【FGO】サーヴァントトレーニング (9)

マスターがサーヴァントとトレーニングする会話ばかりのおおむねコメディな短編です
短い地の文と台詞だけのSSです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1508221488

プロボクサーが放つストレートは、時速40km前後と言われている。
魔術協会のとある執行者は倍にあたる時速80kmの拳速を持つという。
ならば英霊であるサーヴァントの拳はどれだけの威力があるだろうか?

「まっ…………たく見えなくて……! 当たってないのにふっ飛んだんですけど……!」

轟ッと風切るというにはあまりに重々しい音ともに吹き飛んでからマットの上で起き上がる立香。
当たってないのでダメージはないが、その一瞬に台風に襲われたかのような衝撃があった。
元々乱れ気味の黒髪は風でさらに荒れている。

「本気だったからね。怖い? やめちゃう?」

水着姿のマルタは拳を握らず、掌底の形のまま問う。
立香に当たらないよう30cmほど遠い距離で放たれた掌は、空圧を生み出すほどの速度と威力が込められていた。
英霊ともなれば拳が当たらずとも人間を倒せるのだ。

「……いや、もうちょっと体験したいです。お願いします」
「よろしい。自ら試練を望む姿勢を神は見ておられます。…………いーい、喧嘩ってのはね実力以前に度胸よ。
 次はもう少し近づけるから逃げないようにね。ビビったらぶっ飛ばすわよ」
「どっちにしてもぶっ飛ぶんでは?」
「口答えしない! あんたさっき目瞑ったでしょ。5cmに近づいても目を開けれるまでやるわよ」

人選しくじったかなーとか思いつつも、立香は異常な速度の拳を何度も見続けてはふっ飛ばされていた。
今日からサーヴァント達直々の戦闘訓練の日なのだ。
なお常人のマスターが吹っ飛ぶほどの風圧に耐えて目を開け続けるなどできるわけがなかった。


レオニダス+バーサーカーの場合

「聞いたぜマスター。わかってんじゃねーか。そう! 男ならステゴロだよな!
 いいか、武器なんて別にいらねぇんだよ。殴り慣れれば勝てるってもんだ。
 そのうち剣でも槍でも強くなってるぜ多分な。言うだろ? 物理で殴ればいいってよ」

「君はマスターなれど、苦難苦境を求める心は反抗の兆しである。
 ならば我が反逆も輩としてここにあろう。鍛えよ、鍛えよ、鍛えよ!
 さすれば肉体は鋼鉄となりて、圧制者を断罪する刃とならん」

「私もお二人に賛成です。まずは戦いに向いた筋肉を作りましょう。
 技を培う前に肉の土台を構築する。そのためにはトレーニングです。
 この槍と盾をお持ちください。ズシリとくるでしょう? それがいいのです。まずはランニングから!
 掛け声はテルモピュライにいっくぞ~! こいつはどえらいスパルタン~! です。はい続けて!
 ……そこ行くと死んじゃうとこですと? 何をいいますそのために私がいるのです。
 私の計算力を持って死なない程度の、でもジワジワ効いてくるスパルタントレーニングに励みましょう!
 計算が狂ったら……? いえいえ大丈夫です。私はスパルタ一の頭脳ですので。脳筋ではありませんよ」


ランスロットの場合

「よくぞ来てくれましたマスター。自慢でありませんが我が剣は円卓随一、指導には自信があります。
 必ずや、我が剣技の全てをお伝えいたしましょう。
 ……む、なんですと?モードレッドとガウェイン卿の指導もあるから全てまでは要らないと?
 いけません。彼らの剣は確かに強力極まりない。だが人には向き不向きがありましょう。おいそれと教われるものではありません」

「例えばモードレッドの剣ですが、あれは強力な魔力放出があってのものになります。
 踏み込みは凄烈、打ち込みは瀑布のごとしもの。
 そのうえ剣の荒々しさを補うように、並外れた戦闘の勘とも言えるモノを備えております。
 奴が振るう剣は正道ではなくとも、その瞬間に最善の選択で敵を打ち倒すでしょう。
 あのような技は習って覚えれるものではないのです」

「ガウェイン卿、彼の剣もまた習得するには難がありましょう。
 卿の技巧は疑うまでもなく本物です。しかし真に恐るべきは天から授かりし強靭な肉体に間違いございません。
 一振り一振りが必殺の武を秘めており、平凡な騎士ならば受ける事すらできずに一合で切り捨てられること相成りましょう。
 その力まさにバスターゴ、失礼……ともかく膂力に優れてるが故の剣という面が卿にはあります。
 マスターには荷が勝ちすぎるでしょう」

「私ならば本人の資質によらない剣技をお伝えできます。
 このランスロットを信じてください。 
 軽くですが技をお見せしましょう。ここになんの変哲もない木の板があります。
 これを机の上に立て、刀身で撫でるように触れさせたまま、せいっ―――はい、真っ二つに切れました。
 よく切れる剣と精緻な体捌き、術理を向上させれば、このように力を使わずとも斬るのは容易い。
 ……なに、これは難しすぎるですって? 何をおっしゃいますか、志は高ければ高いほどよいのです。
 まあお付き合いする女性の年齢のように限界はありますが。その点はガウェイン卿に同意しますね。
 とはいえ私はもう少し年嵩でも別にかまわな、失敬…………マシュはいませんね。これはご内密に……」  



ロビンフッドの場合

「よくやるねぇマスターも。オレがやる訓練つーとあれだな。破壊工作とか罠の作り方ですよ。
 なに? 今回は普通の戦闘を覚えたい? ……オタクさぁ、なんでオレのとこきてんのよ。
 軍師様じゃないけど、戦う前に勝ってる状況作りってのがオレの理想よ?
 マトモにどつきあいとか趣味じゃないんですねぇ。……へいへい、マスターが言うなら付き合いますがね。
 ほら、一応クロスボウを作ってきたんで、どうぞっと。
 こいつはえらーい騎士様をよわーい民衆でも仕留めれるってのがウリでね。ビビってどっかの王様が禁止したって話もあるぐらいさ。
 弓はマジで覚えようとすると半端なく時間かかるんで、そういう意味じゃオタクがオレに声かけたのは正解かもな。
 クロスボウは慣れればすぐに扱えるようになるぜ。……おっと弦には気をつけな。
 下手すっと爪に引っかかって剥がれちまうぞ。引っ張って固定すんのも力とコツがいる。一度貸してみな」



クーフーリンの場合

「私だ。……おい何故逃げようとする。……話が違う? 訓練を望んでいたのだろう?
 幾人もの弟子を鍛えてきた私に何の不満があろうか」

「…………す、すまねぇマスター……師匠に見つかっちまった……
 この野郎、ゲイボルク使ってまで割り込んできやがって。弟子欠乏症にでもかかってんのかよ」

「何を言うか。隠し事をするからだ。お主を育てたのは私だぞ?
 弟子が弟子を持つのは構わないが、実績を持つ私のほうが話が早いだろう」

「そっれがワリィんだよ! アンタ加減しらねぇだろ! どんだけ死ぬ目に遭わされたか!
 おいマスター、師匠の修行に付き合ってたら、身体が幾つあっても足んねえぞ。
 ここは俺が受け持つ。先に行け。なーにこういうのは得意分野だ。任せな!」
 
「ほう……よくぞ吠えた。クランの猛犬よ。ならば相手をしてやろう。私を退屈させるなよ。
 ……お主もマスターならば逃げるな。槍の達人二人が交える果てを見届けるがいい。
 見稽古という奴だな。……なに? いつも戦ってるのを見てるからそれじゃ変わらないだと?
 ……では、儂も少々本気を出そう。所謂高難易度モードと洒落こもうではないか!」

「おいコラマスター! 余計な事言ってんじゃねえ! ……くぉっ、っ痛ぇっ……!? やっぱムリだこれ!?
 マスター……! 令呪だ! 自害しろランサーとかそんなんで! 俺じゃねえからな! 絶対俺には使うなよ!?」

ギルガメッシュの場合

「聞けば健気にも戦いの真似事をしているそうではないか。
 我の手を煩わせないとしたのは感心だが、民を導くのも王の務め。
 特別に財を貸し付けてやろう。なに遠慮する必要はない。大いに喜び感涙に浸るがいい。
 ……なんだと? 有り難いけど宝具を使うのは無理ではないかだと……!
 たわけ雑種! 有象無象、凡百のサーヴァントなれど英霊は英霊!
 ただの凡人がそやつらと肩を並べようとするならば、例え宝具を使いこなしてもなお足りぬわ!
 なればこそ身に余る力を得ようとするならば、己の限界を定めずに全てを飲み込み受け入れるがいい!」
 
「……よい。面をあげよ。わかればいい。無知蒙昧な雑種が使い物になるよう調律するのも王の度量よ。
 見よ。この剣は相対する者の弱点を見抜き、熟練した剣士のごとく急所を狙い通す。
 対となる盾は知覚しない不意の攻撃すら防ぎ、持ち手を厄災から守るだろう。
 無銘の財なれど、粗忽者の貴様でも達人のように振る舞えるわけだ。
 どれ、一つ試してやろう。かかってくるがいい。……まさか王の身を案じる愚などは犯さまいな?」
 
「……ほう……なかなかの鋭さ。一息に突きと払いの二連撃。
 そのうえ死角からの射出も防いでおる。流石は我の財よ。未熟者がいっぱしの剣戟を見せおるわ。
 ……ぬ? どうした? 突然に絶叫しおって。……むぅ、これは両肩が外れているな。
 ………………………………どうやら貴様の脆弱さを見積もり損ねていたようだ。
 許せ。王であれ万に一つは間違える。偶々今日がその時であったのだろう。
 心配するな。医者を呼んでやる。……なんといったか、婦長と呼ばれておったな」

「……なに? 絶対呼ぶなだと? 両腕を切除される? 何故だ? 関節が外れてるだけだろうに。
 整骨というほどでもない。そこらの戦士でも治せそうなものだが……?
 まあいい。霊薬をくれてやろう。ふんっ、王が手ずから飲ませるなど、二度はないぞ。
 ……よし、もう痛みもあるまい。我の財を用いれば医者などいらんというわけだ。
 礼など構わぬ。…………まあなんだ、次は貴様に合わせた財を見繕ってやろう。しばし待つがよい。
 な、なに? それはそれとして我にはもう頼まないだと……!? く、ぬぅ……! 二度にわたって王を蔑ろにするなど許さぬぞ!」



ジャガーマンの場合

「ランサーだけど今日の気分はセイバー! 剣を教えてやるニャ!
 竹刀は持ったな!! 行くぞォ! まずは面の素振りニャ! 初心者のマスターは剣を手に馴染ませるのが先決! 
 フォームが間違ってたらその都度、矯正してやるから、手に豆できるまでガンガン振るべし!
 え? 暇そうだから声をかけただけなのに、マトモな指導でびっくりしてる?
 親しき仲にも礼儀をオブラってもらおうか! しまいには泣くぞコンチクショー!
 だが言うとおりだ! 何故か部屋にあったから着替えた道着と竹刀……そしてカルデアには無いはずのこの道場……!
 キミの突っ込みが一切なかったのは気になるが、異様にしっくりくる……!
 私は昔から槍ではなく、誰かに剣を教えていたような……それもロリブルマっ娘とかそんな雰囲気の弟子!」

「そう、まるで親虎が子虎に狩りを教えるようにだ……! えーい私を虎と呼ぶな! 成敗してくれる!
 何言ってるのかついていけない? 私にもわからぬ! 今宵、我が剣は血に飢えている!
 地獄組手始め! 面……! 胴……! 面……! 小手……とみせかけ胴……!
 ほう、これを凌ぐかマスター……! ギアを一つ上げていくぞッ……!!
 精妙な指捌き、虎のごとき握力が生み出す秘剣! 全ての悪夢は私が終わらせる!
 受けてみよ奥義! 星流れ……! 勝ったッ! 1.5部完……ふみゃっ!? ……ヒェッ! ク、ククルん!?」

「トレーニングならと見ていたら調子乗りすぎデース! ルチャリブレでいいなら私が付き合うわよ」

「こ、これは違うのニャ! 満月とか心臓とかそんなのでルナティックって……!
 厳しい親心で千尋の谷に落とす的な奴です! ジャガーだって偶にはやるのです! お代官様許してー!
 ヒィッ!? 我が心の道場が突如金網デスマッチリングにお色直しを……!? ギニャー……!?」

「マスターこれはジャベって言ってね。見ての通りのサブミッション。
 お姉さん派手なプランチャのほうが好きだけど……痛め……! つける……! には……! こっちが最適デース!

「ヒギィッ! あ、脚が捻れて歪んで曲がっちゃいけないほうに……! 痛い痛いです! 
 少々戯れが過ぎただけなのです! 謝るからマスター助けてー……!」

「それとね私もカルデアのデータベースで色々勉強したの。
 相手の首を脚で固めつつ投げ落とす感じの技をね。私ならコルバタにジャベをミックスして決めるわ。
 えーと……ティーグレエルレイって書いてあったわね。日本語だと虎王デース」

「それ絶対ダメな奴なの! デッドオアダイ! 首はダメ! ダメなのデース!」

「案外余裕そーネー。なんならマスターも混ざる?
 ……そ、残念。それじゃあ未成年には刺激がちょーと激しいからお部屋でご休憩しててくだサーイ」

「見せられないような刺激って何……!? そんな!? クルルんの顔が! 顔が! グエーッ!」


数日に渡る訓練の途中、フラフラになっている立香が食堂の机にへばりついた。
時刻は15時頃で、今日はあと一つ訓練が待っている。

「お疲れのようだなマスター。休憩にお茶でもどうだ」
「オッケー……ありがとうエミヤ……」

疲れた顔ながらも、返事をして赤い弓兵の淹れた紅茶のカップを受け取った。
程よい暖かさのアールグレイを唇に含むと、じんわりとした熱が身体に染み渡る。
傍らには乳白色の生地をベースにほのかな焼き色をした綺麗なチーズケーキ。
フォークで切り分けるとこれがまたとても柔らかい。
口に入れればふわりととろけそうな舌触りで、疲れ気味の立香の表情がほころんだ。
紅茶は市販品だが、ケーキはエミヤの手作りである。

「チーズの酸味と甘みに、柑橘の香りの紅茶が凄く合う……エミヤのケーキはいつも美味しいよ。前より腕上がってる?」
「満足できたならなにより」

エミヤも自分の紅茶を入れて椅子へ座る。
そっけないとも取れる返事だが、誰かに食事を食べてもらう時に少しだけ唇の端が上がる癖があるのを立香は知っている。

「……それで、戦闘訓練したいと突如言い始めたマスターの調子はいかがかな?
 料理しか能がないサーヴァントには、力不足で自主退職を迫られないか心配で、この所寝不足気味でね」
「なわけないでしょ。エミヤはずっとウチのエースだよ」
「はてさて、期待が重いのも困りものだ。それが嬉しくもあるが」

いつもの皮肉げな物言いだが、表情は柔らかい。

「訓練はうまく……いってるのかな? シミュレーターのレベル1スケルトンには3回目には勝てた。……2回やられちゃったけど」
「実戦三日目と考えれば十分な戦果じゃないか。君は旅慣れてて体力もある。まだまだ強くなれるだろう」
「うん……もう少し訓練したら戦える。けれど……」
「足りないと?」

立香は苦笑しながら頷いた。

「戦ってるのを見てるだけじゃわからなかったけど、目の前にいると思った以上に速い。例えスケルトンであっても。
 途中でマシュがアドバイスくれなかったら勝てなかったよ。骨だけだから軽いんで、一度止めたら押し込めるって」
「なかなか的確だ。盾持ちの彼女らしい。その助言だけで勝てたのなら君は案外センスがあるかもしれないな」
 
速いが力はそうでもないスケルトンの錆びた剣をなんとか受け止め、引ききる前に身体ごとぶつかりながら押し倒す。
技も力もない立香の戦法は華麗とは言えない。
けれども倒れ込むように体重を込め続け、気づけば骨だけの頭へとお互いの刀身がめり込んで砕けていた。
勝てたとはいえ、下手すれば自分も大怪我を負っていただろう辛勝。

「嬉しいけど、とても実戦はできそうにないよね……レベルの低いスケルトンはともかくとして
 もっと強い相手と闘えるようにはどれだけかかるか……」 
「そうだな。間に合いそうにない」
「うん……強くなるよりも前に特異点が全部壊れちゃいそうだ。
 しかも多少強くなったとしても、きっと勝てない相手のほうがずっと多い」

そもそもカルデアの立香は戦士ではなく魔術師であり、戦いには向いていない。
その魔術であってもカルデアの職員達の誰よりも魔術師としては劣っているだろう。
マスターとしてのポテンシャルはあれど、戦うという持ち味は必要ないはずだ。

「君なら最初からわかっていたと思ったが?」
「そうだね。みんなみたいに戦えるとは思ってない。けれど試してみたかったんだ。
 支援してるだけじゃなく、みんなと肩を並べて戦えないかなって」

エミヤがぴくりと眉を上げた。
表情に色々な感情が浮かび、複雑な、何とも答えを決めきれないと目を瞑る。
無謀を皮肉るのは容易い。それは傲慢だと糾弾する資格もある。
けれども、どちらも自分には相応しくないと思った。立香の言葉に正面から応えた。

「オレも今よりも若く、弱くて力が無い時は同じ様に思ったよ。
 もっと強くなれないのか、もっと守れないのかと。……ああ、悔しいほどわかるよ。
 できないからやらない。力不足だから挑戦しない。そうはありたくなかったんだ」

立香は笑顔を浮かべた。
それは友が似た悩みを抱いていた事への喜びであり、ほのかな秘密を聞けた共犯者の笑みでもあった。

「エミヤでもそんな事考えるんだね」
「どのような英霊であれど未熟な時代はあるものだ。私も例外ではないよ」
「怒られるかと思った。闘うとはそんな軽々しいものではないぞって」
「悲しいかな。私には怒る資格がない。というかむしろ私のほうが無茶を……何でもない。忘れてくれ」

話し過ぎた。
口を噤み、紅茶を傾けるエミヤは少し落ち着きがない様子。
ただ初めて聞けた内心に、立香の口も軽くなる。

「……これは恥ずかしいから誰にも言わないでね」
「ああ。話したいことがあるなら話すがいいさ。私の事は茶汲み人形だとでも思ってくれ」

二人分のカップに改めて紅茶を注ぎ、殊更に平穏を装いながらエミヤは視線を外す。
気恥ずかしいのは立香だけではないのだ。

「その……さっきの気持ちも本当なんだけど……サーヴァントとか関係なく……
 マシュが傷つくのがイヤだから、俺だって守られるだけじゃないんだぞって
 一度くらい見せたいというか……あ! 笑ったな!」
「くっ、ふふっ……いや、すまない……これはどちらかと言えば……君だけではないというか……
 君とは冬木の時からの付き合いだが、偶然の縁だけではなかったのかもな」

顔を手で隠しているエミヤは笑いを堪えているようで、在りし日を思い出している。
そんな若い時もあったと照れくさくも恥ずかしく、気持ちがわかりすぎるから困ってしまう。
自分の未熟を許せなかった時期はとうに通り過ぎているだけに、それを真正面から叩きつけられるのがなんとも面映いのだ。

(……すれ違いがなんとも可愛らしいものだ)

立香は戦いでは守られていると思い込み、マシュをどれだけ勇気づけているのかわかっていない。
マシュ本人が、逆に守ってもらっていると思い詰める時があるのも気づいていないのだろう。
つまるところ、戦う訓練自体が的外れのようなもの。だがそれを若さ故の過ちと責めるのは筋違いだ。
自分も似たようなものなのだから。

「もー……エミヤだから話したのに」
「悪い……君はそれでいい。戦う理由としてはこの上ないものだと思う。
 好ましいよホントだ。なんたってマスターは男の子だからな」

エミヤはくしゃくしゃとマスターの頭をかき乱す。

「ちぇ。もういいよ。ご馳走様! 次はエミヤの番だからトレーニングお願いします!」
「了解だマスター。君の本音はよくわかった。オレも出来る限りやらせてもらう。
 強くなるに越したことはない。弱兵が強者にどう立ち向かうか伝授しよう」
「たまにそんな風に言うけど、エミヤのどこが弱いの? 初めて会った時からずーっと強いよ」
「そう見えるなら上手くやれてるってことだな。これでも強く見せるのに必死なんだ」

普段より幾分かフランクな言葉を聞きながらトレーニングルームへと連れ立って歩いて行くのだった。

終了

マスターはエミヤとの縁があるかなーとか思って書きました
それ以上にジャガーマンの書きやすさに驚いたり

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