【ミリマス】翼「わたし、ジュリアーノになら抱かれても良いよ?」 (26)

ジュリア「…は?」

同僚 -どっちかっつーと仲間みたいなもん?- の伊吹翼から発せられた一言に、あたしはそう返さざるを得なかった。

意味がわからない、って意味と、よく理解できなかったからもう一度言ってくれ、って意味を込めた、今のあたしの精一杯の言葉。

それを知ってか知らいでか、翼は呑気にもう一度同じ言葉を繰り返す。

翼「だから、わたしはジュリアーノになら抱かれても良いよって」

…聞き間違いじゃなかったみたいだ。

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確かにもう一度言って欲しいって思ってたけど。

聞き間違いだったら良かったのに。

あたしは今、どんな顔をしているだろう?

…少なくとも、嬉しそうな顔ではないよな。

ジュリア「…」

翼「どうしたの?」

ジュリア「いきなりわけわかんないこと言うな!」

翼「えー?わけわかんなくないよー。ジュリアーノとならエッ」

ジュリア「わー!!」

翼「ジュリアーノ、急にどうしたの?」

ジュリア「どうしたのはこっちの台詞だっての!」

いきなり何言い出すんだこいつは!

最近の中学生ってみんなこうなのか?

…いや、未来やシズを見た感じ、翼が特別なんだろうな。

あの二人も別に普通ではないけど。

あたしの頭じゃ理解できないことを言われて混乱した頭を落ち着かせるために、深呼吸をする。

すると、大きく息を吐いたところで。

翼「溜息つくと幸せ逃げちゃうよ?」

ジュリア「いや、別にこれは溜息ってわけじゃ」

翼「じゃあ悩み事?」

だからこれは溜息じゃなくて…!

でも悩み事、と言えば悩み事だな、これは…。

どうしてあの話に踏み込んじゃったんだろうな、あたし。

事の始まりは今朝のこと。

…………

翼「おっはようございまーす」

ジュリア「ああ、おはよ」

やけに上機嫌な翼が事務所へと入ってくる。

そして当然のようにあたしの目の前に座る翼。

そんないつものことを意識するでもなく、あたしは作業を続ける。

翼「ねぇジュリアーノ」

ジュリア「ん、なんだ?ていうかそろそろジュリアーノって呼ぶのはやめ」

翼「何してるの?」

…無視かよ。

別にこれも今に始まったことじゃないし良いんだけどさ。

まぁ「お約束」ってやつだな。

ジュリア「作曲だよ。良いフレーズが思いついてさ」

翼「へぇー。ジュリアーノって本当に音楽が好きなんだね」

ジュリア「ああ、まぁな。音楽があったからこそ今のあたしがあるんだ。それに、音楽をやってなかったらあたしはあんた達に出会えなかったしな。あたしの一部みたいなもんさ」

そこまで言って、自分が恥ずかしいことを言っていることに気付く。

…なんつーか、音楽の話になると前が見えなくなるっつーか、冷静でいられなくなるっつーか。

あたしにとって音楽ってのはそれだけ大事なものなんだよ。

だからと言って、熱く語りすぎるのは恥ずかしくないわけじゃないんだけど。

翼「ロックな生き様ってやつだね。ジュリアーノに似合ってるじゃんっ♪」

ジュリア「…ああ、さんきゅ」

なんだか照れ臭くなって、翼から目線を逸らす。

こいつらは何かに一生懸命になる人間をバカにするようなやつらじゃない。

改めて、最高の仲間ってやつに出会えたんだって思う。

…なかなか恥ずかしいな。

一人でぐるぐる考えすぎて勝手に恥ずかしくなった自分を誤魔化すように、あたしは違う話を切り出した。

ジュリア「それにしても翼、やけに機嫌が良さそうだな」

翼「え~、気づいてたんだ~?さすがジュリアーノ♪」

ジュリア「いや、誰だって分かると思うぜ…?」

翼「ジュリアーノはわたしのこと、そんなに気になっちゃう~?」

ジュリア「あたしの話、聞いてんのか?」

まるで待ってましたと言わんばかりのわざとらしい態度。

きっと翼にとって幸せなことがあったんだろうな。

別に人のプライベートを詮索する趣味はないけど…、翼が聞いて欲しそうだし一応聞いとくか。

ジュリア「…で、結局何があったんだ?」

翼「やっぱり気になるんだ~」

ジュリア「やっぱ言わなくて良い」

翼「あ、ごめんってば!」

ジュリア「ったく、言いたいなら初めからそう言えよ」

翼「えへへ~、実はね、クラスの男の子から告白されちゃったの!」

ジュリア「へぇ、良かったじゃん」

普段から何かと「モテたぁ~い」って言ってたし、告白されて翼も御の字ってわけか。

そういえば前にチラッと聞いたことあったけど、アイドルを始めた理由も「モテたいから」なんだっけか。

翼らしいと言うか、ブレないというか。
ん…?ってことは…。

ジュリア「アイドルやめんの?」

翼「えー、やめないよ?」

ジュリア「だ、だよな。始めた理由がモテたいってだけでやめる理由には」

翼「アイドルやめるんならも~っとモテてからにしないとっ♪」

ジュリア「やっぱブレないな、翼は…」

翼「ていうかジュリアーノ、わたしがアイドル始めた理由が知ってたんだ?」

ジュリア「ああ、まぁな…」

こう言っちゃ失礼だけど、なんとなく予想はつくだろ。

…でも始めた理由がどんな理由であれ、アイドルとしての翼を見るとあたしも負けてられないなって思うよ。

ジュリア「けど、始めた理由なんてなんだって良いさ。あたしだって成り行きでアイドルになっちまったけど、アイドルであるあたしの歌を聴いて喜んでくれる人がいる。続ける理由なんてそれで十分だしな」

翼「ジュリアーノは音楽やってモテた?」

ジュリア「いや、意識したことないな…。ていうかあたしはモテたいから音楽始めたわけじゃないからな?」

翼「えー、そうなの?音楽やる人ってみんなモテたいから始めるんだと思ってた」

ジュリア「どんな偏見だよ」

その発言は多くのバンドマンを敵に回したと思うぞ。

まぁ確かに、モテたいって思って音楽始めるやつも少なくないとは思うけど。

けど、あたしは始めた理由なんてなんだって良いと思ってる。

大事なのはいかに心に響く音を奏でられるか、だろ?

翼「じゃあジュリアーノはなんで音楽を始めたの?」

ジュリア「んー、なんでだろうな?」

翼「自分でもわかんないの?」

ジュリア「わかんないってことはないけどさ。別に深い理由はないよ。あたしの心に火をつけたのが音楽だった。それだけさ」

我ながら格好をつけた回答だと思う。

けどそれが事実なんだし仕方がないってもんだ。

翼「ふーん…」

翼が頬杖をついて、相槌を打ちながらあたしを見つめてくる。

…なんだよ。

あたしも負けじと翼を見つめ返すけど、にっこり笑って笑顔で手を振り返された。

なんだ、この空気…。恥ずかしいぞ…?

こういう時はどうすりゃ良いんだ?

えーと…、あ、そうだ!

ジュリア「あー…、それで翼は…その、告白?受けんの?」

翼「んー…、ちょっと悩んでるの」

ジュリア「へぇ、なんでまた」

翼「芸能界って大人の男の人が多いでしょ?だからクラスの子だと少し子供に見えちゃって」

ジュリア「まぁ確かに。翼からしたら芸能界なんてほとんど歳上だしな」

翼「ジュリアーノもそんなに変わらないくせにぃ」

ジュリア「うっさいな」

翼「それにわたしアイドルだし?こういうことはよく考えないとなーって」

ジュリア「へぇ、翼でもそういうことちゃんと考えてるんだな」

翼「あ!ジュリアーノったらひどーい!」

ジュリア「ははっ、冗談だよ冗談」

翼「だってわたし、まだまだアイドル続けたいんだもん」

翼「あ、でも…」

唇に人差し指を当て、いたずらっぽい笑みを浮かべる翼。

そしてあたしの方をじっと見つめてこう呟いた。

翼「わたし、ジュリアーノになら抱かれても良いよ?」

そして冒頭に戻る。

翼の言葉に頭を抱えるあたしとは裏腹に、悩みの種の張本人である翼はまるで何もなかったかのように、あたしに悩み事がないかを訪ねてくる。

普通考えりゃわかるだろ…!!

ジュリア「その…翼はアレなのか?」

翼「アレってなに?」

ジュリア「あたしのことが…その…好き、なのか?」

驚きと恥ずかしさが混ざって、乙女らしい反応をしてしまったことに自分でもびっくりする。

…というか何を言ってるんだあたしは。

自分で言ってて恥ずかしい。

けど…抱かれたいって…そういうこと、だよ…な?

翼「好きに決まってるよ~」

マジかよ。

なんとなく予想はしてた、というかそうじゃないと困る。

だけど、実際に言われるとなんか恥ずかしいな…。

翼「あと、未来のことも静香ちゃんのことも好きだしぃ、あ、プロデューサーさんのことも好きだよ!それにミキ先輩も!」

ジュリア「要するに、劇場のみんなのことが好き、と」

翼「うーん、そうかも。…あっ、もしかしてぇ、わたしはジュリアーノのこと特別好きだと思った?」

ジュリア「ぐっ…!」

痛いところをついてくる。

…いや、でも待て?あたしは間違ってなくないか?

好きでもない相手に、その、抱かれたい…とか言うもんじゃないだろ?

ジュリア「そりゃ、そんなこと言われたら誰だってそう思うだろ…!」

翼「あははっ、ジュリアーノったら可愛い~。あっ、写真撮っとこーっと」

ジュリア「や、やめろって!」

翼「嘘だよっ♪」

ジュリア「…ていうか、なんであたしなんだよ。こういうのはマコじゃないか?」

翼「真さんは憧れの先輩って感じかなー?ほら、見てるだけで幸せ!みたいな」

ジュリア「それは分からなくもないけど」

翼「…わたしね」

今までの流れを断ち切るように、ぽつりと翼が呟く。

そんな空気をあたしはどうしたら良いのか分からなくて、ただただ翼の次の言葉を待っていた。

やがて翼は何かを思い出すように、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

翼「ライブで歌ってるジュリアーノのこと、すっごく格好良いなって思ってたの」

ジュリア「…」

翼「それで仲良くなりたいなって思ってたんだけど、話してみると格好良いだけじゃなくて可愛いところもあってね」

翼「そんなジュリアーノのこと、いつの間にか目で追うようになってたの」

翼「それで、気づいたんだ」

翼「わたし、ジュリアーノのことが好きなんだって。わたしはジュリアーノの特別になりたいんだって」

ジュリア「翼…」

翼「さっきのは正解。ジュリアーノはわたしと特別なんだよ?」

翼「おかしいよね、女の子同士なのに」

弱々しくはにかむ翼は、なんだかいつもと違って見えた。

目の前にいるのは翼だ。

あたしのよく知る伊吹翼だ。

だけど、あたしの知らない伊吹翼。

あたしの知ってる伊吹翼とは別の伊吹翼。

…こんな表情もするんだな。

ジュリア「翼、あたしは…」

あたしは…、なんだ?

あたしは翼のことをどう思ってる?

翼のことはもちろん好きだ。

それは間違いない。

だけどそれは『愛してる』のか?

あたしの『好き』と翼の『好き』は同じなのか?

考えれば考えるほど答えは出なくなって、言葉に詰まる。

こういうの、軽々しく返事して良いもんじゃないよな。

ジュリア「…あのさ、少し時間を」

翼「えへへ、なーんてねっ♩」

ジュリア「…は?」

翼の言葉に思わず呆気にとられる。

まるでさっきまで何もなかったかのように、いたずらっぽい笑みを浮かべ、ぺろっと舌を出す。

翼「実はドラマのオーディション受けようと思って。上手く出来てたかな?」

ジュリア「…まさか、あたしで試したってのか?」

翼「ごめんね?でもジュリアーノのこと、本気で格好良いと思ってるよ」

ジュリア「そういう問題じゃなくて…!」

こ、こいつ…!!

…まぁ、良いか。

もしあれが本気だったらきっとあたしは答えを出せなかった。

だから今回は不問にしておいてやるか。

あたしも自意識過剰が過ぎたようだし。

ジュリア「…いや、やっぱ良いや。翼ならきっとオーディション、大丈夫だと思うぜ?」

翼「ほんとに?ジュリアーノにそう言ってもらえると嬉しいな」

ジュリア「つーか、一瞬本気で焦ったんだからな。…まぁ、うちらは女同士だし冷静に考えてみたらありえないよな」

演技とは言えど、翼に告白されてドキドキしたのは事実。

その事実を否定するように、自分に自分の言葉を言い聞かせる。

うちらは女同士だし、翼は大切な仲間だ。

それ以上でもそれ以下でもないじゃないか。

そんなあたしの言葉を聞いて翼は

翼「うん、そうだよね」

どこか悲しそうな笑顔を浮かべた。

おわり。

どこまで本気だったのかね……
乙です

>>1
ジュリア(16)Vo/Fa
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伊吹翼(14)Vi/An
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