ワラジムシ「オレもダンゴムシみたいにモテたいよぉぉぉ!!!」 (41)

ある森――


キャーキャーッ!

ダンゴムシサーン! カッコイイー! ダイテー! カワイイー!

ダンゴムシ「わっ、みんなあまりきつく抱きつかないで! 丸まっちゃうから!」

キャーキャーッ!





ワラジムシ(いいなぁ……)

ワラジムシ(オレも見た目はそっくりなのに、なんであいつばかりモテるんだろうか……)

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ワラジムシ「おい、ダンゴムシ!」

ダンゴムシ「なに?」

ワラジムシ「なんでいつもいつも、お前ばかりモテるんだよ!」

ダンゴムシ「いや、そんなことないでしょ」

ワラジムシ「そんなことある!」

ワラジムシ「さっきだって、森のメス虫どもにチヤホヤされてたじゃねえかぁ!」

ダンゴムシ「たまたまだよ」

ワラジムシ「たまたまじゃなぁ~~~~~い!!!」

ワラジムシ「ほら、こないだも……」



ダンゴムシ『……』モゾモゾ

子供A『あ、ダンゴムシだ! かわいいー!』

子供B『触ると丸くなるんだよなー!』



ワラジムシ『……』モゾモゾ

子供A『あ、ベンジョムシだ! ばっちいから、踏み潰してやろうぜ!』ズシンッ

子供B『おう!』ズシンッ

ワラジムシ『うわあああああっ! あぶねえええええっ!』モゾモゾモゾ



ワラジムシ「あやうくオレは死ぬとこだったんだぞ!」

ダンゴムシ「助かってよかったね!」

ワラジムシ「心配してくれてありが……って、ごまかされねえぞぉっ!」

ワラジムシ「だいたいなんだよ≪ベンジョムシ≫って! きったねえあだ名つけやがって!」

ダンゴムシ「気にすることないよ。トイレって案外清潔だから」

ワラジムシ「そういう問題じゃねえんだよ!」

ワラジムシ「おい、教えろ! どうしてお前は人気があって、オレは人気がないのか!」

ダンゴムシ「知らないったら!」クルンッ

ワラジムシ「こいつ! 都合が悪くなるとすぐ丸まりやがって!」

ダンゴムシ「……」コロコロ…

ワラジムシ(ぬうう……こうなると手の出しようがない……)

ワラジムシ「ちっ、いつか必ずお前に勝ってやるからな!」

ダンゴムシ「……」コロ…

カマドウマ「よう、ワラジ!」ピョーンッ

ワラジムシ「……ん?」ムスッ

カマドウマ「へへへ、バカに機嫌悪いじゃねえか」

ワラジムシ「カマドウマか……」

カマドウマ「何があったん?」

ワラジムシ「聞いてくれよ。実はさ……」

ワラジムシ「……ってわけなんだ」

カマドウマ「なるほどね」

ワラジムシ「お前も分かるだろ?」

ワラジムシ「オレみたいに≪ベンジョコオロギ≫なんて不名誉なあだ名つけられてるお前なら!」

ワラジムシ「不当な扱いを受けるオレの気持ちが……!」

カマドウマ「ン~、実はオレ、今のこのポジションも気に入ってるしなぁ」

ワラジムシ「え!?」

カマドウマ「ゴキブリや蚊ほど嫌われてるわけじゃないし、ちょっとアウトローっぽくておいしいじゃん?」

ワラジムシ「お前に相談したオレがバカだったよ……」

ワラジムシ「はぁ~……オレも人気者になりたい」

カマドウマ「結構深刻に悩んでるみたいだな」

ワラジムシ「深刻だよ! 大深刻だよ!」

カマドウマ「ン~……だったら、博士に相談してみれば?」

ワラジムシ「博士?」

カマドウマ「あっちにあるアリの巣にいる、アリの爺さんだよ」

カマドウマ「働きアリのくせにろくに働かないで色々研究してたから、すげえ物知りだぜ」

カマドウマ「もしかしたら、お前の悩みを解決できるかもしれないぞ」

ワラジムシ「藁にもすがる思いで、相談してみるか」

カマドウマ「ワラジムシだけに?」

ワラジムシ「うっせ!」

カマドウマ「ほら、この爺さんだ」

アリ「ワシに何の用かな?」

ワラジムシ「オレ……ダンゴムシみたいにモテるようになりたいんだ!」

ワラジムシ「モテるようになる方法を教えてくれ!」

アリ「ふ~む、こりゃまた難しい相談じゃのう」

カマドウマ「オレからも頼むよ、博士」

アリ「しかたないのう……」

アリ「では、ワシが知る限りのダンゴムシに関する知識を教えよう!」

ワラジムシ「ダンゴムシの知識ィ?」

ワラジムシ「爺さん、オレが知りたいのは――」

アリ「敵に勝ちたくば、まずは敵を知ることじゃ」

アリ「“敵を知り己を知れば、百戦危うからず”!」

ワラジムシ「おおっ!?」

カマドウマ「いい言葉だ!」

アリ「今のは有名などこかの誰かが言ったとされる言葉じゃ」

ワラジムシ「ずいぶん曖昧だな……」

カマドウマ「しょせんアリだし……知ることのできる情報にゃ限度あるでしょ」

アリ「では、ダンゴムシについて講義を始める」

ワラジムシ&カマドウマ「はーい」

アリ「まず始めに、ダンゴムシは昆虫ではない」

ワラジムシ「え、違うの!?」

カマドウマ「ン~……じゃあクモの仲間か?」

アリ「いや、クモとも違う。クモの足の数は8本、ダンゴムシは14本じゃからのう」

アリ「ダンゴムシは甲殻類といってな。エビやカニに近い種類の生き物なんじゃ」

ワラジムシ「へぇ~」

カマドウマ「ダンゴムシのルーツって、案外海なのかもしれねえな」

アリ「ダンゴムシは雑食で、基本的になんでもよく食べる」

カマドウマ「偉いじゃん」

アリ「落ち葉などを食べ、分解し、土壌を豊かにしてくれる性質を持つ」

アリ「つまり、生態系にとっては欠かせない存在なんじゃな」

ワラジムシ「なるほどな……あんな野郎でも、少しは世の中の役に立ってるってわけか」

アリ「まあ、今いったことはワラジムシにも当てはまるわけなんじゃが」

ワラジムシ「は!?」

アリ「だっておぬしら、生き物としての性質はとても近いからのう」

ワラジムシ「ううう……」

アリ「つまりこれで、敵と己を知ることができたというわけじゃ」

ワラジムシ「じゃあ……オレとダンゴムシのどこが違うってんだ!? なんでこんなに格差があるんだ!?」

アリ「……」

アリ「まあ……ぶっちゃけると、丸まれるか丸まれないかの違いじゃない?」

ワラジムシ「結局それかい!」

カマドウマ「たしかにあいつが丸まった姿は、どこか愛嬌があって可愛いもんな」

ワラジムシ「~~~~!」

ワラジムシ「……ありがとう、爺さん」

ワラジムシ(これでオレがやるべきことは決まった!)

数日後――

ワラジムシ「ふんっ!」グッ

ワラジムシ「ふんっ!」ググッ

カマドウマ「よう、ワラジー!」

ワラジムシ「ワラジーだとオーストラリアに住む小型の有袋類みたいになるからやめろ!」

カマドウマ「お前、何やってんだ?」

ワラジムシ「見て分からないのか? 丸まる特訓だよ」

ワラジムシ「ダンゴムシとワラジムシの最大の違いが丸まれるか丸まれないかってんなら」グッ

ワラジムシ「オレが丸まれるようになれば、いいだけの話だろ!」グッ

ワラジムシ「そうすりゃ、オレも晴れてプレイボーイの仲間入りよ!」

ワラジムシ「丸まるんだからプレイボールの方がいいのかな?」

カマドウマ「ン~、あまり無茶しない方がいいんじゃないか~?」

カマドウマ「体の構造の問題もあるだろうし……」

ワラジムシ「いいや、オレは絶対丸まれるようになってみせる!」

ワラジムシ「ふんっ……!」ビキッ

ワラジムシ「がっ!?」

ワラジムシ「あいたたたた……!」

ワラジムシ「背中痛めた……!」

カマドウマ「だーからいわんこっちゃない」

ワラジムシ「やっぱりオレは……ダンゴムシみたいにはなれないのか……」

ワラジムシ「たかが丸まれないってだけで……」

ワラジムシ「どうして神様は、オレを丸まれるようにしてくれなかったんだ……」

カマドウマ「……」

カマドウマ「博士ぇ」ピョーンッ

アリ「なんじゃい」

カマドウマ「ワラジの奴、本気で悩んでてノイローゼになりそうなんだよ」

カマドウマ「博士の力でなんとかしてやれねえか?」

アリ「うーむ……」

アリ「ちょいと考えてみるか」

しばらくして――

カマドウマ「おーい、ワラジ!」ピョーンッ

ワラジムシ「……カマドウマか」

カマドウマ「動いてるってことは、背中は治ったみたいだな」

ワラジムシ「まぁな……で、なに?」

カマドウマ「朗報だよ! お前がモテるようになる方法が見つかったんだよ!」

ワラジムシ「ないない。あるわけない」

カマドウマ「スネてないで、いいから来てみろって!」

ワラジムシ「話って?」

アリ「森を出たところにある、大きな屋敷を知ってるじゃろ?」

ワラジムシ「ああ、坂道を上りきったところにある屋敷だろ?」

アリ「そうじゃ。今度その屋敷で、カブトムシやクワガタ、スズムシ、コオロギ」

アリ「アゲハチョウやホタルといったスター虫が集まるショーがあるんじゃよ」

ワラジムシ「へえ~」

アリ「で、特別にワラジムシであるおぬしも参加させてもらえることになった!」

ワラジムシ「え……」

アリ「大勢の人間も集まるし、これに出れば一気におぬしもスターの仲間入りができるはずじゃ」

カマドウマ「博士が頼み込んで話をつけてくれたんだ!」

ワラジムシ「……」ジーン…

ワラジムシ「二匹とも……ありがとぉ~!!!」

アリ「――ただし!」

アリ「カブトムシ殿は厳格なお方。一分でも遅れたら、参加できないと思えよ」

ワラジムシ「もちろん! こんなチャンスで遅刻なんかするもんか!」

カマドウマ「頑張れよ、ワラジ! ベンジョ仲間として応援してるぜ!」

ワラジムシ「ああ!」

ワラジムシ(これで……ダンゴムシの奴に並べる……いや、越えられる!)

当日――

ワラジムシ(めちゃくちゃ早起きしてしまった……)ムクッ

ワラジムシ(そりゃそうだ……今日はオレの人生が変わる記念日なんだから)

ワラジムシ「まだだいぶ早いけど……早めに行っておいた方がいいな」

ワラジムシ「しゅっぱーつ!」モゾモゾ

ワラジムシ「……」モゾモゾ

ワラジムシ(いつ上ってもこの坂はキツイな……)

ワラジムシ(なんかの間違いで転げ落ちたら、坂の下にある海に落ちて確実にお陀仏だ)

ワラジムシ(急いで、かつ転げ落ちないようにしないと……)

ワラジムシ(なにしろ少しでも遅れたら、ショーに参加できなくなるんだからな)

モゾモゾ… モゾモゾ…

ダンゴムシ「やぁ、ワラジムシ」

ワラジムシ「!?」ビクッ

ワラジムシ「お前……こんなとこで何してんだ?」

ダンゴムシ「たまには森を出て、エサを取ろうと思ってね」

ワラジムシ(ビビらせやがって……こいつもショーに出るのかと思ったぜ)

ダンゴムシ「君こそどこ行くの?」

ワラジムシ「ん……散歩だよ、散歩」

ワラジムシ(教えてたまるもんか。こいつまで参加することになったら大変だ)

ダンゴムシ「そっかー」

ダンゴムシ「あのさ、ダンゴムシとワラジムシって種としては非常に近いし」

ダンゴムシ「ボクは君と仲良くしたいと思ってるんだ」

ワラジムシ「ふうん」

ダンゴムシ「だから……今度一緒にエサでも食べようね」

ワラジムシ「……ああ」

ワラジムシ(ふん、残念だったな)

ワラジムシ(オレは今日、お前を越えるんだ!)

ワラジムシ(スターになったら、お前みたいな泥臭い虫、見下しまくってやる!)

ビュウッ!

ワラジムシ「うわっ、風だ! かなり強い!」

ダンゴムシ「わわっ!」クルンッ

ワラジムシ「おいバカ、こんなとこで丸まったら……」

ダンゴムシ「いや、刺激を受けるとどうしてもこうなっちゃう……」

ダンゴムシ「あっ……!」コロッ…

ダンゴムシ「わあ~っ!!!」コロコロ

コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ…





ワラジムシ「ダンゴムシィ~!!!」

ワラジムシ(どうする……!?)

ワラジムシ(このまま転がってったら、ダンゴムシは海に落ちて死ぬ!)

ワラジムシ(かといってあいつ助けたら、ショーに参加するのは絶望的になる!)

ワラジムシ(ダンゴムシを助けるか……? スターになるため坂を上るか……?)

ワラジムシ(二足のワラジははけない……!)

ワラジムシ「……」

ワラジムシ「考えるまでもない。決まってんじゃねーか!!!」

ワラジムシ「うおおおおおおっ!」シャカシャカシャカ





コロコロコロコロコロ…

ダンゴムシ「わぁ~~~~~~っ!!!」コロコロコロ





ワラジムシ(いける! 全速力で走れば、追いつける!)シャカシャカシャカ

ワラジムシ「よっしゃ追いついた! さすがオレ!」

ワラジムシ「オレが下敷きになって止めてやる!」サササッ

ダンゴムシ「わぁ~~~~っ!!!」コロコロッ

ドカッ!

ダンゴムシ「わっ!」

ワラジムシ「ぐうっ……!」ミシッ…

ワラジムシ「と、止まった……!」

ワラジムシ「へへ……今ほど丸まれなくてよかった、と思ったことはないぜ……」

ダンゴムシ「ありがとう……」

ワラジムシ「ふん……いいってことよ」

ダンゴムシ「でも、いいの? 大事な用事があったんじゃないの?」

ワラジムシ「大事な用? ライバルを助ける以上の大事な用なんてあるもんかよ」

ワラジムシ「ダンゴムシ、オレはお前に比べて丸くないから、仲良くするつもりはないけど……」

ダンゴムシ「……」

ワラジムシ「これからも正々堂々勝負しようぜ!」

ダンゴムシ「うん、望むところだ!」



…………

……

……

…………



アリ「まったく……チャンスを台無しにしてしまいおって」

ワラジムシ「ごめん爺さん……」

カマドウマ「ン~……だけどワラジ、今のお前……いいツラしてるぜ」

アリ「うむ、それは分かる。モテるかどうかは知らんが、ぐんと男前になった」

ワラジムシ「へっ、そりゃどうも」

カマドウマ「一体どういう心境の変化があったんだ?」

ワラジムシ「これからはワラジムシとして、ありのままで勝負しようと思ってね!」

カマドウマ「そうかい、頑張れよ!」

アリ「きっとおぬしの選択が、正解だったと思うよ」

ワラジムシ「二匹とも、ありがとう!」

ワラジムシ(あ、だけど丸まる練習は今後も続けようかな……)








<終わり>

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