男「ハロウィンの出会いは偶然かそれとも」(35)


ねぇ、知ってる?
ハロウィンって死者の魂が帰ってくる日なんだって。

あなたは、もう会えない、けれどもう一度会いたい、そんな人はいますか?


男「…………」

?「もしもし?そこのお方、そのダイヤモンドレイクにいそうなホッケーマスクの方?」

男「……クリスタル」

?「え?」

男「ダイヤモンドじゃなくてクリスタルレイクだよ、カボチャの魔女さん」

魔女「そうでしたっけ?いや、私ホラーが大の苦手で。やはりダメですね、知ったか振りをして物を言うのは」

男「確かにその仮装は恐さよりも可愛らしさの方がある、カボチャの被り物は重そうだけど」


魔女「見た目ほどは重くないんですよ、これが。安物の利点ですね」

男「安物なんだ、それ……と言うかそろそろ一つ聞いても良いかい?」

魔女「なんでしょう」

男「俺に何か用だった?」

魔女「うーん、用があると言う訳では無いんですけど……ほら、街中で今ハロウィンイベントやってるじゃないですか」

男「ああ、殆ど仮装行列だけど」


魔女「あれに交じってたんですが人混みに疲れてしまって、そこで人に教えてもらった星が綺麗に見える丘上の公園に行ってみようと思って来たら何と人が居るではありませんか」

男「それで話しかけた、と」

魔女「はい、正直怖かったですけど、直ぐに引き返すのもわざわざ来た意味が無くなりますし……だからと言ってこの空間で無言を貫くのも嫌でしょう?」

男「それは確かに」

魔女「なのでお隣、座らせて貰ってよろしいでしょうか?」

男「どうぞ」


魔女「はあ~」

男「そんなに疲れてたんだ」

魔女「それもありますが、なんか安心して」

男「安心とは」

魔女「話しかけるのすごい緊張したんですよ」

男「……まぁこんなマスクだしね」

魔女「本当ですよ、それじゃあ誰もお菓子貰いに来れないじゃ無いですか」



男「それが地域の子供達には意外に好評でね、大人気さ」

魔女「へぇ~」

男「信じて無いね」

魔女「だって、その紙袋お菓子がまだ入ってそうですし」

男「……これはあれさ、子供達にはまだ早過ぎたみたいでね」

魔女「なんですかそれ」

男「はぁ、どうして皆これの素晴らしさが分からないのか」


魔女「そんな風に言われたら気になりますね」

男「欲しいならあげるけど」

魔女「いや、タダで貰うわけには……」

男「今日はそれが許される日じゃなかったっけ」

魔女「そ、そうでしたね。ではあのセリフを言わなければいけません」

男「どうぞ」

魔女「……トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃイタズラします……よ?」

男「悪戯も有りかもしれない」


魔女「え⁉︎くれないんですか?」

男「冗談だよ、はいこれ」

魔女「…………」

男「?」

魔女「あの、これって」

男「嘘だろ?『おばあちゃんのぱたぱた焼き』を知らないなんて」

魔女「いや、ぱたぱた焼きは知ってますよ?けど……えーと」


男「じゃあこれなら!『星食べろ』!」

魔女「それも美味しいですけどハロウィンですよね?普通甘いものとか……」

男「勿論甘いのだってあるさ、ほら『雪のホテル』……はこれが最後の一袋だからあげられないな」

魔女「結局お煎餅じゃないですか、それじゃあ子供達も受け取らないですよ、おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行けばあるでしょうし」

男「はは、全く同じ事を子供達にも言われたよ
、いらないって」

魔女「私は貰いますけどね、雰囲気は違いますが美味しいのには変わりないので」


男「今食べるんじゃないんだ」

魔女「この被り物でどう食べればいいんです?」

男「外せば良いんじゃないかな」

魔女「えっ⁉︎いや……それは、その」

男「慌て方が凄い」

魔女「今更外すのは恥ずかしいですよ、それにこれがあるから普通に話せてる部分もあるんです」

男「まぁ、分からなくは無いけど」

魔女「それになんかロマンチックじゃないですか?ハロウィンの夜に話した名前も顔も知らない人って」


男「分かったよ、じゃあそういう事で」

魔女「ええ、それで良いんです」

男「じゃあ俺も今は食べるのはやめるか」

魔女「……それにしてもなんでこのチョイスにしたんです?」

男「ああ、好きだったんだよ」

魔女「『だった』?今は違うんですか」


男「違う、いや俺は嫌いじゃないよ、俺とは別に好きな奴がいたんだ」

魔女「また……過去形ですか」

男「…………」

魔女「……あの」

男「ハロウィンて」

魔女「は、はい」


男「日本じゃ子供がお菓子を貰ったり、最近だと仮装して騒いだりするだけのただのイベントの内の一つみたいな扱いされるけどさ」

魔女「そうですね」

男「元は秋の収穫を祝う祭りであって、死者の魂が現世に戻ってくる、日本で言う御盆みたいなものらしいんだ」

魔女「死者の魂が……」

男「俺も今日初めて知ったんだけどさ」

魔女「え?」

男「変な迷惑メールがきてね、ハロウィンは死者の魂が戻ってくる日で、より星に近い場所にその魂が集まるとかなんとか」


魔女「それを信じたんですか?」

男「信じてないよ」

魔女「じゃあなんで」

男「神様を信じてなきゃ神社にお参りしちゃダメ?お墓や仏壇に御供えをする人は皆そこに亡くなった本人がいると信じてる?」

魔女「それは」

男「メールを見て、ちょっと調べたら確かにハロウィンの意味は間違ってなかった、星に近い云々はどこにも書いてなかったけど。それでもそういうものだって知って、彼女に何かしたいと思った、それだけだよ」

魔女「……『彼女』って、どんな方だったんですか」

男「なんて言えば良いんだろ、自分よりも他人の事を考えてる人間でね、困ってる人をほっとけないそんな性格だった」


魔女「今時珍しいですね」

男「でも君が今想像してるできた人間ではないと思うよ、漫画みたいな聖人君子って感じじゃないから」

魔女「そうなんですか、私はてっきり」

男「彼女は意外にしっかりしててさ、他人の為に動いてる風で最後はちゃっかり自分の利益も獲得するんだ」

魔女「あんまりピンとこないですね」

男「ちょっと喩えとしては正確じゃないけど……何かを取り合ってる人達がいたら自分と関係無くても別の何かを必死で探してさ、実際にどうにかするんだけど、その取り合ってた物を自分の物にしちゃったりさ」


魔女「それは元からそれが目当てだったのではなく?」

男「うん、それに彼女が得をすると言っても1番大事な物だったり大切な事は他人に渡るようにしてたよ、そこから溢れたのを拾ってるだけで」

魔女「どんな人か分かった気がします、何となくですが」

男「やっぱり言葉じゃ説明が難しいな、あとは分かりやすいのだと家族思いだったな、両親と妹がいたんだけど何か美味しいもの見つけたりするとまず家族に教えようなんて言ってたよ」

魔女「家族……」

男「ごめん、ありきたり過ぎて説明になってないか」

魔女「いえ、そんな事は……じゃあその方はその……ジェイソンさんのご家族では無かったんですよね」


男「ジェイソンさん……まぁうんそうだね」

魔女「……お付き合いをされてたんですか?」

男「残念ながらお友達でね」

魔女「え⁉︎私はてっきり」

男「今の説明じゃそう思うよ」

魔女「なんで」

男「彼女とは小さい頃から一緒でさ、気付いた時には俺の中で特別な人になってた」



魔女「それを伝える事はしなかったんですか」

男「しなかった、する必要が無いと思ってた」

魔女「…………」

男「彼女が俺の事を好意的に思ってくれてるのは分かってた……違うな、もし思いを伝えたら喜んでくれる、それくらいには自惚れてた」

魔女「言いますね」

俺「まぁね、でもそれがダメだったんだと思う。高校生だった俺は、結果が分かっているから先延ばしにしたんだ、もっと相応しいタイミングが来るはずだって、彼女はそれまで待っていてくれるって。馬鹿だったよ」


魔女「今でも後悔してますか?」

男「してる。彼女が亡くなった事自体はもう5年も経ったし支えてくれた人もいるから俺の中で整理は出来てる。けどただの一言、それを言えなかったのはずっと後悔してるよ」

魔女「さっき、貴方はハロウィンを信じていないと言いました」

男「言ったよ、だからこれは俺の自己満足だ、自分の中で区切りをつける為の」

魔女「もし、もしですよ、本当に死者の魂が帰って来たとしたら貴方は彼女に何を言いますか」

男「……今度こそ伝える、絶対に」


魔女「そう……ですか」

男「今度は俺から1つ良いかな?」

魔女「なんでしょう」

男「いつまでこれを続ける気?」

魔女「なんの、ことですか」

男「そろそろそのカボチャを取ってもらわないと言いたい事も言えないんだけど」

魔女「…………」


男「取る気が無いならいっか、じゃあそのまま聞いて欲しい」

魔女「………………」

男「俺は君の事が」

魔女「待って、下さい」

男「ここで止められるか」

魔女「ごめんなさい……違うんです」

男「違うって何が?」

魔女「私は、私は違う……お姉ちゃんじゃないんです」


男「…………」

魔女「ごめんなさい……男さんを騙した訳じゃないんです、ただ知りたかった、男さんがお姉ちゃんの事をどう思ってるのか」

男「そっか、それで」

魔女「……お姉ちゃんは男さんの言う通り、他人の為に生きてる様な人でした、何をするにも私達家族の事を考えてもくれました、自分が貰った物も私が好きな物だからってくれたり、けど私が1番欲しかったものだけはお姉ちゃんが
取ってしまった」

男「ちょっとコメントに困るな」

魔女「でもこれでやっと気持ちの整理ができました、男さんがお姉ちゃんの事を今でも思っているのを知る事ができて……お姉ちゃんは幸せ者ですね」


男「ん?俺が今好きなのは君だけど」

魔女「そうですよね、やっぱりお姉ちゃんが……はい?」

男「さっき告白しようとしたじゃないか」

魔女「そ、それは私の事をお姉ちゃんだと思ってたから」

男「君は俺の事を馬鹿にしてるだろ、そんな被り物で誤魔化せるとでも思ってるのか」

魔女「いつから……?」

男「最初から」


魔女「そんな、でもなんで私を」

男「なんでって、この5年間君がずっと俺を支えてくれたんじゃないか。正直彼女が亡くなった直後は君がいてくれなかったら俺は生きていなかったかもしれない」

魔女「私は何もしてないです」

男「それでも救われたんだよ。それにいつまでも立ち止まったままじゃ彼女に笑われる」

魔女「私なんかでいいんですか、お姉ちゃんみたいに可愛くもないし、自分の事ばっかり考えてるし」

男「彼女は関係ないよ、彼女の代わりじゃない、君が好きなんだ」

魔女「….…私も……男さんが好きです、大好きです」グスッ

男「待って、なんで泣くのさ」

魔女「だって……だってぇ」

男「…………どうしよう」

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_____
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男「落ち着いた?」

魔女「….…はい」

男「いやぁびっくりした」

魔女「すみません」

男「大丈夫、ちょっと驚いただけだから」

魔女「男さん、最後に一つ聞いてもいいですか」

男「いいとも」


魔女「私がもしお姉ちゃんともう一度会えたら何を話すか聞いた時、思いを伝えるって言ってましたけど、あれは?」

男「ん?いやそのままの意味だけど、彼女に会ったら『今度は俺の思いをしっかり伝えるよ』って言おうって、彼女の時はそれが出来なかったから君には絶対に伝えるってさ」

魔女「な、なんでそんな回りくどい言い方を」

男「実はちょっとイタズラしてやろうと思ってわざと言った」

魔女「酷いですよ」

男「それはこっちの台詞だよ、こんなメール送ってきて」

魔女「メール?」


男「ハロウィンのメールだよ、君がここに来て君が送ったメールだって分かってから胃が痛かったんだから、彼女の事を責められるんだろうと思って」

魔女「あの、私じゃないですよ」

男「じゃあなんでここに」

魔女「教えて貰ったんですよ、街中で」

男「誰に」

魔女「カボチャの魔女に」


男「は?」

魔女「星が綺麗に見える場所があるから行ってみるといいよって、このカボチャの被り物もその人に貰ったんですよ、女の子が1人で行くのは危ないし安物で余ってるからどうぞ~と」

男「じゃあ俺達がここに来たのはただの偶然か」

魔女「みたいですね」

男「はあ~、なんだよ緊張して損した」

魔女「こんな事ってあるんですね」


男「今日1番の驚きだよ……なんだかホッとしたらお腹空いたな」

魔女「そう言えば私もちょっと」

男「あんだけ泣けばね」

魔女「それは言わないでください」

男「はい、今は食べられるでしょ?俺はこれにするかな」

魔女「あ、お煎餅……じゃあいただきます」

男「どうぞ」

魔女「男さん」

男「なんでしょう」


魔女「雪のホテル取りましたね、実は最初から狙っていたのに……一枚くださいよ」

男「あれ、入ってない?俺取ったのぱたぱた焼きだけど」

魔女「入ってないですよ、ほら」

男「本当だ、おかしいな最後の1袋あったはずだけど、見間違いかな」

魔女「….………」

男「どうしたの?」


魔女「変な事言っていいですか」

男「変な事?今更全部悪戯でしたとかは勘弁してくれよ」

魔女「ち、違いますよ……男さんに送られたイタズラメール、私にここを教えてくれたカボチャの魔女、そして無くなったお菓子、これってもしかして」

男「あー……いや、まさかね、偶然だろう」

魔女「ですよ、ね」

おわり

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