一ノ瀬志希「キミが死んだら、その死体はあたしが欲しいな」 (101)

【23】


志希(あたしがキミにそうプロポーズしてから、今日で3年…)



レポーター『たった今判決が出ました!無期、無期懲役です!』

レポーター『内縁の夫を殺害した元アイドル妻・一ノ瀬志希被告に、無期懲役の判決が下されました!』



志希「…………」

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ええ…

【0】


「あぁーーん!!おぎゃああーーん!」


???『かわいい女の子よ。私たちの赤ちゃん』

???『ああ、よくがんばってくれた。本当にかわいいよ』

???『この子の名前は…志希だ。希望を志す子に育つように』

???『ええ。良い名前ね』



志希(そんなやり取りがあったそうな)

志希(きっと、これは、後から両親に聞いた話)

志希(だからこれはきっとあたしが後から作りあげた想像。捏造の記憶)

志希(産まれたばかりの0歳の記憶なんて憶えているはずがない憶えているはずがない憶えているはずがない)

志希(……きっと、あたしは両親のセリフを憶えているはずがない)

【2】


志希「……」パチッ カチッ


母親「すごいわ志希。もうこんなに解けるようになるなんて!」

父親「ああ。まだ2歳なのに、6歳児向けのパズルを解いている…」

母親「あなたに似て賢いのかもしれないわね」

父親「ははは。だが、この子はもしかすると…」


志希「……」カチッ バチッ

おいやめろ

【22】



志希「父は学者でした」

志希「そのせいもあってか、あたしの、あたしが…」

志希「あたしが、他の子とは少し違うということに、彼はいち早く気付いたんです」

志希「あたしのような子を集めるための幼稚園。その入園試験を受けたことを憶えています」

時系列バラバラ系いいぞこれ

【4】



志希「……」カリッカリカリ



幼稚園教諭「志希ちゃんの数学力は、現時点で高校入試レベルにあります」

父親「やはり…!」

母親「すごいわあなた!志希…まだこれから幼稚園なのに!」

幼稚園教諭「ぜひとも当園に入園を!彼女はまさに天才…!」


幼稚園「ギフテッドです!」


父親「ええ!あの子にふさわしい教育をお願いします!」

母親「お世話になります!」



志希「……」カリカリ

【5】



園児「せんせー!しきちゃんがまたわりこんだーー!」

教諭「あらあら志希ちゃん。またなの?」

教諭「おててを洗う時には、みんなで順番に並びましょうね?」

志希「どうして?」

志希「どうせ全員手を洗うなら、こうやって並んだ方が早いのに」

教諭「…順番に並ぶのが幼稚園の決まりなのよ」

志希「……よくわかんない」

【5】


母親「すみません、すみません…」

教諭「あ、いえ。いいんですよお母さん」

教諭「当園はその都合上、少し偏屈な児童も多いので」

母親「はい…」

教諭「しかし、それだからと言って社会のルールからイツダツした児童を出すわけにはいきません」

教諭「ご家庭でも、勉強だけではない積極的な教育をお願いします」

母親「はい…」



志希「……」

【23】


志希(母はいつもあたしのことで誰かに謝っていた気がする)

志希(父は逆に、あたしがおかしなことを仕出かすたびにはしゃいで喜んだ)

志希(……あたしはどうするべきだったんだろう)

志希(あの時幼稚園の先生が言っていた言葉は、あまりあたしの評判がよくないという意味だと察していた)

志希(当時、わからないことがあれば何でも調べられるようにと、あたしには辞書や辞典が買い与えられていた)

志希(“イツダツ”)

志希(あたしは今なお、その意味を辞書で引くことが出来ない)

中断

きたい

ギフテッドって映画気になる

【6】


???「ねぇ!キミ、ようちえんではあったことないよね!?」

志希「…だれ?」

ハナ「あたしハナちゃん!はじめまして!」

志希「そう。あたしは遠くの幼稚園に通っているから」

ハナ「そっか~!だから、こうえんにひとりできてあそんでるんだね!」

志希「…そうだよ」

ハナ「それなら、あたしとこうえんであえたときにはいっしょにあそべるね!」

志希「……あたしと遊びたいの?」

ハナ「うん!ハナちゃんキミとあそびたい!」

志希「……!」

【6】


ハナ「ねぇ、キミのなまえは?」

志希「あたしは、志希」

ハナ「そっかー!よろしくね、しきにゃん!」

志希「…にゃん?」

ハナ「にゃっはっは~~!ね、しきにゃん!あっちであそぼう!」

志希「…うん」





志希「お父さん、お母さん。お願いがあるの」

【22】



志希「幼稚園に馴染めなかった私は、公園で出会った近所に住む幼なじみとよく遊びました」

志希「両親にねだって、小学校からは英才教育のための小学校への推薦を蹴り、彼女と同じ近所の公立小学校へ」

志希「10歳で転校するまでは、その小学校へ通いました」


???「転校の理由はなんですか?」


志希「それは……」

【10】


志希「ハナ、だから言ったでしょ?」

ハナ「にゃはは~、ご、ごめんね志希にゃん?」

志希「ああもう、効率悪いなぁ。時間無駄にした」

ハナ「……っ」

志希「ほら、もう一回あたしが考えたとおりにやるよ」

ハナ「……」


同級生「てかさ、そんな言い方なくない?」


志希「は?」

【10】


同級生「お前なんなの?いっつも上からさぁ」

同級生「みんなちゃんとやってんじゃん」

ハナ「い、いいんだよ、あたしは別に…」

志希「ちゃんとやってても効率悪いよ、それ」

同級生「だからそういうのをさぁ!!」

同級生「確かにアンタは頭良いかもしれないけど、言い方とかあるでしょ?」

志希「…あたしが頭が良いことと、効率の良い手段を取るかどうかは別の話だよ」

【10】


同級生「あーあ、もういいや。やってらんない」

同級生「一ノ瀬さんはここじゃなくて頭の良い学校に行くべきだと思いまーす!」

志希「なんで?」

ハナ「ね、ねえっ!もうやめよ?志希にゃん?」

志希「あたしの方が退くの?意味がわからない」

志希「あたしは間違ったことを言ってない。そんなこともわからないの?」

ハナ「……」

【10】


同級生「「出ーてーけ!出ーてーけ!」」

志希「おかしいのはそっちでしょ!?」

同級生「「出ーてーけ!出ーてーけ!」」

志希「~~~~っ!!」

ハナ「……ごめん、志希にゃん」

志希「…ハナ?」

ハナ「あたしにも、もうこれ以上かばえないや…」

志希「!!!」

【10】


母親「すみません、すみません…」

担任「はい。ですが、子供同士のこととは言え、問題がこじれてしまった以上はどうしたものか…」

志希「……」

父親「志希。お前はどうしたいんだい?」

志希「……」

志希「転校…」

志希「転校、したい…」

父親「わかった」

【10】


父親「君が6歳の頃に推薦を断った学校には行けないから、どこか近場の私立を探そう」

志希「はい」

担任「そうかそうか。志希さん、転校先でも元気でがんばってくださいね」

志希(先生、ほっとした顔してる…)

父親「それと、志希のような子を教育している塾があるんだ」

父親「そこにも通ってみよう。幼稚園の時とは違って、今度は友達ができるかもしれないよ」

志希「…はい」

【10】


志希(今日から新しい学校…)

志希(あたしは幼稚園児の時から何も変わっていなかったんだ)

志希「でも、今日からは違う…!」


担任「今日は皆さんに転校生を紹介します!さ、自己紹介してね」



志希「にゃははっ♪あたしの名前は一ノ瀬志希!志希にゃんって呼んでっ!みんなよろしくね~!」



志希(あたしはネコをかぶることにした)

志希(愛想を良くして、トラブルを避けて、余計な火の粉が降りかからないように)

志希(誰かにかばってもらう前に、自分自身を覆いかぶせてしまうことにした)

【14】


志希「今日はカラオケ楽しかったね~♪」

同級生「うん!志希にゃん歌上手いんだね~」

同級生「99点はおしかったね」

志希「ふっふー♪あんなのただのテクニックだってー!」

同級生「また行こうね志希にゃん!」

同級生「今度は甘いものでも食べに行こうよ」

志希「うん!うん!また遊んでよっ♪」

志希「それじゃ、あたしんちここだから!まったね~♪」

同級生「また明日」
同級生「バイバーイ!」

志希「バイバーイ!」

ガチャ

志希「パパ~、ママ~、たっだいま~!」

【23】


志希(あの頃のあたしは、すっかりネコをかぶることにもなれていた)

志希(もはやネコをかぶっているなんて自覚が出来ないほどに)

志希(いや、むしろ、過去のあたしがまるで別人かのように、かつての人格を思い出せないようになっていた)

志希(両親にも、学校のクラスメイトにも、塾のクラスメイトにも、人懐こく振る舞った)

志希(それほどまでに、もうみんなに嫌われるのが怖かった)

志希(幼なじみの彼女と出会い、誰かと仲良くなる喜びを知ってしまったから)

志希(もう以前の自分には戻れなかった)

志希(自分が鋼鉄に薄皮を一枚羽織っただけの人間であるということを、自覚することはもう出来ない)

期待してる

【14】


志希「ただいまー。ママ~?」

母親「おかえりなさい、志希」
父親「おかえり」

塾長「こんにちは志希さん」

志希「あれ?塾長??どしたの?家庭訪問?」

父親「用事があって来て頂いたんだ」

志希「用事~?パパもたまに日本に帰って来た時くらいゆっくりすればいいのに」

父親「志希に関わる用事なんだよ」

志希「あたしに?」

【14】


父親「志希、私が勤めている大学に入学しないか?」

志希「へっ?」

塾長「志希さんの頭脳は、もう日本の義務教育の枠を超えています!海外の天才児教育プログラムを受けた方が良い」

父親「私の大学には志希のような子を受け入れる体制があるんだ。志希より若い大学生だっているんだよ」

志希「でも…急に大学生って言われてもなぁ」

志希「それに、ママはどうするの?日本で仕事あるわけだし、ひとりで残して行くなんて…」

母親「行くべきよ、志希」

志希「マ……マ……?」

【14】


母親「あなたはこのお話、受けるべきだと思う」

志希「にゃはは…受けるべきって…」

母親「行きなさい、志希。あなたにはあなたにふさわしい場所があるわ」

志希「ママ……?」

母親「だってあなた……ずっと無理をしているでしょう?」

志希「!!!」

母親「あなたは、ありのままでいられる場所に行くべきよ」

志希「……」

【22】


志希「自分でさえ忘れかけていたネコかぶりは、母には看破されていました」

志希「変われたつもりでいたのは私だけで、母にとって私の中身はなにひとつ昔と変わらなかったのでしょう」

志希「母はいつも通りの笑顔でしたが、目だけは私に有無を言わせない表情でした」

志希「父が海外に赴任してから、日本では母と二人暮らしをしていました。その負担もあったのだと思います」

志希「母にとって、私の存在はずっと『理解できないモンスター』でしかなかったようです」

志希「父にとっては『自分だけが持つ高性能なオモチャ』」

志希「そこに愛情が無かったわけではないし、互いに愛し合う努力はしたように思います」

志希「でも、私たちはどうしてもズレてすれ違ってしまったようです」

【22】


志希「私は母と離れるべきだと思い、父とともに海外の大学に行きました」

志希「大学ではほとんど友達を作れませんでした」

志希「外国人であること、私より年少の学生や普通の大学生との年齢格差などは問題ではなく」

志希「私が私自身の人格をよくわからなくなり、不安定になっていたからです」

志希「母にはありのままで、と言われましたが、素の自分が他人に接すれば、また嫌われるのではないかと思いました」

志希「そもそも本当の自分が何者かさえわからず、思春期の精神不安定も重なり、私は人を避けるようになりました」

志希「単位を気にしなくなり、父が大学に用意させた、研究室という名目の私の私室にこもりきりになりました」

志希「そこで自分の研究に没頭するも、誰かに甘えたい、優しくされたいという欲求は日に日に高まっていきました」

志希「ネコをかぶることこそが、私の人格だと気付く頃。私は人に甘えたいがために研究室を悪用するようになりました」

【18】


志希「ハスハス…ん~、これならオッケーかな?」

志希「あ~~、上出来っ♪最高だね!」

志希「それじゃあ~~、ひっさしぶりに部屋から出ますかぁ!」

志希「あっはぁ!靴とかどこに脱いだんだっけ?」



志希「キミたち~、今時間あるカナ?」

大学生「え、誰?」

大学生「ほら、この子例の研究室の。教授の娘の」ひそひそ

大学生「あの研究室にこもってるっていう?」ひそひそ

【18】


志希「そうそう!そのヒキコモリの志希にゃんだよ~♪」

大学生「…そんで、研究室のお姫様が俺らになんの用?」

志希「いやねー。キミたちなんとなくフリョーっぽいから、こういうの好きかな~?って思って!」スッ

大学生「…なんだよそれ?」

志希「自作のドラッグ♪」

大学生「はっ!?」

志希「研究室でこんなの作ってるんだ~。最っ高に良い夢見れるけど、キミたちもいかが?」

大学生「マジかよ…」

大学生「ははっ、教授の娘が大学の中でドラッグ作るって…そんなのありかよ!?」

志希「いいんだよ~♪ダッドは落ちこぼれたあたしに興味なんかないし!」

志希「ねぇ、人集められる?どこかでコレ使ってパーティーしようよっ!」

【22】


どよっ…!ひそひそ…


???「静粛に」

???「裁判長!」

裁判長「被告弁護人」

弁護士「このように、被告が生い立ちを話すのは情状を得るためではなく、事件の経緯と精神状態を正確に伝え、裁いてもらうためで…

裁判長「被告人。必要なことなのですね?」

志希「はい」

裁判長「…では、続けてください」

【18】


大学生「ぁ~~……ぁ~~……」

大学生「ひゃはっ…」

大学生「zzz」


志希「にゃは…はは…」

志希(大学にも行かず、家にも帰れず、かまってもらいたくて学生を薬漬けにして連夜のドラッグパーティー…)

志希「あははっ、何やってんだろ、あたし……」ぽろぽろ


ガチャ ギィ


志希「!」

【18】


志希「ここは貸し切りだよ、お兄サン…」

「らしいな。ガキがパブを貸し切って毎晩ドラッグパーティーしてると聞いてやってきた」

「全員ツブレてるな。やったのはお前か?」

志希「……キミは誰?マフィアの方?」

「いいや、違う」ぐいっ

志希「うっ…!」

「自分で立つこともできないくらいドラッグをキメたのか?」

志希「そんなのあたしの勝手だよ…」



志希(私の胸ぐらをつかんで持ち上げた彼の手からは、不思議と良い匂いがした)

【18】


「その発音。日本人だな?」

志希「キミもね。それがどうかした?」

「日本人のガキが、その年でドラッグに頼らなきゃいけないほどの何があった?」

志希「……キミには関係ないよ」

「かもな。お前、自分が辛い目にあってると思っているんだろ?」

志希「…はい?」

志希「だったら何?知ったようなことを言わないで…」

「何につまずいた?」

志希「……うるさいっ」

【18】


「こうも思っている。『こんな人生は間違っている』と」

志希「~~っ!!それが…それが……なんだって言うの!?」

志希「ああ!!そうだよ!!思ってる!!こんなのおかしいって!!!」ぽろぽろ

志希「あたし何か間違ったことした!?わかんない!!なのに人生間違っちゃった!!」

志希「でも仕方ないでしょ!?そうなっちゃったんだから!!そういう風に生まれちゃったんだから!!」

志希「ううっ、グスッ…こんな風に生まれて、こんな風に生きてきちゃったんだから……」ぽろぽろ

志希「キミに…なにがわかるって…言うの……」


「俺もそう思ったからだ。『お前の人生は間違っている』」


志希「……!!」

【18】


「お前の間違った人生。俺ならあるいは正しい道に戻せるかもしれない」


「一瞬だけなら、俺はお前に力を貸してやれる」


志希「……キミは何者なの?何をしている人?」

「俺は…俺は靴屋だ」

志希「靴屋さん?靴屋さんがどうして…?」

志希「……あなたはどんな靴を扱っているの?」


「…………ガラスの靴」




志希(それが彼との出会いだった)

中断

プロデューサーのPはPoetのP

これはみっしー直属のP

ポエマーの波動を感じる

ポエムバトルの系譜がこんなところまで…

【22】


志希「その時出会ったのが、後に私が殺害することになる被害者。夫…内縁の夫です」

志希「彼が名乗る通りの靴屋ではなく、アイドルプロデューサーであることは世間の皆さんが知ることだと思います」

弁護士「出会ったその時には、もう殺害を考えていましたか?」

志希「まさか。結婚さえ考えていませんでした。でも、恋愛感情のようなものは…出会ったその日から抱いていたと思います」

弁護士「内縁関係とのことですが、籍を入れなかった理由は?」

志希「彼が『商材に手をつける気はない』とし、法律婚は拒みました」

志希「しかし、教会の神前で誓い合いました。概念上の結婚は成立しています」

弁護士「裁判長。被告と被害者が教会で署名した結婚証明書は資料として提出しています」

裁判長「……」

弁護士「さて、一ノ瀬さん。あなたの夫はあなたをアイドルとしてスカウトしました。その理由はなんですか?」

志希「それは…」

【18】


「金になりそうな美人が転がっていたから、拾っただけだ」

志希「金って…んー、つまり、女の子をアイドルにできれば誰でも良かった?」

「そうだな。巧く口説けば、元手はタダで俺には金が手に入る」

志希「やれやれ、なにが『俺は靴屋だ』なんだか。キミ、半分人さらいじゃんっ」

「かどわかしはプロデューサーの基本スキルなんだよ」

志希「あっ!今自分のことをプロデューサーって認めた!」

「ああ、お前をプロデュースしてやる。歌やダンスのレッスンも存分に手配する」

志希「まったくもー。キミに連れられて日本に帰ってきたら、まさかアイドルやらされるなんて思ってもみなかったよ」

「だが、志希にはアイドルの才能があった。歌もダンスもあっという間に覚えてこなした」

志希「キミがめちゃくちゃスパルタなレッスンスケジュールを組むからだよっ!!」

「そうだ。あれ程レッスンしたんだ。自信を持っていけ」

「……出番だ」

志希「……うん!」

【18】


ぎゅっ

「ん?」

志希「ハスハス…」

「おい、あまり抱きつくな。メイクが落ちるぞ」

志希「うん…だいじょぶ…ハスハス」

志希「ふーーっ!キミがお金のためにアイドルをプロデュースしてなんかいないことくらい、わかってるよ」

「……」

志希「そうじゃなきゃ、わざわざドラッグパーティーの中に飛びこんで女の子を連れ出したりなんかしない」

志希「それに、キミはあたしに力を貸してくれるとも言った!人生を正しい道に戻せるともね」

「…正しい道には戻れそうか?」

志希「それを今から確かめてくるっ!」

「よしっ!デビューイベント、思いっきり暴れてこい!」

志希「にゃははははっ♪」

【23】


志希(アイドルは本当に楽しくて、輝いてたなぁ…)

志希(あんな世界があって、自分がそこに飛びこむことができるなんて知りもしなかった)

志希(彼と、みんなといる毎日が楽しくて楽しくて、一気にアイドルの階段を駆け上がる日々)

志希(これがあたしなのか、と初めて実感できた)

志希(彼はあたしのなんの希望も志しも無い人生に、新しい道を示してくれた!)

志希(その道をまっすぐ迷いなく進めていたら…)

志希「そっちの方が、後悔したかもしれない」

【19】


志希「カンパーイ!」

「乾杯!」

キィンッ

志希「キミとのコンビも早一年かぁ。けっこうあっという間だったね~」

「あっという間なのは志希の出世速度だ。まさかわずか一年でトップアイドルの仲間入りするとはな…想像以上だ」

志希「あそこで金になりそうなあたしを拾ったのは正解だったね、靴屋さん?」

「まったくだ。自分の育てたアイドルが、ガラスの靴をはく姿を見られて良かった。志希のおかげだ」

志希「なに~?今日はいつも以上にストレートなもの言いだね。初めてキミにお礼言われたかも」

「感謝している。感激も」

志希「感謝はこっちこそだって♪」

志希「ていうか、コレ、チャンピオンベルトとったボクサーとトレーナーの会話っぽい」

「なかなかの名伯楽ぶりだったろ?」

志希「ん~、そだねぇ。キミがいなかったら、あたし今ごろどうしていたか…」

志希「……どうもしていなかった、だろうな」

【19】


「志希はもう一流のアイドルで、一人前の人間だ。もう昔のように戻ることはないだろ」

志希「にゃはは。そうだといいなぁ」

「大丈夫だ。自信を持っていけ」

「…ここでお別れだ、志希」

志希「……どうして?」

「最初に会った時に言ったはずだ。『一瞬だけ力を貸す』と」

「お前にはもう俺が力を貸す必要が無い」

志希「それがどうしてあたしから離れる理由になるの?」

「…お前がひとり立ちできたからだ。俺は今度は別のヤツに力を貸しに行く」

志希「嘘。それくらいはわかるよ」

「……」

中断

くぅぅぅ....続きが気になるよ!

はよー!

ここで中断か… くそう気になる

酷いな

【19】


志希「まず、他の子をプロデュースするとしても、あたしを手放す理由がないよ。合理的じゃない」

志希「あたしを広告塔にすれば、もっとたくさんのアイドル候補生が効率良く集まるわけだし」

「……」

志希「そして、そんなことよりも何よりも…」

志希「キミの眼がもう満足しちゃてる」

「……」

志希「キミはプロデューサー業を辞めるつもりなんじゃないかな?」

「……ああ」

【19】


志希「辞めちゃう理由を教えてよ…あたしは知りたい」

志希「それはもしかして、キミがはぐらかし続けてきた、あたしをスカウトした理由ともつながっているんじゃないかな?」

「…やれやれ。お見通しときたか」

「ああ、その通りだ。志希をスカウトしたこと、アイドルとしてひとり立ちする力を貸したこと、俺が辞めること」

「全部はひとつの理由でつながる」

志希「ねぇ、教えて。あたしはキミのことがもっと知りたい」

「……聞けば後悔するぞ」

志希「なにもしなかったことを後悔し続けたあたしだよ?これからは、後悔するならばやってから後悔したい」

「…わかった」

【19】


「俺はな、外道なんだ」

志希「…外道?」

「女の子に偽物の夢と希望の幻を見せて、アイドル業界に引きづりこむのを生業としている」

志希「……」

「あるところに、ごく普通の女子中学生がいた。平凡で、なんの変哲もない女の子」

「俺は魔法をかけた。『アイドルになってみませんか?』、と」

「彼女はすっかり乗り気だった。『あたしのような子がアイドルになれるなんて!』、と」

「だが、うまくいかなかった。アイドルになった彼女の人気は伸びず、どんどん人気も仕事数も失墜」

「彼女はどんどん憔悴していった」

「それもそのはず。俺は灰被りをお姫様にする魔法使いなどではなかったのだから…」

「……魔法なんて、使えるわけがない」

【19】


「その子は数年で失踪した。今じゃどこの誰にも探せない」

「…俺と関わらなければ、普通に進学し、友達や恋人を作って人生を歩んだだろうに」

志希「それは…キミのせいなんかじゃないよ…」

「そんな折だ。会社の健康診断で俺に病気が見つかった」

志希「……えっ!?」

「そう長くはないらしい。俺は報いだと思った」

志希「ちょっ、ちょっと…ちょっと!?」

志希「う、嘘…だよね?」

「本当だ。志希と出会う前年の段階で、3年後の生存率50%、5年後10%だそうだ」

志希「そんな、そんな…!!」おろおろ

志希「キミ、死んじゃうの!?」

「……人はいつか死ぬ」

【19】


志希「そんなことを言ってるわけじゃなきくて…っ!!」

「そんな中、残された寿命で何をするか考えた末、外道は外道らしい結論に至った」

「『普通の子の人生をダメにしてしまったなら、もう人生終わったヤツをスカウトすればそれ以下にはならないだろう』、と」

志希「!」

「お前だ、志希」

「それらしい場所で噂を頼りに、『人生終わったヤツ』を探していて、たまたまお前を拾っただけだ」

「志希をスカウトした理由を聞きたがっていたな。…それは、ただの俺のエゴだ」

「『金になりそう』でも『力を貸したい』でもない。ただ、自分の余命に火がついた外道のワガママだ」

志希「……」

【19】


「…聞けば後悔すると言っただろ?」

志希「うん。…ううん。そんなことない」

志希「キミはあたしに力を貸してくれた。それまでの人生を否定してくれた」

志希「でも、それ以上に熱をくれた!」

「…熱?」

志希「そう!キミと出会って、それまでネコをかぶるだけだったあたしの胸の内側に、温かいものをくれたよ!」

志希「初めての経験だった……心が温かくなるって、こういうことだったんだって思った」

「…そうか」

志希「だから、だからこそ…キミが死んじゃうのは嫌だよぉ…」ぽろぽろ

志希「キミと離れたくないっ!まだまだ、もっともっとキミといたい!」

「……」

志希「ひとり立ちなんて全然できてないよっ!あたしはまだ、あの日キミに胸ぐらを掴まれて立ち上がらせてもらった日のまま…!」

志希「もっと、もっとずっと、あたしに力を貸していてよ……」

【19】


「…やれやれ。出会ったあの日と泣き方が変わってないじゃないか」

志希「だっで…キミが、死んじゃ、うって…」ぐすっ、ぐすっ

「ひとり立ちさせるには、まだ早かったか」

志希「!! それじゃあ!!」

「もう少しだけだ。あとほんの少しだけ、お前に力を貸してやる」

志希「~~~~っ!!」

志希「ありがとぉーーーー!!」ぎゅっ!

「おい、抱きつくな」

志希「ハスハスハスハス~」

「嗅ぐな」




志希(こうして、彼に拾われて城の頂上までまっすぐ駆け上がったあたしは、今度は彼と共に歪に階段を転がり落ちる)

中断

おつ
いいぞ

【22】


志希「その頃から彼とは同棲し始めました」

志希「仕事柄、あまり公にはしていませんでしたが、私たちの交際は周囲には公然の秘密でした」

志希「同棲の理由には、交際相手としてだけでなく…もう一つ」

志希「彼の身体がしだいに弱ってきてしまい、介助を必要とする場合があったからです」

志希「息切れをすることが多くなり、椅子に座っている時間が長くなり、ついには杖をつくようになり」

志希「視力も、少しずつ…」

志希「その頃には私と彼の関係だけでなく、彼の病気と余命についても噂が拡まっていたようです」

志希「周囲の人たちが気を使ってくれたのか、私たちは二人きりになる時間がとても増えました」

【20】


♪~♪~♪~

志希「……じゃん!」ピタッ

志希「ハァハァ…今のダンス、どうだった?」

「上出来だ。だが詰めが甘い。もう一度やろう」

志希「ぶ~!相変わらず厳しいなぁ」ぶつぶつ

志希「ねぇ、今の曲もう一回やる前に別の曲踊っていい?志希にゃん飽きちゃった♪」

「お前なぁ…」

志希「あたしの集中力の持続を勘案すると、その方が結果的に良い成果が出せると思うんだけどにゃぁ~」

「はぁ。その癖だけは一向に変わらんな…」

志希「これはもう一生モノだよねー」

「……。どうせ気分転換するなら、一つリクエストがある」

志希「なんの曲?」

「曲目じゃない」

「ガラスの靴を履いて欲しい」

志希「へっ!?」

【20】


志希「いいけど…どして?」

「今日は目の調子が良いんだ。視野がスッキリしている」

「それに、このレッスンスタジオは天窓から光が差し込んできてて、良い塩梅なんだ」

「ここでもう一度、ガラスの靴を履いた志希が見たい」

志希「……いいよ。待ってて」





カツーン、カツーン

「どうしたんだよ、そんなドレスまで」

志希「スタジオの衣装室にあったんだよ。どうせなら、ね♪」にっ

「ああ、似合ってる。靴もドレスも」


「そこの光の元へ」


志希(あたしは彼の求めるまま、ガラスの靴を履いて光の元で大きくポーズを取る)

志希(照らされる光で、ガラスの靴はキラキラと輝いた)

志希(あたしは彼の眼をじっと見つめる)


「ああ…綺麗だ……」

「……このまま永遠に時間が止まれば良いのに」

【20】


志希「もうっ!ホントに死んじゃうようなこと言わないでよっ!!」


「死ぬんだよ俺は!!!」


志希「…………ッ!」ビクッ

「なぁ、志希。ここいらで終わりにしよう、俺たち…」

志希「……」

「最近では俺が力貸すどころか、お前に助けられてばかりだ」

「お前はアイドルだろう?何で俺の通院手伝うために仕事減らしてるんだよ…」

「今のうちに他のプロデューサーの下につけ。話は通してあるから、大丈夫だ」

「さっきは大声出して悪かったな。すまん」

「最後に良いものを見せてもらったよ…ありがとう、志希」

「それに、家であれこれ家事してくれたことも。お前そういうの苦手だろうに」

「通院の介助も、さっきはああ言ったが本当に助かったんだ。ありがとう」

「俺たちは、出会いはどうあれ、助け助けられた関係になったけど。志希は俺の『死』にまで付き合うことはないんだ…」

「どうか、俺の育てた最高のアイドルとして……新しいプロデューサーと共に歩んでいって欲しい」

「俺の、死を前にした俺の最期のお願いだ…」


「自分の人生を、生きてくれ……」










志希「キミが死んだら、その死体はあたしが欲しいな」

【20】


「……なんだよ、それは」

志希「あたしなりのプロポーズのつもり」

「なっ!?」

志希「どうして仕事ほったらかしでキミに付き添うかって?」

志希「好きだからだよ。愛してるからだよ。何よりも!」

志希「キミの死に付き合うことはないって?」

志希「冗談じゃない!一生添い遂げるよ!!」

志希「自分の人生を生きて欲しい?それなら…」


志希「キミと共にいることがあたしの人生だよ」


志希「あたしと結婚して!」


「……」

「…わかった」

「俺と結婚してください」

【23】


志希(借り物のドレスと貸しスタジオでの突発的でさえないプロポーズを彼は受けてくれた)

志希(でも、『借り』はあたしと彼をつなぐキーワードと思えば、あたしらしかったのかな?)

志希(翌日、あたしはアイドルを電撃引退)

志希(仕事方面では、あらかじめあたしがこっそり根回しを済ませておいたので支障なし)

志希(世間は蜂の巣を突ついたような大騒ぎだったけど)

志希(あたしと彼の結婚式はそれから間もなく執り行われた)

志希(彼も家族とはあたし同様の関係らしく、呼ぶべき人はいないらしい)

志希(あたしと彼の二人きり……正確には神父さんもいるけど、二人きりの結婚式だった)

【20】


神父「汝、この者を妻とし、健やかなる時も病める時も、死が二人を別つまでこの者を愛することを誓いますか?」

「はい。誓います」

神父「汝、この者を夫とし、健やかなる時も病める時も、死が二人を別つまでこの者を愛することを誓いますか?」

志希「はい。誓います」

神父「では誓いのキスを!」

「…ありがとう、志希。これからもよろしく」

志希「うん。ずっといっしょだよっ!」

チュッ

神父「ではここに、この二人を夫婦と認めます!」

ゴーン!ゴーン!ゴーン!


志希「……」

志希(死が二人を別つまで…)




志希(その言葉が、ただただあたしの胸に重くのしかかるようだった)

中断

はえーシリAssやね

【22】


志希「その頃からです。彼と…夫と永遠にいっしょにいられたらと考えるようになったのは」

志希「でも、夫が死んでしまうことは止められない。それは最も近くにいる私がわかっている」

志希「夫の死を受け入れるか、否か」

志希「その葛藤に苛まれました」

志希「私は…彼の死を拒絶する方を選びました」


志希「彼と永遠に添い遂げたい」


志希「私に犯行動機があるとするならば、その思いだけです」

志希「決して看護疲れや、憎しみや怒りの感情、その場限りの感情で実行したのではありません」

志希「完全に私のエゴ、自分勝手な感情に彼を巻き込みました」

志希「計画をはっきりといつから立てていたのかは、もう私にも思い出せません」

志希「彼がほとんどベッドから起き上がることができず、声も枯れて、痛みを麻酔で抑えるようになった頃」

志希「……それは、もういつ死んでしまってもおかしくない状態です」

志希「その時期にはもう全ての用意を済ませていたのは確かです」

【21】


シュコー シュコー

「…」

志希「……」

「…」

志希「ね」

「…」

志希「今度、二人きりで出かけない?」

「…」

志希「何言ってんだって思うかもしれないけど」

「…」

志希「ふふふ、今『できるわけないだろ』って眼したね?」

「…」

志希「それができちゃうんだな~。志希ちゃんマジックで!」

「…」

志希「……二人きりになれる場所。いっしょに行こうよ」

「…」

「…あ゛あ゛、行ごう゛」



志希(枯れた声で彼はそう応えた)

志希(彼にはあたしの言っている言葉の意味をきっとわかっていたように思う)

【21】


志希「今ごろ病院では大騒ぎかもね。患者が居なくなっちゃったんだもん」

「…」

志希「でも、別にいいよね?終わり方くらい自分たちで決めても、さ」

「…」

志希「ごめんね。こんな結末になっちゃって」

志希「せっかくキミがあたしの人生の正しい道を指し示してくれたのに」

志希「結局、あたしは元の間違った道まで引き返して来ちゃったよ…」

「……別に゛、い゛い゛だろ゛…」

「俺゛も゛、志希も゛、途゛中で、良゛い゛景色は、見ら゛れ゛た゛…」

志希「そう…なのかな?うん。そうだよねっ」

「…」

志希「痛む?寒くない?…痛いよね。待ってて。もう少しで着くから」

「あ゛あ゛」

志希「手、握っててもいい?あたしの方がなんだか寒くって」

「…」

ぎゅっ

志希「ありがと。ふっふっふ~♪ハスハスハスハス」

「…」


志希(ああ、病院臭い)

志希(早く洗い流さなきゃ…)

【21】


ガチャ


「…ゼェ、ゼェ」

志希「大丈夫?着いたよ…あたしたちの家。帰って来たよ」

志希「やっぱり、ここしかないかなって」

志希「あたしたち、この部屋でちゃんと家族になれてたよね?」

「…」

志希「そだよね。あたしもキミも、ちゃんとした家族なんてわかんないや」

志希「でも、あたしはここで幸せだったよ。キミは?」

「…」

志希「ありがと」

「…ッ」

志希「痛むの!? …待ってて。すぐ楽になるから」

【21】


志希「…これ。あたしが昔作ったドラッグの一種。また作っちゃった」

「…」

志希「鎮痛の作用もあるから、嗅いで、吸い込んで…」

「…スーーーーっ」

志希「ハスハスハスハス」


志希(あたしも彼とともにそのドラッグを嗅ぎ、忘我に身をゆだねる)

志希(もう誰にも止めることなどできない)

志希(あたしは彼の服を脱がせ、バスタブまで運ぶ)

志希(あたしも服を全て脱ぎ、バスタブにいっしょに浸かり、彼の身体を洗う)

志希(病院臭い病院臭い病院臭い病院臭い病院臭い病院臭い病院臭い病院臭い)

志希(彼の匂いを嗅げない)

【21】


「……」ぐいっ

志希「わっ!」

ぎゅっ

志希(彼の身体を洗っていたら、彼が急にあたしを抱きしめた)

志希(あたたかい)

志希(痛みが引いたのか、いつもより穏やかな表情の彼)

志希(…もう十分かな)

志希(もうこのまま彼の体温に身をゆだねることにしよう)

ちゅぱっ

志希(彼にキスをする。より強く、彼はあたしを抱きしめる…)


ハスハスハスハスハスハスハスハス

【21】


志希(彼の匂いがする。彼の温度を感じる)

志希(彼の全身に口づけをする)

志希(でも、こんなんじゃまだ足りない…)

志希(もっと彼の匂いを感じたい)

ハスハスハスハス

志希(彼に抱かれながら、彼の眼を見つめて言う)


志希「キミの匂いが大好き。嗅いでいると、すごく安心する」


ザクリ


志希(そう言いながら、彼の動脈にメスを突き刺した)

志希(どくどくと血があふれ出してきた)



志希(ああ、彼の匂いがする…)

【21】


「うぅ…」

ドクン、ドクン、ドクン

志希「……」

志希(彼は少しだけ苦しそう。……ごめんね)

志希(あたしは彼を浴びる、浸かる、ひたる)

志希(全身で彼を感じられる…)

志希(彼に何度も何度もキスをしながら、彼の内側、彼の本当の匂いを嗅ぎ続ける)


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅぱっ


ハスハスハスハスハスハスハスハスハスハス

【21】


「志、希…」

志希「うん…」


「お゛、れ゛も゛…」

「志希、の゛、に゛お゛い゛……」

「大゛好゛ぎ、だ……」

にっ


志希「そっか」

志希「キミもかぁ…」

にこっ

志希「ずっとずっといっしょだよ」

「ああ……」


志希(彼の最期の笑顔に、あたしも笑顔で応えた)

志希(あたしは彼が息絶えても、バスタブの中で彼の匂いを堪能し続けた)

志希(彼の全て。彼の全てを全身に浴びて、あたしは彼とひとつになる)


志希(もういつだってずっといっしょにいられる)

【22】


志希「その後、部屋に警察が訪れ、全ては発覚しました」

志希「現象としては、私は彼を殺害し、彼は死にましたが、彼は今も私といっしょにいます」

志希「私は永遠に彼と添い遂げることに成功しました」

志希「……以上です」

裁判長「……。本日はこれで閉廷とする」

志希「ありがとうございました」

【23】


志希(それで…)

志希(無期懲役か)

志希「無期」

志希「永劫、永遠…」

志希(あたしはこの判決に満足していた)

志希(彼があたしの事を『永遠に許さない』と言っているようで)

志希(そうだ。あたしは彼に許されないことをしたんだ)

志希(彼だって、あたしにも自分自身にもこんな終わりを望んでいなかったろう)

志希(あたしはあたしのエゴで、彼を死に至らしめた)

志希「…それでも後悔はしていない」



志希「今でも、目を閉じれば彼の匂いがする…」

すーーっ はーーーっ

志希「安心、する…。ずっと彼のそばにいられる…」

志希「永遠に……」


ハスハスハスハス


志希(あたしが出会った、魔法使いになれなかった靴屋さん)

志希(物語の中では、12時の鐘が鳴ると、魔法でできたドレスやカボチャの馬車は消えてしまう)

志希(でも、ガラスの靴はいつまでも残り続けた)

志希(ガラスの靴だけは解けない魔法。永遠にあり続けるあたしの中の宝物)


志希「あたしは、永遠を手に入れた」





『志希Pは志希にゃんに実験材料にされて殺される変態的な願望を持っている』という私の偏見の元に書きました
「志希にゃんに殺されてぇ!」という方以外にはすみません
終わります

おつやで

愛した人に愛されながら殺されるって、一番素敵な人生の終わりかただと思う
おつかーれ


最高だった


もうちょい長くてもよかったんだよ(懇願)

良かったけど人一人で無期懲役行くか?


残虐性及び更生の可能性でも判断されるからね
現象だけ見たら夫を殺害しその血を浴びてトリップしてた猟奇的な殺人犯で、裁判でも後悔した様子を見せてない

おつおつ
判断理由そんなもんかーふむー

裁判って論理は関係ないからね
心証がほぼほぼよ

清浄なる世界で 君とこうなりたかった

綺麗だ
おつおつ

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