勇者「最期だけは綺麗だな」 (197) 【現行スレ】


勇者「あぁ~、今日も殺ったな。おい、ちょっと休むぞ」

僧侶「………」

勇者「ぼけっとしてんな。休める内に休んどけ」

僧侶「……何であんなことをしたんですか?」

勇者「はぁ?あんなことってなに? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」

僧侶「っ、何で村人まで殺したんですか」

勇者「はっ。何かと思えば、そんなことか。相変わらずバカだな、お前」

僧侶「馬鹿は貴方です!村人は洞窟の魔物を退治して欲しいとーー」

勇者「そうだな。女子供を攫って喰っちまう化け物を皆殺しにしろって頼まれたな」

僧侶「皆殺しって……」

勇者「だってそうだろ? 懲らしめたり追っ払うわけじゃない、殺してくれと懇願されたんだから」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513265058


僧侶「それは、そうですけど……」

勇者「だからだよ。だから殺した」

僧侶「意味が分かりませんよ!村人を殺したことと何の関係があるんですか!?」

勇者「大ありだバカ。お前もあの村を見ただろう。あの村の奴等を見ただろうが」

勇者「どいつもこいつも腑抜けた面をして、自分達で戦おうともしない腰抜け共だ」

勇者「ふらりと立ち寄った俺達に縋り付いて、女子供の仇を取ってくれ? 笑わせんな」

僧侶「彼らには戦う力がないからです!皆が貴方のような力を持っているわけではありません!」

勇者「そんなもんなくても戦えるだろうがバカが!!」


僧侶「それは力ある者の言葉です!」

勇者「ギャアギャアうるせえんだよ!!」

僧侶「っ!!」ビクッ

勇者「これまで何もしてこなかった奴等が、これまで何も守ろうとしなかった奴等が……」

勇者「大の大人が、男が、雁首揃えて泣き喚きやがって……」

僧侶「………」

勇者「おい」

僧侶「…………何ですか?」

勇者「俺達があの村に行くまで、奴等は化け物に怯えるばかりで女子供を守ろうとすらしなかった」


僧侶「何ですかそれ、何で言い切れるんですか……」

勇者「男や年寄りはいたけど、若い女や子供達は殆ど残っちゃいなかった」

勇者「きっと慣れていたのさ、あの状況に。当たり前になってたんだよ、差し出すことが」

僧侶「そ、そんなこと有り得ませんよっ!我々も戦っているって言っていたじゃないですか!」

勇者「あんなの嘘に決まってんだろうが、それを聞いてた女子供の顔を見たか?」

僧侶「……いえ」

勇者「はっ、そうだと思ったよ。だから教えてやる」

勇者「その言葉を聞いた時、何もかもを諦めた顔をしてたよ。棺桶に入ってる奴より棺桶が似合いそうな、そんな顔をしてた」

僧侶「えっ?」

勇者「きっと村の連中に失望して、自分達の置かれた状況に絶望してたんだ」

勇者「袖や裾で隠してはいたが腕や脚に痣があった。村の連中は、女子供が逃げ出さないように暴力で抑え付けてたのさ」


僧侶「そ、そんなはずはーーー」

勇者「命を張って守ってくれるような奴が傍にいるなら、普通は安心するはずだろ?」

勇者「娘達は終始怯えきってた。守ってくれる奴が傍にいるのに、妙だとは思わないか?」

僧侶「……何度も何度も村が襲撃されていたんです。怯えて当然ですよ」

勇者「にしても怯え過ぎだ。男共に触れられた時なんて飛び跳ねるほど驚いてただろ?」

僧侶「(……言わてみれば、そうかもしれない)」

僧侶「(あの時は魔物の話を聞いていたから気に留めなかったけど、あの反応は確かにおかしい)」

勇者「……あれは化け物に怯えてたわけじゃない。あの娘達は村の連中に怯えてたんだ」

僧侶「でも、それは憶測じゃないですか。貴方は憶測で罪も無い人をーーー」

勇者「奴等を斬った時、ようやく安心しんたんだよ。化け物を皆殺しにしたって言った時はまだ怯えてた」


僧侶「え?」

勇者「俺が村長やら男共を斬り殺した時、あの娘達は安心してた」

勇者「化け物は皆殺しにしたって言った時よりも、ずっとずっと安心していたよ……」

僧侶「………」

勇者「お前さ、さっき力を持たないから戦えないだとか抜かしてたよな?」

勇者「自分達が生き残るために女子供に平気で暴力を振るうクセに、化け物と戦う力はないってわけ?」

僧侶「それは……」

勇者「それは? なに?」

僧侶「わ、私はただ、救いを求める人を殺すのは間違っていると言っているんです」

勇者「ハハハッ! 笑わせんなバカ」


僧侶「……ッ」ギュッ

勇者「何が救いだよ、反吐が出る」

勇者「救えたはずの命を見殺しにして、自分より力の弱い女子供を盾に生き延びてきた奴等に救い?」

勇者「あんな奴等に救いなんてあるわけねえだろうが。もしあれが人間だって言うなら尚更だ」

僧侶「私達が倒すべき敵は魔物です。魔物を倒し、人々を救うのが私達の役目です」

僧侶「守るべき者を、救うべき人々を手に掛けるのは間違っています。やり方も……」

勇者「やり方はどうあれ、お望み通り救ってやったじゃねえか」

勇者「人の姿をした邪悪で醜悪な化け物の群れから、か弱い娘達をな」

僧侶「…………」

勇者「俺が殺すのは化け物だけだ。覚えとけ」


僧侶「それが勇者たる人間の言葉ですか!?」

僧侶「それが人々を救うべく神に選ばれた者の、希望を託された者のすることですか!?」

勇者「知ったことかよ」

勇者「まあ、少なくとも村に繋がれてた娘達にとっての希望にはなれたんじゃねえか?」

勇者「すぐに村から出るように言ったし、どっかの町に向かってるとこだろ。自由を求めてな」

僧侶「……簡単に言いますけど、途中で魔物に襲われたらどうするつもりですか?」

勇者「金はくれてやったし、お前の持ってた魔除けの水……聖水だっけ? あれも全部くれてやったから大丈夫だろ」

僧侶「そうですか、それなら大丈夫ですね……って、全部!?」

勇者「何、文句あるの?」

僧侶「眠る時はどうするんですか!あれがあるから今までは安心して眠れたのに……」

勇者「へ~、救うべき人々よりもご自分の安眠の方が大事なわけですか」


僧侶「うっ…」

勇者「あれだけ御立派なこと言ってた僧侶様がそんなこと言うとは思わなかったよ」

僧侶「べ、別に自分の方が大事だとか言ってないです!全部あげたことに驚いただけで……」

勇者「あ、そう。まあいいさ。そういうことにしといてやるよ」

僧侶「(本当に嫌な人。何でこんな人が勇者なんだろう。神様は何でこんな人を……)」

勇者「大体、お前が魔除けなんてものに頼るから悪いんだよ。なまっちょろい」

僧侶「は?」

勇者「覚悟が足りねえって言ってるんだ。寝る間も惜しんで化け物を殺すのが俺達の役目だ」

勇者「眠らずに斬りまくれば、今までの倍……いや、それ以上の化け物を殺せる」


僧侶「それ、本気で言ってます?」

勇者「当たり前だろうが、バカかお前」

僧侶「(すぐ馬鹿って言うし、口悪いし)」

勇者「そのくらい本気でやらねえと、あの村にいた化け物が増えちまうからな」

僧侶「?」

勇者「化け物は化け物を生むってことだよ。死ぬのを覚悟で戦う奴なんてのは、ほんの一握りだ」

勇者「大半は誰かにやってもらおうとする。一国の王でさえそうなんだ」

勇者「人は人に縋る。勝手に救いを求めてな。それが無理だと分かったら何をするか分からない」

勇者「あの村の連中みたいに、人間でいるための歯止めが利かなくなる。何でもやる」

僧侶「……追い詰められた人間は、人間に害をなす。そう言いたいのですか?」


勇者「そう言ってんだろうが、バカかお前」

僧侶「(いつもこれだ。ことある毎に馬鹿馬鹿って!)」ムカッ

勇者「人間、ああなったらお終いだ。お前の治癒術法でも治せない。心までは癒せないからな」

勇者「覚えとけ。あいつ等みたいに何でもする人間って奴は、人を襲い喰らう化け物と変わりないんだよ」

僧侶「(それは貴方の中の考えです。救われない人なんていない。どんな人にだって、きっと……)」

勇者「それから、もう一つ」

僧侶「は、はい、何ですか?」

勇者「人間がか弱い生物だなんて考えは捨てろ」

勇者「自分が狂ってることに気付いていない人間の方が、化け物なんかより厄介だ」

勇者「後、自分を信じてる奴、真っ当だと思ってる奴を信じるな。そういう輩は総じて質が悪いからな」


僧侶「貴方みたいに?」

勇者「俺、信じろなんて言ったっけ? お前さ、俺をお友達や何かだと思ってたわけ? バカ?」

僧侶「~~~!!」カァァ

勇者「お前はいつまで経っても現れない神様でも信じてりゃあいいんだよ。今まで通りにな」

僧侶「あ、貴方は何で嫌味ばかりを言うんですか!!」

勇者「嫌味じゃなくて真実だろ?」

勇者「化け物も化け物共が崇める竜も、神様が現れてぱぱっと殺してくれれば解決するんだからな」

僧侶「違います」

僧侶「これは神が与えた試練なんです。人間の手で解決しなければ意味がありません」

勇者「へ~、そうなんだ。それが本当だとしたら、神様ってのは随分と嫌な奴なんですね」ニコリ


僧侶「私は貴方のような人の方が嫌いです」

勇者「俺もだよ。よし、これで話はまとまったな。それじゃあ行くか」

僧侶「行くって、何処にですか?」

勇者「いちいち聞くなよ鬱陶しい。お前は付いてくれば良いんだよ」

僧侶「っ、はい。分かりました……」

勇者「お前が下らない質問するから予定が狂った。ほら、急げ。さっさと行くぞ」スタスタ

僧侶「(はぁ、どんどん先に行っちゃうし、気配りとかないし、私のことなんて考えてないんだろうな)」

勇者「………」スタスタ

僧侶「(あんな人とこれからも旅を続けていたら、おかしくなりそうな気がする)」


僧侶「(大丈夫かな、私……)」トボトボ

ガサッ!

僧侶「(っ、魔物!?何で!? そうだ、聖水はもうないんだ。ダメ、間に合わーーー)」

ブシュッ…

僧侶「………?」

僧侶「(止まった? 喉奥から鋭利な舌が伸びて……舌? 違う。これは、剣?)」

ズルリ ドチャッ

勇者「……おい」

僧侶「!?」ビクッ

勇者「さっき言ったことを忘れたの? やっぱりバカだな、お前」ジャキッ


僧侶「(魔物を背後から突き刺した?)」

僧侶「(あんなに離れていたのにどうやって……っていうか、また馬鹿って言った)」

勇者「もう魔除けはないって言っただろ。ここからはこれが当たり前になる。気を抜くな」

僧侶「は、はい」

勇者「次は殺せ」

勇者「お前は治癒以外にも術法使えるんだろ?生きたいなら、いつでも殺せる準備しとけ」

僧侶「………分かり、ました」

勇者「何? まさかお前、まだ躊躇ってんの? 救うとか大層なこと言ってたクセに?」


勇者「聞いてんのか、おい」

僧侶「………」

勇者「チッ」ゲシッ

僧侶「痛っ、何で蹴るんですか!」

勇者「お前、綺麗なままでいようなんて思ってんじゃねえだろうな?」

僧侶「そ、そんなことーーー」

勇者「だったら戦え。誰も助けちゃくれないんだ」

勇者「本気で誰かを救いたいと思うなら、血塗れになってでも救え。その手を汚さなけりゃ、誰も救えねえぞ」

僧侶「………はい」

勇者「あ? 何言ってんのか聞こえねえよバカ」


僧侶「戦います!!」グスッ

勇者「あ、そう。一生懸命頑張ってね」スタスタ

僧侶「……」ムクッ

トコトコ

僧侶「………」グスッ

僧侶「(情けない。蹴られて、馬鹿にされて、見下されて……助けられるなんて……)」グシグシ

僧侶「(悔しい。でも、私には足りない。口先ばかりで戦う覚悟もない)」

僧侶「(あの人はあんなだけど、言うだけのことはやってる。やってるから、言えるんだ)」ズビッ

勇者「うるせえな、いつまでも泣いてんじゃねえよ。ガキかお前は」

僧侶「(……私はーーー)」

勇者「ハハハッ! すぐ顔に出るんだな。分かりやすい女」

僧侶「(私は、この人が大っ嫌いだ)」

また明日


【#1】化けの皮

僧侶「はぁっ、はぁっ」ガクンッ

勇者「遅えんだよ。さっさと付いて来い。この森を抜ければ目的地だ」

僧侶「(そんなこと言われたって山歩きなんてしたことない。あの人、何であんなに早く歩けるの?)」

僧侶「(枝に足は取られるし、ぬかるんでるところもあるし、枝葉は邪魔だし、歩きにくいったらない)」

勇者「何だよ、恨みがましい面で見てんじゃねえよ。こうなった原因はお前だろうがバカ」

僧侶「はぁっ、はぁっ」

勇者「はん、救うだの何だの大口叩いてた割に根性ないな。ほら、どうした? 頑張れよ。神様に笑われちまうぜ?」

僧侶「(うるさい)」

勇者「睨む気力があるなら付いて来い。この程度でへばってんじゃねえ」

僧侶「(……言われなくたって付いて行きますよ。もう、馬鹿にされるのは沢山だ)」ガサッ


勇者「それでいい、喋らず歩け」

勇者「僧侶、お前は黙っていれば二割増しくらいで可愛く見えるよ」ニコリ

僧侶「(出会った頃にこんな人間だと知っていたなら、本質を見抜けていたなら……)」

ーーー
ーー


勇者「初めまして」ニコリ

僧侶「え? あ、はい。初めまして……」

司教「驚かせてしまったかな?」

僧侶「あの、司教様。失礼は承知ですが、本当にこの方が勇者様なのですか?」

司教「そう。彼こそが勇者だ」


勇者「僧侶さん」

僧侶「な、何ですか?」

勇者「私は神に仕え、世に蔓延る魔を討ち、人々を混迷の世から助けたいと、そう思っています」

僧侶「(しっかりした人。紳士的だし、優しそうだし……本当に、この人が勇者様なんだ)」

勇者「どうしました?」

僧侶「い、いえ。その志に胸を打たれてしまって……恥ずかしながら、言葉が出てきませんでした」

勇者「志だなんて、そんなものでは……私はただ、自分の成すべきことを成すだけです」

僧侶「……怖ろしくは、ないのですか?」

勇者「僧侶さん、魔を怖れてはなりませんよ」

勇者「神に仕える私達こそが正義なのです。ですから、私達は決して怖れてはならないのです」


僧侶「(す、凄い信仰心。私も見習わないと)」

勇者「?」

僧侶「(私と同い年か、ちょっと上くらいかな。今までに見たことのない、力強い目をしてる)」

僧侶「(何があっても付いて行こう。この人の役に立ちたい。この人なら、きっと……)」

司教「まだお若いというのに素晴らしい信仰心。大司教様より聞き及んでいましたが、感服致しました」

勇者「いえ、そんな。私などまだまだです」

勇者「司教様、私のような未熟者に協力して下さり、ありがとう御座います」

勇者「司教様や大司教様のお力添えがなければ猊下に会うことは出来ませんでした。まして陛下になど……本当に、何と言ったらいいか」

司教「いいのですよ。さあ、頭を上げなさい」

司教「貴方は武勇に優れた人格者であり、敬虔な信者でもある。正に模範と言える人物です」

勇者「………しかし、まだ若すぎると、使命を理解していないと、そう口にする方々もいます」


司教「実に嘆かわしいことです」カツン

司教「人を判断するに年齢は関係ありません。年齢や外見ではなく、その者の本質を見極めなければならない」

司教「貴方の本質を見たからこそ、国王陛下もお認めになられたのです。教皇猊下を始めとした方々も」

勇者「……有難きお言葉」

司教「その旨は世界各地の教会に伝えてあります。国王陛下も各地に支援団体を作るとのこと」

司教「それでも充分とは言えないでしょうが、旅の援助になることを切に願っていますよ」ニコリ

勇者「そ、そんなっ! 何も、そこまでせずとも私はーーー」

司教「貴方は我々の希望。神の子。子のために何かしようとするのは当たり前のことでしょう」

勇者「司教様、私の素性を知っているでしょう? 私は穢れた身。神の子などでは……」


司教「おやめなさい」

ギュッ

勇者「司教様、私は……」

司教「貴方は穢れてなどいませんよ。清らかな心と高潔な精神を兼ね備えている。立派な人間です」

司教「だからこそ、皆が認めたのです。これからは、今の自分を誇りなさい」

勇者「司教様……」ギュッ

司教「………落ち着きましたか?」

勇者「は、はい」

勇者「取り乱してしまって申し訳ありません。僧侶さんにも、お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」グシグシ

僧侶「いえっ、そんなことは」オロオロ

僧侶「(あんなに泣いて……穢れた身ってどういうことだろう?)」


勇者「自分が情けない。これから旅に出るというのに、涙を流すなど……」

司教「勇者、よいのですよ。神の前で隠し事をすることはありません」

司教「人とは、常に何かを抱えているものなのですから……さて。では、僧侶」

僧侶「はい」

司教「貴方はこれより、勇者と共に旅に出ることになります」

僧侶「はい、承知しております」

司教「貴方は若くして術法の素養を開花させた。貴方ならば、きっと勇者を支えられることでしょう」

司教「傷を負えば癒し、時に寄り添い、共に魔を討ち、混迷の世に光を」スッ

僧侶「勇者様と共に」スッ

司教「よろしい」

司教「では、勇者、僧侶。神の前で手を取り、互いに誓いなさい」

勇者「分かりました。では、僧侶さん。手を」

僧侶「はい……」スッ


司教「では、勇者。誓いを」

勇者「はい」

ギュッ

勇者「私はこの力を継いだ時より、人に尽くし、人に生きると誓いました」

僧侶「(……綺麗。こんな人、いるんだ)」

勇者「そして新たに、如何なる時でも己を見失わず、如何になる困難にも立ち向かうことを、ここに誓います」

司教「よろしい。では、僧侶」

僧侶「私は如何なることがあろうと神に仕え、貴方と共にあることを誓います」

僧侶「貴方と共に、世に蔓延る魔から人々を救い、彼の者を打ち倒すことを、ここに誓います」

ーーー
ーー


僧侶「(旅をしてすぐに、あの時に語った全てが嘘だと分かった)」

僧侶「(あれは教会から援助を受けるための嘘。あの人は、神を利用していたに過ぎなかった)」


勇者「おい、止まれ」

僧侶「(一緒になんていたくない。でも、私は神の前で誓った。誓ってしまった。誓いは破れない)」

僧侶「(あの人が本当はどんな人間かを告げたところで、誰も信じてはくれないだろう)」

僧侶「(あの人は、演じるのが巧い)」

僧侶「(一度は私も目を奪われた。美しい顔立ち、佇まい、所作。全ては計算された仕草だったんだ)」

勇者「止まれって言ってんだよ。聞いてんのか?」ガシッ

グイッ

僧侶「痛っ…何をするんですか!」

勇者「君のお陰で今日は野宿に決定しました。何か言うことはありますか?」


僧侶「離して下さい」

勇者「ごめんなさいは?」ニコリ

僧侶「……ごめん、なさい……」

勇者「よし。じゃあ、俺は薪を探してくるから。お前は黙って此処にいろ。下手に動くなよ」ザッ

僧侶「(あんな人、勇者だなんて認めない。神の子でもない。人心を惑わす悪魔だ)」

勇者「あ、忘れてた。ここは開けた場所だから化け物と戦いやすい。これ、この辺りに刺しといて?」スルッ

ドサドサッ ガチャンッ

僧侶「こ、これを、全部?」

勇者「お前さ、いちいち言わなくちゃ分かんないわけ? 察しろよバカ」

僧侶「(もう反応しない。ここで言い返したら負けなんだから。我慢しろ、私)」


勇者「出きるだけ広範囲に刺せ」

勇者「間隔は近すぎず遠すぎずだ。生き延びたかったら真面目にやってね?」ニコリ

僧侶「分かりました」

勇者「じゃっ、薪を拾ってくるよ。戻るまでに済ませとけ。というか、少しは役に立って下さい」

僧侶「……っ、はい」

勇者「頼んだよ、僧侶さん」

スタスタ

僧侶「……やっと行った。んっしょ。うわっ!」ガクンッ

ドタッ

僧侶「(何これ、凄く重たい。あの人、こんなものを背負いながら森を歩いてたの?)」

僧侶「(ダメだ。背負いながらだと、とてもじゃないけど動けない。二、三本抜いて、少しずつ刺していこう)」


僧侶「んっ、しょ……」

サクッ サクッ サクッ

僧侶「(あ、そうだった)」

僧侶「(聖水はないし、これからは自分の身は自分で守るんだ。まず、眠る時は結界を張らないと)」

僧侶「(朝までなら保つとは思うけど、強度はどうだろう。後で色々試してみよう)」

サクッ サクッ サクッ

僧侶「(これ、地味に疲れる。あと何本あるんだろう。帰ってくるまでに終わらせなきゃ……)」

勇者『少しは役に立って下さい』

僧侶「(腹立つ。でも、ちゃんとやらないと……近すぎず、遠すぎず、このくらいかな?)」

サクッ サクッ サクッ

僧侶「(前に複数の魔物と戦った時は走ってたし跳んでた……もう少し、遠い方が良いかな)」


【#2】化け物は善悪を語るか

パチパチッ

勇者「何してんだ、食えよ。中々美味いぞ」

僧侶「今は無理です。兎を捌くところを見ていたら食欲が失せました」

勇者「肉を食ったことくらいあるだろ?」モグモグ

僧侶「それは、ありますけど……」

勇者「普段見てないってだけで、こうやって食ってんだよ。腹に入れば同じだろうがバカ」

僧侶「野蛮人め……」ボソッ

勇者「あ?」

僧侶「何でもないです」

勇者「ほら、食え。沢山食って血を作らねえとぶっ倒れちまうぞ」


僧侶「嫌です」プイッ

勇者「あ、そう。なら仕方ないな」

もにゅ

僧侶「なっ、何するんで……ングッ!?」

勇者「食えって言ったら、食え」

僧侶「ング…ぷはっ……はぁっ、はぁっ」

勇者「どうだ、美味いだろ?」ニコ

バチンッ!

勇者「……痛いな、何すんだよ」

僧侶「貴方は最低です。無理矢理あんなことするなんて……」

勇者「急におっぱい触ったことは謝るよ。おっぱい触ってゴメン。意外とおっぱいデカいんだな」

僧侶「そっちじゃない!おっぱいおっぱい言うな!!」


勇者「おっぱいじゃなかったら何だよ」

僧侶「無理矢理に食べさせたでしょう!?」

僧侶「貴方は何であんなことが出来るんですか!私は食べたくないって言ったのに!!」

勇者「優しさだよ」

僧侶「貴方の優しさは歪んでます!」

勇者「食わなきゃ死ぬぞ? 今日はきちんと食って、ゆっくり休め」

僧侶「………は?」

僧侶「(きちんと食って、ゆっくり休め? この人がそんなこと言うわけない。きっと幻聴だ)」

勇者「魔除けの水はない」

勇者「化け物が出る。俺は朝まで戦う。お前は使えないから寝てろ。そう言ってんだよ。お分かりになりました?」


僧侶「ひ、一人でなんて無茶ですよ」

勇者「お前みたいな奴がいると邪魔なんだよね。戦う覚悟もない奴に足を引っ張られるのは御免だ」

勇者「お前となんて一緒に死にたくないし、死ぬなら戦って死ぬ。臆病者は引っ込んでろ」

僧侶「ッ!!」ギリッ

勇者「お前、聖術とかいう便利なもんを使えるんだろ? 司教から優秀だって聞いたぞ」モグモグ

僧侶「……少しは、得意です」

勇者「あ、そう。結界とか張れるのか?」

僧侶「張れますけど、戦闘中は難しいです」

僧侶「今のように止まっているなら簡単ですけど、動き回る人に結界を張るのはーーー」

勇者「なに言ってんだお前、誰が俺に結界を張れって言った」


僧侶「え?」

勇者「お前がお前に結界を張るんだよ。そのまま朝までじっとしてろ。出て来んなよ」

僧侶「でも、怪我をしたりしたらどうするんですか? 貴方は術法を使えないんですよ?」

勇者「そうなったら仕方ねえさ。俺はその程度の男だったってことだ」

僧侶「何で……」ポツリ

勇者「あ?」

僧侶「何でそこまで命を軽んじることが出来るんですか!? 自分の生き死になんですよ!?」

僧侶「村人を殺した時だってそうです!!」

僧侶「はっきり言って貴方は異常です!命の尊さをまるで分かっていません!!」

勇者「ギャアギャアうるせえな!! んなことは分かってーーー」

僧侶「分かってない!! 簡単に戦うだとか死ぬだとか言わないで!!」


僧侶「貴方は、分かってません……」

勇者「………」

僧侶「どんな人にだって家族がいて友人がいて、助け合って愛し合って生きているんです」

僧侶「貴方は、あの村でそれを簡単に断ち切った。迷いなく斬り捨てた」

僧侶「許されない罪を犯した人間にだって、そこから救う道はあるはずです」

勇者「何それ? ただの理想論じゃねえか。何もしなかった奴には言われたくないですねえ」ニコニコ

僧侶「っ、だからといって殺さなくてもいいでしょう!?」

勇者「じゃあ何か? 化け物は問答無用で殺して良くて、化け物みたいな人間は救えってか?」

勇者「化け物にも家族や友達がいるだろうよ。嫁や子供、恋人だっているだろうよ。違うか? なあ?」


僧侶「そんなことーーー」

勇者「分からないか?分からないから理解しないのか?分かりたくもないか? 理解出来ない奴は殺すわけだ」

勇者「人間の命は尊くて、化け物の命はゴミみてえなもんか? この兎の命は? 化け物より上か下か?」

僧侶「っ、貴方は理解しているんですか!?」

勇者「してないし、する気もないね」

勇者「俺は化け物を殺す。人間のような化け物も、化け物のような化け物も同様に殺す」

勇者「人間を殺した人間は救われて、人間を殺した化け物は殺される。これじゃあ道理から外れてるだろうが」

僧侶「………化け物は、貴方です」

勇者「あ? 今、何て言ったお前?」

僧侶「っ、化け物は貴方だと言ったんです!!」

僧侶「自分勝手な正義を振りかざして人を裁く。そんなものは正義ではありません!!」


勇者「口先だけは立派だな」

僧侶「何と言われようと構いません」

僧侶「貴方には、人として備わっているべき道徳や倫理がない。暴れ狂う獣と同じです」

勇者「……分かった分かった。もういいよ。悪かった」

僧侶「え?」

勇者「もう聞きたくもない、理想論でお腹一杯だ」

勇者「もう話すことないだろ? お前の気持ちは痛い程に分かったよ」

勇者「だから、もう寝ろ。眠れるかどうか分かんねえけどさ。ほら、向こうに行ってじっとしてろ」


僧侶「………あの」

勇者「なに?」

僧侶「……さっきは言い過ぎました。化け物だなんて言って、ごめんなさい」

勇者「謝るくらいなら最初から言うなバカ」

勇者「それよりほら、化け物からの有難い贈り物だ。お前が持っとけ」ポイッ

僧侶「……これは聖水? 全部渡したはずではなかったんですか?」

勇者「全部は貰えませんとか言われてな。だから、一個だけ残して渡した」

勇者「魔除けの水なんて俺には必要ない。いざとなったら、お前が使え」


僧侶「………」

勇者「なに?」

僧侶「………ありがとうございます」

勇者「謝ったり礼を言ったり面倒臭い女だな。もういいから、さっさと向こう行けよバカ」

僧侶「……お休みなさい」

勇者「………」

僧侶「………っ」キュッ

トボトボ

勇者「(怒ったり落ち込んだり忙しい女。その点、村の娘達は素直で可愛かったなぁ)」

勇者「(頬を赤らめて抱き着いてきた時はどうしようか迷った。今思うと、素直に抱いとけば良かった)」

勇者「あ~、疲れた……」ゴロン

勇者「……………化け物、暴れ狂う獣。いつかはそうなるんだろうか。殺される側、怖れられる側に」


【#3】頑張る人、隠れる人

僧侶「(うん、これなら大丈夫かな)」

僧侶「(これくらいの強度なら持続出来るだろうし、低位の魔物の攻撃なら防げるはず)」

僧侶「(後は朝日を待つだけだ。そう、後は朝日を待つだけ)」

僧侶「(……仕方ないのかな?)」

僧侶「(私が戦っても、あの人の足手まといになるだけだ。それは、これまでの戦いで分かってる)」

僧侶「(でも、本当にいいのかな? このまま、何も変わらないままで……)」

僧侶「……良いわけない」

僧侶「(そんなことは分かってる。だけど、あの人はどうなんだろう?)」

僧侶「(助けられたことはあっても助けたことはない。助けを求められたこともない)」

僧侶「(……私は、あの人の後ろにくっついて歩いて来ただけ。お荷物だ)」


僧侶「(半端者、臆病者……)」

僧侶「(そう言われると悔しいから、口では否定してみせるけど、結局はあの人の言う通り)」

僧侶「(一緒に戦って言ったけど、それって同じ場所に立ってるから成立することだ)」

僧侶「……私は、あの人の背中ばかり見てる」

僧侶「顔を見るのは口喧嘩をする時だけ。本当に立派だよ、何もしてないくせに」

僧侶「あの日から今まで、何もしようとしなかったくせに……この、臆病者……」ギュッ

ーーー
ーー


勇者「相変わらず数だけは多いな、お前等」ブンッ

ゴシャッ ドサドサッ

勇者「(もう壊れやがった。武器足りるか?)」ポイッ

勇者「灰色の化け物。オークだっけ?お前等は洞窟で殺した奴等の親戚? 仲間の仇討ち?」ガシッ


勇者「報復?復讐?」

ゾロゾロ

勇者「まあ、理由なんて何でもいいや」

勇者「此処でお前等をまとめて殺せば、ここら辺の被害はなくなる」

>>殺せ 殺せ あいつを殺せ

>>あいつだ あいつが やったんだ

>>一人だ 囲め 囲め

>>千切れ 千切れ 千切って 喰うぞ

勇者「……それが当たり前だよな」

勇者「化け物だろうが何だろうが、家族を殺されて黙っていられる奴はいねえよな」ダッ


勇者「なあ、化け物よぉ?」

>>!?

ザンッ ゴロン

勇者「(一撃で壊れやがった。粗悪品だな)」ポイッ

勇者「あの村の連中より人間してるよ、お前等」

勇者「仇を取りたいなら掛かってこい。お前等の仲間は俺が殺ったんだ」

ゾロゾロ

勇者「ところで、一つ聞きたいんだ……」ガシッ

勇者「人間の、女子供の肉ってのはそんなに美味いのか? 兎や猪じゃあ駄目なのか?」

勇者「……駄目なんだろうな、満足出来ないんだろ? 洞窟でぐちゃぐちゃにしてたからな」

勇者「髪の毛剃って、体毛剃って、爪剥がして、丁寧に丁寧にやってたもんなぁ」

>>弓だ 弓を使え

>>槍だ 槍を使え 遠くから 刺せ

>>あいつの武器 壊せ

勇者「人間はお前等を喰わねえのに、何でお前等は人間を喰うんだ? なあ?」

勇者「お怒りのようですけども、お前等だって人間に殺されても文句言えねえんだよ。つーか、言わせねえからな」ダッ


勇者「叩いて」

ゴシャッ

勇者「刺して」

ゾブッ

勇者「斬って」

ザンッ

勇者「殴って」

メキャッ

勇者「千切って」

ミヂミヂ ブチッ

勇者「潰してよぉ」

ドチャッ

勇者「結局は無惨に殺されるんだ」

勇者「お前等がいつもしてるやつだ。やり方は嫌でも覚えたよ。どうだ、上手いもんだろ?」


勇者「数が少なくなってきた」

勇者「武器より先にお前等の方が尽きそうだな。どうするよ。まだ続ける?」

>>逃げる ぞ

>>逃げろ 逃げろ

>>あいつは 喰えない あいつに 喰われる

勇者「逃がすわけねえだろクソが。続けるしかねえんだよ。お前等は全員ぶち殺ーー」

ズズンッ

勇者「何だぁ?何が降って来やがった? まさかーーー」

ズオッ

勇者「危ねえ!」

ビタンッ! グシャッ

勇者「(オークは今ので死んだな。それより)」

勇者「(まだ土煙でよく見えねえが、あれは確かに尻尾だった。ってことは龍だ。あの時の奴か?)」

また明日


【#4】未だ、勇者は現れず

勇者「(奴か?それとも違う龍か?)」

勇者「(どっちでもいい。あの野郎じゃなくても龍だったら殺す。龍だけは……)」


勇者「(さあ、姿を見せろ)」ガシッ

サァァァ

古龍「この場合、久方振りと言うのか。人間は」

古龍「あれから四年か五年か……大きくなったな、小僧。いや、今は勇者だったか」

勇者「ッ!!」ダッ

古龍「眼付きが変わったな」

古龍「射殺さんばかりの眼をしておる。随分と恨まれているようだな、儂は」


古龍「小僧、儂が憎いか」

勇者「当たり前だクソが!くたばれや!!」

ズギャッ!

古龍「此度は話があって来たのだが、貴様は話も聞けぬのか」

古龍「あまりにも歩みが遅いものだから、儂が直々に会いに来てやったというのに」

勇者「お前と話すことなんざねえよ」

勇者「黙って俺に殺されろ。死んで、骸になって、化け物共の餌になれ」

古龍「……やれやれ」

勇者「(駄目だ、こんな剣じゃあ傷一つ付けられねえ。大槌だ、大槌はどこにある)」


古龍「たかが五年……」

古龍「儂からすれば瞬きの間。その瞬きの間に、貴様は随分と様子が変わった。濃密な時間を生きたと見える」

勇者「(……あった)」ダッ

古龍「聞いておらぬか」

勇者「取り敢えず死ね。話はそれからだ」ガシッ

古龍「死んだら話せんだろう」

勇者「地獄で聞いてやるよ」

ドゴンッ!

勇者「ハハハッ! おら、ぶっ壊れろ!!」


古龍「(人の身で、儂の鱗を砕くか)」

古龍「(やはり、この力は侮れん。絶たねばならぬ。が、絶つには惜しい。此奴も惜しい)」

勇者「何だぁ?何を見てやがる? いつまでも見下ろしてんじゃねえぞボケが!!」ダンッ

古龍「図に乗るなよ」

古龍「儂を糞だなんだと言ってくれたな。ならば、貴様は蝿だ。糞に集り飛び回る蝿よ」グワッ

勇者「(大口開けた。火を吐く気だ)」

古龍「飛び跳ねたままでどう避ける? 勇者といえども飛べはせんだろう?」

ゴォォォォッ…ヌッ

古龍「!?」

勇者「ハナっから避ける気なんざねえんだよ。焼けて爛れても、お前を殺す」

古龍「(此奴め、火に巻かれて尚も向かって来るか。これでこそ、これでこそ来た甲斐があったと言うものよ)」


勇者「(熱い。この臭いは何だ?)

勇者「(肉の焼け…焦げる臭いがする。焦点が定まらねえ。っていうか殆ど見えねえ)」

勇者「(っ、どうした。しっかりしろボケ。あいつが目の前にいるんだぞ。機を逃す気かクソバカ野郎)」

勇者「(ほら、思いっ切り打っ叩け)」

ドギャッ

勇者「(当てた。当てたが……)」

古龍「力はあるのだろうが武器が脆い。それが人の武器の限界か」

勇者「……くそっ…」

ドサッ

古龍「これで、話が出来るな」

勇者「……うるせえ。見下ろしてんじゃねえ」


古龍「そう睨むな」

古龍「……しかし、刃が立たないと分かっていながら儂に牙を剥くか。あの時の人間を思い出す」

勇者「人間じゃねえ、勇者だ」

古龍「そうだったな。厳密には、あの男は勇者であった人間だ。今は、貴様が勇者なのだろう」

勇者「はっ、俺が勇者?笑わせんな」

勇者「……俺は違う。俺は勇者なんかじゃない。お前さえ殺せりゃあ、それでいい」

古龍「………」

勇者「何だよ?何か問題あんのか?」

勇者「お前を殺せば、人間様は大層お喜びになる。俺だって嬉しい。その後どうなろうが構わねえ」

古龍「………」

勇者「……ゲホッ…お望み通り喋ってやってんだ。何か言えよこの野郎。殺るなら殺れよ」


勇者「ただ……」ズリッ

古龍「(立ち上がるか、あの体で……意気は衰えていない。寧ろ、先程よりも……)」

勇者「ただ、黙って殺されてやるわけにはいかねえな。目玉の一つでも潰さねえと格好が付かねえ」

古龍「これは残りの一つだ。この目を潰されるわけにはいかんな……勇者よ、聞け」

勇者「うるせえ、勇者って呼ぶんじゃねえよ。勇者はあの人だけだ」

勇者「後にも先にも、勇者はあの人だけなんだよ。あの時、お前が殺した男……あの人が、勇者だ」ジャキッ

古龍「……そうか。では小僧、一つ言っておく」


勇者「あ?」

古龍「儂を殺したいのなら殺すがいい。殺せればの話だがな」

古龍「だが儂は、貴様に殺されるまでもなく死ぬ。直に、老いて死ぬ。そこで話がある。取り引き、と言ってもよい」

ーーー
ーー


僧侶「はぁっ、はぁっ」

僧侶「(あの人のところに行ったらいないし、地響きがしたと思ったら森は燃えてるし、一体何が起きてるの?)」

僧侶「(何が起きたのか分からない。だけど、きっと何かが起きたんだ。早く捜さなきゃ)」タッ


僧侶「はぁっ、はぁっ、火の勢いが強く……これは」

僧侶「(これはオークの死体? 何かに押し潰されて……というか、地面が抉れてる。範囲も広い)」

僧侶「(これはあの人がやったんじゃない。他の何かがやったんだ。何だろう、凄く嫌な予感がする)」

僧侶「早く、早く見付けないと」

タッタッタッ

僧侶「はぁっ、はぁっ」

僧侶「(ダメだ、此処にもいない。一体何処まで行ったんだろう。この先かな? でも、この先は火の勢いが……?)」

僧侶「なに、あれ……」

僧侶「(炎の奥に、何かが見える)」

僧侶「(恐ろしく巨大な何かがいる。揺れているのは尻尾? あの影を作っているのは翼? だとしたらあれはーーー)」

僧侶「……………龍」


【#5】選択

僧侶「……あれが、龍」

僧侶「魔の頂点、悪の権化、神に仇なす邪悪なる蛇、世に終わりをもたらす者」

僧侶「……私はあんなモノと戦おうとしていたの?」

僧侶「(脚が震える。火に囲まれているのに寒気がする。視界が揺らぐ。怖い、逃げ出したい)」

僧侶「(あの人はあんなものと戦っているの? たった一人で? 私は、私はどうしたら……)」

勇者『だったら戦え。誰も助けちゃくれないんだ』

勇者『本気で誰かを救いたいと思うなら、血塗れになってでも救え。その手を汚さなけりゃ誰も救えない』

僧侶「っ、いつまで繰り返すんだバカ、臆病者」

僧侶「やるべきことは分かってるはずだ。何を迷う必要がある。さっさと行け」


僧侶「そうだ。行くんだ。私が助けるんだ」

ーーー
ーー


勇者「寿命で死ぬ?ふざけたこと抜かすな」

古龍「事実だ。残り一年かそこらだろう。儂は死に、大地に還る」

勇者「ふざけんな、その前に俺が殺してやる。そうしねえと力を継いだ意味がねえ」

古龍「それならばそれでよい。先程もそう言ったであろう。よく聞け、小僧」

古龍「ここ最近、儂の死期を知った者が争い始めた。次なる王の座を巡って対立しておるのだ」

勇者「あ、そう。それは大変良いことだ」

勇者「お前は困ってるみたいだけど、俺はすっげえ嬉しい。そのまま滅べ」

古龍「……儂の亡き後、人ならざる者達を導く者が必要となる。そこで、取り引きだ」


勇者「どんな取り引き内容か知らねえが……」

勇者「お前にはこれが取り引きに応じる奴の顔に見えるか? 爛れて分かんねえか?」

古龍「儂は、貴様を次なる王に指名しようかと思っておる」

勇者「はぁ?寝惚けたこと言ってんじゃーーー」

古龍「人間とは醜く、浅ましく、救い難い。小僧、貴様も憎かろう。勇者を奪った人間が」

勇者「………」

古龍「小僧、こちらに来い。その力を使い、迷える者達を導くのだ。魔の王となれ」

古龍「強き者に従うのが魔のものよ。その力あらば、姿形が人間であろうと認めざるを得まい」

古龍「取り引きの材料は儂の命」

古龍「時が来れば存分にやるがよい。存分に力を奮い、他の者に力を誇示するのだ」


古龍「小僧、貴様の中にあるのは復讐の念のみ。不満はあるまい?」

勇者「それ本気で言ってんの? どんだけ人材不足なんだよ、お前等」

古龍「身内で争っておる時点でたかが知れる。今の民が欲するのは、人間を脅かす王なのだ」

古龍「貴様は人を救おうなどとは毛ほども思っていない。憎み、蔑み、見下しておる」

古龍「ならば、行くべき道は一つ。復讐を果たした後に、魔となりて生きるのだ」

古龍「その力は聖邪併せ持つもの。つまりは使い手次第よ。人など捨てよ、人こそが邪なのだ」

古龍「貴様は憎んでいながら未だに迷っておる。迷いを捨て去れば、その力は増すであろう。儂を凌ぐ程にな」

勇者「………」

古龍「さあ、自らを縛る人の世から解き放ーーー」

ザッ

僧侶「………その人から、離れて下さい」

古龍「あのまま隠れて居れば良かったものを、愚かな娘だ」


勇者「お前、何で……」

僧侶「遅れてごめんなさい。もう、迷いませんから」

勇者「はっ、何だよそれ。バカじゃねえのお前。隠れてろって言っただろうがよ」

古龍「邪魔だ小娘。儂は今、この小僧と話しておるのだ。今ならば見逃してやる。失せろ」

僧侶「っ、嫌です。それに、幾ら話したことろでこの人は魔の王になどなりません」

僧侶「(この人は素行も性格も悪いけど、魔の甘言に惑わされるほど愚かじゃない。それだけは確かだ)」

古龍「作られし神を崇める愚か者、人間が如何に邪悪かも知らぬ盲目者が………小僧!!」

勇者「んだよ。うるせえな」

古龍「興が削がれた。儂はあの場所で待っておる。して、答えは」

勇者「……首洗って待ってろ」

古龍「どちらとも取れるが、まあよかろう。待っておるぞ。人間に、神の僕などに足下を掬われるなよ」


古龍「人間を信じたが最期」

古龍「真に救おうなどと思ったが最期、あの時の勇者のようになる。ではな」

バサッバサッ

勇者「………言われるまでもねえ。んなことは分かってんだよ」ポツリ

僧侶「た、助かった。それより傷を治さないと」

勇者「辺りを見ろよ。そんなことしてる暇はねえ」

僧侶「そんなことって……酷い火傷を負っているんですよ? このままでは危険です」

勇者「この姿を見て悲鳴一つ上げないのは褒めてやる。でもな、治療なんざしてたら二人揃って死ぬ」

僧侶「っ、でもその体で動くのはーーー」

勇者「僧侶、聞け」

勇者「俺はこの様だ、治るまでに時間が掛かる。火に巻かれる前に森を抜けるんだ」


勇者「行くぞ!!」

僧侶「は、はいっ!!」

タッタッタッ

勇者「……危ないとこだった、正直助かったよ」

僧侶「え?(幻聴?)」

勇者「ありがとな」

僧侶「へっ?(何言ってるんだろう、この人)」

勇者「何だよ」

僧侶「い、いえっ。私はあの場に行っただけです。結局、何の役にも立てなくて……」

勇者「ハハハッ、そういやそうだな。礼言って損した」

僧侶「(何で笑えるの? 痛くないわけないのに、苦しくないわけないのに……)」


勇者「ぼさっとしてんな、死ぬ気で走れ」

僧侶「はいっ」

タッタッタッ

勇者「はぁっ、はぁっ……」フラッ

ドサッ

僧侶「!!」

勇者「(こいつはやばいな。もう何も見えねえぞ。息も、出来ねえ……)」

僧侶「し、しっかりして下さい!!」

勇者「…………」

僧侶「(呼吸が……まずい、火の勢いが増してる。早く森から抜けて治療しないと……?)」

僧侶「(何だろう、背中に焼き印がある。これは確か……って、そんな場合じゃないでしょバカ)」

僧侶「ん~っ、んっしょ。よし、行こう!」

また明日


【#6】傷痕に思うこと

僧侶「はぁっ、はぁっ」

僧侶「(もう少しで抜ける。火の勢いは増してるけど、この風向きなら此方には来ない)」

僧侶「(屋内で治療出来れば良いけど、こんな森に囲まれたような場所に家屋があるとは思えない)」

僧侶「(だったら今此処で治療した方が……ん? 向こうに何かある。あれは、家?)」

僧侶「(辺りにも何かあるみたいだけど此処からじゃあ見えないな。とにかく行ってみよう)」ザッ

ーーー
ーー


勇者「…スー…スー…」

僧侶「……よし、何とか間に合った。でも、ここは一体何なんだろう?」

僧侶「辺りはお墓ばかりだし、この廃屋以外には民家らしきものはないみたいだし。それに」チラッ

勇者「…スー…スー…」


勇者「…スー…スー…」

僧侶「(それに、この人はこの人で分からないことが多すぎる。あの龍と面識……因縁があるようだったし)」

僧侶「(会話は断片的にしか聞こえなかったけれど、憎んでいるのは確かだと思う)」

僧侶「(だけど、全身焼けるくらいの火傷を負っても戦い続けるのは正直言って異常だ)」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「全ては自己満足、ですか?」

僧侶「(旅を始めたばかりの頃、この人は私に向かってこう言った……)」

勇者『神の為だとか奉仕だとか、自己犠牲だとか救済だとか、バカじゃねえの?』

勇者『お前等はそうやって、私達は他人の為に生きてます。みたいに言ってるけどさーーー』


勇者『結局のところは自己満足だろ?』

勇者『どんなに綺麗な言葉で飾っても行き着く先は其処なんだ。自分がそうしたいからそうするってだけの話だ』

勇者『善行も悪行も、何をどうするか決めるのは自分だろ?生きる理由を何かに預けるなよ』

僧侶「(……そう言った後で、人間なんてものは自己満足の塊だ。そう言ながら笑っていた)」

僧侶「(世界中の誰もが認めるような、非の打ち所のない正義なんてものもはないと思う)」

僧侶「(だけど、この人の中の正義が異質であることは分かる。独善的と言うか捻くれてるというか……)」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「(一体どんな生き方をしたら、そんな風に考えるようになるんですか?)」

僧侶「(一体どんな生き方をしたら、こんな風に傷だらけになるんですか?)」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「(切り傷、刺し傷、擦り傷、火傷。他にも沢山、数え切れないほどの傷痕がある)」


僧侶「(特に酷いのは背中)」

僧侶「(焼き印。鞭か何かによる裂傷。肉が盛り上がってるから、かなり深い傷だったはずだ)」

僧侶「(出来ることなら治したいけれど、過去に負った傷痕までは治せないし消せない)」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「(毛布、掛けておかなきゃ)」ファサ

僧侶「(服は焼けちゃってるから、予備の服とかを縫い合わせて何か羽織るものを作らないと)」

僧侶「(それから、傷痕について詮索するのは止そう。焼き印、烙印についても……)」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「……お休みなさい」

勇者「…スー…スー…」

僧侶「………さて、始めよう)」パカッ

僧侶(裁縫道具持ってきてて良かった。裸で歩かせるわけにはいかないし、朝までに作らなきゃ)」チクチク


【#7】悔恨と祈り

勇者「……ッ」ガバッ

シーン

勇者「っ、眩しいな。朝になっちまったのか」

勇者「(つーか此処は……そうか、あいつが運んでくれたのか。借りを作っちまったな)」

勇者「(火傷も治ってる。動いても問題もないみたいだな。術法ってのは便利なもんだ)」

勇者「(ご丁寧に服まで作ってある。継ぎ接ぎだけど、素っ裸よりはよっぽどマシだ)」

勇者「ったく、本当にバカな女だな」バサッ

勇者「(俺と旅なんてしなけりゃ、こんな目に遭うこともなく、そのうち言い寄られて良い嫁さんになれただろうに)」

勇者「(いや、ああいう奴等って結婚しないんだっけ。神だか信仰だかに捧げるとか何とか……)」

勇者「(好き好んで神なんていう見えない存在に縛られて一生を終えるのか。意味分かんねえ)」


勇者「……まあいいや」

勇者「つーか、あいつは何処行ったんだ? 外には墓しかねえってのに」ザッ

ガチャ

僧侶「………」

勇者「おい、何やってんだお前」

僧侶「あ、おはようございます。もう動いても大丈夫なんですか?」

勇者「見りゃあ分かるだろうが、それより何やってんだって聞いてんだよ」

僧侶「(一晩で人が変わるとは思ってないけど、ありがとうくらい言えないのかな、この人……)」

勇者「おい、聞いてんのかお前」

僧侶「ハイハイ聞いてますよ。お墓に手を合わせているんです。見れば分かるでしょ」フン


勇者「何で?」

僧侶「何でって……勝手に立ち入ってしまったので、その謝罪とお礼をしていたんです」

勇者「はっ、死んだ奴に何を言っても届くわけねえだろうが」

僧侶「何とでも言って下さい。これは、私がそうしたくてしているだけですから」

僧侶「何より、墓地に来たら手を合わせるのは常識です。亡くなった方のご冥福と、これからも安らかにーーー」

勇者「もういい分かった。好きにしろよ」

僧侶「はい、そうさせて貰います」ニコリ

勇者「………」

僧侶「あの、何ですか?」

勇者「別に何でもねえよ。俺は家に戻って準備する。お前も、それを早く済ませろ」


僧侶「はい、分かりまし……家?」

勇者「あ?」

僧侶「い、いえ、何でもありません」

勇者「………」ザッ

僧侶「(誰がどう見たって廃屋なのに、家? あの人、この場所を知ってるのかな)」

僧侶「(夜は暗くて見えなかったけど、辺りには家があった形跡がある。向こうには畑があったのかな?)」

サァァァァ

僧侶「うわぁ、草花が風に揺られて綺麗だなぁ……陽も当たるし空気も澄んでる」

僧侶「こんなに良い場所なのに何で誰もいないんだろう? 魔物が増えて移住したのかな?」


僧侶「(それとも、何かあったのかな……)」

ザッ

僧侶「?」クルッ

勇者「………」

僧侶「あ、もう済んだんですか? と言うか、その武器は一体……金棒?」

勇者「これは金砕棒。こっちは……まあ、鉄板みたいなもんだな。剣なんかより約に立つ」

勇者「刃毀れすることはないし、何より頑丈だ。大抵の奴は打っ叩いただけで殺せる」ブンッ

僧侶「(うわっ、前に背負ってた武器の束よりも重そう。素振りしてる音が怖い……)」

勇者「これなら、あの野郎相手にもーーー」

僧侶「あ、あのっ」


勇者「何だよ?」

僧侶「武器の説明はともかく、そんな物騒な物を何処から持ってきたんですか?」

勇者「そういや言ってなかったな」

勇者「目的地ってのは此処だ。元々、此処にはコレを取りに来るつもりだったんだよ」

勇者「この武器は王や教皇と会う前まで使ってたもんだ」

勇者「でも、こんな優美さも華やかさもねえ武器を持ってると良い顔されないから、あの家に隠しといた」

勇者「身なりを整えて装飾の付いた剣を腰に下げて、後は猫被って神の為とか言えば言うこと聞くからな」

僧侶「そうだったんですか(後半は聞かなかったことにしよう。それより……)」

勇者「何だよ、その面は」

僧侶「……あの、此処は何なんですか? 何かあったんですか?」


勇者「…………」

僧侶「(や、やっぱり聞いちゃダメだったかな)」

僧侶「(凄く怖い顔してるし、絶対に何か言われる。ああ、やめておけば良かーーー)」

サァァァァ

勇者「……此処は村だった」

僧侶「え?」

勇者「住んでた連中はいがみ合うこともなく、日々を平和に過ごしてた。手を取り合ってな」

僧侶「村の方々は移住したんですか?」

勇者「移住なんかしてねえよ。殺されたんだ」

僧侶「!?」

勇者「………ある日、森で行き倒れてる男をガキが助けた。その男がお尋ね者の野盗の一人だとも知らずにな」


僧侶「………」

勇者「傷が癒えて村を立ち去ると、そいつは仲間を引き連れて戻って来た。で、村を襲撃して占拠した」

勇者「男は殺され、女は犯され、子供は玩具にされた。野盗を助けたクソガキも一緒にな」

僧侶「(………酷い)」

勇者「そのガキはわんわん泣いてたよ」

勇者「拷問好きの変態がいてな。鞭で叩かれたり、斬られたり、焼き印押されたりしてた」

勇者「そのガキは顔が良くてな、特別気に入られてたんだ。だから、死なないように遊ばれ続けた」

僧侶「…………」

勇者「痛みで意識朦朧としながら、ガキは自分の行いを省みた」

勇者「困っている人がいたら助けなさいと両親に教わった。人に手を差し伸べることは正しいはずだ」


勇者「そう、自分は正しいことをしたはずだ」

勇者「それなのに、あろうことか助けた人間に両親も村の人も友達も殺された。生きてるのは自分だけ……」

勇者「そのガキは、そこでようやく自分が間違っていることに気が付いた。で、糸がぷっつり切れた」

僧侶「……糸?」

勇者「生を繋いでた糸さ。生きる気力とか、希望とか、そういったものが次々に切れたんだ」

勇者「自分の軽はずみな行動。その所為で失われたものを背負いきれなかったんだろうな」

僧侶「……その子はどうなったんですか?」

勇者「さあ、どうなったんだろうな? とにかく、そのバカの所為でこの村は滅びた」

勇者「バカって言うか咎人だな」

勇者「何をしようと決して救われないし、幾ら謝っても決して許されることはない。恨まれて当然だ」

勇者「もし運良く誰かに助けられて生き延びてたとしても、陰険で捻くれた嫌味な奴に育ってるだろうよ」


僧侶「(……安らかに、お眠り下さい)」キュッ

勇者「……お前みたいな奴に手を合わせて貰ったんだ。村の奴等も少しは救われたと思うぜ?」

僧侶「……そうでしょうか」

勇者「死人の気持ちなんて分かんねえけど、きっと喜んでるさ」

僧侶「貴方は?」

勇者「あ?」

僧侶「……貴方は良いんですか? その、祈らなくても……」

勇者「お前はどうか知らねえけど、俺は死んだ奴に何を言っても無駄だと思ってる」

勇者「何か伝えたいことがあるなら、生きてる内に伝えなけりゃ意味が無いんだよ」


勇者「それに、祈ったところで聞く耳なんぞ持たねえさ」

僧侶「……そんなことは、ないと思います」

勇者「そうだと良いけどな……」

サァァァァ

勇者「……そろそろ行くぞ。あの野郎が待ってる」ザッ

僧侶「あ、はい。分かりました……」

トコトコ

勇者「あ~、腹減ったな」

僧侶「(この人のことだから、これ以上踏み込んだことを聞いたら怒るだろう)」

僧侶「(同情したり、慰めの言葉なんて口にしたら、もっともっと怒るだろう)」

僧侶「(だけど、祈ることくらいは許して下さい)」

僧侶「(貴方が嫌っている神にではなく、村人の御霊に祈ることは許して下さい)」

僧侶「(貴方が抱えているものを、少しでも軽くしてくれるようにと、祈らせて下さい……)」


勇者「おい」

僧侶「は、はい!?(もしかしてバレた?)」

勇者「お前、寝てねえだろ。隈が酷くて見られたもんじゃねえ」

僧侶「(女性に向かって何て言い草だ……)」

僧侶「(幾ら何でも酷すぎる。別に女性扱いされたいわけじゃないけどね!)」

勇者「おぶってやるから来いよ」

僧侶「結構です」

勇者「お前がそうでも俺の気が済まねえんだよ。俺は借りを作るのは嫌いなんだ、早くしろバカ」

僧侶「へ~、結局は自分の為ですか。そうですか」

勇者「うるせえな、いいから早くしろよ。さっきからフラついてんじゃねえかお前」


僧侶「嫌です」

勇者「お前が付いてくるのを待ってるより、俺が背負って歩いた方が早いんだよ。分かったかバカ」

僧侶「(くっ、言い返せない)」

勇者「いつまで突っ立ってんだよ。早くしろ」

僧侶「…………」

トコトコ ギュッ

勇者「よし、行くぞ。化け物出たら落とすから、そのつもりでな」ザッ

僧侶「(何でもっと優しく出来ないのかな。普通に言ってくれればいいのに)」

僧侶「(そうしたら良い人……いや、これまでのことを考えれば普通くらいには……)」

勇者「お前は軽いな。これからはもっと沢山食え。太れ、そんで体力付けろ」

僧侶「(落とされるまでは寝たふりしてよう)」

勇者「あっ、兎だ。今なら……」

僧侶「やめてっ!!」

勇者「うるせっ!耳元で叫ぶんじゃねえよ、兎が逃げたじゃねえか!!」

ここまでとします


606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
俺なんかとあるスレで一回ネタレスしたら、外野が騒ぎ出してそれ以降ずっと粘着されてるわ
2017/12/21(木) 21:49:30.36ID: 2xe7qRnY0 (2)


607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
あ、そう。一生懸命頑張ってね
2017/12/21(木) 21:57:22.66ID: k0G8USMSO (1)


608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
>>606 特定した。あれはおまえが悪いと思う
2017/12/21(木) 21:57:31.99ID: 3KsatTIQo (6)


609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
>>608
他にネタレスしている奴沢山おるやん
なぜに一回だけしかやってない俺をピックアップして粘着したのか不思議に思うわけよ
2017/12/21(木) 22:00:38.44ID: IRf2blm6O (3)


610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
あんなの感想ですらないじゃん、擁護しようがないよ。というか、おまえまだあの作者に粘着してるやろ
2017/12/21(木) 22:07:11.92ID: 3KsatTIQo (6)


611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします []
>>610 スレは覗くけど、ネタスレなんて一回だけだぞ
変なノリに乗っかったのは正直すまないと思う
だが、何日もネチネチ粘着されるレベルじゃないとも思うわ
何の目的があるかは知らないが
2017/12/21(木) 22:11:04.56ID: IRf2blm6O (3)


612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
悪いことは言わないから、もう黙った方がいいよ。自分が格好の燃料を投下していることに気づいてくれ
2017/12/21(木) 22:25:16.42ID: 3KsatTIQo (6)


613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
まぁ黙々とSSを書き続けるしかないってことやね
そろそろ粘着はやめてほしいんだがな
まだ気が済まんのか
2017/12/21(木) 22:40:55.90ID: IRf2blm6O (3)


反省するどころか開き直って被害者面ですわ
こんな奴にスレ覗かれてるとか気分悪いだろうな


【#8】距離

勇者「………」ザッ

僧侶「(やっぱり、まだ熱が残ってる)」

僧侶「(目に見える傷は癒えたけど、内側はそうもいかない。高位の魔は、魂をも容易く傷付ける)」

僧侶「(しかも相手は龍、魔の頂点)」

僧侶「(物理的な破壊力は言うまでもなく、魂そのものに対する破壊力も凄まじい)」

僧侶「(存在そのものが規格外。龍とはそこに在るだけで人を壊し、人を狂わせるという……)」

僧侶「(事実、熱に当てられただけで苦しかった。対峙した時は意識を保つのもやっとのことだった)」

勇者「………」

僧侶「(あれと対峙して、あの炎を直接浴びたとなれば、その痛みは想像を絶するものだろう)」

僧侶「(少なくとも数日は安静にしないと満足には動けない。本来なら安静にさせてる……)」


勇者「あの野郎の所為で焼け野原だな」

勇者「……まあ、この方が見通しが利くし、歩くのも楽だから良いけどよ」ザッ

僧侶「(だけど、休むように言ったとしても休まないだろうな。この人のことだから、そんなことを言ったら怒るに決まってる)」

僧侶「(きっと、休んでなんかいられるか、バカだろお前。とか言われるんだろうな。でも……)」

勇者「………」

僧侶「……あの」

勇者「あ?」

僧侶「体を休めた方が良いと思います。まだ熱が残っていますし、これ以上無理をしたらーーー」

勇者「これくらい何ともねえよ」

僧侶「でも」

勇者「舌噛むぞ、黙って目瞑ってろ」

僧侶「(やっぱり駄目だ。私の話なんてーーー)」

勇者「お前は旅に慣れてない」


僧侶「え?」

勇者「お前は旅にも戦闘にも慣れてない。命を張るなんてことはそう簡単に出来やしない」

勇者「この前まで守られてる立場だった奴が、急にやる気を出したってすぐには変わらないんだ」

僧侶「(……慰めてくれてる、わけじゃないよね。何が言いたいんだろう?)」

勇者「俺のことはいいから、お前は自分のことだけを考えろ。つーか、自分のことしか考えるな」

勇者「お優しいのは結構なことだ」

勇者「でもな、そんなんだと化け物に殺されちまうぞ。その優しさってヤツに付け込まれてな」

僧侶「(この人の言う化け物ってなんだろう?)」

僧侶「(人を襲い喰らう魔物? それとも理性や道徳倫理を失った人間のこと?)」

僧侶「(でも、そうだとしても、人間には救いがあると信じたい。人は変われると信じたい)」


僧侶「……私には、そんな風には出来ません」

勇者「だろうな。分かってるよ、お前がそういう奴だってことくらいは」

僧侶「(分かってる、か……)」

勇者「誰かの為に何かをしたいなら、自分をしっかり持たなきゃならない」

勇者「理想を現実にしたいなら死ぬ気で生きろ。誰かを殺してでもな。口先だけなら何とでも言えるんだ」

僧侶「……あの」

勇者「あ?」

僧侶「ありがとうございます……その、色々と教えてくれて……」


勇者「………」

僧侶「(あ、喋らなくなっちゃった。素の時にお礼言われるのとか慣れてないのかな?)」

僧侶「(というか、旅に出てから初めてまともな会話をしたような気がする)」

僧侶「(今まではず~っと口喧嘩してばかりだったし、バカとか言われ……あれっ!?)」

勇者「………」

僧侶「(今の会話の中で一度もバカって言われてない。こんなの本当に初めてだ……)」

僧侶「(……待て待て、何を喜んでるんだ私は)」ブンブン

僧侶「(そもそも日に何度もバカバカ言うのがおかしいのであって、今の会話が普通のはずだ)」

僧侶「(……それは、まあ、私にだって反省しなくちゃいけないところは沢山あるけど……)」ウーン


勇者「さっきから何してんだお前」

僧侶「へっ? 何かしてました?」

勇者「頭振ったり、ぶつぶつ言ったり、う~ん……とか言ってたな」

勇者「正直気持ち悪いんだけど、もしかして頭の病気? 幼児退行? おもらしでもしたの?」

僧侶「ち、違いますっ!」

勇者「あ、そう。じゃあ静かにしてろ」

僧侶「(すぐにこういうことを言う……)」

勇者「お前が何を考えてんのか知らねえけど、人間は急には変われねえよ」

勇者「それに、どんだけ頭の中で理屈をこねくり回したって結局はやるかやらないか、二つに一つだ」

僧侶「(……私の頭って透けて見えるのかな。分かりやすい女とか言われたし)」ウーン


勇者「うるせえ」

僧侶「ご、ごめんなさい(また言ってたんだ。これからは気を付けよう……)」

勇者「……おい」

僧侶「何ですか?」

勇者「あいつは北の山村で待ってる。だから、これからは北を目指すことになる」

僧侶「(あいつって……あ、龍か。そう言えば、あの場所で待つとか言ってたような気がする)」

勇者「この森を抜けて暫く進むと町があるから、着くまでは休んでろ。いいな」

僧侶「(……過去に何があったんだろう。何があったら、あんな風に戦えるんだろう)」

僧侶「(自分の命を投げ出してまで殺したいって、どう考えても普通じゃない。何があったら、そこまでーーー)」


勇者「おい、聞いてんのか」

僧侶「えっ?」

勇者「町に着くまで休んでろって言ったんだよ。ちゃんと聞いてろバカ」

僧侶「……はい、分かりました(今のは話を聞いてなかった私が悪い。しかし、バカと言う必要はない)」

勇者「………」ザッ

僧侶「………」

勇者「………」

僧侶「………」

勇者「………」

僧侶「(…………今更だけど、本当におんぶされてるんだ。こんな風になるなんて思わなかったな)」


【#9】人でなし

僧侶「…スー…スー…」

勇者「(やっと静かになった)」

勇者「(それにしても、まさか此処まで付いてくるとは思わなかったな)」

勇者「(どうせ口先だけの奴だろうと思ってた)」

勇者「(威勢が良いのは最初だけで、すぐに音を上げて逃げ出す。そう思ってたんだけどな……)」

僧侶「…スー…スー…」

勇者「(つーか、よく寝られるなコイツ)」

勇者「休めとは言ったけど本当に寝るか普通。朝まで縫い物するとかバカじゃねえの」ボソッ

僧侶「…んっ…ん~?」


勇者「………」

僧侶「…スー…スー…」

勇者「………」ザッ

僧侶「…スー…スー…」

勇者「(……妙な気分だ)」

勇者「(誰かを背負うってのはこういうもんなのか? あの人もこんな気持ちだったのか?)」

勇者「(自分以外の命、鼓動、息遣い、体温、声……こいつの全部が、俺の背中にある)」

勇者「(一度でもしくじれば、俺は勿論、こいつも終わる。こいつはそれを分かってんのか?)」

勇者「(…………そういや、俺もそうだったな)」

勇者「(何も分からず、ただ付いていくだけ。その先に何があるかなんて考えなかった)」

勇者「(あの時に何かをしていれば、何かが変わっていたかもしれないのに……)」

勇者「(あの人はどんな想いで俺を背負っていたんだろう。どんな想いで俺に託したんだろう)」


僧侶「…ん~…ふふっ…」

勇者「(……悩んでるのがバカらしくなるな。どんな生き方したらこんな風に育つんだ)」

勇者「(村でも簡単に騙されてたし、人は嘘を吐くってことを知らねえのかコイツは)」

勇者「(挙げ句、どんな罪人にさえ救いがあると本気で思ってやがる。人はやり直せると……)」

勇者「(きっと、そう教わって、そのまま育ったんだろうな。教会の中で守られながら、誰を疑うこともなく)」

勇者「(旅に同行したのだってそうだ)」

勇者「(司教に命じられるまま、それが使命か何かだと吹き込まれ、世の全ては神の望みしことだと……)」

僧侶「…スー…スー…」

勇者「そう簡単に自分を捧げるなよ……」

>>同感

勇者「………起きろ」ユサユサ

僧侶「んぅっ…どうしたんですか?」

勇者「姿は見えないが何かいる。さっさと降りろ。俺の傍から離れるな」


勇者「さっさとしろ!」

僧侶「は、はいっ!」サッ

>>使えない道具なら捨ててしまえば良いのに、バカみたい

僧侶「(本当に姿を消してる。禁術? でも、そんなことを出来る人間なんて……)」

勇者「うるせえバカ、さっさと出て来い」

>>いるわよ? 目の前に、ほら……

チュッ

勇者「ッ!?」ブンッ

>>あら、照れてるの? もしかして初めて?

勇者「(姿が見えないにしても妙だ。力の流れが読めねえ。異物が混じってるみてえだ)」

僧侶「大丈夫ですか!?」

勇者「ああ、何もされちゃいない。少し遊ばれただけだ。お前はじっとしてろ」


勇者「……どこ行きやがった」

僧侶「う、上です!!」

勇者「はあ?」チラッ

魔女「あ、見つかっちゃった。初めまして、私は……そうね、魔女。魔女でいいわ」

勇者「下着見えてんぞ」

魔女「見せてるの、綺麗でしょ?」

勇者「派手な下着は好みじゃねえな」

魔女「あらそう。なら、次から地味なのにするわ。でも残念、気に入ってくれると思ったんだけどな……」

勇者「そうか、次は期待してる。お前に次があるかどうかは分かんねえけどな」ジャキッ

魔女「あら怖い」

勇者「……何で姿を現した。あのまま隠れてればいいものを」


魔女「別に? 特に深い理由も意味もないわ」

魔女「初対面なのに姿を見せないのは礼儀がなってないと思っただけよ」

勇者「挨拶もなく唇を奪うのは礼儀正しいとは思えねえけどな。少しは慎み深くしろよ。女だろ」

魔女「別にいいでしょ? というか、ワガママの一つや二つ許しなさいよ。男でしょ?」

勇者「(何なんだ、あの女……)」

僧侶「……貴方は何ですか?」

魔女「はぁ?質問の意味が分からないんだけど? 聞きたいことがあるならハッキリ言いなさいよバカ」

僧侶「っ、貴方は人間なのですか?」

魔女「そんなの見れば分かるでしょ? 私のどこをどう見たら魔物に見えるわけ?」

僧侶「貴方が使用したのは禁じられた術です」

僧侶「仕組みを理解したとしても扱うのは非常に困難とされる高位の術法。加えて、貴方の法力はどこかおかしい」


魔女「おかしい?」

僧侶「人であるなら濁りすぎている。魔であるなら清すぎる」

勇者「(なる程な、違和感の正体はそれか)」

魔女「案外鋭いじゃない」

魔女「というか、人を見る目はないクセにそういうことろには気が付くのね」

僧侶「……貴方は、どっちですか?」

魔女「人でなし」

僧侶「え?」

魔女「魔でもなし」

僧侶「ふ、ふざけないで下さーーー」

勇者「もういい、下らねえ問答はうんざりだ。用があるなら降りてこい。ぶん殴ってやるからツラ見せろ」


魔女「ごめんなさい、それは無理」

勇者「下着は見せるのに顔は無理ってか、随分と変わった女だな。変態?痴女?」

魔女「違うわよ。私は貴方を試しに来たの」

勇者「あ?」

魔女「貴方が王に相応しい者なのか、それとも取るに足らない人間なのか。貴方はどっちなのか」

勇者「……奴の手下か」

魔女「さあ、それはどうかしらね。貴方の想像に任せるわ。取り敢えず始めましょう?」スッ

僧侶「(何かをしようとしてる?)」

僧侶「(あの状態から更に術を使う気なの? 空中で姿勢を保つだけでも手一杯なはずなのに)」

ズズズッ

僧侶「(地面から手が、これはまさか蘇生術……でも、そんなこと出来るはずはーーー)」


魔女「出来るわよ? 蘇生術くらい」

僧侶「なっ!?」

勇者「蘇生術、ね」

魔女「蘇生術と言っても悪用したものだけどね。貴方に恨みがあるようだから簡単に応えてくれたわ」

ズル…ズル…

勇者「……昨日のオーク共か」

僧侶「(魔物とは言えあれだけの死者、あれだけの魂を操るなんて……あの者は一体……)」

勇者「凄え術なんだろうが、こいつらが出来上がるまで待ってやる義理はねえな」ダッ

ドチャッッ

僧侶「(凄い、一度であんなに……)」

勇者「やっぱり使い慣れてるやつが一番だ。思いっ切りぶん回せる」


勇者「しかし、朝から化け物殺しか……」

魔女「不満?」

勇者「いや、最高の気分だ」ダンッ

ズシャッッ

魔女「あら凄い。やっぱり、この程度じゃあ満たされないみたいね」

勇者「満たされることなんてねえよ。どれだけ化け物を殺そうが、あの野郎を殺すまではな」

魔女「……そう。貴方に一つ質問があるのだけど」

勇者「あ?」

魔女「化け物を殺すことに躊躇いはないの?罪悪感や後悔は?眠れない夜はある?」

勇者「ない」

魔女「あらそう。それを聞いて安心したわ」スッ

ズズズ

勇者「またかよ。次は何を出すつもりだ?」

魔女「それは見てのお楽しみ」

ボコッ

勇者「あ、そう。だったら出て来る前に打っ叩いーーー」


僧侶「っ、待って下さい!」

勇者「あ?」

僧侶「……あれは、『違います』」

勇者「違う? お前、何言ってーーー」

ズルリ

僧侶「(っ、やっぱり人間だ)」

勇者「人の形をしてるだけじゃねえか。コイツ等とさっきのオーク共と何が違うんだよ」

僧侶「魔の魂を呼び出すのと、人の魂を呼び出すのではやり方が違うんです」

勇者「分かりやすく言え」

僧侶「えっと、蘇生術に応じると言うことは、現世に戻りたいと願う様々な要因があるからです」

僧侶「先程のオークのように、死しても消えぬ憎悪によって応じる場合もあります」


勇者「で、何が言いたい」

僧侶「……見ての通り、彼等の肉体や精神は生前の姿とかけ離れています」

僧侶「蘇生を望んでいるなら、あのような状態で蘇えることはありません」

僧侶「つまり、蘇生を望んでいるわけではない。強制的に呼び起こされたのだと思います……」

勇者「………」

魔女「どうしたの?何か問題でもある?」

勇者「ない。やることは一つだ」ザッ

僧侶「!!」

魔女「ふふっ、そうよね。問題なんてあるわけないわよね。化け物なら殺せるんだもの」

魔女「貴方は確かにそう言った。躊躇いも罪悪感も後悔もなく殺せるって」

勇者「ああ、言ったな」

魔女「土から這い出ようとしている化け物が、故郷の人間だとしても?」


勇者「………」ピタッ

僧侶「(故郷。じゃあ、この人達は……)」

勇者「何をした」

魔女「ちょっと起こしただけよ。それより、再会出来て良かったじゃない」

魔女「何なら謝罪でもしてみたら?」

魔女「僕の愚かな行動が原因で、皆を死なせてしまってごめんなさい。ってね」

勇者「………」

魔女「そんなに睨まないでくれない?私、言ったわよね? 貴方を試しに来たって」

勇者「これが試験ってわけか」

魔女「ええ、その通り。でも、逃げたいのなら逃げても構わないわよ?」

魔女「だけど、貴方が殺さない限り、この者共は生を求めて彷徨い歩くでしょう」

魔女「亡者は生に餓え、渇きに苦しみ喘ぎながら人間を襲い続ける。罪の無い、か弱い人間を」

勇者「何を試すつもりか知らねえが」ジャキッ

魔女「別にいいのよ? 無理をしなくても……」

勇者「ふざけんな。俺が化け物に背を向けて逃げるわけねえだろうが」ダッ


勇者「(そう、化け物だ)」

勇者「(誰がどう見ても化け物だ。元が何であろうが誰だろうが、化け物なら殺す。それだけだ)」ブンッ

ゴシャッッ

勇者「………」

僧侶「(躊躇いなく斬り捨てた。あの人には相手が何であっても関係ないの?)」

僧侶「(故郷の人間、同じ場所で生きた人間なのに、何も感じないのかな……)」

僧侶「(っ、何を考えてるんだ私は! あんなの平気なわけない。無理してるに決まってる)」

僧侶「(取り返しが付かなくなる前に私が何とかしないと。無理矢理呼び起こされたのなら、還す方法はある……)」

勇者「おい」

僧侶「な、何ですか?」ビクッ

僧侶「結界は張ったか?」

僧侶「あ、はい。一応……」

勇者「そうか。なら、そこでじっとしてろ」

勇者「お前は何もしなくていい。何があっても手は出すな。妙な気は起こすんじゃねえぞ」


勇者「分かったな」

僧侶「…………はい」

勇者「それでいい。すぐ戻る。ちょっと待ってろ」フラッ

僧侶「っ!!」ガシッ

勇者「っと、悪りぃな。じゃあ、ちょっと行ってくる」

僧侶「っ、私が止めます」

勇者「あ?」

僧侶「無理矢理呼び起こされたのなら、強制的に還すことも可能なはずです」

勇者「それが出来たとしても時間は掛かるんだろ? その間のお前は無防備になるだろうが」

僧侶「それは、そうですけど……」

勇者「手っ取り早くあの女を殺せりゃいいが飛ぶ手段がねえ。お前、俺を飛ばせるか?」

僧侶「飛ばせるとは思いますけど、落下の際の維持が……」

勇者「……そうか、だったら奴等を斬った方が早いな。さっき言った通り、お前は何もしなくていい」

僧侶「でも、ふらついて……」

勇者「何のことはねえ。一度殺すも二度殺すも同じことだ。こんなのは大したことねえ」


僧侶「そんなーーー」

勇者「敵。化け物。それだけだ。やり方はこれまでと同じだ(そう、同じだ。ほら、やれよ)」ザッ

ゴシャッッ

勇者「…ゲホッ…うおぇっ…」ビチャビチャ

僧侶「(……無理だ。あんなの、耐えられるわけがない。魂に傷を負った状態では尚更……)」

勇者「はぁっ…はぁっ…ッ、ああッ!!」ブンッ

ズシャッッ

勇者「…はぁっ…はぁっ…」

魔女「随分と辛そうじゃない。そんなものに囚われていたら王を……龍を殺せないわよ」


勇者「………」

魔女「これまでをなかったことにするのよ。過去を、罪を、これまでの全てを斬り捨てるの」

魔女「そうすることでしか王は殺せない。そうすることでしか、人間を超越出来ないのだから」

勇者「少しは黙ってろ」ブンッ

ズドンッッ

魔女「彼、頑張るわね。まだ保ってる」

僧侶「………何で、あんなことを」

魔女「彼の過去、彼の罪を洗い流すため」

僧侶「過去、罪……」

勇者『ある日、森で行き倒れてる男をガキが助けた。その男がお尋ね者の野盗の一人だとも知らずにな』

勇者『傷が癒えて村を立ち去ると、そいつは仲間を引き連れて戻って来た。で、村を襲撃して占拠した』

勇者『男は殺され、女は犯され、子供は玩具にされた。野盗を助けたクソガキも一緒に』


僧侶「(そうか、この者の狙いは……)」

魔女「洗い流すと言うより、罪に塗れさせると言った方が正しいかしら」

魔女「あれは彼の故郷の住人。彼の所為で命を奪われ、生を弄ばれた、哀れな者共……」

魔女「……それを罪と感じているから彼は苦しんでいる。なら、身も心も罪に浸してしまえばいい」

僧侶「(やはり間違いない。この者は、あの人を壊すつもりなんだ。魔に、堕とす為に…)」

魔女「罪そのものとなれば苦しむ必要もない」

僧侶「……人として問います。貴方は、何故こんなことが出来るのですか」

魔女「人間だったら何なわけ?」

僧侶「えっ……」

魔女「貴方はバカだから知らないでしょうけど、こんな人間もいるのよ。言ったでしょ、人でなしだって」

僧侶「………」

魔女「私はずっと見ていたわ。貴方達のことを」

魔女「勇者と言われながら、陰では嫌われ疎まれ憎まれ怖れられ、それでも戦う彼を」

魔女「そして、彼の傍らにいながら何もしようとしない貴方を、自分だけが人間であろうとする醜く浅ましい貴方の姿をね」


魔女「今の貴方は穢れていないわ」

魔女「身も心も綺麗なまま。何一つ穢れていない。それなのに、私には誰よりも穢れて見える」

僧侶「っ!!」

魔女「勘違いしないで? 別に責めてるわけじゃないの。貴方は人間だと言ってるだけよ」

魔女「貴方はどうしようもなく人間なのよ。寄り掛かることしかしない、ただの人間にすぎない」

僧侶「………」

魔女「でも、彼は違う」

魔女「ほら、あれを見てみなさいよ。人間にあんなことは出来ない」

勇者「がああッ!!」

ゴシャッッ

僧侶「…………」

魔女「そう、人間にあんなことは出来ない。彼も私と同じ……人であって人でなし」


【#10】人間の証明

勇者「(無理矢理に呼び起こされた?)」

勇者「(違う。コイツ等は望んで蘇ったんだ。そうに決まってる。目を見れば分かるんだ)」

勇者「(真っ暗な瞳、底無しの闇。俺が憎いんだ。そりゃそうだよな、俺が招いた死だ)」

勇者「(憎まれて当然だ。こんな風に思われているだろうと思ってた。想像していた通りだ)」

勇者「(こうして囲まれる夢は何度も見た。数え切れない程に、何度も何度も見た光景だ)」

勇者「(俺が思っていた通り、それが現実になっただけだ。そなのに、何で……)」ブンッ

ズシャッッ

勇者「くそっ、何で……うっ…うおえぇッ」ビチャビチャ

僧侶「っ、あの人は……あの人は、人間ですっ」

魔女「彼が人間? 面白いことを言うわね」

魔女「過去に自らの行いによって死に追いやった者を、今は自らの手で殺めてる。彼自身の意志で」

僧侶「自らの意志!? ふざけないで下さい!!」

僧侶「そうなるように仕向けたのは貴方でしょう!? 死者の御霊を操って亡者としたのも!!」


魔女「うるさい女ね……」

魔女「戦うことを選んだのは彼でしょう? 私、言ったわよね? 逃げてもいいって」

僧侶「あの人が逃げるわけがないと分かっているから、そう言ったのでしょう!?」

魔女「後のことなんて無視すればいいじゃない。誰が死のうが龍さえ殺せればいいんだから」

僧侶「~~っ!!」

魔女「実際、彼も半端なのよ」

魔女「口では人を見下すようなことを言いながら、人間を切り捨てることが出来ていない」

僧侶「口では何と言おうが、あの人は貴方が思うような人ではありません!!」

魔女「へえ、知ったような口を利くじゃない。貴方に彼の何が分かるわけ?」

僧侶「それは……」

魔女「誰よりも近くにいながら理解しようともしなかった貴方に、そんな人間に何が分かるの?」

魔女「それとも何? 少し優しくされたからって彼を優しい人だとでも思ったわけ? 頭の軽い女ね」


僧侶「ち、違っーーー」

グイッ

僧侶「!?」

勇者「あんまり離れるな」

僧侶「あっ…」

勇者「話すだけ無駄だ。そいつの言葉に耳を貸すな。もうすぐ終わるから待ってろ」

僧侶「(目に光が……駄目、このままでは……このままでは壊れてしまう)」

魔女「(そろそろね)」スッ

ズズズ

僧侶「(……若い男女? 先程の村人よりも姿形が生前に近い。何を利用して呼び出したの?)」


勇者「あれで最後か?」

魔女「ええ、それで最後よ」

魔女「貴方を人間に生んだ人間。貴方を人間として育てた人間。少年であった頃の、罪の象徴」

僧侶「っ、それでも血の通った人間ーーー」

勇者「落ち着け」グイッ

僧侶「落ち着いていられるわけがないでしょう!? そんなに傷だらけになって、過去にまで傷を付けられて!!」

勇者「いいから黙ってろ」

僧侶「でも、こんなの……」

勇者「そんなことはいい。それより頼みがある。一度しか言わないから良く聞け」

僧侶「………」コクン

勇者「あの化け物を叩き潰した瞬間、俺をあいつの所に飛ばせ。いいな」

僧侶「ば、化け物って!あの二人は貴方の両親なのですよ!?」

勇者「だからこそ俺がやるんだろうが」

勇者「あれは俺の生んだ化け物だ。村の連中もあの二人も俺がやらなきゃならない。分かるな?」


僧侶「そんなの……」

勇者「お前は何も考えるな。いいから俺の言う通りにやれ」

僧侶「…………っ」ギュッ

僧侶「分かりました。でも、上手く制御出来るかどうか分かりません」

勇者「それで構わねえ。思い切り俺を吹っ飛ばせ、あの女が反応出来ない速度でな」

僧侶「そんなことをしたら貴方が……」

勇者「そのくらいのことをしねえと奴に届かない。あいつはこれまでの化け物とは違う」

勇者「つーか、俺の気が済まねえんだよ。俺が不憫だと思うなら手を貸せ。後、泣くな」

僧侶「…………」グシグシ

勇者「よし、準備はいいな?」

僧侶「……はい、やってみます」

勇者「余計なことは考えるな、お前は思いっ切りやるだけでいい。頼んだぜ」ザッ


僧侶「(私には分からない)」

僧侶「(あの人が何を思っているのか、何故あのような答えに行き着いたのか、何故そうしなければならないと思うのか……)」

僧侶「(私には理解出来ない)」

僧侶「(理解出来ないけど、あの人は本気でそれを望んでいる。それだけははっきりと分かる。だったら、私がやるべきことは……)」

魔女「相談は終わった?」

勇者「ああ、終わった」

魔女「その顔、本当に殺す気なのね」

勇者「元に戻すだけだ」

魔女「面白い言い方をするのね。私が元に戻したのに、それを元に戻す?」

勇者「終わった命は元には戻らない。去った者が帰ってくることもない。お前は歪めただけだ」


魔女「………」

勇者「俺はそれを正すだけだ」

勇者「在るべき場所に帰す。この世を去った者が逝くべき場所に、死者の在るべき場所に」

>>大きくなったな……

>>あの時は、こんなに小さかったのに……

僧侶「(……これは恨みなんかじゃない)」

僧侶「(負の感情だけで、ここまで綺麗な姿で蘇るわけがない。呼び掛けに応じたのは)」

勇者「………」

僧侶「(子に、会いたかったから……)」

魔女「さあ、終わらせなさい」

魔女「貴方の過去を、貴方の罪を、貴方の人間性を、貴方自身の手で終わらせるのよ」

僧侶「(あの者はそれを利用して蘇らせたんだ。邪法によって蘇生術を歪め、生を喰らう亡者として……)」


勇者「………」

>>どうしたんだ?せっかく会えたのに酷く辛そうな顔をして……

>>どうしたの?どこか痛むの? さあ、母さんに見せて?

勇者「………」

ゴシャッッ

魔女「気分はどう?」

勇者「………何してる。さっさとやれ」

魔女「?」

僧侶「(荒ぶる風よ、望みし者を望みし場所へと運びたまえ……)」

魔女「法力の高まりを感じるわね。何をするつもり? 貴方の術法が私に通じるとでも?」

僧侶「私ではありません。貴方を裁くのは……」

勇者「ぐッ!!」グォッ

魔女「(風術法で飛ばした!?)」

勇者「ッ、こいつはいいな。正に、あっという間ってやつだ」

魔女「(目が生きている。これは彼の考えた策ね。まったく、相変わらず無茶ばかり……)」

勇者「よお、やっとお近付きになれたな」

勇者「散々上から好き勝手言ってくれたな。俺は見下ろされるのが大嫌いなんだ」


魔女「(今からでは間に合わないわね)」

勇者「何とか言えよバカ女」

魔女「……そうね。次からは気を付けるわ」

勇者「さっきも言ったろ、お前に次はねえ。くたばれボケ」

ドズンッッ

勇者「(何だ、この感覚……)」

魔女「ふふっ、何の保険もなく貴方に会いに来ると思った? バカね」

勇者「どんな術法を使ったのか知らねえが、次も同じだ。次も殺す」

魔女「あらそう、楽しみにしているわ。またどこかで会いましょう。私の愛する人でなし」

サァァァァ

勇者「言ってろ、人でも魔でもない半端者が」

ヒュゥゥゥ ドンッ


勇者「…ゴフッ…」

僧侶「!!」タッ

勇者「(……流石に高すぎたか。あの人の力がなけりゃあ死んでたな)」

勇者「(しかし、術法ってのはえげつねえ。飛んだ瞬間に血ぃ吐いたし右手はズタズタだ)」

僧侶「大丈夫ですか、しっかりして下さい!」

勇者「……うるせえ。少し休めば動ける」

僧侶「意識があって良かった。今から治療します。じっとしていて下さいね?」

勇者「いい、このままでいい。このままで……」

僧侶「………」

勇者「なあ、あの魔女とかいう化け物は消えたのか?あれも術法か?」

僧侶「はい、あの者の気配は消えました。あれはおそらく、何かを器にして自己を投影したものだと思います」


勇者「投影か、便利なもんだな……」

僧侶「………」

勇者「………」

僧侶「……貴方がやったことは間違っていません」

勇者「はあ?」

僧侶「貴方が幾ら自分を責めようと、人を救おうとしたことは決して間違いではありません」

僧侶「咎を負うべきは貴方ではなく、善意を踏みにじった者、悪意に塗れた者……化け物です」

僧侶「何の慰めにもならないかもしれませんけど、私はそう思います。だから、その…グスッ…」

勇者「言いたいことは分かったから一々泣くな。ほら、お前も少しは休め」

僧侶「……はいっ」グシグシ


勇者「なあ、僧侶」

僧侶「?」

勇者「腹減ったな」

僧侶「ふふっ……はい、兎以外なら何でもいいです」

勇者「そっか。じゃあ兎にする」

僧侶「貴方に任せます」ニコッ

勇者「……はっ、そうかよ」

僧侶「(こんなに弱々しい笑みを見るのは初めてだ。私は、この人を癒せるだろうか?)」

僧侶「(あの時、司教様には傷を癒せと命じられた。それから、時に寄り添うようにとも命じられた)」

僧侶「(けれど、過去の傷を癒すことは出来ない。心に刻まれたものは、如何なる術法でも消せはしないのだから)」

~勇者の故郷、跡地~

「……ったく……知れば知るほどにむなくそわりぃぜ」

「…………」

「俺はな。俺の勝手で、俺の気まぐれであんたらの魂を呼び戻す」

「肉体を与える。忌々しすぎる記憶も消す」

「そしてあんなことが二度とねえように俺が守る」

「あっちゃならねえことだ。この次元じゃ幾らでもあるようだが」

「また見ちまった。また知っちまった。だからここでもやらせてもらうぜ」

~勇者の故郷、跡※~

~勇者の故郷、※※~

「……とりあえず、こんなもんか」

~勇者の故郷~

村人「おや? あんたは?」

青年「俺かい? ちっと旅をしてるとこだ」

村人「ふうむ。兄さんは旅の人か」

村人「……なあ兄さん。兄さんはいい体をしとるし、立派な剣も持っとるようだが。用心棒とかできるかの?」

青年「依頼かい? 自分で言うのもなんだがそこそこやれる方だぜ」

村人「いきなりで悪いけども、寄り合い所に来てもらっていいかの?」

村人「最近物騒での。一応国の支援は取り付けとるんじゃが。もう一押し欲しいと皆で話しててな」

青年「いいぜ。実は炉銀やら食料やら何やら心もとなくてな。割安でもなんならただでもいいから乗らせてもらいてえ」

長老「受けてくれるか。村のみんなには事後承諾ということになりそうじゃの」

青年「しかしいいのかい? 素性の知れねえ流れ者にそんな話をぽんぽん進めちまって?」

長老「構わんよ。わしの勘は今度は大丈夫だと……はて、今度?」

青年「おいおい。そんなんでいいのかよじい様? 俺は助かるけどよ」

長老「いやいや馬鹿にしたもんじゃないぞ勘は」

青年「(当たりだよ。しかし全部は無理だったか。しゃあねぇ)」

青年「まあよろしくたのまあ。しかし腹がへったな。寄り合い所にメシはあるかい?」

長老「ああ。ここの村は芋のスープが売りでな……」

青年「やべーぞ芋か! ますます腹が減ってきたぜ!」

長老「ふぉっふぉっ。任せておけ」

青年「(……っし。長老のじい様に話をつけた。んじゃここでも始めるとしようか)」


【#11】 糸

勇者「………」

僧侶「…………」

チクチク

勇者「…………」

僧侶「……ふ~っ。はい、終わりました」

勇者「ん、上手いもんだな」

僧侶「あっ、まだ縫ったばかりです。あまり動かさないで下さい」

僧侶「激しく動けば簡単に切れてしまいますから、そういう行動は極力控えて下さいね」

勇者「何処に行っても化け物だらけの世の中だ。控えようにも向こうから寄ってくる」

勇者「でもまあ、そうなったら左手で振ればいいだけの話しだ。縫ってくれてありがとよ」

僧侶「(何でわざわざ縫わせたりしたんだろう? 治癒術法を使えばすぐに治るのに……)」

勇者「あんまり術法には頼りたくねえんだよ」


僧侶「……何も言ってません」

勇者「言わなくても顔に出てる」

僧侶「うっ……そんなに分かりやすいですか?」

勇者「そうだな」

勇者「分かりやすいって言われる人間の中でも特に分かりやすい部類なんじゃねえか?稀少種ってやつだな」

僧侶「稀少種……」

勇者「嫌そうだな。珍獣の方が良いか?」

僧侶「もっと嫌ですよ」

勇者「ははっ、だろうな」

僧侶「(笑ってる。まだ無理してそうだけど、さっきよりは良くなったのかな?)」


勇者「何だよ。珍獣でも不満なのか?」

僧侶「稀少種も珍獣も嫌です」

僧侶「というか、私のことはもういいです。それより何で拒否したんですか?」

勇者「(コイツ、術法使えるのに知らないのか?)」

僧侶「どうしました?」

勇者「(知らない、わけじゃないな。まさか教えられていないのか? 質の悪い奴等だ……)」

僧侶「?」

勇者「いや、何でもねえ。気分だ、気分」

僧侶「気分って……」

勇者「さっきの奴等は俺が作った化け物だ」

勇者「この傷を綺麗さっぱり消しちまったら全部が無かったことになっちまう気がする。だから、これでいい」


僧侶「………」

勇者「何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。隠したって頭透けてんだから意味ねえぞ」

僧侶「……聞かないようにと思っていましたけど、貴方は初めて会った時に穢れた身と言っていました」

勇者「言ったっけ。まあいいや、それで?」

僧侶「その…過去が原因なのかなぁと……」

勇者「お前、俺の体を見たんだろ?」

僧侶「……はい、見ました」

勇者「だったら言わなくても分かるだろ。多分、お前の想像通りだ」

僧侶「そう、ですか……」

勇者「自分で聞いといて落ち込むんじゃねえよ。めんどくせえ女だな」

ポカッ

僧侶「あたっ」

勇者「前にも言ったよな、お前は自分のことだけを考えろ。下らねえことは考えるな」


僧侶「下らないって、そんな……」

勇者「何にせよ昔のことだ。何をどうしようと変えられない。お前が悩む必要もない」

僧侶「………」

勇者「少し休む。お前も休め、さっきのバカ女と話して疲れたろ」ゴロン

僧侶「あ、はい」

勇者「…………」

僧侶「(考えてる通り……)」

僧侶「(背中にあった烙印。あれは多分、咎人の烙印か奴隷の烙印)」

僧侶「(随分と前に図書館で見た覚えがある。あの印はそういう類いのものだったはず)」

僧侶「(村を襲ったのは野盗だと言っていたから、きっとどこからか奪ったものを使って……)」チラッ


勇者「…………」

僧侶「(どんな思いで生きてきたんだろう)」

僧侶「(家族を失い、故郷を失い……考えるなと言われても、そればかりを考えてしまう)」

僧侶「(きっと、元々は違っていた。少なくとも人を信じることが出来る人間だったはずだ)」

勇者「………」

僧侶「(同情していないと言えば嘘になる。でも今は、同情よりも疑問の方が強い)」

僧侶「(善行を働いた人間が、何故それ程までに苦しい思いをしなければならないのだろう?)」

僧侶「(それすらも神の御意志だと言うの?この人がこうなってしまったことも?)」

僧侶「(……こんなこと、今まで考えたことがなかった。教会の中で祈りを捧げていた頃は疑問なんて持ったこともなかった)」

僧侶「(私は何も知らなかった)」

僧侶「(人と人とは慈しみ愛し合うものだと思っていた……でも、そうじゃなかった)」


僧侶「(それを突き付けられたのは、あの村だ)」

僧侶「(村の長老や一部の男性は、自らが助かる為に女性や子供を差し出し、自分達だけは助かろうとしていた)」

勇者「………」

僧侶「(この人が言ったことを否定したのは、認めたくなかったから……)」

僧侶「(本当は薄々気付いてた。異常なまでの怯え、その不自然さ、村人の様子のおかしさに)」

僧侶「(そんなはずはないと思いたかった。そうではないと信じたかった。勘違いだと言い聞かせて目を逸らした)」

僧侶「(だから、この人が剣を抜いた時、私は止められなかった)」

僧侶「(止められなかった? 違う、きっと止めなかったんだ。そう、私は止めなかった)」

僧侶「(この人が村長を斬った時、それは間違っていると思いながら、どこか正しいと思っている自分がいた)」

僧侶「(その瞬間、自分が酷く醜いものになった気がした。私は怖ろしくなって、また逃げた)」

僧侶「(何も知らない振りをして、全てをこの人に覆い被せて……)」

僧侶「(その癖、殺したのは間違っていると責め立てた。自分は正しい、間違っていない、そう思いたかった)」

僧侶「(自分が思い描いていた人間、自分の中に描いていた綺麗な世界。それらが崩れ去ってしまうことが何よりも怖ろしかった)」

僧侶「(もしかしたら、この人を責めることで楽になりたかったのかもしれない……)」


魔女『今の貴方は穢れていないわ』

魔女『身も心も綺麗なままで何一つ穢れていない。それなのに、誰よりも穢れて見える』

僧侶「(……あの魔女の言う通りだ。私は醜い。もう、何を信じればいいのかさえ分からなくなってきてる)」

勇者「………」

僧侶「(自分の足で歩むことが出来ないから、縋らずには生きていけないから、だから、この人が嫌いだったのかもしれない)」

勇者「ん、そろそろ行くか」

僧侶「(私には、もう……)」

勇者「どうした?」

僧侶「あのっ」

勇者「あ?」

僧侶「(打ち明けよう。全てを打ち明け……打ち明けてどうなるの?)」

僧侶「(自分が楽になりたいから?また自分?結局は自分が助かりたいだけ?)」

勇者「おい、本当に大丈夫かお前?顔色が酷いことになってんぞ」


僧侶「ごめんなさい……」

勇者「はぁ?」

僧侶「村でのこと、本当は知ってて……でも言えなくて……狡くて、ごめんなさい……」ポロポロ

勇者「落ち着け。何言ってるか全然分かんねえ」

僧侶「もう私、何を信じたらいいのか……」

勇者「ちょっと待て、何で急にそんなことになるんだよ。何かあったっけ?」

僧侶「……多分、考えないようにしてたんだと思います。それが急に、ぶわって溢れてきて……自分でも分からなくなって……」

勇者「いや、意味が分かんねえ。考えないようにって何を? 溢れてきたって何が?」

僧侶「……自分です」

勇者「はぁ?」

僧侶「……あんなことを言って貴方を責めたりして、本当にごめんなさいっ」

勇者「(村に気付いてた。狡い。俺を責めた………ああ、なるほど、そういうことか)」


僧侶「……私、本当に……」ポロポロ

勇者「おい、聞け」

僧侶「?」

勇者「過ぎたことは気にすんな」

僧侶「そんなの無理ですっ」

勇者「(即答かよ)いいから気にすんな。急に外に出たから面喰らってるだけだ」

僧侶「へ?」

勇者「お前は外の世界に戸惑ってるんだよ。多分、それが今になって一気に吹き出したんだ」

勇者「旅する前はずっと教会の中で生きてきたんだ。そうなっても仕方ねえさ」

僧侶「……そう、なんでしょうか……」

勇者「多分な。それにほら……」

僧侶「?」

勇者「なんつーか、その……」

勇者「俺と一緒にいて色々と汚えもん見せられたから、今までいた場所との違いに付いて行けてねえんだよ」

勇者「だからもう気にすん……気に病むな。この先も付いて来る気なら先のことだけを考えろ。引き摺るな」


僧侶「……グスッ…はぃ…」

勇者「というか、お前は何もしてねえんだから悩む必要も泣く必要もねえだろうがよ」

僧侶「だから、悩んでたんです……」

勇者「……そうか。じゃあ、これからは何かしろ」

勇者「別に特別なことをしろってわけじゃねえ。お前が出来ることをすりゃあいい」

僧侶「……私の、出来ること?」

勇者「裁縫とか出来んだろ。この服だってお前が作ったんだし、役には立ってる」

僧侶「ほんと?」

勇者「……本当だよ」

僧侶「うそなんだ……」

勇者「ぐちぐちうるせえな!本当だって言ってんだろ!火傷は治したし、さっきは俺を飛ばしただろうが!役に立ってるから泣くな鬱陶しい!!」

僧侶「うぅ~…」

勇者「……一応聞いとくけど、それは嬉しくて泣いてんのか、情けなくて泣いてんのか」


僧侶「りょうほうです……」

勇者「……そうか、ならいい。そろそろ行きてえんだけど歩けそうか?」

僧侶「……どうやら無理そうです」

勇者「お前が泣き止むのを待ってたら日が暮れるな。おぶってやるから来い」

僧侶「でも、なみだとか、はなみずとか……」ズビッ

勇者「うっせえな!いいから来いって言ってんだよ!!」

僧侶「は、はいっ」

ギュッ

勇者「よし。んじゃ、行くぞ」ザッ


勇者「………」

僧侶「……あのぅ」

勇者「あ?」

僧侶「……色々とごめんなさい」

勇者「うるせえ」

僧侶「………ほんとにごめんなさい」

勇者「分かった。もういいから休んどけ」

僧侶「……はい」

勇者「………おい」

僧侶「?」

勇者「次からはそうなる前に話せ。ガキの相手してるみたいで面倒臭えから」

僧侶「……ありがとうございます」

勇者「………」

僧侶「………ありがとうございます」

勇者「分かった。もう分かったから黙ってろ」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom