Pの姉妹はトレーナー!【アイドルマスターシンデレラガールズ】 (391)

両親が事故で亡くなってから僕の人生は変わった。

麗「今日からわたしたちは姉弟だからな」

親戚である青木さんちの長女『麗』がそう言った。

聖「私のこともお姉ちゃんって呼ぶんだぞ!」

次女の『聖』は鋭い目つきで言ったものだから、僕は怖くなって、頷いた。
聖姉ちゃんは満足げだったと思う。

明「あ、わたしも! わたしもお姉ちゃん!」

三女『明』も食いつくように身を乗り出した。
僕が呼ぶのを渋っていると泣き出しそうだったので、慌てて明姉ちゃんと呼んだ。

慶「お兄ちゃん!」

それだけ言って抱き付いてきたのが末っ子の慶ちゃんだ。
僕はよしよしと頭を撫でて、目いっぱい可愛がった。

それから月日が流れて、俺も晴れて社会人二年目を迎えた。
先日、明姉ちゃんの24歳の誕生日を祝い、暑い時期が今年も訪れる。

俺、『青木詠』は姉妹たちと同じ、346プロダクションで働くプロデューサーだ。
アイドル部門の担当で、元気な新人アイドルを任されることになった。

姉たちは346プロの専属トレーナーで、アイドルのレッスンを指導している。つまり嫌でも顔を合わせることになる。さすがにこの歳で姉同伴というのは恥ずかしかったりするのだが、当の姉たちは気にしていない様子。

妹の慶ちゃんも大学で勉学に励むかたわら、アルバイトとして346プロダクションに来ては姉やアイドルのサポートをしている。

会社の先輩からはシスコンとなじられたりする。正直に言うと嫌だ。
まあ、シスコンはあながち間違いではないのだが……。

それは置いといて、明日の朝も早い。
俺はたまたま、姉妹との馴れ初めを思い出して感傷に浸っていたのだが、明日の仕事のことを考えて就寝することにした。

就寝時刻は22:00だった。

夢を見ていたかもしれない。

『……て……きて……お……て……』

聞き覚えのある声が耳元に届いてきたと思ったら突風に襲われた。

詠「うわっ!」

突然のことに驚いて目が覚める。
目の前には掛け布団を高々と掲げる明姉ちゃんの姿。どうやら引っぺがしたらしい。
今は夏だが、これを冬にやられると寒いのだ。

明「起きた!」

布団を持ったまま小声で言うと、にこりと笑う。

詠「起きるよ!」

明姉ちゃんに合わせて小声で返事をする。

今は朝の5時。
彼女の出勤時間はなんと朝の9時。ちなみに俺はもっと遅い。

この時間に起こされる理由は明姉ちゃんの趣味と関係がある。
いや、今となっては趣味というか日課に近い。

明「30分で用意してね」

詠「りょーかい」

俺はこれから彼女と出かけるのだ。
もちろんショッピングなんかではない。店も開いてないので。

俺は言われた通り30分以内で用意を済ませる。
下はランニングタイツにハーフパンツ、上はスポーツウェア。

明姉ちゃんはもう準備バッチリだった。
ランニングタイツとショートパンツを穿いており、ややぴっちりしたボーダーのウェアとシンプルなデザインのキャップを着用。髪は後ろでまとめている。

2人で玄関へ行き、色違いだが同じランニングシューズを履いて外へ出る。
明姉ちゃんの指導でストレッチを行い、ランニングするのだ。
もうお分かりだろうが、明姉ちゃんの趣味とは早朝ランニングだ。

3年くらい前にこの趣味に誘われてから毎朝一緒に走ってる。
雨の日にはご丁寧に防水グッズ一式を装備させられる。
俺は、明姉ちゃんが独りで走る姿を想像してしまい、同情して一緒に走るうちに毎朝の日課となってしまった。

ところで早朝は車の通りも少なく、なかなか気持ちのいいものである。

明「詠くん」

詠「何?」

明「最近どう?」

詠「普通だよ」

明「担当してる子売れそう?」

詠「さぁ? 彼女たち次第かな」

明「詠くんもしっかり支えてあげなきゃいけないよ」

詠「そりゃあ……もちろん」

そんな仕事の話をしながらランニングをする。

鬱陶しく感じる湿気と気温。まさしく夏を告げている。

明「ただいま」
詠「ただいま」

帰ってきたのは朝の6時を少し過ぎた頃。

明「お帰り」
詠「お帰りなさい」

他の姉妹たちから『ただいま』の返事は無いので、俺と明姉ちゃんはお互いで返す。
ちょっとしたおふざけだ。

明「シャワー浴びてくる」

詠「おう」

明「覗かないでね!」

詠「覗かねぇよ!」

明姉ちゃんはにこにこと満足そうにバスルームに向かって行った。
俺をからかうのが好きらしい。

俺は起きてくる姉妹たちのためにも朝食作りを始める。
それと並行して弁当も作るのだ。

家事全般は青木家に引き取られたときからの、なんというか、恩返しのつもりで始めたことだった。

ちなみにうちは姉妹4人と俺で暮らしてる。
職場が同じなので同じ場所に住んでるのだ。
そこそこ広く、俺も一人部屋を持っている。姉妹たちは二部屋を二人ずつで使ってる。もちろん俺の部屋よりも広い。

両親はというと、栃木に住んでいる。
早く孫の顔が見たいと言っていた気がする。

俺がちょうど料理を作り終えた頃、リビングと廊下を繋ぐ扉が開かれた。

麗「おはよう、詠」

詠「麗姉ちゃん、おはよう」

一番上の姉ちゃんだ。
きちんと身だしなみを整えてからやってきた。
上はスポーツウェア、下はスパッツにショートパンツ、機能性の靴下を着用していてスポーツのインストラクターって感じだ。

麗姉ちゃんは美しい所作で椅子に腰かけると俺の方をチラッと見る。

麗「いただきます」

麗姉ちゃんの真っ直ぐな眼で見られると、いつもドキッとしてしまう。

詠「どうぞ……召し上がれ」

麗姉ちゃんは黙々と食べ始めた。

明「麗ちゃん、おはよう」

しばらくするとシャワーを浴びた明姉ちゃんが戻ってくる。
かかった時間からして、おそらく湯船にも浸かったらしい。明姉ちゃんの身体から湯気のほかほかが見える。
上気した頬や濡れた髪を少し色っぽいと思い、慌てて目を逸らした。

俺と明姉ちゃんも食卓を囲む。

明「いただきます」
詠「召し上がれ」

明姉ちゃんも俺の顔をチラッと見てから食べ始める。

朝食を食べていると廊下の方から扉を開閉する音が聞こえてきた。
この扉の開け方は聖姉ちゃんだろう。

聖「おはよ……」

寝ぼけ眼をこすりながら、麗姉ちゃんとは対照的な格好で入ってくる。

詠「おはよう……聖姉ちゃん、だらしないよ」

聖「詠~、着替えさせてよ」

そう言って後ろから俺に抱き付いてくる。
若干はだけたパジャマが目に毒で、聖姉ちゃんの顔もすぐ横まで近づくので少なからず意識してしまう。

麗「バカ言ってないでさっさと食え」
明「自分でやりなよそのくらい」

聖「冷たくない?」

詠「とりあえず離れてくれ」

聖「しょうがないな」

渋々、といった様子で聖姉ちゃんは俺の隣に座って箸を取った。

聖「いただきます」

詠「どうぞ」

聖「ん、美味しい」

詠「そう、ならよかった。ところで、慶ちゃんは?」

明「いつも通り」

慶ちゃんは大学生になってから生活ペースが変わり、バイトの無い日はどこをほっつき歩いてるのか帰りが遅くなってしまった。
この前はベロベロに酔って帰ってきたりもした。まだ19歳だから心配でしょうがない。

この前なんかは携帯も繋がらなかったので、夜中にあちこち探し回った。
結局見つからず、俺が朝起きてもいなかったので本気で警察に届け出ようかと思ったものだ。
警察署に行こうと家を出たら玄関の前で慶ちゃんが寝ていたという事件は記憶に新しい。

麗「慶のやつ、たるんでるな」

詠「まあまあ、学生なんてそんなものだって」

本当は超心配だけど……。

聖「お前も帰り遅くなったり、生活が乱れたりでお姉ちゃんたちを泣かしてたもんな」

詠「……すみません」

聖姉ちゃんの言う通りなので俺も強く言えないわけである。

聖「別に責めてるわけじゃないんだが? お前が帰って来ないのが心配で全然眠れなかったくらいだから大したことないんだが?」

詠「ごめんって」

ねちねち責めてくる聖姉ちゃんを少し鬱陶しく思いながら、過去の出来事を改めて反省した。

無断で丸一日家に帰らなかったことがあった。
帰った時、四姉妹に泣かれて生活を改めることにしたのだったか……。

麗「もう以前のことはいいだろう」

聖「あの時は心の底から心配したな」

麗「女々しいぞ。当時も家事はある程度やってくれてただろ」

麗姉ちゃんがフォローしてくれる。女神だ。
けど、当時の俺は朝起きれなかったので家事はほとんどやってません。すみません。

明「私は、大学生って暇なんだなーって思った」

詠「おっしゃる通りです」

明姉ちゃんはフォローしてくれない。大学生の俺を見て、だらしないやつだと思ってたに違いない。きっとイライラもしてたはずだ。

麗「まあ反省してるから今の詠があるわけだし、いいじゃないか」

麗姉ちゃんはやっぱり優しい。

こうして雑談を交えつつ食事を終えた俺は食器を台所に持って行ってシンク内で洗う。

詠「じゃあ慶ちゃん起こしてくる。食べ終わったら食器、台所に置いといて」

明「起こすの早くない?」

詠「今日は確か1限って言ってたから」

聖「何で知ってるんだよお兄ちゃん」
明「シスコン」

詠「うるせー。聖姉ちゃんはさっさと準備しろ」

リビングから廊下に出る。
後ろから2人の、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
またからかわれた。

俺は慶ちゃんの部屋の前で立ち止まる。
慶ちゃんは明姉ちゃんと同じ部屋だ。
その向かいの部屋が麗姉ちゃんと聖姉ちゃんの部屋。
俺の部屋はリビングに隣接してる。

俺はコンコンと2回ノックをして慶ちゃんの名前を呼ぶ。
当然というべきか、返事は無い。

詠「入るぞ」

控えめに断りを入れてドアを開ける。

中断します。
続きは数日後に投下します。

慶「……」

スースーと寝息を静かにたてている。
昨日も遅く帰ってきて、きっと就寝時間も遅いだろう。
起こすのは正直忍びないが、これも妹のため……。心を鬼にして慶ちゃんの肩を揺すった。

詠「慶ちゃん、起きろ。今日1限だろ?」

慶「ぅん……うぅ……」

慶ちゃんは唸るだけで起きようとしない。

詠「起きろー!」

早朝の明姉ちゃんよろしく布団を引っぺがす。

徐々に慶ちゃんの瞼が開かれる。
完全に開くことはなく、目を細めたまま俺のことを認識したらしい。

慶「おはよ……お兄ちゃん……」

彼女はすっと体を起こして、ベッドの上で座り込む体勢になった。

詠「おは……」

今更ながら慶ちゃんの格好がとんでもないことに気付く。
この妹、下着だけで寝てたらしい。

俺は顔に熱が昇ってくるのを感じた。

詠「ばっ……! 慶ちゃん、ちゃんと服を着なさい!」

慶「ふぇ?」

慶ちゃんから顔を逸らす俺。
自分の姿を確認する慶ちゃん。

慶「きゃっ!」

慶ちゃんは隠すように自分を抱く。
俺は慌てて手に持ってた掛け布団でベッドに座る慶ちゃんを包んだ。

詠「ご、ごめん。次から気を付けるよ」

慶「……べ、別にいいよ。気にしてない」

いや、「きゃっ!」て言って隠したじゃん、と思ったが黙ることにした。

慶「……どうしたの?」

しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは慶ちゃんだ。

詠「いや、慶ちゃん今日1限って言ってたろ? だから起こしに来たんだけど、こんなことなら姉ちゃんに頼めばよかったな」

慶「ううん。お兄ちゃんが来てくれて嬉しいよ」

にこっと笑う慶ちゃんは可愛くて、シスコンが加速してしまいそうだ。

慶「それに私の時間割、憶えててくれたんだ」

詠「ああ、起きれなくて遅刻とか欠席が重なったら困るだろ?」

慶「ありがと、優しいね」

詠「普通だよ普通。早く学校行く準備するんだぞ?」

慶「うん」

詠「あと風邪ひくから、その……し、下着だけで寝るのは……」

慶「はい、気を付けます……」

生活が乱れたのは確かに気になるけど、慶ちゃんは俺の言うこともしっかり聞いてくれるし、良い子であることに変わりはない。

詠「おう、じゃあまた後でな」

そうして部屋を後にしたのだが、動悸が大変なことになってしまった。
妹相手にドキドキしたことが恥ずかしいし、背徳的な気持ちになってしまう。自己嫌悪だ。

リビングに戻ると、聖姉ちゃんと明姉ちゃんが様子の違う俺を見てまたからかい始めたりする。

聖「おや? 詠、まさか妹に手を出したんじゃないだろうな……」
明「えー! さすがに引くよ? シスコンくん」

詠「うるせー。聖姉ちゃんは早く準備してこいって」

俺がそう言うと、やっぱり二人は笑うのだった。

慶ちゃんもばっちり目が覚めて、身支度を終えた姉妹四人は同時に出かけた。

麗姉ちゃん、聖姉ちゃん、明姉ちゃんは自分らの職場へ。
慶ちゃんは通っている大学へ。

出勤時間がみんなよりも遅い俺は、洗濯や掃除など、家事をする。
だいたい九時半くらいにはすべて終わるので、ちょっと身だしなみを整えてから家を出る。

さて、やってきました我が職場346プロ。

一年目はマネージャーの仕事を主にやってきた俺だが、今年からプロデューサーとして新人アイドルを三名預かることになった。
活発な女の子たちで、彼女たちとはすぐに打ち解けられた。

担当の少ない俺にはマネージャーは付かないらしい。

今日の予定はどうだったかと考えながら、アイドル部門の事務所に向かう。

詠「おはようございます!」

蓮「おう」

実に短く返事をくれたのは『渋谷蓮』さん。去年度、俺は彼の部下としてマネージャーをやっていた。思いやりがあってかっこいい人だ。

葉月「おはようございます」

優しい口調の彼女も俺の先輩で、蓮さんの同期である『島村葉月』さん。
黒髪ロングの美人さんで、しっかり者だがちょっと天然という可愛らしい一面もある。

面白いことに二人とも実の妹をプロデュースしてるのだ。
蓮さんの妹さんは半分俺のせいだけど……。
葉月さんは「私以外の人に妹をプロデュースさせません!」なんて言ってたっけ。

ちなみに蓮さんの妹さんは『凛』ちゃんで、葉月さんの妹さんは『卯月』ちゃんという名前だ。

彼女たちは現役高校生なので、会うのはきっと夕方からだ。

俺の担当するアイドル三人も高校生なので、先輩の妹さんたちと仲が良かったりする。

特に大きな報告もなく朝礼は終わり、早速仕事を始める。

詠「蓮さん」

蓮「何だ?」

詠「この企画書見てもらっていいですか?」

蓮「どれ……」

と言って受け取ってもらう。ぺらぺらとレジュメをめくり、一通り目を通し頷いた。

蓮「いいんじゃないか?」

にっと笑って「頑張ったな」なんて言葉をかけてくれる。
俺は嬉しくなってちょっと顔が綻んだ。

葉月「詠くん。私にも見せてもらっていいですか?」

葉月さんの笑顔が眩しい。
俺は断る理由も無いので「どうぞ」と言ってレジュメを渡した。

詠「どうですか?」

葉月「いいと思います! 詠くんの成長は目を見張るものがあります。私もうかうかしてられません!」

詠「そ、そんな……俺はまだまだですよ」

まさかのべた褒めで顔から火が出そうになった。

そんな感じで企画書作ったり、営業に行ったり、電話かけたり、報告書書いたり……。
あっという間に夕方になった。

これからアイドル達とミーティングしたり、ダンスや歌をチェックしてどういう感じで売り出すのか模索していくつもりだ。

「おはようございまーす!!」

元気に挨拶して現れたのは俺が担当するアイドルの『日野茜』ちゃん。

「おっはよープロデューサー!」

親しみを込めた近い距離感で挨拶してくれるのが『本田未央』ちゃん。

「おはようございます」

ゆるふわな雰囲気を纏ったおっとり系の『高森藍子』ちゃん。

この3人でユニット『ポジティブパッション』を組んでおり、俺は彼女たちのために、ひいては自分のために、どう売り込むか日々頭を悩ませるのだ。

詠「おはよう。今日も元気だね」

未央「いやいや、何言ってるのさプロデューサー! 私たちはまだ女子高生だよ!」

茜「そうですよプロデューサー!! 元気が一番です!!」

藍子「ふふっ! 私は2人ほどじゃないですけど、一緒にいるとこっちまで元気になれる気がします」

藍子ちゃんの言ったように3人の雰囲気が他人に伝播していって、俺もすっかり疲れが飛んだ気がする。

詠「それはよかった。その様子じゃあレッスンも難なくこなせそうだ」

未央「うえっ! それとこれとは話が違うっていうか……」

複雑な表情をする未央ちゃん。前回のレッスンでこってり絞られたのは間違いなさそうだ。聖姉ちゃんあたりだろうか?

茜「未央ちゃん! そんなことではいけませんよ!! 気合があれば何でもできます!!」

藍子「それはちょっと無理があると思うけど……」

一瞬で未央ちゃんの元気が砕け散ったんですけど……。
思春期の女の子は難しい。

詠「未央ちゃん。聖姉ちゃんは厳しいけど、レッスン終わったら俺がご飯連れてってあげるから頑張れ!」

未央「ホント!? 約束だよ! よっしゃ、やるぞー!」

茜「おお! 未央ちゃんのやる気がっ!!」

藍子「私たちもいいんですよね?」

詠「もちろん。何食べたいか相談しといて」

こうして3人はにこやかにレッスンへと向かった。
意外と単純なのかなぁと思いつつも、やる気になってくれたので結果オーライとした。
3人の「行ってきます」の言葉に俺は「行ってらっしゃい」と返した。

安請け合いするみたいにご飯奢るって言ったけど、あんまり高いものは嫌だなー。なんてケチなことを考える。

蓮「詠、お前担当の子たちと仲良いよな」

詠「え、そうですかね? 普通ですよ」

蓮「俺と凛を見てそんなことがよく言えるな」

詠「……なんかすみません」

蓮「何でお前がスカウトしてきたのに担当は俺なんだよ……上も融通が利かないな」

詠「おっしゃる通りです」

蓮「島村は妹と仲良いよな」

葉月「まあ渋谷くんよりは良いですよね。青木くんもお姉さんたちと仲良しですし」

なんて兄妹談義をしていると、噂をすればというやつか……。

「おはようございます」

サラサラでロングな黒髪を持つ美少女が挨拶しながら事務所に入ってきた。
どことなく蓮さんの面影を感じるこの子が件の凛ちゃん。最初に会った時、カッコいい雰囲気に目を奪われたものだ。

「おはようございます!」

元気にお辞儀しながら挨拶した少女は葉月さんの妹の卯月ちゃんだ。
ふわっとした黒寄り茶色のロングヘアーの一部をサイドに纏めている。頑張り屋さんだ。

蓮「おう」

葉月「おはよう!」

素っ気なく返事する蓮さんに対し、満面の笑みでお迎えする葉月さん。

詠「おはようございます!」

凛「あ、詠さん……その、おはよ」

ふいっと俺から顔を逸らす凛ちゃんとは何だか壁を感じる。
アイドルに無理に誘ってしまったし、もしかしたら嫌われてるかもしれない。

卯月「詠さん! おはようございます!」

詠「おはようございます!」

卯月ちゃんは誰に対しても人当たりがよくて俺にもよく構ってくれる。

卯月「あのー、詠さん」

顔色を窺うように卯月ちゃんはもじもじとしながら俺に声をかけてくる。

卯月「学校でテストが近くって……よかったら今度勉強見てもらえませんか?」

詠「俺でよければ……葉月さん?」

自分は二つ返事でオーケーしたいが、一応身内の方に許可をもらわなければと、葉月さんの名前を呼んだ。

葉月「卯月ちゃんがいいなら私は構いませんよ」

卯月ちゃんはそれを聞いて「やった!」と小さくガッツポーズした。

詠「卯月ちゃん、分からないことあったら何でも聞いてください」

卯月「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

素直に喜んでくれるのが俺としては嬉しい。
少し雑談してると横から「あの……」と声を掛けられる。凛ちゃんだった。

凛「詠さんって、その、勉強とか得意なの?」

おずおずと聞いてくる凛ちゃんは相変わらず目を合わせてくれない。

詠「得意っていうか……どうでしょう?」

よくわからない。
教えるのが上手なだけかもしれない。

卯月「はい! 詠さんはすっごく頭良いんですよ!」

凛「へぇ、そうなんだ」

驚いた様子で俺のことを見つめる凛ちゃん。やっと目を合わせてくれたな~なんて思ってしまった。

凛「私にも教えてほしい」

詠「えっ!?」

凛「嫌?」

詠「全然! 嫌じゃないですよ」

嫌いな相手に教えを乞うほど切羽詰まってるのか……と失礼なことを考えてしまうが、俺は距離感が縮められればいいなと思ってたので結構嬉しい。

詠「でも意外です。凛ちゃん、そんなに切羽詰まってたんですか」

凛「え? ……ま、まあそんなところ」

卯月「じゃあ三人で勉強会ですね!」

詠「えっと、蓮さん?」

お兄さんにも許可を頂かなくては……。

蓮「おう、凛が世話になる。よろしくな」

詠「はい!」

蓮「凛。詠に迷惑かけないように」

凛「わかってるよ」

傍から見ても鬱陶しそうに返事する凛ちゃん。
確かに兄妹仲はあんまりよくないみたいだ。お互い嫌いじゃないんだろうけど……。

というわけで卯月ちゃんと凛ちゃんの勉強を見る会が新たに俺のスケジュールを埋めた。俺も予習しないとな。

葉月「応接室使っていいですからね」

詠「いつから始めますか?」

卯月「ダメじゃなければ今日からお願いします!」

今夜から早速勉強することになった。
姉ちゃんたちには遅くなる旨を伝えておこう。

中断します。
次回更新未定です。

質問等のレスには返信していった方が良いですか?

オリキャラまとめ

青木詠
・プロデューサー
・トレーナー四姉妹の義理の兄弟

渋谷蓮
・プロデューサー
・渋谷凛の兄

島村葉月
・プロデューサー
・島村卯月の姉

葉月「卯月ちゃん、頑張ってね!」

卯月「はい! 頑張ります!」

蓮「詠のやつけっこうモテるからうかうかすんなよ。おい凛聞いてる?」

凛「聞いてるってば。……ありがとう」

それでも4人とも兄弟姉妹として上手くやってるんだな。

彼女たちもレッスンへと向かい、気が付けば夜になっていた。
蓮さんと葉月さんは先にあがるので妹をよろしくと言って帰っていった。

俺に彼女たちを送れってことなんだろう。
社用の車を使うことにしよう。

現在二十時、高校生だから二十二時までには社を出たい。

俺たちは早速勉強を始めた。

卯月「うう、数学難しいです……私文系なのに」

詠「私立を受験するなら数学は要りませんよ」

卯月「詠さんと同じ国立に行きたいので頑張ります!」

詠「そうですか、じゃあ俺も精一杯教えます」

俺が教えると卯月ちゃんは一生懸命聞いてくれる。
必然的に距離が近づいて少しドキドキしてしまう。

凛「……」

詠「あれ、凛ちゃんは特に問題なさそうですね?」

凛「合ってる?」

詠「よくできてますよ」

俺に教えてもらう必要も無いくらいに、次の試験範囲をしっかり押さえてあった。
どうして教えてなんて言ってきたんだろう?

凛「そっか。ここは?」

凛ちゃんは尋ねてくるたびにずいっと距離が縮まる。
端正な顔立ちが目の前にあって、俺は緊張をなんとか隠す。さっきの疑問は露と消えた。

慶「高校の問題ってこんなに難しかったっけ?」

詠「……何で慶ちゃんがここにいるんだ?」

慶「お兄ちゃんがいたいけな美少女に手を出さないか、監視するためだよ」

詠「出さないっての」

慶「わからないじゃん。ね、卯月ちゃん、凛ちゃん?」

卯月「あはは……」

凛「はぁ……」

二人とも困ったように返事をする。

詠「こら、慶ちゃん。あんま二人の勉強の邪魔しちゃダメだよ」

慶「はーい」

凛「手出されても別にいいけど……」

卯月「詠さんならいいですけど……」

二人とも何かぼそっと呟いたけど聞こえなかったので「何か言いました?」と聞いてみた。
しかし、二人とも「何も言ってません」と否定するだけだった。

詠「そろそろ帰ろうか」

時間も遅くなってきたので社用の車を使って二人を送る。慶ちゃんも、一人で返すのは危ないので一緒に乗せる。
助手席に慶ちゃん、後部座席に凛ちゃんと卯月ちゃんが乗る。

幸いというべきか二人の家は会社からあまり離れていない。

詠「凛ちゃんのお家は花屋さんでしたよね?」

凛「そうだよ。その通りをずっと真っ直ぐ」

五分ほど走ると花屋の前に着いた。まあ何回も通っているので分かるのだが。
凛ちゃんのお母さんが家の前で待機している。
おそらく凛ちゃんが連絡しておいたのだろう。

凛「ありがとう、詠さん」

詠「いえいえ、私にできることなら何でも言ってください」

俺は先に車を降りて後部座席を開ける。
凛ちゃんと一緒に凛ちゃんのお母さんの元まで歩き、俺は挨拶する。

詠「こんばんは。346プロダクションの青木詠と申します。遅い時間まで娘さんを拘束してしまって申し訳ありません」

深々とお辞儀した。

凛ちゃんはその様子を見てポカンとしていたと思う。

凛母「いえ、こちらこそ凛がいつもお世話になってます」

凛ちゃんの面倒を見てるのは主にお兄さんなのだけど。
凛ちゃんは家では俺の話ばかりしてくれるらしいので、凛ちゃんのお母さんも俺のことを知っていたようだ。

凛「ちょっとお母さん、余計なこと言わなくていいから」

凛ちゃんはそう言いながら顔を赤くする。

凛「詠さん」

いったん落ち着いてから俺の名前を呼び、こちらを向く。

詠「何でしょう?」

凛「ちょっとしゃがんで」

詠「? こうですか?」

よくわからないけど、言われたままに俺は凛ちゃんの前にしゃがみ込んだ。
凛ちゃんはきょとんとしてすぐ吹き出した。
……かと思えば俺と同じようにしゃがみ込む。

凛「詠さん、しゃがみすぎ」

次の瞬間、彼女の唇が俺の頬に触れる。

凛「今日はありがとう。そのお礼だよ」

俺はきょとんとしてたと思う。
しばらくしゃがんだまま動くことができなかった。何というか……意外だった。

凛ちゃんのお母さんは「大胆ねぇ」とか言ってた。

慶「お兄ちゃん」

慶ちゃんに声を掛けられてハッとした。

詠「お、おう! 次行くか! それじゃあ……」

凛ちゃんはさっきより顔を赤くして手を振ってくれた。
隣のお母さんはニヤニヤしていた。

凛「詠さん、そういうことだから!」

詠「わかりました。ありがとうございます。少し時間をください」

これで気づかないほど俺も馬鹿ではない。
告白されたんだ。どうしたものか……。

恋愛感情は抱いてない。でも今彼女を女性として意識し始めてしまったのも事実だ。
何より可愛いし美人だし魅力的な少女だ。
そんな子が俺を好きって言って……ないけど、行動で示してくれた。
確かに大胆だったけど。

悶々としながら運転席に戻る。
何だか空気が重い。

詠「どうしたの?」

慶「べっつにー!」

卯月「……」

車を出してからは質問攻めだった。

慶「どうするの? 付き合うの? アイドルだよ? 恋愛禁止じゃないの?」

詠「そんないっぺんに聞くなよ。付き合うことは……今はできないけど、彼女とはちゃんと向き合って考えるよ。正直、さっきの出来事で女性として意識してる」

慶「本当に手出したら犯罪だからね?」

どことなく慶ちゃんの口調が強い。責められてる気分だ。
どうせすぐ職場に広まるんだろうなと関係無いことも考えたりした。

詠「わかってる。だからちゃんと向き合うってば」

そういえば俺は誰かを好きになった事なんて一度も無いような気がする。

詠「好きって、どういうことなんだろうな……」

慶「そう言えばお兄ちゃんの恋愛話聞いたことなかったかも」

詠「人を好きになったことない……のかな?」

慶「でも私のこと好きでしょ?」

詠「それは……好きだけど」

卯月「私はどうですか?」

不意に卯月ちゃんも後ろから話しかけてくる。

詠「卯月ちゃんのことも好きだと思います」

慶「誰でもいいのか!」

なんて冗談っぽく言って笑う慶ちゃん。

詠「いや、でもみんなそういう好きじゃない」

なんというか……好きだけど好きじゃない。

詠「恋愛的な意味で好きってことじゃないと思う」

正直に答える。

詠「でも恋愛的な意味での好きってのもよく分からないんだけどな」

明るく返したつもりだったが、卯月ちゃんは少し真面目なトーンで言葉を紡ぐ。

卯月「恋って、いつもその人のことが頭から離れなくて、触れたいと思ったり、求められたいと思ったり、その人のこともっと知りたいと思ったり、その人と子供を……」

そこで不自然に途切れたのでバックミラーを見てみると、卯月ちゃんはうつむきがちになり、顔をほのかに赤らめている様子だった。

詠「そうなんですか。僕にはまだよくわからないですね」

慶「お兄ちゃんの年齢だったらそろそろ焦った方がいいよー。相手がいないって問題でしょ」

詠「結婚とか恋愛とか考えたこと無かったな」

多分両親が死んだときから全く考えてなかっただろう。
青木家に引き取られてそれなりに幸せな生活を送って、どうやって恩返ししていこうかとか考えて、そしたら自分の幸せはすっぽり抜けて……。
そうじゃなくて、今の両親と姉妹の幸せが俺の幸せなんだろう。

だから自分のことは二の次だった。

詠「ま、向き合ってみようかな?」

慶「凛ちゃんと付き合うの?」

詠「それは……どうしよう」

好きか嫌いかで言えば好きだ。
勇気を出して告白してくれたことも無下にはできない。
けれども、俺の言う『好き』は『愛してる』とは違う感情だと思う。
それで付き合うのは凛ちゃんに対して失礼ではないか?

悶々と考え事をしていると卯月ちゃんの家の前に着いた。
葉月さんがお出迎えのため家の前に立っていた。

先ほどと同様に俺も卯月ちゃんと車を降りて挨拶する。

詠「葉月さん、妹さんを遅い時間まで拘束してすみません」

葉月「ううん、気にしないでください。卯月ちゃんから連絡きてたので」

続けて「卯月がお世話になりました」とお辞儀までしてきて何だか恐縮した。

卯月「詠さん、今日はありがとうございました!」

葉月「明日もお願いしますね」

詠「あ、はい」

明日も勉強会をすることが決まった瞬間だった。

詠「じゃあ私はこれで……」

と踵を返そうとすると、袖をきゅっとつかまれる。
卯月ちゃんがうつむいたまま俺の袖を握っている。

卯月「詠さん!」

俺の名前を呼びながら、ぱっと顔を上げる。

卯月「私も好きですっ!!」

さっきの会話のやり取りから勘違いを避けるためか「……れ、恋愛的な意味で」と付け足した。

詠「え……」

俺は意外なことが続けて起こったことに対して、完全に固まってしまった。

卯月「す、すみません……詠さんが困っちゃうって思ったんですけど……」

少し涙ぐむ卯月ちゃん。
彼女も困惑してるように見えて、俺の戸惑いが薄れていく。

卯月「凛ちゃんの告白見たら私も勇気出さなきゃって思って……。それに、詠さんが誰かと付き合うのを黙って見ていられませんでした」

きっと彼女も悩んで選択した答えなんだろう。
凛ちゃんに対する罪悪感や、先を越されたという焦りが感じ取れる。
例え早まったとしても、それでも卯月ちゃんの想いに嘘偽りが無いことは伝わった。

卯月「だから、わがままですけど、自分勝手で最低な話ですけど! 詠さん、私と付き合ってほしいです! ……って言ってはダメですか?」

卯月ちゃんは泣いていた。
俺も感情が昂って、思わず泣きそうになってしまった。

言うだけならいいじゃないか。
よくよく考えたらそれこそ酷い話だと思う。
後で分かった事なのだが、恋愛ごとで相手に希望を残しておくのはとても残酷なことなのだ。

けれども俺は「考えさせて」なんて命乞いをするみたいに醜い延命行為のようなことを言ってしまった。
決断できない。優柔不断。傍から見れば二人の女性をキープしてるようなクズ野郎にも見えるかもしれない。

嬉しいはずが苦しくなってきた。今すぐこの世から逃げ出したいとさえ思った。

詠「必ず、答え出しますから」

俺にはそう言うのが精一杯だった。

卯月ちゃんは自身をわがままだとか最低だとか言っていたけど、俺は本当に良い子だと思う。

卯月「私、詠さんがどんな答えを出しても大丈夫ですから」

でなきゃ、そんな言葉と笑顔は出てこない。

卯月ちゃんの隣で葉月さんは彼女の頭を撫でながら、俺にも優しい笑顔を向けていた。
どんな答えでも大丈夫だから気にしないでと言ってるようだ。
俺にはその優しさが辛かった。

挨拶をしてすごすごと車に戻る。

慶「お兄ちゃん……」

か細い声を出す慶ちゃんを横目で見る。
心配そうに、あるいは呆れたようにこちらを見つめていた。

詠「なあ、俺ってモテるの?」

慶「妹にそれ聞く?」

詠「いや冗談だよ。ごめん」

慶「謝ることないけど……」

数秒の沈黙。
卯月ちゃんたちは自宅へ戻ったけど、俺は車を発進できないでいた。

慶「とりあえず帰ろうよ」

詠「ああ……」

慶ちゃんに促されてようやく帰路に着く。
車のキーを会社に返して、徒歩で家に向かう。

中断します。
R要素はそのうち出ます。

慶「お兄ちゃんさ」

不意に口を開く慶ちゃんに相槌を打つ。

慶「自分で気づいてなかったと思うけどモテるよ? 紹介してって言われたこと何回かあるし、麗ちゃんたちも言われてたんじゃないかな?」

詠「まじか……いや、一回くらい告白されたことはあるけどさ……」

慶「振ったんだよね、その時」

詠「そうだったな。付き合うってことがよくわかんなくて結局無かったことにした気がする」

慶「あはは、最低だ!」

けらけら笑いながら「女の子が可哀想だー」と続けた。

慶「ま、お兄ちゃんがどんな答えを出しても私はいいんだけど……」

そこでいったん言葉を区切っているように思えた俺は、歩きながら横にいる慶ちゃんの顔を見た。
うつむきがちで表情は読み取れないが、少しもの悲しそうな雰囲気が伝わってくる。

慶「……実は私も好きなんだよ」

意を決したようにつぶやいた。声は震えていた。
俺は黙っていた。なんとなく、そう言われるかもしれないと察していたのだと思う。

慶「恋愛的な意味で、だよ?」

こちらに顔を向ける。身長差は大きく、慶ちゃんは俺を見上げる。
無理に笑顔をつくっているようだ。

詠「でも俺たち……」

兄妹だからと言いそうになったが、やめた。
そういうことを言い訳にしたくない。彼女は本気なのだから。
そうやって逃げるなんてずるい。ださい。かっこ悪い。

慶「義理じゃん」

何を言おうとしたのか分かったようで、慶ちゃんはそう言った。

慶「小さい頃から優しくしてくれるお兄ちゃんが好き」

慶ちゃんの話が続く。
小学生の頃、慶ちゃんの手を引いて遊びに連れて行ったこと。
俺が中学に上がって勉強を見てくれたこと。
高校の制服を可愛いって言ってくれたこと。
大学に進学するのを勧めてくれたこと。

慶「いつも私たちのために頑張ってくれてたこと、知ってるよ」

詠「俺はそんなつもりじゃ……」

慶「好きなの。愛してるの」

俺はどうしてこうも優柔不断なのだろうか。
諦めさせるには振ればいいだけの話だ。それができない。
傷付けるのが嫌なんだ。

けれども引き延ばせば引き延ばすほど、彼女を傷付けてしまうだろう。
分かっていても言葉にならない。

詠「……今は……付き合えない」

慶「今は? いつならいいの?」

詠「ちょっと待って、急な話で頭が追い付かない」

本日で三人目。
慶ちゃんは本気だ。からかいではない。

慶「そうだよね、ごめん。ゆっくり決めて。返事待ってるからね」

詠「ああ……」

それからは無言。気まずくて息が詰まりそうだった。

詠「ただいま」

慶「ただいまー」

リビングに行くと、三人の姉ちゃんが「おかえり」と言ってくれた。

麗「……どうした?」

いち早く様子がおかしいのを察知した麗姉ちゃん。鋭い。

詠「や、それが……」

ちらっと慶ちゃんの方を見る。
慶ちゃんもこちらを見ていて、緊張したような面持ちだ。
一つ頷いて慶ちゃんは姉ちゃんたちの方に向き直る。

慶「私、今日お兄ちゃんが好きって言った」

空気が固まったみたいだ。
けれども全員ポカンとはしていない。黙って聞く姿勢だ。

慶「男の人として見てるって言ったの……それだけ」

麗「そうか……。それで詠は?」

詠「考えさせてくれって……」

麗「慶はそれでいいのか?」

慶「うん! お兄ちゃんがちゃんと返事くれるならいいよって」

そう言って慶ちゃんは俺に抱き付いてくる。

詠「わっ! こ、こら!」

慶「本当にどんな答えでもいいからね?」

ぎゅっと抱き付いたまま、こちらを見上げる慶ちゃんはとても愛らしく、さらにあんなことがあった後だと、意識しすぎて心臓がちぎれそうになった。

慶「お兄ちゃん、すっごい心臓ドキドキ鳴ってるね」

詠「やめろって……。慶ちゃんも真っ赤じゃん」

慶「えへへ……」

照れくさそうに笑うのが可愛い。
頭に血が流れ込んでくるような感覚がした。

聖「ちょっと待った!」

俺が慶ちゃんの様変わりした対応に焦っていると、聖姉ちゃんがずかずかとやってきた。

聖「それは許さない」

まあ普通に考えて義理と言えど兄妹が恋愛関係になるのは嫌だろう。まだ恋人となったわけではないが。
それに凛ちゃんや卯月ちゃんの件も無視できるはずがない。

詠「そりゃそうだよな」

けれどもこれで慶ちゃんは諦めてくれるのではないか。

聖「お前は私と結婚してもらう!」

詠「はぁ!? 何言ってんの!?」

聖「昔約束しただろ? 大きくなったら結婚する! って」

慶「聖ちゃん、小さい頃の約束は時効だよ。それに私もそういう約束したことあるし」

明「待って! それなら私も詠と結婚!」

次から次へと何が何やら……。

明「私も詠のこと大好きだし!」

聖「いや、詠は私のものだ!」

詠「ちょちょちょ、ちょっと待って! 落ち着いて!」

麗「……ならば間を取って私が」

あれ、麗姉ちゃんってそんなこと言うキャラだっけ?

わちゃわちゃしたけど何とか落ち着いて……少しだけ話し合いをした。

麗「つまり実は全員、詠に想いを寄せていたということだな」

聖「いつもアプローチしてただろ!」

明「聖ちゃん、詠がにぶちんなの知ってるでしょ?」

慶「そんなんじゃ動じないよね」

詠「いや近付かれるとドキドキするんだけど……」

聖姉ちゃん、誰に対してもそんな感じだと思ってた。

……要するにみんな俺が好きってことだな。なんだよそれ。
俺はもうどうやってリアクションすればいいのか分からず、ぼけっとしていた。

麗「詠、聞いてるか?」

詠「ああ、なんとか……」

麗「ならいいんだが」

詠「俺、どうすりゃいいの?」

麗「好きにすればいい」

そうは言っても、その選択を取ることは俺にはできない。
白黒決着つけたいのだ。一つだってうやむやにしたくない。

詠「今、答えを出すなんて無理だ。卯月ちゃんや凛ちゃんのこともあるし」

聖「それもそうか、この変態」

明「女ったらし」

慶「最低」

詠「麗姉ちゃん、結婚しよう」

「「「わー! ウソウソ!」」」と麗姉ちゃん以外の三姉妹が必死になる。

麗「あのな、そんな決め方されたら私も困るだろ」

ごもっともです。
呆れる麗姉ちゃんは真剣な顔つきで俺を再び見る。

麗「時間をかけてもいいからじっくり決めるんだぞ? ましてや渋谷と島村は現役女子高生アイドルなんだからな?」

詠「わかってる。彼女たちのどちらかに気が向いても引退まで待つよ」

麗「お前が好んで距離を縮めるのはいいんだが、問題は起こさないように頼む」

詠「うん……」

聖「詠、私なら問題にならないぞ」

明「私もならないよ」

慶「お兄ちゃん! 私もだよ!」

詠「そうか。なら卯月ちゃんや凛ちゃんは先に婚約しないといけないな……」

婚約をあらかじめ済ませてしまえば電撃結婚にならずに済むという戦略。
世間的には電撃婚と変わらないが。

聖「無視するな!」

ギャーギャーわめく三人を放っておいていると麗姉ちゃんは遠い目をしていることに気が付いた。

麗「もう結婚のこと考えてるのか……」

これは婚期を逃しそうで焦っている女の目だ。
自分も早く結婚するべきだったと、後悔してもしきれないような念を感じる。

詠「そうだよ。選んだ人と結婚しないとみんなに失礼な気がして……」

聖「当たり前だ。私は許さないからな」

慶「私はお兄ちゃんが中古でもいいよ?」

明「私も別にそうやって経験を積むのは悪くないと思うけど……」

聖「ならお前らが経験値稼ぎの相手になってやれ」

慶「じゃあ始めは私ね!」

聖「それはダメだ」

明「聖ちゃん、わがまますぎない?」

詠「くだらねー」

麗「くだらん」

よく麗姉ちゃんとは意見が合う。
一つ溜め息をついて、首を横にふるふると振るう。

というか中古とか経験値稼ぎってなんかムカつくなぁ。
まあ確かにそういう経験はあるんだけど。

詠「ごめん、すぐに答えだせない。今日は寝るね。おやすみ」

わいわいしていた姉妹たちも「おやすみ」と返事した。

どうせ翌日も同じようなルーティーンに違いない。
だから深くは考えずに……と思ってもそういうわけにいかない。
結局1時間は布団の中で悶々と考えこんでいた。

詠「選り取り見取りか……」

そんなこと口にする俺は最低だな。心底嫌いだ。自分のことが。

詠「そんなやつが好きな人と付き合う資格なんてあるのか?」

好きな相手が嫌いな相手と付き合うって考えたら吐き気がする。
もういっそ全員振ってしまおうか。

それは失礼なのか?

待たせて期待させ続けるのも失礼に違いない。
でも咄嗟に選べと言われたら……選べない。

詠「やばいな」

自分のクズっぷりに呆れながらも瞼は重くなり、ようやく睡眠に就けるという感覚を得た。

次に目を覚ましたのはやはり明姉ちゃんに起こされた時だ。
もはや日課の早朝ランニング。

詠「……おはよう」

普段より寝れなかったので少し眠たい。
布団を引っぺがされて落ち着かない。

明「……」

明姉ちゃんからの返事は無い。そのことを不思議に思ったが、彼女の顔は明らかに戸惑いを呈している。

詠「どうしたの?」

起き上がろうとしても身体が動かないことに気付いた。
動かないというよりは身体が重くて動かしづらいといったところだ。

明「何してたの?」

冷たい声で言われて俺もすぐに気付いた。

慶「……」

慶ちゃんが俺の布団の中に潜り込んでいた。しかも下着姿で。

詠「は?」

俺の胸に頭を乗せ、脇腹あたりに手を回している。片足を俺の股下に突っ込み、お互いの足を絡ませている。
慶ちゃんが俺の上に乗っていたのだ。

中断します。ハーレム展開になっちゃいました。
ここからコメディを展開できれば最高なんですけど、ギャグセンス皆無な自分には難しいですね。

明「詠……」

詠「違う。誤解だ」

明姉ちゃんの視線が俺の下腹部へ……。

明「何興奮してるのよ?」

詠「これは違うって」

俺は慌てて否定した。ただの朝立ちだ。
とりあえず慶ちゃんを起こす。

慶「んぅ~……お兄ちゃん、朝早い……」

めっちゃ眠そう。
こいつ昨日何時に寝たんだよ……。

詠「とにかく明姉ちゃん、これは違う。知らない。慶が知らないうちに入ってきてただけだって」

明「……」

じとーという効果で表現できそうな視線が俺を襲う。
かと思いきや、嘘のようにケロッといつもの態度に戻った。

明「あはは! 冗談! 慶が悪いの知ってるから安心してよ」

詠「はぁ!?」

明「ほら慶! あんたは自分の部屋に帰れ!」

明姉ちゃんは再び俺の上で寝始めた慶ちゃんの後ろ襟をつかむ。

慶「にゃ~、お兄ちゃん……たしゅけて……」

明「この!」

ぐいぐい。寝ぼけ眼の慶ちゃんは俺の服を掴んで必死の抵抗。呆れたを通り越してちょっと微笑ましい。

詠「姉ちゃんいいよ。俺が連れてく」

充分に覚醒したので俺は慶ちゃんを抱っこして持ち上げ、彼女の部屋に移動した。

慶「お兄ちゃん……しゅき……」

ベッドに寝かせるときに慶ちゃんはそんなことを言った。

詠「もう潜り込むなよ」

簡単に注意して部屋を後にしようとしたが、慶ちゃんに両手で頭を抱きかかえられた。
俺は体勢を起こそうとしてたので、急に加わる力に対処できず慶ちゃんの胸に飛び込むように倒れてしまった。

慶「お兄ちゃん♪」

詠「ちょっと……」

困った。
そもそも慶ちゃんってこんなに好き好きしてくる子だったか?
と疑問に思ってしまうほどだ。

彼女の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
だとすれば間違いなく原因は昨日の件だろう。

しばらくその体勢のままだったが、すぐに慶ちゃんは静かに寝息を立てた。
俺は緩んだ拘束からするりと抜けると自室へ戻りランニングの準備をする。

明「遅いよー」

詠「ごめん」

ちょっとだけ不機嫌な明姉ちゃんに詫びを入れる。

明「うん、じゃあ行こっか」

およそ30分のルーティーン。
だが、いつもと違う感じがした。
違和感の正体にはすぐに気付いた。いつもより距離が近い。

普段なら人一人分の間があるのに、今日は腕と腕が触れそうな距離で走ってる。
こつこつと腕が当たるたびにお互い謝って、走るのを続ける。

明「あのさ」

詠「何?」

明「私ももうあまり我慢しないよ?」

詠「……ああ、うん」

家の前に着く手前で明姉ちゃんが俺にそう話した。
その後特に何事も無いまま玄関に着いた。

詠「ふぅ……今日も疲れたな」

今日は少しハイペースだったかもしれない。

気を紛らわすため俺は独り言を言ってしゃがみ、靴紐をほどく。
すると背中にぴとっとした感触を覚えた。

詠「……我慢しないってそういう?」

明「ま、まあ……」

少し上擦った声で答える明姉ちゃん。

詠「汗かいてるから離れてくれ」

明「私、別に嫌いじゃないよ」

それは湿ったウェアが? それとも汗の匂いが?
どう質問しても困惑する答えしか返って来なさそうだったので、聞かないことにした。

詠「とりあえずシャワー浴びてきたら?」

明「……もうちょっとこのまま」

詠「……」

いつもならすぐ風呂場へ行くのに、初めてそんなこと言われたので軽く戸惑った。

明「せっかくだし……一緒に入ろ?」

耳元でささやかれてドキッとする。
酷く暑い。きっとランニングで体温が上がったからだ。
こめかみまで動悸が響いてくるなんて疲れすぎだろう。

詠「はは……姉ちゃん疲れすぎ。確かに今日はペース上げ過ぎたよな」

俺は靴紐をほどき終わり、立ち上がる。
明姉ちゃんの方に振り返る。このとき俺は彼女のことを見なければよかったと後悔する。

懇願するような上目遣い。赤く染まった頬。
お互いの顔は息がかかるくらい近くにあって、艶のある唇が半分ほど開いていたのがいやに官能的だった。

数秒の間、俺はその光景に目を奪われ、自分の心臓の鼓動が大きく脈打ってくるのをしっかりと感じ取った。

明姉ちゃんの顔が自分に近づいてくるのを認めて、初めて俺は彼女から顔をそむけることができた。

詠「は、は、は、早く行って来いって!」

明「……いくじなし」

そう言いながら彼女はすっと俺の横を通り抜けていった。

詠「ごめん。でも軽々しくできないから」

明姉ちゃんに限らず、最初の人と付き合わなきゃいけない気がした。
だから勢いに任せて決めたくなかった。

明姉ちゃんは何も言わずに風呂場へ向かった。

詠「やば……」

俺は心臓の鼓動が止まらず、先ほどの艶っぽい彼女が頭から離れず、しばらく悶々とする羽目になるのだった。

詠「トイレで……いやいや、相手は姉ちゃんだぞ! 我慢だ我慢! すぐ治まる!」

麗「何がだ?」

詠「おわぁっ!!」

キッチンで朝食を作っていると麗姉ちゃんが後ろから声をかけてきた。
どうやら独り言を聞かれたらしい。

詠「お、おはよう」

麗「ああ、おはよう。どうした? そんなに驚いて」

詠「や、何でもないよ」

麗「ふむ。それならいいんだが……」

少し怪しまれたようだが、麗姉ちゃんは詮索してくる人ではない。

麗「ところで、焦げ臭くないか?」

詠「へ? ……ああっ!!」

言われて気付いて、慌てて火を止める。

玉子焼きは焦げてしまった。

時間が経ち、聖姉ちゃんも起きてくる。

聖「おはよう」
詠「おはよう」

聖「焦げたか?」

詠「うん、ごめん」

聖「いや、いいんだが。珍しいんじゃないか?」

不思議そうに俺を見たが、聖姉ちゃんはつかつかと俺の後ろにやって来ると、ガバッと背中から抱き付いた。

詠「うおっ! や、やめろって!!」

聖「んー? どうした? 今日はやけに焦ってないか?」

詠「や、風呂まだだし、汗臭いだろ? 恥ずかしいんだよ」

聖「はぁ? 詠、いつもそんなこと言わないだろ」

麗「確かに珍しい気もするが、聖にきっぱり拒絶したということでいいんじゃないか?」

聖「恥ずかしがるなよー」

「こいつめ!」とか言って俺の耳にふっと息を吹きかけてくる。
ビクッとして声も出てしまった。恥ずかしい。

詠「まじでやめろ!」

聖「はっはっはー。可愛いやつだなぁ」

明「聖ちゃん、相変わらずだなぁ」

お風呂上がりの明姉ちゃん登場。
お風呂上がりだと女性はなぜこうも色っぽく見えるのか……。

俺は今すぐ逃げて落ち着かせるべきだと思った。

詠「じゃあ俺入ってくるわ」

すぐに椅子から立って、風呂場へ直行。

聖「……ちょっと待て」

その場を離れようとする俺の腕を聖姉ちゃんが引っ張る。

詠「な……」

「何?」って言おうと思ったが聖姉ちゃんの目を見ると、彼女の視線が俺の下腹部あたりに注がれている。

詠「行くからっ!!」

俺は無理矢理腕を振りほどき、小走りで風呂場へ向かう。
見られた……。寝起きだからと言い訳できない。

聖「詠~」

呼ばれたのでリビングと廊下を繋ぐドアから顔だけ出して応える。
にんまりと素敵な笑顔の聖姉ちゃんがこちらを見ている。

聖「手伝うぞ?」

軽く握った拳を上下に振るジェスチャーで問いかけてくる。心底楽しそうなのがムカつく。

詠「いらねーよ! バーカ!」

ちらりと見えたが麗姉ちゃんはいつもと変わらず平常だ。
明姉ちゃんは逆に顔を真っ赤にさせて居心地悪そうにしてた。

麗「聖、あんまからかってやるな」

明「聖ちゃんってバカよね」

聖「明はそういうの苦手だよな」

明「……私だって勇気出したんだから」

聖「ほう、抜け駆けか?」

麗「別にいいだろう。詠へのアピールは自由だという話を昨日つけたじゃないか」

聖「じゃあ私のもありだろう?」

麗「別に誰も聖を責めてないだろ」

俺は風呂場でガシガシと頭を洗ったり、ゴシゴシと強く身体を洗う。そうすることで自然と治まってきた。
しかし少し思い出すと反応してしまう。

詠「仕事から帰ったらさっさと寝よ」

一日跨げば記憶も薄れる。
考え込まずに今日も変わらず仕事をしよう。

コンコン! 風呂場を叩くノックの音だ。
思わず身体が跳ねそうになる。
聖姉ちゃんのやつ、マジで来たんじゃないだろうな……。

麗「詠」

違った。聖姉ちゃんではないことに安堵し、俺は「何?」と用件を尋ねた。

麗「長いが大丈夫か? のぼせてないか?」

詠「うん、大丈夫」

麗「そうか。私たちはもう行くぞ?」

詠「え、もうそんな時間?」

麗「ああ、慶のことよろしくな」

詠「お、おう。行ってらっしゃい」

どうやら仕事に向かったらしい。

身体を拭いて風呂場から出る。

慶「ふぁぁ……」

詠「……」

欠伸しながら入ってきた慶ちゃんとご対面した。

慶「……」

ぽけっとした表情ながらもじっくりと俺の身体を目に焼きつけているようだ。
俺の自意識過剰かもしれないが、慶ちゃんは目に焼きつけているのだ。
特に陰部を。恥ずかしげもなくじっくり見てる。

詠「出てって」

慶「早くしてね」

詠「わかってる」

この間で優に10秒は経っていただろう。

慶ちゃんは「別に気にしないのになー」なんてのんきに言いながら脱衣所もとい洗面所を出た。

詠「悪い。もういいよ」

慶「本当に早いね」

と言いながら慶ちゃん再び入室。
パンツはいただけだから。

慶「お兄ちゃんって結構いい身体してるね」

下を隠してもまじまじ見てくる。デリカシーの無い妹だ。
おまけにペタペタと触ってくる。

詠「そんな触るなよ」

慶「照れてる~。私も結構鍛えてるんだ」

ほらほら、と自分の腕を見せつけてくる。
引き締まった程よい肉付きで、生活が乱れてる割には健康的に映える。

詠「綺麗だな。夜も早めに寝ればもっと綺麗になれるのに、もったいない」

慶「お兄ちゃんは、もっと綺麗な方がいいの?」

詠「お兄ちゃんじゃなくても、もっと綺麗な方がいいと思うけど」

慶「ふーん」

詠「慶ちゃんも学校、遅れないように行きなよ」

慶「うん、今日三限からだから大丈夫だよ」

詠「そっか」

朝食を食べ終える。
洗濯が終わるまで時間があるし、歯を磨いたり、髪整えたりしておこう。
一通り自分の洗面が済む。

慶「お兄ちゃん、まだ出ない?」

ちらっとこちらの様子を見て慶ちゃんが尋ねてきた。

詠「ああ、洗濯物干したら出る」

慶「じゃあ髪梳いて?」

自分でやれ、と思ったが時間もあったので引き受ける。
妹のお願いはあまり無下にできない。頼られるのは好きでもある。

櫛が引っ掛かるところは手で梳いてやる。
時折、頭をポンポンなでなでしてやると、慶ちゃんは小動物がうっとりしたように気持ちよさそうな顔をする。

慶「これ好きぃ」

兄に甘える妹の無邪気な笑顔。
俺もそれが大好きなのだ。

詠「はいはい、おしまい」

離れようとすると、正面から腰に手を回してぎゅっと抱き付いてきた。

詠「どうした?」

慶「私、お兄ちゃんのこと好きなの本気だから!」

詠「わかってるって」

抱きしめ返して頭を撫でる。
これは妹に対する愛情表現……ということにしておきたい。

ピピッ! という洗濯終了の合図が俺たちの間に割って入った。

詠「お、終わったか。じゃあ干したら行くから」

俺はテキパキと洗濯物を干して会社に向かう。

慶「行ってらっしゃい」

わざわざ玄関まで見送りに来てくれた。

詠「行ってきます」

慶ちゃんは扉を閉めるまでひらひらと手を振ってくれた。

中断します。

出勤中、会社の前で肩を叩かれる。

蓮「よう」

詠「蓮さん! おはようございます」

蓮さんは少しニヤついた表情で俺の隣を歩く。

蓮「凛に告られたんだってな?」

ドキッとした。

詠「え、ええ……すみません」

蓮「何を謝ってんだよ。お前だったら任せられる。凛のことよろしくな」

爽やかに笑って言われた。
まだ返事してないんですけど……。

なんだかんだ妹想いな蓮さんのことだ。
「付き合ってません」とか言ったら殺されるのでは?

詠「はは……」

なので俺は愛想笑い。

その後、蓮さんの妹さんの話を聞かされつつ、事務所に入る。

葉月「おはようございます」

蓮「おう、おはよう」

詠「おはようございます!」

葉月さんはすでに出社。朝から働く頑張り屋さんだ。
そんな彼女は俺に気付くと、トテトテとやってきて眩しい笑顔を見せてくる。

蓮さんと二人で眩しさに目を逸らす。

葉月「詠くん! 卯月ちゃんのことよろしくお願いします!」

蓮「ん?」

詠「はは……」

乾いた笑いしか出てこない。
俺はその場で土下座した。

蓮「ちょ……」
葉月「ええっ!?」

詠「申し訳ございません」

この二人なら話してもいいだろうと思い、昨日あった出来事を説明する。

2人ともそれぞれの妹が俺に告ったことは把握済みだったらしいが、何を勘違いしたのか付き合うことになると思ったらしい。

蓮「あー、そうだったのか」

葉月「ご、ごめんなさい。私ったら勘違いしてしまって」

詠「いえ、僕の方こそごめんなさい。いろいろありすぎて頭こんがらがってます」

蓮「だよなぁ……まさか義理といえど姉妹からも交際を申し込まれるなんてな……」

葉月「詠くんはいい子ですからね」

詠「それで、誰が好きとか、まだそういうのわかんないので保留にしてる状態です」

うーん、と二人は考え込む。

蓮「恋愛感情が曖昧に感じる原因は間違いなくお前の姉妹たちだろうな」

葉月「そうですね。お姉さんたちから向けられる好意が当たり前すぎて、他の女の子のアピールに気付かないって感じで育ってますよね」

蓮「鈍感は作られるものなのか……」

葉月「もともと詠くんの持つ恋愛感情が乏しいっていうこともあると思いますけど」

蓮「とにかく、誰かが傷つくのは避けられないからな。ウジウジ悩むよりきっぱり決断しないとダメだ」

詠「それは分かってるんですけど……」

葉月「そうですよ渋谷くん。青木くんは今誰が好きかわからないっていう状態ですから、好きかどうかわからないのに一人を選ぶなんて全員に失礼ではないですか?」

蓮「一理あるが……」

うむぅ……とまたみんなで考え込む。
俺は一緒に悩んでくれる先輩に申し訳ない気持ちになった。

蓮「ならいっそ全員振れば?」

葉月さんは「え?」という感じで、一瞬ゴミを見るような眼で蓮さんを見た気がするが、気のせいだろう。
あの聖人みたいな葉月さんが、天使のような笑顔の葉月さんがそんな顔するわけない。気のせいに違いない。

葉月「うーん、確かに詠くんの気持ちを尊重すべきですよね」

蓮「要するにそういうことだよな」

詠「自分で決める……」

蓮「そういうこと。ま、相談には乗るからよ」
葉月「私たちを頼ってくださいね!」

詠「はい、ありがとうございます」

しかしあれこれ悩んでも時間は待ってくれず、気が付けば夕方。

未央「おっはよーございまーすっ!」
茜「おはようございますっ!!!!」
藍子「おはようございます」

三者三様、元気な挨拶をいただいた。

詠「おはよう」

未央「今日はどんな仕事が待ってるのかなー?」

ルンルンと俺に聞いてくる未央ちゃん。

詠「ごめんね。今日もレッスン」

茜「レッスンですか!! わかりました!!!!」

やる気十分の茜ちゃん。両の拳をぐっと握る。
未央ちゃんはというと眉間を抑えながら変わらぬテンションで

未央「知ってました。ええ、知ってましたとも!」

とか言って笑ってる。

詠「でも急にどうしたの?」

未央「まあ、レッスンも結構やったしそろそろお客さんの前でライブもいいかなーなんて」

どうやらモチベーションは高いらしい。

藍子「未央ちゃんってばずっと『武道館まだかなー?』って言ってるんです」

楽し気な様子で藍子ちゃんが教えてくれた。

詠「ははは、武道館とは目標高いなぁ」

茜「目標は高ければ高いほどいいものですよ!!」

詠「そうだけどさ……」

自信無いなぁ……。

未央「プロデューサーがそんなんでどうすんのさ! 見てよ! 私たちはこんなにやる気だよ!?」

藍子ちゃんをチラッと見ると、彼女も胸の前で小さくガッツポーズを作った。

詠「善処するよ」

何だか元気をもらえる。

詠「三週間後にミニライブあるから、まずはそこからだな」

茜「何ですとぉっ!!?」
未央「聞いてないよ!」
藍子「ええっ!?」

詠「ごめん。言ってなかった」

まあ三週間後だしなぁ……。

未央「やるじゃん、プロデューサー! こうしちゃいられないね!」

藍子「そうだね。もっとたくさん練習しないと」

茜「では、今から走ってレッスンルームに行きましょう!!」

未央「走らないよ!」
藍子「走らないよ!」

詠「気を付けて行ってらっしゃい」

俺は3人を見送ろうと立ち上がった。

未央「せっかくだし、あれやっとこうよ!」

詠「あれって何だ?」

未央「これこれ!」

と言って未央ちゃんは藍子ちゃん、茜ちゃんと円になってお互いの右手を重ね合わせた。
ちょうど一人分入るスペースを開けているので、俺が入るのだろうと察しは付く。

詠「はは……」

ちょっと照れくさいながらもフレッシュな雰囲気にあてられたのか俺もその輪に加わって三人の手の上に自分の手を重ねた。

詠「……」

未央「プロデューサー」

詠「何?」

未央「気の利いたこと言ってよ」

昨今のJKは唐突にこんなことを振ってくるのか。
茜ちゃんも目を輝かせてこちらを見ている。
藍子ちゃんは苦笑い。俺を気の毒そうに見ていた。

詠「てか考えとけよな……」

少しだけ考えて一つ咳払いした。

詠「三週間後のミニライブ絶対成功させるぞー!」

「おー!!」と三人が合わせる。

俺は満足げに笑う三人の頭を、頑張って来いという思いを込めて撫でる。

未央「わ、何をするぅ!?」
茜「プロデューサーさんなりの気合注入ですね!」
藍子「わぁっ! えへへ……」

彼女たちはもう一度気合を入れ直して部屋から出て行く。
俺も一緒に廊下に出て、事務所のドアの前で見送った。

詠「うーん、我ながらちょっと過保護かな?」

凛「本当だよね」

突然後ろから声を掛けられて情けなくも飛び上がりそうなほど驚いた。

凛「ふふっ! 詠さん驚き過ぎ」

口元を片手で押さえて笑っている。

詠「な、あ……」

一方で俺はというと、昨日あった出来事を思い返してしまいばつが悪いと感じるばかりだ。
ていうか気まずい。

しかし凛ちゃんはさも気にしてない様子で俺に話しかけてくる。

凛「おはよう、詠さん」

詠「あ、うん、その、おはようございます」

凛「どうしたの? そんなに慌てて」

詠「いや、そんなことないです」

凛「嘘、昨日のこと気にしてるんでしょ?」

図星を付かれて狼狽えたけれど、何とか頷くことができた。

凛「あーあ!」

そう言って急に大きくため息をつく凛ちゃんにまたしても身体がビクつく。

凛「さっき兄貴から聞いたよ。卯月にもお姉さんたちにも告られたって」

詠「あー、その、はい……まあ……」

俺は渋りつつも肯定する。というか蓮さん口軽いな……。

凛「別に責めてないからね。なんとなく、お姉さんたちが詠さんのこと好きなのわかってたから」

凛ちゃんは笑顔で言ってくれる。また「兄貴はデリカシーが無い」と付け加えた。
しばらく沈黙したが、意を決して自分の想いを相手に伝える。

詠「あの、正直好きって気持ちよくわからなくて……昨日ずっと考えたんですけど……」

凛「ごめん。私が負担になるようなこと言ったよね」

詠「いえ、そんなことないです」

凛「でも……」

詠「凛ちゃん、聞いてください」

そう言うと凛ちゃんは口を噤んだ。

詠「告白されたの、嬉しかったです。凛ちゃんの想いに誠実に応えたいです。だから、もうしばらく待ってもらっていいですか?」

凛「……うん」

俺は言い切れたこと、返事をもらえたことに対して安堵した。

凛「詠さんのそういうとこも、好き」

顔を赤くした凛ちゃんが俺とは目を合わせずに呟く。

詠「ありがとうございます。でも、社内ではあんまりそういうこと言わない方がいいですよ」

この歳のアイドルにスキャンダルは御法度なのです。

凛「あはは……それもそうかも」

詠「……ちゃんと答え出します」

俺はもう一度凛ちゃんに目を向けた。
答えを出すこと。それは断るかもしれないという意志を突きつけることでもある。

凛ちゃんは真っ直ぐ俺の目を見ていた。
透き通るような瞳から視線を外す。
彼女が着慣れてるであろうカーディガンは少しよれているように見えた。

詠「仕事に戻ります」

凛「うん、私も事務所に入るから」

二人で事務所に戻る。
あまり注目を受けるということは無いのだが、この時は他の二人からの視線が気になった。
蓮さんと葉月さんではない。

凛ちゃんの友人であり、ユニットを組んでる『北条加蓮』さんと『神谷奈緒』さんだ。
ユニット名は『トライアドプリムス』。

北条さんは少し病弱な体質らしいが、それを感じさせないほど明るい子だ。
神谷さんは普段鋭い目つきをしているがアニメが好きらしく、可愛い一面もあると聞く。

加蓮「おはようございます」
奈緒「おはようございます」

二人とも同じ挨拶で俺に軽く会釈したので、同じように返す。

俺は自分の座席に着いてキーボードに手を置いた。
トライアドの三人は事務所にあるソファに座って談笑していた。

加蓮「なんか距離縮まったんじゃない?」

奈緒「だよなぁ。ちょっと前までどうやって話しかけようか悩んでたくらいなのに」

凛「二人とも声でかいよ」

ああ、なんとなく俺の話をしてるのだと察する。
仕事が思うように進まない。

卯月「おはようございます!」

急にかけられた挨拶に対し、変な声で返事してしまった。

卯月「あ、驚かせちゃいましたか? ご、ごめんなさい」

詠「あ、いや、謝ることじゃないですよ。こっちこそ驚いてしまってすみません」

卯月ちゃんに気を使わせてしまった。

響子「おはようございます!」
美穂「お、おはようございます!」

卯月ちゃんの後に続いて入ってきた子たちは『五十嵐響子』ちゃんと『小日向美穂』ちゃんだ。

五十嵐さんは五人兄弟の長女で一番お姉さんらしい。面倒見が良いとよく耳にする。
小日向さんは人見知りなのだろうか、あまり目を合わせてもらえたことが無いが可愛らしい女の子だ。

詠「おはようございます」

卯月ちゃんを含めた三人でユニットを組んでおり、『ピンクチェックスクール』と言う名前で活動している。

デビューシングルのラブレターは俺もたまに口ずさむくらいに好きな曲だ。

詠「みなさん早いんですね」

卯月「えへへっ……今日は三人でお喋りしようって」

響子「そうなんです。お菓子も作ってきたんですよ」

美穂「わ、私はかな子ちゃんに手伝ってもらって……」

卯月ちゃんはクッキー、五十嵐さんがパウンドケーキ、小日向さんはブラウニーをそれぞれ作ってきたようだ。

「詠さんもどうぞ!」と紙皿を渡され、タッパーやバスケットに入っているお菓子をその皿に置いてもらった。

詠「ありがとうございます」

響子「あとで感想聞かせてくださいね!」

彼女たちは蓮さんと葉月さんにも同じようにお菓子を配ると、事務所にあるソファに向かう。

卯月「あ、凛ちゃん! おはようございます」

凛「おはよう、卯月」

二組のユニットは仲が良いみたいで、全員にお菓子を分けながら賑やかに談笑をしていた。

俺はクッキーを口に運ぶ。サクサクほろほろで美味しい。
紅茶が欲しくなる。
そういえば給湯室にあったかな、などと考えながら俺は席を立った。

給湯室にはいろいろ揃っていた。ティーパックも当然のようにあったので一リットル程度のポットに入れて紅茶を作る。

トレイに、今いる人数分のカップを乗せて紅茶を注いで持って行く。

詠「蓮さん、葉月さん、紅茶淹れましたのでよかったらどうぞ」

蓮「お、気ぃ利くな。サンキュ」

葉月「ありがとうございます」

二人は微笑みを浮かべ紅茶を啜った。

談笑しているアイドルの子たちにも「どうぞ」とカップを渡す。

加蓮「ごめんね、私たち何にもやってなくて」

詠「お気になさらず」

凛「ありがとう、詠さん」

他の子たちも、ありがとうございますとお礼を言ってくれた。

俺もデスクに戻り、紅茶とお菓子を楽しみながら仕事を続ける。
彼女たちに貰ったお菓子を全部平らげてから数分して事務所のドアが勢いよく開け放たれる。
俺を含め、事務所にいた数人がビクッとした。

現れたのは聖姉ちゃんだった。
ドアは独りでにゆっくりと閉まった。

詠「ちょ、聖姉ちゃん。びっくりするからさ……」

俺の言葉に意を介することなく、無言でスタスタと俺の元まで歩み寄ってくる。
後ろに立たれて落ち着かない。

詠「何?」

椅子を回転させ聖姉ちゃんに向き直り、腰かけたまま問うと、聖姉ちゃんは俺の椅子を正面、つまりデスク側に戻した。

次の瞬間、彼女は腕を俺の背後から、前に回して抱きしめてきたのだった。
突然の出来事に一瞬理解が追い付かなくなるが、すぐに顔が赤くなっていったのは自分でも分かった。

詠「なななな何してんだよ?」

動揺でどもりまくるがお構いなし。
聖姉ちゃんの顔は俺の顔のすぐ左隣にある。

聖「我慢できなくってな……」

耳元でそう呟かれた。
それだけでもピクリと身体が震えたのに、聖姉ちゃんは耳をハムッと軽く咥えた後、ふぅーっと息を吹きかけてきた。

俺は左肩と左側の首筋を中心にゾワゾワとした感覚に襲われ、思わず椅子から転げ落ちた。

聖「おっと、大丈夫か?」

詠「ばっ、ばばば……バカなんじゃないか!?」

聖「あははは! いや、なんだか急に恋しくなってしまってな。仕事終わりに顔を見たくなった」

詠「俺はまだ仕事中だっての!」

過去最高に取り乱す俺とのんきに笑う聖姉ちゃん。
そんなことはどうでもいいとばかりに、尻餅をついた体勢の俺にさらに迫ってくる。

今度は正面から抱き付かれる。

聖「詠……好き……」

警鐘を鳴らすかのように、心臓とこめかみがバックンバックンと振動し始めた。
無理にでも引き離そうと思ったが、好きと言われると何だか無下に扱いづらくて、俺は硬直せざるを得なかった。

詠「こっこ、ここ! ここ、職場だから!!」

鶏の鳴き声みたいに声を発しながらも、言葉で必死に説得を試みる。

しかしながら一向に聞く耳持たない聖姉ちゃん。
俺はついに諦めようとしたが、聖姉ちゃんの身体が離れていく。

聖「わっ」

凛ちゃんと卯月ちゃんの二人が両脇から聖姉ちゃんを抱えて引っ張ったみたいだ。

凛「詠さんが困ってます」
卯月「お、お仕事の邪魔しちゃダメですよ!」

冷たい声で言う凛ちゃん。
顔を赤くして注意する卯月ちゃん。

俺の目の前には二人の天使がいるように見えた。

中断します。

聖「むぅ……」

顔をしかめて両脇のアイドルをちらりと見る聖姉ちゃん。
渋々といった様子で彼女たちに従った。

俺もようやくパニック状態から我に返る。

詠「そうだぞ姉ちゃん。俺まだ仕事中だから邪魔するな」

立ち上がってそう言った。

聖「詠のくせに生意気だぞ」

詠「何だよそのジャイアニズムは……」

聖「家に帰ったら覚えとくんだな」

詠「はいはい、おつかれさまでした」

聖姉ちゃんはまだ何か言いたげだったが、恨めしそうな顔で俺を見てから帰っていった。

それにしても複雑だ。
凛ちゃんと卯月ちゃんからすれば聖姉ちゃんは恋敵なわけなのだから。

それはそうと一連の事件とも呼ぶべき流れを始終見ていた先輩とアイドル達は様々な反応を見せていた。

蓮「おいおい、あんな聖さん初めて見たぞ?」
葉月「本当ですね~……意外というか……でも可愛かったですよ」

奈緒「な、な、な、な……」
加蓮「うっわ。大胆」
美穂「はわわわわ……」
響子「あははは……」

アイドルたちは全員が顔を真っ赤にさせていた。

詠「帰りたくねぇ……」

さっきの聖姉ちゃんのセリフを思い出して、俺はがっくりと肩を落とした。

蓮「そんで、あんなに取り乱す詠も初めて見た」

詠「すみません、お恥ずかしいところを……」

凛「いつもあんな感じなの?」

詠「いえ、あの姉は積極的ではありますけど、普段はからかってくるような感じで……きっと今のもからかい半分ではあると思いますけど、彼女の本気を多少感じました」

卯月「詠さん、いつもと口調違うんですか?」

詠「はは……猫かぶってるので……」

葉月「帰ったらいやらしいことされるんですか?」

詠「私が拒めば無いと思いますけど、聖は下ネタには寛容なタイプです」

凛「絶対受け入れちゃダメだよ?」

詠「流されるつもりはありませんので」

などと怒涛の質問攻めを食らい、それに答えるのであった。

加蓮「はっ! 実は他のトレーナーさんもあんな感じなの?」

気が付いたように尋ねてくる北条さん。
ソファに座っていた組も当然気になるご様子らしい。

詠「どうでしょう? 妹の慶はそれなりに積極的ですね」

慶ちゃんの話をしたのはいいが、今朝のことを思い出して顔が暑くなってきた。

美穂「ええっ!? そ、その様子だと何かあったんでしょうか?」

詠「も、黙秘で……」

響子「じゃあ明さんはどうですか!?」

これ楽しくなってきてるな。
女の子は恋愛話が好きと聞いたけど、間違いではないのかも。

詠「えーと、明は普段は大人しいんですけど、ちょっと変わったかもしれません」

明姉ちゃんとの今朝の出来事も思い出して、引いてきた熱がまた上がる。

奈緒「詠さん、赤くなったり戻ったり大変だな」

苦笑いする神谷さんだが他の子たちと同じく俺の様子を楽しそうに見ている。

詠「一番上の姉だけが普段通りですね」

もうここまで言ったらしかたないので、麗姉ちゃんのことも先に話した。

蓮「へぇ……やっぱ動じねぇんだなぁ」

葉月「麗さんの指導はみんな受けたことないですね」

詠「そうですね。麗は高垣さん、安部さん、十時さん辺りの指導を主にしてますね」

美穂「す、すごい! みなさん売れっ子じゃないですか!」

蓮「流石だよな。彼女が指導したら確実に売れるって話らしいじゃん?」

詠「たまたまじゃないですか?」

葉月「そんなことないですよ。それに麗さんの指導を受けるには妹さんたちの推薦が必要だとか……」

詠「そんな話聞いたこと無いです」

俺は笑って流した。
姉妹たちがそんな重要なポジションにいるわけないし。

そんなこんなで雑談していると、ポジティブパッションの三人が帰ってきた。
明姉ちゃんを引き連れて。

明「失礼します」

蓮「噂をすればか?」

明「? それよりも蓮さん! トライアドプリムスのレッスン時間ですよ!」

蓮「うぉ! もうそんな時間か!? 凛、奈緒、加蓮!」

「やば、忘れてた」とばかりに四人揃って慌て始める。

未央「たっだいま、プロデューサー!」
茜「まだまだトレーニング足りないです!!」
藍子「おつかれさまです」

詠「はい、お帰りなさい。おつかれさま。帰るなら送ろうか?」

三人とも、うーんと唸り考え込む。

未央「プロデューサー、勉強教えてよ!」

テスト近いんだよねー、と付け加える未央ちゃん。

藍子「私もお願いします」
茜「お願いします!!」

詠「まあ仕事の合間に見てあげる程度ならいいけど……」

未央「やったー!」

詠「てか俺でいいのか?」

藍子「慶さんが、プロデューサーさん頭良いって言ってました」

詠「あ、そうなんだ。じゃあ応接室空けとくから、分からなくなったら俺に聞くこと」

茜「はい、わかりました!!」

応接室を開放すると三人は入って勉強の準備をする。
俺も早めに仕事を終わらそう。

俺は一時間ほどで本日の業務を終了させ、蓮さんと葉月さんに挨拶してから応接室に向かった。

尖らせた口にペンを乗せる未央ちゃん。
分からないのか、うんうんと頭を抱える茜ちゃん。
黙々と勉強してると思いきや、こくこくと眠そうな藍子ちゃん。

おそらく勉強の仕方がイマイチなのだろう。集中力が欠落していた。

詠「勉強捗って……ないみたいだね」

未央「あ、プロデューサー。いやー、全然進まなくってさ」

詠「俺に聞きに来ればいいって言ったのに」

茜「プロデューサー忙しそうだったので!!」

詠「ほら、藍子ちゃんも起きて」

藍子「ふわぁ……」

未央「難しいよプロデューサー!」

詠「今から教えてあげるから……」

アイドルでありながら女子高生でもある彼女たち。
もちろん将来、アイドルだけで生計を立てるわけにはいくまい。
なので学業との両立はしっかりとやってもらいたいところだ。

俺は教科を絞って、一時間ほど講義を行った。当時、得意だった数学。

茜ちゃんは二年生だが、一年生の内容もあまり理解していない様子だった。
未央ちゃんと藍子ちゃんが一年生だったので、まずはそちらの内容を勉強していく。

茜ちゃんは別で数学Ⅱ・Bの補修が必要そうだ。

さて、それぞれ自習に取り掛かろうかというところで応接間の扉が開かれる。

凛「詠さん、勉強を……」

凛ちゃんが入ってきて、言葉を詰まらせた。
卯月ちゃんも不安そうな顔で、凛ちゃんの後ろから様子を見ている。

未央「しぶりん! しまむー! 二人も勉強?」

卯月「は、はい。そうです」

詠「あ、おつかれさまです」

たった今部屋に入ってきた二人も、おつかれさまですと軽く会釈してくれた。

藍子「そういえばプロデューサーさんって凛ちゃんや卯月ちゃんには敬語なんですね」

詠「え? 確かに、そうだね」

未央「お姉さんたちにはめっちゃラフなのにね~」

私たちにもね~と付け加えて笑う未央ちゃんに少し恨めしそうな視線が二つそそがれる。

詠「や、従姉妹というか姉妹だしな」

明「義理のね」

詠「いたのか」

明姉ちゃんは、まあねと言うと、部屋の外側のドアノブに手をかけたまま俺に視線を向ける。

明「一緒に帰ろうと思ったけど……」

アイドル達をちらっと一瞥する。

明「まだ授業中みたいね。頑張ってね先生! 皆さんもうちの弟をよろしくお願いします」

にひひと笑う。明姉ちゃんはあっさり帰ったみたいだ。

六人で行う勉強会。
トラプリとPCSの他のメンバーは先に帰ったらしい。

俺は茜ちゃんと卯月ちゃん二学年の子たちを中心に勉強を見る。

さらに時間は過ぎ、九時頃。
元気よく応接間の扉は開かれた。

慶「お兄ちゃん、帰ろー!」

入ってきた人物に全員が注視する。

詠「びっくりするなぁ……」

慶「あー、お勉強中だったか」

無遠慮に入ってきた慶ちゃんはアイドル達に挨拶をする。
彼女たちも笑顔で返す。
慶ちゃんの性格も関係あるが、歳が近いこともあり、仲が良いらしい。

慶「まだ終わらない?」

詠「うーん……みんなはどうする?」

卯月「もうちょっと頑張ります!」
凛「私は続ける」

二人ともほとんど同時に答えた。

対するポジパはぐぐっと伸びをすると、帰宅する旨を伝えた。

未央「慶ちゃん、一緒に帰ろうよ!」
茜「いいですね!」
藍子「迷惑にならなければ……」

未央ちゃんの提案に少したじろぐも、慶ちゃんは愛想の良い笑顔で了承した。

詠「気を付けて帰るんだぞ」

はーい、と上機嫌な返事が三つ。
四人は、お疲れさまでした、と言って応接間から出ていった。

詠「それじゃあ、後一時間ですけど頑張りましょう」

凛「うん」
卯月「はい!」

相変わらず凛ちゃんはあまり止まることなく解き続けていく。
少しヒントを出せば、答えまでたどり着けるようだ。

ということで俺は大体卯月ちゃんに付きっきりだった。

そろそろ十時になるということでお開きになった。

凛「あーあ、私も詠さんにいっぱい構って欲しかったな」

なんて、深読みすれば失礼に聞こえなくもないことを凛ちゃんが言うのだが、これが全く嫌味ったらしくないのだった。

卯月「えへへ、ごめんなさい」

舌をちろっと見せて、困ったように笑う卯月ちゃん。
凛ちゃんもその様子を見てフッと破顔する。

十時を回ったあたり、さあ帰ろうと立ち上がったのと同時に、またしてもドアが開かれた。

麗「詠……と渋谷と島村の、妹か」

麗姉ちゃんが、予想通りだなといった風に表情を緩める。

詠「あれ、どうしたの?」

麗「いや、さっきレッスンが終わったのだが、詠がまだ残ってると聞いてな。一緒に帰ろうと思ったのだ」

詠「そっか。ちょうどこれから二人を車で送るところなんだ」

麗「そうか、なら私も同行しよう」

詠「了解」

麗「二人もよろしく頼む」

凛「は、はい……」
卯月「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

麗姉ちゃんは妙に威圧感あるからなぁ。二人とも緊張しちゃってるみたいだ。

そうして昨日と同じく車に三人を乗せて送っていく。

凛ちゃんの家の前では、やっぱり彼女の母がお出迎えしていた。
挨拶をすると、にこにこと返してくれる。

凛ちゃんと俺を交互に見て、うふふっ、と嬉しそうに笑っていた。

凛「な、何?」

凛母「何でも~?」

凛ちゃんは、面倒くさいな……と言わんばかりに表情を歪める。
こちらを窺うように、ちらりと視線を彷徨わせて俺と目が合う。
俺は相好を崩して見せるが、それも歪だったと思う。

かっ、と凛ちゃんの耳から頬まで赤く染まり、恥ずかしそうに俯いた。

凛「ば、バイバイ……」

彼女は控えめにちょこっと手を振ると、慌てたのか、もつれた足取りで花屋の奥に引っ込んでしまう。

凛ちゃんのお母さんは、ごめんなさいね、と言ってにこやかに笑った。

俺がもう一度花屋の奥に目を向けると、凛ちゃんが顔を出してこちらを見ている。
自分の母親と俺が話すのが気になるのだろうか。

俺は覗いてる凛ちゃんに小さく手を振って応えると、彼女もまた小さく振り返した。

そして再び凛ちゃんのお母さんに頭を下げ、車へと戻る。

次は卯月ちゃんの家。
こちらも昨日と同様、葉月さんが玄関から出て待っていた。

葉月「詠くん、今日もお疲れさまでした。卯月ちゃんのことありがとうございます」

葉月さんのお礼に倣って、卯月ちゃんも頭を下げる。

詠「いえ、大したことはしてないですよ」

二人の笑顔を見ると、俺も自然に笑みがこぼれる。

葉月「卯月ちゃんのこと気に入ったら、ぜひお嫁さんにどうぞ!」

卯月「お、お姉ちゃん!?」

やめてよー! と両手を振って葉月さんを止める卯月ちゃん。

頭のてっぺんから鎖骨あたりまで真っ赤にさせた卯月ちゃんは、ぐるぐると混乱したような瞳と不安げな表情を俺に向けた。

詠「あはは……私にはもったいない気もしますけど……」

葉月「そんなこと無いですよ。ね、卯月ちゃん?」

卯月ちゃんはカクカクとしたロボットみたいな動きで何回も頷いた。

卯月「逆に、無個性の私にはもったいないくらいです……」

詠「無個性なんてことありませんよ。美味しいお菓子も作れますし、私にも気遣ってくれて優しいですし、それに笑顔も素敵ですし……」

卯月「あ、あ、あ、ありがとうございますっ!」

すごい勢いで彼女は頭を下げる。
俺が彼女の良いところを挙げると、とても驚いていたように口をパクパクさせていた。

卯月ちゃんは顔を上げると、おやすみなさい! と言って足早に家に入ってしまった。

扉を閉められる前に俺もなんとか、おやすみなさいと声を掛けることができた。

葉月さんとも挨拶をして、車に戻る。

麗「本当にみんな詠のことが好きなんだな」

運転席に戻ったら麗姉ちゃんにそんなことを言われた。

詠「え、そ、そう?」

麗「お前は鈍いよな」

詠「そんなこと無いから」

麗「いや、あるだろう……」

社用車を返した帰り道、麗姉ちゃんと並んで歩く。

街灯にぼんやりと照らされる麗姉ちゃんを盗み見る。

正面をキリっと見据え、凛々しく美しい瞳。
ほのかに朱に染めた頬と、柔らかい笑み。
下ろした髪は女性らしく、だが、正しい姿勢は男らしい。

しかし麗姉ちゃん。前は見上げてたように思うけど、今は見下ろすほどに身長差が開いているのか。

麗「どうした? さっきからこっちを見て」

詠「あ、気付いてたの?」

麗「まあな」

詠「そう。別に理由は無いけど……」

俺は顔を逸らした。

麗「そうか」

麗姉ちゃんはただ一言、そう言った。
彼女は今喜色だろうと思わせるような声色だった。

俺は気が付けば彼女の手を取っていた。

麗「……おい」

訝し気に俺を見つめるが、振り解こうとはしなかった。

詠「……手、繋いでもいい?」

そう言うと、麗姉ちゃんはきょとんとした後、空いてる手で口を押さえて控えめに笑い出した。

麗「ふふっ……繋いでから言うのか?」

詠「そういうこともある」

麗「でも急にどうした? お姉ちゃんに甘えたくなっちゃったか?」

詠「……そうかも」

麗「可愛いやつだな! だったら存分に甘やかしてやる!」

うりゃー!! と言わんばかりに俺は抱き寄せられ、がしがしと頭を撫でられる。
ヘッドロックされてるみたいになっているが、気にならない。

むしろ心地よく、懐かしい気分なのだ。

ほどなくして麗姉ちゃんから解放された俺。
そこから家までは手を繋いで帰ったのだった。

「「ただいまー」」

玄関のドアを開けて、そう声をかけると、居間の方からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

慶「お帰りお兄ちゃん!」

抱きつかんばかりの勢いで俺の前までやってきた。

詠「お、おう……ただいま」

慶「麗ちゃんもお帰りなさい」

麗「ああ、私はついでか?」

麗姉ちゃんが呆れたような視線を慶ちゃんに向けると、そんなことないよぉ、と言ってヘラヘラ笑って誤魔化していた。

詠「あれ、他の二人は?」

慶「明ちゃんはリビングにいるよ。聖ちゃんは寝ちゃった」

詠「そうか」

聖姉ちゃんがまだ早い時間に寝てしまうのは珍しいと思った。

慶「ていうか、いつまで手繋いでるの?」

詠「あ」

俺は慌てて力を抜いたが、麗姉ちゃんはがっちりと握ったままだった。

麗「別にいいだろう? それとも慶、嫉妬してるのか?」

そう言われた慶ちゃんは顔を赤らめて、むすっとした表情で麗姉ちゃんを見た。

慶「嫉妬ってほどじゃないけど……何か妬ける」

ふいっと麗姉ちゃんから顔を逸らして、俺の方をちらちらと見ている。

詠「どうした?」

彼女の答えは聞けなかったが、空いてる右手をとられる。
そこに俺の意思なんか無く、ぐいぐいと引っ張られた。
靴を放るように脱ぎ捨て、ずかずかと居間まで連れていかれた。

詠「ちょっと慶ちゃん」

玄関ではやれやれと、いつの間に手を離した麗姉ちゃんが、俺の靴を整理していた。

明「お帰り~」

のんびりとした調子で、ソファにてくつろぐ明姉ちゃん。

ただいま、なんて言う暇も無くソファ――明姉ちゃんの隣――に座らせられる。

明「どうしたのよ?」

訝し気な様子で俺と慶ちゃんに問う明姉ちゃん。こっちが聞きたい。

詠「いや、わからん……」

かろうじて、何が起こってるか分からないことを伝えられた。

そんなことはお構いなしに、慶ちゃんは俺に跨ると、俺の顔を押さえて向かい合うように固定される。

詠「だから――」

――どうしたんだ? と問う直前に、俺の口は慶ちゃんの口に塞がれた。

詠「!?」

合わせるような軽い接吻から、何度も求めるようなものへとその質は変わり、果てには舌を入れて快楽に身を任せるような激しいキス。

突然のことであったのと、激しさを増すごとに力が抜けていく感覚に、俺は抵抗することができなかった。次第に官能的になっていく感情。

明「こ、こら!!」

まずは驚き、呆然としていた明姉ちゃんが我に返って止めに入る。

麗「慶っ!」

次にリビングに入って現状を把握した麗姉ちゃんが駆け寄ってくる。

二人は慌てて俺から慶ちゃんを引き離した。

明「あんたってば、油断も隙も無いわね、本当に!」

慶「てへ、ちょっと気持ちよくなっちゃって……」

麗「まったく……」

てへ、じゃないよ。
俺だって下が大変なことになっちゃったんですけど……。

明「詠もなんで抵抗しないのさ!」

詠「や、急に襲われたら無理だぞ、多分」

麗姉ちゃんは呆れたのだろう、溜め息を吐く。

麗「アプローチは自由とは言ったが、そういうことはお互いの合意の上でやるべきではないのか?」

慶「お兄ちゃん……イヤだった?」

うわ、こっすい。上目遣いで甘えるような視線を向けられ、耳に優しい猫撫で声を聞かされれば嫌とは言えない。

詠「嫌じゃないけどさ……」

ついつい妹に対して甘くしてしまう。

慶「これで合意の上だね!」

明「ずるい!」

麗「詠も慶に甘いんじゃないか?」

詠「そうかも」

少しだけ怒られる。

明「なら私もしていいよね!?」

明姉ちゃんが突然そんなこと言いだした。

詠「ちょっと落ち着いて」

明「そうじゃなきゃ不公平よね?」

詠「本当に待って、今されたら我慢できるか分からん」

明「しなくていいわ! 最後までしよう!」

この子目が血走っていらっしゃる。
暴走している明姉ちゃんを何とかしてなだめる。

麗「こら、明も何言ってるんだ。落ち着け」

最後の良心である麗姉ちゃん。

麗「姉の私が先だろ」

そんなことはありませんでした。

結局、俺は姉二人にキスすることでようやく解放されるのだった。

詠「やばい」

部屋に戻った俺は沈んだ気持ちでそう呟いた。

何がやばいのか、それはもう明白で、ここ二日で姉妹――というか我が家――の貞操観念みたいなものが著しく変化してしまったらしい。

とにかくやばい。

義理とはいえ、何年も同じ家屋で過ごしてきた姉妹に発情するのもやばいのだが、そんな彼女たちが特に気にすることもなく俺を襲ってくるということがやばい。
それを嫌だと思ってない俺もやばい。

つまりは常識的な思考が麻痺しつつあるということが、俺に危機感を抱かせていた。

自分で言うのもなんだが、俺は硬派な男である……はずだ。
しかし信じられないことに、たった二日で軟派な人間へと早変わりしてしまったではないか。

そんな急激な変化に困惑している。
当然、卯月ちゃんや凛ちゃんに後ろめたいという気持ちが拭い切れずにいるのだった。

詠「とりあえず風呂」

気分転換という意味も込め、次に何をするかをわざわざ口に出す。

廊下に出て数歩離れたところにある洗面所。風呂場には誰も入ってないらしい。
というのも暗闇が如実に示してくれていた。

上を脱いで下を脱ぐ。
下着を脱ぐ際、陰部に若干の引っ掛かりを与えて俺は少し顔を顰めた。
ぺちりと下腹をたたくモノ。

詠「変態だな」

戒めるように、あるいは忌々しく独り言を呟いた。

入浴中、俺は先の出来事を反芻していた。仕事のことを考えようと目を閉じるが、どうにも姉妹たちの積極的な姿がその思考を妨げる。
結果、俺は勃起したり萎縮したりを繰り返して悶々と苦悩した。
何度か自分の陰茎を握ってはみたものの、なかなか扱くことができない。
やはり姉妹をネタにして……というのは罪悪感が凄まじい。
結局一発も射精せずに風呂から上がる。

普段なら俺は風呂を上がって裸のまますぐに歯を磨くのだが、今日は、いや、おそらく今後もそんなことはしないだろう。
姉妹に性的な目で見られることを怖いと思ってしまった。
もちろん自分も彼女たちで興奮するし、性的な目で見ることもある。
だが襲ったことはない。

今日、無理やり接吻されたとき、ちょっと怖かった。それは襲われた人間にしか分からないものなんだろうと思った。

なので自室で俺は服を着てからまた洗面所に戻ることにした。

寝る準備はつつがなく整い、俺は二十三時を回ったあたりで就寝する。

次に目を覚ますのは五時半くらいだろうか……。
と思っていたのだが、人為的に起こされるような感覚で飛び起きた。
明らかに不十分だという睡眠の感覚であったが、もう一度眠りにつくには状態が異常であることに気が付いた。

中断します。
次回がっつりR要素入るのでお気を付け下さい。

詠「な、何やってんの?」

聖「夜這い」

一点の曇りもなく、迷いなく、淀みなく、清々しく、聖姉ちゃんは言い切った。
彼女が早く寝た理由だが、聞かずともわかったような気がする。

詠「ちょっと、服は?」

聖「もう脱いだが?」

何を今更……とでも言いたげに小首を可愛らしく傾げて見せている。

詠「何やってんだ!」

聖「だから夜這いだ!」

小声で怒る俺に、何故かキレる聖姉ちゃん。

聖「ちょっと黙ってろ」

詠「何を……うわっ……」

驚いて声が出たのも束の間、呼気が荒く漏れ出る俺の口は聖姉ちゃんの口で塞がれたのだから。

彼女の口は俺の唇を覆うように、あるいは食らうように包み込んで離さない。
目が慣れてきた頃にようやく聖姉ちゃんの顔が遠ざかる。

外から入り込むわずかな光が、唾液で濡れた姉ちゃんの唇を、艶めかしく照らし出す。

ありったけの火薬を詰め込んだかのような心臓は、俺の全身に隈なく血を巡らせる。

どっくん、どっくん、と文字通り頭に血が昇り何かを言おうと口を開けるが、言葉が紡がれることはない。
それを発するための口ごと聖姉ちゃんが食べてしまった。

姉ちゃんの舌が俺の舌に絡み付き、入念に唾液を交換させている。
貪るように求めるため、時折、歯がカチカチと音を立てて騒ぎ出す。
歯に響く不快感は絶妙な快感の香辛料へと変わる。

お互いにどんどん息が荒くなり、ついに抱きしめ合う。強く、強く。
決して華奢なわけではなく、健康的で引き締まった細身と、女性特有の柔らかさ、出るところは出ている肉付きの良さなど、それらは俺の理性を失わせるには十分すぎる要素だった。

詠「聖姉ちゃんっ!」

聖「詠、来て」

俺は上体を起こすと、聖姉ちゃんを自分の腿に乗せて、抱きしめ合ったまま接吻を続ける。
それから押し倒し、聖姉ちゃんに愛撫する。
俺の舌は聖姉ちゃんの口を離れて、首筋をなぞるように幾度も往復し、次に耳を犯す。

聖姉ちゃんの左耳を甘噛みしたり、舌を入れたりする度に、彼女の口から甘い吐息と淫らな喘ぎ声が漏れる。さらに身体を、ぴくっ、ぴくっ、と小さく震わせ始める。

聖「うぁっ……あっあっ……詠っ……詠ぃ!」

声が一層大きくなる。
耳元で発せられるそれが、俺にさらなる嗜虐心を与えた。

俺の右手は彼女の左手と指を絡めて繋ぎ合わせているので、空いた左手で彼女の身体に触れる。
右耳を優しく触り、時に強く握り、柔らかな頬をなぞり、唇を触わる。

姉ちゃんは俺の指を赤子のように舐めて、吸う。指先からぞわぞわとした感触を受ける。
口内の天井を指で優しく撫でてやると、言葉にならない喘ぎ声と、びく、びく、と震える身体で応えてくれる。

俺は姉ちゃんの口に突っ込んでた指を引き抜くと、自分の口に入れる。
その様子をまざまざと見せつけた。

聖姉ちゃんの紅潮しきった顔、汗でしっとりと張り付いた髪、目じりに浮かべた涙。
彼女は自分の口に入ってたものが義弟の口に入るのを認めると、羞恥と驚きで複雑に歪んだ表情を見せた後、潤んだ瞳を逸らした

俺はいつもとは違う見慣れぬ聖姉ちゃんに、大いに興奮していた。
普段の大きな態度や、下ネタを恥ずかしげもなく口にする下品な姉はどこにもなく、しおらしさや羞恥心があるばかりだ。

聖「ふぅっ……ふあぁぁっ……!!」

愛撫を続けると、先ほどよりも大きく痙攣する聖姉ちゃん。

詠「ダメだよ、聖姉ちゃん……声、我慢しなきゃ、止めちゃうよ」

聖「嫌だっ! 止めないで……続けて……最後まで……」

詠「じゃあ、ちゃんと我慢して?」

聖「うん……」

俺はこの時、嗜虐心に満ち満ちていたに違いなかった。というのも後から冷静になって考えればという話なのだが……。

こくりと頷く聖姉ちゃん。素直な返事は珍しい。それだけで可愛らしく、愛おしい。

俺は愛撫を再開した。
またキスをして、今度は下へ。
鎖骨を左の人差し指で撫で、舌を胸に這わせる。
脇を厭らしく触った後、双丘の突起に触れぬように、指と舌で何度も円を描いた。

必死に漏れ出る声を押さえようとしている聖姉ちゃんが可愛くてついつい虐めたくなってしまう。

ぴくぴくと腰が浮き沈みを繰り返してるのに気づき、俺は一度間を置いて彼女の乳首をきゅっと摘まんだ。

聖「ああああっ! ……っ!!」

慌てて、両手で自分の口を押さえる聖姉ちゃん。
懇願するような涙目になっていて、俺の腹辺りにびりびりと電撃が走っていくような、奇妙な快感に襲われる。
思わず口端が吊り上がってしまいそうだ。

詠「聖姉ちゃん……」

聖「違う、違うんだ……止めないで……」

俺の服を無造作に鷲掴みにしている。

詠「しょうがないな。じゃあ声出ないようにしてあげる」

相変わらず胸を掌で撫で、先を指で転がす。
彼女の声は、俺が口を塞ぐことで、漏れ出るのを防いだ。
代わりに、ぴちゃぴちゃと淫靡な音を立てる。

俺は息を荒げて、彼女の腹を撫でてさらに下に手を這わせる。
陰部に触れないままさらに下、太腿に手を這わせ、臀部を弄る。
指を割れ目の中心まで近づけるが決して触れない。

俺は聖姉ちゃんの唇や舌の動き、微妙に変化する表情で彼女の反応を窺いながら、それに興奮しているのを自覚していた。

聖「はぁっ……はぁっ……! もう、我慢できないぃ……詠ぃ……」

聖姉ちゃんは目の端からは涙を、口の端からは涎を、それぞれ流して、くしゃっとさせた顔で縋ってくる。

詠「聖姉ちゃんっ!!」

もう一度、抱きしめる。今度は優しく。

聖「詠っ!!」

彼女も俺の首に手を回したまま、さらに身を寄せる。

一旦、聖姉ちゃん距離を離し、俺は下の寝間着と下着を順に脱いだ。
暗がりの中で、血液を集中させて激しく勃起した陰茎を剝き出しにした。

聖姉ちゃんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに恍惚とした瞳を向けて俺の陰部に手を伸ばす。

ぴとりと、鈴口に触れる指先。それだけで絶頂してしまいそうな快感に襲われる。
続いて、恐る恐る指先で、つつ、と裏筋を経て陰嚢までなぞった。

聖「き、気持ちいいのか?」

詠「ま、まあ……」

無邪気に聞いてくる聖姉ちゃんに、恥ずかしがりながら俺はそう返事した。
聖姉ちゃんはさっきとはうって変わって、にま~っとした笑みを浮かべる。

聖「そうか、そうか」

喜色満面。それからも――これは? これは? と触っては気持ちいいかどうかを尋ねてくる。正直に言うと、恥ずかしい。

聖「なあ、舐めたら気持ちいいのだろう?」

普段の調子を取り戻したように挑発的な微笑み。
しかし顔は真っ赤で、舐めることに対して若干の躊躇いと期待感が見え隠れしている。

詠「そ、それは……上手な人は、まあそうだけど……」

俺も童貞ではない。経験人数は少ないが、愛撫の技術に個人差があるのは確かだ。

てか、聖姉ちゃん処女っぽいな。
初めてにこだわってたのが何となくわかった気がした。
というか初めてのくせにキスは上手いな。

俺があれこれ考えていると聖姉ちゃんは意を決したようで、舌先でちろちろとソフトクリームみたいに舐め始めた。
どこで知識を得たのか、亀頭にキスするわ、睾丸を吸うわ、舌の先と腹をうまく使い分けるわ、挙句には亀頭を頬張って厭らしい音を立てながら顔を動かし始めるわ……。
どうやら天性のエロ女らしい。
歯を立てられると思ったが別にそんなこともなく、今までで一番気持ちいいほどだった。

聖「ほお? ひおひぃ?」

竿を口に入れたまま喋るものだから、ちゃんと言えてない。
――どう? 気持ちい? と聞いているのだと思う。

詠「うん、やばい……」

刻々と慣れてきたのだろう。
どんどん早くリズミカルになる聖姉ちゃんの前戯。

詠「姉ちゃん、もう、入れたい」

我慢できなくなって俺は覚悟も適当に、ただ自分の性欲に従ってそう言った。

聖「ああ、私も……してほしい」

俺は聖姉ちゃんの陰部に手を触れ、陰唇を広げて指を挿入する。
くちゃ、くちゃ、と姦濫な音を立てると同時に、姉ちゃんが声を押し殺せず、時折、大きく声を上げる。

姉ちゃんの快感が強い部分がどこか反応を窺いながら、膣の中に指を這わせる。
人差し指で狭いそれを押し広げ、逆の指で陰核を刺激する。
そのたびに彼女の身体に力が入り、一定の間隔で絶叫と共に大きく身体が跳ねる。

聖「もう……止めっ……あ、ああああああっ!!」

初めてにもかかわらず、もう何度目かの絶頂。これは才能があるなぁ、と我ながら阿保らしい感想を抱いた。

詠「ほら、もう、びっちょびちょだ」

聖「言うなぁ……」

またしても泣きべそをかいて聖姉ちゃんがしおらしくなった。可愛い。

詠「入れるね」

聖姉ちゃんはこくりと頷く。

俺は聖姉ちゃんを自分の方に引き寄せて……。

――部屋のドアが勢いよく開いた。
俺と聖姉ちゃんはびくっと震えて固まった。

ぱちんと小気味よい音と同時にLEDに光が灯った。
眩しくて、ちょっと目が痛くなる。

明姉ちゃんと慶ちゃんがずかずかと足音を立てて近づいてくるのを半目で捉えた。
そして俺と聖姉ちゃんを引き離す。

聖「な、何をする!」

明「バカじゃないの!? 変態!!」

聖姉ちゃんは絶句。――へ、変態? と目を白黒させている。

慶「お兄ちゃん、早く服着て」

悪寒がするほど酷く冷たい声だった。

詠「はい」

食い気味に俺は返事をして、脱ぎ散らかしてあったパンツと寝間着を素早く着た。
俺と、おそらく、聖姉ちゃんは大興奮し、裸で一線越えようとしてた姿を見られ、死ぬほど恥ずかしい思いをしたのだが、他の姉妹にそんなことはまるで関係無い。

麗「説明してもらおうか?」

基本的に温厚な麗姉ちゃんが憤慨してるとわかる状況。これはまずい。
俺はすっかり冷めてしまったようで、自分の息子も萎縮しきってしまっている。

聖姉ちゃんもさぞ居心地悪いだろうと一瞥すると、未だに興奮冷めやらぬといった面持ちで恍惚とした眼差しを俺に送ってきた。
この姉、本当に才能有り余ってるらしい。
毎日、レッスンやらトレーニングやらで発散してるのではないのですか? と呆れてしまうものだった。

聖「せめて、最後までやらせてくれ!」

往生際が悪いとはこのことか。
若干息も荒いまま、後生だ! と頼み込んでいる姿は我が姉ながら滑稽であった。
先ほどまで、自分も欲望に飲まれてあのような姿をしていたと思うと胸が痛い。

詠「聖姉ちゃん、もう無理だよ。俺もう勃起してないし」

明「何言ってるのよ!?」

明姉ちゃんがいきり立つ。

慶「二人とも、咎められてるんだから自重しようよ」

呆れたように末妹に注意される兄と姉。

聖「詠、思い出せさっきのことを……私が口でしてあげただろ? 気持ちよかっただろ?」

舌をちろっと出して俺に伝えんとする聖姉ちゃんは懲りないやつなのだ。
その爆弾発言に絶叫で応じる明姉ちゃんと慶ちゃん。麗姉ちゃんだけ、額に手を当てて、やれやれと呆れている。
かくいう俺はそのことを思い出して沸々と性的欲求がぶり返してきたのだった。

慶「あ! お兄ちゃん何……ぉち……勃ててんの!?」

途中のセリフはもごもごとしてて聞き取りづらかったが慶ちゃんはそう言って俺を責める。

詠「あ、いや、これは……」

聖姉ちゃんと最後までヤリたいなんて言えないんだけど……。

麗「というか避妊もせずにヤル気だったのか?」

詠「あ、そういえば……」

聖「気持ち良すぎて忘れてた……」

聖姉ちゃんのその言葉で、明姉ちゃんと慶ちゃんが顔を真っ赤に爆発させる。

明「どんだけ夢中だったのよ……」

慶「聖ちゃんずるいっ!」

夢中だったのは認めるが、ずるいってなんだ。

聖「しかし、何故バレたんだ?」

麗「お前たちがうるさいからだ」

明「本当に最低!」

その後もぎゃーぎゃーと言い合いが続いたが、すでに早朝と言えるほど、陽が部屋に差し込んでいた。

あんま寝てねぇ……。

それぞれが落ち着きを取り戻し、居間に移ると、家族会議が始まったのだった。

麗「まず、どうして聖は夜中に起きて詠の部屋に?」

聖「夜中なら誰にも邪魔されずに詠と既成事実作れると思ったからだが……」

麗「だが? だが、なんだ?」

逆接で文末を締めた聖姉ちゃんだったが、それが麗姉ちゃんの気に障ったようだ。
再度問い返す麗姉ちゃんの威圧感は半端じゃない。
これには、さしもの聖姉ちゃんも萎縮してしまう。

聖「……いいえ、既成事実を作ろうと思いました」

ふぅっ、と馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに一息吐くと、麗姉ちゃんは次に俺を見る。

麗「詠も何で誘いに乗ったんだ?」

詠「キスされたら我慢できなくなりました」

俺は俺で自分に正直に答えてみる。

麗「私たちとしたときは大丈夫だったように見えたが?」

詠「いや、大丈夫じゃないって言ったよ」

それが聖姉ちゃんの時にタガが外れたってだけなのだ。

詠「それにけっこう、うん……」

麗「何だ?」

俺は言うのを少し躊躇ったが、姉ちゃんに促されて口を開く。

詠「……溜まってました、はい」

何週間か自慰行為してないので性欲に流されてしまったというのが特に要因としては大きい気がする。

しかし家で自慰行為できるのは皆がいない時、と限られるので、なかなかタイミングが合わないというものだ。

部屋でできればいいのだが、結構な頻度で姉妹の誰かが入ってくるので、落ち着いて自慰行為できない。

聖「私に言えばいつでも抜いてやるって言ってるだろう」

麗「聖、ちょっと黙れ」

明「勝手に発言しないで」

慶「変態レイプ魔」

姉妹三人により聖姉ちゃん一蹴。
慶ちゃんのそれは単なる悪口だね。なかなか酷い言い草である。否定はしないが……。
聖姉ちゃんは俯いて口を噤んだ。

麗「それで詠はどうしたいんだ?」

詠「どうしたいって、どういうこと?」

麗「誰かを選んでもないのに、そういう関係になるのは嫌だと、否定してたはずだったが……」

そうでした。
ごめんね。性欲には勝てなかったよ。

詠「すみません。みんな魅力的過ぎて、我慢が難しかったみたいです」

聖「つまり私に一番魅力を感じたということだな」

笑顔でうんうんと頷く聖姉ちゃん。
ヘイトを溜めるのが随分とお上手になった模様。

詠「いや、ムラムラした状態であんな迫り方されたら聖姉ちゃんじゃなくても多分、ヤッてた」

慶「だってさー」

からからと笑う慶ちゃんは、心底愉快そうだった。

それを聞いて、うっ、と怯む聖姉ちゃんは俺と慶ちゃんを、じとっ、と睨む。

明「ていうか、それって、誰でもよかったってことよね?」

少しキレ気味に俺に聞いてきたのは明姉ちゃん。

詠「いや、誰でもってわけじゃないけど……」

そこでぱっと浮かんだ顔が数名。

詠「姉ちゃんたちと慶ちゃんなら間違いなく……あと凛ちゃんと卯月ちゃんでもヤバかったかも」

聖「好意を寄せられてるからって調子に乗りすぎじゃないか?」

明「あんたが言うな」

俺は姉妹の会話を聞きながら、先ほど浮かんだ数人の恍惚とした表情を思い浮かべていた。
やはり聖姉ちゃんとの行為が尾を引いているのか、他の子ならどういう表情をするのかと考えてしまった。

勃った。もう限界。

詠「ちょっとトイレ行っていい?」

恥を忍んでトイレで抜こう。
行ってらっしゃいと麗姉ちゃんに許可をもらい席を立つ。

四姉妹の視線が俺の股間に集中してた気がするが、それは思い過ごしというやつだろう。

トイレに入り、鍵をすぐに閉めてズボンとパンツを一緒に下ろした。

詠「……」

その頃には聖姉ちゃんとの行為を思い出していて、過去最高レベルでギンギンになっていた。

俺は立ったまま自分の陰茎を握り、上下にしこしこ動かす。
不完全燃焼ということもあって、すぐに射精しそうな感覚が襲ってくる。

カラカラと、左手でトイレットペーパーを大量に手に取り、無造作に引きちぎる。
全身が震えてきて、自分の息が荒くなっていくのがわかる。

詠「うっ……はぁ……はぁ……」

大きく息を吐きながら、初めての性行為で射精した時と同じような快感を味わい、余韻に浸った。

詠「今までで一番凄いかも」

息を荒げたままそう呟くと、扉越しに、がたっ、と不自然な音が聞こえた。

詠「……」

これは聞き耳を立ててる。
その現場を押さえるために俺はあえて演技をすることにした。

詠「やば、全然治まんない」

独り言を外に聞こえるように言いながら、トイレットペーパーで白濁色の粘液体を拭き取って水に沈める。

詠「もう一回、出すか」

俺はそう言いながらパンツとズボンを履き直す。
扉越しに生唾を飲み込む音が確かに聞こえた。むっつり性欲魔人共め。

詠「よし……」

俺は一つ気合を入れて鍵を解錠してすぐにドアを開けた。
ごつっ、と鈍い音。続いて、いったー! と姉妹の悲鳴が聞こえて扉の脇から廊下を確認すると、バタバタと倒れた四姉妹が引き攣った笑みでこちらを見ていた。

詠「おい、こういうのが嫌だから、俺の性欲が溜まるんだよ」

俺がトイレから出て見下ろしながら言うと、彼女たちも立ち上がり、汗を流しながらも不敵に笑ってみせていた。

明「へ、へー。みんなが使うトイレでオナニーするんだ?」

慶「パブリックスペースで、す、するんだー」

動揺しているが、こいつらまるで反省してない。それどころか、俺のせいにしやがる。

麗「す、すまない」

素直に謝った麗姉ちゃんは許す。

詠「聖姉ちゃんも何か言えよ」

聖「これが詠の精子の匂い」

いつの間にか入れ替わりでトイレに入っていた聖姉ちゃんは、恍惚の表情を浮かべながらそんなことを呟いていた。

便器の前で深呼吸する姉の姿は、変態以外の何者でも無かった。

詠「聖姉ちゃん、いや変態、出ろ」

聖「出る!? 詠のどこから何が出るって!?」

何をどう聞き間違えたのか、変態という言葉はスルーで食い気味に俺に迫ってきた。

聖「手伝うぞ!」

詠「いいから!」

力づくで姉を追い出して、流していなかったトイレの水を流す。

聖姉ちゃんは残念そうな顔で流れていくトイレットペーパーを……うん、見てなかった。見てなかったってことにしよう。

詠「俺もう寝る。次は邪魔しないで」

賢者になって落ち着いたら、疲れてしまった。
自分の部屋に戻って布団を被り、すぐに眠気に従った。

次に起きたのは七時を回ったあたりだった。

詠「あ、ランニング」

ウェアに着替えて居間に行くと、麗姉ちゃんがすでに朝食を作っていた。

中断します。
今さらですが、コレジャナイ……という感想は一切受け付けておりません。

それとまずいことに書き溜めが半分を切りました。

大丈夫、コレです

聖姉ちゃんはどうしてこうなっちゃったの...?

食卓を囲んでいるのは彼女の他に聖姉ちゃんと明姉ちゃん。
慶ちゃんは相変わらず朝に弱いみたいだ。

詠「おはよう」

「「「おはよう」」」

三人の声が重なる。

詠「早いね」

麗「お前がいつもより遅いんだ」

明「まあ昨日、誰かさんのせいで全然眠れなかったみたいだし?」

聖「まったく、そいつはけしからんやつだな」

明「聖ちゃんのことでしょ!?」

憤慨する明姉ちゃんを、まあまあ、と笑っていなす聖姉ちゃん。
明姉ちゃんは呆れ半分、半眼で聖姉ちゃんを睨んでから、俺にその顔を向けた。

明「詠、今日はランニングお休み」

詠「ん、わかった」

俺は適当に返事をして食卓の席に着いた。

詠「いただきます」

玉子焼き、焼き鮭、味噌汁、白米、おひたし、などと少し凝った和風の朝食。
俺は箸を玉子焼きに伸ばす。

詠「美味しい。麗姉ちゃんが?」

麗「ああ、それだけでよく分かったな」

そう言いつつも麗姉ちゃんは、特に驚いたり、嬉しそうにするということもなく、味噌汁を啜っていた。

詠「まあね」

俺も彼女に倣って味噌汁を啜る。

詠「それより、ごめん」

麗「何がだ?」

詠「起きるの遅くなって……朝食も任せちゃって……」

麗姉ちゃんは急に立ち上がって俺の目の前まで来ると、コツン、と俺の頭に拳を落とした。

麗「気にしすぎだ。姉ちゃんはそんなに頼りないか?」

目を白黒させる俺に麗姉ちゃんがそう言い放った。

詠「そんなこと……すっげー頼りになる」

麗「いつからか、詠は人に甘えることを忘れてしまったようだな」

麗姉ちゃんに、ぎゅうっ、と抱きしめられる。

麗「昨日みたいに、いっぱい甘えてごらん。私は精一杯応えてやるからな」

詠「ん、ありがと」

聖「私は……?」

明「ダメに決まってるじゃない」

両手の指をうずうずとさせて聖姉ちゃんが俺に詰め寄るが、明姉ちゃんがそれをブロック。

慶「おはよー」

慶ちゃんも、なぜか早めに起きて、俺が起こす手間は省けた。

詠「今日は早いね」

慶「一限あるし、まあ、たまにはね」

と、頬をかいて視線を逸らす。

姉妹たちはそれぞれ出勤、登校の準備を終えて玄関は混雑し始める。
俺は彼女たちの見送り。
自分もあと一時間程度で家を出るが、何となくそうすることにした。

詠「行ってらっしゃい」

麗「ああ、行ってくる」

麗姉ちゃんは俺に近づいて、その柔らかな手で優しく頬に触れると、彼女の唇を俺の唇に重ねた。
ふわっとした柔らかな感触と、ふわっと漂う色香のような――何とも表現しづらい――ものが、俺の脳内に鋭敏に伝わってくる。

麗姉ちゃんはすぐに唇を離すと、何も言わずに微笑んで外へ出た。

聖姉ちゃんや明姉ちゃんも同じように俺に口付けしてから出ていく。

慶「お兄ちゃーん、行ってきます!」

ぴょん、と勢いよく抱き付いてくる慶ちゃんは、唇を食べるように接吻をして離れると、にぱ~、と快活に笑った。

詠「お、おう。行ってらっしゃい」

勃起するので本当にやめてほしい。
本格的に、姉妹たちのことを女性として意識するようになってしまったらしい。

詠「すっげぇ、抜きたい」

家事は珍しく彼女たちがやってくれたみたいなので俺はやることが無かったが、この時間に自慰でも……。

ほとんど開き直った自分の心は少しばかりの罪悪感をリードで引っ張ってはいたが、結局自室で性欲をぶちまけた。

さっきの唇の感触を、あるいは昨日の聖姉ちゃんとの行為を思い出しながら扱いたアレからは、昨日と同じくらいの量の白濁液が飛び出した。

俺が会社に着いたのは十時を少し回った頃。
社内は特に変わりなく、蓮さん、葉月さんと挨拶を交わして書類の整理に移る。

蓮「詠、今日も来るのか?」

蓮さんは昨日の、(普段は)クールなベテランのトレーナーである青木聖がデレデレで義理の弟に襲いかかるという、事件が起こってからその後の様子が気になるらしい。

詠「さあ、どうでしょう?」

あまり知られたくない俺は言葉を濁す。

葉月「あれから何もなかったんですか?」

聞き耳を立てていた葉月さん。彼女も気になっていたようだ。

詠「……えっと、少しばかり生活の乱れを感じます」

正直に意見を述べると、どういう意味だ!? と二人から突っ込みが飛んでくる。

蓮「ということは一線越えたのか?」

詠「いえ、ギリギリセーフです」

葉月「ギリギリ!? それはもうアウトだと思うんですけど……」

そうです。多分アウトですね。

そんな感じで仕事をしながら、あれこれ問答を繰り返していた。

蓮さんや葉月さんにはある程度喋ってしまっても構わないと俺も思っている。

蓮「あー、こりゃ凛が聞いたら悲しむぞ」

葉月「卯月ちゃんもですね」

詠「すみません」

蓮「や、まあ、いいんだけどよ。ただ、身内だし、俺は凛を贔屓することにはなるからな?」

葉月「蓮くんと同じく、私も卯月ちゃんの応援しますよ!」

二人とも自分の妹の話になると少し誇らし気である。

葉月「ただ、詠くんが選んだことには文句を言うつもりはありませんよ」

蓮「そういうこと。自分でしっかり決めるべきだろ、こういうことはさ」

詠「そう……ですね」

自分が流されやすいのは黙ってた方がいいのだろうか……。

仕事を続けて、気が付けば十四時。
我が姉は唐突にやってくる。

聖「詠いるか?」

蓮さんと葉月さんの注目を浴びながら聖姉ちゃん登場。

ちょっと二人とも、玩具が来た! みたいな顔しないでください。
そんなワクワクしたような二人に軽く会釈して聖姉ちゃんは綺麗な足取りで俺のデスクにやってきた。

詠「どうしたの?」

聖「休憩中だ」

詠「俺に用?」

聖「冷たいな。会いに来ただけだぞ」

詠「や、昨日俺にあんなことしといてさ」

聖「あ、ああ……夜のことはすまん」

違くって! 昨日の夜じゃなくて、昨日の昼!

ちらっと先輩二人を窺うと……ほら! すっごいにやにやしてる!
これは、また弄られるんだろうな。

詠「外であんまベタベタするのは無しだよ?」

聖「家ではいいのか!?」

詠「常識の範囲内でなら」

聖「私の常識でいいか?」

これは嫌な予感しかしない。

詠「ダメ。家でもキス無し、ハグ無し」

聖「キスは今朝したし、ハグもいいだろ!」

今朝のは不意打ちだからノーカンだよノーカン。
内心でそう思っておく。

詠「キスはあれでおしまい。手なら繋ぐよ」

聖「ケチ!」

詠「うん?」

昨日襲ってきたのは貴女だよね? という気持ちを込めて視線を送る。
聖姉ちゃんは、うっ、と怯むと納得いってないような表情で俺を睨む。

聖「お前はそうやって弄ぶんだな?」

詠「人聞きの悪いことを! もし弄んでたら姉妹全員と退廃的な生活を過ごしてるよ」

うんうんと頷く蓮さん。最低だ、と訴えるような眼で見てくる葉月さん。
というか、会話を聞かれていることが、今更ながら恥ずかしい。

そしてドン引きの姉。

聖「お前、何というか、そんなやつだったのか……」

詠「いや、弄んでないんだからいいでしょ別に。それとも弟離れする気になった?」

聖「それとこれとは話は別だろう!」

彼女自身、下ネタは好きで自分はヤリたいのに性にだらしないやつは嫌い、というよく分からない女性である。
これが俗に言う処女ビッチというやつか。
そう思ったけど、俺に対しては性に関してオープンすぎるというか……。
つまり、限定ビッチ? ……まあ何でもいいや。

あれこれやり取りをして聖姉ちゃんは戻っていった。

詠「すみません、お見苦しいところを……」

蓮「愛されてるのな」

蓮さんが唖然としながら言う。義理とはいえ、姉弟で先ほどの話をしていたのが驚きのようだ。

葉月「というか、キスとかハグって何ですか?」

葉月さんは別に知りたくないけど、と聞こえそうな様子で尋ねてきた。

詠「そのまんまの意味です」

葉月「はあ……」

曖昧な返事でげんなりと返すのが彼女の精一杯のようだ。

葉月「蓮くんは凛ちゃんとそういうことできますか?」

蓮「いや、考えたこともないし、想像もできない。てかキモイだろ」

葉月「ですよね」

葉月さんは男の兄弟いないじゃないですかー。なんて言えるはずもなく。

蓮「でも詠の場合、義理だからなぁ」

蓮さんはフォローをしてくれる。

葉月「何年来の姉弟なんでしょうか?」

詠「彼女たちとは十年くらいですかね」

葉月「そんなに長いのに恋愛感情に発展したんですか?」

蓮「まあ、今まで何もなかったのが不思議だと思おうぜ」

詠「いえ、恋愛感情はだいぶ前からあったと言ってましたよ」

蓮「お前が鈍感なだけか」

葉月「好きな子とかいなかったんですか?」

詠「学生時代に他の女性とお付き合いしたんですけど、何というか、なぜか上手くいきませんでしたね」

蓮「あー、多分お姉さんたちのせいだろうな」

葉月「詠くんシスコンですからねー」

そんな感じの話、昨日も聞いたんですけど。
というか付き合ってすぐにエッチだけはしたなんて言えない。

詠「シスコンは認めますけど、姉ちゃんは関係ないですよ」

蓮「お前、自分から告ったことないだろ」

詠「何で分かったんですか?」

この人エスパーだ、なんて思ったりした。

葉月「それは詠くん、流されやすそうだし、告白されて付き合って結局普段と変わらずに家族優先にして振られちゃうって感じですかね?」

俺の質問に答えたのは、なぜか葉月さんで、彼女の言ってることも大方合っていた。
あれ? エスパーが二人。

蓮「想像できるなぁ……なるほど、それで恋愛に臆病って感じか」

葉月「だから答えを引き延ばしにしてるんですね」

詠「ええ、まあ、そういうことです。『好き』なんて言われて、適当に流されて付き合ったものの、結局、一月で別れてしまいましたからね。もうそういうのはウンザリなんですよ」

童貞は捨てましたけど。
にしても、思い出したくないなぁ……。

『私とはセックスできれば、それでいいんでしょ? 性欲の捌け口だけにされるのは嫌』

とは唯一の元カノの言だ。
確かにデートらしいものはしてなかった気がする。姉ちゃんと予定が……とか言って彼女に対して真摯な態度ではなかったんだ。
今となっては遅いが、今となって分かったことでもある。

彼女とは特別な存在。
その認識が弱かった。姉妹と同列に考えていたわけだから。

このまま結婚するんだろうなー、とか適当に考えてた当時の自分が恥ずかしい。
できるわけがないし、できても続くわけがないのだった。

ちなみにセックスと言えば、彼女と別れた後にサークルの行事とかで一夜限りのお付き合いということも何度かあったな……。ちょっとした黒歴史になりそうな気がする。

詠「さっさと付き合った方がいいのかな……?」

デスクを見ながらぼそりと呟く。
アイドルのスケジュールをチェックしようとホワイトボードを見ると、ぎょっとした顔の先輩二人と目が合った。

詠「な、何ですか?」

蓮「何ですか……じゃねえよ!」

葉月「誰と付き合うおつもりで!?」

詠「えぇ……」

食いつき良すぎるでしょこの人たち……。
というか二人も結婚について考えた方がいいと思いますけどね。

二人に攻められたじたじしていると、ようやく事務所に数名のアイドルが入ってくる。

未央「おーっすプロデューサー!」

茜「プロデューサー元気ですかーーーー!! 私は、元気っですっ!!」

藍子「こんにちは、詠さん」

我がポジパの面々だ。
これにて質問攻めの流れはぶった切られた。

詠「や、こんちはー。助かったよ。やっぱ俺の愛しのアイドルちゃんたちだー」

未央「へへっ、プロデューサーの愛しの未央ちゃんだよー」

茜「愛と気合と元気があれば何でもできますからね!!」

藍子「詠さん……」

ノリノリでリアクションを取ってくれるのは未央ちゃんと茜ちゃん。
藍子ちゃんは何故か物悲しげな表情で首を横に振った。本当に何故だ。

藍子「そんなことばっかり言ってると、また誰か勘違いさせちゃいますよ?」

詠「え、勘違いって何?」

呆れたような眼差しで俺を見て溜息を吐く藍子ちゃん。
そのまま俺の横まで来ると、フッと軽く笑って柔和かつ優し気な雰囲気で俺の横を通り過ぎていった。

ちょっと今の何!? 藍子ちゃーん!?

葉月「詠くん、聞いてます?」

蓮「というか付き合うとしたら誰なんだ?」

く、しつこい。
解放されたと思ったらされてなかった。

詠「うーん、誰か一人にしろって言われてもすぐには……」

蓮「じゃあ、お前が一番タイプなやつで選べばいいんじゃないか?」

詠「うーん、タイプですか……」

一番俺の好みの顔は……卯月ちゃんなんだけど……笑顔がたまらないし、可愛い。
でも姉ちゃんたちや凛ちゃんを傷付けたくない。
っていうのはきっと俺のエゴなだけ……。
誰かを選ばなきゃみんな辛いだろうし……。

ああ、ハーレム系の主人公って凄いんだなぁ……。あんなにいろんな人から好意を向けられて、悪気なんて微塵も無くのらりくらりと躱すんだからさ。

あれ? それって最低じゃない? 好きって言ってんのに伝わってないってことでしょ?
そのうえ自分は罪悪感も無いと……。悪意すら感じる。

という人間に俺は片足を突っ込んでいるというのか……。悲しい。

まずはこの状況を認めて受け入れないとダメってことだ。
そして他の女の子との接触もなるべく避ける。

さて、ハーレムを早々にぶち壊そう。

そんな決意をした日の夜。

蓮「お疲れさん。そんじゃ詠、凛のことよろしく」

葉月「お疲れ様でした。卯月ちゃんのこともよろしくお願いしますね」

詠「はい、お疲れ様です。テストは明日からですので、これでおしまいですよ」

蓮「あ、そう。残念だったな凛。最終日だからって迷惑かけんなよ?」

凛「う、うるさいな。早く帰ったら?」

蓮「愛しの詠の前なのにそんなこと言うなよ」

頬を赤く染め、苛立った様子で蓮さんを睨む凛ちゃんだったけど、俺のことを指摘されるとさらに顔を真っ赤にさせてうぐっと、言葉を詰まらせる。

葉月「卯月ちゃんもお勉強しっかりね。点数伸びなかったら詠くんに申し訳ないし……でも最後の日だし、しっかりと彼のハートを射止めなさい!」

ビシッと人差し指を卯月ちゃんに向けてご指導ご鞭撻を怠らない葉月さん。
俺はもうこの人のキャラがどうなってるのか全く分からない。

卯月「お、お姉ちゃん! 恥ずかしいからやめて! 詠さん、こんな姉でごめんなさい!」

対して卯月ちゃんはお姉さんに、わっと文句を言うと、俺に振り返ってぺこぺこと頭を下げていた。

詠「はは……」

もう笑えばいいと思いました。

けれどもやるべきことは全力でとりかかる。

俺達は応接室に移動して勉強を始める。

詠「そうそう。卯月ちゃん、数学かなりできるようになりましたね! ちゃんと復習してるんですね、偉いです! 教えた甲斐があります」

卯月「えへへ……詠さんのおかげです!」

今日は何だかいつもより距離が近い卯月ちゃん。
ふわっとした癖っ気の長髪から、これまたふわっとしたいい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

卯月「あれ、詠さんどうしたんですか?」

多分、顔が赤くなったのだろう。
自分でも分かるほどに顔が熱くなっている。

詠「いえ、何でもないです」

ふいっと顔を背けた先には、じぃっと見つめてくる凛ちゃん。
ムスッとした表情に吸い込まれそうな瞳、何だか責められている気がしてしかたがない。

詠「凛ちゃん……?」

凛「別に?」

まだ何も言ってないよ!
好意を持たれてる相手二人から板挟みにされてるのって息苦しい。

詠「あ、あの、凛ちゃん……わからない所ありませんか?」

凛「別に」

いやぁ、きついっす。
突き放すのも突き放されるのもきつい小心者の俺はいったいどうすればいいんでしょうか。

がっくりと項垂れるが卯月ちゃんも勉強に集中し始めてこちらを見ていない。

しかたないのでしばらく二人の様子を見ているが、特に勉強に躓くこともなく手持無沙汰になってきてしまう。

どうしようかなんて思っていたら、応接室の扉が開いて慶ちゃんが顔を覗かせる。

慶「やっほ、卯月ちゃん、凛ちゃん、お兄ちゃん」

卯月「あ、こんばんは!」

凛「こんばんは」

詠「よ、てかまた来たの?」

慶「あ、酷いんだ! せっかくこんなに可愛い妹が来たって言うのにさ! それはそれとして、お兄ちゃんがいたいけな華のJKにいかがわしいことをしてないかチェックしに来たんだよ?」

詠「しないってば」

俺への信頼薄すぎるだろ。

慶「ちなみにお姉ちゃんたちはJKの若さという武器に為すすべもなく勝手にダメージを受けてお帰りになられましたー」

詠「あ、そう」

本当どうでもいいけど、姉さんたちの悔しがってる様子が目に浮かぶな。特に麗姉さんはアラサーだし、もしかしたら婚期に余裕無いかもしれない。

慶「ま、実を言うといかがわしい云々は建前で、この子たちがお兄ちゃんにアプローチしてないか心配だというのが我が家の総意なのです」

卯月「ええっ!?」

凛「は、はぁ!?」

詠「ははは、慶ちゃんや聖姉さんじゃあるまいし」

慶「何だとおぅ!」

そう言って卯月ちゃんと凛ちゃんがいるのも気にせず、ソファに座る俺にダイブしてくる慶ちゃん。
そのままの勢いでちゅっちゅしてくるのはやめてほしい。
JKが見てるのでさらに恥ずかしい。

詠「こら、やめ……んむっ!」

慶ちゃんが音を立てながら俺の唇にキスをする。
ついばんだり、舐めたり、吸ったりしてまるで音を鳴らして遊んでるかのように俺の唇を弄ぶ。

慶「えー? 兄妹なんだからいいじゃーん。あ、もしかして汗臭い? さっきまでレッスンしてて汗かいちゃったし……」

俺の太腿に跨って向かい合う姿勢で急に何乙女な反応してんだと思う。
近い。さっきまで汗かいてたとは思えないほどいい匂いするんですけど……。
いつものお風呂上がりのフローラルな感じじゃないけど、女の子の汗ってこんないい匂いなの? なんかえっちだ。

詠「や、べつ、べべ、別に臭くないですけど、ですけど?」

慶「あはは、動揺しすぎー」

凛「慶さん!」

卯月「ダメ~!」

卯月ちゃんと凛ちゃんは二人がかりで慶ちゃんを俺から引き剥がそうとするが、慶ちゃんも負けじと俺にしがみついて抵抗している。

慶「やだぁっ!」

にこにこ笑ってるのは彼女たちに対する余裕の笑みか……。
とにかく楽しそうだ。

慶「んぉっ!?」

いきなり、素っ頓狂な声を上げる慶ちゃんだったが、みるみるうちに顔が赤くなって俺の太腿をズボンの上から触る。

慶ちゃんが声を上げた拍子に卯月ちゃんも凛ちゃんも何事かと手を止めてしまった。

慶ちゃんの手が腿から股間へと徐々に移動していき、突起にちょこっと触れると、むふっとゲスっぽい笑いを浮かべて見せた。

詠「慶ちゃん! ここ事務所だからっ!」

俺の慌てっぷりにびくりと驚くアイドル二人。
彼女たちの純情を汚したくはない……。

慶「お兄ちゃんさぁ……」

詠「待てって!」

慶「勃起してるね?」

詠「わあああああ! してないしてないしてないしてにゃぁぁああ!!」

慶「ほら、卯月ちゃん、凛ちゃん見て?」

詠「いい加減にしろって!」

卯月ちゃんも凛ちゃんも完全に動きを止めて、慶ちゃんを取り押さえるのを止めてしまったようだ。

俺はすぐさま慶ちゃんを引き離そうとするが、ぎゅっとしがみついたまま俺の後部へと器用に移動すると、ぐいっと両手を後ろで捕まえられ、上半身の動きが取れなくなる。

慶「ほら、卯月ちゃん、凛ちゃん、触ってみていいよ? 妹の私が特別に許可しちゃう!」

詠「許可するなっ! 二人とも駄目だから!」

おろおろとする二人、欲求と俺の言葉の板挟みに葛藤しているようだ。

慶「本当はお兄ちゃん溜まってて、触ってほしいんだよ。ほら、あんまり抵抗しないでしょ?実は昨夜も聖ちゃんに迫られてセッ〇スしそうになったんだから!」

こいつぅ……べらべらと本当のことを話しやがって!
あら、アイドル二人は頭の上から首まで真っ赤にさせちゃって、初心な反応をしていらっしゃって、可愛らしいこと。
ごめんね! 俺のせいで汚れちゃうね!

凛「ご、ごめん詠さん……」

最初に動いたのは凛ちゃんだった。
恐る恐るかと思いきや、結構思い切ってぎゅむっとズボンの上から俺の陰部を触りましたとさ。やっばい、背徳感とか罪悪感とかいろいろあるけど、それらがいい感じでミックスされてて、気持ちいい。

いやいや、とにかく言い訳無しに気持ちいいかも。
昨日抜いたのにすぐに復活するからダメだこりゃ……。

じゃなくて! 流されちゃダメだろ! 何とか止めさせないと……。

凛「硬い。骨……みたいかな?」

卯月「り、凛ちゃん……」

凛「卯月も触って、みる?」

相変わらず真っ赤っかな卯月ちゃんはこくこくと頷いて、恐る恐る手を伸ばす。

詠「待ってください卯月ちゃん。流されちゃダメです。学校のテストで良い成績だったら私にできることなら何でもしますから、今は我慢してください」

卯月「な、何でも……」

ゴクリと生唾を飲む卯月ちゃん。意外とむっつりなのか?

卯月「で、でででで、デートでもいいんですかっ!?」

と思いきや華も恥じらうJKらしく、要求してくることが俺的に何段階かランクダウンしたので助かった。

凛「詠さん、私は?」

詠「凛ちゃん、触りましたよね?」

凛「ノーカンってことで……」

詠「でも触り……」

凛「すみません、無かったことにしてください」

ソファに座る俺の横で頭を下げる凛ちゃん。そこまでするのか……と俺は困惑してしまったが、土下座しそうな勢いすら見せていたので、俺はしかたないなーと言って凛ちゃんに顔を上げるように促す。

詠「じゃあ凛ちゃんは学年で30番以内を取ってください。そしたら何でも言うこと聞きますよ?」

凛「言ったからね。約束だからね」

これでもかというほど念を押すように問い詰めてくる凛ちゃん。
そんなに必死にならなくても……と思わなくも無いが、それよりもなんて効果覿面なのだろうか。
俺が条件出して何でも言うこと聞くよと言っただけでこんなにあっさり引き下がるなんて……。

慶「あれ? 何さ、つまんないなぁ……」

詠「おい慶ちゃん、そろそろ離せ。もう一生口聞いてやらんぞ? あと、俺の部屋に入るの禁止にするし、起こすのもやめるし、ていうかもう接触するの禁止」

慶「わー、ごめんなさい! 調子に乗りすぎました! もうしません! 許してください!」

詠「うん。ていうか、女子高生とこんなことしてるのばれたら俺即行クビで刑務所行きになるし、慶ちゃんたちとも事務所でいかがわしいことしたら俺すっごい処分くらうから止めてね?」

慶「むぅ……」

膨れてないでマジでお願いします。
俺もそうだけど、姉ちゃんたちは後先考えない所あるから怖いんだよな……。まだ常識があるのは麗姉ちゃんくらいだよ。

詠「本当みんなも勘弁してよ? 俺この仕事まだ辞めたくないよ」

ちょっと汚いけど、みんなも辞めてほしくないでしょ? というニュアンスを含めているつもりだ。相手の好意を利用しているようで罪悪感に襲われる。

卯月ちゃんも凛ちゃんも俺に謝ると、本当に申し訳なさそうにしょぼんとしていた。

詠「慶ちゃんも……ね?」

慶「うん、わかった」

聞き訳が良くてお兄ちゃん嬉しい。でもトラブルを作らないのがお兄ちゃん一番嬉しいから、今度からは大人しくしてほしい。

俺のすごい釣り竿も、ナニも釣れないものだから次第に張りが収まっていった。

慶「じゃあ続きは帰ってからでいいよ……」

詠「ぶふっ……!!」

噴き出して思い切り咳き込んじゃったじゃないか。
何言ってんだこの義妹は……。

詠「しない! この子たちの前で変なこと言うな! 本当にごめんねバカな妹で!」

慶「私は本気だよぉ。お兄ちゃんの性処理するよ?」

夜のテンションだからなのか分からないが、下ネタ全開の慶ちゃんのせいで卯月ちゃんと凛ちゃんは耳を真っ赤にして俯いてしまってる。

詠「いらない。一人でできるし……じゃなくて、変なこと言うなって!」

慶「聖ちゃんとは……」

詠「いや、いいからもう帰れって。卯月ちゃんと凛ちゃん、勉強するから。それに女子高生に聞かせる話じゃないだろ」

俺は慶ちゃんの言葉を遮った。
何のつもりか分からないが、俺から慶ちゃんに対する好感度はすこぶる低下してるんですけど。

慶「そうかな私は興味あったけど」

詠「あっそ、俺は興味無い」

卯月「勉強、続けましょう?」

凛「詠さん、ここ分からないから教えて」

二人はすでに勉強する気満々で凛ちゃんも珍しく分からないところを教えてほしいと言ってくれた。

詠「あ、もちろんいいよ。ちょっと見せて……あー、じゃヒントあげる。この場合分けまではいい感じ。後はこの式とこの式を比較してみて? 同じグラフに書いてみて視覚化するといいよ」

凛「ん……あ、そっか。この二式は接点無いんだね」

詠「そうそう。もう答え出たね、流石凛ちゃん」

凛「ん、ご褒美は?」

詠「へ? ご褒美?」

ずいっと頭を向けてくる凛ちゃん。
な、なんかたまーに大胆だよなこの子と思いながら、彼女の頭に触れる。
サラサラの長髪を梳くように指先で撫でてやると、目を細めて俺の方に身を寄せる。
続いて髪の流れる方向に沿って手全体で撫でる。
凛ちゃんは甘えるように俺の胸に頭を、ぽす、と乗せて上目を使って微笑んだ。

何だこの子。ちょー可愛いんですけど……。
いつものクールっぽい感じとのギャップが堪らないんですけど……。

中断します。メリクリですね。
なぜ私は聖なる夜にこんな駄文を投稿しているのか……。
皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

ポジパは残念ながらこの作品ではPにこれ以上接近することはありません。
実はこれとは別にエロ展開を無しにしたCEROA版を執筆しております。
そちらは姉妹が登場しつつも、ポジパメインでアイドルとプロデューサーの恋愛青春群像活劇的な感じで話を展開しています。
まだまだ書き溜めも無く、投稿予定も全くありませんが、今書いてるお話が終わってまた何かssを書きたくなったら、
そちらを完結及び投稿しようかなぁと思っております。

>>163
エロコメ的な展開に向いてる性格の方が扱いやすかったってところですね。
それと四姉妹の中で『実は下ネタを一番言いそう』なイメージだったので。
完全に偏見ですね。ベテラントレーナーファンの皆さん、すみません。
でもちょっぴり変態でエッチな聖姉ちゃんを好きになってくれたら幸いです。

中書きが長くなりました。
完結までまだ時間がかかると思いますが、今後ともよろしくお願いします。

詠「って、こらこら、テストで30番以内だったらご褒美でしょう?」

あっぶねー。甘やかすところだったわ。

凛「そうだった。詠さん、急にタメ口になったから距離近くなったなって思ってつい……」

あ、そういえばすっかり敬語が抜けちゃって……まあ物理的に距離が近くなれば抜けもするか。
抜けるってそういう意味じゃありませんからね! って誰に言い訳してるのか俺は……。

というか、つい……、じゃないよ。

凛ちゃんは少し名残惜しそうに俺から離れる。
勉強に戻る前に、俺のズボンに視線を移したのはきっと気のせいだ。
その時の舌打ちしたのはどういうこと? 俺の聞き間違い? きっと俺の聞き間違いに違いない。

華も恥じらうJKが股間の膨らみ具合を見て、不満そうに舌打ちするわけないもんね!

俺が戦慄していると、凛ちゃんの逆側から顔を覗かせる卯月ちゃん。

卯月「詠さん! 私もこれ分かりました! はい!」

問題を解いた答えが書いてるノートじゃなくて、先に頭を出してくるのはどうなのでしょうか。

詠「あ、うん、まずノート見せてね?」

ぽん、と出された頭に手を置いて彼女のノートを受け取るためにもう片方の手を差し出した。
卯月ちゃんは恥ずかしそうに身をよじらせて、おずおずとノートを差し出す。

詠「はい……あれ、答えが違う……」

卯月「え、そんな……」

や、そんな落ち込まなくても……。

詠「うん、うん……でも大丈夫だよ、解き方は合ってるからね。多分途中で計算ミスしてるだけだし、落ち込まないで」

よしよしと頭を撫でる。
卯月ちゃんは、ほんわかとした表情になった。
目を蕩けさせたような表情にも見えたけれど、きっと見間違いに違いない。

慶「ちょっとー、お兄ちゃん?」

何、その責めるような目は……。
やめてくれよ。

もともとはお前のせいだぞ?
変な風に手を出してくるから……。
彼女たちのタガを緩くしたのは慶ちゃんだからね?

詠「慶ちゃん、帰らないの?」

慶「もう遅い時間なのに、一人で帰らせる気? それにお兄ちゃんが何か変なことしないか、その逆の監視も兼ねて残ることにしたよ」

詠「はあ……わかった。けど……」

慶「わかってるよー。もう大人しくしてるから!」

慶ちゃんはそう言うと向かいのソファに座ってスマホをタスタスサッサッと動かし始めた。

俺のスマホからテロリロリン♪と鳴るところから、どうやら俺にメッセージを送っているのだろうか。

詠「あ、ごめんね」

自分のせいで勉強中の二人の集中力を欠かせてしまったことを謝って、サイレントマナーにするためスマホを鞄から取り出す。

機器をパッパッと操作して、サイレントマナーにする。
その間にもどんどんメッセが更新されていく。
何だ何だ……と10秒に1メッセ程の勢いで来る通知に困惑しながらアプリをチェックすると、『青木姉妹(兄弟)』と記されたグループの未読メッセージを表す数字が増えていく。

『青木姉妹(兄弟)』

慶『お兄ちゃん、卯月ちゃん、凛ちゃんで勉強会なう』
慶『お兄ちゃんデレデレしてる』

聖『けしからん』

麗『そのくらいいいだろう別に』

聖『ダメ』
聖『島村妹も渋谷妹も詠のことが好きなのを姉さんは知らないのか?』

麗『知ってるが、私たちは家で会えるからな』

明『まあ問題無いってことじゃない?』

聖『甘い』
聖『甘すぎる』
聖『そんなんだから未だに結婚できないんじゃないか?』

麗『家に帰ったら憶えておけよ?』

慶『聖ちゃん煽り方上手すぎて引く』

聖『引くって何だ』
聖『?』

明『デリカシーゼロ女ってことじゃない?』

聖『私は帰ったら姉さんの餌食になるが、明は帰ったら私のストレス解消に付き合ってもらおう』

明『やだよ』
明『じゃあ帰ってこないで』

聖『もう家に向かってる』

麗『歩きスマホはやめろ』

聖『早速突っかかってくる』

慶『笑』
慶『それは被害妄想じゃない?』
慶『歩きスマホは本当に危ないから気を付けてね』

明『ていうか、これ詠も見てない?』
明『既読4になってる』

慶『またお兄ちゃん卯月ちゃんの頭撫でてる』

明『は?』
明『何それ』

聖『ロリコンしね』

麗『犯罪はやめてくれよ。頼むから』

詠『誤解です』

慶『何か、問題に正解するたびに撫でてる』
慶『ご褒美だって』
慶『お兄ちゃんマジキモイ』

明『きも』

聖『しね』

麗『気持ち悪い』

詠『二人がやってって言うから』

明『凛ちゃんにも同じことやってるって自白したよ』

聖(蔑んだ目のスタンプ)

麗『言葉も出ない』

詠『勉強に戻ります』
詠『慶ちゃん、実況するのやめて』

慶(難聴系猫のスタンプ)

麗『慶、続けて』

聖(睨みを利かせてるスタンプ)

明『やめたら私のストレスは慶ちゃんに向かうわね』

慶(OKとジェスチャーしている猫のスタンプ)

俺はそこでスマホを置き、二人の勉強に集中した。
正解したら頭よしよしのご褒美は無しにしてもらい、そういったことが姉たちに筒抜けになってることを伝えた。

勉強が終わり、二人を家まで送ったのだが、慶ちゃんは帰路に着くとずっとグチグチと文句を言い、帰ってからも姉妹たちに素っ気なくされたり、愚痴を言われたり、居心地が悪かった。

一体、俺の今後の生活はどうなっていくのだろうか……。

時は流れてテスト明け。

茜「いや~! 全然ダメでした!!」

未央「私も!」

藍子「すみません、プロデューサー……」

詠「あはは……ま、次回頑張ろうね。進学するつもりならなおさら頑張ろうね」

藍子ちゃんは各教科平均以上という普段のゆるふわからは想像できない成績の良さだったのだが、残った二人はそれは酷かったらしい。
未央ちゃんは一年だし、まだ挽回の余地はあるのだが、茜ちゃんは目も当てられないだとか……。
直前に勉強してもあまり効果は無いよなぁ……。
藍子ちゃんは何故か自責の念に駆られてる。貴女のせいじゃないよ。

卯月ちゃんと凛ちゃんはまだ来ていないが、テスト期間中も勉強のために応接室に残り俺と勉強をしていた。
初日の科目が難しかったらしく、それはもう残りの日数は死に物狂いで頑張っていたのだが、結果はどうだったのだろうか。

詠「さ、切り替えて明日のライブに向けて準備しよう。みんなは本番大丈夫?」

ポジパの三人に尋ねると、こちらも元気よく返してくれた。

未央「バッチリだよ! みんなを笑顔にしちゃうからねっ!」

茜「本番って言う響きがもう熱いですよねっ!!」

藍子「はい、任せてください」

詠「頼もしいなぁ。勉強もしっかりやろうね」

未央「うっ、プロデューサー、今日は説教キツイね~」

詠「何言ってんのさ。何事にも全力に取り組む! それこそがポジティブ、そしてパッションだよ」

茜「確かに! プロデューサーいいこと言いました!」

詠「でしょう?」

藍子「私たちもライブだけじゃなく、いろんな仕事にもっと積極的にアプローチしないといけないんですね」

詠「そだよー。そんじゃ最後のレッスン行っておいで」

そうして俺は彼女たちを送り出す。

今日のレッスン担当は聖姉ちゃんだったはず。
俺の担当アイドルユニットってこともあって、歌とダンスを合わせた総合レッスンは厳しく指導していたようだが、彼女たちは筋が良いと言ってたっけ。特に茜ちゃん。
藍子ちゃんはもっと頑張らないとダメって言われてたけど、最近はそういうこと聞かないな。

俺も明日の段取りをチェックしたり、各方面にも確認のやり取りをしたり大変だ。
CDを現地販売して、その場で彼女たちから受け渡し、お客さんと握手してちょこっと会話したりするだろう。
トラブルが無いように気を付けないと……。

あれこれ考えていると卯月ちゃん所属のユニット、ピンクチェックスクールと凛ちゃん所属のユニット、トライアドプリムスの面々が事務所に姿を見せる。

加蓮「やっほープロデューサー」

蓮「おう」

奈緒「よっす、プロデューサー」

蓮「よっすー」

凛「詠さん、こんにちは」

詠「こんにちはー」

蓮「おい、担当プロデューサーである俺への挨拶は?」

凛「は? 兄貴なんだし、別にいらないでしょ?」

蓮「親しい仲にも礼儀ありっつってな……」

凛「はいはい、こんにちは」

蓮「何だ、急に素直だと気持ち悪いな」

凛「うざ……ていうか別にそんな親しくないし」

蓮「まあ、そうかもな。でも家族だろ」

凛「知ってる? 兄妹って一番近い他人って言われることもあるんだよ?」

加蓮「うわ、いつになくキツイね凛」

蓮「もう詠にしか眼中に無いって感じだしな」

奈緒「そんなに好きなんだな……何か羨ましいかも」

加蓮「あれ、奈緒ってば意外と乙女チックだよね」

奈緒「いいだろ別にっ! アニメも好きだけど少女漫画も結構好きなんだからな」

加蓮「あはは、乙女チックなのと少女漫画好きなのは関係無いと思う」

蓮「そうだな。少女漫画好きが乙女チックって完全に俺と一緒の発想だぞ」

奈緒「え、プロデューサーも同じなんだ……」

蓮「ああ、まあな」

奈緒「ふーん、一緒ねぇ……」

加蓮「やっぱ奈緒って乙女チックだよねー」

そんなやり取りを聞きながら俺は明日の計画に再び目を通していたのだが、いつの間にか凛ちゃんが俺の隣に立っている。
逆の横には卯月ちゃん。

卯月「詠さん、こんにちは!」

詠「あ、こんにちはー。二人ともどうしたの?」

凛「詠さん、見て」
卯月「私もどうですか?」

二人が取り出したのは一枚の紙切れだった。
その細長い紙には数字がいくつも並べられており、数字の上部には科目名が書かれていた。
一番端には順位が書いてあり、凛ちゃんはその欄に『27/355』、卯月ちゃんは『89/468』。
なかなか上位に位置しているようだった。
さらに前回との比較もあり、順位はそれぞれ『40↑』、『144↑』と書かれている。

詠「おー、中間からどのくらい上がったかも書いてあるんだ。二人とも大幅アップかな?」

卯月「じゃあ……」
凛「約束」

にこにこ笑顔の卯月ちゃんとギラギラした瞳の凛ちゃん。
そうでした。何でも言うこと聞くってやつ忘れてた。

詠「俺の出来る範囲でお願いします」

卯月「じゃあ、今度一緒にお出かけしましょう! 遊園地行きたいです!」

えー、何この子。ちょー可愛い。
そんなのいくらでも付き合っちゃうんですけど!

詠「うん、いいよ。じゃあいつ行くか後で決めよう」

卯月「はい!」

詠「凛ちゃんは?」

凛「私と結婚」

詠「は?」

えー、何この子。ちょー怖い。
いやマジでちょっと待て。

詠「ごめん、それは無理!」

凛「何でも言うこと聞くって」

詠「言ったけど! 言ったけど! そんなお願いされるとは思ってなかったというか……もっと卯月ちゃんみたいなデートかと思ったんだけど……違うの?」

凛「結婚して」

いやいや、ていうかまだ年齢的にも結婚できないよね?
それに結婚決めるの早いよ。大学出てからでもよくない?
それにアイドルとしてまだ咲き誇ってないよ?

詠「やっぱダメ! ダメ! 結婚は無し! 婚約もダメ! もうちょっと現実的にお願いします」

凛「結婚は現実的じゃないの?」

小首を可愛らしく傾げてもダメ!
上目づかいで尋ねてもダメ!

詠「全然現実的じゃないよ! 俺の気持ちも考えて」

凛「しょうがないなぁ……」

えー、そんなに大仰に溜息吐かれても……なんか俺が悪いみたいだし。

凛「じゃあ考えとくから後で言うね」

詠「うん、わかった。でも既成事実を作るようなことは無しね。そういうのは応じないからね」

凛「……チッ」

今舌打ちした! あっぶねー、良かった釘差しといて。
最近になって大胆過ぎるよ凛ちゃん……。
デートコースにしれっとラブホテルとか入れかねないよな。
しかもそれで捕まるの俺なんだよな。

蓮「詠よ、お前そんな約束したのか……」

詠「すみません……」

葉月「だから卯月ちゃん、いつもより頑張ってたんですね」

俺はゆっくりと床に膝を付けた。

蓮「いや、土下座はしようとしなくていいんだが、何と言うかご愁傷様……。俺も凛がそこまでお前にベタ惚れとは思わなんだ。もはや病的だな」

だったら何とかまともな子に戻してくださいお義兄さん。

葉月「詠くん大変かもしれないですけど、卯月ちゃんのことよろしくお願いしますね」

こっちは安心だなぁ……。

恐らく、姉たちに強引に行けば意外と行けるとか聞かされてしまったのだろうか。
確かに俺は流されやすいし、相手のことを考えるとあんまりノーとは言えないイエスマンだけど、さすがに断ることも覚えていかないと、まずそうだぞ。

中断します。

そんなこんなで翌日。

詠「おはようみんな、今日は頑張ろう」

茜「頑張りましょーーーーっ!!!!」

未央「お、おー……」
藍子「は、はいっ……」

やっぱり小さい会場といえど初ライブだし緊張するよね。
茜ちゃんの心臓だけでなく、毛細血管にも毛が生えたような人は珍しいはずだよね。

詠「二人とも茜ちゃんを……全部とは言わないからちょっとは見習おう?」

未央「って言われても……」

藍子「無理ですよ~……」

詠「うん、知ってる」

茜「何やってるんですか皆さん!! 未央ちゃん、藍子ちゃん! 張り切っていきましょう!!」

ところで今日の茜ちゃんは何か一段と気合が入っているな。
良いムードメーカーになってくれてるんだろう。

詠「茜ちゃん、今日はさらに元気が良くて安心したよ。歌もダンスも二人を引っ張って行ってあげて!」

茜「……」

ん? 何で何も言わないの? 聞こえなかったのか?

詠「茜ちゃん」

ぽん、と肩を叩くとビックゥ! と上下に大きく身体を震わせてこちらを向く。
そんな彼女の額からはあ汗が滝のごとく流れ、瞳は右と左を行ったり来たりしている。

詠「おーい、一段と声がでかかったのって、実は緊張から?」

茜「じ、じじじ、実はそうなんですっ!!!!」

そうなんですかっ!!
これは参ったな、よく見たら茜ちゃんもガッチガチに身体固まっちゃって歩くのもぎこちない。

詠「困ったな。まあ大丈夫、大丈夫。最初のステージなんだから別に失敗してもいいし、あれだよ。別に今日のお客さん、お金払ってる人いないからさ。ただの売り込み。宣伝だよ」

というわけなのでわまり深く考えずに楽しんでもらおうと思ったのだが、どうも緊張感が高まってしまって、それどころでは無さそうだ。

詠「うーん、しかたない」

本番まであんまり時間が無いのだがちょっと電話でもかけてみよう。

俺が繋いだ先は明姉ちゃん。

明『どうしたの詠? 担当アイドルの初ライブで緊張しちゃった?』

詠「あー、まあね。というわけで彼女たちに助言お願いします」

明『はい? 詠じゃないの!?』

詠「どうして俺が緊張するって思ったんだ……」

明『た、確かにそうね……。だけどそう言われてもなぁ』

詠「見事緊張が解けたら、ケーキでも買ってくよ」

明『ケーキは要らないわ。その代わり私とお出かけね?』

詠「お出かけ……?」

明『そう。このライブ終わったらちょっとお休み貰えるんでしょ?』

何で知ってんだよ。

明『はい、じゃあ電話替わって』

詠「あ、うん。でも変な所に連れ回すのはやめてよ」

明『わかってるわよ』

本当かよ? とは思いながらもとりあえずは彼女を信じるしかないか。

詠「未央ちゃん、電話だよ」

未央「え、え、こんな時にいったい誰なのさ~」

困惑し、緊張の面持ちで電話を受け取る未央ちゃん。

明『未央ちゃん?』

未央「え、トレーナーさん?」

明『はい、三女の明です。あなたたちのプロデューサーの義姉です』

未央ちゃんが俺を見る。
ああ、そういえばこいつの姉妹ってトレーナーさんだった、と言わんばかりの意外そうな眼差しが突き刺さる。

明『未央ちゃん、今までやって来たことを思い出してください。貴方達ならできます。ほら昨日の厳しそうなトレーナーも言ってませんでしたか?』

未央「え、何て……?」

明『「バッチリだ」って』

未央「あ」

明『自慢じゃないんですけど、うちの姉、長女と次女なんですけどね? 二人がバッチリっていう評価をすることは珍しいんです。だから自信持っていいですよ。というか自信持ってください。じゃないと姉に本番に弱いやつだって思われますから』

未央「は、はい! 頑張ります!」

明『後、ライブ成功したらプロデューサーもご褒美を用意してくれてるみたいですから楽しみにしてください』

未央ちゃんは緊張の面持ちが解けて少し笑みを浮かべた表情だ。
どうやら効果があったらしい。

その後、茜ちゃん、藍子ちゃんも同じように電話をして、自分の調子を取り戻す。

詠「おー、何か明姉ちゃんのおかげでみんなの顔も良くなった。ありがとう」

明『そうでしょう? 約束通り今度私に付き合ってね。あと、終わったら美味しいもの食べさせてあげなさいよ』

詠「わかったわかった。本当ありがとうね」

明『ん、じゃあね』

詠「うん」

通話を切って彼女たちに向き直る。

詠「どうだ。師匠からのお言葉は」

未央「ははぁ……ありがたき幸せ」

詠「それはちょっと違うと思う」

藍子「でも元気出ました! 緊張も和らぎましたし」

茜「私も私らしく張り切っていきます!!」

よかった、よかった。
これもみんな明姉ちゃんのおかげだな。
ていうか俺しっかりしなきゃだめだ。姉ちゃんに頼ってばっか。

ということもあり、ライブは無事に成功した。

「ありがとうございました! ポジティブパッションでした!」

拍手がぱちぱちと鳴りやまぬ中、散っていくお客さんたちであったが、歌を聞いていた人の中にはCDを買ってくれる人もいらっしゃったようだ。

「歌良かったよ」

未央「あ、ありがとうございます!」

「ありがとう。元気もらっちゃった」

茜「こちらこそありがとうございますっ!!」

「応援するからねー」

藍子「ありがとうございます」

オレンジ色の衣装に身を包んで客に応じるポジパの三人。
小規模の中にしてはよくやった方だろう。

詠「お疲れさまー」

お疲れさまです! と三者三様の挨拶を頂いて、各関係者にも挨拶回りをした。

全てが終わって、時間は八時を回る。
着替えを済まして、いったん事務所に戻る。
俺は書類を整理し終え、ぐぐいっと伸びをする。

彼女たちは待ってくれたみたいで、未央ちゃんが「遅いよー」と言いながら俺の腕を引っ張る。

未央「今日は成功だったよね!」

藍子「頑張った自分たちにご褒美が欲しいです」

茜「美味しいもの食べに連れてってくれるんですよね!!」

明姉ちゃんが余計なことを言ったようだ。
と多少思いつつも、俺は快く彼女たちを連れ出すのだった。

まだ彼女たちとのスタートを切ったばかり、これからもよろしく、と握手を交わすのだった。

中断します。
お話の本筋はここでいったんお終いです。
これから個別ルートに入るのでしばしの間お付き合いの程よろしくお願いします。

すぐに再開して、少しだけ投稿します。

『島村卯月』

しばらく経過し、俺は卯月ちゃんとの約束の日を迎えた。

遊園地に連れて行ってください!
という彼女のお願いを叶えることにしていたのだった。
今回、学校のテストで平均点から脱した彼女は大幅に成績を上げて、俺との遊園地デートを所望したのである。

詠「って早く来すぎたかな……」

デートの待ち合わせ時間は朝の九時に駅前ということだったのだが、今は八時だ。
男なら早く行くべきだとの麗姉ちゃんからのお達しで俺は早めに行くことにしたのだった。

卯月「うぅ……早く来すぎちゃったかも……」

そんな小さな声に振り返ってみれば、数メートルくらい離れた場所に見覚えのある女の子が普段よりも一層おめかしをしていてそわそわと落ち着きなく突っ立っていた。

こちらには気が付いてないようで、しばらく様子を見ているとスマホを片手に何か悩んでいる様子だ。
これはあれだな。
早く着いたことを俺に連絡するか迷ってるとか……?
いや、そんな急かすような子じゃない。
ただ俺と連絡取ろうとしてるってところか?

もしかしたら葉月さんにデート時の振舞い方を聞いているかもしれない。

葉月『今日は卯月ちゃんのことよろしくお願いします』

俺のスマホに着信が来たと思いきや、葉月さんからのメッセージだ。

詠『はい、卯月ちゃんと楽しい思い出作ります』

と返信。
しばらくして、ハートたっぷりのスタンプが葉月さんから送信された。
楽しんで、ということなんだろうか。

しばらくして卯月ちゃんが頭を抱え始めてしまったので、俺は彼女の横にさりげなく移動する。

詠「おはよ」

卯月「ひゃああっ!?」

詠「うおっ!」

卯月「え、えええ、詠さん!? び、びっくりしましたぁ……」

詠「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ」

卯月「い、いえ、私も驚いちゃって、すみません」

詠「や、いいってば。それより卯月ちゃんも早く来てたんだ。奇遇だね」

卯月「あ、はい。詠さん、早く来そうだなって思って」

詠「そう? 俺、そんなしっかりしてないよ」

卯月「そんなことないですよ!」

詠「そっかな……?」

卯月「そうですよ」

詠「……」

卯月「……」

間が持たない。
ここは早いところ移動しちゃって遊園地に行こう。
けっこうアトラクションも充実してるし朝から行っても回り切れるか怪しいくらいなので、早く来たのは正解だったかもしれない。
それに今日は休日ということもあって混雑予想なのだ。

詠「じゃあ行く?」

卯月「はい」

こくん、と控えめに頷く卯月ちゃん。
事務所で見るときは基本すっぴんの彼女であるが、今日はナチュラルメイクで女性らしさをより強く感じる。
すっぴんでも可愛いのに、これは…………破壊力があるなぁ。

詠「……きょ、今日さ!」

卯月「は、はいっ!」

詠「卯月ちゃん、その、可愛いね。……や、いつも可愛いんだけど、何て言うか普段よりもたくさん可愛い……」

何恥ずかしいこと言ってるんだ俺は……。
ていうかたくさん可愛いって何だよ。日本語変だろ。
つい口にしてしまったけど気持ち悪いって思われないだろうか。

卯月「え? あ、う、えっと、ありがとうございます……えへへっ」

照れたように笑って顔を赤らめる。
その後も口をもにょらせて、にへらっと無防備な笑顔を見せ続けている卯月ちゃん。

卯月「詠さんも、その、私服似合ってます……」

詠「あはは、ありがと。じゃあ行こうか」

俺は乾いた笑いで誤魔化して、片手を差し出す。

詠「手、繋ごう。デートなんだし」

卯月「あ、は、はい……」

おずおずと握る手は柔らかく、俺の手汗と彼女のわずかな手汗がしっとりと絡み合って、彼女が不快にならないかちょっと気になりながらも、それでもしっかりと握ってくれた彼女に応えるように俺もぎゅっと握り返した。

卯月「指……」

彼女が小さく吐息を漏らすような声量で言った。
聞き取るのがやっとだったが俺は続く言葉を待つ

彼女はふっと息を吐いて一呼吸置くと、若干前を歩く俺を見上げる。
瞳は妖しく濡れていて、化粧のせいで普段とは違う輝きを放つ柔肌に魅せられる。
吸い込まれそうだと思った。彼女の瞳にだけでなく、その全身に自分の身を持っていかれそうに感じた。

卯月「絡めてもいいですか」

一瞬ではなく、数舜の間、俺は息をすることすら忘れそうになる程思考が停止しそうになった。
俺をそこから回復させたのもまた彼女の言葉であった。

卯月「だ、だめですか?」

懇願するような、悲壮すら漂わせた声音に俺は何も言えずに、ただ彼女の望むままに応えてあげた。

卯月「わっ……ありがとうございます」

優しい笑顔。自身の喜びであるはずなのに、慈愛に溢れたような眼差しで、むしろ俺が彼女とこうして手を繋ぎたかったのではないかと思わされる。

俺はすっかり喋り方を忘れたように、首を縦か横に振ることしかできなかった。

中断します。導入こんな感じです。
あと5人分のシチュエーションを考えるのが地味に難しいですね。

めっちゃいいです…
これってオムニバス形式にするの?
それとも全部話が繋がっている感じ?

電車で移動するのだが、全部俺持ち。
卯月ちゃんはお小遣いを葉月さんや、お母さんから貰っていたらしいのだが、俺が全部出すと言って譲らず、結局卯月ちゃんが折れた。

詠「デートなら、俺に全部払わせて」

そう言ったのが決め手だったろうか。
というか高校生に払わせたくない。

あと俺が卯月ちゃんに尽くしたい。
彼女は遠慮がちな所があるから、こういう時くらいは甘やかしたい。
そう思うと、彼女が俺に告白したり時に大胆に迫ってくるのはとても珍しいことなのではないかと思ってしまう。

普段、大人しい子には何と言うか父性がくすぐられるのだろうか?
子供いないから分からんけど……。

電車の中でも手を繋いだまま、席に座って目的地まで向かう。

詠「それにしても遊園地なんて久しぶりに行くなぁ」

卯月「そうなんですか?」

詠「まあね、実家が栃木だったし、家族も多いし、あんまり連れてってもらえなかったんだよね」

卯月「じゃあ今日はいっぱい思い出作れるといいですね!」

卯月「じゃあ明日もまた会えますか?」

詠「うん、明日また会えるよね」

とか言って二人でくすくす笑い合う。

次の停車駅で、ちらと車内のテレビに目を向けると目的の駅までまだ7駅ある。
出ていく客と、乗り込む客が綺麗な流れで入れ替わると、車内に点々とした。
その中に老齢と見えるご婦人がいらっしゃったので俺はパッと席を立つ。
隣の卯月ちゃんも席を立ち、俺と目を合わせた。

困ったように破顔する卯月ちゃん。
俺もきっと同じような顔をしていたのだろう。

詠「代わろうと思って」

と言うと卯月ちゃんも頷いて「私もです」とはにかんだ。

なぜか二人でおばあちゃんに席を譲って目的地まで立ったまま過ごすのだった。

詠「卯月ちゃん、優しいんだね」

卯月「私はそんな……詠さんこそ優しいです」

そうやってバカップルみたいにお互いを褒め合うが、このやり取りをすること自体何だか恥ずかしくなり、卯月ちゃんは顔を赤らめそっぽを向いてしまう。

俺も彼女とは反対の方に視線を逸らし、頬を掻く。
何だか急に彼女を愛おしく感じた。

遊ばせていた手が不意に彼女の手に触れる。
びっくりしてすぐに離れて、手探るようにまた触れる。
触れたり離れたりを数回繰り返してどちらともなく手を繋いだ。

チラチラと視線を合わせたかと思うと、ぱっと逸らす。
それも何回か繰り返して、ようやく見つめ合うのに抵抗が無くなった。
話も振れば返してくれるので、俺は年甲斐も無くドキドキしながら会話を楽しんだ。

車内で十数分くらいして目的地へ。
受付で入場券を買い、遊園地の入り口をくぐって様々なアトラクション、ショップ、マスコットキャラクターを目にしつつ、片手にパンフ、もう片手で彼女の手を引いた。

詠「いろいろあるねー。どれ乗る?」

卯月「詠さんはどれがいいですか?」

詠「俺はいいって、卯月ちゃんに合わせるよ」

卯月「そ、そんな……私も詠さんに合わせますよ」

あー、そういえば卯月ちゃんって遠慮がちな子だった。
ここは俺がリードしつつも彼女の気持ちを汲んでどういう行動をすべきか考えないと……とは言ってもきっと卯月ちゃんのことだから、このままでも楽しいですなんて言うんだろうな。
彼女は自分優先というよりは他人優先だから。

そういや、俺は姉ちゃんたち優先だったし、麗姉ちゃん以外は自分優先だったから卯月ちゃんみたいな子とお出かけって新鮮だ。
俺の理想の彼女像に近いから逆にどうすりゃいいのか分からん。

詠「うーん、じゃあまずあれに乗ろう。ジェットコースター」

卯月「はい!」

詠「絶叫系苦手?」

卯月「大好きですっ!」

うん、満面の笑み。
まあ苦手だったら遊園地行こうなんて言わないよな、多分。

並ぶこと30分。
ようやく俺たちの順番まで回ってきた。
それにしても待ち時間がそこそこ長いということもあって、並んでる間も楽しませるための工夫がアナウンスや装飾、壁や天井にまで施されていて、会話のネタも尽きない。

卯月ちゃんは今緊張の面持ちだ。

詠「だ、大丈夫?」

卯月「はい。でも自分の番が来るって思うと緊張しちゃって……楽しみなのと半分半分っていう感じです」

詠「あー、それ何かわかるかも。乗る前の緊張感ってあるよね」

卯月「そうなんですよ! 前の人の悲鳴が聞こえてくると私も何だか怖くなってきちゃって……」

詠「やっぱ苦手なんじゃない?」

卯月「そ、そんなことありません。乗った後は楽しかったーってなるんです」

詠「そっか」

「何名様ですか?」

キャストに案内されて人数を聞かれる。

詠「二人です」

「ではこちらにどうぞ!」

卯月「一番前ですね!」

詠「ラッキー、なのかな? 前と後ろどっちが良いんだろう?」

卯月「私、前の方がお得な感じします!」

そんなことを言いながら俺たちはアトラクションに乗り込む。
着席後、バーを下ろして、キャストさんが安全確認を行う。

それが終わるとキャストさんの前口上が始まる。

「それでは、行ってらっしゃーい!」

という挨拶と共に手を振って見送るキャストさん。
卯月ちゃんも笑顔で手を振り返している姿が可愛かった。

カタカタ、とレールの上を登っていく無機質な音が俺の耳から入り、緊張感を与えてくる。
隣の卯月ちゃんを見てみると、それはもう青褪めた表情で本当は苦手なんじゃなかろうかとまた思ってしまうのと同時に、そんな彼女の姿が可笑しくってつい笑ってしまう。

卯月「ど、どうしたんですか?」

詠「いや、卯月ちゃんが今まで見たことない顔してて……」

卯月「……本当は怖いんです~」

今更、泣き言を漏らす卯月ちゃん。

詠「あはは、もう落ちちゃうよ……」

すでに乗り物はレールの頂点に達しており、俺はもうどうすることもできなかった。

卯月「きゃあああぁぁぁぁ!!」

落ちていく。
そこそこの高度で上から下まで二秒間。
ぎゅうっと俺の手を握る卯月ちゃんのせいで、落ちていくドキドキを倍で感じる。
目を開けられない落下中の出来事。
彼女の行動は故意なのか判断できないが、俺は彼女の行動があざとさ溢れる故意による行動でもいいと思った。
そのとても長く感じる二秒間、確かに俺は落ちていった。いや、俺たちは落ちていた。

最初の大きな下りを抜けた後も俺たちはコースターの速さに振り回されて、強く手を握り合っていた。

「おかえりなさーい!」

キャストのお出迎えでアトラクションは終了を告げる。
俺は乗り物から降り、卯月ちゃんもよろよろと立ち上がる。

安定とはいえない乗り物から降りるとき、俺は彼女に手を差し伸べ、彼女もその手を取ってくれる。

目尻に涙を浮かべながらも楽しそうに笑顔を浮かべる卯月ちゃん。

詠「大丈夫?」

卯月「はい、楽しかったです!」

詠「俺も楽しかった! 次はどこ行こう?」

この時すでに手を握っていることに何の抵抗はもちろん、違和感も恥ずかしさも無く、初めからこうすべきだったんだとさえ思った。

卯月「あ、詠さん、写真撮られてますよ!」

詠「未来のトップアイドルの写真なんかレアだなよぁ。買ってこう」

よく見もせずに即買い。
この卯月ちゃんも見たことない表情をしていて、新たな一面を垣間見た嬉しさと彼女の可愛らしさを認識できた喜びで満ちる。

卯月「わ、私、変な顔してます……」

詠「そう? とっても可愛いと思うよ」

卯月「え~? 詠さん、お世辞はいいですよぉ」

とは言いつつも嬉しそうに身をよじる卯月ちゃん。
お世辞ではないんだけどなぁ、と俺も少し身をよじりたくなるようなもどかしい気持ちになった。

卯月「詠さんは落ち着いてますよね。というより、いつも……落ち着いてはないですね。いつもではなかったです」

恐らく義姉との絡みを思い出して言い直したのだろう。
そういうことはもう忘れてしまってもいいのですが……。

大事そうに記念写真を抱えて次に向かったのはお化け屋敷。

卯月「わ、私、怖いの苦手です~……」

詠「そう、じゃあ別の所行く?」

卯月「並びます」

何でやねん! ってツッコみたくなったが、ここは口を噤む。
さっきもそうだったが、怖いけど楽しいみたいな。

要はスリルを楽しんでいるのだろう。俺もそういうことあります。
大して得意でもないホラーゲームやったり、姉ちゃんも怖いのにホラー映画見て夜中に泣きついてきたり。

卯月「怖いけど、楽しいんですよね。出た後、結局、楽しかったーってなるんです!」

やっぱりそうみたい。

詠「あと怖いもの見たさとかね」

激辛頼むときの心理みたいな……。
『激辛!』って書いてあると試したくなるあれ。
今回は『激辛!』じゃなくて『最恐!』って書いてあったからどのくらい怖いのか試したくなるよね。

卯月「わかります!」

そんで入ってみたはいいものの、結構長くて、スムーズに行っても15分はかかるらしく、卯月ちゃんは度々悲鳴を上げて終始俺の腕にピッタリ付いていた。
驚くポイントがあるたびにぎゅうっと強く腕にしがみついたり、俺の身体に顔を埋めたりしてきて、俺の心臓も酷く暴れていた。

卯月「こ、怖かったです~」

出てきてからの一言目。
言いつつもしがみついてるものだから、いろんな人に恐らく負の感情を宿したであろう眼差しで睨まれた。

やっぱ卯月ちゃん可愛いから、俺じゃ釣り合わんのかも。
なんて劣等感を覚えてしまうけど、それは彼女に失礼だろうなと思い直す。
こんな自分でも彼女は選んでくれたのだ。
今さら自分の否定をすることは行為を抱いてくれた卯月ちゃんたちの否定と同義なのだろう。

…………。
やっぱ、ちょっと自惚れてるかも。

詠「俺も怖かった~。でも卯月ちゃんがもっと怖がるから途中から守んなきゃって思っちゃったよ」

そぅ言うと卯月ちゃんはキョトンと呆けたが、それは一瞬で、すぐに破顔した。

卯月「これからも守ってほしいです……」

詠「めっちゃ守る!」

やばい、そんなこと言われたら即答しちゃうよ、俺。
だってお兄さんだもん。

卯月「やった!」

可愛くガッツポーズするの禁止。
ってすごく言いたい。何それ、何なの? 

もはや俺誰状態で、こんなにテンション上がったというか、感情値高まってるのは我ながら珍しい。

それからも今までに無いくらいの感情の揺さぶりを多く経験するような時間を過ごした。

昼食を取り、他のアトラクションにも乗り、パレードを見て、あっという間に夜。

観覧車に乗ったのはいつ以来だったか。

もう終わりだな、という感覚が俺を支配する。

詠「……」

卯月「……」

お互いに無言の時間が続く。
チラチラと卯月ちゃんを窺ったり、卯月ちゃんが俺のことをチラチラ見たりするが、目が合うとパッと視線を逸らしてしまう。
お互いがお互いを意識する気まずい雰囲気がゴンドラの中に漂い始めた。

何か言わないと……とも思ったが、別に必要ないとも感じていた。

俺は結局何も言わずにいたが、彼女がすっと俺の隣に移動する。
俺が置いていた手に彼女は手を重ね、きゅっと弱く握った。

詠「夜景、綺麗だね」

卯月「はい」

詠「今日楽しかったよ」

卯月「私もです」

詠「……」

卯月「……」

再び訪れる沈黙。
俺は今日だけで卯月ちゃんの色んな表情を見て、彼女に強く惹かれた。

何も言わずに頂点を通過しようとするゴンドラ。

卯月「詠さん」

卯月ちゃんが不意に俺の名前を呼んだ。
振り向く俺、卯月ちゃんの顔がすぐ近くにあり、俺の唇が彼女の唇に触れた。

音も無く口付けし、音も無く離れる。
ただ彼女の唇の柔らかい感触と、鼻腔を刺激する甘い香りだけが残った。

いじらしく微笑む彼女を前にして俺は何も言わなかった。いや、言えなかった。

彼女もすっかり黙りこくってしまい、ただ俺の肩に寄りかかるだけだった。

ゴンドラはそのまま一周して、キャストのお姉さんにお帰りなさいと言われるまでそのままだった。

降りてからも卯月ちゃんはぎゅうっと手を握り、身体を寄せてくる。
俺は彼女を引き寄せることも突き放すこともせずに、その辺のベンチに座ろうと提案した。

黙ってうなずいた彼女を見て、腰かける。
彼女はまだ話さない。

俺も何も話さない。

返事を急かしてはいけないという想い。
返事を早まってはいけないという想い。

それらが俺たちを臆病にさせていたのだと思う。

パーク上空に花火がいくつも上がっていた。



そんなデートから数週間が経過し、俺は確実に変わっていた。
卯月ちゃんを目で追うことが自覚するほどに多くなった。

その様子を見たからだと思う。
姉ちゃんたちや凛ちゃんは徐々に俺との距離を適切な感覚で保つようになった。

つまりはあまり積極的に迫ってこなくなったのだ。

卯月「おはようございます!」

彼女自身も俺との距離を開けたのだと思う。
あのデートの日が過ぎてからそう感じる。

詠「おはよう」

表面上は至って冷静に挨拶をするが、目を合わせられなくなっていた。

卯月ちゃんはユニットのメンバーと事務所のソファで談笑しているのだが、俺は彼女の方につい視線を移してしまっているということが増えていた。

そして彼女と目が合うと、視線を逸らす。
やはり目を合わせられない。

詠「……」

やっぱそうなんだ。
いつもいつも、卯月ちゃんのことが頭から離れない。
彼女との思い出がぐるぐると視界の端で見えているみたいに忘れられない。
仕事だって手に付かない。

蓮「どしたー?」

葉月「最近、ぼーっとしてること多いですよね?」

詠「あ、はい……いえ、大丈夫です」

葉月さんと蓮さんが顔を見合わせて肩を竦める。

そうしてさらに数日が過ぎた頃。

俺は卯月ちゃんを呼び出していた。
レッスンが終わった後、事務所の応接室に彼女はやって来た。

応接室は今勉強で使う事もないし、先輩たちはすでにお帰りのご様子。

卯月「えっと、お話って何ですか?」

詠「だいぶ前に受けた告白について」

そう切り出すと卯月ちゃんは泣きそうな顔をした。
そんな顔してほしくない俺は心底慌てたが、言葉が出なかった。

卯月「そ、それって最近、凛ちゃんやお姉さんたちを呼び出してたことと関係ありますよね?」

詠「うん、ま、まあ、あるっちゃあるかな?」

卯月「やっぱ私じゃダメだったんですね……」

ん? ちょっと待て、何でそうなる!

詠「ち、違う違う! 俺、卯月ちゃんのことが好きだから付き合ってほしいっていう話……」

どんどん尻すぼみになっていく俺の声。
驚いた表情の卯月ちゃんも次第に目に涙を浮かべていく。

詠「まだ卯月ちゃんの気持ちが変わってないなら、返事は遅くなっちゃったけど俺と結婚を前提に付き合ってほしい」

卯月ちゃんはダムが決壊したようにわんわん泣いてしまう。

詠「え、ごめんね! 泣かないで! ごめんね!」

アタフタと完全にパニックになってしまう俺は慌てて彼女の隣に座って肩に腕を回してさすった。

卯月「わ、私こそ、ごめんなさいぃ~!」

急に謝られて俺も訳が分からなくなってきた。
しばらく隣同士で支え合うと、卯月ちゃんは落ち着いてきたようでぽつぽつと話してくれた。

卯月「私、詠さんに呼び出された時、断られるんじゃないかって思って……」

詠「いやいや、そんなわけないよ。他のみんなに悪いとは思ったけど、俺は卯月ちゃんと付き合うからって言って、断ったんだ」

そう言うと卯月ちゃんは余計にぐすぐす泣いてしまって、俺はあたふたとする他ない。

卯月「私、嫌な人だぁ……他の人が不幸なのに、それでも私、今すごく嬉しいんです」

泣き笑う。
彼女が負い目を感じることはない。
原因は俺にあって、壊したのも紛うことなく俺なのだ。

他の女性との関係はもう進展しないが、俺は卯月ちゃんに決めたから、それを曲げる気なんて毛頭無い。

詠「ごめんね。俺が自己嫌悪させるようなこと聞かせちゃったから……」

引き寄せて抱きしめる。
華奢な身体は見た目に違わず軽く、崩れてしまいそうなほどに柔らかい。

彼女もまた抱きしめ返してくれた。
こんなにドキドキして、幸せになれるものなのかと俺は改めて感じる。
久しくまともな恋愛なんてしていなかった。
このままこの時が永遠になればいいとさえ思ったのだが、そうは問屋が卸さないと応接室の扉が勢い良く開いた。

聖「いつまで抱きしめ合ってんるんだ! こ、ここ、このロリコン!!」

俺と卯月ちゃんの間に割って入って無理矢理引き離した聖姉ちゃん。
邪魔すんな! って言いたい。

詠「邪魔すんな!」

まあ、言うんですけどね。

明「卯月ちゃんと付き合うことになっても、私たち姉弟なのよねー」

明姉ちゃんも入って来たかと思えば、麗姉ちゃん、慶ちゃんも後ろから続いてきた。

慶「お兄ちゃんが卯月ちゃんと結婚したら、卯月ちゃんは私のお姉ちゃんかぁ……年下の義姉……うん悪くない! というかむしろ私に妹ができると言っても過言ではない!?」

麗「島村妹よ。お前面倒な男を捕まえたぞ」

そんな中、卯月ちゃんに絡む我が家の長女。

麗「あいつの目が移らんようにしっかり手綱を引かなければな」

卯月ちゃんは麗姉ちゃんの話を聞くと、血相を変えながら、俺を心配そうな眼で見る。

聖「ほら、私とももっとイチャイチャしたいだろ? 高校生はやめておけ、性に開放的な私にすべきだ。考え直すんだ、詠」

ベタベタベタベタ、と引っ付いてきてはキスを迫ろうとする聖姉ちゃんを何とか引き離そうと奮闘する。
この処女、諦めが悪い!
そして男の欲望に訴えかけてくるようなやり口は、さすがに姑息だ。

詠「やめろ、聖姉ちゃん!」

聖「いいだろ減るもんじゃないし!」

詠「俺はもう卯月ちゃん一筋って決めたんだよ!」

聖「それとこれとは話が別だろう! やりたい時は私を使えって話だ!」

詠「別じゃない! こいつ頭おかしい! 姉ちゃん、見てないで何とかしてくれ!」

麗「いや、残念ながら我々も聖と同じ意見だ」

明「そういうことよ」

慶「やりたくなったら何時でも言ってね?」

いいから新しい恋を見つけてくれよ……。
我が姉妹ながら今後が心配である。

卯月「お義姉さん! やめてください!」

卯月ちゃんが突然そう叫ぶと、姉たちを押しのけて俺に飛び込むように抱き付いた。
一瞬見つめ合う。

いつもの一歩引いたような彼女はどこにもおらず、凛々しい眼差しで俺を見ていたのは印象に深く、この光景を一生忘れないだろうと思った。

次の瞬間彼女からの熱いキス。
姉たちが見ている前で積極的に舌を絡めて、周囲に見せつけるように……いや、彼女に限って見せつけようとは思っていないだろう。

俺の顔のすぐそばで、目を閉じて、音を立てながらキスをする卯月ちゃん。
ちゅ、ちゅぱ、れろ、ちぅ、ちゅ、ちゅる……。
俺にとって永遠のように感じられた濃厚なキスは、やはり気付かぬうちに終わっていた。

口を離して至近距離で見つめ合う。
卯月ちゃんは口回りを濡らして、頬を上気させ、潤んだ瞳を携えており、恍惚とした表情をしていた。
俺が理性を失うには十分であったが、彼女を押し倒そうとしたところで周りの状況も視界に入ってきた。

顔を赤くさせて興味津々、まじまじと俺たちの様子を息を飲んで見ていた姉妹たちだ。

すぐさま我に返ると卯月ちゃんに軽くキスして、頭を撫でる。

卯月「詠さん、私、いつでもいいですよ……」

相変わらず恍惚とした表情で周囲が見えていない様子の卯月ちゃんだったが、俺は彼女の肩を掴んで制す。

詠「ま、待って卯月ちゃん。俺、キミとは清いお付き合いをしたいって思ってるから……これから先はアイドル活動が上手く行ったら……ね?」

麗「きき、清いって、今の濃厚な、キキキ、キスを清いと言うのか!?」

詠「…………キスはセーフ!」

聖「何だそれは!?」
明「男らしくないわよっ!」
慶「卯月ちゃん、えっちぃ……」

おい最後ぼそっと言ったのが聞こえたぞ……。

卯月「じゃあ……」

そんなことはどうでもいいとばかりに俺だけを見つめて口を開く卯月ちゃん。
対面で俺の首に再び手を回し、座り直してそのまま密着する。
一回軽くキスをしてから俺の肩に頬を置くようにしてさらに強く抱きしめてくるのがわかった。

卯月「……もっとキスしたいです」

耳元で囁くように言う卯月ちゃん。
首の辺りから胸のあたりまで一気にぞわわっとした震えが駆け巡り俺もつい強く抱きしめてしまった。

しかし、俺はありったけの理性で踏み止まる。

詠「ごめん、これ以上やったら最後までやっちゃうから、ダメだ……」

彼女の目を見てそう言った。
卯月ちゃんは残念そうにも、安堵にも似た顔を見せて、はにかんだように微笑んだ。

卯月「……私、詠さんを好きになって良かったです」

少しだけ間を置いてそう言った彼女はとびきりの笑顔を見せてくれた。

『島村卯月』終わり

中断します。以下中書き。

卯月編終了ですが、
がっつりR-18のアフターエピソードも用意してるのでもうちょっと続きます。

>>222
オムニバスです。
時系列は繋がっていますが、それ以降はそれぞれのIFルートとしてお読みください。

それではお疲れ様でした。
今後も気になった書き込みは拾っていくかもしれません。

>>244の補足
>>時系列は繋がっていますが、それ以降はそれぞれのIFルートとしてお読みください。

この文章の『それ』以降とは>>214までの『お話の本筋』以降ということを指しています。失礼しました。

『卯月アフター』

卯月「私、誕生日のお祝いは詠さんとの初夜が良いなぁ」

付き合って三年。
アイドルは引退したがタレントとしてまだ活躍する大学生の卯月ちゃんはそう言った。

俺は飲んでいた珈琲を噴き出して、心配されたが、彼女からそういう話題を振ってくるとは思ってなかったのだ。

卯月「大丈夫ですか?」

詠「うん、大丈夫。それより、初夜って……エッチするってことでいいの?」

卯月「そ、そうですよ? キスだけでも全然いいんですけど……詠さんが一人で、その、やってるのが申し訳なくて……」

詠「いやいや、それは俺が決めたことだから気にしないでよ。ていうか成人したら俺も手出すつもりだったし……」

卯月「え、そうだったんですか?」

詠「いや、そりゃあね? 俺だって卯月ちゃんとエッチしたいもんなぁ」

卯月「あ、あはは……そ、そんなエッチエッチって言わないでくださいよぉ」

詠「でも卯月ちゃんからそんなこと言ってくれるなんて嬉しいなぁ」

卯月「本当は私がどれだけアピールしてもなかなか手出してくれないから不安だったりして……」

詠「え?」

卯月「な、何でもないですよ!」

詠「ごめん、バッチリ聞こえちゃったから」

卯月ちゃんはみるみるうちに顔を真っ赤にさせていく。
その様子が可愛くて、彼女を抱き寄せると有無を言わさずキスをする。

卯月「ちゅっ……んっ……」

軽いキスから始めて、徐々に深く熱いキスへ。
とろんと蕩けた表情になる卯月ちゃん。

俺もギンギンになった息子を鎮めるために、この後一人で抜くのだが、卯月ちゃんも隠れてオナニーしてるのを俺は知っている。

しかし今日は彼女の二十歳の誕生日。
彼女を抱えてベッドへ向かった。

卯月「ま、まだお昼ですよ?」

詠「今日まで我慢してたんだよ? もう我慢できない」

卯月「この後お出かけしますし……」

詠「まだ時間あるから大丈夫」

卯月「でも……」

詠「怖い?」

卯月「……ちょっと」

詠「キスしよ」

そう言うと黙って目を閉じる卯月ちゃん。
ベッドに寝かせた彼女の顔に自分の顔を近づけて唇を重ねる。

卯月「んっ……ちゅ……」

彼女の身体を部屋着の上から弄る。
彼女の身体を撫でると時折、ぴく、ぴく、と可愛らしい反応が窺える。

詠「起きて」

そう言うと、彼女は頬を紅潮させたまま、上体を起こす。

俺は彼女の服に手を掛けて、脱がせた。
可愛らしい清楚な下着と、きめ細やかで透き通るような肌を露にさせる。

腰に触れると、あっ、と小さく喘ぐ。
かと思えば、ふふっ、と笑顔を見せる。ちょっとくすぐったいのかもしれない。

耳や首、鎖骨あたりにキスしたり、舐めたりしながら腰やお腹回りを擦る。
徐々に息も荒くなっていき、卯月ちゃんは激しくキスを求める。

卯月「詠さん! もっとぉ……もっとぉ、キスして!」

唾液と唾液が厭らしく混ざり合い、官能的に音を立てる。
それが卯月ちゃんの口の端を濡らし、それを舌で舐めとる彼女はとても妖艶に映る。

俺の手は彼女の下着の下に入り込み、柔らかい胸に触れる。
手の平全体で包み込んで、優しく、時に強く揉んだ。

卯月「はっ……ふっ……ふあぁっ!」

乳首を弾いたり、摘まんだりすると、声を我慢した吐息が漏れるが、我慢できない時にちゃんと声を上げてくれるのが愛おしい。

俺は彼女の下の服と下着も脱がすと、全身を曝け出した彼女の股に手を掛けた。

卯月「あうぅ……くすぐったいです……」

詠「そ、そう?」

彼女の中は、音を立てられるくらいに濡れていて、俺の指をすんなりと受け入れた。

卯月「あっ……!」

小さな喘ぎ声と共に、ぴくんと跳ねる彼女の身体。

卯月「ふあぁっ! ……ダメっ! 詠さんっ!」

俺は興奮冷め止まないまま、卯月ちゃんの制止の言葉を聞かずになおも彼女の中で指を掻きまわし続けた。

卯月「ああぅ……! あっ! あっ! きゃああぁぁ!!」

詠「はぁ……はぁ……イッた?」

卯月ちゃんは甲高い声を上げると、腰を小刻みにかくかくと震わせて荒く息を切らしていた。

詠「どうだった?」

卯月「き、聞かないでください……」

顔は真っ赤に茹で上がり、じんわりと滲む汗が彼女の肢体や髪を艶めかしく照らし出す。

すぐ後に「すごく気持ちかったです」と聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで声に出す。
きっと本人は聞こえてないと思ってるのであろうが、俺にはバッチリ聞こえてます。

詠「自分でするより良かったんだ」

そう耳元で囁くと、また一度跳ねた卯月ちゃんの身体。

卯月「意地悪言わないでください」

優しい声音と視線に、咎めるような意味合いはもちろん含まれない。
むしろ、いじらしく言う彼女に愛おしさと興奮を覚えてしまうほどであった。

横になったまま卯月ちゃんは俺に抱き付き、自分から何度もキスをしてきた。

長いキスと短いキスを何度も繰り返して、ようやくお互いの顔を離す。

詠「卯月ちゃんとセックスしたい」

卯月「私も……その、したいです」

自分のズボンに手を掛けて、下着も脱ぐ。
卯月ちゃんがじっと見てる中で自分の勃起した陰茎を見せるのは何となく恥ずかしかった。

ゴムを付けて、卯月ちゃんを押し倒す。
彼女は抵抗なくベッドに仰向けになりもじもじと恥ずかしそうにしている。

卯月「あの、私、初めてで……」

気にしていたのはそんなことだ。
俺は別に初めてでも初めてじゃなくても構わない。

詠「大丈夫、任せて……目を閉じて、力を抜いて」

俺がそう言うと、卯月ちゃんはすぅっと目を閉じて、少しリラックスした。
閉じていた股をゆっくり開かせそこにペニスをあてがう。

彼女の身体に再び力が入る。

俺はキスしたり、胸を触ったり、なるべく痛みが和らぐようにと考えながら、いよいよ彼女の膣に自分のを挿入した。

膜を突き破る感覚。
ぎゅっと抱き付くそれに合わせて目を強く閉じて、ぎゅっと抱きしめてくる。

卯月「んぅ……ううぅ……」

少し苦しそうに呻く卯月ちゃんは、その気を紛らわそうと積極的にキスをせがむ。
ぴちゃぴちゃとやらしく音を立てるそのキスは、いつもの卯月ちゃんからはあまり想像できないくらいに積極的だった。

詠「動くよ?」

卯月「は、はい……」

俺はゆっくりと腰を動かす。
ゆっくりと抜く時に、きゅうぅと締め付ける感触が俺の陰茎を刺激する。

徐々に早くすると、最初こそ苦しそうだった呻き声は、次第に甘美な嬌声に変わってきた。

卯月「あっ、あっ、何これ……気持ちいっ! あっ! ふあぁっ!!」

詠「卯月ちゃん、俺も気持ちいよ」

卯月「詠さんの、気持ちいっ!」

詠「はぁ……卯月ちゃんの中、はぁ……すっごい締まる」

卯月「あぁっ! あっ……あっ……だめっ! やっ! 気持ちい! 詠さんっ!」

詠「俺もだめかも、もう出そう……」

卯月「あ、あぅ、んっ……~~~~~~っ!!」

卯月ちゃんは声にならない声を発しながら、ビクビクと痙攣をする。
彼女の脚がぎゅぅっと俺の腰を挟み、腕も俺の首に回してぐっと強く抱き付いている。

詠「うっ……」

彼女の痙攣と同時に俺も射精する。
包み込まれてるような安心感と同時に絶頂する幸福感で、快楽も凄まじかった。

二人してしばらく息を切らしながら抱き合った。

…………。

ようやく落ち着いてシャワーを浴びる。
二人でシャワーも実は付き合ってから初めてのことである。

彼女のシャワー姿を生で見て息子が大きくなってしまうのはしかたないと思います。
チラチラと気にして、ちょっと恥ずかしそうにする卯月ちゃんも可愛い。

卯月「詠さん」

詠「うん?」

卯月「……また、します?」

俺のペニスを優しく触って、見上げてくる。
自分の心臓が大きく跳ねて心停止するかと思うくらいに驚いたし、興奮した。
今すぐにでも襲いかかって、めちゃくちゃに犯してやりたい。

しかし、さっきしたばかりというのもあって、やりたがりな俺の身体とは裏腹に、理性の糸はプッツンしなかった。

詠「これから誕生日お祝いしなきゃだから、今はちょっと……」

卯月「あ、そ、そうですよね!」

詠「ん? もしかして、卯月ちゃんがしたかった?」

卯月「ふぇっ!? ……い、いえいえ、全然そんなことなくて、詠さんのがそのアレだったので……」

詠「そうなの? 俺とはもうしたくなくなった?」

卯月「その聞き方はずるいですよ。いじわるです!」

ぷくっと膨れる卯月ちゃんも、あまり見ない表情だ。可愛い。

卯月「実は、私がしたかったりして……」

詠「そうなんだ?」

卯月「き、聞こえてました?」

詠「うん」

かぁ、と赤くなる卯月ちゃん。
毎回、独り言が聞こえないと思ってるみたいだ。
俺の近くで言ってるやつは全部聞こえてるんだけど。

詠「俺は卯月ちゃんの誕生日もちゃんとお祝いしたいから、セックスは今夜しようね」

卯月「は、はい……」

もじもじと可愛らしい反応をする卯月ちゃんだったが、この日の夜は人が変わったくらいに情熱的だった。
それはまた別のお話。

『卯月アフター』 終わり

『渋谷凛』

ポジパのミニライブから数週間が経過し、本日、凛ちゃんからの指令メールが届いた。

指令メールというのはいわゆる皮肉で、実際は先日に行われたらしい学校の定期テストで学年三十位以内に入れたら俺が何でも言うことを聞くという権利を彼女に与え、彼女はそれを行使しただけだ。

メールの内容は『明日の朝十時、私の家に集合。花屋さんだよ』

詠「おい、これはいきなりお家デートってことか?」

ちょっと凛ちゃん、脇甘すぎない?
お兄さん心配しちゃうんだけど……。

しかも花屋って、彼女の実家では?
まあ何回も通ってるからお母さまと顔見知りではあるけどさ。

うーん、今回は前回まで気軽に訪問してた時と訳が違うぞ。

俺はとりあえず『自宅デート? それはハードル高くないかな? 俺、彼氏じゃないしさ』って送っておいた。

ぶーっぶーっ……! 返信早いな。まだ一分経ったかどうかだけど。

『詠さん、何でも言うこと聞くって言ったよね。これで二回はぐらかされた。嘘つきだね。いいから私の家に来てね。』

『嘘つきだね』の一文がすごい心に刺さるのです。
俺はがっくりと頭を垂れながら『はい。すみませんでした。行かせていただきます。』とお返事させていただくのであった。

その後、凛ちゃんが送ってきたメールにはにっこり笑った絵文字がただ一つ。
俺はちょっと笑ってしまった。

結局翌日の朝、いつもと変わらぬルーティンを終えた後、私服で凛ちゃんの実家である花屋の前に来ている。

凛「あ、詠さん、おはよう。早いね、5分前行動?」

詠「おはよう。できるだけ時間通りに行こうと思ったら5分前になったよ」

凛「さすがだね。じゃあ早速上がってよ」

詠「ちょっと待って」

凛「何?」

詠「本当に凛ちゃんの部屋に上がっていいの?」

凛「え、今更何言ってんの?」

キョトンとした顔で凛ちゃんが言う。
いやいや、ちょっと待ってほしい。
女子高生の部屋に社会人の男が招かれる。

いやいや、それはおかしいでしょうよ。
一体、何をするというわけ?

というかその……怪しくありませんか?
そんなのがバレたら、俺が世間様から向けられる視線って、犯罪者に向けられるそれと同じになるよね?

詠「あのさ、やっぱまずいと思うんだけど……」

凛「私、詠さんのこと大好きだから問題無いよ。問題があるとしたら詠さんが私のこと愛してないからじゃない? 愛してくれたら問題無いよ」

一理ある……のか?
俺は確かに体裁ばっか気にしているが、彼女を心の底から好きになれば色んな壁を突き破れるのだろうか。

それにしても凛ちゃんは本当に吹っ切れたというか……。
以前は睨んでくるばかりで嫌われてるかと思った。

でもよくよく考えれば、俺にスカウトされたのに、実の兄にプロデュースされ始めたら話が違うもんだと言って俺のこと嫌うよな。
自分で言って納得して、悲しくなってしまった。

詠「まあ、たまにはいいか……」

凛ちゃんにあてられて俺も少し吹っ切れたかもしれない。

お店の奥へ入り、階段を上って二階へ。

とある部屋の扉には、花のあしらわれた掛札が掛けられており、その札にローマ字で『Rin』と書かれている。どうやら凛ちゃんの部屋らしい。

凛「ん、どうぞ」

詠「お邪魔します」

一人部屋にしてはやや広め、片付けも十分にされており、快適に過ごせそうな空間だ。
お花の良い香りも漂ってくる。何ていう花か知らないけど。

凛「好きなとこに座って」

詠「あ、うん、じゃあ、ベッドに座っていい?」

凛「いいよ」

ぽふっと、ふんわりしたベッドで、これもいい香りを漂わせている。
凛ちゃんと目が合う。
緊張して背筋がピッと伸びてしまう。凛ちゃんはそんな俺の様子を微笑ましく見つめていた。

凛「ちょっと待ってて」

そして、そう言うと凛ちゃんは部屋を出て行ってしまう。

俺一人が女子高生の部屋に取り残されて、どうしたもんか。
何だか最近はいろいろあって疲れた、なんて考える。こんな状況にも若干戸惑っているし。

俺は今一人ということもあって、ベッドに倒れこんだ。
壁際に設置されてるベッドに倒れこみ、壁と自分の頭がスレスレの位置だ。

トントンと控えめな足音が聞こえてきて、俺は慌てて姿勢を正す。
凛ちゃんは部屋の前で立ち止まったようだ。

凛「詠さん、悪いけど開けてもらえないかな」

詠「あ、はい」

そう言われて俺は素直に扉を開けた。

凛ちゃんはお菓子の並んだお皿と飲み物の入ったコップが二つ乗った、お盆を両手で持っており、確かにこれでは扉を開けられない。

凛「ありがと」

詠「いえ、こちらこそお気遣いなく……」

凛「ふふっ、社交辞令?」

詠「いや、上がっておいておもてなしされるのが少し申し訳なく……」

凛「私が呼んだんだし、気にしないでよ」

詠「あー、うん。ありがとう」

凛「ん、そういう言葉の方が嬉しいかな」

微笑んだ凛ちゃんが部屋に入り、小さなテーブルにお盆を置いた。

俺は扉を閉めて、再びベッドに座る。

凛「はい、どうぞ、詠さん」

言われて差し出された珈琲の入ったカップを受け取る。

詠「ありがとう」

凛「珈琲でよかったかな?」

詠「うん、珈琲好き」

凛「私は?」

詠「凛ちゃんも好きだよ」

流れで聞いてきたのだろう。
俺は特に疑問に思う事も無くそう返すと、彼女は大きく溜息を吐いた。

凛「詠さん、そういうの色んな女の子に言ってるんでしょ? 一体何人の女の子を勘違いさせたの?」

詠「え……」

いきなりお説教されて、面食らってしまった。

凛「多分、私じゃなくてお姉さんたちや卯月に言われても同じこと言うんだろうね」

詠「……ごめん」

図星過ぎて参ってしまった。
多分、姉ちゃんたちや卯月ちゃんに言われても同じように返すだろう。
それに担当アイドルに同じように言われても、同じように返してしまうはずだ。

凛「だから今は私だけを特別に見て」

彼女の柔らかな両手で顔を押さえられて、目と目を合わせられる。
俺が数回首を縦に振ると、彼女は優しい笑顔を見せて俺に寄りかかるような形で隣に座った。

詠「凛ちゃん……」

俺の左肩に寄りかかる凛ちゃん。
そして俺の左手は彼女の肩に手を掛けようかというところで宙を彷徨っていた。

凛「抱いてもいいよ。左手、余ってるんじゃない?」

彼女は男の理性を崩すのが上手い。
今すぐに押し倒したい衝動を抑えて、彼女の肩を抱き寄せる。
少し強く引き寄せてしまったかもしれない。

俺の心臓がうるさくて、こめかみの近くもガンガン響いてくる。

凛「……詠さんはさ」

詠「うん?」

凛「どうして私をスカウトしたの?」

詠「……何となく、かな? 直感だったけど、そん時は『原石見つけた』って思ったよ」

凛「ふーん」

詠「まさか蓮さんの妹とは思わなかったし、俺がプロデュース出来ないのも残念だったけどさ……」

凛「だよね。兄妹の方がプロデュースするのに向いてるって訳分かんないし……」

詠「凛ちゃんもさ、何でスカウトを引き受けてくれる気になったの? 最初は嫌がってたじゃないか」

凛「何でだろうね。最初は本当に嫌だったけど、どこかの誰かがしつこく誘ってくるからかな? そんな人の熱意に色々心を打たれちゃったみたい」

詠「あはは……」

凛「まあやりたいことも別に無かったし、お母さんも勧めてくれたし、兄貴もそういうところで働いてるって知ってたから多少興味もあったのかも」

詠「そっか」

凛「でも一番の理由は……」

凛ちゃんは顔を上げて俺を見る。
名前の通り凛とした瞳に吸い込まれそうだ。

凛「詠さんの近くにいられるから」

気が付いたら俺は彼女を抱きしめていた。

凛「あっ」

漏れる吐息を肌で感じて、我に返り慌てて距離を取る。

詠「ご、ごめん! いや、今のはそう邪な意味じゃなくて……」

必死で言い訳する自分がぎこちなくて、恥ずかしくてどうしようもない。

凛「ふふっ! あはははは……!」

急に笑い出す凛ちゃんは本当に可笑しいそうで、俺は呆然として何も言えなくなった。

凛「ううん、詠さんでもそういう気持ちになるんだなぁって」

詠「ま、まあ男だし……これでも結構お誘いはお断りできないタイプなんだよ」

凛「それって邪な意味じゃない?」

詠「……そういうのもあるかも」

凛「かも? 私が隣に座ってから胸がすっごい音してたけど」

詠「き、聞こえてたんだ」

凛「まあね……おかげでこっちも恥ずかしかったよ」

詠「ははは……」

力なく笑うけど、それでもまた心臓の鼓動は速くなっていく。

凛「また聞こえる」

詠「ちょ、聞くの禁止で」

凛「無理」

近付いて来る凛ちゃん。
彼女は俺の横まで移動すると、ベッドの上にぺたりと座ってから俺の胸に頭を預けてきた。

緊張と、あとよく分からない感情で心臓が元気になるのに身体は言うことを聞いてくれなくなる。

不意に凛ちゃんは俺の両腕を引っ張って、背中からベッドに倒れこむ。
俺はつられて、彼女に覆いかぶさるような格好になってしまい動けない。

退こうと思ったが、それよりも早く凛ちゃんの両手が俺の後頭部に回って引き寄せられる。

俺もきっとそれを望んでいて、すぐに退かなかったのだと思う。
唇が重なり合って、俺の後頭部に置かれた彼女の両手はさらに深く俺を抱く。

十秒以上のキスはとても長い。
脳味噌が蕩けそうな感覚は、きっと理性が融けていくのと同じだ。

俺は彼女の胸に手を掛け……ようとして止めた。

口を離して、覆いかぶさっていた体勢を元に戻す。

凛「詠さん?」

詠「ごめん、凛ちゃん」

凛「……やっぱり、私じゃ、だめ?」

彼女の声は震えていた。
ぎゅうっと歯を食いしばって、への字に曲がりそうになる口元を見せまいと強がっている様子が窺える。

詠「ダメ、じゃないんだ。むしろダメじゃないからこそ、なし崩しは止めたい」

凛「私、勇気出して! 詠さんに告白して! こんなにアピールして! いつでも私のこと好きにできるのに!」

ぽろぽろと涙を流す凛ちゃんの口を今度は俺から塞いだ。

詠「泣かしてごめん。あと、好きでいてくれてありがとう。こんな俺でも、君のことを好きになっていいかな?」

そう言うと、凛ちゃんは俺の胸に飛び込んで顔を見せないように埋めていた。

凛「当然じゃん……」

擦れた声の彼女の頭を黙って撫でる。

彼女が泣き止むと、俺は自分の膝の上に彼女を対面で座らせた。

詠「凛ちゃんが好きだ。もう凛ちゃん以外誰も映らない」

凛「私も詠さんが好き」

そう言い合って、何度も何度もキスをする。

自分でも信じられないと思ったが、こんなに一瞬で誰かに心を奪われるってことがあるのだと自覚するのだ。

凛「詠さん……」

紅潮しきった凛ちゃんの顔。
彼女の視線は下に向けられ、俺の股間を見つめていた。

凛「今日、うちの親居ないんだけど……」

詠「女の子にそんなこと言わせてこう言うのは申し訳ないんだけど……」

凛「うん、分かった。そういうところも好き」

蕩けた表情は微睡んでるようにも見えて、魅力も増して可愛い。

凛「うん、今はゆっくりでいいかな。最近、ちょっと早足だったから」

詠「そうだね。凛ちゃんが大学出たら結婚しよう」

凛「将来のこと考えすぎ、あと何年かかるの?」

詠「ストレートで行ったら七年かな?」

七年か……。
この関係が続くかどうかも分からないのに無責任なこと言ってるかも。

凛「心配しすぎ、私は詠さん以外眼中に無いから安心してよ」

詠「いや、確かにそっちの心配もあるけど……」

凛「他の人の方に振り向いたりなんかさせてあげないから、安心して」

彼女はとても察しが良い。
俺は一言、よろしくお願いします、と言って彼女の頬に触れたのだった。

『渋谷凛』 終わり

中断します。

そしてお待たせしました。
……いや別に期間もそんなに空いてないし待ってた人もいないのでやっぱり撤回します。

こんな感じでR要素もあーるよ。なんてね。

『凛アフター』

唐突だが、ここで346プロダクションのアイドル事情について他プロとの比較をしてみようと思う。

うちの抱えるアイドルは総勢180名を越え、その中で毎年総選挙が行われる。
トップになったものはシンデレラガールと呼ばれ、一気に注目を浴びることになるし、いろんなメディアから引っ張りっだこだ。

それに346プロダクションは人気アイドルを何人も輩出しており、かつての961プロや765プロ、それに人気男性アイドルを多く輩出している315プロとも肩を並べている。

まあこれは俺の見解ではあるが、過言ではないと思う。
つまり何が言いたいかというと、346プロのトップ、シンデレラガールに輝いたものは実質アイドル界のトップだと思う。

俺が一年目の時にスカウトしたアイドル渋谷凛ちゃん。

最初の内は兄である渋谷蓮さんにプロデュースされていたが、俺が四年目の時にプロデュースの権利を譲ってくれた。

しかしながらユニット解散でということにはならず、ユニット単位で見るときは蓮さん。
彼女がソロで活動するときは俺、と少しばかりややこしいプロデュース方法だった。

もちろん、俺は未央、茜、藍子の三人の面倒も見ており、プロデュース対象が四人に増えただけである。

そして凛ちゃんは着々と知名度を伸ばしていき、去年シンデレラガールに輝いた。

その半年後に引退発表。

凛「女性としての幸せを歩んでいきたいと思います」

というのは記者会見時の彼女のコメント。

それからさらに半年、スケジュールがパンパンに詰まった多忙の日々を過ごして彼女は芸能界を引退した。

凛ちゃんのスケジュール帳を繰ってみて、次の月のページが真っ白だった光景は今でも印象深い。

そんな彼女も今では優秀な学生で、二人で暮らすには少し広めのマンションで俺と暮らしている。

実はここの所、彼女と上手くいってないような気がする。
セックスレスも数週間続いて、俺はやりたいのだけど、同棲しているのに彼女と時間が合わないことも多くて、先に寝ちゃったり、寝られちゃったり。

会話も少しばかり減ってきたように思える。同棲してるのに……。
今日あたりにでも旅行に行かないかと誘ってみよう。

本日は俺の方が早い帰りのようだった。
学生で、遅い時間に帰ってくるのは心配だ。

連絡を入れてもあまり返事がこないし……。

そう思っていると、インターホンが幾度も鳴り響いた。
画面を見ると、二人の女子学生に両肩を抱えられた凛ちゃんの姿が

詠「ど、どうしたのっ!?」

『す、すみません。飲み会で潰れちゃって……』

酒に溺れる渋谷凛。
彼女は引退したとはいえ、有名人には変わらないから世間が知ったらネタにされるぞ。

とにもかくにも、こんな姿の凛ちゃんを見るのは初めてだったから、マンションのオートロックを解錠すると、慌てて家を飛び出した。

冬の寒い時期ではあったが、そんなことも気にしてられず薄めの部屋着、そして裸足で外に出ていた。

階段で急いで一階に降り、マンション入り口に行くと二人に抱えられた凛ちゃんがぐったりとしている。

詠「凛ちゃん! 大丈夫!?」

……じゃなさそうだ。
アル中とかやめてくれよ。怖すぎる。救急車呼ぶか?

俺までそんな感じでパニックになった。

凛「んぁ、詠さんだぁ……」

何とか意識があるみたいでホッとした。
俺は急いで凛ちゃんを引き取り、彼女の身体を支えながら強く抱きしめた。

凛「すぅ……」

抱きしめられてるのにも関わらず、静かに寝息を立て始める凛ちゃん。
全体重を俺に預けているようで、安心したし、こう抱きしめるのが久しぶりで嬉しくもあった。

詠「よかったぁ……アル中ってわけじゃないんですね」

「はい、途中途中で眠ってただけです」

詠「でも、どうしてこんなになるまで飲んじゃったんだよ……」

「あれ、彼氏さんがどうのこうの言ってましたよ?」
「お兄さん、浮気してるんじゃないですか?」

凛の学友二人に問われて、俺も素っ頓狂な声を上げた。

詠「何ですかそれ、身に覚えがないんですけど」

「え? だってこの前女の人と一緒に歩いてたとか……」
「女性と二人で食事に行っていたとか……」

…………。

それ仕事だ。営業で必要なやつだ。
アイドルから誘われた時はアフターケアと思って付き合ってたし、重役との食事でご機嫌取りをしていたり……。

詠「あー、何か誤解されてるみたいですね。俺なんかてっきり歳の差もあるし、本当は別れたいんじゃないかって覚悟してたくらいですけど」

「いやいや、あんなに惚気られたら……ねぇ」
「そうですよ。最初はグチグチ言ってましたけどそれでも『愛してる』って何回も言ってましたよ?」

そっか、そういえば面と向かってお互いの愛を確かめ合ったのはいつだったかを正確に憶えていない。

そういう言葉を直接聞きたい。
そして俺も言いたい。凛ちゃんが好きだから。

俺は凛ちゃんの学友二人に感謝を述べて、凛ちゃんを抱っこして階段を上る。
抱える分には問題無いけど、階段を三階分上っていくとなるとさすがに足腰に応える。

彼女を部屋のベッドまで運んで横に寝かせる。

ぼさぼさに乱れた髪はアイドル時代じゃ考えられない。
彼女がズボラというわけではないが、こんな油断した姿を見せるのは珍しい。
いや、俺は毎日見ているのか。

凛「詠さん……」

詠「ん、どうしたの?」

彼女の横に座って考えていた俺は彼女に振り返る。
しかし、凛ちゃんは寝息を立てているだけで起きるような気配は無かった。
俺を呼んだのはただの寝言だった。

横になった彼女の髪を梳く。
見た目はぼさぼさだが、髪質は艶があり、その手にさらっと通った。

愛おしく思って、寝てる彼女の頬にキスをする。

詠「酒臭い……」

そう呟いて笑ってしまう。

詠「愛してるよ凛ちゃん」

見つめたまま、彼女に言う。
聞いているはずもなく、少し寂しい、虚しい感覚に襲われる。
起きてる時に改めて言おう。

翌日になって。

凛「あれ、私……頭イタッ!」

凛「何時!?」

凛「やばっ、講義始まって……!」

詠「……」

凛「え、詠さん? 何でこんな所で寝てるの?」

凛「詠さん、起きて、風邪引くよ」

揺さぶられるような感覚が次第に大きくなって、俺は自分が寝てしまっていたことに気が付いた。

詠「凛ちゃん」

凛「詠さん、風邪引くって」

凛ちゃんが昨日の姿のまま、ベッドから起きて俺の身体を揺さぶっていたようだ。

俺は愛おしさが込み上げてきて、いつの間にか彼女を抱きしめていた。

凛「どっ、どうしたの!?」

詠「愛してる」

凛「あ……」

慌てふためいていた彼女の動きが止まる。
というか、こんなに慌てるのも珍しい。いつもは俺が慌てさせられてたっけ。

凛「あ……頭痛い……」

台無しだった。
今日は祝日、三連休なので彼女もお休みなのだが、講義が……とか言ってるし。

詠「昨日、飲みすぎだよ。お友達がわざわざ送ってくれたんだよ? あと今日は祝日でお休みじゃないの?」

凛「あ、そうだった」

というか、俺の心を込めた一言はあえなくスルーされてしまったようだ。
まあいいか、彼女に愛情を伝えることはいつだって出来る。

詠「今日から三日はゆっくりしなよ。俺もちょうど三連休だし、久しぶりに二人きりで過ごそう。でも今日はお風呂入って、歯磨きして、寝た方がいいかもしれないね。頭痛いんでしょ?」

凛「……うん、ありがとう」

そう言う彼女は、頬を紅潮させて恥じらいを見せつつも、嬉しそうに笑むのだった。
結局彼女はパジャマ姿になって昼過ぎまで寝ていた。

凛「おはよう……」

詠「おはよう」

まだ眠そうな眼をこすって、うーん、と伸びをした。
その動きに合わせて見た目もこふわのパジャマの下の部分から、ちらりとキメ細かな肌を覗かせる。

詠「よく眠れた?」

凛「うん、おかげさまで」

彼女は少しだけぼさっとした髪の毛先を指先でいじる。
俺の方をチラチラ窺いながら、恥ずかしそうに身をよじらせている。

詠「ど、どうしたの?」

そんな彼女の気にあてられて俺もわずかに動揺してしまった。

凛「あのさ……」

詠「うん」

凛「昨日の夜、愛してるって言ったよね?」

詠「へ?」

素っ頓狂な声が出てしまった。
あの言葉は別にスルーされていたわけではなかったのか。

詠「え、まあ、うん、言った」

そんなことを昼過ぎに面と向かって言われるのは恥ずかしい。

しかしながら、俺も昨日聞かされたことと自分の仕事のことをそれぞれ伝えて、誤解を正してもらおうと彼女と話し合った。

結局俺たちに足りなかったのは会話だったらしい。
一緒に暮らすうちに何となく距離が縮まってると思い込んでいたみたいだ。
物理的な距離は縮まっても、心の距離は開いていって、言いたいことも言えずに疑心暗鬼になってしまっていたようなのである。

俺としても、嫌われたのではないかと不安になっていたところであった。

凛「詠さん、仕事だからしょうがないけど、私にも話してほしいな」

詠「うん、ごめん。隠すつもりは無かったんだけど、凛ちゃんも同業だったし、理解してくれてるって勘違いしてた」

凛「そうだね、私も理解してるつもりだったけど実際詠さんが女の人と歩いてるの見た時、頭真っ白になっちゃったよ」

詠「俺も凛ちゃんの帰りが遅いときはすごく心配だった」

凛「ごめん、私も連絡するべきだった」

そう。それでもお互い何も言わなかった。
だから俺は言葉にしなきゃいけないんだと思った。

詠「俺が愛してるのは凛ちゃんだけだから」

そう言って抱きしめる。

凛「私も詠さん以外いらない」

抱きしめ返してくる凛ちゃん。

その日の夜は二人で出かけた。
食事をしに街へと出て、家に帰っただけだが……。

久しぶりに二人で一緒に寝る。

同じベッドに入り、同じ布団に包まる。
……多分、俺も凛ちゃんも今は同じ気持ちでいる。

凛「詠さん……」

彼女が俺の耳元でぼそっと語りかけてくる。
俺は彼女に顔を向け、視線だけでどうしたの? と尋ねた。

凛ちゃんは少し逡巡した後、俺の眼を真っ直ぐ見る。
暗い中でもはっきりと見える凛と澄んだ吸い込まれそうな瞳。

凛「しよ……?」

その一言は凛ちゃんのおねだりだ。
俺は彼女の口を塞いだ。

ベッドの中でお互い横になりながら何度も何度も唇を重ねる。
凛ちゃんの吐息は次第に荒くなっていき、瞼がとろんと蕩ける様に官能的に垂れる。

凛ちゃんはエッチなスイッチが入るなり、その行為が激しくなる。
横になっていた彼女だったが、起き上がり俺に跨ると、全身を密着させるようにしてさらに接吻を続ける。

舌を入れて、絡めて、強く抱きしめながら……。
俺の全身を離さない。

俺が勃起したと凛ちゃんに知られると、彼女は膝で衣服の上からそれを撫でる。
優しく撫でたり、強く撫でたり、器用な足の使い方をする。

どちらかというと気の強い彼女はベッドの上でも強い立場で、大体いつも俺が攻められるような状況である。

彼女は俺の衣服を脱がすと、舌を這わせる。
片手で乳首を摘ままれ、弄られる。
俺がびくっと震えると、彼女はとても満足そうに恍惚な表情を見せるのだ。

凛「ふふっ……詠さん、力入ってるね」

耳を舐められ、首筋を吸われ、乳首を甘噛みされ、ズボンとパンツを同時に一気に脱がされる。

凛「わ、詠さんやる気満々だ」

口元をもにょりと歪ませて嬉しそうなのを隠そうとする彼女。

詠「嬉しそうだね」

凛「ふぇ? ……ベ、別にそんなことないけど」

キッとした眼差しで俺を見る凛ちゃん。
けれど口元は依然として緩んでおり、可愛いばかりで迫力は無い。

凛「そんなこと言ってるとすぐ射精させちゃうよ?」

そう言って彼女は俺の膨れ上がったペニスを口に含んだ。
顔を上下に動かし、時折舌で裏筋を舐めたり、カリを歯で優しくこすったり……。

詠「凛ちゃん」

凛「ふぁい?」

何? と聞いているのだろう。
彼女は陰茎を口に含んだまま返事をする。

詠「……入れたい」

俺がそう言うと、にまーっと無邪気に可愛らしく笑む彼女の表情。

凛「ふふっ! どうしよっかな~?」

なんて言ったりして楽しそうだ。

詠「お願い」

凛「しょうがないなぁ」

火照った顔の彼女は下の服を脱ぐ。そのまま下着も脱ぐ。
跨る彼女の秘部に俺の一物が当たっている。
そして彼女は俺の目の前に今脱いだ下着を見せつけてきた。

凛「見て、私、詠さんの弄っただけでこんなにびちょびちょになっちゃったんだよ?」

暗くて正直よく分からないのだが、その言動に興奮した。

凛「あ、今詠さんのおちんぽピクってした」

そう言う彼女の表情は楽し気だ。

凛「慌てなくてもすぐ入れてあげるから」

上体を起こした凛ちゃんは腰を振って彼女の股間と俺の股間を何度か擦り合わせ、そのまますっと膣内に俺のペニスは吸い込まれるように入った。

凛「んっ……んっ……」

彼女が好きなように動いてしばらくすると、小さく喘ぎ声を上げ始める。
暑くなってきたのか、凛ちゃんは上のパジャマと下着も脱いで、適当にベッドに放る。

俺は成長した彼女の胸を手で包み、指先で乳首を弾いたりすると、凛ちゃんはより大きな嬌声を出して身をよじらせる。

凛「あっ! あぅ、んんぅ……ふっ……うぁ……っ! イクッ……!!」

そう一言叫んだ直後彼女の腰がピクピクと数回痙攣する。
挿入したまま、ぐったりと俺の胸に倒れこむ。

ビクッビクッ……ビク……ビク…………ビク…………。

そんな風に痙攣の間隔がだんだん空いていき、落ち着いたところで凛ちゃんは俺を見て顔を近づけてくる。

やらしい音を立てて何度もキスをした後、凛ちゃんが唇を離さないまま、また腰を振ってきた。

凛「ふっ……ん……ちゅっ……ちゅぱっ……んっ……」

数秒どころか、数十秒、キスしたままのセックスが続く。

俺は彼女が愛おしいのと同時に、自分の興奮も抑えることができず、凛ちゃん騎乗のまま下から突き上げるように腰を振る。

凛「きゃっ! ……うぁ! あっ……あっあっ!! だめっ!! イクッ! ……イクッ! ……イクッ!!」

良いところに当たってるのか、堪らずにキスしていた口を離して俺のピストンに身を委ねるようにしがみついてきた。

彼女の手にも力が入り、再び痙攣。
そしてキス。

それを何度も何度も繰り返した。
凛ちゃんが絶頂して、キスをして、という行為を七回は繰り返したと思う。

そのくらいで俺もようやく射精しそうという感覚に襲われた。
暗くてあまり見えないが、顔をこれでもかというくらい紅潮させているだろう凛ちゃん。
そんな彼女の膣内に陰茎を突っ込んだまま対面座位、そして正常位へと体位を変える。

凛「~~~~~~~~っ!!!!」

これ以上は限界だと言わんばかりに、焦点が合っていないであろう瞳孔と、だらしなく開いた口、蕩け切った表情を俺に見せて、声にならない声を上げていた。

詠「凛ちゃん、可愛いよ。大好きだ。愛してる」

耳元でそう声をかけるたびに、キュンキュンと膣の中がうねるのを感じる。
俗に言うイキっぱなしという状態だ。
これを体験するのは三回目に彼女とセックスした時以来だったかな。

俺のペニスを無意識に刺激してくるその状態は、彼女を満足させてあげられてるという充足感と自分も彼女と一緒にイキたいという焦燥感を駆り立てる。

ずっとこのまま彼女をイカせ続けたいだなんていう傲慢な考え。
そのせいで股間に集まってくる気持ちよさに思わず自分の振る腰が止まった。
ここで出したら終わってしまうのが何だか勿体なく感じられるのだ。

しかし俺の動きが止まっても凛ちゃんの膣内がうねって刺激してくる。

凛「詠……さん……。イッて、いいよ。私の中で出して……」

そう言って彼女は四肢を使って俺にがっちり抱き着くと、正常位で自分が下にいるのに器用に腰を振る。

凛「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!」

自分から動き始めて数秒程度で彼女は絶頂した。
だが動きを緩めることはない。
痙攣した勢いでなおも腰を振り続ける。

詠「うあっ! やばいっ! 凛ちゃんっ! ……ぐぅっ!!」

彼女の激しい下からの攻めで俺はあっけなく射精した。
彼女の中に大量の精子が流れ込む。

凛「~~~~~~~~~~~!!!!」

お互いに動けなくなったまま息を切らす。

凛「……あはっ、嬉しいな」

先に口を開けたのは凛ちゃんだった。

凛「詠さんの精子、いっぱい入ってきた。気持ちよかった?」

詠「うん、すごくよかった」

凛「ふふっ、私も今までで一番気持ちよかった」

そのまま何回か優しくキスをしながらペニスを抜いた。
彼女の膣からドロリとしたものが流れ出てきて、できちゃったかな? と問う。

凛「今日、安全日。私まだ学生だからね」

詠「そうだよね。ごめん、実は俺、妊娠させる勢いだった」

凛「あははっ、詠さん気が早いよ」

彼女はくすくす笑って俺を見つめる。
そのまなざしを向ける彼女は可愛くて、愛おしくて、やっぱり凛ちゃんのことが大好きだって改めて思った。

後片付けもしないで、二人でもう一度布団に包まり寝ようと思ったのだが、凛ちゃんがまた俺の身体をあちこち触り弄ってきた。

チラッと彼女の方を向いてまだ起きてるよ、と伝える。

凛ちゃんは視線を泳がせて、もじもじとして、ようやく恥ずかしそうに口を開いた。

凛「もっかいしよ……?」

どうやら今日は寝られないみたいだ。

『凛アフター』 終わり

中断します。
そろそろ終わりが見えてきましたので近いうちに完結すると思います。

『青木明』

明「遅いよー」

珍しくもジャージではなく私服を着こなす明姉ちゃんは会って早々、俺に文句を言ってきた。

詠「ごめん。だって仕事……」

明「無いって言ってたじゃん!」

詠「急に入ったんだって」

社会人ならこういうこともあるだろう。
先方からの突然の電話で、ありがたいことにポジパの営業が功を奏したのだ。

しかしながら、『今日はこれから空いてますか?』という一言で俺の予定は後ろ倒しになっていく。

ちなみにこの言葉を無下にすると次に『この話は無かったことに……』と言われるのがオチだ。

そういうわけで、明姉ちゃんとお出かけの予定も三時間ほど後ろに遅らせてもらい、結局19時待ち合わせとなってしまった。

明「今度埋め合わせよ!」

詠「だから、ごめんって。これから忙しいから難しいよ」

ぷぅっと膨れる明姉ちゃんだが、時間が惜しいのか俺の腕を取って夜の街に二人、紛れていく。

明「今日はどこに連れてってくれるの?」

詠「まあ近くのショッピングモールでいいかな?」

明「味気無いわねー」

詠「いいでしょ別に」

明「まあいいよー。詠と二人きりだし!」

そう言ってぎゅっと距離を詰める。
腕にしがみつくように密着してくる明姉ちゃんに女を感じて、ドキッと高鳴る。

彼女の私服姿は珍しく、改めて見ると可愛い。
花柄のワンピにロングのブーツ、腰丈のトップスは内側がもこもこしてて暖かそうだ。

首には去年俺が贈ったネックレスを身に着けていた。
当時は『こんなの着けるタイミング無いわよ~』なんて笑っていたが、今まで大事にしくれていたみたいだ。ちょっと嬉しい。

普段はしないようなメイクもして、めかしこんでいる彼女はいつになく色気もあるように感じられる。

詠「あ、あの、姉ちゃんさ」

明「ん、どうしたの?」

詠「何て言うか今日、可愛いね。服も似合ってて良い……です」

街灯に照らされる彼女の顔は次第に赤みを帯びていく。
多分寒いからってだけでも無いだろう。むしろ俺は今暑いくらいだ。

明「え、あ、その……あ、ありがと……」

そんな初心な反応を見せてくれる明姉ちゃん。
照れてる彼女を見るとこちらまで照れてしまうので止めてほしい。
と思ったが、先に照れたのは俺だった。

詠「それも、嬉しいよ……やっぱ姉ちゃんに良く似合うね」

俺は明姉ちゃんの首のネックレスを指して言ったのだが、これも失敗だ。
自分で言って恥ずかしくなる。

明「えへへ……そうかな? せっかくだから着けてみたの」

照れくさそうに笑う明姉ちゃん。
この日、何かが変わりそうだと俺の中でちょっとした鐘が鳴ったのだった。

……十数分電車を乗り継ぎ、さらに歩くこと数分。

目的のショッピングモールまでたどり着いた。
食品、医薬品、アパレル、雑貨、本、家電、旅行代理、眼鏡、楽器、ファンシーグッズ、スポーツ、ゲームセンター、レストラン、映画館などなど、何でもござれな青木家(両親除く)の行きつけである。

デートするのも、何か買いに来るのも、大体ここで事足りてしまったりするのだ。

確かに明姉ちゃんの言った通り見慣れた場所でのデートはちょっと味気無いのだが、今はイルミネーションが施され、ここからも目の前にある駅前広場では椅子に腰かけながらその作品群を一望できる。

冬にうってつけなデートスポットでもあるのだ。

遠出するなら、海の側の煌びやかな街でもいいのだが、時間が押してしまったものだから、ここで妥協するしかない。

詠「着きましたー」

明「いつもの場所ねー」

詠「贅沢は敵です」

明「もう! 誰のせいでこんなことになったと思ってるの?」

詠「はい、すみません」

明「まったく……」

詠「まあ、明姉ちゃんも楽しめるでしょ?」

明姉ちゃんは大きくを溜息を吐いて、まあねと答える。
次にキッと俺に振り返ると、人差し指をピッと立てて俺の前に突き出した。

詠「な、何?」

明「今は姉ちゃん禁止!」

詠「えーっと……明?」

俺がそう言うと明姉ちゃんは、満足そうに笑みを浮かべて頷いた。

明「私は今詠の恋人なんだから」

そう言って彼女はまた俺の腕にしがみつく。
傍から見たらカップルそのものだろうなぁ、とドキドキするのを隠すため考えつつ、俺たちはショッピングモールに入ったのだった。

歩いていると、意外にもカップルが多く目に付いた。
本日、クリスマス・イブ・イブであるのだが、クリスマス二日前から盛況なのだ。

俺も仕事があって恐らく早く帰れない社畜の一人。
今のうちに楽しんでおこう。

幸い明日はお休みだ。
今日の振り替え休日的な感じである。
しかし明姉ちゃんは明日仕事があるため、日程を今日に合わせるしかないのだった。

とまあそんなことはさておいて、腕を組みながら歩いていると明姉ちゃんの動きが止まる。
それに合わせて俺も動きを止めて彼女を見てみると、その視線はショーケースに釘付けという感じだ。

どうやら心惹かれるような服に出会ったらしい。

詠「それ、可愛いね」

俺もそれを見て率直な感想を述べる。
しかし明姉ちゃんにしてはちょっと幼さの残るようなふんわりとしたコーディネートだが、どうだろう?

俺は無神経にも彼女とそのコーデを交互に見比べてみる。

明「ちょっと止めてよ」

苦笑しつつ、ぺしっと俺の肩を軽くたたく明姉ちゃん。

詠「いや、こういう明姉……明って見たことないし、想像したら意外と似合うんじゃないかって思うけど……」

明「そ、そうかな?」

詠「うん、試着してみたら?」

そう言うと明姉ちゃんは、うーん……と考える。

明「じゃあそうするわね」

そう言って嬉しそうにはにかんだ。

それからお店に入って店員さんに言って試着する。

明姉ちゃんは案内された試着室に入り、シャッとカーテンを閉めるが、思い付いたようにそこから顔だけ覗かせて『覗かないでね』と悪戯っぽく言った。

詠「うーん、どうだろ? 今日の明、一段と可愛いから分かんないよ?」

明「ば、ばかっ!」

何の気無しで答えた俺を丸い目で見つめて、かぁっと頬を紅潮させる明姉ちゃんは、勢いよくカーテンを閉め直す。

口元がちょっとニヤついてたのを俺は見逃さない。
してやったりと軽く笑ってしまうが、改めて今日の姉ちゃん可愛いなと思ってしまうのだった。

俺がスマホをイジイジし始めて少し経った頃、明姉ちゃんは再びカーテンを開けてちょいちょい、と手招きして俺を呼ぶ。

詠「どうしたの?」

見せるのならカーテン開けちゃえばいいのに。
俺がそう考えていると、明姉ちゃんが少しばかり自信無さげに眉を顰める。
俺は明姉ちゃんの掴むカーテンをぐいっと開ける。

明「わっ!? ちょっと!」

そこにはふんわりとした衣服で身を包むいつもよりも幼いコーデで可愛らしい明姉ちゃんがいた。
可愛らしいミニの下から覗く防寒対策であろうタイツが何やら艶やかなギャップを演出している。

上半身もふんわりフリフリないつも着ないような、彼女が恥ずかしく思ってるファッションは俺には新鮮で、可愛らしく思えた。

明姉ちゃんは自分自身を抱くように服を隠して、恨めしそうに一瞬俺を睨むが、観念したようにがっくりと項垂れる。

明「はぁ……。鏡見てあんまり似合わないってことくらい私でも分かるから」

詠「え? いや、すごく可愛いと思うけど……明がそう思うんなら……」

明「はい? 今、なんて?」

詠「だから可愛いって」

明「本当に?」

詠「本当だよ」

そんなやり取りを何回もして、俺は『可愛い』と言うのもさすがに恥ずかしくなってきてしまった。

明姉ちゃんも笑顔で嬉しそうではあるが、顔を火照らせているのを見るとやっぱり恥ずかしいんじゃなかろうか。

明「本当かなー? 嘘じゃなくって?」

詠「しつこいってば」

顔を近づけて聞いてくる姉ちゃんに対して、俺はそっぽを向いて答える。

明「えへへ……」

詠「ちょっ……何さ?」

急に抱き付いてくる姉ちゃん。
俺は身体を引き気味にして、彼女の肩を軽く押し返す。

可愛すぎて勃起したナニが当たっちゃいますから。

詠「どうする? 買ってく?」

俺はホカホカの頭を冷やすために話題を変える。

明姉ちゃんは自分の服装を試着室の姿見で確認すると、もう一度俺に振り向いた。

明「うーん、詠が可愛いって言ってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり私には似合わないかな? まだ慶ちゃんの方が可愛げあるよ」

そうかな……とは思うけど、姉ちゃんたちにはロリータ系のファッションよりはシックな大人コーデの方が合うような気がするのは俺も同意だ。

慶ちゃんならきっと可愛く着こなせそうではあるな。
何て言うか、四人とも顔は似てるんだけどね。

ただ、このギャップにはグッとくる。
きっとそれで外を歩いたって人目を惹くだろう。

後でこっそり買っておこうと思ったのだった。

ショップを出て俺たちはレストランで食事を済ませ、外の広場へ。

複数のツリーに施されたイルミネーション。
周囲の壁や手すりにもそういった電飾が施されており、俺達はベンチに座ってほぅ……と白い吐息を吐きながらそれらを見入っていた。

明「綺麗よね」

詠「うん」

明「そこは『明の方が綺麗だよ』とか無いの?」

詠「普通自分で言うか?」

明「別にいいじゃない」

姉ちゃんはふいっと顔を背けて照れ隠しをする。
暗がりの中に彩られたイルミネーションが照らす姉ちゃんの横顔。
物静かでどことなく儚さを帯びた物憂げな表情と、潤んだ瞳に俺は心臓を跳ねさせる。

その様子からは、これからのことを見据えるような、あるいは一歩前に踏み出すのを恐れるような不安が感じられる。

彼女の考えることは分かる。
きっと俺のことで悩んでるんだと思う。

彼女はこの恋に真剣だ。
今日以外のやり取りでもそのことは十分に伝わってきているし、俺も無下に扱うことはできない。

この半年ほど前にそんな彼女の本気を知ってしまったからには俺も本気の気持ちで返さねばならないのだ。

そして俺の出す答えは既に決まっている。

ベンチに座って何も言わずに白い息を吐くだけの俺達だったが、俺は着けていた手袋を外すと、彼女の手袋の上からその手を握った。

ちら、と彼女がこちらを窺う。
ゆっくりと俺の手をどかしてから手袋を外すと、彼女もまた素手で俺の手を握り返した。

こてん、と肩に乗っかる頭。
小柄で、それだけの仕草が可愛らしい。

お互いに頭を寄せ、どちらからともなく、視線を向け合う。
徐々に顔の距離は近くなっていき、外にいるにもかかわらず、唇を重ね合った。

軽く触れあうだけのキスをして、すぐに離す。
手を握る力は強くなっていた。

詠「明、好きだ」

俺は告白していた。

彼女は恍惚な表情を見せたが、すぐに破顔した。

明「えー、ヤりたいだけじゃないの?」

明姉ちゃんは茶化してそんなことを言う。

詠「だったら既に誰かと関係持ってるよ」

明「本当に持ってるんじゃないでしょうね?」

失言だったみたいだ。
俺はそんなことあるわけないと否定する。未遂はあるけれど。

明「でも、詠が本気だって言うんなら私は嬉しいな」

詠「あのさ、キスと告白してこんなにドキドキするの久しぶりなんだけど……」

俺がそう暴露すると、明姉ちゃんはどれどれ、と俺の胸に耳を当てる。

明「あっ、凄い……」

彼女が耳を当てて密着することでさらに大きく鼓動が騒ぎ出す。

詠「分かったでしょ?」

明「うん……」

明姉ちゃんはしばらくその体勢のまま動かない。

明「でも、何だろう。すごく落ち着くわ」

詠「あ、ああ、そう? そろそろ離れてもらってもいいかな?」

明「えっ? ちょっと、詠はもう私の彼氏ってことでいいんでしょ?」

詠「や、そうなんだけど。さすがに周りに見られて恥ずかしい……」

俺が言うと、気が付いた明姉ちゃんもさっとたたずまいを整える。

明「そういうのはもっと早く言いなさいよ」

詠「姉ちゃんが大胆なんだよ」

お互いに憎まれ口を叩いて、くすくすと笑い合う。

電飾の光彩ももう目には飛び込んでこないまま、目の前にいる彼女のさまざまな色の光を吸い込んだ瞳に吸い込まれそうになる。

見惚れていると、明姉ちゃんはさっきよりも深く口付けをしてきた。
不意に交わされたそれに為す術も無く、いや、何も抵抗する必要は無く身を委ね、人目も気にせずたっぷり数秒交わした後、彼女の顔をはっきりと認識する。

明「これからよろしくね」

明姉ちゃんはにっこりと満面の笑みと朱に染まる頬を見せたのだった。

『青木明』 終わり

『明アフター』

相変わらず俺は四姉妹と暮らしている。
もちろん彼女たちに俺と明姉ちゃんの関係は認めてもらっているのだが、職場からも近いし、仕事が安定するまでということで、未だに住んでいる。

他の姉ちゃんたちも、慶ちゃんも、俺のことを諦めると言ってそれぞれ新しい出会いを探している最中である。

とは言いつつも、意外と親しい様子で男性と話をする彼女たちを見たことがあるので、その点は意外と早く解決しそうだ。

ただし、家の中で俺と明姉ちゃんがイチャイチャすることはほとんど無い。
他の姉妹にやめろと言われており、イチャイチャを目撃すると超不機嫌になっちゃうからである。

つまり、デートに出かけているこの時間がイチャイチャし放題のタイムなのである。

明「詠~、この後どこ行く?」

詠「うーん、たまには二人きりでゆっくりしたいよね」

と俺が言うのも、二人きりになれる時は大体外に出かける時だけであり、あっちへ行ったりこっちへ行ったりでデートを満喫するわけだが、たまには自宅のソファで二人ゆったり微睡むのもありかなーと思ったりする。

そう思っての俺からの提案である。

明姉ちゃんもその考えには概ね賛成らしく、二人で何もしないような時間を過ごしたいと思ってるらしい。

詠「じゃあさ、これから旅館行こうよ」

明「え、今から?」

詠「そう。姉ちゃん、明日も休みでしょ? 温泉入って、姉ちゃんとだらだら過ごしたいな」

明「まあ、詠がそれでいいって言うならいいわよ」

あっという間に旅行が決まり、その日の内にお出かけとなる。

一旦家に帰って宿を調べて、良さそうな所に電話を掛ける。
運良く部屋が空いており予約を済ませると、早速荷物を纏めて出立した。

電車に二時間ほど揺られて、着いた場所は自然豊かな観光地。

結局、一通り観光するあたり、自分たちは結構アクティブなんだなと再認識する。

陽が落ちる頃、宿に着いて、女将さんに部屋に案内される。
その女性の年齢も若く綺麗な方だった。
名刺を取り出しそうになったが、横の明姉ちゃんに睨まれて、名刺入れをスッと戻す。

値段は多少張るが、サービスが良く、価格よりも得したと思えるほどだ。
平日ということもありお客さんも少ない。

それに温泉には混浴もあり、明姉ちゃんと二人で貸し切り状態だった。

詠「ふぃ~……落ち着くなぁ」

明「本当、良いところだねぇ」

二人で露天の温泉にに浸かる。
もちろん、身体にタオルを巻いて隠しているが、俺は明姉ちゃんが見せる柔和でキメ細かな肌に思わず見惚れてしまう。

明「ん? 何見てんの?」

詠「や、別に……」

明「ふーん」

明姉ちゃんは特に咎めるようなこともせず、彼女自身は自然体だ。

俺はまたも彼女を盗み見る。
肌はしっとりと湯気で濡れ、じんわりと滲む汗が髪の根を徐々に濡らす。

鎖骨の窪みが汗や蒸気の受け皿になってほんのりと艶めかしさを醸し出し、艶やかに紅潮する頬に視線は吸い込まれ、同じように綺麗な桃色の唇にも目を奪われる。

ゴクリと生唾を飲み込んだのと同時に、明姉ちゃんはこちらに微笑みかけてくる。

明「何か意識してない?」

困ったように、呆れたように、あるいは嬉しそうに彼女は首を傾げて問いかける。

詠「……してる。姉ちゃん綺麗だし可愛いし」

嘘をついても仕方ない。
俺は素直に彼女に今の気持ちを話した。

姉ちゃんは少し驚いた様子であったが、すぐに表情を綻ばせて俺に抱き付いてくる。

明「ありがとっ! 詠も今すっごく可愛いよ」

詠「やめて、可愛くないから……」

布の上からだけどおっぱいが当たってることを意識せずにはいられない。
思わず勃起してしまいそうだ。

姉ちゃんいい匂いするし……。

明「ねぇ」

不意に彼女は呟く。

明「上がろ?」

詠「へ、まだそんなに浸かってないだろ?」

混浴風呂に入ってからまだ数分しか経っておらず、満喫したというにはいささか物足りない。

明姉ちゃんは顔をさらに近づけてきて、

明「何かすごく興奮してきちゃったのよ……」

ドキッとしたとか、そんな乙女チックなものでは断じてなく、ただ一瞬で勃起した。

頬や額に張り付く髪も、いつもより荒々しい吐息も、俺を見上げるその仕草も、彼女の全てが俺の理性を殺しにかかっているかのようだ。

明「あはっ、勃った」

俺のタオルの盛り上がりを見て、恍惚な表情でありながら笑顔な姉ちゃん。
片手で俺の陰茎をいじりながら、もう片方の手で顔を押さえられ、キスされる。

詠「ちょ、姉ちゃん……」

解放されたタイミングで、困るよ、というニュアンスを込めてそう言う。

明「続きは戻ってからしよ?」

そう言って彼女は女性風呂へと戻る。

詠「な、勝手なやつ……」

彼女の背に向けて恨み言を放つが艶めかしい背中は離れていき、扉の向こうへと消えていった。

詠「俺はしばらく戻れないぞ……」

俺は痛むくらい膨らんだ自分の股間を見てがっくりと肩を落としたのだった。

しばらくして何とか勃起も治まった俺はもう一度身体を洗い、部屋へと戻る。

明「遅いよー」

満面の笑みの明姉ちゃんの横にはすでに布団が敷いてある。

詠「や、遅いよって言われても、姉ちゃんのせいだからな?」

明「ずっと興奮しちゃってた?」

からかうように尋ねてくる彼女を相手に俺は口を噤む。
その通りだから言い当てられて恥ずかしい。

明「私もすごい興奮してたのよ?」

姉ちゃんが、そう言って布団の上に横になる。
ちらっと着物がはだけており、艶やかな肩が見えている。
風呂上がりの上気した身体から漂う色香は筆舌に尽くしがたい。

胸の谷間も着物からちらりと見え、俺はまた唾を飲んだ。

明姉ちゃんはおもむろに自分の股に手を突っ込んで、くちゅくちゅ、という水音を部屋に響かせながら息を荒げる。
顔を真っ赤にさせ、目はトロンとだらしない。

明「ほら、すっごく興奮してるの」

股に突っ込んだ手を引き戻して俺に見せつける。
照明の光が彼女の指の液体を反射して、輝きを放つ。

彼女の指先から液が垂れるのと同時に俺は彼女に抱き付いていたと思う。

息を荒げて、一心不乱にキスをした。
舌を入れたり、上下の唇を吸ったり、とにかく一分以上にわたってキスをし続けていた。

すっかりはだけた着物を雑に脱がせて、下着も付けてなかった胸が露になる。スレンダーな割にはそれなりにふくらみのある胸。

多分パンツも履いてない。そう思うとさらに興奮した。

自分も下着を脱いで、お互い裸に着物だけを雑に着てるというマニアックなシチュエーション。
興奮しないわけが無かった。

俺は舌を這わせ、彼女の耳、首、胸へと降りてくる。

明「ん……あっ……はぁ、はぁ……あんっ! ……んぅ」

彼女から嬌声が聞こえ始める。
乳首を舐めると小さな喘ぎ声と、気持ちいい、という言葉が耳に入る。

舌で転がしたり、ついばむように吸ったり、指で弾いたりすると、きゅっきゅっと力が入るのを何だか愛おしく感じる。

明「やば、私すっごく興奮してる……! 詠っ!」

そう言って直後、彼女は俺の下から強く抱きしめてくると、密着してキスを何度も何度も求めてきた。

俺はそれに応える。
何度激しくキスをしても堪らないほどに彼女の熱は収まらない。

明「あむっ……ちゅ、くちゅ、ちゅ……んっ……んむっ……ちゅ……」

しまいにはお互いの位置がくるりと逆転して明姉ちゃんは足を絡ませ、手を俺の頭に回し、強く押し付けるようにキスを繰り返す。

さらには腰を振って、俺の陰茎と彼女の陰核が擦り合う刺激が延々と続く。

気持ちよくて頭がぼうっとする。
亀頭への刺激で自然と力が入る。

姉ちゃんも陰核への刺激で、時折ビクッと痙攣する。
しばらくお互いがビクビクと痙攣し合う中、不意にぬるりとした感じが陰茎を襲う。

手を使わず器用に挿入されたようだ。
密着した状態、繰り返される貪るようなキス、刺激を求めて振り続けられる腰は変わらない。

ただ、より強くなった刺激が二人の腰回りを支配する。

俺も次第に突き上げるように腰を振る。

明「あうっ! だめっ! 嘘ッ、気持ちいい!! あ、あっんっああっ……!!!!」

嬌声が大きくなる。
そのまま何度も何度も突き上げて、徐々にそのスピードも増していくと、加速度的に彼女の喘ぎ声もその量を増やしていく。

明「~~~~~~~~っ!!」

明姉ちゃんは言葉にならないような声を発して、大きく痙攣を繰り返す。
俺が動き始めてから早々に姉ちゃんはイッてしまった。

明「はぁ……はぁ……あっ! またっ!? 今、イッたばっかで……うぁっ! あっあっ……!!」

それでも俺は止まることなく数回突き上げると、姉ちゃんはまた強く痙攣した。

明「ちょっ……早っ! 待って! まっ……!! あぁっ!! だっ……めっ!! あぅ……いっ……くぅ……~~~~~~~っ!!!!」

騎乗位から突き続け、ぐてっとする姉ちゃんを支えるように対面座位へと体位を変えて、腰を振る。

力が抜けたように俺に身を預ける明姉ちゃんだったが、すぐに膣内への刺激に耐えられなくなって、強く俺に抱き付いてきた。

明「きゃあああああっ!! ~~~~~~~っ!!!!」

叫んだかと思えばまた声にならない喘ぎ声で喉を枯らし、痙攣のせいでまた腰を動かす。
対面座位でも姉ちゃんは強く性的興奮を覚えるようで、自発的にしがみついたり、キスしたりを繰り返していた。

詠「もっと甘えていいよ。ほら、明」

そんな言葉をかけると、膣肉がペニスをきゅぅっと締めてくる。

そうして痙攣する姉ちゃんは勝手に前後する腰に抗えず、だらしない顔をしてイキっぱなしだ。
イキっぱなしと分かるのは、膣肉が時間を置くことなく忙しなく蠢いているのがハッキリと感じられるからだ。

耳に息を吹き掛けたり、舐めたりしてあげるとさらに大きくビクビクする。

明「~~~~~~~~~っ!!!!」

詠「気持ちいいの?」

明「いいっ……! きもちいっ……!!」

俺は陰茎を抜かないまま、彼女を寝かして正常位に体位を移す。
お互いの両手を貝殻合わせに繋いで、ぎゅっぎゅっと腰を打ち付ける。

俺も次第に射精しそうな感覚に陥ってきて、腰を振る速度も上がる。
姉ちゃんも痙攣が治まらないままずっとセックスしているので、俺の下から腰を本能のままに振っているようだ。

詠「姉ちゃん、イキそうっ!!」

明「あぁっ!! 一緒にっ! あぅっ!! あ、あ、あああああっ!!!!」

二人の動きが一瞬止まる。
俺は小さな喘ぎ声と共に射精する。
彼女の中でわずかに腰がヒクついて、凄まじい幸福感と満足感の余韻に浸る。

姉ちゃんも腰のヒクつきが止まらない。
気持ちい、幸せ、という言葉を繰り返して満面の笑みを俺に向ける。

しばらくして抜いた膣穴から白濁液がつつと流れる。
明姉ちゃんはちょん、とその液に触れて指先で弄んだ。

明「えへへ……子供出来ちゃうわね」

汗でしっとりと濡れた布団の上で、変わらない笑顔のまま彼女は挑発的にそう言ってみせた。

詠「姉ちゃん、気持ちよかった……」

明「私も……でも詠やりすぎ。イキすぎて疲れちゃったわ」

詠「それは、ごめん。でも着物着ながらってのも何かすげぇ興奮して……」

明「それも……そうだけど……」

お互いに気恥ずかしくなって、しばらく沈黙する。

明「でもすっごく気持ちよかった……」

それを破るのは恍惚な表情を浮かべて頬に手を当てる明姉ちゃん。

明「だから、また連れてってね?」

妖しく輝く彼女の瞳。
それを新鮮に感じるのだった。

『明アフター』 終わり

『青木聖』

ここの所、聖姉ちゃんの様子がおかしい。
というのも俺に実害があるわけでなく、全くの逆だからである。

夜這いされた日以来、十分に積極的だった姉ちゃんは見る影もなく、今ではちょっかいをかけてくることも少ない。

俺としては、やっとのことで常識を手に入れてくれた聖姉ちゃんを称賛したい気持ちでいっぱいなのだが、気味悪く思ってしまう自分もいる。

まあ深くは考えずに、きっと反省したんだろう、という程度に考えることにしている。

そうして今夜も業務が終われば聖姉ちゃんが事務室までやって来る。

聖「詠、仕事が終わったなのなら一緒に帰らないか?」

こんな風に大人しくなったのだ。

積極的じゃないか、だって?
いやいや、積極的と言っても当社比と注意書きが付きそうなものではあるだろう。

以前なんかは業務中にハグは当たり前で、隙あらばキスに耳舐め、股間を弄ってきたりもしたのだから堪ったものではない。

それさえなければ尊敬できる先生と称される姉が次女の聖なのだ。
曰く、厳しいながらも時には優しく、いつも凛々しく、カッコいい……ブラコンですべてを台無しにしている人間、との評価である。

酷い言われよう。
そのせいで俺に向けられる視線も何だか奇怪なものが多かった気がする。

そんな姉がブラコンという大きな鳴りを潜めたことによって、またしても噂に尾ひれどころか翼やらその他諸々やらが付いていき、ついに義弟とデキちゃっただとか、逆に義弟にフラれただとか、こちらも散々な言われようだ。

しかし、まあ俺は姉ちゃんが落ち着いてくれたことで接しやすくなっていたのも確かだし、頼ることも増えるようになったと思う。

以前は何されるか分からないのが怖くて、頼れなかったんだけどね。

詠「うん、ちょうど終わったから帰ろうか」

というわけで俺も彼女の提案を断ることはあまり無いのだった。

詠「姉ちゃん変わった?」

俺は帰り道、そんなことを聞いてみる。
聖姉ちゃんはしばらくキョトンとしていたが、俺の顔を覗き込むようにしてニッと笑う。
これはからかう時の顔だな、と思いつつも久しぶりに見たその表情に思わずドキッとしてしまう。

聖「そう思うか?」

詠「あー、や、どうだろう?」

聖「まあお前が変わったと思うんなら変わったんだろうな」

詠「そうかもね」

聖「でもな、詠」

詠「ん?」

聖「お前を好きなのは変わってないぞ」

じっと目を合わせてから微笑む姉ちゃん。
しばらく目が離せない俺は頭が、かぁっ……と熱を帯びて、心音が胸から直接耳に響いてくるのを感じた。

詠「そ、そっか……ありがと」

俺は曖昧にお礼を返すことしかできなくて、そんな自分を情けなく思った。

そういう言いたいことをハッキリと言う男らしい一面も、また彼女の人気に拍車をかけ始めている。

そうして変わり始めたある日、社内のカフェテラスで聖姉ちゃんを見つけた。
聖姉ちゃんがカフェにいるのは珍しい。

俺は声を掛けようと思ったのだが視界を少しずらすと見知らぬ男が彼女の向かいに座っている。

何か談笑しているようで親し気な雰囲気が伝わってくる。

詠「だ、誰……?」

俺は酷く動揺した。
あんな男知らないし、姉ちゃんが男の人と親しそうに話すのも初めて見たかもしれない。

俺は結局、黙ってその場を離れた。
一体誰なんだ……。

もちろん午後の業務は全く集中できないで蓮さんに叱られたり、葉月さんに心配されたりして、俺の悩みを話すことにした。

詠「実は……姉の聖が知らない男の人と親しげに話してるのを見て、何か……」

それから、うーん、と唸ってしまって言葉を紡げない。
話を聞いてくれた二人はキョトンとした視線を俺に向ける。

蓮「それってよぉ……」

葉月「あれですよね……」

二人はお互いに顔を見合わせて、一瞬のうちに破顔した。

え? 何その反応?
ていうか、あれって何ですか? やっぱりそういう関係なんですか?

そう考えると、悶々とした思いは一層強くなって感情がごちゃごちゃと複雑に渦巻いていくようだ。

蓮「まあ、そんな落ち込みなさんな」

葉月「そうですよ。気になるなら直接聞いてみればいいじゃないですか」

二人ともやけに嬉しそうですね。
俺はこんな思いをしてるっていうのに……。酷い先輩たちだ。

蓮「葉月の言う通りだな。聞けばすべてが解決すると思うぞ」

詠「そりゃそうですよ。だって聞いたらどんな関係か分かるんですから」

葉月「あはは……。多分、それだけじゃないと思うんですけどね」

詠「はい? それってどういう……」

尋ねようとする俺を蓮さんが遮った。

蓮「ストップ。これ以上は俺達じゃなくて本人に聞け。いや、聞くべきだ」

葉月「きっと悪いことにはならないと思いますよ」

そう言って先輩たちはこの話を終わりにした。
俺としてはまだ心残りが多く、先輩たちのことを少しだけ頼りなく感じた。

どこか放心状態で終業を迎える。
蓮さんに声を掛けられてそのことに気が付いたのだが、同時に進捗状況が悪いことにも気が付いた。

詠「ぐえぇ……」

蓮「どうした?」

詠「全然進んでないです……」

蓮「ふーん。残業、頑張れよ」

蓮さんは俺のことなど全く気にしていない様子で、ポンと肩を叩いてそう言い残す。

蓮「それと、さっさとお姉さんのこと解決させとけ」

事務所の冷蔵庫から346印のスタミナドリンクを取り出して俺のデスクにトン、と置いてくれた。
派手なスーツを着た美人の事務員さんがよく差し入れしてくれるものだ。

無関心だと思っていたが、蓮さんなりに心配してくれているらしい。

蓮さんが帰って一時間程経過し、俺はようやく自分が満足できる所まで仕事を進められた。
ちなみに葉月さんは蓮さんよりも早くご帰宅なさっている。

あとはこのメールを送信して終わり……。
というところで、カチャリ、と事務所のドアが遠慮がちに開けられる。

蓮さんが忘れ物でもしたのかと思ったが、違った。

聖「詠、いるか?」

詠「聖姉ちゃん!?」

驚きのあまり声が上ずる。

聖「な、何だ?」

詠「あ、いや、何でもないけど……。どうしたの?」

聖「どうしたって、お前が呼んだんだろう?」

詠「はい?」

俺は呼んでないですけど。

聖「渋谷から詠が呼んでると言われたのだが……」

蓮さん、余計なことを……。
しかしながら手間が省けたし、これで聞くしかなくなったわけで、蓮さんには感謝するべきなのかもしれない。
おそらくこのままグダグダ時間が過ぎていっただけだろうし、蓮さんもそれを危惧したのだろう。

詠「とりあえず、一緒に帰ろうよ。このメール送ったら終わりだからさ」

聖「お前から一緒に帰ろうだなんて、珍しいな」

詠「まあ、たまにはね」

聖「そうか」

聖姉ちゃんはニヤッとやらしい笑みを浮かべて近づいてきたと思ったら、まだ座ってる俺の後ろからぎゅぅっと抱き付いて、彼女は自分の頬を俺の頬に密着させてくる。

聖「どういう風の吹きまわしだ?」

詠「ちょ、姉ちゃん、やめて!」

聖姉ちゃんの顔がすぐ横にある。
柔い頬がぴっとりと密着する感触が心地いいが、同時に恥ずかしい。
かぁっと自身の身体が、熱を帯びていくのが分かる。

聖「おや?」

若干の静寂に漂う、ドキドキという自分の心音がけたたましい。

聖「緊張してるのか?」

詠「……」

何も言えなかった。
事実、緊張していた。

聖姉ちゃんに魅力を感じるし、こんなに密着されたら動くどころか、生唾を飲み込むことさえできない。

聖「詠?」

徐々に心配そうに俺の顔を覗き込む聖姉ちゃん。
どうして、こういうことには疎いんだと説教の一つでもしたくなる。

そうして選択した俺の行動は自分でも少し意外に思えるものだった。

聖「んむっ……!」

覗き込む彼女の顔に自分の顔を近づけてお互いの唇を重ねる。
もちろん積極的な彼女からではない。

キスした瞬間、彼女は驚き目を見開いていたが、すぐにそれを閉じて俺に身を委ねているようだった。

十数秒という短いようで長い時間。

顔を離して彼女の様子を見てみると、糸を引いた唾液が彼女の口元につつと張り付き、耳まで紅潮し、とろんと蕩けた目元の表情は色っぽい。

自分の劣情を全て聖姉ちゃんにぶつけたいという気持ちを抑えて、俺は彼女に向き合いって彼女の肩をしっかりと掴み、真っ直ぐに目を見た。

交わる視線、その瞬間にピリッとしたものが全身を駆け巡ったような気がした。

詠「好きだ」

気付いた時にはそんな言葉が口から出ていた。

聖「私も」

彼女の泣きそうで、嬉しそうで、艶っぽいような、初めて見るその表情を俺は一生忘れないだろう。

『青木聖』 終わり

『聖アフター』

詠「姉ちゃん、今してもいい?」

これは告った直後の俺の言葉だ。
ちなみに会社での出来事である。

これが非常識なことだと重々承知ではあるが、本能には逆らえないのです。

聖「うん、いいよ」

いつになく恥じらいを浮かべるその表情に興奮した俺は遠慮することも無く、彼女の唇を貪るようにして何度もキスをした。

聖「あむっ、んちゅ……ちゅっ……んぅ……んむっ……」

ここは会社なのだが、俺達はお構いなしに接吻をする。
もう夜の十時を回っており、誰の気配もしていないので結構油断しているのかもしれない。

聖「ちゅぅっ……はむっ……ちゅ、ちゅ……んぅっ! 詠っ!」

聖姉ちゃんは俺の名前を何度も呼んでは、その度にキスを重ねる。

熱は徐々にその温度を増していく。
俺の姉ちゃんの肩を抱く力は強くなる。
その手を腰に回し、さらに強く抱きしめる。

また数秒程続けていると聖姉ちゃんからぐっと押し返される感覚で俺はいったん彼女との距離をとる。

聖「ちょっと痛い」

咎めるわけでもなく、頬を朱に染めて困ったように笑う姉ちゃんが儚げで、俺の胸も痛む。

詠「ご、ごめん……」

聖「いや、そんなに落ち込まなくても……」

彼女はくすくすと笑って、こちらに顔を寄せる。
俺を見上げてゆっくりと目を瞑り、少しだけ口を尖らせる。

彼女の求める顔が愛おしいが、同時に躊躇いを覚える。
いつもと違って無理に迫ってこない聖姉ちゃんが別人に見える。

自分からキスすることもあまりないので、その点についても恥ずかしく思う。

心臓の鼓動は数段早くなったが、俺は姉ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。
覚悟を決めて、さっとキスしてすぐ離す。

聖姉ちゃんはパチリと眼を開けると、にへらっと無防備な笑みを浮かべた。

聖「何だか照れくさいな……」

きゅぅと心臓を締め付けられるような感覚に眩暈を覚えたが、ぐっとこらえる。

俺は彼女の顎に指を添えて、その親指で唇をなぞる。
あ、と艶めかしい声を発する聖姉ちゃんは再び瞑目する。

詠「姉ちゃん、可愛いよ」

そう言ってまたキスをした時、俺はもう止まれないと分かった。
片手は彼女の肩に掛け、空いたもう一方の手で彼女の胸を服の上から触れる。

下着、シャツ、セーターと着こむ聖姉ちゃんの胸はその衣服の感触に阻まれていたが、彼女の息はだんだんと荒くなる。

俺はしばらく服の上から彼女の胸を弄り、今度はセーターとシャツの下に手を突っ込んで下着の上からその程よい大きさの乳房を揉む。

下から手全体で包むように優しく触り、時折柔らかなそれに指を沈める。

その間もキスをし続けてお互いの唾液を交換するのも忘れていない。
むしろそちらが俺たちにとってのメインで、聖姉ちゃんも夢中になって舌を動かしているくらいだ。

詠「姉ちゃん」

十分に愛し合った俺たちは一度唇を離す。

彼女に語り掛けて、セーターとシャツを脱がす。
幸い部屋は暖房が効いており、異性交遊の真っ只中ということもあって下着姿でも若干汗が滲む程度には暖かい。

俺もスーツを脱いで椅子に掛ける。
ネクタイを外して無造作にデスクに置き、ワイシャツのボタンも緩めた。

さらにしばらくキスの続きをする。
胸もさっきまでと同じく、撫でるように触って焦らす。

聖「あんっ……ふっ……ん、ちゅ……あっ……」

いつの間にか俺は彼女の下着をはだけさせており、時折乳首を指で弄る。
聖姉ちゃんの嬌声が事務室に響いて、どことなく覚える背徳感をスパイスに感度も鋭敏になっていく。

聖「あうぅ……詠ぃ……そこ、だめだって……」

つー、と舌を彼女の耳まで這わせて息を吹きかけながら耳を愛撫する。
これが姉ちゃんにはお気に入りみたいで、脚をかくかくと震わせて、俺に強くしがみつく。

詠「どうしたの? 震えてるよ?」

聖「あぁっ……あっ、あっあっあっあぅ…………!」

構わずに彼女を攻めると、膝が崩れ腰をがくがくと震わせて痙攣する。
断続的にびくっびくっと震わせて前のめりに俺に体重を乗せる。

聖「あっ……はぁ……はぁ…………」

だいぶ息を切らした彼女であったが、その熱は途切れることなく再びキスを求めてくる。
それに応えながらも、俺は彼女の衣服を全て脱がして応接室に移動した。

詠「姉ちゃん、こっち」

応接室のソファに押し倒し、彼女の身体に愛撫する。
聖姉ちゃんの乳首や脇腹、臍の周囲、太腿の内側を強く吸うと彼女の身体に強く力が入って時折跳ねるようだ。

股に指をなぞらせると、小さく嬌声を発し身体を強張らせる。

聖「きゃっ! ああああああっ!!」

数分の間で身体を跳ねる回数は二桁を越える。
声を我慢しないで叫ぶ聖姉ちゃんは汗をびっしょりと流して息遣いも荒い。

詠「姉ちゃん、もう入れてもいい?」

ぐっしょりと濡れた股間から滴る愛液を彼女に見せつけて恥ずかしがる様子を楽しみつつ、彼女の返事も待たずに俺は自分の陰茎を彼女の膣に当てがった。

聖「うぐぅ……!」

それを入れようとすると、姉ちゃんの身体には力が入って少し苦しそうだ。
そういえば姉ちゃん処女だった。

詠「力を抜いて」

優しく語りかけてキスで気を紛らわせ、ソファの上で彼女の処女は喪失した。

聖「痛っ……!」

詠「大丈夫?」

聖「ん、ちょっと痛いけど、動いてくれる方が嬉しいかも……」

詠「わかった、じゃあ動くね」

そう言って俺はゆっくりと腰を動かして、姉ちゃんの膣内をペニスで擦る。
しばらくして苦悶の表情から艶っぽいそれへと変化していく。

聖「あ、気持ちいい……」

初めてで、正常位にも関わらず、自分から腰を振り始める聖姉ちゃんはやっぱりかなりスケベだと思う。

喘ぎ声を漏らし、嬌声は大きくなり、いやらしく乱れる。

聖「~~~~~~~~~っ!!!!」

そうして絶頂を迎えるたび痙攣で腰を振り続けているので、また絶頂を迎え、また腰がビクビクと痙攣し……とその繰り返しだ。

彼女の膣内は狭く、俺もこんなに激しくされたらすぐに射精感が高まってくる。

詠「……イキそう」

聖「私もっ! ……~~~~~~~~~っ!!!!」

って姉ちゃんは何度もオーガズム達してるじゃん。
と言う間もなく俺も彼女の中で射精してしまう。

精子は最初の一発を勢いよく出してから、あと4、5回ほど、残りを絞るようにぴゅっぴゅっと発射される。

聖「あはっ、いっぱい出た?」

詠「はぁ……はぁ……いっぱい出た」

お互いに息を切らす。
姉ちゃんは恍惚の表情で幸せそうに微笑んでいる。

聖「もっと~」

彼女も疲れて余韻に浸ってるかと思えば、全くそんなことはなく、また腰を振り始めて好き勝手にイッてしまう。

口をだらしなく開けて、涎を垂らしながらもふにゃりと笑む顔はやはり幸せそうで、次に苦悶の表情を浮かべるのは俺の方だった。

射精したばかりで鋭敏どころか擦れた刺激で失神しそうなほどの俺は、先ほどの姉ちゃんと同じように勝手に腰を揺らしてしまう。

聖「そんなに私の気持ちよかったか?」

オーガズムに慣れてきたのか、だいぶ余裕のできた彼女は挑発するように俺に語り掛ける。
とは言いつつも彼女もかなりイッてるようで、膣の内壁がうねうねと蠢いているのを常に感じる。

その度に俺も腰がビクついて、締め付けられる感触に気を失いそうになる。
実際、意識は若干朦朧としていた。

詠「あぅ……やばい、何か出る……出そう……」

聖「私の中にぶちまけるのか?」

恍惚な表情は崩さずに意地の悪い笑みを浮かべて、俺が離れないように俺の身体の下から上半身を押さえながらも、腰を振るスピードを上げてパンパンと音を響かせる。

詠「やばいって! 出るっ!! うあぁぁぁっ!!!!」

射精とは違う、不思議な快感に襲われて俺は尿が出たような感覚を味わうが、段違いの気持ちよさに戸惑わざるを得なかった。

聖「あっ! ……何か液体出てきた? おしっこ?」

姉ちゃんも小さく震える。軽くイッたみたいだ。
だが、彼女は俺が漏らしたことに興味津々なようで、精子と一緒に流れてくる透明な液体を確認すると悶絶する俺の陰茎を握って、さらにしこしこ動かしてきた。

聖「何を出したんだ~?」

心底楽しそうな姉ちゃんからは、最近身に着けたと思われた淑やかさが一切消えて、性欲の権化のような彼女が戻ってきた。

聖「ほら、姉ちゃんにもう一度見せてみろ」

詠「わあああぁぁぁっ!! ストップ!! やめてっ!! 無理だからっ!!!! ~~~~~~~~~っ!!!!」

そんな俺の制止の声も聞くはずなどなく、またしても射精や放尿とは違った快感に襲われ、透明な液体を彼女の顔や身体にぶちまけた。

聖「ふふふ……。まだいっぱい出るじゃないか。詠のその反応もすごく興奮するぞ」

その後は完全に姉ちゃんに主導権を握られ、膣内でもう一発、精子と透明の液体を出された。
後で調べたが、射精の直後に手を止めず刺激を続けると噴き出す液体で、男の潮吹きとも言われてるらしい。

女の人に潮吹きさせられたと思うと、何だかとても恥ずかしく、しばらく悶えることになるのだった。
ちなみにその行為は聖姉ちゃんのお気に入りとなるのだが、それはまた別のお話。

十二時近くの応接室でとりあえず下着を付けた俺と聖姉ちゃん。
会社内でヤッてしまったことに不安と罪悪感とちょっぴり興奮を覚える。
隣の事務室に移動し、衣服を適当に着る。

詠「帰ろうか」

聖「そうだな」

お互い賢者タイムか……。
と思ったが聖姉ちゃんはそうでもないらしい。

聖「キス」

詠「んっ」

彼女の要望に応えて、イチャコラしながら帰路に着く。

詠「ところでさ」

聖「何だ?」

詠「昼にカフェテラスで話してた男の人って誰?」

俺が彼女の顔を見ずに言う。

聖「……」

彼女はきっと目を丸くしてこちらを見てるだろう。
そして次の瞬間にはニヤニヤしてるに違いない。だから本人に聞きたくなかったのだ。

聖「あれ、詠くん、焼きもちか?」

詠「……そ、そうかも」

姉ちゃんに馬鹿にされながらも、その男性は別の会社のプロデューサーで、アイドルのレッスンを見てくれないかという依頼だったということを教えてくれた。
姉ちゃん曰く受けてもいいけど断ったとのことだ。

聖「私には詠のいる所が一番だからな」

そう語った姉ちゃんの顔はいつになく無邪気で、そしていつになく大人びていた。

余談だが、翌日、応接室で変な匂いがすると話題になった。
あげく、その翌週、俺と姉ちゃんの行為がバレたのはこれまた別のお話。

『聖アフター』 終わり

中断します。
残り二人。明日の更新で終わると思います。

『青木慶』

346プロダクション、社内。

詠「世間は休みでも俺は仕事~♪」

「その悲壮漂う歌、やめてもらえるかしら?」

トレーニングウェアを着こなすモデル体型の女性が俺につっかかる。

詠「おー、お久しぶりです」

彼女は服部瞳子さん。
俺がマネージャー時代にマネジメントしていたアイドルだ。

プロデューサーになった今ではあまり接点も無く、たまに飲みに行くくらいだ。

彼女は数年前にもアイドルをやっていたらしく、一度引退した経歴を持つ。
現在、復帰して活動中であるが、復帰までの経緯は分からない。

詠「瞳子さんもお仕事ですか?」

俺が何の気なしにそう尋ねると、彼女はつまらなそうに溜息を吐く。

瞳子「いいえ、自主トレよ」

詠「精が出ますね」

瞳子「年齢はアイドルにとってハンデなの。だから努力しないといけないのよ」

詠「俺、瞳子さんのそういうストイックな所、好きですよ」

自然とそんな言葉が出る。
口説こうと思って言ったセリフではないのは恐らく周知だろう。

瞳子「そう? ありがとう」

とまあ、こんな風に大人な対応でいなされるのだ。
クールな対応もかっこいい。

これが一年間、アイドルとマネージャーとして培ってきた関係である。
まあ、ちょっと仲が良い程度の関係だろう。
ちなみに瞳子さん以外にも何人かそういう関係の人がいる。

瞳子「それより貴方、最近大変そうじゃない」

詠「そうですか? いつも通りですよ」

瞳子「違う違う。何か、青木詠モテ期突入だって噂になってるわよ」

ああ、そっち……。

瞳子「まさかその相手がうら若き女子高生と義理の姉妹だなんて……」

詠「ちょっと! 何で引いてるんですか……」

瞳子「いや、まさか姉妹だけでなくうちの若いアイドルまでたぶらかしてるとは思わないじゃない?」

詠「自分で言うのもあれですけどね、俺、あんまり悪くないと思います」

瞳子「あのね、嫌われたくないからって周囲に愛嬌を振りまくこと自体が悪いこともあるのよ? 突っぱねるときは突っぱねなきゃ」

詠「はぁ、それが一度挫折して復活した教訓系アイドルのお言葉ですか」

瞳子「何?」

ワントーン落ちた声音。瞳子さんが俺を睨む。
嫌味なことを言った自覚がある俺は飄々とした態度で肩を竦めた。

瞳子「どんな呼ばれ方されたって構わないけど」

彼女はすぐに思い直したようで、一つ溜息を吐くだけに留めていた。
お互いに多少気の許せる相手ということもあって、軽口は叩き合っても無駄な争いはあまりしないのだ。

瞳子「そういえば妹の慶ちゃんもトレーニングルームにいたわよ」

詠「ああ、慶ちゃんはよく利用するんですよ。姉ちゃんも週に二回くらいでプログラム組んだりしてるみたいですし」

瞳子「確かにやってるわね。一般の人も参加可能だとか」

詠「そうですよ。慶ちゃんもたまにトレーナーとして参加してます」

瞳子「へぇ、姉妹のことに詳しいじゃない」

詠「や、そんな顔で言われても」

瞳子「あら、顔に出てたかしら、貴方がシスコンだって」

詠「出てましたよ。ていうか、もう言っちゃってるじゃないですか」

瞳子「否定はしないのね」

詠「ええ、重症なのは自他共に認めてます」

瞳子さんはまたしても引き気味に顔を顰めた。
そんな瞳子さんは無視して、最近運動なんてしてなかったことを思い出す。

詠「俺も久しぶりに行ってみよう」

瞳子さんはレッスンルームを借りているらしいので、ダンスの練習をするのだと意気込んでいた。
復帰してから相変わらずの努力家で、そんな瞳子さんを内心で応援した。

それから三十分後くらいに自分のロッカーに常備してあるトレーニングウェアに着替えて、息抜きがてらトレーニングルームへと向かう。

346プロダクションはアイドル事業の他にも様々な事業を抱えている。
つまり何が言いたいかというと、この会社は大きいのだ。
その分様々な施設も存在し、またここに所属している者はそれらを特別価格で利用できる。

アルバイトの慶ちゃんも多分に漏れず、しっかりとその恩恵を受けられる。

さて、俺がトレーニングルームへ行くと意外や意外、所属のアイドルや社員、それに一般客も多く利用しているではないか。

何となく出遅れた気分になる俺の顔をひょっこりと覗き込んでくる女の子がいる。

慶「おにーちゃん! 珍しいね」

妹の慶ちゃんだ。
さっき瞳子さんが、妹がいると言っていたが、まだいるとは思わなかった。

詠「おー、慶ちゃん。まあ久しぶりに身体動かしたくなってね」

慶「そうなんだ。よかったら私がレクチャーしてあげようか?」

詠「姉ちゃんたちから教わったの?」

慶「やー、何となくかな? ここで働き始めてから健康とか運動とかいろいろ勉強してるし、そういうのお兄ちゃんで試そうかなって」

詠「実験台かよ」

慶「そういうことー」

実験と言ってるにもかかわらず、彼女は悪びれることなく笑顔を浮かべる。
俺も何から始めていいか分からないのでとりあえず慶ちゃんにお願いすることにした。

詠「好きに始めちゃっていいの?」

慶「え、ダメだよお兄ちゃん。まずは準備運動しないと」

詠「あ、ああ、準備運動ね。大事だよね」

頷く俺に向けられる慶ちゃんのじとーっとした視線が少しばかり痛い。

慶「もう、お兄ちゃん、準備も無しに急に激しい運動したら身体壊しちゃうから気を付けてよね。お仕事に支障が出るどころか日常生活に支障が出るよ」

慶ちゃんは何だかそれっぽいことを語り始める。
こうして見ると、アルバイトとは言えどもやはりしっかりトレーナーさんやってるんだなと実感してしまう。

彼女の成長を嬉しく思う反面、どこか寂しくもある。

慶「運動するにも、その人の目的に合わせた適度な量が必要になってくるの。この量は多くても少なくてもダメだからね」

詠「まあ、そのくらいは俺でも分かる」

慶「じゃあまずはストレッチしよ!」

慶ちゃんの話もそこそこに、早速実践しながらその都度教えてもらう。

準備運動はラジオ体操レベルの簡単な体操と、ストレッチ、補助付きで柔軟。

慶「ねえ、お兄ちゃん」

それらを一通りこなすのだが、またしても呆れたような視線が向けられる。

詠「な、何……?」

慶「それ、ふざけてるの?」

詠「ばっ、バカ言え……これで……精一杯だ……」

慶「絶対嘘だよ。だって手が足首に届くか届かないかくらいの柔軟なんて私見たことないもん」

いや『見たことないもん』じゃなくてさ……。
自分でも分かっていたことなのだが、俺はこのように嘘だと思われるほど体が固い。

慶「私が後ろから押してあげる」

そう言って慶ちゃんは俺の後ろに回って、両手で肩甲骨辺りを押してくる。

詠「あ、ちょっと、待って……痛っ! まっ! あだだだだだっ……!」

慶「え、嘘でしょ?」

力を弱める慶ちゃん。
後ろから覗き込んでくる彼女の顔は、やはりありえないといったような表情だ。

慶「まだ全然強く押してないよ」

それから慶ちゃんに手伝ってもらいながら、時間をかけて柔軟運動をする。

脚を開いた時、慶ちゃんは呆れを通り越してもはや笑っていた。

慶「あはははは……! ……じゃあお兄ちゃん、私が脚広げて開脚のお手伝いするね!」

と言うと、彼女は俺の両手を掴んでぐいっと引っ張るのと同時に自身の足裏を俺のふくらはぎあたりに押し付けてそのまま開脚を試みる。
当然、俺の股関節もどんどん広がっていくわけだ。

詠「ちょ、待って! 痛い! 痛い痛い痛いっ!! ごめんなさいっ!」

情けなくも、悶絶することしかできないのであった。

その時に盗み見た慶ちゃんの顔ときたらおぞましいもので、俺の苦しむ姿を見てニッコリ笑顔、時折見せる嗜虐の表情が次女である聖姉ちゃんの性格を彷彿とさせた。

慶「もうちょっと頑張ろうお兄ちゃん!」

詠「無理っ!」

トレーニングルームに響き渡る絶叫に部屋中の人間から熱い視線を送られ、居心地も悪くなる。

ようやく解放されて、何だかもう運動する気になれなくなってしまったり……。

詠「疲れた……」

慶「ご、ごめんね。やり過ぎた……」

慶ちゃんも反省しているものの、柔軟はまだ終わらない。
足裏をくっ付けて、股関節を解す運動でも、膝を背後から思い切り押さえつけられて痛かった。

しかも密着してくるものだから、背中に当たる胸の感触に意識がいくし、俺の表情を盗み見ては嗜虐的な笑みを浮かべてるのもばっちりチェックした。

顔を近づけて耳に息吹きかけたりして反応を楽しむ彼女はサディスティックな才能があると思いました。

詠「もう終わりにしよう」

慶「え、ええ~! 本格的に運動するのはこれからなのに!?」

詠「いや、痛かったし疲れたし、もう今日はいいや」

慶「そっか、何かごめんね?」

本当だよ! と言いたいところだけど、ここはぐっとこらえる。

詠「いや、こっちこそ悪いね。せっかく教えてくれるってことだったのに」

うん、とにかくこれで逃げられる。
もう慶ちゃんと一緒に準備運動しちゃダメだ。

慶「じゃあまた来週やろうね」

詠「え?」

ホッとしていた俺にトンデモな提案をしてくる慶ちゃん。
一般的にトンデモではないが、俺としてはトンデモなのだ。

詠「や、大体わかったから今度からは一人でいいよ」

慶「やっぱお兄ちゃん、私に教えてもらうの鬱陶しかったの?」

悲しそうに尋ねてくる慶ちゃんに本当のことは言えない……。
俺は首を横に振った。

詠「ううん、全然そんなことないよ。やっぱり慶ちゃんに教えてもらいたいなー」

そう言った瞬間、慶ちゃんの悲しそうな顔はどこへやら。
その言葉を待ってましたとばかりに明るい顔をして、次週も約束を取り付けられてしまった。

慶「約束破ったらだめだよー」

喜々として帰っていった慶ちゃんであった。
翌日、股関節が痛くなったのは言うまでもないのだが、それとは別に噂が流れ始める。

蓮「おう、詠」

詠「おはようございます」

蓮「ところで、妹と付き合い始めたんだってな」

詠「は? 何ですかそれ?」

蓮「何ですかって、昨日トレーニングルームでお前と慶ちゃんがめっちゃイチャついてたっていう情報を聞いたんだが」

詠「あ」

思い当たるというか、昨日のことなんてそのことしか憶えていないのだが、まさか他人から見たらあれが恋人同士のイチャイチャに見えるとは……。

俺からしてみれば兄妹の戯れ程度にしか思えないんだけど……。
それにあの柔軟はマジで痛かったんだぞ。
きっとあれを喰らえばそんな甘酸っぱい一ページにすらならないと断言できよう。

とそんな噂が一人歩きを始めても、俺と慶ちゃんは特に気にすることなく毎週トレーニングルームに一緒に通うことになった。

相変わらず柔軟は辛いが、一緒に運動するのは楽しい。
達成感もあるし、身体を動かすのは健康的だし、何となく体型も引き締まって見える。

慶「おー、お兄ちゃん、ちょっとたくましくなったんじゃない?」

パチパチと小さく拍手をして、慶ちゃんも嬉しそうにしてくれている。

詠「そうか? あんまり実感は沸かないけどね」

慶「うん、かっこいいよ!」

屈託なく笑う彼女。思わず一歩後退る。

慶「どうしたの?」

詠「いや、別に……」

慶「ふーん、変なの」

それから数日が過ぎ、再びトレーニングルームで待ち合わせる日。
特に遅い時間というわけでもないのに、なぜか部屋には慶ちゃん以外誰もいない。

詠「あれ、今日少ないね」

慶「うん、少ないっていうか貸し切り状態……」

詠「マジ!? ラッキーだなぁ」

慶「そだね、珍しい」

詠「じゃあ、早速……」

俺は気が付いた。
誰もいないということは今、慶ちゃんと二人っきりだということだ。

それに慶ちゃんの様子も、いつもの溌溂とした様子とは違ってどこかよそよそしいような……。

詠「……は、始めようか」

慶「あ、うん……」

完全に慶ちゃんのことを意識してしまってる。
二人切りの静かな状況。

柔軟を始めるのだが、補助の時にお互いの身体のあちこちが密着して、その度に小さく吐息を漏らし、そして息を呑む。

バレリーナみたいに柔らかい慶ちゃんの柔軟に付き合うことも無いので、彼女のその様子をじっと見るだけなのだが、身体を前に倒すときに正面から見える胸の谷間がとても性的だ。

慶「ちょ、ちょっと、どこ見てるの~」

たはは、と笑って茶化したように誤魔化して見せていたが、隠しきれていない恥じらいのせいでより二人でいるこの状況を強く意識してしまう。

詠「ご、ごめん……」

慶「……えっち」

ぼそっと呟くように言って、後は黙り込んでしまう。
不意にパッと立ち上がる慶ちゃん。

慶「ほら、お兄ちゃん。後ろから押してあげる」

その柔軟はさっきもやったのに、と俺はキョトンとしてしまったが、言い出せる雰囲気でもなかったのでもう一度同じ柔軟を繰り返した。

いつもは強く押して隠されたSっぷりを発揮するのに、今回はとても優しい。
彼女の整っていて美しい顔が俺のすぐ隣にあって、静かな部屋の中、すぐ隣で彼女の息遣いがハッキリと聞こえる。

後から押されるというよりも、次第に後ろから体重を預けられるといった方が表現としては近い。

腕を後ろから前に回され、優しく抱きしめられた。
急に暴れ出す自分の心臓。

その音にもう一つ重なったのは彼女の心音。
俺と同じくらい早く鼓動するそれを聞いて愛おしさを覚えた。

ゆっくりと彼女に振り返る。

切なそうな面持ちで彼女も俺を見返している。

見つめ合って、ゆっくりとゆっくりと、お互いがお互いを焦らすように顔を近づける。
見つめ合ってから数十秒ほどして、ちょん、と俺の唇が彼女の唇に触れた。

触れた唇を少しだけ離して言葉を紡ぐ。

詠「愛してる」

それだけで十分な気がした。
慶ちゃんは目尻に涙を浮かべると、何も言わないで俺にキスをした。

慶「末永くよろしくお願いします」

ようやく顔を離した彼女の一言を聞いて俺はどこかホッとした気分になるのだった。

『青木慶』 終わり

『慶アフター』

明「またぁ……?」

明姉ちゃんの呆れた声で起きるのはここ数日では毎日の出来事だ。

詠「むぉ…………おはよう」

そんな明姉ちゃんの心中をまるで無視する俺の挨拶も慣れたものである。

姉ちゃんが呆れる原因となるのは、俺のベッドに潜り込んですやすやと寝息を立てる慶ちゃんに他ならない。

慶ちゃんと付き合っていると言っても、俺のルーティーンが変わる事も無く毎朝明姉ちゃんのランニングに付き合ってるわけだが、一つだけ変わったことといえば、こうして慶ちゃんが毎日のようにベッドに潜り込んでくることだ。

いや、『潜り込んでくる』というのは正しくない。
昨夜も俺が起きてる間に彼女は俺の部屋に入ってきたのだから。

つまり付き合い始めてから毎晩一緒に寝てるということになる。

明「さっさと服着なさいよ……」

そして、姉ちゃんが呆れる最大の要因は、俺と慶ちゃんが毎日全裸でベッドに入ってることだ。

明「またやったの? 懲りないわね……」

と言って溜息を吐く。
最初見られたときは俺も酷く焦ったし、明姉ちゃんにも軽く説教をされたが、それが続くとお互いに慣れてしまうものなのだ。

明「部屋に入った時、ちょっとアレな匂いすると思ったけど……全く、鬱になりそうよ」

また溜息を吐く明姉ちゃん。

詠「ちょっと待ってて、すぐ用意する」

明「はいはい、三十分以内でよろしくね」

ここ数日で明姉ちゃんはスルースキルを磨いているご様子だった。
少しだけ目の下に浮かぶ隈が気になるが特に変わった様子も無い。

ランニングが終わってシャワーを浴びる。
その後、朝食とお弁当を作るのも大体俺の日課となっているので、テキパキとそれらを終える。

浴室から出てきたくらいで麗姉ちゃん、聖姉ちゃんが起きていることが多い。
いつもと変わらない麗姉ちゃんに対して、聖姉ちゃんも少しだけ隈が目立つようになってきた気がする。

詠「おはよう。ご飯できてるよ。お弁当そこね」

麗「ああ、いつも助かる」

詠「麗姉ちゃんも洗濯物干してくれて助かるよ」

麗「このくらいはな」

詠「聖姉ちゃん、ちゃんと寝てる? ちょっと疲れてるように見えるけど」

聖「お前な、慶とエッチする時の音が大きいぞ」

麗「それは私も気になってたところだ」

詠「え、マジ? ごめん、気を付ける」

聖「ヤるならラブホに行ってくれ……と言っても今日もどうせヤるんだろう。この性欲魔人め」

とか言いつつ聖姉ちゃんこそ、その音を聞いてオナニーしてるのを俺は知ってるぞ。
なんて言ったら恐ろしいことになりそうなので言わない。

麗「まあ付き合いたてでお互いに熱く愛し合うのも分かるが、私たちが寝てるということも忘れてはダメだからな?」

詠「うん、慶ちゃんにも言っとくよ」

俺は了承する。
彼女たちに迷惑を掛けないように、というのも忘れてはいけない。

一緒に住んでいる間はやはりそういう気を遣わないといけないのだ。

そんなこんなで姉ちゃんたちは先に出勤していき、慶ちゃんと二人きりの一時間ができる。

慶「おはよう、お兄ちゃん」

詠「おはよう」

すでに起きており、ある程度登校の準備をしていたようだ。

慶「おに~ちゃ~ん」

猫撫で声を出して俺に甘えるように首に手を回して、背伸びをする。
んー、とキス待ちの顔を向けてくるためだ。

俺はそれに応えて、軽くちゅっとすると、慶ちゃんは満足そうに笑った。

慶「もっと~」

という彼女のおねだりから、ちゅっ、ちゅっ、と何度も軽いキスを重ねる。

慶「えへへ~」

最後に抱き付いてくるまでが二人きりの時のセットになっているようだ。

慶「勃っちゃった?」

小悪魔のような瞳と笑みでそう問いかけてくる。
俺が「そりゃそうだ」と肯定すると、「どれどれ~?」と服の上から股間を擦ってくる。

この子、付き合い始めてタガが外れるようなむっつりちゃんだったらしい、というのは付き合い始めた翌日に知った。

慶「本当だぁ」

俺の勃起したペニスを触って認めると、嬉しそうに微笑む。
俺はなぜかその笑顔が大好きで、ガッチガチに勃起した陰茎がドクドクと脈打つのをはっきりと感じるのだ。

それから慶ちゃんはズボンとパンツを脱がすと躊躇なくそれを握り、咥え、刺激する。
一生懸命な彼女から気持ちよくしてあげたいという気持ちが伝わってきて興奮が加速する。

それをされると大体、一、二分で射精してしまう。
俺は彼女の口内に射精する。

慶ちゃんは、んべ、と舌に乗っけた精子を見せてからごくっと飲み込んだ。
ちょっと顔を顰める彼女を優しく撫でると、彼女は恍惚な表情を浮かべる。

その精子を飲み込んだ口で俺にキスをする。
自分の精子の匂いに顔を顰めつつも、頭が少しクラッとするような感覚がそれなりに病みつきだ。

加えて、そんな俺の表情を見た慶ちゃん。
隠れSな彼女の、快楽に歪んだ笑みがまた興奮する要因になったりする。

……俺は断じてMじゃないです。

慶「……したくなっちゃった」

もちろん俺が射精しておしまいというわけもなく、彼女のおねだりはまだ終わらないのだ。

俺の部屋に入り、彼女をベッドに押し倒す。
切なそうな、ともすれば物欲しそうにも見える朱に染まった顔で見つめられると、理性のタガが外れそうだ。

詠「時間無いのになぁ」

なんてぼやきもするが、時間が無くてもやる。

彼女に覆いかぶさってキスをする。
さっきみたいな軽いものではなく、深く繋がるためのディープキス。

上唇を咥えて、下唇を咥えて、時折舌を軽く絡めて、いやらしく音を立てる。
それを丁寧に繰り返す。

一分ほどキスを楽しんで、顔を離す。
その過程で最後に離れたのは彼女の舌と俺の舌だ。
お互いの舌先が距離を開けても、離れたくないと言わんばかりに唾液が糸を引いていた。

俺は彼女が着ていた上着を脱がし、インナーを捲る。
引き締まった身体と、艶のある健康的な柔肌が露になる。

そんな彼女の身体をついばむように吸う。
ちゅっちゅっと音を立てながら、腰、胸、鎖骨と愛撫し、再び胸、腰へと戻る。

慶「んっ……あっ……はぁ、はぁ……んぁっ!」

ところどころで身体がピクッと可愛らしく反応する。
感じてる表情は19歳の女の子と思えないくらいに官能的だった。

ズボンを脱がして太腿を撫で、吸うように愛撫する。

ふと彼女の下着を見てみるとそこは丸く染みになっている程度ではなく、びっしょりと濡れていた。

下着を脱がして、勃起した彼女の陰核を優しく擦ると大きく腰を跳ねさせ、喘ぐ。

しばらくそのあたりを触って、愛液を溢れさせる。
その後、指を膣に突っ込んでゆっくりと動かし、喘ぎ声が止まらなくなってきたところでさらに激しく膣内をかき混ぜた。

慶「あっ! やっ! だめっ! イクッ! イクッ!! ~~~~~~~っ!!!!」

先ほどまでも腰を浮かせて、ぼたぼたと流していた愛液を今度は勢いよく吹き出させた。
ぷしっ、とベッドにぶちまけてなお、だらだらとそれを膣から垂れ流す。

詠「慶ちゃん、えっろいなぁ」

慶「あぅ……やだぁ……」

恥ずかしそうに顔を覆う彼女が愛おしくて、ぐいっと腰を持ち上げてすぐに自分のペニスを入れた。

慶「あぁぅっ!!」

慶ちゃんは短い喘ぎ声を部屋に響かせる。

俺は挿入したまま彼女を持ち上げる。
陰茎は、俺にしがみつく彼女の膣に深く刺さり、降りてきた子宮に届く。

そのまま彼女の臀部を鷲掴み、前後、上下に揺らしながら、自分も腰を彼女の腰に打ち付けるように運動する。

慶「なっ! 何これっ!! お兄ちゃんっ!! 気持ちい! 気持ちいよっ!!」

彼女自身もしがみつきながら腰を動かして積極的に快楽を貪る。

慶「~~~~っ! ~~~~っ! ~~~~~~~~っ!!!!」

気が付けば、慶ちゃんは言葉にならない声を発して何度も絶頂していた。

がっちりしがみついてがくがくと震え続ける彼女を優しくベッドに下ろす。

四つん這いになって腰をひくつかせている彼女の膣に後ろから陰茎を挿入した。

慶「ひゃあああぁぁぁっ!!!!」

ぎゅうっと彼女の膣が俺のペニスを締め付ける。
どうやら入れただけでオーガズムに達したようだ。

俺は彼女がイッてる最中だろうが、お構いなしに腰を動かしてパンパンと音を鳴らすほどピストン運動をする。

彼女の両の二の腕を掴み、動き続ける。
上体を起こした彼女の胸は激しく揺れて、さらに情欲をそそる。

またしても大きく絶頂する慶ちゃん。
俺は一旦動きを止めて、後ろから手を回し綺麗な胸に触れる。

密着して抱きしめるような体勢で胸を揉み、彼女の耳を舐める。
ビクビクと痙攣する彼女は嬌声をあげて身をよじり、キスを求めてくるのだ。

耳から口へ、舌を這わせて激しくキスをする。
周りが見えていないような慶ちゃんの激しさは野性的で、同時に官能的だった。

そして俺がまた動き出すと、耐えられないといった風にキスを止め、喘ぎ声を上げ続ける。

慶「~~~~っ! イッ……く……!! ~~~~~~~~っ!! ……ま……た……イッ! ~~~~~~~~~っ!!!!」

うねうねと蠢き続ける膣内は、慶ちゃんがイキ続けていることを暗に示す。
それは俺の陰茎をどんどん搾り、刺激し、やがて射精寸前の痙攣が自身の身体を覆う。

詠「あっ、慶ちゃん、イキそ……」

慶「イッ……!! ああああぁぁっ!! ~~~~~~~~~っ!!!! ~~~~~~~~~っ!!!!」

声が届いているのか、届いていないのか分からないくらい彼女は喘ぎ、お互いに絶頂する。

慶ちゃんはぐったりとうつ伏せになる。
俺は彼女に覆いかぶさったまま、まだ勃起している陰茎を抜かないで射精の余韻に浸っていた。

しばらくして俺はペニスを抜き、彼女の上から退こうと身体を持ち上げる。
不意に慶ちゃんは仰向けになり、四つん這い状態の俺に向き直った。

すっと抱き付いてきて、引き寄せられる。
再びキスをしてきた。

彼女は器用に、くるっと俺との体勢を入れ替えた。
俺のマウントを取った彼女は甘えるようにしがみつき、何度も何度もキスをする。

慶「もっかいしたいな~……えへへ……」

照れ笑いの彼女のおねだりに理性など保てるはずもなく、もう一回したところ、二人仲良く遅刻しましたとさ。

『慶アフター』 終わり

『青木麗』

詠「麗姉ちゃん、おはよう」

麗「おはよう」

これは青木家の朝の一コマ。
ランニングから帰った俺がキッチンに向かうと、すでにエプロン姿の麗姉ちゃんが食事の用意をしてくれていた。

彼女の服は基本的にスポーツウェアやジャージなどの簡易な服装とでも言うべきだろうか。
トレーナーである麗姉ちゃんはオシャレというものから割と縁遠いのだ。

しかしながら、その簡易的な服装の上から纏うエプロン姿というのはどことなく背徳感が漂う。
ある種、裸エプロンに近いニュアンスではなかろうかと思うが、姉ちゃんの均整の取れたプロポーションや美しい肢体も相まって、かなり官能的に映るのだ。

しかもハーフパンツからチラ見えしているスパッツが一部のマニアにはたまらない。
そして、どうやらその一部のマニアの中に自分も当てはまっているらしい。

詠「あー、姉ちゃん、寒くない?」

パッと見て寒そうな格好だ。
冬は明けたけれども、まだ気温が高いわけではないので半袖半ズボンの姉ちゃんの体温が気になるところである。

麗「いや、暖房も効いているし特に問題無いな」

姉ちゃんはこちらも向かずに、さらっと答えて、玉子焼きをひっくり返す。

詠「ていうか、その寒そうな格好で行くの?」

俺が指摘すると、彼女はちらりとこちらを窺った。
まさか、と軽く破顔して首を横に振る。

麗「いや、さすがに外は冷えるだろう?」

詠「まあね、ちょっと寒かったよ」

麗「上に何か羽織っていくよ」

詠「そう」

何か手伝おうかと思って台所に進もうとしたが、廊下に繋がる後ろの扉が開く。

明「麗ちゃん、おはよう」

明姉ちゃんが浴室から上がってきた。
今日は何だかやけに早い気がするが、時計を見ると普段と変わらなかったので気のせいだと分かった。

麗「ああ、おはよう。詠もシャワーを浴びてきたらどうだ?」

詠「あ、うん、手伝わなくて平気?」

問うと、麗姉ちゃんはその場でくるりとキッチン周りを見回す。

麗「もう手伝うことはないと思うが……」

思案顔をする姉ちゃんは凛々しくて綺麗だ。
やがて呆けた顔で俺に向き直って、快活な笑顔を浮かべた。

麗「うん、詠もシャワーを浴びてくるといい。ありがとう」

詠「お、おう……りょーかい」

ちょっと暖房が効きすぎてるのか、顔が熱い。
少しばかり汗もかいてきたので、姉ちゃんの言う通りさっさとシャワーを浴びるとしよう。

移動してる間も服を脱いで洗濯機に突っ込んでる間も、麗姉ちゃんの格好が脳裏に焼き付いていたのか、離れない。

ダメだ、ダメだ。純粋に動きやすい格好をしてるだけの麗姉ちゃんを性的に見ちゃダメだって……。

頭ではそう考えても身体は正直で、海綿体に血が集まって、しっかりと勃起した。
さっきまでランニングで昇華してたのに……。
俺の性癖ちょっと特殊すぎるのでは……?

そうして自分で自分を咎めつつも、やはり治まらないものは治まらない。

しかたなく、風呂場で自分のモノをしごくのだった。
いや、実際のところ仕方ないなどという表現は嘘だ。

はっきり言うと、麗姉ちゃんのことを思い浮かべてオナニーした。
あんなエロい格好するから……。
などと思って、麗姉ちゃんに責任転嫁とも、八つ当たりとも言い難い理不尽なことを考えたりもした。

詠「うっ……はぁ……はぁ……」

自分の手に付着した白濁液は、にちゃあ、と纏わりつく。
うわ、結構出たな……。昨日もオナニーしたのに。

俺は我に返るとシャワーを出して、陰茎と手、それに床に付いている精子を流す。

快感の後に湧いてくるのは、ずっしりとした虚無感と少しばかりの罪悪感だった。

それでも麗姉ちゃんのことを思い浮かべると、また俺の股間は熱を持ち始める。

詠「いや、違う違う! こういう時は円周率!? 素数!?」

必死に別のことを考えて、何とか勃起しないように耐え忍ぶ。
ていうか、抜いた直後でまた勃起して、それを鎮めるためにまたオナニーしてって調子だと、一生オナニーすることになっちゃいますよ……。

自分の並みならぬ性欲が恐ろしい。
そしてそのおかずにしてしまった麗姉ちゃんに合わせる顔が……。

とは言いつつも同棲している時点で顔を合わせないというわけにはいかないし、でも姉ちゃんに嫌われたくないなぁ。

結局、仕事のことを一生懸命考えることで勃起が治まることが判明した。
恐るべし仕事人間だと思わなくもないが、真面目に働いてる証拠なのだ。

服を着て居間に戻ると、慶ちゃん以外がすでに食卓を囲んでいた。

詠「おはよう」

聖「おはよう」

麗「さ、詠も食べろ」

詠「あ、うん……」

麗姉ちゃんはさすがにエプロンを脱いでいた。
だが半袖半ズボンの薄着には変わりなく、寒暖の感覚は大丈夫なのかと心配になる。

詠「いただきます」

とりあえず麗姉ちゃんの正面が空いていたので、そこに座って食事をいただく。
黙々と食べる麗姉ちゃんが時折視界に映る。

不意に麗姉ちゃんとぱっちり目が合った。

むぐむぐ、ごくりと食事を飲み込んだ彼女は見つめ合ったままで俺に尋ねる。

麗「どうした? 私におかしいところでもあるのか?」

キョトンとした様子で麗姉ちゃんは尋ねてくる。

詠「……」

俺が何も言わないでいると、彼女は熱でもあるのか? と立ち上がって、ずいっと顔を寄せる。
前かがみになった彼女の、シャツの中が良く見える。ちなみにグレーのスポーツブラ。

胸が揺れないように両脇から締めるタイプのそれは、麗姉ちゃんの大きめの胸をぎゅっと寄せて大きな谷間を作っている。

詠「……!」

すぐに麗姉ちゃんの顔に視線を逸らして、彼女と目を合わせるのだが、傾げた小首は可愛らしく、実年齢よりも若々しく見える上にとても魅力的だ。

吸い込まれそうになった瞳から、艶やかな桜色の唇へ視線が降りる。
ごくりと生唾を飲んだのは、キスをしたら……と考えたからではないはずだ。
邪な気持ちは抱いてないはずである。

麗「顔が赤いし、やっぱり熱があるんじゃないか?」

詠「や、大丈夫!」

麗「ちょっとおでこ出してみろ」

詠「!!」

こっちまで来て麗姉ちゃんはぴったりと俺のおでこに彼女のおでこをくっ付けた。

麗「特に熱は無いだろう……どうしたんだ?」

詠「や、何でもないんだって! 本当に大丈夫だからっ!」

麗「ならいいんだが……」

心配しながら彼女は食べ終わった自身の食器を片付ける。

突然、ゾッとした悪寒に襲われる。
すごい睨まれているような……と思い、振り向いてみる。

明「……」
聖「……」

すごい睨まれている。
じーっという効果音が聞こえてきそうだ。

詠「ごちそうさま!」

耐えきれずすぐに食事を終えて、ばっと立ち上がる。

明姉ちゃんと聖姉ちゃんの射殺すような視線は絶えず俺に向けられているかと思いきや、俺が立ち上がってすぐに外れた。

聖「詠は何でテント張ってるんだ?」

詠「は? 何だよさっきから睨んできたり……」

明「いや、詠、それ……」

明姉ちゃんが小馬鹿にしたように指を差して指摘してくる。

詠「だから、何?」

指差したあたりをきょろきょろと見渡してみるが特に変わった様子はない。
しばらく探していると突然聖姉ちゃんが俺の股間をぎゅぅっと触ってきた。

詠「うわあぁぁ!? 何っ!? ナニッ!?」

明「聖ちゃん最低……」

聖「詠、自分が勃起してるのに気が付いてなかったのか?」

言われてみれば、確かに思い切りテント張ってますねこれ。

詠「いいから手をどけろ変態」

俺が素っ気なくそう言うと、聖姉ちゃんはムッとしつつもその手を収める。

聖「まさか姉さんに欲情するとはな……」

明「悔しいわね」

詠「ちょっと二人とも何言ってるか分からないんだけど……?」

会話が噛み合わないなぁ。聖姉ちゃんとはいつも嚙み合わないけど。

明「自分でも気が付いてないってこと?」

聖「鈍感どころの話ではないな」

詠「???」

二人は大きく溜息を吐くと、食器を片付けてさっさと居間を出ていった。
出勤の準備に取り掛かるのだろう。
残された俺はぽかんと佇む他ないのだった。

もやもやとした心持ちで出勤する。

おはようございます、と同僚が挨拶をくれるので、それに答えて自分の部署まで向かった。
それから昼休憩まであっという間に時間は過ぎる。

蓮「今日はいつもより浮かない顔してるな」

葉月「何か悩んでます?」

詠「いや、葉月さん、ここのところ俺が悩んでない日ってありました?」

修羅場の渦中に絶賛飛び込み中の俺にそれ以上の悩みなんて無い。
むしろ仕事がそのことをしばらく忘れさせてくれるくらいである。

蓮「まあ飯でも食おうぜ」

詠「そうですね」

葉月「今日もお弁当ですか?」

詠「ええ、今日は姉の麗が作ってくれました」

そう言って鞄を開けるが、見当たらない。

詠「あれ?」

蓮「どうした?」

ごそごそと、鞄の中の物を全部出しひっくり返してみたがやはり何も無いみたいだ。
これはお弁当を忘れた可能性が……。というか忘れた。

詠「家に置いて来ちゃった……」

がっくりと項垂れる。
せっかく作ってくれたのに忘れるなんてのは、忘れた方はもちろん、作った方にとっても悲しいことなのである。

蓮「あれま……」

葉月「それは……残念なことですね……」

先輩も少し困ったような表情で俺を励ましてくれた。

蓮「忘れちまった物はしかたない。食堂行くか」

トンと俺の肩を叩いて蓮さんが言った。
彼のことだから奢ってくれるのだろうけど、それも申し訳ない気がする。

俺がちょっと渋っていると、不意に扉が開く。
入ってきたのは慶ちゃんで、その手にはお弁当を持っていた。

慶「お兄ちゃん、忘れ物だよー」

詠「え、慶ちゃん。どうして?」

慶「今日は休講! それでお兄ちゃんのお弁当あったから届けに来たんだ」

蓮「お、良かったな。いい妹で」

詠「ありがとう慶ちゃん!」

慶「いいよいいよ。今度お礼してね」

慶ちゃんは得意げに微笑み、蓮さんと葉月さんに『いつも兄がお世話になってます』と一礼して去って行った。

葉月「慶ちゃん、可愛いし良い子ですよね」

詠「そうですね。自慢の妹ですよ。最近は生活が乱れてますけど……」

生活態度については大学生なので、しかたないとは思う。俺もそうだったし。
ただ彼女を見ていると、あの頃の俺も姉ちゃんたちを心配させてたんだなと実感することができるのだ。

そんな物思いに耽っているところ、入れ替わるようにして事務所に入ってきたのは麗姉ちゃんだ。

詠「えっ!? 姉ちゃん、な、何でいるの……?」

彼女の存在を認めた俺はなぜだか酷く動揺した。
がたた、と二、三歩軽く後退り、デスクの書類を数枚落とす。

麗「ああ、詠、一緒にご飯でも食べないか? 私もちょうど昼休憩なのでな。……しかし、そんなに慌ててどうした?」

ちらっと蓮さんの方を見やると、ははーん、とどこか納得したような顔をしている。
次いで、葉月さんは、あらあら、といった風にどこか余裕のある眼差しで俺を微笑ましく見つめていた。

詠「……いや、何でもない! 何だっけ? ご飯食べるって? うん、いいよ。いいですよね、蓮さん」

俺が蓮さんに許可を取ろうと話を振ったところ、彼は肩を竦めて答えるのだ。

蓮「いや、たまにはお姉さんと食べるといい。俺は葉月と食うからさ」

葉月「そうですね。二人きり水入らずというのも大事だと思います。積もる話もあるでしょう」

いや、積もる話はありませんよ! いつも夜は家で一緒に過ごしてますよ!

麗「先約だったか? すまないな」

蓮「いや、別にいいですよ」

葉月「応接室が空いてますから、頑張ってくださいね」

麗「? はぁ……ありがとう」

麗姉ちゃんは二人を訝し気に見て、曖昧に返事をするがしっかりとお礼を言う。
結局、俺は先輩の圧力もかかり麗姉ちゃんと二人で応接室で食事をすることにした。

それにしても、ここの応接室って仕事であまり使われてないなぁ。
応接室とは名ばかりのフリースペースと化しているような気がする。

いや、そんなことはどうでもいい。
今は麗姉ちゃんと二人きりというこの状況が問題なのだ。

彼女の服装は家の時とはまた違う。
室内用のシューズ。
下にはウィンドブレーカーを履いており、上はジャージという姿。
少し暑いのだろうか、じんわりと滲む汗で髪の毛が額やこめかみにぴとりとくっついている。

やんわりと朱に染めた頬も手伝って、普段よりも艶めかしく映る。
彼女の顔をまともに見れない。

麗「どうだ?」

詠「ん、美味しいよ」

麗「そうか、ありがとう。だがそうではなくて、決められそうか? という意味だ」

麗姉ちゃんは姉妹の中でも、プライベートではどちらかというと寡黙な方で、言葉足らずな点があったりもする。

しかし、この言いづらそうな雰囲気から察するに、おそらく俺が6人の告白を保留にしている件だろう。

詠「……あと、ちょっと待ってほしいんだ」

俺も言うのを少し躊躇ってから、姉ちゃんにそう伝えた。

麗「そうか」

それからしばらく黙々と食事をする。
心許している麗姉ちゃんとの時間なのにどこか気まずく、もやもやした感情が渦巻く。
沈黙を破ろうとしても何と言えばいいのか分からず、口を開けど言葉が出ない。

麗「私は」

そんな中、静かに口を開いたのは麗姉ちゃんの方だった。

麗「詠のことが好きだが、一番歳が上でもう三十歳近い。詠のことを考えると……いや、私を彼女候補に入れているとは思えないが、せめて選択肢を減らして、詠の負担を減らしたいと思う。だから、私は諦めるよ……」

詠「は?」

麗姉ちゃんの言ったことに思考が追い付かない。
俺のために自分が諦めるって何だよ。言ってる意味が分からない。

それにそんな弱気な彼女を見るのは初めてで、苦しくなる。
横に座っている彼女を見ても、その横顔はやはり初めて見る表情で、目尻に浮かべた涙は零れ落ちて頬を伝っていた。

俺のお腹の奥がじわーっとなって、胸の辺りが震えるような感覚に陥った。

麗「詠には幸せになってほしい。お前がうちに引き取られてからずっとそう思ってたし、そのことだけを考えて生きてきた。だから私のために詠が苦しんでるのは……」

詠「うるさいっ!!」

俺は自分を抑えきれずに、彼女に怒鳴りつける。
麗姉ちゃんはビクッと肩を振るわせて驚きの表情で俺を見る。

詠「俺がよければ姉ちゃんはどうなってもいいのか? 俺は嫌だよ。俺だって他のみんなの幸せを願ってるし、自分のせいで姉ちゃんたちが辛い思いしてるのも知ってるけど……」

考えがまとまらず、言ってることも支離滅裂で、自分の感情をそのままぶつけるなんてひどく醜いことのように思えるのだが、それでも言わなきゃいけなかった。

詠「麗姉ちゃんがそんなこと言うなよ……」

誰よりも頑張ってる彼女が自分を否定している姿を見るのが悔しかった。
そんなの許せなかったのかもしれない。

同時に何で俺がこんなに熱くなっているのかもすぐに分かって、心が握り潰されて弾けたようだ。
全身にパッとした明るい感情が駆け巡ったように目の前が明るくなって、直後に明姉ちゃんの『自分でも気が付いてない』って言った意味に合点がいく。

そしてまたその直後、真っ暗にフェードアウトするような寒々しい感覚が全身を襲う。
それは自分へ好意を向けてくれた彼女たちの期待を裏切ることに対する後ろめたさに他ならなかった。

けれど、今は何よりも伝えなければならないことがある。

詠「俺は麗姉ちゃんが好きだ」

驚くほど自然に出た言葉は麗姉ちゃんの涙を止めるなんてできず、余計に泣かせてしまうことになった。

麗「うぅ……ぐすっ……ご、ごめん……こんな、情け……ないの……」

俺は泣きじゃくる麗姉ちゃんの肩を抱き寄せてキスをした。
さっき食べたお弁当の唐揚げの味がした。

お昼休憩は終わり姉ちゃんと手を繋いで応接室から出ると、ちょうど事務所に入ってきた蓮さんと葉月さんがぎょっとした様子でこちらを窺ってきた。

慌ててパッと手を離したので少し訝しく思われたのだろうが、それよりも麗姉ちゃんの様子がいつもと違うのに先輩たちは気が付いたようだ。

確かに麗姉ちゃんの少し赤くなった目を見れば、彼女が泣いた後だというのはすぐに察することができるだろう。

葉月「詠くん……?」

静かに問う葉月さんは返答次第じゃ、怒りますと暗に訴えているようだ。

俺は麗姉ちゃんの肩を抱き寄せてくっつく。

詠「俺たち付き合うことになりました」

笑顔で宣言した。

麗「え、詠っ!?」

蓮「はぁ!?」

葉月「ええっ!?」

三者三様、またしても驚いた表情を見せる。

詠「じゃあ姉ちゃん行ってらっしゃい。また後で」

軽く頭を撫でて、送り出す。
ぽーっとした表情だった彼女はしばらくすると、ハッとした様子でドアに向かう。

麗「じゃ、じゃあ、また後で……」

彼女は控えめに手を上げてちょこちょこと振ると、事務所を出ていった。

蓮「ま、そういうことだよなぁ……」

葉月「詳しく話を聞かせてください!」

納得した様子の蓮さんと、目を爛々と輝かせる葉月さんに迫られて事の顛末を話すと同時に、妹さんを振ることになるという旨を伝えた。

蓮「ま、しかたねぇわな」

葉月「二人の恋路を止めることはできませんからね」

蓮「それにしても、あんな麗さん初めて見たな」

葉月「ええ、何と言うか……とても素敵でした」

心のつっかえが取れたようにすっきりした俺であった。
そして終業後、麗姉ちゃんとの帰り道。

麗「あの後、アイドル達に質問攻めされて大変だったぞ」

詠「泣かせてごめんって……」

姉ちゃんが勝手に泣いた気がしなくもないが……。

麗「特に瑞樹と楓がしつこくってな……それに心もぐいぐい来るし……」

話してる内容に対してその表情は輝いている。
俺はこの先ずっと彼女と歩んでいく決意を心に秘めつつ、手を取った。

麗「……聞いてるか?」

強く手を握り返す彼女は俺の顔を覗き込んで微笑んだ。

『青木麗』 終わり

『麗アフター』

詠「久しぶりだね、帰ってくるの」

麗「そうだな」

俺と麗姉ちゃんは今栃木に来ています。
両親に結婚報告ということで実家に帰省中なのである。

閑散とした風景にぽつりと建つ大きな邸宅。
長い年月が経過しているであろう古びた木造家屋の引き戸を開ける。
カラカラと懐かしい音を響かせて開いた戸の先にはだだっ広い玄関があり、きちんと整頓された下駄箱の靴はあまり生活感が無いようだ。

詠「ただいまー」
麗「ただいま」

母「あらあら、お帰りなさい」

二人して挨拶をすると、玄関先にて居間からやって来た母さんが出迎えてくれる。

母「二人だけ?」

麗「まあ……報告することがあって」

母「え、何何? 結婚の話かしら?」

こんな時に勘の鋭いのが母親だ。
しかしながら母自身も冗談で言ったらしく、麗姉ちゃんが恥ずかしそうに押し黙ると何かを察したように首をゆっくりと縦に振っていた。

母「とりあえず上がりなさい」

詠「うん、そうだね。ほら姉ちゃん……」

麗「あ、ああ……」

とりあえず一泊する予定なので、昔それぞれの個室として扱っていた部屋を借りて荷物を置く。

リビングはその広さの割にきちんと整頓されており、俺が住んでいたころよりも清潔な様子だと感じた。

父「おう、お帰り」

リビング中央のソファに座って寛ぎながらテレビを見る父さんが、こちらを一瞥して言った。

俺と姉ちゃんは挨拶を返して、二人特に居場所も無くボケっと突っ立ていた。

父「座ったらどうだ?」

素っ気ない父の言に頷き、姉ちゃんはリビングの食卓に着く。
俺は台所へ行き、何やら夕食の準備をしている母さんの手伝いをする。

母「あら、詠は優しいねぇ。子供の頃からいっつも家事手伝ってくれてたよねぇ」

詠「そうだっけ?」

母「どうせ今でも聖や慶の世話でもしてるんでしょう」

そう言ってふぅっと溜息を吐く。
あんまり甘やかしてはいけないのだろうとは思うのだが、彼女たちが家事手伝いに疎いのだからしかたがない。

詠「いやいや、俺が何もしなくても聖姉ちゃんも慶ちゃんも自分のことは自分でしっかりできるよ」

……多分。
慶ちゃんは朝弱くて微妙な所ではあるが、聖姉ちゃんはしっかりできるだろう。
いやしかし、以前デイトレードで大損したという話を聞いたような……。まあ、生活習慣とは特に関係無いからその話はいいか。

そうしてゆったりと過ぎ行くと思われた実家での時間は、気が付けば父母と麗姉ちゃん、俺という四人で夕食を終えた。

しばらくテレビを見ていたが、俺が大事な話があると切り出して、テレビの電源も切った。

四人で囲んでいた食卓にピリッとした空気が流れて、直後、父さんが厳かに口を開く。

父「それで大事な話って何だ?」

母さんはある程度分かっているのだろう。
暢気にお茶を啜り、お茶請けに手を出している。

詠「俺、麗姉ちゃんと結婚します」

父「そうか。おめでとう」
母「おめでとー」

そう言うと父さんはテレビのリモコンを手に取ってまた電源を入れた。

……は? 終わり!?

あまりの呆気なさに俺と姉ちゃんは呆然と両親を交互に見るだけだ。

父「式はいつ上げるんだ?」

詠「や、それはまだ決まってない」

父「決まったらまた連絡してくれ」

母「それにしても詠が麗を選ぶなんてねぇ、てっきり歳の近い明かと思ったけど」

母さんよ、麗姉ちゃんの前でそういったことを言うのはデリカシーに欠けるのでは、と思い横の麗姉ちゃんの顔を見てみると、やはり少し面白くなさそうな表情をしていた。

詠「俺、麗姉ちゃんを愛してるから」

母「そう」

とにかく二人の反応は塩で、すっかりピリリとした空気は鳴りを潜めて俺たちは毒を抜かれてしまったような気分でいるのだった。

両親は早い時間に寝て、俺と姉ちゃんも部屋に戻る。
別々の部屋で寝るつもりだったが、母さんが『一緒に寝たら?』と言うので、そうすることにした。

麗「なんだか意外だったというか……」

詠「うん、何か言われると思ったよね」

風呂から上がり、安堵したというよりかは拍子抜けした俺たちはベッドに腰かけて話し合う。

結婚報告の後は他の三姉妹について聞かれただけだし、そんなに心配していなさそうな様子だった。

麗「気が抜けてしまった」

姉ちゃんは、ふぅ、と安堵の溜息を吐いてこてりと俺の肩に頭を預けて寄り添った。
こんな風に甘える姉ちゃんは少し珍しい。
俺はドキドキするのを誤魔化すように身振り手振りを少し交えて会話を続ける。

詠「でもさ、よかったよ。反対されるとかじゃなくって」

麗「まあな。いつ詠が誰とくっつくか楽しんでたみたいだったなからな」

詠「趣味悪いよなぁ」

麗「まったくだ」

詠「でも安心した」

麗「ああ、私もだ」

ぴとっと二人寄り添い合ったまま沈黙が訪れる。
右肩に乗せられた感触と熱がとても心地良く、同時に強く意識してしまう。

麗「詠、いいか?」

その言葉に振り向けば、ぽやっとした彼女の瞳が色っぽく、何を求められているかが一目でわかった。

唇と唇を軽くくっ付ける。
顔を離すと麗姉ちゃんは相好を崩し、俺もつられて笑んでしまう。

それから軽く触れるだけのキスを4、5回繰り返した。
俺は彼女を押し倒して、好き勝手に何度もキスをする。

どんどんとエスカレート、ヒートアップしていく自分の気持ちをありのまま、彼女にぶつけていく。

お互いの唇を重ねる時は次第に長くなり、また深くなる。
舌で彼女の口内を犯し、上下の唇を食べるように、自分の唇で挟む。

舌を吸うと、彼女が俺の背に回した腕に力が入り、離そうとすると今度は麗姉ちゃんの方から逃がすまいと追いかけるようにキスをしてくる。

彼女の口内の天井を舌で擦ると、より身体が強張るのだ。

服の上から自分のガチガチに固まった陰茎を姉ちゃんの股間に擦り付ける。
俺は自制が効かず、一心不乱に腰を動かしキスをしていた。

麗「あむっ……ちゅ、ちゅっ、んっ……ふぁっ…………!!」

麗姉ちゃんは不意に大きく身体が強張ったかと思うと、ビクビクッと腰を震えさせる。

詠「イッちゃった?」

俺が彼女の目をじっと見て悪戯っぽく聞くと、彼女はふいっと視線を横に向けて恥ずかしそうに黙りこくった。
片腕で真っ赤になった顔を軽く隠して、控えめに頷く姉ちゃん。
その返答のしかたが可愛くてたまらない。

無理矢理腕をどかした俺はより削られた理性の元、さっきの続きとばかりに激しいキスを重ねる。

麗「あっ! ん……ちゅ……ちゅぱ……んむっ……あんっ……!!」

両腕を押さえつけて身動きの取れない姉ちゃんは抵抗するどころか、脚で俺の臀部あたりを挟むと自ら股間をペニスに擦り付けてくる。

それからまた数十秒経つと、がくがくと腰を痙攣させて強く抱き付いてくる。

詠「またイッちゃった?」

これを聞くのが結構楽しい。
麗姉ちゃんの反応はやはり恥ずかしそうにするばかりで、いつも堂々としてる彼女とはまた違った一面が見れて愛おしい。

麗「はぁ……はぁ…………」

荒い息をどうにか落ち着かせて、彼女は起き上がる。
とん、と優しく俺を押し返し、今度は馬乗りにされた。

麗「詠ばっかり好きにして……」

火照って上気した顔。
とろんと蕩けた眼が俺を射抜く。

さっき俺がしたようなキス。
深く深く繋がろうと舌は侵入し、懸命に口内を探る。
天井を擦られるのがくすぐったいような気持ちいいような感覚で、ついつい力が入ってしまう。

小さく痙攣し始めた俺を見て、満足そうな笑みで顔を歪める麗姉ちゃん。
いったん顔を離すと再びキスしたのは首だ。
ちぅ~、と思い切り吸い、ポッと吸盤が離れたような音がする。

ゾクゾクとするそれは気持ちよく、全身が強張りプルプルと震えてしまうほどだった。
しばらく首を愛撫し、俺の息も絶え絶えとなったところに追い打ちを掛けるように耳を蹂躙する。

ふぅ、と吐息を優しく漏らしたかと思えば、つつ、と舌先を耳に当て、エスカレートすれば甘噛みし、耳元で音を立てるようにキスをされる。
ちゅ、ちゅ、という音を耳のすぐそばで立てられるたびに、身体が跳ねてしまう。

やめて、と口にするものの、内心ではやめないでほしい願う。
裏腹な気持ちが伝わったかどうか知らないが、麗姉ちゃんはやめることはなかった。

麗「詠、可愛いな……ふふっ……」

と耳元で囁かれ、軽く失神しそうになるが、耳に舌をねじ込まれてかき回される快感によって意識を引き戻されるのだった。

男なのに喘ぐ、という情けない姿を晒しながら麗姉ちゃんに十分に弄ばれる。
ようやく両耳の凌辱が終わるが、ビクビクと痙攣が治まらなくて、俺は動けないでいた。

麗姉ちゃんの嗜虐的な笑みが俺の視界に映ったかと思うと、今度は服をはだけさせられる。
ぐいー、と服を捲り上げられて臍、乳首と順に晒す。

つつ、と指でお腹や脇腹をなぞられてまた俺は痙攣せざるを得なかった。
小さく喘ぎ声を発してしまい、羞恥と快感でどうしようもないほどに興奮してしまう。

それから軽く指で乳首を摘ままれ、もう片方の乳首も舌で遊ばれ吸いあげられる。
またしても快楽に襲われる。くすぐったいのが気持ちいい。

上の服は脱がされ、股間にも彼女の手は伸ばされた。

ぎゅ、ぎゅ、と程よく刺激を与えられる。
上にも下にも意識がいってしまったその瞬間に身体が跳ねる。

麗「またビクッてしてる」

悪戯っぽい顔をして姉ちゃんは俺のズボンとパンツを脱がした。
パンツについていたカウパー液の染みを、彼女は俺に向けて見せつけた。

麗「こんなにパンツ濡らしてどうしたんだ? 耳を舐められて、乳首を吸われて、興奮してるのか?」

そう問われて、また軽く失神しそうになった。
恥ずかしさと姉ちゃんの官能的な視線が俺の尊厳と理性を突き揺らして壊そうとしてくる。

カウパーが溢れガチガチに硬くなった陰茎を手で握り上下に動かす。
情けなくも声を我慢できない。

イキそうになって腰が勝手に浮いてくるのを見た姉ちゃんはいったん止め、反り返る程に勃起したちんこを口に含んで、じゅぽじゅぽといやらしい音を立てる。

手こきからフェラに変わり、いったん収まった射精感が再び込み上げてくると、姉ちゃんはまた休み、今度は亀頭を指で擦る。

カリを二本の指で挟むようにして撫でまわし、しこしこと扱かずに指先で亀頭を撫で続ける。

これが寸止めされた感覚とはまた違って、手こきやフェラの何倍もの刺激を受けているのにまったく射精する気配が無いのだ。

ただ、さっきよりも強い快感に襲われながら射精することができないという気持ち悪さが俺を狂わせそうなほどだった。

詠「ふぅっ……ぐっうぅ……あっ……うっ……ああああああっ!!」

必死に抑えてた声が我慢できなくなって大きく漏れてしまった。
慌てて口を手で押えるが、喉の奥から勝手に発声されてしまう。

ようやく手を止める麗姉ちゃんは、だらだらと漏れ出ているカウパーを舌で舐めとり、ペニス全体を口に含むフェラをして吸い取った。

ちゅぽっと音を立てて離されたそれは、勢いよく俺のお腹を叩く。
それほどガチガチに硬くなっており、暴発寸前なほど膨れていた。

麗「入れるぞ?」

朦朧とした意識の俺にそう告げて、彼女は俺の上に跨り、ガッチガチの陰茎を自身の膣内に導いた。

麗「ん、んぅ……」

艶めかしい声とともにすんなりと俺のモノを受け入れる。
しかし中は締まっており、彼女が上下するたびに搾り取られるような感覚に襲われる。

麗「あっ……あんっ……あ……いっ……きもちいっ……」

腰の振りはだんだん激しくなり、俺も早いうちに限界を迎える。

詠「うぁ! 姉ちゃんっ! やば……も……無理…………~~~~~~~~~っ!!」

さっきまで溜めに溜めた快感をぶちまけるように射精する。
姉ちゃんが優しく抱きしめてくれる。一回じゃ治まらない射精のようで、びくっびくっと震えるたびに精巣から白濁液を搾り出す。
十数回ほど精子を搾り出し、ようやく治まる。

麗「……すごいいっぱい出たな」

恍惚な表情を浮かべて彼女はペニスを抜くと、どろぉっと粘性の高い白濁液が膣内から溢れ出した。

抜いたペニスは再び俺のお腹を叩いた。

麗姉ちゃんはそれを見て、にまーっとした笑顔を浮かべるとちんぽを一舐めしてもう一度自分の膣に挿入させる。

詠「待って……」

なんていう俺の制止を、スイッチの入った麗姉ちゃんが聞いてくれるはずもなく、陰茎はずぶりと締め上げられる。

麗「私、まだイッてない」

そう言って彼女は好き勝手に動き始める。
さらに反応の薄くなってきた俺を再起動させるため、姉ちゃんはキスをはじめ、耳舐め、乳首舐めなど全身にリップサービスを施してくれる。

詠「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

言葉にならない声で俺は痙攣を続ける。
麗姉ちゃんの愛撫は愛があって気持ちが良くて、気を失いそうになる。

麗姉ちゃんの嗜虐に歪んだ表情が艶めかしく美しい。
そして先ほどあれだけ出したのに、すぐに射精しそうな感覚に襲われる。

麗「うぅん……いいっ……! 詠っ! 私も……イキそうだ…………あっ! あっ!」

詠「いっ……! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

姉ちゃんに言われて俺も決壊したように、二回目の射精をあっけなくしてしまう。

麗「あ、あ、あ、あ……~~~~~~~~~~っ!!!!」

同じタイミングで姉ちゃんも大きく痙攣する。
ぶるぶるっと震えてとろーっと呆けた顔を晒しながら、俺に密着する。

お互いに息を荒げ、強く跳ねる心臓の音が俺から彼女の身体に伝わり、そして彼女から俺の身体に伝わる。

このまま眠ってしまいたいほどの充足感と多幸感に包み込まれる。

麗「……詠、大丈夫か?」

しばらくして落ち着いた彼女が俺に尋ねる。

詠「ん、何とか……」

正直に言ってアラサー女性の性欲はすごい。
俺がだいぶ攻められたというのもあるけど、麗姉ちゃんはそれでもまだ物足りなそうな表情をしているのだから。

以前『今日は麗姉ちゃんの好きにしていいよ』と言ったことがあったが、その時は夜明けまで寝かせてくれなかった。

詠「まだ、する?」

麗「いいのか?」

俺のこういう部分はちょっと甘いのかもしれない。
彼女の満足していないという表情を見ると、やはり満足するまでしてほしいと思ってしまうのだ。

俺が頷くと、麗姉ちゃんはまた小悪魔みたいな笑みを浮かべた。
結局、セックスは翌朝まで続いた。

俺達が起きた時、両親はすでに起きており、朝食も用意されていた。

詠「いただきます」

うぅ、寝不足でまだ頭がぼんやりする。
珈琲を一口啜る。

母「あんたたち、子作りはほどほどにしなさいね」

さりげなく答えた母さんの言葉に俺と麗姉ちゃんは噴き出したのだった。

『麗アフター』 終わり

全編終了です。
読んでくださった方、ありがとうございます。

感想や質問等あればどうぞ。

明日の夜にHTML依頼出します。

おっつおっつ
ポジパはPに恋はしなかったのかね?

>>390
このお話では、彼女たちにはプロデューサーに対する恋愛感情はありませんでした。

それでは、読んでいただきありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年12月12日 (火) 08:34:49   ID: 6WkM6oTt

なんでモバPに名前つけようとすんだろうな
Pでいいじゃん

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