ぼく「おじいちゃんが行方不明になっちゃった」 (17)


画面の前のあなた、こんにちは。

あ、驚きましたか。ぼくにはあなたのことが見えるのです。



お元気ですか。あ、あまり元気そうじゃないですね。

実はぼくもあまり元気じゃないんです。



なぜなら、おじいちゃんが行方不明になっちゃったから。


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このことは、お父さんお母さんとも話し合いました。

家族が行方不明になったなら、警察に届けるべきです。



でも、警察に届けると物事が一気に大げさになってしまうし、

ひょっこり帰ってくることも十分考えられるので、警察に届けるのはやめました。

おじいちゃんを信じて、しばらく様子を見よう、ということになりました。


かといって何もしないというのも落ち着きません。あ、そうだ。

あなたはおじいちゃんがどんな人かまったく知らないですね。失礼しました。

ぼくのおじいちゃんがどんな人かを紹介しましょう。



ぼくのおじいちゃんはお父さんのお父さんで、家で一緒に暮らしています。

奥さん、おばあちゃんもいたのですが、元々心臓が弱いのが災いしてか、

入浴中に亡くなってしまいました。



葬式中、ぼくは大いに泣き、おじいちゃんは悲しみのあまり怒ってました。


おじいちゃんはぼくにはとても優しいです。甘いです。



一緒にお出かけすると、いつも必ずおもちゃを買ってくれます。

子供心にいいのかな、と思ってしまうほどです。

ただ、勘弁してほしいのは、必ず品物を値切ろうとすることです。

しかも、値切り方がなかなか乱暴なのです。



いつだったかも店員さんに食ってかかって、かかりすぎて、大騒ぎになってしまいました。

ぼくは顔から火が出るほど恥ずかしかったです。


それと、おじいちゃんはよく料理をします。



若い頃は本気で料理人を志した時期もあったらしく、腕はプロ級といっても過言ではありません。

特に魚をさばかせたりすると、それはもうかっこいいのです。



ただし、それがたたってお母さんの料理に容赦ない酷評を浴びせることもあります。

まあたしかに、お母さんの料理はあまりおいしくないけど。

そのせいで、おじいちゃんとお母さんはあまり仲がよくありません。


おじいちゃんの口癖は「近頃の若いもんは~」です。

分かりやすいでしょう。



散歩をしながら、テレビを見ながら、ことあるごとに「近頃の若いもんは~」と腹を立てます。

もう70を過ぎたおじいちゃんにとって、今の若い人たちはさぞかし未熟で頼りなく見えてしまうのでしょう。



だけど、これはお父さんから聞いた話なんだけど、

若い頃のおじいちゃんは「近頃の年寄りは~」が口癖だったらしい。

これを聞いた時、ぼくは笑ってしまいました。


そのくせ、おじいちゃんは流行に弱い。



あの≪ポケモンGO≫にも真っ先に飛び付きました。

ぼくはいまいちハマれなくて、すぐやめてしまったけど、おじいちゃんは今もやってます。

目当てのポケモンがなかなか出てこねえんだよ、

イベントやるならもっと近くでやってくれよ、としょっちゅう怒ってます。



スマホを片手に怒鳴ったり目を血走らせたりしてるおじいちゃんは、なかなか見ものです。


他におじいちゃんが好きなものといえば、お相撲だ。

これはおじいちゃんっぽいでしょう。



夕方頃になるとテレビにかじりついて、お相撲の中継を見ます。

取り組みを見ながら、何やってる、そうじゃねえよ、投げ飛ばせ、と大声を出すのです。

贔屓のお相撲さんが負けると、とたんに機嫌が悪くなります。

この時ばかりは、さすがのぼくもおじいちゃんには近づきません。



おじいちゃんのお相撲愛はすさまじく、お相撲の世界でなにか悪い出来事があって、

テレビの中の人がなにやら相撲界を批判してた時は、怒り狂ってました。


おじいちゃんの紹介はこんなところです。



ここまで読んで下さったあなたなら分かると思うけど、

ぼくのおじいちゃんはとても気性が激しいです。

すごく怒りっぽいのです。

そこらへんを歩いてる人を怒鳴りつけることもしょっちゅうなのです。

でも、ぼくにとっては優しい大切なおじいちゃんなのです。


だけど、おじいちゃん、最近はなんだか様子がおかしくなってきました。

見知らぬ人に怒鳴りつけるどころか、殴りつけることもするようになったのです。

ちょっとしたことで、どころか理由がよく分からないことも多いのです。

お父さんとお母さんにいわせると、“ボケ”が始まりつつあるようです。



今までは殴りかかられた人が、運動神経がよかったり、面倒くさがりだったりで、

大きな事件に発展することはなかったのですが、

このままではいつか警察沙汰になってしまうんじゃ、というのが心配です。



おじいちゃんが行方不明になったことで、心配していることも、まさにそれなのです。

今こうしている間にも、おじいちゃんは誰かに腹を立ててる可能性があるのです。

殴りかかる可能性があるのです。


しかも、さらに悪いことに、今日おじいちゃんは料理をしていました。

魚をさばいてる最中にいなくなってしまいました。



これがどういうことかお分かりですか?

おじいちゃんは包丁を持ったまま、ということなのです。



お父さんとお母さんはさすがにまだ包丁で人を刺すほどボケてはいないよ、といってますが、ぼくは心配です。

一刻も早く、おじいちゃんを見つけなければ。


あっ、こんなぼくの祈りは神様に通じたようです。



おじいちゃんが見つかりました。

包丁を手に、目と顔を真っ赤にしたその様子は、まるで昔話に出てくる赤鬼のようだけど、

とにかく見つかってよかったです。

ほっとしました。



え、おじいちゃんがどこにいるかって?


ほら、あなたの後ろに……。










― 終 ―

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