( ´_ゝ`) カツアゲ弁当のようです (24)



 初めて興味を持った料理は、豚カツだった。我が家で食卓に並ぶ豚カツと、他所で食べる豚カツはどこか違っている。幼いながらに疑問に思った。

 母者に疑問をぶつけると、顔をほころばせて母者は答えてくれた。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 流石は我が息子だね! うちの豚カツにはちょっとした工夫があって――

 それからというもの、母者が台所に立つと、俺は傍にいって調理を観察するようになる。これが俺の趣味の原点だった。

 最初は母者の手伝いから。次に包丁を持って食材を刻む。煮物、揚げ物を練習して、おかずの一品を任される。高校生の今では弁当を自作するようになった。

 さて、今日は何を弁当のメインにしよう。昨日の晩飯の余りがあるので、おかずには困っていない。しかし、せめて一品だけでも今から作りたい。

( ´_ゝ`) 冷蔵庫になにかあるかな? ……お、これは!

 そうだな、これならメインにふさわしい。さっそくの油の準備をしよう。  



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 熱した油が衣のついた豚肉から水分を飛ばしていく。その際に跳ねた飛沫が、俺のエプロンに染みを作った。

(´<_`;) おはよう、兄者――うわ、朝から揚げ物かよ!

( ´_ゝ`) おはよう。しかも豚カツだぞ。ふふふ

(´<_`;) ええ……流石だな兄者……

( ´_ゝ`) まあ、弁当のおかずなんだけどな

(´<_` ) なんだ、弁当のほうだったか。けど、豚カツかぁ……いいなぁ! うん、いい!

 弟者がなにごとかを想像しながら、一人で頷いている。次になにを言い出すかは予想がついた。

(´<_` ) 兄者。今日は俺の分の弁当も作ってくれよ!

( ´_ゝ`) 残念ながら、豚ロースが一枚しかなかった

(´<_` ) 役立たずが

( ´_ゝ`) 俺が火を扱っていることを忘れるなよ弟者




(´<_` ) はぁ、なんで豚肉一枚しかないんだよ。兄者も俺の分を買ってくれててもいいだろうに

( ´_ゝ`) 別に俺が用意したわけじゃないぞ。冷蔵庫にあったのを使ってるだけだし

( <_  ) 

 俺の言葉を聞いて、なぜか弟者が身を固くした。そして、

( <_  ) それ、母者が父者用に残してたんじゃね?

(  _ゝ )

 俺も全身が固まった。

 いや大丈夫だろ。だって名前とか書いてなかったし。こういうのはプリンと同じ扱いでいいでしょ。だって名前書いてなかったし。

( ´_ゝ`) まあいいや。母者が気づく前に学校行こ

(´<_` ) 流石だな兄者





 時間はすっかり過ぎて、昼休み。俺は授業が終わると、かばんから弁当を取り出して教室をあとにした。目的地は体育館の裏だ。

 道中、弟者とすれ違い一言二言交わす。

(´<_` ) ぼっち飯か

( ´_ゝ`) 弁当の時は一人で食べたいからな。誰にも邪魔されず、独りで静かで豊かで……

(´<_` ) 豚カツだけ置いてけ

( ´_ゝ`) ふざけろ




从 ゚∀从 お前美味そうなもん食ってんなぁ?

 なんでこうなったんだろ

( ´_ゝ`) いや、本当全然美味くないんで……

从 ゚∀从 あ? これ豚カツだろ? 不味いわけねーだろ

( ´_ゝ`) 豚カツ風玉ねぎなんで……

从;゚∀从 た、玉ねぎ!? こんな縦長い玉ねぎあんの? 知らなかった……

( ´_ゝ`) 豚に決まってんだろ

从#゚∀从 ぶっ飛ばすぞお前!

 ああ、弟者との門答でついた癖のせいで、つい。




 かっとなった不良が俺に接近する。殴られるかと警戒し、とっさに顔をそむけた。しかし、どれだけ待ってもなにも起こらない。

 片目を開けて不良の様子を見ると、片膝をついて呻いている。

从  ∀从 ぐっ……腹が減って力がでねえ……

( ´_ゝ`) 情けないアンパンマンだな

 このまま立ち去り、別の場所で昼飯を再開することもできる。ただ、このアンポンタンも少しだけ気にかかった。空腹の辛さは万人共通であり、同情を禁じ得ない。

 そしてもう一つ立ち去らない理由。調理を趣味にしてから、ずっと気になっていたことがある。

从# ∀从 ぐぬぬ……なんだよ、笑いたければ笑え! 

( ´_ゝ`) あのさ、よければ弁当食べる? 

从 ゚∀从 なに!?

 俺の作った料理は、家族以外が食べても美味いと感じるのだろうか。





从 ゚∀从 兄者はいるかー!?

 教室の引き戸を開けて、ハインが叫んだ。周りからの視線が一斉に俺へと集まる。

从 ゚∀从 お、へへへ! いるじゃねえか。ちょっと来いよ!

( ´_ゝ`) 分かった、分かった。あと三十分待てよ

从;゚∀从 昼休み終わるじゃねえか! おら、さっさと行くぞ

 ハインに引きずられて教室から退場する。不安そうに俺を見る友人たちへ、ピースサインを作ってみせた。




从 ゚∀从 ほら、早く持ってきたもん出せよ

( ´_ゝ`) これで勘弁してください……

 今か今かと待ちわびるハインに、俺は財布を差し出した。

从#゚∀从三三つ))_ゝ`)

从;゚∀从 お、お前マジでやめろよ! 誰か見てたら誤解されるだろ!

(#)_ゝ`) ちょっとしたジョークなのに

从;゚∀从 お前のジョークは洒落にならないんだよ……

 女の拳ってあんまり痛くないな。じゃあ、母者って女じゃないのかな。



从 ゚∀从 それよりほら、もうすっごい腹が減ってんだよ! 頼むぜ!

( ´_ゝ`) はいはい。ハインちゃんったら、せっかちなんだから

从#゚∀从 ちゃん付けやめろ

 ハインのも文句を無視して、俺は持ってきたかばんから二人分の弁当を取り出した

从*゚∀从 これこれ、ひゃっほーい!

 弁当箱を天にかがげ、大げさにハインは喜んだ。彼女に微笑ましさを感じつつ、俺も自分の弁当を手に取る。そして、

( ´_ゝ`) いただきます 

从 ゚∀从 まーす!

 昼食が始まった。





 不良こと高岡ハインに弁当を渡したあの日。彼女は男用のそれなりに量があるメニューを、ぺろりとたいらげてしまった。

从*゚∀从 すっげー美味い! 俺、こんな美味い飯食ったの初めてだわ!

从*゚∀从 お前、名前は? 兄者か。兄者は料理人にでもなんの? なるんだろ? この美味さだもんな!

 ハインは矢継ぎ早に弁当の感想を喋り、俺を褒めたたえた。特に俺の気をよくしたのは、

从*゚∀从 一番美味いのは豚カツだな! なんか、普段食ってる総菜の豚カツとは全然違うわ。なんで?

 幼少のころに感じた俺の感想を、ハインも口にしたことだった。



 それから天狗になった俺はハインにおだてられるまま、彼女用の弁当を作ることを約束した。連絡先を交換し、弁当がいる時は前日にメールを送ってくる。そういう手はずとなった。

从 ゚∀从 これ、今日の弁当代な。今は持ち合わせがないから、足りなかったら後で言ってくれ。じゃあな!

 五百円を握らされ、その日の俺は放課後に上機嫌で帰宅した。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) なにか言うことは?

( ´_ゝ`) すみませんでした

 俺は五百円を差し出した。目の奥に火花が飛んだあと、その日の記憶は終わる。





 ハインとの昼食は週にニ、三回程度の頻度で続いた。時折メールで弁当の内容に希望を出されたりもする。その通りにすると、彼女はいっそう喜んだ。

从*゚∀从 うおっ、このシューマイ手作りじゃん! 兄者ってなんでも作れるのな

( ´_ゝ`) それ餃子だぞ

从;゚∀从 マジ? ご、ごめん……

( ´_ゝ`) こっちこそ嘘ついてごめん……

从#゚∀从 その意味分かんねー嘘やめろ!

 ハインとの昼食は楽しいものだった。

 なんといっても女子だしな。まあ、上下ジャージだけど。髪もなんか金髪だし、短いし、あんまり好みじゃないな。やっぱなしで!

从 ゚∀从三三つ))_ゝ`)

(#)_ゝ`) なんで?

从 ゚∀从 失礼な波動を感じた




从 ゚∀从 うちの両親さ、弁当作ってくれないんだよな

 ある日。ハインは弁当を食べ終えると、珍しく感情を静かに語り始めた。

从 ゚∀从 子供のころから二人とも忙しくて、朝からいないことがほとんどだった。

从 ゚∀从 朝飯は晩飯の残りかコーンフレークが用意してあって、昼飯は書置きと一緒に五百円が置いてあんの。これで買って、とさ

从 ゚∀从 中学校でみんなが弁当食ってる中、俺一人だけコンビニ飯だぜ? 友達は気にしなかったけど、俺はなんか嫌だった

从 ゚∀从 晩飯の時は父さんか母さんがいるから、その時弁当を作ってくれって頼んだんだよ。そしたら、ごめんねって謝られた

从 ゚∀从 それからだな。髪染めたり、授業サボったりするようになったの。馬鹿みたいだろ? 弁当作ってほしくて、不良やり始めたなんて

( ´_ゝ`) 馬鹿丸出しだな

从#゚∀从 続けるぞ

(#)_ゝ`) はい




从 ゚∀从 それで、だ。その日、俺は昼飯を買い忘れて、腹の減りを紛らわそうとふらついてた

从 ゚∀从 そこでお前と出会った。弁当を食った。すげー美味かった

( ´_ゝ`) 小学生の作文みたい

从#゚∀从つ

( ´_ゝ`) どうぞ続けてください






从 ゚∀从 ともかくな、俺は感動したんだよ。兄者の弁当に! 弁当ってやっぱり良いもんだと思った!

从*゚~从 それで、その……俺にも、したいことができたというか……

 そこでハインは口ごもった。流暢に言葉をつむいでいた唇をもごもごと動かし、たっぷり一分かけてから口を開く。

从///∀从 母さんと父さんに、弁当を作ってあげたいんだよ。だから、俺に料理を教えてください!

 顔を真っ赤にしながら、ハインは律儀に頭を下げる。俺は間もなく、頷いた。




「えー、今日は母さんが弁当作んの?」

 んだよ、不満か?

「だって、いつもは父さんが作ってんじゃん。母さん料理できないんだろー」

 あのなー、俺、じゃなくて私だって、父さんから料理を習ったんだぞ!

「本当かよ……じゃあ今日の弁当、なに弁当なの?」

 ふっふっふ、今日の弁当はな、母さんが父さんから初めてもらった弁当、

从 ゚∀从 ――その名もカツアゲ弁当を作るぞー!



( ´_ゝ`) カツアゲ弁当のようです 从 ゚∀从
                        おしまい


カツアゲ弁当って単語が頭に浮かんだので書いた

依頼出してくる

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