三船美優「写真の向こうの想い」 (28)

◇ 夜 三船美優宅 ◇


和久井留美「なんだかんだ言って、宅飲みが一番落ち着くわね」

服部瞳子「安上がりで静かだものね」

三船美優「ワカモレ持ってきましたー。トマトとハラペーニョたっぷりですよ」

瞳子「ん、思っていたより器が大きいわね、もう少しスペース開けるから少し待って頂戴」

留美「さっきからゴリゴリと鳴っていたのはこれの音、なるほど。あ、瞳子さんそこの空き瓶貰うわ」

瞳子「ありがとう。はい、美優さんどうぞ」

美優「失礼します」コトッ

留美「彩り豊かね。そうだ、食べる前に写真いいかしら?」

美優「はい、そんなに手の込んだ物ではありませんが……」

瞳子「ほら、美優さん、作り手なんだから写らないと」

美優「ええっ!は、はいっ」

留美「撮るわよ、笑って。3,、2、1」パシャ

瞳子「あら、よく撮れてる」

留美「これはシェアしないといけないわね」

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※ CAUTION ※

このSSは

・アイドルとPの恋愛
・アイドルとPの過去
・アイドルとP以外の登場人物
・ファンへの不義、独善的ハッピーエンド

等の要素が含まれる二次創作です。これらを不快に思う方には不向きですのでご理解ください。

るーみん:[画像]

るーみん:美優さんお手製 トマトとハラペーニョたっぷりのワカモレ。\3,980-

しゅがは:高いな☆買った!

サナエさん:ビールに合いそう!

はかたがき:ワカモレを我が物へー

瑞樹:55点。楓ちゃんはもつ鍋があるでしょ。

はかたがき:今は滅多に無い明太を頂いてます♪

志乃ワイン:白 甘口 リースリング 無ければ軽めの赤



留美「……白ワインが合うみたい、まだ残ってる?」

美優「冷蔵庫見てきますね」

瞳子「私が行くわ、美優さんは座ってて」

美優「ありがとうございます」

ピロン♪ピロン♪

留美「あら、ワカモレの予約が入ったわよ」

美優「予約……ですか? あっ、なるほど、麻理菜さんにレナさんですか。“わかりました。準備しておきます”っと。……それはそうと、お値段高くありませんか?」

留美「アイドルの手作りだもの、安いくらいよ」

美優「そういうものでしょうか……」

瞳子「有ったわよ、ドイツワインの白。志乃さんの言ってるリースリングってこれで良いのよね」

留美「ごめんなさい、ちょっと判らないわ」

美優「私も……」フルフル

瞳子「そこまで拘ってるわけでも無いし大丈夫でしょう」

瞳子「流石志乃さんね、良く合う」

留美「ええ。ワカモレも美味しくて手が止まらないわ。腕を上げたわね、美優さん」

美優「そんな、レシピ通りに作っただけですから」

TV『ドラマ、ハタチを越えてツモる恋。水曜夜10時から』

瞳子「あー、先週修羅場だったけど、どうなるのかしらね“ハツ恋”。キャストならこの先を知ってるんでしょうけど」チラッ

留美「峰美冬の父親が財閥の社長だとか、2話で既に伏線が張られてたとか言う噂を耳にしたわ、本当なのかしら?」チラッ

美優「あの、毎回言ってますが、先は口外禁止なんです」

瞳子「冗談よ。知ったら楽しみが減っちゃうもの」

美優「……助かります」

留美「初恋の三角関係がその10年後にバッタリ再会なんてあるかしら? ドラマとは言え、都合が良すぎると思うわ」

瞳子「そこ否定したら終わりじゃない。それに、初恋の三角関係が確定した訳ではないでしょ?」

留美「どう言うこと? もしそこが間違っていたら、それこそ前提がおかしくなるわよ」

瞳子「所謂、叙述トリックに似たやつよ。視聴者の思い込みを利用した、ね」

美優「私、ちょっとお手洗いに……」

美優(先を知っている手前、どちらの味方も出来ないし……どうしたらいいのかしら)

美優「戻りました」

留美「おかえりなさい」

瞳子「おかえりなさい。――――初恋なんて普通、克明に覚えてるものじゃないわよ」

留美「そう言うものかしら……というか、そもそも恋の定義とは一体何なのかしら?」

瞳子「え、留美さん……」

美優(話題がズレてるみたいだし……出来ればこのまま……)

留美「仮に結婚がゴールだとすると恋はスタートライン? つまり私たち位の年になるとスタートラインは将来設計や収入、ライフスタイルの擦り合わせ、それを恋と呼ぶのは……」

瞳子「留美さんのそう言う頭でっかちなところが、アレなんじゃないかしら」

留美「何よ、アレって?」

美優「……あ、チャームポイントですか?」

瞳子「そう。論理的に物事を組み立てられるのは良いところよ」

留美「誤魔化したわね?」

瞳子「ふふっ、まさか」

瞳子「私が思うに、初恋ってきっとロジックじゃないのよ。もっと淡く刹那く、甘酸っぱい青春の幻想。例えば下駄箱への差出人の無いラヴレターとか、約束もなくひたすらに待ち続ける帰り道とか」

留美「どうしてこういう話になると瞳子さんはすぐに失恋の方向へ持っていくのかしら?」

瞳子「初恋は実らないものよ、そうして人は自分を知るんだから。留美さんも経験有るでしょう?」

留美「私は、生まれてこのかた仕事が恋人だから……」

瞳子「転職した貴女が言うと、初恋は実らないという説の後押しにならないかしら?」

留美「それはそれ、これはこれよ!」

美優「私は……」

留美瞳子「……?」

美優「……初恋って、もっと単純なものだと私は思います」
  「その人ともっと一緒に居たいとか、その人の事をもっと知りたいとか、その人にもっと自分を見て欲しいとか」
  「その人にだけ、その人へだからこそ抱く自分でも気付かないくらい些細な感情の変化」

  「後になってからそれに気付いてはじめて、恋と――――初恋と言うんだと思います」


瞳子「なるほど、素敵な考えね」

留美「そんな美優さんの初恋、是非とも聞かせてくれないかしら?」

美優「え、ええっと、これは逃れられない雰囲気ですね……」

留美「聞かせてくれるまで帰らないわよ」

瞳子「おなじく♪」

美優「…………分かりました。 ……あれは、確か中学生の頃だったと思います――――。



 親の都合で引っ越しの多かった私は、内向的な性格も相まって友達と呼べる人が多くありませんでした。

 それが異性になると殊更で、クラスメイトの中でさえ、言葉を交わしたことのある男の子はほとんどいませんでした。

 ところがある日、私が犬を飼っていることを何処からか知った男の子が私に声を掛けてくれたんです。

「犬飼ってるんだって? 俺も犬を飼ってるんだ、今度見せてよ」と。

 あまりに突然だったので、とても驚いたのを今でも覚えています。

 声を掛けてくれたその子はクラスの中でも一際活発で、いつも輪の中心にいるような、そんな子でした。

 それからも度々あちらから話しかけてきてくれて、それがきっかけで他のクラスメイトと言葉を交わすことも少し増えていきました。

 最初に話した、犬を見せるという約束を果たせないまましばらく経ったある日、飼い犬――あの子と散歩をしていたら偶然にも彼と出会ったんです。

 書店に行く。と言った彼に、私は散歩のルートが同じだからと嘘を言い、着いていく事にしました。

 書店に着いた後も、あの子を軒先に繋げてそのままお店の中へ入りました。……そこで何を話したりしたのかは今はもう朧げです。

 お店を出ると、あの子が軒先から姿を消していて、暗くなるまで町中探し回りましたが見つからず、沈んだ気持ちで家に帰るとあの子はとっくに家に帰っていたんです。

 安心すると同時に、一緒になって探してくれた彼にとても申し訳なくなりました。彼は笑って許してくれましたが、当時の私はただただ謝る事しか出来ませんでした。

 それが私の初恋に当たる記憶です。




瞳子「初デートは書店ね」

留美「その後はどうなったの?」

美優「引っ越しすることになって、それ以来連絡も取っていません」

瞳子「……初恋は淡くはかない。そういうものよね」

留美「…………。その子の写真はないの? 美優さんの事だから卒業アルバムとか手元に有るんでしょ?」

美優「三年生の頃は別の学校に居たので、その学校の卒業アルバムは持ってないんです……すみません」

留美「いいのよ。ただちょっと残念ね、美優さんの初恋の相手がどんな人か見たかったわ」

美優「あ、そうだ…………代わりになるかは分かりませんが、これが有りました」ゴソゴソ

瞳子「これは、寄せ書き?」

美優「はい。私が転校する時にお別れ会を開いてくれて、その時に頂いた物です」

留美「それで、件の彼の名前は?」

美優「それが……その……すみません」

留美「覚えてないの? 初恋の相手なのに?」

瞳子「初恋なんてそんなものよ。遠い青春の一頁、その微かな輝きが人生を彩るの……」

留美「…………。この中だとそれっぽいのは……あら、この苗字。まさか、美優さん初恋の相手って凄く身近に居たりする? アイドルのプロデューサーやってたり」

美優「違うと、思います。……仮に、もしそうだったら会った時に気が付くはずです……きっと」

留美「それこそ、“ハツ恋”の主人公たちみたいに?」

瞳子「分からないわよ。時が経てば人は変わるし、記憶とは美化されるもの」

留美「だとしたら、面白いわね」

美優「面白いというか……困ってしまいます」

瞳子「困ることなんて無いじゃない。初恋と今恋が繋がるロマンス、素敵だと思うわ」

美優「今恋だなんて、そんな……///」



留美「さて、随分話し込んじゃったけれど、いい時間だし今日はこの辺りでお開きにしましょう。美優さんは写真が見つかったりしたら教えて頂戴」

美優「わ、分かりました」

◇ 数週間後 三船美優宅 ◇


留美「写真、有ったんでしょ?」

瞳子「よく見付かったわね、探すの大変だったんじゃない?」

美優「先日、企画で使う昔の写真を実家で探したのですが、その時に偶然見つけて……」

留美「早速見せて頂戴」

美優「はい。これがその写真です」

瞳子「ああ、前に言っていたお別れ会の時に撮ったものね」

留美「中学生の美優さん可愛いわね」

瞳子「本当、想像通りの愛らしい女学生ね」

美優「……///」

瞳子「それで、この真ん中の主役を食うくらいに目立っている男の子が、美優さんの初恋のお相手かしら」

美優「はい……そう、です……」


留美「……うーん、完全に別人ね、人は変わるとは言っても面影くらいはあるはずよ」

瞳子「そうね、流石にこの子は無理があるわね」

美優「はい。母に聞いてみたら彼の名前は山田くんと言うらしいです」

瞳子「単なる偶然、ね」

留美「美優さんの初恋の相手が意外なタイプで、十分面白かったわ」

美優「あの、これも偶然だと思うんですが……この写真、どうやら郵便で送られたみたいで、その時の封筒も残ってるんです」

留美瞳子「……?」

美優「これなんですが……その、差出人が」

留美「え、下の名前までPくんと同じなの?」

瞳子「苗字も名前も割と珍しい部類よね、同い年だって言っていたし、ただの偶然にしては……」

留美「この写真に居るんじゃないかしら」

瞳子「ええ、探しましょう」

留美「この子は多少雰囲気あるけど、どう考えても違うわよね」

美優「……はい。本当に単なる偶然だと思います」

瞳子「……じゃあ、この中の誰が同姓同名くんなのかしらね」

留美「やっぱり似ているこの子とか……寄せ書きの内容から推理してみない?」

瞳子「あ、それ面白そうね」

美優「あの、クラスメイトであまり遊ばないでください……」


◇数分後◇

留美「二人とも、大変な事実が判明したわ」

美優「え、何でしょうか」

留美「瞳子さん、寄せ書きの人数は?」

瞳子「34人だけど……それがどうかしたの?」

留美「この写真に写っているのも34人。おかしくないかしら?」

美優「えぇと……?」

瞳子「……!そっか、写真は美優さんを含めて34人、寄せ書きは美優さんを含めないで34人分。つまり」

留美「そう、1人写真に写ってないのよ。おそらく……その人物はカメラマン」

瞳子「なるほどね。その人物はカメラの持ち主であり、写真を現像し送ってきた者と同一人物であってもおかしくない……むしろそちらの方が自然ね」

美優「幾らなんでもこじつけではないでしょうか……」

留美「分からないわよ、事実は小説より奇なり。とも言うでしょ?」

瞳子「これは、次の飲み会が楽しみね……」

◇ 数日後 居酒屋“雷電” ◇


P「こうして四人で呑むのも久しぶりですね」

美優「そ、そうですね……」ソワソワ

留美「でもまさかこんな早くに実現するとは思わなかったわ」

P「今日を逃すと全員の都合が付くのは大分先になっちゃうんで、タイミングが丁度良かったのかもしれません」

瞳子「そうね、都合のいい偶然ね♪」

P「なんだか、瞳子さんいつにも増してご機嫌ですね。良いことでも有りました?」

瞳子「有ったと言うより、これから有るのよ」

P「これから、です?」

瞳子「ええ。ね、留美さん」

留美「そうね。そろそろ頃合いね。美優さん、いいかしら」

美優「は、はいっ。私は……いつでも……」

P「?」

留美「Pさん、中学校はどちらへ通ってたのかしら?」

P「中学ですか? 中学は地元の……えーっと」チラッ

美優「……」

P「って、名前言っても分かりませんよね。普通の公立のですよ。でも、どうして突然中学の事なんか」

留美「この間、美優さんの中学生時代の話になってね。当時の写真を探したのよ。そしたら或るものを見付けてね」

瞳子「……これよ」

P「封筒、ですか?」

留美「美優さんの中学生時代の写真が入ってたものなんだけど、その送り主がなんと……」

P「俺の名前…………あ、これって……!」

留美「その反応、これを知ってるという事でいいのかしら?」

P「あっ、えーっと……」

瞳子「この写真、送り主は貴方で間違いないの?」

P「それは………そのー…………」

P「……間違いありません。これは俺が出した物です」

留美「ほら!」

瞳子「凄い偶然、いえ、ここまでくると運命というべきかしら?」

美優「!」

留美「……じゃあ、Pさんは美優さんが同級生だって知っていたの?」

P「ええ、まあ……」

瞳子「それはスカウトした時点で?」

P「いえ、声を掛けた時は分かりませんでした。似てるな、とは思いましたけど」

留美「いつ気付いたの?」

P「話を聞くにつれ本人だと疑い初めて、名前を聞いた時に確信に変わりました」

美優「……あの……どうして……ずっと……その…………」

留美「……どうしてそれを黙っていたの?」

P「その、三船さんが気付いてなかったようで、言う機会もなく……」

P「――――いえ、怖かったんです。覚えてない、知らないと言われる事が」

美優「…………」ウツムキ

留美「……。教えてくれないかしら、貴方と美優さんのこと」

瞳子「美優さんも何か思い出すかもしれないし、ね?」

P「分かりました」



 美優さんに関して、俺が1番最初に覚えてる記憶は、花壇です。

 当時、俺は緑化委員だったんです。ミミズが触れるとかって理由で選ばれた記憶があります。

 委員会の仕事でクラスの花壇を作る事になって、やってる内に夢中になってしまい親が育ててた花を勝手に持ってきてかなり凝ったものを作ってたんですよ。

 教師からは誉められましたが、あまり目立たない場所にあるせいでクラスメイトからのいい反応は無かった、はずです。

 それを初めて評価してくれたのが三船さんでした。かなり嬉しかったのを覚えてます。




P「こんな感じです」

留美「それだけ? なんかもっと紆余曲折とか無かったの?」

瞳子「現実はこんなものよ、むしろ十分なくらいだわ。――――美優さんは今の聞いてなにか思い出した?」

美優「……あの……その花壇にラベンダーがありましたよね?」

P「すみません……正直あんまり覚えてないんです。そのあと親に滅茶苦茶叱られた記憶はあるんですが……ははは」

美優「確か、ラベンダーが有ったはずです……でも覚えてるのはそれだけで……ごめんなさい」

P「別に謝ることじゃないですよ、ね?」

留美「そうよ。むしろ本人よりちゃんと覚えてるじゃない」

瞳子「それを覚えてるということは、もしかしてそのラベンダーにまつわるエピソードがあるのかしら?」

美優「その……はい。エピソードというほどの物ではないですが」

瞳子「聞かせてくれる?」

美優「前に書店へ行ったという話をしたじゃないですか」

留美「ええ、あの山田くん? と偶然会ったっていう」

P「……もしかして、三船さんの飼い犬が失踪したりした日のことですか?」

美優「はい、そうです」

瞳子「あら、Pさんも知ってるの? ……これは何か有ったわね」

P「俺の責任と言いますか……後で話します。三船さん続きを」

美優「は、はい。……その時に書店で手に取ったのが植物図鑑で、花壇の花をラベンダーと知り、そこでアロマテラピーという言葉を知りました。その経験が今の趣味に繋がっている……のかもしれません」

瞳子「運命的ね、良かったじゃないPさん。貴方のプロデュースは10年以上前から始まってるみたいよ」

P「そう言われると、なんだか嬉しいですね」

留美「で、Pくんの言っていた責任って?」

P「あ、はい……そのワンちゃんが失踪した原因は俺にあります」

瞳子「これはひと波乱ありそう。その前に飲み物追加する?」

留美「そうしましょう」ピンポーン

ゴユックリドウゾー

留美「それじゃ、Pくん話を」

P「分かりました」




 その日偶然――偶然ですよ。書店に向かってたら山田と三船さんが犬を連れて歩いてるのを見掛けて、声もかけられず遠巻きに眺めてました。

 2人が店に入った後もそれは変わらず、店の前で三船さんのワンちゃんと戯れてました。

 その時に車が来て、危ないから犬を動かすよう言われたんです。言われるがままリードを解いたところ、突然走り出し、そのまま引き摺られていきました。

 手を離したらマズイと思ってそのまま町中を走り回り、気付けば三船さんの家に着いてました。

 半泣きで親御さんにワンちゃんを渡してその日は逃げ帰ったんです。




P「その節は本当にご迷惑おかけしました」

美優「いえ、元は私の思慮不足ですし……それに、あの子を無事に連れ帰ってくれてありがとうございました」

P「いえいえ、引き摺られてただけですから、あの子が賢かったんです。この際だから言いますが、その一件の罪滅ぼしもかねて企画したのが、写真にある三船さんのお別れ会です」

瞳子「なるほど、初のPさんがプロデュースする舞台という訳ね」

P「そうなりますね」

留美「学生時代のPくんはどんな子だったのかしら?」

P「多分、今とさほど変わりませんよ」

瞳子「写真とか見てみたいわね。これには写ってないし」

P「写ってないですか……?」

P「あー、そうか、こっちを送ったんだっけか」

留美「こっち? 写ってる写真があるの?」

P「セルフタイマーを使って撮ったのが、一応あります」

留美「勿論見せてくれるのよね?」

P「えーっと……ダメです」

瞳子「……駄目、なの? 無いとかではなくて? それはどうして?」

P「あー……三船さんが……そうです。三船さんが目を瞑ってるので、あまり人に見せるべきでは」

美優「私は、大丈夫ですよ」

P「ですが……」

留美「Pくん、もう少し嘘やハッタリを上手にした方が良いんじゃないかしら?」

瞳子「そうね、それが通じるのは美優さんくらいなものよ」

美優「…………え、今の“嘘”だったんですか?」

P「う、嘘ってワケでは……方便と言いますか、建前と言いますか……」

瞳子「見たかったのに……残念ね、美優さん」

美優「はい……」シュン

留美「美優さん、そんなにがっかりしないの、Pくんだって何か深い深ーい事情が有るんでしょう」

美優「そうですね……残念ですが我慢します」

P「……………………。分かりました、探しておきます」

瞳子「楽しみにしておくわね」

留美「ついでに卒業アルバムもよろしくね」

美優「私は持っていないので、もし良ければ見せていただけると……」

P「あー、はい」

◇ 数週間後 居酒屋“雷電” ◇

ガラッ

P「お疲れ様です。遅くなりました」

留美瞳子美優「お疲れさま(です)」

佐藤心「おつかれー☆先に始めてるぞ☆」

安部菜々「お疲れ様です!お邪魔してまーす」

P「……どうして佐藤さんと安部さんが」

心「はぁとって呼べよ☆だって、プロデューサーと美優ちゃんの中学時代とか、聞かないワケないよね?」

美優「ごめんなさい……つい話してしまって……」

菜々「元々はぁとさんと飲み……ゴハンに行こうと思ってところ3人にばったり出くわして」

留美「それで誘ったのよ、こう言うのは人数が多い方がいいでしょ?」

P「まあ、そうですが……あまり広めないで下さいよ」

心「分かってる分かってる☆ モロバレでも秘密は守るのはマナーだし☆ ね、ナナパイセン♪」

菜々「なんでナナに振るんですか!ナナは清廉潔白、正真正銘の永遠の17歳、ウサミン星人ですから!」

瞳子「ふふっ、賑やかね。ほら、Pさんいつまでも立ってないで座りましょう?」

P「……はい」

留美「食べるものはもう頼んであるから。Pくん、飲み物は何にする? 」

P「それでは――――」

◇ 少しして ◇


P「で、これが、例の写真です」

心「これが噂の、どれどれ~、うわっ美優ちゃん超カワ☆はぁとの娘にしたいぞ☆」

菜々「娘さんはちょっと無理があるんじゃ……髪型も少し似てますし、ナナと歳の離れた妹というのはどうでしょう?」

瞳子「“歳の離れた”は要らないんじゃないかしら?」

菜々「そっ、そうですね!言葉のアヤです、アハハハハ」

留美「この頃からもう人を惹きつける素敵な笑顔だったのね」

美優「その、恥ずかしい……ですから、どうか…」

留美「ええ、これくらいにしとくわね、それで、Pくんは何処に……フフッ」

瞳子「あははっ、ホントに何も変わってないのね。確かに、この顔じゃあ見せたいとは思わないわね」クスッ

P「そんなに笑うほどですか」

菜々「ナナにもすぐにわかりましたよ! Pさん、美優さんのことじっと見てますね、それもすっごい表情で」

心「この不機嫌なカオ、まんまテレビで美優ちゃんのラブシーンが流れてる時のPじゃん☆」

P「え、そんな顔してます?」

留美瞳子菜々心「「ええ」」「はい」「うん☆」

P「マジですか……」

美優「……こんな表情もされるんですね」

<シツレーシマース

ガラッ

「串盛りと、炙り枝豆お持ちしましたー」

P「ん、店長直々にサンキュー、ついでに空いた皿下げてくれ」

「りょーかい。あ、やべ、かしこまりました」

瞳子「……ねえ、店員さんもしかしてだけれど、山田さん? この写真の」

山田「へ? あ、随分と懐かしい写真っすね。ええ、ここの店長の山田です。Pとは中高と同じ学校っす」

留美「同級生なの。ああ、だからPさんはこの店をよく使うのね」

P「ええ、羽目を外しても大目に見てくれますし」

山田「こっちとしても常連は一組でも多いほうが良いっすからね。ってかこの写真どうしたんだ?」

P「話の種に……な」

山田「ほー……ん? あれ、三船ちゃん? 久しぶり、同じクラスだった山田だけど……え、三船美優ってあん時の三船ちゃんなの?」

P「……そうだよ」

美優「……お久しぶりです」

山田「久しぶりー懐かしいなあ。同級生にアイドルが居るとかすげー。ってか、もしかして2人って付き合ってんの?」

P「ッ!何言ってんだ、お前!」

山田「あー、悪い悪い。いや、だって割と最近までずっと引きずってたし」

留美「ねえ、山田さんその話詳しく聞かせてくれない?」

山田「いいっす「やめてくれ」

P「だから三船さんのこと黙ってたのに、ほらさっさと仕事に戻れ、頼むから」

「ミユチャン、ミユチャン、ゴニョゴニョ……」

美優「あの……私も聞きたいです」

P「…………」

山田「これはOKってことで良いんだよな?」

山田「えっと、そうだ、中学ん時いきなり『お前犬飼ってただろ、三船も飼ってるらしいから話してかけてみれば』とか言われたんすよ」

P「言ってない」

山田「言ってた。でもなきゃ俺みたいな体育会系が三船ちゃんみたいなインドア派に話しかけるはず無いだろ」

P「俺は言ってないし、三船さんはインドア派じゃない」

留美「Pくん、少し静かにして。山田さん続けてくれるかしら?」

山田「分かってます。そうだ三船ちゃん、飼い犬、どうしてる?」

美優「……お別れ、しました」

山田「そっか、賢くていい子だったなあ……うちのも死んで5年か。そうそう犬で思い出した、三船ちゃんとこの犬さ、何時だったか脱走しなかった?」

美優「はい……その時に山田さんが一緒に探してくれて助かりました」

山田「あ、そうだっけ? あんまり覚えてないなー。その後のPの反応は覚えてんすけどね」

P「その辺はいいだろ……」

山田「その辺聞きたいんでしょ、三船ちゃんも、皆さんも」

コクコク

山田「突然この世の終わりみたいな顔して“やっちまった”って言い出して、聞いてみると犬を脱走させたとか言ってて、それから三船ちゃんが引っ越すって話が出るまでずっと情緒不安定だったんスよ」

P「……そうかもしれないな」

山田「そうだよ。んで、三船ちゃんが引っ越すってなったら、お別れ会をやる!とかって、先生まで動かしてたよな。すげえなって見てたわ。それが終わったら終わったでわんわん泣きながら演出家になるとか言い出してさ」

テンチョー、オクサンガヨンデマス

山田「やべ、話し込んじゃった。続きはソイツに聞くか、また今度店に来た時にでも。今日はドリンク奢るから好きなだけ飲んでって。特に三船ちゃん」

美優「ありがとうございます……」

P「奢りとか、奥さんに怒られるぞ」

山田「アイドルのサイン貰えれば大丈夫だ、頼むぜ。それじゃ、失礼しまーす」

バタン

留美「楓さんや志乃さんが居なくて良かったわね。山田さん」

瞳子「確かに、そうね」

心「店長、何発か爆弾落としてったぞ☆」

瞳子「そうね、どれから処理しましょうか?」

P「アイツの言ったことは、かなりの脚色が入ってますから……鵜呑みにしないでください」

留美「じゃあ、一つずつ確認していかないといけないわね」

P「……その前に、もう少し酒入れて良いですか」





山田「ウィスキーロックのダブルお持ちしましたー」

P「……何も言わずに帰っていいぞ」

山田「酷ぇなww」

心「店長さん☆そう言えばさ、プロデューサーが最近まで引きずってたって言ってたけど、具体的にはどんな感じ?」

P「それはホントに勘弁してください。山田、言ったら食いログ炎上させるからな」

山田「具体的な脅迫やめろ。 言わない言わない、元カノがそれぞれ、犬飼ってたり、ミユって名前だったり……

P「っお、お前マジでふざけんな!」

心「え、マジっぽい……」

留美「ちょっと怖いわね」

瞳子「交際相手にも失礼ね」

菜々「流石にPさんが可哀想では……」

P「偶然ですよ、ホントに、相手を選べる様な人間ではないですから」

美優「…………」

P「かなりクるんで、その反応やめて下さい……」

山田「シツレーシマース」コソッ

グィッ ダンッ

P「さあどうぞ、もう恐れるものは何も有りません」

心「大丈夫?これ明日死んでたらシャレにならないぞ」

留美「彼はこれで結構打たれ強いから大丈夫よ。Pくん、話を聞いていて思い出したのだけれど」

P「なんでしょう?」

留美「貴方が今の仕事を目指した理由、こう言ったわよね。“学生時代に企画したステージで見た笑顔が忘れられない”って」

P「そうですね、その通りです」

瞳子「私も聞いたわねその話」

留美「そのときはてっきり、一緒に作ったメンバーやお客さんの不特定多数の笑顔の事を言ったのかと思ったけれど、まさか1人の笑顔だったとは、ね」

P「…………違います…よ?」

心「嘘下手すぎだぞ☆」

菜々「ナナはロマンチックで良いと思いますよ。それに、美優さんのこの笑顔にはそれだけの力を感じます」

美優「……そんな、恐れ多いです……」

P「……いえ、俺が演出家、要はプロデューサーになろうと思ったのは、間違いなく三船さんの笑顔の力です。自信を持って下さい」

美優「……そう思えるよう、頑張ります」

瞳子「うん、実にプロデューサーらしい言葉ね」

留美「ところでPくん、どうして美優さんの昔の話になったと思う?」

P「見当が付きませんね。何かキッカケが有ったんですか?」

留美「美優さんが出てるドラマよ」

P「“ハツ恋”ですか?」

留美「ええ、美優さんの初恋の話が切っ掛けなの」

P「ああ、なるほど」

心「もののついでに、Pの初恋、はぁと詳しく聞きたいなあ。なんて☆」

P「もう散々話したじゃないですか……あっ」

瞳子「へえ、つまり初恋の相手は」

P「過去の話です」

留美「過去から続く、の間違いじゃなくて?」

美優「……///」

P「とにかく、この話は終わりましょう。これ以上はダメです」

留美「わかったわ。 そうそう、ずっと思ってたんだけれど、この写真のPくん本当に今と変わらないわね」

瞳子「恋の炎に焦がれる男子の目ね、最近も良く見ている気がするのよね」

P「あ、話を変える気ないですね。そうだ、見たがってた卒業アルバムですよ。これでも見てそんな写真はすぐに仕舞いましょう」

菜々「わぁ、卒業アルバム!懐かしいですねえ!」

心「パイセン、ステイ」

美優「…………」ジッ

留美「仕方ないわね……。早速Pくんを発見したわ、随分若いわね、幾つ?」

P「15に決まってるじゃないですか」

瞳子「あら、ここに写ってるの美優さんじゃない?」

美優「あっそうですね、これは……何の写真でしょう?」

P「それは恐らく……」

◇ その後 居酒屋“雷電” 店外 ◇

心「あー楽しかった☆」

菜々「ご飯も美味しかったですね」

瞳子「そうね、また来ましょうか。この面子で」

P「もうココには二度と来ません。何が山田でサンダーだから雷電、だ。これっぽっちも面白くないわ」

瞳子「そんな事言わないの、学生時代の友達は大切にしなきゃ」

P「ソイツに散々過去を暴露されたんですよ、恨みますよそりゃ」

留美「私はPくんの過去を識れて良かったと思ってるわ、いいお友達じゃない」

P「……今日の事は広めないで下さいよ」

留美「勿論よ」

P「じゃあ解散で、皆さん自力で帰れますね」

心「美優ちゃんあの後、結構ハイペースで飲んでたっぽいけど、大丈夫か☆」

美優「大丈夫れす~♪」

菜々「あちゃー、ダメそうですね」

P「佐藤さん、確か家近かったですy――――

心「おい☆」

留美「Pくん流石に今のはナイと思うわ」

瞳子「そうね。普段から好意を示し続けてられてる相手に、10年以上片想いしていることが知られた人間がやることではないわね」


P「……そうですね、いつまでも気付かない振りは出来ませんね」

心「よし、よく言った☆」

P「三船さん、送っていきます」

美優「へ…? あ……はい……///」

◇ 三船美優宅 前 ◇

美優「少し、酔いも覚めてきました……送って頂いて、ありがとうございます」

P「明日はオフですから、ゆっくり休んでください」

美優「……はい。その……おやすみなさい」

P「……もう少し、時間良いでしょうか」

美優「は、はい!」



P「……俺がこの仕事を目指したのは、今の夢のきっかけは間違いなくあの時の三船さんの笑顔です。本当にありがとうございます」

  「そして、不本意な形で伝わってしまいましたが、初めて言葉を交わした時からずっと貴女の事を想っていました。それをずっと伝えられず、貴女からの好意にも気付かない振りを続けてきました」

  「貴女に相応しい男になるまでは、そんな言い訳を自分にしてきた臆病者の俺ですが。貴女さえ良ければ……」


美優「Pさん。その……言葉を遮ってしまってすみません。私からも良いでしょうか?」

P「はい」


美優「私、いまとても幸せです。沢山の素敵な仲間に恵まれて、お仕事も私生活も充実していて。私の好きな人が、それ以上に私の事をずっと好きでいてくれて」

   「そんな人に、私が大きな何かを贈れていたことを知って。……幸せで胸がいっぱいなんです」

   「これ以上の幸せが有ったとしても、今の私ではきっと受け止められません。きっとどれかが零れ落ちてしまいます。ですから」



――――私が受け止められるようになるまで、一緒に居てくれますか?


――――必ず。いつまでも側に居させて下さい。



「「これからも、よろしくお願いします」」

◇ 翌日 事務所 ◇

瞳子「それで、どうだったの?」ニコニコ

P「……現状維持です」

留美「現状維持……?」

P「お互いの想いが一致した上での結果です」

瞳子「……?」シロ?クロ?

留美「……?」サァ?

ガチャ

オハヨウゴザイマス……

留美「おはよう。美優さん、今日はオフじゃないの?」

美優「少し、用事がありまして……Pさん、これお返しします」

P「昨日のアルバム……美優さんが持っていてくれて良かったんですよ」

美優「えぇと……その、早めに返した方が良いと思ったので……」

P「……わざわざすみません、ありがとうございます」

美優「こちらこそ、ありがとうございました。見ていたら学生時代の記憶が色々と蘇ってきました……」

P「今度、聞かせてください」

美優「はい。私も、Pさんの事も教えてほしいです」

P「面白い事は多くありませんが、聞いて下さい」





留美「とんだ現状維持だこと……」パシャ

瞳子「写真?」

留美「ええ、言葉で説明するよりもこっちの方が解りやすいでしょう?」

瞳子「本当。写真の向こうの想いがよく伝わるわね」


- fin -

◆あとがき

引っ込み思案な三船さんが好きです。でもすこし欲張りな美優さんの方がもっと好きです。

彩りの軌跡ガチャ開催中です。今なら天井付きでこの価格。

美優さんの部屋で美優さんが吐いた二酸化炭素を酸素にする仕事に就きたかった。植物に嫉妬するとは思いませんだ

小ネタ:みふねみゆ が 演じる みねみふゆ。山田→サンダー→雷電は採用。毒島→ポイズン→Pはボツ。

シンデレラガールズ6周年おめでとうございます。


頃合いを見てHTML依頼を出します。お付き合い頂きありがとうございました

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