【ミリマスSS】桃子「あなたに歌えば」 (25)


元ネタ
『singin' in the darling(終わりのテーマ)/青木佑磨』
『嘘/学園祭学園』
『ココロがかえる場所/LTP12』
『茜ちゃんメーカー エピローグ』



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509456125




『誰かが見た夢の中 それは幸せな』





こんな日が来ることはわかってた。

桃子はアイドル。アイドルって『偶像』って意味なんでしょ?

偶像って、言っちゃえば『嘘』みたいな存在。

桃子が喋るたびに流れるテキスト。画面を叩けば流れるポーズを決めたアイドル。再生ボタンを押せば流れる歌。

嘘の世界で、嘘の夢を嘘みたいに抱きしめて、でも確かに桃子はそこで生きていた。お兄ちゃんもそうだったでしょ?

でもきっと、続けてきた嘘も最後。ふっと息を吹きかけると、ロウソクの火みたいにあっさり消えちゃうんだ。

だから桃子は嘘をつき続けるよ。次もまた笑って出会えるように。


いつもの劇場。

次のライブに向けてレッスンする桃子たち。みんなの顔つきがいつもと違う。きっとわかってるんだね、このライブの意味。

レッスンルームの扉が開いて、いつもの見慣れた顔が見える。頭にはやっぱり寝癖。もぅ、桃子が何回言ってもこうなんだから。

お兄ちゃんの挨拶を聞きながら、ツカツカと近づく。

桃子「おはよう。お兄ちゃんまた寝癖ついてるよ!身だしなみはきちんとして!桃子のプロデューサーなんだから!」

お兄ちゃんはすまんすまんと苦笑いして頭をぽりぽりとかく。いつもの朝のやりとり。うん、桃子の演技はやっぱりカンペキ。

 


レッスンの次はドラマの撮影に行く。

シアターの駐車場までお兄ちゃんと歩く。お兄ちゃんの歩幅は桃子よりもずっと大きい。結局この歩幅の差は縮まらなかったけど、このリズムがとても心地よかった。

お兄ちゃんはライブの後の新しい予定について嬉しそうに話す。クマさんのぬいぐるみのCMのお仕事、お菓子の販促キャンペーンのお仕事、お仕事の合間にはみんなを遊園地に連れて行ってくれるみたい。

ひとつひとつの予定に耳を傾けて想像する。うん、どれもステキな予定。桃子はお仕事も遊園地も全部楽しみたいな。

ズキッと心が痛む。お兄ちゃんにはバレないように、しっかりと前を向いて歩く。

桃子が演じたドラマじゃ、こんな時にキセキが起こるんだ。最後のステージを見たお兄ちゃんは全部気がつくの。それで世界の崩壊は防がれて、ラストシーンじゃ2人遊園地の観覧車の中で嬉しそうに笑うの。

じゃあ桃子は頑張らないとね。カンペキに歌って踊って、お兄ちゃんの心に届けるの。終わって欲しくないし、続いて欲しいから。

決意を込めて歩幅は大きくなる。お兄ちゃんと歩幅を合わせて、ぴったりと隣を歩く。

 


そしてライブの幕は上がる。

みんなで円陣を組んで、ブーってブザーが鳴って、暗い袖からピカピカ輝くステージに飛び出してく。

目の前にライトの海が広がる。桃子がわーってあおると、その海にばーって波ができる。

お客さんの盛り上がりも最高!絶対に良いライブになるって確信する。

 


それぞれのソロに移って、桃子は出番をモニターの前で待つ。

トントンと肩を叩かれて振り向くと、お兄ちゃんが飲み物を持って来てくれたみたい。

ありがとうって受け取って、ゴクリと少しだけ飲む。お兄ちゃんを見ると、ひとつも緊張なんてない穏やかな顔だった。

何年か前はすっごい緊張してアタフタしてて『お兄ちゃんがそんな顔してたら、アイドルのみんなも緊張しちゃうからちゃんとして!』なんてお説教したこともあったっけ。

ずっと一緒に歩いて、桃子はすっごく成長できた。それはお兄ちゃんも一緒なんだねって、少し嬉しくなる。

きっとまだまだ、桃子もお兄ちゃんもやり残したものもやりたいこともたくさんある。これからもひとつひとつ叶えていきたい。

桃子「お兄ちゃん、桃子のステージちゃんと見ててね」

だから、これまでの桃子を全部ステージに置いてこよう。キセキが起きても起きなくても、絶対に後悔だけはしたくないから。

 


曲は『ココロがかえる場所』。ユニットの曲だからソロで歌うのは初めて。

ひとつひとつのフレーズに心を込める。ステージにいるはずなのに、目の前にはたくさんの風景が浮かぶ。



いちばんに浮かぶのはやっぱり最初の日。目の前のダメダメなお兄ちゃんにため息ついて、小言を言ったっけ。なんだか、今も変わってないね。

でも最初から、ほんのちょっぴりだけは信頼してたんだよ。この人は桃子のために頑張ってくれるかもって。それは全然変わったね。ありがとう。

次に浮かぶのは雪歩さんの熱い体温、ロコさんと千鶴さんの優しさ。自分のことばっかで、ダメダメだった桃子を許してくれた。

だからね、桃子は優しくなれたんだ。桃子は1人じゃないって気がついたんだ。ありがとう。

景色はレッスンルームに変わってく。のり子さんが怒ってる。奈緒さんと亜利沙さんがなだめてくれて、春香さんが手を差し伸べてくれた。

桃子ね、知らなかった。あんなに家族ってあったかいって。初めて人を頼ることは恐くないって知ったんだ。ありがとう。



まだまだいろんな景色は流れる。まだすべてが未来系だった日々。それが今じゃみんな過去形で、あったかさに切なさが混じって気持ちがぐちゃぐちゃになりそう。

桃子はそのままそれを声に乗せる。過去と未来をぐちゃぐちゃに丸めて、今に全部叩きつける。

忘れたくないよ全部の過去を。無くしたくないよ全部の未来を。お願い、キセキ、起こって。

 


歌いきると、たくさんの拍手が桃子を包んでくれた。それにお礼を言って袖に戻る。

袖ではお兄ちゃんが待っててくれた。『いつもの笑顔』で。

ふーっとため息をつく。少しだけ俯いて唇を噛みしめる。

そっか、そうだよね。うん。この世界はやっぱり、変わらない。

心の痛みを唇の痛みで上書きして、押し込めて、笑顔で顔を上げる。

桃子「お兄ちゃん、ありがとう」

 


ライブの後、お兄ちゃんに車で家まで送ってもらう。いつもの距離、いつものようになんでもない会話をする。

何千回、何万回って交わしてきた言葉。きっと下手な演技じゃバレちゃうから、桃子の役者生命を全部かけて必死に演技をする。何でもない、明日には忘れちゃうような言葉をやり取りする。



家の前で車が止まる。

また明日って、さらっと言うお兄ちゃん。

でもきっとこれが最後の会話。だから、これくらいはいいでしょ?

桃子「お兄ちゃん、もし明日世界が壊れて記憶も全部なくなっちゃっても、桃子を見つけ出してくれる?」

いきなり変な質問だって自分でも思うよ。でも、お願い、聞かせて。

お兄ちゃんは考えもせずに、にかーっと笑顔で即答した。

ミリP「当たり前だ。俺はお前のプロデューサーだからな。すぐにお前を見つけだして、すぐに記憶を取り戻して、またアイドルにするからな」

ぶわっと感情の波が押し寄せる。指先から頭の先まであったかくなって、でもこころは痛い。

泣き出してしまいそうだったけど、それを閉じ込めて最後の演技をする。お兄ちゃんが笑顔でそこに行けるように。

桃子「ふん、合格。桃子のプロデューサーだから、当たり前だよ!」

その言葉にいつものように笑顔で反応して、車のエンジンをかけるお兄ちゃん。

車が走り出す直前、開け放した窓に向かって桃子は言う。演技じゃない素顔の桃子で。

桃子「さよなら、お兄ちゃん。桃子、幸せだったよ」

その言葉はエンジンの音にかき消されて、きっとお兄ちゃんには届かなかった。

 


桃子の部屋まで走ってベッドの中に潜り込む。毛布を口に当てて、誰にも聞かれないように思いっきり叫ぶ。

桃子「ばか!!!!!!お兄ちゃんのばか!!!!!!何で気づいてくれないの!!!???何で何で何で!!!!!」

叫びと一緒に、抑えてた感情がわっと頭のてっぺんまで登る。叫びだけじゃそれは逃しきれなくて、目からは涙が溢れた。

桃子「やだよ、桃子、やだよ。桃子の願い事、まだ何も叶ってないよ!!幸せだったけど、まだまだ幸せになりたいよ!!!」

桃子「ずっと一緒にいるっていったじゃん!!側にいて一緒に歩いてくれるって言ったじゃん!!なのに何で!!?何で!!?」

少しだけ頭の中の冷静な部分が声を漏らす『お兄ちゃんを責めるのは卑怯だ。ここはどうしようもなく、嘘の世界なんだから』

そんなのわかってるよ。でも仕方ないじゃん。これは桃子の気持ちなんだから。卑怯でも、的外れでも、お兄ちゃんともっともっと一緒にいたかったんだもん。

 


わーって叫んで泣いて、一通りそれをやるといつのまにか眠ってた。朝日が眩しくて、目を擦る。

ハッとしてスマートフォンを取る。発信履歴を見ると、いちばんに出てくるはずの名前は消えていた。

覚えてる番号を押して通話をする。コール音は無くて、機械のアナウンスの声が聞こえた『おかけになった電話番号は現在使われて...』

力が抜けてスマホをガチャっと落とす。機械の声がまだ何か喋ってる。

スーッと心に隙間風が吹く。大事な部分に穴が空いちゃったことを自覚する。

 


シアターに行く。

見慣れたデスクの上はまっさらで、初めからそこに座ってた人なんていないみたいだった。

ペタンと椅子に座って、デスクを指でなぞる。そっか、お兄ちゃんはもうそこに行っちゃったんだね。

昨日わーって感情を吐き出したから、もう涙は出なかった。

くるっと椅子を回して、窓の方を見る。外はきれいな青空。

窓の外の空に向かって手を伸ばす。どこか遠くにある何かを掴むみたいに。

 


桃子は大丈夫だよ。お兄ちゃんはここにはいないけど、桃子には仲間がいるもん。平気だよ。心配しないで。

お兄ちゃんこそしっかりしてね。身だしなみをきちんと確認して、変な仕事とってくるのは控えてね。

でも、桃子心配してないよ。きっとまた、みんなとうまくやれると思う。お兄ちゃんだから。



桃子はここで歌い続けるよ。いつかこの声が、遠く遠くにいるあなたに届くことを祈って。キセキがおきることを信じて。

桃子はずっと忘れないから。嘘の世界がまた繋がったときは、笑顔で抱きしめたりなんてしちゃってもいいかもね。



だからひとまず、別の桃子によろしくね。お兄ちゃん。


END


グリーでのミリオンライブが更新を止めるというお知らせをみて、モヤモヤした衝動をなぐり書きしてしまいました。ごめんなさい。

プレイ期間が長いだけのダメダメPでしたが、4年間ずっと日々を共に過ごした世界をもう見られなくなることが寂しくてしかたありません。

自分が見られなくても彼女達の時間が流れて行くのなら、どうか幸せであることを祈ります。

読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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