【モバマス】あの子の知らない物語  (11)

・「アイドルマスター シンデレラガールズ」の二次創作です。
・すごく短い。
・白菊ほたるは出てこないけどほたる物です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1508597125



一人のアイドルが居る。
決して不人気ではないが近年はいまひとつ伸び悩み、活動に限界を感じている。
ルーチンワークと化した毎日。
輝く外面を支えるつまらないしがらみや卑俗な苦労。
デビューしたばかりのころは考えもしなかった「引き際」について考えることも増えた、そんなアイドル。


そのアイドルのもとに、一通の手紙が届く。
差出人は自分のファン層からは外れた壮年の女性だった。
いぶかしみつつも目を通すと、そこには繊細な文字で、一面に感謝の言葉が綴られていた。
あなたのおかげで、私の娘が救われたのだ、と。


不幸な娘が居た。
自分だけでなく、人を不幸にしてしまう娘。
優しい娘だった。
人を傷つけることを恐れて人から距離を取り、自分を責め、目立たぬように息を潜めているような娘だった。
その娘が、ある日、貴女の出ている番組を見て、変わったのだという。


貴女の歌で、幸せになれたのだと。
自分も、人を幸せに出来る存在になりたい。
アイドルになりたい、と言ったのだという。
勿論、道は平坦ではなかった。
不運や他人の悪意に苦しめられて、娘はひどい苦労をした。
それでも、何度言ってもアイドルへの道を諦めない。


正直、娘がアイドルを目指す切欠を作ったことを恨みもした。
だが、その娘は苦労の果てに良い事務所にめぐり合い、アイドルへの道を掴むことができた。
電話の向こうの声が明るくなった。
友達が出来たのだと、報告してくれた。
クラスの皆が、ライブを応援しに来てくれた喜びを、長いこと話してくれた。
1日ごとに、娘はアイドルに近づき、明るくなっていく。


あのとき、貴女が出た番組を見たのは、ただの偶然だったに違いない。
だけど、あのとき貴女を見ていなかったら、娘はいま、どうしていただろう。
娘は今のように明るく笑っていただろうか。
突然こんな手紙を贈られても、貴女は戸惑うだろう。
だけど感謝を伝えたい。
娘に切欠をくれて、ありがとう。
貴女は確かに、娘の恩人なのだ。
手紙は、そう締めくくられていた。


自分のおかげじゃない、とアイドルは思う。
それはきっと自分でなくても良かったことなのだ。
憧れだけでやっていける世界ではない。
その子が夢を掴んだのはその子の中に確かな強さがあったからで。
たとえ自分がいなくても、その子はきっと切欠を見つけて、幸せになろうとした。
自分に力があったわけじゃない。
本当に些細な偶然に、自分が乗っていたに過ぎないのだ。


―――だが、その娘はアイドルになったのだという。
手紙を見ると、その子の苗字は白菊と言うらしい。
その白菊某がもう一度自分を見たとき、自分が落ち目になっていたら、どう思うだろうか。
多分がっかりするだろう。
それは嫌だな、とアイドルは思った。
いつかアイドル白菊に出会ったとき、カッコイイ先輩でいたい。
共演したとき、やっぱり凄い!と。
あのとき感じた輝きは本物だったのだ、と思わせてあげたい。
それまでは、居直って踏ん張っていいてやらなくては。
アイドルは笑ってそう決心して、とりあえずレッスンを増やしてもらえるよう、事務所に電話を入れたのだった―――。

おしまい。
短いですが、読んでくださってありがとうございます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom