八幡「最近奉仕部の椅子が湿ってる……」 (36)

八幡「うす」

雪乃「こんにちは」

結衣「やっはろー」

 普段通りの挨拶を交わし、定位置に腰を下ろす。

 別に何ということはない日常の一幕。

 だがその中に、些細な、されど見逃せない一つの違和感が存在した。

八幡「……ん?」

 腰を下ろした椅子と接触している部分から感じる、かすかな湿り気。

 明らかに椅子が濡れているわけではない。

 しかし、梅雨の日の外気のような、じっとりとした湿り気が、確かに感じられてしまう。

 別に服自体が濡れているわけではないのだが、不快指数は割と高めだ。

八幡(なんだこの感触……)

 しかしこんなことをわざわざ二人に聞くのも気が引ける。

 俺は背中に感じる感触を気にしないように努めて、普段通りに本を読み耽るのだった。

八幡(……今日も湿ってる)

 日は変わって月曜日。

 金曜日の椅子の湿り具合で言えば、月曜日にもなれば確実に乾いているはずなのだが、しかしその感触は消えてはいなかった。

 別に座っているのに耐えられないというほどの湿り方ではないのだが、しかしこの椅子に座っているのはどうにもすわりが悪い。

 心なしか貧乏ゆすりの回数が増える。

 暫く本を読んでいると、よくよく考えれば椅子を変えれば済む話だということに気が付いた。

 俺は読んでいた本をたたみ、隅の方に積んである椅子を適当に引っ張り出して、いつもの椅子と交換した。

 雪ノ下は訝し気な目でこちらを見てくる――と思ったら、特に気にすることなく優雅に紅茶を嗜んでいる。

 由比ヶ浜が携帯をいじりながら、ちらちらとこちらの様子を窺ってきたので、俺は言い訳をするように言った。

八幡「すまん。この椅子ちょっとすわりが悪かったんでな、他の椅子と交換してただけだ」

結衣「そっ、そうなんだー。ごめんね、ちらちら見て」

八幡「いや、俺もなんも言わずに変えてたからな。気になるのはしゃーないだろ」

雪乃「…………」

 由比ヶ浜と会話をしている間も、雪ノ下は終始無言だった。
 
 普段なら口の一つも挟んできそうなものを、どうにも様子がおかしいように思う。

 よく見ると頬がちょっと赤いし、風邪か何か? 
 
 由比ヶ浜も同じように頬を染めている。


 別に照れるような話もしていないと思うんだが……。

 俺は首を傾げながら、また本を読んで時間をつぶすのだった。

八幡(……またか)

 水曜日。
 
 二度あることは三度ある、とでも言おうか、この湿り椅子事件もいよいよ三度目を迎えると、疑問を通り越してうんざりしてくるものだ。

 今度は暫く座っておくこともなくすぐに椅子を交換する。

 そのまま本を読むふりをして、この事件について考察することにした。

 
 まずこれは悪意を持ってなされているのかどうか。

 これについてはNOと言えると思う。

 もしも悪意を持って嫌がらせをするのなら、椅子を湿らせる程度では済まないはずだ。

 まあ最低でも椅子をずぶ濡れにしたり、画鋲をテープで張り付けたりくらいのことは平気で行われるのがいじめというもの。

 この程度ではイジリの範疇にすら入らないと思う。

 次に偶然の事故という可能性。
 
 さすがに三回も同じような現象が起きて偶然もクソもないとは思うのだが、まあこの可能性も無きにしも非ずだろう。

 アホの由比ヶ浜あたりはなんか同じ失敗繰り返しそうだし。

 最後に外部犯の犯行なのかどうか。

 先日の二人の反応からして、二人が少し怪しいと思う部分もあるのだが、これについては断定はできない。

 会話の中の別の部分が琴線に触れたのかもしれんし。

 しかし、最も疑わしいのがこの二人だというのは事実である。

八幡(とりあえず話題を振ってみるか)

 俺は本を閉じて、二人に問いかけた。


八幡「なぁ、最近俺の座っている椅子が良く湿ってるんだが、なんか心当たりとかないか?」

結衣「ひぇっ!?」

 おいなんだその悲鳴は。怪しいにもほどがあるぞ。

結衣「そ、そーなんだー。あれじゃない? 雨漏りとかじゃない?」

八幡「どんだけピンポイントで雨漏りしてんだよ……」

雪乃「……そもそもあなたの椅子が湿っているという認識が間違いなのではないかしら? あなた自身が分泌する粘液がそう感じさせるだけだと思うわ」

八幡「おい、人をなんか気持ち悪い生物みたいに扱うのやめろ。粘液なんか出せないから。出せるとしたら汗ぐらいだから」

結衣「と、とにかくあたしは知らないなー。うん、知らない」

雪乃「…………私も知らないわ」

 由比ヶ浜は超目逸らしてるし。

 雪ノ下は謎の長い長い沈黙があったし。

 もうアレだな、超怪しい。

 しかしこいつらが挙動不審だからと言って犯人だと決めつけるのは早計ではある。

 とりあえずもう一週間ほど様子を見てみることにした。

 と、言う訳で。

 一週間ほど様子を見てみたわけだが。

八幡(……なんで頻度が下がるどころか上がってるんですかねぇ)

 先週の水曜日までは、二日に一回というペースで起こっていたこの事件だが、なぜかその日から椅子が湿っている頻度が上がった。

 最後の方はもはや座る前に椅子を交換していたまである。

 やっぱこれいじめなの? 別に精神的ダメージも何もないけど。ちょっとうっとおしいくらいだけど。

 とはいえ、塵も積もれば山となる。

 いい加減に少しイライラしてきたので、俺は小町に相談してみることにした。

八幡「なぁ小町、少し相談があるんだが」

小町「んーなになに? コイバナなら大歓迎だよっ?」

八幡「そんな色っぽい話じゃなくて悪いが……」

 この二週間弱で起こった出来事を手短に話す。

 小町はその話を聞いて、呆れたように目を細めていた。

小町「えー、何その地味な話。小町的にポイントひくーい」

八幡「小町ポイントの事はどうでもいいけど、どうにかならねぇかなコレ」

小町「それくらいなら別にほっといてもいいくらいじゃないの?」

八幡「いやまぁそうなんだけど、毎日続くと意外にウザいんだよこれが」

小町「……雪乃さんと結衣さんを問い詰めてみるとか」

八幡「何度かカマは掛けてみたんだけどな、キョドりはするもののするっと逃げられてそのまんまって感じだ」

小町「うーん……」

 小町は暫く腕を組んで考えた後、何か策を思いついたようで、ピン、と指を立ててこちらに向き直った。

八幡「……それがこんな作戦かよ」

 そんなわけで翌日、朝。

 俺は小町の立てた作戦を決行していた。

 教室の隅、椅子と机で隠れたスペースに、ビデオカメラを設置する。

 コンセントをどうするかという問題はあったのだが、よくよく周辺を探し回ると埃をかぶった差込口が見つかった。

 適当に位置を調整して、教室を出る。

八幡「……朝七時に学校に来て何やってんだ俺は」

 というかこれ普通に犯罪だよね?

 ばれなきゃ犯罪じゃないという名言もあるにはあるが……。

 まぁ、いざとなったら防犯のためという言い訳を使って適当に言い逃れよう。

 小町はもう少し限度を考えようね。

 部室にカメラを仕掛けているという普段なら考えられない状況に、自然とそわそわしてしまいながら一日を過ごす。

 教室を出て行くときや奉仕部の部室に入る時、あまりにもキョロキョロしすぎて由比ヶ浜や雪ノ下から虫を見るような目で見られた。

 そんな犯罪者を見るような目で見るのやめてくれよ、って実際ほぼ犯罪者だったわ。認めちゃうのかよ。

 あ、ちなみに椅子は相変わらず湿ってました。

 そして今日も無為な一日が終わり、奉仕部の施錠の時間になったとき、俺は平静を装って雪ノ下に提案した。

八幡「あ、今日は俺が戸締りしとくから、先行ってていいぞ」

雪乃「……あなたが積極的に雑用を申し出るなんて、怪しいわね」

八幡「施錠しようとするだけで疑われちゃうのかよ……」

結衣「でもゆきのん、今日はこのあと買い物行く予定だったし、ヒッキーにお願いしたほうがいいんじゃないかな?」

 ガハマさん、ナイスアシスト。

 その言葉を受けて、雪ノ下は一つため息をついて、鍵をこちらに手渡してきた。

雪乃「……それでは、お願いするわ。鍵の返し方は分かるわよね?」

八幡「ああ、問題ない」

結衣「それじゃお願いね、ヒッキー」

 俺は二人の背中を見送った後、教室の隅のカメラを回収し、いそいそと帰宅の途につくのだった。

 帰宅すると、小町が夕食を作って俺を待っていてくれた。

 生姜焼きをおかずにご飯を掻き込みながら、小町と今日の事について話す。

小町「それで、どうなったのお兄ちゃん?」

八幡「ん? まあ、後でビデオ見てみるつもりだ」

小町「小町も一緒に見てもいい?」

八幡「いや、一応あいつらのプライベートが映ってるし、ちょっとな……」

小町「でもでもー、小町とお兄ちゃんはもう共犯者じゃないですか。げっへっへー」

八幡「……それを言われると弱い」

 まあどうせ大したものは映っていないだろうし。

 そんな安易な考えで、俺は小町と一緒にビデオ鑑賞をすることと相成ったのだった。

八幡「つーか小町、なんでこんな斜め下の方法にしたんだ? 採用した俺もアレだが」

 ビデオカメラをパソコンに接続しながら、小町に問いかける。

小町「ん~? 小町はお兄ちゃんの悩みを解決してあげたかっただけだよ? あっ今の小町的にポイントたっかいー!」

八幡「……本当のところは?」

小町「ほんとだよー? たまたま偶然二人のガールズトークとか聞けないかなー? なんて全然思ってないよー?」

八幡「そっちが主目的なのが丸わかりなんだよなぁ……」

 ゲスの勘繰りというやつか。

 この愚妹はヤジウマ根性も座ってて困る。

 適当なソフトを立ち上げると、動画が再生される。

 いきなり俺の顔のアップが映って、正直自分でもビビった。

小町「うわっ……キツ」

 小町よ、そのガチっぽい声のトーンで言うのはマジで傷つくからやめてね。
 
 俺も自分でキツいと思ったけど。

八幡「めちゃくちゃ長尺だから、とりあえず飛ばし飛ばし見るか

 朝の七時から夕方の六時ぐらいまでカメラを回しっぱなしだったため、再生時間は11時間弱というエラいことになっている。

 とりあえず、昼休みぐらいまで飛ばし飛ばしで再生してみる。

 まあ、無人の部屋が延々と映し出されてるだけだったんだが。

 チャイムが鳴り、場面は昼休みに移り変わる。

 少しして、雪ノ下と由比ヶ浜が部室に入ってきた。

結衣『さっ、ごはんたべよー! もうおなかペコペコだよー』

雪乃『ええ、そうね』

 二人は弁当箱を広げると、和気藹々とした会話を繰り広げながら食事を始めた。

 その内容は、普通の世間話や、勉強の愚痴など、多岐にわたる。

 由比ヶ浜が次々と話題を振り、雪ノ下が微笑を浮かべながら受け答えをする。

八幡「何と言うかアレだな、普段と変わらんな」

小町「裏表がないってことなんだからいいことじゃん?」

八幡「……まぁ、そうかもしれんけど」

 これでボロクソに悪口とか言われてたらさすがの俺でも凹むぞ。

 ここで、先ほどまでにこやかに話していた由比ヶ浜が、訝し気な顔で呟いた。

結衣『そういやゆきのん、今日ヒッキーがめっちゃキョドってたんだけど何か知らない?』

小町「……お兄ちゃん、そんなに挙動不審だったの?」

八幡「いやしゃーねぇだろ、カメラとか仕掛けてたんだし」

 一歩間違えば盗撮犯だぞ。間違わなくても盗撮犯だけど。

 雪ノ下はそれはそれは素敵な笑顔を浮かべると、由比ヶ浜に返答を返した。

雪乃『由比ヶ浜さん、比企谷君が挙動不審なのはいつもの事じゃない。気にするほどの事でもないわ』

結衣『そっかー……それもそうだね』

小町「雪乃さん……正直だ……」

 君達ちょっとひどくない?

 俺だって普段からはそこまで挙動不審じゃない……こともないかもしれないけどさ。

 暫くして食事が終わり、二人は弁当箱を片付け始めた。

小町「ん~あんまりめぼしい話はなしか……ちぇっ」

 はいそこうるさい。

 片付けが終わった後もしばらく話していた二人だったが。

雪乃『ごめんなさい、少し席を外すわ』

結衣『うん、わかったー』

八幡「なるほど、トイレか」

小町「うわー……お兄ちゃんデリカシーなさすぎ……」

 なんで女子言葉をちゃんと解読したのに蔑まれてるんですかね? 理不尽じゃないかな。

 雪ノ下がすっと教室を後にしたのを見送って、由比ヶ浜はカップの紅茶を飲み、一つため息を吐いた後、制服の上のボタンを外し始めた。

 ……いやちょっと待て。

八幡「待て待て待て待てこれはまずいだろ」

 慌てて一時停止ボタンを押す。

 え? なんでボタン外してるのこの子。別に奉仕部の部室って暑くないよな? むしろ寒いくらいだよな?

 てかこんな場面が映ったら言い逃れ出来ないガチの盗撮犯じゃねーか。

八幡「あ、あれだ、鑑賞は中止だ。さすがにこれは限度を超えてる……」

小町「だ、ダメだよお兄ちゃん。まだ原因分かってないんだから」

 動画を閉じようとした俺の手を、小町が引き止める。

八幡「待て話せ小町。お前は兄を盗撮犯にしたいのか」

小町「その時は小町も一緒に捕まってあげるから大丈夫だよ! それより小町の予想が正しければ……たぶん……」

 何この子カッコイイ。何一つ大丈夫じゃないけどね。

 その後暫く問答を続けた後、俺はついに折れて、動画の続きを見ることになった。

 この動画の事は口外厳禁であるという固い約束を一応結んで。

 ……すまん、由比ヶ浜。でも正直俺も好奇心には勝てなかったよ……。

 震える手で再生ボタンを押す。

 画面の中で再び動き始めた由比ヶ浜は、ボタンを上三つほど外すと、ゆっくりと俺の椅子の方へと移動し始めた。

 そのまま、椅子の背もたれを抱きかかえるように着席すると。

結衣『……んっ……///』

 どこか艶っぽい声を、部室の中に響かせ始めた。

八幡「や、やっぱダメだろこれは。小町の教育に悪――」

小町「お兄ちゃんは静かに!」

 ピシャリ、と言い切られて、すごすごと引き下がる。

 そんな言い合いの合間にも、由比ヶ浜の行為は更に先に進んでいた。

 左手は制服のスキマから胸に、右手は下半身に向かって伸び、それぞれ控えめに動き、彼女の性感を高めている。

 暫くその動きが続くと、淫靡な響きを孕んだ水音が、徐々に聞こえ始めた。

小町「ひ、ひゃあぁ……///」

 小町は知り合いの女性の艶姿に、頬を赤くしながらも目が離せないでいる。

 かく言う俺も、普段は純真な彼女の淫らな姿に、感じないものがないとは言いきれない。

 てかぶっちゃけ同級生の自慰を見て感じるものが無かったらもはやあちらの人だろ。

 これ以上見るのはまずい、と頭で分かってはいるのだが、妹に押し切られて仕方なく……という大義名分を得てしまっているので、動くこともしないまま動画は先へ進む。

 由比ヶ浜は、頬を赤く染めて、小さく浅い呼吸を繰り返しながら、行為に耽っている。

結衣『んっ……きもちい……///』

 手が性感帯をまさぐるたびに、身体がビクビクと跳ねて反応を示している。

結衣『ダメだってわかってるのに……ごめんね、ヒッキー』

 申し訳なさそうな声色で小さく呟きながらも、行為は止まらない。

 胸は円を描くように、秘所は下から上へと擦り上げるように、控えめな動きが続いている。

 興奮が高まったのか、由比ヶ浜は胸元のネクタイを緩め、制服の上を大きくはだけさせた。

 そのまま、カメラのレンズが向いている方に向き直って座る。

八幡「うお……」

 小さく声が漏れる。

 彼女の乱れた姿が真正面から映し出されたからだ。

 赤く上気した頬とどこか焦点のあっていない瞳も、自己主張の強い大きな胸も、しとどに濡れた秘所も、そのすべてが映ってしまっている。

 由比ヶ浜は、無論そんなことには気づくはずもなく、行為を再開させた。

 
 

 こうして考えると、盗撮というのがいかに卑劣な行為かということがよく理解できる。

 相手のプライベートを、無遠慮に、一方的に覗くことができてしまうからだ。

 だが、最低なことだと分かっていても、目をそらすことが出来ないのが悲しい男の性分。

結衣『あっ、んっ……』

 上をはだけたことで、少しタガが外れたのか、由比ヶ浜の手の動きが少し大胆になってくる。

 控えめに動いていただけの手の動きが、少し乱暴さを感じるほどに大きな動きに変わってきた。

結衣『先週……ヒッキー絶対気付いてたよね……』

 由比ヶ浜はとろん、とした瞳で、先週のことを思い返している。

 その間も手の動きは止まらない。

結衣『ヒッキーに……こんなことしてるの気付かれちゃったら……///』

 すまん、気づくどころか絶賛鑑賞中だ。

 由比ヶ浜は、ゴクリ、と一つつばを飲み込むと、背中に手をまわして、ピンク色の可愛らしいブラを外した。

 圧倒的な質量を備えた双丘と、ツン、と上を向いた、綺麗な桜色のつぼみが露わになる。

小町「ひゃー……おっきい……///」

 小町よ、お前は何処へ向かっているんだ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年12月06日 (水) 01:19:54   ID: JlIa8mX2

続きを

2 :  SS好きの774さん   2017年12月28日 (木) 15:48:34   ID: phehlyNp

続きをください

3 :  SS好きの774さん   2017年12月30日 (土) 15:48:08   ID: Yj4D8TqB

アホビッチの痴態なんて誰が得すんだよ
エタったままでいいわこんなもん

4 :  SS好きの774さん   2018年01月28日 (日) 00:06:34   ID: r5Q_fpfN

※3
ホモかな?

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