【ミリマス】765学園物語HED √MT (461)

P「それじゃあ琴葉、また」

琴葉に挨拶をし、事務所を後にする

765学園高等部3年に進級した俺は友人の田中琴葉の頼みで俺の所属するクラス、3-Bのクラス名簿を届けに来ていた

そして今、一仕事を終えて帰宅するところだ

P「帰ったら何しようかな志保の歓迎会でもするか…」

志保…俺の従妹だという女の子が昨日からしばらくの間うちで暮らすことになった

せっかく従妹がしばらく一緒に暮らすようになったんだ、どうせなら仲良くしたいところだ

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考え事をしていたからだろう、周囲の安全確認をしなかった俺は角を曲がった直後

P「うわっ!」

「っ!?」

誰かとぶつかってしまった

ぶつかった相手を見ると

「…」

尻餅をついたのか、お尻をさすっている女の子がいた

P「ご、ごめん大丈夫?」

「…私にぶつかるなんて、随分と罰当たりな人ですね~」

P「うっ…!?」

な、なんだ…体が重い…?

目の前の女の子からのプレッシャーか…?

P「と、とにかく、立てる?」

女の子に手を差し伸べる

「…」

女の子は差し伸べられた手を少し眺めた後

手を取って立ち上がった

P「ごめん、周りを見て無かったよ…怪我は無い?」

「はい、怪我はありませんよ~」

P「良かった…本当にごめん」

「私は聖母ですからね~自らの過ちを認める人を許すこともまた、聖母の役目です」

P「聖母…?」

目の前の女の子から発せられるプレッシャーから思わず魔王の間違いでは?などと思ってしまう

「…今、何か失礼なことを考えていませんか~?」

P「いや、そんなことは無いと思うよ、うん」

「…まあ良いでしょう、迷える子豚ちゃんを導くのも私の役目ですからね~」

P「こ、子豚?」

この子は一体何を言っているんだろうか

P「あ、一応保健室に行った方が良いかな?」

「大丈夫ですよ~」

P「そう?それなら良いけど…ん?」

女の子の肩越しに見える窓から外を見ると、雨が降り始めていた

P「雨か…傘無いのに参ったなぁ」

これは走って帰ることになりそうだ

P「俺はそろそろ帰るけど…雨降ってるし暗くなりそうだから君も気を付けて」

「あら」

P「それじゃあ!ぶつかってごめん!」

もう一度女の子に謝り、俺は今度は安全確認をしながら昇降口へと向かった

「…変わった人ですね~」

今まで私の前に立ち、プレッシャーを受けて屈しなかった人は一人もいなかった

なのに彼は屈せず、私に手を差し伸べてきた

「…ふふ」

面白そうな人を見つけた

制服から察するに3年生だろう

私も今年から高等部だ

もしまた彼と会う機会があるのなら…

…今年は退屈せずに済みそうだ

昇降口へ辿り着くと、誰かが入り口に立っていた

「…兄さん」

P「志保?どうしたんだこんな所で」

従妹の北沢志保が、傘を持って立っていた

志保「雨が降ってきたので、確か兄さんは傘を持っていなかったと記憶していましたから傘を渡すために待っていました」

P「傘を?…そっか、ありがとうな、志保」

志保「いえ、このくらいは当然です…ただ」

P「ただ?」

志保「運悪く私の傘が壊れてしまったので、兄さんの傘に入れて頂けませんか?」

P「なんだそんなことか、もちろん良いよ」

P「むしろ濡れて帰るつもりだったから志保が傘を持ってきてくれてすごく有り難いくらいだ」

P「だから一緒に帰ろう」

志保「はい」

一本だけ傘をさし、志保と帰り道を歩く

志保「…兄さん、もう少しそっちに寄っても良いですか?」

P「濡れそうか?大丈夫、もっと寄って良いぞ」

志保「ありがとうございます、兄さん」

ふと後ろを振り返る

さっきの子は大丈夫だろうか

そんなことを思った

志保「…兄さん?」

俺が立ち止まったからか、志保が声をかけてくる

P「ん、何でも無い、行こう」

志保「はい」

雨の降る中、志保と話をしながら俺達は家へと続く道を歩いていった

一旦ここまで

志保の歓迎会の後、風呂に入ってベッドに転がる

中々に楽しい歓迎会だった

志保はとても良い子で、優しい子だった

やっぱり噂なんてアテにならないものだ

P「…」

今日一日を思い返す

いつもの面子と違うクラスになって、琴葉の手伝いをして、志保の歓迎会をして…そして…

名前も知らない子と、ぶつかった

思わず屈しそうになるほどのプレッシャーを放つ子だったけど

立ち上がる時に取った手は華奢で

そのひんやりとした肌触りに思わずドキッとしてしまった

しかしあの子、聖母とか子豚ちゃんと言っていたが一体どういう意味だったんだろう

もしもまた会う機会があったなら

それを聞いてみるのも良いかもしれない

もしまたあの子に会えるなら

高等部最後の1年は刺激的な1年になりそうだ

…良い意味でも、悪い意味でも

P「寝るかな」

電気を消して布団に入る

P「おやすみ」

そう呟いて目を閉じると

睡魔はあっという間にやってきた

翌朝

妙な寝苦しさを感じて目を覚ます

まるで何かに締め付けられているような…それでいて柔らかい何かに包まれていたたたたたたた!!

P「い、痛え!?」

何かに締め付けられ、全身の骨が軋みを上げている

胸元を見ると誰かの腕が俺をがっちりとホールドしていた

P「この腕はっ…!」

すぐに誰が俺を絞め殺そうとしているのか把握する

P「海美っ!」

だから俺は、隣に住む幼なじみの名前を呼ぶ

海美「毎日味噌汁…?うんっ!作るっ!…うへへぇ~…」

P「作らなくて良いから起きろ!」

心底幸せそうな表情を浮かべながら更に強く締め付ける俺の幼なじみ

…いかん、意識が遠退き始めた

P「だ、誰か助けてくれ!」

思わず誰かに助けを求める

俺はこのまま死ぬんだろうか

走馬灯が脳裏を過ぎり、いよいよ覚悟を決める直前だった

突然金属同士がぶつかり合うような轟音が部屋に響く

海美「な、何!何!?」

その音に思わず飛び起き、辺りを見渡す海美

志保「おはようございます兄さん、海美さん、昨日はお楽しみでしたね」

底冷えするような瞳をした志保が、フライパンとオタマを手に俺達を見下ろしていた

P「し、志保、助かった…」

海美「あ、あれ?指輪は?私の幸せな新婚生活は?」

志保「そんなものはありません、幻想、イリュージョンです」

海美「むー…せっかく良い夢だったのに…」

P「夢を見るのは良いけど、それで俺を殺そうとするなよな」

海美「あ、おはようP!」

P「おはよう海美…で、いつ布団に潜り込んできた?」

海美「えーっと、30分前くらい?」

志保「海美さん、勝手に兄さんの部屋に侵入して布団に潜り込むなんてとても羨まし…ではなく、犯罪ですからね」

海美「でも~」

志保「でもじゃありません」

海美「だって~」

志保「だってでもありません」

P「なあ二人とも」

ぶー垂れる海美とそれに苦言を呈する志保

俺はその二人に割って入る

P「そろそろ着替えたいんだが、部屋から出てくれないか」

海美・志保「「あ、私の事は気にしないで!(お気になさらずに)」」

P「さっさと出てけ」

P「そういえば志保か海美に聞きたかった事があるんだが」

志保「はい」

海美「式の日取り?」

P「聖母とか子豚ちゃんとかって聞いたことあるか?」

海美「せーぼ?」

志保「聖母…子豚ちゃん…その組み合わせなら、天空橋朋花さんかもしれません」

P「天空橋朋花?」

志保「はい」

P「そうか…あの子は天空橋朋花って言うのか…」

志保「天空橋朋花さんがどうかしましたか?」

P「いや、実は昨日廊下でぶつかってな」

P「その時に聖母や子豚ちゃんってワードが出たから気になったんだ」

一旦ここまで

志保「朋花さんとぶつかった…?兄さん、もしかして子豚ちゃんに?」

P「いや、その子豚ちゃんとやらにはなってないよ、普通に助け起こした」

P「そもそも子豚ちゃんが何かすら分かってないわけだしな」

志保「そうですか…子豚ちゃんと言うのは、朋花さんの親衛隊のようなものです」

P「親衛隊?」

志保「はい、朋花さんを崇める人達ですね」

P「所謂ファンみたいなもんか」

志保「その認識で間違いないかと」

P「なるほどなぁ」

しかし天空橋さんか…結構強烈な子だったんだな

志保「兄さんは、子豚ちゃんになるんですか?」

P「その気は無いよ」

志保「そうですか…」

志保がホッとしたように息を吐く

海美「今日の晩御飯は豚肉が良い!」

途中から話を聞いていなかったであろう海美の能天気な言葉に思わず笑ってしまう

そして桃子も起きてきて、そのまま朝食となった

放課後

今日も琴葉に呼び出された俺は、まっすぐにプロダクションの事務所に向かう

P「失礼します」

ノックをしてから事務所に入ると

琴葉「いらっしゃい、Pくん」

琴葉が出迎えてくれた

そして琴葉の後ろには、進級したての1年生たちがいた

その中の一人が声をかけてくる

「あら、久しぶりね」

P「デコちゃん」

「誰がデコちゃんよ!?」

P「冗談だよ、伊織」

デコちゃん…水瀬伊織はまるでムキーと聞こえそうなリアクションをとる

…相変わらずからかいがいがあるな

1年生を良く見渡す

ガチガチに緊張している子

どこかで見たような気がする、何故か顔を赤くして俺から目を逸らした子

そして…

「あら…」

P「君は…」

1年生の中に、天空橋さんがいた

P「天空橋さん」

「あら、私の名前を知ってるんですね~」

P「従妹が教えてくれてな…昨日はあの後大丈夫だった?」

朋花「ええ、傘がありましたからね~」

P「そっか、怪我とかも無かったかな?」

朋花「幸いにも、そんなに強くはぶつかりませんでしたから~」

P「なら良かったよ…改めて昨日はすまなかった」

朋花「私は気にしていませんよ~」

P「そう言ってくれると助かる」

琴葉「Pくん、朋花ちゃんと知り合いだったの?」

P「昨日ちょっとな」

P「ところで琴葉、用事って何だったんだ?」

琴葉「えっと、Pくんには1年生皆の研修をお願いしたくて」

P「研修…ああ、なるほど」

琴葉「私はこの後すぐに先生方に呼ばれていて、長くなりそうだから」

P「そう言うことなら任せてくれ」

琴葉「それじゃあ、お願いします」

そう言って琴葉は書類を手に、事務所から出て行った

P「…さて、それならまずは…」

もう一度1年生を見渡す

P「自己紹介と行こう、俺は周防P、高等部の三年だ、必要に応じて手伝うプロダクションの臨時社員みたいなことをやっている」

P「好きなものはエビチリとスパークドリンクだ、よろしくな」

P「それじゃあ1年生の皆にも自己紹介してもらおうかな…まずは君から」

「は、はい!」

ガチガチに緊張していた女の子に自己紹介を振る

「こ、高等部1年の青羽美咲です!せ、千川希望です!」

美咲「しゅ、趣味と言うほどではないですけど…裁縫を少々…」

P「裁縫か、女の子らしくて良いと思うよ」

美咲「あ、ありがとうございます」

P「そんなに緊張しなくて良い、リラックスしていこう」

美咲「は、はい…」

P「次は…君だ」

少し変わった編み込みの子に自己紹介を促す

「は、はい!高等部1年、七尾百合子です!書記希望です!」

P「…百合子…?」

やっぱりどこかで聞いたことがあるような…一体どこで聞いたんだったか

百合子「趣味は読書で、好きなものは粒あんのおはぎです」

P「読書か、本を読むのは良いことだよな」

百合子「…」

七尾さんが何故かジッと俺の顔を見つめてくる

…なんだかむず痒くなってくるな

P「七尾さん、俺の顔に何か着いてる?」

百合子「い、いえ!大丈夫です!」

七尾さんは慌てて顔を伏せた

P「そうか?」

百合子「…七尾さん…かぁ…」

七尾さんが何かを呟いたが、声が小さくて俺には届かなかった

P「次は伊織、頼んだ」

伊織「分かってるわよ」

伊織「高等部1年、ナチュラルプリティーな水瀬伊織ちゃんよ!希望役職は当然プロデューサーよ!」

P「気軽にデコちゃんとかいおりんって呼んでやってくれ」

伊織「ふんっ!」

P「あがっ!」

伊織に思いっきりスネを蹴られて悶絶する

ちょっと調子に乗りすぎたか

P「じゃ、じゃあ最後は…」

天空橋さんに

朋花「ふふ、天空橋朋花、高等部1年です~希望役職は事務員ですね~」

朋花「そして全ての子豚ちゃんを愛し、愛されること、それこそが聖母である私に課せられた使命ですね~」

P「…」

やはり強烈な子だ

しかし天空橋さんが本気でそう考えているというのは何となくだがわかる

きっと彼女なりの芯があるのだろう

一旦ここまで

P「それじゃあ自己紹介も終えたところで…伊織」

伊織「何よ」

P「お前確か中等部でプロデューサーやってたよな?」

伊織「私だけじゃ無いわよ、朋花も事務員をやってたわ」

P「つまり経験者が二人いるわけだ…七尾さんと青羽さんは?」

美咲「私は…未経験です」

百合子「前世では書記をやっていたような気がします!」

P「未経験二人っと」

P「とりあえず業務がどういうものか説明するから良く聞いて欲しい」

P「天空橋さんと伊織は…まあ復習だと思ってくれ」

P「まずプロダクションの基本業務なんだけど…」








P「とまあ、こんな感じだな」

粗方説明を終えた時だった

茜「おっはよう!可愛い茜ちゃんが今日も横領しにやって来たよ!」

亜利沙「むふふ…どんな新人ちゃんが来てるのか、ありさ楽しみです!」

亜利沙と茜が事務所にやって来た

P「亜利沙、茜」

茜「おや?おやおやおや?Pちゃんがいるじゃない」

亜利沙「Pさん、どうしてここに?」

P「琴葉に頼まれてちょっとな…しかしちょうど良いところに来てくれた」

P「七尾さんは亜利沙に、青羽さんは茜の仕事を見学して欲しい」

百合子「わかりました!」

美咲「は、はい!」

俺が教えるよりはきちんとした役員に教えて貰う方が良いだろう

P「さて、伊織と天空橋さんだが…」

二人は経験者なんだよな…しかも俺よりも長くプロダクションの業務を経験してるわけで

そんな二人に俺は一体何を教えられるだろうか?

伊織「業務の説明はもう良いわ、わかってるし」

P「そうか?」

伊織「説明するのも手間でしょ?」

P「まあな、説明が省けるならそれに越したことはない」

P「しかしそうなると二人には何をして貰おうか…」

可憐が来ていたなら天空橋さんを可憐に付けていたんだが…

生憎可憐は来ていなかった

伊織「私は資料でも読んでるわ」

そう言うと伊織は棚からファイルを抜き出し、読み始めた

となると…

P「天空橋さん」

朋花「はい~どうかしましたか~?」

P「可憐…現事務員の代わりに今日は俺が色々と教えるけど、大丈夫かな?」

朋花「私は構いませんよ~、それに私はあなたに興味がありますから~」

P「えっ?」

朋花「ふふっ」

一旦ここまで

P「…」

朋花「…」

P「…」

朋花「…」

や、やりにくい!

天空橋さんに資料の場所などを教えたあと、書類整理を開始したのだが…

P「…」

朋花「…」

何故か天空橋さんはニコニコしながら手元ではなく俺を見ていた

いや、見ているだけなら良い

問題は…

朋花「ふふっ」

常に発せられているプレッシャーだ

P「あの、天空橋さん」

朋花「はい~どうかしましたか~?」

P「いや…何でもないです…」

何でそんなにプレッシャーかけてくるんですか?なんて聞けるわけがない

朋花「…なるほど」

結局琴葉が帰ってくるまで、俺は天空橋さんのプレッシャーに晒され続けた

琴葉「ただいま…ってPくん、凄く疲れて見えるけど…大丈夫?」

P「ああ…一応はな」

朋花「周防さん、色々と教えてくれてありがとうございました~」

P「ああ…何か教えた記憶は無いけどね」

朋花「大丈夫です、色々とわかりましたから~」

P「そうか…」

ふっとプレッシャーが消え、身体が軽くなる

…もしかしたらやっぱり怒っているのかもしれない

琴葉「…Pくん、大切な相談があるの」

P「大切な相談…?」

琴葉「うん…亜利沙ちゃんと茜ちゃんも聞いて欲しい」

亜利沙「何でしょう」

茜「うむ、この茜ちゃんがどんな相談でも聞き流してやろう」

琴葉「実は、今日来てない可憐ちゃんの事なの」

P「可憐の?」

琴葉「うん…可憐ちゃん…休学届けを出したみたい」

P「休学届け!?」

亜利沙「い、一体可憐ちゃんに何があったんですか!?」

琴葉「私にも良くわからないの…先生方も詳しい話は教えてくれなくて」

P「可憐…」

一体可憐に何があったんだ…

琴葉「だからプロダクションの事務員を急遽補充しないといけなくなって」

琴葉「そこでPくんにお願いがあるの」

P「…俺が、可憐が復学するまでの間事務員をやって繋げば良いんだな?」

琴葉「…うん」

P「わかった、なら引継ぎは任せてくれ」

琴葉「ありがとう、Pくん」

となると…

P「天空橋さん」

朋花「はい~」

P「聞こえていたと思うけど、俺がしばらくは事務員をやることになる」

P「君はそれでも構わないか?」

朋花「はい~、その方が私にとっても好都合なので問題ありませんよ~」

P「助かる、それじゃあ改めてよろしく頼むよ」

朋花「ええ、よろしくお願いしますね~」

なるほど

やはり目の前のこの人は今までの子豚ちゃんとは違うようだ

二度も私のプレッシャーを受けてなお屈しないその瞳

正直ぞくぞくする

もしかしたらこの人なら…私と対等に付き合える良き友人になれるかも知れない

しかしそれとは別に、この強い瞳の彼が私に屈するのを見てみたいという気持ちもある

朋花「…ふふ」

この人がこの先どうなるのか、業務を通して見定めよう

一旦ここまで
可憐は単身ぷっぷかさんの除霊に向かったとかなんとか

業務を終え、事務所を出る

大変な事になったが琴葉の頼みである以上は力になってやらないと

P「…さて」

それはそれとして

P「天空橋さん」

朋花「はい~」

P「何で着いてきてるの?」

朋花「あら、私が着いてくるのが不満ですか~?」

P「そういうわけではないけど…」

一旦ここまで
朋花からの呼称関係を一切考えていないという痛恨のミスをしてしまった

P「まあいいや、帰り道が同じなら少し話でもしない?」

朋花「私は構いませんよ~」

P「せっかくだし何か飲む?」

朋花「では、私は紅茶を」

P「わかった」

自販機で紅茶と自分の分の飲み物を買う

P「はい、どうぞ」

朋花「ありがとうございます~」

P「天空橋さん、今日はどうだった?」

朋花「そうですね~業務的にはあまり中等部の頃と変わらなさそうなので難なくこなせそうですね~」

P「それなら良かったよ」

業務はやりやすいに越したことはないし

朋花「ただ…」

P「ただ?」

朋花「P先輩が少し頼りなさそうなのが心配ではありますね~」

P「うぐぅ…!?」

まさかドストレートにそんなことを言われるとは

P「ま、まあ…天空橋さんが頼りに出来るように頑張るよ」

朋花「ふふ、期待していますよ~…私の期待を裏切ったらどうなるか、わかってますよね~?」

P「は、はは…」

一体どうなると言うんだ

というより何故俺はずっと天空橋さんにプレッシャーを掛けられ続けているんだろう

そのまま少し歩くと公園の近くにやってきた

すると

朋花「私の家はこの近くなので、ここで失礼しますね~」

天空橋さんがそう言った

P「そっか、じゃあまた明日」

朋花「はい~また明日」

天空橋さんが公園を歩いて行くのを見送った後、俺は家に向かって歩き出した

そしてその夜





P「…というわけでまたプロダクションに参加することになった」

冬馬『そうか、大変だな』

P「新しい子達も入ってきてるからな、その子達の手本になれるようにしたいところなんだが…」

冬馬『どうしたよ?』

P「今日新人の子に正面から頼りなさそうって言われたんだよ」

P「天空橋朋花って子なんだけどな」

冬馬『朋花様に?』

P「は?」

冬馬『ごほん、天空橋に?』

P「なんか今変な単語が聞こえた気がしたんだが」

冬馬『気のせいだよ気にすんな』

P「ああ、だから頼れるように頑張るって言ったら期待してるってさ」

冬馬『それはお前、期待に応えられるようにしないとな』

P「ああ、勿論だ」

冬馬『朋花様にそう言われるって琴葉よっぽど期待されてる事だからな、しっかりやれよ』

P「お前なんか妙に詳しいな?」

冬馬『気のせいだ』

P「いや、気のせいじゃないと思うんだが」

冬馬『気のせいだ』

P「まあ何でも良いけどさ」

一旦ここまで

冬馬『まあとにかくだ、朋花様と仕事するなら絶対に中途半端なことはするなよ』

冬馬『常に相応しくあること、これが七の誓いの一つだからな』

P「なるほど、分かった」

冬馬『もし朋花様を怒らせたり悲しませたら…多分生きて日の目を見ることは無いはずだ』

P「こえーよ…心配しなくても手抜き仕事なんかしたりしないさ」

冬馬『いや、そこは心配してねえ、むしろ鈍感な点が…とにかく、俺や翔太の胃に穴開けるんじゃねえぞ』

P「もう良い時間だしそろそろ切るわ、またな」

冬馬『おう、またな』

冬馬との通話を切り、PCの電源を落とす

明日は朝からプロダクションの作業があるから早めに行かないとな

ベッドに入り、目覚ましをセットする

冬馬にも釘を刺されたし、ちゃんと起きないとな

P「おやすみ」

翌朝

P「おはようございます」

朋花「おはようございます~」

P「天空橋さん?」

事務所に着くと、天空橋さんが既に来ていた

P「早いね」

朋花「ええ、労働を惜しまないことが大切ですから~」

P「良いことだ」

朋花「ふふ、それよりも~P先輩?寝癖がついていますよ~?」

朋花「いけませんよ~、仕事に意欲的なのは良いことですけど、身嗜みはちゃんと整えましょうね~」

P「あ、ああ、ありがとう」

一旦ここまで

寝癖を梳かした後、早速朝の作業に移る

ファイルの整理、他役職のサポート、引き継ぎ資料の作成、新人の教育

やることはいっぱいある

天空橋さんに引き継ぐためにも自分自身事務員の仕事を理解しないとな

そう考えながら、まずは資料整理に手をつけるのだった

朋花「P先輩、必要な資料はありますか~?」

P「そうだな…確か茜が捏造してる資料が事務所のどこかにあると思うんだけど…」

朋花「捏造された資料なら隠されているでしょうね~」

P「いや、茜のことだ、案外裏を掻いて分かりやすいところに隠しているかも知れない」

例えばロッカーの上に転がっているジャイアント茜ちゃん人形の後ろとか

朋花「分かりやすいところですか~」

天空橋さんもジャイアント茜ちゃん人形を見ている

…うん、やっぱり気になるよなあれ

朋花「例えばあの中、とか」

P「十分あり得るな」

朋花「わかりました~」

そう言いながら天空橋さんは椅子を持ち、ロッカーの前に置くと、靴を脱いで椅子に立った

そしてそのまま背伸びをしてジャイアント茜ちゃん人形に手を伸ばす

P「ちょ、ちょっと待った!」

朋花「?」

椅子の上で背伸びをしたからか太股が眩しい…ではなく

ジャイアント茜ちゃんは結構重い、もしかすると天空橋さんでは持てないかも知れない

それなら自分でやった方が安全だ

P「天空橋さん、俺がやるよ」

朋花「聖母の手を患わせないよう自らが動く…良い心掛けですね~、でも、これは私がやるお仕事ですから~」

P「い、いや、そうじゃなくてそれ結構重」

言葉を言い切る前に

朋花「えっ?」

ジャイアント茜ちゃん人形の頭が取れて、ロッカーから落ちる

P「危ない!」

俺は咄嗟に天空橋さんを抱き締めながら身体を反転させ

P「っ!」

朋花「!」

背中で人形の頭を受けた

P「いっ!?」

思ったよりかなり痛い

一体何で出来てるんだこれ

P「っつう…て、天空橋さん、大丈夫だった?」

朋花「は、はい~私は大丈夫ですよ~」

P「なら良かった…」

椅子から引き摺り下ろす形になったけど、無事で良かった

朋花「…」

天空橋さんに怪我が無いことを確認して安心した直後

茜「おっはよう!今日も可愛い茜ちゃんが冷暖房完備の快適な環境でだらだらするためにやって来たよ!」

茜が入ってきて

茜「おや?おやおやおや?朋花ちゃんとPちゃんが抱き合ってイチャイチャしてる!」

茜「琴葉ちゃん琴葉ちゃん!Pちゃんと朋花ちゃんがイチャイチャしてるよ!」

P「い、いや待て茜!こら!」

抱き締めていた天空橋さんから身体を離そうとしたが

琴葉「…Pくん…」

それよりも早く琴葉が事務所に入ってきた

P「oh…」

その後事情は説明したものの、琴葉から冷たいプレッシャーを感じながら朝の作業をこなすことになったのだった

一旦ここまで

困った

先輩に急に抱き締められてしまい思わずドキッとしてしまった

そのせいか頬がほんのり熱を持ってしまっているのがわかる

困った

でも…

朋花「…ふふ、私を赤面させるなんて、罪な人ですね~」

そう来なくては面白くない

あの真っ直ぐな瞳を、私のプレッシャーを受けても怯まないあの瞳を

折るためにも

百合子「朋花さん、なんだかすごく機嫌が良いですね!」

朋花「そうですか~?」

百合子「はい、とても楽しそうに見えます」

朋花「ふふ、それはきっととても面白いことを見つけ出したからですね~」

百合子「とても面白いこと?」

朋花「はい~、堕ちるか堕とされるか…そんなゲームです~」

百合子「なんだか良くわかりませんけど、堕ちるって単語はすごく興奮しますよね!」

朋花「そうですか~?」

百合子「はい!堕天という言葉があるように、本来なら手も触れられないような神聖な存在が何らかの理由で穢れ、手が届くようになる…」

百合子「人は眩しすぎる何かを自分の手で穢したいという欲望を持っているのかもしれませんね」

朋花「なるほど…」

あの人にもそういう欲望があるのだろうか?

朋花「…」

百合子「何にせよ楽しいに越したことはないですよね!朋花さん」

朋花「そうですね~、楽しいのは良い事です~」

百合子「…良かったぁ」

朋花「?何がですか~?」

百合子「朋花さんって中等部の頃から何だか怖そうな印象があったんですけど、こうやって話してみたらそんなこと全然無くて」

百合子「これなら私、朋花さんとお友達になれそうです!」

朋花「あら…ふふ、そうですね~、ならお友達になりましょうか~」

百合子「はい!よろしくお願いしますね、朋花さん!」

朋花「はい~こちらこそ…ところで」

百合子「?」

朋花「怖そうな印象というところ…詳しく聞かせてくれませんか~?」

百合子「ひぃっ!?」

昼休み

冬馬、翔太と一緒に学食に出向く

P「今日は混んでるな」

冬馬「ああ」

翔太「学食が混むのって珍しいよね」

P「ま、新入生達がお試しで来てるんだろ、その内収まるさ」

冬馬「テーブルが確保できるなら混んでても問題ねえな、俺は」

翔太「でも他の人はテーブル足りないみたいだからさ、冬馬くん、テーブルになりなよ」

冬馬「殺す」

翔太「じょ、冗談だって」

そんなこんなで昼飯を楽しんでいると

百合子「あ、P先輩」

P「ん?」

七尾さんが声を掛けてきた

P「どうしたんだ?」

百合子「いえ、空いている席を探していたらP先輩をお見掛けしたので」

P「そっか」

冬馬「知り合いか?」

P「ああ、プロダクションに入ってきた後輩の子だよ」

百合子「あ、はい、七尾百合子と言います、P先輩にはいつもお世話になっています!」

冬馬「俺は天ヶ瀬冬馬だ、よろしく」

翔太「僕は御手洗翔太、よろしくね、百合子ちゃん」

百合子「はい、天ヶ瀬先輩に御手洗先輩、よろしくお願いします」

冬馬「おいP」

P「なんだ?」

冬馬「この子すげえ良い子だな!」

P「お、おう、そうさ」

朋花「百合子さん、席は見つかりましたか~?」

七尾さんと話をしていると天空橋さんもやってきた

百合子「あ、朋花さん、それがまだ…」

P「天空橋さん」

朋花「あらP先輩、こんにちは」

P「こんにちは、テーブルが空いてないのか?」

朋花「はい~なので少し困っているんですよ~」

冬馬「ならば朋花様!どうぞ私めの席をご利用ください!」

突然冬馬が滑るように跪き、天空橋さんに席を譲る

朋花「あら…ふふ、良い子ですね~、褒めてあげましょう」

冬馬「ありがとうございます!ありがとうございます!」

一旦ここまで

朋花「さ、百合子さん、隣が空きましたよ~」

百合子「お、お邪魔します」

七尾さんと天空橋さんが席に着く

朋花「そこの子豚ちゃんは…確か天ヶ瀬冬馬さんでしたね~」

冬馬「!!!!!」

朋花「席を譲ってくれたあなたには、聖母の私が直々に褒めてあげましょう~♪」

冬馬「ありがとう!!!!!ございます!!!!!」

P「…」

翔太「うわぁ」

俺と翔太は

冬馬を見て引いていた

P「しかし天空橋さんとそこの奴が知り合いだったのは意外だよ」

翔太「僕もそれ思った」

朋花「あら、私が天ヶ瀬冬馬さんと話をしたのは今日が初めてですよ~?」

冬馬「俺から朋花様に話し掛けられるわけ無いだろ恐れ多い」

P「えっ?」

翔太「なのに朋花さんはそこの人の名前知ってたの?」

冬馬「翔太ぁ!何いきなり下の名前で呼んでやがる!様を付けろよ!」

朋花「天ヶ瀬冬馬さん」

冬馬「はい黙ります」

朋花「私は、騎士団員の皆さんと子豚ちゃん達の顔と名前は全て把握していますから~」

P「全てって…何人くらい居るんだ?」

朋花「知りたいですか~?昨日の時点で1111人ですよ~」

翔太「せ、せんひゃく!?」

P「凄いな…」

朋花「いえ~、私は聖母なので、子豚ちゃん達を導く者として当然のことですよ~」

冬馬「流石です朋花様!」

翔太「そこの人ちょっと黙ってて」

百合子「朋花さん凄いんですよ!私も朋花さんと同じクラスなんですけど、もう皆の顔と名前を覚えてるんです!」

朋花「皆さん初等部、中等部の頃から一緒に過ごしてきましたからね~」

P「…なあ翔太」

翔太「何、Pくん」

P「俺達はクラスの連中の顔と名前一致出来るか?」

翔太「断言するけど無理だね」

P「だよな…やっぱすげえな天空橋さんは」

一旦ここまで

朋花「ふふ、P先輩も子豚ちゃんになるなら、聖母として可愛がってあげますよ~?」

冬馬「おいでおいでこっちにおいで」

冬馬が手招きしているが、無視

P「…うーん、遠慮しておくよ」

朋花「あら…」

冬馬「何!?お前せっかくの機会を棄てるのか!?」

P「天空橋さん、俺は君に頼られるように努力するって言ったよな」

朋花「そうですね~」

P「そして君は俺に期待していると言った、だから俺はその期待に応えたい」

P「だけど子豚ちゃんになったら君の期待を裏切ることになる、だから俺は子豚ちゃんにはならないよ」

朋花「そうですか~、ふふ、そうですね~♪」

俺の答えが気に入ったのか、天空橋さんが楽しそうに笑う

朋花「とても良い答えだと思いますよ~?では、あなたが私の期待に応えられることを期待していますね~」

P「もちろん、可愛い女の子に期待されてやる気の出ない男なんていないからな」

朋花「かわっ…」

百合子「P先輩!わ、私もその…とにかく色々期待してますね!」

P「色々ってなんだ…」

翔太「ヒュー」

冬馬「ぐぎぎっ…!」

その後、各々昼食を楽しんだ

そして放課後

P「天空橋さん、この資料を纏めてくれるかな」

朋花「わかりました~」

天空橋さんに資料を渡す

まだ少ししか経っていないのだが、天空橋さんはもう業務を任せられるくらいに優秀で

思わず俺要らないんじゃないかと思ってしまうくらいだ

伊織「…暇ね」

琴葉「プロダクションが忙しくないのは皆が学園生活に満足しているということだから素晴らしいことよ」

伊織「それもあるだろうけど…あの二人だけで色々完結してるから全然こっちに仕事回ってこないのよね」

琴葉「流石Pくん、頼りになるわ」

伊織「はあ…」

茜「へいへいPちゃ~ん、茜ちゃんは今モンハンやるのに忙しいから代わりに千川の業務やっといてよ!」

P「ふんっ」

茜「ぎゃー!三角定規が茜ちゃんの頭に刺さったぁ!」

美咲「ひいっ!茜先輩が出血してます!」

百合子「書記もやること無いですね…」

亜利沙「この時期は特に会議とかも無いですしね、でも学園行事が近付いてくると忙しくなりますよ~!」

P「学園行事と言えば琴葉、今年のGWも藤まつりやるのか?」

琴葉「うん、予定には入ってる」

一旦ここまで

琴葉「だからみんなの手が空いている内に着付けの練習をしたいなって思ってるの」

P「良いアイディアだな、なら後の仕事は俺に任せてくれ」

琴葉からマネージャーの権限も渡されているので、この程度の仕事量なら俺一人でもどうとでもなるのだが…

琴葉「駄目、Pくんもちゃんと着付けに参加してくれないと」

P「いや流石にそれは…それに俺は甚平だから着付けの必要も無いし」

琴葉「女の子の視点だけじゃ気付けないこともあると思うの」

琴葉「だからPくんの参加は必須です、これはプロデューサー命令です」

P「プロデューサー命令か…」

流石に切り札を切られるとどうしようも無いな…仕方ない

ペンを置いて立ち上がる

それを合図に、俺達は事務所を後にした

P「俺は着付けの手伝いは出来ないぞ?」

琴葉「わかってる、Pくんは私達が着替えた後おかしな所が無いか見てくれるだけで良いから」

P「まあ、それくらいなら」

伊織「先に言っとくけど、覗いたら死ぬより辛い目に遭わせてやるんだからね」

P「いおりんのショボパイに興味は無いから安心しろよ」

伊織「…ふんっ!」

P「い″っ!?」

思いっきり臑を蹴られ思わず悶絶する

朋花「ふふ、命を散らす覚悟があるなら、覗いても良いですよ~?」

P「何でどいつもこいつも俺が着付けを覗く前提で話を進めるんだ」

茜「簡単なことだよPちゃん!男はみんなけだものだからね!」

P「何を言うか、俺は紳士だぞ」

百合子「けだものになったP先輩に押さえつけられ抵抗出来なくなった私はP先輩の苛烈な責めに口では嫌だ嫌だと言いながらも徐々に屈服していきやがては」

P「お前らさっさと着替えてこい」

好き勝手言う女子連中を更衣室に押し込む

これ以上風評被害を受けてたまるか

更衣室の前で待つこと数十分

更衣室の扉が開いた

茜「さあPちゃん、入って来たまえ!」

P「入れるか!」

琴葉「大丈夫よPくん、ここはプロダクション用更衣室だから」

P「ええ…」

琴葉「お願い」

P「…わかった」

琴葉に頼まれ、更衣室に足を踏み入れる

P「…おお」

俺の目の前に、和服美人達がいた

茜「どうどう?茜ちゃん達可愛いよね?どうどうどう?」

P「そうだな、可愛いと思うぞ」

茜「ふふーん、ならPちゃんよぅ、良いもん見せてもらったんなら出すもんあるやろ?ん?」

そう言いながら指で銭の形を作る茜

俺はそれに対し、最高の笑顔を見せた



P「しかしみんなホント良く似合ってるな」

壁に突き刺さった茜を無視しながら一人一人見ていく

みんなとても良く似合っており、可愛いと言うよりも綺麗だ

P「琴葉や七尾さん、天空橋さん、伊織は綺麗系、亜利沙と青羽さんはどちらかというと可愛い系だな」

亜利沙「いやいやいやありさなんてそんな」

美咲「か、可愛いですか?」

P「ああ、ちょっと前から思ってたけど青羽さんはなんか妹系な気がするし」

琴葉「うん、私もなんだか美咲ちゃんは妹みたいな感じがする」

美咲「こ、琴葉お姉ちゃんとPお兄ちゃん?えへへっ」

P「良い」

琴葉「良い」

朋花「ふふっ♪可愛らしくて良い着物ですね~」

天空橋さんが嬉しそうに袖をひらひらさせる

美咲「確かに可愛いですよね~、私、和服は専門外なんですけどこういうデザインを見るとすごく勉強になります!」

P「青羽さんは服飾関連の造詣が深いのか?」

美咲「はい!私、将来は服飾関連のお仕事がしたいんです!」

P「なるほどね」

朋花「♪」

天空橋さんのテンションが妙に高い

大人びて見えていたけど、こういう時は何だか年相応に見えるな

P「ん?天空橋さん」

朋花「はい~、どうかしましたか~?」

P「うなじのほうにゴミがついてる」

朋花「あら…この辺りですか~?」

P「いや、微妙にずれてるな…俺が取ろうか?」

朋花「そうですね~、では、お願いしますね~」

P「ああ」

天空橋さんに少し近付く

とても綺麗で眩しいうなじだ

その白い肌に思わず吸い込まれてしまいそうだ

朋花「P先輩~?」

P「あ、ああ、今取るよ」

思わずうなじを見つめてしまったが天空橋さんの声で我に帰る

とりあえずさっとゴミを取ってしまおう

そう考え天空橋さんのうなじに手を伸ばし、指が触れた瞬間だった

朋花「にゃっ!?」

P「うわっ!?」

急に天空橋さんの全身が跳ね、それにびっくりして手を引っ込める

一旦ここまで

朋花「…!?…!?」

天空橋さんも何が起こったのか把握しきれていないようで、かなり戸惑っていた

P「ど、どうしたんだ?」

朋花「い、いえ…」

茜「茜ちゃんは見た…Pちゃんが朋花ちゃんの首筋をいやらしい触り方をしたのを!」

P「は!?」

琴葉「Pくん…」

P「待ってくれ琴葉、誤解だ」

ただ触れただけなのにあんな感じになるなんて普通は思わないじゃないか

P「俺はいやらしい触り方なんてしてないんだ、信じてくれ!」

亜利沙「信じたいのは山々なんですが…」

百合子「さっきの朋花さんの反応をみてると…」

P「くっ、ならどうすれば良いんだ」

茜「簡単なことだよPちゃん!もう一回朋花ちゃんの首を触れば良いのだ!」

P「何?」

茜「もう一回触って同じ反応なら朋花ちゃんがただ単に首が弱いだけって分かるしさ!…Pちゃんの疑いが晴れるかは別だけど」

P「待て今小声でなんて言った」

茜「気にしない気にしない!ささPちゃん朋花ちゃん、ワンモア!」

P「そ、それじゃあ天空橋さん」

朋花「…どうぞ~」

無防備に晒された天空橋さんの綺麗な首筋に手を伸ばす

さっきほんの少し触れた感触はとても素晴らしかった

それが幸運にももう一度味わえるとは…

P「…」

しかし俺は頭を振って邪念を払う

身の潔白を証明するために行う行為なのに邪念を持っていたら真実になってしまう

深呼吸をし、覚悟を決めて天空橋さんの首筋に触れる

朋花「ひうっ!…んっ…!」

P「…」

「…」

天空橋さんから艶っぽい声が発せられ、俺は固まり、そして女性陣からの白い目がまるで槍のように俺に突き刺さった





茜「朋花ちゃん首筋弱いんだね」

朋花「私も、自分のことなのに知りませんでした~」

琴葉「Pくん、えっちなのはいけないと思う」

P「はい、すいませんでした」

正座しながら琴葉の説教を聞く

…あ、足が痺れてきた

一旦ここまで

着物の着付けに問題が無いことを確認した俺達は、制服に着替えて事務所に戻った

業務も特に残っていなかったのでみんなで事務所を後にする

P「…」

朋花「…」

みんなと別れた後、帰り道が同じ天空橋さんと並んで歩く

P「天空橋さん、今日はごめんな」

朋花「あら…急にどうしました~?」

P「いや、首筋触った時にさ」

朋花「そのことですか~、私は別に気にしていませんよ~?」

P「そう?」

今日はここまで
今は何というか、何も出来る気がしない

朋花「どうしてもと言うなら、あなたのて弱点を一つ教えてくれませんか~?」

P「俺の弱点?」

朋花「はい~、例えばくすぐられるのに弱いとか…ですね~」

P「弱点ねえ…」

何かあったっけな…

今までの自分の行動を思い返す

弱点…弱点かぁ…

P「あ」

朋花「?」

P「よく幼なじみや妹に人の気持ちがわからないって言われるからそれが弱点かな」

朋花「それは弱点ではなく欠点だと思いますよ~?」

P「そ、そうか…なら他には…」

弱点…弱いところか…

P「うーん、敢えて言うなら耳が弱いかな?」

朋花「耳、ですか~?」

P「ああ」

朋花「わかりました~、では少し屈んでくださいね~?」

P「いいけど…」

天空橋さんに言われた通り少し屈む

すると天空橋さんが近づいて来て、俺に手を伸ばし…

P「…何してるんだ?」

天空橋さんは俺の耳たぶを触っていた

朋花「弱点を責めてるんですよ~、えいえい♪」

P「…」

楽しそうに俺の耳たぶを触る天空橋さん

手がひんやりしていて気持ちが良い

何だか癒やされるな…



朋花「ふう…」

ある程度触って満足したのか、天空橋さんが離れた

朋花「これは、私達だけの秘密ですよ~?」

P「秘密?」

朋花「はい~、私達はお互いの弱点を教え合った…」

朋花「誰かを理解するにせよ、理解されるにせよ、まずはお互いを知ることが始まりです」

朋花「だから私達は、相互理解の第一歩を改めて踏み出したんですよ~」

P「なるほど…」

朋花「少なくとも私達は先輩が定年退職するまではパートナーの関係です」

朋花「だからもっと、お互いに理解を深めていきましょうね~?」

一旦ここまで

P「そうだな…俺も天空橋さんの事、もっとよく知りたい」

朋花「ふふ、いつでも教えてあげますよ~?」

P「いや、こういうのは自分で発見するから面白いんだ、だから俺は君と一緒に仕事をして、それで知っていきたいかな」

朋花「なるほど、良い心掛けですね~」

P「天空橋さんこと、知りたい事があればいつでも教えるから」

朋花「そうですね、なら~…」

顎に手を当て、少し考える天空橋さん

そして

朋花「あなたは私の事を、どう思っていますか~?」

P「どう、とは?」

朋花「思ったままの事で構いませんよ~?生意気だ~とか、普通の子だ~とか」

P「なるほど…そうだな、俺は天空橋さんの事を頼りになる女の子だと思ってる」

P「俺の気付いてない所に気付いてくれたり、仕事ぶりを見ててもそうだけど、結構周りを見てるよな?」

朋花「ええ」

P「だから俺にとって君は尊敬出来る素晴らしい女の子だ、だからこれからもよろしく頼むよ」

朋花「…」

天空橋さんが驚いたように目を見開いている

P「天空橋さん?」

朋花「…ふふっ、そうですね~、こちらこそよろしくお願いしますね~」

天空橋さんと握手を交わす

細く、しなやかな手だ

P「…公園まで来たけど、送っていこうか?」

朋花「大丈夫ですよ~、ここからは一人で帰りますから~」

P「ん、わかった」

P「それじゃあまた明日!」

朋花「はい、また明日」

公園の前で天空橋さんと別れ、俺は帰路に着いた

一旦ここまで

二日遅れのバレンタイン

√RRR
海美「きょ・う・は~バレンタイーン!スペシャルなプレゼントあげるね!」

P「スペシャルなプレゼント?」

海美「うん!今年はチョコじゃなくて、私をプレゼント!」

P「海美…」

海美「今日は朝まで楽しもうね!」

P「ああ、味わい尽くすつもりだ」


√FW
恵美「はい、チョコレート」

P「ありがとな、恵美」

恵美「にゃはは、ホワイトデー期待してるね?」

恵美「何だったら先払い…しても良いよ?」

P「積極的になったな」

恵美「誰かさんのおかげで、ね」

P「じゃあ先払い一括で」

恵美「ん、ん」


√HW
琴葉「Pくん、私の気持ち…良かったら受け取ってくれますか?」

P「琴葉…ありがとう嬉しいよ」

琴葉「私も、Pくんに気持ちを受け取って貰えてすごく嬉しい…」

琴葉「これからもこうやって…一緒にいたいね」

P「ああ…ずっと一緒にいよう」

琴葉「Pくん…私と出会ってくれて、ありがとう」

√BMC
翼「せ~んぱい♪今日は何の日か、もちろん知ってますよね?」

P「もちろん、おかげで朝からずっとそわそわしてたよ」

翼「そんなに楽しみにしてくれてたなんて嬉しいな~じゃあじゃあ、はい、プレゼントです!」

翼「ちゃ~んと手作りしたんですよ!」

P「ありがとう翼、すごく嬉しい」

翼「あ、でもでも最後の仕上げがあるからそれだけさせてください」

P「最後の仕上げ?」

翼「愛情注入、ちゅっ♪」



√Pn
ジュリア「ほら、チョコレート」

P「お、ありがとうジュリアまさかもらえるなんて思わなかったぞ」

ジュリア「あ、あたしだってたまにはだな…」

ジュリア「…味見はしてないし味も保証しないけどさ、それ、一応本命だから」

ジュリア「ちゃんと、味わって食えよな」

P「しょっぱい」

ジュリア「うっ…ら、来年はもっと美味く作ってやるからな!」

√LR
志保「兄さん、チョコレートをどうぞ」

P「ありがとう志保、嬉しいよ」

志保「私も、兄さんに受け取って貰えてとても嬉しいです」

志保「…今回のチョコレートは甘さ控え目のビターチョコレートにしました」

志保「でもきっと、私が甘えたらミルクチョコレート以上に甘いものになると思います」

志保「兄さんは甘いミルクチョコと控え目のビターチョコ…どっちが良いですか?」

P「両方とも激甘にしよう」

志保「…ふふっ、わかりました」


√PG
静香「Pさん、今日はバレンタインデーなのでチョコを作ってみました」

静香「もちろん本命ですよ」

P「ありがとう静香」

静香「と言うわけで今日の屋台ではチョコレートうどんを出してみようかと思うんです」

P「それは却下」

静香「どうしてですか?」

P「静香のチョコレートは俺だけのモノにしたいから」

静香「あ、ありがとうございます」

√TP
百合子「先輩!チョコレート作ってきました!」

百合子「早速食べてみてください!」

P「急かさない急かさない…いただきます」

百合子「ふふふ、食べましたね?実はそのチョコレートには超強力な媚薬を仕込んであるんです!」

百合子「普段やられっぱなしの私でもこうすればきっとイニシアチブが…あ、あれ?先輩なんでにじり寄ってきてるんですか?」

百合子「ま、待ってください今日は私のターン…やんっ」

一旦ここまで

P「暇だ」

週末、特にプロダクションの仕事も無ければ羅刹や翔太との予定も合わない休日の公園で、俺はそう呟いた

家にいてもやることは無い、だからといって街に出てゲーセンという気分でもない

なので公園に足を運んでみたのだが…

この歳で、しかも一人で遊具で遊ぶなんて拷問と変わりない、だからといってジョギングするほど健康志向でもない

つまるところ本当にやることが無かった

P「…」

公園のベンチ座ってぼけーっとしながら時間を潰す

しかし今日は良い天気だ

気温もぽかぽかしていて暖かい

…なんか眠くなってくるな

春の陽気に当てられてうとうとする

やがて俺の意識は、闇に沈んだ

P「…んあ?」

誰かの気配を感じて目を覚ます

うっすらと目を開けると、誰かが俺の顔を覗き込んでいた

P「わっ…!」

「あら、起こしてしまいましたか~?」

P「て、天空橋さん?」

朋花「おはようございます先輩、随分と気持ち良さそうな寝顔でしたね~?」

P「いつからそこに?」

朋花「そうですね~、大体五時間前くらいですね~」

P「えっ!?」

慌ててスマホで時間を見るが

P「あ、あれ?30分くらいしか経ってない」

朋花「ふふ、引っ掛かりましたね~?」

P「だ、騙したのか…あーびっくりした」

流石に公園で五時間も寝るくらいなら家で寝た方が良い

朋花「ぽかぽかの陽気でお昼寝をするのも良いですけど、外で寝てしまうと風邪を引いてしまいますから気を付けてくださいね~?」

P「ああ、ありがとう気を付けるよ」

朋花「ところで先輩、この後お暇ですか~?」

P「暇だよ」

朋花「なら少し私の用事を手伝ってくれませんか~?」

P「俺に出来る事なら」

朋花「では、私に着いてきてくださいね~」

ベンチから立ち上がり、天空橋さんに続く

やがて公園のすぐ近くにある教会へ辿り着いた

P「教会?」

朋花「はい~ここに用があるんですよ~」

扉の鍵を開け、中に入っていく天空橋さん

一体何をするんだろう

朋花「さて、と」

教会に入った天空橋さんは奥の用具箱から箒とモップ、雑巾を取り出す

それらをバケツと一緒に俺の前に持ってきた

朋花「では先輩、このバケツに水を汲んで来て頂けますか~?」

P「教会の中を掃除するんだな、わかった」

天空橋さんから水道の場所を聞き、バケツに水を汲んで戻る

朋花「では、始めましょうか~」

一旦ここまで

隅の方から箒でゴミを集めていく

天空橋さんは本屋などで良く見るパタパタして埃を落とすやつ(名前は知らない)を使って窓際の埃を落としていた

P「しかし立派な教会だな」

大きいわけでは無いが、中の厳かな空気に思わず背筋がのびそうだ

朋花「あら、ありがとうございます~」

P「天空橋さんがここを掃除するのはボランティアか何か?」

朋花「いえ、ここは私の家の一部ですよ~?」

P「…え?家の一部?」

朋花「はい~」

P「凄いな…」

朋花「なので毎週こうやってお掃除をしているんですよ~」

P「毎週…か、一人でやってるのか?業者に頼んだりはしないのか?」

朋花「ええ、一人でお掃除してますし業者さんにもお願いする気は無いですよ~?」

P「大変じゃないか?」

朋花「もちろん大変ですよ~?でも、率先して大変な事をしないと子豚ちゃん達に示しがつきませんから~」

P「…天空橋さんは偉いな」

朋花「はい?」

P「普通そんなことを思っていても中々出来る事じゃないのに、天空橋さんはそれをやり遂げている」

P「とても尊敬出来る人だ、天空橋さんの言う子豚ちゃん達の気持ちが少し解るような気がするよ」

朋花「あら…では、先輩も子豚ちゃんになりたいですか~?私はいつでも歓迎しますよ~?」

P「その気は無いよ、俺は尊敬出来る人の下に着きたいんじゃなくてその人の隣で仕事の出来る人間を目指してるからな」

朋花「ふふ、良い答えですね~♪」

俺の答えに気を良くしたのか、天空橋さんが鼻歌交じりに掃除を再開する

…結局、この子は俺に子豚ちゃんになることを求めているのかそうじゃないのかイマイチ分からないな

勧誘してくる割には拒否すると機嫌が良くなるし

…良くわからん

考えても無駄なので掃除に意識を集中させる

だらだらしてたらいつまで終わりそうにないしな

P「ふいー…」

最後の窓拭きが終わり、額に浮いた汗を拭う

そんなに広くはなくてもやっぱり中々に体力を使うものだ

朋花「ふふ、お疲れさまでした~」

天空橋さんも微かに汗を掻いているようで、首筋に少し髪が張り付いていた

P「これを毎週か…大変だな」

朋花「そうですね~、土曜日はほとんど掃除だけで終わることが多いですよ~?」

P「そっか…」

朋花「でも、ここを利用する人達や子豚ちゃんのために手は抜けませんから~」

そう言ってステンドグラスを見上げる天空橋さんの目は慈愛に満ちていて

俺はその横顔に思わず見惚れてしまった

朋花「…?どうかしましたか~?」

ジッと見ている俺の視線に気付いたのか、天空橋さんが不思議そうに聞いてくる

P「い、いや、その…」

朋花「ジッと私を見ていましたよね~?私に何か言いたい事があるんじゃないですか~?」

俺に近寄り、見上げてくる天空橋さん

P「そ、それは、その」

さっき見惚れてしまったのに加えて重ったよりも距離が近くて更にドキドキしてしまう

P「て、手伝いたいなって思ったんだよ」

朋花「手伝いたい?」

P「この教会の掃除、大変だし一人でやるよりは二人でやった方が良いと思うし」

P「それに天空橋さんは今プロダクションの仕事を手伝ってくれてる、だから俺が君を手伝う理由にもなるんじゃないかなと」

P「対等なパートナーとして持ちつ持たれつということで」

朋花「なるほど…対等なパートナーとしてですか~」

朋花「…」

天空橋さんが顎に手を当て、少し考え込む

そして

朋花「わかりました~、では来週からお願いしますね~?」

そう言って微笑んだ

一旦ここまで

P「それじゃあ俺はそろそろ…」

朋花「あら、まだ帰っちゃ駄目ですよ~?」

P「えっ」

朋花「先輩にはまだやっていただく事がありますから~」

P「何だろう」

朋花「私に着いてきてくださいね~」

掃除用具を片付け、天空橋さんに着いていく

朋花「さあ、中にどうぞ?」

P「お邪魔します」

開けられた扉に入り、靴を脱ぐ

そして勧められるがままに、テーブルに着いた

朋花「少し待っていてくださいね~」

天空橋さんが台所から何かを持ってくる…これは

P「紅茶と、クッキー?」

朋花「はい、先輩にやっていただく事、それは…」

天空橋さんはニコリと笑いながら

朋花「私とお茶会をしましょうね~」

楽しそうにそう言った

P「やって欲しいことってお茶会の事だったのか」

朋花「はい~、流石にお手伝いをしてもらったのにそのまま帰すのはいくら何でも失礼ですからね~」

P「そういうことなら…お、美味しい紅茶だ」

朋花「クッキーもとても美味しいですよ~?」

天空橋さんがクッキーを差し出してきたのでそれを食べる

…うん、確かに美味いな

朋花「ふふ♪」

天空橋さんはやけにニコニコしている

お茶会とかが好きなのかな

他愛ない話をしながら進んでいたお茶会も、終わりを迎える

P「ご馳走さま、楽しかったよ」

朋花「私も、楽しかったですよ~?」

学園の話や友達の話など色んな話をした

何故か天空橋さんは俺の別の弱点を知りたがっていたけど、知って一体どうするつもりなのだろうか

朋花「また来週、お茶会をしましょうね~」

P「掃除の後に?」

朋花「ええ、掃除の後に」

P「わかった、約束する」

朋花「ふふ、聖母との大事な約束ですよ~?」

朋花「なので指切りをしましょう~」

P「指切りか、良いよ」

朋花「では、指切りげんまん嘘を吐いたら…そうですね~」

P「嘘を吐いたら?」

朋花「ふふ、その時まで秘密にしておきましょう」

P「怖いな」

朋花「約束を破らなければ怖い事なんて無いですよ~?ゆ~び切った♪」

P「よし、じゃあ俺は帰るよ」

朋花「はい、お疲れさまです~」

P「天空橋さん、また」

朋花「ええ、また」

天空橋さんに見送られながら外に出る

太陽は既に傾いており、綺麗な夕焼けになっていた

…外で昼寝して良かったな

そのおかげで楽しいこともあったし

暇な今朝に感謝するとしよう

夕焼けを浴びながら、俺は帰路に着いた

その夜

P「と言うわけで天空橋さんの掃除を手伝うことになったんだ」

冬馬『なんだと!?』

P「耳元で怒鳴るなよ」

冬馬『おまっ、マジで朋花様に許可を貰えたのか!?掃除の手伝いの!?』

P「だからそう言ってるだろ?」

冬馬『マジかよ…羨ましすぎるぞ』

P「何でだよ?」

冬馬『朋花様は教会の掃除を誰かに手伝わせた事が無いんだよ』

P「言ってたな」

冬馬『親衛隊の天空騎士団ですら許されていない教会の掃除をお前にだけは許した…この意味が分かるか?』

P「さあ」

冬馬『お前が朋花様にとって特別な存在って事だよ』

P「待て、俺と天空橋さんはまだ出会って一ヶ月も経ってないぞ」

冬馬『それがどうした、朋花様に認められてる時点で特別なのは事実だろうが』

P「…」

冬馬『ああ羨ましいなちくしょう 』

P「…まあ良いや、それでその後お茶会をしたんだが」

冬馬『…は?』

P「掃除の後にな、天空橋さんに誘われてお茶会をしたんだよ」

冬馬『…………………あ、父親が呼んでるからまた学園でな』

P「え?あ、おい冬馬」

急に声色の変わった冬馬は、一方的に話を打ち切って通信を切断してしまった

P「何だったんだ?」

週明け、学園で聞いてみるとしよう

そして週明けの月曜日の朝、それは起きた

P「それで、冬馬の奴が」

志保と海美と話しながら登校していると

「確保しろ!」

P「ん?うっ!?」

志保「兄さん!?」

海美「P!」

いきなり顔に布を被され、視界を奪われる

そして両足を持ち上げられ…

「いよし!お前ら足止め頼んだぞ!」

P「むぐぅ!?」

凄い速度で移動するのを感じた

なんだこれ、誘拐されたのか?

しばらく運ばれた後、雑に投げられる

そして顔に被せられていた布が取られた

P「何だってんだ…?」

開けた視界に入ってきたのは…どこかの教室か?

そして俺の前には三人の男が立っていた

それぞれ仮面をしており、顔は見えない

「Aマスク、この後どうするんだ?」

「決まってるだろMマスク、異端審問だ」

「…しかし、あまり手荒な真似は…」

「分かってるよTマスク、あんまり手荒な真似はしねえからよ」

「おい、周防P」

P「なんだよ冬馬」

「お、俺は冬馬じゃねえ!」

P「間島に武内も、何やってんだお前ら」

「申し訳ありません」

「いやー、だってお前がさ」

P「俺が何だってんだ?」

「お前、朋花様とお茶会をしたそうだな」

P「確かにしたけどよ」

「羨ましいな~」

「はい」

「朋花様とお茶会なんて万死に値する」

P「何でだよ」

「んなもん羨ましいからに決まってるだろ!」

P「…」

めんどくせえ…

手際は見事だったけど縛りが甘いからこの位ならすぐに抜けられそうだ

昔恵美に縛られたときの方がよっぽど大変だったし

P「とりあえずお前ら、そろそろ教室戻らないと遅刻するぞ?」

縄を解いて立ち上がろうとした次の瞬間

ドゴォ

物凄い音を立て、教室の扉が吹き飛んだ

「な、なんだ!?」

そちらに目を向けると

志保「…見つけた」

ハッキリと見えるくらいのどす黒いオーラを放つ志保がいた

「き、北沢!?」

志保「兄さんを誘拐した男…殺す」

「ま、待て話し合えばわかぎゃああああああ!!」

話し合いの余地も無く冬馬に飛びかかった志保は流れるように冬馬の腕をへし折った

朋花「P先輩、大丈夫ですか~?」

P「あれ、天空橋さん」

P「なんでここに?」

海美「Pが攫われた直後に会ったんだ~」

P「海美」

海美「しほりんと私で足止めをしてた連中を半殺しにしてたら朋花様がそれは子豚ちゃん達だから話を聞いてみるって」

朋花「聞いたところ一部の子豚ちゃんが先輩を誘拐して粗相をしようとしたと言っていました~」

海美「それを聞いた私達は残りも半殺しにした後追い掛けてきたの!」

P「なるほどな~」

朋花「さて、子豚ちゃん達~?」

「はい朋花様!」

「はい」

「」

朋花「どんな理由があろうとも、人に迷惑を掛けるのを私は許しませんよ~?」

「申し訳ありません朋花様!」

「申し訳ありません」

「」

朋花「反省はしているみたいですね~、なら今日から一ヶ月、何かしらのボランティアを行うこと、良いですね~?」

「はい!労働は惜しみません!」

「はい」

朋花「よろしい、では教室に戻りましょうか~、このままでは遅刻してしまいますよ~?」

志保「駄目です、兄さん誘拐の下手人は一人残らず2度とこんなことをしないように徹底的に痛めつけます」

朋花「志保さん、今回は私に免じて許してあげて欲しいですね~」

P「志保、俺からも頼む」

志保「…わかりました、兄さんがそう言うのなら」

志保からどす黒いオーラが消える

海美「しほりんしほりん!しほりんは中等部だから早く戻らないと!」

志保「…そうですね、兄さん、ではまた後ほど」

P「ああ、また後でな」

一旦ここまで

実際モデルにしたのはFFF団だったりする

ラブレター騒動

√RRR
P「ん?なんだこれ…ラブレター?」

海美「うわ、古典的なラブレターだね」

P「差出人は書いてないな」

海美「捨てよう!今すぐ!」

P「馬鹿言うな、読まずに捨てられるわけないだろ?」

海美「うう~」

P「安心しろ、相手が誰であっても俺は断るよ、俺が好きなのは海美だけなんだから」

海美「嬉しいけど…やっぱり複雑!う~ん、Pに悪い虫が付かないようにもっと対策取らないと駄目かな~?」

P「…ほら、行くぞ海美」

海美「?」

P「腕、組むんだろ?」

海美「あっ…うん!!」


√FW
恵美「あれ、Pなんか落ちたよ」

P「なんだこれ…手紙?」

恵美「靴箱の中に手紙…まさか、ラブレター?」

P「ラブレターねぇ…」

恵美「…それどうすんの?」

P「一応中身を確認して会いに行くよ」

恵美「…もし、その子が可愛かったら」

P「心配しなくて良い」

恵美「あっ…」

P「俺はお前の傍に居るって決めたんだ、だからどんな子だったとしても、俺は断るから」

恵美「うん…ありがと」

P「なんなら一緒に行くか?」

恵美「ごめんその発想は外道だと思う」


√HW
P「ん?靴箱に手紙が…」

琴葉「何の手紙?」

P「わからん、でもハートが貼ってあるから…」

琴葉「…ラブレター…?…私のPくんに…?」

P「琴葉、ステイ、ステイ」

琴葉「差出人は?」

P「書いてないみたいだ」

琴葉「…」

P「一応会ってみるよ、流石に無碍には出来ない」

琴葉「うん…」

P「大丈夫だ、琴葉が心配しているようなことには絶対ならないから」

琴葉「Pくん…うん、信じてる」

P「終わったらアイスでも食べに行こう」

琴葉「楽しみにしてるね」

√BMC
美希「はにぃ♪これ受け取って欲しいの!」

P「え?み、美希?」

美希「絶対読んでね~」

P「何だったんだ?」

翼「あ、これラブレターですね」

P「ラブレター?」

翼「はい、ハートが貼ってありますし…わたしの目の前で良い度胸してますね、美希先輩」

P「はは…まあ落ち着け翼」

翼「落ち着いてます!…自分の彼氏がモテモテで嫌な気分になる子は少ないですし」

翼「でもでも、わたしはちょっと複雑かも…」

P「ありがとな翼」

翼「む~急に頭ポンポンは反則!罰として、今日はずっと一緒にいてくださいね!」



√Pn
P「こんなものを貰った」

ジュリア「なんだそりゃ」

P「ラブレターかなぁ」

ジュリア「ふーん…あんたモテるんだな」

P「どうだろうな、今まで貰ったこと無いし」

ジュリア「あっそ」

P「なんか機嫌悪くないか?」

ジュリア「気のせいだろ」

P「あわかった、嫉妬してくれたんだな?」

ジュリア「は、はあ!?嫉妬なんかしてないし!」

P「可愛い奴め、近う寄れ」

ジュリア「ぶっ飛ばすぞ」

√LR
P「なんだこれ、靴箱に手紙?」

志保「兄さんそれは危険です爆発物です毒物です今すぐ破棄してください」

P「志保、いつの間にこっちに…」

志保「細かいことは気にしないでください、とにかくそれは存在してはならないものなのでちゃんと排除してください」

P「まあまあ落ち着け志保」

志保「兄さん…でも…」

P「志保だって自分の出した手紙が読みもせず捨てられたら嫌だろ?だからちゃんと会って、断ってくるよ」

P「俺にはもう、大切でずっと傍に居たい子がいるって」

志保「兄さん…はい、わかりました」

志保「ただ襲われる可能性もあるので私は物陰に待機しています」

P「襲われるなんてそんな」

志保「だって私なら襲いますから」

P「えっ」


√PG
志保「兄さん受け取ってください、ラブレターです」

静香「ちょっ、志保!?」

P「あ、あー、ありがとな志保」

静香「Pさん!」

志保「ちゃんと読んでくださいね?返事はOKから受け付けますから」

静香「志保!Pさんは私の彼氏なのよ!」

志保「私は前に兄さんの隣は必ずお前から奪い取るって言ったから」

静香「駄目!絶対駄目!Pさん!」

P「分かってるって静香、大丈夫だ、それにこれラブレターじゃないし」

静香「え!?」

志保「ぷっ、騙されてる」

静香「し~ほぉぉぉ!!!」

√TP
百合子「先輩大変です!」

P「どうした百合子」

百合子「先輩の靴箱にラブレターが入ってたんです!」

P「ラブレターが?いや、待てその前に」

P「勝手に人の靴箱を開けたのはどういうことだ、ん?」

百合子「いひゃひゃひゃひゃ!ひ、ひがうれふ!」

P「何が違うんだ?」

百合子「せっかくなので私も先輩に想いを込めたラブレターを出そうとしたんです、そうしたら先を越されてて…」

P「百合子…」

百合子「改めて、私のラブレター…受け取っていただけますか?」

P「…ん、ありがとう百合子」

百合子「ところでそのラブレター良く見たら昨日私が先輩を驚かそうとして靴箱に入れたラブレターによく似てますね!あ、あれ?それもしかしたら…」

P「…」ムニー

百合子「い、いひゃいれふー!」



ラブレター騒動篇、尾張

海美「ぎゅー!」

P「こ、こら、いきなり抱き着くな」

海美「だって心配したもん」

まあ確かに海美や志保からしたら目の前で俺が誘拐されたわけだし心配するのも無理はないか

俺だって海美や志保、桃子やこのみ姉さんが目の前で攫われたら地の底まで追い掛けて攫った奴を殺すだろうし

P「ま、心配してくれてありがとな、海美」

海美「えへへ~」

P「天空橋さんも、来てくれてありがとう」

朋花「いえ、私の子豚ちゃんがかけてしまった迷惑は私の責任でもありますから~」

P「んー…まあ今回の事は気にしないでくれ、冬馬や間島、武内はまあ友達だしただの悪ふざけみたいなものだからさ」

朋花「ですけど…」

P「どうしてもって言うなら土曜日、何か美味しいお菓子をお願いしようかな」

朋花「…ふふ、わかりました~」

P「じゃあこれで手打ちって事で、土曜日、楽しみにしてるよ」

朋花「ええ、楽しみにしていてくださいね~」

海美「何の話?」

P「秘密の話」

海美「え~!教えてよ~!」

詮索してくる海美を上手く躱しながら教室へ向かう

週明けから大変な目にあったけど、週末のことを考えるならむしろ役得だったかもしれない

朋花「…本当に、変わった人ですね~」

P「ん?天空橋さん、何か言った?」

朋花「何も言ってませんよ~」

P「そう?」

朋花「…」

P「いただきます」

朋花「いただきます~」

百合子「いただきます!」

天空橋さん、百合子と一緒に昼食を摂る

名字+さん付けが嫌だから名前で呼んで欲しいという百合子からの要望を受けたので呼び方を変えてみたのだが、結構しっくりくるから不思議だ

P「二人はもう仕事には慣れたかな?」

百合子「はい!何故かは分からないんですけど、必要な資料がどこにあるのかが何となく分かるおかげで順調に進んでます!」

P「天空橋さんは?」

朋花「私も、中等部での経験がありますから苦労はしていませんよ~?」

P「それなら良かったよ」

P「もうすぐ藤まつりだからな、頑張っていこう」

百合子「先輩、藤まつりって何をするんですか?」

P「あれ?琴葉から聞いてない?」

朋花「ええ、以前着付けをしたので和装をするであろうということ以外は何も聞いていませんよ~?」

P「なるほど、なら簡単に説明しておこう」

P「765学園にある庭園はわかるかな?」

百合子「立ち入り禁止の池がある場所ですよね?」

P「そう、あそこには立派な藤棚があってな、学園長が藤まつりの日だけそこを一般開放するんだよ」

P「まあ簡単に言えば、お花見だな」

朋花「お花見?」

P「そう、お花見」

P「ただ普段は立ち入り禁止にしている場所を開放するわけだから何かあると困る、だから俺達プロダクションの社員と風紀の連中とが協力して見回りをしたりするんだ」

百合子「なるほど」

P「まあ着物だから少し動きにくいだろうけど、そこはなんとかしてもらうしかないな」

百合子「藤まつりかぁ…先輩と一緒に見たいなぁ…」

P「百合子、何か言った?」

百合子「い、いえ、なんでもありません!」

P「そうか?」

P「一応簡単に説明はしたけど、何か質問はあるか?」

百合子「私は大丈夫です」

朋花「私も、特に質問はありませんよ~」

P「わかった、詳しい説明は琴葉からされる筈だから、良く聞くように」

百合子「はい」

P「っとそうだ天空橋さん」

朋花「?」

P「藤まつりは基本ツーマンセルで行動する事になる、だから俺は天空橋さんとチームになると思うけど、何か希望とかはあるかな?」

朋花「そうですね~敢えて言うなら…」

P「言うなら?」

朋花「先輩の働きぶりに、期待していますね~」

P「それは希望なのか?まあいいや、期待に応えられるように頑張るよ」

一旦ここまで

そして土曜日

P「お邪魔します」

朋花「ようこそ~」

俺は約束通り、教会を訪れていた

朋花「では今日も、よろしくお願いしますね~」

P「ああ」

前回よりもかなり早い時間…午前中から掃除を始める

今回は天空橋さんが昼をご馳走してくれるらしい

なので早めに始める事にしたのだ

P「しかしたった1週間でも意外と埃が出るんだな」

朋花「日曜日には礼拝に来る人もいますし、カーテンもありますからね~」

P「人がいる以上はどうしようもないってことか」

朋花「だからといって掃除をサボっても汚くなってしまうだけですから、やっぱり綺麗にしておくにこしたことは無いんですよ~?」

P「それもそうだな、変わらないにしてもどうせなら綺麗な方が良い」

朋花「ええ、なのでちゃんと綺麗にしましょうね~」

P「任せてくれ」

奉仕活動も悪くない

プロダクションで仕事をしていると見かける感謝の手紙や、天空橋さんの話を聞いているとそう思う

誰かに喜んで貰えるのは自分自身嬉しいものだ

二度目の掃除はあっさりと終わった

前回よりも掃除個所が少なく、汚れも大したことはなかったのが原因だろう

朋花「お疲れさまでした~」

P「お疲れさま」

朋花「では、私はお昼ごはんの準備をしますから、リビングで待っていてくださいね~?」

P「手伝うよ」

朋花「駄目ですよ~?これは私のお仕事ですから~」

P「うっ…わ、わかったよ」

天空橋さんから放たれるプレッシャーに思わずたじろぐ

…下手に逆らわず言うことを聞いた方が良さそうだ

天空橋さんがエプロンを装着し、台所へと向かった

…エプロンを着けた天空橋さんが可愛くて少しドキッとする

やはりエプロンは良い

仕方なくリビングのソファに座って天空橋さんを待つ

しかし天空橋さんの料理か…一体どんなものが出て来るんだろうか

天空橋さんの料理の腕か未知数である以上楽しみ半分不安半分といったところか

そんなことを考えていると

朋花「きゃっ!」

ガシャンという音と共に天空橋さんの悲鳴が聞こえてきた

P「天空橋さん!?」

悲鳴を聞き、台所に駆け付けると

指を切ったのか、指から血を流す天空橋さんがいた

P「指を切ったのか!?」

朋花「だ、大丈夫ですよ~このくらい」

P「駄目だ!まずは水洗いを!」

朋花「あっ」

俺は天空橋さんの手を取り、流水を傷口に当てる

P「よし、次は消毒だ」

俺はポケットから救急箱を取り出し、その中から消毒セットを取り出す

P「少し染みるけど、我慢してくれ」

朋花「っ」

染みた痛みからか、天空橋さんが僅かに顔を顰める

P「後は防水絆創膏を貼ってと…よし」

天空橋さんの指に絆創膏を貼り、作業を完了した

朋花「あ、ありがとうございます」

朋花「…ずいぶん手慣れてるんですね~」

P「手当てのこと?」

朋花「はい~救急箱も用意していたみたいですし」

P「救急箱はつい癖でね…俺には幼なじみがいるんだけどそいつは昔から運動が大好きでさ」

P「小さい頃から走り回るからよく転んで怪我をしてさ、いつも俺が手当てしてたんだ」

P「もっとも成長してからは怪我をあんまりしなくなったから今はもう必要無いのかもしれないけど、どうしても用意だけはしちゃうんだよな」

朋花「…」

朋花「…その幼なじみの人のこと、凄く大切に思っているんですね~」

P「まあ、たった一人しかいない幼なじみだからね、それこそ赤ん坊の頃から一緒にいるしやっぱり大切だ」

P「一番の友達だよ」

朋花「一番の友達…ふふ、素敵な関係ですね~?」

P「ま、今では天空橋さんも大切な存在だけどね」

朋花「…え?」

朋花「…それは、どういう意味ですか~?」

P「言葉通りの意味だよ、俺にとって天空橋さんは大切な存在だ」

P「もちろん琴葉も、亜利沙も、百合子も、青羽さんも、俺にとって大切な存在だ」

P「プロダクションで過ごす時間は楽しいから」

朋花「…ああ」

P「天空橋さんはどうだ?」

朋花「ええ、私もプロダクションの皆さんの事は大切に思っていますよ~」

P「なら良かったよ」

P「よし、とりあえず昼食にしようか、もう腹が減ってさ」

朋花「そうですね~、すぐに用意しますね~」

P「俺も手伝うよ」

朋花「私はさっき、これは私の仕事だと言ったはずですよ~?」

P「けどそれで怪我しちゃったじゃないか、それなら二人でやった方が良い」

朋花「…」

P「こういう時は素直に頼ってくれよ」

朋花「…わかりました~、では、お願いしますね~?」

P「ああ、任された」

私の代わりに包丁を握り、食材を切っていく先輩の背中を見つめる

…この人といるとどうしてか心が乱される…ような気がする

少なくとも私のペースに中々持ち込めない

こんな人は初めてだ

朋花「…」

とても、とても興味深い

初めて会ったときよりももっとこの人の事を知りたいと思う

私を相手にしても、変わらないこの人の事を

P「あっ、指切った」

朋花「…」

…救急箱、どこに置いてあったかな

週明け

朋花「ふう…」

百合子「どうしたんですか朋花ちゃん、ため息なんて珍しいですね」

朋花「百合子さん…いえ~、実は週末にあった出来事なのですが~」

私は百合子さんに週末、先輩とお掃除をしたことやお料理をしたこと、その際に怪我をして手当てしてもらったことを話した

百合子「先輩と一緒に料理を作るなんて羨ましい…」

百合子「それで、どうしてため息を?」

朋花「先輩のことが良くわからないんですよ~」

百合子「良くわからない?」

朋花「はい~、今まで私の事を聖母では無く普通の女の子として扱ってくる人はいませんでしたから~」

百合子「あ~、先輩は相手の身分とかは気にしなさそうですもんね」

百合子「話しやすいというか、一緒にいると温かいというか…」

朋花「百合子さん~?」

百合子「はっ!と、とにかく、頼りになって思わず甘えてしまいそうになっちゃう人ですよね!」

朋花「甘えたくなる…ふふ、そうかもしれませんね~」

一旦ここまで

甘えてしまいそうになる人…

今まで私は愛を与える側だったしきっとこれからもそうだろう

聖母として、すべての人に無償の愛を与えること

それが私の使命でもある

だけど愛を与えられるというのは慣れない感覚だ

勿論両親からはたくさん愛情を注いで貰ったし、愛を与えて貰ったことが無かったわけではない

だけどそれは肉親だからという理由もあるだろう

だから私は、肉親以外の人に愛を与えられるかもしれないことが少し不安だった

愛を与える側である私が誰かに甘えても良いのだろうか?

勿論誰かに甘えることが決まったわけでは無いけれど

誰かに愛されてしまえばきっと私はすべての人に無償の愛を与えることは出来なくなるだろう

だって

無償の愛は私を愛してくれる人にすべて注がれてしまうだろうから

きっと私はすべての人を愛せなくなる

ならやっぱり愛されるよりも、愛する方が良い

それなら余計なことを考えずに済むから

朋花「…」

百合子「朋花さん?どうしたんですか?」

朋花「いえ、少し考え事をしていたんですよ~」

百合子「あ、そうだったんですね!いきなり黙っちゃったのでもしかしたら何か気に障っちゃったのかなって少し心配だったんです」

朋花「そんなことは無いので大丈夫ですよ~?」

百合子「良かったぁ…それじゃあ朋花さん、先輩が待っていますしそろそろ食堂に行きましょう!」

朋花「ええ、行きましょうか~」

琴葉「というわけで3人とも、これが藤まつり当日の当番表よ」

昼食時、一緒に食べていた琴葉が百合子と天空橋さん、俺に資料を渡す

琴葉「詳しいことは放課後に説明するから、それまでに目を通しておいてくれると嬉しいかな」

琴葉から渡された資料を眺めていると、少し気になる点を見つけた

P「…ん?琴葉、ちょいと気になる点があるんだが」

琴葉「どこ?」

琴葉が顔を寄せて覗き込んでくる

ふわっと良い匂いがして、思わずどきどきする

琴葉「Pくん、どこが気になるの?」

P「え?あ、えーっとその」

百合子「…先輩、鼻の下が伸びてますよ」

P「そ、そんなことは無いぞ!」

百合子にジト目で突っ込まれて正気に戻る

P「えーっと、気になる点は琴葉の髪…じゃなくて、この配置なんだけど」

今思わず危ないことを口走りかけたが何とか軌道修正

そして改めて該当箇所を指差す

P「俺の配置がマネージャーのそれになってないか?」

琴葉「あ、うん、元々Pくんはマネージャーとしてプロダクションに引き入れていたから」

琴葉「だから今回はマネージャーとして私を補佐して欲しいかなって…駄目、かな?」

P「いや、琴葉を補佐するのは構わないんだけど流石に天空橋さんを1人にするわけにはいかないし」

琴葉「そ、それなら、朋花ちゃんもマネージャーのところに」

P「それやっちゃうと今度は事務員の場所に人がいなくなっちゃうだろ?」

琴葉「うん…」

P「とはいえマネージャー枠に人がいないのも事実だし…仕方ない、何とか両方こなしてみるよ」

一旦ここまで

そして迎えたGW、藤まつり当日

P「一年ぶりだな、これを着るのも」

甚平に着替えた俺は、今日の配置を再確認しながら女子達を待つ

それから程なくして百合子が一番乗りでやって来た

百合子「せ、先輩!」

P「ん?」

百合子「ど、どうですか?」

P「ふむ」

百合子が俺に着物を見せるかのように身体を動かす

以前着付けの時に一度見ているがこうやって外で見ると印象が変わるな

P「うん、百合子によく似合ってて可愛いと思うぞ」

百合子「か、可愛いですか?えへ…えへへへ~」

ふにゃふにゃとだらしなく顔の緩む百合子

…何故だろう、あの柔らかそうな頬を引っぱりたい衝動に駆られる

しかし流石にそれは我慢だ

百合子の頬を引っぱりたい衝動を抑えているうちに次々とメンバーがやってくる

…うん、去年は綺麗系が多かったけど、今年は琴葉以外可愛い系しかいないな

…あれ、天空橋さんがいないな、着替えに手間取ってるのか?

辺りを見渡してみても天空橋さんの姿は見当たらない

一体どうしたんだろうか

「…ふ~」

P「うひぃ!?」

急に耳に息を吹きかけられ、変な声が出る

「ふふ、隙だらけですよ~?」

P「て、天空橋さん?」

振り返るとイタズラが成功して嬉しいのか妙にニコニコしている天空橋さんがいた

朋花「駄目ですよ~?ちゃんと集中していないと」

P「そ、そうだな…」

改めて天空橋さんの姿を見る

P「…」

着付けの時に見たはずなのに

天空橋さんの着物姿を見た俺は、思わず見とれてしまった

一旦ここまで

スラッとしていて、まさに和服美人といった感じだ

可愛い系ではなく、文字通り美しかった

朋花「どうしたんですか~?私をジッと見て」

P「あ、い、いや、その…凄く綺麗だなって」

朋花「っ、そ、そうですか~、お世辞でもちゃんと褒められたことを褒めてあげますね~?」

P「お世辞じゃない!本当にその…綺麗だと思う」

朋花「っ、っ」

P「と、とりあえず集合しようか」

朋花「ええ」

赤くなった顔をなるべく天空橋さんに見られないようにしながら、俺達は他の社員達のところへ向かった




P「つ、疲れた…」

しばらくして、プロダクションの業務が完了した

流石にマネージャーと事務員の掛け持ちはきつく、終わる頃にはすっかりくたびれてしまった

P「ふう…」

藤棚の下にあるベンチに座って脱力する

そんな俺の前に

朋花「先輩、お疲れみたいですね~」

天空橋さんがやって来た

P「天空橋さん…お疲れ様、どうだった?」

朋花「そうですね~、確かに少し大変でしたけど、私は楽しかったですよ~?新しい子豚ちゃんも増えましたし」

P「そ、そうか、それは良かったな」

俺が見ていないところで一体何があったのか

というか藤まつりの来客は俺達より一回り以上年上ばかりだったはずなんだが

朋花「はい、せっかくなのでどうぞ~?私が淹れたお茶ですよ~」

P「お、ありがとう」

朋花「有難く飲んでくださいね~」

P「勿論、有難く頂くよ」

P「…うん、温かくて美味いよ、ありがとう」

朋花「ふふ、どういたしまして~」

俺達の間を、一陣の風が通り抜ける

その風にさらわれて、藤の花が空を舞っていた

朋花「綺麗な景色ですね~」

P「ああ」

去年も綺麗だと思ったけど、今年の藤も綺麗だ

気が付くと天空橋さんは俺の隣に座っており

俺達は琴葉に声をかけられるまで、黙って藤を眺めていた

百合子「ああ~疲れたよ~…」

朋花「ふふ、百合子さんも頑張ってましたからね~」

百合子「書記なのに走り回るなんて思ってませんでした」

百合子「あ、朋花さん寒かったりしたら言ってくださいね?毛布ありますから!」

朋花「ありがとうございます~、でも今は大丈夫ですよ~」

百合子「実は私、友達が泊まりに来るのって初めて少し興奮してるんです!」

朋花「私も、お友達の家に泊まるのは初めてですから、少しどきどきしてますよ~」

百合子「私、プロダクションに入って良かったです」

百合子「優しい先輩達に会えて、朋花さんとも友達になれて」

百合子「勇気を出して良かった…」

朋花「ふふ、私も百合子さんとお友達になれて良かったと思ってますよ~?」

百合子「朋花さん…!それじゃあ明後日の遊園地、一緒に回りましょうね!P先輩も連れて!」

朋花「ええ、今から楽しみですね~」

一旦ここまで

藤まつりから二日後

俺はプロダクションの面々と一緒に遊園地に来ていた

周りには…いや、園内には俺達以外の客は1人もいない

何故なら今日はプロダクションが遊園地を借りているからだ

藤まつりの後、学園長が俺達に渡してきたチケット…それは遊園地一日貸切券だ

このチケットで今日この日を貸切にしている

…遊園地側からすればGW真っ只中に貸切にされるなど堪ったものではないだろうが…

何にせよ、今日ここにいるのは俺達だけだ

琴葉「みんな、藤まつりお疲れ様でした」

琴葉「今日は藤まつりで頑張ってくれたみんなのために学園長が遊園地を貸切にしてくれました」

琴葉「なので今日は一日羽根を伸ばして、英気を養いましょう」

琴葉「あ、でも他にお客さんがいないからといって765学園の生徒として恥ずかしくない行動を心がけてください」

琴葉「わかった、茜ちゃん?」

茜「茜ちゃん名指し!?」

琴葉から簡単な注意事項を聞いた後、各々好きなアトラクションへと向かった

さて、俺はどうするか

百合子「先輩、どこか行きたいアトラクションはありませんか?」

P「俺?いや、俺は特には無いよ」

百合子「でしたら、私達と一緒にアトラクションを回りませんか!?」

P「百合子、それと天空橋さんと?」

百合子「はい!」

P「ふむ」

なるほど、それも悪くない

1人で回るよりは誰かと回った方が楽しいに決まってるし

P「わかった、じゃあ一緒に行こう」

百合子「ありがとうございます!」

朋花「ふふ、では早速先輩に最初のアトラクションを決めて頂きましょうか~」

P「責任重大だな…ふーむ」

目を閉じ、アトラクションの順番を脳内で構成する

最初から激しいものに乗るのもアリだがそこで力尽きてしまっては楽しめなくなる

となればジェットストリームアタックコースターやジャブローズスカイは論外

ビグザムブランコ辺りも止めておいた方が良いだろう

なら最初は軽めのアトラクションから回っていくべきか

軽めのアトラクションとなると…

UCヒストリーライド辺りから回っていくとしよう

P「よし、行くとするか」

百合子「はい!」

朋花「はい~」

俺は二人を連れてヒストリーライドへと向かった





百合子「面白かったです!」

朋花「人の総意の器…興味深かったですね~」

P「楽しんでもらえたようで何よりだ」

入ってから気付いたのだがヒストリーライドは割と血生臭い部分が多く、少し心配だったのだが杞憂だったようだ

百合子「では次は私がアトラクションを決めますね!あれ!あれに行きましょう!」

興奮気味に百合子が指差したのはジェットストリームアタックコースターだった

朋花「えっ」

P「ジェットストリームアタックコースターか…大丈夫なのか?」

百合子「実は私絶叫系結構好きなんです!風を全身で感じられるというかなんというか」

P「なるほど」

まあ乗りたいなら付き合うとしよう

…絶叫系が続くようなら途中で別のに乗れば良いし

P「天空橋さんも、ジェット(略で良いかな?」

朋花「…」

P「天空橋さん?」

朋花「え、ええ、大丈夫ですよ~?…………多分」

天空橋さんが最後に何かボソッと呟くものの、俺の耳には届かなかった

他に客もいないので3人並んで座る

コースターの位置は先頭固定だと思ったのだが二両目、三両目も選べるらしい

しかし今回は百合子の希望で先頭車両となった

百合子「わくわくしますね!」

P「そうだな」

朋花「………」

テンションが上がって笑顔な百合子とは反対に表情から感情の見えない天空橋さん

もしかしたら体調でも悪いのだろうか

P「天空橋さん、大丈夫か?」

朋花「?何がですか~?」

P「いや、なんか表情が暗かったからさ、もしかしたら体調でも悪いかと思って」

朋花「ふふ、心配してくれているんですか~?」

P「そりゃあね」

朋花「心配せずとも、体調は大丈夫ですよ~?体調は」

P「それなら良いんだけど…」

そんな話をしているうちにコースターが動き出した

朋花「私の表情が優れないのは…コースターが苦t」

天空橋さんの言葉は最後まで紡がれる事は無く

P「うおおおおお!?」

朋花「~~~~~!!!!」

風の中に悲鳴と共に消えていったのだった

百合子「楽しかったですね!」

P「そ、そうだな…」

朋花「」

コースターから降りた俺達は、テンションが上がりっぱなしの百合子を除いてヘロヘロだった

まさかよりにもよってジェット(略のレア機能、追撃が発生するなんて思いもしなかった

「いけるぞ、もう一度ジェットストリームアタックだ」

と聞こえた時はどうしたものかと思った

百合子「次は何に乗ろうかな~」

百合子はピンピンしている

…意外だった

一度ベンチに座ろう

そう思って一歩踏み出そうとした時

誰かに袖を抓まれた

袖を抓んできたのは…

P「…天空橋さん?」

朋花「ふふ」

満面の笑みで天空橋さんが俺の袖を抓む

…何だかんだで抓む力が強いぞ

P「天空橋さん、どうしたんだ?」

朋花「特に意味はありませんよ~?」

…嘘だな

天空橋さん、良く見ると冷や汗を掻いてるし腰はへっぴり腰、オマケに足も妙にガクガクしている

…もしかして絶叫系苦手だったのか

しかしきつかったのを表面に出さず…って事は無いか

表情こそ笑顔だが全身で限界のサインを出してるし

しかしなんだ、強がる天空橋さんが妙に可愛らしく思えてきた

P「百合子、二連ジェット(略でちょっと疲れたから休んで良いかな?」

百合子「あ、はい!私は大丈夫ですよ」

P「ちょっと長めに休憩取りたいから見たいところがあったら見てきて構わないぞ」

百合子「わかりました!じゃあ私、お土産を見てきますね!」

…百合子が行ったのを確認したのち、天空橋さんとベンチに座る

それと同時に天空橋さんは深く息を吐いた

P「お疲れ様」

朋花「ふふ…まさか2回連続になるとは思いもしませんでしたよ~」

絶叫系が苦手な人からしたら相当キツかっただろう

ジェット(略はただでさえ絶叫系のランキングを作れば上位に位置すると言われるくらいに激しいし

P「苦手なら苦手だって言っても良かったのに」

朋花「…せっかく友達が楽しみにしていることに水を差すなんて、無粋ではないですか~?」

P「確かに無粋かもしれないけど、それでダウンしちゃったら後の楽しみが丸ごと無くなるんだぞ?」

P「そうなったらお互いに嫌だろ?」

朋花「それは…まあ、そうですね~」

P「少しくらいわがままを言っても良いんだよ、友達なんだから」

朋花「わがまま…」

P「天空橋さんは多分立場的にあまりわがままを言うことに慣れてないのかもしれないけど」

P「プロダクションの仲間はみんな対等だ、だからわがままだって言って良いんだ」

朋花「…先輩にもですか~?」

P「もちろん、天空橋さんからのわがままくらいなら随時受付中だ」

一旦ここまで

朋花「ふふ、良いんですか~?そんなことを言って」

朋花「もしかしたら私はとんでもないわがままを言うかも知れませんよ~?」

P「はは、その時はお手柔らかに頼むよ」

朋花「…うふ」

天空橋さんが少し邪悪な笑みを浮かべる

…やばいな、もしかして言葉の選択を間違えたかな

でもまあ、天空橋さんならそんなに過激なことはしないだろうし大丈夫か

P「さて、抜けてた腰の調子は大丈夫かな?」

朋花「…はい~?何のことですか~?」

P「え?だって天空橋さん、コースターで」

朋花「一体、何のことですか~?」

P「い、いや、なんでもない」

笑顔でプレッシャーを放つ天空橋さん

どうやら腰が抜けた事は言わぬが花のようだ

…しかし、なんだか久しぶりだな、このプレッシャー

その後調子の戻った天空橋さんと一緒に百合子を迎えに行き、合流する

P「次はどうする?」

百合子「そうですね、メリーゴーランドとかですか?私達が馬車に乗って、先輩が白馬に乗るんです!白馬の王子様ですよ!」

朋花「あら、良いですね~…先輩、私達のために文字通り馬車馬のように働いてくれますか~?」

P「却下」

想像するだけで恥ずかしいわ

P「さて、どうしたもんか」

遊園地のパンフレットを見ながらアトラクションをどうするか考える

絶叫系を除けば行くアトラクションは限られる

となると長く遊べるアトラクションは…

P「…ん?これは…」

百合子「何か良いアトラクションが?」

P「ああ、このスダ・ドアカ探索ってのはどうだ?結構広い場所で宝探しをするアトラクションみたいだ」

百合子「お宝探し…!」

百合子の目がきらきらと輝く

どうやらツボだったらしい

P「天空橋さんはどうする?」

朋花「私もそのアトラクションで構いませんよ~」

P「よし、じゃあ行こうか」

二人を連れて歩き出す

ここからそう遠くは無いので数分もしないうちに到着した

P「三つの秘宝を集めて脱出するアトラクションみたいだな」

百合子「脱出ゲームですか、ふふふ、数多の本を読み、知識を蓄えた私にとっては楽なアトラクションですね!」

P「へえ…」

この前数学の課題で思いっ切り唸ってたけど…まあ、そういうことにしておくか

一旦ここまで

アトラクション内で説明を受ける

どうやら謎を解きながら炎の剣、力の盾、霞の鎧という隠された三つのお宝を探し出すことでクリアとなるようだ

百合子「さあ先輩、朋花さん!三つのお宝を探しに行きましょう!」

百合子が進んで前に出て、俺達を誘導する

三人が一列に並んで歩く姿は、まるで国民的RPGの勇者様ご一行のようだ

P「結構本格的なアトラクションだな」

世界観というか、本当にその世界にいると錯覚するくらい良く出来ている

百合子「あっ」

ある程度進んだところで、急に百合子が足を止める

P「どうしたんだ?」

百合子「いえ、分かれ道があって」

百合子が指を差した方向には三つの分かれ道と石版があり、それぞれの石版には「炎」、「霞」、「力」と書かれていた

朋花「百合子さん、どれから行きますか~?」

百合子「そうですね…まずは…炎に行きましょう!」

P「了解」

百合子の後を追って炎の道に進む

朋花「…あら」

天空橋さんの声に振り返ると

P「うわ、マジか」

壁がせり上がり、道を塞いでいた

どうやら途中で放り出して他に行くのは出来ないようだ

そして感じ始めたのは妙な蒸し暑さだ

サウナほどでは無いが、かなり熱気が篭もっていて暑い

P「暑いな…」

朋花「ええ…」

天空橋さんも額に汗を浮かべていた

百合子「あ、水分補給用に冷蔵庫があちこち設置されているみたいですよ」

そう言いながら冷蔵庫を開け、水を取り出す百合子

百合子「一応スポーツドリンクもあるみたいです!先輩と朋花さんはどうしますか?」

P「そうだな…汗を掻くと塩分が失われるしスポドリで頼む」

朋花「私も、スポーツドリンクを頂けますか~?」

百合子「わかりました!」

百合子からスポドリを受け取り、俺達は改めて迷路の奥へと向かった

P「ぷはっ…」

いくつかの謎を解き、ようやく終わりが見えてきたものの身体は汗だくでべとべとだ

朋花「…」

天空橋さんも顔を顰めているのでかなり体力的にきているようだ

ちなみに百合子はというと

百合子「きゅ~…」

とっくに脱落し、俺に引き摺られている

先頭を行く勇者様が真っ先に棺桶になるのは如何なものか

しかし…

P「…」

百合子がいるとはいえ実質天空橋さんと二人っきり

しかも天空橋さんは汗で…その…服が透けていて下着が…

朋花「先輩、なぜ顔を逸らしてるんですか~?」

P「い、いや、特に理由はないよ」

朋花「そうですか~なら私の方を向いて貰えませんか~?」

P「なぜ?」

朋花「特に理由はありませんよ~?でも、先輩も特に理由がないなら私の方を向けますよね~?」

P「くっ」

ドSか

…仕方ない、なるべく心を無にして…

俺は意を決して、天空橋さんを見た

心を無にする事に成功した俺の視線は

P「…」

天空橋さんの透けた胸元に固定されていた

だって仕方ないじゃないか、心を無にするって事は本能に身を任せるって事なんだから

男は目の前におっぱいがあれば好みの差はあれど目が行ってしまうものだ

朋花「ふふ、私の胸を見ているんですか~?そんなに見たいですか~?」

P「もちろん見たいに決まってるじゃないか!」

しまった

本能に身を任せすぎで変なことを口走った

一旦ここまで

朋花「えっ、あ…その」

P「い、いや、なんでもない!忘れてくれ!」

朋花「え、ええ…」

何やら気まずい空気が二人の間に流れる

…どうしてこうなった

P「と、とにかく、ここは暑いし早く宝を見つけて出よう」

朋花「そ、そうですね~」

気持ち早足になりながら、俺達は奥へと進んだ

P「よし、力の盾も手に入ったな」

あの後すぐに炎の剣は手に入り、霞の鎧も特に障害も無くあっさりと手に入った

そして今、最後の宝である力の盾も無事に入手することが出来たのだが…

朋花「…」

P「…」

俺と天空橋さんの間に流れる微妙な空気だけは変わることは無かった




全ての宝を集めた後の写真撮影スペース

ドヤ顔でフルアーマー百合子と名乗り炎の剣を振り回す百合子を尻目に、俺と天空橋さんは少し離れてベンチに座る

…気まずい

しかし言ってしまったことは取り消せはしない

…どうしたものか

…どんな反応をすれば良いのかわからない

今まで子豚ちゃん達からの信仰は一身に集めてきたけれど

私を女の子として扱ってきた男の人は初めてだから

こんな時どんな反応をするべきなのだろう?

わからなくてもやもやする

…でも

朋花「…」

なんだか悪い気は、しませんね~♪

一旦ここまで

百合子「満足しました!」

P「そ、そうか、それは良かった」

未だに三種の神器を身に着けたフルアーマー百合子が鼻息荒くそんなことを言う

まあ、満足したなら良かったけど

朋花「…」

一方で天空橋さんはあれからあまり喋らず、何かを考えているようだった

うーん、やっぱりやらかしてしまったか

天空橋さんのことを気にしている内に次のアトラクションはお化け屋敷に決まった

ここは特にギミックも無いスタンダードなお化け屋敷らしい

百合子「さあ先輩、朋花さん、行きましょう!」

意気揚々と中に入っていく百合子の後に付いていく

百合子はお化け屋敷は平気なのか、割とすいすい進んでいくのだが…

ヴァー

朋花「ひっ…」

天空橋さんはあまり得意ではないようで、ちょくちょく小さな悲鳴を漏らしていた

そんな状態の天空橋さんの歩みは遅く、流石に頬っておくわけにはいかないので歩幅を合わせていたら百合子とはぐれてしまった

P「天空橋さん、大丈夫か?」

朋花「ふ、ふふ、だ、誰にものを言ってるんですか~?私はこのくらいなんともあr」

ウワァァァァァァァ

朋花「ひいっ」

肩を震わせた天空橋さんの手が何かを求めるかのように宙を彷徨う

何故か俺は

朋花「あっ…」

思わずその手を握っていた

天空橋さんの手は華奢で、ひんやりしていて、とても肌触りが良くて

ずっとこうして握っていたい衝動に駆られてしまう

朋花「先輩?」

P「あ、い、いや、こうしたら少しは安心できるかと思って」

朋花「…」

手の方に意識を集中させすぎてボーッとしていたらしい

俺は天空橋さんの声で我に帰り、言い訳がましいことを言ってしまったのだが…

朋花「わかりました~では出口までエスコートをお願いしますね~?」

P「あ、ああ、任せてくれ」

天空橋さんの手を引いて歩く

天空橋さんは俺から離れないように、ピッタリと横を歩いていた

そして脅かされる度に

朋花「っ」

悲鳴こそ上げないものの腕に抱き着いたり、手を強く握ったりしていた

しかしこんな今を楽しい、嬉しいと思っている自分がいる

俺はもしかしたら天空橋さんと一緒にいるのが気に入ってるのかもしれない

微妙に涙目になり始めた天空橋さんのために少し足を速め…

俺たちはお化け屋敷を脱出した

百合子「あ!先輩、朋花さん!良かった、はぐれてちゃったから少し心配してたんです」

P「百合子はよく平気だったな」

百合子「あはは…暗い部屋でホラー小説とか読んでもっと怖い目にあったりもしたので結構平気でした」

百合子「ところで」

P「ん?」

百合子「なんで先輩と朋花さん、手を繋いでるんですか?」

P「あ、いや、これはだな」

思わず手を離そうとするが

ギュッと強く握られ、俺は手を離すという選択を頭から消してしまった

朋花「暗くて足下が不安だったのでエスコートしてもらったんですよ~」

どうやら怖かったからとは言いたくないらしい

百合子「そ、そんな手が…!」

一方百合子は百合子で何やら衝撃を受けていた

P「まあとにかく、深い意味は無いぞ…多分」

そう、深い意味なんて無いはずだ

今手を握ってドキドキしていることにもきっと深い意味なんて無い

これで握っているのが百合子の手だったとしてもドキドキしていたはずだ

きっとそうに違いない

一旦ここまで

その後、いくつかのアトラクションを回っていると集合時間となった

P「もうそんな時間か…」

百合子「あっという間でしたね…」

朋花「ふふ、楽しい時間というものはすぐに去ってしまうものですよ~」

指定された集合場所で他の皆と合流し、今後の予定を琴葉から聞かされた後、解散となった

俺と天空橋さんは同じ道なので、一緒に帰ることにした

P「…」

朋花「…」

帰り道、特に会話は無く二人で歩く

しかし昼のように気まずい空気は流れておらず、どこか柔らかい雰囲気があった

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チラッと天空橋さんを見る

手を握った時、凄くドキドキした

あんな気持ちは初めてだ

…凄く華奢な手だった

天空橋さんはあの華奢な手で、一体どれだけの人を導いたのだろうか?

だけどあの時、お化け屋敷で伸ばしていた手は誰かに助けて貰うことに慣れていない手だった

…だから俺は手を取ったのかもしれない

あの手が、迷子にならないように

P「…」

改めて自分の手を見る

こんな考えは傲慢かも知れない

だけど俺は、あの手を引いてあげたかった

朋花「あら…」

天空橋さんが足を止める

目の前にはいつもの公園

天空橋さんとの別れ道だ

P「どうする天空橋さん、家まで送ろうか?」

朋花「ふふ、ここまでで大丈夫ですよ~」

P「そう?」

朋花「ええ」

そう言って天空橋さんが一歩、二歩と前に出る

そして俺の方を振り返ると

朋花「週末、お待ちしてますね~」

そう言って手を振った

朋花「ふう…」

部屋に着いた私は着替えもせずにベッドに倒れ込んだ

そして手を…先輩が握っていた方の手を見る

朋花「…」

家族以外の誰かに手を引いて貰った事なんて一度も無かった

ましてや異性にだ

だからだろうか慣れてないから、凄くドキドキした

顔には出さなかったけど、本当は凄くドキドキしていた

大きな手だった

私の手とは違う、温かくて大きな手

まるで私を優しく包み込むような、そんな手だった

…何故先輩は私を聖母としてではなく普通の女の子のように扱うのだろう

今まで出会ってきた人達は上級生であっても例外なく子豚ちゃんになったり騎士団の一員となっていた

なのに先輩はそんな素振りを一切見せないどころかとても普通に扱う

一体何故?

プロダクションの仲間だから?それとも、別の理由…?

真実は本人にしか分からないだろう

でも1つだけ分かるのは

朋花「…ふふ♪」

普通の女の子扱いされて嬉しくなっている私の気持ち

聖母として救いを求められるのは私の義務だ

でも

女の子として先輩を求めるのも、悪くないかもしれない

一旦ここまで

そして週末

朋花「では、始めましょうか~」

P「ああ」

天空橋さんと一緒に教会の掃除をする

掃除をするようになってからまだそんなに経ってはいないが、なんだかんだで週末の楽しみの1つとなっていた

P「…」

掃除をしながらチラッと天空橋さんを盗み見る

ステンドグラスを磨いている天空橋さんの横顔はとても綺麗で、神秘的だった

その気になれば何時間でも眺めていられそうだ

朋花「…あら、どうかしましたか~?」

俺の視線に気付いたのか、天空橋さんが声をかけてきた

P「い、いや、何でも無い」

俺は慌てて視線を逸らし、掃除に集中する

朋花「…」

天空橋さんから何か言いたげな気配が伝わってくるが、今は勘弁してほしい

その後もちょくちょく視線を感じ、微妙に集中力を欠きながらも掃除は終了した

P「ふう…」

朋花「お疲れさまでした~…今日は随分と注意力が散漫でしたね~?」

P「まあ…ね、もしかしたら遊園地の疲れが抜けきってないのかもしれない」

朋花「あら…私に会うのに疲れたままでいるなんて、なっていませんよ~?」

P「天空橋さんは…まあ、元気そうだな」

朋花「はい、私はしっかり休みましたから~」

P「見習わなくちゃな」

朋花「ふふ、なら特別に私の部屋で休むことを許してあげますね~?」

P「えっ」

天空橋さんの…部屋?一体何故?

朋花「あら、何か不満でもありますか~?」

P「い、いや、不満とかは無いよ…ただ」

朋花「ただ?」

P「男の俺を部屋に入れて気にならないのかなって思ってさ」

朋花「気になりませんよ~?私の前ではみんな平等ですから~」

P「そ、そっか…じゃあ、お邪魔します」

妙に緊張しながら天空橋さんの部屋へと足を踏み入れる

P「おお…」

天空橋さんの部屋はとても整理整頓されていて綺麗で、簡素だが要所要所に女の子らしさを感じさせる部屋だった

…まあ、比較できる部屋が海美の部屋と歌織さんの部屋くらいしか無いわけだけど

朋花「それでは好きなように座っても構いませんよ~」

そう言ってプーギーのぬいぐるみを抱きながらベッドに座る天空橋さん

俺は天空橋さんの言葉通りに、小さなソファに座らせて貰うことにした

思ったよりふかふかで身体が沈み込むようにフィットする

…良いな、これ

朋花「ふふ、そのソファ、気に入ったみたいですね~、顔に出ていますよ~?」

P「ああ、これは良いソファだ…どこで買ったんだ?」

朋花「ネット通販ですよ~」

P「俺も機会があったら買うとするか…」

何だか全身の力が抜けていく感じだ

…ずっとこうやってるとだんだん瞼が重くなって…

一旦ここまで

朋花「…」

微かに聞こえる寝息から、先輩は完全に眠ったと判断する

朋花「ふう…」

それと同時に僅かに息を吐き、肩の力を抜いた

掃除の間、先輩の視線を感じていた

いやらしいものではなく、何処か戸惑ったような視線

一体私を見て、何を感じていたのだろうか

朋花「…」

ベッドから降りてソファに近付く

じっと顔を見つめるも

P「ぐぅ…」

先輩は暢気な顔をして眠っている

…いくら勧めたとはいえ、他人の部屋で無警戒に眠れる先輩の図太さは賞賛に値する

それだけにあの視線の意味が分からない

朋花「…」

…顔を見つめていると何故か顔が熱くなってきたので視線を外し、時計を見る

時刻はお昼の少し前

そろそろお昼ご飯の用意をする時間だ

一人で食事を用意するのも、一人で食べるのにも最近少しずつ慣れてきていたけど

やっぱり誰かと食べる方が良い

ここ二年ほど忘れていた気持ちを、先輩と一緒に食事をするようになって思い出すことが出来た

朋花「ふふっ」

お礼…というわけでは無いけれど

最近上達してきた手料理を振る舞うとしよう

P「んあ?」

鼻腔をくすぐる香りに、我ながら間抜けな声を上げて目を覚ます

辺りを見渡すと知らない部屋…というより天空橋さんの部屋

部屋に入ってからそれほど時間が経った気もしないので、どうやらすぐに寝てしまったようだ

時計を見ると時刻は昼過ぎ

丁度昼時なのも相まって漂う美味しそうな香りに腹の虫が鳴る

部屋には俺1人だったので、天空橋さんが作っているのだろうか

ソファから立ち上がり、俺は居間へと向かった

朋花「あら、よく眠れましたか~?」

天空橋さんが振り返ること無く聞いてくる

P「おかげさまで」

朋花「それは良かったですね~もう少しで出来ますから、御行儀良く待っていてくださいね~?」

P「了解」

いつものように席に着き、天空橋さんを待つ

そして少ししてから、可愛らしいエプロン姿の天空橋さんがお盆を運んできた

P「手伝うよ」

朋花「あら、偉いですね~?」

天空橋さんからお盆を預かり、テーブルに置く

その間に天空橋さんはエプロンを外していた

…少し残念だ

P「これは…豚の生姜焼きかな?」

朋花「はい~子豚ちゃんの生姜焼きですよ~?」

P「……………」

天空橋さんが言うと全く別の意味に聞こえるんだが…まあ、良いか

少し焦げてはいるが、とても美味しそうだ

P「いただきます」

早速豚の生姜焼きに箸を伸ばし、一口食べる

P「ん!美味い」

ピリッとした生姜タレの刺激的な味と豚ロース肉の味わい

焦げてはいたが肉は固くなっておらず、簡単に噛み切れる柔らかさに仕上がっている

これはかなり美味しい

P「美味いな、これ」

朋花「ふふ、叔父の経営していた養豚場から送られてきた豚肉を使ってますから~」

P「へえ、叔父さんが養豚場を?あ、もしかして天空橋養豚場って…」

朋花「ええ、私の叔父が所有していた養豚場ですよ~」

P「そうだったのか」

あそこの豚肉は評判が良いからなぁ

P「うん、美味い」

生姜焼きに舌鼓を打っていると

朋花「…」

どこか陰のある表情を浮かべた天空橋さんが目に入った

その目は、寂しさを訴えるような…そんな目だ

P「…?天空橋さん?」

朋花「はい?どうかしましたか~?」

声をかけるといつもの天空橋さんに戻る

P「いや…なんでもない」

気のせいだったのか?

生姜焼きに意識を戻しながらもさっきの表情が気になった

天空橋さんが見せたあの陰のある表情

あれは一体何だったんだろうか…

一旦ここまで

P「それじゃあ、今日は帰るよ」

朋花「ええ、それではまた」

それからしばらく天空橋さんの家にいたが、日も傾き始めたのでお暇することにした

朋花「またいつでも来てくださいね~」

P「ああ」

天空橋さんに見送られ、家を出る

P「…」

俺の中に、天空橋さんの浮かべた暗い表情が刺さった棘のように気になっていた

もし何か悩みがあるなら相談に乗れたら良いんだけどな…

そんなことを考えながら、俺は帰路に着いた

朋花「…」

先輩が帰った後の、私以外誰もいない部屋を見る

誰かといた後に一人になると、否が応でも自分がもう独りなのだと思い知らされる

寂しくないなどと意地を張ったことは言いたくない、独りで生きていけるように人間は出来ていないのだから

だけど私は聖母だ

聖母は子豚ちゃん達に等しく愛を与える存在

子豚ちゃん達を愛している間、聖母でいる間は寂しさを感じはしない

だから私は聖母で居続ける

例え天空橋朋花が寂しさに喘ごうとも、聖母であるうちはそれすら飲み込めるのだから

P「うっす」

冬馬「よう」

GWが明け、学園に登校する途中で冬馬と合流した

冬馬「GWはどうだったよ?」

P「基本プロダクションで忙しかったんだが、まあそれなりに満喫したよ」

冬馬「そうか、楽しんだなら何よりだ…それよりも北沢」

志保「何ですか」

冬馬「そろそろ殺気抑えてくれねえか?胃がキリキリしてきたんだ」

志保「兄さんを攫おうとした下手人に対しては朋花さんの顔を立てて最大限譲歩した対応をしていますが」

冬馬「そ、そうか…」

朋花「あら…おはようございます~」

百合子「お、おはようございます先輩!」

P「ん?おお、百合子に天空橋さん、おはよう」

冬馬「朋花様!おはようございます!」

志保「おはようございます」

通学路で百合子、天空橋さんと遭遇する

何気に通学路で会うのは初めてだ

P「あ、天空橋さん」

朋花「はい?」

土曜日のあの表情は…と聞こうとして踏み止まる

少なくとも今聞くような事じゃない

P「…いや、後にするよ」

朋花「そうですか~」

冬馬「P、朋花様の手を患わせるんじゃねーぞ!」

P「わあってるよ」

子豚ちゃん状態の冬馬は面倒くさいな

一旦ここまで

その後も天空橋さんに話を聞こうと思ったのだが…

無遠慮に踏み込んで良いものか迷いながらプロダクションで忙しい日々を過ごすうちに

気が付けば球技大会の日になっていた

今年の球技大会は琴葉の方針により、プロダクションの面々は各クラスを優先することになっている



P「はー無理ゲ無理ゲ」

トーナメント一回戦で3年A組と当たり、羅刹と翔太に徹底的にマークされた俺は、試合終了まで何も出来ず、ウチのクラスは負けてしまった

P「ったく…板橋め、後で覚えてろよ」

ぶつくさと文句を言いながらプロダクション本部のテントに向かうと

朋花「あら…」

天空橋さんがいた

P「お疲れさま天空橋さん」

朋花「ふふ、お疲れさまです~」

ここに居るということは天空橋さんのクラスも負けたのだろうか

しかし、その割には百合子がいないような…

朋花「百合子さんなら、無事初戦を突破しましたよ~」

P「百合子が?」

朋花「はい~、ソフトボールで見事にボールをキャッチしてクラスを勝利に導きました~」

P「ちょっと意外だ」

今までの百合子を見ているとあまり運動は得意では無さそうだったのだが

…これは百合子の評価を見直すべきかな

P「天空橋さんは…」

朋花「私は、残念ながら負けてしまいましたので」

P「そっか…」

何でも無いような言い方をしているものの微妙に悔しさが滲み出ている天空橋さん

思ったより負けず嫌いなのかもしれない

P「天空橋さん、今から見回りに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」

朋花「構いませんよ~」

天空橋さんが立ち上がったのを確認し、テントから出る

P「よし、それじゃあ行こうか」

天空橋さんと2人で様子を見て回る

高等部のサッカーでは羅刹がグラウンドで犬神家状態になっていた

それを見て少し溜飲が下がった

女子サッカーの方ではエレナと海美が無双しており、正直余りにも一方的過ぎる試合になっていた

…去年同じクラスで良かった

そして女子ソフトでは、百合子が意気揚々とバッターボックスに立ち、見事な空振り三振を見せてくれたのだった

P「みんな楽しそうだな」

朋花「そうですね~」

去年と同じくらい…いや、それ以上にみんな楽しそうに球技大会に参加している

きっと琴葉の政策が上手くいったからだろう

やっぱり琴葉がプロデューサーで良かった

一時間位見回りをしただろうか、俺達は木陰に移動する

P「天空橋さん、少し休もうか?」

朋花「そうですね~少し休憩しましょうか~」

一旦ここまで

P「良い天気だ」

雲一つ無い晴れやかな空

気温もそこそこ高く、もう間もなく夏の訪れを感じさせる頃だろう

朋花「ふふ、皆さん頑張っていますね~」

そう言いながらどこからともなく扇子を取り出し、扇ぎ始める天空橋さん

P「綺麗な…水色?の扇子だね」

朋花「ええ、私のお気に入りなんですよ~」

朋花「私は扇子を集めるのが趣味ですから~」

P「へ~ 」

そう言われてみれば先週天空橋さんの部屋に行ったとき、部屋に扇子が飾ってあったな

P「良いセンスだ!…なんちゃって」

咄嗟に思い付いたバカウケ間違いなしなギャグを披露する

しかし

朋花「………」

天空橋さんの底冷えするような視線を浴び、体感温度が一気に下がっただけだった

…うん、涼しくて良いよ

天空橋さんの冷たい視線を浴びて涼みながら海美達の試合を観る

…おかしいな、涼しい筈なのに変な汗が出て来たぞ?

朋花「ふふ、先輩、どうしましたか~?汗を掻いているみたいですよ~?」

P「そ、そうだな、何でだろうな」

朋花「暑いなら、少し扇いであげますよ~?」

そう言ってニコニコしながら俺を扇ぐ天空橋さん

P「は、はは…」

しかし表情は笑顔でも、体からはプレッシャーを発しており、俺はまるで縫い止められたように体が動かなかった

…動け俺の身体!…何故動かん!?

動かない身体をなんとか動かそうとしていると

海美「P!避けて!」

P「は?んお”!?」

金縛りが解け、振り向いた顔面に

サッカーボールが直撃した

直撃したボールで脳が揺れ、身体が後ろにぐらつくのがわかる

そして地面に倒れ込む前に、俺の意識は途絶えた

…意識が途絶える直前、後頭部が何か柔らかいものに触れたような、そんな気がした

P「んっ…あ?」

不意に目を覚ますと、知らない…事は無くも無い、保健室の天井が目に入る

…なんで俺、保健室に?

とにかく状況を把握しようと起き上がろうとした時だった

「あら、目が覚めたようですね~」

俺の隣から優しげな、それでいて安堵の色を含んだ声が聞こえてきた

P「あれ…天空橋さん?」

朋花「はい~」

P「…?なんで天空橋さんが保健室に?」

朋花「先輩に付き添っていましたから~」

P「俺の付き添い…?」

そこまで言ってからようやく思い出す

(恐らく)海美のシュートしたボールが俺の顔面にクリーンヒットした事を

…多分あれで気絶したんだな

P「そう言えば、海美は?」

朋花「とても泣いていましたけど、先輩が目を覚ます少し前に志保さんに連れられて帰りましたよ~」

P「そっか…」

後で…というか帰ったらフォローしておくとするか

流石に海美に泣かれるのはきつい

P「天空橋さんは…俺の付き添いだっけ」

朋花「はい~プロダクションのパートナーですからね~」

P「ごめんな、付き添わせちゃって」

朋花「いえいえ~私にも責任がありますからね~」

P「そう言えば俺、頭打たなかった?」

朋花「頭は打っていませんよ~?」

P「そうなのか…そう言えば頭に何か柔らかいモノが触れたような…アレは何だったんだろう」

朋花「…」

天空橋さんの方を見ると、少し顔が赤くなっていた

P「天空橋さん?なんか顔が赤いみたいだけど」

ミス

P「天空橋さん?なんか顔が赤いみたいだけど、大丈夫?」

朋花「大丈夫ですよ~?」

P「それなら良いけど…」

光の反射でそう見えただけかな

P「よし、身体も動くしそろそろ戻ろうか」

朋花「どこに?」

P「プロダクションの仕事、あんまり抜けるわけにはいかないしさ」

朋花「先輩、もう球技大会は終わって放課後ですよ~?」

P「…マジ?」

朋花「はい」

P「うーん、結構がっつり気絶してたんだな」

朋花「そうですね~頭へのダメージなので皆さんとても心配していましたよ~?」

P「ところで、俺を運んだのは…?」

朋花「天ヶ瀬冬馬さんが運んでくれました~、働き者の子豚ちゃんにら後で何かご褒美をあげないといけませんね~」

P「そっか…冬馬が」

もっとも冬馬の事だから天空橋さんにいいとこを見せようとした可能性も高いが

P「…」イラッ

朋花「先輩?どうかしましたか~?」

P「い、いや、何でも無い」

…どうして今、冬馬にイラついたのだろうか

助けて貰ったことに感謝こそすれどイラつく理由なんて無いのに

…冬馬が天空橋さんにいいとこを見せようとしたから?

それじゃあまるで…

まるで俺が、天空橋さんの事を…

朋花「それじゃあ帰りましょうか~」

P「あ、ああ」

天空橋さんの言葉に我に帰り、ベッドから降りて立ち上がろうとした時だった

P「あ、あれ?」

上手く膝に力が入らず、ベッドから降りたところで体勢を崩した俺は

P「うわっ!」

前のめりに倒れ込んだ

朋花「えっ?きゃっ…!?」

…天空橋さんを巻き込みながら

俺達以外誰も居ない保健室で

俺は隣のベッドに天空橋さんを押し倒していて

天空橋さんの顔が目の前にあって

その顔は滅多に見られない驚きに満ちた表情で

そして

俺の唇には、柔らかな感触があった

一旦ここまで

慌てて顔を上げ、天空橋さんを開放する

P「ごごごめん天空橋さん!け、怪我は無い?」

朋花「…」

P「天空橋さん?」

声をかけるも天空橋さんは唇を触ったまま、反応を示さない

…唇

もしかして、押し倒した時に感じた唇への感触は…

もしそうなら、俺はとんでもないことをしでかしたことになる

P「天く」

朋花「…とりあえず、帰りましょうか~」

すっと立ち上がった天空橋さんは、俺に背を向けながら、そう言った

P「あ、ああ…」

さっさと保健室を出て行った天空橋さんの後を追う

朋花「…」

P「…」

帰り道、天空橋さんと並んで歩くものの…

いつもと違って会話は無く、天空橋さんもこちらに視線を向けてはくれない

…やっぱり怒ってるよな

事故とは言えキスをしてしまった

天空橋さんだって初めてだったはずだ

それを付き合ってもいない男に奪われるなんて怒るのは当然だ

やがていつもの公園の前で、立ち止まる

P「天空橋さん…その…」

朋花「明日」

P「え?」

朋花「いつものように、お待ちしていますね~」

そう言って天空橋さんは俺の方を見ること無く、すたすたと歩いて行った

俺はそんな天空橋さんの背中を、ただ見つめることしか出来なかった

朋花「…ふう」

家に帰り、部屋に戻った私は…

朋花「……~~!!」

枕を抱えて、ベッドの上で転げ回った

キスをした

事故とは言えキスをしてしまった

思いだすだけで顔が爆発しそうなくらい熱くなる

きっと今鏡を見たら私の顔は真っ赤になっているだろう

P先輩とは別に付き合ってもいなければ好き合っているわけでも無い

だけどキスをした時、嫌な気持ちは湧いてこなかった

朋花「…キス」

キスは愛情を示す行為だと私は思っている

だから私はキスには特別な感情を抱いていて

今はそれが、私の中で爆発しそうだった

帰り道も先輩の顔はまともに見れなかった

見たら即座に真っ赤になっていたであろうことはたった今、先輩の顔を思い出すだけで顔が熱くなっている私自身が証明している

朋花「…」

また明日とは言ったものの…明日ちゃんと顔が見られるかどうかはわからない

というよりも見られない可能性の方が高い

朋花「まったく…困った人ですね~」

私をこんな気持ちにさせるなんて

朋花「…ふふ♪」

本当に、困った人だ

P「…」

家に帰った俺はぼけーっと天井を見ながら、明日のことと天空橋さんのことを考えていた

事故ってから一度も俺の方を見なかった天空橋さん

顔も見たくないほど怒っているのかと思ったのだが、それなら明日いつも通りに来るように言われたことが分からない

顔も見たくないなら誘わないはずだ

…それよりも、天空橋さんの唇…柔らかかったな

思わず唇を触り、感触を思い出してしまう

キスってあんな感じなのか

あんな柔らかなものが、俺の唇に…

P「…」

天空橋さんの事を考えていると、控え目に窓が開いた

そして

海美「…P、いる?」

いつもと違って控え目に、海美の声が聞こえる

P「いるよ」

海美「その…入って良い?」

P「いつもは許可取らないだろ?遠慮しなくて良いよ」

海美「うん…ありがと」

ゆっくりと海美が窓を伝って部屋に入ってくる

そして海美は、ベッドの上にちょこんと座った

P「それで、どうしたんだ?」

海美「その、今日はボールぶつけちゃったから…大丈夫だった?」

P「ああ、特に異常は無かったから大丈夫だよ」

海美「良かった…」

P「そんなこと気にしてたのか?」

海美「だって…」

P「気にしなくて良いよ、いつも通り笑っとけ」

海美「P…」

P「お前に泣かれると調子狂うからさ、いつもの海美で頼むよ」

海美「…うん!」

P「よし、やっと笑ったな!それでこそ海美だ!飯食べてくか?」

海美「うん!食べる!」

P「じゃあ行くぞ」

海美「はーい!」

海美と一緒に下に降りる

悩みはいつの間にか消えていた

一旦ここまで

翌日の土曜日

悩みは消えども緊張が消えるわけではなく、微妙に眠りの浅かった俺は少し早めに起床した

約束の時間まではまだ先で、充分二度寝出来る時間ではあるが二度寝をする気にはならず

せっかく早く起きたので少し散歩をしてみることにした

何故か俺の分を用意していた志保の出来たての朝食を食べ、サッと着替えて外に出る

天気は快晴で気候は暖かく、そろそろ夏の足音が聞こえてきそうな良い天気だった

散歩をするとは決めたものの決まったルートなどは特に無く、ただ気ままにぶらぶらと歩いていく

そして気が付けば、いつもの場所…天空橋さんの家の近くの公園に来ていた

P「…」

無意識にここに来るなんて、我ながらよほどそわそわしているらしい

公園をぶらりと一週して帰ろうかと考えたところで

朋花「…」

うろうろそわそわとかなり挙動不審な天空橋さんが目に入った

少し考えては足を止め、うろうろとあちこちを歩き回る天空橋さん

しかし歩き回る割には何かを探しているわけでも無く、ただただ落ち着かないようだ

これは…声をかけるべきなのだろうか?

しかしなんだか落ち着きの無い天空橋さんが妙に可愛らしく見える

普段は大人びていて落ち着いていて、クールに見えるからだろうか?

今は年相応の女の子と言った感じで可愛らしい

このまま眺めていても良いのだが、バレた後が怖いので声をかけることにした

天空橋さんが後ろを向いたのを見計らい、歩き出す

P「やあ天空橋さん」

朋花「!?」ビクゥ

後ろから声をかけること、天空橋さんの肩が面白いくらいに跳ねた

天空橋さんはゆっくりと振り返ると

朋花「あ、あら、先輩、こんな時間に奇遇ですね~」

何事も無かったかのように、話し掛けてきた

朋花「お散歩ですか~?」

P「ああ、ちょっと目が覚めちゃってさ」

朋花「ふふ、早起きは良いことですね~」

P「ところで、天空橋さんは何を?」

朋花「私も少し早く目が覚めたので、お散歩をしているんですよ~」

P「そっか、何だか似た者同士だな」

朋花「に、似た者…同士」

俺の言葉を聞いた天空橋さんの頬に、微かに朱が射す

朋花「先輩は、このあとどうなさるんですか~?」

P「ん~、約束の時間はまだ先だし一旦帰ろうかなって思ってるよ」

朋花「あら、それなら…まだ早いですけど、もう来ませんか~?」

P「え?良いの?」

朋花「はい~私は気にしませんよ~」

天空橋さんに誘われて教会に向かう

ここは何度来ても厳かな空気が流れていて、背筋が伸びる

朋花「お掃除は少しゆっくりしてからにしましょうか~」

P「ん、わかった」

P「お邪魔します」

靴を脱ぎ、天空橋宅へと上がる

いつものように靴箱には天空橋さんの靴しか無かった

よくよく考えてみれば天空橋さん以外の家族の人に合ったことが無い

…土曜日なのにご両親はそんなに忙しいのかな

などと考えながら、俺は居間へと向かう

朋花「お茶ですよ~」

P「ありがとう」

天空橋さんからお茶を受け取って口を付ける

…うん、美味い

天空橋さんもテーブルにつき、他愛ない話をしていたところでふと、テレビの隣にある写真が目に入った

その写真には恐らく幼い頃の天空橋さんと、優しそうな父親らしき人、目元や髪が天空橋さんにそっくりな母親らしき人が写っていた

…天空橋さんは母親似なんだな

そんな写真を見たからだろうか、俺は浮かび上がっていた疑問をつい口にしてしまった

P「そう言えば天空橋さん、ご両親は忙しいの?」

朋花「…」

両親の話題を出したとき、天空橋さんが固まった

…なんだ、今致命的なミスを犯した気がする

天空橋さんはゆっくりとカップを置くと

朋花「…どうして、そう思うんですか~?」

感情の篭もらない無機質な声でそう問い掛けてきた

P「い、いや…前遅くなったときとか、今日みたいにかなり早く来ても会ったことないなって思って…」

朋花「そうですか~」

俺の回答に興味が無さそうに返事をする天空橋さん

しかし少しだけ拳を握るその手に力が入ったのを、俺は見た

少しだけ間を置いてから紡がれた天空橋さんの言葉に

朋花「…私に、両親はいませんよ~」

P「…え?」

俺は強い衝撃を受けた

P「いないって…まさか」

朋花「はい~、二人とも二年前に神様の元に旅立ちました~」

神様の元に旅立った

それはつまり、召されたということだろう

朋花「両親が二人で叔父の養豚場に行った帰り道、事故に遭ったんです」

P「…ごめん、俺は…」

朋花「気にしなくて良いですよ~、いつかは話すつもりでしたから~」

P「天空橋さん…」

朋花「ふふ、でも両親が旅立ってからはずっと一人でしたけど、最近は毎週先輩とご飯を食べるのが楽しみなんですよ~?」

P「…なら」

朋花「?」

P「俺、プロダクションの帰りに天空橋さんの家に寄るよ」

朋花「え?」

P「天空橋さんを独りにはしない、寂しい思いはさせたくない」

朋花「…どうして」

P「…俺も、幼い頃に父親を亡くしてるんだ」

P「今でこそ母親が再婚して、義父が出来たけど…父さんが死んだとき、凄く哀しくて寂しかった」

P「母親は気丈に振る舞ってたけど、夜には泣いてたしやっぱり家族を亡くすのは誰だって辛いよ」

P「だから俺は、一緒にいて楽しいって言ってくれた天空橋さんの力になりたい」

朋花「それは、私への同情ですか~?」

P「同情なんかじゃない、これは俺の心からの気持ちだ」

P「そしてこれは、ただの俺の自己満足だ」

P「俺は俺のために、天空橋さんに寂しい思いをさせたくない」

一旦ここまで
速報が復帰して良かった

朋花「あら…随分勝手な言い草ですね~」

P「自覚はあるよ、」

朋花「それで、先輩は本当に今自分自身が口にしたことを実行出来るんですか~?」

P「出来る」

朋花「っ…私は、約束を破られるのが嫌いなんですよ~?」

P「知ってるよ、だからこそ、俺は天空橋さんが頼れるような男になりたいんだ」

P「以前天空橋さんは俺に期待すると言った、だから俺は君の期待に応えてみせる」

朋花「…」

P「…」

少しの間、天空橋さんと見つめ合う

そして

朋花「…では、明日からお願いしますね~」

天空橋さんはそう答えた

P「ありがとう、天空橋さん」

朋花「私と毎日を共にするからには、ちゃんと私だけを見ていないと許しませんよ~?」

P「もちろん、そのつもりだよ」

朋花「ふふ、分かっているのなら良いんですよ~」

そう言って柔らかな笑みを見せる天空橋さん

朋花「ところで、なぜ私に寂しい思いをさせたくなかったんですか~?」

P「えっ、あっ、いや…」

なぜ天空橋さんに寂しい思いをさせたくなかったのか

天空橋さんが一緒にいて楽しいって言ってくれたから

だから俺はそんな天空橋さんを独りにしたくないと思った

他に他意は無い…はずだ

P「それは、その…プロダクションのパートナーだし」

咄嗟に思い付いた言い訳を口にするも

朋花「それだけですか~?」

天空橋さんは少し邪悪な笑みを浮かべて問い詰めてくる

P「まあ、それだけでは無いけど…」

その笑みに押されて余計なことを口走る

朋花「けど~?」

P「て、天空橋さん、近いって」

口篭もる俺をからかうように天空橋さんは顔を近付けてきた

立ち上がり後退るが

P「うわっ」

ソファに足を引っ掛け、倒れ込む

朋花「ふふ、もう逃げ場はありませんよ~?」

まるで俺をソファに押し倒すかのように迫ってくる天空橋さん

近くて良い匂いがして

正直心臓が破裂しそうなくらいどきどきする

朋花「怖がる必要はありませんよ~」

天空橋さんの手が俺の頬に添えられる

俺は思わず目を瞑り…

P「…ほ?」

頬を突かれる感触に、目を開けた

P「えーっと…?」

朋花「呆けた顔をしていますね~、一体何をされると思ったんですか~?」

P「い、いや、その…」

朋花「その?」

P「昨日あんなことがあったばかりだし、その…」

朋花「っ…あんなことって、なんですか~?」

P「事故とは言え、その…キ、キスを…」

朋花「キ、キス…ふ、ふふ…そんな事もありましたね~」

朋花「でもあれは事故なので、私は気にしていませんよ~?」

その割には顔が赤いけどと突っ込みたくなったが、後が怖いのでやめておこう

一旦ここまで

P「ま、まあ天空橋さんが良いならそれで良いんだけど」

ちょっと残念な気がしなくも無い

朋花「こほん、少し早いですけど、教会のお掃除をしましょうか~」

P「ん、了解」




天空橋さんと一緒に教会の掃除を進めていく…のだが

P「天空橋さん」

朋花「何ですか~?」

P「近くない?」

朋花「二人で同じ所を掃除すればより綺麗になりますから~」

P「いや、まあ、うん、そうだね」

二人なら別々の場所を掃除した方が効率が良いと思うんだけど…まあ、悪い気はしないから良いか

結局いつもより掃除に時間がかかり、普段よりも早く始めたのに終わったのは普段よりも遅くなった

朋花「お疲れさまでした~」

P「お疲れさま」

朋花「この後はもちろんお茶をしていくんですよね~?」

P「ああ」

朋花「ふふ、なら先に座って待っていてくださいね~」

天空橋さんとのお茶会を楽しんでいると、すっかり日も暮れ、遅い時間になっていた

普段ならお暇するのだが…

P「天空橋さん」

朋花「はい~」

P「今日の夕飯、何か作る予定はあった?」

朋花「そうですね~、ちょうど卵があったのでオムライスでも作ろうかと思っていましたよ~」

P「オムライスか、手伝おうか」

朋花「ふふ、今日は私が作りますから、ちゃんと全部食べて感想を聞かせてくださいね~?」

P「ん、わかったよ」

天空橋さんがキッチンに向かってから30分ほど経った頃、両手に皿を持って天空橋さんが戻ってきた

手に持った皿の上にはふわとろ卵のオムライス…ではなく

ボロボロに崩れてところどころ焦げた卵焼きとこれまた微妙に焦げたチキンライスが乗っていた

P「ま、まあ、失敗は誰にだってあるからさ」

朋花「ちゃんと、全部、食べてくださいね~?」

P「それは大丈夫」

高坂姉妹の料理に比べれば大抵の料理はご馳走になる

P「それじゃあ、いただきます」

早速スプーンで一掬い、口に入れる

…うん、焦げてるところが苦いくらいで他の部分は美味い

P「大丈夫、美味いよ」

朋花「本当ですか~?」

P「もちろん、俺はお世辞が下手だっていつも言われるくらいにはお世辞は言わないよ」

朋花「…それなら、良かったです~」

P「美味しかったよ、ご馳走さま」

朋花「ふふ、お粗末さまでした~」

天空橋さんのオムライスを食べた後は少しだけゆっくりする

もっともこれ以上の長居は流石にまずいので、適当に時間を見て帰り支度を始めた

P「そろそろ帰るよ、今日は楽しかった」

朋花「そうですね~、私も中々に楽しかったですよ~」

玄関に向かうと、天空橋さんも後についてくる

P「天空橋さん、見送ってくれてありがとう、それじゃあまた明日…」

朋花「朋花」

P「え?」

朋花「これから私達は本格的にパートナーとして活動しますから、先輩は特別に私を呼び捨てにすることを許してあげますね~?」

P「えっと…?」

朋花「あら…それとも、百合子さんや琴葉さんを呼び捨てにするのに私は呼び捨てに出来ないんですか~?」

P「い、いや、そんなことは無いぞ?…朋花」

朋花「良く出来ましたね~、聖母が褒めてあげますよ~?」

P「いいよ恥ずかしい…何はともあれ、お休み朋花、また明日」

朋花「ええ、おやすみなさい」



先輩が帰ってから静まりかえった家の中

だけどいつもより寂しさは感じない

むしろ嬉しくて、早く明日が来る事を望んでいた

先輩は私を独りにさせたくないと言った

その言葉が嬉しくて、隣にいて欲しくなった

だから私は決めた

彼を私に依存させて、私無しでは生きていけないようにしようと

そうすれば彼が私から離れて、いなくなることも無いはずだ

そのためにもまずは私に依存するようにしなくてはならない

朋花「…ふふ」

どうやって堕とそうか、楽しみですね~♪

一旦ここまで

翌日の日曜日

P「よし」

身だしなみを整えて出掛ける準備をする

…今日はいつもの休日とは出掛ける目的が違う

なので少し緊張してはいるのだが…

P「いつも通りやれば良いよな、うん」

そんな独り言を呟き、家を出た

いつもの公園を通り、最近すっかり見慣れた教会に辿り着いた

そしてその隣にある家のインターホンを鳴らす

少しの間の後

「はい~」

声が聞こえてきた

P「周防です」

「ふふ、もう来たんですね~、鍵は開いていますから入っても構いませんよ~」

P「わかった」

お言葉に甘えて扉を開け、中に入る

P「お邪魔します」

朋花「ようこそ~」

P「おはよう、天空橋さん」

朋花「『天空橋さん』?」

P「うっ…お、おはよう朋花」

朋花「ふふ、おはようございます~P先輩」

やはりまだ名前で呼ぶのには慣れない

琴葉や百合子、貴音の時はそんなことは意識しなかったんだが…

朋花「…先輩、私が目の前にいるというのに他の女の子の事を考えていますね~?」

P「え?なんでわかっ…あ、いや、その」

朋花「私から目を逸らすなんて、いけない人ですね~」

P「ごめん、名前呼びにちょっと慣れなくて百合子の時はどうだったかなって思い返してたんだ」

朋花「…まあ、それくらいなら構いませんよ~」

朋花「でも、私といる間は出来る限り私の事を考えてくださいね~?」

P「はは…わかったよ、朋花」

一旦ここまで

朋花「それでは、早速出かけましょうか~」

P「どこに行くんだ?」

朋花「日用品を買い足しに行くんですよ~」

P「了解、荷物持ちは任せてくれ」

朋花「あら、殊勝な心掛けですね~?なら商店街の方ではなく繁華街の方まで足を伸ばしますね~」

P「はいはい、朋花様の仰せのままに」

朋花と一緒にバスに乗って繁華街へ向かう

P「街に来るのも久しぶりだなぁ」

繁華街とは言っても遊べる場所が多いわけでは無いし今は大抵のゲームがオンラインに繋いで遊べるからそもそも外に出る必要が無い

まあ流石に家に篭もりっぱなしなのも健康に悪いので出掛けることはあるが、バスに乗ってまで繁華街に来る事は無い

最後に来たのは…去年の夏休みに琴葉と来た時だったかな

なので街に来るのは本当に久しぶりだった

朋花「あら、そうなんですか~?」

P「あんまりこっちの方面に用事が無くてさ」

野郎だけで繁華街に来てもゲーセンくらいしか行くところ無いしな

朋花「それなら、久しぶりの街を私と共に歩くご褒美をあげますね~」

P「はは、確かに、朋花みたいに可愛い子と一緒に街を歩くのはご褒美になるかもな」

朋花「かわっ…こほん、素直なことは良いことですよ~?それでは行きましょうか~」

朋花と一緒に街を歩く

二人だけでこうやって出掛けて歩くのは何だか新鮮だった

薬局や雑貨屋で必要なものを買って行く朋花

そして買った物を持つ俺

このみ姉さんや莉緒さん、海美辺りの荷物持ちをするのは中々に面倒なのだが

今日はそうは思わなかった

ある程度買い終わった昼下がりのこと

そろそろ腹が減ってきたので昼飯を食べようと朋花に提案しようとした時だった

「あれ、もしかしてP?」

後ろから、聞き覚えのある声をかけられた

P「この声は…」

後ろを振り返ると

恵美「あ、やっぱりPじゃん、やっほ!」

恵美が手を振っていた

P「よう恵美、それと…」

恵美の隣にいる、もう1人の少女を見る

奈緒「私、横山奈緒って言いますー周防くんの事は恵美からいっつも聞いてるで」

恵美「な、奈緒!」

P「よろしく横山さん」

奈緒「よろしくー!」

P「しかし恵美が繁華街にいるなんて珍しいな?」

恵美「奈緒が美味しいタコ焼き屋を見つけたって言うから食べに来たの」

P「タコ焼きね…大丈夫なのか?」

恵美「まあ…今回は一人じゃないし、それに大通りの方通るようにしてるからさ」

P「それならなら良かったよ、ここで見たときちょっと心配になったからさ」

恵美「…ね、もしまだ心配してくれるならこの後一緒に…」

朋花「P先輩~?」

P「ぉヴぁ!?」

朋花に脇腹を抓られ、変な声が出る

恵美「あれ?朋花?」

朋花「ふふ、こんにちは先輩方~」

思ったより痛かった脇腹を擦っていると、朋花が俺の前に出て、恵美と対峙した

朋花「今P先輩は私とお買い物をしているのでお引き取りをお願いしますね~?」

恵美「買い物?Pと一緒に?……………なに?デート?」

朋花「デートではありませんけど、お買い物ですよ~」

恵美「…」

朋花「…」

奈緒「なあ恵美、先約があるならしゃあないって」

恵美「分かってるけど…」

奈緒「ほらまた誘えばええやん、同じ学年やねんからアドバンテージはあるって」

恵美「…ん、わかった、ごめんね朋花、邪魔しちゃって」

朋花「いえ、気にしていませんよ~?」

恵美「あんがと、それじゃあまたね」

奈緒「朋花、周防くん、また学園でな~?」

恵美と横山さんは俺が話の状況についていけないうちに、去って行った

P「なんだったんだ?」

朋花「…P先輩、もしかして気付いてないんですか~?」

P「何の話だ?」

朋花「…流石に、恵美さんが可哀想に思えてきましたね~」

P「???」

結局朋花はどういう意味だったのかは教えてくれず、真相は謎のままとなった





P「そろそろ昼にしないか?」

朋花「構いませんよ~?」

P「何か食べたいものとか、苦手なものは?」

朋花「特には無いので、先輩のセンスにお任せしますね~」

朋花「私が喜ぶようなものを期待していますよ~?」

P「ふむ」

朋花が喜ぶようなものか…

いや、この場合朋花がというよりは女子が喜びそうはものの方が良いような気がするな

となると…

P「昼食というよりは少しおやつっぽくなるけど、ホットケーキとかはどう?」

朋花「ホットケーキ、良いですよ~?」

P「よし、じゃあ早速行こうか」

そしてやって来たのは、美人三姉妹が経営していると人気のカフェだった

朋花「あら、ここは…」

P「以前来たことがあるんだけど結構美味しかったんだよ」

このみ姉さん、莉緒さん、桃子、海美と一緒に来たときは本当に美味しかった

…長女らしき人が海美の姉の歌織さんそっくりだったことには驚いたけど

朋花「ふふ、私も以前から気になっていたのでちょうど良いですね~」

P「それじゃあここにしよう」

朋花「はい~」

店に入って注文を済ませる

俺は名物のふわとろオムライスとシフォンケーキのセットを

朋花はふんわりホットケーキと紅茶のセットだ

メニューの片隅に載っていたうどんに物凄く心惹かれたものの、流石にこの雰囲気のカフェでうどんを食べる気にはなれなかった

朋花「見た目通り、良い雰囲気のお店ですね~」

P「だろ?」

朋花「先輩がこういうお店を知っていたのは少し驚きました」

P「それ、どういう意味?」

朋花「ふふ、秘密ですよ~?」

そう言って楽しそうに笑う朋花

…俺、あんまりこういう店に来るイメージ無いのか?

「お待たせしました、ふわとろオムライスとシフォンケーキのセット、ふんわりホットケーキと紅茶のセットです」

朋花と話をしているとそれぞれの料理が運ばれてくる

朋花「あら、とても美味しそうですね~」

P「ああ」

「ごゆっくりどうぞ」

長女らしき人が頭を下げた後、奥へと戻っていく

俺はその後ろ姿を、少しの間眺めていた

「一夏ちゃん、うどんあがったよ」

「ありがとう悠利くん」

P「…」

朋花「…先輩~?一体何をジッと見ているんですか~?」

P「ああ…いや、あの人が顔も声も知り合いに良く似ててさ」

本当に歌織さんそっくりだ

…歌織さん、今どこで何をしてるんだろうな

朋花「知り合いの方を思い浮かべるのも良いですけど、今は私といるんですからちゃんと私のことを見ていてくださいね~?」

P「ごめんごめん」

確かにあんまり他のことを考えるのも失礼だしな

今は朋花と遊びに来ているわけだし、朋花と楽しむことを考えよう

P「うーん美味い」

朋花「名前の通り、ふわふわで美味しいホットケーキですね~」

P「気に入って貰えたようで何よりだ」

朋花「ええ、なのでご褒美をあげますね~?」

P「ご褒美?」

朋花「はい、どうぞ」

そう言いながら切り分けたホットケーキを突き刺したフォークを俺に差し出す朋花

P「えっと…?」

朋花「ご褒美のホットケーキを、私が食べさせてあげますね~?」

一旦ここまで

朋花「さ、口を開けてくださいね~?」

P「い、いや、流石に恥ずかしいというか」

朋花「聖母からの施しを、無碍にする気ですか~?」

P「無碍にする気は無いけど…まあ、良いか」

口を開き、ホットケーキを受け入れる

P「ん、かなりふんわりしてて美味いな」

朋花「私が手ずから食べさせてあげたんですから、当然ですね~」

P「ははは」

その後もそれぞれ料理を楽しんだ

食後のコーヒーとシフォンケーキを楽しんでいると

「…にゃー」

いつの間にか、白黒の猫が足元にいた

P「お、猫だ」

朋花「可愛らしいですね~」

その猫は俺の足下に身体を擦り付けたり、転がって腹を見せたりしてとても可愛らしい

P「可愛い猫だな~」

俺が少し体勢を変え、猫と向き合った瞬間猫は俺の膝に飛び乗り、身体を丸めて寝転がる

P「人懐っこい子だな」

せっかくなので身体を軽く撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らし始める

朋花「大人しい猫ちゃんですね~」

P「ホントにな」

「一夏お姉ちゃん…シッポが…あのお客さんに凄く懐いてる…」

「あ、本当ね、珍しいわ」

「…あのお客さんと…一生一緒にいるって…」

「よっぽどあのお客さんの事が好きなのね、シッポちゃん」

「にゃお~」




P「朋花も、撫でてみる?」

朋花「そうですね~では私m」

「フーッッ!!!!!」

P「」

朋花「」

朋花が猫を撫でようと近付いた瞬間、猫ちゃんは全身の毛を逆立てて朋花を思いっきり威嚇する

そこに先ほどまでの大人しく撫でられる猫の姿は無く、ただ牙を剥く獣がいた

P「お、落ちつけ、な?」

「うにゃあ」

俺が撫でてやると一瞬で喉を鳴らして大人しくなるのだが…

「シャーッ!!!!」

朋花が撫でようと近付くと即座に威嚇する

…ちなみに、普通の猫は威嚇の際は思いっきり爪を立てるのだがこの猫は何故か爪は立てていなかった

猫に威嚇されて少ししょんぼりしている朋花と、撫でられて上機嫌な猫のなんとも言えない空気に晒されながら、俺はコーヒーを口にするのだった

「えっと……○○円です…」

P「はい」

「ん…ちょうど、いただきます…」

P「美味しかったよ、ごちそうさま」

朋花「私も、とても美味しいと思いましたよ~」

「ありが…とう」

会計を済ませ、店員さんに感想を伝えると照れ気味にそう応える

「にゃー、にゃー」

「シッポ、駄目」

P「この子は、なんて?」

「んと…一緒に行くって…」

俺は猫の頭に手を乗せて、語りかける

P「ごめんな、俺は一緒にはいてやれないんだ」

「にゅう…」

P「でもまたこの店には来るから、な?」

「…にゃあ」

「ん…絶対ですよ…って…シッポが敬語使うの…初めて聞いた、かも…」

P「ああ、約束だシッポ」

「にゃー」

返事をしたシッポの頭を撫で、店を出る

良い雰囲気の店だし、これからもちょくちょく朋花と来るのも良いかもしれない

シッポに威嚇された鬱憤を晴らすかのように店の軒先でちょっと眉毛の太い子猫と戯れている朋花を見ながら、そう思った

P「次はどうしようか」

荷物はロッカーに預けてあるし、割と自由に行動出来る

朋花「そうですね~…先輩にお任せしますよ~?」

P「お任せね…」

正直思い付かない

なので

P「家に帰ってのんびりしようか」

朋花「あら…」

P「必ずしも外で何かしなきゃならないわけじゃないしな」

朋花「先輩がそれで良いなら、私も構いませんよ~」

P「よし、じゃあ帰ろう」

朋花「はい~」

朋花が微かに手を前に出してきたので、俺はその手を取ってエスコートする

朋花「あら、言われる前に実行するなんて…どうしようもない鈍感だと思っていましたけど、良い心掛けですね~」

P「お褒めいただき光栄です…なんとなく、朋花ならこうするかなって思ったんだよ」

朋花「そうですか~…ふふっ」

嬉しそうな朋花の手を引きながら、俺達は教会への帰路を辿るのだった

一旦ここまで

教会に帰ってからは二人でのんびりとした時間を過ごす

将棋を指したり、スマホでゲームをしたりしていると、ちょうど夕飯の時間になっていた

P「もうこんな時間か…朋花、夕飯はどうしようか?」

朋花「そうですね~…何か、食べたいものはありますか~?」

P「食べたいものか…朋花にお任せで」

朋花「考えるのを放棄するのはいただけませんよ~?」

P「別に放棄したわけじゃないよ、朋花が好きなものを知りたいと思っただけ」

朋花「あら…では、私のやりたいようにしますね~」

P「楽しみだ」

朋花が台所に引っ込んだので俺はソファに寝転がる…つもりだったが、以前朋花が調理中に怪我をしたことや焦げライスのことを思いだし、こっそり様子を見る

朋花「~♪」

上機嫌に鼻歌を歌いながら食材を切っているのだが…

手元がかなり危なっかしい

…やっぱり、あまり料理慣れしてないんだろうか

はらはらしながら見ていると、食材を切り終えた朋花は食材をまとめ、鍋に放り込む

…玉ねぎ、人参、ジャガイモと見ただけで何を作るのか大体わかる食材達を、朋花は笑顔で炒めていた

鍋に水を張り、食材を煮込む段階に入った朋花は豚肉を鍋に入れた後、カレールーを投入する

それをかき混ぜるとカレー特有の胃袋を刺激する美味しそうな匂いが漂い始めた

…後はもう大丈夫かな

カレーの出来を楽しみにしながら、俺は居間へと戻ることにした




朋花「もう少しで完成するので、待っていてくださいね~?」

居間に戻ってすぐ、朋花が顔を出してそう言った

P「楽しみだよ」

漂う匂いに腹を空かせながら、朋花の方を向いてそう応え…

P「…」

朋花の方を向いた俺は、朋花の姿に思わず口をつぐむ

可愛らしいエプロンを身に着けた朋花はとても可愛らしく、かなりドキッとしている

朋花「?私をジッと見て、どうしましたか~?」

そう言いながらどこか見せつけるように身体を捻ったり、くるりと回転する朋花

P「い、いや、そのエプロン、前見たときのエプロンと違うなって思って」

そう答えると、朋花は微かに嬉しそうな笑みを浮かべる

朋花「ふふ、気が付きましたか~?このエプロン、さっき買った物の一つなんですよ~?」

P「そうだったのか」

何を買ったのか詮索するのは失礼だから気にしなかったけど、エプロンだったか

P「とてもよく似合ってるよ」

朋花「褒めても何も出ませんよ~?」

そう言いつつも嬉しそうに頬を緩ませる朋花

朋花「もう少し煮込んだら出来上がりますから、待っていてくださいね~」

【765学園物語初星編】
√RRR
元旦、年が明けてすぐに俺は海美、歌織さん、志保と一緒に初詣にやってきた

本当は桃子とこのみ姉さんも一緒に来る予定だったのだが、桃子がカウントダウン中に寝落ちしたのでこのみ姉さんは残ることになったのだ

P「寒い」

海美「確かに寒いけど、マフラーがあるから暖かいよ!」

P「このマフラー、ほんと良いよな」

海美「えへへ…頑張って編んで良かった!」

歌織「ふふ、二人とも仲が良いわね」

志保「そうですね…羨ましい」

吹く風は冷たく、気温も低いのだが海美にプレゼントされた二人用マフラーと繋いだ手があるので暖かい

歌織「ねえ海美ちゃん、私もPくんとマフラー巻いても良いかしら」

海美「お姉ちゃん!Pは私の恋人だから駄目!」

歌織「でも、私は二人のお姉ちゃんだから」

海美「駄目なものは駄目!」

志保「私も、従妹なのでマフラーを巻いても問題ないと思います、むしろ巻く権利があります」

海美「無いから!Pは私のなの!Pとマフラー巻いて良いのは私だけなの!」

女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので、三人はとても賑やかだ

そんな賑やかな三人のやりとりを聞き流しながら参拝客を眺めていると

ぎゅっと、手だけでは無く腕全体が柔らかなものに包まれる

P「ん?」

視線を向けると、海美が俺の腕に抱き着いていた

そしてそのまま顔を上げ

海美「P、今年もよろしくね!」

と、素敵な笑顔でそう言った

【√FW】
恵美「ほらほら、早く早く!」

P「引っ張るなって」

恵美と二人でカウントダウンをして、恵美と二人で初詣にやって来た

恵美「うっひゃー人でいっぱいだ~」

P「恵美」

恵美「え?ひゃっ」

はしゃいで危うく人波に飲まれそうになった恵美を咄嗟に抱き寄せる

恵美「あ、ありがと」

P「人が多いからな、はぐれないようにしよう」

恵美「う、うん」

ぎゅっと、恵美が俺の手を握る

P「大丈夫だ、この手は絶対に離さない」

恵美「うん、信じてる」

俺の肩に頭を預ける恵美の頭を撫でた後、賽銭を済ませておみくじを引いた

P「中吉か…」

恵美「アタシは大吉だって!幸先良いなぁ」

P「内容はなんて書いてあったんだ?」

恵美「えっと…待ち人来たる?」

P「待ち人来たるか…恵美、今誰か待ってたりするのか?」

恵美「…」

P「恵美?」

俺の言葉に、恵美の顔が赤くなる

恵美「…ちゃん」

P「え?」

恵美「あ、赤ちゃんは…ちょっとほしいかも」

P「…うん、じゃあちょっと移動するか」

恵美「う、うん」

恵美の手を引いて茂みに移動し

おみくじ棒を有効活用した

【√HW】
琴葉「Pくん、新年明けましておめでとうございます」

P「明けましておめでとう琴葉、今年もよろしくな」

初詣を後回しにして、二人で新年の挨拶をする

P「今年も琴葉と新年を迎えられて嬉しいよ」

琴葉「私も、Pくんと一緒に新しい年を迎えられて…すごく幸せ」

P「去年も色んな事があったな」

琴葉「うん…たくさん思い出も出来たね」

P「ああ…」

去年あったことを思い出す

順帆満風とは行かなかったが、それでも楽しい1年だった

琴葉「私、今年もたくさん思い出を作りたい」

琴葉「Pくんと一緒に、みんなと…海美とも一緒に」

P「そうだな、俺たちならたくさん思い出作れるさ」

琴葉「うん」

P「琴葉」

琴葉「Pくん…」

そっと口吻をし、二人で抱き合った

【√BMC】
翼「せーんぱい♪あーん!」

P「ほら」

翼「うーんおいひい♪」

翼に鴨肉の燻製を食べさせると幸せに頬を緩ませる

今、俺達は周防家のリビングでおせちを食べていた

最初は桃子達もいたのだが、俺達といると気が狂うからと初詣に行ってしまった

翼「はい先輩、あーん」

P「あーん…栗きんとん美味いなぁ」

翼「わたしも、栗きんとん甘くて好きです」

P「翼と一緒だからかな、いつもよりおせちが美味い気がする」

翼「あ、実はわたしもそう思ってたんです!なんでだろ?」

P「さあな…でも、良い事だよ」

翼「ねえねえ先輩、このあとどうします?」

P「そうだな…初詣に行ってから羽子板とか、凧揚げでもするか?」

翼「わーい!羽子板、私が勝っちゃいますからね~」

P「俺だって負けないぞ」

翼「遊び終わったら夜のために一緒にお昼寝しましょ!」

P「ああ、楽しみだ」

【√Pn】
ジュリア「…ふう」

P「随分と真剣に祈ってたな」

賽銭を終えたジュリアに声をかける

かなり真剣にお願いしていたので少し気になった

ジュリア「ああ、まあな…あたしは神様ってのはあんまり信じちゃいないけど」

ジュリア「それでも今年も、あんたや恵美、アマトウと一緒にバンドをやれたらって願ってたんだよ」

P「なるほどな」

ジュリア「…ま、こういうのは願うんじゃなくて自分で叶えないとな」

P「その意気だ…っと、もうそろそろ時間だな」

ジュリア「もうそんな時間か、じゃあ行こうか」

P「ああ、今日の路上ライブ、期待してるぞジュリア」

ジュリア「ああ、任せときな、相棒」

拳をコツンと合わせ、俺達は笑い合った

新年早々の路上ライブ、絶対に成功させてやる

【√LR】
志保「そこをどきなさい、そこは私の場所よ」

シッポ「ふわぁ…にゃあ」

P「ま、まあまあ志保」

俺の膝の上で丸まっている猫…シッポに敵意を剥き出しにする志保と、そんなものどこ吹く風と言わんばかりに欠伸をするシッポ

志保「こいつ…」

そんなシッポに志保が青筋を立てる

このシッポ、志保と二人で訪れたカフェにいた猫だったのだが妙に俺に懐いてしまい離れなくなってしまったため、家族として迎え入れることにしたのだ

しかし志保はそんなシッポが気に入らないらしく、俺絡みの事ではよく邪険にしていた

志保「というより猫なんだからこたつにでも入ってなさいよ、せっかくの元旦なのに兄さんの膝を独り占めなんて万死に値するわよ」

シッポ「…にゃー」

志保「は?私は良いのよ、兄さんの恋人なんだから、独り占めする権利が私にはあるの、わかったらさっさと退きなさい」

志保はシッポの言葉が分かるのか、時々会話をしている

…俺にはわからないので何が何だかさっぱりだが

P「志保、おいで」

志保「え?あ、はい」

志保を抱き寄せる

志保「あ、兄さん…」

抱き寄せ、志保の頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じる

志保「兄さん…」

P「今年も、よろしくな」

志保「はい、今年も、来年も、再来年も…ずっと、よろしくお願いしますね、兄さん」

シッポ「…」

【√TP】
百合子「…」

P「…なあ、百合子」

百合子「は、はい、何ですか?」

P「いつまで振袖で本を読んでるんだ?」

元旦、百合子と二人で初詣に行く…はずだったのだが

百合子「その、読み始めたら止まらなくなっちゃって」

振袖にも着替え意気揚々としていた百合子は、俺が準備をしている間の暇つぶしにと本を読み始め、気が付けば結構な時間が経っていた

…まあ、人混みは変わらないだろうからいつ行っても一緒だしまあいいけど

…しかし

P「なんというか…その、振袖よく似合ってるな」

百合子「そ、そうですか?えへへ…」

可愛らしく照れ笑いする百合子

顔が赤くなっている

やばい、むらっときた

P「…百合子」

百合子「ひゃっ、せ、先輩?んんっ!」

百合子を後ろから抱き締め、ミミを甘噛みする

百合子「だ、駄目です、初詣に行けなくなっちゃいます」

P「良いじゃないか初詣なんて」

百合子「で、でも…んっ」

百合子の口を口で塞ぎ、振袖に手を掛ける

108の煩悩を百合子にぶつけた

【√PG】
P「おお…」

俺の前に広がるのは豪華なおせち料理

桃子「すご…静香さんが作ったの?」

静香「志保も一緒に作ってくれたの、材料は父が店で使っている品質の高い物を贈ってくれたから、そんなに手は加えてないけど」

志保「兄さん、この黒豆私が煮たんです、良ければどうぞ、あーん」

静香「ちょっと志保!」

このみ「はいはい新年早々喧嘩しないの」

賑やかな正月に思わず笑いそうになる

静香「Pさん、食べ終わったら初詣に行きましょう」

P「そうだな、一緒に行こう」

静香「はい!あ、帰ってきたら限定メニューのおせちうどんを試作しますね」

P「それはやめておこう、な?」

一旦ここまで

そう言って朋花は台所へと戻っていった

しかも機嫌が良いのか鼻歌も聞こえてくる

…結局、朋花が何がしたかったのかはわからなかった



P「…」

朋花「…」

それからしばらくして、俺達の前には焦げ付いたカレーがあった

カレーは、朋花が強火のまま煮込みに入ったため水分を全て消し飛ばしてしまった

煙に気付いて火を止めたときには既に遅く、カレーは焦げてしまっていた

隣を見ると、朋花は心なしか落ち込んでいるように見えた

…せっかく作ってくれたんだし、ちゃんと食べないと男じゃ無いよな

鍋からカレーをよそう

P「いただきます」

朋花が顔を上げて何か言いたげな表情を浮かべるが、俺は気にせずカレーを口に入れた

P「…ふぐっ…!」

口の中に広がる苦味に思わず涙が出る



P「…う、うん、大丈夫、これなら食べられる」

朋花を不安にさせないように、俺は親指を立てるのだった

それを見た朋花は呆気にとられたものの

朋花「…ふふ、本当に、馬鹿で優しい人ですね~」

そう言って微笑んだ



P「」

結局一人でカレーを食べきった俺は、満腹感と疲労からソファの上で死んでいた

朋花は今、台所で鍋と格闘しているはずだ

P「…」

仰向けになって天井を見つめる

家族以外の人が、俺だけに料理を作ってくれるのは嬉しいものだ

しかもそれが気になっている女の子なら尚更だ

だからだろうか、焦げたカレーを最後まで食べられたのは

目を閉じて考える

…俺は、朋花とどうなりたいんだろう

両親を亡くして一人で暮らす朋花が寂しそうで、だから俺は朋花のそばにいると言った

それは同情だったのか、それとも…別の感情なのか

初めての体験で分からないことだらけだし、きっとこの先も分かることはないだろう

なら今を、朋花と過ごす時間を大切にしたいと

そう思う

朋花「あら、お休みですか~?」

朋花の声に目を開く

洗い物が終わったようだ

P「いや、目を瞑ってただけだよ」

朋花「食べてすぐに眠ってしまうと太ってしまいますよ~?」

P「それはよろしくないな」

体を起こそうとするが、その前に朋花が俺の頭のすぐ近くに腰を下ろし、見つめ合う形になる

そのまま少しの間見つめ合っていたのだが、恥ずかしくなってきたので体を起こす



P「ほ?」

体を起こした瞬間、謎の力で体を引っ張られた俺は頭を朋花の太股の上に落としていた

目の前にはニコニコしている朋花の顔がある

つまり今、朋花に膝枕されている状態だ

P「…ほ?」

状況を把握し、更に恥ずかしくなった俺は再び体を起こそうとするが

P「…!?」

金縛りにあったかのように身体が動かない

そうこうしているうちに朋花の手が翳され、俺の頭に近付いてくる

何をされるのかは分からないが目の前に手のひらが来たことで咄嗟に目を瞑る

そして感じたのは、額を髪事撫でられる感触だった

P「と、朋花?」

何故俺は今膝枕をされながら頭を撫でられているんだろうか

朋花「カレー」

P「え?」

朋花「私が焦がしてしまったカレーを、ちゃんと食べてくれたご褒美ですよ~」

P「ああ…」

カレーをちゃんと食べてくれたのが嬉しかったのか

それなら俺も頑張った甲斐がある

けど、なんだろうこの感じ…

朋花に撫でられていると、なんだか…眠く…











P「…」

朋花「先輩?…あらあら、眠ってしまいましたか~」

朋花「私を差し置いて一人で眠ってしまうなんて、良い身分ですね~」

口ではそう言うものの、私の膝の上で安心しきって眠ってくれることを内心嬉しく思う

焦げたカレーだって、普通はあんなに焦げてしまっては食べられたものでは無いはず

だけど文句一つ言わず美味しいと言ってくれた

嘘だとは分かっていても、美味しいと言われて悪い気分になる人はいない

朋花「…」

眠ってしまった先輩の頭を撫でながら思う

本当に困った人だ

この人といると聖母としての自分が保てなくなりそうで

でも一方でそんな私を悪くないと思う私もいる

ずっと平等に愛を与える聖母としてやってきたのに

たった一人の言葉や行動にここまで心を動かされるなんて思わなかった

これもこの人が私に与えた変化なのだろうか?

出会ってまだそんなに経っていないのに、不思議なものだ

…廊下でぶつかったときに覚えた私の予感

やっぱり間違ってはいなかった

朋花「期待していますよ~先輩?」

呟いた言葉は誰の耳にも届くことは無く

虚空へと消えていった

今年も765学園は海水浴の日を迎えた

765学園では毎年一回、近所の砂浜を貸し切って学園全体での海水浴を実施している

この時持ってくる水着は特に指定されておらず、学園指定のセーラー水着でも自前の水着でも構わない

もっとも毎年何人かは過激な水着を持ってくる人がいて、問題になっている

例えば莉緒さんとか

教師が率先して問題を起こすのも如何なものか

…しかし

P「…暑い」

朋花「ふふ、そうですね~」

例年より暑い海水浴の日、プロダクションに所属する俺達は万が一のために指定ポイントで待機することになっている

朋花は待機地点で羅刹を筆頭に子豚ちゃんや天空騎士団の皆様が用意したパラソルの下でサマーベッドを使って寛いでいた

俺もその恩恵に預かり、パラソルの下に座り込んでいる

一旦ここまで

しかし皆が目の前で遊んでいるのに待機していないといけないのは中々に辛いものがあるな…

もっとも、待機していないといけないのは正社員だけで派遣社員である百合子や青羽さんなんかはさっさと遊びに行ってしまったが

P「…そう言えば、朋花」

朋花「何ですか~?」

P「朋花は別に待機じゃないはずだけど、なんで俺といるんだ?」

朋花「あら、私がいて何か不満でもありますか~?」

P「不満とかじゃなくて、百合子とかは遊びに行ったし朋花ももし俺に気を使ってるなら遊びに行った方が良いんじゃないかと思ったんだ」

朋花「ふふ、気を使ってなどいませんよ~?私は私のやりたいことをしているだけですから~」

P「それなら良いんだけど…もし退屈だったら好きにして良いからな」

朋花「ええもちろん、好きにさせて貰いますよ~」

そう言って朋花はドリンクを飲んだ

それからしばらくは雑談しつつも待機を続ける

途中何度か朋花が飲んでいたドリンクで給水させてくれたこともあり、中々快適に過ごせた

…同じストローを使うのが気恥ずかしかったり、ずっと背中に刺さりまくっている殺気以外は

待機してからしばらくして、琴葉が姿を見せる

琴葉「Pくん、朋花ちゃん、お疲れさま」

P「琴葉お疲れさま、どうしたんだ?」

朋花「お疲れさまです~」

琴葉「待機命令が解除されたから、後は自由時間だって伝えに来たの」

P「もうそんな時間か、ありがとう教えてくれて」

琴葉「ううん、プロデューサーとして当然の仕事だから…それで、Pくん」

P「ん?」

琴葉「この後、もし良かったら私と…」

琴葉が何か言いたげに俺を見た直後

朋花「さて先輩、そろそろ行きましょうか~」

朋花に腕を掴まれた

P「え、どこに?」

朋花「ふふ、良いから私に着いてきてくださいね~?」

P「あ、ちょ、ちょっと朋花」

朋花に腕を引っ張られてバランスを崩す

琴葉「あっ、Pくん」

琴葉が俺に手を伸ばしたが、俺は朋花に引き摺られていった

P「いきなり引っ張ってどうしたんだ朋花?」

朋花「特に理由はありませんよ~?」

P「ええ…」

それなら別に移動しなくても良かったと思うんだが…

朋花「さてと、これからどうしましょうか~」

P「あ、マジでノープランだったのね」

朋花「…」

朋花が微笑みながらジッと見てくる

これは…何か期待されてるような気がするが…

P「とりあえず…誰か誘って遊んでみるか?」

朋花「…」

とりあえず無難な案を出してみたのだが、朋花の目がすっと細まり、体感温度が下がった

どうやらお気に召さないらしい

P「うーん…」

朋花が気に入りそうなこと、何があるかな…あっ

P「っと、そうだ、一旦戻らないか?」

朋花「あら、どうしてですか~?」

P「朋花、日焼け止め塗ってないだろ?この後何をするにしても塗っておかないとせっかく綺麗な肌なのに傷付くかも知れないし」

朋花は意外そうな顔をした後

朋花「…ふふ、では行きましょうか~」

少し機嫌良さそうに歩き出した

P「さて」

結局最初の場所に戻ってきた

琴葉は…どうやら別の場所に行ったようだ

朋花「では、日焼け止めを塗りましょうか~」

P「ああ」

朋花「…」

P「…」

朋花がニコニコしながら俺を見ている

…日焼け止めを塗るんじゃないのか?

朋花「ふふ~どうしたんですか~?」

P「いや、えっと…?」

これは…俺に塗って欲しいのだろうか

P「…俺が塗ろうか?」

朋花「ええ、お願いしますね~」

あっさりと日焼け止めを渡された

…もしかして、朋花は結構な構って貰いたがりなのだろうか

P「それじゃあ、塗るぞ」

朋花「はい~」

元々人が少ない場所だったからか、朋花が無防備に寝転がる

P「…」

この体勢だと綺麗な背中や、形の良い尻に目が行ってしまう

朋花「ふふ、どうしたんですか~?」

P「い、いや、何でも無い」

クリームを手で伸ばして馴染ませる

そして朋花の背中に手を置いた

朋花「ひゃっ…」

P「あ、ごめん、冷たかったか?」

朋花「いえ、大丈夫ですよ~?」

P「そうか?」

それなら続けるとしよう

朋花「あっ…んんっ…」

手を動かす度に朋花が艶っぽい声を上げる

P「…」

なんだこれ、目にも耳にも毒なんだが

朋花「はあ…先輩、お上手ですね~?」

P「何年もやらされて身体が覚えたからな」

毎年のように莉緒さんやこのみ姉さんに塗らされていたら嫌でも覚える

朋花「…やらされた?」

P「ああ、家族で海水浴に行くとどうしてもな」

朋花「…そうですか~?」

P「?」

…なんだろう、ちょっと機嫌が悪くなったような気がする

P「…よし、こんなもんかな」

ようやくクリームを塗り終え、朋花に声をかける

朋花「ありがとうございました~」

P「なに、このくらいはさ」

朋花「来年も、お願いしますね~」

P「ああ」

朋花「それじゃあ、日焼け止めを私に返してそのまま寝転がってくださいね~」

P「え?」

朋花「私が、先輩に日焼け止めを塗ってあげますよ~」

P「いや、俺は別に」

朋花「はい~?」

P「プ、プレッシャー…!?」

結局プレッシャーに負けて寝転がることにした

朋花「ふふ、ふふふ」

朋花は笑いながらクリームを伸ばしている

P「と、朋花、お手柔らかに頼むよ」

朋花「ええ、任せてくださいね~」

その言葉の後、朋花の華奢な指が俺の背中に触れた

そして背筋をつっと撫でる

P「ひいっ」

朋花「良い反応ですね~」

一旦ここまで

P「と、朋花、何で撫で回すように塗るんだ!?」

朋花「あら、ちゃんと塗り込むならこっちの方が良いんですよ~?」

P「す、ストップ!脇腹はぁぁぁぁぁ」

朋花「ふふふ、ここが弱いんですね~?」

P「あひぃ!」

朋花「私の手と指で、全てを忘れるくらいの快楽に溺れさせてあげますよ~♪」

P「止めてください!俺がぁ!俺そのものがぁぁぁぁぁ!」

結局朋花に好き放題日焼け止めを塗られたのだった

P「はあ…はあ…し、死ぬかと思った」

朋花「良く堕ちずに耐えましたね~」

P「いや結構危なかった…もしかしたら朋花はマッサージとか得意かもな」

朋花「あら、ではこれから私がマッサージしてあげますよ~?針で」

P「それはご遠慮願いたい」

流石に針マッサージは怖い

P「さて、日焼け止めも塗ったことだし…」

朋花「…」

P「少し海に入る?」

朋花「ええ、構いませんよ~」

差し出してきた朋花の手を引いてエスコートする

朋花「ん、冷たい…」

足下に来た波を受けて、朋花がそう呟いた

P「冷たくて気持ち良いな」

朋花「ええ、悪くないと思いますよ~?」

朋花と二人で太陽の光を受けてきらきら光る海を見ていると

P「…ん?」

沖合いの方に動きがあった

海面に何かが飛び出し、すぐに水中へと消える

その何かのシルエット…あれは…

P「まさか、イルカか?」

朋花「本当にイルカのようですね~珍しい」

P「毎年来てるが、初めて見たな」

765学園の海水浴はこれで12年目だが、イルカを見たのは初めてだ

鮫やモササウルス、良くわからない生き物は割と見るんだが

再度イルカが飛ぶ

そのイルカは、先程よりも小さかった

P「あれは仔イルカかな」

朋花「ふふ、小さくて可愛らしいですね~」

P「朋花はイルカは好きか?」

朋花「ええ、可愛らしいですし名前に豚も付きますからね~」

名前に豚が付くからはちょっと理解しづらいが…

P「それなら夏休みにさ、一緒に水族館に行かないか?」

朋花「水族館ですか~?」

P「ああ、どうだ?」

朋花「ふふ、構いませんよ~」

P「よし、じゃあ決まりだな、夏休みの予定は水族館だ」

朋花「水族館、楽しみにしていますね~♪」

朋花と行く水族館…楽しみだな

一旦ここまで

特に行事も無くのんびりとプロダクション業務をこなしていると、とうとう高等部最後の夏休みが目前へと迫ってきた

P「もうすぐ夏休みか」

琴葉「うん、私達は高等部最後の夏休みだね」

P「ああ」

亜利沙「ありさは引継ぎの資料も作り終わったので今年はゆっくり出来そうです!」

亜利沙「もっとも、ありさの場合推しのアイドルちゃんのライブツアーがあるのて本当にゆっくり出来るかは微妙ですけど」

P「現地に行かないならライブビューイングとかいうのを使えば良いんじゃないか?」

亜利沙「何を言ってるんですかPさん!命続く限り現地へと足を運ぶことこそがファンの使命!」

亜利沙「ありさもこの身が削れて心燃え尽きて果ててしまっても構わない気持ちでライブに行くんです!」

P「そ、そうか…てか近いって亜利沙」

鼻息荒く詰め寄ってくる亜利沙に思わずたじろいでしまう

朋花「…」

P「はっ、プレッシャー…!?」

後ろから凄まじいプレッシャーを感じた

茜「感じる、感じるよPちゃん!茜ちゃんも肌がぴりぴりするようなプレッシャーを!」

P「いや、それはお前の書類捏造がばれて琴葉が怒ってるからだと思うぞ」

茜「えっ!?」

百合子「先輩は、夏休みの予定とかってありますか?」

P「夏休みの予定か?夏休みの予定は…」

ちらりと朋花を見る

朋花「…」

朋花は書類を見ているが、手は動いていないし視線もちょくちょくこちらに向けているようだ

P「秘密だ」

百合子「えー」

P「まあ暇なときは教えてやるから」

百合子は不服そうだったが、朋花は機嫌が良くなったのか、すっかりプレッシャーは消えていた

琴葉「あ、そうだPくん、みんなも夏休みのこの辺りは可能なら空けておいてほしいの」

P「この時期、何かあるのか?」

琴葉「うん、Pくんと亜利沙ちゃんは覚えてると思うけど慰安旅行を今年も計画してるの」

P「慰安旅行…ああ、あれか」

去年温泉に行ったやつだな

亜利沙「あの温泉街に泊まり行った旅行ですよね?」

琴葉「うん」

しかし温泉か…そういえばあの時露天風呂で琴葉と出くわして…

P「…」

いかん、思い出すと顔が赤くなってきた

朋花「慰安旅行で温泉ですか~、ふふ、なんだか楽しみですね~」

百合子「温泉街なら浴衣とかもありそうですね!朋花さんとか、琴葉さんは浴衣すっごく似合うんだろなぁ~…」

P「実はな百合子、亜利沙も浴衣結構似合うんだぜ」

亜利沙「ふえっ!?」

百合子「そうなんですか?」

P「ああ、これは去年撮った写真なんだけどな」

そう言って俺は去年みんなで撮った写真を見せる

P「ほら、ここに髪を下した美少女がいるだろ?」

百合子「もしかして、これが亜利沙さん?」

P「正解」

亜利沙「び、美少女!?」

亜利沙が顔を真っ赤にして慌てている

亜利沙「あ、ありさが美少女だなんてそんな烏滸がましいといいますかその、可憐ちゃんとか琴葉さんのほうがもっと美少女でその」

百合子「でもすっごく可愛いですよ亜利沙さん!」

亜利沙「あ、あううう…」

P「そうそう、だからもっと自信を持てって」

亜利沙「で、でもありさは」

朋花「…ふふ、先輩~?」

P「っ!?」

収まったはずのプレッシャーに再び襲われる

朋花「女性を辱めるなんて、いけない人ですね~?」

P「ち、ちがっ!俺は別に辱めたわけじゃ」

亜利沙「は、恥ずかしいです…」

朋花「だ、そうですよ~?」

P「Oh…」

一旦ここまで

P「うおお…」

床に正座させられ、更には重しを乗せられるという古典的な拷問を受ける

どうしてこんなことに…

朋花「しかし温泉ですか~、ふふっ楽しみですね~」

亜利沙「お土産とかも沢山ありましたよ!」

百合子「お土産…杏奈ちゃんにも何か買って帰ろうかな?」

伊織「温泉の質次第では水瀬財閥が買い取って別荘を作るのもいいかも知れないわね」

茜「おっとその話茜ちゃんにも一枚噛ませて!ご当地茜ちゃん人形を名物にすればきっと観光客も増えちゃうよ!」

美咲「温泉~えへへ~」

そんな俺を尻目に楽しそうに温泉の話をするみんな

…まあ、俺も今から楽しみにしておこう

その後特に問題もなくプロダクションの業務も終了し、朋花と二人で帰路に着く

P「朋花、今日はどうするんだ?」

朋花「そうですね~お買い物に行きましょうか~」

P「買い物?先週末に行ったばかりじゃないか」

朋花「温泉に行くためのお泊り道具が必要ですから~」

P「ああ、なるほど」

俺は去年使ったやつがあるはずだが…せっかくだし見ても損は無いな

朋花「そういえば」

P「ん?」

ある程度必要なものをそろえたのでみんなで遊ぶのに使うかもしれないトランプを見ていると、朋花が話しかけてくる

朋花「去年の温泉旅行はどんな感じだったんですか~」

P「去年?去年はそうだな…」

去年は確か…

P「みんなで足湯に浸かったり、卓球したり…」

…予期せず琴葉と混浴したり

P「…」

朋花「先輩~?」

P「あーいや、とりあえずみんなで楽しく遊んだって感じだったよ」

P「まあ温泉旅行なんてやることはどこもそんなに変わらないと思うから」

P「気楽に楽しもう」

朋花「…そうですね~」

P「他に買うものある?」

朋花「今のところは大丈夫ですね~」

P「よし、じゃあ帰るとするか」

朋花「ええ」

一旦ここまで

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