エリカ「姉さん」 (186) 【現行スレ】


やあ(´・ω・`)また書くよ

・キャラ崩壊注意
・時系列ごっちゃ
・その他脳内補完

でお願いします。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1510060164



【黒森峰女学園 演習場】


まほ「全車、エンジン始動!」

まほ「第一中隊、前進!」

まほ「第二中隊、所定の位置に展開!」

まほ「第三中隊、全車全速にて突貫せよ。Panzer vor!!」


まほ「砲撃用意………撃てッ!!」



我が校は以前よりもより高度で過酷な練習を行うことにした。

強豪校であり優勝常連校でありながら、10連覇を逃し、2年連続準優勝という屈辱を晴らすために。

私はもちろん、皆も"次こそは…!"という意気込みで練習に励んでいる。



エリカ『遅いわよ3号車・4号車! 早くなさい!!』

エリカ『6号車! そんな距離で外してどうするの!』

エリカ『12号車はや…ちょっと何やってんのよ!!』



その中でも副隊長であるエリカは、他のメンバーよりも頭一つおいて熱心に訓練に取り組んでいる。

私の右腕として、そして次期隊長としての自覚を持つだけに、自身や隊員の技術向上のために一切の妥協をしない。

その鬼教官ぶりから"黒森峰の狂犬"などと呼ばれ、他の生徒から畏れられる存在でもある。


エリカは私が卒業したあとの黒森峰を率いる者だ。他の者と同じであっては困る。

ゆえに私も残された時間の中で、これまで培ってきた知識・ノウハウを出来るだけエリカを始め隊の皆に伝授するよう心がけている。

私が黒森峰に残すのは、この敗北から立ち上がり、前に進もうという精神だ。



…しかし、訓練中にそのようなことを考えていたせいで、悲劇は起きてしまった。



まほ「ここで敵がどう出るか、様子を見るとしよう」

エリカ『了解』



私が乗るティーガーIは指揮車両として山岳の頂を陣取っていた。

視界が広く、敵の動向を掴んだり、応戦する味方への指示が容易に行える。

私の横には副官のエリカもいる。


しばらくすると前方から敵の隊列が見えてきた。

隊列はパンツァーカイルを維持したまま一糸乱れることなく接近してくる。

この隊列もまた日頃の訓練の成果の一つだ。各車輌間の意思疎通が出来て初めて成せるもの。一朝一夕では決して作れまい。



エリカ『…来ましたね』

まほ「ああ」

エリカ『回り込んで陣形を崩しましょうか?』

まほ「そうだな。エリカ、二手に分かれて両側面から奇襲をかけろ」

まほ「そして陣形が崩れたところを我々が叩こう」

エリカ『了解』



作戦はこうだ。

エリカ率いる小隊が進撃してくる敵戦車隊の左右側面へ回り込み、奇襲をかける。

そうすることで隊列が乱れると同時に、両側面への攻撃に相手戦力が分散する。

その結果、正面への警戒が疎かになるので、そこを見計らって我々が攻撃を仕掛け、三方面から包囲・撹乱するというものだ。

エリカはパンターやIII号戦車、IV号駆逐戦車といった、我が校の戦車の中では比較的機動性が高く、小口径ではあるが砲弾の装填速度の早い車輌を僚車として選択した。

作戦行動を素早く行うための機動性はもちろんだが、砲弾が軽く早く装填が行える車輌を選ぶことで短時間で大量の砲弾を浴びせられる。

これが意味することは、弾数によるねじ伏せと、戦車数の偽装だ。



前者は説明するまでもないが、後者は実際に存在するの車輌数よりも多い印象を相手に与える。

たとえばイラク戦争を取り扱うメディアで、数名の米軍兵士が弾倉が空になるまでライフルを撃つシーンを見る事がある。

あれは決して兵士がパニックに陥ったのではなく、大量に銃弾を浴びせることで敵兵に狙われた際に「こちらは大勢いるぞ!」という威嚇をするためのトリックなのだ。

エリカはそれを戦車で再現しようと考えたのだろう。

敵がそのトリックに引っかかれば極めて効果的な撹乱・時間稼ぎとなり、本隊である我々の攻撃もスムーズに行うことが可能となる。

ただ、戦車の違いは発砲音からも判断できる。7.5cmと8.8cmでは音が違うのだ。果たして相手はそこに気づくだろうか。




…が、



まほ「! エリカ止まれっ!!」

エリカ『うっ!? ストップ! 止まりなさい!!』

操縦手『なっ…ブレーキが効かない!!?』

エリカ『うわぁぁぁぁぁ!!!』

まほ「くっ…!」



今後展開されるであろう作戦を整理し終える前に悲劇は起きてしまった。

エリカが乗るティーガーIIは吸い込まれるように崖へ進み、そして転落した。

こんな失態をエリカが犯すはずがない。というより黒森峰の生徒がするものではない!

ティーガーIIからの無線によるとブレーキにトラブルがあったようだが、そんな初歩的なミスをするとは一体どういうことだ…!?



【崖の下 ティーガーII】



通信手「…ぅ…っ…い、生きてる…?」

装填手「…し…死ぬかと思った……」

砲手「…おいっ操縦手! どこ見て運転してんだ!」

操縦手「し、仕方ないでしょ! ブレーキが利かなかったんだから!」

通信手「はぁ? ちゃんと整備してるのか?!」

操縦手「ええ、毎日練習前と後はチェックしてたよ…なのに…」


砲手「…って、副隊長は?」


装填手「あれ…いない?!」

全員「えええっ!?」




【崖の上 ティーガーI】


まほ「こちら隊長車。全員無事か?」

通信手『こ、こちら副隊長車! 逸見副隊長がいません!』

まほ「…他の乗員は?」

通信手『全員無事です! 今から脱出し、副隊長を探します!』

まほ「了解した。こちらもすぐ向かう」



ただちに全車輌へ無線連絡を入れ練習を中断、私は近くにいた者達を連れ崖の下へ降りた。

崖の下は草が生い茂っていてまるでジャングルのようだ。あちこちに蜘蛛の巣が張られており、耳元では蚊が不快な音を立てて飛び回る。

一刻も早くこの場から脱出したいという理性を抑え、ティーガーIIの転落地点へと向かう。


しばらくするとティーガーIIの通信手からエリカを発見したとの連絡が入った。

…しかしエリカは頭を強打したようで意識が無いという。

ティーガーIIの乗員たちと合流し、すぐさま応急処置を施しエリカを病院へ搬送した。


その後練習を中止し、私はティーガーIIの乗員を集め事情を聞いた。



【黒森峰女学園 隊長室】


操縦手「この事故の責任は全て私にあります…!」

まほ「…」

通信手「確かに操縦してたのは彼女です! ですが、あれはブレーキの故障でして…!」

操縦手「故障に気付かなかったのは私。だからこれは私の非です…」

通信手「だけど…!」

まほ「…もういい。事故の原因はわかった」

操縦手「あの…副隊長の容態は…?」


まほ「医師によると腕を骨折したとのことだ」


操縦手「っ…!」

まほ「それと、まだ意識が戻ってない。…が、命に別状はない」

操縦手「! そうですか…」



命に別状が無いことを知って、乗員たちは少しだけ安堵した様子を見せた。

…だが、エリカは腕を骨折しており、しばらくは復帰が見込めそうにない。この時期に副隊長の戦線離脱は痛すぎる…。

私だけでなく、ティーガーIIの乗員たちもそれを理解しているため、表情はなお暗い。

このままではチーム全体の士気に影響する。



まほ「お前たちは直ちに戦車の異常箇所を見つけ修復しろ」

まほ「そして、これからは練習の前後において今まで以上に入念に戦車をチェックせよ」

まほ「二度とこのような事が無いよう私からも皆へ整備の徹底を呼びかけておく」

全員「はっ!」


まほ「そしてはっきり言おう。副隊長の戦線離脱は我が校にとって致命的だ」

全員「!」

まほ「だから、その傷口を少しでも埋めるため、今まで以上に練習に励め」

まほ「…私からは以上だ」

全員「了解!!」



…参ったな。

乗員たちにはあの様に言ったものの、黒森峰が戦車の不備で怪我人を出すようなことなどあってはならない。

ミスをしたのはティーガーIIの乗員たちだが、責任は隊長の私にある。

この件はお母様にも報告しなければならない。そう思うと頭が痛い。

そして何より、エリカの意識が戻らないのが気掛かりだ。

医者曰く命に別状は無いとのことだが、もしも何かあったらと思うと心配で仕方ない。




まほ「…報告は以上です」

まほ「ええ。全て私の責任です」

まほ「はい…。今以上に厳しく取り締まろうと思っています」

まほ「…では、失礼します」


まほ「………」



予想通り、お母様からは厳しく叱責された。


"黒森峰がこんな失態を犯すなど言語道断"

"西住流に名を連ねる者としての責任を持て"


私が気を抜くことなど無いと思っていたが、このような失態を犯すのだから、何処かに気の緩みがあったのだろう。

私としたことが………




プルルルル プルルルル

ガチャ


まほ「…はい、西住です」

まほ「エリカが…!?」

まほ「わかりました。直ちに向かいます…!」



どうやらエリカの意識が戻ったようだ。

病院からの一報を受け私もようやく緊張の糸がほぐれる。

急いで始末書を作成し、お母様にもエリカの件を再度電話で伝え、病院へと向かった。


【病室】


エリカ「………」

まほ「エリカ、大丈夫か?」

エリカ「…ええ」

まほ「そうか。良かった…」



ヘリコプターで搬送先の病院に向かい、病室のベッドに座っているエリカと面会した。

彼女の腕には包帯が巻かれており、表情も暗い。

そんなエリカを見るのは心が痛むが、それでも無事に意識が戻ってくれたので、まずは安心した。


…だが、エリカは元気がない…と言うより、少し様子が変だ。

普段のエリカならば『ご心配かけて申し訳ありません! 私は無事なので練習を再開します!』とでも言うだろう。もちろん無理させるわけにはいかないので止めるが。

しかし、今のエリカは何か考え事でもしているかのような神妙な面持ちでいる。

あのような事故が起きたのだから、エリカも責任を感じているのだろう。


…と、最初は思った。



まほ「エリカ…私が誰かわかるな?」

エリカ「えっ…?」

まほ「私だ。私が誰なのか言ってみるんだ」

エリカ「西住…まほ……隊長」



『ああ、その通りだ』と返す。

エリカは頭を強打している。

神妙に一点をじっと見つめ続ける表情から、俗に言う"記憶喪失"に陥ったのではないかと心配したが、どうやらそれは私の杞憂だった。

…それもそのはず。そんな事が起きるのはフィクションの世界だけで十分である。



コンコン


まほ「はい?」

「西住です」

エリカ「…」

まほ「お母様? …どうぞ」



ガチャ


まほ「お母様、エリカは…!」

しほ「ここ病室です。落ち着きなさい」

まほ「う…申し訳ありません…」

しほ「逸見さん、意識が戻って本当に良かったわ」

エリカ「ええ。私は大丈夫お母さん。心配はありません」

まほ「ただ、意識は戻ったばかりで、腕のこともあるので暫くは安静が必要です」

しほ「逸見さんの代わりはいるの?」

エリカ「…」

まほ「ええ。赤星と直下を臨時の副隊長"代理"にしようと…」

しほ「そう」

まほ「ただ…」

しほ「わかっているはず。度重なる敗北による汚名を返上し、再び唯一の王者としてその名を全国に轟かせること」

しほ「それが黒森峰の隊長として、西住流に名を連ねる者としての責務であることは」

まほ「はい…」
















しほ・まほ「えっ?」







…なんだか雲行きが怪しくなってきた。




まほ「エ、エリカ…お前今何と…?」

エリカ「え? …お母さんに"私は大丈夫"って…?」

しほ「えっ」

まほ「えっ」

エリカ「えっ」



記憶喪失は無かった(?)が、どうやら別の問題が発生した。

この問題が何を意味するか確認するため、もう一度エリカに質問した。


まほ「も、もう一回質問するぞ…?」

エリカ「ええ…」

まほ「私の名前は…?」

エリカ「………西住まほ」



エリカは先程と同じ回答をした。…明らかに嫌そうな声で。

その上先程は『隊長』と付けてくれたのに、今度は呼び捨てになった。

それもそうだ。二度も「私の名前を言ってみろ」などと問われたら誰だって嫌気がさす。

嫌気がさすのだが、そんな顔されると心に来るものがある…。



まほ「で、では、今度はお前の名前を教えてくれ?!」




エリカ「西住エリカ」




まほ・しほ「!?」

エリカ「?」キョトン

しほ「こ、これは一体どういうことなのですか!?」

まほ「お、落ち着いて下さい病院ですよ?」

しほ「落ち着いていられないわ! どうして逸見さんがうちの子になっているのよ!」

まほ「…わかりません。とにかく、先生を呼びましょう」

エリカ「」ファァ...



こ、こいつ…人の気も知らずに呑気に欠伸なんかしやがって…

こちらはお前のことを心配してるというのに随分気楽なものだな!

…どうでもいいが、欠伸しているところを見るのは初めてだ。上官と部下の関係故に私の前ではそのような無礼な態度は一切取らないからだ。

今はこういう状況だから見逃すが、普段ならば私の前で欠伸などするものなら張っ倒してやるところだ。



エリカ「…」スッ

まほ「お、おいエリカ、何処に行くんだ…!?」

エリカ「何処って…家に帰るに決まってるじゃない…」

まほ「お前の家は…」

エリカ「何を言ってるのよ…姉さんと同じじゃない」

まほ「いや違うだろ。お前の家…というか寮は学園艦にあってだな…」

エリカ「…」

まほ「対して私の家(実家)は熊本だぞ。今は停泊しているからすぐ行けるg なんだとッ!?」

エリカ「うるさいわよ…病院なんだから静かにしてよ…」




…まて

待て

待たんか!


お前いま、"姉さん"って言ったか? 言ったよな?!


自分の家を間違えたのはまだ良い。

私にタメ口を利くのも(引っ叩いてやりたいが)まだ良い。



何故私を「姉さん」と呼ぶのだお前は!?




まほ「え、エリカ…」

エリカ「なによ…」

まほ「ね、念のため聞くぞ? お前の家族構成は?」オソルオソル...


エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…お父さん」

エリカ「お母さん」チラッ

しほ「え」

まほ「」



当たり前のようにお母様の方を向いて『お母さん』と言った。

エリカの親御さんにお会いした事はないが、ここにいる私のお母様とは別人のはず。



エリカ「そして…」

エリカ「姉さん」

まほ「」

エリカ「…以上」



完全に私の方を向いて『姉さん』と言っている。

その顔には『突然なに馬鹿なこと言い出すの?』と書いてあった。


…このやり取りで分かったことが3つある。


1つは、エリカは頭を打ったせいで記憶喪失とまでは行かないが、"記憶がおかしい事"になっている。

もう1つは、記憶がおかしくなったせいで、"自分は西住家の娘"だと勘違いしている。

そして最後の1つ、




私の実の妹である"みほ"が何故か出て来なかった。




まほ「…もう1つ聞くぞ」

エリカ「…もういいわよそういうの。疲れるから」ハァ...



『しつこい』と言わんばかりに大きなため息をつくエリカ。

私もエリカに同意だ。返答を貰うたびに頭の中で何かが削れゆく音がする。

だが、聞かないことには埒が明かないのだ。



まほ「お母様が"お母さん"で、私が"姉"なら…"みほ"は?」

エリカ「どういう事? というかみほって…?」

まほ「…"西住みほ"、知っているか?」



あぁ、返事が怖い。正直聞きたくない。





エリカ「誰?」




………。

(カン違いで)私の妹になったエリカの脳内からは、(本当の)私の妹であるみほの存在は消えてしまったようだ。

済まないみほ。私が不甲斐ないせいで。




まほ「お母様…」

しほ「…"みほ"は私の娘であり、隣りにいるまほの妹です」

エリカ「えええっ!!?」

まほ・しほ「」ビクッ



何故急に驚くのだ。驚きたいのは私の方である。

いきなり大声を出すから驚いたのと、まるで"隠し子の存在を知ったような"反応の2つに。



エリカ「あの…お母さん…?」

しほ「何でしょう」



お母様はお母様で、どうしてエリカの言う"お母さん"に反応しているんですか。

エリカがあなたを呼ぶときは『家元』あるいは『師範』ですよ。



エリカ「その、みほって子…年はいくつなの…?」

しほ「あなたと同い年です」

エリカ「」



エリカはまさに"隠し子の存在を知ったような"顔をした。顔から血の気がサーッと引いてくのが見て取れる。

…だが安心しろみほ。お前は決して隠し子などではない。れっきとした私の妹であり、西住家の次女だ。

エリカが頓珍漢なだけでお前は大丈夫だ。だから早く実家に帰って来るといい。




エリカ「……お母さん……誰との子なの………?」

しほ・まほ「は?」

エリカ「だって…」



エリカ「私と姉さん以外に子供なんていないじゃないッ!!!」



しほ「」

まほ「」

しほ「…ふ、普通に父と私の間に出来た子ですが?」



エリカ「嘘つきッ!! DNA鑑定すればそんなウソすぐバレるわよッ!!!」



しほ「」

まほ「」



その言葉、そっくりそのままお前に返してやろう。

DNA鑑定すればお前の嘘っぱちなんぞすぐにバレということをな。

嘘っぱちというよりは"勘違い"だが。



エリカ「…ヒッグ…グスッ…」

まほ「エリカ…?」

エリカ「……ねぇさん…グスッ……私達がいるのに…ヒッグ……お母さんそんな事してたなんて知らなかった……」

しほ「」

まほ「お、おう…よしよし……」

エリカ「………ひどい……」ギロッ

しほ「ば、馬鹿なことを言わないで頂戴! 私は父一筋です! しっかり愛し合ってます! 昨晩だって…」



泣くなエリカ。

確かにお母様は色々ひどいが、お前が考えるような方向の"ひどい"ではない。

その涙は盛大な誤解から溢るるものだ。事実ではない。

そしてお母様も余所様の前で馬鹿なことを言わないで欲しい。




エリカの盛大な勘違いではあるが、病院の一室が昼にやるドラマのような修羅場になってしまったことは、もはや誰が見ても明らかだろう。

何しろエリカ(にとって)は、母と姉の二人から隠し子の存在を伝えられた(ように見える)のだから。

それはもう修羅場というより泥沼だ。ティーガーが嵌ったら廃棄が確定するような深い深い底なし沼だ。我々以外の人間がこの場にいなくて本当に良かった。


その後医者がやってきて検査をした結果、頭蓋骨や脳には異常はないが、頭を打った衝撃で"一時的な記憶障害"が発生しているという。

曰く『一時的なもので、しばらくしたら治るだろう』とのことだ。

エリカに傷や後遺症(言語障害とか身体障害といったもの)は残らなかったので、ひとまず安心した。


だが、肝心のエリカは医者に対して『DNA鑑定をしろ』と執拗に訴えるせいで、医者がただならぬ事情(誤解)を察し、渋々お母様と何故か私までDNAを採取・鑑定する羽目となった。

その結果、無事に私とお母様との間には血縁関係があることが証明された。知ってた。

尤もみほの話をしていたのに肝心のみほがこの場におらず、みほのDNAも無い状態で私達のDNAだけを採取してお前は一体何をしたかったのだ?





…と思っていたら、私やお母様とエリカの間に血縁関係が無いことを知ったようだ。実際に血縁関係など無いので当然である。

しかしエリカにとっては、

"隠し子の存在を知ったと思ったら自分が隠し子だった"

"家族と思ってた人が赤の他人だった"

ということになる。この世の終わりのような顔をする彼女を見ていると、たとえカン違いでも胸が痛む。

『血縁関係が無くても姉さんは私の姉さんだから………』と泣くエリカを見ていると、私まで色々な意味で泣きそうになった。


このままではエリカが色々まずいので、『ここの医者はモグリだ。高額な医療費を請求するし、カネのためなら平気でDNAや数値を捏造する』と言って必死にエリカを説得した。

説得の甲斐あってエリカは何とか納得してくれた。

医者には本当に申し訳ないが、このままでは冗談抜きでエリカが自殺しかねないのでやむを得なかったのだ。






【戦車道西住流家元】



エリカ「ただいま」

しほ「」

まほ「」



その結果こうなった。

本来ならエリカは最低2日は入院する予定だったが、血縁関係の件を説得する為に『あの医者はモグリだ』などと言ったのがいけなかった。

今度は『あんな医者のそばにいたら何されるかわからないじゃない!!』と言い出す始末。

修羅場を回避するために使った方便のせいでかえって面倒なことになってしまった。あちらが立てばこちらが立たずとはまさにこの事だ。


で、『家に帰りたい………』と子犬のようにクンクン泣くものだから、仕方なく実家まで持ってきた。

まったく、泣きたいのは私の方だ。本来なら今ごろ黒森峰の寮で鼻歌でも歌いながら風呂に入ってるのに。

いや、本当に泣きたいのは"モグリ"のレッテルを貼られた罪なき医者の方だろう。いつか謝罪せねばならん。



【まほの部屋】


疲れたので自室のベッドに仰向けになり、一日の出来事を振り返る。今日は様々なことが起きた。

訓練中にエリカが乗るティーガーIIが崖から転落し、エリカが負傷。

命に別状はなく、後遺症の心配もない(今の状態は後遺症じゃないのか?)とのことだが、エリカが一時的な記憶障害になる。

そしてエリカが我が家に泊まりに来るという(本人は『帰宅』と言う)。

彼女の記憶が元に戻るまではここが実家となり、ここで過ごすこととなる。果たしてどれ程の期間になるか…。


明日からのことは考えたくないが、かといって放置しておくわけにはいくまい。

頭を打ったのはエリカだが、私まで頭が痛い。



コンコン



まほ「はい」

エリカ「姉さん…」

まほ「エリカか。どうした?」

エリカ「その…お風呂、入ろ?」

まほ「一人で入れば良いだろう」

エリカ「腕がこんなだから体が洗えないのよ…」

まほ「…わかった」



自室で今日の出来事について反芻していたら、エリカが突然風呂に入ろうと言い出す。

そういえば練習が終わってからというもの色々あったせいで、風呂にはまだ入っていない。

風呂には一人でのんびり入りたいのだが、エリカは腕を骨折しているので満足に体も洗えないという。

まったく、世話の焼けるいm…エリカだ。


ちなみに件のエリカは空き部屋にいる。

本来エリカの部屋など存在するはずなどないが、『私の部屋が無くなってる?!』と騒ぎ出すものだから、『西住流拗らせた門下生が誤射して粉々にしたからリフォーム中だ』と言って誤魔化した。

とりあえず空き部屋にちゃぶ台やら座布団やら最低限のものを置いて"部屋"っぽくした。

さすがにみほの部屋を貸すわけにはいかん。みほに悪いしあそこは私の楽園だ。




【風呂】



まほ「頭、洗うぞ」

エリカ「ええ」

ピトッ

エリカ「んっ…!」

まほ「変な声を出すな」シャカシャカシャカ

エリカ「だってくすぐったいんだもん…」ブルッ

まほ「我慢しろ」ワシャワシャワシャ

エリカ「むぅ…」


エリカは私と違って毛がそこそこある("長い"という意味で)。そのため洗ったり乾かすのに時間がかかる。

私やみほみたいに短くすれば手入れも楽なのにとは思うが、そこはエリカの事なので深くは追求しない(今回に限り、その長髪のせいで私が手を焼くのだが…)。


繰り返しになるが、記憶障害だけでも厄介なのに腕まで折ってくれたせいで暫くはエリカの身辺の世話をしなければならない。

本当ならエリカは入院生活となるはずだったのだが、私の黒男作戦が裏目に出た故にこのような結果となってしまった。

私の過失ではあるが、エリカの風呂に関してはお母様や菊代さんにもお願いしよう。



エリカ「姉さん」

まほ「どうした?」


エリカ「結局その"みほ"って人は誰なの?」


まほ「え」

エリカ「みほ。さっき言ってたじゃない」

まほ「…」

エリカ「…」



またその話か。

いいや、私の自慢の妹の話だ。決して邪険にするようなものではない。こういう状況でなければいつでも大歓迎だ。何時間でも話してやる。

何時間でも話してやりたいところだが、今のこの状況では出方を見誤るとエリカがまた"発狂"しかねない。

どう出るべきか…。


まほ「その、みほというのはな…」

エリカ「うん」

まほ「みほはな…私の妹で…」

エリカ「ええ」

まほ「…」

エリカ「…」


まほ「お前の双子の姉妹だ」


エリカ「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」



エリカは見事に"発狂"した。

だが彼女の反応は至極真っ当である。

いきなり『お前には生き別れた双子の姉(妹)がいる!』などと言われては、誰もが頭の中を真っ白にする。出方を見誤るどころか出ること自体が間違っていた。

双子という設定が無謀だった。お母様もあの年ではもう頑張れまい。無理だ無理。絶対。



エリカ「わ、私そんなの知らないわよ! 一体どういうことなの!?」



私だって知らん。

なにしろ今考えたのだからな。



まほ「実はな…」

エリカ「え、えぇ…」



エリカは恐る恐る私の話に耳を傾ける。

一度出した以上引っ込めるわけにはいかん。というより引っ込めようがない。

だから突き進むしかない。


もうここから先は完全な"でっち上げ"だ。



まほ「エリカにはな、双子の姉妹がいて、その子…みほはお前が幼い頃に…」

エリカ「幼いころに…?」


まほ「死んだ」


エリカ「はぁ?! 死んだですって?!」

まほ「天ぷらの食べ過ぎでな」

エリカ「そう…可哀想に………」


まほ「…だが、死んだと思っていたら実は生きていて」


エリカ「えっ!? 死んでなかったの?!」

まほ「うむ。今は離れた場所で過ごしているそうだ」

エリカ「そ、そうなの…?」



…というB級映画も真っ青の張りぼて設定だ。

よくぞここまでいい加減なことが言えるものだと我ながら感心する。黒森峰の隊長ならびに次期家元候補の言葉とは到底思えん。

西住流に後退は無いが、かといって強引に突き進むととんでもない事になるというのをこんなところで学んだ。

ボロが出ると面倒なのでお母様にも後ほど共有しておこう。怒られそうではあるが、出てしまったものは仕方ない。


ちなみに双子設定についてだが、エリカは妹の方にしておいた。

どちらかというとエリカの方が気が強いので姉っぽいが、それではみほの立場が危うくなるから妹にしておいた。


エリカ「…そう…だったのね………」

まほ「ああ。私もお母様もいつかお前に言おうかと迷った。許してくれないか」

エリカ「…ええ。良いわ」



すまないみほ。

エリカを説得するためにお前は一度死んでもらう。それはみほにとって物凄く辛いことだが私だって辛いのだ。どうか理解してくれ。

もちろんエリカにこんな嘘八百を叩き込むのも、やはり辛いものがある。



エリカ「その、みほは今は元気なの?」

まほ「恐らくはな。お母様曰く、友達に恵まれて楽しく過ごしているとのことだ」

エリカ「そう。なら大丈夫ね」

まほ「ああ」



みほは実家から遠く離れた大洗女子という学校に通っていて、親友たちに恵まれながら戦車道を楽しんでいる。

これについては何も間違ったことは言ってない。みほには今後も学園生活を満喫してもらいたい。



エリカ「姉さんもみほみたいに友達が出来ると良いのにね」

まほ「大きなお世話だ」



まったくもっていらぬお世話である。

私は戦車だけが友達であり恋人なのだ。

人の心配していないで自分の頭の心配でもしていろ。



エリカ「だけど、こっちには帰って来ないの?」

まほ「わからん。帰って来て欲しいとは思っているが、何しろ連絡が取れなくてな」

エリカ「そっか…」

まほ「何かのきっかけで戻ってくるかもしれないし、もしかしたらもう二度と戻らないのかもしれない」

エリカ「そう………」



1週間前に帰ってきた。昨日も電話した。




~~~



まほ「ほら。終わったぞ」

エリカ「背中」

まほ「なに?」

エリカ「背中もやって。この手じゃ出来ないから」

まほ「仕方あるまい」ゴシゴシ

エリカ「んっ…!」

まほ「変な声を出すなと言っただろ」

エリカ「だって…」ソワソワ

まほ「ならばコイツでやってやろうか? 垢も取れるぞ」 つ[たわし]

エリカ「そんなのでやったら背中傷だらけになるじゃない!!」

まほ「だったらじっとしてろ」ゴシゴシ

エリカ「むぅ…」



たわしは風呂の汚れを落としてくれる優れものだが、対人使用するようなものではない。

某漫画ではたわしで父親の背中をゴシゴシする子供が登場するが、絶対に真似をしてはいけない。

ちなみにこのタワシは菊代さんが風呂を掃除するときに使っているもの。

曰く水垢がキレイに落ちるから気に入っているらしい。



~~~~



まほ「ふぅ…」ザパーン



風呂は良い。一日の疲れが癒える。

年寄りくさいかもしれないが、私は風呂に入っていると幸せな気分になれる。

このヒノキの香りがする入浴剤はなかなか良い。温まるしリラックス効果もあるようだ。菊代さんが買ってきたから後でどこの入浴剤か聞いてみるか。

それにしても風呂はいい。何度でも言おう。

どれだけ疲れていても風呂に浸かれば幸せな気分になれる。



エリカ「」ファァ...

まほ「…」



隣に"こいつ"がいなければ。



終始振り回されていた私とは対照的に、エリカはあたかも自宅の風呂に入るかのように自由気ままに振る舞う。

尤もエリカはここを自宅だと本気で思い込んでいる。リラックス出来るのは当然だろう。

一方で自宅にいるはずの私は反省部屋にいる気分だが。


何にせよ、ここまでリラックス…というよりだらけきったエリカを見るのは初めてだ。思わず当惑するほど普段のエリカとのギャップが激しい。

私が知る逸見エリカとは、"黒森峰の狂犬"の異名を持ち、人一倍負けず嫌いで、人一倍プライドが高い者だ。キリッ引き締まった表情を崩すことはない。

そんなエリカも私の知らぬ所ではこのようにフニャフニャになっているのかと思うと、彼女の意外な一面を見ることができた。



エリカ「ふぁ~ぁ…」

まほ「…」



そんな黒森峰の狂犬は今では西住さん家の柴犬だ。やれやれ。



ポロッ コロコロ...


エリカ「あ、II号落ちた」

まほ「あとで取れば良いだろう」

エリカ「やだ。あれ触り心地いいもん」

まほ「なら好きにしろ」

エリカ「ぐぬ…もう、ちょっと…」ウーン

まほ「…」



エリカのいう"II号"というのは、II号戦車の形をした風呂に浮かべる玩具のことだ。

この手の玩具といえばアヒルとか船を連想するものだが、どういうわけかみほが『コレが良い!』と好きで浮かべている。もちろんII号には潜水装備はない。

みほがまだ黒森峰の中等部に入る前に買ったものだが、未だに現役で我が家の広い浴槽をこれ1輌で防衛している。

それを今はエリカが私物化しているわけだ。なかなか気に入ってるようで、先程から一人でグニグニ弄って遊んでいる。

だが取るなら浴槽から出て取りに行け。そしてこちらに砲尾を向けるな。穴が丸見えだ。



ツルッ

エリカ「わっ?!」

ドテッ!

まほ「だから言っただろう」

エリカ「っぅ…痛ったぁ…」


滑って前転して風呂の床へ尻もちをするエリカ。本日2度目の転落となる。…1度目はシャレにならんが。

いいかエリカ、風呂場は滑りやすいんだぞ。尻をさするエリカに目で語る。

普段からは想像出来ないが、エリカは意外に粗忽なのだろうか?



エリカ「いたた…あ、姉さん姉さん」

まほ「今度は何だ」


エリカ「チ●ポ」ボロン


まほ「よさんか!!」



なにがチ●ポ(ボロン)だ。みほのII号を股間に当てるんじゃない。汚くなるだろうが。

そしてお前はどこでそんな下らんことを覚えた。



エリカ「ネットで話題になってるのよ。"ボロン"するとクジ運が良くなるって」ボロン

まほ「だからどうした。ボロンすれば10km先のフラッグ車を倒せるとでも抜かすのかお前は」

エリカ「やってみたら?」

まほ「やらん。第一ボロンするようなものがない」

エリカ「はいこれ」つ[II号戦車]

まほ「お前の股ぐらに擦り付けたものをよこすな」

エリカ「選り好みしてると婚期逃すわよ?」

まほ「それとこれとは話が別だろうがっ」



~~~




【脱衣所】


エリカ「…姉さん」

まほ「今度はどうした?」

エリカ「ない…」

まほ「は?」


エリカ「私のパジャマが一つもないんだけど…」


まほ「え」

エリカ「パジャマ」

まほ「…」

エリカ「…」



ここはお前の家ではないのだから、そんなものあるはずがない。

だが、それを正直に言うものならまた発狂しかねないので、部屋の件と同じように

『虫に食われて穴だらけだったから捨てた』

と言って誤魔化しておいた。蓼食う虫も好き好きである。

案の定エリカはショックを受けたが、服だけに無い袖は振れぬ。



まほ「仕方ない。私のを一つ貸してやろう」

エリカ「ええ…」

まほ「嫌なら裸で過ごせ。涼しくていいぞ」

エリカ「そんなの嫌に決まってるじゃない!!」バッ

まほ「おい、ちゃんと体を拭いてから着ろ。あと髪もしっかり乾かせ。風邪まで引いてもらっては困る」

エリカ「わ、わかってるわよ!」

まほ「わかってないから言ってるんだ」

エリカ「むぅ…」フキフキ



エリカは困ったら「むぅ」とか「ぐぅ」とか言うのか。普段からは全く想像できん。

家にエリカを持ってきてからというもの、普段はまず見ることのないエリカを目の当たりにするせいで彼女の印象がどんどん変わっていく。


余談だが、私は寝る時は浴衣を着ている。通気性に優れ肌触りが良いのだ。なのでエリカにも私の浴衣を一つ貸してやったのだが、これがまた似合っている。

こやつの性格はさておき、素材自体は良いので何を着せても似合うだろう。少し腹が立つ。



エリカ「姉さん…」

まほ「何だ」

エリカ「お腹すいた…」

まほ「菊代さんが何か作ってくれたはずだ」

エリカ「今日のご飯は何?」

まほ「確かハンバーグと言ってたな」

エリカ「ハンバーグ?! 良いじゃない!」パァァ

まほ「お前の好物だろ? 良かったな」

エリカ「ええ。今日はとっても良い日よ!」キラキラ



良い日なわけがあるか。確実に厄日だ。

本来ならノンアルコールビールを片手にテレビでも観ている頃なのに。予期せぬ"架空の妹"のせいで気付けばこんな時間だ。

お前のせいで私は"Flak&Panzer"を見逃してしまったのだぞ。今週はメーベルワーゲンが出る回だったのに。




【食卓】


エリカ「あれ? お母さんは?」

まほ「書斎にこもって仕事をしているのだろう」

エリカ「ふーん。相変わらず忙しいのね…」

まほ「家元の仕事に高戦連やプロリーグ。やることが山積みだから仕方ない」

エリカ「そう…」



いずれ私も家元を継承し、忙しい日々を送る事になると思うが、果たしてお母様のように上手くやっていけるだろうか。

なにせ家に帰ってきたと思えば書斎に籠り、書斎から出たと思えばまたすぐ家を空ける。西住流として戦車道だけでなく多忙も極めておられる。

まだまだ先の話ではあるものの、私にそれが真似できるか不安だ。


ところでお母様は書斎に籠っていつも何をしているのだろう?

営業マンよろしく電話をかける様子はないし、パソコンで書類を作成するわけでもない。そもそもあの部屋にパソコンは無いしお母様は機械音痴だ。

…少し気になるな。今度お母様に聞いてみるか。



エリカ「姉さん」

まほ「ん」

エリカ「お醤油とって」

まほ「…」コトン

エリカ「これソースじゃない!」

まほ「似たようなものだろ」

エリカ「全っ然違うわよ!!」

まほ「胃袋に入れば同じだ」

エリカ「じゃぁ徹甲弾と榴弾も命中すればどちらも同じって言うわけ?!」

まほ「徹甲弾と榴弾では全然違うだろう」

エリカ「醤油とソースもぜんぜん違うわよ!」



細かい事でいちいち喧しいところはエリカのままだ。

そこだけは変わっていなくて安心した。



まほ「おい」

エリカ「な、何よ…?」

まほ「ニンジンを隅っこに追いやるな。残さず食べろ」

エリカ「ニンジンは苦手…」

まほ「目の前にT-34が現れたら嫌いだからと言って逃げるのか?」

エリカ「それとこれとは話が違うわよ!」

まほ「いいや同じだ。不得手を前に逃亡するのは西住流として許さん」

エリカ「じゃぁ姉さんこそどうしてピーマンを端っこに溜めてるのよ?」

まほ「予備兵力だ。今はまだ出番はない」

エリカ「じゃ、私も予備兵力」サッサッ

まほ「こら、食べ物で遊ぶな」

エリカ「…」

まほ「…」


エリカ「はい、あーん」つ===●



は?

エリカは突然、箸を私の方に突き出した。

その先にはニンジンがある。

…一体何をするつもりだ?



エリカ「あーん」

まほ「…何のつもりだ?」

エリカ「私がピーマン食べるから代わりに姉さんニンジン食べて」

まほ「…」

エリカ「あーん」

まほ「…わかったよ」パクッ... モグモグ...


エリカ「ご馳走様でした」ササッ



人参を頬張っている傍らで、皿を空にしたエリカは流し台に食器を置いて速やかに食卓を立ち去る。それは機動力を活かした電撃戦だった。

一方私の皿の上にはピーマンというアルデンヌの森が鬱蒼と生い茂っている。

………!


エリカの野郎! この私を謀ったなァ!!!


【洗面所】


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカシャカシャカ

ガラガラ......ペッ!



まほ「…ふぅ。………ん?」

まほ「エリカのやつ何処に行った?」



何とかアルデンヌの森を抜けたが、口内に残る敗戦の味をいち早く払拭しかったので、洗面所で歯を磨いている。

…が、その間にエリカが何処かに行ってしまったようだ。

家の何処かにいるだろうが、エリカがエリカなだけに心配である。



【しほの書斎】


まほ「お母様」コンコン

しほ「入りなさい」

まほ「…はい」


ガラッ


まほ「お母様。エリカを見かけませんでs…なっ!」

しほ「騒がしいわね。落ち着きなさい…」

エリカ「私ならここにいるわよ?」フミフミ

しほ「エリカ…もっと右…そう、そこ…」

エリカ「はい」フミフミ

まほ「」

しほ「」ホヘー



エリカは当たり前のようにお母様の部屋にいた。そして普通にお母様の背中のマッサージをしていた。

曰く、『お母さん疲れてるから腰を揉んでるんだけど?』と、まるで尋ねた私が間違っているかの様に宣う。

他人の家を我が物顔で徘徊し、人の母を足蹴にするお前の方がどう考えたっておかしいに決っている。

そして普通にそれを受け入れているお母様もお母様である。恍惚の表情をしておられる。


ちなみに踏むというのは片足で背中を踏むマッサージのことだ。私も昔みほにしてもらったが、これがまた気持ち良いのだ。お母様の間抜け面も納得できる。

だが、元来Sの気があるエリカだけに、自分の母親が女王様に苛められるマゾヒストのように見えてえらく不快だ。…私の考え過ぎか?

私の偏見はともかく、エリカのそれを普通に受け入れているお母様もお母様である。いくら西住流家元とはいえ、適応能力高すぎませんか?





エリカ「…なに? 姉さんもやってほしいの?」フミフミ

まほ「遠慮する」

エリカ「そう…」フミフミ

しほ「今度はもう少し上をお願い…」

エリカ「ここ?」フミフミ

しほ「そう…そこよ…」ホヘー

まほ「…」



エリカは私にもしてやると言うが、丁重にお断りした。

練習後ということもあり、肩やら腰やら凝っているのでマッサージして欲しいところだが、エリカに足蹴にされる自分の姿を想像したら惨めになったからだ。


エリカは自由に振る舞っている。本当の家族のように。

元がそこそこ常識のある(あるよな?)エリカなので、暴れたり引っ掻き回したり物を盗んだりはしない(しないよな?)ので、まだ良いとは思う。

だが、いくらエリカの中でここが自宅だと言えども、あくまで他所の家なのである。

勝手に冷蔵庫の中のものを食べるなんて真似はしてくれるなよ? 特に今冷蔵庫には私が買った黒ごまプリンが入っている。手を出すものならその日がお前の命日だと思え。



~~~




【まほの部屋】


まほ「そろそろ寝るか」



今日は本当に様々なことが起きた。

エリカが負傷して、何故か自分が西住家の娘だと思い込んで、家にやってきて、自宅のようにくつろぐ。

そして気づいたらお母様も"最初からそうだったように"エリカを受け入れていて、まるで私だけがおかしいみたいな空気になる。


エリカもエリカだ。泣く子も黙る西住流家元を足蹴にする(マッサージだが)などよくやるものだ。実の娘である私ですら恐ろしくて出来ない。

あいつは頭を打った拍子に記憶だけでなく、恐怖心や警戒心といった人間が持つ諸々の"本能"もセットで吹っ飛んだのではないか?

…まぁ、あれこれ考えたところで意味はない。余計な詮索はせず寝ることにしよう。


おやすみ。




トントン トントン トントン


まほ「………はい」

エリカ「ね、姉さん…!」

まほ「またお前か…」

エリカ「入るわよ?」ガラッ

まほ「今度はどうした?」



何度目かわからんが、エリカが私のところにやってきた。寝ようとしていたのに。

こやつは風呂に入るとか、着替えがないとか、腹が減ったといって私頼るのだ。どうせ布団がカビ臭くて眠れないとでも文句を言いに来たのだろう。まるでデキの悪い妹を持つ姉の気分だ。

…で、デキの悪い妹ことエリカは枕を抱えて私の部屋に入ってきた。



エリカ「その……」

まほ「言いたいことがあるならハッキリと言え」

エリカ「……そっちで寝てもいい…?」

まほ「は?」

エリカ「な、何度も言わせないでよ!」

まほ「自分の部屋があるだろう」

エリカ「あの部屋怖いのよ…」

まほ「怖い?」

エリカ「なんか包帯巻いた満身創痍なクマのぬいぐるみがあちこち置いてあって怖いのよ…」

まほ「?」



【エリカの部屋(仮)】


そういえば部屋にはみほが好きだったぬいぐるみがたくさん置いてあったな。確かやさぐれグロのペコといったはず。

曰く、自室や寮に収まり切らなかった分をあの部屋に置いているとのこと。さすがに買いすぎだと思うが、「限定品なの!」と言って定期的に増えていく。困ったものだ。

渦中の人物であるみほは帰宅するとあの部屋に篭って至福の時間を過ごしている。曰く『我が家のミュージアム』とのこと。


しかし、みほにとっての楽園もエリカにとっては地獄のようで、部屋に置かれた満身創痍のぬいぐるみが戦没者の亡霊に見えるというのだ。

そんな馬鹿な話があるかと思い部屋を見に行ったのだが、確かにこれは禍々しい光景だ。

腕には包帯、顔に痣、体には縫合の痕があるクマのぬいぐるみが所狭しと置いてあり、野戦病院にいるような気分である。

みほはこれを"楽園"というのだから人の感性はわからないものだ。


"あまりに精神が疲弊するとそのうち幻覚が見え始め、最後は壊れてしまうだろう。

そして厄介なことに、自身が"壊れて"いることを自覚することは出来ない ― 心壊"


まさか。みほに限ってそんなことはあるまい。




エリカ「ほ、ほらご覧なさい! いいい言った通りでしょう!!」オロオロ

まほ「確かに不気味な光景ではある」

エリカ「いくら姉さんでもこんな所で寝たらもっと頭おかしくなるわよ!」ガタガタ

まほ「"もっと"とは何だ」

エリカ「姉さん少し鈍いところがあるから…」ブルブル

まほ「いらんお世話だ」



憎まれ口を叩くエリカだが、言葉とは裏腹に先程から私にしがみついてガタガタ震えている。よほど怖いのだろう。

確かにこんな部屋で寝ていたら変な夢の一つや二つ見るかもしれん。エリカの主張にも一理ある。



エリカ「わ、私無理よ! こここんな部屋で寝るなんて!!」ガタガタ

まほ「そんなことより私にしがみつくな」

エリカ「そんなことって何よ! 大事なことじゃない!!」ビクビク

まほ「お前のせいで私が動けないことの方が重大だ。さっさと離れろ」



エリカはまさに"藁にもすがる思い"で私にしがみついている。そのせいで私は動けない。だからさっさと離れろ。

…なに? 離れたら暗黒世界に連れて行かれる? 馬鹿を言うな。


それにしても自分の部屋、大洗の寮、そしてこの一室…。随分たくさん集めたものだ。西住流の門下生よりも多いのではないだろうか?

これだけ大量に置いてあるにも関わらず、手入れはしっかり行き届いているようで、埃一つない綺麗な状態で保たれている。

もしかすると、先日帰ってきた時はこれらぬいぐるみの手入れが目的だったのかもしれない。


どうであれクマのせいで目の下にクマが出来そうだ。早くここを出よう。

…エリカはどうするかって? 今日だけは私の部屋に入れといてやるから感謝しろ。




カチッ


エリカ「え」

まほ「あ」


オッス!! オイラボコダゼ!!! ヤーッテヤルヤーッテヤルヤーッテヤルゼ!! ソレガ ボコダカラ!!

テーテテテテッッテテテテーテテ ピーヒャラピーヒャラ

カーモン! カーモン! カーモン! ユーキャンデス!!!


ガヤガヤ ワイワイ



まほ「…」



エリカ「い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




ぬいぐるみに触れたのがいけなかった。

こいつらは触れると音が鳴るようで、1つが鳴り出した途端、他のぬいぐるみも呼応するかのようにピーヒャラ鳴り出す。

音楽や音声といったものが一斉に再生され、内蔵されたランプが点滅し、ブルブル振動し出すぬいぐるみ達によって部屋は瞬く間に騒がしくなった。

この騒々しさはみほが言う『ミュージアム』のソレだ。彼女がこの場にいたらとても喜んだだろう。

しかしエリカはエリカでお化け屋敷に入った女子高生よろしく悲鳴を上げる。私にしがみついてピーピーはしゃぐな。耳と頭が痛い。




ヤーッテヤル ヤーッテヤル ヤーッテヤルゾ!!

イーヤナ アーイツヲ ボーコボッコニー!!


エリカ「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

まほ「…」



前方のぬいぐるみ

後方のエリカ


あまりの喧しさに嫌気がさす。思えば今日は色んなことに嫌気がさしている。

不満を述べたらお母様にまた『隊長なのだから弱音を吐くな』と言われそうだ。

いくら私が隊長だからといって弱音くときはある。そりゃ私だって嫌になる時はあるさ。いつも隊長だの西住流だのボコボコだ。

だからってここで下がる私は私ではない。


…と思っていたらまた余計な人がやって来る。




しほ「静かになさい」ギロッ


エリカ「」

まほ「申し訳ありませんお母s」




エリカ「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




挙句の果てにお母様まで亡霊呼ばわりし出すエリカ。

確かにお母様は貞●に似てない事もないが。それをお母様に言った日にはそんじょそこらのホラー映画より酷い目にあうだろう。

件のお母様はエリカに亡霊扱いされたのがなかなか堪えたようで、相当ショックを受けているようだ。無言で井戸の底…ではなく自分の部屋に戻っていった。背中からは中年女性特有の悲壮感を漂わせながら…。

あとに残るは、殺虫剤をかけられたゴキブリのようにその場に倒れ込んでピクピク痙攣するエリカと私。

おいエリカ、そんなところで寝るといくら馬鹿でも風邪をひくぞ。さっさと起きろ。

…ん、足元が濡れているな。何かこぼれているのか?


ん…?!



コイツやりやがった!!!




【まほの部屋】


エリカ「に、二度とあんな部屋行くもんですかっ…!」ブルブル

まほ「わかったから早く寝ろ」

エリカ「ね、姉さんもっとこっち来て! 早く!」ブルブル

まほ「断る。狭い」

エリカ「嫌よ。アイツら絶対来るから!!」ガタガタ

まほ「我儘を言うとあのぬいぐるみに連れてかれるぞ。クルスクのど真ん中に」

エリカ「い、嫌ぁぁ…!」ガタガタ



全く気が乗らないが、ここまでの経緯を整理しよう。

まずエリカが『姉さんの部屋で寝たい』と言い出した。

次に私が『自分の部屋で寝ろ』と言ったら、エリカは『あの部屋は怖いから嫌だ』と言う。

一体何が怖いのかと部屋を確認しに行ったら、みほが好きだったぬいぐるみの山がお出迎えし、更にはお母様までやってきた。

発狂したエリカは盛大に浴衣と下着を糞尿まみれにしたので、再度風呂に放り込む。




エリカ「フンはしてないでしょ!!」

まほ「洗わされる側からすれば同じようなものだ」

エリカ「全然違うわよっ!」

まほ「わかったから早く寝ろ」



結果として、誠に不本意ながらエリカは私の部屋の私の布団の中で寝ることになった。

今思えば余計な詮索はせず、最初から素直に部屋に入れておけば下着や浴衣を糞尿で汚される事も無かった。

今日は尽く作戦が裏目に出る…。



エリカ「だからフンはしてないって!!」

まほ「わかったから早く寝ろ」

エリカ「よく平気で乙女に恥をかかせることが言えるわね…!」

まほ「風呂でチ●ポ(ボロン)やってたお前が言えたことか」

エリカ「それとこれとは話は別よ!」

まほ「砲と砲弾の関係だ。別なんてことはない」

エリカ「っ…ああ言えばこう言うんだから…!」

まほ「わかったから早く寝ろ」



~~~




エリカ「姉さん……」ユサユサ

まほ「…な…に……」ポケー

エリカ「…トイレ……」

まほ「…。一人で行け……」

エリカ「無理よ…」ブンブン

まほ「…なんで」

エリカ「怖いもん…」

まほ「………仕方ないやつだな」ハァ...



ようやく寝れると思ったら、突然エリカに叩き起こされた。曰く"トイレに行きたいが廊下が暗くて怖いからついて来い"とのことだ。

…まだ出るのかこいつは。つい先ほどジャボジャボ出したというのに。

『早くして…出そう…』とか言うので、仕方なくエリカを便所まで連れて行く。浴衣に続いて布団まで汚されては寝床を失う。


部屋を出てトイレまで移動するわけだが、エリカは廊下を歩くたびに軋む床の音にビクビクしている。そして私にガッチリしがみついて離れようとしない。歩き辛いことこの上なし。

頼むから糞尿を垂れ流すのだけはやめてくれよ? これ以上替えの服は無いのだから。



エリカ「だからフンの方はしてないって言ってるでしょ!!」

まほ「知らん」

エリカ「姉さんはもっと乙女心を知るべきよ!」

まほ「乙女はそこらで糞尿を垂れ流したりはしない」

エリカ「だからフンは

まほ「ほら着いたぞ。さっさとしてこい」

エリカ「むぅ…」


会話が同じところをグルグル回って埒が明かないので強引に終了させた。

回転するのは砲塔と転輪だけで十分だ。



【便所】


バタン

ガチャ


エリカ『ちゃんとそこにいてよ…?』オロオロ

まほ「わかったからさっさと出せ。じゃないと行くぞ」ファァ...

エリカ『ま、待ってってば!!』

まほ「いいから早くしろ」ウツラウツラ...

エリカ『…ちゃんといるんでしょうね?』

まほ「」zzzz...

エリカ『ちょっと姉さん!!?』バンバン

まほ「ハッ! …呼んだか?」

エリカ『い、いるんだったらちゃんと返事なさいっ!!』

まほ「うるさいやつだな」



近くにいてくれとうるさいから仕方なくドアの近くにいる。

おかげでエリカの催す音までしっかり聞こえる。

相変わらずジョロジョロとよく出すやつだ。お前は給水器か何かか。


ガチャ

エリカ「お、おまたせ…」

まほ「ちゃんと手を洗ったのか?」

エリカ「当たり前じゃない…」

まほ「なら行くぞ」

ミシッ ギィッ

エリカ「ひっ!!」

まほ「床の音でいちいち驚くな。黒森峰の副隊長ならもっと堂々としていろ」

エリカ「だって…!」

まほ「だってもラーテも無い。行くぞ」

エリカ「ちょっと待ってよ!」



腐ってもエリカは黒森峰の副隊長であり、私が卒業したら次期隊長になる者だ。忘れそうだが。

床が軋もうが履帯が外れようが怯んでいては困る(お母様が出てきた時は私も焦ったが)。


にしても今のエリカは私の知るエリカとはまるで別人のようにオロオロしている。

普段はしっかりしているエリカも根は臆病なのだろうか?




【再びまほの部屋】



まほ「寝るぞ」

エリカ「ええ…。おやすみなさい」

まほ「おやすみ」

エリカ「…」ギュッ

まほ「しがみつかれては寝れんだろう」

エリカ「むぅ…」



やれやれ。ようやく寝床につける。

何度言ったかわからないが、今日は色々あって疲れた。幸い明日(と言っても日付が変わったので"今日"だが)は休日だ。ゆっくり過ごそう。

だが、休日明け以降のことも考えなければならない。

今は学園艦が寄港しているから実家に居られるが、出港してからは再び黒森峰での寮生活となる。

私は何ら問題ないのだが、ここ(西住流家元)が私の家だと言って聞かないエリカはどうすれば良いのだろう。




エリカ「…」zzzz



私の不安をよそにエリカはすやすやと眠っている。

さっきまでの怯えっぷりが嘘のようだ。



エリカ「…ねーさん…」ムニャ

エリカ「………すき…」

まほ「…」



はいはい。わかった。

本当に手のかかる妹だよお前は。



エリカ「…やきはおやつじゃない……ばかなの………」

まほ「………」



お前を鍋に放り込んで西住流すき焼きパーティーでもしてやろうか?




~~~


~~~~~~


~~~~~~~~~




「すごい雨だな。これじゃ前が見えない…」

まほ「視界も然ることながらここは足場が悪い。走行は十二分に注意しろ」

「了解」

「ここを抜ければ別働隊と合流できる…そうすればプラウダの戦車を挟み撃ちだ…!」

まほ「油断するな。相手も警戒してるに違いない」

「大丈夫ですよ。こっちはティーガーIとパンターがいます。T-34なんて簡単に倒せますよ!」




グラッ...


「お、おい! なんか傾いていないか?!」

「し、しまった!!」

まほ「なっ…!」

「転落するぞーっ!!」


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」



ザパーン!!




まほ「みんな無事か?! 早く脱出するぞ!」

「脱出完了しました! 残るは隊長だけです! 早くしないと水が…!」

まほ「わかった……っ!?」


まほ「あ、足が…!」


「隊長! 急いでッ!!」

まほ「良いからお前たちは先に行けっ! くっ…!」









「………ネエサン…」




まほ「なっ、誰だ…?」


「待ッテ…姉サン……」ガシッ


まほ「何故お前がここにいる! 手を離せっ!」


「…一人デ…死ニタクナイ…」


まほ「馬鹿を言うな! 早く脱出するぞ!!」


「…姉サンモ一緒……?」


まほ「やめろ離せっ! …うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブクブク




~~~~~~~~~


~~~~~~


~~~



まほ「ッ!!」


チュンチュン...


まほ「…」


まほ「夢か…」



嫌な夢を見た。

水没するティーガーから脱出しようとしたら何故かエリカがいて、足を掴まれて水底へ引きずり込まれる夢だ。一体私に何の恨みがあるというのだ。

これでは例のぬいぐるみ部屋の方がまだ良い夢を見れたのではないだろうか。おそらくみほと仲良くぬいぐるみワールドを散策する夢を見れたに違いない。

しかし、よりにもよって昨年の決勝戦が夢に出てくるとはな。あの事故さえ無ければ今頃みほは隣の部屋でスヤスヤと寝ているだろう。



………?


妙に体が重いな?

まるで金縛りにでもあっているようだ………?





エリカ「…ンマ」zzzz

まほ「…」



まず状況を整理しよう。

私は自室の布団の中で仰向けに寝ている。

そしてエリカも(色々あって)私の横で寝ている。横で寝ているはずだ。

なのに…



まほ「何故、私の腹の上で寝ているんだお前は!」

エリカ「……んぅ…?」ネボケ



エリカは仰向けに寝ていた私に上から抱きつく(しがみつくと言った方が良い)ように寝ていた。

重い。苦しい。潰れる。




まほ「ふんっ!」ゴロン

エリカ「もがっ?!」ドテッ!



秘技・西住ターンによって、エリカはそのままコロンと私の左横に転がっていった。ざまあみろ。

寝起きの開口一番で『何すんのよ…』と不機嫌そうにエリカは宣うが、それはこちらの台詞である。私を枕にするなど100年早い。

そしてお前のせいで私は見なくてもいい悪夢にうなされた。謝罪と賠償を要求する。



エリカ「………」モゾモゾ

まほ「おい」

エリカ「なぁに…」ネボケー

まほ「もう朝だ」

エリカ「まだ6時…姉さんに叩き起こされた分だけ……寝る…」zzzz....

まほ「そうか好きにしろ。あのぬいぐるみが来ても知らんからな?」

エリカ「………おきる」ビクビク



どうやら例のぬいぐるみに相当なトラウマを抱いたようだ。それは良い。エリカが言うことを聞かない時に使わせてもらおう。

ちなみに、ここでエリカが二度寝をするようならば布団の周りに例のぬいぐるみを大量に並べてやるつもりだった。

こう見えて私は西住流の女だ。やる時は容赦なくやる。



~~~




【西住流家元 庭】



ワンワン!


まほ「よしよし。今連れてってやるからな」

エリカ「…」ポケー

まほ「ほら、行くぞ」

エリカ「うーん…」ポケー



布団から出て10分は経過するというのに、未だにエリカはこくりこくりと船を漕いでいる。

低血圧なのだろうか? 黒森峰にいた時にはそんな素振りは少しも見せなかったのだが。




キャンキャン!!


エリカ「この子は朝早いのに元気が良いわね…」

まほ「そうだな。エリカもこれくらい元気になれ」

エリカ「むり。朝は苦手だもの」ファァ....

まほ「今までどうやって起きてたんだ」

エリカ「そりゃあ…えーと………あれ?」

まほ「…もういい」

エリカ「む…」



今の話は不味かった。

ついつい忘れがちだが、エリカは記憶に障害を来しているのだ。

過去のことを思い出そうとしても、思い出しようがない。

何故ならエリカには"西住家としての過去"が無いのだから。





"存在しない過去"というのはなかなか厄介だ。


エリカ自身は西住家の人間だと思っているが、それはあくまで一時的な記憶障害による勘違いによるもの。

だから、"西住家なのに西住家としての過去の記憶がない"という、極めてややこしい状態で、そこからまた矛盾が発生して面倒事が起きる可能性もある。

例えばアルバムを見て『私の写真が一枚も無いじゃない!!』という事になったり、思い出話をした際に『私そんなの知らないわよ?』と怪訝な雰囲気になったり…。


そういった事情を鑑みると、エリカは可哀想な子である。

世話が面倒というのもあるが、エリカの立場を鑑みて元気になって欲しいという意味でも早く元通りになってほしい。




【散歩道中にて】


お婆さん「あら。おはようまほちゃん」

まほ「おはようございます。今日もいい天気ですね」

お婆さん「んだんだ。そちらの子はお友達かい?」

エリカ「いえ、妹のエr <ガバッ!!> もがっ?!」

お婆さん「?」

エリカ「モガゴガガ…!」

まほ「あ、いえ。この子は遠い親戚。都会から遊びに来たのです」

お婆さん「おお。そらよかばい」ホッホッホ

まほ「ええ。それでは失礼します」



お婆さんが去ったのを確認してパッとエリカの口から手を離す。

『いきなり何すんのよ!』と憤慨するエリカだがごもっともだろう。何しろ(エリカからすれば)自己紹介しようとしたら急に口を塞がれたわけだからな。

だが、(西住視点からすれば)あそこで『妹のエリカと申します』などと抜かされるものなら、隠し子説が瞬く間に拡散され実に極めて面倒なことになる。田舎は情報の拡散が早いのだ。

かといってそれをエリカに言うわけにもいかないので、『あのお婆さんは痴呆だからアレコレ喋ると頭が混乱して大爆発する』と説得した。言わずもがな嘘っぱちだ。

『可哀想なお婆さんねえ…』とエリカは言うがまさにその通りである。お前のせいで色んな人を"可哀想な人"に仕立て上げなければならん。

本当に可哀想だから1秒でも早く元に戻ってくれ。頼む。



犬「グヌォォォ…」プルプル

エリカ「お」

ポトッ...

犬「フゥ…」

エリカ「姉さんウンチ」

まほ「私はウンチではない」

エリカ「違うわよ。犬」

まほ「リードを持ってくれ」ガサゴソ

エリカ「わかった」



犬の散歩は嫌いではない。新鮮な空気を吸いながら緑に囲まれた風景を堪能することは心にも身体にも良いことなのだ。

問題は犬がウンチをするという点だ。…いや、犬に限らず生き物はみな例外なくウンチをする。私も今朝した。だからそのようなことを抜かすものなら『お前にペットを飼う資格は無い!』と叱られそうだ。

しかしそれでもウンチは臭いから嫌なのだ。好きという者がいるのなら是非ともお会いして話を伺いたい。

…馬鹿なことを考えていないでさっさとウンチを処理するとしよう。


まずウンチの上にティッシュを被せて、その上からビニル袋越しにウンチを掴む。ウンチのブニュッとした感触が気持ち悪い。

あとはウンチを掴んだ袋を裏返せば始末完了だ。幸いこいつ(犬)のウンチはコロコロタイプだから1つ1つウンチを拾い上げるのが楽で助かる。



エリカ「姉さん臭い…」ヒキッ

まほ「私が臭いのではない。コイツが臭いのだ」つ[ウンチ袋]

エリカ「ちょっと?! こっちに近づけないでよっ!!」ササッ

まほ「リードとコイツ両方は持てない。だからお前が持て」

エリカ「だったら私がリード持つから姉さんがウンチ持ってよ!」

まほ「そいつは猛犬だ。エリカ如きでは飼い慣らせられない。故に手綱は私が握る」

エリカ「全然暴れ犬なんかじゃないわよ! こんなに大人しいのに!」

犬「くぅん」

まほ「私が威嚇しているから萎縮しているだけだ」

エリカ「意味がわからないわよ…」



必死の説得も虚しく私がウンチを持つ羽目になった。

散歩に行く時はいつもウンチをするので今更な話ではあるが、ウンチを握って歩き回る時間は極力減らしたい。

あとウンチをしてからというもの、明らかにエリカが私との距離を置いて歩いている。私がウンチを持っているからだと思うが、そう露骨に避けるものでもないだろうに。




エリカ「ところで姉さん」

まほ「なんだ?」

エリカ「ずっと前から気になってたけど」

まほ「ああ」


エリカ「この子の名前って何だったっけ?」


まほ「え」

エリカ「この犬の名前。思い出そうにも思い出せないのよ…」

まほ「…」

エリカ「…」



エリカが思い出せないのは当然だ。先述の通りエリカには"西住家としての記憶"が無いのだからな。

しかしエリカはともかく私もこの犬の名前が思い出せん。どんな名前だっただろうか。

…そもそも今の今までこの犬を名前で呼んだことがあっただろうか? いや、無い。


仕方がないので適当に『ディッカーマックス』と仮の名前を授けることにした。

エリカは"絶対違うでしょ…"という顔をするが、思い出せんものは仕方ない。ディッカーマックスも満足そうにしているし良いではないか。


…こらディッカーマックス。私の足は電柱ではない。



【西住宅 玄関】


まほ「ん?」

「…」コソコソ

エリカ「誰かいるわね?」

「…」ソワソワ

まほ「あれは……」



まほ「みほ…!」

みほ「! お姉ちゃん…?」



そこにいたのは愛すべき我が妹の"みほ"だ。

よく帰ってきてくれた。お姉ちゃんは嬉しいぞ。

ほら。玄関前でオロオロしていないで家に入ろう。ちょうどこれから朝食だった。みほも何か食べ………


ん。


何かを忘れている気がする。




エリカ「みほですって?!」

みほ「えっ、エリカさん!?」

まほ「」



しまった、こいつがいた。

エリカの記憶がおかしくなってるタイミングでこの再会は極めてまずい。

どうしてこんな時に帰って来たんだみほ、お前のせいで私はピンチじゃないか。




エリカ「そう…アナタがみほなのね」

みほ「へ?」

まほ「」



まずい。その話は今されると本当にまずい。

とりあえずみほをエリカから遠ざけねば…!



まほ「み、みほ! ひとまず部屋に行って荷物を置こう」ニギッ

みほ「えっ!? …あ、うん…」

エリカ「ちょっと姉さ

まほ「エリカ! こいつを頼むッ!!」シュバッ!

エリカ「えっ!?」キャッチ

まほ「あとは任せたぞエリカ!」ダダダッ

みほ「わ! 待ってよお姉ちゃん!」ダダダッ



みほの手を握り急いで家へ駆け込む。手は洗ってないが今はそれどころではない。

みほの部屋に行き、みほにエリカについての"事情"を伝えることが最優先だ。

久々に握るみほの手はウンチのように柔らかかった。



~~~~



エリカ「…」ポツーン


しほ「あら。帰ってきてたのね」

エリカ「あ、ただいまお母さん」

しほ「お帰り。ご飯出来ているわ」

エリカ「うん。…あ、お母さん」

しほ「どうしたの?」

エリカ「これ…」

しほ「これは?」

エリカ「姉さんが任せたって…」

しほ「そう」

エリカ「私姉さんのところに行ってくる」タタタッ

しほ「…」

しほ「…一体何かしら?」ガサゴソ


    プゥーーーン
(うんちの臭いがする音)



しほ「エ゛ンッ!!!」




~~~~



【みほの部屋】


まほ「………ということがあってだな」

みほ「エリカさんがそんな事になってたなんて…」

まほ「ああ。私も最初は信じられなかった」

みほ「それはその…大変だったね…」

まほ「そうだな」

みほ「でも…」

まほ「ん?」

みほ「私が双子の姉という設定ともかく、死人扱いするのはやめてよ…」

まほ「済まない…」

みほ「あと何で私の部屋なの…」

まほ「それは別にいいだろ」




コンコン


まほ・みほ「!!」ビクッ

エリカ「姉さん? いる?」

まほ「う、うむ。どうした?」

エリカ「入るわよ?」

まほ「ああ」

みほ「あ! ちょっと勝手に入れないでよ…!」

ガチャ

エリカ「…みほ…」

みほ「…その………エリカ…?」アセアセ



エリカは"双子の妹"という設定にしておいたのだが、まさかみほが"エリカ"と呼ぶ日が来るとは夢にも思わなかった。

色々と斬新すぎる。



エリカ「…久しぶりね。その、元気だった?」

みほ「え? あ…うん。元気」オロオロ

エリカ「そう。良かったわ」

みほ「うん…」

エリカ「急に家に帰ってくるから驚いたわよ。帰って来るなら前もって連絡しなさいよ」

みほ「ご、ごめん…」シュン



ちなみに連絡はちゃんと入っていた。私の携帯電話に。

メールがサーバーで止まっていて受信出来なかった為、存在に気付かなかったのだ。

つい先ほど確認したらみほのメール含め、40件ほど一気に来た。

済まないみほ。私はこの手の機械の扱いは苦手なのだ。


エリカ「そうだみほ! 朝ごはん出来てるから一緒に食べましょう」

みほ「えっ? あ…!」

エリカ「ほらっ、グズグズしない」ギュッ

みほ「わっ! ま、待ってよぉ!」トテテテ

まほ「…」


こうやって眺めていると本当の姉妹のように見えるから不思議である。

私も手を洗って朝食にしよう。

久々にみほと一緒にご飯を食べられる。楽しみだ。



【食卓】


まほ「…」モグモグ

みほ「…」モグモグ

エリカ「…」モグモグ



…しかし食卓にはマウスよりも重い空気が漂っていた。

エリカとは昨日一緒に食卓を囲んでいたし、みほとは何年も一緒に食事を食べていた。

なのに重たい空気が漂っているのは何故か。

原因は一つしかない


しほ「…」モグモグ



お母様がいるからだ。

昨晩は書斎に篭っていたので一緒に食事をすることはなかったが、今朝は仕事が片付いたのだろう。こうやって食卓を囲んで一緒に食事をしている。

それにしても何なんだこの超重戦車級の威圧感は。

食事をするだけでこうも殺気を放つ人がいるのかと問いたくなるほど禍々しいオーラを放っている。これでは苦しくて飯の味などわからない。

親子水入らずで食事をしているのに、被告人席にいるような気分だ。

そしていつになくお母様の機嫌が悪い。エリカ、お前、お母様に何をした…。


しほ「みほ」

みほ「はいっ?!」ビクッ

しほ「帰って来るのなら一言連絡を入れるべきです」

みほ「ご、ごめんなさい…」オロオロ

まほ「お母様、みほは確かに連絡を…」

しほ「私はみほに話しているのです」

まほ「うっ…」

しほ「まだあなたを認めたわけではありません」

みほ「…」

しほ「一度は西住流から背を向けたこと。それが何を意味するかしっかり考えることね」

みほ「………はい」





昨年の決勝戦を境に、みほとお母様の間に絶望的なまでに深い溝ができてしまった。

あの時、みほは川に転落した味方を助けるべく自らが乗る戦車を飛び出し助けに向かった。そして全員が無事に救出された。

しかし、その代価として大会10連覇を逃してしまったことはみほにとって致命的なものとなり、多くの者がみほに否定的な態度を取った。

批判の眼差しに耐えきれなくなった結果、みほは黒森峰女学園を去り、遠く離れた大洗女子へ転校していった…。

それはお母様にとって"逃走に次ぐ逃走"と見做され、みほが大洗の隊長として我々黒森峰を破るほどに成長したにもかかわらず、今も軋轢は続く…。


かつてお母様は実の娘であるみほを"勘当する"とまで言った。

それほどまで深い溝が出来てしまった親子関係を修復するのは決して容易なことではない。

だから長い時間をかけ、少しずつ、失った信頼を取り戻していくしか他に道はないのだ。

そして、それがたとえ何年かかったとしても。少しでも改善に繋がるのなら私は何だって協力しよう。

私はみほの姉なのだから………。





エリカ「お母さん!!!」バン!!!




しほ・まほ・みほ「」ビクッ

エリカ「何で久々に帰ってきた娘にそんな冷たい態度取れんのよッ!!」

まほ「エ、エリカ、落ち着け…

エリカ「姉さんは黙ってなさい!」

まほ「ぐ」

エリカ「事あるごとに西住流西住流って」

エリカ「娘と西住流どっちが大事なのよッ!!」

しほ「それは…」

エリカ「そんなの娘に決まってるじゃないのッ!!!」




しほ「ぐ…」

みほ「ぁゎゎゎ…」オロオロ

エリカ「それともお母さん…」


エリカ「みほとは血が繋がってないからそんな事言えるってわけ?!」


しほ・まほ・みほ「え゛っ!?」



それ以上いけない!

みほも私もちゃんとお母様と血縁関係にある。

お前の記憶違いなだけだ!



まほ「し、心配するな…私もみほもエリカもちゃんとお母様の娘だ!」

みほ「えええっ!?」



くそっ、今度はそっちか!




しほ「………そうね」


まほ・みほ「えっ…?」

しほ「私は西住流のことばかり考えていて、大事なことを見落としていた」

しほ「ごめんなさい。みほ」

まほ・みほ「!!!」

しほ「そして………」



しほ「お帰りなさい」フッ



みほ「お…お…おおお…」





みほ「お母さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」ギュッ




みほ「お母さんお母さんお母さんお母さぁん………」

しほ「ふふっ…」ナデナデ

エリカ「やっと分かってくれたわね…」

しほ「えぇ。感謝するわエリカ」

まほ「…」


  _,,_
 (;゚д゚)

長い年月どころかたった1分で片付いてしまった。

すごいなエリカ。家元が相手でも一切怯むことなく突撃する命知らずで馬鹿なお前は確かに西住流だ。見直したぞ。

これでみほも家のしがらみに囚われることなく、いつでも我が家に帰って来ることが出来て丸く収まった。

涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらお母様に抱きつくみほを見るに、相当寂しかったのだと思う。つられて私まで涙が出そうになる。本当に良かったな、みほ。




ただ、身内が何も出来なかったものを赤の他人であるお前がこうも簡単に解決してくれては私の立つ瀬がない…。



エリカ「あ! みほばっかりずるい! 私だって!」ギュッ

みほ「お母さぁん」

しほ「ふふっ。二人とも甘えん坊ね」



あんな幸せそうなお母様の顔を見るのは何年ぶりだろうか。これが親子のあるべき姿なのだが、蚊帳の外にいる私はその風景が羨ましい。

そしてお母様にとってエリカはもう完全に我が娘という扱いなのですね。西住流の後継者でありながら柔軟な対応がとれない愚かな私をお許し下さい。



しほ「ほら。料理が冷めてしまうわ。早く食べなさい」

みほ・エリカ「はーい」

まほ「…」モグモグ



私だけ他所の子みたいな気分だ。

そして他所の子であるエリカの方が西住さん家の子をやっている。

…悲しくなってきた。



~~~




【II号戦車内】


みほ「お姉ちゃん?」

まほ「ん?」

みほ「これからどこに行くの?」

まほ「デパートに行ってエリカの服とか色々を買ってだな。その後はどうするか…」

みほ「じゃぁついでにボコ見に行こうよ!」

エリカ「え゛っ?!」

みほ「どうしたのエリちゃん?」

エリカ「ボコってあの満身創痍のぬいぐるみ…?」オロオロ

みほ「うん! そうだよ♪」



あのぬいぐるみ、"ペコ"じゃなく"ボコ"だったか。

じゃぁペコは一体なんだろう。何処かで聞いた気がするのだが、思い出せん。

"ペコ"というのだから毎日ペコペコ頭を下げるような奴だろう。サンダースあたりにいそうだな。




エリカ「絶ッッッ対駄目だからね! あんなの部屋にあったら呪われる!!」

みほ「何でよ?! ボコはすごいのに!!」

エリカ「絶対やだ! あのボコだらけの部屋入って地獄見たんだからね!!」

みほ「あっ、入ったんだボコミュージアム! 良かったでしょー♪」キラキラ

エリカ「全ッッッ然良くないわよあんなの!!!」

みほ「そんなこと無いよ! エリちゃんはボコの良さを知らないだけだよ!」

みほ「家に帰ったらボコの録画ビデオ一緒に見よう? 久々のオールだよ♪」ウキウキ

エリカ「嫌だって言ってるでしょーが!!」




まほ「一緒にビデオ鑑賞するのはいいが、部屋が汚れる覚悟だけはした方がいい」

みほ「へ?どうして???」

まほ「糞尿を <ガン!!> 痛ッ!?」

エリカ「しつっこいわねぇ!!」

みほ「フンニ…? ドイツの戦車だっけ?」



それを言うならフンメルだ。あと戦車ではなく自走砲。

エリカのヤツ。なにも砲弾ぶつけることはないだろう。死んだらどうするんだ。


ちなみに我々一同は先述の通り、戦車に乗ってデパートへ向かっている。

というのも、食後にお母様が『そういえばエリカの服が無かったわね』と言うので、エリカとみほを連れて衣類その他諸々を買いに行くことにしたのだ。

しかし、服屋の衣装一式買い占めてもなお余るような大金を渡されたので、正直どうしたものかと思っている。

服に下着に寝具にあとは…ボコ? みほ、それは自分のお金で買いなさい。

私も服とか靴とか色々買いたい。あまり着る機会は無いけど、昔の服はそろそろキツくなってきた。




【デパート 洋服売り場】


まほ「お前たちの好みはわからないから各々好きなもの買って来るといい」

みほ・エリカ「はーい」



「エリちゃんにはコレ似合うと思うよ!」

「何よこれ…」

「ボコの着ぐるみパジャマ~♪」

「嫌よそんなの!」

「えー」

「ちゃんとしたのを買いなさいよ」

「ちゃんとしたのって?」

「コレとか」つ[ネグリジェ]

「えっ………」

「何よ…」

「それスケスケだよ…?」


ワイワイ

キャッキャッ


まほ「ふぅ…」



楽しそうで何よりだ。服の選定は二人に任せておこう。

私はベンチに座ってのんびりコーヒーでも飲みながら二人が戻ってくるのを待つことにした。





「あれ、隊長?」

「ホントだ!」



まほ「ん?」

赤星「おはようございます隊長」

直下「珍しいですね。こんな所でお会いするなんて」

まほ「あぁ。赤星に直下か。奇遇だな」

直下「隊長もこういうお店に来るんですねー」

まほ「私だって多少はお洒落をする」

赤星「そうですよ直下さん。隊長に失礼ですよ」

直下「えへへ、失礼しました」ペコリ

まほ「まったくだ」



知らない人はいないと思うが、赤星と直下は我が黒森峰の生徒だ。

先の戦車道大会の決勝戦、そして大学選抜チーム戦で活躍した(活躍したか?)2人だ。

副隊長であるエリカがダウンした今、臨時の副隊長代理をこの2人に任せようと思っていたのだが丁度いい。



まほ「良い機会だ。二人に話しておきたい事がある」

赤星「話しておきたいことですか?」

直下「何でしょう?」

まほ「ああ。実はだな…」


みほ「お姉ちゃん」

エリカ「姉さん」


まほ「あ」


直下「ありゃ。副隊長と副隊長もいる」

赤星「違うよ。みほさんと副隊長」



その通りだ赤星。副隊長は一人だけだ。

これからお前たちに代役を務めてもらうので2人になるけどな。



みほ「あっ、赤星さんと直下さん。お久しぶりです」

エリカ「あなた達こんな所で何油売ってんのよ」

まほ「エリカ」

エリカ「うっ…」


赤星「副隊長、意識戻られたのですね!」

エリカ「えぇ。腕はこんなだけど問題ないわ。心配かけたわね」

直下「良かった。てっきりもう戻らないかと……」

エリカ「縁起でもないこと言わないでくれるかしら」ハァ...


ああ。この部下に対するツンツンした態度はまさにエリカだ。

家でのゴロゴロフニャ~なエリカが別人のように思える。


赤星「それで隊長、お話というのは?」

直下「あ、そうですよ」

まほ「うむ」


エリカがこの場にいるタイミングで話すべきか否か迷ったが、エリカがこんな状態である以上、有耶無耶ではまずいだろう。

だから思い切って話すことにした。



まほ「エリカは意識は戻ったが、まだ病み上がりだ。そして何より片腕が使えない状態だ」

エリカ「…」

まほ「そのため、お前たち2人に副隊長代理として、エリカが復帰するまでのサポートを任せたい」

赤星・直下「!」

まほ「構わないな? エリカ」

エリカ「まぁ…仕方ないわね。腕がこんなだし」

まほ「…」

エリカ「不本意だけれども、あなた達2人に手伝ってもらうわ」

エリカ「副隊長代理としてその大役、しっかり果たしてもらうわよ?」

赤星・直下「はい!」ビシッ

エリカ「でも、姉さんはああ言うけれど。腕以外は何とも無いから安心して頂戴」

まほ「エリカ、無理はするな」

エリカ「わかってるわよ。ホントに心配性ね」


赤星・直下「姉さん?」


まほ「あ゛っ!」

エリカ「…何かしら?」



"何かしら"じゃない!

事情を知らない2人の前で「姉さん」は不味いだろうが!

それに何が"腕以外は何とも無い"だ。お前の頭は今まさに異常事態なんだぞ!!



赤星「いえ…、今たしかに"姉さん"って…」

エリカ「そうだけど、それが何か?」

直下「しかも敬語じゃないですし、一体どうしちゃったんです?」

エリカ「当たり前じゃないしま…

みほ「ほ、ほら! アンチョビ高校のアンツィオさんだって後輩たちに"姐さん"って呼ばれているじゃないですか?! あんな感じですよ!!」

赤星「そうなんですか…?」

直下「へぇ…」



見事なフォローだみほ。

だが惜しい。アンチョビ高校のアンツィオではなく、アンツィオ高校のアンチョビだ。

…安斎が聞いたら泣くから注意だぞ。





直下「じゃぁ私達も隊長のこと"姐さん"って呼んでも良いですか?」


赤星「あっ、なんか良さそうかも!」

みほ「ええっ!?」



良いわけないだろ。何てことをしてくれたんだみほ。

黒森峰がノリと勢いだけのポンコツ極貧チームになってしまうじゃないか。

…安斎が聞いたら泣くから内緒だぞ。



エリカ「本気で言ってるのあなたたち?」ギロッ

赤星・直下「うっ…」



よくぞ言ってくれた。褒美としてオペルブリッツを買う権利をやろう。

そうだそうだ。黒森峰は規律を重んじるから強豪校である。上下関係はしっかりしておかないとチームの質が低下する。

節度や上下関係は何よりも大事なんだぞ。




エリカ「姉さんと呼んで良いのは身内だけよ」



赤星「えっ?」

直下「身内…?」

みほ「」←レ●プ目



お前もう喋るな! どんどん面倒くさい方向に話を進めおって!!

こうなったら逃げ…いや、逃げるのではなく後退的前進だ。



まほ「…さて我々はそろそろ行くとする。赤星、そして直下、先程の件忘れずに頼んだぞ?」

直下「え、あの身内ってどういう?」

まほ「聞 こ え た か ?」ギロッ

赤星・直下「はいぃっ!了解しましたぁ!!」

まほ「では週明けに会おう」



ああ。生きた心地がしない。

こんな調子ではエリカを学校に行かせられないな…。




エリカ「隊長って大変ね。あんな横着な部下をまとめないといけないのだから…」

まほ「お前が一番横着だ」

エリカ「そんなことないわよ。…そういえばみほも隊長だったわね。忘れてたわ」

まほ「…」

みほ「うん。でもみんな優秀な人たちだからお姉ちゃんほど苦労はしてないかな」

エリカ「そう。…姉さんそのうちストレスでハゲるかもね」

まほ「そんなことあってたまるか」

みほ「隊長がハゲじゃちょっと格好つかないかも…」

まほ「そんなことない。ハゲても格好いい人はいくらでもいる。ステイサムとかヴィン・ディーゼルとか」

エリカ「でもハゲ森峰と言われそうね」

まほ「やかましい」

みほ「はげもりみね……」


エリカ「…で、次はどこへ行くのかしら?」

まほ「そうだな……というかお前たち服は買ったのか?」

エリカ「当たり前じゃない」

みほ「うん。いっぱい買ったよ」

まほ「そうか。それは良かった」

エリカ「ちゃんと姉さんの分も買ったから安心して良いわよ」

まほ「え」


みほ「はい」つ[ボコの着ぐるみ]

エリカ「はい」つ[ネグリジェ]


まほ「」

みほ「えー…そんなスッケスケの着たらお姉ちゃん痴女さんチームになるよぉ…」

エリカ「あんたのその着ぐるみ着せたら姉さん生気吸われるわよ!」


ワイワイ ガヤガヤ


まほ「」つ[ネグリジェ] つ[ボコの着ぐるみ]



お前たちの服選びのセンスには異論を唱えたい。

何故私の服を選び、何故普段着ではなく寝間着なのだ…。



【下着売り場】


みほ「次は下着売り場?」

まほ「あぁ。エリカの下着が無いからな。買わねばならん」

みほ「…ということはエリちゃん今ノーパン?!」

エリカ「そんなわけ無いでしょ! ちゃんと履いてるわよ姉さんのを!」

みほ「お姉ちゃんのを?」

エリカ「えぇ。無地の白いモコモコしたやつ」

みほ「それはちょっとかわいそう…」



当たり前だ。

中学の頃から履き続けてたが故にボロボロで雑巾候補のやつなのだからな。

それよりエリカ、人の下着事情を公にするんじゃない。


みほ「エリちゃんこういうの似合うんじゃない?」

エリカ「どれよ」

みほ「じゃーん」


[ボコプリント]


エリカ「…あんたボコ以外の選択肢ないの?」

みほ「えー」

エリカ「もっと大人なヤツを探しなさい」

みほ「大人なヤツって?」

エリカ「例えばこういうの」


[黒のレースの下着]


みほ「えぇ…」

エリカ「これだったら何処へ行っても恥ずかしくないわ」

みほ「でもお姉ちゃんこういうの履かなさそう…」

エリカ「確かに…」



ちょっと待てお前たち。何故私の下着を選んでいるのだ。

エリカの下着を選べと言ったはずだ。私は十分間に合っている。



それから2人はあれよこれよと言いながら幾つか下着類を買った。…私の分まで。



~~~




【再びII号戦車内】


みほ「それにしてもいっぱい買ったね!」

エリカ「こんなに買い物したの久しぶりよ」

みほ「でもボコは…」

エリカ「だめ」

みほ「ぶぅ!」



みほの言う通りやたら買いまくった。II号の車内が狭いくらいに。

…だが、ここまでたくさん買う必要はあったのだろうか。

エリカの生活用品のほとんどは黒森峰の学生寮にあるので、本当に必要ならばそちらから引っ張って来れば良い。

もっとも、私もエリカもいずれ学園艦には戻らないといけないので、そうなったらエリカは再び寮生活となるわけだ。

そう考えるとこんなに買い込んでも意味が無いような気もするが。


寮生活といえばエリカは一人暮らしは大丈夫なのだろうか?

片腕が使えないので不便なのは勿論、怖いからと私の布団に潜り込むような状態だ。とてもじゃないが一人暮らしなど出来る状態ではない。

実家にせよ寮生活にせよ、エリカが元に戻るまでは私が面倒を見てやるしかないか。…みほ、もう一度黒森峰に戻ってこないか?



~~~~


【まほの部屋】


まほ「ふむ…」ペラッ

まほ「なるほど」ペラッ

まほ「これは使えそうだな…」ペラッ



みほやエリカが服や雑貨を買い漁っている間、私は本屋で戦車道に関する本を何冊か買っていた。

西住流だとか隊長という立場的なものもあるが、やはり純粋に戦車が好きなので、こういった本は定期的に買って読んでいる。

そして今読んでいるこの本では『ツィメリット・コーティング』という、ドイツ戦車特有の仕様についての解説が書かれている。

ティーガーやパンター、IV号といった主力戦車やそこから派生する駆逐戦車や突撃砲の装甲には、磁石によって吸着する地雷を引っ付かなくするための特殊コーティングが施されており、その表面は波打ったような模様をしている。

戦車道にて吸着地雷を使う者はいないので実装しても重量が増すだけだが、ドイツ戦車のみに見られるユニークな特徴だけに見掛け倒しで終わってしまうのが惜しい。




まほ「ふむ…」ペラッ

エリカ「」ジー

まほ「…そういうことか」ペラッ

エリカ「」ジー

まほ「これも使えそうだな」

エリカ「」ジーーー



まほ「…で、どうしてお前は私の横にいる」



どういうわけかエリカは私の横にピッタリ引っ付いてじーっと本を目で追っている。


  私
  ↓

( ゚д゚)(゚д゚ ) ←エリカ
 ヽ_っ⌒/⌒c


こやつも黒森峰の副隊長なので、戦車の知識・理解を深めようとする姿勢は大いに歓迎する。だが、いかんせん横にピッタリ貼り付かれては読書に集中できん。

買った本は他にも何冊かあるのだからそれを読めば良いのに、『コレがいい』と言うから不思議なやつである。

私の体にドイツ戦車のようなコーティングを施せばエリカも引っ付かなくなるだろか?


エリカ「だって退屈ですもの」

まほ「知らん。自分の部屋でコサックダンスでもしていろ」

エリカ「やだ。あの部屋怖い」

まほ「今ならみほがいる。一人ならまだしも二人いれば怖くない」



ちなみに、みほは帰宅すると同時に自分の部屋…ではなく、例のボコランド西住店へ閉じこもってDVDを観ている。相当気に入っているようだ。

楽しそうな表情で『お姉ちゃんも一緒に観よう♪』と誘うので参加したが、3分で飽きたので今はこうして自室で本を読んでいる。

みほによるボコランド侵攻によって居場所を失った難民エリカは、また私の部屋でくつろいでいる。尿瓶でも用意して仲良く観ていれば良かったものを。




エリカ「イヤよ。みほのやつ私の隣で念仏唱えだすもん」

まほ「念仏?」

エリカ「ヤーッテヤルヤーッテヤルって取り憑かれたみたいに変な歌うたうのよ」

まほ「良いじゃないか。念仏ならオバケは寄って来なくなるぞ」

エリカ「とにかく嫌なものは嫌なの。姉さんの本読んでる方がまだマシよ」



随分言ってくれるなこいつは。

余談だが昨晩からエリカは私にぴったり引っ付くようになった。

腕が使えないとか部屋が怖いとか色々事情はあるだろうが、姉妹とはここまで行動を共にするものなのだろうか?

今この部屋にいないみほくらいが姉妹としての距離感なのだと私は思っていたのだが。


エリカ「次のページ」

まほ「ん」ペラッ

エリカ「」ジーッ

まほ「…」ペラッ

エリカ「あ! 今のページまだ読み終わってない!」

まほ「知らん」

エリカ「戻るわよ」ペラッ

まほ「おい」


エリカ「ティーガーIIと同じ71口径8.8cm砲を搭載した戦車を3つ答えよ」


まほ「は?」

エリカ「ティーガーIIと同じ71口径8.8cm砲を搭載した戦車を3つ答えよ」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「ヤークトパンター、エレファント、あと一つは…」

エリカ「はい残念。答えはナースホルン。やっぱりちゃんと読んでないじゃない!」



急に何をのたまうのかと思えば、先程のページに記載されていた"主砲"についてだった。

"71口径 8.8cm砲"はエリカが乗るティーガーIIをはじめ、ヤークトパンター、エレファントといった我が校の駆逐戦車にも搭載されている。

そしてその砲は、マウスやヤークトティーガーの12.8cm砲に次ぐ最強クラスの砲であり、他校の戦車をアウトレンジから撃破可能な威力をもつ。

黒森峰で戦車道を受講する者ならば"知ってて当然"の知識といっても過言ではない。

それをコイツはしたり顔で私に問うてきたのだ。だが…




まほ「は?」ギロッ

エリカ「な、なによ…」

まほ「ナースホルンは戦車じゃない。(対戦車)自走砲だ」

エリカ「…似たようなものじゃない」

まほ「いいや全然違う! 自走砲は旋回式砲塔がない。それに装甲も薄い。前線で殴り合う戦車や駆逐戦車とは運用思想が異なる」

エリカ「ふ、ふーん…」

まほ「バズーカと迫撃砲くらい違うと言っても過言ではない」

エリカ「じゃあ」

まほ「なんだ?」


エリカ「自走砲と突撃砲と駆逐戦車ってどう違うの?」


まほ「…」

エリカ「…」



まほ「自走砲のうち、砲兵科に行ったのが突撃砲で、戦車部隊に行けば駆逐戦車となる」

まほ「もっとも、突撃砲や駆逐戦車は管轄部隊間の縄張り争い的な背景もあり、定義は曖昧なものだ」

エリカ「ほう…」

まほ「だから大雑把に、歩兵の支援が突撃砲、戦車の支援が駆逐戦車と覚えておけばいい」


エリカ「でも大洗のIII号突撃砲は普通に対戦車戦闘しているじゃない?」


まほ「…」

エリカ「…」


まほ「それは戦況の変化につれて、歩兵の脅威がトーチカや塹壕から戦車へ変わり、突撃砲にも対戦車戦闘能力を求められた背景にある」

まほ「その他、戦線の拡大や戦況の悪化による戦車の不足を補うために対戦車車両が必要になったのも理由の一つだ」

エリカ「ふーん」


エリカ「じゃぁ対戦車自走砲と駆逐戦車は?」


まほ「…」

エリカ「…」


まほ「駆逐戦車は対戦車自走砲の一種という見方もあるが、駆逐戦車は対戦車自走砲と違い、敵戦車の砲撃にもある程度対抗可能な装甲を持っている点が大きな違いだ」

まほ「例えばお前が例に挙げたナースホルンはオープントップで装甲も薄い」

まほ「対してヤークトパンターやエレファントは密閉型の戦闘室を持ち、装甲も戦車と同等クラスだ」

エリカ「へぇ…」





まほ「おいエリカ」ギロッ


エリカ「な、なによ…」

まほ「今の内容は初年度のうちに座学で学ぶはずだが?」

エリカ「え。そうだったかしら?」

まほ「ああそうだ」

エリカ「…記憶違いじゃないの?」

まほ「それはない」

エリカ「ど、どうかしら…」

まほ「何故なら」


まほ「私が教官として指導したのだからな」


エリカ「」



こいつめ、真面目に受講していたと思いきや完全に頭から抜けているではないか。

今の内容は初期にやった基礎的なものだというのに。

ん? もしや私の教え方がいけなかったのか?

…念のため週が明けたら全員にテストしてみるか。結果を見るのが怖いが。



エリカ「そ、そりゃ人間だから忘れることだってあるわよ!」

まほ「そうだな。人間だから忘れる」

エリカ「でしょ?」

まほ「だがお前は腐っても副隊長だ」

エリカ「腐ってもって失礼ね!」

まほ「そんな腐ったエリカも私が卒業したら隊長になる」

エリカ「そ、そうよ? 腐ってないけど」

まほ「その時、部下に戦車のことを尋ねられ、『わかりません』と答える隊長をどう思う?」


エリカ「………(想像中)」

      。
       O
        ○
*************************************




部下「西住隊長! 質問があります!!」

まほ「言ってみろ」

部下「ティーガーIよりティーガーIIの方が火力も装甲も上なのに、どうして隊長はティーガーIに乗ってるのですか?!」

まほ「え」

部下「どうしてですか?」

まほ「そ、それはだな…」

部下「わかりました! 根性ですねっ!!」

まほ「おっ、そうだな」

部下「みんな! 気合と根性さえあれば黒森峰は最強だ! 黒森峰ファイトぉぉぉぉぉ!!!」

「えー…かったるいっスよー」

「根性より今はケーキが食べたい。そして眠い」zzz

まほ「…」


まほ「お前らの練習態度はなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 本当に強くなろうって気があんのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



*************************************
      ○
     o
    。


エリカ「馬鹿なの?」

まほ「…」



私の目を見て真顔で言い放ちやがった。

数秒の沈黙の間に何を想像したのか知らんが、謂れのない侮辱を受けた気がして頭に来た。

この軽口叩きの鼻っ面をへし折ってやろうかとも思ったが、既のところで理性が勝った。



まほ「そうだな。エリカの言う通り、そんな隊長は馬鹿だ」

エリカ「でしょう?」

まほ「あぁ。次期隊長となるお前がそんな馬鹿では困る」

エリカ「私は馬鹿じゃ


まほ「だからテストしてやる」


エリカ「え」

まほ「今から幾つか問題を出す。お前はそれに 完 璧 に 答えろ」

エリカ「ちょっと待ちなさい! 誰がやるって言ったのよ!?」

まほ「私がやれと言った」

エリカ「私はやらないわよ! 勝手に決めないでちょうだい!」

まほ「そうか」

エリカ「そうよ」


ピポパ

プルルルル

プルルルル



エリカ「?」

まほ「もしもし。お楽しみ中のところ済まないな、みほ」

エリカ「何で家にいるのに電話かけるのよ…」

まほ「はは。何の事はない。みほに頼みたいことががあってだな」


まほ「ボコの魅力に目覚めた。部屋中をボコまみれにしたい」


エリカ「え゛っ!?」

まほ「ん? DVD見終わってから? はは、構わない。それではよろしく頼むよ」

ピッ


エリカ「」




まほ「さて、エリカはテストをしないと言うから、私は ボ コ の ぬいぐるみで遊ぶとしよう」

エリカ「」ガタガタ

まほ「エリカがテストを受けないのは実に残念だが、ボ コ の ぬいぐるみで遊べばきっと楽しいに違いない」

エリカ「」ガクガク

まほ「嗚呼、楽しみだな」

エリカ「わかったわよ!! やれば良いんでしょぉ!!!」

まほ「最初からそう言え」



ポンコツにはポンコツなりの法則があるようで、エリカが言う事を聞かなくなったら「ボコ」を出して従わせることにした。我ながら良い案だと思っている。


さて、予告通りエリカにはいくつかテストを実施したが、やはり散々な結果だった。

エリカですらこのザマならば他の隊員たちはどうなるのだろうか。

考えるだけでも恐ろしいが放置するわけにもいかん。やはり週が開けたらテストを実施しよう…。



エリカ「ふ、フン…。基礎は知らなくても後から覚えれば良いだけのこと」

エリカ「それより他校に関する情報を入手することの方が試合で勝つ上では重要よ!」

まほ「そんなことあるか。基礎を軽んじては一流の戦車乗りにはなれん」

エリカ「じゃあ姉さん、転校先でみほが何て呼ばれてるか知ってる?」

まほ「は?」

エリカ「みほのアダ名」

まほ「そんなものは知らん。第一それのどこが"他校に関する情報"なんだ」

エリカ「私知ってるわよ」

まほ「…なに?」

エリカ「みほのアダ名」

まほ「…」

エリカ「…」


まほ「…言ってみろ」




エリカ「"みぽりん"」

まほ「"みぽりん"…?」

エリカ「こんなの常識よ? アンツィオ高校だって知ってるレベル」

まほ「私は知らんぞ。そんなこと」

エリカ「姉さんが情弱なだけよ」

まほ「失礼な。そういうお前はどこで情報を得ている?」

エリカ「戦車道まとめサイトよ」

まほ「まとめさいと?」

エリカ「…コレよ」スッ



そう言うとエリカは得意気に携帯電話を私に見せつけた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
                  Y⊿目8% 12:26


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        ●コンテンツ●

 1.【大洗が悪い】今日のみぽりん【軍神
  ティーガース】(334)
 2.お前ら戦車乗ってる時にウンコしたく
  なったらどうすんの?(890)
 3.エレファントに乗ると四方八方から集
  中砲火食らう件(413)
 4.野獣先輩西住流家元説(514)
 5.面接で「戦車道やってました」って
  言った結果wwwwwwwwww
 6.水虫が治らん…(52)
 7.にるぎりワッショイだけで1000目指す
  スレ(12)
 8.…………(2)
 9.黒森峰の戦車全部チハにしたら強豪校
  じゃなくなるんじゃね?(682)
 10.蝶野だけど質問ある?(1)
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     開始日 2012/12/24
     更新日 2017/09/24

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      魔法のぽーらんど

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


まほ「…何だこれは」

エリカ「言ったでしょ。戦車道まとめサイト。…本当に知らないの?」

まほ「言ったはずだ。そのような俗物は知らん」

エリカ「だから姉さん情弱なのよ…」

まほ「いらんお世話だ。大体この"黒森峰の戦車全部チハにしたら"というのは何だ。冗談も休み休み言え」

エリカ「"火力も装甲も低いチハを使っても黒森峰は優勝出来るか"って話でしょう?」

まほ「当然だ。厳しい訓練を耐え、心身を限界まで鍛え抜いた強者集団が黒森峰だ。戦車の性能如きで試合を左右される軟弱ではない」





エリカ「なら次の試合はチハだけで挑む?」


まほ「…なに?」

エリカ「次の試合。全員チハで参戦するのよ」

まほ「…」

エリカ「…」


まほ「それは不可能だ。予算が下りん」

エリカ「どうかしら


グゥゥゥゥ.....


エリカ「」

まほ「…」

エリカ「な、何よ…?////」

まほ「そろそろ昼食の時間だな」

エリカ「今日のお昼は何かしら?」

まほ「もちろんカレーだ」



~~~




エリカ「姉さぁぁぁん!!」

まほ「うるさいな。今度は何だ」



部屋を出たエリカが血相変えて引き返してきた。

昼食に人肉でも出たのかと冗談を言ってみたら『その方がずっとマシよ…』と震えながら言う。

食卓に人肉が並ぶことほど怖い事などそう無いと思うが、どうやらエリカは人肉以上に怖いものを見たようだ。



エリカ「廊下が…廊下がぁぁ………」

まほ「そんなこと気にする歳でもないだろ」

エリカ「老化じゃなくて廊下よ!!」

まほ「…うるさいやつだな全く」



【廊下】


まほ「なんと…」

エリカ「」ガタガタガタガタ



そうだ、忘れていた。

先ほどエリカがテストをサボろうとするので、制裁としてみほに『部屋中をボコまみれにしたい』とお願いをしたのだった。

私の部屋がボコまみれになることはなかったが、代わりに廊下がボコまみれになっていた。

いつの間にこんな設営作業をしたのかわからないが、ボコは廊下の両脇に向かい合うように設置されている。なんだか神秘的な光景だ。

そしてそれはみほにとっては花道だがエリカにとってはグリーンマイルのようで、私にしがみついてガタガタと震えている。デジャブ。




まほ「こら離れろ」

エリカ「い、嫌よ! 離れたら私殺される!!」ガタガタ

まほ「誰に殺されると言うんだ」

エリカ「コイツらによ!!」

まほ「動かないから心配するな。そしてさっさと歩け。私は腹が減った」

エリカ「う、嘘よ! 絶対動くから!!」

まほ「なら動いた時に考えろ」

エリカ「な、なんで姉さん平気なのよ!? ちゃんと脳ミソ入ってんの!?」

まほ「当然だ。お前のより高性能なやつがギッシリ詰まっている」

エリカ「嘘おっしゃい!!」



兎にも角にもピーピーやかましいやつだ。ぬいぐるみが並んでいるだけだというのに。

これが17ポンド砲ならば話はわかるが、モコモコのぬいぐるみ相手に何を怯えろというのだ。



カチッ...


まほ「ん?」



オイラボコダゾォォォォォォォォォォォォ!!!!!

ヤーッテヤルヤーッテヤルヤーーーッテヤルゾ!!

パンパカパンパンパーン!!

カーモン!カーモン!カーモン!ユーキャンデス!!

ジャラジャラジャラ



まほ「お」


エリカ「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」



歩いた振動でセンサーが反応したのだろうか。

ボコロードを半分ほど渡ったところで、急にぬいぐるみに内蔵されていた機械が作動して音が鳴り出した。

音声だけでなくブルブルと振動したり、ライトがピカピカ光ったりするようだ。近頃のぬいぐるみはなかなか多機能である。子供にプレゼントしたらきっと喜ぶだろう。

ただ、ぬいぐるみが賑やかであるかどうかより、エリカが相当まずいことになっている。

腹の底から悲鳴をあげたと思ったら泣き出して、私にしがみついて万力のようにギチギチと締め上げてくる。痛い。腕が痛い。




まほ「…というわけです」

まほ「ええ、みほが…いえ、私も悪いんです。いえ全て私の責任です」

まほ「はい…。今以上に厳しく取り締まろうと思っています」

まほ「…では、失礼します」


まほ「………」



エリカのただならぬ悲鳴にお母様がかけつけた。

そして結論を言うと、諸悪の根源であるみほはお母様に叱られた。私まで一緒に怒られた。


"長女としての自覚を持て"

"いい年して妹を泣かすな"

"早くご飯食べなさい"

"ぬいぐるみは後でちゃんと片付けろ"


私が気を抜くことなど無いと思っていたが、このような大失態を犯すのだから、何処かに気の緩みがあったのだろう…。

私としたことが………


エリカはというと、接着剤で貼り付けたかのように私にベッタリと引っ付いたまま離れようとしない。

「怖い」、「食われる」、「おヘソ取られる」といったうわ言をボヤきながらガタガタ震えている。

そんなにくっつくな。ご飯が食べれないだろう。


ちなみに昼食はキャベツとモヤシが山のように入ったラーメンだった。

菊代さん曰く、お母様が作したとのことで。修行をしていた学生時代によく食べたラーメンとのこと。

大蒜の匂いがすごい。



みほ「…」ズルズル

まほ「みほも手伝ってくれ。このままではラーメンが食べれない」

みほ「しぃらない」シャキシャキモグモグ

まほ「おい…」

みほ「…」ズズ...

まほ「お前もだエリカ。いつまでもしがみついてないで離れろ。ラーメンが伸びてしまう」

エリカ「…む、無理に決まってるでしょ…!」

みほ「…」ズゾゾー



自分が撒いた種とはいえ、こういう形で返ってくるとは思わなかった。

エリカの記憶がおかしくなってからというもの、私の作戦はことごとく裏目に出てしまう。



みほ「早く食べないとラーメンのびちゃうよ?」

まほ「私だって早く食べたい。しかし動けんのだ」

エリカ「」ガタガタブルブル

まほ「こいつのせいでな」

みほ「そう」ツーン



みほは機嫌が悪い。

何故なら『部屋中をボコまみれにしたい』と頼まれ、いざ注文通りにしたらお母様に叱られたわけだ。

それは"カレーだと思って要塞を構築させたらノルマンディーに上陸した"というくらい予想外で頭に来ることだ。みほの気持ちも理解できる。

しかし、空腹時にラーメンが目の前に置かれ、それを食べることが出来ないこの状況は、それらよりも理不尽だと私は思う。



まほ「エリカ、いい加減離れろ」

エリカ「い、嫌よ…だってクマが…!」ガタガタ

まほ「…」


まほ「クマのぬいぐるみに襲われない方法、知りたいか?」


エリカ「なんですって!?」

まほ「クマのぬいぐるみに襲われない方法だ。それを会得すればお前も安全だろう?」

エリカ「そんなモンあったら苦労しないわよ! バカじゃないの!?」

まほ「私は長年この家に住み着いてるが、今の今まで一度も襲われたことなんて無い」

エリカ「!!!」

まほ「それは何故だかわかるか?」

エリカ「………姉さんに魅力が無いから?」

まほ「もう知らん。お前なんかボコに襲われて爪先から頭蓋骨まで残さず食われてしまえばいい」



なにが"魅力が無い"だ。失礼にも程がある。

自惚れではないが戦車道に関しては他の追随を許さぬ実力を持っている。

そしてそれはお母様も高く評価して下さっている。

私に魅力がないわけ無いだろう。



エリカ「嫌よ!! そんなの絶対イヤ!!」ギチギチ

まほ「んごがっがあがごげっんががっ…ぐ、ぐるじ……はな…れろ…」パンパン

エリカ「で!! どーして姉さんは襲われないのよっ!!?」

まほ「…それは…だな………」ゼェゼェ...



まほ「ごはんを食べることだ」



エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

みほ「ごちそうさまでした」

まほ「…」

エリカ「…馬鹿なの?」

まほ「…」




まほ「…エリカ、お前はニンニクくさい奴は好きか?」

エリカ「は?」

まほ「ニンニクくさい奴は好きか?」

エリカ「…そんなの嫌に決まってるでしょ」


まほ「それはボコも同じだ」


エリカ「え」

みほ「大丈夫だよ。ボコはニンニクのニオイなんk

まほ「幸いにして今日の昼食はニンニクがたっぷり入ったラーメンだ!」

エリカ「そうね…?」

まほ「これ食べればお前は瞬く間にニンニク臭くなれる」

エリカ「はぁ」


まほ「つまり、ボコがお前を避けるようになる」


エリカ「!」

まほ「さぁ、食べよう」

エリカ「」パッ



ようやくエリカは私から離れた。

そして自分の席に戻り、ニンニクがふんだんに入ったラーメンを黙々と食べ始める。

モグモグ作戦いや、モクモク(黙々)作戦の成功だ。



みほ「む…」

まほ「どうしたみほ?」

みほ「モクモク作戦はこんなのじゃないよ」

まほ「黙々と食べるから黙々作戦なのだ」

みほ「違うもん!」



モクモク作戦。

それはかつてみほが我々黒森峰と戦った時に敢行した作戦の一つ。

我々の攻撃を回避し距離を取るため、一斉にスモークを焚いて視界を遮るというものだ。

シンプルな内容ではあるが、チームの連帯が取れてなければ失敗する極めて高度な作戦であり、その効果は凄まじい。

結果としてみほたち大洗の戦車は、我々の戦車部隊が繰り広げる猛攻撃をいとも容易く回避し、次の作戦である山頂の要塞構築に成功した。

あの作戦は敵ながら見事と言わざるをえない。さすが私の妹だ。素晴らしいの一言に尽きる。



みほ「いい? モクモク作戦というのはね」

みほ「ただ単に姿を隠すだけじゃなくて」

みほ「時間稼ぎからの反撃につなげるための作戦なんだ」

プゥーン

まほ「う…うむ……」



話をするみほから強烈なニンニク臭が漂ってくる。

前回の戦訓により、モクモク作戦を打ち破るために徹夜で対抗策を考えたにもかかわらず、私はまたしてもみほのモクモク作戦を前に悪戦苦闘する。

さすがだよ…みほ…。


だが清楚で純粋無垢な我が愛すべき妹が中年オヤジよろしく悪臭をモクモク放出するのは如何なものかと思う。

切実に対処法を考えねば…。



~~~~



エリカ「ふぅ。満腹満腹」

まほ「それ以上近寄るな」

エリカ「…わかった」サッ

まほ「? やけに素直だな?」

エリカ「だって姉さん臭いんだもん」

まほ「…」



腹が膨れてボコの事などすっかり忘れたエリカが満足そうに腹をさする。まったく現金なやつだ。

お前のせいで私はのびたラーメンを食わねばならんかったというのに。

そしてみほに続いてエリカまでニンニク臭い。これではボコどころか鬼も悪魔も近寄らん。

…と思っていたが、居場所がないエリカは私の部屋に居座り、先ほどと同じようにくつろいで本を読んでいる。

部屋と本がニンニク臭くなるから勘弁してほしいのだが。



エリカ「姉さん…」

まほ「なんだ。トイレならさっさと行ってこい」

エリカ「違うわよ!」

まほ「じゃぁ何だ」

エリカ「…ちゃんとお風呂、入ってるよね?」

まほ「お前、昨日一緒に入ったの忘れたのか?」

エリカ「そう言えばそうだったわね」

まほ「まったく」


エリカ「お風呂入ってるのにクサいって相当だと思うけど…?」ヒキッ


まほ「…お前も同等あるいはそれ以上に臭いのだが?」

エリカ「そんなことないわよ。姉さん鼻までおかしくなったの?」

まほ「その言葉、そっくりそのまま返そう」



それにしてもこいつは減らず口を叩く。かつて私の右腕として従順だった頃の面影など無かったかのように。

隊長・副隊長の関係から姉妹に変わった(と思いこんでる)今のエリカが"素"の姿なのかもしれないが、こうも距離感を詰められると対応(扱い)に困る。



エリカ「姉さんくさい…」ゲッソリ

まほ「何度も言わせるな。私がくさいのではない。ニンニクがくさいのだ」

エリカ「でもニオイは姉さんの方から来てるわよ…」

まほ「私も先程からお前の悪臭を嗅がされ続けているのだが?」

エリカ「…」クンクン

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「お風呂、入りましょう?」

まほ「………仕方あるまい」







【脱衣所】


みほ「あ、お姉ちゃんとエリちゃん」

エリカ「みほもお風呂に入るの?」

みほ「うん。さすがにニンニクのニオイを落としたいからね」

まほ「全くだ。臭くてかなわん」

エリカ「そうね。さっさと入りましょう」


みほ「えっ?」

エリカ「ほら、入るわよ」

みほ「え、あ、ちょっと…! エリちゃん平気なの…?」

まほ「エリカは腕が使えない。だから昨晩も私がエリカの髪やら何やらを洗ってやった」

みほ「そうなんだ」

エリカ「お風呂広いから3人くらい平気よ」



どうやらみほも我々と同じことを考えていたようで、体中に染み渡るニンニクのニオイを落とすために風呂に入るところだったようだ。

そんなわけで姉妹(とエリカ)水入らずの裸の付き合いをする。

みほのやつ。また大きくなったな。





【風呂】


エリカ「悪いわね、みほ」

みほ「ううん、仕方ないよ。エリちゃん片腕使えないんだから」シャカシャカ

エリカ「」ホヘー

まほ「みほのシャンプーは気持ちが良い。私も昔はよくやってもらった」

みほ「あはは懐かしいね。気持ち良いってお姉ちゃん気絶しちゃったもんね」モショモショ

まほ「はは。マッサージの途中に寝るようなものだろう」

みほ「風呂場で全裸のまま朝を迎えたもんねー」モチャモチャ

まほ「…そこは起こしてくれよ」


エリカ「腕の方はまだまだ時間かかるから、暫くはお世話になりそうね…」

みほ「カルシウム摂ると早く治るかもしれないよ?」ワシャワシャ

エリカ「カルシウムねぇ…」

みほ「私が頼んでるボコ印ミルク飲む?」ワシャワシャ

エリカ「絶対イヤ。そんなもん飲んだら死ぬわよ」

みほ「むっ! 私毎日飲んでるけどピンピンしてるよっ!」ゴショゴショ

エリカ「姉さんは"鯛の天ぷらを食べすぎて死んだ"って言ってたけれど?」

みほ「お姉ちゃん…徳川家康じゃないんだから、もっとまともな死因にしてよ…」モシャモシャ

まほ「すまん…」

エリカ「肥溜めにハマって死ぬとか?」

みほ「もっと嫌だよ!!」クシャクシャ

まほ「そうだぞエリカ。みほを何だと思っている」



~~




みほ「痒いところはありませんか~?」ワシャワシャ

エリカ「はぁ?」

みほ「えへへ。一度言ってみたかったんだ」

エリカ「…そう。今は無いわ」

みほ「えー」



それは勿体無い。みほが痒いところを掻いてくれるんだぞ?

戦車で例えるならティーガーIIがもう1輌貰えるくらい喜ばしいことなのに。

心なしか体中が痒くなってきた。みほ、掻いてくれないか?



エリカ「強いて言えばギプスの中が痒いわね」

みほ「あー、ずっと付けてないとダメだもんね…」

エリカ「ええ。外したら即・掻き毟ってやるわ」

みほ「あはは。ほどほどにね」



私は骨折などしたことがないので詳しいことは分からないが、ギプスを装着すると不具合でもない限り、基本的に装着したままとのこと。

そうなるとエリカのようにギプスをはめている部分が"痒い"といったことも起きうる。

『そんなことか』と思うかもしれないが、痒いところを掻けないというのは意外に辛いものだ。

あとは濡らすのも良くないので、エリカはギプスの上にタオルを巻いて、更にビニル袋をかぶせている。

動かせない以外にもギプス生活はいろいろ不便なので、そうならないようケガには十分気をつけたい。



ザパーン


エリカ「…ふぅ」

みほ「こっちのお風呂は大きいから良いね」ノビー

まほ「そうだろう。風呂が恋しくなったらいつでも帰って来ると良い」

みほ「でも帰宅するってメールしたらお姉ちゃん気付かなかったじゃない」ジトー

まほ「あれはだな…」


エリカ「姉さんもお母さんもどういうわけか機械オンチなのよね…」

まほ「うるさいな」

みほ「あはは。パソコンは難しいから」

まほ「それが普通だ。心配しなくていい」

エリカ「姉さんもそろそろパソコン使えるようにした方が良いと思うわよ?」

まほ「パソコンなら使える。この間電源の入れ方および切り方を覚えた」

エリカ「…そう。ところでみほ」

みほ「なーに?」


エリカ「もしインターネット使えるのなら良いサイト教えてあげる」

みほ「なになに?」

エリカ「"フューリーを探さないで"って検索してみると出て来るページ。なかなか面白いわよ」

みほ「…なにそれ?」

エリカ「見てのお楽しみ」


~~~


みほ「この入浴剤いい匂いがするね。どこのだろう?」

まほ「ああ。いい香りだ。ニンニクのニオイも消してくれる」

みほ「そうだね。あとで菊代さんに聞いてみるよ」

まほ「それがいい」

エリカ「」プニプニ

みほ「あっ、それ私のII号!」

エリカ「この子触り心地良くて気に入ってるのよ」

みほ「む。あげないからねー」

エリカ「…ねぇみほ」

みほ「ん?」

まほ「!!! エリカやm


エリカ「チ●ポ」ボロン


みほ「!!?」

まほ「よさんか!!!」バコッ!!

エリカ「いだぁっ!?」



コイツまたやりやがった!

II号をプニプニ弄ってる時から嫌な予感がしたが、妹にまで卑劣な真似を!

私に向けてやるなたまだいい。だが、みほはまだウブで清純な乙女なんだぞっ!!!




みほ「…前にね、そういうのネットで見たことがあるよ」

まほ「え」

エリカ「そうなの?」ヒリヒリ

みほ「うん。5%の確率でボロンするっていうので、普段はごく普通の投稿なんだけど、たまにね」

まほ「」

エリカ「なんだ。みほも知てるんじゃない」

みほ「他にもサオリスクタイムとかネットには色々面白いのが色々あるよね!」

エリカ「そうね。しょーもないと思いつつもクスッってなるわ」

まほ「」



お、おい…みほ…お前なんてものを見てるんだ…




みほ「それでね? ボロンするとゲームでレアキャラゲット出来たり色々ご利益があるんだって」

まほ「」

エリカ「ある種のパワースポット的なものかしら?」

みほ「そうかもしれないね。…でも」

エリカ「ん?」

みほ「お股にII号あてるのはどうかと思うんだ…」

エリカ「そうかしら?」

まほ「み、みほの言う通りだ…下品にも程があるぞエリカ…!」


みほ「そんなにおっきくないから」


まほ「なぁっ!?」

エリカ「へぇー」



お、おい…みほ…おまえは一体何を言っているんだ………?!

どうして全てを知っているかのように語るんだ……?!

おまえ…まさか………!!!



みほ「だって昔、お父さんと一緒に入ったときに見ちゃったもん」

みほ「大人のお父さんでもあんなだから、きっと皆それくらいなのかなぁ…って」

エリカ「あ、姉さん沈んだ」

まほ「」

みほ「え?! ど、どうしたのお姉ちゃん?!」

まほ「」ブクブクブクブク



良かった…みほはまだ純潔だった…。お父様のは残念だと思うが、今はそれで良いんだ…。

世の中には知らなくて良いことだってたくさんある。別に知らなくたって死にはしないんだ。だから知らなくて良い。

…私も知らないが、みほは特に知らないでいて欲しい。




【再び脱衣所】


みほ「お、お姉ちゃん、大丈夫…?」オロオロ

まほ「……大丈夫…だ…クルスクに…比べたら………」

エリカ「行ったことないクセに…」

まほ「…だま…れ……」

みほ「とりあえずお水飲んで?」

まほ「…すまん…みほ………」ゴクゴク



私はいつの間にかみほの作戦に完膚なきまでに打ちのめされるようになっていた。

それは私が弱くなったからではない。みほが私を上回るほどの実力者になったという動かぬ証拠だ。

西住流だの黒森峰隊長だと驕り高ぶっているせいで、いつのまにか妹に追い抜かれてしまっている。

やはり週明けからは気を引き締めて今まで以上に厳しく鍛えなければなるまい…。

意識が遠のく中で私は誓った。


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