【ミリマス】白石紬「彼女の笑顔はミリオンドル」 (15)

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それはここしばらくの間を実家で過ごしていた私が久々に劇場へ顔を出すことのできたある日のことです。
開口一番と申しましょう。私たちのところへやって来た茜さんはいつにも増した爛漫さで。

「おっはようプロちゃんいい朝だね! こういう爽やかな一日の始まりは、グッドニュースで迎えたいとは思わない?
実は! あるのだ! そんなニュースが! さてさて一体それはなんでしょーか?」

と矢継ぎ早に言葉を捲し立て。

「ハイ残念ですけど時間でーす! 正解は、なななんと! 今あなたの目の前に立っている超絶美少女プリティーアイドル
野々原茜ちゃんのたーんじょーうびーっ!! ハッピーバースデー茜ちゃん! お誕生日おめでとう茜ちゃん!!

さあプロちゃんよ、財布の紐を緩める準備はオーケーかい? 明日は朝から晩まで盛大に! ド派手に! ゴージャスに!
天使茜ちゃんの生誕を祝って祝って祝いまくるのだーっ♪」

などと身振り手振りも交えて大変な盛り上がりよう。
対するプロデューサーと私はと言えば、朝から食卓に特盛のカツ丼を振る舞われた胃弱な人の如く顔を曇らせつつ。

「……あー、そうな、誕生日な」

「本当ですか? それはおめでとうございます」

「もうもう二人とも元気ないよー? ほらほら、テンション上げて行こ?」

「いや、別段暗いつもりは無いんだが……」

「どちらかと言えば、茜さんが元気過ぎるのではありませんか?」

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なるべく言葉は濁しながら、それとなくこちらの意思を相手に伝えようと試みた次第なのでありました。
つまり、一言で言うならば――。

「あれあれあれれ? 茜ちゃんは今日もうるさいぐらいに元気だね!」

そう、騒がしかったのです。彼女の後に続いて来た、麗花さんが見事に私たちの心を代弁してくださいます。

「ところでプロデューサーさん、今日のお仕事なんですけど」

「ん、麗花と紬の『ちょっとそこまDay(デー)ー♪』……先週はオフィス街グルメの散策が、
途中からハイキング番組に変わったが――」

「高原で食べたタコスサンド。とっても美味しかったですね♪」

「うん、確かに美味しかったけど。今日こそ予定通り進行してくれよ? ……それじゃ、二人とも準備してくれ」

「はい」

「はい!」

「はいはーい!! ストップストップちょっと待ってー? 軽ーくスルーされてるけど、たった今茜ちゃん、
結構重大な発表したんだよね。それが何かと問われれば~……ズバリ! カワイイ茜ちゃんのめでたいめでたい誕生日っ♪」


ですが、プロデューサーは茜さんには目もくれずポケットから車の鍵を取り出すと。

「じゃあ俺、車回してくるから」

「だったら茜ちゃん助手席ね!」

「今日の目的地は商店街。いつもお世話になってるあの辺だ」

「ナビゲートだってバッチリだよ! 何てったってこの日の為に流行りのケーキ屋さんの場所は調べ上げて――」

「だから、まぁ、二人にとっては知らない場所じゃないワケだし、ある意味ホームと言っても差し支えない――」

「ホール? だよね! やっぱり誕生日ケーキはホールでドーンとタワーにして――」

「……おい茜」

「うんうんなーに?」

「う・る・さ・いぞ、さっきからぁっ!!」

遂に我慢の限界が来たのでしょう。怒りを抑えるようにして彼女の頭を鷲掴みます。

「誕生日? めでたい! 良かったなっ!! けどこっちは今から仕事なの!
お前だってレッスンがあるだろうに、こんなトコで油売ってる暇があるのか、えええ!!?」

「イタ! いたたたっ! ギブギブギブ!! それ撫でてない、撫でてない、撫でて無いから!!」

「撫でられたいなら手を焼かすな!! ほら、さっさと行った行った!」

プロデューサーの手が離れると、茜さんは痛みを堪えるように両手を頭に添えました。
それから少し涙目で、彼のことを下から睨みつけ。

「プロちゃんの鬼! 悪魔! 冷血漢!! 麗花ちゃんたちの送迎途中、警察に切符切られちゃえ!!」


捨て台詞一つをその場に残し、部屋から走り去って行ってしまいました。
それにしても、いくら茜さんの自己主張が激し過ぎたとはいえ――。

「……紬、なんか言いたそうだな」

「私はただ……茜さんにたいして、少々当たりが強いのではと」

思った疑問を口にすると、彼は疲れた顔をして言ったのです。

「アイツの誕生日今日じゃない」

「……は?」

「だから、アイツの誕生日今日じゃないの!! パーティしてやるって伝えたら、三日前からあのテンション!」

「えぇっ!? で、ですが、それならあの喜びようは……?」

戸惑いながら訊き返すと、代わりに答えたのは麗花さんでした。

「茜ちゃんああ見えて心配性だから。当日になって『やっぱりパーティは開かない』とか――」

「ドッキリでしたーって言わせないために、過剰過ぎる程のアピールをしてきてるんだ」

「それは……難儀なサガですね」

「ああ、まったく難儀難儀……。それじゃ、二人とも出掛けるぞ」

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さて――劇場での騒動も落着し、麗花さんと二人、通い慣れた商店街へとお仕事に参った私たち。

「麗花、紬、今のところはオッケーだ。じゃあ俺は、これから別の現場に向かうから」

 番組収録の休憩中、プロデューサーは呼びつけた私たちの顔を見比べると。

「……麗花、紬をサポートしてくれよ? 紬の方も、麗花をちゃんと見張っててくれ」

「大丈夫! 私にバッチリ任せてください♪」

明るく答えた麗花さんが、私を後ろからハグして続けます。

「紬ちゃんと一緒にスマイルスマイル♪ みんなが笑顔になるような、素敵な番組にしますから」

「うぅむ、自信があるだけにちと不安だが……。でもまっ、紬も麗花に負けないように、番組を笑顔で盛り上げて行ってくれ!」

「……それはつまり、ダメ出しでしょうか。私には笑顔が足りてないと?」

「違う違う! 笑顔は足りてる、足りてるから、その調子で楽しみながら仕事をしてくれってことさ」

「プロデューサー……今度は言うに事欠いて、お仕事を遊び半分にこなせなどという指示を!?
それほどまでにあなたは、私を不真面目なアイドルだとスタッフの皆さんに印象づけたいと言うのですか……?」

「言ってない! だから、そういう意味じゃなくってだな――」


少々認識の食い違いはありましたが、現場を発ったプロデューサーを見送ると、私たちは撮影を再開したのでした。

今回、麗花さんと尋ねたのは劇場と事務所のちょうど相中に位置する商店街。
その立地の便利さ故に、私たち765プロのアイドルも立ち寄る機会の多い場所であります。

何を隠そう私自身、ここには贔屓にさせて頂いている美味しい和菓子の店があり……。

「へぇー、ここが紬ちゃん行きつけの『豪華堂』?」

「はい。今回こちらの商店街を訪ねると話に聞いた際、是非とも紹介したいお店ですとスタッフさんたちにも――」

「なるほどなるほど……こんにちはー!」

ですが、少しは待って下さい!! 私が止める暇もなくお店に入って行かれる麗花さん。
こっちはまだお店の紹介をしている途中だったのに……もう、なんなんホント、この人は!

「凄い凄い! 店内一面和菓子だらけ!!」

「それは当然ではありませんか? こちらの豪華堂さんは和菓子作りの老舗でして、以前から『西の塩見に東の豪華』と――」

「見てみて紬ちゃん! この雲平ってお菓子なんだけど、どこからどう見ても鳴門だよね♪」

「れっ、麗花さん! 話はしっかり聞いてください!!」

「貴音ちゃんのラーメンに乗せてみたら、気づかずペロリと食べちゃうかも……」

「麗花さん!」

けれども慌てる私を一人置き、撮影は順調に進んでいく。
なんでもこの番組の視聴者には、自由奔放な麗花さんに振り回される私の姿が受けてるのだとかなんだとか。

……く、うぅ、私は笑い者にされるためにアイドルになったワケじゃない。
なのに、こんな風に私を困らせるお仕事ばかり持って来る、あの人の考えてることが分からない!


「紬ちゃん、紬ちゃん。ここにあるお菓子なんだけど――」

そんな風に、自らの身の上に対する思いを巡らせていた時です。
麗花さんが私の肩を叩きながらあるお菓子を指さし尋ねました。

見れば、それは半透明の容器に入れられた私もよく知る菓子の一つ。

「和三盆プリンだって! ……ここ、和菓子屋さんなのに」

プリンの並べられたカウンターのショーケースに顔を貼りつけるようにして、麗花さんが疑問符のついた言葉を放ちます。

まるで幼子のような彼女に店員さんはやれやれと言った様子の苦笑い。
私はそんな麗花さんの体をゆっくりケースから引き剥がすと。

「別段珍しいことではないのでは? チョコレートを大福に入れた和菓子があるように、
プリンを挟んだどら焼きもこの世には存在します。そんな中、和菓子屋が洋菓子の一つや二つ扱っていても――」

「すみません、ここにあるプリン全部ください♪ ……あ、領収書のあて名は765プロで!」

「麗花さん、またですか!? 前回も勝手に買い物して怒られたばかりじゃありませんか……!」

「でもでもお土産にいいかなって。それにほら、今日、事務所に帰ったら――」

悪びれもなく振り返ると、麗花さんはにこやかな笑顔で言いました。

「一生懸命レッスンした、プリンが大大だーい好きな茜ちゃんが待ってるだろうから♪」


ああ、ああ、参ります。

その行動原理が優しい心遣いから来ていることが分かるゆえに、私も強く反対することはできなくて。

「……ダメです、麗花さん」

「えっ、ダメ……かな?」

「はい。プリンだけでは事務所の人数を賄うことはできません。ここは他にもいくつか買い揃え、プリンは選択肢の中の一つへと」

「そっか、そうだね! 紬ちゃんナイスアイディアだよ♪」

「な、撫でられたって喜びませんよ? ……では、改めて商品を選ぶことにしましょう」

結局、撮影が終わる頃には大量の和菓子を持ってプロデューサーの迎えを待つこととなった私たち。
ですが、話はこれで終わりではなかったのです。

「……それでまぁ、大量の和菓子がここにあるワケだが」

劇場へと帰る社用車の中、運転中のプロデューサーが助手席に座る私をチラリ一瞥して言います。
もちろん私の膝の上には、豪華堂で買い求めた和菓子の入った袋があり。

「プロデューサーさんも流石ですね! このゴージャスセレブプリンって、
行列に並んでも買えないことがあるぐらい人気のプリンなんですよ?」

後部座席の麗花さんがはしゃいだ様子で彼に言います。その手には有名洋菓子店の箱が。
中身は先ほど言われた通り、人気スイーツランキングでも常に上位を占めるセレブプリン。

……ええ、もちろん劇場に戻ってから、皆さんと一緒に分けました。
特に茜さんは二種類のプリンを頂いて、非常にご満悦な様子。

「うーん、茜ちゃん愛されてるー♪ あ、この調子でプロちゃんは、
明日のパーティでもーっと茜ちゃんを喜ばせないとダ・メ・だ・ぞー?」

普段は少々騒がしくとも、この屈託の無い笑顔を前にすると多少のワガママは許せてしまう。
これも人徳のなせるワザと言うべきでしょうか。……私も彼女の明るさを、見習いたいと思うこの頃です。

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以上おしまい。誕生日前日には間に合いませんでしたが茜ちゃん誕生日おめでとう!

そして、今回の主役のハズなのに出番の少なかった野々原茜ちゃんに『ウザカワイイー!』できる新曲、
『AIKANE?』が収録された『THE IDOLM@STER MILLION LIVE! M@STER SPARKLE 04』は12月6日発売です!

茜ちゃんの歌唱妙技に思う存分酔いしれろー! では、お読みいただきありがとうございました。

茜誕生日おめでとう
乙です

>>1
白石紬(17)Fa
http://i.imgur.com/mWVrTMQ.jpg
http://i.imgur.com/Gr28eIH.png

野々原茜(16)Da/An
http://i.imgur.com/C8wzRtG.png
http://i.imgur.com/kjpnJAQ.jpg

>>2
北上麗花(20)Da/An
http://i.imgur.com/s5rv5wf.jpg
http://i.imgur.com/L5lc5a1.jpg

『AIKANE?』
http://m.youtube.com/watch?v=d355olYYkBc

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