アビゲイル「私を、殺して」 (19)

FGOのアビー中心のssです
ピックアップ繋がりで山の翁の出番多め
ネタバレ注意です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512826602

アビゲイル「怖い人ばかりだし、戦う事は気が進まなかったけれど……良い人ばかりね!このカルデアは」

アビゲイル「やっぱり座長さんの言っていた事は嘘ではなかったわ。星見の天文台、少し表記揺れはあるかもしれないけれど、カルデアから見える景色は綺麗だし、色んな時代を旅出来るし、それから、それから……」

アビゲイル「えっと」

アビゲイル「あれ?私は、誰?」

アビゲイル「少し記憶に混乱が見られるかもしれない、ってダ・ヴィンチさんが言ってたわね。フォーリナークラスの召喚は初めてだから、カルデアの霊基管理に誤差が出た弊害、って事らしいけれど」

アビゲイル「どうしましょう。霊基再臨までまだ少し時間があるわ。ジャックやナーサリー、茶々はマスターと一緒にカルデアゲートに入り浸りだし、ティテュ……シバの女王様は霊基の強化の最中って話だし」

アビゲイル「暇ね……少し、カルデアの中を探検してみようかしら」

アビゲイル「あら?こんな所に部屋なんてあったかしら。マスターから大凡のカルデアの作りは教えてもらったはずだけど、この位置に部屋があるなんて聞いた事ないわね」

アビゲイル「それに何か、とても綺麗な鐘の音が聞こえるわ。教会のものとは違うけれど、でもそれに通ずる様な、厳かで美しい鐘の響き」

山の翁「何用か。新たなる英傑よ」

アビゲイル「ぴゃっ!」

アビゲイル「ごっ、ごめんなさい!別にお邪魔をする気は無かったの。その、時間を持て余していたから少し冒険心が湧いただけで」

山の翁「怯えるな新参者よ。山の翁、汝と同じ、契約者と縁を繋ぐ英霊の一人である」

アビゲイル「山の……翁?」

山の翁「我に名は無い。呼び易い名で呼ぶが良い。我が契約者からは"キングハサン"の呼称で親しまれている」

アビゲイル「……鐘の音が好きなの?」

山の翁「無論。晩鐘の導きこそ天命の兆しである。特に信心深き教徒ならば尚の事、鐘には神命を告げる意図がある事を知るだろう」

アビゲイル「キングハサンさんも熱心な教徒様なのね。お互いに信じる神様は違うけれど、どんな神様だってきっと熱心な信仰には答えてくださるわ」

山の翁「汝は異教徒ではあるが、信心深き清教徒である様だ。正道とは信ずる神の善し悪しではなく、信徒の心の正邪である。故に汝の無垢さは正しき道を歩むだろう」

アビゲイル「ありがとう。往年の信者様からお褒め頂けるなんて光栄だわ」

山の翁「時に尋ねるが、汝が契約者の召喚に応じた理由は何だ?」

アビゲイル「何故って、マスターさんに会いたかったから、では駄目かしら?」

山の翁「……良い。気にするな」

アビゲイル「???」

立香「ああ、アビー。ここに居たのか。って、キングハサン?珍しいね。予想外の組み合わせだな」

アビー「余暇を持て余していたところ、話し相手になってくれたのよ。最初はその、少し驚いてしまったけれど、話してみればいい人だったわ」

立香「へぇ。実はキングハサンって意外と面倒見が良い方だったり?」

山の翁「我に善人の謗りは適当では無い。偏に、幼き教徒に信心の深淵を解く事もまた、信徒の為すべき試練である」

アビゲイル「色んな世界の信仰を教えてもらったわ。勿論、キングハサンさんの信じる神様の事も。勧善懲悪も殺しが関われば罪だけれど、自分から必要悪を受け容れるなんて私には出来ない事だわ」

山の翁「決して見習わぬ事だ。神命に応じ、天命の元に首を断つ。その行いが正義であれ、如何なる理由であれ、良心の呵責なく他者を殺める事は紛れも無く罪であり、罰せられるべき悪徳である」

立香「オレにとっては二人とも凄い事に変わりないけどね。多分、怠け者のオレだとそこまで敬虔な信徒にはなれないからさ」

山の翁「要は心の在り方である。信仰する神格の高さ、信仰の頻度。それらは他者が判断する目安に過ぎぬ故、大事では無い」

アビゲイル「本当に信仰心が深いのなら、聖書が無くても、祈りの言葉を知らなくても。その心根が正しく清い限り神様に届く。うん、キングハサンさんの考え方はとっても元気が出るわ。私の信じる神様にもそういう容でいてほしいもの」

立香「神様、かぁ。ウチのサーヴァントに個性的なのが多いせいで、親しみこそ感じる事はあっても敬おうって気持ちになった事は少ないな。たまにはイシュタルとかパールヴァティとかにプレゼントでもあげようか」

アビゲイル「まぁ!このカルデアには神様までいるの?」

立香「それはもう、善神から悪神まで様々だよ。ちょっと人の体を借りてたり、腹黒い性格してたりするのもいるけど。一緒に来る?」

アビゲイル「ええ!もちろん!」

カルデアでの日々は、とても楽しいわ。

戦う事は恐ろしいし、世界を救う戦いなんて私には荷が重過ぎるし、マスターとの旅路は決して良いものばかりではないけれど。

好き。

私は、こうしてみんなと幸せに暮らせる事が。

明日未来を失ってしまう恐怖に、みんなで立ち向かっていける事が。

こんなにも愛しくて尊いものだなんて、今の今まで気付かなかったわ。

私はこの為にカルデアにやって来た。

きっと、ラヴィニアも来れば喜ぶはずよ。

私は……私は。だから。

やめて。私を、責めないで。私は、違う。魔女じゃない。

わ、たし、は。

イ……ヤ……い、あ。

たすけて。

たすけて。

山の翁「そうだ。漸く、己の望みに気付いたか。アビゲイル・ウィリアムズ」

アビゲイル「……キングハサンさん」

山の翁「汝は信心深い清教徒である。その心根は正に純真無垢。例え外なる神に陵辱された内面であろうと、汝はまだ純心を喪ってはいない」

アビゲイル「私は、自分が自分で分からないの」

アビゲイル「英霊がどの様に召喚されるのか、それはマスターとサーヴァントが契約を結ぶまで分かりはしない」

アビゲイル「かの騎士王が聖剣を携えた様に。聖槍を携えた様に。私を私たらしめる"アビゲイル・ウィリアムズ"のどの側面が切り取られたのか。全てか。或いは一部か」

山の翁「……」

アビゲイル「私は、少なくともセイレムでの出来事を覚えているわ」

アビゲイル「そして、私がアビゲイルである以上、"アビゲイルが辿るであろう全ての末路"がこの霊基に刻まれている」

アビゲイル「知ってるわ。私、魔女なんでしょう?私のせいで何百人もの人々が魔女に仕立て上げられたわ。何人も処刑されたわ。分かるの。並行世界の私が、犠牲者を告発して高らかに笑う姿が」

アビゲイル「セイレムの件だって。私の中に外なる神がいる事だって。全部私がアビゲイル・ウィリアムズなのがいけないんだ」

アビゲイル「私がいる限りみんな幸せにはなれないから、私は……生きてちゃいけなかった……」

山の翁「それが望みか。汝は自身の存在を完膚無きまでに消失させる為召喚に応じた。外なる神すら抑圧する、我が契約者の胆力を信じて」

アビゲイル「出来る訳がない。優しいマスターさんは、きっと私を殺せない」

アビゲイル「……私を、殺して。キングハサンさん」

山の翁「????請け負った」

アビゲイル「い……あ、いあ」

山の翁「最早心根すら侵食され始めたか。汝ほど清らかに人を愛した者はそう居らぬ。人類悪が人類愛の裏返しであるならば、汝ほど美しい獣性を持つ者は稀有だ」

山の翁「冠位無き今、理すら断つ死の宣告は遺棄された術理に過ぎぬ。だが、我が暗殺剣に些かの衰えも無し。天命は下った。信仰深き一人の少女に、死を以って慈悲を下す」

アビゲイル「死は、明日、への」

山の翁「希望なり」

アビゲイル「ふ、ふふ…」

山の翁「死を迎えられる喜悦か。或いは死を与える慢心か」

アビゲイル「どちらでもないわ。もう、私はアビゲイルじゃない。私は魔女。私は一にして全。全にして一。私こそが、全てなのよ」

山の翁「……む」

アビゲイル「貴方が死を恐れぬ幽谷の亡霊だとしても、その身はただのサーヴァント」

アビゲイル「何の変哲もない、こんな触腕で心臓を一突きにするだけでもう貴方は霊体を保てない」

アビゲイル「哀れね。せめてもの慈悲として、マスターにその骸は見せない様にしてあげる。門の外、永遠に観測者の訪れない外なる世界で事象と同化するが良いわ」

山の翁「……架空神性、ヨグソトース」

山の翁「否。今一度、汝に問う。アビゲイル・ウィリアムズ」

山の翁「汝の望みは何だ」

立香「アビー!」

アビゲイル「あれ?マスターさん?どうして、ここに」

ホームズ「いやぁ、参った。ラヴクラフト著の架空神話、クトゥルフ神話だなんて、どこぞの黒髭海賊や引き篭もりお姫様が好みそうなとんだオタク文化だ」

ダ・ヴィンチ「人の想像が及ぶぐらいの事なら、強ち世の中何が起こってもおかしくないんだろうねぇ。人理焼却の件から規格外の事が起こりすぎてもう慣れっこだ」

ホームズ「しかし、ヨグソトースが万能で助かったよ。一にして全、向こうからあらゆる干渉が無条件で働くと言えば絶望的に聞こえるが、何の事はない。全てと連結しているのなら、その逆である我々の干渉も通じなければ嘘だ」

マシュ「アビゲイルさん!私が、分かりますか?私を、覚えていますか?」

アビゲイル「マシュ、さん」

立香『意外とアビゲイルは子供っぽいんだねぇ、って、まだ子供だったか』

マシュ「戦いごっこ、それもまた、人々の心を掴む芝居の一つです。アビゲイルさん、また、即興劇が必要ですか?」

アビゲイル「無理よ。無駄よ。私を殺せば、全て終わるのよ。私が。魔女なんだから……!」

立香「そういう趣向と設定らしいよ。悪いけどキングハサン、付き合ってくれるかな」

山の翁「元よりそのつもりだ。児戯と侮るなかれ、悦楽を司る遊興もまた、心の成育の兆しである」

山の翁「我が霊基、幾度の崩壊を迎えようと」

立香「オレが何度だって魔力を回す。この劇は、喜劇で終わらなきゃ嘘なんだから」

山の翁「晩鐘は汝の名を指し示した。清廉なる魔女、アビゲイル・ウィリアムズ"ではなく"。その内に巣食う浅ましき悪神よ。聞くが良い」

山の翁「告死の鐘。首を断つか!死告天使????!」

アビゲイル「たかがサーヴァント一人の一撃で外なる神が破れる訳……」

ホームズ「破れはせずとも相殺する。君は全てなのだろう?我々も全ての一部だ。そうして一度、セイレムで退いた事を忘れたかい?」

ホームズ「ヨグソトースには良心も悪心もない。いわば無垢。完全なる全智の記録。それがアビゲイルを浸食するというのならば、そこにはベクトルを付加する何かしらの要因があるとしか考えられない。そうだろう、"魔神柱"?」

アビゲイル?「おお、お、の、れ」

マシュ「アビゲイルさんを浸食する悪い何かが、消えていきます!何もかも!」

山の翁「これが、アビゲイル・ウィリアムズの真の望みであったはずだ」

立香「殺してほしい、だなんて。真逆なのにね。本当は、"助けて欲しかった"んだ」

~数日後~

アビゲイル「キングハサンさん!遊びに来たわ!」

山の翁「何用だ新参者よ。この晩鐘廊に容易く訪れるものではない。充実した時を迎えるならば、同年代の子供達と時を過ごせ」

アビゲイル「そうするわ!」

ジャック「おかあさん!」

ナーサリー「どちらかと言えばおじいさんじゃない?」

茶々「じじい髑髏剣士とか厨二過ぎなんだけど!」

不夜城のアサシン「不遜過ぎてびっくりするー!」

ジャンヌサンタリリィ「暗殺者にもプレゼントは必要です。所で、そろそろクリスマスなのでこの去年余った大量の期限切れケーキを靴下に入れて……」

山の翁「うぅおおおおお!!」




ダ・ヴィンチ「アビゲイルのやつ、容赦がないな。ヨグソトースの触腕で惜しげも無く翁をバシバシ叩いてるよ」

ホームズ「はは。揉みくちゃにされて羨ましい限りじゃないか。生半可なサーヴァントなら五度は死んでるダメージだろうね」

ダ・ヴィンチ「しかしまさか、アビゲイルがヨグソトースを完全に使いこなせる様になるとは予想外だった」

ホームズ「元より素質があったのさ。あり得ないと言うなら架空の神性が人間に宿る事こそ不可解だ。その起因たる魔神柱も滅したのなら、彼女に懸念はない。これからは頼もしいサーヴァントとして強力な戦力となってくれるだろう。不安要素があと一つあるにはあるが」

ダ・ヴィンチ「ん?」

ホームズ「まぁ、立香君が直に解決するだろうさ」

アビゲイル「……」

立香「やあ。カルデアにはもう慣れた?」

アビゲイル「……うん」

立香「元気無いね」

アビゲイル「幸せよ。私はとっても幸せ。
だからこそ、ラヴィニアにも、この場にいて欲しかった……」

立香「……」

アビゲイル「ここから見える箒星は、きっと綺麗なんでしょうね」

立香「未練は残る。悔いは消えない。恐らくは一生、楽しいと思う陰に故人の影がチラついていく。オレも、そうだからね」

アビゲイル「マスターも、別れたお友達がいるの?」

立香「友達、と言うには大分歳上だけど、うん、そうだね。親友と言っても差し支えないヤツだったよ、あいつ」

アビゲイル「寂しくない?」

立香「オレもアビーと一緒で、楽しいと思う度に心が軋む。でもあいつがいてくれたお陰で今があるし、あいつ自身も、自分のせいで誰かが暗い顔をするのは良しとしないと思うんだ」

立香「だからアビーにも落ち込むな、とは言わない。何度だって思い出して、何度だって泣けばいいと思う。けど、自分を責める事はやめた方が良い。アビーが幸せだと思う時、心の底から笑顔を見せる事。泣く顔よりもきっと、そっちの方が見たいはずだからね」

アビゲイル「……マスター。私、カルデアでこれからも頑張っていく」

アビゲイル「迷える時も、苦難の時も、楽しい時も、泣きたい時も私がマスターとみんなを守るわ。私が得たこの力で、守られるばかりじゃなく、守る私になりたいもの」

マスター「期待してる。また」

アビゲイル「ええ、今度は、マスターも一緒に箒星を見ましょう」




~fin~

短いですが終わりです
セイレムの主題歌と、山の翁とアビーのキャラが好きなので書きました
じじロリは良い文明

読んでくださる方がもしいたならありがとうございました

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