ、その衣装は既製品? それとも作ったの? その顔を覆ってる三角頭巾すごい格好いいんだけど」

女「これはもちろん私が手───」

男「ゴホン!」

女「・・・・・・」


男「取りあえず部屋に案内を」

B夫「俺が案内する。 こっち」テクテク

男「助かる」


ゾロゾロ


神使「神様、あの───」

神様「さぁ~て、良い天気だし、私は少し寝ようかな」

猫娘「ニャニャ。さっき起きたばっかりだニャ。 ニャ」

神使「あの怪しさを絵に書いたような方達は放っておくんですか?」

神様「お客さんにちょっかい出すなんて事、私はしない。 しない、絶対」

神使「あんな奇抜な格好で面白そうな雰囲気の方達を、神様が無視するなんて珍しいですね」

神様「私だって成長するのだよ。 いつまでも子供じゃないんだ」フッ

神使「そうなんですか?」


神様「それでは、私は機を織って参ります」ペコリ

神使「はい?」

神様「機を織っている間は、決して部屋を覗かないで下さい」

猫娘「猫の恩返し・・・ニャ。 ニャ」

神様「鶴だよ! 爆睡するから部屋に入るなよ! ニャニャ!」トテトテ


神使「神様・・・」ハァ



─── 数分後


猫娘「ニャニャ!? ニャ」

神使「どうされたんですか、猫娘さん」

猫娘「お客様にお出しするお茶が切れてますニャ。 ニャ」

神使「予備はないんですか?」

猫娘「うにゃ~ん・・・ おかしいですニャ。 予備も空っぽですニャ。 ニャ」

B夫「そう言えば歯ブラシセットとかもなかった気がする」

猫娘「ニャ!? 先週B夫に買って来るように言ったニャ! ニャ」

B夫「そうだっけ?」


神使「私が買ってきましょうか?」

猫娘「本土まで行かないと買えないんですニャ。 ニャ」

神使「この島には売ってないんですか?」

B夫「この島をナメてもらっちゃ困る。 島内で買えるんだったらオレが買ってる」

猫娘「覚えてるじゃないかニャ! 今すぐフェリーに乗って買ってくるニャ。 ニャ」

B夫「オレ欲しいものがいっぱいあるから今日は戻らないよ? 秋葉も行きたいし」

猫娘「は? B夫何言ってんの?」

B夫「・・・・・・」


神使「わ、私が行ってきますよ。 こんな事くらいしかお手伝いできませんし」

B夫「俺より安心。 猫さんも一緒に行ったら? その方が早い」

神使「そうですね。 お茶の銘柄もあるでしょうし、猫娘さんも一緒に付いてきて頂けますか?」

猫娘「分かりましたニャ。 本当にB夫は使えないニャ! ニャ」

B夫「あっ、紅茶も昨日飲んだので最後だったから一緒に買ってきて」

猫娘「!? あの紅茶は、喫茶の商品用だニャーー!!」ダダッ

B夫「うわ! 猫さんタンマタンマ!!」

猫娘「一生寝てろニャ!!!!」ボコッ

B夫「うっ!」


バタリ


猫娘「ニャ」

神使「・・・・・・」


猫娘「それじゃ神使先生、行きましょうかニャ。 ニャ」ニコッ

神使「は、はい」


B夫「」


神使「B夫さんが動かないですが・・・ 大丈夫でしょうか?」

猫娘「急がないと、そろそろフェリーが来る時間ですニャ。 ニャ」

神使「で、では行きましょうか。 お留守番よろしく願いしますB夫さん」

B夫「」



─── フェリー乗り場


神使「あの猫娘さん、実はお話ししたい事がありまして・・・」

猫娘「神ちゃんさまと産廃ニートが何か企んでいる事ですかニャ? ニャ」

神使「気付いていたのですか!?」

猫娘「当然ですニャ。 ニャ」

神使「何を画策しているかお分かりになります?」

猫娘「そこまでは分からないですニャ、でも、あの黒ずくめの客に関係あると思いますニャ。 ニャ」

神使「KKK・・・ いや、AAAさん達でしたっけ?」

猫娘「CCCですニャ。 ニャ」

神使「まぁ、偽名でしょうが」


猫娘「ゴミニートの作ったシステムが間違えて予約を受け付ける事なんてあり得ないですニャ。 ニャ」

神使「そうなんですか?」

猫娘「クズニートは、性格は破綻してますけどパソコンの事に関しては絶対に手を抜かないですニャ。 ニャ」

神使「さっきから散々な言われようですが、信頼はしているんですね」

猫娘「人としては信頼してないですニャ。 ニャ」

神使「・・・・・・」

猫娘「神使先生も気付いていたのなら話は早いですニャ。 ニャ」

神使「と言いますと?」


猫娘「ニャ~ン ニャ~ン」

神使「?」


 猫達「ニャー ニャー」タッタッ


神使「猫さん?」

猫娘「猫美に猫太ですニャ。 ちゃんと神使先生にご挨拶をするですニャ。 ニャ」


 猫達「ニャー」


神使「可愛いですね。 この猫さん達が何か?」

猫娘「猫美と猫太、お仕事ですニャ。 ニャ」


 猫達「ニャ?」



─── 数分後・神様寝室


B夫「・・・・・・」トントン


 神様「機を織っておりますので決して覗かないで下さい」


B夫「百枚織るまで覗かない」


 ガチャッ


神様「早いな。 ・・・っていうか、お前その顔どうしたの? めっちゃ腫れてるけど」

B夫「猫さんと戯れてた」

神様「そう・・・ 程々にしておけよ? で、犬ころと猫娘は?」キョロキョロ

B夫「島を出た」

神様「よし。 それじゃ、早速準備に取りかかるか」

B夫「オッケ」



─── 1F・喫茶ねこまた


神様「でも、何で2人が島を出たって分かるの? カメラでも付けたの?」

B夫「二人にGPS発信器を仕掛けた。 どこにいるかはこの画面上のMAPに表示される」

神様「おいおい、海の上じゃん。 あいつら金無くて泳いでいったのか? まさか、海の上を歩いて!?」

B夫「普通に考えてフェリーでしょ。 結構なスピードで動いてるし」

神様「んだよ、もう少し乗っかって来いよ」

B夫「これで夕方までは神使さんと猫さんは帰ってこない」

神様「まぁ、さすがにあの二人には知られたくないしな」

B夫「神宮の闇を見せるわけにもいかないしね」

神様「神宮の闇・・・ か」



─── 3F・黒ずくめ達の部屋(レセプションルーム)


神様「」トントン


 女「は、機を織っておりますので決して覗かないで下さい」


神様「百枚織るまで覗かない」


 ガチャッ


女「・・・・・・」


神様「こんにちは」トテトテ

B夫「失礼します」テクテク


黒ずくめ達「・・・・・・」


神様「今宵は遠路遙々ご苦労」

男「まだ昼だが?」

神様「雰囲気。 そんな格好してるんだからせめて雰囲気だけでも夜を演出しようと・・・」


男「何か用事ですかな?」

神様「そっちが私達に用事があるんじゃないの?」

男「・・・・・・」


神様「そんなに警戒しなくて良いって。 私とB夫しかいないから」

男「私達の目的は承知していると?」

神様「無論。 “神宮の闇”の皆さん」ニヤッ



─── 山道


猫娘「あのクソニート、私達に発信器を付けるなんて良い根性してるニャ。 ニャ」

神使「あんな小さな発信器が付けられているなんてよく分かりましたね」

猫娘「生ゴミニートのやる事なんて全部お見通しですニャ。 ニャ」


神使「しかし、あの猫さん達は大丈夫でしょうか?」

猫娘「大丈夫ですニャ。 ちゃんと本土でウロウロした後に最終のフェリーに乗って帰ってきますニャ。 ニャ」

神使「フェリーを使う猫さん達って凄いですね・・・」

猫娘「きっとB夫は、私達がフェリーに乗ったと思い込んでるはずニャ。 ニャ」



─── 喫茶ねこまた・入り口


神使「神様もB夫さんも1階にはいないようですね」キョロキョロ

猫娘「ニャニャ! 神使先生、3階みて下さいニャ。 ニャ」

神使「カーテン越しに人影が・・・」

猫娘「レセプションルームですニャ。 ニャ」

神使「きっと神様達もあそこでしょうね。 取りあえず建物の中に入りましょうか」

猫娘「ダメですニャ。 ニャ」

神使「何故です?」

猫娘「B夫の侵入対策システムが動いているはずですニャ。 入ったら速攻バレますニャ。 ニャ」

神使「それは厄介ですね」


猫娘「神社の本殿に行きますニャ。 ニャ」

神使「本殿?」

猫娘「これでも神の端くれ、本殿の神体経由で中の様子を伺う事が出来ますニャ。 ニャ」

神使「しかし、こんな事で神力を使うまでもないような気が・・・」

猫娘「万が一、神ちゃんさまに何かあったらと思うと心配ですニャ・・・ ニャ」

神使「猫娘さん・・・」


猫娘「それに、猫神様からカスニートが不審な動きを見せたら神力行使の許可ももらっていますニャ。 ニャ」

神使「なるほど・・・ では、本殿に行きましょうか」

猫娘「ニャ。 ニャ」



─── 本殿


ギィー


 ニャ~ン

神使「おや、猫さんがいますね」

猫娘「猫助ニャ! 本殿に勝手に入ったらダメって言ったはずニャ! ニャ」

 ニャ~ン

猫娘「全く、猫助は言う事聞かない子ニャ。 ニャ」

神使「まぁまぁ、きっと本殿は居心地が良いのではないんですか?」

猫娘「猫を甘やかすと付け上がるだけですニャ。 ニャ」

神使「それを猫娘さんが言うのもどうかと思うのですが・・・」

猫娘「ほら、邪魔だから隅の方で大人しく丸くなってるニャ。 ニャ」

 ニャ~ン テクテク


猫娘「さてと、ご神体の神力もたっぷりありますニャ。 ニャ」

神使「ご立派なご神体ですね」

猫娘「神使先生、私の肩に手を置いて下さいニャ。 ニャ」

神使「これでよろしいですか?」ソッ

猫娘「私、神としての力は弱いので声しか聞くことが出来ないのですが許して下さいニャ。 ニャ」

神使「十分です」

猫娘「ニャ。 それでは中の様子を覗きますニャ。 ニャ」



~~~~
~~~
~~



─── レセプションルーム内


男「これを見てもらいたい」カサッ

神様「白い粉? 片栗粉?」

B夫「いや、粒子が大きくてサラサラしてる。 塩?」

男「これはとある工場で試作させた物」

神様「なめても大丈夫?」

男「少量でも効果があるのでほんの少しで」

神様「どれどれ」ペロッ

B夫「オレも」ペロッ

神様「あっ! これって」


男「作るのに苦労したよ。 純度を高くする精製が面倒でね。 そして、これを見てもらいたい」ペラッ

神様「白い紙切れじゃん」

B夫「和紙っぽいけど・・・ まさか!」クンクン

男「気付いたかな?」

B夫「これ、もしかしてさっきの粉を紙に練り込んだ?」

男「そう、しかも水溶性だ」

神様「粉を紙に練り込んでどうすんの?」

男「完成品を見た方が早いだろう」スッ


神様「これ、神社で配ってる紙製のお札(ふだ)・・・ って、まさか!」

男「一見すると普通の札だけど、水に溶かすとさっきの粉が溶け出して・・・」チャポン


シュワシュワ


神様「溶けた!」

B夫「これは面白い」

男「どうかな? 新しい“大麻”の出来は」


~~
~~~
~~~~



─── 本殿


猫娘「ふぃ~ 限界ニャ。 ニャ」フー

神使「・・・・・・」

猫娘「神使先生、会話の内容聞きましたかニャ!? ニャ」

神使「え、えぇ・・・」

猫娘「これは犯罪ニャ! 犯罪ニャ! ニャ」

神使「お、落ち着いて下さい猫娘さん」

猫娘「落ち着いてなんかいられないですニャ! ニャ」

神使「まぁ、まだ犯罪と決ったわけではありませんし」

猫娘「大麻の取引は犯罪ですニャ! どうして神使先生はそんなに落ち着いているんですかニャ? ニャ」


神使「まぁ・・・ しかし、あの黒ずくめさん達の目的が分からないですね・・・」

猫娘「現場を押さえて聞き出せば良いですニャ! 突入ニャ! ニャ」

神使「しかし、建物に踏み込むと逃げられるのでは?」


猫娘「良い手があるニャ。 ニャ」

神使「?」

猫娘「猫助、黙って本殿に入った罰としてお前にも仕事ニャ。 ニャ」


 ニャ~ン



───レセプションルーム内


ウー ウー ウー


一同「!?」

神様「何だこの警報は!?」

B夫「客・・・ いや侵入者」

神様「猫娘達が帰ってきたとか!?」

B夫「いや、二人はまだフェリーの中」

神様「まさか客?」

B夫「神ちゃん、そこの監視カメラの電源入れて」

神様「これ?」ポチッ


パッ


神様「猫だ。 野良猫が写ってる」

B夫「何だよ、脅かすなって」


一同「」ホッ


B夫「あの猫、いつもオレのご飯を盗み食いする奴だ」

神様「何か咥えてるぞ?」

B夫「あー! 俺のホタテの貝柱!」

神様「あ~ あれは美味いよね。 私も好き」

B夫「畜生・・・ 隠しておいたのに・・・」

神様「猫なんか放っておけ。 それより、うるさいから警報切れよ」

B夫「このフロア以外は切る。 ここまで上がってきたら弁償させてやる」ポチッ



─── 本殿


猫娘「警報が切れたニャ。 中に入りますニャ。 ニャ」ダダッ

神使「あっ、猫娘さん!」


猫娘「急いで下さいニャ。 30秒後に上のフロアの侵入装置が再起動しますニャ。 ニャ」

神使「30秒!?」

猫娘「一気に3階へ行って侵入装置を切るニャー! ニャ」タッタッタッ

神使「早いっ!」タッタッ



─── レセプションルーム前・廊下


ポチッ


猫娘「うにゃ~ 間に合ったニャ~。 ニャ」

神使「猫娘さん、凄く早いですね」ハァハァ

猫娘「私よりも猫神様の方が全然早いですニャ。 ニャ」

神使「神様が猫神さまから逃げられない理由が分かりました」


 そして、これがパンドラの箱!


神使「この声は・・・」コソッ

猫娘「B夫ニャ。 ニャ」コソッ



─── レセプションルーム内


男「それが今回の目玉という訳か」

B夫「そう、これは“神への冒涜”」


一同「!?」


男「穏やかじゃないね」

B夫「名前だけじゃない。 その力は、まさに神への冒涜級」

男「神を目の前にして随分と挑戦的だな」

神様「これも、私のアイデアが元になっている」


一同「!?」


B夫「最悪の思想を元に、最悪の天才が形にした最悪のマシーンとでも言うのかな」

男「それは随分と悪意のある物のようだ」ニヤッ

B夫「神が作りし神の断りを捨てたシステム! その威力をその目で刮目せよ!!」



バチバチ


猫娘「ニャニャ!? 凄い静電気ニャ! ニャ」

神使「何かまずい雰囲気ですね」

猫娘「踏み込むニャ! ニャ」


バン


一同「!?」クルッ


猫娘「そこまでニャ! 一歩でも動いたら引っ掻きますニャ! ニャ」


チーン


神使「何の音です?」キョロキョロ

猫娘「電子レンジの音ニャ。 ニャ」キョロキョロ


神様「チッ! 逃げろ」

B夫「窓から飛び降りて。 2階の屋根から非常階段で脱出できる」

神様「よっしゃ! お前らどけ! 私から逃げさせろ!」タッタッタッ


ガラガラ


神様「んが!?」



猫神「残念でした~ 窓の外には私が浮かんでま~す」フワフワ

神様「ギャー!! 鬼だ! 鬼がいるー!!」


猫娘「猫神さまですニャ! ニャ」


猫神「だれが鬼だって~?」

神様「・・・・・・。 見間違いでした、天女様のようです」

猫神「ふふっ」ニコッ


B夫「終わりだ・・・ 世界が終わった」ガクッ



─── 数分後


黒ずくめ達「・・・・・・」

神様「なんで猫神がここにいるんだよ! 神宮に行ったんじゃないのかよ!」

猫神「神ちゃ~ん? うるさい」ニコッ

神様「はい、すんません」


猫娘「確か猫神様の戻りは来週のはずだったニャ。 ニャ」

猫神「B夫くん達の計画を潰す為に一芝居打ったの~」

B夫「気付かれてか」チッ

猫神「B夫く~ん? 誰が喋って良いって言った~?」ニコッ

B夫「・・・・・・」


猫神「神使くんもお疲れ様~ 良い芝居だったよ~」

神様「あ!? お前もグルだったのかよ!!」

猫神「・・・」ギロッ

神様「お口チャックですね。 承知いたしました」


猫娘「神使先生は知ってたんですかニャ? ニャ」

神使「私も詳しい事までは。 神宮上層部の闇の組織の暗躍活動と聞いていた位で」

猫娘「状況が分からないですニャ。 ニャ」キョロキョロ

猫神「そ~だね~ まずは正体を暴いていきましょうか。 黒ずくめさん達~」

一同「!?」


猫神「はい、一人目~」スポッ

神様機構長官「・・・・・・」

神使「やはり、神様機構の長官さんですか」

長官「や、やぁ。 久しぶり」


猫神「二人目~」スポッ

A子「・・・・・・」

猫娘「ニャニャ! A子さんニャ! ニャ」

A子「B子なのです」

猫娘「嘘ニャ! ニャ」


猫神「他の人達も~」スポッ スポッ スポッ

神使「祭儀神様・・・ 名誉宮司・・・ 神使長長官まで・・・」

猫娘「A子さん以外、凄いメンツニャ。 ニャ」

A子「ちょっと待って。 神宮のミス巫女である私をディスってるの?」

神使(そのミスはミステイクの方のミスなのですが、黙っていてあげましょう)


猫神「神ちゃ~ん、この集団は何~?」

神様「神宮仲良しクラブじゃないですかね」


猫神「B夫くんは知ってる~?」

B夫「神宮の愉快な仲間達」

猫神「ふ~ん」ギロッ

B夫「!? 神宮の闇組織“神宮美食クラブ”!」

神様「あー! こいつ裏切りやがった!!」

B夫「神ちゃん、もう隠せないって。 諦めよう」

神様「終わった・・・ 世界が終わった」ガクッ


猫娘「神宮美食クラブ・・・ ですかニャ? ニャ」

神使「そういえば聞いた事ありますね、そのヘンテコな名前」

神様「ヘンテコ言うな! 超格好良いじゃないかよ!」


長官「確かに私達は神宮美食クラブだが、名前の通り美味しいものを食べるだけのグルメ集団だ」

祭儀神「そうそう。 今日は美味いものを持ち寄って皆で食べるためだけに来たんだよ」

神使長「久しぶりに美味しい料理が食べられると聞いてウキウキでね」

猫神「全身黒ずくめで~?」

一同「・・・・・・」


猫神「やましい事があるから素性がバレないようにして来たんじゃないの~?」

猫娘「そうニャ! 新しい大麻が出来たって言ってたニャ! ニャ」

一同「!?」


長官「な、なななんでその事を!?」ササッ

猫神「長官くん、後ろに隠した物を見せて~?」

長官「いや、コレは・・・」

猫神「」ニコッ

長官「・・・どうぞ」スッ


猫神「お札~?」

猫娘「大麻ニャ! 大麻を紙に練り込んだお札ニャ! ニャ」

長官「その言い方には語弊がある! 大麻は大麻だけど!」

猫娘「犯罪ニャ! ニャ」


長官「ちょっと待った! お札の方の大麻だから!」

猫娘「ニャ? ニャ」

神使「お札の事を神社では大麻、神宮のお札のことは神宮大麻って言います。 というか、猫娘さんも以前は大きな神社にいらしていたんですよね?」

猫娘「うニャ~ そういえばそんな風に言ってたニャ。 結構前だから忘れてたニャ。 ニャ」

猫神「まぁ~ うちの神社ではお札とかは扱っていないからねぇ~」

長官「せめて神宮大麻は取り扱って欲しいところなんだが・・・」

猫神「え~ 嫌だよ~」

長官「・・・・・・。 まぁ、それはそれとして・・・ 誤解が解けたならそれを返してくれるかな?」


神使「あの、一つよろしいでしょうか?」

長官「何かね?」

神使「そのお札を水の中に入れてみても良いでしょうか?」

長官「ダメだ」

神使「どこかにお水はございますか?」

長官「ない」

猫娘「どうぞニャ。 ニャ」

長官「ちょっと待って! その札は水に入れるとまずい!」

神使「そうですか」サッ

長官「あー!!」



シュワシュワ


猫娘「お札が水に溶けたニャ。 ニャ」

神使「飲んでも大丈夫ですか?」

長官「止めた方が良いな。 大いなる災いが汝にふりかかるであろう」

猫神「大丈夫だよ~ 私がすぐに祓ってあげるから~」

神使「では、失礼して一口」ゴクッ

長官「おーい!」

猫娘「どうですかニャ? ニャ」

神使「これは・・・ 出し汁のような? 不思議な味ですね」

猫神「長官く~ん、これは何~?」


長官「出し汁じゃないですかね?」

猫神「正直に言うか、想像を絶する苦痛を味わうか選ばせてあげる~」

長官「新開発した“うま味成分”を紙に練り込んだ新開発のお札です」ハァ

猫神「うま味成分~?」

長官「“味な素”を超えるうま味成分を複数濃縮、どんなに下手な料理も美味しく変えてしまう魔法の粉だ」

猫娘「便利ニャ。 ニャ」

神使「確かに凄い物ですが・・・」

猫神「こんな物作ってどうするつもりだったの~?」

長官「新しく“食”の神社とか作って、そのお札を売ろうかと思いました」

神使「お札にどうしてこんなギミックが必要なのですか?」

長官「お札を溶かして食事の時に一緒に飲むと美味しい料理は更に美味しく、そうでない料理もそれなりに美味しくなるという御利益的な───」

猫神「誰のアイデア~?」


神様「!?」ビクッ


一同「・・・・・・」ジー

神様「な、何だよ。 そんなに見つめられると照れちゃうだろーがよ!」

猫神「神ちゃ~ん」

神様「いや・・・ ホラ、私達美食クラブもこの国のために良い事が出来ないかなぁと思いまして・・・」

猫神「・・・・・・」ジー

神様「神宮美食クラブの活動費捻出です。 こんなん噂になって絶対に売れまくると思いますし」

猫神「そっか~ うん、この大麻は没収~」

長官「えっ、そんな・・・ 結構な開発費がかかっていて・・・」

猫神「」ニコッ

長官「どうぞお納め下さい」ペコリ


A子「・・・・・・」ササッ

神使「A子ちゃん? いま何を隠したんですか?」

A子「隠してません」


ゴロッ


A子「あっ」

神使「随分と立派なお野菜ですね。 これは?」

A子「神宮菜・・・ 普通のお野菜を皆で食べようかと思って持ってきました」

猫娘「言い直したニャ。 ニャ」

神使「神宮菜園のお野菜ですね。 確かまだ収穫前だと思いますが?」

A子「・・・少し早めに収穫しただけなのです」

猫娘「盗んできたんですニャ。 ニャ」

A子「・・・・・・」


猫神「祭儀神くん達は~」

祭儀神「おそな───」
神使長「あー 普通の肉と魚ですよ」

祭儀神「そうそう、普通の肉と魚」

猫神「普通じゃない肉と魚ってあるの~?」

祭儀神・神使長「・・・・・・」

神使「神宮のお供え物ですね。 寄進って書いた熨斗が貼ったままです」

祭儀神「まぁ・・・ 百歩譲ってお供え物だったとしても、寄進された俺が食べるなら良いんじゃないか?」

猫神「神法改正で神宮へのお供え物は外部持ち出し禁止になったよね~」

祭儀神「・・・・・・」


神様「まぁ、壮大な悪巧みじゃないし今日の所はみんな反省するという事で」

長官「そ、そうだな。 反省しよう」

祭儀神「俺も反省する」

名誉宮司「そうですね」

A子「私もパクっ・・・ 早取りの神宮菜園の野菜は境内だけで食べる」

神様「じゃ、そう言う事で」

B夫「今日は解散だね」


神使「あの、その電子レンジみたいな物は何ですか?」

神様・B夫「・・・・・・」


猫娘「さっき“チーン”って音がしたニャ。 ニャ」

B夫「電子レンジはチーンと音がする。 なんの不思議もない」

神使「もの凄い太いケーブルが何本も繋がっていますが?」

B夫「最近のレンジは電気を沢山使いますしお寿司」

猫神「」ニコッ

B夫「NoV遺伝子無効化装置です」


一同「・・・はい?」


B夫「ある特定遺伝子を活性化してNoVを破壊する」


神使「つまり、遺伝子を操作する装置という事ですか?」

B夫「そんな大層なもんじゃないけど大体あってる」

神使「それって・・・ 結構マズくないですか?」

B夫「神への冒涜」ニヤッ


猫娘「気に入らないニャ。 破壊するニャ。 ニャ」

神様「ま、待って! これは私の念願の機械なの!」

猫娘「ニャニャ? 神ちゃんさまの機械ですかニャ? ニャ」

神使「まさか、これも神様がアイデアを出して作ったんですか?」

B夫「ザッツ ライト」


神使「先ほどこの機械が動いていたようですが、中には何が?」

B夫「クラッソストレア」

猫娘「さっきからB夫の言い方がムカつくニャ。 開ければ分かるニャ。 ニャ」テクテク



パカッ


猫娘「ニャニャ?」

神使「見るまでもなく牡蠣ですね。 神様の必死さで何となく分かっていましたが」

B夫「その牡蠣は遺伝子操作で人体への有害ウィルスが除去されたもの」

神使「つまり、ノロウィルスが除去された牡蠣という事ですか?」

B夫「その通り」

神使「何というか・・・ よくこんな装置を作り出しましたね・・・」

B夫「ノーベル賞級の発明だと思う」ウンウン

神様「そうそう! これで牡蠣から危険なノロウィルスが除去できて皆幸せになれるんだよ!」


猫神「神使く~ん、これって大丈夫な物~?」

神使「この繋がっているコードの先が少し気になりますが」

B夫「電源」

神使「1本は電源のようですが、こちらのフニャフニャしたホースの先はどちらに?」

B夫「・・・・・・送風用のホース」

神使「そうですか。 このホースが繋がっている先の箱を開けても良いですか?」

B夫「ダメ」

神使「分かりました」

B夫「賢明」



パカッ


B夫「ちょ! 開けちゃダメだって!」

神使「石? が入っていますね。 これは何です?」

B夫「・・・空気を生み出す魔法の石?」

神使「猫神様、この石から何か感じますか?」

猫神「そうだね~ 弱いけど神力が出ているねぇ~」


神様・B夫「・・・・・・」


神使「非常に危険な装置です。 猫神様、没収お願いします」

猫神「オッケ~」

神様「あ~! まって!! これがあればノロウィルスなしの牡蠣が大量生産できるんだよ~!!」

神使「神力を使った装置だなんて認められません」

神様「製造工程は内緒にする予定だったし! これを独占できれば御利益牡蠣で一財産築けるんだよ!!」

神使「それが本音ですか」

神様「ぁ・・・ ぃぇ・・・」


神使「猫神様、没収後に粉砕でお願いします」

猫神「はいよ~」

神様「ちくしょう・・・」ガクッ


神使「反省の色が見えないようですね」

神様「だって・・・ どれだけの年月を掛けたと思ってんだよ・・・」

神使「猫神様、神様の反省が足りないようです」

神様「ぇ?」

猫神「よ~し、久々に本気だそうかな~」

神様「ちょ! 反省してるって!」

猫神「謎の組織の皆さ~ん、今日は寝かせないからね~」


一同「・・・・・・」


猫神「それじゃ~、神使君と猫娘ちゃんは部屋から出てくれる?」ニコッ

猫娘「はいニャ。 ニャ」テクテク

神使「よろしくお願いします」テクテク


ギー バタン


猫娘「猫神様、マジギレしてたニャ。 ニャ」

神使「たっぷりお灸を据えてもらいましょう」


 助けてー!! 神使君! 助けてー!!!


神使「自業自得です」

猫娘「ニャ。 ニャ」


 ギャー!!!! 鬼が出たー!!!



─── 数時間後・サーバールーム


B夫「う~ 足痛い・・・」

B夫「それにしても、この結果はどうしたものかねぇ」カタカタ カタカタ


ガチャ


B夫「?」

猫神「ハロ~」

B夫「猫神様がここに来るなんて珍しい」


猫神「相変わらず凄い機械の量だねぇ~」

B夫「大金つぎ込んでるもんで」

猫神「良くそんなにお金あるよね~ ピットコインの取引を操作でもしたのかなぁ~?」チラッ

B夫「・・・もしかして、何か気付いてらっしゃいます?」


猫神「大丈夫だよ~ 必要悪なんだし」

B夫「俺、一生猫神さま派で行きます」

猫神「ふふっ。 で、どう?」

B夫「四柱結界に関してはかなり不安定といった感じ」

猫神「やっぱりそうなんだ~」

B夫「正面のモニター見て」カタカタ


パッ


猫神「これは~?」

B夫「神力漏れを起こしていると思われる場所。 早めに手を打たないと結界が破壊する可能性が高い」

猫神「第二柱か~ 凄爺に聞いた場所と一致してるね~」

B夫「凄爺?」

猫神「りんごちゃん神宮の主神で、結界維持の責任者的な神かなぁ~」

B夫「神宮は神宮でもそっちの神宮に行ってたんだ」


猫神「でも、結界の一つ位ならすぐ修復できそうだけど~」

B夫「そうは問屋が卸さない」

猫神「?」

B夫「神ちゃんのリンクがかなり弱くなってる。 時期に切れると思って間違いない」

猫神「あ~ やっぱり・・・ 何となくそうは思っていたけど」

B夫「あちらさんも気付いているはず」

猫神「どこまで気付いているかが問題かなぁ~」

B夫「どこまでって言うのは、これの事?」カタカタ


パッ


猫神「!」ピクッ

B夫「何で知ってるのかって顔。 これでも遊びで神宮の情報システムをハッキングしている訳じゃないよ?」

猫神「・・・・・・」


B夫「これは予想以上にまずいと思う」

猫神「B夫くんが知っているという事は神宮も存在に気付いているって事かな~?」

B夫「ザッツライト。 あとは、こちらの方の問題」カタカタ


パッ


猫神「まさかこの子がねぇ~・・・」

B夫「彼女については神宮は何も気付いていないはずだけど、今回の件と関わるのかは不明」

猫神「関係大ありだよ~」

B夫「え?」


猫神「というより、ここにいた人は全員関る事になるよ~」

B夫「猫神様はともかく俺は無関係でしょ」

猫神「逆だよ~。 私は元々ここに呼ばれてなかったし、B夫くん含め最初からいた人達が中心に関わる事になるだろうね~」

B夫「俺、巻き込まれたくない」

猫神「残念だけどそれは無理だろうね~ 私は裏方、みんなを影から助ける側だよ」

B夫「助ける?」

猫神「そう、B夫くん達を。 そして・・・ 彼女を・・・」



─── レセプションルーム


A子「うわーん! 足痛いよー!!」プルプル

神様「私、確実に死んだと思ったよ・・・」

神使「自業自得です」

神様「まだ命がある事を神に感謝」アーメン

A子「え~ キリストさんっているの?」

神様「さぁ?」

神使「日本の神が他宗教の神に祈りを捧げてどうするんですか・・・」


A子「それより、祭儀神さん達は?」

神使「意識が朦朧としていたので寝室に運んでおきました」

神様「だらしないな。 あのレベルの拷問で根を上げるようじゃまだまだだな」

神使「そうですか。 猫神様~」

神様「うそうそ! てめー呼んでんじゃねーよ!」ゲシッ


A子「でも、猫神さまって怖いね~」

神様「良い事教えてあげようか。 鬼のモデルって実は猫神なんだよ」

神使「またそんな事を」


A子「はぁ~ 久しぶりの美食クラブで楽しみにしてたのに」

神様「ね~」

A子「神宮からここまで来る電車賃も自腹だったんだよ? もう貯金ないよ・・・」ハァ

神様「しばらく美食クラブはお預・・・ !?」

神使「神様?」


神様「・・・・・・」


A子「神ちゃん、どったの?」

神様「あ・・・ いや・・・」

A子「はは~ん、また新しいアイデアが浮かんだんでしょー」

神様「・・・・・・」

神使「神様、どうされたんですか? 難しい顔をして」


神様「・・・A子ちゃん」

A子「なーに?」

神様「A子ちゃんは、神宮で内宮神と会ってる?」

A子「内宮神ちゃん? 毎日会ってるけど。 もちろんお忍びで」

神様「何か変わった事はない?」

A子「う~ん、いつもと変わらない」

神様「そう」


A子「ように見せかけているけど、あれは何か重大な事を隠してるね」

神様「・・・・・・」

A子「あれ? 神ちゃんて内宮神ちゃんと繋がっているんじゃないの?」


神様「A子ちゃん」

A子「ん?」

神様「神使」

神使「はい?」

神様「・・・あ~ えっと~・・・」

神使「神様どうされたんです?」


神様「2人にお願いが」

A子「神ちゃんのお願い事なら何でも聞いちゃうよ。 でもお金はないから貸せないけど」


神様「実はさぁ、守ってもらいたい物があるんだよね」

A子「守る?」

神使「何をです?」



神様「この国を・・・ この国を守ってもらえないかなぁ~ って」



神使・A子「え?」





神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
#19「神宮美食クラブ」 ―END


<(_ _)> 全部読み返してから続きを書きまする

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【#20】



── 神宮・授与所


A子「暇だね~」

同僚巫女「今日は本殿の参拝は出来ないからね」

A子「それでか~」グテッ

巫女「A子ちゃん・・・ 奉務中なんだし、もう少ししゃんとしないとダメだよ?」

A子「だって、お客さん少ないし~」

巫女「参拝者ね」

A子「今日は売り上げヤバそうだね~」

巫女「あんまりそういう言葉は使わない方が良いと思うよ?」


A子「どうしよう、駅前までお守り売り歩いてこいって言われたら」

巫女「神ちゃんさんじゃあるまいし・・・」

A子「・・・神ちゃんかぁ~」ボー


巫女「そう言えば、A子ちゃんって神ちゃんさんと仲良いよね」

A子「あ~ 私と神ちゃんは深い精神の所で繋がっているのです!」フンスッ

巫女「はいはい。 でも、神ちゃんさんは・・・ その・・・」

A子「神さま?」

巫女「」コクッ

A子「そんなの気にする必要ないって」

巫女「ダメだよ。 神ちゃんさんは神であることを隠しているみたいだけど、やっぱり接し方も一線は置かないと失礼じゃ?」

A子「別に神さまは偉くないんだし」

巫女「それは巫女として超えちゃいけない発言じゃ・・・ せめて先輩として敬わないといけないと思うけど」


A子「え~ イビキかいて腹出して寝るのに?」

巫女「・・・・・・」

A子「金欠で神宮菜園から野菜盗んで食べてるのに?」

巫女「・・・それはA子ちゃんもじゃ」

A子「お給料14万しかもらえない神さまってどうなの?」

巫女「14万!? 私より低いの!?」

A子「ちょっと待って。 私も14万なんだけど」

巫女「・・・・・・」

A子「ねぇ、巫女ちゃんは幾らもらってるの?」ガシッ

巫女「ちょ・・・ 私もそんなに変わら・・・ そんなに揺らさないで! A子ちゃん目が怖い!」ユサユサ


A子「はぁ~ 私はこんなにも立派な巫女なのに。 神宮のミス巫女だよ?」

巫女「その・・・ えっと・・・(そのミスは別の意味って・・・ 言わないでおいた方が良いかな)」


A子「私、やっぱり巫女に向いてないのかなぁ・・・」

巫女「A子ちゃんは神宮の巫女に憧れて入ったんじゃないの?」

A子「違うよ。 神ちゃんに進められて」

巫女「え!? どうして神ちゃんさんがA子ちゃんを?」

A子「・・・・・・。 そういえば神ちゃんに初めて会ったのも丁度この位の時期だったなぁ」ボー


──
────
──────




── 4年前


神様「ねぇ、暇なら神宮で巫女やらない?」

A子「やる」




──────
────
──



巫女「・・・・・・」

A子「今日は良い天気だよね~」

巫女「もしかして話すの面倒になった?」

A子「・・・うん」


巫女「それより、A子ちゃんって今日は午後から舞の奉納入ってなかったっけ?」

A子「え?」

巫女「確か祭儀神様の願掛け祈祷の・・・」

A子「やべっ! 忘れてた! 今何時?」

巫女「11時50分。 早く行った方が良いかも」

A子「うわ~! 行ってくる~ 今日も昼抜きだよ~」タッタッタッ


巫女「・・・大丈夫かなぁ」



─── 奥社近くの森


A子「ごめ~ん、遅れた」タッタッタッ

祭儀神「おー、ちゃんと来たか。 忘れてるかと思った」

A子「嫌だな~ 私がおっちゃんとの約束を忘れるわけないじゃんよー」

祭儀神「本当かよ・・・」


A子「それより私は何すれば良い?」

祭儀神「A子ちゃんは、右側の木にこれを取り付けていって欲しい」

A子「何? このマッチ箱みたいなやつ」

祭儀神「俺に聞くなよ。 B夫に聞けよ」

A子「聞いたけど訳分かんなかったんだもん」

祭儀神「あいつに聞いて理解できない事を俺に聞くなってーの・・・」


A子「木に巻き付ければ良いの?」

祭儀神「あぁ、地面すれすれの所が良いらしい」

A子「ふーん、じゃ行ってくる」

祭儀神「まてまて、この段ボールに入っている分全部だ」

A子「うそ! 超いっぱいあるじゃん!」

祭儀神「超いっぱいあるんだよ。 だから本殿の参拝を止めてまで時間作ったんだろーが」

A子「そっか。 これは時間かかるね~」

祭儀神「ま、緊急事態だしな」チラッ

A子「・・・・・・」


祭儀神「決心はついたか?」

A子「まだ。 そんなのつく訳ないじゃんよ・・・」

祭儀神「あー まぁ、そうだよな・・・」


──
────
──────



─── 数日前・喫茶ねこまた


神様「2人とも神にならない?」

神使「またそんな事を・・・」

A子「丁重におとこわりします」

神様「いや、いつものおふざけな感じじゃなくて今回は真剣なんだけど」

神使「いつもと同じノリじゃないですか」

A子「私は24歳になったら神宮を定年、翌年にIT社長と結婚してスカイチュリーの最上階に住む予定だから」

神使「スカイチュリーには住めないと思いますが・・・」

神様「神にならずにこのままいってもA子ちゃんは結婚できないよ?」

A子「んがっ!」


神様「だから神になってよ~ お願い」

A子「神になったら結婚できる?」

神様「・・・・・・」

A子「何とか言ってよ~」


神使「何か理由があるんですか?」

神様「まぁ・・・」


ガチャッ


一同「?」クルッ

猫神「ハロ~」

神様「猫神か・・・ 何だよ、今大事な話してんだからあっち行ってろって」シッシッ


猫神「第零柱絡み~?」

神様「・・・・・・」

神使「第零柱?」

A子「チュウ?」

神様「お前、何か知ってるのか?」

猫神「ん~ もう一人の神ちゃんの件とか~?」

神使「もう一人って、神宮の奥社にいる内宮神様の事ですか?」

A子「内宮神ちゃんがどうかしたの?」

神様「・・・・・・」


猫神「か~みちゃん」

神様「ハァ~・・・ レセプションルームに皆を集めてくれ。 話がある」

猫神「オッケ~」



─── 喫茶ねこまた・レセプションルーム


祭儀神「話って何だ?」

A子「おっちゃんがキャバクラに金をつぎ込んでる件についてだと思う」

祭儀神「!? お、俺は月5万までしか使ってないからソフトな方だと思うぞ」

猫娘「十分使ってますニャ。 ニャ」


神使「神様、何かマズい事でも起きているんですか?」

神様「ん~ マズいっちゃマズいけど」

猫神「今までで一番マズいよね~」

一同「え!?」

神様「お前は少し黙ってろや」

猫神「ごめんごめ~ん」


猫娘「まさか! 日本の危機ですかニャ!? ニャ」

A子「流石にそれはないって。 そんなもの私達に話しても仕方ないし」

神様「いや・・・ あの~・・・」

神使「まさか・・・ 神様・・・」

神様「そのレベルのお話しでございます」

一同「!?」

神様「って言っても、A子ちゃんと犬ころの協力があれば解決したも同然」

神使「私とA子ちゃんでそんな危機をどうにか出来るとは思えないのですが・・・」

A子「確かに私は神宮きっての可愛い巫女で、巫女服が似合うね! ってよく言われるし、立派な巫女だと思うけど」

神使「神様の方が可愛くて巫女服が似合います」

A「お、おふっ」

一同「・・・・・・」

神様「い、今その話は置いておこう・・・///」

神使「あっ! す・・・ すいません///」

A子「くそっ、惚気やがって・・・」ボソッ


神使「えっと・・・ 猫神様が第零柱がどうとか言っていた気がするのですが関係があるのですか?」

神様「長官くん」

長官「何かな?」

神様「神宮の動きについて話してくれる?」

長官「・・・動きというのは?」

神様「土地の件だよ」

長官「・・・・・・。まだ未確認情報だが、土地の売却計画が進んでいるようだ」

神使「土地って、まさか神宮の土地ですか?」

長官「あぁ。 奥社近辺の土地だと思う」

A子「奥社って内宮神ちゃんがいる場所じゃん」

祭儀神「おいおい、そんな話聞いてないぞ?」

長官「私も正式には聞いていないが、宮司会で話し合われているようだ」


神使「確か奥社は大昔に龍を封印していると伺っておりますが」

A子「龍? 何それ」

猫娘「そんなもの本当にいるんですかニャ? ニャ」

祭儀神「俺も長いこと生きているが見たことはないな」

長官「当時の人達にとっては迷信も奇跡も現実と区別が付かなかったからね」


神様「・・・・・・」


神使「神様?」

神様「龍はいた。 いや龍じゃないかも知れないけど・・・」

一同「はい?」


祭儀神「おいおい、本当かよ」

神様「私にもよく分からないんだ。 でも何かがいた・・・ いや、あった」

神使「どういう事ですか?」

猫神「昔ね~ 大勢の人があの場所で亡くなったんだよ~ 私は当時出雲にいたから知らないんだけど~」

神様「亡くなった者は皆、青い龍を見たと言っていた」

一同「・・・・・・」

A子「じゃぁ、あの場所には本当に何かが封印されているって事?」

神様「」コクッ

B夫「亡くなった人だけだ見えた青い龍・・・」

神様「正体は全く分からなかった。 私と一緒にいた者も龍が見えたと言った後に・・・」

神使「それを封印しているのが第零柱という事ですか?」

神様「そう」

祭儀神「それは俺も初耳だな」

神様「零柱に関して知っているのは私と猫神、あとは凄爺だけだ。 神の中でもトップシークレット扱いだし」


長官「もしかして、神宮はそれに気付いているのかな?」

神様「たぶん。 タイミングが良すぎる」

神使「タイミング?」

神様「私と内宮神との意識共有のリンクが切れた」

A子「内宮神ちゃんと!?」

神使「ちょっと待って下さい。 それって・・・ 幼女神さまと同じじゃ・・・」

神様「あぁ。 今の私と内宮神は別者だ」

神使「・・・・・・」


祭儀神「一つ聞いても良いか?」

神様「なに?」

祭儀神「四柱結界と、その第零柱とは関係あるのか?」

猫神「四柱結界は日本の地下に溜る神力放出を抑制する役割がメインだけど~」

神様「他には、飽和神力を零柱に送って結界維持の強化の役割も担っている」

祭儀神「なるほどな・・・」

神使「それで内宮神様が常に奥社にいると」

神様「そう言う事」

長官「ちょっと待った。 それほど大きな神力結界なら管理神も神力を使う必要があるんじゃないか?」

祭儀神「そうだな。 ・・・まさか神ちゃんが自分の神力を封印している理由って・・・」

神様「いや、ほとんどは内宮神の神力だ。 私は向こうの神力が足りなくなった時にたまに渡す程度」

神使「いざという時のために神力が使えるように貯めていたのですか・・・」

猫神「神を作るため、封印を維持するため・・・ 両方をこなすとなると結構な神力が必要だからね~」


神様「簡単に説明するとこんな状況。 以上を踏まえて、皆に協力をお願いしたい」

長官「そんな秘密を話さざるを得ない程までに緊迫した状況ということだね」

神様「」コクッ


B夫「オッケ。 俺がすべきことは土地の売却の進行をハッキングで調べればいい訳ね」

神様「もう一つ、封印した物の正体を知りたい」

B夫「それはハイレベル」

神様「今の技術ならもしかしたら正体が分かるかも・・・」

B夫「・・・分かった。 両方とも速攻で調べる」

神様「長官君達は、いざという時のために他の神達に協力を取り付けておいてもらいたい」

長官「お安いご用だ」


A子「ねぇ、それと私が神になる事とどういう関係があるの?」

神様「それは~・・・」

A子「まさか! 私が生け贄の巫女として龍の怒りを静めるとか!?」

祭儀神「A子ちゃん、話聞いてたのか・・・?」

神様「この先、正直何が起こるか分からない」

A子「マジですか」

神様「万が一・・・ 封印が解かれて再封印を行う必要があった場合・・・ 神を作るために必要な神力が溜るまで時間が必要だ」

A子「どのくらい?」

神様「A子ちゃんに3回位生まれ変わってもらわないといけない位」

A子「そんなに!?」


神様「だから今、二人を神にしたい」

神使「・・・・・・」


A子「神使さんが神になるのは分かるけど、何で私もなの? やっぱり生け贄?」

神様「A子ちゃんを神にしたい理由は・・・」

A子「理由は?」



神様「私が認めた人間だから」ニコッ



──────
────
──



─── 奥社近辺の森


祭儀神「よしと。 これで全部終わったな」

A子「ちかれた~」グテッ

祭儀神「予定より早く終わったな」

A子「おっちゃんが、1個設置するごとに休憩なんかしなければもっと早く終わったと思います!」

祭儀神「おれも年なんだよ。 少しは大目に見てくれよ」

A子「私100個も付けたんだよ? おっちゃんは30個しか付けてないじゃん!」

祭儀神「あとでお供え物分けてやるから」

A子「マジで!?」

祭儀神「さっき高級和牛肉のお供えがあったから」

A子「よっしゃー!! おっちゃん偉い!」グッ

祭儀神「そりゃどうも」

A子「私は一生おっちゃん派だよ」


祭儀神「ふふ・・・ ふはははっ!」

A子「ちょとどうしたの?」

祭儀神「いやいや、すまない。 おかしくてな」

A子「頭が?」

祭儀神「違うわ。 俺は神宮の神だ」

A子「知ってる」

祭儀神「しかも神の中でも最高位の祭儀神」

A子「最高位なんだ。 はじめて聞いた」

祭儀神「そんな俺に自然に接してきた人間は、A子ちゃんが初めてだ」

A子「?」

祭儀神「神宮歴代の大宮司達でさえ、俺の前では頭を下げ常に一歩引いてんだぞ?」

A子「そうなんだ」


祭儀神「それに引き換え、A子ちゃんはただの巫女。 今まで俺はここの巫女とまともに会話すらした事もない」

A子「私はただの巫女じゃありません~ 神宮のミス巫女です~」ベー

祭儀神「そうかそうか、それはすまないな」ペコリ

A子「分かればよろしい」

祭儀神「神ちゃんがA子ちゃんをどうしても神にしたいのはよく分かる」

A子「どういうこと?」

祭儀神「A子ちゃんは、神ちゃんと同じなんだよ」

A子「私が?」

祭儀神「あぁ、きっと神ちゃんのような神になれる」

A子「それって月給14万のダメ神になるって事?」

祭儀神「はははっ! そうだな、ダメ神だ。 神ちゃん以上のダメ神になれる素質がある」


A子「ちょっとおっちゃん、裏まで顔貸してくれる?」

祭儀神「あいにく、俺はこれからキャバクラだ」

A子「このおっさん・・・」

祭儀神「じゃ、戻るか」

A子「あ~ 私ちょっと奥社に行ってくる」

祭儀神「内宮神か?」

A子「うん」

祭儀神「分かった」

A子「じゃ、また後で」タッタッタッ

祭儀神「気をつけろよ」

A子「あいよー」


祭儀神「・・・・・・。 さて、急いで出かけるか」



─── 神宮・奥社


コンコン


 神聖な社に何用か? 合い言葉を述べよ


A子「知らない」


ギー


内宮神「A子ちゃん」

A子「ちょっとお邪魔しても良い?」

内宮神「もちろん。 上がって」

A子「おじゃましま~す」


内宮神「どったの? お昼は午前中に置いていったお供えをもらったけど」

A子「内宮神ちゃん、神ちゃんと意識が別れたんだって?」

内宮神「・・・あっちから聞いたの?」

A子「うん」

内宮神「そう・・・ 数日前にね」

A子「内宮神ちゃんはこれからどうするの?」

内宮神「私は・・・ 私のやるべき事をやるだけ」

A子「ずっとここに居るの?」

内宮神「封印の事は聞いた?」

A子「うん。 龍だか何だかよく分からない物を封印してるって」

内宮神「この結界だけは絶対に維持しないといけない。 それが私の役目」

A子「でも・・・」


内宮神「ここら辺の土地を売り払おうとしているんだって?」

A子「うん」

内宮神「大丈夫。 絶対にそうはならないから」

A子「そうなの?」

内宮神「その為に神ちゃんが策を練っているんでしょ?」

A子「でも、流石にどうなるか・・・」

内宮神「絶対何とかなる。 今までだって守り通してきたんだから」

A子「内宮神ちゃん・・・」

内宮神「この場所が・・・ いや神宮自体が取り壊しになるって話が今まで何度もあったんだ」

A子「え?」

内宮神「そんな危機が何度も何度もあって・・・ でも、ここは何千年も無事にこの場所にある。 今回だってきっと・・・」



内宮神「だから、私は・・・ 神ちゃんを信じる」

A子「・・・・・・」



─── 喫茶ねこまた・サーバールーム


ガチャッ


猫神「ハロ~」

B夫「猫神様いらっしゃい」

猫神「祭儀神君から機械の設置が終わったって電話があったよ~」

B夫「オッケ」

猫神「何を取り付けたの~?」

B夫「奥社の下に何が埋まっているのかを調べるための測定器」

猫神「でも封印されているから分からないんじゃないの~?」

B夫「それは計測してみないと。 たぶん10分位で結果が出る」

猫神「ふ~ん。 で、売却の件の方は何か分かった~?」


B夫「これ見て」カタカタ

猫神「メール? ハッキングしたの?」

B夫「宮司会は議事録自体がないし、この件に関する書類は手書き保管されているからさすがに取り出せない」

猫神「じゃぁこのメールは~?」

B夫「最終的な文章を作るためには下っ端が各所とやり取りをして詰めていく」

猫神「あ~ なるほど~ 最終文章は分からなくても、直前までのやり取りが分かれば良いって事だね~」

B夫「ザッツライト。 このメールの最後、“それでは、こちらの契約草案で最終とさせていただきます”って書いてある」

猫神「さすがB夫くん。 怖いね~」

B夫「その言葉、全反射でお返しします」

猫神「で? メールの中身は~?」

B夫「今開く」カタカタ

猫神「差出人は~ 神宮の新規開拓室?」

B夫「そう。 相手は、日本新燃準備会社」

猫神「聞いたことない所だね~? B夫君知ってる~?」

B夫「・・・・・・」



ピピピピ


猫神「何の音~?」キョロキョロ

B夫「簡易測定が終わった。 えーと・・・」

猫神「何これ? 凄い文字の羅列だね~ Pbって文字がいっぱいあるけど~」

B夫「・・・やっぱり」

猫神「?」


B夫「猫神様、すぐに神ちゃんのところへ行きましょう」



─── 神宮近くの裏通り


神様「いや~ 久々の伊勢だね」モグモグ

神使「いつの間に赤福なんか買ったんですか・・・」

神様「お前が駅でおしっこ行っているとき」

神使「大きい声でそう言う事は言わないで下さい///」

神様「お前が聞いたんじゃねぇかよ!」ゲシッ


神使「それより・・・ 神宮に行く道とは違いますね」

神様「考えなしで敵地に乗り込むほど私は愚かじゃないのだよ」

神使「ではどちらへ?」

神様「あった。 ここ」

神使「雑居ビル・・・ のようですが」


神様「この汚らしい建物は、なんと! 神様機構の本庁舎なのだ!」

神使「え・・・ この壁のコンクリが所々剥がれ落ちている建物がですか?」

神様「うん。 通称ボロビル」

神使「・・・・・・。 表札に“田中”って書いてありますが」

神様「神様機構なんて看板出せるわけないだろ」

神使「それはそうですが・・・ なんで田中なんです?」

神様「ちなみに両隣の建物も機構の持ち物。 中はスッカラカンだけど」

神使「長官さんはこんな所で仕事をしていたのですか・・・」

神様「長官君は神宮にいる事が多いし、ほとんど倉庫代わりだね。 普段は誰もいないはず」

神使「なんか勿体ないですね」

神様「しばらくはここが私達の前線基地」

神使「神宮まで徒歩で10分といった場所ですね」

神様「専用の地下通路があるから5分で着く」

神使「あっ、そういう所は流石ですね」



prrr prrr


神様「?」ゴソゴソ

神使「メールですか?」

神様「猫神だ。 B夫と猫娘を連れてこっちに来るって」

神使「随分と急ですね。 何か分かったんでしょうか?」

神様「らしいな。 明日から早速行動開始だな」

神使「きちんとした作戦を立てて下さいね?」

神様「へいへい」テクテク


神使「・・・・・・」



─── 翌日・神様機構本庁舎(ボロビル)


猫神「この建物まだあったんだねぇ~」

長官「私もボロビルに来たのは久しぶりだ」

神使「本当にボロビルと言うのですね・・・」


神様「あれ? 祭儀神は?」キョロキョロ

A子「なんか出かけてるみたい。 昨日キャバクラに行くって出たきり戻ってない」


B夫「時間も惜しいし始めよう」

神様「おっ、B夫やる気だねぇ」

猫神「悠長な事を言っていられない状況だしねぇ~」

神様「聞きましょうか」


B夫「まずは封印されているものについて」

神使「何か分かったのですか!?」

B夫「取り付けてもらった測定器が奥社近辺で大量の鉛を検出した」

神様「なまり?」

B夫「そう、通常では考えられない量」

神使「どういう事です?」

B夫「過去にこの場所で鉛が大量に生成される事象が起こっていたと考えられる」

A子「鉛ってどうやったら出来るの?」

B夫「方法は色々あるけど・・・ 他に検出した物質と合わせて推察するに、ある物質が核分裂を起こした後に出来たと考えられる」

神使「核分裂!?」


B夫「単刀直入に言う。 高純度のウランが大量に地下にあると思われる」

一同「ウラン!?」

神使「それって原子炉とかに使われる燃料ですよね?」

B夫「ザッツライト」

長官「なんでそんな物が日本に?」

B夫「ウラン自体は結構どこにでも微量ながらある。 日本でもいくつか採掘できる場所もあるし」

長官「これは驚いたな」

神使「でも仮にウランだとしたら、龍というのは一体・・・」

B夫「高速の放射線粒子が物質と相互作用するときに青く光る現象がある。 もちろん核分裂時にも起こる」

神使「青く・・・ まさかその光が!?」


B夫「目視できる程では無いけど、目や頭部内で反応が起こると青く光ったと感じるという報告がある」

神使「それが青い龍の正体・・・」

B夫「正確にはチェレンコフ効果」

A子「私、感じた事ないよ?」

B夫「これを感じたらまず助からない」

A子「何それ怖い!」


神使「仮に、今結界を解いた場合どうなるんです?」

B夫「推定埋蔵量からすると結界解除と同時に核分裂の暴走が始まって一瞬で一帯が吹き飛ぶ」

神使「一帯というのはどのくらいの規模です?」

B夫「日本はもう住めないかもね」

一同「!?」


神使「しかし、当時はそこまでにはなっていなかったのでは?」

B夫「当時は鉱物が核崩壊をある程度抑制していたと考えられる」

神使「今は違うんですか?」

B夫「地殻の変動で奥社近辺に地下水が流れてる。 しかもかなりの量」

A子「神宮菜園も地下から水汲んでるって言ってた」

神使「それが何か問題でも?」

B夫「水が核分裂のスピードを速める。 この辺を掘ったら水がウランに浸かって間違いなく暴走する」

神使「ちょっと想像を超えた事態ですね・・・」

猫神「もう一つマズい事があるんだよね~」

長官「まだあるのかね・・・」


B夫「土地の売却に関して」

神使「ウランの事を話せば神宮も思いとどまるのでは?」

B夫「逆。 神宮はそのウランを採掘しようとしてる」

一同「は!?」

B夫「あの土地を取得しようとしているのは“日本新燃準備会社”という所」

A子「何その変な名前の会社。 センスないね」

B夫「1年前にインターナショナルエクスプロレーションという資源開発の世界的企業と合弁で設立された会社」

神使「合弁?」

B夫「そう、筆頭株主は神宮土地開発財団」

長官「神宮? どういう事かね?」

B夫「神宮が神宮の出資した会社に土地を売り払うって事」

神使「なるほど・・・ つまり営利事業が出来ない神宮のダミー会社という事ですか?」

B夫「ザッツライト。 神宮も地下にウランが埋まっている事に気付いている」


長官「しかし、封印を解いたら暴走するようなものを採掘するだなんて無理だろう」

B夫「ウランは時間経過と共に減衰していく。 通常の計算では発掘には問題ないという結果になる」

神使「しかし、話せば分かってもらえるのでは?」

B夫「相手は世界的な資源開発会社。 結界で自然界から隔離状態で維持されているなんて信じるわけない」

長官「至急契約の中止を進めよう」

猫神「それが~」

B夫「契約はすでに終了して売買契約が締結されている」

長官「なっ!」

B夫「しかも、発掘作業が来週から始まる」

神使「そんな・・・」

神様「・・・・・・」


長官「神宮は神が不要な存在になっているようだな・・・」ハァ



神使「神様、どうしましょう・・・」

神様「すまない」

神使「神様・・・」

神様「ちんぷんかんぷんで何を話しているのか全く分からない」


一同「」ガクッ


神様「でも、一つだけ・・・」

一同「?」


神様「リンクが切れる直前、内宮神は“この結界は私が守るから気にするな”って言ったんだ」

一同「・・・・・・」

神様「私は、結界を守れるようにしておくから後は任せろと告げた」

神使「神様・・・」

神様「私は絶対諦めない。 今までだって守ってきたんだ」グッ

一同「・・・・・・」


長官「四柱結界の威力をさらに上げるのはどうだ?」

神使「なるほど、結界の威力を上げれば第零柱の封印も強化できるという事ですね」


 祭儀神「それは無理だな」テクテク


猫神「祭儀神く~ん?」

祭儀神「遅れてすまないな」


A子「キャバクラの朝帰りは良くないと思います」

祭儀神「失礼だな、青森に行ってたんだよ。 その前にキャバクラには寄ったけど」

猫娘「キャバクラには行ってるニャ。 ニャ」

猫神「青森って、凄爺のところ~?」

祭儀神「あぁ。 四柱結界について聞いてきた」

猫神「そっか~・・・」

祭儀神「四柱結界はボロボロだ。 持ってあと数十年」

長官「数十年!?」

祭儀神「今の状態を維持して数十年だ。 とても出力を上げるなんて不可能だな」

B夫「俺の計算だと、第二柱が決壊寸前。 出力アップより先にこっちを修復する方が先」

長官「だったら、この際新しく結界を張り直すというのは?」

B夫「その場しのぎ。 問題解決とは言えない」

神様「・・・・・・」


A子「なんか一辺に色々起こってるんだね~」


長官「少し妙じゃないか?」

猫神「・・・・・・」

長官「四柱結界は少し前から不安定な状態にあったが・・・」

神使「確かに神様と内宮神様の件も含め、神宮がある程度知っていたとしてもタイミングが・・・」

B夫「もしかして偶然だと思ってる?」

長官「どういうことかね?」

神使「まさか・・・」

B夫「四柱結界は意図的に不安定にされている」

長官「何だと?」


B夫「神宮のメールを漁っていたらこんなもの見つけた」ペラッ

長官「・・・これは!?」

神使「第三柱結界減衰化計画!?」

B夫「神ちゃんが再封印をして失敗に終わったみたいだけど」

猫神「たぶん、他の四柱にも手をつけてるだろうね~ 特に今は第二柱とか」

長官「あいつら・・・」


B夫「それと・・・」チラッ

猫神「・・・・・・」

長官「まだ何かあるのか・・・ この際だ、全て話してくれ」


猫神「神ちゃん? 内宮神ちゃんとのリンク・・・ もしかして、自分から切った~?」

一同「え!?」

神様「・・・・・・」


神使「ちょっと待って下さい。 どういう事ですか!?」


神様「」トテトテ


神使「神様?」

神様「ちょっと出かけてくる・・・」


ギー バタン


神使「神様・・・」

猫神「今日は、一旦解散しようか~・・・」



─── 10分後・神宮奥社


神様「」コンコン


ギー


内宮神「久しぶり」

神様「よっ」


内宮神「上がって」

神様「ん」


ギー バタン



─── 夜・機構ビル屋上


神様「・・・・・・」ボー


ギーッ


神様「?」クルッ

 神使「神様、ここにいたんですか」テクテク

神様「犬ころか」


神使「何しているんです?」

神様「何も?」


神使「隣、座っても良いですか?」

神様「・・・どうぞ」

神使「失礼します」

神様「・・・・・・」

神使「曇っていて月は見えないですね」

神様「そうね」


神使「どちらへ行かれていたのですか?」

神様「ちょっと」

神使「・・・・・・」

神様「内宮神の所だよ。 ちょっと顔見ておこうと思って」

神使「次の作戦会議は明日の朝だそうです」

神様「ん」


神使「・・・・・・」

神様「・・・・・・」


神使「神様、何か隠してらっしゃいますね?」

神様「はて、どのことでしょうか? 懲りずに鬼牡蠣の封印解除を狗神にやらせていることかな?」

神使「先日、神様が仰った私とA子ちゃんを神にしたいというお話しです」

神様「そっちか。 本心だし嘘じゃない」

神使「再封印をすることになった場合、神力が足りなくなるから先に私達を神にしたいんですよね?」

神様「・・・そうね」

神使「つまり、二人を神にするには結構な量の神力が必要だと」

神様「まぁ・・・ それなりには」

神使「それだけ神力を使って、いざという時に再封印は出来るんですか?」

神様「・・・・・・」

神使「もし出来るのであれば、今私達が神にならなくても問題ないと思いますが?」

神様「・・・・・・」


神様「ハァ~・・・ しくったね~」

神使「神様らしくないですね」


神様「・・・・・・。 神になってくれる?」

神使「お断りします」

神様「・・・・・・」


神使「全て知っていらしたんですね?」

神様「・・・・・・」

神使「四柱結界の件も神宮が手を引いていると。 神宮が結界を壊して封印されているものを掘り出そうとしている事も」

神様「・・・・・・」

神使「そして、危険な状態になっている内宮神様を助けるために意識共有を切った」

神様「・・・・・・」


神使「他に方法はないんですか?」

神様「まるで私がこれから何をしようとしているのか分かっているような言い方だな」

神使「分かります」

神様「・・・・・・」


神使「分かりますよ。 神様は優しいですから・・・ 何をしようとするかなんて簡単に分かります」

神様「」フッ


神使「もう少し一緒に考えましょうよ。 いつもみたいな小ずるい手段でも」


神様「・・・なぁ、神使」

神使「?」

神様「人も神使も神も、この世界に生がある物には全て終わりがある」

神使「・・・・・・」

神様「お前や私は人に比べれば随分と長いけど、それでもいつかは終わりを迎えるときが来る」

神使「・・・・・・」

神様「次の世代に役割を繋ぐことでこの世界は回っているんだ」



神様「だから・・・」


神様「私は、自分の役割をお前に託すと決めている。 当然、お前も次の世代に繋ぐことになる」

神様「私は・・・ 私はお前にこの国の平和を任せたい」

神使「それは今でなくても・・・」


神様「なぁ、お前はこの国が好きか?」

神使「もちろんです」

神様「即答か」

神使「神様が作ったこの国が大好きです」


神様「今まで頑張ってきて良かった」フッ


神使「ですから、神様───」

神様「私は、お前が好きと言ってくれたこの世界を壊したくない」

神使「神様・・・」


神様「これまで凄く時間がかかったんだぞ? もう一度作れと言われても私には無理だ」

神使「しかし! まだ方法が!」


神様「神使さま」

神使「!?」


神様「私の愛する神使さま・・・ どうか私の望みを聞いていただけないでしょうか・・・」

神使「・・・・・・」

神様「あなたが好きだと言ってくれたこの国を、私は壊したくないのです」

神使「・・・嫌です」

神様「・・・・・・」


神使「神様のいない世界なんて嫌です!」

神様「」ニコッ


神使「ぅ・・・」



神様「お願いいたします・・・ どうか私の我が儘を許して下さい」フカブカ


神使「っ・・・ くっ・・・・・・」


神様「あなたなら大丈夫。 私が認めたんですから」

神使「そんな事・・・ 言わないで下さい・・・」



神様「あなたにこれを」ゴソゴソ

神使「これは・・・ 神様のお守り・・・」

神様「最後の1個はあなたに渡すと決めていました」

神使「・・・・・・」

神様「その中には他のお守りと違って、私のおまじないを入れてあります」

神使「おまじない?」

神様「ぜひ、これを神使さんに持っていて頂きたいのです」スッ

神使「・・・・・・」


神様「お願いします。 受け取って下さい」

神使「・・・・・・」ギュッ

神様「ありがとう」


神使「・・・・・・」

神様「」ニコッ


神使「どうして神様はそんなに優しいんですか・・・」

神様「それはあなたもです」



神使「一つだけ約束して下さい」

神様「?」


神使「最後まであがいて下さい。 いつもみたいに・・・ どんな手を使ってでも」

神様「・・・・・・」

神使「それが条件です」



神使「それに」

神様「?」

神使「当日は、エガちゃんのスペシャル番組もありますから」


神様「分かった」クスッ




神使「神様!」ダキッ

神様「神使さん・・・」ダキッ



─── 翌日


ガチャッ


神使「遅くなりました」テクテク

神様「わりーね」トテトテ


猫神「おはよ~ 神ちゃ・・・ !?」

祭儀神「ほぉ」

長官「これは驚いたな」

B夫「?」

A子「みんなどったの?」キョロキョロ

猫娘「神使先生凄いニャ。 ニャ」

A子「え? 何が??」


神様「たっぷりと神力を使わせて頂きましたので」ツヤツヤ

神使「お恥ずかしいです・・・」

A子「ねぇ、何が? みんな何に驚いてるの?」


神様「ご紹介しよう! 神使之神だ!」

神使「・・・///」ペコリ


A子「え!? 神使さん神になったの?」

猫娘「見て分からないんですかニャ? ニャ」

A子「ちょっと猫娘ちゃん、もしかして私をディスってる?」

猫神「あっ、そう言えばこの中でA子ちゃんだけ~・・・」

A子「猫神様まで私をディスったー!」

B夫「猫神様? 俺も人なんだけど・・・」

祭儀神「どうすんだ? A子ちゃんは」

A子「そんな事を言っても私は流されませんので」プイッ


神使「私のことはともかく・・・ 早速会議を進めましょう」

B夫「みんなには俺は見えてないのかな?」キョロキョロ

猫娘「ニートは人じゃないニャ。 ニャ」

B夫「・・・・・・」

神様「じゃぁ、長官君からよろ」

長官「あぁ。 昨日の夜に神宮の方から正式に土地売却の話を受けた」

祭儀神「無理矢理聞き出したんだがな」

猫神「何て言ってた~?」

長官「・・・これが契約書のコピーだ」バサッ

猫娘「うニャ~ 分厚いニャ。 ニャ」

長官「B夫君の言ってた通り売却はすでに完了済み。 奥社の取り壊しと地質調査が4日後だ」

神使「急ですね」

B夫「やっぱりスケジュールは短縮されたか」

神様「なんとかして止められないの?」スリスリ

A子「?」チラッ


長官「契約解除は違約金が100億と神宮の土地の全てを譲渡だそうだ」

神使「随分とメチャクチャな契約ですね」

B夫「周りが反対してくると見込んだ防御策」

祭儀神「全く、呆れて言葉もでんわ」

長官「言葉は出なかったが、手は出てたな」

祭儀神「うっ・・・」

神様「お前、手を出したのかよ・・・」スリスリ

猫神「?」チラッ


祭儀神「ちょっとド突いただけだよ」

長官「あれは殴ったと言うんだよ」

猫神「祭儀神君がキれるなんて珍しいねぇ~」

祭儀神「すまん・・・」


B夫「地質調査のボーリングだけは何としても阻止しないと」

神様「残り4日か」スリスリ

祭儀神「?」チラッ


B夫「時間的に出来ることは限られる」

祭儀神「念のため、当日に各結界へ神を集めて強度を一時的に上げる手は打った」

神使「しかし、四柱結界がもつでしょうか?」

祭儀神「ギリギリの所で凄爺に調整を頼んでいる」

猫神「でも、その場しのぎにしかならないねぇ~」

神様「特に第二柱は不安だな」スリスリ

長官「?」チラッ


A子「あの~」

一同「?」

A子「私バカだから詳しくは分からないんだけど、四柱結界っていうのが大きければそれだけ結界も強くなるの?」

B夫「原理的にはそう。 でも日本国内東西南北の最端から結界を張っても計算上は今とあまり変わらない」

A子「だったら海外は使っちゃダメなの?」

一同「海外!?」

A子「うん、世界中から貼れば凄く強くなるんじゃない?」

一同「・・・・・・」

A子「ごめん、無理だよね・・・ わすれて」ハハハ

B夫「いや、それはありかも」

祭儀神「でも海外って、どうやって結界を張るんだ?」

猫神「海外か~・・・」


神様「う~ん・・・」スリスリ

一同「・・・・・・」チラッ


A子「ねぇ、神ちゃん?」

神様「なに?」スリスリ

A子「さっきから何やってるの?」

祭儀神「俺も気になって集中出来ないんだが」

長官「そ・・・ そうだな。 目のやり場に困るというか・・・」

猫神「女の子がそんなところ、ちょっとはしたないね~」


神様「いや、股が痛くてさ」

神使「!!」ブボッ

A子「ちょっと神使さん、お茶吹き出して汚い~」

神使「すいません」ゲホッ ゲホッ


猫神「いや~・・・ まぁ・・・ 神ちゃんも女の子だものねぇ~・・・///」

長官「そういう反応に困ることは言わないでくれ・・・」


祭儀神「程々にな」ボソッ

神使「・・・・・・///」



─── 翌日(取り壊し3日前)・ボロビル


ガチャ


A子「ちわ~」

猫娘「A子さんニャ。 ニャ」

A子「あれ? みんなは?」キョロキョロ

猫娘「うニャ~ みんな用事があるみたいで今日は作戦会議はお休みになったニャ。 ニャ」

A子「そうなんだ。 私は別に用事ないけどさ」

猫娘「長官さんと祭儀神様は青森、猫神様はウサちゃんに会いに行くって言ってたニャ」

A子「ウサちゃん?」

猫娘「詳しくは分からないですニャ。 ニャ」


A子「ふーん。 神ちゃん達は?」

猫娘「神ちゃん様と神使先生は二人で出かけたニャ。 ニャ」

A子「くそ、デートかよ・・・」チッ

猫娘「とってもラブラブだったニャ~。 ニャ」

A子「あっ、そういう話は心が痛くなるから結構ですので」

猫娘「A子さんも彼氏いない歴=年齢でも諦めなければ良いことありますニャ。 ニャ」

A子「諦めてないし」

猫娘「ニャ? ニャ」

A子「私はこう見えても猫娘ちゃんよりは人生経験豊富なのです」

猫娘「私はこう見えてもA子さんより数百年長く生きてますニャ。 ニャ」

A子「大変失礼いたしました、猫娘先輩」フカブカ

猫娘「ニャ。 ニャ」



 B夫「おはよう」テクテク


猫娘「もうお昼ニャ。 ニャ」

A子「相変わらずB夫さんはお寝坊さんだね~」

B夫「徹夜で調べ物してたんだけど・・・ あっ、猫さん昨日は夜食ありがとう」

猫娘「ニャ。 ニャ」

A子「おやぁ~? 猫娘ちゃんはB夫さんにお優しいんですねぇ~」

B夫「猫さんは俺に首ったけ」

猫娘「B夫さん? 何度も言いますが、本気で不快なのでそういう事は言わないで下さい」

B夫「すいません・・・」

A子「B夫さんも余計な事を言わなきゃ良いのに」

B夫「?」


猫娘「お、お腹が空いたニャら“ねこまんま”で良ければすぐ作るニャ。 ニャ」

B夫「おねしゃす」

猫娘「A子さんも食べていきますかニャ? ニャ」

B夫「猫さんの猫飯は最高。 なんせ本物だし」

A子「それって人が食べても大丈夫なの?」

猫娘「とっても美味しいですニャ。 ニャ」

A子「質問の答えになってないんだけど・・・ 私は戻って食べるから気にしないで」

猫娘「ニャ。 ニャ」


A子「じゃぁ私神宮に戻るね?」

猫娘「また明日ニャ。 ニャ」

A子「じゃぁね~」テクテク



─── キセキ野教会


猫神「ここか~・・・」


ギー


猫神「お邪魔しま~す」

修道女「?」クルッ

猫神「お邪魔しても良いですか~?」

修道女「もちろんです。 どうぞお入り下さい」

猫神「立派な教会ですね~」

修道女「ありがとうございます」


猫神「はじめまして~ わたし猫神と申します~」

修道女「猫神さま・・・?」

猫神「日本の神で~す」

修道女「!? あっ、シスターうさーを呼んで参ります!」

猫神「いえいえ、私が用があるのは~───」


 うさー「ね~ シスターちゃん、お腹すいたから塩バタコーンラーメン作って」テクテク


修道女「シスターうさー、お客様の前ではしたないことを言わないで下さい・・・」

うさー「ん?」

猫神「ハロ~ 久しぶりだね~ うさーちゃ~ん」

うさー「げ! 猫神・・・」

猫神「」ギロッ

うさー「さま」


猫神「久しぶり~」ニコッ

うさー「う~ 私、何も悪い事してないよ」

猫神「別にお説教しに来たわけじゃないよ~」

うさー「本当に?」

猫神「ちょっとお願いがあって~」

うさー「私に?」

猫神「ん~ うさーちゃんもだけど、本命はシスターちゃんの方かなぁ~?」

修道女「私・・・ ですか?」

うさー「?」



─── 1時間後


修道女「はい、えぇ・・・ 緊急事態だそうで・・・ はい」


うさー「どうしてパチカンなんかに電話を?」

猫神「世界がヤバい~ って感じで~」

うさー「世界?」


修道女「猫神様、お待たせいたしました。 電話を繋いでもらいましたのでどうぞ」スッ

猫神「ありがとう~ ここしかツテがなかったもので迷惑掛けるね~」

修道女「いえ、お気になさらず」


猫神「もしもし~ あっ、日本語でも大丈夫ですか~?」


うさー「ねぇ、シスターちゃん。 電話の相手って誰?」

修道女「パチカンの法王庁です」

うさー「・・・・・・? え!? まさか法王さま?」

修道女「はい」

うさー「なんでシスターちゃんが法王さまを知ってるの!?」

修道女「一応・・・ 私も括りでいえばその・・・」

うさー「まぁそうだけど・・・ 私も神だけど連絡先なんて知らないよ?」

修道女「シスターうさーは、日本の神じゃないですか」

うさー「え~ 私も法王さまと友達になりたい~」

修道女「シスターうさー、ちょ・・・ 揺らさないで下さい」ユサユサ



ペシッ!


うさー「痛い!」

猫神「他宗教の神に手を出しちゃダメだよ~」

うさー「う~ だって~」

修道女「お電話終わったのですか?」

猫神「うん」


ギー


一同「?」クルッ

?「こんに~ちは、シニョリータ」

うさー「げっ!」


猫神「随分と早いですね~」

?「私に距離など関係ありませ~ん」

猫神「さすが~」

?「お話しの前にコーヒーでもいかがですか?」キラッ

猫神「わたし、紅茶派なもので~」

?「それは残念で~す」

猫神「時間がないので本題でも良いですか~?」

?「お伺いしま~す」



─── りんごちゃん神宮本殿


凄爺「遠いところ、良く集まってくれた」

長官「すでに皆には状況を説明した通り、かなり不味い状況だ」

昭宮神「驚きました。 そんな危機になっていただなんて・・・」

狐神「本当だよ。 ついこの間、神ちゃんと会ったときには何にも言ってなかったのに」

祭儀神「神ちゃんはギリギリまで粘って一人で何とかしようと溜め込む癖があるからな」

凄爺「それも込みで皆、あのガキを慕っているんじゃろ?」


一同「・・・・・・」フッ


凄爺「さて、時間もない。 ワシから四柱結界の説明をしよう」



─── 神宮・奥社


A子「ムフフ。 今日のお供えも完璧なのです! 内宮神ちゃん喜んでくれるかな~」テクテク


チカッ チカッ


A子「あれ? 奥社の中が光ってる」タッタッタッ


トントン


A子「内宮神ちゃん? 入るよ?」


ギー



ゴゴゴゴ


A子「うわっ! なにこれ!」

内宮神「A子ちゃん! 危ないからそれ以上近寄らないで!」


ゴゴゴ


A子「ちょ、内宮神ちゃん! なにこの光!」

内宮神「結界が少し弱まってて・・・」クッ

A子「だ、大丈夫!?」

内宮神「封!」


ピカッ



ゴゴ… ゴ……


A子「収まった」

内宮神「ハァ・・・ ハァ」バタッ

A子「内宮神ちゃん!」タッタッタッ

内宮神「ハァ・・・ ハァ」

A子「大丈夫?」

内宮神「大丈夫・・・ しばらくは封印が効くから・・・」ハァハァ

A子「そうじゃなくて・・・ 内宮神ちゃんがだよ」

内宮神「私も大丈夫。 すぐ回復するし」

A子「内宮神ちゃん・・・」

内宮神「あっ、ご飯持ってきてくれたの? ありがとう。 後で食べるね」ニコッ

A子「・・・・・・」



─── 10分後


A子「今までずっとこんな事してたの?」

内宮神「最近結界が薄くなっていてね。 たまに封印の強化が必要で」

A子「四柱なんとかってやつ?」

内宮神「よく知ってるね。 でも大丈夫、まだ私だけでも何とか持たせられるから」

A子「私も何かお手伝いできる事ない?」

内宮神「心配ないって」

A子「でも、あんな辛そうな内宮神ちゃん見たくないよ」

内宮神「A子ちゃん・・・ これは神の仕事なんだからA子ちゃんが気にしなくても大丈夫」

A子「神・・・」

内宮神「?」


A子「私も神になれば力になれる?」

内宮神「あっ! 別にA子ちゃんに神になってくれって言っているわけじゃないからね? 気にしないで」

A子「・・・・・・」

内宮神「これは私の仕事だから。 普段ゴロゴロしてるんだからこういうとき位は、ね」

A子「でも、神ちゃん私を神にしたがっていたし」

内宮神「あ~ それは何と言うか・・・」

A子「内宮神ちゃんも神ちゃんとこの間まで同じだったんだから理由は知っているんだよね?」

内宮神「う~ん・・・ 今の私は神ちゃんじゃないし・・・」

A子「」ジーッ

内宮神「神ちゃんがA子ちゃんを神にしたい理由は、結界維持に協力して欲しいなんて事じゃないから」

A子「?」


内宮神「・・・さて、体調も良くなってきたしご飯食べよっかな~」ゴソゴソ

A子「内宮神ちゃんは私が神になったら嬉しい?」

内宮神「もちろん! でも、それはA子ちゃんが納得して神になってくれたらだけどね」モグモグ

A子「そっか・・・」

内宮神「おっ、このお魚おいしいねぇ~」モグモグ

A子「じゃ、私戻るね」

内宮神「あっ! ちょっと待って」

A子「?」


内宮神「これ、A子ちゃんにあげる」スッ

A子「本? 分厚いね~」

内宮神「私と神ちゃんの集大成!」フンスッ

A子「・・・・・・」ペラペラ

内宮神「A子ちゃんに持っていて欲しい」

A子「なに・・・ これ・・・」


内宮神「名付けて“この国の本”。 この国の理、仕組みとか~ 神の作り方とか色々書いてある」

A子「こんなの、私が持っていて良いものじゃないよ・・・」

内宮神「A子ちゃんにそれを託したい」

A子「何で私がこんな大切な物を?」

内宮神「犬ころに渡すのが筋なんだけど、たぶんA子ちゃんの方が良いかなぁ~って」

A子「どういう事?」


内宮神「私、A子ちゃんと出会えて嬉しかった。 今まで生きていた中で最高に楽しかったよ」

A子「なに言ってるの?」

内宮神「だから・・・ これを託したい」

A子「なんで急にそんな事言うの?」

内宮神「この先、どうなるか分からないしね」

A子「ダメ・・・ ダメだよそんな事言っちゃ・・・ まさか、内宮神ちゃん・・・」

内宮神「大丈夫。 最後まであがくから。 私も神ちゃんも諦めが悪いのが長所だしね」ニコッ



─── 夜・ボロビル(神ちゃんの部屋)


コンコン


神様「だれ?」


 A子「わたし」


神様「A子ちゃん?」トテトテ


ギー


神様「今日はごめんね、急に休みにしちゃって

A子「・・・・・・」

神様「A子ちゃん? どったの?」

A子「わたし、決めた!」

神様「?」



─── 翌日(取り壊し2日前)・ボロビル


A子「おっはよ~!」

神様「遅れてわりーね」


猫神「もぉ~ いくら何でも1時間は遅れ・・・ す・・・・・・」

祭儀神「ほぉ」

長官「これは驚いたな」

神使「A子ちゃん!?」

猫娘「ニャー!! ニャ」

B夫「?」キョロキョロ


神様「紹介しよう! A子神だ!」

A子「みなさんごきげんよう! 私の名は神宮のミス巫女、A子神!」

一同(巫女なのか・・・ 神なのか・・・)


A子「これからは私の時代。 私が救世主でありこの国の最高神!!」フンスッ

神様「あっ、最高神はA子ちゃんには譲れないから」

A子「え~ そうなの~?」

長官「A子ちゃんは最高神になる前に神階を上げていかないとな」

祭儀神「ダメ神が誕生してしまったな」ハハハ

A子「そんな~」

猫神「最高神はやっぱり神ちゃんじゃないとね~」


神様「あ~ その件なんだけど~」

一同「?」

神様「もし、私の身に何かあった場合は次の最高神の任は神使に委ねる」

一同「え!?」

神使「ちょっ、神様どういう事ですか!?」

神様「ん? 言った通りだけど」

長官「神ちゃん、どういうつもりかね?」

祭儀神「このタイミングでそう言う冗談は勘弁してくれ」

神様「まぁまぁ落ち着けって」

A子「ごめん神ちゃん、私そういうつもりで言ったんじゃ・・・」

神様「A子ちゃんも、私もそういうつもりで言っているわけじゃないから。 これは万が一の時のため」

猫神「万が一って~?」

神様「前に言っただろ? 何が起こるか分からないって」

一同「・・・・・・」


神様「今回一番危険なのは私と内宮神だ。 結界の真下で封印強化をするんだから」

祭儀神「それを回避するためにこうして作戦会議を開いているんだろうが」

神様「成功の保証はない」

一同「・・・・・・」

神様「これは私と内宮神しか出来ないことっていうのは理解できるだろ?」

長官「しかし、次の最高神の指名を今する必要は・・・」

神様「だ~か~ら~ よく考えろって。 私達に何かあったら最高神がこの国にいなくなるだろうが」

神使「それと私が最高神になるということにどう関係があるんですか?」

神様「次の最高神はお前に委ねると私が決めているから」

神使「しかし・・・ いくら何でも私は身分不相応かと思います」

神様「そう? それを言ったら私が最高神やってる方が不相応だろ」

一同「・・・・・・」

神様「あの・・・ そこは出来ればみなさんに否定して頂きたかったです・・・」



A子「私は異存なし!」


神使「A子ちゃん?」

神様「さすがA子ちゃん、私と内宮神が認めただけのことはある」ウンウン

長官「・・・・・・」

祭儀神「・・・・・・」

猫神「・・・・・・」


神様「分かってくれ。 最高神不在だけは絶対にしたくない」

神使「神様・・・」

神様「安心しろって。 そう簡単にくたばるつもりはないから」


祭儀神「神宮祭儀神として認めよう」ハァ

長官「私も、神様機構長官として認めるよ」

猫神「神ちゃんは一度言ったら取り下げないもんねぇ~」


神様「神使、お前の気持ちを聞かせてくれ」

神使「・・・・・・。 分かりました」

神様「ありがとう」


神様「神勅! 私、神様は自身が最高神を全うすることが出来なくなった場合の次の最高神として神使を指名する」

一同「」フカブカ

神様「以上! 最高神神様より神勅を申し伝えた!」


次の投稿2~3日開きます



─── 翌日(取り壊し前日)・ボロビル


ガチャ


神様「いや~ 今日は暑いね~」トテトテ

長官「おはよう、神ちゃ・・・」

祭儀神「随分と遅かっ・・・」

猫娘「おはようございますニャ。 ニャー!!」

神使「神様、せめて服は着て下さいよ・・・」

神様「お前の目は節穴か? 着てるだろうが」

神使「Tシャツとパンツは服を着ているうちに入らないかと・・・」

神様「裸じゃないし~」ベー

A子「いつも通りの神ちゃんじゃん。 別に驚くことはないと思うけど」

神使「A子ちゃんもだいぶ毒されてますね・・・」ハァ


神様「あれ? 猫神は?」キョロキョロ

猫娘「昨日の夜にお出かけしましたニャ。 朝には戻るって言ってたんですけどニャ~。 ニャ」

神様「どこ行ったんだ?」

祭儀神「そう言えば、昨日色々なところに電話しているのを見たな」

A子「ウサちゃんがどうこう言ってるの聞いた」

神様「ふ~ん。 んじゃ、いるやつだけで先に明日の最終確認をしようか」

長官「待ってなくても良いのかい?」

神様「午後は内宮神と打ち合わせあるしあんまり時間ないんだよ」

長官「そうか。 それじゃ始めようか」


神様「では、作戦本部長のB夫! よろ」

B夫「オレ、いつから作戦本部長に?」


長官「そう言えば、この中でB夫君だけ神じゃないな」

祭儀神「なぁ神ちゃん、コレもついでに神にしておいた方が良いんじゃないか?」

B夫「ついでって・・・ オレは神になんかなりたく──」

神様「それは猫神のオモチャだから私が勝手に弄っちゃダメだろ」

猫娘「ニート神なんて必要ないと思いますニャ。 ニャ」

B夫「あの・・・ オレの意見は? って言うか、猫さんの言葉が心に痛いんだけど・・・」

神様「まぁ落ち着いたら寝てる間にでも適当に神にさせときゃいいんじゃね?」

猫娘「一発で熟睡できるニャ。 ニャ」ポキポキ

B夫「それ寝るって言わない。 やめて、猫さんパンチはマジ洒落にならないから」

神様「諦めろって。 それがお前の運命なんだ」ポンポン


B夫「・・・・・・。 四柱結界についての状況を!」

猫娘「観念したニャ。 ニャ」

神様「長官君達は凄爺と打ち合わせしたんだって?」

長官「あぁ。 各四柱に神を集めて明日の準備を進めてもらっている」

祭儀神「第一柱は昭宮神、第二柱は狐神、第三柱は狗神、第四柱は猫神を責任者にする予定だ」

神使「頼もしいですね」

長官「ただ、問題は第二柱だね。 想像以上に酷いようだ」

神様「猫神に第二柱へ回ってもらえば良いんじゃない? あいつ神力多いし」

祭儀神「いや、第二柱は神力の強さより持続性の方が重要だ。 狐神の方が適任だと思う」

神様「なるほどね。 確かに狐神はネチネチしてるしな」

神使「神様、そんな事言って狐神様に怒られますよ?」

B夫「第二柱は先に修復をしておけば良い。 どちらにしろそれだけ強い神力を四柱に送っても10分が限界」

神様「その間、私と内宮神で零柱の結界強化をするわけね」

B夫「そう。 そしてA子ちゃんと神使さんで掘削を妨害して追い返す」

神使「10分ですか・・・ あまり時間がないですね」



ガチャッ


 猫神「遅れてごめ~ん」


猫娘「お帰りなさいですニャ。 ニャ」

神使「どちらへ行かれていたんですか?」

猫神「結界の強度が大幅に上げられそうだよ~」

祭儀神「本当か!?」


猫神「昨日の敵は今日の友ってね~」

一同「?」

猫神「神ちゃんと神使君のおかげだよ~」

神様・神使「はい?」


猫神「ほら~ これ見て~?」スッ

神様「猫神、スマホなんて持ってたのかよ・・・」

神使「写真ですか? って、これは!」

神様「げっ、うさーとシスターちゃんじゃん!」

A子「となりのおっさん誰?」

神使「この方はまさか・・・」

猫神「天使さんだねぇ~」

長官「天使?」

祭儀神「おいおい、なんだよそれ」

A子「天使って、背中に羽があって頭に輪っかがある裸の子供だよね」

B夫「ちょっと想像と違う」

猫娘「結界の協力してもらうのに、そんな言い方失礼だよ~」


神使「協力って・・・ パチカンが協力してくれるんですか!?」

猫娘「そう。 四柱結界の強化を海外から補ってもらおうと思ってねぇ~」

B夫「なるほど。 パチカンは世界各国に教会があるから上手くいけば四柱結界の強度を上げられると」

猫神「ピンポ~ン。 その通り~」

祭儀神「でも、あっちの力と日本の神力って互換性とかあるのか?」

猫神「それをしてくれるのが彼女~」

神使「シスターさんですか?」

猫神「彼女はパチカンと日本の神の力を扱える唯一の神なんだ~」

神使「そう言えば、以前そんな事があった気がしますね」

猫神「神ちゃんお手柄だよ~」

神様「ほめよ」

長官「これは、想像も付かない事態だな」

B夫「早速作戦を練り直そう」


猫神「それより~ 何で神ちゃんは裸なの~?」



─── 取り壊し当日・ボロビル


神様「さて諸君! いよいよ本番当日、張り切っていこー!」

A子・神使「おー」

神様「ねぇ、人少なくない?」

B夫「猫神様は昨日の夜にキセキ野教会へ向かった」

神様「長官君と祭儀神は?」

B夫「神宮。 作戦中に神宮へ誰も入れないように人払いを頼んだ」

神様「あ~ それで」


B夫「今日は神宮自体が終日参拝禁止になってるけど念のため」

神使「参拝禁止なんですか?」

B夫「名目上は害虫駆除だって。 神職も巫女も立ち入り禁止にしてるらしい」

神様「どんだけ害虫がいるんだよ・・・」

A子「ある意味害虫駆除だけどねぇー」

B夫「掘削は昼過ぎから。 奥社を取り壊してその下でボーリングをする予定になってる」

神使「それを阻止するのが今日のミッションですね?」

B夫「そう。奥社の取り壊しとボーリングの阻止。 それ以上は求めない」

A子「フルボッコしたい」

B夫「突貫作戦だしイレギュラーな事態は避けたい。 一つでも状況が狂うと対応できなくなる」

神使「そうですね」


B夫「あと、コレを耳につけて」

A子「イヤホン?」

B夫「簡易通信機」

神様「かっちょいい~」キラキラ

A子「SEみたい!」キラキラ

神使「SPですね」


B夫「それと、3人は神用の装束を着て」

神使「装束ですか?」

B夫「神用の装束は神力が練られているから。 念のため」

神様「私は犬ころに買ってもらったやつ着よ~」

B夫「神使さんはこれ着て。 長官さんが準備してくれた」

神使「ありがとうございます」


A子「私は可愛いやつでお願いします。 ピンク色が良い」

B夫「A子ちゃんは、宝物庫行って適当に見繕ってきて」

A子「なにそれ!」

B夫「しょうがないじゃん、サイズ分からなかったんだし」

A子「え~ 面倒くさいな~」


B夫「俺はここで各所と協調を行う」

神使「よろしくお願いします」


神様「じゃぁ、準備に移りますか!」



─── 30分後・神宮 宝物庫裏


A子「」キョロキョロ


 A子ちゃん?


A子「うわっ!」ビクッ

同僚巫女「こんな所でなにやってるの?」テクテク

A子「巫女ちゃん・・・? えっと~ ちょっと・・・ 散歩?」

同僚巫女「その格好で?」

A子「え!?」


同僚巫女「A子ちゃんが着てるのって、神用のご装束だよね? 神さま見習いのものっぽいけど」

A子「あっ、これは・・・ ピンクで可愛かったから着てみたくて。 って、これって見習い用なの!?」

同僚巫女「神しか着用できないと思うんだけど、どうしてA子ちゃんが着られたの?」

A子「あれ~? 装束の神力が切れてたのかなぁ?」アセアセ

同僚巫女「・・・・・・。 今日は神宮全体が立ち入り禁止だよ?」

A子「そうだっけ?」ハハハ

同僚巫女「神職も巫女も立ち入り制限がかかってる」

A子「ん? じゃぁ、どうして巫女ちゃんはここに?」

同僚巫女「A子ちゃんって隠すの下手ね」

A子「え?」



ゾロゾロ


A子「みんな・・・」


巫女B「何を隠しるんだい?A子」

巫女C「全部ゲロッちゃいなさい」

同僚巫女「A子ちゃん、みんな何となく気付いてる。 今日、神宮に危機が訪れるって事を」

A子「どうして・・・」

同僚巫女「言ったでしょ? A子ちゃんは隠すのが下手だって」ニコッ



─── ボロビル


B夫「さてと・・・」

B夫「・・・・・・」ポチッ


キュイーン


B夫「システムオッケ。 四柱からの神力計算も問題ない」

B夫「・・・・・・。 大丈夫、絶対上手くいく」



─── 神宮


神宮職員「では、そろそろ参りましょうか」

エネルギー社社員「そうだな。 おい重機の準備は大丈夫か?」

作業員「大丈夫です」

社員「妨害対策は大丈夫だな?」

職員「今日は神宮全体を立ち入り禁止にしてあるので大丈夫かと思います」

社員「思いますじゃ困るんだけどなぁ~」

職員「・・・・・・」

社員「ま、何かあれば力尽くでも排除するぞ」

職員「はぁ」


社員「よし、じゃぁ行くぞ」



─── ボロビル


長官『B夫君、対象が移動を開始したようだ』

B夫「了解、あとは引き継ぐ。 長官さんと祭儀神様も位置について」

長官『分かった。 神宮の人払いは任せてくれ』

祭儀神『誰も入れさせないよ』


B夫「こちら作戦本部。 みなさん、最終準備に入って下さい」



─── 第一柱・東京


昭宮神「神々の皆さん、まもなくです。 位置について下さい」

他神A「関東の神が全員集まるなんて初めてだね」

秋葉神「全国のアニオタ達よ! 我に力を!」


昭宮神「我が愛しの神様のお役に立てるよう全力でいきますよ!」

他神A「神ちゃんがお付きと結ばれたって聞いてショボ暮れてるかと思ったのに」

秋葉神「逆に嬉しそうですね」

昭宮神「当たり前じゃないですか。 神様の幸せが私の生きがいですから」

秋葉神「確かに。 それは日本の神、全ての総意だね」


昭宮神「神様の幸せは必ず守って見せます。 全力でいきますよ!」

一同「おー!」


昭宮神「こちら第一柱。 いつでもOKです」



─── 第二柱・出雲


狐神「はーい! それじゃぁ時間だからみんな位置について~」


ガヤガヤ


狐神「四柱の中で一番ボロボロなのがココなんだから、気合い入れて行くわよー」

他神B「狐ちゃーん! こっちは準備オッケーだよー!」

他神C「こっちも応急処置だけど穴は塞ぎ終わったー」

狐神「ありがとー」


狐神「もしもし? 第二柱神力強化の準備完了。 合図と同時に結界修復に入るよ」



──── 第三柱・あにあに村


神主「凄い人だね・・・」

巫女「皆さん神だから人とは違うと思うけど」

神主「あ~ そうか」


狗神「鬼牡蠣の結界解除の任を放棄してまで来たのですから失敗で出来ませんね」

他神D「狗神・・・ お前、懲りずにまだあんな物の結界解除やってたのかよ・・・」

狗神「神様の大好物ですからね」

他神E「なるほどな、それは手を抜けないか」

狗神「えぇ、当然こちらも手を抜けませんけどね」

他神D「だな」


狗神「こちら第三柱。 準備が整いました。 いつでもご指示を」



─── 第四柱・四国


他神「シスターうさー、こっちの準備はOKよ」

うさー「ありがと」

他神F「シスターうさー、頑張りましょうね」

うさー「そ、そうだね」

他神G「シスターうさー ───」

うさー「もー! 皆してシスターシスターって言わないでよ! 今日は修道服着てないでしょ! 今はウサ之神なの!」

他神H「はいはい。 猫神の代役なんだから面目潰すんじゃないわよ? 失敗したらお説教どころじゃ済まないわよ?」

うさー「うー 分かってるよ~」


うさー「もしもし、第四柱の神力強化準備できたよ」



─── キセキ野教会


B夫『猫神様、四柱結界の準備はオッケ。 そちらの準備が出来たら連絡を』


猫神「日本側の四柱結界の準備が出来たよ~ 天使さん」

?「天使は止めて下さ~い。 ミカエルで~す」

猫神「ごめんね~ ミカエルさん。 で、そちらの準備は~?」

ミカエル「世界中の教会からパチカンへ祈りが届いていま~す」

猫神「さすが世界一の信者数を誇るだけあるね~」

ミカエル「その祈りを修道女さんを経由して神宮に送り届けま~す」

修道女「私にそんな大役が務まるでしょうか・・・」

ミカエル「これはパチカンと日本の神の力を扱うことの出来るあなたにしか出来ない事で~す」

猫神「大丈夫だよ~ うさーだって頑張るんだから~」

修道女「そうですね・・・ 弱音を吐いてすいません。 全力で頑張ります!」


猫神「神力の安定化は私がきちんと補佐するからね~」

ミカエル「パチカン側からの祈りは私がきちんと制御しま~す」

修道女「ありがとうございます」フー


修道女「いつでもOKです!」


ミカエル「まさか、日本の神へ協力する日が来るとは思ってもみませんで~した」

猫神「ふふっ。 ちょっと前まではいがみ合ってたのにね~」

ミカエル「全くで~す」


猫神「B夫く~ん、聞こえる~?」

B夫『聞こえてる』

猫神「こっちも準備OKだよ~ 凄爺との協調よろしくね~」

B夫『任された。 りんごちゃん神宮聞こえますか?』



─── りんごちゃん神宮


狐娘「あっ、はい。 りんごちゃん神宮の狐娘です」

B夫『現在の四柱結界の状態は?』

凄爺「問題ない」

狐娘「第二柱が若干不安定ですがそれ以外は普段と同じ状態を保っております。 と凄爺様が申しております」


B夫『最初の合図で第二柱の穴を塞いで四柱結界を正常に保つ」

凄爺「分かった」

狐娘「四柱の安定化はお任せ下さい。 と凄爺様が申しております」


B夫『次に四柱結界からの出力を神力注入で10倍にアップ』

凄爺「・・・問題ない」

狐娘「持ちこたえられると思います。 と凄爺様が申しております」


B夫『最後に、パチカンから想像できない量の神力が送られる。 しかも凄く癖のある神力』

凄爺「・・・・・・全く問題ない」

狐娘「私もお手伝いいたしますので二人で何とか耐えて見せます。 と凄爺様が申しております」


B夫『ご武運を』

凄爺「任せておけ」

狐娘「全ては俺が責任を取るからこっちは何も心配するな。 と凄爺様が申しております」


凄爺「・・・・・・」



─── ボロビル


B夫「あー あー 神ちゃん、内宮神ちゃん、聞こえる? そっちの準備は?」

神様『大丈夫、封印強化の準備は出来てる』

内宮神『いつでもオッケ~』


B夫「神使さん、A子ちゃん、そっちの準備は?」

A子『ばっちし!』

神使『何とか足止めして見せます』

B夫「パチカンからのサポートで奥社から半径30mは結界強化が働いて掘削は出来ない。 ただし持続時間は30分」

神使『はい』

B夫「結界強化発動からなるべく早く追い出して」

A子『任せとけ!』


B夫「神ちゃん、作戦スタートの合図を」



─── 神宮・奥社


神様「内宮神」

内宮神「なに?」


神様「迷惑をかける」

内宮神「いまさら」


神様「さすがに今回ばかりは全力でいかないとな」

内宮神「おふざけ禁止だね」


神様「スタートの合図を一緒に」

内宮神「はいよ」




神様・内宮神「作戦スタートゥ!」



─── 第二柱


狐神「来た。 みんなー準備は良いわねー?」

神B「いつでもどうぞ!」

神C「待ってました!」


狐神「トップバッターの意地を見せるわよ!」

他神達「おー!」


狐神「神力放出開始!!」


ポワポワ



─── ボロビル


B夫「よし。 第二柱神力結界の修復開始を確認」

狐娘『こちらりんごちゃん神宮です。 四柱結界の安定化を確認しました』

B夫「了解。 全四柱神力放出スタート!」


昭宮神『第一柱、神力放出開始!』

狐神『第二柱、神力放出全開!』

狗神『第三柱、放出開始しました!』

うさー『第四柱もはじめたよー』


狐娘『こちらりんごちゃん神宮、各四柱からの神力アップを確認しました』

凄爺『うおー! ちょっと強すぎないか!?』

狐娘『神力増幅問題ありませんのでこのまま維持して下さい、と凄爺様が申しております!!』


B夫「さてと・・・ 猫神さま」

猫神『はいは~い』

B夫「お願いします」



─── キセキ野教会


猫神「オッケ~」

ミカエル「こちらも準備オッケーで~す」

猫神「シスターちゃん、大丈夫~?」

修道女「いつでも」

猫神「それじゃぁ~ 始めましょ~う!」



ポワポワ


猫神「想像以上に・・・ 凄いねぇ~」クッ

ミカエル「世界中の教会に寄せられている祈りですから当然で~す」

修道女「くっ」ピカー


猫神「シスターちゃん大丈夫~?」

修道女「問題ありません!」ピカー



─── ボロビル


B夫「パチカンからの神力を確認・・・ これは凄い・・・」

猫神『いけそう~?』

B夫「奥社の周りを完全に封印できてる。 周囲30m以内は掘削どころか機械も動かないはず」


B夫「りんごちゃん神宮、大丈夫ですか?」

凄爺『大丈夫じゃないわ!! なんじゃ、このクセのある神力は!』

狐娘『想像以上ですけど・・・ 余裕です!! と凄爺様が申しております!!』クッ

凄爺『おーい!』


B夫「神ちゃん、内宮神ちゃん」

神様『なに?』


B夫「神使さん、A子ちゃん」

A子『ん?』

神使『何でしょうか』


B夫「後はよろぴこ」



─── 神宮・奥社


神様「さてと、四柱からの神力も来ているみたいだし」

内宮神「はじめますか」


神様「失敗は出来ないな」

内宮神「もちろん」


神様「・・・頼むぞ内宮神」

内宮神「頼まれた」ニコッ



神様・内宮神「第零柱! 神力封印!!」


ポワポワ



─── 神宮・奥社前の森


エネルギー社社員「ここから先が整地場所だ」

作業員「奥にある小さなお社は?」

社員「取り壊してくれ。 あの下がボーリング場所になる」

作業員「分かりました」


A子「ちょっと待った!!」ズサー


一同「?」

神宮職員「君は・・・ 巫女のA子君か?」

社員「おい、部外者の方は大丈夫なんじゃなかったのか?」

職員「すいません・・・」


社員「ここはすでに神宮の土地ではない。 出て行きなさい」

A子「出て行くのは貴方たちの方です!」ビシッ!

職員「A子君、気持ちは分かるけど宮司会で決った事なんだ。 ほら、早くあっちに行って」グイグイ

A子「その手を放しなさい!」


ピカッ


一同「!?」

A子「私は神宮が誇るミス巫女、A子神!」フンスッ

職員「そのミスは・・・ って、神?」

社員「・・・巫女なのか神なのかハッキリしたほうが良いぞ?」


A子「奥社では今、重要な神祭が行われています」

社員「どんな仕掛けか知らんがそんな子供だまし、私には通用しないぞ」ポチッ


キュイーン


A子「神の存在を信じられない愚かな者よ! 神の・・・ 力を・・・ あじ・・・ 味?」

社員「やっぱり」ハァ

A子「ちょっと神使さん、イヤホンに雑音が入って聞き取れないよ」ボソボソ

社員「今、ジャミング装置のスイッチを入れたからイヤホンは使えないぞ?」

A子「えっ?」


社員「お前みたいな奴は今まで沢山経験してるんだよ。 おい、アイツを早く退かせ」

職員「ほらA子君、邪魔だからこっちに来て」グイグイ

A子「うわっ! ちょ・・・ ちょっと待って~」ズルズル


職員「その着ている装束どこから持ってきたの? 神用の装束に似てるけど」

A子「だから私は本当に神なんだって~!」

職員「分かったから、ほら早く」


社員「ったく。 おいボサッとしてないで早く作業を進めろ」

作業員「それが、ここから先に入ると重機が止まってしまって・・・」

社員「ったく、今度はどんな手を使ってんだよ」


神使「そこから先は神聖な結界が張ってるので掘削は出来ませんよ?」スタスタ

社員「あ?」


神使「大人しく諦めて今日はお引き取り頂けないでしょうか?」

社員「次から次へと面倒だなー」

神使「神宮の中でも最も神聖な場所を掘り返すなど、ましてや奥社を取り壊すなんて認められません」

社員「その神宮が認めてるんだが?」

神使「ここから先は神の領域です」

社員「これだから宗教絡みは面倒なんだよ」ポリポリ

神使「この地に手をつけてはいけません。 これは警告です」

社員「祟られるのか? 呪われるか? そういうの何百回も経験してるがまだピンピンしてるぞ?」

神使「貴方たちのやろうとしていることは───」

社員「はいはい。 分かったよ」ハァ

神使「・・・・・・。 理解が早くて助かります」ホッ


社員「おい、ここで掘削を開始しろ」

神使「!?」

作業員「分かりました。 おい、ここでボーリングしてくれ」

神使「えっ、ちょっと・・・」

作業員「ほら、どいたどいた」シッシッ



神使「B夫さん、聞こえますか?」ボソッ

社員「さっきジャミングしてるって言っただろ。 通信機は使えないぞ」

神使「・・・・・・」



 貴方たち何をやっているんですかー! タッタッタッ


神使「!?」

A子「巫女ちゃん?」


同僚巫女「遅くなってごめんね」

A子「どうして皆がここに・・・?」

同僚巫女「巫女が神の補佐をするのは当たり前でしょ?」

A子「巫女ちゃん・・・」

巫女B「それに、うちの巫女は神ちゃんを奉るだけあって首を突っ込むのが好きなんだよね」

職員「君たち、いつの間に! 今日は神宮内の立ち入は禁止と言ったはずだぞ!」

社員「ま~た大量に湧いてきやがってめんどくせーなー!!」


同僚巫女「ここから先は神の領域です」

社員「さっき聞いた」

巫女B「この地に手をつけてはいけません。 これは警告です」

社員「それも聞いたよ!」

巫女C「貴方たちのやろうとしていることは───」

社員「だからそれもさっき聞いたよ!!」


同僚巫女「考え直していただけないでしょうか?」

巫女B「引かないってんなら私達にも考えがあるよ」

社員「力ずくで止めるか? 俺は空手と柔道有段者だから手強いぞ?」

巫女C「なにその古い脅し! 私なんか書道初段よ!」

巫女D「私も弓道6級!」

巫女E「私だって生け花3級!」

社員「お前ら・・・ 漫才集団かよ!!」タッタッタッ



巫女達「きゃ~」ワラワラ

社員「まてコラ! 散ってんじゃねーよ!」


巫女B「こんな機械壊してやる!」ゲシゲシ

作業員「やめろ! 幾らすると思ってんだ!」


巫女C「こっちだって!」ガチャガチャ

作業員「ネジ抜くな! 掘削機動いてんだよ! っていうか、なんでネジ回しなんか持ってんだよ!!」


社員「お前ら・・・ 調子に乗りやがって・・・」イライラ



─── 奥社


 ワー ワー
 ガヤガヤ


神様「!?」タッタッタッ

内宮神「ちょ、神ちゃん!? 今離れられるとキツいって~!」ポワポワ


バンッ


神様「な!」

内宮神「どうした神ちゃん。 外で何が?」ポワポワ

神様「あいつら結界外で掘削を開始しやがった」

内宮神「え!?」


神様「おいB夫聞こえるか!?」


ザザザザ


神様「クソッ! 通信機が動かない」


 痛い! 痛い!


神様「!? あれは・・・」


社員「こっちは何兆円っていう規模のプロジェクト抱えた仕事してんだよ! 巫女風情が出張ってんじゃねーよ!」

同僚巫女「こっちは仕事じゃないのよ!巫女さんは奉職なんだから!!」

巫女B「そうだ! 守銭奴ごときが神ちゃんの地を汚すな!!」

巫女C「神ちゃんがこの地を守るためにどれだけ頑張ってきたと思ってんのよ!!」



神様「みんな・・・」



ザザザザ


B夫『か─ ザザザ ちゃん─ ザザザ こえる?』

神様「!? B夫か!」

B夫『状況─ ザザザ ないんだけど─ ザザザ 』

神様「あいつら結界外で掘削を始めやがった!」

B夫『どのくら─ ザザザ ずれて─ ザザザ 』

神様「本殿方向に50m位前!」

B夫『調整す─ ザザザ 少し粘れ─ ザザザ 』

神様「・・・・・・」

B夫『か─ ザザザ ちゃん? 聞こえて─ ザザザ 』


 巫女「痛い痛い! やめてー!」

 A子「放せー!」ジタバタ

 神使「お願いします! 巫女さん達に手を出さないで下さい!」


神様「・・・結界を全て解除してくれ」

B夫『え!?─ ザザザ どういう─ ザザザ』

神様「私に案がある」

B夫『ちょ、神ちゃ─── ザザザ』


ピッ


神様「内宮神」

内宮神「何? いま集中してるから手短に」ポワポワ

神様「・・・・・・」

内宮神「神ちゃん?」


神様「結界維持はもう大丈夫そうだ。こっちに来てみろ」

内宮神「? あいつら諦めて出て行った?」トテトテ


神様「ほら、外に出て見てみ?」

内宮神「ん? まだ人が沢山いるっぽいけど」キョロキョロ


タッタッタッ
ガチャ


内宮神「ちょ、神ちゃん!?」



 神使「内宮神様~」タッタッタッ


内宮神「あ! 犬ころ」

神使「どうしたんです? 神様は?」

内宮神「この中。 私を外に出して立てこもりやがった」

神使「え!?」

内宮神「神ちゃん! ここ開けろって!」ドンドン

神使「神様! 何を考えているんですか!?」ドンドン


 神様「すぐに皆を連れてここから離れろ」


神使「神様?」

内宮神「どういう意味だよ! 封印の維持は私の仕事だ! 早く開けろ!!」ドンドン

神使「神様! 何をする気ですか!」ドンドン



 神様「神柱封印する」


内宮神「神柱・・・ おい、何考えてるんだ! ふざけるな!」

神使「神柱封印って・・・」

内宮神「私がするって約束だろ! 私にやらせろ!」

神使「まさか神様・・・」


 神様「犬ころ」


神使「・・・ぇ」


 神様「こうなる前にお前と二人きりで旅が出来て本当に良かった」


神使「何・・・ 言っているんですか・・・」


 神様「お前と一緒に過ごせた時間は私の宝物だ」


神使「神・・・ 様・・・?」



 神様「楽しい時間を過ごせた事を心の底から感謝する」


神使「嫌だ・・・ 神様・・・ お願いですから出てきて下さい!」ドンドン


 神様「私は・・・ この国を守る。 お前や皆が好きと言ってくれたこの国を」


神使「神・・・様・・・」ストン

内宮神「おいこら! 何一人で格好つけてんだよ!」


 神様「内宮神、今度はお前が自由になる番だ」


内宮神「いい加減にしろ! 私はそんな理由で意識共有を切ったんじゃない!」

神使「まさか意識共有を切ったのって・・・ 内宮神さまの方から?」


内宮神「お前には犬ころがいるだろ! これから二人で楽しく暮らすんだろうが!」

神使「内宮神さま・・・」


 神様「お前を一人こんな所に閉じ込めておくことなんて出来るわけ無いだろ! 見損なうな!!」


内宮神「神ちゃん・・・」


 神様「犬ころ・・・ いや、狛犬の神使よ」


神使「・・・・・・」


 神様「この国を頼んだ」


神使「何言っているんですか・・・ こんなに早く諦めるだなんて神様らしくないですよ・・・」


 神様「諦めてなんかないよ」


神使「え?」


 神様「予定通りなだけだ」


神使「嫌です・・・ 神様のいない世界なんて、私には耐えられません・・・」


 神様「神使さま。あなたの事を心の底から愛しています・・・ ありがとう」


神使「神様! 待って下さい!!」


 神様「神勅! 最高神の任を我が神使へ委譲す!!」


ポワポワ


神使「神様ー!」




 神様「神勅! 我が身を持って永久封印を命ず! 神柱封印!!」



ピカー
ゴゴゴゴ


 神様「後は頼んだ」


ゴゴゴゴ


神使「神様ーー!! 戻ってきて下さーい!!」


ピカッ
ゴゴゴゴ



職員「うわっ。何だ!?」

社員「地震か!?」

作業員「祟りだ・・・ 祟りだー」タッタッタッ

社員「おい、お前達どこへ行く!」


A子「神ちゃん・・・ うそ・・・ 神ちゃん!?」ジタバタ

職員「ほら、危ないから暴れないで!」

A子「うるさい! 放せー!!」


バチバチッ


職員「痛!」

A子「神ちゃん!!」タッタッタッ

職員「A子君!」


A子「神ちゃん・・・ 嘘だ・・・」タッタッタッ



ゴゴゴ… ゴ…


神使「神様? ・・・神様? どこですか」キョロキョロ

内宮神「・・・そんな」ドサッ


 A子「神使さーん! 神ちゃんは!?」タッタッタッ


神使「神様・・・ 神様・・・」


A子「ねぇ・・・ 内宮神ちゃん? 嘘でしょ?」


内宮神「何だよ・・・ 何なんだよ・・・」

A子「嘘だ・・・ そんな・・・ 神ちゃん!!」



神使「神様ー!!」



A子「なんで? 何で神ちゃんが?」

内宮神「すまない、私が神柱封印をするなんて言わなければ・・・」

A子「こんなお別れなんて嫌だよ・・・」ポロポロ

内宮神「・・・・・・」


神使「神様・・・」ガクッ


ポトッ


神使「・・・・・・。 神様のお守り・・・」ギュッ



~~~~~~
~~~~
~~



神様「あなたにこれを」ゴソゴソ

神使「これは・・・ 神様のお守り・・・」

神様「最後の1個はあなたに渡すと決めていました」

神使「・・・・・・」

神様「その中には他のお守りと違って、私のおまじないを入れてあります」

神使「おまじない?」

神様「ぜひ、これを神使さんに持っていて頂きたいのです」


~~
~~~~
~~~~~~


神使「神様・・・」ゴソゴソ

A子「神使さん・・・ そのお守り、神ちゃんの」


神使「? 中に紙が・・・ 何か書いて・・・」

内宮神「それは・・・」

神使「ご存じですか?」

内宮神「・・・なんでも願いが叶う“最後の言霊”」

神使(幼女神さまから頂いた文字と同じ・・・)


A子「じゃぁ、それを使って神ちゃんを!」

内宮神「言葉だけ知っていても、最後の言霊を受け取っていないと効果はないんだ」

A子「誰が持ってるの!?」

内宮神「神ちゃんの前の最高神。 でも、神ちゃんは受け継いでない」


神使「何故神様がこの言葉を?」

内宮神「800年位前によその国から来た奴に教えてもらったんだ。 うさーの所にいたクソ坊主」

神使「・・・・・・確か言霊を受け継ぐと前の最高神様が消えると聞いたことがあるのですが」

内宮神「そう。 だから神ちゃんは幼女神から言霊の受け取りを拒否してた」


神使(私が神様から最高神の命を受け、以前幼女神さまから最後の言霊を預かったという事は・・・)

神使「!?」

A子「神使さん?」


神使「・・・・・・」ピピピ


prrrr prrrr


神使「あっ、キー子さんですか?」

キー子『神使さん、お久しぶりです』

神使「つかぬ事を伺いますが、幼女神さまはお元気でしょうか?」

キー子『幼女神さまですか? はい、隣でテレビを見て笑い転げておりますが』

 幼女神『キー子も見ろ。 エガちゃんが最高じゃぞ』ケラケラ

神使「・・・・・・」

キー子『神使さん? 急にどうされたんです?』

 幼女神『だれじゃ? ワシにも変わっ───』

神使「」ピッ


神使(幼女神さまが消えていない・・・ 受け継ぐ順番が変わったから無効になった・・・?)

神使(いえ、この言霊・・・ 多分まだ使える気がします)

神使(神様がこれを私に託した理由・・・ 賭けてみますか)



神使「内宮神さま、ちなみにこれは何て書いてあるんですか?」

内宮神「・・・・・・」

神使「最後の言霊は幼女神さまが持っているんですよね? 私が聞いても大丈夫かと」

内宮神「キガルタ・・・ アンガルシェ」


神使「キガルタ アンガルシェ」


ピカー


A子「!?」

内宮神「なんだ・・・ この光は・・・」



ピカー


内宮神「お前まさか!? まずい!」

A子「空から誰か降りてくる!」

内宮神「!?」


フワフワ
バサッ バサッ


社員「おい、何だよ・・・ あれ・・・」

職員「人が宙に・・・」

作業員「背中に・・・ は、羽根が付いてる!?」


バサッ バサッ


神使「あなたは・・・」

?「お久しぶりで~す」

神使「住職・・・ いや、天使さん?」

A子「天・・・使・・・?」

ミカエル「ミカエルと申しま~す。 シニョリーナ、今度ゆっくりコーヒーでも」

一同「・・・・・・」

ミカエル「神がお呼びです。 一緒に」スッ

神使「神・・・?」

A子「キリストさんが助けてくれるの?」

ミカエル「何か誤解しているようですが、私はキリストの使いなどではありませ~ん」

神使「どういう意味です?」

ミカエル「私は神の使いで~す」

神使「・・・・・・」


ミカエル「この姿であまり長くとどまれませ~ん、さぁ手を」

A子「お願い! 神ちゃんを助けて!」

ミカエル「神は肉体を失うと復活できませ~ん」

A子「そんな・・・」


内宮神「待ってくれ! そいつを連れて行かないでくれ!」

神使「内宮神様?」

内宮神「そいつまでいなくなってしまったら私は・・・ 罪の重圧に耐えられない・・・」


神使「私を神様の元に連れて行ってくれるのですか?」

ミカエル「甘えた事を言ってはいけませ~ん。 話があると言っているだけで~す」

神使「・・・・・・」


ミカエル「行かないのですか?」

内宮神「頼む・・・ 連れいていかないでくれ・・・」

ミカエル「あなたの考えているようにはならないと思いますよ?」

内宮神「え?」


ミカエル「さぁ、手を」

神使「・・・・・・」スッ

ミカエル「目をつぶっていて下さ~い」


ピカー
バサッ バサッ



A子「神使さん?」キョロキョロ

内宮神「消えた・・・」



─── ?


?「もう目を開けても大丈夫です」

神使「こ、ここは・・・」キョロキョロ

?「初めまして」

神使「誰です? どこにいるのですか?」

?「今は声だけで許して下さい」

神使「あなたがミカエルさんの言っていた・・・」

?「私には貴方たちのように名はありませんが、神の神と言ったところでしょうか。 女神とでも呼んでおいて下さい」

神使「神の神・・・」

女神「もちろん私の上には神がいて、その上にも神がいると思いますが」

神使「?」

女神「私にも分からないことはあります」


神使「その女神さまがどうして私を・・・」

女神「この場所にあなたは長くとどまる事は出来ないので手短にお話しします」

神使「・・・・・・」

女神「あなたは先ほど“最後の言霊”を唱えましたね?」

神使「はい」

女神「統治を担う最高神のみが使う事の出来るたった1度の願い。 そのを願いを叶えたいと思います」

神使「じゃぁ神様を助けることが!?」

女神「ただし問題があります」

神使「問題?」

女神「あなたが最後の言霊を唱えられたという事は、あなたが新しい最高神だという事」

神使「・・・・・・」

女神「最後の言霊は唱えた最高神の身を犠牲にします。 知っていますね?」

神使「・・・承知しています」


女神「そして、新たな最高神が最後の言霊を受け継ぐと前の最高神は消えるのです」

神使「しかし、幼女神さまは・・・」

女神「あれは、2つ前の最高神」

神使「・・・・・・」


女神「あなたの願いは前の最高神に戻ってきてもらう事ですね?」

神使「・・・はい」

女神「しかし、あの子は身を捧げ肉体を失いました。 神として復活することはできません」

神使「・・・・・・」

女神「しかし・・・ 誰の案ですか?」

神使「?」


女神「随分と回りくどいことをされたようで。 私も言霊の受け渡しにこんな不備があるとは気付きませんでしたが」

神使「たぶん・・・ 偶然です。 いえ、こうなるようになっていたのではないでしょうか」

女神「・・・・・・。 そうですね」


トテトテ


神使「?」クルッ

?「・・・・・・」

神使「!? 神・・・ 様・・・」


?「こんにちは」ニコッ

神使「神様にそっくり・・・」

女神「全く同じはずですが、違いが分かるのですか?」

神使「私が神様と他の方を間違えるわけありません」

女神「そうですか」

神使「それで、神様は一体!?」

女神「もし、どのような形でもというのなら願いを叶えましょう」

神使「どのような形でも? というのは・・・」

女神「言葉の通りです」

神使「・・・・・・」

女神「先ほども言ったとおり、神は肉体を失うと再び神として生を与えることが出来ません」

神使「・・・・・・」


女神「しかし、あなたは最高神の身を捧げ、完全とは言えないまでもその願いを叶える事が出来ます」

神使「構いません。 それで神様がまた皆と楽しく暮らせるのであれば!」

女神「分かりました。 短い間でしたが、あなたは最高神を終えその力を次の相応しい人物に移します」

神使「はい」


女神「力を楽にして」ポワポワ

神使「」

女神「最後に、何か言い残すことはありますか?」

神使「神様がこの先ずっと幸せに過ごせるようお願いします」

女神「ずっと・・・。 分かりました、その願い聞き入れましょう」

神使「ありがとうございます」フカブカ


ピカー


女神「お幸せに~」



女神「・・・・・・」


ミカエル「終わったみたいです~ね」テクテク

女神「ミカエルですか。 ここに来るなんて珍しいですね」

ミカエル「こんな時でなければお会いできませんから」

女神「教会で何かやっていた途中ではないのですか?」

ミカエル「そう言えばそうで~すね。 急に消えたからビックリしているかも知れませ~んね」

女神「あなたも長くこの場所にいられません。 お戻りなさい」


ミカエル「良いので~すか?」

女神「何がです?」

ミカエル「最後の言霊は1回の願いとの引き換えで~すよね?」

女神「そうですね」

ミカエル「叶えすぎじゃないで~すか?」


女神「・・・ミカエル、あなたはどこまでこの件に関わっているのです?」

ミカエル「私は成り行きで動いているだけで~す」

女神「800年前、あなたは何故あの子に最後の言霊の読み方を教えたのですか?」

ミカエル「さぁ? 覚えていませ~んね」

女神「初対面で裸に剥かれたことは覚えているのに?」

ミカエル「・・・・・・」

女神「まぁ、良いです。 些細なことですから」

ミカエル「それでは、私は下界に戻ってコーヒーを飲んできま~す」


女神「あっ、ミカエル」

ミカエル「?」


女神「今度ここに来ることがあれば、牡蠣とやらを持ってきて下さい」

ミカエル「分かりま~した」


女神「出来れば“鬼牡蠣”を!」

ミカエル「気長にお待ち下さ~い」



───
─────
──────


──────
─────
───



─── 時は流れて……


A子「ふぃ~ もう歩けないよー」テクテク

お付き「ここに来たいと行ったのはA子さんじゃないですか・・・」

A子「言ったけどさぁ~」

お付き「あっ! あれじゃないですか?」

A子「どこどこ?」キョロキョロ

お付き「丘の上です。 ほら、人もいますよ?」

A子「!!」タッタッタッ

お付き「ちょ、A子さん!」



─── 丘の上の小さなお店


女性「どうもね~」

客「美味しかったよ。 また来るね」テクテク

男性「ありがとうございました」


女性「・・・・・・。 さてと、じゃぁ今日は終わりにしちゃいましょうか」

男性「そうだね」


 A子「あの!」


女性・男性「?」クルッ


A子「あの! まだ・・・ まだ、開いてますでしょうか!?」

女性「・・・・・・。 ごめんね、今日はもうおしまいなの」

A子「そんな・・・」

女性「今日は大切なお客様が来る予定でね」

A子「・・・・・・」


女性「どうします? あなた」

男性「販売用の牡蠣はもう無くなってしまいましたが、確か取れたての最高級の物があったよね」

女性「そういえば」

男性「最高神様にお出しするにはもってこいだと思うよ? なにせ鬼牡蠣だから」

女性「確かに。 神宮美食クラブきっての食通ですからね」

A子「・・・・・・」ウルウル

女性「久しぶりだね。 A子ちゃん」

A子「お久しぶりです」フカブカ


男性「そちらの方は?」

お付き「神宮の者です。 大宮司のご両親様にお目にかかれて光栄です」ペコリ

男性「神宮の方ですか。 いつも息子がお世話になっております」ペコリ

女性「迷惑掛けてない? あの子、昔から勢いだけで生きている節があるから」

お付き「そんな事は・・・ 多少やんちゃなとことがあるのは事実ですが・・・」

女性「やっぱり?」フフッ


A子「うっ・・・ うっ・・・」ポロポロ

お付き「ちょ、A子さん!? どうされたんですか?」オロオロ


A子「神ちゃん、神使さん・・・」ポロポロ

神使「噂は聞いています。 立派な神になったみたいですね」

A子「そんなこと・・・ ない・・・」グスッ

神様「あの神宮をここまで変えるなんて、さすが私の認めたA子ちゃん」ニコッ

A子「うっ・・・ 私・・・ 神ちゃんみたいな・・・ 神になりたくて・・・ 一生懸命頑張った」ポロポロ


お付き「えっ!? 神?」

神様「元だけどね。 今はただの牡蠣小屋の陽気なおばちゃん」

A子「そんな事ない。 今なら分かる・・・ 神ちゃんがどんなに凄い最高神だったかが」

神使「おや、私も最高神だったんだけどね」

神様「1日だけ、いや半日だけ?」

お付き「え!? 最高神!?」アワアワ


神使「お付きの方は、神使さんですか?」

お付き「は、はい! A子神のお付きで狛犬の神使と申します!」フカブカ

神様「あら、狛犬だって。 あなたと同じ」

神使「元だけどね」

お付き「この国の礎を築いた最高神様にお目にかかれて光栄です!」フカブカ

神様「私達はもう神や神使じゃないんだから、そんなに気を遣わないで?」


お付き「まさか大宮司のご両親様が元最高神様だったなんて・・・」

神様「あの子には内緒にしておいてね?」


A子「神ちゃん! 会いたかったよー!」ダキ

神様「おっと~ 今日はお付きの神使と二人だけでここまで来たの?」

A子「うん。 最高神が自由に外出できるようになるまでこんなに時間と労力が必要だったなんて・・・」

神様「頑張ったね」ナデナデ

A子「やっぱり神ちゃんは凄い・・・ 凄いよ」

神様「でも、事前に神宮から連絡があったから完全に自由になるまではもう少し先みたいだけど」クスッ

A子「だね」クスッ


神使「でも、そんな貴重な時間を使ってまでどうしてこんな所へ来たんです?」

A子「今日はお二人にお願いがあって参りました!」

神様「あら、私達なんかに最高神様からお願い?」

神使「これは断るわけにはいかなそうだね」


A子「えっと・・・ その~」

神様・神使「?」




A子「二人とも、神にならない?」ニコッ



─── 夜・丘の上


神様「・・・・・・」

 神使「ここにいたのか」スタスタ

神様「?」クルッ

神使「何してるんだい?」

神様「何も。 ただ空を」


神使「隣、座っても?」

神様「どうぞ」

神使「じゃぁ、失礼して」

神様「・・・・・・」


神使「今日は晴れていて月が綺麗だね」

神様「そうね」


神使「ふふっ」

神様「?」

神使「すまない。 ちょっと思い出し笑いを」



神様「ねぇ、あなた」

神使「なんだい?」

神様「私、間違ってなかったみたい」

神使「そうだね」


神様「二人を見て思い出しました。 あなたと歩んできた旅を・・・」

神使「私もだ」


神様「毎日がとても楽しくて、毎日がとても幸せで」

神使「あぁ。 でも・・・」

神様「?」

神使「神宮の神柱封印の件だけはいただけなかったな」

神様「まだ怒っているんですか?」

神使「まさか」

神様「でも・・・ 確かに無謀な賭けでした」

神使「君からもらったお守り、あの時気がつかなかったらと思うと今でもゾッとするよ」

神様「私は信じていましたよ?」


神使「今も昔も、君は変わらないな」

神様「?」

神使「君といると毎日とても楽しい旅をしているようだ」


神様「もう少しだけ、二人の旅を続けさせて下さい」

神使「もちろん。 まだまだ先は長そうだけどね」

神様「ふふっ」クスッ


神使「これも予定通りなのかい?」

神様「さぁ?」


神使「やっぱり君は・・・」




神使「神様だ」ニコッ

神様「神力ゼロですが」ニコッ





神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
── おしまい


#18 「我☆偽神」 >>1-129
20年に一度神の立ち寄りの風習がある村へ来た神様は偽神として捉えられて・・・

#19 「神宮美食クラブ」 >>147-258
にゃんにゃん島を再び訪れた神様、すこへ黒ずくめの客が現れ不穏な様子に・・・

#20 「未来へ託して」 >>264-493
神様が過去に神宮地下へ封印した物、それは国を崩壊させる力を持っていた・・・


長々とお付き合いありがとうございました!

神ちゃんファン『遂に完結かぁ~心に残る話をありがとう!人生で一番の大作でした』

神ちゃんファン神使『おや?今日は随分素直ですね』
神ちゃんファン『うるさい!!』ゲシゲシッ

完結しているので続けるのは難しいかなぁと。
書き切った感もありますし。

でも、スレが余っているのは勿体ないか……


■ 神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 番外編・2018年夏


ガタンゴトン


神様「」ゲシ ゲシッ

神使「・・・・・・」

神様「」ゲシ ゲシッ

神使「神様、さっきから痛いんですが・・・」

神様「何でこの電車は冷房がついてないんだよ!」

神使「今時珍しいですよね」

神様「今は2018年だぞ? あり得ないだろ!」

神使「神様? 一応は日本の神なんですから西暦でなく和暦を使いましょう」

神様「グローバルに生きる私は常に世界基準なんだよ! あと一応は余計だ」ゲシッ

神使「しかし、本当に暑いですね・・・」


ガタンゴトン



─── 1時間後・とある田舎の駅


プシュー


神使「ホーム低いので気をつけて下さいね」

神様「はいよ」ガクッ

神使「・・・・・・」

神様「うん。 思ったより低かったね」

神使「ちゃんと下を見て確認しないからです」

神様「私は常に上を見て歩む。 決して下は見ない」

神使「そういう意味ではありません」

神様「しっかし、ビックリする位何もないな」キョロキョロ

神使「凄いですね、見渡す限り一面の緑です」

神様「見える範囲に人工物がないんだけど。 ここに駅は必要なのか?」


神使「さて、それでは行きましょうか」

神様「ちょい待ち」

神使「?」

神様「私が次に言いたいことは分かるよね?」

神使「要調査神社です」

神様「帰る。 あとはよろぴこ」トテトテ

神使「仕事です」グイッ

神様「何の調査だよ~」ジタバタ

神使「これから行く神社は予算が足りなく、このままでは廃社になってしまうそうなんです」

神様「そんな神社腐るほどあるだろ」

神使「主神の居られる神社というのが問題なんです」

神様「そんなの神宮で予算付けてやれよ。 神がいれば最低限の金は出すだろ」


神使「神宮の資料によると寄付金を断っているようで」

神様「は? お金くれるのを断るなんてあり得ないじゃん、何で?」

神使「それを調べるのが私達の仕事です」

神様「はは~ん、売り上げの大半を給料にして、神社の財布と個人の財布は別です! とか言うパティーンね」

神使「どうしてそんな悪知恵ばかり知っているんですか・・・」

神様「ちなみに、その神社運営が下手な神って?」

神使「この先にある大神之神社の主神様です」

神様「大神之神社?」

神使「はい、狼之神様こと、大神様です」



─── 田舎道


テクテク


神使「見えました。 あれが大神之神社のようですね」

神様「鳥居の横にあるのは社務所か?」

神使「売店のようですが」

神様「こんなド田舎に売店なんか作っても誰も来ないんじゃない?」

神使「随分と寂れていますね」

神様「ちょっと寄ってこーぜ、オシッコしたい」トテトテ

神使「またそんなはしたない事を・・・」



─── 売店


ガラガラ


神使「ごめんくださ~い」

神様「誰もいないね」キョロキョロ

神使「これは・・・ 駄菓子屋さんのようですね」

神様「すげー くじとか安っぽいオモチャも置いてる。 ホコリ被ってるけど」トテトテ

神使「神様、勝手に入っちゃダメで───」


ダダダダダ


神使「?」


巫女「いらっしゃいませー!」ズサァー


神使「あっ、勝手にすいません」

巫女「いえ大丈夫です!」ハァハァ

神使「お忙しいようでしたら後ほどお伺いいたしますが」

巫女「気にしないで下さい! 全然忙しくないです!」

神使「?」


神様「これと~ あっ、これも」ゴソゴソ

神使「ちょっと神様、買うんですか?」

神様「当たり前だよ、餅飴は青リンゴと・・・ おっ、コーラもあるじゃん」


巫女「・・・・・・」ソワソワ

神使「失礼ですが、大神之神社の巫女さんでしょうか?」

巫女「え? 私ですか?」

神使「はい。 巫女さんの格好をしているもので」

巫女「あぁ。 まぁそんなもんです」

神使「? ということはこちらの駄菓子屋さんも神社が運営を?」

巫女「そうなりますね」


神様「私これ買う」ドサッ

巫女「!? こ、こんなに沢山・・・」

神使「あんまり無駄遣いしちゃダメですよ?」

神様「私の全財産を投入だ!」

巫女「全部で180円です!」

神様「はい」ジャラジャラ

神使「それが全財産なんですか・・・」


巫女「嬉しー!」キャッキャッ

神様・神使「はい?」

巫女「売れたの久しぶりなんです!」

神様・神使「・・・・・・」

巫女「今日はおかげで贅沢できそうです」ニヘラ


神使「えっと・・・」

神様「し、神使君も何か食べたいんじゃない?」

神使「そ、そうですね。 では、私は・・・ これを頂けますか?」

神様「いいねぇ~ 酢イカ。 私も好き」

神使「1本おいくらですか?」

巫女「20円です」

神使(安い・・・)

神様「神使君金持ってんだろ? ここは大人買いだろ~」ウリウリ

神使「で、では全部頂きます」

巫女「え!?」

神使「この容器ごと・・・ でも何本入っているんでしょうか」

巫女「100本です!」

神使「あっ、1本も売れていないんですね・・・ では2000円で」スッ

巫女「あ・・・ ありがとう・・・ ございます・・・」ウルウル


神様「じゃ、またね~」トテトテ

神使「ちょっと、神様」グイッ

神様「グヘッ!」

神使「駄菓子を買いに来たんじゃないですよ」

神様「あ? そうか、オシッコをしに来───」

神使「すいません、私達こちらの神社に用がありまして」

巫女「神社に・・・」ピクッ

神使「社務所は横の鳥居から入っていけば良いんでしょうか?」

巫女「遊び半分で参拝に来たのであれば、今すぐ立ち去った方が身のためですよ?」

神使「そういう訳では・・・ 狼之神様とお会いしたく」

巫女「!?」

神使「申し遅れました。 私達、神宮の者です」

巫女「神宮?」キョトン



─── 大神之神社・参道


テクテク


巫女「先ほどは失礼しました。 大神様のお知り合いとは知らず・・・」

神様「かなりご無沙汰だけどね」


神使「木々が凄いですね。 だいぶ気温が低く感じます」

巫女「無造作に生えているように見える木も、気温を下げるために手入れをして配置しているんです」

神使「へぇ~ 参拝者思いな作りなんですね」

巫女「はい。 神社に踏み入れたら一気に気温が低くなった方が怖さが増しますからね」ニコッ

神使「怖さ・・・ ですか?」


巫女「あっ、こちらが本殿です」

神使「これは随分と・・・」

神様「壊れ~かけの~神社~♪」


神使「主神様はこちらに?」

巫女「はい。 ただ、今はあまりお見せできる状態ではなく」

神様「大丈夫だって。 そういうの馴れてるし」

巫女「そうですか? では」


ギィ


巫女「大神様、お客様です」

大神「フンッ! フンッ! あ? 客ってだ───」


ギィー バタン


神様・神使「・・・・・・」

巫女「どうされたんです? 急に閉めて」

神様「ねぇ、真っ裸の女が竹刀振ってたんだけど・・・」

神使「神様にもそう見えましたか」

巫女「最近暑いですし」

神様「いや、まぁ何となく言いたいことは理解できるし気持ちも分かるけど・・・」


バンッ


大神「おい、騒々しいぞ!」

神様「お巡りさ~ん! 露出狂の痴女がいます~」

大神「露出なんかしとらんわ! 褌とサラシを巻いているだろうが!」

神様「服着ろよ! 服!」

神使(神様がそれを言いますか)

大神「まさか・・・ 神ちゃんか!?」



─── 社務所


巫女「お水です」コトッ

神様「ありが、えっ!? 水?」

巫女「どうぞ」コトッ

神使「あ、ありがとうございます」


神様「お茶請け、いや水請けとかないの?」

神使「水請けって・・・ 先ほど買った酢イカならありますが」パカッ

神様「水と酢イカって合うか?」

巫女「頂きます」クチャクチャ

神様「売ったお前が食うんかい・・・」


大神「それより、どうしたんだ神ちゃん。 随分と久しぶりじゃないか」クチャクチャ

神様「仕事だよ。 ってお前も食うのかよ」

大神「土産だろ? そんな事よりこんな田舎に仕事なんかあるのか?」

神様「お前の神社が参拝者もなく赤字続きの借金まみれで潰れそうだから調べに来たんだよ」

神使「そんなぶっちゃけなくても・・・」


大神「えーと、君は神ちゃんの連れか?」

神様「あ~ これは犬ころ」

神使「神様のお付きで狛犬の神使と申します」フカブカ

大神「ほぉ~ 狛犬の神使とは珍しいな」


巫女「わぁ~ 私以外の神使って初めてお会いしました!」キラキラ

神使「よろしくお願いいたします」ペコリ

巫女「神使さんは、その・・・ お一人なんですか?」モジモジ

神使「え!? いや・・・ まぁ・・・」

神様「これは私の犬ころだから。 狛犬はワシントン条約で保護されてる希少種だから交尾はダメ」

神使「そんな物で保護されていません。 あと、はしたない言葉を使わないで下さい」


巫女「確かに人や神と少し違う匂いがしますね」クンクン

神使「うっ・・・///」

神様「悪魔に魂を売り渡した極悪邪道腐れ犬ころだし腐臭とか漂ってるんじゃない?」

神使「失礼な・・・」

巫女「とても良い匂いです。 心が安らぐような気分が落ち着くような」クンクン


大神「これは、ラベンダーだな」

神様「狛犬ってラベンダーの匂い発するの?」

神使「発しません。 ラベンダーの香りの匂い袋をもっているもので」

神様「相変わらずオシャレさんですね~」

神使「ほんの少しだけなのですが、よくお分かりになりましたね」

巫女「鼻には自信がありまして」


神様「ちなみに私はどんな匂いする?」

巫女「そうですね・・・ 草木の香りと言いますか、大地の香りと言いますか・・・」

大神「正直に言ってやれ。 雑草と土の匂いだ」

神様「・・・・・・」


神使「ちなみに巫女さんは何の神使さんなのですか?」

巫女「私は───」

大神「まてまて、今こそ名乗りの成果を見せるときじゃないのか?」ニヤッ

巫女「!? 確かに!」

神様・神使「?」

神様「まぁ、狛犬には負けるかもしれんがな。 全力でいけ」

巫女「はい!」


大神「こいつは別嬪じゃぞ? オスなら皆イチコロだ」

神様「ほぉ~ん。 私の美貌には足下にも及ばないと思うけどね!」


大神「さぁ、我が使いにしてこの地を守りし巫女よ! お前の真の姿を見せるが良い!」


巫女「ウゥ・・・」グルルル

神様・神使「!?」

巫女「グォ グガーー!!」メキメキ


ボキボキ ミシミシ


巫女「グギャーーー!!」グルルル


神様・神使「・・・・・・」

大神「うんうん、良い変身っぷりだ」

巫女「ありがとうございます!」


大神「どうだ神ちゃん、うちの神使は」

神様「う、うん。 立派な狼娘さんなのね・・・ なんか、生々しい変身だったね・・・」

神使「そ、そうですね。 ホラー映画のようでした・・・」


大神「随分とありきたりな評価だな」

狼娘「少し拍子抜けですね。 大抵の人は泣き喚くか失神しますから」

大神「変身途中で涎をまき散らした方が良いんじゃないか?」

狼娘「なるほど。 最後に舌を垂らしてボタボタと涎がしたたり落ちれば更に怖いですね」

神様「いやいや、今ので十分怖いから」

神使「私も、腰が抜けて立てない位ビックリしました」

神様「犬ころもまだまだだな。 私を見ろ、オシッコ漏らしたぞ」ジワッ

神使「・・・・・・」


大神「お~ 95点! 合格点だ」

狼娘「ありがとうございます! 歴代3位の高得点です!」

大神「それより神ちゃん、あんまり汚さないでくれよ」


狼娘「大丈夫ですか?」ズイッ

神様「きゃー! 大丈夫! 怖いから変身解いて!」ジュワッ~



─── 10分後


ガチャッ


神使「あっ、神様お風呂上がりました? って、また素っ裸で・・・」

神様「・・・・・・」ブルブル

大神「体くらい拭いてこい」

神様「み、水風呂なんですけど・・・ 冷え冷えなんですけど・・・」ブルブル

大神「暑いし水でも大丈夫だろ」

狼娘「湧き水って気持ち良いですよね。 お清めにも丁度良いですし」

神様「水なんかで何が清まるんだよ」ブルブル

神使「神がそんな事言わないで下さい」


神様「神使君、早く着る物!」

神使「神様が着る物をねだるなんて珍しいですね」

神様「こんなん風邪引くわ!」

大神「鍛え方が足りないんじゃないのか?」

神様「どう鍛えりゃあんな冷たい水風呂に耐えられるようになるんだよ!」

神使「Tシャツと短パンは洗濯中なので巫女服でも良いですか?」ゴソゴソ

神様「ん」イソイソ

大神「ほぉ~ 神ちゃんの巫女姿なんて初めて見るな」

神使「そうなんですか? 神様は巫女服以外Tシャツとジャージ、後は小学生みたいな服しか持っていないので」

神様「」ゲシッ


大神「昔はもっとゴテゴテした動きにくそうな服を着てたよな」

神様「装束だよ、いつの話してんだよ。 それを言うならお前だっていっつも鎧着てたじゃないかよ」

神使「鎧って・・・ いつの時代ですか・・・」

大神「流石に今の時代にあんな物着てても役に立たないしな」

狼娘「・・・・・・」


大神「あ~ そんな事より、ココへは何をしに来たんだ?」

神様「さっき言っただろうが。 廃社寸前の経営状態だから調べに来たんだよ」

大神「そんな事言われてもなぁ~ 人が来ないんじゃどうしようもないだろ」

神使「休日なのに参拝者の方が1人も来ていないようですね」

大神「もう何ヶ月も鳥居から奥に来た奴はいないな」


狼娘「威嚇が足りないんでしょうか?」

神様「威嚇してんのかよ・・・」

大神「畏れは大事だろ」

神使「失礼ですが、地元の方や氏子さん達は?」

大神「年に一度ある祭儀の時だけだな」

狼娘「それも年々人が来なくなり去年はゼロでしたね」

神様「祭儀って?」

狼娘「大神様と私で参列者を徹底的に恐怖へ陥れるんです」

神様・神使「・・・・・・」

神様「もしかして、さっきのホラー映画ばりのやつを披露したり?」

狼娘「はい! でも最後に本殿までたどり着いたのは10年位前でしたね」


神使「何でそんなことを?」

大神「神としての威厳を示す。 畏れは大事だろ?」

神様「この神社に人が寄りつかず破産寸前な理由が分かった気がするよ」ハァ

神使「そうですね」

大神・狼娘「え!?」

神様「え? じゃねーよ! 気付よ!」

大神「狼娘、分かるか?」

狼娘「う~ん、やっぱりヨダレをまき散らさなかったのがいけないんでしょうか」

神様「ちげーよ! 逆だよ、逆!」

大神・狼娘「?」キョトン

神様「はぁ~・・・ これは面倒くせーな・・・」



─── 夕方・神社近くの田舎道


テクテク


神様「暇だから散歩に出たは良いものの、ビックリする位何もない村だな」

神使「でも長閑で良い雰囲気です」


神様「おっ、ようやく第一村人発見」

神使「畑のお手入れでしょうか?」


神様「こんちわ~」

村人「ん?」クルッ

神使「立派なトウモロコシですね」


村人「見かけん顔ですな。 旅行かい?」

神様「まぁそんな感じ」

村人「残念だけど、この村には何もないで?」


神様「・・・・・・」ジーッ


村人「モロコシが気になるのか、食べるけ?」ポキッ

神様「いいの!?」

神使「すいません、何か催促したような感じで・・・」

村人「えぇって、今年は余るほど収穫があってな」

神様「甘い!」モグモグ

神使「生で食べるんですか・・・」


村人「このモロコシは生でもいけるで」

神様「イケルで」モグモグ

神使「・・・では私も」パクッ

村人「どうだ?」

神使「本当ですね。 生でもこんなに美味しいと動物に持って行かれたり大変じゃないですか?」

村人「あ~ ここらの畑はそういうのがないんだよ」

神様「猿とかいないの?」

村人「猿もイノシシも沢山いるがな。 でも畑の作物は絶対荒さんのだわ」

神使「珍しいですね」

村人「良かったらもう少し持っていくか?」

神様「マジで! 頂戴頂戴」



 ワオーン


村人「!?」ピクッ

神使「遠吠え?」

村人「あ、すまん。 用事思い出したからワシは帰るわ」

神使「え? あ、はい。 ごちそうさまでした」

村人「あんたらも日が落ちる前に村出てはよ帰れよ。 モロコシは好きなだけ持っていってええから」スタスタ


神使「急にどうしたんでしょう」

神様「ねー」ポキポキッ

神使「日も傾いていますし、暗くなる前に戻りましょうか」

神様「もう少し」ポキポキッ

神使「それ以上はダメです。 持っていくのは2~3個にして下さい」



─── 10分後


テクテク


神様・神使「・・・・・・」

神様「神使君?」

神使「・・・はい」

神様「気付いてる?」

神使「えぇ。 あまり良い感じではなさそうですね・・・」

神様「せーの、で振り向いてみようか」

神使「分かりました」

神様「せーの!」

神様・神使「」クルッ



グルルル


神様「な~んだ・・・ 野生のチワワが唸ってるだけじゃ~ん」

神使「どう見ても立派な狼さんだと思います・・・」


狼「グルルル」ノシッ ノシッ


神様「こっちに来るんですけど・・・ お前仲間なんだから私達は無害ですって通訳しろよ」

神使「狼さんの言葉なんて分かりませんよ・・・」

神様「使えねー犬ころだな。 ヤベーな、逃げるか?」

神使「目を反らすと襲ってくると思いますが・・・ 神様の持っているトウモロコシを餌にするというのは?」

神様「それはあり得ない。 絶対にダメだ、これだけはダメだ」ギュッ

神使「しかし、狼さんがトウモロコシをガン見てますが」


狼「グオー!!」

神様・神使「ひえぇ~!」


?「こら! アンタは何吠えてるの!!」ペシッ

狼「キャウ~ン!」


神使「狼娘さん!」

狼娘「大丈夫でしたか? 本当に申し訳ありません!」ペコペコ

神様「助かった~」ストン


狼娘「このお二人は大神さまの客人です! 匂いで分からないんですか!」

狼「」プイ

狼娘「きちんと謝りなさい!」


狼「グルル」

狼娘「大神さまの右腕である私にまで牙を見せるとは良い度胸です! お前は反省するまでご飯抜きです!!」

狼「!?」ペコリペコリ

狼娘「今更謝っても無駄です! 私が本気で怒る前に早くお山に帰りなさい!!」

狼「」タッタッタッ


狼娘「大丈夫ですか? 立てます?」

神様「うん・・・ ちょっとだけ漏れたけど」

神使「またですか・・・」

神様「に、2滴だけだよ」ジュワ~

神使「全部出し切ったように見えますが・・・」



テクテク


神様「犬ころ、疲れたからおんぶ」

神使「・・・・・・。 すいません、今日はちょっと・・・」

狼娘「本当に申し訳ありませんでした。 後でキツく叱っておきますので」

神様「この地の守護も担ってるんだから、ちゃんと管理しておかないとダメだと思うの」

神使「確かに野生の狼さんが現れると、村人の方もビックリするかも知れませんね」

狼娘「村の方達の臭いは全員教えているので、絶対牙を剥いて危害を加えることはないのですが・・・」

神使「人里まで降りてきて、お腹でも空いていたんですかね」

狼娘「いえ・・・ ちょうど見回りの時間なんです」

神様「見回り?」

狼娘「はい。 村の作物を荒らす猿やイノシシを追い払ったり部外者が侵入しないようにと」

神使「なるほど、私達の匂いを部外者だと思ったわけですね。 しかも神様はトウモロコシを持っているせいで余計に」

神様「これは盗んでないし!」ギュッ


狼娘「どちらかというと、お二人に付いた大神さまの匂いが原因かと」

神使「大神さまの匂い?」

狼娘「はい。 大神さまは村の狼たちにとって雲の上のような存在ですから」

神様「でも唸られたけど」

狼娘「大神さまと決闘をした凄腕と思い、自分も決闘したいと思ったようです。 大神さまと決闘することは皆の憧れですから」

神様「なにその危険な関係・・・」

神使「でも、どうして狼さん達が村を守るお仕事をされているんですか?」

狼娘「この村の作物を守るためです。 昔は作物の出来不出来が村人の死活問題でしたから」

神様「なるほどね~ その代わりに村人から神社に作物の献上があったとか?」

狼娘「」コクッ

神使「持ちつ持たれつですね。 山の狼さん達の食事は献上から賄っているのですか?」

狼娘「・・・いえ」

神様「今の時代に献上とか概念ないだろ~」

神使「え!? それではタダ働きじゃないですか」

狼娘「・・・・・・」


神様「大神は何て?」

狼娘「見回りだけは絶対に手を抜くなと。 それが私達の勤めだと」

神様「ふ~ん・・・」

神使「参拝のない神社運営に狼さん達の餌、それは赤字が続きますよね・・・」

神様「しかも駄菓子屋にも客は来ず、と」

狼娘「う~・・・」

神使「大神さまはどうされるつもりなんでしょう」

神様「さ~ね~」


狼娘「あの!」

神様・神使「?」

狼娘「神社を・・・ 大神様を助けてあげて下さい!!」

神様「・・・・・・」



─── 駄菓子屋


ガラガラ


狼娘「どうぞお入り下さい」

神様「おじゃま~」

神使「失礼します」

狼娘「よろしければ好きな駄菓子を取って食べて下さい」

神様「いいの!?」

神使「ダメです。 売り物なんですから」

狼娘「気にしないで下さい。 置いておいてもお客さん来ませんから」ニコッ

神使「・・・・・・」

狼娘「お茶持ってきますので中に入ってお待ち下さい」スタスタ


神使「神様、何とかならないですかね?」

神様「ふもふ、ふぁふもむ」モグモグ

神使「・・・・・・」

神様「ふもふぉ、ふもぉもむ」モグモグ

神使「・・・・・・食べた分はお金払って下さい」

神様「ふもっ!?」



─── 駄菓子屋・奥


テクテク


神様「あれ? 下に行く階段がある」

神使「地下室でもあるんですかね?」


狼娘「あぁ、倉庫です」スタスタ


神使「倉庫ですか?」

狼娘「元々この場所には道場がありまして、駄菓子屋を作るときに地下に移したんですけど今は倉庫として使っています」

神様「ふ~ん」

狼娘「さっ、どうぞお入り下さい」



─── 駄菓子屋・奥の部屋


狼娘「どうぞ」コトッ

神様「あっ! お茶だ!」

狼娘「私のへそくり茶ですが。 神使さんもどうぞ」コトッ

神使「ありがとうございます。 そんなに大事な物を良いんですか?」

狼娘「せめてものお詫びです。 こんな物がお詫びになるとも思っていないですが・・・」

神使「そのお気持ちで十分です。 いただきます」ズズッ


神様「神社の運営が厳しい?」

狼娘「」コクッ

神使「失礼ですが月の売り上げはどのくらいでしょうか」

狼娘「ここ数年ゼロです・・・」

神様・神使「・・・・・・」


狼娘「あっ、今日2100円の売り上げがありました」

神使「それは私達ですね・・・」

狼娘「貯金を切り崩して何とかしのいでいるのですが、多分長く持ちません」


神使「実は、神宮から神社運営の寄付金の話がありまして」

狼娘「本当ですか!?」パァ

神使「はい。 それも20年前から」

狼娘「え?」

神様「大神の奴が寄付金を断ってんだってよ」

狼娘「何で・・・」

神使「もしよろしければ、神社の運営帳簿を見せて頂けますか?」

狼娘「はい。 今持ってきます」スタスタ



神使「狼娘さんは寄付金のことを知らなかったようですね。 どういう事でしょうか?」

神様「別に金があるのか、それとも・・・」


狼娘「お待たせしました」スタスタ

神使「あっ、ありましたか?」

狼娘「はい。 こちらが帳簿です」スッ

神使「拝見します」ペラッ

神様「どう?」ニョキッ

神使「酷い赤字ですね・・・ これでは破綻も時間の問題かと」

狼娘「・・・・・・」


神使「ん? 20年前に結構な入金があるようですが」

神様「おいくら万円?」

神使「2000万です」

神様「なんだ、金持ってんじゃん」

神使「でも、それも毎月の補てんで食い潰して残っていないようですが」

狼娘「そのお金は・・・ 大神様がご自身の鎧をお売りしたお金でして・・・」

神使「鎧?」

神様「・・・もしかして大神之武神鎧?」

狼娘「」コクッ

神様「・・・・・・」


神使「その大神之武神鎧というのは?」

神様「あいつが命より大事にしていた特注の鎧。 武神大神のトレードマークだ」

神使「武神?」

神様「そう、あいつは武神だからな。 昔は将軍やら全国の城主から絶大な信仰があったんだよ」

神使「それって国宝級じゃないですか! それをこんな値段でお売りに?」

狼娘「あの時は参拝者も減り本当にお金がなく・・・ 山の狼たちの餌もろくに出せない位困窮してまして・・・」

神使「そんな状況でなぜ寄付金をお受けにならなかったんでしょうか?」

神様「・・・・・・」

神使「神様?」

神様「アイツらしいな」

神使「どういう意味です?」

神様「不器用は変わらず、か」



─── 夜・本殿前


大神「フンッ! フンッ!」


神様「素振りなんかして何と戦うんだよ」トテトテ

大神「? 神ちゃんか」

神様「ちょっと二人で話できるか?」

大神「向こうの木の陰に二人隠れているようだが?」チラッ


 狼娘・神使「」コソッ


神様「盗み聞きさせてやる位は良いんじゃない?」

大神「・・・そうか。 そうだな、丁度良い時期かもしれん」フッ


神様「ほい、モロコシ」スッ

大神「これは?」

神様「さっき村の人からもらった」

大神「この村のモロコシは美味いだろ」

神様「最高だね」モグモグ

大神「うむ。 相変わらず美味いな」モグモグ


神様「いつだ?」

大神「・・・・・・。 もってあと1年という感じかな」

神様「私の見立てと同じだ。 お前の神力がほとんど底をついている」

大神「潮時だよ。 武神などこの時代に必要ない」

神様「お前が鎧を着て戦に出ている姿は今でも目に焼き付いてる」

大神「惨い時代だったな。 多くの人を傷つけた」


神様「私はお前が人を傷つけたところを見たことないけど?」

大神「・・・・・・」

神様「私の記憶だとお前の刀には一度も血が付いたことはなかった」

大神「美化しすぎだ」

神様「私の目は節穴じゃないよん。 よくあんな事が出来るな」

大神「私の勝手なこだわりだ。 さすが神ちゃん、よく気がついたな」

神様「私だけじゃなくて上の方の武将とかは気付いてたみたいだけど?」

大神「・・・・・・」

神様「まぁ、それ込みでお前を武神として崇敬してた訳だけど」

大神「皆を騙せていたと思っていたが・・・」フッ

神様「しかし、あんだけ偉いさんから崇敬されてた武神さまがこんなボロ神社の主神とはねぇ~」

大神「確かに。 私を慕ってくれた者達に顔向けできないな」


神様「寄付金、断ってるんだって?」

大神「何の役にも立たない私がもらう価値などない」

神様「私なら一日中寝て過ごしたとしても貰うけどなぁ~」

大神「・・・・・・。 神ちゃんの役割と私の役割は違う」

神様「でも、村の農作物を守っているんだし少し位は良いんじゃない?」

大神「対価などモロコシ1本でも多い位だよ」

神様「お堅いね~」

大神「すまないな、面倒な性格で」


神様「武神ではなく普通の神じゃダメか?」

大神「私には他に才がない。 この神社の姿を見れば分かるだろ?」

神様「狼娘はどうするんだ?」

大神「・・・・・・」


神様「話を変える。 あの駄菓子屋は?」

大神「話が変わってないな」フッ


大神「狼娘が小さかったとき・・・ まだこの神社に人の参拝があったときだが、あいつは人の子とじゃれ合うのが好きでな」

大神「神使になることが出来たら、駄菓子屋を作りたいと夢を語ってくれた」

神様「・・・・・・」


大神「私がいなくなっても狼娘が暮らしていけるようと、あれを拵えたんだが」

神様「鎧、売ったんだって?」

大神「あぁ、さすがに赤字が酷くてな。 鎧で夢は買えぬが、金に変えれば駄菓子屋は作れる」

神様「それでも神宮からの寄付金は使わずか」

大神「私の手で何とかしてやりたかった。 それだけだ」

神様「相変わらず不器用さんだね~」

大神「そうだな、私は面倒な性格でしかも不器用だ。 自分でもそう思うよ」


大神「狼娘は私の宝、鎧なんかと比べられる物ではない。 迷いもなかったし後悔もない」

大神「駄菓子屋でも作るか、と言ったときのアイツの顔・・・ 今でもハッキリと覚えている。 作って良かった」

神様「そう」


大神「でも、ご覧の通り村から子供だけでなく人すら少なくなってな・・・」

神様「どこも同じだ。 散々見てきた」

大神「アイツには逆に苦労を背負わせてしまったようだが」ハハハ

神様「・・・・・・」


大神「神ちゃん、偉そうなことを散々言っておいて勝手な願いだが・・・ 狼娘を頼めないだろうか?」

神様「・・・・・・」


大神「私がいなくなったらアイツは・・・」


 狼娘「いや・・・ うそ・・・」


大神「」チラッ

神様「・・・・・・」


 狼娘「イヤだ!」タッタッタッ

 神使「あっ、狼娘さん!」


大神「・・・・・・」ハァ


 神使「神様! 狼娘さんが外に!」


大神「すまん・・・ 神ちゃんに任せても良いだろうか。 私はこういう事が苦手でな・・・」

神様「分かった。 私に全て任せておけ」

大神「恩に着る」スタスタ



スタスタ


神使「神様・・・」

神様「・・・・・・」

神使「まさかこんな事になっているだなんて・・・」


神様「」ニタァ

神使(うっ・・・ なぜこの状況で神様はこんな笑みを・・・)

神様「神使君や、ここへ電話を繋いでくれたまへ」スッ

神使「ここは?」

神様「神ちゃんプレゼンツショーの始まりだよ」ウヒャヒャ



─── 駄菓子屋前


狼娘「・・・大神さま」グスッ


 神様「狼娘ちゃん」


狼娘「・・・・・・」

神様「お願いがある」

狼娘「嫌です!」

神使「狼娘さん・・・」

神様「この私が手塩に掛けて育てた神を、そう易々と諦めるとでも思うのかい?」ニヤッ

狼娘「え?」クルッ

神使「駄菓子屋の地下倉庫を見せてもらえる?」

狼娘「倉庫?」



─── 深夜・駄菓子屋地下倉庫


ギーッ


神様「うはっ! ゴミ屋敷!」

神使「これは、また凄いことになっていますね・・・」

狼娘「すいません・・・」

神様「倉庫って言ってももう少し綺麗に使わないと」

神使「神宮にある神様の私物倉庫と同じようなもんじゃないですか」

神様「もっと綺麗ですぅ~」ゲシッ

狼娘「こんな時間に倉庫に来てどうするんですか?」

神様「決ってんじゃん。 片づけるんだよ」

狼娘・神使「え!?」


神様「明日の朝までにここを道場に戻す」

狼娘「道場に!?」

神様「時間がないし、ちゃっちゃとやるよ~」トテトテ

狼娘「で、でも・・・」

神様「狼娘ちゃんは掃除機持ってきて」

狼娘「掃除機は・・・ 無いです・・・」

神様「は?」

狼娘「そういう高い物は・・・」

神様「あ~・・・ じゃぁ箒とちりとりでも・・・」

狼娘「それならありますが」

神様「大神を助けたいんだろ?」

狼娘「すぐ持ってきます!」タッタッタッ


神様「いや~ これはやりがいがあるねぇ~」

神使「朝までに終わるんでしょうか?」

神様「終わらせるしかない」キッ

神使「神様・・・」


神様「さて、んじゃ大物から始めて神使君」

神使「え? ・・・神様は?」

神様「膝に水が溜っててさ、ドクターストップかかってんだよ」

神使「・・・・・・」ハァ



─── 2時間後


神様「お~ だいぶ片づいてきたね。 がんばれ~」

神使「神様も少しは手伝って下さいよ・・・」

神様「さっき言っただろうが、腰やっちゃってドクターストップかかってんだよ」

神使「膝の水はどうしたんですか・・・」

狼娘「あっ、私バケツの水を取り替えてきますね」スタスタ

神様「よろぴこ~ ついでに何か駄菓子差し入れで持ってきて~」

狼娘「は~い」


神使「しかし、どういう事ですか? あの電話は」

神様「あ?」

神使「さらなる剣の上達に一生懸命な腕利きの剣道バカを紹介しろだなんて」

神様「いや、剣道“バカ”までは言ってないと思うけど・・・」

神使「とりあえず、明日は神宮付属道場の師範の方が来るそうですが」

神様「へぇ~ 剣道バカなの?」

神使「1年中剣道のことばかり考えている方で、凄腕の剣士がいると聞くとすぐに手合わせに行く位だとか」

神様「あ~ バカだねぇ~」

神使「でも剣道界で名は知れ渡っていて協会の理事も務めていると聞きました」

神様「それは良いカモだ! いや~ 楽しみだ」ウヒャヒャ



─── 翌日・鳥居前


神使「神様、あの方ではないですか?」

神様「お~ 間違いないね。 お~い!」


 剣士「?」スタスタ


神使「遠いところご苦労様です」

剣士「神宮付属武道館の剣士と申します」ペコリ

神使「神使と申します」ペコリ

神様「かわゆい神ちゃんと申します」ペコリ

剣士「凄腕の女剣士がいると聞き参上しました」

神様「いや~ 凄いよ? 剣道界の勢力図を塗り替える逸材だね、あれは」

剣士「ほぉ~ それは楽しみですね。 しかし、それは私が剣を交えてから判断させて頂きましょう」

神様「ビビるなよ?」ニヤッ



─── 本殿


大神「・・・・・・」ハァ


コンコン


大神「?」


ギーッ


狼娘「失礼します」ペコリ

大神「狼娘・・・」

狼娘「大神さま、お話しがございます。 一緒に来て頂けますでしょうか」

大神「・・・・・・」

狼娘「お願いします」キッ

大神「・・・・・・。 分かった」スタスタ



─── 駄菓子屋・廊下


狼娘「・・・・・・」スタスタ

大神「狼娘、昨日の話のことだが・・・」スタスタ

狼娘「」スタスタ

大神「・・・・・・」ハァ



狼娘「どうぞお入り下さい」

大神「ん? ここは・・・ 倉庫じゃないか」


ギッー


大神「!?」



─── 倉庫改め道場


神様「お、来たか」

大神「これは・・・ 一体どういう事だ!?」

神様「いや~ お前ガラクタ置きすぎ。 掃除するの大変だったんだから」

神使「神様は何もしていませんが・・・」

神様「古くさいけど結構良い道場じゃん」

大神「なぜこんな事を・・・」

神様「ちょうど狼娘と稽古の時間だろ?」

大神「まさか、ここで狼娘と稽古をしろと?」

神様「狼娘ちゃんはケガのため見学」

大神「ケガ?」


神様「今日のお相手はこちらの方です! ババン!」


スタスタ


剣士「よろしくお願いします」フカブカ

大神「・・・・・・。 だれだ?」

剣士「神宮付属武道館の剣士と申します」

大神「で?」

神様「ちょっとあの人と勝負して?」

大神「は?」

神様「狼娘ちゃんが稽古できないからこの人と勝負して?」

大神「意味が分からんのだが・・・」

剣士「あなたが剣に自信があると聞き、手合わせをお願いできればと参上しました」

大神「・・・・・・」


神様「実は~ぁ」サササッ

大神「うっ、何だ近いな・・・」

神様「狼娘ちゃんがアレにコテンパンにやられちゃって~」ボソッ

大神「何? 本当か狼娘」

狼娘「え? あ、はい。 痛い痛い~」スリスリ

神使(見事な棒読みですね・・・)

神様「次は私と神使君をボコするって。 まぁ神使君はどうでも良いんだけど私は流石にね~」ボソッ

大神「・・・・・・」チラッ


剣士「?」


大神「」ハァ


神様「あの男、強いよ? お前でも厳しいかもなぁ~」

大神「」ピクッ

神様「武の達人ってああいうのを言うんだろうな~ やっぱお前でも難しいかなぁ~」

大神「・・・・・・。 何を考えているのか知らんが、良いだろう。 守る必要があるのであれば私の意に反しない」

神様「そうこなくちゃ!」

大神「おい、そこの剣士」

剣士「?」

大神「手を抜くな。 どうなっても知らんぞ?」

剣士「望むところ」

大神「狼娘、竹刀を」

狼娘「はい!」スッ

大神「ん」

剣士「」ゴクリ


神様「はじめ!」



─── 数分後


剣士「くっ!」ガタッ

大神「良い剣筋だった」


剣士「・・・恥を忍んで、もう一勝負付けてもらえないでしょうか!」

大神「何度やっても同じだ。 私とお前では剣の重みが違う」

剣士「重み?」

大神「私は後ろにいる者達を身命を賭して守るために剣を振るった。 勝ち負けのために振るったお前の剣が勝てるわけない」

剣士「!?」

大神「そんな軟弱な剣で私を倒すことなど何度やっても無理だ」


剣士「しかし! あなたは私へ一度も有効をつかなかった!」

大神「ほぉ、そこまで見ていたとは見事だ」

剣士「まさか!? わざと・・・」

大神「狼娘、この者に水を」

狼娘「は、はい!」タッタッタッ


大神「ところで狼娘、傷は大丈夫なのか?」チラッ

狼娘「うっ・・・」ピクッ

大神「なら、良い」フッ


狼娘「あの!」

大神「?」

狼娘「私も稽古をお願いしても良いでしょうか!」

大神「・・・・・・。 もちろん」


神様「♪~」ニヤニヤ

神使(あ~ これはきっと神様の作戦通りに事が進んでしまっているんでしょうね・・・)

神様「んじゃ、次は“いつも通り”の大神と狼娘ちゃんの稽古開始!」

狼娘「よろしくお願いします!」

大神「こちらこそ。 久しぶりの道場だ、遠慮なく行くぞ」タッ


パンパン!


剣士「!?」

神使「これは・・・ 凄いですね・・・」

剣士「凄いなんてものじゃ・・・ これが普段の稽古!?」ゴクリ


大神「入り方が雑だ! いつも言っているだろう!」パンッ

狼娘「はい!」

大神「刀の長さを考えろ! それでは守れんぞ!」パンッ


剣士「・・・・・・」


─── 数分後


神様「は~い。 見てるの飽きたから終わり~!」

大神・狼娘「・・・・・・」


神様「どうよ、うちの秘蔵っ子の力は」

剣士「こんな方達がいたなんて・・・」

神様「二人ともご苦労様~ ゆっくりと休んで下さいな」

剣士「・・・・・・。 あの!」

神様「おや~ 何かな?」

剣士「お願いがあります」フカブカ

大神「私か?」

剣士「弟子として私を鍛え直して頂けないでしょうか!」

大神「はぁ!?」

神様「」ウヒャヒャヒャ

神使(もはや隠す気すらないようですね・・・)


剣士「先生の剣の心得、感動しました! 是非私にもその心を!」

狼娘「!? だ、ダメです! 大神さまの右腕は私だけです! 私以外と稽古だなんて許しません!」プンプン

剣士「そこを何とか!」

狼娘「大神さまと剣を交えられるのは日に30分だけ。 私の稽古時間が減ってしまいます!」

剣士「姉さん! 雑用からでも結構です! 側でお二人の剣を見させて頂くだけでも結構です!」

狼娘「ね、姉さん!?」


神様「まぁまぁ、皆さんそう熱くならずに」トテトテ

神使(うわっ、神様が出てきた・・・ 〆の小芝居開始ですね)


神様「大神師範も色々と忙しい」

大神「師範!?」

神様「あんた一人だけのために貴重な時間を割くというのも、ねぇ?」

剣士「確かに・・・ ではどうすれば」

神様「もう少し教えを請いたいという人がいればねぇ~」

大神「おいおい神ちゃん、何を言っているんだ!? 私は剣術を教えるなどそんな気は───」

神様「お前だって大好きな剣を振るって余生を過ごしたいだろ?」ボソッ

大神「ま、まぁ・・・ 剣を振るうのは好きだが・・・ しかし、私の剣は勝負事の物でなく───」

神様「おいおい、私に全部任せるんじゃなかった~? そう言ったよね? 昨日そう言ったよね?」ニヤッ

大神「うっ・・・」

神様「狼娘ちゃんのためを思ってやってるんだけどなぁ~」ボソッ

大神「・・・・・・。 分かった」ガクッ


神様「というわけで、あんたの知り合いに声を掛けて人集めてくれ。 話はそれからだ」

剣士「」コクッ



─── 翌日


大神「・・・・・・」


ガヤガヤ


狼娘「受付はこちらになりま~す!」

神様「本日特価! “武神の水”は1本100円! 24本以上は配送料無料だよ~」


大神「なぁ、狛犬の神使よ」

神使「はい」

大神「この人の量は何だ?」

神使「みんさん凄腕の剣士さん達のようです」

大神「・・・・・・」


神様「も~ 大神遅いって」トテトテ

大神「昨日は茶番に付き合ってやったが、今日は勝負などしないぞ?」

神様「だれも勝負なんかしろなんて言ってないだろうが」

大神「そうか」ホッ

神様「ちょっと相手してやるだけで良いって」

大神「・・・それを勝負と言うんじゃないのか? 」

神様「時代は違えど、こいつらは武の道を極めんとする剣士だぞ? お前、その元締めじゃないのか?」

大神「うっ・・・」

神様「この時代で武を志す者達を見捨てるの~? 大神さんて何の神なの?」

大神「・・・・・・」

神様「それしか才がないんだよね~? 他にできることなんか無いんだよね~?」

大神「・・・しかし」


神様「狼娘ちゃんはどうすんの?」ボソッ

大神「それを言えば私が頷くとでも?」

神様「思ってるよ? 当たり前じゃん」

大神「・・・・・・」

神様「何か問題でも?」

大神「分かった・・・」ガクッ


神様「よーし! 狼娘ちゃん、皆さんを道場へお連れして」

狼娘「は、はい!」タッタッタッ

神様「神使君は水売って」

神使「え~・・・」



─── 道場


神様「さて、皆さん防具は着けましたね?」

剣士達「はい!」

神様「それでは、大神総師範よりご挨拶! ババン!」


大神「・・・・・・」

剣士達「」ゴクリ

大神「あ~・・・ 私は、このような───」

神様「はい、ありがとうございました」

大神「・・・・・・」


神様「んじゃ、最初に対戦したい人は前へ」

剣士「はい! 幸運館・館長です! よろしくお願いいたします!」

大神「待て待て」

剣士「?」


大神「面倒だ。 全員まとめてかかってこい」


ザワザワ


大神「武神・大神の力を見せてやる」ニヤッ


神使「だ、大丈夫でしょうか? 30人はいると思いますが」

神様「楽勝だろ。 本物の戦で先陣切って剣を振るってた奴だぞ?」

狼娘「大神さま凄く楽しそうです。 何十年ぶりだろう・・・ こんな大神さま見たの」

神様「アイツの本気の剣は凄いぞ? 今相手したら私でも厳しいかもな」

神使「はいはい」

神様「」ゲシッ


大神「どうした? 来ないのならこちらから行くぞ!」タッ

剣士達「!?」



─── 10分後


パン! パンッ!


大神「剣士A! お前の狙った場所は違うはずだ!! 敵は常に動いていることを忘れるな!」

剣士A「はい!」

大神「剣士B! 残心が無いぞ!」

剣士B「はい!」


パン! パンッ!


神使「凄いですね・・・ これだけの人数を相手にしながら一人ずつ助言するなんて・・・」

神様「あれでも全然本気出してないな」

狼娘「そうですね、大神さまの本気の一振りは当たらなくても気絶しますから」

神使「・・・・・・」



─── 30分後


剣士達「参りました!」フカブカ

大神「こちらこそ相手頂き感謝する」ペコリ

神様「どうよ、剣士達の腕は」トテトテ

大神「皆良い腕を持っている。 正直少し見くびっていた私が恥ずかしい程だ」

神様「まだまだ上達すると思わない?」

大神「あぁ、さらなる高みへ登る可能性は秘めている」


ザワザワ


神様「お聞きになりましたか皆さん! うちの総師範が皆さんの上達を約束しました!」

剣士達「うおー!!」

大神「!?」


神様「と、いうわけで当“神ちゃん道場”で指導を希望する方はこちらの入門届を提出して下さい」

大神「は?」

神様「指導料は月1万円、キッズクラスも併設予定なので知り合いの子供の入門を希望される方は割引がありますよ~」


剣士「入門届下さい!」

剣士「私にも!」

剣士「キッズクラスの分も一緒に下さい!」


大神「ちょ、ちょっと待て! どういう事だ!?」

神様「は? 入門届を配ってんだけど?」

大神「いや、そうじゃなくて。 まさか私が稽古を付けるのか?」

神様「他に誰がいるんだよ。 あ、キッズクラスは狼娘ちゃんが師範で稽古付けるから心配すんな」

狼娘「え!? 私ですか?」


神様「二人とも毎日ちょー暇だろ? 少し位は武道の役に立てよ。 武神とその神使なんだから」

大神・狼娘「・・・・・・」


神様「お前は剣を教え、その対価を貰う。 お前の一つしか無い才を使ってな」

大神「・・・・・・」

神様「こいつらは戦のない今の時代で“武”を守っていく者達だ」

大神「!?」

神様「何かお前のこだわりに反することでも?」

大神「いいや、なさそうだ」フッ


神様「狼娘ちゃんはキッズクラスで頑張って。 駄菓子屋に子供も来て一石二鳥!」

狼娘「はい!!」


神様「皆さ~ん、当道場へ入門すると大神師範も毎日飲んでいる“武神の水”が80円で買えますよ~」

剣士「師範も飲んでいる!? すいません、武神の水を下さい!」

剣士「私も!」


神様「はいはい押さないで! うひょ~ バカ売れだよ、笑いが止まんねーよ」ウヒャヒャ

神使「神様・・・」ハァ

大神「なぁ、さっきから思っていたんだがあの水は何だ?」

神使「本殿の裏から汲んだ湧き水をボトルに詰めただけです」

大神「・・・・・・」


神様「狼娘ちゃん、急いで水汲んできて」

狼娘「え? あ、はい!」タッタッタッ


大神「神ちゃんは相変わらずだな」

神使「すいません、勝手なことをして・・・」ペコリ

大神「いや・・・ どうやら、私はまた神ちゃんに救われてしまったようだ」フッ

神使「?」

大神「何の取り柄もない私を武神へ指南してくれたのは神ちゃんなんだ」

神使「神様が?」

大神「知っているか? 神ちゃんは私より強いんだぞ?」

神使「え!?」

大神「おっと、これは喋ってはいけないことだったかな?」

神使「・・・・・・」


神様「よっしゃ! んじゃ、早速明日から道場オープン!」

大神「まてまて」

神様「なんだよ、この期に及んで嫌だとか言うなよ?」

大神「言わんよ。 一つだけ条件がある」

神様「あ?」

大神「日が昇っている時間だけだ。 日が沈む前には皆この村から出ること」

神様「そんな事か。 おっけ~ おっけ~」


剣士「水を! 武神の水を60本下さい!」

神様「はい喜んで! 今汲んでくるからちょい待ちね」ウヒャヒャ



─── 1週間後


神様「見てみて! このお金!」

神使「今月の月謝が大人クラス30万円、キッズクラスと駄菓子屋の売り上げが5万円です」

神様「武神の水の売り上げも1万あるよ!」

神使「それは帳簿に載っていないですね。 そのお金渡して下さい」

神様「ぇ?」

狼娘「うわぁ~ こんなに沢山のお金を見たの初めてです」

神使「これから毎月これだけの売り上げが入ってきますよ?」

狼娘「毎月!?」

神使「神社の修繕や備品購入もしやすくなりますね」

神様「ちょっと街出て鰻食いに行こうぜ~」

大神「いや、生活に必要な分として毎月2万円だけを頂くことにする」

神様「それだけで暮らしていけんのかよ・・・」

神使「残りはどうされるんです?」



─── 村の畑


村人「いや~ 今年もモロコシ残っちまったな」

村人「うちも猛暑の影響か作物不良でほとんど廃棄だよ」


 神様「こんちわ~」トテトテ


村人「ん? お~ いつぞやの」

神使「先日はトウモロコシごちそうさまでした」

村人「美味かったろ。 今日も少し持ってい・・・ く・・・・・・」


 大神「邪魔する」スタスタ


村人達「!?」


大神「これは懐かしい顔だ。 お前子供の時に神社の祭儀で本殿までたどり着いた者だな」

狼娘「あ! 覚えてます。 確か私の渾身の変身で気絶した方ですね」

村人「・・・・・・」

神様「あ~ 知ってんだ」

大神「当たり前だ。 村の者は全員匂いで分かる」


村人「い、いつも見回りご苦労様です・・・」ペコリ

大神「気にするな、助けて貰っているのはこちらだ」

神様「?」


村人「き、今日は何か・・・」

大神「その作物は廃棄するのか?」

村人「はい、出荷は出来ないので・・・」

大神「これから廃棄する作物は神社に持ってこい。 私が全て買い取らせて貰う」

村人「え!?」

大神「いいな?」

村人「そ、そんな・・・ 神社の方には新鮮な作物を持っていきますので」

大神「前にも言ったはずだ。 献上は受け付けない」

村人「・・・・・・」

大神「私に廃棄する物を売るのだ。 わ・かっ・た・な?」ズイッ

村人達「わ、分かりました!! すぐにかき集めて売りに行きます!!」タッタッタッ


神様「ねぇ、皆ちょー怖がってたけど。 逃げちゃったけど」

大神「畏れは大事だろ?」

神様「廃棄する野菜なんか買い取ってどうするつもりだよ」

大神「食べるに決っている」

神様「マジかよ・・・」

神使「廃棄といっても市場の出荷規格に合わないだけで物は新鮮で問題ありませんからね」

神様「金あるんだからまともな方を買えよ」

大神「この地に住まわせてもらっているせめてもの恩返しだ」

神使「どういう事です?」

大神「私や狼娘、それに山に住む狼は村の民に守ってもらっているからな」

神様「え? 逆じゃないの?」


大神「残念だが日本で野生の狼がいるのはこの地だけだ」

神使「言われてみれば確かに・・・」

神様「そうなの?」

神使「確かニホンオオカミはすでに絶滅しています。 他に出没事例も聞いたことありませんね」

神様「いやいや、いるじゃん。喧嘩売られたじゃん」

神使「まさか、それを知って村の人達は・・・」

大神「あぁ。 皆は何も言わないが、影ながら私達の存在を隠してくれている」

神使「それで代わりに村の作物を守っていたんですか」

大神「山の狼たちの命と作物の見張りでは釣り合わないがな」

神使「もしかして献上がないというのは・・・」

大神「そんなものを受け取れるわけないだろ」

神様「うへぇ~ 面倒くせー性格してますなぁ~」

大神「何度も言うな・・・」


神使「日が落ちるまでに道場の皆さんを帰らせているのも狼さん達を隠すためですか?」

大神「あまり知られたくはないからな」

神使「そうでしたか・・・ なんか私達が荒らしてしまったようですいません」

大神「心配するな、いつかは話すつもりだ。 これも時代の流れだろう」

狼娘「・・・・・・。 申し訳ありません大神さま!」フカブカ

大神「?」

狼娘「私・・・ 色々誤解していたみたいです。 村の方達とか、見張りの件とか・・・」シュン

大神「変わることが出来なかった私の責任だ。 狼娘が気にすることではない」

神様「そうそう、ついでに人を怖がらせるのも辞めた方が良いと思うぞ? 時代に合わない」

大神「しかし、神には畏れを持って接して───」

神様「変わるんだろ?」


大神「・・・・・・。 そうだな、これからはもう少し───」


 剣士「名誉会長ー!」タッタッタッ


神使「名誉会長?」

剣士「ここにいましたか、名誉会長」ハァハァ

神様「バカ! 外に出てくるなっていっただろうが」ボソッ

神使「しかし完成したらすぐに知らせろと言ったのは名誉会長では・・・」


神使「神様? 剣士さん達に何をさせているんですか?」

神様「いやちょっとね・・・」アセアセ

大神「名誉会長ってのは何だ?」

神様「・・・・・・」


神使「剣士さん、何が完成したんでしょうか?」

剣士「湧き水を汲み上げる大型の井戸が完成しまして───」

神様「うわー! 言うんじゃない!」

大神「井戸?」

神使「まさか“武神の水”を量産する井戸ではないですよね?」

神様「・・・・・・」

大神「剣士、急いで道場へ戻れ。 何があっても振り返るな」

剣士「え? あ、はい。 分かりました。 それでは名誉会長、先生、失礼します」タッタッタッ


大神「前言撤回だ」

神様「どの前言でしょうか・・・」


大神「畏れは大事なようだ。 狼娘! お前の全力を見せてやれ!」

狼娘「はい!」

神様「ちょ、何する気? 言っておくけど狼娘ちゃんじゃ私に剣は敵わないよ?」


狼娘「ウゥ・・・」グルルル

神様・神使「!?」

狼娘「グォ グガーー!!」メキメキ


ボキボキ ミシミシ


狼娘「グギャーーー!!」グルルル


神様・神使「・・・・・・」ストン


狼娘「上手そうな匂いのする餌だ」ポタポタ


神使「か、神様・・・ 謝って下さい」アワアワ

神様「」コテッ

神使「神様が失神した!?」


大神「お~ これは怖いな。 100点だ!」

狼娘「初めての100点! ありがとうございます!!」

大神「やはり畏れは必要だな」ハハハ


神様「」

神使「神様! 神様ー!!」

神様「」ジュワ~





神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 番外編・2018年夏
おわり

じゅわ~


スレが余ってるんだよ……

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


幼子「お母さん? どこ?」テクテク

 ガタガタ

幼子「!?」ビクッ

?「幼子」

幼子「お母さん!」タッタッタッ

?「こんな所でどうしたの?」

幼子「あのね、お祭り見てたら迷子になっちゃったの」

?「沢山の人がいるものね。 でも、もう大丈夫よ」ニコッ

幼子「ねぇ、あのガタガタしてる箱は何?」

?「あれは、お母さんと幼子の宝物。 幼子が大きくなったら一緒に開けましょうね」

幼子「うん!」

?「お母さんちょっとお仕事があるから、先に帰っててね」

幼子「はい!」ニコッ

─────
───


■ 神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 番外編・2018年冬



少女「お母さん・・・ お母さん!!」ハッ!


ガタンゴトン


少女「・・・・・・」ボー


 「ねぇ」


少女「?」クルッ


 「隣に座っても良い?」


少女「・・・・・・。 連れの方と一緒じゃないんですか?」


神様「あいつ寝ちゃってさぁ~ 暇だから誰かと喋りたいの」ヨイショ

少女「お小遣いをねだって、断られた腹いせにスネ蹴りして気絶させたように見えましたけど」

神様「見てたの!?」

少女「嫌でも聞こえる位に大きな声でしたから。 財布、返した方が良いですよ?」

神様「いいのいいの。 それより座っても?」

少女「・・・・・・。 もう座っているように見えますが」


ガタンゴトン


神様「♪~」ニコニコ

少女「・・・あの」

神様「3つ先の駅にデカい神社があってさぁ~」

少女「?」

神様「デカいくせにすげー田舎なもんで参拝者が全く来ないんだって」

少女「そう」

神様「あっ! 今、牛が見えた」

少女「・・・・・・」

神様「牛でけ~」


少女「特に用がないなら、できれば一人にして頂きたいのですが」

神様「ひま?」

少女「そうですね。 あまり会話も弾みませんし」

神様「違うって。 ナウじゃなくてこの先ずっと暇? って聞いたの」

少女「・・・どういう意味ですか?」

神様「バイトしない?」

少女「え?」



─── 錆礼田神社前駅


プシュー


神様「いや~ さすが神使君チョイス。 何もない所だね~」トテトテ

神使「神様、酷いですよ・・・ 見て下さいよ、こんなに大きい青あざが・・・」スリスリ

神様「お付きの分際で私に楯突くからだ」


 少女「お付き?」


神使「?」クルッ

神様「紹介しよう。 彼女は少女ちゃん」

少女「」ペコリ

神使「はじめまして」ニコッ


神様「電車の中で意気投合して仲良くなったのだ」

少女「私には意気投合した記憶がないですが」

神様「この出会いは何かの縁なのだよ。 そう、これから起こるであろ───」

神使「すいません、なんかご迷惑をおかけしたみたいで」

少女「はい。 結構」

神使「神様、可愛いからって他人を引きずり回すのは良くないですよ?」

神様「お前って本当に犬ころだな。 だから皆からダメすぎィーヌって呼ばれるんだよ」

神使「そんな風に呼ばれたの初めてなんですけど」

少女「それより私は何を? バイトって言ってましたけど」

神使「バイト!?」

神様「聞いて驚け、少女ちゃんを雇った」

神使「本当に驚きですよ。 雇うって、そんなお金───」

神様「金ならここにある」フリフリ


神使「それ私の財布に見えるのですが・・・」

神様「そう、これは神使君がワゴンセールで買ったダサい長財布」

神使「・・・・・・」

神様「これダサいから中身も含めて全部少女ちゃんにあげる」ポイッ

少女・神使「え!?」

神使「今月分の生活費が入っているのですが・・・」

神様「全部って言っても少し抜いてあるから大丈夫」

少女「・・・・・・(抜きすぎ)」ジャラ


神様「紹介しとくね。 これは私のお付きで犬ころ」

少女「えーと・・・ 執事とかそういう類いですか?」

神様「私は巫女さんで、この犬ころは雑用の召使いみたいなもん」

神使「神様、もう少しまともな紹介をして下さいよ・・・ それより私の財布───」

少女「もしかして、この神社の方なんですか?」

神使「いえ、私達神宮の者でして」

少女「神宮?」

神様「神社とか管理している営利団体」

神使「非営利です」

神様「宗教法人という隠れ蓑を使って労働基準法を無視しまくる極悪非道な───」

神使「少女さんは、こちらの神社へ来られる予定だったのですか?」

少女「私は・・・」

神様「ねー、寒みーし早く行こーぜ」

神使「そうですね」



─── 参道


テクテク

神様「しかし、相変わらず土地だけは広いなぁ~」

神使「神様ここ知っているんですか?」

神様「神社だろ? 遊園地じゃないことくらい私でも見りゃ分かるわ」

神使「そういう意味でなく・・・ ん?」ピタッ

神様「ふがっ!」ドンッ

神使「すいません。 大丈夫ですか神様」

神様「急に止まるなよ」

神使「見て下さい、あの小屋」

神様「あ? ただの倉庫じゃん」

神使「あの形と作りは相当年代物ですよ?」


神様「昔はあんなのゴロゴロあったぞ。 珍しくもないだろ」

神使「神様の言う昔というのはいつのことですか・・・」

神様「ん~ 平安とか?」

神使「それこそ今の時代に残っていたら国宝級じゃないですか」


少女「・・・・・・」チラッ


神様「あのボロっちい建物が気になる?」ニョキ

少女「え!?」

神様「」ジー

少女「い、いえ別に」

神様「ま、早く社務所へ行きましょ」トテトテ

少女「・・・・・・」



─── 社務所


神使「社務所も年代物ですね」

神様「家具も電化製品も古いな」

神使「でも、一部最近の物も見られるようですが」

神様「誰か住んでたんじゃね?」

少女「・・・・・・」

神使「え~・・・」

神様「あとは勝手にジモピーの老人会とかが会合開いてたとか」

神使「その可能性はありそうですね」

神様「ま、詮索してもしょうが無いし」

神使「そうですね。 電気とガスは事前に開通してもらっていますので最低限の生活は出来ると思います」


神様「寒みーし、温かい物が飲みたい」

神使「では、お茶でも煎れてきますね」

神様「犬ころは掃除! お茶は少女ちゃんが煎れたのが飲みたい」

少女「え? 私ですか?」

神様「良いでしょ~ 少女ちゃ~ん」スリスリ

少女「わ、分かりましたから離れて下さい」

神様「よろぴこ~」

少女「はぁ~・・・」スタスタ


神使「あっ、買ってきたお茶っ葉───」

神様「神ちゃーんキィークッ!」ゲシッ

神使「痛い!」ガクッ

神様「しまっとけ」

神使「え? でもコレがないとお茶が・・・」

神様「いいから!」

神使「?」



─── 数分後


少女「お茶、煎れてきました」スタスタ

神様「わ~お、飲みたい飲みたい」ピョンピョン

神使「お茶位でそんなに興奮しないで下さい」

少女「どうぞ」コトッ

神使「ども~」

少女「はい、どうぞ」コトッ

神使「ありがとうございます。 でも、良くお茶っ葉とかお分かりになりましたね」

少女「!?」ピクッ

神様「・・・・・・」ズズズ

少女「台所なんてどこも同じような物です」

神使「確かにそうですね」


神様「さて、んじゃ仕事でもしますか。 神使君、この神社の事前情報を教えて」

神使「錆礼田神社、由緒や主神などの情報は不明です」

神様「これだけデカいのに?」

神使「はい、ただ平安時代の書物に記載があるようで建立はかなり古いと思われます」

神様「ずっと無人か?」

神使「100年ほど前まで巫女さんがおられたようですが」

神様「巫女?」

神使「錆礼田神社は、宮司や神職は置かず代々巫女が管理をしていたようです」

神様「ふ~ん」チラッ

少女「・・・・・・」


神様「後を継ぐ巫女はいなかったの?」

神使「それが・・・ 変なんです」

神様「あ?」

神使「当時こちらの神社から神宮に管理者変更の書類が届いたらしく、次の巫女の名前も記載されていたようです」

神様「それはどちら様?」

神使「それが、改めて書類を確認したら名前が消えていたそうで」

神様「・・・何言ってんの?」

神使「書類から書かれていた名前が消えたと言いました」

神様「あ~ 誰かがその書類を後から改竄したってこと?」

神使「いえ、改竄根はなかったそうで・・・ 綺麗に名前だけ空欄になっていたと」

神様「・・・・・・。 神使君、あなた疲れてるのよ」

神使「私は神宮から言われたことをお伝えしているだけですので・・・」

神様「それを真に受けるお前もおかしいし」

神使「そう言われましても」ポリポリ


神様「少女ちゃんもこのクソ犬に言ったって! お前はやっぱりダメすぎィーヌだって」

少女「変・・・」

神様「ほら、少女ちゃんも私と同じ真っ当な思考の持ち───」

少女「なんで記憶が・・・」ボソッ

神様・神使「・・・・・・」ジー

少女「あっ! いえ、何でもないです」

神様「少女ちゃん? もしかして・・・」

少女「な、なんでしょうか」

神様「あなたも疲れているのよ」ポンポン

少女「そ、そうみたいですね」

神様「風呂だ! 風呂を沸かすのだ!! 疲れた体には風呂が効く!」

神使「・・・・・・」



─── 30分後


神使「神様、お風呂湧きましたよ」

神様「ん。 バブある?」

神使「はい。 ラベンダーとゆず、森の香りと~」ゴソゴソ

神様「森の香りって意味分かんないんだけど・・・」

神使「後は“唐辛子”と、オマケでもらった“檜風呂に浮かべた檜玉の香り”ですね」

神様「!?」

神様「季節的に“ゆず”ですかね」


神様「神使君? 最後なんて言ったの?」

神使「? “檜風呂に浮かべた檜玉の香り”ですか?」

神様「何それ! 檜の香りに檜の香り!? ミックスする意味あんの?」

神使「さぁ? コレにします?」

神様「聞くまでもないじゃん!」

神使「それでは───」

神様「ゆずでお願いします」

少女「・・・・・・(唐辛子って何?)」



─── 夜・台所

神様「ふぃ~ 良いお湯でした~」ホクホク

神様「やっぱ風呂上がり後はカップラだよね~」ゴソゴソ


 神使「神様?」


神様「うわー!」ビクッ

神使「ダメですよ? 寝る前にカップ麺なんて」

神様「んだよ、ビックリしたなぁ~ ラーメン落とすところだったよ」ホッ

神使「太りますよ?」

神様「うるせー。 文句あるなら普段から私に贅沢な飯を寄こせ」


神使「あの、お聞きしたいことがあるのですが」

神様「なに」

神使「神様は少女さんの事をご存じなんですか?」

神様「あ?」

神使「急にバイトで雇うとか、先ほども少女さんを観察していましたよね?」

神様「」

神使「少女さんは一体・・・」

神様「さぁね、少なくとも私はあの子と会ったのは初めてだ」

神使「そうですか」


神様「ただ、よく似た神を知っている」

神使「神・・・ 似てるというのは?」

神様「遙か昔に、私はある少女を神にした。 そいつによく似ている」

神使「容姿がですか?」

神様「容姿だけじゃない。 雰囲気もどこか似ている」

神使「その神は今もご存命なのですか?」

神様「100年以上前に、神から人に戻した」

神使「え?」

神様「たぶん、生きてはいない」

神使「その神と少女さんに何か関係があるのでしょうか?」

神様「・・・・・・。 アイツはとても不思議なヤツだった・・・ 私でも理解できない位」

神使「分かりました。 お答え頂きありがとうございます」ペコリ

神様「もう良いのか?」


神使「神様もまだ考えている所なんですよね? 今はここまでで十分です」

神様「あっそ。 まぁ私にもよく分からないけど一応忠告だけしておく」

神使「?」

神様「流されるな。 自分を見失うな。 自分の行動を忘れるな」

神使「・・・はい」

神様「私のように完璧であれ。 じゃ」トテトテ

神使「あっ、神様! ラーメン忘れてます! あと、服着て下さい!」


 キャー!


神使「少女さんに変なトラウマ植え付けないで下さい・・・」



─── 翌朝・社務所前


少女「あの・・・」

神様「うんうん。 よく似合う」

少女「私、こういう格好はあまり・・・」

神使「予備の巫女服なのですがサイズが同じで良かったです」

神様「神社でバイトするんだからその格好じゃなきゃダメ」

少女「そもそも私バイトするとは一言も・・・」

神様「いいから。 少女ちゃんは参道から本殿前までのお掃除お願い」

少女「・・・・・・」

神様「はい、箒」スッ

少女「まぁ、掃除位であれば」

神様「んじゃ、よろぴこ。 神使君は裏庭ヨロ」

神使「分かりました」

神様「それでは! 朝のお掃除スタートゥ」



─── 本殿


神様「さてと、一度ご神体でも覗いておきますかね」トテトテ


ギー


神様「うむ。 空っぽでござる」

神様「何か金目になる物はねーかな~」キョロキョロ


神様「木箱・・・ はは~ん、あれは宝箱じゃまいか?」

神様「♪~」トテトテ


神様「どうする神ちゃん。 開けるのか? 開けてしまうのか?」

神様「迷う必要など無い! これで私は大金持ち!!」ウヒャヒャ


パカッ


神様「イヤッホ~イ! 何も入ってな~い」

神様「・・・・・・。 まぁそう都合良く宝箱なんてないよね」


神様「・・・・・・」ハァ

神様「さて、他には何もなさそうだし」



─── 1時間後


神使「神様、裏庭のほう終わりました」スタスタ

神様「ん」ジー

神使「こんな隅っこで何をジーと見ているんですか?」

神様「あれ、どう思う?」

神使「少女さんですか? 綺麗にお掃除されていますね」

神様「やっぱお前の目は節穴だな」

神使「特に変わったところはないように思えますが・・・ 箒の扱いが上手いですね」

神様「あれ、神社での掃除にかなり慣れているぞ」

神使「そうなんですか?」


神様「ゴミを集める箇所が理想的だ。 わたしもあの場所は賛成だ」

神使「それは・・・ 偶然じゃないですか?」

神様「あと、一度も本殿に向かってゴミを掃いていない」

神使「ゴミを?」

神様「神のいる本殿にに向かってゴミを掃かないのは神社掃除の基本」

神使「巫女のバイト経験でもあるんでしょうか?」

神様「気になるのは、本殿以外にもう一カ所ゴミを掃いていない箇所がある」

神使「どこです?」

神様「あそこ」クイッ


神使「倉庫? 年代物の古い倉庫ですか?」

神様「あぁ」

神使「まさかあの倉庫も神域・・・」

神様「あの子、この神社で働いていたのは間違いないな」

神使「少女さんがここで? しかし、もう100年近く無人なんですよ?」

神様「・・・・・・」



─── 昼・社務所


神様「はぁ~ ちかれた」グテッ

神使「神様何もしてないじゃないですか・・・」

神様「コーラ飲みたい」

神使「ありませんよ」

神様「少女ちゃ~ん、コーラ飲みたい~」グイグイ

少女「ちょ、袴を引っ張らないで下さい」

神様「コーラ~」グイグイ

少女「それ以上引っ張ると脱げちゃ、本当に脱げちゃいますから!」


神様「うひゃひゃー かわえ~」ピョーン

少女「ちょ、本当に!!」ズルッ

神様「あっ」

少女「・・・・・・」

神使「ぶばっ!」ゲホゲホ


少女「キャー!!」


神使「み、見てないです。 私は見てないので!」プイッ

少女「・・・・・・」ジトー

神様「あ、いや・・・ その・・・ これは事故で」オロオロ


少女「分かっています、袴がハダけただけですので大丈夫です。 大声出してすみません///」

神様「うは~ きゃわゆい~」キラキラ

少女「からかわないで下さい」

神様「よし! 野球拳しよう! 絶対少女ちゃんを剥いてやる」ハァハァ

少女「!? わ、わたし飲み物買ってきます!」タッタッタッ

神様「・・・・・・」

神使「神様? 可愛いからってそんな事してたら嫌われちゃいますよ?」

神様「勘違いしてんじゃねーよ。 ちょっと調子に乗りすぎたけど・・・ 行くぞ」トテトテ

神使「ちょ、どちらへ?」スタスタ



─── 倉庫前


神使「ここは・・・ 倉庫ですよね」

神様「さっき、掃除中に本殿を見たけどもぬけの空だった」

神使「本殿にご神体がなかったのですか?」

神様「もぬけの空」

神使「まさか、この中に?」

神様「それを調べるんだよ。 少女ちゃんの反応を見る限り、この中に何かがあるはずだ」

神使「分かりました。 開けます」



ギー


神様「何もないな」キョロキョロ

神使「結構広いですね」

神様「上の方にも棚があるな。 犬ころ、調べて」

神使「ちょっと私でも手が届きそうにないです」

神様「そうだ。 本殿に丁度良い木箱があったからそれ持ってきて」

神使「木箱ですか?」

神様「それを踏み台にすれば届くかも」

神使「分かりました」タッタッタッ



─── 数分後


神使「持ってきました。 結構大きいですね」ヨイショ

神様「よし、それ足場にして上の棚調べて」

神使「はい」ゴソゴソ


神様「どう? 何かある?」

神使「特に何もないですね」

神様「ん~ 検討違いか・・・」

神使「そろそろ少女さん戻ってくるんじゃないですか?」

神様「そうだな。 取りあえず出るか」トテトテ

神使「箱は?」

神様「戻すの大変だし、置いておけ」

神使「はい」



─── 参道


少女(ペプシでも大丈夫かな?)テクテク


 はやくー


少女「?」コソッ


 神使「ちょ、待って下さいよ」タッタッタッ

 神様「少女ちゃんが帰って来ちゃうだろ!」


少女(あの二人、今倉庫から・・・)キッ



─── 深夜・神様&神使の寝室


神様「zzz」グガー

神使「zzz」スヤスヤ


 ギー

 少女「」コソッ


神様「zzz」グガー

神使「zzz」スヤスヤ


少女「・・・・・・。 ごめんなさい」ボソッ


ポワポワ



─── 翌朝・社務所


神様「おふぁよ~」トテトテ

神使「もうお昼近いですよ?」

神様「お腹すいた。 牡蠣フライ食べたい」

神使「何で寝起きでそんな重い物を・・・ 街まで出たら何か食べましょう」

神様「ん? 出かけるの?」

神使「何言っているんですか、次の場所に行くんですよ?」

神様「あ?」

神使「少し遠いので長旅になりますが」

神様「少女ちゃんは?」キョロキョロ

神使「少女さん? ここには昨日来たときから私と神様だけですが」

神様「・・・・・・」



─── 参道


神使「良いお天気ですね」テクテク

神様「なぁ」ピタッ

神使「どうしたんです? こんな所で立ち止まって」

神様「あれ」

神使「倉庫ですか?」

神様「あの中、知ってる?」

神使「鍵がかかっていて中には入れなかったじゃないですか・・・」

神様「そう」トテトテ

神使「?」



─── 電車内


ガタンゴトン


神様「・・・・・・」

神使「どうしたんです? 今日は随分とアンニュイですね」

神様「お前、財布は持ってるか?」

神使「財布ですか?」ゴソゴソ

神様「私に取られて───」

神使「ありますよ?」スッ

神様「・・・・・・」

神使「どうしたんです?」


神様「今からいくつか質問をする」

神使「質問?」

神様「少女という名に聞き覚えは?」

神使「先ほども仰っていましたね・・・ 私の記憶にはありません」

神様「スネを見せろ」

神使「スネ?」ゴソゴソ

神様「右足だ」

神使「あれ? 青あざが・・・ 」

神様「その青あざはどうして出来た?」

神使「これは・・・」


神様「流されるな。 自分を見失うな。 自分の行動を忘れるな」

神使「その言葉どこかで・・・」

神様「少女ちゃんのハダけた袴、そそられただろ?」ボソッ

神使「あれ、なんで顔が赤く///」


神様「神使君? コレ何か知ってる?」

神使「それは神様の神力が入ったお守りですよね」

神様「そう。 これを私の右手でギュッと握って」

神使「?」


神様「よーし、歯を食いしばれー!」

神使「え?」

神様「神ちゃーんスーパーパーンチ」


ドカッ


神使「痛い!」クラクラ

神様「アーンド! 神ちゃんスーパーキーック!」


ゲシッ ゲシッ ゲシッ ゲシッ


神使「痛痛痛痛! ちょ、神様それ以上蹴られるとまた気を失ってっ・・・ !!」ハッ


神様「少女という名に心当たりは?」

神使「少女さん・・・ 覚えています。 これは一体・・・ 何で忘れて・・・」

神様「間違いないな。 アイツと同じ力だ」

神使「これって・・・ まさか洗脳?」

神様「財布は?」

神使「あれ? 財布がない!?」

神様「・・・・・・」

神使「とにかく次の駅で降りて錆礼田神社に戻りましょう」

神様「いや、一旦神宮へ行く」

神使「神宮?」

神様「確認したいことがある」

良いお年を!



─── 神宮


 ハロ~


A子「あ、神ちゃんだ。 神使さんも」

神様「久しぶり」

神使「ご無沙汰しておりますA子ちゃん。 ちゃんと巫女のお仕事してますか?」

A子「もちろん! でも、お守りの売れた数と金額が合わないんだよね~」

神様・神使「・・・・・・」

A子「神宮に用事?」

神様「ちょっと資料室で調べ物があって」

A子「ふ~ん。 誰もいないと思うけど室長呼ぶ? あっ、でもさっき室長に怒られたから会いたくないなぁ」

神様「いや・・・ いない方が好都合だからよばなくてもいいや」


A子「みんな明日からの旅行準備で忙しいからね」

神様「旅行?」

A子「そう、まぁ形式的には研修旅行だけど」

神様「なにそれ! 私呼ばれてない!」

A子「え~ 神使さん経由でメール送ったよ?」

神様「え?」クルッ

神使「」プイッ

神様「おいクソ犬」

神使「丁度、錆礼田神社に行く日と重なっていたもので・・・」

A子「錆礼田神社?」

神使「はい。 私達、今錆礼田神社におりまして」


A子「私達が行く所と近いね」

神様「そうなの?」

A子「うん、甘利錆礼手内神社」

神使「大きくて立派な神社ですね」

A子「100人位で行くからねぇ。 広くないと入れないんだよ」

神様「近いなら私も行きたい~」

A子「近いって言っても車で20分位かかるけど」

神様「仕事片づいたら合流しようよ」

A子「いいよ。 3日後には帰っちゃうからそれまでに連絡してね」

神様「分かった。 あとでメールするね~」

A子「は~い」

神使「それでは神様、時間もないですし」

神様「へいへい」



─── 資料室


神使「相変わらず凄い量の資料ですね」

神様「ここの資料は地域・管理神・年代・神社名の順で整理されている」

神使「さすが資料整理歴が長いだけあってよく知っていますね」

神様「普通は目的の資料を探すのに2日かかるが、私なら半日で探し出せる」ドヤッ

神使「今は神宮資料DBを使えば場所が数秒で分かりますから便利になりましたよね」

神様「は?」

神使「スマホの神宮アプリで“錆礼田神社 変更届”で検索っと」ポチポチ

神様「?」

神使「出ました。 N-45-386の棚です」テクテク

神様「ねぇ、それ何?」トテトテ


神使「え~と・・・ あった。 これですね」スッ

神様「・・・・・・」

神使「神様?」

神様「・・・いつから?」

神使「は?」

神様「そんなものいつから実用化されたんだよ!」

神使「たしか10年ほど前から・・・」

神様「私の職人芸が・・・ また一つ消えた」ガクッ

神使「ま、まぁ今はそれよりも資料のチェックを先に」アセアセ

神様「うん」シュン

神使「どうぞ、100年近く前の書類なので丁寧に扱って下さいね」

神様「ん」ペラペラ


神使「あっ、それです」

神様「錆礼田神社管理者変更届・・・ 早く見つかって良かったね・・・」

神使「・・・・・・。 受付年が1906年ですね」

神様「1895年の当社代表巫女の失踪により新管理者のへの変更を届ける。 か」

神使「123年前に先代の巫女が失踪・・・」

神様「失踪してから届け出まで11年あるな」

神使「でも次の継承者の欄が空白になっていますね」

神様「本当に?」

神使「はい。 前管理者の欄も空白ですよね」

神様「私と神使君は別世界にいるのか?」

神使「どういう意味です? まさか、神様には何か見えるんですか?」

神様「んじゃ、試してみますか」スッ

神使「神様のお守り・・・ 神力を使うんですか?」

神様「私と犬ころだけ知れば良いからほんの少しだけ」



ポワポワ


神使「文字が!?」

神様「やっぱり」

神使「ど、どいういう仕掛けですか?」

神様「解除したんだよ」

神使「解除?」

神様「限定的だけど。 全てを解除するとどこまで影響するか分からないからな」

神使「ちょっと待って下さい。 この名前って・・・」

神様「さて、錆礼田神社に戻りますか」


─── 錆礼田神社・倉庫前


少女「・・・・・・」ボー


~~~

幼女「お母さん?」テクテク

母「あら、どうしたの」

幼女「何してるの?」

母「・・・ちょっと昔のことを思い出してたの」

幼女「昔?」

母「お母さんね、昔ここである方に助けられたことがあるの」

幼女「ここで?」

母「そう。 あの時声をかけてもらえなかったらお母さん・・・」

幼女「そんな大事な場所なら大切にしないとね! 私、ここをずっと大切にするね」

母「ありがと」ニコッ

~~~



少女「お母さん・・・」


 神様「ハロ~」トテトテ


少女「・・・・・・」チラッ

神様「言われなくても掃除をするなんて流石だねぇ~」

少女「どこかでお会いしたことありましたでしょうか?」

神様「一昨日会ったじゃん~ 私のかわゆいバイト巫女ちゃん」

神使「ちなみに、私も覚えていますよ?」

少女「・・・・・・」

神様「いや~ 少女ちゃんにあげたダサい財布の中に私のポンタカード入れっぱなしだったの思い出してさぁ~」

神使「神様のではなく私のポンタカードです」

神様「たまったポイントでお菓子を買うのが私の楽しみなの」

神使「私のポイントです」


少女「貴方たちは一体何者なんですか?」

神様「私は神宮のかわゆい女神、こいつはお付きの神使なのだ」フンスッ

少女「神・・・ やっぱり」フッ

神様「おや? 少女ちゃんは神の存在を信じる口?」

少女「昔聞いたことがあるんです。 この力は神には効かないって」

神様「昔って?」

少女「・・・・・・。 私をどうするんです? 捕らえて実験台にでもします?」

神様「・・・・・・」

少女「それとも・・・ 殺して力ごと封印しますか?」

神様「そんな事するわけない。 私はこれでも神、二度とそんな暴言を吐かないでもらいたい」

少女「・・・・・・」


神様「お母さんと同じ力を持っているんでしょ?」

少女「!?」

神様「少女ちゃんと同じ力を持つヤツを私は知っている」

少女「お母さんを知っているの!?」

神様「やっぱり」

少女「・・・もしかして、騙しました?」

神様「いいや、君のお母さんは古い古い私の大切な友人だ」

少女「・・・・・・」

神様「娘がいたなんてビックリしたけど」

神使「お話を聞かせてもらえないでしょうか」

神様「望むなら、私も隠さずアイツの話をすると約束する」

あけおめです



─── 社務所


神様「この神社を守っていた先代の巫女が123年前に失踪した事を少女ちゃんは知ってる?」

少女「」コクリ

神使「それ以降この神社は無人になっています。 間違いないでしょうか?」

少女「間違いありません」


神様「そして、その失踪したとされる巫女は少女ちゃんと関係がある」

少女「・・・・・・」

神使「神宮に保管されている管理者変更届で確認しました。 後継者の欄には少女さんの名前が記載されています」

神様「これは私とコイツしか知らないし、他に言うことは絶対にしない」

少女「・・・・・・。 失踪した先代の巫女は私の母です」


神使「失踪の原因というのは?」

少女「分かりません。 ある日突然・・・」

神様「う~ん・・・ だとすとると、おかしい点があるんだけど」

少女「何でしょう」

神様「少女ちゃんの年齢が合わないんだよ」

神使「お母様が123年前に失踪されたとすると、少女さんはそれ以上の年齢でないといけません。 ご子孫でしたら分かるのですが・・・」

神様「少女ちゃんはどう見ても10代」

少女「歳を・・・ 取れないんです」

神使「え?」


神様「少女ちゃん、生まれはいつ?」

少女「・・・・・・。 明治21年、西暦で言うと1888年です」

神様・神使「!?」


神使「歳が取れないと仰っていましたが幼少期はあるんですよね?」

少女「はい」

神様「つまり、今の状態になるまでは成長していた」

少女「」コクリ

神使「神様、これは一体・・・」


神様「お母さんから何か詳しいことは?」

少女「私の持っている変な力・・・ たぶんそれが原因。 お母さんも持っていました」

神様「少女ちゃんのお母さんが神だったことは聞いてる?」

少女「お母さんが、神!?」

神様「最初からじゃない。 生まれは人だった」

少女「そんな・・・」


神様「アイツの生まれは確か平安時代の後期」

少女「平安!? 人から神になったという事ですか?」

神様「そう。 でも、人に戻った。 最愛の伴侶と一緒になるために神から人へ」

少女「私の知っているお母さんは人に戻った後なんですか?」

神様「時代的にはそうだと思う」

神使「でも、神から人に戻ると神の力は使えなくなるんですよね?」

神様「あいつの力は生まれ持った物。 人に戻しても力は消えない」

少女「生まれ持った力・・・ 私と同じ」

神様「とても難しい力だったから・・・ アイツを人に戻したときに神力を少し残したんだ」

神使「人でありながら神の力を扱えるという事ですか?」

神様「いや、その力にだけ反応できる神力だけだ。 俗に言う神の力はない」

少女「・・・・・・」


神様「少女ちゃんも出来るんでしょ? アイツと同じように時間移動が」

神使「時間移動!?」

神様「時を跨ぐことの出来る力。 神ですら犯すことの出来ない領域」

神使「洗脳とか催眠の類いではなかったんですか・・・」

神様「そんなトリックじみたモノじゃない」


少女「難しくて・・・ 私には完全に使いこなせないですが・・・」

神様「特に少女ちゃんは神力を持っていないから余計だろうね」

神使「時間移動って・・・ タイムトラベルって事ですよね?」

少女「はい。 厳密に言うと肉体を持っての時間移動と自身の意識共有の2パターンがあります」

神使「そんな力が人に・・・」

神様「私も最初にアイツから聞いた時はビックリした」

神使「それはそうですよね。 使い方を誤ればとても危険な力になります」

神様「あぁ。 アイツも力を使うときはいつも慎重だった」

神使「もし過去を改変してしまったら辻褄が合わなくなりますからね」


神様「私が何度も宝くじのあたり番号を握りしめて泣いて頼みこんでも聞く耳を───」

神使「肉体の時間移動と意識共有というのは大きく違うのですか?」

少女「意識共有は現在の意識を過去の自分に上書きします。 過去の自分からすると突然未来の行動が頭の中に入ってくるんです」

神使「自分の意識だけが時間を超えて共有するということですか・・・」

少女「ただ、私の力だと効果があるのは2日前まで意識を移すのが限界です」

神使「肉体の時間移動も制限が?」

少女「いいえ。 制限無く過去未来へ肉体を持ったまま行くことが出来ます」

神使「タイムトラベルの方が簡単なんですか・・・」

少女「はい。 意識だけを過去に移す方が手間がかかるので」


神使「ちなみに、その力は頻繁に?」

少女「意識干渉は昨日使いました」

神様「私達の行動を変えるため」

少女「昨日の私の記憶を1日前に移して、お二人に会わないように自分の行動を変えました」

神使「その結果、私達が少女さんと会っていない事になっていたのですね」

少女「お二人の一本前の電車に乗って先回りしてここへ来ましたので」

神様「なんでそんな事を?」

少女「・・・・・・。 あの場所に入ったから」

神使「あの場所?」

神様「倉庫」

少女「あそこは、私とお母さんの思い出の場所。 私が守るとお母さんと約束した場所だから」

神使「そんな大切な場所だったのですか・・・ 勝手に入って申し訳ありません」


少女「私、過去にこの力を気付かれて何度も危険な目に遭いました」

少女「捕らえられ実験台にされて・・・ 殺されそうになったことも・・・」ガタガタ

神使「少女さん・・・」

少女「でも、お二人に先ほどお会いしたとき正直ホッとしました」

神様「?」

少女「心のどこかで、お二人なら気付いて助けてくれんじゃないかと思っていたのかも」

神様「この神社には頻繁に来てたの?」

少女「危険な目にあった時に。 ここに来るとお母さんに守ってもらえるような気がして・・・」

神使「という事は、最近も・・・」

少女「」コクリ

神様「・・・・・・」

少女「でも、今回が最後って決めていました」

神使「それはどういう・・・」

少女「少し疲れてしまったんです」ニコッ

神使「・・・・・・」


神様「心配無用!!」

少女「!?」ビクッ

神様「この私が来たからには全て解決したも同然!」

少女「え?」

神様「辛い経験をした人はそれに見合う幸せが必要だ」

少女「幸せ・・・」

神様「じゃないと人はその辛さで押しつぶされちゃう」

少女「・・・・・・」

神様「だから少女ちゃんには、今までの辛さを帳消しにする位の幸せを私がプレゼントする」

神使「神様・・・」


神様「何も心配いらないから。 今まで一人でよく頑張った」ナデナデ

少女「・・・・・・」ウルウル


神様「よし! まずは状況を整理しよう!」

神使「はい」


神様「・・・・・・」

神使「・・・・・・」

少女「・・・・・・」


神様「神使君、進めて」

神使「え!?」

神様「お前こういう厨二病っぽい案件好きだろ」

神使「神様、もしかして勢いだけで突っ走りましたね?」

神様「テヘッ!」

神使「はぁ~・・・」ガクッ


神様「早く進めろよ!」

神使「まず、問題点は二つあります。 一つはお母様の失踪、もう一つは少女さんの成長」

神様「そう、それ!」

神使「少女さん、時間移動の力はどの位の頻度で使っていますか?」

少女「意識共有は力のことが知らせそうになった時、何度か過去に飛ばして回避しました」

神使「それが原因という事は考えられませんか?」

少女「意識共有を安定して使えるようになったのは50年前からなので考えにくいと思います」

神使「タイムトラベルの方も頻繁に?」

少女「いいえ、タイムトラベルを最後に使ったのは私が18才の時です」

神様「100年以上前か・・・ その時アイツは?」

少女「私が7歳の時にはすでに行方が分からなくなっていましたから」


神使「年齢的にそのタイムトラベルが少女さんの成長を止めた原因という可能性がありそうですね」

少女「」コクリ

神使「ちなみに、過去未来どちらへ?」

少女「両方行きました。 1回目はその時代から3日前」

神様「随分近いね」

少女「私が18歳になったらこの神社を継ぐことになっていたんです。 でも、私・・・」

神様「継ぐのを躊躇した」

少女「はい。 総代が神宮に提出した書類をすり替えました」

神使「それで、神宮の書類に名前が・・・ でも、最初は記載されていたと聞いていますが」

少女「私も昨日それを聞いて不思議に思いました」


神様「その時近くに神でもいたんだろ。 アイツと違って少女ちゃんの力は不安定だから神には力が効きにくかった」

神使「神が側にいない所では改変の影響がでる・・・ しかし、それは二通りの時間の流れが発生していることに」

神様「アイツから聞いただけだけど限定的で小さいことなら結構あるらしいよ?」

神使「それは物理法則の書き換えが必要な位重大な事ですね・・・」

神様「未来の方は?」

少女「力の制御が不安定で・・・ たぶん暴走したんだと思います。 怖くてそれ以降使っていません」

神使「どの時代かも分からないですか?」

少女「はい、未来という事だけで。 気付いたら暗くて寒い森の中で・・・ 声がしたので怖くてすぐ戻りました」


神様「どう? 解決した?」

神使「少女さんの成長に関して、一つだけ思い当たる節があります」

神様「聞いてやる」

神使「未来からの観測です」

少女「観測・・・」

神使「少女さんが未来に行ってその姿を誰かに見られた場合、その時間・その場所で少女さんが存在していたことが確定されてしまいます」

神様「どういう事?」

神使「例えば100年後に行って誰かの記憶に残った場合、少女さんは100年後に見られた状態でそこにいる必要があると言うことです」

神様「いないとどうなるの?」

少女「私を見た人の記憶に齟齬が発生する・・・」

神使「そうです。 ですから少女さんは未来で観測された状態と同じ状態になるまで歳を取れない」

神様「って事は、少女ちゃんが今の姿で1000年後まで行って誰かに見られたら1000年間年を取らないと?」


少女「でも、先ほど複数の流れが存在することも可能と仰っていませんでしたか?」

神様「そうだよ。 人に見られた位、見間違いで済む可能性の方が高いし。 そんな未来に少女ちゃんなんか誰も知らないはずだし」

少女「私の記憶ですと長くても数秒しかその時代にはいなかった気がしますから見られても印象に強く残らない気が」

神使「複数存在できない位の重大な出来事だったのでは?」

神様「あ?」

神使「事象が複数存在する場合、分かれた事象がどこかで収束するんだと思います。 少女さんの場合収束できない事象だった」

神様「日本語でプリーズ」

神使「タイムパラドックスです」

神様「日本語で言えって言っただろーが! 厨二病!」ゲシッ

神使「痛い!」

神様「まぁ、何となく分かったけど」


神使「少女さん」

少女「はい」

神使「未来にタイムトラベルしたのは18歳の時が最後と仰っていましたが、もっと若いときに行ったことは?」

少女「・・・・・・」

神使「あるんですね?」

少女「お母さんとは何度か。 でも遠くても2日程度でした」

神様「アイツが一緒なら問題は起こらないな」

神使「一人では?」

少女「ハッキリとは覚えていないんですが、私が7歳の時」

神使「過去未来どちらです?」

少女「分かりません・・・ 実際タイムトラベルしたのかも定かではないんですが、その直後に母がいなくなりました・・・」

神様「それが時間移動だったとしたらアイツの失踪に関係があると?」

少女「私がそう思い込んでいるだけかも知れないんですが」


神使「何かその時のことで思い出すことはないでしょうか?」

少女「そうですね・・・」

~~~

少女「お母さん!」タッタッタッ

?「こんな所でどうしたの?」

幼子「あのね、お祭り見てたら迷子になっちゃったの」

?「沢山の人がいるものね。 でも、もう大丈夫よ」ニコッ

~~~


少女「お祭り・・・」

神様「祭り?」

少女「はい、お祭りの日だったと思います」

神使「こちらの神社はお祭りがあるのですか?」

少女「お母さんが亡くなってからは一度も」


神使「他には?」

少女「あとは・・・」


~~~

幼子「ねぇ、あのガタガタしてる箱は何?」

?「あれは、お母さんと幼子の宝物。 幼子が大きくなったら一緒に開けましょうね」

幼子「うん!」

~~~


少女「たしか、宝がどうのって・・・」

神様「宝!?」グワッ

少女「え、えぇ。 大きくなったら一緒に開けようって」

神様「ほぉ~」ニヤッ


神使「神様?」

神様「何かな? 神使君」

神使「この状況で変なことを考えていませんよね?」

神様「私は神だぞ? 人の喜びが私のご飯。 失敬なことを言うな」

神使「目の瞳孔が開いてますが? 鼻が大きく膨らんでますが? 口が緩んでいますが?」

神様「うるせーよ」ゲシッ

神使「痛い!」ガクッ


少女「ふふっ」クスッ

神使「すいません、こんな時に神様が不謹慎で」

少女「そんな事無いです。 少し落ち着きました」ニコッ


神使「お祭りですか・・・」フムッ

神様「お宝ですか・・・」フムッ


神使「・・・・・・」ジトー

神様「そんな腐ったミカンを見るような目で私を見るのを止めて下さい」


神使「ちなみにこの神社のお祭りというのは何月ですか?」

少女「確か・・・ 毎年1月7日だったと思います」

神様「明日じゃん」

神使「・・・将来この神社でお祭りが開かれるという事でしょうか?」

少女「沢山の人がいました。 境内を埋め尽くす位」


神様「将来ここでそんな大祭なんか開かれるのかねぇ~」

神使「今のままでは可能性は低そうですが・・・」

神様「だったらさぁ~」

少女・神使「?」

神様「明日、祭りを開けば良いんじゃね」

神使「祭りを!? 私達がですか?」

神様「そう。 境内を人が埋め尽くす位の大きな祭りを開くんだよ」

少女「でも、そんな沢山の人この村には・・・ しかも明日だなんて」

神様「案がある」ニヤッ

神使「まさか神様・・・」

神様「神使君や、電話を繋いでくれたまへ」



─── 翌日


 プッ プッー

 おーい、神ちゃ~ん!


神様「A子ちゃ・・・」

神使「うわっ! 何ですかあの観光バスは!?」


 A子「お祭り開くって言うからみんな連れてきたー」


神様「あっ、うん」



─── 境内


ガヤガヤ


少女「あの、これは・・・」

神様「えっと、先に紹介するね。 この子は神宮の巫女でA子ちゃん」

A子「神宮が誇るミス巫女、A子です」ペコリ

少女「・・・・・・。 少女です」ペコリ


A子「ここって広い神社だね~」

少女「土地だけですが」

神様「ねぇ、なんで屋台とかまでいるの?」

A子「甘利錆礼手内神社も昨日までお祭りでさぁ。 話をしたら一緒に付いてくるって」

神様「そうなんだ・・・」


神使「まぁ、お祭りっぽくなりますし良いんじゃないですか? 神職と巫女だらけですが」

神様「そうね、100人位いるからそこそこ賑わってる感は出るかな」

A子「ここに来る途中でバスからスピーカーで宣伝しまくったから人いっぱい来ると思うよ?」

神様「さすがA子ちゃん、私の発想を超える大胆な行動・・・」

神使「よく捕まりませんでしたね」

A子「やだなぁ~ 警察に5回止められたよ」

一同「・・・・・・」

A子「でも正直に私は巫女で神のお告げが~ って言ったら何も言わずに見逃してくれた」

神様「それは単に関わりたくなかっただけじゃ・・・」

神使「あまり神宮の評判を落とさないで下さいね」



─── 夕方


ピーヒョロ ピーヒョロ

ガヤガヤ


神様「すげーな・・・ どこから見てもお祭りじゃん」

A子「ふごいね~」ペロペロ

神様「・・・・・・。 それ何?」ジー

A子「メロン飴、向こうで売ってた」

神様「へ、へぇ~」ジュルリ

神使「A子ちゃん、巫女装束着たまま食べ歩きなんてダメですよ?」

A子「食べてないもん! ペロペロしてるんだもん。 高速ペロペロー!」ペロペロペロ


少女「この神社にこんなに人が来るなんて・・・」ウズウズ

神使「少し見てきたらどうです?」

A子・神様「いいの!?」

神様「私は少女さんに言ったんです」

少女「良いんですか?」

神使「もちろんです。日が落ちる頃に倉庫で待ち合わせしましょう」

A子「よっしゃ! 少女ちゃん行こう!」ガシッ

少女「え?」

A子「こっち! さっきすごい美味しそうなもの見つけたんだ」タッタッタッ

少女「あ、ちょ、一人で歩けますから」タッタッタッ


A子「じゃ~ね~ 神使さーん」

神様「じゃ~ね~ クソ犬ー」

神使「神様はダメです」ガシッ

神様「がー! メロン飴が! メロン飴が私を呼んでいるんだー!!」ジタバタ

神使「呼んでませんから。 私達は倉庫の方に行きますよ」

神様「私も高速ペロペロしたいー!!」ズルズル



─── 倉庫前


神様「うー 寒ぶ」ブルブル

神使「まだ時間もありますし少し離れたところで監視しましょうか」

神様「こんな寒いのに外で監視とかありえないだろ。 本当に今日が過去の少女ちゃんが来る日かも分からないのに」

神使「そうですが・・・ では、一度社務所に戻ります?」

神様「ん~・・・」

神使「神様?」

神様「・・・・・・。 中に入ろうぜー」

神使「倉庫の中にですか? 少女さんが来てからの方が良いのでは」

神様「いいから」トテトテ

神使「ちょ、神様」



ギィー


神使「また勝手に入ったら少女さんに─── !?」

神様「よ、久しぶり」

少女母「お久しぶり、神ちゃん。 そして」

神使「は、初めまして。 神様のお付きで神使と申します」

少女母「こんにちは」ニコッ

神使「もしかして、少女さんのお母様ですか?」

少女母「はい」

神様「いつの時代から?」

少女母「今から123年前」

神様「やっぱり今日で合ってたか」


少女母「もうじき7歳の時の娘が来るわ。 その子を戻さないとね」

神様「人が多いし結構見られちゃうから修正も必要だな」

少女母「子供一人が見られた位じゃ時間軸なんて変わらないわ。 特にこれだけ多ければね」

神様「そうなの? んじゃ私達も挨拶しようかな」

少女母「それは勘弁して欲しいかな。 さすがに二人に見られると事象が確定しちゃうし」

神使「印象が強すぎるという事ですね?」

少女母「もし会うんだったら過去を少し弄らせてもうらうけど」

神使「会うのは止めておきましょう」

少女母「よかった。 正直言うと時間移動できる力も残り少ないしね」

神様「そう言えば、お前元の時代に帰ってないだろ。 失踪したことになっているぞ」

少女母「この後少しやることがあってね」

神様「まさか戻れないのか?」

少女母「」ニコッ

神様「・・・・・」


少女母「ねぇ神ちゃん、ここ覚えてる?」

神様「?」

少女母「私、ここで神ちゃんに初めて会ったの」

神様「ここが・・・ あの時は周りに何も無かったからな」

少女母「2000年以上前だものね。 でも、私にとってはとても大切な場所」

神様「そうか」

少女母「他の人にはない力を持って生まれて・・・ 神ちゃんに救われなかったら私・・・」

神様「あの時のお前、酷い状態だったもんな。 精神も体もボロボロで」

少女母「でも、そういう過去があったからこそ、今の私がいてあの子もいる」

神様「そうだな」


少女母「あの子も私と同じ力を持ってしまって、もう少し側にいてやりたかったんだけど・・・」

神様「大丈夫。 良い子に育ってるよ」

少女母「ありがとう、神ちゃん」ニコッ


 お母さーん?


神様「やべ、小さい方の少女が来た!」アワアワ

神使「見ちゃうとまずいですね。 神様、箱! この箱に入りましょう」

神様「声は聞こえちゃうけど大丈夫か?」

少女母「はい、耳栓」スッ

神使「ありがとうございます」

神様「私は?」

少女母「1個しかないから、神ちゃんは耳を塞いでおいてね」

神様「マジっすか!?」

少女母「絶対に覗き見はしないでね?」

神様「しゃーねな。 急げ!」ゴソゴソ



 ギー


幼子「お母さん? どこ?」テクテク

 ガタガタ

幼子「!?」ビクッ

少女母「幼子」

少女「お母さん!」タッタッタッ

少女母「こんな所でどうしたの?」

幼子「あのね、お祭り見てたら迷子になっちゃったの」

少女母「沢山の人がいるものね。 でも、もう大丈夫よ」ニコッ


幼子「ねぇ、あのガタガタしてる箱は何?」

少女母「あれは、お母さんと幼子の宝物。 幼子が大きくなったら一緒に開けましょうね」

幼子「うん!」

少女母「お母さんちょっとお仕事があるから、先に帰っててね」

少女「はい!」ニコッ

少女母「この小屋の裏に光った穴があるから、そこからお帰り」

幼子「はーい!」タッタッタッ


ギー バタン


─── 外


 幼子「♪~」タッタッタッ


少女「あれ? 今だれか小屋から出てきたような・・・」

A子「少女ちゃん? どったの?」ペロペロペロ

少女「・・・・・・。 !?」タッタッタッ



─── 小屋の中


神様「行った?」ニョキ

少女母「えぇ」


神様「ふ~ 危機一ぱ───」


 ギー


神様「!?」バタン


少女「神様、神使さん、いますか? 今、だれかここから・・・ !?」ハッ


少女母「久しぶり」

少女「お母・・・ さん・・・?」

少女母「」ニコッ

少女「本当に・・・ お母さん・・・」

少女母「未来のあなたに会いたくて、お母さんズルして見に来ちゃった。 な~んて」ニコッ

少女「お母さん・・・ お母さーん!!」ダキッ

少女母「ふふふ。 小さいあなたより甘えん坊さんだこと」ナデナデ

少女「お母さーん! 会いた・・・ かった・・・」グスッ

少女母「ごめんね、あなたには辛い思いをさせてしまって」


少女「そうなんだ、やっぱりこの時代に・・・ さっき出て行ったのって・・・」

少女母「7歳の時の少女」

少女「やっぱり・・・ ごめんなさい。 わたし力の使い方が分からなくて、気付いたらここに・・・」

少女母「お母さんだって最初はそうだった」

少女「でも、あの日以来お母さんは戻ってこなかった・・・ 私がお母さんを」グッ

少女母「心配しないで? それとこれとは別の事象だから。 あなたが心配することじゃないわ」

少女「・・・・・・。 ねぇ、お母さんって昔、神さまだったの?」

少女母「神ちゃんから聞いたの?」

少女「」コクリ

少女母「そうよ。 これでも“時の女神”なんて呼ばれてたすごい神さまだったんだから」

少女「時の女神・・・」


少女母「お母さんの言う事が信用できない?」

少女「そんな事ない」

少女母「必ずまた会えるから」

少女「お母さん」

少女母「だから、ね?」

少女「うん」


ガタガタ


少女「?」

少女母「そうだ。 これ、覚えてる?」

少女「箱・・・ 昨日の朝はなかったのにいつの間に・・・」

少女母「あなたが大きくなったら開けるって約束したわね」

少女「私とお母さんの宝物・・・」


少女母「開けてみましょうか」

少女「いいの?」

少女母「えぇ。 私の宝物、そしてあなたにも宝物になって欲しいな」

少女「」テクテク


パカッ


神様「ちっす。あなたの宝物です」

神使「すいません」

少女「・・・・・・」


神様「お気に召しませんでしたか?」

少女「ふふっ、お母さんの宝物って───」


シーン


少女「お母さん?」キョロキョロ

少女「お母さん? お母・・・さん・・・」シュン


神使「少女さん・・・」

神様「・・・・・・」



─── 参道


テクテク


神使「なんだか不思議な感覚ですね」

神様「あ?」

神使「100年以上前の方にお会いしたんですよ?」

神様「あ~」

神使「過去・現在・未来ってどういう繋がりなんですかね」

神様「私は常に未来を見据えているから過去なんか気にしないけどね」

神使「過去を変えれば未来が変わる。 未来を変えれば過去が変わる・・・ よく分からないですね」

神様「本当は変わらないんじゃないか?」

神使「?」

神様「それを証明する手立てはないけどな」

神使「そうですね」



ガサゴソ


神様「?」

神使「森の奥ですね。 狸さんでしょうか?」

神様「いや、あれって・・・」ジー

神使「誰かいる感じがしますね。 暗くてよく見えませんが」

神様「あれ少女ちゃんだよ。 何であんな所にいるんだ?」


 少女「」キョロキョロ


神様「おーい! 少女ちゃ───」


 少女「!?」ビクッ

 シュンッ


神様・神使「!?」

神使「・・・・・・。 今消えませんでした?」



 少女「どうしたんですか? こんな所で」テクテク


神様・神使「え?」クルッ

少女「? 森に何かあるんですか?」キョロキョロ

神様「少女ちゃん? いま森の中に」

少女「私、参道から歩いてきましたけど。 やっぱりお母さんは見つかりませんでした・・・」

神様「あ、うん。 でも・・・ あれ?」

少女「お話しがあります。 後ほど社務所で」タッタッタッ

神様「・・・・・・」



神使「神様、本当に森の中にいたのは少女さんなんですか?」

神様「間違いない。 私、これでも視力4.0あるから見間違うなんて事は絶対にない」

神使「4.0なんて数字あるんですか・・・」

神様「あれは間違いなく少女ちゃんだった」

神使「考えられるのは18歳の時の少女さんという事ですね」

神様「もんぺ穿いてた。 もんぺ」

神使「まさか、少女さんがこの時代までいる原因を作ったのは・・・」


神様・神使「・・・・・・」


神様「やべ、どうしよう」

神使「大変な事をしてしまったような気がします」


神様「お前、過去の自分に意識を移して回避してこい」

神使「できるわけないじゃないですか・・・ それこそ神様はどうなんです?」

神様「私を誰だと思ってんだよ、そんな神っぽいこと出来る分けねーだろ! ふざけんな!」

神使「逆ギレしないで下さい・・・」

神様「どうする、逃げるか?」

神使「最低ですね・・・ きちんと少女さんにお話をしたほうが」

神様「そ、そうね。 私は終始土下座をするからお前から話を───」


 カサカサ


神様「?」

神使「どうされました?」

神様「・・・・・・。 いや、私ちょっとコーラ買ってくる」トテトテ

神使「あ、ちょっと神様逃げないで下さいよ」



─── 森の奥


神様「よ」

少女母「」ニコッ

神様「え~と・・・ いつのお前?」

少女母「さっき会ったばかりの私」ペロッ

神様「あ~ やっぱまだいたんだ。 っていうかなんでお前もメロン飴持ってるの?」

少女母「事象の収束って知ってる?」

神様「何だよ急に・・・ 確か、いくつかに分かれたメロン飴が最終的には1つになるって事だっけ?」

少女母「そう。 メロン飴じゃなくて時間だけどね」ペロッ

神様「・・・・・・。 それがどうした?」

少女母「あの子が狙われているって事も知ってる?」

神様「この前少女ちゃんから聞いた」


少女母「あの子はこの先、生きている限り狙われる」

神様「あ? でもその度に回避したって・・・ まさか!?」

少女母「そう、事象の収縮。 あの子が狙われることは確定しているわ」ペロッ

神様「・・・・・・」

少女母「その先にあるのは・・・」

神様「まさか、お前それを回避するためにタイムトラベルを・・・」

少女母「勝手よね。 あれだけ時間移動はダメだって言っておきながら」ペロッ

神様「・・・・・・。 ねぇ、そのメロン飴───」

少女母「自分でも分かってる。 でも、母親としてあの子にしてやれることなんかこの位しかないから」

神様「そ、そうか」

少女母「虫のいい話よね」

神様「少女ちゃんが捕まって、力が悪用されたらもっと悲劇が起こるんだろ?」

少女母「・・・・・・」


神様「回避できそうなのか?」

少女母「やっとたどり着けそう」

神様「分かった。 現在の少女ちゃんはどんな手を使ってでも私達が守る」

少女母「ありがとう」

神様「その代わり、回避出来たら知らせろよ?」

少女母「うん」フカブカ

神様「そんな畏まるな。 少女ちゃんが長いこと狙われ続けているのは私にも責任があるし・・・」

少女母「?」

神様「さっき、18歳の少女ちゃんを見ちゃったから」

少女母「違うわ。 神ちゃんのせいじゃないの」

神様「でも、間違いなくこの曇りなき眼に焼き付いてるけど・・・」

少女母「神が観測しても改変は起こらない。 神ちゃんならなおさら」

神様「あっ、そう言われれば・・・。 犬ころもハッキリ見たわけじゃないって言ってたし」


少女母「あの子を観測したのは私、さっき私も影から一緒に見てたわ」

神様「どういう事だ? 何でお前がそんな事をする必要が?」

少女母「事象の収束を遅らせるため」

神様「なるほど・・・ すいません、私の頭は完全にオーバーヒートしました。 だからそのメロン飴下さい」

少女母「ふふっ」クスッ

神様「・・・・・・。 お前さ、何処まで未来を知ってるの?」

少女母「元“時の女神”だもん。 何でも知ってるわよ?」ニコッ

神様「ったく。 怖いね~ 時間を超えられるヤツは。 ま、後は任せておけ」

少女母「ありがとう神ちゃん」

神様「その代わり取引だ」

少女母「?」

神様「お願いですからそのメロン飴下さい」ドゲザ



─── 社務所


ガラガラ


神様「ただいま~」ペロペロ

神使「神様、どこに行かれてたのですか?」

神様「ん? ちょっとそこまで」ペロペロ

神使「・・・まさかメロン飴を買いに?」

神様「おや~ 欲しくなっちゃった? ペロペロしたくなっちゃた? でも、あ~げない」ペロペロ

少女「・・・・・・」ジー

神様「あげない!」ペロペロ


少女「・・・・・・」ジー

神様「・・・・・・。 ちょ、ちょっとだけならペロってもいいよ?」

少女「いりません」

神使「そんなドロドロになった飴なんかあげようとしないで下さい・・・」

少女「それより、お話しがあります」

神様「私がかわゆすぎる件について?」

少女「この神社の今後についてです」

神様「あ~ 真面目なパティーンね」


神使「実は私達も少女さんにお話しがありまし───」

神様「シャーラップ!」ゲシッ

神使「痛っ!」

神様「その件は片が付いたんだよ!」

神使「どういう事です?」

神様「私は悪くなかったという事」

神使「・・・・・・」ジトー

神様「そんなにメロン飴が欲しいならくれてやるよ! お口を開きやがれ!」ズボッ

神使「ふがっ!」


神様「さぁ、少女よ。 このかわゆい神ちゃんに悩みを打ち明けなさい」

少女「私、この神社を継ごうと思います。 いえ、継がせて頂けないでしょうか」

神様「・・・・・・」

少女「身勝手なお願いだっていう事は承知してます。 でも───」

神様「いいよ」

少女「え?」

神使「あの神様、せめて少女さんのお話を最後まで聞いてから結論を出すべきでは・・・」ペロペロ

神様「寂れて人も来ないような無人神社を継ぎたい、って人がいるのに断る理由なんかないじゃん」

神使「それはそうなんですが・・・」

神様「それじゃぁ神使君、この神社を廃社にして売っぱらったらいくらになる?」

神使「社務所や本殿の解体費用でマイナスになると思います」ペロッ

神様「だろ? っていうか、返せよ私のメロン飴!」ガシッ

神使「あっ」


少女「私、この場所が私とお母さんを繋ぐ唯一の場所だって分かったんです」

神使「そうでしたか」

少女「だから、私がお母さんが守ってきた神社を・・・ お母さんの意志を継いで───」

神様「ダメ」

少女「・・・・・・。 え?」

神使「あの神様、意味が分からないんですが・・・」

神様「アイツのために継ぐんだったらダメ。 いい? 少女ちゃんの人生は少女ちゃんが決めること」

少女「・・・・・・」

神様「継ぐと言うのは守ることだけじゃない。 進まないと行けないんだよ」

少女「進む・・・」

神様「少女ちゃんはこの神社を継いで進むことが出来る?」

少女「できます」


神様「んじゃ今日からこの神社は少女ちゃんに任せる」

神使「少女さん、頑張って下さいね」

少女「ありがとうございます」ペコリ

神様「その代わりと言っちゃ何だけど~ お願いがあるんだよね~」クネクネ

少女「私に出来ることでしたら」

神様「本当に?」

少女「えぇ、まぁ」

神様「んじゃ、神になって?」

少女「神!? 私がですか?」


神様「そう。 お母さんと同じ“時の女神”に」


─────
───



─── X年後


神様「いや~ 懐かしいね~」トテトテ

神使「毎年来ているじゃないですか」テクテク

神様「参拝者もだいぶ増えたな」


神使「あっ、神様あそこ見て下さい。 少女さんです」

神様「ん? 隣に巫女服着たちっこいのがいるけど?」

神使「最近赴任した神使さんです。 彼女は去年神使学校を主席で卒業した優秀な子だと聞いています」

神様「へ~ 二人とも巫女服姿がきゃわゆい!」

神使「ご挨拶にいきましょうか」

神様「そうね」



新米神使「女神さま! お掃除終わりましたです!」ビシッ

少女「その女神さまっていうの恥ずかしいので止めて欲しいんですけど・・・」

新米神使「何を言っているんですか! 女神さまは私の憧れの神さまなんですから!」キラキラ

少女「憧れだなんて・・・」

新米神使「この神社に赴任し早1年、いつか私も女神さまのように立派な───」

少女「わ、分かりましたから。 それより本殿のお掃除をお願い出来ますか?」

新米神使「勿論です! でも・・・」

少女「?」

新米神使「どうして、この神社にはご神体がないんですか?」

少女「それは・・・」

新米神使「宮司も神職すらいないのも変だと思うんです。 衛士はいるのに」

少女「そう・・・ ですね・・・」


新米神使「あの衛士さん達って神宮の神付衛士ですよね?」

少女「よく知ってますね」

新米神使「学校で習いましたから。 神を守れる衛士は全国に5人しかいない精鋭さんだって」

少女「そうなんですか?」

新米神使「何か理由でも?」

少女「えーと・・・」

新米神使「新米とは言え私もこの神社の神使! ぜひ教えて下さい!」ズイッ

少女「・・・・・・。 そ、それよりお掃除済ませたらお昼は新米神使ちゃんの好きな鴨鍋にしましょう」

新米神使「か・も・な・べ!?」パァ

少女「頑張って下さいね」ニコッ

新米神使「はい! 喜んで!!」タッタッタッ


少女「・・・・・・」ハァ



 お~い! 少女ちゃ~ん!


少女「?」クルッ


神様「久しぶり~」

神使「ご無沙汰しております」ペコリ


少女「神様に神使様! もうそんな季節なんですね」

神様「ま~ね~」

少女「毎年気にかけてお越し頂きありがとうございます」フカブカ

神使「そんなに畏まらないで下さい」

神様「立派に神さまやっているみたいだね」

神使「可愛らしい神使さんも居るようで」

少女「神宮の方には何度も神使の配属は断ったんですが」


神様「まだ狙われてる?」

少女「はい。 でも神宮から派遣されている衛士さんたちがいるので」

神使「頼もしいですね」

神様「神社の方もそこそこ参拝者も来ているみたいだし」

神使「少女さんの神階も上がったそうで、おめでとうございます」

少女「私なんかまだまだです。 あの子と同じく右も左も分からない新米ですから」

神使「そんな事は無いですよ。 立派な主神様です」

神様「巫女服もよく似合ってる。 神だからってゴテゴテした服を着ないところが良し!」

少女「・・・・・・」

神様「少女ちゃん?」

少女「私、きちんとお母さんの後を継げているのかな?」

神使「立派に継げていると思いますよ?」

神様「そうそう、私が太鼓判を押してあげる」


少女「私、この神社のことを何も知らないんです。 お母さんから詳しく聞いた事なんて無かったので・・・」

神様「アイツも少し位は教えるなり残すなりしておけば良かったのにな」

神使「きっと力の存在を知られないように念を入れていたのではないですかね」

神様「でも、神体がないなんてちょっとおかしいよな」


 ?「だって、神よりも先に神体がある方がおかしくない?」


少女・神様・神使「・・・・・・」クルッ


?「この神社も主神様が付いたことだし、ご神体を用意しないとね」

少女「お母・・・ さん・・・ どうして・・・」

少女母「久しぶり」ニコッ


神様「よっ」

少女母「」フカブカ


神様「終わったのか?」

少女母「えぇ、全て」


神様「ご苦労様」

少女母「」ニコッ



神様「皆の者! 宴の準備だ!!」





おわり


ペロペロー!


ガタンゴトン


神様「♪~」ニコニコ

神使「・・・あの、神様?」

神様「何かな? 神使君や」

神使「どうして今回は付いてくるんですか? いつもは嫌がるのに・・・」

神様「ふふふ。 それは犬ころが嘘をついているからだよ」ニヤッ

神使「・・・・・・」

神様「神使会なら、私を近場まで連れて行こうとする。 でも~今回は違った!」

神使「うっ・・・」

神様「きっと私を連れて行きたくない場所、つまり楽しいところに行く気だ!」ドヤッ

神使「はぁ~・・・」ガックリ

神様「私を騙すならもっと念入りにするべきだったな」ウヒャヒャ


ガタンゴトン


■ 神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 番外編・2019年春


テクテク


神使「神様、約束してください」

神様「あ?」

神使「絶対に暴れない、絶対に問題を起こさない、絶対に言うことを聞く」

神様「お前さぁ、私を何だと思ってるわけ?」

神使「例えば、ものすごく可愛くて神様好みの少女さんがいたらどうします?」

神様「まぁペロるね」

神使「しかも・・・ その方が人とは少しだけ違う存在だとしたら?」

神様「そりゃ剥くよ。 そして全身をローアングルから舐め回すように―――」

神使「ダメです。 全て禁止です」

神様「はぁ? それじゃ私の存在意義がないじゃん」


神使「今回ばかりは神様がいつも通りに接すると国際問題になります」

神様「私は生物兵器か?」

神使「遠からず」

神様「おい」

神使「神様の身に何があっても責任取れませんので」

神様「それって何、どっかの国の王女様でも来るの?」

神使「そんな話はこちらサイドに話なんか回ってきませんから」

神様「こちらサイドと言うことは・・・」

神使「神宮の、いえ日本の恥だけはさらさないでくださいね」

神様「ん~ よく分からないけど善処します!」ビシッ


――― キセキ野教会


神様「あれ? ここって・・・」

神使「キセキ野教会です」

神様「偽シスターのうさーがいるところだよな。 アイツと会うのは何百年ぶりかなぁ~」

神使「去年お会いしてます」

神様「テヘッ」ペロッ


神使「いいですか神様、ここから先では大人しくしてくださいね。 約束ですよ?」

神様「わーてるって。 迷子の子ウサギみたいにかわゆくプルッてるから」

神使「では、入りましょう」



ギー


神様「レジース エンド ジェントルメン! 皆大好きかわゆい神ちゃんの登場だ! ドドン!!」

うさー「!?」ビクッ

神使「2秒前の約束も覚えていないんですか・・・」ハァ

うさー「げっ、神ちゃん!」

神様「げっ!って何だよ偽シスター」

うさー「本物のシスターだよ! なんで神ちゃんがここに・・・」

神使「申し訳ありません。 神様を巻くのに失敗しまして」ペコリ

うさー「う~・・・ 終わった・・・」

神様「私を抜かして愉快な仮面舞踏会を開催するそうだな?」

うさー「そんなのしないよ! ここは教会! 修道院!」


神様「あれ? うさーだけか? 修道女ちゃんは?」キョロキョロ

うさー「あ~ 今パチカンの方に行ってて」

神様「パチカン!?」

神使「で、では神様。 温泉付のホテル取りましたから私達はそちらに行きましょうか」


ギー


一同「?」クルッ

少女「はじめまして、パチカンから参りましたウリエルと申します」ペコリ

うさー「は、はじめまして。 ず、随分早かったですね」

少女「遅れてはいけないと思いまして。 少し早すぎましたでしょうか、すみません」ペコリ

うさー「全然大丈夫だよ! 長旅で疲れたでしょう。 お部屋に案内するからこっちへ」スタスタ

神様「ぁ・・・ ぁ・・・」ワナワナ

神使「神様?」

神様「ワイのストライクゾーンにはまりマクリマクリスティー!」ピョーン

少女「キャー!!」


――― 数分後


神様「本当にすいませんでした。 ついテンションが・・・ 警察だけは勘弁を」ドゲザ

少女「気にしないでください。 熱烈な歓迎ありがとうございます」ニコッ

神使・うさー(良い子だ)


神使「神様、飛びつかないって約束しましたよね?」

神様「だって! こんな天使のようにかわゆい少女に抱きつかないなんて失礼だろ?」

神使「抱きつく方が失礼です」

神様「じゃぁ剥く? スポーンって」

神使「・・・・・・」ジー

神様「冗談だよ、人を剥くのは私の主義に反するから。 剥くのはこっち側のヤツだけ」

少女「あの~・・・」


うさー「あっ、ごめんね紹介がまだだったね。 今土下座してるのが―――」

神様「私は、神宮に籍を置くとってもかわゆい巫女の神ちゃん!」

少女「巫女・・・ 聞いたことあります。 私達で言うところの修道女、シスターうさーと同じですね」ニコッ

うさー「まぁ、そんな感じだね。 いろんな意味で」ハハハ

神様「親しみを込めて皆はかわゆい神ちゃんと呼んでるから、そう呼んでもらって構わない」

少女「はい、かわゆい神ちゃん」ニコッ

神様「あんたが初めてや、そう呼んでくれたのは・・・」グスッ

少女「?」

神使・うさー(良い子だ)


うさー「そ、そしてこちらは神使さん」

神使「初めまして、神宮所属の神使と申します」ペコリ

少女「神使様!? 日本の神の使いですね! 仕える神は違えど私と同じですね」ニコッ

神様「ん?」

うさー「あ~ 彼女はパチカンの天使でウリエルちゃん」

少女「ウリエルと申します。 不束者ですがよろしくおい願いいたします」ペコリ

神様「天使なの?」

少女「はい。 でも、先日天使学校を卒業したばかりの未熟者でして」

神様「あ~ こっち側なら剥いとく?」

神使「神様?」

神様「うそうそ」


神使「長旅ご苦労様です」

少女「初めての飛行機とても感動しました!」

うさー「さ、ウリエルちゃんお部屋に案内するね」

少女「その前に無事に着くことが出来た感謝を神に」

うさー「そだね、礼拝堂はこっち」スタスタ

少女「はい!」スタスタ


神様「・・・天使ねぇ~」ボソッ

春だねぇ~


――― 教会内・談話室


神様「交換留学?」

うさー「うん。 ウリエルちゃんは日本へ、修道女ちゃんはパチカンで研修」

神使「ウリエルさんはまだお若いのにしっかりされた方ですね」

うさー「さすが天使! とっても良い子だよね!」

神様「でも何でわざわざウリウリは日本へ?」

神使「また変なあだ名を勝手に付けて・・・」

うさー「ウリエルちゃんは将来日本の担当天使になりたいんだって」

神使「そこでウリエルさんの研修先として白羽の矢が立ったのがこのキセキ野教会なんです」

神様「ん~ でも神宮は関係なくない?」

うさー「この教会は神宮の持ち物でもあるし、勝手にパチカンだけの判断って訳にもいかないみたいで」

神使「パチカンの方から神宮へ協力のお願いもありまして。 神宮としても、その・・・」

神様「めったにないチャンスだから監視したいと」

神使「まぁ、ストレートに言うとそうですね」


神様「なるほどね~ それでお守り役として私が選ばれた訳か」フム

神使「私と、うさーさんにです」

神様「どうして私がハブられるんだよ! そこは私だろ! 私が最優先だろ」

うさー「ウリエルちゃんはパチカンで100年ぶりの天使なんだよ? それだけ大切な存在なんだよ」

神使「100年ぶり?」

うさー「これウリエルちゃんの履歴書」スッ

神使「拝見します」

神様「ぱちかーの あんげー・・・」

神使「パチカン法王庁付属天使学校ですね」

神様「お前ヒンズー語読めるの?」

神使「これはラテン語です」


うさー「天使学校は天使の養成を専門に行う特殊校で、ウリエルちゃんは100年ぶりの卒業生なんだって」

神様「そんなに通うの?」

うさー「違うよ、100年間天使生がいなかったんだよ」

神使「という事は、ウリエルさん一人のための学校という事ですか?」

うさー「うん。 彼女が卒業してまた休校になったみたいだけど」

神様「ふ~ん。 新米天使ねぇ~・・・」

神使「何か気になることでも?」

神様「ねぇ、あれ本当に天使なの?」

神使「どういう意味です?」

神様「う~ん、私にはただの人にしか見えないんだけど」

うさー「あ~ 彼女はまだ正式には天使とは違うんだって」

神様「あ?」

うさー「正式な天使になるには、自ら困難な目標を立ててそれを達成した後に大天使の審査を経ないといけないんだよ」

神様「うわ~ アチラさんが好きそうな仕組みだな」

うさー「ちゃんとした天使になったら輪っかも羽根も出せるらしいよ」


神様「で、どこまで面倒見るの?」

うさー「輪っかでるまで」

神様「何その投げっぱなしジャーマン」

神使「私はその間、平穏に過ごせるように万全を期すようにと言われています」

神様「仕方ないな。 ウリウリは私が手塩にかけて立派なエンターテイナーに育て上げる!」

うさー「う~ それが問題なんだってば~」

神様「まずは人を引きつけるポーズ芸だな」

神使「神様、今回はお願いですから手を出さないで下さい。 何かあったら洒落になりません」

神様「あ? 私がこんなに面白いオモチャを見つけてそう簡単に諦め付くと思ってんの?」

うさー「諦めて!」

神使「ウリエルさんが日本にいる間、大人しくしていたらコーラ1年間フリーパス券をあげます」

神様「!?」ピクッ

神使「しかも前払いです」」

神様「宣誓! 明日より神ちゃんはひたすらニートになることを誓います! ラーメン」

うさー「神ちゃんの中でコーラの存在ってどれだけ大きいの? あと、アーメンね」


神様「それより、ウリボーは?」

神使「ウリエルさんです」

うさー「シャワー。 すぐ来ると思うけど」


ガチャ


少女「遅くなりすみません」ホクホク

神様「うひょ~ やっぱ辛抱たまらん! ウリウリちゃ~ん」ピョーン

少女「うわっ!?」

神使「ちょっと神様! 約束をいきなり破らないで下さい!」

神様「バーカ、明日からって言ったし~」

神使「うぐっ!」


神様「高速スリスリー」スリスリ

少女「くすぐったいですよ神ちゃんさん」ウフフ

神使・うさー(良い子だ)


神様「ふおっっ~っ!!」スリスリ


うさー「神ちゃんの目が完全にトランス状態なんだけど」

神使「30分もすれば飽きると思いますが・・・」

うさー「う~ 神使君、わたし明日からちょっと不安だよ」


――― 翌日


うさー「ふぁ~」テクテク

少女「おはようございます、シスターうさー」ニコッ

うさー「おふぁよ~ 早いね~」

少女「朝食の準備しておきましたから一緒に食べましょう」

うさー「ゴメンね、手伝わなくて」

少女「気にしないで下さい。 神ちゃんさんと神使様は?」

うさー「まだ朝の3時だしね。 寝かせておこうよ」


ガチャ


うさー・少女「?」クルッ

神様「ふぁ~ぁ」ヨロヨロ

少女「神ちゃんさん! こんな早く・・・ もしかして、私達に合わせて・・・」

神様「ん? 私これから寝るところ」


天使「えー!? 今まで起きていたんですか!?」

うさー「もー ダメだよ? あんまり夜更かししちゃ」

神様「エンジェル・ワーにはまっちゃってさぁ~」

うさー「エンジェル? 何それ?」

少女「!?(まさか神ちゃんさん、私のために天使の勉強を・・・?)」キラキラ

神様「かわゆい天使たちを手込めにして他の宗教を潰していくスマホゲーム」

うさー「それ“ワー”じゃなくて“ウォー”だね・・・」

少女「う~・・・」ガクッ


うさー「と、取りあえず神ちゃんはお休み~」

神様「おやふみ~」トテトテ


うさー「さ、朝ご飯頂こうよ!」アハハ

少女「はい゛」グスン


――― 翌日


うさー「今日は良い天気だね~」

神使「絶好のお掃除日和です」

少女「普段出来ないような細かいところもやってしまいましょう」

うさー「それじゃ、ウリエルちゃんは各お部屋のお掃除をお願い」

少女「はい!」

うさー「これ、お掃除セットね」

神使「あっ、こちらも一緒にお持ち下さい」スッ

少女「このスプレーは何ですか?」

神使「ダニよけ・・・ いえ、聖水です。 人体には無害ですので動かない布団にはそれで対処して頂ければと」

少女「動かない布団?」キョトン


――― 神様の部屋


コンコン

 神様「あ~い」

少女「ウリエルです。 お部屋のお掃除をしに来ました」

 神様「どぞ~」

ガチャ


少女「失礼しま・・・ す・・・」

神様「ん? どったの?」

少女「どうしたんですかこの惨状は!?」

神様「え?」

少女「こんなに散らかって」


神様「あ~ 私ニート生活中だから」

少女「そ、そうでしたか・・・ で、ではお掃除だけさせてもらいますね」ハハハ

神様「よろ~」モソモソ

少女「・・・・・・。 あの~」

神様「?」

少女「お布団を干したいのですが」

神様「いや~ しばらく干さなくてジメった布団の匂いが好きでさぁ~」クンクン

少女「・・・・・・」ガクッ

神様「後2週間くらいがベストかな? って、どったの?」

少女「」シュッ シュッ

神様「うわ~!! 何これ! 染みるー!!」ピョン

少女「・・・・・・」

神様「目が~ 目が~」タッタッタッ


少女(ダニよけってこういう事ですか?)


――― 数日後


神使「おはようございます。 うさーさん、ウリエルさん」

少女「おはようございます神使さん」ニコッ

うさー「おはよう神使君! 神ちゃんの様子はどう?」

神使「ニート生活を満喫しています。 たまにコーラとお菓子を買いに外へ出かけますが」

うさー「よくそんな生活飽きないね・・・」

少女「わ、私は朝の礼拝をしてきますね」ハハハ

うさー「そっか、じゃ私も一緒に――――」


 ウリウリー! ウリウリーー!!


うさー「神ちゃん?」

神使「神様の部屋からですね」

少女「神ちゃんさん!?」タッタッタッ


――― 神様の部屋


バタン


少女「神ちゃんさん! どうされたんですか!?」ハァハァ

神様「うっ・・・ ウリウリが・・・ 私のウリウリが!!」プルプル

少女「わ、私ならここにいますが」

神様「大切に育て上げた私のウリウリが、堕天使にー!」


少女「・・・・・・」


うさー「どしたの?」

神使「何事ですか? 神様」

神様「昨日の夜は“おやすみ神ちおねーちゃん! 明日もキャッキャウフフしようね!”って言ってたのに」グスッ

神使「スマホゲーム?」

 堕天ウリウリ『弱すぎるぞ人間ども! これから本当の地獄を見せてやる』ヒャヒャヒャ

少女「う~・・・」ガクッ


――― 数日後


ガチャ


少女「ふ~ 難所の掃除がやっと終わりました・・・ 後はトイレ掃除だけですね」テクテク

少女「何であんなにバナナの皮が散らかっていたのでしょう・・・」

少女「日本の巫女さんはあんなにだらけていても大丈夫なのでしょうか?」

少女「信仰は違えど神に仕える者としていかがなものかと思いますが・・・」ハッ

少女「いけません。 天使たる私がこんな感情を抱くだなんて」

少女「もしかして、神ちゃんさんは私がこんな感情を抱かないように身をもって―――」


ジョー


少女「?」チラッ


神様「いや~ オシッコが滝のように出るよ」ウヒャヒャ

少女「・・・・・・」パクパク

神様「ん? いや~ん。 ウリウリに放尿シーン見られちゃった~」クネクネ

少女「ど、ドアを閉めて用を足してください!」バタン

 神様「メンゴメンゴ~」

少女「まったく///」


うさー「ウリエルちゃーん」スタスタ

少女「シスターうさー!」ビクッ

うさー「どうしたの? お掃除終わった?」

少女「え? あ、はい。 一通り終わりました」


ガチャ


神様「ふぃ~ 沢山出たよ」

うさー「あ、神ちゃん。 丁度良かった」


神様「あ?」

うさー「暇ならお使い頼んでも良い?」

神様「え~ 面倒くせーな」

うさー「隣のはさまれ神社用の御神酒なんだけど」

神様「そんなの水でも良いだろ。 むしろ水じゃなきゃダメだろ」

うさー「う~ 一応体裁というか・・・ お駄賃あげるから」

神様「はい喜んで。 でも前金で頼むぞ」

うさー「分かったよ」

少女「・・・・・・」プルプル

うさー「どうしたのウリエルちゃん?」

神様「ウリボー顔赤いよ? 風邪でも引いた?」

少女「だ、大丈夫です。 それとウリボーでなくてウリエルです」ニコッ

神様「え~ ウリボーの方が可愛いじゃん」


少女「シスターうさー、私がその御神酒というのを買ってきます」

うさー「え? でも大丈夫?」

少女「これも勉強ですから」

うさー「そうだね。 神ちゃんも付いていってあげてよ」

神様「お駄賃2倍な」

少女「私一人でも大丈夫です! トイレ掃除終わったら行ってきますので!」テクテク

うさー「う、うん。 じゃぁお願い」

神様「んじゃ、私ちょっとゲーセンで遊んでくる」トテトテ

うさー「分かった。 気をつけてね~」


ガチャッ


少女「神ちゃんさん! トイレ使ったら流して下さい!!」


――― 商店街


テクテク


少女「まったく、神ちゃんさんときたら自分の信仰する神への献上品を買うのにお駄賃を要求するなんて」

少女「はっ! またこんな感情を・・・ 天使失格ですね」シュン


少女「あっ、お酒屋さん・・・ ここですね」


少女「すいません」

酒屋「いらっしゃい」

少女「御神酒を頂きたいのですが」

酒屋「御神酒ね、え~と・・・ はい」スッ

少女「ありがとうございます。 お幾らでしょうか?」


 神様「ちわ~っす」トテトテ


少女「神ちゃんさん!?」クルッ


神様「ん? ウリボーじゃん。 ここで何してんの?」

少女「ウリエルです。 御神酒を買いに来たんです」

神様「あ~」

少女「神ちゃんさんは何をしに?」

神様「私も買い物。 おっちゃん、いつもの5本」

酒屋「はいよ、コーラね」

少女「お酒屋さんでコーラ買うんですか?」

神様「この辺でビンのコーラはここしか売ってないんだよね~」

少女「はぁ」

神様「御神酒ってそれ?」

少女「そうです」

神様「ん~ 15度かぁ~ もう少し低いのある?」

酒屋「ここら辺か、あとは果実酒系かなぁ~」

神様「あっ、その梅酒が良い」

酒屋「でも御神酒でしょ?」


神様「はさまれ神社用の献上用の神饌だから」

酒屋「はさまれ?」

神様「来週建立祭らしくて。 あそこに祀ってるの酒が苦手なヤツだから水でも良いと思ったんだけど」

酒屋「そっか~ そう言う理由ならそれ持っていって良いよ」

少女「え?」

酒屋「氏神さまだしな。 金なんか取れないって」

少女「でも、それでは酒屋さんが」

神様「あんがと、お言葉に甘えてもらっていくわ」

少女「ちょ、神ちゃんさん?」

酒屋「神さんによろしくな」

神様「はいよ。 札作るように言っておくから後で届けに来る」

酒屋「ありがたいね」

神様「じゃぁね~」トテトテ

酒屋「ちょっと待った。 そっちのコーラはお代もらうよ」

神様「チッ」


テクテク


少女「あの・・・ タダで頂いてしまっても良かったのでしょうか?」

神様「ん~ タダじゃないよ? お札を代わりにあげるし」

少女「でもそれは・・・」

神様「特別に少し多めの神力入れたやつあげるし」

少女「日本の神はそんなに無差別に力を分け与えても大丈夫なんですか?」

神様「だからいっぱいいるんだよ。 一人じゃ無理だし」

少女「・・・・・・」

神様「?」

少女「あの・・・ 御神酒の件、ありがとうございました」ペコリ

神様「あ~ いいって」


少女「私、何も考えずただ買うことばかり考えていて」

神様「まぁ、度数高いの買ってアイツをベロベロにさせるって手も面白そうなんだけど」ボソッ

少女「?」

神様「あ~ 気にしないで」

少女「私、神ちゃんさんのことを誤解して・・・ 先ほど水で良いといったのも理由が―――」

神様「まぁ、私もお駄賃と御神酒代が手に入ってウハウハだしね」ウヒヒ

少女「・・・・・・」ジトー

神様「んじゃ私はゲーセン行ってくるから! あとよろぴこー!」タッタッタッ

少女「う~・・・」ガクッ


――― キセキ野教会


少女「ただいま戻りました」

うさー「あっ、お帰りウリエルちゃん」

少女「御神酒なんですが、これでも大丈夫でしょうか?」

うさー「梅酒? 美味しそうだね。 これなら私でも大丈夫かな」ボソッ

少女「?」

うさー「あ~ ごめんごめん。 うん、凄く助かる。 ありがとね」ハハハ


少女「・・・・・・」

うさー「どうしたの?」


少女「シスターうさー・・・ 私、本当に天使になれるのでしょうか?」

うさー「だ、大丈夫だよ! ウリエルちゃんとっても頑張ってるし!」

少女「天使試験の課題もまだ見つけられませんし、私だんだん自信が・・・」

うさー「急ぐことないって。 大丈夫だから、ね?」

少女「・・・・・・。 そうですね、すいません弱音を吐いてしまって」

うさー「相談があったら何でも言ってね?」

少女「ありがとうございます。 少しお祈りしてきます」テクテク

うさー「う、うん」


うさー「・・・・・・」


――― 聖堂


少女「天にまします父なる神よ・・・」


ギイー


少女「?」クルッ

神様「いや~ 景品大量ゲッツ! 私、これで食っていけるんじゃね?」ホクホク

少女「・・・・・・」ジトー

神様「お~ ウリボー、お務め?」

少女「ウリエルです。 凄い量のお荷物ですね」

神様「あっ、コレあげようか。 胴長ヌコのぬいぐるみ」

少女「!?(か、かわいい!!)」キュン

神様「これスペシャル版のレアでさぁ、普通のよりも胴が2倍長いんだよね~」

少女「本当にもらっても良いんですか?」パァー


神様「御神酒代があって良かったよ。 あと100円足りなかったら取れなかったし」

少女「うっ・・・」

神様「いらないの?」

少女「先ほどの御神酒代で買われたんですか?」

神様「買ったというか勝った。 一か八かの賭けだったんだけどね~ 我の勝利なり!」

少女「・・・では神に献上した方が良いのでは? 勝負事で得た物というのが引っかかりますが」

神様「何で?」

少女「元は神に献上するための御神酒代ですし」

神様「ん~ じゃ私がもらっとくか」

少女「いえ、神に・・・」

神様「さて、部屋に戻って“エンジェル・ワー”タイムだな」トテトテ

少女「う~・・・」ガクッ



少女「はぁ~・・・ 神ちゃんさんは悪い人ではないのですが、聖職者として・・・」

少女「神よ、私はどうしたら・・・・・・」


少女「!?」ハッ


少女「これだ!」


――― 夜・神使の部屋


トントン


神使「はい」

 うさー「うさーです」

神使「どうぞお入り下さい」


ガチャ


うさー「神使君、ちょっと良いかなぁ~」モジモジ

神使「?」


うさー「実は神ちゃんのことなんだけどね」

神使「大人しそうにしていたようですが、また何か悪さしましたか?」

うさー「いや、そうじゃないんだけど・・・」

神使「神様が台所で発見した隠しチョコの件ですね? さっきチョコを齧っているところを見ました」

うさー「・・・・・・。 無くなってたけど、その件とは違うかな」

神使「では、聖堂に隠していた大量のカップラーメンでしょうか? 神様が狙っているのは何度か見ましたが」

うさー「う~ その件でもないよ。 でも何とかして欲しいな」

神使「では何でしょう?」

うさー「やっぱり神ちゃんにウリエルちゃんの教育係を手伝って欲しいなぁ~って」

神使「え?」

うさー「ほら、神ちゃんって何だかんだいって長い間神や神使を育てたりしてるし・・・」

神使「確かに実績があることは間違いございませんが、どうして急に?」

うさー「私みたいな平凡なシスターじゃ荷が重いって言うか・・・」


神使「うさーさんはシスターである前に立派な日本の神ではないですか」

うさー「う~ 立派じゃないよ。 大した功績もないし、現に神社の神としての役割なんてほとんど果たしてないから」

神使「お隣のはさまれ神社、先日参拝しました。 とても手入れが行き届いていて立派でしたよ?」

うさー「あれは、前に神ちゃんと約束したから・・・」モジモジ

神使「まぁ確かに、ここ数日の神様は完全にニート化して堕落しまくっていますからね」

うさー「引きこもっているだけでもインパクトが強いというか」ハハハ

神使「分かりました。 私から神様に教育係の件をお話しいたします」

うさー「本当!? 私も一緒にお願いするよ!」

神使「いえ、言い方を間違うと調子に乗るので私に任せて下さい」

うさー「そ、そうだね。 張り切りすぎると神ちゃん暴走しちゃうからね」ハハハ

神使「切り札の牡蠣食べ放題券を残しておりますので」



トントン


神使・うさー「?」


ガチャ


少女「失礼します」ペコリ


うさー「ウリエルちゃん、どうしたの?」

少女「シスターうさーと、神使様にお話しがあります」

神使・うさー「話?」


――― 神様の部屋


神様「よっしゃ! ミッションコンプリーツ!」

神様「課金無しでここまでするって、やっぱ私才能あるわ。これで食っていけるんじゃね?」


グー


神様「腹減ったな。 軽くカップラ食べるかな」ヨイショ

神様「確かうさーが隠してるヤツがまだあったよな」トテトテ


――― 談話室


うさー「えー!!」

神使「本気なんですか!? ウリエルさん!」

少女「はい。 天使試験の課題として不足は無いと思います」

うさー「まぁ確かに超ハードだけど・・・」

神使「もう一度考え直した方が」

少女「いえ、もう決めました。 私、ウリエルは―――」


 神様「ねぇ、隠しカップラの場所変えた?」トテトテ


少女「神ちゃんさんを立派な聖職者として迷える人達の役に立つよう導くことを誓います!」

うさー・神使「・・・・・・」

神様「何? 私をどうするって?」キョトン


――― 数分後


神様「イ~ヤ~だ~」ジタバタ

少女「ダメです。 神ちゃんさんには、これからたっぷりと聖職者の本分を教えて差し上げます!」

神様「私は巫女! シスターじゃなーい!」ジタバタ

少女「根底は同じようなものです」

神様「違うから! そもそも私は宗教とか興味ないし!!」

少女「巫女さんがそんな事を言ってはいけません。 やはりご自分の立場が分かっていないようですね」

神様「それに何でイスに縛られてるんだよー」ジタバタ

少女「今日のノルマが終わるまでは辛抱して下さい。神もお喜びなると思います」ニコッ

神様「イスに縛って喜ぶとかドSかよ!!」


うさー「う~ 神使君どうしよう」

神使「教育係の役割が逆転してしまいましたね・・・」


うさー・神使「・・・・・・」


うさー「まぁ、良いっか!」ニコッ

神使「そうですね」ニコッ


神様「おい、そこの二人! 何意気投合してんだよ! 助けろー!!」ジタバタ


――― 翌日


神使「様子はどうです?」

うさー「凄いスパルタだよ」


少女「では、エノク書からとても重要な最後の審判を紐解きます」

神様「自然のエノキって傘がデカいんだよね・・・」フフフ


神使「神様かなり弱ってますね・・・」

うさー「目に生気が無くなってるね」


――― 夜


少女「お疲れ様でした。 今日はここまでにしましょう」

神様「メシア・・・ ラッパ・・・」ピクピク

少女「続きは明日の朝食後、朝4時から始めます」ニコッ

神様「あっ、あの光る箱は何だろう~ まって~ もう1回ラッパ聞かせて~」フラフラ


神使「何か見えちゃいけない物が見えているようですね・・・」

うさー「神ちゃんラッパの音聞こえちゃったのかなぁ~?」


――― 深夜・神様の部屋


神様「はぁ~ この宿題全然わかんねーよ・・・ 何だよ7章13節って・・・」

神様「・・・・・・。 しゃーねーな、本借りてくるか」トテトテ



――― ウリエルの部屋


トントン


神様「入るよ~」ガチャッ

神様「ん? ウリボーいねーじゃん。 トイレか?」キョロキョロ

神様「うわ~ 部屋の中なんもないじゃん。 よくこんな部屋で生活できるな」

神様「・・・・・・。 机の上に置かれた1枚の手紙・・・」ニヤッ

神様「私へのラブレターですね。 分かります」ペラッ

神様「どんな愛のメッセージが―――」

神様「・・・・・・」


――― 数日後


ガチャ


神様「」トテトテ

神使「あっ、神様おはようご・・・ ざ・・・」

うさー「げっ!」

神様「皆様おはようございます」ニコッ

うさー「どうしたの神ちゃん! その格好!」

神様「何がですか?」

神使「それは、修道女の・・・」

神様「私、シスターかわゆーいカミーとして心を入れ替えまして」オホホ

うさー「う~ 神ちゃんが気持ち悪い!」

神様「シスターうさー? 朝からご冗談が過ぎますよ?」トテトテ



ゲシッ

うさー「痛い!」

神様「あら、大丈夫ですか!? 足が当たってしましました。 申し訳ありません」

うさー「だ、大丈夫だよ」スリスリ

神使「?」


ガチャ


少女「おはようございます、皆さん」

神様「おはようございます。 天使ウリエル」

少女「まだ正式な天使ではないのでウリエルで良いですよ」ニコッ

神様「はい。 では朝食の準備でもいたしましょう」

少女「私もお手伝いします」

神様「皆様、準備が出来ましたらお呼びいたしますので」ペコリ


バタン


神使・うさー「・・・・・・」

うさー「う~ 神ちゃん洗脳されちゃったのかなぁ?」

神使「まぁ、良いのではないでしょうか?」

うさー「え~!? 良いの?」

神使「それよりうさーさん、明日ははさまれ神社の建立祭ですよね?」

うさー「あー、うん」

神使「ウリエルさんは?」

うさー「丁度、明日は本教会の方へ出かける用事があるみたい」

神使「そうですか。 では準備は私がしておきますので、明日は主神としてよろしくお願いします」

うさー「緊張するなぁ~」

神使「大丈夫ですよ。 ウサ之神さま」ニコッ

うさー「わかった! がんばる!」


――― 翌日


少女「それでは留守中よろしくお願いいたします」ペコリ

神様「特に犬こ・・・ 神使さま」ニコッ

神使「はぁ・・・ といいますか、神様も一緒にお出かけになるんですか?」

神様「私がいないと始まりませんので」オホホ

神使「口調が修道女というかお嬢さまキャラになってますが・・・」

少女「それでは、行って参ります。 帰りは遅い時間になると思いますので」


バタン


うさー「ウリエルちゃん行った?」コソッ

神使「はい、神様と一緒に出られました」

うさー「さすがにこの格好は見せられないしね」ハハハ


神使「随分とご立派なご装束ですね」

うさー「う~ 猫神からお祝いにもらってんだけどゴワゴワして動きづらいよ~」

神使「すぐ慣れますよ」

うさー「じゃ、建立祭の準備しようか」

神使「はい。 あっ、そういえば祓いで使う用具が見当たらなかったのですが」

うさー「あ~ 地下にあるよ。 今取ってくるね」テクテク

神使「私が取ってきますから、うさー様は御支度を」

うさー「大丈夫だって、ってうわー!」ゴロゴロ


ズドン


神使「うさー様!」


――― 教会前


少女「それでは行きましょうか、シスターカミー」

神様「やべ、飴ちゃん忘れた」

少女「?」

神様「あっ、いえ・・・ 聖書を忘れてしまいまして! すぐ取って参ります」

少女「時間はありますから慌てなくても大丈夫ですよ」ニコッ

神様「すいません」タッタッタッ


ギー


神様「あぶね~ 素が出るところだった・・・」テクテク

 う~ う~

神様「?」


――― 教会内


神使「大丈夫ですか! うさー様!」

うさー「う~・・・」


神様「おい、どうしたんだよ」スタスタ

神使「あっ、神様」

うさー「地下に行こうとしたら階段から落ちちゃって」

神様「大丈夫か?」

神使「お怪我は? 立てますか?」

うさー「足挫いちゃったみたい」

神使「今日の建立祭、延期にした方が良さそうですね」

神様「・・・・・・」

うさー「う~」


神様「おい、何か書くもの持ってるか? あと紙」

神使「祭儀で使う筆ペンと奉書紙でしたら」スッ

神様「詩人かよ、まぁ良いや貸せ」

神使「どうされるんです?」

神様「手紙だよ」カキカキ

神使「手紙?」


神様「ちょっと待ってろ、動くなよ! すぐ戻ってくるから!」タッタッタッ

神使「ちょ、神様!?」



ギー


少女「シスターカミー、聖書はありましたか?」

神様「すみませんウリエル。 先に試験会場の方へ行って下さい」

少女「!? どうして試験だって事知っているんですか!? 誰にも言っていないのに!」

神様「この手紙をミカエルに」スッ

少女「!? 神ちゃんさんミカエル様を知っているんですか!?」

神様「詳しくは後で」

少女「・・・・・・。 何かあったのですか?」

神様「え~と・・・ 私は神を助けないと」

少女「神!? でしたら私も―――」

神様「行って。 ウリウリが戻ったら神も心配するから」

少女「・・・・・・」

神様「大丈夫。 これはウリエル自身への神からの試練だと思って」

少女「・・・・・・。 分かりました。 では行って参ります」ペコリ


――― 本教会・天使試験会場


司祭A「それでは、天使試験の面接を始めます」

少女「よろしくお願いいたします」

司祭B「え~と・・・ ウリエル一人ですか?」

少女「はい」

司祭A「確か、シスターも一緒に来ると聞いていましたが」

少女「申し訳ありません、シスターカミーは用事が出来てしまいまして」

ミカエル「シスターカミ~?」

司祭B「確か、ウリエルの試練で更生させたシスターでしたよね?」

少女「はい」

ミカエル「・・・・・・」


司祭A「どうかされましたか? 大天使ミカエル」

ミカエル「いえ、何でもありませ~ん」

司祭B「しかし、そのシスターを面接しないと更生具合が分かりませんね」

少女「シスターカミーはどうしても外せない用事が・・・」

司祭A「大天使ミカエルも忙しい中、時間を割いて来て頂いているのですよ?」

司祭B「あなたの今後がかかった試験でもありますし、連れてくることは出来なかったのですか?」

少女「・・・・・・。 申し訳ありません」

司祭A「仕方ありませんね」

司祭B「残念ですが規定に則り今日の天使試験は中止にします」

少女「えっ・・・」


――― 1時間後・大教会廊下


少女「あの、ミカエル様?」トボトボ

ミカエル「ウリエルですか。 まだいたので~すか?」

少女「この手紙をお渡しするようにと」スッ

ミカエル「手紙?」

少女「シスターカミーからです」

ミカエル「・・・・・・。 そうで~すか」

少女「ミカエル様・・・ 私、今回はダメでしたが・・・」

ミカエル「・・・・・・」

少女「いつか絶対天使になって、尊敬するミカエル様と同じこの日本の担当天使になります! 失礼いたします」タッタッタッ


ミカエル「・・・・・・」ペラッ

ミカエル「お~ これは中々面白いで~すね」


――― はさまれ神社・本殿


うさー「え~!? 神ちゃんお芝居してたの!?」

神様「気付よ」

うさー「神使君は神ちゃんがお芝居してたこと知ってた?」

神使「えぇ、たまに素が出てましたから」

うさー「う~ 全然気がつかなかったよ~」


神様「これでよし! っと」

うさー「よしって、これじゃ私動けないんだけど・・・」

神様「足挫いてるんだからどちらにしろ動けないだろ」

うさー「そうだけどさぁ~ なにも天井から吊さなくても・・・」


神使「足浮いてますよ? もう少し下げた方が良いと思いますが」

神様「ま、微調整は後でやるとして。 ・・・変な衣装で良かったな、これなら気づかれない」

うさー「変な衣装って、猫神に怒られるよ?」

神様「・・・・・・。 とても素敵な装束だ。 私も着たいなぁー で、今日の式次第は?」

神使「こちらです」

神様「ん~ 祓いとか動きのある物は犬ころが代理でやるとして、このピョンピョン式って何?」

うさー「うさぎ舞!」

神様「は?」

うさー「私が考案した“うさぎ”をモチーフにした舞なんだけど、とっても可愛く―――」

神様「変な舞を勝手に作るな」

うさー「う~」


神様「仕方ないな、舞は私が代わりにやろう」

うさー「え!? 神ちゃんやってくれるの!?」

神様「なんだよ、文句あるのか?」

うさー「うれしい! 神ちゃんの舞見るの久しぶりだから楽しみ~」

神使「私、その時は下の観客席で拝見いたします」

うさー「私も~」

神様「お前はここに固定だよ。 ぐるぐる周りで優雅に舞ってやるよ」

うさー「う~」


――― 帰り道


少女「はぁ・・・」トボトボ

少女(シスターうさーや神使様・・・ そしてシスターカミーに会わす顔がないですね・・・)


♪ピ~ ヒョロ ピ~


少女「? 何の音でしょう・・・ とても幻想的な音色」


♪ピ~ ヒョロ ピ~


少女「あれはお隣の神社さん・・・ あんなに大勢の人が」タッタッタッ


――― はさまれ神社


ガヤガヤ


少女「フェスティバル・・・ いえ、ミサでしょうか?」キョロキョロ


参拝者「幻想的だったねぇ~」

参拝者「あぁ、あんな綺麗な舞を見たの始めてだよ」


少女「あのすいません」

参拝者「はい?」

少女「何かやっているんですか?」

参拝者「あぁ、奥で巫女さんが舞をやっててね。 凄く綺麗だから見てきたら?」

少女「ありがとうございます。 行ってみます」ペコリ


――― 本殿前


少女「これは、確か日本古来の踊り」

少女「あれ? あの巫女さんって・・・・・・」


♪~


少女「神ちゃんさん!? シスターうさーも・・・ それに、あの格好・・・」


♪~


少女「・・・・・・。 綺麗・・・」

ミカエル「そうで~すね。 とても美しいで~す」

少女「ミカエル様! どうしてここに!?」クルッ

ミカエル「一度、本物の“巫女舞”というのを見たくて来ま~した」

少女「そ、そうでしたか」


ミカエル「心が洗われま~すね」

少女「とても神聖な雰囲気なんですね・・・」

ミカエル「当然です。 日本の神が直接やっているのですから。 中々見られませ~んよ?」

少女「日本の神!?」

ミカエル「はい。 彼女は日本の神で~すよ」

少女「ま、またまた~ ミカエル様は相変わらずご冗談がお上手ですね」ニコッ

ミカエル「主に誓って嘘ではありませ~ん」

少女「・・・・・・」

ミカエル「しかも~、最高神さまで~す」

少女「え~!? 最高神!?」

ミカエル「大きな声を出してはいけませ~ん」シー

少女「うっ・・・ すいません///」


ミカエル「あの方は、とても立派な神さまで~す」

少女「シスターうさーが日本の最高神・・・ それであんな格好を」

ミカエル「違いま~す。 彼女も日本の神ですが、最高神はもう一人の方で~す」

少女「もう一人って・・・ ま、まさか巫女の神ちゃんさん!?」

ミカエル「あのお方は巫女さんなんかではありませ~ん。 日本の神の頂点、最高神様で~す」

少女「・・・・・・」パクパク

ミカエル「ウリエルは、日本の神の頂点である方を聖職者として更生させたそうで~すね」

少女「あ、いや・・・ あの・・・」アワアワ

ミカエル「日本の最高神を指導するとは見上げた根性で~す」

少女「・・・・・・」サー



パチパチパチパチ


ミカエル「終わったようで~すね」

少女「私の人生の事でしょうか・・・」ガクッ


ミカエル「ウリエル?」

少女「はい゛」

ミカエル「日本の神さま達があなたに用があるようですよ?」

少女「え?」


うさー「」ニコッ

神さま「」ニタァ


少女「うっ・・・」ブルブル


――― 本殿


少女「本当に申し訳ございませんでした!」ドゲザ

うさー「何してんのウリエルちゃん! 頭上げてよ!」

少女「お二人が日本の神とは知らず失礼を働いたことをお詫びいたします!」

うさー「私はただのシスターだから。 神って言っても底辺だし」

少女「いいえ、素で浮遊してしまう位の力をお持ちのようで!」

うさー「あ、これは天井から吊られてるだけで・・・」

神様「人だろうが天使だろうが神だろうが関係ないでしょ」

少女「何と慈悲深きお言葉! しかし、私のような者が対等に接するなど許されることではございません」

神様「ウリボーは人から崇められたいと思ってる?」

少女「私はただの見習いですから・・・」


神様「正式な天使になったら崇められたい?」

少女「そんな風には・・・ 天使は常に人と寄り添って分け隔てなく皆さんに祝福を届ける存在ですので」

うさー「私達も同じ。 だから普通に接してくれると嬉しいなぁ~」

神様「それに、ウリボーの上司を見て?」

少女「?」クルッ


 ミカエル「これは何で~すか?」

 神使「それは笏と言います」

 ミカエル「どう使うのですか?」

 神使「うちの神様は直接祝詞を書き込んでカンニング用として使っています」

 ミカエル「なるほど~ とても興味深いで~す」


神様「私達を無視して勝手にうちの犬ころとくっちゃべってるあの態度!」

ミカエル「お~ 失礼しました。 ウリエルとおしゃべりは終わりましたか?」

少女「・・・・・・」

神様「ね? 尊敬も敬意も微塵もありませんわ」


ミカエル「お~ 失礼しました。 コーヒーでも飲みに行きますか? シニョリーナ」

神様「いかねーよ!」

ミカエル「残念で~す」

神様「ったく。 で、ウリボーは無事天使になれたんでしょ? 輪っか見せてよ~」

少女「・・・・・・」

うさー「まさか・・・」

神様「おい、ミカエルの坊さんよ。 もしかして不合格にしたのか?」

少女「ミカエル様は関係ありません。 私の力不足です・・・ 」

うさー「ウリエルちゃん・・・」

少女「日本の神に失礼を働いたのですから、天使失格・・・ いえ、聖職を名乗る資格もないです・・・」

ミカエル「誰が不合格だと言いま~したか?」

少女「え?」


ミカエル「あなたは天使で~す。 それ以外の何者でもありませ~ん」

少女「でも、天使試験は・・・」

ミカエル「あんなのパチカンが勝手に作ったものですから天界はノータッチで~す」

神様「あ?」

うさー「じゃあ何でウリエルちゃんは日本に?」

ミカエル「日本の担当天使になりたいウリエルを現地で研修させるのは当然で~す」

一同「・・・・・・」

ミカエル「天使学校も必要ないんですが、一応パチカンの顔も立ててあげないといけませ~んしね」

少女「私の学校生活の時間が・・・」ガクッ

ミカエル「お~ でも、聖書とか日本語の勉強とかは役に立ったではずで~す」

神様「自分で教えるのが面倒だからパチカンに振っただけだろ」

ミカエル「主のお導きで~す」


神様「お前さぁ、天界とパチカンの付き合い考え直した方が良いんじゃね?」

うさー「という事はウリエルちゃんは天使合格って事?」

ミカエル「合格も何もウリエルは生まれたときから天使で~す」

少女「でも、私まだ羽も輪っかも・・・」

ミカエル「出し方を知らないんで~すか?」

少女「はい?」

ミカエル「神の姿を頭の中で思い描き、その力をおわけ下さ~いと念じるだけで~す」

少女「しかし、私まだ一度も主にお会いしたことが・・・」

ミカエル「そうなんで~すか?」

神様「お前・・・」



少女「神の姿を思い描く・・・」


ピカー

少女「主よ、私に天使の力を」

ピカー


ミカエル「!?」

神様「うお! ウリボーが光ってる!」


シュー


少女「あれ、私・・・」

一同「・・・・・・」

少女「どうされたんですか、皆さん?」キョロキョロ


神使「これは何というか・・・」

うさー「まぁ、羽根と輪っかは出てるから天使と言えば天使だけど・・・」


神使・うさー(なぜ巫女服姿)


神様「うひょー 巫女服きゃわゆい!!」

少女「あれ? なんですかこの格好!?」

ミカエル「ウリエル・・・ あなたは何の神を思い描いたので~すか? 主とお会いしたことないんで~すよね?」

少女「え~と・・・」

神様「やーいやーい、主とやらに合わせないから私に取られてやんの」ウヒャヒャ

神使「これって・・・」

神様「さぁ、ウリボー。 私がママですよ?」チッチッチッ

神使・うさー(悪質な刷り込み)


ミカエル「日本の神のイメージからでも天使の力が発動するとは思いませ~んでした」

うさー「ミカエルさん、これってどうなっちゃうの?」オロオロ

ミカエル「羽根と輪っかはありますし・・・ 日本担当天使としては良いんじゃないでしょ~か」

うさー「良いの!?」


少女「主よ、私に天使の力を与えてくれたことを感謝します。 アーメン」

神様「ウリウリ~ それは君の主である私の方に向いて言って欲しいなぁ~」クネクネ


――― 翌日・教会内


少女「ちょっと神ちゃん様、くすぐったいですよ」フフ

神様「ん~ そんなよそよそしい呼び方しないでさぁ~」

神使「神様、ウリエルさんにご迷惑ですから離れて下さい」グイッ

神様「あ~! だって羽根がフサフサで気持ちいいんだも~ん」ジタバタ


うさー「でも、無事に天使になれて良かったね!」

少女「うさー様には大変感謝しております。 色々とご迷惑をおかけしました」ペコリ

うさー「水くさいよ。 今まで通りシスターうさーで良いって」

神様「私も今まで通り神おねーちゃんで良いって」

神使「そんな風に呼ばれたことないじゃないですか・・・」

少女「ふふっ」ニコッ


神様「あ~ 本当きゃわゆいなぁ~」ウットリ

神使「神様、鼻の下伸びすぎです」

神様「お前も女になって天使にジョブチェンしろ」

神使「何ですかそれ・・・」

神様「だって、あの羽根! あの輪っか! そして巫女装束!! 完璧すぎて鼻血でるわ」クハッ

ミカエル「そんなに天使が好きでしたら、私も羽根と輪っか出しましょ~うか?」

神様「うっせーよ。 加齢臭天使はお呼びじゃない」

うさー「ゴメンね、ミカエルさん」ハハハ

ミカエル「全然~ 1ミリも気にしてませ~ん」

神様「なんか、一々言い方がムカつくんですけど?」


うさー「で、ミカエルさん達はこれからどうするの?」

ミカエル「私は一度パチカンに戻りま~す」

神使「ウリエルさんが無事天使になれた報告ですね?」

ミカエル「違いま~す。 これをパチカンに届けに行きま~す」スッ

うさー「それは?」

神使「棒書のようですが?」

神様「おい、それ・・・」

ミカエル「は~い。 日本の最高神様から頂いたお手紙で~す」

神使「手紙って・・・ 先日神様が書いていたやつですか?」

ミカエル「『ウリエルを悲しませることしたら全力で潰す』というお言葉が書かれていま~す」

少女「神ちゃんさま・・・ まさか私のために・・・」

神様「あ~ いや何というか・・・ っていうか、その手紙をどうするつもりだよ!」

ミカエル「パチカンの法皇に渡しま~す」

神様「おまっ、誤解招くようなことするなよ!」


ミカエル「これは、日本の神からパチカンへの正式な手紙で~すから」

神様「天使試験をどうにかしろって内容だろうが! パチカン宛じゃねーよ」

神使「経緯を知らない方が読んだらただの脅しですね・・・」

うさー「神ちゃん、パチカンに喧嘩売っちゃダメだよ・・・」

神様「売ってないから」

うさー「ミカエルさん、私を含め他の日本の神は無関係だからね」

神使「当然、神宮と神使一同も無関係です」

ミカエル「お~ そうなのですか?」

神使「この場で破棄という事でお願い出来ないでしょうか?」

ミカエル「実はウリエルの試験を担当した司祭達にこの手紙を見せまして~」

一同「・・・・・・」


ミカエル「司祭達は血相を変えてパチカンと連絡を取り合っていま~したね」

神様「それって・・・ おおごと?」

ミカエル「来週、神宮とパチカンで対策会議を開くそうで~す」

神様「お前、何面倒くさいことしてくれてんだよ!!」

少女「神ちゃん様・・・ 私の事をそこまで心配してくれていたのですね・・・」ウルウル

神様「そ、そりゃ私のウリウリだからね。 全力の親心よ」キラッ

少女「神ちゃん様・・・」


ミカエル「ウリエル」

少女「はい」

ミカエル「あなたはしばらくここにいてもう少し日本の勉強を続けなさ~い」

少女「良いのですか!?」


ミカエル「あなたは今日から正式に日本の担当天使で~す」

少女「ミカエル様・・・」

ミカエル「ですから~ もっと深く日本のことを知る必要がありま~す」

少女「はい!」


神様「お前・・・ この状況でウリボーを置いていく気かよ・・・」

ミカエル「ウリエルに手を出すと日本の最高神様に潰されてしまいま~す。 怖いで~す」

神様「お~け~ んじゃお望み通り潰してやるよ! かかって来いや! パチカン共!!」フンスッ


バン


一同「?」クルッ


長官「神ちゃん! 今度は何をやったんだ!」

神様「あっ・・・ 長官君・・・」

長官「パチカンに喧嘩を売ったそうだな」

神様「いや・・・ そんなつもりは」オロオロ

長官「“かかって来いやパチカン共”と言ったのを聞いたぞ?」

神様「その前の下りは聞いていなかったのでしょうか・・・?」

長官「神宮に戻るぞ」ガシッ

神様「え? ちょ・・・ まって」ズルズル

長官「猫神君と狐神君も呼んである。今回は徹底的にお説教だ!」

神様「え!? 待って! イヤだ~!!」ジタバタ


神使「神様、ご武運を」

長官「君もだ! 神使君!」

神使「そうですよね。 失礼しました」トボトボ


神様「助けてウリウリー! 潰される~!」


ピシャッ


うさー・少女「・・・・・・」

ミカエル「いや~ 最後まで楽しませてくれま~すね」

うさー「神ちゃん大丈夫かなぁ~?」


ミカエル「それではうさー様、ウリエルのことよろしくお願いいたしま~す」フカブカ

うさー「う、うん・・・」


ミカエル「ウリエル?」

少女「はい」

ミカエル「その姿に恥じないよう、この国のために頑張りなさ~い」

少女「はい!」

ミカエル「では、失礼しま~す」


シュン


うさー「うわ! ミカエルさんが消えた!?」


少女「私、神ちゃん様の優しさに救われました」

うさー「そだね。 私も神ちゃんに救われた身だから、分かるよ」

少女「私も神ちゃん様のように・・・」

うさー「でも、あんまり影響受けないでね?」

少女「そうですね」ニコッ



ガチャ


修道女「只今戻りました」

うさー「あっ、シスターちゃん! お帰り!」

修道女「今、表で神ちゃんさまを見たんですが・・・」

うさー「あ~ うん」

修道女「泣きわめいて車に押し込められていたのですが、大丈夫でしょうか?」

うさー「大丈夫だよ」

修道女「そ、そうですか。 あら? 天使さんですか?」

少女「はい! 日本担当天使のウリエルと申します! 日本の皆さんに祝福を届けるために赴任しました!」

修道女「そうでございましたか。 はじめまして、天使ウリエル」


少女「・・・・・・」

修道女・うさー「?」


少女「どうぞ私のことは親しみを込めて“巫女天使ウリボー”とお呼び下さい!」ニコッ





神様「神様だ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 番外編・2019年春
おわり


お~わ~り~だよ~!

神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 5社目
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」 5社目 - SSまとめ速報
(https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1575568645/)

このSSまとめへのコメント

1 :  神ちゃんファン   2018年04月01日 (日) 15:12:25   ID: OUp66kL2

遂に見つけた!神ちゃん続編!!
コレ好きすぎてずっと去年から待ってたんだよ私はッッ!ゲシゲシッ
神ちゃんファン神使:「痛っ!だからってそんなに興奮しないでください!!」

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