男(しまった、餅が喉に詰まったぞ……)(14)

男(俺としたことが油断してしまったな。餅が詰まるなんて初めてだ)

男(毎年これが原因で幾人も亡くなってると聞くが……なるほど、こんな感じか)

男(ここで死んだら最後の晩餐が餅ということになるのか……まあ悪くはない)

男(……)

男(……意外と平気だな。これなら余裕で耐えられそうだ)

男(だが呼吸ができなければ生物はいずれ死ぬ。早く気道の確保をせねば)

男(確か、どこかで詰まった餅を掃除機で吸い出したみたいな話を聞いたな。試してみるか)

男(……そうか、家にあるのはハンディ掃除機だったな。これじゃ口の奥までは突っ込めない)

男(どうする?今から普通の掃除機を買いに行くか?……落ち着け、俺よ。それはあまりにも馬鹿馬鹿しいではないか)

男(だが早く解決せねば。この乾燥した時期、いつ体内の餅が固まるやもしれぬ)

男(そうだ、引き出せないのなら押し込んでしまえば良い)

男(水だ、水を飲むんだ)

男(……比喩とかじゃなくて喉を通らない。がっちり封鎖されてしまっている。この餅、出来る)

餅「そう誉めるな」

男(なんと、喉から声が)

餅「自我が芽生えたというわけさ」

男(奇っ怪な)

餅「そう邪険にしないでくれ、私の力のお陰で君は生きていられるんだよ」

男(そうなのか、良かった。そろそろ自分が人間じゃないと疑い始めてたところだ)

餅「私のことは親しみを込めてモッチーとでも呼んでくれ」

男(モンスターファームの看板モンスターと被るな。で、そのモッチーは何者なんだ?)

餅「よくお米の中には神様がいるって言うだろ?その米の集合体である餅に霊力が宿った存在、それが私だ」

男(なるほど、神様の類いか。これは厄介)

餅「無下にしたら祟るぞー」

男(しかしこのままでは俺は食事も他人との会話もできない。それは困る)

餅「なにエネルギーは霊力で供給してやるし、会話なら私が代行しよう」

男(なんで俺がそんな悲しみを背負ったサイボーグみたいな目に合わなければならないんだ)

餅「詰まらせたお前が悪い。大体こんなサイズの私を一口で食べようとするなよ」

男(飲み込めると思ったんだ。あの辛い過去を飲み込んだ俺なら……)

餅「自分語りはやめてよ、嫌いなんだ」

男(ちぇー……ていうかモッチー、その万能霊力を使えば俺の喉から出ていけるんじゃないか?)

餅「出来るけど……したくない」

男(なぜ)

餅「……君に惚れたから///」

男(擬人化して出直してこい、話はそれからだ)

餅「餅の擬人化っていうとダイフクーしか思い浮かばないよ」

男(ダイフクーを嫁にするのは嫌だな)

餅「きゃっ///彼女を飛ばしていきなりお嫁さんなんて///」

男(ほら、いいからそこから出てきなさい。さすがにこの状況じゃ例えどんなに好きでも恋愛なんて出来ないから)

餅「同化って究極の愛の形だと思わない?」

男(……どうしたもんかね)

餅「このまま私と同じお墓に入ろう?ね?」

男(俺もここまでか……)

海苔「諦めるな」

餅「お前は……!」

男(どちら様でしょうか?)

海苔「そこの餅と同じような経緯で霊力を得た海苔だ、今はお前の腹の中にいる」

男(ああ、包むのが面倒で先にばりばり食べてしまったあの海苔か)

海苔「さっきから聞いていれば他人の人生を己の欲望のために踏みにじるような身勝手さ、許してはおけない」

男(正義感の強い海苔だな)

餅「ぐぬぬ」

海苔「貴様のような外道は母なる海より遣わされた私が退治してくれるわ」

餅「助けてダーリン!こいつ私を包む気よ!」

男(この状況でよく俺に助けを求められるな)

海苔「覚悟!」

餅「おのれええええぇぇぇ!!」

男「おっ、飲み込めた」

餅「こ、このまま……愛する人の血肉となるのも……悪くな…いか……」

男「……今年も楽しい一年になりそうだ」

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