ありす「合同ライブ、ですか?」 杏「うへぇ……」 (62)


※モバマスSSです

※ありすと杏がメインです

※続き物です。前作と繋がっています。

 前々作:ありす「あのっ!」 杏「んぁ……?」
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 前作:ありす「ユニット活動、です」 杏「ふわぁ~」
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ありす(その日は珍しく、プロデューサーの機嫌が目に見えて良い日でした)

ありす(普段なら微笑と言える表情を浮かべているのに、今は満面の笑みといった具合です)

ありす(そして……)チラッ

杏「……」

ありす(反比例するように、杏さんの表情は苦虫を噛みしめたようなものになっていました)

ありす「あの、プロデューサー。要件は一体なんでしょうか」

モバP「ああ、ごめん。実はね、大きい仕事が入ったんだ」

ありす「本当ですかっ!?」

杏「うへぇ……やっぱり」

ありす「やっぱり、って杏さんは知ってたんですか」

杏「いんや。でも、プロデューサーの機嫌がやたらといいときは、何か大きい仕事が転がり込んできたときだからさ。いやーな予感はしてたんだ」

ありす「大きい仕事なんだから喜ぶ……わけがないですよね、杏さんですし」

杏「あーもう、聞かずに帰りたーい」ゴロン

ありす「杏さんっ、せめて起き上がっていてくださいよ!」

モバP「あー、いいよいいよ。とりあえず話だけ聞いてもらえれば」

ありす「そう、ですか? 杏さんもちゃんと聞いててくださいよ」

杏「はーい」ヒラヒラ


モバP「今回の仕事は……プロダクション合同ライブだ!」

ありす「合同ライブ?」

モバP「橘さんは知らないか。合同ライブっていうのは、うちのプロダクションのアイドルが集まって、ユニットの垣根を超えてライブをするんだ」

モバP「別のユニットのアイドルと臨時のユニットを組んだり、ユニット同士でさらにユニットを組んでみたり。参加する人数も人数だから、数日間に及ぶかなり大規模なライブになる」

ありす「それは……すごそうですね」

モバP「いや、実際すごいことになるよ。会場が大きいから、ステージも大きくなって。ステージが大きいから色々な仕掛けや飾りなんかも増える」

モバP「その分、色んなことを覚えなきゃいけないし、ライブ前は本当に忙しい」

杏「うわー、思い出したくない」

モバP「お前はあのときもいつも通りだっただろ、全く」

ありす(杏さんの表情からは心の底からそう思っているのだろうと思わせるものが感じ取れます)

ありす(恐らく、私が想像している以上に大変なんでしょう)

モバP「確かに大変ではあるけど、でも、それだけの苦労に見合うだけのものは得られる。きっといい経験になるはずだ」

ありす「は、はい」

モバP「よし、それじゃあ詳細な説明の方をしていくから、この資料を確認しながら話を聞いてね」ペラッ

………

……



ありす(合同ライブの説明を受けました。どうやら本当に大規模なライブのようです)

ありす(ライブ会場の収容人数は数万人規模。正直なところ、全く想像がつきません)

ありす(アイドルたちが一同に会して、それぞれのファンが一か所に集まるわけですから、それくらいの大きさはやはり必要なのでしょう)

ありす(参加アイドルの名簿には、テレビで見るような名前が並んでいます)


ありす(この人達の中に私も混ざるのかと思うと、緊張から資料を持つ手が強張ってしまいます)

ありす(そして、そんな人たちのファンが集まる会場……数万もの視線を考えると、頭がぼぉっとするようでした)

モバP「――って感じで、二人には全体、臨時ユニット、ユニットでの三つの種類の曲を。杏はさらに個人曲を歌ってもらう」

杏「杏はいいからありすちゃんに枠を譲ってあげてよ」

モバP「いい先輩っぽく振る舞おうとしても楽しようって考えているのが丸分かりだし、それはソファに寝転んだまま言うセリフではないな」

モバP「とまあ、ごめんね、橘さん。枠を用意してあげられなくて」

ありす「いえ、構いません。当然の判断ですよ」

ありす(このプロダクションのオールスターじみた面子に私を入れるのだけでも、相当プロデューサーが頑張ってくださったのだということくらいは分かります)

ありす(そのうえソロ曲の枠を、だなんて高望みでしょう)

杏「遠慮しなくていいのに」

ありす「杏さんがよくてもファンの皆さんが納得しないでしょう」

杏「そんなことないと思うけどなぁ」

ありす「またそんなことを……」

ありす(杏さんはごろりと寝転がって言いました。なんというか、いつも通りの姿すぎて緊張している自分が馬鹿らしく思えてきます)

モバP「それじゃあ、早速だけどレッスンのスケジュールについて詰めていこうか」

ありす「はい」

杏「はーい……」


 ~レッスンルーム~

ありす(柔軟体操を始める)

ありす(室内にはまだ私一人しかいません。プロデューサーも、トレーナーさんも、そして“一緒にレッスンを受ける他のアイドル”の方も)

ありす(いつもなら隣でだらけながら柔軟をしている杏さんも、今は別の場所でレッスンを受けています)

ありす(今日は合同ライブで組まれる臨時ユニットのレッスンです)

ありす(……正直不安ではありますが、頑張るしかありません、よね)

ありす(今回ユニットを組ませていただく方の詳細は既に調べてあります。確か――)

ガチャ

?「……失礼、します」

?「あら? もう来ていたのね」

ありす「あ……お、おはようございます」スクッ

ありす(立ち上がって、入ってきた人に視線を向ける)

ありす「橘ありすです。本日はよろしくお願いします」

奏「ええ、よろしく。私は速水奏よ。それでこっちが……」

文香「鷺沢文香と申します。合同ライブでの、臨時ユニットを組ませていただきます」

ありす(速水奏さんと、鷺沢文香さん。こちらのお二人が、今回私が臨時でユニットを組むことになったアイドルです)

ありす(速水さんはクールでミステリアスな雰囲気が人気の方で、とても杏さんと同い年とは思えない色気のようなものを感じます)

ありす(鷺沢文香さんは知的な読書アイドルとして有名で、落ち着いた立ち居振る舞いと、膨大な読書量で培われた知識が特徴のアイドルです)

ありす(二人とも大人の女性、といった人で、今までに会ったことのないタイプのアイドルでした)

奏「あなたが……」

ありす(そう言って、速水さんはすっと近づいて私の顔を見つめてきました。速水さんは端正な顔立ちをしていて、なんだかドキドキとしてしまいそうです。私は動揺を隠しながら、速水さんに訊ねます)

ありす「あの、何か……?」

奏「いいえ、噂通りのかわいらしい女の子だな、って思っただけ。不快に思わせたらごめんなさいね」

ありす「い、いえ、そんな不快だなんて」

ありす(その噂の出所を知りたいところではありますが、恐らく杏さんかプロデューサー経由でしょう。そう考えていると、次は鷺沢さんが話しかけてきました)


文香「ありすちゃんは、もう柔軟体操を終わらせたところ、ですか?」

ありす「あ、私もまだ来てすぐなので、本格的なものはこれからしようかと……」

文香「それでしたら、一緒にやりませんか」

奏「これからしばらくの間一緒にレッスンするわけだし、お互いのことを知るきっかけにもなると思うの。どうかな?」

ありす「え、っと。お二人が構わないなら、お願いします」

奏「ふふっ、そんなに固くならないでいいわ。さ、始めましょう」

ありす「はいっ」

………

……



ありす(そうして始まったレッスンは、私にとって新鮮味に溢れるものでした)

ありす(キリキリと動いて、時間内で最大限の成果を得ようとする。トレーナーさんもレッスンを受ける側も、それをよく理解して、真面目にレッスンをしていました)

ありす(……そう思ってから、これが普通なのだと気づいたとき、少し落ち込んでしまいましたが)

ありす(いつもであれば杏さんが一緒なので、隙あらば休もうとする彼女を起こすことがレッスン中に何度かあったりもするのですが、今日のレッスンでは当然のようにそういった場面はありませんでした)

ありす(うん、そうですよね、これが普通なんですよね)

ありす(自分の中の常識が杏さんによって書き換えられていたことに若干の衝撃を受けつつ着替えをしていると、速水さんに声をかけられました)

奏「ねえ、ありすちゃん。このあと、時間空いてるかしら」

ありす「えっ? はい、何も予定はありませんが……」

奏「文香とカフェに行こうかと思っているのだけれど、一緒にと思って」

ありす「よろしいんですか?」

奏「もちろん。それで、どうかな?」

ありす「はい。大丈夫です」

奏「よかった。もう少し落ち着いたところで話をしたいと思っていたの、私も文香も。それじゃあ、更衣室の前で待っててもらえるかな」

ありす「はい、分かりました」

ありす(私は速水さんのお誘いを受けて、お二人とカフェに行くことになりました)

ありす(なんとなく緊張するのは、杏さんのようなだらけきった雰囲気が無いからなんでしょうね)


 ~カフェ~

ありす(……かっこいい)

ありす(速水さんたちと一緒にカフェに来て、思ったことがそれでした)

ありす(速水さんはブラックコーヒーを、鷺沢さんはストレートの紅茶を頼み……私はホットココアを頼みました)

ありす(お二人がそれぞれ頼んだ飲み物を飲む姿が、そう、絵になっている、と言いますか。雑誌の切り抜きみたいで)

ありす(私もあんな風にコーヒーや紅茶を飲めるようになったらなぁ……なんて考えながら、ココアを啜っていました)

文香「……ありすちゃんは、今日のレッスンはいかがでしたか」

ありす「はい。とてもためになりました。でも、お二人に助けてもらってばかりで……」

文香「いえ。私もあまり上手くはできていなかったので、お互いさまといったところでしょうか」

奏「でも練習でちゃんとできないところはできるようになったじゃない。二人ともよく頑張っていたと思うわ」

ありす「あ、ありがとうございます、速水さん」

奏「どういたしまして。ねえ、ありすちゃん」

ありす「はい、なんでしょう」

奏「速水さん、なんて他人行儀に呼ばなくていいよ。私たちだってありすちゃんのこと名前で呼んでいるんだから」

ありす「あ……」

ありす(言われて初めて気づきました。ずっと名前で呼ばれていたのです)

ありす(いつの間にか、名前で呼ばれることに慣れを覚えていたようでした)

ありす(……私も、アイドルになってから随分と変わったみたいですね)

ありす(その事実に少々の驚きを覚えつつ、私は応えました)

ありす「……はい。では、奏さん、文香さんと呼ばせていただいてよろしいですか」

奏「ええ」

文香「もちろんです」


ありす(その後、私たちは色々なことを話しました)

ありす(ユニットのこと、ライブのこと、そのほかにも色々なことを)

ありす(アイドルの先輩として、杏さんとは違った視点で話を聞けたのはとてもためになりました)

ありす(……私自身のアイドルとしての自覚はまだ薄いですが、以前杏さんに言われたように、そういったことも意識し始めた方がよいのでしょう)

ありす(そういった意味で、別の先輩アイドルからアドバイスをいただけたのはいい経験になったと思います)

ありす(気づけば一時間以上もそうして話していました)

奏「あら、もうこんな時間。ありすちゃん、時間は大丈夫?」

ありす「あ……えっと、そろそろ戻った方がいいかもしれません。杏さんもそろそろレッスンが終わる頃だと思いますので」

文香「それでは、今日はここまで、ということにしましょうか」

ありす「はい。本日はお誘いいただきありがとうございました」

文香「私も、ありすちゃんとお話しできて楽しかったですよ」

奏「また今度、一緒にお茶しましょうね」

ありす「ええ、喜んで! では、失礼します」

ありす(私は二人に会釈をして、その場を去りました)

ありす(それにしても……素敵な方たちでした)トテトテ

ありす(奏さんは一挙手一投足がまるで洗練されているよう、文香さんは言葉の端々から知性を感じる喋り方をしていました)

ありす(まさに大人の女性です。自分があと数年であれだけの魅力を身に着けられるか……)

ありす(うーん、やっぱり知識量なんでしょうか。本は割と読む方だと思っていましたが、もっと色々なジャンルの本を読んだ方がいいのかもしれません。後は人生経験とか)

ありす(そんなことを考えながら事務所の扉を開くと……)

杏「ぐぅ……」

ありす(いつものようにソファに寝転がる杏さんの姿がありました)


ありす「……はあ」

ありす(……なんというか。これで奏さんと同い年だというのだから、なんと言えばいいのか)

ありす(本当にこの人は一七歳なのかと疑いたくなる気持ちも湧いてきます)

ありす(奏さんも年齢不相応な面もありましたが、杏さんのそれは逆方向に突き抜けている気がします)

ありす(……ときどきは、信頼できるところもありますけれど)

ありす(でもやっぱり、杏さんはぐうたらな先輩です)

ありす(眠っている杏さんを見て物思いに耽っていると、事務所の奥からプロデューサーが顔を覗かせます)

モバP「お帰り。少し遅かったけど、何かあったのかな」

ありす「すみません。奏さんたちとカフェに行っていました。連絡するべきでしたね」

モバP「いいや、謝る必要はないよ。仲良くやれてるみたいで安心した」

モバP「それでどうだった、杏以外の人とのレッスンは?」

ありす「……なんというか、新鮮でした。練習している曲も、これまでのものとは違った曲調でしたから」

モバP「かっこいい感じの曲だろ? 杏じゃああまり似合わないけど、橘さんは結構好きなんじゃないかなって」

ありす「そう、ですね。確かにそうかもしれません」

モバP「なら良かった。これからはストロべリィ・キャンディとしての仕事とレッスンに加えて、そっちの臨時ユニットとしてのレッスンも同時にやってもらうことになるんだけど、大丈夫かな」

ありす「問題ありません。やれます」

モバP「分かった。ただし、くれぐれも無理はしないようにね。じゃあ、杏を起こしてミーティングをしようか」

………

……



ありす(それから、私の日常には奏さんたちとのレッスンが追加されました)

ありす(なんというか、生活にメリハリができたというか、二極化してきたというか……)

ありす(杏さんと騒がしくレッスンをするときと、奏さん、文香さんと真面目にレッスンをするとき)

ありす(体力と気力の使い方が両極端すぎて、逆に疲労が溜まらない気がしていたり)

ありす(それがいいことなのかどうかはさておき、レッスンの方は思っていたよりも順調に進んでいました)

ありす(楽曲やダンスとの相性が良かったのでしょうか? 苦戦らしい苦戦もせず、余裕を持ってレッスンの予定を立てられるほどでした)

ありす(その分レッスンも居残りなどはあまりせず、奏さんと文香さんの三人でカフェに行くことが習慣になりつつあります)

ありす「――あの、奏さん」

奏「あら、何かしら」

ありす「ブラックコーヒーというのは……どのような味なのでしょうか」

奏「気になる?」

ありす「その、少しだけ」

文香「珍しい、ですね。普段はココアや紅茶ですのに」

ありす「それは、その。興味が湧いたと言いますか」

奏「そうね……。基本的には苦味よ。それから、ちょっとした酸味や甘味」

ありす「美味しいんですか?」

奏「飲み慣れれば、と言ったところかしらね」

ありす「はあ……」


奏「ありすちゃんも飲んでみる?」

ありす「いいんですか?」

奏「ええ、どうぞ」

ありす「それじゃあ……失礼します」スッ

ありす(奏さんからカップを受け取り、一口飲んでみると……)

ありす「うう……っ」

ありす(苦い! 想像以上の苦さです。私は思わず顔をくしゃりと歪ませてしまいました)

奏「その様子だとお気に召さなかったかしら」

ありす「はい……まだまだ子供、ですね」

文香「……苦味への耐性は、年を経ると段々と強くなっていくといいますし、ありすちゃんくらいの年頃だと無理もないのでは」

奏「それじゃあ、私よりも年上の文香はコーヒーも平気ってことね」

文香「そ、それは、その……苦いのは、少し」

ありす「そうなんですか?」

奏「……ねえ、ありすちゃん。こんな風に私より年上でも、苦味が好きじゃない人はいるわ。結局、苦いの甘いのなんて個人の好みでしかないの」

奏「甘いものが好きだから子供、苦いものが平気だから大人、なんてことはない。好きなものを選べばいいわ」

奏「本当にかっこいい大人なら、好きなことをしていても自然と格好良く見えるものよ」

ありす「そういう、ものなんでしょうか」

奏「そういうものよ」

文香「そうですね。私の歳でも、まだ格好いい大人になれたとは思いません」

文香「ですから、ありすちゃんも焦らず、ゆっくりと色々なことを知って、経験していけばいいのではないでしょうか」

ありす「……はいっ」

………

……



ありす(本当にかっこいい大人なら、好きなことをしていても自然とかっこよく見える……かぁ)

ありす(そんな風に言えちゃう奏さんは、すごい大人って感じでした)

ありす(自信、なのかな。だから堂々と振る舞えて、それがかっこよく見える)

ありす(堂々と好きなことをする。言葉にすると簡単だけれど、やっぱり実践するとなると難しいんだろうな)

杏「すぅすぅ……」

ありす(……この人もある意味で堂々と振る舞っていますが)

ありす「ほら、杏さん。起きてください。プロデューサーが送っていってくれるそうですよ」

杏「うーん……んっ」スッ

ありす「……なんですか、急に両手を上に上げたりして」

杏「連れてってー……」

ありす「年下相手に何言ってるんですか、あなたは」

杏「ありすちゃんの方が身長高いし……」

ありす「そういう問題じゃありません! 自分で立って歩いてください!」

杏「でも今立ったら丁度眠気が飛びそうで、なんだかそれはそれで嫌というか……」

ありす「もーっ!」


 ~車内~

モバP「はは、そんなことがあったのか」

ありす「笑いごとじゃありませんよ、全く。杏さんは年下にそんなことで頼って恥ずかしくないんですか」

杏「いやぁ、ありすちゃんはしっかりしてるし、別に大丈夫かなって」

ありす「それとこれとは関係ありません!」

モバP「杏の気持ちも分からなくもないが、そこは先輩として頑張ろうな。橘さんだって他のユニットとのレッスンだったりで忙しいんだから」

杏「はーい。ところでありすちゃん、レッスンの方はどんな感じ?」

ありす「え? それは、はい、順調ですよ。奏さんも文香さんも親切にしてくださって、助かってます」

杏「へー」

ありす「お二人ともすごく大人らしいといいますか、色んなことを知ってらっしゃるんです。杏さんは会ったことはありますか?」

杏「んー、事務所で何度かすれ違ったぐらい」

ありす「とってもいい人なんですよ。きっと杏さんも仲良くなれると思います」

杏「ふーん……?」

ありす「杏さん?」

杏「杏、ちょっと眠いから寝るね。着いたら起こしてー」

ありす「って、さっきも寝てたじゃ……ああ、もう」


ありす「……プロデューサー。杏さんのレッスンは大変なんですか?」

モバP「そうだね。杏は今回ユニットだけじゃなくソロとしても出るし、いつもより厳しいレッスン内容にはなってる」

ありす「だから疲れてるんでしょうか。さっきも寝ていたのに、また……」

モバP「あー……まあ、確かにそれもあるだろけど……」

ありす「え?」

モバP「大丈夫大丈夫。もし何か影響があるようなら早めに対応するからさ」

ありす「そう、ですか」


ありす(……なんだかプロデューサーの様子がおかしいように感じられますが、まあいいです)

ありす(杏さんもレッスン、頑張っているんですね)

ありす(私も負けないように頑張らないと!)

………

……



 ~後日~

ありす「それじゃあ、レッスン行ってきますね」

杏「いってらっしゃ~い」ヒラヒラ

ありす「杏さんもちゃんとレッスン行ってくださいよ」

杏「分かってるよ~」

ありす「……本当に分かってるのかな」ガチャ

バタン



杏「……なんかお腹空いてきちゃったなぁ」

杏「レッスンまではー……まだ時間あるね」

杏「しょうがない。どっか食べに行こう」

………

……



 ~喫茶店~

杏「うわ、結構混んでる。席空いてるのかな……」

?「あら……」

杏「ん?」

奏「こんにちは。相席でよければ、どうぞ」

杏「いいの? なんか悪いね。よいしょっと」ポスッ

杏「すいませーん、注文お願いしまーす。……えーと、これとこれ、お願いします」パタン

奏「……」ジィッ

杏「なに? じっと見たりして」

奏「ごめんなさい。ただ、話通りの人なんだ、と思って」

杏「話ねぇ。一体どんな話を聞いてるのかな」

奏「とにかくマイペースだと。それと、ところ構わず寝ようとするとか、そうそう、レッスンをよくサボるなんて話も聞いたわね」

杏「まあ否定はできないけど。一応聞いておくけど、ありすちゃんから?」

奏「ええ。自己紹介しておくわね。私は速水奏、今回のライブでありすちゃんとユニットを組むことになってるわ」

杏「杏は双葉杏だよ。そっちの話も聞いてる」

奏「へえ、どんな話かしら」

杏「べた褒めしてたよ。とっても親切で頼りになるってさ」

奏「それはうれしいわね」


杏「そっちのレッスンの様子はどんな感じ?」

奏「順調よ。ありすちゃんもよく頑張ってるし、調子もいいと思うわ」

杏「ふーん」

奏「気になる?」

杏「多少はね」

奏「そう」クスクス

杏「なにさ」

奏「いえ、なんだかあなたとこうして言葉を交わしていることが不思議で」

杏「どゆこと?」

奏「いつも飄々と仕事をこなして、何事にも動じず冷静に対応して。一匹狼みたいな子だと思ってた」

杏「何それ」

奏「あなたの仕事ぶりを見ていて感じたことよ」

杏「……一緒の現場になったことあったっけ」

奏「一度だけね。そのときにあなたを見ていて思ったの。この子の世界観は独特で、迂闊に触れることはできないなって」

杏「そんな危険物みたいに」

奏「ふふっ。私もそう思っていたわ……でも、どうやら違ったみたい」

奏「もちろん、相性の善し悪しはあるだろうけど、案外面倒見が良くて……情が深い、と言えばいいのかしら」

奏「ありすちゃんの様子を見ていると、そう思わされるわ」

奏「相当入れ込んでるみたいで、ね」

杏「……なんのことやら」

奏「素直じゃないのね」

杏「あんた随分いい性格してんね。……ん?」


?「……」キョロキョロ

奏「ああ、待ち合わせをしていたの。……文香!」

文香「奏さん、お待たせしました。……あの、そちらの方は」

杏「ども。双葉杏だよ」

文香「あなたが……お噂はかねがね伺っています。今回の合同ライブで、ありすちゃんと臨時ユニットを組ませていただいています、鷺沢文香と申します」

杏「よろしくー。ありすちゃんがお世話になってるみたいだね」

文香「いえ、こちらこそ。ありすちゃんとレッスンをしていると学ぶことがたくさん見つかりますから、とてもためになっています」

杏「へえ。本人が聞けば喜ぶと思うよ」

文香「そう、でしょうか」

杏「二人とも、随分信頼されてるみたいだからね」

文香「ありがとうございます……」

奏「……さて、じゃあ文香も来たことだから、私たちはこれで失礼するわ。また今度、機会があったらゆっくり話しましょ」

文香「そのときは是非、私もご一緒させてください」

杏「ん、まあそんな機会があったらね」ヒラヒラ


………

……



奏「ふふっ」

文香「どうか、されましたか?」

奏「いえ、ちょっと……あの子のことを思い出して」

文香「杏さんのこと、ですか」

奏「ええ。なかなかどうして、かわいい子じゃない?」

文香「そう、ですね。華奢で独特の雰囲気を纏っていて……まるで童話に出てくる、気まぐれな妖精のようでした」

奏「詩人ね。まあ、確かに外見がそうなのは認めるけど、私が言っているのは内面の方よ」

文香「内面、ですか」

奏「文香は杏と仕事をしたことなかったかしら」

文香「はい。奏さんは、あるのでしょうか」

奏「以前に一度ね。向こうは覚えてないみたいだったけれど。そのときは随分と浮き世離れした子だなと思って見ていたわ」

文香「浮き世離れ、ですか」

奏「あなたは彼女を妖精だなんて表現したけれど、内面は仙人みたいなものよ。達観して、どこか遠くを眺めているようで」

奏「そこが気になったからよく覚えていたのだけれど……案外、年相応な面もあるのね」クスクス


 ~後日~

モバP「さて、今日はポスター撮影だ。今回撮られた奴が広告用に使われるから、気合を入れていこう!」

ありす「分かりました」

杏「は~い」

ありす「……なんだか今日は素直ですね。いつもは駄々をこねるのに」

杏「まあ、今回はただの撮影だからね。リテイク出さなきゃさっさと終わるし」

ありす「そういうことですか……全く、珍しいと感心したことを返して欲しいです」

杏「悪いけど返品は不可だから」

ありす「分かってますよ。杏さんそんなことは期待してません」

ありす「ところでプロデューサー、事前の説明では他の方と合同で行うと聞いていましたけれど、一体どなたが一緒に?」

モバP「それならもういるんじゃないかな、っとやっぱり」

奏「あら?」

杏「げっ……」

ありす「奏さん! 文香さんも!」

文香「こんにちは、ありすちゃん。杏さんも」

奏「随分露骨に嫌がってくれるじゃない。傷つくわね」

杏「よく言うよ」


ありす「えっ……えっ? あの、杏さんはお二人と知り合いなんですか?」

杏「この間、ちょっとね」

奏「喫茶店で偶然会って、仲良くなったのよ」

杏「仲良くねぇ……」

ありす「はあ……」

モバP「はは、この様子なら心配ないか。速水さん、鷺沢さん。今日はよろしくお願いします」

文香「こちらこそ、お世話になります」

奏「そういうことだから、今日はよろしくね。ありすちゃん、杏」

ありす「はい! よろしくお願いしますっ」

杏「はー……なんだか面倒なことになったなぁ」

………

……



カメラマン「はい、オッケーです! じゃあ次の指示があるまで待機でお願いします!」

杏「はーい。ふー、疲れた」

文香「……お疲れさまです。どうぞ、お茶です」スッ

杏「ん、ああ、ありがと。よいしょ、っと」ボスッ

文香「撮影、見学させていただきました」


杏「見てたんだ。面白いことなんてなかったでしょ」

文香「いえ、とても参考になりました」

杏「参考?」

文香「はい。如何にリテイクを出さないようにするか、という技術は勉強になります。カメラマンさんの望んでいることを推測する力は、まだ十分ではありませんから」

杏「そう難しいことでもないよ。自分のキャラと自分のやってることが一本通ってれば、自然と求められる構図も決まるしね」

文香「それができる人は少数かと……」

杏「そう? そこで今撮ってるのはできてるみたいだけど」チラッ


カメラマン「いいね、じゃあ次は……」

奏「こんな感じでどうかしら」

カメラマン「おっ、そうだね。それでいこうか」


杏「ほら」

文香「奏さんもその少数に入る人ですから……それに、杏さんと奏さんはタイプも違いますし、色々な人を見ておくことも勉強になると思いましたので」

杏「ふーん……勉強熱心なんだね」

文香「それほどでもありません。……あの、杏さん」

杏「なに?」

文香「どうやら、杏さんは奏さんを苦手としているようですが、どうしてでしょう」

杏「どーして……も、なにも態度を見てれば分かっちゃうか」

文香「その……はい」

杏「苦手っていうか、面倒というか。……なーんか、考えを見透かしてるっていうか、そんな風に感じたことはない?」


文香「そうですね。とても聡い方だと感じることは、よくあります」

杏「あとはまあ、初対面のときの印象というかなんというか。まあ、色々だよ」

文香「なるほど……」

杏「嫌いっていうんじゃないから安心してもらっていいよ」

文香「はい。そこは大丈夫だと思っています。ありすちゃんの先輩ですから」

杏「ありがと。それにしても、ありすちゃん、かあ」

文香「どうか、されましたか?」

杏「いんや、ちょっとね。……奏も文香もありすちゃんのこと名前で呼んでるなぁって」

文香「え? ええ、そうですね」

杏「いやあ、随分丸くなったなって。最初の頃は名前で呼ばれるの嫌がってたのに」

文香「そうなのですか?」

杏「そ、名字で呼んでください、ってさ。アイドルとして名前を呼ばれる機会も増えたから、段々慣れていったんだなと思う」

文香「ふふっ……」

杏「どうしたの、急に笑いだして」

文香「杏さんはありすちゃんのことが、とても好きなんですね」

杏「なに、いきなり?」

文香「いえ、ありすちゃんのことを話しているときの杏さんは、とても楽しそうに見えるので」

杏「いやいや、そんなことないでしょ」

文香「そう、でしょうか」

杏「そうだよ」


文香「……あっ、今度はありすちゃんの番みたいですよ」

杏「ん? あーあー、緊張しちゃって」

文香「そうですね。なんだか落ち着かない様子です」

杏「今まで洋服のモデルなんかはやってきてるけど、自分自身がメインの被写体になるのは久々だろうから」

文香「そうだったのですね」

杏「それと、多分合同ライブのことも考えちゃってるんだろうね。そこから色んなことに想像が回ってにっちもさっちも、って感じかな」

文香「よく、分かりますね」

杏「ありすちゃん分かりやすいからさ。表情とかちょっとした仕草とか見てるとすぐだよ」

文香「……私の考えも当たっていたようですね」

杏「ありすちゃんのこと?」

文香「いいえ、杏さんのことです。やはり、杏さんはありすちゃんのことを話しているときは生き生きとしていらっしゃいます」

杏「……いや、そんなことないと思うけど」

文香「そうでしょうか。恐らく、今まで杏さんと会話してきた中で、一番口数が多かったと思いますよ」

杏「……」ポリポリ

文香「あ、耳まで赤く……」

杏「そんなとこ観察しなくていいから。まったく、こっちは安全だと思ってたら全然そんなことなかった」

文香「奏さんほどでは、ないと思いますけれど……」

杏「あっち……奏はからかうためにやってきてるけど、文香はそういう考えなしでやってるでしょ。だから余計に厄介だよ」

文香「なんというか、すみません……」

杏「ああもう、そういうところやりにくいなぁ。とにかく、別段特別なことではないから」

文香「はい、分かりました」


文香「あら……ありすちゃんも、撮影が終わったみたいですね」

杏「そだね。あー、でもあれは納得してない顔だね」

文香「納得していない、ですか? 確かに、少し俯いているようですが……」

杏「自分でも緊張してたって分かってたんだろうね。しょうがない、ちょっとなだめてくるよ」

文香「えっ?」

杏「あの調子じゃあプロデューサーに食ってかかりそうだから。行ってくる」ヒョイッ

文香「……はい、行ってらっしゃい」

スタスタスタ……

……コッコッコッ

奏「杏はどうしたの?」

文香「ああ、奏さん。お疲れ様です。杏さんは、ありすちゃんをなだめに行くと……」

奏「なだめる? ……ああ、なるほどね」

文香「……やはり杏さんとありすちゃんは仲がよろしいですね」

奏「彼女とそんなことを話していたの?」

文香「はい。怒られてしまいましたが……」

奏「あら、文香もそんな意地悪するようになったのね」

文香「い、いえ、そんなつもりじゃ……」

奏「冗談よ」


文香「……もう、奏さんの方が意地悪です」

奏「それで、どうだった? 話してみて」

文香「そうですね。とても、優しい方だと思いました。今もありすちゃんの様子にすぐ気づいて、話をしに行きましたし。よく、彼女のことを見ているのだと」

奏「そうね」

文香「でも……少し、素直ではない方ですね」

奏「そこがかわいいのよ」

文香「ふふ……奏さんの仰っていたことがどういうことか、よく分かりました」

文香「いくら大人びているように見えても、年齢相応のところがある……私は、ありすちゃんと関わりのない杏さんのことを知りませんので、はっきりとは言えませんが、どこか、生き生きとしているように思えました」

奏「なるほど、文香はそう思ったのね」

文香「はい。……私個人の、勝手な感想ではあるのですが」

奏「いいえ、そう間違った判断でもないと思うわ。あの子、ありすちゃんの話をするときは目の色変えるもの。特に、私たちの場合はね」

文香「そう、ですね……。なんだか、杏さんに悪いことをしているような気もしますが」

奏「それは本人が解決するわよ、きっと。それに、かわいらしいじゃない。嫉妬なんて、ね」

………

……



ありす「……」ムッスー

杏「まあまあ、そろそろ機嫌直しなよ」

ありす「でも……」

杏「あれで十分よく撮れてたって。カメラマンさんもプロデューサーも言ってたでしょ?」

ありす「それは、そうですが」

杏「ありすちゃんが納得いかなかったのは、今回の撮影のことを気負い過ぎてたからだよ。合同ライブでのことを気にしちゃって、自分のイメージしている以上の最高でないといけないと思ってるの」

杏「自分がイメージできないものはどう頑張っても表現できないよ。外から何かの力があればまた別だろうけど、それは偶然でもないと起こらないからね」

杏「つまり、今日のところはこのくらいでってこと」

ありす「……分かっている、つもりです。私の我儘だってことは。でも……」

杏「納得できない?」

ありす「……」コクリ

杏「といっても今回のそれは、ありすちゃんの力不足が原因なわけだよ。厳しいこと言っちゃうようだけどね」

ありす「……はい」

杏「まあ、こうは言ったけどしょうがない部分はあると思うよ。ありすちゃんはまだまだ経験不足なわけだし、大型ライブの雰囲気も知らなければそれに必要な素材もどんなものか分からないわけだから」

ありす「でも、それは言い訳です」

杏「確かにそうかもしれないね。けど、そうやって言い訳にできるようなことを見つけて改善することで、次に繋げることもできるよ」

ありす「……ふう、分かりました。いつまでも引きずっていたら子供みたいですからね」

杏「まだ子供じゃん」

ありす「そこは突っ込まなくていいですっ。でも、どうやったら上手くなれるんでしょう」


杏「写真撮影?」

ありす「はい。……奏さんの様子を見て、参考にさせていただこうかと思っていたのですが、うまくいかなくて」

杏「そりゃ見本にするのを間違えたね。あれは参考にはならないよ」

ありす「え? ど、どうしてですか?」

杏「奏は自分の中で自分のやり方を確立できてるからね。そこを参考にしようとしたって上手くいかないよ。速水奏自身に一番向いた撮影方法というか……とにかく、本人じゃないと意味がないようなやり方だから」

ありす「そうですか……」

杏「まあ、奏のそれは極端な例だからあれだけどさ。どうせ参考にするなら文香の方を参考にするべきだったね」

ありす「あの」

杏「なに?」

ありす「だったら、杏さんのはどうなんですか?」

杏「……杏の? いやいや、杏のとか聞いても参考にはならないでしょ」

ありす「試しに、です。調べものをしようとするときは複数の資料を参照するべきでしょう」

杏「情報リテラシーのある小学生だこと……ま、いいけどね。話半分に聞いておくといいよ」

ありす「よろしくお願いします」

杏「んー、じゃあまずは……」

………

……



杏「……こんな感じかな。どう? 参考になった?」

ありす「そうですね。あまりにも違った視点からの話なので、飲み込むまでに少し時間がかかるかもしれませんが……参考にさせていただきます」

杏「そう、なら良かったけどさ」

ありす「はい。あっ、スタッフさんが呼んでる……すいません、ちょっと行ってきますね」

杏「ん、行ってらっしゃい」

タタタッ……

>>28 修正

杏「写真撮影?」

ありす「はい。……奏さんの様子を見て、参考にさせていただこうかと思っていたのですが、うまくいかなくて」

杏「そりゃ見本にするのを間違えたね。あれは参考にはならないよ」

ありす「え? ど、どうしてですか?」

杏「奏は自分の中で自分のやり方を確立できてるからね。そこを参考にしようとしたって上手くいかないよ。速水奏自身に一番向いた撮影方法というか……とにかく、本人じゃないと意味がないようなやり方だから」

ありす「そうですか……」

杏「まあ、奏のそれは極端な例だからあれだけどさ。どうせ参考にするなら文香の方を参考にするべきだったね」

ありす「あの」

杏「なに?」

ありす「だったら、杏さんのはどうなんですか?」

杏「……杏の? いやいや、杏のとか聞いても参考にはならないでしょ」

ありす「試しに、です。調べものをしようとするときは複数の資料を参照するべきでしょう」

杏「情報リテラシーのある小学生だこと……ま、いいけどね。話半分に聞いておくといいよ」

ありす「よろしくお願いします」

杏「んー、じゃあまずは……」

………

……



杏「……こんな感じかな。どう? 参考になった?」

ありす「そうですね。あまりにも違った視点からの話なので、飲み込むまでに少し時間がかかるかもしれませんが……参考にさせていただきます」

杏「そう、なら良かったけどさ」

ありす「はい。あっ、スタッフさんが呼んでる……すいません、ちょっと行ってきますね」

杏「ん、行ってらっしゃい」

タタタッ……


杏「ふぅ……」

モバP「どうしたんだ、そんな黄昏れて」

杏「……別に。何でもないよ。プロデューサーはいいの、ありすちゃん行っちゃったけど」

モバP「ああ。あれは向こうのユニットの写真を撮るんだ。速水さんたちの担当が対応してくれてる」

杏「あっそう……」

モバP「それで? 一体何を考えてたんだ?」

杏「……あのさ、プロデューサー」

モバP「なんだ?」

杏「ありすちゃんをさ、最初からあっちで引き受けるって話はなかったの?」

モバP「デビュー時から速水さんたちとユニットをってことか?」

杏「うん。そういう案だってあったんじゃないの? なんだってプロデューサーのところに……」

モバP「俺が直談判したからだ」

杏「……はっ?」

モバP「かなり粘ったよ。そのおかげで担当を任せてもらえたけど」

杏「え、なに、どういうこと?」

モバP「実は彼女のオーディション映像を見てさ、これは是非とも欲しいと」

杏「欲しいって……一体なんで」

モバP「彼女のプロデュースプランはいくつか出てたんだ。杏の言ったように、速水さんや鷺沢さんのようなクールなアイドルとユニットを組ませる案もな」

モバP「ただ、俺は今のこの方向性でプロデュースしたかった」

杏「わざわざありすちゃんをプロデュースしたかった理由は?」

モバP「一目見てピンと来たから。杏と同じ理由だよ。……まあ、それ以外にも丁度良かったと思ったところもあったし」


モバP「そろそろ杏にも一押し必要だと思ったんだ。年下、しかも性格の真逆な後輩ができればいい刺激になると思ってさ」

杏「それでありすちゃんを攫ってきたわけ?」

モバP「攫うって人聞きの悪い……」

杏「いや、話を聞いてる限りだとそうとしか聞こえないから」

モバP「いやいや、橘さんにも必要なことだと思ってやったんだからな?」

杏「ええー……?」

モバP「確かに橘さんはクール方面で売り出してもいいと思う。本人もそう望んでる。けど、彼女はまだ幼い」

モバP「影響を受ければそのまま本人の方向性が決まってしまいかねない。自分が憧れるような人が相手だと、特に」

モバP「それだと面白くない。俺は彼女をオンリーワンの個性として成長させてあげたかった。杏みたいにな」

モバP「オーディションの映像を見て、それから面談をして確信した。だから、あえて真逆の性格のアイドルである杏と接させようと考えたんだ」

杏「ふーん……でもさ、その計画って穴があるよね」

モバP「というと?」

杏「杏がありすちゃんと接しようと考えなきゃ成立しないし、ありすちゃんが杏に愛想を尽かしたらそれもまた失敗なわけで。リスクが高すぎない?」

モバP「はは、自分で言うのか。でも、俺はそんな心配はしてなかったよ。杏を信じてるからな」

モバP「まあ、結果として杏は橘さんの面倒を見てくれたし、橘さんも杏からいい影響を受けてるわけだから、作戦は大成功だったわけだ」

杏「……なにそれ」

モバP「まあ橘さんもアイドルとしての自分ってものを段々理解し始めたみたいだから、今回の合同ライブで速水さんと鷺沢さんの二人とユニットを組んでもらったわけだ」

モバP「彼女らが橘さんのイメージ通りなアイドルだったからか多少焦ってはいるみたいだけど、このくらいだったら大丈夫だろ」

杏「……ふーん」プイッ


モバP「……ったく、大事な後輩が別のアイドルに懐き始めたからって拗ねるなよ」

杏「――べっ」

杏「……べつに、拗ねてなんていないし。なに考えてるの?」

モバP「見てたら分かるよ。まあ、速水さんも勘が鋭いみたいだし気づいてるんじゃないかな」

モバP「まあ橘さんや鷺沢さんには……いや、鷺沢さんももう気づいてるか?」

杏「いや、だから……」

モバP「まったく、素直じゃないな。天の邪鬼というか……さっきみたいに速水さんたちとのユニットを進めたのも照れ隠しだろ?」

杏「あれは、ありすちゃんの適正を考えてだね。杏みたいなのと組むのはちょっと気苦労が」

モバP「諸星さんにはそんなこと言わないのにな」

杏「きらりは……きらりだし」

モバP「まあどっちにしろ、しばらく君らは組ませたままだよ。二人のユニットが好きだって声も結構上がってるし、本人の意志を重視したいからな」

杏「それは、そうかもだけど。でも、これからも奏たちと組ませた方がいいんじゃないかと」

モバP「いつにないくらい卑屈だな今日は……ったく、そんなに言うなら本人に聞いてみればいいじゃないか」

杏「本人に? 杏が? ユニットを移りたくないかって?」

モバP「そうでもしないといつまで経っても悩んだままだろ」

モバP「……お前が橘さんのことを気遣ってるのは分かるよ。でもそういうことも含めて、なおさら彼女とちゃんと話をした方がいいと思う」

モバP「それに、橘さんのいないところでこんな話をするのフェアじゃない」


杏「……分かってるけど、でも」

モバP「肝心なところでへたれるなぁ。まあ、その辺は後でどうにかしよう。とにかく、合同ライブまでそう時間もないんだし、今のうちにしこりは解消しておけよ」

杏「うーい……」

モバP「生返事か、まったく……」

………

……



 ~後日 喫茶店~

杏「うーん……」ズズズッ

杏「どうしよう……」

奏「人がいるのに無視して考えごとをするのは失礼じゃないかしら?」

杏「そっちが勝手にここのテーブルに来たんじゃん。他にも空いてるところがあるのに」

奏「あら、随分寂しいことを言うのね。私とあなたの仲じゃない」

杏「一体どんな間柄だってのさ……」

奏「それで? 一体何を悩んでいたのかしら」

杏「なんでも。ちょっとしたことだよ」

奏「ありすちゃんのことでしょ」

杏「……」

奏「あなたって、ありすちゃんのことになると途端にわかりやすくなるわね」


杏「……はあ。なにが目的?」

奏「いやね、別になにかを企んでるわけじゃないわ。けど、そうね。あえて言うとしたら……」

杏「したら?」

奏「野次馬根性、かしらね」

杏「……はぁー」

奏「大きなため息ね」

杏「面倒なのに捉まったっていう杏の心境だよ」

奏「ひどいわね。せっかく相談に乗ってあげようと思ったのに」

杏「頼んでないけどね」

奏「細かいことはいいのよ。それに言うだけならタダだし、私も今は時間があるの」

杏「タダより高いものはないとも言うけどね」

奏「それで? 昨日の撮影で何があったのかしら」

杏「プロデューサーに、今の内にしこりは解消しておけって言われたんだよ」

奏「で、ありすちゃんにどう話を切り出せばいいのかってことね」

杏「……ま、そゆこと」

奏「どういった内容なのか私は知らないけど、言いやすい雰囲気を作ることが大事だと思うわ。そうすれば案外、するっと言葉が出てくるかもね」

杏「ふーん……」


奏「なにか共通の趣味は無いの?」

杏「え? ああ、まあ、あるけど」

奏「なら、そこから話を広げてみるといいんじゃない。いきなり真面目なトーンでいってもお互いに肩が凝っちゃうでしょ?」

杏「……一理ある、けど、どうやってそれに誘うか」

奏「そこから? ……あなたって割と面倒くさいのね」

杏「うるさいやい」

奏「でも、そうね……あなたがそこまで拗らせてるようだったら、もう偶然を期待するしかないんじゃないかしら」

杏「なんか急に投げやりになったね」

奏「結局、あなたのやる気次第ってこと。何事もチャンスだと思えばそうなる。そういうものよ」

杏「うーん」

奏「ほら、どうせ悩むなら事務所で悩みなさい。こんなところに居続けるより、よっぽどチャンスが転がり込んでくる可能性が高いわ」

杏「……うん、そうしてみるよ。あ、それと」

奏「なに?」

杏「ありがと。なんていうか、まともに話を聞いてくれるとは思ってなかったから」

奏「別に、私はあなたたちが不仲になればいいとは思っていないもの。せっかく出来たかわいい後輩と楽しいお友達ができたんですもの。二人の幸せを願うくらい当然でしょ?」

杏「……まったく。余計な言葉が混ざってるよ」ヒョイ スタスタ

奏「ふふ、また何かあったら頼ってくれていいわよ」

杏「はいはい。それじゃあね」

奏「杏」

杏「なに?」クルッ

奏「今度は文香とありすちゃんも一緒に、四人でお茶しましょう」

杏「……ま、気が乗ったらね」

………

……



 ~事務所~

ありす(今日はストロベリィ・キャンディとしてのレッスンの日……ライブまで時間もありませんし、しっかりレッスンしないと)

ガチャ

ありす「おはようございます。……あ、杏さんはもう来ていたんですね」

ありす(私が事務所に入ると、そこには杏さんがいました。私に気づくとひらひら手を振って挨拶を返してくれます)

杏「おはよ。ちょっと野暮用があってさ」

ありす「そうですか。でも、これでレッスンには時間通りに参加できますね」

杏「そうだね」

ありす「……あ、あれ? 杏さん?」

ありす(予想外の反応に、思わず変な声が出てしまう。そんな私を見て、杏さんは怪訝そうな表情を浮かべました)

杏「なに?」

ありす「いえ、いつものパターンだと、めんどくさーい、とか言いながら寝転がるような場面でしたから」

杏「ひどい言われようだけど否定のしようがないなぁ……」

ありす「自覚しているなら直してほしいところですが」

杏「ま、いいじゃん。ほら、そろそろプロデューサーも来るんじゃない? 確か今回のレッスン場所って、前のところだよね。準備はできてるの?」

ありす「もちろんできています。杏さんはどうなんですか」

杏「……あれ、着替えどこやったっけ」

ありす「もう! ほら、探しますよ!」

杏「はーい」

ありす(やっぱりいつもの杏さん……? でも、どことなく違和感もあるような)

ありす(……とにかく、今はレッスンに集中しなくちゃ)


………

……



 ~レッスン後~

杏「お疲れさまー」

ありす「お疲れさまです」

ありす(レッスンが終わり、お互いに声をかける)

ありす(今日のレッスンは順調でした。以前ほど疲れが溜まっている感覚もなく、またレッスン中でも特に目立ったミスなどはありません)

ありす(ただ、ライブ直前のレッスンであることを考えると、もう少し……)

ありす「あの、杏さん。少し、お願いしたいことが」

杏「自主練したいって言うんでしょ? ちょっと物足りなそうにしてたから分かるよ」

ありす「私、顔に出てましたか?」

杏「そんな露骨じゃなかったから安心していいよ。ま、そういうことなら杏もちょっと残って練習するかな」

ありす「えっ」

ありす(おかしな言葉が聞こえた気がしました)

ありす「……あの、失礼します」ピトッ

杏「……なに、急に」

ありす「いえ、熱でもあるんじゃないかと」

杏「なんちゅーテンプレートな反応を」

ありす(気が動転して、杏さんに熱があるのではないかと疑ってしまいました。逆に、私に熱があって幻聴を聞いたのではないかとも)

杏「って違う。杏だって気になるところがあっただけだよ」

ありす「本当ですか?」

杏「本当だよ」

ありす「そうですか……それでは、よろしくお願いします」

杏「はーい」

ありす(そういえば、以前にここに来たときも私は居残りレッスンしてたっけ。あのときは杏さんは後ろで見ていてくれて。でも……今は隣にいるんですよね)チラッ

杏「どうかした?」

ありす「いえ、なんでもありません」

杏「じゃ、始めよっか」

ありす「はいっ」

ありす(不思議な昂揚感を抱えたまま、私は自主練を始めました)


 ~二時間後~

杏「ふぅ……こんなもんかな」

ありす「はぁっ、はぁ……はい、ありがとうございました」

杏「ん。完成度はかなり上がったね。これなら十分本番でも通用するよ」

ありす「そう、ですか? はあ、ふう……それなら、よかったですけど」

杏「時間も時間だし、そろそろ上がろうか。一応門限は伸ばしてもらってるんだっけ」

ありす「はい。プロデューサーさんには悪いことをしてしまいましたけど、お迎えもお願いしてありますし」

杏「そだね。じゃあそれまでここで待って……ん?」プルルルル

杏「はい? プロデューサー? ……へ、また?」

ありす(プロデューサーから電話がかかってきたらしい杏さんは、わずかに顔をしかめます。なにか不測の事態でも起こったのでしょうか)

杏「いや、しょうがないよ。ライブ前だし。うん、そうするよ。え? はーい、分かった」

杏「ん。ありすちゃん、プロデューサーから」スッ

ありす「私ですか? ……はい、お電話代わりました。橘です」

モバP『橘さん? ごめん、ちょっと色々あって迎えに行けそうにないんだ』

ありす「え? そうなんですか?」

モバP『うん……会議が必要な案件が急に出たから、どうしても参加しないといけなくて』

ありす「……いえ、そういうことなら仕方がないと思います。こちらも特に問題ありませんから、プロデューサーはお仕事に集中してください。いえ……」チラッ

ありす「私は杏さんのお家に泊めてもらいますから、迎えは大丈夫ですよ」

ありす(唐突に言ってしまったことですが、聞いていた杏さんも特に反対はないようで小さく頷いていました)

モバP『え、そうかい? 悪いね。俺の方から連絡はいれておくから。それじゃあ、よろしくね』

ありす「はい、分かりました。失礼します」

ありす「杏さん、終わりました。その……すみません。勝手に決めちゃって」

杏「別にいいよ。プロデューサーのあの様子じゃあ中々終わらないだろうし、この後なにか用事があったわけでもないから」

ありす「ありがとうございます。……杏さんのお家に行くのも久しぶりですね」

杏「そだね。んじゃ適当に晩御飯買っていこうか。私たちだけでこの時間に外を出歩いて回るのもね」

ありす「一目見ただけじゃ小学生二人ですからね……」

杏「悲しいことにね。さ、行こうか」


………

……



ありす「ようやく、ですね」

杏「だねぇ。ついに負けちゃった」

ありす(夕ご飯を済ませた私たちは、ゲームをしていました。ソフトは前に杏さんの家でやっていたパズルゲーム。つまり、リベンジです)

杏「ずいぶん上達したね。ちょっと驚いたよ」

ありす「あれからダウンロード版を買って練習しましたから」

杏「なるほど、道理で」

ありす「……」

ありす(今回はなんとか勝ちを拾えました。私が練習で上手くなったことは確かで、前回では対応できなかったような局面も対処ができました。けれど……)

ありす「杏さん、やっている最中どこかぼうっとしていませんでしたか?」

杏「え?」

ありす「だって、細かいミスを何度かしていましたから。あれがなかったら、まだ私が勝っていたか分からなかったと思います」

ありす(そう、杏さんはらしくもないミスを何度かしていました。これが勝負の別れ目、というほど致命的なものではありませんでしたが、それが無ければあるいは、というものです)

杏「よく分かったね」

ありす「それだけ上達して、杏さんの様子を窺えるくらいにはなったということです」

ありす「手加減していたわけではないというのは分かりますが、全力の杏さんでないと意味がありません。いったいなにを悩んでいたのですか」

ありす(そのとき、杏さんは珍しい表情を浮かべていました。眉を僅かにしかめて目を伏せ、まるで迷っているかのような、そんな顔)

ありす(少しして、杏さんは手元のコントローラに目を落としながら言いました)

杏「ありすちゃん。今、アイドル楽しい?」


ありす「どうしたんですか、いきなり」

杏「ありすちゃんが言い出したんでしょ? 何考えてたんだって」

ありす「それは、そうですけど」

杏「で、どう?」

ありす「……楽しいですよ。アイドルとしての仕事にも慣れてきて、色んな経験をさせてもらっていますから」

ありす(杏さんの唐突な質問には驚きましたが、こうして口に出した言葉は本当に思っていることです)

杏「そっか」

ありす「……アイドルにならなかったら、こうして杏さんとゲームをすることなんてなかったでしょうし」

ありす(なんとなく真面目な雰囲気に乗せられて恥ずかしいことを言ってしまう)

ありす(頬が熱くなるのを感じながら横目で杏さんの方を見ると、視線は手元に落としたままでした)

ありす(いつもならからかってくるだろう杏さんが無反応なのを怪訝に思っていると、その口からぽつりと言葉が漏れました)

杏「……ありすちゃん」

ありす「な、なんでしょう」

杏「奏や文香と、ユニット組みたくない?」

ありす「はい? いや、今度のライブでユニット組みますよ」

杏「そうじゃなくて、つまり――これからもってこと」

ありす「……杏さん?」


杏「ありすちゃんの今後の方向性としてはかなり合ってるし、相性だっていいでしょ?」

杏「これからのことを考えると、やっぱりそうした方がいいんじゃないかな」

ありす「……杏さん」

杏「経験も色々詰んできたわけだし、次のステップに進んでもいいと思うんだ」

杏「そろそろ正統派に路線変更してさ」

ありす「杏さん」

杏「今度のライブはそれを実感できる場になるだろうし、そういう視点でライブに臨んでもいいんじゃないかな」

杏「かっこいいアイドルっていうのを学べるよ。だから……」

ありす「杏さんっ」

杏「……」

ありす(正直に言えば、どうして杏さんが急にこんなことを言い始めたのか分かりません)

ありす(ただ、いつもの様子でないこの言葉は本心を隠しているように感じられました)

ありす「一体どうしたんですか? 杏さんらしくもない」

杏「かもね」

ありす「……杏さん、話してください。私は新人ですけど、杏さんのユニットメンバーです」

ありす「まだ子供で頼りないかもしれませんが……それでも私になにかできることがあるなら」

ありす(あの杏さんがどんな悩みを抱えているのか、私は知りません。想像もつかないくらいです)

ありす(でも、こうしてその悩みの一端を話してくれたのだから、なんらかの力になりたいと思うのは当然のことでした)

ありす(まだ子供で新人アイドルでも……杏さんのパートナーだから)

杏「……はあー、まいったねこりゃ」

ありす「杏さん……」

杏「分かった、言うよ」


杏「杏は、ありすちゃんに新しい道を進んでもらったほうがいいんじゃないかって考えてる」

ありす「……それは、どうしてですか?」

杏「ありすちゃんは杏と組んでるよりも、あの二人みたいなアイドルと組んだ方がより輝けるって思ったからだよ」

杏「杏みたいなのより、ありすちゃんの目指すクールな二人と一緒の方がいいんじゃないかって」

ありす「杏さんはそれでいいんですか」

杏「そりゃあ……杏だけのことじゃなくてありすちゃんの将来に関わることだし。それがいいに決まってるさ」

ありす「……」

ありす(杏さんは、目をそらしました。まるで、隠すように)

ありす(その姿を見ていて……私はちょっとイラッとしました)

ありす(この感情は八つ当たりです。いつもの杏さんらしくないという、私の身勝手な気持ち。だけど杏さんも勝手です)

ありす(ふつふつと湧き上がる感覚に、以前に杏さんにされた仕打ちを思い出しました)

ありす(杏さんは視線を逸らしている……やるなら今、です)

ありす「杏さん」スッ

杏「なに?」

ありす「えい」

ムギュ


杏「……んへぇ?」

ありす「えい、えいえい」ムニムニ

杏「ふふぇ、むへぇ」

ありす「予想通りの柔らかさですね。よく伸びます」ミョインミョイン

杏「ひょっ、まっへ……」

ありす「なんて言ってるか分かりませんよ」

杏「もっ……うぇえいっ」ブンッ

杏「なにさ、いきなり!」

ありす「前にやられたののお返しです」

杏「ええ……?」

ありす「忘れたとは言わせませんよ」

杏「いや、確かに覚えてるけどさ」

ありす「それと杏さん、私は今ちょっと怒っています。なぜか分かりますか」

杏「それは、その」

ありす「以前、杏さんにユニットのことで相談したことがありました」

杏「はい……」

ありす「あのとき悩んでいた私に、杏さんは色々話してくれましたね」

杏「はい……」

ありす「今とまったく同じ状況です。覚えていますね?」

杏「いや、だいぶ違うんじゃ……」

ありす「なんですか?」

杏「なんでもないです……」


ありす「とにかく、杏さんは色々なことを話して、私とユニットを組んでいる理由を説明してくれました」

ありす「だから、私も同じようにします」

杏「えっ、と、ええ?」

ありす(杏さんは困惑しているようですが、構わず続けます)

ありす「ではまず第一に。奏さんと文香さんに私を混ぜたユニットのことですが」

ありす「確かに私にとって居心地のいいユニットです。お二人とも、とても尊敬できるアイドルです」

ありす「けど、それは相対的にこのユニットの重要度が低いというわけではありません」

杏「んむ」

ありす「二つ、私のアイドルとしての方向性ですが」

ありす「確かに私はクールなアイドルを目指してはいますが、今の活動を続けながらでもそれは可能だと思います」

ありす「そういった仕事も最近では増えてきているのですから、別段特別なことをせずとも大丈夫かと」

杏「むむ……」

ありす「そして三つめ、一番重要です」

ありす「杏さんは……私の意思を無視しています」

杏「……それは」

ありす「私は、杏さんとのユニットを嫌だとは思っていません」

ありす「レッスンも仕事も、楽しくやらせてもらってます。レッスンをサボろうとする杏さんを止めるのも、隠れている杏さんを探すのも、まあ大変ではありますが苦ではありません」

ありす「私は杏さんとユニットの活動をするの、楽しいです。杏さんはどうですか?」

杏「杏は……、うん、杏もありすちゃんと活動するのは楽しいよ」

ありす「よかったです。それから、もう一つだけ」

杏「ありすちゃん?」


ありす「私がこうしてアイドルをできているのは、杏さんがいたからです」

ありす「杏さんが、私をアイドルにしてくれたんです」

杏「それは……違うよ。プロデューサーがありすちゃんをアイドルにしたんだよ」

ありす「そうですね、確かにプロデューサーが私をスカウトしてくれてアイドルになるチャンスをくれました。今もお仕事や色んなことでお世話になっています」

ありす「でも、本当の意味で私がアイドルになれたのは杏さんのおかげです」

ありす(脳裏によぎるのは、杏さんと出会ってからの思い出)

ありす(出会ったときの印象や、レッスン中の態度、お仕事をするときの姿勢。色々な経験があった)

ありす(そしてなにより、初めて見た杏さんのステージ。思えば、あれが私のアイドルとしての原点なのかもしれません)

ありす「私の手を引いてくれて、背中を押してくれて、隣にいてくれて。……名前を呼んでもらって。あなたがいたから、私はこうしてここにいるんです」

ありす「杏さんがいなかったら、今の私はアイドルをしていません。だから、杏さんは私の恩人で……」

ありす「……一番、憧れているアイドルです」

杏「……」

ありす(沈黙が下りました。私も杏さんも、言葉を発しません)

ありす(言いたい放題言ってしまったので杏さんが怒っているのではないかと思うと、何と言えばいいのか……)

ありす(ゲームは私の勝利画面を映したまま止まっています。流れているBGMがワンループした頃、杏さんが喋りだしました)

杏「やっぱり、ありすちゃんは頑固だよ。そんな理由でこんな変なアイドルを尊敬してるなんて」

ありす(杏さんが顔を上げ、ようやく目が合いました。いつも通りの笑顔で、私を見ていました)


ありす(私は安心して、同じように笑顔で返しました)

ありす「そんなことないですよ。普通のことです」

杏「まあ、本人が言うならそうなのかな」

ありす「ええ。それに、今はライブが控えているんですから、そちらに集中した方がいいですよ」

杏「はは、それもそうだね。それにしても前にうちに来たときもライブ前で、今日もか」

ありす「でも、あのときと違って今の私たちはユニットですから。ステージに立つのは二人一緒ですよ」

杏「うん。そっか、ようやく二人でステージか」

ありす「……楽しみですね、ライブ」

杏「……うん、そうだね」



ありす(私たちは笑い合うと、ゲームを再開しました)

ありす(もう杏さんが操作ミスを起こすことはありませんでした)

ありす(結果として最初の一勝から勝つことはできませんでしたが、でもとても楽しくて……つい夢中になって遅くまでゲームをしていました)

ありす(それから私たちは一緒のベッドに入り、けれど中々眠気に襲われることはなく、しばらくお喋りをしていました)

ありす(ゲームのこと、それ以外の趣味のこと、アイドルとしてのこと、プライベートでのこと、そしてライブのこと)

ありす(それはとても楽しく、そして有意義な時間でした)


ありす(……翌日から、ライブに向けての追い込みが始まりました)

ありす(最終調整のレッスンや、リハーサルの数々。多くのアイドルやスタッフの人たちが慌ただしく動いているのを見ていると、否応なしにライブが近いのだと思わされます)

奏「二人ともお疲れさま。よかったわよ」

文香「これで本番も安心、ですね」

ありす「本当ですか?」

文香「ええ。とても堂々としていて、皆さん褒めてらっしゃいましたよ」

ありす「そうですか……よかった」

奏「ふふっ……もちろん、あなたもよ」チラッ

杏「別に杏はいいから。そっちもリハお疲れさま」

奏「ありがと。……でも、ふぅん」

杏「なに?」

奏「いえ、悩みは解決したのかしら?」

杏「……ん、まあおかげさまで」

奏「なら、こちらとしても相談に乗った甲斐があったわ」

ありす「ええっと、もしかしてあのことについてですか?」

奏「多分、そのことよ」

文香「……?」

奏「ふふ、今度文香にも話してあげるわ。杏とも、四人でカフェに行く約束をしているからね」


杏「え、いや、確約はしてな……」

奏「あら、集合みたいね。行きましょう」

ありす「はい」

文香「分かりました」

杏「ちょ、ま、おぉーい」



ありす(そのようなこともありながら、時は過ぎていき……ついに本番当日となりました)

ありす「……す、すごい人、ですね」

ありす(会場に集まった人たちを見て、茫然と呟く)

モバP「だろ? しかもこれだって、朝の物販に来ている人みたいに一部でしかない。最終的にはもっと増えるよ」

ありす「そんなに……」

ありす(初めてのステージで行ったショッピングモール、あの施設にいた全ての人たちがそのままそっくりここにいるのではないかと錯覚するほどの人数です)

ありす(まだライブが始まったわけでもないというのに、この熱気。それに当てられたのか、クラリとしてしまします)

杏「大丈夫?」

ありす「だ、大丈夫ですっ。問題ありません」

杏「そうは見えないけどねー」

ありす「……」ドキドキ

杏「……」ジーッ


杏「……ありすちゃんのファンもいるんだろうねー」

ありす「っ……」ドキッ

杏「グッズの売れ行きはどうかなー」

ありす「もうっ、杏さん!」

杏「ごめんごめん、いい反応してるからついね」

ありす「つい、じゃないですよ。まったく……」

モバP「二人とも遊んでないでそろそろ行くぞー」

ありす「あっ、はい!」

杏「うーい」

ありす(……杏さんにはあんな風に言いましたけど、やっぱり気になります)

ありす(最初のステージとは違い、私のことを知っている人がいる)

ありす(もしかしたら、私を見るために来てくれている人が……なんて思ってしまう)

ありす(もしそんな人がいるなら……私は、私にできる最高のパフォーマンスとしなくちゃ)

ありす(そう、強く思いました)

………

……




『ワァアアアアアア!!』

ありす(モニターからは歓声が流れてきています)

ありす(ライトが落ちるまで続いたそれは、次の曲のイントロが始まるとまた大きく聞こえてきました)

ありす(圧巻の光景です。オープニングに一度出たきりですが、想像を遥かに上回るものであったのは確かです)

ありす「はぁ……ふぅ……」

ありす(次は私たちの出番。ストロベリィ・キャンディのステージです)

ありす(気持ちを落ち着けようと深呼吸をしてみても、震える呼気を自覚して余計に緊張してしまう)

ありす(ライブの始まりよりも緊張しているのはやはり、オープニングのように全員でではなく、私たちでだからなのでしょう)

ありす(皆さんの中に私が混じっている、ではなく、私たちがステージに上がるという意識が強くあるから)

ありす(私たちのステージ……私たちだけのステージ)

ありす(そう考えると、色々な想いが浮かんでは消えていきます)

ありす(杏さんと出会ってから初めてのステージに立って、それからユニットが決定したこと)

ありす(ユニット活動を続けていて、色んな不安や楽しみを自分の成長につなげられたこと)

ありす(本当に、色々なことがありました)


杏「ありすちゃん」

ありす「杏さん……」

杏「緊張してる?」

ありす「……はい」

杏「ライブが始まる前より緊張してるんじゃないの?」

ありす「それは……そうですよ。こんな広いステージに、私たち二人だけなんて」

杏「ま、気持ちは分かるけどね」

ありす「杏さんは落ち着いていますね」

杏「緊張していないわけじゃないんだけどね」

ありす「本当ですか?」

杏「ほんとだよ」

ありす「……なんだかウソっぽいです」

杏「ひどいなぁ」

ありす(少しの沈黙。聞こえてくる曲の様子からして、そろそろのようです。スタッフさんからも指示が出ました)

杏「ありすちゃん」

ありす「なんですか?」

杏「いいステージにしようね」

ありす「はい、もちろんです」


ありす(私たちはどちらからともなく、お互いの手を繋ぎました)

ありす(一度だけギュッと握りしめると、それぞれの待機場所へ向かいます)

ありす(ポップアップ装置の上に乗ると、スタッフさんがカウントを始めました。それに合わせてイントロが流れます)

ありす(ごと、と台が揺れ、ゆっくりとせり上がる。顔がステージ上に出たとき、目に飛び込んできた光景に息をのみました)

ありす(ピンクとブルーの二色でできた光の海)

ありす(それは私と杏さんの色。“ストロベリィ・キャンディ”の色でした)

ありす「――ッ!」

ありす(反射的に杏さんへ視線を向ける。そうすると、目が合いました)

杏「……」ニヤッ

ありす(杏さんはにやりと笑って、歌い始めました)

ありす(私は胸に言いようのない昂揚感が湧き上がってくるのを感じ、まるで競うように後に続きます)

ありす(無我夢中。でも、それはあの初ステージのときとはいささか違いました)

ありす(杏さんの様子、それに、観客の方たちの表情やコール、曲に合わせて揺れ動くペンライトの波)

ありす(そういったものまで意識することができています)

ありす(自らの成長を意識しつつ、それでいて改めて杏さんの大きさのようなものを感じ取りました)

ありす(なぜなら杏さんは会場の盛り上がり方と私の調子を窺って、それに合わせてパフォーマンスを少しずつ変えていたのです)

ありす(流石だな、と思うのと同時に、これはチャンスだとも感じました)

ありす(ほんの少しのいたずら心とでもいえばいいのでしょうか。気分が高翌揚していたがゆえの行動だったのだとも思います)

ありす(私は――杏さんに身を任せることにしました)


ありす(ダンスのギアを上げていく。杏さんは私の思惑に気づいたのか、すぐに合わせてきてくれました)

ありす(いつもは私が振り回されているんですから、こういう時くらいは後輩として頼らせてもらっても構いませんよね?)

ありす(合わせてくれる杏さんを見ながら、そんな気持ちで前に出ます)

ありす(でもそれだけじゃ杏さんは終わりませんでした。私のアドリブのフォローをしたうえで、利用し、さらに自分自身をも高めていく)

ありす(普段の姿からは想像もつかないほどの快活さを見せています)

ありす(そしてそれは、まるで私に見せつけているように感じました)

ありす(ついてこられるでしょ、と。その背中は語っているみたいで)

ありす(……あとはもう、濁流のような激しさで進んでいきました)

ありす(私が杏さんにノってみせれば、それを受けて杏さんがまた一歩先へ行く。私もまた、杏さんを追いかける。どこまでも止まらず、昇り続ける螺旋階段のよう)

ありす(楽しい、嬉しい。そんな感情が胸の内で爆発しています)

ありす(ああ、この時間がいつまでも、ずっと続けばいいのに――)

………

……



ありす「……終わっちゃったんですね」

杏「そうだね。長かったような、短かったような」

ありす(ライブは終わりました)

ありす(結果として、ストロベリィ・キャンディのステージでやった私のアドリブは成功に終わりました)

ありす(アドリブによって元のルーティンから大きく逸脱したわけでもなく、逆にそのアドリブが大きな効果を上げたということで、むしろ周囲の人たちからお褒めの言葉をいただくほどでした)

ありす(会場の盛り上がりがすごかったよ。見ててとても楽しかったよ。そのように言われると、どうしようもなく頬が緩んでしまいました)

ありす(それで調子が出たのか、以降のステージは緊張もなく万全のコンディションで臨めました)

ありす(奏さん、文香さんとのユニットも私の全力を出しきることができましたし、)

ありす(そうしてライブは全体的に見ても大成功を収め、万雷の拍手の中幕を閉じたのです)

ありす(……今は私と杏さんの二人で並んで撤収作業を眺めながら、プロデューサーを待っています)

ありす(視線の向こうには先ほどまで自分たちが立っていたステージがあります)

ありす(あれだけ浮世離れして光り輝いていたステージも、今はその面影が残っている程度です)

ありす(まだ信じられないような気持ちで、ふと呟きました)

ありす「なんだか、とても短く感じました。実際には何時間も経っているのに」

杏「ライブはそんなものだよ。やたらと早く時間が感じるの」

ありす「杏さんもそうなんですか?」

杏「まあね。けど体感時間と違って、実際の時間以上に疲労が溜まってるから、ものすごく疲れるよ」

ありす「はい……。すごく疲れてます」

杏「それがライブのいやらしいところだよ」


ありす「私、今なら杏さんの気持ちが分かります」

杏「ん?」

ありす「眠くて仕方ありません」

杏「はは、もう少ししたらプロデューサーも来るよ。それとも、それまで寝ておく?」

ありす「いいんですか?」

杏「プロデューサーが来たら起こしてあげるから、安心して寝てていいよ」

ありす「はい。……いつもと逆ですね」

杏「ありすちゃんが寝て、杏が起こすって? 確かにそうだ。珍しい経験させてもらえるね」

ありす(ふわふわとした気分は眠気のせいか、それともライブがもう終わったということへの現実感が足りないせいか)

ありす「杏さん。今日、楽しかったですね」

杏「うん」

ありす「私、こんなに楽しかったの、初めてです」

杏「うん」

ありす(意識がぼやけた状態で、なんとなく言葉が口に出る)

ありす「杏さんがいて、隣で一緒に歌ってくれて」

ありす「お客さんに、私たちの色を振ってもらえて」

ありす「ようやく一人前になれた、気がしました」

杏「うん……」

ありす「最後の挨拶のとき、皆さんに名前を呼んでもらえたのが、嬉しかったんです」

ありす「私もアイドルとして、認められたんだ、って……」ウトウト

ありす「だから、これで胸を張って、杏さんのパートナーだって、言え……」カクン

杏「……おやすみ、ありすちゃん」

ありす(杏さんに頭を撫でられる感覚の中、私の意識は暗転しました)

………

……



ありす(――私の、いえ私たちのユニットは一つの山場を越えました)

ありす(ユニットとして、そしてアイドルとして成長することができたと思います)

ありす(私、橘ありすはこれからもアイドルを続けていくのでしょう)

ありす(それがどんな道になるのか、未来は分かりません。けれど、とても素晴らしい日々になるだろうと確信しています)

ありす(ぐうたらな先輩と――それでいて頼れるパートナーと一緒に歩んでいけるのなら)

ありす(今はまだ見えない頂上が見えるのかも、しれません)

ありす(……でも今は)



杏「――ってことがあってさー。結局起こそうとしても起きなくて、プロデューサーがおんぶして連れてったの」

文香「……かわいらしい、寝顔だったのでしょうね」

奏「そんな珍しい光景が見れるなら、私も見送りにいけばよかったわ」

杏「いや、ほんと。あ、そうだ。写真撮っておいたけど見る?」

奏「手際がいいわね。見させてもらうわ」

文香「ぜひ、私にも」

杏「はいはい」

ありす「もーっ! やめてください! というかいつの間に撮ってたんですか! 消してください! 見せないでください!」

杏「あははは」

奏「ふふっ……ああ、そうだ。杏からありすちゃんのことばかり聞いていたら、ありすちゃんが損だろうし、一つ杏のことでお話ししようかしら」

杏「えっ」


ありす「なにかあるんですかっ?」

奏「この子ったら、合同ライブ前のとき、ありすちゃんが私たちと仲良くなったからって拗ねて……」

杏「わーっ!」

ありす「え、なんですか、聞こえないですよ!?」

杏「ありすちゃんは聞かなくていいから。奏の戯言だから」

奏「戯言だなんてひどいわね。全部事実でしょ?」

杏「事実無根だし、それはただの妄想だから」

ありす「あの、もう一回お願いします」

奏「いいわよ? あのね……」

杏「あっ、そろそろレッスンの時間じゃない? ほら、ありすちゃん、いつもみたいに杏を連れて行かなくていいの?」

ありす「まだ三十分前じゃないですか、まだ余裕はあります。奏さん、お願いします」

杏「ぐぬっ、ええい、こうなったら……」ガバッ

ありす「きゃあ!? な、なにするんですか!」

杏「絶対聞かせるわけにはいかない……!」ガシィッ

ありす「こ、こんなときだけ機敏に動いてあなたは……!」

文香「ふ、二人とも落ち着いてください……」オロオロ

奏「ふふふっ」



ありす(でも、今は)

ありす(こんな騒がしくて、疲れもして。だけど楽しい時間を大切にしようと、そう思いました)


 終わり

以上です。一応シリーズはこれで完結の予定です
ありがとうございました

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