戦士「選ばれない者」(254)

戦士「先日、村長の夢枕に女神様が降臨なされた」

戦士「曰く、オレの村から魔王を討つ運命にある
勇者様が選ばれたとか」

戦士「村中、大騒ぎになったよ。
勇者様の旅立ちの前夜まで村はちょっとした祭りになった」

戦士「それはいいんだ。準備や後片付けのほとんどをオレがやったことも別に気にしてない。
村の年寄り連中にはつらい仕事だろうからな」

戦士「問題は、選ばれたのはオレじゃなかったことだ」

戦士「村の若者はオレと、勇者のふたりだけだ」

戦士「オレは村一番の力持ちで、村に迷いこんだ魔物も
しょっちゅうオレが追っ払ってる」

戦士「勇者はといえば戦うどころか普段の生活さえ妙にびくびくしてて、
ハシより重いものを持ったところを見たことがない」

戦士「あいつに勇者が務まるわけない。
泣きながら魔物に殺されてしまうのがオチだ」

戦士「村の老人連中のなかでも村長は特に年だからな……
きっと女神様から聞いた名前を間違えてしまったのだろう」

戦士「オレが森で見つけた鎧が実は呪われた装備で、
恐ろしい鎧の姿のままでいるせいでは断じてない」

戦士「それにしても本当に恐ろしい鎧だ。
鎧というより、まるで魔物かなにかのようだ」カガミ

戦士「まずは王都へ向かい、幼馴染みで友達以上恋人未満の僧侶に会おう」

戦士「そして鎧の呪いを祓ってもらい、新しい装備で僧侶と旅に出る」

戦士「勇者のやつに追いつき、オレが代わりに魔王を倒すと提案。
不安に怯えるやつは泣いて喜ぶ」

戦士「……かは分からんが、まあ好き好んで死地に赴くバカはそうそういないだろう」

戦士「魔王と対決、仲間と共に勝利。世界はめでたく平和になる」

戦士「完璧だ」

霧の町


戦士「もう遅い。今日はこの町で下宿しよう」

戦士「夜の闇は魔物を強くする。
死にゆく者を助けようとして、自分が死んでは世話がない」

~~~~~~~

戦士「なに、空いてない?」

宿屋「へえ。お陰様で」

戦士「景気がよくてなによりだ。
しかし困ったな。今夜は野宿か」

宿屋「あー……」ジロジロ

宿屋「……町の外れに湖があるんだが」

戦士「えっ?」

宿屋「行けば分かるぐらいにでっかい湖だ。地元で知らねえ奴はいねえ」

戦士「そんな話を聞いたことがあるような……
確か、凄腕の魔法使いの住む館があるんだったな」

宿屋「ああ、それだ。その館だ。
今は人っ子ひとりいねえ」

戦士「……ふーむ、しかし無人とはいえ人の家だ。
寝泊まりするには些か気が引ける」

宿屋「構うこたあねえ。あの館にかつての偉い魔法使いさんはもういねえ」

宿屋「いねえ代わりに悪魔が住んでる」

戦士「……悪魔?」

宿屋「あの館には、たったひとりの子が残された」

宿屋「おっ母さんは流行り病、魔法使いは気が違って自殺」

宿屋「残された子供のうち、妹も母と同じ病で逝っちまった。
それから兄は滅多に姿を見せることもなくなった」

宿屋「数日前、その子が姿を見せた。
こう、しゃんとした立派な魔法使いになってな」

戦士「…………」

宿屋「その子が姿を見せなかったのは、悪魔と戦っていたからなんだ」

宿屋「魔法使い一家の死はみーんな悪魔の仕業だったんだ。
ひとり残された兄は家族の仇に必死に抗っていた」

宿屋「そしてついに、悪魔を館に閉じ込めることに成功した。
その時は恐ろしい女の叫び声が町中に轟いたよ」

戦士「………………」

宿屋「ただ、封印も完璧じゃねえ。
近いうちに悪魔は必ず復活して町に災いをもたらすだろう、と」

戦士「大変だな」

宿屋「ああ、冗談でねえ。それで魔法使いのツレの、その……ゆ、勇……」

戦士「まさか……勇者か?」

宿屋「そうそう、勇者だ。勇者」

勇者『いずれ私の友達がここへやってくる。
気のよい、腕の立つ者だ。きっと悪魔を退治てくれる』

宿屋「だ、そうだ。あんたのことだろ?」

戦士「あ、ああ。多分……」

戦士「……つまり、宿を借りる代わりに悪魔を倒せと」

宿屋「そんなら引け目も感じねえだろ?
死んだ家人もきっと喜んでくれる」

戦士「そう言ってくれると気が楽になるが……」

宿屋「急いだ方がいい。
悪魔が魔物かは知らんがよ、まっ暗になって弱るタマじゃねえよ多分」

戦士「そ、そうだな。ありがとう」




戦士(勇者が数日前、この町に……?)ガシャンガシャンガシャン

宿屋「…………」

宿屋「………………」

宿屋「…………………………」




宿屋「だーっ!
なんだあの気味悪い鎧は!」

宿屋「不気味な鎧とは聞いたけど、あんなとは思わねえぞ!」

宿屋「見れば分かる? そりゃそうだろ!
あんな気持ち悪い鎧、この世にふたつとあるもんか!」

宿屋「あの鎧……昔、どっかで……」

荒れた館


ビュオオオオオ…

戦士「…………………………」

戦士「なるほど、確かに鬼や悪魔が住んでいそうな不気味な館だ」

戦士「悪魔がやって来る前なら、もっと好感の持てるものだったかな」

ギギギギギーーーーーイ…

戦士「お邪魔しまーす」ガシャンガシャンガシャン

シーン…

戦士「……悪魔を倒しに来ましたー」

シーン……

戦士「……………………」

戦士「なあ石像ちゃん。
ひょっとしてオレ、いっぱい食わされちゃった?」

石像(…………………………)

戦士「へんじがない。ただのせきぞうのようだ」

石像(…………………………)

戦士「…………………………」ハアー

戦士「……なにやってんだろ、オレ」



コッ…

コッ……

戦士「まあ屋根はあるし、雰囲気も……そこまで悪くはないよウン。
今夜はここで夜を明かすか……」ガシャガシャ…

悪魔「あーら、もうお休みですかぁ?」

戦士「ああ、ただの怪談話にいつまでも怯えていても……」

戦士「誰だ!?」


悪魔「夜はまだまだこれからですよぉ~……」ピキパキ

『氷柱魔法』ドドドドッ

戦士「くっ!?」ザカカカカカッ

ピキピキパキパキ……


悪魔「ヒトを怪談呼ばわりとはいい度胸じゃねえか。
そう簡単にアタシを殺せると思ってんじゃあねーぞ」ピキピキパキパキ

戦士(ま、まずい……!)

ザオオッ

戦士「ぬん!」ガキガシャン

ズオオオオオ……

戦士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」ガシャーッ

ドガガガガガガガッ

悪魔「避けてんじゃねえ!」ピキパキパキ

戦士「槍! 槍は……」ガシャガシャガシャ

ギュオッ

戦士「あった! 槍!」ガシッ

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル…

戦士「はっ!」バオッ

ドバガガガガガァ~ッ


キラ…キラ…
    キラ…キラ…

悪魔「おっ?」

戦士「うーむ。
イマイチ使いにくいな、コレ……」

悪魔「……………………」ピキパキピキ…

ギャオッ

戦士「ん? はあっ!」ブルン


ズガバババババッ

ガラガラガラガラ…

悪魔「屋敷が……!」

戦士「ギャー! ごめんなさいごめんなさい!」

戦士「えーい!
直に近づいてぶん殴る!」ガシャガシャ

悪魔(…………………………)


戦士「悪霊退散!」ビュ

悪魔「おっと」サッ

ドヒュン


ボゴォーッ

戦士「しまったー!」

悪魔「また壁が……」

悪魔「おい、その槍よこせ。
没収だ」

戦士「くっ……」スッ

悪魔「よろしい」ボキン

戦士「ちょっ」


ドカッ

戦士「うわああああーッ」ドガシャアーッ

悪魔「素直に武器を渡すなんてな!
どれだけバカなんだか!」パキピキ

ガッシャーン

戦士「槍ーッ!」

戦士「なにも砕くことないだろ貴様あああああああああああああああ」

悪魔「てめえが壊した壁とアイコだ!
流れ弾で家を崩されちゃあ敵わん!」

戦士「もっともだ」

悪魔「えっ……そ、そうだろ。
アタシは間違ってない……」


戦士(……過ぎたことは仕方がない。
槍は寿命だったのだ。拾ったときからボロボロだったからな)

戦士(しかし、武器を失った今、悪魔に太刀打ちできるのか……)

悪魔(めっちゃ見てる…………
なんだこの罪悪感は)

悪魔(大事な武器だったとか……
あのクソッタレの仲間とはいえ、悪いことしたかな……)

悪魔「わ、いや、あの、
ついカッとなって……」

戦士(もう一度近づこうにも、氷柱の弾幕が厄介だ。
槍なしであれを捌けるとはとても思えない)

悪魔「いや、アタシ悪魔だし……
悪いことしても問題ないし……」

戦士(弾幕を突破、そして悪魔を一撃で葬るには……)

悪魔「そりゃ悪いと思ってるけど……
悪魔なら当然、ていうか、その」

戦士(うん、アレならいけるかもしれんな)

ガシャンガシャンガシャ…

悪魔「あの、ごめ、
あれっ?」

戦士「よし、行くぞ石像ちゃん」ムンズ

石像(…………………………)

悪魔「あ、ああっ?」


グゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

戦士「ヌゥラアアアアア………」ズッズッ

石像(…………………………)ピッ パキッ

悪魔「おま、なにして……
バカかてめえ!」


戦士「ウオオオオオオオオーッ」グバアアアアッ


石像(…………………………)ミシ…パキ…

悪魔「そ、それは本来の重量の20倍の重さになる魔法が……」

戦士「ウラーッ!」グオッ

グオ~ッ


悪魔「バカ野郎ぉーっ!」

ドグシャアアーッ


アァー……
………………
……………………


戦士「ハア……ハア……
悪魔敗れたり!」

絵に描いたような脳筋野郎だなww

戦士「オレの腕力もなかなか捨てたものじゃないな」ガシャンガシャンガシャン

グシャ~

戦士「あーあ、石像ちゃんが……」

石像「」コナゴナ


戦士「……安らかにな、戦友(とも)よ」スッスッ

石像「」アリガトウ

戦士「……悪魔の姿が見当たらないのが気になるが」

ガシャンガシャンガシャ…




  ピシ

 パキ   ピシ

ドバアァッ

戦士「ぐあああああああああああああああああ」ドガ

バガアアァーッ


バタタタタタタタタタタッ…

悪魔「ハア……ハア……
まぬけが!」

悪魔「アタシを……殺せると……
本気で思っていたのかよ……!」

ポタッ…ポタッ…

悪魔「アタシは一度死んで、地獄を見た」ポタッ…ポタッ…

ーーダメだ! 死ぬな、頼む……!

ーーわかった。後は任せてくれ、父さん。

悪魔「……………………」フルフル


悪魔「……もう、戻れないんだよ」ピキパキ

ピシ

大きな部屋


戦士「うう……
ここは?」ポタッ…ポタッ…

悪魔「いい部屋だろ? アタシのお気に入りなんだ」パキ…

悪魔「………………」


悪魔「そのピアノ、特別に魔法をかけてあって、
アタシが生まれる前からずっと最高の状態を保ってるんだって」

悪魔「よく晴れた日は奥のステンドグラスが、
色々に光ってきれいなんだ」

悪魔「アタシがピアノを弾いて、お父さんにお母さん、お兄ちゃんが褒めてくれて……
部屋いっぱいに大きな魔法使いが映ってさ……」


悪魔「…………………………」

悪魔「…………………お父さん、まで」

戦士「……なんだと?」

悪魔「…………………………」


悪魔「もうたくさんだ。この家から出ていけ。
これ以上、この家を壊させはしない」

パキ…ピシ…パキ…


戦士「待て、話が……」

ピシッ……

戦士「見え……」

   パキッ……

戦士「な……い…………」

ヒョオオオオオオ……

戦士「おい、待て、落ち着け。
一旦落ち着こう」

悪魔「氷塊魔法……」

戦士「やめろ。部屋がメチャクチャになるぞ。
ていうか穴あくぞ、床」

悪魔「……てめえの命の心配だけしてなよ。
アタシの魔法で部屋が傷つくことはない。魔法でケンカなんて日常茶飯事だったからね」

ギ……ギギギギギギギ……

戦士「待て、待て……ちょっと話し合おう……
なんかヘンだ……!」




悪魔「遠慮しないで、くたばっとけ」

ヒュゴッ・・・

   ドバガアアアアアッ

ガシャアアアア・・・

 ガン
           ドガッ
      バン

          バゴッ
ガシャッ


・・・・・・

        ……………………


カツーン…

悪魔「………………」パキ…


コン
    コツン…


戦士「」


悪魔「………………けっ」

悪魔「おら」ガツ

戦士「」

悪魔「…………死んだか?」

戦士「」

悪魔「…………」




悪魔「あのアバズレに伝えとけ」

悪魔「………………」


悪魔「今度会ったらぶっ殺す」


戦士「」

コッ…コッ…コッ…




ガシャン

鎧「待て……」

悪魔「てめえ……そんなに死にたいか」

ガシャン

悪魔「実力の差はわかったろ。
そんなに死に急ぐなよ……」

ガシャン

悪魔「おとなしく寝てろ。小さい隕石ぐらいの威力はあるんだぞ。
どう考えても動けるダメージじゃあない」

ガシャン

悪魔「……そんなにあの女が大事か?
命を捨ててまで?」

ガシャン

悪魔「…………それ以上近づいたら、攻撃するぞ。
せっかく拾った命だろうが。大事に……」

ガシャン

ヒョオオオオオ…


鎧「……………………」

悪魔「……アタシは止めたからな」ピシ

ザカカカッ

鎧「……………………」

……ガシャン


悪魔「………………っ!」

      ザス

バスッ

   ガス





………ガシャン

バフッ

鎧「…………」

ガシャン

悪魔「~~~~~~~~~っ!」


悪魔「なんなんだよ、てめえ!
寝てろってのに!」

……ガシャン

悪魔「ウザイ!
マジで殺すぞ!?」

……ガシャン

悪魔「もう……やめっ……」


ガシャン……

鎧「………………………」

悪魔「…………なんだよ」

鎧「お前は、殺せない」

悪魔「………………」

鎧「あと一歩でお前は躊躇う。お前はこの若者を殺せない」

鎧「兄さんを奪った、憎い仇の仲間だというのにな」


悪魔「…………何者だ、てめえ」

鎧「…………………………」

ギュッ


悪魔「なっ……」

鎧「なにも……出来なかった」

悪魔「なんのマネだよ!
気持ち悪いーー」

鎧「許してくれ、……よ。
許してくれ、…………よ」

悪魔「なっ……」

悪魔「……んで、その名を」

鎧「……許してくれ」


ガバッ

悪魔「きゃーー」

グワッ

ドガアッ

悪魔「………………」ズッ…ズズ…


鎧「お前は殺せない。
しかし、相手はそうではないぞ」ガシャン

バッ

(ピアノ)ザガガガガガガッ

ガッ


ドゴォン

ギリ…ギリ…
ギシ…

悪魔「無理……だよ。
封印は……まだ…………」ギシ…ギシ…

鎧「いや、今だ!
今、追わねば奴の思う壺だぞ!」ギリ…ギリ…

悪魔「せっかく……
もっと話……」ギシ…ギシ…

鎧「奴の力を見ただろう! いずれお前の居場所など無くなる!
いや、すでに無いものと思え!」ギリ…ギリ…


悪魔「嫌だ、ヤだよ……
お……」ギシッ パキ

鎧「この若者もお前と同じだ!
優しさに付け込まれ、奴の操り人形となっている!」ギリ……

鎧「出ていけ!
思い出はお前を縛る枷にしかならん!」ビキッ…パキ…

バキッ・・・

……………

鎧「家族の情など捨てていけ! もう、ここにも戻ってくるな!」ビシッ…

鎧「……ここにはもう、誰もいないのだ」パキッ…

   バキッ・・・・

悪魔「あ……」


ガシャアァー・・・ッ

ーーお前のきょうだいだ。絶対に死なせん。

ーー私が失敗したら、お前が助けてやってくれ。酷な頼みだが……

悪魔(…………………………)


(砕け散った石像)






悪魔「……………………お父」


   ドボォ・・・ン・・

亡霊「許せ、我が子よ……」ザラ…ザラ…ザラ…

ザラ……

亡霊「愛……し……て…………」
   ザ……





………………
……………………
…………………………

翌朝


ガシュガシュ
      ガシュガシュ

魔法列車
(王都行き急行)


戦士「釈然としない!」ダンッ

戦士「どうにもスッキリしないぞ!
結局、昨夜はなにがあったのだ!?」

戦士「ステンドグラス大破! ピアノが飛び降り未遂!
なぜか懐いているお前!」

悪魔「はっ!?
な、懐いてねえし!」

戦士「祟られたのか? あまりに家を荒らしすぎて呪われたのか?
石像を壊したのが不味かったのか?」ギリギリ

悪魔「わりと失礼だなてめえ!
つーか痛い!」

戦士「なにが不味かったんだ!?
教えてくれ!」ギリギリ

悪魔「痛いって!
なにが不味いって、そりゃあ……」

ゴチン!

戦士「う……おおおおぉ~……
カブト付けてるのに痛い!」


悪魔「大声じゃねーかな」

ゴブリン「他のお客様のご迷惑になりますので……」パシッ

戦士「スイマセン! スイマセン!」

戦士「なんでオレだけ……」ヒリヒリ

悪魔「アタシは魔法で姿を隠してるからな。
声も気配も、お前以外はアタシを認識できない」

悪魔「立場上おかしな絡まれ方しやすいし、一定以上の魔法使いはみんな覚えてるよ」

戦士「ああ、うん……なるほど。
魔法使い……まあ悪魔と通じるものがあるしな……」ウンウン


悪魔「えっ?」

戦士「えっ?」

悪魔「あれ、言ってない……?」

戦士「えっ?」



悪魔「改めて、『悪い魔法使い』。
略して悪魔な」




戦士「……………………アダ名かよ」

悪魔「悪魔なんてそうそういるわけねーだろ」ケラケラ

ガシュガシュガシュ……

悪魔「で、なんで王都に行くんだっけ」

戦士「付いてく気か」

悪魔「いいじゃん別に。
即戦力よ?」

戦士「これから会う人には、その、
お前を近づけてはならない理由がね……」

悪魔「はあ?
美人アレルギーとか?」

戦士「アレルギーといえば、アレルギーかな」

悪魔「ほー……
呪いを祓ってもらいに」

戦士「職業的にお前みたいなタイプはNGだと思うんだ。
たとえ姿を消していても」

悪魔「ほー……」




悪魔「ホントーに、それが理由かねー……」

戦士「いやあハハハ」

悪魔「でさ、祓ったら……脱ぐの?」

戦士「脱ぐよ。気味悪いし」

悪魔「そ、そう……」


悪魔(………………かっこいいのに)




ガシュガシュ
       ガシュガシュ

ボオオオ・・・・

王都

ガヤガヤ
       ガヤガヤ

戦士「ここが王都か……
人がたくさんいるな」

悪魔「お前を中心に、きれいな円形のスペースが出来てるけどな」

スカスカ

戦士「うむ。苦しゅうない」ガチャガチャ

ザアーッ


悪魔(人垣ってこんなにあっさり割れるんだ……)コッコッ

戦士「教会は……あれだな多分。
てっぺんに十字架があるし」ガチャ

悪魔「あ、アタシはちょっと用事が……」

戦士「うん? 別行動するのか?」

悪魔「一緒に行ってもしょうがねえって。
時間が余ってるワケでもなし」

戦士「もしかして、あの話心配してるのか?
悪さをしなけりゃそこまでマズくはないと思うが」

悪魔「なワケねーだろ。
本当に用事があるから気にすんな」

聖ボーズ教会


戦士「いない!?」

坊主「ええ。その者は先日、勇者様の旅の仲間に加わっていきました」


戦士「………………泥棒猫」ボソリ

坊主「何ですって?」

戦士「あ、いえいえ……。
しかし困ったな。この鎧の呪いはどうすれば……」

坊主「お祓いでしたら、こちらで済ませていきませんか?
呪いを長引かせても良いことありませんよ」

戦士「あー……じゃあ、お願いしようかな」

坊主「承知しました。ではこちらへ……」

大通り


悪魔「ったく、あの親父……
素直に売ればいいものを」

ザワザワ
     ザワザワ

悪魔「どうせまともに使える奴なんかいないんだ。
オモチャ屋にでも置いておけば……」クルクル

       ザワザワ
ザワザワ


             ザワ

悪魔「………………んー?」ピタッ

王宮


戦士「なあ待ってくれ!
あんた達何か誤解していないか!?」ガチャガチャ

兵士「黙って歩け!」ガシャガシャ

兵士「呪いがどうとか、それらしい嘘をついても邪気は誤魔化せないぞ!」ガシャガシャ

戦士「ジャキ? なあ間違ってるよ!
坊さんに確認とってくれ!」ガチャガチャ

兵士「その坊さんが言ったのだ!
お前は人間に化けた魔物だとな」ガシャガシャ

兵士「言い逃れは出来んぞ!」ガシャガシャ

戦士「こんなのオーボーだ!
なあ話し合おう! 落ち着いて……」ガチャガチャ

兵士「黙れ!」ガシャガシャ

再び大通り


ザワザワ
      ザワザワ……

悪魔(…………………………)

ザワザワ
       ザワ


悪魔「……うん」サラサラ


ザワザワ
      ザワザワザワ……

悪魔「………………」サラサラサラ




悪魔「………………」ピラッ

悪魔「うーん……」

ザワザワ
        ザワザワ…

騎士『そうか、魔物を……』

騎士『…………何、会議?
魔物を捕らえたなら、さっさと処理すればいいだろう』

騎士『……そうか、わかった。
報告ありがとう』 ピッ

騎士「……上層部のバカどもめ。
魔物が逃げ出したときのことは考えないのか」ボソッ

ガヤガヤ
        ガヤガヤ


騎士「…………む?」

悪魔「………………」サラサラサラ…


騎士「…………ふむ?」

悪魔「むう……」ピラッ


騎士「うずくまってどうしたお嬢さん?
具合でも悪いのかい?」

悪魔「ぎゃっ!?」サッ

騎士「お父さんかお母さんは近くにいる?
もしや、はぐれてしまったとかーー」

悪魔「あ、いや、そのーー
あ、そうですそうです! パパとはぐれてしまって!」

騎士「なんと、それは大変だ。
一緒に探してーー」

悪魔「お、お構いなく! ひとりで探せますんで!」スック


ガシッ

騎士「隠さなくてもいい。さっきまで不安で動けなかったのだろう?
私は王宮騎士だ。私のことは怖がらなくていい」

悪魔「さ、さいですか……」



悪魔(チクショー! 迂闊だった!
王宮騎士の接近を、みすみす許すなんて!)

悪魔(キッチリ姿も消しておくべきだった!
うっかり魔力が洩れたが、バレて……)

騎士(この子……一瞬だが凄まじい魔力を感じた。
強いだけでなく、邪な気配が色濃い……)

騎士(偶然だとは思うが、人に化けた魔物……
タイミングが妙に気になる)


悪魔(……バレてるなー。めっちゃ疑われてるなー。めっちゃ聞こえるよチクショー。
クソッ! スキを見てとっととズラからねーと……)

ガヤガヤ…
       ガヤガヤガヤ…

地下牢


ガシャーン

戦士「………………」ガシャン

兵士「お前の処分は後に下される。
二度とお日さまは拝めないと思っておけ」

戦士「なあ誤解だよ! こんな、
こんなの間違ってる……」ガシャガシャ

ガシャンガシャンガシャン…




戦士「…………………………」

戦士「クソッ! 何だってんだ!」ドガッ

ガガッ
    ガシャーン

戦士「うおっ!」ビクッ

アーン……
      ーン…
            ン…


戦士「て、鉄格子が外れた……」

戦士「…………………………」

戦士「こんなに力強いのか、オレ……」







戦士「いやいや、程があるだろ!」

ガシャガシャ
      ガシャガシャ

兵士「何の騒ぎだ!?」

兵士「あ、キサマ! どうやって……
て、鉄格子が!?」

戦士「やっべ!」クルッ

タッタッタッタッ…

兵士「ま、待て! 牢に戻れ!」

兵士「追え! 追えーっ!」

ガシャガシャガシャガャ

         ガシャガシャガシャガャ

ガシャガシャガシャガャ

       ガシャガシャガシャガャ……

王都


騎士「あ、すまない。
ちょっと待ってくれ……」

悪魔「はい?」

騎士『私だ。
…………そら見たことか』

悪魔(念話か。何か事件でも起きたのか?)

悪魔(ラッキーだぜ。騒ぎに乗じて……)

騎士『ああ、対処しよう。
魔物の特徴は?』

騎士『…………………………
………………』




悪魔(………………おいおい)

騎士『ああ、竜兵も行け。
特別に許可する』ピッ

騎士「ああ……
その、すまないがキミはここで……」

ポン



悪魔「いえお構い無く~。
そろそろパパを迎えに行きたいのでぇ」

騎士「いや、待っ……」ピキ パシ

騎士「うっ!
こ、これは……」パキパキ

悪魔「無理に動かない方がいいぜ。
下手に力を込めたら……」コッコッ




悪魔「パーン!
……たちまちコナゴナ」

騎士「凍結魔法…………!
やはり、キミは……」

悪魔「ダイジョーブダイジョーブ。
10分もすれば解ける威力よ?」コッコッ


クルリ

悪魔「あっ、10年だったかも!
まあ大変!」

騎士「くっ……」

悪魔「ま、気長に待ちなよ。アタシ達が逃げるまでな」クルッ

悪魔「じゃあね~」フリフリ

タッタッタッタッ…


騎士「くうっ……
このタイミング、やはり件の魔物と繋がりがあったのか……?」

騎士「連絡を…………
くそ、魔法も凍結させられるのか!」

騎士「待てよ。『逃げる』と言ったな……
よし、賭けてみるか」ミシミシ

悪魔「へへへっ!
ザマーミロ、ザマーミロ!」タッタッタッ

悪魔「ガキだからって油断してんじゃねーぞ!」タッタッタッタッ


ガシャーン      ワー
    キャー      マテー


悪魔「へへへ、騒げ騒げ。やりやすくなる。
路地は……」キョロキョロ

悪魔「よし、この辺で……」サッ


ゴソゴソ




悪魔「見たことないタイプだが……
まあ何とかなるだろ」

ガシャガシャガシャガャ
         ガシャガシャガシャガャ

兵士「すばしっこい奴め!」ガシャガシャ

兵士「逃すな! 確実にしとめるんだ!」ガシャガシャ


戦士(へへへ、体が軽いぜ!
ヨロイどころか服まで着てないみたいだ!)タッタッタッ

戦士(火事場の馬鹿力って奴かな?
きっとそうに違いない!)タッタッタッ

戦士(牢を外したのもそうだな!
追いつめられた人間は凄まじい力を発揮するのだ!)ウン

兵士「待てー!」ガシャガシャ

兵士「止まれ! 止まらないと殺す!」ガシャンガシャンガシャンガシャン

戦士「止まっても殺すつもりでしょ!」タッタッタッタッ

兵士「当たり前だ! 魔物は殲滅しなければならん!」ガシャンガシャンガシャン


ガシャガシャガシャガシャ…

          タッタッタッタッ…


ピキパキ
     ピシ

兵士「うん……?
な、何だ!?」

ギュアッ

『氷柱魔法』

ドカ     ドカ
   ドカ

兵士「うおっ!?」




ヒョオオオオ……

兵士「こ、これは……」

兵士「氷の壁!?
こ、こんなもの!」バッ


 キ


兵士「折れた!?」

兵士「回り道を……
ダメか、囲まれてる……」

ビュオオオオオオ……

タッタッ
   タッタッ…

シャアアアアア……




戦士「おっ?」チラッ


大蛇「シャアアアアッ!」スイ~

戦士「うおっ!」

悪魔「ほれ、乗れ。逃げるぞ」スッ

大蛇「シュー……」グルルル…


戦士「あー…………
蛇はちょっと遠慮したいな、なんて」ガシッ

悪魔「そりゃあいい。これからの移動はコイツに任せるか」グイッ

シャアアアアー・・・ッ


戦士「………………」

大蛇「シューッ…シューッ…」シャアアアア

戦士「……………………」


戦士「なあ、飛べるんなら空から逃げられないのか?」

悪魔「空にはレンズみたいなバリアが浮かんでる。まず不可能ね」キョロキョロ

戦士「じゃあ、どこから逃げる?」

悪魔「待って……今、探してる……」キョロキョロ

ザワザワ
     ザワザワ……
                ザ

悪魔「見つけ! 北東の門!」グイッ

戦士「お? うわあっ!?」グワッ

グイ~ッ

シャオオオオオオオオオ・・・

悪魔「ゲッ! 竜がいる」

戦士「えっ? どこどこ!?」

悪魔「曲がった先にいる……!
避けてられない! 応戦するぞ!」ポイッ

戦士「お、おう!」パシッ

シャオオオオ・・・


戦士「って、これは……」

悪魔「魔法銃。改造したての」

戦士「銃……狩りの時にたまに触ったぐらいだな……」

悪魔「簡単なモンよ。前に向けて引き金を引けばいい。
曲がるぞ!」グイッ

戦士「よ、よし!」グッ

兵士「民間人の避難、完了しました!
目標は……」
竜兵「うむ……」


ドガシャァ


シャオオオオ……

竜兵「……目標は?」

兵士「えっと……多分アレです!」

竜兵「よし来た!」グワッ

ズシン・・・


戦士「おおー! 竜だ!
マジモンの竜だ!」キャッキャッ

悪魔「言ってる場合じゃないっ!
撃てー!」

竜兵「ワシの炎、たーんと味わっていきんさい!」コオオオオ…

兵士「そ、総員退避!」

    ズ

  ボ
      アッ



ゴオオオオオ・・・

悪魔「ぶち破れ!」

戦士「えっ? 無理じゃね!?」ガチン

ドアッ

ゴ ボ ン

竜兵「わ、ワシの炎が……!?」

ゴポポ・・・ゴポ・・



ドバシャアアアアアアアッ

竜兵「ぐわあああああああああああ」ザバアアアッ

兵士「そんな!」


シャアアアアー・・・

兵士『き、北の方だ! 目標は北東に向かった!
繰り返すーー』

シャアアアアアー・・・


戦士「銃って攻撃できるのか……
音と光で驚かすだけじゃないんだな」

悪魔「魔力をアホほど詰めないと、そこまで威力は出せないけど」

戦士「しかし用意がいいな。
こんなときに、こんな物よこすなんて」

悪魔「あっ、いや……」

悪魔「…………………………」


悪魔「ま、いいや。
大切にしろよ」

戦士「ああ、サンキュー」

悪魔「門が見えた! あと少し……」

戦士「もう王都には来れないかなー……」

シャオオオオオ・・・



バカラッバカラッ
         バカラッバカラッ


悪魔「……あっ!?」


馬「ブヒヒヒヒヒ!」バカラッバカラッ

騎士「逃がさんぞ!」シャキンッ


悪魔「復活早っ!」

騎士「魔物死すべし!」グアッ


悪魔「くっ!」サッ

戦士「ぐはっ!」ズバッ

ダカカカカカカッ…


騎士「はっ!」グイッ

バカラッバカラッ
        バカラッバカラッ


悪魔「もう! 追ってくる!
来るなよ!」

戦士「なあオレ鎧着てるよな?
なあ」

悪魔「クソ鎧! ぶっ飛ばしてやれ!」

戦士「コレおかしいよ。鎧だってのに…………
こんなに裂けて……ない? アレ?」

戦士「くらえ!」ギャルルルルルッ



 ア
    オ


騎士「むっ!」サッ


ガギャギャギャギャギャギャッ・・・・


騎士「こ、これは……!」ギャリギャリギャリギャリ

ザバアアアアアアアアッ




戦士「やったか!?」

悪魔「どうでもいい!
突っ切るぞ!」ギュ


ドバァーッ


シャアアアアア…

サアアアアア…


ポタッ…
     ポタッ…


馬「ブルルルルッ……」

ガシャッ



騎士「…………………………」

ポタッ…
      ポタッ…




騎士『…………私だ』ピッ

雪道


大蛇「ギエーッ」バシャアッ

悪魔「ふーっ……
ここまで来たら大丈夫かな」

戦士「……寒いな。
村の冬よりずっと寒い」ブルブル

ザクザク
     ザクザク…


悪魔「……で、僧侶には会えたのか?」ザクザク

戦士「いや、ダメだった。
勇者の仲間に加わったとさ」ザクザク

悪魔「そっか。やっぱり……」ザクザク

戦士「やっぱり?」ザクザク…




悪魔「あー……」ポリポリ

スッ


戦士「?」

悪魔「これ、読んで」


戦士「何なに? ラブレター?
ったく、いっちょまえに……」ピラッ

『勇者様に声をかけられました。
魔王討伐の旅の誘いです』


戦士「これは……」

『勇者は、戦士ではありませんでした。故郷の村から勇者が現れたと聞いたときには、
てっきり戦士だと思ったのですが』

戦士「…………………………」

『勇者様は魅力的な御方です。
彼女には人を惑わせる不思議な力がある』

悪魔(…………………………)

『勇者様の瞳を見つめると、ときどき戦士のことを忘れてしまいそうになる。
しかし、戦士とは決定的に違うところがあります』

『彼女といると、私は心からほっとする。現世の恐れを拭い去ってくれるような安心を覚える。
しかし、勇者様は甘い香りのなかに、針を隠しているような恐ろしさが滲んでいるような気がするのです』

『これから勇者様と旅立ちます。
魔法使いさん、格闘家さん。とても心強い味方です』

『しかし、この旅はどうやら最悪の結果に終わりそうです。
根拠があるわけではないのですが』

『この旅が無事に終わったら、まずは戦士に会いたいです』



戦士「これって……!」

悪魔「……アタシは生き物の落とした心の声を拾えるんだ。
マイナスの感情が絡んでるものだけね。なぜかは知らない」

悪魔「その、『戦士』って……
あんたでしょ?」

悪魔「ちょっと気になったし、書いておいたんだけど……」


戦士「そう、か……」




戦士「……ありがとう」

悪魔「あ、いや……
その、アタシが気になってるのは『勇者』ってトコなんだけど……」

戦士「奴を知っているのか?」

悪魔「ああ……
知ってる、てかちょっと因縁がね」

戦士「奴を殴りたくなるような?」

悪魔「いや、えっと……まあ、そんな感じ」



戦士「そうか。目的が一致したな。
一緒に奴をぶん殴ろう」

悪魔「ていうか殺したい、ていうか……
ていうか、ごにょごにょごにょごにょ……」

戦士「ああ、殺したいぐらいに憎いな」

ビョオオオオオオ…

戦士「オレ達は国家に追われる身となった。オレ自身には何の落ち度もないのだが」

戦士「だが今殺される訳にはいかない。実力に見合わない使命を背負わされてしまった、
不運な友達に代わって魔王を討たねばならないのだ」

戦士「あと人の幼馴染みを奪った女狐を一回ぶん殴らなければ」

戦士「勇者の足取りを追いながら、この雪国にやってきた」

戦士「夜も更け、とうとう寒さは肌を切りつけるほどだ。
宿を探しているが、どこに国家権力の目が潜んでいるかわからん」

戦士「なるべく人のいない宿を探している(悪魔が)。
こうしてひとり寂しく待っている間、お前だけがーー」


ザク ザク

悪魔「宿、見つけ……
何で雪だるまとにらめっこしてんだテメーは」

戦士「別れの時だ、ゆっちゃん。
そう悲しむな。お前はオレの心のなかでいつまでも生き続ける」スック

バスッ



ザクザクザク…

戦士「どうした。見つけたんじゃないのか?」クルッ

悪魔「おまっ……
何も壊すことねーだろ……」

ビョオオオオ…


戦士「……ふたりで探せばもっと早く休めた気がするのだが」ザクザク

悪魔「まだ言うか。ただでさえここらは行き倒れ共の断末魔だけで
ワイワイガヤガヤうるせえんだ」サクサク

悪魔「てめえの愚痴まで混ざってみろ。宿を見つける前に朝になる。
そんでてめえは行き倒れ共の仲間入り」サクサク

戦士「……ままならないものだな」ザクザクザク

隠れ宿への道


ボゾッ…ズズッ…
         ズボッ…ゾゾッ…

戦士「……おい、おいっ」ボゾッ

悪魔「あー?」ズズッ…

戦士「この道しかないのか?
歩きにくくて敵わん」ズボッ

悪魔「客がひとりもいねえんだぞ?
立地が酷いだけで済めばマシだ」ボスッ

戦士「むう……」…ズボッ

温泉宿「こごえじに」


戦士「……吹雪でよく読めなかったが、
不吉な看板が見えたような」グッショリ

悪魔「気のせいだろ」ゴシゴシ

雪女「何十年ぶりかのお客さんだぁ。
いらっしゃい、いらっしゃ~い」

戦士「何十年!?
確かにそうそう来れる場所ではないだろうが……」

雪女「それがね~、せっかく来たお客さんもあたしを見ると逃げ出すんだぁ」

悪魔「だろうな」ゴシゴシキュッキュッ

雪女「そりゃ雪女は寒さに凍えた人を、更に冷たく凍えさせるのが仕事だけどぉ~」

雪女「あたしはソレが嫌で宿やってるんだけどねぇ~。
固定観念って怖いね~」

悪魔「いや雪女と幽霊は無条件で周囲の温度を下げまくるから」キュッキュッキュッ

雪女「はぇ? そうなのぉ……
初耳だわぁ」

雪女「もしかしてお客さん達も今ちょっと寒い~?
ごめんねぇ~ごめんねぇ~」

悪魔「アタシは暑さも寒さも感じないし」キュッ

戦士「オレも……今はそんなに寒くないかな」

悪魔「えっ?」

雪女「あら本当ぉ?
ありがとねぇ~」

戦士「むしろ暖かいぐらいかな……
だんだん楽になってきた」

悪魔「ソレ死にかけてんじゃねえの?」

雪女「えぇ? 困るよぉ~
ここで死なれちゃ困るよぉ~」

雪女「寒いならオフロで温まって……
と言いたいところなんだけどぉ」

雪女「今ちょっと温度調整間違えてね~
凍っちゃってんのよぉ」

戦士「ええ……
解かしたり出来ないのか?」

雪女「冷やす専門でねぇ~
温めるのはちょっと~」

戦士「えぇー……」

悪魔「……………………」

悪魔「…………………………」ゴシゴシゴシ

悪魔「……どっちにしろお前は入れそうにないんじゃあ」

戦士「ん? ああ、鎧か……」


戦士「女将さん女将さん」

雪女「はい~?」

戦士「この鎧呪われてて……
脱げないんだけど」

雪女「大変だねぇ~
それで?」

戦士「このまま入っちゃダメかな?
オフロ……」

雪女「えぇ~……」

雪女「まあいいや。
お客さん来ねえし」

戦士「マジか! ありがとう!」

雪女「ちゃんと汚れ落として入ってねぇ」


雪女「でも大丈夫~? オフロがっちがちだよぉ?
乗っかかったらつるんと滑るよぉ」

戦士「ああ、そうか……
うん」



悪魔「………………うん?」

戦士「……………………」ジーッ

悪魔「…………何だよ」

戦士「魔法でどうにかならないか?
ほら、氷とか得意じゃん」

悪魔「別に得意じゃねーけど……」


悪魔「……………………」ウン ウン

戦士「……………………」ジーッ

雪女「……………………」ジーッ


悪魔「……」ハァー

悪魔「温度調整ってどこでやってる?
案内して」

雪女「はいよぉ」

雪女「でもだいじょぶぅ?
雪女の氷はそうそう解けねえよぉ」パタパタ

悪魔「舐めんな」ペタペタ

温泉


雪女「ここだよぉ」

悪魔「……直かよ」

雪女「まあ今日使えるだけ解かしてくれればいいよぉ。
次のお客さんまでに全部解けるだろうし」

悪魔「ああそう」

コンコン

悪魔「……凍ってるな」

雪女「申し訳ねぇ」

悪魔「うーん……まあこれぐらいならいけるか」ペタ

雪女「へぇ~?」


悪魔(…………………………)

ピシ


ざ わ ん

雪女「おおっ!?」

ビリビリビリビリ…
         ビキビシビキビシッ

バキバキバシバシッ…



               ピシッ……

グラグラ…
          グラグラ…



雪女「……………………」ポカーン

悪魔「どうよ?」

雪女「あっ、あー……
えっと……」

ポチャン


雪女(…………………………)


雪女「……ちょっと熱すぎねえかぁ?」

悪魔「うぐっ……
と、解けはしたでしょ?」

雪女「へへ、そうだねぇ。
ありがとね~」

カポーン…

悪魔「はぁー……
ったくあの女将……」


ーーお客さんはオフロの恩人だよぉ。
感じなくたって入ってほしいな~。


悪魔「アタシはいいってのに……
垢が出るわけもなし」ピュッピュッ




~♪~♪

悪魔「……あーん?」

あーあーあー……
          あんあんあー……

悪魔「鼻唄?
ハッ、ご機嫌なこった……」

悪魔「……………………」


悪魔「客いないんだよな?
男湯の方角じゃねーし……」

あーあーあー……
          あんあんあー……




悪魔「ふーん……
覗いてみるか?」ザブ…

あーあーあー……
          あんあんあー……

悪魔「歌は……この岩の向こうからだな」

悪魔「にしても妙に聞き覚えのある声だな……
女将か?」

悪魔「……………………」チラッ




あーあーあー……
          あんあんあー……




戦士「あーあーあー♪
あんあんあー……♪」パシャ



ドカ  ドカ ドカ ドカ

戦士「あーっ!」バシャアーッ

戦士「何をする!
血迷ったかこの悪魔め!」プカプカ

悪魔「血迷ってるのはテメーだ!
ここがどこかわかってんのか!?」

戦士「湯に浸かる前に、汚れはしっかり落とした!
女将の許可も取ってあるぞ!」プカプカ

悪魔「怒ってるのはそこじゃねえ!」

メリメリバキバキッ
         ……ドサッ

悪魔「わっ!?」ビクッ

戦士「うん? 悪魔が言ったのか?
『バリバリメキメキドシャァーッ』って」プカプカ




シィィイー・・・ン

悪魔「……待ってろ。
様子見てくる」バシャバシャ

戦士「何の様子か知らんが、気をつ
ぶくぶくぶく……」ゴボボボッ

ロビー


魔物「」

雪女「……こりゃ酷いね~、
メッタ刺しだねぇ」

雪女「たまにオフロに弱った魔物が下りてくることはあるけどぉ、
こんなにヒサンなのは初めて見るよ~」

悪魔「入ってきたのは一番大きな山の方からだけど……」

雪女「山のヌシがいる方だね~。
冬眠もできずに暴れまわってる」

雪女「人間の一団が退治に向かっていったけどぉ……
一緒に殺されちゃったのかな~」ナデナデ

戦士「人間の一団……
勇者かな」

悪魔「さあ……まあ勇者っぽい行動だけども」




戦士「……ところで、その魔物はどうするつもりなんだ?」

雪女「剥製にでもするかな~。
これも縁だしねぇ」ナデナデナデ

戦士「そ、そうか」

翌朝


雪女「また来てねぇ」

悪魔「考えとくよ」

戦士「お世話になりました」


雪女「あ、そうそう。
魔熊山に向かうんでしょ~?」

戦士「え、ああ……まあ」

雪女「気をつけてねぇ。
あすこは山のなかでも、強い魔物が特別多いんだよぉ」

戦士「肝に銘じておくよ」

悪魔「その点は心配いらないんじゃねーかな……」

戦士「?」


雪女「また来てねぇ。
お湯、凍らして待ってるよ~」フリフリ

悪魔「それはやめとけよー」サクサク

魔熊山


戦士「女将さんはああ言ったが……
魔物なんて一匹も出てこないな」ザクザク

悪魔「やっぱ仲間に見えてるんじゃねーの?」サクサク

戦士「ふーん……そんならこの鎧も少しは役に立つな」ザクザク

ザクザク…
         サクサク…



ザ…

戦士「……………………」

悪魔「……………………」



悪魔「……なあ、このニオイって」

戦士「ああ……血のニオイだ。
濃密なほどの」

悪魔「……………………」ウップ

戦士「暴れてるって山のヌシが近くにいるのかもな」

ザクザク…
       サク…サク…

ザクザク…

       サク…



ゴッ

ゴロン

悪魔「ひっ!」

戦士「こ、これは……!」







魔/「」ゴロ…

ザクザクザクザク
        サクサクサクサク

ばっ・・・




/熊「」ブラン…ブラン…



悪魔「あっ……」

戦士「岩壁に磔、いい趣味してやがる……」

悪魔「……………………」

戦士「酷いな……殺すまでに散々苦しめただけじゃない。
殺したあと、さらに死体を弄んだようだ」グズグズ

悪魔「……………………」

戦士「そりゃ被害を受けたなら恨みもあるだろうが……
それでもあんまりだわ、これは……」

悪魔「…………………………」



悪魔「ねえ」

戦士「うん?」



悪魔「これ、やったの……
勇者だって」

戦士「……何だと?」

『酷い…………』

『確かに魔物は人間の敵です。ですが、
何もここまでしなくたって……』

『仕方がないって、本気で言ってるんですか勇者様?
こんな、この……』

『ここまですることが……必然だと?』

『……あなた達は何も思わないんですか!?』

『こんな、惨い……行いが…………』

『……勇者様。
私はあなたを信じていいのでしょうか』

『戦士……戦士ならこんな時、どうするのでしょうか……』

『戦士……教えてください』




悪魔「……ってーー」

ドカッ

悪魔「ひっ」ビクッ

戦士「オレなら、どうする……?
どうするって、そりゃあ……」

パシッ

戦士「……………………あいつ、
虫も殺せなかったのに」

戦士「…………………………」


悪魔「………………………」

ズズ……







               ドサッ

戦士「…………………………」




悪魔「あ、あの……」

戦士「……がない」ボソッ

悪魔「えっ?」

戦士「戦いとは命のやり取りだ」

戦士「たとえ相手がどんなにクソ外道であろうと、
どんなに許せない奴だろうと……」

戦士「刃を交えたなら、命を賭けるだけの覚悟があったはずだ」





戦士「……死力を尽くして戦った相手を、
弄んでいいはずがないんだ」


悪魔「……………………」

戦士「仕方がない。
…………仕方が、ない、だと!?」ギリ…

戦士「臆病が過ぎて、外道に堕ちたか勇者よ!」ガバッ

戦士「許せん! 魔王とのケリがついたら、
いの一番にその腐りきった性根を叩き直す!」





戦士「……後を追おう。
行き先はわかるか?」

悪魔「……………………あ、うん。
次は……」

虹の遺跡


戦士「…………ここなのか」

悪魔「うん……魔王城に行くには、この遺跡の最深部にある
『希望への架け橋』を通るのが最短だし……」

悪魔「僧侶の声も、こっちに続いてる……」

戦士「『希望への架け橋』……か。
魔王城への道に、なぜそんな名前が付いたんだろうな」

虹の遺跡 最深部


ザッ…

戦士「…………思ったよりも早く着いたな」

悪魔「まあ魔物も襲ってこないし」





シャロオオオオオ…


キラキラ…
           キラキラ…

戦士「……キラキラしてるな。
あれが『希望への架け橋』か?」

戦士「……先を急ごう。
奴が魔王に殺されては、何のために旅に出たのかわからん」ザッ

悪魔「……!」ピクン





悪魔「待っ……止まれ!」グイッ

戦士「うおっ!」グラッ





『爆発魔法』


  ガ ガ  ガ
ガ     ガ  ガ
   ガ      ガ ガガガ


悪魔「『凍結魔法』!」バッ

バキィィイイ・・・


ピシ


ガシャァァァアン


パラ…パラ…
        パラ…パラ…



ザッ

ザッザッ
              ザッザッ

宰相「『希望への架け橋』は渡らせん」ザッザッ

宰相「魔王様に仇なす者よ。その罪、万死に値する。
この私が誅殺してくれよう」ザッザッ

ザッ…


宰相「魔王軍ナンバー2、
魔界宰相がな」

戦士「ナンバー2……
ならキサマを倒したら、魔王まではあと一息だな」

宰相「『倒せたら』な。
夢を見る自由ぐらい、罪人にもある」

悪魔「アイツ……口だけじゃない。
とんでもないパワーの魔法だ。気をつけろ」


宰相「フッ……魔法、
だけ、では……」

ヒュ

戦士「消えっ……」

    宰相「ない!」

ドゴッ          ドバッ

                 戦士「うア!」ゴロゴロゴロ

悪魔「アぐっ!」ドザアアーッ



宰相「まずはお前だ! 生意気にも魔王様に似た魔力など!」ビュッ


ビシュッ

戦士「ぐっ! 鞭!?」

宰相「踊れェ!」グイ

シュルルルル

戦士「くっ!?」ギュッ


ビュオ



  バ
    ッ


戦士「ぐっ……!」ミシミシ

宰相「ゆくぞ!」バッ


宰相「トォーーッ!」

ドグシャ

戦士「ゲハッ!」

ピシ…
   パキ…

ドガァァァアアア

戦士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」ドガ ドガ ドガ ゴシャ

ドシャァァアッ


悪魔「てめえ!」バッ

バシ  バキ  ギャルギャル

宰相「くだらん!」ピッ

 ドガガ       ガガガガ
   ガガガガ  ガガ 
       ガガガッ


ヒュ

悪魔「このっ……」

宰相「邪魔だ!」

   ガ     ッ
      ン

悪魔「か……!」

宰相「魔物は寝てろ!」ギャヒッ


悪魔「く、クソ……ッ」ドサ



戦士「ゲホッ……!
ゲホッ……」ガラガラガラ…

ギャン

宰相「ごきげんよう」

戦士「クソッ!」ボッ

ギャリン

宰相「ぬん!」ギシッ・・・


 キ


戦士「ぎゃあああ……っ!」

ガシッ

宰相「起きろ!」ド ボ

戦士「ウゲ……ッ」


ゴロ…

戦士「く、く……
畜生、畜生……!」

宰相「フッフッフッフッ……
フッフッフッ……」

ザッ
    ザッ


宰相「寝るなァ!」


   ゴ

宰相「就寝にはまだ早いーー
むっ?」

ギシ…

戦士「うおおおおおおお……」


戦士「オラァーッ」バッ

宰相「ほう、魔法銃……」

ガチン



戦士「…………な、何」ガチン ガチン

宰相「おやおや、魔力(たま)切れかな?」クックッ

ド  ァ
 ボ

戦士「ぐああああああああああああああ」ゴロゴロゴロゴロ


宰相「フンッ。折った腕が、もう再生しているのには驚いたが……
迂闊だったな」

ザッ…
     ザッ…


宰相「もう逆転のチャンスなどないぞ」ザッザッザッザッ

戦士「かっ……ハッ……」ハアハア

戦士(お、オレは…………
死ぬのか…………)ハア…ハア…

戦士(こんな、こんなところで……
何も、まだ何も出来ちゃいないのに……)ハア…ハア…

ザッ…

宰相「……………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

戦士(オレは…………
オレは!)ハア…ハア…

宰相「終わりだ」ニヤリ




ゾボッ

ベコリ

宰相「?」



ブシャッ

宰相「!? えっ?」ボタボタボタ

宰相「なんっ……
げァ!?」ブシャブシャブシャ


バタタタタッ

宰相「な、なァ?
あ、ああ……」ヨロ…ヨロ…



戦士「オレは……」ザリ…


戦士「こんなところで、終われない……」ギシッ…


ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル…

ドシュッ


宰相「う……
ぐあ~ッ!」ボジュウウウ…

宰相「がッ!」ドザァッ


戦士「……………………」ザ…

宰相「あっ……がッ……」ビクッビクッ

宰相(こ……この魔力……ッ
そ、そんな……!)ビク…ビク…


ザ…

戦士「立て」


宰相(…………………………!)

宰相「そッ……そんなハズはない!」グアッ


 ゴ ン

宰相「ぐええええ……」ブシャブシャブシャ




ギャルルル…
      ド
        ゴ


宰相「げッ!」

ギャルルル…
       バゴッ

ギャルルル…
       ドガッ


ギャルルルルルルルルル…
         
ドガッ
    ドゴッ
 ドガ
     ドゴ
       ドゴ
          ドグシャ


宰相「ぶゲああああああああああああああああッ!」


  ガシャ
      ア

ドコッ
      ドカッ


悪魔「…………ん」パチ


ドカッ
       ドコッ  バキッ

悪魔「…………戦っ」バッ


宰相「ぎゃあああああああああ~ッ!」ザシャアアアア

悪魔「……え!?」


ザシッ…

戦士「……フィニッシュだ」ジャキン

ギャオッ

ゴゴゴゴ

     ゴゴゴゴ・・・


宰相「ひ、ひい……」


ゴゴゴゴゴ

       ゴゴゴ・・・


宰相「ひいいいいいい~ッ!」

ガチ




ギャオォォォォオオオ・・・・

ギャラァァァァァアア・・・・


宰相「闇の……魔力……! まさか……ッ」ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル…


宰相「まっ、魔王……さ……ま」ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル…


宰相「申」ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル…


宰相「し」ギャル







ド グォォオ・・・ン

パラ…
     パラ…




悪魔「あ、あ……」カタカタ



ザ…

悪魔「」ビクッ

戦士「立てるか?」スッ

悪魔「あっ……」


悪魔(…………………………)




ザワザワ『無礼を、お許し下さい……ッ』

『魔……王様……ッ』ザワザワ…



悪魔(…………………………)


戦士「……どうした?
立てないのか?」

悪魔(…………………………ッ)



ガッ

悪魔「……アタシが、こんなんでくたばるかっつうの」ギュッ

戦士「……ハハ、それもそうだな」グイッ




~~~~~~~~~~


戦士「余計な邪魔が入ったが……」

悪魔「……この先が、魔王城」


シャラアアアアアア…

戦士「この先に魔王が…………
そして、勇者がいる」

悪魔「この、先に……ッ」


悪魔「この…………」フルフル




悪魔「……………………」…ギュ




戦士(…………………………
…………………………)

戦士(………………僧侶)

キラキラ…
     キラキラキラ…

戦士「………………行こう!」

悪魔「うん!」


ザ…

     シャオオオオオオオオオ…

擬音の使い方が酷くてわかりにくい

>>156
やっぱ動かさない方がいいのかな
一行にまとめてやってみる

魔王城


ゴオオォォ・・・・ン

ザ…


悪魔「……ここが、魔王城」

戦士「不思議だな……
不気味でおぞましいはずなのに、どこか懐かしいような気がする」

格闘家「待ってたぜ、勇者をつけ狙う魔物さんよ!
この格闘家さまがここで貴様をぶっ潰す!」

戦士「何だと? オレが魔物?」

格闘家「しらばっくれんじゃねえ!
その気持ち悪い鎧と邪気が何よりの証拠だ!」

戦士「また邪気か……
誤解だ、と言っても聞かないんだろうな。どうせ」

格闘家「わかってんじゃねえか! 勇者が間違えるハズがないからな!」

戦士「勇者が……
あの女、何を考えてる?」ボソッ

格闘家「行くぜ!」ドンッ

ガシイィッ


格闘家「ぐ……ふはは!
筋肉が戦慄いておるわ!」ギリ…ギリ…

戦士「……フン!」ギリ…ギリ…


悪魔「どきやがーー」ピキキ…

戦士「待て!」

悪魔「えっ」ピタッ


格闘家「?」ギリ…

戦士「そのまま勇者を追え。
ぶん殴るのは魔王を倒した後でも遅くない」ギリ…

悪魔「……勢い余って勇者まで殺しちゃうかもよ」

戦士「構わん。僧侶がいるならまず大丈夫だ。
……お前も止めはしないだろう?」ギシッ…

格闘家「ぐっ!?
……ああ、いいぜ。情けないことに筋肉はオマエだけでも精一杯のようだからな」ギチ…

タッタッタッタッタッ…



ばっ・・・

格闘家「へへっ」ザザッ

戦士「………………」パンパンッ


格闘家「筋肉が……震えてやがる。
武者震いじゃねえ」カタカタ

格闘家「この筋肉が……怯えてる。あの勇者を怒らせるより、何倍も怖え」ガタガタガタガタ




格闘家「オマエ、何者だ?」

戦士「…………………………」

タッタッタッタッタッ…


悪魔(何なんだ……魔物が一匹残らず死んでやがる)タッタッタッタッ

悪魔(悪しき魔力より、殺戮の気配で気が狂いそうだぜ)タッタッタッタッ


悪魔「あんたは…………
これを見ても目が覚めないのかよ」タッタッタッタッ

タッ…

悪魔「…………魔法使い」


魔法使い「悪魔……」

魔法使い「この扉の先……」

魔法使い「魔王の玉座。そこに勇者がいる」

悪魔「あんたーー」






魔法使い「悪い魔法使い」

悪魔「……」ピクッ

魔法使い「悪魔。魔の力に溺れ、人を外れた獣よ」

魔法使い「外法で徒に命を永らえるのみでは飽きたらず、
殺戮による命の冒涜を求めるか」

悪魔「どの口が……
言ってんだ……!」




魔法使い「憎しみに動かされてここまで来たようだが……
勇者をお前などに殺らせはしないぞ」ゴオオオオ…

悪魔「テメエ次第でアタシはいくらでも止まるさ。
止め方を忘れてんのはテメエだろうが!」ピキピキ パキパキピキ

『魔法熱線』ビシュン

『魔法雪隠れ』ビョオッ


ドジュゥ


ビョオオオオオ…


ビシュ   ビシュ

ドシュ バシュン




ザッ

悪魔「取った! おらあっ!」バッ

『魔雷壁』

悪魔「ぁぐっ!?」バチッ


魔法使い「……うーむ」ピッ

『魔法石刃』ズドドドドッ

悪魔「くっ! このっ……」バッ


ガシッ

悪魔「あっ!」

グイッ

ド ガッ

悪魔「てめえ!」

魔法使い「気安く私に近づくな。
私は上、お前は下だ。」ゴロゴロ…ゴロ…


『魔雷爆』

ガガアーーッ

ドシャアアァッ


悪魔「あっ……が……!」バチバチ…バチ…

魔法使い「……うーん。
やはり魔の物。魔法攻撃は効きが悪いな」

魔法使い「やはり直接ーー」ヒラリ


スタッ

魔法使い「ーー首を切り落とす方がいい」スッ

悪魔「あっ…………ハァ……」バチチ…バチ…




ヒタ…

魔法使い「……さて、何か言い残すことはないか」

悪魔(……………………
……………………)

ーー死ぬな! 頼む……

悪魔(……………………)


ーー生きてくれ! おれには……お前だけが……

悪魔(…………………………)



ーー魔物でも何でもいい! 一緒に……


悪魔(…………………………
…………………………)

魔法使い「ないのか?
ならば……」

ツ…




ガシッ

魔法使い「ぐっ!?」ギリギリ…ギリッ…


魔法使い「ま、まだ動け……
は、離せ!」ギリッ…

悪魔「……なあ、あんた」

悪魔「アタシの……得意な魔法。
覚えてる?」ギリ…

魔法使い「な、何を……っ!
氷だろう? 氷の魔法が……」ギシッ




チャプ…

ゴバッ・・・





魔法使い「は…………」

悪魔「……水だよ。
水の魔法」

…ブラン


魔法使い「あっ……は、
はギャアアアアアアアアアアア!?」


ドタァーッ

魔法使い「手っ……手があ!
私の手があああああああ!」ブランブラン

ブチッ



悪魔「……………………」ムク…

魔法使い「手が! 手がぁ~!」

魔法使い「手! 手が……」


ザッ

魔法使い「はっ!」








悪魔「…………………………
…………………………」チャプ…

悪魔「えっと…………
何だっけ」ピト

魔法使い「ひっ!」ビクッ


悪魔「そうそう! 首を切り落とすんだった」ツツー…

魔法使い「や、やめ……」バッ






ヒュン

ざくん


魔法使い「うぎゃあああああああああああああああ」ドシャア

悪魔「ちょっと! 動かないでよ。
うまく切れないじゃない……」




ピト

魔法使い「ゆ、勇者……
たす、助け」

悪魔「さようなら……」チャプン


























ごとん

魔/「」ゴロ…



悪魔「」ヘタ…

悪魔「…………………………
…………………………」







グイッ

悪魔「………………大好き」ギュ…

格闘家「ォオラァ!」ドゴッ


ギギギギ…

戦士「このっ…………
邪魔だ!」バグッ

格闘家「かっ……」ビリ…

格闘家「ハ…………」グルン

ドサリ




戦士「……フン」ザッ…

格闘家「まだまだァ!」ガッ

シャァー・・・ッ




戦士「キサマ……!」ガバッ


ツカツカツカ

戦士「寝てろ!」バゴッ

格闘家「うゲッ……」ドゴン



格闘家「ガハ……」ガクン

戦士「今度こそ……」




ガシッ

戦士「……しつこいぞ」

格闘家「へへへ……
筋肉はピンチの時ほど、力強く燃えるんだよ」ガクガク

戦士「なぜ、そうまでして食い下がる。
勇者様の命令がそんなにも大事か」

格闘家「エヘヘ……魔物にはわかんねえさ。
勇者とは心で繋がってる。魂の仲間だ」


格闘家「一目でズキュンときたのさ。
眼を見りゃわかる」

戦士「……………………」

格闘家「……テメエなんぞにはやらせねえぞ!
魔物野郎!」ガバッ

ガチン


バギュッ

格闘家「ぐあァ!」ドザァッ

戦士「……足を撃ち抜いた。
もう追ってくるな」クルッ


ザッザッ…

格闘家「ま、待て……畜生……!」ズル…

    ...
戦士「閉じろ。一切の通行を許すな」ザッ…ザッ…


ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

格闘家「ち、ちく……しょう…………!」

バタァーーーン


格闘家「チキショオオオオオオオ!
勇者あああああああああああ!」






戦士「……………………」ザッザッ

戦士「……………………」ザッザッ


戦士「……………………?」ザ…

戦士「うぐぐ……
イライラしすぎて頭がガンガンする」

戦士「もう諦めたのかな……?
先を急ぐか」


戦士「早く追いつかないと」ザッ

戦士「酷いな……
ヒトの城を…………」タッタッ

戦士「……って、何を言ってるんだオレは」タッタッ




戦士「…………ん」タッ

/法使い「」

戦士「…………………………」


チラ…

悪魔「…………………………」

魔/「」ギュゥ…





戦士「……………………ふむ」

タン タン タン…

戦士「……この先か?」

悪魔「……………………」コクン


戦士「……行けるか?」

フルフル

戦士「そうか……」



戦士「まあいい。お前の分まで殴ってくるとしよう」

悪魔(……………………………………)

戦士「……さてと」


グッ…グッ…


戦士「…………………………」




戦士「……ただいま」

ギ、ギギーーーィ・・・





勇者「おかえり」

バァーン・・・





悪魔(……………………)



悪魔(………………………………)




悪魔(………………………………
…………………………………)

悪魔「あっ」

ゴロ…

悪魔(……………………)

魔/「」


悪魔(…………………………
……………………っ)





タッ

戦士「おかえり……?
どういう意味だ?」

勇者「君に言ったんじゃあない。
鎧に言ったんだよ。よく戻ってきたね」

戦士「……………………?」


戦士「どういう事だ……? それに、そこは玉座だろ?
なぜお前が……」

戦士「……………………
…………………………」




戦士「……どういう事だ。説明しろ。
そもそもお前の行動には謎が多かった」

勇者「……………………」クスクス

勇者「答える義務などない……と、言いたいところだけど……
誰にも話せない秘密だったからね。いいよ、説明してあげる」

勇者「歓迎しよう戦士。
魔界を統べる、この私こそがーー」




勇者「ーー魔王だ」

戦士「何だと?」

 むかしむかし、あるところにたいそう気立てのよい娘がいました。
 娘は村の青年を愛しており、青年もまた娘を愛していました。
 しかし、娘を愛しているのは青年だけではありませんでした。

 わがままな王子は、娘に一目惚れしていました。なんとか娘を手に入れようと、あの手この手で愛を囁きます。

 けれども娘は首を縦に振りません。

「お金も宝石も、ドレスもお城もいりません。
わたしが欲しいのは、あの人の愛だけ」


 王子は怒りくるいました。
そして、青年を邪魔に思った王子は、お抱えの魔術師に命じて鎧を作らせました。

 人間を恐ろしい魔物に変えてしまう、『人魔の鎧』です。

 王子の命令により鎧をつけた青年は、たちまち恐ろしい魔物に姿を変えてしまいました。
「こんな体になってしまっては生きていけない。
あの娘も幸せにしてやれないだろう」


 青年は嘆き悲しみ、いっそ死んでしまおうと、森の泉に身を投げました。
しかし、青年は死ぬことはありませんでした。魔物の体は死ぬこともできないのです。

 切り株に腰かけて、これからどうしようと途方に暮れていると、娘が駆け寄ってきて青年を抱き締め言いました。

「おお、かわいそうな人。
わたしが余計なことを言ったばかりに、こんな恐ろしい姿に変えられてしまうなんて」

「離れてくれ。おれはもう人間ではないのだ。
この体では、きっときみを傷つけてしまう」


 ふたりは悲しみ、別れのキスをしました。
すると、たちまち青年は元通り。

 愛の力が呪縛を断ち切ったのです。

「しかし困った。人間に戻れても、この国に居場所はない。
おれは王子を怒らせたのだ」

「あら、それなら居場所を探せばいいのだわ。
大丈夫よ、あなたとならどこだって楽園になる」


 ふたりは旅立ちました。
ふたりの行方は、だれも知りません。

めでたし、めでたし。

勇者「……ではないのです。
この話には、続きがある」

勇者「ラストは脚色してあるしね。
まあ、お伽噺だから仕方がない」

戦士「……脚色? ただのお伽噺だろう?」

勇者「違うんだよ。これは事実をもとにした話だ」

勇者「違う! たかがキスで呪いが解けるはずもないし、
魔物の近くにいる人間が幸せに天寿を全うできるか?」

勇者「違う! 母は魔物の放つ瘴気に耐えきれず倒れたし、父は人にも魔物にもなりきれず惨めな最期を迎えたのだ!」

勇者「……そうだ。人魔の鎧に呪われた青年は、旅立った後にこう呼ばれることになる。
『魔王』と」




勇者「私の父だ」

戦士「…………………………」

勇者「魔物と人間の子供なんだよ。私は」

勇者「魔物の不死性と人間の脆さを合わせた結果、どちらともとれない中途半端な存在……」

勇者「生まれた家に充満している魔力、魔物としての強さにヒトの部分が耐えきれずに悲鳴をあげている」

勇者「しかし魔物の力も十分にあり、人のそばで暮らすには強すぎる。
ほら、村ではしょっちゅうびくびくしていたろ?」

勇者「けっこう大変なんだぜ。吹けば飛ぶようなカス共に合わせて生活するのはな!」

勇者「それでも人間と共に生活していた。なぜだ?」

勇者「父の亡き後ーーああいや、私が殺したんだっけ。まあいいや」

勇者「亡き後、私は魔界の支配者となった。まがりなりにも魔王の魔力を受け継いでるんだ」

勇者「逆らえる奴など、いるはずがない。なあ?」

勇者「それまでは魔物達が襲われた時のみ、反撃するようにしていた」

勇者「だが私は違うぞ。人間共もまるっと支配するために、魔界総出で侵攻を開始した」

勇者「だがどうも攻めあぐねてなあ。武力だけで人間を叩くのは限界があるらしい」

勇者「で、人間を裏から支配することにした」

勇者「格闘家とはやり合ったろ?
会ってるかはともかく、魔法使いも同じだが」

戦士「…………………………」

勇者「おかしいと思わないかぁ? 何でああも私を信じられる?
隠しているとはいえ、半分魔物。瘴気ばんばん垂れ流しだぜ?」パタパタ


勇者「……魔力のわりに魔法はろくに使えないが、母から教わった魔法がひとつだけある」

勇者「お伽噺のバカ王子さ。いくらバカとはいえ、単なる村娘に貢ぐか?
城とか宝石とか!」パタパタ

勇者「そう! 魅了の魔法さ。
とびっきりの。洗脳できるほどのな」


勇者「お伽噺のバカ王子のように人間の王も操って、支配者を従えて両陣のトップに立つ」

勇者「……つもりだったが、どうも人間の王は臆病なようでな。まともに会うのは難しい」

勇者「そこで魔王討伐さ! さんざん苦しめられた、魔王を討った英雄だ。
魔王が倒れた油断も手伝って、臆病もちっとは引っ込むだろ?」パン

勇者「で、問題は倒される魔王役を誰がやるかだがーー」




勇者「なあ! その鎧、どこで拾った?
森か? 森だろ! 村の近くの」

勇者「そうさぁ! その鎧!
私がわざわざ用意したんだぜ! カンオケから引っ張り出して!
お前の通る道に、魅了の魔法をかけてセッティングして!」

勇者「その鎧こそが『人魔の鎧』。
お前は知らずに、お伽噺の一端を体験させられてたんだよ」

勇者「ショックか? ショックだろ? ショックだと言え!
晴れてお前は私と同じバケモンになったんだ」

戦士「……うすうす勘づいてはいたよ」

勇者「なぁんだ、つまらん!
でさ、とりあえずの筋書きはこうなんだ」


勇者「魔王となったお前をブッ殺して、私が英雄となる。
そして王に近づき、洗脳して何とかカンとか言って他の王にも会う!」

勇者「人間を支配下に置いたら……
そだな、魔物との雑種でもつくって楽しむかぁ! 私だって仲間は欲しいしね」

勇者「どう? どう?
ワクワクするでしょ」パチパチ

勇者「ふぅ……
ちょっと待っててね!」ピョン

勇者「椅子の裏に飲み物を隠してあるんだぁ」ゴソゴソ

グイッ

勇者「あー……」ガブッ


ヂュ…ズヂュ……ヂュッ…ジュ……




勇者「……ぷはー! いや秘密を喋ると喉が渇くねー!」


戦士「…………………………
…………………………」

勇者「ン! どうしたの?
喋っていいよ?」

戦士「…………言いたいことは、それだけか」

勇者「? うん、そうだよ!
お話はこれでおしまい! じゃあ始めようか!」パン


戦士「……そうか。
オレの目的は変わらない。人間だろうがバケモノだろうがな」

戦士「殺すついでにぶん殴ってやる!」グオッ







勇者「ぉおーっと! ゴメン忘れてたぁ!」スック

戦士「……………………」

勇者「お客サマには、お飲み物をお出ししないと~♪」ゴソゴソ


ズルッ

戦士(……………………!?)

勇者「はーい……」



勇者「パース!」ブゥン

戦士(!? ?
……! !? !?)

戦士「…………え?」


ガシャアァッ

勇者「ナイス、キャ~~~~~ッチ!」パチパチパチパチ

戦士「…………えっ?」

グラ…

戦士「そんな、そんな……
そんな……」

戦士「やだやだやだ!
嫌だあああああああああああああ!」




僧侶「」ダラン





戦士「うわぁーっ!」ビリ…ビリ…

戦士「あぁーっ!」ビキ バキ

勇者「何だよ! こっちは勘づかなかったの?」

戦士「あっ……が……
ああーっ!」バシバシバシバシ


勇者「私に付いてきて、ここに来るまでいなかったんだから。
勘づいてもいいと思うんだけどねぇ」

勇者「それとも現実から目を逸らしてたのかな?
だったらこれで解決! だね!」

僧侶「」バラ…バラ…

戦士「ぐあぁーっ!」バシバシバシ…

勇者「実はさ、まだ完成してないんだ」

勇者「言ったろ? 私の父は、完全な魔物になれなかった」

戦士「あっ……あっ……」
僧侶「」ズプ…ズプ…


勇者「人間を完全な魔物にするためには、もうふた押し欲しいんだよね」

戦「あ……ぐあ……」ズプ…
侶「」ズプ…


勇者「……苦しんで死んだ人間の死体」

戦僧「……………………!」トプン





勇者「チェック、メイト!」

勇者「苦労したよ~!? 死ぬ直前に苦しめるだけじゃない!」

勇者「生前から、とにかくストレス与えなきゃいけないからさ!
熊を練習台にしたり! 死なない程度に瘴気当てたり! 魅了の魔法を必要最低限に留めたり!」

勇者「楽しかったぁ! 苦労した分、
いい声で鳴いてくれたからね!」

勇者「防音に困っちゃうぐらいだったよ!
アッハハハハ!」




戦士「…………」ボソ

勇者「う~ん?」

僧士「……なぜ、だ」

勇者「なぜって、そりゃあ……
もっかい説明する?」


戦侶「なぜ、オレ達だったんだ……?」

勇者「ああ、そっちね。
うーーーーーーーーーーん……」






勇者「近かったからかな……
君達の生まれ故郷が……」

勇者「魔王城から……
ヨロイ運ぶとき楽だしさ」

戦士「……ふざけるな」ピキ…

勇者「極めて真剣」

ピキ…パキ…

勇者(最後のひと押し)

パキッ…ピキ…

勇者(死者の怨念、生者の憎悪。
そのふたつが交われば、ヒトは容易く外道に堕ちる)

ピシ




勇者「……完成」

パキイイィィン

魔人「…………………………」








魔人「…………………………」キョロ

魔人「……………………」

勇者「いい姿だね。私よりもカンペキなバケモノだ。
美しいよ」カツンカツンカツン



魔人「……これが、やりたかったのか」

勇者「あぁ?」ピタッ

魔人「…………これが、僧侶を殺してまでやりたかったことなのか?」

勇者「……なぁんだ。まだ理性を保ってるのか」カツンカツンカツン…


ピタッ

勇者「前言撤回、美しくない」

魔人「……こんなことの、ために」

バキッ


勇者「フフ」ズブ…

魔人「…………」ガフッ

ズズ…

ズバッ

勇者「アハハハ! 鎧は役目を果たし、溶けて消えた!」ピッ

勇者「君は今、丸裸も同然なんだよ!」


魔人「…………」ビチャビチャビチャ

ブンッ


勇者「あはは。遅い遅い」

ズプ


ズバッ

魔人「………………」ブシャッ

ボタボタボタボタッ……


フー…フー…

魔人「………………」キッ



勇者「…………うーん」ツツ…

勇者「真面目にやってよ。
そんなんじゃあ、全然楽しめないね」ブラブラ

魔神「……楽しませるために、戦うわけではない」ダラダラ

勇者「つーまらん。
そうだ、それっぽい台詞を吐けば本気出してくれる?」パシッ




勇者「よくも僧侶を殺したな」

ピキッ…

勇者「みんなを、人々を苦しめた諸悪の根源。友の情を忘れ、破壊に囚われた怪物め」

ピシ  パシ

勇者「魔王。この勇者が、みんなの魂とプライドを背負ってーー」

ピシ  パキパキ


勇者「お前を倒す。
死んでいった僧侶のためにも」





ブチン

魔神「…………………………」


勇者「……うーん。見た目はそんなに変わってない」パシッ

勇者「ちょっと切り傷つけてみるか」ヒュッ



ズボッ

勇者「おっ……」

グチュ

勇者「がっ!?」グチュグチュ


ボヒッ


勇者「あっ……四本腕」

魔神「……………………」メキ…メキ…



勇者「いいね……美しい、ね……」フラッ

ザバッ


魔神「!
…………!?」シュルルル…

ドシャアッ


勇者「えっ……」ガクッ

ザザザザ…


バシャァーン

勇者「ぐっ!?」ドガッ

ズル…

魔神「ガァ! グルルル……
ガアァ!」バシャバシャ


ツカツカ

悪魔「寝てろ!」ドカッ

魔神「グッ!?」ビクン





悪魔「さーて……」サアアァ…

勇者「ああ……
きみは」

悪魔「…………」ザザザ…

勇者「そっか。
……てことはアイツ、しくじったな」


ザザ

勇者「ったく。最後まで役立たずーー」

ズパッ

ゴトン







悪魔「………………」

悪魔「……締まらねえ幕切れだな」

~~~~~~~


魔人「…………ん」パチ

悪魔「おら、寝ろって」ドッカ

魔人「ぐ」ムギュ


悪魔「おらおら。寝ろ寝ろ」グイグイ

魔人「重……くはないよウン。わあ軽いなー羽根のように軽いなー」

悪魔「今お前の呪いをあたしと同じタイプに書き換えてるんだよ。
大人しくしねえとくっつくぞ」グイグイ

魔戦「……今まさにくっつきそうなことをしてる気が」

悪魔「ほざけ! で、魔物になるのに抵抗はないのか?」

魔戦「……どうせ拒めるものでもないだろうに」

悪魔「いや~今なら殺せるぞ?
中途半端で留めてるし、死ぬなら今がチャンスだね」

魔戦「……死んでほしいのか?」

悪魔「さあな~」グイグイ






悪魔「で、どっちにする? そろそろ仕上げたいんだけど」

魔戦「うん……」

『……我々は、魔王城の門に辿り着いた。そこで追跡は断念した』

『そこには廃人となった格闘家らしき男がくずおれていた。
しきりに「筋肉」「筋肉」とうわ言を……』

『門は固く閉ざされており、いかなる手段を持ってしても開く方法はないと思われ……』


『調査報告書・騎士』

魔王城


悪魔「にしても、お前けっこう……
何つーか、カワイクなっちまって」クスクス

魔戦士「うん? そう変わった気はしないが……」ガシャ

悪魔「いやいや。背は縮んだし、体格も……
まるで女の子みてーになっちまって」

魔戦士「えっ……
いや鎧をつける前は、だいたいこんなだったけど」ガシャガシャ






悪魔「はっ?」

悪魔「そりゃねえだろ!
ほら! あたしと頭いっこぶん!」


悪魔「こんだけしか違いねえんだぞ!
女の子かよ!」

魔戦士「女の子だよ!」


悪魔「えっ」

魔戦士「えっ」

魔戦士「いててててて。
なに? 何?」ギリギリギリ…

悪魔「うるせえ!
あたしの乙女心を返しやがれ!」ギリギリギリ…


魔戦士「あー……えっと、
何て言うか……」





魔戦士「あの、アレだ。
オレは女もいけるから」

悪魔「まあ! それなら安心ね」

悪魔「んなワケあるか!」


ドカドカドカッ

魔戦士「ぎゃあーっ!」

おしまい!
書き溜めの良さがわかった!



読んでくれた人ありがとう! お疲れ様!
なるべく早く忘れてくれ!

後ないと思うけど、まとめないで欲しい!
静かに埋もれさせて欲しい!


次はちゃんと書き溜めるからゆるして!

おつおつ


擬音がわかりづらかったけど、まぁ面白かった

よく分からん擬音は想像を働かせるのじゃ……
バルバルバルバルとかよりはまだ分かりやすい

なかなか面白かったよ、おつおつ

最後の勇者と選手の戦闘が分かりにくすぎたのが残念だけど楽しめた

選手?

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