キノの旅ss「奴隷の国」 (11)

 草原の中の一本道を、旅荷物を満載した一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。

 運転手は若い人間だった。歳にして十代中頃。長い枯葉色のコートを太もものところで巻き付けている。

「次に行く国はねぇ、エルメス」

 運転手が言った。

「次に行く国は? キノ」

 エルメスと呼ばれたモトラドが、それに尋ねる。

「奴隷制度がある国らしいよ」

 キノと呼ばれた旅人が答えた。

「へぇ。でも旅人のキノには関係ないんじゃない?」

「そうともいえない。奴隷がいるってことは、国内に不満を抱えている人たちを一定数抱えているわけだから、反乱や革命に注意しなくってはいけない。それになにより、奴隷商人が横行していれば、自分の身も危ない」

「なるほど。そこはキノがバババーンちゅどーんだね」

「国の中だからね。派手にはできないよ」

 キノの視線の先、緑色の丘を越えた向こうに、灰色の線が、つまりは城壁が見えた。


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 国の中は普通だった。

 木組みと石造りの建物が並び、家々には花が飾られていた。石畳の通りはゴミも少なく、子どもたちが笑いながらその間を駆け抜けていく。

 人々の服装は簡素だが清潔。食料も豊かで、娯楽も多く、そして派手ではないが充実した暮らしを送っていた。

「……国を間違えたんじゃない、キノ?」

「かもしれない」

 住民はおおむね優しく、旅人のキノを快く歓迎してくれた。キノは工場や、農場や、あるいは一般的な住民の生活を見学させてもらったが、どこを探しても奴隷らしき姿はなかった。

 キノは国の中央にある、白くて清潔なシーツがあり、暖かいシャワーが出る安いホテルに宿泊した。

 ベットに倒れ込み、キノは大きく息を吐く。

「白いシーツに勝る寝具はない・・・・・・」

「ねえキノ。なんだか前評判とずいぶん違ったねー。てっきりキノのドンパチが見れると思ったのに」

「たとえ評判通りだったとしてもドンパチはしないよ、エルメス。それにこういうよ銅の裏切られ方は大歓迎だ。おかげで変に身構えることなく国を見て回れる」

「もしかしたらさ、もう革命が起きた後だったりして。通りを歩いているおしゃれな人たちは、何か月か前までガラクタのごとく働かされてたんだよ。そんでもって革命で主人たちを皆殺しにして、彼らが来ていた服と家を奪った、とか」

「それだったらその後が残ってるはずだ。それにホテルの人に聞いたら、この国はもう長く平和なんだって。……馬車馬のごとく?」

「あっそ。……そうそれ」

 翌日、キノがオープンテラスのレストランで食事をしていると、

「旅人さん? もしよろしかったら一緒にお食事よろしいでしょうか? 代金は待ちますよ?」

「ぜひ旅のお話をお伺いしたいのですが……」

 二人の女性が話しかけてきた。1人は長い黒髪。もう一人は短い茶髪で、首に銀色のネックレスをしていた。

 黒髪の女性は水を、そしてその女性が茶髪の女性のためにお茶とケーキのセットを注文した。

 キノは快く受け入れ、話を始める。

 女性2人がお茶を飲み終わり、おかわりを頼んだ時になってエルメスが聞いた。

「あのさ、お姉さん方。この国には奴隷制度があるって聞いたんだけど、それって本当? もしかして撤廃されたの?」

 すると、茶髪の女性が朗らかに言った。

「いいえ、奴隷制度は今も存続しています。その証拠に、私は彼女の奴隷ですよ!」

 そういって銀のネックレスを掲げた。そこには、茶髪の女性が黒髪の女性の所有物であることが刻印されていた。

「…………。なるほど」

 キノは一瞬言葉を失って、なんとかその言葉を絞り出す。

「すみません、その……、ボクのイメージとずいぶん違ったものですから」

「ああ、それはよく理解できます。旅人さんは外国で伝わっている奴隷を、重労働を課せられ、まったく自由もないような人々のことを思い浮かべたのですね?」

 黒髪の女性が、つまり、隣の奴隷女性の「主人」が言った。

「しかしですね、旅人さん。自らの所有物を粗末に扱うものが許されると思いますか?」

「はあ」

「例えばそのモトラドさん、旅人さんのものですが、だからと言って整備も受けさせず燃料の補給もせず、わるい道を延々走らせていればすぐに壊れてしまうでしょう? そのパースエイダーも大切に扱わなくてはあっという間に使えなくなってしまいます。思い出のこもった品が壊れて、使えなくなってしまうのはとても悲しいですし、また不便です。そしてそれは人も同じなのです! だから私たちは、奴隷を我々が持つどんな財産よりも大切にしなくてはいけない、と考えているのです」

「そうなんですか。よく理解できました」

 キノはうなずく。主人の女性は嬉しそうに笑った。

「それはよかった。今日もこの子が旅の話が聞きたいというからわざわざ中央まで出てきたんです。他にも最高の教育を受けさせ、良いものを食べさせ、良い服を着させ、この国で最も優れた、美しい奴隷になってもらうためにすべてを尽くしています」

 奴隷の女性も言った。

「ご主人様から受け取ったものをお返しするべく、私はこの国で最高の奴隷とされるように全力を尽くしています」

「この国では奴隷の品評会が行われるので、二人で最優秀賞を取れるように頑張ってるんです。今年こそ頑張りましょうね?」

「はい、ご主人様!」

 顔を見合わせる女性二人に、エルメスが言う。

「すごいねー、お姉さんたち。ちなみに黒髪のおねーさんは今までどれだけ頑張ってきたの?」

「はい、この子のために家を売り、身を粉にして働いています」

「奴隷の子は働かせないの?」

「とんでもない! それで傷でも着いたらどうするんですか! 家事一つさせませんよ。この子がストレスを受けないように全力を尽くすのが主人たる私の役目なのですから!」

 奴隷の国―Masters For Slaves―

以上です。新アニメ版の最後に邦題と英題が出てくるスタイルを真似してみました。お付き合いいただきありがとうございました!

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