エレン「結婚しよう!」 (133)

進撃の巨人ss
エレクリ、エレヒスです
ネタバレ注意
進撃の巨人100話おめ!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513373958

入団式

エレン(いよいよだ。今日からオレは兵士になる。まだ訓練兵だけど、これから技術を身につけて調査兵団に入る! そして一匹残らず巨人どもを……)

キース「貴様は何者だ!」

クリスタ「はっ、クリスタ・レンズです!」

エレン「!」

ドクンッ

エレン(なんだあの子……)

エレン「か、かわいい……!」

キース「――!」

クリスタ「――!」

エレン(綺麗なブロンド、大きな目、女の子らしい体つき、透き通るような声、どれをとっても完璧だ……)

エレン(ああもう我慢できない!)

エレン「結婚したい!!」

シーン

ミカサ「エレン……?」

キース「ほう……先程の女といい……今期の訓練兵はよほど走りたいらしいな……」

エレン「」



エレン「や、やっと終わった……」

サシャ「し、死ぬう……」

エレン「まさかほんとに死ぬ直前まで走らされるとはな……おい、サシャっていったか? しっかりしろよ」

サシャ「お腹すきましたぁ……」

エレン「そればっかりだな……あ、ミカサ、アルミン」

アルミン「やあエレン」

ミカサ「エレン……」

サシャ「パアアアン!」

ミカサ「……」サッ

サシャ「あう」ドサッ

エレン「な、何なんだ……」

ミカサ「エレン、お腹空いてるだろうと思ってパンを持ってきた」

エレン「いや、それお前の分だろ。オレはいいよ」

サシャ「なら私にください!」

ミカサ「だめ。これはエレンの」

エレン「だからいらないって。入団して早々に罰則だ。その罰則までやぶりたくねえよ……」

アルミン「そっか。ここはエレンの意見を尊重してあげよう。ミカサ」

ミカサ「うん……」モグモグ

サシャ「ああ……」ガク

アルミン「君、大丈夫?」

サシャ「大丈夫じゃないです……あんなに走らされて、しかも食事抜きだなんて。ひどいです……」

エレン「いや、入団式の真っただ中で芋食いだすんだから当然だろ……」

サシャ「なっ、そんなこと言ったらエレンだっていきなり結婚したいとか言いだしたじゃないですか! 私だけおかしいみたいに言わないでください!」

エレン「あ、それもそうだな……」

アルミン「そのことなんだけどエレン。あのとき、結婚したいとか言ったのは何だったの?」

エレン「ああ、それなんだけど……」

ミカサ「言わなくてもわかる」

エレン「え?」

ミカサ「エレンは私と結婚したくて我慢できなかった」

エレン「ぜんぜん違うぞ」

ミカサ「」

エレン「オレが結婚したいって言ったのはミカサに対してじゃなくて……なんだっけ、名前忘れちゃったな」

アルミン「え、ていうことはエレン。何かの冗談とかで言ったわけでも、頭をぶつけたわけでも、言い間違いでもなく、本当に結婚したいって思って言ったの?」

エレン「ああ」

アルミン「その……名前もわからない相手に?」

エレン「ああ、そうだな」

アルミン「それは……」

ミカサ「エレンはおかしくなってる。ここに来るべきじゃなかった。さあ帰ろう」グイグイ

エレン「何でだよ! オレはおかしくないだろ。なあ、アルミン」

アルミン「そりゃあまあ……一目惚れっていうのはないわけじゃないだろうけど……」

ミカサ「……」ギロッ

アルミン「ひぃっ、で、でもやっぱりいきなり結婚なんて言うのはおかしいと思うよ……」

ミカサ「その通り。きっとその女に何かされた」

エレン「あの状況でどうやって?」

ミカサ「それは……わからないけど」

エレン「オレはなにもされてねえよ。あの子を一目見たときから、なんかこう……いてもたってもいられなくなって……」

ミカサ「……」ギリッ

アルミン「お、落ち着きなよミカサ。でも、珍しいね。エレンがそういうことに興味持つなんて意外だ」

エレン「そうか? いや……そうだな。オレもなんでかわからないんだ。けど一瞬で好きになった」

ミカサ「……」

アルミン「うーん。どんな子なの」

エレン「そうだな……一言で表すなら」

クリスタ「あの……」

エレン「かわいい!」

サシャ「パァン!」

クリスタ「きゃあ!」

エレン「かわいいなあもう! 結婚しよう!」

サシャ「神様ですか! あなたが神~!」

アルミン「ちょ、ちょっと落ち着いてよ二人とも!」

ミカサ「削ぐ……」

アルミン「ミカサも!」

クリスタ「あ、あの、えっと、とにかく先に水飲んだほうが!」

エレン「しかも優しい!」

ミカサ「この女? この女でしょエレンを誑かしたのは」

サシャ「ありがたやーありがたやー」

エレン「オレはエレン・イェーガー! 結婚しよう!」

ミカサ「削ぐ! 削ぐ!」

アルミン「ふ、二人とも!」

サシャ「パン美味しぃ〜ありがとうございます!」

クリスタ「あわわわわ」

ユミル「何やってんだお前ら……」



――

お姉ちゃん。何してるの?

本を読んでるんだよ。いっしょに読む?

でも私……

大丈夫。読みかた、教えてあげるね

本当に? ありがとう!

――

数日後 食堂

ミカサ「エレンはおかしい」

エレン「は?」

ミカサ「エレンはおかしい」

エレン「聞こえなかったわけじゃなくて、意味がわからないんだ」

ミカサ「意味はそのまま。そうでしょアルミン」

アルミン「うん。そうだね」

エレン「なんだよアルミンまで……」

アルミン「エレン。僕たちがここに来て、エレンが無事に姿勢制御も終えて、まだ数日しかたってない」

エレン「ああ、そうだな。まだ訓練兵になったばかりのペーペーだ」

アルミン「そう。その数日で、君がなんて呼ばれるようになったか知ってるだろ?」

エレン「…………」

ジャン「おっ、プロポーズ野郎。今は暴走してねぇみたいだな」

エレン「ん? なんだジャン。喧嘩なら買うぞ」

ジャン「ハンッ、喧嘩なら巨人にでも売ってな」ヒラヒラ

ミカサ「……」

エレン「……」

アルミン「プロポーズ野郎……このあだ名はもうみんなに浸透してる」

エレン「何が悪いんだよ。ただのあだ名だろ」

アルミン「そのあだ名をつけられる理由がだめだって言ってるんだ!」

エレン「何だよそれ」

ミーナ「あ、エレン。おはよう。さっきもクリスタに告白してたけど、次はいつ告白するの?」

エレン「おはようミーナ。訓練中にチャンスがあればするよ」

ミーナ「がんばってね! あれだけアタックしてるんだもん、絶対成功するよ!」

エレン「ああ。ありがとな」

アルミン「だからこれだよ! どう考えても異常だよ! 一日に何回も告白するなんて!」

エレン「正確には告白ってよりプロポーズだな」

アルミン「余計にだめだよ!」

ミカサ「エレンいい加減にして。私はもう限界。せめて医者に診てもらうべき」

エレン「なんでだよ、どこも悪くないだろ!」

アルミン「君の主観ではそうかもしれないけど……僕らにとってはそうじゃないんだ」

エレン「…………」

アルミン「だから頼むよ」

エレン「オレ、一度怪我したとき診てもらったけど、何にも言われなかったぞ」

アルミン「それは……いやでもそうか……こんな症状、少し診察したところで何かわかるとも思えない……」ブツブツ

ミカサ「アルミン?」

アルミン「よし。実験しよう」

エレン「実験? なんだよアルミン。不穏だな」

アルミン「こうなったら手探りでやっていくしかないよ。エレン、協力してくれるよね」

エレン「ああ……」

広場

エレン「とはいったもののこれはないだろ」

アルミン「エレン。目隠しとらないでね」

エレン「協力するって言った手前、勝手にとったりしないけどよ……せめて何か説明があってもいいんじゃないか? こんな訓練場の広場の真ん中で何するつもりだよ」

アルミン「それを言ったら実験にならないよ……とにかく、まずは僕の質問に答えてくれ」

エレン「質問? おいおい、本当に目隠し意味あるのか?」

アルミン「ちゃんと考えてるさ。じゃあいくよ。正直に答えてね」

エレン「わかった」

アルミン「エレンは誰に特別な感情を持ってるの?」

エレン「決まってるだろ。クリスタだ」

アルミン「クリスタを好きになったのはいつ?」

エレン「入団式のときにはじめて見たときからだな」

アルミン「どんなところが好き?」

エレン「全部だ」

アルミン「毎日のようにプロポーズするのはおかしいことだと思わない?」

エレン「そりゃ、するやつは少ないだろうが、でもオレの正直な気持ちだし、言わなきゃ伝わらないだろ」

アルミン「クリスタの前にいるときといないときで自分に何か変化があると思う?」

エレン「あるな。やっぱり目の前にいると舞い上がっちまう。でも好きな人が目の前にいたら普通のことなんじゃないのか?」

アルミン「クリスタのことは1から100に換算するとどのくらい好き?」

エレン「100だ。100」

アルミン「うーん……」

エレン「終わりか? これで何がわかったんだ?」

アルミン「とりあえずエレンはクリスタが好きなんだってことかな……」

エレン「なんだそりゃ。そんなのあたりまえだろ」

アルミン「それじゃあもう一度質問するよ」

エレン「まだあるのか……」

アルミン「今度は目隠しをとってだ」

エレン「ん……」

アルミン「ほら、あっちの方を見てくれ。遠くに人影が見える?」

エレン「ん? あ、おーい! クリスター!」

アルミン「動いちゃだめだよエレン! 質問に答えて! 1から100に換算すると――」

エレン「ばかやろう!」

アルミン「え?」

エレン「そんなのでオレの気持ち測れるわけないだろ! クリスター!」

アルミン「これは……」

エレン「クリス――うごっ!」

ミカサ「エレン。落ち着いて」

エレン「離せよミカサ。襟が伸びちゃうだろうが!」バタバタ

クリスタ「だ、大丈夫? 苦しくない?」

エレン「心配してくれるのか? このくらい全然平気だ! そんなことより――」

アルミン「そんなことよりわかったことがある」

エレン「なんだよアルミン。今からクリスタに結婚を申し込もうとしてたのに……」

クリスタ「エレン。アルミンはエレンのためにがんばってくれてるんだよ。そんな風に言っちゃだめだよ」

エレン「悪かったなアルミン」

ミカサ「さっさと言ってアルミン」

アルミン「あはは……これまででわかったことは、エレンはどうも視覚でクリスタを認識することで気持ちが高まるらしいということだ。距離は関係ないみたいで、目隠しをつけていたときにクリスタに近づいたり離れたりしてもらったけど、エレンに違いは見られなかった。でもいざ目隠しをとってクリスタを認識したとたんにこれだ。先程の質問の答えにも齟齬がみられ、気持ちを数字に置き換えた場合、目隠し状態では100、そのあとはそれすらできないほどだった。視界での認識による効果はあきらかだ。けれど目隠し状態のときもクリスタのことを想ってないわけじゃない。その時エレンは暴走してないだけでいわゆる――」

エレン「クリスタ、今日も綺麗な髪だな。毎日その髪を抱きしめて眠りたい。結婚してくれ!」

クリスタ「そ、その……」

ミカサ「アルミン、もっと簡潔に言って。エレンは隙あらばプロポーズする」

アルミン「ご、ごめん……簡単に言うと、エレンはクリスタが好きで、視界に入るとより好きになるってことだよ」

ミカサ「……それだけ?」

アルミン「そうだね。今わかることはこれだけだ」

ミカサ「それでは意味がない。エレンを元に戻す方法はないの?」

アルミン「根本的な解決はできないだろうけど……とりあえずは目を塞いでみるとかかな。色々試すしかないよ」

ミカサ「なるほど」ファサッ

エレン「うわ、なんだよこれ! クリスタが見えないだろ!」

ミカサ「私のマフラー。どう、落ち着いた? エレン」

エレン「落ち着かねえよ……」

ミカサ「でもプロポーズはやめた。効果はあるのかも」

エレン「もう外すぞ。あ……」

クリスタ「エレン?」

エレン「結婚しよう!」

アルミン「多少は効果があったみたいだね……」

ミカサ「エレン。これからは目隠しをして過ごそう」

エレン「一目見たときからオレの人生はお前を中心に――ぐえっ」

ミカサ「話を聞いてエレン」メキメキ

エレン「痛い痛い! 顔を掴むなよ!」

クリスタ「か、かわいそうだよミカサ」

ミカサ「クリスタもいい加減にしてほしい」

クリスタ「え?」

ミカサ「何度もエレンに言い寄られて、その度に曖昧な返事をしてる。エレンに何か特別な感情でもあるの?」

エレン「そうなのか!?」

ミカサ「エレン、黙って。どうなの、クリスタ」

クリスタ「い、嫌な気持ちはしてないよ。そんなふうに思ってくれるのは嬉しいし。でも結婚となると……」

ミカサ「ならはっきり断るべき。エレンがふられるのは癪だけど、仕方ない」

アルミン「そうだね。曖昧なままはよくないだろうし……一度はっきり言ったほうがいいかもしれない」

クリスタ「じゃあ…………ごめんなさい、エレン」

エレン「何度断られたってオレの愛は変わらないぞ!」

ミカサ「弱い! もっと全力で拒否してクリスタ! エレンを凹ませるくらいに! そこを私が慰める!」

クリスタ「ええっ、どうすればいいの……?」

ミカサ「嫌いって言えばいいだけ」

クリスタ「私、嫌いとまでは……」

ミカサ「はやく!」

クリスタ「き、嫌い……」

ミカサ「もっと!」

クリスタ「嫌いっ」

ミカサ「もっと強く!」

クリスタ「嫌い!」

ミカサ「あと一息!」

クリスタ「大嫌い!」

ミカサ「すばらしい。クリスタ、あなたはよくやった」

アルミン(なんだこれ……)

ミカサ「エレン、これに懲りたら…………エレン?」

クリスタ「あれ、エレン……なんか雰囲気変わった?」

エレン「ん? あれ、確かに、なんか冷静かもな」

ミカサ「……! やった! エレンが元に戻った!」

アルミン「ほ、本当に? エレン、クリスタのこと1から100に換算するとどのくらい好き?」

エレン「は? 何言ってんだよアルミン」

ミカサ「エレン……!」

エレン「100に決まってるだろ」

ミカサ「」

アルミン「戻ったというより、目隠しした時と同じ状態になったのかな……でもいったいどういう条件で……」ブツブツ

クリスタ「へえー、それがいつものエレンなの?」

エレン「おかしいか? お前が好きなことは変わりないんだけどな」

クリスタ「ありがと。でもおかしくなんかないよ。なんか新鮮だなって思っただけ。私はもっとこう……情熱的なエレンしか見たことなかったから」

エレン「確かにクリスタに会うときはいつも舞い上がってたもんな……嫌だったか?」

クリスタ「全然。でも、エレンとこうやって普通におしゃべりできるのは楽しいな」ニコッ

エレン「かわいい!!」

クリスタ「きゃあっ!」

ミカサ「」

アルミン「ああ、もう!」

食堂

ミカサ「エレンはおかしい」

エレン「またかよ」

ミカサ「エレンはおかしい」

エレン「なんでだよ。もうむやみやたらにプロポーズしてないだろ」

ミカサ「前ほどじゃないけどたまにしてる」

エレン「それは……あ、クリスタ! 結婚――」

クリスタ「嫌!」

エレン「…………おはようクリスタ。今日もかわいいな」

クリスタ「おはようエレン。ありがとうね」

ユミル「おいクリスタ。そんな頭ピンク色の失恋野郎に挨拶しなくていいだろ。行くぞ」

クリスタ「もう、ユミルったら……」

エレン「ほら、今もプロポーズしてなかっただろ」

ミカサ「ほとんどしてたし納得いかない」

アルミン「拒否されることで冷静になれることはわかったし、それにクリスタが協力してくれてるけど……」

ジャン「お、プロポーズ……じゃなかった、失恋野郎。今日も元気にふられてるみたいだな」

エレン「なんだよジャン……言いたいことがあるなら普通に言え」

ジャン「別にねえよ。哀れに思ったから声をかけてやっただけだ」ヒラヒラ

ミーナ「エレンおはよう」

エレン「おはようミーナ」

ミーナ「エレン、さっきのはだめだよ。もっとバリエーション増やさなきゃ! ますます失恋野郎になっちゃうよ。女の子は繊細なんだから!」

エレン「そ、そうなのか? 気をつけるよ」

アルミン「エレン……あだ名がすっかり失恋野郎になっちゃったね……」

ミカサ「しかもみんなに浸透してる。私はどんな顔すればいいのかわからない」

エレン「別にいいだろあだ名くらい。他に何か不都合があるってわけでもないし」

アルミン「……」

ミカサ「私にとっては不都合しかない……」

エレン「とにかく、オレたちの今日やるべきことは訓練だ。絶対巨人を駆逐してやる!」

アルミン「根はエレンなんだけどなあ……」

2年後

アルミン「エレン。どこに行くの」

エレン「ああ、水汲みだ」

アルミン「あれ? 今日ってエレンが当番だっけ?」

エレン「違うけどな。ユミル頼まれたんだ」

アルミン「ユミルに?」

エレン「なんでもクリスタが疲れてるみたいだから、代わりにやっといてくれだってよ」

アルミン「……エレンそれ、騙されてない?」

エレン「まあ、ユミルのことだしありえるかもな」

アルミン「それなら……」

エレン「でももし本当だったらやらないわけにはいかないだろう」

アルミン「僕も手伝おうか?」

エレン「いや、大丈夫だ。オレがやりたくてやってるだけだからな。それに水汲みくらいひとりでできるさ」

エレン「さてと、いっちょやるか……ってそこにいる人類一かわいい女の子は!」

クリスタ「嫌い!」

エレン「……クリスタ。どうしたんだ。疲れてるんだろ?」

クリスタ「それはユミルの嘘なの。水汲みに行こうとしたらユミルがエレンに押しつけたって……びっくりしちゃった。ごめんねエレン、自分でやるから」

エレン「いや、水汲みくらいオレがやるよ」

クリスタ「でも……」

エレン「カッコつけさせてくれよ」

クリスタ「……! それじゃあお願いしちゃおうかな……」

ザブザブ

クリスタ「……」ジー

エレン「よいしょっと……」

クリスタ「……」ジー

エレン「な、なあクリスタ」

クリスタ「なあに、エレン」

エレン「そんなに見られると照れるんだが。オレになんかついてるか?」

クリスタ「ううん。ただ……」

エレン「ただ? なんだ?」

クリスタ「男の子をこき使ってる私って、悪い子だなあって……」

エレン「クリスタが悪女でも一向にかわまないぞ」

クリスタ「私はいやだよ……」

エレン「クリスタがいやならしかたないな」

クリスタ「うん……て、そうじゃなくて。私、エレンにすっかり慣れちゃって甘えちゃってるなって」

エレン「そうか?」

クリスタ「それに最初の頃と違って、エレンに嫌いって言うのも何も思わなくなっちゃった……ごめんねエレン。本当に嫌いなわけじゃないんだよ」

エレン「わかってるよ。それに、この二年間で毎日言ってたら慣れてきて当然だろ。そもそもこっちから頼んで言ってもらうことになったんだからな。クリスタが気にすることないだろ」

クリスタ「でも…………でもそっか、もう二年経ったんだね」

エレン「はやいもんだよな」

クリスタ「うん。でも全然変わった気がしない……」

エレン「毎日訓練してるんだ。絶対成長してる。今日もミカサと組んでたんだろ?」

クリスタ「うん。教えてもらってばかりだけどね……今日はマウントポジションのとりかたを練習したの。私みたいに力が弱いと、まず自分に有利なようにしなきゃ勝てないから」

エレン「ミカサにマウントとれたのか?」

クリスタ「一応はとれたんだけど……そのまま持ち上げられちゃった……」

エレン「あー……あいつは例外だって考えてたほうがいいぞ」

クリスタ「うん。ミカサすごいもんね……」

エレン「でもこの調子なら上位10人に入れるんじゃないか。憲兵団に行けるかもな」

クリスタ「……」

エレン「まだ、どこの兵団にするか決めてないのか?」

クリスタ「うん……私はみんなの役に立てるならどこでもいいの…………エレンは調査兵団でしょ?」

エレン「ああ」

クリスタ「すごいねエレンは。みんなよりも何倍も努力して、調査兵団を目指してる」

エレン「……なあ、クリスタはどう思う?」

クリスタ「何が?」

エレン「巨人殺しの技術を高めたやつが巨人から離れられるこの現状がだ」

クリスタ「……エレンはおかしいって思うの?」

エレン「……」

クリスタ「エレンは強いね……」

エレン「……」

クリスタ「私は……」

エレン「……」

クリスタ「私はただ……優しい人が憲兵になってくれたらいいな……」

エレン「……」

クリスタ「って思う……だけ……」

エレン「……」

クリスタ「……」

エレン「それだと性格の良さって科目も必要だろうから、ジャンは落第だな」ニヤッ

クリスタ「! ふふふっ」

エレン「お、笑った! 笑顔がかわいい! 結婚しよう!」

クリスタ「嫌い!」

エレン「……おっと……悪いな」

クリスタ「笑ってる顔なんて何度も見てるでしょ?」

エレン「いつもとは違ってた。どっちもかわいいけどな」

クリスタ「もう……」

エレン「しかしそうなると、一番憲兵に向いてるのは……マルコとかか?」

クリスタ「マルコはいい憲兵になりそうだね」

エレン「ああ。あいつは最初から憲兵志望だったからな。他にはライナーとか、もちろんクリスタも」

クリスタ「私は……エレンはどうなの?」

エレン「オレが? 向いてると思うか?」

クリスタ「今もこうやって水汲みしてくれるし、エレンは頼りになると思うな」

エレン「オレは……たぶん向いてない。ていうより兵士にすらなってないただのガキだ」

クリスタ「え……どういうこと?」

エレン「最近いろいろ考えることがあってな…………オレは、ずっと感情任せに生きてきた。しかも最近まで自分が感情を発散させてるだけのガキだってことにすら気づいてなかった。でもそれじゃあ兵士は務まらない。感情よりも優先しなくちゃいけないことがあることに気づいたんだ。でも……」

クリスタ「……」

エレン「オレは……ちょっと自信がない。今までは巨人を駆逐することがそのまま兵士につながってた。でもそれが矛盾することもある。その時に、オレは兵士としての務めをはたせるのか、ちゃんと自分を捨てられるのか、自信がないんだ」

クリスタ「エレン……」

エレン「いや忘れてくれ。かっこ悪いとこ見せちゃったな」

クリスタ「自分を捨てる必要なんてないよ……」

エレン「え?」

クリスタ「自分を捨てちゃったら、それはもうエレンじゃないでしょ? 自分がない人は……寂しい人、からっぽな人……そんなのエレンじゃない」

エレン「けど……」

クリスタ「もちろん兵士としての務めも大事。つまりどっちも大事だと思うの。両立できるようにがんばるしかないよ」

エレン「どうしても両立できなかった場合はどうするんだ……?」

クリスタ「…………第三の道を見つけるとか」

エレン「それらしいこと言ったな」

クリスタ「と、とにかく。今まで感情まかせだったんでしょ? だったらこれから兵士として足りないところを身につけていくしかないよ! 私たちは訓練兵なんだから」

エレン「…………そうか、そうだな」

クリスタ「それに、そんな風に気づいたエレンはえらいと思う。私、兵士の務めなんて考えもしなかった……」

エレン「そうなのか? それじゃあ今日からいっしょに考えていこうぜ。オレたちは訓練兵だからな」

クリスタ「うん……ふふっ」

エレン「はははっ」



――

お姉ちゃん

どうしたの?

お姉ちゃんって背が高いね

あなたに比べればねえ

遠くまで見える?

見てみようよ。ほら!

わっ、高ーい!

――

トロスト区住民避難中

コニー「おいアルミン、アルミン!」

アルミン「コニー……?」

コニー「どうしたんだよお前。変にぬるぬるするし……」

アルミン(! 僕は……そうだ僕は、班のみんながただ巨人に食べられるのを見るしかできなかった……その上、エレンは僕の身代わりに……!)

クリスタ「アルミン、大丈夫? 他のみんなは?」

アルミン「!」

アルミン(クリスタもいるのか……! だめだ合わせる顔がない……)

アルミン「うぅ……!」

アルミン(エレンは僕みたいな役立たずを助けて死んだ。なんで僕なんだ……! そんな価値ないのに……せめてクリスタを助けていたら……足でまといに殺されるよりずっと……!)

コニー「おい、アルミン!」

ユミル「もういいだろコニー。こいつ以外は全滅したんだよ」

クリスタ「え……」

コニー「うるせえクソ女! アルミンは何も言ってねえだろ!」

ユミル「うるせえバカ。周りの状況見りゃわかんだろ」

アルミン「……」

ユミル「しかしまあ……エレン達が死んで、劣等生のこいつだけ生き残るとは……」

コニー「っ! このクソ女!」

クリスタ「……」

ユミル「なんだチビ。やんのか?」

アルミン「やめてくれ二人とも……今は、人同士で争ってる場合じゃない」

コニー「……すまねえアルミン。ほら、立てるか」

アルミン「! ……ごめん迷惑かけた。僕は後衛と合流するよ」バッ

コニー「お、おい!」

ユミル「さて、あたしらは前に行かなきゃな……クリスタ」

クリスタ「うん……」

――



カンカンカンカン

ユミル「よし、撤退の合図だ。なんとかガスも補給できたし、さっさとこんなとこから離れるぞ」

クリスタ「……」ボー

ユミル「クリスタ」

クリスタ「あ……」

ユミル「…………はぁ。どうしたんだクリスタ。行くぞ」

クリスタ「ねえユミル。このまま行っちゃっていいのかな……」

ユミル「何言って……」

クリスタ「こんな大変な状況で撤退してもいいのかな……危ない目にあってる人がいるかもしれない」

ユミル「鐘の音が聞こえなかったのか? 住民も避難したし、みんな全力で逃げてるだろ」

クリスタ「逃げ遅れた人がいたら?」

ユミル「それはそいつが悪い。それに、そんなもしもの話でここに残るつもりか?」

クリスタ「でもそんな人を助けるのが兵士としての……」

ユミル「撤退ってのは命令だぞ。命令に背くことが兵士だって教わったか?」

クリスタ「……」

ユミル「ここで食われりゃそこらに転がってる一兵士の仲間入りをするだけだ。誰もお前だってわからないだろうな」

クリスタ「そんなんじゃないよ……ほら、アルミンだって様子がおかしかったし心配でしょ?」

ユミル「あいつはあいつでちゃんとやってるよ」

クリスタ「でも……」

ユミル「なんでそこまでここに残りたいんだよ」

クリスタ「……」

ユミル「はあ……クリスタ、エレンは死んだんだ。死体を探して巨人の腹を捌きまわりたいってか」

クリスタ「違うよ……」

ユミル「それともどっかで生きてるとでも? お前、なんだかんだ言ってあいつのことが……」

クリスタ「違うよ!」

ユミル「……」

クリスタ「違う……」

ユミル「そうだな……じゃあさっさと壁のぼるぞ」

クリスタ「……」

――



――トロスト区奪還作戦だと!?

――くそっ上は何を考えてんだ……!

――死にたくない……死にたく……

――おい貴様、規律を何だと……

ザワザワ

ユミル「これは荒れるかもな……」

クリスタ「荒れるって……?」

ユミル「ほら見ろ、あっちのほうで反乱がおきそうになってる」

クリスタ「そんな……! こんなときこそ力を合わせなきゃなのに!」

ユミル「あの状態のトロスト区にまた行くってなってんだ……ここにいるのは駐屯兵と訓練兵、巨人と真っ向から戦おうってやつが何人いるか知らないが、わざわざ死にたいやつはいない……こうなってもおかしくねえだろ……」

クリスタ「そっか……そうだよね……」

ユミル「そろそろ説明が入るだろうし、それ次第では――」

ピクシス『注もおおおおおおおおく!』

シーン

ピクシス『これよりトロスト区奪還作戦について説明する! この作戦の成功目標は破壊された扉の穴を塞ぐことである!』

――穴を塞ぐだって!?

――どうやって……!

ザワザワ

ピクシス『まず彼から紹介しよう! 訓練兵所属、エレン・イェーガーじゃ!』

コニー「え!? エ、エレン!?」

クリスタ「っ……」ヘナヘナ

ユミル「あいつ……死んだはずじゃ……」

ピクシス『彼は我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である! 彼は巨人の体を精製し、意のままに操ることが可能である!』

ユミル「…………」

クリスタ「エ、エレン……エレンだ。生きてる! よかった……よかったよぉ……」グスッ

コニー「いや、もう、正直全然意味わかんねえけど、とにかくよかったなクリスタ!」

クリスタ「うん! エレーン!」フリフリ

コニー「お、おい。嬉しいからってやりすぎ――」

壁の上

ピクシス「――!」

エレン(みんな動揺してるな……)

エレン(当然か。トロスト区奪還、しかも作戦の内容がこれだ)

エレン(みんなも危険に目にあう。失敗は許されない……オレは……)

エレン(ん……? あそこで手を振ってるのは……クリスタ!?)

ピクシス「――!」

エレン「かわいーーーーい!」

カワイーーーーイ!

――なんだ今の……

――あの訓練兵が言ったみたいだな

――エレンだ……

――ああ、俺たちのよく知るエレンで間違いねえ……

クリスタ「うっ……」

クリスターケッコンシヨー!

――なんなんだいったい?

――おいおい、いくら死地が近いからってこのタイミングでプロポーズかよ……

――クリスタって誰だ? 作戦と関係あるのか?

――さあ……

ユミル「うわあ……」

クリスタ「あうううぅぅ……」

――



エレンのリヴァイ班編入後 兵団選択の翌日

エレン「……あいつら」

エレン(昨日は誰が入ったのかまで見れなかったけど、本当に調査兵団に……)

エレン「オルオさん。同期と話してきてもいいですか」

オルオ「チッ、仕方ねえな。はやくしろよ」

エレン「おい! みんな!」

アルミン「エレン!」

ミカサ「エレン! 大丈夫なの? 何かひどいことされてない?」

エレン「されてるわけないだろ……でもしばらくぶりに会った気がするな。昨日は近くにいたけど顔も見れなかったし」

アルミン「え、そうなの?」

エレン「会いたかったんだけどな。でもここは彼らにとって真剣な選択の場だからって団長に言われて……」

ライナー「そりゃいい判断だな」

エレン「ライナー!」

ライナー「ピクシス司令みたいにフォローするのは簡単じゃないだろうからな。オレたちの団長はちゃんと正しい選択ができるらしい」

サシャ「ですね」

コニー「おう」

ベルトルト「うん」

エレン「お前らも……調査兵団に入ったのか。てことは憲兵団に行ったのはアニ、ジャン、マルコ、それに……クリスタか?」

ジャン「マルコは死んだ」

エレン「ジャン! なんでここに……――って、え? 今、死んだって言ったか……? マルコが……?」

ジャン「ああ、お前のクソみたいな演説のときにはまだ生きてたから、そのあとでだ。立体機動装置もつけてなかった。あいつは人知れず死んだ」

エレン「そんな……」

ジャン「エレン、お前、作戦中にミカサを殺そうとしたらしいな」

エレン「……」

ミカサ「エレンは」

ジャン「お前に聞いてねえよ」

ミカサ「……」

エレン「ああ、そうらしい……」

ジャン「お前は……巨人の力を完全に把握もしてないし、むろん掌握なんてしてない。そうだな?」

エレン「ああ……」

ジャン「みんな聞いたか? これが現状だ。オレたちはこれのために、マルコみたいにこいつに知られることなく死んでいくんだろうな」

エレン「……」

ジャン「エレン、誰もがみんなお前のために無償で死ねるわけじゃねえ。自分の命に見合うだけの見返りを求めてる。だから、ほんとに、頼むぞ……!」

エレン「ああ…………あ?」チラッ

エレン「クリスタ!」

ジャン「おーい……」

アルミン「エレン……」

ライナー「あちゃあ、見つかったか……」

クリスタ「……」

エレン「クリスタも調査兵団に入ったのか!? つまりオレといっしょに――」

クリスタ「嫌い!」

エレン「――すまん」

クリスタ「エレン。私、怒ってるんだよ。今だって真面目な話をしてたのに……」

エレン「悪い……」

クリスタ「ピクシス司令のときだってそう。みんなが真剣に聞いてたのに……私あんなに恥ずかしいと思ったことないよ……」

エレン「どうにも抑えられなくてな……」

クリスタ「エレン……ジャンが言ってたみたいに、みんなエレンに見返りを求めてるの」

エレン「ああ……」

クリスタ「だからね、巨人の力も私への気持ちもちゃんと制御できるようにしてほしいの。エレンはみんなの希望なんだよ……わかった?」

エレン「ああ、わかった。約束だ」

クリスタ「……うん約束! 次あんなことがあったら、めっ、だよ?」

エレン「かわいい!」

アルミン「うん、今のはかわいかったね……」

ライナー「女神……」

クリスタ「もう!」

ジャン「ほんとに頼むぞ……」



――

お姉ちゃんすごい!

ありがと。ほらおいで、あなたも乗ってみたいでしょ?

うん。でも大丈夫かなあ

大丈夫。馬は好きでしょ?

好き!

この子もあなたが好きみたい。さあ私といっしょに乗ろう

――

壁外調査後 104期調査兵団 軟禁中

クリスタ「ユミルこっちに来て」コソコソ

ユミル「何だこんな隅のほうまで連れてきて……告白でもしてくれんのか」

クリスタ「またそんなふざけて……ねえ、ユミルはおかしいと思わないの?」

ユミル「おかしいって、この状況がか?」

クリスタ「そう。壁外調査が終わったと思ったら、私たち新兵だけこんなところで私服で待機。みんな困惑してる。それにエレンが……」

ユミル「かぁー、またエレンかよ……」

クリスタ「し、心配でしょ。きっと中央に引き渡されちゃう。エレンは人類の希望なのに、もし解剖とかされちゃったりしたら……」

ユミル「はあ……それで?」

クリスタ「だから、上官たちに抗議しにいこうと思うの」

ユミル「あのなあ、成功すると思うか?」

クリスタ「私一人じゃむずかしいかもしれないけど、みんなで行けばきっと……だからね、協力してほしいの」

ユミル「いくらクリスタの頼みでもな……だいたい上官がたに抗議して何になる。私らみたいな新兵が動きまわったところで、中央のヤツがどうにかなると思うか?」

クリスタ「でも何もしないでいるなんて……」

ユミル「いいんだよ。休暇を貰えたと思ってゆっくりしてれば。それにミカサやアルミン、ジャンがいねえ。調査兵団もただ黙ってエレンを引き渡すとは思えない。何か考えがあんのさ」

クリスタ「そっか……」

ユミル「ほら、席に戻るぞ」

クリスタ「羨ましいな……」

ユミル「あ?」

クリスタ「私、壁外調査でもほとんど役に立てなかった。状況に流されるだけ。必死についていくだけ。ミカサは違う。女型の巨人には勝てなかったけど、立派に戦ったミカサはやっぱりすごいなぁ」

ユミル「……」

クリスタ「私にもっと力があればエレンを守れるのに……」

ユミル「それでもっとエレン様に愛してもらおうってか?」

クリスタ「何それ……そんなのじゃないってば。私は一人の仲間としてエレンのことを……」

ユミル「どうだろうな。最近じゃ、いい子ぶるだけじゃなくて、かわい子ぶることまでしてるだろ」

クリスタ「そんなのしてない」

ユミル「…………めっ、だよ……」ボソッ

クリスタ「!」カアア

ユミル「自覚あるじゃねえか……」

クリスタ「うぅ……」カアア

ユミル「……」

――ユミル様!

――我らの救い主!

ユミル「…………なあクリスタ。お前、エレンに依存してねえか」

クリスタ「え?」

ユミル「お前は、エレンに言い寄られることを喜んでる。そして、それが当たり前だと思ってる。だからエレンが心配なんだ。人類がどうとか、仲間がとうとか、それが理由じゃないだろ」

クリスタ「ち、ちが……」

ユミル「違くねえ。なあ、クリスタ……嬉しいよなあ、居心地いいよなあ。何をしたって喜んでくれる。何をせずとも好いていてくれる……自分が必要とされてると思える」

クリスタ「……」

ユミル「なあ、エレンは本当にお前が好きなのか? 何か理由があるんじゃないか? どうしてもお前を好きにならなきゃいけない状況があって、それに従ってるだけじゃないのか?」

クリスタ「な、何言ってるのよユミル……そんなの、あるわけないじゃない……」

ユミル「本当か? 普通にお前が好きってだけで、あんな暴走するようなことありえると思うか?」

クリスタ「それは……でも……確かにちょっとおかしいところはあるけど……本当に私が好きな可能性だってあるわけでしょ!」

ユミル「ああそうだな。けどな、よしんばそうだったとしても、それならちゃんと向き合うべきだろ。都合のいい男としてじゃなくエレンとしてな」

クリスタ「……」

ユミル「それか……」ガシッ

クリスタ「ユミル?」

ユミル「私に乗り換えろ。そんで結婚してくれ。死に急ぎプロポーズ失恋野郎より確実だぞ?」

クリスタ「ふふ……もう、ユミルったら……」

ヒストリア「そう言ったくせに……何でよ、何で私を置いて行ったの……乗り換えろなんて言っておいてあっちを選ぶなんて……裏切り者……絶対許さない……」

ジャン「クリスタ? どうしたんだお前らしくもない……」

ヒストリア「あははクリスタ! クリスタはやめたの。もういないの! 私はヒストリア……クリスタは私が生きるために与えられた役で……子供の頃読んだ本の女の子……だった……はず……」

エレン「ヒストリア……」スッ

ヒストリア「触らないで!」バシッ

エレン「あ……」

ヒストリア「私のこと好きでもなんでもないくせに!」

エレン「そんな……」

ヒストリア「私との約束も守ろうとしなかった! エレンは私が好きなんじゃない! ただ頭がおかしいだけ!」

エレン「オレは……」

ヒストリア「エレンなんて大嫌い! ああ、ユミル……ユミルを助けてよ……お願いだから……」

――



エレン硬質化実験後 隠れ小屋

エレン「お……アルミン」

アルミン「よかったエレン、目が覚めたんだね。顔も戻ってるみたいだ」

エレン「顔……?」

アルミン「あ、いや、うん、何でもない」

ミカサ「エレン、まだ寝ていないとダメ。体力が回復してない。さあ横になって」

エレン「横になってたら話しにくいだろ……」

アルミン「それでエレンとしてはどうだった。今回の硬質化実験は」

エレン「実は何にも覚えてないんだ。それでさっきハンジさんに説明してもらったばかりだ」

アルミン「そうか……やっぱり巨人化には謎が多いね。エレンの記憶の混濁もやっぱり巨人の力が関係してるのかな」

エレン「たぶんな」

アルミン「それにヒストリアのことも」

エレン「……」

ミカサ「アルミン……それは」

アルミン「でもそうとしか考えられない。巨人の力が記憶に影響を与えるとしたら、脳に影響してるってことだ。なら同じように感情に影響があってもおかしくない」

エレン「じゃあ何か? この気持ちは、オレの気持ちじゃないのか……?」

アルミン「エレンには悪いけど、僕はその可能性が高いと思う」

エレン「なんでだよ……」

アルミン「ずっと疑問だったんだ。いくら彼女がかわいくてもエレンみたいなことになるのかって。でも巨人の力や、それに関係してると思われるレイス家を考えると、単なる偶然なのかなって……」

エレン「……」

アルミン「今わかってることは訓練兵になって間もないころに実験したころとほとんど変わらない。新たにわかったのは睨まれるだけでも暴走状態を止める効果があったってこと……やっぱり拒否や拒絶されることが大事みたいだね」

エレン「アルミン。オレはお前の判断を信用してるけど、その考えは受け入れたくない」

アルミン「あ、ごめん……」

エレン「いや、いいんだ」

ミカサ「アルミン気をつけて。エレンはここ最近ヒストリアとは……」

アルミン「そうだったね。本当にごめん」

エレン「いいんだ。ヒストリアに嫌われてんのも、そもそもオレのせいだしな」

ミカサ「エレンは悪くない。ヒストリアはエレンに冷たすぎる」

エレン「ユミルが行っちまったのは……」

ミカサ「エレンのせいじゃない。ユミルは自分の意思で行ったと聞いた。ヒストリアは少しわがままだと思う。これ以上エレンに冷たくするなら……削ぐ」

アルミン「エレンと並ぶ重要人物を削いじゃだめだよ……」

エレン「重要人物じゃなくても削いじゃだめだろ」

アルミン「あはは…………でもミカサも変わったね。きっと昔ならそんなこと言わなかった」

ミカサ「…………私も成長した」

アルミン「うん。最初は警告しに行くって言ってクリスタ……じゃなくてヒストリアといっしょに訓練をはじめたんだよね」

エレン「え! そうだったのか」

ミカサ「そう。でも最初だけ」

エレン「最初だけ?」

ミカサ「最初は……本当に警告のつもりだった。エレンは私の家族だから近づいてほしくないと言った。けど、それなら私と友達になりたいって……」

アルミン「なんだか……らしいね」

エレン「そんなこと言ったのかよ……」

ミカサ「ごめんなさい。でもエレンが奪われたみたいで嫌だった」

エレン「……それで?」

ミカサ「そこから徐々に仲良くなった。ヒストリアのことが嫌いになれなくなった。だから……エレンといっしょになっても、エレンが幸せならそれでいいと思えるようになった」

エレン「お前はお母さんかよ……」

アルミン「でも、それでいいの? 君は……」

ミカサ「いい。エレンと私が家族という事実は変わらない。それにヒストリアが加わるだけ。もちろんアルミンも家族みたいなもの。みんないっしょ」

アルミン「はははは。そうか……うん。いい考えだね」

ミカサ「なのにヒストリアは!」ゴゴゴゴ

アルミン「あはは……でも、そうなるとエレンとヒストリアを仲直りさせなくちゃいけない。難しいね」

ミカサ「何か手はないの? エレンがかわいそう……」

アルミン「うーん……そもそもヒストリアはエレンの気持ちを疑ってる。さっきの僕みたいにね。だからその気持ちが本物だと証明すればいいと思うんだけど……どうすればそんなことできるのか、僕には見当もつかない」

ミカサ「そう……」

アルミン「エレンはどうしたい?」

エレン「オレは……ヒストリアが幸せならそれでいい。そのためにできるだけのことをするしかないだろ」

ミカサ「エレン……」

ジャン「おいお前ら下に集まれ。団長からの指示が来た!」



――

ねえお姉ちゃん

なあに?

お姉ちゃんはどうして私と遊んでくれるの?

え?

おじいちゃんも、おばあちゃんも、お母さんも、私といっしょにいたくないのに

……

どうしてお姉ちゃんは私といてくれるの?

そんなの決まってる。私はあなたのことが――

――

どこかの隠れ部屋

ヒストリア「んあ……?」

エレン「え? どうした?」

ヒストリア「別に……」

エレン「……」

ヒストリア「あなたこそどうしたの……」

エレン「何がだ」

ヒストリア「うつ伏せでベッドに倒れ込んだまま、よく器用に喋れるね」

エレン「暴走して寝てるヒストリアをたたき起こすわけにはいかないからな」

ヒストリア「なら暴走しなければいいのに」

エレン「努力したんだけどな……」

ヒストリア「あっそ……」

エレン「それで、何かあったのか? この状態じゃ何が起きてるのかわからなくてな」

ヒストリア「何でもない……寝て、起きただけ……何か大事な夢見てた気がするけど……あなたのせいで忘れちゃった」

エレン「そうか……悪いな。でもオレもよくあるぞそれ」

ヒストリア「ねえ……その状態で話されると落ち着かないから、せめて起きてくれない?」

エレン「そうだな……じゃあ目をつむったまま……」

ヒストリア「嫌いって言ってあげるから、こっち見てもいいよ」

エレン「けっこう堪えるんだけどな……」ガバッ

ヒストリア「大嫌い……」

エレン「……」

ヒストリア「……」

エレン「悪いな……」

ヒストリア「最近あやまってばっかりだね……何にあやまってるの」

エレン「色々な……ユミルについてもそうだし」

ヒストリア「ユミル?」

エレン「ユミルを助けたいんだろ。オレが硬質化できないせいでそれも遠のいてる」

ヒストリア「助ける……助けるっていうのはもう違う気がしてる……」

エレン「でも壁の上で……」

ヒストリア「あの時はそう言った……でもユミルは……自分で自分の生き方を選択した。だから私がそれを止める権利はない。ただ私から離れた……それだけ」

エレン「なら、どうしたいんだ?」

ヒストリア「わからない……」

エレン「うーん……」

ヒストリア「ねえ、私のことまだ好きなの?」

エレン「好きだ」

ヒストリア「そう……失望したりしないんだね……」

エレン「失望? するわけないだろ?」

ヒストリア「エレンはそうだろうね……みんなは……」

エレン「他のみんなはしてると思うのか?」

ヒストリア「してるよ。みんなが好きなクリスタなんてどこにもいなくて、いるのは親からも誰からも愛されたことのない私だけ。この世界じゃ珍しくもない、いっぱいいる望まれない子の一人。クリスタとは対象的な本当の私に、みんながっかりしてるはず……」

エレン「……」

ヒストリア「……」

エレン「本当の……」

ヒストリア「……?」

エレン「本当の私ってなんだ? なんで本当のお前なら、みんながっかりするんだよ」

ヒストリア「本当の私は……今の私。優しくもないし、何も好きじゃない、何がしたいのかもわからない、からっぽな私……だから……」

エレン「お前はからっぽなんかじゃない」

ヒストリア「いいよ……そんなこと言わなくても」

エレン「なぐさめじゃない。本当にそう思ってる。今のヒストリアは……オレにはただ落ち込んでるだけにしか見えねえ」

ヒストリア「……」

エレン「もしヒストリアがからっぽなら、壁の上で必死にユミルを助けてくれって言ってた気持ちは嘘だったのか? 違うだろ。お前は本当にユミルを助けたいと思ってた」

ヒストリア「でも今は……」

エレン「今は今だろ。ユミルがいなくなったのを冷静に見つめて、落ち込んでるだけだ」

ヒストリア「……」

エレン「お前は……普通のやつだよ……」

ヒストリア「普通……?」

エレン「ああ。友達がいなくなって落ち込むなんて普通のことだろ。それで思わす助けたいって言うのも普通だ」

ヒストリア「……」

エレン「今のヒストリアが本当のヒストリアだって言うけど、それは違うと思うぞ。ユミルが行っちまって悪態をついてたお前も、助けたがってたお前も、落ち込んでるお前も、全部ヒストリアで、全部本当の気持ちだろ」

ヒストリア「そうかもね……でも、みんなに好かれてたクリスタは違う。あれは偽りの……」

エレン「クリスタだってお前だよ」

ヒストリア「何でそんなこと言えるのよ……」

エレン「オレはお前が好きだからな。人に好かれようとしてたお前も、そうじゃないお前も、どんな状態のお前も、オレは全部ひっくるめて好きなんだ。それはクリスタのお前も、今のお前も、どっちもヒストリアで、どっちもかわいいからだ」

ヒストリア「…………エレンはすごいね。そんなふうに考えられるんだ。私は無理……クリスタが私とは思えない。ユミルもそうだった、私がクリスタを演じてるとき、ときどき悪態をついてた」

エレン「ユミルが?」

ヒストリア「ユミルは……いいことしようとする私を止めようとしてた……クリスタを嫌がった。優しさが嘘だって気づいてた……」

エレン「……それは違う」

ヒストリア「ユミルのことだよ。エレンにはわからない」

エレン「けどユミルがヒストリア自身を嫌がるなんてありえると思うか? ユミルが嫌がることなんて、決まってるだろ。ヒストリア、お前が傷つくことだ」

ヒストリア「あ……」

エレン「ヒストリアがいいことしようとして、自分を犠牲にしてると思ったから嫌がったんだと思うぞ。だいたい、あいつはよくヒストリアに結婚しよとかなんとか言ってただろ。優しさのカケラもないやつに、そんなこと言うやつなのかユミルは」

ヒストリア「違う…………そっか忘れてた……ユミルはずっと単純だった。私、ユミルですら信じられなくなってた……」

エレン「それくらい落ち込んでるんだろ」

ヒストリア「どうして……どうしてエレンは、私のことも、ユミルのことも……そんなにわかるの……?」

エレン「決まってるだろ、そんなの。オレもユミルも、ヒストリアのことが――」



――




大好きだからね――!




――

レイス領礼拝堂地下

ヒストリア「っ!」

ロッド「どうしたヒストリア」

ヒストリア「そうだ……何で、忘れてたんだろう……私にはあのお姉さんがいた……」

ロッド「お姉さん……?」

ヒストリア「今、お父さんといっしょにエレンに触れたときまで、何も覚えていなかった……私に本を、読み書きを教えてくれたあの人を忘れるなんて……」

ロッド「ヒストリア……フリーダと会っていたのか」

ヒストリア「フリーダ……?」

エレン「ん~! ん~!」ガチャガチャ

――



ケニー「オイオイ、オイオイ……じゃあ俺が巨人になってエレンを食っても意味ないのかよ……」

ヒストリア(フリーダ姉さんは殺された……エレンのお父さんに……)

ロッド「そうだが?」

ヒストリア(そして姉さんから奪った力がエレンの中にあって……)

ケニー「――!」

ヒストリア(レイス家である私がその力を継げば、全てが解決する……)

ロッド「――!」

ヒストリア(でも、そのためにはエレンを……)

エレン「んー! んんんー!」バタバタ

ロッド「ぐぅっ」

ヒストリア「! お父さん!」

ケニー「よくも俺を散々翻弄し、利用してくれたな……」

ヒストリア「やめろ! 父を離せ!」ガシッ

ケニー「ああ……お前は哀れだなヒストリア」バッ

ヒストリア「!」

ケニー「あそこまで聞けばわかっただろ。このオヤジはお前を化け物に変えて、エレンを食わせようとしてんだとよ」

ヒストリア「……! エレン……」

ケニー「こんなオヤジ庇うこたねえんだよ」

ヒストリア「でも……それが私の使命でしょ!」

ケニー「使命ねえ。お友達を食って腹を壊してもそれが使命だって?」

ヒストリア「エレンを食べるなんて嫌だけど……人類の平和のため……私にしかできないこと……!」

ケニー「どうだかなヒストリア。こいつだってレイス家だ。お前じゃなくてこいつがエレンを食べる選択肢だってあるはずだろ。お前を求めたのは何故だ。突然父性に目覚めたからか? 違う! こいつはお前を利用することしか考えてねえのさ」

ヒストリア「関係ない!」

ケニー「あ?」

ヒストリア「私は人類を救う! 世界の歴史を継承し、フリーダ姉さんも、エレンも、私の中で生きる! 使命をまっとうして、エレンの意志を継ぐ! そして一匹残らず巨人を駆逐してやる!」

ケニー「…………つまんねえな」パッ

ロッド「がっ!」ドサッ

ヒストリア「お父さん!」

ロッド「ゲホッ……ま、待て。何をする気だケニー……」

ケニー「巨人になればいい。邪魔しねえよ」スタスタ

エレン「んんー!」

ケニー「おいおい暴れんなエレン。今解いてやる」

エレン「カハッ! ゲホッ、ゲホッ!」

ケニー「切り込み入れといてやるよ」スー

ロッド「なっ!」

ケニー「お互い巨人になって殺し合う。ヒストリアが勝てば平和、エレンに負ければ状況は変わらねえ。そら、よーいドンだ」

ロッド「ヒストリア!!」

ヒストリア「……!」

ロッド「この注射なら強力な巨人になれる! 大丈夫だ。最も戦いに向いた巨人を選んだ!」

ケニー「おっと離れないとな」シュー

エレン「ゲホッ!」オエッ

ロッド「さあ急げ! ヒストリ――!」

エレン「ちょっと待って!!」

シーン

ヒストリア「え、エレン……?」

エレン「あ、止まってくれた? 危なかったぁ……」

ロッド「ひ、ヒストリア!」

エレン「久しぶりだねヒストリア。それにお父さんも……」

ヒストリア「あ……え…………フリーダ……姉さん……?」

エレン「そうだよ……ヒストリア」

ロッド「なっ! バカな……」

エレン「バカな、じゃないでしょお父さん。私怒ってるんだよ? 初代王の思想のこと、ヒストリアにちゃんと全て話さないで巨人にさせようとするなんて……」

ヒストリア「本当に、本当にフリーダ姉さんなの……!」

エレン「本当だよ。思い出話でもする? ほら、いっしょに本読んだりとかしたこと」

ロッド「……」

エレン「お父さんも思い出話する? ヒストリアがバレたときの修羅場とか……」

ロッド「こんなことが……」

ヒストリア「姉さん……いつから……」

エレン「ついさっき。二人が触れてくれた瞬間から、この体を支配できた。でも、拘束されてて……というより今もされてるんだけど……」

ヒストリア「し、支配?」

エレン「お父さん。これ解いてくれない? あと拭くものある? 血が目に入っちゃって……」

ロッド「だ、だが……」

エレン「言ってるでしょ。私は正真正銘フリーダ・レイス。この場所の構造も知ってるんだから。はやくしないと、巨人化してそのままにげちゃうよ?」

ロッド「わ、わかった……今解く……」



ロッド「解いたぞ……」ガチャン

エレン「ふー……頭痛いなあもう……」シュウウウ

ロッド「本当にフリーダなんだな?」

エレン「うん」

ロッド「では、どういうことか説明してくれるか?」

ヒストリア「……」

エレン「簡単な話だよ。初代王を真似て、私はあの男に食われる直前に、私が継承されるようにしたの」

ロッド「……」

エレン「初代王ほど完璧じゃないから、ヒストリアっていう基点が必要だったし、私が完全に目覚めるまでに、この場所や、お父さんの力も必要になっちゃったけど……」

ロッド「……」

エレン「お母さんやみんなは、殺されたんだよね……?」

ロッド「ああ……」

エレン「うん……でもお父さんが生きていてよかった。それに、ヒストリアは狙われないだろうって考えも当たってたみたいだし」

ヒストリア「ちょ、ちょっと待ってよ!」

エレン「どうしたのヒストリア?」

ヒストリア「っ! え、エレンは? エレンはどうなってるの! 支配とか言ってたのは……」

エレン「元の持ち主は……もういない。彼はもはやただこの体の記憶でしかない……」

ヒストリア「そんな……」

エレン「仲良かったの? ちょっと記憶を覗いてみるね……」

ヒストリア「……」

エレン「あー……これは……」

ヒストリア「姉さん……?」

エレン「ヒストリア。この男のことは気にすることないよ。好きだっていうのは嘘の感情だろうから」

ヒストリア「!」

エレン「というより私の感情って言ったほうが正しいかな。私が目覚めるにはあなたに近づく必要がある。彼の感情は、そのために私のヒストリアへの愛情を基に作り出されたもの。こんな形で出るとは思わなかったけど……単純な人だったんだね」

ヒストリア「……」

ロッド「どういうことだ。何の話だ?」

エレン「別に。目覚めるまでにちょっと弊害があったってだけ。それよりもお父さんはヒストリアに謝らなくちゃでしょ」

ロッド「謝る……?」

エレン「そう。初代王のこと。ヒストリア、聞いて」

ヒストリア「何……」

エレン「ほらお父さん」

ロッド「あ、ああ……」

ヒストリア「……」

ロッド「ヒストリア。王家が始祖の巨人を継承したとき、世界の記憶と共に初代王の思想を受け継ぐ。だが初代王は、人類が巨人に支配される世界を望み、それが平和だと信じている。だから……」

エレン「人類を救うことはできない。そうでしょ?」

ロッド「そうだ。説明が足りなくて悪かった……しかし、これが王家であるレイス家にかせられた使命だ。他に方法はないんだ。ヒストリア、自分の姉を食らうことは辛いことだが、それをレイス家は何代も続けてきた。フリーダ、せっかく目覚めたとしても、お前は食われなければならない……」

エレン「どうして?」

ロッド「それが我々にかせられた使命だからだ。そして私はこの世に神を呼び戻し祈りを捧げる使命がある……」

エレン「じゃあ、その使命やめよう!」

ロッド「何?」

エレン「そんなの放っておいたって、なんの不都合もないでしょ? お父さんが納得すればそれで済む話じゃない」

ロッド「いや……そう簡単ではない。事情を知るものは黙ってないだろう。現に今、兵士が寝返り王政に牙をむいている。始祖の力が必要だ」

エレン「じゃあ逃げちゃおうよ」

ロッド「フリーダ……」

エレン「裕福な暮らしはできないだろうけど、どこかに隠れてさ、三人で暮らそう? ね?」

ロッド「そんなことは……」

エレン「ヒストリアもそう思うでしょ?」

ロッド「ヒストリア、この注射を打て。それしか方法はないんだ。我々は世界に生き、世界に生かされている。フリーダと戦え! 我々の使命をまっとうするんだ!」

エレン「だめだよヒストリア。それじゃあヒストリアは幸せになれない。人類を救うこともできない。私ともお別れになる。そんなのいやでしょ? 家族三人で暮らそう?」

ヒストリア「……」

ロッド「ヒストリア!」

エレン「ヒストリア」

ヒストリア「…………二人を選ぶことなんてできない……」

エレン「どうして……」

ロッド「ヒストリア、今にも兵団がこちらに向かってきている。時間は残されていない……」

ヒストリア「お父さん。フリーダ姉さん。聞いて。私にはね、色んな私があるの」

エレン「ヒストリア?」

ヒストリア「レイス家としての使命を大事にしたい私もいるし、ヒストリアとして二人と暮らしたい私もいる。どっちも本当の私なの」

ロッド「……」

ヒストリア「私、二人のことが大好き。二人を大切にしたいって本当に思ってる。だって私は、お父さんの子供で、姉さんの妹だから……」

エレン「ヒストリア……」

ヒストリア「でもね――それと同時に、私は兵士でもあるの」スクッ

エレン「え?」

ロッド「ヒスト――かはっ!」

エレン「お、お父さん!」

ロッド「うう……! 鞄を……返……」

ヒストリア「ごめんねお父さん。落ちて」ガッ

ロッド「うわああああ!」

ドンッ パリーン

エレン「お父さん! あうっ!」ドサッ

ヒストリア「フリーダ姉さん。消えてくれない?」

エレン「痛いよヒストリア……乗っからないで。どいて。お父さんが……」

ヒストリア「消えて」バキッ

エレン「ぐっ、痛いよ……どうしてヒストリア……」

ケニー「ハハハッ、黙ってみてたら、面白いことになったな」

ヒストリア「……」ギロッ

ケニー「おお、怖え怖え。邪魔なんかしねえよ」

エレン「おねがいヒストリア。考え直して。お父さんが怪我してる……」

ヒストリア「拘束しやすくていいでしょ」バキッ

エレン「痛い! 痛いってば!」

ヒストリア「出ていって姉さん。エレンから出ていって」

エレン「どうして……どうしてよ! ヒストリア、ずっと寂しい思いしてたでしょ!」

ヒストリア「嫌い! 嫌い!」ガンッ

エレン「私たちといっしょに暮らそう!」

ヒストリア「エレン! 出てきて! 逃げるよ!」ドカッ

エレン「またいっしょに本を読んだり、馬に乗ったり……」

ヒストリア「巨人を駆逐するんでしょ! こんなところで終わっていいの!?」バキッ

エレン「私、まだまだやりたいことがたくさんあるの!」

ヒストリア「起きろ! 起きろ! エレン! 結婚してあげるから!」ドカッ

エレン「ヒストリア! 無視しないで! 私を見て!」

ヒストリア「エレン! エレン!!」バキッ

エレン「いやだ! いやだ! いやだ! 死にたくない! 消えたくない! お父さん! お母さん!」

ヒストリア「エレン!!!」ドカッ

エレン「…………」

ヒストリア「エレ――」

エレン「痛えよ……ヒストリア……」

ヒストリア「!」

エレン「ああ……なんでなんだよヒストリア……オレはもういいのに……親父は、お前の……」

ヒストリア「うるさい!」バキッ

エレン「うがっ……!」

ヒストリア「泣き言なら後でいくらでも聞いてあげる。そして全部受け止めてあげる! だから今は逃げ――」

ドーーン!

ヒストリア「なっ!」

エレン「っ! ヒストリア、危ねえ!」ギュッ

ヒストリア(! エレン……)

――



牧場孤児院

エレン「……」

ヒストリア「エレン、ここにいたのね」

エレン「ヒストリア……」

ヒストリア「荷物はもう運んでくれた?」

エレン「全部やったよ」

ヒストリア「そう……」

エレン「……」ジー

ヒストリア「……? どうしたの? じろじろ見て」

エレン「……いや、何でもない」

ヒストリア「ふーん……でも不思議だね。あれから二ヶ月近く経つのに全然慣れないや。やっぱりフリーダ姉さんが消えたのは間違いなさそうだね」

エレン「……なあ、本当によかったのか……?」

ヒストリア「もう、また言ってるの?」

エレン「結果的にお前が二人を……」

ヒストリア「私が決めたことだからね。後悔はしてない。エレンが気に病むことじゃないでしょ」

エレン「お前は立派だな……オレは……」

ヒストリア「エレンだって立派だよ。お父さんを倒せたのもエレンがいたからだよ」

エレン「…………なあ、ヒストリア」

ヒストリア「……何? エレン」

エレン「オレを起こしてる時……結婚してあげるって言ったの、覚えてるか?」

ヒストリア「……うん」

エレン「あれ……まだ有効か?」

ヒストリア「……」

エレン「……」

ヒストリア「どうだろうね……私はもう女王だから、結婚するならその地位にふさわしい人でないといけないと思う」

エレン「そうか……」

ヒストリア「ウォール・マリアの穴を塞いだ英雄、とかね?」

エレン「!」

ヒストリア「だから……」ギュッ

エレン「あ……」

ヒストリア「絶対無事に、帰ってきてね……」

エレン「…………ああ。ありがとうヒストリア。必ず帰ってくる」ギュッ

ヒストリア「……」

エレン「オレと――」

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